金融仲介の改善に向けた検討会議(第11回)議事要旨

議事要旨

1.日時:

平成30年1月26日(金曜日)10時00分~11時45分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室

3.議題:

「地域金融における競争のあり方」について

4.議事内容:

金融庁参与による「地域金融の新しい枠組みづくり」の紹介、事務局による「地域金融における競争のあり方」の説明に続いて、以下のような議論が行われた。(メンバーの発言、●:当庁の発言)

  •  ○ 公正取引委員会の結合審査のスタンスは、金融機関同士の競争が極めて同質的であるということを前提に置いているような印象がある。現在、金融庁が金融機関に対して促している顧客との「共通価値の創造」という取組みは、単に金利だけでなく、企業の経営課題まで踏み込んで様々なソリューションを提供するということである。本取組みが進展すれば、金融機関同士の競争軸は多元化するため、これまでのように単に顧客と店舗の距離が近いということや金利水準だけが競争要因にはなりにくい状態になってくると思う。公正取引委員会の結合審査の議論は、全ての金融機関が顧客に対して同じサービスを提供しており、顧客と店舗との距離が近いことが競争の前提で、金利水準だけで競争が行われているというようにアプリオリに決まっているように窺え、少し違和感を覚えた。
     
  •  ○ 公正取引委員会の結合審査は、都道府県や市町村単位といった狭い行政区画の議論には非常に関心がある一方、それを越える広域の議論にはほとんど関心を示されないと感じるが、社会・経済情勢が変化している中、都道府県単位で競争地域を考えるのには限界が来つつあるのではないか。また、流通や小売業は顧客と取引事業者との関係が長期的であることを必ずしも前提としないのに対し、銀行は与信取引をしているため顧客との間に長期的な関係が存在するといった違いがあるにもかかわらず、公正取引委員会は、どの業種の結合審査をする場合でも、流通・小売業の再編における考え方がベースとなっていると感じる。
  •  ○ 一般に、地域金融機関はオーバーバンキングのため過当競争が発生し、収益が低下して経営が立ち行かなくなると言われているが、実際は、単純に金融機関数が多いために収益性が悪化しているということではなく、他のところに主因があるのではないか。金融庁が金融機関の収益改善に向けて金融機関数を減らそうと考えているという単純な話になれば、公正取引委員会とは「消費者の利益に相反することにならないか」といった議論になってしまうため、金融当局としては、このような単純な議論に終始しないよう、その考え方を丁寧に打ち出す工夫をする必要があるのではないか。
  •  ○ 金融界における再編の議論を超えてしまうが、都道府県という単位の限界を非常に強く感じており、今後の我が国経済に見合う地域単位というものを議論する場を設ける必要があるのではないか。
     
  •  ○ 日本全体で市場が縮小傾向にあることから、都道府県単位で市場を設定するという公正取引委員会の考え方には無理が生じてきていると感じており、もう少し広域の中で新しい枠組みを作る必要があるのではないか。現在、地域銀行は、自身のエリア外へどんどん攻勢をかけている。同一地域内で肩を並べてきた銀行同士では、各々の顧客や地域に対する役割分担がある程度決まっており、その分担を大きく変えることは難しいため、都道府県を超えて広域的な市場に成長を求めて活動しているというのが実態である。銀行は地域のインフラであり、店舗も含めて色々なサービスを提供しており、こうした点も加味していく必要がある。銀行の体力がなくなれば、店舗の統廃合や撤退により地域のインフラが欠如していくため、こうしたインフラを守っていくためにも、一つの都道府県内の融資シェアに大きく焦点を当てた公正取引委員会の考え方には疑問がある。
  •  ○ 債権譲渡の議論についても、顧客自身が金融機関を選択しているという側面もあり、単純な話ではない。過去の店舗譲渡の事例を見ても、相当程度の顧客が譲渡先から離れていくといったことも生じているため、アメリカでは成功しているかもしれないが、日本で実現することは難しいのではないか。従って、広域的な市場設定という新しい枠組みを作った上で、顧客と銀行とのフェアな取引のあり方などのルール作りをしていく必要があるのではないか。
     
