会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会(第1回)

1.日時:

平成30年11月2日(金)13時00分~15時00分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室

 
【八田座長】
 定刻より少々早いですけれども、皆様おそろいですので、ただいまより第1回会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会を開催いたします。皆様、ご多忙のところ、ご参集いただきまして、まことにありがとうございます。
 当懇談会の座長の八田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 初めに、事務局の三井企画市場局長よりご挨拶をいただきたいと思います。三井局長、よろしくお願いします。

【三井企画市場局長】
 この夏の人事異動で、企画市場局長を拝命しました三井でございます。何とぞよろしくお願いいたします。
 会計監査の内容に関する情報提供、あるいは、その説明の充実につきまして、2016年の3月に会計監査のあり方に関する懇談会の提言をいただいております。これを踏まえまして、監査法人のガバナンス・コードの制定、監査報告書の透明化などの取り組みを進めてまいったところでございます。残された課題といたしまして、通常と異なる監査意見が表明された場合などに、監査人に対してより詳細な資本市場への情報提供が求められるケースがあるのではないか、こうした場合における対応のあり方について問題提起がされているところでございます。
 本件につきましては、既に様々な方からのご意見を頂戴しているところでございますが、具体的な議論を深めていくということから、当懇談会での検討を進めさせていただきたいと存ずる次第でございます。
 なお、懇談会の議論の中では、個別の事案に触れることも出てくることがあるかと思います。議論の方向性としては、過去に事案における是非を問うということではございませんで、むしろ過去の事案を踏まえた上で、今後に向けて、資本市場に対してより良い情報提供のあり方について、皆様方の意見を賜り、私どもとしても考えていきたいと考えている次第でございます。
 メンバーの皆様方におかれましては、忌憚のないご意見を頂戴いたしますようお願い申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。何とぞよろしくお願いいたします。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 続きまして、事務局から当懇談会のメンバーのご紹介をお願いします。

【野崎開示業務室長】
 事務局を務めさせていただきます、開示業務室長の野崎と申します。どうぞよろしくお願いします。
 本懇談会のメンバーの皆様をご紹介させていただきたいと思います。座席順にご紹介させていただきます。皆様の右側から、青克美様でございます。

【青メンバー】
 東京証券取引所の青でございます。よろしくお願いします。

【野崎開示業務室長】
 岡田譲治様でございます。

【岡田メンバー】
 日本監査役協会の岡田です。よろしくお願いします。

【野崎開示業務室長】
 貝増眞様でございます。

【貝増メンバー】
 アナリスト協会の貝増です。よろしくお願いいたします。

【野崎開示業務室長】
 清原健様でございます。

【清原メンバー】
 弁護士の清原です。よろしくお願いします。

【野崎開示業務室長】
 高濱滋様でございます。

【高濱メンバー】
 日本公認会計士協会の高濱でございます。

【野崎開示業務室長】
 田中亘様でございます。

【田中メンバー】
 東京大学の田中です。よろしくお願いします。

【野崎開示業務室長】
 町田祥弘様でございます。

【町田メンバー】
 青山学院の町田と申します。よろしくお願いいたします。

【野崎開示業務室長】
 湯浅一生様でございます。

【湯浅メンバー】
 富士通の湯浅でございます。よろしくお願いします。

【野崎開示業務室長】
 なお、事務局につきましては金融庁が務めさせていただきますが、こちらにつきましては配席図をもってご紹介にかえさせていただきたいと思います。

【八田座長】
 ありがとうございました。
 続きまして、事務運営案などについて、事務局から説明をお願いします。

【野崎開示業務室長】
 本懇談会の運営要領案についてご説明させていただきたいと思います。
 資料の真ん中、下ほどですけれども、第5条、会議の公開につきまして、懇談会の会議は公開とする。ただし、座長が必要と認めるときは、会議の一部、または全部を非公開とすることができる。続きまして、議事録の作成及び公表でございますけれども、第6条、懇談会の議事録は会議の都度、作成し、公表するものとする。ただし、座長が必要と認めるときは、議事録の一部、または全部を公表しないものとすることができる。続きまして、懇談会資料の公表についてでございます。第7条、懇談会の資料は原則として公表する。ただし、座長が必要であると認めるときは、資料の一部、または全部を非公開とすることができる。以上でございます。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 このような進め方でよろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)

【八田座長】
 ありがとうございます。
 続きまして、事務局より配付資料についての説明をしてもらいます。

【野崎開示業務室長】
 それでは、本日の配付資料についてご説明させていただきたいと思います。
 資料1、画面に表示させていただいております。まず、1ページ目でございますけれども、ちょうど今から3年前の平成27年10月、不正会計事案を契機としまして会計監査の信頼性が問われていたところです。そのような中、会計監査の在り方に関する懇談会が設置されまして、会計監査の信頼性確保の必要な取り組みについて幅広い議論が行われたところでございます。平成28年3月、当懇談会から、会計監査の信頼性確保に向けて講ずるべき取り組みとしまして、監査法人のマネジメント強化ですとか、会計監査に関する情報の株主等への提供の充実等々の5つの柱が示されたところでございます。

 資料の1ページ目でございますが、このうちの会計監査に関する情報の株主等への提供の充実の部分の抜粋でございます。会計監査の透明性の向上を通じて、そもそも何を目指すべきかという点について3段落目に触れられてございますので、ご紹介させていただきたいと思います。「会計監査の透明性の向上を通じて、企業の株主によって監査人の評価が適正に行われるようになり、高品質と認められる会計監査を提供する監査法人等が評価され、企業がそのような評価に基づいて監査を依頼するようになることが期待される。これにより、より高品質な監査を提供するインセンティブの強化や、そのような監査に株主や企業が価値を見出すことによる監査法人等の監査報酬の向上等を通じて、市場全体における監査の品質の持続的な向上につながっていく好循環が確立されることが望まれる。」というものでございます。
 その上で、監査人サイドからの情報提供の充実に関する記載としまして、下線部分でございますけれども、「会計監査の透明性を向上させていくためには、監査法人等が積極的に個別の会計監査等について情報提供していくべき」との記載がございます。今回の懇談会では、このような問題意識を踏まえまして、監査法人等による個別の会計監査等の情報提供のあり方についてご議論をお願いできれば考えております。

 2ページ目では、会計監査の信頼性確保のための様々な施策を簡単に図式化したものをお示ししております。本年9月26日に公表しました金融行政方針でお示ししておりますように3つの柱がございます。
 1つ目、監査法人のガバナンス強化としまして、図の右下の監査法人のガバナンス・コードの実効性確保という施策がございます。ガバナンス・コードの中でも、原則5において透明性の確保ということが掲げられているところでございます。
 2つ目、監査法人の独立性確保としましては、図の中央下にございますけれども、監査法人のローテーション制度に関する調査に関する施策を進めているところでございます。
 3つ目、今回のテーマでございますけれども、会計監査に関する情報提供の充実としまして、既に本年7月に監査基準の改訂により監査報告書の透明化を実施しております。これは、図の右側、四角で囲んだところでございますけれども、それに続く施策としまして赤で囲んだ部分、今回の議論の対象としている部分についてご議論をお願いできればと思います。
 なお、監査報告書の透明化におきましては、監査意見を簡潔明瞭に記載するという枠組みは基本的に維持しつつ、監査プロセスの透明性を向上させることを目的に、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項、Key Audit Matter、KAMを監査報告書に記載するということが監査基準で定められているところでございます。
 残された課題としましては、特に監査意見が無限定適正意見以外の場合におきまして、より詳細な資本市場への情報提供を監査人がどのような形で行っていくのかという点を、今回の懇談会のテーマとさせていただければと思っています。

 3ページ目ですが、先ほど申し上げましたとおり、監査基準は本年7月に改訂されております。改訂後の監査基準の中身でございますけれども、まず「二 監査報告書の記載区分」におきまして、下線を引いてございますが、今回、新たに「意見の根拠」という区分を設けることとしております。
 監査意見につきましては、「三 無限定適正意見」、それから「四1 限定付適正意見」、「五1 限定付適正意見」、「四2 不適正意見」と、これは重要かつ広範な事項について協議の表示があると認められると判断されたときに表明されるものでございます。それから、「五2 意見不表明」といった類型がございます。
 監査基準では、こちらに書いてございますように、類型ごとに監査報告書に記載すべき事項が定められております。例えば、四2における不適正意見、あるいは五2における意見不表明につきましては、その旨及びその理由の記載が求められております。四1及び五1の限定付適正意見につきましては、財務諸表に与えている影響等の記載が求められているところでございます。
 4ページ目の四半期レビューにつきましては、改訂前のものでございますけれども、こちらにおいても結論の類型ごとにレビュー報告書に記載すべき事項が定められております。
 5ページ目と6ページ目、監査証明府令につきましては、現在、7月の監査基準の改訂を踏まえた改正作業を進めているところでございますけれども、監査証明府令も基本的に監査基準と同じ建付けになっているということが確認できます。
 以上が、制度的な枠組みのご紹介でございます。

 実態を見ていただくのが7ページ目でございまして、無限定適正意見以外の意見表明、それから無限定結論以外の四半期レビューの結論について、過去7年分の実績を集計したものが表になってございます。なお、同じ事案について、複数の期にわたって同一の意見や結論が表明されている場合につきましては、重複を避けて1とカウントしております。
 上場会社につきましては、この表の2行目でございますけれども、意見不表明、それから一番下の行の限定付適正意見というものが、ほぼ毎年、コンスタントに出ているという状況でございまして、7年間で意見不表明が9件、限定付適正意見が11件、となっております。
 これら上場会社に係る監査報告書、及び四半期レビュー報告書につきましては、お手元に参考資料として配付しております。基本的にEDINETで閲覧可能でございますが、本日のご議論のためにお手元に配付させていただいております。
 7ページ目では、年度監査と四半期レビューの総数のみをお示ししましたが、8ページ目は年度監査のみということでございます。両者を見比べてみますと、右上3段目の欄、意見不表明は、四半期レビューと年度監査ですと合計9件だったものが、年度監査では1件ということで、残りが全て四半期レビューにおけるものとなっているということでございます。
 9ページ目は、上場会社の意見不表明事例9件、それらにつきまして監査報告書に記載されている理由を分類したものでございます。
 お手元にお配りした参考資料ですと、例えば1つ目の事例、2ページ目にございますように、意見不表明の根拠というところに何が記載されているかでございます。「継続企業を前提として作成されている連結財務諸表に対する意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手することができない」となっております。画面9ページ目①のように、継続企業の前提に重要な疑義が生じているけれども、その評価のための資料が企業から監査人に提供されていないという類型が一つございます。
 それから、参考資料の3つ目の事例です。5ページになりますけれども、結論の不表明の根拠としまして、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している」、しかしながら、「現時点において事業の遂行に必要な資金調達の目途が立っておらず、具体的な資金計画が提示されなかった」というパターンでございます。それが画面9ページ②の類型でございまして、継続企業の前提に重要な疑義が生じており、今後の事業遂行に必要な資金調達の目途など、具体的な事業計画が監査人に提供されていないというケースが見られます。
 それから、3つ目のパターンとしまして、ちょっとお戻りいただきまして、参考資料の4ページ目でございます。結論の不表明の根拠としまして、「架空取引の存在が確認」され、「社内調査委員会を設置して当該架空取引に関する調査を実施」しているところですけれども、「調査は本四半期レビュー報告日現在、終了していない」という記載がなされております。画面9ページ③ですけれども、不適切な会計処理等が発生したけれども、関連する社内調査が終了しておらず、当該調査の結果が企業から監査人に提供されていないというケースが3つ目の類型でございます。
 これらに必ずしもはまらないケースとしまして、参考資料の8ページがございます。こちらは「評価手続が継続中」ということで、画面④にございますように、監査意見に必要な監査手続が終了していないという類型がございます。
 以上が意見不表明の事例でございまして、限定付適正意見についてはお手元の参考資料の17ページ以降に幾つか具体的事例をご紹介しておりますけれども、大半のものが監査範囲の制約に係る限定付適正意見が大部分を占めておりまして、意見に関する除外の事例は1件ということになってございます。なお、監査範囲の制約による限定付適正意見の事例の中でも、記載の進度等について様々なレベルがあるということでございます。以上が、9ページ目の説明です。

