スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第23回)議事録

1.日時:

令和3年1月26日(火)9時30分~12時00分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館9階 共用会議室3

【神田座長】  
 皆様、おはようございます。予定の時間より1分弱ぐらい早いかもしれませんけれども、おそろいですので、始めさせていただきたいと思います。

 ただいまからスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の第23回目の会合を開催いたします。皆様方にはいつもお忙しいところ、御参加いただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の進め方ですけれども、まず事務局からの説明として、「グループガバナンス/株式の保有構造等」と、「資本効率/経営資源の配分等」、この2つのテーマについて御説明をいただきます。その後、東京証券取引所から、グループ経営に関する考え方や方針等の開示について御説明いただきます。それらを全部終えた後で、皆様方に討議をお願いしたいと思います。

 それでは早速ですけれども、まず金融庁から、「グループガバナンス/株式の保有構造等」と「資本効率/経営資源の配分等」の2つについての御説明をお願いします。

 島崎さん、お願いいたします。

【島崎企業開示課長】 
 よろしくお願いいたします。

 まず、「グループガバナンス/株式の保有構造等」につきましては、資料1に基づきまして御説明させていただこうと思います。

 2ページ目をお開きいただければと思います。2019年4月に公表されたフォローアップ会議の意見書においては、いわゆる上場子会社等の一般株主保護等の観点から、グループガバナンスの在り方に関する検討を進めることが今後の課題とされておりまして、本日の御審議いただくことにも至っているところでございます。

 下のほうに少し意見書を抜粋させていただいていますが、我が国のグループ経営について、事業ポートフォリオの見直しを含むグループ全体としての最適な経営資源の配分、子会社のリスク管理が十分に行われていないのではないかとの指摘や、支配株主等と一般株主との間に構造的な利益相反があるため、取締役会の独立性を高める必要があるとの指摘などを背景とした御意見書だったと思っております。

 続きまして、3ページ目でございます。2014年以降、上場子会社等は77社増加、割合としては0.6%減少という状況にございます。支配株主を有する上場会社数でみますと、株式を30%以上保有している支配株主が存在する上場会社の割合は、米・英では1%以下、仏・独では4%程度、日本では10.7%という現状でございます。

 続きまして、5ページ目でございます。ここから上場子会社等の少数株主保護でございます。上場子会社等につき、主に投資家から、親会社と少数株主との利益相反の可能性が指摘されています。上場親会社においては、少数株主との間の利益相反リスクを感じることが「あまりない」と回答する企業が78%となっています。

 経産省さんのグループガバナンスシステムに関する実務指針などにおいても、例えば親会社と上場会社との利益相反リスクが顕在化し得る具体的な場合として、3つ局面が挙げられていまして、親会社と子会社との間で直接取引を行う場合、親会社と子会社の間で事業譲渡・事業調整を行う場合、親会社・支配株主が完全子会社化を行う場合と整理されております。

 続きまして、6ページ目でございます。市場第一部全体では、2019年のデータによると、独立社外取締役を3分の1以上選任している会社は43.6%であるのに対し、上場子会社では15%である。支配株主がいない上場会社では、報酬委員会の設置割合が38.1%であるのに対し、非上場会社または個人の支配株主を有する上場会社では、いずれも設置割合は10%強となっております。

 続きまして7ページ目でございまして、東証さんの上場規程でございます。少数株主保護に関しましては、支配株主を有する上場会社が支配株主と重要な取引を行う場合には、少数株主にとって不利益なものでないことに関し、利害関係を有しない者による意見の入手を行い、その内容について、必要かつ十分な適時開示を行うこととされております。この規程に基づく意見の入手先のうち、自社の独立社外取締役・独立社外監査役は64.1%でございます。

 続きまして8ページ目、海外の制度概要でございます。少数株主保護について、米国では会社法の判例を中心に規律されており、英国では上場規程による事前手続を中心に規律されております。下の表にもございますが、日本ですと上場規程は少数株主にとって不利益なものではないこと、それから事業報告等で関連当事者との取引の開示でございます。米国ですと、少数株主の過半数による承認や特別委員会の設置等の事前手続を行うことで信認義務を果たしたと判断されやすくなります。英国で言いますと、プレミアム市場の上場会社についての、例えば法的拘束力のある契約の締結や株主総会決議要求などの規程となっております。(注)のところでございますが、ドイツにおいては、企業グループに関する体系的な法制度によって、少数株主保護が整備されております。参考資料に詳細は譲りたいと存じます。

 続きまして、グループ経営の最適化に移らせていただこうと思います。グループ経営の最適化でございますが、経済産業省において、上場企業を対象に実施したアンケートによりますと、企業グループとしての意思決定・権限などの枠組みが機能するための取組みとして、グループ各社が遵守すべき管理ルールや業務プロセスが明確になっているところは約7割であり、経営理念等の浸透状況を確認し、経営陣等へ報告している企業は25%となっております。

 続きまして11ページ目でございますが、経産省事業再編研究会における意見や、金融庁において行った企業や投資家等、有識者の方々へのヒアリングなどによりますと、コロナ後の経済社会に対応するビジネスモデルの構築に向け、事業ポートフォリオ戦略などの見直しを進めたいという声も企業からはいただいていますし、この点について投資家からは、事業ポートフォリオの見直しを積極的に実施するとともに、その場合にはグループCEOを中心にグループとして取り組むことが重要との指摘がございます。

 12ページ目はグループ単位のリスク管理でございまして、グループ経営の課題の一つとして、グループ単位でのリスク管理が重要であるとの指摘があり、監査役、監査等委員会、監査委員会が、内部監査部門と連携・同部門を活用して、内部統制システム全体を監査することが重要と指摘されております。

 以上が、グループ経営の最適化でございまして、13ページ目以降、政策保有株式ということで、株式の保有比率のほうは支配株主等よりも下がったものでございますが、ガバナンス上、ここで株主保有のスペクトラムの中で位置づけるということで、政策保有株式のほうを挙げさせていただいています。

 政策保有株式の総数は、2010年代半ば以降減少傾向でございます。特に、金融機関が保有している政策保有株式の比率は減少しているが、事業法人間等での同比率は依然として高い水準にあります。

 15ページ目でございますが、政策保有株式に関して、議決権の実質化・資本効率向上の観点から、依然、投資家サイドには縮減や保有理由の説明の充実を求める声が強いです。金融庁が実施した企業ヒアリング等によりますと、一部の企業においては、財務部門等が政策保有株式の縮減に向けて取り組む際、取引先や事業部門との調整を要しているとの御指摘もございます。

 続きまして、有価証券報告書における開示ですが、この開示内容の充実を促すため、2019年3月期より改正した内閣府令を適用しておりまして、保有方針や保有の合理性を検証する方法、個別銘柄ごとの保有目的・効果等についても開示を求めているところでございます。

 同時に17ページ目でございますが、私どもはこうした政策保有株式などについて、好開示のポイント、あるいは他の例で言いますと好事例などをルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた取組みとして公表しております。下のほうに政策保有株式のところがございますが、投資家・アナリストが好開示と考える開示と現状の開示の乖離が大きいとの意見が聞かれたため、まとめているものでございまして、好開示のポイントとして、経営戦略と関連づけた保有方針や売却の方針等の記載や、時価や配当金による検証だけでなく、経営戦略と関連づけた保有効果等の記載などを記載させていただいています。

 18ページ目でございますが、政策保有株式に関する開示については、充実しつつあるものの、依然として不十分であるとの御意見も投資家・アナリストの方々からございます。

 もう一つ、政策保有株式につきましては、現在、東京証券取引所のほうで上場基準の一つとなっています流通株式比率について、その定義の見直しに関して、昨年12月から意見募集をされており、流通株式の定義から政策保有株式が除外されることとなっております。こちらは参考資料の50ページ目のほうに記載させていただいています。

 以上を踏まえまして、19ページ目でございます。本会合で御議論いただきたい事項でございますが、上場子会社等の在り方については以下のような指摘があります。足下、グループ経営の在り方を検討する動きが出ていることなどを踏まえると、ガバナンス体制の強化等、上場子会社等の少数株主保護の在り方について更に検討を進めるべきである。その際には、上場子会社等としても、支配株主等が存在することにより、経営資源の投入や監督等によるメリットを享受できていることにも十分留意すべきである。

 また、グループガバナンスに関して、グループ経営の最適化という観点から、事業ポートフォリオの見直しを含むグループ全体としての最適な経営資源の配分や、子会社のリスク管理が課題であるとの指摘がございます。

 以上の視点を踏まえ、グループガバナンスを含めた株式の保有構造等に関する以下の諸課題についてどう考えるか。

 上場子会社等における独立社外取締役の関与や開示の在り方を含む支配株主からの少数株主保護の枠組みの在り方。特にグループ経営を行う上場会社の取締役会が果たすべき役割や機能、政策保有株式の在り方。その他、グループガバナンスや株式の保有構造に関する課題として検討すべき論点はあるかということでございます。

 続きまして、資料2に基づきまして、「資本効率/経営資源の配分等」についても御説明させていただきます。1ページ目以降が総論でございまして、2ページ目でございますが、前回2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂においては、原則5-2を改訂しまして、資本コストの的確な把握、事業ポートフォリオの見直しや設備投資・研究開発投資・人材投資等といった経営資源の配分に言及されております。

 3ページ目でございます。コロナ後の経済社会においては、投資家からも企業からも事業ポートフォリオ戦略を含めたビジネスモデルの見直しの必要性を主張する、訴える指摘が多く存在し、特にDXへの投資や対面のビジネスモデルの見直しに係る課題意識ということかと存じます。そして、ビジネスモデルに関する戦略等の決定に向けては、取締役会がコミットすべきという声も聞かれております。

 4ページ目はROEの分布でございまして、全体として上昇、右側に移動しておりますが、他方、「10%以上」を中長期的に望ましいROE水準としている投資家が約44%存在しております。日本は欧米と比較するとROE水準、特に利益率で差が見られます。

 6ページ目でございます。資本コストを意識した経営の中でも、経営において重視すべき指標について、左のほうの図でございますが、企業は利益額、売上高、売上高利益率などの指標を重視するのに対して、投資家はROE、ROIC、総還元性向、資本コストなどの指標を重視しているというアンケートの集計結果なども見られます。

 7ページ目でございますが、自社の資本コストを算出している企業の割合は、2018年から2019年にかけて約15%上昇し、約半数の企業が自社の資本コストを算出している状況でございます。

 続きまして、経営資源の確保でございます。こちらのコロナ後の経済社会における財務戦略に関する意見ということで、私どもが伺いましたヒアリングなどを基にして記載させていただいているものですが、コロナ禍を受けて手元現預金を増やしているという声や、投資とのバランスも重要という声がある一方投資家の方々からは現金保有の意義と、現金保有に単純に頼るのではなく、キャッシュを創出する能力を培うべきとの声も聞かれております。

 続きまして、10ページ目は冨山メンバーから当会議に御提出いただいた資料で、営業キャッシュフローが多いほど、投資キャッシュフロー及び研究開発費も多く、投資の源泉として機能しているとのデータがございます。

 11ページ目以降は、先ほどが経営資源の確保としますと、こちらのほうは経営資源の配分の話、前回ここで出しました設備投資・研究開発投資・人材投資等や御指摘もいただいてきました無形資産とも関係あるところだと存じますが、12ページ目ですと、日米企業の賃金や設備投資、研究開発投資の伸びは以下のとおりとなっております。名目賃金で日本は104、米国は139。設備投資で日本は115、米国は333。研究開発投資で日本は163、米国は219となっております。

