令和7年10月31日
金融庁
いわき信用組合に対する行政処分について
金融庁は、本日、いわき信用組合(以下「当組合」という。本店:福島県いわき市、法人番号:5380005005753)に対して、下記のとおり行政処分を行いました。
記
1.命令の内容
協同組合による金融事業に関する法律第6条第1項において準用する銀行法第26条第1項に基づく命令
(1)健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下を実行すること。
① 今回の処分を踏まえた経営責任の明確化(これを踏まえた責任追及を含む。)
② 反社会的勢力等との取引を直ちに遮断する(捜査機関への告訴等の検討を行うことを含む。)とともに、反社会的勢力等の排除に係る実効性のある管理態勢を確立すること
③ 当組合の全役職員が法令等遵守に関して金融機関の職員として備えるべき知見を身に付け、健全な企業風土を醸成するため、全ての役職員に対して少なくとも一定期間通常業務から完全に離れて、研修を行うこと
④ このため、本年11月17日(月)から12月16日(火)までの間、新規顧客(既往取引のない者をいい、当組合において命令発出日前に借入等の申込みを受けている者を除く。)に対する融資業務を停止すること
⑤ 当局による検査や報告命令に対する不適切な対応の再発防止を確保し、適切な受検・報告態勢を確立すること
⑥ 一連の不祥事件について、今回の当局検査等を踏まえ、更なる事実関係の精査及び真相究明を徹底して行うこと
⑦ 当組合が当局に提出した業務改善計画(令和7年6月30日付)について、その後の進捗状況並びに今回の当局検査及び業務改善命令を踏まえ、必要な見直しを行うこと
(2)公的資金の活用に係る特定震災特例経営強化計画について、上記(1)を踏まえ、必要な見直しを行うこと。
(3)上記(1)の業務改善計画及び上記(2)の特定震災特例経営強化計画を令和7年11月14日(金)までに提出し、直ちに実行すること(提出後に計画の修正等を行った場合には、都度速やかに提出すること。)。
(4)上記(3)の業務改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3か月毎の進捗及び改善状況を翌月末までに報告すること(初回報告基準日を令和7年12月末とする。)。
なお、令和7年5月29日付命令に基づく業務改善計画の実施状況については、本報告の中において報告すること。
2.処分の理由
令和7年5月30日に公表された当組合の第三者委員会による調査報告書(以下、「第三者委員会報告書」という。)も踏まえ、同5月28日を検査実施日として当組合を検査した結果や協同組合による金融事業に関する法律(以下、「協金法」という。)第6条第1項において準用する銀行法第24条第1項の規定に基づく報告命令に対する当組合の報告を検証したところ、以下のとおり、経営管理態勢や法令等遵守態勢に重大な欠陥が認められたほか、信用リスク管理態勢における機能不全の問題が認められた。
(1)経営管理態勢及び法令等遵守態勢の重大な欠陥
当組合は、地域金融におけるラストリゾート(最後の砦)を自負し、地域の中小零細企業を守り支えることを自らの使命・役割としてきた。一方で、当組合の歴代の理事長ら経営陣は、そうした使命を曲解するあまり、一部の大口業況不芳先との馴れ合いの関係に陥り、かつ、こうした先にも融資し続けることが自らの使命であるとして、本来あるべき融資審査や与信管理等を何ら行うことなく、関係を継続してきた。また、大口業況不芳先の破綻などによって自らの経営に悪影響が出ることを回避するため、本来の債務者とは無関係の個人の名義を無断で借用して口座を開設し、当該口座に融資を実行したのち当該融資金を本来の債務者に迂回させるという手法等による融資(以下、「無断借名融資」という。)やペーパーカンパニー等を利用した迂回融資を行うなど、法令違反行為や不適切・不合理な行為(以下、「不正行為」という。)、更にはそれらを当局に隠蔽することすらもやむを得ないと自らに都合良く解釈し、これらを正当化してきた。そのうえ、後述(2)に指摘するように、反社会的勢力や反社会的勢力であることが疑われる者(以下、反社会的勢力と合わせて「反社等」という。)への資金提供等の事実が確認されており、これらについては、反社等からの度重なる不当な要求に対し、金融機関として毅然とした態度で関係を遮断するという社会的責任を果たすこともなく、更には、反社等との不適切な関係を不正行為によって糊塗し隠蔽するという、金融機関としてあるまじき対応を重ね、問題を深刻化・複雑化させてきた。