企業会計審議会 第40回監査部会議事録

1.日時:平成29年12月19日(火)15時30分~17時30分

2.場所:中央合同庁舎第7号館 13階 金融庁共用第一特別会議室

〇伊豫田部会長  
 定刻まで若干時間がございますが、皆様おそろいのようですので、これより企業会計審議会第40回監査部会を開催いたします。皆様にはご多忙の中ご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

 前回の監査部会におきましては、監査報告書におけるKAMの位置付け、適用範囲・対象、企業による開示との関係についてご議論いただきました。前回、時間の関係でご発言いただけなかった井口委員、大瀧委員、町田委員からご意見を頂戴した後、前回の監査部会の中でご質問がありました事項につきまして、事務局及び日本公認会計士協会から回答をいただきたいと思っております。その後、これまでの審議を踏まえまして、事務局から「監査報告書の透明化」についての主な論点をご説明いただき、皆様から意見を頂戴することにしたいと思います。

 なお、本日の論点につきましては、論点を区切ってご意見を伺っていきたいというふうに思っております。

 それでは、議事に入ります。ただいま申し上げましたように、まずは前回ご出席いただいたにもかかわらず、時間の関係でご発言できなかった委員の方からご意見を頂戴したいと思います。井口委員、どうぞよろしくお願いします。

○井口委員  
 ありがとうございます。発言の機会をいただき、ありがとうございます。前回の議論に関し、3点、意見を述べさせていただければと思っております。1つは会社法監査との関係、2つ目が単体との関係、3つ目が企業による開示との関係の3点でございます。

 最初は、会社法監査との関係でございますが、現状にプラクティスがあるということは理解しておりますが、まず、あるべき論を考えて、そこからプラクティスを適切に修正していくという考え方が必要であると考えております。第1回目の議論でもありましたように、KAMというのが利用者の企業に対する理解を深めるため、あるいは理解するために必要としますと、その情報というのは当然ながら、売買に関する投資判断と、もう一つは議決権行使の判断にも有用であると考えております。また、対話に関しても、株主総会内での議論に活用する、ということもあると思いますが、それだけでなくて、現状限られた時間ではありますが、株主総会前の企業との対話でも活用できるのではないか、と思っております。したがって、利用者から見ると、会社法監査の監査報告書にもKAMが入るというのが自然ではないか、と考えております。

 ちょうど12月4日から1週間、フランスのパリでグローバルの機関投資家団体であるICGNの会合がありまして、そちらの会合の方でも監査報告書が議論になりました。その中にはICGN事務局や海外投資家もいたわけですが、「日本でもKAMが監査報告書に入るというのはすばらしいことである。早期に導入をお願いしたい」ということと、「ただし、KAMが年次報告書に入るのは当然のことであると思うが、会社法の監査報告書に入らず、株主総会の前に見ることができないというのは違うのではないか」というような意見が多く出ました。一部の海外投資家からは、「KAMが入らないということは、この会社法の監査報告書というのは暫定的な監査報告書になるのではないか」というような意見も出ました。ですから、有価証券報告書にKAMが入るというのは、これは当然早期にお願いしたいと思っていますが、会社法の監査報告書の方にKAMが入ることについても排除しないでご議論いただければと思っております。

 あと、ICGNのほうから、海外投資家の意見としてぜひこの部会に意見書を出させていただきたいと、海外投資家を代表してですね、というような依頼がございました。意見募集期間もあると思いますので、そのときか、あるいは別のときか、これは部会長にご一任いたしますがよろしくお願いいたします。

 あと2つ目が、単体との関係でございます。今ほど申し上げましたように、財務諸表利用者にとっての利便性ということからいたしますと、連結の情報が重要でして、連結ベースの監査報告書にKAMが入ってくるというのが一番重要であると思います。ただ、株主還元余力を見るときに、単体の情報も必要になってきますので、単体固有の事情があるときには、単体にもKAMを入れていただくのがよい、と思っております。

 最後、3点目でございますが、企業による開示との関係ということで、特に二重責任のところとなります。グローバルでも、二重責任という言葉があるかどうかは別にして、このようなプラクティスがあるということは認識をしております。ただし、前回の議論でも、たしか、二重責任が外部監査人の監査をやりにくくしているのではないか、というご発言をされている委員の方もいらっしゃったというふうに記憶しておりますが、実際、この責任をあまり強調し過ぎるのは外部監査人のパワーを奪ってしまうのではないか、と利用者からは見えてしまいます。ですから、今日もこの点につきご議論があると思いますが、二重責任が外部監査人のパワーを奪わないような仕組みがあった上で、二重責任は強調されるべきではないか、と思います。そのような仕組みが重要と思っております。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 続きまして、大瀧委員。

〇大瀧委員  
 ありがとうございます。私からは利用者の立場で、井口委員同様にコメントを申し上げます。

 まず、KAMを記載する監査報告書についてですけれども、私は会社法、金商法という区分を本来すべきではないと考えます。法令によって開示される決算書類は異なりますけれども、財務数値は年度を通じて生成されますし、会計監査も年度を通じて実施されます。KAMの記載によって会計監査の透明化が図られ、株主の会計監査に関する理解や対話の促進が期待されることを鑑みれば、どちらか一方に記載すればよいということではないと考えます。また、これは単体決算の監査報告書も同様であると考えます。単体上場会社や単体固有の論点があることを踏まえれば、連結決算だけでよいということにはならないと考えます。

 次に、KAMの記載を充実させ、その実効性を担保するには、KAMに関する株主との対話の機会を適切に確保することが重要であると考えます。KAMを監査報告書に記載することがゴールではなく、記載されたKAMによって会計監査を取り巻く関係者のコミュニケーションが活性化し、監査品質の向上につなげていくことが重要であると考えます。株主は、KAMや会計監査に関する開示を確認して、ガバナンスの有効性評価の観点から意見を発信していく。企業は適切に意見を聞き、対応していく。そうした土壌を醸成していくことが必要であると考えます。株主が会計監査に積極的に関与し、牽制を働かせることで、株主の会計・監査に関するリテラシー、企業のアカウンタビリティーや監査法人の品質向上に対する意識が高まり、KAMの記載の充実が進んでいくものと思われます。逆にそのようなよいサイクルが回らないと、ボイラープレート化するおそれがあると思います。

 株主は、これまで何か問題があったときだけ会計監査に注目していたわけですけれども、今後は長期的な視点でガバナンス評価の1つとして会計監査にもっと目を向けていくべきではないかと考えております。個人を含めた株主が意見発信できる機会は、株主総会であります。そのため、株主総会前にKAMが提供されることが重要であると考えます。しかし、適用に向けて実務上の課題があることも指摘されております。そのため、対象企業は社会的影響の大きい有価証券報告書提出会社にすること、そして段階的に金商法の監査報告書から適用していく方法も考えられると思います。なおその場合であっても、有価証券報告書の総会前提出を促進する制度的な後押しですとか、しかるべき時期に、会社法監査報告書にKAMを導入するような制度設計をお願いしたいと考えております。

 次に、開示とKAMの関係ですけれども、我々基本的に二重責任を超えた一次情報の提供を求めているわけではございません。そのため、KAMに関連する事項につきましては、企業が経理の状況の中で、財務情報として適切に開示していくことが前提になると考えます。しかし、万が一意見が対立するような状況においては、開示を超えたケースの取り扱いについても、投資家保護の観点から制度として整備をしていただきたいと考えております。

 最後になりますけれども、今日の議題にもなるかと思いますが、利用者は最初から完璧な制度運用は求めておりません。それよりも、まずは国際的な比較可能性の観点から、国際的な流れに遅れをとることなく制度化をしていただきたいと思っております。その過程で、段階的に進めていくことも必要かもしれません。ただ、制度設計については、KAMの実効性確保の観点から、例外的な事項も含め、適切に整備をお願いしたいと考えております。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 続きまして町田委員、どうぞよろしくお願いします。

○町田委員  
 ありがとうございます。前回からだいぶ経っているので、あのとき何を話したかったのか、記憶が定かではないんですが、今思い起こしながら、前回のテーマに関して4つほど申し上げたいと思います。

 1つは、前回の部会では、公認会計士協会から、多大なご尽力をいただいて作成していただいたKAMの試行の結果をお見せいただきました。我々は、その資料を拝見して、KAMが制度化されると、ああ、こういうものが出てくるのかという認識を得たわけです。ただ、同時に私は、試行の結果は、あくまでも終わった監査について後から行ったものなので、おそらくは実際にやっていく中であれば、もっとさらに充実した、「心を込めて書かれた」監査報告が出てくるんだろうと受け止めておりますし、何よりも、KAMの場合は、継続的に実施していく中で、毎年、去年と違う内容をどう書くのかということが問題になってくるんだろうと思っておりますので、継続的に行われていくようになれば、また違う問題があるんだろうと考えた次第です。

 それから2点目は、先ほどからご発言のあった二重責任の観点です。確かに二重責任の原則というのは大事な問題だと思いますが、ただ、それはあくまでも、監査人は、経営者が責任をもって行う財務諸表の作成、開示にかかわってはいけない、それを行っては自己監査に陥ってしまうから、という問題なのであって、監査人自らが何も情報提供をしてはいけないという、そういう制約ではないと理解をしているところです。もっと言えば、二重責任という言葉は、日本では明確な用語となっていますが、グローバルには必ずしも定式化された概念があるわけではないということも申し上げておきたいと思います。

 3点目は、適用の対象の話です。先ほどからお二人の委員は、大会社も適用すべきだ、会社法でも行うべきだ、ということを言っておられます。私もそう思います。前回の論点整理にも書かれていたように、株主総会に出席する株主への情報提供という観点でも、KAMは重要な情報を含んでいるんだろうと思います。ただ、逆の見方をすると、違う対応の仕方もあるのではないかなと思います。どういうことかと言えば、KAMというのは基本的に適正意見に対する説明として行われるわけです。現在の事業報告の内容は、注記も含めて非常に内容が薄いと私は思っておりますので、そういったものと比べたときに、監査報告書のKAMだけが充実していくというのはいかがなものかという観点もあると思います。であれば、大会社の会計監査人の監査意見の表明は、適正意見をやめて準拠性意見に変えればいいのではないか、と。国際基準でも、準拠性意見にはKAMが求められるわけではありませんから、そういう方向を会社法サイドで考えるのであれば、KAMを書かないという監査報告を、会計監査人の監査報告書で考えていただいてもいいのではないかとさえ思います。