 続きまして13ページ目でございます。中長期的な投資・財務戦略の重要項目のうち、人材投資に関しましては、投資家の62%が重視する一方、企業は37%が重視しております。機関投資家が人材関連情報に着目する理由としては、約半数が企業の将来性への期待や優秀人材の確保を挙げております。

 14ページでございますが、人材投資については、従前よりでございますが、コストではなく投資と捉えるべきとの意見が聞かれてまいりましたが、コロナ禍を経て、この人材投資の重要性の意識の高まりが見られるかと存じます。

 15ページ目、企業の人材投資は諸外国と比較すると低い水準となっており、およそ4分の3の企業が、経営戦略の実現に必要な人材を採用・配置・育成できていない/どちらかというとできていないと回答されています。

 16ページ目でございますが、労働生産性の向上が従業員賃金の推移と整合していない期間も存在しており、2010年代、労働分配率は低下というような表を提示させていただいています。

 17ページ目でございますが、米国では市場価値に占める無形資産の割合が増加しており、またESG投資においては特に知財及び知財情報の役割が重視されつつあり、株価に影響するとの試算も存在しているということを御紹介させていただいています。

 続きまして、事業ポートフォリオ戦略で19ページ目でございますが、持続的な成長に向けて、成熟事業が生み出す資金をハイリスクな成長事業の投資に回し、また整理・再生の検討対象事業は事業売却を通じて成長事業への投資の資金源とするなど、そういった事業のライフサイクルを踏まえた戦略的な資金配分を行うことが重要との指摘もございます。

 20ページ目でございますが、事業ポートフォリオの検討状況について、「少なくとも年1回以上定期的に検討している」企業は45%、「ほとんど検討していない企業」も17%存在しています。そして、事業ポートフォリオ戦略・方針について公表している企業は約半数で、取締役会での議論につきましては21ページ目で、社外取締役は、こちらの企業のアンケート等によりますと、約3分の2が何らかの問題意識を有されていて、「具体的な取組や成果につながっていない」、「十分に議論ができていない」「議論は行われていない」などの項目についてのパーセンテージが以下で示されています。

 続きまして22ページ目、本会合で御議論いただきたい事項でございます。資本コストについては、その的確な把握等の重要性が従来から指摘されてきたところ、コロナ禍において、以下の視点からも検討を行うべきとの指摘がある。コロナ禍という非常時における現金保有の意義の認識や、将来への投資も可能とするような経営資源の確保・管理の方法(キャッシュ創出力の強化や事業再編等)の検討。それから、人材(従業員)の負う役割や知的財産の重要性の更なる高まり等を踏まえた将来投資。経済・社会構造の変化を認識した上での、先取りを可能とする、事業ポートフォリオの構築。

 以上の視点を踏まえ、以下の課題についてどう考えるか。

 資本コストを意識した経営の促進。経営資源の確保。先ほども申し上げました営業キャッシュフローの改善や、現預金等の保有方針。

 それから、経営資源の適切な配分で言いますと、人材投資、知的財産、研究開発投資。

 それから、事業ポートフォリオ戦略の見直しの促進ということで挙げさせていただいております。

 以上、資料1と2につきまして、御議論いただきたい事項が最終ページにございますが、何とぞ本日よろしくお願いいたします。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは続きまして、東京証券取引所から、グループ経営に関する考え方や方針等の開示についての御説明をお願いします。青さん、よろしくお願いいたします。

【青東証執行役員】 
 東京証券取引所の青でございます。私のほうからは、資料3「支配株主を有する上場会社に関する情報開示について」につきまして、現在の枠組みと今後の方向性について補足で御説明させていただければと思います。

 2ページのほうを御覧いただけますでしょうか。東証ではこれまで、少数株主利益への配慮を促すとともに少数株主や投資家の予測可能性を高め、十分な情報に基づいた投資判断が可能となるように、開示制度の整備に努めてきているところでございます。

 具体的には表のほうを御覧いただければと思いますけれども、まず支配株主を有する上場会社に対しましては、支配株主と取引を行う際の少数株主保護の方策に関する指針や、親会社からの独立性確保に関する考え方及び施策、あるいは親会社におけるグループ経営に関する考え方や方針、また、それらに関連した契約の内容につきまして、開示をお願いしております。

 また、支配株主を有する上場会社だけではなく、上場親会社に対しても、グループ経営に関する考え方や方針、また、それらを踏まえた上場子会社を有する意義、上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策、そして、グループ経営に関する考え方や方針に関連した契約の内容につきまして、開示をお願いしております。

 一方で、昨今では支配的な株主との間で、取締役の選任等に関する合意があったことが事後的に判明した事例もございました。あるいはグループ内でどのように事業機会や事業分野の調整・配分が行われているか、実態が明らかでない事例も幾つか見られます。

 そこで、東京証券取引所におきましては、今後、支配的な株主、すなわち実質的な支配力を持つ株主を有する場合も対象に含めた上で、ガバナンスに関する合意や、利益相反やその監督・コントロールの考え方と方針、また、グループ内での事業分野・事業機会の調整・配分に関する考え方などにつきまして、開示の充実を図っていきたいと考えている次第でございます。

 3ページ以降は、御参考までに上場会社における実際の開示例を御紹介したものでございますので、説明は割愛させていただきます。

 簡単で恐縮ですけれども、私からの説明は以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは続きまして、本日御欠席のメンバーの方のうち、翁メンバー、冨山メンバー、ワリングメンバーから意見書を提出していただいております。事務局から簡単に概要の説明をお願いいたします。

【島崎企業開示課長】 
 まず、翁メンバーから、簡単に意見書の概要をお話しさせていただきます。グループガバナンスについては、攻めの視点でも守りの視点でも取締役が議論し、監督機能を果たす必要があり、特に親子上場を維持する場合は、その理由の取締役会での議論・株主への説明が、そして上場子会社の取締役会では少数株主保護の視点から、親会社取引などの局面での監督が重要となること、また、親子上場の解消は望ましいが、TOB時に独立社外取締役が少数株主の不利益とならないようにする枠組みを一層工夫する必要があるとの御意見をいただいております。

 事業ポートフォリオにつきましては、中期的な経営計画に基づき、両利き経営の観点も入れて取締役会で定期的に点検することが重要であり、グループCEOが事業再編をタイムリーに決断・実行できるよう、社外取締役がサポートすることが求められるが、事業ポートフォリオは企業のビジネスモデルによりまちまちであるため、上場企業はそのポートフォリオでの長期的に企業価値がどう向上するかの道筋を、ビジネスモデルも含めて投資家に明確に説明できることが必要となるとの御意見をいただいています。

 それから、競争力向上のためには、先進国と比較して低い日本の無形資産/GDP比率を高めることが重要で、特に人的資本への投資についての企業の情報開示の充実と、投資家からの積極的なエンゲージメントが期待される旨、そして、国際的に見て低い日本企業のROEの要因である低い売上高純利益率を向上させることが重要であり、企業はROIC等の有用な指標の達成目標を掲げ、報酬体系などともリンクさせながら企業価値向上を目指す必要があるとの御意見をいただいております。

 続きまして、冨山メンバーでございます。少数株主保護の話につきましては、その問題性は、公開企業である子会社の支配的株主である親会社が、自らの利益のために株主権行使を含む経営上の影響力を行使したときに、子会社の株主共通の利益、少数株主の利益保護との関係で生じ得る利益相反問題に本質があるため、まず、上場企業の支配的株主に対して、取締役と同様の少数株主に対するフィデューシャリー・デューティーを明確に負わせ、さらには支配的株主が存在する上場企業の取締役会は、社外独立取締役を過半とすることを義務づけるべきとの御意見をいただいております。

 人材投資に関しましては、人材力こそが企業価値創造の源泉となる知識型産業、無形資産経営とパラダイムシフトが進む中、日本企業の現状は深刻であり、欧米企業で高水準の人材投資を行っている多くの部分は企業を超えた通有性、市場価値を持った高度機能、高度知識の習得、あるいは高度人材の獲得に投じられているが、日本企業の人材投資はいまだ終身雇用・年功制に支配され、結果的に伝統的な社内教育の域を出られない会社が少なくなく、その仕組みの下で生産される企業固有の価値しか持ち得ない人材群は、企業の枠を超えたダイナミックな事業ポートフォリオや機能ポートフォリオの組替えを難しくする弊害も出る。ガバナンス・コード、あるいは開示ガイドラインにおいて、人材投資や人的資源経営実態に関して厳しい規律を課し、投資家及び社内外の人材市場から見て、他社と比較可能な形で開示を求めることを検討すべきであるという御意見をいただいております。

 続きまして、ワリングメンバーでございます。まず資本効率については、企業価値創造のための持続可能な基盤を確立するための資本配分の実践を奨励することが重要であり、資本配分の監督及び資本配分方針が、企業の取締役会の重要な責任であること、取締役会が提案された配当金の適切性の説明をすべきこと、取締役会がリスクへ備えるのに十分なレベルの資本と流動性を維持しつつ、投資家にとって許容できるリターンを達成するために、現預金等の配分を検討すべきであること、それから、企業の目的に沿った活動に現金を使用して長期的な価値を生み出す等のために、明確な資金配分方針を持ち、取締役会はノンコア資産を保有する合理的な理由を明確にすべきであるということ等について御意見をいただいています。

 株式の相互保有につきましては、投資家は株主間の平等や経営規律の弱体化等の観点から依然として懸念を持っており、また政策保有の開示において、その根拠を取引関係の円滑化等とするのは十分ではないため、開示の規律を強化し、政策保有の性質の明確化、明確な合理性の説明、それから特定の期間内での削減・解消方針の説明、有価証券報告書、企業のウェブサイトでの政策保有株式の金額別合計数の英文開示を求めるべき等の御意見をいただいています。

 企業グループのガバナンスにつきましては、独立役員と受託者としての義務に関してでございますが、日本では上場子会社については、少数株主利益の侵害の緩和のために、独立社外取締役が取締役会の過半数を構成すべきこと、子会社取締役の主要な善管注意義務が明確に記述されるべきこと、独立社外取締役の指名・選任プロセス及びそのプロセスに対する親会社の影響力に関する明確な方針の策定等の適用も有効であり、グループ企業の取締役会がグループの一部であることの利点と潜在的コストを明確にして、株主に正確な情報を提供するとともに、独立社外取締役が親会社と子会社の関係を監視することも重要である等の御意見をいただいております。

 また、親会社はグループ全体に適用される強固な内部統制と、リスク管理手続きも含めた包括的なガバナンスの枠組みを構築すべきであること、子会社の目的のグループ全体の戦略的方向性への貢献を明確に提起すべきであること、親会社と子会社との兼務取締役について、利益相反が慎重に管理されるべきこと、それから、子会社の取締役会に支配株主が存在する場合に、保護されるべき少数株主の権利が会社の定款などに明確に定義されるべきである等についても御意見をいただいております。

 以上でございます。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、以上の御説明と、御欠席の方からの意見書の御紹介を受けまして、皆様方から御質問・御意見等をお出しいただきたいと思います。本日は、先ほど事務局から説明をいただいたことを踏まえて、事務局からも提示をさせていただいております論点というのがあります。具体的には資料1と資料2のそれぞれ最後のページですね。資料1ですと19ページ、資料2ですと22ページですけれども、この論点を中心に御質問・御意見をお出しいただいて、御議論を行っていただければありがたいと存じます。

