金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」(第2回)議事録
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1.日時:
令和6年10月17日(木曜日)15時00分~17時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館 9階 905B会議室 ※オンライン併用
金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」(第2回)
【神作座長代理】
それでは、定刻になりましたので、ただいまより資金決済制度等に関するワーキング・グループ第2回会合を開催いたします。皆様、御多忙のところ御参加頂き、大変ありがとうございます。
本日は森下座長が御欠席のため、座長代理を務めさせて頂きます学習院大学の神作でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日の会合も、前回に引き続き、オンライン会議を併用した開催とし、会議の模様はウェブ上でライブ中継させて頂きます。
また、議事録は、通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させて頂く予定ですので、よろしくお願い申し上げます。
メディア関係者の方はここで御退席をお願いいたします。よろしくお願いします。
(報道関係者退室)
【神作座長代理】
それでは、ただいまより議事に移らせて頂きます。本日は、初めに、事務局より御説明を頂き、次に、日証金信託銀行株式会社より、保全信託における委託者破綻時の取扱いについて御発表を頂いた後、メンバーの皆様に御討議を頂くという流れで進めさせて頂きます。
それでは、早速でございますけれども、事務局より御発表、御説明をお願いいたします。
【久永デジタル・分散型金融企画室長】
事務局の説明資料を説明させて頂きます。今回は、資金移動業関連として、資産保全方法の見直しと、第一種資金移動業の滞留規制の見直しを御議論頂きたいと考えております。
3ページでございます。まずは、現行の規制の概要をお示ししております。もともと送金上限額100万円という1種類しかなかった資金移動業でございますが、2020年の改正を経て、高額送金を取り扱うことができる第一種と、少額送金を取り扱う第三種を設けまして、送金額に応じて利用者資金の滞留や利用者資金の保全方法等について差異を設けているところでございます。
4ページから6ページまでは、第1回において頂きました主な御意見を掲載しております。5ページでは総論的な御意見、6ページでは資金移動業に関する御意見を掲載しております。詳細は割愛させて頂きます。
7ページからが1つ目のテーマであります資産保全の見直しに関するものでございます。8ページ、9ページは、第1回でお示ししたものを改めて掲載させて頂いております。詳細は割愛させて頂きます。8ページが現行の制度、9ページがペイロールについての制度でございます。
10ページからが新しい資料でございます。まずは、過去のワーキング・グループの報告書での関連の記述を掲載しております。2009年の資金決済法制定時のワーキング・グループの報告書、また、2019年、資金移動業を見直した際の報告書の関係記述でございます。2009年の上の四角の一番下のところでございますが、滞留資金額の保全については、倒産隔離を図りつつ、事業者負担を考慮し、供託や金融機関等の保証に加え、信託銀行等への信託を認めるなど、事業者が参入しやすいよう配慮した制度を検討することがイノベーション促進の観点から必要という御指摘を頂いております。
11ページでございます。今回の見直しの方向性の案をお示ししております。資金移動業は、創設後10年以上が経過する中で、これまで倒産事例はなく、日常生活で幅広く利用されております。また、高額送金も行われるようになっている中で、資金移動業者の破綻時に利用者に対して迅速かつ確実に資金を返還する必要性が高まっていると考えられます。
さらに、金融商品取引業者や賃金のデジタル払いのように、利用者資金をより迅速に還付するための実務上のノウハウの蓄積も見られるところでございます。
こういったことを踏まえまして、既存の資金返還方法に加えて、下の図の赤字のところでございますが、信託会社や銀行等から直接返還する方法も認めることが考えられます。こうした方法を取ったとしても、利用者保護が蔑ろにされることはあってはならないと考えております。3つ目のパラのなお書きのところでございますが、新しい返還方法であっても、利用者保護のために必要な場合等には供託命令を発出できるようにしていくことが考えられます。また、最後のパラのところでございますが、保証機関が破綻することがないよう、健全性に係る基準を満たす銀行等とすること。信託についても、受託者を信託会社等とし、受益者代理人を弁護士や公認会計士等とすることが考えられます。
12ページでございます。こうした方向性での見直しを考えた場合に想定される個別の論点や実務上の留意点をお示ししております。論点としては、1つ目のパラのところでございますが、供託と保証機関による直接返還を併用する際、保証機関等が弁済したときに、供託金の還付手続に参加することで利用者が不利益を被る可能性があるという論点を記載しております。また、実務上の留意点として3点記載しております。1点目、保証機関による返還において、保証契約次第で利用者の承諾取得の必要性があること。2点目、実務上、返還に必要な情報を事前に取得することが必要となる可能性があること。3点目、電子決済手段、ステーブルコインを発行する資金移動業者が、新しい資産返還方法を利用する場合において、ステーブルコインの保有者に対してどのように資金を返還するかという点でございます。
13ページでございます。先ほど申し上げた論点のところを詳細に御説明しております。資金決済法上、利用者には優先弁済権が付されております。これは為替取引に関し負担する債務に係る債権者が対象となっております。したがって、保証機関が利用者に弁済をいたしますと、弁済による代位により、もともと利用者が有していた為替取引に関し負担する債務に係る債権を保証機関が取得することになり、同時に優先弁済権も取得すると考えられます。
これを数字とともにお示ししているのが下の図でございます。1,000万円の履行保証金があり、保証で700万円、供託で300万円を保全する業者が破綻した場合、まず、保証機関が、①の矢印でございますが、利用者に700万円を返還する。そうしますと、保証機関が優先弁済権を取得し、供託の300万円を保証機関と利用者で按分することになり、結果的に利用者は790万円しか回収できず、履行保証金の総額であります1,000万円を回収できないということになります。こういった事態を防ぐため、3つ目のパラのところでございますが、保証機関が弁済した場合は優先弁済権の対象から外すということが考えられるかという論点でございます。
14ページでございます。実務上の留意点3点をお示ししております。1点目は、保証機関からの返還についてでございます。直接利用者に資金を返還する方法としては2つあるかなと思っております。1つ目が、事前に資金移動業者と保証機関の間で契約を締結した上で、破綻時において保証機関が利用者の債務を引き受ける形式で、ここでは債務引受型と呼んでおります。2つ目が、事前に資金移動業者の利用者と保証機関の間で契約を締結した上で、破綻時に保証機関が利用者に対して個別に保証する形式、個別保証型と呼んでおります。この2通りが考えられるところでございますが、1つ目の債務引受型については、この契約の効力が発生するためには利用者が承諾をすることが必要となるため、実務上、承諾の取り方について検討が必要となります。資金移動業者を通じて承諾を取ることも考えられるところではございます。2つ目の個別保証型につきましても、各利用者と保証機関の間で個別の保証契約を締結する必要があるところ、実務上どのようにやるかという論点があるかと考えております。
留意点の2つ目が、返還に必要な情報についてでございます。資金移動業者は、犯罪収益移転防止法上、取引時確認として本人確認義務が課されているところでございます。新たな資産保全方法を採用する資金移動業者は、この本人確認義務を通じて得られた情報に加えて、返還に当たって必要となる口座情報等を事前に利用者から取得することが必要となる可能性がございます。
3点目が、資金移動業者がステーブルコイン、電子決済手段を発行する場合についてです。ステーブルコインは転々流通し得るものですので、保有者も刻々と変わり得るものでございます。その際、新しい資産保全方法が機能するかというところでございますが、債務引受型、また、信託型については、それぞれ破綻時のステーブルコインの保有者に対する債務引受けと構成する、もしくはステーブルコインの保有者を信託受益者と構成することによって返還をし得るということは考えられますが、個別保証型については、譲受人と保証機関の間で保証契約がない場合は保護することが困難な可能性が出てまいります。
以上が、1つ目のテーマに関する御説明でございまして、15ページ以降が2つ目のテーマ、第一種資金移動業の滞留規制の見直しについての御説明でございます。
16ページでございます。現行の規制の概要をお示ししております。上の四角のところでございますが、第一種資金移動業者は、高額送金を扱うことも踏まえ、厳格な滞留規制が課されております。その柱は2つございまして、1つ目が、具体的な送金指図を伴わない資金は受入不可とする。2つ目が、運用技術上必要とされる以上の期間を超えて、資金を保持しないこととする。この詳細は府令やガイドライン等で定められております。
17ページでございます。過去のワーキング・グループの報告から抜粋した滞留規制の考え方でございます。上のほうだけ御紹介させて頂きますと、2019年7月の報告書では、資金移動業者の破綻時には、預金等とは異なり、利用者が資金の返還を受けるまでに時間を要するということが滞留規制導入の背景として指摘されております。
18ページでございます。利用者の利便性等の観点から、現状の滞留規制について以下のような課題が指摘されているところでございます。
まず、企業間送金についてでございます。高額送金を定期的に実施するニーズがあるが、現状の滞留規制の下では、利用者は送金のタイミングごとに資金拠出が必要となり、利用者にとって負担となり得るという声が聞かれるところでございます。
次に、国際送金についてでございます。現行の規制では、資金を移動する日を事前に決める必要があります。他方、資金移動業者が入金を受け、利用者が為替レートを見つつ、有利なタイミングで送金したいと、こういったニーズもあると聞いておりますが、現状の滞留規制の下ではこういったサービスが提供できないという声がございます。また、コルレス銀行システムを使う場合も考えられますが、こういった場合は、コルレス先の金融機関の処理状況に応じて着金日が変動し得るため、資金移動を依頼する時点では移動する日を特定することが困難であるという指摘を頂いております。
次に、代金回収に用いられるような逆為替・取立為替型の資金移動サービスの場合でございます。こういったサービスでは、サービスを依頼する時点では、送金人からいつ資金を回収できるかが未定であり、したがって、先ほどの資金を移動する日の特定ができないということで、現行の滞留規制の下ではサービスの提供が困難という声が聞かれます。
最後に、第一種と第二種を併営する事業者が多くいらっしゃいます。こういった事業者に関しては、第二種として受け入れた資金をそのまま第一種の資金として用いることができないという規制がございます。そのため、100万円を超える送金、つまり、第一種移動業サービスを使う場合、仮に利用者が第二種のアカウントにお金があったとしても、これを一度払い出した上で、再度利用者から第一種のアカウントに払い込みをするという必要があり、手続が煩雑となるという声が聞かれます。
19ページでございます。滞留規制の趣旨を十分に踏まえつつ、利用者に不便が生じる事態を回避する観点から、以下3点の見直しが考えられるかと思っております。
1点目、利用者の事務負担軽減の観点から、一定程度の資金滞留期間の延長を容認することが考えられます。他方、徒に期間を延ばせば、銀行等に対する規制との衡平を欠くことになりかねません。翌月払いの商慣習があることにも鑑み、運用上必要な場合に限り、1か月程度の滞留を認めることが考えられるところでございます。この際、現状の滞留規制の趣旨を踏まえることが重要だと思っております。破綻時に利用者の資金の返還に時間を要する点が厳格な滞留規制導入の背景としてあったことを踏まえますと、破綻時により迅速に資金を返すことが可能な新しい資産保全方法を採用する資金移動業者のみに滞留期間の延長を認めることが考えられるところでございます。