 ただし、KAMの議論というのは、第38回の部会でも申し上げたように、監査役等とのコミュニケーションの拡充が最も重要なプロセスの1つです。現行の企業会計審議会で扱っている「監査基準」の一番弱いところの1つは、監査役等とのコミュニケーションのところが十分に書かれていない点にあると私は考えています。不正リスク対応基準のときに、初めて、「監査役等との協議」という規定が明示的に規定されましたが、それぐらいです。この問題、いわゆる国際監査基準の260のところがどういう形で位置付けられるのかによっては、当然、大会社における会計監査人の監査報告書にも、このKAMは記載されることになっていくんだろうと考えます。

 最後4点目ですが、今日の論点にも少しありますけれども、リスク情報の話、つまり企業側が出したくない情報を監査人がKAMとして記載することについてどうなのかという話です。これは見方を変えると、今の日本のリスク情報の開示が、会社法の事業報告だけではなくて、有価証券報告書の定性的な情報開示のところも含めて、リスク情報の開示が全般的に不十分なのではないかと思われます。つまり、企業がもっとリスク情報をしっかり書いていれば、監査人がKAMで書くことについてびくびくすることはないような問題なのではないかなと思っています。

 ですから、第38回のときに、岡田委員からご指摘があったと思いますけれども、IFRSであれば当然書いているような情報が、日本基準を適用する企業の有価証券報告書に書かれてないのだとすれば、そうした情報がKAMで記載されるようになってしまうとあたふたするようなことのないように、有価証券報告書のリスク情報の開示を充実させることが必要なのではないかと思います。現在、金融庁では、ディスクロージャーワーキング・グループが開催されて、MD&A等の定性的開示の問題が検討されているそうですけれども、そうした開示をきちんと充実させていただいて、KAMを記載する監査報告書が基準化されたとしても、それで企業側、本来のリスク情報の作成・開示を行う責任のある経営者が、あたふたしないように、有価証券報告書の定性的情報におけるリスク情報の開示規制の整備をしていただきたいというふうに考えております。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。

 続きまして、前回、今給黎委員よりいただきました国際監査基準をそのまま日本で適用することが制度的に可能かどうか、監査人によるKAMの記載を任意適用としている国があるのかどうか。また、今給黎委員及び小畑委員よりいただきました、KAMの記載は中間監査及び四半期レビューは対象となるのかとのご質問につきまして、事務局より回答いただければと思います。よろしくお願いします。

○田原企業開示課長  
 先日、今給黎委員から3点ご質問を頂戴しました。最後の点は小畑委員からも頂戴したと記憶しております。1点目の、国際監査基準をそのまま日本で適用することが制度的に可能か、ということでございますが、ご承知のように日本におきましては、財務諸表監査の実施に当たりまして、公認会計士等は一般に公正妥当と認められる監査に関する基準に準拠するということにされておりまして、この基準につきましては、監査基準、中間監査基準、監査に関する品質管理基準、四半期レビュー基準、監査における不正リスク対応基準ということにされておりますので、国際監査基準をそのまま適用するという形はとられていないということでございます。国際的にも、一般的には国際監査基準そのものを適用するのではなく、各国の監査基準に国際監査基準の内容を取り込んだ上で適用しているものだと承知をいたしております。

 2点目の、監査人によるKAMの記載を任意適用としている国があるのかというご質問でございますが、現時点では、カナダにおいて、2018年12月15日以降終了する事業年度から、KAMの任意での記載が可能とされているというふうに承知をしております。これは今年5月に公表されたものであります。ただ、これはカナダの特殊事情がございまして、米国証券市場に二重上場している企業が多いということで、米国で透明化の方針が固まる前に強制すると混乱を招く可能性があるということで、任意適用とされているという特殊な事例だと承知をしております。米国でも、先日ご紹介いたしましたように、透明化の方針が固まりましたので、カナダでも今後、基準の見直しが行われる可能性があると承知をしております。

 それから、最後のご質問、KAMの記載は中間監査、四半期レビューは対象になるのかということでございますけれども、国際監査基準におきましては、年度の財務諸表監査が対象とされていると承知をしております。我が国の対応につきましては、今後ご議論を頂戴できればというふうに考えているところでございます。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。

 続きまして、今給黎委員よりいただきました、日本公認会計士協会が実施したKAMの記載の試行例につきまして、センシティブな情報が記載されているものがあるが、なぜそのような記載を企業が了承したのか。ITについて記載をされている例については、財務諸表に影響ないと思われるが、なぜそのような記載になったのかとのご質問につきまして、日本公認会計士協会よりご回答いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○住田委員  
 それでは、1つ目の、なぜセンシティブな情報を試行において書くことを会社側が了承したのかという背景ですが、まず本当にセンシティブな情報は少なかったということが挙げられるのではないかと思います。前回、KAMの例を6つほど示させていただきましたけれども、ご覧いただいたとおり、センシティブだと思われる情報はかなり少なかったと、私どもが見たときにも思いました。会計基準の当てはめの背景ですとか、そういうものはIFRSでは既に開示されておりますので、よく考えるとそれほどセンシティブではないとか、あるいは業界では常識的なことということで、そういう観点から見ますと、必ずしもセンシティブではないということがあったと考えられます。

 それから、我々の目から見ましてもセンシティブと思った例として、6つ目の例を示させていただきました。海外子会社で関税等の虚偽の申告の指摘を当局から受けたという事例があったかと思います。金額のところを伏せていたので、ちょっと説明が足りなかったと思いますが、実は金額が小さく、重要性が低い金額であったということで、ネイチャーとしてはセンシティブではあったとしても、金額的影響が少ないということで、多分会社側もそれほど神経質にならなかったのかなと思います。

 それから、2番目の理由としては、トライアルであるということがやはり大きかったのではないかと思います。会社側の開示に試行の結果は何ら影響しませんし、また、監査人が監査人の判断において書くということについては、制度化されたらそれに従うというような認識が背景にあったのではないかと思います。

 それから、2つ目のITに関する事項がKAMとして1社挙げられていた背景ですけれども、この会社は、ITに業務が非常に大きく依存しておりまして、監査人は監査においてITのかかわる部分に大きな時間を割いているということが背景にあろうかと思います。KAMは、監査人が当期の監査において最も重要であると判断した事項ということですので、必ずしも財務数値に直接的に影響がある事象ということではないにしても、会計記録の作成過程に監査人が多大な時間をかけているため、このチームはKAMに該当するというふうに判断したということと思います。

 前回、監査チームに対するアンケートの中で苦労した点として挙げていた中に、ITについて議論したけれども、KAMとしては捉えなかったというコメントを紹介させていただいたかと思います。その会社は多分ITに高度に依存している業種ではなかったということかもしれません。その辺は、監査人が、個々の状況に照らしてその期その期で判断していくということになろうかと思います。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。

 次に、事務局より、本日ご議論いただきます「監査報告書の透明化」についての主な論点の説明をお願いいたします。

○田原企業開示課長  
 それでは、お手元の資料1に従いまして、本日ご議論いただきたい点につきましてご説明をさせていただければと思います。本日、4つ挙げさせていただいておりますが、このうち主に前3点についてご議論いただければと存じます。

 まず1つ目ですけれども、無限定適正意見以外のKAMの記載ということですが、監査上の主要な事項(KAM)につきましては、監査人が会計監査の過程で特に着目した会計監査上のリスク等と位置付けられると考えられるわけでございます。

 無限定適正意見以外の場合、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明の場合ですけれども、当該意見に至った理由などにつきましては根拠区分を設けて記載することとされているわけでございます。したがいまして、根拠区分に適切に理由等が記載されていることを前提とすれば、当該理由等をKAMとして重複して記載する必要はないというふうに指摘があるんじゃないかと存じますが、これについてどう考えられるかということ。また、こういった根拠区分に記載された事項以外にKAMとして記載すべき事項があるというふうに監査人の方が判断されたときに、KAMとして記載する必要があるという指摘もあるかというふうに思うのですが、この点についてどう考えるかということでございます。

 ちなみに意見不表明の場合につきまして、国際監査基準ではKAMの記載が禁止されているということでございますが、米国監査基準ではKAMの記載を要しないという書き方がされているわけでございまして、こういった点についてもどう考えるか、ご意見を頂戴できればと存じます。国際監査基準、米国監査基準での内容につきましては、参考のほうにも記載をさせていただいております。

 1ページおめくりいただきまして、本日の2点目、通しで5番ですけれども、経営者・監査役等・監査人の対応等ということについてもご議論を頂戴できればと存じます。現在ご議論いただいております透明化が、その期待される意義・効果を発揮するという上では、経営者・監査役等、それから監査人といった関係者の方々がその趣旨をご理解いただいて、会計監査に関する情報が利用者に適切に伝わるような運用を図っていくということが重要だというご指摘を頂戴いたしました。こういった指摘を踏まえまして、以下のような点についてどう考えるか、ご議論いただければと存じます。

 まず、経営者・監査役の方々の対応ですけれども、先ほども少しご指摘いただきましたが、企業による開示等の調整という論点があろうかと存じます。監査人の方がKAMに記載しようという事項につきまして、企業のほうで情報開示していない場合、前回のご議論では監査人から追加の開示を促すことが考えられるというご指摘を頂戴いたしました。この場合、経営者の方は当該事項を開示することが求められるということでございますけれども、企業側では開示できないセンシティブな情報があるという指摘もあったわけでございます。先ほども少しお話がありましたけれども、では具体的にどういうものが開示できないセンシティブな情報であると考えられるかについて、ご意見を頂戴できればと存じます。

 また、これも先ほど少しお話がありましたけれども、監査人の方がKAMとして選定した事項について、開示できない情報だと経営者の方が考えられたときに、経営者、それから監査人の方はどういう対応をとることが求められるかについてもご意見を頂戴できればと存じます。

 この点につきまして、国際監査基準では、以下のような書き方をされておりまして、「KAMと決定された事項について、監査報告書において記載されない場合は極めてまれである。これは利用者に対して、監査に関するより高い透明性が提供されることは、公共の利益に資すると推定されるためである。したがって、KAMを記載しないという判断は、記載の結果、企業または社会にもたらされる不利益が、KAMの記載によりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれるほど、重要である場合にのみ適切である」とされているところでございます。

 それから、2つ目の丸ですが、監査人の方が、KAMの記載に関連して企業に追加の開示を促す際の話ですが、監査役の方の役割ということについても、前回ご指摘を頂戴いたしました。この点についてどう考えるかについても、ご意見を頂戴できればと存じます。

