監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会(第2回)
1.日時:
平成28年9月12日(月)10時00分~12時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室
- 【関座長】
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それでは、皆さんおそろいですので、ただ今より監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会の第2回目の会合を開催いたします。皆さん、大変ご多忙のところご参集いただきましてまことにありがとうございます。
議事に入ります前に、メンバーの異動がございましたので事務局からご紹介をお願いいたします。
- 【原田開示業務室長】
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7月25日付で日本公認会計士協会の会長が森公高様から関根愛子様に交代されたことに伴い、当有識者検討会のメンバーにつきましても森公高様から関根愛子様にかわられております。
関根愛子様でございます。
- 【関根メンバー】
-
日本公認会計士協会の関根でございます。よろしくお願いいたします。
- 【関座長】
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ありがとうございました。
本日は第1回の検討会でいただきましたご意見などを踏まえまして、事務局のほうで監査法人のガバナンス・コードの策定に当たってポイントとなる主要な論点としてあらかじめご議論いただいておくことが適当と考えられる事項、これを整理させていただきましたので、まずはこちらに基づいてご討議いただきたいと考えております。
それでは、事務局より資料を説明していただきます。
- 【原田開示業務室長】
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ありがとうございます。
それでは、まず、資料2をご覧ください。前回、第1回有識者検討会における主なご意見でございます。ここから説明させていただきます。
まず、総論にかかるご意見として、このようなものがございました。
会計監査は、資本市場における重要なインフラであり、その質を上げていくことが喫緊の課題。
ガバナンス・コードを導入することの目的の一つは、監査法人が、世の中に社会的責任を果たすことを宣誓すると同時に、監査法人内で価値観を明確化・共有化すること。
監査法人において、形式的な監査ばかりを追及するのではなく、プロ意識を高め、実質的に監査の水準を高めるためにはどうしたらよいのかというところに常に戻っていく必要。
それから、現状、監査法人は被監査企業のCFOだけを見ている。会計監査は企業、投資家を含めた広いステークホルダーのために存在することを明確にする必要がある。
これらの点を総論でいただきました。
次に、執行機関・ガバナンス機関の役割についてでございます。
監査法人のマネジメントが組織の拡大についていけなくなったことは確かであり、その観点からマネジメント強化を図ることが重要。
マネジメントの強化を図ると同時に、運営において手前勝手にならないような仕組みが必要であり、外部の力も必要になる。
ドラスチックな改革のためには、一時的に外部の有識者を多く活用して、組織風土を全面的に見直すことがあってもいいのではないか。
1ページおめくりいただいて、外部の有識者の活用の目的は何なのか、実際に、それぞれの外部の有識者がどのように機能するのか、という観点が大事。
監査人にとって、会計監査の質の向上に向けたインセンティブとなり、現場の士気が上がるような、プロアクティブな視点をコードに盛り込むような工夫ができないか。
会計監査の質を高めるためには、監査に従事する人材の質を高めることが重要。監査法人は、人材の採用、教育、それから人事評価、昇進などについての方針を明らかにし、表明すべきである。
さらに、監査人は、企業の監査役や社外取締役などとの接触の機会を増やし、会計監査のリスクがどこにあるかを議論すべき。
このような点をいただきました。
それから、監査法人のステークホルダーとの情報開示に関してでございます。
どのようにしたら会計監査の価値を資本市場の関係者や上場会社が認識するのかというポジティブな視点が必要。このためにも、監査業務や、監査法人のマネジメントに関する情報開示の充実が必要。
個々の会計監査の内容までは守秘の問題があるかもしれないが、会計監査の質に関し、監査法人は投資家とのディスカッションの場を設けるべき。
それから、監査法人のマネジメントの強化と同時に、マネジメントのプロセスで出てきた問題をいかにして被監査企業の株主にきちんと情報として伝えるか、その観点から考えていくということが大事。
監査法人だけの取り組みだけでは機能しない。財務諸表の利用者、財務諸表を作成する上場会社、監査法人を監督する監督官庁、それぞれが開示された情報を評価し、その内容をフィードバックしていくという、PDCAの動きをつくっていく必要。
全体としてこのようなご意見をいただきました。
論点の全体像をこれらについてまとめてみますと、資料3のようになるかと考えております。資料3をご覧ください。資料3、論点の全体像として4項目を挙げさせていただいています。まず目的、それからマネジメント強化としては執行機関の強化、それからそのマネジメント執行機関の充実を支えるガバナンス機能の強化、それからステークホルダーへの説明責任。大体これらの項目に、今、申し上げた、皆様からいただいたご意見は当てはまるかと存じておりますが、順に少し細かく説明させていただきます。
まず、最初の目的、これは英・蘭コードではValuesと書かれた項目でございますが、監査法人が目指し、確保すべき基礎的な価値にかかる項目であります。まず、当然ですが、適正な会計監査の確保。それから、監査人による適正な職業的懐疑心の発揮、高い職業倫理・独立性の保持による会計監査の品質・信頼性の確保。それから、開放的な文化の保持。これは英・蘭コードではOpennessと書かれている項目ですが、内部ではよく情報を共有し、外からは広く意見交換した上で情報収集するといった文化を示す内容だと考えられております。それから、トップの姿勢をはっきりさせる。リーダーシップの発揮。こういったことが、検討が必要なのではないかという目的でございます。
それから、前回、監査法人の規模の拡大から必要とされたマネジメントの強化についてでございますが、執行機関の強化というのがございます。まず、マネジメントチームとして執行機関よるリーダーシップの確保。それから、組織全体にわたる実効的なマネジメント、これはマネジメントシステムという意味ですが、こちらを機能させる。こちらの機能を確保する。それから、マネジメントチームの重要な役割であり、マネジメントシステムの肝でありますけれども、監査品質の向上に資する人材育成等の方針の設定。これらが論点になるかと考えております。
また、執行機関の充実を支えるガバナンス機能の強化といたしまして、執行機関による変革をサポートする助言・監督。それから外部有識者の知見等の活用。こうした項目が次に考える項目になってございます。
最後に、ステークホルダー等への説明責任でございますけれども、監査法人の業務・マネジメントに関する情報の開示。それから、各コードの遵守状況の開示。それから、監査法人の開示情報の質を担保するための措置の実施・公表。これらについての検討をお願いしたいと考えるところでございます。
以上が論点の全体像でございます。
1つおめくりいただいて資料4でございますが、この資料4の論点項目は、今、お伝えした全体像を踏まえた上で、イギリスやオランダのコードを参考にしながら主な論点になると考えられる項目を並べてみたものでございます。具体的な論点は、実は資料5に書かれてございますので、こちらをご覧ください。資料5のほうを説明させていただきます。
主な論点(案)でございます。まず、目的でございます。監査法人が法人として確保すべき価値ということでございますが、これはまず、適正な会計監査の確保ということでございます。我が国では、公認会計士法第1条におきまして、財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とするとされております。
また、イギリスやオランダのコードにおきましても、監査法人は適切にまず公益を考慮、それから質の高い業務を行うべきということが書かれております。
我が国のコードでも、監査法人が投資家等に対して財務書類の適正性を確保する重要な責務を負っているわけでございますけれども、質の高い会計監査を確保すべきことを目指すべき価値として確認すべきと、このようなご意見がございますが、これをどのように考えるか、これがまず最初の点でございます。
次に、監査人において確保すべき価値ということでございまして、公認会計士法では職業的懐疑心の発揮、それからほかの監査基準等にもございますが、独立性や職業倫理の保持等について規定されております。
一方、イギリスやオランダのコードにおきましては、国際会計士倫理基準審議会、これはイギリス版でございますけれども、ここが公表している倫理規定の基本原則、誠実性、公平性、それから職業的専門家としての能力及び正当な注意、守秘義務、それから職業的専門家としての行動の5原則が書かれております。イギリスやオランダのコードは、これをそのまま引っ張っておりますけれども、我が国においてはこの点をどのように盛り込むかということでございます。
1ページおめくりいただいて、次は開放的な文化の保持。最初にちょっと申し上げた内部での情報共有や外部との意見交換、それから広い情報収集、こういった内容で行うべきだという文化でございます。イギリスやオランダにおいては開放的な文化を有するべきとされておりますけれども、我が国の監査法人はこの点についてどのように考えるかということでございます。
それから、リーダーシップの発揮、トップの姿勢をはっきりさせるということで、これもイギリスやオランダのコードにおいては適切なトップの姿勢を提示すべきとされておりますけれども、我が国における監査法人の経営陣に求められるリーダーシップの発揮についてはどのように考えるか。
また、行動規範の策定。これも英・蘭コードにおいて、コードの原則について、内部行動規範に反映すべきとされておりますけれども、我が国のコードにおいてはどのように考えるかと。このようなことでございます。
1ページおめくりいただきます。目的の部では、もう一つ、非監査業務との関係という論点があるかと考えております。非監査業務につきましては、会計監査の識見を活用し、社会において重要な役割を果たすものであるが、これによって適正な会計監査の品質が損なわれてはならないとの考え方についてどのように考えるか。具体的に申しますと、まず、質の高い会計監査を実施する上で、被監査企業を含む企業環境の理解が重要と。こういう観点から、非監査業務の経験は有用であると。このようなメリットについてのご意見がある一方で、非監査業務のウエイトが大きくなることが監査の品質を損なう可能性がある。こういったデメリットに関するご意見もございます。これらの点につきまして勘案しながらコードの中にどのように位置づけ、どのように盛り込んでいくかということについてご意見いただければと考えております。
以上が目的の項目でございます。
1ページおめくりいただいて、次は、執行及びガバナンス機関でございます。これはマネジメント強化の中の執行機関であるマネジメントチーム等の強化と、これを支えるガバナンス機関の強化についての論点でございます。
まず、実効的な執行機関の確立ということでございますが、「監査法人のマネジメントが組織の拡大についていけなくなったということは確かであり、その観点からマネジメントの強化を図ることが重要」との意見があり、我が国のコードにおいても、まず実効的なマネジメント(執行機関)の確立を規定することについて、どのように考えるか。確立についてでございます。
それから、そもそも執行機関に求められる役割でございますが、マネジメントといえば具体的にどのようなことなんだろうと。それから、その場合、執行機関にはどのような役割や機能が求められるのかという、そもそも論でございます。
それから、執行機関に求められる経験でございますが、これも監査法人の執行機関、マネジメントチームには、マネジメントの経験が豊富なものが必ずしも多くないのではないかと。監査の専門家の方ではありますが、こうした経験がないのではないかというご指摘を受けることがございます。この点についてどう考えるか。仮にそうだとすれば、マネジメントの経験を有する者について、中長期的にどのように育成していくかと。このような点についてどのように考えるかということでございます。
1ページおめくりいただいて、経営責任者を含む各執行機関・ガバナンス機関の権限、責任等の明確化でございます。
