第1回金融モニタリング有識者会議議事要旨

  • 1.日時:

    平成28年8月24日(水曜日)15時00分~16時30分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館9階 共用会議室3

  • 3.議事内容:

事務局によるメンバー紹介、越智金融担当副大臣の冒頭挨拶、森金融庁長官による問題提起に続いて、以下のような議論が行われた。(冒頭挨拶及び問題提起の内容は資料等として別掲)

  • 金融検査マニュアルが最初に作られてから17年余りとなるが、この間、金融検査マニュアルが一定の機能を果たしてきたことは評価できる。一方で、金融庁側の問題提起にあったような様々な問題も生まれている。こうした問題は、最初に作ったときから十分認識されていた。現在でも、金融検査マニュアルの冒頭に書いてある基本的な考え方は間違っておらず、むしろ、実際の運用が必ずしもそのとおりになっていないことが問題ではないか。色々問題が出ているところで、もう一度、検査のあり方、モニタリングのあり方を考え直すのはよいことだと思うし、金融庁側の問題意識は同感。

  • 一方で、民間企業が自立的に活力を発揮して育っていくことができる環境を作ることが行政の主な課題であり、金融育成を過度に強調し過ぎて、かつての護送船団行政のようになってはいけない。また、基礎である金融機関の財務、体質などをきちんと正確に把握することがなおざりになってもいけない。金融機関が発展していける環境を作るためのモニタリングのあり方を検討していきたい。

  • 高度成長期は資金不足の時代だったが、80年代頃から徐々に資金余剰の時代に変わっていって、ちょうど変化の時代に不良債権問題が発生した。低成長になれば資金余剰となるので、銀行の預貸だけをみれば収益的に厳しくなるのは大きな流れとしては避けられない。同じような状況が生じていた米国では、80年代に"Is banking a declining industry?"という点に関し、かなり議論があった。当時も、低成長の下で、金融業は、預貸の収益は厳しくなるが、知恵を出して、企業を分析してニーズにあったソリューションを提供し、付加価値をつけていくことによって発展していくという議論があった。その議論は現在も当たっていると思う。

  • 企業が再生するうえで大事なのは、金融機関が、企業の情報、財務内容だけではなく、企業の将来性を見て、企業価値が向上していくようにサポートしていること。現在、金融庁が取り組んでいる、金融機関が企業の事業性を評価してその再生や発展をサポートしていくことは、金融本来の重要な取組みだと思う。

  • 日本経済の最大の課題は潜在成長率をどう引き上げるかである。生産年齢人口が減っていく中では企業の生産性向上が必要。企業の生産性を引き上げていくうえで、金融機関のサポートが果たす役割はとても大きい。また、日本全体の生産性が持続的に向上していけば、金融機関自身の発展にもつながる。

  • どの業態でも、今までの横並びの意識を変えて、多様なビジネスモデルを自ら考えていくことが必要な時代となっている。そのための、対話の一つのアプローチとして、コーポレートガバナンスコードのComply or Explainという考え方が一つの参考になるのではないか。

  • これから10年間の金融経済環境がどうなるか、厳しめの認識を持つことが議論の出発点。向こう10年は低成長・低金利環境が継続すると思っている。そうした中で、わが国の金融機関が健全な金融機関として発展していくには、企業に適切なソリューションを提供できているか、そのための条件をどう作っているか、が問われる時代になってきたと思う。預貸に頼るビジネスモデルは完全に成り立たなくなっており、金融機関は企業に本当のソリューションを提供しないと生きていけない時代になってきている。そのためには、多くの金融機関で、相当な痛みを伴う経営改革・構造改革が必要となる。行政としては、そうした厳しい時代の到来を見据えて、自立的に優秀な金融業が育つ環境を、各種法制にまで含めて、整えていくことが重要なのではないか。金融庁側の問題提起は時宜を得ていると思う。

  • 金融庁として、金融業としての最低基準を充足させるための規制や処分は引続きやらなければならない。他方で、金融機関育成にかかる対話を進めていくためには、金融庁の体制も考えたほうが良いのではないか。金融機関が育つ環境を整えるセクションを規制や処分を行なうセクションと別にすると円滑に進むのではないか。

