「インパクト投資等に関する検討会」(第2回)議事録

1.日時: 令和4年11月11日(金曜日)14時00分~16時00分

【西田サステナブルファイナンス推進室長】  インパクト投資等に関する検討会、第2回を開催させていただきます。御多忙のところ、御参集いただきまして誠にありがとうございました。
 
 柳川先生が今日途中から御参加されるという予定になっておりますので、前回所用により御欠席となっておりましたけれども、副座長を務めていただいております、サステナブルファイナンス有識者会議の座長もお務めいただいております水口先生に、今日、司会進行をお願いしております。
 
 初めに留意事項としまして、御発言しない間は必ずミュート設定にしていただきまして、御発言をされる際にはミュートを解除していただいて、終わりましたらまたミュートにということでお願いいたします。
 
 前回は総論ということで様々な御議論をいただいたわけなんですけれども、実態についてどのようなことが行われているかについて様々な概念があるということで、収益性との兼ね合いもそうですし、それから、手法においても、またエクイティーとかローンとかいろんな分野、金融の分野についても様々なものがあるということで、この全体像をよく捉えていくことが必要ではないかというようなお話をいただいたと思います。
 
 今日は野村證券さんと生命保険協会さんから前半にお話をいただいて、ここで一旦区切らせていただきまして、質疑応答をさせていただく。その上で、ジェネシア・ベンチャーズさん、それから新生企業投資さんからお話をいただくということで、お二方にまずお話をいただいて質疑応答、それから、お二方にお話をいただいて質疑応答ということで考えてございます。
 
 野村證券さんに入ります前に、水口先生から突然で恐縮ですけれども、一言いただければ幸いです。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。皆様、こんにちは。
 
 前回は所用で欠席をさせていただきまして、大変失礼いたしました。それでは、第2回のインパクト投資等に関する検討会ということで、今ありましたように柳川先生が今日遅れて入られるということですので、私のほうで司会をさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。このまま進めてよろしいですかね。
 
【西田サステナブルファイナンス推進室長】  お願いします。
 
【水口副座長】  今御説明いただきましたように、本日は4名の方に御準備をいただいておりますので、前半で野村證券さんと生命保険協会さんから、それぞれ15分ぐらいずつお話をいただいて一旦質疑応答、そして、後半ではジェネシア・ベンチャーズさんと新生企業投資さんに15分ずつお話をいただきまして、また、質疑応答という形で進めていきたいと思います。
 
 それでは最初に、野村證券の太田様、15分ぐらいでプレゼンテーションをいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【太田メンバー】  ありがとうございます。野村證券の太田です。本日は私どもの取組を共有できる機会をいただき、誠にありがとうございます。
 
 今日お話しさせていただくのは、社会的インパクトの可視化への試みということなんですが、次のページをお願いします。こちらは10月の中旬に3日間かけて、弊社の事業会社のお客様向けのセミナーを開催して、そちらに上場企業300社から500名ほど御参加いただいたんですけれども、今、ちょうどこの写っていますけど、東証プライム上場企業の45%がPBR1倍割れしていると。この事態を解消すべく、企業が抱えている課題に対して11本のソリューションを3日間で御紹介させていただきました。今日紹介するものは、その中の1本です。45分やったものをちょっと15分にダイエットして、御紹介させていただきます。
 
 そのセッションの言いたいことはここなんですけど、非財務情報が持つ潜在価値が見える化できていないから、うまく投資家に伝えられていなくてPBRはこんなに低い状況になっているんだということです。
 
 これ以外にもGHG排出量の削減とか、あと人的資本の可視化とか、あとESG評価全般にわたる定量分析など、残り10本ぐらいいろいろありましたけど、今日はこのインパクト投資について説明したいと思います。
 
 次のページです。インパクトは第3の軸です。ただ、これはネガティブとポジティブと両方ありまして、インパクト投資の場合はポジティブのインパクト、こちらの最大化を目指すと。一方、大分普及してきているESG投資については反対のネガティブ・インパクト、ここを抑えるのが目的ではないかと。
 
 ESG投資におけるネガティブ・インパクトを定量的に見たのが次の3ページになります。これはいわゆるESG評価データ提供機関さんが実際に売り出しているESG開示情報が集計できるもので446項目あるんですけれども、それと株価との関係を見たところ、実は統計的な優位性が確認できるのは26項目でしたという結果です。
 
 これは毎月更新していまして、過去2年間にわたって毎月出しているんですけど、大体26から23項目ぐらいが統計的に有意です。この中身もほとんど変わらないです。これを見ると分かるように、係数がみんなマイナスでして、例えば一番上のこのCO2排出量が多いビジネスからの収益割合を減らすと株価は上がりますよということで、それぞれのこのネガティブなインパクトを抑えることによって、株価にはプラスの効果があるということが分かります。特にEとかSですね、そろってマイナスなので、やはりESG評価の視点というのはこのネガティブ・インパクトを抑えるものなのかなということが、過去2年にわたる定量分析からは言えるという結果になっています。
 
 次、4ページです。これはちょっと視点を変えまして、うちはCrunchbaseというスタートアップ投資のデータベース使っているんですが、そこの中で投資額割合が増えているトレンドのキーワードを抽出したものです。左がグローバル、右が日本で、かなり違う傾向が確認できます。
 
 このスタートアップ投資額が増えているということは中長期的に成長性が見込まれているから投資家が投資するだろうという仮説の下でピックアップしているんですが、グローバルの分析結果では社会性が軸になっていて、まさに今のサステナブルファイナンスの流れそのものだと思います。
 
 ところが日本を見ると極めて個社の専門性が全面的に出ておりまして、例えばAIとかアルゴリズムといったキーワードは、いわゆる業務効率化の視点で、これではどのような社会に貢献していくのかという視点が見えてこない。日本の市場はかなりドメスティックな側面が強い、その結果、海外投資家にもなかなか目を向けてもらえないんじゃないかと考えました。これがIPOの値づけの難しいところなのかなということで、こういう実態がインパクト投資発展の足かせにもなる可能性があると考えております。
 
 次の5ページは参考ですが、これはグローバルなんですけど、ちなみにグローバルでAIが増えてきたのはもう8年ぐらい前の話でして、直近増えているのはこの右側に赤い文字で書いてありますが、電動化とか燃料電池、バイオ燃料、こういうところが注目される分野なのかなという結果です。
 
 次、6ページはここまでのまとめですが、どうも日本市場ではこの社会性を伴ったIPO銘柄が不足している可能性が高いと。上場企業に至っては非財務情報の開示が未熟だからPBR1倍割れが45%だと。いずれにしても日本企業に関するインパクト部分の可視化はとても難しいということです。
 
 でも、この先このインパクトに関する情報開示が進んで、仮にこの価値が潜在化されると海外から例えばリスクマネーが集まるでしょうし、集まれば社会的インパクトを持つスタートアップ企業の育成にもつながるし、特に日本が得意とするディープテック系のスタートアップのIPOウィンドウが広がるということが期待できます。こういうエコシステムの構築が日本にとってはとても必要ではないかと考えております。
 
 では、この潜在価値の可視化ということですが、今回、潜在価値をこの図のように定義しました。アプローチとしてはトップダウンアプローチを取っております。この青いところと緑のところです。これはいわゆる開示情報から推計できる財務指標、財務情報の部分になるんですけれども、これと今ついている時価総額、これの差の部分を潜在価値と定義しています。この潜在価値が大きいということは中長期の成長性がきっと期待されていて、ここには恐らく社会的インパクトが含まれるに違いないと考えました。
 
 では、次のページで実際にモデルを共有いたしますが、今回、実は日本企業ではなくて、米国の上場企業を対象に分析しています。6月30日時点で、時価総額1億ドル以上の米国上場企業2,374社が対象です。これでPSRを推計するモデルを作りました。その実際のPSRとモデルが推計したPSRの差を潜在価値という形で、こういうふうにプロットしていくと、モデルの説明力は45%ということで、こういう株価モデルにしてはかなり高い結果になっているなとかなり驚きました。このモデルを使って、この赤い点は米国に上場しているいわゆるPublic Benefit Corporationsになります。今回は、金融以外の10社をプロットしています。
 
 ここから2社を例に結果を分析していきたいと思いますが、まず、9ページです。こちらはApp Harvestという会社の結果です。これはほとんどが開示されている財務情報で株価が説明できるパターンです。この赤いところが短期の成長性で、ここが一番高く立っていますので、短期的な成長性を評価した上で株価がついているということになります。潜在価値はほとんどないパターンです。
 
 一方、次の10ページが潜在価値の大きいパターンでして、Veeva Systemsという会社になります。SaaSの企業です。これは開示されている財務情報からではほとんど株価は説明できないんですけれども、実はここの大きな赤い棒で表されている潜在価値というものが評価されて今の時価総額になっているという結果になりました。要するにこの赤いところが、いわゆる非財務の価値なんじゃないかということで、これが実際のその中長期の成長性を表しているのかということを次の11ページで実証します。
 
 これは2010年時点の潜在価値を横軸にプロットして、それから12年後の売上高成長率を縦軸で事後評価してみたものですが、見て分かるように、潜在価値が大きいほどその後実現した成長率が高いという結果になりました。t値も7.5でかなり高めに出ていますので、統計的な優位性を持ってこの潜在価値が大きいと、その後の長期的な成長性も高いということが米国企業においては言えたということです。
 
 さらにもうちょっと深掘りして12ページでは、今12年でやったんですけれど、これを1年から徐々に伸ばしていくとどうなるのかということを試しにやってみました。そうすると大体10年先ぐらいでかなり強い関係性が見えてきていることが確認できます。つまり10年ぐらいについて、自社の社会的なインパクトについて企業は語らないと、株価、投資家にもしっかりと評価してもらえないんじゃないかということが言えましたというのが今回の結果になっております。
 
 13ページは参考です。こちらもグローバルな企業を対象にやった参考資料なんですけれども、これは社会的効果と経済的価値が両立できそうな分野ってどこだろうと、今旬なのはどの辺なんだろうというのを見るため分析の一つの例です。
 
 今回このrenewable energyというところに関連する事業を持った企業をピックアップして、そこの潜在価値と短期成長率で各関連分野をプロットした結果になります。裏側では結構、企業説明文をベクトルで数値化して類似度の高い順に並べるとか、マニアックなことをしているんですが、それはさておき、一応この黄色いところと赤いところ、ここが恐らく社会的効果と経済的価値が両立できそうな分野だろうと確認できたというような内容になっています。これは一つの例です。
 
 14ページは今取り組んでいることです。まず、今のPSRモデルを今度日本の上場企業でやったらどうなるのか試しています。ほぼ確実に言えることは、米国企業ほど高い説明力は出てこなさそうと私は聞いています。結果が出てきたらここで共有したら面白いかなとは思いますが、そんなような状況みたいです。
 
 それから2つ目は、インパクトの源泉となるイノベーション価値の推計に取り組んでいます。これはイノベーションが伴わないとインパクト企業ではないということで、そもそもイノベーションの価値を推計したらどうなんだろうという発想で、特許とか研究者DBを使ってやっています。
 
 それから3つ目、クライメートトランジション等、上場企業がビジネスモデルを転換していく際に発生するインパクトを企業価値ベースで推計していくことに取り組んでいます。セミナーでは、この産業別のGHG排出量ベンチマークと、あと脱炭素ROICなどを使って、脱炭素というビジネスモデルの転換における企業価値評価フレームワークを完成させて発表しました。
 
