「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会」(第2回)議事録

1.日時: 令和4年11月30日(水曜日)15時00分~17時00分
 
(ゲストスピーカーによる英語での発言はご本人または所属組織に確認したものではなく、通訳の発言を事務局で修正したものになります。)
 
【根本座長】  それでは、ただいまより脱炭素等に向けた金融機関等の取組に関する検討会、第2回の会合を開催します。
 
 座長を務めさせていただきます、早稲田大学の根本でございます。皆様、御多忙のところ御参集いただきまして、誠にありがとうございます。
 
 本日はワーキンググループのヒアリングとして、GFANZのRookeさん、それからPCAFのWeiさんが特別なゲストとしていらっしゃっています。Rookeさん、Weiさん、本日は本当にありがとうございます。ロンドンからということでフライトが長かったと思います。2人のお話を伺った後、ゲストを交えまして、金融機関のネットゼロに向けた具体的な取組について議論したいと思います。
 
 具体的には、産業界と金融界がどのように連携し、そして野心的かつ現実的な移行計画を策定すべきか。そして、効果的な取組をグローバルに推進するために、官民が果たすべき役割は何なのか。それから、移行計画を実現するために、資料全体で残された課題は何かについて議論してまいりたいと思います。
 
 まず、事務局よりワーキンググループのメンバーに、2人のゲストを簡単に紹介してもらいたいと思います。
 
【西田サステナブルファイナンス推進室長】  ありがとうございます。そしてRookeさん、Weiさん、どうもありがとうございます。
 
 座長から説明がありましたとおり、まずはGFANZのRookeさんから、次にPCAFのWeiさんからプレゼンテーションいただきまして、その後約75分間、プレゼンテーションの内容やその他関連事項についてディスカッションと質疑応答をしたいと思います。
 
 GFANZは、御存じのように、Glasgow Financial Alliance for Net Zeroの略で、経済の脱炭素化を加速させることを約束した主要な金融機関のグローバルな連合体です。2020年7月に結成され、その傘下には5つのセクター別アライアンスがあります。その中には日本の金融機関も数多く参加しています。Rookeさんは、GFANZにおいて、金融機関の実体経済移行計画への期待を実現し、金融機関がネットゼロ目標、行動、モニタリングにおいて、セクター別パスウェイを理解して適用できるよう支援する責任を担っています。
 
 PCAFに関しましては、日本の金融機関によく知られていますとおり、Partnership for Carbon Accounting Financialsの略で、金融機関の排出量の測定と開示を標準化するための業界主導のグローバルな取組です。Weiさんはアジア太平洋地域リーダーとして、アジア太平洋地域における全てのPCAF活動をリードし、PCAFの技術支援チームのメンバーでもあります。
 
 それでは、お願いいたします。
 
【Tony Rooke様】  根本さん、ありがとうございます。それから西田さん、御親切な御紹介をいただきまして、ありがとうございます。
 
 Tony Rookeと申します。GFANZのエグゼクティブディレクターを務めております。今日は、同僚のBen Weisman、Ronan Hodgeも一緒に、オンラインで参加しております。今日はお招きいただきありがとうございます。この場でお話できて光栄です。
 
 次のスライドに進んでいただければと思います。GFANZというのは連合体でありまして、アセットマネジメント、アセットオーナー、銀行、保険、金融サービスプロバイダー、それから投資コンサルタントといった7つのネットゼロのアライアンスから成っております。ガイダンスや見解、ツールを提供することで、7つのアライアンスと金融機関メンバーをサポートし、ネットゼロの経済を実現しようとしています。2021年の4月に始まりまして、そして、今年になって、550以上の金融機関がネットゼロにコミットメントしている状態です。それらの金融機関は、7つのアライアンスのうちのどれかに属しています。
 
 次をお願いします。2022年を通じて、我々はネットゼロのコミットメントをサポートする作業にフォーカスをしてきました。これは5つの柱から成っています。まず、金融機関がネットゼロコミットメントを達成するための移行計画のフレームワークをつくり、そして、トランジション・ファイナンスの意味を明確にすることです。この中には、4つのサポートワークストリームがありまして、そこで金融機関の移行計画策定とその実施をサポートしています。また、資産ポートフォリオとのアライメントを測定、そして、脱炭素化が不可能な多排出資産の段階的な廃止を管理します。それから、企業のデータや情報をもとに意思決定するツールとしてセクターごとの脱炭素化のパスウェイを選定し利用しています。そうすることで、効果的な資本配分によって金融機関が顧客や投資先を助けることができます。これが最初の柱です。
 
 2つ目の柱は、資本の流動化ということで、途上国の市場や経済におけるネットゼロへの移行を支援する資本の拡大及びその加速化です。
 
 3つ目は、規制環境が経済のネットゼロへの移行をサポートし効率的な資本フローを可能にするよう、当局者と協同、エンゲージすることです。そして、金融機関をサポートするという意味で、我々は運営委員会をつくっております。オープンな気候変動データの透明性を高めるということで、金融サービスプロバイダーやNGOなどとパートナーシップを組んでこれを行っております。
 
 それから、最後の柱ですけれども、どうやって課題を克服しエネルギーシステム移行へのファイナンスを可能にするかに注目しています。経済が脱炭素化エネルギーの安全性と供給可能性の両方を満たすことを可能にするという点で、非常に重要です。
 
 では、次のスライドをお願いします。先ほど言いましたように、今年作業を行った非常に重要なことのひとつは、トランジション・ファイナンスの広義な定義をしていくということです。その中には4つの支援戦略があります。
 
 1つ目は、気候変動対策ということで、多排出な活動を代替し変化する需要に合わせていくということです。2つ目は、既にネットゼロまたは1.5℃目標に整合性のある企業の支援です。3つ目は、ネットゼロまたは1.5℃目標に整合することにコミットしている企業のサポートです。それから4つ目は、責任ある形での多排出資産、特に脱炭素化が不可能な資産のフェーズアウトへの金融支援です。これらは脱炭素化が不可能な資産です。
 
 これらが、コミュニティそれから人々のため、そして、経済の脱炭素化を加速化しながら、移行中の経済の混乱も抑えるようにするための4つの主要な戦略であります。
 
 次のページをお願いします。これらの移行戦略ですけれども、これによって金融機関、それから企業は、予期せぬ結果を避けながら脱炭素化を図っていくことができます。例えば、多排出セクターから資金を引き揚げ、低排出セクターに投資する、紙面上だけの脱炭素化というものもあります。もしかしたら紙面上ではポートフォリオが脱炭素化するかもしれませんが、多排出資産の受け取り手がその資産の脱炭素化や計画的なフェーズアウトにコミットしない限り、経済全体の脱炭素化にはなりません。こうして、経済を脱炭素化せずにバランスシート上では脱炭素化できてしまうのです。これが「紙面上の脱炭素化」の意味するところです。 
 
 実際、多排出セクターは気候変動のソリューションや自身の移行計画への投資を可能にするために、資金を必要としています。その企業が脱炭素化できることを条件とした場合に、トランジション・ファイナンスが提供されています。
 
 次のスライドに進んでください。このスライドでは、セクター別パスウェイ、そして移行計画策定プロセスの一部として金融機関が利用する実体経済での移行計画がどのようになるかということで御説明をしていきたいと思います。セクター別パスウェイと実体経済の計画について、そして、金融機関と金融機関の移行計画がリンクしているということについては、後ほど、詳細を御紹介させていただきます。
 
 次のスライドです。まず、我々が最初に取り組んだことの一つは、ネットゼロの移行計画というものが何なのかの定義づけです。そして、ネットゼロの移行計画というものはアクションプランであるということで、GFANZといたしましては、実体経済における脱炭素化を図らなければいけないということで注力をしております。
 
 次のスライドです。ネットゼロ移行計画の枠組みを策定いたしまして、それは10の構成要素が5のテーマにグループ分けされている構造を取っています。我々は、移行計画やネットゼロへのコミットメントにおける説明責任と信頼性をより強固なものとすべく、このような構造にしました。次のページにいきまして、こちらが詳細の御紹介になります。
 
 こちら、5つのテーマ全体を構成しています。移行計画を手掛ける際、組織の目的と優先事項は何か、そして、その戦略をどのように実施をしていくのか。戦略とは、製品とサービス、活動と意思決定、そしてポリシーと外部条件のことです。そして、どのような形で、様々なアクターとエンゲージするのか。アクターとは、顧客や投資先企業、業界、政府、そして、パブリックセクターを指します。また、どのような指標や目標が設定されるのか。そして、最後に説明責任のメカニズム。これは、ガバナンスの下、役割と責任、報酬、そしてスキルと文化を指します。
 
 次のスライドでは、指標と目標の構成要素を深堀します。GFANZの移行計画ガイダンスでは、3つのカテゴリーと指標を設けております。それには、ファイナンスドエミッションに加え、移行計画自体の実施にフォーカスした指標や、実体経済の排出量削減にハイライトした指標が含まれています。
 
 実体経済の排出量削減にハイライトした指標は、4つの投融資戦略に特化しています。さらにGFANZといたしましては、金融機関に1.5℃目標との整合性を評価するフォワードルッキングなツールとするため、ポートフォリオに沿った測定方法のメソドロジーも推奨しています。さらに、気候変動ソリューションや多排出資産の計画的なフェーズアウトに関連する、新たなアプローチが必要な追加の領域も特定しています。
 
