経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議(第9回)議事要旨及び資料

議事要旨

1.日時:

令和2年3月6日(金)15時00分~16時35分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館 12階 共用第2特別会議室

3.議事内容:

冒頭、事務局による資料説明(資料①)、辻野メンバーによるプレゼンテーション(資料②)が行われた。続いて、以下のような議論が行われた。

  •  ○ 第2の柱について、事務局資料は非常に論点がうまく整理されていると思う。また、資料②p.22に記載されているように、英国PRAも保険会社がどのように資本創出しているかを把握することの重要性を指摘している。第2の柱においては、資本とリスクの関係性だけではなく、それにリターンを加えた三位一体で見ることが重要だと思う。
  •  ○   資料①p.10について、第2の柱に関する今後の検討状況は、世の中からは目に見えず、当局と保険会社だけの視点となる。もちろん当局においては適切な対応をされるものと思うが、保険会社側の意見で第2の柱のレベル感が左右されてしまう可能性もあるため、適宜外部の有識者の声も聞く必要があると思う。また、資料②にあるSFCR(ソルベンシーⅡにおける「ソルベンシー財務状況報告書」)の情報なども含めて活用していくことは重要だと思う。
  •  ○ 第3の柱については、ユーザーの立場の観点から今後も検討を進めていくことは非常に重要だと思う。一方で、投資家向けというと株式会社だけを想定した議論になりがちだが、SFCRは投資家のためだけに作成されたものではない。非上場会社はあまり情報を出さなくてよいとすると、非上場化しようなどとの妙なインセンティブが働く恐れもある。投資家・消費者を始めとする幅広いステークホルダーにおける情報の有用性との観点で検討を進めていければ良いと思う。
  •  ○ 資料①p.8の割引率について、「必要な場合には、規制上の手法以外の手法も用いて評価を行う」とあるが、「必要な場合」ではなく、例えば、「現在の金利の情勢を勘案し妥当な推計を用いて評価する」など、必要性をはっきり明示すべきである。
  •  ○ 資料①p.8で、第1の柱で捉えきれないリスクや定量化が難しいものとして、気候変動リスクやサイバーリスクに言及していることは妥当なポイントだと思う。
  •  ○ 資料①p.16について、経済価値ベースの情報に基づいた当局と保険会社の対話の重要性が強調されているが、今までよりはるかにリスク感応的な情報が入り、ルールベースからリスクベースの監督に移るというところで、対話を有効化していくための当局の態勢づくりが重要である。
  •  ○ 辻野メンバーのプレゼンをお聞きして強く感じたのが、ソルベンシーⅡという同じ制度の下でも、大きくディスクロージャーの仕方が異なっているということ。欧州では情報開示の標準化が重要な課題だが、国内でも同様であり、望ましい情報開示の仕方を決め、標準化を進めることは可能だと思う。
  •  ○ 資料②p.30の第3の柱の検討に際しては、継続的に利用者の意見を吸い上げる場が必要との意見には賛成である。何をどうやって情報開示するか、どのような形で標準化を進めるか等について、当局が保険会社、投資家、消費者等のステークホルダーと様々な観点から具体的に議論し、決めていくべきだと思う。資料②に例示があるが、保険リスクの感応度は共通シナリオを用いてある程度分かりやすく標準化できないか(p.8)、保険契約種類ごとの負債のデュレーションのミスマッチ状況を比較可能な形で開示できないか(p.13)、IFRSと経済価値ベースの資本の差の内訳に関して、開示の調和が進められないか(p.16)、内部モデルを使用した場合の資本の減少要因を明確に開示する方法はないか(p.18)等、本会議後にはなると思うが、今後検討を進めていくべきだと思う。
