「金融庁 AI官民フォーラム」(第1回)議事要旨

  1. 日時:令和7年6月18日(水曜日)14時00分~16時30分
  2. 場所:オンライン
  3. 参加者:PDF「金融庁 AI官民フォーラム」(第1回)参加者一覧

事務局説明

  • 本年3月にAIディスカッションペーパーという金融庁としてAIに関する初の包括的なドキュメントを公表し、積極的なAI活用を金融機関に促していく方針を明確化した。
  • 今後の環境整備に向けて2つの問題意識がある。第1に規制の適用関係の明確化、第2にユースケースやガバナンス、リスク低減に向けた取組事例の共有である。
  • 本フォーラムは柔軟な開催形式とし、今年12月まで月1回程度の開催を想定している。議論のスコープは、まずは生成AIにフォーカスしているが、従来型AIやAIエージェントなども含めて広めに取る。
  • 国内動向として、AIディスカッションペーパーの公表後、今年5月にAI法案が成立した。イノベーションとリスクへの対応のバランスを取った法律と認識しており、金融庁も、政府全体の方針に沿った取り組みをしていきたい。
  • 国際的動向として、昨年2月、G20で、AIなどのデジタルイノベーションが金融分野にもたらす恩恵と脆弱性を理解することの重要性が強調された。これを受けて、FSBや業態別の国際組織で議論が進んでいる。国際的な動向とのハーモナイゼーションも意識して検討していきたい。
  • 実験的な取組みとして、事務局において論点のマッピングを行った[1]。ユースケースを社内利用と対顧客サービス(間接的利用、直接的利用)への利用に分類し、検討すべき課題を、データに関するもの(データ整備、個人情報保護)、モデルに関するもの(説明可能性、公平性、ハルシネーション等)、体制整備に関するもの(経営陣の関与、社内規程、専門人材、AIを悪用した金融犯罪・サイバー攻撃等への対応)、国際的論点(金融安定上の論点、投資家保護・市場の公正性に関する論点)に分類している。
  • 今回は総論であり、今回いただいた意見も踏まえて第2回以降のアジェンダを設定し、第2回以降の議論を踏まえて、来年3月を目途にディスカッションペーパーの更新を行いたい。

業界団体等発言

全国銀行協会(西原氏)

  • 銀行業界では、従来型AIに加え、生成AIの登場でユースケースの幅が広がっている。AIエージェントなどの新しいサービスは、より複雑・多様な業務や自律性を活用したサービスに踏み込むチャンスである。
  • 生成AI以降、金融機関以外のサードパーティーサービスをうまく活用することが前提となっており、出資や提携も含めた関わり方をしている。
  • リスクや課題として、様々なものがあり、これまでもあったもの、拡大されるもの、真に新しいものが入り混じっている。ユースケースによっても変わるため、適切に因数分解しながら対応することが重要である。
  • 攻めとしての利活用と守りとしてのガバナンスをうまく伴走させながら両者を両立することが大事なポイントである。
  • 健全な利活用を進めることが重要だが、何をもって健全とするのか、その健全性をどうやって維持するのかといった点が悩ましい。フォーラムを通じて相互にプラクティスを共有したい。

全国地方銀行協会(鈴木氏)

  • 地銀界では、従来型AIと生成AIの両方で取組を進めており、特に生成AI登場以降、活用の関心が高まっている。
  • 従来型AIは、社内FAQ、書類文書のテキスト化、チャットボット、与信審査や信用リスク管理などで活用している。生成AIは、文書の要約や翻訳、議事録作成、文書の校正・添削などで活用している。
  • 横浜銀行の具体例として、行内照会対応では全行員がChatGPTを使用できる環境を整え、複数のチャットボットを作成して一次回答を行うことにより、本部行員の負担軽減を実現している。また、訪問前企業検索では、行内外の法人情報をまとめて出力し、情報収集を効率化している。
  • 活用に向けた課題として、人材確保・育成、学習データの確保、導入費用、社内規定の整備、AIガバナンスの確立、個人情報保護、説明可能性の担保などがある。生成AI固有の課題としては、ハルシネーション、バイアスによる不公正な結果が生じる可能性、およびその責任所在の明確化などがある。
  • 本フォーラムには、活用のユースケースや課題への対応の方向性等の整理・提示を期待する。

第二地方銀行協会(真鍋氏)