  • 金融行政において付加的・究極的目標を追求する時期に来ているというのはそのとおりと思う。アベノミクスを金融面から促進する政府の施策の1つとして内外にきちんと説明していくことが必要ではないか。また、付加的・究極的目標を追求するうえでは、金融政策・金融市場の動きと、金融規制・監督、金融機関の経営が一緒の方向に動いて三位一体として機能しているか、常に考える必要があるのではないか。

  • 一方で、わが国の金融慣行にも見直しが必要ではないか。1つは、企業の新陳代謝の促進。わが国では、銀行が、本来は持続困難な企業の存続に役割を果たしてしまっており、結局その産業の競争状況を悪化させることが多い。もう1つは、銀行では、総合採算方式をとっている結果、追加的収益が別途確保できるということで、例えば、貸出金利は社債金利対比であまりにも低い、市場から乖離した金利となっている。このため、グローバルな投資家はわが国のシンジケート・ローン市場に入ってこられない。海外のファンド、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ等の投資家にも日本でもっと活躍してもらい、債券市場の拡大やインベストメント・チェーンの拡充に貢献してもらう必要がある。

  • 低金利環境の継続により金融機関経営は非常に厳しい。そういう中で収益の拡大を図ろうとすると、過去のデリバティブ内包型貸出や投信の販売のように無理のあるプッシュ型のセールスが生じてしまう。短期的な収益の観点でなく、顧客側の利便を実現していくには、金融機関内部の業績評価・人事評価基準・表彰制度などの経営手法にどのように働きかけていくかが非常に重要である。

  • 日本の金融界は、大きいことは良いことだというメンタリティーを未だに持っている。量から質への転換をしっかり進めることが重要。

  • 金融検査マニュアルをどう使っていくのか、あるいは卒業するのであればどう卒業するのかしっかりと整理することが必要。評定制度についても、一度整理する必要があるのではないか。

  • 竹中大臣時代には、不良債権問題への対応だけでなくリレバンを打ち出した。リレバン自体は現在でも推進すべきと思うが、リレバンがなかなか期待どおりの形にならなかったのはなぜか、新しい行政ツールを開発するうえで検証しておく必要があるのではないか。

  • これまでのわが国の金融行政手法の多くは海外の手法の輸入だった。今回の金融機関がきちんとビジネスができる環境の整備のための取り組みについては、日本から海外に発信していくことが大事ではないか。

  • これまでも金融行政の理念の議論は行われてきたが、それを実現するツールに係る議論は乏しかった。今回はツールを見つけ出すということなのでしっかり議論したい。

  • フィリピンの送金業、シンガポールの中国本土・インドとの取引の盛り上がり、中国のフィンテックなど、アジアの金融機関はダイナミックに動いている。日本の金融機関もアジアの中で存在感を示していく必要がある。

  • 日本は銀行業のシェアが高過ぎてリスク分野への資金の配分が上手くできていない。投信など資本市場経由で配分される資金を増やしていくことが重要。そのためには、金融機関が顧客のニーズに合った金融商品を販売し、顧客の資産形成の拡大を図り、これを通じて金融機関も収益を増やしていく、という姿を目指す必要がある。

  • 日本の金融業のコストは随分高い。これをどう引き下げていくかという視点も重要だと思う。

    金融経済教育も非常に重要。リスク商品と安全資産の違いや投資家の自己責任といった話は、金融機関の窓口で説明する以前に、小・中学校で教えるべきではないか。

  • 「実質」、「未来」、「全体」への転換を進める上でポイントとなるのは、「資本の有効活用」と「顧客からのプレッシャー」である。目指すべき金融の姿を実現するには、適正なリスクテイクが必要だが、多くの金融機関の経営会議等では「いかなるリスクをどれだけ取っていくか。そのために資本はいくら必要か」という議論を十分行っていない。「顧客からのプレッシャー」については、従来の健全性や持続と成長の観点だけではなく、目指すべき金融の姿を実現に向けていかなる取り組みをしているかの情報開示により、顧客が金融機関を選択できるようにすることが重要となる。金融行政は表彰制度によりこの流れを加速するし、顧客に金融機関を見極める眼力を付けさせるための教育プログラムも考える必要がある。

