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スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第29回)議事録

1.日時:
令和6年4月18日(木曜日)15時30分~18時00分

2.場所:
中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室 

【神田座長】
 ただいまからスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議の第29回目の会合を開催させていただきます。皆様方には、大変お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の会議でございますけれども、対面の開催とさせていただいておりまして、大変お忙しいところをこの会議室までお運びいただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の会議の模様ですが、ウェブ上でこれまでどおりライブ中継をさせていただいております。また、議事録でございますけれども、通常どおり作成の上、金融庁ウェブサイトにて後日公開をさせていただく予定ですので、よろしくお願い申し上げます。

 それでは初めに、今回フォローアップ会議を開催するに当たりまして、新しくお一方にメンバーとして御参加いただくことになりましたので、事務局から御紹介をお願いいたします。

【野崎企業開示課長】  
 事務局を務めさせていただきます、金融庁企業開示課の野崎と申します。どうぞよろしくお願いします。
 
 このたび新たにフォローアップ会議のメンバーに御就任いただいた方を御紹介させていただければと思います。

 片山銘人様でございます。

【片山メンバー】  
 日本労働組合総連合会で経済・社会政策局長を拝命しております片山と申します。本日初参加となりますので、どうぞよろしくお願いします。

【野崎企業開示課長】  
 ありがとうございます。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。

 それでは早速ですが、議事に移らせていただきます。本日でございますけれども、事務局である金融庁と東京証券取引所から資料の説明をしていただきます。その後、質疑応答と討議の時間とさせていただきたいと思います。
 
 それではまず、金融庁からの説明をお願いします。野崎課長、よろしくお願いします。

【野崎企業開示課長】  
 それでは、金融庁から資料2に基づきまして御説明させていただければと思います。「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムのフォローアップと今後の方向性について」という書類でございます。こちら、いろいろな形で疑問形の形で論点を提示させていただいてございますけれども、本日の御議論を受けてまたアップデートできればと考えてございます。

 まず、Ⅰの「はじめに」でございます。2023年4月、ちょうど1年前にアクション・プログラムをこのフォローアップ会議で策定していただきました。そのアクション・プログラムにおきましては、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のため、形式的な体制整備によってのみではなくて、企業と投資家の双方における自律的な意識改革を促進することが重要であるというメッセージが出されたというところでございます。各施策の取組の状況について、実態を踏まえたフォローアップを行って、継続的に今後の方向性を検討していくということが重要と考えています。

 Ⅱのフォローアップと今後の方向性の案でございます。アクション・プログラムで掲げた施策につきまして、関係省庁及び東証等において様々な取組が進められており、こうした取組を踏まえまして、企業及び投資家の双方において意識改革が進められているというような御意見もいただいているところでございます。

 他方で、課題のところに記載してございますけれども、具体的な内容に目を向けてみると、やはり形式的なコンプライにとどまっているという御指摘や、各主体の間で取組の質に大きな差があるという御指摘もございます。より具体的な要因としまして、企業の規模などに応じたエンゲージメントの担い手が不足しているのではないかという御指摘もあるところです。
 
 今後の方向性の案ですが、いま一度各コードがプリンシプルベースかつコンプライ・オア・エクスプレインのアプローチを取っているという趣旨に立ち戻って、全ての企業・投資家の皆様においてきめ細かく必要な取組を検討していただくというところが必要ではないかと考えています。こうした観点から、各コードを形式的に遵守することよりも、むしろ丁寧にエクスプレインしていただくというところも重要ではないかということを記載しています。中長期的な企業価値の向上という目的に応じた成果を追求するという、まさにアウトカム・オリエンテッドということを再確認した上で着実に実践に移すことが重要ではないかと考えられますけれども、こちらについて御意見いただければと思います。
 
 2番目から各論に入っていきます。まず、スチュワードシップ活動の実質化です。こちらにつきましては、昨年末にかけて金融審議会でまず協働エンゲージメントの促進等について提言が行われてございます。さらに、大量保有報告制度の見直しや、実質株主の透明性確保に向けた提言も出されています。
 
 課題のところですが、チェックボックスを埋めるような形式的な対話が行われているという御指摘や、投資先の深い理解に基づく建設的な目的を持った対話や双方向の対話が行われていないという御指摘もあるところです。また、協働エンゲージメントは大切だという議論がございますけれども、単に協働するだけではなくて、テーマを絞った意味のある対応を行っていくことが重要という御指摘もあるところです。また、対話の担当部門と議決権行使の担当部門、それから、運用部門などが分離していて、十分な連携が図られていない、そういったことによって対話と議決権行使を一体とした実効的なエンゲージメントが行われていないと、こういった御指摘も聞かれるところです。

 さらに、課題として、スチュワードシップ・コードの対応については、英国ですとFRCがその遵守状況を確認、チェックしているところでございますけれども、日本においてはそういった確認がなされていないというところでございます。スチュワードシップ・コードには、様々な主体が署名していただいており、アセットマネジャー、アセットオーナー、議決権行使助言会社、そういった主体の実際の取組を点検するということも必要ではないかという御指摘もあるところです。
 
 今後の方向性としましては、今申し上げたような課題につきまして、スチュワードシップ・コードの見直しというところが次のステップとしてあろうかと思いますけれども、そういった見直しに際し留意すべき点や、他に見直しが必要と考えられる点について、御意見をいただければと思います。
 
 3ページ目に行きまして、望ましいエンゲージメントと望ましくないエンゲージメントというところの具体的な事例や、一定の目線というものもあったほうがより有用であるという議論もございますけれども、こちらについては、金融庁と東証で3月から4月にかけまして、複数の企業の方々に御協力をお願いしましてヒアリングをさせていただきました。例えば投資家による他社事例の共有、エンゲージメント先企業の事業内容や成長の段階に応じた他社事例の共有が、社内のフィードバックを含めて自社の取組を進めるに当たって非常に参考となったという御意見を複数いただいたところでございます。そのほか、1回限りではなくて継続性のある議論が建設的な対話に資するというような御意見もありましたので、こちらは事務局説明資料で詳しく御紹介させていただいていますので、そういった視点も御覧いただきながら、より一層実効的なエンゲージメントの実現に向けて御議論いただければということを考えております。
 
 3つ目の論点、取締役会等の実効性向上というところです。こちらは課題のところで記載していますけれども、独立社外取締役の選任や、指名委員会・報酬委員会の設置という形では大分進んできたと言える一方で、それぞれが果たすべき役割の認識が共有されておらず、いまだ取締役会がうまく機能できていないという問題意識も指摘されているところです。
 
 こういったことに対して、今後の方向性でございますが、やはり社外取締役や、事務運営を支えていらっしゃる取締役会事務局にも視点を当てて、真に果たすべき役割や機能についてさらに理解を共有していくというところが重要かと思っています。こちらも、先ほどの企業の方々からヒアリングを受けた内容の中で参考となるようなメッセージを事務局説明資料の27ページに掲載してございますので、こういったより実務的な参考に資するようなものを共有していければと考えています。
 
 4番の収益性と成長性を意識した経営です。こちらは昨年の3月に東証から要請が行われたところです。次のページの課題ですけれども、要請を踏まえた対応につきましては、緊張感を持って経営の重要課題と位置づけておられる企業と、形式的な対応に終始する企業に二極化しているという御指摘もあるところです。
 
 今後の方向性の案ですが、開示の状況の確認のみならず、開示の内容と実際の取組の内容が乖離していないかや、取締役会における議論や投資家との対話において具体的な議論が行われているのかというところの着目も重要かと思っています。また、こういったガバナンス全体にしっかり対応できるような企業側のリソースが確保されているのか、こういった点についても着目してはどうかという御議論がありますけれども、こちらについて御意見をいただければと思います。
 
 5番の情報開示の充実及びグローバル投資家との対話促進です。こちらも東証からプライム市場の上場企業における英文開示の義務化も進められているところで、着実にこういった取組は進んでいるところです。
 
 一方で、課題のところで記載していますけれども、タイムリーディスクロージャーの充実の課題とか、あとは情報開示のタイミングに関しまして、有価証券報告書の株主総会前の開示を含めまして、投資家が必要とする情報が効果的・効率的に提供される必要があるとの御指摘もあるところです。有報の総会前の開示に関しましては、4月3日に首相官邸において開催されましたコーポレートガバナンス改革の推進に向けた意見交換会におきましても、総理から、より多くの企業において有報の開示が総会前のタイミングになるように、その環境整備について金融庁を中心に関係省庁と連携して検討を進めさせますという御発言があったところでございますので、こちらについてもしっかり議論を進めていければと考えています。
 
 今後の方向性の案です。情報開示による透明性の向上が市場からの信頼につながると考えられますが、企業における実質的な開示の充実に向けて留意すべき点は何かという点でございます。あと、グローバル投資家の期待に自律的・積極的に応える企業群の見える化を進めていくため、例えば一定の要件を満たす企業群について、資本収益性、市場評価、成長性などに関する指標、それから、独立社外取締役の選任状況などのコーポレートガバナンスの状況を示す具体的なリストを作成するというところが案として考えられます。事務局の説明資料23ページで一案を示してございますけれども、こうした取組も含めまして、グローバル投資家との対話の促進に向けてどのような取組を進めていくべきかという点について御議論いただければと思います。
 
 次に、6番の市場環境上の課題の解決でございます。こちらは昨年の12月に東証から、「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」、それから、「支配株主・支配的な株主を有する上場会社において独立社外取締役に期待される役割」が公表されています。また、政策保有株式への対応につきましては、金融庁におきまして有報の開示の充実を図ってまいりましたけれども、さらに、今年の3月には有報レビューを公表してございまして、そちらで課題等についても指摘をさせていただいているところです。
 
 課題のところに記載していますけれども、政策保有株式については各社の皆様において縮減に向けた取組がかなり進められているという評価がある一方で、議決権行使の状況を含む実態を踏まえた開示等の適切な対応がなされていないという御指摘もあるところです。特に保有目的について、政策保有目的から純投資目的への変更がなされているという事例が幾つか見受けられますけれども、その理由の開示が求められていないというところで、実態がかなり不透明になっているのではないかという御指摘もあるところです。
 
 今後の方向性でございますけれども、特に政策保有株式につきましては、いま一度、コーポレートガバナンス・コードに照らした保有目的の適否の検証や開示が重要ということを改めて共有した上で、その在り方についてさらに議論を深めていければと考えてございます。
 
 最後の論点、サステナビリティを意識した経営というところでございます。6ページ目でございます。こちらは2023年3月期から有報におけるサステナビリティ情報の開示がスタートしておりまして、去年の末に金融庁におきまして開示の好事例集を取りまとめています。昨年10月にはダイバーシティの関係で東証から、女性役員比率に係る数値目標の設定などに関する上場規程の改正も行われているということで、様々な取組が進んでいるというところです。さらに、サステナビリティの情報の開示につきましては、本年2月に金融審総会において諮問がなされまして、3月下旬から具体的なワーキング・グループの議論を開始しているというところです。グローバルにも、昨年9月にOECDのコーポレートガバナンス原則が改訂されておりまして、こちらでもSustainability and resilienceという章が新設されているというところで、非常に重視されている分野でございます。
 
 課題のところに記載していますけれども、サステナビリティをめぐる課題の対応につきましては、多くの会社でいろいろと取組をされているところですけれども、まだ執行の問題と捉えられていて、取締役会による監督の役割に関する認識が不足しているという御指摘もあるところです。ダイバーシティの確保についても、数値目標などの設定が着実に進んでいるところですけれども、さらに、意見の多様性の確保、多様な観点から経営課題を議論するというところが中長期的な企業価値の向上に資するという観点から、さらに一歩進めてはどうかという議論もあるところです。
 
 また、各社固有のコーポレート・カルチャーが、企業価値を創出・維持する礎となるという理解、特にイギリスにおいてはそういった議論が大分進んでいると承知していますけれども、そういったことも踏まえて、経営や対話に当たって、常にコーポレート・カルチャーに立ち戻って、それを意識して中長期的な企業価値をさらに高めていくというところも一つの視点としてあるのではないかといった御指摘があるところです。
 
 今後の方向性ですが、こうした中長期的な企業価値の向上に向けたサステナビリティをめぐる課題の対応につきまして、このほかに重要となる点があるかどうかという点についても御議論いただければと思います。
 
 最後のところですけれども、企業経営がパンデミックやサイバーセキュリティーリスク、地政学リスクなど様々なリスクにさらされているというところで、そういった中でサプライチェーン全体として有事における復元力を発揮していくという、レジリエンスを意識した経営というところもOECDを中心にいろいろ議論されているところなので、こういった論点についてもこの場で御議論いただければと思います。
 
 私からは以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、続きまして、東京証券取引所からの御説明をお願いいたします。青さん、よろしくお願いいたします。

【青常務執行役員】  
 御指名を頂戴いたしました東京証券取引所の青でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。お手元の資料4に基づいて御説明をさせていただければと思います。私からは、先ほどの金融庁様のガバナンスに関するアクション・プログラムでも触れていただいてございますけれども、取引所でも行っております施策のうち、主だったものについて御紹介をさせていただければと思うところでございます。

 資料の3ページに入りたいと思います。私どもでは、既に御高承のとおり、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を支え、多様な投資家からの高い支持が得られるようなそういう魅力的な現物市場を提供しようと、市場区分の再編を2022年に行ったというところでございます。特にその中でもプライム市場につきましては、グローバルな投資家と建設的な対話をしながら企業価値の向上を目指していくという、そういった対話を軸とした企業価値の向上を軸としているということでございます。上場基準につきましても、時価総額でいけば、従来に比べておよそ10倍程度のレベル感に引上げをしてございますし、世界で一番厳しいような上場の基準になってございます。
 
