令和6年3月8日

各業界団体等代表者 殿

内閣総理大臣 岸田 文雄
財務大臣兼金融担当大臣 鈴木 俊一
 厚生労働大臣 武見 敬三
 農林水産大臣 坂本 哲志
経済産業大臣 齋藤  健

「再生支援の総合的対策」を踏まえた
事業者支援の徹底等について

官民の金融機関等におかれては、累次にわたる要請等も踏まえ、事業者支援に着実に取り組んでいただいていますことに感謝申し上げます。
 コロナ禍からの社会経済活動の正常化が進み、本年4月には民間金融機関による実質無利子・無担保融資の返済開始の最後のピークを迎える中、債務が膨らんだ事業者に対する、資金繰り支援にとどまらない、一歩先を見据えた早期の経営改善・事業再生・再チャレンジ支援の必要性が高まっています。
 こうした中、経済産業省・金融庁・財務省においては、3月8日に「再生支援の総合的対策」を策定・公表し、官民金融機関等による再生支援等を一層促すための施策をとりまとめました。
 つきましては、以下の事項を要請いたしますので、貴機関、貴協会会員金融機関等の経営層は勿論のこと、現場の第一線の職員等まで周知・徹底をお願いいたします。
 


 

1.資金繰り支援

事業者への資金繰り支援について、事業者に最大限寄り添ったきめ細かな支援を徹底すること。また、融資判断に当たっては、それぞれの事業者の現下の決算状況・借入状況や条件変更の有無等のみで機械的・硬直的に判断せず、事業の特性、各種支援施策の実施見込み等も踏まえ、今後の経営改善や事業再生に繋がるよう、丁寧かつ親身に対応すること。返済期間・据置期間が到来する既往債務の条件変更や借換え等について、申込みを断念させるような対応を取らないことは勿論のこと、事業者の実情に応じた迅速かつ柔軟な対応を継続すること。
 その際、本年6月末まで申込期限が延長された政府によるコロナ資金繰り支援施策を積極的に活用すること。具体的には、令和6年能登半島地震による被災地域については配慮した上で、本年7月以降は、コロナ前の支援水準に戻しつつ、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援とする方向であることを踏まえ、民間金融機関において、実質無利子・無担保融資の返済開始を迎える事業者(本年4月が最後のピーク)を中心に、返済開始前から経営状況等を把握の上、コロナ借換保証等の活用によって早期に借換を促すなど、適切に資金繰り支援に取り組むこと。日本政策金融公庫等においては、新型コロナウイルス感染症特別貸付を本年6月末まで延長のうえ、例えば、7月以降の金利水準は一般的な災害貸付金利を適用し、制度は継続(期限あり)する等を踏まえ、引き続き適切に資金繰り支援に取り組むこと。
 

2.資本性劣後ローン

過大な債務等に苦しむ事業者に対しては、その財務内容を改善し、新規融資を供給しやすくする手段として、積極的に資本性劣後ローンの活用を検討すること。特に、コロナ資本性劣後ローンについても本年6月末まで延長するほか、昨年11月の総合経済対策の内容を踏まえ、日本政策金融公庫において作成している業種別活用事例集や事業計画書の記入例を十分活用すること等により、小規模事業者も含め、引き続きコロナ資本性劣後ローンの利用促進に取り組むこと。
 民間金融機関においてもコロナ資本性劣後ローンを活用した支援について前向きに検討すること。その際、民間金融機関による実質無利子・無担保融資等からの借換促進も念頭に、日本政策金融公庫等とも連携し、協調融資商品の組成拡大等に努めること。
 また、コロナ資本性劣後ローンについて、貸付から5年経過後は、事業者が民間金融機関等からの支援を受けている場合には当該金融機関等にも相談の上、事業者の申し出による期限前弁済(部分弁済を含む)が可能である旨、日本政策金融公庫等において事業者へ周知を図り、コロナ資本性劣後ローンの利用を促進すること[1]。加えて、民間金融機関等においては、事業者から期限前弁済に係る相談を受けた際には、事業者の財務状況等を踏まえ丁寧かつ親身に対応すること。
 

3.官民金融機関による支援の強化

①民間金融機関においては、本年4月に適用予定の改正監督指針の趣旨・内容について営業現場の第一線まで漏れなく説明し、運用開始までに確実に浸透させること。特に、以下の観点も踏まえ、事業者の現状のみならず状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応を徹底すること。

  • 日常的・継続的な関係強化を通じた事業者の予兆管理と認識共有(プッシュ型での情報提供)
  • メイン・非メインに関わらず金融機関自身の経営資源の状況を踏まえた対応促進

