事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会
(第1回)議事録

1.日時:令和2年11月4日(水)9時00分~12時00分

2.会場:オンライン開催

〇尾﨑総務課長
 本日は、お忙しいところ、お時間を取っていただきまして、ありがとうございます。事務局を務めさせていただきます監督局の尾﨑でございます。

 皆様におかれましては、このたび研究会の御参加をお引き受けいただきまして、誠にありがとうございます。

 最初に、オンラインで研究会を開催させていただきますに当たり、2点、注意事項を申し上げたいと思います。

 まず、御発言されない間ですけれども、恐縮ですけれども、マイクをミュートの設定にしていただきますよう、お願いいたします。御発言されるときは、マイクをオンにして、ミュート解除で御発言していただいて、御発言が終わられましたらミュートにまたしていただくということで、お願いできればと思っております。

 2点目といたしまして、御発言を希望されるときですけれども、チャット機能を使って、全員宛てに発言希望と入れていただくようにお願いをいたします。

 事務局のほうからは以上でございます。

 神田座長、よろしくお願いいたします。

〇神田座長
 皆様、おはようございます。御指名によりまして、このたび座長と申しますか、進行役を務めさせていただきます学習院大学の神田と申します。よろしくお願い申し上げます。

 オンラインということで、今日はちょっと練習を兼ねているところもあるかとは思いますけれども、いずれにしましても研究会の円滑な運営に努めたいと存じますので、皆様方には御協力いただければ大変ありがたく存じます。もし、私の声が聞きにくいような場合には、何らかの形で御一報いただければ幸いです。

 それでは、ただいまから事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会、ちょっと長い名称ですけれども、第1回目の会合を開催させていただきます。

 皆様方には、お休み明けといいますか、朝早くから、このようなウェブ形式での会議に御参加いただき、また、大変お忙しい中を御参加いただきまして、ありがとうございます。

 本日は、研究会の1回目でございますので、最初に、事務局であります金融庁の栗田監督局長から御挨拶を頂戴したいと思います。

 栗田局長、どうぞよろしくお願いいたします。

〇栗田監督局長
 ただいま御紹介いただきました金融庁の栗田でございます。

 本日は、大変お忙しい中、お時間をいただきまして、誠にありがとうございます。

 今回の研究会におきましては、事業を支え、事業価値を高めていくという観点から、金融機関の融資・再生実務の在り方について、法制度の整備の必要性も含めて幅広く御検討いただきたいということで、お願いをさせていただきたいと存じます。

 我が国の融資・再生実務につきましては、金融機関固有の業規制だけではなくて、民法、財団抵当法、民事再生法などの私法のルールの下で、実務関係者による創意工夫を積み重ねて発展を遂げてまいりました。このうち、担保法制につきましては、昨年3月より、法務省さんにおいて見直しに関する検討が進められていると伺っております。

 明治民法の施行から約120年が経過した今、金融をめぐる内外の環境は大きく変化していると考えております。学術的にも、企業金融において、事業者に効率的な資金調達手段を提供できるか、そのために金融機関をどのように動機づけするかといった観点から、国内外において法制度と融資・再生実務の関係に関する研究が進んでおります。例えば、世界銀行で行われている各国の事業環境に関するランキングなども、こうした学術的な研究の蓄積が基礎になっております。

 また、足元では、今般のコロナ禍を踏まえまして、社会経済の構造がさらに変化していくといった議論も盛んに行われておりますけれども、融資・再生実務もその例外ではないと思われます。

 金融庁におきましても、現在の我が国の融資・再生実務の課題を解決し、価値ある事業の継続や発展を支えられるようにするためにはどのような制度整備が必要か、改めてこの機会に整理していくことが有意義であろうと考えております。

 委員の皆様方には、ぜひ活発な御意見を頂戴することをお願いいたしまして、私からの御挨拶とさせていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして、この研究会に御参加いただきます皆様方を御紹介させていただきたいと思います。お手元といいますか、名簿はあらかじめ配付させていただいていると思いますけれども、事務局からお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。

 それでは、名簿に沿って御紹介を申し上げたいと思います。皆様におかれましては、お手数でありますけれども、マイクや映像の確認も兼ねまして、お声をいただければと思います。お名前と、あるいは一言おっしゃっていただければ構いませんので、よろしくお願いいたします。

 それでは、御紹介いたします。まず、井上聡様です。

〇井上メンバー
 弁護士の井上です。

 ストラクチャードファイナンスの組成などの経験から、昔から担保については大変強い関心を持っておりました。このような会合に参加させていただき、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、伊藤麻美様です。

〇伊藤メンバー
 皆さん、おはようございます。日本電鍍工業の伊藤麻美と申します。

 当社は、メッキ及び表面処理の加工を行っている会社で、名簿を見させていただく限り、唯一の事業者ということになると思います。経営者歴は20年になりますが、就任当初、事業承継をしたわけですけれども、あまり大きな声では言えませんが、当時の金融機関からかなりいじめられながら、整理回収機構に一旦、債権が回った会社ではあるのですが、一方で、別の金融機関さんに助けられて、今、今日があります。

 こういう担保問題とかも含め、多くの中小企業が、しっかりと頑張っている企業が救われる日本にならないといけないと思っていますので、いろいろと皆さんの意見を聞きながら、また勉強させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、沖野眞已様です。

〇沖野メンバー
 東京大学の沖野でございます。

 民法を専攻しておりまして、担保物権の法制度という点から関心を持っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、志甫治宣様です。

〇志甫メンバー
 弁護士の志甫と申します。

 このたびは、このような機会を頂戴して大変感謝しております。私は、倒産、事業再生実務に携わっている弁護士でございまして、この会では、恐らく倒産、事業再生局面における事業譲渡の実行の場面を経験している実務家としての発言をする役回りだと考えております。

 現行の企業担保法は、大企業を対象としていて、実際の実行の場面をあまり想定していなかったとも聞いております。今回、中小企業を対象とするということで、いやが応にも実行の場面でどうなるのかというところを精緻につくり込まないと、法制度としては実効性が伴わないものになってしまうのではないか、と思っております。実行の場面におきまして、デフォルトが生じている企業の企業価値というのは、なかなか見いだすことは難しいのではないかという点ですとか、また、倒産、事業再生の場面においても事業譲渡を実行するには相応の難しさがあると感じておりますので、担保権者による実行で円滑な事業譲渡が実現するのか、といった観点から発言させていただきたいと思っています。制度趣旨自体は、実現すれば有意義なものではないかと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、菅野百合様です。

〇菅野メンバー
 ありがとうございます。西村あさひ法律事務所の弁護士の菅野と申します。

 私も、志甫先生と同様、事業再生、倒産分野の専門家ということで、この会に参加させていただいております。私自身、中小企業から大きな企業、それからドメスティックな案件からクロスボーダーの案件と、かなり幅広い事業再生の案件をやっておりまして、特に今回の包括担保権は、チャプター11におけるDIPファイナンスも含めてアメリカの実務で活用されているものだと思っております。そうした観点から、日本でもそういった市場が形成されるのかどうかというところは非常に関心を持っています。また、志甫先生と同様、特に実行面の側面で、事業再生の専門家として議論に参加できればと思っております。よろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、中原利明様、うまくつながりましでしょうか。

〇中原メンバー
 三菱UFJ銀行法務部、中原と申します。

 銀行実務の立場から、金融機関としてどのような協力ができるのか、また、どのような制度が実務的に適合するのかという観点から、議論に参加させていただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、星岳雄様です。

〇星メンバー
 どうもありがとうございます。東京大学経済学部の星岳雄です。

 経済学者を30年以上やっていて、専門はマクロ、企業金融、日本経済といったところですが、ここでの議論に関連するのは、メインバンク制の研究とか、それを含めた企業金融、それからコーポレートガバナンスについて研究してきましたので、その点で関連していると思います。ただ、ここに出てくる話というのは、ざっと見たところ法律の、しかも日本語のお話が多いので、多分、法律の専門の皆さんから見ると、すごく初歩的な質問とかをしなければならなくなると思いますが、そのときには事務局、それから皆さんに御迷惑をおかけするかもしれませんけれども、しっかり勉強したいと思っておりますので、よろしくお願いします。と言いつつ、今日は11時半からほかのミーティングがありまして、そこで退室しますが、本当によろしくお願いします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、堀内秀晃様です。

〇堀内メンバー
 おはようございます。ゴードン・ブラザーズ・ジャパンの堀内と申します。

 私は、職歴としましては、住友銀行、三井住友銀行からGEキャピタル、そして今のところで、住友銀行の時代に15年ほどニューヨークで、主に事業再生、それから先ほど菅野先生がおっしゃっていましたDIPファイナンス等を手がけておりまして、GEキャピタルに移りましてから、アセットベーストレンディング、動産・債権担保融資や、その他、事業再生融資を手掛け、今もこれらをやっておりますので、日米のそういったファイナンスの観点で、特にレンダー、債権者、担保権者の立場から発言させていただくことになるかと思います。よろしくお願い申し上げます。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、山内清行様です。

〇山内メンバー
 おはようございます。日本商工会議所の山内でございます。

 経済、産業政策をメインで担当しております。金融、特に融資は根幹ですので、しっかり対応していきたいと思っております。

 商工会議所は、全国515か所で、124万の企業、会員を擁しておりまして、その45%が中小企業でございます。こうした企業は、今、コロナ禍で非常に苦しい状況にあって、各地で経営支援などを行っていますけれども、環境変化によって、スタートアップの登場とか、ビジネス変革に取り組む企業が出てきております。こうした環境の中で、新たな資金調達方法としてどういう融資があるのかということについて、中小企業の実情とかニーズなどを踏まえながら、御意見をさせていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。続きまして、山本和彦様です。

〇山本メンバー
 一橋大学の山本です。

 民事手続法、倒産法を専門としております。よろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。

 オブザーバーの皆様におかれましては、名簿の記載をもって御紹介に代えさせていただきます。

 メンバー等の御紹介につきましては以上でございます。神田座長、よろしくお願いいたします。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 そこで、本研究会の開催形態ですけれども、メンバー、オブザーバー皆様方におかれましては完全にオンラインの開催ということで、当面、やってみたいと思っております。私自身も、オンラインでの参加ということにさせていただいております。議事録や資料でございますけれども、金融庁のホームページにおいて公表することとさせていただければと思います。したがいまして、公表を前提とした御意見、御発言をいただければありがたく存じます。

 それから、私が万が一、この会議に出席できないような事態が生じた場合には、座長代理というのでしょうか、進行の代理をどなたにお願いすることとさせていただきたく存じますが、その点は、恐縮ですけれども、私に御一任いただいて、その都度お願いをさせていただいてはどうかと思っております。

 また、本日のようにといいますか、私自身、オンラインで参加させていただいておりますので、万が一、途中で私のPCの接続等に不具合が生じたような場合には、大変恐縮ですけれども、その時点で進行は事務局にお願いすることとして、私のほうから再接続を試みるということとさせていただければと存じます。

 その他の点につきましては、お手元の開催要綱(案)のとおりとさせていただければと存じます。

 以上、ちょっと早口での御説明となりましたけれども、議事録等の公表、座長代理の取扱い、そして開催要綱(案)につきまして、皆様方に御承認いただけるとありがたく存じますけれども、御承認いただけますでしょうか。
 
(「異議なし」の声あり)

〇神田座長
 どうもありがとうございます。それでは、御承認いただいたということにして進めさせていただきます。

 では、本日の議事に移らせていただきます。

 本日ですけれども、まず、法務省から現在の検討状況を紹介いただけるということでございまして、それをお願いし、その後、事務局から、この研究会の課題等について御説明をしていただきます。これらが済んだ後、皆様方から質疑応答、意見交換ということで進めさせていただきたいと思います。

 それでは、法務省から、まず検討状況を御紹介いただければと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

〇法務省
 おはようございます。法務省民事局の笹井と申します。本日は貴重な時間をいただきまして、ありがとうございます。

 ただ今御紹介いただきましたように、法務省では、昨年の3月から担保法制に関する研究会で検討を進めておりまして、その進捗状況について報告させていただきます。

 法務省における検討は、動産と債権以外の財産権を排除するわけではありませんけれども、基本的には動産や債権を中心に、その担保法制について考えていこうというものでございます。

 御承知のように、動産・債権につきましては、質権という典型担保権がございますけれども、それ以外には民法上の典型担保権が設けられておりませんで、実務的には、所有権を移転するという形を用いた譲渡担保などの非典型担保が、担保化に当たって多く用いられてきました。これらの非典型担保について明文の規定を設けようという試みもありましたが、対抗要件についての法整備でありますとか、そういった個別の問題への対応はされているものの、全体的な法整備はされていない状況です。

 不動産担保や保証の重要性が従来に比べて低下していく中で、動産や債権が担保の目的として有用ではないかということは、以前から指摘されてきたところです。ただ、現状としては、ソーラーパネルでありますとか、売電債権でありますとか、そういったものを除くと、この20年間、それほど動産・債権担保融資は増えていない、こういう状況ではないかと思います。こういったものについて、法律関係の安定化や明確化を図っていこうということで、今回、法整備の検討に着手したということでございます。

