「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」(第5回)議事録

1.日時:

令和4年4月11日(月曜日)15時00分~17時00分

2.場所:

オンライン開催

<事務局>
・前回までは、評価機関や企業・投資家の方々から御発表をいただく形で進めてきたが、今回から、報告書作成に向けた議論を進めていく。まずは、事務局において、これまでに提示された論点と、これに対する意見、国際的な原則を参考にし、考えられる方向性などを取りまとめているので、資料について説明する。
 
<金融庁資料説明(資料1 事務局資料)>
・これまで4回、評価機関、企業、そして投資家の方からプレゼンテーションをしていただき、それらに対してメンバーの皆様から御指摘をいろいろいただいた。全体としてどういった指摘があったかをまとめ、各ページの上のボックスに記載している。それぞれについて、ある程度、事務局で一定程度方向性が出せるものについては記載し、どういった方向性が考えられるか、また、今回御議論いただきたい論点について記載している。資料の前半は総論であり、後半は各論、それぞれの項目についてまとめている。(事務局より参考資料1を説明)
 
<メンバーからの主な意見(論点1から7)>
・IOSCOの報告書をベースにすることは良いことだと思う。しかし、IOSCOの参考資料1、2でもお示しいただいたとおり、IOSCO報告書はESGレーティング、つまり、株式市場におけるESGスコアリング、企業全体のESG評価、点数化を対象としており、ESGファイナンス評価は対象にしていないのは明らかである。日本の本報告書がESG評価の範囲を広義に解釈することによって、ESGファイナンス評価を行動規範の対象に含めようとすることは理解できるが、そのような場合はESGレーティングとESGファイナンス評価は異なるものであることを明示し、本報告書を利用する人々に誤解を与えないようにするべきである。ESGファイナンス評価を対象に含める場合は「ESGファイナンス評価はIOSCOの報告書の想定対象ではないが、日本の本報告書では対象に含めている」といった記載を追加することが望ましい。そうでなければ、ESGファイナンス評価は対象外とすることも考えるべきである。
 
・冒頭の1ページ目にあるように、資本市場の健全な発展にどのような影響を及ぼすと考えられるかという点は非常に重要な論点である。昨今の資本市場における外部性の内部化が価格形成において重要な役割を示すようになってきた。その観点からこの検討会が開催され、資本市場の健全な発展に資するためのそれぞれのアクターとしての役割発揮というのはどうあるべきなのかという論点でまとめていただいていることは非常にありがたい。以上を踏まえて、投資家の立場から申し上げると、やはり透明性と納得性が非常に重要と考える。株価形成におけるノイズといった影響は非常に重要、その観点でのスコープは重要な論点だと思うが、資本市場におけるESG評価の影響の範囲は、株式の評価にとどまらず広く債券に及ぼす影響というのも無視できないため、広く捉えるべきと考える。
 
・一方、この市場において、ビジネスとしても役割を発揮してきているESG評価・データ提供機関にとって、それをインフラ化するということについての問題認識は我々としても共有している。従って、ESGデータの基盤としての役割と、ESG評価のビジネスとしての役割と2つあるかと考える。前者は非常に重要な部分で、市場形成において一次情報の信頼性確保は待ったなしで求められるため、一定の情報のクオリティというのを確保していただきたい。後者については、ビジネスとの兼ね合いがあるため、それを妨げない形で、いわゆる納得性、説明責任、透明性を発揮していただきたい。これがエコシステムと言われている枠組みの中で、両者が共存共栄する世界だと考える。範囲としては広く、そして、ビジネスとしての要素を残す形で、かつ、データ部分についての納得性は高めて、客観性も高めていく。こういった、それぞれ相反性があるものをうまく融合させていく、そういった行動規範、あるいは報告書というのをまとめて頂けるとありがたい。
 
