スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第17回)議事録
1.日時:
平成31年1月28日(月)14時00分~16時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室
【池尾座長】
それでは、定刻になりましたので、ただいまよりスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議、第17回会合を開催いたします。
武井メンバーはちょっと遅れられるという連絡をいただいております。皆様、ご多用中のところをご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、まず事務局説明として、東京証券取引所から昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの対応状況につきましてご説明していただいた後、皆様にご討議をお願いいたします。
それに続きまして、企業経営の現場から見たコーポレートガバナンスの課題に関してお話を伺うため、新日鐵住金株式会社常任顧問、佐久間総一郎様、住友電気工業株式会社取締役会長で関西経済連合会会長の松本正義様及び同企業法制委員会副委員長、飯村北様をお招きしております。後ほどお話を伺いたいと思います。なお、松本様及び飯村様につきましては、今、飛行機が羽田に着いたぐらいだと思いますが、後刻お見えになる予定です。
それでは早速議事に移らせていただきますが、まず金融庁からご連絡をお願いします。
【井上企業開示課長】
前回会議においてご議論いただきました開示のプリンシプルベースのガイダンスにつきましては、記述情報の開示に関する原則(案)といたしまして、2月1日までパブリックコメント手続に付させていただいております。
また、同様に前回ご議論いただきました「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家リスト」の公表項目の拡充につきましては、昨年12月末に金融庁ウェブサイト上にて掲載させていただいております。メンバーの皆様方のお手元には参考資料1・2としてそれぞれお配りしておりますので、適宜ごらんいただければと存じます。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
それでは、東京証券取引所から、改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況についてご説明をお願いします。
【菊池統括課長】
それでは、昨年改訂されましたコーポレートガバナンス・コードへの対応状況につきまして、資料1-1に基づきご説明いたします。こちらは、先月末が提出期限となっておりましたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を集計対象といたしまして、直近のコンプライ・オア・エクスプレインの状況等を取り急ぎ集計した資料でございます。
それでは4ページまでお進みください。こちらは各社のコンプライ率をグラフにしたものでございます。今回の集計では全ての原則をコンプライしている会社の割合や90%以上の原則をコンプライしている会社の割合はともに下落しておりまして、全体としてコンプライ率が低下しております。その原因は、今回改訂されましたコードのコンプライ率が低いためでございまして、その状況を次の5ページにまとめております。
この5ページの表は、今回、改訂・新設された原則のコンプライ率を示しております。今回改訂されました8つの原則のうち、コンプライ率が10%以上下落した原則が5つございまして、また、今回新設されました5つの原則につきましても、コンプライ率が80%を下回ったものが2つございます。こうしたことが全体のコンプライ率の低下をもたらしたと考えております。
次の6ページは、全78原則のコンプライ率を表にしたものでございます。今回改訂しなかったものも含めて全ての原則を掲げておりますが、コンプライ率が90%を下回っているという比較的低いものについて赤くしておりまして、こちらが12項目ございます。そのうちの8項目は今回改訂・新設された原則ということになっております。また逆に、今回改訂の対象とならなかった原則におきましては、コンプライ率が大きく低下したものは見られておりません。
次に、8ページまで行きまして、ここからは個別項目への取り組み状況についてご説明させていただきます。初めに、資本コストを意識した経営でございますが、この原則5-2の改訂では、収益力や資本効率等に関する目標の設定に際しまして、資本コストを的確に把握した上で目標を明示するという改訂がなされております。この原則では、資本コストを把握するように求めておりますが、資本コストそのものを開示することまでは求めておりませんので、コンプライ率以外に改訂の影響を見ることはなかなか難しく、また、過去のデータと比較することもできなかったのですが、今回は、各社が策定しております中期経営計画を見まして状況をまとめております。
まず左側のグラフでございますけれども、こちらは資本効率に関する目標について見たものでございまして、約63%の会社がROEを目標として設定しております。そして右側のグラフが、それらの会社の数値目標を分類したものでございまして、機関投資家が期待しております2桁以上のROEを目標としている会社は約77%ということになっております。
また、本日、参考資料としてお配りした資料1-2では、コードに基づく各社の具体的な開示例やエクスプレイン例をご紹介しておりまして、そちらにも抜粋しているのですけれども、この原則のエクスプレイン例といたしましては、次の中期経営計画の策定の際に検討するというものが比較的多く見られております。
次に10ページでございまして、ここからは取締役会の機能発揮に関する状況として、まず独立した諮問委員会の活用状況について見てまいります。この原則の改訂によりまして、取締役の指名・報酬などの検討に当たって、独立した諮問委員会を活用することが原則になっております。これに伴いまして、指名委員会・報酬委員会の設置率はそれぞれ約10%上昇し、両方ともに40%半ばほどとなっております。本原則のエクスプレイン例といたしましては、約3割の会社で検討中となっております。
また、現時点では設置を不要と考えていると開示した会社も見られておりまして、その理由をご紹介いたしますと、監査等委員会や個々の独立社外取締役の意見、助言などを踏まえて決定しており、独立性、客観性の観点から問題はなく、現時点で設置は不要と考えている、といったものが見られております。
次に11ページでございます。こちらは諮問委員会の独立性について、委員構成と委員長の属性という2つの観点から分析しております。これら2つの観点から独立性を満たす委員会、すなわち、社外取締役が過半数で、かつ委員長も社外取締役が務めているという委員会は約3割という状況でございます。
さらに、この2つの観点のうちのどちらかを満たしているというケース、すなわち、資料の一番下に文章で書いておりますけれども、過半数が社外取締役だけれども、委員長は社内でありますとか、あるいは社内と社外の取締役が同数だけれども、委員長は社外の方が務めているというケース、これらを含めますと、それぞれ6割強の委員会が一定の独立性を満たしていると評価できると思っております。
続いて15ページまで進んでいただきまして、こちらは取締役会における多様性の確保でございます。こちらの原則の改訂によりまして、多様性の要素としてジェンダーと国際性という2つが明示されておりますけれども、まず左側のグラフのとおり、JPX日経400の会社におきましては、女性取締役を選任している会社は約半数という状況でございます。また、エクスプレインしている会社のうち検討中とした会社も約50%ございます。
次に、右側のグラフでございますが、こちらは外国籍の取締役の選任状況を見たもので、約15%の会社が外国籍の取締役を選任している状況でございます。
続いて17ページに参りまして、政策保有株式の縮減でございます。こちらの原則の改訂では、縮減に関する方針を開示すべきとされたほか、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかといった観点から検証して、その内容を開示すべきとされております。
左側のグラフは、各社の政策保有に関する方針の記載状況でございますが、74%の会社では保有意義の薄れたものについて縮減を行っていくと明言しております。
右側のグラフは、検証内容の開示におきまして、明示的に資本コストについて言及があるかどうかを見たものですが、ほぼ半々という状況になっております。また、こちらのエクスプレイン例といたしましては、業務提携や取引関係の維持強化のため必要と認められる場合は政策保有を続けるという例が多く見られております。
また、こちらの資料には記載しておりませんが、今回のこの原則の改訂とあわせまして、補充原則として、取引縮減の示唆などにより政策保有株式の売却を妨げるべきではないというものが新設されております。これに関しましては、数は多くはないのですけれども、いわゆるコンプライ・アンド・エクスプレインの形で売却を妨げないと明言する会社も出ております。
続いて19ページに参りまして、個別項目の最後としてアセットオーナーでございます。この原則では、企業年金がアセットオーナーとしての機能を十分に発揮できるよう、上場会社において人事面や運営面での取り組みを行うとともに、その内容を開示するように求めております。開示された取り組みの内容を確認しましたところ、左のグラフのとおり、運用に当たる適切な資質を持った人材の配置を行っているとしている会社が一番多く、216社見られております。
駆け足でございましたが、改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況についての説明は以上でございまして、次の20ページ以降は、ご参考といたしまして、私ども東京証券取引所で行っております市場構造の在り方等に関する検討の状況について簡単にご紹介をさせていただきます。
本件につきましては各種メディアでさまざまな報道がなされておりますものの、現時点において具体的に決定していることはございません。現状といたしましては、昨年10月に有識者による懇談会を設置して議論を重ねているという状況でございまして、昨年末からは、現在の市場構造や上場基準が抱える課題や改善点に関して3つの切り口、すなわち(1)エントリー市場の在り方、(2)ステップアップ先の市場の在り方、それから(3)市場移行・退出の在り方、この3つの切り口について広く意見を募集している状況でございます。上場制度の見直しは多くの関係者に影響を与えますことから、今後は市場関係者の皆様から寄せられた意見を丁寧に分析・整理した上で、望ましい市場構造の姿について議論を深めていきたいと思っております。
私からのご説明は以上でございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、皆様からご意見等をお伺いする討議の時間に移りたいと思いますが、そうはいいましても、本日は14時半をめどに、お招きしているゲストの皆様からのご説明、意見交換の時間に移りたいと考えておりますので、15分ほどしかとれませんので、そのあたりご承知の上、円滑な議事の進行にご協力いただければというふうに思います。では、ただいまの東京証券取引所からのご説明に関連して何かご意見、ご質問がございましたら、よろしくお願いいたします。じゃあ小口メンバー。
【小口メンバー】
短期間で対応状況をまとめていただきまして、大変参考になります。ありがとうございます。
最近、英国コードについて書いた記事を読んだのですけれども、英国でもコンプライ・オア・エクスプレインではなくて、多くはいまだコピー・アンド・ペーストというふうなことが書いてあったので、意味あるエクスプレインが評価される土壌を構築していく観点からも、資料1-1というよりも1-2のような参考事例、参考資料のように具体的な記述を共有化していくというのはすごく大事だなと思っています。
その上で、時間も限られているので3点に絞ってコメントしたいのです。
参考資料のほうになってしまうのですけれども、まず資本コストのお話がさきほどございましたけれども、資本コストについては、当然企業ごとに事業リスクや財務リスクが違うので、株主資本コストも違いますね。したがって、目標とするROEも違いますねということだと思うのですけれども、その意味で、ROEの絶対値も大事だということでしょうが、むしろ資本コストを意識した経営を求めるとした今回の原則5-2は、これはもう企業と投資家にとってすごく大事な概念だと思うのです。ただ、企業ごとに違うとはいっても、リスクフリーレートが大体1から2で、リスクプレミアムが5から6といった、そういう共有化されたレベルからですと、例えば参考資料の4ページに出ていますような株主資本コスト8というのは理解できるのですけれども、3ページの下の小売業のほうですか、CAPMから2.8とか、あるいは負債金利の節税効果を加味したWACCの場合、その上のその他製品で1.5とかありますけれども、こういうレベルになると正直言って理解に苦しむ部分があります。開示があって議論できるのであって、開示自体は評価されるべきですけれども、こういう開示の実例を見ると、先ほどご説明のあったようにこの原則については開示が要求されていないので、コンプライした企業も含めてだと思うのですが、やはりここは、対話がすごく必要な部分であるというのを改めてこの資料を見て感じました。
2つ目は、独立性の高い諮問委員会の活用ですけれども、今日本には3つの機関設計がございまして、特に新しく導入された監査等委員会設置会社については、海外のほうからも、原則4-8の独立社外取締役2名を満たすために、監査役設置会社の社外監査役を独立社外取締役に移行しただけじゃないかという声も聞こえてくるわけです。監査等委員会については、監査等委員以外の取締役の指名や報酬に関する意見陳述権という新しい権利があるのは理解していますけれども、そのことが独立した諮問委員会をつくらなくてもいいということにはならないと思っています。その点、参考資料の7ページにある情報・通信業のように、監査等委員会設置会社に移行しながら、独立社外取締役を積極的に活用して、実際に独立した諮問委員会をつくり運営するといったことは、数値基準を満たすためではなく、実質を伴っているとの発信につながり、監査等委員会設置会社は実質が伴わないのではないかという懸念の払拭につながるということで、ポジティブな取り組みだと思っています。
最後は政策保有株式です。政策保有株式はこの会議でもだいぶ議論されたわけですが、大きく資本の空洞化と議決権の空洞化という両方の問題があって、その両方を解決するためには縮減という方針が出たというふうに理解しています。ただ、この2つの問題というのは、ともすれば、さきほどもご説明がありましたけれども、資本コストを上回るようなリターンが出れば、議決権はその犠牲となってといいますか、議決権が空洞化してもいいとは書いてないのですが、そういうトレードオフが何となく黙認されるような懸念がございます。よくよく考えてみると、株式投資をしていて資本の空洞化が解消されるということは、政策保有株主に特別な利益が与えられているということかもしれないので、そういう特別な便益と引き換えに、経営がどうであっても議決権でサポートするということになってしまうと、通常の機関投資家による、純粋なという言い方もおかしいのですけれども、純粋な議決権行使の効果が薄れるという懸念はやはり持っています。第一義的には資本の空洞化の話があって、それについて語ることはいいことだと思うのですけれども、そのことと議決権行使というのは切り離して考えるべきではないかと思っていまして、機関投資家と同じように受託者責任を果たすという目線で、特別な便益を受けようが受けまいが議決権を行使するのが本筋ではないかと思いました。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。それでは三瓶メンバー、お願いします。
【三瓶メンバー】
ありがとうございます。簡単に。今回の改訂コードに対するコンプライ・オア・エクスプレインを集計していただきありがとうございます。ただ、この集計でどれくらいエクスプレインしているのか、コンプライしているのかというのはひとり歩きする可能性があって、使い方というか理解、解釈というのが大事だと思います。私が見る限り、今回、意味のあるエクスプレインが増えたことについて、歓迎する部分があります。
一方で、これはコンプライといっているけれども、どこにどうコンプライしているのかわからないというのがあります。例えばコンプライしていると言いながら、内容を読んでみるとそうかなと一番多く思うのは、原則1-4。また、どうコンプライしているかわからないというのは原則5-2、4-3の②、③、この辺ですね。会社によっては原則3-1の情報開示のところで、次の株主総会の参考資料で資本コストの考え方については述べますと書いている会社もあります。ただ、それでほんとうにコンプライなのかなというのはあります。ですから、表面的なコンプライとエクスプレインを集計するというのは、ある種の情報として大事なんですけれども、そこは利用者は要注意だと思います。中にはコンプライ・アンド・エクスプレインをされている会社さんがあって、これは大変参考になります。
今回、全体として改善が見られたなと思ったのは、原則の4-11の③、取締役会の実効性評価ですが、これは皆さん進められています。その中で、先進的な会社は、委員会についてもその実効性評価が述べられています。これは大変重要なことで、今回指名または報酬委員会等の設置を促しているわけですが、その実効性評価もしていただいているというのは大事なことだと思います。
そこで、追加でこういうのがあればなということで申し上げますと、特に指名・報酬委員会というような、1つの委員会で両方の役割を担っている場合に、どういうメンバーであるか、また開催回数はどのくらいであったのか、議題はどうであったのか、非常に簡単でいいんですけれども、全部あわせて2行か3行ぐらいに書けると思うんですけれども、その情報があると、指名に関するディスカッションがどのくらい、報酬に関するディスカッションをどのくらいというのがわかって、1つの委員会で両方兼ね備えている場合にはわかりやすいと思います。
それと、これはちょっと蛇足ですが、今回見て思ったのは、コーポレートガバナンス報告書の報告の仕方で、特に指名・報酬の任意の委員会がある場合に、ガバナンス報告書で表がありますね、指名のところにだけ記載される会社さんと、同じことを指名の欄と報酬の欄に繰り返し書かれる会社さんがあって、東証さんの検索のページで試してみたんですけれども、報酬のところに書かれていないと報酬で検索したときにその会社は浮かび上がってこないので、これはちょっと東証さんに要望というか、会社さんに、指名・報酬の場合には両方に同じことだけれども書いたほうが集計したりするときに正しく拾えますよということをお伝えいただくのがいいかなと。私も個別にお会いしているときにはそういうことをお伝えしていますけれども、そんなことが気がついた点です。
以上です。
【池尾座長】
ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
私も三瓶メンバーのご意見に全く賛成で、やっぱりしっかりエクスプレインしていただくほうが、単にコンプライというよりは好感が持てるというと変ですけれども、真摯な取り組みだという印象をむしろ与えるという感じがいたします。
東京証券取引所からの対応状況に関するご説明に関連して、特に追加のご意見あるいはご質問ございませんでしょうか。よろしゅうございますか。
それでは、本日お招きしているゲストの方からのご説明に移りたいと思います。
まずは、新日鐵住金株式会社常任顧問佐久間様より、15分程度でご説明をお願いいたします。佐久間様からは資料2のご提出をいただいております。それでは早速ですが、よろしくお願いいたします。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ただいまご紹介いただきました新日鐵住金の佐久間です。よろしくお願いします。座ってお話しさせていただきます。
本日は、このお手元の資料に沿ってお話ししたいと思いますけれども、本日の趣旨に応えるものというのは、本資料の最後のページでございます。その他のページというのは、ほぼ背景として簡単に触れさせていただきたいと思います。
まず、会社の概要と経営課題。ここにありますように、鉄中心の会社であります。鉄以外の化学についても、これは鉄鋼製造の原料になります石炭系の化学、新素材というのもメタラジー、冶金系、あとシステムソリューションというのも、これもまさに鉄鋼製造販売で一番重要な情報処理をベースにした会社ということでございます。
国内の拠点というのは、当社は合併・統合会社でございますので、全国各地に点在している。
海外展開、これは北米、中国をはじめとするアジア中心にやっています。
世界の立ち位置というのは、鉄鋼はもう世界の半分を中国がつくり、この2017年の上位10社のうち5社というのが中国企業、それもほとんどが中国の国有国営企業という状態になっているということでございます。
この図は輸出品目ということでございますけれども、意外と鉄鋼というのは日本の製造業の栄枯盛衰の中でも、みずから言うのも変ですけれども、意外と健闘していると。これは何を意味しているかというと、やはり日本でつくる競争力というのがまだあるということです。その理由も非常に単純でして、製鉄原料というのは中国ですら豪州等から輸入しているということで、かなりのコストを占める原料の条件が一緒ということでございます。あとは技術の差があるのかどうか、こういうところで決まってくる。
実際今、当社が大きい形で目指しているのが、「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」で、「鉄を極める」ということでございます。この意味というのは、製品として極める、あと事業としてもグローバルに極めるということでございます。
