企業会計審議会総会・第46回監査部会議事録

 

1.日時:令和元年12月6日(金曜日)10時00分~11時30分

2.場所:中央合同庁舎第7号館 13階 金融庁共用第一特別会議室

〇徳賀会長
 それでは定刻になりましたので、これより企業会計審議会総会・第46回監査部会合同会合を開催いたします。皆様にはご多忙の中ご参集いただきまして誠にありがとうございます。
 
 それではまず、企業会計審議会議事規則にのっとりまして本日の会議の公開についてお諮りいたします。本日の会議を公開することとしたいと思いますが、いかがでしょうか。
 

(「異議なし」の声あり)


〇徳賀会長
 ありがとうございます。ご了承いただきましたので、そのように取り扱わせていただきます。
 
 本日、内部統制基準・実施基準の改訂に関する意見書をお渡しする予定ですので、宮下副大臣にご出席いただいております。お渡しする際にはカメラ撮影を行う予定でございますので、ご理解いただきたくお願い申し上げます。
 
 まず議事に入ります前に、委員の異動がございますので、事務局からご紹介させていただきます。
 
〇井上企業開示課長
 事務局の企業開示課長の井上でございます。よろしくお願いいたします。
 
 本年12月に永田雅仁臨時委員がご退任されております。また同月に新たに臨時委員がご就任されておりますのでご紹介させていただきます。大野和人臨時委員でございます。
 
〇大野委員
 大野でございます。どうぞよろしくお願いします。
 
〇井上企業開示課長
 以上でございます。
 
〇徳賀会長
 ありがとうございます。
 
 それでは議事に入りたいと思います。まずは内部統制基準・実施基準の改訂について、事務局から説明をお願いいたします。
 
〇野崎開示業務室長
 企業開示課の野崎でございます。
 
 事務局から内部統制基準・実施基準の改訂につきましてご説明申し上げます。
 
 本年9月に開催しました企業会計審議会総会において、内部統制監査報告書の記載区分等を変更するなどの改訂を行うことについてご了承いただき、公開草案を公表させていただきました。公開草案は、内部統制監査報告書において、監査人の意見を冒頭に記載し、新たに意見の根拠の区分を設けるとともに、監査役等の責任の記載を新たに求めるといった内容でございます。こちらは、昨年7月に改訂した監査基準におきまして財務諸表の監査報告書の記載区分等が変更されたことに伴い、あわせて記載するものとされている内部統制監査報告書も変更するというものでございます。
 
 本公開草案につきましては9月から10月にかけて意見募集を行いました。その結果、資料1-2のとおり、4つの団体、個人から7件のコメントが寄せられました。
 
 コメントにつきましては、既に9月の審議会でご議論いただいた内容や、文言の解釈を求めるものでございましたので、解釈の明確化を図るなどの観点から回答案を作成しております。コメントを踏まえた公開草案からの文言の修正はございませんので、資料1-1のとおり、内部統制基準・実施基準を改訂させていただきたいと考えております。事務局からは以上でございます。
 
〇徳賀会長
 ありがとうございました。ただいま説明がありました「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」案につきまして、説明の内容のとおりに取りまとめることとしてよろしいでしょうか。
 

(「異議なし」の声あり)


〇徳賀会長
 ありがとうございます。
 
 それでは、ただいま企業会計審議会として取りまとめました意見書を宮下副大臣にお渡しいたします。カメラ撮影等よろしくお願いいたします。
 
 このたび、内部統制基準・実施基準の改訂に関する意見書をこのように取りまとめましたので、よろしくお取り扱いのほどをお願いいたします。
 

(意見書手交)

 
〇徳賀会長
 よろしいですか。ありがとうございます。
 
 それでは引き続き、宮下副大臣から一言ご挨拶をお願いいたします。
 
〇宮下副大臣
 皆様おはようございます。金融担当副大臣の宮下一郎でございます。
 
 ただいま徳賀会長から、内部統制基準・実施基準の改訂に関する意見書を頂戴いたしました。委員の皆様方におかれましては、ご審議いただき、誠にありがとうございました。
 
 今回の内部統制基準・実施基準の改訂は、昨年7月に監査報告書の透明化に向けまして監査基準の改訂を行ったことに伴うものと伺っております。
 
 この監査基準の改訂は会計監査に関する情報の提供を充実させるため、監査報告書に監査上の主要な検討事項、KAMの記載等を新たに求めるものでございます。
 
 その後、本年9月には監査人が限定付適正意見を表明する場合には、監査報告書において十分かつ適切な説明をすべきこと等を内容とする監査基準の改訂を行っていただいたところでございます。
 
