企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議議事録

1.日時:平成24年4月17日(火曜日)14時30分~16時30分

2.場所:中央合同庁舎第7号館 13階 金融庁共用第一特別会議室

企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議

平成24年4月17日

○安藤会長

それでは、定刻直前かもしれませんが、大臣がお見えになりましたので、始めたいと思います。これより企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開催いたします。皆様にはご多忙のところご参集いただき、まことにありがとうございます。

まず会議の公開についてお諮りいたします。従来と同様、本日の総会も企業会計審議会の議事規則にのっとり、会議を公開することにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

○安藤会長

それではご異議ないということで、そのように取り扱います。

本日の合同会議は、自見金融担当大臣にご出席をいただいておりますので、最初に自見大臣よりごあいさつをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○自見大臣

金融担当国務大臣の自見庄三郎でございます。企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議の開催に当たり、一言ごあいさつを申し上げます。委員の皆様方におきましては、本当に格段のご協力をいただいておりまして、改めて深く深くお礼を申し上げる次第でございます。

初めに、AIJ投資顧問株式会社に関する問題について申し上げます。3月23日金曜日でございますが、金融庁はAIJ投資顧問株式会社の登録を取り消す等の行政処分を行いました。当局が監督する金融機関については、係る法例違反が認められたことは、極めて遺憾であります。この問題に関しましては、現在、証券取引等監視委員会による犯則調査及び投資一任業者に対する一斉調査が行われておりますが、いずれにいたしましても本事案で明らかになった問題に対しまして、金融実務を踏まえ、実効性のある再発防止策を幅広く検討する必要があると考えております。

次に、国際会計基準審議会(IASB)のフーガーホースト議長との意見交換について申し上げます。今月の2日でございますが、企業会計基準委員会(ASBJ)との定期協議のために来日されたフーガーホースト議長と面会し、意見を交換させていただきました。フーガーホースト議長はオランダの下院議員を務め、また、オランダ政府の財務大臣、厚生大臣をされた方でございますが、私自身、フーガーホースト議長とはこの半年の間、3回お会いし、密接な連携をとらせていただいておりますが、私のほうからは、IFRSに対する我が国の人的資金面での貢献について説明し、IFRSの設定プロセスに日本の関係者が積極的に関与し、基準設定に幅広い視点が反映されることを期待する旨を伝えさせていただきました。

次に、本日の議論についてでございますが、最初に投資家と企業とのコミュニケーションについて、日本証券アナリスト協会のほうからご説明をいただくとともに、主として投資家の観点から見た国際会計基準の論点について、検討していただきたいと考えております。

続いて、国際会計基準の適用による規制環境、契約環境等への影響の中で、本日は契約環境への影響について、全国銀行協会からご説明をいただき、ご論議をいただくことにしております。委員の皆様方におかれましては、引き続き活発なご論議をいただくことを、重ねてお願いいたしまして、私のあいさつとさせていただきます。

ありがとうございました。よろしくお願いします。

○安藤会長

ありがとうございました。

それでは議事に入ります。本日は、ただいまの大臣ごあいさつにございました、議事次第の最初の議題でございますが、投資家と企業とのコミュニケーションと、規制環境、契約環境等への影響についてご審議をいただくことを予定しております。

最初に、投資家と企業とのコミュニケーションについてご審議をいただきたいと思います。この検討項目につきましては、投資家の観点から見た企業会計へのIFRSの適用の是非、今後の課題等につきまして、日本証券アナリスト協会よりご説明をいただきたいと存じます。

本日は参考人として、日本証券アナリスト協会の稲野会長にご出席いただいております。稲野参考人、よろしくお願いいたします。

○稲野参考人

ただいまご紹介にあずかりました、日本証券アナリスト協会会長、稲野でございます。本日は、よろしくお願い申し上げます。

座って失礼いたしますが、私のほうからは、「投資家から見たIFRS」ということでお話をさせていただきたいと思います。お手元の資料1でございます。順番に資料に沿って進めてまいりたいと思います。

1ページでございます。我が日本証券アナリスト協会の沿革がここには記してあります。当協会は、1962年に東京証券アナリスト協会として設立されました。日本における証券アナリストの育成と社会的地位の向上を目指して、幅広い活動を続けているところでございます。

なお、1977年から通信教育講座を開始いたしまして、証券アナリストの資格試験を実施しております。通信講座を修了して試験に合格し、そして実務経験が3年以上の個人を検定会員としております。現在の検定会員数は2万5,000人近くに達しておりまして、証券会社やあるいは資産運用会社だけではなく、銀行、保険など、金融界をはじめ、幅広い分野で会員は活躍しております。会員の業務も、企業、産業を調査分析するアナリストだけではなく、ファンド・マネジャーやインベストメント・バンカーなど多岐にわたっております。

こういった会員の所属企業を中心に、法人会員261社、そして金融教育に力を注いでいる大学など、当協会の活動に賛同いただいている法人賛助会員が180社ということで、これらの会員の方々には当協会の活動を支えていただいているわけであります。

2ページであります。アナリスト協会と会計基準ということで資料を用意させていただきました。ASBJやIASBなど会計基準の設定主体は、会計基準を開発する目的として、投資の意思決定における有用性の向上というものを掲げていらっしゃいます。このような設定主体にとって、投資家の代表としてイメージしやすいのが、プロフェッショナルたるアナリストでありましょう。そのため、アナリストの団体であるアナリスト協会の意見を聞きたいというニーズが出てくるものと拝察いたします。こういったニーズに対して当協会は意見を発信しているところであります。意見発信に際しては、当然でありますが、会員のコンセンサスを重視しているということであります。

当協会といたしましては、5年に1回、会計基準全般に関する体系的なアンケートを実施しております。重要な個別の会計基準については、ASBJの研究員を講師とする勉強会を開催し、勉強会参加者を対象にアンケートを実施しております。意見発信に当たりましては、アンケートにあらわれたコンセンサスを重視しており、アンケート結果をもとに当協会の常設委員会であるところの企業会計研究会で議論いたしまして、意見書を作成しております。したがって、委員会主導で先進的、先鋭的な意見を発信する米国のCFA協会とは、意見発信のモデルが異なっているということでございます。

さらにこのほか、当協会の職員がASBJやIASBの委員に就任しているところであります。また、IASBの開催するアウトリーチなどの参加者として、各テーマに最もふさわしいアナリストの紹介なども行っているわけであります。

3ページでありますが、論点を今日は2つ用意しております。2点についてコメントしたいということであります。1点目はアナリスト協会としてIFRSを支持する理由、2点目は我が国におけるIFRSの採用方法についてであります。

最初に、我々アナリストがなぜIFRSを支持しているのか、その理由についてご説明申し上げたいと思います。4ページにお進みください。

2010年6月、当協会の検定会員を対象に、会計に関する包括的なアンケートを実施いたしました。これは第2回目のことであります。ちなみに第1回は2005年に行っております。その2010年のアンケートに際して一般論として、世界が唯一の会計基準を採用すべきかという質問に対して、回答者の49%は「採用すべき」と答えております。一方で、「慎重に取り組むべきである」という答えも40%存在するわけであります。

IFRSの採用につきましても、設問Q5(2)というところでありますけれども、回答者の59%が「米国が採用しなくても、我が国は採用すべき」と答えております。26%は「米国が採用すれば、我が国も採用すべき」と答えているわけでありまして、「採用すべきではない」と答えている回答数は8.6%と少数であります。

5ページであります。今の会員アンケートからも明らかなように、アナリストはIFRSを支持しているということが言えようかと思います。アナリストがそこにおいて特に期待しているのは、比較可能性の向上ということになろうかと思います。電機、自動車、医薬品などグローバルな産業におきましては、他国の競争相手と比較分析をしていくことが、アナリストやファンド・マネジャーにおける常識であります。したがって、比較可能性が高いほど、グローバルなボトムアップアプローチによる株式投資が容易になるでありましょう。

この右の図は、先日当協会の企業会計研究会の委員が、IASBスタッフとの情報交換会に出席した際に、先方スタッフの配付資料にあった図であります。世界的な大企業500社であるFortune Global 500に関して、2013年決算に使用する予定の会計基準を調べたら、IFRSが245社、米国基準が155社、その他の基準が100社であったそうであります。今後IFRS採用企業は増えていくと思われます。アナリストとしては、日本企業に比較可能性の高い財務諸表を開示してほしいと考えております。

6ページであります。IASBとFASBのコンバージェンスや、あるいは米国のコンドースメントといった動きを見ていますと、IFRSと米国基準の一体化を進め、IASBとFASBが協力して、世界で唯一の会計基準を開発しようとしているようにも感じられるわけであります。このような情勢の中で日本基準だけに固執していたら、国際的な理解を得られないかもしれないということを感じております。仮に米国がコンドースメントを中止しても、既に国際的に認知されている米国基準と日本基準を、同列には論じられないであろうと感じております。

我が国の会計基準というものが、いわば孤立した存在になれば、かつてのレジェンド問題が再燃するかもしれないわけであります。レジェンド問題のときは、我が国だけではなく、アジアの会計基準がやり玉に上げられたわけであります。しかし、既にアジアを含む世界の多くの国がIFRSの準拠を表明している状況下では、我が国が特殊な存在と見られる危険性を避けていかなければいけないということを感じております。

もちろん現時点でIFRSがすべて正しいとは言えませんし、我が国として主張すべきところもあるわけであります。しかし、それは否定という文脈ではなく、話し合いによるすり合わせで解決を図るべきでありましょう。そうでなければ、孤立してしまうのではないかと思っております。

7ページでございます。「IFRS採用には懸念も」とタイトルを打っております。アナリストも、先ほどご紹介したように手放しでIFRSを礼賛しているわけでありません。先ほどのアンケートでIFRSを採用した場合の懸念というものを聞いたところ、EUや米国の主導で基準が作成される政治的な独立性や、国によって基準の適用や監査水準に相違が生じる可能性を懸念する回答が多かったわけであります。

しかし、政治的な独立性への懸念は、我が国の金融庁や、あるいはIOSCOをメンバーとするモニタリングボードの設置により、特定地域の利害からIASBを隔離することが担保できるようになったのではないでしょうか。また、国によって基準の適用や監査水準に相違が生じるという懸念は、基本的には時間の問題ととらえることができましょう。

各国がIFRSを採用すれば、会計のフレームワークは共通のものになります。そうなれば、企業が適用できる基準というものはおのずから限定され、いずれは収れんしていくことが期待できようと思います。

監査水準についても同様であります。既存市場のグローバル化が進む今日、特定の国のみが著しく低い監査水準にとどまり続けることは困難でありましょう。いずれにせよ、各国ごとに会計基準が異なる現状のままでいるよりは、投資家にとって将来の比較可能性を高めることにつながるのではないかと考えております。

