平成30年4月24日
金融庁

株式会社T&Cメディカルサイエンスによる新株予約権証券の無届募集に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、(株)T&Cメディカルサイエンスによる新株予約権証券の無届募集の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成29年3月24日に審判手続開始の決定(平成28年度(判)第47号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:295KB)を行いました。
※平成28年4月、商号を「(株)T&Cホールディングス」から「(株)T&Cメディカルサイエンス」に商号変更しています。

1 決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額  金2241万円

  • (2)納付期限  平成30年6月25日

2 事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙1)
(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))

被審人は、東京都港区芝浦一丁目14番5号に本店を置き、その発行する株式が東京証券取引所JASDAQ市場に上場されていた会社である(平成29年3月28日上場廃止)。

被審人は、法定の除外事由がないのに、内閣総理大臣への届出を行わずに、以下のとおり新株予約権証券の募集を行い、新株予約権証券を取得させた。

  • 1 被審人役職員(企業内容等の開示に関する内閣府令第2条第2項各号に掲げる会社の役職員を含む。以下「被審人使用人等」という。)ではないAを含む4名に対して新株予約権証券の募集を行い、平成25年12月19日、これらの者に1万個の新株予約権証券を3億3200万円(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む。)で取得させた。

    2 被審人使用人等ではないAを含む9名に対して新株予約権証券の募集を行い、平成27年9月28日、これらの者に4975個の新株予約権証券を1億6616万5000円(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む。)で取得させた。

これらの行為について、被審人は、内閣総理大臣への届出を要しない使用人を相手方とする新株予約権証券の募集としていたものの、それぞれの新株予約権証券の募集について、少なくともAについて被審人の使用人としての実態が認められず、当該行為は、被審人使用人等以外の者に対して新株予約権証券の募集を行ったものと認められ、被審人は、届出が必要であったにもかかわらず、届出を行っていなかった。
 
(違反事実認定の補足説明)
第1 事案の概要及び被審人の主張等

本件は、被審人が内閣総理大臣への届出を行わずに新株予約権証券(以下、単に「新株予約権」という。)の募集を行ったとされる無届募集の事案である。

被審人は、前記違反事実について、募集の相手方であるAは、平成25年12月19日に割り当てられた新株予約権(以下「第6回ストックオプション」という。)及び平成27年9月28日に割り当てられた新株予約権(以下「第10回ストックオプション」といい、第6回及び第10回の新株予約権を「本件各ストックオプション」ともいう。)について、いずれの割当ての時点においても被審人に雇用されていた実態があり、被審人との間で雇用契約も締結していたから、募集の際に届出が不要である被審人の「使用人」(金融商品取引法施行令(以下「施行令」という。)第2条の12)に該当し、Aを含む新株予約権を取得した全ての者が被審人使用人等であるから内閣総理大臣への届出は必要でなかったなどと主張し、争っている(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が積極的に争わず、証拠からもそのとおり認められる。)。

以下、本件各ストックオプションをAが取得するまでのいずれの時点においても、Aが被審人の「使用人」とは認められないことについて、補足して説明する。

 

第2 認定事実

  • 1 関係者等

    • (1) 被審人は、平成10年12月14日に設立され、医療機器の製造販売及び輸出入等、医療、健康並びに美容に関する事業等を目的とする株式会社である。なお、被審人は、平成28年4月1日に、商号を「(株)T&Cホールディングス」から「(株)T&Cメディカルサイエンス」に変更した。また、被審人は、本件当時、東京証券取引所JASDAQ市場に株式を上場していたが、平成29年3月28日をもって上場廃止となった。

      Bは、被審人の役員である。

      (2) C社は、特許権、商標権、その他知的財産権の保有、維持、管理及びライセンス、特許権の利用に関するコンサルティング業務、医療業務及び美容に関するコンサルティング業務、医療品原料、化粧品原料の研究開発、製造、販売等を目的に設立された。

      Aは、平成25年及び平成27年に同社役員に再任されていた。

      (3) D社は、特許権、商標権の取得及びその管理、運用、特許権の利用に関するコンサルティング業務、医療業務及び美容に関するコンサルティング業務等を目的に設立された。

