令和4年5月31日
金融庁
監査法人の処分について
金融庁は、令和4年1月21日、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)から、仁智監査法人(法人番号7010005018195)に対して行った検査の結果、当監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、当監査法人に対する行政処分その他の措置を講ずるよう勧告を受けました。
同勧告を踏まえ、金融庁は本日、下記のとおり、当監査法人に対して公認会計士法第34条の21第2項に基づき、以下の処分を行いました。
記
1.処分の概要
(1)処分の対象
仁智監査法人(法人番号7010005018195)(所在地:東京都中央区)
(2)処分の内容
契約の新規の締結に関する業務の停止1年(令和4年6月1日から令和5年5月31日)
業務改善命令(業務管理体制の改善。詳細は下記3.参照)
2.処分の理由
当監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、令和4年1月21日、金融庁は公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)から行政処分勧告を受け、調査を行った結果、下記ア.からウ.までに記載する事実が認められ、当該事実は公認会計士法(昭和23年法律第103号)(以下「法」という。)第34条の21第2項第3号に規定する「運営が著しく不当と認められるとき」に該当する。
ア.業務管理態勢
当監査法人は、前回の審査会による検査の結果に関し、金融庁から業務改善命令(業務管理体制の改善)を受けているほか、日本公認会計士協会の品質管理レビューにおいても、複数回にわたり限定事項付き結論が付された品質管理レビュー報告書を受領して改善勧告を受けており、その都度、監査品質の改善に取り組んだとしている。
しかしながら、法人代表者及び品質管理担当責任者を含む各社員においては、各人の個人事務所等における非監査業務への従事割合が高く、当監査法人における監査の品質の維持・向上に向けた意識が希薄なものとなっていることから、上記の改善勧告等を法人の業務運営の根幹に関わる問題として認識していない。また、法人代表者及び品質管理担当責任者は、監査品質の改善に向けてリーダーシップを発揮していないなど、品質管理のシステムを有効に機能させる態勢を構築する意識が欠如している。さらに、当監査法人の各社員は、自らが関与していない個別監査業務における品質の改善状況を監視する必要性を認識していないなど、法人の業務運営に対する社員としての自覚に欠けている。このように、当監査法人においては、社員同士が互いに牽制し、監査品質の維持・向上を図る組織風土が醸成されておらず、組織的監査を実施できる態勢となっていない。
そのため、法人代表者及び品質管理担当責任者は、監査品質の維持・向上を図る意識が欠如していたことから、品質管理レビューでの指摘事項に関し、同様の不備の発生防止のための根本原因分析を十分に実施していないほか、実施していない改善措置を実施したものとして日本公認会計士協会に報告するなど、改善措置の実施に真摯に取り組んでいない。また、法人代表者及び品質管理担当責任者は、現行の監査の基準に対する理解や、基準が求めている品質管理及び監査手続の水準に対する理解が、自らを含む監査実施者に不足していることを十分に認識していない。さらに、当監査法人は、各社員の合意に基づいて品質管理活動を含む業務運営を行う方針としているにもかかわらず、各社員は、当監査法人における現状の品質管理態勢を批判的に検討していないなど、監査品質の維持・向上に貢献していない。
こうしたことから、下記イ.に記載するとおり、品質管理レビュー等での指摘事項に対する改善が不十分で同様の不備が繰り返されていること、詳細な監査計画の策定等において重要な基礎データとなる執務実績時間を集計・管理する態勢を整備していないこと、適切な監査業務に係る審査を実施していないことなど、品質管理態勢において、重要な不備を含めて広範かつ多数の不備が認められている。
また、下記ウ.に記載するとおり、今回審査会検査で検証対象とした全ての個別監査業務において、業務執行社員及び監査補助者に監査の基準に対する理解が不足している状況及び職業的懐疑心が不足している状況が確認され、それらに起因する重要な不備を含めて広範かつ多数の不備が認められている。
イ.品質管理態勢
(品質管理レビュー等での指摘事項の改善状況)
法人代表者及び品質管理担当責任者は、品質管理レビュー等での指摘事項に対し、根本原因分析を行い、これを踏まえた改善措置の策定を行ったとしている。
しかしながら、法人代表者及び品質管理担当責任者は、監査品質の維持・向上を図る意識が欠如していたことから、同様の不備の発生防止のための根本原因分析を十分に実施していないほか、実施していない改善措置を実施したものとして日本公認会計士協会に報告するなど、改善措置の実施に真摯に取り組んでいない。
その結果、今回審査会検査で検証した個別監査業務の全てにおいて、これまでの品質管理レビュー等での指摘事項と同様の不備が繰り返されている。
(執務実績時間の管理)