 というのはGHG回りは数値が沢山開示されていて、定量分析はとてもやりやすいところなんですけど、一方、人的資本とか結構「S」に関するところは開示が不十分で定量分析が難しいので、GHG同様にしっかり企業価値に結びつけていけるような試みができないかなと試行錯誤しているところになります。
 
 それから15ページです。これは対上場企業向けのセミナーだったので、インパクトを起点に上場企業へのメッセージという形で、何枚かスライドを紹介したんですが、今日2枚ほど御紹介します。一つは冒頭申し上げたように、経営者は経営戦略の中で、社会的インパクトがどのように成長ストーリーにつながるかを説明することが重要と。そして2つ目は、社会的インパクトの中身について可視化して、エンゲージメントを進めていくことで、戦略に対する確度が高まり、株価にも反映されるということです。具体的にどういうふうにやるのかということですと、例えば1つ目だと16ページです。これは経団連さんによるパーパス経営のインパクト指標になります。起点は技術で、技術が新しいサービスを生んで、その結果、様々な社会的なインパクトが発生していくことで、それはパーパス経営につながるんですよと、これをしっかりとエンゲージメントを通して投資家との対話に使ってくださいというような内容だったと理解しています。しかし問題はインパクトがどうしても社会的価値・企業価値になかなかつながりにくいというところです。なので、この流れをしっかりと経団連さんに普及していただけると、このインパクト部分の指標も出てきて、我々も定量分析しやすくなって、やがてこの価値へのつなぎもスムーズにいくかと考えています。ぜひこれを企業に広めていただいて、ここのインパクトの可視化をやっていきたいなと考えていますので、よろしくお願いします。これはいわゆるボトムアップアプローチになるかと思うんですけど、現状だとどうしても株価から始まるトップダウンアプローチになってしまうので、やっぱりインパクトに関する開示の充実が必要だなとつくづく思っている次第です。
 
 それからもう一つ17ページ、これは有名な柳モデルになります。エーザイの元CFO、柳さんがおつくりになられたモデルで、このモデル自体は学術的にはいろいろと不思議な点がありまして、課題もあると思うんですけど、これは今まさに投下している人的資本やR&Dが何年後にどれぐらいの価値創造につながるかを極めて分かりやすく可視化して、それをしかもエンゲージメントに活用していて、評価を得ているという点ではすばらしいなと思っています。
 
 なので、社会的課題の解決の取組も、これが正しいかどうか分かりませんが、こういうふうに可視化して、最終的には、こちらPBRモデルになっていますけど、価値創造につなげていくことができれば、より最終的にはそのPBRが上がるようなところにもつながっていくんじゃないかなと考えているので、これを可視化の例として御紹介させていただきました。
 
 最後、18ページです。私どもの立場ですと、ここのメッセージとして書いてありますが、このIPO前後で市場の分断を生み出さない取組が重要だと考えています。特にIPO前においてはまず可視化が重要です。多分今日も御説明があると思いますが、ロジックモデル、これをしっかりとベンチャー企業やスタートアップ企業に構築していただいてインパクトの可視化が進めば、ボトムアップでしっかりと価値評価につなげるようなロジックはできると私は考えております。そうするとこのIPOバリュエーションにもしっかりとつながって、より日本のスタートアップ企業の育成、それから、資金調達にもつながるんじゃないかと考えています。
 
 IPO後については、もう先ほどから申し上げているとおり、投資家としっかり対話していく、より長期の視点でインパクトと非財務情報を開示しながら、可視化できる状況でやっていくのが一番だと考えています。
 
 以上になります。ありがとうございました。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。インパクトの可視化が企業価値、PBR向上等につながっていくという御研究のお話と理解いたしました。いろいろ御質問等あろうかと思いますが、まず、もうお一方お話を伺ってから、まとめて質疑応答の時間にしたいと思います。
 
 それでは、日本生命の栗栖様ということですかね、よろしくお願いをいたします。
 
【生命保険協会】  よろしくお願いします。日本生命でESG投資全般の企画推進担当しております栗栖と申します。今回事務局より御指名いただきまして、オブザーバーとして生命保険協会、参加しております。
 
 その代表としては、本日は日本生命より生命保険会社の取組について御紹介させていただきたいと思っております。説明、全部で15分ほど予定しています。
 
 構成としては、協会の取組を御紹介し、最近の潮流について触れた上で、日本生命、他生保の具体取組を御紹介した上で、最後に少し検討における視点について、オブザーバーからの視点ですけど、3点ほど述べさせていただきたいと思います。
 
 早速、1ページ目でございますけれども、生命保険業界としてのサステナブルファイナンスに関する取組について紹介しております。生命保険協会では、古くは1974年より株式市場の活性化に向けまして、企業、投資家へのアンケートに基づく提言というものを行ってまいりました。2017年度からは協働エンゲージメントを開始するなど、協会全体の資産運用の取組をレベルアップする取組を進めています。今年度については、気候変動への対応や人的資本といった環境社会をテーマとした勉強会開催などを通じまして、会員各社における活動の深化、高度化への取組を実施しているということでございます。
 
 下段右下にございますように、2018年度よりESG投融資推進ワーキンググループを設置いたしまして、現在、協会に加盟する42社のうち約半分の20社が参加するワーキンググループとして活動を行っております。
 
 2ページを御覧ください。ここでは、今回の検討会との関連が深いこのESG投融資推進ワーキンググループの活動について触れさせていただいております。
 
 ワーキンググループでは、年に一度発行している生命保険協会としての提言レポートの作成に向けたディスカッションのほか、外部から講師をお呼びして勉強会を開催するなどして、参加各社のレベルアップを目指しているというところでございます。
 
 設置当初はESG投資全般及び気候変動に関するテーマがメインでございましたけれども、インパクト投資やそういったESG投融資全般に関わるトピックの一つとして触れる程度ということでした。ただ、2020年度から勉強会の個別テーマとして取り上げるなどして、インパクト投資の位置づけは年々重要になってきていると感じております。
 
 次の3ページを御覧ください。ここからは少し私が認識している最近の潮流について述べさせていただきます。
 
 インパクト投資は、アウトカムやインパクトを重視する流れを受けて拡大してきましたけれども、言葉の定義が幾つか存在しているかと思っています。ここではインパクトを実現する上でのアウトカム創出についてイメージを掲載しております。インパクトの特定に当たりましては、投資によって生み出そうとするポジティブなインパクトと緩和、管理すべきネガティブなインパクトの両面をネットして、評価・計測していく必要があると思います。
 
 その前段階として、投資先が創出したアウトプットとそれに基づくアウトカムも評価・計測していくということになりますけれども、それらのアウトカムがどのようにインパクトにつながっていくのか、また、結果としてインパクトがどの程度なのかという点については、まだまだ知見・ノウハウの蓄積が必要だと感じております。
 
 重要なポイント、定義といたしまして、インパクト投資においては下段の記載のとおり、①財務リターンの獲得、②環境・社会面のインパクトを創出する「意図」の存在、③インパクトの計測・報告といった要素を備えているということだと思います。こうした要素を備えているものとして、インパクト投資におきましてはインパクトの計測・管理を前提とした、例えば未上場株式、ファンド、あと特定のテーマに使途が限定された債券などが中心に対象として広がって、足元では、上場株式にも広がりを見せているというような認識でおります。
 
 続いて、4ページをください。それらインパクト投資も包含しつつ、より広い概念としてサステナブル・インパクトを志向する投融資、Investing for sustainable impactと、IFSI(イフシ)と言われる考え方がございます。こうしたサステナブル・インパクトを志向する投融資について、まだ日本語で定訳はないとは思いますので、ここではインパクト投資とちょっと使い分ける、言い分けるために暫定的に「インパクト志向の投融資」と呼ばせていただきます。
 
 2021年7月に公表されたPRIやUNEPFIなどが取りまとめた報告書では、インパクト志向の投融資をIFSIと表現して、機関投資家が取り得る方策を資金提供に限らず、協働エンゲージメントや政府政策への働きかけなども含めて幅広く捉えるということを言っております。
 
 さらに、その点線で区切りを入れておりますとおり、インパクト志向の投融資をインパクトの目標に対する「意図」の度合いで見て、リターン向上の手段としているのか、インパクト実現そのものを目的としているのかで2種類に区分しているということでございます。
 
 重要なのはインパクト志向の投融資は、特定の資産クラスの投融資にフォーカスするなどの特定の枠内の資金を使ってのインパクト創出を狙っていくこととは異なって、ポートフォリオ全体の運用戦略のコアストラテジーとしてサステナブル・インパクトの創出を志向する、より広い概念であるということでございます。
 
 5ページ、お進みください。ここでは、NZAOA、これはちょっとスライド中に注釈をつけていなくて恐縮なんですけども、Net Zero Asset Owner Allianceの略です。グローバルな機関投資家によるNet Zero Allianceについてちょっと言及させていただいております。先ほどのIFSIの解釈に従えば、例えば弊社を含めまして生保大手4社がESG投融資においてNet Zero Asset Owner Allianceに加盟しておりまして、GHG排出量を削減することを企図して、資金提供だけでなく、協働エンゲージメントやポリシーエンゲージメントなどを通じて、投融資先、さらに関連する第三者に働きかけを行うことで、持続可能な社会実現に向けてポジティブ・インパクトや、運用収益の向上を目指すことはインパクト志向の投融資に該当すると考えております。
 
 全体の潮流といたしまして、やはり特定の枠内で個々のプロジェクトベースや、資金使途ベースでインパクト創出を目指すインパクト投資というものがございますけれども、同じくインパクト創出を志向しているものとして、ポートフォリオ全体で、より幅広い捉え方をしているIFSI、インパクト志向の投融資という考え方も出てきているということであると思います。インパクト志向の投融資における生命保険会社の取組という意味では、まさにこのページをお示ししているNZAOA、Net Zero Asset Owner Allianceを通じた活動が最も分かりやすい事例と思っています。
 
 次ページ以降は、特定の枠内でインパクト創出にフォーカスしてきた取組についても、生保各社で取り組んでいますので、そちらの事例も少し紹介いたします。
 
 6ページ、御覧ください。まずは日本生命のESG投資に対する考え方でございます。中長期的な観点から投融資先の持続的成長を支えるESG投融資、これはまさに当社が創業以来重視しています収益性、安全性、公共性のバランスに配慮した、中長期の投融資方針と基本的に同じ考えに立ったものだと考えています。
 
 取組の主軸になっているのは左上の図にありますように、インテグレーションとエンゲージメント、それらを両輪として投融資先の企業のESG取組を後押ししているということでございます。
 
 本検討会の主題であるインパクト投資につきましては、インパクトの要素を踏まえてSDGsに貢献する投融資を行うという観点で、テーマ投融資の中での枠内の取組の一つとして、足元では取り組んでいるという状況でございます。
 
 こうした考え方の下で資金提供と企業への働きかけを通じて、投融資先のESG取組を後押しすることで、持続可能な社会の実現、運用収益の安定確保を目指しているということでございます。
 
 7ページを御覧ください。日本生命では、2020年からファンドを通じたインパクト投資に取り組んでおりまして、お示ししているのは健康・医療領域での社会的インパクト創出を志向する企業に投資するファンドということです。こうしたファンド単位でのアウトカムの開示を進めまして、インパクトの計測・管理のノウハウ蓄積に取り組んでいるという状況でございます。
 