      Eは、同社の役員である。

    2 第6回ストックオプションについて

    • (1) 第6回ストックオプション付与に至るまでの経緯及び付与状況等

      • ア D社及びC社は、F大学のGが開発した再生因子を利用した再生医療事業を計画していた。

        C社のAは、同事業に出資してもらう投資家を探していたところ、平成25年10月頃までに、当時被審人の役員であったHを通じてBを知ったことから、同年12月頃までには、医療関連事業への参入を考えていたBに対し、Eを紹介した。

        そこで、B、A及びEらは、被審人、C社及びD社の3社で、後記(2)のとおり、再生因子を用いた再生医療の業務提携を行うことを考え、業務提携契約の締結に向けた協議等を開始した。

        イ 業務提携契約締結に当たり、Eは、Aを通じ、Bに対し、特許使用に係る費用ないし契約金として1億円程度の支払いを要求したが、Bは3000万円程度しか用意できなかった。

        そこでBは、被審人の株式を取得する権利をストックオプションの形式でAらに付与し、Aらがストックオプションの行使により取得した被審人の株式を売却し、その売却益の一部をD社に支払うことで契約金をねん出することを考え、平成25年11月ないし12月頃、Hの事務所において、A及びHから紹介してもらった知人のIに対し、ストックオプションは付与することができること、ストックオプションを付与するためには被審人の従業員になってもらう必要があることなどを説明した。

        • (ア) 平成25年12月4日、被審人は、臨時取締役会において、概要、以下の内容で第6回新株予約権発行を決議し、適時開示した。

            割当対象者 Aら
          当社従業員5名を上限
            新株予約権の数 各2500個(1個の新株予約権につき普通株式100株)
            新株予約権の払込金額 金銭の払い込みを要しない
            割当日 平成25年12月19日
            行使可能期間 同月20日から平成30年11月30日
            取得条件 なし
            譲渡制限 新株予約権割当契約書において譲渡できないことを規定(ストックオプションを目的として発行されるものであることから)
           

          (イ) 同月19日、被審人は、上記(ア)の4名を割当対象者とする第6回新株予約権の行使価額等の決定について適時開示した。なお、同適時開示によれば、新株予約権の行使に際して出資させる財産の価額は、新株予約権1個あたり3万3200円であり、新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金の額は、いずれも1億6600万円であった。

        エ Aは、被審人との間で新株予約権割当契約を締結し、同日付けの第6回新株予約権割当契約書に署名、押印した。

        • (ア) 同日、被審人は、定時取締役会において、貸付の相手方をAとし、返済期限を平成26年1月31日、金額を8300万円、「条件等」を「年2.5%・SO行使資金 当社株式担保」とする金銭消費貸借契約の締結を承認した。なお、8300万円という金額は、Aに割り当てられる新株予約権の個数2500個に、新株予約権1個あたりの価額3万3200円を乗じた金額と一致する。

          (イ) その頃、被審人及びAは、上記(ア)と同内容(ただし年18パーセントの遅延損害金を付加)の平成25年12月20日付け金銭消費貸借契約を締結した。

          (ウ) 同日(平成25年12月20日)、J銀行の被審人の口座から、Aの金融機関の口座に8300万円が送金され、Aは、同金額を第6回新株予約権割当契約書記載の払込取扱場所(被審人の口座)に送金し、払込みを完了した(ストックオプション行使)。

          (エ) なお、Bは、Aに対し、平成25年10月から11月頃、本件業務提携を公表して株価が上がる前に行使するようになどと、ストックオプション行使時期について提案をしていた。

        カ 平成26年1月頃、Aは、Bから、上記オ(イ)に基づく貸付金の返済を要求され、同年2月まで返済期限を延長してもらったものの、返済原資がなかった。

        そこで、Aは、ストックオプション行使により取得した被審人の株式を全て売却し、売却により得た現金を原資とし、同月20日までに貸付金全額を返済した。なお、Aには、株式売却で損失が出た。

      (2) 業務提携契約の内容等

      平成25年12月20日、被審人、C社及びD社は、再生医療に関する商品の製造及び販売(本件事業)について、概要、以下のアないしエの内容で業務提携契約を締結し(以下、この業務提携を「本件業務提携」といい、業務提携契約書を「本件業務提携契約書」という。)、以下のオの記載がある適時開示をした。なお、本件業務提携契約書末尾には、D社、C社(役員としてAの記名がある)、被審人の各記名があり、各社印が押印されている。