2点目は、資金を移動する日が特定できない場合がある中で、滞留期間の範囲内で一定の幅を認めることが考えられるかと思っております。
20ページでございます。3点目、第二種資金移動業者として受け入れた資金を第一種としての資金に振り替えるということを認めることが考えられます。ただし、厳格な滞留規制の趣旨の潜脱を防止する観点は引き続き重要であると考えております。第一種と第二種を併営する資金移動業者については、第二種に係る100万円超の資金が第一種に係る為替取引に用いられることがないよう、実効性確保に向けた取組みを併せて求めていくことが適当と考えられます。
最後に御議論頂きたい点でございます。22ページでございます。それぞれ3点ございます。
まず、資産保全方法の見直しについてです。1つ目、供託による返還手続は残しつつ、信託会社等や銀行等から直接返還する方法についても認めることをどのように考えるか。※書きで、先ほど述べた実務上の留意点を記載しております。2つ目、供託と保証機関による返還を併用した場合において、保証機関が弁済による代位を行うときに、優先弁済権の対象から外すことについてどのように考えるか。3点目、前払式支払手段発行者については、高額でない限り、本人確認義務が課されておらず、発行者が債権者の情報を正確に把握することはできないと考えられます。このため、保証機関や信託会社等が返還手続を行うということは現実的ではないとも考えられるところでございますので、引き続き国が還付手続を実施する現行手続により資金の返還を行うこととしてはどうかという点でございます。
下の四角でございます。第一種資金移動業者の滞留規制について。まず1つ目、新しい資産保全方法を採用する事業者について、1か月程度の滞留を認めることについてどう考えるか。2点目、資金を移動する日が指定できない場合等があることから、資金を移動する期限の指定も認めることについてどう考えるか。3点目、第一種資金移動業者と第二種資金移動業者を併営する事業者について、滞留規制の潜脱を防止する措置がなされているという前提の下で、第二種として受け入れた資金を第一種としての資金に振り替えることを認めることについてどう考えるかという点でございます。
最後に、参考資料として、海外の主要法域での関係する規制について、表を載せさせて頂いております。
以上でございます。
【神作座長代理】
御説明どうもありがとうございました。続きまして、日証金信託銀行株式会社より御説明をお願いいたします。
【日証金信託銀行】
日証金信託銀行の松田と申します。よろしくお願いします。私どもは保全信託を多く取り扱っておりますが、その中で顧客資産の返還に携わった事例について今日は御紹介したいと思います。
資料の3ページをまず御覧ください。仕組みについて詳細は割愛しますが、保全信託では通常、受益者となる顧客を代理する受益者代理人が2名設置され、今日の資料ではこの2名を仮にA、Bと呼んでいます。受益者代理人Bは、平常時において保全状況を確認、管理する、そういった役割を担い、受益者代理人Aは、委託者に何か生じた際に信託財産を受益者に分配する役割が求められます。私ども受託者は、この受益者代理人が円滑に処理を行えるよう連携、協力していくという立場にございます。
この保全信託には様々な種類がございまして、次のページには、私どもの取扱商品を記載しております。こちらも詳細は割愛いたしますが、一番右の欄にございますとおり、現在これらの信託を私どもは204社の方々に御利用頂いていますが、実はこの二十数年間でこれを若干上回る208件の解約を経験しております。もちろん資産返還まで至ったケースはごく僅かでございまして、次のページでは、この208件の解約を理由別に色分けしております。
ほとんどの場合が顧客保護の懸念がない中での解約で、例えば事業譲渡や合併といった場合には、譲渡先や合併先で保全されるので問題ありません。また、自主廃業の場合も、資産が潤沢な中で廃業するため、基本的には顧客への払戻しが完了してから信託を終了させると、こういうことになりますものですから、こちらも特段問題はございません。一番下、登録取消処分、こういった場合には、状況を確認し、資産返還の必要性を判断していくということになりますが、ここに至ったケースは、私どもの経験でも9件、解約全体のうち約4%にとどまっております。
次のページでは、この208件を年度別にしたものですが、御覧のとおり、2008年度から5、6年にかけて多くの解約が発生しました。これはリーマンショックの影響も非常に大きいと考えておりますが、いずれにしましても資産返還に至ったこのグラフの赤いところ、この部分もこの時期に集中しておりまして、本日御紹介させて頂く2つの事例もこの期間に発生したものでございます。
続きまして、信託の解約の流れについて、次のスライドで御説明申し上げます。信託契約には、元本受益権行使事由、こういったものが定められますが、これは関係法令の規定と同じ内容となり、業登録の取消しや破産申立て、こういった重いもののほか、廃業公告などもこれに含まれます。委託者がこの事由に該当した場合、関係者間で協議していくということになりますが、先ほど申し上げましたとおり、合併や事業譲渡、それから、十分な資産を確保した中での自主廃業、こういった場合には顧客資産保護上の懸念がないと判断されるケースが多くなります。この場合は、この図の左側の青い矢印のほうです。この場合、私どもの取扱いでは、信託の契約当事者間で特約書、つまり、受益権行使事由には該当したけれども、受益者代理人の権限をBからAに移譲することなく、引き続き受益者代理人Bの管理の下で信託を終了させていく、こういったことを特約する書面を締結し、処理していくことになります。
一方、問題や懸念があると判断した場合、これが右側になります。受益者代理人A、こちらが受益権を行使して信託を解約し、委託者から顧客データを受領して顧客に通知の上、返還率を算定して、信託の解約代金を顧客に分配していくことになります。
それでは、具体的に2つの事例を今日は御紹介したいと思います。1つ目、こちらX証券と書いておりますが、こちらはFX業者の破産事件で、顧客資産の流用が発覚し、信託不足の中で資産返還を行った、私どもの経験の中でも最も重い事例でございます。このX証券はもともとFX事業についてほかの業者への事業譲渡を公表しておりました。しかし、1か月後にはこれを撤回し、この時点で私どもは受益者代理人の弁護士と連携を始めております。その後、当局の検査によって、このX証券の財産の状況に疑義が生じ、12月1日には業務停止命令を受けました。さらに調査が進む中で、顧客資産の一部を関係会社の事業に流用していたことが分かり、その4日後の12月5日には業登録が取り消されます。
ただ、最初の事業譲渡、これを公表した時点からこのX証券の顧客は徐々に減っておりましたので、最終顧客は500人弱となっておりました。この時点で信託不足が明らかだったため、受益者代理人Aの弁護士は、速やかに受益権を行使の上、委託者から各種データを受領し、債権額を確定した結果、返還率は63.7%という形になりました。受益者代理人はその旨を顧客に通知し、振込口座を確認して送金準備を進めますが、実際の送金開始は、信託を解約してから約1か月後の1月22日となりました。
ここまで多少時間がかかりましたのは、対象顧客の多くがまだFXの取引中だったため、それを取引約款に基づいて建玉を解消していくという必要があったこと、それから、この間にX証券自体の自己破産の申立て、その手続が間に入ってきた、こういったためでございまして、受益者代理人の先生にはこの上なく迅速に御対応頂いたものと私どもも今でも深く感謝しているところでございます。その後、口座相違分の確認なども経まして、送金手続自体は23日間、取消処分その日を起点としましても71日で返金処理が完了したものでございます。
X証券の破産処理はその後約3年半かかりまして、一般破産債権の配当率は僅か5.8%という形になりました。信託の返還分と合わせましても、顧客の回収率は約7割で、結果、3割程度の損失が生じましたが、実は私どもにも、それから、受益者代理人が設置した電話相談窓口にも、顧客からの問合せは何件かあったものの、苦情という苦情はございませんでした。こちらはあくまでも私どもの感想にすぎませんが、逮捕者まで出た顧客資産流用という大変厳しい状況の中で、受益者代理人の弁護士の先生が顧客への連絡や資産返還、こちらを迅速に行ったことで大きな混乱を避けることができたのであろうと、このように解釈しております。
続きまして、もう一つの事例を紹介します。こちらは今の破産事件とは異なり、比較的大きな業者が自主廃業をするに当たって、受託者と受益者代理人だけでなく、委託者とも連携しながら大勢の顧客に返金した、そういったケースを御紹介します。
このY証券もFX業者で、非常に業歴の長い、私どもにとっても優良取引先の一つでございました。ただ、このY証券の親会社に当たりますアメリカの会社がチャプター11を申請したということで、資産の国内保有命令と業務改善命令を受け、その翌日にはY証券は自主的に営業を休止し、顧客の解約対応に専念することになったものでございます。当時の顧客数は2万人を超えていましたが、これらのニュースを受けて顧客からの解約請求が殺到し、このままでは混乱するおそれがあったため、対応について関係者間で協議を行ったものでございます。
本来、顧客から業者が請求を受けますと、業者はまず、自己資金で顧客に支払い、これによって信託に余剰が生まれます。業者である委託者はその翌日、その余剰の範囲で、受益者代理人Bの承諾を得て、受託者に信託金の交付請求を行い、私ども受託者は様々な手続を確認後、その翌日に信託金を委託者に交付するというのが通常の取扱いで、この一連のフローにはどうしても2、3日かかるわけですが、これを当時のY証券の自己資金の範囲で行うと、この2,000人の解約対応に3週間から4週間かかってしまう、そのような計算でございました。
そこで、委託者、受託者、それから、受益者代理人A・B、この4者間で返還スケジュールやデータを共有し、進捗状況を相互に確認することで、月曜日に顧客へ返金した分と同額を翌火曜日に信託から払い出して、Y証券は、その資金をもって火曜日中に次の顧客たちに返金を行うと、こういったフローを毎日繰り返し、その結果、5日間で2,500人への返金を行いました。
その後、Y証券は事業譲渡や合併を目指しましたが、まとまらず、その4か月後の3月5日には廃業公告を行います。この間ずっと営業休止の状況が続いておりましたから、顧客数は徐々に減っておりまして、この公告を行ったときの顧客数は1万人を少し割れる程度となっておりました。この廃業公告は、先ほど申し上げました受益権行使事由に当たりますが、Y証券は引き続き資産が潤沢で、保全状況にも問題がなかったため、ここでもう一度関係者間で協議の上、そこから1か月かけて、先ほどと同じフローを毎日繰り返すこととし、顧客への返金を続けていったものでございます。
廃業日の4月5日、その時点でも顧客が99人残りまして、Y証券はそこから約3か月間かけて、できる限りの方法で返還を試みましたが、最終的には古い顧客、少なくとも5年以上取引がない68人分が処理できず、受益者代理人Aと、それから、Y証券の清算代理人弁護士がその分を供託して手続完了となりました。この事例は、委託者からも全面的な協力を得て、廃業公告日から1か月で約1万人分の返金を行い、その後の供託日まで入れても4か月弱で完了したと、こういった例でございます。
最後に、これら2つの事例を含む複数の資産返還を経験して私どもなりに感じたこと、ポイントを10ページから11ページにまとめております。
まず、私どもが経験した事例では、トリガーとなる決定的な事由が発生する前の段階で、業務改善命令あるいは何らかのニュースを受けて業者の顧客は徐々に減少していく、そういった傾向が見られ、そのため、最終顧客は限定的な数にとどまったケースが多いと、こういった点でございます。
次は、1つ飛ばしまして、返還に係る日数、こちらはケースによってまちまちですが、ここに記載しました①から⑤、こういった状況によって大きく変わるわけです。その都度、関係者間で状況を確認しながら臨機応変に処理を進めていくという必要があるわけですが、それでもおおむね2か月から3か月程度あれば一定の処理は完了できるのではないかと私どもは考えております。ちなみに、本日は2つの事例を御紹介しましたが、ほかの事例では最終顧客が数十名だったものも多く、そのようなケースではさらに短い期間で資産返還が完了しております。