 委員の皆様方におかれましては長期にわたって精力的にご審議をいただきました。誠にありがとうございました。
 
 また、本日の企業会計審議会ではこの後、会計を巡る動向として、IFRS適用企業の開示負担の軽減についてご報告をさせていただき、その後、監査を巡る動向として、監査人が行うリスクの評価方法についてご議論をいただく予定と伺っております。
 
 本日のご議論も踏まえながら、引き続き、会計基準の品質向上や監査の信頼性確保に向けまして取組みを進めてまいりたいと考えております。
 
 最後になりましたが、委員の皆様方におかれましては、今後とも会計や監査を巡る諸課題につきまして、我が国としての適切な対応を確保するとの観点からご審議を賜りますようお願いを申し上げまして、私からのご挨拶とさせていただきます。本日は誠にありがとうございます。
 
〇徳賀会長
 ありがとうございました。
 
 宮下副大臣におかれましては公務のご都合により、ここでご退席いただきます。どうもありがとうございました。
 

(宮下副大臣退出)


〇徳賀会長
 カメラ撮影もここまでとさせていただきます。
 
 それでは次の議事に入ります。会計を巡る動向につきまして事務局から資料の説明をお願いいたします。

〇井上企業開示課長
 それでは私から会計を巡る動向といたしまして、IFRS任意適用企業の拡大促進についてご報告させていただきます。
 
 資料2をご覧いただけますか。この資料はX2年3月期の年度末から日本基準からIFRSに移行した場合における企業の提出書類の例をお示ししております。IFRS適用企業におかれましては資料の右下にございますとおり、IFRSを適用した翌年度以降、継続的に日本基準とIFRSとの差異の開示が求められておりまして、前回の企業会計審議会の総会及び第6回会計部会の合同会合において、この継続的な差異開示の見直しに関して、複数の委員からご意見を頂いたところでございます。
 
 審議会でのご議論を踏まえ、IFRS適用企業における継続的な差異開示について財務諸表利用者にもご意見を伺ったところ、平成20年3月期よりIFRS任意適用が容認されてから、業界の中でIFRSと日本基準を適用する企業が混在する状況においては、継続的な差異開示というのは利用者の比較可能性の観点から一定の役割を果たしていたものの、現在はその混在する状況も一定程度解消されていること、また、利用者のIFRSに対する理解度も相応に向上していることなどを踏まえれば、継続的な差異開示を廃止したとしてもそれが直ちに利用者の比較可能性を損なうものではないといったご意見を頂いております。
 
 また、継続的な差異開示の負担について、私どもより財務諸表作成者にも状況を確認したところ、有価証券報告書を作成する業務に占める継続的な差異開示の業務の割合は、決算対応人員が20名程度の体制の企業であれば、おおむね2%から3%程度であり、継続的な差異開示のために相応の負担が生じている状況でございました。
 
 政府の成長戦略に基づき、IFRS任意適用の拡大促進に取り組んでいるところ、継続的差異開示を廃止することは、IFRS適用企業の負担コストを軽減することにより、従来よりもIFRSへの移行を容易にさせるものとして、更なるIFRSの任意適用の拡大促進にも資するものと考えております。
 
 以上の点を総合的に勘案し、事務局の金融庁といたしましては、資料に記載しておりますとおり、IFRS適用企業における継続的な差異開示を廃止するために、関係する内閣府令の改正の手続を進めさせていただきたいと考えております。ご報告は以上でございます。
 
〇徳賀会長
 ありがとうございました。それでは、次の議事に入ります。
 
 監査を巡る動向について事務局からご説明をお願いします。
 
〇野崎開示業務室長
 リスク・アプローチに関する最近の状況について、恐縮ですけれども十七、八分程度お時間を頂いてご説明させていただきます。
 
 まず現行の監査基準でございますけれども、実施基準基本原則第1の規定のとおり「監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを評価し、発見リスクの水準を決定するとともに、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づき監査を実施しなければいけない」という形でリスク・アプローチに基づく監査の仕組みが基本に据えられております。
 
 資料3ページでございますけれども、監査基準におけるリスク・アプローチの変遷を簡単に整理させていただいております。
 
 詳しい背景につきましては、資料15ページ目以降に参考資料としてつけております、平成14年及び平成17年の意見書をご覧いただければと思います。
 
 まず資料15ページに記載しております平成14年の改訂時の意見書におきましては、「平成3年の監査基準の改訂でリスク・アプローチの考え方を取り入れたところであるが、・・・実務に浸透するには至っていない」ということで、その原因の一端としまして「監査基準の中で・・・枠組みが必ずしも明確に示されていなかったこと」が指摘されております。
 