 それから、前回ちょっと時間が不足気味で、取り上げはしたのですけれども十分に御発言等いただけなかったかもしれないと思われます項目として、株主総会に関する課題というのがございまして、これについても前回御発言の機会がなかった方など追加で御発言があれば、ぜひ今日お伺いできればと存じます。

 それでは、どなたからでも結構でございますが、お1人当たり5分以内程度をめどにお願いできればと思います。本日御参加の方々のうち、途中で退室をされる御予定と伺っておりますのが大場会長なのですけれども、もし大場さん、最初に御発言いただけるようでしたら、御発言お願いできればありがたく存じますが、いかがでしょうか。

【大場メンバー】 
 ありがとうございます。ちょっといろいろ課題が多くて論点整理が難しいのですが、2点申し上げたいと思います。

 1点目は資本効率の問題です。企業によって異なるので、個々の企業の問題は、基本的に投資家との対話に全て委ねるのが望ましいのではないかと思います。2つのコードができて建設的な対話と言っているわけですから、個々の事情を踏まえて資本効率をどのように上げていくかということについて、投資家との対話をより積極化させるということが大事ではないかと思います。

 ただ、データを見ますと、全体として企業の意識がまだスケール重視という感じがいたします。これは、6ページ目の「経営目標として重視すべき指標」というところが代表的ではないかと思うのですが、どちらかというと企業が「スケール」、投資家が「効率」、こういうことが鮮明になっています。したがいまして、こういった点について、対話の中で解決していくということが望ましいのではないかと思います。

 2点目は、政策保有と上場子会社の問題です。まず上場子会社については、やはりグローバルと比較してあまりにも数が多い。これは一段と整理が必要という感じがいたします。本来であれば、そこに資本として価値があるということであれば100%子会社にするでしょうし、ないのであれば売却するというのが資本の理屈ではないかと思います。したがって、これだけ多いということは、そこにどんな理由があるかということについて、これも対話の中で探っていく課題ではないかと思います。

 それから、政策保有については、無批判で保有し続けるというのは資本の理屈からしてあり得ないので、政策保有についても、対話の対象として考えるべきではないかと思います。

 以上、2点でありますが、さらに全体として付け加えるべき点として、コロナ後を展望したときの大きな枠組みということで、これも対話の材料にすべきではないかと思います。それは、コロナ後を展望したときの重要なキーワードは3つありまして、グリーン、デジタル、ヘルスケアではないかと思います。言ってみれば、大きな意味で資源は有限だと言っているわけです。したがっていかに効率を上げるかということが非常に大事だということではないかと思います。この観点で、企業と投資家が建設的な対話を促進することが非常に重要になってきているのではないかと思います。

 私からは以上です。

【神田座長】 
 大場会長、どうもありがとうございました。

 それでは、ほかの皆様方で御発言いただける方は、これまでのようにチャット欄にて全員宛てに発言希望の旨、一言いただければありがたく存じます。

 それでは、佃さん、どうぞお願いいたします。

【佃メンバー】 
 佃です。私からは、上場子会社におけるいわゆる利益相反管理、少数株主利益の保護について、1点コメントをさせていただきます。

 まず、少数株主利益の保護を担保するために、上場子会社における独立社外取締役の要件を厳しく設定する必要があると考えます。最低でも3分の1以上、できれば過半数を独立社外取締役とすることが必要であると考えます。

 そして、上場子会社の独立社外取締役は、子会社の経営陣からの独立性、そして親会社からの独立性、これらが二重に求められるわけですから、少数株主利益の保護が求められるような難しい局面では、独立社外取締役にとっても少数株主利益の保護の観点で大変難しい判断を求められることが容易に想像できます。したがって、上場子会社においては独立社外取締役の数だけでなく、質についても担保する必要があると思います。

 では、質を担保するためにどうしたらいいかということですけれども、上場子会社における独立社外取締役と投資家との建設的な対話を促して、利益相反の監督について、独立社外取締役が少数株主の付託に応えられているかどうかを機関投資家が直接独立社外取締役に確認できるような、そういう機会を増やすことが望ましいと考えています。

 以上でございます。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、チャットをいただいている順番で、田中さん、岡田さんの順でお願いしたいと思います。田中さん、どうぞお願いいたします。

【田中メンバー】 
 今の佃メンバーの御意見にも関係すると思いますが、本日のテーマに関しまして、大変恐縮ですが、弊社の事例を基に一つの考え方を申し上げたいと思います。

 たまたまですが、昨日、昨年8月に私どもの会社が発表していた買収が完了しました。シンガポールのゴー・ファミリーのファンドであるウットラム・グループとのアジアのジョイントベンチャーの100%化と、インドネシア事業の買収を完了いたしまして、買収総額は約1.3兆円となりました。

 この1.3兆円の買収資金は、銀行からの1千億円の借入れのほか、ウットラム社に対する1.2兆円の第三者割当増資で調達しましたので、結果としてウットラム社は当社の株式を58.7%所有する親会社となりました。因みに、ウットラム社はこの取引前でも39%を所有する支配株主でありました。この結果、増資前の資本金789億円が、6,714億円ということになりました。これで財務体質は非常に強化されたと思っています。

 この取引を昨年8月21日に発表いたしましたけれども、その準備段階において最も注力いたしましたのは少数株主の保護でした。そのために、まず昨年3月の株主総会で9名の取締役を選任するに当たりまして、3分の2の6名は独立社外取締役ということにいたしまして、その方々は全て実務家、専門家といたしました。このことによりまして、支配株主からの独立性の高い取締役構成として、少数株主保護のために構造的な利益相反リスクを排除することを目的といたしました。

 その上で、実際本件の買収を行うに当たりましては、改めて独立社外取締役3名からなる独立委員会を設けまして、少数株主保護に徹するということをしまして、その委員3名はM&Aの実務経験が非常に豊富な弁護士、会計士、及び元インベストメント・バンカーという取締役から構成をいたしました。この人選というのは、少数株主保護の重要性を理解しているそういう実務家という観点から人選をいたしたわけです。

 結果としまして、ウットラムと独立委員会との激しい交渉がありまして、これを経まして買収価額はEPS10%増という基準に落ち着きました。これは「株価=PER×EPS」という理論がありますので、EPSを増加させるということは、株価上昇に繋がり、これが株主価値の最大化となって、少数株主にとってメリットが大きいという判断です。

 この結果、当社の株価は大幅に続伸いたしまして、昨年1年で上場企業中、上昇率で第5位の約2倍ということになりました。時価総額も3.7兆円超えになりました。昨日取引完了になりまして株数が46%増加いたしますので、時価総額は理論的にはその分増加し、その結果、昨年の初め1.8兆円だった時価総額は、4.4兆円から4.5兆円に増えるということになります。

 この案件を通じまして、最も考えましたことは3点あります。

 1つは、被支配子会社の株価を形成するのは支配株主ではなくて、少数株主であるということです。支配株主というのは一定数の株をずっと持ち続けますので、実際に株の売買を行い、株価を形成するのは少数株主ということになります。

 2点目は、したがいまして支配株主にとっても、被支配子会社の少数株主を保護するというということは自らにとっても大きなメリットにつながるということです。

 3点目は、少数株主の保護ということにつきましては、これは親会社とかその子会社ではなくて、子会社の少数株主の観点からして、少数株主の利益が保護されているという納得感が必要であるということです。そのためには、どういう独立社外取締役を選任するかということが、先ほど佃さんもおっしゃっていますけれども、これは非常に重要なポイントになると思います。

 したがいまして、こうした経験から考えますと、その支配株主にとっても、支配する上場子会社の少数株主の利益を保護するということはその株価形成にプラスに働きますので、その結果、支配株主の有する資産価値を高めることになります。そういうつながりを考えますと、上場子会社の少数株主の利益を保護するということは、むしろ支配株主会社の株主の視点からしても求められるものという整理ができるのではないかと私は思います。

 これをガバナンスの視点から整理しますと、上場子会社の支配株主の取締役会は、支配株主会社の株主の利益のために上場子会社の少数株主の利益を保護する責務があるという整理ができるのではなかろうかと思います。

 それから、今日の論点がもう一つありますが、経営資源の配分の点ですけれども、こうした取引の結果、財務体質が非常に強化されたということと、こういう時期ですので、むしろ人材への投資とか人材確保の観点から、私どもはこのたびベア3%を行うということを発表いたしました。こういう厳しい時期ですので、むしろ人材を獲得するには非常にいいチャンスではないかと思っています。

 一つのケーススタディだと思って、お聞きいただければと思います。以上です。

【神田座長】 
 田中さん、どうもありがとうございました。

 それでは続きまして、岡田さん、どうぞお願いいたします。

【岡田メンバー】  
 まず、グループガバナンスの中の上場子会社等の問題ですが、これは今の佃委員、田中委員のご発言に賛成でございます。まず、はっきりしたいのは、金融庁の資料でも明らかですが、「上場子会社」とはしないで、「上場子会社等」として20%であれ30%であれ、圧倒的な多数を占めている株主の場合にも同じような話が適用できるのではないか、ということです。

 それから最近、親会社が上場会社を100%子会社化する際のTOBについて、ある例では社外取締役によって構成された特別委員会が審査をして、TOBに賛同はしますという一方、株主がそれに応募するかどうかは株主の判断に任せるというような意見が出たと聞いております。これは、独立社外取締役の判断とは言えないのではないかというように疑問を持っております。独立社外取締役といえども、指名権が親会社に握られているという状況では実質的に独立性がないと言わざるを得ません。独立した判断のためにも、独立社外取締役を5割以上、過半数にすべきではないかと考えました。

 次に、上場会社以外の子会社のガバナンスでありますが、当然子会社の独立性を尊重して権限を委譲するのが本来の姿であります。以前は親会社よりコストが低いという理由等で子会社化していた場合もありますが、最近はやはりその従業員などのステークホルダーを尊重した経営をする必要があります。親会社と子会社は別法人でありまして、それぞれの会社の機関設計に従って取締役の業務執行・監督するわけですが、別法人でありますから、取締役がいくら親会社の取締役といえども監督の範囲は限られております。

 一方、監査役については、必要な範囲で親会社の監査役が子会社に対する業務調査権限を有しています。これは会社法でも定められております。そういう意味では、グループあるいは子会社の経営を監督する監査役の役割に対する期待するところ大だと思います。

 次に、政策保有株式についてです。資料にもありますようにその解消は大分進んでおりますが、まだ岩盤株式があると思われます。保有する企業と保有される企業の意識が変わらないとなくならないのではないかと思います。保有される側というのは、総会運営において安定株主に依存する体質がまだ残っているような気がします。総会における決議事項をできる限り絞って、総会では説明に時間を費やすのではなく、議論に時間を費やす姿勢が必要だと思います。

 また、政策保有株式は配当だけの利益ということであれば、投資コストが賄えておらず、経済的には正当化できません。最近、有価証券報告書において開示が強化されていますが、実際の説明は取引関係の強化とか事業拡大等というのが目的としていて、定量的な効果を記載することが難しいとしているところが多いと思います。危惧いたしますのは、政策保有株式の存在で公正な取引がゆがめられることがあるのではないかということです。例えば、保有を続けてくれれば、採算が合わなくとも商売を継続してやるよというような経済合理性に基づかない判断がなされることはないだろうかということを危惧しております。さらに開示を強化するのは限界がありますので、取締役会などで独立社外取締役による厳正な検証に期待をしたいと思います。また、金額が大きい会社については、投資家が対話を通じて改善を促すことも考えられます。