 ただ、その後の実際のワークの仕方が非常に重要でございますので、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議を22年7月に設けまして、様々な議論を行いながら取組を進めているところでございます。その中でも一番重視しておりますのが、中長期的な企業価値の向上、こちらに向けて企業が自律的に取組をする、その動機づけとなるような枠組みづくりをする、そういう観点から私どもは様々なことに取り組んでいるというところでございます。
 
 具体的な話としまして、4ページのところから資本コストや株価を意識した経営の推進ということを掲げてございますので、そちらについての御説明をさせていただければと思います。
 
 5ページです。こちらは以前からよく使っているPBRとROEについての国際的な比較でございます。こちらを見ると日本が十分ではない状況があった、というところが議論のきっかけでございます。ただ、このPBR、ROEはあくまでも例ということでございまして、これらの指標に限らずいろいろな見方があるかと思ってございますけれども、企業様の置かれた状況によってどの指標をどういうふうに考えて投資家と議論するのかというところについては様々なやり方があると考えながらも、一番代表的なものとしてこういうものを掲げさせていただいているというところでございます。
 
 次のページです。私どもでは、先ほどのようなPBR、ROEの状況を踏まえて、その後の対応としまして、一社一社が自律的に企業価値の向上を図るというそういった姿を目指したいということで、2023年3月に要請を行っておるというところでございます。その要請の概要がその下のところにございます。基本的には、1行目にありますように、中長期的な企業価値の向上、これを最も高めていくということがまず一つでございます。それで、企業様に特に意識していただきたい事項として、バランスシートをベースとした資本コストとか、資本収益性を意識した経営をぜひお願いしたいと。そこのところが特に投資家の方々から重視されているポイントになって、企業の意識としてそれがちょっとずれがあるところということでございますので、そこのところを十分認識をして対話に取り組んでいただきたい、そういった趣旨で要請をしたというところでございます。
 
 実際のところとしては、2つ目のポチにございますように、サステナビリティとか社会的な関係性も当然含んだ上でという前提ですけれども、企業は、取締役会が定める経営の基本方針に基づいて経営層が主体となっていろいろ考えていただき、その中でも、中長期の成長ということを考えますと、投資をしっかりやっていくこととか、事業ポートフォリオの見直しといったようなところも正面から取り組んで御議論をお願いしたいということをお伝えさせていただいているというところでございます。
 
 その下の※印のところにございますように、一過性の対応、例えば自社株買いとか増配ということをPBRを上げるためだけに行うといったようなことを期待しているわけではございませんので、その点を明確にすることによって、抜本的な取組にむしろ力を入れていきたいということをお示しさせていただいたというところでございます。
 
 私どもとしては、全体としては、企業と投資家との間の対話、こちらが成り立ちやすいようにという観点からの環境づくりに努めるということで、企業の自律的な行動を後押しするようなそういったアプローチを中心として、そのために開示を軸として対話をしていく、それでその対話を通じてブラッシュアップしていくと、そういったことを促していくようなスタンスでやっているというところでございます。
 
 7ページが、私どもからの要請に対しての開示の状況ということでございます。もちろん一番大事なのは、開示の前に各企業において、十分に自社がどういうことを目指していくのか、どういうふうに対話をしていくのかといったことの検討の内容ということ、それから、その後の結果としてどのように企業の収益性が高まったかどうかといったようなことが重要であるということでございますけれども、まずは対話の糸口として開示をお願いしているということでございます。
 
 それで、2024年3月の開示の状況でございますけれども、プライムにおいては65%までが何らかの開示をされている状況でして、スタンダードにおいても26%まで開示が進んできている状況にあるというところでございます。もちろん開示の内容とか検討の内容が一番大事なところでございますのでこの数字だけで語れるわけではございませんが、一つの状況の進展は見受けられるかと考えておるところでございます。
 
 それから、8ページでございます。こちらは、それに加えまして私どもでは、さらに今後のところで、実効性、それを向上するための取組を引き続き行っていきたいということで幾つか対応の方策について公表させていただいているところでございます。特に重視しておりますのが、下の表の2つ目で対応のポイントあるいは取組事例の公表ということを掲げておりますけれども、こちらで、各企業様において投資者の視点を踏まえて対応されているポイントとか、投資者からよいように受け止められた、支持が得られたような取組をまとめて示していくというようなことに一つ力を入れているところでございます。それから、その下、3つ目のところにございますように、対応状況の周知等ということで、投資家からのフィードバックを上場会社にお伝えすることで、各社がよりよい方向に行動しやすくするような、そういったお手伝いをさせているというところでございます。
 
 それから、9ページ以降が2つ目のテーマでございます英文開示の拡充でございます。
 
 10ページです。私どもプライム市場におきましては、グローバルな投資家との建設的な対話、こちらを中心に据える企業に向けた市場でして、各企業様に市場選択をしていただいて、結果としてプライムを選んでいただいた企業様がいらっしゃる市場ということでございますので、そこのところがしっかりと成り立っていくように、英文での情報発信も強化をしていくということにしているというところでございます。大まかに言いますと、資料の左下のグラフにございますように、英文開示の実施につきましてはプライム市場においては大分進んではきていて、何らかの開示を英文で行っていらっしゃる企業様は98%まで進んでおります。
 
 ただ、進んではいるものの、それが十分かというところにつきまして、改善をしているところでございますけれども、一番右下のところにありますように、72%の投資家がそれでもまだ不満な点があるとおっしゃっているというところでございます。そこのポイントとしては、上の2つ目のポチにございますように、日本語との情報量の差、それから、開示のタイムラグがある点、それから、大型銘柄は割と進んでいるけれども、中小型銘柄ではなかなかそれが進んでいないといった、そういった御指摘を頂戴しているというところが主立ったところということでございます。
 
 11ページが、それを受けた対応ということでございます。基本的には、11ページの一番上のポツにございますように、重要な会社情報についてプライムの上場企業は、可能な限り日本語と同時に、そして英語で日本語と同一の内容の開示を行うという、そういった方向感で努力をしていただきたいということが根本的なところとしてあるということでございます。
 
 ただ、2つ目のポチでございますけれども、そうはいっても、企業における実務上の負荷とか、英語と日本語と同時に開示を行うには相当の体制が必要であるとか、準備の状況とかもございます。そこを踏まえまして、まずは特に投資判断に与える影響が大きくて、なおかつ速報性が求められるような情報ということで、決算情報とか適時開示情報を皮切りにして英文開示を進めていこうという形で、その一部でも概要でもよいのでまずは英語にしていくということを実践していきましょうという形での対応を行うことにしたというところでございます。
 
 もちろん企業様で英文化するときのリスクという点もございますので、英文開示のほうはあくまでも日本語の参考訳と位置づけているところではございます。今後も英文開示につきましては、状況を見ながら、さらにどうしていくのかというところは継続的に検討していきたいと考えているところでございます。
 
 それから、12ページ以降が従属上場会社に関する検討ということでございます。
 
 こちらは13ページにグラフを掲げてございますけれども、上場子会社については徐々に減ってきている状況にあるという一方で、大株主を有する上場会社、したがいまして、例えば20%の支配株主がいるとか30%の支配株主がいるといったような、必ずしも子会社ではない上場会社は徐々に増えてきているのは実情としてあるという状況でございます。
 
 その状況に対して、14ページが私どもの方針でございます。従属上場会社に関しましては、親が上場しているかどうかにかかわらず、やはり少数株主と支配的な株主の間での利益相反が起こり得るということがございますのでということで、2点ポイントを置いて動いているというところでございます。
 
 1点目が情報開示の充実ということでございます。上場している親会社側、それから、子会社側、あるいは、持分法適用にあるような会社については、ある程度支配的な関係があるであろうということもございますので、そうした会社様を中心に、その状況とか、親子関係の利益相反の解消の仕方とかそういったようなところを説明していただくということをお願いしているというところでございます。そうした会社においては、少数株主保護の観点から独立社外取締役の役割が非常に期待されるところということでございますので、下の段にございますように、独立社外取締役に期待される役割ということも、私どもから示したということを通じて現実の慣行がよりよくなっていくということを目指していきたいと思ってございます。
 
 以降は参考でございますので、省略させていただきます。
 
 私どもは、こういう形でうまく資本市場がワークするような形で努力を進めているというところでございます。ありがとうございました。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、討議に移る前に、本日御欠席の冨山メンバーから意見書を提出していただいておりますので、事務局から簡単に概要の説明をお願いいたします。

【野崎企業開示課長】  
 それでは、冨山メンバーより頂戴しました意見書の概要を御説明させていただければと思います。
 
 まず、最初の1つ目のポチですけれども、PBR問題を含め、金融庁、東証によるコーポレートガバナンス向上のための制度的取組は確実に成果を上げている。業績面でも自社が組織能力レベルで根源的な強みを生かせる事業領域に選択・集中する一方でそうではなくなった事業領域から縮退することで収益力を高め、そこから生まれたキャッシュを新たな事業機会への探索投資、イノベーション投資に循環させる、収益と成長の好循環に入っている両利き経営の日本企業は確実に増加しているということでございます。
 
 2つ目のポチですけれども、日本取締役協会で毎年行っているコーポレートガバナンス大賞は、持続的な成長力と収益力及びガバナンスの充実度を基本的な選定基準としているが、ここ数年、我が国を代表する伝統的なものづくり企業がグランプリを獲得しており、コーポレートガバナンス改革の実質化が広がっていることを示している。この流れを決して止めてはならず、今の方向性で改革の実質化をさらに加速すべきということでございます。
 
 その一方で、エンゲージメントの空洞化が重大な問題になりつつあるという御指摘があります。一番下のポツですけれども、インデックスファンド、パッシブファンドの比率が新NISAの導入等によってさらに増加することが予測され、エンゲージメントを積極的に行う動機づけのあるアクティブファンドのプレゼンスが下がることが懸念される。そこでいわゆるアクティビストファンドの役割が注目されるが、高い投資パフォーマンスを狙うためにはいわゆる割安株に集中するバイアスがかかることは避け難く、彼らによるエンゲージメントのカバレッジは限定されざるを得ないということです。
 
 次のページに行っていただきまして、そこで協働エンゲージメントの議論になるのだが、ここでチェックシートを埋める方式の形式的エンゲージメントには企業価値向上にとって効果がないのはそのとおりである。ファイナンスと事業の両方について高い専門性、知見、経験を要する一流プロフェッショナルがエンゲージメントの担い手となる仕組みを具体的につくらなければ、エンゲージメントの空洞化は止められない。掛け声だけではなく、かかる実効的な取組を官民協働で検討開始すべきということでございます。
 
 それから、サステナビリティに関する論点で、コーポレート・カルチャーの重要性がうたわれている点はそのとおりだが、カルチャーの語感としては、日本語ではとてもソフトなアート用語的ニュアンスがある点には気をつける必要がある。英語で経営論において使われる culture は、その語源が cult にあることが示唆するとおり、人々の奥深いところに浸透した表面的な合理性だけでは説明できない思考様式・行動様式のことを指している。内発的根源的動機づけメカニズムと言い換えてもいい。そのニュアンスを間違えないように注意を喚起したい。
 
 最後でございますが、最後に今回の論点を外れるがというところで前置きがございまして、取締役会の機関設計において、世界標準によりハーモナイズした委員会等設置会社の機関設計へと進んでいくべきという御意見もいただいているところでございます。
 
 以上でございます。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。
 
 それではこれから、皆様方から御質問、御意見をお出しいただく討議の時間とさせていただきます。時間も限られておりますので、皆様方の御発言のお時間を確保できるよう計算いたしますと、お一方当たり5分程度以内ぐらいかなということになります。そんな感じで御発言いただければ大変ありがたく存じます。
 
 それでは、どなたからでも結構でございます。では、佃メンバーからまずお願いいたします。

【佃メンバー】  
 どうもありがとうございます。佃でございます。まず、スチュワードシップ・コードの導入から10年、コーポレートガバナンス・コードの導入から9年となりますけれども、金融庁、東京証券取引所、経済産業省、それから、もちろん企業、投資家の皆様の御努力によって、日本のコーポレートガバナンスが着実な進展を見せている。このことは両コードの導入の大きな成果であると高く評価しております。一番大事なのはやはりこの流れを続けることだと考えております。その上で、前回の会議から1年がたちまして、日本企業を取り巻く環境も大きく変わりつつある中で、本日は4点コメントさせていただきたいと思います。
 
 まず1点目ですが、手元資料の2の資料、そちらにフォローアップと今後の方向性(案)の1ページ、ここに総論がございますけれども、そこの今後の方向性(案)についてです。そこには、先ほど野崎課長からも御説明ありましたけれども、各コードがプリンシプルベースであり、かつコンプライ・オア・エクスプレインのアプローチを採っている趣旨に立ち返りとあって、丁寧にエクスプレインすることも重要ではないかとあります。
 
 このコンプライ・オア・エクスプレインというのが、いまだに一部企業及び一部企業経営者、そして一部株主に正しく理解されていないのは誠に残念であり、コンプライしないという原則や補充原則があれば、企業経営者は堂々とその理由を説明すればよいし、株主はその説明を虚心坦懐に聞き、実質的な判断をすべきであると考えます。両コードについて形式的な対応に陥らないということは、ガバナンスの実質化を図る上で大変重要であり、この点についてこの機会に改めて強調させていただきたいと思います。これが1点目です。
 