 監査人による情報提供のうち、監査報告書の記載に関する事項を9ページ目まででご説明申し上げました。
 10ページ目では、監査人による情報提供のうち、監査報告書の記載以外の形態をとるものとして、監査法人の規定をご紹介したいと思います。会社法の第398条1項では、計算書類が法令、定款に適合するかどうかについて、会計監査人が監査役と意見を異にするときは、会計監査人は株主総会に出席して意見を述べることができるという権利が定められております。同条2項では、株主総会において決議があったときは、会計監査人は総会に出席して意見を述べなければならないとの規定が置かれております。
 なお、この下の部分でございますが、会社法では、無限定適正意見以外の監査意見が表明された場合には、計算書類は株主総会の承認事項となる一方で、無限定適正意見の場合には一番下の第439条の特則により、計算書類は株主総会における報告事項というような形で規定されております。
 以上が、会社法のご紹介でございまして、ここまでご説明した内容を監査プロセスに沿って図式化したものが11ページ目の資料でございます。例えば、3月末決算の場合ですと、第1、第2、第3四半期のレビュー意見が、それぞれ8月、11月、2月の半ばに出され、年度の監査意見が6月末までに提出されることになっております。その中で、無限定適正意見以外の意見結論が表明される場合には、それぞれ左下の表に記載した内容が監査報告書、ないしレビュー報告書に記載されることになっております。監査報告書による情報提供のほか、真ん中にございますけれども、6月下旬の株主総会では会計監査人が出席して意見陳述等を行う場合があるということでございます。
 以上が、監査人側からの市場、ないし株主への情報提供の枠組みとなります。

 会社による開示の形態としましては、右下の表のようなパターンがございまして、例えば有価証券報告書の財務諸表の注記等において、監査人の見解に触れているようなケースもございます。特に、本年6月に公表されましたディスクロージャーワーキング・グループ報告書では、有価証券報告書において、会計監査に関する事項も含めて監査役等の活動状況についての記載を充実するということが提言されているところでございます。
 表の下でございますけれども、東証の適時開示の枠組みがございます。金商法関係としましては、財務諸表等に添付される監査報告書におきまして、不適正意見、意見不表明、ないし継続企業の前提に関する事項を除外事項とした限定付適正意見、こういったものが記載されることとなった場合には、当該監査報告書の内容、それから会社の今後の対応を適時開示することが東証のルールで定められております。また、会社法関係としましては、会計監査人の監査報告、それから監査役等の監査報告を含む株主総会招集通知書が東証の適時開示情報閲覧サービス、TDnetに掲載されるという枠組みも整備されているところでございます。
 12ページ目、13ページ目は、今、ご紹介した適時開示等に係る規定を掲載させていただいております。

 続きまして14ページ目、監査人の情報開示を充実させていく上で論点となりますのが守秘義務でございます。公認会計士法におきましては、「独立した立場において財務諸表の信頼性を確保する」等の公認会計士の使命、職責が最初に規定されておりまして、その上で公認会計士、及び特定社員、すなわち監査法人の社員のうち公認会計士でない者に対する守秘義務としまして、「正当な理由なく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならない」ということが定められております。
 守秘義務が解除される正当な理由につきましては、15ページ目の日本公認会計士協会の倫理規則、次の16ページ目の監査約款に具体的な場合が列記されております。例えば、倫理規則8項二号ロですと「法令等に基づく質問、調査、または検査に応じるとき」ですとか、8号三号ニですと「監査の基準に基づくとき」など、職業上の義務、権利がある場合などが定められているところでございます。
 17ページ、18ページは、守秘義務に関する国際的なルールについてのご紹介をさせていただいています。
 19ページでございますけれども、守秘義務につきましては、本年7月の監査基準の改訂の際に、監査上の主要な検討事項、先ほどご説明しましたKAMの記載との関係で一定の整理がなされているところでございます。下線を引いている2段落目でございますけれども、「経営者が情報を開示しないときに、監査人が正当な注意を払って職業専門家としての判断において一定の未公表情報をKAMに含めることは、監査基準に照らし、守秘義務が解除される正当な理由に該当する」と整理されております。
 さらに、次の段落でございますけれども、「KAMの記載により企業又は社会にもたらされる不利益が、これによりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限り」「記載することが適切」とされておりまして、「記載が行われない場合は極めて限定的であると考えられる」というような整理がなされております。こうした整理も、今回のご議論のご参考になればと思い、ご紹介させていただきました。

 次の20ページ目、会計監査に関する情報開示の充実が求められるその他の事項としまして、監査人の異動時の情報開示の論点がございます。これは、10年前の2008年4月以降に開始する事業年度から、監査人の異動に関しましては被監査企業による臨時報告書の提出が義務づけられてございます。臨時報告書の記載事項としまして、下の線を引いている部分でございますけれども、異動に関する事実関係のほか、異動に至った理由、及び経緯に関する企業側の認識と、(5)ですけれども、それに対する監査人側の認識の双方の記載が求められているところでございます。
 東証の上場規定におきましても、同様の開示が求められているところでございますけれども、21ページ目、監査人の交代時における開示のあり方については、冒頭ご紹介しました平成28年3月の懇談会の提言におきましても、「交代の理由、経緯、例えば会計処理に関して企業と監査人の意見の不一致等があったかどうか、は株主や投資家にとって極めて重要な情報」とされている一方、「臨時報告書による開示については、企業による説明の内容が表層的、定型的となっており、株主等の十分な参考になっておらず、監査法人等からも具体的な意見が出しにくいケースがある、との指摘」がなされております。

 22ページ目、本年7月に公表されました公認会計士・監査審査会の平成30年版モニタリングレポートでは、実際に適時開示された過去5年間の異動理由の集計が出されておりますけれども、任期満了とされるものが最も多く、実質的な理由が記載されていないケースが多いということが見てとれます。そして、こういった会社側の異動理由の開示につきまして、監査人としても特段の意見はないという対応をしているケースが大半を占めているという状況でございます。
 23ページ目、平成30年6月期における異動件数は116件ございますけれども、株主総会の決議を経ず期中で監査人を変更したケースがこちらに出ている15件ございました。期中交代につきましては、この表にございますように、「被監査会社の不適切会計等や「意見相違」が要因となっている場合も多く、投資家にとってより充実した情報開示が求められる場面と言えるかと思います。
 24ページ目、実際の開示とは別に、公認会計士・監査審査会が検査、及び報告徴求等のモニタリングを通じまして理由を把握した結果がこちらにございます。大手4法人の集計結果では、監査報酬が一番多くございます。続きまして、監査人の選定に関する方針を理由とするものとなっております。具体的内容としましては、会計監査人の継続年数の長期化の見直しや、新しい視点を取り込むといった観点を重視しているものが多いとの記載がなされております。また、監査チームに対する不満としましては、3つ目でございますけれども、不正対応とか、過年度決算訂正等に関する監査人の対応、あるいは監査チームの硬直的な対応、監査工数増加、経験の浅いスタッフが多く関与している等の不満が見られるというような指摘もなされているところでございます。
 25ページ目は、大手監査法人以外のモニタリングの結果でございます。被監査会社の業務の内容や規模の拡大、株主の異動や不正の発覚に伴う監査リスクの高まりを理由としまして、監査人側から監査契約の更新を行わなかった、監査人からの辞任が一番多いケースとなっています。なお、監査人側からの辞任は8件となってございますけれども、このうち7件が、適時開示では任期満了という記載しかなされていなかったということでございます。実際、任期満了と適時開示した事例、80件ございますけれども、それについて審査会のモニタリングで、改めて理由を確認した結果が25ページの下の表となっております。

 最後26ページ目でございますけれども、監査人の異動に関連しまして、前任と後任との間で適切な引き継ぎがなされているのかという点も、投資家にとっては重要な関心事項になるわけですけれども、こちらにつきましては平成25年の不正リスク対応基準において、下のほうでございますが、「後任の監査事務所に対して、不正リスクへの対応状況も含め、監査上の重要な事項を伝達するとともに、後任の監査事務所から要請のあったそれらに関連する調書の閲覧に応じる」ように定めなさいと。さらに、「前任の監査事務所に対して、監査事務所の交代理由等の監査上の重要な事項についても質問する」ということも求められているところでございます。

 以上、最初に、監査意見に関する情報提供の充実としまして、監査報告書を通じた監査人からの情報提供、次に監査報告書以外の場面における監査人からの情報提供として会社法上の株主総会での意見陳述、それから被監査会社からの情報提供についてご説明した後、監査意見以外の事項に関する情報提供の論点としまして、監査人交代時の情報開示のあり方について、制度と実態をご説明させていただきました。事務局からは以上でございます。

【八田座長】
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの事務局からの説明を踏まえまして、これより皆様からご質問、ご意見をお伺いする討議とさせていただきます。本懇談会における論点や、懇談会の進め方などについて、ご自由にご発言いただければと思います。どなたからでも結構ですので、挙手をお願いいたします。どうぞ。
 では、青メンバー、よろしくお願いします。