 次のスライドでは、セクター別パスウェイと実体経済の移行計画という2つのワークストリーム、この2つのワークストリームは私がリードをしているのですけれども、この2つについて御紹介したいと思います。金融機関向けのセクター別パスウェイのガイダンスが今年7月に公表されました。ネットゼロ移行のパスウェイを理解、比較、選択するためのフレームワークを示し、投資先のセクターがどのように脱炭素化していくかを金融機関が理解するのに有用なツールとなっています。
 
 そして、どのような脱炭素化の手段がパスウェイの中でモデルとして採用されているのか。いつ、どこで、どのくらいの規模で脱炭素に向けた方策がその業界において展開されるのか。しかし、どのパスウェイが、GHGの排出量の削減と取るべき投資や行動をリンクさせる有用なアウトプットを提供できるのか。そして、金融機関は顧客や投資先企業からもトランジション・ファイナンスのニーズをよく聞くということが必要になります。金融機関と顧客の対話を通し、脱炭素化商品の開発に向けたプラン、気候変動ソリューションや移行計画に投融資することができるのです。
 
 開示は、既存の開示、目標設定、移行計画を精査するイニシアチブの統合をし、それにリンクさせるものです。2023年当初に、この2つのワークストリームから、一般的に使用されているセクター別パスウェイを分析し、日本にも非常に関連の深い分野である航空、石油・ガス、それから鉄鋼の3つのセクターに関して、固有の開示を示した成果物を公表する予定です。
 
 次のスライドです。セクター別パスウェイは、先ほど申し上げたように、金融機関がネットゼロへの目標設定から移行計画の実行に至るまで全てのステージで活用できる有用なツールです。フレームワーク・ツールの中でセクター別パスウェイを理解し選択できるようになるには、3つの主要な質問があります。
 
 まず、どのようなパスウェイのスコープと野心があるのか。例えば、どのようなセクターや地域がスコープに入っているのか。パスウェイでどのように移行が達成されるのか。モデルはどのように作られているのか。また、その前提はどのようなものなのか。1.5℃のパスウェイと整合性のある炭素予算に沿ったGHG排出削減のパスウェイはどの程度信頼できるのか。また、必要な規模で他の手段は展開できるのか、それらの排出量の削減はいつ達成できるのか。
 
 次のスライドに進みます。先ほど申し上げましたけれども、3つのセクターレポートを公表しており、それらのレポートの中で、それぞれのセクターで利用可能なパスウェイの選択について分析し、図解しています。1つ目は、1.5度の目標に沿ったパスウェイとは何か。2つ目は、どのような脱炭素化の手段を特定するか。3つ目は、定量的なマイルストーンやストーリーを提供するパスウェイ間の類似点と相違点は何か。4つ目は、そのセクターの脱炭素化に必要な投資の規模を想定したパスウェイからのみ得られる情報は何か。そして、5つ目は、セクターの移行をサポートするために必要なアクションは何か。また、TCFD、ISSB、CDP、TPI、Climate Action 100+、Science Based Targetsなど既存のイニシアチブについても、セクターごとにどのような開示が推奨されているか、整理しました。
 
 次のスライドに進みまして、こちら、実体経済の移行計画になりますけれども、企業の移行に向けた投融資を行うにあたりまして、金融機関はその移行に関する情報が必要になります。先ほどのスライドの中でも説明させていただきましたけれども、これらのワークストリームは、企業が必要とする重要な移行計画情報を抽出し、これをカバーする既存のガイダンスや開示を参照することで、企業が既存の仕組みを利用して移行計画を開示することができるようにするものです。
 
 TCFDと同様に、当初は任意開示であったものが、現在では義務化されつつあります。いくつかの国では、移行計画というものが気候変動開示の必須になり、ISSBから移行計画の開示に関するより多くの基準が出始めるとみています。各国では、移行計画の義務付けや推奨について独自のアプローチがとられていますけれども、我々は、企業、投資家、その他利害関係者が統一されたグローバルなアプローチによって利便性の高いもの、即ち、TCFDの下でグローバルスタンダードを採用することを提唱したいと思います。GFANZといたしましても、英国の移行計画タスクフォースと密接に連携し、各国の開示要件がそのグローバルなベストプラクティスと整合するようにしています。また、金融機関自身も、顧客や投資先企業に対してエンゲージメントを行い、評価、調整、進捗に必要な情報を持っていることを示すことで、移行計画の策定を促す役割を担っています。
 
 次のスライドでは、実体経済の移行計画の構成要素についてお話します。これらの構成要素は、金融機関のものと共通しています。5つの重要なテーマは、まず、企業としての目標とプライオリティーを理解する基盤。そして、それぞれの事業の中でどのように実行していくのか。バリューチェーン、産業界、政府とのエンゲージメント。進捗を確認する指標とターゲット。そして、説明責任と移行計画実行のガバナンス。
 
 次のスライドをお願いいたします。これは新たな開示のフレームワークを求めているわけではないことを強調しています。もう既存の情報はたくさんありますが、既存の開示のフレームワークが、企業が移行計画や進捗状況を明確にするために役立つことを正確に示しています。各金融機関は、自らの投融資判断の一環として、企業の移行計画を評価する独自のアプローチをもっているでしょうが、現段階では、移行の正確な道のりにはまだかなりの不確実性が残っています。
 
 GFANZは、政府に対して、金融機関と企業の両方が国レベルで気候変動へのコミットメントを達成するためにどのような政策をとるのかより明確に理解できるような、経済全体の移行計画を策定するよう求めています。日本の金融機関の中には、排出量の多い顧客が直面している制約を理解し、エンゲージメントを行い、その移行目標を達成するために積極的な取組を行っていらっしゃるところがあり、非常に好ましいと思いました。そして、これらの制約や政策的な制約を特に政府に伝えることが非常に重要になります。
 
 次のスライドを見ていただきますと、ここでは中小企業やその他の企業が移行に着手する際に、移行計画をそんなに急に進められるわけではなく、包括的な計画を策定する能力もないことが明らかになっています。ここでは、中小企業の移行を開始するための優先分野を特定するために、図解しました。
 
 次をお願いします。先ほど言いましたように、GFANZは移行計画に関して、資産の早期償却を含む移行を支援するための4つの投融資戦略を紹介しています。今年我々は、金融機関やその顧客が利用できる信頼できるネット・ゼロ・ラインのアプローチを確保するために、多排出資産の計画的なフェーズアウトのコンセプトを開発しました。6月に公表したレポートでは、GFANZは、パートナーとして協力をして、1.5℃目標との整合性を確保しつつ、グローバルな経済の脱炭素化の一環として計画的なフェーズアウトを発展させるべく、9つのアクションを提示しました。このアプローチをさらに発展させ、最終的には金融機関や実体経済の移行計画のガイダンスに統合するという内容が含まれています。時間があれば、私たちが進める主な活動のいくつかを紹介したいと思います。
 
 まずは、Rocky Mountain Instituteに委託して、最も需要があると思われる石炭の段階的廃止に関する簡単なガイドを作成しました。このアプローチの指標と目標は、ここで信頼性の構築を開始できるように定義されており、資金調達メカニズムは、読み取ることができるさまざまなアプローチに関するガイダンスを提供します。
 
 2つ目、石炭に関して、アジア太平洋地域での関心が高いです。次のスライドをお願いします。そこでワークストリームをアジア太平洋地域で確立して、アジアでの石炭の段階的廃止に特化したガイダンスを開発していきます。これによって、5,500の稼働石炭施設にインパクトを与えたいと思います。
 
 この作業は、そのガイダンスの中で捕捉すべき3つの主要分野として既に示されています。1つ目はトランジションの信頼性、2つ目は財務的な実現性、3つ目は社会経済的な包摂性です。
 
 まず、財務的な実現性というところでは、取引の経済性に関連するものであり、段階的廃止取引を採用し管理する際の評価の影響をどのように実証するかを検討しています。特に、収益の流れを抑制していると見られる可能性のある取引の経済性をサポートする可能性のある機能の一部を把握し、定量化しています。
 
 2つ頭に入れておくべきことがありまして、1つ目はこれらの資産の資本コストへの影響です。管理された段階的フェーズアウト計画が実施されると、主流の金融では石炭火力発電がますます避けられるようになります。もう1つは、カーボンクレジットや当該敷地の販売やリースからの代替的な収入源を探る可能性です。コネクティビティや電力のオフテイク契約さえも、です。
 
 次のスライドお願いします。特に関心を持っているのは、カーボンクレジットのコンセプトです。これはクレジットを創出することによって、リスク・リターンの観点から取引を魅力的なものにするだけでなく、計画的フェーズアウトを加速することも効果として狙えます。
 
 ここでもう一度伝えたいのですが、この機会をいただき非常に感謝しております。御参考になれば幸いです。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
 
【根本座長】  Rookeさん、プレゼンテーションありがとうございました。
 
 オーディエンスのほうから質問が既に出ているかと思いますが、まずはWeiさんのプレゼンテーションに移りたいと思います。そして、その後御質問を受けたいと思います。Weiさん、お願いします。
 
【Tiange Wei様】  温かい御紹介ありがとうございます。皆さん、こんにちは。この場に来ることができうれしく思います。Tiange Weiと申します。PCAF事務局にてアジアパシフィックの代表をしております。この場で、PCAFの金融排出量測定の価値とGHG会計の導入についてお話しできることを嬉しく思います。
 
