スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第12回)議事録
1.日時:
平成29年11月15日(水)9時30分~11時30分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室
【池尾座長】
それでは、定刻を過ぎましたので、ちょっと遅れられているメンバーの方おられますが、ただいまよりスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議、第12回の会合を開催いたしたいと思います。
皆様には、ご多用中のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、まず、金融庁から、先週金曜日、11月10日に公表されました金融行政方針に関して説明していただくとともに、コーポレートガバナンス改革の深化に向けた論点ということで、前回の会議において指摘された論点等について取りまとめた形で改めてご説明をいただきます。その後、これらの論点に関する実際の企業の取り組みとして、オムロン株式会社取締役、安藤聡様に来ていただいておりまして、同社における取り組みについて後でお話を伺いたいと思います。
それでは、まず、金融庁よりご説明をお願いします。
【田原企業開示課長】
おはようございます。本日もよろしくお願いいたします。
それでは、まず、資料1の金融行政方針の内容について、ご説明させていただければと存じます。
先ほど池尾座長からもお話がありましたように、本年度の金融行政方針を、先週金曜日の11月10日に公表させていただきました。コーポレートガバナンス改革につきましては、これまでフォローアップ会議においていただきましたご指摘も踏まえ、経営者の資本コストに対する意識と経営環境の変化に応じた果断な経営判断の必要性、現預金が内部留保とともに増加している企業も多い中、これを各種の投資に有効に活用していく取組みの必要性、CEOの育成・選解任と社外取締役の実効的な機能、政策保有株式を「保有させている側」の問題、企業と投資家との間の実効的な対話、アセットオーナー、特に企業年金によるスチュワードシップ・コードの受入れが少ない現状を踏まえて、どういった対応が必要か、という6つの問題意識が示されております。
こういった問題意識について、これまでフォローアップ会議では、意見書などの形で発信をしてきたわけですけれども、各コードをより実効的なものにしていく観点から、ガイダンスという形で発信できないかということを考えております。今般、フォローアップ会議において、ガイダンスの策定をお願いできないかということで、そうした内容を金融行政方針として発表させていただいたところでございます。
最後の段落でございますけれども、アセットオーナーに関する問題については、今後、取組みを促進していく上で重要だということで、特に記載させていただいているところでございます。
したがいまして、今後は、フォローアップ会議のメンバーの皆様におかれましては、こうしたガイダンスの策定を念頭において、議論をお願いできればと存じております。
続いて、前回のご議論を整理させていただいた資料2につきまして、ご説明させていただければと存じます。こちらは、先ほどの6つの課題について、前回いただきましたご指摘を、整理させていただいたものでございます。
1点目が、経営環境の変化に対応した経営判断についてでございます。最初の点にございますように、日本企業におきましては、資本の効率性に対する意識の低さや収益力が課題であるというご指摘を頂戴しております。この点につきましては、グローバルな投資家が大きな関心を持っているということ、また、経営効率の指標につきましては、ROEのみで測ることについては問題があるけれども、ROAやROSといった指標が低水準であることは課題ではないか、さらには、インセンティブ付けも重要である、といったご指摘をいただいたところでございます。
2点目の投資や現預金等の保有についてでございますけれども、日本企業が手元の現預金を活用して、設備・人材・研究開発投資等を加速化することによって、グローバル市場での競争力を付けていくべきだということが、コーポレートガバナンス・コードの策定時から問題意識としてあったのではないかというご指摘を頂戴いたしました。また、その際、そうした議論に当たっては、個別企業の事情を踏まえた対話が重要であるとのご指摘も頂戴いたしております。
3点目のCEOと取締役会等についてでございますが、この点につきましては昨年にもご議論をいただき、意見書を公表いただいたところでございますけれども、その内容を敷衍するような形で、こちらに書いてありますようなご指摘を頂戴いたしました。取締役会、特に社外取締役は、後継経営者の指名及び候補者の選抜・育成について積極的、主体的に関与すべきであるということ、また、CEOの後継者の指名に当たっては、指名委員会の活用についてもしっかり考えていく必要があるのではないかということ、社外取締役としての適格性や取締役会の多様性について十分に議論することが重要あり、また、社外取締役には、経営陣を実効的に監督する能力も重要である、といったご指摘を頂戴しております。さらには、監査役や監査委員についても、専門性を持った人材が就任すべきではないかというご指摘も頂戴したところでございます。
4点目の政策保有株式についてでございますが、こちらにつきましても一昨年にご議論をいただきました。最初の点にございますように、政策保有株式については様々なデメリットがあるため、縮減を進めるべきであるというご指摘がその際にもございましたが、今回も同様のご指摘を頂戴いたしました。また、政策保有株式を「保有させている」企業の問題をよく考えていく必要があるのではないかということご指摘もございました。さらには、政策保有株式は、いろいろな理由で保有している企業があるわけですけれども、保有の合理性についての説明・開示について、しっかり考えていく必要があるのではないかというご指摘も頂戴しているところでございます。
5点目のアセットオーナーの点につきましては、インベストメント・チェーンをしっかり機能させていく上で、アセットオーナーの役割が非常に重要だということは、先般のスチュワードシップ・コード改訂の際にも、大いにご議論をいただいたところでございます。その中にあって、企業年金については、いろいろな事情もあってなかなかスチュワードシップ・コードを受け入れていただけてないという状況にあり、コードの受入れを表明した事業法人の企業年金は、現時点でわずか1つとなっております。企業年金全体で見ても、コードの受入れを表明しているのは7つだけであり、基金型の確定給付企業年金が約700ある中で、かなり少ないという状況にございます。スチュワードシップ活動を行っていくことが、アセットオーナーである企業年金として重要であるということは、前回もご指摘をいただきましたが、様々な課題がある中で、どういったところから取組みを進めるべきであるかということについても、さらに議論を深めていただければと存じます。
6点目のその他の点についてでございますけれども、投資家との対話の役割が重要であるとのご指摘をいただいておりますので、どういったことを対話の中で話していくのかという道しるべになるようなガイダンスの策定を考えていければと存じます。また、そういったことは、最後の点にございますけれども、国民の安定的な資産形成を図る上でも重要であり、私どもの日々の生活にも直結しているというご指摘も頂戴しておりますので、そういったことも念頭に置いていただいて、ご議論を進めていただければと存じます。
以上、簡単ではございますが、事務局からご説明させていただきました。ありがとうございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、今、事務局から説明があった論点に関しまして、オムロン株式会社の安藤様より、同社におけるROICを活用した経営、CEOの選任等にかかわるガバナンス体制の充実や政策保有株式の縮減等にかかわる取り組みにつきましてご説明をいただきます。安藤様からは資料3をご提出いただいております。
それでは、よろしくお願いいたします。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
オムロン取締役の安藤でございます。今日は貴重な機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私からは、資料に沿ってオムロンにおける統合的経営の実践についてご説明をさせていただきます。あえて表題を「統合的経営の実践」とした意味は、オムロンといたしましては、事業の持続的な成長と資本効率を両立させた経営を実践するために攻めと守りのガバナンスを担保しています。そのうえで情報開示を積極的に行って、ステークホルダーと対話・エンゲージメントを通じて企業価値を一層高めていくという思いを込めました。
田原課長のほうからは15分というご指示をいただきましたので、意識して資料の中に私がお伝えしたいキーメッセージを文章でまとめてあります。
7ページをご覧ください。まず、弊社は企業のコーポレートガバナンス責任は何かを考える際、ステークホルダーが、どういう期待をしているかということを前提に考えております。まず、全てのステークホルダーが企業に求めることは誠実な経営の実践です。そのうえで、特に株主・投資家が期待することは、持続的な稼ぐ力の発揮です。換言しますと、インティグリティとサステーナブル・グロースを両立することであるとの認識です。
しかしながら、私がほかの企業経営者と話をしてみますと、経営情報の開示やIR活動を積極的に行う意義が十分には理解されていないのではないかと感じることがあります。8ページに私なりに5項目としてまとめましたが、コーポレートガバナンス責任を果たすための必要条件である経営情報の開示と、それを通じたステークホルダーの対話を行うための人的・財務的資源を投資として認識するべきであることを強調しております。
次に、オムロンの経営の特徴について10ページから3つのレイヤーで文章でまとめました。
(1)経営の基本スタンスです。
次に、(2)オムロンの本源的な企業価値を支える基盤です。
その上で、11ページが、(3)長期的な企業価値創造のためのドライバーを15項目列挙しました。これらの項目は機関投資家が企業と対話をする際の切り口としても参考になるはずです。田原課長からガイダンスの策定というご提案がありましたが、このような要素が、企業が持続的な企業価値向上のためにコーポレートガバンナンスの質を上げるヒントになるかもしれません。
続きまして、コーポレートガバナンスの特徴についてご説明します。弊社は、コードに対応した「オムロン・コーポレートガバナンス・ポリシー」を公表しております。16ページに10項目の特徴を挙げました。例えば4番目にあるとおり「買収防衛策を導入しない」と宣言をしております。7番目には、取締役の人数構成について数値基準を明示しています。
17ページが弊社のガバナンスの機関設計です。監査役会設置会社を選択していますが、任意で3つの諮問委員会と1つの委員会を設置しています。これらの委員会には極めて重い職責を、特に社外取締役に担っていただいています。このうち人事諮問委員会、報酬諮問委員会は、多くの監査役会設置会社が設置していますので、特に、社長指名諮問委員会とコーポレートガバナンス委員会の機能について触れます。
資料20ページをお開きください。社長指名諮問委員会の特徴は、社外取締役3名、社内取締役2名の計5名で構成されていますが、委員長は社外取締役に務めていただいています。構成比の点でも、社外取締役である委員長がキャスティングボードを握っているという点でも透明性の高い諮問がなされています。社長指名諮問委員会は、表現だけをみますと、勇退するCEOの後任を決める機関であるばかりか、続投の是非を決める1年ごとのCEOのパフォーマンス評価を行います。結果として、CEOが長期間務める場合もあるだろうし、極論すれは1年でかわる可能性もあるという意味です。もちろんCEO本人の意思には関係ありません。後任選びは本当に難しいわけですから、CEOの後継候補者は定期的に取締役会に呼んで説明する機会を与え、質疑応答を通じて社外取締役に人物および能力評価をしていただきます。
また22ページのコーポレート・ガバナンス委員会について説明します。先ほど「オムロン コーポレート・ガバンナンス ポリシー」の話をした際に、買収防衛策を導入しないと宣言しています。万が一、他企業から買収提案がなされたときに、社外役員だけで構成される同委員会が第三者的な立場から、買収提案を受けるか、あるいは現経営陣に引続き経営を委ねるのか、を判断して取締役会に諮問します。たとえ任意の機関であっても、このようなガバナンスを効かせる体制を整備することによって、実質的に強力な権限を持った諮問委員会、委員会にしています
先ほど、取締役ほか経営陣の報酬インセンティブについて触れました。24ページに取締役報酬の考え方を記載しています。ました。25ページには、短期の固定報酬と短期の業績連動報酬、ならびに中長期の業績連動報酬との関係を具体的にお示ししています。お手元には弊社の2017年版統合レポートをお配りしておりますが、この中でも同様の内容を開示しています。3年前に中長期の業績連動報酬を導入しましたが、今年度から株式報酬が認められましたので、中長期の業績連動報酬は株式報酬としています。
次のテーマは、ROIC経営です。エッセンスは、31、32ページです。ROEやROICが重要な経営指標であることは論をまちませんが、やはり一般社員から見ると自分の日々の仕事とは縁遠い指標です。したがいまして、ROIC経営の重要性や有効性を社員一人一人に認識させ、また社員の一人一人のMBO(個人の業績評価)に組み入れるために、31ページのようにROICの構成要素を分解し、重要なKPIまでを明示して、これらのKPIを社員全員で達成すればROICが向上するという理念に基づいています。ですから、当社の場合には、ROICは経営者だけが関心を持つ指標だけではなく、社員一人一人が活用するための指標です。
そして、同様に、ROICの考え方をハードルレートとして使って事業のポートフォリオマネジメントにも活用しています。32ページをご覧ください。弊社がROICを重視する理由は、まさに事業をフェアに評価できる指標だからです。企業は、一般論として売上高が大きいとか利益額が大きい事業セグメントが注目されやすいですが、資本コストを上回るROICを持続的に上げていくことができれば、売上高や営業利益の多寡にかかわらずグループ全体の企業価値を引き上げていることが実感できるので、経営陣から社員一人一人までが共有するにはROICが最適であると考えています。但し、弊社の場合には、現在ネットキャッシュの状態であり、ROICとROEがほぼイコールになっています。また、私見ですが、経営者に対する評価はROEですべきであるとも考えます。
そして、近年、投資の世界でESG投資というのが注目を集めていますので、企業はサステナビリティマネジメント、あるいはESG経営、ESGインテグレーションを進化するフェーズに入っていると認識しています。これにつきましては47ページ以降での弊社の考え方について記載しておりますが、時間の制約もありますので55ページのまとめをご覧ください。スライドの下段には統合レポートのどこに開示されているかも記載しましたので、是非ご一読いただきますようお願いいたします。
最後に、資料はご用意しておりませんが、弊社の政策保有株式の縮減についてお伝えします。「オムロン・コーポレートガバナンス・ポリシー」においてリターンの低い資産を縮減していくという方針を明確にしています。上場株式が、常にリターンが低いかどうかはそのときの状況によって変わりますし、弊社は、戦略的な業務提携目的などがありますので、必ずしも上場株式を保有することが悪いこととは考えておりません。但し、コーポレートガバナンス・コード導入以降は、着実に上場株式を縮減してきました。企業同士が持ち合ってきた株式の溶け合いもしましたし、退職給付年金信託に譲渡して本体のバランスシートからオフしたものもあります。そして、このような縮減の取り組みは多くの企業で進んでいますので、資本効率を重視した経営を意識すればするほど、一般的にリターンが低く、株価ボラティリティーの高い上場株式は減っていくことになります。
最後に1つだけ私見を述べさせていただきます。今年度から機関投資家による議決権行使結果の個別開示がスタートいたしました。私は、2つのコードの質を高めていくために、このことが投資家、企業にどのような影響を及ぼすのかに注目しています。現状の機関投資家の議決権行使基準は、企業から見るとややもするとボックスチェッキング的で、企業のガバナンスの全体を見ていない感じがしているからです。ある機関投資家が、IRに積極的でない企業経営者(代表取締役、代表執行役)に反対票を投じるという議決権行使の基準を公表しました。私は、このような総合判断を一層重視することが、本来のスチュワードシップ責任の果たし方であると考えます。
駆け足になりましたが、これで私のご説明を終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。十分な時間が確保できず申しわけなく思っておりますが、それでは、これから討議の時間に移らせていただきたいと思いますが、本日は、先ほど事務局からの説明もありましたように、ガイダンスの策定というのを強く期待されているというところがございますので、資料1あるいは資料2に提示されている6つぐらいの大きな論点を中心にできればご議論を行っていただきたいと考えております。
それで、一般的な討論に先立ちまして、まずは、今ご説明いただきました安藤様からのお話に関連して、直接関連する形のご質問、ご意見等を先にお伺いしたいと思います。
それで、本日、ご欠席のメンバーから2つ意見書が出されておりますが、冨山メンバーの意見書がただいまのオムロン株式会社の取り組みに関連する面がありますので、それについて事務局からちょっとご紹介をお願いします。
【田原企業開示課長】
お手元に冨山メンバーの意見書をお配りさせていただいております。冨山メンバーからは、今回ご紹介いただいたオムロンの事例が、CEOの選任のあり方という観点から非常に示唆に富むケースであるというご指摘を頂戴しております。冨山メンバーのお言葉を借りますと、CEOの選任方法の改革こそが、ガバナンス改革の「へそ」であって、これに相当の時間とエネルギーを使って取り組むことが重要であるということについては、昨年にもご議論をいただいたところですけれども、オムロンでは、実際にそうした取組みをされており、こうした取組みに社外取締役として関与された冨山メンバーから、是非オムロンを一つのモデルケースとして、多くの上場企業に共有してほしいというご意見を頂戴しているところでございます。
【池尾座長】
それでは、ただいまの安藤様からのプレゼンテーションに直接関連する形でご質問、ご意見ございましたら、お願いします。じゃあ、佃メンバー、お願いします。
【佃メンバー】
はい、ありがとうございます。安藤さん、どうもすばらしいプレゼンテーションありがとうございました。
すばらしいガバナンスを構築されたと感銘を受けましたけれども、そもそもこういうふうなガバナンスを志向したきっかけは何だったのか、例えば20ページの社長指名諮問委員会で社長のパフォーマンスを見るというのは、これは言うのは簡単だと思いますけれども、一方でこういう仕組みを入れるというのは相当難しいと思いますが、いかにしてこのようなことができるようになったのかの背景を、若干ご説明していただければありがたいと思います。
【池尾座長】
よろしくお願いします。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
14ページの資料はコーポレートガバナンスの歴史ということで年表にしてありますが、弊社が20年以上にわたりコーポレートガバナンス改革に取り組んできたエビデンスです。これは、必ずしも法律で要求されるからとか、あるいはソフトローで規定されたからということがきっかけではなく、自らがグローバルなビジョナリーカンパニーになるためには何が足りないのかを見極めて補ってきた訳です。弊社は、コーポレートガバナンスを論じる際には自律(オートノミー)が最も重要であると認識しています。ただし、自律だけでは社内論理を優先した内向きな経営になってしまう懸念がありますので、他律とのバランスが極めて必要であるという理念に従って年々着実に取り組みを深化させてきました。
そして、弊社は創業84年になりましたが、もともとはファミリー経営でした。現在は「オムロン」という社名を使っておりますが、1990年までは立石電機というファミリーネームを冠していました。一方で、グローバルに事業を拡大していく、また社員もグローバルに増えていく状況の中で、創業者が3つの事柄でグループ全体の求心力を高めることを志向しました。1つ目は、企業理念を実践する「企業理念経営」です。2つ目は「透明性の高いコーポレートガバンナンス」です。そして、3つ目は全てのステークホルダーと真摯に対話して、自分たちは何が強みなのか、何が足りないのかということをきちんと考えていく「ステークホルダー・エンゲージメント」重視の姿勢です。その3つの実効性を担保するために社外の有識者の方々、特に経営者経験豊富な社外役員の方々の示唆を重視します。
ですから、他の企業さんが同様のシステムを入れることはそんなに難しくはありませんが、魂がこもっているかどうかというのは非常に大きなポイントであるように感じています。
【池尾座長】
それでは、三瓶メンバー、お願いします。
【三瓶メンバー】
安藤様、ご説明ありがとうございました。私もふだんからオムロンさんからはオムロンさん自身の自律から来るベストプラクティスというのを学ばせていただいていますので、いろいろわかっているつもりではいるんですが、改めて3つ簡単に伺いたいと思います。