 8ページ、御覧ください。ほかにも例えば第1回の事務局資料でも紹介されておりましたが、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を組み込んだファンドにも弊社、投資を行っております。SIBの特徴は、ファンドの成果報酬が、行政が抱える課題解決に資するようなアウトプット、アウトカムに連動しているという仕組みで、その仕組み上、インパクト志向が組み込まれているというものでございます。SIBの市場規模自体まだまだ小さいですけども、弊社のESG投融資の幅を広げる観点から挑戦した事例ということになります。
 
 9ページです。こちらのほうは事務局資料の再掲でございますので、前回の10ページ、御覧いただければと思います。
 
 10ページ進んでください。時間の関係もありますので、詳細な説明は割愛いたしますけれども、10ページ目以降は弊社以外の個社事例を掲載しております。まず、第一生命は、生命保険会社の中では比較的早期にインパクト投資に取り組んでおり、図の記載のとおり、テーマ投融資の内枠として広義のインパクト投資、狭義のインパクト投資といった形で、インパクト投資を定義づけ、取り組んでいるという状況です。
 
 続いて、1ページ飛んで12ページまでお進みください。一番下段に投資によるポジティブ・インパクトという記載がございます。計測可能なものを集計し、テーマ投融資全体でのインパクトの開示を実施するなどの取組も進めているという点が特徴的でございます。
 
 13ページ目は、明治安田生命の取組です。特徴的なのはSDGインパクトジャパン社との資本・業務提携をした上で、SFDRの9条に準拠したファンドへの投資に取り組んでいる点でございます。
 
 そして1ページ飛びまして、15ページ目、御覧ください。個社の事例としては最後ですけれども、住友生命の取組でございます。
 
 住友生命では、2022年度からインパクト投資を本格的に開始していますが、次のページにも事例を記載しているとおり、それ以前からもインパクト投資に該当するような案件にも取り組んでおります。
 
 続いて17ページ、次のページに進んでいただきまして、下段の右側にテーマ投資の定量的インパクト計測という記載がございます。住友生命様も、第一生命様と同様、定量的なインパクト計測の結果を開示するなど、それぞれ生保各社でインパクト投資に取り組んでいるという状況でございます。
 
 続いて18ページを御覧ください。最近の潮流や各社の取組を踏まえまして、インパクト関連投資の整理についてお示ししています。インパクト投資という言葉で定義されるものは従来どおり、特定の枠内での取組にフォーカスするものとして拡大をしていくと、今後も拡大をしていくと思います。
 
 一方、重要なのは、特定の枠内での取組に限定せず、資産横断的にサステナブル・インパクトの創出を志向する流れがあるということでございます。繰り返しになりますけれども、NZAOAなどのイニシアティブに加盟して、財務リターンの追求とともに、協働で社会的インパクトの目標を持って、資金提供や企業、あるいは政府で働きかけを行う活動についても広義にはこうした流れに該当すると思っております。
 
 したがって、グローバルな潮流も踏まえますと、今後は、インパクト創出を志向する幅広い捉え方を検討していくことが重要だと考えております。
 
 19ページ、最後のページでございますけれども、今後の検討の視点として3点ほど言及させていただきます。1つ目は、インパクトの測定と管理に取り組む意義の整理ということでございます。
 
 財務リターンの実現のために、ESG要素が重大な影響を及ぼすと結論づけた場合、その影響がどの程度かというのを検証するためにインパクトの計測と管理が必要になると考えています。また、ポジティブなインパクトを高め、ネガティブなインパクトを軽減する行動も検討する必要があると考えております。こうして、インパクトを適切に測定・管理し、開示することが、逆にESGウォッシュというそしりを受けないためにも重要になってきていると考えております。
 
 続いて2つ目ですけれども、インパクト投資に関する整理、フレームワークの必要性です。足元、大手生保各社でもどういった形でサステナブル・インパクトを計測して、管理して、開示すべきか。用語、指標の整理も含めて、独自に考え、取組を進めているという状況です。
 
 インパクト投資はGIINさんとかが整理している定義などありますけれども、実態として様々な考え方、解釈が存在する領域であるため、当検討会を通じて、共通の言語、共通のフレームワーク、インパクトの計測・管理の手法なども含めてということですけども、それをまとめることで、より多くの金融機関が参画しやすくなり、様々な類型・様々な資産クラスでのインパクト投資を推進できるのではないかと考えております。
 
 そして3つ目ですけれども、インパクト投資にとどまらないインパクト志向の投融資としてのより広範な概念での取組推進ということでございます。
 
 投資家のポートフォリオの特定の枠内でのインパクト投資の取組にとどまらず、資産横断で幅広い取組を「インパクト志向の投融資」として浸透させ、サステナブル・インパクトの創出を図っていく、狙っていくということが重要だと思います。
 
 また、投資家により取組状況は様々でございますので、段階に応じてベストプラクティスを体系化し、取組の裾野を拡大していくことも重要であると考えております。
 
 私からの御説明は以上となります。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。IFSIをインパクト志向の投融資と訳していただきました。ちょうどインパクト志向金融宣言という動きもありますので、何だかインパクト全体、全体としてインパクトを志向していくという点で関係しているのかなという感じがいたしました。
 
 それでは、今から15時までをめどに、お二人のお話について質疑応答したいと思います。太田様、栗栖様、どうもありがとうございました。
 
 それでは御意見、御質問、あるいはコメント等あられる方は、挙手ボタンを押すか直接声を上げていただければと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。できれば声を上げていただくとありがたいです。画面で全員見えないものですから。正木様から今お手が挙がっていますかね。経団連の正木さん、お願いいたします。
 
【正木メンバー】  ありがとうございます。経団連、正木です。お二人とも、非常に興味深い内容でございました。お二人共通で2つ質問があります。
 
 一つは、最初の太田さんの資料にもいろんな投資家の方が興味持っていらっしゃるキーワード等を挙げていただいていましたけども、昨今言われている人的投資、これの開示に価値があると思うかどうかというのをちょっと伺ってみたい。例えば中途採用比率とかというのを菅政権のときに出しましょうということになりましたが、これは新卒が辞めてばっかりでブラックな職場だと高まる数値なのですよね。だけど、ダイバーシティーを高めるためにいろんなバックグラウンドの人を入れているとか、この分野に新しく乗り出すのでこの分野の人を採用しましたという理由で、中途採用比率が高まるということだと、数値が高まることをポジティブに評価できる。単純に数値だけ出ていても評価が難しい、そのストーリーの説明がついて初めて価値を持つ数値になる、あるいは目標として、KPIとして意義が生じる。そういうものだと思いますが、どういうふうに活用されているか。あるいはそもそも人的投資とかというのは政府が言っているだけで、投資家としては、関心はないと思っているのかということを伺いたいと思います。
 
 それから、二つ目の質問です。太田さんの18ページの資料でも、上場会社になった後も長期的な視点で対話を進めると書いていただいてありがとうございます。そのとおり、ぜひお願いしたいのですが、昨日も別の場で、ESG評価機関、データ提供機関と対話が成り立つだろうかという話をしていました。ほかにも議決権行使助言会社とか、現実にはなかなか対話というのがうまくいくのだろうかというところを課題だと捉えています。証券会社さんとしてセミナーなどもやられながら、投資家と企業との対話をうまくつなぐことができるように何かお願いできるところがあるのだろうかということをお伺いしたい。栗栖さんには、インパクト投資がもともとの資金の出し手である生命保険の加入者の方にとって、中長期にもうかるものだとか社会的に意義があるものだとか言っていただき、それを訴えると生命保険が売れるという形になると、かなりいいことになりますね。
 
 皆さんからお預かりしたお金をこういうもので運用していきます、こういうインパクトがありますという、訴求の仕方で生命保険商品の販売をやっているのかどうか、そこら辺もしコメントあればお願いします。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。お答えいただく前に金井さんからもお手が挙がっていますので、金井さんから発言いただいて、まとめてお二人からお答えいただきたいと思います。金井さん、お願いします。
 
【金井メンバー】  ありがとうございます。三井住友信託の金井です。今日はお二人からのすばらしいプレゼンテーション、ありがとうございました。
 
 太田さんのほうに2つ、1つは質問で1つはコメントがあります。まず質問のほうです。ESGがリスク管理的な側面を持つというのは、これはもう実践面でも納得感がある考え方で、そうだなと思いました。
 
 ただ一方で、インパクトがこの社会性を持つものだと考えた場合に、社会性を持ったポジティブ・インパクトというのは確かにあって、これが将来のキャッシュフローにも影響することも確かだと思いますが、ESGの短中期的なリスク管理的側面ではなく、長期的なネガティブ・インパクト、つまり社会に対して悪い影響を与えるという意味での社会性を持ったネガティブ・インパクトがどのように分類されるのかなと思いました。
 
 UNEPFIのインパクト金融原則やIFCのインパクト投資原則もそうですけれども、ネガティブ・インパクトの抑制をインパクトファイナンスの条件にしており、ちょっと気になりました。
 
 もう一点はコメントですが、企業がポジティブ・インパクトを創出した場合に、企業価値にどうつながるかロジックを整理することが難しいという趣旨のお話をされていて、全くそのとおりだなと思います。当社でもこの点を経営レベルでどう整理すべきか研究しており、IIRCの価値創造プロセスに少しヒントがあるのかなと思っていたので、その考えを披露させていただきますと、IIRCの価値創造プロセスは、いわゆるオクトパスモデルと言われていますが、左右に資本が列挙されていて資本から資本につながる一連の流れがビジュアルに示されています。しかし、左側の資本と右側の資本は意味が違い、右側の資本は社会を構成する資本、左側は自社が依拠する資本で、右側の社会に賦存する資本の一部を企業は切り取って経営基盤として自社のために使う構図を示したモデルだと整理しています。左側の資本の強化が企業価値の強化につながるので、社会に賦存する資本が増強されれば自社の取り分も増え、経営基盤が強化されて企業価値の拡大に繋がります。つまり資本は循環し、社会性を持ったポジティブ・インパクトの創出は自社のためでもあるということになります。
 
 例えば自然資本は資源と言っても良いと思いますが、社会に賦存する資源がなくなれば、当然自社が使う資源もなくなるので、自然資本は拡大させていきましょうという話になります。人的資本についても、よく言われているように、社会的な価値をつくる良い企業であることが知れ渡ってその会社の魅力度が増し、学生とか中途採用者を惹きつけ人的資本の強化に繋がります。逆にそれをしない会社に人は集まりません。これがオクトパスモデルの図で資本が循環している意味ではないかなと思っています。
 
 柳モデルは確かに資本を介在させているので考え方は近いのですが、もう一枚、社会に賦存している資本という概念を入れ込むことで、社会的インパクトの創出と企業価値の向上を両立させるロジックが完成すると思っていて、当社の考えていることを少し御披露させていただきました。ありがとうございます。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。高塚様からもお手が挙がっていますが、ちょっと一旦ここでお二人からコメントいただいてから、また、高塚様にお願いしたいと思います。
 
 では、太田様、栗栖様の順番でお答えなり、コメントなりいただければと思いますが、太田さんはいかがでしょうか。
 
【太田メンバー】  ありがとうございます。ちょっと今1点だけ、資料を共有させていただきました。最初の人的資本のところです。こちらは今回資料からカットしたセミナーでは扱った資料なんですけれども、おっしゃるとおりで、ただ開示すればいいということではないです。この人的資源開発スコアを見ると、これやっぱり全部マイナス方向に立っていまして、ROE、ROICに至っても全然価値創造につながっていないので、短期的には明らかにコスト扱いになってしまいます。ですから、おっしゃるとおり価値創造につなげたいと、株価を上げたい、そこに行き着くためにはしっかりとしたエンゲージメント、説明が必要だということになります。
 