なぜそういうことになったかという背景を若干ご説明しますと、1985年のプラザ合意の後に急激な円高がありまして、当時、国内製造拠点のいろいろなところにあった高炉、これは31基あったわけですが、それを13基まで落とした。その一方で、複合経営と称しまして経営の多角化を試みましたが、結論としましてはほとんど失敗しました。そのときあったものは、個人的に私がかかわったものだけでも、半導体、シリコンウエハ、パソコン、これはもう皆さんご案内ではないと思いますけれども、リブレックスというブランドで売りました。あとコピー機、電送機、不動産ビジネス、テーマパーク、これは北九州のスペースワールド、老人ホーム、これはつい最近まで2つ経営していました。さらに通信販売。私はかかわっていませんけれども、会社としてはキャビアの養殖とかホカロン、マイタケ等々もやりましたが、ほとんど失敗でした。その反省もあって、原点に戻ったということです。
原点というのは何だったかというと、この資料はちょっと理科の授業みたいで恐縮ですが、鉄というのは極めて身近なのでありふれてはいるのですが、この地球において極めて特異な物質です。特にこの2番目、鉄というのは、常温つまり固体状態で温度によって結晶構造が変わる。この地球の上で鉄とチタンしかない。2回変わるのは鉄だけです。あと、最も大きいのが3番目、鉄が磁石につくということですね。常温で強磁性を持つというのは鉄とニッケルとコバルトだけ。ただ、ニッケル、コバルトというのはレアメタルで高くて使えませんので、この電気社会において実際使えるのは鉄だけです。当然これは発電機、変圧器、モーターのコアに必須ということであります。これを産業の視点から見ると、豊富だということで当然安価だということ。あともう一つ、先ほど言いました特異な特性がございますので、理論値に対して、まだ鉄というのは1割から2割の強度しか発揮できていない。つまり、この後開発が進めば、今の何倍もの強度を持ったものが生まれてくる可能性がある、実際今それに向かって我々は研究しているということです。
あと、環境の負荷も、これは皆さんが思っているのと違うと思いますけれども、極めて環境負荷が低い。それはなぜかといえば、まずリサイクルが極めて簡単。これはごみの山に磁石を入れてくっついて出てくるものは鉄だけということです。なおかつ、リサイクルする上で製品が劣化しない。これはもうアルミ等々はなかなかそういうわけにいかない、どんどん劣化して、要するにグレードの低い製品しか蘇らず、最後は捨てる。鉄の場合はほぼ100%リサイクルできるということであります。あと、ライフサイクルで考えれば、アルミ、炭素繊維に比べて造るときの炭素負荷が少ない。さらにリサイクルで圧倒的に負荷がかからないということで、いわゆるLCAで見たときには非常に環境負荷が低いというものであります。
あと、需要面は、これは長期的に見れば世界的に需要は確実に増えていく。そういう意味で、我々としては、世界がどう変わろうと、また競合材が出てこようと、鉄づくりというのは地球にとって必然的なビジネスだと。
ただ問題は、それを誰が担うか。当然我々は我々が担いたいと思っているということで、ここに書いていますのは、2020年までの3年の中期計画。これは今後の環境変化に応じた資源投入、特に設備投資というのが3年間で1兆7,000億、これは減価償却を超えるレベルという、ある意味では、要はなかなか大変な時期だということであります。
これが具体的な数値目標です。ここからが若干具体的な話に入りますけれども、先ほど言った中期的にいろいろあるにせよ、今年の重点課題というのは何なのか。非常に基本的なことで、収益基盤の立て直し、中期計画等の完遂、そして業務改革等の推進。
その中で、収益基盤の立て直しで一番に来ているのが安全です。これは多分皆さんの職場というのは、物理的な作用が原因で職場で従業員が亡くなるということは極めてまれなところだと思いますが、鉄鋼製造というのは、見学された方はご案内のとおり、極めて重くて熱くて大きいものに囲まれた職場。オペレーション自身は自動化が進んでいますけれども、整備、修理修繕、トラブル対応はいまだに手仕事が多いということで、毎年重大災害0を目標にしていますけれども、達成できていません。いわゆる製鉄所で働く従業員というのは、直営に加えまして下請、我々は協力会社と呼んでいますが、それを入れると9万人。機械化とか作業レス化、あと規律向上、必死に取り組んではいます。2番目が安定生産。収益的にはこれが一番効きます。逆を言えば、今できていないということになります。大体、製鉄設備というのは、これは日本のどの会社も同じですけれども、高度成長期に主要設備はでき上がって、稼働後40年、50年たっているということで、大規模な更新が必要。当然メンテはしていますけれども、その維持コストも非常にかかっていると。ただ、これはあくまで背景であって原因ではありません。というのは、大きなトラブルが起きていない製鉄所もある。これはどこでも起きていればそういうことになりますが、やはり人や管理の問題があるというふうに今考え、取り組んでいる。
あと、鉄鋼というのは、かつて産業の米と言われたように、実は農業に近い。天候に左右されます。海が荒れれば、これは船が主体ですから、出荷が滞る。大雨が降れば原料の調整で、急に冷え込むと出荷待ちの鉄板に結露が生じてさびてしまう。これは鉄に限りませんが、最近の異常気象の結果としまして、浸水、冠水がある。また、鉄というのは、先ほど言いましたように温度によって結晶構造が変わりますので、生ものです。できたてでお客様に届けないと固くなってプレスができないという、そういう特殊な製品もあるということで、近年の異常とも思える天候の変化に対応するというのも足元の課題になっています。また、3番目の営業力発揮、これは付加価値を最大化すると。はっきり言って値上げです。あと4番、これが海外事業の強靱化、当然赤字、継続事業からの撤退も含めてということになります。
次が当社のコーポレートガバナンスの現状ということで、監査役設置会社であります。
これが現在の役員体制で、取締役会というのは11名の業務執行と3名の社外取締役の方、そして7名の監査役がいるということで、業務執行に対しての監視監督というのは、11名に対して10名が目を光らせるという体制でございます。役員人事報酬会議というのは、これは監査役設置会社ですから、任意の委員会として設置している。
取締役の報酬ですが、現金による月例報酬のみ。全額業績連動ということで、じゃあ何に連動しているかというと、連結の当期損益と製鉄セグメントの経常利益の前年度実績ということになります。
ここからがコーポレートガバナンスにかかわります課題ということになるわけですが、まず最初に、Implementation、これは極めて重要です。ただ、先ほど説明しましたように、足元の重点課題でもなかなか苦労している。生産計画にしろ、販売計画にしろ、計画一流、実行二流、言いわけ超一流と、これではいけないということで頑張ってはいますが、実行力の強化というのはなかなか妙案はないということで、社外役員の方に𠮟られながら地道に取り組んでいる。ガバナンスでいえば、業務執行の取締役を叱れる人、で、𠮟られたときには𠮟られた側が畏まる人、こういう方がボードにいることが重要だと思います。
次に役員体制ですが、もちろん今年の6月定時株主総会に向けて検討中ということです。あと、一般論としていえば、業務執行役員は内部人材の登用が基本になっています。これは、まあ将来わかりませんが、現時点では社内に適任者がいるということでありまして、これはある意味で日本の会社の実態ではないかと思います。ただ、この辺は日本の社会全体が欧米と違って担当者の時代からなかなか流動していない。官と民、学と民との間の双方向の流動があるという社会ではないので、流動性というのが役員になって急に高まるというものではないかと思います。
ただその点で、合併というのは、ある意味外部人材の劇的な取り込みになります。当社はご案内のとおり、6年前、旧新日鐵と旧住金が合併しました。その当初というのは、お互いにとっては社外役員がボードにあふれていた、こういうのが実態でありまして、個人的にいえば、合併というのは人材取り込み、ガバナンスの透明性、アカウンタビリティーの向上に極めてプラスだと思います。
社外役員、現状でいえば7名の立派な社外役員がおられますが、この点でいうと、あまり独立性の必要性というのを過度に強調するのがいいのかという点については、疑問に思っています。先ほど言いましたように、やはり𠮟られたときに、怒られたほうが面従腹背ではなくて畏まる、もしくは、言われたことが腑に落ちる、こういうことが重要だと思っています。
そういう意味で、当社にも社外役員の方がメガバンクから来られていますが、その方の発言になぜ我々が畏まるかといえば、そことの取引関係を気にしているわけではありません。それはやはりその方が金融のコミュニティーや産業界へのインフルエンスがあるということが頭にあって、仮に当社ガバナンス等に問題があれば、当社に対する一般的な評価が下がってしまうというのを気にしているということであります。
女性の役員。これはもうはっきり言って役員レベルよりもそもそも女性の部長、課長、管理職が少ない、ここが問題だと思っています。やはり解決には時間がかかる。
役員報酬ですが、これは先ほど全額業績連動と言いましたけれども、時期ずれの問題が残っています。ですから、改善の余地はあると思います。ただ、だからといってインセンティブが効いていないことでは全くありません。これはもう時間がないので言いませんけれども、はっきり言ってしまえば、報酬をインセンティブにして働いていないというのが実感であります。これはもう役所の方は非常によくおわかりになっているかと思います。
政策保有株式ですが、当社は2012年の合併当時495銘柄ありましたが、これが361に減っています。それでも多いということですが、合併会社だったということと、過去の経営者がESG投資に極めて熱心だったということが効いていると思います。ただ、残っている会社は、個別銘柄で見ると大方は非上場です。額も極めて小さい。中身は高度成長時のインフラ整備ですね。鉄道会社に始まって、放送会社、新聞社等への小さな出資が残っているということで、逆に皆さんの関心事で言えば、上場会社、これはユーザー、消費者、金融、アライアンスということで、その必要性については都度取締役会で資金ニーズも踏まえて議論をして棚卸しをしているということです。
あとコンプライアンス、これはもう終わりのない課題だと思っています。まさに気を抜くと築城三年落城一日。当社も過去非常に痛い目に独禁法違反事件で会っています。その大きな反省として今やっているのは、社内もしくはグループ内でいかに「情報のよい流れ」をつくるかということです。コンプライアンスについて言いますと、ガバナンスのあり方は重要で当然ですけれども、どちらかというとガバナンスの構造、それも上部構造に議論が特化する傾向があるのではないか。
やはり取締役会が機能するためには、これはもうコンプライアンスに限りません、全てにおいてですけれども、審議の場に少なくとも情報の不足が発生していない、理想的には過不足のない情報が集まっているということが重要だと思います。その会社内に情報のよい流れをつくる。つまり、現場の第一線から生の情報が自然にしみ出るような仕組み、これをつくるということが重要だと思います。これは内部統制、J-SOX(内部通報システム)、最近は事業所で義務づけられているストレスチェック。その自由記述欄等々を活用していく。監査役監査との情報の共有化等々もございます。この辺はそれぞれの会社が創意工夫でやっていくということです。
当社では、これはやられている会社も多いと思いますけれども、内部通報システムとは別に、事故・事件が一定のルールに基づいて直接ラインから内部統制グループに上がるという仕組みが運用されています。従業員意識アンケート、これは全従業員ですが、毎年実施して、その中に自由記述欄というのもある。さらに、総対話といっていますが、全製造部門の管理職とコーポレート部門の課長層が一緒にずっと議論していくということもやっています。その結果、これはある意味ではミドルの活動ですけれども、経営に上がるということであります。いずれにしても、情報を集めるというよりは情報が流れてくる仕組みをつくるということが重要だと思っています。
三様監査の監査役会社については、これは往査を含めて社外監査役の方も熱心にやっていただいていますので、監査役監査の中で、我々自身の内部監査統制の取り組みが機能しているかということもしっかり見ていただいているということです。
本日、時間の制約もあって、あえて現場に近い泥臭い話を中心にお話ししましたけれども、当社はこういう課題を抱えつつ、旧新日鐵と住金の合併、日新製鋼の完全子会社化、スウェーデンの会社の買収、さらに、これは現在進行中ですけれども、山陽特殊製鋼さんの子会社化、そしてインドの一貫製鉄所を持っているエッサール社の買収、これもほぼ最終段階に来ています。また、今年の4月から、日本発祥のグローバルに鉄を極める企業として発展すべく、日本製鉄として商号を改めてスタートするということになってございます。
いずれにしても、これからもコーポレートガバナンスについては、ガバナンス・コードへの対応におきまして、形式ではなく、時々の事業環境変化と当社グループの経営課題に着実に対応すべく、実体を整えていくことが重要だと思っております。
私からは以上です。ありがとうございました。
【池尾座長】
大変どうもありがとうございました。
それでは、ただいまの佐久間様からのご説明を踏まえて、質疑応答と討議の時間とさせていただきます。どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。
どうでしょうか。じゃあ、三瓶メンバーお願いします。
【三瓶メンバー】
佐久間様、ご説明ありがとうございました。フィデリティ投信の三瓶と申します。今回、コーポレートガバナンスに関する簡単なサマリーをお話しいただいたんですが、その中で、少数株主というキーワードは出てきませんでした。で、コーポレートガバナンスを語るということは、少数株主との利益相反管理というのが非常に大事な核ではないかというふうに考えております。これについてどういう方針なり考え方をお持ちで、実際にそれを励行するためにどういったインプリメンテーションを行われているのか、お話しいただければ幸いです。
【池尾座長】
お願いします。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。当社は伝統的に少数株主の方を極めて重視しようということで、いろいろな取り組みをやってきてございます。非常にわかりやすく言えば、一般株主の方に経営の概況説明会というのを全国の主要都市で定期的に何回か開いてございますし、あとやはり我々を理解していただくためには、第一線の製造現場、製鉄所を見ていただくということで、これも地域ごとに、株主の方はいろいろなところにおられますので、そういう方を対象に工場見学会を催すというようなことをやっております。
まず少数株主の方に我々のやっていること、我々の戦略というのをご理解いただくということを第一にやり、当然その中では、かなり総会とは違った突っ込んだ質疑応答もございますし、私も何度もそういうところで説明して皆様のご理解を深めるよう努力してまいったということでございます。
以上です。
【池尾座長】
いかがでしょうか。
私からちょっと1点。今かなり大規模な投資を行わなければいけない、1兆7,000億ですか、その局面だというお話がありましたが、それに関連して、資本政策の基本的なフィロソフィーというのですか、それだけの投資をどういう形で資金調達していくのが御社にとって一番ベストだというふうにお考えかという、資本政策的な観点で補足のご説明をいただければと思うのですが。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。この設備投資というのは、サステイナブルな発展を遂げていくためには必須だと。ただ、この効果というのはものすごく先に出ます。典型的なコークス炉、これは我々は日本でやっていくんだという極めて中長期的な視点に立って決めている。逆にこれはもう必須だと思っています。ですから、歯を食いしばってでもやらなきゃいけない。で、今のご質問に関して言いますと、ただ同時に我々はその中期の中でDEレシオ等々財務体質についても目標を掲げていますので、これは両方達成していかなければいけないということで、これが全てではありませんが、わかりやすい例でいえば、先ほど出ていた政策保有の株の中で売却できるものについては、やはりそういうニーズに応える形でもしっかり対応していこうというふうに思っている。
もう一つは、最も重要なのは利益を上げるということでございますので、先ほど言った極めて基本的な、安全・安定生産、これを何としても達成することによって足元のキャッシュを生み出していく、こういうことが重要だと思ってやってございます。
以上です。
【池尾座長】
ちょっと追加ですが、利益を上げて、それを投資に使うということになれば、内部留保していくということになるかと思うのですが、資本政策に対して株主還元政策というのですか、うんと稼げばまあいいんですけれども、稼いだ資金を内部留保に充てるのと、配当性向とか自社株買いで株主に還元するのと、そのあたりについての政策の考え方はいかがでしょうか。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。配当性向は30%程度を目安ということで、これをとにかくやっていこうというふうに思っています。内部留保といいましても、当社の場合、借金会社でもありますし、実際、手元にキャッシュとしてあるものというのはほとんどなくて、結局全部設備、固定資産になっているということでございますので、そういう意味では、まず配当性向は30%を達成していくということで今取り組んでいるということでございます。
以上です。
【池尾座長】
岩間メンバーお願いします。
【岩間メンバー】
岩間と申します。一昨年まで投資顧問業協会の会長をやっておりまして、その前は東京海上におりましたのですが、2点ちょっとご質問させていただきたいと思います。
基本的には日本で歯を食いしばってやっていらっしゃるということで、今の環境からすれば、その観点で見たときのいろいろな政策としては非常に飲み込みやすい、理解できることだと私は思いますけれども、4月に社名も変更されて、合併もこなされて、いよいよグローバルにどうしていくかという段階になっていく中で、今の政策といいますか、ガバナンスも含めて、それでずっと行かれるということなのか、将来出てくる課題としてはどういうことがあると認識されているかということが1つ。
それからもう一つは、資本コストをどういうぐあいに考えていらっしゃるかということです。この2点についてご質問させてください。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。まず、将来についてということですけれども、当然、日本をベースにはしていますけれども、今日はちょっと時間の制約でここに書いていませんけれども、モデルとしては当然変わっていくというふうに思っています。
従来は一番重い設備投資が必要ないわゆる上工程、つまり鉄鉱石を鉄に変えるという高炉から転炉といったところは全部日本で持ってきて、製品系は海外展開ということでしたけれども、やはりこれからは日本の内需の問題、あと世界的なマーケットがそれぞれ独立し、場合によっては市場が閉じていくという状況を考えたらインサイダー化しなければならないということで、その第一弾としてエッサールというインドの一貫会社の買収に入っているということですので、将来は当然モデルは変わっていくと思います。
ただ、一方で、先ほど言いましたように、じゃあ今の時点で投資をやめてしまえば、それは日本国内でもうつくれなくなるということでございますので、そこはコークス炉等々上工程中心に更新はしっかりとしていくと。ある意味では両方やっていくというのが今のモデル。ただ、これは未来永劫これでやるということは当然ないわけで、そのときの環境に応じた形になっていくだろうと思います。
あと、資本コストというのは、これはもう一番我々として、これだけの借金会社、これだけのキャピタルインテンシブな産業ですから、常に考えています。ただ、その具体的な数字を申し上げるわけにはいきませんが、ある意味ではどの投資もそれが最大の論点になるということ。ただ、資本コストというのも、必ずしもそれは全てそれで決めるというわけでは当然ないわけです。ただ、当然一番重要な要素としては考えています。
以上です。
【池尾座長】
それでは、川村メンバーお願いします。
【川村メンバー】
ありがとうございました。細かい話、17ページ、18ページでご質問したいのですが、報酬を連結の当期利益及び製鉄セグメント経常利益の前年度実績で分配するというところに関するご質問なんですけれども、この17ページのほうのいろいろなお名前のところを見ていますと、ほんとうの最終的な経営に関与する方々と、それから各部門ごとの経営に関与している方と、ここに出ていない執行の方々、たくさんいろいろな方がおられると思うんですが、おそらく経営の上層部は当期利益のほうで分配をして、それからそうでない方々は、経常利益のほうが日々の働きの利益に近いですから、したがって、それのほうで分配しているのかなと想像するんですけど、その辺の何%、何%にしているとかいろんな工夫が要るのかどうなのかとか、それから製鉄セグメントだけでやると、ほかのセグメントの人たちの評価はどうなるのかとか、そういう細かいところがちょっと我々実務をやっているほうとしては気になるんですけど。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。これも今こうだというお話ですけれども、結論から言いますと、このルールというのは、当社でいえば執行役員と言われている取締役ではない、いわゆる経営の上層にもほぼ同様に当てはめています。ですから同じルールです。ここの連結当期損益と製鉄セグメントの経常利益は、これはある加重をしまして、両方の要素で見ていくと。
【川村メンバー】
全員が?