【青メンバー】
 まず、近時の事例におきまして、監査人の対応としまして、社会的な注目を集める事案だったにもかかわらず、株主ですとか、投資者に対して説明責任を果たそうとしなかったというような残念な例がございました。例えば、監査報告書におきまして、会社が正しいとする財務諸表を否定していながらも、修正すべき具体的な金額について明らかにしていないということもございましたけれども、監査人が正しいとする財務諸表の姿を具体的に示していただかないと、株主等は判断のしようがないのではないかと考えます。

 それから、会社ですとか、前任監査人と異なる見解の監査意見が出された場合、株主等は何が正しいのがわからないという状況になってしまいますので、そのような意見を出した背景ですとか、相違点について丁寧な説明を必要とする状況であるにもかかわらず、会社法上の株主総会での意見陳述権を使わないといったような説明責任を積極的に果たそうとする姿が見受けられない事例があったと思います。こうしたこともございますので、今のタイミングで監査に関する情報提供の充実に向けまして、そのあり方を検討するということは時宜にかなった非常に有意義なことだと考える次第でございます。
 検討の方向性につきまして、私の考え方を申し上げさせていただきますと、株主等は、高品質で適正な財務情報を投資判断の基礎として必要としていると考えますけれども、それに関して会計監査を必要とする一番の意味合いというのは、やはり監査人が会計の専門家として、財務情報の信頼性に関する有用性の高い情報を提供することで、投資者の投資判断に資するという極めて重要な役割という点に集約されるのではないかと考える次第です。
 さらに、会計士法の第1条の2におきまして、会計士の職責としまして誠実にその業務を行わなければならないと定められてございますけれども、監査人の究極的な本来のクライアントというのは、やはり全体のことを考えますと投資者と考えるべきと思っております。そうしますと、法では監査人に対して投資者のために誠実に行動することを求めると理解されるべきものではないかと考える次第でございます。言いかえますと、株主等に対しまして、財務情報の信頼性にかかわる説明を十分に尽くすということが株主等に対する監査人の職責と考えられると考えておりまして、それを十分に全うすることが誠実ということではないかと考える次第でございます。
 とりわけ無限定適正ではない意見の場合におきましては、監査人が財務諸表に依拠してはいけないと判断したということでございますので、投資者はそれに関する詳細な説明を特に必要とするという状況があると考えますので、監査人が積極的に説明責任を果たしていくということが強く求められるのではないかと考える次第でございます。
 こうしたことを踏まえまして、会計監査の情報提供に関しまして重要な点が2つあると考えております。1点目としましては、監査人が投資者に対する説明責任を果たさなければいけないということを明確にしていくことが大変重要ではないかと考えます。この点につきまして、会計監査の本来の受益者は株主等であるということを監査人自身がしっかり認識をする。そして、株主等に対しまして積極的に説明責任を果たすことで信頼が得られていくということを、十分に自覚していくことが重要ではないかということでございます。

 2点目としましては、監査人が必要な説明責任を果たすに当たりまして、守秘義務が解除される正当な理由に該当するということを明確にすることも重要なことだと考えます。守秘義務を理由に、必要な説明責任を果たさないことがあってはならないということに関しまして異論を持たれる方は恐らくいないだろうと考えますし、守秘義務を最初に明記したときには、その規定が監査人の説明責任を果たすに当たっての障害になるとは、多分、思っていなくて記述されているのではないかと考えます。しかしながら、現に必要な説明責任を果たしていない事例が発生しているという状況もございますので、守秘義務の解釈を示すドキュメント類が原因で本来の趣旨と異なるような理解がされてしまうと仮定すれば、今後、そのようなことが発生しないように、守秘義務に関連する文書について見直しをすることも必要ではないかと思われますので、そうした視点から検討すべきではないかと思います。
 例えばということで申し上げますと、無限定適正以外の意見の根拠を監査報告書に記載する場合もそうでしょうし、株主総会での必要な意見陳述を行う場合など、あくまで株主等のために必要な説明を行うというときには、会計士法ですとか、監査基準等で規定されている守秘義務が解除される正当な理由に該当するということを、できるだけわかりやすく、誤解を生じさせないように、そして、説明することを控え目に考えてしまうようなことにならないように明確化していくということを、ぜひこの場でも検討していただければと考える次第でございます。以上です。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。問題提起と、それに対する理解、ポイントもお示しいただきましたので、今後の議論の中で生かさせていただきたいと思います。
 ほかに、どなたか。では、時間がもったいないですから、私の前の清原メンバーからお願いいたします。

【清原メンバー】
 ありがとうございます。
 今回、説明責任とか、情報提供ということを考えるときに、今までなかったものを新たに考えるその背景は何かと考えると、やはり今までですと、恐らく監査人と会社との関係というものを、私的な関係というものがわりと重視される発想が監査人側にもあったけれども、今、こういったことに対して関心が高まっているのは、やはり監査に対する市場を含めた期待も高まっているし、それに応えなければならないという意味でのニーズが高まって、やはり必要性がすごくあるということが出発点になっているんだろうと思います。何でもかんでも説明をするとか、情報を提供するということではなくて、本来あるべきものが、皆さんの想定されているところと比べて、どうしてもまだ欠けているところがあるという話が一つあるのではないかと思うんです。そして説明をしなければならない義務というものを考えるのにあたり、義務の根拠、それから発生原因になるような事実関係は何かということを、法的にも詰めておく必要があるのかなと思います。
 今、青メンバーのほうからお話があったような、公認会計士法の誠実な職務の遂行ですとか、そういったことも大事ですが、期待される行為をやってほしいというだけでなく、この場合はやはり本当にしっかりしないといけないということを明確に、義務として捉えられるべき範囲はどういうことかということを考える必要があるのだと思います。

 それはどういうことかというと、期中監査をどうやっているかということそのものではなくて、やはりしっかりとした監査が終わって意見表明がされているという、監査業務は終わったんだけれども、その監査業務の結果の説明ですとか、報告の内容というものにおいて、やはりまだ十分ではないところがあるということで、利用者側からすると、理解できないような不明確さが残っていたり、疑義が残っていると。それは、やはり監査というものに対する信頼性にもかかわってくるものであり、その意味で言うと、公益的な側面があるので、監査人の私的な意見にとどまらず、やはりそこは監査人に対して法的な義務という高めたところを求めていかなければならないというような、そういう状況を考えていくことになるのかなと。
 言いかえると、会社法的に言えば会計監査人と会社の関係は委任の規定に従うとされていて、会社法上、株主に対する説明業務というものは明文では入っていないので、会計監査人は通常であれば会社に対して、監査役との関係でコミュニケーションをして、自らの監査業務について説明をしていくというのがベースにはなっていると。ただ、そこにとどまるものだけではなくて、やはり本来の受益者、利用者からすると、会社法が想定しているもの以外の部分も含めて義務を観念する必要があるというのが今の議論の状況ではないか。
 そのときに、会社法の規定、第330条にあるように民法の委任の規定をベースに考えていったのであれば、やはり委任者、受任者、監査契約では委嘱、受嘱という言葉が使われていますけれども、監査契約側で言うと、委任契約では説明義務というよりは、顚末報告義務などが民法第645条にありますので、自らがやった事務処理に関して結果と経過の報告をしっかりする義務があり、その義務を十分に尽くし切れていないという場面において、監査人は説明をしっかり果たさなければいけない。それは、本来であれば監査役などが求めていくことなんでしょうけれども、そこのルートだけにとどめることなく、やはりニーズが高い、公益性が高いということであれば、監査基準その他、ほかの法令も含めたところを考えて、義務の内容を具体化していく必要があるのではないかと考える次第でございます。
 こういったことがあるときに、先ほどもお話がありました守秘義務というのは、本来的に言うと、解除される場面の一つとして明確に位置づけていくことが必要になるかと思います。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 それでは、貝増メンバー、お願いします。

【貝増メンバー】
 すみません、実は今の清原先生のご説明を伺っていて、非常に感じ入るところがありました。
 というのは、事務局の資料を事前にいただいて拝見していたときに、非常に感じた素朴な疑問がございました。もちろん、私、法律の素人ですので、何か間違って解釈していることもあるかもしれませんが、要は、いただいた資料1の10ページのところに出ております定時株主総会における会計監査人の意見の陳述、会社法第398条です。これを読みますと、これが法律的に義務なのか、権利なのかとか、そのあたりはきっといろいろあるんだと思うんですが、私はこれを素直に、監査人はいわば会社の最高意思決定機関である株主総会において意見を述べる義務があるものだと、こういうように理解をいたしました。そうすると、後のほうで出てまいります15ページの倫理規則とか、16ページの監査契約のところで、当然、守秘義務が解除される具体例の中に、株主総会において意見表明をするとか、何かそういうものがあってしかるべきではないかと感じた次第でございます。
 どういうことかといいますと、投資家、株主の立場で考えたときに、監査人の方に「株主総会に来て意見を述べてくれ」あるいは「ちゃんと真実を職業的に中立な立場で述べてくれ」と言うことは、多分、何がしか経営陣等々との話し合いの中で、通常にやっていると守秘義務にひっかかるようなことがあった、何もなくて、そんなことが起こってくるとは思えない。そうすると、素人の目から見ますと、会社法のところと、倫理規則とか、監査契約を見ていると、こういうときは守秘義務がなくなりますというところに一番大切な株主総会がないのは不自然だなと感じました。
 法律解釈とか、そういうもので現状でもできることになっているのかもしれませんが、何か利用者の目から見ると、そこがはっきりしていないように見えてしまうところにちょっと疑問を感じているところでございます。

【八田座長】
 ありがとうございます。会社法の規定と倫理規則の関係についても、別途、検討させていただければと思いますので、よろしくお願いします。
 ほかにいかがでしょうか。では、町田メンバー、お願いします。

【町田メンバー】
 私がお答えする話ではないんですけれども、今のところについては、多分、監査論、もしくは会社法の先生方はちょっと違う認識を持っているのではないかと思いますので、最初にその点についてだけ一言申し上げます。

 一般に、株主総会での会計監査人の意見陳述権というのは、かなり狭く解釈されているようです。例えば監査役と会計監査人の意見が違っているとか、あるいは会計監査人が無限定適正意見以外の意見を表明して、株主総会で計算書類の承認が必要になるというときに、意見陳述を求められるようなケース等が想定されていると理解しています。法文上に制限はないものの、会計監査人が自由に発言する権利という形ではあまり考えられていないのではないかというのが私の理解です。
 ただ、そのときに、一つの例として申し上げますけれども、限定付適正意見だとか、あるいは不適正意見、意見不表明などが出たときに、株主からの質問があって、それに対して会計監査人が答えずに、会社が代わりに答えてしまうというようなケースがあったりする。実際に、そういう実例はつい最近もあったと思います。本懇談会のテーマからすると、そういうときこそが問題だろうと思います。そうした対応は、会計監査人としては、恐らく守秘義務の問題を非常に気にしているのではないかと思います。