 当社としては、今はISO30414をベースに今いろんな人的資本指標が実際に企業価値、PBRと関係があるのかという分析を進めていまして、その中でどういう指標を本当に積極的に開示していくと長期的な株価向上、価値向上につながるのかを調べているところですので、形が見えてくると、こういう指標についてしっかり開示していくと有効ですよというようなことが言えるんじゃないかなと期待しております。
 
 あと2つ目のエンゲージメントについては、やはり共通の物差しでしっかり対話していくことが重要だと考えています。例えばこちらは生保協会様のアンケート結果ですが、投資家が重視している非財務指標に対して、企業はいまだにこういう財務指標について語りたがっているということがわかります。やっぱり投資家が望んでいるのは人材投資だったり研究開発投資だったりデジタル化への取組みなので、こういうものについてしっかり開示してストーリー持って語っていくことが、より建設的なエンゲージメントを深めていくものじゃないかなという話を事業会社にしています。そのためにはどういうツール、武器を使って対話すると、もっと投資家に刺さりますよというような話を証券会社、投資銀行部門に所属する者としては、日々やっているというのが現状になっております。
 
 ちなみに財務指標周りのソリューションはもう充実しまくっておりまして、もうほぼ企業さんには行き渡っているので、これからはこちらの非財務周りの武器をしっかりつくっていくという方針でやっています。正木様、ありがとうございました。
 
 金井様のほうは、実は長期的なその社会性を持ったネガティブ・インパクトについては無視しております。やっぱりネガティブ・インパクトは短期なもので、十分株価に対して説明がつくのでもうそれはそれでいいだろうと。証券会社の目線で、それよりは長期的な価値創造につながるポジティブ・インパクトのほうに今はシフトしているので、今、御発言を聞いてなるほどと思った次第です。すいません、ちょっと不勉強でそこについてもしっかりと見ていきたいと思っております。
 
 あと同じく金井様から出たオクトパスモデルですが、柳モデルは重回帰モデルで線形にばしっと株価を切っていくものですが、この循環型モデルは非常に興味深いなと思ったので、こちらもぜひ取り入れてよりよいインパクトの可視化につなげていきたいと考えております。また、意見交換させてください。ありがとうございました。
 
 私からは以上です。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。投資家は人的資本を重視しているけれども、実際には数値としての人的資本開示だけだとROE、マイナスになっちゃうという、やっぱりエンゲージメントが大事ですねということでしょうかね。
 
 それでは、栗栖様、お願いいたします。
 
【生命保険協会】  御質問ありがとうございます。正木様からいただいていた人的資本の話です。ちょっとあくまで日本生命の事例ということでございますけれども、我々も人的資本については対話において重要視していくテーマ、トピックということでやっていますけれども、やはり全業種、業種にかかわらず共通するような項目もあると思うんですけども、やはり業種ごと、IT産業とかそういった産業ではこういうような人材の育成をしないと、企業価値につながっていきませんとか、もっと言うと企業ごとにということで、先ほど来あります価値創造ストーリーとどういうふうにつながっていくかという企業価値とのつながりというところを、やはり個々、会社ごとに対話で確認していくということが必要だと思いますし、開示していくということも含めて対話の中で細かくフォローしていくということが重要だなという形で、実際のスチュワードシップ活動の中においては取組を進めているという状況でございます。
 
 もう1点目の受益者向け、資金の出し手としての生命保険契約者様とのエンゲージメントという意味では、我々も昔から公共性に配慮した運用していますと説明させていただいておりますけれども、そういった言い方をしておりますし、すごく古くは鉄道が本当に始まった頃の投資とか、本当に古くから生命保険会社いろんなインフラ投資しておりますので、そういったことを例えば我々ESGの投融資のレポートなどは発刊しておりますが、こういったもので契約者様に御説明するとか、あとはインターネットでアンケート調査をやるタイミングが個人保険契約者様向けにあって、そのタイミングでもESG投資って知っていますかというような形、まず、そこからというのがちょっと正直なところはありますね。
 
 SDGsという言葉はよく皆さん御存じなんですけれども、ESG投融資という言い方すると、途端に個人のお客様も、何の話ですかとなってしまうという部分が正直ございますので、まずその辺をどういうふうに我々が運用収益にもつながっていく取組としてやっているということを丁寧にお伝えする、個人のお客さんにも分かりやすくお伝えするということをまずやっていかないといけないのかなと思っております。
 
 以上でございます。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。それでは、お手が挙がっていますので、高塚様、林様、馬田様の順番で御質問いただきまして、また、お答えいただきたいと思います。

 では、まず、高塚様、お願いします。
 
【高塚メンバー】  すいません、貴重なお時間いただきまして、ありがとうございます。お二方の御説明がすごく刺さって勇気をいただいた部分もあるなと思っておりまして、ありがとうございました。
 
 お二方共通して、インパクト測定、可視化、開示みたいなことをおっしゃっている中で、今対話というお話もありましたし、太田さんのところで投資家に刺さるものってどういうふうに開示していくんでしょうみたいなお話もありました。インパクトを可視化して開示していくときの刺さるものとか手法とか方針みたいなところで、お二方それぞれもし何か方向性が見えているとか、こういったことを現場でアドバイスすることが多いですみたいなところがもしあれば、参考までに教えていただけないかなと思って御質問させていただきました。よろしくお願いします。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。では、林様、お願いします。
 
【林メンバー】  御説明、ありがとうございます。私からは御質問ということではないんですが、お二人のすばらしいプレゼンテーションをお聞きして、この検討会に対して、非常に重要な視点を与えてくださったのかなという気がしておりまして、ちょっとそれに関して手短にコメントだけさせていただきたいという趣旨でございます。
 
 まず、太田さんの御説明をお聞きして思ったのが、この検討会の第1回の設置趣旨の御説明の中で、裾野の拡大が一つのテーマであるということであったと思います。同時に第1回の検討会で、インパクト投資の残高が世界に比べて日本はまだまだ小さい、拡大傾向であるけれども、小さいというお話があって、こうした文脈を踏まえますと裾野の拡大というのは国内の投資マネー、国内にある投資資金をいかにインパクト投資に既存の投資から置き換えていって増やしていくのかという視点がストレートに考えると出てくるわけなんですけれども、太田さんのプレゼンテーションの海外のリスクマネーというお話をお聞きして、海外のインパクト投資の資金をいかにこの日本に呼び込んでくるのか、それでもって日本の上場企業であるとかあるいはIPOに投資をしてもらうのかという視点も同時に裾野の拡大という意味に含まれると思い、これは金融庁さんのお考えもあるんだと思うんですけれども、前者と後者で議論の視点、考えていく視点が大分違ってくる部分もあるのかなと思いましたので、この2つの視点を区別したうえで、どう検討会として議論していくのかというのはすごく重要な視点、すなわち、国内のマネーをインパクト投資に置き換えていくという視点と海外の投資マネーを呼び込んでくるというこの2つの視点があるのかなと思った次第です。
 
 あと、それから栗栖さんの御説明をお聞きして思いましたのは、インパクト志向の投融資というお言葉でしたけれども、協働エンゲージメントであるとか、協働エンゲージメントということではないにしろ、投資家の間でのいろんな協働の取組という御紹介があったと思います。インパクト投資というのは、インパクトを生み出している企業に投資するという面もあると思うんですけれども、やはり投資家としていかにプラスアルファのインパクトを生み出していくことが大事だということを考えたときに、協働エンゲージメントとか投資家の間での協力、協働みたいなものをどうこの検討会で位置づけて、考えていくのかというのも、この検討会ではすごく重要な視点の一つになるんじゃないかなということを改めて感じたので、ちょっとコメントさせていただきたいなと思いました。
 
 以上です。ありがとうございます。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。それでは、馬田様、お願いします。
 
【馬田メンバー】  すいません、少し短めに御質問させていただければと思います。
 
 2つありまして、1点目に関しては、先ほどの高塚様と少しかぶってしまうんですけれども、現時点でインパクト投資をうまく受けている国内や海外の企業がどういった開示をしているのかについてお伺いさせてください。エーザイ様の事例は先ほど御紹介いただきましたけれども、他にどういった事例があるのか、もしくは事例ベースではなく何かパターンがあればなと思った次第です。例えばロジックモデルを公開している企業がうまく投資を受けていますよ、ということだったらロジックモデルつくりましょう、というのがベストプラクティスになっていくかなと思いますので、そうしたパターンがあれば教えていただきたいというのが1点目になります。
 
 2点目に関してですけれども、ポジティブ・インパクトを計測するインセンティブは各企業に恐らく今後出てくるであろうというところですが、一方で、ネガティブ・インパクトについては恐らく計測・開示のインセンティブはあまりないというところで、この辺りをどのように開示してもらうのかというところで、何か取組や面白い動きがあれば教えていただいてもよろしいでしょうか。
 
 以上になります。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。それでは、まとめてお答えいただければと思いますが、また、太田様、栗栖様の順番でお願いいたします。太田様、お願いします。
 
【太田メンバー】  ありがとうございます。私は直接、社会的なインパクトについて、企業とこういうふうに開示しなさいと話したことはまだないので、その部分についてはちょっとお答えできないんですけれども、一般にその長期ビジョンについて、しっかり企業が語るときにはこういう形で開示して、エンゲージメントしていけばいいですよというアドバイスはしています。まず、そこについては上場企業対象になるんですけれども、定性的なストーリーはもちろん一番大事なんですが、必ずそこに定量的な指標を入れることを勧めています。特に投資家に刺さるパターンとしては、やはりこの資本コストに対してどれぐらいインパクトがあるかと、株価までは言わなくていいんだけれども、資本コストに対してのインパクトを語れるようになると、非常に投資家にはある意味共通言語として受けがいいので、ここだけはしっかりとロジックモデルというか、理論武装してエンゲージメントのときに使える武器として企業さんに仕込んでいます。
 
 パラメーター、特にベータのところです。ここについては、例えばGHG削減のインパクトとか、いかようにも数式化していける部分なので、特にベータに関して様々な分析を試みています。直近のアナリストジャーナル等にも会計ベータとか載っていますけれども、特に多角化している企業ほどここの部分はしっかりと見ていく必要があると考えていますので、ベータを掘り下げていくことは長期的なストーリーを語る際に十分有効なのかなと考えています。
 
 私からは以上になります。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。では、栗栖様、お願いします。
 
【生命保険協会】  私自身も企業様の対話をフロントに立ってやっているという部分がちょっと正直ございませんので、大変申し訳ないですけども、そういう事例の紹介といったところまではできないんですけれども、やはり我々最初に企業に行く前に分析して、その上でやっぱりESGの観点、ガバナンスを結構重要だと思いますし、いろんな観点で課題を分析した上で、それを対話でどういうふうに対応されているか、それがどういうふうな時間軸で解決されていくかと、そういったところを見ていくという作業をしていると思っていますので、その作業の中でもちろん企業価値向上につながるものというものがあれば、刺さるという言い方なんですか、そういうことになると思いますし、その進捗が思わしくないのであれば、我々持っているポートとしてよりよくするためにそれをさらに働きかけを行って、企業価値につながる取組にしていってくださいねという後押しをしていくということをやっていると思っていますので、ちょっとごめんなさい、すごくストレートに答えている答えじゃないんですけれども、そういったふうに対話は考えてやっております。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。御質問の中にあったネガティブなインパクトの開示のインセンティブという話はなかなか個別企業にインセンティブが働くということはないかもしれませんので、恐らく開示規範というものが必要になってくるのかなという感じはいたします。
 
