「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第2回)議事録

  • 1.日時:

    令和3年9月15日(水)10時00分~12時00分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館9階 905B会議室

「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第2回)
令和3年9月15日
  
【神田座長】

皆様、おはようございます。予定の時刻になりましたので、始めさせて頂きます。

ただいまから、デジタル分散型金融への対応のあり方等に関する研究会の第2回目の会合を開催させて頂きます。皆様方にはいつも大変お忙しいところを御参加頂き、誠にありがとうございます。

本日の会合ですけれども、今回も前回に引き続いてオンライン開催とさせて頂きます。一般の方の傍聴はなしとさせて頂き、メディア関係者の皆様方には金融庁内の別室において傍聴して頂くということにしております。

早速ですけども、議事に移ります。本日ですけれども、まず最初に、事務局から、分散型金融技術をめぐる金融規制監督当局者の議論などについて御説明をして頂きます。続きまして、松尾メンバーから、分散型金融の時代に求められる規制のためのコミュニケーションについて御説明をして頂きます。その後、野田メンバーから、スマートコントラクトや分散型金融、いわゆるDeFiというのでしょうか、その利便性や問題点、そして規制上の論点などについて御説明して頂きます。これらを終えた後で、メンバーの皆様方に討議をして頂くという流れで進めさせて頂きたいと思います。

なお、皆様に議論して頂くに当たりましては、お手元に資料4というのを用意しておりまして、本日討議頂きたい事項というのを用意して頂いていますので、適宜御参照頂ければと思います。

それでは、まず、事務局からの説明をお願いいたします。

【端本信用制度参事官】

それでは、資料1に沿って御説明させて頂きます。

1ページ、目次ですが、まず、第1回会合におけるメンバーからの主な御指摘事項、それから当局者間の議論、それから前回御議論ございましたオフライン決済につきまして、約款の状況を整理いたしましたので、それを御紹介させて頂きたいと思います。

次のページに行って頂いてよろしいでしょうか。第1回会合におけるメンバーの主な御指摘事項ということで、まず、総論のほうから簡単に御紹介させて頂きます。1つ目の丸、価値の裏づけのない帳簿上の数字、これに世界中の人たちが価値を持つと認識するようになったと。

2つ目です。ビットコインの登場・普及によって、プライバシーを保った形での匿名送金が実現したと。よい面ばかりでなく、AML等の課題も明らかになった。

3つ目、中央管理者がいない分散型の仕組み。将来性のある金融として実現し得るのか冷静に考えてみる必要がある。

4つ目、デジタル分散型金融全体の原理原則をまとめることが研究会の意義ではないか。

5つ目、分散型台帳技術の使われ方としては、ペイメント、インベストメント、コラテラルに分けられるということは考えるのではないか。

次です。グローバルな視点で議論がなされることが重要。

次です。金融と非金融の境目が不明確になっているのではないか。

その次でございます。最後のところです。ブロックチェーンは、一技術要素だという形で向き合っていくことが重要ではないか。

次です。新しい仕組みを既存の金融に取り込む際、特に業務プロセスのデジタル化が重要ではないか。

続きまして、議論する際の留意点といたしまして、DeFi、ブロックチェーンとはマーケティングワードとして使われていることに留意が必要。パブリック型の話なのかプライベート、コンソーシアム型のブロックチェーンの話をしているのか、あるいはリテール、ホールセールどちらの話をしているのか整理する必要がある。階層構造等について整理して議論すべきである。

次のページ、3ページ目に行って頂けますでしょうか。技術的な視点ということで技術者コミュニティーと規制当局との動的な対話が大事だと。

次でございます。大量の計算資源を必要とするコンセンサスアルゴリズム、大量の電力を消費しており、許容できるのかということも課題の一つではないか。

次でございます。ICカードは、オフライン、かつ、端末と独立して動きます。素早く短い時間でリアルタイムに決済できる一方で、拾った第三者が使用できてしまうという課題もあるのではないか。

これにつきましては、次です。オフライン決済については、二重使用、不正使用、権限外使用といった問題が生じる可能性がありますけれども、従来、上限額を抑えることで対応してきた。

次です。スマートコントラクトを台帳に書き込めるようになったことで、新しい選択肢が出てくるという意味で重要なのではないか。

規制の検討の留意点といたしまして、1つ目の丸です。現在の規制ルールが過不足ないか等、規制の在り方自体を見直す必要がある。

2つ目です。金融規制体系をより機能別・横断的なものとしていくことがますます重要なのではないか。

次でございます。分散型台帳技術がどのような機能で用いられているかという観点からの検討が重要なのではないか。

次でございます。ブロックチェーンの上で取引されるステーブルコインを対象とした規制を構築するという検討をするのか、それともいわゆるパブリックブロックチェーンというものに対してポリシーのようなものを出すのかが問題になる。

次でございます。ルールの在り方を考える際には、システムや技術を使う生活者の実感から乖離しないことが必要だ。

利用者保護の観点からは、事業者のセキュリティー対策状況等、規制や監督で確保する必要がある。

次の丸です。スマートフォンの普及等によりまして、利便性が向上する一方で、多重債務や過剰取引に陥るリスクも高まる懸念がある。

それから、次でございます。暗号資産関連の詐欺的な被害等々、増加しているのではないか。

こういった御指摘がございました。

続きまして、6ページ以降、規制監督当局者間の議論というものを紹介させて頂きたいと思います。まず、7ページまで飛んで頂けますでしょうか。2019年6月のFSBのレポートでございます。まず、1つ目の丸です。近年、分散型台帳技術等の登場を契機に、分散型金融とも称される形態で金融サービスが提供されている。他方で、分散型という用語は多義的に用いられ、議論に当たってはその定義づけが必要となる。

このレポートにおきましては、分散型金融技術により実現される分散化についてその内容や、金融システムの安定性の影響等が分析されているということで、下の囲みの1つ目の丸の3つのポツでございます。分散化の意味でございますけれども、例えば、意思決定の分散化、リスクテイキングの分散化、記録保持の分散化、こうした観点でそれぞれ議論していく必要があるのではないか。

その下でございます。分散型金融技術を使用した金融サービスの例といたしまして、支払、決済、貿易金融、情報の共有の効率化、あるいは資本市場、レンディング等での活用が指摘されているということでございます。

その下、金融システムの安定性の影響につきましては、そこにありますとおりベネフィットがある一方で、様々なリスクが指摘されているということでございます。

金融規制監督上の考慮事項といたしましては、その下でございます。規制回避や不法行為への悪用の懸念、執行の困難化、あるいは法域の不明確化、こういった一般論が指摘されているということでございます。

続きまして、9ページ、ここからグローバル・ステーブルコイン、ステーブルコインの議論になります。当局者間の議論はグローバル・ステーブルコイン、ステーブルコインに比較的集中しておりますけれども、これの経緯でございます。まず、1つ目の丸。2019年6月にフェイスブックによるリブラ構想が公表されました。これを契機といたしまして、国際的に、グローバル・ステーブルコイン等につきます対応等に関する議論が行われているということでございます。

左側、リブラ構想公表という下のところを時系列で見て頂きますと、2019年6月に公表されたわけですけれども、その後、G20財務大臣・中央銀行総裁会議等々で様々な議論が行われて、そのステートメントの抜粋をしております。時系列を見て頂きますと、2020年3月、青色のところですけども、IOSCO、グローバル・ステーブルコインの試みということで、このFMI原則との関係についてまとめたものが資料13ページでございます。それから、FATFの議論につきましては資料12ページ。それからFSB、これは10の勧告が出されていますけど、これは10ページということで、これらにつきましてこれから紹介させて頂きたいと思います。

10ページに行って頂けますでしょうか。上の箱の囲みでございます。ステーブルコインは、特定の資産等に対して安定した価値の維持を目指す暗号資産という点が特徴だということで、ステーブルコイン、これが複数の法域で取引され、相当量に達する可能性があるグローバル・ステーブルコインという段階まで至った場合には金融システムの安定性に対するリスクをはらんでいるということでございます。

ステーブルコインの機能がその下にありますけれども、まず、①仕組みのガバナンス、②コインの発行、償還、価値安定化、③移転、④保管、交換のためのユーザーとのやり取り等、紹介された上で、それぞれのリスク、課題が詳しく書かれているということでございます。

11ページ、次のページに行って頂けますでしょうか。このグローバル・ステーブルコインの金融システムの安定性へ与えるリスクに対処するため、10の規制・監督・監視上のアプローチというのが提言されております。それについて御説明させて頂きます。下でございます。まず、1、GSC、その関連する活動・機能に対して監督当局、規制監督当局、きちんとした権限、手段等を有するべきだ。

2ポツです。グローバル・ステーブルコインについては、機能、リスクに応じた国際基準が適用されるべきだ。

それから、3でございます。国内外で協力・協調をすべきだ。

4でございます。ここからは事業に関する話になってまいりますけれども、その機能と活動に関するアカウンタビリティー、明確にするような包括的なガバナンスフレームが構築されるべきだ。

5でございます。準備資産管理、オペレーショナルリスクへの対応、サイバーセキュリティーへの対応、AML/CFT等に対する対応、これらについてきちんとすべきだ。

それから、6でございます。データを収集・保管等をする頑健なシステムが必要だ。

それから、8でございます。GSCに対しまして、その安定化するメカニズム、包括的かつ透明性のある形で情報提供されるべきだ。

それから、9でございます。利用者が払戻しの権利を有するような場合は、そのプロセスに関する法的明確化を要求すべきだと。

このような点が勧告されているということでございます。

続きまして、12ページに行きまして、こちらはFATFの議論です。AML/CFTの観点からの議論でございます。ここではグローバル・ステーブルコインに限らず、国内で流通する、いわゆるステーブルコインにつきましても、グローバルに普及する可能性が高いことから、マネーロンダリング、テロ資金供与の観点からもリスクが高いということで、対応等が報告されています。

左側の箱を見て頂きますと、1つ目のまず黒ポツです。ステーブルコインのML/FTリスクということで、他の暗号資産と同様に匿名化、グローバルリーチ、多層化を含むリスクがあると。

2つ目のポツでございます。2行目辺りからですけれども、価格変動等を抑えているということで、従来の暗号資産が有していた課題に対処し、広く普及する可能性があると、こういう認識が示されております。

それから、AML/CFTの残余リスクということでございますけれども、その下でございます。まず①、仲介業者を通さないP2P取引。これは暗号資産全般について言われていることでございますけども、この辺りについて指摘されているということで、その下、ガイダンス改訂案の左側を見て頂きますと、以上のことを踏まえましたキーメッセージといたしまして、ステーブルコインについて、継続的かつフォワードルッキングにリスクを分析し、かかる仕組みが実際にローンチされる前にリスク対処する必要があるということでございます。

続きまして、13ページ。IOSCOの議論でございます。グローバル・ステーブルコインの仕組みに対して、いわゆるFMI原則がどう適用されるかという分析を実施しております。その下の囲みで、FMIということの機能をちょっと簡単に御紹介させて頂いておりますけれども、まず、PS、ペイメントシステム。それからCSD、SSS。証券集中振替機関、決済システム。それから、CCP、清算機関。それから、TR。こういったものをFMIということで定義しています。それらにつきまして、原則1から24まであるわけですけれども、それを下に御紹介させて頂きます。

関連する点だけ簡単に申し上げますと、例えば、原則、組織一般で言いますと、左側の箱ですけれども、原則2、ガバナンス。それから、原則3、包括的リスク管理。それから右側のほうに行って頂きますと、決済の関係ですと、原則8、ファイナリティ。原則9等々がグローバル・ステーブルコインに特に関係してくるのではないかということで、14ページは、それぞれ各原則に求められる重要な考慮事項ということで、FMI原則関連の文書に示されていることを御紹介させて頂いております。

それから、次が16ページでございます。こちらもIOSCOですけれども、暗号資産取引プラットフォームに関する論点ということで、暗号資産取引プラットフォームと一般の証券に使われている取引プラットフォームを比較して、アクセスの観点、利益相反の観点、情報開示の観点、あるいは価格発見機能の観点、あるいは清算と決済の分野における課題等についてまとめられております。

当局者間の議論は以上でございます。

最後に、前回オフライン決済について議論がございましたので、現在国内で使用されています主要な電子マネーの約款を調べさせて頂きました。その御報告でございます。オフライン決済機能を有する電子マネーサービスにつきましては、各社の約款におきまして、利用限度額を少額に設定するとともに、加盟店端末で使われた時点で取引自体ファイナルだという形で定められたということでございます。

以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、メンバーの松尾さんから御説明を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。

【松尾メンバー】

松尾でございます。時間もないということで、15分ぐらいですれけども、分散型金融の時代に求められるコミュニケーションの仕方ということで、15分ぐらい御説明差し上げたいと思っております。

2ページ目、自己紹介のページは、長いので後で読んで頂ければと思いますが、軽くちょっとだけ説明をすると、暗号をずっとやっている研究者です。大学の教授をやっていますが、前回の議論にあったように、電子マネーの設計とかをプライベートセクターでやったということもあるので、実務経験もある大学教授であるということはちょっと言いたいと思います。かなり実務経験はあると思っています。それは国内でも国際でもですね。あと、やっぱりこれも何回も言わなきゃいけないと思うんですけども、基本的にはビットコインとか暗号資産は学術的中立性のために持っておりません。この中立性は宣言したいと思います。