8ページであります。IFRSは原則主義なので、企業の判断で会計処理が異なっていくため、比較可能性が損なわれるという批判もございます。しかし、原則主義によって企業が異なる会計処理をするのは、そもそも、企業のビジネスモデル自体が異なるということが最も大きな原因でありましょう。逆に言えば、細則主義によって、異なるビジネスモデルの企業に対して同一の会計処理を強制することは、企業に対して実態とは異なる姿を開示するように強いることになるかもしれません。

アナリストが知りたいのは、経営者は何を考えているかということであり、開示内容の違いはむしろ、その重要な手掛かりになるとも言えるわけであります。アナリストが重視する開示情報の一つにセグメント情報がございます。マネジメントアプローチの導入によって、各社のセグメント分類が変更され、同業他社比較が難しくなったという意見もございます。しかし、各社がどのセグメントを重視しているのかなど、経営者の考えを理解できるメリットも、また一方で大きいと思われます。

いずれにせよ、アナリストにとっては企業の情報開示も重要なコミュニケーションのツールであります。原則主義か細則主義かにかかわらず、投資家はより経営実態に即した開示を求め、そして企業はそれにこたえていくことが重要であろうと思慮いたします。

9ページでございます。個別のIFRS基準について、内容が先鋭的、あるいは実務への配慮が足りないなどといった批判が聞かれてきたところでありますけど、最近では利害関係者の声を聞き、基準の内容を改善する姿勢が感じられるわけであります。例えば収益認識の改訂公開草案にも、利害関係者の声に耳を傾けるIASBの姿勢が感じられるわけであります。

2010年6月の公開草案におきましては、進行基準の適用が非常に難しかったため、当協会も意見書の中で、進行基準の適用が容易になるように改善を求めたところであります。そして2011年11月の改訂公開草案では、進行基準の適用を意識した基準に改善されていたわけであります。また、この改訂公開草案では開示内容が充実され、ディスクロージャーの改善が図られているわけでありますが、一方で開示負担が重いと考えている企業も多いかもしれません。

しかしアナリストは、すべての企業に詳細な開示を求めているわけではないということであります。例えば長期契約に関しては、建設、造船、ソフトウエア開発など、長期契約が重要なビジネスモデルの企業のみに開示を求めればよいと考えます。先日、東京で開催されたアウトリーチでも、当協会の関係者がそういった主張を述べたところであります。

また、現在のIASBは世界の会計基準開発を託すに値する設定主体だと、当協会としては考えているところであります。トゥイーディー前議長によると、発足当時はシンクタンクのような雰囲気であったそうです。初期のIASBは基準開発に傾ける情熱が空回りしていたために、提案内容が過激過ぎたのかもしれないと感じております。

しかし、欧州のIFRS採用や米国とのコンバージェンスプロジェクトを通じて、徐々に現実路線へ転換してきたように感じられるわけであります。最近新たに任命された理事は穏健派が多い上に、トラスティーズやモニタリングボードによる監視も十分に機能していると感じております。

10ページでございます。ここでは米国の動きについてコメントさせていただきます。SECのスタッフ・ペーパーでは、世界が唯一の会計基準を採用するメリットとして、資本コストの低下と経済成長への寄与が繰り返し語られております。現在、米国が進めているコンドースメント・アプローチは、エンジンやタイヤなどの部品を順番に交換していって、そして最後には同じ車にすることを目指しているように感じられるわけであります。

IFRSに米国が求める適切な会計基準がない場合は、米国独自の部品を使って、しばらくは車を走らせていくということになるわけです。しかし、IFRSで新たに会計基準ができれば同じ部品を使うというぐあいに、少しずつ置きかえていくわけであります。このような部品交換を繰り返していけば、名前は米国基準ですが中身はIFRSという日が遠からず来るでありましょう。

一方で、FASBはIASBとの新たな差異はつくらないと、SEC関係者が明言しているわけであります。まるで基準開発権の放棄とも受け取れるこの発言は、重く受けとめなければならないと感じております。自分好みの車というものをつくっていくには、自分好みの部品を組み合わせる必要があります。可能な限りIASBに影響力を行使し、自分好みのIFRSをつくりたいというのが、米国の本音ではないかと感じております。

もしそうであるならば、我が国も手をこまねいているべきではあるまいということであります。IFRS採用への過程を明確化し、IFRSの改善に積極的に参加して、我が国の主張が盛り込まれるように努めることが必要なのではないかと思います。

11ページでございます。ここではリサイクリングについて、当協会の主張を紹介しております。我々アナリスト協会から見た現在のIFRSの大きな課題は、ここでは具体的に言っておりますけれども、純利益と包括利益について厳密に定義しないままに、リサイクリングを認めない基準を増やしているという点にございます。当協会は完全リサイクリングを求める立場であって、この点では我が国の多くの企業関係者と同じ意見であります。

実際にアジェンダコンサルテーションについての当協会の意見書におきましては、資料に示した理由を挙げて、この問題をIASBのアジェンダに取り上げるように提案したところでございます。

IFRSを頑健な会計基準としていくためには、概念レベルで利益の定義を明確にすることが不可欠でありましょう。そして、当協会としても、この議論には積極的に参加していきたいと考えております。

12ページであります。2番目の論点といたしまして、我が国でのIFRS採用に関する我々の考え方について説明いたします。

13ページでございます。アナリストが望むことを一言で大胆に要約してしまえば、最終的に全上場企業が連結決算にIFRSを採用するということになります。ただ、これは当然、現時点では全くの理想論ということでありましょう。現時点でもアナリストは、企業規模や業務の国際化の程度には関係なく、海外投資家が投資する可能性のある上場企業においては、IFRSを採用してほしいと望んでおります。

同じように、複数の会計基準が併存するのが困るというのが、アナリストやファンド・マネジャーの実感であって、国内企業同士の比較をいたずらに難しくすべきではないと感じております。今までも少数の米国基準の企業をほかの日本基準の企業と比較分析するために、会計データの調整作業が必要であったわけであります。今後、IFRS採用企業が増えれば、米国基準、IFRS、日本基準の3つの間で調整作業が必要となり、作業負担の増加は避けられないところであります。

もちろん一挙にIFRSを強制適用するようなことは現実的でないということは、よく理解しているつもりであります。会計監査の対応や企業の会計システムの変更に時間がかかるため、IFRSの導入は段階的に進めるというのが現実的な対応でありましょう。

14ページであります。ここでは現実的な対応の一例として、段階的な強制適用、採用過程の一つのアイデアというものを提示しております。現実的な対応の一例として、段階的な強制適用というようなことも考えられるわけであります。これは全くのアイデアベースでありますが、IFRSの適用を決定したとして、その決定から5年ないし7年後に一部の企業に強制適用を開始し、その後5年ぐらいかけて、全上場企業へ強制適用を拡大するというようなプロセスもあり得るのではないかと思っております。

その場合のポイントは何になるかというと、ここにございますように、区分と時間であります。同一市場に複数の会計基準が併存するのは、投資家の分析実務上の負担も大きいわけであります。比較可能性を確保しやすいように、一時的にIFRS採用企業と日本基準の企業で市場を区分するといったようなことも、考えられるのではないでしょうか。

この区分は経過的な措置であり、十分な時間をかけて最終的に全上場企業がIFRSを採用した時点で、市場も1つに戻るということであります。会計基準の違いによる一時的な市場の区分というものは5年くらいをめどとして、状況を見ながら期間を延長するなど工夫して、十分な時間をかければよろしいのではないかと思います。

中小の上場企業はIFRSの開示負担に耐えられないのではという懸念も、当然一方ではあります。しかし、中小の上場企業は業務内容があまり多様化していないと思われますので、IFRSを強制適用しても開示負担は大きく増えないのではないでしょうか。さらに、IASBはディスクロージャーフレームワークで開示の簡素化を検討しており、今後、開示内容が簡素化されていく可能性も考えられるわけであります。

15ページでございます。今までは我が国の連結会計基準と単独会計基準が、ほぼ同一であったわけであります。しかし、今後は連結基準と単独基準の乖離が拡大していく可能性がございます。その場合、日本基準で単独決算のみを公表している企業と、IFRSの連結決算を公表している企業では、業績の比較が難しくなるかもしれないわけであります。連結基準と単独基準の乖離が大きくなると、両者の比較可能性が大きく低下するという心配がございます。単独決算のみしか公表していない企業に対しては、今後、何らかの対応が必要になると思われます。

16ページであります。ここでは単独開示・四半期開示との関係について、2ページにわたって述べさせていただきます。連結決算にIFRSを一部でも強制適用した場合には、IFRS採用企業の負担を軽減するため、単独開示を簡素化していく必要もあるでしょう。我々のアンケートにおきましても、半分近い回答者が、「IFRS採用後は現在よりも簡素化した開示を行うべき」と答えており、多くの会員が単独開示の軽減を支持しております。

単独開示をどう簡素化するかでありますけれども、一部の欧州諸国のように、会社法が要求する単独決算書類のみを電子ファイル化して開示する方法なども考えられるわけであります。その場合、有価証券報告書は連結開示のみになり、単独の情報が必要な利用者はインターネット経由で電子ファイルを閲覧するという方法であります。

17ページでございます。グローバル比較が可能なIFRSベースの連結開示が達成されるのであれば、我々アナリストも単独開示の簡素化を受け入れることが必要でありましょう。ただし、連結決算へのIFRS導入の前に単独開示が簡素化されるようなことは、大変に困るわけであります。あくまでも連結決算へのIFRS適用が先です。

なお、ここで四半期開示についても一言触れておきたいと思います。アナリストなどの財務諸表の利用者にとって、四半期報告書は必須の情報源であって、連結の四半期開示はIFRS導入後も続けていただきたいということを、あえて申し上げておきたいと思います。四半期開示は米国だけではなく、ドイツの大企業でも行われております。そしてやがては、四半期開示がグローバルスタンダードになるのではないかとも思っておるわけであります。

さて、最終のページでございます。財務諸表の目的は言うまでもなく、企業の実態をさまざまなステークホルダーに知らせることにあります。この目的を果たしていくため、企業には事業内容やその経営実態を正しく伝える努力が求められているわけであります。一方、我々アナリストをはじめとする投資家には、情報を正しく受けとめ、そして分析する力を身につけていくことが求められているわけであります。

おそらく企業、投資家のどちらが、この今申し上げたような努力を怠っても、財務諸表の目的は達せられないのではないでしょうか。最近、企業も投資家も、国内か海外かという垣根が低くなっているように感じるわけであります。国内、海外の区別なく、投資家はどこの企業へでも投資し、そして企業はどこの投資家からでも資金を受け入れていくというのが、真のグローバル化ではないかと感じております。

そのようなグローバル化の時代に、企業と投資家のコミュニケーションを支える重要なインフラが、IFRS(国際会計基準)ではないだろうかと思っております。

私からは以上でございます。ご清聴ありがとうございました。

○安藤会長

ありがとうございました。

それでは、ただいまの稲野参考人からのご説明を踏まえまして、投資家と企業とのコミュニケーションについて、ご意見を伺って参りたいと思います。また、稲野参考人の説明に対するご質問がございましたら、あわせてお願いいたします。