  •  ○ 地域銀行の結合審査について、地域内の融資ボリュームのシェア分析のみで競争環境を断定するのは無理がある。信用力の高くない企業は、融資してくれる金融機関の選択の自由度が小さいため、地元の地域銀行の統合や合併によって、借入れにおける競争環境に重大な影響が及ぶと考えられる。公正取引委員会等が実施するアンケート調査については、信用力の高くない企業を対象に集中的に行う必要がある。
  •  ○ また、政府系金融機関は競争相手ではないという公正取引委員会の主張には強い違和感がある。運転資金と設備資金を借り手が民間金融機関と政府系金融機関で使い分けていると分析しているが、これは民間金融機関が長期固定金利のポジションを取れなかった昔の話である。今は、民間金融機関が設備資金を融資するのは普通のことであり、その状況においてあえて政府系金融機関を選択するのには、金利条件等の理由がある。
  •  ○ 長崎県の現状を関係者に聞いたところ、信用力の高い企業は、この状況下でも既に取引金融機関数を増やしているとのことであり、経営統合や合併については、合併後の銀行のシェアがどの程度になるといった問題ではなく、信用力の高くない企業が継続して資金調達できる状況を維持できるかという点が重要なポイントと考える。また、債権譲渡によるシェア調整については、顧客本位の対局にある行為であり、良くないのではないか。
  •  ○ 貸出シェアと貸出金利の分析は、トランザクションバンキングの世界の話である。リレーションシップバンキングが組織的・継続的に機能し始めると、貸出シェアが上がり、究極的には1行取引となり、貸出金利の低下にも歯止めがかかると考えられることから、この分析方法には大きな調整が必要である。
  •  ○ 信用力のない企業については、地域銀行が統合や合併をしたとしても、残存する銀行から融資や支援を受けなければいけないため、本音を聞き出すのは難しいと思う。なお、県内の協同組織金融機関のネットワークが整っていれば、地域銀行の統合や合併の影響は限定的と考えられる。
     
  •  ○ 地域金融の競争のあり方を考える上で、問題となる構造は二次元ある。
     まず一つ目は、独占禁止法のそもそもの成り立ちの議論になってしまうが、供給者がいなくなることから顧客をどう守るのか、独占者の横暴から顧客をどう守るのかである。規模の経済性が効くトレーダブルグッズ(貿易財)を扱う製造業においては、継続性も関係ないため、前者はほとんど問題とならない。一方で、密度の経済性が効くノントレーダブルグッズ(非貿易財)を扱うサービス業においては、供給者がいなくなると問題である。現在、地方で起こっている事例の多くは後者であり、金融機関に限らず、地域の公共サービスにも当てはまる。こうした業種においては、人口減少や過疎化が進み、供給者がいなくなれば代替が利かなくなるため、独占者の横暴からどう顧客を守っていくかといった贅沢な議論をしている場合ではなくなることも少なくない。現在の独占禁止法は、規模の経済、トレーダブルグッズを想定して作られた法律である。現在の日本は、規模の経済が効く産業の海外拠点化等に伴い、モノ消費からコト消費への転換、産業のサービス化が進展しており、20世紀にできた独占禁止法の枠組みは見直すべきであると考える。
     二つ目は、仮に独占禁止法が適用できるという前提で議論するが、公正取引委員会が実施したアンケートについては、金融に関する十分な知識のない方々が作成し、金融のことを十分に理解されていない方々で議論されていると思われる。政府系金融機関が競争相手にならないといった公正取引委員会の分析についても、商工中金が不祥事を起こしたということは直接の競争相手であったということの裏返しであり、事実誤認である。債権譲渡の議論についても、アメリカのミドルマーケットのようなスコアリングモデルに基づく貸出であれば、日本の消費者金融とあまり変わらない貸し方をしているためなじむかもしれないが、ここで問題となっているのはリレーションシップバンキング型の貸し方であり、一旦、債権譲渡をしても譲渡元に戻ってきてしまう可能性が高く、ほとんど実効性はないと思う。本件の問題の所在は、そもそも独占禁止法の体系をどう考えるかという議論であり、仮に競争法を適用するとしても、立法事実や社会科学的分析が鍵となるため、経営の専門家や経済の専門家の視点が必要である。従って、公正取引委員会だけでなく、内閣府や内閣官房なども含め、政府として検討した上で結論を出していただきたい 。
     
