「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)」
(第2回)議事要旨

1.日時:

令和3年10月11日(月)14時00分~16時00分

2.場所:

オンライン会議(中央合同庁舎第7号館9階 共用第3会議室)

3.議題:

今後の会計監査の在り方について

4.議事内容:

  • ○事務局による資料説明の後に行われた議論の要旨は、以下のとおり。
     

【監査法人のマネジメント、監査品質の向上及び第三者の眼によるチェック、監査に関する情報提供】  

  • ○本懇談会は、2021事務年度金融行政方針の中にうたわれている2つの論点である、「上場企業の会計監査を担う監査事務所の在り方」と「公認会計士の一層の能力向上、力量発揮のための環境整備」などを踏まえて会計監査を巡る諸問題について総合的に検討するという使命がある。
  •  日本では、日本公認会計士協会(以下、「協会」という。)により上場会社監査事務所登録制度が整備・運用されており、それと並んで品質管理レビューが実施され、監査の品質についての検証がなされている。昨年度、協会は、品質管理レビューにおいて重要な不備事項が指摘された場合、登録名簿にその結果を開示するという制度に変更しているが、「この開示制度は資本市場関係者等に対する情報提供の一環を目的としており、監査事務所に対する措置を目的とするものではない。」というただし書きがある。利用者に開示する情報提供で役割を果たしたいと考えているようだが、見方を変えれば、やはり実効性のある措置が考慮されていないのではないか。この点が現行の自主規制というレベルでの限界に近いと感じた。
  •  これまでの上場会社監査の動向を踏まえて、より実効性と透明性を高めるため、つまり、この上場会社監査事務所登録制度を高めるため、そして監査の品質を一定水準以上に保つためには、登録要件を見直すとともに、一定の法的裏づけを持った形での登録に変更することが望ましいのではないかと考える。そうすると、現行の協会の品質管理レビューと公認会計士・監査審査会(以下、「審査会」という。)のモニタリングの二重の検査がやはり監査法人にとっては負担が重いという議論もあるので、登録監査事務所に対しては、監査の品質の継続的な向上と強化を図るということを目的に、審査会のモニタリングに限定するという方向性が考えられるのではないかと思う。登録監査事務所には監査法人のガバナンス・コードの全面的な遵守が大前提となる。
  •  協会の自主規制機能の発揮をより明確にしてもらうことが必要ではないかと考える。現行の自主規制の要と呼ばれている協会の品質管理レビューは、今後も上場会社登録会計事務所以外の監査事務所については、より深度ある品質管理レビューを実践することで、全体的なボトムアップ、監査品質の向上を達成してもらうことが必要なのではないかと考える。このように考えると、審査会によるモニタリングと協会による品質管理レビューには、これまでそれぞれに蓄積した知見やノウハウがあるが、それを踏まえながらも、それぞれに役割分担を図ることで、双方の検査の有効性と効率性を図ることが期待されるのではないかと思う。将来的には、双方の担当者・レビューワーの検査手法に関する情報共有と検査レベルの向上を図るためにも、双方の検査担当者の連携を目指して、官民一体のレビュー・モニタリング制度というのが構築できれば、さらに望ましいのではないかと考える。
  •  職業専門家としての公認会計士の場合、監査という社会性、公共性の高い業務を独占的に担うためには、生涯にわたって自己研鑽や自己努力を継続することは必須である。日進月歩に変革する経済社会及び企業環境を前に、会計及び監査領域に限らず、例えばITやAI、金融商品、ビッグデータ、暗号資産など山のように新しい課題が出てくるが、こうしたことを含めて習得するためには、系統立った教育研修システムを整備・運用することが不可欠である。公認会計士試験合格者向けの実務補習と資格取得後の継続的専門研修(以下、「CPE」という。)について、より効果的かつ実践的な内容とカリキュラム編成を行うために、国際的にも先駆的となるような教育・研修に長けた適任者から構成される常設の教育研修委員会のような機関を協会に設置することが必要なのではないか。財団法人会計教育研修機構の役割と機能を見直すことで対応することは十分に可能ではないか。
  •  公認会計士個人の資質の問題として、不正を見抜く力を養成ないしは強化について2つの視点で申し上げる。まず1点は、不正教育という形で過去に発生した不正への対応を学習することで、不正の動機、不正の手口、不正を隠蔽するための手法、不正発覚の理由等々について、失敗から学ぶ姿勢を実践することが必要ではないか。こうした教育は、実務補習やCPEでも実践することが可能であると思う。ただし、こういった不正教育は過去の不正事例の学習に依拠するわけであり、将来生ずるかもしれない不正の対応の全体像を学ぶことにはならないという問題点もある。
  •  2つ目として、不正に対する感度を磨くこと、すなわち監査人としての職業的懐疑心を保持、強化、発揮するためのトレーニングとして、さらには経営上層部に関わる不正の防止、抑止ないしは適時の発見を促すためにも、企業関係者との適時適切なコミュニケーションをより強化するとともに、経営サイドに対して従前よりも指導的な役割を果たすことができるよう、会計監査以外のビジネス感覚や国際感覚を身につけるための対応を講じることが必要だと考える。監査業務の遂行上、最大の課題は、監査人としてのリスク感覚を研ぎ澄ますことに尽きると言っても過言ではないと思う。そのためにも一定の体系立った、そして納得のいくカリキュラムが組まれた教育・研修の重要性を再認識すべきだと考える。
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  • ○上場会社監査事務所登録制度を法律上の制度と位置づけるということについては、その制度設計の詳細を議論しなければ実効性があるか判断できないが、審査会の検査に一本化するということについては、明確に現時点においては反対である。審査会は、現時点では金融庁の組織であり、官の組織が全ての上場会社の監査をする事務所の検査権限を持つことは、国際的にも異質・異例ではないか。独立した機関による官民一体型のモニタリングは、自主規制の限界がある中で、当然議論されてしかるべきだと思う。しかし、審査会が官の組織だという前提に立てば、それが民間の検査権限を全て持つということで本当に実効性が上がるのか。海外の規制が本当に監査事務所の実力を上げているのか検証しないまま、海外よりも官に寄って、官が検査権限を持って直接検査をすることは、本当に官にとっても監査事務所にとってもいいことなのか。実効性のある検査体制を考えるのであれば、官民一体型の独立した機関を設けるということの当否について議論を進めていくべきではないか。それには相応のリソースも必要であるし、そのリソースをそろえ、しかも、実効性のある検査をしていくということであれば、教育やトレーニングも必要となる。