こうしたことの要因には、不正行為を主導してきた歴代理事の法令等遵守意識の欠如があり、組合の業務執行を監視・監督すべき理事会がその役割を果たしていないことに加え、他の理事・監事においても、自ら不正行為への加担や黙認に及ぶ者があるなど、当組合のガバナンスが著しく欠如していることが挙げられる。加えて、当組合のコンプライアンスや内部監査を所掌する監査部をはじめとした管理部門においても、経営陣の不法・不合理な指示等に盲従し、不正行為やその隠蔽への加担や黙認が繰り返されており、当組合の内部管理・内部統制が機能していないことも挙げられる。更には、営業店においても、経営陣・本部からの不法・不合理な指示等に言われるがまま従うなど、異常なまでの上意下達の企業風土が広く根深く浸透していることも、要因と認められる。(2)反社等への資金提供及び反社等管理態勢の機能不全
今回検査において、当組合の元役員に対するヒアリングを行ったところ、遅くとも平成4年頃から、当組合に対する反社等からの度重なる不当な要求が繰り返され、これらに応じて資金提供を行っていた旨の説明が得られた。これらを踏まえ今回検査で検証を行ったところ、当組合では、少なくとも、(イ)反社等に対して多額の現金の提供を行っているほか、(ロ)反社等が所有する法人に対する融資や、(ハ)反社等の親族に対する融資、(ニ)反社等から紹介を受けた者に対する融資を行った事案が認められる。上記事案はいずれも、反社等管理態勢の最高責任者である歴代の理事長、コンプライアンス担当理事及び監査部長といった、本来は反社等との関係遮断に率先して取り組むべき者並びに牽制機能を発揮すべき者が直接的に主導することにより行われているほか、(イ)の資金提供については、債務者と示し合わせた融資金の水増しにより原資を捻出したものや、無断借名融資により原資を捻出した蓋然性の高いものが認められ、また(ロ)以下の融資の実行に際しては、反社等に便宜を図るため、あるいは、当組合の規程では反社等への融資が実行できない定めとなっていることを認識した上で、常務会や個別の稟議過程において反社等との関係性に係る検討や説明が何ら行われていないなど、当組合の反社等管理態勢は全く機能していない。なお、反社等への融資については、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下、「犯収法」という。)第8条に規定する疑わしい取引の届出の必要性も検討されていない。(3)当局に対する事実と異なる報告及び検査における虚偽説明
① 協金法第6条第1項において準用する銀行法第24条第1項の規定に基づく報告命令に対する当組合の報告(以下、「24条報告書」という。)の内容を検証したところ、以下のとおり、経営陣の指示・提案のもとで事実と異なる報告が行われ、当局による当組合の実態把握に重大な影響を与えており、これらの行為は、協金法第10条第2号に規定する虚偽報告に該当する。
(イ)無断借名融資の実行に際し、特定の役員を当該資金の管理担当役員(以下、「資金管理担当役員」という。)に充て、資金や重要情報の管理を極めて限定的な関係者において行っていたところ、人事処分後の経営体制の維持を企図し、24条報告書において、当時の理事長が資金管理担当役員を引き継いでいた事実を隠蔽して、別の役員がこれを引き継いだ旨の回答を行ったこと。
(ロ)前述(2)のような反社等への資金提供のため組合勘定の現金を流用したうえ、この補填のために、無断借名融資により捻出した資金を利用して不正を隠蔽していたところ、反社等との関係が露見することを回避するため、24条報告書において、一連の無断借名融資とは別に行われていた、特定の職員による同様の手口での横領事件(以下、第三者委員会報告書の略語の用例に合わせて「乙事案」という。)への補填の原資を当時の複数役員による私財供出から捻出したうえ無断借名融資により捻出した資金でこれを補填した旨の回答を行ったこと。
② 今回検査において、当組合の特定の役職員らは、以下のとおり、検査官に対して事実と異なる答弁を行い、当局による当組合の実態把握に重大な影響を与えており、これらの行為は、協金法第10条第3号に規定する虚偽答弁に該当する。
(イ)無断借名融資に係る資金管理担当役員の異動の状況に関し、複数の役員らが示し合わせるなどして、前述(3)①(イ)と同様に、事実と異なる答弁を行ったこと。
(ロ)無断借名融資の期日管理等に関する重要データが保存されていたとされるパソコン(以下、「PC」という。)に関し、特定の役員からPCの使用を任されていた職員が、実際はPCを当該役員に渡していたにもかかわらず、当該役員の指示により、自身が損壊処分した旨の答弁を行ったこと。
(4)上記以外の不正行為
① 特定の大口先グループに対する不正融資