 それから、2でございますが、監査役の方々の監査報告における対応ということでございまして、監査役の方々と監査人の間の双方向のコミュニケーションについての透明性を向上させる重要性というのがあると思いますが、こういった観点から、監査役の方々が監査人からの報告にどのように対応したか、監査役等の監査報告に記載すべきというご指摘を頂戴いたしました。

 この点も含めまして、監査人の方からの報告・指摘に関する監査役の方々の対応についての透明性を高めていくということ、またその方法についてどう考えるかについてもご指摘を頂戴できればと存じます。

 (2)でございますけれども、監査人の対応等というふうに書かせていただいておりますが、先日来、監査のプロセスにつきましてもお話をいろいろいただきまして、この4つのプロセスに沿って、一般的には会計監査が行われるというふうに理解しております。まず、1.リスク・アプローチに基づく監査計画の策定段階から、KAMに該当する可能性の高い事項について、監査人の方と経営者、監査役の方々とのコミュニケーションを行うとともに、2.監査期間を通じまして、経営者・監査役の方々と監査人の方々の間で継続的に認識の共有が図られた上で、3.期末に経営者・監査役の方々と監査人の方々の間で、監査結果についての報告を行い、4.その上で、KAMが記載ということになろうかと存じます。

 この1~3につきましては、仮にKAMの記載が導入されたとしても、これまでの監査手続を大きく変更するものではないのではないかというようなご指摘も頂戴したと思います。そういう考え方でいいのかどうかということについて、ご指摘いただければと存じます。また、4を行う際に、監査人の方がどういう注意を払うべきかということについても、ご意見というかご指摘があったと思います。この点についても、本日ご議論を頂戴できればと存じます。

 本日、3つ目の論点の6.KAMの記載以外の監査報告書の記載等の見直しということで、こちらにつきましては、KAM直接の論点ではないわけですが、国際監査基準におきまして、監査報告書の記載内容の明瞭化や充実を図ることなどを目的としまして、KAMの記載以外にも、以下のような監査報告書の記載等の改定が行われているということでございます。詳細につきましては、別紙に書かれておりますが、以下の3点について、ご議論を頂戴できればと存じます。

 1つ目が、ISA700の改訂に伴う変更でございますが、監査報告書の記載順序の変更ということでございまして、従来は報告書の後半部分に記載されております監査意見を、冒頭に記載するという変更がされております。それから、経営者の方々の責任に関する記載というのが従前あったわけでございますけれども、ここに統治責任者の責任に関する記載も追加するということでございます。それから、3つ目といたしまして、監査人の責任に関する記載に独立性その他の職業倫理に関する事項の遵守についての記載を追加するという、これが1つ目の点でございます。

 それから、2つ目は、ISA570と700の変更に伴って、継続企業の前提に関する事項に変更がなされたということでございまして、こちらにつきましては、継続企業の前提に重要な不確実性がある場合に、独立した区分を設けて記載をするということになったということでございます。従来は追記情報の中で強調事項の1つとして、この継続企業の前提に重要な不確実性がある場合の記載がなされたということでございます。それから、監査報告書に継続企業の前提の評価、それから開示についての経営者の責任に関する記載、それから監査人の対応に関する記載を追加するということにされたほか、継続企業の前提についての重要な疑義がある場合の企業の開示の適切性についての検討を監査人に要求しているということでございます。

 1ページおめくりいただきまして、3つ目でございますが、その他の記載内容ということでございまして、これはISA720で導入されたということでございます。その他の記載内容というのは、いわゆる財務諸表とそれに関する監査報告書以外の財務情報と非財務情報についての記載ということでございますけれども、これにつきまして、経営者・統治者の責任や重要な虚偽記載があるかどうかについて独立した区分を設けて常に記載をするというような変更がなされたということでございまして、この点については、従前は開示情報の中で、財務情報とか非財務情報について、財務諸表と重要な相違がある場合のみ追記情報として記載していたわけでございますが、そういった形からこういった形に取組みを変えるというような変更がなされたということでございます。

 この監査報告書につきましては、米国監査基準でも改訂が行われておりまして、参考として書かせていただいておりますが、今、3つのまとまりで申し上げた最初のものに近いのが最初の3点でございますが、監査意見を監査報告書の冒頭に記載する、それから、監査報告書の宛て先を株主及び取締役会等とする、それから、監査人が企業から独立した立場である旨の記載を追加すると、こういったような変更も米国監査基準においても行われているということでございます。また、米国監査基準におきましては、監査人の在任期間に関する記載の追加もされているということでございまして、こういった国際的な動向も踏まえまして、これらの国際監査基準や米国監査基準の変更を我が国でどういうふうに捉えて、日本における基準をどういうふうに考えていくかということについてもご議論を頂戴できればと存じます。

 今申し述べました点につきまして、お手元に、別紙という形で横紙をお配りさせていただいておりますので、そちらもご参照いただければと存じます。

 それから、最後の適用時期でございますが、これはこれまでいただきました議論、それから、本日4から6について頂戴しますご議論を踏まえてということでございますが、日本におけるKAMの適用時期をいつから適用するか、それから、今申し上げたような6に関するような変更を行う場合に、どういうふうに、いつから適用するかということについてご意見を頂戴できればということでございます。ちなみに、諸外国における透明化の適用時期につきましては、参考のところに記載をさせていただいているとおりでございます。

 以上、通して説明をさせていただきましたが、本日は先ほど申し上げましたように、区分してご議論いただきたいと思いますので、部会長のほうからよろしくお願いいたします。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。それでは、頂戴したご意見と、事務局から説明のございました論点を踏まえまして、委員の皆様のご意見を頂戴できればと思います。

 まずはKAMに関する論点としまして、4.無限定適正意見以外の場合のKAMの記載及び5.経営者・監査役等・監査人の対応等についてご意見を頂戴したいと思います。挙手の上、ご自由にご発言をお願いいたします。どうぞお願いします。

○水口委員  
 5.経営者・監査役等・監査人の対応等ということで、2点ほど感想及び意見です。

 1点目は、企業による開示等の調整についてです。我が国の資本市場における海外投資家のプレゼンスが高まっていますが、こうした環境下で、今仮に企業が開示を憚るセンシティブな情報であると思っている情報であっても、主要な資本市場において「監査報告書の透明化」が進む時代を視野に入れることによって、センシティブという意識が相応に緩和、解消されることも想定されるのではないかと思います。その上で、監査法人によるKAMの記載に必要な企業による開示が期待されるといった、そんなシナリオも想定されるのでないかと考えます。

 これは前回の監査部会においてご説明いただきました、日本公認会計士協会によるKAM記載にかかわる試行結果で、KAM記載のトライアル対象企業の監査固有の状況を記載しようとすると、会社の未公表の情報を記載せざるを得ない事例の占める割合につきまして、日本基準適用企業では43.9%であったのに対して、米国基準、またはIFRS適用企業については6.7%と限定的であったとのご報告も踏まえた感想です。

 先ほど町田委員からリスク情報の開示についてのご指摘もありましたが、私のKAM記載にかかわる環境認識といたしましては、企業経営の観点からはグローバル化が進んでいるのに加え、多様で、従来にないスピードで進展する技術革新、また国内の人口動態の変化に伴う市場構造の変化など、企業を取り巻く事業環境は大きく変容している中で、企業は将来にわたる不確実性としっかり向き合うことが必要な時代です。また会計実務の観点からは、国際化、経済取引の複雑化、専門化の進展などを背景に、会計上の見積りにかかわる不確実性が高まっているということを踏まえて、情報価値の向上が図られることが肝要といった環境下にあるのだと認識しています。海外投資家の視点も踏まえて、こうした環境変化のもとで、各関係者が監査報告書の情報価値向上に大いに貢献する方向性が、PDCAを通じて段階的に根差していくことを期待しています。

 2点目ですが、監査役の役割などについてです。企業、監査人、監査役、投資家などの市場関係者がそれぞれの立場から貢献する形で資本市場の信頼の確保に資する諸施策をとることが重要であると考えています。監査人が着目したKAMの記載などによって、情報による規律が強化されて、諸関係者による建設的な相互監視による資本市場の信頼性の維持・向上につながることを期待する中で、監査役が企業の開示姿勢について、いかにモニタリングしていくのかにも注目しています。監査役と監査人との間の双方向のコミュニケーションにかかわる透明性向上に向けて、監査役等の監査報告の記載が充実されるということがあれば、前述したような建設的な相互監視の強化につながると考えます。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。ほか、いかがでしょうか。

○永田委員  
 私からは、2点ほどお話したいと思います。1つは、5番になりますが、(1)の1の2つ目の丸で、監査人がKAMの記載に関連して、企業に追加の開示を促す場合、監査役等も経営者に追加の開示を促す役割を果たすべきとの指摘があったがどのように考えるか。こちらにつきまして、もちろん監査役等が、言ってみれば監査計画を立てるときから監査人の方と密接なコミュニケーションをしていく。その結果として、やはりこれは開示するべきであるということになったら、監査人と一緒に開示を促すという方向にいくべきだと思います。

 ただ、そのときに監査役等が一体どこまで何をしたらいいのか。例えば、会社法監査と金商法監査は違ってくると思います。特に金商法監査ですと、そこには監査役としての監査報告があるわけではありません。もちろん業務監査の一環ということで、取締役会で発言して記録に残すと、こういったことはできますけれども、それ以上のことができるのか。会社法監査ということになりますと、監査報告で当然会計監査人の監査報告を見て相当であるという判断をすることになりますから、そこである意味意見が言えることになります。一方、金商法監査ということになったときに、促すことはできますけれども、どういったことまで期待されるのか、役割期待を明確にする必要があるのではないでしょうか。これが1点目です。

 あともう1点は、その後の2ですが、監査役等の監査報告における対応についてですが、監査役等の監査報告は、現時点では会社法上でしか要求されていませんので、会社法上の監査報告を前提にして考えると、監査役等は会計監査人の監査の方法と結果について相当性を判断することが求められており、監査報告に記載することになります。会計監査人と期中密に連携を取っていれば、ほとんどの場合は相当であるとの判断になると思いますが、相当であると言っておいて、例えばKAMについていろいろ書いても、会計監査人の書いたKAMとそんなに違いが出てこないのではないかと思います。それをまたいろいろと書くとすると、その意味は何なのでしょうか。一つ一つの確認という意味ならあるのかもしれないですけれども、もし監査役等の監査報告を見ると、何か違うことが書かれているんじゃないかという期待があるとすると、かなり難しい気がします。それが2点目です。

