「金融庁 AI官民フォーラム」(第2回)議事要旨

  1. 日時:令和7年9月18日(木曜)16時15分~18時15分
  2. 場所:オンライン

事務局説明

  • 本フォーラムは、6月に第1回を開催しており、本日は第2回目である。第2回以降のフォーラムでは、第1回のフォーラムの議論を踏まえながら、個別のテーマに焦点を当てて議論を深めていきたい。本日はデータに関する論点、その中でも社内のデータ整備や基盤構築といった論点を取り上げる。
  • 近年、LLM(大規模言語モデル)や各種のAI基盤を通じて、業務の効率化・高度化の余地が広がり、AI活用の裾野が広がっている一方で、金融機関を対象に昨年実施したアンケート調査によれば、AI活用を進める上で、データ整備が大きな課題の一つとの認識が示されている。今回のフォーラムでは、AIやデータ管理に関する技術の進展を踏まえながら、データ整備に取り組む上でのポイントなどについて議論を深めたい。  例えば、LLMの特徴として、非構造化データの処理が得意であることが挙げられるが、これによってどのようなデータをどう集約していくのか、そうした力点が従来から変わっている可能性がある。また、自律的に動くAIエージェントを念頭に置くと、情報の不適正な利用が生じないように、データへのアクセスに適切な権限管理を行う重要性が高まっている。
  • 第1回のフォーラムでは、「データプラットフォームの整備がAI活用のボトルネックになり得る」、「社内の様々なデータの集約とAIの実装に関する戦略的な判断・設計が重要になる」、「AIにインプットするデータの品質が確保されていなければ、AIを用いたとしても質の高いアウトプットが期待できない」、「データの最新性の確保が課題になる」、「自律的に動くAIエージェントがデータを不適切に利用してしまうことがないよう、権限管理をしっかりと行う必要がある」といったご意見があった。
  • 本日は、前半にプレゼンテーション、後半にパネルディスカッションを行う。 前半のプレゼンテーションでは、2名のプレゼンターから金融機関におけるデータ整備の現状と課題等についてご説明いただく。後半のパネルディスカッションでは、前半のプレゼンテーションも踏まえながら、金融機関におけるデータマネジメントの取組状況等について議論を行う。

プレゼンテーション

AIの類型とデータマネジメントの力点(佐藤氏)