②民間金融機関においては、本年2月より時限的に対象に追加された「早期経営改善計画策定支援事業」等の各種支援施策も活用しつつ、事業者が抱える課題解決に向けたコンサルティング機能を発揮すること。

③民間金融機関においては、事業者の経営改善・事業再生を先送りしないため、早期に経営再建計画等の策定支援を行うこと。なお、金融庁では、必要に応じて追加的ヒアリングを実施することを含め、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」の策定状況を含めた事業者支援の取組みについて確認していく。

④民間金融機関においては、地域経済活性化支援機構(REVIC)による事業再生支援に関する実践的な研修の活用などを通じて、自身の経営改善・再生支援人材の育成に努めること。また、事業者の経営状況に応じたソリューションや経営改善・再生支援に関する取組みを積極的に発信すること。

⑤日本政策金融公庫等においては、過大な債務等に苦しむ事業者の財務基盤を強化し経営改善を促す観点からコロナ資本性劣後ローンが重要であることに鑑み、借換え等の相談に柔軟に応じるとともに、その中で支援を必要とする先について、時機を逸することがないよう関係機関とも連携しながら経営改善支援に取り組むこと。また、コロナ特別貸付等を今後適用する際には、社会経済活動の正常化が進む中、改めて、コロナの影響や、中長期的な事業者の業況の回復や発展の見込みを確認し、適切に判断すること。

⑥「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(令和6年1月改定)の活用について、改正内容も含めその趣旨・その内容を営業現場の第一線の職員等まで十分に浸透させ、事業再生計画の成立や円滑な廃業に向けて、主体的に支援すること。また、中小企業活性化協議会等の外部機関との連携についても、現場の職員等までその認知を広げ、事業者の経営改善・事業再生・再チャレンジに向けた早期相談につなげるよう努めること。その際、弁護士等の専門家との連携強化を通じて、地方における事業再生の担い手の育成に努めること。

⑦官民金融機関等においては、新規融資時は勿論のこと、条件変更時や経営改善・再生支援等を行う適時のタイミングで、事業者の社会保険料や税金等の納付状況を含めた資金繰りの積極的な把握に努めること。また、社会保険料や税金等を滞納している事業者に対しては、優先的に支払うべき債権であることを認識させるとともに、必要に応じて既往債務の条件変更を提案するなど、事業者の状況を踏まえた対応を徹底すること。

4.信用保証協会による支援の強化

信用保証協会は、民間金融機関をはじめとした関係機関と連携して、信用保証付融資のシェアが高い事業者など、支援先のターゲティングを行い、主体的に経営支援の必要性を検討し、支援を行っていくこと。その際、効果的な経営支援を行うため、協会毎に経営支援の効果検証指標を設定し、支援のPDCAを徹底すること。
 また、早期の再生支援を進めていくべく、事業者情報の守秘義務が解除される対象として中小企業活性化協議会などを信用保証委託契約書に明記し、再生支援・スポンサー探しの事前相談の円滑化を図ること。信用保証付融資のシェアが高い事業者(求償債権事業者含む)については、民間金融機関をはじめとした関係機関と目線あわせを行うなど連携の上、信用保証協会が主体的に事業再生支援等の必要性を検討し、必要に応じて、直接又は間接的に、中小企業活性化協議会への相談持込みを実施すること。
 事業再生の道筋が立たず代位弁済に陥ってしまった事業者についても、事業継続しながら誠実に返済を進めている場合には、求償権消滅保証等などを活用し事業再生を支援して、金融機関との取引を再開させるため対応を講じること。一方で、事業継続されていなくとも、保証人がその資力に応じた弁済を誠実に行ってきたなど考慮すべき事情がある場合には、保証履行請求は、一律に保証金額に対して行うのではなく、個々の債務者やその保証人の実情に応じた柔軟な対応に努めること。
 さらに、過去に破産や廃業等を経験した経営者であっても、過去の事実だけを以て判断を行うのではなく、足下の事業計画等を踏まえ、保証審査を行うこと。
 なお、時効が到来している求償権や特別清算(第二会社方式含む)等による法的手続きによって免責が確定している求償権について、求償権残高から権利行使不能な求償権を除外することについては、地方自治法第96条第1項第10号に規定された権利の放棄には該当しないため、特段の手続きを経ることなく従来通り求償権の整理を行えることに留意すること。
 