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
全員がです。ということで、先ほどちょっと概要で申し上げましたように、9割が製鉄ですので、残りもある意味では製鉄にかなり密接なところですので、そこにそんなに大きい乖離が生じるということはありません。あとちなみに当社の場合は、組合員の賞与というのもこの製鉄セグメント経常に単純にある計算、これはもう公表されていますけれども、それで決めていくという体制をとっています。
【川村メンバー】
ちょっと細かくて恐縮なんですけれども、そのある比率で分けるときは、役職によって比率が変わってくるわけですか。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
役職によって分けていません。ただ、役職によって基準になる額というのが役員によって決まっていまして、それを業績で全部振っていくというときの振り方の要素としてこの2つだけを用いていると。あと、厳密に言うと、ここで挙がっている社外の方は、ちょっとその振れ幅というのが極めて限られていますので、社外の方は、結果的には今までは固定で来ています。これはもう開示していますから、皆さん分析されればすぐわかると思います。
以上です。
【川村メンバー】
それをこの17ページに書いてある5名の方で決めていくわけですね、報酬会議ですから。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ここで議論をしまして、決めるのは当社の場合は取締役会で決めます。ですから、ここでそういうのでいいのかというところの議論があって、それを踏まえて取締役会にかけて、それで取締役会で合意された後は、ほぼ機械的にそれが当てはまっていくという形式をとっているということでございます。
【川村メンバー】
わかりやすいですね。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
もう極めてそういう意味ではわかりやすいのですが、感覚的にいうと、他社さんに比べて相当増減が大きいです。それはまあ、もうかっていないからというのでしようがないんですけど。
【川村メンバー】
いや、普通は固定分が必ずありますから、ならされちゃうわけですけど、これだったら非常にクリアだなとは思いますのですけれども。ありがとうございました。
【池尾座長】
じゃあ小口メンバーお願いします。
【小口メンバー】
ありがとうございます。御社はいつも、例えば投資家との会議でも、日本の監査役設置会社を代表してそのメリットをよく訴えられている立場で、確固たる信念をお持ちでこの制度を使われているのかなというふうに理解しております。その意味で、資料の16ページとか21ページ目からで、なぜ監査役設置会社なのかということをおっしゃりたかったのかなと思ったのですが、おそらく時間の関係であまり説明がなかったと思うのです。そこで、監査役設置会社の強さといいますか、多分監査役設置会社に慣れていない海外投資家などとの議論の中で、どういったギャップを感じて、正直、外人投資家が理解していないなと思われる部分というのはどういうところにあるのかというのを教えていただけたらと思います。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。まず、今ご指摘のあったなかなか理解していただけないというところは我々も海外の機関投資家と直接お会いして、そういうことになるだろうということで、結構最初から、監査役会の機能というのを説明をします。結論を一言でいうと、極めて強い権限を監査役は持っていると。でも、そういいますと「でも1票持っていませんよね」という話になりますが、1票持っていないどころか、監査役というのはご案内のとおり独任制ですから、ほんとうに問題だと思えば監査報告書で適正意見を書かなければいいということですから、まあほんとうにそれをやられたら、社長なり業務執行はやめないといけないと思うんですね。まさかそんなものを監査報告書に書かれるということは普通あり得ませんから。
という点で、監査役は極めて強いのと、もう一つは活動において制限がないということです。ですから、当社の社外の方、大変申しわけない、非常にお忙しい方ですけれども、海外を含めて往査に実際に行っていただくと。そういう社外の方から実際往査に行ったときのご意見というのを全部経営にいただいて、それはかなり視点が我々と違います。内部監査とは視点が違います。共通する部分はあるけど視点が違うということで、非常に貴重な情報もいただいています。なおかつ、ご案内のとおり監査役は必要経費というのは全て認められているということで、先ほど言った、かつて独禁法違反事件のときは、監査役は独自に弁護士事務所を雇って全面調査をした。これはもう執行系列と別にです。ということですが、当然これはダブルで体制を持たなければならない。つまり監査役監査というのは全然別ですから、内部監査部隊とは全然別。情報はもちろん共有するところはありますけれども、ダブルで持つということで、コストはかかりますが、これは当社ぐらいの規模というか全体のコストに占めればそんなに大したことではありませんので、それよりは得られる効果が大きいということでやっている。
あと、これはもう皆さん実際、社外監査役を抱えておられる方は感じておられると思いますが、実際の取締役会では社外監査役の方のご意見というのは、こういうところがコンプライアンスが問題だということよりは、やはり戦略にかかわるところなり、我々でいえば安全・安定生産に対してのお𠮟りというのがかなり大きくて、それはものすごく我々にとってこたえるという点なので、その議論においては社外取締役会の方が7人いるという事態とほとんど変わらないと思います。
以上です。
【小口メンバー】
ありがとうございます。
【池尾座長】
いかがでしょうか。じゃあ田中メンバー。
【田中メンバー】
ご説明ありがとうございます。ちょっと個人的な話ですけれども、かつて銀行におりますときに御社の担当を2回やっていまして、ここにあります工場もほとんどご案内頂いた経験がございまして、実はその当時から、いわば御社にいろいろなことを教えてもらったという負い目があるんですけれども、今日のお話を伺いますと、その頃に比べて随分様々なことが変わってきているなという印象があります。まず質問をさせて頂く前に、このいただきました資料の中で、7ページに日本の基幹輸出品目で鉄鋼業が4.2%と出ているわけなんですけれども、これはよくよく考えると、自動車とか自動車部品も鉄がいっぱい含まれているんですよね。ですから、そういうふうに考えると、本来、鉄鋼業の役割というのはもっと大きく考えてもいいんじゃないかと思うんですけども、そういう気が私は1つはしております。
そういう中で、その前のページにありますように、これは2007年に急に世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量が変わって、この前後、私は何回か担当させていただいたんですけど、非常に世界的にグローバルにM&Aが、特にミタール社が中心だったと思うんですけど、中心になって動いていたという時期がありました。そのときに、さっき申し上げましたような7ページのような日本の産業構造の中では、やはり御社のいわば日本の産業界における役割が非常に安定的でなきゃいけない重たい役割があるということで、当時実は政策投資株を買い増した覚えがあるんですよね。
恐らく今はそれは売っているんだろうと思うんですけども、つまり何を言いたいかといいますと、政策投資株というものの役割というのが、ただ単に一遍買ったらそのままずっと塩漬けで、お互いに毎年見直しをしないというようなものではなく、機動的にそれは動いてもいいんじゃないかという気が私は当時からしておりまして、今ここの資料にありますような開示例の具体例を見ますと、非常にその辺が、毎年毎年各社見直すところがベストプラクティスとして出てきているところが評価できると思います。御社自身も見直しておられるというのは、これは非常にいろいろなことが進んできたんだなという気がいたしております。当時から比べても非常にいろんな方針が変わってきたという気がいたします。
で、ちょっとご質問を二、三させていただきたいんですけれども、1つは、コーポレートガバナンス・コードとかスチュワードシップ・コードというものを考える中で、中長期的な、サステイナブルな企業価値の向上ということをよくいうんですが、御社にとってはその企業価値というのは今どのように考えておられて、そしてそれはどういうふうにメジャーされているのか、測定されているのかというのが1つあるだろうと思います。これは投資家から見ると非常に大事なポイントだろうと思います。
それから2つ目は、これは22ページにあるんですけれども、左側に重要な業務執行の決定、これはもう皆さんよくご存じのことで、監査役設置会社とほかの形態との一つの大きな違いというのは、この重要な業務執行の決定を取締役会でやらなきゃいけないということですから、毎月1回以上の取締役会をやらないと業務が推進できないということで、この負荷というものが一つの非常に大きなテーマになることがあるんですけれども、今、どれくらいの頻度で取締役会をやっておられて、それが大きな経営上の負荷になっていないのかという点が2点目です。
それから3点目は、監査役、私も知っている人がたくさんいますけれども、この方々も立派な方なんですが、さはさりながら、この方々だけで御社みたいな大きな企業の全体の監査をするというのは、非常に負荷が大きいと思うんですけれども、そのサポート体制といいますか、監査役の、昔は独任制だからひとりでやりなさいみたいなところがあったんですが、最近はそこら辺のサポート体制というものはどのようにされているのか。この3点だけご質問させていただければと思います。よろしくお願いします。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。まず、企業価値ですけれども、やっぱりこれはまず足元の利益、そして中長期的にどれくらい利益を上げられるかというところで評価される、当然足元は時価がある。こういう中で、我々としてどう考えているか。我々の場合はそれを根源的価値といっていて、じゃあそれと今の時価の開きがあるのかというと、我々は開きがあると思っていますが、株価のことは絶対こういうところで言ってもせんないことなので言わないことにしていますが、我々自身では企業価値はこういうものだというのはある程度考えなければいけないというふうに思っています。
監査役会社においての取締役会の頻度ですが、これは大体月1回で、かなりたくさんありますが、監査役会設置会社ではない、委員会設置会社では、先ほどの会社法でいえばどんな重要な個別の投資決定でも執行に任せればいい、つまり社長が決めてもいいということになっていますが、実際日本で起きているのは、委員会設置会社は逆に足し算で、結局は重要なことは取締役会で決めておられる。リスク管理の上で。つまり、何も決めていないということではないというふうに我々のつかんでいる限りでは理解しています。逆に監査役会設置会社も、これを全てやっていくと大変なので、そこはやっぱりある重要性の基準で切って、ここは引き算していくということ。そうじゃないと、月1回ぐらいでは回りません。ただ、じゃあ月1回なり取締役会をそういうことで開くと、何かそれが仕事のスピード感に影響が出るんじゃないかと言われますが、そういうことは全くありません。それはそういうスケジュールでやればいいと。我々も何度も国際的なビッドのときに、相手はもう当然欧米の企業、それと入札をやりますけれども、そこで時間的に我々が負けるということは全くない。それはちゃんとある程度それを見越した上で、その執行が取締役会から事前にある枠をとっておけばいいということですから、それはいかようにでも対応できます。ただそこは非常に計画的にかなり忙しくやらなければいけないので、ちょっと働き方改革には反してしまうなというのが反省ですが、いずれにしても、そこは何とかクリアしているということでやってございます。
あと、3番目のご質問が……。
【池尾座長】
サポート体制。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
あ、サポート体制ですね。監査役そのものにはサポート体制を当然敷いておりまして、部長以下数名の専任がおります。ただ、当然その人たちだけでは全部回りませんので、そこである程度の情報の共有化というのはしています。これは内部監査部門からの情報も行っています。ただ、それに頼ったのでは監査役監査になりませんので、ある意味では監査計画を当然監査役の方々はつくった上で、先ほど言いましたように、かなり頻度高く活動をされています。
例えば、往査の回数だけでも年間で数十回、これは本体だけですね。グループ会社もありますから、やっぱりそれも数十回。あと個別事案の聴取というのもありますので、これは年間何百件とやっておられるということで、昔の、ちょっと言葉は悪いんですけれども、昼間からそば屋で日本酒を飲みながらという監査役というのはもう全く都市伝説でありまして、大変忙しい日々を送っておられると。社外監査役の方も、ある意味ではちょっと大変だなというふうに感じておられると思います。
以上です。
【池尾座長】
ありがとうございました。それではそろそろ次に、住友電気工業株式会社取締役会長で関西経済連合会会長の松本様及び同企業法制委員会副委員長の飯村様より、申しわけないのですが、あわせて15分程度でご説明をお願いいたしたいと思います。資料3のご提出をいただいております。それでは早速ですが、よろしくお願いいたします。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
住友電気工業の会長をやっておりますと同時に関西経済連合会会長もやってございます。今日は飯村弁護士と続いて質問があったら回答させていただきますので、よろしくお願いいたします。
まず、本日はフォローアップ会議の場にお招きいただきまして、発言、意見交換をさせていただく機会をいただきましてまことにありがとうございます。
コーポレートガバナンス・コードについて、一般的にも言われていますとおり、経営の前提となる重要な原理原則について明文化することにより、自明であるがゆえに見失いがちな部分を意識させる枠組みとして意義が大きいと考えております。一方、昨年6月改訂後のコードにつきましては、課題もあるものと認識しております。関西経済連合会では、昨年末に改訂コード及び四半期開示に関して会員企業へのアンケートを実施してございまして、関西経済界の生の声も集まってきてございます。本日は、そのような情報を紹介することに加えまして、私自身が日々感じている企業経営の現場から見たコーポレートガバナンスの課題について話をさせていただきたいと思います。
具体的に話をさせていただく前に、まずはこのコーポレートガバナンスに関する基本的な考え方について触れさせていただきます。それでは資料の2ページ目をご確認いただきたいと存じます。まず、(1)から(4)まで4つの項目を記載させていただいております。まず、上から順番に説明させていただきます。
(1)日本企業が企業価値を向上させてきた経緯等についてでございます。我が国企業のビジネスの基本形として「三方よし」という考え方がございます。これは関西の商人道や商業道徳に源流を持つものでありまして、現在に至るまで脈々と引き継がれているものであります。
住友グループにも自利利他公私一如という言葉が引き継がれております。住友の事業は住友自身を利すとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならないという考え方になります。50年前に住友に奉職いたしました。これにつきまして何回も何回も経営者から聞かされておりまして、この源流は450年前から住友の家祖、家を興した住友家の1代目がつくったビジネスフィロソフィーでございます。住友自身を利すとともに国を利し、国家を利し、かつ社会を利すものでなければならないという考え方であります。
企業活動は、株主、従業員、顧客、取引先、地域社会などの多様なステークホルダーがかかわることによって成立しております。言うに及びません。我が国企業は今日に至るまで、こうしたステークホルダーとの関係を踏まえながら企業価値を総じて向上させてきた経緯がございます。我が国企業の今があるのは、多様なステークホルダーとの中長期的な関係性があったからこそと言えます。
続きまして、項目(2)経営指標としてのROE偏重についてであります。最近、指標としてROEが重視される傾向にあると認識しております。各社のオフィシャルホームページ等で経営計画を確認すると、数値目標としてROEが使用されているケースが大変多くなっている。ROEは一つの指標であり、我が社住友電工においても、他社との比較可能性の担保などのため、結果として中期計画におきましてROE8%以上を掲げておりますけれども、ROICも並行して用いております。ROEは資本効率について完全な全体像を示すものではないため、単一の指標のみを過度に重視することは適当ではないと考えております。ROE偏重の企業経営は、結果として短期的利益志向や過度な配当、自社株買い等を助長することにつながり、企業の持続的成長の阻害要因になりかねないといった懸念を持っております。
続きまして(3)長期的視点と逆行する懸念であります。SDGsをはじめ世界のモメンタムとしましては、中長期・持続的な視点を前提として動いている現状がございます。先ほども触れましたとおり、我が国の企業は長期にわたり多様なステークホルダーとの関係を踏まえながら、企業価値を総じて向上させてきた経緯がございます。各ステークホルダーとの関係を十分に踏まえながら、長期・持続的な視点は、日本企業の根底にある経営哲学でありまして、我が国がSDGsをはじめとする世界の潮流と軌を一にしております。我が国はその流れを踏まえて牽引していくべき立場にあると考えます。そのような観点から考えますと、先ほども触れましたROE偏重や四半期開示制度は、世界の潮流より今や半周、1周ほどおくれて制度設計がなされようとしているのではないかとの懸念を持っております。
最後ですけれども、(4)コーポレートガバナンス・コードのあり方であります。大切なのは形式の整備ではなく、実質を伴ったものにつくり上げるかということになるかと考えます。企業経営者も身を持して自社の経営や事業のどこに改善・強化の余地があるのかを正しく把握し、いかに実質を伴ったものにつくり上げるのか、そしてそのことについて、ステークホルダーの中でも重要なポジションを占める株主、投資家の理解をいかに得るかを真摯に考えていく必要があると認識しております。
次に残りの時間ですが、直近の関経連の意見発表、改訂コーポレートガバナンス・コードへの課題認識等について話をさせていただきますけれども、その全てについて、ただいま紹介させていただいた基本的な考え方が前提にあることをお含みいただければと存じます。
続きまして、直近の関経連の意見発信について紹介させていただきます。資料の4ページ目をご確認いただければと存じます。2018年4月に「実効性のあるコーポレートガバナンスへの改革に関する意見」を関経連として発信いたしました。まず、(1)四半期開示の義務づけを廃止すべきについてであります。廃止すべき理由としましては、資料に記載の3つの弊害があると考えております。まず第一に、短期的利益志向を助長すること、第二に、形式的、定型的な開示内容であり、中長期の企業価値向上のために有用な情報となり得るものではないこと。3つ目、働き方改革の潮流と逆行するのではないかというそれぞれの点でございます。また、四半期通知が実効性のある企業と、投資家の対話につながっていない実態があると感じております。頻度が高い数値が存在するために、本来対話するべき中長期経営等の論点について対話の中で深掘りができていない実態があるものと感じております。
四半期開示につきましては、会員企業に実施した調査との関連で、最後にも触れさせていただきますけれども、一旦次の項目の説明に移ります。
続きまして、(2)取締役の構成について各社の事情に応じた制度にすべきについてという部分であります。社外取締役3分の1以上やジェンダー、国際性を意識させる記述により形式的な取締役選定を助長する懸念を持っております。女性取締役の登用については、企業を取り巻く環境変化への対応力を高める上でも進めていくべきであると考えておりますけれども、そもそも候補者が少ないという実態があります。候補者を社内外を問わず求めていくためにも必要なのは、コードでジェンダーを意識させることではなく、まずは女性のキャリアアップ支援に向けた環境の整備が重要であると経営者は考えるべきであります。
続きまして、(3)政策保有株式等について柔軟な制度設計とすべきという部分であります。株式の保有については、過去の安定株主確保という時代から事業提携、戦略的提携という形に変わりつつあります。コードによる一律の形式的開示対応ではなく、企業と投資家の個別の対話を通じた相互理解を促す方向性での内容とすることで、結果として投資家や保有側の理解が促進されるものと考えられます。
資料の下のほうに、昨年6月1日に改訂されたコードに対する課題認識について記載してございます。政策保有株式の保有適否検証をはじめとするコード内容によって、現状では企業を特定の行動に誘導し過ぎる影響が出てきているものと心配しております。また、資料には記載しておりませんけれども、コード全体に言えることは、企業のみならず、開示情報の利用者側である投資家等の実態も踏まえて制度設計がなされるべきではないかと考えます。開示情報がどんなに充実していても、情報利用者の確認負荷が大き過ぎて、結果として情報が利用されない場合は、制度設計にかかるコストが無駄になり、結果として国民全体の利益につながらないことになると考えております。
続きまして、資料6ページの(4)議決権行使助言会社規制について本格的議論を開始すべきという部分であります。スチュワードシップ・コードで議決権の行使結果を公表すべきことが盛り込まれたことに伴いまして、議決権行使助言会社の影響が大変強くなっております。一方で、我が国においては、議決権行使助言の領域での規制が存在していない現状がございます。発信情報に対する透明性確保の必要性等から、本格的議論を開始すべき時期に来ているのではないかと考えております。
最後の項目は、先ほど基本的な考え方で触れたROEについてでございます。加えて、改訂コードへの課題認識として、資料の下のほうに2点追加で記載しております。1点目は、企業年金のアセットオーナーとしての開示義務についてであります。こちらも形式的行動への誘導ともつながる部分ともなりますけれども、重要な企業活動が数多くある中で、企業年金についてのみ人材配置や開示を求めている偏りがあると考えております。
2点目が、企業の意識についてです。日本企業は真面目過ぎるためか、エクスプレイン・イコール・悪、悪いというイメージが企業にあるのが実態だと感じております。日本企業は圧倒的にコンプライが多いのが実情だと思います。コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて広く周知する必要があるのではないかと思います。