 なぜかというと、日本の守秘義務規定というのはちょっと不思議な形をしていまして、公認会計士法等の法律に守秘義務の規定があって、「正当な理由」があればそれは解除されるということで、その「正当な理由」については、公認会計士協会の倫理規則で限定列挙して挙げている。一応、「次のような場合」とされているので、頑張れば例示列挙とも読むことができますが、監査人の立場からすれば、ここに書いていないものをやるのはちょっとチャレンジングだということで限定列挙的と解釈するでしょう。

 それに対して、今回、国際会計士連盟の倫理基準審議会の例などを挙げていただきましたけれども、これは各国の法制が異なる中で、最小公倍数としての規定をしているだけです。たとえば、アメリカは、法規にも、監査基準にも、守秘義務の規定はなく、倫理規則だけに守秘義務の規定があって、それを法規や判例等のいろいろな形で解除したり、守秘義務に該当しない実務というものの範囲を広げてきたのです。例えば、当局への通報に関しては1995年の民事証券訴訟改革法で解除した。あるいは監査人が自分の監査のことを説明したことについて裁判で争って、少しずつ、少しずつ、守秘義務の解除される範囲を拡大してきたという、慣習法の国ならではの実績があるわけです。

 それに対して、日本の場合は、成文法の国ですし、倫理規則でのこういった限定列挙の書きぶりや、これまでの実務の慣行からすれば、先ほど清原先生が言われましたけれども、もし守秘義務の規制を乗り越えて情報提供を求めるとすると、求める実務を限定列挙で挙げておかなくてはならない。
 私は、以前から、監査のことに関して監査人が説明するのに守秘義務を恐れる必要はないのではないか、と考えています。もしも現状の規定が制約にあるのであれば、今のやり方とは逆に、守秘義務に該当するものを限定列挙してあげたらいいのではないかと考えています。

 特に、先般、7月5日に監査基準が改訂されて、Key Audit Matters(監査上の主要な検討事項)が監査報告書に載るようになりました。そのときの監査部会での審議でもあったように、監査人が着目したリスクと、それにどう監査上対応したかを監査人が監査報告書に書くのに何も問題はないとされています。そして、もしも監査人がKAMとして記載すべきと判断した事項について、それ被監査会社がまだ開示してない情報であっても、あるいは、会社がそれを出したくないと言った場合でも、パブリックインタレスト(公共の利益)に該当するものであれば、それをKAMとして記載することに何ら問題はないということが、監査基準の改訂に関する意見書に明記されたところです。

 そのような観点からすれば、同じ文脈で、例えば意見不表明であったり、あるいは限定付適正意見であったりしたときに、監査人が監査のことを語るのに躊躇することがないような、つまり守秘義務に抵触することがないとする枠組み、それが法的な枠組みなのか、それとも自主規制の枠組みなのか、あるいは何か別途の手立てなのかわかりませんけれども、そういうものを用意してあげれば、恐らくそういう枠組みがあれば、監査人の大きな武器になるではないかと思います。先ほど申し上げたような株主総会の質問を受けたときにも堂々と、自ら壇上に立って自分たちの立場を表明できるようになるのではないか、と。そういう観点から、本懇談会では、是非、守秘義務の問題について検討していただきたいと強くお願いしたいと思います。以上です。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 それでは、ほかの方。では、岡田メンバー、よろしくお願いします。

【岡田メンバー】
 日本では必ずルール化をしながら、ルールに基づいて、そのとおりにやるという、言ってみればルール主義の傾向があると思います。今回の議論を聞いていますと、我々ももう少し原則主義に慣れていかなければいけないのかなと思います。

 例えば、パブリックインタレストという言葉が出ましたけれども、投資家のニーズというものを考えると、おのずと何を開示すべきであるかという答えは出てくるはずですが、やはり会社と監査人とのぞれぞれの立場があり、会社は今は出したくない、あるいは先延ばしをしたいと主張し、開示すべきという監査人との意見の対立になるんだと思うんです。監査人の意見不表明はけしからんという議論もあると思いますが、会社側との意見の対立やインセンティブのねじれを考えると、なかなか監査人がそこに踏み切れないというところは、現実問題としてあるのではないでしょうか。
 そこで、監査役として何かできることはないのか、あるいは監査役がやらなければいけないことがあるのではないかというような気がしております。会社から給料をもらっているという意味ではインセンティブのねじれが我々監査役にもあるわけですが、やはり監査役を選んだ株主の目線を考えると、監査人を後押しするような立場でいなければいけないのかなということを、今回、いろいろな資料を読んで痛切に感じた次第です。

 特に、意見不表明というような例を見ますと、継続企業の前提に疑義が生じている場合、評価のための資料が提供されていないとか、具体的な事業計画が提供されていないという理由を聞いても、株主にとってみれば、継続企業の前提に疑義が生じているという大変なことが起こっているわけで、彼らはそれを見ただけで、どんな根拠があるかは別として、すぐ株を売るかもしれません。誠実に資料を出していくのが会社の役割で、これは会社にとって危急存亡のときであるわけですから、監査役としても、ちょっと極端な言い方をすると業務財産調査権も使ってでも早急に資料を提供せよと、命令するぐらいのことをする必要があるでのはないか。監査人が言おうと思っても無理なところがあるのであれば、会社に物申せるのは監査役だけですから、監査役の役割はその辺にあるのかなと思います。
 また、意見不表明や限定付適正意見の監査報告書の例を見ますと、架空取引の存在が理由という場合には、その調査が進むごとに監査人、会社は開示をしていますが、そのほかのケースでは開示が遅れるケースもあるようです。その場合でも根拠となる資料がそろった時点で、可及的速やかに投資家に開示していくのが望ましいと考えます。

 最後に、先ほどの守秘義務の話ですが、KAMの規定で、公共の利益と、企業または社会にもたらされる不利益をてんびんにかけるという非常に抽象的な規定になっているので、何か実例(ルール)をつくってくれという議論になりそうですが、これからは原則主義の考え方で、監査人・監査役・会社が各自、自分の頭で考えた上で議論していくという対応が必要なのではないでしょうか。そういう意味では、監査人も守秘義務に逃げることなく、積極的に開示の姿勢を主張していくべきではないかと考えました。以上です。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 それでは、田中メンバー、よろしくお願いします。

【田中メンバー】
 事務局から詳細なご説明をいただきまして、問題点の多くが明確になったかと思います。私が感じた点を意見を何点か申し上げたいと思います。

 1点目は、企業の開示した財務情報の正確性に疑義があって、資本市場に不確実性による混乱をもたらしている場合、混乱を解消する第1次的な責任は、発行会社側にあるという点は明確にされるべきと思います。もちろん、会計監査人に対する期待が大きいことは確かでありますが、監査人は、企業に対して指揮監督の権限を持っているわけではありませんので、財務情報の正確性に疑義が生じたとしても、監査人自身が真相を探究するということには根本的な限界があります。監査人が、企業から収集した情報では財務情報の適正さにつき、無限定の適正意見を書くことはできないということになったとすれば、そこからさらに調査を進め、財務情報の正確性を担保する責任は、発行会社にある。それは、会社の経営陣、取締役会、そして監査役等にあるという点は明確にされるべきかと思います。

 第2に、そうは申しましても、会計監査人は専門性の高い職業監査人として、資本市場のいわばゲートキーパーとしての役割を期待されているわけでありますから、監査報告その他の形で監査人が意見を述べるときには、資本市場に対してわかりやすい説明が求められるかと思います。その点で、何人かのメンバーが既にお話になったとおり、監査人は会社との間で委任契約を結んでいますが、監査人の情報提供の受益者は株主、さらに債権者その他の会社と利害関係のある人々が受益者になっているという関係があります。このような関係があるからこそ、会社法その他の法令は、監査人の権利義務を基本的に強行法規として規定しているわけでありまして、監査人が発行会社の間で契約をしても、会計監査人の情報収集及び利害関係人に対する情報提供に関する様々な権限を制約することはできないわけであります。その点で、一般の委任者と受任者との間の守秘義務の内容については、委任者と受任者の間の契約によっていかようにもへんこうできるという、通常の委任契約とは根本的に異なるという点は重要かと思います。

 第3に、先ほど来、指摘されています株主総会における意見陳述権ですが、これは法律上の問題ではありますけれども、これまで全く裁判例がございませんで、私も会社法関係の注釈書をいろいろ読んでみましたが、記述が乏しく、あまり議論がなされていないという状況ではないかと思います。ただ、この規定ができたころの会社法学者の説明を見ますと、特に会社法第398条1項の意見陳述権については、これは監査人と監査役との意見の不一致が存在して、その調整がつかないというような異常事態を想定した規定であり、そのような場合には、会計監査人は株主総会の場で「洗いざらい」話した上で総会の判断を待つしかないと、こういう趣旨の規定であると説明されております。この趣旨からすれば、「洗いざらい」話すという権利が監査人はあるということです。
 なお、会社法の規定において、会社の役員等の権限として規定されている場合、それはある面で義務ともなり得るわけです。会計監査役は、善管注意義務を尽くしてその権限を行使することが求められますので、状況いかんによっては、意見陳述権を行使しないと会計監査人の善管注意義務違反となる可能性は理論的にはありうる、ということになると思います。とはいえ、基本的には、条文の文言から明らかなようにこれは会計監査人の権利なのですから、監査人は、398条1項で意見陳述権を有する場合にも、実際に「洗いざらい」話す必要は一般的にはありません。とはいえ、話そうと思えば話すことができる、そういう規定であると解されます。実際にこの規定が適用されるのは、会計監査人と監査役等との間に意見の不一致がある場合です。その場合、監査役等は、会計監査人の意見について、この部分が相当ではないという形で反論を加えているはずですから、そのような反論の過程で、何らかの具体的な事実が摘示されているはずです。そうすると、そのような具体的な事実に関連して、それに関する会計監査人の意見は、監査役とはこのように違うということを述べることが想定されていると思います。そのような文脈で、会計監査人が発行会社に関する事実を指摘する場合、守秘義務は全て解除されるということになるかと思います。この規定に関しては、仮想の事例でもよろしいですので、多少、具体的な例を出して、こういうケースではこういうことを述べることができるというようなことが、何らかの資料説明の形で明らかにできればいいかと思います。