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  • ○上場企業の監査は非常に重要な役割であるため、上場会社監査事務所登録制度等において官が関与することも当然あり得るのだと思う。官なのか民なのかということではなく、結果が伴っていないのであれば見直す必要がある。この点、協会の品質管理レビューでは見抜けなかったが審査会が指摘したようなケースもあると伺っている。監査事務所のモニタリングが有効に機能し結果を出すことが大事だと思うので、現状のモニタリングの何が問題で、どういう事例が生じてしまっているのか、もう少し詳しい情報に基づいて議論したい。基本的には、上場会社については、やはり他の監査とは規律を変えたものにしていく必要があると思うし、その際に官の役割を一定程度強化する必要があるのであれば、そういうことも十分考えられると思う。一方で、リソースという意味では、いかに一体化して有効に機能させられるのかということも当然重要だと思う。
  •  監査法人のガバナンス・コードについては、上場会社を監査するのであれば、中小監査法人にもコードを受け入れてもらうということが大前提になると思う。
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  • ○現在の上場会社監査事務所登録制度の登録は、基本的に準則主義になっていると思う。250を超える監査法人のうち、その半数は上場会社監査事務所としての登録ができている。投資家から見ると、登録監査事務所の監査品質は同じであると誤認してしまう場合がある。少しハードルが低過ぎるのではないかと思う。そこで、例えば監査法人の設立に必要な人数は5人であるが、上場会社を監査する事務所には、その倍の人数など、より多くのパートナーがいるという条件を入れてもいいのではないかという御意見が前回あったように、もう少し監査品質を担保できるような登録要件に見直すべきではないか。それを誰が担保するかというのは、上場会社監査事務所登録制度の仕組みが一定の法的な裏づけを持った形で運用されるならば、おのずから決まってくるのではないかと思う。実際に監査法人のマネジメントに関わっている方からお話しを伺うと、やはり品質管理レビューとモニタリングを大手監査法人はほとんど毎年受けているが、これが二重の検査で非常に負担が大きいと聞く。他方で、実効性が伴っているのかということに対する疑念がある。もっとリソースを有効活用するために、役割分担があっていいのではないか。
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  • ○我が国の上場会社は約3,800社と非常に多く、一口に上場会社と言っても会社のビジネスの複雑性は多様である。外国人株主がいるかなどステークホルダーの多様性も会社によって様々である。今、東京証券取引所で、市場改革ということで上場会社を3つに区分することが検討されている。中小監査事務所は、そのような多様な上場会社の全てを監査先として保有しているわけではなく、新しい品質管理基準においても、実施する業務の内容や状況に応じて異なる品質リスクを評価して、それに対応するための品質管理システムを整備することになる。上場会社を監査する事務所といっても様々なので、それぞれの事務所の特性に応じた規律が求められると考える。
  •  監査事務所の品質管理の状況の検査やレビューについても、多様な監査事務所への対応としてどのような方法が効果的かつ実効的かを金融庁や協会並びに監査法人を含めて議論する場を設けてはいかがか。大手監査法人における検査対応の負担が重いというのは確かだが、審査会だけに一本化できるかというと、審査会と協会の品質管理レビューでは検査の抽出会社数や方法が少し異なっている。今の審査会の検査に一本化することで果たして監査の品質が向上するか疑問を持っている。上場会社を監査する監査事務所は100以上あり、上場会社を監査しているとはいえ小規模な事務所では、新しい監査基準が入ったときに指導的機能を品質管理レビューに期待しているということが多く見られる。審査会の検査は、指導というよりはやはり処分ということを念頭に置いた検査であると考えられるので、指導・監督も含めて高品質な監査体制を整備していくという観点では、今後の品質管理レビューや審査会の在り方について十分な議論が必要である。
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  • ○品質管理レビューや審査会モニタリングの導入から一定の時が経ち、それぞれに蓄積した知見とノウハウを有しているので、両者の有効活用を検討すべきであると考える。
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  • ○上場会社監査事務所登録制度が作られて一定程度時間が経っているが、登録要件を満たしているだけでは必ずしも十分ではなくなっているのではないか。監査品質は、合併したらよくなるとか、人材を増やしたらよくなるというものではない。外形的な要件だけによらず、レベルを担保するための登録の在り方を考える時期に来ていると認識している。
  •  協会の品質管理レビューとの役割分担、あるいは品質管理レビューの位置づけをもっと明確にして、品質管理レビューを機に受ける側の監査品質が良くなっていくという在り方を議論し、確立することが大事ではないか。その際、協会はサポート、審査会はモニタリングに軸足を置くのがよいのではないか。