 更に、リスク・アプローチの意義について、「重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができる」といった記載がなされ、平成14年の改訂において「リスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした」ことが記載されております。
 
 続きまして、資料17ページ、平成17年の改訂時の意見書では、「監査人の監査上の判断は、財務諸表の個々の項目に集中する傾向があり、・・・経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因」となっているとの指摘がございまして、「内部統制を含む、企業及び企業環境を十分に理解し、・・・事業上のリスク等を考慮することを求める」と記載されております。また、こうした観点から、固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価ですとか、「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」に2つのレベルにおける評価等の考え方を導入したところでございます。
 
 最後のページ、19ページにございます「特別な検討を必要とするリスク」への対応についても、その当時整理されたということでございます。
 
 お戻りいただきまして資料の4ページになります。資料の4ページは、リスク・アプローチにおける各リスク要素の関係を整理したものでございます。こちらは平成14年の改訂時に整理されたものでございまして、監査リスクと、それから固有リスク、統制リスク、発見リスクという3つのリスク要素の関係が明確化されております。
 
 まず、監査リスクでございますけれども、こちらは「監査人が財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性」と定義されております。固有リスクとは、「関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性」をいい、「特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有するリスク」とされております。統制リスクとは、「財務諸表の重要な虚偽の表示」が企業のフィルターである「内部統制によって防止または適時に発見されない可能性」、発見リスクとは、こうした「財務諸表の重要な虚偽の表示」が監査人のフィルターである「監査手続を実施してもなお発見されない可能性」とされております。
 
 監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、監査人にとっては所与の条件とも言える固有リスクと統制リスクを評価し、自ら行う監査手続等の策定の基礎となる発見リスクの水準を定めるとされております。
 
 平成17年の改訂では、「固有リスクと統制リスクを分けて評価することにこだわることは、リスク評価が形式的になり、発見リスクの水準が的確に判断できなくなるおそれもある」との指摘もございまして、4ページの式の2行目の通り、「原則として固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」を評価したうえで、発見リスクの水準を決定する」とされたところでございます。
 
 次に資料5ページ目でございます。こちらは平成17年の改訂において導入された「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」に基づく監査実施のプロセスの概要を示したものでございます。
 
 経営者が提示する「財務諸表項目」、後ほどご紹介する国際監査基準でアサーションと呼ばれているものでございますけれども、そういったアサーションからボトムアップで重要な虚偽表示のリスクを評価していくものではなくて、俯瞰的な視点から絞り込んでいくというアプローチとなっております。
 
 図の右側は監査基準の実施基準二の3に対応するもので、「監査人は広く財務諸表全体に関係し、特定の財務諸表項目のみに関連づけられないような重要な虚偽表示のリスクがあると判断した場合には、そのリスクの程度に応じて補助者の増員、・・・等の全般的な対応を監査計画に反映させなければならない」というものでございます。図の左側、これはアサーションレベルに対応するもので、「監査人は、財務諸表項目に関連して暫定的に評価した重要な虚偽表示のリスクに対応する、内部統制の運用状況の評価手続及び発見リスクの水準に応じた実証手続に係る監査計画を策定」すること等が求められております。中央にはその実施基準二の5にあります「特別な検討を必要とするリスク」への対応が記載されているところでございます。
 
 この図の左下の矢印にございますように、以上のプロセスは上から下への一方通行ではなく、監査手続の実施に伴い、リスク評価を見直したりして、監査計画を修正するなど、そういった形でリスクに対応していくことが求められているということでございます。
 
 以上、現行の監査基準におけるリスク・アプローチの概要をご説明させていただきました。
 
 続いて資料6ページ以下で、最近の国際監査基準の改訂の動向についてご説明させていただきたいと思います。
 
 まず資料7ページでございますけれども、こちらは今年3月の企業会計審議会総会・監査部会の合同会合において、事務局よりご説明した国際監査基準の改訂状況のアップデートでございます。
 
 まず2015年に改訂されたKey Audit Mattersへの対応を中心とするISA701につきましては、既に昨年の監査基準の改訂において対応がなされております。同じく2015年に改訂されたISA720につきましては、既に監査部会において複数回にわたりご議論いただいているところでございます。
 
 今回のリスク・アプローチに関連するものとしましては、赤の四角で囲っております昨年改訂されたISA540と、国際監査・保証基準審議会(IAASB)において本年9月に改訂基準が承認されましたISA315の2つでございます。これらについては後ほど詳しくご紹介させていただきたいと思います。
 