 1点付け加えれば、政策保有株式の売却益を計上できるという日本の会計基準により、政策保有株式の含み益がいざというときのお守りとなっている面(不測の損失の穴埋めに売却益を計上すること)もあるのではないかと思います。会計基準を変えることも必要ではないかと考えます。

 最後に、経営資源の確保の問題ですけれども、人的資源の確保といいますと、中途採用とか教育にお金をかけるという議論になります。それも確かに大事ではありますが、私は人材育成の要というのは人事評価制度であると思っています。企業が人事評価をどのように行って人材育成をしているかということをもっと注目すべきではないかと思います。

 私は日本の伝統的な上からの一方的な評価ではなくて、360度ないしは多面評価というのが理想だと思っておりますが、なぜならば、それによって上から見たらよく分からないパワハラとかセクハラもあぶり出すこともできますし、多面評価を続ければ、指名委員会などでもその人のある程度評価に役立てることができ、その人の人柄を指名委員会の社外取締役にも知っていただけるということで大変重要なことではないかと考えています。これは企業ごとの考え方次第ではありますが、人事評価の方法や考えを知ることは有益ではないかと思います。

 以上です。ありがとうございました。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして春田さん、どうぞお願いいたします。

【春田メンバー】 
 春田でございます。ありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 私からはグループガバナンスの問題と資本効率の問題について発言いたします。

 まずグループガバナンスの問題について、これまで政策保有株式の在り方については今まで色々な御意見がありました。2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂のときに、保有の適否を検証し、検証内容について開示すべきだということだったわけですけれども、このことによってどのような変化があったのか、効果等を含めて検証していく必要があるのではないかと思っております。

 また政策保有株式以外に上場子会社の問題もございますけれども、その中で社外取締役の役割というのが議論になっております。社外取締役がどのような役割を果たしてきたのかを検証する上で、社外取締役の役割発揮という観点が非常に有意義だと思っています。社外取締役の数だけの話ではなく、実際どのような役割を果たすのかというところを検証して、社外取締役を機能させていくということが私は重要ではないかと思っております。

 2点目、資本効率の問題についてでございますけれども、日本経済が低迷している要因として、企業の内部留保がなかなか投資に回ってこないということが問題であると考えております。コロナ禍において、企業マインドとしても非常時に備えておかなければならない意識から、内部留保が投資に回っていかないという考え方が強まってきたことを懸念しております。

 そういう意味でも、内部留保をいかに投資に回していくのかというところが重要だと思っています。デジタル化、グリーン化、先ほど話のあったヘルスケアもそうですが、こういった分野で成長戦略を打ち出してきている中で、投資につなげていくということが必要ですし、預貯金の保有方針といったところにこういった意識付けを行うというのが重要かと思っています。

 この点においても社外取締役の役割発揮というのは重要かと思いますので、企業の長期的な戦略の中にこうした視点も含めていくような方向性でコーポレートガバナンス・コードを改訂するというのが望ましいと思っております。

 それから、人材投資の件でございますけれども、これは我々働く者にとって最も重要なことだと考えております。デジタル化、グリーン化、エネルギー関連分野もそうですけれども、これから産業構造の転換が予想される中で、それに対応できる人材育成というのは、私は不可欠だと思っております。説明資料の中にもありますとおり、投資家が人材育成について非常に重視する一方で、企業は重視している割合が少ないという現状があります。人材投資の重要性という中で、とりわけ労働分配率を引き上げていくということが重要ですし、また賃金の引き上げだけではなくて産業構造の転換に対応できる人材を育成するための教育も重要です。職業訓練も含めた教育に力を注いでいくというのが、これからの日本企業に求められていると思っております。

 我々働く者の立場からとしては、従業員一人一人が教育について意識することは当然重要ですけれども、企業側から従業員への働きかけも必要だと思います。このコロナ禍の難局やアフターコロナに労使一体となってどのように対応するのかは非常に重要な視点でありますし、コーポレートガバナンス・コードにおいてもこういった対話を後押しするような内容になればと思っております。

 以上でございます。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして小口さん、どうぞお願いいたします。

【小口メンバー】 
 ありがとうございます。本日の議論というのは大変多岐にわたるのですけれども、相互に強くリンクした課題かなと思っています。まず資本コストから申し上げますと、先ほど御説明のありました資料2の2ページですけれども、2018年のコード改訂におきまして、原則5-2で資本コストの的確な把握と、事業ポートフォリオの見直しや設備投資・研究開発投資・人材投資等といった経営資源の配分が盛り込まれたわけです。

 それで、ここからの話は先ほど田中メンバーのお話があったように、企業ごとに対応が大きく異なっているので、総論といいますかマクロ的な話になるのですが、もしこの原則5-2が実質的に実践されているのであれば、そのアウトカム、結果としての資本収益率ROEは、もちろん対応を始めてからすぐということではなくて相応の期間は必要となりますけれども、やはり海外、具体的には欧米水準に向けて改善していくことが期待されるのではないかと思っています。

 ただ、資料2の5ページの資料ですけれども、これは第20回の会議でも提示された資料と同じだと思うのですが、下の図のスチュワードシップ・コードが導入された2014年と比較しましても、また上の図にあります欧米水準と比較しましても、未だ大きな改善のエビデンスというのは確認できない状況にあるわけです。レバレッジに至っては、2014年から、若干ですけれども悪化しています。

 そこで、資料の次の6ページですけれども、これは先ほど大場メンバーからも御指摘がありましたとおり、あくまでも総論としてですが、この原則5-2の実行者は企業ですけれども、その企業の意識というのは、左の図で言いますとROEとかROIC、総還元性向、資本コストといったいわゆるバランスシートに関する指標について投資家ほど重視していないということが示されておりまして、バランスシートに関する企業の意識が薄いのであれば、ROEを含む関係する指標の改善が投資家の期待ほど図られないということは、ある意味当然の帰結かなと思っています。そうなると、要望ということで申し上げれば、投資家とのエンゲージメントを促して、そして投資家の期待に企業自ら応えてほしいということになるわけです。

 しかし、企業側に立ってみれば、先ほど田中メンバーから大変貴重なお話をお伺いできたのですけれども、そういったお考えが経営者には広く共有化されているのであれば問題はないのですが、多くの場合はこういうバランスシート的な問題を重視しなくて済むから重視しないというロジックがあるのではないかなと思っていまして、もちろん単純に理由を限定できるものではないのですけれども、影響が大きいと思われますのが、やはり日本特有の株式保有の構造ではないかと思っています。

 そこで、資料1の3ページの上の記載ですけれども、株式を3割以上保有している支配株主が存在する上場企業の割合が、アメリカ・英国では1%以下であるのに対し、日本では1割と大きく乖離しています。それから14ページに飛んでいただきますと、これは政策保有株式ですけれども、過去の推移として、確かに金融機関の保有する政策保有株の比率はいろいろな御努力の下に減少しているのですけれども、事業法人間等での同比率というのは依然として高い水準にあるということです。

 それで、支配株主とか政策保有株式が上場株式を保有する理由が、今日も議論に出ていますけれども、純粋に投資リターンを図る一般株主と異なっているものであるからこそ、これまで開示の強化を中心に議論してきたわけですけれども、ただ、この支配株主とか政策保有株株式の存在自体が保有される側、こういう株主がいる上場企業においては、一般株主を重視する意識を薄れさせているのではないかということを考えますと、今まで議論してきました支配株主とか政策保有株主に対し、株式を持つことによって事業の収益確保源への貢献があるといったことを保有の合理性として説明を求めるだけでは、その説明には株主共同の利益、一般株主の目線がないので、その議論を進めても不十分だと思っています。

 やはり支配株主とか政策保有株主にも、機関投資家や一般株主と同じ目線で株主共同の利益に貢献していただくことで、支配株主とか政策保有株式の株主に保有される側も、おのずと原則5-2に意識が向かうようになることが必要なのではないかと思っています。

 そこで、どうするかということですけれども、支配株主とか政策保有株式の株主が上場株式を保有し続ける条件として、純投資家としての責任、いわゆるスチュワードシップ責任を負っていただく必要があるのではないかなと思っています。その中には議決権行使の個別開示も含めるわけですけれども、もしそういった株主共同の利益に資するような純粋な投資家としての責任を負うことはやはり難しい、負担であるということであれば、売却を促すということになるのではないかなと思っています。

 これは少し乱暴な議論に聞こえるかもしれないのですけれども、結局のところ、そういう投資家、一般株主と異なるインセンティブの支配株主とか政策保有株主が、市場の一定程度の上場株式を保有し続ける日本特有の事情を解消しない限り、一般株主はマイノリティ・ディスカウントを被り続けて、ひいては日本市場の評価に悪影響を与え続けることを懸念しておりまして、その視点から意見を述べさせていただきました。

 さらに支配株主について言えば、単独で資本の論理が働きますので、少数株主保護をより強く意識する必要がありますので、本日皆様からも御意見が出ています、上場子会社における独立社外取締役の役割を強化する考え方については賛成です。ただ上場子会社の取締役の独立性を幾ら高めましても、その取締役を選任するのは結局支配株主ということになりますので、支配株主側に子会社の少数株主を保護する役割を付与しないと機能しないということで、具体的には先ほどの冨山メンバーの意見書に独立社外取締役の比率の話もありましたが、支配株主については社外独立取締役を過半とするという考え方もあろうかと思います。あるいは、同じ趣旨ですけれども、少数株主に対する支配株主としての責任を負う独立社外取締役を中心とした任意の委員会、ガバナンス委員会といったものを設定して、指名委員会と報酬委員会と同様、独立した立場で利益造反を監督することを促してはどうかと思っています。

 最後に一言だけ申し上げたいのですが、今まで原則5-2について実践されないのは、あたかも日本特有の株主保有構造のせいであるかのように聞こえたかもしれないのですが、もちろんそれだけではなくて、参考資料にも出ていますが、コングロマリット・ディスカウントのページに示されるような、低収益セグメントやコングロマリット・ディスカウントが放置されているのは、このような長期的課題をエンゲージメントして、企業とともに改善を促すべき役割を負っている機関投資家が十分に役割を果たしていないということも、問題の解決が図られない要因であると思いますので、付け加えさせていただきたいと思います。

 長くなりましたけれども、以上でございます。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして三瓶さん、どうぞお願いいたします。

【三瓶メンバー】 
 三瓶です。よろしくお願いいたします。論点がたくさんありますが、できるだけ触れたいと思います。

 まずは株式の保有構造に関してなんですが、これまでも多くの方が意見されているとおり、支配株主からの少数株主保護の枠組みの在り方という点は非常に重大な問題で、これまでも長く日本でも議論されてきていると思います。要するに公開会社、また上場会社として少数株主の保護ができていない、そこに制度としての穴があるということだと思いますが、2019年にはこれに関して著しい懸念を抱くような事象が幾つかありました。そういうことも踏まえると、早急に何らかの対処をしておかなきゃいけないという事案だと思います。