 次のスライドに進んでください。これは見たことがある図かと思いますが、金融機関は、投融資を通じまして、間接的に気候変動に影響を与え、ファイナンスドエミッションはこれらの気候影響に関連するGHG排出量を指します。特にGHGのプロトコルは、金融機関のスコープ3カテゴリー15で、これらのGHGを定義しています。この図では、排出をスコープに分けており、スコープ1は直接排出、燃やすもの、スコープ2は電気の購入、それからスコープ3は間接的な排出ということで、15種類のカテゴリーに分けています。PCAFは、ここの15個目のカテゴリーにフォーカスしています。したがって、スコープ3カテゴリー15の排出量ですけれども、金融機関による気候への影響の一番大きなところになります。
 
 そして、金融セクターは変化を推進するパワーと資本を持っています。グローバルな金融機関のポートフォリオ排出量は、CDPのリサーチにありますように、平均して直接排出量の700倍です。したがって2050年までにネットゼロほかの炭素削減目標を達成するためには、金融機関がポートフォリオの脱炭素化を行うことが必要であり、金融機関の現在のファイナンスドエミッションのレベルから、進捗を測定するための基礎を設定することになります。
 
 次のスライドをお願いします。このスライドでは、パリ協定の戦略的フレームワークを紹介します。もしご興味がありましたら、このフレームワークに付随するペーパーもあります。それぞれの構成評価を御説明します。気候変動という喫緊の課題に立ち向かうためには、これはこれまで以上に喫緊となっておりまして、パリ協定の目標でもある産業革命前より1.5℃高い水準までにとどめるということですけども、社会の全てのセクターが脱炭素を行う、2050年までにネットゼロを達成する必要があります。したがって、金融セクターは1.5℃シナリオに沿った移行を促進することができます。そして、2050年までにネットゼロを達成するための最初のステップは、測定及び開示することであり、図の一番左側にあるのが最初の構成要素になっています。
 
 そして、金融機関が排出する可能性のある排出量の定量化をするということによりまして、金融機関は排出のベースラインをつくることができます。そして、そのベースラインは、科学に基づく効果的な排出削減目標を設定し、それに応じた戦略を策定、実行するために利用することができます。
 
 ここで忘れていけないのは、継続的な進捗の管理が必要ということであります。これは反復プロセスだということを2つの矢印が示しています。トニーさんが少し触れましたように、このプロセス全体を通して、様々な気候変動イニシアチブが存在します。そのため、PCAFではこれらのイニシアチブと協力して、取り組みが整合的であることを確認しています。また、PCAFは現在、この中で、最初の一番左、算定と開示のところにのみフォーカスをしています。
 
 では、次のスライドをご覧ください。PCAFの現状についてもう少し共有し、エキサイティングな進展と発展について説明していきたいと思います。PCAFは、Partnership for Carbon Accounting Financialsということで、ファイナンスドエミッションの測定と開示を標準化するための業界主導のグローバルイニシアチブになっています。2015年にオランダの金融機関グループから始まりました。そして、2018年に北米で事業を拡大し、2019年にグローバル化しました。基本的に、PCAF事務局と協力し、全体的な戦略と方向性を設定するグローバル運営委員会によって運営されています。
 
 たった3年でここまで成長いたしましたが、私たちは今どれほどの規模なのでしょうか。次のスライドに移り、現在の状況をお見せします。現在、63か国以上で340以上の金融機関がPCAFに加盟をしています。そして総資産額は85兆ドル以上になります。この成長を喜んでおりますし、また、この金融業界の勢いというものを感じております。
 
 そして、ファイナンスドエミッションの測定において金融機関のサポートを継続させるため、PCAFとして2つの目的を掲げております。1つ目が、金融機関におけるグローバルなGHGの会計、報告基準を開発するということ。基本的にこれには、ファイナンスドエミッションを定量化するメソドロジーが含まれています。そして、2つ目は、この基準を採用しそして公表する金融機関の数を増やすこと。これを2022年の末までに250の金融機関まで増やしたいということで掲げ、今年の4月に既にこれを達成しました。しかし、PCAFといたしまして、加盟金融機関を引き続き支援いたしまして、そして、将来的な加盟団体に対してもサポートを提供してまいります。こちら、PCAFの加盟機関のリストもスライドのリンクから御覧いただけますし、また、会計報告基準の最初のセクションをダウンロードできます。
 
 次のスライドに移りまして、こちら、グローバルにおける成長を示すグラフです。まず小規模に設立されまして、そして現在ではアジア太平洋地域での規模の拡大と勢いを見ることができます。アジア太平洋地域の金融機関からのサポートにはとても感謝しています。

 2019年9月にPCAFグローバルを設立して以来、先進国や新興国の金融機関の多くがファイナンスドエミッションについて考え始め、PCAFに参加するという行動を起こし始めています。日本におきましては、COP26の期間中である2021年11月にPCAFジャパンを設立しました。PCAFジャパンの事務局も今日は参加をしてくださっています。PCAFジャパンは、CSRDが同意している投資アドバイザリーによってサポートされています。
 
 では、次のスライドに移りまして、PCAFアジアパシフィック、それからPCAFジャパンについてお伝えをしたいと思います。現在、PCAFに参加する金融機関の20%以上が、アジア太平洋地域の金融機関です。そして、その金融機関の総額は23兆ドルを超えます。現在日本は、最も急成長を遂げている市場の1つということになります。日本では、24の金融機関が加盟をしておりまして、17兆ドルが金融資産の総額になります。そして、PCAFジャパンは、議長がみずほファイナンシャルグループということで、PCAFジャパン事務局がサポートしております。そして、過去6カ月間のPCAF署名のうち25%以上は、アジア太平洋地域が占めていました。
 
 次のスライドをお願いします。過去3年間、PCAFは、金融機関によるGHGの算定と世界的な開示の導入に影響を与えてきました。我々の達成したこと、ということで、もう少しスライドにスペースがあればよかったのですが、幾つか御紹介したいと思います。

 現在のところ、305の金融機関がネットワークに参加してくださっていますけれども、99の金融機関が少なくとも1つ、PCAFと整合的な開示をしています。そして、トップダウンだけでなくボトムアップ、両方のアプローチを行っておりまして、グローバルなイニシアチブと協力しています。例えば、PCAFのスタンダードがTCFDの開示要件や、金融機関のためのSBTiのガイダンスと整合しています。
 
 そして、ファイナンスドエミッションは、様々な国際的枠組みにおいて重要な指標として含まれています。また、PCAFが1つの事例ということで、推奨されるアプローチということで紹介されております。そして、私たちは継続して協力し、2050年までにネットゼロを達成いたします。ここから、PCAFの基準と、それからメソドロジーについて御紹介したいと思います。
 
 次のスライドをお願いします。2015年以来、PCAFの参加者はこのGHGの算定方法を開発し、テストしてまいりました。グローバルで調和の取れたスタンダードということで、PCAFのスタンダードは、GHGのプロトコルスタンダードのスコープ3への延長とみなされています。なぜなら、PCAFのスタンダードはGHGプロトコルに基づいて構築されており、GHGプロトコルのレビューを受ける必要があるからです。つまり、企業のバリューチェーンで規定されている全ての要件に整合性があるということで、こちらがスコープ3の会計基準ということになります。そして、こちらの図で表示しておりますとおり、こちらがGHGプロトコルによるスコープ3の基準です。そしてこちらは2011年に公表されているものでして、PCAFはオランダにおきまして2015年に設立され、そして、ファイナンスドエミッションを測定するという意味で、様々な会計基準を開発しテストしてきました。その結果、PCAFの最初のスタンダードが2020年に公表されました。現在、PCAFのスタンダードの初版には6つの資産クラスが含まれています。
 
 次のスライドです。ここでは、6つの資産クラスがそれぞれアイコンで示されています。PCAFは1つのソリューションであり、基準の中のメソドロジーはセクターに縛られるものではなく、資産クラスでクラス分けをしております。このスライドの各アイコンの下に幾つか等式が並んでおりますけれども、基本的にGHGの会計の概念は、金融機関向けということであれば、銀行、資産運用会社、保険会社などとしてのものであり、投資先の排出量の一部における自社の貢献量を示しています。したがって、この式の分母や分子はそれぞれ変わってきますけれども、コンセプトは同じです。
 
 計算方法や数式に関して更なる情報としては、第5章、第10章の中で詳細が記述されています。需要と金融のポートフォリオの性質を認識して、ここの6つに分けた資産クラス以外にも多くの資産クラスがあることがわかります。
 
 次のスライドに移りまして、今後の発展ということで御紹介したいと思います。3つの新たな報告書と6つのケーススタディを現在まとめているところです。また、このスライドにもある、ファイナンスドエミッション、ファシリテーティッドエミッション、それから保険関連のエミッション、の3つの用語についてフォーカスしたいと思います。
 
 ファイナンスドエミッションに関しては、GHGの排出が、例えば金融機関からの投資や融資であることに言及しました。PCAF事務局では、市中協議で頂いたフィードバックを統合し、PCAFスタンダードの第2版ということで公表する予定です。そこには、ソブリン債からのファイナンスドエミッションや私がワーキンググループをリードしている排出除去を説明する方法についても含まれます。それがファイナンスドエミッションの部分になります。
 