続きまして、資料の8ページをごらんください。これは昨年末に関経連法人会員のうち119社から得られた内容に基づき、企業が四半期開示及びコーポレートガバナンス・コードをどのように見ておるのか、どう考えているのかについて述べたいと思います。
まず、企業が四半期決算基準日後の開示までにかけている日数についてでありますが、30日以内の開示を実施している企業は2割にとどまっております。31日以上かかる企業が6割を占めています。四半期開示の実務負担がいかに大きいことがここからも読み取れることになります。
続きまして、資料9ページでは、四半期開示制度の今後の見直し方向性に関する主な声を紹介しております。回答のうち、⑤の現行制度からの見直しは不要とする意見は少数にとどまりました。見直しの方向性としては、四半期開示義務化廃止が望ましい解決策と考えているものの、四半期開示制度改善に向けて、まず第2四半期のみの義務化、第2四半期のみ義務化、あるいは報告書等短信の提出義務の一本化の手段等で、すぐにでも段階的に進めていくべきであるとの意見が多くありました。
続きまして、資料10ページは、昨年6月1日の改訂コーポレートガバナンス・コードで見直すべき声が多い項目をリストアップしております。私からは、一番上の原則1-4、政策保有株式について触れさせていただきます。現在のコード記載では、政策保有株式の縮減が前提となり、政策保有株式イコール悪という意識を固定化させる強いバイアス効果を有したものになっていると考えます。先ほど基本的な考え方でも触れましたとおり、大切なのは形式ではなく、いかに実質を伴うものにつくり上げるかであると考えます。
最後にまとめであります。資料12ページをごらんください。本日の説明の中で委員の方々へお伝えしたい重要な点を3点繰り返し述べさせていただきます。1点目が、形式的な具体的行動誘導からの脱却、本来のコードの位置づけへの回帰、2点目が、コンプライ・オア・エクスプレインのコード趣旨の再度の周知の必要性、3点目が、一律に3カ月ごとの決算情報を開示させる四半期開示の義務づけ廃止であります。このような3つの観点を踏まえまして、今後のフォローアップ会議運営及び開示制度検討等を行っていただきたいと切に願っております。
私からの説明は以上であります。
【公益社団法人 関西経済連合会 企業法制委員会 飯村副委員長】
関経連の副委員長をさせていただいています飯村でございます。私からは、もう時間もありませんので、アンケートの結果について簡単に報告させていただきます。
これは関西企業の119社から昨年の11月14日から12月7日まで回答を得たものでございます。具体的な内容は、見ていただくと、もう読んでいただくとわかると思うんですけれども、図表3等にコード基本原則について見直しの余地がある、コーポレートガバナンス・コードについては全てについて見直したほうがいいのではないかというようなアンケートの結果となっております。
特に原則の4-1について、後継者計画を取締役会で監督することとか、原則の4-8の少なくとも3分の1以上の独立社外取締役が明確なルールであるような記載があることとか、原則の4-10、指名・報酬などの任意の仕組みを活用すること、それから原則4-11ですが、取締役選任についてジェンダー、国際性を意識すること、それら全てについて企業特定の形式的な具体的な行動に誘導するものであって、もっと企業のそれぞれの特性というものを考えていただいたほうがいいのではないかというアンケート結果になっております。アンケート全体を通じては、やはりこのコーポレートガバナンス・コードというのは会社が非常に重視しており、それなりに尊重しているということも見てとれると思います。
それから、四半期開示につきましては、先ほど会長のほうから説明されたとおりなのですけれども、関経連としては、四半期開示義務は廃止という方向の意見では一致しております。ただし、アンケートの中では、四半期開示義務を直ちに廃止というのはやはり現実的ではないんじゃないかということで、途中の段階として、第2クオーターだけの義務づけだとか、あるいは短信との一本化とか、そういう意見が出ております。
簡単にアンケート結果をまとめますと、先ほど松本会長から説明がありましたように、開示情報の利用者である投資家の実態を踏まえて制度設計がなされるべきであるということをアンケートの結果も物語っております。
ご承知のとおり、スチュワードシップ・コード原則7において、機関投資家は企業との対話等に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである旨の記載がございます。ここにいらっしゃる投資家の皆様は皆さん全てきちっと見ていらっしゃるんだろうと思いますけれども、四半期ごとの数字をどーっと並べられて、ROEだけを見てとかいう作業がほんとうにそれできちっと判断されているのかと。それに要する企業側の労力というのはものすごいものであるということは認識していただきたいなというふうに考えております。昨今の複雑化した開示制度を見ると、情報利用者側のキャパシティーを超えてしまっているような感じも受け取られます。ぜひその開示を十分に利用する、活用するということは、制度設計にかかるコストの非効率的な運用ということになり、ひいては国民の利益にもつながっていかない部分というふうに考えておりますので、企業側だけではなくて、投資家サイドもバランスよく考えたものにしていただきたいというのが関経連の意思であり、アンケートの結果でもそのようなことが読み取れると思います。
以上でございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。それでは、ただいまのご説明に対する質疑応答と引き続き討論の時間とさせていただきたいと思います。なお、ご説明の中で四半期開示のお話もございましたが、これについては、金融審議会ディスクロージャーワーキンググループにて別途議論の場が設けられておりますので、この場では討議の時間も限られておりますので、ガバナンスに関する論点を中心にご議論いただけると幸いだと存じます。
それでは、どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。じゃあ岩間メンバー、お願いします。
【岩間メンバー】
ご説明ありがとうございました。ちょっと質問させていただきたい点がございます。1つは、ROEの問題でございますけれども、最近の日経にアメリカ企業が世界の利益の4割を上げておると。日本は非常にそういう意味ではまだ収益性が低いということが言われております。それで、株式マーケットというのは非常に国際化しておりますから、海外の投資家が日本企業の保有をするということも非常に進んでおるということで、日本の投資家はもちろんそうでございますけど、海外の投資家も企業の効率性といいますか、収益性ということ、しかもそれは長期的にサステイナブルかどうかという観点でいろいろ見ているということであると思います。その際に、やはりROEだけでないというのは私も全く納得でございますが、やはり収益性全体を上げていかなきゃいけないという声が象徴的にROEに反映されているというぐあいにも思えるところがございまして、そういう意味でいって、ROEがノーだということでお考えになるのは、私はそれで一つの理屈だと思いますが、収益性についてどうお答えになるかということについて質問させていただきたいというのが1つでございます。
それからもう一つは、いわゆる日本の経営の伝統的ないいところというのは私もあると思いますし、私もかつて日本の企業でボードに乗っていたことがございますので、逆にそういうことを責められて、日本は日本だということを随分言ったことがあるのでございますけれども、一方で、やはりこれは国際的な動きでございまして、さらに言うと、日本企業は国際化しなきゃいけない、グローバルに競争に勝たなきゃいけないということで、そのときに企業の価値と、あるいは企業の経営そのもののクオリティーというものをどういう視点で投資家が見るかということが反映されてもいるわけですね。そういうことで、そういう観点でいったときに、関経連は今後の展望としましてどういうことが課題である、どういうぐあいにお答えになろうとされているかということについて質問させていただきたいと思います。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
経営者として随分長いことやってまいりまして、私は法律でもない、経理の専門家でもないと。
ただ、私は経営をする上において、単なるサービスカンパニーであればROEもいいかもしれませんけれども、日本の経済を支えてきた製造部門の長としてROICは非常に重要であると。私自身はROEがプロフェッサー伊藤が言い出したときにかなり反対をしたんです。そういうのは実態をあらわしておらんと。だから、ROICの中にROEのエレメントが入っていると。だからROICをすばらしいものに、8とか9とか10にすることによって、ROEが少なくとも8になるような構造は出てくるんですと。だから、強いてROE、ROEというのであれば、対外的にROE8%とか9%といえばいいんじゃないのかと。
だけど、本来を見る、資産の交流性等を見る、これは企業として資産をいかに効率よく動かすか、そしてその結果として利益がどうなるか、こういう考え方を経営者はするわけで、やっぱりROICというのは非常に重要であると。ROICの方程式を見るとROEのやつが入っているわけで、だからそれで導いてもらったらいいじゃないかというふうなことで、関経連の中でいろいろ話するんですけども、まあ2つあっても別にいいんだよ、何もROEばっかり言う必要はないんだよというのが大半なんですね、関西の。関経連は1,300社の大企業の固まりなので、大半がそういう考え方を持っているんですよ。何でROEばっかり言うんだという人が大半なんですね。実態がそうなんです。対外的にもROEというのは国際的にもちょっと問題じゃないかと。公益資本主義的な考え方がアメリカでも強くなってきているし、ヨーロッパでもそうだと。それに賛同するアカデミアの先生方も多い。特に公益資本主義的な物の考え方は、日本のきっと大企業のトップは大変理解しているのではないかというのが関経連の一般的な考え方なんですね。
それは今の日本の経営というのとダブってお答えしたわけでありますが、近江商人に端を発した日本の資本主義の萌芽のときには、やはり関西にそれは色濃く残っているんですけれども、特に財閥系統につきましては、数百年の歴史を経て経営をさせてもらっている。その中で、やはりステークホルダーというのは何なんだと、それがなくして株主だけが会社を支えているのではないというのが非常に強いんですね。特に住友とか伊藤忠とか、あれはみんな大阪ですけども、三井も三菱ももとはといえば大阪ですよね。大体そういう考え方が400年から300年間浸透していますよ。そこで自利利他公私一如とか三方よしとか、そういう話がずっと残っている。先輩が後輩を社長にするときに、それはまあプロセスにいろいろ問題があるというので今やっているんでしょうけれども、きちっとそういうことを理解しないやつは上にさせないというふうな企業グループもあるわけです。
【岩間メンバー】
ROEはそういうことであって、ROICをそれでは関経連としては打ち出したい、こういうことでいらっしゃいますか。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
どっちでもいいと言っているんですよ。ただ、物づくりの企業は大体ROICでいいじゃないかと言っていますね。
【岩間メンバー】
私もそのROICでいかれるならそれでよろしいと個人的には思っております。要するに、ROEだけが全てではないというのはもうおっしゃるとおりだと思うんですが、いずれにしても収益性といいますか、そういうものについて投資家は非常に考えるのは当然義務でありますし、さらに言うと、ステークホルダーについても、単に株主だけの利益が上がればそれでいいというわけでも必ずしもないわけです、長期の投資家としましては。ですから、そういう意味でいうと、対話は大いにできるのではないかというのが私の個人的な考えでございます。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
基本はダイアログというかコミュニケーションなくして経営は成り立たないわけで、それは何も株主だけではなくて、全てのステークホルダーについて地道に小まめにコミュニケーションすることによって理解が得られるというふうに、まあ理解は突き詰めていくとそんな話になってくるわけですね。
【池尾座長】
まあ、今の点はコーポレートガバナンス・コード自体がそういうことになっているわけで、資本効率という表現しか使っていないんですよね。ROEという指標は、私個人もあまりいい指標だと思っていないというところがあって、コーポレートガバナンス・コードでは使用していない、資本効率を高めていただきたいという言い方をしていますし、それからステークホルダーとの協働を通じて持続可能な中長期的な企業価値の向上を目指していただきたいというふうな構成になっているということだと思います。
三瓶メンバー、じゃあ次お願いします。
【三瓶メンバー】
ご説明ありがとうございました。松本様とは社長時代に何度も意見交換をたくさんさせていただきました。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
いつも失礼なことばっかり言って申しわけないです。
【三瓶メンバー】
いえいえ。一番よく覚えているのは、セグメント別のROICの今後がどうなっていくのかというようなお話を随分させていただいたのを覚えています。ですから、実務では特にセグメント別に分解したりするときには、もちろんROEは使えませんから、ROICでお話をさせていただいたと。ただ、尺度としてさまざまなものを見ますから、そのうちの一つにはROEという株主にとってどうかという指標も、いつも見ているという感じだと思います。
ご説明いただいた資料の2ページ目で、「三方よし」への言及、「ROE偏重」とか、「潮流と逆行する懸念」と出てくるんですが、私は実は近江商人のことを相当調べまして、滋賀のほうにも何回か足を運んで、滋賀大学にも行って、旧家も訪ねて古文書を見せていただいて、最終的に近江商人のROEの計算をしました。ROICは情報が足りず計算できません。幸いなことに、近江商人の多くの家では複式簿記をとっているので、エクイティーがわかります。
その結果、近江商人を研究すると必ず出てくる中井家というのがあるんですが、中井源左衛門さん、ここの1代目の方の61年間の年率のROEは、私が計算したら18.8%でした。当時のインフレ率はどうかというので、インフレ率も国会図書館へ行って計算しましたけれども、0.9%ですから、立派なROE水準だと思います。薄利多売、利は余沢というけども、回転をよくしているので非常に高いんですね。なので、三方よしだからROEと両立しないどころか、長く続いたというのはそれだけ蓄えをちゃんとしているということなので、もちろん多くのステークホルダーにちゃんと分配をしながら、かつ生き残っていくということで、しっかり管理をされるとこうなるんだなというふうに思います。
もう一つ5ページに政策保有株式についての課題認識と、6ページには企業年金についての課題認識が書かれています。そこで、政策保有株式は、今回「いわゆる」というのを取って有価証券報告書に記載されている「みなし保有株式」も入るんですということを明確にしています。
この場で申し上げるのはどうかなと思ったんですけれども、今日こちらでご説明をしていただいている2つの会社で「みなし保有株式」の残高はかなり大きいです。コーポレートガバナンス報告書では「取締役会にて保有の適否を検証しました」、また、原則2-6の企業年金については、「資産運用委員会」で精査しているというふうに書かれていますが、このみなし保有株式は残高が有報に出ている上位10銘柄だけしか、我々から見えませんが足し算すると、年金資産の4分の1ぐらいあるんです。でも、年金資産の株式の比率が48.5%と書いてありますから、株式資産のうちの半分ぐらいはこのみなし保有株式になります。
このような状況で、ほんとうに取締役会は善管注意義務を果たしているんだろうか。政策保有株式についていろんな理由があるんだというお話はところどころでお聞きしますけれども、ほんとうの意味でちゃんと精査をされた結果だというふうには納得していないです。このようなことをもっとちゃんと見ていただきたい。特にこの年金の場合は、私たち株主というよりも従業員の退職給付ですから、従業員に対しての、つまり株主というステークホルダーではなくて、従業員というステークホルダーに対しての責任であると思います。なので、「いや、それについてはこうやってみてこうなんだ」というふうに取締役会の議長としてご説明を今ここでしていただけたら、それはすばらしいですけれども、申しわけないけれども、おそらくそこまでは取締役会でちゃんと議論していないんだと思うんです。ですから、そういうことをちゃんとしてくださいということを今回このコードの改訂で申し上げているということです。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
それは私も無駄な株を持っているんじゃないかということを常に伝えて、定期的に、リストがずーっとあって、何でこんな株を持っているんだと、もう売ってしまえというふうなことは意識的にやっているんですが、何か持っているものがものすごく多くて、これはだめ、これはだめと、大口だけばんばん外していくんですけれども、中とか小とか集めたらまた多くなっていて、もうそれも売れと。もうジャスト・オン・ザ・ウエーになっていまして、これは訂正していきたいというふうに思っています。ああいうものを持つ必要は全然ないというのは私自身は思っていて指示している最中であります。
【池尾座長】
ありがとうございました。じゃあ川村メンバーお願いします。
【川村メンバー】
今、松本さんからいろいろお話いただいたとおりだと思うんですが、やっぱり関経連のほうの紙の資料の資料3-3の一番最後に書いてあるところがやはりガバナンスのこういういろんな動きをする一番大事なところだと思うんですね。3-3の資料の5ページに持続的企業価値の向上というのが最終目的だと書いてあります。これに沿っていろいろここでも議論していたつもりですけれども、その結果が少し枝葉のところがわりあい強調されたというところだと思いますけど、考え方もほんとうにこのとおりだと思うんですね。ですから、日本企業としては、もう少し持続的な企業価値の向上をしないと、ほかの国の企業と比べたときに、もう少し向上の価値があるというふうに考えて、そのためにどうするかというようなことをやりましょうという趣旨で、攻めのガバナンスというほうは進んできたという形だと思います。
もう一つ守りのガバナンスもありまして、その企業がいろいろ不具合が生じたときに、どういうやり直し方があるかというところで、やっぱり取締役会がどういうふうに働くべきかとか、そういうところも大分議論をして、その辺に関しても先ほど関西経済連合会からのご意見がいろいろありました。これも一応そういう形で入れたという形になっていまして、全体的に見ると世界的に少し資本主義の見直し的な動きも確かにありますし、強欲資本主義というところに対する修正の必要性ということもみんなの頭の中にあります。ですから全世界的には、先ほど来言われている近江商人云々というようなところに、もう少しそういう方向に戻るかというところなんです。
やっぱりしかし日本の場合はもう少し多分稼がなければならないという場面じゃないかと思っているんです。欧米はもう少し日本側に戻ってくると思うんですね。公益資本主義的なほうに少し戻らないと危ないよというふうに欧米はなってきつつあると思うんですけれども、あるいはこれからなると思うんですけど、日本はじゃあ今のまんまのポジションでいいかというと、もう少し日本は欧米に近づく方向に行かなきゃいけないと私は個人的には思っています。そのためにはこのガバナンス・コードは、必要だし有効だと思っているんです。日本の問題点は何といってもこの20年間、イノベーションへの挑戦がまだ足りないというところだと思います。やっぱりイノベーション、英知をもう少し挑戦しないと、人口が減っていく中で世界レベルの経済レベルを守れないと思っておりまして、強欲資本主義のほうに向かうというそういう方向ではないんだけど、そうじゃないけども、やっぱりもう少しそれぞれの会社がいろんなイノベーションをほんとうに考えて、まあ変革ですね、改革で済まないぐらいのところを考えて、それでもう少し稼ぐというのを日本全体でやるというのをこのガバナンス・コードが応援するという形になるのが一番いい形だと思います。したがって、ROEがいいとかROICがいいとか、そういう領域の話を少し越えて、何か最終的な共同案をつくらなきゃいかんと思います。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
私は川村さんの言っているとおりであります。発表するときはある程度自分の主張を強調しますから。だけど、ほんとうに経営者はそのとおりなんです。イノベーションなくして何もなくなっていくという実態を我々はわかっていて、それに対して日々研究投資に随分金を投じてやっているわけなんですけれども、片や、そういうあまりにも社会の不安定さ、アンスタビリティーというのが、なぜ資本主義のこういう状況の中で起こっていっているんだと、今の状況、これを考えるに、やっぱり経営者そのものがもう一度よく考えないといけないんじゃないかという、これは関経連の考え方なんですよね。ですけども、金をもうけないでそんな話ばかりしていてもどうしようもないので、それは川村さんの言われるとおりだと僕は思っていて、また違う確度からそれをやっていきたいというふうに思いますし、帰りましたら、関経連の1,300社の社長によく言うておきますわ。
【池尾座長】
ありがとうございました。時間が迫ってきているので、キャロンさん、お願いします。
【キャロンメンバー】
松本会長、ほんとうにありがとうございました。
では簡単に3点ございます。
1つは、四半期開示の義務づけ廃止ですが、私も賛成です。半期ベースでも十分に投資家のためになる開示ができますので、選択と集中で半期ベースの充実された開示を目指した方がよいのではないかと一投資家として思っております。なので、その点で賛成です。
2点めと3点めに関しては反対意見となってしまいますが、松本様からも非常に率直なお話をいただきましたし、時間の関係もありますので、私も率直な意見を述べさせていただくことをお許しください。
1つは、取締役会におけるジェンダーの多様性です。改訂コードにはジェンダーを含めた取締役の構成について明記がされておりますが、それは非常によいものであると思っています。才能と能力は男性に偏ることはありません。人口の半分ぐらいが女性であるにもかかわらず、経営のトップに女性がほぼいらっしゃらないことは、明らかに何らかの問題が存在していると言えるのではないでしょうか。資料には、多くの企業が候補者を探すのに苦労しているというコメントがありますが、大変恐縮ですけれども、それは本当に問題なのでしょうか。我々は、男性も女性も性別に限らず仕事における苦労は必ずあります。しかし、それが重要な目標であれば、苦労した上で乗り切る、乗り越えるものだと思います。女性の活躍推進は社会課題の一つであるとともに、人権問題でもあります。そして、何といっても日本の将来の豊かさを守るには、やはり女性の力をお借りすることは非常に重要だと思います。これが2点目です。