 それでは、ちょうど時間でもありますので、ここで後半に入りたいと思います。
 
 後半もお二方からプレゼンテーションいただきたいと思いますが、最初にジェネシア・ベンチャーズの田島様、河合様、合わせて15分ぐらいでお話しいただければと思います。よろしくお願いいたします。
 
【田島メンバー】  ジェネシア・ベンチャーズの田島と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 
 まず、ジェネシア・ベンチャーズが何をやっている会社かということで言いますと、我々はプレシードステージ及びシードステージの、日本と東南アジアのスタートアップに投資をするベンチャーキャピタルをやっていまして、AUMで約300億円を運用しているベンチャーキャピタルになります。
 
 次ページをお願いいたします。先に申し上げておきますと、我々はインパクト投資をしているわけではなくて、あくまでもベンチャーキャピタル投資をしております。なんですが、その中にESGだったりインパクト投資との重なり合いというところがあると思っていまして、その辺についてまず前段、私からお話をさせていただき、後半、我々の具体的な取組について、河合から説明させていただければなと考えております。
 
 次のページをお願いいたします。まず投資領域を選ぶ際に一番重視していることが、時代の大きな変化の方向性に沿った事業領域かどうかというところを見ていまして、具体的には右下にちょっと書かせていただいたんですが、D&I、つまり多様性を受容し、包摂する方向への社会の変化だったり、働き方改革及びシェアリングエコノミーとか、こういった普遍的かつ不可逆的な時代の変化というものをしっかり捉えた投資をしていく、逆に言えば、ここに抗ったような投資はしないということを決めています。
 
 それだけではなくて、その時代の変化を引き起こす因子の強さ、競合や代替手段の多さ、それらの提供価値の大きさ、マーケットサイズの大きさ、そしてビジネスモデルの構造の変化、これは例えば多重取引構造がどんどん解消されて、いわゆる中抜きしている人たちがどんどん外にはじき出されて、買主と売主が直接つながるようなプラットフォームが伸びていくといった、いわゆるビジネスモデルの変化みたいなものが存在していると考えており、こういった部分を複層的に見ながら、有望な事業領域かどうかというのをまず前提として判断しております。
 
 なので、いわゆるマーケットサイズの大きさだけじゃなくて、複層的な要素で有望な事業領域かどうかを判断しているというのが私たちの考え方でございます。
 
 次に、私たちが最も重視している「時代の大きな流れ」というものと親和性が高い領域の一つとして、経済活動の持続性を高めるサスティナビリティテック、いわゆる持続性の向上を促すスタートアップ、ここがまさにESG投資ではなくてESG領域への投資というものが包含されてくると同時に、事業領域にかかわらず、スタートアップの経営として、自社の経済活動の持続性を高める方向に向かうべきであると考えていまして、やはりESGというのは本質的には企業活動としての持続性を担保する、もしくはそれを高めていくものと考えているので、ESG経営の重要性が高まっていくと考えています。つまり、社会的インパクトの大きさというものは、必然的に私たちの投資戦略に織り込まれているという考え方に立っております。
 
 次ページをお願いいたします。それから、我々投資領域を決める際に以下の6つのテーマに向かうスタートアップに伴走するということを決めています。いろんなスタートアップがありますが、いわゆる格差を広げるようなスタートアップ、テクノロジーではなくて一人でも多くの人が豊かさと機会を享受できるようなそういう社会に向かう、そういうスタートアップ、テクノロジーに投資をしていこうということで、具体的には左上の循環型経済、豊かな生き方、情報・機会の均等、叡智の発揮、健やかな社会、それから共存・共栄ということでこの6つのテーマとの重なり合いがあって、かつ、ここの実現にともに向かっていけるようなスタートアップに投資をしていくということを実践しています。
 
 下のところに、私たちの投資手法と社会インパクト投資との比較ということで書かせていただきましたが、冒頭に申し上げたとおり、我々のジェネシア・ベンチャーズとしての投資の目的はあくまでもキャピタルゲインの最大化です。ただし、投資対象としては、ESG領域を含めた6つの領域に挑戦するスタートアップに投資をしていくという部分です。
 
 支援の内容としては、戦略のブラッシュアップ・チームビルディングのサポート、それから、資金調達サポートみたいなものだけではなくて、スタートアップの企業経営としての持続性を高めていくためのESG経営推進に向けた各種ESGソリューションの提供を行っているということで、いわゆる社会インパクト投資とは似ていて異なるものなのかなと考えています。
 
 あえてESG投資の類型でいきますと、我々はいわゆるネガティブスクリーニングとESGインテグレーションの掛け算を行っていると、そういうふうな整理でおります。
 
 次ページ以降、私たちの具体的な取組のところは河合のほうから御説明できればと思いますので、よろしくお願いいたします。
 
 河合さん、お願いします。
 
【河合様】  それでは、ここから河合のほうで御説明させていただければと思います。
 
 ESGに関しては、非常に大きな潮流になっているというところですけれども、これまでどちらかというと大企業の課題として取り上げられる機会が多かったのではないかと思っています。
 
 ただ、私たちとしては、今後ESGはスタートアップを含む非上場企業にも影響が及んでいくだろうと思っておりまして、具体的に言いますと、例えば上場時にうまくESG経営に対応できていなければ、資本市場から低評価を受けることもあるでしょうし、あるいは大企業のM&Aというのもスタートアップにとってはエグジットオプションの一つですけれども、最近は買収時にESGデューデジリェンスなども盛んに言われる中で、買収時のディスカウントに繋がるおそれがあるのではないかと考えています。
 
 また、上場を見据えてバックオフィスの体制なども整備していかなければいけませんけれども、こういった情報開示、ガバナンス対応が非常に複雑になってきている中で、急にESG経営に対応しようとしてもなかなかできませんので、スタートアップであっても早い段階から対応を考えていく必要があると思っております。
 
 あとは、法規制の枠組みとは別に、最近はグローバル企業を中心にサプライチェーンの管理に独自の基準を設けている企業様も増えておりますので、ESGへの対応、例えばCO2排出量削減の取り組みや人権意識などが不十分だと判断されますと、こういったサプライチェーンからも排除されてしまうリスクがあるだろうと考えております。
 
 あとは優秀人材の採用力の強化というところで、やはり人的資本を重視する必要があります。魅力的な職場環境が提供できなければ、優秀な人材を採用できないということです。スタートアップにとってもこういったESG経営の巧拙が、企業業績あるいは我々の立場からしますと投資パフォーマンスにも影響を及ぼすだろうと考えております。
 
 このような認識に基づきまして、昨年12月に弊社もPRI・国連責任投資原則に署名をしまして、併せてESG投資方針を策定しました。右下の図は私たちの考えを概念図にしたものでございますけれども、我々は産業創造プラットフォームをつくりたいと考えておりまして、これまでDXを軸に大企業とスタートアップの掛け算をやってきましたが、これに加えて行政、アカデミア、あるいはNPO、NGOといったところも含めて、いろんなステークホルダーを有機的につなげていくもう一つの軸にESGがなり得るのではないかと考えております。
 
 次をお願いいたします。こちらのESG投資方針、読み上げることはしませんけれども、先ほどもご説明したとおり、ESGインテグレーションとエンゲージメント、この組合せで考えております。
 
 次をお願いいたします。私たちはESGチェックリストを整備しておりまして、投資検討時にこういったものを確認しながら、スタートアップのESG課題を洗い出すということをプロセスとして組み込んでおります。ただ、こういったものにチェックリストで○×をつけて、これができていないということを評価・指摘するわけではなくて、どういった課題あるいは課題の裏側としてどういった機会があるのかを洗い出すための一つのツールとして、スクリーニングのために活用しております。
 
 次をお願いいたします。そういったチェックリストなどを使いながら、ESGの重要課題、マテリアリティの特定をしております。私たちは創業間もないスタートアップに投資をしておりますので、基本的にはESG経営に対応できていない会社が多いですし、そう簡単に対応できる環境にはないのですが、2年、3年といった少し長い目線で、経営陣とESG対応について対話していくということをやっておりまして、その方針について投資委員会の資料にもきちんと書き込んで、定期的にチェックを行っていくということを行っております。
 
 こちら一つの記載事例になりますが、私たちは浮体式の洋上風車を開発しているスタートアップに投資をしているんですけども、環境面については、こういった機会・リスクが存在しているだろうというようなことを委員会資料に記載するということをやっております。
 
 次をお願いいたします。あとはESGソリューションと我々のほうで呼んでいるものですが、創業後間もないスタートアップの場合はESG経営といっても基本何もできていないのが当たり前で、我々としてはESG経営を無理に押しつけるのは本末転倒だと思っていますし、彼らの事業成長の足かせになるようなことは決してしたくないと考えております。彼らも組織としてまだ数名しかいない状況で、できることにも限りがありますので、私たちとしてはそのリソースの不足を補完するべく、独自にESG経営に資するようなサービス開発を行っております。具体的には、例えば外部のハラスメントの相談窓口、メンタルヘルス相談窓口、そういったものを私たちが契約して、これを無償で支援先のスタートアップに提供していくといったようなことをやっておりまして、こういったメニューを随時増やして、パッケージとしてESG経営のサポートを行うということをやっております。
 
 ちなみに下のアンケート結果は、こういったソリューション提供に先立って支援先のスタートアップの経営者の方にアンケートを取ったんですけれども、基本的にスタートアップでも、皆さんすごくESGの重要性については理解していて、重視して取り組んで行きたいということなんですけども、一番右側にあるとおり、やっぱりどうやっていいのか分からない、リソースが足りない、こういった問題意識を持っていらっしゃるので、こういったものを我々としては提供して、サポートしていっているというところです。
 
 次をお願いします。情報発信を通じて、業界全体への啓蒙活動みたいなこともやっております。次のページをお願いします。
 
 こちらも今月、こういったオフラインのイベントを開催するのですが、これもエコシステム全体に対して、このESGの潮流を促進していきたいという思いでやらせていただいているものでございます。
 
 次をお願いいたします。あとはちょっと手短に、弊社で具体的にどんな投資をしているのかというイメージをつかんでいただくために、投資事例を幾つか御紹介できればと思いますが、こちらは先ほども触れた浮体式の洋上風車を開発しているあるアルバトロス・テクノロジーという会社でして、御覧いただいたとおり、いわゆる垂直軸型の風車になりまして、従来型の水平軸型の風車ですと非常にやっぱりコストがかかるということと、また、今の水平軸型ですとなかなか国産化が難しいという問題がありますので、こういった新しいタイプの風車で、製造コストを下げて再生可能エネルギーの普及を図るとともに、これを国産化して新しい産業の創造につなげていこうと、そんなスタートアップでございます。
 
 次をお願いいたします。こちらはAC Biodeという会社ですが、化学系のスタートアップでございまして、幾つかの事業を同時並行でやっているんですけれども、一つは廃棄プラスチックのケミカルリサイクル用の触媒を開発していたり、あるいは産業的に出てくる、いろんな灰があると思うんですけども、石炭火力をやったときの灰だとか、製紙汚泥灰、下水汚泥灰といろいろな灰が出てくるんですけども、こういったものをアップサイクルして高機能化学品に変えるというような循環型経済のスタートアップになっております。
 