      • ア 目的(第1条)

        本契約は、D社、C社、被審人が、相互協力のもとで、再生因子を使った再生医療に関する商品(本件商品)の製造及び販売を行うことを目的とする。

        イ 提携業務の内容(第2条)

        事業を遂行するに当たり、契約当事者が行う業務は、以下のとおり。

        • (ア) D社

          本件商品に関する特許権の取得及び管理

          本件商品の製造及び被審人への引渡

          なお、D社は、C社及び被審人の事前の承諾のもとで、本件商品の製造について第三者に委託することができる。

          (イ) C社

          本件商品の関連特許権に関する専用実施権の取得及び保持

          本件商品を販売するのに必要な情報の被審人への提供

          (ウ) 被審人

          本件商品の顧客との販売契約の締結

          本件商品の顧客への引渡及び販売代金の受領

          本件商品の製造に関する設備及び機器の購入を含む資金協力

          (エ) その他、本件事業を遂行するにあたり必要な業務の役割分担については、別途協議の上で決定するものとする。また、業務に変更の必要が生じた場合には、別途協議の上でその変更を決定することができるものとする。

        ウ 業務の報酬及び支払条件(第3条)

        被審人は、本件事業のセットアップに要する費用として、3000万円(消費税及び地方消費税相当額を含まない)を、平成26年1月15日までにC社に支払う。

        被審人は、C社に対し、本契約の存続期間中、毎月末日の5営業日後までに当月分の売上の報告を行い、専用実施権の利用の対価を支払う。なお、当該対価の額、支払期日、支払方法については、被審人とC社が協議の上で別途定める。

        エ (略)

        オ 適時開示の内容

        適時開示には、以下の各記載がある。

        • (ア)~(ウ) (略)

          (エ) 「6.今後の見通し」の項

          事業化のための費用負担30百万円は、平成25年12月4日付「従業員に対する新株予約権(ストックオプション)の発行に関するお知らせ」にて行使される資金により支出する予定です。

      (3) 雇用契約書の記載内容等
      • ア Aは、平成25年12月頃、概要、以下のとおり印刷されている同月13日付け「雇用契約書」に署名、押印した。

          契約期間 平成25年12月14日から平成26年11月30日
        (更新する場合がある)
          就業の場所 非常勤型勤務(必要に応じて当社事務所に出勤を要請することがある)
          業務の内容 当社が行う再生医療にかかる一切の業務
          (追記事項) 当社の医療関連事業の計画に基づき業務を行い、その成果に対して下記の対価を支払うものとする。
        定期的に会社に報告を行う必要がある。
          報   酬 ストックオプションによる。
        なお、詳細は別途ストックオプション割当契約による。

         

        イ なお、同じ作成日付であるが報酬欄の記載が異なっている2種類の雇用契約書が存在する。

        1つは前記のとおり報酬欄に時給の記載がないもので、他方は報酬欄に「ストックオプションによる(詳細は別途ストックオプション割当契約による)。なお、出勤時の時給は2,000円とし、契約期間満了時に支払うものとする。」という時給の記載があるものである(以下では前者を「時給の記載がない雇用契約書」、後者を「時給の記載がある雇用契約書」という。)。

        Aは、時給の記載がある雇用契約書には署名、押印しておらず、署名、押印部分は、カラーコピーを用い、被審人が作成したものと認められる。

    3 第10回ストックオプションについて
    • (1) 第10回ストックオプション付与に至るまでの経緯及び付与状況等

      • ア 平成26年8月頃から、被審人とD社との関係が悪化し、同年12月頃には、本件業務提携が解消された。

        イ 平成27年1月頃、Aは、Gから、再生医療に関する事業を行いたい旨の依頼を受け、その旨、Bに連絡をした。

        そこで、被審人、C社及びGは、D社を除いた三者で再生医療の事業を行うことにし、同年5月9日付けで「メモランダム」という題名の書面(以下、単に「メモランダム」という。)を作成し、Gに支払う一時金及びその条件について、概要、以下の内容で合意した。なお、書面の末尾には、「F大学 G」、「C社 役員 A」、「株式会社T&Cホールディングス 役員 B」と各記名され、各記名の横には、G、A、Bの各署名がある。