  • 愛媛銀行ではMicrosoft Azure OpenAIを利用して当行専用の環境を構築し、昨年から本部で試行を開始、本年4月から全店活用を開始している。
  • 活用に向けた取り組みとして、AI利用に関する行内ポリシー及び関連規定の制定、生成AIポータルサイトの構築、推進担当者を指名し、外部検定試験を受けさせる等を行っている。
  • ユースケースとして、一般対話と社内情報検索を実施し、各種業務に対応したプロンプトテンプレートを準備している。社内情報検索では行内規程とお客様向けFAQを学習させ、回答精度の向上に苦労したが、利用者自身に検証判断させて活用している。
  • さらなる活用として、音声文字起こしと組み合わせた議事録作成や資料要約、使い勝手の向上としてバージョンアップや新しいサービスの検討を進めている。
  • 本フォーラムには、様々な課題の対応や金融機関でのAI活用のさらなる情報共有を期待する。

生命保険協会(打木氏)

  • 生命保険協会の推薦で明治安田生命から発表する。
  • 当社では、生成AIの活用を、アウトプットの創出と人材育成の2本柱で進めている。
  • 具体的なユースケースとして、本社職員向けにChatGPT-4oを搭載した「AIアシスタント」を2023年6月から提供し、月間約8万件の利用がある。また、約3万7千人の営業職員向けには、「デジタル秘書 MYパレット」を昨年10月に展開し、お客様情報の音声入力やメモ化、ヒストリカルな情報登録ができるようにしている。
  • 今後の方向性として、攻めの面ではアウトプット創出と人材育成・開発プロセスの整備、守りの面ではAIガバナンス体制整備をAI事業者ガイドライン等を参考に進める。
  • 本フォーラムには、ユースケースやガバナンス確保の事例共有、丁寧なコミュニケーションの上でのルール整備等、海外事例の紹介を期待する。

日本証券業協会(長谷川氏)

  • 日本証券業協会の推薦で大和証券から発表する。
  • 証券会社では規制の整理が必要な課題に直面している。
  • 第1に、お客様との会話データを生成AIにインプットして営業員支援に使いたいが、機微情報が含まれる場合に個人情報保護ガイドラインの壁にぶつかる。
  • 第2の壁は法人関係情報。社内分析スタッフに会話データへのアクセス権限を付与したいが、インサイダー情報が含まれる可能性が僅かでもあると、コンプライアンス部門の許可が下りづらい。
  • 第3の壁はファイアーウォール規制。システム関連子会社にモデル開発を依頼したいが、顧客名等の非公開情報が含まれると規制の壁にぶつかる。サードパーティーには発注できるが、システム関連子会社には発注できないという状態になっている。
  • これらの規制は重要だが、これらの場面での適用は本来の趣旨ではないはずであり、このフォーラムで打開できることを期待している。
  • 第4に、将来的にはAIが直接お客様にレコメンドするサービスが考えられるが、その際の勧誘方針、広告審査、外務員資格試験の扱い等についての整理を期待する。

日本公認会計士協会(紫垣氏)

  • 監査法人にとっても、クライアントのAI活用を止めるのではなく、どのようにしてリスクを抑えながらAIを活用するのかを一緒に検討していくことがミッションである。
  • 監査法人にとって、AI活用には2つの軸がある。第一に被監査会社が使っているAIが財務報告にどう影響するか理解・検証するという経理DX的視点、第二に監査自体でのAI活用である監査DXである。
  • 監査DXについては、昨年8月にテクノロジー委員会の研究文書「監査におけるAIの利用に関する研究文書」を公表し、生成AIに関する研究文書も現在まとめている。
  • 本フォーラムへの期待として、過剰なコントロール構築を回避するため、コントロールベースではなくリスクベースで統制の構築を考える際のリスクに対するコンセンサスの形成、データ利活用における監査も含めた検討を期待する。

国際銀行協会(高橋氏)

  • 国際銀行協会には、外資系銀行・証券会社・資産運用業者約70社が加盟。情報システム等は海外本社が主導して日本を含む各地の拠点に展開。主要言語はアルファベットが中心であり、翻訳等のAI利活用ニーズがある。マネロン対策共同機構のAIリスクスコアリング事業では、カタカナ表記データとの連携が困難なため1社以外は参加できなかった。
  • 生成AI導入の課題として、ハルシネーション、複数言語混在時の処理精度、情報の鮮度、プライバシー、知的財産権、コンプライアンス基準対応などがある。
  • AIディスカッションペーパーの「アウトプットのハルシネーション・著作権侵害性のモニタリングが必要」について、どの程度のモニタリングを想定しているか踏み込んだ記載を希望する。
  • 人材育成について、G検定等の資格試験は有用だが、継続教育プログラムがない。日進月歩の分野であるため常にキャッチアップが必要で、金融庁から教育面でのサポートをお願いしたい。