それでは、ご意見等のある方は挙手をお願いいたします。佐藤委員、どうぞ。

○佐藤委員

どうもご説明ありがとうございました。ただいまのご説明を聞きまして、ご意見を申し上げたい項目が多々ありますので、多少長くなるかと思いますが、ご了承願いたいと思います。また質問もしたいと思います。

初めに、今回の資料は昨日の午後、メール配信されたわけですが、内容的にも論点が多く、でき得れば先週の金曜日に送っていただきたかったということを、まずもって申し上げておきたいと思います。

次に、意見、質問の第1点目ですが、4ページ、7ページ、16ページに記載のアンケート調査に関し、会員2万4,704名となっています。そのうち何名、または何%の方がこのアンケートに回答されたのか、わかれば教えていただきたいと思います。といいますのは、逆に未回答のアナリストが何%いたのかということを知りたいわけでございます。アナリストといっても金融業務に従事していない者もいますし、また本来業務の中でもセルサイドやバイサイド、あるいはストラジスト、ファンド・マネジャー、セクターアナリスト等の属性によっても、IFRSに対する見方、興味が異なるものと私は思います。

私自身、過去10年近く、IR活動や決算発表、決算説明会等を経験してきましたが、こと会計基準に関する質問を受けたという記憶はありません。おおむねどの領域のアナリストが未回答なのか?もしわかれば教えていただきたいと思います。未回答のアナリストはおそらく、基本的に会計基準に関してはそれほど影響がないと考えているか、ないしはどの基準でもよいと考えている方々が多いのではないかと推測しているからであります。

アナリストの中心的関心事は、おそらく企業の経営戦略、事業戦略、リスク情報、経営の安全性、さらにはキャッシュフロー等でありまして、いわば中長期的視点からの企業の成長性と安定性を重視しているアナリストが多いとの印象を持っております。こと会計基準に関しましては、IFRSの公正価値会計に批判的な意見を持っていたり、基準間の差異を踏まえて、みずから分析を行うことこそ、本来の業務と考えているアナリストも多いのではないかと見ております。

それからこのアンケート調査ですが、2010年6月に実施されていますが、昨今の欧米の動向から見て、やや古新聞ではないかとの印象も受けております。

次に、2点目の意見として、5ページで、先ほどご説明のありました比較可能性の高い財務諸表の開示を要望されておりますが、これは理想としては理解できますが、現実IFRSを適用していると言われる国々でも、エンドースメントを前提としたアドプションから、一部カーブアウトしたアドプション、さらにはコンバージェンス、カーブアウト前提のコンバージェンス等、さまざまな形態がありまして、比較可能性の維持は困難となっているのが実態だと思います。

またIFRSで言う原則主義のもとでの比較可能性の限界というのもあります。いわば「IFRSという帽子はかぶっていますが、服装の色は各国少しずつ違う」というのが現実であります。したがって、コンバージェンスされた日本基準とIFRSとの比較可能性の問題と、IFRS間の比較可能性の問題とは五十歩百歩であり、いずれも厳格な意味での比較可能性の達成は困難と私は考えております。まずその現実を十分踏まえた上での論点の整理が必要かと考える次第であります。

それから3点目の意見ですが、6ページに「日本基準に固執したらレジェンド問題再燃の危険性」とありますが、ご承知のとおり我が国は、これまで2007年8月の東京合意を含めて、鋭意コンバージェンス作業を進めてきましたし、2008年12月にはECより同等性評価も得ております。さらには2010年3月からは任意適用も実施してきたということで、レジェンド問題再燃の危険性とはどういう背景から出てきたのか、私には理解に苦しみます。ここに至っては国内の議論とはいえ、国益上このような表現は果たして適当なのかどうかという気がしております。日本は外交上も、もう少ししたたかに振る舞うべきではないかとも思う次第であります。

また同じく6ページに、「世界で唯一の高品質な会計基準」とありますが、これも理想はよいのですが、唯一の会計基準とか高品質な会計基準というのは、どのような現実的な背景を踏まえて使っているのでしょうか。理想だけでは日常の現場を抱えた企業はついていけない側面があることを、十分理解していただきたいと思います。

それから4点目ですが、8ページに原則主義が「経営者の考えやビジネスモデルの理解に役立つ」とあります。既に2月29日の本、審議会で原則主義の審議がなされましたが、もともとIFRSには原則主義の定義はないと思っています。レトリック的要素が強いと私は見ております。審議会委員の中でも経営者がおられますが、私もCFOを経験した一人としまして、何をもってこのような表現になるのか、理解に苦しみます。これは私の感想です。

それからさらに5点目ですが、13ページに「アナリストが望むこと、全上場企業への適用」、また14ページに、一つのアイデアとして「適用決定の5年から7年後に一部の企業から強制適用を開始し、5年くらいの期間を目途に全上場企業へ拡大」とありますが、去年の6月以降の審議会での議論や海外の動向、企業のコストとベネフィットの関係等々をどこまで真剣に考えておられるのか、疑問を感じる次第であります。

これに関し、5点ほど感想と意見を申し述べます。

1点目は、近年数多くの実証分析から、強制適用による経済効果が限定的であるということが確認されてきておりますが、どのような経済効果を期待して、全上場企業強制適用を望んでいるのでしょうか?私は理解に苦しみます。

それから2点目ですが、本当に大部分のアナリストがこのような考え方を支持しているのでしょうか?疑問を感じます。

それから3点目が、IFRSの本質的な思想、例えば公正価値会計の拡大、P/L軽視的な思想、キャッシュフローと乖離した見積もり予測機能の拡大、更には保守主義思想の排除等に関してどのように考えておられるのか?一抹の懸念を感じております。

それから4点目は、企業を対象とした強制適用は、世界的には一般的ではないと私は思っています。世界的にはマーケットを対象にした適用が合理的で、ヨーロッパでもそうでございます。また、仮に一部の企業を対象に強制適用というのは、どういうルールでもって特定の企業を強制適用すると考えておられるのでしょうか?

それから5点目が、我が国は既に任意適用しております。この間に適用企業を増やす努力をすることが先決ではないかと私は思っています。以上が感想と意見です。さらにまた14ページに、「同一市場に複数の会計基準が併存するのは投資実務に支障がある」とありますが、この点に関しましては、これまでも日本基準と米国基準が併存し、問題として顕在化していない実態がありますので、投資実務に支障が出ると思えないというのが私の実感です。

最後に、6点目としての質問ですが、アナリスト協会の今回のご意見は、あくまでも連結対応に関するものであり、単体開示の簡素化にも触れられているように、連単分離が前提と解釈してよろしいかどうか、お聞かせいただきたいと思います。

長くなりましたが、以上でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。幾つかご質問がございました。稲野参考人、回答できる範囲で結構でございます。よろしかったらご回答お願いいたします。

○稲野参考人

最初にアンケートに関する質問がございましたので、この点についてお答えします。このアンケートは先ほど申し上げましたように、2010年6月にメールで行っております。先ほど申し上げたように会員は当時で言うと2万3,000名、そのうちメールアドレス登録者が1万7,363名、締め切りまでに回答のあった件数690名。したがいまして、回収率は4%ということになります。メールアドレス登録者、こちら協会側からアクセス可能な人に対して4%の回答を得ている、690名ということです。

次にその内訳でございますけれども、業務についても聞いておるわけですけれども、アナリストであると答えた人が16%、バイサイド、セルサイド合わせて、株式、債券合わせて、内訳はありますけれども、全体で言うと16%。そのほかにポートフォリオ・マネジャーという人が7.5%、さらにエコノミスト、ストラテジストと呼ばれる人たちが3%、そのほかよくわかりませんが、証券投資関係ということで9.4%というようなことになっております。

それから所属の機関ということで見ておりますけれども、証券会社が約25%、銀行が20%、投信投資顧問会社が13%、保険会社が9%というような内訳でございます。

やや古いというご指摘もございましたけれども、一応5年に1回ということでやっております。けれども、今後、このIFRSとの関係で、どのような形で会員全体の意見を吸い上げるかというのは一つの課題であると、今の佐藤委員のご意見を聞いておりましても認識いたしましたので、我々なりの工夫をしていきたいと思っております。

○安藤会長

これは別に国会で参考人を招致しているわけではありませんので、問い詰める場所ではございませんということを、皆さん共通認識していただきたい。それで、1つ最後に佐藤委員から、連単分離を前提としているのかという質問が出ましたが、これはいかがでしょうか、答えられますか。

○稲野参考人

現実の問題として考えると、当面、連単が分離していくだろうとは見ております。このため、当面の間、その当面がどれだけの間になるかは別にして、対応は必要であろうと感じております。最終的には連単が一致だというようなことを言いたいわけですけれども、そこまでは視野に入っていないということは十分認識しているつもりでございます。

○安藤会長

ありがとうございました。先ほど手を挙げられた方を指名していきたいと思います。まず加護野委員、お願いいたします。

○加護野委員

私は1つだけ質問をさせていただきたいんですが、この質問をするのは、統計データと結論との間にかなりギャップがあるんじゃないかと感じるからであります。4ページのQ5ですが、唯一の会計基準を採用すべきだと思いますかということに対する回答で、49%は「採用すべき」、しかし40%は「慎重に取り組むべき」、「好ましくない」という人が8.6%、合計しますと48.9、ほとんど変わらないんですよね、採用すべきという人と採用すべきでないという人と。このデータを見る限り、アナリストの意見はちょうどきれいに半分に分かれていると考えたほうがいいんじゃないですかね。

ですから、ここからアナリストはIFRS支持だということは導けないと私は思います。にもかかわらずIFRS支持だと読み取られた理由というのは、どの辺にございますでしょうか。

○安藤会長

お答えになりますか。

○稲野参考人

加護野先生のまず前段について言えばおっしゃるとおりで、49と、40プラス8.6ということで言うと、拮抗しているということでございますけれども、その次の質問を見ていただきますと、先ほどこれもご紹介申し上げましたけれども、「仮に米国が採用しなくても、我が国は採用すべきである」、あるいは「米国が採用した場合には、我が国も採用すべきである」という両者を足すと76%ぐらいになって、「採用すべきではない」と最初から答えている人が8.6ということです。

また、単にこのアンケート結果だけをもとに物を言っているつもりはございませんけれども、今の文脈で言うと、説明のような形になります。全体として支持をしていると申し上げているのは、先ほどご紹介申し上げました、私どもの中の委員会の企業会計研究会等での議論も含めての話であります。ただ全員が賛成で、一方的に本当に100%近い支持があるという状況ではないことが、このアンケートの結果等は示しているとおりでございます。