3ページ目に行って頂いて、この発表におけるTake Awayとして、まず、前回も問題の構造をちゃんと理解しなければいけませんよねということを申し上げたので、今回の研究会の多分大きな目標であるところの、イノベーションを促進しつつ信頼のある金融システムをつくるかというところがポイントだと思うんですけど、なぜこれまでのやり方は多分ワークしないであろうか、ワークしていないのだろうかということをちゃんとまず理解しましょうと。それはステークホルダーがどうなっているか、エコシステムがどうなっているかというところの問題をまず理解しましょうというのが一つと、だとしたら、その構造を理解した上で、でも、信頼あるイノベーションをどう促進するのかというときに、どういうことをしなければいけないのかということを説明したいと思います。

ただし書きに書いていますが、議論を混乱させないために、本発表ではブロックチェーンと言えばパーミッションレスブロックチェーンのことを指します。パーミッションドブロックチェーンは、基本的にはトラストモデルとしては従来のタイムスタンプに極めて近くて、規制上の議論が、タイムスタンプから議論したほうがいいぐらいのガバナンスモデルだと思うので、それはこの新しい規制を議論する場としてはそぐわないだろうということで、少なくともこの発表では除外をして、パーミッションレスブロックチェーンのことだけを議論します。

次、4ページ目ですかね。お願いします。何でこういう分散型技術であるとか、技術のレイヤリング、あるいはアンバンドリングが必要かというと、我々が今この研究会をWebEXでやれていること、そしてインターネットがあるということに尽きるわけです。コロナでもう1年半ぐらいこんな生活を続けていますけど、インターネットがなかったらどうしたかというぐらい、インターネットがあって間に合ってよかったという時代で、インターネットがなかったら、例えばこの研究会があるときに、こういう電話会議をするサービスをサイバーアタックすると止められちゃうわけですよね。そういうことが、これがやっぱり左側の、1つのサービスを、サービス提供者が全部バーティカルでつくるというシステムの極めて大きな弱みであって、それを、いろんな人たちが分散をして、アンバンドルされて水平分業して、個別のバーティカルをつくっていくという形をすることによって、新しいサービスもできるし、どこかをやられても大丈夫だということで、これがやっぱりインターネットのイノベーションの源泉であり、今日我々がこのテレビ会議をできている大きな理由なわけですよね。

そこで、ビジネスロジックであるとか応用技術であるとか、インフラみたいなものが、それぞれ別の事業者が提供して、それらをバンドルし直せるということ、あとはその3つによってトラストを外部化することができるというのがイノベーションの極めて大きな源泉であったわけです。一方で、これを分けたことによって課題を引き起こすということがあることが理解をしなきゃいけないということです。これがまず、1つ目の視点。

次、5ページ目に行って頂いて、金融当局は規制目標というのを持っていて、これは教科書的に言うと、金融安定と消費者保護あるいは投資家保護、あとは金融犯罪の防止という3つの目標があります。これは金融当局の規制目標ではあるんですけども、金融当局が趣味でやっている目標ではなくて、社会全体としてもこれが求められる要件になるということをまず理解しなければいけません。これらに反することをやりたいサービスを、スタートアップがつくりたいのだということは、社会的に許されないだろうと思っています。その中で分散型金融みたいのが出てくることによって、例えば金融安定上、例えばリスクのカバーできていないサービスができてしまうことによって、リーマンショックのようなことが起きてしまわないかということだったりとか、あるいは消費者保護、投資家保護という意味では、それこそ暗号資産の取引所がアタックされて流出するとか、内部不正があったりとか、あるいは詐欺的なICOがたくさんあったりというようなことが発生したりとか、金融犯罪防止というのも、これはもう一般的で、やっぱりマネロンであったり、テロリストへの資金供与ですね。いわゆるマネロンとかテロリストファイナンシングの問題が声高に叫ばれるようになったのは、ちょうど20年たちましたけど、9.11があった後で、やっぱりこれが新たに起きた大きな違いなんだろうと思います。少なくともこの3つというのが、金融当局の規制目標でもあるし、それがデジタル分散型金融においても、当然において想定されるというところを、まずはもう一度、理解する必要があるということです。

次、6ページへ行ってください。先ほどもう既にFSBのレポートのことを御紹介頂いたので、同じことを書いているのに近いんですけども、FSBのレポートの中で、分散型金融技術、Decentralized financial technologyという言葉が定義をされています。もう一つは、それに基づいた分散型金融システムという言葉があって、先ほど申し上げた技術を使ってつくられたシステム。これは分散型金融技術がもたらし得る新しい金融システム全般のことを指すと。一方で、いわゆるDeFi、これは前回、私、マーケティングワードで申し上げましたけど、DeFiの定義ってあまりないんですね。だからここに(So-called)DeFiって書いているんですけども、分散型金融システムを構成している特定のアプリケーションということでいろいろあります。このスライドの下のほうに図があって、今ちょっと画面共有で出ていないかもしれないんですけれども、ベン図で言うとこんな感じになっていて、多分、一番左側にトラディショナルな金融システムがあって、右側にDecentralized financial systemってある中で、DeFiと言っているのはこの辺にあって、もしかしたら緑丸からちょっとはみ出ているものも存在するかもしれないというぐらいで、ただ、問題は、このいわゆるDeFiと呼ばれるものが、やはり定義がはっきり、しかも規制当局者から見たときに、どうそれを捉えていいのかというところが見にくくなっているということはあるのだろうと思います。

7ページ目です。先ほどのFSBのレポート、これはFSBのレポートを作る前に、私もFSBの会議に参加させてもらったこともあるので、その成立過程は存じ上げているんですけども、分散という意味が3つぐらいあるとそこには書かれていて、リスクテイクというのはビジネス継続上ですね。先ほどタイムスタンプの話をしましたけど、例えば運営する会社が破産してなくなってしまうかもしれないというリスクテイクに、ある意味、ビットコイン的なものというのは意味があって、ビジネス継続上のリスクテイクを分散し得るのだということと、あとは、例えば意思決定みたいなのは会社のガバナンスと一緒で、ある人がワンマンで何か決めて、不都合なことが起きる、利益相反が起きるということを回避できるのだというのと、そもそもみんなが共通で参照する記録の維持というのを分散し得るんだということで、3つぐらい意味があって、個々のDeFiのプロジェクトと言っているものが、どれで分散って言っているのかよく分からない。でも、この3つぐらいの軸はありそうだとはいうものの、どこがどうなっているのか分からないので、それをこの3つぐらいの軸をちゃんと意識して、じゃあどういう分散なのというのを実は見ていかないと、それがリスクがどれぐらいなのか、いいのか悪いのか分からないということなんだろうと思います。

8ページ目に行って頂いて、じゃあ、この分散型金融とかDeFiって言っているプロジェクトが、本当に今言った3つの軸で分散しているのかというと、それには多くの人が今までクエスチョンマークを実際にはつけていて、だから、先ほどの資料でSo-called、いわゆるってつけたんですけれども、ちょうど8月19日にGary Gensler、アメリカのSECの委員長がこんなこと言っていて、DeFiというのは少なくとも言い過ぎですと。言葉の使い方として言い過ぎなんじゃないかと。それは、もちろんオープンソースのソフトウエアのようなソフトウエアを書くということで、ビットコインのようなソフトをつくる一つの原動力になっているのと同時に、一方で、ガバナンスに関する権利とか手数料を得るグループが同じ組織にいて、その人たちは後援者だったりスポンサーだったり、場合によってはVCの人たちとの利益相反じゃないですけど、インセンティブ構造が存在して、分散と言いつつ、ある種、利益の構造みたいなものが裏に見えているので、本当にこれは分散と言っているのかということが分からない、二重構造になっているんだよねということを指摘しています。この指摘は極めて重要な指摘だと思っていて、何がどういうふうに入り組んでいるかというのを改めて解明する必要があるということになります。

9ページに行って頂いて、これが、じゃあどう解明するのかという、前回も、誰が誰の肩に乗っているのかとか、責任の依存関係っていうのがどうなっているのかっていうのを解明しなきゃいけないと申し上げましたが、その例でして、これ全部は、文字が細かく量が多いので読みませんが、分散型金融をつくるのに必要なステークホルダーはこれだけではないと思うんですけど、ざっくり分けてこれぐらいと考えています。例えば規制当局が監督しなきゃいけませんし、エンドユーザーであるところの消費者とか投資家もいますし、サービスを提供するビジネスエンティティもいれば、その原動力となるソフトウエアを作るオープンソースエンジニアもいれば、それらのソフトウエアやアルゴリズムがセキュアであるためのセキュリティの研究をする暗号研究者みたいなのもいて、もっといると思うんですけど、これぐらいの人たちがいる中で、それぞれの人がほかのステークホルダーに対して、こんなことはしてくれるはずみたいな、「はず」っていう期待、場合によっては過剰な期待、達成されることがあり得ないような期待までされていて、それが積み重なってできているんですね。

多分、この中に明らかに過剰な期待がたくさんあって、この研究会で問題になるであろうリスクの構造ってどうなっているのかというのを、ここから実は解き明かしていかないといけないです。何事もシルバーブレット、銀の弾丸はなくて、万能薬はないので、ある数式はこういうときにはうまくいくけど、うまくいかないみたいな前提条件とか環境条件みたいなのがあるんですけども、それも論文にうまく書いてなかったりして、うまく伝わってないわけですよね。ここの関係を、うまくいっている、うまくいってないというのをちゃんと見据えないと、実は規制の議論もできないということです。

10ページ目に移って頂いて、これが今日の一番のキースライドだと思っているんですけども、グローバルであるということと、インターナショナルであるということと、ナショナルであるということを分けましょうと。これは前回申し上げたんですけど、ここをちょっと時間をかけて申し上げたいと思います。

分散型金融なりインターネットなりと、あと、インターネット、ビットコイン、ブロックチェーンと書いていますけど、こういう数式で表されるソフトウエアたちは、基本的には国家の都合とか国民の都合とか関係なくて存在します。だから、GAFAはグローバルプラットフォーマーですし、インターネットは、例えばある国が、今、この会議を止めようと思って、日本のインターネット止めたいと思っても止められないようにできているんですね。グローバルって、グローブ、つまり地球なので、地球に共通の営みとして、国家とは独立に存在するものです。こういうものがどんどん出てくるわけですね。もう国の都合関係なく出てくる。一方で、例えば規制当局とか、私はアメリカに住んでいますけど、日本に住んでいる人は、自分たちの財産権だとかいろんな権利であるとか、その住んでいる社会の秩序を保ってもらうために、ある種のルールを、例えば日本であれば民主主義によってつくって、日本国憲法の下にいろんなルールをつくり、社会秩序を形成して、ある種のガバナンスを政府に付託して、それは民主主義による合意によってできているわけですよね。

一方で、規制当局にとっては、国際連携みたいなのがないと、自分たちの国の安全も守れなければ、国際的な平和であったり、経済発展というのが見込まれないという意味では、インターナショナルな関係も必要というのがある。そして、オープンソースエンジニアが使っているソフトウエアが、末端の我々の消費者とか投資家にも関係するし、回り回って分散型金融を使っていない一般市民にも影響し得るという状況の中で、このスライドの右上に矢印と丸の図があって、これはローレンス・レッシグの“Code”において、グローバル時代のガバナンスを表した有名な図ですけども、グローバルな技術を使いながら、アーキテクチャーと呼ばれるものの作り手が国内秩序の作り手の一部になり得るので、彼らは実は法律をつくる人よりも上に上がるかもしれなくて、そんなことはやっちゃいけないけど、日本国憲法より、上位に立ってはいけないということを考えるとすると、この点の調和が必要です。

何でフェイスブックリブラが、先ほどのグローバル・ステーブルコインの議論においてアメリカで相当たたかれたかというと、それはアメリカの国家という民主主義国家において、金融に関するいろんな政策であったり、行政のやることというのは、民主主義の結果として成り立っている。一方でフェイスブックリブラは、リブラ協会の当時30社のガバナンスによっていろんなものが決められるとすると、その30社の意思決定は、アメリカの民主主義の根幹である選挙の結果を上回っていいのかという話であって、それはいかんというのがフェイスブックリブラがアメリカの連邦議会でさんざんやり玉に上がった根幹であって、必要なのは、グローバルな技術というのが、インターネットができたように、我々のこういうコロナにおいても便利に会議ができるという便益をもたらす一方で、国民にとってどういう秩序に影響し得るのかとか、インターナショナルの秩序とどう調和するのかということを考える必要があります。

ここの図でビジネスのアイコンをちょっと大きく描いたのは、このステークホルダーの中で、一番このナショナルとインターナショナルとグローバルのはざまに立つのがビジネスだからです。そういう意味で、ビジネスエンティティにかかる責任も大きくなる。だからベネフィットも大きくなって、もうけられるというのがGAFAの事情だと思うんですけど、そういう構造を理解しないと、調和を保って、信頼あるイノベーションを起こすという議論には、到底たどり着かないのだろうと思います。

11ページ目に移ります。もう一つの視点は、何でエンジニアと、例えば、規制当局者が一緒に手を組まなきゃいけないかという後半の議論の前段として、線型的な変化と指数関数的な変化という話をしなきゃいけなくて、我々、多分コロナウイルスで痛いほど分かったと思うんですけど、世の中、エクスポネンシャル、指数関数的に推移する事象に対して、線形的にしかリソースアロケーションできないようなことは非常に無力です。もちろん、エクスポネンシャルの底が1を割ればいいんですけども、デジタルの世界では基本的に無力で、例えば我々日本政府も、例えばSociety5.0であるとか、サイバーフィジカルと言っているように、これからP2PとかM2Mのトランザクションが、指数関数的に増える可能性がある中で、一方で規制当局者とか警察の職員の数は指数関数的には残念ながら増えないので、今あるFATFのトラベルルールのような従来型の規制アプローチというのはそのままでは対応できなくなって、こういう指数関数的に増えていくようなものに対する規制を助けるような、いわゆるレグテックと呼ばれるものかもしれませんけど、技術をエンジニアと一緒に考えなきゃいけない時代に差しかかっているということだと思うんです。