 次をお願いいたします。こちら、宇宙ベンチャーのElevation Spaceという会社で東北大学発の宇宙ベンチャーですが、小型の人工衛星を地球低軌道上に飛ばして、ここで無重力環境の中で実験や製造を安価にかつ高頻度に手軽にやれる環境を提供しようとしているもので、その無重力環境を使ってつくった新しい物質だったり、あるいは薬、創薬なんかにも活用できると思っているんですけども、そういったものであったりとか、バイオ3Dプリンティングなどを宇宙空間で行って、それを地球に再突入させて、地球上で回収してお客様に届けると、そんなサービスをやろうとしているスタートアップになります。
 
 次をお願いいたします。こちら最後ですけども、コングラントという会社ですが、こちらはNPO等の社会的組織、こういったところがファンドレイジングをするためのツールをワンストップで必要な機能を全て提供しているスタートアップでありまして、今後さらにやっていこうとしているところとしましては、NPOと企業が対等なパートナーとして協業していく、そのためのプラットフォームをつくろうとしているスタートアップになっております。
 
 次をお願いします。最後にインパクト投資の実践・拡大における課題ということで、次のページ、お願いします。弊社は今インパクト投資をやっているわけでは必ずしもないのですが、今後こういった領域に仮に踏み出していく場合にどういった課題が考えられるのかという、そういった視点で少し書かせていただいておりますけども、やはり先ほどからいろんな御意見が出ているとおり、このインパクトの計測方法、可視化の標準的手法、これはまだ十分にやっぱり共有されていないと思いますし、ロジックモデルに関しても案件ごとにすごく個別性が高いと思っております。
 
 特に弊社のような創業間もないスタートアップの事業に関しては、どのタイミングでどのように計測していくのかといった難しさも加わってくるのではないかと考えているところです。
 
 あとは、やはりインプット投資を行う上で、私たちのようなファンド運用者の立場からしますと、当然この投資リターンでそういう期待値だったりとか投資の時間軸、こういったことも含めてファンドに御出資をいただく機関投資家様からの支持というのは不可欠であろうと考えております。
 
 あとは、これは社会起業家に限った話ではないんですけども、起業家全般にまだ言えることだと思うんですが、まだまだ起業家の数自体が足りていない中で、特にこの社会起業家に関してはよりその傾向が強いと思いますし、また、社会課題の解決に思いの強い方はいても、経営力や事業経験はまだまだ足りない方もいらっしゃると思いますので、こういったことは私たち自身も含めて、サポートできるような環境整備が必要だろうと考えております。
 
 あとはNPO全般、社会的意義等のやりがいだけではなくて、やはりこういったところにトップ人材が流入するような、例えば報酬制度も含めて整備が必要だろうと思っていまして、日本だと、NPOで働くとなった瞬間に何か清貧を求められるようなところがあって、あんまり高い給料もらっているとちょっと変な目で見られるみたいなところがまだあるのではないかと思うんですけども、やはり優秀な人材に来てもらうためには、その辺りの環境を変えていく必要あるだろうなと思っています。
 
 経済的リターンの両立を前提とするインパクト投資を推進していくというということは非常にすばらしいことで、私たちとしてもそこに取り組んでいきたいと思っておりますけれども、この裏側で、経済的リターンが両立しないような、純粋な社会起業家に本来流れるはずの資金が細ってしまわないように、それはそれで一定の配慮が必要になってくるのではないかなと感じているところでございます。
 
 少し長くなりましたけれども、弊社からは以上でございます。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。大変多くの論点をいただいたと思います。それではまた後ほど御議論いただくことにしまして、続きまして、新生投資銀行グループの高塚様からお願いいたします。よろしくお願いします。
 
【高塚メンバー】  高塚と申します。改めましてよろしくお願いいたします。
 
 ジェネシアさんとは投資先で幾つか御一緒させていただいておりまして、重なるところもあるとおっしゃっていただいたところで、本当に実感を持ってそういうような現場での体験がございます。よろしくお願いします。
 
 次のページをお願いします。また、次のページをお願いします。すいません、さらっと自己紹介というところでございまして、私、新生企業投資という会社に所属しておりますけれども、こちらは新生銀行の100%の子会社です。もともと新生銀行の中でプライベートエクイティ部というのがあったんですけれども、そちらでベンチャー投資、バイアウト投資というのを2000年頃からずっとやってきた、15年以上の投資経験を有するチームというのが母体になっております。私たちは2017年にインパクト投資チームとファンドを立ち上げまして、現在までに2本のインパクト投資ファンドを運営しております。
 
 次のページをお願いいたします。こちらが2017年1月に法銀系初ということで始めたインパクト投資ファンドでございます。当時、インパクト投資ファンドはほかに銀行系では特になかったものですから、まずは新生銀行の自己勘定投資のような形で、5億円という小さなサイズのファンドをつくりまして、インパクト投資の実践をとにかく積み上げ、銀行でもできますよといったところを示そうと取り組みました。
 
 次のページお願いいたします。現在メインで運用させていただいておりますのがこの2号ファンドでございまして、まだまだファンドサイズの小さい36億円ですが、機関投資家様を含む12社ほどの外部の投資家様に入っていただいておりまして、真正面から本格的なインパクト投資ファンドというのを機関投資家目線で取り組んでお返ししていくということを行っております。これまでこのファンドで9社投資をしておりまして、様々な取組を行っています。
 
 次のページをお願いいたします。このような形で私たちの取組自体としましては、小さく始めて今フェーズ2ぐらいにいるかなと考えております。私たちのファンドで御一緒してくださった投資家の皆様も含めて、インパクト投資家の多様化というところに、私たち一ファンドから何ができるかということを考えております。インパクト投資のプロセス等を、なるべくこういった機会もありますし、特にLP投資家様の皆様には共有ということをもって、どんどんそのインパクト投資を御自身で実践されていくような投資家様が増えていくといいなということを、このファンドを通じて実現していくということを目指しています。
 
 次のページお願いします。ここからは従来のベンチャー投資との違いということで、投資対象ステージは、ジェネシアさんはシード投資でいらっしゃるんですけれども、私たちの場合はもともとやってきた従来型ベンチャー投資の時代からシード投資というところではなくて、アーリーの遅めからミドル、レイターといったところをやってきまして、ここのステージ感は変わらずそのままやっております。
 
 経済性と社会性で、特に社会性のところは社会性・インパクトの部分を意思決定に明確に織り込んでいくと、その後のモニタリングにも反映していくというようなことをもって、従来のベンチャーキャピタルとは違う視点での投資となっています。
 
 次のページ、お願いいたします。インパクト投資の投資選定基準におきましても、左側、経済性というところは通常のVCと同じような視点でしっかり見ますよということが申し上げたくて、右側の社会性の部分に関しては、青字で書いたようなところを軸に見ています。一つ目が、経営陣が社会課題解決へのコミットメントがある、その社会課題解決をするためにこそ事業を立ち上げていらっしゃるというようなINTENTIONALITYですね。二つ目が、その取り組んでいらっしゃる社会課題が、社会から見た場合でもその課題として重要なものであるというMATERIALITY。三つ目が、これを解決するに当たってこの会社さんの事業が有効なものであるということのADDITIONALITYです。また、それを可視化して開示していけるということは大事なので、四つ目として、それを計測できるというMEASURABILITY。そして最後に、それらをもってインパクト測定・マネジメント=IMMを回すこと、という4点を軸として、投資の選定をさせていただいております。
 
 次のページをお願いいたします。これは、投資メモにもこういうようなことが書いてありまして、経済性の合理性とリスクに加えまして、社会性の合理性とリスクもしっかり意思決定に織り込んでいますということでございます。
 
 次のページをお願いいたします。私たちの2号ファンドを「はたらくFUND」と通称呼んでおりまして、次のページをお願いいたします。はたらくFUNDでは、様々ある社会課題の中でもどの社会課題に取り組むかということを明確に絞って、テーマ型ファンドとして設定させていただいております。
 
 一言で言うと「多様な働き方、生き方の創造」というところを目指して、働く人たちを中心にし、働きながら、働き続けたいんだけれども、様々なライフイベントがあってなかなか働き続けることが難しいというこの日本の世の中において、そういったものにソリューションを提供していくということをやっていらっしゃるスタートアップさん、こういったところに投資をさせていただくということをテーマとして設定しています。
 
 次のページをお願いいたします。冒頭に立てたファンドのテーマ設定に沿いまして、ファンドのプロセス全体を通じて、このIMMをファンドとして実行していくということで、全体を設計しております。具体的に言いますと設定したテーマに沿って、その対象領域をソーシングいたしますし、デューデリ、投資決定、モニタリングにおきましては、私たちの投資先様を通じて「多様な働き方、生き方の創造」ということに大きくつながっているかということを念頭に、足元でインパクトの測定、可視化ということをしていく。そこの方向性もファンドのテーマとずれていないかみたいなところは、これは私たちの事情でして、投資先様に押しつけるということではなくて、ファンドとして、そういうものをそうだと思って投資したのであれば、本当にそうなっているかということをモニタリング期間をかけて確認しながら御一緒していく、もしくはそこを増大していくというようなことに取組んでおります。
 
 次のページをお願いいたします。具体的な活用するフレームワークなんですけれども、まずはIMMにおいて、事業性と組織性の部分でもうグローバルスタンダードとなっているフレームワークというのは、私たちも意識をして使っています。1号ファンドのときは、割と手弁当で自分たちいろいろ試行錯誤しながらインパクトの可視化ということをやっていたんですけれども、結局どういったインパクト、後で出てきますけれども、インパクトを可視化する目的って何だといったときに、最終的にはステークホルダーとの対話にいかに活用していくかということが大事だと思っていますので、そうした場合に手弁当でつくったインパクト測定ではなくて、やっぱりグローバルにきちんと広まっているこのスタンダードなフレームワークというのをきちんと使うことによって、共通言語となり得るようなものにしていくということを意識しています。
 
 IMPの5ディメンションズに始まりまして、ロジックモデルもつくります。組織評価のほうのB Corpは、特に強く進めているという段階ではまだなくて、日本の場合はまだちょっと課題もある部分もあるし、もちろんメリット取れる部分もありますので、そこの組織評価については会社さんにお任せをしており、認証取得を志向されるのであれば、できることをサポートさせていただくというような形にしております。
 
 次のページをお願いいたします。先ほど来からたくさん出ていますロジックモデルですけれども、私たちも全投資先についてデューデリの段階で経営陣と一緒にロジックモデルをつくるということをやっています。デューデリの段階でつくるものは仮版と位置づけておりまして、やはり投資をさせていただいてからより事業を深く知るということで、こういったものを更新していくということを経営陣の皆様と一緒にやっていると。通常のVCにとっては投資候補会社の今ある状態をチェックするということがデューデリの大きな部分であるんですけれども、それに加えまして、デューデリの段階でよく言われるのが、こういったデューデリの過程で一緒になってモノ(ロジックモデル)を「つくる」ということがユニークと言われます。これはインパクト投資家の特徴の一つかなと思っております。
 次のページをお願いいたします。先ほど言った5 Dimensionsも使いますということで次のページをお願いいたします。
 