これらを履行保証金信託に当てはめてみますと、次、最後のページでございます。まず、過去のケースでは、いわゆる休眠口座、こういった口座の扱いに苦戦したという感がありますが、資金移動業の事業モデルを考えてみますと、長期間にわたって残高が動かない、そういった休眠口座は生じにくいのではないか、そのように私どもとしては期待しております。
2点目は、円滑な処理のためには、顧客データの整備、これが重要であるということには間違いありませんが、現行の資金移動業者の取扱いを見るに、特段追加で必要となるデータ、情報はないのではないかなと、このように感じております。
最後、供託と信託との一つの違いに、業者のコスト負担、こういった点が挙げられますが、特にここ半年間では金利環境が大きく変化したことに伴い、現在は信託金の運用収益、これがある程度期待できるようになっていますから、業者の負担感というのは私どものお客様の中でも以前よりかなり小さくなっていると、こういったことを実感として感じております。また、現行の供託終了のスキームから仮に資産返還スキームに変更となっても、こちらもあくまでも私ども弊社の場合に限らせて頂きますが、現行の信託報酬水準で提供できるのではないかと、このように考えている次第でございます。
以上、駆け足となりましたが、私からの説明を終わらせて頂きます。
【神作座長代理】
御説明どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御説明を踏まえて、委員の皆様に御討議を頂きたいと思います。
まず、本日御欠席の小川委員から御意見を頂いているということですので、事務局から御紹介頂きます。よろしくお願いいたします。
【久永デジタル・分散型金融企画室長】
小川委員から資料3のとおり御意見を承っておりますので、私から御紹介させて頂きます。
まず、資産保全方法の見直しについて。信託会社等や銀行等から直接返還する方法については、利用者への返還口座及び債権額の特定から返還完了まで、銀行、信託会社等が一連のプロセスを負うことになるとした上で、追加的なコストを十分に分析することが肝要であり、事業者など過度な追加コスト負担とならないよう、十分に検討する必要があるという御意見でございます。また、直接返還を行う銀行、信託会社に、資金移動業者が事前に利用者の返還口座情報などを提供することが必要となる場合、その手段及びコストについても十分情報収集し、検討整理していく必要があるという御意見でございます。こういった点に鑑みると、前払式支払手段発行者の発行保証金の保全方法については、銀行、信託会社等からの直接返還のハードルは高いとのお考えでございます。
2つ目、第一種資金移動業者の滞留規制の見直し。まず、1か月程度の滞留につきましては、仮に破綻した場合のリスクのポジションを低減するために、事業者の信用リスクスコア等により上限累積額を設け、あるいは運用上必要な場合に限りの要件をリスクベースにより厳格化するなど、利用者の利便性と保全リスク管理の両者を鑑み、法制度に織り込むことが必要という御意見でございます。
資金を移動する期限につきましては、利用者保全は前述の滞留可能期間に関する制度に織り込むとした上で、利用者、送金業者の利便性、柔軟性を鑑み、賛同という御意見でございます。
第二種資金移動業に関わる資金の第一種資金移動業に関わる資金への振替につきましては、実質的に第一種資金移動業に関わる資金を滞留禁止する現行法の逸脱となり得る。この点、事務局の資料の20ページに、100万円を超過しているため、滞留資金を第二種資金移動業に関わる為替取引に用いられるものであるかどうか確認する必要との記載について、どのような確認手段を求め、当該確認の証跡を残すことが必要か、実務上のコスト、フィージビリティーの検証とともに制度の明確化が必要という御意見でございます。
以上でございます。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。それでは、委員の皆様方から御意見、御質問を頂戴したいと思います。御発言を希望される際は、対面で御出席されている方におかれましては、机上の名札を縦にして頂き、オンラインで御参加されている方におかれましては、オンライン会議システムのチャット上にて全員宛てに発言がある旨の御入力を頂きましたらば、それを確認させて頂き、御指名をさせて頂きます。
なお、限られた時間の中で可能な限り多くの皆様から御発言を頂きたいと考えております。お一人当たり、恐縮でございますけれども、4分程度で御発言を頂ければ幸いでございます。
それでは、どなたからでも結構でございますので、御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。それでは、坂委員、お願いいたします。
【坂委員】
ありがとうございました。私のほうからは、質問1点と、資産保全規制の見直し、第一種資金移動業の資産保全、滞留期間の見直しに伴って留意すべき点等について発言をしたいと思います。
まず、御質問なんですけれども、紹介頂いた事例の中で、片方の事例は全額保全がされず、片方のほうは全額保全がされたとお伺いしましたが、前者の事態を防ぐためにどんなことが考えられるか、もしお考えあったら教えてください。
次に、各項目についてですが、まず、資産保全規制の見直しについては、利用者保護により資する選択肢を増やすという観点、それから、資産保全のイノベーションを促すという観点から、信託会社や銀行から直接返還する方法を認めるということについては賛成したいと思います。もっとも、あくまでも利用者の権利の確保が大前提でありますので、かかる観点から、保証機関の代位弁済に際してこれを優先弁済権の対象から外すということは不可欠と考えます。
次に、第一種資金移動業の資産保全についてですが、滞留可能期間の見直しを図る場合、第一種資金移動の利用がより拡大し、企業間取引の決済や個人の高額送金において重要な役割を果たすことになるものと考えられます。第一種資金移動業が社会経済のインフラとして重要な一角を占めるということから、その安全性への要請というのはより高まると考えます。かかる観点から、滞留期間の見直しに伴い、保全措置の一層の高度化を図るべきです。この点に関して3点申し上げます。
1点目ですけれども、現行の制度では、保全必要額の算定と実際の保全措置の間に2営業日以内のタイムラグがあります。未達債務が急拡大する場合には、保全金額に不足が生じ得ます。そのような中で多数かつ高額の送金を担う資金移動業者が破綻するときには、経済社会に重大な影響を及ぼすことになります。この点、資金移動業者の口座への労働者賃金の支払い制度では、かかるタイムラグをカバーし、未達債務の全額を保証するスキームとなっていると承知しております。保証契約や信託契約においても、契約やスキームの内容によってタイムラグをカバーし不足を生じさせない利用者資金の保全が、相応のハードルはあると思われますが、可能と考えられます。そこで、1か月程度の滞留期間については、こういった保証契約または信託契約によってタイムラグによる不足をカバーし、全額の保全を実現できる資金移動業者にのみこれを認める枠組みを検討すべきと思います。また、かかる仕組みの実効を確保する観点から、一定の基準による上限額の設定を検討すべきと考えます。
次に2点目ですけれども、高額送金サービスは、海外送金において需要が高く、中小企業における海外取引や関係企業間の送金に利用されることが考えられます。海外送金における資産保全は今後一層重要になると考えられます。この点、現行法では、これは必ずしも第一種に限られませんが、国内から海外への送金については、国外の受取人が現実に資金を受け取るまでの額が保全されるということになっております。他方、国外からの送金については、国外にある利用者に対して負担する債務について、区分管理されている場合には未達債務額に計上しないということが認められております。当該国の規制により利用者保護が図られ得るという前提によるものと考えられますが、海外の法制において我が国と同じレベルの利用者保護が図られているとは限りませんので、現行のあり方が利用者保護に十分かはこの際検討すべきと考えます。
3点目ですけれども、新たな資産保全では、問題事案において保証契約等が解除されるおそれが懸念されます。保全措置が失われるということになりますので、かかる事態を防ぐ対応も必要と考えます。
次に、滞留期間の見直しに伴い留意すべき点について3点申し上げます。
1点目ですが、利益相反関係についてです。滞留期間を1か月間認めることによって、資産保全措置との関係における資金管理や、海外送金における為替管理、あるいは現地の受取人への払出資金の資金繰り等、第一種資金移動業の資産管理はより複雑化し、利用者との利益相反管理においても課題が生じるものと考えられます。制度の具体化と監督においては、こうした利益相反管理についても十分な留意をお願いしたいと考えます。
2点目ですが、マネーロンダリング対策です。マネロン対策の重要性は論を待ちませんが、第一種資金移動業者についても、為替取引分析業における取引フィルタリング及び取引モニタリングによってより実効的な取組みを行うべきと考えます。
3点目ですが、情報提供です。資金移動業による送金サービスは、相応の対応を図ったとしても、銀行送金に比べてリスクが相対的に高いという面は否めません。特に高額送金サービスを提供するには、かかるリスクについて適切に情報提供されることが重要と考えます。
最後に一言だけですけれども、上記のような対応には相応のコストを要すると思いますが、社会経済のインフラとして必要なコストであると考えます。多様なサービスを生み出すイノベーションとともに、利用者保護のためのイノベーションが必要です。サービス提供事業者に求められるべき水準を規制枠組みとして示し、かかるイノベーションを促す制度整備を図るべきと考えます。
以上です。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。1点御質問があったかと思います。日証金信託銀行の方、もし御意見等ございましたら御発言頂けますでしょうか。
【日証金信託銀行】
承知しました。委託者である業者の不正を防ぐにはという非常に難しい課題かと思います。例えば、業者がデータを改ざんして、当局や会計士に対する報告資料も改ざんした場合、その不正をあらかじめ防ぐことは難しいと思います。委託者は登録業者であるため、登録業者としていかに行為規制を守っていくか、また、自主規制ルールをどのように整備していくかという、そこに尽きるものだと思います。
私どもも受託者としまして、日々の取引の中で何か疑わしい点があればその是正を促すといった努力はもちろん続けてまいりますが、一方で、私どもの資料で見ていただきましたとおり、2015年を最後に以降は信託不足や資産返還の事例は発生していません。これは金融庁様が御中心となって様々な業界の規制やルールを整備してきた成果であろうと感じています。あまり回答になっておらず申し訳ございません。
【坂委員】
ありがとうございました。
【神作座長代理】
よろしいでしょうか。
【坂委員】
はい。
【神作座長代理】
ありがとうございました。それでは続きまして、井上委員、お願いいたします。
【井上委員】
ありがとうございます。御説明ありがとうございました。
まず、資産保全方法について申し上げます。1つ目、信託による方法ですけれども、具体的には、先ほど御説明頂いたような、FX業者の顧客区分管理信託と同じようなスキームが想定されると思います。受益者代理人Aに弁護士等が就任するパターンで、これは何も起きなければそれほど重い仕事ではないでしょうが、いざ業者が破綻すると、本日の例でも大きい規模の例と小さい規模の例がありましたが、場合によっては数千、数万の利用者の最新の本人情報をアップデートして、口座情報を把握して、送金手数料を負担してお金を送ることが必要になると思います。
そういった場合、主として受益者代理人が動くことになり、先ほど御紹介頂いた例では弁護士さんが非常に頑張ったということでしたけれども、常にそれに期待するわけにもいかないとすると、いざというときには相応に報酬をお支払いするなどして、先ほどの話だと信託報酬はそれほど増えないという設計だとしても、受益者代理人報酬は相応に、既存の信託枠組みと比べると高くなる感じがします。そこで、受益者代理人報酬について、実務上は特別報酬のようなものがあるのかお尋ねしたいというのが1点目です。
