「気候変動リスク・機会の評価等に向けたシナリオ・データ関係機関懇談会」(第2回)議事要旨

1.開催日時及び場所
日時: 令和5年2月3日(金曜日)13時00分~15時00分

場所: 中央合同庁舎7号館 9階 905B会議室 及び オンライン

2.出席者
民間企業(敬称略・五十音順)
天沼 弘光  明治ホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 サプライチェーングループ グループ長
大金 義明  東京海上ホールディングス株式会社 リスク管理部 グローバルリスク管理グループ マネージャー
木部 翔平  日本生命保険相互会社 リスク管理統括部 運用リスク管理室 担当課長
古賀 喜郎  東急不動産ホールディングス株式会社 グループサステナビリティ推進部 企画推進室 室長
谷 賢治    株式会社三菱UFJ銀行 融資企画部 調査役
中井 義雄  農林中央金庫 統合リスク管理部 部長代理
深谷 哲也  株式会社栃木銀行 リスク統括部 副調査役
藤本 泰介  株式会社横浜銀行 リスク管理部 ビジネスリーダー
三木 誠    株式会社日本取引所グループ サステナビリティ推進本部 事務局長
矢野 順一  東日本旅客鉄道株式会社 グループ経営戦略本部 経営企画部門 ESG・政策調査ユニット マネージャー
 

関係省庁等
金融庁
文部科学省
経済産業省
国土交通省
環境省
土木研究所
国立環境研究所
日本銀行

3.議事
【議題1】参加機関・企業の取組について
●日本銀行、全国地方銀行協会、JR 東日本から、資料2~4に沿って、気候変動リスク評価における現在の取組・課題・要望について説明した。

【議題2】意見交換

●日本銀行、全国地方銀行協会、JR 東日本からの発表を受けて、質疑・意見交換を行った。

●出席者からの主な質疑・意見は以下のとおり。

(日本銀行の取組について)
  • 3メガバンクと大手3損保と共同でシナリオ分析をされたが、次のステップとしてどういったことを検討されているか。
    ⇒今回の試行的取組において特定された課題への対応を検討している。例えば、統合評価モデルを我々自身が経済分析の観点から見たときにユーザーとしてちゃんと理解する等をフォローする形で第2回を実施する予定で関係者と議論を重ねている。
  • シナリオ分析において、他国で先進的な分析しているところがあれば、事例も併せて教えてほしい。
    ⇒アクションを促していくためのツールなので、精緻な分析を実施することは目的ではないと考えている。もっとも、先行する欧州系(フランス中銀やECB、BOE)の取組みには注目をしている。
  • 土地利用のゾーニングの関係で文科省や環境省のデータが有用なのではと仰って頂いたが、実際に既存のデータの中でどういったデータが有用であるとか、今後どういった種類や精度のデータがあると更に有用であるか、教えてほしい。
    ⇒風力・太陽光ともに設置場所の選定にあたり、現時点の水害被害に関する高解像度の予測データに加え、将来水害の発生の蓋然性やその規模がわかるデータがあると、より蓋然性の高い分析が出来ると思う。
  • 気温が上昇して太陽光パネルの効率が下がるなどの要素も予測できると、プロジェクトとしての有効性や収益性の評価に役立つと思うが、将来予測の情報を活用頂けるようなポテンシャルはあるのか。
    ⇒再生可能エネルギーの普及の見通しを巡っては、設置コストと発電効率という2つの要素の推移(成長曲線)が、再生可能エネルギーの普及のペースを見通すうえで鍵となる変数。一方、個別プロジェクトの採算性や関連融資のリスク評価において、海外のデータを参照するだけでなく、わが国固有の事情を反映していくことは、将来的な課題として重要。
  • 現状の物理的リスクの評価は、洪水による河川氾濫を対象に浸水リスクを評価されている。物理的リスクとして、他にも海面上昇による浸水リスクも考えられ、これらを加味してリスク評価を行うと、気候変動の影響による被害額は増大することが想定される。今後検討を深堀するという観点から洪水以外の物理的リスクの評価も行う予定はあるか。
    ⇒今回の試行的分析の対象は、基本的には風水害がメインである。IPCCの報告書やIPCCの報告書に準拠する形で実施している欧州のシナリオ分析を見ると、山火事、海面上昇、旱魃、洪水を分析している。山火事と旱魃については、関連報告書等を見ても、わが国の場合、マクロ経済への影響は水害比大幅に小さいとみられる。一方で、海面上昇について、その影響を見極めるために更なる分析が必要かもしれない。もっとも、全体としてみれば、国際的に見て日本は、自然災害そのものは多いが、自然災害に対するレジリエンスは相対的に高いといえると考えている。
  • 世界的にみて日本は被害が多いと思われていると思うが、他国も同様に、今回日本銀行様がやって頂いたような分析をして、国家全体に対する・金融に対する気候変動の影響を出して頂けると、実は日本はそこまで影響は大きくないということが分かるという意味でも活用が出来ると思う。
  • 物理的リスク分析のシナリオ2つについて、どう使っているのか。
    ⇒NGFSが提供している物理的リスクのデータが、わが国で各省庁が作成しているデータと比べると非常に解像度が粗いため、事実上、気温シナリオだけをもとにわが国のデータを用いてそれぞれの地域の洪水発生のシミュレーションを行っている。