 あと、この資料の中に書いてありますけれども、監査役等の監査人からの報告にどのように対応したかを記載するとしても、監査役等は監査計画の段階から監査人といろいろとコミュニケーションして、その結果としてKAMの内容はこれでいいんじゃないかというようなことになるのが通常でしょうから、それを簡潔に書いても開示情報としてどれだけの意味が出てくるのか気になるところです。監査役等が積極的に情報開示などを進めることはよいのですが、ボイラープレートにならず実効的なものとするためにも何が期待されているのか具体的かつ明確にしていただけるとありがたいと思っております。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。ほか、いかがでしょうか。

○荻原委員  
 まず、経営者の姿勢といたしまして、開示につきましては、やはり問題点は明確に開示すべきであると。これはインターネット社会という、いわゆるフラットな社会になりつつありますので、何かあると内部告発ということもありますから、基本的には全て問題点については開示すべきであると。その開示につきまして、開示の箇所が各社ばらばらでは、読み手にとって理解がしづらいということで、有価証券報告書上、開示の箇所を決めたらと思っております。

 それから、最大の問題は、KAMに対する会計士の対応なんですけれども、自分の責任の範囲という問題になると思うんですが、KAMに書かれていない事象で何か問題が生じた場合に、それは会計士の責任であるかということが出ると思うんですけれども、私はこの国において、これ以上日本の会計士の責任を重くするべきではないという持論がございます。それはなぜかというと、監査時間が長くなって、監査報酬が増えるからでございます。よって、KAMに書かれていない事象によって何か問題が起きたとしても、それはもう会計士の責任云々という話ではなく、やはり問題を起こしたほうが悪いということが原則であるということであります。

 あと、これは直接関係ないんですけれども、海外で皆さん書かれているんですけれども、日本の有価証券報告書では、サイバーセキュリティーに対する対策が書かれていないのは、これは非常に問題だと思っておりますので、これは問題点の中に加筆していただきたいなと思っております。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございます。ほか、いかがでしょうか。岡田委員、お願いします。

○岡田委員  
 ありがとうございます。まず、5の「企業による開示との調整」において、具体的に開示できないセンシティブな情報はどんなものかというようなご質問がありますが、参考として書かれている国際監査基準の定義を見ましても非常に抽象的で、全てがセンシティブでないというようにも読める内容で、これでは作成者はなかなか動きづらいと思いますので、ある程度定義や具体例、指針を示したほうが実務的には運用しやすいのではないかと思います。例えば、訴訟案件や、契約等によって開示できないもの、競合他社に知られたくない情報など、いろいろあると思います。

 一方で、企業の開示姿勢も、もう少し積極的になることを期待したいと思います。そのためには、先般より議論されている経営者、監査人、それと監査役等とのコミュニケーションが大変重要ですが、同時にアナリストの方々が、利用者との対話を通じて、市場が求めている情報は何であるかを的確に経営者に伝え、説得することも1つのやり方として期待したいと思います。

 投資家というのは、企業の開示が不十分であれば、ただ株を買わないで済ますわけですが、アナリストはそういうわけにはいきません。以前CFOであったときからの経験からいいますと、アナリストの方は、独自に入手した情報を基に分析した結果をお客さんに伝える傾向が強いように思えます。これはある程度経済合理性ある行動といえますが、政策的、批判的に企業に対して開示を求めるのはアナリストの公の役割でもあるという認識も持っていただきたい。どんな開示が必要かという点は、企業ごとに異なり、企業を相当研究した者でないとできないものですから、アナリストからの的確な指摘があれば、企業もアナリストの指摘は非常に役に立つ、即ち開示することで株価につながると考える、そういういい循環になってくれればと期待をします。

 もちろん監査人、監査役等が経営者に対して開示を促すことを基本としますが、企業の開示姿勢を積極的にするためにもアナリストの方の取組みも欠かせないと思う次第です。

 また、監査人が開示を促す場合、監査役等も促す役割を果たすべきという点ですが、先ほどご意見ありましたように、監査役等は会社法の中ではいろいろ役割が定義されていますが、金商法では一部虚偽記載等を除き、はっきりした定義はない。この問題はどこまで踏み込むべきかと悩みますが、金商法で監査役等の役割をもう少し明確化することも検討していただきたいと思います。ただ、その場合に、監査役等の法的責任がどうなるかも、同時に検討を要すると思います。

 それから、監査役等の監査報告における対応という点についてですが、会社法から入ることを前提にしていると理解していますが、その場合に、いかにコミュニケーションをとったか、あるいは監査役等がどう対応したかを書くことはできるかもしれませんが、相当性の判断をしたということにとどまるか、あるいは、監査人と同じことをなぞることにならざるを得ないのではないか、と考えます。イギリスの例でも、監査人の報告をなぞりながらコメントを加えている例がありますが、そういうやり方にならざるを得ないのではないか、そうなるとそれはどの程度意味があるのか。逆に、例えば「KAMに関し、コミュニケーションを密にして議論を重ねた結果、会計監査人の監査報告書に記載されている内容で同意した。」というような記載となると、それこそボイラープレート化は避けられないと思いますので、このあたりには1つ工夫が必要ではないのかなというふうに思います。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。ほか、いかがでしょうか。それでは、今給黎委員、どうぞ。

○今給黎委員  
 ご説明ありがとうございます。5の「企業による開示の調整」のところで、これまでもご意見ございましたけれども、企業が情報を開示していない場合に追加の開示を促すかどうかという点で、大きく2つに分けて考えておりまして、1つは、前回の日本公認会計士協会の試行結果にもございましたけれども、IFRS・米国基準と日本基準との間でもともと差異が発生している項目、もう一つは、IFRS・米国基準でも開示していない項目で、全く新しいセンシティブな情報を求められる場合の2つであります。

 前者のIFRS・米国基準と日本基準の開示差異については、IFRS・米国基準の会社は開示している項目をKAMでリファーできるものの、日本基準の会社につきましては、逆に個々に議論することになって実務負荷がかかってしまうのではないかという混乱も懸念されるわけでありますけれども、一方で、前回の試行結果にございましたが、KAMの実務そのものはそれほど大きなコスト負担もないということであれば、むしろ今回、企業と監査人のコミュニケーションを図るという意味でも、差異があったままでもKAMの場合はよいのではないかという考え方もあるかと思いますので、このあたりの議論の方向性が必要かと考えております。

 もう一つ、後者のIFRS・米国基準と日本基準共通の、企業が全く開示していないセンシティブな情報についてということですけれども、具体的にイメージしますのが、先ほどもお話出ましたけれども、やはり訴訟とか係争の案件でございまして、交渉が続いている案件につきまして、KAMで踏み込んだ記載をすることがあり得るのかということで、現在でもIFRSの引当金のルールなどでは、企業の立場が著しく不利になると予想される場合は開示しなくていい、ただ、開示しない理由は記載せよというようなルールがございます。しかし、こうしたケースは非常にまれなケースだというふうに認識しておりますので、記載のばらつきの懸念はありますけれども、基本的には開示含めて、企業と監査人の議論に委ねてよいのではないかと思っております。

 監査役の監査報告につきましては、コミュニケーションが重要だということについては異論ございませんけれども、やはり会社法の関係でありますとか、相当に慎重な整理が必要なのではないかと考えておりまして、仮に金商法と会社法の一体的開示で媒体が一体化するといったようなことが実現すれば、自ずと解決する部分もあるかと思いますけれども、現時点では、やはり監査役の監査報告書をここであえて議論するのは、少し時期尚早ではないかと考えております。このあたり、欧米の事例なども、もし可能であればご紹介いただければと思います。

 最後に監査人の対応でございますけれども、仮にKAMの記載が導入されたとしても、これまでの監査手続を大きく変更するものではないという点につきましては異論ございません。期中含めた監査期間を通じて、企業と監査人との緊張感あるコミュニケーションを実施した結果がKAMの記載につながるということだと思いますので、この監査人と企業のコミュニケーションで、特にリスクの識別の共有が重要だというふうに考えております。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございます。ほか、いかがでしょうか。では、小畑委員、お願いします。

○小畑委員  
 ありがとうございます。ずっと論点の5番の議論が続いているわけですけれども、5番を集中的にやるということですか。

○伊豫田部会長  
 特にそういう意図ではございません。どちらでも結構です。少し5のほうに集中するようでしたら、時間を見てまた4のほうに戻ろうと思っておりましたので、どちらでも結構です。よろしくお願いします。

○小畑委員  
 論点の4番と5番について、申し上げさせていただければと思います。まず4番の最初の丸のところの、無限定適正意見以外について、その当該理由等をKAMとして重複記載する必要はないとの指摘があるがということですけれども、そもそもKAMは監査のプロセスを説明するものであり、監査意見の理由を説明するものではないということからしても、その当該理由等をKAMとして重複記載する必要は全くないと考えております。

 それから、意見不表明の場合ですけれども、意見不表明ということは監査プロセスが全うできず、監査意見を形成できないという状態でございますので、この意味からすれば、その際にKAMで何かプロセスを説明することは通常できないのではないかと考えておりまして、これも記載すべきではないと考えております。以上が論点の4番についてでございます。

 次に、論点の5番についてでございますけれども、まず(1)の1の企業による開示との調整でございますが、監査役等、経営者、それから会計監査人の3者で事前によくコミュニケーションをとれば、通常、開示がされていないような情報が突然出てくることは、普通はないのではないかと考えておりまして、これはまさに例外的な事例なのかなと考えております。この意味からすると、ここをあまりぎりぎり詰めなくても、通常は対応できるのではないかと考えているところでございますけれども、センシティブな情報としてどんなものがあるのかということになりますと、やはり契約関係で開示ができないものでありますとか、あるいは営業秘密でありますとか、そういったものは確かに存在するわけで、これらがむやみに開示されたりしないようにするための歯止めは、やはり必要なのかなと考えております。

 それから、2の監査役等の監査報告における対応でございますけれども、実際に、しっかりと監査人との間、経営者等も含めてコミュニケーションをとって、KAMを形成していくことになりますと、KAMで書いたことと同じことを監査役も結局、繰り返すというようなことになりかねないということからしても、監査役が監査報告で書く事項は特段ないのではないかと考えております。