資産運用フォーラム(須甲氏)

  • 資産運用フォーラムは、資産運用立国実現プラン推進のための国内運用会社を中心とした組織で、DX分科会がAI推進に関係している。
  • 課題認識として、国内運用会社のAI推進が進まない理由の一つとして、AI活用時のリスク取扱いの明確化を求める声があり、指針策定の必要性を確認している。
  • アンケート結果では、各社に何らかの社内ルールが存在するが、ルールの粒度や検証体制等で差があり、外資系運用会社が先行している。
  • 課題認識はAIディスカッションペーパーの内容やAI官民フォーラムの取組と合致するため、AI積極的利活用の環境整備について共同で取り組みたい。

金融情報システムセンター(宮本氏)

  • FISCは金融とコンピューターシステムに関する調査・研究機関として1984年に設立され、40年間活動してきた。
  • AI利活用について比較的早い段階から調査・研究活動を実施し、生成AI注目後は将来性の高い先進技術の有効活用推進と適切な利用・運用管理の両立を前面に掲げている。
  • 昨年度は670を超える金融機関にアンケート調査を実施し、AI活用の動きが進んでいることを確認・公表している。
  • AI活用に向けた人材確保・育成、倫理面での課題への対応、効果的な利活用と安全対策について考察や調査研究レポートで情報発信している。
  • システム利活用に関する金融業界のデファクトスタンダードである安全対策基準第13版では、AI関連の4つの基準項目を実務基準として新設している。
  • 今後も技術の進展や社会的要請に応じて、業務範囲の広がり、ガバナンス、最新技術の活用可能性について調査・研究を継続する。

Fintech協会(落合氏)

  • ディスカッションペーパーの力強いメッセージが実務まで浸透し、行政・金融機関の実務に入っていくことが重要である。
  • 自発的な取組の推進が重要である。他の金融機関の取組のコピーになるのではなく、様々な取り組みが出てくるよう、自発性を強調すべきである。
  • 実務上の課題としては意欲醸成が重要である。まずは幹部も現場も自分で見に行く、使ってみることが重要である。
  • 基本的なDXができておらずレガシーな環境ではAIを使いにくいことにも留意すべきである。
  • 実務の形成の補助として、リスク情報の収集・分析・対策手法について共通作業をフォーラムで行えるとよい。
  • 金融規制の側面でも、生成AIに応じた規制の在り方について解釈や整理をしていく必要がある。

金融データ活用推進協会(岡田氏)

  • FDUAは金融機関のAI・データ活用の実務者の団体である。金融業界横断でAI・データ活用を推進している。2つ提言がある。
  • 第1に、官民一体での金融版生成AIガイドライン策定を提案する。AIディスカッションペーパーに記載された「金融庁に対する主な要望」[2]では、規制の適用関係の明確化及びガバナンス上の論点整理を求める声が60%強と最も多い。FDUAのガイドラインは総務省アンケートにおいて一定の評価を得ているが、金融機関の活用度・認知度は途上のため、官民一体・業界横断での金融版生成AIガイドライン策定が必要である。
  • 第2に、官民一体での業界横断AI人材育成を提案する。規模の大きくない地域金融機関などが自前だけでAI人材育成を推進するのは困難である。そこで、FDUAでは金融庁と第3回金融データ活用チャレンジを共催し、1,500名以上、139金融機関が参加している。しかしながら、認知度向上と継続的な運営体制の確保が課題で、官民一体での業界横断金融AI人材育成に取り組むべきと考えている。

AIガバナンス協会(佐久間氏)