こういうことも含めて、幾つかの世の中が動いている背景をまず理解しなきゃいけないというのが11ページ目までで説明したかったことです。

12ページ目に行って、そうは言っても、何回も、インターネットがあってよかったねっていう話をしていますが、このブロックチェーンができる、あるいはこういう分散型金融ができるということの一つの本当の貢献は、ガバナンスモデルとかビジネスの継続の意味で、あるいは故障とかサイバー攻撃への体制という意味で、いわゆる単一障害点ですね、Single Point of Failureを除去でき得るのだというところが一番大きくて、今回、コロナとテレビ会議の例を言っていますけど、いろんな場面においてPoint of Failureがあることで、機動的に物事ができない、あるいは何か止められる可能性があるというおそれを持つということを除去することは、何かが起きたときにやっぱり社会的便益が非常に大きいわけですよね。このメリットをスポイルしないようにどうするのかというところを考える必要があるだろうと。一番下に書いてあるんですけど、Single Point of Failureがない持続的な台帳というものをもしつくることができたならば、金融サービスの信頼の一部を外部化できることが可能になって、イノベーションのコストを軽減できるわけです。ここを忘れてはいけないのだろうと思います。

13ページ目。ということで、先ほど言った、その責任の構造は分からないですよねと。グローバルとローカルとナショナルというのが入り組んでいますよねと。あとは、もう一つ、先ほど言った、基盤的分散インフラ、ここはブロックチェーンのことを指しているんですけれども、ここはオープンソースのエンジニアだったり研究者が一生懸命技術を裏づけしながらつくってはいるものの、例えばビットコインのマイニングリワードは、彼らが受け取るわけではない。一方で、何かこのソフトにバグがありましたとかっていったときに、彼らが一生懸命直さなきゃいけないわけです。そういうインフラが常にあり、インフラが安全に保たれているということが、この分散型金融における責任の一端ではある一方で、彼らに対してなかなか報酬が行ってないという問題があって、彼らはデジタル社会のインフラを担う消防とか警察とか自衛隊のような立場でもあるんですけども、一方で多くのインターネットのオープンソースプロジェクトであっても、持続的に資金が賄えていないっていうプロジェクトは結構あって、そうすると、その脆弱性がほっぽらかしになっているというケースがよくあって、やっぱりこういうところが、もしこれが金融サービスに使おうとするのであれば、ちゃんとした責任を負えるようにしなきゃいけない。

だとすると、ビジネスが持っていると利益みたいなのが還元される構造を作らなきゃいけないんだと思うんですね。インターネットにおいては、例えば、インターネットの標準を作るIETFみたいな組織を運営しているインターネットソサエティの予算の一部は、.orgドメインの登録料を充てるという、ある種、大人の知恵を絞っているわけですけど、こういうことを考えなきゃいけないでしょう。あとは、規制当局からすると、ビジネスエンティティというのは、基本的にはPoint of Failureのところを責任を持って運営しますよということがあるから、投資家とか消費者はお金を払うんです。やっとそれでお金を払ってくれるわけですけど、その払っているお金とビジネスエンティティが負っている責任構造、さきほどの「何とかのはず」という、たくさんあった「はず」がちゃんと解消できるのかというところを、ちゃんとカバーし合えているのかというところを、規制当局は見ていかないとという意味で、多分この13ページにあるような図をうまく整理してあげないと、じゃあ結局、分散型金融とかっていうのはリスクがたくさんあります、規制当局はリスクがたくさんあるものは許さんってなると思うんですけど、いや、そうじゃないですと。リスクというのはちゃんとカバーし得るのですということをビジネスエンティティ、あるいはエンジニアの人たちが主張するには、こういう構造の下で主張していかなきゃいけないんだと思っています。

ということで、14ページ目に行って頂いて、Single Point of Failureをなくすという意味で、中央集権的な信頼、今までのような中央集権的なサービスは、安定していていいような気がするんですけど、Single Point of Failureになり得るし、サイバーアタックされたら止まる銀行のシステムとかもあると思うんですけども、あるいは、サイバーアタックを受けなくても止まる銀行のシステムもあるかもしれませんけど、Single Point of Failureになり得るということが大きいのと、あとはパーミッションレスイノベーションと言いますけど、インターネット型イノベーションの阻害要因であるわけですよね。一方で、多分、今、規制当局者がすごい懸念しているところであるディーセントライズされたトラストというのは、やっぱり責任の構造が不安定だし、インセンティブ構造が完全じゃないし、ビットコインというペイメントの範囲ではうまくいくかもしれないけれども、より広い応用では未知数ですよねというところからいうと、やっぱりSingle Point of Failureをなくしつつ、リスク構造を解明して補い合うという形に変えていく。こういう、1番右にPoly-centric Stewardshipと書いていますけど、複数の主体による相互協力というのをつくる。その基盤には、Point of Failureのない信頼基盤というのがあるというふうに変えていくということが、多分、この研究会が目標としている、イノベーションを阻害しないけど、信頼ある金融をつくるのだというところに引っかかるのだと思います。

次、15ページ目に移って頂いて、これは実は、私も参加させて頂いた2019年G20のパネルディスカッションで示した図ですけれども、じゃあ、そういうことを一緒につくりたいとは思ったとして、じゃあ、ステークホルダーの間でコミュニケーションって十分できているのかというと、できてないですと。それはもう規制当局者と、サイファーパンクと呼ばれる政府大嫌いな人たちがコミュニケーションとるということはまれですし、ビジネスエンティティは、例えばVCからお金をもらっていると、それを早く返してあげなきゃいけないという意味で、技術の成熟度とは別に、どんどんサービスを行ってしまうインセンティブがある。場合によっては詐欺的なこともやってしまうということがあり得る。そして、ビジネスエンティティが出しているホワイトペーパーを一般の消費者が読み解けるかといったら読めないですね。こんな感じで、そもそも、じゃあ、建設的にエコシステムをつくっていきましょうねっていうときのコミュニケーションができてないんだと思うんです。

そういう問題意識があって、先ほどのFSBのレポートについては、その準備の議論としてFSBとかOECDの議論にも参加させて頂いて、その結果として、次、16ページになりますけども、ちょうど2019年のG20、福岡でやるときに、マルチステークホルダーの議論というのをセミナーでやりました。ここに、村井先生がモデレーターをされて、あとは、Klaas Knot、これは政府系、あるいは規制当局に近い人ですよね。あと、私がアカデミアで、Brad Carrは、どちらかというとトラディショナルな金融サービス、IIFの偉い人で、真ん中のAdam Back、彼はブロックストリームのCEOで、そもそもビットコインの中を作っているメンバーのメイン中のメインであって、そういう意味では政府の方が大嫌いなサイファーパンクの人がいて、彼らでどういう協力がし得るのだという議論をしました。このとき、多分、金融庁の計らいだと思うんですけども、この5人の中のセンターを、わざとサイファーパンクの人を置くということで、いかに異なる立場の人、あるいは敵対している立場の人が協力し得るのだということを議論しました。

その結果として、17ページにあるような、2019年のG20のコミュニケにおいて、先ほど紹介頂いた2019年6月6日のFSBのレポートの中には、もちろん分散型金融の定義のことも書いてあるんですけど、一方で、インターネットはマルチステークホルダーガバナンスをこういうふうにやっているんですと、うまく行っている例としてこういうのがあるんですということも実はたっぷり書かれていて、それを踏まえた上でマルチステークホルダーの議論が必要なんだということが報告書に書かれていて、その報告書を歓迎するという形で、2019年のG20のコミュニケ、これは金融会合もそうですし、全体会合でもコミュニケに掲載をされました。

そのコミュニケを受ける形で、次、18ページにありますけど、我々、BGIN、Blockchain Governance Initiative Networkというのをつくりました。これはインターネットの、例えば先ほど申し上げたIETFとかの形式にならっているんですけれども、全てのステークホルダーが自由に参加できる議論の場であって、オンラインミーティングと、対面のミーティングと両方やりながら、技術の仕様であったりガイダンスであったり、あるいは運用の仕様であったりガイダンスであったり、いろんなドキュメントを一緒につくっていきましょうと。共通理解を醸成するというのと、課題への対処のための議論とドキュメントづくりをしましょうということをする場所をつくりました。これが2020年の3月です。

次のページ、19ページ目に行って頂いて、BGINの中では、総会は年3回。年3回というのはちょうどよくて、今、いろんなお題、新しい話題が出てくるので、年3回ぐらいやると新しい話題にも機動的に対処できるんですね。あとはいろんなワーキンググループとかをつくって、隔週でミーティングをして、これ、誰でも参加できるんですけども、共通の課題について議論をしてドキュメントをつくるということをやっています。右側に、スクリーンショットがありますけど、GoogleDocsだったりGitHubを使って、金融庁の人もGitHubに触ったり、GoogleDocsに触るし、エンジニアの人も触るということを本当にやっています。総会、今まで3回。ムンバイ、パリ、ワシントンDCでやって、次回、11月2日から4日にアフリカでやって、来年の春に東京でやるという予定になっています。メーリングリストとかチャットをつくっていて、本当にこういうコミュニケーションをとっているということです。

次に、20ページ目に行って頂いて、今、BGINの中でやっている課題というのは、キーマネジメントが一番やっぱり大きくて、それはやっぱりサイバーアタックを受けたときにどうするんだということも含めて、キーマネジメントの話。あとは、分散型の資金集め、トレジャリーですね。資金集めとかガバナンスの話だったりとかをしています。あと今のDeFiと関係する監督上の懸念点みたいなところというののドキュメントがもうすぐ出版されることになっています。

次、21ページ目に行って、今、一番進んでいるのがFATFとの対話ですね。今年の4月にFATFのちょうど新しいガイダンスができるときで、パブコメをやっていた時期ですけれども、クローズドな意見聴取の場、バーチャルアセットコンタクトグループに招待されまして、BGINでマルチステークホルダーでこんな議論をしているんだよということをインプットして、そのお返しに4月にバーチャルワシントンDCで総会を開催したときに、FATFの人も呼んで、マルチステークホルダー議論を実際して、こんなこと多分異例中の異例だと思うんだけど、していまして、それがある意味うまくいったということで、今、ちょうど来週、9月22日のOECDのポリシーフォーラムでFATFのパネルディスカッションをやるんですけれども、その後の、また進捗の議論をしたりとか、次にアフリカでやるときにもまた次の議論をします。

もちろんFATFのガイダンスを変えてくださいという議論は難しいので、どういうところから協力できるかねって話をしたときに出てきたのが、暗号資産がランサムアタックの支払いに使われたときのトレースというのを一緒に考えるのはぜひやりたいということでやっていて、驚くべきことに、例えばZCashとか、Dashのような、匿名暗号資産、ビットコインより匿名性が高い暗号資産をつくる人たちが、これを一緒に協力するよって言って、ドキュメントの主たるリーダーになってくれているということで、これはかなりうまくいっている例なのだろうと思います。

あと、22ページ目ですね。ちょうど前回の総会の前にエルサルバドルのビットコインの法定通貨化の発表があって、ちょうどこの前、スタートしましたけれども、その最初の発表の1週間か2週間後だったので、ちょうどBGINの場に、この写真の右下の人がルイス・ロドリゲスというエルサルバドルをやっている張本人で、その1個上がビットコインビーチっていう、エルサルバドルでエンジニアリングを助けている人たちですけれども、その人たちを交えて、どこに懸念があって、どこにメリットがあって、じゃあどうしていくのだということを議論をしています。これは継続的に議論して、次回、進捗報告をしてくださいと言うふうになっています。

23ページ目、もう時間をかなり超過しているので少し急ぎますと、前回の総会でそういう議論をして、ランサムウエアアタックの話とかは継続的に、多分もうすぐドキュメントも早く出せるのかなというところと、今までキーマネジメントだとか、DeFiの規制上の論点のドキュメントについてももうすぐ出せますという話です。あと、NFTの話も議論し始めているので、簡単なレポートは多分二、三か月で出てくるのだろうと思います。

24ページ目です。これが最後の2ページなんですけれども、今回のまとめの提言として、まず、We don’t know what we don’t knowと書いてありますけど、我々は自分たちが何を知らないかを知らないので、例えばいろんな人とちゃんと議論をして、規制当局は実はこんなところを気にしているんだとか、エンジニアは実はこういうところは知らないんだとか、多分こういうことを考えているんだということをシェアしながら、自分たちが自分の思いで作っているものが最強の金融システムだということは多分考えを捨てたほうがいいと思うんですね。まずは共通の理解を構築していくことが重要で、規制当局の目的、言葉の定義もそうですし、規制当局の目的とかそうですし、そんなこともやらなきゃいけないと思うんですね。

あとは、ステークホルダーが提案し合う形のコミュニケーションの文化と環境をつくると。先ほどのランサムウェアの話もそうだと思うんですけれども、あるいはリニア対エクスポネンシャルを乗り越えるための規制の効率化ってどうするのかとか。アメリカでは、規制当局と健全な対話ができる人が企業にいるか、チームにいるかどうかって非常に重視されていて、多分あまり表に出てこないと思うんですけど、皆さんがよく知っているような取引所さんであるとか、あと、暗号資産のプロジェクトが、実はそういう人たちを今、猛烈に雇っています。日本は多分遅れていると思うんですけども、正当な対話をしている人たちに対してはアメリカの規制当局はちゃんと答えるというふうになっている。