(全国地方銀行協会の取組について)
  • 顧客との間でどのくらいTCFDに関する話題があるのか、現場感を教えてほしい。
    ⇒横浜銀行で聞く範囲では、TCFDというワードはあまり聞かない。どちらかというと脱炭素化やスコープ1,2,3の話が出ている。そこをどうお客様に浸透させていくかについて、営業部隊では話している。
  • 現場では移行リスクと物理的リスクのどちらに興味があるのか教えてほしい。
    ⇒移行リスク、物理的リスクのワードも先に述べた通りあまり聞かないが、移行リスクの方が、関心が高いと聞いている。横浜銀行のお客様は中小企業のお客様が圧倒的に多いので、TCFDの情報が入ってこないが、一方で受注元、自動車業界でいうとOEMメーカーから、GHGの排出量を削減せよという指示がTier1まで、もう少しでTier2まで話が下りてきていると聞いている。そういった中で、GHGとは何かという話やそれを削減するためにどうしていくかといった、移行リスクに備えていくためにはどうしていくかという話が出始めている。
  • 物理的リスクの分析結果で30億から70億円の与信関係費用がかかると算出されたが、貴グループとしてのインパクトはどの程度かお聞きしたい。
    ⇒私個人としてはかなり少ないと感じた。もっと大きくなると思っていた。しかし、あくまで、銀行の与信関係費用なので、お客様が被る被害はもっと大きくなる。ただし、その被害を被ったとしてもお客様の財務内容にそこまで影響を及ぼさない、もしくは、回復の余地がある場合、銀行としては与信費用をあまり積まない。そのため、このような数値になっていて、個人的には少ないと感じたが、算出方法を考えるとそういうことが影響しているのかと感じた。インパクトとしては少ないという感じである。これが正しいという根拠はないので、他行を見ながら同じような感覚なのだなと1回目は腹落ちした。
  • TCFDだとか物理的リスク、移行リスクというと中小企業はとっつきにくいという話があったので、物理的リスクについては、水害リスク対応と言ったり、移行リスクについては、脱炭素のキーワードであったり、別の言い方を用いてとっつきやすくするような取り組みも大事であると感じた。
  • 分析手法の整備に関するコメントについては、環境省でも来年度予算で関連する予算を確保しているので、皆様とも連携させて頂ければと思っている。
  • 気候変動のシナリオとなる温度上昇としては、世界的には1.5℃や2℃上昇が主流になってきていると感じており、4℃上昇まで想定しないという風潮も見られる。一方、洪水による浸水リスクの評価としては、4℃上昇までの評価を行っておけば、最大のリスクを見積もることができる。4℃上昇は降水量データの利用も可能となってきていることから、最大のリスクとして4℃上昇を対象に評価を行っておくということも、現実的とも思えるが、その点どのようにお考えか。
    ⇒個人的な見解だが、4℃をまずやればいいと思う。中堅・中小企業において、色々なシナリオに基づいて分析をするのは、かなりの労力である。あれもやれこれもやれというのは厳しい。まずは、4℃をやろうとか、移行リスクであればまずは1.5℃なのか2℃をやって、そのうえで、余裕が出てきた場合にはバリュエーションを増やす方が良い。パラメータはこれを使うとか、ある程度指定してもらえると実務者はやりやすい。またそれが出揃ったときに他社が同じような手法で算出したものであれば、比較しやすい。
  • 被害(影響)総額が事前の想定よりかなり小さいのは、わが国の試行的取組、海外の結果についても言える。30~50年といった期間において、一定のスケジュールに則って着実に対応していく場合、影響はかなり小さいと理解している。ただしそれが、評価すべきリスクであるとは限らないので、シナリオ設計の段階から再度検討しているのが現状。

(JR 東日本の取組について)
  • JR 東日本様からご指摘があったハザードマップのより詳細な数値データ等については、作業がリスク情報の開示だけにとどまっている企業にとっては、あまり問題にならず、物理的リスクの評価結果をもとに、リスクを下げる適応策まで検討しようとしているため直面している課題ではないかと感じた。企業がリスク評価にとどまらず、適応策に繋がっているという点では大変良い。
  • ハザードマップは住民の避難活動のために作成・公表したものであり、ある一定の条件のもとに解析し、浸水深については数値でなく住民が浸水の状況を認識しやすいように幅をもった浸水深で示しており、TCFD開示で活用するためには使い勝手が悪いと感じられている点は理解できる。一方、データの公開へのニーズは理解するが、膨大なデータを扱うとコストが発生してしまう。有償となってもデータを入手できる環境整備を行っていった方が良いという指摘と理解して良いか。
    ⇒理想は無償だが、ユーザーは限られ他企業になるとも思うので、有償も選択肢であると思う。何らかの方法で公開を検討頂けると幸いである。
  • 我々が見ているのは企業の財務影響がさらに金融機関の投融資に及ぶという2段階目の影響なので、もう1段川上の話を伺えて勉強になった。
  • また、物理的リスクの研究をしている観点からすると、サプライチェーン全体への影響が、経済全体のサプライチェーンへの影響をどう捕まえるのかというとは、重要であるということが改めて確認できた。
 
―― 了 ―― 
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金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室(内線 2920、2893)

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