・資料4ページ目の対外発信についてのアイデアを一つ挙げたい、PRI署名機関は昨日時点で4,909機関とのことだが、このうちの約10%、社数としては506の機関がサービスプロバイダー、つまり今回の行動規範が対象にしているような評価・データ機関の大半がここに含まれているという形になっている。PRIは毎年、アセットオーナー、アセットマネージャー、サービスプロバイダー、それぞれに対して、取組内容についてのアセスメントを行い、また、そのアセスメントに対する各機関の回答内容の大部分はトランスペアレンシーレポートとして公開されている。今回の行動規範をどういうふうに普及していくのか、あるいは国際的に発信していくのかという観点で考えたときに、ぜひ金融庁にはPRIにも働きかけていただいて、このアセスメントの枠組みに今回の行動規範が入れ込まれることになれば、日本が策定した行動規範が世界のサービスプロバイダーの質の向上に寄与し、対外的な発信に繋がると考える。
 
・今回の議論では、ESGデータプロバイダは含めずESG格付プロバイダからスタートすべきと考えている。投資家を中心に、特にカーボンの推計値のところで懸念があるとのことであったが、そうした点は企業開示のスタンダード化の中で解決されていくべき問題ではないかと考える。データプロバイダも含めることについては、そのバウンダリーを定めるのが非常に難しいというのが懸念である。ESG格付でインプットとして使っているデータも幾つかはアウトプットデータとして顧客に提供しているものもあり、インプットデータとアウトプットデータの線引きは顧客のニーズによっても変わってくる部分もある。そのインプットデータとして使っている情報も非常に多岐にわたり、ここを広く解釈して捉えると、政府機関が取りまとめて出している企業のカーボンのデータや、気象データといったところまで範疇として入ってしまい、その辺の線引きが非常に難しくなると考える。
 
・また、データはイノベーションが進んでいる部分でもあるため、そこを縛ってしまうことでイノベーションが阻害されてしまうのではないかという懸念もある。従ってこうした観点で、データプロバイダは今回は含めずに、まずはESG格付プロバイダのところからスタートし、時期を見て今後の検討を進めていくのがよいかと考える。
 
・Subscriber PayモデルとIssuer Payモデルに関して、いずれの形であったとしても評価の中立性、独立性が維持されるべきという根本を担保する文言が入っていれば、原則ベースの行動規範の中で、個々のケースにおける細かな言及に至る必要はないかと考える。Subscriber、Issuerのどちらが評価のコストを支払っていたとしても、その影響力が評価結果に及んではいけないという点は変わらない。
 
・またNGOやNPOが行っている評価では、機関投資家や企業から直接的な支払いは受けず、市民社会や第三者機関から資金提供をうけるいわばSponsor Payという仕組みもある。規範の中で個々のPayモデルについて網羅することを追求するよりも、個々の評価プロダクトが誰の支払いによって行われているのかという透明性が情報利用者にとって担保されていることが原則的には押さえておくべき点かと考える。
 
・データについては、データの中立性、品質は大事であることには同意。ただし、ESG評価機関やデータ提供機関が、品質担保に関与できる部分は主に収集プロセスに限定されることから、データソースとなる企業との協働を前提とすべきもの。他方、行動規範は評価機関のみを対象とするものとなる以上、その記載においてはデータ品質確保の中で彼らが果たせる役割の限界を明確にしつつ、ESG評価の品質確保という総論の中でデータ収集プロセス管理の重要性に言及すべきと考える。
 
・ESG評価会社に対する期待で言及されている“イノベーション”について、この言葉はよく使われる一方、あまり具体的とは言えず難しい。例えば、現在まだ世の中に認識されていないが中長期的に企業価値に影響する可能性の高い環境社会課題を感度高く特定し、それを投資意思決定の中に反映させるプロダクトを作っていくという機能を評価機関に期待されているのであれば、そのための評価フレームの中には、将来の不確定要素を可視化・数値化して盛り込んでいくという作業が必須となる。これを期待する一方で、同時に信用格付会社が求められているような評価の厳格性も併せて実現していくことをESG評価機関に課すのは難しい面もあるのではないか。
 