  •  特に中小監査法人に対するサポートについては、積極的にレベルを高めていこうという法人に対しては、ぜひ監査法人のガバナンス・コードを受け入れていただくこととし、その受け入れにあたり、例えば協会が相談に応じることやよくあるQ&A集を出すことなど、必要なサポートを行うことが考えられる。その後もフォローアップということで、何か不十分なところがあれば、相談に応じたり、改善を促したりしていく。一方、監査法人のガバナンス・コードを受け入れたとしても実態が伴っていない場合には、協会からの情報提供を基に、審査会がしっかりとモニタリングをして改善を促すとよいのではないか。外部からのフィードバックにより、何がよくなかったのかということや、モデルにすべき事例を知ることができるため、改善に向けてのステップが見えやすくなるのではないか。
  •  上場会社の場合、コーポレートガバナンス・コードを受け入れた後に、機関投資家からガバナンス報告書の内容について対話するエンゲージメントの機会がある。監査法人のガバナンス・コードを受け入れていただくのは非常に前向きでいいことだと思うが、監査法人の場合は、そういったエンゲージメントをする主体がいないと思われるので、上場会社の例を参考にして、協会によるフォローアップやステークホルダーからのエンゲージメントがあるとよいのではないか。
  •  協会は品質管理レビューを通じて指導するとともにサポートを充実させ、審査会はそれを踏まえた上でのモニタリングをしっかり行うということが今後も必要であると思う。審査会からの勧告に至らないまでもレベル向上が必須なところは「改善が期待できるか否か」が大きなポイント。協会を中心とするサポートが重要になると思うので、役割分担をしつつ、サポートとモニタリングを実施していければよいのではないか。監査法人が長期的に目指す姿とロードマップやKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)については、短期的な定量評価を行うのではなく、中長期的に目指す姿と、そこからバックキャストして今何をすればいいのかが示されるようになるとよい。
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  • ○品質管理レビューと審査会の検査を一本化してほしいという意見は、大分前からあった。特に大手監査法人は、内部のモニタリングとして自主検査があり、加盟しているネットワークファームのレビューがあり、さらに協会の品質管理レビューがあり、審査会の検査がある。個別のエンゲージメントの対象は違うが、品質管理に対するモニタリングが4つもあり、1年間の特定の期間にレビューや検査が集中して、負荷が大変であることはよく理解できる。
  •  しかし、これだけの検査を受けていても監査の品質の問題が完全になくならないという事実もある。やはり異なる第三者の眼による、その検査の重複はある程度やむを得ないのではないかと思う。しかし、監査法人の負担軽減については、真剣に考えなければいけない問題だと思う。例えば、法人内部の自主点検の結果やネットワークファームのレビューの結果を、協会の品質管理レビューの計画や審査会の検査計画にうまく反映することによって、検査期間の短縮やレビュー件数の削減が図れるのではないか。重要な不備事項がなくなれば、レビューと検査の重複を避けるインセンティブを工夫するということも考えていいのではないかと思う。それによって大手監査法人に使っていたリソースを中小監査法人のモニタリングに回すことができるのではないか。世界的な趨勢を見ると、自主規制が機能しなかったために監督当局等の規制に切り替わった国が多いが、日本においては、協会の努力で品質管理レビューが年々改善してきているので、審査会の検査と共存できるのではないかと思う。社会的なコストの面からも、そのほうが安いのではないか。モニタリングにおける官と協会の適切な役割分担と、一層の連携強化が必要なことは間違いないと思う。
  •  上場会社監査事務所登録制度は、品質管理レビューと当然密接に関連しているが、品質管理レビューの結論が上場会社監査事務所登録制度で全て公表されているわけではない。協会のウェブサイトを見ると、措置、懲戒、行政処分、勧告の場合のみ開示されているが、利用者にとっての利用価値が限定されているのではないかという疑問がある。品質管理レビューは結果の報告書が開示される制度となっていないが、品質管理レビューの有効性を社会に対して説得的に使うことができない1つの原因ではないかと思う。米国PCAOBの検査報告書の開示が参考になるが、米国PCAOBは、報告書を開示する部分と開示しない部分の2部構成にしている。開示する部分の報告書を読むと、ストレートに不備のある点を指摘しており、検査の厳格さや信頼性が伝わってくる。米国PCAOBの開示を参考にするとすれば、協会の品質管理レビュー報告書を開示するパートと開示しないパートに分けて、その開示するパートを上場会社監査事務所登録制度で公表することも1つのアイデアとして考えられる。品質管理レビューの報告書を開示するかしないかということについては、協会で過去にも検討された上で現在の形になっているが、透明性が強く求められる現代においては、再検討してもいいのではないか。審査会の報告書についても同様だと思う。
  •  上場企業を監査する監査法人の社員数にミニマム・リクワイアメントを設け、監査法人のガバナンス・コードの適用も含めて、上場会社監査事務所登録制度に登録されている監査事務所に規律として適用を求めることも検討の価値があるのではないかと思う。そうすることによって上場会社監査事務所の登録制度の機能の充実が図られるのではないか。
  •  中小監査法人に対するサポートとして、研修のサポートを考えなければいけないのではないか。品質管理レビューにおいても審査会の検査においても、いろいろ不備事項が発見されるのは様々な要因があると思うが、監査のリスクアプローチの実務上の適用は、どの中小監査法人も悩んでいるのではないかと思う。大手監査法人はグローバルで開発されたかなり洗練された監査のIT支援のツールと手法を持っていて、それを日本語化して使用しているが、中小監査法人はノウハウがなく教科書的に監査を行うことになり、現場で活躍している公認会計士や補助者の方は非常に苦労されているのではないかと思う。それが、品質管理レビューや検査の際に不備事項として浮かび上がってきているのではないかと思う。品質管理レビューを行っている協会が一番状況を把握していると思うので、協会が監査支援の実務的な指導研修を行うことが、中小監査法人に対するサポートとして考えられると思う。協会のリソースも無限にあるわけではないので簡単なことではないと思うが、何らかの支援をしないと中小監査法人の監査の品質は向上しないと思う。