あと、そういった受益者代理人に対する報酬とか送金手数料とかいった費用を業者が破綻してから払ってもらうのは無理なので、事前に信託に入金してもらうことになるのでしょうか。信託財産の運用益から費用が十分に賄えればいいんですが、そこが必ずしも十分でないときにはやはりコストに跳ねるんじゃないかということも気になっておりまして、その辺り、信託報酬以外のコストの点を御説明頂ければと思いました。
その上で、信託による保全について、御質問にお答え頂く前に3点コメントしたいのですけれども、仮に既存の保全方法と比べて一定程度やはりコストが大きくなるとすると、それを負担するのは平時における資金移動業者になりますので、法定の保全方法としてもっとコストの低い既存の方法が認められているときに、果たして新たな方法が使われるようになるだろうかというのが気になるところです。
また、受益者代理人Aがいざというときのために、どういった対応のための体制を整えているかにもよりますけれども、被害額が大きくかつ利用者の数が多い場合になると、実際には、弁護士が頑張っても、数千、数万の送金を、それも破綻した業者から管財人等を通じて最新の本人情報・口座情報を取得して送金することになると、今回御紹介頂いた例でも、重い例だと2、3か月ということでしたが、さらに時間がかかる可能性も無視することはできない感じがします。そうすると、新しい方法においても、既存の供託だと170日でしたっけ、それよりは短くなるだろうとは思いつつも、相当程度時間がかかる可能性があるということが気になります。これが2点目のコメントです。
3つ目は、坂委員もおっしゃったことですけれど、多額の滞留が認められるようになりますと、2営業日というタイムラグがそれなりに意味を持ってくる可能性があって、金銭を業者が預かったら、自動的にスイープ口座のような形で信託に移すとか、何らかの工夫を試みないと、2営業日の間にも相応の金額が動く可能性があって、実保全額と要保全額の間のギャップが大きくなることが心配です。これが信託に関する3つ目のコメントです。
ほかに、債務引受けによる方法についても御説明がありました。それについては、私は受益の意思表示は比較的緩く認めていいのではないかという意見を持っているので、どちらかというとそちらよりも、引受人に対して引受対価をいつどのように払うのかを考える必要があるように思いました。これも破綻してから破綻した業者から引受対価を満額受け取ることはできませんので、債務引受の対価は、業者が破綻したときの要保全相当額だと思いますけれども、それを事前にどういうふうに見積もって、引受対価を受け取る債務引受行為がビジネスとして成り立つのか、いま一つイメージが湧いておりませんで、その辺りを考える必要があると思います。
あと、保証による方法ですが、保証契約をどう締結するかに関しては、資金移動業者に保証機関が代理権を与えるなどして利用者との間の保証契約を締結することも不可能ではないと思っておりますが、しかし、やはりこのスキームにおいても、銀行が業者の破綻時の滞留額全額を保証して、それで管財人等から利用者情報や口座情報を受け取って多数の利用者に送金することになると、現在の保証スキームに比べて、やはりコストが高くなるのではないかと懸念しております。銀行保証であれば送金も比較的スムーズにいくのかなと思いつつも、保証料等のコストが大きくなった場合に、ここでも、既存のスキームとの関係で選択されるのかという問題があると思いました。このスキームにおいて、保証履行によって代位するに際して優先権を外すことについては、合理的であって賛成いたします。
もう1点、前払式支払手段については、保証機関や信託会社等からの直接的な返還はあまり現実的でないというのは御説明のとおりで、賛成いたします。
最後に、第一種資金移動業の滞留規制の見直しについてですが、これについては、新たな資産保全方法の下で滞留額がしっかり保全されて、かつ相応に迅速に返還されることを条件として、1か月程度の滞留を認めることで新たなビジネスの広がりが生まれるのであれば、それはいいことだと考えます。ただ、既に申し上げましたコストの問題で果たして採用されるのかという心配があるのと、それから、返還期間も、先ほど申し上げたように、場合によっては数か月かかるということになると、1か月の滞留を認めることについて十分に迅速と言えるのかという問題があろうかと思います。ただ、確かにこういう形で規制を見直せば、既存の方法ではなく、新しい方法を採用する機会というか、インセンティブになりますので、その点ではよい工夫だと思いました。
以上です。
【神作座長代理】
ありがとうございました。御質問あったかと思いますが、日証金信託銀行の方、主としてコスト面の御質問であったかと思います。お願いいたします。
【日証金信託銀行】
承知いたしました。1点目は、受益者代理人の報酬に関するご質問かと思います。受益者代理人は、委託者から委任される関係であるため、様々なパターンがあるとは思いますが、一般的には平時月幾ら、有事が発生したときには、破産管財人の報酬に近い形で、債権者の人数に定額を乗じ、それに一定額を加えるといった報酬の決め方をされるケースが多いように思います。
この有事の際の報酬を確実に回収できるかという趣旨のご質問であろうと思いますが、履行保証金に関しましては、資金決済法の定めにより、信託や供託で保全すべき要履行保証額は、未達債務の額に還付に係る必要額を上乗せして計算することになっています。具体的には未達債務1億円以内の部分について5%、1億円を超える部分は1%を上乗せした額を保全するというルールです。つまり、仮に未達債務が10億円の場合は1,400万円、100億円の場合は1億400万円が有事のコストとして上乗せして保全されていることになり、これが受益者代理人の報酬に充てられるものと考えられます。供託の還付手続費用と信託の受益者代理人費用のどちらが高額かはわかりませんが、少なくとも法に従って保全されている限りは、そこから受益者代理人の報酬が賄えるものと思います。
一方、保全不足の状況で委託者が破綻した場合、これは様々なケースがあると思いますが、あくまでもご参考として先ほどのX証券のケースをご紹介しますと、この事例では、信託財産の額が顧客に返還すべき金額に不足していたため、信託財産を受益者代理人報酬や信託報酬に充てるわけにはいきませんでしたが、受益者代理人報酬、これは実費以外のいわゆる役務の対価部分を含みますが、この報酬に関しましてはⅩ証券の破産手続の中で、破産債権に先立つ財団債権と認められ、優先的に弁済を受けることができました。ちなみに私どもの信託報酬は一般破産債権の扱いとなるため、このようなケースでの回収は難しいのですが、少なくとも受益者代理人の実費や報酬は破産処理の手続きの過程で回収できるのではないかと思います。
【井上委員】
ありがとうございました。
【神作座長代理】
よろしいでしょうか。御意見ありがとうございます。
それでは続きまして、伊藤委員、お願いいたします。
【伊藤委員】
ありがとうございます。弁護士の伊藤でございます。同じく御質問ばかりで恐縮ですが、信託の制度について2点ほど御質問させて頂きまして、その後、各論点について簡単にコメントをさせて頂きたいと思います。
御質問ですが、1点目は、返還が必要となった事例について、1人当たりの返還すべきだった債権額はどれぐらいだったか、差し支えない範囲でお答えいただけるようでしたらお願いしたいです。
2点目は、かなり高額を預けていたとなると利用者側も情報提供に対して積極的になるのかなと思いますが、速やかに返還手続が済んでいる事例というのは、銀行口座情報などの情報収集にどのような工夫をして速やかに利用者から情報収集することができたのかという、この2点を教えて頂きたいと思います。
続きまして、各論点について順にコメント申し上げたいと思います。
まず、資産の保全規制の見直しについて、これが事業者から選択される制度になって、利用者の利益が損なわれることなく返還手続が進むのであればよろしいかと思っています。ところが、今回資料を拝見し、それから、御説明をお伺いしまして、一般消費者から見たときに、新たな制度がとても複雑な仕組みで、今の利用規約に加えて保証契約など利用者に対する説明がかなり必要になる制度なのではないかと思いました。
そこで、現在ある資金移動業サービスの中には、この制度になじむものとなじまないものがあるような気がいたします。例えば、第一種資金移動業サービスを事業資金の決済で利用するような場合や、一般消費者でも比較的高額な金額を決済で利用している場合には、破綻時の早期返還は喫緊の課題ですので、そういった利用者向けのサービスでは多少複雑な仕組みがあったとしても迅速さを優先するというニーズがあるかと思っています。
他方で、前払式支払手段に近い、日常の決済に使われているような資金移動サービスでは、必ずしも銀行口座情報の登録を必須としていないようなものもありますので、そういったものについては、利用者から申告期間を長く取って、確実に返還するといった今の仕組みが合っているのかもしれないと思います。
ここで、なじむサービス、なじまないサービスがあるという話をさせて頂きましたのは、この制度の選択をするのは資金移動業者でありまして、利用者が現状は、資産保全の方法を見てサービスを選択するというところまで来ていないと思っているからです。よって、資金移動業者側が利用者のニーズとか保護につながるような選択ができるように、対象範囲や内容、特に説明の義務などについて丁寧な制度設計を御検討頂ければと思っております。
資産保全規制の見直しの2点目と3点目につきましては、ここは御指摘のとおりですので、賛成でございます。
それから、第一種資金移動業の滞留規制の見直しという点でございますけれども、私は1点目から3点目までいずれも基本的には賛成でございます。特に第一種資金移動業の滞留規制につきましては、現行の制度が導入された当初、相当厳しいものという認識がございまして、送金の依頼が確実になっていないと受けられないというのは事実上難しいというような声をよく聞いていたものですから、現実のニーズに合わせた限定的な緩和ということで賛成でございます。
ただ、一つ申し上げるとしましたら、22ページ目1つ目にあります、新たな資産保全方法を採用するということが要件になっている点について、必ずしも、新たな資産保全方法と滞留規制の緩和が1対1の対応関係なのかなというのが理解し切れていないところでございます。先ほど坂委員、井上委員もおっしゃっておりましたけれども、滞留規制の厳格化の趣旨は、破綻したときの迅速な処理だけではないので、滞留のリスクを除く要素として何があるのか。保全額であったり、保全のスパンであったり、安全性といったところをみて頂いて、全部フルセットでないと滞留規制の緩和はできませんよというのではなくて、多角的に見て、こういった要素があれば滞留規制を緩和しても良いのではないかという点についてきめ細やかな制度が出来ればいいなと思います。
以上です。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。それでは、御質問ございましたので、日証金信託銀行から御回答をお願いします。
【日証金信託銀行】
承知いたしました。2点御質問を頂戴したかと思います。まず、取引レンジについては、明確にはお答えしかねますが、金商業者や暗号資産交換業者などが委託者となる信託の場合は、委託者である業者のビジネスが富裕層向けなのか、小口のビジネスなのかによっても変わってくるとは思います。ただ、全体的に言えるのは、多額を預けているお客様は、より敏感に、業務改善命令や何かのニュースを受けて自ら御解約される方が多く、結果として最終顧客の債権額は数万円から数十万円ぐらいのレンジが多かったように記憶しております。
2点目は情報収集の件ですが、これも金商業者の例で言いますと、金商業者は普段から顧客と頻繁に入出金を繰り返していますので、相手方の銀行口座の情報は常にアップデートされているのだと思います。そのため、受益者代理人が入手できる顧客データは、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、銀行口座情報などが大体セットになっていますので、この点であまり苦労した記憶はございません。
以上でございます。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。それでは、御発言の希望をたくさん寄せて頂いております。ありがとうございます。まず、会場で御参加の長内委員、その後、オンラインで御参加の河野委員、岩下委員、また、その後また会場に戻りまして、堀委員、永沢委員の順番で御発言を頂ければと思います。それでは初めに、長内委員からお願いいたします。