 その背景として、1つは、これも先ほど御紹介がありましたけれども、世界銀行によるビジネス環境の評価で、動産・債権を担保にして資金調達するための法制度がOECD加盟国36か国中25位という順位になっておりまして、高く評価されていないという点がございます。こういったものの順位の上昇も、併せて図っていきたいと考えております。

 検討の範囲についてですが、本日の金融庁の研究会は事業全体の担保化が主眼に置かれていると思いますけれども、私どもは、どちらかというと、動産や債権などの財産をそれぞれ担保に取るという伝統的な担保を中心にしながら、現状でも流動的な集合動産や将来債権を含む集合的な債権の担保化が譲渡担保を通じて図られておりますので、こういったものにも対応していきたいと思っております。また、譲渡担保以外の非典型担保、すなわち所有権留保等々につきましても、取り込めるものであれば取り込んでいきたいと思っております。

 具体的にどういう論点が議論されているか、議論の状況についての詳細は割愛させていただきますけれども、担保の実質的な効力、例えば物上代位をどういう範囲で認めていくかとか、清算義務の問題、それから大きな問題としては対抗要件の問題、そもそも引渡しを対抗要件と認めるのか、登記との関係をどうするのか、こういったものが議論されております。

 事業全体の担保化という観点から申しますと、法務省における検討のメインテーマに据えているわけではございませんけれども、企業担保法や財団抵当がこれまでは事業の担保化という局面では活用されてきたと思います。これらについても、指摘されている問題点でありますとか、使いにくさを改善していく、そういった問題につきましては法務省でも検討の対象としております。

 簡単ですけれども、私からは以上でございます。

〇神田座長
 笹井さん、どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして、事務局からの御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。尾﨑でございます。

 事務局のほうから、お手元の事務局資料と書かれたものと、それから参考資料と書かれた2つの資料がございます。この2つを使いながら御説明させていただきたいと思っております。よろしいでしょうか。

 まず、事務局資料の3ページのほうを御覧ください。ここで、全体的な、背景的なことが書かれております。我が国の経済社会、産業構造や金融をめぐる環境というのは、人口減少や高齢化の進展、それから低金利環境の長期化等、大きく変化しております。かつては、工場、機械といった有形の資産を価値の源泉とする繊維工業とか、重化学工業等を中心に経済発展が施行されておりましたけれども、参考資料の1ページにありますように、経済の成熟化や情報産業の台頭等に伴って、無形の資産の価値の重要性が高まりを見せております。

 参考①は、各産業のシェアの推移を示したものです。右回りに、農林水産業、工業、製造業、これ以外のところがいわゆるサービス業等となっておりまして、左から右に行くに従ってシェアが高まっているという様子がうかがえます。

 それから、また、事業をめぐる金融環境につきましても、参考③にありますように、資金不足から資金余剰の時代へと大きく変化しております。3ページの資料③ですけれども、いわゆる細い実線が事業法人の資金過不足でありまして、資金不足から資金余剰へと時代を追うに従ってシフトしているという様子がうかがえると思います。多くの事業者が貸手から選ばれるという時代から貸手を選べるようになった一方で、貸出しのボリューム競争や融資業務のコモディティー化といったようなことが進みまして、貸手が事業を的確に理解するコストを負担しづらくなった結果、事業に本当に必要な形での融資が難しくなっているといったような御指摘もございます。

 こうした中で、様々な顧客のニーズに応えるため、自らの強みを生かし、顧客との関係性、リレーションにより事業への理解を深めて、コンサルティング機能を発揮しつつ、資金ニーズに対応するなど、事業者の生産性向上のために独自の取組を行おうとしている金融機関も増えています。特に、事業承継のニーズが高まる中で、経営者保証に頼らず、事業のキャッシュフローを見た、事業を的確に理解した融資の必要性も高まっています。

 また、特にこのコロナ禍におきまして、事業を理解する貸手の必要性も改めて認識されております。今回のような急激な需要の消失の中で、各種の事業者は事業継続できるか大変不安な状況に置かれておりまして、金融機関は事業者を支えるために休日返上で資金繰り支援等に対応されたと承知しております。

 我々といたしましても、金融機関の対応状況を確認させていただいております。その中で、金融機関のほうからは、日頃から事業の内容をしっかり理解させてもらっている事業者さんには、このような危機の中でも、ある程度、将来の姿が描けるので、リスクを取って必要な新規融資をすることができるけれども、そうでなく、事業のことをよく理解できていない場合は、背任のリスク等もあるため、金融機関としても判断が大変に悩ましいといったような声が聞かれました。

 事務局資料の4ページを御覧ください。先ほど、事業者、金融機関の緊密な関係構築を促すことが重要だと申し上げましたけれども、当然のことながら事業者の置かれた状況は様々ですので、事業の理解にコストをかけない貸手と、事業の理解を重視する貸手について、一概にこちらがよい、こちらが悪いと言うことはできないと思っております。不動産など担保に供することができる重要な資産を、個別資産を持っている事業者や、業況の安定が見込まれていて、長期的にも金融機関を競わせることで資金調達コストを下げることができるといったような事業者にとっては、低い資金調達コストを継続できるので、事業の理解にコストをかけない貸手のほうにメリットがある、という見方もあり得ると思っております。

 今回の研究会におきましては、このように現状で十分な融資が得られている事業者というよりは、現状では十分な資金が得られない事業者さんについて、右側の欄に示した事業の理解を重視する融資が行われやすくなるよう、事業者と金融機関の選択肢を増やすことができないかといった点について、御議論いただければと思っているところでございます。

 続きまして、5ページを御覧いただけますでしょうか。こうした点につきましては、今後、コロナ禍における、そしてコロナ後における課題ということを考えてみても、ますます重要になってくるように思われます。いずれの場合におきましても、金融機関が経済の主役である企業の事業内容をしっかり理解して、リスクを取って支えていくということが、今後、より一層期待されてくると思っております。この点は、例えば全銀協におきましても地方創生への取組の中で目指されていると理解しておりまして、参考④、参考資料の4ページにおいても御紹介させていただいております。こうした課題解決に資する選択肢の一つとして、従来の仕組みに加えて、包括的な担保権を用意できないかということを御議論いただけないかと考えております。

 続きまして、6ページを御覧いただけますでしょうか。このページでは、経済の主役である企業がよりよく成長できるようにするために、特に左側のような課題に直面されている事業者が利用できる、包括担保という新たな選択肢をつくることはできないかどうか。特に、これまで無担保では難しかった融資をしようとする、すなわち最初にリスクを取る、ファーストペンギンになろうとする金融機関に、適切なインセンティブを与える新たな選択肢をつくることにより、今まで借りることができなかった事業者が資金調達する道を開くことはできないか、いったようなことを書かせていただいております。

 続きまして、7ページです。これまで融資を受けることが難しかった事業者が、包括的な担保権を活用することにより、融資を得られる可能性があるという例を幾つか挙げさせていただいております。

 一番左側、ベンチャー企業に向けた融資を例に取りたいと思います。事業者としては、エクイティーで資金調達すると持分が減少してしまいますし、また、契約コストも、調達コストも高いので、デットで調達できるのであればそうしたいと、そういうニーズがあると考えております。他方、金融機関としては、事業の理解が難しく、将来キャッシュフローが見えにくい中で、信用補完としての担保がないと融資を出しづらいというのが現状だろうと思います。

 こうした点は、金融機関のノウハウに加えて、担保法制を含む法制度次第で変わり得るのではないかと考えております。例えば、参考資料の5ページを御覧いただけますでしょうか。5ページと6ページを御覧いただきますと、ここで紹介しているアメリカの金融機関の例ですと、6ページのほうに、ちょっと英語の資料でありますけれども、書かれておりますように、例えばワラントとかコベナンツ等で工夫をしつつ、包括的な担保も活用して融資を実行されているといったようなことが紹介されております。

 参考⑤のところですけれども、日本ですと基本的に右上のコーポレートファイナンスが中心になっているのではないかと思いますけれども、海外ではもう少し幅広い金融の在り方も考えられるといったイメージが分かりやすい図かと思いまして、引用させていただいております。

 事務局資料の7ページのほうに戻っていただきまして、2番目の地方中核企業は、グループとしての信用力は低いけれども、有望な事業を切り出せば成長が見込まれるといったようなケース、3番目が第三者への事業承継の事例、4番目は危機時の事例等を挙げさせていただいております。

 海外の事例ですと、日本でも報道されていますけれども、参考⑦にユナイテッド航空のマイレージ事業の事例を紹介させていただいております。

 また、参考⑧にありますように、いわゆるABLについても包括的な担保権が認められる米国では、貸出金額も、貸出先の業種も多く、幅広く活用されているといった資料でございます。

 もちろん、包括的な担保権が入れば、すぐにこういった海外のような金融が可能になるというわけではないと思っております。金融機関の目利き力がなければ、このようなリスクテイクは依然として難しいと考えております。しかし、こういった制度的インフラが整備されますと、比較的高いリスクをコントロールしやすくなり、融資業務としての持続可能性も高まりますので、金融機関としても目利き力やノウハウを高めるインセンティブを持ちやすく、先進的な取組を進められる金融機関も表れるのではないかと考えております。

 ここまでが、我々として実務を改善していく上で重要だと考えており、研究会でもぜひ御議論していただきたいと思っているところでございます。

 事務局資料の9ページ以降につきましては、実務を改善する可能性のある包括的な担保権の制度イメージを、現行制度の課題と併せて掲げさせていただいております。10ページでは担保に関連した法制度の変遷と現在の課題について、11ページではこうした担保法制に基礎を置く事業再生手続の課題について、簡単にまとめております。

 それから、12ページを御覧いただけますでしょうか。こちらに包括的な担保権の全体像のイメージを掲げております。この全体像につきましては、貸手の関心を事業の価値、将来キャッシュフローに向けて、事業の実態や将来性を見た融資を動機づけられるよう、包括的な担保権が事業者、金融機関にとっての選択肢に加わらないかということ。その上で、新しい包括的な担保権だけでなく、現行の担保法制全体について、事業価値の向上に資するような制度設計を考えられないか。つまり、貸手の規律づけを図りつつ、商取引先や労働者等を優先的に保護するなど、担保権者や債権者等との利害を調整できないか。設定や公示、実行、優先関係の各局面で重層的に調整できないかといったことについて、御議論いただければと考えております。

 13ページですけれども、具体的な制度設計の利害調整におきまして必要と考えられる利益衡量の視点、トレードオフの関係を一覧にして整理したものであります。

 14ページ以降は、その具体的な個別の論点でありますけれども、ちょっと時間もございませんので、説明は割愛させていただきたいと思います。

 最後に1点だけ、今、問題としているのは事業者に対する金融ということを申し上げたいと思っております。これが、もし消費性の金融でありますと、個別財産の担保価値を評価してもらって融資を引き出すということであればよくて、資金の使途等とは必ずしも結びついていないケースも多いかと思います。貸手にとっても、貸したお金が何に使われようが、担保から回収できるのでよいという発想になりがちなのではないかと思います。そのために、過剰担保かどうか、個別資産の担保価値に見合った融資かどうかといったような問題も重要になってくる可能性が高いだろうと思います。

 しかしながら、事業性の金融ということであれば、重要なのは、将来、付加価値を生み出せるような事業活動に資金が供給できるかどうかといった点になってきます。貸手にとっても、資金使途や事業全体を見た融資が重要になってくる。今回、御議論いただきたい点は、後者の事業者への金融のための制度的インフラとして、包括的な担保権が重要な要素になってくるのではないかということであります。そういった違いにも御留意をいただければと思っております。

 前半部分の事業者を支える融資・再生実務の在り方を中心に、簡単ではございますけれども、説明をさせていただきました。事務局からは以上でございます。

 神田座長、お願いします。

〇神田座長
 ありがとうございました。

 それでは、今日、残りの時間は、討議というか、御質問とか、御意見をお出しいただきたいと思います。今、事務局から、大きく言うと2つということになるのでしょうか、説明がありしました。1つは、現在の金融実務における課題と、その改善の在り方みたいなことですかね。それから、後半は、今日はちょっと御説明は簡単でしたけれども、現在の法制度、法律制度の課題と改善に向けてどういったことがあるかというようなことかと思います。本日は、できましたら前半といいますか、現在の金融実務における課題、要改善点、その他を中心に御議論いただければと思いますけれども、皆さん方、バックグラウンドがそれぞれ様々でございますし、本日は初回ということもありますので、自己紹介を兼ねたフリーディスカッションとさせていただければと思っております。

 そういうことで、どなたから御発言いただいても結構かと思いますけれども、事業者様サイドから自己紹介を兼ねた御発言をいただければと思いまして、まず、日本電鍍の伊藤社長と日商の山内部長に御発言いただいて、その後、ほかの皆様方から御自由にと思っております。