・2ページ目で書いて頂いたESG評価・データ提供機関に対する行動規範の位置づけにおいて、自由競争機能が十分に発揮できるということは今、マーケットの発展市場段階においても非常に重要であると考える。一方で、透明性が求められるということも事実であり、その後にあるデータ、情報の品質の確保、あるいはマーケットに対する説明責任、これらを同時に実現していくというのはかなり難しいとも考える。その際の開示について、一般のマーケットに全てを公表するとなると、民間会社にとっては、自由競争機能が失われるリスクを相当にはらんでいると考える。
 
・一方で、ステークホルダーである投資家から求められたときに説明する必要性、そして、評価対象とする企業に対する説明責任とそのための開示、これは非常に重要だと考え、その開示と公表という、この度合いについて留意しながら全体を構成して頂きたい。
 
・Issuer PayモデルとSubscriber Payモデルの違いについては、種類の違いという認識が大きいと考える。ESGレーティングやデータ提供とデッドのESG評価は異なり、特に行動規範の利益相反等に関して、利益相反の所在、あるいは取得できる情報の品質の確保、公表情報、非公表情報を含めた種類などに違いがあると思われる。そういった潜在的な差異の中での利益相反の異なるところが出てくるかと考えるので、その辺りに留意頂きながら、行動規範を構成して頂きたい。
 
・2ページ目に記載されている通り、Issuer PayモデルとSubscriber Payモデルといったビジネスモデルの違いはあるが、出来る限りIOSCOの原則ベースでの報告書をベースとすること良い。どのような機関を行動規範の対象とすべき等の議論は必要であるが、ビジネスモデルごとに利益相反の特定やデータの意味合い等を残り数回で整理するのは難しいであろう。
 
・1ページ目に関して、サステナブルファイナンス有識者会議の中でも議論されていた通り、サステナブルファイナンス全体が持続可能な経済だけではなく、社会システムを支えるインフラとしての役割を持つということで、社会に対するコメントが報告書の全体像としては重要ではないかと考える。
 
・方向性としてIOSCOの原則ベースというところには賛同するが、ESG格付とデータ提供と記載すると範囲が分かりづらいかと思い、ESG評価に変えたほうがよいと考える。実際の内容を原則ベースで見ると、大枠としてはどちらに対しても適用できるものが多いと思われる一方、細かいアプリケーションのところではどうしても違和感があるため、そこは各論で幾つかそれぞれの立場において補足できるところを報告書なり、行動規範のところで加えることができるのではないか。
 
・5ページ目の範囲について、非営利法人の扱いも含め、どこで線引きをするかは課題となる。仮に非営利機関は今回対象にしないとなった場合、データを提供する側としての依頼ではなく、例えば利用する投資家によるエンゲージメントをさらに強化するなど、そういったところで最初の一歩を記載、将来的に対象範囲を広げて行動規範を強化していくということも一つの案としてあるのではないか。
 
・5ページ目のESGデータの取扱いについて、どこまでを含むのかの線引きが難しい。現在業務で直接使っているのは、ESGスコアそのものではなくその前のデータ、特に業種調整して加工しているような特殊なデータを、付加価値があるものとして主に使っている。そういったデータはイノベーションの固まりであり、定量分析の際には大変参考になるため、そこに対し過度な規制が入るのは懸念がある。一方で気になる点としては、値段がかなり上がってきている印象があり、市場価格が今後どうなるかを懸念している。
 
・6ページ目の評価結果の差異について、評価機関間で評価結果がばらばらな状況は問題ではなく、当該評価が何を評価しているものであるかを明らかにすることが重要という点には賛同。最近、複数の企業からESGスコアを役員報酬のカテゴリーの一つに使いたいという相談を受けており、その時にどのスコアを使うか、結果の異なるスコアを基にどういう設計にしたらいいのかを悩むことがある。企業としては、客観的な評価なのでスコアを是非使いたいというところが多い。その際に重要となるのは、透明性、納得性、中身の開示である。役員報酬は株主に説明するものであり、ESGスコアをそのように使う時代になってきたということもあり、今の6ページ目のように、「問題ではなく」とここまで強く言い切るのは懸念がある。
 
