企業会計審議会第50回監査部会議事録

 

1.日時:令和3年3月22日(月)10時00分~12時00分

2.場所:中央合同庁舎第7号館 9階 金融庁共用会議室3
 




○西山開示業務室長
 それでは、定刻になりましたので、これより企業会計審議会第50回監査部会を開催いたします。

 私は事務局の企業開示課開示業務室長の西山でございます。

 皆様には御多忙の中、御参加いただき、誠にありがとうございます。

 本日の会議でございますが、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、企業会計審議会議事規則にのっとり、オンライン開催とさせていただきます。議事録はこれまでどおり作成し、金融庁のホームページで公開させていただく予定ですので、よろしくお願いいたします。

 オンライン開催に関して、2点注意事項がございます。まず、御発言されない間は、恐縮ですが、マイクをミュートの設定にしていただきますようにお願いいたします。御発言される際にはマイクをオンにして、ミュート解除で御発言していただき、御発言が終わられたら、またミュートにしていただくということでお願いいたします。また、支障のない範囲で構いませんが、会議中はお顔が見えるように、カメラの設定をオンにしていただきますよう、お願いいたします。

 2点目として、発言を希望されるときですが、チャット機能を使って、全員宛てに発言希望である旨とお名前をともに入れてお送りください。お名前については、協会名などの組織名でも結構ですので、御入力ください。それをこちらで確認させていただいた上で、部会長から指名させていただきたいと思います。なお、御発言に際しては、念のため御自身のお名前を名乗っていただいた上で御発言いただければと思います。

 次に、委員の異動及び本日の会議の参考人について、事務局から御紹介させていただきます。

 2月19日付で、八田進二部会長、荻原紀男委員、中西和幸委員、吉見宏委員が御退任されています。また、2月20日付で、新たに堀江正之部会長、金子裕子委員、青山朝子委員、引頭麻実委員、白川もえぎ委員、髙田知実委員、松元暢子委員が御就任されております。お手元に委員名簿をお配りしておりますので、御参照いただければと思います。

 また、本日は参考人として、日本公認会計士協会の小倉加奈子副会長、有限責任あずさ監査法人の関口智和パートナー、八重洲監査法人の齋藤勉理事長に御出席いただいております。

 それでは、堀江部会長、よろしくお願いします。

○堀江部会長
 西山室長、ありがとうございました。

 それでは、まず初めに、私から一言御挨拶申し上げます。私は、企業会計審議会令第6条の規定に基づき、本年2月20日付で企業会計審議会監査部会長に指名されました堀江でございます。皆様方からお力添えをいただき、実効性の高い意見書を公表できますよう、微力ながらも努力してまいりたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 それでは、まず、会議の公開についてお諮りいたします。企業会計審議会議事規則にのっとり、監査部会の審議について、公開することといたしたいと思いますが、よろしいでしょうか。


(異議なし)

○堀江部会長
 御了解をいただきましたので、本日の会議の模様はウェブ上でライブ中継させていただきます。

 それでは、早速、審議に入らせていただきます。本日は、まず、前回の監査部会におきまして、監査法人の実務上の課題を検討したいという御意見もいただいておりますので、有限責任あずさ監査法人、及び八重洲監査法人から、品質管理の取組状況やISQM1等の導入に関する課題等について、御説明いただきます。

 続きまして、日本公認会計士協会において、中小監査事務所に対し、監査に関する品質管理基準改訂に関するアンケートが行われておりますので、その結果について、御説明いただきます。

 また、事務局からは、前回の監査部会における委員の方々の御意見をまとめたものを、今後の議論の進め方とともに説明いたします。

 このように一通りの説明の後に皆様方から御意見、御質問を頂戴したいと思います。それでは、関口様から御説明をお願いいたします。

○関口参考人
 ありがとうございます。私、あずさ監査法人でISQM1の適用プロジェクトのリーダーを務めております関口と申します。よろしくお願いします。

 本日、次のページのスライドの5つの項目についてお話をさせていただきます。2ページをお願いします。

 まず、当法人の概況ですが、あずさ監査法人はKPMGジャパンの中核を担っております。また、ISQM1は、監査業務以外にもレビュー業務やその他の保証業務にも適用されますが、KPMGジャパンの中では、KPMGあずさサステナビリティが、あずさ監査法人以外にこの基準の対象となるエンティティとなると認識しています。

 次をお願いします。我々、監査報酬、監査業務の割合が非常に大きい、70~80%ぐらいを占める監査法人でございます。

 次をお願いします。あずさ監査法人は、4つのディフェンスラインによる組織的な品質マネジメント体制を採用しています。この4つの体制、マネジメントレベル、品質管理の各部署レベル、それから監査事業部レベル、監査チームレベルと、それぞれがそれぞれの役割、責務を果たしていく。それによって、市場参加者にサプライズを生じさせることがないようにするという監査法人の使命を果たしていこうというふうに、そんなコンセプトでやっております。

 次のスライドをお願いします。ここからがISQM1の適用なんですけれども、大きく言いますと、2020年、昨年度におきましては準備作業を中心にやってきましたが、今年度に入ってから、統制の整備を中心に作業を進めています。昨年も当然、統制の整備を進めてきたのですけれども、基準が確定したということで、これを本格化させているところです。

 来年度においては、この統制の運用、テストの実施、統制の改善を進めていき、最終的にはISQM1が定める適用日に間に合うように準備作業を進めています。

 下の方に行きまして、KPMGネットワークにおける準備作業なんですが、大きくグローバルレベル、地域レベル、各国レベルで、それぞれ役割を担って適用準備を進めております。特徴的なのが、KPMGグローバルで一貫したアプローチを取っていこうということで、グローバルのレベルで、各国でこういう統制を敷くべきだということを検討して決めています。

 それに基づいて、地域レベル、各国レベルで対応がされていまして、とりわけ各国レベルではグローバルで決定されたいわゆる3点セットというものをベースにして、各国の法令も踏まえた上で統制の構築を進めています。

 次のページをお願いします。ISQM1は全体としては基準で8個の構成要素と整理されていますが、KPMGではこのリソースの部分を3つ、すなわち、人的、テクノロジー、知的財産に分けておりますので、全体で10個のコンポーネントがあります。

 この1番、2番と書いたところ、リスク評価プロセス、それから情報コミュニケーションのところについて後で詳しく御説明いたします。

 次をお願いします。適用準備を進めていくに当たりまして、こんな組織体制をつくっています。プロジェクトマネジメントチーム以下のところで実務的な検討をしています。大体2、3週間に1回ぐらいの割合でステアリング・コミッティーに協議をし、専務理事会に2、3か月に1回ぐらいの割合で諮り、報告、協議をする。そんなふうに進めています。

 それとともに、KPMGのグローバルの担当者、責任者、あるいは各地域、我々で言いますとアジアオセアニア地域の各国の事務所とも連携しながらやっています。

 加えて、左の方なんですが、KPMGジャパンの他のエンティティ、先ほど申し上げたKPMGあずさサステナビリティ、それから監査サポート業務を行っております税理士法人と、あとFASという、主にバリュエーションをやっているエンティティとも適宜連携しながら進めています。

 次をお願いします。ISQM1の適用は、ざっくり言いますと、この7個のステップなのかなと思います。まず、品質目標を識別する。それに基づいて品質リスクを識別し、次のところが多分大事なんですけれども、プロセス・リスクポイントを識別するというステップがあります。品質リスクといってもかなりざっくりしていますので、これをプロセスに落とし込んでいき、その中で、どこでどのようにリスクが生じ得るかというのを考えていく。それに対応する統制を構築していきます。

 こうして構築された統制に関する整備・運用状況のテストを踏まえた上で、最終的に評価結果を報告する。これを1年に1回報告することになっています。

 次のスライドをお願いします。ここからがリスク評価、先ほど2つ御説明しますと申し上げたのですが、その中の1つのリスク評価に関する実務的な作業の進め方です。

 このスライドでは、基準の内容を大きく3つに分けています。1つ目が品質目標の設定、2つ目が品質リスクの識別、3つ目が識別されたリスクに対する対応、いわゆるコントロールの整備・運用になります。

 次のスライドをお願いします。前のスライドの内容を図示しますと、こんな形になるかなというふうに思います。品質目標はかなりの部分、基準で所与のものとして示されていまして、それを踏まえて品質リスクを識別していく。その中で発生可能性と影響を両方考慮して、対処すべき品質リスクを検討する。それを踏まえた上で、先ほどのプロセス・リスクポイントを識別し、統制の整備・運用をしていく。そうしたものがリスク評価の全体的な流れになっています。

 次をお願いします。当法人の実務は、先ほども申しましたように、グローバルのネットワークの中で一貫性を保つために、ネットワークレベルで色々な検討をしています。なお、ネットワークによる検討に当たりましては、ワーキンググループが組成されていまして、当法人からも代表者が出席をして検討に加わっています。

 そこで、左の列ですが、品質目標の設定というところで、まず、基準で示された品質目標は全て設定します。その上で、ネットワーク全体で追加すべきものがないか、それから、特定の事務所にかけて追加すべきものがないかを検討します。そして、識別された品質目標を踏まえて品質リスクを識別していきます。