 最後になりますが、事務局から出された資料によりますと、会計監査人の異動の理由について、開示された理由と、監査人を対象にアンケート調査をしたときに回答された本当の理由とが乖離していることがあるようであります。制度の趣旨からすれば、このように開示された理由と実質的な理由とが乖離しているのは好ましくないはずでして、法令で開示を求めているからには、実質的な理由を開示するということが当然、法令の期待しているところであると思いますので、そういう原則に則った実務慣行が形成されていくことが重要であると思います。長くなりましたが、以上です。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 それでは、高濱メンバー、お願いします。

【高濱メンバー】
 皆様方からいろいろなご意見をいただき、ありがとうございます。
 我々、公認会計士協会の立場としましては、資本市場のインフラである監査の信頼性の確保、今回の懇談会の議題である公共の利益のために監査法人が説明責任を十分に果たすべきという点につきましては、真摯に取り組む気持ちを持っております。したがいまして、この懇談会で皆様からいろいろなご意見をいただきまして、その内容に応じて対応させていただくというような準備はございます。
 ただし、今回の議論につきましては、通常の意見とは異なるケースにおける議論ということでございますので、何らか現状の仕組み等に変更を加える際には、九十数%が無限定適正という、監査で言うと普通の事例になっているわけで、そこに変な形ではねないということをぜひご注意いただければありがたいと思っています。

 具体的に申し上げますと、守秘義務のお話が先ほどから論点として出ているわけですけれども、現状の会計士協会の倫理規則の限定列挙という理解による監査実務というのは、実務としてはある程度共通の理解として、安定して運用されているという理解をしております。したがいまして、ここについて何らかの変更を加える際には、先ほど申し上げました点はぜひご留意いただきたいと思っております。
 それから、説明責任の部分につきましても、我々、基本的に監査人の意見表明というのは、やはり監査報告書の記載が全てという理解をさせていただいております。今回の議論の出発点であります説明責任を果たすという点におきましても、事例に引いていただいていますように違う意見を出している場合については、少なくとも通常の意見とは違う根拠等が記載されておりますので、どのようなステークホルダーにとって、どのレベルでわかるべきなのかというゴールも、ぜひ明確に議論をしていただけたらありがたいと思っております。恐らく監査の意見には、監査の専門用語も多く含まれておりますので、一般の株主にとってわかりにくいと言われると、そういう部分は少なからずあるだろうと思っている点をつけ加えて、ご説明させていただきました。

 それから、今、田中メンバーのほうから出ました監査人の異動のケースにつきましては、在り方懇におきましても、公認会計士協会で仕組みをというようなお話が書き込まれているわけでございます。我々、会計士協会では、監査人交代理由の実情をモニタリングするため、昨年上場会社監査事務所登録制度を変更しまして、29年度より監査人交代理由の実例を捉え取りまとめたものを、2018年6月に公表した「平成29年度 品質管理委員会年次報告書」の中で記載しております。この調査では、既に公認会計士・監査審査会が調査されました内容とほぼ同じ内容をつかんでおります。今後、前任と後任、あるいは臨時報告書における任期満了という記載と実情との差については、協会の内部でも詳細に検討して、何らかいい手はずがあれば、その方向に向かって検討を進めていきたいと考えております。以上でございます。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 すみません、遅れました。湯浅メンバー、お願いします。

【湯浅メンバー】
 ありがとうございます。
 今回のこの懇談会のメンバーを引き受けさせていただきまして、正直申し上げまして扱っているテーマが非常に難しいと、率直な感想としてまず申し上げたいと思います。それは、これまで検討されてきて、残されているテーマが取り上げられているということで、再三お話ありますように、非常に限定的な数の少ない事例、しかるに一方で社会的な影響も大きい事例があったということを踏まえての検討だと。冒頭、三井局長からもありましたように、過去の事例をどうこう言うという話ではなくて、そこから学んで将来にどう反映させていくか、ここのところは非常に難しいのではないかと思っています。つまり、特殊な事例が必ずしも今後も起こるとは限らず、今回、対応したとしても、将来、また違う事例が起こることもあるということです。そういったことを踏まえて、対応策については慎重に検討する必要があると考えています。

 特に、先ほど高濱メンバーもおっしゃったように、大多数、99%は無限定適正意見の企業であり、監査人との関係が良好な状態にあるということですので、何か制度の見直しをすることによって、そうした通常の企業、監査人に対する悪影響、副作用が起こってはならない。先ほど守秘義務の話もありましたけれども、こちらの見直しをすることによって企業側が監査人に対して提供する情報を制限するなどといった行動を促すようなことがあっては本末転倒であると思います。これは極端な例だと思いますけれども、基本的に作成者も、監査人もそれなりのコストをかけて対応しているわけですから、コストを増やすのであれば、増やしたものに見合う社会的なメリットがあるかどうかを検証した上で、対応していただければと思います。

 あと、前提として、監査については企業が提供する情報に基づいての判断ということがありますので、監査人はある意味制限された、非常に難しいお立場だということはよく理解しています。その前提で、やはり会社側と会社人との関係が非常にうまくいっていることが前提になっていまして、関係がうまくいかなくなったとしても、意思疎通は継続して非常に重要なものであると。全く違う意見を言ったとしても、何を言うかということについては会社側ときちんと共有されているといいますか、そういうことをあくまでも追求していければと思います。

 監査人として市場に対していろいろな意見を発する場があるかと思いますけれども、やはり主戦場としては監査報告書に記述する内容をどう充実するか。無限定適正意見以外の意見が出されたときには企業側も適時開示をするわけですから、それに対する、すり合わせと言ってはおかしいかもしれませんけれども、やはり意思疎通を踏まえた上での市場への情報発信が行われる。そういうところが枠組みとしてありますから、情報として足りないところについてどのように補っていくかということが議論の大きなウエートを占めるべきではないかと思います。
 それ以外の場面については、もう極限状態ですので、守秘義務の話も基本的にないという議論もあるとは思いますが、説明責任、情報発信の責任については当然あるはずですので、こうした場面にまで制度的な枠組みを検討することは、ハードルが高いという気がしています。

 情報提供の充実という時に、投資家、株主に対しての情報提供がどうすればより有用になるのかという観点について、つまり投資の意思決定の判断にどの程度有用なのかということは、念頭においておくべきだと思います。今議論しようとしてる極限状態というか、かなりまれな事例というのは、投資の意思決定をする上では、判断のための材料が出尽くした上での最後の一押しといいますか、企業からの情報に加えて監査人からの情報ということが多いと思いますので、それがどれほどの価値があるのかという観点の評価が必要ではないかと思います。以上です。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
まだほかにご意見ありますでしょうか。では、貝増メンバー、よろしくお願いします。

【貝増メンバー】
 すみません。今、湯浅メンバーからお話がありましたように、投資家が何を求めているのかということですが、参考資料をずっと拝見させていただいて、正直、こういう特殊ケースのものばかりをまとめて見るなんていうことは、いまだかつてありませんでした。まず一番ご理解いただきたいのは、投資家が最も知りたいのは、こういう特殊なものが出てきたときに収益や財政状態にどのくらいの影響があるのか、もうこの一点に尽きるんです。

 まず、無限定適正ではない監査報告書がついているぞ、即、売らなきゃいかんのかと思ったときに、一体、収益にどの程度の影響があるのか。限定付適正意見のものを見ますと、大体、具体的な金額が出ております。要は、具体的にどのぐらいの影響があるんだということ、それから、その影響額がどういう因果関係で出てくるのかということが明確にわかると、疑心暗鬼による狼狽売り的なものというのは防げるはずです。

 幾つかの事例を見ていて、例えば28ページのハマイとか、32ページのコマニーとか、37ページのテクニカル電子などは、むしろこの監査報告書があることによって、狼狽売りを防ぐどころか、会社、あるいは監査人の姿勢の正さをすごく印象づけるものになったのではないかと思います。ただ、いずれも海外の取引先とか、天災という、落ちついて考えたら定常状態で正確なデータはとれっこないよなというケースです。結局、それがあるので、そこの部分は除いて、あとは全部、適正ですという書き方がされていて、かつ出てくる金額がどう見ても、会社の収益や財政状態に対してほとんど、誤差という言い方がいいのかどうかは別として、誤差ぐらいのものだと。もっと言うと、本当に限定付適正意見にする必要があったのかとさえ感じてしまいます。
 さらにちょっと飛び火して言うならば、きっとKAMが具体的に出てくると、例えばこういうものが投資家に役立つのではないかと思います。「あの会社は、ベトナムで天災があったよね、大丈夫かな。」と思っている。そのときのKAMで、これぐらいの影響額等々があって、どうのこうのと監査人さんが書いてくれると、「ああ、なるほど。」と思える。要は、なるべく具体的に数字を上げていただく、これが非常に大切ではないかと思います。

 それから、多分、みんな初めて読むときは相当に焦っているわけです。そういうときは、やはりあまり省略をしないで丁寧に書いていただくほうがいいなと思います。例えば、その他の事項の幾つかのもので、「前任の監査法人は無限定適正意見をいつ幾日に表明しています」という記述があります。何で具体名を書かないのかと、読んでいて非常に素朴な疑問を持ちました。「前任のどこどこ監査法人は」と、いわゆるレポートの親切さということで言えば、「前の責任者は私と違うことを言っていました」と書くのと、「前の責任者の誰々さんは違うことを言っていました」と書くのでは、当然、読む人の受ける印象は違うのではないかと感じました。
 不適正意見のものは、なかなか数値化するのは難しいだろうと思います。一方で、先ほども出ました継続企業の前提の疑義があって、「もう既に上場廃止が決まっています」とか、「民事再生手続開始の申し立てが云々」というようなことで出てきている場合は、もう監査報告書を読む前に、投資家は多分、それなりに行動をしてしまっているのだろうと思いました。

 それから、監査人の交代理由に関してですけれども、記述をより具体化していただくことは、ぜひやっていただきたいと思います。資料1の22ページのグラフをぱっと見て、ここに書いてある文言だけで普通になるほどと思えるのは、「監査法人の合併・異動等」と「親子会社等の監査人の統一」だけです。これはそうだなと思います。当然、「任期満了」となると、普通なら続くのが任期満了で交代したということは、「会社が嫌だと言ったのか、監査法人が嫌だと言ったのか」。それから、「見解の相違」と書かれたら、「では一体どこの見解が違ったのか」と、つい投資家は思ってしまいます。言葉は悪いですが、そういうちょっとやじ馬根性的な部分に答える、全部答えろとは言いませんが、ある程度答えるような配慮をしていただけると、よりわかりやすくなるのではないかと思います。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 では、清原メンバー、お願いします。