・推計データについて、企業の開示が進展するにつれて、推計データ自体が減る可能性もあり、この辺について例えばレギュレーターやサービスプロバイダ等の力も借りつつ、開示状況をトラックできればいいのかと思う。そういった中で、ESGデータは現状必要となるため、メソドロジーの透明性の確保は重要だと考える。
 
・ESGの評価について、企業間での差をつけるために、既に合格点に達しているにもかかわらず、現時点ではそこまで必要でないものまで要求しているような印象を受けることがある。難しいかもしれないが、現時点で見たときの適正なレベル感みたいなところを折り込むことが出来れば有難い。
 
・大きな違和感はないが、資本市場にとってメリットがあるということは具体的にどういうことなのかという点はもう少し議論したほうが良いと考える。例えば欧州委員会がサステナブルファイナンスのレギュレーションをつくったときには、これは消費者保護と同じように最終的なユーザー、金融市場で言えば資金の出し手がウォッシュにまみれないため、的確な判断ができることが目的だと言っていた。
 
・そうすると、我々が今ここで議論している日本の今のサステナブルファイナンスの現状を見たときに、どんなよりどころというのがあるのか。例えば企業が、我々は正しく評価されていないのではないかというストレスが大きいということなのか、個人投資家向けESG投資信託について本当にESGに対応しているのか分からないということなのか、あるいは地銀等含めグリーンボンド等へ投資をするときにラベルに説得力あるのかなど、どの辺にその力点なり今の日本の問題意識を置くのかというところを少し肉厚に、皆さんの御意見なども伺い、報告書の中に書き込むということがいいのではないか。外部性を資本市場の中にきちんと織り込むという点は、多くの金融関係者が賛同していただけるような切り口になるのかなという印象を受けた。
 
・資本市場が外部性の内部化という枠組みをしっかりと理解し、健全な資本市場の発展につなげていくことが重要。
 
<メンバーからの主な意見(論点8から15)>
・論点8の品質管理について、ESG評価の手法自体がまだまだ発展途上なため、PDCAサイクルを回していくのが重要であると思う。こういった品質管理の分野においてはISO9000という国際標準があるので、ISO9000等の要求事項と、IOSCOの例示の項目を照らし合わせ、抜けがないかといった確認を行うのも一案である。
 
・論点9の利益相反について、どのような利益相反があり得るかを示すことが重要ではないかと考える。利益相反に関しては、信用格付や金融分野からESG領域に入ってきた人と、環境やサステナビリティ分野から入って来た人では理解に差がある可能性があるため、丁寧な記載が必要ではないか。
 
・論点12の被評価企業とコミュケーションについて、IOSCOの提言にあるような企業への窓口の提供が重要だと考える。被評価企業からの申し入れに対して、評価機関で対応が異なる印象があるため、被評価企業の申し入れをどのように聞き、必要であればどのように修正していくのか、そのプロセスを評価機関に示していただければ良いのではないか。
 
・被評価企業からは、対話を行いたいという声もあるが、今回の様々なヒアリングを通じて、何万社を評価対象としているという実態を見ると、すべての企業と丁寧にコミュニケーションをとるのは現実的ではなく、むしろコミュニケーションに濃淡があり、そのことが評価の中立性や公平性という観点からはどうかという点もあった。ただ、そうした中でも、事実関係が誤っている、企業が公表しているデータを間違って読んでいるといった場合は、修正していただければと思う。この部分は最低限クリアすべきだということは記載していただきたい。最低限、窓口を確保し、データの訂正についてコミュニケーションが取れ、誤っていたら直していただけるということを行動規範に入れたら良いのではないか。
 
・13ページの透明性の確保について、これを基準に捉えるのは賛成する。特に推計データの利用の有無、そして推計内容についてもフォローしていただけるとありがたい。金融機関のネットゼロ対応において、現状、多くは推計データもまだまだ無視し得ない状況にあるだけではなく、金融機関のポートフォリオをネットゼロにしていく上での大きな行動基準になっていく部分もあるので、このあたりの重要性は高い。どういった推計方法を用いて計測しているのかについても、企業秘密の部分もあろうが、可能な範囲で透明性を上げて欲しい。もちろん、企業が開示するデータそのものの品質向上も重要な視点である。
 