あとは、やっぱりグローバルなアカデミアを交えてリスク分析をしていくということが極めて重要で、そういうコミュニケーションしていく必要があると思います。もちろん、日本の中でフィンテックの質問を受ける金融庁の組織があって、そこでやり取りする人たちはたくさんいると思うんですけども、その人たちが電話してこう聞いたってSNSに書くのでは駄目で、やっぱり公開の場で中立な議論をしていくことが必要なんだと思います。

25ページ目に移って頂いて、やっぱりそういうことを促進するにはある種のフォーマットみたいなものが必要で、どういうことが書かれるとコミュニケーションが成立するのかということを考える必要があるのだろうと思います。

もう一つは、プロセスが必要で、多分アカデミアによる公開評価、場合によるとコンペティションというのも必要です。例えば暗号技術。我々は暗号技術の専門家ですけれども、暗号技術って、そういうものをやって、数年かけてやっと安全性を確かめていくんですね。ビットコインであったりブロックチェーンの人たちが使っているハッシュ関数って安全だと言うんですけど、そのハッシュ関数の安全性を評価するのに5年とか6年平気でかけるんですよ。そこに税金がたくさん投じられるという構造になっているので、そういうことを実はやらないと、安全性って実は確認できないんですね。あとは、自己評価書をちゃんと提出して、エキスパートが追試するとか、あるいは評価基準が決まってなければそれも公募するとか、そんなことを含めて検討する必要があるのだろうと思います。

ということで、かなり時間を超過したと思うんですけども、グローバルを考えると、日本の中で議論を閉じるのではなく、ブロックチェーンも含めて起きていることは極めてグローバルで、その意味で日本発のブロックチェーンっていう宣伝をするプロジェクトもありますが、それは多分、論理矛盾しているでしょうし、先ほど言ったグローバルとナショナルとインターナショナルの違いを気をつけながらコミュニケーションしていくということが重要なんだということで、すみません、かなり時間超過しましたけど、発表を終わりたいと思います。以上です。

【神田座長】

松尾先生、どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、メンバーの野田さんから御説明をお願いできればと思います。どうぞ、野田先生、よろしくお願いいたします。

【野田メンバー】

よろしくお願いいたします。野田俊也です。私、今までは所属はブリティッシュコロンビア大学の経済学部となっていたんですけれども、この9月から東京大学の経済学研究科に移籍しまして、肩書が変更となっております。

本日は私のほうからは、分散型金融、DeFiの基盤となっているスマートコントラクトという技術の何が新しいかと、それによって何ができるようになるか、そして、それがどのように悪用され得るかという話を整理した上で、その上で分散型金融というものがどういうふうなメリットと危険性を持っているのかということについてお話しさせて頂きたいと思います。

では、次のスライドをお願いします。まず、ここまではもう皆さんよく御存じのことだと思うんですけれども、そもそも電子決済システムというのは何かというと、普通に物理的にお金を相手に渡すという形で価値を移転させるのではなくて、台帳に送金記録をつけることで決済を行うということです。これは古典的な電子決済システムでは現金を渡すのと全く同じでした。それはなぜかというと、銀行口座などからお金を引き出すというふうな感じで、電子決済システムに書き込まれた記録は後から法定通貨と交換することができたからですね。そういうことが金融機関によって保証されていたということです。

これに対して仮想通貨は、記録自体に価値があると多くの人がみなしているだけで機能していて、それゆえに価値のぶれなどが激しいとかという特徴があります。しかし本日の話としては、仮想通貨がなぜ価値を持ってしまったのかということには全く触れずに、仮想通貨の台帳に書かれた数字には価値があるという前提で進めさせて頂きます。

台帳の管理の方式にもいろいろあります。古典的データベースや仮想通貨でも許可型のブロックチェーンでは特定の管理者が管理している、それに対してパブリック、あるいはパーミッションレスのブロックチェーンでは、不特定のノードが分散的に管理するということになっています。

今日の話は、後でもう少し御説明するんですけれども、スマートコントラクトを書くことを許す台帳があれば全て成り立つ話となっています。ただし、現実的には、特定の管理者がいないパブリックブロックチェーンの上でしか現実には表れないような話なのではないかなというふうにも考えております。

前提は以上です。

次のスライドをお願いします。そもそもスマートコントラクトが何かということについて、その起源というか、概念の根本的な部分について考えます。今までの電子決済システムでは、単純な送金しか書くことを許されていませんでした。例えば銀行送金なんかですと、私がどなたかに1万円支払うということに合意したという記録をつけると、私の口座から1万円が減って、受け取った方の口座に1万円が増えるという形で送金を実現していた。こういうふうなアクションが銀行口座の電子送金システムで唯一とれるアクションだったわけです。それに対して、多くの仮想通貨システム、典型的にはイーサリアムとかですね。イーサリアムとかでは、プログラムとして、より条件に複雑づけた送金、あるいは価値の移転、これを記帳することも許しています。これがスマートコントラクトだと定義すべきだと私は考えています。

例えば、Aさんは、CさんがXというメッセージを仮想通貨に入力したときに、AさんはBさんに1万円払うことを合意したというふうな感じで、言わば契約のような感じで、Aさんがどういうふうな条件が満たされたときにBさんにお金を支払う、つまり仮想通貨の所有権を渡すことに合意したかということを記述することが許されているということです。これで仮想通貨のシステムの上では、送金内容のチェックについては、それがいわゆる仮想通貨の文法としての記帳のルールを満たしているか否か以外については、目的などについて、一切チェックは行われないというのが特徴になっています。

このような送金を許すこと自体は、技術的には古典的な電子決済システム、例えば銀行送金なんかでも、全然、全く可能です。なんですけれども、私が知る限りでは、こういうものを、少なくとも自由に記述することを許したという例はありません。その理由は恐らく、こういう自由な条件付送金を許すと法令違反に加担するおそれがある。犯罪利用の話もそうですし、もっとしょうもないような例で言ってしまうと、例えば、年利が30%とか、それ以上の利子率はかけてはいけないとかという法的規制がありますけれども、例えば10日で1割の利子をつけてお金を貸すみたいな、そういうお金の貸し借りとかも実装可能になってしまいます。そういう意味で、利用者に自由にプログラムを書かせることは法的に非常に危険なので、特定の管理者がいる電子決済システムではこういうことを許しにくかったということだと思います。その辺り、仮想通貨システム、パブリックブロックチェーンでは、管理者の責任の所在が曖昧になりますので、このスマートコントラクトを許す台帳が現実に登場してきたということなのかなというふうに私は整理しております。

次のスライドお願いします。このスマートコントラクトを考える上でもう一つ重要な前提が、仮想通貨システムの上では普通の電子送金のシステムと違って、より様々な種類の電子的な資産、いわゆるトークンと呼ばれるもの、その所有権が管理されているということです。これはもう本当にいろいろな種類があります。例えば、現実世界の普通の法定通貨の仕組みなんかで乗っているような株式やオプションに相当するようなもののトークンというのもありますし、コレクション目的、いわゆるNFTなんて呼ばれているものですけど、そういうふうな美術品などのような役割を果たすようなトークンもありますし、あるいは何らかの企業が、「このトークンと引換えにサービスを行います」というようなサービスを受け取るためのチケットのようなものなど、いろいろな性格の権利がトークンとして管理されています。

このイーサリアムなどの仮想通貨の特徴の一つは、誰でも規格を満たす新しいトークンを作成して、それを流通させることが可能だというふうになっています。この点はスマートコントラクトを介して行われる取引を理解する上では重要です。なぜかというとお金しかない世界では、送金をする以外に基本的に複雑な取引というのは発生し得なかったからです。しかし、通貨だけではなくて、当該ブロックチェーンで様々な種類の財の、あるいは資産の所有権が管理されているとなると、複雑な取引をしたい場面というのが度々出てきます。

次のスライドお願いします。このスマートコントラクトの本質的なイノベーションというのは何かについて考えます。現象として何が起きたのかというと、仮想通貨システムという財の所有権を管理している台帳に直接プログラムを書けるようになったということが新しいということだと思います。契約書の文面を電子化するというのは別にブロックチェーンなしでも全くできることで、これは特に新しいことではありません。しかし、それを仮想通貨システムに書き込んで、その仮想通貨システムがその契約書の内容を強制的に執行するようになった。これは、今までと全く違う商取引の可能性を実現するようなものでして、非常に現実世界に大きなインパクトを与えるものです。

では、そういうことができるようになったことによって、どういういいことがあるのかというと、大きく分けて2つだと考えています。1つ目がより重要なほうで、コミットメントがしやすくなります。スマートコントラクトとして、条件付送金あるいは電子契約に合意すると、それを合意したということについて立証可能な記録が残ります。そしてその立証可能な記録をもとに、条件付な複雑な取引、これを仮想通貨システムは強制的に執行します。なので、書き込んだ仮想通貨システムがきちんと機能している限り、後から約束をたがえることはできないということになります。ということは、このスマートコントラクトとして契約を記述すると、後から約束を破らないということにコミットメントができるということで、これによっていろいろな人たちが、自分は約束を破られる、信用されてない人、だから契約を結んでもらえないというふうな問題を解決することができるということになります。

もう一つの特徴は継続性です。仮想通貨のシステムというのは、個々の利用者と比べると長期的に存続することが期待されているわけですけれども、仮想通貨システムは存続する限り送金リクエストを処理し続けます。ここでスマートコントラクトなどを用いて、何らかのサービス、典型的には今日の話ではDeFiなんかですけれども、一度そういうサービスを立ち上げてしまえば、仮想通貨システムが存続する限り、管理者が不在でも理論上は継続することが可能ということになります。この特徴を使うと、管理者の都合でサービスが終了して、それ以上立ち行かなくなるということが起きにくい、起こり得ないということが、コミットすることが可能になります。個々の利用者というか、全く信頼されてない得体の知れない人たちが、現実世界で仮想通貨を介さずに、何か新しい強く信頼が必要なビジネスを始めたときとは、全く状況が変わるということになる。これが継続性のメリットです。このコミットメントと継続性の2点が、私はスマートコントラクトが登場したことによって可能になった新しい可能性だというふうに考えております。

次のスライドお願いします。では、これを使うと具体的にどういうことができるようになるのかということなんですけれども、様々な商取引を信頼によらず実施可能になるということです。一番シンプルで、なおかつ便利な例が、同時取引というやつですね。例えば、スマートコントラクトにAさんが、Bさんが10ETH支払ったときに、BさんにトークンXを引き渡すことに合意したというふうに書いておいて、その上で後からBさんはXをAさんに渡すというふうな取決めをしたりできます。Aさんが、先にBさんからお金をもらってしまうと、Aさんはその代金を持ち逃げするリスクがあった。Bさんのほうは、トークンを先にもらってしまうと、Bさんも代金を支払わずに逃げるというふうなインセンティブがあった。こういうふうな形で、同時じゃない取引を行おうとすると、AさんやBさんには、約束を破るインセンティブがあったわけですね。こういうのを防ぐために裁判所の介入なんかが必要だったわけなんですけれども、スマートコントラクトを使うと、AさんとBさんが同時に物を交換することというふうなことが可能になります。外的な、法的なエンフォースメントがなかったとしても、ちゃんとこういう取引が可能になるということです。

スマートコントラクトを使うと、普通の送金という枠にとどまらない、非常に複雑な取引を行うことができます。例えば、オークションなんかも典型例で、オークションというのは、普通の送金の枠には入らない話なんですけれども、よくよく考えてみると、これは、売手は財をちゃんとオークションの勝者に渡すことにコミットして、入札者はちゃんと落札できた場合に入札額を払うということにコミットすれば実行できます。なので、例えば、こういうふうなオークションとかも実装することができます。

次のスライドお願いします。ただ、この利便性に伴って、もちろん社会的なリスクが発生します。スマートコントラクトの登場によって、取引の可能性が広がって、従来インセンティブの問題で実行しにくかった取引が実行しやすくなりました。それは同時に、社会的に望ましくない取引も達成しやすくなったということです。典型的な例は、我々がスマートコントラクトを分析した論文で議論したポイントなんですけれども、例えば談合なんかがやりやすくなります。実際はもう少し複雑な手続を踏むんですけども、理屈の上でエッセンスはこんな感じですね。談合の参加者が、一定の仮想通貨をスマートコントラクトにデポジットして、後から談合の参加者たちが、談合破りが行われたかどうかについて評価する。談合破りが行われたという結論になると、その仮想通貨はデポジットした人に対して返さない。こういうふうなスマートコントラクトをつくっておくと、談合破りを行うと損になる状況をつくることができるので、みんなが談合を守るインセンティブを与えることができる。なので、従来談合ができないような状況だったとしても、新しい環境、スマートコントラクトがある環境では談合がつくられてしまうということになります。

もちろん、談合のような違法性のあるような取引、約束以外を執行することにも可能で、そういう意味でいうと、よいほうへの利用も可能なんですけれども、このスマートコントラクトを使うと、同時に悪用することも可能。犯罪性の高い従来できなかった取引も行うことが可能になってしまうということで、これが社会的なリスクだと考えられます。

次のスライドお願いします。この分散型金融(DeFi)というのは、このスマートコントラクトの応用というふうに考えるのが個人的には正しいと思っています。従来の金融機関では利用者の資産を管理するという性質上、非常に強い信頼が必要で、その点から来る、一つはっきりとしたデメリットとしては、誰でもできるような商売じゃないせいで新規参入が阻害されて、独占・寡占の問題が起きやすい環境となっていったということ。これは客観的な事実としてあると思います。なんですけれども、スマートコントラクトを使うと、サービス提供者に信頼がなかったとしても、あらかじめ定められたプロトコルを遵守して、利用者のリクエストを継続的に処理する、こういうことにコミットメントをすることができます。