 次に2点目ですが、資料2の2にありますスチュワードシップ活動の実質化についてです。今後の方向性(案)に、スチュワードシップ・コードの見直しに際し留意すべき点があるかとあります。企業経営者の方々とやり取りをする中で、そして私自身がプライム上場企業の独立取締役を務める中で、その問題意識を申し上げたいと思います。
 
 まず、エンゲージメントを一層実効的なものとするため、協働エンゲージメントの促進や実質株主の透明性確保に向けたスチュワードシップ・コードの見直しはぜひとも実施していただきたいと考えます。特にエンゲージメントの担い手のレベルアップ、これをそろそろ真剣に考える必要があると思います。企業経営者からは、国内機関投資家とのエンゲージメントは、ややもすると形式的になりがちであるとの意見がいまだに多く聞かれます。その観点からも、課題に指摘されているスチュワードシップ・コードの遵守状況、実際の取組を点検することが望ましいと考えています。
 
 その上で、議決権行使の実質化です。今後の方向性(案)、これは飛んで7番、サステナビリティを意識した経営、これにも関連しますが、7番の課題にもありますように、例えばジェンダーの観点での多様性を意識することの重要性は論をまたないのですけれども、一方で女性の独立社外取締役招聘に苦労している企業が多いのも実態であります。そうした中で機関投資家は、議決権行使基準に抵触するからと形式的に判断するのでなく、長い時間軸で社内の女性活用に真摯に取り組む企業の努力を丁寧に見て、じっくりと見守ることも時に必要であると考えています。
 
 次に3点目です。取締役会の実効性向上についてコメントさせていただきます。まず、独立取締役と投資家との個別の対話を積極化すべきです。企業経営者やCFOあるいはIR・SR部門と投資家・株主とのエンゲージメントはかなり活発化していると認識しておりますけれども、投資家が独立取締役と個別にエンゲージメントする機会はまださほど増えていません。本来、独立取締役は株主のエージェントとして企業経営者を監督する立場にあるわけですから、投資家に選任された独立取締役がその期待・役割を果たしているかどうかを投資家はチェックすべきですし、逆に独立取締役は、投資家の課題意識や企業に対する期待を理解し、その課題意識や期待を取締会に還元し、取締役会の監督機能強化も含めた取締役会の実効性向上に資するべきだと考えます。
 
 また、独立取締役の選任に対する議決権行使の実質化も必要です。例えば独立取締役の比率が足りないとか、あるいは多様性の確保が進んでいないなど、議決権行使基準に抵触するとして執行のトップである社長たる取締役に対して反対票を投じる事例が増えています。しかし、コード制定から10年近くがたち、取締役会の過半数が独立取締役で占められているような企業も増えつつあるなか、議決権行使基準への抵触は、社長1人の責任ではなく、むしろ独立取締役も含めた取締役会の責任であり、執行トップである社長よりも、むしろ独立取締役が責任をより負うべきと考えるタイミングになっていると考えています。取締役会における独立取締役の比率が高まり、取締役会の実効性向上に対して独立取締役が果たす役割がますます増大する中で、議決権行使においても、株主が独立取締役に対して高い期待水準を設定し、取締役としての役割・責務を果たすように促すことが取締役会の実効性向上に不可欠だと考えています。
 
 最後に、4点目として、取締役会の機関設計についてコメントさせていただきます。冨山メンバーの意見書に私の言いたいことが的確に表現されておりますけれども、私もそろそろ取締役会の機関設計について見直しを図るべきタイミングが来ていると考えています。取締役のうち一部しか参加していない指名委員会の暴走リスクに対する懸念は、実際問題、一部企業の経営陣や取締役会事務局あるいは指名委員会事務局から聞き及ぶことがあります。そのような暴走リスクを実務的に制御することは至難の業であり、やはり制度面での手当てが必要であると認識しています。
 
 長くなりましたが、以上です。ありがとうございました。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。
 
 それでは続きまして、ワリングメンバー、どうぞお願いいたします。

【ワリングメンバー】  
 ありがとうございます。佃メンバーが今おっしゃってくださったことは私も100%同感でございます。ICGNは金融庁のコーポレートガバナンスの改革の加速のためのアクション・プログラム、それから、東証、そして経産省の取組を高く評価しております。その結果、魅力的な金融センターとしての日本に対する世界の投資家の信頼は高く、そして、今日の株式市場の好調なパフォーマンスがそれを証明しております。今後は、会議資料に記載されている7つの分野に焦点を当てて、形式的ではなく、実質的な市場改革に焦点を当てるというアプローチに賛成でございます。
 
 第1に、コーポレートガバナンスがいかなる市場においても有効であるためには、長期的な企業価値創造の相互追求において、企業と株主の間に建設的な対話がなければならないと考えます。コーポレートガバナンス・コードは、高い基準を設定することにより、この対話を促進することができますが、時として企業は特定のコードの規定から逸脱することがあり、その際には代替アプローチについて意味のある根拠を示すことが期待されます。また同時に、投資家はこれを注意深く検討し、個々の企業の状況を十分に考慮することが期待されています。

 我々は、金融庁が日本における投資家と企業の対話を促進するために潜在的な法制上の障害に対処しようとする努力を高く評価しております。金商法及び共同保有者の定義の改正を歓迎するものであります。金融庁が、投資家の議決権行使に関連する投資家のスチュワードシップについて検討することを希望していることを理解しております。ICGN独自のグローバルスチュワードシップ原則における好事例には投資家が開示すべきことを推奨する情報が含まれておりまして、それらが以下のとおりです。
 
 議決権行使がどのように優先されるか。また、法域、投資マンデート、そしてアセットの種類によって異なるか。また、誰が議決権行使の決定に責任を持つのか。すなわち、決議の性質、地域、保有資産の規模によって異なる場合も含めです。社内の利益相反がどのように特定され、そして対処されているか。また、特に会社や株主の決議に反対または棄権した場合、あるいは投資家の議決権行使方針と矛盾する議決権行使が行われた場合、議決権行使の意思決定の根拠といったところです。
 
 プライム市場上場企業の95%が取締役会において3分の1以上の独立取締役を選任していることを喜ばしく思っています。理想的には、スタンダード市場であれ、グロース市場であれ、特に支配株主を持つ企業については過半数の独立取締役を置くべきであると考えています。より一般的には、独立取締役の任命は、指名委員会が主導する適切かつ客観的な選考基準に基づく正式かつ透明性のある手続に従うということであります。
 
 ICGNは、金融庁が資本コストに基づき企業の収益性と成長性をより強く認識するよう経営陣に促すことに重点を置いていることを歓迎いたします。多くのICGNの会員は、東証が最近企業に求めた資本配分の開示強化によって提供された新しいデータを活用しております。取締役会は、長期戦略に沿った企業の資本配分方針を監督し、その根拠を株主に説明すべきだと考えます。それらに含まれるのは、新規事業の買収、大規模な設備投資、事業の中止、研究開発費などです。
 
 東証が最近、プライム市場の会社に対して英語と日本語の法定開示情報を同時に公表することを義務づけたということは称賛に値します。時間をかけて、法定外の開示やより広範な企業への適用も奨励いたします。有価証券報告書については、投資家が議決権行使の決定に資するためにより有用なものとなるよう、JPXプライム市場に上場する全ての企業に対して株主総会に先立ち英文でこれを公表することを強く推奨いたします。
 
 また、政策保有株式の比率の低下には勇気づけられますし、数値削減目標やスケジュールを開示している企業もあります。しかしながら、株式持合いの根拠に関する開示は曖昧であること、例えば取引関係を円滑にするためなどといったことであり、投資家は、株式の持合いが企業の資本収益にどのような影響を与えるかについてより明確な関連性を求めています。より一般的に申しますと、企業の取締役会に対して、一定期間にわたる政策保有株の比率の削減計画や目標達成に向けた進捗状況を開示することを推奨いたします。これには親子関係、サプライヤーなど株式持合いの性質も含まれます。
 
 ICGNは、ISSBのグローバルベースラインと機能的に整合した国別コーポレートサステナビリティ報告基準を策定するSSBJの努力を歓迎いたします。ICGNは、2025年までに少なくとも1名の女性取締役を、2030年までに30%の女性取締役・監査役・役員を輩出するという政府の目標を支持いたします。また、私たちは、企業のパーパス、バリュー、長期戦略に沿った測定可能で期限付の目標を明記したダイバーシティポリシーの中でその取組について説明することを企業に奨励しております。
 
 御清聴ありがとうございます。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。片山メンバー、どうぞお願いします。

【片山メンバー】  
 連合の片山です。発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。私からは、「フォローアップと今後の方向性(案)」における「7.サステナビリティを意識した経営」について3点コメントを申し上げます。
 
 1点目は、コーポレート・カルチャーを意識した経営や対話についてです。「各社固有のコーポレート・カルチャーこそが企業価値を創出・維持する礎となるもの」という考えについて異論はありませんが、経営に当たりコーポレート・カルチャーを意識していくためには、幅広いステークホルダーとの日頃からの対話が重要だと考えます。とりわけ、企業で働く労働者は、コーポレート・カルチャーを社会や顧客に向けて日々発信・実践する特に重要なステークホルダーであります。そのため、労働者の代表である労働組合との積極的な対話も重要だということも、今後の議論において御配慮いただければと思います。
 
 2点目は、多様性の確保なども含めた人的資本への投資等についてです。課題の中にダイバーシティの確保に向けた記載がありますが、その前提としてサプライチェーンを含めた人権の尊重の理解浸透・実践が必要だと考えます。企業の人権尊重における取組を見える化するためにも、今後の議論とは別となりますが、サステナビリティ情報の開示基準に人権の尊重も加えていただきたいと思っております。なお、労働力が減少していく我が国においては、諸外国からの人材獲得も喫緊の課題となっておりますが、人権の尊重に対して日本が世界をリードしていく姿勢を示すことは、外国人材に働く場所として日本を選んでもらうことにもつながると思います。
 
 3点目は、有事におけるレジリエンスを意識した経営についてです。昨今の自然災害の頻発・激甚化やパンデミックなど様々なリスクへの備えとして、さらには、そうした中で労働者の雇用を守り、安心して働ける環境を整備する観点から、レジリエンスを意識した経営の重要性は年々高まっています。国際的な流れも踏まえ、1つの企業だけにとどまらず、サプライチェーン全体において適切な事業継続計画(BCP)の策定などをはじめとする有事への備えを促すようなことが重要であり、これは中長期的な企業価値の向上にもつながると思います。
 
 以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。では続きまして、松岡メンバー、どうぞよろしくお願いいたします。

【松岡メンバー】  
 どうもありがとうございます。私からは、今後の方向性(案)についてコメントさせていただきたいと思いますが、その前に、企業の持続的成長と中長期的価値向上に向けての皆様の御尽力に対して大変感謝申し上げます。
 
 まず、1の総論に関してです。コードの形式的な遵守だけではなくて、丁寧にエクスプレインをすることが重要であるという方向性については、大変強く同意する次第です。このエクスプレインに実効性を持たせるためには、スチュワードシップ・コードが定めるように、投資家側におかれましても、エクスプレインを聞いて評価する体制を整備していただくということが重要であると考えます。そのために、対話を実質的に行っていない、あるいはコンプライだけを重視する投資家に対して、ぜひ金融庁としてフォローしていただきたいと思う次第です。
 
 2のスチュワードシップ活動の実質化に関してです。企業と投資家の対話を促進するために、投資家側の透明性の向上も不可欠だと考えております。特に企業が実質株主を容易に把握できるようにしていただくことは急務であると考えておりまして、実務に配慮しながら実効性のある環境整備を進めていただきたいと思います。大量保有報告書の提出の遅延も実際に相次いでいることが見受けられますけれども、それに対する厳しい対応も求めてまいりたいと存じます。
 
 そもそもコードの実効性が確保されていなければ見直しの意味もございませんので、やはり実効性の確保のために、投資家側によるスチュワードシップ・コードの遵守状況についても、関係各位、特に金融庁や東証におかれましてはモニタリングをする仕組みをぜひ構築いただきたいと思う次第です。企業側はコーポレートガバナンス・コードの遵守が上場を左右するということになってしまうわけですけれども、投資家側に関しては、コードの遵守の有無が何ら実質的な影響がないという公平性の課題があるのではないかと思っております。
 
 また、投資家側のエンゲージメント体制が必ずしも十分でないというような指摘もありますので、投資家側へのインセンティブとして、アセットオーナーによるスチュワードシップ活動のコスト負担に向けての後押しなどもあるとよろしいのではないかと思います。投資先の企業と投資家の双方が、コードによる一定の規律の下で公平かつ対等な立場で対話を行って、中長期的な企業の成長に向けて協働できるような環境づくりが重要だと考えております。特に一部の議決権行使助言会社について、スチュワードシップ・コードに署名をされている一方で、コードに書かれております体制整備や対話を実施していない例もあるようですので、それに対しての何らかの対応を求めたいと思っております。
 
 次に、4の収益性と成長性を意識した経営に関してです。PBR向上のための自社株買いなど短期的な取組につながらないようにするということが重要だと考えておりまして、PBRあるいはROEなどの数字の過度な追求にならないよう、投資家からの要求や企業の取組が東証による要請の本来の趣旨に沿って収益性や成長性への向上につながっているかどうかといった観点でぜひ東証でフォローアップをしていただきたいと考えております。
 
 次に、5番の情報開示の充実及びグローバル投資家との対応促進に関してです。グローバル投資家の高い期待に応えるトップ企業群をある程度見える化・リスト化するということについては、情報開示の充実などに対する一定のインセンティブになり、好循環につながるという期待があります。
 