・ESG評価・データの品質向上において、人材育成の視点は欠かせない。3月28日に欧州銀行業界が人材に対しての要請を行っており、また投資家の中でもスチュワードシップ・コードの原則の中に、知見を高めようという部分があるように、人材育成は重要な視点である。
 
・投資家の役割について、投資家も透明性を上げていく必要がある。エコシステムにおける重要なアクターとして、求められる役割を発揮していく必要がある。
 
・利益相反について。IOSCOのコードは、ほとんど信用格付のコード・オブ・コンダクト等を参照しているという印象があるが、おそらくESGマーケットの方に対しては丁寧に説明することが重要ではないか。例えばアナリストの独立性を担保する際に想定される利益相反としては、営業と評価する側の分離や、ほかのサービスを共用しないなど、基本的な事項はESGのマーケットでも通じるようなものがあると思う。これらをコードにする必要はないが、例示を補足として載せることが大事だと思う。
 
・コミュニケーションについて。ここは、通常Subscriber Payモデルで留意するべき点である。Issuer Payモデルにおける評価では、取得する情報の量や質に偏りや差異があっては決していけないため、十分なコミュニケーションを取ることが大前提となる。そのため、勝手評価の場合にはこういうことを気をつける必要があるといった形で、対象を明らかにすると良いのではないか。
 
・データ品質管理について、行動規範の中でも特に重要な部分になるため、丁寧に記載いただけたらと思う。特に大事なのは、PDCAの確立、どのようなチェックを行い、その結果どのようなアクション、評価手法の改善を行ったのかといった点である。IOSCOの提言書の2の3番がこれに関連する部分で、手法に関する評価を実際の格付内容に照らして定期的に公表とあるが、この意味するところは、自らの格付手法に対して評価機関が自己評価をするということだと理解している。PDCAのCの部分、どのような指標や方法で自己評価を行い改善の必要がないと判断したのか、あるいは、こういうことがあるのでこういう改善が必要と判断したとか、その辺りを、可能な範囲で詳しく説明をしていただくと、利用側としては分かりやすいのではないかなと思う。
 
・格付やデータの管理と定期的な更新というのがIOSCOの2の6の提言にあるが、格付やアウトプットとして提供されているデータについては、作成した日や更新した日付を明示的に提供していただけると、利用側にとってはありがたい。エコシステム全体の品質改善にもつなげていけるのではと思う。
 
・企業の役割について。企業の情報開示自体がしっかりと制度化されていくことがデータの品質の向上につながっていくという議論はこれまで何度もあったが、論点として、ISSBにおける検討のほか、金融庁でもディスクロージャー・ワーキンググループで議論しており、こういった議論の進展が重要と書かれてあり、まさにそのとおりだと思う。ワーキンググループにおける議論においては、評価機関やデータ提供機関の意見も吸い上げるプロセスを設けることが、国内の情報開示の在り方に関する議論においても大事ではないかと思うので検討していただきたい。
 
・品質管理について。一般的に品質管理というと、順守すべき基準があり、それに対してできているか、できていないかというチェックとなる。ESG評価の場合は、評価そのものが発展途上にある中で、品質管理の閾値をどこにするのかは難しいと感じる。企業、投資家、ESG評価・データ提供機関毎に品質の意味するところが異なる可能性がある。例えば、企業の観点からは、企業が開示したデータや情報を正確に取得していただくということが最低限必要ではないかと思う。また、温室効果ガスのScope3が良く話題になるが、そもそも計算手法自体が定まっていないものに対して、評価機関ごとに差が大きいのは当然ではないかとも思う。
 