  • AIは非常に速いスピードで休みなく学習する一方で、データ化されていないものは理解できない。人間であれば、「あの件、うまいことやっておいて」といった不明瞭な指示や、必要なデータが整備されていない状況でも業務を遂行することができるが、AIは暗黙知のようなものの扱いは不得意である。
  • 金融機関が日常的に使用しているのは従来型AIであり、数値の予測や分類をする。具体的には、貸倒れについて予測分類などがある。これは、伝統的な統計的な手法を多く用いたものであり、金融の根幹的な技術になっている。 一方、生成AIは、テキスト、画像、音声、映像といった様々なデータを学習することで、いろいろなものを生成する。 従来型AIは様々な場面で使われており、AIが効果を出しているという場合、その大半は従来型AIであるが、これから期待されているのは生成AIである。
  • 近時、従来型のAIと生成AIに加えて、AIエージェントが登場した。AIエージェントは、特定の目標に対して自律的に行動するAIである。様々なタスクや計画を立て、環境に応じて適宜調整しながら行動するので、従来よりも複雑なタスクを実行できる。
  • AIエージェントは、LLM(大規模言語モデル)が中核となり、RAGやインターネットの検索等の様々なツールを用いて、モデルの外部にある膨大なデータを参照し、繰り返し自律的に処理を実行して大きな成果を出す。さらに、マルチエージェントないしエージェンティックAIといわれるものは、AIエージェントが複数存在し、かつ自律的に複数の処理を繰り返し実行する。エージェンティックAIが実現すると、金融の業務におけるプロセスの数多くを自動化できると考える。
  • こうしたAIの類型とデータマネジメントの関係について、従来型AIであれば、主に構造化データを機械学習モデルで処理し、推論・予測を行うことで、与信審査を行うモデルが日常的に使われている。生成AIになると膨大な非構造化データを処理することができるため、問合せへの対応やプログラミングのコード生成が可能になる。 AIエージェントは、内部・外部のシステムを通じて文章、動画、音声など様々なものを扱うことができる。その上で重要なのは、学習したデータだけでなく、自らが出力したデータをさらに取り込み、繰り返し使うことができる点である。これまでは、従来型AIも生成AIも、基本的にはアウトプットを人間が確認していたが、AIエージェントは、人間が介在することなく自動的にアウトプットを取り込んで活用するので、データの把握・管理が難しくなる。
  • AIは、プロンプトや情報ソース等のインプットをモデル的に処理し、アウトプットを出力する。従来型AIでは、インプット、モデル、そしてアウトプットの把握は難しくなかったが、生成AIになると、モデル(LLM)の中身やどのような学習データから学習したかの把握が難しくなった。 AIエージェントでは、インプットデータもAIモデルが自ら選ぶことが多くなるので、把握が難しい。AIエージェントの活用に取り組むに当たっては、活用だけではなく、リスクも考慮し、バランスを取りながら取り組む必要がある。
  • データマネジメントやリスク管理の参考になるドキュメントは今や相当数が公表されているが、AI活用の第一歩として、データマネジメントの最も重要な原則は、データのビジネス目的への適合性である。まずビジネス目的を定め、学習させたり、処理するデータが目的に合致しているか確認することが最も重要である。比喩的に言えば、隣の島に向かうという目的を設定した場合、既に見える島にはボートで向かうことができるので、巨大な船を造る必要はない。小さなビジネス目的であれば、小さなデータマネジメントで済むのであって、巨大なデータマネジメントをしなければならないということはない。そして、データマネジメントに完璧はなく、エラーをある程度受け入れて、段階的に改善していけば良い。ほかにも原則はあるので、参考にしていただければと思う。
  • そして、データマネジメントは、データを設計・取得し、AIシステムに投入して生成物を得て、生成物を利用・提供し、廃棄する、というデータのライフサイクルに則って行うものである。まず、最初のデータの設計段階においては、個人情報保護、機密情報の漏洩など、リスクを正確に把握することが重要である。そして、AIが誤った答えを出力する可能性があるというAIの限界を理解し、それを抑制するために正しいデータを追加で学習させたり、入力する必要がある。そして、生成物を利用する段階では、AIを安全に使うための様々な手段が開発・提供されている。中でも、レッドチーミング、つまり攻撃者の視点になって考えることが重要である。
  • 押さえておくべきポイントとして、第1に、データマネジメントを強化しなければ、高い品質のAIの力を発揮することはできない。第2に、AIの進化は非常に速いので、進化に合わせてガバナンスを変化させる必要がある。第3に、AIのリスク評価・低減に関する手法は日々更新されているので、適宜導入していく必要がある。第4に、人材が重要である。最終的な意思決定や重要な判断は人間が行うべきであり、AIの出力を批判的に評価できるようにするためにはリテラシーの向上が必要である。
  • それらを踏まえた上で、チャレンジしないリスクについて触れる。AIは便利な技術であり、リスクを抑えつつAIの利点を最大限生かすことが重要である。AIのリスクを理解した上で、経営者がリーダーシップを取り、ビジネス目的を定めた上で、それに適したデータマネジメントを行いながら、様々な関係者と協働して、積極的にチャレンジすることが重要である。

金融機関におけるデータ整備とAI利活用の展望と課題(三代氏)