○安藤会長

ありがとうございました。先ほど手を挙げられた永井委員、お願いいたします。

○永井委員

ありがとうございます。私は事業会社でアナリストを務めておりまして、アナリストが協会会長様のご発表に異論を差し挟むのは、少し気が引けるのですが、違和感を覚える箇所が幾つかありましたので、発言させていただきます。全体的に読み取れますのは、アナリストがIFRS適用を願っている、広い範囲で適用すべきだという論調で、このレポートを作成されているように読み取れますが、そう考えていないアナリストもいるということで、二、三申し上げたいと思います。

まず5ページ目の比較可能性の向上という表現ですが、ここにちょっと違和感があります。昨年の12月、私はIFRSのフルアドプションに踏み切った韓国に視察でお伺いしまして、各方面からお話をお伺いしましたが、確かにほかの国の企業との大まかな比較可能性は向上したという指摘があった一方で、IFRSは原則主義でありますので、会計方針の選択肢が増えた、それで比較可能性が低下したと考える企業も何社かありました。

具体例としましては、重工業メーカーでお伺いしたお話ですが、旧来の基準では固定資産の耐用年数はどの企業も税務ベースで同じだったが、IFRSになって実質の耐用年数を使用することになって、減価償却費が各社ばらばらとなって、同業での比較可能性が低下したとおっしゃっていました。

次に13ページ目、アナリストが望むことは、全上場企業への適用とありますが、私もアナリストですが、すべての上場企業に必要とは到底思えません。中小企業に対してIFRSベースの財務諸表を開示せよというニーズが、それほどあるとは考えられません。同じ市場に複数の基準が併存するのは困るという記述がございますが、IFRSも実際に韓国企業など分析してみますと、段階利益の定義が非常にあいまいですので、結局再計算が必要となります。だから全部IFRSになっても、結局アナリストは楽にはならないわけで、そういう意味でも、実際今米国基準、IFRS、日本基準、3つあるわけですが、それで困ったという記憶はありませんし、IFRSになったから楽になるとも思えないわけです。

ここの13ページ目ですが、私は事業会社に属しているので、金融機関の方とは発想が違うのかもしれませんが、こういうふうに全上場企業の連結決算にIFRSを採用したほうがいいというのは、金融機関に勤めていらっしゃるアナリストの方が主におっしゃっておられるのでしょうか。

あと最後に、これは先ほど佐藤委員もおっしゃっておりましたが、私もアナリストとして企業分析や産業分析をする際、どの会計基準を使っているかではなく、その企業、産業が中長期的に成長するかどうかというのに一番興味を持っております。

ただ、このレポートで、11ページ目の完全リサイクリングを求めるということと、16ページ目の採用会社の負担軽減にも配慮すべき、この2点は賛成でございます。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。今の永井委員のご発言について、参考人のほうから何か答えることはございますか。

○稲野参考人

比較可能性の向上という観点ですが、それがそうならないという実例もあるし、すべてのアナリストが比較可能性の向上というものを期待しているわけではないというのは、まさにおっしゃるとおりだと思います。しかし、比較可能性の向上という観点を願っている人たちもたくさんいるということも、また事実でございますので、それは申し上げておきたいと思います。

それから、全上場会社の適用と書いて、これは見出しが少し悪かったと反省しておるんですが、ここに理想論と申し上げましたけれども、実現しないようなことを言ってしまうのは問題だと反省しますが、単純に言ってしまえば、全上場会社が採用する、強制適用するのかどうかは別にして、採用するというのはアナリストの立場から合理的に見れば、それはいいねということは言えるかと思います。

ただ、それが現実的ではないということは承知しておりますし、この表現には語弊があるということであれば、ここであえて文言は修正いたしませんけれども、ご批判を甘受したいと思います。

それから、どの会計基準を採用しているかが重要ではなくて、中長期的に成長する、そのあかしをどこに求めるか、それをどう分析するかが重要であるというのは、全くそのとおりではないかと思っておりますし、その点において異論はありません。

○永井委員

ありがとうございます。

○安藤会長

ありがとうございました。それから先ほど手を挙げた廣瀬委員、お願いします。

○廣瀬委員

ありがとうございます。皆さまが既にお話しになられているところもございますが、私のほうからもそれらを含めて数点申し上げたいと思います。

まず、昨今の事業環境のグローバル化に伴いまして、企業側サイドでもグローバルスタンダードのニーズや重要性というのは、私は十分に認識されていると考えており、国際的な会計基準の統一を目指したIFRSの開発、あるいは普及に積極的に関与していくことについて、一定のコンセンサスを私は得られていると思っております。

一方でただ、今のご説明もございましたように、IFRS自体がまだ幾つかの課題を抱えて改善途上にあるということは事実でございますので、企業側といたしましても、現時点で必ずしもベストな会計基準とは考えておりません。それが企業側からして、早期適用の障害になっている、このようにも位置づけられると思います。

またIFRSの特徴でありますB/Sアプローチの重視や包括利益を含むP/L情報の変質は、企業の収益性や成長性を評価し、投資してキャピタルゲインやインカムゲインを得ようとする機関投資家に対しまして、適切な情報提供が果たしてなされているか、私は疑問であると思います。

それから、IFRSの日本への強制適用云々についてでございますが、私はアメリカの動きというのは非常に重要視すべきだと思います。ご承知のとおり、オバマ大統領はGEやボーイングの社長を大統領経済諮問機関の議長に据え、アメリカ経済の競争力の復活と雇用の増大を目指し、産業政策の抜本的な見直しを図ろうとしております。

もちろんこの件については、それでいけるのか、アメリカで雇用が増大するのか、いろいろと意見があることは事実でございますが、このような状況下でアメリカはどう出てくるのか、またSECのシャピロ委員長の会計基準に関する発言がこの間ほとんどないこともございまして、国際情勢を十分に見きわめた日本の慎重な対応と、提言する場合あるいはまとめる場合も、説得力ある論理構成が必要であると考えます。

また、ご説明を拝聴いたしまして、投資家側におかれましても、単に国際的な比較可能性の確保といった理想論にとどまらず、IFRSの実態を踏まえた具体的なご検討、意見形成が行われているということは、私は理解いたしました。投資家、企業ともに企業価値の向上が共通の利益であると認識いたしており、この共通目的のために有益な会計基準の開発に向けた協力が今後ともできればと思っております。

昨年のアジェンダコンサルテーションにおきましても、日本証券アナリスト協会様と、ほぼ同じ方向の意見も出させていただけたと思っておりますので、お互いの意思疎通を、今後もぜひとも図ってまいりたいと思います。

ただ、私自身も本日、投資家という言葉を使ってまいりましたが、投資家と一口で申しましても、一般の投資家か、アナリストか、あるいはM&A関係者か、投資銀行か、融資銀行か、国策銀行かなど、様々あるわけでございまして、本来どの投資家なのか、投資家全体なのか、そのあたりを明確にしないと、必要とする情報というのは様々になってくるのではないかと思います。このあたりを考えた対応が必要だと思います。

最後に、適用範囲の問題に関してでございますが、ご説明の中でアイデアとして掲げられた、段階的な強制適用というお話もございましたが、グローバルでの比較可能性が必要とされる企業というのは、今、稲野会長もおっしゃいましたが、そう多くはないことが事実でございまして、国内外の投資家が投資対象として注目するグローバル化の進んだ大企業に、基本的には限られると思います。

また、国内の企業間の比較可能性におきましても、投資対象企業は時価総額や業種などによって区別され、必ずしも我が国の全上場企業3,600社が常に投資対象となっているわけではないと思います。

したがいまして、将来的な世界基準への努力は今後とも続けていくわけでありますが、現時点においてはIFRS強制適用の是非の判断対象となる企業は、相当に絞られるべきであると思いますし、かつ段階的に対応していくべきであると思います。日本企業の国際的な競争力の強化の観点を踏まえ、一般の上場企業すべてにまで不要な負担を強いることがないよう、ぜひともよろしくご配慮いただければと思います。

以上でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。私がお聞きした限り、特に参考人に対する質問という形ではないと思いますので、ご意見として承ることにさせていただきます。

○廣瀬委員

はい、結構です。

○安藤会長

手を挙げておられている方で、まだお指ししていない和地委員、お願いします。

○和地委員

皆さん同じようなことをおっしゃったので、私は経営者として国際的な活動をしてきて、率直な感想と質問をさせていただきたいなと思います。非常に素朴です。

私はアナリストの立場からは、今のご説明は非常によくわかるんですけれども、例えば日本はやはり物づくり大国だし、これを強化するというのは国益に沿うものだと思います。私のところも国内・海外に24工場ありますけれども、皆それぞれ持ち味は違いますが、日本の物づくりというのはやっぱり圧倒的にすぐれているということは、自信を持って言えると思います。

一方でアメリカはご承知のように、80年代までは物づくりを強化していましたけど、80年代に物づくりを捨てて、金融のほうに走っています。こういう国家戦略というか、物の考え方が異なるところをあえて摩擦をなくしたり、あるいはいろんな齟齬をなくすことが本当の国際化ということでいいのかどうか、私は少し疑問に思うところがあります。ましてや日本の場合に物づくりということになると、純利益ということをきちっとしないといけないし、それから原則主義もなじみません。そういう点で、逆に言うとそこまで犠牲にしていいのかなというのが率直な感想です。

それからもう一つは、これもやや私見かもしれませんが、物づくりの連中の話では、やっぱり四半期決算、あるいは時価会計、内部統制、この負担感というのはいまだに残っています。その上でさらに、これからいろんな議論が積み重ねられていくと思いますけど、IFRSを導入することになると、日本の企業は弱体化するという懸念もあると思いますが、その辺はどのようにお考えになっているのか。

いろいろ国と国との障害とか摩擦を取り除いて、つるつるの廊下をつくるということが国際化と思ったら、それは違うんじゃないかと言っている人もいますけれども、私も若干そういう感じがします。そして投資家の皆さんも、投資対象の企業が弱体化したら、これは元も子もないわけなので、その辺についてはどのように思っているか、率直な感想と、質問をさせていただきます。

○安藤会長

非常に大きな問題ですが、お答えになりますか。

○稲野参考人

答えはすごく難しいわけですが、物づくりを重視すべきであるというのは、全くそのとおりと思います。日本は物づくり大国であるべきだし、物づくり、製造業において競争力をつけていく、担保していくことがこの国の発展につながるという考え方については異論はございません。もちろん、ほかの領域も当然重要であって、サービス産業も大きくならなければいけないし、金融も重要ではありますけれども、和地委員のご指摘についてはそのとおりだと思います。

そのときに弱体化するようなことをしてはいけないというのは、まさにおっしゃるとおりだと思います。いたずらにコストを上げるようなことはしてはいけないと思いますけれども、今はその最中であって、さまざまな規制間の調整やバランスの問題、これを私は考える立場になく、真ん中のほうにお座りの方々にお考えいただくしかないということですけれども、そのような競争力という観点から、全体としてどれだけのコストが企業にかかっているかということは、別途考えていったほうがいいのではないかと思います。