 事務局の御説明にあった岸田総理のいわゆる株主総会前の有価証券報告書の提出に関する御発言について、この実現によるメリットは理解いたします一方で、現行の制度の下で企業の自助努力のみでこれの実現を求めるということは必ずしも現実的ではないというところがあります。ぜひ金融庁におかれましては、法務省などの関係省庁の連携をしていただき、金商法と会社法の関係の整理も含めた抜本的な環境整備に向けて、リーダーシップを発揮していただきたいと考えております。
 
 企業の事業の多角化やグローバル化に伴って、子会社の増加、扱う情報量の増加や、複雑化も大変多くなってきております。監査業務も含めて、現在も各企業は可能な限り早い段階で有価証券報告書の公表に向けて尽力はしております。ただ、企業の尽力だけで公表日をさらに早めるということは困難を伴うというのが現状です。有価証券報告書の開示情報は増加する一方です。将来的にはサステナビリティ情報も増加するということが予想されております。その情報開示については、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」の第1回が開催されておりますけれども、そもそも国内制度化の議論が本格的に今始まった中で、サステナビリティ情報は財務情報に比べて定性的な、かつ将来予測情報を多く含むために、この性質を十分に踏まえていただいて、開示のリスクや保証、そういった在り方についての議論も含めてぜひ議論を行っていただきたいと思います。
 
 6の市場環境上の課題の解決に関してです。政策保有株式の対応については、金融庁からの御要請を踏まえて各企業において取組が進められているところであります。他方、企業からは、先ほども申しましたけれども、一部の議決権行使助言会社において対話がなされず形式的な対応がなされているという懸念が寄せられているのも事実です。政策保有株式の保有目的の検証、開示を進めると同時に、その開示がしっかりとエクスプレインできる場が設けられていることが重要で、そのフォローについてもぜひお願いしたいと思っております。
 
 最後に、7のサステナビリティを意識した経営に関してです。レジリエンスの重要性は、コロナ禍を経て強く理解されたところです。経団連としても、様々なリスクに対処するオールハザード型BCPへの転換をはじめ、災害多発国として求められる取組を会員企業にも呼びかけている状況です。他方、レジリエンスというものは、各々の企業の独自性も高く、また、そもそも経営方針の一環であるということを踏まえまして、新たな情報開示の項目としてレジリエンスを加えるということではなく、企業の経営方針についての主体的な発信を基本として、例えば好事例の共有などを通じて各企業の自主的な取組を促す方向で進めていただくということがよいのではないかと考えております。
 
 長くなりましたけれども、以上です。ありがとうございました。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは続きまして、三瓶メンバー、どうぞ。

【三瓶メンバー】  
 御指名いただき、ありがとうございます。まず、資料2について、事前説明の際に指摘した点を反映していただき感謝いたします。ありがとうございます。記載されている課題と今後の方向性について、おおむね賛同いたします。
 
 その上で、コーポレートガバナンス改革の実質化に関して全体に共通する重要なことは、「中長期的な企業価値向上という目的を見失わないこと」、それと、「目的に対する成果を検証し、成果が上がるよう行動を変えていくこと」、この2つだと思います。つまり、実質化とは成果の追求だと思います。先ほど野崎課長の御説明の中でもアウトカム・オリエンテッドという表現がありました。まさにそのことですね。
 
 次に、個別の論点についてコメントします。「2.スチュワードシップ活動の実質化」について、今後の方向性のポイントは、個別エンゲージメント、協働エンゲージメントにかかわらず、成果の検証ではないかと思います。先ほども御説明がありましたけれども、英国のFRCでは2021年から運用機関のスチュワードシップレポーティングの評価を行い、効果的な取組を例示しています。スチュワードシップ・コードの指針7-4に「スチュワードシップ活動の結果を公表すべき」とあって、現在、多くの運用機関がレポートを開示しています。ただ、エンゲージメントのミーティングを実施したことの事実そのものやその回数ではなくて、エンゲージメントの目的は何であったのか、その目的に応じた成果が得られたのか、そういったことに焦点を当てた実績の開示、検証の開示が必要と考えます。
 
 東証の説明資料の20ページにありますけれども、2023年3月にはプライム市場の全上場会社に対して、東証から「株主との対話の推進と開示」を要請しました。ですので、企業からも開示の様子が一部開示されるようになってきています。こうしたことを踏まえて、望ましいエンゲージメント、望ましくないエンゲージメントなどの課題や成果について、こうした運用機関からの開示及び企業からの開示の双方から事例集をまとめて、これにさらにアセットオーナーからのフィードバックコメントももらうような形で反映して、効果的なエンゲージメントを促進する手がかりにするということができるのではないかと思います。
 
 ただ単に協働エンゲージメントを含めエンゲージメントを促進するのでは、形式的であったり双方向の対話になっていない望ましくないエンゲージメントが増加する懸念があるので、これは要注意だと思います。効果的なエンゲージメントを促進するには、まず、「エンゲージメントとは」という定義をして、運用機関はフレームワークの構築やスキルアップの研修プログラムを利用して、エンゲージメントを組織的にサポートする必要があると思います。
 
 具体的なグッドプラクティスとしては、例えばワリングメンバーが提出されたICGNの意見書の2ページ目、3.5 Company engagementにあるアジェンダの事前共有、解決すべき経営課題の提示、解決の他社事例提供、期待するアクションポイントの確認と進捗モニタリング、また、3ページにある4.4 Voting rationaleにある、議決権行使の際に反対・棄権・基準をオーバーライドする際には発行企業に事前に説明する、こういうものは互いの信頼関係構築に資するもので、実は万国共通の秘訣です。こういったことをトレーニング、研修していく必要があると思います。
 
 次に、「3.取締役会の実効性向上」については、独立社外取締役の数や比率を単に増やすよりも、株主が期待する独立社外取締役の機能発揮を優先すべきと考えます。現在、独立社外取締役の視点や思考が、経営陣に近いのか機関投資家に近いのかと言えば、多くは経営陣に近いと思います。それは元経営者であったり、現経営陣との接点も多くて、機関投資家との接点が少ないからです。情報も執行側に依存しており、機関投資家の期待どおりの状況になっているとは言い難いと思います。したがって、独立社外取締役はもっと機関投資家と面談して独立社外取締役への期待を聞いて、自分たちがやるべき行動を理解すべきと思います。
 
 もう一つは、社内の取締役に関するものですけれども、スキルマトリックスの開示が進んでいます。ただ、使い方が現状の表示になっていて、本来の as is と to be のギャップを可視化して改善する目的には使われていないと思います。特に社内取締役の財務スキルへのチェックは少なくて、社外役員で補っているのが目立ちます。具体的な戦略の絵を描くのは執行側であって、この点は課題だと思います。
 
 次に、「4.収益性と成長性を意識した経営」については、現在東証で行われているフォローアップにおいて開示の状況を中心にフォローアップしておりますが、今後は成果に注目すべきだと思います。つまり、資本収益性、成長性、市場評価をモニタリングして公表すべきと考えます。
 
 「6.市場環境上の課題の解決」については、昨年12月に東証が従属上場会社に要請した内容が、定時株主総会後に更新されるコーポレート・ガバナンス報告書にどのように開示されるかを注視していく必要があると思います。その上で、支配株主・支配的株主の少数株主・一般株主に対する責任・義務についてどのように実効的な規律化ができるかを模索する課題が残っていると感じています。
 
 最後に、「7.サステナビリティを意識した経営」に関しては、現在、取組やKPIの開示に注目が集まっています。つまり、経営というよりは要請への対応にとどまっているということです。例えば人的資本への投資はもちろん最優先課題ですけれども、これをインプット、アウトプット、アウトカムの3段階で考えると、人的資本の投資というのはインプットの段階です。我々がこれから追求していきたいのはアウトカムです。アウトカムは「持続的な成長と中長期的な企業価値向上」であって、企業価値を評価するのは市場です。ですから、企業価値を評価するのは市場であることを意識しながら、経営判断の根拠、経営戦略の先に描く成果のイメージを伝えて、投資家の期待を醸成することが重要だと考えます。
 
 私からは以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、神作先生、どうぞお願いいたします。

【神作メンバー】  
 御指名ありがとうございます。学習院大学の神作でございます。3点申し上げたいと思います。
 
 2のスチュワードシップ活動の実質化につきましては、今後の方向性(案)にまさに記載してございますとおり、実質株主の透明性確保に向けてスチュワードシップ・コードを見直すことを前向きに考えるべきだと思います。スチュワードシップ活動、エンゲージメントが実効的になされるためには、エンゲージメントをする意義と意欲のある、議決権を行使しあるいはその指図をする実質株主を相手に行うということが肝要だと思われます。最終的には法律上の手当てが必要になると思われますけれども、法律上の手当てがなされるまでは、ソフトローであるスチュワードシップ・コードにおいて、それにサインアップしている機関投資家に対して、実質株主を明らかにするようなサービスを提供することを求めることが考えられると思います。
 
 また、スチュワードシップ活動の実質化についてもう1点申し上げたいのは、アセットオーナーが顧客の最善の利益を考慮して運用方針や運用対象を決定するようになってくると、アセットオーナーとアセットマネジャーとのコミュニケーションが非常に重要になると思われます。アセットマネジャーにとっては、アセットオーナーの運用方針や最終投資家への考慮すべき利益を十分に理解して行動する。他方、アセットオーナーについては、アセットマネジャーを的確に選任し、あるいはコントロール、監督するという観点からも、アセットオーナーとアセットマネジャーのコミュニケーションが非常に重要になると思います。
 
 次に、3の取締役会等の実効性向上でございます。これまでの御意見の中に、指名委員会の暴走についての御懸念が示されました。確かにおっしゃるような面があるとは思うのですけれども、指名委員会の役割のうち、業務執行取締役の候補者を挙げる場合と、そうではなくて独立社外取締役の候補者を挙げる場合とでは指名委員会の果たすべき役割はかなり違うのではないかと思います。私は、独立社外取締役の候補者を選ぶ場合にはやはり執行部が指名委員会のメンバーに入っていてはおかしいのではないか、少なくとも形式的にはおかしいのではないかという気がいたします。指名委員会の暴走についての懸念というのは一定程度理解しますけれども、まだまだ指名委員会は、特に独立社外取締役の候補者の選任についてなすべきことと申しますか、コードにおいて考慮すべきことがあるように思います。
 
 第3に、5の情報開示の充実について申し上げます。この点についても基本的に今後の方向性に書いてあることに賛同いたしますが、とりわけ、有価証券報告書の総会前の開示が非常に重要だと思います。株主が合理的な議決権を行使したり、あるいは実効的なエンゲージメントを行うためにも、有価証券報告書が株主総会の直前の開示だとあまり意味がないと思いますので、やはりある程度余裕を持って総会前に開示されることが重要だと思います。
 
 松岡委員から御指摘がございましたように、会社法上の計算書類と金融商品取引法上の財務諸表について一体化がかなり進められてきておりますけれども、この点については、法制面の手当ても含めて立法論的な課題に取り組むとともに、発行会社にとりましてもできることをやっていただく。例えば総会を現在の日程から後にする、あるいは逆に決算期を前にする。それに伴って基準日についても、できるだけエンプティーボーティングの問題が生じないように、年度末の株主を基準日として基準日株主とするという必然性・合理性は必ずしもないと思いますので、合理的な基準日の設定をはじめとして、企業の側にも立法論以外に取り組むべき、取り組むことができる、そういう点についてはぜひ前向きに御検討をいただけるとありがたいと存じます。
 
 私からは以上でございます。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、松本メンバー、お願いします。

【松本メンバー】  
 ありがとうございます。私は住友電工の会長と関経連の会長をやっていますので、若干違う御意見を申し上げるかもしれませんけれども、よろしくお願いします。
 
 まず、アクション・プログラム(案)のⅡの1、総論に関してでございます。各主体の規模や置かれた状況に応じましてきめ細かく必要な取組を検討することが必要であり、各コードを形式的に遵守することより、むしろ丁寧にエクスプレインすることも重要との記載がございますけれども、この点は我々は大いに賛同しているところであります。
 
 しかしながら、主に機関投資家に強い影響力を持つ議決権行使助言会社などが、ROE水準など多くの形式的要件によって機械的に推奨判断を出していることなども、企業がエクスプレインすることを逡巡させ、安易な自社株買いやコンプライありきに走らせる大きな要因あるいはプレッシャーになっているものではないかと考えます。そのため、企業に対してエクスプレインを推奨することもさることながら、投資家に対してもエクスプレインを評価できる体制を整えるよう求めることが重要ではないのか考えます。
 
 次に、協働エンゲージメントです。次に、Ⅱの2のスチュワードシップ活動の実質化について申し上げます。協働エンゲージメントにつきましてはどのような意図なのか理解し切れていない点はございますけれども、金融庁が旗振りをしてスチュワードシップ・コードを見直すことでこれを促進していくことには、私どもは違和感を覚えるものであり、慎重であるべきではないかと考えます。
 
 2023年12月に公表されました「資産運用に関するタスクフォース報告書」におきまして、質的・量的なリソースを補い、コストを低減する観点から、協働エンゲージメントの取組を積極的に活用することも有用との記載があります。しかし、協働エンゲージメントは、エンゲージメントを行う代表者に非常に大きな議決権判断に関わる影響力が集まることで、企業に過度なプレッシャーを与えてしまうことも考えられます。真に建設的な対話を促せるのか懸念を持ってございます。
 