  • 今後、AIエージェントが発展する中で、金融におけるAIの利活用の場面は増えると考えられ、データは重要な要素であるが、金融機関におけるデータマネジメントには、長年の業務統廃合に伴うデータのサイロ化、システムごとのフォーマットや基準が異なるというデータ品質の不均一さ、API連携やリアルタイム処理に向かないレガシーシステムへの依存といった課題がある。
  • 多くの企業でデータドリブンの経営を目指した基盤整備が推進されており、クラウドのデータレイクなどによりデータを蓄積する仕組みの構築は多くの企業で出来ている。また、データ活用を推進する人材の採用も積極的に行われている。一方で、例えば、システムの制約によって十分なデータの鮮度を確保できない点や、利用者が本来アクセスしてはならない情報が参照できてしまうというアクセス制御などに課題が見られる。また、組織全体としてのデータマネジメントのルールや、品質確保のための職制・体制整備にも不十分さが見られる。     
  • これらの課題に対して、AIを用いたデータマッチングという解決方法が試みられている。手法の1つは、エンティティ解決・データマッチングである。AIが名前や住所揺らぎのパターンを随時学習して、同一顧客のレコードマッチングを行う事例がある。海外では大きなシェアを持ち、国内の大手金融機関の一部でも利用されているソリューションなどが提供されており、データ単体では認識が難しい様々な背景や経緯を分析することや、分析内容をグラフ化して、エンティティ同士の関連性を表すことができる。ここに、法人登記情報やPEPs(Politically Exposed Persons)のデータを間接的に結びつけることで、留意すべきリスクの特定に活かすことができる。           他の手法として、異種データ連携と自動クレンジングが挙げられる。異種データとは、Excel、PDF、音声記録といった、構造化されたデータと非構造のデータの組み合わせのことを指す。これらを統合する場合に、従来であれば個別にシステムを開発し、非構造化データを構造化する必要があったが、AIを用いて非構造データを元に自動的にタグ付けを行い、構造化してデータレイクへ取り込む事例がある。また、データの異常値・欠損値についても、AIがクレンジングを行い解決する事例がある。                                 3つ目は、金融犯罪対策データの統合分析である。AML(Anti-Money Laundering)や不正検知、サイバーセキュリティの分野では、部門横断的にデータ連携してAIで分析することで、従来発見するのが難しかった相関関係を発見して、フラグを立てることができる。
  • AI・データ利活用におけるガバナンス、組織、プロジェクトの進め方についての要点を4つに分けて紹介する。     第1に、経営層の積極関与とビジョン策定である。データ整備やAI利活用を成功させる企業に共通する事項は、経営層がリーダーシップを発揮している点である。経営層が明確なビジョンを示した上で、そのビジョンを実行する上で必要なリソース、予算・人材について責任ある関与をする。また、進捗についても、定期的にモニタリングする体制を敷いて推進する。これらは成功の重要な前提条件である。                       第2に、最初から大規模な投資を行うのではなく、まずは小規模な投資から始めることである。PoC(Proof of Concept)の形からスタートして、徐々に本番に広げ、かつ横展開を進める。AI活用のような探索的な活動においては、このようなアプローチが有効である。                                     第3に、データ戦略組織・横断チームの設置である。IT部門だけではなく、業務部門も含めた選抜メンバーで構成し、このチームがリーダーとなって進めていく。様々な専門的要素が必要なので、過渡期には、外部の専門人材を使うことも有効である。                                              第4に、「攻め」にあたる利活用を進めるチームと、「守り」にあたる、リスク管理、AIのガバナンスを担うチームが両輪となって進めることである。
  • これら4点に沿ってAI・データ利活用を推進する上では、戦略、統制、プロセス、組織・人材、データ品質、技術の6つの要素をバランスさせながら進めることが重要である。
  • ビジョン策定から運用までのプロセスにおいて、目的が曖昧と感じた際は常にビジョン策定に立ち戻り、再検討することが重要である。先進企業の多くは、トップダウンでビジョンを策定しデータ基盤を整備した上で、データ利活用を民主化し、ボトムアップでの業務改善を推進している。その際、経営課題との関連性が薄いプロジェクトばかりが進まないよう、トップダウンで定めた実現目標や提供価値に照らして各施策の重要性と優先順位を判断し、優先度の高いものから実行することが重要である。
  • AI・データ利活用の推進には、CDOのリーダーシップのもと、IT部門とビジネス部門が両輪となって進めることが不可欠である。トップレベルだけでなく、業務領域ごとのチームにおいても、データオーナー、データスチュワード、ITエンジニアといった異なる役割を持つ人材が一体となって取り組む体制の整備が重要となる。
  • AI・データ利活用を含むDXは探索的活動であり、従来の計画的ITプロジェクトがPlan-Drivenだったのと異なり、小さく始めて成果を確認しながら徐々に拡大するFeedback-Driven型のアジャイル的アプローチが適している。最初から大規模な予算や計画を固定するのではなく、PoCから着手し、ステークホルダーからのフィードバックを得ながら軌道修正を重ね、「攻め」と「守り」の両輪とトップの意思決定のもとで段階的に育てていくことで、最終的にデータ整備とAI活用の恩恵を享受できる。