 それから、最後に(2)の監査人の対応等でございますけれども、ここに書いてございますように、1、2、3というプロセスをしっかりとって、監査計画をしっかり立てて監査を行っていれば、最後にそのプロセスを説明するという4のプロセスがあるだけということになりますので、4のプロセス自体がそれほど大変なことになるわけではないと考えており、そのまま淡々と説明するということだと考えております。監査人の対応等で、特段、時間がかかるとか、コストがかかるということにはならないのではないかと考えております。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。では、紙谷委員、お願いします。

○紙谷委員  
 ありがとうございます。私も順番にコメントさせていただきたいと思います。まず、4の無限定適正意見以外の場合でございますが、まず1点目の意見に至った根拠については、ここに記載のとおり、重複して記載する必要はないと考えております。

 「また」以下のところについては、なかなか難しいところだと思っていまして、意見不表明となりますと、財務諸表全体として意見を述べないということに対して個別のKAMを書くということが不整合ではないかという考え方もある一方、監査の結果として無限定であったり、限定付適正であったり、不表明であったりいろいろとあり得るのですが、監査プロセスとしてどういうことを気にしながらやってきたかを説明することは、KAMが監査プロセスの透明化、見える化という意味であるとすると、そういった場合でもKAMを書くことは意味があるという考え方もあろうかと思います。ここはどちらもあり得るところかと思いますので、日本としてどう考えるか、決めを打つ必要があるかなと思っています。

 5番目のセンシティブな情報についてですが、これは前回の日本公認会計士協会からの報告にもありましたが、未公表の情報イコールセンシティブな情報、センシティブな情報イコール未公表な情報ではないと考えています。両者の関係を分けて考えたほうがいいと思っています。センシティブな情報というのは、先ほど来ご指摘のとおり、かなり限られていると思っています。私は岡田委員のご指摘のとおりだと思っておりまして、契約関係上、守秘義務があるものや、訴訟にいってしまうと裁判所でかなりオープンですけれどもその手前にあるような状態のものについては、かなりセンシティブな場合があると思っています。こういったものについては、本当に開示するのがいいのか、おそらく監査人から促してもなかなか難しいような状況もあろうと思いますので、このような情報に対する一定の配慮が必要ではないかと思っています。

 一方、それ以外の未公表の情報というのは、KAMにどれぐらいの詳細さで書くことが期待されているかということに依存する部分がありまして、かなり具体的、おそらく投資家の皆さんはかなり具体的にとおっしゃると思いますが、かなり具体的に書き出すと、おそらく未公表の情報というのが増えてきまして、そうすると、センシティブかどうかは別にして、今まで開示していないものを出すということになりますので、心理的な面も含めて、そこが最初のあたりでかなりいろいろな議論が生じるのかなと思っています。

 一方、そこまで具体的に記載しないということであると、おそらく未公表の情報も減ってきますので、そういったものであれば書きやすいと思っています。そういったものが意味がないかといいますと、ある程度具体的でない場合であっても、そういったものについて投資家が着目して、スチュワードシップ・コードに従ったところで、企業と機関投資家の対話が深まるきっかけになるとすれば、そのような記載でも意味があり得ると思います。このあたりの目線合わせ、どのレベルで記載するかという社会的コンセンサスがどうつくられるかが重要ではないかと思っています。

 あと、監査人の対応につきまして、1~3については、従来から監査役等の皆様とは議論させていただいて、こういったものが重点監査項目ですよということでお話させていただいたものの中からKAMを選んでいくということですので、期中のプロセスが大きく変わるかというと、おそらく変わらないかと思っております。ただその中で、例えば今まで5つの項目のうち2つの項目がKAMですねといった議論を行うことで、コミュニケーションの深度が深まることになり、工数も若干増えるかもしれませんが、そういった意味では対話が深まるといった点が追加になるのではないかと思っています。

 4番につきましては、従来から監査役の皆様といろいろなコミュニケーションをさせていただいているのですが、表に開示するという前提では行っていませんでした。それが利害関係者の方に公表するということになった場合には、きちんと利害関係者の方に理解されるような文書になっているかを検討し、職業的専門家として留意しながら文面を詰めていく必要が生じるため、特に最初のころ、多少の混乱が生じるのではないかと思っております。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。ほか、いかがでしょうか。では初川委員、お願いします。

○初川委員  
 4番と5番の(1)について意見を述べさせていただきます。まず4番についてですが、私は監査意見不表明の場合と不適正意見の場合には、KAMの記載を要しないとしてはどうかと。つまり、米国方式がよいのではないか思っています。意見不表明の場合は、先ほどもお話が出ましたように、必要かつ十分な証拠を入手できていないということで監査意見を表明しないわけですから、KAMを記載しても意味がないといいますか、むしろ混乱を招くことが危惧されます。

 また、不適正意見の場合には、根拠区分に不適正な理由が十分記載されているわけです。監査に関する一番重要なことが開示されているのであれば、その上にさらなるKAMの記載を要しないということでよいのではないかと思います。

 限定付適正意見というのが監査意見の形としてあると思いますが、私は限定付適正意見の場合のKAMの取り扱いについては、ルールの上で特段明確にしなくてもよいのではないかと思っています。個人的な意見ですけれども、限定付適正意見が多く出てくるということは想定しておりませんし、限定意見の根拠は記載されますので。

 それから、5番の(1)についてですけれども、関係者が全て前向きにこれを捉えて協議をするということであれば、あまり大きな問題にはならないのかなという気もする一方で、やはり実務の現場では、非常に難しい局面も出てくるのではないかと思います。私は、企業内容の開示は企業が行う。監査人は監査に関する情報を提供する。基本的にはこういった考え方を尊重すべきではないかと思っています。そういうことから考えますと、KAMの記載に関連して企業が開示していないセンシティブな情報を開示する必要が生じた場合、監査人は、KAMの記載と企業が開示する情報との整合性を確保するために、企業に対して企業内容の開示を追加または変更するよう要望することが期待されると思われます。しかし、制度上要求されていない開示まで企業に求めるという領域に入ってくることになると実務的にはなかなか難しい議論になるのではないかと、個人的には思っております。

 ただ、KAMというのは、今までも議論がありましたように、監査人としての視点から、重要であり、かつ困難な監査判断を要する領域について記載をするものですから、あくまでも監査のことを書くという観点をしっかりと監査人側が理解しておく必要があろうかと思います。そういう意味では、KAMの記載に当たっては、企業が開示していない企業情報というのは、極力制限するとは言いませんが、適切なレベルに収まるように、できるだけの工夫をすることも大切なのではないかと思います。もちろん、必要な場合には、開示が禁止されることはないというふうには理解しています。

 それが基本的な考え方だと思いますけれども、その上で、公共の利益に資するための開示を議論をしているわけですから、ルールを超えて前向きに、投資家にとって有益な情報をどういう形で開示していくべきか、企業と監査人が十分協議をする必要があろうかと思います。

 それから、先ほど議論の中でも出ておりました不法行為や偶発損失等の可能性がある場合ですが、これらは、まずは会計ルールへの準拠性の議論が先だと思います。開示が要求される、または引当金を計上しなければならない場合は、そういう議論になると思います。開示が適切か、会計処理が適切か。ただし、開示や会計処理をするための要件が整っていない初期段階の事項についてKAMの開示の中で具体的に触れていくのは大変難しいと思います。私の理解では、米国のSECリリースの中でも、KAMにしない事項の例示としてそういった状況を明確に記載してあったと理解をしています。内部統制の欠陥であるとか、不法行為や偶発損失の可能性、これは先ほど言いました、開示や会計処理が要求されてない段階のものですけれども、そういった事項は、今回のKAMの導入に当たっては、その取り扱いを明確に示しておく必要があると思います。

 それから、何よりも重要性がないものはKAMにならないということは、はっきりと示していく必要があろうかと思います。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。ほか、いかがでしょう。

○住田委員  
 まず4番の無限定適正意見以外のKAMの記載についてですが、KAMの定義をちょっと思い出していただきたいと思います。KAMは、当期の監査において、監査人が最も重要であると判断した事項ということでございますので、無限定適正意見以外の除外事項が付されるような場合は、その除外事項について、監査人はその期の監査において相当な時間を費やして検討したということになりますので、定義からいうとKAMに該当するということであろうと思います。ただ、監査報告書の記載場所といたしましては、除外事項を付した意見を表明するわけですので、その意見の根拠のところでその理由をきちっと述べますので、繰り返してKAMのところでそれを記載する必要はないということであろうかと思います。

 その上で、不適正の場合と意見不表明の場合をどう考えるかということですが、不表明の場合は、ほかの委員の方もおっしゃっていましたけれども、監査が完了していない部分があるということですので、財務諸表全体に対して意見は言わないという決定を監査人がしたということでございます。したがいまして、不表明の根拠を書いた上で、ほかに例えば監査人がそれなりに時間を使った重要事項があったとして、それをKAMに書くかということですが、それをしてしまいますと、KAMに書いたことについては十分かつ適切な証拠があったかのような誤認を与えてしまう。したがって、不表明の場合は財務諸表全体に対して意見を言わないのでKAMも書かないということが、IAASBでも、それから米国のPCAOBでもそういう取り扱いがされている。これは要しない、書かなくてよいということではなくて、書いてはならないということと理解しております。

 それから、不適正意見の場合ですけれども、ここは国際監査基準と米国監査基準とで差が生じているところです。不適正意見の原因になった事象は意見の根拠のところに書きますので、それ以外にKAMに該当することがあった場合に書くか書かないかという議論ですが、米国の場合はそれは書かない、書いてはいけないということになっていて、国際監査基準のほうでは書くということになっている。その差は何かということなんですけれども、米国の場合はPCAOB基準は公開会社に限定した監査基準でありますので、不適正ですとか、不表明の監査報告をSECが受け取らないというのが実務上の慣行というふうに聞いております。したがいまして、議論する必要性が乏しいので、そういう場合にはCAMを扱った監査基準を適用しないという言い方をしているというふうに理解しております。

 国際監査基準のほうは、不適正になった事項以外にKAMの定義に照らして監査人が重要だと思った事項がある場合は、それはそれとして情報としての価値があるというふうに考えているということです。監査プロセスの透明性の向上ということがKAMの趣旨でございますので、不適正の原因事象になった以外にも、監査人がそれなりの時間をかけて十分に検討した事項があるのであれば、それは情報として記載すべきと。例えば、最後まで会社との間で会計処理について議論した事項が2つあり、1つは会社が記帳してもらって財務諸表を修正しました、もう一つは修正しなかったようなケースがあったとします。1つは修正されなかったので、不適正の原因事象として根拠区分に書かれるわけですけれども、もう一つ同じぐらい力を入れて監査した結果、会社とも十分に議論して、会社に修正を入れてもらえた事項については、それはそれとして情報として価値があるということで、それはKAMとして書いてもいいんじゃないかと、お伝えすべきではないかという考えに立っているということです。それに対して、意見不表明の場合は、やはり全体に対して意見を言わないということを尊重して考えるべきではないかというふうに思います。