 なお、私、しゃべっているついでに、冒頭、事務局から御紹介ございましたけれども、発言、御希望の方は、チャット機能を利用して発言希望と書いていただくのが良いかと思いますけれども、そのときに必ず全員宛てに、今、もう星先生からいただいているのですけれども、全員宛てにチャットを出していただきたく存じます。さもないと、私に見えないものですから、私と事務局との間で連絡を取らないといけないということになります。ただ、委員というか、メンバーの方々の人数はそう多いわけではないので、適宜、マイクをオンにして、つまりミュートをオフにして、お名前を言って御発言いただくということでも良いかとは思いますが、原則、今日は、チャット機能も利用してという練習を兼ねてやらせていただければと思います。

 それでは、すみません、私が長くしゃべり過ぎておりますけれども、日本電鍍の伊藤社長、日商の山内部長に御発言があればいただき、その後、星先生に御発言をいただければと思います。

 伊藤さん、いかがでしょうか。

〇伊藤メンバー
 改めまして、よろしくお願いします。

 このテーマ、本当にすごく幅広くて、私の考えが全ての事業者の方とは当然、一致しないと思うのですが、当社の、私自身の経験からいかせていただくと、今、63期を迎えている会社で、父が創業したものでありました。しかしながら、事業承継という課題になると、私は一人娘であって、必ずしも承継をする立場という位置づけでは、父からも見ていませんでしたし、私からも見ていなかったです。そうなると、外の人が入ってきます。当社の場合、外の人が、社員が社長になったのですけれども、結局、父が急に亡くなったということもあって、優秀な社員がなればよかったのですけれども、会社がおかしくなってしまったのです。

 結果的に、冒頭、申し上げたように、整理回収機構にまで債権が回ってしまいました。それまでは、それこそメガバンクさんが当社のメインであったり、非常に良い支援を受けていましたし、順調に成長していたのですけれども、一経営者のミスで会社経営が本当にあっという間に悪い状態に持っていかれました。その後、私が継いだのですが、当然ながら経験のない私が継ぐことによって、金融機関さんからは全く信用がない会社です。ですから、当社は破綻懸念先ということもあり、ずっと親しくしていたはずの金融機関さんからも見放される状態であったのです。

 でも、経営を知らない私からすると、とにかく多くの出会いであったり、会社をどういう方向に導いていくかということで、もともと1業種に依存していた経営体制から多品種にと思っていたところ、やはり既存の金融機関さんから認められなかったのと、整理回収機構がある以上は新たな借入れができなかったので、もうどうなるかと。アメリカのように、エンジェルが現れたりとかしてくれればよかったのですけれども、全くそういう状況ではなかったですし、日本は、良いところも悪いところも横を見て、横並びに金融機関さんは動くので、A行が貸さなければB行も貸さないという状態の中で、当時は政府系の金融機関さんが少しずつ変わってきてくださったのです。でも、やはり政府系はできること、できないことがあるということで、民間さんにしてくれということで、見つけた金融機関さんが、本来であれば貸さないようなうちの会社に貸してくださった。そこが全ての債権を借り換えてくださって、整理回収機構ともちょうど終わりのタイミングを迎えられた。

 当社は、私が就任した6年後に正常化になったのですが、救ってくださった金融機関さんからすると、当時の社長さん、今、その方はもうリタイアされているのですけれども、お会いすると、どう考えてもほかの金融機関は貸せない状態だったと。ただし、その方が当社を訪問してくださって、当社の技術や、社員の目とか、挨拶をしている姿とか、多分、数値では表現できない会社の将来性を見据えてくださった結果、思い切って借換えをしてくださったんです。ですから、そのときの金融機関さんがなければ、当社はもう存在しない会社です。

 私が今回のいろいろなテーマについて考えるのは、そもそも金融機関は何の目的でお金を貸すのだろうか。金利でもうけたいためなのか、それとも会社を救う、成長させるために自分たちで何かサポートしたいからなのかというところがあります。当社が最初にお付き合いしていたところは、もう完全にうちを潰しにかかっていました。それは、銀行の名誉なのか分からないです。守るからなのか分からないですけれども、とにかくひどかったです。でも、一方で救ってくださったところは、この会社や、この社員には絶対未来があるという見方をしてくださったので、その価値がどこでしっかり見いだされるのか。

 あと、中小企業も、企業もそうですけれども、例えば今、コロナ禍で、今日までよかった企業が、あした悪くなるというリスクは非常にあって、どこを応援すべきか、どう判断すべきか分からないという金融機関さんの立場も分かるのですが、金融機関さんにリスクをとってもらい融資を受けるためにも、企業側もそこをしっかりアピールしないといけないと思うのです。昔みたいに、ただ経営していれば、同じような仕事をしていれば成長する時代は終わったので、そこをちゃんと日頃から、金融機関も企業もパートナーとして嫌なことも言う。良いことも悪いことも、包み隠さず、現状を話し合うことで分かり合えることもあります。

 あと、金融機関の担当者は二、三年ですぐ交代されるんです。これはしたほうが良いのかもしれないのですが、二、三年でその企業の何が分かるのかというところがあるので、せめて5年とか、6年というスパンで交代していくということも一つの方向かと思います。

 冒頭、あまりいろいろしゃべってしまうといけないので、まずはこの辺で止めさせていただきます。よろしくお願いします。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、日商の山内さん、いかがでしょうか。

〇山内メンバー
 ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 今、中小企業の現状につきましては、緊急事態宣言が解除されまして、Go To キャンペーンなどで徐々に需要が拡大してきていますので、活動レベルは確実に上がってきていると思います。ただ、我々の実施している調査では中小企業は非常に厳しい状況にあります。今、地域でクラスターが起きていますけれども、仮に、このまま感染再拡大が続くと倒産、廃業が非常に増えてくるのではないかと懸念しながら、経営支援をさせていただいているところでございます。

 企業の資金繰りにつきましては、無担保・無利子の融資や、各種給付金なども出していただいておりまして、事業者の方々にも使っていただいております。しかし、融資はいずれ返さなければいけませんので、コロナが長期化する中で、これから経営をどうしようという正念場を迎えている中小企業をこれからどういう形で支援していくのかが、非常に大きな課題になっているところでございます。

 地域の中小企業は、私も東京にいるので見えづらいところもありますが、大きい企業と違って地域の中の需要だけで生きている企業の方々も非常に多くございます。こうした方々に対して、先ほどまさに伊藤様がおっしゃいましたように、自分の会社は何でもうけているのか、何が事業として売りなのかということを、経営者の方に意識していただくことに着眼して支援をしております。この融資の研究会も関係なく、今、事業性といいましょうか、自分たちの事業価値は何なのかというところを重要と考えているところでございます。

 中小企業にとって地域の金融機関の支援が非常に重要な役割だと私どもも思っておりまして、商工会議所も一緒に協力しながら対応しているのですけれども、特に小さい、中小、小規模事業者の方々が廃業しますと、統計で見ましても、地域の中小企業とか、小規模事業者が廃業すると、その雇用は、近くの大都市の企業とか、ある程度従業員規模の大きいところに流れていく傾向にあります。少なくとも事業性がある企業をしっかりフォローして、潰れないような形、廃業しないような形にしていかないと、地域の生産、消費といったものがなくなってしまうということを非常に大きく懸念してございます。

 今回、この研究会におきましては、従来型の個別資産に対する担保ではなくて、融資先の企業の事業を、しっかり把握をして、知財とか、顧客基盤などの、無形資産を含めて事業全体を担保化していくということで、中小企業のニーズは非常に大きいと期待をさせていただいているところでございます。ただ、こういった包括的な担保権とかになりますと、清算とか、処分とか、様々な債権制度をよくよく考えますと、なかなか実務的に難しいところがあるということは十分分かっておりますけれども、冒頭申し上げましたとおりコロナ禍を機に、業種転換とか事業の分割など、第2創業的な動きなども出てきています。こうした事業者を支えられる方向性を見出して行ければありがたいと思っているところでございます。

 事業者にとって、資金調達の選択肢は、多いほうがありがたいということでもございます。先ほど申し上げたスタートアップとか、資産を持たない企業とか、将来性のある事業にとって、事業性を評価する融資は大変有益なものですので、皆様のお知恵をお借りしながら、良い形でできないかと期待しているところであります。

 また、日商は、在日の米国商工会議所と連携を取っておりまして、会員に対するアンケートをお願いしましたところ、在庫とか、売掛債権などを担保にした融資というのは、資金調達としては結構メジャーな手段として活用していますという声もありました。メリットとしては、やはり無担保の貸付けよりも有担保の貸付けのほうが資金を迅速に調達できるとか、様々なメリットがあるということでございます。ただ、借入後の在庫や売掛債権のモニタリングをうまく効率的にやっていくことは大変だという声もございます。海外でうまく行われているような事例があれば、我々も会員の声を聞いてみたいと思います。

 最後に、私は、税制も担当していますが、今後はある程度体力のある企業が、M&Aなどで価値ある事業を引き継いでいく機会が増えてくると思っています。こうした際に、自社の事業にどういう価値があるのかが客観的に示されてくると、企業の方々も、自分の会社は売るに値するのかどうか把握することができますので、今後の経営を展望する上でいろいろなところで広がりが見えてくると思っております。ぜひとも、この適正な事業性評価の考えが広まって、自社の正当な価値認識にもつながっていくものになるように、この検討会で方向性が見えてくるとありがたいと思っているところでございます。

 簡単ですけれども、以上でございます。

〇神田座長
 山内さん、ありがとうございました。

 それでは、続きまして星先生、研究会なので「さん」呼びでもよろしければ、星さん、どうぞよろしくお願いいたします。

〇星メンバー
 ありがとうございます。

 最初は、半分質問なのですけれども、法務省の方いらっしゃいますかね。今の法務省での議論をシェアしていただいて、どうもありがとうございました。非常に参考になりました。その中で、世界銀行のビジネス環境ランキングの話をされて、日本の法制度、資金調達環境の評価は、OECD加盟国36か国中25位で低いということをお話しされました。例えば、ここで言っている担保法制を見直して、世界銀行のランキングで、その分野では満点を取れるような形に改善した場合に、どれぐらいランキングが上がるのかという計算はされているでしょうか。されているとすれば、それは非常に良いことだと思います。されていないとすれば、するべきだと思います。

 以前、僕の論文でやった計算によると、一番最近の2019年のビジネス環境ランキングを使うと、OECD加盟国に限るとどうなるか分かりませんけれども、全体で、これをやっただけで7位ぐらい順位が上がるということだったと思います。その意味で資金調達をめぐる法制度を改善することは、非常に重要です。ビジネス環境全体のランキングを上げる上でも、資金調達環境というのは非常に重要なところで、日本がランキングを上げるにはやりやすいところだと思うので、ここに注目するのは良いと思います。

 そういうふうにビジネス環境ランキングを使って、日本の改革を進めていくというのは非常に良いやり方だと思うのですが、ただ1つ、ここでちょっと問題にしたいのは、世界銀行のビジネス環境ランキング、特に資金調達環境のランキングというのは、貸手の立場に立っているところが強いかと思います。貸手の立場を強くすると資金調達はやりやすくなると、そういう発想から出てきているところが多い。

 世界銀行のビジネス環境ランキングには破綻法制のランキングもありますけれども、ここは日本が大体1位か2位になるところです。これも債権者がどれぐらい債権を回収できるかということでランキングをつけているので、そこでも貸手の立場を重視しているかと思います。
この委員会でやろうとしているのは、タイトルにもあるように、それから今、伊藤さんと山内さんが強調されたように、事業者を支えるということなので、少なくとも世界銀行の考えているような資金調達の環境の測り方よりは、借手のほうに視点を置くことが重要かと思います。その上で、今の日本の制度で、どのような事業者が支えられていないのか、それを考える必要があります。

 僕が本当に疑問に思っているのは、どうして事業者を支えようとする銀行がもうからないのか、ということです。先ほど、伊藤さんが非常に具体的な話をしていただいて、非常に参考になりました。銀行というのは、企業を救うのか、それとも、もうけるためなのかという話をされましたが、僕は企業を救うことを目的にしている銀行というのはないと思うんです。良い企業を救うことによってもうかるということでやっているんだと思います。伊藤さんの会社を救った銀行も、多分、もうかったはずだと思っています。ですから、リスクの低い事業者にばかり貸すような横並びから離れて、あえて、みんなは貸さないけれども、良い企業を助けるという銀行がなぜ出てこないのか、疑問に思うところです。

 この委員会での話に引きつけると、包括担保ということで言われているような制度をうまく導入すれば、そういった良い企業を助けよう、今の制度では貸せないけれども、そういった良い企業を助けようとする銀行が出てくるのかどうか。例えば、伊藤さんの会社であったら、そもそも包括担保があれば救えたのかどうか。その辺も疑問です。貸手の立場からだけではなく、貸手が貸しやすいようにするというだけではない、視点が必要かと思っております。

 すみません、まとまらない話だったかもしれませんが。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 笹井さん、もし何かコメント等あれば。

〇法務省
 ありがとうございます。

 御質問いただきまして、ありがとうございました。シミュレーションといいますか、この点が改善されたらどれぐらい順位が上がるかというシミュレーションであれば、内部的には検討はしております。具体的に順位がどれだけ上がるかという数字は直ちには出てこないですけれども、資金調達の項目は確か12ポイントありまして、日本は5ポイントだったと思うんですけれども、ほかの国の順位が変わらなければ、何ポイント上がればどれぐらい順位が上がるかという検討はございます。