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  • ○事務局資料の1ページ目に、前回の議論として「規制は海外の動向の効果とデメリットを慎重に見極める必要がある。これまで不正会計が発覚する度に規制強化が図られてきたが、質の高い監査につながってきたのか疑問」とまとめられているが、これは、自主規制の領域が官の規制によって狭められることの懸念を示したもので、あくまでも自主規制が本筋であるという御発言だったように記憶している。私も原則は自主規制を維持していくべきだと考える。
  •  ただ、上場会社監査事務所登録制度については、以前からそのような制度があり今まで運用されてきたことが十分認知されていないのではないかと思うほど、インパクトが感じられない。登録の抹消などの措置が実効的に講じられてきたという印象もない。協会の品質管理レビューについても、結果が開示されておらず、インパクトのある結果が出ているのか疑問を持っている。身内に甘くて厳しさが足りなかったのではないか。海外では、大きな不正会計事件によって大手監査法人が解散にまで追い込まれた一方、日本では、協会内の処分はあったと記憶しているが、登録抹消というほどのインパクトのある処分は行われなかった。ある程度の上場会社の監査をしていた監査法人にインパクトのある処分を行うと市場が大混乱するという、“Too big to fail”のような心配もあったのかもしれないが、今までの審査が甘く、それゆえに自主規制には任せられないという動きになっている可能性はないか。自主規制が原則だというのであれば、それによって十分な規律を行えることを姿勢で示さなければいけないのではないかという気がする。
  •  第三者の眼によるチェックについて、アメリカではPCAOBの検査に加えて、自主規制のPeer Review(相互検閲)(以下、「ピアレビュー」という。)を実施していると聞いたことがある。日本で同様の取組みがなされていないとすれば、何が障害になっているのか。監査調書というのはピアであっても見せないのではないかと思うが、アメリカでは実際に行われているのだとすれば、プロ同士が自主規制の意識と矜持を持って、仲間であっても批判的に見るという姿勢があればできるのではないか。プロである以上、当然、守秘義務は守った上でピアレビューをするのだと思う。なぜアメリカでできて日本でできないのかという気がしており、こうした取組みを進めていくべきではないかと思う。
  •  協会の品質管理レビューと審査会のモニタリングが何度もあって監査法人には負担になっているのかもしれないが、品質管理レビューがあって、審査会がその内容の報告を受けてモニタリングするという手順に問題があるのではないか。品質管理レビューから報告が上がらなければ、審査会も見ないということになる。より第三者の眼を入れることとし、例えば内部通報を契機として、審査会の検査や協会の品質レビューを行ってもよいのではないか。いろいろな眼を入れる手段があると思う。
  •  リソースの問題に関連して、新人の公認会計士の実務補習の1つとして、審査会のモニタリングに補助として加わり、いろいろな会社の調書を見たり、モニタリングしたりするということも、有益な経験になるのではないかと思う。
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  • ○米国では、1970年代から会計事務所同士のピアレビューを行いつつ、それだけでは仲間内の審査に留まるので、それを監視する機構として、米国公認会計士協会の外部に公共監視審査会(POB:Public Oversight Board)という機関が設置された。しかし、エンロン事件の際に、POBもピアレビューも結局会計プロフェッショナルの仲間内の審査にすぎないとの批判がなされた。自主規制とはそういうものではあるが、その後の企業改革法の中で、POBを解体し、公開会社会計監視委員会(PCAOB:Public Company Accounting Oversight Board)を新しく立ち上げることとなった。PCAOBは運営資金を民間から集めているため非政府組織と自認していると思うが、委員長や委員の人事権を全てSECが握っているため、官のレベルの組織と理解してよいと思う。このように、米国ではピアによる審査から官のレベルでの監視へと移ってきた経緯がある。
  •  日本では、ピアレビューという監査法人同士が審査する形式は守秘義務等の観点で難しいという議論がなされ、カナダ型ピアレビューという言葉で説明されていたが、協会がレビューを行うということで、品質管理レビューが導入されたと理解している。しかし、これもあくまでも仲間内のレビューであり、どうも十分に機能しないという事情もあったのか、2003年の公認会計士法改正で新しく立ち上がった審査会がモニタリングを行うこととなった。ただ、先行する形で協会の品質管理レビューが実施されていたため、それを尊重するという流れの中で、審査会はワンステップ置きながらモニタリングを行うという方向性が取られてきたと理解している、
  •  協会だけで対応していては、いつまでたっても批判ばかり受けてしまい、協会がかわいそうだという気さえする。審査会が全てを握るという話ではないにせよ、一定の法的な裏づけが必要ではないのかと感じている。
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  • ○制度の目的を踏まえた上で議論しないと、議論が拡散するのではないかという感じがする。協会の品質管理レビューと審査会のモニタリングは、それぞれ目的を異にする制度として設けられていると思う。目的がオーバーラップしているのであれば、負担が大きいからなるべくそれを一本化しようという意見を議論することが考えられる。目的のオーバーラップの程度が低いのであれば、目的が違うのに1つの手続でできるのかという疑問が生じてくるだろう。目的が3分の1か半分ぐらい重なっているということであれば、重なっている部分について何か改善をすることができないのかという発想があってもいい。2つの制度が併存している中で、負担をなるべく減らしつつ実効性を上げることを検討するに当たっては、どういう結果を生じさせて、どういう目的を実現したいのかということの共通認識が生まれないと、制度を論じるのはなかなか難しいと思う。