  •  ○ 地域銀行の結合審査については、都道府県という地域単位をどう考えるかということが論点になると思う。都道府県や市町村の首長は選挙で選ばれ、そこに民主的な正当性があるため、行政分野においては都道府県や市町村単位で物事を考えることは意味があると思う。一方で、地域銀行の合併・統合を含め、経済・社会の現状は、人口減少の進展などを踏まえると、都道府県という地域単位にフィットしておらず、それが今回の議論の本質的な問題であると考えている。すなわち、人口減少が進展する中で競争政策のあり方を考えるには、都道府県という行政単位の概念を変えるか、競争政策の内容自体を変えるか、一定の場合には例外措置を設けるかの何れかしかない。
     実務的に考えると、公正取引委員会の立場からすれば、競争政策の内容自体を変えることは難しいと思うが、人口減少が加速度的に進行している地域には、「秩序ある独占」のような状況を認めていかなければ、特に公共的なサービスは成り立たなくなる。
     従って、都道府県という地域単位を経済・社会の状況を踏まえて複数の都道府県に跨った形で整理し直すか、競争政策の内容自体を変え、企業に血液である資金を供給している金融機関のようなところについては、その性質上、一時たりとも欠くべからざる社会インフラであり、こうした先については、「秩序ある独占」を認めていかなければ、その機能が維持できなくなるのではないか。
     
  •  ○ 企業の合併を考える上で法律に則ることは重要であるが、最終的な目的は日本の価値を高めるということであり、顧客の視点で良いか悪いかを考えていく必要がある。外部のアンケート調査結果や研究事例をいくつか紹介したいと思うが、銀行の合併が、顧客に対してプラス・マイナスの双方の影響を及ぼすことは様々な研究で示されており、どのような合併なら比較的顧客にプラスで、どのような合併ならマイナスかといった研究もある。アメリカの研究で、小さい銀行が多数存在する環境において合併が起こった場合は、市場支配力が高まらないため規模の経済によるプラスの効果が大きいが、合併によって圧倒的に大きな規模になると、規模の経済によるプラスの効果よりも市場支配力の高まりによるマイナスの影響が上回るという研究もある。
  •  ○ このほか、関連する研究を三つ紹介する。
     一つ目は、全国の中小企業向けアンケートであるが、「メインバンクの取引支店と貴社の距離はどのくらいか」といった質問に対して、太宗が10km以内と近接している結果となった。他の研究でも、インターネット・バンキングの取引増加により、取引支店と顧客の距離が遠くなるであろうと予想されていたが、大きくは変わらない結果となっている。中小企業金融においては、地元金融機関がしっかりと対応することが重要であると思う。なお、政府系金融機関と中小企業の取引に焦点を当てると、政府系金融機関は基本的に県庁所在地に所在しているので自然と遠隔になるが、50km以上離れた支店に足を運んでいる企業が一定程度ある。これを踏まえると、企業が融資を受けたい場合は、相当遠隔の支店であったとしても取引をするということが言え、50kmであれば隣県にも行ける距離である。
     二つ目は、西日本の非製造企業向けアンケートであるが、「メインバンクが他の金融機関と合併や経営統合することで規模拡大を図ることに対してどう感じるか」といった質問に対し、「経営基盤が強固になり安心」が52%と、多くの企業はメインバンクの合併等についてプラスの効果を感じている。他方、「地域密着度が薄れる」「貸出審査基準が厳しくなる」「過去の取引関係が評価されなくなる」といった回答も3割前後あり、心配されている企業もある。このように、プラスの効果を感じている企業も多くおられるので、監督当局としては、マイナスの影響がないことを十分に説明し、地域企業の経営者の方々に安心していただけるよう取り組む必要があると思う。経営状況が悪い企業や資金繰りが苦しい企業ほど経営統合や合併を懸念されている企業が多いため、本年4月の信用保証制度の改正を踏まえ、こうした企業には信用保証協会がしっかりと支援し、きめ細かい対応を期待したい。
     三つ目は、2009年の論文と古いものではあるが、「都道府県ごとの競争度とリレーションシップバンキングとの関係」について調べたものがあり、競争が激しくなれば、金融機関から助言を受ける企業の比率が下がるという結果が出ている。また、金融論の他の研究を見ると、競争範囲について、地域銀行では県の境はあまり関係がないが、信用金庫では一定の意味があるとされている。
     
  •  ○ 企業が地域のインフラや公共サービスを担っている場合、顧客とのフェアな関係がどうあるべきなのかということを議論するためには、まずは産業特性を理解することが必須である。電気通信の事例を見ると、顧客が負担する料金は、基本料と通信・通話料に分けられるが、基本料部分は電話局から自宅やオフィスまでの設備の提供に関するサービスの対価であり、都市部と北海道などの地方部とでは相当な距離差があるが、料金格差はほとんどない。地方部の基本料金は常に赤字で、長距離通話料で補填していたが、新規参入した事業者は儲かる部分しか事業化しないため、このままでは公共的なサービスが維持できなくなるため、外部補填方式のユニバーサルサービス制度ができた。電力事業についてもこれと同じようなことがあった。
      しかしながら、地域金融における公正取引委員会の議論は、どの産業にもあてはまるようなテンプレートを前提としている。電気通信や電力のように誠実に議論をするのであれば、地域金融という産業特性は何なのかということを極めるといった所作が不可欠であると思う。また、そういったアプローチをしないまま、地域銀行に対して指導することは、適切な対応とは言えず、地域金融の産業特性を考慮した議論を展開していただきたい。
     