 続きまして資料8ページでございます。来年以降の予定でございますけれども、2020年には、現行のISQC1を改訂する形で策定されるISQM1及びISQM2、そしてISA220の改訂と、品質管理に関連する基準が順次最終化される予定でございます。またグループ監査の基準であるISA600の改訂につきましては、2021年の最終化に向けて、現在、改訂に向けた議論が行われているところでございます。
 
 続きまして、資料9ページ目以下で、ISA540と315について、内容を簡単にご説明させていただきたいと思います。
 
 まず、ISA540でございますけれども、こちらは会計上の見積り及び関連する注記に関する監査人の実務上の指針を定めるものでございます。後にご説明する、ISA315を会計上の見積りに関してどう適用すべきかを規定しているものでございます。ISA540につきましては、昨年、基準改訂の作業が完了し、本年12月15日以降に開始する事業年度からの適用となっております。
 
 改訂の背景となる課題としまして、IAASBの公表資料では、こちらに記載している事項が掲げられているところですけれども、より実際的な背景としてさかのぼってご説明させていただきたいと思います。
 
 まず、リーマン破綻後のグローバルな金融危機を受けまして、2008年ごろから欧米の当局において、監査制度のあり方についてさまざまな議論がなされておりました。こうした中、監査の基準の設定主体であるIAASBでも2010年末ごろから、見積りの不確実性に対処する方策として監査報告書における情報提供機能をどう拡大していくべきかという議論がなされました。そういった議論が優先的になされる中で先ほどご紹介したKAMの導入を含むISA701や720が順次公表されたところでございます。
 
 そして、会計基準におきましても、グローバルな金融危機で指摘された論点への対応として、特に金融機関において信用損失の認識が適時になされなかったという指摘を踏まえ、貸倒引当金の計上に際して従来のバックワードルッキングな発生損失モデルでなく、よりフォワードルッキングな予想信用損失モデルを採用した改訂版のIFRS第9号「金融商品」が2014年に最終化されているところでございます。
 
 こうした中で、ISA540については、会計上の見積りの複雑化と監査リスクの高まり、特に1つ目の四角の2つ目のチェックに記載がございますように、会計基準の見直しの動きを背景として、会計上の見積りに関する監査の基準の改訂を求める声が高まり、中段の参考にございますように2013年の3月には、バーゼル銀行監督委員会からIAASBに対して貸倒引当金についての強固な監査ガイダンスの開発を要請するレター等が出されていたところでございます。
 
 また、会計上の見積りに関する監査品質については、重要な懸念があるとの指摘も各国当局の検査等からなされており、監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)が毎年公表している検査指摘事項報告書でも公正価値測定を含む会計上の見積りが主な指摘事項として毎年掲げられているところでございます。指摘事項の中身としましては、資料下段の参考に記載のとおり、見積りに使用される仮定の合理性の検証がなされていない、十分なリスク評価手続が実施されていない等の指摘がなされております。
 
 国際的な指摘がこのようになされておりますけれども、こういった会計上の見積りの監査に関する問題指摘は、公認会計士・監査審査会の検査においても複数なされており、例えば、今年7月に公表されている「監査事務所検査結果事例集」におきましても、関連会社株式の評価、貸付金や売掛金などの債権の評価、棚卸資産の評価、固定資産の減損、のれんの評価、繰延税金資産の回収可能性、退職給付債務など多岐にわたる項目について指摘がなされているところでございます。
 
 続きまして、資料10ページでは、こうした課題に対する主な対応として、重要な虚偽表示のリスクの識別及び評価の強化が最初に掲げられているところでございます。特に会計上の見積りに関する財務諸表項目、アサーション固有の虚偽表示のリスクの評価に当たっては、見積りの不確実性のみならず、使用するデータ・仮定・モデルの複雑性等、将来予測を含むという意味で、主観的な要素が含まれ得ることなどを固有リスク要因として考慮することが求められているところでございます。
 
 このほか、2つ目の四角にございますように、職業的懐疑心の発揮の必要性、特に監査証拠の収集に当たって、都合のよい情報のみを採用して相反する情報を意図的に排除するといったバイアスを極力取り除くことの重要性などが強調されているところでございます。
 
 このような観点から、会計上の見積りに関して収集した証拠が必要十分なものになっているかという点も含めて、実施した手続を改めて総括的に評価するというスタンドバックと呼ばれる手続も要求されているところでございます。
 
 さらに、下のコミュニケーション対応としましては、見積りの不確実性が高い、あるいは主観的要素の多い複雑な会計上の見積りに関して、監査人と監査役等の間の双方向のコミュニケーションをより充実させることが求められているところでございます。そして、財務諸表利用者への透明性を改善するという観点から、見積りの不確実性等に係るKAMの重要性についても触れられているところでございます。
 