【長内委員】
大和総研の長内でございます。まず、資産保全規制の見直しの3点について個人的な見解を述べます。
こちらの1番目は、今まで実際に破綻はしていなかったけれども、事前に手当てをするものであり、利用者保護の観点から返還方法を拡充するという点は個人的に賛同します。
ただ、やはり少し気になる点もあります。まず、伊藤委員がおっしゃったことと同様なのですが、これを認めるということになった場合、事業者側が選択する形になります。また、資金移動業者のいわゆる利用者保護規制の観点で問題になるのは、銀行や証券会社、保険会社と比べて大小様々な事業者が存在するという点です。預金であれば預金保険機構、つまり預金保険制度で手当てする形ですが、資金移動業者は、そういった制度はまだ難しく、少しずつ手当てしていくという形になると思います。しかし、事業者側が選択するのを認める形だと、大小の事業者によって対応に結構差が出てくる可能性があります。例えば、比較的経営規模が大きい企業であれば、コスト負担が増えても、消費者にとって利便性があるということを打ち出せるので、この新しい返還方法を選択して、それを利用者にアピールすることもできるかと思います。そうした大小の事業者の状況を踏まえると、コスト面、特に過剰なコストが発生しないかという点を十分確認した上で、利用者保護をしっかり確保することが大切です。
その点に関して、少し質問があります。まず、すでに出た内容かもしれませんが、保険や保証料みたいなものは、規模が小さい事業者の方が相対的にコスト負担が大きいという話がよくあります。保全信託においても、そういった問題が出てくる可能性はあり得るのかというのを確認したいと思います。あと、利用者への支払期間についてです。井上委員から言及がありましたけれども、保全信託でも2か月から3か月ぐらいかかるということであり、比較的期間がかかる形になっています。現状の170日以上、今回説明して頂いた2か月から3か月ぐらい、さらに事務局の資料にあったようにデジタル給料払いでは6営業日以内で返還が行われます。そういうことになると、例えば、大手でデジタル給料払いを対応するようなところは6営業日以内で完了する一方、保全信託を使うと2か月から3か月かかるというように差が出てくることになります。具体的に2点質問したいのは、事業者の規模によるコスト負担感というのは実際に差が出てくるのかという点と、デジタル給与払いのケースの6営業日と比べてやはり時間がかかるというのは何らかの理由が考えられるかという点です。
2番目の優先弁済権の対象から外すということに関しては、こちらも基本的に賛同したいと考えています。ただ、こちらに関しては、金融庁に質問という形になるかと思うのですが、これはやはり現状で対策がないので見直しをするという理解でいいのか確認したいと思います。例えば、権利を行使するというのを、契約上で事前に行使しないような形にすることはできないのかということです。おそらく、資金移動業者が破綻したときに利用者の不利になるようなことを保証会社が行使するというのは、なかなか倫理上難しく、実際には行使しないことも考えられます。ただ、それでも、保証会社に行使する権利があるので、実際に行使する可能性があるというのを防ぐという、事前的な対応策として見直しを行う必要があるという理解でよいのかを確認したい、つまり、その他の対策はないのかということです。
3番目は、こちらに関しては細かな論点になりますが、私も全く賛同で、現状を踏まえると、新たな返還方法というのは考えにくく、現状維持でよいと考えております。
第一種資金移動業の滞留規制の見直しに関しては、まず大きなポイントとして、前回複数の委員からご指摘頂いたように、実際のニーズと課題を踏まえた見直しになっているという点が重要なポイントになります。今回、規制緩和による利便性向上と潜在的なリスクのバランスを考慮するということを前提に、実際のニーズと課題に対応していく形になっており、個人的には賛同したいというのが全体感です。
ただ、滞留規制の見直しの1番目と2番目の項目について、少し個人的に確認したいところがあります。まず、こちらの国際送金のいわゆる滞留規制について、重要なポイントが個人的に2つあると考えています。1つは、既に他の委員の方からありましたように、送金上限が大きい中で、いわゆる保全の2営業日ラグというのは、破綻時に問題が起こり得るということです。こちらについては、皆さん多分同意されていると思います。
もう1つ、個人的に気になっているのが、事務局資料の「国際送金について」で示された問題意識が2つあったと思うんですけれども、両者の性質がかなり異なっているのではないかということです。1つ目は、いわゆる有利なタイミングで送金できるようなサービスを提供できないということ、2つ目は、資金を移動する日を特定するのが困難ということであり、後者の方は全く私も同意するところです。しかし、前者の有利なタイミングで送金をするというのは、少し慎重な確認が必要ではないのかというのが個人的な意見になります。
有利なタイミングで送金を行うということになると、特定の為替レートで、いわゆる指し値みたいな形で、特定の為替レートになったら実際に資金を移動するみたいなことが想定されます。そうした場合、期限までに有利な為替レートが来なかったとき、本当に資金を移動するのか、それとも有利な価格、条件にならなかったので、何らかの理由を付けて資金を移動しないという、繰り延ばしみたいなことが起こり得るんじゃないかというのが、いわゆる金融分野の立場から考えられる懸念です。
そのため、こちらの期限に関しては、実際に有利な為替レートが来なくても、期限末が来た段階でしっかり資金移動を行わなければいけないとか、そういった条件が必要のように思うところです。資金を移動する日、あとは資金を移動する期限に関して、それぞれしっかり実施されているかという点を、どのように担保するかというのが、この1番目と2番目に関する指摘になります。
3番目は、他の委員の方と同じように、基本的にしっかり滞留の理念を踏まえた上で移動すること自体は、私も賛成ということになります。
以上です。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。御質問を頂きました。まず、日証金信託銀行からお答え頂き、その後、事務局に対しても御質問があったかと思いますので、お願いいたします。
【日証金信託銀行】
ありがとうございます。ご質問2点のうち1点目は信託報酬の水準についてであろうと思います。もちろん信託報酬の水準や設定の体系は、受託銀行によってまちまちですので一概に申し上げられませんが、一般的にはお預かりしている信託元本の平均残高に信託報酬率を掛ける形であるため、元本額が大きい委託者には多くの信託報酬を御負担頂くことになろうかと思います。一方、その信託金から生じる運用収益も信託元本額が大きいと相応に期待できますので、コスト負担感という意味では同じ程度かもしれません。ただし、私ども受託銀行も、お預かりする信託元本の額にかかわらず発生する固定費がありますので、レポーティングや運用のために、一定のミニマムコストを御負担頂く必要があるということを考えると、未達債務や事業規模がかなり小さい業者の場合、負担感は少し大きくなるのかもしれません。
2点目は、破綻から6営業日以内の資産返還ということに関しましては、何をトリガーとするかにもよりますが、破産申立てや取消処分がなされて6営業日以内となると、まず、事実関係の確認を行い、債権額を確定して、慎重に返還処理を行うためには、やはり6日という時限は相当厳しいと感じております。もちろん給与に相当する部分を早く返還したいというのはよく分かりますが、私ども受託者は受益者に対する公平義務も負っていますので、特定の受益者だけに優先して弁済することは難しいと思います。受託者の負っている善管注意義務に照らして、どの程度慎重に行うとどの程度の期間で完了できるかといったことを検討していく必要があろうかと思います。
以上でございます。
【長内委員】
ありがとうございます。
【神作座長代理】
それでは、事務局から、優先弁済債権についての御確認の御質問があったかと思います。お願いします。
【久永デジタル・分散型金融企画室長】
保証機関が優先弁済権を行使して供託の手続に参加しないことをほかの方法で確保できるかどうかという御質問だと理解いたしました。可能性としては、そもそも優先弁済権を取得しないように契約上でできるのかということが1つ目の可能性で、2つ目は、優先弁済権を取得したとしても供託の手続に参加しないことを契約上確保できるのかということかと思います。
前者につきましては、代位取得の規定が民法上の規定としてある以上、法律としてはそこは自動的に優先弁済権を取得するということになっているところを2者間の契約で否定するというのが効果があるのかというのは、これは法学者の解釈もあるかもしれないんですけれども、なかなか難しいところなのかなという気はしております。
後者につきましても、保証契約は、債務引受型、個別保証型それぞれありますけれども、いずれも保証機関が資金移動業者、もしくは保証機関が資金移動業者の利用者と結ぶものでございまして、供託の手続に関係する者との間の契約ではないと理解をしております。そういった契約が、供託手続に対して参加しないということを何らかバインディングな形で担保できるのかというのも、なかなか難しいところなのかなという気はしております。したがいまして、ここは法令で規定するというのが自然なアプローチなのかなと考えているところでございます。
【長内委員】
ありがとうございます。
【神作座長代理】
よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。
それでは続きまして、オンラインで御参加の河野委員、御発言ください。
【河野委員】
日本消費者協会の河野でございます。御説明、御報告ありがとうございました。今回の資金移動業に関する2つの論点について、制度変更の目的や具体的な対策につきましては、賃金の支払手段の多様化や円滑なビジネス環境の整備などと平仄を合わせるという意味では必要な内容だと理解しております。その上で、事務局資料で御説明頂いた留意点に関しまして、他の委員の御発言と重複する内容もございますけれども、簡単にコメントいたします。
まず、資産保全規制の見直しにおいては、新しい返還方法が採用されると、参入する保証機関や信託会社側には業務負荷や手数料等が発生することになると思いますが、追加で発生するコストはどういう形で吸収されていくのか、利用者サービスに影響が生じないように留意して頂きたいと思います。また、選択肢が増えることで、仕組みが複雑化し、結果として返済期間の短縮につながらないということのないように制度構築を行ってほしいと思っています。
次に、新しい返還方法を円滑に進めるために、返還に必要な情報の提供や、情報活用の承諾、保証契約の締結など、利用者側に追加の手続が求められる可能性がある件につきましては、もしものときの保証を確実にするために必要な手続であるという理由は理解されると思いますが、実際どのような方法で許諾や個人情報の提供を行うのか、追加で生じる作業内容によっては、新しい返還方法の利用へのモチベーションが低下する可能性もあると思います。今後かなり高額の事業破綻が起こった場合を想定して、転ばぬ先の杖としてこのスキームを導入するのであれば、そもそも利便性を評価して資金移動システムを利用しているのに、個人情報等の提供や情報活用の許諾は面倒だと思われないような工夫と周知、広報が必要ではないかと思いました。
2点目の滞留規制緩和につきましては、ビジネス環境の不具合への対応という点では賛同いたします。ただし、法律に照らした条件付の運用が原則とされているため、今回の緩和措置が常態化し、そのまま放置されるような状況にならないように監視する体制の整備が必要かというふうに受け止めました。
私からは以上です。ありがとうございました。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。続きまして、オンラインで御参加の岩下委員、御発言お願いいたします。
【岩下委員】
ありがとうございます。京都大学の岩下でございます。まず最初に、本日は冒頭から極めて音声がクリアで、事務局や出席された座長、委員の方々のお声がしっかり聞こえております。関係者の皆様の努力に感謝いたします。