イギリスやオランダコードにおきましては、執行機関、それからこれを支持・監視していくガバナンス機関の権限、責任等を設定すべきとされておりますけれども、我が国における監査法人の経営陣に求められる権限、それから役割、責任等について、我が国のコードではどのように考えるということでございます。
これに関連しますけれども、監査法人と個々のパートナーの意思決定の関係ということを前提として整理する必要があろうかと考えておりまして、個別の監査業務において、業務を執行したパートナーが意思決定をした監査結果については、最終的には、監査法人として意思決定を行い、監査意見として表明されることになります。監査法人として行う意思決定、それから個々のパートナーが実質的に行っている意思決定、これらについてバランスをどのように考えるか。例えば、監査契約の更新や解除など、これらについては監査法人として行う意思決定であろうと。一方で、個別監査業務における会計上の見積もりの判断、これらについては実質的に個々のパートナーが行っている意思決定ということでございます。まず、監査法人として行うべき意思決定に、マネジメントチーム、執行機関でございますが、どのようにかかわっていくべきか。それから、他方で、実質的に個々のパートナーが行っている意思決定のうち、会計監査の品質の観点から監査法人が関与すべきものは何か、こうしたことについて議論いただく必要があるのではないかと考えております。
それから、第三者でございますけれども、監査法人の運営する外部の第三者の関与。そもそも、外部の第三者の関与を求める目的は何か。それから、マネジメントの経験の蓄積や、外部からの視点の導入といった観点から、外部の第三者の知見の活用が言及されるけれども、これらの方からインプットとして期待されるものにはどのようなことがあるかということでございます。
1ページおめくりいただいて、さらにイギリスやオランダコード、いずれも公益を確保するためのガバナンス機関に外部の有識者、独立非業務執行役員ということになっておりますけれども、これを登用すべき旨を規定しております。外部の第三者に求められる権限、責任等との関係を含め、我が国のコードにおいてはどのように考えるかということでございます。
さらに、イギリスやオランダのコードにおいては、監査法人の運営に関する外部の第三者について、独立性を求めております。我が国のコードにおいて、この独立性についてどのように考えるかということでございます。
最後に、外部の第三者メンバーに対するサポート体制の確立ということでございます。これもイギリスやオランダのコードでは適切な情報提供を行うべきというふうにされておりますけれども、我が国のコードではどう考えるかということでございます。
以上が2の項目の論点項目でございます。
それから、1ページおめくりいただいて、業務運営でございますけれども、これはイギリスのコードではOperationとされている項目でございます。この項目には、監査法人におきましてどのようにマネジメントシステムを機能させるかといった項目が含まれておりまして、これに関連する項目でございます。
まず、適正な会計監査を実施するための人材育成等の方針ということでございますが、イギリスやオランダのコードにおいては、適切な人事方針を整備すべきとされております。我が国の監査法人において、適正な会計監査を実施するための人材育成・啓発・人事管理・評価の方針についてはどのように考えるか。
それから、これに関連しますが、現場の公認会計士の士気が低下しているという指摘もございます。士気を高めるために監査法人が採用すべき人材育成等の方針についてはどのように考えるか。
さらには、人事評価に当たっては、職業的懐疑心をはじめとして、監査法人における適正な会計監査の確保に資する能力がより一層重視されるという意見がありますが、これについてどのように考えるか。
さらに、「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言におきましては、監査チーム内のやりとり、それから上司による監査調書の査閲・指導を通じた監査の現場の訓練(OJT)を改めて強化していくことが重要である。それから、監査法人におきましては、資格の取得、企業への出向等、会計士の力量向上のための幅広い経験を持たせる取り組みが検討されるべきであると記載されておりますけれども、これらの点についてどのように考えるかということでございます。
それから、ステークホルダーとの対話でございます。イギリスやオランダのコードにおきましては、被監査会社、被監査会社の株主などのステークホルダーとの対話に関する方針等を整備すべきとされておりますけれども、我が国のコードについてはどう考えるかということでございます。
また、外部のレビューによる指摘への対応でございますが、イギリスやオランダにおいては、外部レビュー機関、我が国においては会計士協会、それから会計士・監査審査会の懸念事項に対して是正措置を講ずるべきとされております。我が国のコードにおいてはどのように考えるか。
それから、法令遵守、監査業務の実施等でございますけれども、これも海外のコードにおきましてはコンプライアンス、それから海外業務の実施、審査、利益相反等についての方針・手続、並びに内部統制やリスク管理について整理すべきとされておりますけれども、我が国のコードにおいてはどう考えるか。
同様に、1ページおめくりいただいて、通報制度についてもどのように考えるか。また、外部からの通報についてはどのように考えるか。
最後に、海外のコードにはございませんが、ITの活用、これは重要だというご意見が非常に多うございますので、この点についてもコードについて取り扱うか否か。取り扱うとすればどのような内容にするかということでございます。
4つ目の項目でございます。説明責任。ステークホルダーに対する監査法人の説明ということでございますが、これをどのように求めていくかと。監査法人の業務・マネジメントに関する情報の開示。我が国では、会計士法の規定に基づいて、監査法人の業務等の状況を開示しております。イギリスやオランダではコードで求められる情報として、業務やマネジメントの情報が開示されております。我が国においても、この業務、それからマネジメントに関する情報の開示の充実が必要という意見があるがどうかと。
それから、各コードの遵守状況の開示でございますけれども、イギリスやオランダのコードは、各コードの遵守状況を開示すべきとされております。我が国も、業務やマネジメントの状況の開示のほかに、コードの遵守状況、具体的にどんな項目で、どんな開示をするのかということについてどういうふうに考えるかということでございます。
それから、監査法人の開示情報の質を担保するための措置ということでございますけれども、イギリスのコードは外部への報告の質の監視のための体制を整備。イギリスやオランダのコードでは、財務諸表は監査済みのものを開示すべきとされています。
注ですが、有限責任監査法人は、我が国におきましても監査法人の監査報告書を計算書類に添付せよということになっております。
最後に、経営方針、経営上のリスク等の把握、開示でございますが、イギリスやオランダコードにおきましては、経営上のリスクについて開示すべきとされていますが、経営方針や経営上のリスクの開示について、我が国においてはどのように考えるか。
このような点についてご意見いただければと思っております。以上が主な論点の説明でございます。
そのほか、参考資料が幾つかついております。ご覧いただければ、まず、PwCあらた監査法人が書いている、これは透明性報告書のようなものです。かなりマネジメント等についてわかりやすく報告されているものがございます。これと、それから、法令等で求められている業務及び財産の状況に関する説明書類。こっちもあらたなのですが、比較がしやすいように同じ監査法人のものを皆様のお手元に置かせていただいております。それから、イギリスとオランダのコードの中身と。イギリスについては、この間、改定がございましたので、改定の内容。これらを議論のご参考にしていただければと思っております。
とりあえず、私からのご説明は以上でございます。
- 【関座長】
-
どうもありがとうございました。
皆様からご意見を伺う前に、石原メンバーにおかれましては、前回会合を欠席されておりますので、他の皆さんと同様に、監査法人のガバナンス全般についてのご意見をまず伺えればと思います。前回は、皆さんからかなり自由に監査法人のガバナンス問題全般について論点を出していただいたわけですが、石原メンバーはどういうふうにお考えなのか、議事録もお読みになられていると思いますので、よろしくお願いいたします。
- 【石原メンバー】
-
ありがとうございます。初回は大変恐縮ですが欠席となりまして、大変申し訳ありませんでした。
私、新日鐵住金に30年強勤めておりますけれども、主として財務部門に所属する期間が長く、その内のかなりの期間、監査に接してまいりました。そういう観点から、事業会社の財務部門においての実感を踏まえまして監査の信頼性の確保・向上に向けて思うところを述べさせていただきたいと思っております。
監査の信頼性は、高品質の監査によって実現されると言われておりますけれども、私の問題意識といたしましては、そもそも高品質の監査とは一体どういうものなのかという点についての議論が不足しているのではないかなと感じております。一口に虚偽記載と言いましても、その原因はさまざまです。事務ミスから、今般のような意図的な不正というところまで、幾つかの類型に分けられると考えておりますが、監査に対する社会的な期待というものは当然に、意図的な不正会計の抑止・発見にあると考えております。したがって、監査項目を網羅して手続を全うしたとしても、不正会計を見抜けなければ、それは高品質な監査とは言えないということだと考えております。
では、どうしたらよいのかということになりますが、監査法人のマネジメント、ガバナンス、情報開示、これらの見直しが必要である点は全く否定いたしませんが、やはり魂を入れる必要があると考えております。そのために、より実質的には、個々の監査現場におけるリスクアプローチ、これを徹底させることが鍵であろうと考えております。すなわち、今でも考え方としては、リスクアプローチがとられていることになっておりますけれども、真に緊張感を持って意識改革を図り、定着させていくためには、監査現場における実践こそが肝要であり、そこに強く透明性を求めることが有効であると考えております。
監査対象会社の経営、取締役、監査役に対し、特に意図的な不正会計に関するリスクの評価結果と、当該リスクに関する監査結果をきちんと説明をし、会社と監査人が議論を尽くす、このプロセスを個々の監査において確実に実行し、そこに監査リソースを重点的に配分するようなプラン・ドゥー・シー・エーとすることが重要だと考えております。こうすることによりまして、監査手続を万全に遂行したか否か、監査調書を不足なく残したか否かという形式ではなくて、真に高品質な監査を行う能力という実質が問われ、評価されることになります。その結果、品質管理においても、人材育成や評価においても、特に不正会計リスク評価という最も重要な監査能力の向上に力点を置いたマネジメント、ガバナンスもいやおうなく強化されることになると考えています。
監査の現場、そこでの切磋琢磨、これが監査の高品質を実現する、そういったプロセスだと考えております。この点をぜひ、ガバナンス・コードにビルトインしていただきたいと考えております。
以上でございます。
- 【関座長】
-
ありがとうございました。
それでは、先ほど事務局のほうからご説明のありました資料5の主な論点(案)というものを中心に今日は皆様からご意見を順次伺っていきたいと思っております。
進め方といたしましては、本日の会合では主な論点の全ての項目についてご討議いただくというのは時間的制約があって無理な話だと思っておりますので、本日は1の目的、2の執行及びガバナンス機関と、できれば業務運営まで行ければ。なかなか行けないんじゃないかと思っておるのですが、順次にご討議いただきまして、時間の関係でご討議いただけなかった論点につきましては次回の会合でご議論をいただき、今日ご議論していただいたことの残された論点と、それから、議論していない点について次回やると、こういうことにしたいというふうに思っております。
また、資料4のほうで主な論点(案)というのが一応網羅的に記載をされておりますが、これだけでは不十分じゃないかと、さらに追加すべき論点もあるのではないかというご意見も皆さんの中にはおありになるのではないかと思っております。したがって、一応こういうふうに整理しておりますが、なお抜けている点であるとか、それから、議論すべきことについてご指摘がございましたら、ぜひその点についても言及いただきたいというふうに思っております。よろしくお願いしたいと思います。
それでは、まず、主な論点の1、目的につきまして、ご意見を伺えればと思います。どなたからでも結構ですので、ご自由にご発言いただければと思います。よろしくお願いいたします。どうぞ、國廣メンバー、よろしく。
- 【國廣メンバー】
-