 続きまして資料11ページ目になります。以上ご説明した見積りに関するISA540の見直しの検討が進められる中で、その基礎となるリスクの識別及び評価に関する基準であるISA315についても見直しが必要という議論になりました。そもそもIFIARが出しています検査指摘事項報告書でも毎年リスク評価手法の手続の問題が指摘されていることや、2013年7月にIAASBが公表した現行基準の適用レビューにおいてもさまざまな問題が指摘されたことから見直しが必要ということになり、先ほどのISA540と可能な限り連携して見直しをしていくこととなったところでございます。
 
 ISA315につきましては、今年の9月にIAASBが改訂案を承認し、2021年の12月15日以降の事業年度から適用となっています。
 
 改訂の背景となる主な課題でございますけれども、特に、監査人によるリスクの識別及び評価に関する要求事項の適用に一貫性がなく、実際に識別されるSignificant Risk、すなわち、日本でいうところの「特別な検討を必要とするリスク」として識別されたリスクの数にばらつきがあり、結果こうしたリスクへの対応にも影響が生じているという指摘がございました。その背景として、このSignificant Riskの定義が「特別な監査上の検討が必要と監査人が判断したリスク」ということで、ある意味循環したような定義になっており、リスクそのものの本質をとらえた定義となっておらず、不明確との指摘がなされていたところでございます。
 
 なお、日本の監査基準における整理は、先ほどご紹介した資料19ページに考え方が記載されているところでございます。そして、そのほか監査人による企業の内部統制の理解も不十分だという指摘もございました。
 
 この点、本年7月に公表されました公認会計士・監査審査会の「監査事務所検査結果事例集」においても、例えば、被監査会社が主要事業以外にも重要な事業を行っているにもかかわらず、監査チームがこうした重要な事業における内部統制を理解していない事例や、「特別な検討を必要とするリスク」を識別しておきながら、それと関連してどのような統制活動が行われているのかを理解する手続を実施していないという事例が挙げられていたところでございます。
 
 次に12ページでございますけれども、このような課題への対応としまして、先ほどの会計上の見積りに関するISA540でも触れられていたとおり、重要な虚偽表示のリスクの識別及び評価の強化がより一般化された形で整理されております。監査人がどのような形でリスクを識別し、それを評価すべきかについて、より汎用性の高い原則的なアプローチという形で整理がなされております。具体的にはアサーションと呼ばれる経営者が提示する財務諸表項目において、重要な虚偽の表示の生じやすさに影響を及ぼし得る個々のリスクにつきまして、2次元の図をイメージしていただければと思うのですけれども、横軸に虚偽の表示の発生可能性、縦軸に虚偽の表示の重要性をイメージした上で、1つ目のチェックマークでは、想定されるあらゆるリスクをそれぞれ識別・評価していくのではなく、統制が何ら機能してないという前提において、そもそも虚偽の表示の発生可能性や、その重要性が合理的な可能性、英語でReasonable Possibilityと呼ばれていますけれども、こういった合理的な可能性を持たないというようなネグリジブルなものについては、そもそも監査人は識別しなくてよいという整理がなされています。これが1つ目のチェックでございます。
 
 そして2つ目のチェックでございますけれども、発生可能性及び重要性の観点から合理的な可能性を有するとして識別された財務諸表項目レベルのリスクについては固有リスクと統制リスクをそれぞれ別個に評価してくださいということが要求されています。
 
 固有リスクをどう評価するのかということですけれども、先ほどの2次元の図をイメージすると、第1象限の原点に近い部分はそれぞれリスク発生可能性も低く、重要性も低いということで相対的にリスクが低い、逆に右上のほうに位置するものは発生可能性も高く、重要性も高いということで、相対的にリスクが高いと判断されるところでございます。このように固有リスクが低いところから高いところに連続的に変化していくことを「固有リスクのスペクトラム」と表現し、概念上の整理がなされているところでございます。
 
 そして最後に、資料13ページの注2ですけれども、こういった概念整理を前提としまして、先ほど申し上げたSignificant Riskについても定義の見直しがなされております。具体的には、先ほどの2次元の図の右上のほう、固有リスクのスペクトラムの上限に近い位置にあると評価されたリスクという形で、事後の手続を意識した従来の定義ではなくて、リスクの特性そのものに着目した定義に改訂されているというものでございます。
 
 以上、駆け足でございますけれども、事務局の説明は以上でございます。
 
〇徳賀会長
 ありがとうございました。
 
 ただいまご説明いただきました監査を巡る最近の状況に関する諸問題、特にリスク・アプローチにつきましては、今後監査部会でご審議いただくことにしてはどうかと考えておりますが、よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