一応、建前的にというか、DeFiのもっともらしい目標としては、信頼された集権的な金融機関の仲介なしに金融サービスを提供して、従来なかったサービスをどんどんつくっていこうじゃないかということになります。これが信頼がなくてもできるということで、従来の金融機関ではないような、例えばそのエンジニアとかでも新しいサービスを立ち上げることができるようになります。新しいアイデア、既存の利益の構造にとらわれないような新しいサービス、そういうものがつくれるようになる。これが、お題目としてのDeFiのいいところということになると思います。

DeFiのもう一つの特徴は、サービス提供者というものが、理屈の上からいうと、必ずしもはっきりと存在しなくても回っていくということですね。具体的には、取引を仲介するのはサービス提供者ではなくて、サービス提供者が設置したプログラムですので、サービス提供者はシステムのアップデート以外の業務を行わなかったとしても取引は仲介されていくと。より集権性を排したサービスでは、アップデートを行う際に投票を必要としたりするような民主主義的な仕組みをつくったり、あるいはアップデート自体を全くできなくなるように設計することによって、全く建前上は管理者がいないサービスをつくることもできるということになっています。

次のスライドお願いします。このDeFiというのは2020年で非常にブームになったというか、大きく成長した分野でして、Total Value Lockedという、DeFiを利用するためにスマートコントラクトに預け入れられた資金の総額ですね、DeFiの市場規模の一つの目安ですけれども、こんなふうに、2020年の間に一気に大きくなりました。こういうDeFiサービスが流行したことによって、株式やガバナンストークンの種類も非常に増加して、その取引の仲介のために、どんどん、ますますDeFiサービスが人気になっていったということがあります。

次のスライドお願いします。この表は、代表的なDeFiと対応する集権型サービスで、いろいろな、従来、金融機関のようなものが行っていたサービスを代わりに実現できるDeFiというものが登場してきています。注意しなければいけないのは、DeFiのサービスが、こういうことができます、この仕組みはうまくできていますということをいろいろ宣伝しているんですけれども、これが開発者や運営者の宣伝どおりにきちんと機能するようなデザインになっているかというのは個別に議論が必要です。これは個々のDeFiはもちろん、セントラライズドファイナンス、つまり、中央集権的な管理者がいる金融機関にも当てはまります。一応、現状、市場に広く流通していて、なおかつ、それなりに機能しているように見えるという代表的なサービスが、この表に整理されています。

次のスライドお願いします。もちろん、こういうふうに宣伝されているものをそのまま真に受けるということはやるべきではなくて、確かにスマートコントラクトも、DeFiも、間違いなく、今までできなかった新しいことができるようになる、それによってポジティブな部分もあるというのは間違いないんですけれども、一方で、DeFiを運営している人たちが軽視しているというか、自分の利益の観点からあえてあまり大きな声で言わないリスクもたくさんあると思っていまして、その一つがシステム上のリスクということですね。イーサリアムなどのパブリックブロックチェーンに書かれたスマートコントラクトのコードは誰でも読めます。DeFiのいいところの一つは、コードをちゃんと読めば、誰でも、いんちきを、不正をする余地がないようにシステムが組まれているということは検証できるということです。

しかし、現実には、自分でコードを読むのは技術的には困難です。さらに、コードを読むということは、ある意味、公共財の供給なわけですね。それはどういうことかというと、コードを読んで、安全性を立証するというのは自分のためになるだけではなくて、社会全体のためになる。こういう環境で自発的におのおのの人がコードを読むのに任せるという感じになっていたとすると、コードを解読して安全性を検証するという、その検証作業は過少供給になります。実際に、みんなきちんとコードを読んでいなかったり、読めていなかったりすることによって、不正流出に結びついたものも含めて、運用されているサービスには、バグ、欠陥がしばしば指摘されています。これを解決するために、もちろんDeFiのサービスの人たちもこういうのは本意ではないので、対処はしようと思っていて、サービス提供者はコード監査をプロの業者に依頼したりすることもあるんですけども、それでも漏れはたくさんあります。

従来の金融機関と比べて、DeFiの場合にこれがより問題になるのは、欠陥の発見後、速やかに顧客の資産を保護することが必ずしも容易ではないからですね。強制停止をできる権限を持っている管理者というのは非常に強い信頼が必要ですから、DeFiのサービスの運営の観点からいうと、これは必ずしもサービスの提供者がやりたいことではないんですね。むしろDeFiは信頼できる管理者がいないサービスの提供を目指しているということで、強制停止を行いたくない、行わないことにコミットする、そういうふうなイメージでシステムをつくっていたりします。そうなると、欠陥が発見されても、欠陥を抱えたままでサービスが運営されてしまう可能性があったりするということです。

次のスライドお願いします。もう一つの問題は、DeFiとかがどんどんはやってきてしまうと、よりマネーロンダリングなどがやりやすくなる可能性があるということです。それはどういう意味かというと、DeFiがない単純な送金だけの場合だったとすると、資金の流れというのは台帳の流れをちゃんと見ていけば、つまり取引の流れを追っていけば、誰のお金が最終的にどこに流れたかということをトラックすることが比較的容易だったわけですね。しかし、単なる送金を通じてではなく、DeFiを通じて資金の移動が行われた場合、この流れをちゃんとトラックすることがより難しくなる可能性があります。これは例えば、イメージとしては、お金の根本を、流れを不透明にするためを目的とするミキシングサービスは、規制されつつあるんですけども、実質的にこのミキシングサービスの代替として悪用されるおそれがあるということです。この問題は、仮にDeFiサービスの提供者にそういうふうなマネーロンダリングに使ってほしいという意図がなかったとしても発生し得る問題となります。

次のスライドお願いします。これ、最後のスライドなんですけれども、最後に、こういうDeFiに対して規制、あるいは何らかの政策を入れていくとすると、どういうことが問題になるかということを整理します。DeFiを規制するのは従来の金融機関への規制と比べて明らかに技術的に難しいです。ブロックチェーンは非常に国際的なものですので、例えば、日本でこういうサービスは許すべきでないというふうな議論になったとして、その上で、日本だけのルールに基づいてそのサービスの利用を不可能にするということは、なかなか難しいわけですね。世界全体で、違法なサービスを停止するべきだというふうなことに合意できたとしても、究極的には、DeFiのサービスを本当に停止させようと思ったら、ブロックチェーンの管理者(マイナー)に、そのDeFiのサービスを利用するように送られているトランザクションは承認しないように協力してもらわないといけないんですけれども、現状ではとてもブロックチェーンの管理者(マイナー)が、そういうことに協力してくれるようには思えません。

一番やりやすいのは、資金の流れを追って、法定通貨への換金を防ぐことで違法なサービスへの収益化を防ぐということだと思うんですけれども、これは2つ問題がありまして、先ほど申し上げたように、DeFiを使うと資金の流れが不透明になって、資金の流れがちゃんとトラックできるかが分からないということと、収益性を追求しないような、そういう開発者のサービスの提供を抑止することはできないということがあります。仮に規制を入れるとすれば、規制に実効性があるかどうか、そして、規制を守る気がある真っ当な事業者をどういうふうに優遇するというか、きちんと彼らにインセンティブを与えていくかということを注意深く議論する必要があると考えております。

私からの説明は以上です。どうもありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、これまでの御説明等を踏まえまして、メンバーの皆様方から御質問、御意見をお出し頂きたいと存じます。これまでどおりですが、オンライン会議システムにチャット機能というのがございますので、御発言頂ける方は、そこに発言しますということをお名前とともに入れて頂いて、全員宛てに送信をお願いします。そうしましたら私のほうで確認をして、御指名をさせて頂きますので、お名前を名のった上で御発言頂くということでお願いいたしたく存じます。

今、チャットに入れて頂きまして、ありがとうございます。岩下さん、どうぞお願いいたします。

【岩下メンバー】

どうもありがとうございます。事務局の説明、及び今日はお二人の先生方からお話をお伺いしまして、とても興味深くお伺いしました。

京都大学の岩下でございます。松尾先生のひそみに倣いまして、私も一応、実務家の経験が三十数年ございますので、実務に強い大学教授という立場であるということをここで示しておきたいと思います。

それはそれとして、今日のお話を聞いていて、なかなかちょっと心がざわざわするものを感じました。というのは、基本的にDeFi、あるいはスマートコントラクト、それらがステーブルコインになるといったような話を聞くときに、そもそもそういうことを進めていらっしゃる人たち、あるいはそれを信じている人たちと、伝統的な金融の仕組みを信じている人たちとの間で、そもそも住んでいる世界が相当違う感じがするのですね。これは松尾先生の御指摘にもあった、マルチステークホルダーで議論しましょうというときに、非常に議論がしにくい一つの理由になるだろうと思います。例えば、スマートコントラクトによって、こういう取引が必ず行われることが保証されると言われてしまうと、伝統的な立場からは、それはいったい誰が保証しているのですかという話になります。普通は誰かが保証しなければ保証はされないですよね。だけど、暗号資産の世界では、それはみんながそのシステムを信じているからそうなることになっているという、何か神様がやっているみたいな話になっています。そんな訳ないと思っている人たちと、この仕組みは暗号資産のブロックチェーンが未来永劫続くのだとすれば、絶対に大丈夫だと思っている人たちとの間で、相当なギャップがあるということをすごく感じました。

その上でなんですけれども、今日論点に上がらなかったことについて若干触れたいと思います。例えば、スマートコントラクトの議論について言うと、スマートコントラクトが適切に組まれていなかった事例というのは実は過去にたくさんあります。有名なところですと、あれは2016年でしたか、The DAO事件というのがありましたね。あれもある意味でDeFiのさきがけみたいなものだったと思いますけれども、イーサリアムのスマートコントラクトの中で組まれたアルゴリズムに対してアタックが行われました。かなり後で、SECがThe DAOについて、未登録でパブリックオファリングしたということで証券法違反と指摘したわけですが、いずれにしても出資をした人たちのお金のうちの数十億円が盗まれてしまうというか、別の権利者に移ってしまうという事件がありました。

比較的最近ですと、今年の6月でしたか、アイロンと、それからアイロン・チタニウムという、これもやはりDeFiトークンと称するものが、これが非常な値上がりをした後で一気に価値がゼロになるというような大騒動を演じたことがあります。これはたしかステーブルコインとの交換を通じて、価値を無尽蔵につくり出すみたいなことをやったわけです。当然、経済学的に考えるとそれはあり得ないことで、そういうことに乗っちゃった人がいるのが不思議なのですが、今のDeFiの様々なプロトコルを見ると、普通にUSDでDeFiの預金をすると年利4%ですとか、何かよく分からない数字が出てくることが多いので、その意味では似たような話かなと私は思っています。

そういう意味では、決して、今の金融の大きな枠組の中でまともに動いている人たちからするとちょっと信じられない、住む世界が違う話が、一方では当然のように語られているという実態があります。

私は一応、両方の分野についてそれなりに詳しいつもりなので、両方の言っている意味が分かりますが、これはなかなか歩み寄れない話だなというふうに常々思っています。これらの世界が未来永劫続くのかというと、そこもよく分からないですが、多分、伝統的な金融のほうは比較的続きそうな感じがします。これまで数百年続いてきていますので。それに比べると、暗号資産に基づく金融のようなものは、せいぜいここ数年の話なので、本当にこれが今後も続くものとして議論してよいのかという点もちょっと心配な部分です。

そういう意味でいくと、ステーブルコインというのは既に、例えば先ほどの分類によるとDeFiによるステーブルコインということになるのでしょうが、テザーというのが7兆円ぐらい発行されていますし、それ以外にも多種多様なものが発行されているのは事実です。事務局の問題提起にある、ステーブルコインがこれから使われるかという点については、ステーブルコインと称するようなものというのは山のように発行されていると思いますが、その中で本当に価値がちゃんと維持されてきちんと使えるものというのがいかほどあるのか、万人が使えるものっていかほどあるのかというと、ちょっとそれは怪しいかなと思います。そういう意味ではリブラというのはもしかしたらそれになり得る候補だったのだけれども、使われる可能性があるからこそ警戒された。それに比べると、一般の世界とは別の世界で発行さているステーブルコインの話はまた別な話として捉えていくべきでしょう。それはそれで、その世界が続けば続くし、その世界が止まれば止まるということで、そこは別の世界というふうに上手に切り分けて、消費者保護や投資家保護を必要とするような人たちはそういう世界にできるだけ近づかないようにしていくというのが、取りあえずは正しい政策ではないかと思っています。

私からは以上です。

【神田座長】

それでは、チャットの順番で、次に坂メンバー、お願いいたします。

【坂メンバー】

よろしくお願いします。

大変貴重な御報告ありがとうございました。私のほうからは、資料4の論点に従って少し意見を述べさせて頂ければと思います。

まず、(1)の点ですけども、分散型金融技術を用いた金融サービスの検討においては、金融機能の高度化、効率化の実現という評価基準、評価軸をしっかり据えるべきだろうと思います。金融機能は実体経済を支え、成長させることが期待されるところだと思いますが、これまで金融には、決済、資金提供、資産運用、リスク移転の4つの機能があると整理をされてきました。分散型金融がこれらの機能の高度化、効率化に寄与し得るのか、寄与させ得るのかが課題だろうと思います。

この点、暗号資産は少なくとも我が国では、決済手段としてはあまり機能しておらず、投機対象にはなっておりますけども、資産運用による資金配分や資産配分の効率性に寄与しているようには見えません。また、国際的にもマネーロンダリング等の懸念が大きいということ等に鑑みますと、金融機能の高度化、効率化への寄与という点では、いまだ多くの課題を抱えているというふうに思われます。