まず、目的なんですけれども、今回、このようなガバナンス・コードを作る目的は、東芝の事件などで不正会計を見逃してしまったことで、日本の資本市場そのものの国際的な信頼が失われているので、それを回復するために何をするかという「大きなコンテキスト」の中で捉えなければいけないと思います。
そこで、監査法人の中でもいろいろな動きがあるわけですけれども、私が非常に危惧しているのは、「監査法人が縮こまってしまっている」という点じゃないかと思うんです。例えば、私自身が聞いた話ですと、ある大手監査法人では「ノーペーパー、ノーワーク」と言われている。この前も言いましたけれども、「とにかく紙にしろ。紙にしておかないと仕事とはいえない」ということで、紙(監査調書)をつくることが自己目的化している。すなわち形式的な網羅性ということで、先ほど石原さんがおっしゃったようなめりはりとか、一番大事なことは何なのかという発想になっていないという状況があると思います。膨大な時間がアリバイとしての紙をつくることに費やされている。
それともう一つは、これもややタッチーな話なのですけれども、「調書に記載することを考えて、選択しながら書きなさい」というような指導も一部ではなされていると聞いています。まずいことは書くなと。なぜならば、後になって裁判になったときに証拠になるかもしれないからというようなですね。しかし、本来の監査は、「兆候とまで言えないかもしれない気になったことをきちんと記録に残し、そこからだんだん掘り下げていく」というものであるはずなのに、やはりそのような「責められないことを自己目的にするために、気になったことを”見なかったことにする”動き」が現実にあるということは認識しておくべきだろうと思います。
さらに、もう一つの現実としては、会計というのは自動的に答えが出てくるものではなくて、いろいろな解釈の余地があるわけですね。そうしますと、新しい分野の会計処理等についてはいろいろな見解があり得るわけですね。しかし、そこについて、むしろ「金融庁に怒られない」という保身が第一なので、「とにかく不確実なことがあればノーと言う」という動きが、特に大手監査法人を中心に見られていると。「困難な(不正という意味ではない)会計問題を抱えているベンチャー企業などの監査業務は受けませんよ」と。一方では、大きな顧客には、東芝のような問題が起こったわけですけれども、それほど大きくないところだと、監査法人側ではリスクはとらず、簡単に契約を解除してしまう、このような動きも一部あるかと思います。
でも、それでは、国の大きな目標である成長戦略の中で、発展の余地がある企業を単に締め上げて、そしてサインをしないという形で成長の芽を摘むということになっていないのかという点も危惧するところです。すなわち、監査法人というのはゲートキーパーなのですけれども「不正をゲートでとめる」というだけでなく、「通すべきものを通す」という、そういうポジティブな意味合いがとても大事であると思うのですけれども、今は、保身、怒られないこと、とにかく危ないことはやめるという方向になっている。ここを、このガバナンス・コードの目的は、さらに締め上げることではなくて、いかにプロフェッショナルとしての誇り、監査水準の向上(監査水準の向上というのは、まず第一に、先ほど石原さんがおっしゃったように、単にチェックリストを埋めることではなくて、本当に大事なポイントを押さえるということですけれども)を図り、そして成長の後押しをするかということであると明確にすることが大事だと思います。しかし、そこが今、逆ぶれというか、縮こまる方向に行っているので、このガバナンス・コードでもそこの自由闊達さというか、プロとしての誇りというか、そういうところをいかに高めるのかという、これを入れていく必要があるのではないかなと思います。すなわち、今、ぶれていて、とにかくノーと言えば評価が高いとか、そういうふうにならないところも大事かなと思います。
- 【関座長】
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今、國廣メンバーから縮こまった監査法人体質ではなくて、それを変えて、企業の成長に寄与するなど、前向きないろいろな議論ができて、自由闊達に監査ができるというところに力点を置いて、コードをつくるべきだというご議論があったと思いますが、そうしたことも含めて、どういうコードにしたらいいのかということになってくるわけですが、いろいろ目的に関してさらに議論を深めていきたいと思います。
引頭さん、どうぞ。
- 【引頭メンバー】
-
ありがとうございます。
2点ございます。まず、資料4の主な論点項目の1の目的を見たのですが、率直に申し上げて、この項目立てに少し違和感を持っております。というのは、1.1、1.2というのは、既に監査基準あるいは品質管理基準に記載されていることではないでしょうか。1.3から1.6までを見ますと監査法人がどういうふうに経営を展開していったらいいのかということが書いてあり、上二つと少し意味合いが違うような印象を受けます。
落ち着いて考えますと、1.1と1.2は、むしろ監査法人のガバナンス・コードの大前提というべきものであり、イメージとしては前文的な位置づけになるのではないでしょうか。これらはすでに法で決まっているものですから、絶対守らなければいけないものです。これから策定するガバナンス・コードというのはむしろ、先ほど石原メンバーや國廣メンバーがおっしゃったように、監査の高い品質を達成するために、監査法人としてすべきことを規定するという性格のものだと思われます。こうした観点で少しクリアに分ける必要があるのではないでしょうか。今後ガバナンス・コードをベースとして、情報開示されていくと思いますが、いろいろなことが一緒にはいってしまうと、かえってボイラープレートのようになってしまうのではないかと危惧しております。監査法人が私たちはこういうことをやっている、ああいうことをやっていると書かれても、美辞麗句になってしまうと、私たち利用者にとって、使えない情報になりかねません。やはり、先ほど國廣メンバーから実質的なことをきちんとやっていかなければいけないというお話があったと思いますが、まさにそのとおりだと思います。繰り返しになりますが、前文では監査基準、品質管理基準、これらに基づいていることをまず記載し、目的として、監査の高い品質を達成するために、監査法人としてやらなければいけないことをこのガバナンス・コードで規定するものである、といったことを明確に打ち出すことが必要ではないかというのが1点目です。
2点目ですが、今度は資料5の3ページ、非監査業務との関係について意見を述べさせていただきます。
3ページの一番上の矢尻のところに2つ、ハイフンがあり、1つめのハイフンでは、質の高い会計監査を実施する上で被監査企業を含む企業環境の理解が重要であり、非監査業務の経験は有用である、と書いてありますが、まさにそのとおりだと思います。私の理解では、監査法人においては、監査の業務が事業の主流で、非監査業務というのは監査業務ほど重視されていないのではないかと思っております。さらに、この両業務間において人事ローテーションもあまりないと理解しております。しかしながら、後段でも書かれていますが、監査以外の業務を経験するということ自体がマネジメントの厚みに繋がりますので、これは大変重要なことだと思われます。
一方で、その下にありますハイフンには、非監査業務のウエイトが大きくなることが、監査の品質を損なう可能性がある、と書いてあります。ですが、これはまさにグループとしての監査法人のマネジメントの問題であって、これについて、ガバナンス・コードでウエイトが大きいからいけないとか、小さいといけないとか、そういうことを規定するのは必ずしも適当ではないのではないでしょうか。非監査業務については各監査法人が監査業務の外でビジネスとして考えていくべきものであり、ここでは議論すべきものではないように思います。
ただし、人材育成という観点で、非監査業務を経験すること、これを奨励するというのはガバナンス・コードでは必要なことだと思います。もっと踏み込んで言ってしまうと、非監査業務の位置づけについて外部からとやかく言うのは余計なお世話ではないでしょうか。すでに同時提供の禁止は法で決まっているわけで、それで十分ではないでしょうか。また、海外では、非監査業務のほうが監査業務よりも収入ウエイトが高いというのは自明の理になっておりますし、エンロン事件で確かに議論となりましたが、日本では先駆けて同時提供の禁止を規定しています。このように海外とは事情も少し違いますので、こうした点も考慮すべきではないかと思いました。
以上でございます。
- 【関座長】
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今、2つご議論があったと思うのですけれども、最初のこの目的の1、2は、これはもう大前提で前書きじゃないかっていうお話があったと思うんですね。ちょっと私、座長ですけれども、私の感覚を少し申し上げれば、この1、2は、事務局から後で補足いただきたいと思いますが、2のほうはともかく、2のほうはリファーするかどうかという話なんですけれども、1のほうは、いわゆる監査法人が組織として本当にどういう役割と責任を担っているのかということは、その前書きとか大前提ではなくて、まさにここで議論すべきことなのではないかと思うのです。つまり、従来は公認会計士の皆さんが監査をやるわけですから、この人たちがどう高品質の監査をやるのかという点が主たる関心で、そこばかり議論していたように私自身なんかも思っているんですけれども、やっぱり監査法人が組織としてどういう役割を担って、どういう責任を担っていくのかというのが今回のテーマですし、そういうことをきちんと、この表現は、ちょっとそういう意味では私は弱いと思っているんですけれども、きちんとコードの目的のところで、組織としてやるんですよ、監査法人が責任を持つんですよということをやっぱり強調したいのです。そのことをどう考えるんですかという、これは問いのつもりで書いているんですよね。私の理解ですよ。
- 【引頭メンバー】
-
多分、私が申し上げたのと関座長がおっしゃったことは全く同じことで、監査法人が法人としてそういうことを考えなくていいということではなく、今おっしゃった高品質な監査を提供するということが前提にあると思っております。そのために法人として何をするかということについて規定するのがガバナンス・コードではないでしょうか。問題意識は関座長と同じだと思います。要するに、監査法人のマネジメントのことだ、ということをきちんと書いたほうがいいのではないかということでございます。
- 【関座長】
-
目的のところにちゃんと書くということですね。
- 【引頭メンバー】
-
そういうイメージでございます。
- 【関座長】
-
そのほか。石原さん、どうぞ。
- 【石原メンバー】
-
この目的のところについては、先ほども申し上げましたけれども、高品質な監査というのは一体何なのかということについて、やはりもう少し議論を深める必要があるのではないかと思います。おそらく経緯的に、監査項目を網羅的にチェックし、万全な監査調書を用意すること、それを遺漏なくやることが高品質な監査というようになっているのではないかと感じております。
しかし、本来はそうではないと思っておりますので、やはりもう少し高品質な監査というのは何なのか考える必要がある。目指すのは、不正会計の発見・抑止ですから、事務ミスを探したりするために膨大な時間をかけるわけではないはずなので、監査能力も上がりますし、また、白黒をつけるということの前に、1年間の監査を通じて企業側とも十分にリスクについて対話をする、これによって企業側も得るところが多大にあるということでありますし、それが経済成長にもつながる。監査はそういう役割も果たす。これが公認会計士法第1条の会社等の公正な事業活動、あるいは国民経済の健全な発展に寄与するというミッションを実現していくことにもつながると考えておりますので、ぜひそこの点についてもう少し議論を深める必要があると考えていただきたいところです。
- 【関座長】
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そのほかいかがですか。どうぞ、初川さん。
- 【初川メンバー】
-
今日は、これからのガバナンス・コードの議論のスタートというふうに思います。まず、今までの議論を私なりに頭の中で整理してみますと、なぜこういう議論がされているのかというと、一番大きくは財務報告の信頼性確保というところで、監査法人の監査の信頼性も確保していかなければいけない、こういうところから来ていると思います。過去の議論においては、じゃあ、どういう形で監査法人の信頼性の確保をしていくかという点、2つ、3つ出てきたと思うのですけれども、私の理解では、結果を出せるといいますか、実効性のある監査をやっていかなければいけない。こういうことと、もう一つは、やはり透明性を確保していかなければいけない。この2つが大きくあったように理解しています。