 
〇徳賀会長
 よろしいですか。ありがとうございます。それでは、そのように取り進めさせていただきます。
 
 これからは監査部会の伊豫田部会長に進行をお願いします。
 
〇伊豫田監査部会長
 監査部会長の伊豫田でございます。
 
 早速ではございますが、先ほど事務局よりご説明いただきましたリスク・アプローチにつきまして審議を進めさせていただきたいと思います。それではこれまでの説明につきましてご質問、ご意見を頂戴できればと思います。いかがでしょうか。水口委員、どうぞ。
 
〇水口委員
 ありがとうございます。利用者といたしましては、グローバル化、技術革新など、企業を取り巻く事業環境が非連続な形で大きく変化している中で、これまでに増して複雑な監査上の見積りに注目したいと思っているところでございます。
 
 ISA540の改訂、それからISA315の改訂を契機にいろいろ我が国の現状もお示しいただき、ありがとうございました。関係者とも連携した上で、監査人が企業の事業などをしっかり理解した上で、事業に係るリスクの特性を踏まえて、見積り要素などについて、引き続き深度ある監査を行っていくことは、チャレンジである側面もあり得るところです。ここで、リスク・アプローチのあり方を整理して共有化できる機会を持つということは意義があると思います。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかいかがでしょうか。紙谷委員、お願いします。
 
〇紙谷委員
 ありがとうございます。監査の実務家の観点からコメントさせていただきたいと思います。
 
 12ページ目でISA315の改訂の主な変更点がこちらに記載されております。私の所属している監査法人の経験でお話させて頂きますので、他の法人さんとは違うかもしれないということをご了承を頂ければと思っております。
 
 ここで、固有リスクと統制リスクを別個に評価することを要求とありますが、弊法人では現在の実務でもまずは固有リスクと統制リスクそれぞれを評価した後に、結合したものとして重要な虚偽表示のリスクを評価しておりますので、仮にこのような形になっても、我々としては実務的な影響はないのかと思っております。
 
 また固有リスクのスペクトラム、なかなかスペクトラムというのは日本語にするのが難しいのですけれども、弊法人の中では一言では表現しにくいので、連続体のように少しずつ変化するものとして固有リスクを評価するという言い方をしています。デジタルに高、低という2段階というよりは、低の中でも総体的に高いものもあれば相対的に低いものがあるといったことを念頭に置きながら現行実務をしておりますので、この提案についても違和感がないところでございます。
 
 また、Significant Riskの定義につきましても、発生可能性と影響度という2軸で、その中でもより右上と言いましょうか、両方が高いものと現状も考えておりますので、仮にこういった形になったとしても、弊法人としては実務上あまり大きな影響はないものかと思っております。
こういった方向性で日本の監査基準に取り入れるという方向で審議を進めていただくのはいいのではないかと思っております。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見いかがでしょうか。今給黎委員からどうぞ。
 
〇今給黎委員
 日立製作所の今給黎でございます。ご説明ありがとうございます。
 
 リスク・アプローチと申しますか、このリスクの識別につきましては、監査に限らず、内部統制を含めた経営面のリスク評価ということとも表裏一体の関係にありまして、このリスク・アプローチは監査人等も含めて、かなり現在でも共有されていると思います。ただ、その手法につきましては、特にここ数年でデジタル技術が急速に進化しまして、クラウド会計でありますとか、デジタルアナリティクスによるデジタルオーディットと申しますか、そういった手法が実際に会計監査の現場に少しずつ入ってきているということで、ルールの検討の前提としても、会計監査の手法が非常に多様化しつつあるところは実感するところでございます。今日のご説明の中で、先ほどお話がありましたスペクトラムとか新しい言葉もございますけれども、特検リスクなどにつきましては既に私どもの会計監査の実務でもなじみのある文言でございますし、手続としても、実際、現場で実施されていると思いますので、今回、改めて定義を整理いただいたということで、全体の大きな枠組みの変更はないと認識しております。引き続き議論をよろしくお願いいたします。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。岡田委員、お願いします。
 
〇岡田委員
 ご説明ありがとうございました。
 
 ISA315と540の方向性については、会計あるいは世の中全体、経済活動がますます複雑化する中で、こうした動きになるのはやむを得ないものと感じております。ISA315については監査に減り張りをつける意図と理解いたしました。当然のことながら固有リスクと統制リスクについては、それぞれをしっかり判断し、監査をしていただきたいという気持ちは変わりません。
 