        • 1 一時金の額は1億円とする。

          2 一時金の半金の支払時期は、7月を目標とする。

          3 一時金の対価を明確化する必要があることを三者ともに理解し、Gが申請している特許を対象とし、被審人の利益に貢献するよう契約締結を目指す。

          4 一時金の支払時には、Gは被審人への長期的貢献をコミットする必要があることを理解し、チーフ・サイエンス・オフィサーなどの責任あるポジションを引き受ける。

        ウ 同年5月15日、被審人は、取締役会において、Aを含む被審人の従業員7名を上限に、新株予約権の割当日を同年6月1日とする、第9回新株予約権を発行する旨の決議を行った。

        エ 同年9月10日、被審人は、臨時取締役会において、概要、以下の内容で第10回新株予約権発行の決議をし、適時開示をした。なお、第9回及び第10回のストックオプション付与の前に、Aは、Bから、ストックオプションを付与するものの、株式にして売却できるのは2年後になるなどの説明を受けていた。

          割当対象者 当社従業員10名を上限とする
          新株予約権の数 4975個
        (1個の新株予約権につき普通株式100株)
          新株予約権の払込金額 金銭の払い込みを要しない。
          割当日 平成27年9月28日
          行使可能期間 平成29年9月26日から平成37年8月31日
          取得条件 なし
          譲渡制限 新株予約権割当契約書において譲渡できないことを規定(ストックオプションを目的として発行されるものであることから)

         

        オ 平成27年9月25日、被審人は、定時取締役会及び臨時取締役会において、第10回新株予約権の割当対象者決定の件について協議をし、Aら9名に対し、同人らから申込みがあることを条件に新株予約権を割り当てることを決議し、同月28日、上記9名を割当対象者とする第10回新株予約権の行使価格等の決定について適時開示をした。なお、新株予約権の行使に際して出資させる財産の価額は、新株予約権1個あたり3万3400円であり、新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金の額は、いずれも8308万2500円であった。

        カ Aは、被審人との間で、新株予約権割当契約を締結し、同日付けの第10回新株予約権割当契約書に押印した。

      (2) 労働条件確認通知書について
      • ア 第9回新株予約権発行決議前の同年5月13日及び同月14日、(株)東京証券取引所(以下「東証」という。)の担当者は、被審人に対し、第9回新株予約権発行に関し、割当対象者の雇用契約や雇用形態等についての情報提供を求めた。

        これに対し、同月15日、被審人は、上記担当者に対し、契約更新時にAらの雇用形態が非常勤から常勤に変わったことなどを回答し、併せて、同月20日、同年4月21日付けAの労働条件確認通知書等を提出した。

        イ 東証の担当者は、同年9月8日付けで、被審人に対し、第10回新株予約権発行に関し、割当対象者の属性(所属部門、役職名等)、常勤か非常勤かの別を問い合わせるとともに、雇用契約書の写しなど従業員であることを証明できる資料の提出を求めた。

        これに対し、同日、被審人は、上記担当者に対し、Aを含む割当対象者はいずれも常勤であり、Qが医療事業部長、Aは医療事業部であると回答するとともに、Aの労働条件確認通知書を含む雇用関係書類の写しなどを送付した。

        ウ Aの労働条件確認通知書には、契約期間、就業場所、従事すべき業務、始業・終業の時刻等、休日の記載の他に、「年俸・月例給与」の欄には「1.月例給与構成内訳(ノーワーク・ノーペイの月給制)」という項が設けられ、「基本年俸を120万円として(通勤費除く)12分の1相当額を毎月支給分として下記の内訳・構成にて支給を行う。本来的基本給部分9万8000円、固定割増資金相当分2000円、合計10万円、給与明細上、合計金額を「基本給」と記載表示する。」などと記載されていた。なお、末尾記載のAの住所は、当時のAの住所ではなく、押印もAの印鑑ではなく、Aが労働条件確認通知書に押印したとは認められない。

      (3) 第10回ストックオプション付与後の状況等
      • ア 平成28年4月1日、Aは、Bに対し、被審人が保有する商標権の使用許諾についての、被審人及びG間の商標権使用許諾契約書のドラフトをメールに添付して送信した。