 さらに、3番のところで先ほど申し上げたプロセス・リスクポイントの識別をし、それに基づいて、どんな統制をするべきなのか、構築するべきなのかということを検討します。

 ここでネットワークとして構築すべき統制とメンバーファームとして構築すべき統制が両方あるんですが、ネットワークの方で構築すべき統制は当然ネットワークで対応するんですが、メンバーファームで構築すべき統制についても、ネットワークとしてこんなふうなものを期待していますというのが各国のメンバーファームに送られてきます。

 それを踏まえて、当法人では品質目標の設定、品質リスクの識別、このプロセス・リスクポイントに対する対応というのをやっていきます。また、赤字で示していますが、品質目標の設定については、基本的に追加で識別することはありません。当然、評価はしていくのですけれども、ほとんど想定されていません。それから、品質リスクについても、追加は非常に少数という印象があります。

 プロセス・リスクポイントについては、少数と書いたのですが、これはプロセスの内容によって変わります。例えば、人的リソース、その中でもとりわけアサインメントなどについては各国の事務所にかなり権限、裁量が委ねられておりますので、その辺のところは追加で設定する。他方で、かなりメンバーファームで統一されているところについては、追加で識別するものはほとんどありません。

 次のスライドをお願いします。構成要素の具体例2つ目の情報とコミュニケーションですが、このスライドでは、基準で書いてあること、4点について書き出しております。

 次をお願いします。この4点につきまして、1番目が信頼できる情報の識別・捕捉・処理・維持。2番目が主にカルチャーの部分。3番目が事務所内、チームとの情報のやり取り。4番目が外部への情報の伝達ということで、これを具体的な検討対象に落としていきますと、右の検討対象の列にあるような項目になります。

 それで、この中で一番下のトランスペアレンシー・レポート、これは日本語で透明性報告書というふうに言われるものですが、これに関する統制について少し掘り下げて御説明いたします。

 次のスライドをお願いします。こちらがトランスペアレンシー・レポートの作成の手順、それからどんな統制があり得るのかということをハイレベルで示したものです。トランスペアレンシー・レポートは、まずグローバルのネットワークレベルで作成し、グローバルとして公表します。それに加えて各国でもこれを公表するのですが、各国で公表するトランスペアレンシー・レポートについてはテンプレートをグローバルが作成し、提供する。それに基づいて各国で各国なりのトランスペアレンシー・レポートを公表していくことになります。

 次のページをお願いします。メンバーファームレベルのプロセス・リスクポイントを踏まえた対応は、実は7項目あるのですが、この中で一番下の2つだけ書き出しました。したがって、例えばということではありますが、Wordで作成されて、承認された文言というのが製本プロセスの中で網羅的になっていないとか、正確でなくなってしまうリスクとか、あるいはウェブサイトへの掲載期間というのが規制要求に従っていないとか、こんなものがメンバーファームレベルのプロセスレベルのリスクとされており、これを踏まえた統制を構築することになっています。これは本当に一例なのですけれども、イメージのために記載しました。

 次のページをお願いします。最後に、適用準備における課題ということで、個人的には、大きく3つ感じています。

 1点目が、エンティティの対応によって、先ほど申し上げたプロセスが変わるので、当然、リスクへの対応も異なってくるということ。2点目が、場合によってはIT投資も必要になること。当法人でもIT投資が必要となっており、今、整備を進めています。3点目が、リソースがなかなか確保することが難しいということで、この統制の構築自体はそれほど難しいものでないとしても、リソースの関係でなかなか難儀しているというものもあります。

 私からのご説明は以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 それでは、次に、八重洲監査法人の齋藤様から御説明をお願いいたします。

○齋藤参考人
 八重洲監査法人、齋藤と申します。代表社員、理事長を務めております。本日このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 私は中小監査法人の現場に近いところから、監査の品質管理の現状、そして、ISQM等の導入へ向けた課題として認識しているところをお伝えしたいと思います。

 パワーポイントの資料を2点用意させていただきました。前半は資料2-1から、私たちの品質管理に関する取組みの現状についてポイントを絞ってお話しします。

 右下記載のページ番号の2ページからお願いいたします。1.1. 品質管理の体制・方針についてですが、監査品質を適切に保つため、品質管理規程及び監査マニュアルを策定し、大きく3つの方策を講じています。第1に、品質管理のシステムの監視。第2に、監査業務に関する審査の体制整備・運用であります。

 続いて3ページをお願いします。第3に、会計監査の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制についての説明でございますが、詳細は割愛させていただきます。

 続きまして、4ページでございます。1.2. 品質管理の年間計画ですが、法人の会計年度に合わせ、7月から翌年6月までを1年度と考え、主としてこちらに記載のスケジュールで実施しております。そして、年度を通して個別監査業務の定期的検証を実施しております。現在、被監査会社は75社ですが、全ての監査業務を3年ローテーションで網羅するよう、計画、実施しております。

 5ページをお願いします。被監査会社の数ですが、直近で上場会社14社、その他61社となっております。

 6ページをお願いします。1.4.報酬の構成ですが、記載のとおり、2021年6月期見込みで上場会社4億4,900万円、その他2億5,500万円となっております。その他を含め、全て監査報酬でございます。

 続きまして、2. 品質管理に関するガバナンスの関わり方について御説明します。8ページをお願いします。2.1.トップからの意見発信ですが、こちらの記載メッセージは弊法人ウェブサイトにも掲載している最新のものです。特に最後に記載の自由濶達なコミュニケーションができる健全で風通しのよい組織づくりという点に力点を置いております。

 9ページをお願いします。2.2. 組織風土①について御説明します。現状では社員、職員とも可能な限り縦方向の階層化を避けたフラットな組織としています。また、弊法人では有限責任制度をあえて採用せず、パートナー全員が直接、無限連帯責任を負う自覚の下、相互監視・相互牽制により業務適正化を図る本来のパートナーシップ型法人運営を維持しております。

 この趣旨を貫徹するため、上場会社を含む大部分の監査業務では、現状、指定社員制度も採用しておりません。社員全員により構成される法人社員会のほか、合議体の品質管理委員会、審査委員会を設け、年間数十回の会議開催を通じて、監査水準の品質向上と監査意見の公正性確保を図っております。

 10ページをお願いします。組織風土②について、ポイントを絞って御説明します。弊法人のような小さな監査法人だからこそ、法人の財務的基盤の安定が監査意見の公正性・独立性確保のため重要と考えています。そのため、15%ルールが明示的に言われる以前から、特定関与先への過度な報酬依存度の回避を経営的に意識していたところがございます。過去から現在まで、特定関与先グループに対する報酬依存度が連結ベースにおいても15%を超えたことはございません。

 11ページをお願いします。2.3. 構成員への周知方法ですが、法人の理念等は理事長より年始に全員へ周知しています。また、先ほど申し上げたとおり、フラットな組織体制を敷いていることから、事務所全員が分け隔てなくコミュニケーションを取れる環境にあり、その点においても構成員には周知されていると考えております。

 12ページをお願いします。3. 審査の状況ですが、現在総勢10名で構成される審査委員会から選任された被監査会社1社当たり3名の個別審査委員の合議制による審査を実施しております。審査委員は十分かつ適切な経験と権限を有する者であることが必要であり、一定の資格要件を設けています。個別監査業務の審査担当者3名が主査、または、必要に応じて業務執行社員と対面により審査を実施します。

 13ページをお願いします。4. 品質管理に係る法人外部への情報発信ですが、現在、法人ウェブサイトから品質管理に関する報告書として、品質管理体制及びAQIの概要を開示し、外部への情報発信をしております。こちらは資料2-3でございますので、後ほど御覧いただければと思います。

 さて、続きまして、後半は資料2-2で説明をさせていただきます。2ページをお願いいたします。ISQM1導入に向けての対応について、1.1. 総論ですが、PDCAサイクルを通して、評価したリスクに対応した実効性のある品質管理体制の整備・運用が求められており、監査事務所自らが品質目標の達成を阻害するリスクを識別・評価し、そのリスクに対する方針・手続を設定・運用する必要があると考えております。

 しかしながら、弊法人を含む中小監査事務所におきましては、限られたリソースの中、ナレッジ部門も充実していないことから、特に品質目標の設定、品質リスクの識別と評価などにつきまして、網羅的な検討を実施するためのツールなどの御提供をいただければ大変ありがたいと思案しております。

 また、私たちの加盟ネットワーク、クレストン・インターナショナルから提供されるリソースできる限り有効活用したいと考えています。

 3ページをお願いします。1.2.事務所として今後対応すべき事項ですが、こちらに掲げた5項目を主な課題と考えております。具体的には、4番、新基準対応を踏まえた法人役職、職位、役割分担の明確化。5番、加盟国際ネットワークより提供されるリソースの積極利用によるナレッジの充実と新規程、マニュアル等の整備が中心になろうかと思います。

 4ページをお願いします。2. ISQM2における審査担当者のクーリング・オフ期間の導入への対応についてですが、さきに申し上げたとおり、1社ごとに3名の個別審査担当者の合議制審査を実施しております。この合議制審査担当者3名全員について、クーリング・オフ期間が必要となるか否かにより、私たちのような小規模監査法人は組織の在り方に関して影響を受けることになると考えています。