そういう意味で、今から議論するガバナンス・コードというものはどういうコードであるべきかといったときに、いわゆる一般的なガバナンスの必要事項を網羅する形式的なものではなくて、今まで議論してきた監査の信頼性確保のポイント、つまり実効性のある監査を行う、それから透明性を高める、こういうものに確実に結びつくガバナンス・コードであるべきだろうとまずは思います。
そういうことを目的にすると、やはり品質の向上、高品質の監査ということは外せないわけです。資料4には網羅的に項目が挙がっています。見ていくと大体、英国、それからオランダの項目も、こういったものが入っていると思います。今言いましたように、監査の実効性を高める、高品質の監査というものに結びつけていく、そういうコードを考えるときに、3の業務運営のところですけれども、やはりもう少しダイレクトに品質管理のことについて、この業務運営のところでコードとして項目立てをしていくべきじゃないかなと思います。
これからの議論になると思いますけれども、今、私の持っている感覚としては、3のところに品質管理という項目立てをして、今後、監査法人としてディスカッションしていってもらいたい、尽力してもらいたい、こういった方向づけをする項目を入れていくということがイメージとしていいんじゃないかなと思っています。コードの項目ですから、あまり詳細なことを書くのはいかがかと思いますけれども、例えば、監査品質向上のための継続的な取り組みとしてどういうことをする方針でいるのか、それから、何度も議論になりましたけれども、被監査企業のガバナンス機能との協調、これをどういうふうに考えていくのか。それから、対話の原則。これは、監査人が企業のビジネスであるとか、その企業の属する産業を理解するために非常に重要だと思いますけれども、そういったものについてどういうふうに取り組んでいくのか。こういったことを、もう少し、そういう方向に監査法人内部での議論が向くように、ガバナンス・コードにそういったものを織り込むといいますか、ビルトインする必要があるのではないかと思います。
そういう点で、今の、目的のところを拝見しますと、私は、やはりまず何を議論するにしましても、この1のところに書いてあるようなことが基本中の基本ですので、これをしっかりとコードの中に書いて、外に向かって監査法人が全うすべき使命というものを明確にしていただく。それから、内部に向かっても、自分たちは集団としてどういうことに価値観を持ってやっていくのかということを明確にしていただくと。そういう意味で非常に重要な部分だと思いますので、内容的にも、今、用意いただいているような方向で議論していけば良いのではないかと思っております。
以上です。
- 【國廣メンバー】
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先ほど、石原委員がおっしゃったポイント、すなわち、品質が何かというところを明確にしないまま進めると、議論が空中戦というか、抽象的なものになると思うんですね。私の問題意識というのは、先ほど申しましたけれども、言ってみれば公認会計士はプロフェッショナルなのか、組織の歯車なのかというところで、実は監査法人の中の組織の歯車化している部分をすごく危惧しているわけですね。そこで、ガバナンス・コードの目的というのを、「とにかくチェックリストを埋めることが品質なんだ、紙がしっかりそろっていることが重要なんだ」というような誤解というか、思い込みを排して、めりはりをつけて、我々メンバーとしては、「品質とは何なのか」と。細かいミスをいっぱい見つけることなのか、それとも本質的な部分に迫ることなのかと。やはりそこの議論はとても大事だろうと思います。
そういった意味で、品質を、例えば、不正会計の防止とすると「じゃあそれから抜けたものは、誤謬はいいのか」とか、何とかかんとかと細かい議論が出るかもしれない。しかし、そこで細かい議論に入ってしまうと、またもとのもくあみになってしまうというようなことなので、我々自身もリスクベースの考え方でめりはりをつける。チマチマした議論ではなく、何が第一目的なのかというようなところを我々の議論で明確に打ち出すことが必要と思います。私は、不正会計の防止、そして、日本の市場の信頼性回復ということが、やはり大きな目的であると思います。そのためにはチェックリスト的な、歯車的な監査ではなくて、やはりプロとしての誇りといった、そういうところに持っていく。そうしないと、CPA、公認会計士の仕事が魅力のないものになってしまい、いい人材が来なくなるという悪い循環になると思いますので、ぜひ魅力的な仕事にするというような観点も含めて、めりはりをつけた議論が必要なのかなと思います。
- 【関座長】
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ありがとうございます。八田先生。
- 【八田メンバー】
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幾つかあるのですけれども、まず1つ目は、基本的に引頭メンバーの考えと似ているのですけれども、この論点項目案の1.1から1.6までお示しいただいているうちの1と2というのは全体を総括するというか、監査のありようについて、あるいは監査を担当する監査人に対しての呼びかけのメッセージという気がしますので、前文のようなところでしっかり書き込むというのが良いのではないかと思います。なぜならば、これはコードですから、それが運用されてくると、当事者である監査法人のほうは、このコードに準拠しているのか、あるいは、していないかということの確認を行うことになると思うんですね。そのときに、公認会計士法の第1条で規定されている内容については、我々は従っていないということはあり得ないわけであって、その具体的な中身をコードに落とし込んで規定すべきであって、やはりここのところは上段に構えて、監査人としての基本理念のようなものとして書くべきだと思います。
そこでのキーワードは1つしかないと思っています。つまり、この1.1と1.2を総合したときのメッセージとして、前文かコード全体の大前提に書いていただきたいのは、イギリスなどは確かにValueのトップに書いていますけど、プロフェッショナリズムの堅持しかないと思っています。このプロフェッショナリズムという用語を、どうやって訳すか難しいのですけれども、私は、専門職業意識というか、あるいは専門職業家としての気概というような感じで理解しています。
なぜこうしたことを申し上げるかというと根拠があって、アメリカで2001年にエンロン事件が起きた後に、ご案内のとおり2002年にSOX法(企業改革法)が制定され、その中の規定により、2003年にPCAOB(公開会社会計監視委員会)が創設されました。このPCAOBの初代の主任監査官に就任した、ダグラス・カーマイケルという有名な学者でもある実務家がおられて、その方が行った講演の表題が「プロフェッショナリズム・イズ・プライマリー」というもので、このプロフェッショナリズムこそが監査人・会計士にとっての第一番の生命線なのだというのです。このことをいま一度、AICPAのすべての会員が身をもって実践しなければ、これからの監査に対する信頼回復はないんだと。こういうことを歴史に残るメッセージで発信されているのです。実は私自身、自分の大学院での授業のときに、すべての学生にこの講演録を読ませてプロフェッショナリズムの重要性について説明しています。この講演録を読むと、いろいろなことが書いてあるのですが、まずそれに違和感を持つような人、あるいはそれを等閑視するような人は、やはり、監査人としては不適格なんですね。つまり、会計プロフェッションとしての適格性を持っていないということです。したがって、今般のコードの策定に関しても、まず第一にこのプロフェッショナリズムについて書いていただきたいと思います。それは多分、内容的に言うと、論点項目案の1.2に分断されている内容なのかなと思います。したがって、それはコードのほうでもう少し細かく書き込むことができるのかなという気がします。
2つ目として、先ほどの非監査業務の議論ですが、私自身、よくわからないのは2つありまして、まず、今回のコードが公認会計士法の見直しをも射程に置いているのか、あるいは、それは置いていないのかという点です。つまり、監査法人の組織や責任等については、既に公認会計士法の中において、さまざまな詳細な規定が織り込まれています。権限の問題、責任の問題、パートナーの問題、それから業務の問題。そのため、コードの中で中途半端な話を書くと、監査法人の法的な位置づけについて根底から見直すような議論になるのではないかということです。そうではなくて、現に行われている監査法人の業務の見直しでというならば、その点を明確に規定することが必要ではないかと思います。監査法人という組織形態は世界に例を見ない、監査業務の遂行に特化した会計事務所だということです。そして、独立性の強化を図り、非監査業務については限定的にしか認めておらず、公認会計士法第2条第2項業務でぎりぎり監査業務と関連するようなところだけはやっていいということを言っているわけです。したがって、それは十分にやってもらいたいということで、逆にポジティブに考えて、今後とも、非監査業務への対応を図ればよいのであり、それをもって何か独立性が喪失するとか、そんなことを不安がるような会計士であるならば、これは自らの業務に対して自信がないわけであって、企業に対しては堂々と指導ないしは助言を行うことで、企業側と切磋琢磨して結果的には信頼し得る財務報告を行い、市場に対する貢献をすべきであるということです。したがって、その辺は、ポジティブに書き込むのはいいんですけれども、これはだめだとか云々というのは必要ないのではないかなと思います。この辺も多分、引頭メンバーと同じではないかなという気がしています。
それから、もう一つ、当局からの事前のご説明の時に、これはいいですねと申し上げたのは、Opennessという規定です。いわゆる風通しのいい、オープンな意見、あるいは情報交換、これが組織の中で十分に行われていなければいけないということです。現実に、大規模監査法人になると、これがどこまでできるかという、確かに不安感はあります。でも、実は、今回のガバナンス・コードの議論の大前提には、一般事業会社と同じように、監査法人のインターナルコントロールの問題、すなわち内部統制の問題と密接にリンクしているのではないかということです。そうしてみると、重要なのは内部統制の構成要素の中の統制環境、これはおそらく法人の理念とか、トップに立つ方の哲学や考え方であろうと思います。さらには、この構成要素の中には、情報と伝達というのがありまして、これは真実な情報が適時適切に円滑に伝達されなければいけないというもので、これは、Opennessというものと非常に近似したものだといえます。上場会社の場合で、子会社や関連会社を含めて数十万人規模の会社でもそれは要請されているわけですから、5,000人や、6,000人規模の大監査法人の場合でも、当然、求められるべきではないかということで、この辺も少し詳細に書いていただくのがいいのではないかと思っています。そうすると、組織内において「聞いていなかった、知らなかった」という議論は一切なくなるわけで、同僚の間で、あるいは同じ職場にいるパートナーでありマネジャーであり、あるいは新規に入った方であっても、同じ情報を共有し、同じ価値観の下に、胸襟を開いた議論が始まるわけですから、これが一番重要なのではないかと思います。したがって、開放性という訳語がなじむかどうかわかりませんが、この考え方はぜひうまく記載して残していただきたいと思います。
それと、先程申し上げましたが、内部統制の議論というものを今回の議論に当てはめていくと、あと、問題になっているのは、いわゆるリスクの評価と対応とか、統制手続がありますが、おそらくこれが個々の監査手続の議論とリンクしてくるのではないかなと。それから、当然ながら、ITへの対応というのがあります。これについては、論点項目案の一番最後に出てきて、また議論になるかもしれませんが、ITというのは、もはや避けて通れません。特に、監査証跡の中においてITを導入するか、いまだにハンドライティングでやっているかによって、監査証跡の結果、監査調書の内容をトレースする状況が違ってきます。つまり、手書きですと、後で、変な話、CPAOBから検査が来る前に少し書き足したり、あるいは修正することが可能ではないかなんていうことをまことしやかに考えている人もいるようです。ところが、これ、IT化になってちゃんと痕跡が残るようにやるならば、監査上の信頼性も高まるし、それから検査における信頼性も高まってくるということです。当然ながら、ビッグデータの世界に移行してきますから、このITの問題というのはさらに高度化、複雑化してくるわけで、この点での監視やレビューも重要になります。となってくると、内部統制の構成要素のモニタリングについても、監査法人の視点から極めて重要になると思います。今後、マネジメントとか外部の目ということでの議論がなされると思いますから、ぜひ、この内部統制の大きい枠組を、今般のガバナンス・コードの議論の中にうまく植えつけていただきたいと思います。
以上です。