  •  品質管理レビューの結果は必ずしも公表されているわけではないと理解しているが、品質管理レビューを通じて協会が把握した問題点は、繰り返し起きているものなのか、それとも品質管理レビューのたびに違う内容の問題が起きているのか。監査法人ごとに違う問題が出てくるのではなく、同じような問題が繰り返し指摘されているであれば、教育や研修を通じて解決していくことが可能ではないかと思う。一方、品質管理レビューに入るたびに全く違う問題が出てくるのであれば、おそらく教育や研修による解決になじまないので、別の道を探ることが必要になる。
  •  上場会社監査事務所登録制度に何らかの法的根拠を持たせるのは悪い話ではないと思うが、法的な世界に足を踏み入れた途端に、違反があった場合の対応や、登録方法、登録抹消の決定が全て法律問題となってしまい、非常に厄介と言えば厄介な話となる。ほとんどのプロセスを透明化して公開していくという形にならないとなかなか理解を得られないだろうし、場合によっては裁判になるかもしれないので、そこで公開されてしまうということもあるかもしれない。何を目的にしてどういうことを実現したいのかについて、もう少し問題意識を共有して考えていければよいという感じがする。会計は法律とは別のカテゴリーのルールだが、監査は会計と法律の世界が交差している世界なのだろうと思う。上場会社の監査がうまく機能していないということになると、誰の責任かなど法律問題をすぐに生じさせてしまうというので、法律の根拠を持たせるべきか否かという議論を避けて通れない部分があると思う。ただ、目的によってある程度段階があってしかるべきだという議論は当然あり得る。いずれにしても、目的を共有した上で議論を進めるべきという印象がある。
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  • ○監査法人のガバナンス・コードの中小監査法人による受入れについて、監査法人のガバナンス・コードの指針3-1で、監督・評価機関を設けて、その役割を明らかにするということが書かれているが、これは大手監査法人に対しては非常によく機能する一方、中小監査法人の多くにとって監督・評価機関を設けることが現実的かどうかということに関しては、若干疑問を持っている。監査法人のガバナンス・コードを改訂するのであれば、何らかの対応を考える必要があるのではないか。監査法人のガバナンス・コードはコンプライ・オア・エクスプレインなので、説明によって対応できるのかもしれないが、改訂するのであれば、中小監査法人の意見をよく聞いていただきたい。
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  • ○監査法人のガバナンス・コードは、現時点では大手上場企業等の監査を担う大手監査法人をベースに考えている。全上場会社を念頭に全ての監査法人に幅広に適用する場合、規模の違いがあるので中身の見直しも必要になるのではないかと思う。
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  • ○一言に不正会計や虚偽表示といっても様々なケースが想定されると思うが、今回の議論の最大の目的は、やはり意図的な不正会計をどう防ぐのかということであると理解している。したがって、例えば中小監査法人が事業会社側と意図的に結託して問題を起こしたようなケースがあるのであれば、そういったことを防ぐために一定の法的な裏づけも必要なのではないのかと考えている。監査法人のマネジメントの問題は以前からあったと思うが、特に大手監査法人において、不正会計につながるような意図的な行為に関する監査上の重要なリスクについては、マネジメント全体で共有されて判断されている形になっているのか。言い方を変えれば、監査法人のマネジメントの問題は、もう克服されているという理解で良いのか。
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  • ○ガバナンスに関する大手監査法人の問題意識は総じて格段に高まっているという印象があるが、まだ改善の途上。また、アドバイザリーとアシュアランスとの関係など、ガバナンス上の新しい課題も出てきている。
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  • ○監査法人の意識が高まってきていると感じる一方で、大手監査法人の中でも、意識や体制整備には差があるようにも思う。大手監査法人以外にも目を向けると、本当に上場企業の監査を担っていいのか疑念が湧くような問題が指摘されるケースもある。国際的に見ても、大手4大ネットワークでも問題が生じているので、日本のマーケットにおけるリスクやその対応については楽観できない。
  • 過去の経緯を見れば、官の規制や法律の裏づけが必要だという意見ももっともだと思う一方で、官の規制で本当に実質を伴うのか。どんどん規制が強化され、官が直接監督するようになると、無謬性が求められるようになり、コンプライアンスを極めて重視する監査をするようになってしまう懸念がある。監査手続実施について形式上は問題ないが、監査人の本当の実力が伴わない結果となり、潜在的によりリスクが高まるということを恐れている。今後、品質管理基準が改訂され、監査法人の品質マネジメントの機能ごとに品質目標を定め、その自己評価を行うという制度が入れられたときに、ますます検査で形式的にチェックしやすい状態になる。だからこそ、実質的な効果のある検査やレビューの在り方をしっかりと議論しなければならない。実質的にきちんとした監査ができるようになる制度であれば反対はしないが、現時点においてはそれに懸念がある。
  •  監査業界の規制だけでは、情報開示の信頼性や、企業の健全な経営は実現しない。今の規制の方向が、情報開示の両輪である企業側と監査人側でバランスが取れたものになっているのか。本懇談会の場ではないのかもしれないが、是非議論していただきたい。ポイントの1つは金融商品取引法と会社法の一元化である。監査人側も企業側も、しっかりと決算と監査をして情報開示できるようになり、企業側にもメリットがある。投資家にとっても、株主総会前に有価証券報告書を見られるという状態を作り出せる可能性が高まる。今後、気候変動情報に対しては開示基準の策定に加えて、保証の問題も議論されると思うが、その情報が株主総会の参考書類の中に入らないということは、投資家にとっては非常にクリティカルな問題であるのではないかと思う。また、既に十分ではないかという御意見もあるかもしれないが、企業経営者の情報開示責任について、より強く意識させるような制度を検討していただきたい。