  •  ○ 開示の標準化について、実際にソルベンシーⅡでもSFCRが各社でバラバラであるため、感応度分析や変動要因分析については標準化されたフォーマットが提案され、現在保険会社の意見を求めている状況である。また、EVについても、EEV原則やMCEV原則が策定された背景には、各社の対応がバラバラで第三者視点の分析の阻害要因となっていたことがある。現在、国内のEV開示会社に関しては、一定程度標準化された開示がなされているため、そこから後退しないようにすることは重要だと思う。
  •  ○ 金利感応度については、ストレスの水準、マイナス金利下で金利をゼロ止めするか否か、UFRを変動させるか否か等の違いにより、比較可能性が損なわれる可能性もある。今後テクニカルな内容を詰めていく段階では、それらも検討課題の1つだと思う。
  •  ○ 今後の環境変化に応じて、これまでの標準セットでは対応できない場合や適切でない場合も出てくると思う。第2の柱か第3の柱になるのかは分からないが、その場合に一定程度柔軟に対応できる態勢というのも考慮しておく必要がある。
  •  ○ 先ほど他のメンバーから非上場会社も含めた開示の標準化との話があったが、生損保色々な会社がある中で、それら全ての会社に一律に求める水準・レベル感となると、一定程度どこかで線を引かざるを得ないと思う。一方で、上場会社など、今でもEVを開示している会社では、積極的な追加の開示を行っていくことが考えられる。実際にEVの開示は、法定開示では自社の考えるビジネスを適切に評価できないとの観点から行っているものであると思う。標準手法やIFRSでは表現できない論点、例えば保険契約の更新を含めるか否か等について、自主開示は一定程度残っていくと思う。そうした部分については第2の柱との関連性も一定程度担保した上で、自主開示を促すような制度とするのが良いと思う。
  •  ○ 資料①p.12について、ステークホルダーとの言い方は難しく、投資家や消費者以外の人達はどうするのかや、また、(他のメンバーからも意見があったが)上場株式会社の問題等もあるため、ステークホルダーとの表現と現実の日本の状況を合わせて理解できる形で表現した方が良いと思う。
  •  ○ 情報開示について、相当プロフェッショナルなものになるだろうが、そうした動きを通じて何か新しい産業が出てくるのではないかと期待している。
  •  ○ 資料①p.14の更なる開示の充実の例として、サイバーリスクも重要であるため、例示列挙すべきと思う。
  •  ○ 資料②は非常に実用的な資料であり、こうした資料が本会議の資料として公表されることは意義あるものと感じる。p.10の技術的準備金やリスクマージンの値については、どのような考え方に基づきこの値が算出されたのか、考え方の違いでどのような差異が生じているかを示せれば良いと思う。また、p.19以降の標準モデルと内部モデルの差異では、(内部モデルを使用することで)何がどのようにリスクマージンやベストエスティメイトに影響するか分かるような仕掛けをすべきと思う。情報開示のレベル感を統一し、何故違いが生じるのか、数字に繋がるような開示方法を工夫すべきであり、更には、死亡率などの基本的な数字にどのくらいのマージンが含まれているかも分かると良いと思う。情報開示については、今後の検討課題であり、本会議で細かく議論するというよりも、実際にこうした情報を使う方が議論できる場を、今後当局と保険会社がセットできれば良いと思う。
  •    ○ 資料①p.6の第2の柱について、第1の柱と整合させるために経済価値ベースにシフトしていくとの点に異論はない。一方で、財務会計関係の数値も残るとの前提では、こうした数値は配当や株価への影響のほか、上場廃止基準や破綻制度など様々なところで引き続き使用されるため、こうした基軸の異なるリスクがある中で、完全に経済価値ベースだけにシフトして情報収集するのが果たして妥当なのかというのが気になる。契約者保護の観点から考えた場合、様々なリスクがあるのであれば、考慮はしておくべきだと思う。実務面も考慮し収集する情報を簡素化すること自体は良いが、考えられるリスクシナリオでカバーできる程度には財務会計の数値も収集することを考慮しておく必要があるのではないか。