 社員間の相互監視・相互牽制によるガバナンスを生かすため、この審査担当者3名の人数は減らしたくないと考えておりますが、上場会社1社当たり監査責任者3名、合議制個別審査担当者3名の体制継続を前提にしますと、フルローテーションとフルクーリング・オフのため、上場会社1社当たり、交替要員を含め最低12名程度の関係社員確保が必要になると思われます。弊法人では、その対応は何とか可能と思いますが、広く中小監査事務所、中小監査法人の在り方に影響を及ぼすであろう点に関心がございます。

 5ページをお願いします。3. 適用までのスケジュール①ですが、現状ではクレストンにより提示されたインプリメンテーション・タイムラインに準じて、2021年から22年初めにかけて導入準備を進め、22年の早い段階からの所内トレーニングの実施を通じて、22年12月の導入を目指したいと考えております。また、2023年にはクレストンによる新基準対応のネットワークレビューも予定されております。

 最後に6ページをお願いします。適用までのスケジュール②ですが、今般クレストンメンバーファームとして私たちは、新基準対応を想定した英文の「Audit and Assurance Manual」の初期ドラフトの提供を受けました。このドラフトをベースに、当監査法人の実情に適した改訂を通じ、日本語版の新品質管理マニュアルの研究を進め、今後具体化する日本の新品質管理基準との整合性を調整しながら、導入促進を図っていくことをイメージしております。

 以上、大変駆け足になりましたが、御清聴ありがとうございました。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。引き続きまして、日本公認会計士協会の小倉様より御説明をお願いいたします。

○小倉参考人
 公認会計士協会副会長の小倉です。私からは中小監査事務所に対するアウトリーチについて御説明をさせていただきます。

 まず、3ページを御覧ください。品質管理基準の改訂に当たりまして、上場会社監査事務所のうち、大手・準大手監査法人を除く中小の129事務所宛てにアンケートを実施いたしましたので、その概要を御説明させていただきます。

 日本公認会計士協会は、アンケートに先立ち、国際基準の理解を深めていただくために、上場会社監査事務所の代表者及び品質管理担当者向けに、本年1月28日に監査を巡る国際的な動向に関する説明会を開催し、甲斐IAASBボードメンバーと山田IESBAテクニカルアドバイザーから監査と倫理の国際基準について解説するウェブセミナーを実施いたしました。当日参加ができなかった監査事務所にはウェブセミナーの録画を送付して、内容の周知に努めております。

 アンケートの目的は、前回監査部会でも御説明したとおり、品質管理基準を実効性を持って現場に導入するために、次の3点について意見を聴取いたしました。

 1点目は、ISQM1の各構成要素について、各事務所における重要な課題や懸念点を把握するもの。

 2点目は、公認会計士・監査審査会の検査や日本公認会計士協会の品質管理レビューにおいて、品質管理向上のために有用と認められた指摘事項を把握するもの。

 3点目は、新たな基準を導入するに当たっての要望や課題を把握するものです。

 アンケートの回答数はスライドのとおりですが、中小事務所の属性を規模から2つのカテゴリーに分けております。この属性は公認会計士協会の統一的な分類ではなく、今回のアンケートにおいて利用したものです。

 スライド5ページを御覧ください。1点目の質問は記載のとおりです。ISQMの8つの構成要素について、重要な課題の有無、課題がある場合にはその内容について回答を求めました。

 6ページを御覧ください。監査事務所のガバナンス及びリーダーシップです。回答件数は参考に記載をしています。ガバナンス及びリーダーシップの要求事項には、例えば、「監査事務所の品質マネジメントシステムのデザイン、適用及び運用を可能にするように組織構造並びに役割、責任及び権限の分担が適切である。」というものがあります。代表的なコメントとしては、グループ1、2とも、中小事務所の特色として人数が少ないことを反映し、品質マネジメントを所管する部署の組織の見直しや人員の増強を課題として挙げています。

 7ページを御覧ください。職業倫理と独立性に関しては、国際監査基準の改訂により、構成単位の監査人が監査チームに含まれることから、その対応が課題として挙げられています。また、グループ2の方では、IESBAの基準の変更により、報酬依存度に関する規定が変更されることから、この点が課題として認識されております。日本公認会計士協会では、冒頭に御紹介した監査事務所向けセミナーを通じ、倫理基準に関する改正についても検討に着手をしております。

 10ページを御覧ください。経営資源については、今回の基準ではテクノロジー資源に関する要求事項が含まれました。例えば、「適切なテクノロジー資源は、監査事務所の品質マネジメントシステムの運用及び業務の実施を可能にするために、取得もしくは開発され、適用され、維持され、また使用される。」という要求事項があります。課題としては、データ分析ツール等に関し技術面、資金面の懸念を持つ意見がグループ1、2双方から上げられています。

 また、人的支援に関しては、グループ2から専門要員が非常勤が中心であることを踏まえた意見が出されております。

 12ページを御覧ください。監視及び改善については、人員が少ないことや適切な人材や時間の確保についての課題が寄せられています。なお、ISQM1には監視及び改善プロセスのための監視活動を示す適用の柔軟性についての言及があります。

 続いて15ページを御覧ください。ここからアンケートの2点目に移ります。公認会計士・監査審査会の検査や日本公認会計士協会の品質管理レビューにおける指摘事項のうち、監査事務所における監査品質向上の観点から、特に有用と認められた指摘事項を聞き、監査品質向上への鍵となる事項を探るために、参考にしたいと考えております。

 16ページを御覧ください。こちらは公認会計士・監査審査会の検査における指摘事項でございます。人材の必要性については、毎回、外部の検査において指摘事項が繰り返されるが、その根本原因として監査事務所の定期的な検証において、検証者が監査基準を深く理解していないということがあり、検証者となる者の育成に関する指摘事項が挙げられ、これにより、深度ある定期的な検証を行って、監査業務の指摘事項の減少につなげられることとなったため、有用な指摘事項であったというものでございます。

 また、品質管理体制における最高経営責任者の役割や組織構築、規程の整備・運用等は、指摘事項の根幹にあるものは組織風土であり、単に品質管理基準等への対応を図るのではなく、品質を重視する風土を醸成するための改善を図ることの重要性を認識する上で有用と認められたという意見がございました。

 19ページを御覧ください。こちらは日本公認会計士協会の品質管理レビューにおける指摘事項です。監査業務の実施や審査にかかる時間の管理では、事務所全体の監査時間数と被監査会社数との比較や監査責任者の担当会社ごとの監査時間数などにおいて、大規模な監査法人の一般的な年間の品質管理時間や審査時間とベンチマークすることなどにより、自社を評価することが参考になったという意見です。

 なお、品質管理体制については、指摘だけではなく、指導、アドバイスをいただくことがあり、それが品質管理体制の向上につながり、大変有用であるという意見がありました。

 情報セキュリティに関しても、品質管理レビューの際に電子調書やIT監査など、先進的な手法のアドバイスが非常に参考になったということです。

 最後に、品質管理基準の改正における要望について御紹介させていただきます。21ページを御覧ください。まず、適用時期に関する要望です。新しい規程やツール等の整備、監査事務所内の周知等を踏まえて、十分な準備期間を要望しています。

 22ページを御覧ください。改正の内容についての要望です。現行の品質管理基準と比較し、制度の趣旨や基本的な考え方が変更される事項については、前文等において明確にしていただきたいという要望があり、これは改正基準を理解するために役立つものと考えます。

 また、グループ2については、人員が比較的少ない事務所であることから、各事務所の規模や実態に即した実効的かつ効率的な規定が望まれるという意見が見られます。

 次のページを御覧ください。最後に、監査品質の向上に資するという実効性を確保するために、事例、例示、ツールなどの提供を要望する意見が多く見られます。また、研修による十分な周知の要望があります。これらには日本公認会計士協会において、監査基準改訂を見据えて取り組んでまいりたいと考えております。私からの御説明は以上でございます。

 ありがとうございました。

○堀江部会長
 ありがとうございました。

 それでは、議事次第3番目、前回監査部会で出された意見のまとめと今後の議論の進め方につきまして、事務局より説明をお願いいたします。

○西山開示業務室長
 事務局より、前回の部会でいただいた御意見と今後の部会の進め方の案について御説明させていただきます。

 前回会合では、監査法人の品質管理に関する多岐にわたる御意見をいただきました。御意見について、1枚目のスライド以降にまとめております。事務局で大まかな内容ごとに分類して、左側に分類名、右列に部会におけるコメントの内容を載せております。

 1枚目では、品質管理全般に関する御意見を赤文字AからⅮの中分類に分けて記載しておりまして、Aでは、監査事務所における品質管理について、ISQM1の導入によりプロアクティブな品質管理を行い、能動的な品質改善サイクルを回していくことが重要といった御意見いただいております。Bでは、上場会社の監査を行う事務所について、一定レベルの品質管理を整備・運用してほしいといったことがございました。

 2ページ目のスライドでは、ISQM1、2のより具体的な分類に対応した御意見を記載しています。例えば、中小事務所に対するリソースを考慮しつつ、実効性のあるものにする必要があるといった御意見や、マネジメントの関与に関する御意見などがございました。