  •  岸田首相が四半期開示の見直しに言及されている。適時開示は投資家にとって必要なもので廃止することには反対だが、法定開示は検討し直してみる価値があるのではないかと思う。こういった制度全般を見たバランスの取れた規制にしていただきたい。それにより初めて監査が市場にもたらしているメリットが十分に伝わると思う。監査は不正を見つけるということだけではなく、監査があることで企業の不正会計、粉飾決算が極めて少なくなっている。これは間違いない事実だと思う。監査がもたらしている社会に対する効果を踏まえた上で、バランスの取れた規制にしていっていただきたい。
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【公認会計士の能力向上、その他の論点】

  •  ○現行の公認会計士法では、監査法人の社員の配偶者が会社の役員に就任している場合には、監査法人はその会社の監査を受嘱することができない。大規模監査法人では、社員が500名以上おり、この規定に該当するケースが実際に見られ、女性活躍推進の妨げになっていると言える。監査法人の独立性の担保は重要であるが、配偶者との関係においては法規制を適切な範囲にとどめ、公認会計士やその配偶者の活躍の機会を奪うことのないように、この規定の見直しを御検討いただきたい。また、大規模監査法人においては、監査法人の機動的な運営にあたり実情に合わない法規制がある。例えば、監査法人の合併の承認や社員の脱退に対して総社員の同意が求められている規定について、今後、御検討いただきたい。
  •  高品質な監査を実施するための環境、特に監査役等との連携の強化について、監査報酬の依存度や非監査業務の提供に関する監査人の独立性の強化に関して国際基準で採択されているものを日本でも取り入れる方向で、協会で倫理規則の改訂に向けた議論が行われている。倫理規則は、公認会計士が公共の利益に資するという職責を果たすために遵守すべき行動規範であり、公認会計士は自らを律して倫理規則を遵守して行動することが求められている。公認会計士が倫理規則を遵守することは全世界共通であり、これにより職業会計士が社会から信頼される基盤となっていると考える。
  •  独立性の遵守に関する状況は、会社法上、会計監査人から監査役等への通知事項になっており、コーポレートガバナンス・コードにおいても監査役会等は、監査人の独立性と専門性を評価することが求められている。監査人の立場からは、監査役会等がガバナンスに責任を有する者としての役割を発揮し、会計監査人の監査の適正性を適切に評価するとともに、経営者を適切に監視していただくことが高品質な監査を支える基礎となると考える。監査役会等と監査人が連携を深めることによって、コーポレートガバナンス補充原則にもある不正発生時などの有事には、連携して適切に対応し、利害関係者からの信頼確保につなげられるものと考える。
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  • ○人の育成に向けて、不正を見抜く力を養うため、事業会社との人材交流が必要なのではないか。義務化は多少難しいかもしれないが、各監査法人の公表資料において、人材の評価基準として「多様な経験」が評価されることをしっかり書き込むことが有効ではないか。継続して監査に携わってきた人が評価され、一旦監査法人の外に出ると、監査法人に戻ってもあまりいい評価を得られないようなことはないか。公認会計士には多様な経験が必要だと思うので、監査法人の外に出た公認会計士を積極的に評価するような評価基準を公表していただきたい。
  •  試験制度についてはいろいろな考え方があると思うが、今でも公認会計士を目指す人がたくさんいるわけなので、急に変えるというよりも中長期的にしっかりと検討していただきたいと思う。非常に単純化して言うと、日本の試験制度は、歴史的に監査法人で監査業務を行うことを前提にしていると理解している。一時期、合格者数を増やして試験制度を見直していこうという流れもあったが、基本的には監査をする人材を選ぶという試験だったのではないのか。一方で、米国等であれば、監査に限らず、事業会社を含めてマネジメントを担う上での素養的な試験になっている部分があると思う。どちらがいいのかは様々な考え方があると思うが、個人的には監査だけを担っていると多様な経験値が不足すると思うので、人材の流動化が進んでいくことで、事業会社を経験したり、監査を経験したり、そのような経験の中で不正会計を見抜く力がより養われていき、そうした人が監査法人に戻り、またその人たちが中心となって監査のありようを見直していくといったことがいいのではないか。公認会計士としてどういう人間を選ぶ試験制度にするかは、どのように人を育てていくのかをまずしっかり議論した上で、それを前提に置いて、中長期的な課題として検討をお願いしたい。
  •  また、よりプリミティブな人材育成の話ではあるが、これまでもリスクアプローチが当然のこととされており、内部統制面でも財務諸表の表示面でも、監査を通じてリスク評価が行われているはず。そのリスク評価の結果に関して、事業会社とのコミュニケーションをもっと深めるべきだと考える。リスク評価の結果に基づいて事業会社側とよくコミュニケーションをとることは意図的な不正会計の抑止力にもなり、また監査人としての能力の向上にもつながると思う。何か制度として決めるというよりも、本来、通常の監査の現場の中で当然に行われているべきリスクアプローチをしっかりと徹底し、リスク評価に基づいた監査計画を策定して実行していく。そうした当たり前のPDCAをしっかり確立することが、相当程度、人材の育成に寄与するのではないか。
  •  なお、先ほど金融商品取引法と会社法の一本化という話が出たが、会計基準の適用と情報開示の問題は全く別の議論だと思う。例えば、会社法の事業報告の中で気候変動の情報開示を行えばよいのであって、一体にすることが望ましいという考えには反対である。