  •  ○ 現在の公正取引委員会の結合審査基準は不透明であり、金融機関の戦略的な統合を過度に制約しているのではないか。実際に、地域銀行の東京進出は頭打ちとなっているが、隣県への進出は活発化している。金融の世界は、一時的にシェアが高まったとしても、それで超過利潤を得ようとすれば競争が発生するため、価格支配力は限定的である。
  •  ○ 貸出における競争制限ばかりが話題になっているが、中小企業にとっては、むしろ決済機能がなくなってしまうことの方が問題ではないか。
     
  •  ○ 規模の経済が働く県外の金融機関が、長崎県にアクセス可能となる環境を整備すべきではないか。この点において、政府系金融機関は競争相手になっている。
  •  ○ 問題の本質は競争相手の数ではなく、顧客と金融機関の情報の非対称性にある。経営状態が必ずしも良く見えない企業が、他県の金融機関に対し、しっかりと有効な情報発信を行うことができるよう支援することが政策上重要ではないか。良いビジネスをしていることを知ってもらえれば、近隣以外の金融機関からも融資を受けることができるようになり、競争状態が創出される。
  •  ○ 現実的に見て、預貸金利鞘は縮小していることから、地域金融機関が破綻する可能性は大きくなっており、公正取引委員会はこの点についても目を向けるべきと考える。
  •  ○ Fintechを用いた金融機関が今後進出してくるようになれば、同一地域内に二つ以上の金融機関に競争状況があればよいという前提は通用しなくなるため、日本全体で市場を考えなければいけない時期にきているのではないか。
     
  •  ○ 独占禁止法の議論をするに際して、産業特性は非常に重要なポイントである。昨年12月の公正取引委員会の事務総長会見では、産業特性は関係ないといった発言をされていたが、果たしてそれで良いのかと思う。公正取引委員会は、地域金融におけるリレーションシップバンキングの取組みをどのように評価しているのか、そして、地域にその金融サービスを均霑することが重要であるが、それをどのように考えているのかについて、委員会内で議論していただきたい。地域のステークホルダーは中小企業だけでなく、個人や地方公共団体へのサービスもあるため、この辺りについても考慮して議論する必要があると思う。長崎県内の統合案件について申し上げると、主に都市部の競争状況を問題にしているが、都市部での競争相手はまだ結構残っているため、適正に評価していただきたい。また、協同組織金融機関は独占禁止法の適用除外となるが、金融仲介の全てを協同組織が担えばこのような問題が生じないといった妙な議論にもなるため、地域銀行、協同組織金融機関それぞれの役割をどのように考えるのかについても議論する必要があると思う。
     
  • 最後に、本日の議論を踏まえた越智内閣府副大臣の挨拶
     
  •  ● 本日の議論を伺い、ご指摘のとおりと感じました。その中で何点か申し上げると、地域銀行の競争領域については、都道府県単位という考え方は、現在の経済・社会情勢になじまなくなってきていると感じています。結合審査をする際には産業特性を考える必要があるのではないか、地域金融機関の適正な競争の水準をどのように考えるのか、地域によっては「秩序ある独占」のような状況を認めていかなければいけないのではないかといったご意見もいただきました。過当競争を解消するということを前面に出し過ぎると競争の抑制を図っているように誤解されてしまうため、その伝え方を工夫しなければいけないなど、様々なご示唆をいただいたと思っています。
  •  ● 今回の公正取引委員会の判断の前提となる現状認識については、競争軸が多元化しているにもかかわらず、かなり画一的な尺度で審査をしているのではないか、商工中金も競争相手になるのではないかなど様々な意見をいただきました。
  •  ● こうした中で、今後、議論を深堀りしつつ、公正取引委員会に対して金融庁の考えもしっかりと伝え、地域の企業や住民の皆様に適切な金融サービスが継続して提供されるよう、政府としてしっかりと取り組んでいく必要があると考えています。
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以上

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