・品質をどう捉えるかという点は、まずは企業が開示するデータをきちんと間違いなく分析や予測や意見の表明に使っているという、このプロセスに光を当てるべきなのかなと思う。従って、データが間違っていないかどうかを企業側から、評価・データ提供機関に確認するプロセスが1つの大きな固まりになるのではないか。データの品質と評価の品質はなかなか分けられないという指摘もあったが、企業が開示している情報が間違って取得されていないかといった部分を1つ大きな固まりとして考えると、今回の整理はできるのではないか。
 
・企業が開示しない情報は世の中に無数に存在する。例えば、マスコミが報道している情報、SNSでその企業のレピュテーションに関する情報、そういう情報を使ってESG評価やスコアを付与するという世界は、これはもうコントロールできない世界ではないかなと思っており、ESG評価機関が意見表明を行うことで、役割を果たしていると割り切らざるを得ないのではないかと感じている。このフェアディスクロージャーに関して言うと、企業は細則主義も受け入れ、それを開示し、それを使ってほしいと評価機関に伝え、それ以外のことはフェアディスクロージャーに反するので話さない、個別にエンゲージメントや調査機関から様々な問い合わせがあっても話さないと、これが逆に企業の行動規範になっていくような世界が将来的に1つイメージされるではないかと思う。
 
・ISSBやVRFの公表資料などを見ていると、基本理念を据えつつかなり網羅的な基準ができる方向にあり、基本的にはバイテーマ、バイセクターで膨大なマトリックスを作っていくことが明確に志向されているため、企業は評価機関にミニマムなものをきちんと与えていく方向にあるのではないか。
 
・評価対象企業とのコミュニケーションについて、総論はともかく、各論に移っていくと、評価を巡る問題の大半はエクイティのESG評価・データ提供会社に関するものであり、デットのESGファイナンス評価会社に該当するものは極めて少ないことを強く感じている。Subscriber PayモデルとIssuer Payモデルとは依拠する市場と収入源が全く異なるので、問題になり得る事項が全く逆であるという印象を受けている。例えば「誤ったデータの横行」といった問題の発生は、発行体から依頼を受け、発行体から情報提供を受けているIssuer Payモデルでは全く想定できない。
 
・独立性の確保や利益相反への対応に関する問題についても、ESGファイナンス評価会社には該当しない。発行企業から手数料を受け取って外部評価を提供しているIssuer Payモデルでは、評価対象企業に有料のアドバイス業務を併せて提供するということ自体が禁じられているので、問題が起きることは考えられない。
 
・総論のページについて、内容の一部が各論に近い印象を受けた。「ESGの評価については、セカンドパーティーオピニオン、検証、認証、格付などあるが」とされているが、これは「ESG」の評価ではなくて、「ESGファイナンス」の評価である。これらの4つの外部評価の事例は、グリーンボンド原則などESGファイナンスに関する国際的な原則を策定しているICMA(国際資本市場協会)が示しているものであり、ESGの評価の総論に盛り込まれるものではないように思う。
 
・3ページのビジネスモデルの違いの中で、「プロジェクトの評価であっても、組織全体の取組を評価するようになっており、両者は近づいてきている点も考慮に入れる必要がある」という指摘があった。しかし、デットのESGファイナンス評価において企業全体のESG性を評価することは行っておらず、エクイティの企業全体のESG性の評価において個別の債券・融資の資金使途の適合性を評価することは行っていない。将来的には重なる可能性があるかもしれないが、現状は異なる基準、異なる方法によって展開している業務であり、「ESG」というだけで同じように取り扱って、あまりにも簡単に差異を飛び越えてしまうのは、実態と合っていない。
 
・特殊な例かもしれないが、ESGファイナンスに関するSPOの作成を行うとき、資金調達する企業とコミュニケーションを取る過程でアレンジャーである証券会社が仲介を行うケースが結構ある。評価機関がこういう情報が欲しいと申し上げても、証券会社から追加の負担を企業にかけられないとして、情報が入手できないケースがあることを共有しておきたい。最終的に、SPOの作成を断念せざるを得なかった例や、情報を要求したが入手できなかったという脚注をSPOに書くことを納得いただけなかった例も存在することを率直にご披露したい。
 