  • 金融検査マニュアルは、危機時の枠組み。その後、時代に合わせた修正はあるが、パッチワークの対応には限界があり、平時に金融の活力を引き出すうえでは、新しい枠組みを作る必要があるのではないか。

  • 中小企業、あるいはサービス業の低生産性が日本全体の成長力の足を引っ張っている。わが国では、効率的な資源配分による生産性の向上がこれまで以上に重要となっているが、資金配分を担う金融が、企業の新陳代謝を促す本来の役割を果たさず、持続が難しい企業を生き長らえさせている。現在の査定基準も、銀行の再生支援や処理を遅らせ、新陳代謝を鈍らせる一因となっている可能性がある。

  • 検査・監督の見直しの3つの柱、「実質」、「未来」、「全体」は、全くそのとおりで、平時のプルーデンス政策はまさにこういうものではないか。金融サービスの実質の改善を図るには、第1に、ルールとリスクの実態とが乖離しないようにすること、第2に、細かく規範的になり過ぎたルールによって自由度を奪わないことが重要。

  • 例えば、自己査定基準の信用リスクの実態との乖離は、担保偏重や再生処理の遅れを生じさせている。引当ルールを信用リスクの実態に合わせ、将来キャッシュフローを織り込んだ経済価値を反映していけば、銀行は常に再生策をイメージすることとなり、新陳代謝の促進、生産性の向上にも寄与するのではないか。

  • また、金融検査マニュアルは、いいこともたくさん書いてあるが細か過ぎるため、金融機関の創意工夫の余地を奪い、思考停止を招き、リスク管理のマニュアル化をもたらしている。新たなリスクは思ってもみないところから現れてくるので、これでは不測のリスクに対応できず、新たなリスクへの挑戦も難しい。

  • そもそも検査・監督は、規制とは違い、画一的でなく機動性が高いところにメリットがあり、マニュアルベースではなく、柔軟に規制を補完する役割に変えていったほうがよいのではないか。例えば、プリンシプルとかコードをその背後にある考え方とあわせて示すといった形で目線の提示を柔軟なものにし、金融機関の自主性と創意工夫を尊重するとともに、自己責任を追求する方向にしていくのがよいのではないか。

  • 欧米流の当局マクロストレステストに基づく資本賦課や配当制限といったアプローチはあまり機能しておらず、弊害も多い。カウンターシクリカルバッファーやレバレッジ規制なども弊害を指摘する声が日に日に強まっている。細かく恣意的な規制の積み上げは、レギュラトリー・アービトラージやハーディングを招くだけで、かえって金融システムを不安定化させてしまうのではないか。また、欧米流のやり方は、金融機関の反応、インセンティブを勘案しない点でも問題があり、わが国では、金融機関のリスク管理能力を生かしていく必要がある。こうした観点から、規制と監督のバランスをとって、動的な監督の充実を目指す金融庁の方向感は非常に正しい。

  • フォーワードルッキングな対話では、過度にパターナリスティックに介入しないことも大事ではないか。当局の役割は、金融機関がリスク管理を充実させる環境の整備、金融機関のリスク管理の弱点の補完である。金融機関が自らのリスク管理により将来に備えることが、プロシクリカリティの抑制やテールリスクの管理等の金融システムの安定、あるいは成長の前提であるリスクへの挑戦につながる。

  • 顧客側から長年銀行を見てきたが、現場の銀行員がマニュアル主義によりどんどんレベルダウンしている。金融機関は金融検査マニュアルに基づいて自行のマニュアルをつくっており、根本には金融検査マニュアルがある。営業の現場、融資の現場では、金融検査マニュアルの根本思想は完全に置き去りにされて、チェックリストだけが適用されている。

  • 銀行は、顧客から当てにされないか、嫌われるかの何れかとなってしまっている。その理由は単純ではないが、一つには、金融機関の報酬体系、人事制度が短期的な収益を評価するものとなっているため、現場は、デリバティブ、シンジケート・ローン、あるいはM&Aの押し売りをやるしかなくなっていることがある。報酬体系、人事制度の評価基準を変えない限り、銀行は顧客から嫌われる構造から脱せない。銀行が顧客にとって本当に価値のある組織になっているか、根っこから問い直す必要がある。また、そのためには金融庁自身も大きく変わる必要があるのではないか。

以上

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金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総務企画局政策課

(内線2561、2570)

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