 その中で、今、小口メンバーもおっしゃいましたけれども、大事なのは支配株主であるほうの親会社に課せられる他の株主に対する信認義務(fiduciary duty)、それと上場子会社側の、例えば、独立社外取締役過半数というような規律、こういったものがセットで考えられるべきだと思います。具体的に言うと、コーポレートガバナンス・コードでは原則4-8、原則4-3、原則4-11等に関わる問題だと思います。

 ではどうしたらいいかというと、この問題はいつも答えが出なくて困るわけですけれども、まずこういった事案について、支配株主である親会社のほうに他の株主に対する信認義務を課すということが望ましいと思います。ただ、コードでできるのかという問題があります。それと支配株主に他の株主に対する信認義務を課した場合でも、上場子会社に過半数の独立取締役を求めるのかという論点があります。つまり、両方とも同時に要るのかということです。

 そこで、例えば支配株主が他の株主に対する信認義務を履行するという宣言を公表した場合には、上場子会社に過半数の独立取締役を求めない。ただし、支配株主が他の株主に対する信認義務を果たすのかどうか不明確な場合には、上場子会社には必ず少数株主保護のために過半数の独立取締役を選任する責任があるというふうに考えるのが妥当かと考えます。これはある意味米国と同じようなバランスの取り方です。

 そうすると、コードとしてどうなるのかというと、過半数の独立取締役を選任することが子会社にとってのコンプライです。他方で選任しない場合には、支配株主が他の株主に対する信認義務の履行宣言を公表しているということを確認する必要があると思います。それをもってエクスプレインというのがあり得るんだろうと思います。

 では、支配株主の他の株主に対する信認義務不履行があった場合どうするかということですが、1つの案は、支配株主が例えば有報提出会社であれば、他の株主に対する信認義務履行宣言を有報に記載するということで担保できるのではないかと思います。有報に記載してあるにもかかわらず不履行であれば、それは虚偽記載に当たって相応の責任が生じると思います。こういった形で、この2つの支配株主の責任と上場子会社の側の責任と、それをセットで考えて、どういうバランスで目的を達成するかということを考える必要があるのかと思います。

 先ほど田中メンバーもおっしゃいましたけれども、双方がちゃんとバランスを取って考えていく上で、上場子会社の少数株主の権利を守ることが支配株主側の不利益になるとは限らず、そこはむしろ方向性が一致するということもあるので、この考え方が必要だと思います。がんじがらめにしていくと双方にとってコストがかかるだけなので、こういうことを前向きに考えていくためのある種のインセンティブというか、選択肢をうまく用意するというのがあるべき姿ではないかと思います。これがまず1点目です。

 2つ目の政策保有株式については、東証のほうで流通株式の計算方法を変えることによって、今起こっているのは、一層の政策保有株式の縮減です。これはある種、これまで株を持っていないと取引ができないというふうに言っていたことと矛盾する行為が行われているわけで、プライム市場に上場したいとかいうことになると株は手放せるんだということで、これまでの理由は何だったのかなというのがあって、そもそもやはり正当な理由があったかは不確かな感じがしています。

 それと、原則1-4に書かれている政策保有株式について、資本コストと比較してというところがあるんですけれども、今行われているのは経済的なリターンが何%で、資本コストが何%で上回っているとかいう程度のことしか検証されていなくて、そもそも政策保有株式というリスクアセットを持つということは、株主資本をリスクバッファとして充当しているというその額、その金額としての負担を担っているということについての認識が足りていない、それを取締役会で検証できていないという問題があります。そういう意味では、補充原則4-11③は実行できていないのではないかという懸念を持っています。

 政策保有株式の中には資本提携というものも場合によっては入ってきますが、この場合は若干検証の仕方が違う可能性がありますけれども、この資本提携についてより重大なことは、恐らく相手側と株式譲渡条件等の何らかの合意があると思いますが、そういったことが一切開示されていないことです。そういったことを開示することが、エクスプレインの要件となると思います。むしろ、投資家の判断に重要な影響を与えうるそういった合意内容が開示されていないのであれば上場規程違反も視野に、しっかりモニターする必要があるんではないかと思います。

 3点目として、その他として掲げられている論点についてです。支配株主について先ほど申し上げましたけれども、でも実際は支配的な株主まで範囲を広げていく必要があると思います。実態からするとそうです。このときに、どの辺から支配的に入るかというと、例えば株主総会での特殊決議を考えれば25%、持分法適用子会社ということで子会社という認識があるのであれば20%が閾値になる可能性があると考えます。

 また、支配株主との間の何らかの合意がある場合に、その合意の内容ということも開示されるべきだと思います。そういったことがあって初めて、子会社の少数株主はインフォームド・ディシジョンができると、それが株主または投資家にとって重要なポイントだと思います。

 最後に、資本効率のほうで挙がっているポイントですけれども、事業ポートフォリオ戦略の見直しの促進というところ、ここは詳しくは申し上げませんけれども、取締役会で少なくとも年1回は事業ポートフォリオに関する基本方針の見直しを行うとともに、事業ポートフォリオ・マネジメントの実施状況に関して経営陣に対する監督を行うべき、その状況を開示すべきで、それは取締役会の責任であるというふうに事業再編実務指針で書かれています。ということは、コーポレートガバナンス・コードの原則4-11で必ず報告されるべき、そして原則5-2で開示されるべきと思います。

 その場合に、原則5-2をコンプライする場合に、開示箇所をコーポレートガバナンス報告書に明記する必要があると思います。例えば、全項目コンプライと言っている会社に対して、これまでも対話の中で、原則5-2の項目についてはどう説明しているのか聞いたときに、「たしか統合報告書に書いてあった」とか、「たしかどこかにあった」というような曖昧な回答が目立ちます。「たしかどこかにあった」では困るので、明確にコーポレートガバナンス報告書に、どこに記載しているのかということぐらいは書いてほしいと思います。

 以上です。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして上田さん、どうぞお願いいたします。

【上田メンバー】 
 上田でございます。よろしくお願いいたします。

 本日のテーマは多岐にわたるかと思いますが、根底にある問題点というものは共通の課題であるのかなと思います。つまり上場という意味、あるいは市場機能を利用しているという意識であるとか、そういった市場機能を通じて資本を受け入れている。こういったところに対する意識というものを、いま一度日本企業として認識しなくてはいけない時代になっているということを認識するような課題設定であろうかと思います。順序としては資本効率が先かなと思いましたが、事務局から頂戴した順番に従って、まずグループガバナンスからコメントをさせていただければと存じます。

 グループガバナンス、親子上場という狭い概念ではなくて、東証さんのほうで御議論されておられると思うのですが、支配株主という比較的広い概念で議論が進んでいるということは大変いいことだと思います。田中メンバーからも、少数株主が株価を作っているので、配慮しているという大変前向きな企業経営者のご意見がありました。このような少数株主の保護というものを、まず子会社の側においては改めてコード等を通じて認識していく必要があるかと思います。

 その際には幾つかポイントがありまして、まず1つ目、関連当事者取引、これはOECD原則等にも出ているかと思うんですが、必ずしも取引というのが物品のサービス等だけではなくて、例えば子会社が有している現預金をグループ内で安い金利で貸し付けるとか、そういった資金の移動も含めて開示が必要であろうかと思います。またガバナンスの観点からは、社外取締役の位置づけが重要かと思います。親会社から独立した社外取締役が、子会社あるいは被支配会社においては過半数必要になってくるのかと思います。

 実際に6ページですか、資料のほうに書いてあったかと思うのですが、むしろガバナンスの構造というものは、一般の上場会社に比べて遅れているというような形もあるようです。そのため、独立性、そして子会社の少数株主保護という観点からは、報酬委員会あるいは指名委員会を設置し、過半数の独立性をもった社外取締役で構成する、そういうことも強く求めていってよろしいのかと思いました。

 他方、親会社、支配株主側ですが、そのような会社においては、子会社の少数株主への配慮というものも明確にしていってもよろしいのかと思います。その場合にはグループ全体での企業価値の向上、これは親会社株主の利益にもつながる問題で、事業ポートフォリオの見直しにもなりますので、そういった点の考慮というのは必要かと思いました。

 続いて、政策保有株式ですが、昨年末に東証さんがお出しになられた流通株式の定義は大変幅広くて、我々が分析するときも広く網羅する場合の定義で使っているものをお出しいただいて、市場からは大変前向きな、恐らく企業さんにとっては厳しい規律の方向性かと思っております。

 問題は、この政策保有を、この資料の中にもありましたが、政策保有株主に売ってもらえないという企業側からの悩みがあるということです。ここはもうコードとか何かルールで規律するというよりも、商慣習そのものを変えていくという話かと思いますので、この辺りはしっかりとコード改訂等を通じて広めていきたい。

 政策保有については、大体企業経営者の方、皆様問題意識をお持ちかと思います。それでも解決しないのはなぜかというと、これが株主総会の議決権につながっているということで、社内で総会担当部門から株主総会の議決権行使結果に影響がありますよというような指摘があると、なかなか経営者としては解消に行けないという課題があるかと思います。

 この辺りの企業内部における総会担当というところの意識の改革、多くの場合、コーポレートガバナンス報告書等も含めて総会担当のところで作成しているケースも多くありますので、企業経営者だけではなくて、社内におけるそのような部門等も含めて意識改革を強く求めていく必要があると思っています。

 少し長くなっていますが、資本効率についてです。資本効率の課題というのは、ほかの委員の方もおっしゃっていましたけれども、コードでというよりも対話を通じて解決していきたいテーマであろうかと思います。したがって、今後もし対話ガイドラインの改正等も予定されているのであれば、ぜひそちらに書き込んでいければと思っています。特に重要なのは、資料の御議論いただきたい事項にも少し書いていますけれども、キャッシュを生み出す力、こういったところへの企業の意識というのが果たしてどれだけあるのか。ここをしっかり強めていく必要があるのではないかと思います。

 また、資料には企業のマージンが低いという、デュポン分解の分析が出ていましたけれども、これは以前から指摘されていて、どうしても収益性よりも売上の規模を拡大が目指されているのではないか。

 実際に私が幾つかの会社の統合報告書を見て分析しておりましても、売上というところに着目して開示をしておられる会社が多くて、一方で投資家あるいは市場から求められる情報というのは収益性だと思います。この辺りの情報開示の在り方、また投資家が求める情報を出していくことが必要かと思います。ただ、社内のリソース分配の場合には、収益性ではなくて売上規模でリソースを分配している場合もあるかなと思っていますので、そういった社内の経営指標とともに、社外に説明する指標というものを、いま一度整合性を持つ形で御検討いただく必要があるかと思っております。

 最後に、そもそも資本コストという以前に、会社として必要な資本がどの程度か御理解いただいているんでしょうかという点も含めて、上場しているという意義について改めて御認識をいただければと思います。上場企業に対して厳しいのは、エクイティというリスク資産を投資家が提供していて、その回収のよりどころは経営者しかないんだといったところがありますので、そういった点でいま一度、コードを通じて認識を広めていく必要があるかと思っております。

 以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして小林会長、どうぞお願いいたします。

【小林メンバー】 
 私は10時35分から入室したので、ちょっと今までの御説明とディスカッションの内容には不案内なんですが、事前に頂いた資料を見て感じたところを、グループ経営と、資本効率も含めた企業価値、これら2点についてお話ししたいと思います。