 3ページ目のスライドでは、監査報酬に関する御意見や、教育研修の項目では、事務所のリソースに関連して、若い会計士のスキル蓄積やデジタル化への対応が重要であるといったコメントがありました。

 4ページ目では、監査事務所が取り組んでいる品質改善の状況について、外部から把握できるような開示がより進むことを求める御意見がありました。また、品質マネジメントシステムについて、改善につながるような不備を把握することの重要性に関するコメントがございました。

 5ページ目、6ページ目以降は、必ずしも品質管理基準、監査基準の改訂に関するものにとどまらず、より広範にいただいた御意見を掲載しております。監査法人のガバナンス・コードでありますとか、公認会計士・監査審査会の行う検査や日本公認会計士協会の品質管理レビューなどについての御意見がございました。これらについては品質管理などの議論の参考とさせていただきつつ、監査法人や公認会計士を巡る制度への中長期的な御意見として受け止めさせていただきたいと考えております。

 7ページ目、今後の議論の進め方(案)のスライドを御覧ください。今後の監査部会では草案作成を意識しつつ、よろしければ、より具体的な議論に入っていければと考えております。つきましては、次回以降は、基準の改訂に向けて、ISQM1の構成要素などを中心に議論を進めていくこととしてはどうかと考えております。以上でございます。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 それでは、ここまでの御説明を含めまして、前回の部会での御議論に引き続き、監査の品質管理に関しまして、御質問、御意見をお願いいたします。前回、時間の関係から御発言いただくことができなかった委員、また、本日から新たに議論に加わっていただきます委員の方で御質問、御意見がある方を先に指名させていただければと思います。先ほど西山室長から御説明がありましたとおり、発言御希望の方はチャット機能にてお知らせください。

 なお、本日欠席の松本委員からメモの提出がございました。委員の皆様には事前に事務局から配付させていただいておりますので、読み上げは省略させていただきたいと思います。

 それでは、御質問、御意見をいただきたいと思います。まず、引頭委員、よろしくお願いいたします。

○引頭委員
 御指名ありがとうございます。今回から参加させていただくことになりました引頭と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 御説明ありがとうございました。全般的な意見として3点ございます。

 まず1点目ですが、この適用に関してでございます。品質管理基準というのは全ての監査法人に適用されるのが原則と理解しております。一方で、今いろいろ御説明ありましたけれども、規模も含め様々な監査法人が存在しているということも事実でございます。視点として、監査法人の規模に応じて考えるということよりも、当該監査法人の監査対象企業あるいは団体、その監査においてどのような品質が求められているのか、それを視点とすることが非常に重要だと思います。

 例えばですが、公開会社あるいは非公開会社の中でも社会的に重要な会社、そうした会社とその他の監査対象では少し異なるのではないかと思います。こうした視点も基準をつくる上で取り入れていくべきなのではないかと思った次第です。これが1点目でございます。

 2点目でございます。新規契約の締結、受嘱に関してです。これは先ほどの適用に関する意見で申し上げたこととも通じるのですが、公開会社や社会的に重要とされる非公開会社、団体に対する新規の契約の締結、そして、そうでない会社を見た場合、新規の契約の締結を行う際のリスク評価アプローチというのは同じでよいのかということです。私は、ちょっと違う気がしております。

 さらに、公開会社に対する受嘱においても、既に公開されている会社と、新規公開、IPOのときの受嘱では、また少し変わるのではないかというふうに思います。

 金融庁で、「株式新規上場(IPO)に関わる監査事務所の選任等に関する連絡協議会」という会合が開かれまして、昨年3月にその報告書が公表されております。その考え方に加えて、監査法人の受嘱の際のリスクアプローチに関しても、より深度あるものにすべきではないか、より慎重に深く考えるべきではないかというふうに思った次第でございます。これが2点目でございます。

 最後でございます。審査についてです。先ほどの八重洲監査法人の御説明ありがとうございました。中小監査法人では審査において様々な工夫をされているということがよく理解できました。審査体制が十分ではない監査法人、事務所については、委託審査という制度がございます。現在では、かなり小規模の監査法人あるいは事務所のみが使える制度となっていると理解しておりますが、このISQMの導入を機に、審査の品質をさらに高めていく、そういうことを考えますと、委託審査についても、いま一度、様々な角度から見直し、あるいは場合によっては拡充をすることが必要ではないかと思いました。

 ただ、その場合には、行政としても、その審査をする受皿、例えば監査法人あるいはそれ専門の監査事務所というのは今後必要なのかもしれませんけれども、どういうふうにしたらよいのか、これも幅広に考えていく必要があるのではないかと思います。

 申し上げたかったのは、単なる品質管理基準だけを決めるのではなく、それを制定するに当たり、実務上の問題があった場合には、その周辺も含めて、日本としての体制整備をしていくべきではないか。そういう意味合いでございます。

 以上でございます。ありがとうございました。

○堀江部会長
 大変有益な御提言を含む御意見ありがとうございました。引き続きまして、松元委員、御発言をお願いいたします。

○松元委員
 ありがとうございます。学習院大学の松元でございます。商法、会社法や金融商品取引法などを専門にしております。よろしくお願いいたします。

 私からは、中小の監査法人にどのような対応を求めるかという点について、1点だけコメントを差し上げたいと思います。

 先ほど引頭委員からも御指摘がありましたように、監査対象がどういった会社であるかという視点がとても重要になってくると思います。特に監査対象が上場会社の場合、上場会社は当然ながら広く投資対象になりますので、しっかりした監査が必要になります。

 今回の改訂について、具体的な課題として、2年間のクーリング・オフ期間の要件を中小の監査法人に守らせることがなかなか難しいんじゃないかというようなことが指摘されていたように理解していますけれども、もし仮に、監査法人の規模が小さい場合に2年間という要件を免除するということになったとしても、上場会社で何か問題が起きた後になって、実はその上場会社が利用していた監査法人は小さいところで、2年間のクーリング・オフというのはやっていなかったというのを後から投資家が知ることになるという状況は一番望ましくないと思います。仮に要件を免除するということにするとしても、どの監査法人が要件を免除されているのかということについて、投資家がちゃんと知ることができるような仕組みにしておくことが最低限必要です。仮に、上場会社が、例えばクーリング・オフの要件を満たしていない監査法人を使う場合には、少なくとも投資家がそれを知ることができるような状況にしておくということが最低限必要であるように思います。

 ですので、上場会社の場合には投資家がちゃんと監査法人についての状況を知ることができるようになっているかという視点に御注意いただきたいというのと、関連して、監査法人も監査の質で評価されることが望ましいわけですが、監査法人についての必要な情報開示を行うことで、投資家が、あの監査法人に頼んでいるならこの上場会社に投資しても心配なさそうだろうとか、逆に、この監査法人になぜお願いしているのかわからないから、ちょっと慎重になろうとか、そういった形で投資家が判断できるようにするというのも重要なことかと思います。ちょっと今回の検討課題から外れてしまうかもしれませんが、例えば、上場会社の有報でも、その会社が使っている監査法人についてもう少し開示を充実させるとか、そういったことも含めて、投資家への情報開示ということにも留意して今回のルールも修正していただければ、よりよいのではないかと思いました。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。極めて具体的な御指摘をいただき感謝いたします。それでは、林委員、次に御意見、御質問等ございましたら、お願いいたします。

○林委員
 林です。よろしくお願いいたします。本日は、議論を始めるに当たって、具体的な論点ではなく、大きな方向性について発言をさせていただきたいと思います。

 まず、今般のIAASBにおける品質管理に関する基準改訂への対応について、基本的な考え方について意見を申し上げたいと思います。御承知のとおり、IAASBにおける基準設定には金融庁も会計士協会も関与しておりますし、公開草案により意見聴取などのデュープロセスも経て、成案となっています。また、御承知のとおり、会計士協会は国際会計士連盟のメンバーとして、国際基準を日本に導入する努力義務も負っておりまして、これまでも監基報や倫理規程を中心にそのように対応をされていると理解しております。

 これらのことを念頭に置きますと、今回の品質管理に関する基準改訂を無批判にそのまま受け入れればよいということではなく、本審議会では、よりよい品質管理を実現できるように、会計士協会の対応、公認会計士・監査審査会の対応、その他の施策対応などを視野に入れて、それからもう一つは、いろいろ意見が出ておりますが、監査事務所の現状も踏まえながら、今般のISQM1、2、それからISA220の新設、改訂に審議会としてどこまでどのように対応するかというのを検討することになるのだろうと、こういうふうに理解をしております。

 その検討に当たっての留意事項ですけれども、特にスケーラビリティの趣旨を適切に踏まえることが肝要であろうというふうに考えております。このスケーラビリティといいますのは、品質管理を適切に行うために、事務所の規模や複雑さに応じた事務所ごとの対応というのを求める、あるいは認めるものでして、監査事務所ごとに確保されるべき品質管理の水準、結果としての水準、これに高低が認められるものではないというふうに考えます。

 したがって、現時点でも既に負担増、コスト増、あるいは人員不足というような懸念が示されてはいるんですけれども、それぞれの事務所ごとに、実情に応じて適切な品質管理を行うために、必要な負担というのは不可避だろうというふうに考えます。