 ただ、満点まで上げられるかについては、世界銀行の評価基準自体がアメリカのUCCの担保制度を重視したものになっておりまして、登記制度をどうするかとか、債務者の財産全体に包括的に担保を設定することができるかというような点も一つの判断基準になっているんですけれども、現状の日本の制度とかなり違っているところがございます。単に接ぎ木をするだけで、うまく日本の法制度になじむかという問題もありますので、満点まで行けるかどうかという点については、現状でどれぐらいニーズがあるか、また、現在の金融実務とうまくマッチしていくかなど、慎重に考える必要があると思っているところでございます。

〇星メンバー
 ありがとうございます。ちょっと付け加えて良いですか。

〇神田座長
 はい、もちろんです。どうぞ。

〇星メンバー
 すみません。登記のほうとかを変えなくても、担保法制のところだけを変えれば結構行けます。7か国抜くというのはそういう計算です。担保法制の改革というのは、ほかの項目に比べて、ビジネス環境ランキングを大きく上げます。

〇法務省
 おっしゃるとおり、日本は大分ポイントが低くて、これは日本だけではなく大陸法系のところは低い評価になってしまうというところがございますが、低い分、上げる余地が大きいというのは御指摘のとおりだと思います。

 私が今、登記制度と申し上げましたのは、不動産登記とかではなくて、むしろ対抗要件と申し上げたほうがよかったかもしれません。

〇星メンバー
 担保とかの。

〇法務省
 そういうことです。担保の対抗要件と。

〇神田座長
 どうもありがとうございます。取りあえずよろしいでしょうか。また御発言いただければと思います。

 続きまして、三菱UFJ銀行の中原さん。今日ちょっと画面のほうが若干の不具合があるようですけれども、御発言の御希望をいただいております。中原さん、どうぞお願いいたします。

〇中原メンバー
 三菱UFJ銀行の中原です。よろしくお願いいたします。

 金融機関の融資の基本的な考え方について少し説明させていただきたいと思います。銀行融資は、お客様の成長とともに金融機関が成長するということを目的としております。一方、融資の原資は、多くの預金者からお預かりしている預金ですから、預金者保護や信用秩序を維持するためには、融資する際には、融資金が期日に確実に返済されるのかという安全性の点も考えます。つまり、銀行の融資は、ローリスク・ローリターンで、確実性を重視しています。また、ある程度の期間お取引先とお付き合いさせていただければ、そのお取引先の事業内容や業界における地位、業界の動向等を分析した上で、的確なアドバイスや融資をさせていただくことは可能です。

 ところが、スタートアップ企業のように新しい業種のお客様に対する融資は、残念ですが現在の金融機関には将来性を見極めるノウハウが十分備わっていないというのが現状であると思います。これは今の金融機関における弱点であり、今後はノウハウを養って、スタートアップ企業に対しても目利きができるような体制をつくることが必要と思いますが、現段階では難しいのではないかと思います。

 事業の包括的な担保という考え方自体は、1つの融資の新たな担保制度として評価できると思います。今後の具体的な制度設計になるかと思いますが、かつてのメインバンク制に近い形でお取引先と接することになるように思います。もっとも、メインバンク制の下では、経営者は株主の方をあまり見ずに、もっぱらメインバンクの方を向いて会社経営をしており、ガバナンス上問題があると批判されたことがあります。そのような批判も踏まえて、現在ではメインバンクが主導することはなく、各々の取引金融機関が、競争している状況と理解していますが、第1順位で包括的な担保権の設定を受けた場合は、かつてのメインバンク制に対する批判がまた生まれることが懸念されます。一方で、包括的な担保権の設定を受けることにより、取引先をしっかりモニタリングする機会になるという利点はあります。

 また、例えば、スタートアップ段階で金融機関が支援しても、ある程度成長していった場合はどこかの段階で金利ショッピングの世界に入り、他の金融機関から低利で融資金を調達ようになれば、今までの支援が報われないことも考えられます。このように、スタートアップの段階で事業を総合的に評価して融資することについては多くのハードルがあると思いますが、この研究会において問題点や課題を整理し、良い形でまとまればいいと思います。

 以上でございます。

〇神田座長
 中原さん、どうもありがとうございました。

 それでは続きまして、発言御希望いただいております堀内さん、お願いいたします。

〇堀内メンバー
 堀内でございます。今の中原さんのコメントにも少し関係あると思いますけれども、金融庁が作られた資料の6ページに割と集約されていると思います。ここに「現在」と「新たな選択肢」という説明がされています。包括担保というのは、それを1つの担保制度とすると今までにない手法ということになりますが、実務上は、既にLBOとかプロジェクトファイナンスといった分野では実質的には既になされています。

 それはどうやってなされてきたかというと、単純に個別資産をぺたぺたと貼りつけるように担保に取ることで、実質全部の資産が担保という状態を作りだしてきたのです。今回の包括担保は、従来、個々に全部の資産を担保に取るというやり方によって、全資産担保に持っていっているという、そういう手法でなされているものを一括でできるようにしましょうという新たな選択肢というふうに考えられます。難点とか、こういうことに悪用されるのではないかというようなコメントは確かにあると思います。中原さんがおっしゃったように、金融機関間の競争をちょっと阻害する要因になるかもしれないということもあるかもしれません。ただ、その場合、金融機関や事業者が包括担保制度を使わなければ良いのではないかと思います。新たな選択肢と考えれば、特段に大きな問題というのはないのかなと考えます。

 ただ、やった後にその会社が行き詰まったときに、全部の資産がもう既に担保に取られてしまっていることで、資金調達ができず、破産しかないと考えられる状況になると、それは、もしかしたら他の方から見ると再生できる可能性を潰してしまうリスクがあります。ここはアメリカでやられているようなプライミングリーンという、既存担保に優先する担保権を倒産法下で認めるといったような手当てが必要になるのかなと考えています。

 あと、日本の倒産法における担保でカバーされている債権の取り扱いですけれども、現状の個別資産を積み上げて全資産を担保に取っていくやり方で仮に倒産しますと、アメリカと少し違う取り扱いになります。日本では、ある会社が倒産して、仮にその会社が良い会社なので、スポンサーを見つけて事業譲渡した場合、その代金が第1順位の人に優先的に入ってくるとは限らないのです。それはなぜかというと、担保権者は全資産を担保に取っているつもりであったとしても、各々の担保物の価値、民事再生の場合だと処分価値になると思うですが、その価値の合計額までしか優先的には支払われないことになります。例えば暖簾を担保に取っているつもりというかであっても、それはゼロ評価という形になることが多いと思います。アメリカの場合は、基本的に第1順位の担保権者の被担保債権が全額弁済になるまでは優先的に支払われるという点で、その辺りが違っています。何が言いたいかというと、担保法の改正は、一部、倒産法とのセットでの改正というか、そういう考え方も必要になるのではないかと思います。倒産時、いわゆる最終段階でどうなるのかとか、そういうことも併せて、検討して頂きたいと思います。今回倒産に詳しい先生方もおられるので、その辺りも含めて御議論いただければと考えます。

 以上です。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。今日は皆様方に一言ずつ御発言もしできればお願いしたいので、名簿順で恐縮ですけれども、井上さん、もし御発言いただけるようなら。その後、今、菅野さんからチャットを頂きましたので、菅野先生ということで。井上先生、いかがでしょうか。

〇井上メンバー
 突然なのでちょっと整理できていないかもしれませんが、私自身、今回の研究会が目的としているように、不動産の換価価値に依存してきた融資実務だけでは融資が行き渡らない事業者に対しても資金を供給するような融資実務を確立していこう、あるいはそのための担保制度を志向することについては、大変賛同するものです。

 ただ、その方法として、どういう担保制度があるのかというのはなかなか難しいところだなと思っています。現状の担保制度でいいますと、集合債権譲渡担保あるいは集合動産譲渡担保というのが比較的、事業サイクルに着目してその価値をある程度評価しながら融資をする担保に近いのだと思いますが、しかし、現状、これらの担保はそれほど使われていないですし、使われるときも、担保においては物の換価代金を弁済に充てるという発想がもともと強いので、事業サイクルにもともと着目していながら、集合動産であれ、集合債権であれ、実行するとなるといきなりばしゃっと対象を捕まえて、処分・換価して、あるいは自分に帰属させて清算することが制度的には想定されています。ですので、それによって事業者は息の根を止められることにつながりやすい。それで、現状、事業者側としては、担保権者と交渉したり、あるいは倒産手続を申し立てて、再生手続であれば、別除権協定を結んだりといった形で、事業を継続しながら一定程度折り合いをつけているのだと思います。

 今後担保制度として、そういった実務をよりスムーズに行えるようにするためには、どこまで担保権者が取れるのか、逆に言えば、どこまで事業者側にキャッシュフローを残すのかを設計することになりますが、事業者に事業を継続してもらいつつ、担保権者がキャッシュフローの相当部分を回収に充てることで、言わばウィン・ウィンの関係をつくって担保目的を実現していくのは、実際に制度設計をしようとするとなかなか難しいのではないかと思います。

 具体的には、担保権者が企業全体のキャッシュフローを捕まえるといっても、グロスキャッシュフローを全部捕まえてしまったら、事業者は仕入れもできなくなってしまいますので、当然、事業を生かしながら、事業価値を保ちながら担保価値を把握していくことになると、取引先等に対する一定程度の支払いを許容しながら事業を継続してもらいつつスポンサー探しをするといったような形で回収の最大化を図るしかないと思います。現在は、そういったバランスを倒産法の実務家の弁護士の方々が努力して図っているということだと思いますけれども、担保制度を向上させることによって、それをうまく実現できないか。すなわち、企業活動を継続しながら回収を最大化するような実行方法をどう定めるか、あるいは担保権の及ぶ範囲をどう設定し、逆に担保権が及ばない取引先等への支払いをどの程度認めていくのか、という辺りの制度設計が大変難しいのではないかと思います。今、検討が進められているところだとは思いますが、担保権者にとっても事業者にとっても満足できるような担保制度を実現するために、以上の点についてどう考えるべきかを悩んでいると、そういう状況です。

 以上です。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。どうも失礼しました、急に当ててしまってですね。また引き続き御発言いただければと思います。

 それで、では、発言希望をいただいている菅野さん、お願いいたします。どうぞ。

〇菅野メンバー
 菅野です。まず今日は、現在の金融の課題というところが1つ議論内容だということなのですけれども、先ほどメインバンク制度についても中原様から言及があったと思うのですけれども、今、私が私的整理だとか法的整理といった倒産局面で見るのは、かつてメインバンクが強力にいたというような場合であれば、メインバンクからの支援でメインバンクと相談しながら私的整理、法的整理を進められたというようなケースが多かったのかもしれませんが、今の実感として、大企業から中小企業かかわらず、やはり実質的な主導者が債権者側にいないということかと思います。何だか債権者側同士がお見合い状態になっているような件も散見されまして、事業の価値、その成長維持、それから、再建の局面含めて、資金面、資金調達の側面から企業をバックアップするということを実質的に主導していくというのがなかなか難しくなっているというようなこともあるのではないかと思っています。

 その中の1つの事情として、例えば私的整理なんかでメインバンクで非常に協力的にやってくださる、債務者側からしたら非常にありがたいというケースで、ただ、その中で、たまたま例えば遊休資産の不動産に担保権をつけている他の金融機関がいて、更にその遊休不動産がたまたま良い値段で売れるとすると、結局、非常に協力的にやってくださっているメインバンクの回収率、回収額は上がらずに、出来上がりは、たまたま担保設定のときに良いものに目をつけて担保を設定した他の金融機関のほうが多くの利益を得てしまうということがあります。それも、その後の価値の変動があるので、その契約時点、貸付けの時点で想定していなかったような出来上がり、たまたまこの時期が、売却時期がよかったよねというようなことで回収率が決まったりもします。一生懸命企業と寄り添ってきた金融機関であっても、最後に出来上がり、主導してきた金融機関が、ほかのところよりも多くの回収を得られるわけではない、そういうようなメリットが感じにくくなっているようなところも、1つ要因としてあるのではないかなと思っています。ここで、包括担保権というのを、企業に成長時点から再建局面まで寄り添っていくことで一番回収額を最大化できるんだ、汗をかいた分だけリターンがあるんだというような設計にできれば、非常に良いのではないかなと思っています。

 もう一つ、先ほど堀内様もおっしゃってくださったのですけれども、今の法制度でも、包括的に資産に担保を設定できないわけではない。プロジェクトファイナンスなんかでもそうだと思うのですけれども、個別資産の集合体ということでかけられないわけではないと。じゃあ、例えばアメリカのチャプター11なんかの局面で包括担保が駆使されているところと何が違うのかといいますと、やはりそういう実行の局面、実行の局面って再建フェーズに一番よく来ると思うのですけれども、そういった局面での担保権者の権利というのが少し違うのではないかなということを思っています。担保権を駆使して最大の回収を目指していこうというマインドセットも少し違うのかもしれないなと思っていたりします。