まず、取締役会の議長の決め方。そして、各委員会の委員長の決め方。そして、もしCEOが何かパフォーマンス上の問題があるということではなく、ある時期が来て退任された後は、どんなロールを担うのか。通常、会長になるということが多いわけですけれども、その辺についてお聞かせいただけますでしょうか。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
まず1点目の議長の選任については、社内取締役同士の互選ということになります。一方で、最も経営の実態を理解している取締役が良いとの考え方に基づいており、社外取締役に委嘱することはしていません。
そして、3諮問委員会および1委員会の委員長も互選によります。特に、社長指名委員会は、原則として、社外の取締役の中で最もオムロンの経営を理解していただいている方として在任期間が長い方に就任していただいています。
それから、CEOを退任した後の処遇については一例しかありませんので、一般論で申し上げることは難しいですが、7年前に交代した前CEOは既に弊社にはおりません。弊社会長として、一定のトランジションピリオドを置いた上で、同氏は弊社とは資本関係のない他社の経営に参画しました。
【三瓶メンバー】
ありがとうございます。
【池尾座長】
川村メンバー、お願いします。
【川村メンバー】
20ページの社長指名の諮問委員会に関する質問なんですが、毎年行って、その社長の1年間の評価をするという場合に、例えばいろいろもめて、多数決評議等々のことになったことがありますかどうですかというのが1つの質問です。そうなった場合に、ほんとうに多数決でやるのか、それとも結論が出るまでいろいろ中で議論をするのかというのが1つ目です。
それから2つ目は、大変によくできた統合報告書をちょっと拝見していると、海外の仕事のほうが多いようですけど、従業員も海外が多いんですけど、その海外の意見はこういうメンバーだと取り入れにくいようにも思うんですけど、海外の従業員なり海外の人たちの意見をどういうふうにこれらの委員会の中に取り入れているかって、これが2つ目です。
それから最後ですけど、3つ目は、監査役設置方式の会社でこういう形で見事にやられているわけで、これはこれで大変結構だと思うんですけど、個人的には委員会設置会社にしたほうが組織がすっきりするし、意思決定も迅速・明快になるんじゃないかという感じはあるんですが、それに対してお考えがあれば。
その3つをお願いしたいと思うんです。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
実は、現行の社長指名諮問委員会を経て選任された社長というのは、現CEOが初代です。7年間の経験がありますが、今のところは実態として全員一致で続投が認められています。あえて仮定のもとでお答えしますと、意見がスプリットした場合には、当然、多数決という手段もあるでしょうし、最終的には委員長である社外取締役のご判断が重要になると考えます。
2番目のオムロンの課題は、私見ですが、まさにご指摘いただいたダイバーシティにあると認識しています。現在、取締役は社外も含めて全員日本人ですが、うち女性は一人です。そして、20数名の執行役員の中でも2名しか外国籍の役員はおりません。鋭意努力をしておりますが、日立製作所様のレベルまで行くのは時間がかかりそうです。ただし、課題として十分に認識していますので、一歩一歩着実にダイバーシティを進化したいと考えております。
3番目の監査役会設置会社である必要はあるのかというご指摘ですが、実は、たまに海外の投資家からも同様の質問を受けます。弊社は「オムロン コーポレート・ガバンナンス ポリシー」で当面は監査役会設置会社形態を維持すると宣言しています。指名委員会等設置会社に移行するか、あるいは監査役会設置会社にとどまるかについては、上述の「ポリシー」を決める際に喧々諤々議論しました。結論としては、グローバル117カ国でビジネスをやっているけれども連結売上高は八千数百億の規模ということと、加えて、弊社の事業セグメントの特性には比較的ばらつきが少ないという点がポイントです。センシング&コントロール+Thinkというコア技術をもとにBtoB、BtoCのアプリケーションで勝負する企業ですので、現状の事業ポートフォリオでは指名委員会等設置会社に移行する意味はなく、むしろ監査役会設置会社に任意の諮問委員会、委員会を設置するハイブリッド型機関設計の方が弊社のガバナンスにとっては有効であるというのが結論でした。ただし、多くの監査役会設置会社の取締役会がマネジメントボードになりがちなところを、弊社はCEOに権限を委譲してモニタリングを中心に置き、マネジメントボード的性格を薄めていきたいと考えています。但し、現状では、企業価値に大きな影響を与えるようなM&A案件などの投資や子会社の設立などは取締役会で決議しています。弊社は、指名委員会等設置会社よりも監査役会設置会社でハイブリッドな機関設計をしたほうが、実質的なガバナンスが担保できるという判断をしております。
【池尾座長】
はい、どうも。
では、田中メンバー、お願いします。
【田中メンバー】
名札を立てたときに考えた質問、もう川村さんにされてしまったのですけど、1つ目は、やっぱり、ここまでされるんだったら、どうして指名委員会等設置会社にしないのかということを一番思ったんですね。今のお答えを前提に、もう少し踏み込んでこの点についてお伺いしたいんですけれども、要するに、指名委員会等設置会社にする場合はモニタリングボードに変えるわけですね、マネジメントボードから。そうすると、今、監査役設置会社ということだと、業務執行に関して会社法上は、多額の借財であるとかそういうことについては全部取締役会でやらなきゃいけないと、こうなっていますですね。その結果、大体月に1回、取締役会をやるところが非常に多いわけですけれども、今、オムロンさんでは年間何回ぐらい取締役会をやっておられ、そして、そのうちどれぐらいの比率でモニタリングに関する議論をされているのか、その点が第1点です。大体の感覚でもいいんですけどね。
それから2つ目は、いただいた資料の中の8ページに「資本コストを低減させる」と、そういう文章があるんですけれども、この資本コストについてはこの会合で前回も議論されているんですが、そもそもオムロンさんの現在の資本コストは一体幾らというふうに認識されているのか。それはどういう計算式で考えておられるのか。低減させるというのは、具体的にどういうふうなことを考えておられるのか。特にROICの計算式と資本コストの計算式は違うはずですので、そのつながりは一体どういうふうになっているのか。資本コストは特にCAPMを使ったりとかベータを使うというやり方が通常だと思うんですけれども、ROICの計算式とは大分違うんですよね。そこの兼ね合いはどういうふうになっているのか、どうやって低減させるのか、これが2つ目。
最後に、これはちょっと言いづらいんですけど、指名委員会等の委員長ですね、それから人事諮問委員会、小林さん、大変立派な方がされているんですが、現職の伊藤忠の会長さんでいらっしゃいますですね。そういう別の会社の現職の役職を持っている方がこういうところの役職をとられるということに関して、何らかの課題というものをご検討されるのかどうか、されたのかどうか。
その3点について教えていただければと思います。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
最初の指名委員会等設置会社に移行しないのかとのご質問ですが、弊社としては、指名委員会等設置会社の取締役会と監査役会設置会社の取締役会は実質的に機能が異なると考えています。117カ国でビジネスをやっていますとさまざまなリスクがあるので、より現場に近いところで取締役会が機能したほうがいいのではないか、そういう判断で監査役会設置会社を続けるという意思決定をしました。取締役会がモニタリングに徹してしまうと、弊社は守りの面でも攻めの面でも十分なガバンナンスを効かせることができないと感じています。そして、その比率ですが、昨年度まではモニタリングとマネジメントの比率というのは7対3ぐらいだったと思います。一方、今年度からは方針を変えましたので、私の印象ですが、今のところ概ね5対5ぐらいのイメージになるのではないかと感じています。
2番目の資本コストですけれども、ROIC経営を標榜していますので、対するコストはWACCになります。オムロングループ全体のWACCは公表しておりませんが経営情報を積極的に開示し、事業ポートフォリオマネジメントを通じてベータを抑えることによって資本コストを下げていくというような自助努力を念頭に6%程度としております。ただし、事業の特性によってはボラティリティーが高い事業がありますので、このようなケースでは、より高いハードルレートを設定しています。そして、CEOから社員に対するメッセージは、グループ全体でROICは10%以上稼ぐことを目標としております。
それから、3番目の社外取締役の人選ですが、結論から申しますと、あくまでも人物本位に判断しています。ただし、利益相反は事前チェックで候補から落としています。先ほど現役経営者の方を優先しているというのは、自社で起こったことを下敷きにして、オムロンのガバナンスを攻め・守りの両面について忌憚のない指摘をしていただくことが目的です。弊社の場合、取締役会は定例が月1回、計年12回、それから臨時が2回程度で、計14回程度が通常です。但し、他の企業と比べると取締役会にかけている時間は相対的に長いです。毎月の取締役会は半日程度をかけています。また、議事録については詳細に、誰が何を指摘したか、誰がどういう質問をして、執行側はどう答えたかということまで記録し、記載しています。通常A4用紙の普通のフォントで5ページ以上になります。
【池尾座長】
それでは、次に高山メンバーにご発言いただきますが、そろそろ安藤様に直接関連する論点以外の本日議論すべき論点全体にまたがって広く議論していただいて結構ですというか、そういうふうにお願いしたいと思いますので。
それでは、高山メンバー、お願いします。
【高山メンバー】
安藤さん、非常に充実したプレゼンテーション、どうもありがとうございました。
その際に直接的に触れられた内容ではないですが、今回のフォローアップ会議の目的の一つである投資家と企業の対話のガイダンスをつくるということとも関係するので、お聞きします。プレゼンテーション資料の7ページのところで、企業経営者のあるべきスタンスとして「株主を選ぶ努力をする」というところがございました。前回の会議でもありましたけど、投資家といっても、その対話の質にいろいろばらつきがありますし、さまざまな投資家がいます。投資家が企業を選ぶように、企業も投資家を選んでもいいのではないかと私は思います。実際に欧米の企業のIRのプラクティスを見ていても、こういう経営をしているのだから、こういう株主を持ちたいということで、株主を能動的・積極的に選ぶというのが一般的だと思います。一方、日本の企業というのは、そこのところがわりと受け身的・受動的なところがあります。そのような中で、「株主を選ぶ努力をする」とおっしゃっていることは非常に新鮮に映ります。この点についてもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
私はオムロンでの勤務経験は10年間強です。最初の4年間は常勤の社外監査役というユニークな役割を務めて、その後、執行に移り、6年前にチーフIRオフィサーに就任しました。まさにその際に掲げた方針が「受動的なIR活動からの脱却」でした。当時、投資家と企業の対話はQ&Aでした。投資家が質問して、企業がそれに答える。そして、投資家が理解しているから質問しないのかと思うと、むしろ全くしらないということに気づきました。したがって、企業として積極的に、特に中長期の経営情報をどんどん出して、フェース・トゥ・フェースで内容を説明することが必要です。資料には、あえてメッセージ性を高めるために「株主を選ぶ」という大層な表現をしましたが、もっともっと対等の立場で対話しなければいけないと考えます。Q&Aではなく、Q&A&Qにする、つまり弊社が答えた内容に対して投資家がどう評価したのか、どこに課題があると思っているのかについて認識を共有しなければ対話でもなければ、もちろんエンゲージメントにもなりません。
それから、株価についても、やっぱり関心が薄い企業経営者が多いのではないでしょうか。やはり長期的な株価の動向や水準は企業価値を自覚する一つの指標であると考えます。一方で、企業経営者と話をしていると、「なかなか株価が自分たちが考えているレベルまで上がらない。常にアンダーバリューしている」と言う方がいます。そういう方に「それでは、自社のフェアバリューは幾らぐらいとみていますか?」と質問すると、必ずしも答えが返ってきません。自社のフェアバリューがわかっていなくて、なぜ今の株価が割安だと判断できるのか理解に苦しみます。もちろん本源的な企業価値と株価がマッチングするということは理想ではあり、現実はなかなか難しいですが、やはり企業は対等の立場で投資家と向き合うべきであるというのが、私のメッセージに込めた想いです。
【池尾座長】
それでは、岩間メンバー、お願いします。
【岩間メンバー】
済みません、私鉄の事故に巻き込まれまして、大汗かいて到着しまして、申しわけありません。
既にもうお話があったことなのかもしれないんですが、2点ちょっとご質問したいと思っていまして、1つは、10ページの「日本的経営の良さに欧米的なマネジメントスタイルを融合したハイブリッド経営」と、こういうことを標榜されているということなんですが、これ、全体を通してそういう思想がにじみ出ていると、私、理解しておって、それは非常に説得力あると思うんですけど、オムロンさんの立場でごらんになった日本的経営のよさというのは、もう少し掘り下げるとどういうことをイメージされているかということが1点と、それから、先ほども出ました20ページの社長指名諮問委員会の件でございますけど、社長指名諮問委員会というのは候補を1人に絞って提出するのか、あるいは複数の候補を場合によっては提示して議論するということになっておられるのか、その2点をちょっと。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
1点目の日本的経営の良さについては、私は近江商人の「三方よし」であり、マルチステークホルダーを重視した長期視点の経営の実践であると認識しています。従来、バブル崩壊以降、数年前まで、円高やデフレなど様々な外部環境の悪化があったにせよ自発的にマネジメントシステムを高度化してリターンを上げようという意識が低かったように思います。一方で、欧米的なマネジメントシステムの強みはリターンや資本効率に対する意識の高さです。「ハイブリッド」という言葉は良く使われますが、ESG投資の高まりを見ているとグローバル企業には、私の示す「ハイブリッド経営」が真に求められ始めていると感じています。従って、日本的経営が長期、欧米的が短期みたいなステレオタイプな解釈ではなく、「良いとこ取り」の経営をすることが、株主・投資家だけではなく全てのステークホルダーから期待されていると認識しています。
2番目ですが、現在のCEOが選任されたのは2011年でした。当時は統合レポートではなく、アニュアルレポートでしたが、この2011年のアニュアルレポートには「新社長誕生秘話」というテーマで、当時のCEOと、社外取締役の冨山和彦氏の対談形式で社長選任のプロセスを開示していますので、現CEOが選ばれた背景や理由をオフィシャルに公表しています。最後は、若干お答えしにくい質問ですが、社長指名委員会では複数名の候補の中から選びました。ストレートにお答えすると、複数の候補者の中から選任をしたということになります。
【岩間メンバー】
ありがとうございます。
【池尾座長】
それでは、一般的な議論をしたいと思いますので、もう一つの意見書ですね、本日ご欠席の上田メンバーからも意見書を提出していただいておりますので、この意見書についても事務局からご紹介をお願いします。
【田原企業開示課長】
それでは、上田メンバーの意見書について、内容をご紹介させていただきます。
4つのポイントについてご意見を頂戴しておりまして、まず、今回、これまでの議論としてまとめさせていただいた6つの点については、非常に重要な論点であるとともに、今後にガイダンスを定着させていくためには、実務的なソリューションという観点が必要であり、そうした意味では、あまり論点が拡散しないように議論することが望ましいというご意見を頂戴しております。
その上で、具体的な中身についてでございますが、1点目は、CEO・取締役会等に関連する論点でございますけれども、イギリスではCEOとチェアマンの分離が求められており、執行と監督を分離すべきとされていますが、我が国では、会長としてのチェアマンと取締役会議長としてのチェアマンが、紛らわしくなってしまっているのではないかというご指摘を頂戴しております。そうした用語の定義を明確化して、社長・CEOと取締役会議長との役割分担の観点をよく意識して、今後の議論を進めていく必要があるのではないかというご意見でございます。
2点目は、政策保有株式に関連するものでございまして、対話の阻害要因となったり、資本の効率的活用といった面から、政策保有株式については問題があるというご指摘を頂いております。政策保有株式は、我が国の企業慣習に根差したものであり、急激な変更には時間がかかる可能性もあるのではないかというご意見もございますが、まずもって透明性の強化が非常に重要であり、適切かつ十分な情報開示をよく考えていくということが重要ではないかというご指摘を頂戴しております。
最後になりますけれども、アセットオーナーに関するご意見であります。先ほど私どもからもご紹介させていただきましたが、上田メンバーも、企業年金のスチュワードシップ活動はまだ途上にあるというご認識でございますが、アセットマネジャーに対するモニタリングは、アセットオーナーの受託者責任の一環として求められる活動であると考えられ、企業年金の投資パフォーマンスが高まれば、母体企業にとっても好ましい状況につながるというご指摘をいただいております。イギリスでは、企業年金がスチュワードシップ活動に取り組むことを支援する活動が、諸団体によって行われているということでございまして、そういった体制の整備についても、検討していくべきではないかというご指摘を頂戴しているところでございます。
以上でございます。
【池尾座長】
それでは、田中メンバー、もう一度お願いします。
【田中メンバー】
前回欠席いたしましたので、一般的な論点について少しコメントをさせていただきます。前回の議事録も読ませていただきました。
1つ目なんですけれども、まず、資本コストという言葉なんですが、今、安藤さんのお答えにあったように、オムロンさんの場合はWACCを使っているわけですね。資本コストといいながら、資本と負債と両方を入れ込んだ計算式ですよね、WACCの場合は。それから一方で、例えば伊藤レポートに出てくる資本コストというのは、これは資本だけでCAPMにまさに依拠した計算の考え方ということなので、一般論として資本コストという言葉はよく使うんですが、その定義は明確にしたほうがいいんじゃなかろうか。少なくとも一つのやり方としては、資本コストというものをどのようにして考え、計算式をどのようにして使っているのかというようなことについて開示をする。そして、それに対してどのような対応をしようとしているのかということを開示するということが必要だろうと思います。それは、資本コストの定義が随分違って、資本コストというものを配当率と間違っている人すらいるわけで、その辺についてはやっぱり明確にどれをどのようにして考えて、リスクファクターをどのようにして計算しているのか、判断しているのかというところまで開示をしていくということが一つ方法としてはあるだろうと思います。
それから次に、内部留保の問題なんですけど、これ、前回、内田さんがおっしゃっているの、私、非常に賛成なんですけれども、内部留保の活用という言葉そのものが非常にわかりづらくて、内部留保というのは資本の一部であって、それを実際には現金として持っているのか、投資、特に最近は大企業が非常に海外買収をやっていますから、そういうものは長期の投資として入っていると思うんですけれども、要するに、それがどのようにして使われているのかという、まさにアセットサイドもしくはPLサイドの問題として捉えるべきじゃないかと思いますし、それに関しては社外取締役の役割は非常に大きいんじゃないかと思います。
それから3点目なんですが、社外取締役の件が出ているんですけれども、そもそも社外取締役って誰が実質的に選ぶんだろうという論点があると思います。一般的には、CEOもしくは会長さんがいろんなところで知り合いを連れてくるというケースが多いんじゃないかと思うんですけれども、本来は、海外の事例を見ますと、社外取締役が多いものですから、社外取締役が社外取締役を選んでいるというパターンが非常に多いんですが、日本の場合はまだ80年代後半のアメリカみたいなもので、自分たちの経営陣の仲間を社外取締役として連れてくるという傾向が非常にあるんじゃなかろうかという気がいたします。
それからもう一つは、社外取締役の任期というのもこの中では考えるべきであろうと思いまして、前も申し上げたかもしれないんですけど、アメリカの場合はベストプラクティスとして72歳というのがよく言われるんですね。これはローファームが調査をした結果もあるんですけれども、私、「何で72歳ですか」って聞いたら、「いや、人生はボギーに入っちゃいけないんだというので72だ」と言うんですけど、それはよくわかりませんが、そういうふうに答えをもらいました。いずれにしても、社外取締役の独立性という点から、そういう任期というのを考える必要があるんじゃなかろうかと思います。