 IMMというのが一体何に活用されるのかというところで、IMMの主体が、前回も申し上げたかもしれないんですけれども、あくまでも主体は会社さんのものであって、投資家のものでないというスタンスが非常に大事だと考えております。会社さんが、このIMMを行って可視化するということを通じて、どんな、「実利」と私たちはチームの中で呼んでいますけど、どんないいことがあるんでしたっけということは会社さんによってそれぞれ異なります。経営戦略に最終的には生かすということが肝要ではあるんですけれども、その足元で、資金調達、投資家向けのコミュニケーションのみならずジェネシアさんの資料にもございましたが、やっぱり人の採用、組織づくりといったところ、もしくは営業先への売り込み、ここもそのサービスが提供されると一緒に課題解決ができるというようなマーケティングメッセージというところで差別化していくということも考えられると話をしています。この中でどういうスケジュール、時間軸を持って、どういった時期に会社さんがIMMを通じて実利を取っていくかというのは非常に設計の中で重視しているところでして、終わりのない対話をこれに関して続けているという状況でございます。
 
 次のページをお願いいたします。こういった実利の一つの最たる例といたしまして、前半のお話にも通じるところでございますけれども、未上場と上場をつなぐこのIPOというところを、通過点であるとは理解しつつ、一つのベンチマークとして意識をしながら、この上場後にどういう上場企業であり続けたいかというところから逆算して、未上場の段階で、IPOの在り方を自分たちで積極的につくり込んでいきましょう、ここにインパクトというところを織り込んでいきましょうということを取り組んでいます。これを、私たちなりの定義で「インパクトIPO」と呼んでおりまして、これを、IPOを目指される投資先様であれば御一緒につくっていきましょうという話をさせていただいております。
 「インパクトIPO」というのは、何か東証の基準から違う基準で上場しようというものではなくて、既存のマーケットの中でインパクトということをどうコミュニケーションに使っていくか。それによって発行体は上場後もインパクトの追求とIMMを継続的に実施しましょうということにつき、未上場で株主が選べる段階から、どのようにつくっていくかということが非常に大事だという話でございます。
 
 次のページお願いいたします。足元ではIPOに向けて非常に、先ほど実利と言いましたけれども、お題目だけではなくて成果物というのを意識して、どうやってこの文章をつくり込んでいくか、この資料をつくり込んでいくか、誰に向けてピッチをするかみたいなことをかなり生々しく具体的にやりながら、nice to haveですてきだねということではない、しっかりと成果物を意識した準備を進めているといった状況でございます。
 
 次のページお願いします。最後にこういったものを含めて、私たちがスタートアップの皆さんと取り組んでいるというところの一つというか大きなものとして、私たちはインパクトが主戦場のインパクト投資家なんですけれども、インパクトを含むこの会社さんのサステナビリティ経営の全体像ということをきちんとつじつまを合わせて、ストーリーを全体として体系的に捉えられるということを非常に重視しております。
 
 これは去年の頭ぐらいにインパクト投資家、ESG投資家の国内外の二、三十社ぐらいにヒアリングを私たちのファンドからかけまして、その結果、いいとこ取りのポジティブ・インパクトだけを話してもらっても、そこだけ信じるわけにもいかないので、全体として何が起きているかということに、投資家としては興味があるというような御意見が幾つかあったというところを踏まえて、このような提案を投資先の各社さんにさせていただいています。
 
 内容としては、会社さんが何のために存在するかというパーパス/ミッション、これをしっかり言語化しましょうと、考えを整理して言語化するというところから始まりまして、そのパーパス/ミッションが必要だということの裏にある社会課題というのを構造的に把握できていますかというところも含まれます。この社会課題の把握というのがスタートアップさんの中でも割と曖昧になっている部分が多かったりはしていて、ここをしっかり言語化するところで、次に出てくる、「何に刺さる事業として展開をしようとしているのか」というところがかなり明確になってくるということがありました。
 
 また、今、私たちはSDGsをそこまで重要視しているわけではないですけれども、169のターゲットのうちのどれのことでしたっけというのは触れるようにしましょうと。
 
 そして、あとはビジネスモデルです。その会社さんがこのパーパスを掲げてこういう社会課題に取り組んでいる、それに対して行っているこのビジネスは有効な解決策ですよということで、事業・本業をインパクトで語る、もしくはインパクトを本業で語るということが極めて大事ではないかなというのが資料にある3番になります。
 
 ここまでの前提があった上で、その事業が生み出しているポジティブなインパクトというのは何ですかというのをロジックモデルのようなもので可視化をしていく、と。その中のロジックモデルに出てきたアウトカムのうちのキーとなるもの、KPI、もしくはKey Outcome Indicators(KOI)と私たちチームの間では呼んだりしていますけど、このKOⅠみたいなところはどうやって測定するんですか、どういうふうにテキストに盛り込んで話をしていきましょうかというところを深めていくということを現場でやっています。
 
 ここまでで終わりでもいいんですけれども、最近やっているのはやっぱりESGのところで、インパクトというのが、ページを2枚めくっていただけますでしょうか。
 
 私たちの主戦場となるインパクトというのが主に事業のポジティブな面を表すということだとしますと、やはりその事業を営む土台となる組織というところにも目を向けなければならないので、EとSとGの各観点から、企業成長へのリスクみたいなところもきちんと把握する必要がやはりあるだろうということで、このESGの部分に関しても、私たちと一緒に可視化していきませんかということもお手伝いをさせていただいております。
 
 このESG部分に関しては、私たちはプロフェッショナルではないので、新生銀行のESGのプロフェッショナルのチームと協働しまして、スタートアップさんに入って、スタートアップが備えるべき初期的なESGってどんなものでしょうというようなことを上場株、上場会社さん用のもりもりのものではなくて、スタートアップに適したサイズと時間で対応していくということをまず手始めに今手がけています。
 
 以上の取り組みを経て、実際にウェブサイトで、こういったサステナビリティ経営の全体像というところをサステナビリティページとして各社公表されているという投資先の事例が3社ほどございます、というところで、事例創出までできている状況です。
 
 すいません、ちょっとお時間を超過してしまいましたが、こういったようなところで私たち取組をしております。
 
 最後に課題というか、論点の御提案というところなんですけれども、一つは、社会課題の捉え方とインパクト投資の関連というところです。社会課題解決事業がインパクトに向くか向かないかとか、先ほどあった社会起業家、純粋な社会起業家に対してインパクト投資ってどういうものかみたいなお話があると思いますけれども、その議論の際に念頭に置いている「社会課題」が一口に社会課題と言っても皆さん違ってくるというところがあると思います。行政によるセーフティーネットで対応するのがより適したような課題から、DXみたいにその効率と質の向上によってマネタイズが想起しやすいような課題まで千差万別あるので、様々なリスクリターン目線から、それぞれが合った経済性と社会性をかなえるような社会課題というのは何なのか、その社会課題の色分けというのが結構必要なのかなと考えていますというのが一つです。
 
 あとは繰り返しなんですが、IMMの本質はやっぱり事業会社の価値創造であって、投資家によるチェックではないというところが2つ目です。
 
 3つ目は、太田さんのご発表の中にもありましたけれども、インパクトの可視化の実務が普及することと、「インパクトIPO」みたいなものの好事例の創出というのが両輪なので、成功事例というのを創出して、それをいかにみんなで盛り立てていくかというような業界のムードというのは大事じゃないかなという、以上3点を論点として提案させていただきます。
 
 ありがとうございました。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。それでは、ここから御意見、御質問を受けたいと思います。ちょっと時間は押しておりますけれども、16時までということですので、もし御質問、御意見ありましたら皆様、短めに御発言いただければ大変ありがたいです。いかがでしょうか。
 
 どなたでも結構ですが。それでは、馬田様、とりあえずまず馬田様、お願いいたします。
 
【馬田メンバー】  ありがとうございます。論点の御提示、ありがとうございました。少し論点からずれてしまって恐縮ですけれども、両社ともに投資先の全てのスタートアップが、ESGやインパクトを意識した経営体になっていくために中長期的に支援していくということをされていて、すばらしいなとお伺いしていて思いました。
 
 一方で、インパクトとか社会課題、いろいろ色分けあると思いますが、直通社会的なインパクトに貢献する事業領域で事業を行う企業に関して、先ほど太田様の発表の中に、海外と国内のスタートアップでちょっと違いがあるみたいなお話があったかと思います。社会性の軸が多いのが海外で、日本は専門性の軸が多いというところです。ただ、あれはクランチベースのデータかと思いますので、恐らく資金調達したところが中心に掲載されていて、若干バイアスがあるのかなと思っています。そこで日本のシード段階、アーリー段階のスタートアップに両社ともに投資されているということで、肌感覚で結構なんですけれども、資金調達前のところも含んで、日本ではサステナビリティであるとか社会軸での起業やスタートアップが少ないという現象はあるのでしょうか。もしかすると挑戦している人がいるけれど、ビジネス的に成り立っていないから調達を受けられていなくて、データ上は表面化していないのかもしれませんし、もしくはそもそも挑戦している起業家が少ないのかもしれません。また、いずれの現象にせよ、起こっているのであればそれぞれその起こっている原因は何で、それをどう解決していけばいいのかというところにどのようにお考えなのか、お伺いしてもよろしいでしょうか。
 
 背景としては、上場、非上場ともにインパクト投資の資金が集まってきたとして、もし投資先がないとちょっと何か困ることになりそうだなと思ったので、その辺りのヒントになればと思いまして、お伺いした次第です。
 
 以上であります。すいません、長くなってしまいました。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。それでは、吉田様、正木様の順で御発言いただきまして、まとめてお答えいただければと思います。
 
 吉田様、お願いします。
 
【吉田メンバー】  政策投資銀行の吉田でございます。4名の方、それぞれすばらしいプレゼンテーション、大変勉強になりました。
 
 1点目はコメントで、2点目が質問になりますけど、1点目のコメントはまさにこの協議会ができるだけ投資家の裾野を広げましょう、インパクトの裾野を広げましょうという観点でいくと、4人の方のお話を聞いていると、経済価値を上げるための手法としてのインパクトという捉え方、これはエンゲージメントしながらバリューアップと言い変えてもいいのかもしれませんけど、そういうものに使っていくというのと、あと経済価値にまだ表れていないんですけど、それを何らかインパクトという形で評価して、それを評価できる投資家に入ってもらって、スタートアップだったりとかまだ見ぬ社会の課題に対して迫っていくような投資をやっていこうと、その2つがあるとしたときに、全部を同じ基準で追っていくのは結構難しいんじゃないかなという印象をちょっと受けたところでして、多分裾野を広げるという意味で言うと、まさにジェネシアさんからあったような形で、ある程度経済価値につながるような形で、エンゲージメントないしそのバリューアップというやり方で手法として用いていくというのが多分初めは受け入れられやすいんじゃないかなという気がするんですけど、長い目で見たときに、そのインパクトをまだ見ぬ社会の価値に照らして、そういうところの投資家の裾野を広げていくというんだとすると、新生さんのようなアプローチというのもやっていかなきゃいけない。
 
 ただ、ここは非常に高度な知識だったりとか熟度みたいなのが必要になってくるので、投資家をどういうふうに広げるのかというところの課題があるんだろうなと思っていました。そういう意味でのガイドラインのパターンみたいなものを我々の中でもまた議論していかなきゃいけないかなと思いました。これはコメントです。

 質問という意味で言うと新生さんのほうなんですけど、12ページ目のところに、投資前後の社会的インパクトの比較というところが最後のところにあって、これは弊社でも非常にこういうところは関心が高くて、時間軸がある投資の場合に事前事後で、やっぱり社会におけるそのインパクトの考え方というのは変わってくるということがあるときに、実際これは事前事後のインパクトの比較をされた事例があるのかというところと、あと最後のフレームワークのお話しされていて、物凄く重要だなと思ってお伺いしていたんですけど、ある一定程度の社会的なインパクトの簡素化と言うんですかね、客観性があるものとか普遍性があるものの特定が必要だということをおっしゃっていましたけど、やっぱりその事前事後の評価をしていくとそういうところに論点が落ちていくんじゃないかなという気がしましたので、この事例とかがあれば御紹介いただけるとありがたいです。
 