 例えばグローバルな再生案件で、日本の企業でグローバルに展開している会社が民事再生やりましたとかそういう話があったときに、例えば外資系のディストレストファンドから照会があったりするんですね。こういう案件やってみたいと。担保つき債権を買えばどういうことができるのですかというふうに聞かれて、例えば民事再生ではこういうポジションですとかいうときには、大体クレジットビットみたいなことができるのか、つまり、担保付き債権を買えば、キャッシュアウトがなくても事業を譲り受けることができるのかとか、それから、DIPファイナンスだと優先権はどれだけ保たれているのかといった点について聞かれます。そこで、日本の制度の説明をすると、何かピンとこないといいますか、それじゃあんまり、リスクを取って張るだけのリターンが確実じゃないね、という反応になり、相談が立ち消えるということは結構よくあります。

 そういうものを裏で見ていると、結局グローバルディールのときというのは、参加者がたくさんいればいるほど、要は、ビットの参加者がいればいるほど事業価値の金額が上がるはずなんですけれども、そのビットに参加する前に、やっぱりこれじゃちょっとリスク張れないよねという形でもしかしたら参加を諦めているというか、手を挙げようと思ったけれども結局手を下げているという、そういうプレーヤーがもしかしたら裏にいるのかもしれ―ません。最近、本当に法的整理、私的整理の側面でスポンサー探しに非常に苦労する案件が私の実感では増えていますが、包括的な担保権を設定することによって、そういうプレーヤーを呼び込むということもあり得るのかとは思っています。これが1つの側面です。

 ただ、反対の側面としては、この制度をどれだけ強力にして良いのかということと、どういう人たちをプレーヤーとして呼び込みたいかというのと、設計の話は非常に密接に関わっていると思っています。こういうことができるようになると、外資系のディストレストファンドで興味を持ってくるところは結構あるとは思います。というのは、彼らは自分たちの目利きで、安く買って、そのあとに再建できると思っているからです。

 ただ、そうすると、これまでの事業再生実務と合わないようなところも出てくると思っています。というのは、やっぱり今の日本の事業再生というのは債務者主導だと思っていまして、倒産弁護士だとか倒産実務に関わるコンサルの方々だとかというのが主導して、それで、経営者と相談して、債権者とも相談させていただいて進めていくのが実務ですが、包括担保権者に強力な権利を与えると、実行局面ではもう完全に包括担保権者コントロールの下でやっていく、再建をやっていくということになりますので、そこはかなりのギャップがあるのかなと思っています。

 その話がどこにつながっていくかといいますと、商取引債権者の保護だとか、それから、労働債権者の保護というところで、今、それも考慮に入れていただいて制度設計いただいているのですけれども、倒産実務家からいうと、必ずしも倒産局面で必要な費用ってこれだけじゃないんですね。ですから、例えば裁判所への予納金とかもそうですし、いつもとは違う、有事ですので、どういうところにお金が要るかというのは意外と事前に予測できない。必ずしも商取引債権者だけ払っていれば再建ができるというわけもなかったりするので、その辺りのキャッシュフローの自由度を実行局面もしくは倒産局面でどう確保するかというのは結構悩ましいなと思っています。

 というのは、ファイナンスの先生方からすると、包括担保権で包括的に事業価値を把握するのであれば、当然、預金はコントロールしたい、キャッシュフローの流れと預金はコントロールしたいという話になると思います。でも、これ、預金をがちがちに固められてしまいますと、日本の場合、今、相殺権が非常に強力でもありますので、債務者側主導の事業再生というのが自由になるお金がないからできないということになるんだと、今のやっぱり再生の実務とかなり、そこのギャップをどうやって埋めるのかなと思ったりはしています。

 ただ、私は、債務者が包括担保権をやらないで、債務者が主導する従来型の再建があっても良いと思いますし、債権者側が主導して、それで、もうスポンサーも探してきて、価値の最大化をするという案件、何だったら、どういう形で経営をやるかというようなところについても意見を出して主導していくという形の再生があっても良いのかなと思ったりしています。どちらかというと、チャプター11で行われている再生というのは後者の印象が強いですので、そういったことの1つのカテゴリーが出来るというのは面白いとは思ってはいます。

 すみません、まだまだたくさんあるんですけれども、取りあえずここで、たくさんしゃべってしまいましたので、一旦は発言を中止させていただきます。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。それでは続きまして、弁護士の志甫先生、お願いします。

 志甫先生、ちょっと声が聞こえていないようですけれども、マイクを御確認いただけますでしょうか。ほかの皆様方は聞こえておりますでしょうか。聞こえていない?それでは、また後でということかと存じます。志甫先生からチャットを頂いておりますので。

 ほかにというか、御発言まだいただいていない方は、名簿順ですと、沖野さんと山本さんなのですけれども、沖野先生、もし何かあれば、少し御発言いただけませんでしょうか。

〇沖野委員
 ありがとうございます。大変貴重な話をお聞かせいただいてありがとうございます。今までのお話を聴いて、少しこういうところも教えていただければと思った点と、それと、もともと考えている点を少しお話しさせていただきたいと思います。大別して2点あります。

 1つ目は、伊藤社長のお話です。非常に興味深いものと思いました。事業性に着目する貸し手が登場したら、全面的に肩代わりというか、債権者自体が替わっていくということなど、その実例ということでも非常に興味深く拝聴いたしました。そして、星先生からも御指摘あったかと思いますが、その際に、今回提案されているような担保制度があれば、果たして御苦労は少し減ったのかどうかというのが気になっております。担保があればというふうに感じられるところが、まさに借手の側からというか、事業者の側からやっぱりあるのかということが1つです。

 ただ、実は担保制度があってもそれほど本当に効いたかということもやはり星先生から御指摘があったかと思いますけれども、そのときにも、担保があっても果たしてどうだったか分からないというのが、担保制度自体の問題で、担保があってもどうしようもないということなのかどうかです。適切な資金調達が行えるような状況を確保していくためには、担保というのはあくまで1つの方法というか制度ですので、それが目的を実現するためには、それを支える様々な要因があるように思われます。

 担保でいうと、その価値をどう実現していくかというのも、事業全体を売却するという形もあれば、個別のある程度一まとまりの財産を売却するということもあるかと思いますけれども、その換価のためのいろいろな人的な手当てとかあるいは市場とか、そういうものを育成していかないと難しいというのがあります。

 それから、担保をつけるということで、ローリスク・ローリターンの融資しかできなかったところが、ハイリスク・ハイリターンまで行かなくても、ハイリスクのところを若干中間的なリスクにして中間的なリターンを得ることで、今まで以上に融資の機会を拡大させることができるというようなことがあるかと思うのですけれども、やっぱり貸手の属性等からの制約とか、あるいは貸手を巡る様々な規律からの制約もあるのではないかと考えておりまして、担保だけではちょっとうまくいかないというところもあるのではないかと思っているのですが、それは担保をめぐってさらにこういった点もあればということが本当はあるのではないかと思っております。

 その関連で、中原さんから御指摘いただいた点として、銀行がやっぱりスタートアップについてはなかなか、ノウハウの問題もあるけれども、それを支えて十分なリターンが出せるかという点でも問題視がされたかと思います。どこかで成長したら、結局金利ショッピングの話になって、より低いところへさっさと行ってしまうということですけれども、それ自体は問題がないものと考えております。

 ただ、そこに至るまでの成長を支えるためにはリスクも取っていったわけで、まさに違う形で借換え等ができる資金の調達において提供者が替わっていくならば、それは替わっていけば良いと思っているのですけれども、だけれども、それまでのかけた分がやっぱりきっちり取れるようでないと駄目なんじゃないかと思います。それは担保だけで補完できるのかどうかというのも気になっており、例えば金融機関としては、金利の設計とかいろいろあるかと思いますけれども、そういうところの自由度が今本当に自由なのかよく分からないところもあって、そういう面の手当てもあるいは必要なのか、さらには、資金の出し手というのが、いわゆる金融機関だけなのかということもあるのかなと思っていたところです。感想になって恐縮です。

 大きな2点目としては、担保制度についてです。担保制度は、堀内さんからも、あるいは菅野先生からも、現行の制度でもかなり取れると。債権も動産もかなり将来に向かって取れるということがありますので、個別財産の積み上げによって行けるのではないかという御指摘もあり、それはそこそこ行けるような感じも私もしておるのですけれども、やはりこれもまた堀内さんおっしゃったように、のれんなど、財産の欠落というか、全てをまとめて取りたいというところからは確かに落ちているものがあるとともに、それを一体化して制度に乗せていくというようなところは確かに落ちているということがあるので、それをどうするかという問題があるのとともに、現行法のものですと、基本的にはかなりのところ、個別の事案を基にした、そこから一般法化が図られたり、あるいは担保の登記制度の充実など局面で手当てが図られているにとどまっているために、いろいろなところがどうなるのかよく分からないということがあります。

 実行もそうですし、倒産のときに担保権者の地位がどうなるのかというのも必ずしもはっきりしないところがあって、そういうところの明確化――明確化だけでも予測可能性は担保できると思いますけれども、なかなか判決が1つ出るとか、判例や解釈だけでは展開できないところを、立法で適正なバランシングを図っていくということをできれば、かなり、一層活用の余地というか、選択肢としての事業や収益に着目した担保を実現できるのではないかと思っております。

 そのときの担保権者の地位については、他の権利者や利害関係人との調整の中でどこまでの強さを認めるのかということが大事でしょうし、その際には、包括的な担保だけではなくて、個別の担保との調整も問題になってくるのだろうと思います。調整の在り方次第ですけれども、結局、個別担保を集積すれば全体になってしまうということだと、包括のほうだけ何とかしてもしょうがないというところもありますので、特にこれは、菅野先生がおっしゃったことかと思いますけれども、事業において汗をかいて、それは債務者もそうですし、一般の債権者もそうですけれども、その部分が何の苦もなく個別の担保権者に行ってしまうということで果たして良いのかという問題が少なくとも局面によってはあり、その調整なども担保制度の在り方として検討していく余地があるのではないかと思っております。

 非常に雑駁なまとまりのないことで恐縮ですが、現在そういうことを考えているということです。以上です。

〇神田座長
 沖野先生、どうもありがとうございました。

 それでは、山本先生、もし何かありましたらお願いしたいのですけれども、いかがでしょうか。

〇山本メンバー
 ありがとうございます。そうですね、総論的な金融のところでは私の専門からすると何か申し上げるのは難しいんですけれども、最後のところというか、事業再生との関係というところで若干感じていることを申し上げられればと思います。

 資料でいいますと11ページの辺りに、事業再生の法制の変遷ということが書かれております。私自身の理解というか整理によりますと、最初、法的な倒産手続を整備しようということでかなりやったわけでありますけれども、しかし、法的な倒産手続ということになりますと、金融債権者もほかの債権者も一緒くたになってしまうと。一時期、会社更生は、金融債権者だけの倒産手続という会社更生をつくろうとしたんですけれども、これ、憲法違反ではないかというような批判もあって実現できず、全ての債権者を同列に対象とすることになる。

 それだと、事業再生は結局あまりうまくいかないのではないかということになって、それで、この私的整理のほうに徐々に移行していったので、その私的整理のほうも、様々な形でスキーム、これ、メインバンクの役割をどの程度見るのか、私的整理ガイドラインというのはメインバンク主体で基本的にはあれしようとしたわけですが、必ずしもうまくいかず、産業再生機構とか事業再生ADRというような仕組みを設けて、金融債権者間の利害の調整を図れるような仕組みをつくろうとしてきたと。

 ただ、時代の変遷とともに、一番上に書いてあるような、やはり多様な利害を持つ貸手が出てくることになって、外資系とかいろいろなものが出てきて、結局、調整を合意で行うというのが非常に困難になってきて、一番最後のところで、私的整理における多数決というような議論が出てきたと。しかし、これもやはり先ほどの会社更生の話と同じで、憲法上の問題もあり、なかなか法制上は難しいのではないかということで、現状、私の印象ではややスタックぎみで、なかなか前に動かすことが制度的に難しい状況になっているのかなという印象を持っていました。

 その中で今回の提案というのは、金融機関間では、包括的な担保をある金融機関が取って、その金融機関が他の金融機関に制度上優先する、そういう強い発言力を与えることによって、金融機関間の調整コストを軽減できるという可能性を与える制度なのかなと思っております。そういう意味では、今の事業再生実務の現状を打開する1つの選択肢ということなのかなと思っているところです。

 ただ、もちろん考えるべき問題は幾つかというか数多くあるだろうと思いますけれども、1つは、先ほどのように、現状の制度は、金融債権者とそれ以外というふうに債権者をある意味分けてしまって、ほかの債権者には全部払い続けるということで私的整理というのは行われているという状況なのかなと思います。したがって、実体法上の優先順位はともかく、金融債権者以外の債権者はもうみんな優先して払っているという、端的に言えばそういう状況で、これが法的手続になると180度風景が変わっていくという。180度って、民事再生とかでも商取引債権者に一部払えるような制度は持っていますけれども、そこは一定程度限界があるということで、そういうような状況なのかなと思うわけです。