パネルディスカッション

島崎参事官(モデレーター)

  • 近年の各社におけるデータマネジメントの取組状況をお話しいただきたい。特に、従来型AI、生成AI、AIエージェントというように技術の進展が見られる中で、データマネジメントにおける力点や課題に変化があったか、また、取組みが進まないとした場合に考えられる原因や、それへの対処について伺いたい。

江見氏

  • 三菱UFJ FGでは、生成AIにより稟議書、日誌、音声等の非構造化データの活用が可能となり、データ取得源が拡大した。データ活用には業務プロセスのデジタル化が必要であり、生成AIによってDXと業務デジタル化の重要性が増している。
  • データウェアハウスに格納するデータの範囲・種類やアクセスできる人材の拡大に対応し、データクレンジングやマスキング機能の開発、アクセス制御のシステム化を進めている。
  • 今後はAIエージェントが重要な論点となる。AIをツールではなく従業員の役割を担うものと捉え、AIエージェントが正確にデータを使用できるよう、メタデータやデータ説明レイヤーの整備、システム化の重要性が高まっている。アクセス制御についても、AIエージェント向けの対応が必要である。
  • データマネジメント、特にデータエンジニアやスチュワードの業務が急増しており、データ人材をフロントに近い場所に配置する必要性が高まっている。データサイエンティストだけではなく、より上流のデータ人材の採用・育成を強化している。

生田目氏

  • 生成AIの登場により、画像やビデオなどの非構造化データの活用領域が大幅に拡大し、AI活用の取組が新たな次元に入った。経営としてデータ戦略を掲げた当初は「攻め」のデータマネジメントによる付加価値創造を目指したが、取組と同時にデータ品質の問題に直面した。
  • 当初はデータ品質の課題に対する十分な意識がないまま、データマネジメントツールやデータアナリティクスツールを導入した。これらのツールの能力発揮はデータの持ち方、品質、サイロの有無によるという気づきを得て、データクレンジングやサイロ化の解消に取り組んでいる。
  • 十分な品質のデータが整備されていない状況で、人間と組織がファジーさを残した対応をしてきたことが大きな課題である。AI登場前は特定の目的のためにデータが存在し、引受けや損害査定などに使われ蓄積されていた。データをハンドリングする人材は属人的なノウハウをも有しており、データの異常に気づくことや、属人的に異常を排除して整ったデータにすることが行われてきた。しかし、生成AIの導入により新たな価値を創出する分析の可能性が拡大し、新たなデータ利活用の領域が生まれた。AIへの依存が拡大する中、属人的なハンドリングが生成AIの利活用と対立する構造になっている。
  • 直近の取組として、生成AIを見越したデータガバナンスの原則を全社的に展開し、データ品質を重視する原則を強調している。今後AIエージェントの導入が世界的に広がると、データに依存する領域はさらに拡大するため、データ品質問題は極めて重要な問題と捉えている。