【清原メンバー】
 先ほどのところに少し続けてお話をしたいことがあるんですけれども、今、問われているところは、限界事例というのも確かにきっかけにはなっていると思うんですけれども、KAMが導入されていることにあらわれるように、やはり監査手続についての説明をもう少ししっかり尽くしていくという、全体的なトーンがあるということをまず考えなければいけないのではないでしょうか。その観点から見たときに、今までの慣行は褒められたような慣行だったのか、見直す余地があるかどうか、ここの点はやはり考えなければいけないと思います。

 確かに、今まででき上がってきたものに悪影響を及ぼさないようにという配慮もあるとは思いますが、今までいたコンフォートゾーンからやはり1回、出ていただかなければいけないような、そういった状況というのが実はあるのではないか。審査会が検査をしたところ、開示の実態、開示内容と実態との間にずれがあるという事実がはっきりとしているということは、今までのような開示が続いていったのだとすると、全然、市場のニーズに応え切れていないのではないかと。

 そういうことを考えたときに、まさにこれからKAMが入るところですが、ボイラープレート化するのではないかという懸念が示されているように、意見が無限定適正の場合以外だけを論じるよりは、むしろ無限定適正の場合であっても監査意見に加えてKAMの記載がしっかりなされるのかどうか。そこに対しては、やはりまだ心配、懸念がありますので、限定された場面のところだけが問題というよりは、むしろ全般的な底上げをしていくという観点から、守秘義務の影に監査人の方が隠れることが今までできてしまっていた状況をもう一度考えて直してみる、と。本来すべき開示の充実、本来あるべき説明ができていなかったという懸念があるところから考えていかなければいけない。

 逆に言うと、会社と監査人の間で確かに今までの間あった信頼関係、これが崩れたらおかしいというのはあると思いますが、会社が期待していたこと、例えば自分たちが好まないものは言わないだろうというような期待が会社側にもしあったとしても、その期待を守る必要があるかと言えば、本来、その期待は守るべき期待ではなくて、財務報告を適正にするという目的からしたら、今までの期待は、ちょっと合理的なところより、甘えといった言葉がいいかどうか別として、本来の会社が果たすべき職責というか、責務、上場会社、もしくは有報提出会社としての義務ということを考えた中で、やはり見直すべきところがあるという、そこの部分から考えていかなければならないのではないでしょうか。

 そして、貝増メンバーのほうからお話があったところで、確かに定量的な部分というのは重要だと思うんですけれども、恐らく市場からすると、もしくは利用者側からすると、定性的な情報であっても非常に重要だと考えるものもあって、要するにこの会社の開示に対する姿勢はどうか、数字に対してどういう確度を持って見ていったらいいのかというところの情報、そこに対するニーズも実は非常に強くて、そういう観点から考えたときに、守秘義務というものがあって、正当理由というものが限定的になってしまっているという実情がこれまであったとすると、やはりそこがネックになって今までの開示がうまくいっていない。もしくは、そういったことを含めて会社のほうが期待し過ぎているところ、やはり田中メンバーもおっしゃった、本来はまず第一に経営者側のほうが適切な、適正な財務報告をする。それにおいて、しっかり監査をしてもらった上で意見が付されて開示されるという、この流れをやはりより確実にする、よりしっかりするということ、ここの基本のところに今、帰っていかないといけないのではないかと思われます。

 その意味で、私が最初に申し上げた、本来、根本にある根拠ですとか、義務というのは何だろうかというところにも、やはり一度立ち返って考えていかなければいけなくて、そのときには、既にほかの委員の方からお話あったように、受益者のことを念頭に置いた公益的な役割を監査人の方が果たしていくという中で、監査人がそのことをやるのは正当なのだと会社側にもしっかりわかっていただくことがすごく求められるのではないか。やはり自分たちが思うタイミングで、自分たちが思うようにというのは、言葉は悪いですけれども、数字も情報も全部コントロールできるかのような期待があるのかもしれません。
 でも、そうではなくて、会社の状況を適切に開示する上では、本来は自分たちに不利かもしれないけれども、言っておかなければならない情報はやはりきちんと言う。問題になるとすれば、原価の細かなところなどが開示されると競争上優位であるものが失われる、ですとか、本当に会社に実害があるようなところに踏み込むようなことで、そこは守らなければいけないところですけれども、何が本当に正当な期待であると会社として考えていいのかというところは、監査役の方などが、しっかりと内部にいて、ゲートキーパー的に調整を果たしていただくというのはとても重要ではないかと思います。

 守秘義務の規定のところで言うと、資料にあった協会の倫理規定と監査契約のところは実は若干ずれがあるのではないかとちょっと思っております。監査契約、約款のほうは、正当な理由に次の場合を含むこと、としていて、必ずしも以下のものだけが正当な理由というように限定した趣旨では書かれていないんですよね。法律家として考えたときに、正当な理由がある場合を除き秘密を開示できないというときの、正当な理由というのは一般条項ですから、限定的とはならないというのは、法律家のイロハのイの字ではないかと思うので、今までなぜそう限定しなければいけなかったかというと、やはり監査人と会社との関係で、監査人の方が忖度し過ぎてきてしまったのではないかということを含めて、もう一度見直しをしていかなければいけない、そういう岐路に、今、立っているというところから、議論を進めていただければと感じる次第でございます。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 まだ次の論題も残っておりますので、これまでの各メンバーの意見に対して、事務局から何か発言ありますでしょうか。あわせまして、事務局のほうで整理した当懇談会の主な論点についてご説明願います。

【野崎開示業務室長】
 それでは、資料2の主な論点についてご説明させていただきたいと思います。

 最初のメインの論点といたしましては、通常とは異なる監査意見が表明された場合における会計監査に関する説明、情報提供でございます。すなわち、限定付適正、ないし意見不表明などのケースにおいて、株主、投資家に対する説明、情報提供の充実のあり方、職業的専門家としてアカウンタビリティをどう果たしていくべきなのか、という論点でございます。

 1つ目のポチですけれども、監査報告書の記載の充実を通じたアプローチとしまして、本年7月の監査基準の改訂におきまして、意見の根拠という区分が設けられてございます。特に、意見不表明とか、限定付適正意見の場合における記載の充実のあり方が一つのテーマでございます。

 2つ目のポチでございますけれども、監査報告書にあらゆる情報をあらかじめ記載しておくというのは現実的ではない場合もあり得ますので、監査報告書以外の場面で監査人に対して説明、情報提供が求められるケースがあると思います。そうしたケースにおける監査人の対応のあり方も重要な論点かと思います。年度監査につきましては、会社法第398条に基づく株主総会における意見陳述の場面を想定した議論もございますけれども、四半期レビューにつきましては、臨時株主総会等々がない場合、基本的にはそういった場面がないということなので、何らかのオフィシャルな場で説明会をするとか、監査人の意見陳述の場面をどう設定するのかという点もあわせてご議論いただければと存じます。監査報告書以外の場面での情報提供が想定される情報・説明としてどのような内容のものが考えられるかという点もご議論いただければと思います。

 3つ目のポチは、先ほど来議論になっております、説明・情報提供を充実していく上で守秘義務との関係をどう整理するか、というところが、1つ目の大きな論点のブロックでございます。
 以上のように、無限定適正意見以外の監査意見が表明された場合のほかにも、より充実した説明・情報提供が求められる場面としまして、監査人の異動の場面ですとか、ここに書いてございます過去の監査意見の訂正といった場面も想定されます。

 監査人の異動につきましては、先ほどご紹介ありましたように公認会計士協会のほうからアンケート調査が出ておりますけれども、真の理由開示が困難な理由として、今回、議論になっています守秘義務の制約ですとか、真の理由の公表はベスとだとは思わない等々の回答をされている方もいらっしゃるようで、まだ改善の余地はあると見受けられるところでございます。

 過去の監査意見の訂正でございますけれども、こちらにつきましては、例えば直近の監査において発見された事項に基づいて、過去に出した無限定適正意見なり、無限定の結論をさかのぼって訂正するという事態に対して、どういうような対応があり得るのかということも論点になろうかと思います。あとは、今年で導入から10年になります内部統制報告書制度との関係では、過年度における不適切な会計処理の発覚に伴って、内部統制の開示すべき重要な不備を識別するというような運用も見られているとのご指摘もありますので、そういったより実効性のある取り組みが求められるというような議論もあろうかと思います。

 以上の点に限らず、会計監査についての情報提供の充実に関しまして幅広くご議論いただければと存じます。以上でございます。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 冒頭、三井局長からもありましたけれども、恐らく今回の議論の最初の問題意識は、例の会計監査の在り方に関する懇談会の中で提示されました、まず会計監査の透明性を向上させるということ。その後、それをもって監査に対する信頼性を高める、いわゆる高品質な監査を確保したいという流れにあったと思います。その中で、既にKAMの制度が導入されて、始まってくるという中で、多分、この延長線上に今回の議論もあるのかなという気がします。

 ただいまご説明のありました主な論点を含めて、引き続きメンバーの方々にご自由にご発言をいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。どなたからでも結構です。
 では、町田メンバー、お願いします。

【町田メンバー】
 今日は、第1回ということで、今後の議論のための論点というか、言いたいことを言っておいたほうがいいだろうと思いますので、先ほどの守秘義務の点に加えて、考えていることを申し上げたいと思います。

 まず、先ほど高濱先生や、湯浅さんから「特殊ケース」というご発言がありました。しかしながら、実は、監査規制というものは、多くの場合、特殊ケースを扱っているんですよね。粉飾決算は上場会社の中で本当の一部だけれども、日本はそれに対応すべく不正リスク対応基準までつくってしまっているわけですから、やはり特殊ケースであっても、資本市場の信頼を揺るがすような問題に対しては対応しなければいけない。あるいは、資本市場に情報ニーズがあるのであれば、是非それに対応しようというのが、先般の監査報告書の透明化の議論だったのだろうと思います。
 その中で、先ほど高濱先生のほうから、一般の株主という議論がありました。これは、実は非常に難しい議論で、今般、「監査上の主要な検討事項」の記載が導入されましたが、監査報告書や財務諸表の本当の想定利用者は、一般株主・一般投資家なのか、それとも、専門知識のあるアナリストや機関投資家等なのかという点で、様々な議論があるところです。ただし、もう「監査上の主要な検討事項」を導入するという形でかじを切った以上、一般投資家や株主が情報を読み解くことができるのか、ということを理由として、監査人が情報提供を躊躇したり、抗弁したりする理由にするわけにはいかない、ということだけは申し上げておきたいと思います。