 スチュワードシップ・コードの実質化を図ることには賛同いたしますけれども、そのための手段として協働エンゲージメントがあたかも望ましいといった一方的な方向に誘導することは若干短絡的ではないかと考えます。企業側の声に十分耳を傾けて慎重に対応いただきたいと思います。変な言葉ですが、徒党を組んで一企業に対応してくるというのは何か法的にも問題があるんじゃないかと。共有してはならない情報を共有して、そしてそれを持ってグループとして1つのカンパニーにやって来る。何か問題があるんじゃないかと僕は思うんですけれども、これは私は専門家でないので、専門家の判断に任せたいと思います。
 
 また、大量保有報告制度の見直しによる実質株主の透明性の確保について触れられておりますけれども、ウルフパックによって株を買い占めた場合の株主提案は認めないといった踏み込んだ規制が必要じゃないのかと思います。
 
 次に、Ⅱの3の取締役会等の実効性向上については、社外取締役の実効的な機能発揮ができていないという課題は同じ認識でおりますが、取締役会において建設的な議論が行われているかについて確認するとはどういうことかお伺いしたいと思います。むしろ独立社外取締役の候補者が現実には少ない中、少なくとも3分の1以上選任といった一律のルールを設けているために、1人の兼務数が過度に増えまして、独立社外取締役が適切に時間的にも機能を発揮することはできていないのではないかとの懸念を我々は持っています。こうした状況を踏まえまして、独立社外取締役が十分な時間と労力を確保できるよう、独立社外取締役の基準を形式的に求めるルールを見直すとともに、一定の兼任規制の導入なども選択肢に入れなきゃならないのではないかと考えられます。
 
 次に、Ⅱの4の収益性と成長性を意識した経営、今後の方向性(案)についてでございますが、開示の内容と実際の取組の内容が乖離していないか、取締役会における議論において具体的な議論が行われているかについて着目するとの記載がありますけれども、この点も、先ほど述べたとおり、取締役会の議論の内容を確認するかのように受け取れますが、Ⅱの3の取締役会等の実効性向上の論点のとおり、どのような趣旨か確認したいと思います。
 
 経営環境には常に不確実性が存在しております。仮に将来の取組に関して開示の内容と実際の取り組む結果との乖離の有無の確認を突き詰め過ぎますと、企業は将来に向けた経営方針などの開示自体を萎縮してしまう懸念があるのではないかと思います。
 
 続いて、Ⅱの5の情報開示の充実及びグローバル投資家との対話促進についてでございます。私は英文開示も有効に活用して建設的な対話を推進していくことには賛同してございます。一方で、そのための英文開示を促す際には、企業の実務的な負担にもしっかりと目配りをして、一定の自由度のある制度として、適用までの適正な時間を確保しつつ制度設計を進めていくべきと考えております。
 
 企業によりましては、英文開示資料の英訳を外部業者に委託している場合が多々ありますけれども、インサイダー情報等の情報管理の観点からも、日本語の開示を確定・公表してから外部業者に英訳を外注している企業が多々あります。その場合は、日本語と英文の同時開示の対応はかなり難しいものではないのかと思います。
 
 また、法律用語や会計用語、新たな業界用語や表現を英訳できる人材を一定数確保することは困難である場合があります。このような企業の実態にも十分配慮した上でルール設計をぜひお願いしたいと思います。
 
 さらに、有価証券報告書の株主総会前の開示につきましては、企業の作成準備期間の短縮につながるのではないかとの懸念がございますので、実務的な課題に十分な配慮が必要じゃないのかなと考えます。
 
 次に、Ⅱの6の市場環境上の課題の解決におきまして、他方で、形式的に売却することは必ずしも望ましくなく、発行会社の経営の支援等を通じて保有の合理性を説明し得るような場合もあるために、適切に検証を行う必要があるとの指摘があるとの記載がございますが、以前より申し上げていますとおり賛同いたします。趣旨を踏まえた対応をぜひお願いしたいと思います。
 
 長くなって申し訳ありません。もう最後でございます。最後に、Ⅱの7のサステナビリティを意識した経営に記載されているサステナビリティとレジリエンスを意識した経営は、これは重要だと認識しております。ただ、コーポレートガバナンス・コードに新たに項目を追加して企業に形式的な説明を求めるといったさらなる細則化を行うのではなくて、企業と投資家が対話する際の前提となるその考えとして双方に御認識いただければと考えております。
 
 以上でございます。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、翁メンバー、どうぞお願いいたします。

【翁メンバー】 
  総論として、コーポレートガバナンスのための制度的な取組、金融庁や東証がいろいろやってきておりますが、成果を上げてきているというように思っております。しかし、個別に見てまいりますと、コーポレートガバナンス・コードについては、御指摘のとおり形式的なコンプライにとどまっている企業もあり、エクスプレインをしっかり重視するということはとても大事だと思っております。
 
 ただ、東証で指摘しているように、エクスプレイン自体も形式的になっている場合があるわけでございますので、しっかりとエンゲージメントをしていくということがやはり大変重要だと思っております。エンゲージメントの担い手も不足はしているわけですし、リソースも限られておりますけれども、やはりこの投資家サイドの課題は大きいのではないかと考えております。
 
 その点で、2にありますスチュワードシップ活動の実質化というのは、極めて今重要な課題だと思っております。今回、金融庁の議論などで実質株主の透明化確保という提言がございましたし、こういった様々な提言を踏まえれば、今回スチュワードシップ・コードを見直していくということは非常に重要なことだと思っております。
 
 特に私が問題意識を持っておりますのは、投資家のエンゲージメントに当たって、投資家側も高い専門性を持って事業とファイナンス、サステナビリティを併せてどういうビジネスモデルにして長期的な企業価値の向上を実現していくのかという、そういった議論がなされていることが非常に重要だということです。
 
 また、同時に、ペーパーにも書いてあるんですけれども、対話と議決権行使、これがしっかり組み合わさってエンゲージメントがなされるということも大変重要なことだと思っております。この意味で、投資家側の体制整備とか、それから人材育成というのがとても大事なのではないかと思っております。
 
 スチュワードシップ・コードの遵守先やその数、さらに、どういう開示の在り方が適当かということは検討する必要があるんですけれども、この遵守状況というのを1年ごとに定期的に開示していくことを金融庁のほうで御検討いただくことは大変意味があると思っております。コーポレートガバナンス・コードも東証から定期的な開示によって進捗状況が確認できるように、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードは車の両輪であり、しっかりと継続的に確認していく必要があると思っております。
 
 それから、成長性と収益性を意識した経営というのは、東証のほうもフォローアップをして、開示状況も確認して本格化しているわけですけれども、東証のペーパーにもありましたように、スタンダード市場の企業は課題が多いと思っております。

 ただし、全体として、東証の役割はこういった環境をつくるための触媒であるはずだと思っておりますので、これからは多様な投資家が、形式的な基準だけでなく自らどういうエンゲージメントをして、どういう要請をしていくのかということで、この面でもスチュワードシップ活動の実質化を期待して、こういった長期的な成長や収益性の向上ということを投資家もしっかりと取り組んでいただくことで、そういった企業経営も実現していくのかなと思っております。

 それから、グローバル化については、御提案でグローバル投資家の期待に応えている企業群の具体的リストを作成するということはよいことではないかなと思っております。プライム市場というのは、海外の投資家も含めて対話をすることで、企業が自ら選んでプライム市場に上場しているということでございますので、現状、東証の資料にもありましたけれども、7割を超える投資家が英文開示に不満を持っている状況を考えますと、やはり最低限の出すべきものというのは東証から出しておりますけれども、よい企業としてこういう企業があるということを見せていくという、もう一つのアプローチも使って、グローバル化をさらに企業に促していくということは大事なのではないかと思っております。

 最後になりますが、政策保有株式ですけれども、各社で縮減の取組が進められていることはよいと思っていますが、ここにペーパーにも指摘してありますが、縮減が画一的、形式的なものになるということは望ましくないと思っております。企業の経営戦略上、保有するのであれば、その理由を取締役会でしっかりと議論をする。そして取締役会が検証するということで、さらに、その理由をしっかりと投資家に分かるようにエクスプレインすることが問われていると思っております。

 以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、高山メンバー、どうぞ。

【高山メンバー】  
 御指名どうもありがとうございます。
 
 まず、日本企業の現状についてお話ししたいと思います。両コードができてから10年近くたっておりますけれども、この間の状況を見ますと、日本企業の取締役会も、それから経営の内容も大きく変化したと考えております。
 
 私はこれまで多数の企業の取締役会の状況、議論を見てまいりましたが、現在、多くの企業の取締役会では、重要な事項について、社外取締役も含めた各取締役会のメンバーが、より鋭い視点、それからより多様な視点から十分な検証をするようになっており、議論の内容もかなり深まっている状況にあると考えています。それと対応する形で、経営の在り方、経営陣の考え方もかなり変わってきているということを実感しています。
 
 それらが全てすぐに企業価値の向上につながるというわけではありませんけれども、そのための条件がかなり整ってきていると考えます。このような状況は高く評価すべきであると思います。
 
 ここまできたのは、企業、それから投資家がそれぞれの立場で十分に努力したこと、それから、両コードの実質化に向けて努力されているここにいらっしゃる皆様が尽力されたことが、とても大きいと思います。
 
 その上で、頂きました資料の中にある課題とその対応についてお話ししたいと思います。幾つか課題が挙げられてますが、その中で、3番目の取締役会の実効性向上(独立社外取締役の機能発揮)についてお話しします。
 
 取締役会の実効性向上というのは、コーポレートガバナンスにおいて一番重要な点であると思います。そのような中、独立社外取締役や各委員会の議長などが果たすべき役割に関する認識が十分に共有されてないということ、それから、社外取締役等の質の評価が実質的には行われていないことが、課題として指摘されています。この内容については私も同意いたします。企業によって差はありますけれども、こういう課題は共通して見られるところであると思います。
 
 それらの課題への対応ですけれども、3つ考えられると思います。まず、社外取締役などの果たすべき役割が、十分その認識が共有されてないというところについては、各企業において、自社の社外取締役に何を期待するかということに関して、より詳細な方針を定める必要があると思います。実際に日本企業でも、数は少ないですけれども、そのような方針をつくっているところがございます。
 
 一般的には、コーポレートガバナンス方針ということで各企業がそのような方針を定めていますけれども、そこに記載されている内容というのは、コーポレートガバナンス・コードに書いてあるような内容をそのまま持ってきたような抽象的な説明が多いように思います。
 
 そうではなくて、自分の企業にとってどういう社外取締役が望ましいのかというようなところについてかなり議論した上で、詳しい内容を記載した方針というのを、それを公表するしないに関わらず、各企業は定めるべきだと思います。
 
 それから、2番目は、その方針に基づいて指名委員会の役割の強化が必要だと思います。指名委員会の役割に関連して、機関設計の話が先ほど出ましたけれども、現状の機関設計の是非についての意見は今回は控えます。
 
 その上で指名委員会の役割について申し上げますと、現状、多くの指名委員会、法定、任意を問わず指名委員会においては、CEOのサクセッションについてはかなり力を入れて本格的な議論をしていると思います。一方で、社外取締役のサクセッションについては、どちらかというと、例えば、執行側が基本的な案を持ってきて、それを確認して承認するというケースが多く、委員会や特にはその中の中心メンバーである社外取締役がイニシアチブを取るというケースはあまり多くないように思います。
 
 今後については、委員会、特に社外取締役のメンバーが主導して社外取締役のサクセッションを進めていく、その際には、先ほど申し上げた各企業で定めた方針に基づいて実施する、ということが重要だと思います。
 
 そのようにして適切な社外取締役を選ぶことはできると思いますが、加えて今後は、既に就任している社外取締役がその任務・役割を適切に果たしているかどうかということについての評価も行う必要があると思います。
それが3つ目の対応となります。
先ほどICGNのステートメントについて御説明がありましたけれども、その中で4ページにあるボードエバリュエーション、取締役会評価というところが参考になると思います。ICGNからの提言では、取締役会全体に加えて、委員会、それから取締役個人の評価が必要であるという記載があります。
 
 現状、ガバナンスコードでは取締役会全体の評価が求められています。日本企業はそれに加えて委員会の評価も行っているところがかなりあります。一方で、社外取締役も含めて取締役個人の評価というのはまだ十分に行われていない状況にあります。このICGNのステートメントなども参考にして、今後は、取締役個人の評価を行うことによって社外取締役の質の向上というのが達成されるのではないかと考えます。
 
 私からは以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。 それでは、続きまして、小口メンバー、どうぞお願いいたします。

【小口メンバー】  
 ありがとうございます。昨年の第28回は運用機関の元職で参加させていただいたのですが、今回、企業サイドの助言会社の立場で参加しているので、本日は機関投資家の視点、企業の視点の双方から発言させていただきたいと思います。
 
 まず、コーポレートガバナンスの実効性についてですけれども、資本コストや株価を意識した経営が、今、日本の中で大きく認知されていますが、コーポレートガバナンス・コードの原則1-3や原則5-2にちゃんと書いてあるのですよね。これら原則はコンプライ率も高かったと聞いているのですけれども、ただ、その趣旨や精神が十分には確認されたとは言い難い状況にあったのかなと。

 そうしますと、資料2の最初の1の総論のほうで書かれていますけれども、形式的なコンプライにとどまっているという指摘については、残念ですが、この資本コストや株価を意識した経営というのはまさに形式的なコンプライにあった代表例だったのかなと思っております。

 そこで、もちろん、本来は自律的な意識改革が進められるべきではありますが、対応策として、4に示された、あるいは先ほど東証のほうから御説明があった、世に言う東証要請が実効性を後押ししたということを見ますと、コードの外であっても、コードの趣旨や精神に沿った具体的でかつ柔軟なアプローチが企業のアクションを促す意味で有効であったという、これは大変いい好事例になったのではないかと思っています。