 そしてファシリテーティッドエミッションになりますけれども、こちらは1つ、事例を御紹介したいと思います。例えば投資銀行だとしますと、資本市場ビジネスがあって、資本市場チームでデリバティブやスワップを取引して、IPOアドバイスするとします。このような排出をどう説明するか、これはファイナンスドエミッションではないけれども、こちらは促進されている排出量だということになります。そこでPCAFはワーキンググループを設立し、モルガン・スタンレーとバークレーズが共同議長を務めて、資本市場活動からのファシリテーティッドエミッションの測定と定量化の方法を検討する取組を進めています。計算方法のドラフトは市中協議として既に公表されており、最終化されたものは2023年の初めには公表できるかと思います。
 
 そして、最後になりますが、保険関連の排出量ということです。保険会社の署名ベースには、アセットマネージャーだけでなく、様々な金融機関があります。そして、保険会社の様々な需要と署名ベースの拡大を認識し、実際にNZIA保険アライアンスと協力してワーキンググループを設置いたしまして、保険業に関する排出量を測定するための計算方法を開発しております。保険会社は資産運用ビジネスの一環で、PCAFの計算方法の第1版を使っていただくことが既に可能になっています。しかし、保険引き受けの計算方法ということで、NZIAと協力した新たな数式をもって定量化するということが可能になります。2週間ほど前に、チューリッヒでその方法が公表されたところです。そして、ベストプラクティスを共有し、質の高い開示をすることが重要であるということで、PCAFはスタンダードの第1版の下で6つの資産クラスに関する公式なケーススタディを公表する予定です。
 
 次のスライドです。第2版が今度出るわけですけれども、何が捕捉されるのか、また各ワーキンググループの成果物がどのように追加されるかをお話ししたいと思います。12月6日に新しいPCAFスタンダードを公表します。第2版の中には、新しいGHGの会計と、パートAであるソブリン債と排出除去の方法が含まれます。パートBはファシリテーティッドエミッションでして、2023年初めに公表される予定です。それから、パートCに関しまして、数週間前に公表された保険関連の排出量です。これは、このスタンダードの第2版に追加される予定です。また、スライドのリンク及びPCAFのウェブサイトから、保険会社向けの会計報告基準を既にダウンロード可能です。
 
 これは、金融機関が考え始め、行動を起こし、指標を特定し、絶対的な条件を定量化するのに役立つ計算方法であり、数式です。これをしっかりと認識することは、多くの場合、課題となります。
 
 次のスライドは、PCAFのエミッションファクタデータベースとなっておりますけれども、これはオープンソースのデータベースとなりまして、今、500万のエミッションファクターが入っており、アセットクラスごとに分類されています。
 
 これはウェブベースのデータベースとして、PCAFの全ての参加者に無料で提供されています。このデータベースを構築した理由ですけども、排出量のデータ収集が難しいことがあることを認識しているからです。このデータベースは、企業レベルのものではなく、コマーシャルデータを、CDPとかMSCIとか、そういったプロバイダーのものを合わせたものになっています。では、報告された排出量の実際のデータがない場合、金融機関はどのように排出量を測定し、定量化できるのでしょうか。金融機関は、物理的な活動ベースの、それから経済ベースのエミッションファクターを使用して測定でき、これらは全て捕捉されてPCAFのファクターデータベースに入っております。また、資産クラス別、セクター別、地域別にもなっております。
 
 データの品質のスコアリングと、正確性と進捗を測定する方法についてもう少し話したいと思います。このスライドの左側に、データスコアリングのフレームワークが示されています。これは、基本的にスコアリングの枠組みであり、金融機関が収集できるデータの種類とデータの質についてより理解し、ガイダンスを提供するのに役立ちます。スコア1というのが最高の質であり、これは監査済みのGHG排出データと直接取得データが入っております。スコア5というのが一番低いクオリティーになっておりまして、こちらはほとんどサポートされずに、推定されたデータということになっております。
 
 それから、右側にあります図ですけれども、X軸、これはデータ・クオリティのスコアです。Y軸がGHG排出量です。一番右上の隅のところに緑色の丸がありますけれども、これはどういう意味かといいますと、金融機関に対して、アクションを取ることによってデータのクオリティーが今は良くなくても少しずつ移行するように推奨しているということです。つまり、今のデータの質がスコア5であってもということです。こういった排出量の内容に関して排出量の大きさはわかり、ホットスポットを特定するのには、質が悪くても役立つということで、ないよりは含んだほうがいいということです。この緑色の丸は、実際にGHG排出量が非常に多いことを示しています。ですから、利用可能なデータは使うということで、金融機関にこれらの排出量を定量化し、ポートフォリオ上のホットスポットを理解し、時間とともに改善するような行動を起こし、戦略を立てていけばいいわけです。
 
 これが最後のスライドとなります。ここからは御質問をいただきまして、ディスカッションさせていただくのが楽しみしております。このような機会をいただきまして、ありがとうございます。非常に光栄です。ぜひ我々の活動内容をフォローしてください。次の第2版が出ますので、ぜひフォローしていただければと思います。
 
【根本座長】  Weiさん、ありがとうございます。
 
 それでは、ディスカッションに移りたいと思います。何か御質問がある方は、どうぞ。手を挙げてください。オンラインの方でも結構です。佐藤さん、お願いします。それから、次に藤井さん、お願いします。
 
【佐藤メンバー】  すばらしいプレゼンテーションをありがとうございました。佐藤勉と申します。国際協力銀行のアドバイザー及び金融庁総合政策局の参事をしております。
 
 私のほうから確認したいのですが、Rookeさんのプレゼンテーション、もしかしたら、PCAFにも関係するかもしれないのですけども、私の質問は言葉の定義についてです。ネットゼロという言葉、それからカーボンニュートラルという言葉なのですが、私の理解では、GFANZでは、基本的に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のRace to Zeroに準拠していると思います。Race to Zeroにおいては、ネットゼロとカーボンニュートラルの定義は同一でなく、両者には若干ですが違いがあるとされています。ネットゼロのほうが、カーボンニュートラルより厳格なものかと思います。もし我々がネットゼロを達成しようとすると、カーボンクレジットを使う上である程度の制約があるようです。
 
 具体的には、ネットゼロの場合は、like for likeの除去でなければいけないと書いてあります。つまり、オフセットの対象が(化石燃料使用に対応する)長期的な除去によってもたらされる必要があるということです。エキスパートによっては、森林、または再エネによるクレジットといったものは活用できないとの見解もあります。日本の企業にとってネットゼロの達成は非常に重大な関心であり、企業によっては、クレジットを使おうとしているところもあるかと思います。非常に重要かと思いますので確認したいと思います。

 2つ目の質問ですけれども、プレゼンテーションの20ページ目を見てみますと、石炭焚き火力発電所の閉鎖によってカーボンクレジットが発行されるとあります。こうしたアイディアはかなり以前からディスカッションされておりますが、京都議定書におけるCDMプロジェクト以来、かなり議論を醸す問題になっていたかと思います。未だ反対意見も多いかと思います。
 
 ネットゼロの達成には、火力発電所の閉鎖は重要な課題である一方、閉鎖にあたっては資金回収の問題が生じることから、資金確保の手段を確保したいというアイディアかと思いますが、どの程度実現可能性があるものかについて答えていただけたらと思います。
 
【根本座長】  御質問ありがとうございます。Rookeさん、お願いします。
 
【Tony Rooke様】  非常に良い御質問だと思います。これはいくつかの課題の根幹になっている部分かと思います。
 
 まず、最初のネットゼロ対カーボンニュートラルですが、ネットゼロというのは非常にクリアで、ネットゼロの達成というのは脱炭素によるものでなければいけない。そして最終的に、残りの排出を除去するためにはカーボンクレジットを使ってもいいということです。ですから、ネットゼロを達成するためには、一定の程度までは脱炭素化を行う必要があるということです。Race to Net Zeroの文脈では、サイエンスベースターゲットがガイダンスを提供しています。カーボンニュートラルはもう少し早期に発生するものであり、オフセットを行うことができる点が異なります。
 
 しかし、カーボンクレジットを利用、購入できないと言っているわけではありません。我々は特に、段階的なフェーズアウトなどを推進しています。会計基準上は、利用して即ネットゼロを達成することはできません。企業が脱炭素の取組を行わずにネットゼロを達成することを避けなければいけないからです。それが1つの重要な側面になります。ネットゼロの移行計画の中で、カーボンクレジットの購入を妨げるわけではありません。このようにしている理由は、顧客とポートフォリオサプライヤーの両者が、脱炭素の取組を行うことを支援するためです。バリューチェーンの中で他社の脱炭素化を支援することは、経済の安定化に繋がります。
 
 2つ目の御質問、排出権とマネージドフェーズアウトについて、質問がよく理解できなかったのですけれども、少し考え方をシェアさせて頂き、マネージフェーズアウトの担当者であるRonan Hodgeも参加しておりますので、答えていただけるかと思います。カーボンクレジットというのは、1つの手段ではあると思います。多排出資産の早期廃止のための資金やクレジットは、脱炭素化や多排出資産の廃止への介入を保証するものです。カーボンクレジットの仕組みは、この資産が座礁して、バランスシート上に巨額の負債として残ってしまったり、保険会社が返済不能に陥ったりしないように資金を提供するもので、そして、脱炭素化のための資金を生み出す方法となります。
 