  •  ○ 資料①p.7の早期警戒制度が有効に機能するには、どの程度の頻度で報告を求めるかが重要になる。英国の事例だと思うが、四半期ではレビューレベルで開示し、年度ではしっかりした数字を外部検証も求めたうえで開示するという形、その間は感応度で見ていくとのやり方もあると思う。ただし、現状は四半期の頻度で報告できる体制を有していない保険会社もあると思うので、その体制整備に要する時間も含め考えていく必要がある。
  •  ○   資料①p.14の第3の柱について、詳細を2022年から議論し2024年に形にするとなると、システム開発が間に合わない恐れがある。資料②でも触れられているが、(経済価値ベース規制導入後は)かなり膨大で様々な数値の開示が求められることになるので、これらの数値を入手するためのシステム開発が重要になる。資料①p.17のタイムラインでも2022年までに「第1・第2の柱の検討状況を踏まえつつ、開示項目の大枠を検討」と記載されており、SFCR等も参考にしつつ一度大枠を議論しておくと、システム対応もしやすく、タイムライン的にも間に合うと思う。大枠を決めた上で2022年以降に詳細を決めていくとのスケジュール感は明確化しておく必要があると思う。
  •  ○ SFCRについて、実際に開示を作る立場やチェックする立場からは、本当にここまでの開示が必要かと疑問に思うケースもあり、資料①p.12記載のとおり、コストベネフィットの観点は保険会社も含めしっかり検討する必要がある。ステークホルダーごとに必要な情報が違うところも含め、どの程度の深度の情報を開示するのが良いのか、それとコストとベネフィットが見合っているかとの点は検討していく必要がある。
  •    ○   他のメンバーからシステム開発を考えると2022年では遅すぎるとの話があったが、1つの考え方として、フィールドテストの段階から、開示形式までをある程度想定したフレームを入れて段階的に検討を進めていくとのやり方はあると思う。
  •  ○ 会計ベースのリスク管理と経済価値ベースのリスク管理の両方を行わせるというのは反対である。経済価値ベースへの移行のブレーキ解除が重要であることは以前から申し上げている。現在の金利環境が続くと、場合によっては現行会計ベースのリスク管理を続けていくことが危険な状態を示す可能性もある。現行会計ベースの逆ざやを無理にメイクアップしようとすると、金利リスク制御がどうしてもおざなりになるため、利差あるいは逆ざやという発想自体を排除する必要があると思う。また、繰返しにはなるが、実質資産負債差額についても、やめられないということであれば、せめて責任準備金対応債券と対応する責任準備金の両方を控除するなどの手当てが有効ではないかと思う。
  •  ○ 資料①p.9について、現在ORSAレポートの中でストレステストの状況を把握しているが、ストレステストにどのように実効性を持たせるかが非常に重要だと考える。保険業界に限らず一般的に経営陣はストレステストを真剣に受け止めない傾向があるが、銀行で状況が変わったのは、バーゼルⅢ以降、ストレステストに付随して、リビング・ウィル(破綻処理計画)を要求することとなり、そこで初めて経営陣がストレステストの結果を真剣に受け止めるようになったと聞いたことがある。これは参考になると思う。
  •  ○   「内部モデル」といった場合に、一つはPCR計算用の内部モデル、もう一つが自分たちのやりたいリスク管理を行うための真の内部モデルという二つの意味があり、これらは意味が違うものなので区別する必要がある。真の内部モデルとは、PCRに関係なく経営ツールとして使われるものであり、第1の柱はある程度緩いものを設定せざるを得ない状況を考えると、真の内部モデル開発をどのように推奨していくかは課題だと思う。例えば、第2の柱でモデルの主要前提について、何故それを選択したか、それにどのような課題があるか、などを確認することは有効だと思う。
  •  ○ PCR計算用の内部モデルのうち、市場リスクに関するものは認可基準をある程度厳しめに置き、ESRの数値が標準モデルと対比で仮に不利であっても、内部モデルを使っているとのステータスが第3の柱で評価される(リスク管理が優れているというレピュテーションがとれる)形にすることが望ましいと思う。