次に3点目ですが、最近、ROEバッシングが時々聞かれますが、なぜROEが重要な経営指標なのかというと、文字どおり株主資本利益率であるからです。株主が預けた資本に対してどの程度の利益が出せているかという指標です。郵便局にお金を預けて、貯金の利回りは幾らかというのと全く同じですね。郵便局の預入金利に関して、「過度に利回り見ないでくれ」と言われたら、いや、それはおかしいでしょうとなると思います。高いROE、すなわち高い資本生産性を維持することは日本のためになることです。おっしゃるとおり、ROEだけでありません。ごもっともです。ROICやその他の経営指標も重要です。しかし、ROEを軽視してしまえば、そもそも株主のニーズだけではなく、日本の資本生産性を高めて年金問題を解決することも軽視することに繋がりかねません。幅広い意味で三方よし的な効果がございますので、ぜひROEも含めて高いレベルを目指していただきたいと思います。すいません、話が長く、拙い日本語で大変恐縮ですけれども、よろしくお願いいたします。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
わかりました。
【池尾座長】
これからほんとうはもっと白熱した議論を30分ぐらいはすべきなのかもしれませんが、まことに申しわけありませんが、予定している時間になりましたので、いつも申し上げていますが、本日の議論はここまでということにさせていただきます。フォローアップ会議はこれで終わるわけではありませんので、議論はまだまだ続くということですが、一応本日については終わらせていただきます。
佐久間様、松本様、飯村様におかれましては、本日わざわざご多用中のところをお越しいただきましてまことにありがとうございました。
最後に、事務局のほうから連絡等ございましたらお願いします。
【井上企業開示課長】
次回の日程でございますが、皆様のご都合を踏まえた上で、最終的に決定させていただきたいと思いますので、ご案内をお待ちいただければと思います。
以上でございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきます。ありがとうございました。
それでは、定刻になりましたので、ただいまよりスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議、第17回会合を開催いたします。
武井メンバーはちょっと遅れられるという連絡をいただいております。皆様、ご多用中のところをご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、まず事務局説明として、東京証券取引所から昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの対応状況につきましてご説明していただいた後、皆様にご討議をお願いいたします。
それに続きまして、企業経営の現場から見たコーポレートガバナンスの課題に関してお話を伺うため、新日鐵住金株式会社常任顧問、佐久間総一郎様、住友電気工業株式会社取締役会長で関西経済連合会会長の松本正義様及び同企業法制委員会副委員長、飯村北様をお招きしております。後ほどお話を伺いたいと思います。なお、松本様及び飯村様につきましては、今、飛行機が羽田に着いたぐらいだと思いますが、後刻お見えになる予定です。
それでは早速議事に移らせていただきますが、まず金融庁からご連絡をお願いします。
【井上企業開示課長】
前回会議においてご議論いただきました開示のプリンシプルベースのガイダンスにつきましては、記述情報の開示に関する原則(案)といたしまして、2月1日までパブリックコメント手続に付させていただいております。
また、同様に前回ご議論いただきました「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家リスト」の公表項目の拡充につきましては、昨年12月末に金融庁ウェブサイト上にて掲載させていただいております。メンバーの皆様方のお手元には参考資料1・2としてそれぞれお配りしておりますので、適宜ごらんいただければと存じます。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。
それでは、東京証券取引所から、改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況についてご説明をお願いします。
【菊池統括課長】
それでは、昨年改訂されましたコーポレートガバナンス・コードへの対応状況につきまして、資料1-1に基づきご説明いたします。こちらは、先月末が提出期限となっておりましたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を集計対象といたしまして、直近のコンプライ・オア・エクスプレインの状況等を取り急ぎ集計した資料でございます。
それでは4ページまでお進みください。こちらは各社のコンプライ率をグラフにしたものでございます。今回の集計では全ての原則をコンプライしている会社の割合や90%以上の原則をコンプライしている会社の割合はともに下落しておりまして、全体としてコンプライ率が低下しております。その原因は、今回改訂されましたコードのコンプライ率が低いためでございまして、その状況を次の5ページにまとめております。
この5ページの表は、今回、改訂・新設された原則のコンプライ率を示しております。今回改訂されました8つの原則のうち、コンプライ率が10%以上下落した原則が5つございまして、また、今回新設されました5つの原則につきましても、コンプライ率が80%を下回ったものが2つございます。こうしたことが全体のコンプライ率の低下をもたらしたと考えております。
次の6ページは、全78原則のコンプライ率を表にしたものでございます。今回改訂しなかったものも含めて全ての原則を掲げておりますが、コンプライ率が90%を下回っているという比較的低いものについて赤くしておりまして、こちらが12項目ございます。そのうちの8項目は今回改訂・新設された原則ということになっております。また逆に、今回改訂の対象とならなかった原則におきましては、コンプライ率が大きく低下したものは見られておりません。
次に、8ページまで行きまして、ここからは個別項目への取り組み状況についてご説明させていただきます。初めに、資本コストを意識した経営でございますが、この原則5-2の改訂では、収益力や資本効率等に関する目標の設定に際しまして、資本コストを的確に把握した上で目標を明示するという改訂がなされております。この原則では、資本コストを把握するように求めておりますが、資本コストそのものを開示することまでは求めておりませんので、コンプライ率以外に改訂の影響を見ることはなかなか難しく、また、過去のデータと比較することもできなかったのですが、今回は、各社が策定しております中期経営計画を見まして状況をまとめております。
まず左側のグラフでございますけれども、こちらは資本効率に関する目標について見たものでございまして、約63%の会社がROEを目標として設定しております。そして右側のグラフが、それらの会社の数値目標を分類したものでございまして、機関投資家が期待しております2桁以上のROEを目標としている会社は約77%ということになっております。
また、本日、参考資料としてお配りした資料1-2では、コードに基づく各社の具体的な開示例やエクスプレイン例をご紹介しておりまして、そちらにも抜粋しているのですけれども、この原則のエクスプレイン例といたしましては、次の中期経営計画の策定の際に検討するというものが比較的多く見られております。
次に10ページでございまして、ここからは取締役会の機能発揮に関する状況として、まず独立した諮問委員会の活用状況について見てまいります。この原則の改訂によりまして、取締役の指名・報酬などの検討に当たって、独立した諮問委員会を活用することが原則になっております。これに伴いまして、指名委員会・報酬委員会の設置率はそれぞれ約10%上昇し、両方ともに40%半ばほどとなっております。本原則のエクスプレイン例といたしましては、約3割の会社で検討中となっております。
また、現時点では設置を不要と考えていると開示した会社も見られておりまして、その理由をご紹介いたしますと、監査等委員会や個々の独立社外取締役の意見、助言などを踏まえて決定しており、独立性、客観性の観点から問題はなく、現時点で設置は不要と考えている、といったものが見られております。
次に11ページでございます。こちらは諮問委員会の独立性について、委員構成と委員長の属性という2つの観点から分析しております。これら2つの観点から独立性を満たす委員会、すなわち、社外取締役が過半数で、かつ委員長も社外取締役が務めているという委員会は約3割という状況でございます。
さらに、この2つの観点のうちのどちらかを満たしているというケース、すなわち、資料の一番下に文章で書いておりますけれども、過半数が社外取締役だけれども、委員長は社内でありますとか、あるいは社内と社外の取締役が同数だけれども、委員長は社外の方が務めているというケース、これらを含めますと、それぞれ6割強の委員会が一定の独立性を満たしていると評価できると思っております。
続いて15ページまで進んでいただきまして、こちらは取締役会における多様性の確保でございます。こちらの原則の改訂によりまして、多様性の要素としてジェンダーと国際性という2つが明示されておりますけれども、まず左側のグラフのとおり、JPX日経400の会社におきましては、女性取締役を選任している会社は約半数という状況でございます。また、エクスプレインしている会社のうち検討中とした会社も約50%ございます。
次に、右側のグラフでございますが、こちらは外国籍の取締役の選任状況を見たもので、約15%の会社が外国籍の取締役を選任している状況でございます。
続いて17ページに参りまして、政策保有株式の縮減でございます。こちらの原則の改訂では、縮減に関する方針を開示すべきとされたほか、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかといった観点から検証して、その内容を開示すべきとされております。
左側のグラフは、各社の政策保有に関する方針の記載状況でございますが、74%の会社では保有意義の薄れたものについて縮減を行っていくと明言しております。
右側のグラフは、検証内容の開示におきまして、明示的に資本コストについて言及があるかどうかを見たものですが、ほぼ半々という状況になっております。また、こちらのエクスプレイン例といたしましては、業務提携や取引関係の維持強化のため必要と認められる場合は政策保有を続けるという例が多く見られております。
また、こちらの資料には記載しておりませんが、今回のこの原則の改訂とあわせまして、補充原則として、取引縮減の示唆などにより政策保有株式の売却を妨げるべきではないというものが新設されております。これに関しましては、数は多くはないのですけれども、いわゆるコンプライ・アンド・エクスプレインの形で売却を妨げないと明言する会社も出ております。
続いて19ページに参りまして、個別項目の最後としてアセットオーナーでございます。この原則では、企業年金がアセットオーナーとしての機能を十分に発揮できるよう、上場会社において人事面や運営面での取り組みを行うとともに、その内容を開示するように求めております。開示された取り組みの内容を確認しましたところ、左のグラフのとおり、運用に当たる適切な資質を持った人材の配置を行っているとしている会社が一番多く、216社見られております。
駆け足でございましたが、改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況についての説明は以上でございまして、次の20ページ以降は、ご参考といたしまして、私ども東京証券取引所で行っております市場構造の在り方等に関する検討の状況について簡単にご紹介をさせていただきます。
本件につきましては各種メディアでさまざまな報道がなされておりますものの、現時点において具体的に決定していることはございません。現状といたしましては、昨年10月に有識者による懇談会を設置して議論を重ねているという状況でございまして、昨年末からは、現在の市場構造や上場基準が抱える課題や改善点に関して3つの切り口、すなわち(1)エントリー市場の在り方、(2)ステップアップ先の市場の在り方、それから(3)市場移行・退出の在り方、この3つの切り口について広く意見を募集している状況でございます。上場制度の見直しは多くの関係者に影響を与えますことから、今後は市場関係者の皆様から寄せられた意見を丁寧に分析・整理した上で、望ましい市場構造の姿について議論を深めていきたいと思っております。
私からのご説明は以上でございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、皆様からご意見等をお伺いする討議の時間に移りたいと思いますが、そうはいいましても、本日は14時半をめどに、お招きしているゲストの皆様からのご説明、意見交換の時間に移りたいと考えておりますので、15分ほどしかとれませんので、そのあたりご承知の上、円滑な議事の進行にご協力いただければというふうに思います。では、ただいまの東京証券取引所からのご説明に関連して何かご意見、ご質問がございましたら、よろしくお願いいたします。じゃあ小口メンバー。
【小口メンバー】
短期間で対応状況をまとめていただきまして、大変参考になります。ありがとうございます。
最近、英国コードについて書いた記事を読んだのですけれども、英国でもコンプライ・オア・エクスプレインではなくて、多くはいまだコピー・アンド・ペーストというふうなことが書いてあったので、意味あるエクスプレインが評価される土壌を構築していく観点からも、資料1-1というよりも1-2のような参考事例、参考資料のように具体的な記述を共有化していくというのはすごく大事だなと思っています。
その上で、時間も限られているので3点に絞ってコメントしたいのです。
参考資料のほうになってしまうのですけれども、まず資本コストのお話がさきほどございましたけれども、資本コストについては、当然企業ごとに事業リスクや財務リスクが違うので、株主資本コストも違いますね。したがって、目標とするROEも違いますねということだと思うのですけれども、その意味で、ROEの絶対値も大事だということでしょうが、むしろ資本コストを意識した経営を求めるとした今回の原則5-2は、これはもう企業と投資家にとってすごく大事な概念だと思うのです。ただ、企業ごとに違うとはいっても、リスクフリーレートが大体1から2で、リスクプレミアムが5から6といった、そういう共有化されたレベルからですと、例えば参考資料の4ページに出ていますような株主資本コスト8というのは理解できるのですけれども、3ページの下の小売業のほうですか、CAPMから2.8とか、あるいは負債金利の節税効果を加味したWACCの場合、その上のその他製品で1.5とかありますけれども、こういうレベルになると正直言って理解に苦しむ部分があります。開示があって議論できるのであって、開示自体は評価されるべきですけれども、こういう開示の実例を見ると、先ほどご説明のあったようにこの原則については開示が要求されていないので、コンプライした企業も含めてだと思うのですが、やはりここは、対話がすごく必要な部分であるというのを改めてこの資料を見て感じました。
2つ目は、独立性の高い諮問委員会の活用ですけれども、今日本には3つの機関設計がございまして、特に新しく導入された監査等委員会設置会社については、海外のほうからも、原則4-8の独立社外取締役2名を満たすために、監査役設置会社の社外監査役を独立社外取締役に移行しただけじゃないかという声も聞こえてくるわけです。監査等委員会については、監査等委員以外の取締役の指名や報酬に関する意見陳述権という新しい権利があるのは理解していますけれども、そのことが独立した諮問委員会をつくらなくてもいいということにはならないと思っています。その点、参考資料の7ページにある情報・通信業のように、監査等委員会設置会社に移行しながら、独立社外取締役を積極的に活用して、実際に独立した諮問委員会をつくり運営するといったことは、数値基準を満たすためではなく、実質を伴っているとの発信につながり、監査等委員会設置会社は実質が伴わないのではないかという懸念の払拭につながるということで、ポジティブな取り組みだと思っています。
最後は政策保有株式です。政策保有株式はこの会議でもだいぶ議論されたわけですが、大きく資本の空洞化と議決権の空洞化という両方の問題があって、その両方を解決するためには縮減という方針が出たというふうに理解しています。ただ、この2つの問題というのは、ともすれば、さきほどもご説明がありましたけれども、資本コストを上回るようなリターンが出れば、議決権はその犠牲となってといいますか、議決権が空洞化してもいいとは書いてないのですが、そういうトレードオフが何となく黙認されるような懸念がございます。よくよく考えてみると、株式投資をしていて資本の空洞化が解消されるということは、政策保有株主に特別な利益が与えられているということかもしれないので、そういう特別な便益と引き換えに、経営がどうであっても議決権でサポートするということになってしまうと、通常の機関投資家による、純粋なという言い方もおかしいのですけれども、純粋な議決権行使の効果が薄れるという懸念はやはり持っています。第一義的には資本の空洞化の話があって、それについて語ることはいいことだと思うのですけれども、そのことと議決権行使というのは切り離して考えるべきではないかと思っていまして、機関投資家と同じように受託者責任を果たすという目線で、特別な便益を受けようが受けまいが議決権を行使するのが本筋ではないかと思いました。
以上でございます。
【池尾座長】
ありがとうございました。それでは三瓶メンバー、お願いします。
【三瓶メンバー】
ありがとうございます。簡単に。今回の改訂コードに対するコンプライ・オア・エクスプレインを集計していただきありがとうございます。ただ、この集計でどれくらいエクスプレインしているのか、コンプライしているのかというのはひとり歩きする可能性があって、使い方というか理解、解釈というのが大事だと思います。私が見る限り、今回、意味のあるエクスプレインが増えたことについて、歓迎する部分があります。
一方で、これはコンプライといっているけれども、どこにどうコンプライしているのかわからないというのがあります。例えばコンプライしていると言いながら、内容を読んでみるとそうかなと一番多く思うのは、原則1-4。また、どうコンプライしているかわからないというのは原則5-2、4-3の②、③、この辺ですね。会社によっては原則3-1の情報開示のところで、次の株主総会の参考資料で資本コストの考え方については述べますと書いている会社もあります。ただ、それでほんとうにコンプライなのかなというのはあります。ですから、表面的なコンプライとエクスプレインを集計するというのは、ある種の情報として大事なんですけれども、そこは利用者は要注意だと思います。中にはコンプライ・アンド・エクスプレインをされている会社さんがあって、これは大変参考になります。
今回、全体として改善が見られたなと思ったのは、原則の4-11の③、取締役会の実効性評価ですが、これは皆さん進められています。その中で、先進的な会社は、委員会についてもその実効性評価が述べられています。これは大変重要なことで、今回指名または報酬委員会等の設置を促しているわけですが、その実効性評価もしていただいているというのは大事なことだと思います。
そこで、追加でこういうのがあればなということで申し上げますと、特に指名・報酬委員会というような、1つの委員会で両方の役割を担っている場合に、どういうメンバーであるか、また開催回数はどのくらいであったのか、議題はどうであったのか、非常に簡単でいいんですけれども、全部あわせて2行か3行ぐらいに書けると思うんですけれども、その情報があると、指名に関するディスカッションがどのくらい、報酬に関するディスカッションをどのくらいというのがわかって、1つの委員会で両方兼ね備えている場合にはわかりやすいと思います。
それと、これはちょっと蛇足ですが、今回見て思ったのは、コーポレートガバナンス報告書の報告の仕方で、特に指名・報酬の任意の委員会がある場合に、ガバナンス報告書で表がありますね、指名のところにだけ記載される会社さんと、同じことを指名の欄と報酬の欄に繰り返し書かれる会社さんがあって、東証さんの検索のページで試してみたんですけれども、報酬のところに書かれていないと報酬で検索したときにその会社は浮かび上がってこないので、これはちょっと東証さんに要望というか、会社さんに、指名・報酬の場合には両方に同じことだけれども書いたほうが集計したりするときに正しく拾えますよということをお伝えいただくのがいいかなと。私も個別にお会いしているときにはそういうことをお伝えしていますけれども、そんなことが気がついた点です。
以上です。
【池尾座長】
ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
私も三瓶メンバーのご意見に全く賛成で、やっぱりしっかりエクスプレインしていただくほうが、単にコンプライというよりは好感が持てるというと変ですけれども、真摯な取り組みだという印象をむしろ与えるという感じがいたします。
東京証券取引所からの対応状況に関するご説明に関連して、特に追加のご意見あるいはご質問ございませんでしょうか。よろしゅうございますか。
それでは、本日お招きしているゲストの方からのご説明に移りたいと思います。
まずは、新日鐵住金株式会社常任顧問佐久間様より、15分程度でご説明をお願いいたします。佐久間様からは資料2のご提出をいただいております。それでは早速ですが、よろしくお願いいたします。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ただいまご紹介いただきました新日鐵住金の佐久間です。よろしくお願いします。座ってお話しさせていただきます。
本日は、このお手元の資料に沿ってお話ししたいと思いますけれども、本日の趣旨に応えるものというのは、本資料の最後のページでございます。その他のページというのは、ほぼ背景として簡単に触れさせていただきたいと思います。
まず、会社の概要と経営課題。ここにありますように、鉄中心の会社であります。鉄以外の化学についても、これは鉄鋼製造の原料になります石炭系の化学、新素材というのもメタラジー、冶金系、あとシステムソリューションというのも、これもまさに鉄鋼製造販売で一番重要な情報処理をベースにした会社ということでございます。
国内の拠点というのは、当社は合併・統合会社でございますので、全国各地に点在している。
海外展開、これは北米、中国をはじめとするアジア中心にやっています。
