平成17年4月22日
金融庁
シティトラスト信託銀行に対する行政処分について
I .命令の内容
1. 銀行法第27条及び金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第8条の3に基づく命令
新規受託業務を平成17年5月2日からすべて停止すること(既存取引の解消・移管等及びこれらに付随する業務を除く。)。
ただし、シティトラスト信託銀行株式会社(以下、「当行」という。)が以下の命令を遵守し、当行の解散準備がすべて整ったと認められる時点においては、上記の命令を解除すると同時に、解散の認可の申請を受け付けるものとする。
2. 銀行法第26条第1項及び金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第8条の2に基づく命令
(1)当行が解散し、当行の清算を完了するまでの間、信託銀行として、以下の観点から、法令等遵守、経営管理及び内部管理にかかる態勢(人的構成と体制の構築を含む。)を整備・確保すること。
イ. 信託銀行として財務の状況を健全に維持し、かつ、既存顧客(信託委託者及び取引関係者等を含む。)等との取引等の適切な監督・管理体制の維持及び必要な措置等の確保にかかる基本方針の決定、並びに、実施計画の策定及び役職員への徹底。
ロ. 既存顧客等に対する適切な説明と周知を図る態勢の確保、解散・清算後に信託財産管理・決済の問題等を発生させないための事前の対応・処理を適切に行う態勢の確保、書類及び重要物(契約書、電子記録媒体等)の適切な取扱・管理・受渡等にかかる基本方針の決定、並びに、実施計画の策定及び役職員への徹底。
ハ. 上記イ.及びロ.が当行の方針及び計画通りに実施・達成できない場合の当行及び当行の銀行主要株主にあたるシティグループ・インク(以下、「株主」という。)の対応策の明確化。
(2)法令違反を含む、下記 II .処分の理由、並びに、検査結果通知及び報告命令に記載された事項にかかる問題等の原因となった役職員の責任の所在の明確化。
(3)上記(1)の業務運営にかかる計画を平成17年5月27日までに提出し、直ちに実行すること。
(4)以後、当行が解散し、当行の清算を完了するまでの間、業務運営にかかる計画の実施状況を毎月取りまとめ、翌月15日までに報告すること。
II .処分の理由
1. 業務改善命令後の信託業務の未改善の現況
当行では、前回の当庁の立入検査結果(平成13年7月9日通知)により法令違反等が確認され、銀行法第26条第1項、及び、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第4条において準用する信託業法第18条の規定に基づき、業務改善命令(平成13年8月9日発出)を受けている。
その後、業務の改善計画の実施状況について完了報告を当庁に行い、報告命令の解除(平成15年6月27日)を受けている。
しかし、今般の当庁の立入検査結果(平成16年9月22日通知)及びその後の報告徴求により、信託業務の営業・審査・事務管理体制等については、以下のように当行が策定した計画に即した改善が図られていない業務実態が認められたこと。
2. 法令違反
(1)信託財産の管理・決済業務にかかる法令違反
前回の当庁の立入検査では、当行の信託事務(社外への再委任を含む。)の監督・管理態勢の整備が不十分であり、信託勘定の資金管理及び税務会計上の事務にかかる管理失当が認められていた。
今般の当庁の立入検査でも、信託財産の管理・決済業務における海外源泉税還付請求の未処理、並びに、還付金及びその他資金の受け取りにかかる信託委託者に対する通知や所要の事務・経理処理が適切に行われずに長期間放置され、信託法第20条(いわゆる善管注意義務)及び同法第28条(いわゆる分別管理義務)に違反していること。
また、当行の経営陣や管理責任者は上記の業務運営の状況を経営委員会等での報告を通じて認識していたが、当庁への届出を行わずに、銀行法第53条及び金融機関の信託業務の兼営等に関する法律施行規則第12条の2に規定する届出義務に違反していること。
(2)投資信託の無登録営業
当行では、前回の当庁の立入検査以後、投資信託販売業務の登録を受けずにシティグループの海外運用会社が運用する投資信託の目論見書を交付するなどして、金融機関等に対して投資信託の勧誘・媒介を反復・継続して行い、複数の成約実績を上げているが、これらの一連の行為は、証券取引法第65条の2第1項に違反すること。