磯和氏

  • ここ数か月でModel Context Protocol (MCP)の技術が急激に注目されている。MCPを使用すると、データを精緻に構造化しなくてもAIを利活用できると思われる。銀行は大半のデータをクラウド化せずオンプレミスで保持している。データベースと非構造化データをSQLで書き出すため、データの通信口にそれぞれAIを接続して呼び出すことができれば、効率的にデータを書き出せる可能性がある。構造化データを作成するために膨大な時間をかけて精緻なシステムを作成するのではなく、ある程度割り切って、MCPをうまく利用する方法もあるのではないかという考えもあり得る。

島崎参事官(モデレーター)

  • 技術の進展に伴い、従来課題だと考えられていたことが課題ではなくなり、別の新しい課題が生じるという現象が起こり得るという指摘があった。技術進展が早い世界にあっては、課題自体も変化し、どこに焦点を当てるべきかが悩ましい。変化し続ける状況に対するマネジメントがさらに必要になるという示唆のあるお話と感じた。

生田目氏

  • ご指摘のとおり。MCPもそうだが、従来型の時間軸で考えられていた課題に対するソリューションが既に生まれているという現実に直面しており、思考停止してはいけない状況。

江見氏

  • 他に注目されている技術として、仮想レイヤーと呼ばれるメタデータレベルにおいてデータのマップのようなものを作成することによって、都度データを統合することなくAIの利活用を加速できるという技術があり、急速に普及している。そうなると、データウェアハウスで人間が確認するためにデータを整備しなくても、AIはデータを使用することができるようになり、これまでの悩みを一気に解決できないかと虫のいいことを考えることもある。

磯和氏

  • 今後の進展を予測しながらどこかで割り切って取り組む必要があるので、マネジメントの判断は本当に難しくなっている。

島崎参事官(モデレーター)

  • 逆に言えば、マネジメントが適時適切に対応することで、これまで十分取り組めていなかった部分を一気に進められることも十分にあり得るのだと思う。中小金融機関によるデータマネジメントのキャッチアップなり追い抜きなりを考えると、どのようなことから始めると良いとお考えか。

佐藤氏

  • 大手金融機関と比べて中小金融機関はリソースや人材が限られ、AI活用やデータマネジメントの進展に差がある。
  • 従来型AIは学習用データの準備や設計に高い技術コストが必要だったが、生成AIやAIエージェントは技術進展によりコストを抑えられる。生成AIに詳しい人材とアイデアがあれば、既存企業に追いつける可能性がある。
  • そのためにも、データ整備が重要。中小金融機関は大手金融機関よりもデータ量や部署が少ないため、全体の一元管理や基盤整備を一気に進めやすく、現場の関心を高める取り組みから始めることで大きな進展が期待できる。

島崎参事官(モデレーター)

  • 2つ目のトピックとして、データ整備・AI活用を進める上での隘路について伺いたい。前半のプレゼンテーションでも、データのサイロ化や品質の不均一さ、レガシーシステムへの依存などが挙げられていたが、従来からの組織運営や仕事の進め方などに起因する面もあるかもしれない。また、海外と日本との違いもあるかもしれない。何らか隘路や解決策のヒントとなるようなお話をお願いしたい。

生田目氏

  • 先週海外から帰ってきたが、まさにこの点を痛感した。海外の金融機関、特に投資銀行や資産運用会社は、長年に亘ってデータへの基本的な認識を磨いてきている。約45年前にデリバティブが登場した時点で、データの価値が金融業の根幹であるという理解が形成されており、その後、高速取引やヘッジファンドなどにより、データ解析能力が金融業に深く組み込まれてきた。海外の金融機関は、生成AIを用いてこうした取組みを新たな価値創造の取組みへと進化させており、AIを単なる業務効率化ツールとして捉えるのは不十分。
  • 生成AIは、圧倒的な知識量と正確性・分析能力の高さが強み。これにより、個々の顧客に高度にパーソナライゼーションされたコミュニケーションが可能になりつつある。金融業における顧客対応のコミュニケーションは根本的に変化しうるということに意識を及ぼす必要がある。