それから、前回、会長という役職に関する議論が、高山さんから非常に詳しいご説明があったり、川村さんからもコメントがあったというのは理解しているんですが、イギリスのやり方とアメリカのやり方はかなり違うんですよね。イギリスの場合は取締役会の会長とCEOを分ける。しかも、会長は独立社外から持ってくるという、これが当たり前のプラクティスになっている。これ、今回、上田さんも意見書に書いておられます。アメリカの場合は逆に会長兼CEOが多いんですよね。例えば私のいた業界ですと、ジェイ・ピー・モルガンのジェイミー・ダイモン氏も会長兼CEOですし、会長兼CEOが多いんですが、そのかわり社外取締役が圧倒的に多いものですから、社外取締役の中のヘッドとしてリードディレクターを使うと、そういう建前になっていると思うんですね。これは両方どっちかをまねようという必要は必ずしもないと思うんですが、私がいつも思っていますのは、監督機能を束ねる取締役会の議長と日本的な執行機能を持った会長というのは分けてもいいんじゃなかろうかと思います。といいますのは、営業とか社外活動に会長という名前は非常に役に立つことがありますし、実際に欧米でもバイスチェアマンという呼称を使った営業活動、経営には関与してない人たちがたくさんおられます。したがいまして、英語で言えばチェアマン・オブ・ザ・ボード、つまり取締役会議長、それとは別に業務執行を担当する会長、そして執行のトップであるCEOという人が、それぞれいてもいいんじゃないかという気が前からしておりまして、個人的な意見ですけれども、一応申し上げておきます。
それから最後に政策保有株式なんですが、これ、銀行側にいますと、お客さんが売らせてくれないんだというのが圧倒的な意見だろうと思います。一方、お客様に聞きますと、銀行が売らせてくれないんだという意見が圧倒的でございまして、これはどこに本音があるんだろうというと、僕は、おそらくお互いに経営の安定というよりも経営者の地位の安定に資するものというふうに考えたほうがいいんだろうと前から思っています。ただ、特に金融機関が持っている政策投資株式につきましては、金融機関の財務上の経営の安定性というものに非常に大きな問題を惹起することがありますので、私、事務局の方にも申し上げたんですが、他国においては銀行による株式保有を制限する制度がありますので、その事例などを見て、日本でも制度的にそれを考える時期に来ているんじゃなかろうかと思います。例えば、5年かけてこれだけ減らしてくださいというようなことをやる時期に来ているんじゃなかろうかということです。そうでないと、先ほどから申しておりますように、お互いに相手方が売らないで欲しいと言っているという事態はいつまでたっても変わらないだろうと思っております。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
それでは、川北先生、お願いします。
【川北メンバー】
これまでのいろんな議論を聞いていまして、コーポレートガバナンスに関しては、社外取締役の役割というのが非常に重要ではないのかなと思っています。これが私としての今日の全体の結論です。それに関しまして、事業へどういうふうに投資をするのかとか、現金保有というか、内部留保というか、定義はいろいろあると思いますが、それをどうするのかということに関しましては、社外取締役が事業の収益力とか配当政策、裏返せば内部留保の政策について、もう少し言うと資本構成とか、資本構成を議論する上でのWACCというか、資本コストというか、そういうことをきちんと議論して、それでもって会社の方向性を決めていくということが必要なんだろうと思います。そうでないと、個々の企業の状況に対応できないだろうというのが1点です。
それから、株式の政策保有に関しましては、純投資という言葉がどこかにあったと思いますが、これは論外でしょう。事業会社が株式の純投資なんて、そんなの誰も期待してないわけで、それは論外です。もう1点、事業会社が株式を持つということを突き詰めていくと、親子上場の問題にも波及するわけですね。これは今回の問題ではないのかもしれませんが、親子上場をどうするのかということも少し念頭に置きながら議論すべきであって、そうすると、ひょっとすれば政府関係の企業にも議論が波及する可能性というのは十分にある。そこは少し慎重にということだろうかなとは思いますけれども。
それと、純粋に経営戦略的な保有もある。そうすると、企業として株式を保有することに関していろんな場合が考えられるわけで、やはりこれは社外取締役が、ほんとうに今、株式を保有することがいいのかどうか、そこをきちんと議論できるようにすべきであるし、特に取締役会では議論すべきです。議論した結果、こういう理由で保有することになったというのであれば、それはきちんと有価証券報告書に書くべきだと思います。今、数文字で片づけられている例が非常に多いんですけれども、何行にわたってもいいので書いてもらいたいと思っています。そうすると牽制になるのかなということです。
それから、企業年金に関しましては、企業経営上、重要性というのは増しているわけなので、これを取締役会で議論しないというのは変だと思います。かつ、企業年金のトップというんですかね、理事長というのか、よくわからないんですけれども、その人事を決めるときにも、今は一つの人事ローテーションの一環として、もしくはご苦労さんという感じで使わしている例が多いと思いますが、企業経営に対する影響力が大きいという意味ではきちんと議論をしてトップの人選をやるべきでしょう。これも企業年金の影響度を考えると、統合報告書かどこかはよくわからないですけど、どこかに書くべきです。そのときにどういう議論をして人選をしたのかということを我々としても知りたいなと思います。
ということで、社外取締役に関しましては、数の議論も私は重要だと思いますが、もう一つは質の議論でして、適材なのかどうなのかということです。ある人物を社外取締役として選んだ、この理由も有価証券報告書に書いているわけですけれども、その内容を見るとやっぱり結構一般論として書いてあることが多いのですが、ほんとうに必要ということを企業の中で議論した結果を書いてもらうべきだと思っています。そうすることで牽制というんですか、もしくは対話を機関投資家とやるときには一つの糸口になると思います。
最後に、機関投資家に関して言いますと、プロの投資家、とくにアセットマネジメント会社に関して言いますと、やっぱり系列が多過ぎると思います。ちゃんとした独立系は結構あって、独自の違う角度からの議論ができる会社というのもアセットマネジメント会社に結構あるわけなので、そういう独立系を選んでいくというのでしょうか、使うべきであり、そういう努力をしないといけない。アセットオーナーはそういう独立系をきちんと使って対話をやらせる、そういう努力が必要なんだろうと思います。
以上です。
【池尾座長】
じゃあ、内田メンバー、お願いします。
【内田メンバー】
どうもありがとうございます。今日の冒頭のご説明によるとガイダンスの策定が出口になるということですので、ここで提案されている論点がその中に盛り込まれると理解しています。提案されている論点は、現行のコーポレートガバナンス・コードに十分織り込まれなかった項目や、企業による対応が不十分と思われている項目になっていると思います。一方、企業経営や企業統治においてやはり非常に重要なのは、経営理念や経営の行動指針であり、例えば今日のオムロンさんのお話にもあったと思いますが、会社がそのステークホルダーについてどう考えているのか、ステークホルダーに対して何を実現したいと考えているか、そういうことが極めて重要であって、このようなことについて投資家と会社との間でしっかり議論することが重要だと思います。これらの点については、現行のコーポレートガバナンス・コードにも書き込まれており、原則2-1に「中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定」、それから原則2-2において「会社の行動準則の策定・実践」として定められているのですが、これらに関する対話が実際にどの程度十分行われているかというと、私の経験ですとあまり十分な対話がされてこなかったのではないかと思います。従って、経営理念や経営の行動指針について各論の議論をする前の段階でしっかり議論することが重要だと思います。また同様に、先ほど「企業が株主を選ぶ」というお話が出ていましたが、企業としてはそういうこと(経営理念や経営の行動指針)をしっかり説明して機関投資家との間でコンセンサス、共通認識を作ることも各論の議論の前提としてやはり非常に重要だと思います。
次に、ここに挙げられている論点に関しては、業種、業態、それから新興企業と歴史のある老舗企業とでは企業の置かれている状況がかなり異なると思います。従って、一律にこういう仕組みがいいという形のガイダンスは望ましくなく、個々の企業と投資家が対話の中でこれらの論点について共通認識を作っていきなさいというような方向づけをするようなものにしていただきたいと思います。
そして、論点の1つとして挙げられている、政策保有株式については、前回の議論において政策保有株式に関する原則1-4が機能していないのではないかというご指摘があったと思います。このご指摘を踏まえまして、今回、経団連に所属しております主要企業にヒアリングを行いました。結論から申しますと、原則1-4に沿って適切に対応しているという答えが皆さんから返ってきました。具体的には、政策保有に関する方針の定期的な見直しを行っており、それから、社外取締役の参加する取締役会において、主な政策保有についての保有意義、相手先企業の業績、財務体質等を考慮に入れてリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性、将来の見通しをしっかり検証していますということでした。
さらに、政策保有株式については、投資家への説明も行っていると、そのような回答が返ってきました。
ただ、ヒアリングですとn数に限りがありますので、もう少しデータ数を増やして検証したいと思い、日経225の構成銘柄のうち、事業会社が204社ありますが、これを対象に純投資以外の保有銘柄数について2013年度末と2016年度末の比較を行いました。その結果、約8割に当たる160社が銘柄数を減少させていました。減り方は確かに会社によって非常にさまざまですけれども、平均で13%ほど減らしており、160社のうち約半数の78社は2桁%減らしていました。中には半数以上減らしている会社もありました。次に別の角度から、同様に日経225の銘柄の中の事業会社に関し、株主の構成の変化を調べてみました。有価証券報告書に「所有者別状況」が記載されており、その中に「その他法人」の項目があります。この「その他法人」は、金融機関、証券、保険会社以外の国内法人ですので、事業会社、事業法人が中心と考えられます。そこで「その他法人」の所有比率を分析すると、対象となる204社のうち約7割強の144社において、3年前に比べて「その他法人」の所有比率がやはり減少していました。
このようなデータから見ても、日経225の範囲ではありますが、事業会社においてもコードの趣旨を踏まえてアクションを起こしており、原則1-4はそれなりに機能していると私は考えるべきだと思います。従って、これは前回申し上げたのですが、政策保有については個々の会社によってかなりばらつきがあるのも事実だと思いますので、やはり企業と投資家の対話の中で、取締役会においてどのような検証を行っているかなどについて議論し、保有の合理性について確認しながら、望ましいあり方について検討していくことが大事だと私は思います。
それから最後にもう1点、アセットオーナーに関する論点、企業年金の論点について発言します。資料には「企業年金がスチュワードシップ活動を行う際にどのようなことが課題になるか」との記載がありますが、企業年金の規模は非常にさまざまであると思います。正直に言ってあまり費用をかけられないという企業年金もかなりあるのではないかと思います。ある程度の規模の企業年金でも、専門性を持つ人材を配置したり、工数を割くなど費用を掛けることにある程度限界があると思います。この論点については、費用対効果をよく考えた上で、あるべき姿、実態を踏まえた現実的な解といいますか、やり方を検討すべきだと思います。
以上です。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、小口メンバー。
【小口メンバー】
ありがとうございます。今日いただいた論点のうち2つ、政策保有株と、それからアセットオーナーについて意見を申し上げたいと思います。
政策保有株については、先ほど安藤さんからもお話があったのですが、基本的にコーポレートガバナンスにおいては自律が重要であり、実際にオムロンさんの場合は自律的に縮減されていますし、先ほど内田メンバーのほうからご意見ありましたように、実際に減ってきているという部分はあるとは思います。ただ、ここからがやはり難しいのかなと。かなり岩盤に当たってきていて、ここから先どうやって減らすのか、あるいは単に減らすというわけではなくて、ほんとうに保有の合理性があるもののみ残っていくという形にするのかというためには工夫が必要で、配られた金融行政方針や、本日のペーパーにも出ています「保有させている側のインセンティブ」、多分これから先の部分はそのインセンティブがすごく強くなってくるのかなと思っていて、そこをどうするのかという問題があると思っています。
ガイドラインをつくられるということですけれども、そうしますと、今日いただいた資料2の2ページの一番下に書いてあることを踏まえ、保有の合理性は絶対ないとは言わないのですけど、ほんとうにあるのかというところに説明を求めるようなガイドライン。誤解を恐れずにもっと言ってしまうと、説明に窮するようなガイドライン。なぜ保有しているのかということがほんとうに聞いていてなるほどと思わせるものが残っていく、そうじゃないものはやはり減っていくと、そういったような形のガイドライン。これをさらに突き詰めていくと、先ほど田中メンバーがおっしゃったように、禁止令みたいなことも入るのかもしれませんが、そこまでいくかどうかはさておき、ここから先というのは保有の合理性をぎりぎり詰めていくようなガイドラインにならないと、実際に減っていくということは難しいのかなと思っています。
アセットオーナーについては、ほぼ1年前の11月30日に公表されたフォローアップ意見書の3で、その位置づけとして「インベストメント・チェーンにおいて、最終受益者のより近くに位置し、直接、最終受益者の利益を確保する責務を負っている。こうした位置づけを踏まえ、アセットオーナーは、運用機関によるスチュワードシップ活動がより実効的なものとなるよう十分留意」する必要があるとされていて、今日、川北メンバーがさらに企業年金の企業経営における重要性をおっしゃって、まさに企業年金というのは大事な存在であるということだと思います。実際にインベストメント・チェーンの中で仕事をしている我々のような立場にいますと、アセットオーナーは運用機関の選別・選定する権利を持っていて、運用機関を左右する大きな力をお持ちだということです。そういうことであると、企業経営における影響もさることながら、インベストメント・チェーンを活性化していこうという話になったときには、やはりアセットオーナーがスチュワードシップ活動を適切に行う体制を整える意義が大きいし、避けて通れない議論かなと思っています。
その観点から、金融行政方針が指摘されています企業年金の運用担当者の量的・質的不足に対して母体企業が取り組むという考え方は、ない袖は振れないという部分もあるのかもしれませんし、先ほどなかなか費用をかけられないという話がありましたけれども、理にかなっているのかなと思っています。ただ、少し懸念があるのは、母体企業がどんどん関与を深めていくとなると、これは運用機関のときに議論になりました最終受益者との利益相反の問題が高まってくるおそれがあるのかなということです。さらに、もし運用担当者の量的・質的充実を促した場合に、企業における、例えばCEOの選解任の議論に通ずるような、力を蓄えた運用執行陣をどうやって監督していくのか、利益相反を防いでやっていくのかという視点がやはり欠かせなくなってくるのかなと思っています。
運用機関は、最終受益者に対してアセットオーナーを介し間接的に責務を負っているのですけれども、スチュワードシップ・コードの改訂においては、運用機関に対するガバナンスや利益相反の問題に踏み込んだわけですね。具体的には、原則2の利益相反に関する中で、指針2-2では、具体的な方針を策定し、公表すべきということで透明性を求めていますし、指針2-3では、利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備すべきということを今回改訂で入れています。
企業年金のスチュワードシップ活動拡大には、人の問題ももちろんありますしコストの問題もありますが、その解決だけでは不十分で、運用機関に求められているような透明性の問題とかガバナンスの独立性とか、要するに最終受益者の利益が阻害されないような体制というのをあわせて検討すべきだと思います。よく考えてみますと、アセットオーナーのほうが運用機関より最終受益者に近いわけですし、インベストメント・チェーンを左右するという影響の大きさを考えますと、運用機関以上に透明性とか独立したガバナンス体制というのは必要になるということなので、アセットオーナーのスチュワードシップ活動を促進していくことについてはもちろん賛成ですが、アセットオーナーについてガイドラインに入れるのであれば、利益相反の適切な管理もあわせて議論し、ガイドラインに含めていただきたいと思っています。
以上です。
【池尾座長】
では、佃メンバー、お願いします。
【佃メンバー】
はい、ありがとうございます。私のほうからは2点、事務局の資料2の2ページの(3)CEO・取締役会等のところで、これに関して2点コメントをさせていただきたいと思います。
まず1点目が独立社外取締役に関してなんですけれども、この資料の上から2番目のCEOの後継者の指名に当たって、独立社外取締役が過半数を占める云々といったところがあります。それから、その2つ下に、一方で、みずからの役割を十分に認識していない社外取締役も見受けられるといった指摘がございます。指名委員会等で独立社外取締役が過半数を占めるというのは、例えば5人のメンバーを考えたときには、独立社外取締役が3人いるわけです。先ほどのオムロンさんがそういった事例だと思います。一方で、日本企業の圧倒的多数においては、現状、独立社外取締役が2名だけであり、ボトルネックになっている部分があると思うんですね。みずからの役割を十分に認識していない社外取締役がいて、しかも社外取締役が2名しかいない状況で、一方で、指名委員会を充実させなさいといっても、これはなかなか難しいと思います。独立社外取締役が2名しかいないというのが根本の問題であります。ガバナンス・コードには、原則4-8で企業の規模や業種、あるいは環境等に応じて、自主的な判断によって少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要だと考える会社は、みずからそうしなさいとあります。そういう方針を開示すべきだとありますけれども、果たしてこれに着目してこれにのっとってやっている日本の企業はどれぐらいあるかといった話は、やっぱりもう一回議論すべき論点だと考えます。
そういった意味で、前回のこの会議でも高山メンバーからご指摘いただきましたけれども、例えば独立社外取締役を3分の1以上という議論は、原則4-8にも載っておりますが、では、どういった場合に3分の1以上が望ましいかということは、もうちょっと踏み込んで議論していく必要はあるんじゃないかなと考えます。これが1点目でございます。
それから2点目は、先ほど田中メンバーからもご指摘ございましたけれども、取締役会の議長を社長が兼務している点です。これは上田メンバーの意見書にありましたように、東証一部上場企業のうち、83.1%の企業では社長が取締役会の議長を兼務しているとあります。監督と執行がある意味、究極の利益相反になっていると思いますが、それをほんとうに放置していていいんですかといった問題があると思います。先ほどの田中メンバーの話の中でも、アメリカでは例えば10人中8人が社外取締役で、あとは、チェアマン・アンド・CEOと、CFOしか出てないという前提でのチェアマン・アンド・CEOという位置づけでございますから、先ほどの独立社外取締役が2名しかいないといった状況の中で83.1%の一部上場企業で社長が取締役会議長をやっている状況が、果たして形式面も含めてガバナンスが深化したと言えるんでしょうか。もちろん以前に比べれば十分深化したと思いますが、今後、実質を充実するという意味では、やはりここを考えていかなきゃいけないと考えます。
したがって、例えばですけれども、取締役のうち独立社外取締役が過半数ですといった企業に関しては、例えば社長が取締役会議長をやってもいいかもしれないけれども、それに満たない企業に関しては取締役会議長は社長じゃない人がやるべきではないですかというようなガイダンスは、少なくとも1度議論してもいいんじゃないかなと考えます。
以上2点です。
【池尾座長】
では、神作先生、お願いします。
【神作メンバー】
ありがとうございます。私も、アセットオーナーに関する論点についてご発言をさせていただきます。
アセットオーナー、とりわけ企業年金は、スチュワードシップ・コードに対するサインアップ自体それほど多くない、それどころかむしろ非常に少ないという点で、実質どころか形式もまだ伴ってない点に大きな問題があると存じます。本日、この会議におきましても、川北メンバーから、企業年金というのは企業経営にとっても重要な意味をもっているとのご指摘があり、また、小口メンバーからは、インベストメント・チェーンにおいてアセットオーナーはまさに要の根幹的な役割を占めているというご指摘がありました。私はさらにそれに加えて、企業年金は、規範性の程度という観点から見てもスチュワードシップ活動を行うべき相当に強い規範を課されるべき存在であるという点を申し上げます。特に、企業年金は、受益者の範囲が限定され、かつ、中長期的な観点から資産形成に励むべき存在であるという点を追加させていただきます。