IFRSとの関係で言うと、もちろん今あるものをそのままということではなく、IFRSを導入することによって、物づくりにすごく甚大な影響があって、物づくりの競争力が阻害されるという点については、実は実感はございません。もしそうであるならば、そこに対してもっと物を言っていくべきでありますし、先ほどご紹介した当期純利益の話もそうでありますけれども、我々のほうから働きかけて、基準自体をいい方向に向けていくという努力をやはり、この段階ではすることが務めではないかと、我々アナリスト協会もそのように臨んでいきたいと考えているところでございます。

○安藤会長

お答えいただきましてありがとうございました。もう一つテーマがございますけれども、これは非常に重要なテーマを今論じていまして、ちょっと白熱しておりますので続けます。そのとき注意していただきたいのは、最初私が言いましたように、ご質問がございましたらあわせてお願いしますということで、ベースはご意見を述べていただきたいということでございますので、あまり質問に集中されないようにお願いいたします。では、引頭委員、お願いします。

○引頭委員

ありがとうございます。利用者側ではない方からの意見が相次ぎましたので、利用者のほうから少し発言させていただきます。3点ございます。

やはりアナリスト側の意見としましては、先ほど廣瀬委員からのお話にもありましたように、1つの会計基準で世界の投資対象企業を分析していきたいというのが究極的な目標であり、これについては揺るぎないところかと思います。しかしながら、今ご議論がありましたように、IFRSに対して必ずしも完全無欠ですばらしい基準であると思っているわけではありません。先ほど、稲野会長からご発表にもありましたように、日本としてはIASBと意見をよくすり合わせて、投資家にとってより便益の高いものを協力しながら、作っていく必要があるというのが、一番のポイントかと思います。

次に、先ほど加護野委員のほうからご意見がございました、アンケート調査の件のけんですが、4ページのQ5についてです。Aが「採用すべき」、Bが「慎重に」ということで、「慎重に」に○を付けた方々がIFRS反対派ということで整理されていらっしゃいました。実は少し告白いたしますと、私もBに○を付けました。でもこれは反対でBにつけたわけではなく、監査や基準の適用というのがどのようになるのか、まだよく見えていませんでしたし、このアンケートが実施された際にそうした点についての情報の提供もありませんでした。

ですからこう聞かれると、両手放しにいいとは言えないという、慎重な性格が災いして私はBに○をつけたわけでございます。さらに最近では、国際的な監査の監督当局の問題意識としても、実際のIFRSの監査がどうなっているかについて、もう少し見なければいけない、といった話も出ているように聞いております。こうした状況もございますので、何卒、答えた側の心理も、ひとつご察しいただきたいと思います。

もう一点ですが、今皆様方のIRFSについてのご意見を伺っていますと、原則主義についての課題や、物づくりに基準が適してるのかとか、IFRSによって何が表現されるのか、というような様々なご意見があったかと思います。私は正直申し上げまして、皆様方がそのようにおっしゃるのは全くそのとおりと思っていまして、逆に言えばどうしてそうした議論が起こるかというと、今IFRSが作ろうとしている個々の会計基準についての上位概念、具体的には、前から申し上げております概念フレームワークの中の利益の概念がきちんと整理されていないからではないでしょうか。個々の基準項目において何を表現してほしいのかといった上位概念、これについては多分この会計審議会の中でも、あまりコンセンサスはできていないのかもしれないなという懸念を少し持つわけです。

今までIASBに対して、ASBJや経団連はもとより、アナリスト協会、それからそのほかの団体含めて、いろんな意見発信をしてきたと思います。ただそれは、日本としての意見というよりも、むしろ個別の団体として、公式に、またいろいろなアウトリーチ通じての非公式な機会を活用しながら、対話してきたというのが実態と思います。

日本ではすでに、任意適用が始まっております。そうしたなかで、今やらなければならないことは、一体何を利用者、投資家にわかってほしいのか、何を知らせたいのかという、基準についての上位の概念について意見発信をしていくことではないでしょうか。もちろん、個々の基準のテクニカルな面についてはこの企業会計審議会でも、様々なお立場の委員がいらっしゃいますので、一つにまとめるのは難しいということは認識しております。しかしながら、そもそもその基準で何をあらわしたいのか、何をあらわすべきなのか、という点については、十分なコンセンサスが形成できるのではないでしょうか。

このような、大きな上位概念のもとに日本の中で議論を形成していくということにいたしますと、多少は議論の論点ももう少しクリアになるとともに、議論の出発点を常に考えることができ、そうであれば、意見も、もう少し集約できるのではないかと推察します。

○安藤会長

ありがとうございました。鈴木委員、お願いします。

○鈴木委員

3つ申し上げます。

1つは永井委員から、比較可能性が低下するのではないかという話がありましたけれども、これは前にも述べましたが、原則主義における比較可能性は少し分けて考える必要があります。狭い意味での財務の比較という意味では低下する可能性はあります。しかし、マネジメントアプローチと言われますように、もう少し経営全体を大きく見ていこうとすると、財務データに何を使っていくかということに、経営者の意思が現われるわけです。広い概念で言えば、比較可能性が高まるような形になるという考え方を私は持っています。

比較可能性を高めるということに対して大きくとらえる考え方を持っていないと、個々のところでは差が出ることになるので、比較可能性は低下することになります。

2つ目は、引頭委員からも話がありましたけれども、IFRS採用への懸念という点です。稲野会長から、1つは完全リサイクリングの要求、もう1つは利益の概念の明確化ということが出されています。私もその通りである思います。

こういった懸念に対して、2つの考え方があります。懸念を払拭してから進むのか、あるいは懸念を払拭するために進むのかというような点で、スタンスが違ってくるわけです。これをあまり対立的にとらえては、前へ進むという意味で得策ではありません。日本としてはどういうふうに合意形成していくのか、代替案というのはどういうことなのかを議論をしておかないと、我々の意見がもし通らないということになった時に、納得感が得られないということが起きると思います。そういう意味で中身の議論が大事です。

3点目は強制適用についてです。一挙に強制適用することは現実的でないというコメントがありました。その通りだろうと思います。IFRSの適用市場を分けて併存させるというような案もあり得るかと思いますけれども、それが過渡期なのか、長期的に併存するのかという点では、意味合いもかなり異なってきます。機関投資家の間では、トピックスというのが重要なインデックスでありますから、そういう意味では市場を分けても、トピックスが本当に継続的に使えるのかという点については、別途検討する必要がある重大な問題です。

もっと大事なことは、強制適用か任意適用かという軸についてです。これも二項対立的に見るのではなくて、現実的に任意適用がスタートしているので、どこまで社数が増えるのか。スムーズに増えるのであれば、強制適用への接点というのが出てきますし、もし社数がさほど増えないということであれば、なぜ増えないのか、その中身についてよく吟味してみる必要があると思います。

そういうことを踏まえながら、IFRS採用企業が一定の規模になるようなポリシーとインセンティブを考えていく必要があると思う次第です。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。八木委員、お願いいたします。

○八木委員

私は1点だけ、適用の範囲について発言させていただきたいと思います。

前回の審議会で中小260万社の会計基準につきましては、IFRSとは独立して検討されることが方向付けされました。今後は、上場会社3,600社、それ以外の金商法対象会社600社とその他の大会社1万2,000社を対象にした議論となります。本日は上場会社3,600社についてということになります。先程のご提案は、適用のタイミングのずれはあるとしても、基本的には上場会社すべてに対して、IFRSを強制適用することが望ましいというものでした。私は従前から発言しておりますが、公開会社及び監査法人の会計上の実力・体制からみて、全ての上場会社に強制適用するのは無理があると思います。かつこれは時間をかけてやれば良いという問題ではなく、IFRS導入のコストとメリットを検討することが必要です。

会社が株式市場で公開したいという思いを阻んではいけないと思います。株式公開する市場が、IFRS基準しかないとなれば、新規公開のチャンスが縮小する可能性も出てくるのではと懸念します。(注:公開の壁が高くなりすぎる)

私は従来から、限定的な強制適用が好ましいと発言してきました。J-IFRSの落としどころによって幅があると思いますが、概ねその数は500社から800社程度ではないかと思います。ただ、どこで線を引くかというのは大変難しいかと思います。そう考えますとちょっと”安直な”コメントになりますが、今日の資料の14ページにありますが、「IFRS市場と日本基準市場へ一時的に区分」という文章の、「一時的」という表現をとってしまうのも一つの解なのかなと思います。

会社が事業運営にあたって、どのような資本政策をとるのか、どの市場で投資家との接点を持とうとするのかという選択権は、公開する・しない・やめるという判断と合わせて、会社に持たせて良いのではないか。

同一市場では同一基準が望ましいとの説明がありましたが、日本市場のすべてを同一市場と考えるのではなく、日本の中に大きく二つの市場があり、夫々の中は同一基準という運用ができないか。具体的には現行の日本基準(注:日本基準A)とJ-IFRS基準(注:日本基準B)とに市場を分ける。どのような会社が、J-IFRS基準の市場に公開することが望ましいかというガイドラインは作りますが、最後は、会社がどちらの市場を選択するかを決定する。

当然、資本市場からの評価についても、自己責任として覚悟するというのが、一番すっきりするんではないか。(注:市場を分けることでIFRS市場独特の運営ルールを採用して、海外企業の公開も促進できないか)

この場合、IFRS市場に上場する会社に対しては、上場基準を厳しく見直していただきたい。IFRSの原則主義には統制力の弱さがありますので、きちんと妥当な会計処理できる実力があるかどうかをチェックしていただきたいというのが一点。結果として、IFRS市場に上場を希望しても、できない会社が出てくることもあり得ると思います。

もう一点は監査法人です。すべての監査法人の公認会計士が、IFRSの勉強をすることは当然だと思いますけれども、現下の監査法人がすべて、本当に厳しいIFRSの監査ができるのかということに、私自身はかなり懸念を持っております。その意味で、IFRS市場の監査をする監査法人についてはきちっとその実力を認定をしていただきたい。すべての監査法人が(自動的に)IFRS市場の監査ができるのではなく、一定の実力があれば、IFRS市場の監査ができるとしないと、国際資本市場の中で大きな監査品質の問題が起こるんではないかと懸念しております。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。既に手を挙げておられる方、こっちでマークしている方、順に指させていただきます。まず勝尾委員、お願いします。