  •  ○ 経済価値でORSAレポートをどう変えていくかとの論点もあるが、1つの見方として、ソルベンシー基準に関してはクローズド・ブロックで考えるリスク管理であるが、ORSAはオープン・ブロックで考えることも有りうる。つまり、現在の商品政策や運用政策を継続することが本当に妥当であるかどうかをORSAレポートで見ていくとの使い分けもあり得るかと思う。
  •  ○ 資料②は非常に有益で参考になる資料であると思う。驚いたのは最大リスクが保険リスクである保険会社があるということ。これがまさに保険会社ということである。日本の生命保険会社の多くは、市場リスクが最大のリスクだと思うが、このような(市場リスクがトップで保険リスクが2番というような)会社に対しては、第2の柱の中で、自社のリスクプロファイルをなぜ最適であると考えているのか、今後どう変えていくのかを確認するのが良いと思う。
  •  ○ 他のメンバーからも発言があったが、経済価値ベースの評価は、コンピューターが進化した現在でも計算するのに時間がかかる状況であり、それが色々な開示を行うために様々なパターンの計算をするとなると非常にリソースが必要となる。そのため、資料①p.12に記載のとおり、保険会社のコスト面とのバランスを踏まえることが重要と考える。また、欧州のように各社の様々な開示手法を集約し標準的なものを作るよりも、各社の自主性や会社の規模などを考慮し検討していく方が良いと思う。
  •  ○ 資料①p.13の消費者向けの開示のあり方について、生命保険協会では、「ディスクロージャー~虎の巻」を作成し、図を用いながら、保険種類ごとに責任準備金がどう積み立てられているか、SMRの詳しい計算方法などを開示している。経済価値ベース規制の導入にあたり、各社が自社の数字をわかりやすく開示する努力はもちろん必要であるが、保険業界全体としても、保険契約者の方々に理解頂けるような工夫を行っていく必要があると理解している。
  •  ○ 現行会計については、今後経済価値ベース規制と並行して存在していると様々な誤解を生じる恐れもあるため、それくらいの気概を持って検討していくとの意見には賛成である。そうした場合、保険会社の財務状況を見るときに会計以外の部分を見なければいけなくなるため、アクチュアリー会等において、様々な人が資料にアクセスしたり、勉強やトレーニングを行える環境を整備することも必要だと思う。
  •  ○ 消費者はディスクロージャー資料丸々ではなく、ダイジェストにまとまったものや見開きで分かりやすいものを活用する。経済価値ベース規制の導入により、様々な数値が複雑に高度化していく中で、消費者向けには単純化した分かりやすいものが必要であり、ダイジェスト版とする場合には、消費者の理解が進むような工夫ができたら良いと思う。なお、生命保険協会の「ディスクロージャー~虎の巻」は、消費者にとってはわかりやすく好評であるため、経済価値ベース規制の導入にあたっても引き続き充実した資料となることを期待する。
  •  ○ 経済価値ベース規制導入後は、アクチュアリーの働く場所も増えるため、アクチュアリー会としては、それぞれがフルパワーで働けるような態勢を整備していくことが重要かと思う。
  •  ○ 開示については、これまでは算式がはっきり定まっていたため、数字に誤りが生じることを防げていた部分がある。一方、経済価値ベースのように前提が様々に変わっていくものである場合、過去にどのような開示をしていたかにしがらみを受けるとレベルアップがしにくくなると思う。このため、当局や開示情報を見る側の方々において、数字の変化に対する寛大性を持っていただくことも必要かと思う。
  •  ○ 資料①p.14について、今後欧州のように消費者に魅力的なリターンを提供すべく投資性商品の検討などを進めていくと思うため、表裏一体的なものとして、コンダクトリスクの管理も論点に含めるべきだと思う。
  •  ○ 他のメンバーからストレステストの実効性を高めるべきとの話があったが、まさにその通りだと思う。ストレステストの結果の確認だけでなく、その後どのように早期に回復し、保険会社としての使命を果たすかを消費者に示すことも重要かと思う。
 

以上
 

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