 それから、センシティブ情報のレベル感ですけれども、皆さんもおっしゃっているように、センシティブな情報というのは実務的にはかなり範囲は狭められるのであろうと思います。会社が取引先と締結しているような営業上の秘密ですとか、そういうものがKAMの記載で触れる必要性があるということはまず考えられないと思います。偶発事象、訴訟のような場合にどこまで記載するかというのは、それはそれなりにという言い方が正しいかどうかわかりませんけれども、KAMの趣旨は、監査人が当期の監査で重点的に監査をやった理由を述べる、それからどういう対応をしたかということを伝えるということですので、必ずしも会社にとって非常にセンシティブなところまで踏み込む必要は、現実的にはないんだろうと思います。そういうところは何年か実務が始まって、このぐらいのことは書いても大丈夫ですよねというようなことが醸成されていけば、徐々に、関係者の皆さんのコンセンサスが得られていくのではないかと思います。以上です。

○伊豫田部会長  
 熊谷委員、どうぞ。

○熊谷委員  
 みずほ証券の熊谷です。まず4番につきまして、昔、実際に機関投資家として株を運用しておりました経験から、投資判断にかかわる影響ということも含めまして申し上げたいと思います。

 まず、こちらにも記載されておりますとおり、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明の根拠区分に適切な理由が記載されているという前提に立てば、やはりKAMというのは不要なのかなというふうに思います。特にKAM自体は、基本的に無限定適正意見における監査の質へのインディケーターであるというふうに考えています。やはり監査がしっかり行われて、自分たちが財務諸表に自信を持てるということが重要でありまして、前回も申し上げましたけれども、現状の監査制度のもとでは、無限定適正の場合は、それ以上監査の質について知る手だてがない。無限定適正が引っくり返ったときに初めてわかるという状況でありまして、そういった意味では、無限定適正意見に関してKAMがつくというのが順当であろうというふうに思います。

 それ以外の場合、特に不適正意見とか意見不表明の場合、これは通常の機関投資家であれば、意見不表明という意見も含めて、こういうものが出た瞬間に、やはり保有することはそもそもできなくなってしまうというふうに考えております。そういった意味では、投資不適格というふうに考えられますので、やはり当該意見根拠区分に簡潔明瞭に、どうしてそういう意見に至ったかということが書かれていて、わかりやすいということが重要になってくるんだろうと思います。

 ちょっと悩ましいのは、限定付適正の場合なわけでありますけれども、特に現行ルールのもとで、こういう意見というのは、無限定適正以外の意見が出てくるというのは、かなりまれなことであろうと思います。現実にこの根拠区分の書きぶりで、財務諸表利用者というのは監査報告書の利用者になるわけでありますけれども、十分な情報が提供されているかどうかということについては検討が必要なんじゃないかと思っております。仮に十分な情報が提供されていない場合には、どのように情報の質、量を改善させていくのかを考えていく必要があろうかと思います。

 先ほど申しましたけれども、限定付適正の場合、これは正直言って即売却の対象になるということは言えないんだろうと思います。やはり一応監査人から、限定付ながらも適正意見が出ているという以上、なぜそういう意見が出てきたかということを精査しなければいけない。今申し上げたように、根拠区分のところにしっかりとそういった理由が書いてあって、それに納得できるのであれば、それ以上の記載というのは必要ないのかなというふうに思うんですけれども、仮にやはりそれで十分でないと、むしろ監査人が考えられる場合、KAMの記載というのはあってもいいのかなというふうに考えてございます。

 それから、5番の企業による開示との調整ということでありますけれども、既に皆様ご指摘のとおり、そもそもセンシティブな情報というのは、かなり範囲が狭い。ここでやはり調整上問題になるのは、そういうトレードシークレットのような明らかな守秘義務が要るようなものではなくて、むしろやはり監査人としては開示が必要と考えているんだけれども、企業がそこまでではないと考えている。あるいは、それに対して何らかの心理的な抵抗がある場合。多くの場合は、やはり企業側が工夫することによって開示できるんじゃないかなと考えています。仮にやはりそういう状況におきまして、なかなか監査人だけが企業に対して説得的なことが言えないという場合には、監査役等のお力を借りるということも必要なんじゃないかと思いますし、まさにそういうところで監査役の方々が動かれるということが、内部統制上も重要なことではないかなと考えております。

 それから最後に、監査人の対応というところでありますけれども、KAM自体に監査のプロセスの全ての事項を書くわけではございません。と思いますし、当初企業とのコミュニケーション上重要だというふうに考えていても、やはり投資家の投資判断に大きな影響を与えないであろうというような事項というのは当然出てこようかと思います。やはりKAMとして最初に抽出されて、実際に書くという場合には、優先順位というのは非常に重要になってくると思いますし、そのあたりに関しまして、やはりまさに職業的な能力、専門家として監査人の方々から、やはりこれは投資家が知っておくべきであろうという情報について精査の上、熟慮の上記載していただきたいという考えであります。

 そういった意味では、前回も申し上げましたけれども、通常、企業と監査人の方々はコミュニケーションがあるわけでありますけれども、監査人と投資家、やはりお互いの考え方なり実務を知るという意味で理解を深めていく。特定の企業の監査に関する外部監査人と投資家の意見交換ではなくて、そういう一般論としてのコミュニケーションが必要なんじゃないかというふうに考えております。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。八田委員、お願いします。

○八田委員  
 これまでの私の発言を整理していただくとわかりますが、この部会では、多分少数説の意見になっているのではないかと思います。基本的に、このKAMの記載をすべきではないというわけではないのですが、やはり金商法の監査制度というものは、一般大衆投資家の保護という観点にあるわけですから、監査報告書には明確な結論が示されることが極めて重要なのであり、その他の必要情報は別途違う形で開示するのがいいのではないかと思っています。

 ただ、この制度が既に諸外国で導入されており、日本でも当然のように導入されることが大前提になって議論が進んでいるようですので、その延長線上で考えますと、今回の追加的な情報開示の制度が入るということは、明らかに監査人の新たな役割の拡大といいますか、パラダイムの転換が図られるのだろうということです。つまり、プラスアルファの情報の発信人という形で監査報告書の作成がなされるということです。そして本日の資料1の4番のところですけれども、除外事項等が根拠区分に記載されている場合には、KAMを重複して記載する必要はないといったことが示されています。それはそれでいいと思うのですが、それ以外の監査上の重要な論点もあるかもしれません。したがって、KAM自体の記載を排除することは全く必要ないわけであって、全ての監査意見報告書には、KAMを書くという大前提のもとに議論を進めるべきではないのかと考えています。つまり、ある場合には、記載が必要ないなどというのではなくて。

 例えば、仮に根拠区分に書かれているならば、もう書く必要はないということになると、ちょっと矛盾が生ずるのではないかなと。つまり、KAMは意見とは明確に区分しようといっているわけですよ。ところが、根拠区分、除外事項的なものは、意見を形成する根拠になっているわけですから、読者にとってみるならば、ではKAMは意見形成の一部をなしているものと捉えてしまう可能性が出てくるのではないでしょうか。つまり、いかなるレベルの品質ないしは情報価値として理解すればよいのか、かえって混乱するのではないかなと。したがって、仮に不適正であっても、とりわけ意見不表明の場合には、これは当然にどういうプロセスでそうなったのか、これ以外の、つまり重大な制約があって監査手続ができなかったということを明らかにすべきです。ただ、一般に、会社にはいろいろな取引があるわけですから、この部分で重要な監査上の論点がありましたよということを書くことは当然必要であって、株主目線、ないしは投資家目線でいけば、それらをKAMとして開示するのは当たり前だと思います。

 問題は、記載することの裏返しとして、では監査人として責任が負えるのかという問題が出てきます。そうすると、アングロサクソンの世界では、当然に責任限定が前提にきますから、それはやはりやめておいたほうがいいのではないかなという議論になるのかもしれません。だから、もしも許されるならば、私は全部書くべきだと思っています。特に先ほど委員のどなたかが、限定付とか意見不表明があると、投資格付はゼロだとおっしゃっていました。これは全く誤解でありまして、例えば、例外的であまりないと思いますが、自然災害とか、予期せざるような不可抗力によって監査業務が遂行できないような場合には、手続限定ないしは範囲限定がついたり、あるいは意見不表明ということもあり得るわけですから。そういうことをちゃんと整理していかないと、いろいろな誤解が蔓延するおそれがあります。と同時に、意見不表明は、無意見報告書ですから、基本的に監査業務が終わっていないわけですよね。しかし、一応期日が来て監査報告書を監査人が作成したときに、我々は読者に対してこういう留意点、あるいはメッセージがありますよということを言いたいわけですから、かえって私は意見不表明のときには、その不表明となった一番の理由を明示するだけでなく、それ以外にもいろいろな案件があるわけですから、私は当然監査プロセスの情報としてKAMを書くべきではないかという考えを持っています。多分これは国際標準に逆らっているのかもしれませんけれども、一応そんな感じはしています。

 それから、5番ですけれども、監査役等の役割、これは非常に微妙な問題で、終わりがない議論なのかもしれません。ただ、現実問題として、日本監査役協会は、会計監査人との連携とか内部監査との連携、何しろそのことを強調されてきているわけであって、その場合に同じ目線で対応しなくてはならないと同時に、教科書的に言うならば、監査役はまさに株主の代理人ということで、一番の利用者である株主目線で見たときに、役割を果たせなくていいのかという問題があります。商法、会社法がどうだからという問題ではなくて、本来監査役が果たすべき役割を果たす、その1つの論拠として、このKAMに対するコミットメント、これがあると私は思っているわけです。したがって、監査役等の役割を否定的ないしは裏向きに考えるのであれば、それは監査役自らが自分たちの役割を放棄することになるのではないかと思います。ただ、これは会社法の問題で、別途、手当が必要な部分があるのかもしれませんが、少なくとも会計監査にかかわる部分で考えるならば、特に法律上の手当が必要だということは一切考えられないと思います。