○勝尾委員

お時間が押しているということですので、短めに2点申し上げます。

まず1点目は、比較可能性についてどう考えていらっしゃるかという点でございます。8ページの資料にございます細則主義を適用した場合、同一の会計処理がとられることとなり、結果として実態を制約するとされていますけれども、細則主義を適用した場合に、異なる会計処理が導かれることはないと考えられているのはなぜでしょうか。異なるビジネスモデルに細則主義を適用して、結果的に同一の会計処理が導かれる、あるいは異なる会計処理が導かれる、いずれもケースとしてあり得るわけですが、もし同一の会計処理を導かれた場合、その適用箇所については同じ実態であったとも考えられるわけですから、その意味で、細則主義を適用しても実態は反映されていると言えるのではないかと考えます。

2点目は7ページ目なんですけれども、懸念Cというところで、国による基準の適用や監査水準の相違というものは、徐々に時間をかけて改善していくというご説明でございましたけれども、もしこれらの相違が国ごとの固有の状況を反映した違いであるということであれば、時間が解決するような問題ではなく、コアの部分における違いとして残るのではないかと考えられるかと思います。

以上です。

○安藤会長

質問点がありましたが、お答えになりますか、稲野参考人。よろしいですか。

○稲野参考人

今の細則主義のところですよね。

○安藤会長

はい、そうです。

○稲野参考人

すいません、質問がちょっとよく理解できなかったので。終わった後に個別にお答えします。

○安藤会長

それでは、今までこちらでマークしている委員で手を挙げられた方、辻山委員、それから藤沼委員、斉藤惇委員、3名でございます。一応この3人はお当てしますが、時間の関係で、その後せめて1人ぐらいになりますので、ご承知いただきたいと思います。それでは辻山委員、どうぞ。

○辻山委員

ありがとうございます。3つコメントがありますけれども、最初の2点は制度の関係です。まず、今日のIFRS採用に関する具体的提案ですが、それは主として適用企業の範囲に限られておりまして、採用するという場合のIFRSの中身についてはご指摘がなかったと思います。これは感想でございます。

それから、同じ市場で複数の会計基準があることによって投資家にデメリットがあるということですけれども、これはもうご承知のとおり、アメリカでも既にIFRSとUSGAAPというのが認められておりますので、アメリカにおいてさえ複数の基準が現在併存している、これは事実でございます。

最後が申し上げたいことでございます。これは本日のレジュメの2ページにございまして、投資家とのコミュニケーションということですから、ぜひお伺いしたいことでございます。この2ページで批判されているCFA Instituteは、世界の現在のアナリストのユーザーとしてIASBがいつもメンションする協会でございます。このCFA Instituteが1993年のAIMR時代につくった会計モデル、それから2005年、2007年とCFA協会になってからつくった会計モデル。これがIASBがつくる基準に現在大きな影響を及ぼしている。これはもうご承知のとおりだと思います。

2007年バージョンでは12の原則が列挙されておりまして、その中には金融商品のみならず、全資産、負債を時価評価すべき、リサイクリングは厳重に禁止すべき等が記載されております。IASBはいつもユーザーの代表としてこの協会の声を聞き、ユーザーが考えている、ユーザーから支持されている会計モデルとしてこの協会の考え方をメンションしています。それに向かって進む提案を出す。それに対して世界からコメントが寄せられて、引き戻される。ご指摘がありましたように、収益認識についても基準の内容が改善されたということですけれども、これは現行基準に戻ってきた、新しいモデルで基準をつくり直そうとして、今つくられているものは元に戻って実務に近いものになってきたゆえに改善だと。これはどちらが改善なのか。

したがってユーザーとして、CFA Instituteとアナリスト協会の関係がどのようになっているのかということについて、ぜひお伺いしたい。この協会の活動ゆえにコンバージジェンスが遅れている。12年かかっても、いまだにいつ世界の会計がコンバージンするのかわからないという状況、大変な混乱した状況が、今生み出されていますので、ユーザーの団体としてCFA協会とアナリスト協会の関係がどうなっているのか。それから会計モデルが全く異なっているのか、あるいは同じものを目指しているのか、その辺について教えていただきたいと思います。

以上です。

○安藤会長

参考人、いかがでしょうか。お答えになれる範囲で結構でございます。

○稲野参考人

日本証券アナリスト協会として、CFA協会と定期的に何かを協議している、特に会計マターに関して定期的に会合を持っている、意見のすり合わせを行っているということはありません。したがって、会計制度に与える影響という面から言うと、別個に活動しているというのが正しい理解だと思います。

○安藤会長

ありがとうございました。ではその次、藤沼委員、お願いします。

○藤沼委員

藤沼でございます。この投資家から見たIFRSについての今日の発表、久しぶりにいい発表だったと思っております。これは非常にマクロ的に物事を理解して、日本の固有の問題だとか、日本の制度的な問題というものをある程度考察から外した上で、本来資本市場のあるべきビジョンというもの考慮に入れながら、今後進むべき日本の方向性を示しているということで、見識のあるレポートではなかったかと思います。

今日の私の感想ですが、大変失礼に当たるかもわかりませんけれども、皆様のコメントのいくつかを聞いておりますと、もともと国際基準が好きではないというようなところがベースにあるのかな、と感じてました。IFRSにすると製造業は成り立たない、IFRSは製造業には向かないという議論がありましたが、しかし何年もIFRSを採用しているドイツの製造業は今も躍進しておりますし、また韓国の製造業も頑張っている。日本の企業がIFRSを採用するとだめになる。このような論理が、大きな視点から見てよくわからない。日本には国際基準はいらないと言ってるように聞こえてしまいました。

それと、株主とは一体何ぞやという議論もありましたけれども、やはり株主は会社の一つの重要なステークホルダーです。最終的な会社の意思決定というものは株主総会で決まることになるわけですから、それはそれなりに株主側を代表するインベスターの意見というものは尊重されるべきだと思います。内外の資本の提供者やその他の利害関係者に対して、国際基準に従って作成したきちっとした財務情報を提供をすることは、財務諸表の作成者である企業経営者のアカウンタビリティーという問題で非常に重要な役割を担っております。この点については本年2月に公表されたIFRS財団の戦略レビュー報告書の中でも明確に記載されております。

米国の議論がこれからどうなるかというのは、今かたずをのんで見守っているわけですけれども、米国も機関投資家、要するにロングでホールドするという長期の機関投資家、特にカルパースなどが最近声高にIFRS適用とについてのキャンペーンを始めています。株主にももちろんいろんな人たちがいると思いますけれども、大事なのは長期的に株式を保持する資本家に対してどういうようなアカウンタビリティーを達成するか、こういうことだと思います。

また、日本の関係者が特に気にしている包括利益とリサイクリングの問題については、今回のアジェンダコンダルテーションで、次期のIASBのテーマとして取り上げてることはほぼ決まっております。このように今後もIFRS採用について日本が前向きな対応をする限りにおいては、日本の意見というものはかなりIASBの議論の中に反映されいくものと、私は理解しております。

最後の論点ですが、先ほど公認会計士についてのご議論がありました。私のバッググラウンドは会計士でございますが、一番懸念している点は、今のような状況が続くと、日本の会計士、あるいは日本の会社に勤めている会計士または経理担当者、この人たちが国際基準を理解できない会計士または経理担当者になってしまうということなのです。IFRS財団の次期戦略レビューではこれからの10年は、いかにIFRSを適切に適用していく、そういうことに注力する10年だと決めております。これからは日本の企業が規模の大小にかかわらず、海外に出ていく、例えば東南アジアに出ていくことが常態化する時代だと思います。このような時代の変化の中で、日本の公認会計士や会社の経理担当者が会計基準の国際基準であるIFRSについて十分な知識や適用経験を持っていないということは、日本企業の国際競争力にとっても大きなハンディキャップになってしまいます。日本の会計報告はわからない、アカウンタントも十分な知識や経験がないだ、このようなことにならないように、前向きな議論をお願いしたいと思います。

○安藤会長

ありがとうございました。それでは斉藤惇委員、お願いします。

○斉藤(惇)委員

ありがとうございます。各人それぞれの立場でご意見が出ていましたので、私は資本市場にいる者として、一言意見を述べさせていただきたいと思います。まず、この審議会が討議する内容が、果たしてこういうインプリケーションの細かいことなのかどうか疑問があります。我々は長い間、IFRSの流れに乗って、欧米に先んじられて、彼らのベースでルールをつくられることはかなわないとの思いがあり、したがって我々の意見をしっかり言えるように、IFRSへの進出、乗り合いを宣言して、皆さんがここで今いろいろ提示なさっていたような問題を出して、日本が主導権をとろうじゃないか、こういう考えでIFRSに乗りたいということを繰り返し言ってきたはずであります。

小さなインプリケーションの問題は、個別の例を挙げればいろいろあると思います。資本市場ベースで見ますと、今毎日取引されているうち、70%が外国人であります。日本の投資家は機関投資家といえども、10%しか取引をしておりません。あるいは個人でも20%しかありません。では、その外国の投資家はどういう投資をしているかというと、バイ・アンド・ホールドのようなアナリシスをベースとしたような投資は多くはありません。ほとんどアービトラージのテクニカルトレーディングです。

果たして日本の資本市場はこのようなものでいいのかという危機感を持っております。我々は今、香港とか、韓国とか、上海と戦っております。もはや香港が世界一の市場になっておりまして、ロンドンもニューヨークもIPOでは完全に凌駕しております。中国のIPOは上海、香港、深センの3つを足しますと1年間で400を超えます。日本はわずか20、30社です。このまま行って、日本の資本市場が守れるのかと疑問に思います。

確かに日本には立派な技術がありますし、それを誇りに思いますが、事業を行うには資本が必要です。その資本のコストが国家の富に影響します。高い資本コストではいかに技術があっても競争力が落ちます。なぜスティーブ・ジョブズはあれだけの富をつくったのか。東芝やソニーの株がどうなり、アップルの株がどう上がったかということを、我々はしっかり知るべきです。それは彼らがいかに資本コストの有効性、それを技術とマッチングしたときに、どのような価値を生むかということがよくわかっていたからであります。

我々は今、日本が危機にある中で、日本を救おうと思っております。そういう意味で私は、今大事なことはIFRSに乗って、我々ベースの主導権をとろうとすることだと思います。GDPの53%がアジアに集約してまいりました。世界の富の60%がアジアです。アジアの金の取り合いが資本市場では起こっているのです。そういうときに、使い勝手の悪い資本市場を作りながらも、競争力を保って国富を豊かにしていくという考えは、私は理解できません。何としてでも効率的な資本市場を提供して、産業を興し、競争力を勝ち取るというのが国家戦略だと私は思います。

○安藤会長

ありがとうございました。もうお一方ぐらい。大日方委員、お願いします。

○大日方委員

発言の機会をいただきありがとうございます。

4ページの最初のQ5(1)ですけれども、この数字が事実といえば事実ですが、審議会の資料として広く多くの人の目に触れるということになると、学術的に無視できない誤りがあるので、指摘しておきたいと思います。アンケートの場合、選択肢、質問表に、選択結果にかかわる理由を文章に織り込んではならないのです。それは誘導してしまうからです。まず質問すべきは、世界で単一の会計基準の作成ができるか否か、それをイエス・オア・ノーで聞き、できる(イエス)と答えた人に対して、日本がそれを採用すべきか否かを聞き、以後理由を聞くという手順で質問しなければなりません。その点では、この文章のAの選択肢が、相当ミスリーディングになっていて、日本語としては説得力がある。論理的にはどうかわかりませんが、アンケート調査としては非常に好ましくないと私は思うのです。