本日の議論を考えるに当たって、資金決済法で資金移動業者の規制が新たに設けられたことの歴史的な意義を考えてみたいと思います。この10年間ぐらい、いわゆるフィンテックがはやってから10年ぐらいと言われていますけれども、我々が実際に直面する様々な決済の利便性は大きく向上したと思うんですね。その意味ではこれまでの法改正というのは極めて適切な方向で行われてきたということで大変よかったと思います。ただ、かつてはいわゆる前払式証票の規制ということで、1989年頃からの規制というものは、昔の紙のカードがせいぜい磁気ストライプカードに替わったぐらいものを対象としていました。そういうものに対する規制として供託が選択されてきたわけですね。2010年代以降、我々はスマホを手にして、様々なデジタルの技術を活用できるようになったわけですので、そういった新しい技術を前提とした規制に当然変わっていくべきだと私は思います。
その意味では、現在の保全の方法が供託になっているのはやはり時代遅れな感じがあって、保証機関による直接返還というのはこれは当然の時代の流れであろうと思います。先ほどの日証金信託の方の御説明からも明らかなとおり、現在の資金移動業者は、特に新たな情報を取らなくても既にもうeKYCとかマネロン対策とかということは十分におやりになっていらっしゃると私は思っています。そうであるならば、今回のルールを設けたとしても、保全の方法が変わるだけであって、それによって新たな義務を事業者に課すとか、手間が増えるとか、そういうことには基本的にならないと思っています。
そうであるならば、今は逆にイノベーションを阻害する規制になっている部分がありますので、人々のイノベーションを促進して利便性を高めてもらう方向に制度を改正していくというのは極めて望ましいことです。このプロセスの中で、例えば前払式支払手段というのは相変わらず古いルールが残っている部分があって、これは将来的には資金移動業に統一されていくべきものだと私は考えておりますが、いずれにしてもそこの部分について、古い保全の仕組みを維持せざるを得ない部分があります。これは3番目の論点ですが、ここの部分については仕方がないものと思っています。ただ、長い目で見れば、やはりそういう部分の効率化も含めて十分に事業者も提供しやすく、仮に破綻時には利用者も救済されるスピードが速いというものに変えていくべきです。そうした新しい仕組みが十分に機能するのであれば、それを積極的に使っていくというのは当然のことだろうと考えています。
次に、滞留規制の見直しについてです。この議論については、古くは1998年のペイパルの発足以来、ペイパルは銀行じゃないのかという議論がありました。資金決済の分野での新しいフィンテックの企業の参入が様々な形で既存の規制と衝突するということの、言ってみれば、最終的な妥協というか調整の産物として現在のルールが出来ているんだと考えています。
もちろん銀行業の規制の潜脱という議論というのは深刻に考える必要があります。もし仮に第一種資金移動業が極めて大きくなって、かつ多くの人々がこれを使うようになって、まるで銀行のような振る舞いをしてしまうということになったとしましょう。銀行は様々な自己資本規制や、あるいは当局からの検査、考査という規制を受けているにもかかわらず、そうでない資金移動業者が存在してしまうという事態が起こるので、その部分についてはまずいわけです。けれども、基本的に資金移動業者の業務範囲は比較的限定されています。そうした業務は、もともとは銀行が提供するような資金決済のサービスであったはずなんですけれども、銀行自身が十分なイノベーションがかつてできなかったという問題があり、それがこういう新規参入の事業者によって供給されるようになったのだとすれば、それを活性化していくというのは決して悪いことではないと考えます。
その結果として、当然、資金決済があるならば、滞留があるじゃないかというのは昔からありまして、2019年の審議でも議論されましたが、きちんとした利用者保護の仕組みがつくられているかというのが大事なことだと思います。本日御説明にあったX証券の破綻事例のような業者の不正が起こるということであれば、これはもう制度の想定する安全性が担保できないので、業者のコンプライアンス対応に関する十分な監督、もちろんこれはリスクベースでということですが、十分な監督が必要だと思いますし、当然、マネーロンダリングに関する監督も必要だと思います。
さらに言うと、本日先ほど坂委員が御指摘になった、営業日ベースで保全をしているために2営業日のラグがあるというのは、これはヘルシュタット・リスクの決済リスクなんていうことを議論してきた銀行業界の立場からすると、ちょっと考えられないようなリスク管理上の問題だと思いますので、これについては迅速にリアルタイムで保全して頂くというのは、私は当然のことだと思います。この保全によって銀行の受けているような規制を受けずに、資金移動業者が大きな金額の決済を扱うことができるということであるならば、そういうきちんとした対応をとるということを前提にそれを認めていくということが私は妥当だと思います。
少なくとも現在の資金移動業者の候補に挙がっているのは、伝統的金融とかなり親和性がある新規参入者であると思います。こういう人たちが起こすイノベーションを積極的に認めていかないと、従来型の伝統的金融とは大きく違う、例えば分散型金融のような人たちが、私たちも資金決済が得意ですよと言って参入してくるということを排除できないのではないかということを大変危惧しています。その意味では、この分野をしっかりと監督付、条件付で、規制緩和を進めていくということに私は賛成でございます。
私からの意見は以上であります。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。続きまして、会場に戻りまして、堀委員、永沢委員の順番で御発言をお願いいたします。まず、堀委員からお願いいたします。
【堀委員】
御説明ありがとうございます。私からは、資産保全規制の見直しと滞留規制の見直しのそれぞれについて御意見を申し上げたいと思います。
今回22ページに記載頂いた資産保全規制の見直し、この3つの論点に関してはいずれも賛成でございます。実務的には併用している事業者も多く、信託のみならず保証機関の方法も併用できるとして頂くことについては大変ありがたいなと思っております。ただ、今の信託実務は、多くのケースにおいて信託財産を別に取り分けて信託口座に移動し、そこで信託しているということが必要で、資金移動業者の決済口座そのものを信託するという実務までは至っていないというのが現状かと思います。限定的にできる信託さんもいらっしゃるかなと思いますけれども、限定的だと思います。
実務上も信託に寝かせているお金を安全に信託するのだというこれまでの考え方から、移動途上のお金を機動的に信託していくのだという考え方にアップデートをして頂く必要性があると思っており、そういうような実務が広く行われていくように期待しております。第一種に向けて使われるということであれば、タイムラグもそうですけれども、別に積むというのではなくて、債務額と信託額がより一致していくような使われ方ができることが望ましいと考えます。
1つ目の論点の※印の留意点のところですけれども、信託の方法と比べて、保証機関が直接返還する場合に、14ページに書いて頂いているような法的な整理は考えられますが、利用者とのインターフェースを持つのは資金移動業者であるため、いずれも資金移動業者を通じた契約締結や承諾取得を認めていくべきというふうに考えます。資金移動業者が行う手続のほかに、平時から利用者の確認等が必要ということになれば、事務負担が大きくなってしまうため、信託銀行様においても先ほどのとおり、資金移動業者から情報の共有を受けているというお話もございました。返還方法はサービスの形態や利用者の属性によっても様々考えられるところですので、有事において情報を共有し、必要な返還のための方策を最速で適切に考えていくということが望ましいと思います。平時から口座情報などを共有するとか、あらかじめそういうものの取得を義務づけるというようなことまでは不要かなと思っております。
2つ目の滞留規制の見直しについてです。今の極めて厳格な滞留規制であるとすると、第一種資金移動業の認可を受けたとしても、できることは電子決済等代行業と変わらないという批判もあるところであり、この滞留規制の見直しというものは必須だと思っており、今回御検討頂いていることにこちらも大変感謝を申し上げます。19ページに銀行等に対する規制との衡平という記載がございますが、もともと銀行と資金移動業者では、保全の仕方も負担の仕方も異なる別の制度だと理解しております。したがって、一概にどちらが有利、不利というものではなく、それぞれの業態にふさわしいあり方を検討していくべきだと思います。第一種そのものへのニーズと、それに対して必要な行為規制は何かという観点から、滞留規制について、あり方について前向きな検討を頂いていることに感謝しております。
19ページと22ページの記載の論点について御意見を申し上げます。
1つ目は、商慣習で1か月ということがあるから1か月程度の滞留を認めるということについてどうかという問題提起を頂いております。通常、マンスリークリアといったような形では、月末に締めて翌月に払うといった支払いもあり、例えば月初に発生したものは翌月末ということになりますと、30日や45日、60日といったサイクルもあるところです。今回の期間は、送金人が入金してから受取人が出金するまでということになりますので、極めて厳しい。前の入金段階から出金まで、支払いまでということになりますと、1か月ということがもし法律上決まってしまう、あるいは考え方としてそこがもうフィックスだということになってしまうと、事業者としては当然それを違反することはできませんので、2週間とか、かなり中で制限的に運用していくということになっていくわけですが、やはり今現状で行われている法人送金等のニーズを考えますと、通常の商慣習のサイクルも扱いたいという要望があるでしょうから、例えばマンスリークリアということであったとするならば2か月程度が必要であろうと思いますし、実務的に中途半端な期間を設定してしまうと、またそこで取り込めないサービスが出てきてしまうというところは非常に問題かなと思っております。
2つ目、3つ目につきましては、この考え方について賛成でありますけれども、もともと移動する額、移動日、移動先というのを厳格に確認するという運用は困難ですし、それを設計するためのコストが非常にかかってきていて、それは審査を受ける事業者のほうでも既に提供しているものを相当改変しないといけないとか、あるいは当局のほうでも何が移動する額なのか、移動する日なのかというのを極めて長時間かけて審査頂いているとも聞いておりまして、ここは非常に運用が困難な点になっているのかなと思います。もともとこういう指定が必要なのかどうかというところは議論が必要なのかなと思うのですけれども、もしこれが仮に必要だとしても、例えば先ほど為替レートが後から決まる場合もあるということからすると、移動する額も見込みでよいとか、一定の考え方で算定できればよいなどの定め方も可能とすべきだと思います。
なお、長内委員がコメントされておりましたが、レートのよいときに送りたいというのは、入金しておいて送金実行するタイミングを見たいというだけですので、例えば今日はレートがよいので、分かってから入金して送金すると、1日たってしまってタイミングを逃してしまうなどのそういうニーズに照らして、世界中で提供されている送金サービスでは、あらかじめ入金しておいて送金するということも認められるということでありますので、何かオプション取引や先物取引といった金融的な使われ方が行われているわけではないと思います。もしそれがそういう使われ方をされるということであれば別途金商法のライセンスですので、そういうことはできないと認識しております。そうすると、期限が無期限でないとすると、一定の期限をつけてそれまでに送金してくださいというようなやり方もあり得ると思いますし、取立為替についてはワークしないと思いますので、例えば受取期限については入金日から何日といったような定め方も可能とするなど、サービスに応じて必要な指定ができるようにして頂きたいと思います。