 また、負担増でかえって品質が下がるのではないかという懸念、これは従来からも表明されている懸念ですけれども、これは基準設定の過程であるか、あるいは適用後レビューの結果を受けて主張するということは考えられますけれども、現時点ではこれを言っても仕方がないと考えますので、まずは実情を踏まえつつ、新設、改訂された品質管理の基準をいかに日本に導入するかということ、これは先ほどの繰り返しですが、これを一緒に考えられたらと思っております。

 ただし、適用時期については柔軟に対応することが必要でないかというふうに考えております。

 それから最後になりますけれども、財務諸表監査にかかるコストというのは監査事務所のみが負担すべきものではありません。会社、株主を中心に、関係者も応分の負担をすべきものであると考えられますので、監査報酬の問題、あるいは人材育成の問題なども指摘されておりますが、これらも併せて考える必要があるかと思います。

 また、日本の上場会社数は非常に多く、これに一律の監査規制がかけられているという現状も見直す必要があるのではないかと常々考えております。上場企業のうち一定の条件を満たす会社の監査について、要求事項を追加するというような形の施策、規制のかけ方というのも考えられるのではないかと思います。

 これらは今般の品質管理基準の見直しのみに関係するものではなく、中長期的な課題ではありますけれども、そのような観点から継続的に監査制度の在り方を見直すことを望んでおります。

 私からは以上です。ありがとうございました。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。今後の本部会の進め方等も含めまして、有益な御意見を頂戴したわけでございます。

 それでは、引き続きまして、チャットで入られている順番で行きたいと思いますが、町田委員、お願いいたします。

○町田委員
 ありがとうございます。町田です。私の方からは2つの点について申し上げたいと思います。

 1つは、今、林委員から御発言のあった国際基準を導入するに当たって、スケーラビリティの議論などあるわけですけれども、その点について申し上げたいと思います。今回の基準改訂のきっかけになった国際基準の改訂は、従来の基準が、組織の規模、監査法人の規模によって柔軟な対応ができないということで、スケーラビリティの対応が目標とされて、導入されたわけです。ただ、それはあくまでも、例えば、求められている構成要素を導入するに当たって、監査法人ごとに組織構造等で柔軟に対応する、そういう意味でのスケーラビリティなのであって、基準の構成要素の例えばこの部分はやらなくていいとか、そういった話ではないんだろうと思うわけです。

 ちょっと教科書的なお話になりますけれども、監査基準というのは、品質管理基準もそうですけれども、ミニマムラインなはずなのですね。監査を行うに当たって、監査の品質を確保するに当たって、最低限達成しなきゃいけない内容なので、ちょっと厳しい言い方をすると、これが達成できないのであれば、監査を十全に達成した、あるいは完了したと言うことはできないんだろうと思うわけです。

 国際基準ではPIEなんて言い方をしますけれども、上場企業や、日本の場合は上場企業だけでなくて、恐らく大会社もそこに含めてくるのではないかと思いますけれども、いわゆる公認会計士法上の大会社等に含まれるレベルまでの監査については、一定以上の品質管理というのは不可避なのだろうと考えます。もしもそれができない、もしもそれを行うに必要な人材が組織内で得られないのであれば、外部に頼る等々をして、品質管理をしていただく必要がある。特に昨今、我が国でも中小事務所の監査の品質に関して大きな問題が起きている中で、その点は譲れないのではないか、上場企業や大会社の監査では、監査の品質においてどうしても達成しておかなければいけないミニマムラインがあるのではないかという点を申し上げておきたいと思います。

 それからもう1点は、最後に金融庁の事務局の方から今後の進め方が提示されていたのですけれども、ぜひ併せて考えていただきたい点があります。というのは、前回の審議会の資料にもありましたけれども、イギリスやアメリカでは、国際基準にアドオンする形で、例えば日本で言えば不正リスク対応基準などがそれに当たりますけれども、品質管理についても、自国の法律や、あるいは監査の実態に合わせてアドオンする形で新たな規定の追加を検討していくということがあると思います。

 特に日本の場合は、監査法人のガバナンス・コードを持っていて、また、不正リスク対応基準の中にも品質管理の規定を持っていて、また、公認会計士法にも様々な規定もあります。また、先ほど公認会計士協会の説明からありましたけれども、上場企業を担当する監査事務所が130近くあるという状況。これも、非常にまれなケースとして指摘できるだろうと思います。

 そういったことを含めたときに、先ほどの今後の進め方のところでは、構成要素や監査チームのことを検討すると記載されていましたけれども、それだけではなくて、監査法人のガバナンス・コードの改訂や、公認会計法の改正の議論の議論も併せて検討していただきたいと思います。例えば、中小事務所の品質管理制度の問題、あるいは監査法人の設立の規定が5人で監査法人が組成できるとされている現在の公認会計士法の規定の問題、そういったことも、広く検討していただきたいということをお願いしておきたいと思います。

 そして、この審議会の基準、監査に関する品質管理基準は、全ての監査の品質管理について適用されるものとして、今、置かれているわけですけれども、今後、一体、この監査に関する品質管理基準を同じような形で置くのかということも、つまり適用の範囲、例えば不正リスク対応基準は上場企業プラスプラス大規模な金融機関を適用範囲として考えているわけですが、それに対して、監査に関する品質管理基準は今後とも全部の監査が適用範囲なのかどうかということも検討していただきたいのです。あるいは、日本の企業会計審議会の基準の適用範囲が、基準によって様々であるということについても検討して、できれば整理していただきたいというふうに思っております。

 以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 これから審議を進めていくに当たって、林委員に続いて具体的な御提案等をいただきましたので、こちらの方で検討させていただきたいと思います。

 それでは、引き続きまして、髙田委員、お願いいたします。

○髙田委員
 御指名いただきまして、ありがとうございます。神戸大学の髙田と申します。臨時委員を拝命いたしまして、今回から参加させていただきます。どうぞよろしくお願いします。

 私の方からは2点、品質管理基準の、どちらかというとエンフォースメントの面に焦点を当てた内容について発言させていただきたいと思います。

 まず、1つ目ですけれども、品質マネジメントシステムによる保証に関する結論についてです。ISQM1では、品質マネジメントシステム全体の運用によりまして、品質マネジメントシステムの目的が達成されていることを合理的に保証するということが想定されています。ただし、識別された不備が重大で広範である、識別された不備を改善するための措置が適切ではない、あるいは識別された不備の影響が適切に改善されていないという状況においては、品質マネジメントシステムの目的が達成されていないと結論づけられる場合が考えられます。

 上場企業では、財務報告に係る内部統制について開示すべき重要な不備が発見され、公表される場合があったとしても、すぐさま財務諸表に重要な虚偽表示が存在することを意味するのではないことに鑑みますと、監査事務所の品質マネジメントシステムに重大かつ広範な不備が存在していたとしても、すぐさま当該監査事務所が上場企業等の監査を実施できないほどの問題を有しているわけではないという考え方もあると思います。

 しかし、財務報告については、財務諸表監査という、言わばディフェンスラインがございます。財務諸表に重要な虚偽の表示が存在するか否かについて独立の立場で評価することで、財務諸表の信頼性が担保されるような仕組みがあるのに対しまして、監査事務所の品質マネジメントシステムに重大かつ広範な不備が存在している場合には、そのようなディフェンスラインは存在せず、その結果として、実施された監査業務が適正でなかったとしても、それを即時に是正するようなメカニズムは存在しません。

 例えば、日本公認会計士協会や公認会計士・監査審査会からの品質管理レビューや検査が一種のディフェンスラインとして機能するとも考えられますが、基本的にそれらは事後的な評価であって、適時性という観点では問題が残ると考えられます。したがって、品質マネジメントシステム全体が、その目的の達成に関して保証を提供しているかについて結論を述べるというISQM1の枠組みを導入するのであれば、重大かつ広範な不備が存在しているという結論を述べることも許容しつつも、そのような監査事務所による監査業務が信頼に足るものであるということをサポートするような仕組みが業界全体で必要になってくるものと考えられます。これが1点目の内容になります。

 2点目の内容については、中小監査事務所における品質管理基準の改訂の影響についてです。他の委員からも御意見、言及がありますけれども、中小監査事務所、特に規模の小さいようなところ、具体的には中小監査事務所に対する公認会計士協会からのアウトリーチでは、グループ2とされたような監査事務所です。こういった規模の小さい監査事務所において、改訂品質管理基準の適用に関しては様々な議論のあるところだと思っております。

 ここからは学術研究のお話にもなるんですけれども、日本のみならず国際的にも、いわゆるBIG4と呼ばれる大手監査事務所の市場占有率が高い市場は多いわけですけれども、過去5年ほどはそれ以外の監査事務所における品質管理や監査品質に注目されたような学術研究が散見されるようになってきました。これは、国際的な学術研究の話をしております。たとえ占有率は低くとも、一定数の上場企業の監査業務を提供していることや、大手事務所とは異なりまして、規模の小さな事務所は相対的な数が多くなりますから、それによって競争が加速され、大手事務所のマーケットとは異なるメカニズムが機能している可能性もある等の理由から、いわゆるセカンドティアと呼ばれるような準大手も除いた中小規模の監査事務所にスポットライトを当てたような学術研究が増えてきています。