本日、方向としてガイダンスを作成するというお話がございましたけれども、例えばスチュワードシップ・コードにサインアップしてない人たちに向けてガイダンスがどのように機能するのかというのは難しい点があると思います。そうだとすると、この問題を一体どのように考えていくのかという点がポイントになるのではないかと思います。5月29日に改訂されたスチュワードシップ・コードにおきましては、指針の7-2で機関投資家の経営陣はスチュワードシップ責任についての十分な認識と経験・能力を持つべきであるということをうたっており、指針の1-3及び1-4、5には、アセットオーナーが実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定・監督に当たって、みずからのスチュワードシップ活動を行うべきであると記載されております。
他方、アセットオーナーにはその規模などからスチュワードシップ活動を行うにあたり様々な限界があるということも認識した上で、アセットマネジャーすなわち資産運用者が自己評価を行うことを求めた上で、こういった自己評価なども利用しつつアセットオーナーはアセットマネジャーを評価・選抜することができるような改訂を行ったものと理解しております。今申し上げたところは、本日机上にお配りいただいているスチュワードシップ・コードの18ページ、7-4のところで、運用機関は定期的に本コードの各原則の実施状況を自己評価して、結果を公表すべきであるとの記載に対応します。運用機関自身による自己評価をアセットオーナーは利用して、みずからのスチュワードシップ活動の資料と申しますか、材料とすべきであるとしているのです。このように、アセットオーナー、特に企業年金基金が行うスチュワードシップ活動についての環境の整備というのも、徐々にではありますけれども、整えられようとしていると理解しております。
そのような状況を考えますと、以上に申し上げたようなスチュワードシップ活動の重要性を認識しておられる方が企業年金を運営していただくことが重要であり、そのような人材面での配慮がなされ、まずはスチュワードシップ・コードの基本的な考え方にご賛同いただいた上で、同コードにサインアップしていただき、そのあとはいろいろなやり方があるということはスチュワードシップ・コード自身が認めているところですので、コンプライ・オア・エクスプレインをフルに活用していただくことを柔軟に促進するような形のガイダンスをつくっていく方向で議論を進めていただければ大変ありがたいと存じます。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
じゃ、三瓶メンバー、お願いします。
【三瓶メンバー】
はい、ありがとうございます。このガイダンス策定に当たって、幾つか大きなあるべき方針というか、そういったことについてお話ししたいと思います。
挙げられた(1)から(6)の項目についてなんですが、これは実は非常に相互に関連しているので、別々の取り組み課題ではないと認識しています。あと、ガイダンスということであると、広く多くの上場企業に対して、または投資家に対して、共通課題として言えることに焦点を絞るべきかなと。ただ、一方で、いろんなところで、これは個別、これは個別というふうにしていくと、ガイダンスが骨抜きになるというか、なので、何は共通課題で、何が個別に、しかもどう深掘りをしていくのかというようなことをもう少し触れるといいのではないかと、まず全体としては思います。
この(1)から(6)の関連なんですけれども、例えば(1)資本効率性なんですが、表面的にROA、ROE、ROSが低いというのはよく言われていることで、低い、低いというふうに指摘をしても何の気づきも生まないわけですね。なぜ低いのかというところをちゃんとエビデンスベースで見ていかないとほぐれないと思います。例えば、資産回転率というのがありますね、売上高を資産で割ったもの。いろんな計算の仕方があります。流動資産で割るもの、または無形資産を使うもの、有形固定を使うもの、全部違った姿が見えます。例えば、欧米と比べて日本が高かったり低かったりというのがありますけれども、その理由は、一つ一つしかも関連付けて全部ほぐしていかないとわからないんですね。もう少しちゃんとしたエビデンスを持って、これが共通の課題であるということを示すのがスタートかなと思います。
(2)ですが、(2)は(1)と密接に関連するんです。例えば、資産効率が低い状態で手元にある現金をどんどん活用せよということになると、非常にお金の無駄遣いになります。だから、ただ無理やり後押しするということはむしろもってのほかということになると思います。ですから、その状況をよく見ながら、ただM&Aをすればいいわけではなく、どこの効率を上げるのかということを考えながら効率を上げていってからとなります。
その判断を監督していただくのが(3)の取締役会であり非常に重要な役目だと思います。取締役会の実効性評価というのはガバナンス・コードの4の11-3にあるんですけれども、先ほどのオムロンさんのお話からも、ここでは委員会というのは非常に重要な役割を果たしています。法定の委員会と任意の委員会といろいろありますけれども、数的には任意の委員会のほうが多いんですね。任意の委員会がどういう実効性を持ってやっているのかということをもう少し明らかにしていただいたほうがいいんだろうと思います。この任意の委員会については、いろいろ聞いていけば、非常に大事な役割を果たしているケースは多いです。しかも、任意といいながら、私が何回かお話しした中で、例えば社内の方と社外の方の構成比がかなり拮抗しているような場合とか、ほんとうの目的からするともう少し社外比率が高いほうがいいのではないかとかいう話をして、実際にその6カ月後には構成を変えていただいて、「ご指摘を契機に見直し、社内役員を必要最小限に変更しました」というような行動をされるんですね。任意の諮問委員会でもそう。だから、ここについてもっと対話の材料にするために、任意の委員会でも実効性についてもう少し表現していただくというようなこともガイダンスには盛り込んでもいいんじゃないかと思います。
(4)政策保有株式ですけれども、これは先ほどの(1)、(2)、(3)と全てつながっていると思います。というのは、(1)の資産効率の問題ということではもちろんそうですし、(2)の現預金ということがありますけど、これ、バランスシート上は現預金は上のほう、政策保有株式は下のほうと分かれていますけれども、長期資産のほうに入っていると思いますが、ただ、これも現金化できるものですから、現預金の問題と広く捉えれば一緒の問題ですね。それをモニターするという意味では(3)とつながると。
(5)のほうですが、(5)も実は(4)とつながります。というのは、政策保有株式というのは有報上では特定投資株式としてリストがあるわけです。ただ、そこにもう一つプラスのリストとしてみなし保有株式というのがあります。みなしというのは、年金資産等で信託に出して会計上オフバランスだが議決権行使権限が当該会社にあるものです。これは実際にある会社との対話の中で私もやりとりしたんですけれども、みなしのところについてどうやって会社は管理しているのかということです。社外監査役に質問したところ、みなし保有のところについては企業年金としては、そういえば全く関知してないというか、議論もしていないということでした。この件では、当該会社の社外監査役にそこについてもちゃんと見た上で議論してほしいし、それを企業年金さんがそれは自分のところの範疇だからとかいうことであるとすると、受託者責任上合理的理由で保有しているのか、会社として保有させられているのか、それを年金資産に押し付けられているのか等の疑問が沸くはずで、コーポレートガバナンス全体の話として捉えるべき問題なので、そこも一緒に見て欲しいとお願いしました。そういう意味では、先ほどの(1)、(2)、(3)と(4)が連動していますということと、今の(5)もつながっているということになります。
(6)は投資家との対話で、ここはばらつきという言葉が使われているんですけれども、質のばらつきはいけないと思うんですが、投資家のスタンスにもしばらつきがあるとすれば、これは差別化かもしれないし、多様性かもしれないので、そこはあってもよかろうと思います。ただ、質については、要するに、ばらつきというか、低いということであろうと思います。これは残念ながら認めざるを得ないところだと思うんですが、例えばどうしたらもう少し質が上がるかというと、実際に企業との対話をする現場にいる、フロントにいる人間のスキルをもっと上げる必要があるんだと思います。日本と海外を比べたときに、例えば証券アナリストという資格があります。日本では、例えば資格試験科目に通常の分析スキル以外にいわゆるエシックスという職業倫理・行為基準というのがあります。これはアメリカのCFAも同じで、アメリカの証券アナリストですね、ここでもエシカル・アンド・プロフェッショナル・スタンダードというのがあります。ただ、英国のIMCではこれに加えてレギュレーション・アンド・リーガル・コンセプトという関連する法令とコードについて、しかもリーガル・コンセプトというところを学ばなきゃいけないようになっています。これはとても大事なことだと思うんですね。実際にフロントで活躍されている方なら、例えば金商法の関連するところは頭に入っているかもしれませんが、会社法、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの、必要だというところ、関連、背景や趣旨が頭に入っていて、それを踏まえて実際の対話にそれをうまく活用できないと、企業の方に気づきを与えるなんていうのは、とてもじゃないけど、できないだろうと思います。なので、そういったことも今後の検討の課題かと思います。よろしくお願いします。
【池尾座長】
ありがとうございました。
それでは、大場メンバー、お願いします。
【大場メンバー】
私からは、ガイダンスをどのようにつくるか、どのように着目すべきかというのが今日の議論の論点だと示されておりますので、これについての意見がまず一つ。それからもう一つは、安藤さんのプレゼンテーションの中に確認をしたい事項がありまして、それがガイダンスにも多少関係するということでご質問をさせていただきます。
まず第1のガイダンスの論点にどのように着目すべきかという点です。三瓶さんからも話がありましたけど、この5つの論点というのは何が共通項としてあるかというと、やはり資本効率ではないかと思います。したがって、対話の論点として資本効率はマストにしないといけないと、こういうことではないかと思います。
先ほど田中さんからもご意見ございましたけど、資本コストはどのように計算するかとか、フェアバリューはどう計算するかというようなことがあるので、そこは大変難しいのですが、企業自身がフェアバリューをどのように考えているかということは必ず対話のテーマにすることが望まれます。それから、もう一つ大事なのは、中長期にわたってみずからの企業価値をどのように把握しているかということも大切だと思います。企業価値向上のため一生懸命頑張ったと言っておられるわけですが、それが何で響いていないのかということは確認しないといけない。私は、一部を除いて上場企業の多くは企業価値を棄損してきたのではないかと思うのですが、それについて企業はどのように認識をされているかということについてやはり対話の対象にすべきだと思います。
それから、安藤さんへの質問というのは2つありまして、これも多少ガイダンスに関係するかなということでご質問申し上げるのですが、大変なことにチャレンジをされて、すごく成果を上げておられると私は認識しているのですが、グローバルなビジョナリーカンパニーになるために何が足りないのかという問題意識で考えると、そう簡単ではないと思うんですね。現時点においてここまでやってきて、今まさにこの時点で優先課題だと認識されていることは何だとご理解をされているかが1つ。
それからもう一つは、この議論のテーマでもあるのですが、形式から実質へという観点で、まさに安藤さんのオムロン株式会社は形よりも魂が大事だと説明をされたわけですが、小さな会社だと、すごく限られた人なので経営者の思いは伝わりやすいと思うのですが、大企業に魂を入れるためにどのような工夫をされているかという点について、ご質問をさせていただきます。
以上です。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
1番目のご質問ですが、コーポレートガバナンス・コードを遵守するという観点から企業経営のあるべき姿をイメージした時、甘いと思われるかもしれませんが、オムロンの経営力というのは及第点にあると認識しています。何が課題かと言えば、ガバナンスの面ではダイバーシティになります。また、稼ぐ力の面では、人財・研究開発・IT投資を一層積極的に行って、成長戦略自体を確かなものにしていくことが重要です。そして、その手段としてのM&Aやアライアンスを活用していきたいと考えています。さらに、事業成長に伴って意味のある形でROEを一層上げていく。これはオムロンの公式見解ではなく、全くの私見ですのでご容赦いただければ幸いです。
それから2点目ですが、経営理念・企業理念を持っていない企業はありません。但し、企業理念が会議室に飾ってあるだけでは意味がありませんので、企業理念をどのように実践するのか、逆に言うと、実践するための企業理念でなければいけないと弊社は認識しています。従って、企業理念を策定するプロセスはもちろんのこと、企業理念を作成した後で、どれだけグローバルに、一人一人の社員にその重要性、必要性を腑に落ちて理解させるか、すなわち啓発活動や共鳴活動が極めて重要です。そういう意味で、オムロンは相当な資源を投入していますので、オムロンのグローバル社員は企業理念を十分理解したうえで、誠実な経営を実践して、同時に持続的に稼ぐ力を発揮していかなければならないと考えているはずです。ですから、企業理念にしても、長期(10年間)のビジョンにしても必ずボトムアップとトップダウンのアプローチを組み合わせて何回も何回も議論を繰り返しながら作り上げてきますので、でき上がったときには経営陣のみならず社員一人一人にとって納得感のあるものになっています。そして、それらを実践する、やりきる力の源泉になっています。
今日のヒアリングの直接のテーマではないので省きましたが、まさに弊社はサステナビリティー・マネジメントについて今年度から一歩を踏み出したわけですので、資料の55ページにあるような取り組みが、企業が果たすべきコーポレートガバナンス責任の進化系であると認識しています。もちろん弊社のサステナビリティーの目標についても、2020年度に何をどこまでやるかというマテリアリティを特定して、KPIを極力数値化しました。43ページが公表している中期経営目標の数値目標ですが、売上高、売上総利益率、営業利益、ROIC、ROE、EPSの6つをKPIとして掲げて、1年ごとに進捗状況をフォロー、アップデートしています。やはり売り上げを伸ばすということも重要であり、資本効率を意識した経営を実践することも重要です。PLとBSを両方にらんでサステナブルに企業価値を高めていく際に、お題目を掲げるだけではなく、具体的に目標設定をして公表し、ステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通じてPDCAを回し続けることが必要であると考えます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
じゃあ、武井メンバー、お願いします。
【武井メンバー】
ありがとうございます。
まず、ガイダンスを出すというのはとてもいい方向性の取り組みというか、いい話だと思います。特にコンプライであれ、エクスプレインであれ、来年6月末に改めて各企業さんがガバナンス報告書を出すタイミングで、これまでのコンプライとかのリピートではなく、改めてコンプライの趣旨を深く考えてコードに対応しましょうという考え方の整理になりますので、とてもいいことだと思います。今日のペーパーで列挙されておりますこちらの6項目だけでも大変重要なので、あんまりいろいろ拡散せずに、まずこの6項目についていろいろやるだけでも、大半のガバナンスに関する課題はある程度できるかと思います。まずこの6点についてある程度集中してやるだけでも結構おなかいっぱいという感じがしますというのが1点目です。
あと、その絡みで、今日のペーパーの1番、2番のところで言うと、資本政策の話が出てきていますけれども、もともとガバナンス・コードで、原則1-3で資本政策をちゃんと基本的考え方を書いてくれって書かれてあり、原則5-2で収益性と資本効率に関する目標をちゃんと提示してくれと書かれてあるわけです。これらの原則への対応の実質が問われているのがこの1番、2番の論点だと思いますので、これらに関する考え方のガイダンスを対外的に示すことは大変重要なのだと思います。また、例えばこの2番の各種投資がきちんとなされているのかということについても、こういった投資を促すようなオーガニック・グロースを支えるKPIが社内できちんと選定されているのかどうかが重要だと思います。今日のオムロンさんのお話の中で幾つか大変重要な点があったと思うんですけれども、その中で、オムロンさんでは自分で考える過程で、持続的成長をするためのオーガニックな成長のために自分はROICを選んだのだと。別にちまたの人がROICが良いと言っているというよりも、自分の考え方としてオーガニックな成長を支えるためにROICを選んだのだという考え方を示されています。こうした点は大変参考になると思うので、こういった投資を促す収益性と資本効率の目標になっているのかどうかということ、原則1-3と原則5-2のガイダンスを出していただくと大変参考になるかなと思います。
第二に、オムロンさんはとても先端的で、マクロ的にはオムロンさんのレベルというか、オムロンさんまで至っていない多くの上場企業さんをどうするかというところに目線を向けなきゃいけないということだと思います。オムロンさんはちょっと進み過ぎていてどうかねというふうに思う企業さんもいるのかもしれませんが、案外そうでもないと私は思っていまして、今日、オムロンさん自身もそんなに難しい話ではないとおっしゃっていましたが、オムロンさんがこういうことをやられたのは、自分で自律的に持続的に成長するにはどうしたらいいかということを自分で真摯に考えたら、自然にこうなっていったというお話だったのだと思います。もちろん一朝一夕のお話でなく20年という長い時間をかけられているわけですけれども、時間をかけてこういう先端的・先進的になられたというのは各社さんにとっても大変重要なメッセージだと思います。お話の中で、グローバルにいろいろ市場をとりにいくという点や、グローバルなステークホルダーがいらっしゃるという点、さらには、創業期の第1世代の方から次の第2世代に移っていくときにどうするのかといった課題は、少なからざる上場会社さんに、企業規模にかかわらず、また業種にかかわらず共通するイシューなのだと思います。そういう企業さんがみずから考えたらこういうふうになったということで、オムロンさんの話がオムロンさんだからできたという話ではなく、結構多くの点で多くの上場会社さんに参考になる、ガバナンスとしての持続的成長を考えるのに参考になる話だと思うので、そういった点のエッセンスをガイダンスに示していただけるとよいかなと思いました。
ステークホルダーとの対話という論点にしても、まずは企業側として企業理念をしっかり示すべきという話は、さきほど内田さんとか大場さんがおっしゃったとおりだと思いますし、またその点も「三方よし」とか、多くの日本企業さんにとってはもう既にシェアできている価値観が入っていますから、特に北風的な施策でなくても、ガイダンスという形で書けば結構企業さんとしてはなるほどなと思われるのだと思います。多くの企業さんが自分の話なんだというふうに思ってもらうようなガイダンスが重要で、その観点からも今日オムロンさんから出てきたお話は大変参考になるのだと思います。
次に3点目です。別に論点を拡散させる意図はないのですが、今日のペーパーの3点目に書かれています社外独立取締役の関係ですが、求められる多様性を考えると確かに社外独立の数はある程度一定人数が必要だと思いますが、他方で根本的に、独立社外の適切な人材が世の中にいるのかという問題が、今までも指摘されていて、現在もケアしないといけない論点なのだと思います。今回の成果物がガイダンスなので、機関投資家の方向けにも一定のメッセージが出されると思いますのでその点でも良いと思うのですが、現状起きている現象が、独立性基準を各機関投資家が相互調整なくバラバラにいっぱい持たれているので、独立性を充たせる人材のフェアウェーがとても狭くなっています。こうした状況でが企業さん側としても適切な独立の方をどうやって探すのかという課題に直面しています。どうするかという論点は別途あって、独立性基準自体の話は論点が拡散するのでこれ以上話すのはやめたほうがいいと思いますが、やっぱり機関投資家の方にも社外役員の選定に当たって、何か一刀両断的に「この人は当社の形式的独立性基準から即だめだ」と切ってしまうのではなく、独立性と多様性のバランスを踏まえた基準を持って、適格か否かを判断していただけないものかと。独立性と多様性のバランス感の中で、その方が適格な社外取締役なのかの判断をしてほしいと、そういったメッセージぐらいは送っていただくと良いかなと思います。適切な多様性を備えた独立取締役を選びやすくなるよう、そういったメッセージもできれば、論点が拡散しない範囲で出していただければと思います。
以上です。
【池尾座長】
そろそろ予定している時間に迫ってきたんですが、神田先生、よろしいですか。
それでは、まだまだ意見はおありかと思いますが、いつもどおり、本日の討論はここまでということにさせていただきたいと思います。
本日いただきましたご意見をまた事務局においてさらに整理をしていただいて、それで次回以降、引き続きメンバーの皆様に追加の議論をしていただくということでお願いします。
最後に、事務局のほうからご連絡等ございましたらお願いします。
【田原企業開示課長】
次回のフォローアップ会議でございますけれども、よりガイダンスの内容を意識したご議論をいただくということになろうかと思いますが、日程についてはまた調整の上、ご連絡させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして本日の会議は終了とさせていただきます。散会いたします。どうもありがとうございました。