次に、(2)の点についてですけども、こうした点に鑑みましても、ステーブルコインについて、サービス開始前にリスクに十分に対処することは必要不可欠であろうと思います。特にリスクが現実化した場合に、社会的・経済的影響、そのしわ寄せが社会的に弱い層に及ぼされやすいことには十分な留意が必要かと思います。

また、サービス開始前に、リスクに十二分に対応することは、イノベーションの促進という観点からも重要なのではないかと思います。規制枠組みやガバナンスの要請が十分でない場合には、リスク対応が十分でないサービスが競争上で有利になり得るということもあり得るでしょうし、また、提供されるサービスが玉石混交では、洗練された利用者がなかなか利用に踏み出しにくいということもあろうかと思います。イノベーション推進ということを考えるのであれば、その観点からも、規制枠組みやガバナンスの要請というのはしっかりしたものを準備すべきだというふうに思います。

次に、(3)ですけども、金融規制・監督上のアプローチとして同一のルールを満たすに当たっては、大切なのはその趣旨ないし、かかるアプローチの目標とするところであろうと思います。この点は金融制度スタディ・グループの中間整理でも、規制の回避を防止し、利用者保護や公正な競争条件を確保するという観点が確認をされています。この3つの観点、規制の回避の防止、利用者保護、公正な競争の確保というのは、今日ますます重要となってきておりますし、同一のルールを策定するに当たっても、これらの目標をいかに実効的に達成できるのかという点についての留意が必要かと思います。

次に、(4)ですけども、今日のサービスがコンピューターシステムを通じて提供されているというところを見ますと、システムの適正を技術的に確保することや、技術的な適正確保のためのガバナンスの体制というのは重要な課題だと思います。当局が技術的コミュニティーとの対話を促進することは、この観点から極めて重要だろうと思います。もっとも、言わずもがなではありますけども、当局は規制、監督する立場にありますので、公益的ないし利用者保護の立場から、緊張感のある連携を保ってほしいというふうに思います。

また、事業者目線のサービス提供のための技術と、当局目線での業務の適正を審査する技術ですとか、あるいは監督のための技術というのは、内容や性質がかなり異なると思われます。前者は事業者がイノベーションを進めるというふうに思われますけれども、後者は当局がイノベーションを進めるとともに、事業者に対する技術的優位性を確保するという必要もあろうかと思います。他の行政機関や他国の監督機関との連携も含めて、この点はぜひ不断の推進をお願いしたいというふうに思います。

以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、森下メンバー、どうぞお願いいたします。

【森下メンバー】

ありがとうございます。

大変参考になるお話をありがとうございました。

一番最後にある「本日討議いただきたい事項」の中で、幾つか金融規制、あるいは監督上の課題ということで指摘されている点があります。具体的にKYCやマネロンとの関係ですとか、あるいは規制の適用や執行の困難さという問題ですとか、利用者保護における課題ということが指摘されていますけれども、これらはもう既に現実の問題として発生していて、まさにそのとおりだと思います。ただし、問題はこういった課題にどうやって対応するかということだと思います。

一つはこういった課題に対して技術によってどこまでの対応が可能かという点が非常に重要なのではないかと思っています。いろいろな課題について、法や規制だけで対応する必要はありませんし、また、それは現実的なものではないと思います。様々な課題というのは、ここに挙げられたものには限られず、より具体的な様々な多くの課題があると思いますけれども、技術でこうした課題に対してどのように対応できるのかということについて、私自身としては、ぜひ、現状ですとか、あるいは展望というものを勉強したいと考えています。

松尾先生の御報告の中で、暗号資産のトレースの技術ということについて検討が進んでいるというお話があったと思いますけれども、これはそういったリスク、課題に対して規制と技術がタッグを組んで進んでいくということの一例なのかなというふうにお伺いしました。これに限られず、やはり今後は、法あるいは規制と技術の対話というのが非常に重要であって、これ自身は、私は、やろうと思えば十分できることだと思っています。以前、私自身も、ほかの法律の研究者の方と技術家の方と、そのような観点から議論を行ったことがありましたけれども、数多くの発見がお互いにあったと考えています。

そういった意味では、「本日討議いただきたい事項」の(4)のところですね。技術というもので補完していけるような部分があるのではないかということは大いに進めるべきだと思います。これはグローバルなレベルでなされることも大事だと思いますけれども、国内でもどんどんなされたらいいのではないかと感じております。

2つ目は、リスクとの関係ですけれども、一部のプロフェッショナルで限定されたサークルで利用するですとか、あるいは顧客との取引の裏側でいろんな技術を使うというようなことであれば、多少のリスクがあってもオウンリスクであり、特段の規制は行わないといったような考え方も十分あり得るのかなと思います。他方で、多くの消費者を相手にする、あるいは社会の多くの範囲で基盤として用いられるということになるとそれでは済まないと思います。これは金融分野に限った話ではないと思います。そういったような場面で使われる場合には消費者や社会を過度のリスクにさらさないために、一定の規制に服する必要があるということにはなると思いますし、その際には同じビジネス、同じリスクに同じルールというのが基本的な考え方として合理性があるのではないかと思います。

松尾先生のスライドの中に、一般の消費者や投資家の政府に対する期待として、問題があったら助けてくれるはずという期待があるのではないかといったものがあったと思いますけれども、この期待が過剰であって、政府あるいは国としてその期待に応える必要はないとはなかなか言い難いのではないかというふうに思いますし、現状、そこにおいて国家が必要な役割を果たすということは当面変えられないのではないかと思っています。

あと、野田先生のスライドの中で、ブロックチェーンは国際的でどの国の法律から見て違法かがはっきりしないとの御指摘がありました。それは確かにそういった点はあるのですけれども、現在の国際法の考え方からすると、規制の必要性があり、一定の関連性があるのであれば自国法上、違法とするというようなことは認められていますし、複数の国が同時に違法とすることも、ある国が合法として、ほかの国が違法とすることも法的には問題ないと思います。

ただし、問題は、違法であって規制をしたいと思っても、どう実効性を実現するかというところが課題だと思います。こういった点で、実効性を実現するかという意味でも、やはり技術によって規制の実効性を実現していける余地があるのかどうかという観点からの対話ということが非常に大事であると思っています。

結論からすると、法や規制と技術の対話が非常に重要ということなのですけれども、もし、例えば、あるサービスが非常に多く使われるようになった状況で、一般の消費者や投資家に対しても相当のリスクがある状態が生じたとします。しかしながら、国や政府が違法で、危険であると思っても、技術者も規制当局も止められず、放置するしかないということだとすると、それは相当深刻な問題だと思います。ステーブルコインとか、非常に大きく広がる可能性のあるようなプロジェクトに対して、本当に大丈夫なんだろうかというような懸念が生じたというのは、私自身はそういった点もあるのかなと思っております。

以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、次に、松尾先生、どうぞお願いいたします。

【松尾メンバー】

先ほどかなり時間超過したので、かなり手短に言いますけど、最初に岩下先生がおっしゃった点に関して言うと、やっぱり、世の中って銀の弾丸はないので、無条件にうまくいくシステムというのはない。とすると、既存の金融にしても、新しい金融にしても、うまくいく条件は何なのか、うまくいかない条件は何なのかということを、自ら提示して議論することが必要だと。既存の金融は、多分そういう議論ってもう長年されてきていると思うんですけども、逆にブロックチェーンベースで新しい金融をつくるとか、うまくいく条件は何なのか、うまくいかない条件は何なのかということを提示しきれてないと個人的には思うので、その議論をちゃんとすべきだと思います。

あと、論点の話で言うと、(2)サービス開始前にリスクに対処することが必要だ、これ、当然だと思うんです。僕の資料の補足資料にあるところの30ページにそのことを書いていて、30ページと31ページはそのことを書いているんですけど、30ページ、インターネットって、基本的にはリサーチ、大学のリサーチでかなり成熟をさせた後に、やっと標準化して商用化されていると。ただ、ビットコインの場合は、ソースコードが2009年に出回って、すぐにビジネスが走ってしまって、安全性が検証されていない。標準化もまだ追いついてないし、リサーチも追いついていないという逆転現象が起きてしまっているわけですよね。

31ページ目を見れば分かるんですけど、インターネットの研究って、1969年に始まっていて、商用化って90年代の前半で、それの間、二十何年かけて、それを全部アカデミアで検証して、やっと動かしているわけです。もう既にパンドラの箱は開いているので、それに戻せとは言わないけれども、アカデミアが検証するというプロセスを、改めて10年単位で走らせないと、インターネットよりもかなり複雑な分散システムを扱おうとしているので、やっぱりこれは無理なんじゃないかという気がします。別にアカデミアだから、ポジショントークで言っているわけじゃなく、インターネットよりもはるかに難しいシステムを扱っているんだということを意識する必要があるだろうというふうに思います。

あと(3)ですけども、同じビジネス、同じリスクには同じルールを適用するということはそのとおりだと思いつつ、分散型金融のリスクって分かってないんですね。多分、リスクの種類があると思うんですよ。ステーブルコインの中にもリスクの種類、異なる種類がありますし、もうちょっとこれは議論を精緻化しなきゃいけないだろうと。

あと、(4)に関して言うと、我々が今やっていることなのでぜひ進めたいと思うのと一緒に、既にFATFの話を差し上げましたけど、成功例は、これもちょっとじじくさい話になるんですけど、私と岩下先生がやった日銀NTT電子マネーは、まさにNTTの技術者だったら私が、銀行の人とお話をして、こんなところが気になるんだということを1個1個聞いて、技術者が実現するということを何年もかけてやったわけですよね。あれはもう一番いい成功例なわけです。だから、できないことはあり得ないので、だとすると、やっぱり旧来型の金融に携わる人あるいは規制当局が気になることをちゃんと技術者に伝えていくことが重要なんだと思います。

以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、加藤さん、どうぞお願いします。

【加藤メンバー】

加藤です。よろしくお願いします。

3点ほどのコメントをします。1点目はステーブルコインの有用性についてです。野田先生の報告でもありましたとおり、ブロックチェーンに権利の帰属関係を記録して、それを取引しようとする試みが進んでいくのであれば、やはりDVP、デリバリー・バーサス・ペイメントをブロックチェーン上で達成する仕組みに対する需要が高まると思います。ただ、岩下先生がおっしゃったように、本当にステーブルか否かが分かりにくいという点が問題となります。

2点目は、ステーブルコインをステーブルにする仕組みについて、これも様々な仕組みがあると思います。野田先生の報告でもありましたけれども、アルゴリズムを使うものもあれば、裏づけ資産のカストディに依拠するものもあると思います。裏づけ資産を利用するほうが簡単だと思いますが、その場合、裏づけ資産として利用されるのは国債や信用力が高い社債だと思います。このような形で、ステーブルコインと伝統的な金融システムが接続する点に注意が必要だと思います。

さらに考えると、裏付け資産を有するステーブルコインは、MMFやMRFに似た特徴を有しているように思います。そうすると例えばリーマンショック後のアメリカで、MMFやMRFに起こったようなことがステーブルコインについても起こり得るということも考えておく必要があると思います。

3点目は、ステーブルコインやDeFiに、一般の人がどれくらい、どのような形で参加することを想定するかということです。実際に、暗号資産については、多くの人は暗号資産取引業者を介して取引をしているわけで、自分でノードを立てる人は限られていたと思います。ステーブルコインやDeFiに関する規制の是非や方法を考える際にも、一般の人が自分でネットワークに参加するハードルの高さなどについて認識を共有することが望ましいと思います。この点について、一度整理して頂けると大変助かります。

私からは以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、次に、松本さん、どうぞお願いいたします。

【松本メンバー】

ありがとうございます。

私、一応、軽くまた自己紹介しておくと、今、パーミッションレスの世界って出てきたんですけど、ここの取組を昔はしておりまして、いわゆるブロックチェーンの取組をしていたり、実は現在、先日発表させて頂いたんですけれども、証券業のほうのライセンスを取得して、事業として営もうとしている。その過程で今エンジニアとして、その中にいるわけなんですけども、その立場から、エンジニアから見て、特に技術者との対応という部分の話を中心にさせて頂きたいなと思うんですけども、僕自身としては、自分のスタンスとしては、このスマコンというか、DeFiの世界でイノベーションの種が見つかるというところは、非常にメリットだと思っておりまして、このイノベーションが健全に支えられるということが最も重要だと考えております。そのために、技術者が活躍しやすい土壌があるということは、これは国の発展的な意味でも非常に重要だと考えておりまして、どうしてもなかなか規制と、ここのエンジニアの自由というところ、相反するところが多いんですけれども、これをいかにこう実現していくか。

その一つの考え方が、本日、松尾先生の話の中でも、良い線引きだなと思ったので引用させて頂くんですけど、グローバルな世界とインターナショナルな世界、この2つの間の線引きがまずは重要かなと思っております。これは健全にという意味で、これは利用者から見ても健全に使える、安心して使える基盤でない場合に、仕組みの成長というのはある程度のところでどうしても限界が来てしまうというふうにも考えておりまして、僕はこの不安定なシステムというのは、無尽蔵に成長していくものではないと考えております。そういう意味で、イノベーションが起きやすいエコシステムの発展を長期でうまくマネージしていくためには、健全な線引きをしていくこと。そうするとやはり今、レギュレーションの下で運営されている金融の事業のメタファーというのは、インターナショナルな世界の中で確立していくことが非常に重要かなと思っております。