したがって、日本証券アナリスト協会は学術団体ではないですから,これもアンケート調査の1つの事実とは思いますけれども、これは客観的な冷静な判断のあらわれであると私は思えないのであります。したがって、この点から既にややバイアスがかかっているということは、皆さんご承知おきいただきたいと思います。

以上です。

○安藤会長

どうもありがとうございました。それでは、最初のテーマについてはここまでにさせていただきます。

続きまして、次に、規制環境、契約環境等への影響についてご審議をお願いしたいと思います。本日はこのうち、契約環境等への影響についてご議論をいただきたいと思います。この検討項目につきましては、まずIFRSを適用した場合のコベナンツへの影響について、全国銀行協会よりご説明をいただきたいと存じます。

本日参考人として、全国銀行協会の会長行である、みずほフィナンシャルグループ与信企画部の高野副部長にご出席をいただいております。高野参考人、よろしくお願いいたします。

○高野参考人

高野です。よろしくお願いいたします。座らせていただいてご説明させていただきます。それでは、IFRS導入が金融機関の貸し出しにおけるローンコベナンツへ与える影響について、ご説明させていただきます。

1ページおめくりいただいて、右肩マル1の資料をごらんください。まずローンコベナンツの概要について簡単にご説明させていただきます。コベナンツとはもうここに記載のとおり、貸付人と借入人との間で調印される金銭消費貸借契約に規定される借入人義務でございます。財務健全性の維持や担保提供の制限等を確約する条項でございます。内容につきましては後ほど詳しくご説明させていただきます。ただしこの条項自体、標準的なものはございません。個別個別のお取引先の事業内容、財務状況等に応じて、個別に検討の上、設定しているものでございます。

コベナンツ設定の主な目的として、ここに4点記載させていただいておりますが、上3つが債権者の目線、下1つが借入人のメリットでございます。

まず1つ目として、借入人がキャッシュフロー、あるいは純資産の維持を義務づけることによって、債権者として借入人の事業リスクを一定の幅におさめ、貸出債権の安全性を確保することを1つの目的としております。

2つ目として、借入人に報告や情報提供を義務づけることにより、業績悪化の兆候を早期に認識する。

3つ目として、借入人が担保提供の制限や財務制限条項によるトリガーイベントを設定することによって、早目の対応をとることが可能となりますので、デフォルトした際の清算価値の維持と清算時の債権回収の可能性を確保することを目的としております。

一方、お借入人のメリットとして、ここに記載のとおり、行為義務を明示することで安定的――安定的な意味は2つございます。1つは調達の間口を広げること、もう一つが、必要なときに必要なだけ資金を調達できるようにするといった調達方法を確保することを目的としております。

これを具体的に申し上げますと、例えばコベナンツを設定したシンジケート・ローンにより、これまで相対でのお取引のない金融機関から、比較的好条件で資金を調達することが可能となる。あるいはコミットメントラインのように、不時の資金需要に対応するために、あらかじめ貸出枠を設定することが可能となるというメリットもございます。

3点目として、コベナンツの主な効力でございますが、お借入人が仮にコベナンツに抵触した場合、シンジケート・ローンの場合は多数貸付人の判断のもと、期限の利益を喪失させるなどの権利を持ちます。ほかにコミットメントラインの契約を終了したり、枠を減額したり、無担保の債権を担保付債権に切りかえるといった機能を持っていることになります。

2ページ目をお開きください。ここではコベナンツ設定の考え方を、イメージ図でお示ししております。下にございますように、緩いコベナンツの場合はお借入人にとっては管理が簡単である一方、債権者、貸付人にとっては業況悪化時にも機能しないといったところで、もともとの目的である貸出債権の安全性確保につながらないという問題が生じます。一方、厳し過ぎるコベナンツにつきましては、業況が問題ない場合でも抵触してしまうという懸念がございますので、貸付人、借入人とも必要以上の管理負担が出る。それを調整して、お借入人が事業内容、資産状況、損益状況を踏まえて適切なコベナンツを設定するのが、我々金融機関の責務と考えております。

3ページ目をお開きください。ここでは、主なコベナンツの種類を4つ挙げさせていただいています。

1つ目は財務制限条項。ここの記載のとおり、純資産維持条項、利益維持条項。内容については次ページでご説明させていただきます。そのほかに、有利子負債の制限条項、自己資本比率維持条項といったものがございます。

2点目として投資適格維持条項。これは外部格付機関による格付を一定水準に維持するということで、財務規律の維持といったものを主な目的としております。

3点目が担保提供制限条項。いわゆるネガプレと言われる条項ですが、これは知らない間に貸付債権が劣後化しないように、他の債務のために担保提供を行わないことを確約させる条項でございます。

4点目がパリパス条項。無担保の債権について、他の無担保債権と平等に扱うことを規定する条項でございます。

なお、ちょっとここで記載がございませんが、マル1の財務制限条項に適用する会計基準は、契約書上どう規定されているかという点でございますが、表明事項を読み上げさせていただきますと、「借入人が作成する報告書等は、日本国において一般に公正妥当と認められている会計基準に照らして正確で、かつ適法に作成されていること」と規定しておりますので、必ずしも日本基準に拘泥する必要はなく、現にIFRSや米国基準についても同様な契約書で対応しております。

4ページ目をお開きください。先ほど申し上げました財務制限条項の代表的な契約内容として、まず純資産維持条項。ここはバランスシートの純資産の部の金額を一定水準以上に維持することを規定しております。

その下、利益維持条項は、簡単に申し上げますと2期連続赤字にしないという条項でございますが、この●の損益、何をベースにするかということでございますが、財務状況や収益見通しに応じまして、ここを営業損益としたり、経常損益としたり、最終的に当期純損益とすることは、お客様の個別の状況に応じまして個別に判断した上で、数値の設定をさせていただいております。

続きまして5ページ目をお開きください。次に、今のコベナンツ付案件がどういうものがあるかということを、簡単にご説明させていただきます。

まず、コベナンツ付案件は、先ほど来申し上げているシンジケート・ローン形式のものは、大宗がコベナンツがついております。もう一つ、相対のローンでもついている場合がございます。ただし、相対のローンの大宗はコミットメントラインでございます。コベナンツを実行の前提条件としていることが多ございます。

次に、コベナンツについて、連結、単体、いずれで設定しているかということでございますが、ここもお借入人の事業の実態に応じまして設定いたします。すなわち、クレジットの主体が単体ならば単体の財務制限条項を設定いたしますし、企業集団全体の信用力を背景としたお貸し出しの場合は、連結で設定させていただくというのが基本になっております。

その下、コベナンツ案件の数でございますが、これは我々みずほフィナンシャルグループ全体、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行の合算ベースでございますが、シンジケート・ローン及び相対のローン契約、合わせて約5,000件ございます。このうちの大半に財務制限条項が付されております。財務制限条項が付されているもののうち、約4割が連結をベースにしてコベナンツを設定しております。ですから連結ベースの財務制限条項の契約数は、約2,000件でございます。

続きまして、6ページ目をお開きください。仮にお客様がIFRSを導入した場合、どういう部分に影響が出るかというところの我々の認識でございますが、まずバランスシート面では、退職給付会計あるいは連結範囲、企業結合会計、金融商品会計等、会計基準差異が純資産額に大きな影響を出すものと認識しております。さらにP/L面では、会計基準差異による影響のみならず、IFRSでは経常利益、特別損益が表示されないということから、経常損益ベースの財務コベナンツの場合、契約変更がマスト、営業損益の場合でも会計基準の差異を抜かしましても、何らかの形式の契約変更が必要になると認識しております。

この結果、下段にございますように、IFRS導入の影響を受けるコベナンツとしては、財務制限条項を中心に以下の項目と我々としては認識しております。

続きまして、7ページ目をお開きください。それではIFRS導入企業が実際に発生して、契約変更を行う場合の標準的なプロセスはどういうものか、簡単にご説明させていただきます。まず、お借入人からの依頼がスタートになります。これは我々エージェントないしは相対の金融機関では、やはりプロフォーマ・ベースの影響が把握できないという部分がどうしてもございますので、まずお客様サイドでプロフォーマ・ベースの試算をやっていただいた上で、財務制限条項への抵触有無の可能性を判定いただいた上で、我々エージェントにご相談が来る。

エージェントとしては、善管注意義務に照らしてお客様からの申し出が妥当と判断した場合は、各貸付人に対して、その変更に関して通知を行います。各貸付人サイドでは、その内容が妥当と判断した場合は、最終的に全体の合意を取りつけた上で、エージェントとしては変更契約に至るというのが基本的な流れと考えております。

この間の期間ですが、ここを2カ月と記載させていただいておりますが、残念ながらまだ、みずほがエージェントを務めた案件でIFRS適用の事例はございませんので、ここは財務制限条項のアメンドを行う場合の標準的な期間として、2カ月というものを置かせていただいています。もちろん形式だけの変更でしたらこれほどかからないと思いますし、大きな影響が生じる場合は個別にクレジットの状況を見きわめて、その諾否を検討することになりますので、さらに時間がかかる可能性もあると考えております。

最後のページ、8ページ目をごらんください。これらを踏まえまして、お借入人がIFRSを導入した場合、コベナンツ、特に財務制限条項に何らかの影響が発生し、契約変更が必要となるケースが多いものと考えております。ただし、契約変更に際しましては、この導入がお借入人の決算に与えるインパクトの大きさ、あるいは既往の契約等の連続性をいかに確保するか、さらにはお借入人自体の業況、クレジットの状況等を勘案して、その変更内容については個別に検討の上対応していくものと考えております。

みずほにおきましても先ほど申し上げましたように、財務制限条項を設定した契約は5,000契約、うち連結が2,000契約ございますので、IFRS導入の範囲によりますが、影響を受ける契約が相応に存在しているものと認識しております。また、シンジケート・ローンで対応しているものもその過半でございますので、これは地銀を含め、他金融機関の影響も相応に出るものと理解しております。

我々といたしましては、このIFRS導入に伴う契約変更等に係る影響を踏まえまして、まず銀行として円滑な対応ができる態勢の整備、具体的に申しますと、やはり営業部店サイドの基本的な理解、あるいは我々が今まで培ったクレジットの見方に、どういう影響が出るのかというところを十分にそしゃくした上で、部店に周知徹底を図るとともに、我々はエージェントを務めているケースが多ございますので、シンジケート・ローンの各参加機関、特に地銀、第二地銀に対して、十分なるリードを果たしていく必要があると考えておりますので、その態勢整備を進めるとともに、我々クレジットの専門家として必要な対応を適切に行っていくというのが、我々の基本的な方針でございます。