それでは、定刻を過ぎましたので、ちょっと遅れられているメンバーの方おられますが、ただいまよりスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議、第12回の会合を開催いたしたいと思います。
皆様には、ご多用中のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、まず、金融庁から、先週金曜日、11月10日に公表されました金融行政方針に関して説明していただくとともに、コーポレートガバナンス改革の深化に向けた論点ということで、前回の会議において指摘された論点等について取りまとめた形で改めてご説明をいただきます。その後、これらの論点に関する実際の企業の取り組みとして、オムロン株式会社取締役、安藤聡様に来ていただいておりまして、同社における取り組みについて後でお話を伺いたいと思います。
それでは、まず、金融庁よりご説明をお願いします。
【田原企業開示課長】
おはようございます。本日もよろしくお願いいたします。
それでは、まず、資料1の金融行政方針の内容について、ご説明させていただければと存じます。
先ほど池尾座長からもお話がありましたように、本年度の金融行政方針を、先週金曜日の11月10日に公表させていただきました。コーポレートガバナンス改革につきましては、これまでフォローアップ会議においていただきましたご指摘も踏まえ、経営者の資本コストに対する意識と経営環境の変化に応じた果断な経営判断の必要性、現預金が内部留保とともに増加している企業も多い中、これを各種の投資に有効に活用していく取組みの必要性、CEOの育成・選解任と社外取締役の実効的な機能、政策保有株式を「保有させている側」の問題、企業と投資家との間の実効的な対話、アセットオーナー、特に企業年金によるスチュワードシップ・コードの受入れが少ない現状を踏まえて、どういった対応が必要か、という6つの問題意識が示されております。
こういった問題意識について、これまでフォローアップ会議では、意見書などの形で発信をしてきたわけですけれども、各コードをより実効的なものにしていく観点から、ガイダンスという形で発信できないかということを考えております。今般、フォローアップ会議において、ガイダンスの策定をお願いできないかということで、そうした内容を金融行政方針として発表させていただいたところでございます。
最後の段落でございますけれども、アセットオーナーに関する問題については、今後、取組みを促進していく上で重要だということで、特に記載させていただいているところでございます。
したがいまして、今後は、フォローアップ会議のメンバーの皆様におかれましては、こうしたガイダンスの策定を念頭において、議論をお願いできればと存じております。
続いて、前回のご議論を整理させていただいた資料2につきまして、ご説明させていただければと存じます。こちらは、先ほどの6つの課題について、前回いただきましたご指摘を、整理させていただいたものでございます。
1点目が、経営環境の変化に対応した経営判断についてでございます。最初の点にございますように、日本企業におきましては、資本の効率性に対する意識の低さや収益力が課題であるというご指摘を頂戴しております。この点につきましては、グローバルな投資家が大きな関心を持っているということ、また、経営効率の指標につきましては、ROEのみで測ることについては問題があるけれども、ROAやROSといった指標が低水準であることは課題ではないか、さらには、インセンティブ付けも重要である、といったご指摘をいただいたところでございます。
2点目の投資や現預金等の保有についてでございますけれども、日本企業が手元の現預金を活用して、設備・人材・研究開発投資等を加速化することによって、グローバル市場での競争力を付けていくべきだということが、コーポレートガバナンス・コードの策定時から問題意識としてあったのではないかというご指摘を頂戴いたしました。また、その際、そうした議論に当たっては、個別企業の事情を踏まえた対話が重要であるとのご指摘も頂戴いたしております。
3点目のCEOと取締役会等についてでございますが、この点につきましては昨年にもご議論をいただき、意見書を公表いただいたところでございますけれども、その内容を敷衍するような形で、こちらに書いてありますようなご指摘を頂戴いたしました。取締役会、特に社外取締役は、後継経営者の指名及び候補者の選抜・育成について積極的、主体的に関与すべきであるということ、また、CEOの後継者の指名に当たっては、指名委員会の活用についてもしっかり考えていく必要があるのではないかということ、社外取締役としての適格性や取締役会の多様性について十分に議論することが重要あり、また、社外取締役には、経営陣を実効的に監督する能力も重要である、といったご指摘を頂戴しております。さらには、監査役や監査委員についても、専門性を持った人材が就任すべきではないかというご指摘も頂戴したところでございます。
4点目の政策保有株式についてでございますが、こちらにつきましても一昨年にご議論をいただきました。最初の点にございますように、政策保有株式については様々なデメリットがあるため、縮減を進めるべきであるというご指摘がその際にもございましたが、今回も同様のご指摘を頂戴いたしました。また、政策保有株式を「保有させている」企業の問題をよく考えていく必要があるのではないかということご指摘もございました。さらには、政策保有株式は、いろいろな理由で保有している企業があるわけですけれども、保有の合理性についての説明・開示について、しっかり考えていく必要があるのではないかというご指摘も頂戴しているところでございます。
5点目のアセットオーナーの点につきましては、インベストメント・チェーンをしっかり機能させていく上で、アセットオーナーの役割が非常に重要だということは、先般のスチュワードシップ・コード改訂の際にも、大いにご議論をいただいたところでございます。その中にあって、企業年金については、いろいろな事情もあってなかなかスチュワードシップ・コードを受け入れていただけてないという状況にあり、コードの受入れを表明した事業法人の企業年金は、現時点でわずか1つとなっております。企業年金全体で見ても、コードの受入れを表明しているのは7つだけであり、基金型の確定給付企業年金が約700ある中で、かなり少ないという状況にございます。スチュワードシップ活動を行っていくことが、アセットオーナーである企業年金として重要であるということは、前回もご指摘をいただきましたが、様々な課題がある中で、どういったところから取組みを進めるべきであるかということについても、さらに議論を深めていただければと存じます。
6点目のその他の点についてでございますけれども、投資家との対話の役割が重要であるとのご指摘をいただいておりますので、どういったことを対話の中で話していくのかという道しるべになるようなガイダンスの策定を考えていければと存じます。また、そういったことは、最後の点にございますけれども、国民の安定的な資産形成を図る上でも重要であり、私どもの日々の生活にも直結しているというご指摘も頂戴しておりますので、そういったことも念頭に置いていただいて、ご議論を進めていただければと存じます。
以上、簡単ではございますが、事務局からご説明させていただきました。ありがとうございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、今、事務局から説明があった論点に関しまして、オムロン株式会社の安藤様より、同社におけるROICを活用した経営、CEOの選任等にかかわるガバナンス体制の充実や政策保有株式の縮減等にかかわる取り組みにつきましてご説明をいただきます。安藤様からは資料3をご提出いただいております。
それでは、よろしくお願いいたします。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
オムロン取締役の安藤でございます。今日は貴重な機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私からは、資料に沿ってオムロンにおける統合的経営の実践についてご説明をさせていただきます。あえて表題を「統合的経営の実践」とした意味は、オムロンといたしましては、事業の持続的な成長と資本効率を両立させた経営を実践するために攻めと守りのガバナンスを担保しています。そのうえで情報開示を積極的に行って、ステークホルダーと対話・エンゲージメントを通じて企業価値を一層高めていくという思いを込めました。
田原課長のほうからは15分というご指示をいただきましたので、意識して資料の中に私がお伝えしたいキーメッセージを文章でまとめてあります。
7ページをご覧ください。まず、弊社は企業のコーポレートガバナンス責任は何かを考える際、ステークホルダーが、どういう期待をしているかということを前提に考えております。まず、全てのステークホルダーが企業に求めることは誠実な経営の実践です。そのうえで、特に株主・投資家が期待することは、持続的な稼ぐ力の発揮です。換言しますと、インティグリティとサステーナブル・グロースを両立することであるとの認識です。
しかしながら、私がほかの企業経営者と話をしてみますと、経営情報の開示やIR活動を積極的に行う意義が十分には理解されていないのではないかと感じることがあります。8ページに私なりに5項目としてまとめましたが、コーポレートガバナンス責任を果たすための必要条件である経営情報の開示と、それを通じたステークホルダーの対話を行うための人的・財務的資源を投資として認識するべきであることを強調しております。
次に、オムロンの経営の特徴について10ページから3つのレイヤーで文章でまとめました。
(1)経営の基本スタンスです。
次に、(2)オムロンの本源的な企業価値を支える基盤です。
その上で、11ページが、(3)長期的な企業価値創造のためのドライバーを15項目列挙しました。これらの項目は機関投資家が企業と対話をする際の切り口としても参考になるはずです。田原課長からガイダンスの策定というご提案がありましたが、このような要素が、企業が持続的な企業価値向上のためにコーポレートガバンナンスの質を上げるヒントになるかもしれません。
続きまして、コーポレートガバナンスの特徴についてご説明します。弊社は、コードに対応した「オムロン・コーポレートガバナンス・ポリシー」を公表しております。16ページに10項目の特徴を挙げました。例えば4番目にあるとおり「買収防衛策を導入しない」と宣言をしております。7番目には、取締役の人数構成について数値基準を明示しています。
17ページが弊社のガバナンスの機関設計です。監査役会設置会社を選択していますが、任意で3つの諮問委員会と1つの委員会を設置しています。これらの委員会には極めて重い職責を、特に社外取締役に担っていただいています。このうち人事諮問委員会、報酬諮問委員会は、多くの監査役会設置会社が設置していますので、特に、社長指名諮問委員会とコーポレートガバナンス委員会の機能について触れます。
資料20ページをお開きください。社長指名諮問委員会の特徴は、社外取締役3名、社内取締役2名の計5名で構成されていますが、委員長は社外取締役に務めていただいています。構成比の点でも、社外取締役である委員長がキャスティングボードを握っているという点でも透明性の高い諮問がなされています。社長指名諮問委員会は、表現だけをみますと、勇退するCEOの後任を決める機関であるばかりか、続投の是非を決める1年ごとのCEOのパフォーマンス評価を行います。結果として、CEOが長期間務める場合もあるだろうし、極論すれは1年でかわる可能性もあるという意味です。もちろんCEO本人の意思には関係ありません。後任選びは本当に難しいわけですから、CEOの後継候補者は定期的に取締役会に呼んで説明する機会を与え、質疑応答を通じて社外取締役に人物および能力評価をしていただきます。
また22ページのコーポレート・ガバナンス委員会について説明します。先ほど「オムロン コーポレート・ガバンナンス ポリシー」の話をした際に、買収防衛策を導入しないと宣言しています。万が一、他企業から買収提案がなされたときに、社外役員だけで構成される同委員会が第三者的な立場から、買収提案を受けるか、あるいは現経営陣に引続き経営を委ねるのか、を判断して取締役会に諮問します。たとえ任意の機関であっても、このようなガバナンスを効かせる体制を整備することによって、実質的に強力な権限を持った諮問委員会、委員会にしています
先ほど、取締役ほか経営陣の報酬インセンティブについて触れました。24ページに取締役報酬の考え方を記載しています。ました。25ページには、短期の固定報酬と短期の業績連動報酬、ならびに中長期の業績連動報酬との関係を具体的にお示ししています。お手元には弊社の2017年版統合レポートをお配りしておりますが、この中でも同様の内容を開示しています。3年前に中長期の業績連動報酬を導入しましたが、今年度から株式報酬が認められましたので、中長期の業績連動報酬は株式報酬としています。
次のテーマは、ROIC経営です。エッセンスは、31、32ページです。ROEやROICが重要な経営指標であることは論をまちませんが、やはり一般社員から見ると自分の日々の仕事とは縁遠い指標です。したがいまして、ROIC経営の重要性や有効性を社員一人一人に認識させ、また社員の一人一人のMBO(個人の業績評価)に組み入れるために、31ページのようにROICの構成要素を分解し、重要なKPIまでを明示して、これらのKPIを社員全員で達成すればROICが向上するという理念に基づいています。ですから、当社の場合には、ROICは経営者だけが関心を持つ指標だけではなく、社員一人一人が活用するための指標です。
そして、同様に、ROICの考え方をハードルレートとして使って事業のポートフォリオマネジメントにも活用しています。32ページをご覧ください。弊社がROICを重視する理由は、まさに事業をフェアに評価できる指標だからです。企業は、一般論として売上高が大きいとか利益額が大きい事業セグメントが注目されやすいですが、資本コストを上回るROICを持続的に上げていくことができれば、売上高や営業利益の多寡にかかわらずグループ全体の企業価値を引き上げていることが実感できるので、経営陣から社員一人一人までが共有するにはROICが最適であると考えています。但し、弊社の場合には、現在ネットキャッシュの状態であり、ROICとROEがほぼイコールになっています。また、私見ですが、経営者に対する評価はROEですべきであるとも考えます。
そして、近年、投資の世界でESG投資というのが注目を集めていますので、企業はサステナビリティマネジメント、あるいはESG経営、ESGインテグレーションを進化するフェーズに入っていると認識しています。これにつきましては47ページ以降での弊社の考え方について記載しておりますが、時間の制約もありますので55ページのまとめをご覧ください。スライドの下段には統合レポートのどこに開示されているかも記載しましたので、是非ご一読いただきますようお願いいたします。
最後に、資料はご用意しておりませんが、弊社の政策保有株式の縮減についてお伝えします。「オムロン・コーポレートガバナンス・ポリシー」においてリターンの低い資産を縮減していくという方針を明確にしています。上場株式が、常にリターンが低いかどうかはそのときの状況によって変わりますし、弊社は、戦略的な業務提携目的などがありますので、必ずしも上場株式を保有することが悪いこととは考えておりません。但し、コーポレートガバナンス・コード導入以降は、着実に上場株式を縮減してきました。企業同士が持ち合ってきた株式の溶け合いもしましたし、退職給付年金信託に譲渡して本体のバランスシートからオフしたものもあります。そして、このような縮減の取り組みは多くの企業で進んでいますので、資本効率を重視した経営を意識すればするほど、一般的にリターンが低く、株価ボラティリティーの高い上場株式は減っていくことになります。
最後に1つだけ私見を述べさせていただきます。今年度から機関投資家による議決権行使結果の個別開示がスタートいたしました。私は、2つのコードの質を高めていくために、このことが投資家、企業にどのような影響を及ぼすのかに注目しています。現状の機関投資家の議決権行使基準は、企業から見るとややもするとボックスチェッキング的で、企業のガバナンスの全体を見ていない感じがしているからです。ある機関投資家が、IRに積極的でない企業経営者(代表取締役、代表執行役)に反対票を投じるという議決権行使の基準を公表しました。私は、このような総合判断を一層重視することが、本来のスチュワードシップ責任の果たし方であると考えます。
駆け足になりましたが、これで私のご説明を終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。十分な時間が確保できず申しわけなく思っておりますが、それでは、これから討議の時間に移らせていただきたいと思いますが、本日は、先ほど事務局からの説明もありましたように、ガイダンスの策定というのを強く期待されているというところがございますので、資料1あるいは資料2に提示されている6つぐらいの大きな論点を中心にできればご議論を行っていただきたいと考えております。
それで、一般的な討論に先立ちまして、まずは、今ご説明いただきました安藤様からのお話に関連して、直接関連する形のご質問、ご意見等を先にお伺いしたいと思います。
それで、本日、ご欠席のメンバーから2つ意見書が出されておりますが、冨山メンバーの意見書がただいまのオムロン株式会社の取り組みに関連する面がありますので、それについて事務局からちょっとご紹介をお願いします。
【田原企業開示課長】
お手元に冨山メンバーの意見書をお配りさせていただいております。冨山メンバーからは、今回ご紹介いただいたオムロンの事例が、CEOの選任のあり方という観点から非常に示唆に富むケースであるというご指摘を頂戴しております。冨山メンバーのお言葉を借りますと、CEOの選任方法の改革こそが、ガバナンス改革の「へそ」であって、これに相当の時間とエネルギーを使って取り組むことが重要であるということについては、昨年にもご議論をいただいたところですけれども、オムロンでは、実際にそうした取組みをされており、こうした取組みに社外取締役として関与された冨山メンバーから、是非オムロンを一つのモデルケースとして、多くの上場企業に共有してほしいというご意見を頂戴しているところでございます。
【池尾座長】
それでは、ただいまの安藤様からのプレゼンテーションに直接関連する形でご質問、ご意見ございましたら、お願いします。じゃあ、佃メンバー、お願いします。
【佃メンバー】
はい、ありがとうございます。安藤さん、どうもすばらしいプレゼンテーションありがとうございました。
すばらしいガバナンスを構築されたと感銘を受けましたけれども、そもそもこういうふうなガバナンスを志向したきっかけは何だったのか、例えば20ページの社長指名諮問委員会で社長のパフォーマンスを見るというのは、これは言うのは簡単だと思いますけれども、一方でこういう仕組みを入れるというのは相当難しいと思いますが、いかにしてこのようなことができるようになったのかの背景を、若干ご説明していただければありがたいと思います。
【池尾座長】
よろしくお願いします。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
14ページの資料はコーポレートガバナンスの歴史ということで年表にしてありますが、弊社が20年以上にわたりコーポレートガバナンス改革に取り組んできたエビデンスです。これは、必ずしも法律で要求されるからとか、あるいはソフトローで規定されたからということがきっかけではなく、自らがグローバルなビジョナリーカンパニーになるためには何が足りないのかを見極めて補ってきた訳です。弊社は、コーポレートガバナンスを論じる際には自律(オートノミー)が最も重要であると認識しています。ただし、自律だけでは社内論理を優先した内向きな経営になってしまう懸念がありますので、他律とのバランスが極めて必要であるという理念に従って年々着実に取り組みを深化させてきました。
そして、弊社は創業84年になりましたが、もともとはファミリー経営でした。現在は「オムロン」という社名を使っておりますが、1990年までは立石電機というファミリーネームを冠していました。一方で、グローバルに事業を拡大していく、また社員もグローバルに増えていく状況の中で、創業者が3つの事柄でグループ全体の求心力を高めることを志向しました。1つ目は、企業理念を実践する「企業理念経営」です。2つ目は「透明性の高いコーポレートガバンナンス」です。そして、3つ目は全てのステークホルダーと真摯に対話して、自分たちは何が強みなのか、何が足りないのかということをきちんと考えていく「ステークホルダー・エンゲージメント」重視の姿勢です。その3つの実効性を担保するために社外の有識者の方々、特に経営者経験豊富な社外役員の方々の示唆を重視します。
ですから、他の企業さんが同様のシステムを入れることはそんなに難しくはありませんが、魂がこもっているかどうかというのは非常に大きなポイントであるように感じています。
【池尾座長】
それでは、三瓶メンバー、お願いします。
【三瓶メンバー】
安藤様、ご説明ありがとうございました。私もふだんからオムロンさんからはオムロンさん自身の自律から来るベストプラクティスというのを学ばせていただいていますので、いろいろわかっているつもりではいるんですが、改めて3つ簡単に伺いたいと思います。
まず、取締役会の議長の決め方。そして、各委員会の委員長の決め方。そして、もしCEOが何かパフォーマンス上の問題があるということではなく、ある時期が来て退任された後は、どんなロールを担うのか。通常、会長になるということが多いわけですけれども、その辺についてお聞かせいただけますでしょうか。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