5.中小企業活性化協議会による支援の強化

独立行政法人中小企業基盤整備機構においては、全国の中小企業活性化協議会が経営改善・再生支援のニーズに十分に答えられるよう、業務改善計画の策定の義務化等を通じて、毎年度の業績が低評価である中小企業活性化協議会の支援レベルの底上げを図ること。
 また、全国の中小企業活性化協議会においては、地方の再生支援の専門人材の不足や地域毎の偏在を踏まえ、再生支援人材の育成の観点を意識しつつ、中小企業活性化協議会で再生支援を行う弁護士等の下で、地域の専門家が「補佐人」として支援に参画できる制度等の活用を推進すること。
 さらに、事業承継・引継ぎ支援センターやよろず支援拠点などの他の支援機関との連携を強化するとともに、信用保証付融資先が増加した状況を踏まえ、信用保証協会との連携についても一層実効的なものにするよう務めること。
 

6.再生ファンドによる支援の強化

独立行政法人中小企業基盤整備機構においては、中小企業再生ファンドに係る存続期間の拡充等を通じて、小規模事業者に対する支援を強化すること。
 また、官民金融機関や信用保証協会においては、再生ファンドのエグジット対応や再生計画実行中のリファイナンスにおいて、過去の債務免除等の事実だけを以て融資や保証審査の判断を行うのではなく、足下の事業計画等を踏まえて、個々の事業者の実情に応じた柔軟な対応に努めること。
 

7.経営者保証

経営者保証への安易な依存をなくし、事業者の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促すため、事業者のガバナンス向上に向けた支援を行うなど、経営者保証改革プログラムの趣旨を踏まえた事業者支援を一層促進すること。

「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」の改定(令和5年11月)により、廃業手続の早期着手により保証人の手元に残せる資産が増加する可能性があること等が明確化されたことを踏まえ、保証債務整理手続きにおける早期相談の重要性等を、経営者に対して一層周知するとともに、経営者の個人破産の回避に向けて誠実に対応すること。また、保証債務の整理にあたっては、REVICの特定支援(経営者の再チャレンジ支援)や「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」、中小企業活性化協議会等の活用も検討し、経営者の再チャレンジに向けた取組みを後押しすること。

信用保証協会及び民間金融機関においては、信用保証料上乗せにより経営者保証の提供を不要とする信用保証制度を本年3月から開始すること及び制度創設後の3年間で行った保証承諾案件に限り信用保証料の負担軽減策を講じることを踏まえて、当該制度を含む信用保証付融資における経営者保証の提供を不要とする取組みについて事業者に周知し、積極的な活用を促すこと。また、信用保証協会においては、経営者保証を提供する保証申込について、申込金融機関を介するなどして、信用保証料上乗せにより経営者保証の提供を不要とする信用保証制度に関して事業者が説明を受けたことを確認すること。

8.関係機関との連携による支援

事業者の経営改善・再生支援に取り組むにあたっては、官民金融機関と信用保証協会、中小企業活性化協議会等の外部機関、専門家等が連携し、遺漏のない対応に努めること。
 公租公課の分割納付の相談に関する情報等を関係省庁間で共有する枠組みとして「事業再生情報ネットワーク」が創設されることを踏まえ、金融庁に新たに設置予定の「事業者の経営改善・事業再生相談窓口(仮)」や中小企業活性化協議会の窓口も有効活用するよう事業者へ周知すること。
 

9.令和6年能登半島地震に関する事業者等への資金繰り支援の徹底等

令和6年1月5日付で発出した要請文の内容を踏まえつつ、

①一般保証及びセーフティネット保証とは別枠での災害関係保証

②日本政策金融公庫等による令和6年能登半島地震特別貸付

も活用し、引き続き、被災した事業者や、当該事業者と取引関係のある事業者など、災害の影響を受けた事業者の資金繰りに重大な支障が生じないよう、事業者の実情を踏まえながら、きめ細かく、迅速かつ柔軟な対応に努めること。

特に、工場・店舗などの施設や、生産機械などの設備の復旧費用を補助する、いわゆる「なりわい再建支援補助金」の事業者負担部分や補助金支給までの間に必要となる資金を含め、同補助金を利用する事業者の資金繰りをきめ細かく支援すること。また、設備等の復旧を目的とする同補助金の支援対象外となる、商品・在庫等の再調達や被災した不動産賃貸業が貸付物件を再建する等に必要な資金繰りにも最大限寄り添った柔軟かつきめ細かな支援を徹底すること。

以 上

[1]資本性借入金の取扱いについては、金融庁が公表しているPDFのアイコンの画像です。資本性借入金関係FAQも参照。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

監督局総務課監督調査室(内線3706・3852)

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