 今回の制度で、結局、包括的な担保を取って、金融債権者がその担保を取ったときに、他の債権者の地位をどこまで保護するのか。今の私的整理で前提にされているように全部払っていくという前提に立つのか、やはりそこに一定の制約を設けるのかというのは、1つの課題ということになるんだろうと思います。今回の資料でも、幾つかいろいろな債権者、取引先とか労働債権者とかというのはあまり争いがないとは思うんですけれども、今回の資料に、意図的かどうか分かりませんが書かれていない、例えば租税債権者とかをどうするか、そういうようなところをかなり考えていかないといけないのかなというふうに思っていますが、これは次回以降の御議論だと思います。

 それから、価値ある事業の継続ということで、前提としては今回の制度は、実行のところでも、事業譲渡という形で事業を生かしたままで担保権者が債権を回収するというスキームが前提になっているというふうには思うのですけれども、これをどういうふうに制度として担保していくのかということですね。最も高い価値で事業が譲渡される、そして、全ての利害関係人にとってそれが最も望ましい形での事業譲渡になるということが一番望ましいんだと思いますけれども、これは今の倒産手続での事業譲渡でもかなり苦慮される。

 どのような手続でどのような相手方に事業を譲渡していくのか、あるいはもちろんどのような対価で事業を譲渡していくのかということを決定するその基準というのはなかなか難しいものがあるというふうに思うのですけれども、担保権者がそれを主導するということになりますと、理論的にはその担保権者は、自分の貸付債権が完全に回収できればそれで良いわけですので、それ以上に高く換価するインセンティブはないということになりますが、それが果たして全ての利害関係人にとって、あるいは事業再生という観点から最も望ましい換価方法になるのかどうかということは1つ問題としてあり得るかなと思っております。その実行のところもどのような、これ、あまりそれをがちがちに縛り過ぎると非常に使い勝手が悪い制度になるような気もしますので、その辺りをどのような形で制度的につくっていくのかといったようなところも問題かなと思っておりますけれども、いずれにしても、私の主たるコメントは次回以降の話ということになろうかと思います。

 私からは以上です。

〇神田座長
 山本先生、どうもありがとうございました。

 今日、初回でございますけれども、オブザーバーで御参加の皆様方からもし御発言があれば承りたいと思いますけれども、いかがでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。

 それでは、第2ラウンドというんでしょうか、もし御発言があれば、どなたからでもいただきたいと思います。私のほうで若干、整理にもならないのですけれども、御発言を伺っての感想を幾つか申し上げてみます。

 1つは、鶏と卵というか、中原さんがおっしゃった金融機関側のノウハウということが恐らくあるので、制度が変わったとしても実態が変わるかどうかという問題はあるし、逆に言うと、実態がこうだからと言っていると制度は変えられないというようなところがあって、両方が変わっていくにはどういうふうにしていったら良いのかというようなことがあるかと思います。

 それからもう一つは、多くの方がおっしゃった、競争環境というのがやっぱり違って、日本にはないと言うとちょっと言い過ぎかとは思いますけれども、それがどうなのかなということがあるかと思います。最近はともかく伝統的には、何というのですかね、日米でいうと、アメリカは銀行セクターが非常に弱いので、先ほど債権者主導というお話があって、確かに世界銀行のランキングとか、あるいはアメリカの法制度というのも何かそういう面はあるようにも見えますけれども、実際問題としては銀行が強くないのですね。ですから、そういう世界の下における債権者主導か債務者主導かという話で、この辺り、日本の銀行の置かれている状況も急速に変化していますけれども、しかし、預金率というか、資金量というか、銀行セクターのサイズは非常に大きいので、そういう中で金融機関も今後変わっていっていただきたいしということで事業性評価ということをやろうとしており、進めつつあるわけなので、その辺りをどういうふうに予想するかというか、展望するかというところは1つあるように思います。

 それから、もう一点だけ、星先生もいらっしゃるので、ちょっと根本論で言うと、担保とは何かというのがありますよね。先ほどちょっとお話があった、伊藤社長の話もそうだと思います。別に担保を取ったから助けてくれたわけじゃなくて、事業を見て、そういう金融機関が、お金を出してくれるところが出てきたという、そういうことであって、別に担保があったから貸したとか、ないから貸さないという話とは全然次元が違うわけですよね。

 そうすると、担保って何かというのがやっぱりあって、これは難問であまり答えはないと思うのですけれども、これがまた法制度としては伝統的にはアセットベースで出来ているという。どうして担保というのは―私、デッターベースと言っているのですけれども―債務者ベースでできないのかと。理屈の上でいうと、ミスビヘービアというのはデッターベースで起きるというか、リスクを取って事業をするのはデッターであって、アセットではないので、そうすると、なぜ、包括担保というのがないのか。要は、最初に貸す人が全部取れますというのはデッターベースの優先権なのですけれども、言ってみれば、そういうものがあるときとないときとで、先ほど堀内さんが挙げられたように、最後、全部取れるのか、何か取れないのかというような違いが一応考えられるのですけれども、それが本当にファイナンスという観点から、あるいは再生という観点から効いてくるのかという、そういう担保とは何かという問いがあると思います。

 そして、もう一点だけ、菅野さんもおっしゃったと思うのですけれども、それから、山本先生もおっしゃった、私的整理の世界の制度にしていくのかというか、その延長として今回展望するのか、あるいは再生手続というか、倒産処理手続の世界を展望するのか、まあ、両方だということだと思うのですけれども、それによっても留意点とか関係者のパワーバランスから競争環境まで違ってきますのでということかと思います。

 何か難問ばかりでどうしていって良いかよく分からないのですけれども、いかがでしょうか。

 それでは、伊藤社長、お願いします。

〇伊藤メンバー
 いろいろな方の御意見を聞いて、非常に勉強になりましたし、難しい言葉がたくさん出てきたので、私はあまり法的なことはよく分かりませんが、私が冒頭で貸していただくというのはサポートのためなのか、もうけるためなのか、星先生も中原さんもいろいろとお答えいただきましたが、当然これはビジネスなので、銀行さん、金融機関さんは別に悪徳業者ではないとは思っているので、当然、パートナーであれば、お互いの成長のためとは思うのです。でも、ある意味はそこを理解していない人もいると思うのですね。

 人はいろいろあるし、今日御参加の皆さんも皆さん違う考え方があるので、何が正しいかというのはないと思うのですが、ただ、決して金融機関さんだけが正しいわけではなくて、一番強くはなくて、でも、何となく中小企業と金融機関の間柄というのは、金融機関のほうが強いという、何か借りている側が弱いというようなイメージが多分ついている。だからこそ、担当者によってすごくひどいようなことができて、よくドラマで出るような、現実あるわけであって、それはどう変えていくべきかというのと、あと、価値観がもちろん、コロナ禍云々とは別に、本当にグローバル化が進んでいくので、今までの日本のやり方が本当にこれで良いのかというのを考えなければいけないと思うのですよね。

 私、別に日本大好きですし、日本の良いものは残していかなければいけないのですけれども、グローバル競争下に置かれたときに、このままでは日本のやり方では日本がどんどん下に行ってしまうのではないかということもあります。不動産なんかもそうですけど、例えば、リモートワークとかが進めば、製造業以外はもしかしたら土地も建物も要らない、全く要らないことはないのですけど、そうしたら、本当に資産が何なのかという見方も変えていかなければいけないですし、ちゃんとした不動産担保があったほうが評価しやすいし、ミスはないしというところで、じゃ、万が一誤って評価をしてしまったときに、責任は誰が持つのかとか、その辺が、持ちたがらない人たちがいるからこういうのに依存してしまうのかなとか、あと、目利きの話が出ていましたけれども、やっぱり人によって見える目が変わってきますし、たから標準化したほうが楽なのかなとか、一言では表現できない課題ではあるんですけれども、ただ、横並びである必要はないですし、いろんな金融機関さんにもサイズ感、地銀さんもあれば、信金さんもあればというところなので、あまりにも横を見たり、隣の人がこれを買ったから私も買おうとか、これがはやっているからこれが良いよねとか、そういう日本人ならではの価値観を変えていかないと、もっともっと企業が成長しないですし、起業することがリスクだらけなので、起業したいとも思わなくなるかもしれないですし、もっといえば生きていること自体がリスクなので、リスクを恐れない集団になっていかないと、日本経済は活発に動いていかないんじゃないかなという、ごめんなさい、とりとめのない話ですけれども、そんな意見です。以上です。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして、チャットをいただいている順番で行きたいと思いますが、星先生、お願いいたします。どうぞ。

〇星メンバー
 ありがとうございます。今、伊藤さんのお話を聞いていて、いつ半沢直樹の話が出てくるかと思って聞いていました。伊藤さんの話を聞いたのと、それから、神田先生のまとめを聞いて、ちょっと分かってきたような気がするので、ちょっと感想を言いたいと思います。

 神田先生がおっしゃった競争環境の違いということですけれども、それと多分同じことを言っているのだと思いますが、そこが担保制度の違いとかよりも重要なんじゃないかと思います。ですから、今、担保を取るだけで、事業者を見ないで貸し付けているような銀行というのがなぜ生き残っていけるのか。この辺を考えなきゃいけないのではないかと思います。悪徳とは限らないでしょうけれども、どうしてそんな簡単なことでもうかっているのか。MUFGさんは違うと思いますけれども、それでなぜ生き残っている銀行がいるのか、その辺が、いま議論していることと密接な関連を持っている問題じゃないかと思います。

 それから、山本さんに1つお聞きしたい。私的整理における多数決というのは非常に合理的で良い話じゃないかと思ったのですが、何か憲法の問題があるとおっしゃいました。それは具体的にどのような話なんですか。

〇神田座長
 山本先生、どうぞ、もしお答えいただけるようでしたら。

〇山本メンバー
 憲法というのは、あるいは私の言い過ぎかもしれませんけれども、私的整理というのは、基本的には裁判所というか、国家権力が関与せずに、当事者間の合意に基づいて行う、要するに契約に基づいて行うという仕組みに基本的にはなっているわけですね。

 で、多数決というのは、結局、反対した債権者、つまり同意しない債権者もそれに拘束されるという仕組みでありますので、契約では説明できなくて、そこでは国家権力は行使されている、権力が行使されるという、要するに自分が賛成しないのにそれを強制されるということになります。それを行うには、やはり国が、裁判所が関与しないといけないということになる。

 しかし、裁判所が関与する場合に、金融債権者だけを拘束して、ほかの債権者を全くそれに入れないという形でそれができるのかというと、今度は、なぜ金融債権者だけの権利を制限して、ほかの債権者はそのまま払うということができるのかということが問題になり、そこで、憲法29条という財産権の保護、あるいは憲法14条の平等ですね。債権者間の平等ということが問題になって、金融債権者だけをそのように区別する、他の債権者と区別するということが正当化できないのではないかという違反が根強くあるということです。

 ただ、他の先進諸国ではそういう制度を作っている国もありますので、批判される論者からは、日本の憲法だけが別に特別なものではないのではないか、ほかの国で憲法上疑義が出ていないのであれば、日本でもそれは可能ではないのかというような批判ももちろんあって、そういう制度は必ず違憲だということで決まっているわけではないわけですけれども、そういう批判がやはりあるということを申し上げたということです。

〇星メンバー
 ありがとうございます。それは例えば多数決に従うとかいうことを事前的に契約するとかいうのはできないんですか。

〇山本メンバー
 ありがとうございます。そういう議論もあって、事前に、自分は多数決に従うという合意を調達することができれば、それは広い意味では合意に基づくということになりますので、先ほどのような疑義は出ないのではないか、そういうような議論も以前出てはいました。

〇神田座長
 ありがとうございます。それでは、星さん、取りあえずこの辺りでよろしゅうございますでしょうか。

 それでは、次にチャットの順番では堀内さん、お願いいたします。

〇堀内メンバー
 神田先生から御指摘のあった点で幾つか意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず、金融機関の競争という観点ですけれども、これは皆様方とイメージをすり合わせたいというのが1点あります。それは、仮に包括担保で資金調達を行う場合は、1行貸しになるというふうに思っておられるのか、それともシンジケートローンのように複数貸しも可能であるのかという点です。私はどちらかというと後者だと思っているので、そこで競争は生まれているのかなと思います。

 ただ、一方で、中小企業で借入金額が小さいところに何十行もが何千万円ずつ出すというのは、確かにあまり経済的には効率が悪いというふうに私は思っています。ただ、小さいところだったら1行貸しでも良いですけれども、競争という観点では、1行貸し同士が競争するケースもあるし、相応の規模の融資になると、リスク分散の観点からほかの金融機関を招聘するという形で、シンジケートローンになるケースもあるのかと考えています。

 あと、担保に関しましては、呼び方は別にして、神田先生がおっしゃったように、アセット型とデッター型という、そういう考え方があると思います。もともと金融機関が担保に取るときというのは、もちろん借入人の業績が悪くなったときに資産価値があまり影響を受けないのが一番良い担保と考えます。理論的には業績が悪くなればなるほど価値が上がるみたいな資産があれば一番良いのですが、なかなかそういうのはないので、そういう意味では、現預金もしくは売掛債権といったところから担保がなっていくべきです。不動産も、借入人が不動産業者という場合を除いては、あまり自分のビジネスに影響されないという意味で、日本では不動産担保というのは結構多用されてきた経緯があります。