 まずグループ経営については、会社のカテゴリーや業種によって相当考え方は違うと思います。私は化学会社が乱立する日本で、とりわけコングロマリット・ディスカウントの典型と言われる総合化学の経営者として生きてきました。石油・石炭ベースの古いトン単位のケミストリーから、マイクログラム単位の医薬品、ひいてはIT、AIを使ったサービス系のビジネスも含めて、元々非常に重い会社をどう変革するかという道のりだったわけですが、ここ十数年を振り返ってみますと、やはり日本におけるグループ経営の場合は、様々な事業を持つ会社をどう捨てていくか、それと同時に、新しい事業の会社をM&Aでどう取り入れていくかということがポイントになるかと思います。そういったダイナミズムを実現するためには、例えばホールディングス制にして「この指とまれ」方式でグループ内に子会社を糾合していく、持株会社にぶら下げていくという手法を取らないと、なかなか進みにくいのが現実です。会社対会社の合併という形だと、1つブランドが消え、1つ社名が消え、1人社長も消えることになるので、なかなかコンソリデーションがしづらいわけです。

 そういう意味で、ホールディングスの中に取りあえず取り込んで、それから持株比率を100%にするかゼロにするかを決めるという形は、会社のトランスフォーメーションという意味では、欧米と比べるとあまりに上場子会社が多いとはいえ、一つの手法としてあり得るのだと思います。例えば契約上5年とか10年経つまでは五十数%という持株比率を変えないけれども、その後は当然、ゼロか100を決めるというやり方です。そういうトランジェントな場をつくっておいて、それでゼロにするか100%にするかオプションを持ち得るという形は、やはりそれなりに重要ではないかと思います。

 当社の場合は、日本化成とか日本合成化学といった事業会社の持分法子会社をTOBで100%にしていったり、三菱レイヨンはホールディングス直下に100%で取り込んだ後、経過期間を置いて他の事業会社と統合したり、ホールディングスの持株比率が50%超だった田辺三菱製薬をTOBで100%化したり、そういう糾合したり捨てたりを繰り返しながら、今は2014年に取り込んだ日本酸素ホールディングスだけが50%超の上場子会社になっています。

 そういう過程で、田辺三菱製薬の100%化に際しては、独立委員会がしっかり株価のバリュエーションに当たりましたし、日本酸素ホールディングスは非常に独立性の強い会社で、はっきり言って持株会社の言うことを聞くどころか、私が見る限り実際には子会社の執行のほうがよほど強くてしっかりやっているという感じなので、実態は業種ごと、事例ごとに千差万別なわけです。ですから、トランスフォーム加速の方便としてトランジェントな上場子会社なども認めつつ、欧米流というのが常に正しいとは思いませんが、少数株主保護のために3分の1とか過半数の独立社外取締役を置くという方向性がやはりいいんじゃないかなという感覚を持っております。そして、何年かのオーダーで、100かゼロかを機動的に柔軟性を持って決めていくという形が、あまりに会社数が多くて過当競争に陥っている日本でコンソリデーションを促進する手法としては、現実的でいいんではないかと思っています。

 次に企業価値なんですけれども、私自身は、法人としての会社の存在が「誰に裁かれるか」という観点がポイントだと思っています。その意味では、やはり資本効率、リターン・オン・エクイティからコスト・オブ・エクイティを引いたエクイティ・スプレッドだけではなくて、社会に対してどういうテクノロジーやイノベーションを提供するかも企業価値を構成する重要な要素であって、GAFAのようなデジタルトランスフォーメーション、バーチャル系のテック企業がこれだけ時価総額を上げているのは、まさにその表れだと思います。それらに加えて、やはり社会性、公共性といいますか、かつてのCSR、今でいうESG投資やSDGs、そして今後はカーボンニュートラル、そういった課題への具体的な寄与がかなり重要なポイントになってくるんじゃないかと思います。したがって、統合報告書的なナラティブなストーリーで総合的な企業価値を明示できることが極めて重要な時代が来ているんではないかと実感しています。

 そういう意味では、ポートフォリオ・トランスフォーメーションに当たっても、資本効率とかエクイティ・スプレッド的な視点で7、8割、あとはESG的な社会性と、カーボンニュートラルやデジタルトランスフォーメーションを進めるテクノロジー要素を合わせて2、3割、こういう重みづけをどう数値化してエクスプレインできるかという点もかなり重要になってくるのかなという気がします。

 事務局の資料を見ると、営業キャッシュフローが非常に大きい会社がやはり投資キャッシュフローとR&D費用も大きい。そして時価総額も大きいように思えます。P/L、B/Sと同時に、こういうキャッシュフローをベースに議論をすることが重要だし、やはり株価というのは企業価値をかなりきれいに表現する蓋然性があるのかなというような気がします。

 加えて、GDPが人々のウェルビーイングを必ずしもダイレクトに計測しきれなくなってきて、とりわけバーチャルなインターネット空間における消費者余剰や経済活動を把握できなくなっている今、今後は我々のようなものづくりを中心にしてきた企業体が、例えばカーボンニュートラルを基軸にした新しい価値創造に取り組み、そういった企業価値を明確に主張していくことがポイントになるんじゃないかなというような気がいたしております。

 以上です。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして神作先生、どうぞお願いいたします。

【神作メンバー】 
 ありがとうございます。

 まずグループガバナンスに関連して御意見を申し上げます。コーポレートガバナンス・コードにおいて、グループ企業全体について正面から捉えることを検討することが望ましいと思います。投資の実態からしても、また連結中心の金商法の体系からしても、グループ企業を対象に議論するということを一歩でも進めることが適当であると考えられるからです。

 例えば、グループ企業を支配している企業の取締役会は、グループ企業全体の経営に責任を持つべきでありましょうし、その経営戦略の一環として企業グループ戦略を策定し、それを確実に実施するというようなことをガバナンス・コードに明記するというようなことも一考に値すると思われます。特に守りのコーポレートガバナンスという観点からいたしますと、法令遵守等のコンプライアンスを実現することをグループ企業のレベルで実現する。このようなことをプリンシプルとして目指す必要があり、グループレベルでの監督が大変重要になると思われます。

 そのためには、企業グループに関する重要な情報が適時適切にかつ包括的に監督監視する部門に提供される、そのような仕組みや体制をつくることが前提条件になります。そのようなことについてもガバナンス・コードに記載することが考えられるのではないかと思います。

 また、攻めのコーポレートガバナンスという観点からいたしますと、とりわけ事業ポートフォリオや経営資源の配分に関する戦略の見直しというのがグループレベルで行われることが重要であると思われます。

 なお、本日事務局から諸外国の状況についても御紹介がございましたけれども、ドイツにもコーポレートガバナンス・コードがございます。ドイツのガバナンス・コードでは、コードが提示している規範の対象が単体の株式会社であるのか、それともグループ企業であるのかということを明確に意識して区別し、異なる言葉で表現しておりますので、日本がこれからグループ企業全体を意識したガバナンス・コードを考えていくときには、一つの参考になり得るのではないかと思います。

 このようにグループ企業を正面から捉える場合には、必然的に支配株主と少数株主についてもより踏み込んで検討する必要性が一層大きくなります。少数株主の権利確保や保護については、現在のガバナンス・コードの基本原則の1や原則4-7の(ⅳ)で既に言及されておりますし、支配株主についても原則の4-3ですとか4-7の(ⅲ)及び(ⅳ)に言及がございます。しかし、いずれも非常に短く簡潔で一般的な記述でありまして、プリンシプルの枠内のとどまりながらも、より具体的な形で原則を提示することが検討されるべきであると思われます。とりわけ少数株主が存在する場合には、少数株主の利益が支配株主やグループ全体の利益のために犠牲にされるおそれが生じますので、そのようなおそれが実現しないよう、少数株主の適切な保護がなされるような、より踏み込んだ形でのベストプラクティスを示すことが検討されるとよろしいかと思います。

 具体的には、そのための第一の方法といたしましては、経営戦略の策定や内部統制体制、特にグループレベルの内部統制体制の大綱の決定に関与する権限がある機関のメンバー、すなわち支配企業の取締役会の構成員に支配株主から独立した少数株主の利益を配慮してくれる者が存在するということが極めて大事であり、他方、支配株主が存在する上場会社においては、その必要性が一層大きくなると考えられます。したがいまして、こういった会社を念頭に、社外取締役の割合ですとかその任務・役割について、少数株主の保護という観点からより具体的なプリンシプルを提示することが考えられると思います。

 第2に、グループ間企業の取引などを通例的なものと非通例的なものに分け、通例的なものについてはグループレベルでの内部統制体制によって監督し、非通例的なもの、とりわけ支配権をめぐる取引ですとかスクイーズアウト、あるいは事業機会や経営資源の配分などについては、少数株主の利益に対する影響が非常に大きいため、少数株主保護という観点から、独立社外取締役を中心として手続規定などを中心に、その取引とか行為の公正さを確保するためのベストプラクティスを文章化することができれば理想的であると思われます。

 さらに、支配株主から独立性を確保した取締役会、とりわけ監査監督のレベルですとか、あるいは報酬の決定において重要な役割を果たす監査委員会とか報酬委員会のトップには、支配株主から独立した取締役を置くことが望ましいと思われます。また、今支配株主について申し上げましたけれども、支配株主からの独立性という場合には、支配株主自体のみならず、支配株主と資本的・人的・取引上の密接な関係がある者も含まれるということを明らかにすることが適切であると思われます。

 最後に、資本効率、経営資源の配分に関し感想を一言述べさせていただきます。特に事業ポートフォリオ戦略については、これまでも何人かのメンバーの方から御発言がございましたように、私も日本企業の現状に照らして非常に重要な課題の一つであると認識しています。

 取締役会における自発的・内在的な議論とともに、機関投資家のスチュワードシップ活動によって、取締役会における事業ポートフォリオ戦略についての議論と決定が促されることに大いに期待しております。機関投資家の問題意識が機関投資家と経営陣との対話の中から経営者に共有され、取締役会で議論されることが望ましいと思われます。例えば、取締役会において定期的に事業ポートフォリオについて議論するということを、ベストプラクティスとして掲げるという先ほどのご提案は、スチュワードシップ活動が、取締役会における事業ポートフォリオや経営資源の配分に関する議論につながりやすくなるという点で私も非常によいご提案であると思います。

 少し長くなりましたけれども、私からは以上でございます。どうもありがとうございました。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして円谷先生、どうぞお願いいたします。

【円谷メンバー】 
 どうもありがとうございます。手短に3点ほど指摘させていただきたいと思います。1点目はグループガバナンス、2つ目が政策保有、3つ目が資本政策についてです。

 まずグループガバナンスについては各委員の御意見がありますので、それとかぶらない点で1つだけ、私は少数株主の声がもう少し見えるようにしてもよいかと思っております。じゃあ、具体的には株主総会で親会社等を抜いた賛否比率を参考に開示してもらうと。それで反対比率が多い議案は原因分析と開示、補充原則の1-1の①の適用も見据えて、そうしたもので少数株主の声というのがもう少し見えるようにしたらいいかなと思っております。これがグループガバナンスについてです。

 2つ目の政策保有につきましては、先ほど三瓶委員がおっしゃっていたように、流通株式から除かれるということになったら売却が進むということで、じゃあ、今まで何だったのかという意見には、まさしく私もそう思っております。