というのも、今、DeFiの世界に参加しているエンジニアって、世界中のエンジニアの本当ごく一部だと思っております。エンジニアが少ないということは、その分、仕組みの、例えばさっきのコードのプログラムの健全性だったりとか、よりよい仕組みを生み出すという意味でも、将来的には何らかの制限になり得るなと思っておりまして、じゃあ、普通のエンジニアがこれに参加しようと思ったときに、普通のエンジニアの視点でいくと、これはどうすればこの規制の下で安全に運営できるプログラムになるのか、ここが分からないわけなんですよね。これが分かる仕組み、もしくはそれを分からなくても一旦は取り組める仕組みというのがないと、なかなか普通のエンジニアも参加しづらく、エコシステムも発展せず、その上で安定して、安心して使える基盤というのが生まれないなと。

ですので、私として、この領域、うまく取り組んでいくためには、今回、証券業のライセンス取得に当たっての、当局の皆さんとの会話が、私にとっては非常に良いヒントとなっておりまして、やはりある程度の段階を区分したようなライセンスというのがあったりすると良いのかなというふうには漠然と考えております。例えば、今の電子決済の世界ではある程度、金額の上限を設けて取引をするような仕組みによって、利用者のある程度の保護を実現していたり、証券業においてはこれが、今度は私募の世界といいますか、適格な投資家さんとの取引を許容する世界と、公募の世界と、これらはライセンスとして分かれているわけです。このライセンスが分かれていることによって、ある程度、何が取り組めて、何が取り組めないのかの線引きが明確になるのと、あとこのライセンスをまた変更する、飛び越えていくという過程で、当局と対話をするきっかけが生まれます。この過程で、技術者もその対話にどうしても参加することになります。今回、私の事例ではそうでした。システムをつくる上で何がライセンスとして必要なのかというところの議論がなされることで、その中で健全に意見交換が行われたというふうに感じておりまして、こういった段階的なライセンスの区分というのがあったりすると、私としては、技術者としての会話のきっかけと、そのときにクリアすべき基準というものが明確になりやすく、非常に取り組みやすいなというふうには感じております。

もちろん、本当にサイファーパンクな皆さんからすると、それが本当に良いことかというとそうでもないというふうに感じる方も多いかもしれませんが、その中であとはインターナショナルなチェーンを実現しようとするのであれば、そのチェーンの中できちんと運営されているためには、実際に取引をする主体、投資家もそれがKYCされている、取引がAMLの基準にちゃんと合致しているかというところが、インターナショナルな団体というか取組の主体の中できちんと保証されなきゃならないですし、実際に仕組みを運営する主体がガバナンスをちゃんと担保できているかというところが重要なのかなと思っております。

技術者コミュニティー、非常に開かれておりまして、基本的に対話は参加はできるんですけれども、言語が違い過ぎるというところが一番の課題だと思っておりますので、ここは継続的にエンジニアをこういった場にも招いて頂けるとうれしいなというふうには感じております。

あとは、最後、グローバルな、さっきのインターナショナルとはまた別な、グローバルオンリーの世界の話でいくと、ここを完璧に規制するということは正直難しいと思っておりまして、この世界、とはいえ、利用者としても安心して使えない世界でもあり得てしまうのかなとも思うので、できることとしては、機械的な手段、国際的な枠組み双方をうまく活用しながら、その取引を継続的に監視しつつ、何らかの問題が発生した場合に即座に動ける体制だけは整えていく必要があるのかなというふうに感じております。

私からの発言は以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、次に、神作さん、どうぞお願いいたします。

【神作メンバー】

神作でございます。御発言の機会を与えて頂きありがとうございます。

松尾先生と野田先生には大変貴重なお話を頂き、誠にありがとうございました。大変多くを学ばせて頂きました。

私は法律家でございますので、規制の観点から発言させて頂くことになりますけれども、基本的な考え方は、同一のビジネス、同一のリスクには、同じルールを適用するという考え方が基本であると思います。もっとも、今日のご発表を伺っていて、分散型金融技術の場合には、ビジネスとそのリスクというのはグローバルに同一なのですが、ルールは、どうしても国単位すなわちナショナルになっているというところに、非常に難しい問題点があると思いました。

分散型金融技術は、金融の分野でも、様々な機能を提供し得るということは、今日いろいろなお話から明らかになりましたけれども、国際的な議論の動向を見ても、また、本日のお話を伺っても、やはりグローバル・ステーブルコインが決済機能を営むようになったときに企業活動や国民生活に与える影響、さらには金融システム全体に与える影響が非常に大きいと思われます。したがって、まず、グローバル・ステーブルコインに焦点を当てて議論していくことが考えられると思います。

その際、グローバル・ステーブルコインといっても、様々なタイプがあると思います。規制の観点からは、債務者なり、発行者なり、管理者なり、規制の名宛人となる者が存在している場合と存在してないケースを区別することが規制のあり方についての非常に大きな分かれ目になると思います。それから、ステーブルをどのような仕組みで担保しているかについても、様々な類型と申しますか、タイプがあると思いますので、そういったものについて、私は全く実務には疎く、あるいはこういった最先端の技術について全く疎い者にとっては、整理をして御説明を頂くと、議論の出発点として大変ありがたいと思います。

そして、もしグローバル・ステーブルコインが、決済分野において一定の役割・機能を果たし得るということを想定する場合には、セーフティーネットですとか破綻処理の手続まで含めて、同一国内ではありますけども、同一のルールを適用するというのが、基本的な方向かと思います。

信頼という言葉が今日出てまいりましたけれども、信頼の中にも、過剰な期待が寄せられている信頼と、それから、法的保護に値する信頼というのもあると思います。法的保護に値する信頼というのは、ある程度やはり制度的な裏づけが存在する必要があると思いますので、その正当な信頼として法的な保護に値する場面を切り分けていく、逆に申しますと、外部化された信頼のうち、法的に保護されるものとは何かという観点から議論をしていき、過剰な期待については、それを是正していくような、あるいはまた別の努力によってその期待は正当でないことを知らしめたり、場合によっては規制したりすることが必要になるように思われます。

他方で、グローバルな問題との関係ですと、どうしても国内の立法によっては大きな限界があり、そこではとりわけソフトローの重要性がクローズアップされると思います。ガバナンス、あるいはエンジニアと規制当局とのコミュニケーション、こういったソフトロー、あるいはソフトローを生み出すための様々な努力を適切に組み合せながら、ハードローとソフトローの適切な役割分担と協調が模索されていくべきであると考えます。

非常に雑駁な御意見になりましたけれども、私からは以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、井上さん、どうぞお願いします。

【井上メンバー】

ありがとうございます。

本日、事務局のほうから、要領よく状況の御説明を頂いた上で、松尾先生、野田先生からはいろいろ教えて頂きまして、あまり知らなかったこともあるものですから、大変勉強になりました。ありがとうございます。

その話と重なるところも多いかもしれませんけれども、お話を伺っていて、デジタル化とか分散化とかは、いろんな次元で捉えられるんじゃないかと考えています。まず、第一には、従来型あるいは集中型のサービスにおいて、システムの台帳が分散化されるということです。例えば大量の定型的取引をマッチングさせるような取引所とかPTSとか、その他のマッチングサービスの台帳自体を、それを運営している当事者は1人の管理者であるとしても、皆で分散化する。あるいは、成立した大量の取引について、それをネッティングする形で証券あるいは資金を決済することについても、従来型の担い手はいるんだけれども、記帳が分散される。さらには、最終的な資金のやり取り、あるいは証券のやり取りを口座の振替で行うときにも、その台帳を分散する。こういったタイプの分散は、いずれにしても担い手がいる話であって、規制の観点からは、比較的、従来型の発想でつかまえられると思います。もちろん、当然、分散的に帳簿を管理されることに伴う、いいこと、悪いことについては検討するにしても、比較的従来のアプローチが通用する分散化です。

これに対して、今日お話にありました、スマートコントラクトなどについては、私の理解が正しければ、定型的な大量の取引のマッチングというよりは、複雑にオーダーメード化された条件を付して取引を成立させていくというプロセスであり、そういったことが行われる中には、御説明によるとパーミッションレスというんでしょうか、管理者がいるのかかなり曖昧なものも出てき得るのかなと理解しました。また、もともと仮想通貨、あるいは暗号資産と呼ばれるものの中にも、ビットコインのように、管理者として従来型のイメージで捉えられるような人がいないものもあります。こういった資産の中には、ステーブルコインという、法定通貨とひもづけになっている、あるいはなっていることを志向しているかもしれませんけれど、裏づけ資産が必ずしも明確でない、あるいは検証できないものもあったりして、ステーブルコインってすごくいろんなものを含み得るのですが、今申し上げた2つ目のカテゴリー、すなわち、しっかりした管理者に対して、きちんとした規制をかけることが可能じゃないものもあると思うんですね。

こういう2つ目のカテゴリーの分散化、デジタル化については、先ほどから問題になっているように、準拠法が曖昧であるという問題とともに、むしろ、森下先生がおっしゃっていたように、エンフォースメントが非常に難しい。これは従来の発想で金融規制を適用しようとしてもうまくいかないので、どうしたらいいのかというのは、ソリューションを思いついているわけではないんですけれど、規制という観点からも、従来型のアプローチじゃなくて、レグテックというんでしょうか、テクノロジーを使って規制を実現していく、あるいはエンフォースしていくということとか、それとともに、インセンティブ構造、インセンティブ設計と松尾先生が御説明くださったかもしれませんけれども、どういうエコシステムをつくるか、あるいはそれをサポートしていくかによって、いわゆるルールベースの規制とは別に、インセンティブ構造を使って物事を是正していくことも併せて考えながら、従来型の金融規制のエンフォースメントとは異なる方法をよい世界の実現に向けて考えなきゃいけないんだろうなという認識を持ちました。

ステーブルコインについては、先ほどちょっと話をしましたけれども、その中で、今申し上げた、管理者がいるかいないかわからない、あるいは、いるとしても必ずしも十分な信頼ができないものは、そんなにすごく広がることはないかもしれませんが、他方で、非常に安定的な信用力があると思われる担い手がいるステーブルコインは、規制の対象という意味では従来型のアプローチが可能かもしれませんが、広がりの大きさ、あるいは実際に問題が万が一起こったときのインパクトの大きさからすると、物すごく大きな問題となる可能性があるので、そちらの観点から規制の中身、あるいは方法を考えなきゃいけない。ですから、ステーブルコインについては、まとめて議論するんじゃなくて、きちんと中身を分けて議論する必要があるんじゃないかと思いました。

以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、次に、翁さん、どうぞお願いいたします。

【翁メンバー】

翁です。

まず、本当に本日は松尾先生、野田先生のお話、大変勉強になりまして、ありがとうございました。

やはり今後、中央集権型の金融システムだけでなく、分散型のシステムも共存するような、そういう世界に入っていくと思いますので、分散型システムのメリットとデメリットを十分理解することの重要性を改めて感じました。松尾先生も強調されていましたが、イノベーションとかの重要度、それからSingle Point of Failureの除去、リスク分散、それから、野田先生が強調されていた競争促進的なところとか、それから同時取引とか、そういった新しい取引で機能を向上させる側面もあると。こういったところもきちんと理解した上で、やはり同時に、様々分かりにくいという、分散型ゆえに実態が分かりにくいということから来るデメリットがあり、そこはやはりマネーロンダリング、利用者保護、金融システム全体の安定性、こういった観点からしっかりとリスク構造をよく解明していくということが今後非常に重要であるというふうに考えました。

こうしたことを踏まえまして、特に今日お話し頂いたDeFiについては、やはり、今までとは異なり、中央集権的な体制であれば、やはりエンティティーがいたり、また、今、井上委員もおっしゃっていましたけれども、管理者らがいるというような、そういう世界を想定して、規制とかルールということが考えられていたと思うんですが、DeFiの世界というのは、必ずしもそういうことが機能しない社会であると思っているので、どういうふうに実効的にやっていくかということが極めて重要で、そこは松尾先生が今日、御指摘になったように、やはりどうやってこのビジネスをやっていらっしゃる方とコミュニケーションを大きくしていくか、また、アカデミックな分野の方とも交流して、どうやってこのコミュニケーションを高めていくか、そしてモニタリング体制をしっかりつくっていくかということが当面の非常に大きな課題かなというふうに思いました。

やはりレグテックということを考えた場合には、森下先生もおっしゃいましたけれども、技術の向上ということが、両面で、ビジネスサイドでも監督サイドでも技術を理解し、共有し、かつ、技術で何が克服できるかということについてもしっかり議論していくことが大事だと思いますし、神作先生がおっしゃいましたけれども、ソフトローのようなものをどう考えていくか。今日、松尾先生から御紹介のありましたBGINなどの、そういった取組で、自主規制団体ではないんですけれども、多くのプレーヤーの方たちがどういう考えを持っているかということを代表されるような、そういった方たちとのコミュニケーションなどを大切にしていくことも大事なのではないかというふうに感じました。

事務局からの問いで、特に同一のビジネス、同一リスクなら同一のルールでよいかという点につきまして少しだけコメントさせて頂きますと、恐らく、同じビジネス、または同じファンクションであれば、ルールをそろえていく、リスクであればそろえていくということはこれにも共通することだと思います。特に、マネーロンダリングとか、利用者保護といった点については、利用者保護については、先ほど森下先生がおっしゃったように、これがどのぐらい広がるかということにもよりますけれども、しっかりとここは見て、競争上の優劣というのがすごく大きくなってくるということがないように見ていくという観点は大事だと思っています。

ただ、やはりDeFiに伴うことで2点申し上げたいんですが、一つは、野田先生からもお話がありましたけれども、やはり、すごく広がりのあるビジネスで、分散型の多くが決済や送金だけでなく、様々なビジネスと横断的なビジネスをやっていくという状況になっていますので、ファンクションだけで見るということだけでなく、様々な主体と一緒にビジネスもやっていますので、そういったエコシステム全体を見ていくと、いうそういう視座も必要だろうというふうに思います。