 では、Ronanさん、追加はありますでしょうか。
 
【Ronan Hodge様】  排出量の多い資産や産業に対してカーボンクレジットを活用するということには懐疑的な見方があります。しかし、我々が示そうとしているのは、石炭火力発電などの早期撤退が、経済全体の脱炭素化にとって本当に重要な部分であり、ソリューションの一部であるということです。
 
 我々はパートナーと協力して、この分野で発生するクレジットが本当に回避される排出に関連するものであることを確認しようと考えています。世界で現在、代替エネルギー、再生可能エネルギーというものがありますが、まだ多くの電力購入の契約やレガシー契約のようなものが残っている状態です。そういったものが石炭からの移行を阻んでいます。石炭をフェーズアウトし、再エネを採用していく移行期にあるわけです。
 
 我々は、カーボンクレジットを、経済性の課題を解決するための手段であるとみています。これは我々にとって初期段階の作業であり、他の企業もこの分野で活動しています。特に、エネルギー転換の文脈で考えると、パートナーシップということで、インドネシアのプラットフォームの事例もございます。これは日本も深く関与されていると思います。このような分野は非常に重要であることは認識していますが、多くの精査が必要です。
 
【根本座長】  御質問への回答ありがとうございました。藤井さん、お願いします。
 
【藤井メンバー】  藤井と申します。グローバルリスクアンドガバナンス社の代表として金融機関のリスク管理のサポートをしています。
 
 Rookeさん、Weiさん、非常に内容の濃いプレゼンをありがとうございました。
 
 私の質問はRookeさんへのものですが、質問の前に、まずもってGFANZの取組み、そしてそれを非常にスピーディに短期間で進められた強いイニシアチブに感謝申し上げたいと思います。
 
 お聞きしたい質問は山ほどあるのですけれども、3つの質問に絞らせていただきます。1つ目が定義ないし要件について、2つ目がガバナンスについて、そして3つ目がモニタリングについてです。
 
 1つ目はGFANZメンバーの定義と要件ですけれども、資料の5ページにGFANZのメンバーはネットゼロを遅くとも2050年までに達成しなければならないとあります。日本の立場からするとこの要件をサポートしたいと思いますが、アジアという視点でいいますと、この要件では中国やインド等、ネットゼロ目標を2050年より先に設定している国の金融機関を除外することになってしまわないかと思います。中国、インドは、国別の炭素排出としては1位と3位ですので、GFANZのこうした要件の結果、これらの国々の金融機関が参加をためらうことでは問題になるのではないかと思います。
 
 このような質問をしているのは、日本の主に銀行に、中国、インドを含むアジアでトランジション・ファイナンスを提供することが期待されている事情もあります。GFANZに加盟する日本の銀行が、2060年、70年という目標を設定している国々におけるトランジション・ファイナンス案件を実行することが難しくなる懸念があるためです。GFANZの参加要件を決めるにあたってこのような議論はGFANZ内でされたのかというのが1つ目の質問です。
 
 2つ目はGFANZと傘下のアライアンスの間のガバナンスのフレームワークについての質問です。GFANZが傘のような組織として、傘下に色々なアライアンスを持っているということは理解しました。一方それぞれの機関は、それぞれの意思決定手続きおよびガバナンスのフレームワークを持っていると理解しています。こうしたGFANZとアライアンスの間で意思決定内容に対立があった場合はどのようにするのでしょうか。GFANZが調整役ということになるということでしょうか。それが2つ目の質問です。
 
 3つ目の質問は、モニタリングに関してです。アライアンスの参加金融機関は、電力や石油ガスといった主要業種に係る中間削減計画を策定することになりますが、8ページ右側に、削減計画達成を確実にするためのモニタリングが必要であるという記載があります。この計画の遵守のモニタリングはどのような形で行うのでしょうか。計画を立てた金融機関自身が自社でモニタリングを行うのでしょうか。削減計画の中には、将来の技術革新等の不確定要素も含まれているので、銀行が立てた計画を将来変更するような場合にそれがどのようにモニタリングされるのかという視点から、お伺いをしています。
 
 この質問をする背景は、本検討会では、日本国内の金融機関にどのようにして取引先への気候関連金融サポートを促すか、取引先へのエンゲージメントをどのように行っていくかといったことを検討しており、日本国内の銀行が自ら立てた削減計画を遵守していることをどのような形で確保するのか、という点の検討が必要になるためです。以上3点につき、よろしくお願いいたします。
 
【Tony Rooke様】  すばらしい御質問をいただきました。御質問を聞いていると、この部屋の皆さんの知識レベルが高いことが分かります。非常にクリティカルな御質問をされていると思います。条件や定義について、特に1.5℃は2050年までの目標ですから、まずは我々がつくったフレームワークを使うことはできます。目標が2050年であろうとなかろうと、またどの国、地域でも、金融機関であろうとなかろうと、です。それが最初の部分の答えです。
 
 それから、恐らく懸念されておられるのは、どのように日本の金融機関がアジアのそういった国、地域に投資をするかということだと思います。そういった意味では、いろいろなセンシティビティーや移行計画に関する仮定の要素があると思います。
 
 移行計画のアクションプランの中にはメカニズムがあって、そういった仮定が何なのか、条件が何なのかということを明確にすることによって対処できます。
 
 また、この分野に関しましては、我々は1.5℃のパスウェイを確立してきまして、2050年ということをめどにしておりますけども、それは我々のアライアンスがその条件に基づいているからです。しかし、これはさらに発展していくことのできる分野だと思っています。
 
 それから、ガバナンス、アライアンス、それから意思決定に関するものですが、加盟機関に対する条件を決めるのは各アライアンスです。我々は各アライアンスと協同し、それらを理解、調整などもしていきます、アライアンスがネットゼロの目標のもとにあることを確認しています。
 
 ここで、対立することも出てくると思います。でも、GFANZとしてアライアンスそのものの裁定を決めていくということではありません。我々の役割は、アライアンスメンバーをサポートすべく横断的な見方を、提供することです。
 
 最後の質問については、我々の同僚のほうからコメントもあるかもしれませんけれども、どうやったら、移行計画に沿っているかを確実にできるかということです。幾つかやり方はあると思いますが、GFANZ自体は審判ではないわけです。我々はマーケットベース、それと規制に任せるべきと考えています。
 
 我々が何をするかというと、ターゲットや移行計画の調整が行われるときに、データパブリックユーティリティー、オープンデータプラットフォームを提供することによって、企業単位だけではなく、金融機関から見た場合にも、そして誰もから同じように見えるように、そして同じベースラインデータを基に話ができるようにしています。
 
 今おっしゃった、もしプランを途中で変えるときにどうなるのか、企業によっては市場の状況が変わるにつれて戦略を変えることもあるということですけれども、そういった変更がネットゼロのパスウェイに沿っている限りは、ネットゼロへの移行計画として受け入れられます。ですから、そういった変更は尊重します。
 
 特にセクター別パスウェイを使っている場合です。これは今現在の環境や経済の状況に基づいて策定中ですけれども、そういった経済状況というのは変わっていく可能性もあります。例えば、英国の例を出しますと、2009年英国政府が電力システムを脱炭素化する移行計画を発表しました。そして、2020年までに石炭の割合が20%、再エネ30%、残りがガスになると予想していました。しかし、2020年、実際は、石炭はもう2%になり、そして再エネが60%になったわけです。ですから、ある分野についてはより厳格になったり、逆に別の分野によっては思ったよりも早く進めずに調整が必要となるかもしれません。
 
【根本座長】  御質問に対するお答え、ありがとうございます。次は黒﨑さん、お願いします。
 
【黒﨑メンバー】  この機会をいただきまして、ありがとうございます。プレゼンテーションありがとうございます。
 
 グローバルな観点を、GFANZ、PCAFから伺うことができてうれしく思います。独立ESGアナリスト、気候変動アナリストの黒﨑と申します。
 
 3つ質問があります。GFANZについては2つ、それからPCAFについては1つ質問があります。
 
 最初のGFANZに関する質問ですけれども、カーボンクレジットをまた持ち出してしまって申し訳ないですが、マネージドフェーズアウトについてです。現在のマーケットの状況を見ると、Removal(除去)クレジット市場の方が好まれる傾向にあります。それらは、ダイレクトエアキャプチャや森林、植林などからのクレジットです。一方、早期に閉鎖される石炭火力発電所などから組成されるカーボンクレジットは、Avoided emissionクレジットとなります。そういった意味で、どなたが買い手として想定されておりますでしょうか。排出権を買う側の立場として、マネージドフェーズアウトとなるために、どのようなことを考えればいいのでしょうかというのが最初の質問です。
 
 2つ目は、3つのマネジメントフェーズアウトの要素があるというお話でしたが、それは素晴らしいことだと思います。早くこれが起こるということは歓迎しております。コンセプトはいいと思います。でも、現実を見ると非常に難しい。トランジションクレディビリティと事案的実現性と社会経済包摂性、この3つの側面を全部達成しながら、早期のマネージドフェーズアウトを両立させるということになるととても難しいと思います。もうすでに、Just Energy Partnershipsの発表がされまして、投資される金額も提示されましたが、公的及び民間の資金を使って何をするのか、この3つの要素を満たしマネージドフェーズアウトを行うなどの具体的なお考えがありますでしょうか。それが2つ目の質問になります。
 