  • AIガバナンス協会は、100社程度の構成員を有し、金融機関等を含む多様な業界の横断的な声を集めている。
  • AIガバナンス協会は、AIガバナンスを「適切なリスク管理を通じてAIの価値を最大化する取組」と定義し、活用推進のためにこそガバナンスが必要という考え方で活動している。
  • AIガバナンス協会では、AIガバナンスナビというツールを使った実装状況の洗い出しと課題抽出を行っている。約35社の自己診断を得たが、社内ルールや組織づくりが相対的に進んでいる一方、人材育成や個別リスク領域の対策、透明性確保が今後の課題であることが分かっている。
  • 全体としては、リスクベースアプローチが課題。ハイリスクなものとローリスクのもので手続きを段階的にして、イノベーションを阻害しないようにAIガバナンスを進める必要があるが、リスクの評価手法などが未確立であり、実装がまだ進んでいない企業が多い。
  • 個別のリスク要因を見ると、バイアスやセキュリティなどのリスクに対する技術的な対策について実装がまだ進んでいない。
  • 産業全体で見ると、そもそものユースケースの高度化の余地が大きい。その実現のためにも、リスクベースアプローチの在り方検討、技術を活用した効率的なリスク対策や透明性確保の手法確立が重要である。

日本損害保険協会(生田目氏)

  • 保険会社におけるAI活用は、今後も急速に進むことが確実で、損保業界においてもAIは不可欠なツールである。
  • AI活用は、事業者側のビジネスモデル変革や事業変革につながるだけでなく、消費者にも大きなメリットをもたらすが、様々なリスクへの対応や社内規定・組織体制の整備・構築が不可欠である。
  • AIガバナンスは協調領域であり、複数保険会社間で知見を共有することで、AIガバナンス充足のための体制・機能・モニタリング要領の業界標準を作っていくことが考えられる。
  • AIを利用したシステムを適切に管理するためには、AIが抱えるリスクに対する認識を深める必要があり、システムに関するインシデント事例の蓄積が重要である。業態横断での早期かつ広範な情報共有機能の仕組みを提供いただきたい。

日本銀行(徳高氏)

  • 日本銀行は、昨年10月に金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理に関するレポートを公表した。生成AI利用の現状と課題、リスク管理上の論点などを整理している。
  • また、本年1月に「デジタル化と我が国の金融の未来」と題するワークショップを開催した。生成AIが金融機関のデジタル戦略で重要な存在になることが示された。AIエージェントの登場により金融機関の業務の進め方そのものが大きく変化する可能性が示唆された一方、データ品質確保、プライバシー・セキュリティ面の配慮、ハルシネーション対策などが引き続き課題であることが指摘された。また、生成AIを利用したサイバー攻撃も大きな懸念材料である。
  • 金融機関個社・業界全体として生成AIの効果的活用と十分なリスク管理体制構築の両立に向けて取り組むことが望まれ、日本銀行としてもそうした取組を後押ししたい。

パネルディスカッション

柳瀬審議官

  • 金融分野におけるAIの活用可能性・課題と本フォーラムへの期待というテーマでディスカッションを行う。先進的な取り組みをしている金融機関から2名、ソリューションを提供している事業者から3名をお招きしている。
  • 金融機関の方には金融実務に生成AIを持ち込むポテンシャル、特に小規模金融機関でも活用できる観点を、ソリューション提供者の方には技術面からのサポート、専門家としてのリスク対応、生成AIの動きの速さへのアドバイスをお願いしたい。

磯和氏(三井住友FG)

  • 三井住友FGでは、2023年7月から社内で全員が生成AIを利用できるSMBC-GAI環境を構築したが、主な用途は翻訳やメール文案作成にとどまっていた。2024年10月に生成AIを活用した業務効率化・高度化を目的に、500億円の投資枠を設定し、人件費等も含めて柔軟に使えるようにしたことで、案件が大幅に増加している。
  • 具体的な取組として、AI社長プロジェクト、法人顧客向け財務情報ダッシュボードであるCFOエージェント、営業ロールプレイング支援のセールスシミュレーター等がある。また、マーケット業務・コールセンター・債権管理・提案書作成・トランザクションビジネスなど、多くの業務領域でAI導入が始まっている。
  • 予算付けのプロセスとして、2017年からほぼ毎月、社長・頭取も参加するCDIOミーティングという会議体を開催している。思いを持った担当者が自由に案件を付議し、それに予算づけするかをトップの判断で決める枠組みが定着している。2024年10月からはAI案件も付議対象としており、半年で30件以上のPoCや実装に予算をつけている。AI案件は初期段階ではROIが見通しづらく、少額の予算を段階的につけていく工夫をしている。
  • AI活用を進める上での主要な論点の一つはデータガバナンス。社内の様々なデータベースに保存されている情報をデータレイクに集めるべきか、データベース自体にAIを実装して運用するべきか検討が必要で、データ周りのインフラ設計・ガバナンス構築が重要な課題。
  • また、AI推進と併せて管理体制も強化しており、行内ルール見直しやリスク審査プロセスの関係部横断的判断ができる枠組みを作っているが、最低限必要な論点がまとめられたガイドラインがあると良いのではないか。