 それから、どなたかもおっしゃっていましたけれども、KAMとして開示できないようなセンシティブ情報というものはほとんどないと思います。本当の機密情報というのはゼロではないと思いますけれども、やはり投資家、読者にとって必要なのは、そのぐらいの重要情報がリスク情報として欲しいわけです。別に訴訟があるとか係争中である、これは事実として大体報道されるわけですから、全然センシティブでも何でもないと思いますね。先ほど申し上げた、契約が進行中であるとか、あるいは特許権の申請中とか、そんなのはあるのかもしれませんけれども、ほとんど私はないと思います。開示可能か不能かといった問題は、監査人の職業倫理、あるいは懐疑心をちゃんと発揮してもらうならば、プロの立場で監査判断できる案件だと私は思います。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。いかがでしょうか。中西委員、どうぞ。

○中西委員  
 中西でございます。まず4番に関しましてですけれども、今、いろいろ八田委員からおっしゃられましたが、会計の素人ながら考えますと、内容と手続に分けてみるといいのではないかと。例えば、無限定適正意見の場合は、内容は結論が出ていると。でも、なぜそこに至ったかという手続が明らかでないと、なぜ至ったのかがわからないから開示してくださいという意味では、KAMというのは意義があると。そうすると、限定付適正意見の場合は、やはり内容部分もありますけれども、手続上なぜ限定付になったのかというのは関心事項であると思うということになる。意見不表明の場合、内容もそもそも不表明だけれども、手続についてはやはり知りたいという部分があると。ただ、これは通常理由に書かれると。不適正の場合は、手続の場合も両方、内容の場合も両方あると。こう考えますと、内容と手続に分かれると。

 こうして考えれば、書けば足りるもの、あるいはもう既に理由に書いてあるから理由の記載のとおりと一言書けば済むもの、もあると思うので、義務化しても実質的に重複するのであれば一文足すだけですので、そんなに実は実務的な負担はないだろうということです。ある程度八田委員のおっしゃった義務化ということに対しても、監査人の仕事が特に増えないという意味では、そんなに厳しく考えなくてもいいのではないかと、こう考えております。

 5番につきまして、まずセンシティブ情報、こちらにつきましては、企業経営では確かにセンシティブな情報はたくさんあるのですが、会計にかかわる、それも監査手続にかかわるセンシティブ情報というとかなり限定されるのではないかと思います。例えば、訴訟についても、八田委員は報道では公表されるとありましたが、上場会社では、適時開示基準において、軽微なものを除いて、影響力の大きなものは訴訟の提起自身が開示されることになるということはあろうかと思います。

 ただ、開示されたときに、その訴訟の行方によってどれぐらい引き当てを積むかというのは、やはり会計手続上問題になりますが、じゃあ結果をKAMで書くというわけではないので、十分引き当てについて検討したということを書くということだけでも、KAMとしては、ちょっと素人ながらですが、十分ではないかということになろうかと思います。ただ問題なのは、訴訟に至らない、開示義務が証券取引所の上場規定などで書かれていない紛争段階で、まだ訴訟に上っていない場合、あるいは調停など開示義務がない場合、この場合どうするかということはあろうかと思います。なので、やはり株主共同の利益を害することが明らかであり、かつKAMの開示よりも優先する場合とか、そういったある程度の文言でコントロールするということは、センシティブ情報のメルクマールとして設けてもいいのではないかと思っております。

 次に、役員のかかわり、会計監査人、あるいは監査役というところですけれども、こちらにつきましては、やはり投資家、株主などへの情報提供がメインということになります。役割が重大だからといって責任をむやみに役員に負わせてしまうと、かえって萎縮して開示が進まないということもあり得ます。開示に関して、開示した方向については、あえて間違って、なおかつ株主、投資家が明らかに誤解すると予測できていながらというような重過失がある場合にのみ責任を負わせるぐらいのことで責任が発生することが適切かと思います。ただ、情報を出さない、KAMを書かないという消極的な方向で動いた場合には、やはり通常の過失で判断する、などの、開示をする場合としない場合の方向性によって、責任を負う度合いに差をつけてもいいのではないかと、こういうふうに個人的な意見ながら考えております。

 次に、会社法に影響するところでありますけれども、KAMについては、やはり監査の結果と方法というのが監査役の責任範囲ではございますけれども、結果につきましては、これはやはり方法なり監査手続がきちんとできているかどうかを見た上で、その手続であれば結果は相当でしょうということにもなろうかと思います。ですので、通常の決算の場合は、KAMのとおりこれをなぞりましたという開示に、監査人の手続をなぞるとそうならざるを得ないのかなと思います。監査役として、そこに独自性というのはなかなか短い文では出しにくいし、長い文ですとわかりにくいしという悩ましい問題があるのですが、ただ、業務監査に関しまして、これをどのような手続を行ったかですとか、そういったところのKAMというものは全く会計の次元とはまた別のものが出てこようかと思いますので。

 ただし、会計のところでKAMが開示されるのに、なぜ会社法のほうではないのかという株主の疑問、あるいは会計監査人が書いているのに、監査役がなぜ書かないのかという疑問、そういったこともおそらく出てきますでしょう。また、株主との対話の中で出てくると思われますので、実質的には監査役も、自らの業務監査などについて自主的にKAMは開示していかざるを得ない、そういった方向になろうかと考えております。

 こういったように、積極的に監査役も会計監査人も、KAMなどを含めた株主、投資家への開示ということの積極的な動きを阻害しないような方向で、ひとつ施策を進めていただければと思います。以上でございます。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございます。ほか、いかがでしょうか。では、どうぞ。

○住田委員  
 ちょっと整理というか補足をさせていただきたいのですが、無限定適正意見以外の場合にKAMを記載するかどうかという議論ですが、無限定適正意見以外というのは、何かしら除外事項がつくわけですけれども、除外事項は意見のベースのところに書きます。除外事項は性質的にはKAMの定義に該当しますが、KAMのセクションには、意見の根拠区分に書いた事項以外に、ほかにKAMがあるとか、なければないと書くということです。除外事項をどう書くかということではなく、それは意見の根拠区分にしっかり書くという前提です。その上で、ほかにKAMを書くかどうかという議論です。あくまでも意見形成とKAMとは分離して考えるべきで、そこはちょっと整理をさせていただいたほうがいいかなと思いました。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。ほか、いかがでしょうか。

○吉見委員  
 ありがとうございます。まず4番ですけれども、これについては、無限定適正意見以外において、資料1のところで、根拠区分に適切に理由等が書かれている場合に、これを重複してKAMに記載することは私は不必要であると考えているところであります。その上で、重複しないようなKAMが出た場合、これを記載するべきかどうかというところが問題だと思うのですけれども、まず意見不表明の場合には、大前提として、監査のプロセスそれ自体が成立しなかったということが、多くの場合はあるのだろうと思っておりまして、その場合には、監査のプロセスの中で監査人が監査上のリスクを見つけるというのがKAMの前提になっておりますので、プロセスが成立していないのであれば、そこでKAMが記載されるということは、論理的に難しいと考えております。

 ただ、現実には全く会計監査が何もできなかったのか、何もしなかったのかというと、そうではない可能性もある。そのときに、例えばそれを市場なり社会に対して何らかの形で発信をする必要があるというのであれば、これはKAMの話ではなくて、発信のための全く別の枠組みが別途考えられなければならないと思っております。したがって、それはKAMの話とは、また別の議論を立てて考えなければならないだろうと考えております。

 一方、不適正意見、あるいは限定付適正意見という場合は、これは意見が表明されているわけですから、監査のプロセスは成立しているわけですね。その成立を前提にした中で、根拠区分に書かれる以外のKAMが出てきた場合には、これはKAMとして記載されてしかるべきかなと思っております。ただ、不適正意見の場合に、その不適正となった根拠以外の部分で、このKAMに記載されなければならないほどの監査上のプロセスの重要な問題点、リスクの問題点というのはあるのかというと、これは極めて例外的だろうと思っておりまして、ただ、その例外的なものというのを最初から排除してしまうのかと言われると、私がいま直ちにその例が思いつくわけではありませんけれども、その可能性がないわけではない以上、不適正意見の際に、KAMの記載を最初から排除するという論理はないだろうと考えております。

 結果として言いますと、国際監査基準にある対応と似たようなことになるのかなと、私の意見では思っているところであります。

 5番のポイントについては、全部ではなくて監査役にかかわる部分についてお話をいたしますと、すなわち資料1の2ページの2のところに関連しますが、監査役等の監査報告における対応に関連することは、KAMの問題だけには限らないものがたくさん含まれる可能性があると思っておりまして、そういう観点で、監査役等の監査報告における対応というのは、もう少し包括的に考えねばならない問題なのかなと思っております。特にこの監査役と会計監査人の間のコミュニケーションというのが大変重要である、特にKAMの記載に当たっては、会計監査人の立場、すなわち公認会計士の立場から見たときには大変重要であるということは言うまでもないわけでありますけれども、例えばその中で、これは実は次の6番の事項と少しかかわってしまうのかもしれませんけれども、会計監査人の側の立場から、例えばコミュニケーションの結果などを何らかの形で記載する必要があるという場合があるとすると、逆に監査役のほうも、公認会計士との間のコミュニケーションの結果を監査報告の中に書いていく。これは全く自然なことかなと思っておりまして、その中に、例えばKAMの話というのも、監査役の立場からも含まれてくるという、そういう理屈になるのかなと考えているところであります。

 したがって、これはKAMの記載を公認会計士がしたからといって、つまり金商法ないしは会社法監査の中で会計監査人がKAMを記載したからといって、直ちに監査役がそれを監査役監査報告書に記載しなければならないのかというと、そうではないのではないか。日本の監査役の場合には、ガバナンスに責任を持つ立場の責任者ということもありますが、やはり監査役という、つまり会計監査を含めた会社の監査をしているという立場ももちろんあるわけでありまして、そういう点から考えると、監査役等が、監査人である立場を考えたときに、その独自の監査判断が行われる余地は残しておかなければならないと考えているところでございます。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。関根委員、お願いします。

○関根委員  
 ありがとうございます。前回所用により欠席してしまい、申し訳ございませんでしたが、前回の議事録を拝見させていただき、また本日のこれまでの議論を聞いている中で、今まさに監査の透明性が求められているということを強く認識しております。その意味で、監査人は、財務情報や監査のプロセスについて必要な情報を発信し、対話を行っていくことがまさに求められていると考えており、そのために、監査において、今回議論されているKAMをしっかりと活用していくべきだと考えております。