 GFANZについては、以上です。
 
 1点、PCAFについて伺いたいことがあります。私はPCAFについていろいろな質問を受けております。データの透明性とか、それから、債権について、そういった投融資先のPCAFメソドロジーにおける排出量の算定についてです。こちらのほうが、評価がより難しいのではないかと。評価機関からの観点からもそうですし、それから金融機関のファイナンスドエミッションを含めた排出量レポートという意味でもより難しいのではないかと思います。というのは、透明性が市場の中で少ないからです。PCAFの観点からはどうやって透明性の問題、債権の問題について、Debtプロダクトについてどのような支援をされるでしょうか。世界中の資本市場が今、サステナブルファイナンス関連の債券の発行を進めていますし、よりよいクオリティーのものを出そうとプロダクト、それから開示も改善させようとしています。また、日本もかなりプッシュをして、トランジション関係の金融商品をどんどん出そうとしております。そういった意味で、何らかのフレームワーク、枠組みを出されるのでしょうか。以上です。
 
【根本座長】  御質問ありがとうございます。Rookeさん、お願いします。
 
【Tony Rooke様】  Ronanさん、こちらマネージドフェーズアウト、avoided emissions、3つのフェーズアウトのコンセプトに関連した質問になりますので、お答えいただけますか。
 
【Ronan Hodge様】  またとてもいい質問をいただきました。カーボンクレジット市場の性質に関しては、多くの人がご存知のように、カーボンクレジット市場はヒエラルキーのようなものになっており、カーボンをキャプチャーして、実際に森林を再生するのではなく排出を回避したり森林を維持したりするよりも価値のあるものに変えていくことができます。買い手や仲介業者との初期の会話の中には、このようなクレジットに関して彼らが何を期待しているかを理解したいということがありました。現在においてはそのような需要があるということが示唆されており、まず達成しようとしていることは、このクレジットに関して何が必要か、ここ数年は減少しないかもしれないような需要に対してコミットできるかどうかを把握することだと思います。
 
 しかし、非常に印象的なことの一つは、社会経済学的な影響のいくつかであり、同様にこのようなクレジットに潜在的に価値を与えることです。即ち、地域社会や労働者などへの影響を考慮した計画を持つことによって、全体的な提案に価値が付加され、その結果、そこでみられるような利益を考慮した潜在的なクレジットの価値も高まります。
 
 3つの要素に関して我々がどう考えているかについて、2点目のポイントをお話します。特に、インドネシアや日本が参画しているJETPなども考えますと、取り組みは重要になります。ただし、全体のシステムがどう機能するか複雑な中で、サービスの継続と拡充を管理することも必要になってきます。
 
 3要素は、まず、信頼性の構築確保ということが必要ですし、最近COP27に参加したのですが、ポリシー、ガイドラインによってフェーズアウトするかというような協議もされました。ここでの財務的な実行可能性に関する他の側面は、既に述べた問題のいくつかを解決しようとすることですが、再エネや化石燃料エネルギーの基本的な経済回路を開くにはどうすればよいか。ここで先行投資コストが発生しますが、今後はコストが削減されます。ここでの金融の役割は、将来的なベネフィットが今日の投資から生まれるようにすることです。しかし、他の障壁や長期契約などもあり、それらに対応する必要もあります。
 
 だからこそ、政府、民間、そして、国内外の金融機関なども関わってきますので、ステークホルダーの役割が非常に重要なのです。これらの全てのパートナーを集めて、財務的な実行可能性の側面を検討することが鍵となります。
 
 そして、先ほどお話しましたより広範な社会経済的ベネフィットにおける3点目について、異なるステークホルダーがこのプラットフォームに集まる可能性にはもう一つ理由があります。それは、移行が完成すれば環境の改善が健康にベネフィットをもたらすから、そして、移行が行われる際に特定のコミュニティが他のコミュニティよりもおおきな影響を受けることを認識する必要があります。全体的な利益を見てください。多くの調査では、仕事や雇用が示唆されています。化石燃料からクリーンエネルギーに転換することで、ベネフィットが見られます。
 
 繰り返しですが、それはインパクト(ベネフィット)の配分の管理をどのように確認するのかであり、そしてこれが、ステークホルダーを巻き込んでの取組が必要なもう一つの理由です。質問のお答えになっているといいと思うのですけれども、これらは非常に重要な側面であり、我々はそれを認識しそれに対応しようとしています。
 
【黒﨑メンバー】  アップデート、楽しみにしております。
 
【Tiange Wei様】  御質問いただきまして、ありがとうございます。
 
 まず、質問の最初の部分についてお答えしたいと思います。データの透明性についての質問と、投資先や融資先から実際に収集したデータの可視性が十分でない場合に金融機関がどう対応するかという質問です。
 
 まず取り組もうとしたことは、ガイダンスを提供することです。そして、データの品質を評価するフレームワークということで詳細を規定し、それぞれのアセットクラスやチャプターファイルの手法について詳しく説明していきます。報告された排出量、最高品質のスコア1になりますけれども、我々は何が検証されたか、それらを収集するためのサンプル源は何かを定義します。これらのガイダンスや追加情報は、金融機関が収集するデータの質を評価する際に役立つと考えられます。そして、データが様々な情報源から収集された場合に、データ・クオリティ加重平均スコアをどのように説明するのかについてのガイダンスも提供します。
 
 そして、2点目になりますけれども、整合性と調和の重要性についてです。PCAFでは、データプロバイダーと積極的に協調し、データクオリティスコアを整合的か、例えばCDPとの戦略的パートナーシップ関係の下、確認しています。データの質の調和を図り、金融機関に様々なデータを明確に理解していただこうとしています。これはコラボレーションの一例を紹介したものです。
 
 2つ目の質問は債券に関連したものと思いますが、トランジションファイナンシングの中では、複数の金融手段があります。基本的にグリーンボンドに関しては、グリーンボンドのメソドロジーの草案が市中協議にかけられ、12月の6日に公開される第2版や基準には追加しないことを決定しました。なぜなら、我々はそれを包括的な意味で捉えているからであり、グリーンボンドと更にその先を議論するワーキンググループを設置することを計画しています。例えばサステナビリティリンクローンや移行期のファイナンシングなど、様々な商品があることをご存知だと思います。PCAFは引き続き、このようなGHG会計にフォーカスした方法論の開発を行いまして、さらに広い範囲で包括的に対応できるような取組をしておりますので、どうぞ取組を見守ってください。
 
 ご質問ありがとうございました。
 
【根本座長】  長谷川さん、お願いいたします。
 
【長谷川メンバー】  御指名ありがとうございます。大変有益なプレゼンテーションありがとうございました。
 
 私は経団連という日本の比較的大きな企業を代表する経済団体に所属しておりまして、本年5月に、2050年カーボンニュートラルを達成するための提言を取りまとめております。その中で、2050年カーボンニュートラルに向けたパスウェイと、その手法、必要な政策を提言しております。それにも関連しまして、GFANZのRookeさんに3つほど質問させていただければと思います。
 
 我々の提言の中では、2050年に向かって社会全体のパスウェイを描いています。先ほどセクター別のパスウェイについては、いろいろ御説明いただきましたが、GFANZに入っておられる金融機関の間で共有している、社会全体のパスウェイ、ビジョンのようなものを持っておられるのかどうかが1つ目の質問でございます。
 
 また、我々の提言の中ではファイナンスが重要と申し上げていますが、トランジションに加え、特にイノベーションへのファイナンスが重要だと思っています。部分的に御説明があった気もしますが、例えば鉄鋼やセメント、ケミカルなど、今の製造技術ではどうしてもネットゼロにならないセクターへのファイナンスについて、どのような評価をされておられるかが2つ目の質問でございます。
 
 最後は、日本のコンテクストなのかもしれませんが、原子力についてです。エナジートランジションの話も出ておりましたけれども、原子力についてどのような評価をされているかが3つ目の質問です。以上3点を教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
 
【Tony Rooke様】  ありがとうございます。非常にすばらしい御質問をいただきました。
 まず、2050年に向けて社会全体のパスウェイがあるかどうかという質問ですが、多くのパスウェイは、移行に対して社会的な側面をその中に内包しています。その移行において、個人が仕事に対して何を意味するのか、それから人々の生活に対して何を意味するかなどです。でも、社会とパスウェイの両方に対して完全な形で包括的ではないと思います。実際、パスウェイの中には他にもギャップがあります。
 
 ガイダンスの中でも述べているのは、それがまだ実際にアクションを取らない言い訳になるべきではないということです。まだ完全ではありませんが、それらのセクターが社会全体をどのように支援するか、あるいはどのように移行を起こすよう導くのに役立つストーリーを構築するために利用することができます。
 
 2つ目の質問ですが、どうやって整合性が取れていない企業の評価をしていくかということなのですけれども、これは我々のポートフォリオのアライメント、測定、ガイダンスの中にあると思います。どのように金融機関がポートフォリオ内の企業を見ることができるか、そしてアライメントが取れているかどうかが示されています。それには幾つかの基準がありまして、9つのステップがあります。その中には、例えばターゲットを見て、そのターゲットがどれだけ包摂的かを検討することも含まれています。そして、金融機関が自らのターゲットについて何をするかというのは金融機関次第です。
 