法人代表者及び品質管理担当責任者は、各専門要員の執務実績時間を集計・管理する態勢を構築せずとも、当監査法人の業務に支障はないと思い込んでいたことから、被監査会社への監査見積時間の提示、詳細な監査計画の策定、社員・職員の評価等の重要な基礎データとなるにもかかわらず、これを集計・管理する態勢を整備していない。
(監査業務に係る審査)
品質管理担当責任者は、「監査の品質管理規程」に対する理解が不足していたことから、業務執行社員が新規に受嘱した上場被監査会社3社の審査担当社員を指名している状況を看過している。また、品質管理担当責任者は、不正事案が発生した監査業務について、「監査の品質管理規程」で定められた社員会における審査が実施されていない状況を看過している。くわえて、複数の審査担当社員は、監査の基準で求められる監査手続の水準を十分に理解しておらず、また、一部の審査担当社員は、特別な検討を必要とするリスク等に係る監査上の重要な監査調書を査閲していない。その結果、今回審査会検査において指摘した重要な不備を審査において指摘できていない。
このほか、「内部規程の整備及び運用」、「法令等遵守態勢」、「独立性」、「監査契約の新規の締結及び更新」、「監査実施者の教育・訓練及び評価」、「監査補助者に対する指示・監督及び監査調書の査閲」、「監査調書の整理・管理・保存」及び「品質管理のシステムの監視」に不備が認められる。
このように、当監査法人の品質管理態勢については、品質管理レビュー等での指摘事項の改善状況、執務実績時間の管理、及び監査業務に係る審査において重要な不備が認められるほか、広範かつ多数の不備が認められており、著しく不適切かつ不十分である。
ウ.個別監査業務
業務執行社員及び監査補助者は、監査の基準や、監査の基準で求められる監査手続の水準の理解、特に、不正リスクの評価及び対応に係る手続に関する理解が不足しているほか、経営者の主張を批判的に検討していないなど、職業的懐疑心が不足している。
また、業務執行社員及び監査補助者は、監査品質の維持・向上に対する意識が不足しており、このため、リスク評価手続やリスク対応手続について、見直しの必要性を認識することなく、過年度と同様の監査手続を実施している。くわえて、業務執行社員は、自らが果たすべき役割を認識しておらず、被監査会社が行う事業や取引の十分な理解に基づき、監査上のリスクを適切に評価する意識が不足しているほか、監査補助者を過度に信頼していたことから、監査補助者に対する十分な指示・監督及び監査調書の適切な査閲を実施していない。
これらのことから、収益認識に関する不正リスクの識別及び不正リスクの対応手続が不適切かつ不十分、受注損失引当金に係る会計上の見積りに関する検討が不適切かつ不十分、重要な構成単位に関する監査手続が不適切かつ不十分などの重要な不備が認められる。
上記のほか、継続企業の前提に関する検討が不十分、固定資産の減損に係る会計上の見積りの検討が不十分、工事進行基準に対するリスク対応手続が不十分、重要な勘定残高に対するリスク対応手続が不十分、監査チームメンバーの独立性の確認が不十分、重要性の基準値に関する検討が不十分、棚卸立会に係る手続が不十分、内部統制や財務報告に関連する情報システムの理解が不十分、監査役等とのコミュニケーションが不十分など、広範かつ多数の不備が認められる。
このように、検証した個別監査業務において、重要な不備を含めて広範かつ多数の不備が認められており、当監査法人の個別監査業務の実施は著しく不適切かつ不十分なものとなっている。
3.業務改善命令の内容
(1)法人代表者及び品質管理担当責任者は、組織的に監査の品質を確保する必要性を十分に認識し、社員の職責の明確化、社員同士が互いに牽制する組織風土の醸成など、実効性のある品質管理のシステムの構築に向け、貴監査法人の業務管理態勢の改善に主体的に取り組むこと。
(2)法人代表者及び品質管理担当責任者は、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)の検査及び日本公認会計士協会の品質管理レビューにおいて指摘された不備の根本原因を十分に分析したうえで改善策を策定及び実施するとともに、改善状況の適切な検証ができる態勢を整備すること。併せて、勤務実績時間の管理や、十分かつ適切な審査の実施により、監査の基準で求められる監査手続の水準を満たす監査を実施できる態勢を整備するなど、貴監査法人の品質管理態勢の整備に責任を持って取り組むこと。
(3)現行の監査の基準に準拠した監査手続を実施するための態勢を強化すること(収益認識に関する不正リスクの識別及び不正リスクの対応手続、受注損失引当金に係る会計上の見積りに関する検討、重要な構成単位に関する監査手続など、審査会の検査において指摘された事項の改善を含む。)。
(4)上記(1)から(3)に関する業務の改善計画について、令和4年6月30日までに提出し、直ちに実行すること。
(5)上記(4)の報告後、当該計画の実施完了までの間、令和4年11月末日を第1回目とし、以後、6箇月ごとに計画の進捗・実施及び改善状況を取りまとめ、翌月15日までに報告すること。
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