 全ての関連研究を網羅的に確認しているわけではありませんが、いくつかの先行研究によりますと、中小規模の監査事務所も国内外にネットワークや提携関係を張り巡らせておりまして、そのような連携関係を通じて、専門知識や人材の共有などを進めているということです。また、大手監査事務所と中小規模でネットワークを持つ監査事務所とでは、同種のクライアントに対して提供する監査業務の品質が同程度に高い、言い換えますと、何のネットワークにも属していない監査事務所のみ監査品質が相対的に低いというようなデータ分析の結果を示すような研究もございます。

 これらの結果に鑑みますと、全くネットワークに属していないような監査事務所では、そもそも品質管理に問題を抱えている可能性が高く、また、そのノウハウを提供するようなカウンターパートが存在しないことから、品質管理基準の改訂によっても十分かつ適切な制度的フォローがなければ、新たな枠組みから取りこぼされる可能性があると考えられます。このフォローを、いずれの主体がどのような形で実施するのかについて、事前の十分な議論と検討が必要であると考えられます。

 ただし、先ほど申し上げました学術研究については、1点、御留意いただきたいことがございます。すなわち、これらの学術研究は基本的にアメリカを中心としたものでありまして、例えば中国の監査市場においても同様の研究が存在しておりますが、中国では、国際的なネットワークに属している国内的な監査事務所は、ネットワークのない監査事務所と監査品質が変わらないという、アメリカとは異なる結果を提示していることを付言しておきます。

 つまり、この結果は、ネットワークとの物理的な距離や制度的な違いによってネットワークの価値は変わり得ることを示しています。ですので、日本の監査事務所の状況がアメリカと中国のどちらの結果と整合するか、あるいはそのいずれとも異なるのかについて、慎重に検討した上で制度の枠組みをつくる必要があると考えられます。

 私からは以上になります。ありがとうございました。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 我が国の監査実践を前提とした実証研究から得られたエビデンスに基づいて審議を進めていくというふうなところまで、まだちょっと不足しているところもあるかと思うんですけれども、学術研究に基づくエビデンスに基づいて当部会としても議論していくという、そういう方向性というのは非常に重要かと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 それでは、金子委員、御準備いかがでございましょうか。もしできれば、次、お願いいたします。

○金子委員
 ありがとうございます。すみません、PCの音声が不調なため、電話で意見を述べさせていただきます。早稲田大学の金子と申します。今日から参加させていただきます。

 私の方からは、2点申し上げたいと思っています。

 まず、検討が進められている基準につきましては、前回の御説明にありましたとおり、適用に柔軟性があるので、中小の法人であっても適用しやすい。つまり、自らの実効性を評価することによって、リスクに見合った品質管理体制を構築していくということですので、有用なアプローチであると理解しております。

 しかしながら、皆さんからリソースの問題が出ているというのは、リスクアプローチは、これだけのリスクがあって、これをやらなければならない又はやればいいのだという説明をきちんと文書化する段階で一定の工数がかかりますので、その準備の状況が、あずささんやそのほかの中小の監査法人さんでは違うということではないかと感じました。

 それから、この基準は、柔軟性のあるアプローチですから、適切にリスクを評価して、適切に運用しているのかに関するモニタリングが非常に大事になってきますけれども、モニタリング体制も、法人によって体制がかなり違うと思います。現行でも、大手法人の場合は、部門、それから本部、さらにグローバルといったような、事務所の中での多層的なモニタリングがされている。これに外部のモニタリングがプラスされているわけですので、モニタリングのリソース等に違いがあるとすれば、ここもリスクアプローチに従ってしっかりしたモニタリング、あるいはある程度のモニタリングというような対応も考えられるのではないかと思っております。そして、適切な品質管理ができていない会計士に対しては、公認会計士協会等で注意や教育などをするとともに、厳しい対応が必要になる場合もあり得ると思っております。

 それから、2つ目、監査を取り巻く環境ですが、皆さん、御存じのとおり、企業環境は、DXやグローバル化、あるいはネットビジネス等の新しいビジネスの展開などが非常に進んでおりますので、会計基準や監査基準は非常に複雑化し、頻繁な改訂がされています。したがって、監査現場で実施しなければならない事項や文書化が非常に増えていますので、監査現場の会計士は、監査調書を作る、整えることに追われてしまう傾向があると思います。それが監査現場のやりがいを失わせている1つの原因になっているのではないかと思います。

 監査品質を上げていくためには、やはり優秀な人材の確保と品質管理の仕組みを事務所の中できちんとつくっていくこと、そして、一定の監査時間を確保することが非常に重要だと思います。さらに、監査法人の中での間接的なコスト、例えばリモートの対応とかIT投資、それから品質管理のための仕組みづくりなどが、非常に増えていることを御理解いただいて、監査報酬を一定のレベルで増やしていくことも非常に重要なことではないかと思っています。

 私は、大学院で、日頃、会計士を目指す学生たちと接しておりますけれども、今の若者たちというのは個人の生活を大切にするというような価値観を持っていますし、多様性というのが大事だという教育を受けています。また、専門職として誇りを持って社会に貢献したい、自分を高めたいということを思っている学生がたくさんいます。こうした会計士の期待に応えるビジョンを監査法人が示して、IT化や監査時間の確保などの仕組みを整えて、監査の品質を後押しするような基準をつくる議論をしていけたら大変ありがたいと思っております。

 すみません、長くなりました。ありがとうございました。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 それでは、引き続きまして、水口委員、御発言をお願いいたします。

○水口委員
 ありがとうございます。

 2つの監査法人から、それぞれの特性を踏まえて、ISQM1などに関して、前向きな取組みなどについて御説明いただき、ありがとうございました。

 私からは2つの意見を申し上げます。

 1点目は、中小監査事務所に対するアンケートの結果を受けた中小監査事務所への期待についてです。財務諸表利用者の立場から申し上げますと、情報品質に問題がないという前提で投資判断などに監査済みの有価証券報告書を活用しているという状況です。情報品質の確保に向けて、監査を担う監査事務所が実効性のある品質管理体制を有することを期待しておりますし、この点は譲れないと考えております。

 いろいろな中小監査事務所が存在する中で、品質管理体制の在り方は様々ではあるとは思っておりますが、本日のアウトリーチの結果を聞いて、中小監査事務所が上場会社の約2割を監査しているという現状を考えるにつけても、上場会社を監査する中小監査事務所の品質管理体制の実態、また、品質管理に対するコミットメントなどについて、ちょっと懸念に感じる点もございました。

 上場会社の監査に従事するのであれば、上場会社の監査に資する品質管理体制を自主的に構築して、自らの品質管理の実効性について、関係者が納得し得る説明を行う力量を有することを期待するという一線は譲れないと考えております。仮に、負担が大きいのでこうした期待に応えられないが、上場会社の監査には従事し続けるというような考え方があるとしたら、財務諸表利用者の立場から看過し難いと考えております。

 様々な中小監査事務所が存在する中で、特に上場会社の監査に従事している中小監査事務所には、新たな監査基準に基づいて品質管理体制を整備、運用していただくことを期待しておりまして、いろいろな選択肢もあろうと思いますので、改善施策の構築、運用状況などを、ぜひアピールしていただければと思っております。

 2点目は今後の議論の進め方についてです。今日までの御説明なども踏まえまして、見えてくる品質管理に関する課題への対応を視野に入れて、監査事務所が主体的に自らリスクの所在を特定し、監査品質の改善策を取って振り返ることを繰り返すPDCAサイクルに着目することには大いに意義があると考えております。これまで御提示いただいた多岐にわたる論点はどれも重要であると思いますが、本監査部会ではISQM1などの品質管理の論点に焦点を当てて、審議することが妥当であると考えております。

 以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 私が、質疑、意見の交換に際しまして申し上げましたことは、前回、御発言いただけなかった委員、それから、新しく委員になられた方を、あくまでも優先して御発言いただくという意味でございまして、ほかの委員の方からもまだ広く御意見を頂戴する時間が、あと30分程度ございますので、もし御発言等ございましたらよろしくお願いいたします。

 いかがでございましょうか。

 それでは、今、住田委員から発言希望ということがありましたので、住田委員、どうぞよろしくお願いいたします。

○住田委員
 ありがとうございます。私からは、資料4の最後のページに示されております、今後の進め方について、少し意見を述べさせていただきたいと思います。

 冒頭に総論というふうに書かれていますが、この総論の部分で、ISQMが採用した品質マネジメントの考え方、今まで委員の方からも御紹介ありましたけれども、ISQMで設定されている品質目標を脅かすリスクを、個々の事務所の状況に応じて識別評価してそれに対応するというこの考え方を取り入れるということの意味をきちっと、もう一度、この監査部会でも確認していくことが非常に重要なんじゃないかと思います。

 先ほどから、スケーラビリティの話が出ておりますけれども、そもそもスケーラビリティというのは、画一的な品質管理システムの構築を今までの基準が課しているようなところがあったという反省の下に出てきたものではあり、この柔軟な対応というのは、今までの品質管理基準で求めている品質管理の水準を下げていいということでは決してありません。今後の環境変化に対応して、監査が社会制度として有効なものとして生き続けていくために、事務所の品質管理として、リスクをちゃんと識別して対応していかなければならないというようなことを意図している、こういうことをきちっと、監査事務所はもちろんですけれども、監査を利用するいろいろな関係者の方にも理解していただいて運用を図っていくということが非常に重要なのかなと思います。