        同月11日、Aは、Nに対し、被審人が所有している前記商標権について、被審人からC社に移転する旨の、同月1日付け商標権移転登録申請書及び譲渡証書をメールに添付して送信し、確認の上、捺印を求めた。

        イ 同月12日、Mは、Aに対し、「部署は『医療事業部』と記載ください。」との記載と共に、退職届のひな形をメールに添付して送信した。

        同日、Aは、被審人に対し、一身上の都合により、平成28年3月31日をもって退職する旨の退職願を提出した。

        ウ Aは、退職願を提出するまで、被審人から給料の支払いを一切受けていない。

第3 Aの使用人該当性について
  • 1 問題の所在

    平成25年12月以降、退職届を提出するまでの期間(以下「本件期間」という。)のAの客観的な活動状況から、Aが被審人の使用人であったと認められるか否かを検討する。

    2 Aの客観的な活動状況

    • (1) AがC社の代表者として契約締結等重要な行為を行っていること

      • ア 本件業務提携契約の締結

        前記第2の2(2)のとおり、雇用期間とされる平成25年12月14日以降に本件業務提携契約が締結されているところ、契約書にはC社の業務が記載され、末尾にはC社及びその代表者としてのAの記名、押印がされ、さらに被審人及びその代表者としてのBの記名、押印がある。

        かかる事実によれば、B及びAは、本件業務提携契約において、C社が独自に行う業務が存在することを前提とした上で、その業務内容として、再生因子を使った再生医療に関する商品を販売するのに必要な情報を被審人に提供することを想定していたと認められる。

        そして、Aは、本件業務提携においてD社と被審人との間を取り持ち、商品を卸すことにより利益を得ようと考えていた旨述べているところ、以下のとおり、再生医療に関する複数の商品の取引にC社が関与していたことが認められ、かかる取引については、C社を介在させてC社が利益を得る目的で、AがC社の代表者として、C社の業務として行ったものと認められる。

        イ 被審人も当事者となっている複数の取引への関与

        以下のとおり、Aは、本件業務提携契約締結後、C社の利益のために、C社の代表者として、被審人も当事者となる複数の取引に関与していたと認められる。

        • (ア) 再生因子を使った再生医療に関する商品に係る取引

          R社との一連の取引は、もともと本件業務提携契約に基づく取引としてC社の関与が予定されていたものと認められ、本件業務提携契約解消前後を通じ、敢えてC社という会社を介在させて行われていたものと認められるから、Aが被審人の利益のために行ったというより、むしろC社の利益のために行ったとみるのが自然である。

          そうすると、R社との間の再生因子を使った再生医療に関する商品に係る取引は、Aが、C社の業務として行ったものと認められる。

          (イ) 再生因子を用いた化粧品に係る取引

          T社との間の再生因子が入っている化粧品についての一連の取引は、本件業務提携契約に基づき、再生因子を使った再生医療に関する商品を販売するのに必要な情報を被審人に提供する一環でなされたものと評価することもできる上、敢えて、C社という会社を介在させていることに照らして、Aが被審人の利益のためにおこなったというよりむしろ、C社のために行ったとみるのが自然である。

          そうすると、T社との間の再生因子を用いた化粧品に係る取引は、Aが、C社の業務として行ったものと認められる。

        ウ 本件業務提携解消後におけるAの活動状況

        前記第2の3(1)アによれば、本件業務提携は平成26年12月頃解消されたと認められるが、解消後も、以下のとおり、AがC社の代表者として、被審人も当事者に含む契約を締結する等、C社の業務として行っていたと認められる。

        • (ア) U社とのコンサルティング契約

          証拠によれば、平成27年1月14日、Bは、A及びU社の役員であるVに対し、U社が保有するデータをC社及び被審人に提供することにより再生因子の利用を促進することを契約締結の目的とし、末尾にU社、C社及び被審人並びに各代表者の記名がある「コンサルティング契約書」のドラフトをメールで送信している。