 その上で、じゃあ、どうするかということで、2点ほど具体的に提案させていただきたいんですけれども、1つ目は保有によってどういったメリットが生じているかということについては、有価証券報告書の中で企業秘密などで書けないという記載が散見されるようになってまいりましたので、そこについては独立社外取締役にしっかりチェックしてもらって、このようにチェックして、その結果、保有理由があるんだというような表明を独立社外の言葉でしてもらうというのが一つあると思います。

 実際に統合報告書の中で社外取締役の声というのは皆さんお書きになられていまして、統合報告書も既に500社以上開示されているわけですので、私はコーポレートガバナンス報告書の中に1セクション設けまして、独立社外取締役の意見表明するセクションを設けていいかと思います。その中で政策保有株式ですとか、後ほど次に述べます資本政策のことについて意見表明してもらう場を設けていいかと思います。

 具体的に2つ目なんですけれども、私の研究室の検証ですと、片持ちの株式は大分縮減が進んでおりまして、相対的に相互保有のものが残っているという状況になってきた。ですので、相互保有ですと、売却したくても相手がそれをやめてくれと言っているという問題が生じますので、私は補充原則1-4の①ですね。売却等の意向が示された場合、それを妨げるべきでないというところについて、そうしたルールを社内で定めてもらって、それをガバナンス報告書の開示項目に、というか今開示項目ではないと思いますので、開示項目にしっかりして、そういうことを妨げないルールを持ってもらうということを明記してもらう。

 これは、例えば持ち株会社はそういう売却を妨げないと思っていても、傘下の事業会社はそうじゃないという場合もあると思いますので、そこはグループ会社を含めてそのようなルールを定め開示するという方向で、上場会社とそのグループ会社というように変えてみてはいかがかなと思っております。これが2つ目の政策保有についてです。

 最後、資本政策については、具体的にどう改訂するかの前に総論として、私は例えばCAPMだ、WACCだみたいなテクニカルな議論も必要かもしれませんが、そこから始めてしまうと、やはり経営者にとっては計算した数字は開示しているけれども、実は私の腹の中は違うんだみたいなことになっても困りますので、やはり資本コストを意識した経営とはまずは株主の期待に応えることであって、じゃあ、どう応えるのかを短期・中長期でリスクリターンとの兼ね合いで皆さんで考えてくださいと。その中で、手元流動性や株主還元のことも当然考慮に入れなければいけないわけですけれども、まずはそうしたことが大前提にあると。

 じゃあ、どうすればそうした発想をしていただけるかということで、具体的に2つ提案がございまして、まずは原則1-3と原則5-2を同じく、先ほど申し上げたようにガバナンス報告書の開示項目にしていただくと。もうしっかり開示されるのであれば、今以上に真剣に考えてそれを表明するという行動に移ると思いますので、原則1-3と原則5-2のCG報告書への開示項目化というのを提案いたします。

 それにつきましても、社外取締役が取締役会で資本政策についてどのようにしっかり議論しているかというのを、CG報告書の中で御自身の言葉で説明してもらう。先ほどの政策保有と同じで、そうしたセクションを設けてはどうかなと考えております。

 具体的な2つ目なんですけれども、じゃあ、そうした議論開示ができるような体制になっているのかということで、社内取締役、社外取締役にそうしたことを議論できる人材がいることがまず重要になってきますので、まず社外取締役については、原則4-11で、現在監査役について財務・会計の知識が必要だというような、1名以上必要だということが書かれておりますが、私はそこを監査役だけではなくて監査役と取締役ということにしまして、ここの財務・会計という文言も、財務・会計ですとどうしても経理・簿記的なイメージになってしまいますので、財務・会計ですとか資本政策ですとか、ここのところに資本政策に関する十分な知見というのをうまく盛り込んで、そうした社外取締役がいるような、そうしたところにしていただければいいかなと思っております。

 次に社内取締役についても、当然CEOに限定せず、経営幹部の育成に当たっては、その資本政策に関するスキル習得の場をどのように提供しているかというのをできる限り検討・開示してもらうようなものを加えてはどうかと思っております。

 以上、3点になります。どうもありがとうございました。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして高山さん、どうぞお願いいたします。

【高山メンバー】 
 高山です。私からは、グループ経営の最適化という点について意見を申し上げます。こちらについては、これまで皆様から上場子会社という観点でいろいろな意見が出されておりますが、私は上場子会社ということに限らず、上場会社全般の問題・観点ということで意見を申し上げたいと思います。それから、こちらはコーポレートガバナンス・コードに関する議論を行う会議ですので、取締役会がどのようにグループ経営を監督・後押しするかという観点でお話ししたいと思います。

 グループ経営の監督という視点が特に求められるのは、ホールディングスの取締役会ではないかと考えます。ホールディングスの取締役会では、事業ポートフォリオの見直しを含めたグループ全体の経営資源の配分について議論することが期待されています。ただ、私がこれまでいろいろな企業のホールディングスの取締役会のメンバーの方とお話しすると、必ずしもそうはなっていない状況がございました。

 例えばホールディングスにおいて、特定事業子会社の収益が全体の収益の多くを占めているというケースでは、ホールディングスの議論が当該子会社の議論のほうに引っ張られて、必ずしもホールディングスの取締役会が全体最適の観点での議論に集中できていなかったり、特定の事案の議論が中心になるなどの例もございました。その結果、ホールディングスの取締役会と事業子会社の取締役会の質的差異が明確に見られないという問題もございました。

 そういうことは、いずれそのほかの事業会社が育っていくことによって解決されるかもしれませんし、過渡的な現象かもしれません。ただ、幾つかのホールディングスにおいてはそのような点について悩んでいるという現状があります。このような状況を解決するのは難しいですが、取締役会においては常にグループ全体の最適化について考えるという意識が重要であると思います。

 では、全体最適を議論するような取締役会を促進する手段としては、どのようなものがあるかということについて、次にお話ししたいと思います。

 1つは、これまで皆様がお話しになられているような投資家と取締役会との対話があげられます。投資家と企業の対話ではなくて、投資家と取締役会の対話とここで申し上げたのは理由があります。投資家と企業の対話においては、投資家と経営陣の対話というのは長い歴史があり、かなり前から行われています。これは主としてIRに関する対話です。そうではなくて、取締役会がグループ経営の最適化についてどのように監督し意思決定しているかというところについては、取締役会との対話というのが必要になると思います。具体的には社外取締役と投資家との対話ということになります。

 これについては企業も投資家もまだ双方試行錯誤の最中であり、企業側において躊躇するという状況が見られます。しかし、この点については粘り強く企業に働きかけて、投資家と社外取締役の間の対話がより進むような環境づくりが重要であると思います。

 あともう一つは、上場企業では毎年一度取締役会の実効性を検証する、評価するという機会を設けております。そういう状況において多くの企業が実施しているのが、時間配分であるとか、資料の内容というようなテクニカルな問題に対する検証です。ただ、そういう技術的な問題だけではなくて、そもそも自社の取締役会、あるいはホールディングスの取締役会というのはどうあるべきか、というような本質的な議論も、そのような検証・評価の機会で行うとよいのではないかと思います。

 そのような議論から発展して、ではそういう取締役会ではどういう議論をなすべきなのか、そういう議論ができる取締役会の構成というのはどういうものであるかというような話につながっていくと思います。その結果、取締役会の役割がより明確になっていくと考えます。企業に対しては、そのような評価・検証とその開示を、求めることが重要であると考えます。

 以上でございます。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 それでは、次に川北さんから事務局のほうに御発言の御希望をいただいているようなんですが、川北先生、もしよろしければお願いいたします。

【川北メンバー】 
 全体にチャットを送らなくてすみません。

 私の方からは、1つはグループガバナンスについて、特に親子上場の場合の子会社ですけれども、その少数株主は、親会社に対して子会社の経営に関するオプションの売手になっている。これがひいては子会社の株価が安値に放置されていることにつながると思います。親会社自身は100%の完全支配をするのか0%まで売却するのか、もしくは今よく見られているように40%程度を保有してというような恣意性を持っているわけです。これを少数株主から見ると、特に個人の株主ですけれども、子会社だと意識しているのかどうかはともかくとして、非常に不透明な投資先になっている。ここに留意すべきだと思います。

 こういう観点からすると、特に子会社の視点からすると、コードには親子上場の解消が望まれるというような、それに近い文言を入れるのがいいのではないかなと思います。もちろん、これはエクスプレインできるので、かつその親子上場を維持するということには企業グループとして何らかの意思が働いているはずなので、親会社からは子会社の上場の必要性に関してエクスプレインする、さらに将来どういう方向に持っていくのか。これに関して開示をするということが重要だろうと思います。

 一方、子会社からすると親会社が存在することのメリット、もしくはデメリットがあるはずなので、その両方を開示してもらわないといけないと思います。また、何人かの委員からありましたように、親会社から不合理な経営を強いられないために、例えば社外取締役の比率を過半数にするとか、そういう体制を敷くことも重要だろうと思います。

 ついでに個人的な意見を申し上げますと、親子上場の場合の子会社に関しましては、株価の指数から外す、新しい構成される新TOPIXの構成から原則として外していくということも考えるべきだろうと思います。

 それから、これに関連するわけですけれども、2つ目、政策保有に関しましては、やはりほかの上場会社の株式を保有していることの理由をもっと積極的に開示してもらいたいと思います。さらに言うと、持たれている側に関しては、持たれていることのメリットもしくはデメリットを開示するのも必要だろうと思います。この両方からの開示によって、政策保有の解消が進んでいくだろうと思います。この点は、10%とか20%未満とか、そういう比率の株式を持たれている上場会社が結構多いわけですけれども、そういう支配的な企業が株主として存在する場合にも該当すると思います。

 3つ目、資本コストに関しましては、事業ポートフォリオを考える上で、企業全体、それから部門別の資本コストを計算するのは、これは経営として当然だろうと思います。もちろんその資本コストの計算にはいろいろな方法があって、特にこれというものはないわけですけれども、ただ、何らかの形でこのぐらいの資本コストがかかっているということを計算しない、もしくはそれを念頭に置かないというのは経営の怠慢だろうと考えます。それに関しましては社外取締役がいるわけなので、社外取締役がやはりきちんと指摘すべきだと思います。

 この点に関しまして、投資家との対話が何人かの委員から出されたと思いますけれども、参考になるのが、証券アナリスト協会が編集して昨年夏に出版しました「企業価値向上のための資本コスト経営」という出版物です。その中に投資家と企業の対話の実例があり、部門別の資本コストの議論とか、事業ポートフォリオの考え方に対する議論とか、そういうものが含まれていますので、企業側にはぜひともお読みいただきたいし、投資家側も実際の対話ってこういう風にやるんだということが分かると思いますので、参考にしていただければと思います。

 それから経営資源、特にその中の人材に対しましては、これも資料にあったと思いますけれども、これまでの平均的な日本企業というのは人件費を抑制する、すなわち労働分配率を下げることによって利益を確保してきました。ROEが上昇してきたという資料もあったと思いますけれども、そのかなりの部分が人件費の抑制によって図られてきているということで、これは将来の企業の成長、付加価値を高めていくための成長という意味に関しましては非常にマイナスだろうと思います。

 ということで、今後は人材へ適切な賃金を支払い、人材に教育などの投資を行い、それによって経営と経済の好循環を図っていくという大局的な観点に立った対応が企業側に求められるだろうと思います。同時にテレワークの拡充とか通勤時間の縮小とか、コロナの時代に合った対応を図ることによって、人材の働きやすさを確保するということも重要になると思います。