そもそも期間や金額は、事業やサービスの内容、その持つリスク、個別の事業者の体制等に応じて見るべきだと思っております。第一種資金移動業については、もともと認可制ということで頂いておりますので、そこは当局の審査の中で見て頂くことができるものだと思っております。一律一定額に定めるべきではないと思います。第一種の業務実施計画の中で事業者から申請を求め、その内容に基づいて必要な体制が、リスクの低減策が取られているかどうかということと併せて判断されるべきであると思っております。中途半端な定め方をしてしまうと、今後議論していく予定の決済サービスを資金移動業の中で取り込めなくなってしまうという問題点もあると思います。前回御指摘申し上げまして、並行して行って頂いていると承知しております実態調査の結果も見て、金額や期間も定めて頂きたいと思います。制度としては、様々なサービスを受入可能なものとしておき、サービス内容やリスク、担い手を併せて審査した上で、包摂できるような全体設計を望んでおります。
以上です。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。それでは続きまして、永沢委員、お願いいたします。
【永沢委員】
まず、前回は欠席となり意見書を出させて頂いて対応させて頂きまして失礼いたしました。意見書でも申し上げたことですが、今回のワーキング・グループでは資金移動業が取り上げられていますが、私も2019年のワーキング・グループにも参加させて頂き、あのときはフィンテックという言葉が大変新鮮に聞こえたものですが、わずか数年で資金移動業が非常に大きな規模になっており、岩下委員が言われたように、ニーズに合致した規制緩和であったということかなとは思っております。
本日、事務局から御提案頂いている供託以外の方法については、資金移動業がこれだけの規模まで大きくなっている状況に鑑み、今までのところ、破綻は発生していないが、万一に備える必要があり、利用者保護をより高めるという目的であることですので、特段反対する理由はないと私は考えます。
ただ、本日の事務局からの御説明と、他の委員の先生からの御意見を伺い、気になりましたことが2点ございます。
一つは、供託に代わる制度をつくったとしても、本当に使って頂けるものになるのだろうか、という点です。コストや、何よりも利用者に負担を求めることが追加的に出てくること等を考えますと、どうなのだろうかと気になりました。
第二に、この新制度は、資金移動業者が破綻した場合に備える話であり、破綻実務に詳しい他の委員の先生方の御意見についてコメントできるような立場にはありませんが、お話を伺う中で、特に伊藤委員の御発言に共感いたしました。今回の規制改正は、事業者の保全の方法を多様化するものであり、利用者保護に資することを目的としていますが、事業者側に選択権があるわけで、最終的には利用者側がどの事業者がどういう保全の方法をとっているのかを確認・理解して選択する必要が出てくるわけです。その意味で、先ほど伊藤委員は説明義務と言われましたし、坂委員が情報提供義務ともおっしゃいましたが、利用者が、どういう保全方法を採用している事業者か、保全方法の違いについても理解した上で、事業者選択ができるよう、情報開示あるいは説明が必要で、それが現状なされているのかどうかが気になりました。
ところで、資金移動業は大きな規模になってきているわけですが利用者像について情報が欲しいところです。例えば、個人の方がどれぐらい、どういう目的で使っている等の情報提供をお願いしたいと思います。2019年のワーキング・グループのときには、海外へ子供を留学させている人が送金するときに使うだろうとか、日本に働きに来ている人が家族にお金を送るのに使うだろうとかいうことで、100万円以上の送金の必要性があるのではないかといった話がありました。改めて、特に個人については、どういう人がどういう目的で利用しているのか、また、利用したいと思っているのか。保護すべきレベル感というのも違うのではないかと思いもいたします。速やかに返還していただくべきお金と、いやいや、ゆっくりでもいいんじゃないですかという資金もあるのかもしれないと思いもいたします。
最後に、前払式支払手段につきましては、2019年のワーキング・グループのときにも申し上げましたが、そもそも供託が半分でいいのかという問題が残っていますし、前払式支払手段の中には、商品券から、流通・交通系のプリペイドカードのように高度化した決済業者まであり、このように様々なビジネスモデル、事業者が混在している状況にあり、この状況を整理しないまま、保全方法の多様化を議論できるような段階にはないと思います。また、本人確認もできてないということですので、私は事務局案に賛成いたします。
私からは以上になります。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。それでは続きまして、オンラインで御参加の加藤委員、杉浦委員の順番に御発言をお願いいたします。初めに、加藤委員から、どうか御発言ください。
【加藤委員】
加藤でございます。私のほうからは3点コメントいたします。
まず、第1に、資金移動業における利用者資金の還付の方法として、保証機関による直接返還と信託会社などによる直接返還の仕組みを新設することは望ましいことであると思います。供託という手続については、資金決済法の改正だけで手続の迅速化を進めることには限界があると思いますので、供託とは別に、迅速に利用者資金を返還する仕組みを資金決済法の改正により設けることは望ましいと思います。ただ、保証機関による直接返還も、利用者資金の返還を確保するための仕組みですから、直接返還を行った保証機関が供託金について利用者と同じ地位を取得するというのは制度趣旨に反すると考えます。
第2に、前払式支払手段の発行保証金の還付については、本人確認の問題などもありますので、資金移動業の利用者資金の還付と同じような直接返還の仕組みを設けるというのは難しいかと思います。ただ、これは前払式支払手段に限る問題ではありませんけれども、新設が御提案されている保証機関による直接返還や信託会社などによる直接返還も資金移動業者の選択肢の一つでありまして、第一種資金移動業以外の多くの業者については、供託による保全が今後も最も利用されるのではないかと思います。そうしますと、やはり供託により保全された利用者資金の返還手続の合理化について、資金決済法でどこまでできるかということを改めて考えてみる必要があると思います。これが2点目のコメントになります。
最後に、第一種資金移動業の滞留規制につきましても、滞留規制を緩和する方向で考えるというのは望ましいと思いますし、現在の第一種資金移動業の利用実態なども見ますとやはり必要であると思っております。ただ、滞留規制の緩和された第一種資金移動業の想定されるニーズとして企業間送金を考える場合、取り扱う金額が非常に高くなる可能性に留意する必要があります。そのため、仮に第一種資金移動業で何らかのトラブルが生じた場合に、利用者が被る不利益が非常に大きくなるかと思います。したがって、第一種資金移動業の滞留規制が緩和されたことによって広がるニーズに応じたリスクに対応する規制を考えることが必要だと思います。
新しい資産保全方法の利用を条件とするのは一つの手段であるかと思います。ただ、新しい資産保全方法を採用する第一種資金移動業について滞留規制を緩和するという御提案ですけれども、決して新たな資産保全方法だけで全て保全するということを要件とするという趣旨ではないと理解しております。そうしますと結局、認可の手続の中で、どの程度の割合についてどんな形で新しい資産保全方法による保全を要求していくかというか、そういったことについて、第一種資金移動業を利用して営まれるビジネスの実態とそのリスクに応じたきめ細やかな監督上の対応が必要になってくるかと思います。
この観点から、新しい資産保全方法のオペレーションにつきまして、本日の日証金信託銀行様の御説明で、信託会社などによる直接返還のオペレーションについては大分理解することができました。改めて御礼申し上げます。その一方、保証機関による直接返還のオペレーションがどのようになるのかということについてはまだまだ詰めるべき点があるような気がしておりますので、今後、直接返還を行う保証機関として想定される銀行界との相談、いろいろな調整などを通じて望ましいオペレーション実務を確立していく必要があるのではないかと思います。
私からは以上です。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。続きまして、オンラインで御参加の杉浦委員、御発言ください。
【杉浦委員】
杉浦でございます。今日はまずはいろいろと御説明をして頂きまして、かつ委員の皆さん方から様々な御意見を伺うことができました。大変勉強になりました。ありがとうございます。
大きく分けて今日2つの争点があったわけでございますけれども、最初の部分について思いましたのは、資産保全規制の見直しという点でございます。当初は、金融庁からの事前説明、また今日も改めて説明を受けた段階においては、これはこれでいろいろな種類の保全方法が増えてくることはいいのかなと思っていましたけれども、お話を伺えば伺うほど、また様々な委員の皆さん方からの御意見を伺えば伺うほど、制度そのものが複雑化する、かつどれを選ぶのかによって結構、最終的な保全のされ方といいますか、最終的に戻ってくる金額とかそういったものが変わってくる可能性があるということならば、決して利用者の皆さん方にいい方向なのか、良い提案なるのかということがあるかと思いますので、この辺りはもう少しシミュレーションをしっかりやっていった上での提案であったほうがいいのかなと思いました。実際、先ほど一部委員からもお話がありましたけれども、実際にこれ、本当に使うのかというような点も一つの懸念材料に思ったところもございました。ここまでが資産保全規制の見直しについてです。
もう1点でございますけれども、第一種資金移動業の滞留規制の見直しの件です。全体的なこのエリアの金融イノベーションという意味では、岩下委員が御発言された路線と基本的に私も同じような考え方を持っているんですけれども、一つあるのは、資金移動業が、現行の制度というのは、第一種が上限がなくて、第二種が100万円で、第三種が・・・という形になっているわけですけれども、100万円を超えちゃったら上限がというふうになると、実際に、じゃ、滞留した資金がどうなるかということを考えると、これも、先ほど岩下委員から、銀行なのか、銀行じゃないのかという話がございましたけれども、まさに預金的な世界だし、口座的な世界だと思ったりいたしました。そうなってくると、そもそも銀行法との規制とのバランスというものを考えなければいけないんじゃないかと。
ここから先は若干妄想になりますけれども、もしそういった業者が争って、その上で、キャッシュバックキャンペーンをやりましょうなんていうことを言い始め、それこそ手数料割引とか、キャッシュバックなどを始めたら、恐らく一部の消費者法系の先生方がご指摘されるでしょうが、いや、これってもしかしたら利子の代わりじゃないの? なんていうことを御発言される方もいらっしゃらなくはないのかなという、そんなような懸念も、ちょっと妄想的ではございますけれども、思ったりはします。
もともと考えてみれば、この資金移動業と似たような制度を持っている諸外国の制度の基本的な理解は、銀行法の一部、ないしは、仲間として存在し、銀行法の中の一つの銀行の種類としてこういったものがあるというふうに構成されているものが多いかと思います。そこを意識しながらニーズをどう考えていけばいいのかなと思っていましたが、金融庁から別途御説明を受けたときにちょっと記憶しているのは、じゃ、実際に第一種でやられている方たちに、本当に巨額の金額の送金をやられている方たちがいらっしゃるのかという話を聞いたときに、比較的200万円とか300万円というところが1回ごとの送金額の平均だという業者さんがそれなりに、いや、ほとんどですというような御説明を受けたように記憶しています。だとするならば、現在、例えば留学している家族向け送金とか、日本に住まれている外国人の方が家族に送金するだとかということを考えたときに、もともと資金移動業がなぜ上限が100万円だったかという、そこが深い謎なわけですけれども、じゃ、使い勝手を考えたとき、100万円でもともと収まるわけがなかったんじゃないの? ということは私自身も実際法が出来たときに思っていたことでもありました。
仮に今度、じゃあ、200万円、300万円という形に第二種の上限額を変えることによって、ある程度今回取り上げられた問題が解決するならば、そこをいじるほうが議論としては分かりやすいんじゃないかというようなことも思ったりしました。もちろんそれに伴って、犯収法とかそれぞれ別のところを考えなきゃいけないポイントはあるわけですけれども、いずれにせよあまり100万円の次が上限という議論の中で滞留規制の議論が行われるのはちょっと乱暴かなと思っていて、ここも全体的な調査と、まさに前回申し上げたとおり、そこに伴うリスクが違うわけですから、その辺りもリスクベースでどう考えていくのかというところが大事なのかなと思います。