まず1点目の議長の選任については、社内取締役同士の互選ということになります。一方で、最も経営の実態を理解している取締役が良いとの考え方に基づいており、社外取締役に委嘱することはしていません。
そして、3諮問委員会および1委員会の委員長も互選によります。特に、社長指名委員会は、原則として、社外の取締役の中で最もオムロンの経営を理解していただいている方として在任期間が長い方に就任していただいています。
それから、CEOを退任した後の処遇については一例しかありませんので、一般論で申し上げることは難しいですが、7年前に交代した前CEOは既に弊社にはおりません。弊社会長として、一定のトランジションピリオドを置いた上で、同氏は弊社とは資本関係のない他社の経営に参画しました。
【三瓶メンバー】
ありがとうございます。
【池尾座長】
川村メンバー、お願いします。
【川村メンバー】
20ページの社長指名の諮問委員会に関する質問なんですが、毎年行って、その社長の1年間の評価をするという場合に、例えばいろいろもめて、多数決評議等々のことになったことがありますかどうですかというのが1つの質問です。そうなった場合に、ほんとうに多数決でやるのか、それとも結論が出るまでいろいろ中で議論をするのかというのが1つ目です。
それから2つ目は、大変によくできた統合報告書をちょっと拝見していると、海外の仕事のほうが多いようですけど、従業員も海外が多いんですけど、その海外の意見はこういうメンバーだと取り入れにくいようにも思うんですけど、海外の従業員なり海外の人たちの意見をどういうふうにこれらの委員会の中に取り入れているかって、これが2つ目です。
それから最後ですけど、3つ目は、監査役設置方式の会社でこういう形で見事にやられているわけで、これはこれで大変結構だと思うんですけど、個人的には委員会設置会社にしたほうが組織がすっきりするし、意思決定も迅速・明快になるんじゃないかという感じはあるんですが、それに対してお考えがあれば。
その3つをお願いしたいと思うんです。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
実は、現行の社長指名諮問委員会を経て選任された社長というのは、現CEOが初代です。7年間の経験がありますが、今のところは実態として全員一致で続投が認められています。あえて仮定のもとでお答えしますと、意見がスプリットした場合には、当然、多数決という手段もあるでしょうし、最終的には委員長である社外取締役のご判断が重要になると考えます。
2番目のオムロンの課題は、私見ですが、まさにご指摘いただいたダイバーシティにあると認識しています。現在、取締役は社外も含めて全員日本人ですが、うち女性は一人です。そして、20数名の執行役員の中でも2名しか外国籍の役員はおりません。鋭意努力をしておりますが、日立製作所様のレベルまで行くのは時間がかかりそうです。ただし、課題として十分に認識していますので、一歩一歩着実にダイバーシティを進化したいと考えております。
3番目の監査役会設置会社である必要はあるのかというご指摘ですが、実は、たまに海外の投資家からも同様の質問を受けます。弊社は「オムロン コーポレート・ガバンナンス ポリシー」で当面は監査役会設置会社形態を維持すると宣言しています。指名委員会等設置会社に移行するか、あるいは監査役会設置会社にとどまるかについては、上述の「ポリシー」を決める際に喧々諤々議論しました。結論としては、グローバル117カ国でビジネスをやっているけれども連結売上高は八千数百億の規模ということと、加えて、弊社の事業セグメントの特性には比較的ばらつきが少ないという点がポイントです。センシング&コントロール+Thinkというコア技術をもとにBtoB、BtoCのアプリケーションで勝負する企業ですので、現状の事業ポートフォリオでは指名委員会等設置会社に移行する意味はなく、むしろ監査役会設置会社に任意の諮問委員会、委員会を設置するハイブリッド型機関設計の方が弊社のガバナンスにとっては有効であるというのが結論でした。ただし、多くの監査役会設置会社の取締役会がマネジメントボードになりがちなところを、弊社はCEOに権限を委譲してモニタリングを中心に置き、マネジメントボード的性格を薄めていきたいと考えています。但し、現状では、企業価値に大きな影響を与えるようなM&A案件などの投資や子会社の設立などは取締役会で決議しています。弊社は、指名委員会等設置会社よりも監査役会設置会社でハイブリッドな機関設計をしたほうが、実質的なガバナンスが担保できるという判断をしております。
【池尾座長】
はい、どうも。
では、田中メンバー、お願いします。
【田中メンバー】
名札を立てたときに考えた質問、もう川村さんにされてしまったのですけど、1つ目は、やっぱり、ここまでされるんだったら、どうして指名委員会等設置会社にしないのかということを一番思ったんですね。今のお答えを前提に、もう少し踏み込んでこの点についてお伺いしたいんですけれども、要するに、指名委員会等設置会社にする場合はモニタリングボードに変えるわけですね、マネジメントボードから。そうすると、今、監査役設置会社ということだと、業務執行に関して会社法上は、多額の借財であるとかそういうことについては全部取締役会でやらなきゃいけないと、こうなっていますですね。その結果、大体月に1回、取締役会をやるところが非常に多いわけですけれども、今、オムロンさんでは年間何回ぐらい取締役会をやっておられ、そして、そのうちどれぐらいの比率でモニタリングに関する議論をされているのか、その点が第1点です。大体の感覚でもいいんですけどね。
それから2つ目は、いただいた資料の中の8ページに「資本コストを低減させる」と、そういう文章があるんですけれども、この資本コストについてはこの会合で前回も議論されているんですが、そもそもオムロンさんの現在の資本コストは一体幾らというふうに認識されているのか。それはどういう計算式で考えておられるのか。低減させるというのは、具体的にどういうふうなことを考えておられるのか。特にROICの計算式と資本コストの計算式は違うはずですので、そのつながりは一体どういうふうになっているのか。資本コストは特にCAPMを使ったりとかベータを使うというやり方が通常だと思うんですけれども、ROICの計算式とは大分違うんですよね。そこの兼ね合いはどういうふうになっているのか、どうやって低減させるのか、これが2つ目。
最後に、これはちょっと言いづらいんですけど、指名委員会等の委員長ですね、それから人事諮問委員会、小林さん、大変立派な方がされているんですが、現職の伊藤忠の会長さんでいらっしゃいますですね。そういう別の会社の現職の役職を持っている方がこういうところの役職をとられるということに関して、何らかの課題というものをご検討されるのかどうか、されたのかどうか。
その3点について教えていただければと思います。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
最初の指名委員会等設置会社に移行しないのかとのご質問ですが、弊社としては、指名委員会等設置会社の取締役会と監査役会設置会社の取締役会は実質的に機能が異なると考えています。117カ国でビジネスをやっていますとさまざまなリスクがあるので、より現場に近いところで取締役会が機能したほうがいいのではないか、そういう判断で監査役会設置会社を続けるという意思決定をしました。取締役会がモニタリングに徹してしまうと、弊社は守りの面でも攻めの面でも十分なガバンナンスを効かせることができないと感じています。そして、その比率ですが、昨年度まではモニタリングとマネジメントの比率というのは7対3ぐらいだったと思います。一方、今年度からは方針を変えましたので、私の印象ですが、今のところ概ね5対5ぐらいのイメージになるのではないかと感じています。
2番目の資本コストですけれども、ROIC経営を標榜していますので、対するコストはWACCになります。オムロングループ全体のWACCは公表しておりませんが経営情報を積極的に開示し、事業ポートフォリオマネジメントを通じてベータを抑えることによって資本コストを下げていくというような自助努力を念頭に6%程度としております。ただし、事業の特性によってはボラティリティーが高い事業がありますので、このようなケースでは、より高いハードルレートを設定しています。そして、CEOから社員に対するメッセージは、グループ全体でROICは10%以上稼ぐことを目標としております。
それから、3番目の社外取締役の人選ですが、結論から申しますと、あくまでも人物本位に判断しています。ただし、利益相反は事前チェックで候補から落としています。先ほど現役経営者の方を優先しているというのは、自社で起こったことを下敷きにして、オムロンのガバナンスを攻め・守りの両面について忌憚のない指摘をしていただくことが目的です。弊社の場合、取締役会は定例が月1回、計年12回、それから臨時が2回程度で、計14回程度が通常です。但し、他の企業と比べると取締役会にかけている時間は相対的に長いです。毎月の取締役会は半日程度をかけています。また、議事録については詳細に、誰が何を指摘したか、誰がどういう質問をして、執行側はどう答えたかということまで記録し、記載しています。通常A4用紙の普通のフォントで5ページ以上になります。
【池尾座長】
それでは、次に高山メンバーにご発言いただきますが、そろそろ安藤様に直接関連する論点以外の本日議論すべき論点全体にまたがって広く議論していただいて結構ですというか、そういうふうにお願いしたいと思いますので。
それでは、高山メンバー、お願いします。
【高山メンバー】
安藤さん、非常に充実したプレゼンテーション、どうもありがとうございました。
その際に直接的に触れられた内容ではないですが、今回のフォローアップ会議の目的の一つである投資家と企業の対話のガイダンスをつくるということとも関係するので、お聞きします。プレゼンテーション資料の7ページのところで、企業経営者のあるべきスタンスとして「株主を選ぶ努力をする」というところがございました。前回の会議でもありましたけど、投資家といっても、その対話の質にいろいろばらつきがありますし、さまざまな投資家がいます。投資家が企業を選ぶように、企業も投資家を選んでもいいのではないかと私は思います。実際に欧米の企業のIRのプラクティスを見ていても、こういう経営をしているのだから、こういう株主を持ちたいということで、株主を能動的・積極的に選ぶというのが一般的だと思います。一方、日本の企業というのは、そこのところがわりと受け身的・受動的なところがあります。そのような中で、「株主を選ぶ努力をする」とおっしゃっていることは非常に新鮮に映ります。この点についてもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
私はオムロンでの勤務経験は10年間強です。最初の4年間は常勤の社外監査役というユニークな役割を務めて、その後、執行に移り、6年前にチーフIRオフィサーに就任しました。まさにその際に掲げた方針が「受動的なIR活動からの脱却」でした。当時、投資家と企業の対話はQ&Aでした。投資家が質問して、企業がそれに答える。そして、投資家が理解しているから質問しないのかと思うと、むしろ全くしらないということに気づきました。したがって、企業として積極的に、特に中長期の経営情報をどんどん出して、フェース・トゥ・フェースで内容を説明することが必要です。資料には、あえてメッセージ性を高めるために「株主を選ぶ」という大層な表現をしましたが、もっともっと対等の立場で対話しなければいけないと考えます。Q&Aではなく、Q&A&Qにする、つまり弊社が答えた内容に対して投資家がどう評価したのか、どこに課題があると思っているのかについて認識を共有しなければ対話でもなければ、もちろんエンゲージメントにもなりません。
それから、株価についても、やっぱり関心が薄い企業経営者が多いのではないでしょうか。やはり長期的な株価の動向や水準は企業価値を自覚する一つの指標であると考えます。一方で、企業経営者と話をしていると、「なかなか株価が自分たちが考えているレベルまで上がらない。常にアンダーバリューしている」と言う方がいます。そういう方に「それでは、自社のフェアバリューは幾らぐらいとみていますか?」と質問すると、必ずしも答えが返ってきません。自社のフェアバリューがわかっていなくて、なぜ今の株価が割安だと判断できるのか理解に苦しみます。もちろん本源的な企業価値と株価がマッチングするということは理想ではあり、現実はなかなか難しいですが、やはり企業は対等の立場で投資家と向き合うべきであるというのが、私のメッセージに込めた想いです。
【池尾座長】
それでは、岩間メンバー、お願いします。
【岩間メンバー】
済みません、私鉄の事故に巻き込まれまして、大汗かいて到着しまして、申しわけありません。
既にもうお話があったことなのかもしれないんですが、2点ちょっとご質問したいと思っていまして、1つは、10ページの「日本的経営の良さに欧米的なマネジメントスタイルを融合したハイブリッド経営」と、こういうことを標榜されているということなんですが、これ、全体を通してそういう思想がにじみ出ていると、私、理解しておって、それは非常に説得力あると思うんですけど、オムロンさんの立場でごらんになった日本的経営のよさというのは、もう少し掘り下げるとどういうことをイメージされているかということが1点と、それから、先ほども出ました20ページの社長指名諮問委員会の件でございますけど、社長指名諮問委員会というのは候補を1人に絞って提出するのか、あるいは複数の候補を場合によっては提示して議論するということになっておられるのか、その2点をちょっと。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
1点目の日本的経営の良さについては、私は近江商人の「三方よし」であり、マルチステークホルダーを重視した長期視点の経営の実践であると認識しています。従来、バブル崩壊以降、数年前まで、円高やデフレなど様々な外部環境の悪化があったにせよ自発的にマネジメントシステムを高度化してリターンを上げようという意識が低かったように思います。一方で、欧米的なマネジメントシステムの強みはリターンや資本効率に対する意識の高さです。「ハイブリッド」という言葉は良く使われますが、ESG投資の高まりを見ているとグローバル企業には、私の示す「ハイブリッド経営」が真に求められ始めていると感じています。従って、日本的経営が長期、欧米的が短期みたいなステレオタイプな解釈ではなく、「良いとこ取り」の経営をすることが、株主・投資家だけではなく全てのステークホルダーから期待されていると認識しています。
2番目ですが、現在のCEOが選任されたのは2011年でした。当時は統合レポートではなく、アニュアルレポートでしたが、この2011年のアニュアルレポートには「新社長誕生秘話」というテーマで、当時のCEOと、社外取締役の冨山和彦氏の対談形式で社長選任のプロセスを開示していますので、現CEOが選ばれた背景や理由をオフィシャルに公表しています。最後は、若干お答えしにくい質問ですが、社長指名委員会では複数名の候補の中から選びました。ストレートにお答えすると、複数の候補者の中から選任をしたということになります。
【岩間メンバー】
ありがとうございます。
【池尾座長】
それでは、一般的な議論をしたいと思いますので、もう一つの意見書ですね、本日ご欠席の上田メンバーからも意見書を提出していただいておりますので、この意見書についても事務局からご紹介をお願いします。
【田原企業開示課長】
それでは、上田メンバーの意見書について、内容をご紹介させていただきます。
4つのポイントについてご意見を頂戴しておりまして、まず、今回、これまでの議論としてまとめさせていただいた6つの点については、非常に重要な論点であるとともに、今後にガイダンスを定着させていくためには、実務的なソリューションという観点が必要であり、そうした意味では、あまり論点が拡散しないように議論することが望ましいというご意見を頂戴しております。
その上で、具体的な中身についてでございますが、1点目は、CEO・取締役会等に関連する論点でございますけれども、イギリスではCEOとチェアマンの分離が求められており、執行と監督を分離すべきとされていますが、我が国では、会長としてのチェアマンと取締役会議長としてのチェアマンが、紛らわしくなってしまっているのではないかというご指摘を頂戴しております。そうした用語の定義を明確化して、社長・CEOと取締役会議長との役割分担の観点をよく意識して、今後の議論を進めていく必要があるのではないかというご意見でございます。
2点目は、政策保有株式に関連するものでございまして、対話の阻害要因となったり、資本の効率的活用といった面から、政策保有株式については問題があるというご指摘を頂いております。政策保有株式は、我が国の企業慣習に根差したものであり、急激な変更には時間がかかる可能性もあるのではないかというご意見もございますが、まずもって透明性の強化が非常に重要であり、適切かつ十分な情報開示をよく考えていくということが重要ではないかというご指摘を頂戴しております。
最後になりますけれども、アセットオーナーに関するご意見であります。先ほど私どもからもご紹介させていただきましたが、上田メンバーも、企業年金のスチュワードシップ活動はまだ途上にあるというご認識でございますが、アセットマネジャーに対するモニタリングは、アセットオーナーの受託者責任の一環として求められる活動であると考えられ、企業年金の投資パフォーマンスが高まれば、母体企業にとっても好ましい状況につながるというご指摘をいただいております。イギリスでは、企業年金がスチュワードシップ活動に取り組むことを支援する活動が、諸団体によって行われているということでございまして、そういった体制の整備についても、検討していくべきではないかというご指摘を頂戴しているところでございます。
以上でございます。
【池尾座長】
それでは、田中メンバー、もう一度お願いします。
【田中メンバー】
前回欠席いたしましたので、一般的な論点について少しコメントをさせていただきます。前回の議事録も読ませていただきました。
1つ目なんですけれども、まず、資本コストという言葉なんですが、今、安藤さんのお答えにあったように、オムロンさんの場合はWACCを使っているわけですね。資本コストといいながら、資本と負債と両方を入れ込んだ計算式ですよね、WACCの場合は。それから一方で、例えば伊藤レポートに出てくる資本コストというのは、これは資本だけでCAPMにまさに依拠した計算の考え方ということなので、一般論として資本コストという言葉はよく使うんですが、その定義は明確にしたほうがいいんじゃなかろうか。少なくとも一つのやり方としては、資本コストというものをどのようにして考え、計算式をどのようにして使っているのかというようなことについて開示をする。そして、それに対してどのような対応をしようとしているのかということを開示するということが必要だろうと思います。それは、資本コストの定義が随分違って、資本コストというものを配当率と間違っている人すらいるわけで、その辺についてはやっぱり明確にどれをどのようにして考えて、リスクファクターをどのようにして計算しているのか、判断しているのかというところまで開示をしていくということが一つ方法としてはあるだろうと思います。
それから次に、内部留保の問題なんですけど、これ、前回、内田さんがおっしゃっているの、私、非常に賛成なんですけれども、内部留保の活用という言葉そのものが非常にわかりづらくて、内部留保というのは資本の一部であって、それを実際には現金として持っているのか、投資、特に最近は大企業が非常に海外買収をやっていますから、そういうものは長期の投資として入っていると思うんですけれども、要するに、それがどのようにして使われているのかという、まさにアセットサイドもしくはPLサイドの問題として捉えるべきじゃないかと思いますし、それに関しては社外取締役の役割は非常に大きいんじゃないかと思います。
それから3点目なんですが、社外取締役の件が出ているんですけれども、そもそも社外取締役って誰が実質的に選ぶんだろうという論点があると思います。一般的には、CEOもしくは会長さんがいろんなところで知り合いを連れてくるというケースが多いんじゃないかと思うんですけれども、本来は、海外の事例を見ますと、社外取締役が多いものですから、社外取締役が社外取締役を選んでいるというパターンが非常に多いんですが、日本の場合はまだ80年代後半のアメリカみたいなもので、自分たちの経営陣の仲間を社外取締役として連れてくるという傾向が非常にあるんじゃなかろうかという気がいたします。
それからもう一つは、社外取締役の任期というのもこの中では考えるべきであろうと思いまして、前も申し上げたかもしれないんですけど、アメリカの場合はベストプラクティスとして72歳というのがよく言われるんですね。これはローファームが調査をした結果もあるんですけれども、私、「何で72歳ですか」って聞いたら、「いや、人生はボギーに入っちゃいけないんだというので72だ」と言うんですけど、それはよくわかりませんが、そういうふうに答えをもらいました。いずれにしても、社外取締役の独立性という点から、そういう任期というのを考える必要があるんじゃなかろうかと思います。