 一方、全資産担保というのは、確かに全資産を担保に取るわけですが、その資産価値を見るというよりは、キャッシュフローから描かれる企業価値を担保に取っているという考え方です。ある意味、担保としてはあまりふさわしくないというと語弊がありますが、なぜかというと、キャッシュフローが弱まったり、業績が悪くなると企業価値が下がって、全資産のいわゆる企業価値担保の価値も同じように下がっていきます。したがって、担保は取っているのですが、会社が駄目になっても、別に担保があるから良いのですという形の担保ではなくて、会社に頑張っていただかないと担保価値も減っていってしまうのです。

 私が銀行員時代はどういうことが言われていたか、もしくは地方の金融機関の方からのコメントによくあるのですが、銀行の実務として、在庫とか売掛金を担保に取ったら商筋がよく分かるようになりましたとか、本来は逆であるべきで、無担保のときこそ、担保がないので、商筋をきっちり把握して融資しないといけないのですが、どうしても担保のモニタリングを通じて得られる情報が会社の内容把握に非常に役に立つという、少し皮肉な結果になっているというのが実情です。在庫とか売掛を担保に取ると、担保価値の把握や担保のモニタリングを通じて、運転資金回りに関する情報が入ってくるので、それをもってさらに会社が何をどういうふうに仕入れてきて、どう加工して、どこにどういうふうに売っているかというのがよく分かるようになるという意味で、全資産担保にもそういう副次的効果があると思います。

 それから、アメリカでレンダーの立場が弱いというのは、これは結果的にはおっしゃるとおりですが、ただ、結果論であります。もともとはアメリカにはレンダー・ライアビリティーの概念が日本より比べて非常に厳しいものがあります。これはどういうことかというと、貸付人があまり借入人に細かななことをアドバイスして、その結果、業績が悪化した場合は、それはアドバイスをした銀行が責任を持ってくださいということになるので、なるべくそういうことに触らないようにするということです。つまり、アメリカの幹事行と日本のメインバンクというのは意味が全然違っていて、アメリカの幹事行は単に銀行団をまとめているだけで、あまり借入人にああしろ、こうしろということは言わないものです。その代わりどうするかといったら、財務制限条項とかに引っかかったときに、それを緩和する代わりに、私が推薦するコンサルタント3名のうち1名をターンアラウンドマネジャーとして入れて、この人再生の業務を委ねてくださいと言って、自分のために働いてくれる人を経営陣に送り込むという形で、責任追及を遮断するという方法を取っているのです。アメリカで銀行が直接経営に関与せず、私的整理の下で上手くまわっているのは、銀行がそういう第三者のプロフェッショナルを使っているという面もあります。あとは、ほかの債権者、商取債権者とかはどうかというと、アメリカでも保護されているというか、私的整理の下ではあまり関与しません。これは「保護する」という言葉が非常に響きが良いだけで、「無視している」と言ったほうがいいかもしれません。仮に問題が起こったときに、いろいろなことを言う人がいると、まとまりにくいので、そういう状況に慣れている金融機関のそういう部署の人たちが集まってやるほうがまとまりやすいということです。これは日本も同じです。

 私的整理の下では、知っている人同士が個室で話し合っているというところから、法的整理になると、大きなボールルームに全員が集まるような形になります。従って、そこで何か、この人だけ特別にとか、この人だけ損かぶってくださいというのはなかなかやりにくいということで、法的整理になると少し色合いが変わって、債権者というのは担保があるかないかで分類され、同じグループの中では平等にしましょうという、そういう感じになります。

 ここは、法的整理と私的整理はつなげるべきものなのかどうか、いやいや、法的整理は全然違うので、矢張り遮断すべきじゃないかという、少し哲学論争的になるのかなというのが私の感想です。以上でございます。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、志甫先生、お願いいたします。

〇志甫メンバー
 すみません、周回遅れで大変申し訳ございません。私のほうから数点コメントさせていただければ幸いでございます。

 設定の場面と実行の場面という2つの場面のところでございます。今回の事業担保は、お配りいただきました資料の8ページの下段の真ん中にある「事業キャッシュフロー」に何倍かを掛けて、事業者の適正な資金需要を満たすということかと思います。前提としては、この事業キャッシュフローが出ているということがあるのだと思います。

 そこで、そういった観点でこの担保が予定されている場面を拝見いたしますと、これは7ページで、この担保が有益に使われるであろう場面として、例の1から4が上がっているところかと思います。

 このうち、例の4、危機時というのは、冒頭で山内様ですとか伊藤社長がおっしゃった中小企業が苦しい状況で、十分に資金が得られないなかで、事業に担保設定をすることによって調達することができる、という場面が想定されているわけでございますが、事業キャッシュフローがあまり出ていない状況でしょうから、そのような状況において、その価値を見込んだ融資が出てくるのかどうか。「金融機関として目利き力やノウハウを高めるインセンティブ」というご指摘がありましたが、1つ課題があるだろうと思うところです。

 以前、資産流動化ですとか証券化の場面での議論は、企業それ自体としての信用力は低く、意図する調達ができないとしても、優良相手方への債権など価値の高い個別の資産をもって資金調達をするということであったかと思います。その場面においては、やはりデフォルトに至ったときには事業価値自体の価値というのはなかなか見ることができずに、しかるに個別の資産には価値を見出すことができるということで、そのような資金調達の仕組みが目指されていたのだと思います。今般、あらためて事業自体の価値で調達することにして、うまく実現するのか、と感じておるところでございます。

 今、設定の場面で申し上げましたところは、なかなか苦しい状況にあるところでの資金調達として、その事業価値を見込んだ融資というのができるかどうかというのが課題ではないかということを申し上げた次第でございます。

 次に、実行時の場面でございますが、もちろん7ページに書かれているような、例の1ですとか、今後右型上がりの成長を期待できるような企業、これがそういった事業計画を基にした資金調達というのは、これはできるのではないかと思っております。それがそのままうまく事業が続けられれば当然良いわけでございますけれども、これが実際に事業担保を実行しなくてはいけない場面、これはどうなっているかと考えますと、こちらは先ほど堀内様がコメントされたところかと思いますが、デフォルトに至ってしまっている事業の価値は低くなってしまっていると思います。

 もちろん、これは倒産の再建型手続における会社、これはデフォルトに至っているわけでございまして、そうだからといって事業価値が完全にゼロになってしまうかというと、それは事業再構築のプロセスをもって改善していくわけでございますので、デフォルトになったからといって、直ちに価値がゼロということではないと思います。しかしながら、実行時に右肩上がりの事業計画を基に相当の融資をしたとして、実行時において、これと見合った価値までが出るかというと、そこは難しいところはあるのではないかと思います。いかに中小企業を含めた事業者への十分な融資を実行しつつ、一定の回収もできるような、要するに実行の場面でしっかりと実益があるような制度をつくるのか、ということも課題なのではないかと感じた次第です。

 あともう1点、利用者につきまして、12ページのところで、貸し手(担保権者)の範囲というところで、しっかりと適切な会社との関係を築くことができる法人(金融機関等)に限定するといことが述べられておりまして、これはユーザーとしてはリーズナブルな御提案かと思っておりますが、そうすると、サービサーに売ってしまった場合にその担保はどうなるのか。事業担保を設定して、1対1の関係で、本当に最後まで銀行に持っていただけるんですかという点について、課題があると思います。中原様がおっしゃった昔のメインバンク的な関係に戻るんですかというところで、私的整理のメイン寄せというものがございましたが、中小企業に事業担保を設定した銀行との1対1の関係が構築されたとして、最後、立ちいかなくなったときにもサービサーなどに売却することなく面倒を見るということであるならば、破綻時の損失も全て被る、という状況に近くなるのでしょうから、この辺りも課題なのではないかというふうに思いました。ありがとうございました。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、菅野先生、どうぞお願いいたします。

〇菅野メンバー
 神田先生のまとめていただいたお話について、少しコメントさせていただきたいと思います。

 まず、包括担保権が導入されたからといって、金融機関のノウハウも含めて、実態が変わるのかというのと、競争環境があるのかと。これ、非常に2つ密接に関わってきているお話かなと思っています。今、志甫先生もおっしゃっていた、もし包括担保権を導入するとしたときの貸し手側の範囲をどう考えるかにも関わってくるかと思います。

 それで、貸し手側が、従来の銀行、金融機関の中でも銀行を想定しているという制度設計にするのであれば、もしかしたらなかなかすぐには実態は変わらないのかもしれないなと思っておりまして、それは今日御出席いただいているような三菱UFJ銀行様のようなメガバンクであれば、ノウハウをすぐにキャッチアップしてやれるのだと思うんですけれども、伊藤様の御発言にもあったように、金融機関といっても、メガから地銀、信金、信組と幅広い中で、すぐにこの話にキャッチアップできるのかというのがあると思っています。

 それで、堀内さんのお話にもあったとおり、これで貸し手として想定されるのがシローンなのか、1行貸しなのかというところも、もし銀行ということ、もしくは適切な金融機関で範囲を限定するんであれば、やはりある程度の規模以上じゃないとシローンにはならないのかなと思ったりもしておりまして、中小企業で1行貸しで、その1行をメインバンクのような形で密接に関係を築く、あったとしても数行の前半だとか、そういうのが想定されるのではないかと思っております。

 制度設計で実態が変わるのかというのは結構考えないといけないなと思って聞いておりました。といいますのは、先ほどアメリカの例で神田先生が、レンダーというのはそう強くない、金融機関というのはそう強くないんだとおっしゃったり、堀内さんの話にも出たんですが、私のイメージでは、アメリカでも別に金融機関、銀行が、自らスポンサーを探してきて、それで売却をしたり、そういうことをリスクを取ってやっているというイメージよりも、再生局面で実行のフェーズになってくると、プレーヤーが現れる。プライベート・エクイティーファンドみたいなプレーヤーが現れて、自らスポンサーになる、もしくは事業会社なんかとタッグを含んで、スポンサーを見つけてきたり、バックファイナンスを組んだりという形で主導し、それにどちらかというと既存のレンダーはついて行くようなイメージがありまして、その中で最大回収、ファンドの主導する取引の中で最大回収を図ったり、そこで一緒にDIPファイナンスを出して、新規で優先順位が高い債権を出すことによって回収率を高めるとかそういうイメージなんですね。

 ですから、競争環境といったときに、このプレーヤーがいないという前提で実態をどう変えていくのかっていうのはあるのかなと。だから、貸し手の範囲を限定すると、出来上がりとしてこの包括担保権の使われ方っていうのは、日本独特の発展になるような気もしております。

 そういう担保権というのを1つの手段のような形で駆使して、必ずしも最初に設定した人が最後まで持ち続けるというわけでもなく、担保付き債権だとか、そういったものを譲渡したり、分割したり、いろんな形で分け合って、いろんなプレーヤーが出たり入ったりするという設計というのではないような形にもなる可能性があるかなと思っていまして、この貸し手の範囲のところは非常に根本的な話なのかなと。神田先生の整理でいうそもそも論の競争環境だとか実態が変わるのかというところともかなり密接に関わるそもそも論の話だったりするのかなと思っています。

 もう一つ、包括的担保権を導入したときに、ベースとなるのが私的整理であるべきなのか、法的整理であるべきなのかというお話が神田先生から出たように思います。私は、これは私的整理をベースに考えたほうが良いのではないかなと。今の事業再生の実務からいうと、例えば、ずっと法的整理があまり件数がなくて、むしろ私的整理段階で債権者調整をやっているという、最近特にその傾向が強くなってきたようにも思いまして、また、私自身は、法的再建型、民事再生や会社更生の手続でも、原則はやはり商取引債権は払っていくという設計のほうが良いのではないかなと個人的には思っているのですけども、では、今の倒産実務もしくは裁判所の手続がそうなっているかというと、必ずしもそうではなくて、やはり原則は全額払えない。少額債権で許可を取って払っていって、それが柔軟なときもあるのですが、それはやはり事案次第、その債務者の資金力であったりだとか、それからそのときの裁判所の方針によったりもしますので、必ずしも商取引債権が払えるような保証はないということで言うと、事業価値の毀損やレピュテーションリスクというのを考えると、担保権の実行というのが法的整理に入る前に行われて、商取引債権者を巻き込まずに事業譲渡ができるようなことを、包括的担保権があることによって、債権者調整がしやすく、スピーディーにスムーズにできるというのが良いのかなと思ったりしております。以上です。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、日商の山内さん、どうぞお願いいたします。

〇山内メンバー
 山内でございます。今日初めての会議で、制度設計の法的な話に入る前の段階の大きな話として皆様からお話しいただいて大変有意義でした。特に、私的整理の局面は非常に重要な視点だなと思いながら、お伺いさせていただいておりました。

 商工会議所は、中小企業を会員に抱える団体ですので、一定のある程度事業価値をお持ちの経営者の方々と事業譲渡などについて議論をしますと、新たな融資の手段として全資産担保を新たな融資手段とする場合に過剰担保は大丈夫かとか乗っ取りへの懸念はないのかとか、資金を供給する債権者とのバランスであるとか、あと、事業継続の観点ですと、商取引先とか労働者の保護などを気にするような声が非常に多くございます。