 最後に、原子力についてですけれども、これは難しい問題です。我々はタクソノミーを作ろうとしているわけではありません。繰り返しになりますが、金融機関が原子力をどう対処するかを実際に示すのは金融機関次第です。排出ファクターのリストの中には原子力もありまして、原子力に関する排出を計算する1つの方法です。これは原子力とは何かを理解する1つの方法かもしれませんが、原子力が良いのか悪いのか、何が重要なのか、設備の脱炭素化に貢献しているのか、について我々はポジションを取っていません。
 
 つまり、ネットゼロに重要なのは経済における実際の排出削減、そのためのファイナンスなのです。
 
 これでお答えになっていればいいのですけれども。
 
【長谷川メンバー】  2つ目の質問に対して誤解があったかもしれませんが、時間もございませんので、後からメールで事務局に御連絡させていただき、教えていただければと思います。ありがとうございました。大変勉強になりました。
 
【根本座長】  ありがとうございます。では、村上さん、お願いいたします。
 
【村上メンバー】  ありがとうございます。私も1つずつ質問がございます。
 
 GFANZについて質問があります。排出権によるマネージフェーズアウトのアイディアはいいと思います。私の質問は、現時点でどの銀行がベストプラクティスを持っていると思いますか。4つの戦略のうちマネージフェーズアウトは非常に難しいと思うためです。

 もう一つ、PCAFについてですけども、スコープ3に対する金融機関内での理解ですけれども、何%ぐらいの人が、投資銀行または商業銀行の銀行員の何%が実際、スコープ3の概念を理解していると思いますか。クライアントとの日々のコミュニケーションにおいて、また、投資意思決定において理解して用いられていると思いますか。意思決定を、新規投資や融資においてしていくわけですけれども、その中で理解しているのはどれぐらいの割合でしょう。
 
【根本座長】  Rookeさん、お願いします。
 
【Tony Rooke様】  非常にいい御質問だと思います。どの銀行がベストかというようなところはお答えできません。というのは非常に時期尚早だからです。マネージフェーズアウトにどれだけ取り組んでいるかについて銀行を評価するのはフェアではないと思います。
 
 しかし、もう1点は、マネージフェーズアウトの逆についてです。それを代替するにはクライメート・ソリューション、即ち、ネットゼロに近づいていくための投資が必要なのです。
 
 現在、ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスと共に調査にコミッションをしています。彼らが調査したのは、90セント気候ソリューションに投資される間に、1ドル分の化石燃料に投資されているということです。今後20年間を見ますと、必要な投資量は、平均して気候ソリューション4ドルに対し、化石燃料1ドルです。ですから、まだまだ道のりは長いです。ですが勇気づけられることは、グローバル全体で見てその割合は、数年前は1ドルの化石燃料に対して気候ソリューション70セントぐらいでした。今直面しているものを代替するにはそのくらいの気候ソリューションへの投資が必要なわけです。そうでないと、今の世界の状態、つまりエネルギートリレンマ、アフォーダビリティ、セキュリティ、そして脱炭素化への努力が続くだけです。これはとても重要であり、連続した問題です。
 
 Ronanさんから何かコメントありますか。
 
【Ronan Hodge様】  唯一追加したい点は、マネージフェーズアウトの概念というのは比較的新しいということです。一部はリアクションとして出てきましたが、銀行などの金融機関がコミットしているネットゼロがこの状況に関わっていることを確認しようとしていまして、それは、課題の1つとしてゼロ石炭ポリシーもあったからです。それから、PCAFのファイナンスドエミッションの計算基準をターゲット設定に利用することで、こういったコミュニティを後押しすることになります。それは、石炭エクスポージャーが石炭ポリシーとは逆の方向に動いているかもしれないからです。ですから、我々の作業の一部としては、Tonyさんが既に言及しましたように、正当なアプローチを取ることです。そこが鍵となります。規制当局もこれを注視し、妥当な移行計画が多排出資産を早期に除却するようなものであり金融機関がそれに関与する正当性を与えるものであることを、確認すべきと思います。
 
 ですから、どの金融機関がよりよい取り組みを行っているかを述べるには、時期尚早です。金融機関が関与できる分野かどうかさえまだクリアになっていないからです。しかし、パートナーや規制当局コミュニティと共にこれを正当化するという我々の取り組みのコンビネーションということになると思います。
 
【根本座長】  ありがとうございます。それでは、Weiさんお願いします。
 
【Tiange Wei様】  すばらしい御質問です。ありがとうございます。喜んでシェアさせていただきたいと思います。私が御質問の内容を理解しているとすれば、質問はスコープ3についてであり、銀行員がどれぐらいスコープ3を理解しているかということだったと思います。
 
 スコープ3には15のカテゴリーがあり、非常に1とか2しかないものと比べて複雑な内容になっているからです。サンプルサイズが小さいということを認めなければいけないのですが、ですから、評価という意味で、実際のパーセンテージというのは出せないと思うのです。そこで、私の個人的な経験とベストプラクティスを紹介したいと思います。
 
 PCAFの事務局は、金融機関のアンバサダーの助けも得て、GHG会計の知識とファイナンスドエミッションの価値の普及に努めています。通常、こういった金融機関を巻き込む際に、ビジネス、サステナビリティー部門もあれば、リスク部門もあれば、会計マネージャーとして金融機関にデータを提供するポートフォリオ内の企業と日々やり取りをしているような人たちも入っています。つまり、彼らがアンバサダーとなって、GHG会計について継続的に啓蒙をしてくださっていると、思っています。
 
 それから、もう1点は、銀行とか金融機関の従業員のような内部のステークホルダーだけではないということです。もう一つのベストプラクティスとして出てきているのは、金融機関がGHG会計を促進してその知識を顧客に啓蒙してくださっているということなのです。例を挙げると、アセットマネージャーは移行計画の一部としてターゲットがあるわけですが、彼らは投資先企業と一緒になって、その投資先企業もコンセプトやネットゼロカーボンニュートラル、行動を起こすことの重要性、会計による目標設定や移行計画の内容までを理解できるように手助けしています。
 
 ですから、チームや代表、あるいは機関だけ、ビジネスの中で知識を促進するだけではなく、顧客のエンゲージメントも高めようとしています。アセットマネージャーの例が示しているように、投資先企業とのエンゲージメントが、将来的には、さらなるアラインメントやより良いデータを得ることに貢献するということです。答えになっているとよいのですが。コメントありがとうございました。
 
【根本座長】  御質問に御回答いただきまして、ありがとうございました。天田さん、お願いいたします。その後、吉高さん、お願いいたします。
 
【天田メンバー】  MUFGの天田です。御説明ありがとうございます。より理解が深まりました。
 
 GFANZの今後の動きについて、2点御質問です。1点目は移行計画のフレームワークは、現在、ボランタリーな枠組みになっていますが、一方で、英国のTPT、つまり、移行計画タスクフォースにおいては、今後、移行計画の義務化を想定している認識です。GFANZでも同様の動きを検討しているのかというのが1点目の御質問です。
 
 2点目は、COP27等の議論を受け、民間金融機関は、官とともに、今後より具体的なトランジションの支援の動きが求められていると理解しています。GFANZとしては、COP28までの今後1年間、トランジションに関して、どんなことにフォーカスしていく予定なのかお聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。
 
【Tony Rooke様】  失礼しました。今、きちんとお答えできるようにメモを取っておりました。
 
 おっしゃるとおり、GFANZの移行計画プランはまだ自発的なものです。ただ、既に金融機関が目標設定の一部として移行計画を策定している例が見られます。UKTPTですけれども、英国政府への助言タスクフォースということで、移行計画の開示を義務化していくとしております。
 
 我々が取り組んでいるフレームワークといたしましては、テーマのレベルと構成要素のレベルにおいてはほぼ同じものであります。GFANZとして義務化するかという質問ですけど、我々は自発的なイニシアチブですので、何かを義務化するようなマンデートはありません。ですが、こうした活動は当局や政策立案者のスコープには入っており、我々はその義務化を推奨しています。時期については、それぞれの法域ごとに適切に設定される必要があり、地区によっては早期に導入をし、形成をしていきたいというところもありますし、また、自発的な形で行われている移行計画を見つつ法整備を進めようとしている法域もあります。ですので、1つ目の質問への回答としては、当局のほうでは義務化はできるけれども、GFANZとしてはできないというのが答えになります。
 
 COPの後の取組になりますけれども、これはいい質問でして、まだ全ての答えがそろっているというわけではございません。現在、技術文書をそろえておりまして、昨年は金融機関がコミットメントするべきだということであれば、今年はそれをどのように規定していくかということだったと思います。来年は、それをどのように実現していくか、金融機関をどのように支援し、そして移行計画を実装していくかということになると思います。そして、能力開発、教育、少々テックにも触れるということで、当局や政策立案者にも、なぜベネフィットがあるのかということを理解してもらう、つまり、さらに幅広いコミュニティ、民間企業であったり、金融機関であったりといったところともエンゲージメントを行うということになるかと思います。
 
【天田メンバー】  ありがとうございます。
 
【根本座長】  では、吉高さん、お願いします。
 
【吉高メンバー】  吉高まりと申します。三菱UFJのコンサルティングです。質問が1つずつございます。
 
 まず、PCAFのほうに御質問です。PCAFのメンバーに中国がいたと思うのですけれども、中国の方が、中国のメンバーがこれに入った何か意図とかが御存じでしたら教えてください。そして、中国の方とはどんな話をしているのかを知りたいです。また、他のアジアのメンバーとも話しているようでしたら、その内容について、ぜひお聞きしたいです。
 