ご説明は以上でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。それではただいまの高野参考人からのご説明も踏まえまして、IFRSを適用した場合の契約環境等への影響について、ご意見を伺ってまいりたいと思います。また、高野参考人の説明に対するご質問がございましたら、あわせてお願いいたします。それでは、ご発言のある方は挙手をお願いいたします。山崎委員、お願いします。

○山崎委員

コベナンツの問題については、アメリカでもIFRSを適用するときにどうするかということで、非常に大きな議論の一つになっていると理解しておりますが、日本のメガバンクはアメリカにも拠点をお持ちだと思いますが、米国あるいはヨーロッパでのコベナンツの変更ということについてどういうことがあったのか、もしおわかりでありましたら、ご説明いただければありがたいんですけれども。

○安藤会長

参考人、どうぞよろしくお願いします。

○高野参考人

米国基準を日本企業が適用したケースで、何件か経験はございましたが、あまりクレジットの問題に大きな影響が出たというケースがないものですから、どちらかというと形式的な変更が中心だったと認識しております。

○安藤会長

よろしいでしょうか。

○山崎委員

ありがとうございます。

○安藤会長

ほかにいかがでしょうか。引頭委員、お願いします。

○引頭委員

ご説明ありがとうございました。今お伺いしていますと、結局のところは会計基準がIFRSになったとしても、各企業のクレジットなどを見ながらご判断されるし、また借り手とよく打ち合わせされるということで、大きな影響がないと私は受け取りました。一点確認させていただいたいのですが、過去に日本の会計基準そのものが、改定されて、会計の表示が変わるようなこともあったかと思いますが、そのときにはコベナンツに対する影響はあまりなかった、という理解でよろしいんでしょうか。過去のご経験についてお聞かせくださいませ。

○安藤会長

では、参考人お願いします。

○高野参考人

過去であまり大きな影響が出た事例はなかったという認識です。ただし、今回退職給付会計が変わって、数理差異の即時認識、これは従業員の多い企業を中心に、それなりにインパクトがあると思っています。我々の今の考え方ですと、数理差異は従業員の平均残存勤務年数で期間償却するものと理解しているので、ここの見方が大きく変わる部分は出てくるものと思っていますので、ここの準備については、今後クレジットの見方を含めてどうしていくかということを考えていく必要があると考えております。

○安藤会長

ありがとうございます。大武委員、お願いします。

○大武委員

ご質問が少ないようなので、聞かせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。ちょうど6ページのところにありますように、今参考人が言われたような意味とはかなり違う影響がコベナンツに、今回のIFRSはあるんではないかと思うんです。退職給付会計はもとよりですけれども、P/L面でも経常利益、特別損益が表示されないわけですから、契約自体がかなり変わってしまうということでございます。

そういうことになると、これは今まで各2,000件あるとすれば、2,000件全部もちろん見直さなければならないでしょうし、かつ各地銀まで含めれば、先ほどご指導されると言われましたけど、相当このあたりは影響甚大。特に最近は、融資がかなりいわゆるシンジケート・ローンみたいのが多いですから、全部に影響を与えていきますよね。

そういう意味で特に貸借対照表重視という格好になったときに、単なる手間ではなくて、従来であればコベナンツに引っかからないものが、引っかかっていくという気がしてならないんですが、いかがでございましょうか。

○安藤会長

参考人お願いします。

○高野参考人

おっしゃるとおり、やはりお客様のクレジットを何で見ているかというところに、これはかかってくる問題だと思っています。基本的には期間損益というのは、まさに本業キャッシュフローを何から生んでいるのかというのが、我々のクレジットの見方の基本的な考え方ですので、その部分をIFRSベースの計算書でどう認識するかというところを、意見集約を図っていく必要があると思っています。それはやはり、売上総利益から必要な経費を除いたもので判断するのか否かというところも含めて、ここはまだ検討が必要な部分があろうかと思います。

もう一つ、純資産の部分につきましては、そのお客様の事業リスクを受けとめる純資産の大きさというところなので、ここについては基本的な考え方があまり変わらないものと理解しています。

○安藤会長

ありがとうございました。

議事次第を見ていただくと、もう一つ事務局説明の項目がございますので、そちらに移らせていただきます。諸外国の動向についてということで、各国におけるIFRSの適用状況に関する調査結果について、事務局より説明をお願いします。

○栗田企業開示課長

それでは私のほうからご説明させていただきます。資料3-1と3-2でございます。

資料3-1の表紙をめくっていただきまして、2ページ目に今回の調査の概要についてご説明をしております。今回の調査の背景といたしましては、この審議会などでも、あるいはほかの場面でも、世界では国際会計基準が百何十カ国で適用されているというご議論があるわけでございますけれども、それは実際のところどうなのかということを検証してみるという趣旨でございます。これは大臣からのご指示もいただきまして、実際に国際会計基準を適用されている国を中心に、122カ国を選びまして、そこの国に日本の大使館がございますので、そこを経由して先方の国に資料3-2にあります調査表をお送りしました。それで回答をいただいて集計したものでございます。

これまでのところ90カ国から回答をいただいております。さらにそのほかに、米国、カナダ、中国、韓国、フランス、ドイツにつきましては、本審議会から直接調査に行っていただいて、もっと詳細に調べていただいておりますので、その結果を踏まえて、合計96カ国についてまとめたものがこの資料でございます。

ただ、この資料の特性といたしまして、あくまで、先方がそう言っているということを前提にしてまとめてあるものでございますので、先方が言っていることの当否まで、必ずしも全部検証できているわけではございませんので、その点はご留意いただきたいと存じます。

3ページから5ページが実際に調査表を送付した国と、返信があったかどうかで、○印のあるところが返信があった国でございます。

結果は、連結について6ページ、単体について10ページに掲げさせていただいております。

まず6ページをごらんいただきたいと思います。96カ国のうち、IFRSを適用しているという回答があったのは83カ国でございまして、そのうちピュアIFRSと回答してきたのは40カ国、一部カーブアウト等があると言っているのが43カ国ということでございます。それから任意適用をしているという国が5カ国で、それは下の注にありますように、スイス等でございます。

それからIFRSを使用していないという国が5カ国あって、これは米国等下の注の3のところに書かせていただいている国でございます。ただ、若干注意を要するかと思いますのは、タジキスタンとかイラクとかは、制度としてはIFRSはあるけれども、実際にその要件を満たす企業がないということで、ここでは一応ここの分類に整理させていただいております。

それから、そもそも連結財務諸表の作成義務自体がないという国が3カ国あるという結果になっております。

それから右側のほうは、さらにそれを詳細に書いたものでございまして、マル2と書いてあるところはアドプションかコンバージェンスか、マル3は全上場企業を対象としたのか、一部上場企業を対象としたのか、マル4はビッグバン・アプローチでいったのか、段階導入したのか、マル5はエンドースメントの手続があるか否かということでございます。

それからその下の四角については、将来の見通しについて個別に記載をいただいた国について、メンションをしているところでございます。

各国の個別の状況については7ページから9ページに掲げさせていただいておりますが、それぞれの質問項目といいますか、分類のマル1からマル5につきまして、それぞれどういう回答をしているかというものをここに書いてあります。空欄は返答がなかった、あるいは書いていなかったということでございます。

この結果についてどう解釈するかというのはそれぞれあるかと思いますけれども、少なくとも適用の仕方、導入の仕方にはいろいろある。これは今までも申し上げてきたところではございますけれども、そういうことはこの調査からも言えるのではないかと考えております。

それから10ページに飛んでいただきまして、10ページが単体のほうの結果でございます。分類の仕方等は連結と全く同じでございますけれども、単体ベースでIFRSを適用している国は48カ国でございまして、ピュアIFRSが18カ国、一部カーブアウト等ありが30カ国で、任意適用は10カ国、IFRSを使用していないという国は11カ国あります。それから、単体の作成義務がそもそもないという国が27カ国あるというところでございます。

私からは以上でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。ただいまの事務局の説明につきまして、ご質問等ございましたらお願いいたします。関根委員、お願いします。

○関根委員

ありがとうございます。時間のない中ですが、1点だけ質問させてください。今説明がありました資料3-1のほか、資料3-2として質問書がございます。この内容はまだよく見きれていないのですが、資料3-1は、この質問書の結果を手短にまとめていただいて、わかりやすい表にしていただいたものと思います。ただ、この質問書を見ますと、資料3-1にまとめて頂いた点以外に、例えば内国法人と外国企業とか、もう少し聞かれたりしていますが、そういったことをこの調査結果、本日のまとめ以外に何かまとめられる予定があるのかどうか、本日まとめて頂いたみたいな一覧表ですと非常にわかりやすいと思うんですけど、ほかにも何かつくられる予定があるのか、そのあたり、もし決まっていれば教えていただきたいと思います。

○安藤会長

では、事務局お願いします。

○栗田企業開示課長

今のところそういう予定はないんですけど、もしご必要があれば、当然質問の範囲内で集計をやることは、そんなに難しい作業ではないので、それはやらせていただきます。

○安藤会長

もう一方。辻山委員、お願いします。これでおしまいにさせていただきます。

○辻山委員

ありがとうございます。非常に貴重な資料で、アドプションといってもいろいろあって、コンバージェンスもアドプションもまじって、それらも含めてこの数字だということがよくわかったのですけれども、前々から私が疑問に感じていますのは、IASB自体が、なぜIFRSのユーザーであるユーザーの実態調査というのを自身でしないのかなということです。非常に疑問に思っていました。監査法人が出している資料はありますけれども、IASB自体はやっていないということです。個別の監査法人というよりはもうちょっと権威のある、日本でしたらこちらのほうのオーソリティーが、こういう調査をやっていただけたというので、非常に貴重な資料ではないかなと思います。ありがとうございます。

○安藤会長

ありがとうございました。

それではそろそろ時間でございますので、本日の審議はこのあたりにさせていただきたいと思います。

まず、本日参考人としてご出席いただいた稲野参考人、高野参考人には、お忙しいところご出席いただき、ご説明を賜りました。まことにありがとうございます。お礼申し上げます。(拍手)

当審議会では引き続きまして、今後の議論、検討の進め方として提示させていただいた主要項目について、ご議論いただきたいと思います。あと1.5ぐらい残っているということでございます。

最後に、次回以降の日程等につきまして、事務局より説明をお願いします。

○栗田企業開示課長

次回以降の日程につきましては現在調整中でございまして、改めて事務局よりご連絡をさしあげたいと存じます。よろしくお願いいたします。

○安藤会長

それでは本日の合同会議はこれにて終了いたします。

委員の皆様には、審議にご協力いただきましてありがとうございました。これにて閉会いたします。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企業開示課(内線3672、3656)

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