 したがいまして、このようなアプローチを今後もぜひいろいろ考えていただけたらなと思っております。

 その反面でということですけれども、日本IR協議会の会員企業向けアンケートによりますと、企業サイドからは、資本コストや株価を意識した経営の実現への取組を進めていく上で、問題点として、先ほど冨山メンバーからの意見書にも書かれていたようですが、個別企業を選別するアクティブ運用よりも、市場全体に投資するパッシブの割合が高まっている。それから、中長期的視点で企業価値を分析するアナリストの減少が課題だという声がございます。

 それで、今回の東証要請の役割というのは、本来、スチュワードシップ・コードに署名した署名機関が自ら果たすべきであったのではないかということを考えると、それができずに東証に助けていただいたというのは、少し残念な気もいたします。

 パッシブ運用というのは市場を網羅する投資で、それを否定するつもりはないのですけれども、そもそもスチュワードシップ・コードでは、機関投資家による投資先企業やその事業環境等に関する深い理解を、エンゲージメントの前提としているわけですよね。これは明記されているわけですが、個別企業を実際に分析して選別して投資をする、いわゆるアクティブ運用のエンゲージメント活動というのが外から見えにくい状況になっているのではないかと思っております。

 インベストメント・チェーンで捉えたときに、アクティブ運用には、パッシブ運用にはない機能があります。1つは価格発見機能。これは割安だ、これは割高だということで、割安を買っていく、割高を売っていくという判断。そして、その判断に基づいてお金を実際配分するという資金配分機能を持っているわけです。

 ですから、アクティブ運用にスチュワードシップ責任を果たしてもらって、株価を適正にした上でパッシブ運用が保有するという流れがインベストメント・チェーンとしては望ましいのではないかと思っています。

 多くの日本の運用機関はアクティブ運用とパッシブ運用を併営されているわけですが、その観点で1つの運用機関で見た場合に、どうしてもパッシブ運用にアクティブ運用のスチュワードシップ活動が隠れがちじゃないかなと。ですから、アクティブ運用の検証や開示が必要じゃないかなというふうに思っています。

 ということで、2スチュワードシップ活動の実質化のという課題にも指摘されていますけれども、対話の担当部門、議決権行使の担当部門、運用部門が分離しており十分な連携が図られていないなど、対話と議決権を一体とした実効的なエンゲージメントが行われてない。そもそもスチュワードシップ・コードへの対応についてはその遵守状況が確認されていないため、実際の取組を点検することが必要といった課題が認識されているわけです。
 
 本日、多くのメンバーからスチュワードシップ・コード署名機関の議決権行使について御意見があったのですけれども、スチュワードシップ・コードの指針5の1に書いてありますが、機関投資家は、全ての保有株主について議決権を行使するよう努めるべきであり、議決権の行使に当たっては、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえた上で、議案に対する賛否を判断すべきであると書いてありまして、指針5の3でその結果を開示せよと書いてあるわけです。

 私も運用機関サイドにいたので理解できますが、運用機関にとっては、市場を保有するパッシブ運用と、市場から分別・選別投資するアクティブ運用というのは、そもそも機能が違うので別部門ですけれども、企業にとっては同じ主体です。同じ運用会社、何とかアセットマネジメント、同じ会社なのですね。その会社単位で考えたときに、誰が投資先企業に対して最も深い理解を持っているのかといえば、銘柄を分析しているアクティブ運用のはずなのです。

 ということで、アクティブ運用の担当者が実際対話をしていると思うのですけれども、その場合に、このスチュワードシップ活動の実質化で書かれているところの点に当たる議決権行使は、結局のところ幅広い株式に共通するパッシブ運用の方針に従って議決権行使しているのか。それも1つの考え方だと思いますけれども、あるいは、線に当たる対話内容を十分吟味した上で、パッシブ運用の基準をオーバーライドして議決権行使しているのか、この点について指針5の3で基づく開示を求めることによって、先ほどから皆さんから御指摘のあった柔軟で実態を踏まえた議決権行使が実現できるのではないかなと考えています。

 企業の側からすると、議決権行使については諦めムードで、対話してもどうせ画一的に判断されてしまうみたいな部分があるのですけれども、実態を踏まえた対応をしていただいて、それを開示していただくと、有益なフィードバックになると思うのですよね。実際対話する担当者がどういうことを言って、それがどういうふうに議決権に反映しているのかが見えれば、議決権行使に対する今日のような批判だけじゃなくて、納得性も高まるのではないかなと。そうすると、スチュワードシップ活動の実質化の一助になるのではないかと思っています。

 それから、何人かのメンバーからも御指摘があったのですけれども、企業サイドから見ると、企業と直接対話するアセットマネジャーというのは何となく顔が見えるですが、アセットオーナーとなると全く顔が見えない。見えないのですけれども、インベストメント・チェーンの中で大変重要な役割を持っていまして、アセットマネジャーに対して資金を配分する。そして、先ほど来言及しております議決権行使についても、あるいはスチュワードシップ活動についても、アセットマネジャーを評価するという重要な役割を担っているわけです。この点、今後策定されると聞いておりますアセットオーナー・プリンシプルなどで、実効性についてどういうふうに規定されるのか期待するところではあるのですが、そもそも論として、企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮について、コーポレートガバナンス・コードの原則2-6で示されています。重要なのですよということですけれども、その原則を実行するために、適切な資質を持った人材を確保すべきと書いてあることは書いてあるのですけれども、今回の課題では言及されてないのですが、適切な人材確保を個別のアセットオーナーに対応しろと言っても限界があると思うのですよね。

 インベストメント・チェーン全体の人材配置という観点で、アセットマネジャーを代表として人材がいますが、その人材をどう配置してインベストメント・チェーンを有効なものにしていくのか。この発想がなければ、幾らアセットオーナーに頑張ってくれと言っても、ない袖は振れないわけですので、具体的な枠組みづくりというのが必要ではないかなと思っています。

 私からは以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。 それでは、川北メンバー、お願いします。

【川北メンバー】  
 京都大学の川北です。

 簡潔に申し上げたいと思っています。資料2において示された今後の方向性に関しては、基本的には私は賛成です。特にエクスプレインの重要性についての言及の部分、それから双方向の対話と議決権行使の連動、さらに、実質株主の透明性確保、これについては大いに賛成したいと思います。

 ただし、コードにさらに追加することについては非常に慎重になっていただければと思います。書けば書くほど、それを形式的に遵守することが起こりがちだと思いますので、例えば好事例集を示すとか、そういうことで対応していただくのがいいのかなと。

 特にスチュワードシップ・コードへの対応に関しては、各公的年金もアセットマネジメント会社に対してどういうことをやっているのかを要求して、集めた結果を開示しています。ですから、この点はむしろ公的年金に任せたほうがいいのかなと。アセマネ会社が新たに対応する、そこに労力を割くというのは、非常に無駄だと私は思います。

 この点、特に公的年金に関しては、以前から問題になっていますフィーの問題ですよね。これも含めて対応を求めていただければなというふうに思います。

 さらに、次の3点を指摘したいと思います。実は取締役会の実効性に関しても何か言おうかなと思ったのですけれども、これはいろいろな方がおっしゃられたので、それはそれにお任せします。

 1つは、この資料2の4に書いてある収益性と成長性に関しましては、いろいろな対話を見ていると、特にアセマネ会社は配当に議論を集中しがちなんですけれども、やはりこれは問題だろうと思います。資本コスト、どの程度の投資機会があるのか、それから、内部留保を投資機会に対してどれだけ充てるのか、その残余としての配当という、そういう順番の議論があるべきであって、それがいきなり配当ということになってしまうと、これは非常に問題だと思います。ですから、資本コスト、投資機会、内部留保、これらを有機的に議論するということに会社側も、それからアセマネ会社も対応していただければなと思います。

 この点に関してもう一点申し上げると、アナリストと議論をしていると、例えば、昨今のインフレの時代というか、2%程度の物価の上昇の中で、じゃあ、御社の収益、特に売上げが増えているのは量なのかそれとも価格なのかという議論をすると、会社側で即座に答えられないことが非常に多いというふうに言っていました。

 ということで、企業側も経済環境なり、それから先ほど申し上げた投資機会なり、そういうものを踏まえた議論ができるような体制を十分に整えていただければなと思います。

 それから、もう一つ、5の対話促進、もしくは7のサステナビリティに関しての議論ですが、人材の観点から一番重要だと思える労務費を含む人件費の総額の情報が、ほとんどの企業で示されていないと思います。何社か見てみたのですけれども、ちゃんと示している大企業もある一方、ほとんどの企業はそれを示していない。

 そうすると、足元で政府が注力している人件費と経済成長の好循環、その効果に対して、個々の企業がどの程度努力しているのか、これが分からないわけです。特に、「人材」の「材」を「財産」の「財」と書く企業も増えているわけなので、だとすると、財産に対してどの程度の対価を支払っているのか、対価を支払ってその人材を確保しているのか、これが非常に重要になるはずです。この点の開示も進めていただければ、アナリストと企業との対話は進むのではないかと思います。

 それから、6番目に書いてある市場環境と少数株主保護に関して、親子上場というんですか、それに関して、乱用とまでは言わないですが、非常に中途半端な抜け穴の状況が続いていると思います。

 ということで、最終的には重要事業を完全に自分たちのものにする、100%それを自分たちが確保する、逆に重要じゃない、もしくは不要と思われる事業を100%分離してしまう、そういう関係を築いていただくことが最終目標だと思います。一目散にそこまで行くのは、諸般の事情からして難しいとは思いますが、それに向けた対応を金融庁さんにもお願いできればなと思っています。

 以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、次に、大場メンバー、どうぞお願いいたします。

【大場メンバー】  
 私からは3点、座長から5分以内と言われていますので、意識してお話申しあげます。

 第1点目は、現状の評価についてであります。これは企業側も投資家側、アセットオーナー側双方に言えることだと思いますが、まず、ファクトの確認が大事かなと思います。私どもが試算したところ、日経平均株価は34年前の高値とこのように報じられておりますが、企業価値を向上させた企業は、各種いろいろなところでデータは出ているのですが、300社台です。逆に言いますと、それ以外は企業価値が向上していません。これがまずファクトだということをお示しするのが大事ではないかと思います。

 つまり、今回のフォローアップ会議のメッセージをお伝えする対象はどこにあるかということを明示しないと混乱します。もうそんなことは十分理解しているよというような会社も多々あると思いますので、形式的に対応している会社が今回非常に大きな課題になっているんだということをお示しすることも大事ではないかと思います。

 第2点は、コンプライ・オア・エクスプレインという原点に帰るということです。これは各メンバーからも御指摘があったことなので簡単に触れますが、十分に機能するようなコードが出来上がっているかと思います。指針も相当細かく詰められていると思います。まず、これを徹底していただくということで、新たに指針をつくって更に作業をするというようなことにならないようにすることが大事ではないかと思います。

 3点目は、エンゲージメントの対象をお示しいただいた、テーマの中では4に重点的にフォーカスするということではないかと思います。つまり、持続的な企業価値の向上というのは、企業にとっても、運用会社にとっても、アセットオーナーにとっても共通の課題であり、目的ではないかと思います。課題がたくさんあることはそのとおりなのですが、その他の課題は目的というより手段です。エンゲージメントの対象を企業価値の向上にフォーカスするということをもう少し強調してもいいかと思っています。

 そのためには、メンバーからも御指摘がございましたように、アクティブ投資家の厚みを持たせるということが非常に重要になっているのではないかと思います。そういう意味では、この夏までに策定が期待されておりますアセットオーナー・プリンシプルというこの内容が非常に注目されるわけですが、先ほども御指摘のあったように、コスト負担の問題も含めて、アクティブ投資家の厚みをどのように持たせるか、つまり、企業価値が持続的に向上できるというところにお金が流れるような仕組みでインベストメントチェーンを回していくということが非常に重要になると思います。そこにフォーカスしたエンゲージメントが強化されることが非常に重要ではないかと思います。

 以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。 それでは、上田メンバー、どうぞお願いいたします。

【上田メンバー】  
 ありがとうございます。

 まず、本日の課題の前提というものがあるかと思いました。1つは、二極化が生じているということが全てだと思います。ガバナンスへの取組、企業価値への取組、これを実質的に取り組んでいる会社、あるいは自主的に対話をしている投資家と、これを形式的にしかできていない、あるいは、意識がないのかあるいはリソースがないのか含めてできていないというこの二極化が顕著に出てきている。これがガバナンスコードが導入されて時間がたって見えてきたことだと思います。

 となると、プライム市場1,660社程度あるということで、全てに対話をするのは投資家も無理であると思います。当然、効果があるところ、今アクティブ運用の話がありましたけれども、こういった流れというのも1つの議論かと思います。基本的には、個別企業が各社実質的にお取組いただくということは、市場全体の質につながると思っております。

 したがって、この質を確保するといったところは、個別企業の質だけではなくて、それが結果として市場全体にも影響があるといったところをしっかり意識して議論を進めていくというタイミングに入ったかなと思っています。

 こういったものを踏まえまして、まず、スチュワードシップ・コードの改訂についてです。これも改訂の前提として、ほかの委員からもありましたけれども、そもそも機関投資家によるスチュワードシップ・コードの対応状況についての確認といった作業、点検というのが必要かと思います。この点、コーポレートガバナンス・コードについてはしっかりされていたと思います。