 ISA540については、私も企業におりましたときから見積りというのは大変難しい問題だと実感しておりました。見積りというのは正解がありません。ですから、マニュアルをつくってこういうときにはこうしなさいというものには全くなじまないことではありますが、経済活動の結果が出てくるという意味では、見積りというのは大変重要な作業だと思います。基準ができることは当然、結構であると思いますが、それで監査が完了するということではありません。一方、見積りは、先ほどのアサーションという言葉にもあるように、経営者の判断で行われており、経営者の誠実さや倫理観に非常に大きく関係する場合がございます。しかしそれに頼り切ってはいけないということは過去の不祥事が語っている一方で、それを監査する監査人も事業を行う経営者の知見には到底かなわないと思います。そこで当然、その企業の中にいる、社外も含む監査役等とのコミュニケーションは非常に重要だと思います。その場合の監査役等には、Those charged with governanceという意味で、株主のために監査しているという強い自覚が求められていると思います。これは監査役の選任プロセスなど、今後コーポレートガバナンス・コードで議論していただきたいことですが、監査役等が執行側から独立して見積りについての判断を行い、さらに監査人との情報交換をするのが望ましいのではないかと思います。
 
 私の印象ですが、日本では、監査役等の企業内での力はまだまだ弱い傾向にあると感じております。しかし一方では監査役等が機能しなければそういう事態のときには最終的には外部の目に頼らざるを得ない。つまり投資家の目に入れるための開示の充実という方向にならざるを得ないのかと思いますが、それは非常に難しいことであり、今以上に監査役等が機能することが前提になると思います。
 
 それともう1点申し上げたいのは、経営者の見積りについて、私の経験上からは、経営判断を覆す、あるいは十分に説得力のある議論をして経営者の判断を覆すのはなかなか難しいことではあるため、例えばそのガイドライン的なものが必要ではないかと思います。私が企業におりましたときに感じたのは、例えば、見積りの前提条件が大変重要ですが、それを決定するに当たって第三者あるいは専門家の意見を聴取することが推奨されるとか、その場合に外部による予想と会社独自の予想にどのような乖離があるかを検証するとか、あるいは毎期その評価に使う前提条件に一定の恒常性を持たせ、もしそれを変えるときには合理的な説明が求められるといった考え方の提示というのは基準とは別にあってもいいのではないかと感じました。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見いかがでしょうか。
 
〇大瀧委員
 ありがとうございます。利用者の立場からコメントいたします。
 
 減損テストや繰延税金資産の回収可能性等、見積りを含む会計処理の財務数値への影響はますます大きくなっていると思います。また不正会計の手段として見積りの会計処理が利用されるケースも散見されております。財務諸表利用者としましては、そのような財務数値の不確実性リスクに対してより適切な会計監査が実施されることを期待しております。したがいまして国際監査基準におけるISA540、315の改訂を日本の会計監査においても取り入れる方向で、適時適切に議論することに対して賛成いたします。
 
 またこのような重要な見積り等に関しましては、KAMの対象になる可能性も高いと思われますので、そういった意味でも利用者としては期待しているところであります。
 
 また今後改訂等が予定されております監査事務所の品質管理ですとか、特にグループ監査の強化などについては、現在日本の企業においては海外子会社を含むグループガバナンスの強化が課題になっているかと思います。そういった意味でも今後、国際監査基準の改訂をフォローしながら日本の会計監査について議論していくことに賛成しております。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかいかがでしょうか。
 
〇井口委員
 ありがとうございます。今、大瀧委員がおっしゃったことと重なるところも多いですが、ISA540と315のところでは、見積りのところの監査は非常に重要になってくると思っております。利用者としては、非常に見えにくいところではありますが、ここはしっかりやっていただければと思っています。特に、最後の、導入を決めていただいていますKAMの開示と監査人と監査役とのコミュニケーションは重要ではないかと思っています。ちょうど3日前に、海外企業を買収して大きなのれんが積み上がっている日本の企業さんと対話していまして、KAMの開示では、のれんが御社の場合、記載されますよねということ、その会社の有報の監査役等の活動の状況を見ますと、すごくテンプレート的な、重要な事項について審議検討したという、来年も使えそうな用語が載っていましたので、これでは本当に監査役さんが監査人とコミュニケーションしたかわからないことを申し上げて、何月何日にこの事項について議論して、監査役会としてはこういうふうに結論を下したという開示があれば、大きく積み上がっているのれんがあったとしても、安心感を持って投資家として保有できるということを申し上げました。岡田委員が株主との関係をおっしゃっておりましたが、こういう開示があれば投資家として深くモニタリングできると思っています。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見。八田先生。
 