 その上で、2点申し上げたいことがあります。
 1つは交代の問題です。先ほど高濱先生のほうからは、交代の問題について、公認会計士協会でも、審査会の資料と同じ内容を把握していて、品質管理委員会の報告書で報告するという話がありました。しかし、問題は、こうした事態を把握していて、自主規制機関である日本公認会計士協会は何をしたのか、ということなのだと思います。私は、公認会計士・監査審査会の資料を拝見して、その資料で臨時報告での開示内容との間にギャップがあることが明らかにされているのは、これはもしかしたら公認会計士・監査審査会が、現在の臨時報告書の扱いや、会計士協会の対応について、これは問題だから何とかすべきだ、というメッセージないしプレッシャーの表明なのではないかとさえ思いました。要は、現在の臨時報告書における開示の実務が無機能化しているということです。
 これは、以前、監査部会でも申し上げたことがありますが、かつて監査人の交代時の臨時報告書の規定ができたときに、早速、交代事由を正直に開示した監査法人がありました。後任監査人が監査報酬を不当に低い金額で提示したので交代になったのだ、ということを書きました。ところが、業界ではそれに対してどういう反応だったかというと、やめていくのに何をわけのわからないことを言っているんだ、そんな立つ鳥跡を濁すようなことをしてどうするんだ、というよう声が一般的だった。そういう状況なんです。
 監査人の交代時の問題というのは、いわゆる市場の失敗の問題なのです。交代して退任していく前任監査人としては、監査報告書を提出してもう終わったことで責任はない話なのに、何かやってもしようがない。交代事由を開示したりすれば、辞めていくのに今更余計なことをいうな、と言われ、変な評判が立てば今後の新たな監査契約の受嘱にも影響が出かねない。後任監査人からすると、何を引き継ごうが、結局は、自分が全て責任を持って期初の貸借対照表から監査をやっていく問題だ。そうすると、引継ぎのところがエアポケットになってしまう。オリンパス事件では、監査人の引継ぎが不十分だとして前任と後任の監査法人が処分をされましたが、引き継ぎの議論というのは前任監査人も後任監査人もやりたがらないのです。だから、監査市場の自由に任せておくことはできず、公共の利益(パブリックインタレスト)の観点から、規制が必要なんだということになります。
 現在、監査人の交代に関する臨時報告書での開示が機能していない以上、監査人の交代の情報提供が重要であると考えるのであれば、真の実態を表す情報がディスクローズされるように、何らかの強制的な開示の仕組みが必要だと思います。それを公認会計士協会の自主規制でやるのか、やらないのであれば公的規制でやるということになるのではないかと思いますので、この点をぜひご検討いただきたいということです。

 それから、2点目は、先ほど事務局説明のときに読み上げていただいた監査基準のことです。まず、限定意見を表明する際に、その理由を書くように求める規定がないということですが、もしそれが必要なのだとすれば監査基準をそこだけ部分改訂すればいいと思います。おそらく、今後、先般の監査基準の改訂に平仄を合わせるために、四半期レビューの報告書の書式を変更する必要があって、監査部会が少なくとも1回ぐらい開催される機会があるはずですので、理由の記載の規定だけを入れるのであれば、そこだけ一緒に改訂してしまえばいいだけの話なのかなと思います。
 問題は、不表明の場合だと思います。不表明の場合、不表明の理由だけを書かせても不十分だと思います。不表明は、監査人の責任が問われませんから、モラルハザードの事例が生じてしまうおそれもある。十分な受嘱審査も行わずに監査契約を引き受けるだけ引き受けておいて、不表明ということも起きかねない。たとえば、会社ぐるみで粉飾を行っていたような会社の監査を引き受けた場合、あるいは、前任監査人と被監査会社が揉めて前任監査人が退任したような場合に、もし後日、不表明となった場合には、そもそも何で契約したんですか、十分に受嘱審査を行いましたか、ということが大事になってくるわけです。十分に調査して意見表明できると思って契約したのにもかかわらず、何らかの避けられない事情で不表明になったのであればいいのですが、そうではなく、軽々に契約した上で、不表明となったからといって、その理由だけ書いても、実は意味がないのではないかと思います。

 そこで、一つ申し上げたいというか、検討していただきたいのは、先ほどから、他の委員の皆さんからも監査報告書が主戦場だという話があります。そうであれば、四半期レビューの報告書であれ、年次監査の報告書であれ、何かこういった問題事項があったときに、監査証明府令では特記事項なんていうものがありますのでそれでもいいですし、あるいは、その監査報告書の添付書類や、付録でも構わないですけれども、そういったところを利用して監査人が会計監査についての情報を提供する、そういう枠組みがあってもいいのではないかと、私は思っています。
 その一つの参考になるかと思いますのは、例えば今般、監査報告書の拡充の議論のときに、アメリカでも同様の議論があったわけですが、その際に、PCAOBが最初に提案した案です。それは、上場企業が、定性的な情報として、経営者の討議と分析(MD&A)を開示していますが、それを模して、監査人による討議と分析、AD&Aというものを記載させよう、というものです。最終的には、KAMに類似したCAMの記載ということに落ち着いたわけですが、本懇談会で議論しているような、特定の異常事態のときには、例えば、監査報告書の特記事項のところでも、監査報告書の付録においてでもいいのですが、そういう場を使って、監査人自身に、そうした事態に関する討議と分析を十分に書いていただくことを想定できないか、ということです。
 重ねて申し上げますが、監査人が監査のことについて監査人の言葉で話すことについては、何ら躊躇する必要はないと考えますので、AD&Aのような実務について、是非、座長並びに事務局にご検討いただければと思います。以上です。

【八田座長】
 では、岡田メンバー、お願いします。

【岡田メンバー】
 監査人の交代の件ですが、グラフでは「任期満了」という理由が一番多いということですけれども、監査人は毎期、任期が満了するわけですから、任期満了は理由にはならないのではないでしょうか。任期満了と書くのは禁止してはどうかと思います。必ず本当の理由があるはずです。例えば見解の相違とか、不適切会計を発見して任期途中で退任するとか、更には報酬の問題があると思います。報酬については、日本の企業は監査報酬にナーバスというか、監査報酬を値切るほうに力を注ぐ傾向があります。そういう意味で監査役に監査報酬の決定権がないというのは常々、問題だとは思っているんですけれども、同意をするにあたって監査役から監査人に対して監査報酬の内訳をよく聞くという役割があると思います。
 今ここで申し上げたいのは、監査報酬が折り合わずに交代した後任の監査人は監査費用を値切られていると想像できますが、その場合監査品質を落とすとか、スタッフの質を落とすとか、時間数を減らすとか、そういうやりくりをしてやってくるケースが非常に多いのではないかと懸念しております。

 それから、見解の相違というのは、やはり何らかの会計上の問題があるというケースだと思うんです。それが理由で交代した場合でも、先ほど町田メンバーがおっしゃっていましたけれども、やめたほうはもう何も言うまい、余計な波風は立てまいと考え、引き継いだほうも引き継いだほうで黙って引き受ける慣習とまではいえませんが何らかの理由でそうなっていると思うんですね。このあたりはJICPAでフォローアップをしていただいたらどうか。品質管理等々もJICPAはやっていらっしゃると思いますが、特に引き継いだ事務所が行う当該企業の監査について、監査品質が落ちていないか、不適切な会計についての審査ができるに足るスタッフがきちんと配置されているか、こういうところを集中的に見ていただきたいと思います。まずは会計監査人自らが襟を正していくということが、まずあってしかるべきかなと思います。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 資料1の22ページで、監査人の異動理由について公認会計士・監査審査会のレポートの引用がありますが、総数で、上場会社では優に100社を毎年、超えてきているようです。もう一つ、今日、冒頭での説明にもありましたように、例の独立性の観点から、事務所ローテーションの議論もまだ継続案件だと承知していますが、実際にはもう任意の段階で結構、監査法人がかわってきているということです。それにもかかわらず、その理由づけが、いわゆる画一的な任期満了というのは、やはりどう考えても利用者思考の視点に立っていないのではないかというのは大変重要な視点だと思います。したがいまして、これも情報提供の信頼性を高めるために何か提言ができればと思っておりますので、よろしくお願いします。
 ほかにいかがでしょうか。では、湯浅メンバー。

【湯浅メンバー】
 ありがとうございます。
 ちょっと私の最初の発言で誤解を招いたかもしれませんけれども、清原メンバーがおっしゃっていたように、今、見直すべきところがあるのではないかということについては同意です。状況の変化に応じて見直すべきところ、従来からやってきた慣行にそぐわないものについて見直すべきものがある、それについて取り組むということは必要なことだと思います。ただ、その際に、極めて限定的な事例を取り上げているということから来る副作用は、かなり予見しづらいのではないかという心配を持っているということですので、慎重に検討する必要があるのではないかということを申し上げたかったということです。

 先ほどの発言で、監査人の交代について申し上げていなかったのですけれども、交代の理由を適切に書くべきところが書かれていない。最も多い理由が監査報酬ということなのに、書かれていない。もしかしたらお金のことを理由にするのはどうもはしたないといいますか、古きよき日本人的な発想で、定型的な任期満了ということで丸くおさめているような慣行があるのだとすれば、もうそういう時代ではありませんと周知徹底して、ちゃんと書きましょうと。そういうことを明確にすれば、ある程度の見直しの効果というのは出てくるのではないか。そういう、できることからやっていくことが必要なのではないかと思います。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 それでは、高濱メンバー、お願いします。

【高濱メンバー】
 公認会計士協会にいろいろご意見いただきましたので、少しお話をさせていただければと思います。

 まず、交代に関しての任期満了事例の問題点は、一つには臨時報告書の作成責任が企業側にありまして、企業が作成される中で、一応、様式としては、監査人交代の場合には企業の記載した「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」に対して、退任する監査人が意見を記載することになっていますので、現実問題として、退任する監査人がどこまで対応するかということがやはり論点としてあるんだろうと思っておりますので、そこを踏まえた議論をお願いしたいと思っております。

 それから、監査報酬の件は、ぜひ大きく議論いただいて、交代のときは下げたらだめというような施策の検討を、これ自身、我々の業界の中でも非常に大きな論点になっております。今後、働き方改革を含め、監査をする人間等もやはり足りていっていない中で、どうしても交代のケースにおきましては、少なからず引き継ぎにかかわる追加コストというのは現実にかかっておりますので、施策があればと考えます。今の議論の前提としては、どちらかというと監査人の都合で監査人が交代するというような例でお話をされていると思うんですけれども、逆のケースもあって、我々、会計士のほうが頼まれて代わるケースにおきましても、全体的な例としては、やはり監査報酬が減るんですよねという理解をされている企業も多いような感じがします。そこに対する歯止めみたいなものがこの会のアウトプットとして出れば、逆に非常にありがたいと考えております。以上です。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 では、青メンバー、お願いいたします。