 以上です。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。それでは、正木様、お願いします。
 
【正木メンバー】  ありがとうございます。ジェネシアさんの19ページの課題のところに集中したいと思います。下から2つ目に「社会的意義等のやりがいだけではなく、社会的組織にトップ人材が流入するよう、報酬面も含めた環境改善が図られる必要がある」と記載していただいております。報酬を上げたほうがいいということのようですが、先ほども話題にあげましたが、社員の側、雇われる人についてはストーリーを割と説明しやすい。ホワイトハッカーをもっと雇わなきゃいけないから初任給1,000万払わなきゃいけないという説明はやりやすい。一方、資金調達をするために説明に来られる、まさに起業される御本人が自分の報酬が高いほうがいいというのを説明されるのをどういうふうに見て、何か投資される側としてはこれぐらい払ったほうがいいよという話をされているのか、それが知りたいなと思いました。
 
 それからその下の、純粋な社会起業家に出す資金支援が細ることのないように注意を払う必要があるという課題について、新生企業投資さんの最後のところでもちょっと触れられましたけど、これって、トレードオフの関係なのだろうかと疑問に思います。確かに地域のお寺の修繕みたいなのをやりましょうというときは、クラウドファンディングだったり寄附だったりするわけで、インパクト投資のような手法は使わない。つまり、社会課題によってすみ分けがあるのではないかという印象を持っています。インパクト投資を推進すると純粋な社会企業に対する資金支援が細るということにならないかという、心配しておられるところがよく分からなかったので、もう少し説明を伺いたいなと思いました。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。それでは、いただいた御質問をまとめてお答えいただければと思いますが、田島様、高塚様の順番でお願いしてもよろしいですか。
 
【田島メンバー】  先ほどの一番初めの日本と東南アジアの比較の話から入りますと、肌感として感じているのはやっぱり海外、もとより東南アジアでいきますと、やはり金融の部分、金融環境が極めていわゆる信用創造の部分の深化がまだまだ行われていない中で、やっぱり与信がなかなか普通の人にはつかないということでかなりそこでいろんなチャンスが阻まれている部分があって、そういった部分をそのインターネットとかテクノロジーを使って、いわゆる経済的なミドル以上の人は問題ないと思います。その下の人、いわゆるもうボトム・オブ・ピラミッドの方々とか、そういった方々にちゃんと金融環境をつくっていく。なので一般的な言葉で言うフィンテックです。フィンテックみたいな領域がやっぱり東南アジアまだまだオポチュニティとしても大きいなと思っていまして、結論、いわゆる社会起業みたいなところとスタートアップとの重なり合いみたいなところは、東南アジアのほうが確かに大きいなと、何かそういう印象を持っていますというのが、1つ目の御質問かなと思っています。
 
 あとは、このページの質問に対して、河合さん、もし何かあれば。
 
【河合様】  そうですね、まず、こちらのページの1つ目の御質問としましては、報酬のところ、特にその社会的組織にトップ人材が流入するように、どう報酬を高めていくかというところで、社員については検討の余地があるものの、起業家本人はどうかというご質問ですが、この点はスタートアップ全体に共通する話でもあると思っておりまして、いま本当に優秀なエンジニアであるとかコンサルティング会社出身者のようなビジネスに精通したプロフェッショナルを採用しようとすると、やはり相応の報酬を払わないと採用できないという実態があるかと思っておりますし、また、近年はそういった傾向が非常に強くなっております。このこと自体は、エコシステムの発展にとって非常に健全でよいことだと考えております。
 
 一方で御指摘のとおり、やはりまだまだリソースが足りない中で、明日の生き残りをかけて挑戦しているスタートアップではありますので、起業家本人が最初からあまり高い報酬を得るというのは、なかなか投資家の理解を得にくいのは実態としてはあろうかと思います。
 
 私たち投資家の立場としても、起業家の生活をぎりぎりまで切り詰めるような圧力をかけることは避けなければいけないと思っていますので、やはり相応の報酬は確保していただきたいと思っておりますけれども、一定のバランスは必要になってくるだろうと思っております。
 
 あとは2点目の御質問について、最後のところ、インパクト投資を推進していくと、純粋な社会起業家への資金が細る可能性みたいなところに関しましては、これはインパクト投資自体がまだまだこれからという段階で、実際どうなるかというのが私たちもよく分からないところであるというのが正直なところではありますけれども、例えば今、社会起業家あるいはNPOみたいなところに資金を集めようとしたときには、やっぱり寄附だったりクラウドファンディングみたいなものが中心になりがちと思っておりますが、今後は法人寄附なども一つの重要な資金源になると考えております。
 
 それもCSR的な寄附、固定化された寄附というよりは、例えばNPOと組んで新規事業をつくっていくための連携手段としての寄附、あるいは寄附ではなくて出資という形にもしかするとなるかもしれませんけれども、そういったものを促していきたいという思いを持っておりまして、そういったときに、経済的にそれが成り立つかどうか、経済的なリターンとしても成り立つかどうかみたいな議論が、どういうふうな影響を及ぼすのかは、注意を払う必要があると考えています。
 
【水口副座長】  ありがとうございます。では、高塚様、お願いできますか。
 
【高塚メンバー】  ありがとうございます。盛りだくさんでちょっと全部回答できる自信がないんですけれども、最初の馬田さんがおっしゃってくださったところで、社会軸のあるところに挑戦している起業家は少ないと、その投資が来ても投資先がないみたいなお話があったところなんですけれども、私たちがふだんお会いしている起業家さんを考えるとその社会軸のあるところに挑戦している、いわゆる社会起業家さんというのが少ないという認識はないです。私たちも年間二、三百ぐらいお会いして、皆さんそれぞれの視点から社会課題、身の回りの課題というのを捉えられて、自分だったらこれができるということで起業されている起業家さんばかりというか、多いかなというところです。
 
 問題というか、ボトルネックがあるとしたら、その社会課題解決というのを可視化できているところはまず少なくて、かつ、そもそもそれに投資しようというインパクト投資家が少なくて、そうすると可視化してもインパクト投資家はいないので可視化するのに負担感を覚えてしないしというところで、やはり多様なインパクト投資家、あらゆるリスクリターン目線、アペタイトのインパクト投資家を増やしていくということがまず第一義かと思います。そこから、可視化することで資金調達がより一層できますねみたいな文脈が、ジェネシアさんなどの取り組むシードからレイターまで出てくる。そうすると可視化もされていく、ということでどんどんと掘り起こされていくというのが出てくると思います。

 その中のどこから始めるべきかというのは鶏と卵で尽きることのない議論だと思います。私たちは投資家側にいるので、まずできることからだとすると、皆さん、インパクト投資しましょうと声がけしていくというところかなと思っております。
 
 吉田さんからいただきました御質問のところで、あとコメントを最初いただいたところで、経済価値を上げるための手法としてのインパクトなんでしたっけというところは、非常に響くコメントでして、もともとインパクト投資ってリスクとリターンとインパクトの3軸だと言っているんだけど、結局3軸目のインパクトが経済的なリスクとリターンの話に落ち着いてくるとなると、実質2軸じゃないかみたいなことは、これも終わることのない議論としても何年も言われているのかなと思います。
 
 ただ現実に、新しい資本主義みたいな話はある一方で、今の資本市場が根本的にインパクトというところにお金が流れ込んでいく仕組みになっているかという観点からすると、一旦はちょっとやもすると2軸っぽい考え方で、やっぱり成功事例をまずつくっていかなきゃいけないのかなと現場では考えています。そういった成功事例が積み重なってくると、逆にインパクトがあるところが成功するみたいな話になり、インパクト軸というのが独立した形で出てくる。そんな時間軸の中で、私たちの投資家側の成長というのが必要なのではないかなというふうには、今の今は現場では私は考えております。
 
 御質問いただきました投資前後の社会的インパクトの比較というところですけれども、残念ながら私たちもはたらくFUNDで、まだエグジットした先がございませんで、例がないというのが非常に心苦しいところでございます。
 
 インパクトの前後というところでそもそもの社会のあり様が移り変わる、3年とか5年とかの経過と共にやっぱり社会の価値観も移り変わっていくので、その前後で唯一絶対比較できるようなインパクト指標が必ずあるかというのは非常に難しいところかなというふうには考えてはいます。その限界を踏まえた上で、デューデリと投資直後の時間軸の中で議論して出していけるキーとなるアウトカムインディケータというところは外さないようにしたいなというふうには考えていて、これをもってまず一つは前後比較というのはあり得るのかなというところです。あとは、客観性のある指標の特定が必要というお話があったし、太田さんのお話の中でも、やっぱりそういうところで統計的に見て有意なもので相関性を取っていくみたいなお話があったんですけれども、今の今の未上場株やっている中で思っていることは、唯一絶対に異なる事業領域にわたって客観的なインパクト指標で比較ができるかというのはやっぱり難しいのかなと。ただ、一般的に客観的なその指標、考え方というのは難しいとしても、私たちのファンドのTOCに照らした物差しというのは少なくとも持った上で、自分たちのポートフォリオの中でその比較とか成長というのが捉えられるということが必要なのではないかなと今設計をしてつくり込んでいる最中というのが現状でございます。何らかの物差し、それは今短期的には自分たちのファンドのTOCという物差しでまずはやってみるということを実務でやっています。
 
 ちょっとお答えになっているか分からないですが、以上になります。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。途中のお話の中で投資家側の成長というお言葉もあって、やはりインパクト投資も時間軸を持って考えていかないといけませんよね。ありがとうございました。
 
 まだまだ御質問があろうかと思いますが、すいません、16時ということで時間になってしまいました。最後に柳川先生来られておりますので、もしよろしければ柳川先生から一言コメントいただければと思うんですけども、先生、いかがでしょうか。
 
【柳川座長】  すいません、私、途中参加で失礼いたしました。水口先生、司会をずっとやっていただきまして、ありがとうございました。
 
 もう時間過ぎておりますので本当に一言だけ、皆さんの非常に有意義な取組をされているということがよく分かりましたので、それをしっかり広げていくということが大事だと思います。それを広げていく上ではやはり多くの方々からコメントや御質問もあったようにどういうふうに評価をしていくか、客観的な基準をどうつくっていくのかというのはある種のマーケットとして、金融市場として広げていく上ではとても大事なところだと思いますので、今の普通の金融商品と同じように何かきちんときれいにできるわけではないんだと思いますけれども、やはりその辺りの深掘りがこれから重要かなと思っております。今日は皆さん、どうもありがとうございました。
 
【水口副座長】  先生、ありがとうございました。それでは、本日は大体このぐらいになろうかと思いますが、皆様、大変活発な御議論いただきましてありがとうございました。
 
 次回は11月25日、引き続きゲストをお迎えしてプレゼンテーションをいただければと考えております。
 
 それでは、最後に事務局のほうから御連絡等ありましたらお願いいたします。
 
【西田サステナブルファイナンス推進室長】  ありがとうございました。次回11月25日ということで、企業さんから幾つかお話をいただければと思っております。お話しいただける方、現在調整中でございますけれども、できるだけ早く調整させていただければと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 
【水口副座長】  ありがとうございました。それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了したいと思います。皆様、御協力いただきましてありがとうございました。お疲れさまでした。


 ―― 了 ――

  

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