 ですから、総論のところで、品質マネジメントの意図なり、内容を十分理解していくと、次の構成要素ごとの論点というのはそれほどないのかなと感じているところです。JICPAのアンケートを見ても、多分、短期間でこのアンケートを実施していただいたんだと思いますので、十分な理解ができていないがためのコメント、現行基準下でもやっていなければいけないようなことについてできていないんじゃないかと思わせるようなコメントも一部含まれているように見受けられます。例えば、品質に関するコミットの構築が難しいとか、人員が少ないからISQMで求められているようなことは難しいというようなコメントがあります。コメントの裏に隠されている実務的な問題点というのがあまり詳しく書かれていないのでよくは分からないんですけれども、本来的に、ISQMへの移行によって生じる問題ということではなくて、ISQMは今後、監査が有効であり続けるために事務所として何を備えていかなければいけないかということを考えるきっかけにすぎず、変化に対応するために、本来、必要な対応なんだという認識を持つことが重要なのではないかなと、このアンケートを見て感じたところです。ですので、実質的には、今後の議論のポイントは、適用時期の問題と文書化のレベル感になるのかなというふうに思います。

 適用時期に関しては、ISQM1で示されている品質目標を脅かすリスクの識別と評価を行うということには、個々の事務所の状況に応じてじっくり考えて検討していただく必要があると思いますので、そのこと自体には時間が必要と思います。ですので、一定の準備期間が要るんだということは、そのとおりかなと感じているところです。そういう現状分析を踏まえた上で、それぞれの事務所が、例えば上場会社の監査を担う体制が、現状、備わっているのかということを自問自答し、今後、予想される変化に対応するために何が足りないのかということも検討して、そういう検討は、事務所としての経営方針にも、多分、影響していくと思いますので、このリスク評価の部分に一定の時間をかけてやってもらうというのは非常に重要なのではないかと思います。

 それから、文書化のレベル感なんですけれども、形骸化しないようにというコメントもいくつか紹介されていましたけれども、形骸化するかしないかは自分たち次第というところもあります。ISQM1のドキュメンテーションの要求事項は非常にシンプルですので、IAASBにも、どんな文書を作成すればいいのかがよく分からない、ぴんとこないというようなコメントが世界中から寄せられていたと思います。文書化の悩み自体は日本の監査事務所だけでなく世界共通だと思いますし、IAASBの方から、今後、文書化の話を含めたFAQや、適用、初度適用に関するガイダンスなども出すというようなことを公表していますので、そういうものも参考にしながら、個々の監査事務所が自分のリスクマネジメントを実施できるように、周りで応援していくような体制も必要かなというふうに思っているところです。

 以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 それでは、岡田委員、先に御発言いただけますでしょうか。

○岡田委員
 今回のISQMの検討に当たって完全導入に賛成です。また、スケーラビリティという話が出ていますが、上場会社の監査をする場合には、大手と中小で差を設けるというのには反対です。上場会社を監査する以上、品質管理に責任を伴うという意味では譲れない線だと思います。

 しかし、事実四大法人と中小には、やはり確固たる差があります。四大法人について言えば、経営層・品質管理部署・監査リスク評価部署・監査チームという重層的な人員配置が可能です。あるいは、ネットワークを通じてグループ全体での最先端のリスク評価システムを構築するとか、最先端を行っていることは事実であります。これは認めざるを得ないと思います。

 しかし、ここ何年かの間に大きな不祥事を見逃してきたのも四大法人がほとんどであることも事実です。それだけ問題を起こしていて、品質管理についてはこれだけのことをやりますと言われても、空疎な感じがします。今後ISQMを導入したとしても、四大法人に対する監視は厳しくやっていかなければならないと思います。

 特に感じますのは、システム的に品質管理、リスク管理はできているかもしれませんが、やはり必須なのは職業倫理です。監査人自体の人間性を見ていく必要があります。公認会計士・監査審査会、公認会計士協会による監視が必要なのではないかと感じます。

 一方で中小についてですが、やはり人手不足が課題だと思います。ITについては、大きなIT投資ができないというところで劣後しています。しかし、これはまだ解決できるかと思います。専門人材が足りない。お金を使えば雇えるというものではありません。根本的な対策が必要ではないかと思います。日本の公認会計士の数が不足しているのではないかと思います。

 会計士の試験に受かっても、報酬の問題、仕事のきつさ等を考えて、一般の企業、あるいは投資会社などに就職していく人も残念ながら多いのも事実です。そういうことを考えると、根本的な対策が必要ではないかと思います。

 人材不足を前提としても、中小法人もリスクアプローチをしっかりとすることが必要です。上場会社を受嘱してからリスク分析をするのではなく、引き受けるときに、その会社にどんなリスクがあるのか、よく検討することが重要です。安易に顧客獲得しては駄目だと思います。

 リスクとは、例えば海外事業の比率が高いとか、複雑なデリバティブ取引があるとか、いろんなリスクがあって、それを自分の法人の人材で賄っていけるのかということをよく吟味した上で受嘱することが必要ではないのかと思います。

 先ほどの四大法人の話にもう一度戻ってしまいますが、これは中小も一緒なんですけれども、海外では、今までの教訓を生かすために、監査法人のローテーション、あるいは15%ルールと、いろんな工夫を打ち出しております。私は前からローテーションはなかなか日本になじまないと考えています。15%ルールというのもどうなのかなという気がします。いまアイデアはありませんが、日本なりの解決策を考える必要があると感じております。

 以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、大野委員、御発言をお願いいたします。

○大野委員
 ありがとうございます。

 ISQMの今回の改訂に直接関連せず、今後の課題かもしれませんが、私が担当しております、いわゆる日本独自の法制度である監査役等という立場と会計監査ということの関連性で意見を申し上げます。

 本日の議論の中で、中小の監査法人のリソースの問題ということが言及されていますが、例えば今回のKAMの本格導入等に当たっては、大規模であれ中小であれ、監査法人は同じレベルの対応が求められていると思いますので、ぜひ同じ一定の水準を求めることが必要ではないかと思います。また、上場企業に限らず、日本では会社法等で監査人等、監査役等の連携ということが、今まで以上に広く、あるいは深く求められているのが現状ですので、ぜひ、監査法人が大規模であるか中小であるかにかかわらず、連携のレベルアップ、深化が求められているのではないかと思いました。

 もう1点は、中小の監査法人のリソースという問題に関連しますが、いわゆる監査報酬の在り方や水準とかレベルといったポイントについても、今後検討をしていかなくてはいけないのではないかと思いました。

 以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、井口委員、御質問、または御発言をお願いいたします。

○井口委員
 発言の機会をいただき、どうもありがとうございます。まず、関係者の皆様、御説明ありがとうございました。利用者、投資家の視点で、ISQM1について意見申し上げたく思います。

 私は機関投資家におりまして、現在、スチュワードシップ活動の責任者をしております。今、12月決算の企業さんの株主総会がちょうど3月に開催されるということで、今月も300社程度の議決権行使判断を行いました。その中でも、会計監査人の変更議案というのも、これ、最近よく見るんですが、今回もあって、その変更理由の中で、複数の上場企業さんで、変更の主な理由として、監査工程数が増えて監査報酬が増えるからといったことを堂々と理由に挙げている企業さんもいらっしゃいました。機関投資家としては、こういった議案には反対の判断をするということになります。このような会社さんだけじゃなくて、実際は投資家としっかり向き合っていただいている企業さんも多いというふうに思っておりますが、ただ現実には、このように監査の質にこだわらずに、監査報酬の多寡を主な理由として、監査法人さんを選択している上場企業も複数いらっしゃるというのも事実ではないかと思っております。

 既にこれまでの委員の方もおっしゃっておりますが、投資家保護の観点から考えますと、特に上場企業の監査においては、一定以上の品質管理を求める必要があるのではないかというふうに考えております。ですので、中小監査法人さんへのISQM1の実効的な適用の議論というのとは別に、上場企業の監査を行う監査法人さんに対して、一定以上の品質基準を適用するという考え方が妥当ではないかと思っています。

 この意味で、上場企業監査を行う監査法人さんには、ISQM1の厳格な適用を行うとともに、これは町田先生も触れてらっしゃいましたが、日本独自の基準を入れるということも検討の余地があるのではないかと思います。例えば、監査法人のガバナンス・コードの中で、原則3で外部の第三者の知見を入れるというところがあります。これは投資家から見ると最も支持されているところだというふうに考えておりますが、これを例えば活用して、関口様から御説明あったような識別された品質リスクを、この外部の方がモニタリングするといったやり方もあるのではないかと思っております。

 これは、ちょうど前回の事務局の資料の中では、米国のPCAOBの独自基準として記載されていたものに相当すると思いますが、ISQM1に上乗せをした品質管理基準を設定し、上場企業の監査をしている監査法人さんの品質管理水準をさらに上げていくという方策もあるのではないかと思っております。

 以上でございます。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。林田委員、それから紙谷委員からチャットで御発言の希望がございますので、まず林田委員、次、お願いできますでしょうか。