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  • ○継続的な能力開発の点について、CPEの不適切受講の問題が発生したが、大変残念な事態だと思う。監査法人と公認会計士の両方に問題があったことは事実だと思うが、業務が多忙で仕事を優先したというのが遠因ではないかと思う。ほとんどの公認会計士は真面目にCPEを履修していることから、厳格に対応することは必要と考えるが、過度に厳しいペナルティーを科すと、かえって逆効果になるのではないか。むしろ、CPEの研修内容を充実させることにより、CPEを受講することで専門家としての能力を向上させることができるというベネフィット感を感じさせるような方向に力を入れていったほうがいいのではないかと考える。義務は義務として、やはりベネフィットがないと形式的な面に流れてしまうおそれがあると思う。
  •  組織内会計士もCPEを受講する点は同じですが、彼らが受けたいと思うCPEは、当然、監査や税務を行う公認会計士とはニーズが違うと思うので、組織内会計士が受けたいと思う研修プログラムを十分用意することが必要ではないか。これについては、協会もかなり努力をしていると思うので、その努力を継続していただき、研修内容の充実を図っていくことが重要だと思う。組織内会計士については、協会でネットワーク化が図られているが、参加していない方もかなりいると思うので、こうしたネットワーク化の推進と研修の充実が必要ではないかと思う。
  •  試験制度を中長期的な検討事項として扱うことに異論はない。ただし、試験制度の改正が必要だということは、様々な方から意見が出ており、過去には協会でも検討した経緯があるので、中長期的ではあっても前広に検討いただきたい。
  •  また、内部監査部門、監査役等との連携については、会社の内部統制の充実が財務報告の信頼性の最も重要な基礎だと考えている。その前提で、内部監査の活用が不十分だと考えている。会計監査においてほとんど活用されていない。内部監査部門の整備、運用状況は会社によって千差万別だが、会社の事情に合った内部監査機能が発揮されているかどうかは、コーポレートガバナンスの観点から取締役や監査役会が監視しており、監査人も内部統制のシステムの有効性の検証の中で確かめているはずだが、この辺りが弱いのではと考える。一方、監査役との連携は、日本監査役協会と日本公認会計士協会が連携に関する共同研究を2005年から実施して報告書を公表しており、今年も改訂されている。監査役等と監査人との連携には相当に共同研究の報告が役立っていると思っており、コーポレートガバナンスの強化にも貢献しているのではないかと考えている。同じような取組みを内部監査でもすべきではないか。協会は日本内部監査協会などと同様の取組みを行い、財務諸表監査における内部監査の活用をもっと模索すべきではないか。そうすることで、ガバナンスはもちろんのこと、財務報告制度の強化につながるのではないかと思うので、将来の検討テーマとしていただきたい。
  •  有価証券報告書の記述情報が充実して、投資家に役立つものになってきてはいるが、その中に将来的にESGに関連する情報が含まれるようになって、第三者の保証が必要になるという場合に、その記述情報の保証について公認会計士法の第2条1項業務に該当するのか、あるいは2項業務にも該当しないのか、公認会計士もしくは監査法人が保証を提供できるように何らかの形で検討をしていく必要があるのではないか。おそらく、記述情報の保証と併せて検討されると思うが、保証提供者という点でもご検討いただけたらと思う。
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  • ○企業側を含む多様な経験について、監査事務所と企業との人材交流が何らかの形で実現され、また、それが評価につながるということは非常に望ましいと考える。審査会の検査結果事例集を改めて読むと、特に大手監査法人の場合、不正の見落としより多いケースとして、不正の兆候があったにも関わらず、被監査会社に対してここはおかしいのではないか、これは不正ではないかと説得力を持って言うだけの根拠がなく、それによって被監査会社の主張をそのまま受け入れてしまったところもなくはない。また、監査基準に照らして重要度が低いのでそのままにしたというケースもある。そうした監査法人の中だけでの価値観みたいなものではなくて、広く社会や投資家の視点を知っていただければと思う。
  •  研修制度について、やらされ感があるような研修ではなかなか受講が進まないというご指摘は、まさにそのとおりだと感じている。例えば、研修の中で企業との交流を行うとか、一定の期間企業に滞在して何らかのプロジェクトに入ってもらい、そのレポートを出してもらうなど、企業の実態を見ることができ何か蓄積されたという実感が得られるような研修に発展できればいいと思う。
  •  高品質な会計監査を実施するための環境について、大手監査法人と中小監査事務所で分けて考えたほうがいいと考えており、中小監査事務所の場合、被監査企業が意図的に不正に近いようなことをやる場合に、大体は内部統制が無効化されており、企業側の内部統制の整備をしっかりやってもらうなど、企業側のガバナンスも併せて行わないとなかなか実効性が上がらない。一方、大手監査法人については、この内部監査部門と監査役等のコミュニケーションは当然のこと、投資家目線では財務報告に関するガバナンスは監査役だけではなくて取締役会の問題だという意識が非常に強いことから、監査役から取締役会に報告をしてもらう、監査役等の権限を高める、監査人と取締役会のコミュニケーション、特に社外取締役とのコミュニケーションなど、財務報告に関するガバナンス強化や内部統制の有効性の向上に向けた方向感を示すとよいのではないかと思う。
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  • ○現状のCPEはeラーニングのような形式かと思う。先日、CPEの不正受講があったように、eラーニングだけでは、ビデオを流してはいるが本当に勉強しているのかはよく分からないという事態もあるのではないか。抜き打ちの面談を行うなど、実際の理解度を測るような補足的な取組も必要ではないか。特に上場会社の経理を担当している企業内会計士には、CPEをきちんと受けてもらう必要がある。企業内会計士には、会計基準のアップデートとともに、監査基準の改訂についても十分に学んでもらう必要があると思う。
  •  企業側を含む現場での経験については、1か月在籍していた程度の短期間の経験ではほとんど無意味だと思うが、例えば3年程度の期間があれば、様々なことを学んで監査法人に戻れると思う。この辺りは工夫次第ではないか。