【青メンバー】
 まず、どのような情報が必要かというところに関してですけれども、基本的に、一般に株主等が財務諸表の信頼性ですとか、財務諸表に対する影響額がどのぐらいあるのかといった関心を持つような事情があるときには、十分な説明が必要だというのが一般的な話として考えるべきことではないかと思っております。

 具体的に申し上げますと、まず財務諸表のどこが正しくて、どのように間違っているのか、あるいは、不表明であるとしても、どういう範囲が確認できていて、どういう範囲が確認できていないのかというあたりが具体的に示されていない例もございますので、できる限りそこのところを明確に書くということは非常に大切なことでございますし、実際の投資判断に当たっても影響が出てくるところだと思いますので、ぜひここは強調できればと存じます。

 それから、近時、限定付適正が出てきた場合に、不適正とか、意見不表明にする必要はないのかというところについて、実際、あまり触れられていないところがあると思っております。適正でない理由としては記載がありますけれども、限定付でとどまるのかどうかというところについて、わかりやすい説明がなかなかないというのが実態かと思いますので、そこについて何らかの形でわかりやすい説明をしていただけるとよいのではないかと考える次第です。

 それから、投資家側から見て、財務諸表の信頼性という観点から特に気になりますのが、会社との間で意見が対立している場合や、前任の監査人との間で意見が対立している場合に、どういう点が対立して、どうして監査人がこういう意見を持っているのかというところについて丁寧な説明がないと、なかなか投資家のほうで、誰が、何を、どういうことで言っているのかというところが、現状のドキュメントだけではわかりにくいところがかなりあるかと思っておりますので、そのあたりについて投資家からの信頼を得られるような説明があると、望ましいのではないかと考える次第でございます。

 それから、年度の中で、第1四半期が出て、第2四半期が出てと順に出ていくわけですけれども、途中で別の意見になった場合に、どこの時点で、どういうようなことで変わったのかというあたりも、十分にご説明いただけるとよいのではないかと考える次第でございます。

 それから、守秘義務の関係につきましては、現状では特定の事項以外は全て守秘だという雰囲気でわりと受けとめられていると思いますけれども、本来、秘密にすべき範囲というのはそんなに大きくないのではないかと思います。特に、監査人が監査の判断に関する事項について説明するに当たって、本当に守らなければいけない秘密に該当するような事項がそもそもあるのかどうかという点もあると思います。ですから、正当な理由を考えるときにも、どこまでが監査人が投資者に対して情報提供するに当たって必要かということだけではなくて、わりと広い範囲で説明をしたとしても、監査人の判断に関する説明であれば、相応に正当な理由に該当する可能性が非常に高いというところを明確にしていくことが適切ではないかと考える次第です。

 それから、監査人の交代の関係でございますけれども、先ほどからご指摘がありますとおり任期満了という記載が多いというところは、私どもも実際に開示の現場に携わっておりながら、常々、感じているところでございまして、何らかの形での改善というのはやはり重要だと思っております。ただ、そこでは、理由そのものというよりも一番大事なのは、引き継ぎの際に何が隠れているのか、特に監査の信頼性にかかわるところにおいて何が隠れているのかというところが関心事項としてございます。例えば、見解の相違があるとか、そういったことが隠れていないかどうかというところが、むしろ信頼性という意味での中心的な関心事項と考えております。

 それから、報酬に関しましては、多い、少ないだけではなくて、例えばどのような理由で報酬にずれが出てくるのかというところで、監査時間もかなり大きく変わるのであれば、投資者はそういうところは関心があるでしょうし、以前の監査人はすごく時間をかけているのに、次の監査人はあまり時間がかからないということであれば、それもまたなぜかということで非常に関心が出てくるかと思います。ですから、単価というよりも、むしろ監査そのものの信頼を得られるのかどうかが報酬にあらわれてくるならば、特に注視できるようなところは意識していければよいのではないかと考える次第でございます。以上です。

【八田座長】
 ありがとうございます。
それでは、清原メンバー、お願いします。

【清原メンバー】
 ありがとうございます。たびたびすみません。
 異動のところですけれども、私、常々思っていることが一つございまして、現在、異動の開示の中で監査役側の意見というものが全然、入ってきていないというところは見直す必要があるのではないか。やはり会計監査人の選任議案の決定権が監査役会になっているという中で、当然、異動のプロセスで監査役会というのは、本来であれば主導するような立場にあり、特に後任候補の方を選ぶところでは、実質的にも決定権というのは会社法上監査役会が行使する必要がある。そういう中で、異動の場面において監査人が言ってきた理由、会社側が開示しようとする理由、そこに対して監査役会はどう考えているか、そのポジションが明確に外部に示されるようになっていないというのは、開示制度としてちょっと情報提供が足りていないのでないかという意味で、ここは見直しをぜひ検討していただきたいところでございます。

【八田座長】
 ありがとうございます。
 先ほどご説明した資料2で示されている論点ですけれども、大変多くのご意見をいただいているのが交代のところの話、それと早い段階で守秘義務との関係がありました。ほかにも、求められる説明情報提供、あるいは一番最初の論題ですけれども、監査報告書の意見の根拠の区分の記載の話、この辺についてご意見があれば伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。
 では、町田メンバー、お願いします。

【町田メンバー】
 今、お話がありましたように、監査報告書の記載のところで、監査意見の表明の枠組みに変更を加えようということを主張したいわけではありません。国際的なコンバージェンスの問題もありますし、日本だけが何が違う形で監査意見の表明を行うというのは、その趣旨を説明することが難しくなってしまいます。しかし、先ほどから言われているように、特殊なケースというんでしょうか、そういうケースについては、監査意見の表明を補うための、何らかの別の枠組みを用意することはあってもいいのではないかと思います。先ほどは、監査報告書の付録と申し上げましたけれども、特記事項でもいいですけれども、監査報告書の添付書類みたいな形で説明するということは、あっていいのではないかということです。

 先ほど青さんから監査時間の話がありましたので、一応、申し上げておきたいと思いますが、ある国では、監査報告書の付録において、監査報酬だけではなくて監査時間について公表しているんです。つまり被監査会社ごとの監査報酬と監査時間を監査意見とともに公表しています。そして、監査規制当局が、それをもとに適正な時間とか、標準監査時間みたいなものを計算したり、監査報酬が前年度からの大きなダンピングがあったりしたものについては、立入検査みたいなことまでしている。こうしたことも考えられると思います。

 それと、敢えて申し上げますが、先ほど高濱先生からは、本懇談会のアウトプットとして、交代のときは監査報酬を下げたらだめだというような歯止めをかけてほしいというお話がありました。私も、10年以上にわたって、公認会計士協会からの委託研究で監査報酬の実態調査を行って来て、日本の監査報酬は低すぎると考えています。しかしながら、何でも公的規制に期待するのはどうなのでしょうか。もし監査人の交代時に監査報酬が下がるのが問題だというのであれば、公認会計士協会が、交代時に監査報酬を下げた監査法人を処分するなり、上場会社監査事務所名簿登録から外せばいいのではないでしょうか。何で自主規制の世界で対応しようとしないんですか、と。監査契約は、法定監査であっても、あくまでも契約自由の原則に従うものです。何かというと公的規制に委ねるのではなくて、市場の自由を大事にした中で、自主規制の世界でやれるものはやるという姿勢が大事なのではないかと思います。

 その意味では、例えば今、公認会計士協会がやっておられる、監査人の交代時にどんな理由でしたかを報告させているやり方のように、交代事由をいくつかの選択肢の中から選ばせるというものを開示してはどうかと思います。選択肢は、今日、審査会からの資料で出されている交代事由でも構いません。個々の監査人が文章で説明することができないというのであれば、監査人が交代する際に、臨時報告書でも、監査報告書の特記事項や付録であってもいいですから、いくつかの選択肢の中から、交代事由はどれだったのかを○をつけさせる、と。それで、監査報酬という選択肢だったら、さらにブレイクダウンした質問で、「後任監査人の監査報酬は妥当だと思いますか? Yes/No」という問いを用意して○をつけさせればいいと思います。あとは市場なり株主総会なりの議論に委ねる。
 私は、監査人はもっと自分の言葉を持つべきだと思っていますので、、選択肢方式などというのはあくまでも次善の策なのですが、もし必要ならば考えるべきだと思います。
 
 それと、もう一点だけ。先ほどから議論のある任期満了の話ですけれども、任期満了云々とか、監査人の異動のときに臨報を出すなんていうのは、日本だけの実務です。なぜかというと、会社法の第338条の第2項で、会計監査人が交代するときに「別段の決議」を規定していて、別段の決議が行われなければ前年度の会計監査人が継続される、という不思議な規定となっているからなんです。会社法で会計監査を規制している国では、監査人の選任については、毎年、決議するのが通例なのです。これは、これまでの日本では、会計監査人は毎年どころか、何もなければずっと継続することが当然のことだと受け止められていた、そういう文化だったのだと思います。ここは会社法の議論をする場ではないんですが、今後、会計監査人の交代がある程度の頻度で行われることが予想される中で、どう対応するかということが議論の焦点なのだと思います。

 先ほど、臨時報告書の作成責任は会社側にあるから、どこまで監査人が対応できるかというようなお話もありましたが、実際には、会計監査人が臨時報告書の記載内容に異議を唱えたときは臨時報告書の出し直しがされる事態もあるわけですから、会計監査人がちゃんと意見を言えば臨時報告書の記載内容も書きかえられるわけです。もしそれでも不十分なのだとすれば、被監査会社が提出する臨時報告書から会計監査人の見解の部分を外して、会計監査人独自に報告をしてもらえばいいだけのことです。
 これまでは、会社法の338条第2項の規定のほうに、会計監査人が継続することが前提で、それに鑑みて臨時報告書という枠組みが設けられたのかもしれませんが、状況は大きく変わったと思います。交代時に監査人側からも情報提供をすることが重要なのであれば、その枠組みを用意すべきだと思います。以上です。

【八田座長】
 どうもありがとうございます。
 まだまだご意見があると思いますが、予定しておりました終了時間が近づいてまいりました。したがいまして、この辺で討議を終わらせていただきたいと思います。ご発言できなかった点や、お気づきの点等がございましたら、メールなどにより事務局にお伝えいただきますようお願いいたします。
 今日、いただきましたご意見も踏まえ、事務局とも相談いたしまして、次回は、主な論点と、それに対する考え方をお示しして、議論してはどうかと考えております。
 最後に、事務局から連絡等がございましたら、お願いします。

【野崎開示業務室長】
 次回の懇談会の日程でございますが、皆様のご都合を踏まえた上で、後日、事務局よりご案内させていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。事務局からは以上でございます。

【八田座長】
 それでは、以上をもちまして本日の懇談会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。
 

以上

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