 まず、5の(2)の監査人の対応のところで、KAMが導入されたとしても、これまでの監査手続が大きく変更されるものではないと考えられるかどうか、という点については、今までの議論にもありましたとおり、KAMが導入されたとしても、確かに監査プロセスそのものが基本的に変わるというものではないと思います。しかし、監査の透明性が求められている中で、情報を外部に発信していくためには、正当な注意を払って、その過程をしっかりと確認していくことが必要になります。私ども監査人としては、リスクに対する共通認識を企業と醸成し、議論を深化させ、その上できちんと開示していくことが非常に重要だと思っています。そのような意味で、コミュニケーションの促進というのも期待されているのではないかと思います。

 5の(1)のところでは、先ほどからセンシティブ情報や未公表情報などの話が出ておりますが、私もセンシティブ情報については、KAMに関連して議論の対象となることは非常に少ないと思っております。ただ、先ほどの議論にもあったとおり、監査人は監査人としての観点から財務情報の監査を行いますが、KAMはその結果として、監査のプロセスを一部外に開示していくというものであり、その際、企業の開示にも影響を及ぼすことはあり得ると思います。

 監査の過程において、監査人は、例えば、会計処理や開示情報の話を企業とすることもあります。最終的に財務情報の開示内容は企業が決めるものではありますが、より良い財務情報の開示となるようアドバイスを行ったり、議論していくものです。監査人の立場からKAMを検討する中で、仮に未公表の情報について出すほうが良いのではないかという結論に至った場合には、企業に対して開示を促していく必要があると思います。そうしなければKAMの趣旨が達成できない場合には、このような対応を監査人の立場として行うことは重要だと思いますし、経営者の方も、最初は開示すべきと思わなかったかもしれない情報について、監査人と対話をする中で、確かに開示するべきだと思い直すということも当然あると思います。また、監査役等の方にも協力をいただきながら行っていく必要があると考えております。

 4の無限定適正意見以外の場合のKAMの記載については、私も住田委員が整理していただいた考え方と同じ考えでおります。KAMの趣旨を考えていくと、意見の根拠に記載されているもの、例えば不適正意見について説明をしてあるものについて、さらに同じことをKAMとして書くという必要はないのではないと思っております。もっとも、それ以外の事項で、KAMがあるかどうかというのは、本当に該当するものがあれば開示するという対応もあり得るのではないかとは思っております。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。大瀧委員、お願いします。

○大瀧委員  
 ありがとうございます。無限定適正意見以外のKAMの記載についてですが、まず限定付適正意見については、結果としての監査意見は適正意見になりますので、やはり限定が付された項目以外のところでKAMがあれば、それは当然に記載が必要ではないかと考えております。その他の監査意見につきましては、監査プロセスを透明化していくという観点におきましては、記載することを禁止する必要まではないのではないかと思っております。

 それから、5番の監査役等の監査報告に対する対応ですけれども、やはりKAMの記載で重要なことは、コーポレートガバナンスのシステムの中にしっかり組み込んでいくということだと思います。会計監査人から報告を受けて、結果として監査役の監査報告が出るわけですから、そういった意味で、どのような対応をしたかということも踏まえて、結果的に内容がそんなに変わらないことになるかもしれませんが、そういうプロセスをきちんと開示していくということは、利用者にとってはメリットが大きいのではないかと思います。以上です。

○伊豫田部会長  
 ありがとうございました。井口委員、お願いします。

○井口委員  
 ありがとうございます。4番の無限定適正意見以外の場合のKAMの記載、これは今の大瀧委員と同じ意見ですので、私は意見を省略というか、次のところにいかせていただきます。

 5番の、特に2の監査役等の監査報告における対応というところですが、これはすごく大事なところである、と思っております。外部監査人の方に書いていただくKAMというのは、あくまで外部の視点で書いたものなので、投資家としては、そのことについて、実際に、企業の中で取締役会、監査役会、そして経営者の方がどう対応されるのかということは一番知りたいポイントになってくると考えています。監査報告書におけるKAMの開示を受けて、経営者の方と対話して聞くというのもあるとは思いますが、望ましくは、そういうものは事前に開示していただいて、外部監査人のご指摘に対して、監査役等の方がどういうふうにご対応されたかということを示していただく、あるいは開示していただくということは、投資家としてすごく重要なことと思っております。以上でございます。

○伊豫田部会長   
 ありがとうございました。町田委員、お願いします。

○町田委員  
 ありがとうございます。まず1つ目は、ちょっと余談に近いような話になってしまって恐縮なんですが、今日の審議をずっと伺っていて、委員の皆さんがKAMというのを連呼しているんですけれども、そろそろKAMというのを何か日本語の表現に置き換えたものを出していただきたいなということを、金融庁の事務局にお願いいたします。というのも、KAMに対して「監査上の主要な事項」という訳語を当てることについては、これは公認会計士協会が以前から当てておられる訳語だと思うんですけれども、学会での議論では、「この訳語は不適切だ」と明確に批判をされる方もいますし、私もそれに同意して、自分で訳語を付ける際には使用しておりません。

 また、私が監査を勉強し始めた、研究を始めたころは、「リスク」というカタカナさえ監査基準に入れるのはどうかということで、「監査上の危険」という訳語を当てられた時期もあったことを記憶しています。監査基準の審議の場で、皆さんが、「カム」「カム」「カム」「カム」と言っていることには、隔世の感がありますが、いずれにしても、日本の基準を策定しているわけですから、早めにご対応いただけたらなと思います。

 それから2点目は、意見不表明と限定意見にKAMを求めるかどうか、という点です。まず、私も意見不表明であれば、意見を出さないのですから、そのプロセスを何か述べることは、別な情報発信をしてしまうのではないかと思うので、これは禁止すべきだと思います。一方、限定意見については、先ほど住田委員から除外事項についてのご説明があったんですけれども、私は、限定付適正意見が表明される場合に、KAMの記載を禁じることについては、1つ懸念を持っています。

 例えば、最近の事例で、売上高の10%に及ぶような重要な虚偽表示に関して限定付適正意見が表明された監査報告書が出されたケースがありました。私は、どんな監査をやって、どういうプロセスを経たら、それが意見限定とはいえ、適正意見となったのかについて、もしKAMが制度化されていたならば、是非、監査報告書のKAMとして、監査人がとった監査手続等を書いていただきたいなとさえ思いました。そうした重要な虚偽表示は当然修正されてから財務諸表が開示され、無限定適正意見がつくというものだと思っておりましたので。

 当該事例は、我が国の監査の最重要事例ともいえるケースであったわけですから、その意味で、そうした限定付適正意見の場合に、KAMを書こうと思えば書けるという余地を残すべきなのではないかなと思いました。

 3つ目は、リスク情報というかセンシティブ情報の問題ですが、先ほど紙谷委員も述べられていましたように、これは、機密情報の議論と未公開情報の議論に分けるべきだろうと思います。機密情報に関しては、KAMの書き方によって、監査人が機密に触れないように書くなどの対応をとることで、かなり緩和される部分があるんだろうと思います。逆に未公開情報の問題は、これは企業側のリスク情報が第一義的に対応すべき問題であって、有価証券報告書のディスクロージャー、特にMD&Aのディスクロージャーの拡充の問題だろうと思います。これは、本日冒頭に申し上げたように、現在行われているディスクロージャーワーキングの議論が進められているとのことですので、そちらの方でおそらくは対応されて、未公開情報の範囲が狭められる、あるいは諸外国やIFRS適用企業に比べて日本基準適用企業の定性的情報の開示が緩いというようなことがないように、今後金融庁の側で対応されるんだろうと思いますので、これも大丈夫なのではないかなと思っております。

 最後に4点目ですが、監査役等の問題について、先ほど今給黎委員から、「海外の事例を紹介してほしい」というお話がありました。私が紹介する立場ではないのですが、例えば英国などでは、監査人の監査報告書改革に合わせて、監査委員会についてのガイドラインも出されております。英国では、外部監査人がKAMを書く、同時に監査委員会がそのKAMに対してどう対応したかを監査委員会の監査報告書に書く、そして、外部監査人は、監査委員会が対応した事項について書かれた監査委員会の報告書の内容に何か違和感がないかどうかについて、外部監査人の監査報告書に書く、という報告のループのような関係になっているわけです。これを、リポーティングループというのか、金融庁の用語法ではサプライチェーンというのかわかりませんけれども、そういう関係になっているんだろうと思います。

 そして、先ほど監査役等が監査報告でKAMをまたなぞって書いても意味がないというふうなお話がありましたけど、そうではなくて、監査役等の報告書で記載を求めたいのは、そのKAMに上がっているリスク情報に対して、監査役自身がどう対応したのか、という点なんですね。もしも監査役等の監査報告書にそれを書かないとすれば、外部監査人が、監査役等がどう対応したのかを監査役等から聴き取って、コミュニケーションして、外部監査人の監査報告書で書けばいいのだろうと思います。

 この話をすると、必ず監査役の方々から、監査役は会計監査人の監査の結果及び方法の相当性を判断するんだ、立場が違うんだという、反対論がありますけれども、これは内部統制報告制度のときにも同じような議論のあったことです。何か一方的に上に立つ、下に立つというものではなくて、両者がそれぞれコミュニケーションをとりながら、場合によってはモニタリングし合いながら報告をしていく、ガバナンスを効かせていくというのが大事な点なのだと思います。

 もしも日本の監査役が、そうした役割を担わないのだとすれば、ダイレクトリポーティングではありませんけれども、外部監査人が、監査報告書において、KAMとして監査役等にコミュニケーションした事項について、監査役等がどのように対応したかについて書けばいいのではないかな、というふうに考えているところです。

○伊豫田部会長  
 ほか、いかがでしょうか。ご意見ございませんでしょうか。

 時間が多少残っておりますけれども、6番目のKAMの記載以外の監査報告書の記載等の見直しにつきましては次回ということにさせていただきまして、今回はここで終わりにさせていただきたいと思います。今日頂戴したご意見と、事務局からの説明がございました、それをベースにご議論いただきました。それでは、本日の審議はこれで終了させていただきたいと思います。

 次回の日程等につきましては、事務局から改めてご連絡させていただきます。

 委員の皆様には、充実したご議論をいただきまして、大変ありがとうございました。これにて本日の監査部会を閉会いたします。ありがとうございました。
 
以上
お問い合わせ先

金融庁総務企画局企業開示課

03-3506-6000(代表)(内線3657、3663)

サイトマップ

ページの先頭に戻る