それから、前回、会長という役職に関する議論が、高山さんから非常に詳しいご説明があったり、川村さんからもコメントがあったというのは理解しているんですが、イギリスのやり方とアメリカのやり方はかなり違うんですよね。イギリスの場合は取締役会の会長とCEOを分ける。しかも、会長は独立社外から持ってくるという、これが当たり前のプラクティスになっている。これ、今回、上田さんも意見書に書いておられます。アメリカの場合は逆に会長兼CEOが多いんですよね。例えば私のいた業界ですと、ジェイ・ピー・モルガンのジェイミー・ダイモン氏も会長兼CEOですし、会長兼CEOが多いんですが、そのかわり社外取締役が圧倒的に多いものですから、社外取締役の中のヘッドとしてリードディレクターを使うと、そういう建前になっていると思うんですね。これは両方どっちかをまねようという必要は必ずしもないと思うんですが、私がいつも思っていますのは、監督機能を束ねる取締役会の議長と日本的な執行機能を持った会長というのは分けてもいいんじゃなかろうかと思います。といいますのは、営業とか社外活動に会長という名前は非常に役に立つことがありますし、実際に欧米でもバイスチェアマンという呼称を使った営業活動、経営には関与してない人たちがたくさんおられます。したがいまして、英語で言えばチェアマン・オブ・ザ・ボード、つまり取締役会議長、それとは別に業務執行を担当する会長、そして執行のトップであるCEOという人が、それぞれいてもいいんじゃないかという気が前からしておりまして、個人的な意見ですけれども、一応申し上げておきます。
それから最後に政策保有株式なんですが、これ、銀行側にいますと、お客さんが売らせてくれないんだというのが圧倒的な意見だろうと思います。一方、お客様に聞きますと、銀行が売らせてくれないんだという意見が圧倒的でございまして、これはどこに本音があるんだろうというと、僕は、おそらくお互いに経営の安定というよりも経営者の地位の安定に資するものというふうに考えたほうがいいんだろうと前から思っています。ただ、特に金融機関が持っている政策投資株式につきましては、金融機関の財務上の経営の安定性というものに非常に大きな問題を惹起することがありますので、私、事務局の方にも申し上げたんですが、他国においては銀行による株式保有を制限する制度がありますので、その事例などを見て、日本でも制度的にそれを考える時期に来ているんじゃなかろうかと思います。例えば、5年かけてこれだけ減らしてくださいというようなことをやる時期に来ているんじゃなかろうかということです。そうでないと、先ほどから申しておりますように、お互いに相手方が売らないで欲しいと言っているという事態はいつまでたっても変わらないだろうと思っております。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
それでは、川北先生、お願いします。
【川北メンバー】
これまでのいろんな議論を聞いていまして、コーポレートガバナンスに関しては、社外取締役の役割というのが非常に重要ではないのかなと思っています。これが私としての今日の全体の結論です。それに関しまして、事業へどういうふうに投資をするのかとか、現金保有というか、内部留保というか、定義はいろいろあると思いますが、それをどうするのかということに関しましては、社外取締役が事業の収益力とか配当政策、裏返せば内部留保の政策について、もう少し言うと資本構成とか、資本構成を議論する上でのWACCというか、資本コストというか、そういうことをきちんと議論して、それでもって会社の方向性を決めていくということが必要なんだろうと思います。そうでないと、個々の企業の状況に対応できないだろうというのが1点です。
それから、株式の政策保有に関しましては、純投資という言葉がどこかにあったと思いますが、これは論外でしょう。事業会社が株式の純投資なんて、そんなの誰も期待してないわけで、それは論外です。もう1点、事業会社が株式を持つということを突き詰めていくと、親子上場の問題にも波及するわけですね。これは今回の問題ではないのかもしれませんが、親子上場をどうするのかということも少し念頭に置きながら議論すべきであって、そうすると、ひょっとすれば政府関係の企業にも議論が波及する可能性というのは十分にある。そこは少し慎重にということだろうかなとは思いますけれども。
それと、純粋に経営戦略的な保有もある。そうすると、企業として株式を保有することに関していろんな場合が考えられるわけで、やはりこれは社外取締役が、ほんとうに今、株式を保有することがいいのかどうか、そこをきちんと議論できるようにすべきであるし、特に取締役会では議論すべきです。議論した結果、こういう理由で保有することになったというのであれば、それはきちんと有価証券報告書に書くべきだと思います。今、数文字で片づけられている例が非常に多いんですけれども、何行にわたってもいいので書いてもらいたいと思っています。そうすると牽制になるのかなということです。
それから、企業年金に関しましては、企業経営上、重要性というのは増しているわけなので、これを取締役会で議論しないというのは変だと思います。かつ、企業年金のトップというんですかね、理事長というのか、よくわからないんですけれども、その人事を決めるときにも、今は一つの人事ローテーションの一環として、もしくはご苦労さんという感じで使わしている例が多いと思いますが、企業経営に対する影響力が大きいという意味ではきちんと議論をしてトップの人選をやるべきでしょう。これも企業年金の影響度を考えると、統合報告書かどこかはよくわからないですけど、どこかに書くべきです。そのときにどういう議論をして人選をしたのかということを我々としても知りたいなと思います。
ということで、社外取締役に関しましては、数の議論も私は重要だと思いますが、もう一つは質の議論でして、適材なのかどうなのかということです。ある人物を社外取締役として選んだ、この理由も有価証券報告書に書いているわけですけれども、その内容を見るとやっぱり結構一般論として書いてあることが多いのですが、ほんとうに必要ということを企業の中で議論した結果を書いてもらうべきだと思っています。そうすることで牽制というんですか、もしくは対話を機関投資家とやるときには一つの糸口になると思います。
最後に、機関投資家に関して言いますと、プロの投資家、とくにアセットマネジメント会社に関して言いますと、やっぱり系列が多過ぎると思います。ちゃんとした独立系は結構あって、独自の違う角度からの議論ができる会社というのもアセットマネジメント会社に結構あるわけなので、そういう独立系を選んでいくというのでしょうか、使うべきであり、そういう努力をしないといけない。アセットオーナーはそういう独立系をきちんと使って対話をやらせる、そういう努力が必要なんだろうと思います。
以上です。
【池尾座長】
じゃあ、内田メンバー、お願いします。
【内田メンバー】
どうもありがとうございます。今日の冒頭のご説明によるとガイダンスの策定が出口になるということですので、ここで提案されている論点がその中に盛り込まれると理解しています。提案されている論点は、現行のコーポレートガバナンス・コードに十分織り込まれなかった項目や、企業による対応が不十分と思われている項目になっていると思います。一方、企業経営や企業統治においてやはり非常に重要なのは、経営理念や経営の行動指針であり、例えば今日のオムロンさんのお話にもあったと思いますが、会社がそのステークホルダーについてどう考えているのか、ステークホルダーに対して何を実現したいと考えているか、そういうことが極めて重要であって、このようなことについて投資家と会社との間でしっかり議論することが重要だと思います。これらの点については、現行のコーポレートガバナンス・コードにも書き込まれており、原則2-1に「中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定」、それから原則2-2において「会社の行動準則の策定・実践」として定められているのですが、これらに関する対話が実際にどの程度十分行われているかというと、私の経験ですとあまり十分な対話がされてこなかったのではないかと思います。従って、経営理念や経営の行動指針について各論の議論をする前の段階でしっかり議論することが重要だと思います。また同様に、先ほど「企業が株主を選ぶ」というお話が出ていましたが、企業としてはそういうこと(経営理念や経営の行動指針)をしっかり説明して機関投資家との間でコンセンサス、共通認識を作ることも各論の議論の前提としてやはり非常に重要だと思います。
次に、ここに挙げられている論点に関しては、業種、業態、それから新興企業と歴史のある老舗企業とでは企業の置かれている状況がかなり異なると思います。従って、一律にこういう仕組みがいいという形のガイダンスは望ましくなく、個々の企業と投資家が対話の中でこれらの論点について共通認識を作っていきなさいというような方向づけをするようなものにしていただきたいと思います。
そして、論点の1つとして挙げられている、政策保有株式については、前回の議論において政策保有株式に関する原則1-4が機能していないのではないかというご指摘があったと思います。このご指摘を踏まえまして、今回、経団連に所属しております主要企業にヒアリングを行いました。結論から申しますと、原則1-4に沿って適切に対応しているという答えが皆さんから返ってきました。具体的には、政策保有に関する方針の定期的な見直しを行っており、それから、社外取締役の参加する取締役会において、主な政策保有についての保有意義、相手先企業の業績、財務体質等を考慮に入れてリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性、将来の見通しをしっかり検証していますということでした。
さらに、政策保有株式については、投資家への説明も行っていると、そのような回答が返ってきました。
ただ、ヒアリングですとn数に限りがありますので、もう少しデータ数を増やして検証したいと思い、日経225の構成銘柄のうち、事業会社が204社ありますが、これを対象に純投資以外の保有銘柄数について2013年度末と2016年度末の比較を行いました。その結果、約8割に当たる160社が銘柄数を減少させていました。減り方は確かに会社によって非常にさまざまですけれども、平均で13%ほど減らしており、160社のうち約半数の78社は2桁%減らしていました。中には半数以上減らしている会社もありました。次に別の角度から、同様に日経225の銘柄の中の事業会社に関し、株主の構成の変化を調べてみました。有価証券報告書に「所有者別状況」が記載されており、その中に「その他法人」の項目があります。この「その他法人」は、金融機関、証券、保険会社以外の国内法人ですので、事業会社、事業法人が中心と考えられます。そこで「その他法人」の所有比率を分析すると、対象となる204社のうち約7割強の144社において、3年前に比べて「その他法人」の所有比率がやはり減少していました。
このようなデータから見ても、日経225の範囲ではありますが、事業会社においてもコードの趣旨を踏まえてアクションを起こしており、原則1-4はそれなりに機能していると私は考えるべきだと思います。従って、これは前回申し上げたのですが、政策保有については個々の会社によってかなりばらつきがあるのも事実だと思いますので、やはり企業と投資家の対話の中で、取締役会においてどのような検証を行っているかなどについて議論し、保有の合理性について確認しながら、望ましいあり方について検討していくことが大事だと私は思います。
それから最後にもう1点、アセットオーナーに関する論点、企業年金の論点について発言します。資料には「企業年金がスチュワードシップ活動を行う際にどのようなことが課題になるか」との記載がありますが、企業年金の規模は非常にさまざまであると思います。正直に言ってあまり費用をかけられないという企業年金もかなりあるのではないかと思います。ある程度の規模の企業年金でも、専門性を持つ人材を配置したり、工数を割くなど費用を掛けることにある程度限界があると思います。この論点については、費用対効果をよく考えた上で、あるべき姿、実態を踏まえた現実的な解といいますか、やり方を検討すべきだと思います。
以上です。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、小口メンバー。
【小口メンバー】
ありがとうございます。今日いただいた論点のうち2つ、政策保有株と、それからアセットオーナーについて意見を申し上げたいと思います。
政策保有株については、先ほど安藤さんからもお話があったのですが、基本的にコーポレートガバナンスにおいては自律が重要であり、実際にオムロンさんの場合は自律的に縮減されていますし、先ほど内田メンバーのほうからご意見ありましたように、実際に減ってきているという部分はあるとは思います。ただ、ここからがやはり難しいのかなと。かなり岩盤に当たってきていて、ここから先どうやって減らすのか、あるいは単に減らすというわけではなくて、ほんとうに保有の合理性があるもののみ残っていくという形にするのかというためには工夫が必要で、配られた金融行政方針や、本日のペーパーにも出ています「保有させている側のインセンティブ」、多分これから先の部分はそのインセンティブがすごく強くなってくるのかなと思っていて、そこをどうするのかという問題があると思っています。
ガイドラインをつくられるということですけれども、そうしますと、今日いただいた資料2の2ページの一番下に書いてあることを踏まえ、保有の合理性は絶対ないとは言わないのですけど、ほんとうにあるのかというところに説明を求めるようなガイドライン。誤解を恐れずにもっと言ってしまうと、説明に窮するようなガイドライン。なぜ保有しているのかということがほんとうに聞いていてなるほどと思わせるものが残っていく、そうじゃないものはやはり減っていくと、そういったような形のガイドライン。これをさらに突き詰めていくと、先ほど田中メンバーがおっしゃったように、禁止令みたいなことも入るのかもしれませんが、そこまでいくかどうかはさておき、ここから先というのは保有の合理性をぎりぎり詰めていくようなガイドラインにならないと、実際に減っていくということは難しいのかなと思っています。
アセットオーナーについては、ほぼ1年前の11月30日に公表されたフォローアップ意見書の3で、その位置づけとして「インベストメント・チェーンにおいて、最終受益者のより近くに位置し、直接、最終受益者の利益を確保する責務を負っている。こうした位置づけを踏まえ、アセットオーナーは、運用機関によるスチュワードシップ活動がより実効的なものとなるよう十分留意」する必要があるとされていて、今日、川北メンバーがさらに企業年金の企業経営における重要性をおっしゃって、まさに企業年金というのは大事な存在であるということだと思います。実際にインベストメント・チェーンの中で仕事をしている我々のような立場にいますと、アセットオーナーは運用機関の選別・選定する権利を持っていて、運用機関を左右する大きな力をお持ちだということです。そういうことであると、企業経営における影響もさることながら、インベストメント・チェーンを活性化していこうという話になったときには、やはりアセットオーナーがスチュワードシップ活動を適切に行う体制を整える意義が大きいし、避けて通れない議論かなと思っています。
その観点から、金融行政方針が指摘されています企業年金の運用担当者の量的・質的不足に対して母体企業が取り組むという考え方は、ない袖は振れないという部分もあるのかもしれませんし、先ほどなかなか費用をかけられないという話がありましたけれども、理にかなっているのかなと思っています。ただ、少し懸念があるのは、母体企業がどんどん関与を深めていくとなると、これは運用機関のときに議論になりました最終受益者との利益相反の問題が高まってくるおそれがあるのかなということです。さらに、もし運用担当者の量的・質的充実を促した場合に、企業における、例えばCEOの選解任の議論に通ずるような、力を蓄えた運用執行陣をどうやって監督していくのか、利益相反を防いでやっていくのかという視点がやはり欠かせなくなってくるのかなと思っています。
運用機関は、最終受益者に対してアセットオーナーを介し間接的に責務を負っているのですけれども、スチュワードシップ・コードの改訂においては、運用機関に対するガバナンスや利益相反の問題に踏み込んだわけですね。具体的には、原則2の利益相反に関する中で、指針2-2では、具体的な方針を策定し、公表すべきということで透明性を求めていますし、指針2-3では、利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備すべきということを今回改訂で入れています。
企業年金のスチュワードシップ活動拡大には、人の問題ももちろんありますしコストの問題もありますが、その解決だけでは不十分で、運用機関に求められているような透明性の問題とかガバナンスの独立性とか、要するに最終受益者の利益が阻害されないような体制というのをあわせて検討すべきだと思います。よく考えてみますと、アセットオーナーのほうが運用機関より最終受益者に近いわけですし、インベストメント・チェーンを左右するという影響の大きさを考えますと、運用機関以上に透明性とか独立したガバナンス体制というのは必要になるということなので、アセットオーナーのスチュワードシップ活動を促進していくことについてはもちろん賛成ですが、アセットオーナーについてガイドラインに入れるのであれば、利益相反の適切な管理もあわせて議論し、ガイドラインに含めていただきたいと思っています。
以上です。
【池尾座長】
では、佃メンバー、お願いします。
【佃メンバー】
はい、ありがとうございます。私のほうからは2点、事務局の資料2の2ページの(3)CEO・取締役会等のところで、これに関して2点コメントをさせていただきたいと思います。
まず1点目が独立社外取締役に関してなんですけれども、この資料の上から2番目のCEOの後継者の指名に当たって、独立社外取締役が過半数を占める云々といったところがあります。それから、その2つ下に、一方で、みずからの役割を十分に認識していない社外取締役も見受けられるといった指摘がございます。指名委員会等で独立社外取締役が過半数を占めるというのは、例えば5人のメンバーを考えたときには、独立社外取締役が3人いるわけです。先ほどのオムロンさんがそういった事例だと思います。一方で、日本企業の圧倒的多数においては、現状、独立社外取締役が2名だけであり、ボトルネックになっている部分があると思うんですね。みずからの役割を十分に認識していない社外取締役がいて、しかも社外取締役が2名しかいない状況で、一方で、指名委員会を充実させなさいといっても、これはなかなか難しいと思います。独立社外取締役が2名しかいないというのが根本の問題であります。ガバナンス・コードには、原則4-8で企業の規模や業種、あるいは環境等に応じて、自主的な判断によって少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要だと考える会社は、みずからそうしなさいとあります。そういう方針を開示すべきだとありますけれども、果たしてこれに着目してこれにのっとってやっている日本の企業はどれぐらいあるかといった話は、やっぱりもう一回議論すべき論点だと考えます。
そういった意味で、前回のこの会議でも高山メンバーからご指摘いただきましたけれども、例えば独立社外取締役を3分の1以上という議論は、原則4-8にも載っておりますが、では、どういった場合に3分の1以上が望ましいかということは、もうちょっと踏み込んで議論していく必要はあるんじゃないかなと考えます。これが1点目でございます。
それから2点目は、先ほど田中メンバーからもご指摘ございましたけれども、取締役会の議長を社長が兼務している点です。これは上田メンバーの意見書にありましたように、東証一部上場企業のうち、83.1%の企業では社長が取締役会の議長を兼務しているとあります。監督と執行がある意味、究極の利益相反になっていると思いますが、それをほんとうに放置していていいんですかといった問題があると思います。先ほどの田中メンバーの話の中でも、アメリカでは例えば10人中8人が社外取締役で、あとは、チェアマン・アンド・CEOと、CFOしか出てないという前提でのチェアマン・アンド・CEOという位置づけでございますから、先ほどの独立社外取締役が2名しかいないといった状況の中で83.1%の一部上場企業で社長が取締役会議長をやっている状況が、果たして形式面も含めてガバナンスが深化したと言えるんでしょうか。もちろん以前に比べれば十分深化したと思いますが、今後、実質を充実するという意味では、やはりここを考えていかなきゃいけないと考えます。
したがって、例えばですけれども、取締役のうち独立社外取締役が過半数ですといった企業に関しては、例えば社長が取締役会議長をやってもいいかもしれないけれども、それに満たない企業に関しては取締役会議長は社長じゃない人がやるべきではないですかというようなガイダンスは、少なくとも1度議論してもいいんじゃないかなと考えます。
以上2点です。
【池尾座長】
では、神作先生、お願いします。
【神作メンバー】
ありがとうございます。私も、アセットオーナーに関する論点についてご発言をさせていただきます。
アセットオーナー、とりわけ企業年金は、スチュワードシップ・コードに対するサインアップ自体それほど多くない、それどころかむしろ非常に少ないという点で、実質どころか形式もまだ伴ってない点に大きな問題があると存じます。本日、この会議におきましても、川北メンバーから、企業年金というのは企業経営にとっても重要な意味をもっているとのご指摘があり、また、小口メンバーからは、インベストメント・チェーンにおいてアセットオーナーはまさに要の根幹的な役割を占めているというご指摘がありました。私はさらにそれに加えて、企業年金は、規範性の程度という観点から見てもスチュワードシップ活動を行うべき相当に強い規範を課されるべき存在であるという点を申し上げます。特に、企業年金は、受益者の範囲が限定され、かつ、中長期的な観点から資産形成に励むべき存在であるという点を追加させていただきます。
本日、方向としてガイダンスを作成するというお話がございましたけれども、例えばスチュワードシップ・コードにサインアップしてない人たちに向けてガイダンスがどのように機能するのかというのは難しい点があると思います。そうだとすると、この問題を一体どのように考えていくのかという点がポイントになるのではないかと思います。5月29日に改訂されたスチュワードシップ・コードにおきましては、指針の7-2で機関投資家の経営陣はスチュワードシップ責任についての十分な認識と経験・能力を持つべきであるということをうたっており、指針の1-3及び1-4、5には、アセットオーナーが実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定・監督に当たって、みずからのスチュワードシップ活動を行うべきであると記載されております。