生田目氏(東京海上HD)

  • 1988年から日本の銀行で勤務したが、1992年頃からモンテカルロシミュレーションを使用してデリバティブの値付けをするようになり、金融業は情報処理業になったのだと実感した。その後、投資銀行に長くいたが、マーケットの分析にかなり早い段階からAIを使用していた。その後、Visaで勤務したが、膨大な取引データをAIで解析していた。
  • 生成AIの効果は、能力向上が一つだが、もう一つは民主化されたということである。高度なプログラミングではなく会話によって利用できるため、伝統的金融機関や資本力に限界がある金融機関でも大いに活用すべきである。
  • 当社では、ChatGPTを全社員に配付し、75%以上が使用しており、年齢との相関は必ずしもなく、意識や積極性が重要なのだと思われる。
  • 中小企業の経営課題を業種別・経営状況別にAIが抽出して提案につなげる「マーケットインナビ」を内製で開発した。中小企業は数が多いが、提案のスピードが向上し、かつ、より的確な提案ができるようになっている。
  • 損害保険に特徴的だと思うが、AIで損傷被害・災害・事故の画像を分析することも行っている。損害保険において、事故・災害の査定・評価は非常に重要だが、AIの画像解析能力はこれと極めて親和性が高い。損害査定がより均質化・標準化され、精度が向上しており、不正請求の検知にも効果が得られている。
  • 現在の取組は保険業務・金融業務の効率化だが、今後は創造的な価値提供にも活用したい。例えば、事故や災害の因果関係についてより高度な分析を行うことで、よりよい保険商品を提供したり、経営会議の資料を複数年度で分析することで、経営判断の質を高めることができると考えている。

金子氏(日本マイクロソフト)

  • 当社が行った調査2025 Work Trend Indexでは、AIエージェントを組み込んだ組織を「フロンティア企業」と呼び、3つのフェーズに分けて分析している。フェーズ1は、AIアシスタント・コンシェルジュを使用する世界、フェーズ2は、AIエージェントが人間の指示に基づいて個々のタスクを処理する世界、フェーズ3は、人間は包括的な指示だけを行い、エージェント同士が会話しながら仕事を進める世界である。
  • 我々の調査では、人間の労働能力はかなり限界に達しており、APACで84%、日本で83%が時間やエネルギー不足と回答している一方、経営者は生産性向上を求めている状況である。AIエージェントがこれをサポートする必要がある。
  • 最近の大きな事例で、Barclaysが全従業員が当社のCopilotを大規模に使用し、これはフェーズ1であるが、フェーズ2に進んでいる金融機関も出てきている。
  • AIエージェントに関連する概念をブロックで整理した[3]。最も下にデータ管理があり、その上にエージェント機能と認証・認可があり、その上にユーザーインターフェイスがあり、最も上に業務がある。今後、ユーザーインターフェイスの汎用化・エージェント機能の抽象化が進み、企業はそれらの上でエージェントを作ることができるようになる。企業は不足する労働力を補うために、どのような業務をどのように実装するかに注力することになるだろう。
  • 今後、エージェントが組織に組み込まれるために最も重要なのは、認証・認可とデータであり、エージェントに人間と同じようにIDを付与し、人間と同じ権限・アクセスコントロールでデータを管理する必要がある。

飯田氏(AWSジャパン)