  •  次に、CPEの研修内容について、不正を見逃さない、不正に対応するという意味では、公認不正検査士の研修が参考になると思う。不正の心理についての研究成果もあり、米国の研修が相当程度輸入されているので、日本でも協会と公認不正検査士協会が協力して、公認会計士のCPEに使えるような研修内容に改訂できるのではないかと考える。現状のCPEでも不正のケーススタディーを取り上げているということだが、個々のケースを普遍的な理論と結びつけて習得することが大事だと思うので、公認不正検査士協会との協力も検討してはどうか。
  •  審査会から、大手監査法人では非監査業務収入の割合が非常に高く、非監査業務を行うことが公認会計士としての人材育成にもつながっているといった内容のレポートが出ていたが、こうした点も大手監査法人と中小監査事務所の差がついている原因になっているのではないか。
  •  試験制度について、中長期的に考えるというのは先延ばしではないと理解しており、中長期的とはいえ今からでも検討すべきではないかと思っている。レベルの非常に高い公認会計士を選抜するための試験と、それから企業の経理担当の部長クラスを担えるぐらいの知識あるいは見識を持つ人材の試験というように、資格を2つに分ける試験が検討に値するのではないか。CPEについても、高度な監査基準までに至らなくとも、ある程度の上場会社の会計処理や監査についての知識を身につけるのであれば、それ相応のCPEの受講で足りる場合もあると思うので、そうした配慮も肝要と思われる。
  •  監査上の主要な検討事項(KAM)の導入の際に、日本では誰が「統治責任者」にあたるかの議論の中で、監査役等がそれにあたるのではないかという議論が出たことがあったが、その後も、監査役等には自分たちがガバナンスに責任を持っているという意識が希薄な気がするし、世間もそうは見ていない。社外からの目線として、監査役等にそうした姿勢を求めていただくことも必要だと思う。会計監査人と内部監査や監査役等との連携の第一歩はコミュニケーションだと思う。監査役等と内部監査部門、そして会計監査人の三者がよくコミュニケーションをとることは大事だと思うが、会社側の姿勢が問題になる場合もある。例えば、内部監査部門が不正やその兆候を見つけたときには、真っ先に執行側に報告すると思われるが、会社側の姿勢に顕著に問題がある場合、この情報が監査役にも共有されず、ましてや監査人にも共有されないという場面も多いかと思う。執行側の対応として、「よく調査しよう、それまでは誰にも知らせるな」という考え方になることはしばしばあるのではないか。そういう意味では、内部監査部門は、こういう局面では社内ではなく社外の人間という2つの顔を持つくらいの意識を持ってほしい。これは制度で改善できる問題ではないが、内部監査部門や監査役が不正やその兆候を知った場合には、直ちに監査人を巻き込んで、この三者が情報を共有しながらやっていくという協力体制を取ることが大事だと思う。監査役と会計監査人の連携についてのアンケート結果などを見ると、監査役等自身も監査人に対するアウトプットが少ないと感じている。ヒアリングの機会は多くあり、監査人側からのインプットはたくさんあるが、監査役等からのアウトプットは少ない。監査人側からもこの点について問題提起し、協力関係を築いていくべきではないか。コーポレートガバナンス・コードの補充原則の3-2②(ⅳ)では、取締役会及び監査役会は、外部監査人が不正を発見したときに適切な対応をしなければならず、また、補充原則3-2②(ⅲ)では、外部会計監査人と監査役、内部監査部門、そして社外取締役の間の連携を取っていかなければならないとされており、監査役自身もこれを意識しなければいけないと感じる。
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  • ○試験制度については、公認会計士の世界に入れるかどうかというための試験であり、要は入口論。一方、意図的な不正を見抜くためにどうすべきかという話や、公認会計士の業務範囲が広がるにつれて身に着けるべきことが増えていくので、それを勉強していかなければならないという話は、入口を通った後のContinuing Educationの世界だと思う。試験制度を見直すのは賛成だが、入口のところでは、公認会計士の基盤になる会計監査の最も基本である会計に関わる科目について、基礎がきちんとできているのかを確認することに主眼を置かざるを得ないと思う。その後の世の中がどんどん変わって、それに伴って変わる会計ルールに対応するのは、そのような変化に対して自分を鍛えていけるかどうかという話であって、プロとして公認会計士になった以上、そういう気構えを持ってやるべき問題。また、意図的な不正を見抜くというのは、軽過失に基づくミスを発見することとは異質なところがあり、言わば人を見抜くということと相当似たようなところがあるように思う。数字だけを見ていれば不正が見抜けるかというと、そういうものではない。そのような修練は、入口の試験で試すことに向いていることとも思えない。何を基礎として求め、その後はどのような公認会計士像を目指して修練させていくのかというふうに2段階で考えるべき。
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  • ○教育研修については、協会でも公認会計士に求められる資質、能力の検討が進められており、教育研修に関する常設の委員会を作ることなども含め、実効性のある形で運営されることが望ましいと考える。協会と監査役協会、内部監査協会、公認不正検査士協会との連携を深める施策も具体的に講じられるべきと考える。
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  • ○自主規制機関の役割については様々な議論があるが、自主規制団体はメンバーシップ制で、第一義的にはメンバーの利益を守る必要がある。しかし、仲間内の傷をなめることによって守るのではなく、駄目なものは駄目だということで厳格な懲戒処分制度を持って律することが本来の自主規制であり、中途半端な対応はかえって社会からの信頼をそいでしまう。仮に現在の自主規制のなかで、そうした懲戒制度に無理があるというのであれば、一定の法的な枠組みが必要ではないかと思う。
以上 

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