 私からは以上です。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 続きまして武井メンバー、お願いいたします。

【武井メンバー】 
 武井です。よろしくお願いします。

 まず、前回の株主総会の絡みの話が1点あります。株主からのアクセシビリティの観点、電子化の話で、特に議決権行使に関して機関投資家側の電子行使という話が出てきていますが、個人株主の方の電子行使も大切ではないかと思います。例えば郵送ということだけでなく、去年から相当数は進んでいますが、郵送による行使だけでなくスマホ行使といったものも可能にする、ある意味デフォルト化する動きも、言及されてよいのではないかと思います。これが1点目です。

 2点目が親子上場に絡む話でございますけれども、これは大変難しい問題です。親会社側をペアレントでP社と呼ばせていただいて、上場子会社側はサブシディアリーでS社と呼ばせていただきますけれども、S社のほうから規律するアプローチと、P社のほうから規律するアプローチがあるかと思います。

 S社のほうから規律するアプローチでは、S社が上場している会社で、ある意味、P社が上場していようと上場していまいと、非公開の支配株主であっても射程になるという効果があるわけです。そしてこのS社アプローチの絡みで、S社について取締役会の過半数をP社からも独立した独立社外取締役にするという議論がありますが、私はそれはやり過ぎではないかと思います。さきほどの神作先生のおっしゃった非通例的な取引というか、PS間で利益相反があってある程度きちんとした説明責任が求められる非通例的取引といったものに関して、Pからも独立した一定数のS社の社外役員が関与するというのはあってよいと思うのですが、それを超えて、S社に関する意思決定の全ての議案について、全てP社から独立した人が過半数で行うというのはさすがにやり過ぎではないかと思います。あまり理論的な話をしても仕方ないのかもしれませんけれども、もともと独立社外取締役という規律が、株主がある程度分散している状況でのガバナンスの拡充という中で出てきている話なわけで、この親子上場とかP社がブロックでちゃんと持っている場合には、P社はP社で動機・インセンティブを持ってS社を監督するわけです。Pからの独立といったものをあまりに強め過ぎてしまうと、P社がS社に対してガバナンスを効かせるということさえも阻害しかねない弊害があると思います。S社の取締役会にP社からの独立の人が過半数という規律ですと、S社のおよそ全ての議案、全てのS社の重要な意思決定に関して全てP社から独立した社外取締役が過半数で決めているとなるので、それはさすがに、P社からのガバナンスのいろいろな機能・アドバンテージを損なわせる懸念があるかと思います。アメリカとかでも支配株主がいるS社については指名委員会の必置義務も外しているとか、そういう世界もある中で、P社からのガバナンスとのバランスについても考える必要があるのだと思います。非通例的取引について切り取って、P社から独立したS社の独立社外役員が関与するということに止めてよいのではないかと思います。

 もう一点ですが、親子上場に関して、今の現在の状況を踏まえていろいろな問題だとか指摘があるわけですけれども、先ほどもいろいろな方がおっしゃったとおり、今回、まだパブコメ中ではありますが、流通株式の定義が大幅に変わります。今回の定義を前提にしますと、そもそもS社でプライム市場にいる社数は相当少なくなるのではないかと思います。今の状況からこの一、二年で大きく変わりますので、そういうことを踏まえつつ考えるべきで、今の状況だけであまり「問題だ、問題だ」と制度を変えるのはどうかなという気もします。

 ただあと1点追加しますと、今回の流通株式の定義の変更を踏まえますと、前回からの議論ではプライム市場について独立社外取締役3分の1ということがあるわけですけれども、スタンダード市場とかであっても、支配株主がいるS社については独立社外取締役を3分の1にするというアプローチはあるのかもしれません。しかし、3分の1の次は過半数だと言って、P社からのいろいろなガバナンスの規律さえもかえって薄めてしまうというのは、どうかなと思います。

 あと、ここまで言ったのはS社からのアプローチですけれども、他方でP社から規律するアプローチについては、P社のことをガバナンス・コードに書く以上、P社が上場会社の場合についての話になります。P社の忠実義務という議論もあり、そうしたガバナンス・コードの例も海外にあるのかもしれませんが、さきほど申し上げたP社が持っているガバナンス上の役割とかを考えると、P社がいろいろとやることに関してあまり制約し過ぎるのもどうかなと思います。忠実義務というのは結構ふわっとした概念になっていますので、何か書くとしたらそのS社の一般株主の利益を阻害してはいけないぐらいまではいいと思うんですけれども、何か広く忠実義務とかまで書き切ってしまって、P社がいろいろS社に対してガバナンスの規律を働かせることにP社自体が躊躇してしまうことがないようにすべきではないかと思います。P社は上場会社で、P社の一般株主もいるわけです。以上が親子上場の話です。

 3点目が政策保有の話です。この点もさきほどの話とやや似ていて、今回流通株式の定義が根本的に変わることで、状況は今後一変すると思います。要は10%未満の株式が、これまでは役員とかの保有でない限りはすべて流通株式だったのが、今後およそ国内の普通銀行、保険会社、事業会社が保有しているものは、基本的に全て固定株式であって流通株式ではなくなると。その流通株式の定義で、プライムですと35%、スタンダートですと25%が必要ということに今回大きく変わります。この施策の効果がこの一、二年で出てくるわけですので、今の状況を前提にして何かいろいろ問題だというふうにあまり議論し過ぎないほうがよいのではないか。実際のところ、今回の流通株式の定義の変更は相当大きな効果があると考えられ、そうした変化が起きる前である今の現状を踏まえて何かいろいろなことをやるということについては、慎重に考えたほうがよいのではないかと思います。さきほど大場委員がおっしゃったような、いろいろな対話をやったりとか、コード以外のいろいろな選択肢もあるのかもしれませんが、少なくともガバナンス・コードのほうではすでに今、相当踏み込んだ内容が書かれています。これから状況が変わるわけで、ガバナンス・コードで何かをすることが出口なのか、今回の市場構造改革の流通株式の定義の効果が相当出ることを踏まえて考えるべきではないかと思います。以上が政策保有の話です。

 4点目で、事業ポートフォリオの話はまさに大変重要です。経産省さんの事業再編実務指針においても、絶対額、規模から率に移行すべきではないかと指摘されています。さきほど社内のKPIとかの話もございましたけれども、そういった社内のいろいろなKPIの在り方も含めて多分取り組んでいくべき重要な課題だと思います。

 最後に、人的資本投資、知的財産投資とか研究開発投資についてです。ここも大変重要で、まさにキャッシュフローの創出能力にも関わりますし、サステナビリティに関わるので、人的資本投資、知的財産投資戦略、研究開発投資について、きちんと第2章のところでこの話は書くべきではないかと思います。加えて、守りを担っている人材への人的資本投資の重要性も触れていただければと思います。例えば法務部なんかもそうなんですけれども、守りを担っている人材というのはその売上とかの数字を持ってない方々で、こういった方々に対する人的投資も大変大事だと思いますので、守りの目線まで踏まえた形で、この人的資本投資の話を第2章のサステナビリティに絡めて書くことが一案かなと思います。

 以上です。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 岩間さん、挙手機能で何かお知らせいただいていたようですけれども、もしそうでしたら大変申し訳ありませんでした。岩間さん、もし御意見があればお願いいたします。

【岩間メンバー】 
 すみません。ありがとうございます。

 私は若干感想めいた話になるんですけれども、上場子会社の問題については、皆さん何人かが御指摘されていますけれども、過渡的な状況にある株式保有形態だという具合に見ております。ただ、上場子会社である以上は、田中メンバーが御指摘されたような上場子会社で置いておくときのその少数株主の利益重視ということが、全体的な好循環につながるというような仕組みをしっかりと保持するということで言いますと、やはり親会社の取締役会の姿勢、親会社の取締役会の構成、そういうところが非常に大事なので、独立社外取締役の役割が極めて重要であるという具合に思います。

 それで、その事業戦略の展開、事業ポートフォリオの変革ということ、それからその政策保有株式ってみんな連関するのではないかと思うのです。特に事業ポートフォリオの在り方、転換ということになりますと、やはりどういう戦略を展開するかということによって必要な人材というのは決まってくる。その必要な人材をどういう具合に調達するのがいいのかというときに、社内でOJTでやるのか、社内にいなければ社外から調達するということになってくると思うんですが、社外から調達するということになると、人材市場の流動化というのが極めて重要な話になってきて、やはり労働市場をどういう具合にこれから見ていくのかということについて、単なるガバナンス・コードの変革というだけではなくて、もうちょっと枠を広げて見ていく必要があるんじゃないいかと思っております。

 政策保有株式についても、いろいろ御指摘ございましたが、基本的には単なる黙って持っているという持ち方というのは妥当しないことになってくるわけで、やはり戦略的に意義のある話なのかどうかということが、しかもその戦略の妥当性というのが投資家サイドから見てしっかりと評価できるようにならないといけないんだろうと思います。そういった点での開示ということについてもっと強化をするということが必要になってくるんじゃないかと思います。

 基本的に取り上げられた課題というのは、今後のコーポレートガバナンス・コードが実質的により内容のいいものになっていくということで、非常に大事なことだったと思いますので、基本的な方向性について私としては賛成でございます。

 以上でございます。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 そういたしますと、本日御出席、参加していただいているメンバーの皆様方でまだ御発言いただいていないのはNECの小幡さんになりますけれども、小幡さん、もし御意見ございましたらお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。

【小幡メンバー】 
 どうもありがとうございます。NECの小幡です。遅れて参加して申し訳ございません。

 基本的な方向につきましては賛同しているところでございます。特に親子上場のことというのはとかく厳しめに、私どもも上場会社を持っている中において、かなり注意を払って少数株主の利益が損なわれない配慮というものはしているつもりであります。逆にそういった考え方をすると、さっき武井先生がおっしゃったように親会社のガバナンスが一部効きにくくなっていると思うところであります。

 ということで、上場子会社につきましては、会社各様によってその必要な部分というのはあるかと思いますので、いろいろなメカニズムをきちんと取ることによって、懸念されている少数株主の利益が損なわれない仕組みというものがうまく取れればいいのではないかと思っております。

 ほかの事業ポートフォリオの件ですとか資本コストの件とかにつきましては、御指摘のとおりだと思っていますので、特段の意見はございません。

 以上になります。ありがとうございました。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。

 そうしますと、本日御参加いただいている皆様方からは、これで一通り御意見をお出しいただけました。さらに追加で御意見がございましたらお伺いしたいと思いますけれども、いかがでしょうか。どなたでも結構でございます。

 特によろしゅうございますでしょうか。そうしましたら、今日いただいているお時間からは少し早いのですが、また将来、延期をお願いすることもあるかと思いますので、本日はこの辺りで討議を終わりにさせていただければと思います。

 最後に、事務局から御連絡等ございましたら、お願いいたします。

【島崎企業開示課長】
 次回のフォローアップ会議の日程でございますが、皆様の御都合を踏まえた上で最終的に決定させていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと思います。

 事務局からは以上でございます。本日はどうもありがとうございました。

【神田座長】 
 本日も大変貴重な御意見を多数お寄せいただきまして、ありがとうございました。

 以上をもちまして本日の会議を終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。

 
―― 了 ――

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)

企画市場局企業開示課

(内線3659、3849)

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