- 【関座長】
-
はい、ありがとうございます。
- 【関根メンバー】
-
ありがとうございます。
先ほども出ていましたが、適正な会計監査の確保という1番目の目的は非常に重要だと思っています。また、財務報告の信頼性を確保するために、監査法人の経営において監査品質が何であるかという議論をすべきであるという話も先ほど皆様から出ており、私もすべきであると思っておりますが、いずれにしろ、監査品質を重視する組織文化の醸成というのが非常に重要だと思っており、これをしっかり内外にコミットして、監査法人の経営を行っていくことがポイントではないかと思っています。
そのような意味で、この目的に書かれている6項目は、それぞれ重要だと思いますが、1.1は、1.2とも若干関係するのかもしれないですが、位置づけが少し違うように思います。前文ではないかという議論も出ていたかと思いますが、このことは、コードの構成全体をどのようにするのかということと関係するのかと思います。私は、1.1は、それ以外のものと、位置づけが違うということが何らかの形でわかるようにするのがよいと思っています。
関連して1.2ですが、職業的懐疑心の発揮、高い職業倫理・独立性の保持といったことは、基本になる非常に重要な事項であると思っております。ただし、ここで、倫理規定における基本原則を細かく書く必要があるのかと思っています。論点案には「我が国においては、公認会計士法等において・・・」、とありますが、日本公認会計士協会の倫理規則には、国際会計士倫理基準審議会が公表している基本原則と全く同じものが入っており、これは監査をしなくてもプロフェッショナル、会計士として当然やらなければいけないものという位置づけにしております。ですので、このような位置づけになっていることを前提に触れるというのはよいと思いますが、ここで初めて出てきたような記載になると、本末転倒になってしまうと思っております。
あと、細かい点ですが、八田メンバーからありました、開放的な文化の保持、これはOpennessと言っていますが、これは外もありますが、中での開放的な文化の保持というのは、いわゆる風通しがよいということかと思います。このようなコードの言葉として、どのようなものが一番よいのかという点は別として、このこと自体は非常に重要なことと思っております。組織文化について、例えば日本を含むアジア系の国では、よい面でもあるのですが、年長者を非常に重んじるというか、ざっくばらんに言いづらいということもあるのではないかと思っております。とは言え、入ったばかりのスタッフであってもプロフェッショナルですから、当然、プロフェッショナルとして、しっかり自分の意見を持ち、しっかり発言し、その上で自分が気づかなかったことがあれば、それを経験として活かしていくということが重要だと思っておりますので、この点は重要なこととして入れていくのがよいと思っております。
また、非監査業務との関係ですが、監査法人を経営していく上では、監査の信頼性の確保が最も重要なことですから、それをしっかり行っていくという観点に立って非監査業務をどう考えるかということだと思います。先ほども出ていましたが、同時提供は禁止されていますし、非監査業務ばかりに専心するというのは当然よくないことですが、監査法人を経営していく上で、いろいろな知見を積んでいくかという観点からの非監査業務というのもあるのではないかと思います。
また、非監査業務といっても、いろいろあり、中には、必ずしも公認会計士でない別の専門家が行う非監査業務があります。例えば、年金の専門家、不正対応のための不正発見の専門家、ITの専門家の業務は、監査業務の補助として実施されますが、その知見を非監査業務で積んでいくということもあり得ます。そういったことも含めて、非監査業務をどのように利用していくかというのは、経営の問題であると思いますが、適正な会計監査の確保という大前提を忘れずに、どうあるべきかを考えていくことが重要ではないかと思っております。
以上です。
- 【関座長】
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斎藤先生、何かご意見ございますか。
- 【斎藤メンバー】
-
既に出されたご意見と重なるところは多いと思いますが、総論とか目的のところで、例えば公益の保護とか、質の高いサービスの提供とか、あるいはプロフェッショナリズムの尊重とかというのは、もう当然のことであって何の違和感もありません。ただ、私がまだガバナンス・コードというものの役割をよくわかっていないせいかもしれないのですが、どうもお説教にとどまっているような印象を受けています。監督官庁が監査法人の経営者に対して、こうなっていますか、こうなっていないのじゃないですかという、えんま帳みたいな項目が並んでいる気がするのですね。
今日いただいた資料の2で、1ページの上から2番目の丸に、「監査法人が、世の中に社会的責任を果たすことを宣誓すると同時に」、その後ですね、「監査法人内で価値観を明確化・共有すること」と書いてあるのですけれども、どうやって監査法人内で価値観を明確化し、共有することができるかという、その観点からの文章でないとお説教で終わってしまう心配がございます。それをちょっと気にしています。
監査サービスというのは、広い意味では市場で取引されている商品の一つであって、監査人に対して公益のために良質なサービスを提供しろというのは、例えば鉄道会社に対して交通の秩序とか、乗客の安全という公益に資する運送サービスを提供しろというのと、ほとんど同じようなことだと思うのですね。それは当たり前の話なのであって、製品やサービスを売っている業者にとっては公益に資するのも商売の一環であります。監査もそういう商売の一つなのですね。監査法人というのは、政府の部門ではないわけですから、大事なのは、めいめいが利益を目指して行動する市場経済の仕組みを通してそれらのサービスが提供されているという面に着目することだろうと思います。
公益を損なえば、商売そのものが成り立たなくなって、自分たちの存立の基盤が失われることを確認させるのはもちろん大事なのですけれども、それがわかっていながら、公益とは必ずしも両立しないさまざまな誘因に影響される商売というものをどうやって絶えず公益と両立させるように動機づけるか。そういうのが今、監査法人のマネジメントを問い直す趣旨なのじゃないかと思うわけです。
先ほど、資料5の4ページで、そもそもマネジメントとはどのようなものかという問いかけがありましたけれども、マネジメントというのは規制とか監督よりも、経営なのですね。商売のための経営の問題ですから、監査法人の経営を通じてそういう動機づけを図るようなものでないと実効性の乏しいお説教に終わる可能性があるのではないかと思います。どういうふうに書けばいいのか、私にもアイデアはないのですけれども、もう少し経営陣に対して公益に向けた動機づけに責任を負わせるような書き方にならないかなと感じる次第です。
- 【関座長】
-
一通り皆さんからご議論をいただいたのですけれども、後の議論のこともありますので、ちょっと私の、皆さんにご意見をいただく上で、後の議論の参考になるために少し発言をさせていただきたいと思うのですが、確かにこの目的を見ますと、引頭さんご指摘のように、1、2は当たり前のことではないか、あとは、いわゆる実践論みたいなものじゃないかということ、そういう印象をこれ、受けるんですね。
私は、これを読んだときに、最初、ややショックを受けたのは、開放的な文化の保持ということを英国やオランダでもきちんと、これを大きな目的の中に入れ込んできているわけですね。これをどういうふうに理解するのか。大変衝撃的な表現だと私は思いますし、國廣メンバーからもっと自由闊達な監査法人にならなければいかんのではないかというご指摘もありましたし、八田メンバーからもこれがきちんとできれば、もう聞いていなかったとか、言いわけなんかできなくなるんだとかいうようなお話もあったので、私は開放的な文化の保持という目的をもう少し議論をして、もう少し中身をつけてきちんと前面に掲げるという工夫をしなければいけないのではないかと、知恵を出さなきゃいかんのじゃないかというふうに思います。
1、2は当たり前のことです。3以下は、まあ、実務的な話だというふうに解消すべきではないのではないか、むしろ1.3というのはそういうことで大きく取り上げていくということにしなければいけないのではないかと、こう思っておるのですが、もう少し議論は深めていただきたいなと思います。
それから、1.4、5、6で、1.6については諸先生方のご指摘いろいろ、皆さん大体同じだったと思いますが、当たり前なことで、非監査業務なんてどんどんやればいいんだと、勿論、一定の制約はある訳ですが、こういうことだろうと思います。私は1.4と1.5の議論も少しやっていただきたい。
といいますのは、今、斎藤先生がおっしゃったように、今回はあくまでも監査法人の組織としてのガバナンスというものをどう考えるんだということが中心であるわけでありまして、いわゆる抽象的なことをお説教するというためにこの検討会を持ったわけではないと私は思っておりまして、そういう意味では、まさに監査法人が組織としての経営をどうするんだ、そのために必要なことは何なんだということを議論しなければなりません。これは私の経験から言うと、こういう問題を意識されてはいたにしても、あまり今まで議論されなかった新しい一つの視点を提供しているんだというふうに前向きに受けとめておるのですが、ぜひ、このリーダーシップの発揮、これは監査法人としてのマネジメントを、組織としてどういう組み立てにするのが良いのかということが私は本論だと思うので、そういう意味で、これ、目的の中に、少し1、2とは性格が違うというのはそのとおりですが、入っておるわけで、この議論をしっかりしないと、2の執行及びガバナンス機関だとか、業務運営だとかいう話に、これ、なっていかないわけであります。
ですから、目的の個々の表現をどうするかという議論はともかくとして、リーダーシップ、トップの知恵だとかいうのは本当に必要なんだとか、行動規範はどうするかとか、2番だとか3番につながっていくような形で、監査法人が経営として何を適正な会計監査を確保するためにしなければいけないんだということを少し議論していただいて、2番のほうに議論を進めていきたいというふうに思います。
そんなことで、ぜひ、この1.4、1.5のようなことを踏まえて、2番の議論に進みたいと思いますが、ぜひ皆さんのご意見をまたそれぞれのメンバーから聞かせていただきたいと思います。どなたからでも結構ですから、どうぞ。
- 【國廣メンバー】
-
今、関座長がまとめられたところというのは非常に大事なポイントなのだろうと思っています。この監査法人のガバナンス・コードをつくる目的なんですけれども、このコードができたから、例えば1年後、2年後によくなったねって、こうするためのものですよね。ところが、現実は違うんじゃないかと思うんですね。今このまま行くと。とにかく、あまりいろいろ不祥事が起こったから金融庁に怒られる。そして、金融庁の審議会でガバナンス・コードができる。そうするとこれが来て、コンプライ・オア・エクスプレインやらされるという、さらに縛られるんじゃないか感が、監査法人の中に強く一部にはあるように見受けられます。
よって、これを機によくしようという「やらされ感」でやるのではなくて、「これをてこに元気になっていく」というですね、監査法人あるいは公認会計士が。そのための道具となることがこのガバナンス・コードに求められているんじゃないのかなと思うんですね。
そういうところからすると、開放的な文化という部分が一つのキー。2ページを読むと、内外ですから、どっちかというと外の対話のことをイギリス、オランダは強く出ているようだけれども、やっぱり中のコミュニケーションというところを我々としては強調するのかなと。そうしないと、2番目の執行、ガバナンスということになると、目的が明確にないまま、ただ単に管理の強化みたいな形になると、結局は元気をなくしてしまうということになりかねないんですね。ですから、そのガバナンスをやる執行の人たちが何を目的に、何のためにそのガバナンスをやるのか、「現場を元気にし、タコつぼや保身、形式的網羅性を重視するアリバイ的監査をなくすためのガバナンス」というところを明確に出していくことが必要なのかなと思います。
- 【関座長】
-
ほかにご意見ありますか。
- 【引頭メンバー】
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先ほど関座長がまとめられ、また繰り返しになり恐縮ですが、私は監査の品質を高めるためにあるのが今回の監査法人のガバナンス・コードだと思っております。そう考えますと、ここに書いてある、1.3の開放的な文化の保持とか、1.4のリーダーシップの発揮等々は、監査法人としてやらなければならないこと、つまりコードの目的というようにも受けとれます。1.1、1.2と比べた場合、少し色合いが異なるように見えるのですが、コードが監査法人のマネジメントの話であると考えれば、1.3以下を目的としてもおかしくはないと思われます。