他方、アセットオーナーにはその規模などからスチュワードシップ活動を行うにあたり様々な限界があるということも認識した上で、アセットマネジャーすなわち資産運用者が自己評価を行うことを求めた上で、こういった自己評価なども利用しつつアセットオーナーはアセットマネジャーを評価・選抜することができるような改訂を行ったものと理解しております。今申し上げたところは、本日机上にお配りいただいているスチュワードシップ・コードの18ページ、7-4のところで、運用機関は定期的に本コードの各原則の実施状況を自己評価して、結果を公表すべきであるとの記載に対応します。運用機関自身による自己評価をアセットオーナーは利用して、みずからのスチュワードシップ活動の資料と申しますか、材料とすべきであるとしているのです。このように、アセットオーナー、特に企業年金基金が行うスチュワードシップ活動についての環境の整備というのも、徐々にではありますけれども、整えられようとしていると理解しております。
そのような状況を考えますと、以上に申し上げたようなスチュワードシップ活動の重要性を認識しておられる方が企業年金を運営していただくことが重要であり、そのような人材面での配慮がなされ、まずはスチュワードシップ・コードの基本的な考え方にご賛同いただいた上で、同コードにサインアップしていただき、そのあとはいろいろなやり方があるということはスチュワードシップ・コード自身が認めているところですので、コンプライ・オア・エクスプレインをフルに活用していただくことを柔軟に促進するような形のガイダンスをつくっていく方向で議論を進めていただければ大変ありがたいと存じます。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
じゃ、三瓶メンバー、お願いします。
【三瓶メンバー】
はい、ありがとうございます。このガイダンス策定に当たって、幾つか大きなあるべき方針というか、そういったことについてお話ししたいと思います。
挙げられた(1)から(6)の項目についてなんですが、これは実は非常に相互に関連しているので、別々の取り組み課題ではないと認識しています。あと、ガイダンスということであると、広く多くの上場企業に対して、または投資家に対して、共通課題として言えることに焦点を絞るべきかなと。ただ、一方で、いろんなところで、これは個別、これは個別というふうにしていくと、ガイダンスが骨抜きになるというか、なので、何は共通課題で、何が個別に、しかもどう深掘りをしていくのかというようなことをもう少し触れるといいのではないかと、まず全体としては思います。
この(1)から(6)の関連なんですけれども、例えば(1)資本効率性なんですが、表面的にROA、ROE、ROSが低いというのはよく言われていることで、低い、低いというふうに指摘をしても何の気づきも生まないわけですね。なぜ低いのかというところをちゃんとエビデンスベースで見ていかないとほぐれないと思います。例えば、資産回転率というのがありますね、売上高を資産で割ったもの。いろんな計算の仕方があります。流動資産で割るもの、または無形資産を使うもの、有形固定を使うもの、全部違った姿が見えます。例えば、欧米と比べて日本が高かったり低かったりというのがありますけれども、その理由は、一つ一つしかも関連付けて全部ほぐしていかないとわからないんですね。もう少しちゃんとしたエビデンスを持って、これが共通の課題であるということを示すのがスタートかなと思います。
(2)ですが、(2)は(1)と密接に関連するんです。例えば、資産効率が低い状態で手元にある現金をどんどん活用せよということになると、非常にお金の無駄遣いになります。だから、ただ無理やり後押しするということはむしろもってのほかということになると思います。ですから、その状況をよく見ながら、ただM&Aをすればいいわけではなく、どこの効率を上げるのかということを考えながら効率を上げていってからとなります。
その判断を監督していただくのが(3)の取締役会であり非常に重要な役目だと思います。取締役会の実効性評価というのはガバナンス・コードの4の11-3にあるんですけれども、先ほどのオムロンさんのお話からも、ここでは委員会というのは非常に重要な役割を果たしています。法定の委員会と任意の委員会といろいろありますけれども、数的には任意の委員会のほうが多いんですね。任意の委員会がどういう実効性を持ってやっているのかということをもう少し明らかにしていただいたほうがいいんだろうと思います。この任意の委員会については、いろいろ聞いていけば、非常に大事な役割を果たしているケースは多いです。しかも、任意といいながら、私が何回かお話しした中で、例えば社内の方と社外の方の構成比がかなり拮抗しているような場合とか、ほんとうの目的からするともう少し社外比率が高いほうがいいのではないかとかいう話をして、実際にその6カ月後には構成を変えていただいて、「ご指摘を契機に見直し、社内役員を必要最小限に変更しました」というような行動をされるんですね。任意の諮問委員会でもそう。だから、ここについてもっと対話の材料にするために、任意の委員会でも実効性についてもう少し表現していただくというようなこともガイダンスには盛り込んでもいいんじゃないかと思います。
(4)政策保有株式ですけれども、これは先ほどの(1)、(2)、(3)と全てつながっていると思います。というのは、(1)の資産効率の問題ということではもちろんそうですし、(2)の現預金ということがありますけど、これ、バランスシート上は現預金は上のほう、政策保有株式は下のほうと分かれていますけれども、長期資産のほうに入っていると思いますが、ただ、これも現金化できるものですから、現預金の問題と広く捉えれば一緒の問題ですね。それをモニターするという意味では(3)とつながると。
(5)のほうですが、(5)も実は(4)とつながります。というのは、政策保有株式というのは有報上では特定投資株式としてリストがあるわけです。ただ、そこにもう一つプラスのリストとしてみなし保有株式というのがあります。みなしというのは、年金資産等で信託に出して会計上オフバランスだが議決権行使権限が当該会社にあるものです。これは実際にある会社との対話の中で私もやりとりしたんですけれども、みなしのところについてどうやって会社は管理しているのかということです。社外監査役に質問したところ、みなし保有のところについては企業年金としては、そういえば全く関知してないというか、議論もしていないということでした。この件では、当該会社の社外監査役にそこについてもちゃんと見た上で議論してほしいし、それを企業年金さんがそれは自分のところの範疇だからとかいうことであるとすると、受託者責任上合理的理由で保有しているのか、会社として保有させられているのか、それを年金資産に押し付けられているのか等の疑問が沸くはずで、コーポレートガバナンス全体の話として捉えるべき問題なので、そこも一緒に見て欲しいとお願いしました。そういう意味では、先ほどの(1)、(2)、(3)と(4)が連動していますということと、今の(5)もつながっているということになります。
(6)は投資家との対話で、ここはばらつきという言葉が使われているんですけれども、質のばらつきはいけないと思うんですが、投資家のスタンスにもしばらつきがあるとすれば、これは差別化かもしれないし、多様性かもしれないので、そこはあってもよかろうと思います。ただ、質については、要するに、ばらつきというか、低いということであろうと思います。これは残念ながら認めざるを得ないところだと思うんですが、例えばどうしたらもう少し質が上がるかというと、実際に企業との対話をする現場にいる、フロントにいる人間のスキルをもっと上げる必要があるんだと思います。日本と海外を比べたときに、例えば証券アナリストという資格があります。日本では、例えば資格試験科目に通常の分析スキル以外にいわゆるエシックスという職業倫理・行為基準というのがあります。これはアメリカのCFAも同じで、アメリカの証券アナリストですね、ここでもエシカル・アンド・プロフェッショナル・スタンダードというのがあります。ただ、英国のIMCではこれに加えてレギュレーション・アンド・リーガル・コンセプトという関連する法令とコードについて、しかもリーガル・コンセプトというところを学ばなきゃいけないようになっています。これはとても大事なことだと思うんですね。実際にフロントで活躍されている方なら、例えば金商法の関連するところは頭に入っているかもしれませんが、会社法、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの、必要だというところ、関連、背景や趣旨が頭に入っていて、それを踏まえて実際の対話にそれをうまく活用できないと、企業の方に気づきを与えるなんていうのは、とてもじゃないけど、できないだろうと思います。なので、そういったことも今後の検討の課題かと思います。よろしくお願いします。
【池尾座長】
ありがとうございました。
それでは、大場メンバー、お願いします。
【大場メンバー】
私からは、ガイダンスをどのようにつくるか、どのように着目すべきかというのが今日の議論の論点だと示されておりますので、これについての意見がまず一つ。それからもう一つは、安藤さんのプレゼンテーションの中に確認をしたい事項がありまして、それがガイダンスにも多少関係するということでご質問をさせていただきます。
まず第1のガイダンスの論点にどのように着目すべきかという点です。三瓶さんからも話がありましたけど、この5つの論点というのは何が共通項としてあるかというと、やはり資本効率ではないかと思います。したがって、対話の論点として資本効率はマストにしないといけないと、こういうことではないかと思います。
先ほど田中さんからもご意見ございましたけど、資本コストはどのように計算するかとか、フェアバリューはどう計算するかというようなことがあるので、そこは大変難しいのですが、企業自身がフェアバリューをどのように考えているかということは必ず対話のテーマにすることが望まれます。それから、もう一つ大事なのは、中長期にわたってみずからの企業価値をどのように把握しているかということも大切だと思います。企業価値向上のため一生懸命頑張ったと言っておられるわけですが、それが何で響いていないのかということは確認しないといけない。私は、一部を除いて上場企業の多くは企業価値を棄損してきたのではないかと思うのですが、それについて企業はどのように認識をされているかということについてやはり対話の対象にすべきだと思います。
それから、安藤さんへの質問というのは2つありまして、これも多少ガイダンスに関係するかなということでご質問申し上げるのですが、大変なことにチャレンジをされて、すごく成果を上げておられると私は認識しているのですが、グローバルなビジョナリーカンパニーになるために何が足りないのかという問題意識で考えると、そう簡単ではないと思うんですね。現時点においてここまでやってきて、今まさにこの時点で優先課題だと認識されていることは何だとご理解をされているかが1つ。
それからもう一つは、この議論のテーマでもあるのですが、形式から実質へという観点で、まさに安藤さんのオムロン株式会社は形よりも魂が大事だと説明をされたわけですが、小さな会社だと、すごく限られた人なので経営者の思いは伝わりやすいと思うのですが、大企業に魂を入れるためにどのような工夫をされているかという点について、ご質問をさせていただきます。
以上です。
【オムロン株式会社 安藤取締役】
1番目のご質問ですが、コーポレートガバナンス・コードを遵守するという観点から企業経営のあるべき姿をイメージした時、甘いと思われるかもしれませんが、オムロンの経営力というのは及第点にあると認識しています。何が課題かと言えば、ガバナンスの面ではダイバーシティになります。また、稼ぐ力の面では、人財・研究開発・IT投資を一層積極的に行って、成長戦略自体を確かなものにしていくことが重要です。そして、その手段としてのM&Aやアライアンスを活用していきたいと考えています。さらに、事業成長に伴って意味のある形でROEを一層上げていく。これはオムロンの公式見解ではなく、全くの私見ですのでご容赦いただければ幸いです。
それから2点目ですが、経営理念・企業理念を持っていない企業はありません。但し、企業理念が会議室に飾ってあるだけでは意味がありませんので、企業理念をどのように実践するのか、逆に言うと、実践するための企業理念でなければいけないと弊社は認識しています。従って、企業理念を策定するプロセスはもちろんのこと、企業理念を作成した後で、どれだけグローバルに、一人一人の社員にその重要性、必要性を腑に落ちて理解させるか、すなわち啓発活動や共鳴活動が極めて重要です。そういう意味で、オムロンは相当な資源を投入していますので、オムロンのグローバル社員は企業理念を十分理解したうえで、誠実な経営を実践して、同時に持続的に稼ぐ力を発揮していかなければならないと考えているはずです。ですから、企業理念にしても、長期(10年間)のビジョンにしても必ずボトムアップとトップダウンのアプローチを組み合わせて何回も何回も議論を繰り返しながら作り上げてきますので、でき上がったときには経営陣のみならず社員一人一人にとって納得感のあるものになっています。そして、それらを実践する、やりきる力の源泉になっています。
今日のヒアリングの直接のテーマではないので省きましたが、まさに弊社はサステナビリティー・マネジメントについて今年度から一歩を踏み出したわけですので、資料の55ページにあるような取り組みが、企業が果たすべきコーポレートガバナンス責任の進化系であると認識しています。もちろん弊社のサステナビリティーの目標についても、2020年度に何をどこまでやるかというマテリアリティを特定して、KPIを極力数値化しました。43ページが公表している中期経営目標の数値目標ですが、売上高、売上総利益率、営業利益、ROIC、ROE、EPSの6つをKPIとして掲げて、1年ごとに進捗状況をフォロー、アップデートしています。やはり売り上げを伸ばすということも重要であり、資本効率を意識した経営を実践することも重要です。PLとBSを両方にらんでサステナブルに企業価値を高めていく際に、お題目を掲げるだけではなく、具体的に目標設定をして公表し、ステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通じてPDCAを回し続けることが必要であると考えます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
じゃあ、武井メンバー、お願いします。
【武井メンバー】
ありがとうございます。
まず、ガイダンスを出すというのはとてもいい方向性の取り組みというか、いい話だと思います。特にコンプライであれ、エクスプレインであれ、来年6月末に改めて各企業さんがガバナンス報告書を出すタイミングで、これまでのコンプライとかのリピートではなく、改めてコンプライの趣旨を深く考えてコードに対応しましょうという考え方の整理になりますので、とてもいいことだと思います。今日のペーパーで列挙されておりますこちらの6項目だけでも大変重要なので、あんまりいろいろ拡散せずに、まずこの6項目についていろいろやるだけでも、大半のガバナンスに関する課題はある程度できるかと思います。まずこの6点についてある程度集中してやるだけでも結構おなかいっぱいという感じがしますというのが1点目です。
あと、その絡みで、今日のペーパーの1番、2番のところで言うと、資本政策の話が出てきていますけれども、もともとガバナンス・コードで、原則1-3で資本政策をちゃんと基本的考え方を書いてくれって書かれてあり、原則5-2で収益性と資本効率に関する目標をちゃんと提示してくれと書かれてあるわけです。これらの原則への対応の実質が問われているのがこの1番、2番の論点だと思いますので、これらに関する考え方のガイダンスを対外的に示すことは大変重要なのだと思います。また、例えばこの2番の各種投資がきちんとなされているのかということについても、こういった投資を促すようなオーガニック・グロースを支えるKPIが社内できちんと選定されているのかどうかが重要だと思います。今日のオムロンさんのお話の中で幾つか大変重要な点があったと思うんですけれども、その中で、オムロンさんでは自分で考える過程で、持続的成長をするためのオーガニックな成長のために自分はROICを選んだのだと。別にちまたの人がROICが良いと言っているというよりも、自分の考え方としてオーガニックな成長を支えるためにROICを選んだのだという考え方を示されています。こうした点は大変参考になると思うので、こういった投資を促す収益性と資本効率の目標になっているのかどうかということ、原則1-3と原則5-2のガイダンスを出していただくと大変参考になるかなと思います。
第二に、オムロンさんはとても先端的で、マクロ的にはオムロンさんのレベルというか、オムロンさんまで至っていない多くの上場企業さんをどうするかというところに目線を向けなきゃいけないということだと思います。オムロンさんはちょっと進み過ぎていてどうかねというふうに思う企業さんもいるのかもしれませんが、案外そうでもないと私は思っていまして、今日、オムロンさん自身もそんなに難しい話ではないとおっしゃっていましたが、オムロンさんがこういうことをやられたのは、自分で自律的に持続的に成長するにはどうしたらいいかということを自分で真摯に考えたら、自然にこうなっていったというお話だったのだと思います。もちろん一朝一夕のお話でなく20年という長い時間をかけられているわけですけれども、時間をかけてこういう先端的・先進的になられたというのは各社さんにとっても大変重要なメッセージだと思います。お話の中で、グローバルにいろいろ市場をとりにいくという点や、グローバルなステークホルダーがいらっしゃるという点、さらには、創業期の第1世代の方から次の第2世代に移っていくときにどうするのかといった課題は、少なからざる上場会社さんに、企業規模にかかわらず、また業種にかかわらず共通するイシューなのだと思います。そういう企業さんがみずから考えたらこういうふうになったということで、オムロンさんの話がオムロンさんだからできたという話ではなく、結構多くの点で多くの上場会社さんに参考になる、ガバナンスとしての持続的成長を考えるのに参考になる話だと思うので、そういった点のエッセンスをガイダンスに示していただけるとよいかなと思いました。
ステークホルダーとの対話という論点にしても、まずは企業側として企業理念をしっかり示すべきという話は、さきほど内田さんとか大場さんがおっしゃったとおりだと思いますし、またその点も「三方よし」とか、多くの日本企業さんにとってはもう既にシェアできている価値観が入っていますから、特に北風的な施策でなくても、ガイダンスという形で書けば結構企業さんとしてはなるほどなと思われるのだと思います。多くの企業さんが自分の話なんだというふうに思ってもらうようなガイダンスが重要で、その観点からも今日オムロンさんから出てきたお話は大変参考になるのだと思います。
次に3点目です。別に論点を拡散させる意図はないのですが、今日のペーパーの3点目に書かれています社外独立取締役の関係ですが、求められる多様性を考えると確かに社外独立の数はある程度一定人数が必要だと思いますが、他方で根本的に、独立社外の適切な人材が世の中にいるのかという問題が、今までも指摘されていて、現在もケアしないといけない論点なのだと思います。今回の成果物がガイダンスなので、機関投資家の方向けにも一定のメッセージが出されると思いますのでその点でも良いと思うのですが、現状起きている現象が、独立性基準を各機関投資家が相互調整なくバラバラにいっぱい持たれているので、独立性を充たせる人材のフェアウェーがとても狭くなっています。こうした状況でが企業さん側としても適切な独立の方をどうやって探すのかという課題に直面しています。どうするかという論点は別途あって、独立性基準自体の話は論点が拡散するのでこれ以上話すのはやめたほうがいいと思いますが、やっぱり機関投資家の方にも社外役員の選定に当たって、何か一刀両断的に「この人は当社の形式的独立性基準から即だめだ」と切ってしまうのではなく、独立性と多様性のバランスを踏まえた基準を持って、適格か否かを判断していただけないものかと。独立性と多様性のバランス感の中で、その方が適格な社外取締役なのかの判断をしてほしいと、そういったメッセージぐらいは送っていただくと良いかなと思います。適切な多様性を備えた独立取締役を選びやすくなるよう、そういったメッセージもできれば、論点が拡散しない範囲で出していただければと思います。
以上です。
【池尾座長】
そろそろ予定している時間に迫ってきたんですが、神田先生、よろしいですか。
それでは、まだまだ意見はおありかと思いますが、いつもどおり、本日の討論はここまでということにさせていただきたいと思います。
本日いただきましたご意見をまた事務局においてさらに整理をしていただいて、それで次回以降、引き続きメンバーの皆様に追加の議論をしていただくということでお願いします。
最後に、事務局のほうからご連絡等ございましたらお願いします。
【田原企業開示課長】
次回のフォローアップ会議でございますけれども、よりガイダンスの内容を意識したご議論をいただくということになろうかと思いますが、日程についてはまた調整の上、ご連絡させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして本日の会議は終了とさせていただきます。散会いたします。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
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