○林田委員
 御指名ありがとうございます。私は、読売新聞に勤めておりまして、この中で言えば、一般枠といいますか、素人枠といいますか、そういった観点から皆さんの議論を聞いて意見を言わせていただきたいと思います。

 1つは、今回の品質管理の基準については、完全な導入が必要であると、中小は別に差別はしないということでありまして、それはそれでいいと思うんですけれども、ただ実際の監査能力ということを考えたときに、本当にできるのかどうかという疑問も何人の方がおっしゃられたと。そこはみんな頑張ってやるしかないという精神論は立派なんですけれども、本当にできるのかどうかというところがあると。たとえ立派なルールを決めても、みんなが守れないようなものであっては、例えは悪いかもしれませんが、道路交通法でここは30キロで走ってくださいと言っても守っている人はほとんどいないという状況になってしまった場合に、この品質管理基準によってつくられた財務諸表を見て、投資家が安心して投資をできるのかというと、それは大変心もとないということになります。

 ですので、やはり中小が20%上場企業を監査しているという現状を鑑みると、中小でも、やっぱり守れるところでやらなきゃいけないと。もし守れないようなところがあるんであれば、そこはしっかり外部から審査をして、これは守れていないよというふうに釘を刺すことをしなければ、投資家は安心して市場に入っていけないのではないかというふうに思いました。

 その質の担保ということで心配なのが、やっぱり人的なリソースです。このところ、会計士の合格者が増えてきたとはいえ、ピーク時の3分の1以下の水準にしかなっていません。会計士の数は、ここのところ増えているようではありますけれども、微増という状況です。年齢的な階層で見ると、35歳から40歳ぐらいの人が20%と、一番比率が高いと。これは、やはり合格者が一番多かった平成17年から平成21年ぐらいに合格されたと。合格年齢の平均が大体25歳ということなので、そこから計算するとそれぐらいになると。ということは、そこから大分人数が減っているので、将来を見据えたときに、その人的リソースが絶対的に減ってくるということは間違いない。これも少子高齢化と一緒で、間違いないことを、なぜかみんな対応を取らないということがあります。

 本当に足りなくなってくるんだということを前提に、これは品質管理基準の議論とは違うかもしれませんけれども、品質管理基準によって会計士の仕事が大変になっているということを考えたときに、この人的リソースの問題はもうちょっと真剣に考えたほうがいいかなと思っています。

 それから最後に、監査報酬のことなんですが、事務局の資料を見ても、これだけ、KAMもありましたし、いろいろ不正リスク対応もありますし、監査が大変になっているんだから、上げるのが方向性としては当たり前だという所与の雰囲気で議論が進んでいるんですけれども、多分中小の監査法人を使っている利用者から見ると、大したことをしていないのにいっぱい取られていると思っている人が多分いっぱいいると思うんです。だから監査報酬を下げろと言っているのではなくて、そこはやはり、これだけのことをやっているんだから、今回も品質管理をこれだけ上げたんだから、監査報酬はこれだけ必要だというしっかりとしたエビデンスを示して世の中に理解を求めていくという手順をちゃんと取ることが必要ではないかというふうに思いました。

 以上です。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、紙谷委員、御質問、御意見、お願いいたします。

○紙谷委員
 紙谷でございます。発言の機会をいただきまして、大変ありがとうございます。2点申し上げたいと思います。

 1点目でございますが、皆様の議論を聞いておりまして、上場会社を監査する監査人としての責任の重さを改めて認識しているところでございます。今回、ISQM1はリスクアプローチということで自らリスクを識別してそれに対応していくわけですが、監査人の自己満足になってはいけないと思います。これに関連して、恐らくCPAAOBによる検査やJICPAによるレビューの在り方も変わってくるのではないかと思っております。今までは個別監査業務についてしっかり時間をかけて見ていただいたところですが、ISQM1が導入された場合には、ISQM1への対応というのが非常に重要な項目として見ていただくことになると考えています。そういった意味でエコシステム全体といいましょうか、単に監査法人が自分でやればいいということではなくて、日本の制度の枠組み全体として監査法人の品質管理をより確かなものにしていくと、そういう形になるのではないかと思っております。

 もう1点目が今後の進め方についてですが、構成要素ごとに議論していくこと自体には賛成なのですが、構成要素ごとの細かい話、例えば、品質目標のこれがいい、悪いといったあまり細かい話に入るというよりは、一通りさらいながら大きな観点で欠けているものがないか、日本的に追加すべきではないかといった形で議論することを希望しております。私からは以上でございます。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。それでは、あと5分ほど御発言、御意見等をいただく時間の余裕ございますので、もし委員の方で御発言希望の方、もうお一方かお二方、ポイントを絞っていただければ、お二方、御発言いただけるかと思いますが、いかがでございましょうか。どうぞ御遠慮なく御発言いただいて結構でございます。

○手塚委員
 いろいろ参考になる御意見をいただいて、大変勉強になりました。私の立場としては、ISQM1、2ともに、いかに日本に入れていくかということをしっかり考えなければいけないなということを痛感しています。

 特に皆さんからお話のあったように、中小事務所にとっては困難なことではありますが、ただ、品質を担保するための枠組みを示してもらったということですから、1つのチャンスでもあるんだと思います。

 特に、品質とは何かということに関して、ISQM1では適切な監査意見を出すことだと言っています。これは、重要な虚偽表示を含む財務諸表に無限定適正意見を付さないということなんだと思いますけれども、そのためにはどんな品質管理体制を敷くかということを、会員の監査事務所では真剣に考えてもらう必要があると思います。

 一番重要なのは、監査現場で働く個人と、またその個人が組成するチームの力であります。そこに焦点を当てないで、組織的に例えば単に本部機能を大きくしてもほとんど意味がないと考えます。ですから、どんな知識、スキルを、監査チームの構成員として、あるいは監査チームとして、備えなければいけないのかを明らかにすることです。特に最近思っているのは、企業の理解ということが、例えばパートナーのローテーションも入ったということもあり、非常に難しくなりつつあるのではないかという懸念があります。それが、事故を防ぐことができないという原因の1つなのではないかとも考えます。あとは、独立性、客観性を保つための最低限の審査とか、パートナーのローテーション、コンサルテーションの仕組みは監査法人には絶対必要だと考えます。

 次に、労働環境面です。これは監査時間、期間について内部的な努力でいかに確保するのかということに加えて、今回の検討課題ではないんですけれども、やはり株主総会の開催のタイミングとか会社法と金商法を一体化して、いわゆる上場会社法にするとか、そういうことをやることで、例えばKAMの株主総会前開示もできるとか、あとは監査期間、時間が確保できる、企業側にとっても決算業務を効率化できるといったようなメリットがあります。そういった制度面も含めて、別の機会になるかと思いますが、取り組むべきだというふうに考えています。

 もう一つは、監査が難しい原因は被監査会社側にもあります。コーポレートガバナンス・コードが入って、かなり会社の中の体制も整備されてきたとはいえ、監査の現場では、監査人に対して相当なプレッシャーをかける会社というのが現実に存在するということであります。そういった会社に対する監査法人側の組織としての現場のサポートをどうすべきかと。いろいろ具体的なことを考えなければいけないなというふうに感じました。

 品質管理基準に関して皆さんに御議論いただくとともに、町田先生のご発言にもありましたが、監査法人のガバナンス・コード等、これをきっかけに全般的に検討していかなければいけないのかなと感じた次第です。以上でございます。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 多数の貴重な御意見をいただき誠にありがとうございました。このISQM1、2はじめ、本日の議論の中では、単に国際基準を取り入れればそれで終わりといったようなものであってはいけないと、こういったお話、それから、8つの構成要素の議論に関しましても、単にその内容を形式的に入れればそれでいいんだということではないと。確かに技術的には中小の監査事務所等に対するスケーラビリティの問題というのは十分配慮が必要ですけれども、やはりこの国際基準の肝となるところ、ここをどうやって捕まえるのかということについて、多くの貴重な御意見を頂戴したものと考えております。

 そこで、これから個別具体的な議論に進んでいく必要がございますので、事務局の冒頭での説明にもございましたように、次回以降は、品質管理基準の改訂に向けまして、ISQM1の構成要素ごとに、先ほどあまり細かいところに踏み込むべきではないという御意見もございましたので、ひとまずポイントとなるところ、国際基準の背景なり肝となるところはどこにあるのかということを忘れないで、構成要素等を中心に、これから議論を進めさせていただきたいというふうに考えておりますが、このような進め方でよろしゅうございましょうか。


(異議なし)

○堀江部会長
 御了承いただきましたので、細かいところでは御意見多々あろうかと思いますけれども、それはまた逐次お寄せていただくことにいたしまして、今申し上げましたような形で、これから進めさせていただきたいと思います。

 今日は非常に円滑な進行にお力添えいただきまして、大変ありがとうございました。それでは、本日の審議はこれで終了させていただきたいと思います。

 最後に、次回の日程等につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

○西山開示業務室長
 事務局でございます。今後の日程につきましては、改めて事務局から御連絡させていただきます。

 これにて本日の監査部会を終了いたします。

○堀江部会長
 どうもありがとうございました。

 

以上 
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金融庁Tel 03-3506-6000(代表)(内線3655、3844)

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