佐藤氏

  • 日本の金融機関の方々は、「これやっといて」といった曖昧な指示でもうまく仕事をされてきた。他方、AIにとっては「これって何」となってしまう。過去の経緯や背景、関係性など、いわゆるビジネスロジックやコンテクストを属人化せず、しっかりデータ化することが重要である。同様に、例えば社内ルールがマニュアル化されていても、肝になる解釈は電話などでやり取りされていて、データ化されていないことがある。経営トップの主体的な関与が不可欠。

磯和氏

  • 日本の金融機関のAI活用は海外に比べて遅れていると悲観的に見られがちだが、必ずしもそうとは言えない。海外はジョブディスクリプションが明確なため、既存業務の効率化の枠内でのAI活用となっている例が多い。一方、日本は総合職採用により部門間の壁が低く、柔軟な発想が生成AIと親和性が高いという利点がある。

江見氏

  • 目的に応じたデータ整備を十分にやり切れておらず、まだリテラシーが足りていないと感じている。例えば、AIは大量のデータを読み取れさえすればよく、人間が見て綺麗に整っている必要はないが、BIツールの活用と同じように人間が見て直感的に分かりやすいようなデータ整備をやってきたように思う。また、AIによる予測やレコメンデーションでは、基になるデータに100%の正確性は必ずしも必要なく、傾向が把握できれば十分な場合もある。それにもかかわらず、過剰なクオリティーでデータを整備しているケースも見受けられる。

島崎参事官(モデレーター)

  • ご指摘のあった組織体制やマネジメントの話は後ほど伺うこととして、次は、データ整備やAI利活用の効果・進展をどのような軸で評価すべきかお伺いしたい。必ずしも数値化できないと思う一方で、取組みを進める上では説得力が必要とされる局面もあるだろうが、どのような切り口・時間軸で評価されているのか。

江見氏

  • 短期的・定量的な成果を求めすぎない姿勢が社内で共有されている一方で、投資規模の拡大に伴い、徐々に成果への期待が高まりつつあるのも実情。
  • ご指摘のとおり定量的な効果測定は難しいが、AIツール等の利用者数、データの再利用の頻度、保管データ量など、利用の度合いがベネフィットであるという間接的な評価を行っている。
  • 時間軸はしっかりと定めてはいないが、基盤整備はある程度長期的に見ている。とはいえ、半年ごとに指差し確認をしようということで、定点観測を行う会議体のようなものを設けている。

磯和氏

  • データ基盤に対するIT投資に関しては、経営判断として取り組んでおり、厳密な採算性を求めていない。その分、迅速な投資が可能となっている。新規事業向けのCDI予算と同様に、AI投資についても別枠で機動的に投資できる仕組みが社内に浸透している。

生田目氏

  • AIやデータ関連の投資効果を、従来の投資と同じ軸で評価するには至っていない。海外の金融機関では定量化・明確化している印象を持っているが、同時に、定性的な効果をどのようにステークホルダーに説明するか、すなわち、経営のAIに関する見方・姿勢が問われている。

佐藤氏

  • AI活用の評価には長期的な視点も必要だが、細かくモニタリングすることも重要。
  • 日本ではDXのKPIとして業務の「削減時間」が代表的になってきたが、これは既存業務が前提の発想で、新しい業務の評価になじまない。そのため、AIエージェントの稼働数や自動化された業務数など、複数の定量指標を短期サイクルで複合的に見る必要がある。
  • 経営陣の発言など定性的な情報も技術革新への意識を測る重要な指標となる。定量・定性の両面で細かく可視化しつつ、評価は長期的な時間軸で行うべきだというのが現場の声である。

島崎参事官(モデレーター)