 今回、事業譲渡とか事業継続に向けて金融の流れをよくしていくという観点で中小企業にも使いやすい制度とする視点で参加をさせていただいているところもございますので、担保権が借り手の事業価値向上のために適切に活用しようという制度になれば中小企業にも大変メリットがあるのかなと思いました。

 あと、事業継続に不動産が不可欠な場合もあります。債務不履行が発生してしまった際など、再生の局面になっても事業継続を確保できるような方法を検討していただくと、中小企業の経営者の方にもメリットが大きいのではないかなという気がしながら聞いておりました。

 あと1点、全事業を一括担保化する方法は、金融実務の面ではなかなか対応が難しいとか、限界もあるのだということでございましたけれども、積極的にこうした融資に取り組むような新たなプレーヤーといいますか、競争環境とか、こういったものを整えていくのも必要なのかなというふうに思ったところでございます。

 ぜひ次回以降の議論でも中小企業の目線で、どういう形だと使いやすくなるのかについても御検討いただければありがたいなと思っているところでございます。すみません、勝手なことばかりで恐縮でございます。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして井上さん、お願いいたします。

〇井上メンバー
 井上です。担保制度をどう設計するのかについて、先ほど大ざっぱな話をさせていただきましたけれども、その詳細は次回以降に譲ることとして、融資実務の関係で申し上げますと、今みたいな金融状況の下で、事業性評価をしながら、金融機関がコストをかけて融資をするときに、その収益をどうやって上げていくのかというのは非常に難しい課題で、それが担保によって解決できるのかというのは、それだけではなかなか難しいと感じるところです。その点で、融資実務自体をこれを機会にいろいろ直していかなきゃいけないところはあるのだろうと思います。

 それで、先ほど来の話とも関わりますけれども、例えば、ボロワー側の信用力が低下したときに、どのくらいデットの流通を今後促進していくのかということによる点もあるように思います。これだけスプレッドが小さい中で、担保の実行その他の方法で債権の回収を最大化するために努力をしたことによって担保権者が報われるようにするためには、相当信用が悪化した企業については、安く買って、高く売るというビジネスもある程度認めていかないと、お金の流れに結びつかないように思いますし、最初貸して、全資産担保あるいは事業担保を取るレンダーに対しては、それに合わせてエクイティーを入れることをどのぐらい認めるのかといったことも関わってくるように思います。もしエクイティー的なものが全くないとすると、セカンダリーで安く買って高く売ることをしない限り、少なくともレンダーは利息以上のものは取れないので、スプレッドだけでは解決できない問題もあろうかと思います。

 その点では、融資実務にとどまらず、銀行の業務範囲規制、あるいは株式保有規制にも関わってくる問題ではないかと思います。

 あと、堀内さんが先ほどおっしゃった、シンジケートなのか、1行なのかという点については、私はシンジケートも当然考えるべきだと思うのですけれど、1行かシンジケートかという問題よりは、どちらかというと、個別資産ごとに第1順位のレンダーが同じか違うかの問題が重要で、これが異なる状況の下では、いざワークアウトをしようとするときに結構大きな障害になっているのかなと思います。その点で、ある程度広く、それが事業全体を包括的になのか、もう少し限定的なのかはともかく、なるべく広く事業をつかまえられるようにしたほうが、資産ごとの切り売りにつながらず、一まとまりでワークワアウトすることにつながるように思います。ですので、基本的に事業資産一般について、第1順位が1行か、あるいはシンジケートだけれども、同じ面々が第1順位を取っているという状況は、金融実務のあり方として考え得るところです。現状そうなっていない場合も結構多いと思うので、1つの課題としてはあるかもしれないなと思います。

 あともう1点、商取引債権を保護しないと事業の継続ができないので、それは基本的には払い出されることが想定されると思うのですけれども、私は海外の事情にあまり詳しくないのですが、比較的よく言われることとしては、日本では商取引債権の支払サイトが相対的に長い場合が多くて、約束手形の利用その他の歴史的な事情もある程度あるのかもしれませんけれども、いざ危機に陥ったときに、残額といいますか、残存する商取引債務の残高が割と大きい。これが結構大きな問題になり得ると認識していまして、その辺りも併せて、融資実務ではなくて取引実務なのかもしれませんが、改善していく必要があるのかなと思います。以上です。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、中原さん、お願いいたします。

〇中原メンバー
 今回の事業の包括的な担保制度を議論する際に1つ気になっていますのは、利用する事業者の規模をどのように考えるのかということです。先ほど井上先生からも収益のお話がありましたが、融資からの収益を考えると、ある程度の規模の融資を予定しないと、包括的な担保権の設定を受け、モニタリングしながら取引を継続していくことのコストに見合わないように思います。

 それから、これは各論の話になりますが、包括的な事業担保のメリットは、危機的な状況に陥った時に、その事業をバラバラに売却するのではなく、事業全体を一体として譲渡する手段として使える可能性があることだと思います。ところが、包括的な担保権の設定後に、別の債権者が個別財産に対する後順位担保権の設定を受けた場合や、先順位の包括担保権者と後順位の包括担保権者の間で事業譲渡についての意見対立があつた場合などは、事業再生の障害になる可能性もあると思います。

 そして、事業譲渡をスムーズに行うためには、先行する包括担保権者が後順位担保権を消滅させる必要があるとか、そのために後順位担保権者の債権を買い取る、要するにメイン寄せ的なものが求められることにならないかが懸念されます。果たしてそれが正しい姿なのかどうかという点も含めて、議論をお願いしたいと思います。以上です。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。それでは、ほかにいかがでしょうか。

 若干またつなぎ的に私から感想1点ともう1点、両方とも感想みたいなものですが。すみません。

 1点目の感想は、私も、40年ぐらい前になるのですけども、初めてアメリカへ行ったときにびっくりしたことがあって、さっきマインドセットという話があったので思い出したのですけど、平時と有事ということでいうと、日本はお金を融資で貸していて、返済が滞ったり、若干返済に問題が出てくると、何だ、信頼関係はそこで終わりだみたいな、そういう感じがあるのですけど、アメリカはその逆で、貸していたお金が返せなくなったり、返済が滞ると、そこからレッツトークとか言って話が始まるのですよね。有事になると、そこから親しくなるみたいなところがあって、マインドセットが真逆だなということを非常に思いました。これは結局、市場環境とか実務というものが、何が良い悪いというお話ではないと思うのですけれども、こういう中小企業向けの金融っていうことでいうと、どういうふうに変えていくのかという大きなビジョンみたいなものを展望しながら、やっぱり制度も見直していくという話かなというふうに思います。

 それからもう1点は、堀内さんをはじめ何人かの方から御指摘のあった1行貸しか、複数貸しかという話で、これは中原さんからも今御指摘のあった債務者の規模にもよりますし、事業の業態によりますし、誰が貸すかにもよるので、一概には言えないと思うのですけども、1つ想定したいのは、1行貸しの世界がどうなるかというのはあまり日本は経験がなくて、それも、そうじゃなければいけないということでは全然ないのですけど、ちょっと想定してみたい世界だと思います。

 といいますのは、ジェネラルファイナンサーというのは、1つがまず包括的に貸す。次に出てくる貸そうとする人は、第2順位で貸すか、あるいはリファイナンスしてジェネラルファイナンサーになるかということで、そういう世界なのですよね、例えばアメリカのUCCの想定する世界というのは。もちろん複数いて良いわけで、複数じゃ駄目という意味では全然ないのですけど、日本は非常にそういう世界は遠いので、1人で貸せる場合でもわざわざ複数で貸してきたとか、そういう伝統もあるぐらいなので、もちろんそれはそのよさもあるので、そういうものは否定されるべきではないとは思うのですけれども、1行貸しという言葉が良いのかどうか分かりませんけれども、そういう世界でどういうふうになっていくのかということを想定してみるのは、それなりに新しい世界をつくるという、付け加えてつくるという意味ですけど、付け加えるという意味は何かあるように感じました。

 どういたしましょうか。今日まだあと時間、いただいている時間が残っています。さらにもしお気づきの点があれば、ぜひお出しいただきたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。追加での御発言、御質問とか。

 金融庁のほうから何か、こういう点をもう少し聞いておきたいということはありませんでしょうか。どうぞ。

〇石田参事官
 監督局の石田でございます。本日は貴重な御意見をいただき、ありがとうございました。

 神田先生からお話があった、大きなビジョンを展望してというところに関連して、補足的なお話をさせていただきます。先ほど星先生や他の先生方からも御指摘がございましたとおり、この担保の話だけで、金融の実務が変わるということは多分考えにくくて、他にも様々な要因が関係しているのだと思います。最初に伊藤社長のお話の中で、銀行の行動が横並びだというお話がありましたが、これは金融行政においても、2000年代前半の不良債権問題を解決するために、ある意味で画一的な基準の中で、厳格な資産査定を進めるなどした結果、その弊害として、金融機関の横並びを助長したという面も指摘されております。しかし、金融をめぐる環境は大きく変化しまして、現在は、日本の経済成長のためにも、事業者の成長を支えるため、リスクを取れるような融資行動も求められるようになっております。金融庁としても、そうした問題意識の中で、たとえば事業者さんの事業を見た融資を促進するとか、さらには横並びを助長するといった弊害が指摘されていた金融検査マニュアルを廃止するなど、様々な取組みを進めてまいりました。 今回の包括的な担保権のご提案も、これまでの取組みの一環でございまして、事業者さんを支える融資をもっとやっていきたいという金融機関さんがいたときに、こういう法制度の面でも何かサポートできることはないだろうかという問題意識の中で、ちょうど法務省さんの御議論もあるというので、我々なりにいろいろ考えて、こういった場を設けさせていただいているところでございます。

 そういう意味で、大きな問題意識としては、今、これは金融機関だけの問題ではないのだと思いますけれども、リスクを取るというところが非常に日本の金融で弱くなってしまっているのではないかと。リスクの管理はもちろんしないといけないのですけれども、日本経済の成長ということを考えていったときに、リスクを取る人を応援していくということを積極的にやっていかないと、なかなか次の経済の発展につなげていきにくいのではないかという意識がございまして、この担保の面でも、何か考えて、そういうことを後押しできないだろうかということでございます。以上、少し補足をさせていただきました。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。この研究会、今おっしゃっていただいたような問題意識に支えられていると私も理解しておりまして、また、オブザーバーとして、銀行協会さんだけでなくて、地銀協、それから信金、信組の協会さんにもオブザーバーとして御出席いただいておりますので、ぜひ、やはり現場の声みたいなところから、今金融庁からお話がありました方向へ、金融機関自体が、今後進んでいくというときに、こういう点が重要ではないかという点がありましたら、ぜひ御指摘いただければ大変ありがたく思います。

 ほかにいかがでしょうか。さらに追加での御発言等はございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。

 そうしましたら、予定した時間よりは早いのですけれども、今日はオンラインの会議の練習みたいなところもあって、やや一部、接続が不安定な方もいらっしゃって、大変申し訳ありませんでしたけれども、練習を重ねることによって、こういう形でも実質的な議論ができるような、そういうことにできればと思っておりました。そういう意味では、今日は多くの方々から非常に活発な、また、貴重な御意見をいただけましたので、今日はこの辺りとさせていただきたいと思います。

 繰り返しになりますけれども、皆様方から大変貴重な意見を多数いただきまして、どうもありがとうございました。長時間にわたり熱心に御議論いただき、また、進行にも御協力をいただきましたことに厚く御礼申し上げます。

 本日いただきました御意見等を踏まえて、次回からは具体的な制度のイメージを中心に御議論をいただくことになりますが、何せ難問が多いというか、連立方程式がいっぱいあるような感じなので、どういうふうに御議論をしていただいたら良いのかも分からないところがあるのですけれども、また皆様方にも事前に個別に御相談をさせていただくことも含めて、先へ進んで、何か良い方向性というものを提言なりできればと思います。そういうことにさせていただきたいと思います。

 何か、進め方等についての御質問とか御要望とか、ありますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。

 それでは、最後に事務局から連絡事項をよろしくお願いいたします。

〇尾﨑総務課長
 ありがとうございます。神田先生がおっしゃいましたように、今日は非常に多岐にわたる御議論がありましたので、こちらのほうでまたその辺は整理させていただきまして、次回以降、また議論できるような形に持っていきたいと思っております。

 次回の日程は11月25日、時間は同じく9時からを予定しております。本日に続きまして、朝早くからのお時間となりますけれども、よろしくお願いいたします。

 それから1点、この研究会におきまして、メンバーの皆様の御予定調整につきましては、金融庁の有志が開発した、スマホ等で簡単に御予定を共有いただけるツールを活用させていただきました。皆様からこのツールを御使用された率直な御感想をいただきたく、後ほどアンケート調査のお願いをメールでお送りいたしますので、お時間のあるときに御回答いただければ幸いでございます。

 事務局からは以上でございます。

〇神田座長
 どうもありがとうございました。

 それでは、この全面オンラインという形式での会議で、長時間にわたり熱心に御議論をいただきまして本当にありがとうございました。

 以上をもちまして、本日の研究会は終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。
 
以上

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