以上でございます。ありがとうございます。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。本日御参加の委員の皆様から御発言を頂きましたけれども、まだ多少の時間があるようでございますので、もし委員のほかの方の御発言を聞いて、御発言を希望される方がいらっしゃいましたら、お知らせ頂ければと思います。それでは、長内委員、どうぞ。
【長内委員】
堀委員の説明をもう一度確認したいと思います。先ほどの為替相場を見つつ有利なタイミングというのは、事業者が為替相場、例えば、円安の方がよくなったら資金を移動するというようなものではなく、為替に依存しない取引をやるというのが現実という話についてです。個人的に気になっているのは、例えば、為替相場というのはそもそも予想ができない。為替相場が有利なタイミングが来るということも、事前に判断ができないわけです。ただ、事務局説明資料の文章だけだと多分いろいろな読み方ができてしまうかもしれません。例えば、円安の方が有利だから、お金を入れておいて、円安になったら取引するというのを考えているのであれば、お金を入れてからずっと円高が続いた場合には取引しない方がその業者にとってよいということも起こり得ると、私は解釈してしまったのです。実際、この「為替相場を見つつ」というところが何か相場チックな話であるのですが、そもそも有利な為替相場が来るかは実は予見できず、いわゆるパラドックス的な話になってしまうのではないかというのが個人的な問題意識です。だけど、実際はそうではないという、その辺の説明や現場的な話を聞かせていただければと思います。
【神作座長代理】
堀委員、もし御発言があれば。あるいは事務局にお尋ねしたほうがいいかもしれませんけれども、いかがいたしましょうか。
【堀委員】
私が申し上げた発言の趣旨としては、例えばドルベースで幾ら送る必要性があるというような利用者に向けて、事業者が日本円を入金しておいて、為替の相場を見て、この日に送金実行するというようなボタンを押すことができる、そういうようなサービスを、事業者の側ではニーズがあるので、そういうサービスを提供したいんだけれども、それができないと。相場は当然分からないし、確定したり、何か予測したりするものではないのですけれども、利用者が相場を見て、今日実行したいというボタンを押せると、そういうようなサービスを事業者の側でも提供してあげたいという希望だと理解しています。
【長内委員】
そういうことですね。利用者は、為替相場を見て期限までに満足しなくても絶対取引するというところを、私は担保した方がいいのではないかと考えています。つまり、利用者は送金を実行するというようなボタンを押せるけれども、もし利用者が満足しなかった場合、期限が来てもボタンを押さないということがないようにした方がよいのではないか、という趣旨の発言になるので、多分矛盾しないのかなということですね。
【堀委員】
はい。矛盾しないのかなと思いました。
【長内委員】
ありがとうございます。
【神作座長代理】
よろしいですか。ほかに、御発言希望の方いらっしゃいますでしょうか。オンラインの方ももしございましたら、お知らせください。それでは、堀委員、どうぞ。
【堀委員】
申し訳ございません、1点だけ。最後の杉浦委員のコメントも伺いまして、もし実態として、1,000万、1億円などを送りたいというのではなくて、100万円が200万円になったらいい、300万円になったらいいというような希望が多いのであれば、それはそれで第二種の上限を緩和するというような方向性でも御検討頂いたほうがいいのかなと思った次第でございます。両方のニーズがあるのであれば、あるいはそちらも第一種のほうがいいということなのか、第二種でカバーできるのかというのも制度設計の問題かなと思いました。
以上です。
【神作座長代理】
ありがとうございます。オンラインで御参加の委員の方、御発言の希望はよろしゅうございますか。
それでは、もしよろしければ、ここでオブザーバーの方から御意見がございましたら、ここで御発言をお願いしたいと思います。それではまず、全銀協の安地様、御発言ください。
【全国銀行協会】
ありがとうございます。安地でございます。まず、全体としては、保全方法と滞留規制のいずれについても、利便性と利用者保護あるいは利便性と潜脱防止といった、大きな従来の枠組みの中で、どこで線引きするかという御議論であったと理解しており、非常にフェアな議論をして頂いているとありがたく感じました。
その上で、保全方法および滞留規制について、それぞれ1点ずつ申し上げたいと思います。保全方法については、直接返還の場合、我々銀行が実務を担う場合に、御迷惑をおかけしてはいけないので、実務的に何か制約がないかといった点について何人かの委員の先生方からも御懸念の表明がありましたことも踏まえ、しっかり確認をしたいと思います。これが1点目です。
滞留規制のニーズについて資料にも記載がございましたけれども、これも委員の先生から御発言があったように、一律というよりも一つひとつがlegitimateなニーズなのかというのを御確認、精査頂くことになるのだろうと思いながら聞いておりました。例えば、今も議論になっていました外国為替の件については、こういうものは審査で落ちるのだろうと思いますが、FXのような投機的な為替のほうに主眼が行って、追加の担保のような話になって、送金する金額が足りなくなるといったようなものは、審査を通らないと思うものの、ニーズがlegitimateかどうかは御確認頂く必要があるのではないかと思いました。
また、企業間のところについては宿題にさせて頂きたいと思いますが、BtoBの送金の場合に、銀行ですと例えば当座預金の一時貸越あるいはバックアップラインと呼ばれる、資金が足りないときに、連鎖してはいけないので、見切りで送金するようなプラクティスがございます。このように、実質、融資的な機能がないと、なかなかBtoBの送金はやりにくいと思われますが、そのようなものがないお客様もいらっしゃいますので、ない場合にどれぐらい対応できるのか、そもそもニーズに応えられるのか、といった点については調査に御協力できればと思います。
以上でございます。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。続きまして、Fintech協会の武田様でしょうか、御発言ください。
【Fintech協会】
Fintech協会の副会長の落合と申します。今回は資金移動業に関する規制の見直しの議論を進めて頂きまして、ありがとうございます。4点ほどコメントさせて頂きたいと思います。
資産保全方法についてですが、供託等による手法も、現在の実務において重要な役割を果たしているということで、今後の利用も認めて頂くということも重要です。しかしながら、このような選択肢も確保頂きながら、これまでの資産保全方法に加えて新たな保全手段を追加して頂くという御方針でまとめて頂いておりまして、その前提であれば賛成させて頂きたいと思います。
井上委員からも御指摘がありましたが、実際に利用される制度となるためには、保証機関、信託会社等、受益者代理人など、実務に関わる様々な方々が、実務的に無理なく、合理的な経済条件で利用できる枠組みができるかが極めて重要です。実務のニーズ、留意点を詰めて頂くということが重要になりますので、神は細部に宿ると思いますので、資金移動業に限らない関係者によくヒアリングをしながら進めて頂くということを希望いたします。
第2点といたしまして、資金移動業者の口座への直接払いの関係では、資金決済法における資産保全と、労働基準法施行規則における保全方法をそれぞれ講じるということになっており、資金移動業者にとって大きな負担になっている状況がございます。今回保全手段を見直して頂く中で、新たな手法が利用される場合においては、労働者への早期資金返還の観点で、異なる保全手段が求められていたという論点を解決し、双方の法制における制度趣旨を満たすような保全方法が開発されるかは、まだいろいろな調整もあろうかとは思いますが、このようにできる方法の開発が極めて重要です。
第3点といたしまして、第一種資金移動業の滞留についてです。商取引において利用される可能性は19ページでも示して頂いております。具体的な滞留期間の設定におきましては、適切な利用者保護が図られる方法を前提にして、堀委員などからも御指摘がありましたが、商取引として利用される企業等の資金運用の実務から無理がなく、新たなサービスが実際に十分提供できるような期間となるように、具体的な実務的整理を進めて頂きたいと考えております。
第4点ですが、第一種資金移動業と第二種資金移動業との併営については、滞留規制の潜脱を防止される措置がなされている場合には、第二種資金移動業と第一種資金移動業からの資金振替を認めることは、適切にリスクベースで規制を整備しているということになると考えております。
また、最後になりますが、当協会の過去の資金移動業の見直しに関する提言の中では、本日議論がありました滞留規制の見直しと、また、2名の委員からも御発言がありましたが、第二種の移動業の上限見直しの2点がありましたので、もし双方の観点での検討があり得るとすれば、それも大変ありがたく存じます。
以上でございます。
【神作座長代理】
ありがとうございました。続きまして、信託協会、藤井様でしょうか。御発言ください。
【信託協会】
信託協会で業務委員長を務めております、三井住友トラストグループの藤井でございます。信託協会からは、1つ目の論点として挙がっております、資金移動業者の資産保全規制の見直しについてコメントをさせて頂きます。信託会社等を通じた直接返還については、日証金信託銀行様からも御紹介があったような、FX取引事業者の保全方法である顧客区分管理信託のスキームを参考に、今後制度化が検討されると考えております。顧客区分管理信託におきましては、例えば、先ほども出ておりました、日々の要保全額の計算や、利用者への返還、こうした我々受託者で担うことが難しい部分を、事業者様あるいは受益者代理人の方に実務を担って頂いており、こうしたことを前提に制度が成り立っているというものでございます。
本日の議論を踏まえまして、制度化に係る実務的な検討を今後進めていくにあたっては、こうした点を踏まえて頂き、信託協会としましても、ぜひ引き続きの意見交換をお願いできればと考えております。
信託協会からは以上でございます。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。続きまして、新経連の片岡様でしょうか。御発言ください。
【新経済連盟】
新経済連盟の片岡です。御説明ありがとうございました。私からはまず、新しい保全方法等のところなんですが、選択肢を増やすという前提で、何か1つに絞るのではなく、選択肢を増やすという観点については賛同するところです。
ただ一方で、加藤委員からもありましたけれども、今の供託についてもう少し工夫できるところがないのかというのもぜひ検討頂いてはどうかなと思いました。実際に供託を採用している事業者はかなり多いと認識しておりますので、そこをいかに効率よく合理的にするかという部分も重要だと思いました。
また、新しい方法についても、事業者にとってのメリット、デメリット、それから、使いやすさといった部分もしっかり確認して頂きたいなと思っております。
以上です。
【神作座長代理】
どうもありがとうございました。ちょうど時間になりましたけれども、もし御発言の希望がないようでしたら、ここで討議を終了したいと存じます。
活発な御意見を御議論頂き大変ありがとうございました。本日頂きました御説明や御意見を踏まえ、今後さらに議論を深めてまいりたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
最後に、事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。
【久永デジタル・分散型金融企画室長】
第3回は10月24日10時から実施いたしますので、引き続き御参加のほどよろしくお願いいたします。
【神作座長代理】
それでは、以上をもちまして本日のワーキング・グループを終了いたします。大変お忙しいところ、活発な御議論頂き、誠にありがとうございました。
―― 了 ――
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企画市場局総務課信用制度参事官室(内線:3572、3556)