・報告書を作成する際に、重複がないように、また一方で抜け落ちがないように、関連するワーキンググループの役割などを少し盛り込んでいただけると良いのではないか。
 
・10ページ目について、IOSCO報告書の2-2、2-3について、原文も参照しつつ、各評価機関がスコアを算出するに当たり、ある意味モデルケースのような形で、こういった評価の場合はこういう形では評価できますと言ったことを定期的に公表するということではないかと解釈した。ただ、そこまで果たして実現可能なのかという点も含めて、またその解釈が正しいのかどうかも分からなかったので、御存じの方がいれば教えていただきたい。
 
・2-8について、別途の参考資料のほうでは保証も入っていたが、このまとめのほうではその保証という言葉がなかったので、保証を含まれる予定かどうか、確認させていただけたらと思う。
 
・10ページに2-10が含まれていなかったかと思うが、マシンリーディングを要求するのは現時点では行動規範としては行き過ぎかと思われるので、含まれていないことに賛同する。
 
・14ページと19ページに関連して、個別の評価対象企業とのエンゲージメントは双方向の理解を深める上で非常に重要な作業と認識しているが、一方で、19ページで書かれているような他社との比較やフィードバックというところまでいくと、もはやコンサルティングを無償でやることが強いられているような状況になってしまうかと思う。程度感については、報告書のドラフトを見ながら議論する必要があるのではないかと思う。
 
・15ページのフェアディスクロージャーについて、特にESGレーティングの基となるESGデータの重要性が高まるにつれて、通常の財務情報と同じ位置づけで、このフェアディスクロージャーの扱いという形になってきているかと思うが、一方で、例えばESGローンなどではまた別の扱いになるかと思う。状況によって守秘義務の扱いが変わるのではないか思うため、適用において検討が必要ではないか。
 
・16ページのところ、IOSCOの提言の8に関連してだが、鶏が先か卵が先かの課題で、レポーティングの開示タイミングに評価を合わせることを評価機関が理想としたとしても、優先的な幾つかの評価機関に合わせて開示をしたいという企業もいるため、適したタイミングを決めるということが難しい実態がある。そこに関しては、規制による役割は別途期待するのかどうか、検討することができるのではないかと思う。
 
・17ページのところ、企業のほうからの問合せができる明確な窓口についてだが、これは双方向の課題かと思う。企業の担当者も明確になることで、よりスムーズにコミュニケーションが取れるかと思うので、双方向のことが盛り込まれていると良いのではないか。
 
・20ページのところ、エコシステムを育成していくところについて、運用視点でのアナリストの評価の仕方と、従来型のESGデータのデータ提供機関でのアナリストの分析の仕方は視点が異なるため、具体的なメソドロジーというよりも、思考の仕方について双方向のトレーニングを行うきっかけなどがあると良いと思われる。もしくは、評価モデルに関して紹介するようなセミナーやイベントについて、例えば証券取引所などを1つの集約箇所として、最低限、年に一度説明を行うというような、トレーニングの機会を設定することも考えられるのではないか。実際、アジアのほかの諸国においては、そういったトレーニングの機会を証券取引所が積極的に場を設けるということも多く行われているかと思うので参考まで。
 
・13ページの品質について、いつ開示されたデータを使って評価されているかというのは大事な点であり、評価機関においては企業のデータがいつ開示されるかわからないといった問題もありうるため、例えば決算日から何日までにESGデータは出すべきではといったガイドラインあると良いかもしれない。例えば海外においては、ESGの情報を見て議決権行使をして欲しいと思っている企業は、株主総会の前にESG情報を出すようにしており、そういうところがベストプラクティスとも捉えているので、タイミングに関するガイドラインのようなものがあると良いかもしれないと思う。
 