  • 最後に、データマネジメントを推進していく上で、組織のマネジメントや体制の面で工夫している点、苦労している点を伺いたい。先ほど、日本は総合職採用により部門間の壁が低く、実は生成AIと親和性が高い面があり得るといった話があった。また、デジタル推進部門とシステム部門、あるいは営業現場との関係性などもよく指摘される。
  • その上で、データ活用に関して今後取り組みたいことをお話しいただいて、締めていただければと思う。

佐藤氏

  • データサイエンティストなど専門人材を集める体制が一般的だったが、今後は、経営のコミットメントの下で、専門部署の中だけではなく、より現場に近いところで実際に手を動かす専門人材が必要。また、AI技術を理解した人材が経営戦略・企画を経営陣と同じ視点で考えられる体制を整えていくことが重要。
  • 今後、より多くの人が安全かつ積極的にデータやAIに触れられるよう、リスクをコントロールしたデータ領域の整備、UIの提供などの環境を整えていきたい。

江見氏

  • 当社では、データそのものはデジタルラインの所管だが、データの基盤に関してはシステムラインとデジタルラインの共管になっている。業務戦略とシステム開発の観点を持ち寄って、建設的な議論ができている。革新とスピードを重視するデジタルラインと、安心・安全を重視するシステムラインとの間で健全な牽制関係が成立している。
  • 今後の課題は、事業フロントにデータの重要性を認識してもらい、活用してもらうこと。現場のニーズに即したデータ活用を進める必要がある。現場にデータサイエンティストは配置できているが、データエンジニアなど上流工程を担う人材をうまく配置しないと、AI活用の推進には課題が残る。
  • 今後は、データを戦略資産として位置づけ、定量的に価値を評価する方法の確立に取り組みたい。これはスタートアップとの連携や出資判断にも関わる重要な視点であり、データに眠る企業価値を可視化する方法論の確立が、AI時代の戦略において大きな意味を持つと考えている。

生田目氏

  • 組織体制の工夫として、まず重要なのは各部門との連携である。データはCDOだけが扱うものではなく、経営の中に組み込まれるべきであり、当社ではITを担当していたCITOが一時期Deputy CDOとして配置され、デジタルとITの融合を強力に推進した。現在も海外の保険引受部門のトップがDeputy CDOを務めており、事業規模の大きい海外領域でのデータ活用において強力な支援体制が整っている。
  • 次に、オープンな文化の醸成も重要である。属人的な問題などは対話を通じて初めて明らかになることが多く、オープンネスが組織の課題解決を加速させる。
  • 三点目として、組織全体が「何のためのデータか」を理解することが重要である。意識が高まれば、より精度の高いデータ入力が促される。
  • 今後の取組としては、当社が設立した一般事業子会社を通じて、蓄積したデータを加工・活用し、事業パートナーとの連携や新規事業に活かしていく方針である。自然災害対応やモビリティ事業など、保険以外の領域でも当社のデータが価値を発揮しており、戦略的な活用を進めていきたい。

磯和氏

  • 当社では、AI活用はCDIO傘下のデジタル推進部署が担い、データマネジメントはCIO・CDAO傘下のデータマネジメント部が所管している。システム部門との連携も含め、安全性と利便性のバランスを取る体制となっており、一定の緊張関係はあるものの、調整を重ねながら運用している。
  • 振り返れば、3年前は生成AIのハルシネーション問題から金融業界での活用に懐疑的な声も多かったが、現在では導入が前提となっている。こうした変化の中で、これまではCDIOのような“ファーストペンギン”的な部署がAI推進を担ってきたが、今後はCAIOを設置し、AI活用とデータマネジメントを統合的に推進する体制への移行も検討すべきフェーズに入っていると感じている。

島崎参事官(モデレーター)

  • AIが日常業務に自然に溶け込むことで、特別な推進部署の役割や意義が変化する可能性をご示唆いただいた。本日は皆様から大変貴重な話を頂き感謝。

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