ただし、ここで1つございます。先ほどから石原委員がおっしゃっていた高品質な監査とは何かということですが、確かに不正会計をきちんと見抜く目が必要であるという御指摘については間違いないと思いますが、それに加えて、社会情勢が変化し、会計基準も改善され、見積もりの監査も増えてきている中で、監査の効率を上げるということも重要だとみられます。品質を高めると同時に効率を上げていく、この両方が揃って初めて高い品質の監査と言えるのではないでしょうか。多分、監査法人の方にこういうことを申し上げると、同時にできるのかと疑問をお持ちになるかもしれませんが、多くの製造業はそうしてきた歴史がございます。日本の製造業は。品質を上げながら効率も同時に上げてきた。これは製造業だけではなく、サービス業でも同様のことが散見されております。従来の常識を打ち破って、工夫していくというアプローチが非常に大事ではないでしょうか、というのが1点です。
もう1点ですが、この目的の中に少し足りないのではないかと思う要素が一つあります。人材の育成についてです。教育や人事といったことについて、明確に入れるべきではないかと思っております。例えば教育についてですが、資格維持のための教育や、海外提携ファームから言われている教育のみで良いのか。自社が担当している被監査会社の状況や社会情勢の変化に合った形での教育内容が求められるのではないでしょうか。また人事についてですが、資料としていただいたPwCあらた監査法人の監査品質に関する報告書を拝見しますと、法定の監査業務のローテーションについては言及されていますが、人材育成の観点からの法人内におけるローテーションについてはざっとみたところ記載がありません。ですが、これこそがマネジメントであり、そうしたことについて法人として強化していっていただきたいと思っておりますので、そうした点についてもぜひ目的として入れていただきたいと思っております。
2の執行およびガバナンス機関についても意見を述べてよろしいでしょうか。
- 【関座長】
-
はい、どうぞ。
- 【引頭メンバー】
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ありがとうございます。では資料の4の2.6、2.7の項目に、第三者の関与について掲げられています。これは、今回のこの検討会の前に行われた会計監査の在り方に関する懇談会においても、第三者の眼というのは大変重要だということであり、それはその通りだと思います。ただ1つ気になったのは、コーポレートガバナンス・コードでもそうですが、第三者をただ入れればいいというものではないと思われます。社外取締役が何人いたって機能していないとやはり意味がないわけです。このようにみますと、なぜ第三者を入れることが必要かということについてもう少し定義しなければいけないのではないでしょうか。なぜ入れるのか。
コーポレートガバナンス・コードの場合は、社外取締役というのは誰の代弁者だったかというと、株主ということではっきりしていますよね。では、監査法人にとって第三者というのは、誰の代弁者かと考えますと、まず監査法人の株主というのはパートナーになってしまいますから、これは多分違いますよね。あるいは、自分のお客様、被監査会社となりますとこれも何か違います。このように考えますと、第三者がなぜ必要かというと、これはまさに資本市場のためではないでしょうか。要するに、資本市場がインフラとしてきちんと機能するために、資本市場の代弁者となるために第三者の方々を入れる必要があるということについて、はっきりと書いておいたほうが、後で紛れがないのではないでしょうか。どういう立ち位置で私はいるのか、と第三者の方々が思うかもしれない。そこで、それは資本市場であるということを入れておいていただきたいと思います。
それから、同様に第三者の話ですが、資料5の6ページの最後の括弧に、「外部の第三者メンバーに対する適切な情報提供、サポート」という記載があります。内容を読みますと、イギリスとかオランダのコードでは、適切な情報提供を行うべきということで、少し上から目線といいますか、監査法人の執行部が情報源であり、必要と思う情報があれば提供しなさいということになっているようです。ですが、コーポレートガバナンス・コードでもそうだと思いますが、そういうことではなく、むしろ第三者の方たちが判断に必要だと思う情報についてサポートする、支えるということのほうが重要ではないでしょうか。つまり、これは単に情報提供すればいいということではなく、第三者のメンバーを支えるための体制、そしてその情報収集、提供ではなく、要望に対してきちんと応えなさいということではないでしょうか。また、自分たちマネジメントサイドからみて必要だと思ったら、当然、そうした情報も提供していくというダブル提供の構えも必要です。つまり、執行部が必要だと思う情報、そして、第三者のメンバーが必要だと思う情報、この両方の情報がきちんと提供されて初めて、第三者メンバーが判断できるということなのではないでしょうか。
最後になりますが、では、その第三者というのは何をするのかということです。「誰のために」については、先ほど、資本市場のためと申し上げましたが。「何をするか」と言えば、法人の意思決定に対して資本市場の立場、公益の立場からおかしくないかどうかについて意見していただくということではないでしょうか。つまり、小さいことではなく、法人としての大きな意思決定、意思判断をするときに関与していただくことではないでしょうか。こうした第三者のメンバーとしての役割についてもどこかに定義していただけると、第三者の機能発揮について、大きく期待できるのではないかと思います。
以上でございます。
- 【関座長】
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八田先生、どうぞ。
- 【八田メンバー】
-
ちょっと前に戻って申し訳ないですが、1の目的ところについて、先程、途中まで申し上げて尻切れとんぼになったので、補足させてください。そもそも1966年の公認会計士法の改正によって、監査法人制度が創設されたわけですが、当時も不正会計の発覚や監査人の責任追及という問題があり、監査の信頼性確保に向けてどうすべきかという議論を受けて、組織的な監査の推進ということでこの監査法人という制度を、当時の関係者が発案されたということです。その後、大蔵省から発せられた通達などを見てもわかるように、この監査法人創設の目的は2点あると私は理解しています。一つは、監査人の独立性の強化。つまり、これまで個人でやってきた公認会計士の方だけではなかなか、大手の企業のプレッシャーには抗いがたいものがあるということから、それに対抗するためにも組織的な対応が不可欠だということです。二つ目は、5人以上の会計士が集まってきて、専門的な知見を結集することによって監査業務の信頼性を高めようということ。当時、監査の品質という言葉は使っておらず、監査の信頼性を向上させるという表現が使われていました。ただ、今の言葉で言うと、おそらく高品質の監査と同義語だと思うんですね。この2点が、そもそも監査法人というものを生み出して今日に至っているまでの大前提にあるわけです。
したがって、今回、監査法人のガバナンス・コードですから、やはりそこのところをもう少し明確に理解した上で、具体的なコードの目的の1.1といった箇所ではなくて、本文全体の冒頭に記載すべき性格のものではないのかなと思います。そのように捉えたとき、今はいずれの組織でもそうですが、各監査法人の場合も、ホームページを見るとわかるように、それぞれに監査法人の理念とかミッション、あるいは使命というものを掲げています。それはグローバルのレベルで書いてあるものもあります。これは、非常に大事なわけです。つまり、まず法人トップの関係者が、監査法人の果たすべき使命や理念について明確な指針を策定することが必要だということです。そして、それを前提にリーダーシップを発揮するという流れがなければならないわけで、この目的のところにもし書くならば、議論の順番としては、あくまでもトップの姿勢が最重要課題だということです。つまり、その中には、先程、申し上げたように、監査法人のトップの倫理観とか価値観、あるいは経営哲学や経営方針といったものが、法人の理念ないしはミッションとうまくリンクしていて、それらを誠実に遵守することでリーダーとしての機能が果たせるのではないかということです。先程から幾度も申し上げているように、まさにこれは企業の内部統制の議論とまったく同義だということです。
そして、それを踏まえた上で、法人としてさらにしなければならないのは、次の世代を担う人材の育成です。実は、組織的監査を導入するということで監査法人制度を創設したときに、公認会計士協会が組織的監査要綱というのを策定していますが、そこに書いてあるのは、監査業務担当者に対して、補助者の指導監督、そして、教育・研修を行うことです。これを適切に行うことで、法人組織全体のレベルを上げなければならないということになると、当然ながらそこには、今の言葉で言う人材育成という問題が入ってくるわけですが、それこそが監査法人の将来を担う中心的な課題だと思っています。
先程、國廣メンバーがおっしゃったように、ポジティブな流れでなければならないということですが、監査法人のミッションとか理念とか経営方針がしっかり書かれていて、すべての法人メンバーがそれをちゃんと遵守して社会に貢献していますとか、公益に資する業務を行っていますということが言えるならば、これほどポジティブなメッセージはないのではないかと思います。
したがって、今般のコードが社会的に適切に評価されるためにも、この目的のところをしっかり書き込んでいただければと思っています。例えば教育の現場で、監査の勉強をする学生に説明するとき、この目的のところがしっかり書き込まれていれば、コードの有する意味も正しく理解できるのではないかと思います。あとは個別の問題ですから、重要ではないとは言いませんが、末節的な議論にも近いものがありますので、是非、この目的の所についてはしっかり書き込んでいただきたいというのが一つの希望です。
それから、先ほど、第三者の目というのがありましたが、これもおそらくベースは英米型のガバナンスの議論が大前提にあると思っています。日本でも最近、上場会社に対してのコーポレートガバナンス・コードが適用されて、そういう議論が入ってきています。公認会計士は会計監査の専門家ではありますが、必ずしも、マネジメントとか、あるいはその中でも経営とか、あるいはガバナンスの専門家ではないということ。そうした人材が皆無とは言いませんが、これだけ組織が大きくなってきていることから、的確に組織の方向性を明確にしなければならない場合には、やはり優秀な司令塔として、経営的な視点あるいは監査、会計の知見以外の必要な視点が求められており、その部分での外部の第三者の目、あるいは、これを市場の目と言うのかもしれませんが、それは導入してしかるべきではないかと思います。
ただ、前回の会議のときにも申し上げましたけれども、ずっとその第三者に頼る必要があるのかどうかという点については、いくばくかの疑念を持っています。ただ、組織というのはじわじわと、いわゆる弥縫的に直すという考え方もありますが、不祥事を引き起こしたような上場会社の流れを見ていても、やはりある程度、ドラスチックに変えなければならないという考えを持っています。今こそ、大なたを振るって変えなければ、日本の監査法人の仕組みは変わらないのではないかという気がしてなりません。そのために、臨時的なガバナンス・コードではありませんが、ある程度、期間を区切って、本当に社会の人々、投資家にとって、やはり見える形で変わったというメッセージが出せるようにするためには、早い段階で強力な第三者の目を入れるという考え方があっても良いのではないかと思っています。ただ、それにずっと頼るというのも、ちょっと力弱い話ですから、徐々に減らしていくことも考えられます。つまり、単に数を規定するというのではなくて、外の目から見て、あるいは投資家の目から見て、納得いく経営ないしは監査行動がとられているかどうかということを常に立証するような対応を講じることが大事ではないかと思います。
ちょっと抽象的ですが、いわゆる一律的に適用が求められる企業のガバナンス・コードの問題とは少し違うのではないかという気がしています。
- 【初川メンバー】
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監査の目的のところの開放的な文化の保持という項目についてですけれども、私はやはり、このコードの議論をするときに、どうしても最終的に品質向上、監査の実効性向上というところに結びつくようなものであってほしいなと。仮に時間がかかるにしても、そういう方向を志向したものであってほしいなというふうに思っているわけですけれども、この開放的な文化の保持、言い方を変えると、異なる意見を尊重する文化といいますか、そういったものは、私は、最終的に監査の品質向上に結びつくと思っております。