また、当行の前代表取締役社長、前担当常務取締役営業企画本部長及び当該本部の営業行員は、内部管理部門等から投資信託の無登録営業に関する書面による具体的な注意喚起等を受けていたにもかかわらず、牽制や監視が機能せず、経営の判断によって無登録営業が推進されていた経緯が認められていること。
(3)無登録営業等の業務実態を隠ぺいする検査忌避及び虚偽答弁
当庁の投資信託の営業活動に関する立入検査の過程においては、以下のように無登録営業等の実態の隠ぺいを図る行為が認められているが、このような行為は、銀行法第63条第3号に該当するものと考えられる。
イ. 前担当常務取締役営業企画本部長は、当庁の検査官から、営業企画本部が金融機関向けに実施している営業活動を記載した書面を提出するように要請されたのに対し、営業活動の一部につき当該書面に記載しないことにより、検査官への説明を意図的に回避している。また、同本部長は、自らの担当先で当該書面を作成提出する必要があると認識していた金融機関の一部について、当該書面を作成せず、検査官への説明を意図的に回避している。
ロ. 前代表取締役社長は、当行の無登録営業を協働で行っていた在日シティグループ投信投資顧問会社(以下、「グループ会社」という。)の投資顧問部長の業績管理、及び、当行とグループ会社の顧客情報の共有等の実態に関して、事実と異なる虚偽の答弁を行っている。
3. 不適切取引等
前回と同様に今般の当庁の立入検査においても、当行による会計操作目的の不適切な不動産流動化取引の組成が認められていること。
また、シティバンク、エヌ・エイ在日支店のプライベート・バンク部門(以下、「銀行丸の内支店」という。)が組成する同様の目的の不動産管理処分信託・包括信託の受託、不適正価額による信託受益権の売買の媒介、及び、銀行丸の内支店の他業禁止義務(銀行法第12条)に違反する海外不動産投資信託案件の勧誘・販売に連携して関与していた実態が認められていること。
4. 不適切な顧客情報の管理
当行では、グループ会社及び銀行丸の内支店との間で、顧客の同意を得ることなく非公開の顧客情報の交換や共有が恒常的に行われており、利用者保護の認識が欠落した不適切な顧客情報の取扱いとなっていること。
5. 経営管理及び内部統制の問題
以上の法令違反等が認められた背景には、株主のグローバル投資運用部門本部(ニューヨーク)が、我が国の法令諸規則及び法人格の枠組みに反して、当行の資産運用部門とグループ会社の投資顧問部門を横断的に統括する営業管理責任者(前代表取締役社長)を任命し、当該責任者による機関投資家向け営業をグループ一体で推進させることを可能とする過剰な権限委譲を行うなどの問題が認められている。
このような営業上の方針決定や経営管理の方法が、当行の法令等遵守(コンプライアンス)に問題を惹起させ、業務の健全かつ適切な運営の確保に弊害を発生させていること。
また、法令違反や不適切取引等を抑止できない問題が今般の立入検査により確認されているが、当行の取締役会や監査役による経営監視・牽制が適正に機能していない経営管理(ガバナンス)態勢上の根本的な問題が認められたこと。
加えて、監査部では、前回の当庁の立入検査において業務部門が法令違反等の指摘を受けているにもかかわらず、業務関連法令集の作成・手順等を確認するに止まり、実際の業務の運営状況を直接検証していないなど、実効性のある監査が実施されていない現況が認められたこと。
6. 信託銀行の解散
当行では、株主が当行を12ヵ月後に閉鎖すると公表(平成16年10月25日)したことを受け、閉鎖に向けて具体的な検討を始めることを平成16年11月12日に機関決定している。
信託銀行のすべての業務を円滑に結了させるためには、当行が解散し、当行の清算を完了するまでの間、株主の支援はもとより、信託銀行として、既存顧客等の信任に対して、公正かつ適切な業務運営を維持する必要があるが、当行のこれまでの業務運営状況や検査対応等の経緯に鑑みれば、当行の自主的な取り組みに委ねたのでは確実な結了を図ることができないと認められること。
本件に関する問い合わせ先
金融庁 TEL 03-3506-6000(代表)
監督局銀行第一課(内線3751、3752)