・データの質と利用の内容によるが、ESG情報は恐らく適時開示という世界ではないと思う。財務データとは異なり、迅速性、速報性、正確性が一定程度は求められるものの、迅速性がどの程度求められるのかは内容により異なる。例えばCO2排出量や人権の問題が、すぐさま企業のプライシングに反映するような話では今のところないのかなと。ただ、いつ時点のデータかは必要な情報であり、例えば統合報告書のこの情報はスナップショットで言うとどこになるのかは重要な論点だと思う。逆に言うと、そこまでの程度、頻度ということを期待するだけの資本市場の理解の浸透は、まだ進んでいない印象を持っている。
 
・ESG情報をできるだけタイムリーに開示することは重要な視点だが、実務的な負荷とのバランスも考慮する必要があるかと思う。投資家にとっては、タイムリーな情報開示は重要だが、いつ時点の情報を使って評価がなされたかという点も重要である。企業の会計年度は企業によって決算の時期が異なるため、例えば2020年度の温室効果ガス排出量といっても、そのデータが出てくるタイミングは企業により異なる。データ提供機関が使用するデータについて、いつ時点の情報を使ったかのかということと、データとして顧客に配信されているデータは、いつから配信されているのかの、2つの論点があると思う。
 
・インベストメントチェーンで一番重要なのはESG投資家のスタンスであり、欧州では多くのESG投資家がエンゲージメントを行っており、そのエンゲージメント結果について社名を出して公表していると欧州の方から聞いた。そこできちんとしたものが情報として出ていれば、かなりのことがちゃんと円滑にインベストメントチェーンで行われていることが分かるということなので、やはり投資家の責任は重いということであった。
 
・インベストメントチェーンの中の投資家の役割は非常に大きく、コード策定以来そのように感じており、こういった枠組みの中で果たす責任は大きいと感じる。
 
・15ページの非公開情報の秘密保持について。ESG情報の収集方法によっては、守秘義務の在り方に差異が出てくることがある。公開情報をベースに評価している場合は、企業とのコミュニケーションを行う場合においてもその目的を非開示情報の収集としていないケースも多い。その場合、例えば規範で言及されているからといって企業からNDA締結の依頼を受けても(そもそも秘匿情報の提供を受ける意図はないため)対応に困る可能性もある。
 
・14ページについて、手法やプロセスに関する開示で、企業にとっても使いやすく理解しやすいものである必要がある、とあるが、理解しやすいものであることは当然大前提としつつも、本来的に機関投資家向けの投資意思決定支援のためのツールとして開発されてきたESG評価レポートを「(企業にとって)使いやすく」という部分はどこまで評価機関側で対応が可能か、また求めるべきかは議論が必要かもしれない。
 
・最新のデータを出しているのに利用されていないのは企業にとってフラストレーションとなる可能性があるので、お互いに日にちを出し、どのようなタイミングで格付が更新されるのかなどについて理解を深めたほうが良いと思う。
 
・運用機関によるESG情報の利用については、大きく2通りある。1つは、ジャッジメンタル運用、すなわち、アナリストやポートフォリオマネジャーの定性判断を重視するような運用スタイルにおいて、ESG評価、評価の基になる様々な関連情報、いわゆる不祥事情報も含めて、企業評価をする際のインプットの1つとして利用するという形が考えられる。もう1つは、パッシブ運用、あるいはクオンツ運用にESG評価やスコアを利用する場合で、この場合は、運用プロセスのこの段階で具体的にこのデータをこういう風に利用するというような明確なルールや決まりがあると考えられる。
 
・あともう一つあるのは、ネットゼロを目指すイニシアチブが広がる中で、ポートフォリオの温室効果ガス排出量を測った上で、それを減らしていくために、どのようなエンゲージメントをしていくのか、例えばどういう企業に働きかけていくのかなど、今後のネットゼロ戦略を考えるに当たっての土台として、ポートフォリオの排出量測定に使うような利用形態が考えられる。そこには温室効果ガス排出量の推計値も含まれている。一度戦略を立てた後はPDCAを回していくということになるが、そこでもデータを使っていくことになる。様々な運用スタイルに応じて多様な使い方がなされているのが現状である。
 
―― 了 ――

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