世界の立ち位置というのは、鉄鋼はもう世界の半分を中国がつくり、この2017年の上位10社のうち5社というのが中国企業、それもほとんどが中国の国有国営企業という状態になっているということでございます。
この図は輸出品目ということでございますけれども、意外と鉄鋼というのは日本の製造業の栄枯盛衰の中でも、みずから言うのも変ですけれども、意外と健闘していると。これは何を意味しているかというと、やはり日本でつくる競争力というのがまだあるということです。その理由も非常に単純でして、製鉄原料というのは中国ですら豪州等から輸入しているということで、かなりのコストを占める原料の条件が一緒ということでございます。あとは技術の差があるのかどうか、こういうところで決まってくる。
実際今、当社が大きい形で目指しているのが、「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」で、「鉄を極める」ということでございます。この意味というのは、製品として極める、あと事業としてもグローバルに極めるということでございます。
なぜそういうことになったかという背景を若干ご説明しますと、1985年のプラザ合意の後に急激な円高がありまして、当時、国内製造拠点のいろいろなところにあった高炉、これは31基あったわけですが、それを13基まで落とした。その一方で、複合経営と称しまして経営の多角化を試みましたが、結論としましてはほとんど失敗しました。そのときあったものは、個人的に私がかかわったものだけでも、半導体、シリコンウエハ、パソコン、これはもう皆さんご案内ではないと思いますけれども、リブレックスというブランドで売りました。あとコピー機、電送機、不動産ビジネス、テーマパーク、これは北九州のスペースワールド、老人ホーム、これはつい最近まで2つ経営していました。さらに通信販売。私はかかわっていませんけれども、会社としてはキャビアの養殖とかホカロン、マイタケ等々もやりましたが、ほとんど失敗でした。その反省もあって、原点に戻ったということです。
原点というのは何だったかというと、この資料はちょっと理科の授業みたいで恐縮ですが、鉄というのは極めて身近なのでありふれてはいるのですが、この地球において極めて特異な物質です。特にこの2番目、鉄というのは、常温つまり固体状態で温度によって結晶構造が変わる。この地球の上で鉄とチタンしかない。2回変わるのは鉄だけです。あと、最も大きいのが3番目、鉄が磁石につくということですね。常温で強磁性を持つというのは鉄とニッケルとコバルトだけ。ただ、ニッケル、コバルトというのはレアメタルで高くて使えませんので、この電気社会において実際使えるのは鉄だけです。当然これは発電機、変圧器、モーターのコアに必須ということであります。これを産業の視点から見ると、豊富だということで当然安価だということ。あともう一つ、先ほど言いました特異な特性がございますので、理論値に対して、まだ鉄というのは1割から2割の強度しか発揮できていない。つまり、この後開発が進めば、今の何倍もの強度を持ったものが生まれてくる可能性がある、実際今それに向かって我々は研究しているということです。
あと、環境の負荷も、これは皆さんが思っているのと違うと思いますけれども、極めて環境負荷が低い。それはなぜかといえば、まずリサイクルが極めて簡単。これはごみの山に磁石を入れてくっついて出てくるものは鉄だけということです。なおかつ、リサイクルする上で製品が劣化しない。これはもうアルミ等々はなかなかそういうわけにいかない、どんどん劣化して、要するにグレードの低い製品しか蘇らず、最後は捨てる。鉄の場合はほぼ100%リサイクルできるということであります。あと、ライフサイクルで考えれば、アルミ、炭素繊維に比べて造るときの炭素負荷が少ない。さらにリサイクルで圧倒的に負荷がかからないということで、いわゆるLCAで見たときには非常に環境負荷が低いというものであります。
あと、需要面は、これは長期的に見れば世界的に需要は確実に増えていく。そういう意味で、我々としては、世界がどう変わろうと、また競合材が出てこようと、鉄づくりというのは地球にとって必然的なビジネスだと。
ただ問題は、それを誰が担うか。当然我々は我々が担いたいと思っているということで、ここに書いていますのは、2020年までの3年の中期計画。これは今後の環境変化に応じた資源投入、特に設備投資というのが3年間で1兆7,000億、これは減価償却を超えるレベルという、ある意味では、要はなかなか大変な時期だということであります。
これが具体的な数値目標です。ここからが若干具体的な話に入りますけれども、先ほど言った中期的にいろいろあるにせよ、今年の重点課題というのは何なのか。非常に基本的なことで、収益基盤の立て直し、中期計画等の完遂、そして業務改革等の推進。
その中で、収益基盤の立て直しで一番に来ているのが安全です。これは多分皆さんの職場というのは、物理的な作用が原因で職場で従業員が亡くなるということは極めてまれなところだと思いますが、鉄鋼製造というのは、見学された方はご案内のとおり、極めて重くて熱くて大きいものに囲まれた職場。オペレーション自身は自動化が進んでいますけれども、整備、修理修繕、トラブル対応はいまだに手仕事が多いということで、毎年重大災害0を目標にしていますけれども、達成できていません。いわゆる製鉄所で働く従業員というのは、直営に加えまして下請、我々は協力会社と呼んでいますが、それを入れると9万人。機械化とか作業レス化、あと規律向上、必死に取り組んではいます。2番目が安定生産。収益的にはこれが一番効きます。逆を言えば、今できていないということになります。大体、製鉄設備というのは、これは日本のどの会社も同じですけれども、高度成長期に主要設備はでき上がって、稼働後40年、50年たっているということで、大規模な更新が必要。当然メンテはしていますけれども、その維持コストも非常にかかっていると。ただ、これはあくまで背景であって原因ではありません。というのは、大きなトラブルが起きていない製鉄所もある。これはどこでも起きていればそういうことになりますが、やはり人や管理の問題があるというふうに今考え、取り組んでいる。
あと、鉄鋼というのは、かつて産業の米と言われたように、実は農業に近い。天候に左右されます。海が荒れれば、これは船が主体ですから、出荷が滞る。大雨が降れば原料の調整で、急に冷え込むと出荷待ちの鉄板に結露が生じてさびてしまう。これは鉄に限りませんが、最近の異常気象の結果としまして、浸水、冠水がある。また、鉄というのは、先ほど言いましたように温度によって結晶構造が変わりますので、生ものです。できたてでお客様に届けないと固くなってプレスができないという、そういう特殊な製品もあるということで、近年の異常とも思える天候の変化に対応するというのも足元の課題になっています。また、3番目の営業力発揮、これは付加価値を最大化すると。はっきり言って値上げです。あと4番、これが海外事業の強靱化、当然赤字、継続事業からの撤退も含めてということになります。
次が当社のコーポレートガバナンスの現状ということで、監査役設置会社であります。
これが現在の役員体制で、取締役会というのは11名の業務執行と3名の社外取締役の方、そして7名の監査役がいるということで、業務執行に対しての監視監督というのは、11名に対して10名が目を光らせるという体制でございます。役員人事報酬会議というのは、これは監査役設置会社ですから、任意の委員会として設置している。
取締役の報酬ですが、現金による月例報酬のみ。全額業績連動ということで、じゃあ何に連動しているかというと、連結の当期損益と製鉄セグメントの経常利益の前年度実績ということになります。
ここからがコーポレートガバナンスにかかわります課題ということになるわけですが、まず最初に、Implementation、これは極めて重要です。ただ、先ほど説明しましたように、足元の重点課題でもなかなか苦労している。生産計画にしろ、販売計画にしろ、計画一流、実行二流、言いわけ超一流と、これではいけないということで頑張ってはいますが、実行力の強化というのはなかなか妙案はないということで、社外役員の方に𠮟られながら地道に取り組んでいる。ガバナンスでいえば、業務執行の取締役を叱れる人、で、𠮟られたときには𠮟られた側が畏まる人、こういう方がボードにいることが重要だと思います。
次に役員体制ですが、もちろん今年の6月定時株主総会に向けて検討中ということです。あと、一般論としていえば、業務執行役員は内部人材の登用が基本になっています。これは、まあ将来わかりませんが、現時点では社内に適任者がいるということでありまして、これはある意味で日本の会社の実態ではないかと思います。ただ、この辺は日本の社会全体が欧米と違って担当者の時代からなかなか流動していない。官と民、学と民との間の双方向の流動があるという社会ではないので、流動性というのが役員になって急に高まるというものではないかと思います。
ただその点で、合併というのは、ある意味外部人材の劇的な取り込みになります。当社はご案内のとおり、6年前、旧新日鐵と旧住金が合併しました。その当初というのは、お互いにとっては社外役員がボードにあふれていた、こういうのが実態でありまして、個人的にいえば、合併というのは人材取り込み、ガバナンスの透明性、アカウンタビリティーの向上に極めてプラスだと思います。
社外役員、現状でいえば7名の立派な社外役員がおられますが、この点でいうと、あまり独立性の必要性というのを過度に強調するのがいいのかという点については、疑問に思っています。先ほど言いましたように、やはり𠮟られたときに、怒られたほうが面従腹背ではなくて畏まる、もしくは、言われたことが腑に落ちる、こういうことが重要だと思っています。
そういう意味で、当社にも社外役員の方がメガバンクから来られていますが、その方の発言になぜ我々が畏まるかといえば、そことの取引関係を気にしているわけではありません。それはやはりその方が金融のコミュニティーや産業界へのインフルエンスがあるということが頭にあって、仮に当社ガバナンス等に問題があれば、当社に対する一般的な評価が下がってしまうというのを気にしているということであります。
女性の役員。これはもうはっきり言って役員レベルよりもそもそも女性の部長、課長、管理職が少ない、ここが問題だと思っています。やはり解決には時間がかかる。
役員報酬ですが、これは先ほど全額業績連動と言いましたけれども、時期ずれの問題が残っています。ですから、改善の余地はあると思います。ただ、だからといってインセンティブが効いていないことでは全くありません。これはもう時間がないので言いませんけれども、はっきり言ってしまえば、報酬をインセンティブにして働いていないというのが実感であります。これはもう役所の方は非常によくおわかりになっているかと思います。
政策保有株式ですが、当社は2012年の合併当時495銘柄ありましたが、これが361に減っています。それでも多いということですが、合併会社だったということと、過去の経営者がESG投資に極めて熱心だったということが効いていると思います。ただ、残っている会社は、個別銘柄で見ると大方は非上場です。額も極めて小さい。中身は高度成長時のインフラ整備ですね。鉄道会社に始まって、放送会社、新聞社等への小さな出資が残っているということで、逆に皆さんの関心事で言えば、上場会社、これはユーザー、消費者、金融、アライアンスということで、その必要性については都度取締役会で資金ニーズも踏まえて議論をして棚卸しをしているということです。
あとコンプライアンス、これはもう終わりのない課題だと思っています。まさに気を抜くと築城三年落城一日。当社も過去非常に痛い目に独禁法違反事件で会っています。その大きな反省として今やっているのは、社内もしくはグループ内でいかに「情報のよい流れ」をつくるかということです。コンプライアンスについて言いますと、ガバナンスのあり方は重要で当然ですけれども、どちらかというとガバナンスの構造、それも上部構造に議論が特化する傾向があるのではないか。
やはり取締役会が機能するためには、これはもうコンプライアンスに限りません、全てにおいてですけれども、審議の場に少なくとも情報の不足が発生していない、理想的には過不足のない情報が集まっているということが重要だと思います。その会社内に情報のよい流れをつくる。つまり、現場の第一線から生の情報が自然にしみ出るような仕組み、これをつくるということが重要だと思います。これは内部統制、J-SOX(内部通報システム)、最近は事業所で義務づけられているストレスチェック。その自由記述欄等々を活用していく。監査役監査との情報の共有化等々もございます。この辺はそれぞれの会社が創意工夫でやっていくということです。
当社では、これはやられている会社も多いと思いますけれども、内部通報システムとは別に、事故・事件が一定のルールに基づいて直接ラインから内部統制グループに上がるという仕組みが運用されています。従業員意識アンケート、これは全従業員ですが、毎年実施して、その中に自由記述欄というのもある。さらに、総対話といっていますが、全製造部門の管理職とコーポレート部門の課長層が一緒にずっと議論していくということもやっています。その結果、これはある意味ではミドルの活動ですけれども、経営に上がるということであります。いずれにしても、情報を集めるというよりは情報が流れてくる仕組みをつくるということが重要だと思っています。
三様監査の監査役会社については、これは往査を含めて社外監査役の方も熱心にやっていただいていますので、監査役監査の中で、我々自身の内部監査統制の取り組みが機能しているかということもしっかり見ていただいているということです。
本日、時間の制約もあって、あえて現場に近い泥臭い話を中心にお話ししましたけれども、当社はこういう課題を抱えつつ、旧新日鐵と住金の合併、日新製鋼の完全子会社化、スウェーデンの会社の買収、さらに、これは現在進行中ですけれども、山陽特殊製鋼さんの子会社化、そしてインドの一貫製鉄所を持っているエッサール社の買収、これもほぼ最終段階に来ています。また、今年の4月から、日本発祥のグローバルに鉄を極める企業として発展すべく、日本製鉄として商号を改めてスタートするということになってございます。
いずれにしても、これからもコーポレートガバナンスについては、ガバナンス・コードへの対応におきまして、形式ではなく、時々の事業環境変化と当社グループの経営課題に着実に対応すべく、実体を整えていくことが重要だと思っております。
私からは以上です。ありがとうございました。
【池尾座長】
大変どうもありがとうございました。
それでは、ただいまの佐久間様からのご説明を踏まえて、質疑応答と討議の時間とさせていただきます。どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。
どうでしょうか。じゃあ、三瓶メンバーお願いします。
【三瓶メンバー】
佐久間様、ご説明ありがとうございました。フィデリティ投信の三瓶と申します。今回、コーポレートガバナンスに関する簡単なサマリーをお話しいただいたんですが、その中で、少数株主というキーワードは出てきませんでした。で、コーポレートガバナンスを語るということは、少数株主との利益相反管理というのが非常に大事な核ではないかというふうに考えております。これについてどういう方針なり考え方をお持ちで、実際にそれを励行するためにどういったインプリメンテーションを行われているのか、お話しいただければ幸いです。
【池尾座長】
お願いします。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。当社は伝統的に少数株主の方を極めて重視しようということで、いろいろな取り組みをやってきてございます。非常にわかりやすく言えば、一般株主の方に経営の概況説明会というのを全国の主要都市で定期的に何回か開いてございますし、あとやはり我々を理解していただくためには、第一線の製造現場、製鉄所を見ていただくということで、これも地域ごとに、株主の方はいろいろなところにおられますので、そういう方を対象に工場見学会を催すというようなことをやっております。
まず少数株主の方に我々のやっていること、我々の戦略というのをご理解いただくということを第一にやり、当然その中では、かなり総会とは違った突っ込んだ質疑応答もございますし、私も何度もそういうところで説明して皆様のご理解を深めるよう努力してまいったということでございます。
以上です。
【池尾座長】
いかがでしょうか。
私からちょっと1点。今かなり大規模な投資を行わなければいけない、1兆7,000億ですか、その局面だというお話がありましたが、それに関連して、資本政策の基本的なフィロソフィーというのですか、それだけの投資をどういう形で資金調達していくのが御社にとって一番ベストだというふうにお考えかという、資本政策的な観点で補足のご説明をいただければと思うのですが。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。この設備投資というのは、サステイナブルな発展を遂げていくためには必須だと。ただ、この効果というのはものすごく先に出ます。典型的なコークス炉、これは我々は日本でやっていくんだという極めて中長期的な視点に立って決めている。逆にこれはもう必須だと思っています。ですから、歯を食いしばってでもやらなきゃいけない。で、今のご質問に関して言いますと、ただ同時に我々はその中期の中でDEレシオ等々財務体質についても目標を掲げていますので、これは両方達成していかなければいけないということで、これが全てではありませんが、わかりやすい例でいえば、先ほど出ていた政策保有の株の中で売却できるものについては、やはりそういうニーズに応える形でもしっかり対応していこうというふうに思っている。
もう一つは、最も重要なのは利益を上げるということでございますので、先ほど言った極めて基本的な、安全・安定生産、これを何としても達成することによって足元のキャッシュを生み出していく、こういうことが重要だと思ってやってございます。
以上です。
【池尾座長】
ちょっと追加ですが、利益を上げて、それを投資に使うということになれば、内部留保していくということになるかと思うのですが、資本政策に対して株主還元政策というのですか、うんと稼げばまあいいんですけれども、稼いだ資金を内部留保に充てるのと、配当性向とか自社株買いで株主に還元するのと、そのあたりについての政策の考え方はいかがでしょうか。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。配当性向は30%程度を目安ということで、これをとにかくやっていこうというふうに思っています。内部留保といいましても、当社の場合、借金会社でもありますし、実際、手元にキャッシュとしてあるものというのはほとんどなくて、結局全部設備、固定資産になっているということでございますので、そういう意味では、まず配当性向は30%を達成していくということで今取り組んでいるということでございます。
以上です。
【池尾座長】
岩間メンバーお願いします。
【岩間メンバー】
岩間と申します。一昨年まで投資顧問業協会の会長をやっておりまして、その前は東京海上におりましたのですが、2点ちょっとご質問させていただきたいと思います。
基本的には日本で歯を食いしばってやっていらっしゃるということで、今の環境からすれば、その観点で見たときのいろいろな政策としては非常に飲み込みやすい、理解できることだと私は思いますけれども、4月に社名も変更されて、合併もこなされて、いよいよグローバルにどうしていくかという段階になっていく中で、今の政策といいますか、ガバナンスも含めて、それでずっと行かれるということなのか、将来出てくる課題としてはどういうことがあると認識されているかということが1つ。
それからもう一つは、資本コストをどういうぐあいに考えていらっしゃるかということです。この2点についてご質問させてください。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。まず、将来についてということですけれども、当然、日本をベースにはしていますけれども、今日はちょっと時間の制約でここに書いていませんけれども、モデルとしては当然変わっていくというふうに思っています。
従来は一番重い設備投資が必要ないわゆる上工程、つまり鉄鉱石を鉄に変えるという高炉から転炉といったところは全部日本で持ってきて、製品系は海外展開ということでしたけれども、やはりこれからは日本の内需の問題、あと世界的なマーケットがそれぞれ独立し、場合によっては市場が閉じていくという状況を考えたらインサイダー化しなければならないということで、その第一弾としてエッサールというインドの一貫会社の買収に入っているということですので、将来は当然モデルは変わっていくと思います。
ただ、一方で、先ほど言いましたように、じゃあ今の時点で投資をやめてしまえば、それは日本国内でもうつくれなくなるということでございますので、そこはコークス炉等々上工程中心に更新はしっかりとしていくと。ある意味では両方やっていくというのが今のモデル。ただ、これは未来永劫これでやるということは当然ないわけで、そのときの環境に応じた形になっていくだろうと思います。
あと、資本コストというのは、これはもう一番我々として、これだけの借金会社、これだけのキャピタルインテンシブな産業ですから、常に考えています。ただ、その具体的な数字を申し上げるわけにはいきませんが、ある意味ではどの投資もそれが最大の論点になるということ。ただ、資本コストというのも、必ずしもそれは全てそれで決めるというわけでは当然ないわけです。ただ、当然一番重要な要素としては考えています。
以上です。
【池尾座長】
それでは、川村メンバーお願いします。
【川村メンバー】
ありがとうございました。細かい話、17ページ、18ページでご質問したいのですが、報酬を連結の当期利益及び製鉄セグメント経常利益の前年度実績で分配するというところに関するご質問なんですけれども、この17ページのほうのいろいろなお名前のところを見ていますと、ほんとうの最終的な経営に関与する方々と、それから各部門ごとの経営に関与している方と、ここに出ていない執行の方々、たくさんいろいろな方がおられると思うんですが、おそらく経営の上層部は当期利益のほうで分配をして、それからそうでない方々は、経常利益のほうが日々の働きの利益に近いですから、したがって、それのほうで分配しているのかなと想像するんですけど、その辺の何%、何%にしているとかいろんな工夫が要るのかどうなのかとか、それから製鉄セグメントだけでやると、ほかのセグメントの人たちの評価はどうなるのかとか、そういう細かいところがちょっと我々実務をやっているほうとしては気になるんですけど。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。これも今こうだというお話ですけれども、結論から言いますと、このルールというのは、当社でいえば執行役員と言われている取締役ではない、いわゆる経営の上層にもほぼ同様に当てはめています。ですから同じルールです。ここの連結当期損益と製鉄セグメントの経常利益は、これはある加重をしまして、両方の要素で見ていくと。
【川村メンバー】
全員が?