 例えば、英国、今日、たまたまICGNの次期CEOのジェンさんも来られていますけれども、彼女がいたFRCにおいては、例えば、スチュワードシップ・コードへのティアリングであるとか評価ということは定期的に行われているかと思います。金融庁には御負担になるかもしれませんけれども、このような検証や評価を1度していただくと、全体像が見えるのかなと思ったところです。

 その上で、例えば協働エンゲージメント、これは企業にとっても、投資家共通の問題意識というものを認識するためにはよい機会だと思っております。個別の投資家だと、どうしても個別性のある深い議論になって共通性というところが見えなくなってしまいます。他方、経営サイドとしては投資家共通の問題意識を知りたいということもありますので、こういったお取組がしやすい環境整備というのはのぞましいと思います。

 そして、実質株主の透明性についても各国においては既に実務で定着しているということですので、我が国でも、法律の改正を待たずコードで実務を進めるということはあっていいのかと思います。いずれにしても、必要に応じたコードの改訂をお願いできればと思います。

 取締役については、これはもう相当議論がありましたので、1点だけ。女性取締役については、数も大事ですが、やはり質のところも大事です。経験とスキル、そして訓練といったところも必要です。女性という属性が目的化してしまっているかと思うのです。本当は必要なのは、スキルがあって、さらにダイバーシティがあってということだと思いますので、この辺り、いろいろな創意工夫といったものも必要かと思いました。

 最近話題になっています有報の総会前開示についてですが、これも総会当日、翌日にはほとんどの会社で公表されている。これを数日早めて総会前に公表するといったところまでは大きな負担はないのかと思います。ただ、議決権行使の特にグローバル投資家に必要な例えば5営業日前までの公表であるとか、今後サステナ開示が必要となる中での対応となりますと、これは簡単な話ではないと思います。ここは、先ほどほかの委員からもありましたけれども、例えば、事業報告との重複をどうするかとか基準日の在り方をどうするか等々含めて、大きな全体的な仕組みについての議論も今のタイミングで開始していただければと思っています。

 英文開示です。英文開示については、プライム市場はグローバル市場という位置づけでございますので、できましたら、基本的に全ての情報が即時に英語でも開示されるといったことが市場の位置づけからすると望ましいと思います。ただ、コスト、リソースの負担というのはあるかと思います。とはいえ、やはりプライム市場というのはこれぐらい求められる市場なんだということが、一方では市場の質の確保という観点からも重要ではないかと思います。本当に簡単ではないかと思いますが、プライム市場というのはそういう市場であって、そういう市場に上場しているという意識が企業にも必要かと思います。

 最後に、サステナビリティとレジリエンスを意識した経営です。私もこのOECD原則を読ませていただいたんですけれども、サステナビリティ要素を意識するというだけではなくて、企業経営とか事業のサステナビリティ、持続可能な経営を行うという企業自身のサステナビリティの面もあるかと思います。ですので、レジリエンスといったところにつながるかと思います。そのため、ここは何にせよ、企業経営そのものがサステナブルであるといった意味、ここをしっかり持ちたいと思います。

 最後、コーポレート・カルチャーです。冨山メンバーからのコメントにもあったかと思いますが、以前、イギリスでコーポレート・カルチャーに関する報告書というのがFRCから出ていました。当時、たまたま私はイギリスにいて、これを勉強したんですけれども、日本の企業文化とは全く違うものという雰囲気を持ちました。企業文化というと、あたたかい心のよりどころといったような雰囲気でありますが、ここで言うコーポレート・カルチャーというのはもう少し厳しいニュアンスでした。取締役会が責任を持ってカルチャー醸成して定着させ、それによって、ルールでは対応できないようなガバナンスの向上とか様々な取組を定着させていこうという考えかと思います。

 ということもあって、ここでコーポレート・カルチャーと片仮名であえて書いてあるというのは、そういったニュアンスも含まれているのかと思いまして、片仮名でいいのかなというふうに思った次第です。

 長くなって申し訳ありません。以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、岡田メンバー、どうぞお願いいたします。

【岡田メンバー】  
 岡田です。

 今回のフォローアップ会議ではコーポレートガバナンス改革の実質化のフォローアップということですが、これはぜひやっていただきたいと思います。また、スチュワードシップ活動の実質化、これもぜひやっていただきたいと思います。

 企業側からは、投資家というのは怖い存在、責めてくると、こういう意識があることは否めませんが、今回のフォローアップ会議をきっかけに相手が見えるようになることは非常に大事なことですし、そうすると、そこから先の対話がさらに進んで、エンゲージメントが進むことを期待しております。一方で、企業側も、ただディフェンスに走るのではなくて、開示をもっと充実させる必要があるのではないかなというふうに思います。

 「3.取締役会の実効性向上」に取締役会が実効的には機能していないとの記述がありますけれども、1つの例としては、取締役会の実効性評価というのはもう皆さんやられていると思いますが、形式的に実施しているところ、あるいは、自己評価をして全部ちゃんと機能していますと記載しているところがあると思いますが、推奨されているように、少なくとも1回は第三者機関を入れてフォーミュラをつくってそれをさらに開示するというところへ結びつける。これが大事だと思います。

 私は開示について、日本企業はどうしても横並び、前例を見る傾向があります。ですから、好事例集というのはとてもいい試み、日本人には親しみやすいのですが、好事例が日本の中の好事例でいいのかという気もします。

 海外を見ますと、この実効性評価についてかなり細かく記載してあったり、あるいは、そこに改めて取締役、特に社外取締役ですけれども、スキルの明細が書いてあったり、更にはこの人はどんな活動をしたかというところも説明されている事例もあります。ほとんど日本の会社ではそこまで踏み込んでいませんので、日本の企業の中にも最先端を行くぞという志でそういうことをやる企業が現れてくれればいいなと思います。好事例集というのも、そういうのも含めて作成していくと、少しずつではありますが、充実していくのではないかと思います。

 取締役会の実効性について続けますと、社外取締役の質の向上というのも課題だと思います。これは実際に就任してからトレーニングをしていると思うんですが、トレーニングは概ね企業の事業内容を説明するとか決算を説明するとかというところに偏りがちだと思いますが、実際には、過去にあった不祥事の事例とか、他社の例でガバナンスが機能しなかった事例、あるいは不正の事例と、こういうこともシミュレーションとして教育していくことも必要だと思いますし、あるいは、投資事例も、うまくいった投資、失敗した投資、これもそういうケース感覚を磨く上でも大変重要な教育だと思います。それはぜひやっていただきたいと思います。

 それから、指名委員会、報酬委員会について述べられていますが、私のもともとの立場もありますので、監査役等について触れたいと思います。監査役等はアメリカの監査委員会(コーポレート・オーディット・コミッティー)に相当すると思いますが、このコミッティーは「Those Charged with Governance」というふうに定義されています。即ちガバナンスを監視するという役割を与えられていると私は解釈しているのですが、その役割を日本でも監査役等が果たしていくべきだと思います。会社に監査役等をしっかりと支援する体制があるかということも重要なことだと思います。

 各社の有価証券報告書をいろいろ見ますと、ガバナンスの欄で、各社それぞれに監査役等に関する開示をしていますが、かなり細かくガバナンス体制を開示し、これだけ体制が充実しているという、開示も数多くあります。これも好事例になるわけです。そういう意味では、オーディット・コミッティーあるいは監査役等、これが充分支援されている体制にあるということ、これも積極的に開示していくことによって、会社のガバナンス体制がしっかりしていることを示すことで投資家との対話の材料になるのではないかと思います。

 最後に、有報の総会前開示について簡単に述べたいと思います。日本の中では3か月はぎりぎりだとの話が出ていますが、私が間違っていたら教えていただきたいんですが、アメリカの10-Kという日本の有価証券報告書に相当する書類の提出期限は、2か月だと理解しています。これは大企業の場合で、もう少し小さくなると75日とか90日になりますけれども、大企業は2か月で出しています。それらの企業はそのときにアニュアルレポートも公表していますね。

 そういう意味では、どうしてこんなに早く公表できるんだろうかと私は不思議に思うのですが、先ほど、総理とのお話の中で有報の早期開示に向けた体制整備ということも話題に上っていると伺いました。本件は企業の努力だけでは解決しないものだと思いますので、これは金融庁、東証、あるいは投資家も含めて、ぜひ、これをどうしたら実現できるかというそれこそ実質的な検討をしていただきたいと思います。

 そういう意味では、海外の投資家も、早く開示してくれと言っても、遠慮がちに2日とか5日とか言っているんですけれども、彼らから見れば、90日というのは大変遅いと受け止めているのではないかと思いますので、ぜひ検討していただきたいと思います。

 私からは以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、岩間メンバー、御発言をお願いします。

【岩間メンバー】  
 ありがとうございます。

 私は、皆さんもいろいろ御意見を出されておられるのであれですが、基本的には、この頂いたペーパーの基本的な方向性については、私は全く異論がございません。ぜひそういう方向で進めていただきたいと思うんです。

 私からは2点ちょっと申し上げようかと思います。1つは、エンゲージメントの実効性をどうやって上げるかということです。これはまさにアセットオーナー、アセットマネジャー、そういうところがちゃんとしっかりやらなきゃいけないという話なんですが、基本的には、資本コストを上回る収益を、リターンを中長期的にサステナブルに出していくということが、そもそもガバナンスコード、スチュワードシップ・コードの究極の目標だと私は個人的に思っているんですけれども、それについてどうなっていくのかという話で。

 実は、私は今、某運用会社の社外取締役理事をやっておりまして、さらには、某ソブリン・ウエルス・ファンドの東京のアドバイザーをやっておりまして、さらに、最近、某プライム市場の社外取締役やらされているというということで、要するに、ぐるっと回る輪の中にずっといるという感じになっておりまして、そういう観点から新たに見てみますと、運用会社、アセットオーナーのスチュワードシップ活動というのがどれだけ実効性を持つのかというのは非常に我々としては大事だと思っています。

 実際に私が手伝っている会社で、UKのスチュワードシップ・コードにレジストレーションするというそのたくらみをやりまして、実は最初の年は失敗でした。2年目にようやく認められまして、UKスチュワードシップ・コードに登録した、びっくりしたんですけれども、日本で初めての会社、唯一の会社だということになっておりまして、昨年、リニューをするのがまた大変だったんですけれども、何とか合格して、今年3年目ということになっているんですよね。

 それで経過を見ますと、日本におけるエンゲージメントのレベルも上がったんです。要するに、グローバルチームで取りかかるということで、どういう観点でやったらいいのかというのか、今までは日本は日本、UKはUKでばらばらにやったのが、全体で連携してどういうぐあいにしていったらいいかということにつながってきているんです。
 そういう意味でいうと、UKはスチュワードシップ・コードではある意味先進国で、そこのやり方というのをそのまままねする必要はないですけれども、より効率的にどういうことができるかというのが一つ金融庁さんに考えていただければなと思うんです。好事例と失敗した事例とかそういうことで、どういうことが原因なのかということについてもかなり詳細に出されているということでございますので、それはちょっと期待させていただきたいと思うんです。

 それから、もう一つは、取締役の役割です。取締役会の役割というのは、投資家に対して資本コストを上回るリターンを中長期的に出して企業価値を上げていくと、これがまさに取締役のフィデューシャリー・デューティーだと思うんです。そういう意味で言いますと、ガバナンスをしっかり取らなきゃいけないというのはありますが、執行陣をどうやってサポートするか。執行陣が展開する戦略だとか、あるいはいろいろな施策について、基本的には一緒になってサポートしてやっていくということが軸になるんだと思うんです。

 その点で、多分、社外取締役は知見が足りないから頼りにならないという具合に見られるケースが多いと思うんですけれども、それは細部の問題はそうかもしれませんが、かなり多様な社外取締役がおられると、非常に議論が有機的に構成されていい結果が出るというのは私は何回も拝見しておりますので、そういった意味でいうと、取締役会のダイバーシティというか、もちろん女性取締役の存在も大事だと思いますけれども、そういったことがどうやってうまくいっているかということを評価するというか、自己評価も大事だと思いますし、第三者評価も必要だと思いますが、取締役会の実効性、これも非常に大事だと。私はこの2つなんじゃないかと思っております。

 あといろいろ細かいことはあると思いますけれども、そこがしっかりと展開されていけば、最近、海外の投資家は非常に日本に注目をしておりますし、直接現れる方も多いですから、これがチャンスなので、ターンアラウンドさせるのにこれは非常に大事な話だと思っております。

 以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、小幡メンバー、どうぞお願いします。

【小幡メンバー】  
 ありがとうございます。昨年のアクション・プログラムを踏まえまして、企業と投資家の自律的な意識改革が進んだという点については、私も実感しております。非常に良い方向に進んでいると思っています。私自身は企業で実務を見ている立場におりますので、その観点から4点コメントさせていただきます。

 1つ目がスチュワードシップ・コード関係になります。金融庁の資料にもありましたが、投資家による対応にばらつきがあるという点は、私もそのような印象を持っており、その観点から投資家による取組を点検していくということが必要ではないかという金融庁のご指摘につきましては、まさに同感と捉えております。

 その際にお願いとしましては、これは法的な観点での整理にはならないとは思いますが、投資家が企業や他の株主に対してどの様な責任や役割を持つことが期待されているのかということを一度整理していただいた上で、その取組を点検していくと良いのではないかなと考えております。

 スチュワードシップ・コード関係でもう一点お願いがあるのは、これは昨年もお願いしたことですが、今日お話が出ておりましたけれど、実質株主の透明化は、日本が欧米に比べて既に遅れているところであるのは明らかですので、早急な法対応をぜひお願いしたいと思っております。併せて、大量保有報告書の提出遅延につきましても厳格な執行をぜひやっていただきたいと考えております。