それはどういうことかといいますと、やはり監査の品質ということになりますと、現場力、現場の意識というものが非常に大事になってきます。監査法人のマネジメントがリーダーシップを発揮して、いろいろな意見を聞く、そしていろいろな意見を尊重する、こういう文化を醸成できたとするならば、現場の人がいろいろなアイデアを出してくる、いろいろな意見を言うというところから監査の品質というものが一つ定まってくるというふうに思います。
それともう一つ、内部だけではなくて、後ろのほうにあります3.2のステークホルダーとの対話というところにつながるかと思うのです。今、現場の人達と話をしている中で、先ほど監査の品質というのはどういうことかというお話もありましたけれども、的を外さないといいますか、もちろん監査は請負契約じゃないわけでしょうから、委任ということですから、最終的に何か結果を出さなければいけないということではないかもしれませんけれども、やはり結果の出せるような実効性のある監査をやるということが大事です。いろいろなことがあると思いますけれども、まずはどこに監査リスクがあるのか、どこが重要なのかということを把握するというところが非常にポイントになってくるというふうに認識しております。
そういう意味では、監査法人の中だけでそういうものを議論するのではなく、今、進められているとは思いますけれども、監査役、それから社外取締役、業務執行をやっている取締役も含めて、将来的には株主、投資家も含めてということにもなるかもしれませんけれども、そういうステークホルダーと対話をすることが大切です。そういう対話によって監査人にどういうインパクトがあるかというと、やはり深くビジネスの議論をしなければならないといいますか、ビジネスと絡めた監査ということで、監査リスクの識別、それから、それらリスクへの対応、こういったことが、より実効性のあるものになってくると思っています。リーダーシップの発揮、それから、その後ろにあります3.2のステークホルダーとの対話という項目は、ぜひ今回のガバナンス・コード検討過程でしっかりと議論して取り上げていただきたいと思います。
- 【関座長】
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石原さん、どうぞ。
- 【石原メンバー】
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私も、先ほど座長のほうからありました、監査法人の経営ということに関して幾つか意見を申し上げたいと思います。今回の問題に関して言えば、やはり監査法人の経営が不十分であったという議論が有識者懇談会の中であったのかなと感じております。昔、公認会計士は1人で監査を行い、それから5人の法人化、組織監査が進み、そういう中で品質管理の重要性が認識され、組織監査が強化をされるという流れであったと思います。その都度の不正事案を踏まえて、結果的に品質監査が強化され、いろいろなチェック機構は導入されたものの、私には実態は必ずしもわかっていないかもしれませんが、結局のところ監査法人のマネジメントの中で一体どこまでの情報が上がり、どういう判断がなされたのかという点にやはり問題があったのではないかと感じております。それが事実を踏まえたことかどうか自信はありませんが、やはりどこかで判断がとまっていたのではないかといった気がする次第です。
そういった意味で、改めて監査法人の経営を確立するということが今回、ガバナンス・コードを策定する意味であろうと思いますし、当然のことながら、経営という以上はやはりトップのスタンス、これを明示し、また、法人内外でのコミュニケーションをしっかりとる、法人内での風通しをよくしていくということによって、仕組みを超えてきちんと情報や問題点、これが上がってくるということであります。また、法人外とのコミュニケーションに関して、この資料で言えば開放的な文化の保持という点にもかかわってくるかと思いますが、私が冒頭にも申し上げましたけれども、やはりリスク等に関する企業との対話、株主との対話はどうするか難しい部分があろうかと思いますが、少なくとも監査先企業の執行、経営、取締役、監査役と十分に協議していく、そういったオープンなスタンス、これが非常に監査の質の向上につながっていくということですので、この資料に書かれているリーダーシップの発揮、行動規範の策定、コミュニケーションのところはもう少し違う形の書き方があるのかなと思いますけれども、それらの点をしっかりと織り込んでいくということが非常に重要だと考えております。
- 【関根メンバー】
-
ありがとうございます。
先ほど、関座長からご質問のありました1.3から1.5について主に補足をさせていただきます。
1.3の開放的な文化の保持につきましては、先ほども少し申し上げましたが、内外のコミュニケーションについて、外と中のどちらも重要だと思っていますが、分けて考えていくのがよいと思っております。
外のコミュニケーションについては、既にご意見が結構出ていますので、中でのコミュニケーションについて、補足させていただきたいと思います。中でのコミュニケーションにおいて、意見を自由闊達に言う雰囲気ではないというのは、監査法人だけの話ではなく、一般にそのような文化があるのかもしれないのですが、監査法人に関して言いますと、監査業務における守秘義務の問題があるかもしれません。守秘義務があるから必要なコミュニケーションまでしなくてもよいということはないとは思いますが、守秘義務により、どこまで言っていいのかとか、内部でどこまで相談していいのかという、ちょっとした心のブレーキがかかっていることがあるかもしれないと思っています。もちろん、守秘義務はきちんと守らなければいけないのですが、内部でいろいろな意見を言ったり、相談するというのは、守秘義務とは別です。例えば、監査チーム内では、当然、議論するわけで、法人としても、例えば、相談する窓口を設けておりますので、それを自由に十分に使って、適切な者にしっかり相談をしながら行っていく必要があると思います。
と言いますのも、監査の場合、いろいろな作業をしていく中で、気になったことを自分だけで考えていたり、限られた者で考えていると、限られたところばかり見てしまい、適切な判断ができない可能性があるからです。もちろん、実態は、チームが一番よく知っていますが、客観的にいろいろな議論をしていくことによって、よりはっきりしたものが見える場合があります。そのような文化が必要ではないかと思っています。自分自身がしっかり考えた上で相談する文化は、個々の監査業務でもそうですし、また、監査法人全体をも強くするのではないかと思っています。
私は、監査品質の向上のためには、まず現場が強くなっていくこと、しっかりやっていくことが一番重要だと思っております。監査法人のマネジメントや品質管理は、そのためにどうあるべきか考えることが、まず重要であると思っております。そのような意味で、次の1.4のリーダーシップの発揮については、監査は監査法人として行っており、個々の監査業務をチームだけで行っているわけではないということ、しっかりと監査品質を重視する組織であるということを内外にきっちり示していく、そのようなリーダーシップを発揮していくことが重要なのではないかと思っています。抽象的になりますが、1.3の開放性のところの外に対するコミュニケーションでも、この点を十分に議論していく必要があると思っています。
そのような意味では、1.5の行動規範の策定においても、コードが決まったから、行動規範を策定して、それを守らなければいけないというように、何かの「やらされ感」ではなく、自分たちでしっかり守っていくのだというものを示すような形で、自分たちなりの行動規範をつくっていくことが重要であると思っています。
- 【関座長】
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どうぞ。
- 【斎藤メンバー】
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念のためですが、開放性という議論で先ほど来言われている内外の問題は、当然、内も外も、どっちも大事にしてもらわないと困るわけで、それを念のために申し上げたいと思います。
おそらく、対外的な問題は次回にステークホルダーとの対話というところで出てくると思うのですけれども、内部については、個人的な印象ですけれども、特に大きな病院との関係で、どうも監査法人というのがタコつぼだなという感じが否めない。昔、医学部の先生と話をしているときに、「お医者さんの言うことは人によって違うからわからないですね」と言ったら、「治療はアートを含むかもしれないけれども、診断は今やサイエンスだ」と怒られたことがありました。症例の研究では大勢の人を集めて、偉い人も若い人も、かなり自由に議論をする。そういう体制が特に大学病院では確立していると。中には最近のように担当医が勝手な手術をして問題を起こしたケースがありますけれども、基本的には大きな病院は症例の研究、診断で多くの人の知恵を集める体制ができているらしい。それが監査法人ではうまくいかないということだと、なかなか監査のクオリティーを上げるのは難しいし、信頼性を確保するのも難しいと思うので、内部での開放性ということについても相当ウエイトを置いて議論していただきたいと思います。
- 【関座長】
-
時間もだんだんなくなってきたのですけれども、ちょっと私の認識を、これは座長というか個人的な認識だと思っていただいて結構なのですが、今回のこの監査法人ガバナンス改革というのは、私は、組織としての監査法人の構造改革をどうするかという観点だと実は思っております。あまりあからさまにこういうことを議論することは、おそらく関根メンバーや初川メンバーから抵抗があると思うのですが、やはり東芝事案なんかをよく見て考えてみると、先ほどちょっと石原メンバーからもご指摘がありましたけれども、やはり監査法人自身が、八田先生がおっしゃるようにパートナーシップから出発したということもあって、これは監査法人の有力な方から聞いている話なのですが、やっぱり監査法人の中で全部タコつぼになっているというのです。悪い言葉で言えば、ギルド体質だと。そこの所属からメンバーが評価が低ければ、もうどこかの公認会計士として、監査人として生きていくという道は、現実には断たれて、やめるかどうするかというような議論にしかならない。そういう極めて閉鎖的な集団ですから。したがって、コミュニケーションも悪く横にも相談もしないし、上にも伺わないということでやってしまうということなのではないか。いわばタコつぼになっているということだというのです。
どういうふうに今回の検討でここにメスを入れていくかというのが要するに本質論ですよ。もしそれが本当にできれば、今の非常に情けないというか、八田先生からよく聞くのですが、公認会計士の評価というのは年々下がっていっているということではなくて、本当に公認会計士が監査法人を舞台に、どんどん尊敬を受け、活躍されるようになるためにどうしたらいいのかということなんですね。それはやっぱり監査法人そのものを活性化して、構造改革をして、みんなが自由に闊達に働けるような仕組みを入れ込むということなのではないか。これはもう大変な作業です。そのためには、やっぱり強力な監査法人のリーダーシップと、リーダーシップを支える、いわばスタッフのようなものが必要で、ここに書いてあるのはそういう意味なんです。執行機能の強化、執行機能の充実を支えるガバナンス機能の強化と、これを2つ、大きな柱にしているわけですね。目的のところに。それがポイントなんです。
そして、それは、確かに事業会社のような仕組みをそのまま直輸入するということではないけれども、斎藤先生が指摘した病院と比べても、相当劣後しているよというようなご認識があるとすれば、やっぱりある程度、そういうリーダーシップを発揮できるような人をトップに据える必要がある。マネジメント感覚も含めた、優れた人をトップに選んでいくというシステムをどうするのかということであるとか、そういう執行ができれば、執行を支える業務運営管理スタッフのようなものを置いて、そして人事評価制度だとか教育制度だとかきちんと整備して、そして例えば人事教育で言えばローテーションをやるとか、外国に勉強に出すとか、あるいは官公庁に出すとか、いろいろな監査をやるにしても、事業会社と金融会社を1社ずつやらせるとか、非監査業務もやらせるとか、そういうことを、監査法人レベルで組織的にシステムとおしてきちんと打ち込んでいくということが必要なのではないか。
新日本監査法人というのは6,000人いるそうですけれども、6,000人もいて、パートナーが600人だというふうに聞いていますが、それだけの大組織になって、そういう組織的なガバナンスと、ガバナンスを支える機能を強化して、端的に言えば人事評価制度と教育制度ですよ。これを打ち込んでいく。そうすると、がーっと、八田先生がおっしゃるように、監査法人が変革するのではないか。
そういうことであれば、我々は会計の知識は大したことがないけれども、そういう横断的な人事、教育をやるというシステムをどうするかということについては、優秀な人は外部の人でもごまんといますよ。そういう人の知見を入れて、そういう横串を入れて、そして、ここでいう開放的な文化の保持というものをつくっていくんだということなのではないかというのが私の問題意識で、そういうことを金融庁の皆さんとお話して、私は座長を引き受けたのです。