          また、Aは、本件業務提携解消後の平成27年1月頃に、U社と被審人、C社との間で、コンサルティング契約を締結したと述べ、さらに、U社について、再生因子についての専用実施権をD社と契約した際、動物に関しては、EやGは興味がなかったことからC社が主導で行っており、本件業務提携前からU社とは契約を締結していた、U社にはR社が製造していた再生因子についての商品を卸していた、本件業務提携が解消した際、D社の対応に納得がいかなかったことから、被審人に少しでも貢献できることはないかと考え、U社をBに紹介し、U社が有する動物関係の再生因子に関するデータを被審人に提供するようにしたなどと述べている。

          以上からすると、Aは、本件業務提携解消後もC社の代表者として被審人と契約を締結していたことが認められる。しかも、その契約内容は、本件業務提携前からC社と契約関係にあった会社と被審人とを結び付けるというものであって、契約締結において、C社が重要な役割を果たしていたものと認められる。

          (イ) R社に係る取引

          証拠によれば、Aは、本件業務提携解消後の平成27年5月15日、R社から納期について提案があった商品について、「C社から納期の提案」として、Bに対し、納期の確認をするメールを送信している。

          このやりとりについて、Aは、R社とC社で取引をしており、その取引によって利益を得ていたと述べている。

          このように、AがBに対し、「C社」からであることを明示して取引に関する提案をしていることからすれば、Aは、業務提携解消後も、C社の代表者として行為していたものと認められる。

          (ウ) メモランダムへの署名

          前記第2の3(1)イによれば、Aは、平成27年5月9日付けのメモランダムに、C社の代表者として署名している。

        エ 以上のとおり、本件期間においても、C社は被審人と取引を行っており、AもC社の代表者として契約締結等の重要行為を行っていることが認められる。

      (2) 本件期間に被審人の使用人としてのAの成果物がほとんど見当たらないこと

      上記(1)のとおり、本件期間において、Aは、C社の代表者として、C社の利益のために契約締結等重要な行為を行っているが、他方で、以下のとおり、本件期間において、被審人の使用人としてのAの成果物は、ほとんど見当たらない。

      • ア 前記第2の2(3)ア並びに同3(2)及び(3)イによれば、Aの雇用期間とされるのは、平成25年12月14日から平成28年3月31日までの約2年3か月間であり、契約更新後の平成26年12月1日からの約1年4か月間の勤務形態は常勤であったとされている。

        イ しかし、他方で、Aが、被審人の使用人名義で作成した書面や、被審人の使用人の肩書で行った行為等、被審人の使用人としての具体的な成果物を示す客観的な証拠はほとんど認められず、このような状況は、真実、Aが被審人に雇用されていたのであれば、その期間や勤務形態に照らし不自然である。

        ウ 以上のように、本件期間において、Aの被審人の使用人としての成果物がほとんど見当たらないところ、かかる事実は、Aが被審人の使用人でなかったことを推認させるものである。

      (3) 被審人とAの間で時給の合意が認められないこと及びストックオプションが労務提供の対価として付与されたとは評価できないこと

      • ア 雇用契約では、一般的に、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることが要件と解される。

        前記第2の3(3)ウによれば、Aに対しては、報酬としてストックオプションが付与されているものの、BがAと合意したなどと述べている時給については、Aに対し全く支払われていない。

        仮に、真実、Aが被審人の使用人として活動していたというのであれば、Aに時給が全く支払われていないという事実は、雇用されていたとされる期間や勤務形態、Bが合意したなどと述べている時給の存在や、年俸・月例給与の計算方法について詳細に定められている労働条件確認通知書の記載内容に照らして不自然である。

        • (ア) この点、Bは、雇用を開始したと主張する平成25年12月の時点において、Aとの間で時給を2000円とする合意があったが、Aからは時給の請求がなかったなどと述べる。また、Bは、雇用契約書に署名、押印するようAに求めたのはB自身であるが、時給の記載がないことは見落としていたと述べる。

          (イ) しかし、Aに署名、押印を求める際、B自ら雇用契約書を示していたにもかかわらず、時給の記載を見落としていたというのは不自然である。

          さらに、仮に見落としていたとしても、時給の記載がある雇用契約書の作成経緯によれば、雇用契約書に時給の記載を加えたのは、会計監査人から、報酬の記載に関して雇用契約書の法的有効性について指摘され、弁護士に確認をするよう求められたことを契機とするものである(なお、Bも、会計監査人からの指摘がきっかけになったことを認めている。)ところ、そうであれば、弁護士に雇用契約書を提出するに際し、報酬の記載を修正した上で、Aの署名押印部分をカラーコピーするなどという行為は、雇用契約書の法的有効性を一層低下させるものであって、不自然、不合理というほかない。