 2点目がコーポレートガバナンス報告書関係です。開示と実態に乖離があるというご指摘については、抽象的には多分それは正しいと思いますが、どの程度の開示と実態とに乖離があるのかという事実をまず把握すべきであると思います。実際に乖離が一定程度存在としてあるのであれば、その虚偽記載に対する責任をどのように考えるのかということも整理すべきと思います。

 金融庁から教えていただいたところでは、例え乖離があったとしても、それは企業と投資家との対話の中の自浄作用で解消されて行くことを期待しているというのがガバナンスコードの考え方であるということは理解しておりますが、明らかな虚偽記載については、どういうような制裁を加えるべきなのか、または加えるべきではないのかとか、について検討を進めるべきではないかと思います。

 今日も話が出ていましたイギリスのFRCの様な機関をつくって確認させるというのも一つだと思いますし、私はコーポレートガバナンス報告書の内容について、監査役などがもう少し関与をしていっても良いのではないかと考えています。事業報告のように監査の対象にしてしまうのか、または有報のように取締役の重要な職務の執行という観点で監査するのかなど、いろいろな議論があろうかと思いますが、監査役等がコーポレートガバナンス報告書の内容を確認することを要請するだけでも、開示と実態の乖離というものが相当程度解消されるのではないかなと考えています。

 3番目が開示関係です。金融庁がいろいろ好事例集を取りまとめてくださっていることにつきましては、自社の開示との比較が容易にできるという点で非常にありがたいと思う一方、本来開示というものは、法律で求められているもの以上のものは、企業が自律的に考えて対応すべきものではないかと考えています。

 好事例集がたくさん示されてしまいますと、どうしても企業としてはそれに引っ張られてしまう恐れがあり、その結果、実態と開示の乖離というものが生み出されてしまう原因になっているのではないかなと危惧するところです。好事例集の扱いというものもどうするのが望ましいのかという点も再考が必要ではないかなと考えています。

 有報の早期開示につきましても、いろいろな話が出ていましたけれども、企業側も早期開示に向けて頑張っておりますが、監査する会計監査人のリソース問題もあろうかと思います。企業として一番安易に対応する方法としては、有報は今のスケジュールで作成する一方、前倒して開催している株主総会の日程を集中日近辺に戻すことにより株主総会の一週間前ぐらいに有報を提出することができます。ただ、それでは各社の株主総会の日程が集中することによって個人株主が実際の株主総会に行き難くなってしまうことにもなり、個人株主軽視という本末転倒なことになってくると思います。

 従い、あまり過度に有報の早期開示、早期提出を求めると、このような本末転倒な方向に逃れてしまう可能性も出てくるので、それよりは本質のところでまず事業報告と有報とで求める情報の整合を取り、株主総会前に必要な情報は事業報告の方に集めるなどによる解決を図っていくのが正しい解決ではないかなと考えています。

 最後、4番目が取締役会の実効性向上についてです。各社で社外取締役の数が増えて、多様なバックグラウンドを持たれた方が取締役会に入られるということは、多様性の観点では望ましいことと思っています。ただ、金融庁のコメントにもありましたとおり、各々の役割について、人によっていろいろな考え方を持っていることもあるので、役割がずれてしまう可能性も多分にあると感じています。従い、最低限の認識というものを共有しておくということの必要性については、全く同感であります。

 加えて、社外取締役が増えることは良いことではありますが、社外取締役を活かすためにはそれを支える事務局の役割がすごく重要になっていると思います。取締役会事務局もそうですし、指名報酬委員会の事務局もそうですし、監査役をサポートする監査役サポート事務局もそうだと思います。取締役にはいろいろな人が入ったので、今度は、その社外取締役を支える事務局の重要性により焦点を当てていただくと良いのではないかなと考えております。

 以上4点が私のコメントになります。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは、武井メンバー、どうぞお願いします。

【武井メンバー】  
 ありがとうございます。手短に申し上げます。

 まず、先ほどございました、この10年間のガバナンス改革ですが、その成果は着実に上がっていると思っています。先ほど高山メンバーからもございましたが、取締役会の運用は大きく変わっておりますし、そういう意味で着実に前に進んでいて、もちろん常に課題はあって、それはなくさなければいけないんですけれども、日本の10年前を振り返ると、相当変わったなということだと思います。

 その上で、今後のガバナンスの実質化についてなのですけれども、感じますのはまさに、ガバナンスの機能に対して、企業としてきちんとリソースを割いているかということが論点だと思っています。
先ほど大場メンバーがまだ34年で300社しかないとおっしゃいましたけれども、イノベーションであったり挑戦であったり、そういったことがまだまだ起きていないのではないか。そうした背景にガバナンスに関する人材になかなかリソースを企業が割けていないのではないか。リソースを割くというのはヒトモノカネを割くということなのですが。

 ガバナンスに関する人材は2種類で、1つが、きちんと挑戦する意思決定を支える方々。3線の中での2線の方々ですね。法務とか総務とか人事とか。そういう方に関するリソースが今言ったみたいにきちんと割かれていない。

 それプラス、ちゃんとやっていることを外に示すというガバナンス人材です。IRであったりSRであったり取締役会事務局であったり、そういうボード関連機能です。

 こういった2線の方を含めたガバナンスの機能のところにまだまだ本当の意味で企業さんがリソースを割けていない、ヒトモノカネを割けていないと思います。これらの機能部分について、昔からコストセンターという言われ方をしていて、まだまだ費用であるということになってしまっている。しかし、昨今の人的資本改革の中で、こういったヒトは人件費とかの費用ではなく投資なんだと、人的資本だとされています。こういった営業的な数字を持っていないガバナンスの方々の評価というのはなかなか難しい。営業成績を持つとわかりやすくてまた出世もしやすいのですけれども、ガバナンス機能に関して本当に企業が大切に思ってヒトモノカネを割いているのか、このことに関してもう一歩踏み込まないと、挑戦、特に健全なリスクテイクにはつながらないと思います。健全なリスクテイクをする為に必要な2線機能の方々、あと、その後、ガバナンスの機能を支えている方々、こういうところに関してきちんとヒトモノカネを割くということに関してもう一歩踏み込むことが、ガバナンスの実質化のためにはこれから本当に大事なのだと思います。これが1点目です。

 2点目が、さっきの形式的対応の話なのですけれども、機関投資家側に関して私が感じていますのは、特に政策保有なんかでも、とにかく形式的に、どれだけ企業が保有の経済合理性を言おうとも、絶対これだけ減らせと聞く耳を持たないアセットマネジャーの方もいらっしゃいます。

 これは昨今、特にDXとかGXとかを行おうと思ったら、いろいろな企業と組むことに相当合理性があって、またそれが何年もかかる中長期のプロジェクトなので、契約ベースだけでやるのではなくて、株式の保有家として信頼関係を高めましょうという合理性もあるわけです。けれども、例えば、アセットマネジャーの方の形式的対応なのか、それとも、アセットオーナーの方にこれだけ減らさせましたと言いたいのか、分からないですけれども、形式的な対応をするのではなくきちんと聞く耳を持つということもやっていただく必要があるんだと思います。政策保有という名のものを一切なくすという形式的対応はやや行き過ぎではないかと思っております。

 また今の点にも絡むのですが、機関投資家側の形式的対応として、さきほどの助言会社の話とかも形式対応と出てきましたけれども、アセットオーナー側の形式的対応の問題があるのではないかと思います。アセットマネジャーの方からすると、例えば、いろいろな議決権行使にしろ何にしろ、また巷には助言会社さんの基準とかもあるときに、アセットオーナー側から、なぜこの巷の基準と行使結果が違うのだと、聞かれる。これにアセットマネジャー側が一つ一つ説明しなきゃいけないとなると、それはそれで面倒だと考えてしまうと。そこで忖度を含めて、じゃあ基準どおりの形式的対応にしようという、形式的な対応をする動機にもなってしまうわけです。

 ですので、本当に機関投資家の中の形式的対応に踏み込むのであれば、アセットオーナー・プリンシプルのところを含めて、アセットマネジャーとアセットオーナーとの関係の中で、アセットオーナー側の形式的な対応をなくすというところまでやるべきなのだと思います。

 アセットマネジャーの方、またそこへのいろいろな忖度を含めて起きているもの、もしくは、コストがかかるから基準どおりにしようというもの、それらについても機関投資家側の形式的な対応の中の1つの原因になっていると思います。それらの点についても踏み込んでいくべきだと思います。

 最後に、サステナの絡みですけれども、サステナのレジリエンスに関しては、特に昨今、いろいろな形で非財務情報開示が増えていますけれども、グローバルにいろいろなサプライチェーン全体を見すえた法制化が本当に進んでいます。

 先ほど片山メンバーから人権のお話もございまして、人権デューデリは現に相当進んできていますけれども、それ以外にも、いろいろな環境、脱炭素や、それに限らず自然資本、森林であったり海洋、ブルーであったり、そういうところに関して日本企業さんはサステナビリティ、レジリエンスの観点から考えていかないといけない状況です。その観点から、サステナビリティ、レジリエンスのデューデリジェンスをきちんとやっていくということが、ガバナンスの実質化の一要素として取り組むべきことだと思います。本当の意味で企業さんがサステナ、レジリエンスに対して向き合うプロセスになります。 あと、レジリエンス関連で言いますと、最近、DXで言うとAI事業者ガイドラインなども出ていますが、それらの文脈でもガバナンスの態勢整備に取り組みましょうということになっています。
デューデリジェンス、サステナ及びレジリエンスに関してデューデリジェンスを尽くすということをきちんとやっていくということがこれから問われる。そこがガバナンスの実質化という文脈でのサステナ関係の取組みにおいて、一つの重要な点なのだと思います。

 以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。これで本日御出席の皆様方全員から御意見をいただきまして、非常に多岐にわたり、また、貴重な御指摘をありがとうございました。

 先ほど御質問もあったように思います。金融庁から、もし何かあればお願いいたします。

【野崎企業開示課長】  
 先ほど松本メンバーから、3ページのところ、取締役会において建設的な議論が行われているかについて確認することが重要というところについて、確認の趣旨に関する御質問がありましたが、この確認というのは、例えば、取締役会の議論について有報でもいろいろな形で開示されていますし、開示の好事例ですとか、個社の自主的な取組として取締役会の議論を一部公開されているとか、そういったものがございますので、そういったところから学ぶべき点を我々からも共有していくことが重要と考えています。

 特に、今日もいろいろご議論がございましたが、取締役会事務局の方がどういう工夫をすればいいのか分からないというのは、他社の取組が見えないというところもありますので、よい取組を共有できるような形で次のステップに進んで頂ければというところも含意して、確認という記載にしております。投資家との対話もございますし、我々もさまざまな企業の方々からお話を伺うことによって、皆さまにも共有していきたいという趣旨で書いたところでございます。

 後ろのほうの収益性と成長性を意識した経営のところについても、そういった趣旨の記載ということでございます。

【松本メンバー】  
 ありがとうございました。

【神田座長】  
 よろしゅうございますでしょうか。

 それで、皆様方にはまだまだいろいろ御議論もいただかないといけないし、お知恵も拝借しないといけないという状況ではあるのですけれども、覚えておられると思いますが、昨年の4月に、このフォローアップ会議としては、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムを策定しました。

 それまでの3年ごとの2つのコードの改訂については、一旦、そういう形式的に3年ごとの改訂ということはストップして、その代わり実質化ということを推進しましょうということで、具体的なアクション・プログラムを昨年4月の末に公表しまして、改革を実施してきました。

 1年たちましたので、本日、この資料2、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムのフォローアップということで、この1年間のフォローアップと、それから今後どうするのか、今後の方向性についてということで、この会議として意見を世の中に発信できればということでございます。

 関連する事項等々、まだまだ御議論いただかなければいけないこともあるのですけれども、皆様方には、この資料2につきましては、事前に、原案といいますか、たたき台のようなものをお示しして、個別に御意見もいただき、それも盛り込ませていただいた上で、今日の案を提示させていただき、本日この場でも、ほとんどの方々からは御賛同をいただいたというふうに認識しております。ただ、一部については、違う御意見もあったかと認識しております。

 その辺りは今後、議事録としてきちんと残させていただくということでございますので、本日御議論いただきましたこの資料2につきましては、本日皆様方からいただきました御意見も踏まえて、さらに修正を試みたいと思いますが、それは多分、もう一度会議の開催というか、お集まりいただく必要はなくて、メール等でのやり取りを通じて御確認をいただくというプロセスを経て、後日、今日御議論いただいたものを踏まえて、それを反映させた資料2のバージョンをメール等で御確認いただいたものを意見書として公表させていただいてはどうかと思います。そういう進め方でさせていただいてもよろしゅうございますでしょうか。
 
 (「異議なし」の声あり)

【神田座長】 
 どうもありがとうございます。

 それから、内容については皆様に御確認いただいてというプロセスにさせていただきますけれども、表現ぶりの平仄ですとか、そういった、てにをは等の最終的な精査につきましては、念のため、大変申し訳ありませんけれども、私に御一任をいただくということでよろしゅうございますでしょうか。
  
 (「異議なし」の声あり)

【神田座長】  
 どうもありがとうございます。それでは、そのように進めさせていただきたいと思います。

 もっと議論したいという方もいらっしゃるかとは思いますけれども、今日も大変充実した、また、中身の濃い御指摘を多数いただきまして、ありがとうございました。

 以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――
 

 

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金融庁Tel 03-3506-6000(代表)

企画市場局企業開示課(内線:3659、3849)

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