  • 私は2016年にAWSに入社したが、AWSの最初のAI機能である画像認識機能が実装されたのがその年であり、その後、クラウド利用の広がりとAI活用の広がりがパラレルで進んできた。
  • ユースケースの広がりとして、昨年から実業務でのユースケースが出てきており、コンタクトセンター、顧客管理、事務効率化、コンプライアンス、投資調査、システム開発などで効果が出ている。
  • その中で、業務アプリケーションへの組み込みが増加し、個別開発システムだけでなくパッケージアプリケーションにソフトウェアベンダーが組み込む流れが具体化している。例えば、CRMに組み込んで営業担当者を支援する、コールセンターのアプリケーションに組み込んでコールサマリーを作成したり、ネクストアクションをまとめる等。
  • エージェンティックAIは、非常に注目を浴びており、今後の生成AI活用の中心となると考えられる。初期的な具体例として、投資業務のリサーチや企業レーティング評価がある。例えば、「短期金利の変化が経済成長とインフレーションにどう影響しますか?また、それは株式及び債券市場のリターンにどのような結果をもたらすでしょうか?」と自然言語で問いを投げると、エージェントがプロセスを構築し、金利が変わると何に影響するのかといった因果関係のマップを作成し、関連するデータを順番に収集し、チャートやレポートを出力する。これは社内向けの事例だが、今後ハルシネーションへの対策等が進めば、社外のお客様に使っていくこともできるだろう。
  • 課題は4つある。
  • 1点目は、ガバナンスを効かせた展開である。これに対しては、安全性を担保した標準プラットフォームを作るといった動きがある。
  • 2点目は、データプラットフォームである。具体的には、どのようにしてデータを集約するか、どのようにして安全に使用するかが課題である。データプラットフォームの整備が生成AI活用のボトルネックになってきている。
  • 3点目は、コストコントロールである。LLMにも様々なものがある中で、どう組み合わせれば、コストを抑えながら活用を広げられるかが議論になっている。
  • 4点目は、責任あるAIと言われるもので、プロセスないしアウトプットに対する責任である。サービス提供側として、モデル横断的にチェックを掛けたり、個社のルールを設定できるガードレイル機能を提供している。

堅山氏(Preferred Networks)

  • 当社は、AIに係る幅広い技術をチップからスーパーコンピューター、LLM、アプリケーションまで垂直統合で開発している。生成AIのLLMモデル開発では国内トップランナーの1社という自負を持っている。生成AI以前の機械学習・ディープラーニング時代から金融専門チームを設けている。
  • LLM業務活用を4段階に分けて考えており、第1段階は全社でLLM導入、第2段階は社内文書を入れてスタンドアローンで活用深化、第3段階は業務プロセス・業務システムとの連携組み込み、第4段階は自社LLMの究極活用としてモデルカスタマイズとポートフォリオ構築である。
  • エージェンティックAIでは第3段階が一つの分水嶺で、例えばデータの最新性が課題。エージェントが動ける環境を整備することは大変であり、知見の共有が必要と考える。
  • 我々が開発したPLaMoを金融に特化してカスタマイズした「PLaMo-Fin-Prime」を昨日公開した。GPT-4oと遜色ない性能で、オンプレで動作する。行外にデータを出せない場合やカスタマイズが必要な場合に対応している。
  • ベンチマークの開発も行っている。金融の知識がどれくらい入っているか、生成AIがどれくらい適切かのベンチマークを開発・公開している。
  • データについてはクレンジング、つまり知識として意味があるデータの分別が必要。Garbage in, garbage outと言われる通り、元のデータの品質が確保されていなければアウトプットの質は高まらない。セキュリティ・コンプライアンスと、競争優位性が重要な観点。
  • 金融分野での生成AI活用は進んできており、コンプライアンスやデータクレンジングなど、LLM関連技術の理解と金融ドメイン知識の双方を前提とする地道な論点整理・ノウハウ共有が必要である。ガバナンス等を測るテストや指標も今後必要で、ベンチマーク等を通じて貢献したい。

柳瀬審議官

  • データが極めて重要で、データをどう整備し組織で活用できる仕組みを作るか、データガバナンスが重要であると理解した。
  • 法令による規制・制約も含めて考える必要がある。
  • エージェンティックAIを含め、単純なアシスタントでなくなる中で、どうガバナンスを効かせるかが次のステージで必要で、データガバナンスを超えた、一種のモデルガバナンス的観点でAIガバナンスを考えたとき、スコープを含めどう考えるかが重要であると理解した。
  • 私から質問が2点ある。
  • 1点目は、主にプラットフォーム提供者の3名に対してだが、中小規模の金融機関にもAIを活用してもらうことを考えたとき、どの程度の差別化が必要か、規制・ガイダンス・ガイドラインの枠組みはどれくらい共有できるか。
  • 2点目は、主に金融機関の2名に対してだが、金融機関内でAI使用をどう盛り上げていくか。特にトップダウンかボトムアップかに関して、自発的取組が必要な一方、データのサイロ化回避や予算付けを考えると、ある程度トップダウンも必要だと思う。