そういうことで、ぜひ、これ、もう最高の優秀なメンバーが集まっていただいているわけで、議論して、全くそのとおりではないにしても、いわゆる事業会社や企業が入れている考え方を少し入れて、3つや4つしかない大監査法人には、そういう運用をやっぱりやるというメスを入れていこうじゃありませんか。今までそういう議論がなさ過ぎました。監査法人間のローテーションだとか、あるいは、試験制度を変えたらどうかとかいうような議論になったのですけれども、やっぱり監査法人の組織のあり方として人事、教育制度をきちんと横で入れて、そして優秀な人たちの集団にしていくということが公益に資するということになるのではないか、こういうことだと思うんですね。
それで、かなり執行機関の強化と、執行機関の充実を支えるガバナンス機能の強化ということでこういう提案をして、一つ一つ潰していっていただこうではないかと、こういうことでこのペーパーはこれはでき上がっているわけですね。
なかなか今日は具体的な議論に入っていけないわけですけれども、そういうふうに私は思っているということについて、皆さんも同じだということだと確信しているのですが、ぜひご意見をいただきたい。議論を活性化するためにわざと言っているのですけれども、よろしくお願いします。
- 【國廣メンバー】
-
よろしいですか。
- 【関座長】
-
はい、どうぞ。
- 【國廣メンバー】
-
今の議論に全く賛成です。ただその問題意識は、やっぱり書くんでしょうね。タコつぼの問題、あるいはチェックリスト的な網羅性という、その問題で構造改革という言葉を今、使われましたけど、そうする目的でこれをやるんだと。大きな目的でね。それがないと、単純に執行を強化するぞとか何とかかんとかというと、また体質が変わらないまま、構造が変わらないままに屋上屋を架して同じことが行われると。
- 【関座長】
-
それはこれに書いてあるとおりなんです。書いたつもりなんですけれども。
- 【國廣メンバー】
-
もっとはっきりと、示唆のレベルを超えて明確な言葉で書いてもいいんじゃないかと。やはり八田委員もおっしゃったように、これは統制環境という問題が非常に大きくかかわる問題なので、形、構造改革というのは統制環境まで変えていくのだというところを極めて強く打ち出すということで、今の座長の考え方をさらに推し進めるということが私はいいのではないかと思います。
- 【八田メンバー】
-
今の関座長のお考えに、私もほぼ賛同であります。問題意識も同じであります。先ほどから申し上げているように、第三者の目を入れるということもドラスチックに適用すべきではないかということは、実は、もうそんなに時間がないですよということを申し上げたいわけです。
私自信の卑近な事例ですけれども、8月にアメリカの学会がありまして、久しぶりに参加して1週間行ってまいりました。会計・監査に関するアメリカの状況も可能ならば知ってみたいというので、何人か知人に会いましたが、その中に経済関係のメディアの方もいまして、話をしました。向こうからも日本の状況等についての質問が出まして、私もアメリカの状況について質問しました。向こうからの質問は、やはり東芝の問題です。あと、もう一つ、例の伊藤忠の空売りの問題がありました。私の方からの質問は、例の2001年のエンロン事件後、ワールドコム事件などがあって、アメリカの制度は劇的に改革され、また、世界にそれが伝播したということがありますが、その後、マーケットを震撼させるような大スキャンダルとか不正はどうなっているのかということを確認しました。そうしましたら、アメリカの場合、確かに不正はゼロではないけれども、特にIPOとか中小の小さい不正はちょこちょこ出ているようですが、エンロンやワールドコムのような大きい不正はないということでした。それは関係当事者も口をそろえて言うように、あのSOX法の下での制度改革はうまく機能しているというのです。翻って日本はどうなのかといった質問を必ず受けるということでした。東芝の問題の前には、オリンパスの問題があったでしょう。その前も幾つかあったでしょうと。これはもう構造的にといいますか、根本的に日本の監査制度、あるいは会計社会に対する信頼感が劣化しているということであり、大変なことなんですよというコメントをもらいました。
私は直接の当事者でないですが、この検討会が始まったときにも申し上げたように、あるいは池田局長と個人的にお話ししたときに、「日本の監査社会は10年変わっていない」ということです。本当にそうなのかということについて私も調べてみましたが、この10年間、確かに、特に監査法人のほうにおいて変わった姿が見えない。したがって、大変厳しい言い方で申し訳ありませんが、やはりここで大きく皮を脱いで、旧弊から脱却して、新生監査法人を日本の社会に構築しないとだめなのではないかとの危惧を抱いています。
となってくると、継ぎはぎ的な議論ではなくて、やはり大なたを振るうような議論があっていいのかなと。一つのプロセスとしては、こういったコードの策定もあるし、そして、それにならった遵守を開示していくことも当然あるでしょう。と同時に、やはり外の目を入れる必要がある。ただ、外の目と言っても、それはパーマネントに受け入れるということでなくても良いのではないかと思っています。先ほど初川メンバーからもありましたが、マネジメントの議論というのは、経営という話になってくるわけですが、実は、先ほどの効率性と効果性の問題もあって、アメリカでも不祥事が起きると必ず議論になるのは、効率性重視に走ったため効果性が軽視されたのではないかということです。あるいは、プロとしての公益を重視したのか、ビジネスとしてのプロフィットを重視したのか。こうした視点は、トレードオフの関係のように議論されていますので、ここのところはしっかりと押さえて議論すべきであり、監査業務については公益、つまりパブリックインタレストを守るということだけは明確にしておく必要があります。こういった基本的視点を前提に持った人が参画をして議論に加わることが大事だということです。したがって、そういうことは前文か何かに、明確に書いてもらいたいと思っています。
以上です。
- 【関座長】
-
引頭さん、いかがですか。
- 【引頭メンバー】
-
ありがとうございます。
先ほど、関座長が整理していただいた内容については、賛同いたします。特に、組織の構造改革をするには、組織としてのミッションといったことをきちんと共有するとともに、人事評価あるいは人事のローテーションといった人事システムも同時に改革していくことがマネジメントにとって大変重要だと思っております。
先ほどの話にもありましたが、監査法人はタコつぼ化しているとのことだったので、各監査人が多様な経験ができるような仕組みを構築していただくような工夫の必要があると思います。評価と仕組みはセットになっていなければ、効果が半減してしまいますので、工夫のしがいがあるのではと思います。そうした中で、これは本日話す話ではないかもしれませんが、先ほどから、コードをポジティブなものにしていかなければいけないという御指摘がございました。ぜひ、これを機会に監査法人のマネジメントの方々に、どういう形でご自身の監査法人の人事評価、教育をしていったらいいのかについて、根底から考え、話し合っていただき、そして最終的にはそれが公益に資するような形になるように、コードができる前ではありますが、今から準備を始めていただければと、思っております。
以上です。
- 【池田総務企画局長】
-
大変多岐にわたるご意見を頂戴して、私ども事務局に対しても大変多くのご注文をいただいたと思っているのですけれども、今日、何点か皆さんのご意見で共通している部分というのがあって、一つは、監査法人における明確なミッションの確立というのがやっぱり大事で、そのときには監査品質の向上のみならず、それによる資本市場の機能発揮、あるいは成長の実現と、そうしたことも視野に入れて、監査法人がどうみずからのミッションを確立していくかというのが一つの大きいポイント。
そういうミッションが確立されていることを前提に、次にそれを実現していくためにリーダーシップの発揮というもの。それから、開放的な文化の保持。それから、プロフェッショナリズムの発揮。単に形式じゃなくて、実質の実力発揮というようなこと。それから、人事・教育制度というような、そういったことは皆さん、共通だったのかなと思うんですね。
我々も一つ一つ、よく理解できることなんですけれど、1点、そこでどう考えたらいいのかと感じるのが、リーダーシップなりマネジメントということと、個々の会計士の先生方のプロフェッショナリズムという、この両方のバランスというものをどう考えるのかと。これは、多分、個々の方のプロフェッショナリズムというものが非常に強調されてきた結果の一つが、今日、大変いろいろな方から指摘されている、内部の開放性みたいなところにつながっている部分もあるのだろうと思うので、その辺はちょっと私どもも直接監査というものをやったことがないので、ぜひ今日、あるいは今後、その両方をどうバランスをとることが最も実質的な意味の実効性のある監査を実現することになるのかということについて、皆さんからさらにご教示いただければなあという思いを持ちました。
- 【関根メンバー】
-
ありがとうございます。
先ほど、監査法人の構造改革という点について、関座長から私の名前を出していただきましたので、若干補足させていただきます。
今、池田局長からお話がありました、バランスの問題は、監査法人という組織が会社と違うというところにも関連し、非常に重要であると思っております。この点は、主に2のところで議論をさせていただきたいと思っておりますが、難しいところです。監査法人として監査を行っていると同時に、個々のパートナーが監査報告書にサインをするということは、全責任を負うということになります。監査報告書にサインをするパートナーと品質管理の責任者の意見が多少相違することは当然あり得るわけです。そこをどのように議論していくか、それをマネジメントとしてどのようにしていくかということは、よく議論をしたいと思っております。先ほど現場を強くするということを申し上げましたが、それは現場だけでやるということではなく、それをどのようにマネジメントしていくかというのが、まさにポイントだと思います。この点について、監査法人は非常に閉鎖的だという意見が出ましたが、各監査法人は、必ずしも全て同じではなく、少しずつ議論をして変えようとしているところもあると思っています。ただ、それが見えていないことが、皆さんの心配にもつながっていると思いますので、そのようなことも含めて次回以降に議論をさせていただければと思っております。
- 【國廣メンバー】
-
1点だけ。プロフェッショナルと今の改革の方向のバランスということですが、僕は対立するものじゃないと思うんですね。先ほどの病院の例で言えば、1年の医師も10年の医師も30年の医師も徹底的に議論をするというところで、プロであればそこで上下の壁はなく、結論を出していくと。だから、2つの対立軸ではなく考える1つのキーワードは「開放性」とか「自由闊達な議論」とかですね。それでやっぱり組織として最終結論を出すというようなところですので、あまりまた、タコつぼに戻らないようなプロフェッショナル性の強調というのが大事かなと思います。
- 【石原メンバー】
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すみません、一言だけ。今のバランスの問題について、次回、関根先生からもお話をお伺いできればと思いますけれども、やはり私の感じとしては、結局、個々の個別の監査判断、これを一体どこで最終的に決定し、責任を負うのかというところに一番ポイントがあるのだろうと思っています。何か起きれば監査法人のレピュテーション全てに影響しますから、監査法人全体の問題になることは明らかなのですけれども、実際には、その個別判断はマネジメントまで行っていたのかどうかです。そして、今後に向けてはその点、もちろん重要性に基づくのは当然のことですが、重要な判断についてどのレベルまで上げてどこで誰が最終判断をし、責任を持つのかという点について、どうするのが良いのかは正直わかりませんけれども、きっちりと議論をすることが必要だろうと考えております。
- 【関座長】
-
それでは、時間も参りましたので、大変今日は皆さんから貴重な議論をいただいたと思っております。
今、池田局長からご指摘のあったプロフェッショナルと全体のマネジメントをどういうふうに調和させていくかというようなことを中心に次回は、今日は3まで行かなくて、2あたりから少し詰めた議論をさせていただきたいと思っております。ひとつ今後ともよろしくお願いいたします。
今日はこれで終わります。ありがとうございました。
事務局のほうから。
- 【原田開示業務室長】
-
結構です。
- 【関座長】
-
いいですか。
それでは、これで終わります。ありがとうございました。
―― 了 ――