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
全員がです。ということで、先ほどちょっと概要で申し上げましたように、9割が製鉄ですので、残りもある意味では製鉄にかなり密接なところですので、そこにそんなに大きい乖離が生じるということはありません。あとちなみに当社の場合は、組合員の賞与というのもこの製鉄セグメント経常に単純にある計算、これはもう公表されていますけれども、それで決めていくという体制をとっています。
【川村メンバー】
ちょっと細かくて恐縮なんですけれども、そのある比率で分けるときは、役職によって比率が変わってくるわけですか。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
役職によって分けていません。ただ、役職によって基準になる額というのが役員によって決まっていまして、それを業績で全部振っていくというときの振り方の要素としてこの2つだけを用いていると。あと、厳密に言うと、ここで挙がっている社外の方は、ちょっとその振れ幅というのが極めて限られていますので、社外の方は、結果的には今までは固定で来ています。これはもう開示していますから、皆さん分析されればすぐわかると思います。
以上です。
【川村メンバー】
それをこの17ページに書いてある5名の方で決めていくわけですね、報酬会議ですから。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ここで議論をしまして、決めるのは当社の場合は取締役会で決めます。ですから、ここでそういうのでいいのかというところの議論があって、それを踏まえて取締役会にかけて、それで取締役会で合意された後は、ほぼ機械的にそれが当てはまっていくという形式をとっているということでございます。
【川村メンバー】
わかりやすいですね。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
もう極めてそういう意味ではわかりやすいのですが、感覚的にいうと、他社さんに比べて相当増減が大きいです。それはまあ、もうかっていないからというのでしようがないんですけど。
【川村メンバー】
いや、普通は固定分が必ずありますから、ならされちゃうわけですけど、これだったら非常にクリアだなとは思いますのですけれども。ありがとうございました。
【池尾座長】
じゃあ小口メンバーお願いします。
【小口メンバー】
ありがとうございます。御社はいつも、例えば投資家との会議でも、日本の監査役設置会社を代表してそのメリットをよく訴えられている立場で、確固たる信念をお持ちでこの制度を使われているのかなというふうに理解しております。その意味で、資料の16ページとか21ページ目からで、なぜ監査役設置会社なのかということをおっしゃりたかったのかなと思ったのですが、おそらく時間の関係であまり説明がなかったと思うのです。そこで、監査役設置会社の強さといいますか、多分監査役設置会社に慣れていない海外投資家などとの議論の中で、どういったギャップを感じて、正直、外人投資家が理解していないなと思われる部分というのはどういうところにあるのかというのを教えていただけたらと思います。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。まず、今ご指摘のあったなかなか理解していただけないというところは我々も海外の機関投資家と直接お会いして、そういうことになるだろうということで、結構最初から、監査役会の機能というのを説明をします。結論を一言でいうと、極めて強い権限を監査役は持っていると。でも、そういいますと「でも1票持っていませんよね」という話になりますが、1票持っていないどころか、監査役というのはご案内のとおり独任制ですから、ほんとうに問題だと思えば監査報告書で適正意見を書かなければいいということですから、まあほんとうにそれをやられたら、社長なり業務執行はやめないといけないと思うんですね。まさかそんなものを監査報告書に書かれるということは普通あり得ませんから。
という点で、監査役は極めて強いのと、もう一つは活動において制限がないということです。ですから、当社の社外の方、大変申しわけない、非常にお忙しい方ですけれども、海外を含めて往査に実際に行っていただくと。そういう社外の方から実際往査に行ったときのご意見というのを全部経営にいただいて、それはかなり視点が我々と違います。内部監査とは視点が違います。共通する部分はあるけど視点が違うということで、非常に貴重な情報もいただいています。なおかつ、ご案内のとおり監査役は必要経費というのは全て認められているということで、先ほど言った、かつて独禁法違反事件のときは、監査役は独自に弁護士事務所を雇って全面調査をした。これはもう執行系列と別にです。ということですが、当然これはダブルで体制を持たなければならない。つまり監査役監査というのは全然別ですから、内部監査部隊とは全然別。情報はもちろん共有するところはありますけれども、ダブルで持つということで、コストはかかりますが、これは当社ぐらいの規模というか全体のコストに占めればそんなに大したことではありませんので、それよりは得られる効果が大きいということでやっている。
あと、これはもう皆さん実際、社外監査役を抱えておられる方は感じておられると思いますが、実際の取締役会では社外監査役の方のご意見というのは、こういうところがコンプライアンスが問題だということよりは、やはり戦略にかかわるところなり、我々でいえば安全・安定生産に対してのお𠮟りというのがかなり大きくて、それはものすごく我々にとってこたえるという点なので、その議論においては社外取締役会の方が7人いるという事態とほとんど変わらないと思います。
以上です。
【小口メンバー】
ありがとうございます。
【池尾座長】
いかがでしょうか。じゃあ田中メンバー。
【田中メンバー】
ご説明ありがとうございます。ちょっと個人的な話ですけれども、かつて銀行におりますときに御社の担当を2回やっていまして、ここにあります工場もほとんどご案内頂いた経験がございまして、実はその当時から、いわば御社にいろいろなことを教えてもらったという負い目があるんですけれども、今日のお話を伺いますと、その頃に比べて随分様々なことが変わってきているなという印象があります。まず質問をさせて頂く前に、このいただきました資料の中で、7ページに日本の基幹輸出品目で鉄鋼業が4.2%と出ているわけなんですけれども、これはよくよく考えると、自動車とか自動車部品も鉄がいっぱい含まれているんですよね。ですから、そういうふうに考えると、本来、鉄鋼業の役割というのはもっと大きく考えてもいいんじゃないかと思うんですけども、そういう気が私は1つはしております。
そういう中で、その前のページにありますように、これは2007年に急に世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量が変わって、この前後、私は何回か担当させていただいたんですけど、非常に世界的にグローバルにM&Aが、特にミタール社が中心だったと思うんですけど、中心になって動いていたという時期がありました。そのときに、さっき申し上げましたような7ページのような日本の産業構造の中では、やはり御社のいわば日本の産業界における役割が非常に安定的でなきゃいけない重たい役割があるということで、当時実は政策投資株を買い増した覚えがあるんですよね。
恐らく今はそれは売っているんだろうと思うんですけども、つまり何を言いたいかといいますと、政策投資株というものの役割というのが、ただ単に一遍買ったらそのままずっと塩漬けで、お互いに毎年見直しをしないというようなものではなく、機動的にそれは動いてもいいんじゃないかという気が私は当時からしておりまして、今ここの資料にありますような開示例の具体例を見ますと、非常にその辺が、毎年毎年各社見直すところがベストプラクティスとして出てきているところが評価できると思います。御社自身も見直しておられるというのは、これは非常にいろいろなことが進んできたんだなという気がいたしております。当時から比べても非常にいろんな方針が変わってきたという気がいたします。
で、ちょっとご質問を二、三させていただきたいんですけれども、1つは、コーポレートガバナンス・コードとかスチュワードシップ・コードというものを考える中で、中長期的な、サステイナブルな企業価値の向上ということをよくいうんですが、御社にとってはその企業価値というのは今どのように考えておられて、そしてそれはどういうふうにメジャーされているのか、測定されているのかというのが1つあるだろうと思います。これは投資家から見ると非常に大事なポイントだろうと思います。
それから2つ目は、これは22ページにあるんですけれども、左側に重要な業務執行の決定、これはもう皆さんよくご存じのことで、監査役設置会社とほかの形態との一つの大きな違いというのは、この重要な業務執行の決定を取締役会でやらなきゃいけないということですから、毎月1回以上の取締役会をやらないと業務が推進できないということで、この負荷というものが一つの非常に大きなテーマになることがあるんですけれども、今、どれくらいの頻度で取締役会をやっておられて、それが大きな経営上の負荷になっていないのかという点が2点目です。
それから3点目は、監査役、私も知っている人がたくさんいますけれども、この方々も立派な方なんですが、さはさりながら、この方々だけで御社みたいな大きな企業の全体の監査をするというのは、非常に負荷が大きいと思うんですけれども、そのサポート体制といいますか、監査役の、昔は独任制だからひとりでやりなさいみたいなところがあったんですが、最近はそこら辺のサポート体制というものはどのようにされているのか。この3点だけご質問させていただければと思います。よろしくお願いします。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
ありがとうございます。まず、企業価値ですけれども、やっぱりこれはまず足元の利益、そして中長期的にどれくらい利益を上げられるかというところで評価される、当然足元は時価がある。こういう中で、我々としてどう考えているか。我々の場合はそれを根源的価値といっていて、じゃあそれと今の時価の開きがあるのかというと、我々は開きがあると思っていますが、株価のことは絶対こういうところで言ってもせんないことなので言わないことにしていますが、我々自身では企業価値はこういうものだというのはある程度考えなければいけないというふうに思っています。
監査役会社においての取締役会の頻度ですが、これは大体月1回で、かなりたくさんありますが、監査役会設置会社ではない、委員会設置会社では、先ほどの会社法でいえばどんな重要な個別の投資決定でも執行に任せればいい、つまり社長が決めてもいいということになっていますが、実際日本で起きているのは、委員会設置会社は逆に足し算で、結局は重要なことは取締役会で決めておられる。リスク管理の上で。つまり、何も決めていないということではないというふうに我々のつかんでいる限りでは理解しています。逆に監査役会設置会社も、これを全てやっていくと大変なので、そこはやっぱりある重要性の基準で切って、ここは引き算していくということ。そうじゃないと、月1回ぐらいでは回りません。ただ、じゃあ月1回なり取締役会をそういうことで開くと、何かそれが仕事のスピード感に影響が出るんじゃないかと言われますが、そういうことは全くありません。それはそういうスケジュールでやればいいと。我々も何度も国際的なビッドのときに、相手はもう当然欧米の企業、それと入札をやりますけれども、そこで時間的に我々が負けるということは全くない。それはちゃんとある程度それを見越した上で、その執行が取締役会から事前にある枠をとっておけばいいということですから、それはいかようにでも対応できます。ただそこは非常に計画的にかなり忙しくやらなければいけないので、ちょっと働き方改革には反してしまうなというのが反省ですが、いずれにしても、そこは何とかクリアしているということでやってございます。
あと、3番目のご質問が……。
【池尾座長】
サポート体制。
【新日鐵住金株式会社 佐久間常任顧問】
あ、サポート体制ですね。監査役そのものにはサポート体制を当然敷いておりまして、部長以下数名の専任がおります。ただ、当然その人たちだけでは全部回りませんので、そこである程度の情報の共有化というのはしています。これは内部監査部門からの情報も行っています。ただ、それに頼ったのでは監査役監査になりませんので、ある意味では監査計画を当然監査役の方々はつくった上で、先ほど言いましたように、かなり頻度高く活動をされています。
例えば、往査の回数だけでも年間で数十回、これは本体だけですね。グループ会社もありますから、やっぱりそれも数十回。あと個別事案の聴取というのもありますので、これは年間何百件とやっておられるということで、昔の、ちょっと言葉は悪いんですけれども、昼間からそば屋で日本酒を飲みながらという監査役というのはもう全く都市伝説でありまして、大変忙しい日々を送っておられると。社外監査役の方も、ある意味ではちょっと大変だなというふうに感じておられると思います。
以上です。
【池尾座長】
ありがとうございました。それではそろそろ次に、住友電気工業株式会社取締役会長で関西経済連合会会長の松本様及び同企業法制委員会副委員長の飯村様より、申しわけないのですが、あわせて15分程度でご説明をお願いいたしたいと思います。資料3のご提出をいただいております。それでは早速ですが、よろしくお願いいたします。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
住友電気工業の会長をやっておりますと同時に関西経済連合会会長もやってございます。今日は飯村弁護士と続いて質問があったら回答させていただきますので、よろしくお願いいたします。
まず、本日はフォローアップ会議の場にお招きいただきまして、発言、意見交換をさせていただく機会をいただきましてまことにありがとうございます。
コーポレートガバナンス・コードについて、一般的にも言われていますとおり、経営の前提となる重要な原理原則について明文化することにより、自明であるがゆえに見失いがちな部分を意識させる枠組みとして意義が大きいと考えております。一方、昨年6月改訂後のコードにつきましては、課題もあるものと認識しております。関西経済連合会では、昨年末に改訂コード及び四半期開示に関して会員企業へのアンケートを実施してございまして、関西経済界の生の声も集まってきてございます。本日は、そのような情報を紹介することに加えまして、私自身が日々感じている企業経営の現場から見たコーポレートガバナンスの課題について話をさせていただきたいと思います。
具体的に話をさせていただく前に、まずはこのコーポレートガバナンスに関する基本的な考え方について触れさせていただきます。それでは資料の2ページ目をご確認いただきたいと存じます。まず、(1)から(4)まで4つの項目を記載させていただいております。まず、上から順番に説明させていただきます。
(1)日本企業が企業価値を向上させてきた経緯等についてでございます。我が国企業のビジネスの基本形として「三方よし」という考え方がございます。これは関西の商人道や商業道徳に源流を持つものでありまして、現在に至るまで脈々と引き継がれているものであります。
住友グループにも自利利他公私一如という言葉が引き継がれております。住友の事業は住友自身を利すとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならないという考え方になります。50年前に住友に奉職いたしました。これにつきまして何回も何回も経営者から聞かされておりまして、この源流は450年前から住友の家祖、家を興した住友家の1代目がつくったビジネスフィロソフィーでございます。住友自身を利すとともに国を利し、国家を利し、かつ社会を利すものでなければならないという考え方であります。
企業活動は、株主、従業員、顧客、取引先、地域社会などの多様なステークホルダーがかかわることによって成立しております。言うに及びません。我が国企業は今日に至るまで、こうしたステークホルダーとの関係を踏まえながら企業価値を総じて向上させてきた経緯がございます。我が国企業の今があるのは、多様なステークホルダーとの中長期的な関係性があったからこそと言えます。
続きまして、項目(2)経営指標としてのROE偏重についてであります。最近、指標としてROEが重視される傾向にあると認識しております。各社のオフィシャルホームページ等で経営計画を確認すると、数値目標としてROEが使用されているケースが大変多くなっている。ROEは一つの指標であり、我が社住友電工においても、他社との比較可能性の担保などのため、結果として中期計画におきましてROE8%以上を掲げておりますけれども、ROICも並行して用いております。ROEは資本効率について完全な全体像を示すものではないため、単一の指標のみを過度に重視することは適当ではないと考えております。ROE偏重の企業経営は、結果として短期的利益志向や過度な配当、自社株買い等を助長することにつながり、企業の持続的成長の阻害要因になりかねないといった懸念を持っております。
続きまして(3)長期的視点と逆行する懸念であります。SDGsをはじめ世界のモメンタムとしましては、中長期・持続的な視点を前提として動いている現状がございます。先ほども触れましたとおり、我が国の企業は長期にわたり多様なステークホルダーとの関係を踏まえながら、企業価値を総じて向上させてきた経緯がございます。各ステークホルダーとの関係を十分に踏まえながら、長期・持続的な視点は、日本企業の根底にある経営哲学でありまして、我が国がSDGsをはじめとする世界の潮流と軌を一にしております。我が国はその流れを踏まえて牽引していくべき立場にあると考えます。そのような観点から考えますと、先ほども触れましたROE偏重や四半期開示制度は、世界の潮流より今や半周、1周ほどおくれて制度設計がなされようとしているのではないかとの懸念を持っております。
最後ですけれども、(4)コーポレートガバナンス・コードのあり方であります。大切なのは形式の整備ではなく、実質を伴ったものにつくり上げるかということになるかと考えます。企業経営者も身を持して自社の経営や事業のどこに改善・強化の余地があるのかを正しく把握し、いかに実質を伴ったものにつくり上げるのか、そしてそのことについて、ステークホルダーの中でも重要なポジションを占める株主、投資家の理解をいかに得るかを真摯に考えていく必要があると認識しております。
次に残りの時間ですが、直近の関経連の意見発表、改訂コーポレートガバナンス・コードへの課題認識等について話をさせていただきますけれども、その全てについて、ただいま紹介させていただいた基本的な考え方が前提にあることをお含みいただければと存じます。
続きまして、直近の関経連の意見発信について紹介させていただきます。資料の4ページ目をご確認いただければと存じます。2018年4月に「実効性のあるコーポレートガバナンスへの改革に関する意見」を関経連として発信いたしました。まず、(1)四半期開示の義務づけを廃止すべきについてであります。廃止すべき理由としましては、資料に記載の3つの弊害があると考えております。まず第一に、短期的利益志向を助長すること、第二に、形式的、定型的な開示内容であり、中長期の企業価値向上のために有用な情報となり得るものではないこと。3つ目、働き方改革の潮流と逆行するのではないかというそれぞれの点でございます。また、四半期通知が実効性のある企業と、投資家の対話につながっていない実態があると感じております。頻度が高い数値が存在するために、本来対話するべき中長期経営等の論点について対話の中で深掘りができていない実態があるものと感じております。
四半期開示につきましては、会員企業に実施した調査との関連で、最後にも触れさせていただきますけれども、一旦次の項目の説明に移ります。
続きまして、(2)取締役の構成について各社の事情に応じた制度にすべきについてという部分であります。社外取締役3分の1以上やジェンダー、国際性を意識させる記述により形式的な取締役選定を助長する懸念を持っております。女性取締役の登用については、企業を取り巻く環境変化への対応力を高める上でも進めていくべきであると考えておりますけれども、そもそも候補者が少ないという実態があります。候補者を社内外を問わず求めていくためにも必要なのは、コードでジェンダーを意識させることではなく、まずは女性のキャリアアップ支援に向けた環境の整備が重要であると経営者は考えるべきであります。
続きまして、(3)政策保有株式等について柔軟な制度設計とすべきという部分であります。株式の保有については、過去の安定株主確保という時代から事業提携、戦略的提携という形に変わりつつあります。コードによる一律の形式的開示対応ではなく、企業と投資家の個別の対話を通じた相互理解を促す方向性での内容とすることで、結果として投資家や保有側の理解が促進されるものと考えられます。
資料の下のほうに、昨年6月1日に改訂されたコードに対する課題認識について記載してございます。政策保有株式の保有適否検証をはじめとするコード内容によって、現状では企業を特定の行動に誘導し過ぎる影響が出てきているものと心配しております。また、資料には記載しておりませんけれども、コード全体に言えることは、企業のみならず、開示情報の利用者側である投資家等の実態も踏まえて制度設計がなされるべきではないかと考えます。開示情報がどんなに充実していても、情報利用者の確認負荷が大き過ぎて、結果として情報が利用されない場合は、制度設計にかかるコストが無駄になり、結果として国民全体の利益につながらないことになると考えております。
続きまして、資料6ページの(4)議決権行使助言会社規制について本格的議論を開始すべきという部分であります。スチュワードシップ・コードで議決権の行使結果を公表すべきことが盛り込まれたことに伴いまして、議決権行使助言会社の影響が大変強くなっております。一方で、我が国においては、議決権行使助言の領域での規制が存在していない現状がございます。発信情報に対する透明性確保の必要性等から、本格的議論を開始すべき時期に来ているのではないかと考えております。
最後の項目は、先ほど基本的な考え方で触れたROEについてでございます。加えて、改訂コードへの課題認識として、資料の下のほうに2点追加で記載しております。1点目は、企業年金のアセットオーナーとしての開示義務についてであります。こちらも形式的行動への誘導ともつながる部分ともなりますけれども、重要な企業活動が数多くある中で、企業年金についてのみ人材配置や開示を求めている偏りがあると考えております。
2点目が、企業の意識についてです。日本企業は真面目過ぎるためか、エクスプレイン・イコール・悪、悪いというイメージが企業にあるのが実態だと感じております。日本企業は圧倒的にコンプライが多いのが実情だと思います。コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて広く周知する必要があるのではないかと思います。
続きまして、資料の8ページをごらんください。これは昨年末に関経連法人会員のうち119社から得られた内容に基づき、企業が四半期開示及びコーポレートガバナンス・コードをどのように見ておるのか、どう考えているのかについて述べたいと思います。
まず、企業が四半期決算基準日後の開示までにかけている日数についてでありますが、30日以内の開示を実施している企業は2割にとどまっております。31日以上かかる企業が6割を占めています。四半期開示の実務負担がいかに大きいことがここからも読み取れることになります。
続きまして、資料9ページでは、四半期開示制度の今後の見直し方向性に関する主な声を紹介しております。回答のうち、⑤の現行制度からの見直しは不要とする意見は少数にとどまりました。見直しの方向性としては、四半期開示義務化廃止が望ましい解決策と考えているものの、四半期開示制度改善に向けて、まず第2四半期のみの義務化、第2四半期のみ義務化、あるいは報告書等短信の提出義務の一本化の手段等で、すぐにでも段階的に進めていくべきであるとの意見が多くありました。