堅山氏(Preferred Networks)

  • 現場のオペレーションを変えるのが一番難しく、既に効率的な現場アプローチがある中で新しいものを使ってもらうにはフラクションがあるが、そこにトライしないと探索は難しい。
  • 探索をしてもらうためにトップダウンのメッセージが重要だが、現場の方々の懸念もよく分かるところであり、シルバーバレットはないと思う。
  • 規制のところで進め方が分からないので投資できないという声もあり、セーフハーバーが出てくると非常に進みやすいのではないか。

飯田氏(AWSジャパン)

  • データプラットフォームについて、共通の基幹システムを使っていれば共通化できる部分は多分にあるが、データそのものが差別化であり、どうを使うかも差別化であるという認識は必要だ。ガバナンスの仕組みはパッケージやクラウドプラットフォームのデータガバナンスの仕組みが整ってきているので、そういった標準化されたものを使うことでコスト・負荷を抑えられる。
  • 最近は自社データに加えて提携先パートナーのデータやオルタナティブデータを購入して組み合わせることも、差別化の要素になってきている。共通化して負担を抑えつつ、その上でどう差別化するかにフォーカスすべき。
  • 組織として活用を広げる際に苦労するのは、データ・活用自体が目的になってしまうことで、何のため・誰のためにやっているかが明確でないためにプロジェクトが止まることがある。それに対する我々の提案は、顧客のニーズから考えて、何を提供するとサービスの受け手がハッピーになるかについて現場・マネジメントが意識を合わせ、それを実現するためのデータ・を考える形で議論を進めること。

金子氏(日本マイクロソフト)

  • データについて、プラットフォーマーやソフトウェア開発会社がデータマネージメント、AIガードレール、責任あるAIなどのツールセットをそろえてきており、これが抽象化されて一定水準以上のものが担保された状態で使えるので、ここに労力をかけずに他のことに注力する方が良い。
  • 組織への落とし込みについて、業務をやられているユーザーが自分たちのデータや仕事、AIに任せることで他に注力できることを明確にするためのワークショップを提供している。議論を通じて若手から中堅、マネジメントの意見をまとめる作業を通じて、組織としてAIを使った姿や働き方の目的をうまく作ることが重要である。

生田目氏(東京海上HD)

  • ボトムアップは重要だが、それだけではやれることの積み上げになってしまう。事業の変革につながる価値創造やビジネスモデル・プロセス改革の技術として活用する視点でトップダウン領域が大きくなる。また、資源は有限であり、資源に限りがある金融機関なら効果が最大化される領域や事業の根源的価値に近い領域に資源を割り当てるプロセスが必要である。
  • そのような使い方を盛り上げていくためには、具体的なものを見ることが一番良く、小さなプログラムを実際に見ていくことが重要である。
  • AI活用は従来型IT活用と根本的に異なる。異論はありうるが、従来のITは情報処理だったが、AIは情報の認識・理解・判断を行うため、正解・不正解という形でのチェックが難しく、そのためガバナンスの難易度が高い。
  • どこまでがAIのリスクでどこからはそうではないという線引きができていない。業界横断で協調領域としてやっていくべきである。

磯和氏(三井住友FG)

  • どのようにAI活用を盛り上げるかについて、従業員側と経営側の両サイドの努力が必要。
  • SMBC-GAIをかなり前に導入したが、使い方は今ある業務プロセスの合理化にとどまっていた。業務プロセス自体を変えるようなアイデアは既存枠組みからはなかなか出てこず、トップダウンで引っ張るべきポイントと認識している。
  • 1990年後半の電子メール導入時、当初は活発に使われていなかったが、経営会議役員宛の報告を電子メールで報告してよいというルールにしたところ、書面での報告プロセスが自然に変わり、従業員・経営両方にメリットがあった。AIにおいてもそのようなプロセス変革が進むと良い。

柳瀬審議官

  • 大変貴重で興味深い意見に感謝する。このパネルディスカッションが視聴されている皆様の参考になれば大変ありがたく、この後のAIフォーラム各回で今回出た個別テーマを深く掘り下げて、皆様のAI活用に参考になる結果を出していければと思う。

  • [1] 事務局資料8頁。
  • [2] AIディスカッションペーパー42頁。
  • [3] パネル資料中の日本マイクロソフト資料6頁。

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