 それから、GFANZのほうにも御質問なのですけども、昨今、オーストリアの銀行がGFANZから脱退したというのを聞きました。GFANZに入る、入らないは非常にフレキシブルに、オープンにされているのでしょうか。もしそうであれば、今後、重要なのは、中国やインドの銀行かと思います。そういった銀行をメンバーとして入れるために、何か方策などを考えていらっしゃるでしょうか。よろしくお願いいたします。
 
【根本座長】  では、Weiさん、お答えいただけますか。
 
【Tiange Wei様】  御質問ありがとうございます。とてもいい質問です。
 
 PCAFの役割としては、アジア太平洋地域で単に展開していくというわけではなく、アジア太平洋地域にもPCAFに参加していただきたいということがあります。特に中国やその他においては、エンゲージメントを行っています。ボトムアップ、トップダウン、両方でアプローチをしております。なぜなら、中国には、ネットゼロ、カーボンニュートラルについて地域として規制戦略があります。非常に強い勢いがベイエリア、広州、台湾、マカオといったようなところでありまして、我々は先進的な取り組みをしているサステナブルファイナンスネットワークや当局とコラボレーションもしております。
 
 香港では、指標としてファイナンスドエミッションを評価し、PCAFを使うことを推奨するという内容の、ファンド向けのコンサルテーションが公表されました。それが、PCAFを中国に、そして中国をPCAFにという取組の1つの御紹介になります。
 
 そして、中国語圏からの加盟機関についてですけれども、現地の主要な銀行が加盟しています。例えば、中国本土からもいくつか、そして香港からは東アジア銀行なども加盟しています。特に中国に関して質問の答えになっていればよいのですけれども、どのような形でAPAC地域の金融機関をサポートしていくかという観点からは、PCAFジャパンも非常に良い例だと思います。強い勢いや共通の関心事があり、ひょっとすると似たような課題に直面しているかもしれません。
 
 PCAFジャパンの連合体を通じまして、ベストプラクティス、それからpeer-to-peerのラーニングや議論などの共有ができるプラットフォームを提供しております。
 
 御質問のお答えになっていればいいのですが。
 
【Tony Rooke様】  御質問いただきまして、ありがとうございます。皆さん非常に知的な質問してくださいますね。ありがとうございます。
 
 金融機関がネットゼロのコミットメントをする際に、GFANZに加盟するには、アライアンスに参画をするということになります。銀行であったり、アセットオーナーであったり、アセットマネジメントであったり、金融サービスの提供者であったり、投資コンサルタントであったり、また、保険会社のアライアンスであったり、そういった意味で、参考にするためにアライアンスの要件を満たさなければいけません。
 
 GFANZは特定のセクター別アライアンスに参画をするためのクライテリアというものは設けていません。アジア太平洋地域のネットワークでは、2050年をネットゼロ目標としていないような法域なども含めまして、さらに包括的な取組を促進していこうと思っております。また、我々が策定したツールの促進やクライメイトトランジションの4つのキーエリアに対するファイナンスの対応なども行っております。
 
 我々は、移行計画フレームワークやセクター別パスウェイと整合的なポートフォリオのためのツールといったフレームワークを、ほかの法域も利用できるようなフレキシブルなものにしています。それらは、GFANZのメンバーかどうかに関係なく入手可能としています。アライアンスのメンバーにさらに参加をしていただいて、そして多様性をさらに拡充していただいて、地域のインプットもしていただいて行動計画を形成していきたいと思います。日本は特にインドネシアとの取組などでもリードしてくださっています。ファイナンスがどのように変わっているのかというところを理解する一助にもなるなど、多くのベネフィットが参画することで得られるとも思います。
 
【根本座長】  ほかに御質問がないということであれば、私のほうから質問させていただきたいと思います。プレゼンテーションありがとうございます。
 
 Rookeさんに質問なのですけれども、1つは、今、ヨーロッパはエネルギー不足の問題があります。それからインフレの問題もあります。様々な国が影響を受けていると思いますが、パスウェイとか取組に影響がありますでしょうか。それとも一時的なものでしょうか。
 
 2つ目は、これは微妙な問題ですが、私が読んだところによると、アンチトラストの問題があるようです。つまり競争法上の問題、それについてどういうふうに考えていますか。
 
 それから、Weiさんへの質問ですが、データの品質が非常に重要だということをプレゼンテーションでおっしゃっていました。そういった意味で、何かシステムとか、品質をチェックするようなシステムは、ヨーロッパ、または他の国々にあるのでしょうか。日本では、またはアジアでは、これはまだ開発ステージにあると、開発途上にあると思いますけれども、いかがでしょうか。
 
【Tony Rooke様】  ありがとうございます。エネルギー不足の問題ですが、今年の冬のヨーロッパの現状は、ほとんどのヨーロッパ諸国は、ガスの貯蔵がない状態です。いろいろな政策によって冬を乗り越えるようにしようという努力が今、なされていると聞いています。
 
 これは一時的なものなのかという質問に対して、答えはイエスです。一時的な影響です。この問題によってアクションが加速化しているということも言えます。つまり、政策決定者による化石燃料への依存を下げようとする意向が、今、リスクに直面したことによって早まっているということです。これは、こういったエネルギーからのリスクが出てきたことによってハイライトされています。エネルギーの外部依存に関してもそうです。ですから、これは今後、加速化する一方でしょう。
 
 これに関して難しいのは、インフラの一部は、それを克服するための対処が必要だということです。多くの政策決定者の間で話し合われているのは、インフラの一部が、一時的にファイナンスを必要としている、または、もう完全に更新するべく、多排出のインフラの入替えが必要ということです。ですから、一時的な影響ではあります。
 
 アンチトラスト、独禁法の問題、これは常に金融では問題になる点です。特に何かこういった変更をしようとなると、問題になります。これに関しては、非常に我々、意識を高く持っています。これによって、世界が、消費者も企業もフェアな形に、公正に移行が図れるようにしようとしています。
 
 ここで確かめようとしているのは、我々、必ずしも特定の企業やセクターを排除しようということを言っているわけではありません。我々にとって重要なのは、移行が、または排出削減に本当につながるということです。というのはリスクがあるからです。ですから、アンチトラストに関するガイダンスやツールが、アライアンスのメンバーの各金融機関が正しい方向に進めるように、きちんとしたステップを踏んでいます。アンチトラストに関しては既にアライアンス内で様々な取り組みが行われており、我々が問題、課題として認識しているということです。それも考慮に入れて、常にアンチトラストの問題に触れないように常に心がけています。
 
【Tiange Wei様】  ありがとうございます。すばらしい御質問ありがとうございます。私の考えについて述べさせていただきたいと思います。
 
 データの質と誰が監査するかということなのですけれども、これは金融機関自身がアクションを取って、データの質と精度を評価しなければいけません。PCAFの目線からには、ガイダンスを提供して、データのクオリティレベルがわかるようにしていますが、それぞれの金融機関のそれぞれの投資先のポートフォリオ企業において何千ものラインアイテムがあるので、我々はガイダンスを出しています。金融機関の中で金融機関が責任を持って、彼らが投資先や融資先から収集するデータの精度を確認しなければいけません。これが計算に利用するデータの精度についてです。
 
 それから、金融機関がファイナンスドエミッションを算定するときに、PCAFの監督とか認証があるかということですが、PCAFはそういったサービスはしておりません。つまり開示の内容とか、それからデータの精度を監査するようなことはしておりません。我々は金融機関に対して、データクオリティスコアを使い、PCAFスタンダードのハイクオリティ開示の6章を遵守しながら、透明性を高めることを奨励しています。我々は金融機関の開示の認証は行っていませんが、もし金融機関のほうで、ファイナンスドエミッション開示の正確性について認証が欲しい場合は、もちろんそれは彼らのほうでやっていただいて構いません。でも、PCAF事務局としては、加盟機関に対してテクニカルなアシスタンスしか提供できないので、もしPCAFスタンダードに関して質問がある場合や、どういうふうに数式を適用すべきなのか事務局の支援が欲しい場合、そういったお手伝いはできます。
 
 データということでは、ファイナンスドエミッションと、金融機関が収集する生データ、その2つについて、今お答えしました。ありがとうございます
 
【根本座長】  ありがとうございます。非常に良いコメントがいただけたし、今、非常にアクティブなディスカッションが持てたと思います。我々は非常に生産的なディスカッションができていると思います。
 
 ほかの御質問、もしあればお答えしていきたいと思いますが、時間も来ておりますので、ここでディスカッションの内容をまとめたいと思います。パネリストの皆様、ありがとうございました。拍手をRookeさん、それからWeiさんにお願いいたします。
 
( 拍  手 )
 
【根本座長】  次回は、1月17日、または19日に、地域金融機関に関する議論を行いたいと考えております。
 
 事務局の方から御連絡がありましたらお願いいたします。
 
【西田サステナブルファイナンス推進室長】  次回も同じようにハイブリッドでの開催の予定としておりますので、また、詳細決まりましたら御連絡させていただきます。ありがとうございます。
 
【根本座長】  本日は大変貴重な御指摘、議論をいただきまして、ありがとうございました。
 
 では、以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

 

 ―― 了 ――

  

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室(内線 3515、2918、2770)

サイトマップ

ページの先頭に戻る