続きまして、資料10ページは、昨年6月1日の改訂コーポレートガバナンス・コードで見直すべき声が多い項目をリストアップしております。私からは、一番上の原則1-4、政策保有株式について触れさせていただきます。現在のコード記載では、政策保有株式の縮減が前提となり、政策保有株式イコール悪という意識を固定化させる強いバイアス効果を有したものになっていると考えます。先ほど基本的な考え方でも触れましたとおり、大切なのは形式ではなく、いかに実質を伴うものにつくり上げるかであると考えます。
最後にまとめであります。資料12ページをごらんください。本日の説明の中で委員の方々へお伝えしたい重要な点を3点繰り返し述べさせていただきます。1点目が、形式的な具体的行動誘導からの脱却、本来のコードの位置づけへの回帰、2点目が、コンプライ・オア・エクスプレインのコード趣旨の再度の周知の必要性、3点目が、一律に3カ月ごとの決算情報を開示させる四半期開示の義務づけ廃止であります。このような3つの観点を踏まえまして、今後のフォローアップ会議運営及び開示制度検討等を行っていただきたいと切に願っております。
私からの説明は以上であります。
【公益社団法人 関西経済連合会 企業法制委員会 飯村副委員長】
関経連の副委員長をさせていただいています飯村でございます。私からは、もう時間もありませんので、アンケートの結果について簡単に報告させていただきます。
これは関西企業の119社から昨年の11月14日から12月7日まで回答を得たものでございます。具体的な内容は、見ていただくと、もう読んでいただくとわかると思うんですけれども、図表3等にコード基本原則について見直しの余地がある、コーポレートガバナンス・コードについては全てについて見直したほうがいいのではないかというようなアンケートの結果となっております。
特に原則の4-1について、後継者計画を取締役会で監督することとか、原則の4-8の少なくとも3分の1以上の独立社外取締役が明確なルールであるような記載があることとか、原則の4-10、指名・報酬などの任意の仕組みを活用すること、それから原則4-11ですが、取締役選任についてジェンダー、国際性を意識すること、それら全てについて企業特定の形式的な具体的な行動に誘導するものであって、もっと企業のそれぞれの特性というものを考えていただいたほうがいいのではないかというアンケート結果になっております。アンケート全体を通じては、やはりこのコーポレートガバナンス・コードというのは会社が非常に重視しており、それなりに尊重しているということも見てとれると思います。
それから、四半期開示につきましては、先ほど会長のほうから説明されたとおりなのですけれども、関経連としては、四半期開示義務は廃止という方向の意見では一致しております。ただし、アンケートの中では、四半期開示義務を直ちに廃止というのはやはり現実的ではないんじゃないかということで、途中の段階として、第2クオーターだけの義務づけだとか、あるいは短信との一本化とか、そういう意見が出ております。
簡単にアンケート結果をまとめますと、先ほど松本会長から説明がありましたように、開示情報の利用者である投資家の実態を踏まえて制度設計がなされるべきであるということをアンケートの結果も物語っております。
ご承知のとおり、スチュワードシップ・コード原則7において、機関投資家は企業との対話等に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである旨の記載がございます。ここにいらっしゃる投資家の皆様は皆さん全てきちっと見ていらっしゃるんだろうと思いますけれども、四半期ごとの数字をどーっと並べられて、ROEだけを見てとかいう作業がほんとうにそれできちっと判断されているのかと。それに要する企業側の労力というのはものすごいものであるということは認識していただきたいなというふうに考えております。昨今の複雑化した開示制度を見ると、情報利用者側のキャパシティーを超えてしまっているような感じも受け取られます。ぜひその開示を十分に利用する、活用するということは、制度設計にかかるコストの非効率的な運用ということになり、ひいては国民の利益にもつながっていかない部分というふうに考えておりますので、企業側だけではなくて、投資家サイドもバランスよく考えたものにしていただきたいというのが関経連の意思であり、アンケートの結果でもそのようなことが読み取れると思います。
以上でございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。それでは、ただいまのご説明に対する質疑応答と引き続き討論の時間とさせていただきたいと思います。なお、ご説明の中で四半期開示のお話もございましたが、これについては、金融審議会ディスクロージャーワーキンググループにて別途議論の場が設けられておりますので、この場では討議の時間も限られておりますので、ガバナンスに関する論点を中心にご議論いただけると幸いだと存じます。
それでは、どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。じゃあ岩間メンバー、お願いします。
【岩間メンバー】
ご説明ありがとうございました。ちょっと質問させていただきたい点がございます。1つは、ROEの問題でございますけれども、最近の日経にアメリカ企業が世界の利益の4割を上げておると。日本は非常にそういう意味ではまだ収益性が低いということが言われております。それで、株式マーケットというのは非常に国際化しておりますから、海外の投資家が日本企業の保有をするということも非常に進んでおるということで、日本の投資家はもちろんそうでございますけど、海外の投資家も企業の効率性といいますか、収益性ということ、しかもそれは長期的にサステイナブルかどうかという観点でいろいろ見ているということであると思います。その際に、やはりROEだけでないというのは私も全く納得でございますが、やはり収益性全体を上げていかなきゃいけないという声が象徴的にROEに反映されているというぐあいにも思えるところがございまして、そういう意味でいって、ROEがノーだということでお考えになるのは、私はそれで一つの理屈だと思いますが、収益性についてどうお答えになるかということについて質問させていただきたいというのが1つでございます。
それからもう一つは、いわゆる日本の経営の伝統的ないいところというのは私もあると思いますし、私もかつて日本の企業でボードに乗っていたことがございますので、逆にそういうことを責められて、日本は日本だということを随分言ったことがあるのでございますけれども、一方で、やはりこれは国際的な動きでございまして、さらに言うと、日本企業は国際化しなきゃいけない、グローバルに競争に勝たなきゃいけないということで、そのときに企業の価値と、あるいは企業の経営そのもののクオリティーというものをどういう視点で投資家が見るかということが反映されてもいるわけですね。そういうことで、そういう観点でいったときに、関経連は今後の展望としましてどういうことが課題である、どういうぐあいにお答えになろうとされているかということについて質問させていただきたいと思います。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
経営者として随分長いことやってまいりまして、私は法律でもない、経理の専門家でもないと。
ただ、私は経営をする上において、単なるサービスカンパニーであればROEもいいかもしれませんけれども、日本の経済を支えてきた製造部門の長としてROICは非常に重要であると。私自身はROEがプロフェッサー伊藤が言い出したときにかなり反対をしたんです。そういうのは実態をあらわしておらんと。だから、ROICの中にROEのエレメントが入っていると。だからROICをすばらしいものに、8とか9とか10にすることによって、ROEが少なくとも8になるような構造は出てくるんですと。だから、強いてROE、ROEというのであれば、対外的にROE8%とか9%といえばいいんじゃないのかと。
だけど、本来を見る、資産の交流性等を見る、これは企業として資産をいかに効率よく動かすか、そしてその結果として利益がどうなるか、こういう考え方を経営者はするわけで、やっぱりROICというのは非常に重要であると。ROICの方程式を見るとROEのやつが入っているわけで、だからそれで導いてもらったらいいじゃないかというふうなことで、関経連の中でいろいろ話するんですけども、まあ2つあっても別にいいんだよ、何もROEばっかり言う必要はないんだよというのが大半なんですね、関西の。関経連は1,300社の大企業の固まりなので、大半がそういう考え方を持っているんですよ。何でROEばっかり言うんだという人が大半なんですね。実態がそうなんです。対外的にもROEというのは国際的にもちょっと問題じゃないかと。公益資本主義的な考え方がアメリカでも強くなってきているし、ヨーロッパでもそうだと。それに賛同するアカデミアの先生方も多い。特に公益資本主義的な物の考え方は、日本のきっと大企業のトップは大変理解しているのではないかというのが関経連の一般的な考え方なんですね。
それは今の日本の経営というのとダブってお答えしたわけでありますが、近江商人に端を発した日本の資本主義の萌芽のときには、やはり関西にそれは色濃く残っているんですけれども、特に財閥系統につきましては、数百年の歴史を経て経営をさせてもらっている。その中で、やはりステークホルダーというのは何なんだと、それがなくして株主だけが会社を支えているのではないというのが非常に強いんですね。特に住友とか伊藤忠とか、あれはみんな大阪ですけども、三井も三菱ももとはといえば大阪ですよね。大体そういう考え方が400年から300年間浸透していますよ。そこで自利利他公私一如とか三方よしとか、そういう話がずっと残っている。先輩が後輩を社長にするときに、それはまあプロセスにいろいろ問題があるというので今やっているんでしょうけれども、きちっとそういうことを理解しないやつは上にさせないというふうな企業グループもあるわけです。
【岩間メンバー】
ROEはそういうことであって、ROICをそれでは関経連としては打ち出したい、こういうことでいらっしゃいますか。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
どっちでもいいと言っているんですよ。ただ、物づくりの企業は大体ROICでいいじゃないかと言っていますね。
【岩間メンバー】
私もそのROICでいかれるならそれでよろしいと個人的には思っております。要するに、ROEだけが全てではないというのはもうおっしゃるとおりだと思うんですが、いずれにしても収益性といいますか、そういうものについて投資家は非常に考えるのは当然義務でありますし、さらに言うと、ステークホルダーについても、単に株主だけの利益が上がればそれでいいというわけでも必ずしもないわけです、長期の投資家としましては。ですから、そういう意味でいうと、対話は大いにできるのではないかというのが私の個人的な考えでございます。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
基本はダイアログというかコミュニケーションなくして経営は成り立たないわけで、それは何も株主だけではなくて、全てのステークホルダーについて地道に小まめにコミュニケーションすることによって理解が得られるというふうに、まあ理解は突き詰めていくとそんな話になってくるわけですね。
【池尾座長】
まあ、今の点はコーポレートガバナンス・コード自体がそういうことになっているわけで、資本効率という表現しか使っていないんですよね。ROEという指標は、私個人もあまりいい指標だと思っていないというところがあって、コーポレートガバナンス・コードでは使用していない、資本効率を高めていただきたいという言い方をしていますし、それからステークホルダーとの協働を通じて持続可能な中長期的な企業価値の向上を目指していただきたいというふうな構成になっているということだと思います。
三瓶メンバー、じゃあ次お願いします。
【三瓶メンバー】
ご説明ありがとうございました。松本様とは社長時代に何度も意見交換をたくさんさせていただきました。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
いつも失礼なことばっかり言って申しわけないです。
【三瓶メンバー】
いえいえ。一番よく覚えているのは、セグメント別のROICの今後がどうなっていくのかというようなお話を随分させていただいたのを覚えています。ですから、実務では特にセグメント別に分解したりするときには、もちろんROEは使えませんから、ROICでお話をさせていただいたと。ただ、尺度としてさまざまなものを見ますから、そのうちの一つにはROEという株主にとってどうかという指標も、いつも見ているという感じだと思います。
ご説明いただいた資料の2ページ目で、「三方よし」への言及、「ROE偏重」とか、「潮流と逆行する懸念」と出てくるんですが、私は実は近江商人のことを相当調べまして、滋賀のほうにも何回か足を運んで、滋賀大学にも行って、旧家も訪ねて古文書を見せていただいて、最終的に近江商人のROEの計算をしました。ROICは情報が足りず計算できません。幸いなことに、近江商人の多くの家では複式簿記をとっているので、エクイティーがわかります。
その結果、近江商人を研究すると必ず出てくる中井家というのがあるんですが、中井源左衛門さん、ここの1代目の方の61年間の年率のROEは、私が計算したら18.8%でした。当時のインフレ率はどうかというので、インフレ率も国会図書館へ行って計算しましたけれども、0.9%ですから、立派なROE水準だと思います。薄利多売、利は余沢というけども、回転をよくしているので非常に高いんですね。なので、三方よしだからROEと両立しないどころか、長く続いたというのはそれだけ蓄えをちゃんとしているということなので、もちろん多くのステークホルダーにちゃんと分配をしながら、かつ生き残っていくということで、しっかり管理をされるとこうなるんだなというふうに思います。
もう一つ5ページに政策保有株式についての課題認識と、6ページには企業年金についての課題認識が書かれています。そこで、政策保有株式は、今回「いわゆる」というのを取って有価証券報告書に記載されている「みなし保有株式」も入るんですということを明確にしています。
この場で申し上げるのはどうかなと思ったんですけれども、今日こちらでご説明をしていただいている2つの会社で「みなし保有株式」の残高はかなり大きいです。コーポレートガバナンス報告書では「取締役会にて保有の適否を検証しました」、また、原則2-6の企業年金については、「資産運用委員会」で精査しているというふうに書かれていますが、このみなし保有株式は残高が有報に出ている上位10銘柄だけしか、我々から見えませんが足し算すると、年金資産の4分の1ぐらいあるんです。でも、年金資産の株式の比率が48.5%と書いてありますから、株式資産のうちの半分ぐらいはこのみなし保有株式になります。
このような状況で、ほんとうに取締役会は善管注意義務を果たしているんだろうか。政策保有株式についていろんな理由があるんだというお話はところどころでお聞きしますけれども、ほんとうの意味でちゃんと精査をされた結果だというふうには納得していないです。このようなことをもっとちゃんと見ていただきたい。特にこの年金の場合は、私たち株主というよりも従業員の退職給付ですから、従業員に対しての、つまり株主というステークホルダーではなくて、従業員というステークホルダーに対しての責任であると思います。なので、「いや、それについてはこうやってみてこうなんだ」というふうに取締役会の議長としてご説明を今ここでしていただけたら、それはすばらしいですけれども、申しわけないけれども、おそらくそこまでは取締役会でちゃんと議論していないんだと思うんです。ですから、そういうことをちゃんとしてくださいということを今回このコードの改訂で申し上げているということです。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
それは私も無駄な株を持っているんじゃないかということを常に伝えて、定期的に、リストがずーっとあって、何でこんな株を持っているんだと、もう売ってしまえというふうなことは意識的にやっているんですが、何か持っているものがものすごく多くて、これはだめ、これはだめと、大口だけばんばん外していくんですけれども、中とか小とか集めたらまた多くなっていて、もうそれも売れと。もうジャスト・オン・ザ・ウエーになっていまして、これは訂正していきたいというふうに思っています。ああいうものを持つ必要は全然ないというのは私自身は思っていて指示している最中であります。
【池尾座長】
ありがとうございました。じゃあ川村メンバーお願いします。
【川村メンバー】
今、松本さんからいろいろお話いただいたとおりだと思うんですが、やっぱり関経連のほうの紙の資料の資料3-3の一番最後に書いてあるところがやはりガバナンスのこういういろんな動きをする一番大事なところだと思うんですね。3-3の資料の5ページに持続的企業価値の向上というのが最終目的だと書いてあります。これに沿っていろいろここでも議論していたつもりですけれども、その結果が少し枝葉のところがわりあい強調されたというところだと思いますけど、考え方もほんとうにこのとおりだと思うんですね。ですから、日本企業としては、もう少し持続的な企業価値の向上をしないと、ほかの国の企業と比べたときに、もう少し向上の価値があるというふうに考えて、そのためにどうするかというようなことをやりましょうという趣旨で、攻めのガバナンスというほうは進んできたという形だと思います。
もう一つ守りのガバナンスもありまして、その企業がいろいろ不具合が生じたときに、どういうやり直し方があるかというところで、やっぱり取締役会がどういうふうに働くべきかとか、そういうところも大分議論をして、その辺に関しても先ほど関西経済連合会からのご意見がいろいろありました。これも一応そういう形で入れたという形になっていまして、全体的に見ると世界的に少し資本主義の見直し的な動きも確かにありますし、強欲資本主義というところに対する修正の必要性ということもみんなの頭の中にあります。ですから全世界的には、先ほど来言われている近江商人云々というようなところに、もう少しそういう方向に戻るかというところなんです。
やっぱりしかし日本の場合はもう少し多分稼がなければならないという場面じゃないかと思っているんです。欧米はもう少し日本側に戻ってくると思うんですね。公益資本主義的なほうに少し戻らないと危ないよというふうに欧米はなってきつつあると思うんですけれども、あるいはこれからなると思うんですけど、日本はじゃあ今のまんまのポジションでいいかというと、もう少し日本は欧米に近づく方向に行かなきゃいけないと私は個人的には思っています。そのためにはこのガバナンス・コードは、必要だし有効だと思っているんです。日本の問題点は何といってもこの20年間、イノベーションへの挑戦がまだ足りないというところだと思います。やっぱりイノベーション、英知をもう少し挑戦しないと、人口が減っていく中で世界レベルの経済レベルを守れないと思っておりまして、強欲資本主義のほうに向かうというそういう方向ではないんだけど、そうじゃないけども、やっぱりもう少しそれぞれの会社がいろんなイノベーションをほんとうに考えて、まあ変革ですね、改革で済まないぐらいのところを考えて、それでもう少し稼ぐというのを日本全体でやるというのをこのガバナンス・コードが応援するという形になるのが一番いい形だと思います。したがって、ROEがいいとかROICがいいとか、そういう領域の話を少し越えて、何か最終的な共同案をつくらなきゃいかんと思います。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
私は川村さんの言っているとおりであります。発表するときはある程度自分の主張を強調しますから。だけど、ほんとうに経営者はそのとおりなんです。イノベーションなくして何もなくなっていくという実態を我々はわかっていて、それに対して日々研究投資に随分金を投じてやっているわけなんですけれども、片や、そういうあまりにも社会の不安定さ、アンスタビリティーというのが、なぜ資本主義のこういう状況の中で起こっていっているんだと、今の状況、これを考えるに、やっぱり経営者そのものがもう一度よく考えないといけないんじゃないかという、これは関経連の考え方なんですよね。ですけども、金をもうけないでそんな話ばかりしていてもどうしようもないので、それは川村さんの言われるとおりだと僕は思っていて、また違う確度からそれをやっていきたいというふうに思いますし、帰りましたら、関経連の1,300社の社長によく言うておきますわ。
【池尾座長】
ありがとうございました。時間が迫ってきているので、キャロンさん、お願いします。
【キャロンメンバー】
松本会長、ほんとうにありがとうございました。
では簡単に3点ございます。
1つは、四半期開示の義務づけ廃止ですが、私も賛成です。半期ベースでも十分に投資家のためになる開示ができますので、選択と集中で半期ベースの充実された開示を目指した方がよいのではないかと一投資家として思っております。なので、その点で賛成です。
2点めと3点めに関しては反対意見となってしまいますが、松本様からも非常に率直なお話をいただきましたし、時間の関係もありますので、私も率直な意見を述べさせていただくことをお許しください。
1つは、取締役会におけるジェンダーの多様性です。改訂コードにはジェンダーを含めた取締役の構成について明記がされておりますが、それは非常によいものであると思っています。才能と能力は男性に偏ることはありません。人口の半分ぐらいが女性であるにもかかわらず、経営のトップに女性がほぼいらっしゃらないことは、明らかに何らかの問題が存在していると言えるのではないでしょうか。資料には、多くの企業が候補者を探すのに苦労しているというコメントがありますが、大変恐縮ですけれども、それは本当に問題なのでしょうか。我々は、男性も女性も性別に限らず仕事における苦労は必ずあります。しかし、それが重要な目標であれば、苦労した上で乗り切る、乗り越えるものだと思います。女性の活躍推進は社会課題の一つであるとともに、人権問題でもあります。そして、何といっても日本の将来の豊かさを守るには、やはり女性の力をお借りすることは非常に重要だと思います。これが2点目です。
次に3点目ですが、最近、ROEバッシングが時々聞かれますが、なぜROEが重要な経営指標なのかというと、文字どおり株主資本利益率であるからです。株主が預けた資本に対してどの程度の利益が出せているかという指標です。郵便局にお金を預けて、貯金の利回りは幾らかというのと全く同じですね。郵便局の預入金利に関して、「過度に利回り見ないでくれ」と言われたら、いや、それはおかしいでしょうとなると思います。高いROE、すなわち高い資本生産性を維持することは日本のためになることです。おっしゃるとおり、ROEだけでありません。ごもっともです。ROICやその他の経営指標も重要です。しかし、ROEを軽視してしまえば、そもそも株主のニーズだけではなく、日本の資本生産性を高めて年金問題を解決することも軽視することに繋がりかねません。幅広い意味で三方よし的な効果がございますので、ぜひROEも含めて高いレベルを目指していただきたいと思います。すいません、話が長く、拙い日本語で大変恐縮ですけれども、よろしくお願いいたします。
【住友電気工業株式会社 松本取締役会長】
わかりました。
【池尾座長】
これからほんとうはもっと白熱した議論を30分ぐらいはすべきなのかもしれませんが、まことに申しわけありませんが、予定している時間になりましたので、いつも申し上げていますが、本日の議論はここまでということにさせていただきます。フォローアップ会議はこれで終わるわけではありませんので、議論はまだまだ続くということですが、一応本日については終わらせていただきます。
佐久間様、松本様、飯村様におかれましては、本日わざわざご多用中のところをお越しいただきましてまことにありがとうございました。
最後に、事務局のほうから連絡等ございましたらお願いします。
【井上企業開示課長】
次回の日程でございますが、皆様のご都合を踏まえた上で、最終的に決定させていただきたいと思いますので、ご案内をお待ちいただければと思います。
以上でございます。
【池尾座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきます。ありがとうございました。
―― 了 ――
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