当局検査において、第三者委員会報告書の調査結果を踏まえ、当該報告書において当組合が平成16年3月頃から同23年3月頃にかけて特定の大口先グループに対して行った迂回融資及び無断借名融資(以下、第三者委員会報告書の略語の用例に合わせて「甲事案」といい、当該大口先を「Ⅹ1社」という。)の内容を検証したところ、Ⅹ1社における費消額が約12億円、乙事案への補填額が約2億円、使途不明金が約8億円、返済・利息の額が約219億円と、第三者委員会報告書と比較して大きな差異は認められなかったものの、うち使途不明金に関しては、前述(2)のとおり、反社等への資金提供に無断借名融資から捻出した資金を用いた蓋然性の高いものが認められていることから、使途不明金の大宗は、反社等に提供された蓋然性が高いものと認められる。また、甲事案における不正融資は、それらの実行当時、当組合のⅩ1社に対する与信額が、協金法第6条第1項で準用する銀行法第13条第1項に規定する大口信用供与規制の限度額を既に超過していた中で、同社の資金繰り・財務内容の悪化や、それによる自らの経営への悪影響を回避するため、当該規制の適用を免れつつⅩ1社に追加融資を行う目的で実行されたものと認められ、当組合は、平成19年3月から同23年12月までの間、当該規制を潜脱していたものと認められる。なお、上記の融資については、犯収法第8条に規定する疑わしい取引の届出の必要性も検討されていないほか、無断借名口座の開設については、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第18条に規定する目的外利用や同法第19条に規定する不適正利用に該当するおそれがある。② 顧客への依頼による期跨ぎ融資
経営陣による貸出金増強に向けた指示等に対して、営業店が業績確保を図るために、顧客に依頼して、3月末に当該顧客に実需のない融資を実行のうえ翌4月初に返済を受け、顧客に不要な金利負担を課すという、いわゆる期跨ぎ融資を行っている事例が認められる。こうした取引は、正常な取引慣行に反する不適切な取引であり、当該取引の発生の防止が図られる態勢となっていない。③ 現金不足事案の隠蔽
令和6年11月に営業店での現金不足事案が発生した際、同月に不祥事件を公表した直後であったことから、役員の指示により、これを隠蔽している。当組合の規程に基づく報告や原因究明等が行われておらず、不祥事件の再発防止が図られる態勢となっていない。④ 常務会議事録の改竄
他社との業務委託契約に関して、同社への再就職が予定されていた役員の指示により、規程に基づく文書稟議を行わず、常務会で承認が行われたと議事録を改竄して、当該契約を締結しており、利益相反等の管理が行われる態勢となっていない。
(5)信用リスク管理態勢の機能不全
当組合においては、前述のとおり、経営陣主導による異常なまでの上意下達の企業風土のもとで、反社等に対する融資等が実行され、営業店・本部・常務会における審査・管理等が機能していないばかりか、以下のとおり、与信リミット管理、グループ管理及び資金使途管理にも問題が認められ、信用リスク管理態勢は機能していないものと認められる。① 特定の大口先グループに対する与信額が当組合の定める与信リミットに抵触することを回避するため、経営陣の主導により、当該大口先の代表者が関連法人や親族等の名義を流用して融資を申し込んだうえ得られた資金を同グループ内で転貸することを認識しながら、資金使途・返済原資に係る審査や、グループに対する与信集中に係る協議等を行わないまま、融資を実行している事案が認められる。なお、当該融資については、犯収法第4条に規定する取引時確認及び同法第6条に規定する確認記録の作成が行われておらず、法令違反に該当すると認められるほか、同法第8条に規定する疑わしい取引の届出の必要性も検討されていない。
② 特定の企業とその代表者が実質的に経営を支配する複数企業との資本関係等について経営陣が把握していながら、その指示のもと、当該複数企業に対する情報収集等を行わないまま融資を実行し、これらに対する与信額が当組合の定める与信リミットを超過している事案が認められる。
③ 当時の理事長の主導により、当組合の資本増強を企図して、特定の大口先との間で融資金を当組合への出資に充てることを約したうえ、常務会の審査においては、資金使途を運転資金等と偽り実質的な審査を行わないまま、融資を実行している事例が認められる。なお、営業店においても、これと同様の融資金の出資への流用を行った事例が認められる。
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(注)金融行政等に関する一般的なご質問等は金融サービス利用者相談室で承ります。
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Tel 03-3506-6000(代表)(内線3377、3736)