もう一つは、ステーブルコインに関係することなんだと思うんですけれども、これは神作先生がおっしゃったことと同じなんですが、集中的な金融システムであれば、エンティティーという視点で破綻処理とか、そういったことを考えることができて、いざ金融システムの安定性ということを考えたときに、信用リスクを見たり、破綻処理の在り方をどういうふうにするかということを考えることが可能なんですが、ステーブルコインの中ではエンティティーベースのものもありますけれども、今日お話し頂いたDeFiのようなベースで考えますと、エンティティーではないので、そのアプローチがとれない。特に、野田先生が最後におっしゃったように、管理者がいないことを目指していて、強制停止ができないというような社会だと、いざそういったところで大きなシステム上の混乱が起こったときに、どういうふうに対応するのか、こういったことをしっかり考えておく必要があるのではないかなというふうに思いました。破綻処理といっても、そのガバナンス構造とか一様ではありませんし、こういったところをよりしっかり目を配っていく必要がありそうだなというふうに感じました。

以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、次に、栗田さん、どうぞお願いいたします。

【栗田メンバー】

栗田でございます。本日もソフトウエア開発技術者としてお話しさせて頂きます。

松尾先生、野田先生、皆様のお話、大変勉強になりました。ありがとうございます。

先ほど松尾先生が、10年という期間をお示しくださいましたが、そういったスパンで、ある程度明確にできるものと、先端的な活動を分けていくということが必要なのではないかと考えます。過去から多くの人々が利用しているものと、現在確かに言えるものごとについては、用いる技術の具体的な領域や用語の定義などを行っていく。これによって、例えば、本日の問いの中にある「同一」という言葉も明確にすることができます。一方で、明確にできるものだけですとイノベーションが阻害されてしまうかもしれませんので、先端的なものに関しては、領域を観察しつつ評価していくということが必要になります。

システム開発の領域では、クネビンフレームワークという枠組みがありまして、これは、「単純な問題」とか「込み入った問題」は、ある程度計画的に取扱う、取り組むことができるが、「複雑な問題」とか「混沌とした問題」は、解決案を適用、評価し、状況の変化を観察、再度課題を抽出することを繰り返していかないと、なかなか対象と課題の解決策を捉えることができないという分類をするものになります。「単純な問題」とか「込み入った問題」、それから、比較的簡単そうな「複雑な問題」を明確にしつつ、真に「複雑な問題」や、それから、対象に入れない方が良いのかもしれませんが「混沌とした問題」については、先端的なものとして分けるということが必要だと思います。

課題と解決方法が明確な問題に対しては、領域や用語を定義しつつ、技術者、当局、金融機関等が、その安全性に関する分析ですとか、それから、先ほど松本さんが普通のエンジニアという言葉を挙げていらっしゃいましたけれども、普通のエンジニアとのコミュニケーションですとか、それから、規制や監督する場合の想定やシミュレーションですとか、そういったことを関係者間の対話の場を作りながら行っていくことが必要になると思います。

それから将来にわたってずっと安全な暗号やセキュリティーはありませんので、その脅威分析をしながらも、それを監視、記録していくということも必要になります。このときの技術者の立場についてですけれど、私も技術者ですけれども、技術者が純技術的かというとそれぞれさまざまな立場がありますので、松尾先生がお話の最初に、私は何とかですと表明なさっていらっしゃいましたけれども、技術と特定の立場や思考、行動が分離されるとも限りませんので、技術者と言っても技術だけを多角的に見ているかというとそうとも言えないところがあります。ですから、松尾先生が前回おっしゃっていたと思いますが、論文を書くというのも一つの方向性としてあると思います。アカデミアが中立かというと、それもいろいろ議論はあるところだと思いますけれども、議論に値する、中立な議論ができる妥当な場所について考えていくということが必要なのではないかと考えます。

それから、コミュニケーションということでは、一般の利用者の方々にとっての分かりやすさ、使いやすさ、何よりも安全性と危険性について考えてお伝えしていくこと、対話していくことも必要になります。先端的なものについては注意喚起するようにしつつ、ある程度明確でサービス、ビジネス化されているものについては、我々が専門家として多角的、中立的に考えて、リスクコミュニケーションを図っていくかということが重要になってくるのではないかなと考えます。ということで、近い将来、具体的にアウトリーチコミュニケーションをするような対話の場作りの試行が必要になると思います。

以上になります。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

予定の時間が来ているのですけれども、少しだけ延長をお願いできればと思います。

チャットの順番で、佐古さん、どうぞお願いいたします。

【佐古メンバー】

私から2点だけお話しさせて頂きたいと思います。

松尾先生、野田先生、御発表ありがとうございました。セイムビジネス、セイムリスク、セイムルールについて、事務局のほうから議論として挙がっていましたけれども、原則はまさにこれだと思いますが、例えば、先週私が電子投票の例でお話しさせて頂いたかと思いますけれども、1人1票というルールは、多分、電子投票に全て掲げられなければいけないと思うんですけれども、それは投票者が投じるところで規制するのか、あるいは集計するところで1人分は1回しか数えないとするのかというふうに、やり方によって1人1票の実現方法も異なるわけなんですね。

というわけで、セイムルールといったときに、いや、1票だけしか投じてはいけないというふうに限定するのか、1回しか数えちゃいけないというふうに限定するのかというのは、実装している仕組みによって異なってくると思いますので、原則はセイムルールだけれども、アプリケーションによっては柔軟に、セイム「ルール」が適切に適用できるような「ルール」をそれぞれに考えるべきなのかなというふうに思っております。

2点目なんですけれども、今、私の発言も「ルール」が2か所に出てきて分かりにくかったと思うんですけれども、やはりマルチステークホルダーでコミュニケートしていくときに、分野が異なるので、言葉の使い方をすごく丁寧に説明していかないと難しいかと思っております。例えば、野田先生の今日の御発表の中で、スマートコントラクトの「チェック」について、送金内容のチェックが行われないが、記帳ルールの確認はあるって言われたときも、読み手にとって困惑があるかなと思いまして、例えば、記帳ルールとして、本来こういう送金内容であるべきということを埋め込んだスマートコントラクトも書けたりするので、記帳ルールの確認によって送金内容のチェックもある程度は行われるとみなしてもいいのかなと思っております。

トイチの話もありましたけれども、逆にパーミッションレスブロックチェーンで透明性がある中でスマートコントラクトがあるので、どういう利率で運営しているのかというのを確認できたりとか、あるいはこれはちゃんとコンプライアントなサービスであるというような、お墨付きのデジタル証明書を付与してサービスを運営してもらうというような新しいやり方も考えられると思いますので、ぜひそういう技術の使い方を皆さんと一緒に考えながら、フォワードルッキングでこの技術について考えていきたいと思っております。

以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、野田さん、どうぞお願いいたします。

【野田メンバー】

ありがとうございます。

私は、しゃべりたいことは発表のほうで大体しゃべらせて頂いたので、本日ディスカッションの中で挙がった点について幾つか御回答したいと思います。

まず、先ほど佐古先生がおっしゃった、送金内容のチェックは行われないが記帳ルールのチェックは行われるという点についてですが、送金内容というのは、目的と言ったほうが正確でしたかね。記帳ルールというのはあくまでも、イーサリアムとか、あるいはビットコインとか、そういうシステムがどういうふうなトランザクションを正しいもの、記録に残すべきものとみなしてちゃんとバリデートするかを決めるためのルールになっています。マイナーはそこの部分のチェックは行います。例えば、口座残高がないような送金リクエストとかというのは無視されてしかるべきなので、マイナーはブロックチェーンに記帳せず、無視します。そういうことはチェックされるというのが記帳ルールを満たしているかということの意味です。

一方で、送金内容というので私が説明したかったのは、これが例えば何の目的で書かれたスマートコントラクトなのかとか、法律的な意味で合法な取引なのかとか、そういう情報を、例えばイーサリアムのバリデータはチェックする義務がないということです。もちろん、こういうのをチェックするようにしろというふうに言うこととかはできるんですけれども、これを実効性がある形で実現するためには、イーサリアムのマイナーがそれに協力しないといけない。その点については一番最後のスライドで御説明したように、少なくとも現状の様子を見ている限りだと、そういう協力を求めるのは、現実的には難しいんじゃないかなというふうに考えております。

2点目なんですけど、国際法上のルール化と実効性のある規制という点について御質問というかコメントを頂いたんですが、私はもちろん経済学者なので、法律的なことはさほど詳しくはないんですけれども、ここでの意図も、法律として違法と定義できるかというよりも、実効性のある規制を持たせられるか、より具体的に言うと、例えば日本という国だけの合意で、日本国民と日本の金融システムを守るための実効性のある介入ができるかということに関して疑問を呈したというふうな感じで、これはどちらかというと技術的な内容ということになります。法律のルールとして、どこが担っているかというよりも、特定のDeFiの運営や利用を禁止することが実効性のある形でできるかというフィージブルな政策の集合について議論した話というふうに解釈してください。

最後になんですけれども、スマートコントラクトがちゃんと機能するかということについて誰が保証するんだというふうな話は、もちろん正しいと思うんですけど、一つ、区別しないといけない点があると思っていて、それは、書かれたコードとしてのスマートコントラクトがちゃんと遂行されることが保証されるか否かという点と、その書かれたコードというのが、世の中の人たちが思っているものと同じなのかという点ですね。つまり、どういうことなのかというと、スマートコントラクトはその仕組みと成り立ちからして、書かれたものが遂行されるということは、これは経験によるまでもなく、正しいことではある、この点については保証されていると言っても構わないようなものというか、それがちゃんと遂行されるというのが仮想通貨システムが機能しているということの意味ですので、「仮想通貨システムが機能している限り」というのは、それは「スマートコントラクトが機能している限り」と同じですので、トートロジーだと思います。しかし、実際に書かれたコードというのが、みんなが思っている認識のものと同じなのかどうかは別の問題です。ここに差があると、不備、バグ、あるいは悪意などが存在するということになります。この点については、発表の中でも言及したとおり、コードを読むのは非常に難しいので、実際にはここにギャップがあることは大いにあって、それは非常にリスキーだということはあり得ると思います。

逆に、私はどちらかというと、ここにスマートコントラクト、あるいはDeFiに対して、政府がコントリビュートできるというか、プレーヤーたちに法律を守るインセンティブを与えられるポイントがあるんじゃないかというふうに思っています。コードの安全性の検証というのは、実際、国のような大きい単位の公共的な機関が提供するというか、介入するべきポイントです。それはなぜかというと、コードが安全であるかどうかという問題は、アグリゲートリスクの問題であり、リスクシェアリングの問題であり、なおかつ、コードの安全性の検証は公共財の供給だからですね。これについては、例えば松本さんがおっしゃっていたように、ライセンスを段階的に供給するとか、あるいは国がコードに欠陥がなさそうだという点について一定の水準を満たした形で、しかも遵法性もある、例えばマネーロンダリング対策も施しているサービスに対しては、このサービスのコードは意図どおりに動きそうだよというふうなことを何らかの形で保証する。というよりも、消費者が正しく安全性への期待を高める方向に働くような認定制度をつくってあげることによって、プレーヤーたちも、消費者たちから、利用者から、信頼を得やすくするために、遵法性を意識したサービスを提供するという枠組みに従ってくれるということも考えられると思います。なので、この点については、重大な問題なんですけれども、どちらかというと、政策をつくっていく上で機能していくような、機能するというか取っかかりとなるようなポイントなのではないかなというふうに個人的には考えております。

以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

今日も大変貴重な御意見をたくさん頂きまして、まだまだ御指摘もあるかと思いますけれども、今チャットも頂きまして、大変ありがとうございます。追加でお気づきの点等ございましたら、ぜひ、メールその他を事務局までお寄せ頂ければと思います。

皆さんの議論をお聞きして、恐縮ですが、私、2点感想を申し上げたいのですけど。一つは、金融取引にもいろいろありますので、例えばDeFiでも、何をしようとしている仕組みなのかというユースケースというか類型化をして、そうするとどこにリスクがあるのか、あるいは規制監督上の焦点をどこに当てたらいいのかということが整理できると思います。私が存じ上げている限りでも、例えばリクイディティ・プールトークンと呼ばれている仕組みと、それからまた別途、今度は担保というのですかね、伝統的に言えば、証券レポ取引のようなものを実現する仕組み、いろいろなものがありますので、やはり類型化が必要かなと思いました。

もう1点は、伝統的な金融規制との比較での御発言、それから最後にも今、野田さんからも御指摘があった点なのですけれども、監督とか規制といった場合に、体制整備やガバナンスを求めるというのはいいのですけど、ややそれだけでは不足しているように思いまして、伝統的な金融規制ですと、自己資本規制、自己資本比率を中心として、非常に詳細な財務の健全性を求めるという形で監督が行われてきているわけです。これからの時代はやはりコンピュータープログラムとかコードの健全性を求めると。そういう監督ということを工夫していかないといけないかなということを課題として感じました。

すみません、何か自分が最後に発言して、余計時間を延ばして申し訳ございませんでした。今日は、予定の時間を超過してしまいまして、大変申し訳ありませんでしたけれども、引き続き皆様方には活発な御議論を頂ければと思います。本日頂きました御説明あるいは御意見、御指摘等を踏まえ、今後さらに、皆様方に議論を深めて頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

最後に事務局から連絡事項等ございましたらお願いします。

【端本信用制度参事官】

次回の研究会の日時につきましては、皆様の御都合を踏まえた上で後日御連絡させて頂きます。よろしくお願いいたします。

【神田座長】

ありがとうございました。

それでは、以上で本日の研究会を終了とさせて頂きます。どうもありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局総務課信用制度参事官室、市場課(内線3572)

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