          (ウ) 加えて、Aは、時給の合意はなかったと述べており、Aが述べるところは、Aが署名、押印した(時給の記載のない)雇用契約書の記載と一致している。他方で、Bは、途中からAの出勤記録をつけていなかった、給料を払うことになったら当事者間で合意して決めれば良いことで、例えば平均して週何時間として、それをのばして、これくらいですねといった形で計算して提示するつもりであった、Aはもらえる給料の額を知らないまま辞退したなどと述べているところ、Bの述べるところは時給の存在をほとんど考慮していなかったことをうかがわせるものであって、労務提供の対価として時給の合意が存在していたと供述する者の発言としては不自然である。

        ウ そうすると、雇用を開始したと主張する平成25年12月の時点において、Aとの間で時給を2000円とする合意があった旨のBの供述は、直ちには信用できず、被審人とAとの間で時給の合意があったとは認められない。

        エ なお、前記第2の2(3)によれば、Aと被審人との間の雇用契約書には報酬としてストックオプションを付与することが記載されているものの、前記のとおり、本件期間において、AがC社の代表者として契約締結等重要な行為を行っている一方、被審人の使用人としてのAの成果物が見当たらず、本件各ストックオプションがいかなる労働の対価として付与されたものか疑問である。

        さらに、第6回ストックオプションは、Aの雇用契約期間開始日とされる平成25年12月14日からわずか6日後に割り当てられたものであることからしても、真実、労務提供の対価として付与されたとは直ちに認め難く、むしろ、被審人は、Aに対し、行使可能期間が事実上極めて短期間に限定されたストックオプションを、本件業務提携に関する事業資金を調達することを主たる目的で付与したものと認められ、第6回ストックオプションを、Aらの労務提供の対価として付与したものと評価することはできない。

    3 小括

    以上の事実は、雇用の合意の不存在を推認させ、Aが被審人から指揮命令を受け被審人のために活動する立場になかったこと、ひいてはAが被審人の使用人でなかったことを推認させるものである。

    かかる事実に加え、本件期間において、Aの行為が、被審人の会社内における指揮命令系統に沿って行われたことを裏付ける客観的、具体的な証拠はなく、Bが行った業務上の指示等に対してAに拒否の自由がなかったなどの事情を裏付ける証拠もない。

    さらに、Aが被審人に雇用されているとの認識がなかったことを一貫して述べていることからすれば、雇用契約書の存在にかかわらず、被審人とAとの間に雇用等の労働契約に係る意思の合致があったとは認められないから、Aは被審人の使用人であったとは認められない。

 

第4 結論

以上によれば、本件各ストックオプションをAが取得するまでのいずれの時点においても、Aが被審人使用人等であるとは認められず、本件各ストックオプションは、被審人使用人等以外の第三者に対して募集を行ったものと認められる。

被審人使用人等以外の第三者に対して募集を行う場合には、内閣総理大臣への届出が必要であるところ、被審人は届出をしていない。

よって、被審人には違反事実記載のとおりの違反行為が認められる。
 

(法令の適用) 

金商法第172条第1項第1号、第4条第1項、第176条第2項、施行令第33条の5第17号
 

(課徴金の計算の基礎) 

別紙2のとおりである(課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が争わず、そのとおり認められる。)。
 

 

(別紙2)

(課徴金の計算の基礎)

金商法第172条第1項第1号の規定により、取得させた有価証券の発行価額の総額(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む。)の100分の4.5に相当する額が課徴金の額となることから、課徴金額は下表のとおりとなる。

割当日 発行価額の総額 課徴金額(注)
平成25年12月19日 332,000,000円 14,940,000円
平成27年9月28日 166,165,000円 7,470,000円
合計 498,165,000円 22,410,000円

(注)発行価額の総額に100分の4.5を乗じた金額。
   また、金商法第176条第2項の規定により1万円未満の端数を切捨て。

 
お問い合わせ先

総務企画局総務課審判手続室

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)(内線2398、2404)

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