〇八田委員
 今日のご説明で、国際監査基準がこういう動向にあるということから、当然に日本も足並みを揃えてという流れの中で、監査人には更なる期待が高まるわけですが、そもそも見積りとか予測というのは人知のなせるわざではないのであり、どうやってこれを監査するかというときに論点が2つあると思っています。
 
 1つは、そもそも見積りを行う際に、企業が経営実態を反映した上で正しいディスクロージャーに向けて見積りの判断を行うのであって、そのときにその判断が適切になされているかどうかということが監査上の論点になるということです。当然監査人は、そうした判断プロセスを確認するわけで、複雑化、高度化する企業活動の中において、例えばビッグデータの分析とか、さらにはAIの活用ということで、多分テクニカルな部分ではどんどん発展してきているという状況の中での対応が求められてきているということです。でも実際問題、例えば過去の幾つかの不祥事を検証してみると、同業他社に比べて、あるいはその置かれている事業環境において、何か異常であるとか、他社では見られないという、そういったところの気づきが非常に脆弱だったのではないのかということが指摘されています。
 
 つまり業界の動向とか、あるいは経済の動向とかそういったもっと幅広の視点を指向したのが、17年改訂のときに導入された事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチであったはずです。つまり、近視眼的な個別の取引や帳簿記録とか、特定の被監査企業の内容を見るだけではなくて、もっと大きな視点で監査現場に臨まなければだめだということです。このように、監査人にはそういった広範な知見といいますか、幅広の素養というのはおかしいですけれども、もう少し最新かつ国際的な経済常識を備えて個々の監査に対応することが求められているのではないかということです。
 
 先ほど岡田さんが言われたように、経営者自身、自分のところの主たる業務に関しての判断であってもなかなか難しいわけで、当然に予測や見積りは外れる場合があるかもしれない。しかし、そうした判断が適切なデュープロセス、つまりその時点で判断すべきときに必要な不可欠の真実な情報が過不足なく入手されており、また、適切な手続を踏んで議論がなされていて、決してある特定の限られた担当者による暴走ないしは独断専横で決められたわけではないということの確認のために、こういうプロセスを見ていくことになるということです。
 
 第2の論点としては、内部統制監査もそうですけれども、現在おそらく外部監査に求められている一番のポイントは、被監査会社のガバナンスについてのチェックを行うことだということです。それは当然ガバナンス・コードへの遵守の問題もあるし、いろいろなところで議論が進んできていますので、監査人においても、これらの議論を合体させる形で監査に活かしていくことが肝要だと思っています。つまり、細かな手続論や監査調書の作成ばかりやっていたのでは、現場が疲弊するばかりではないかと思います。今話していることは、実は、平成14年改訂とか17年改訂の監査基準の根底に流れている議論と全く同じだと思っています。例えば監査リスクについて固有リスクと統制リスクを合体させ重要な虚偽表示のリスクという考えを導入したものの、今度は、再度、これらのリスクの中身を分けろという。また固有のリスクについては、今般、固有リスクのスペクトラムという概念を持ち出してきて、こうした視点で監査せよとされていますが、当たり前の話で堂々めぐりの話が進んでいるように思われます。
 
 ただ、利用者からは、国際的にも監査人の行動結果を見ると、その辺に弱い部分があったのではないかということの要請がこういった基準にも反映されているのではないかと思います。ですから、最後にも出てきていますが、必ずこういった議論の最後は監査人の資質の問題、適格性の問題として懐疑心という言葉が出てくる。すなわち、これで間違いなく正しい判断、結論が述べられますかということを自問自答しなければいけない。そのために入手すべき証拠を適切に得なければならないということで、いわば厳格な監査をちゃんとやってくれという話だと思っています。
 
 したがつて、大きな事務所もそうですが、ぜひ会計士協会においては、監査とか会計というテクニカルな議論だけではなくて、もう少し幅広の内容を備えた研修とか教育を充実させて、より広い視点で企業監査ができるような人材養成をぜひしていただきたいと思います。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかいかがでしょうか。初川委員。
 
〇初川委員
 ありがとうございます。的を射た監査といいますか、実効性のある監査を実施するという観点からしますと、監査リスクの識別・評価・対応手続、これがもう全てと言って過言ではないと思います。今までもいろいろな議論がされてきましたし、先ほど紙谷委員からもお話がありましたように、私の知る限り、どの監査法人も、この監査リスクに対して非常に真剣な取組みをしてきたという認識でおります。ただ、検査等を通じて第三者の目から現状を見られたときに、まだ不十分なところがあるということだと思います。しかし、果たしてそれは、更なるルールの改訂、精緻化をしていくことで本当に改善できるのかという疑問もあります。かなりルールの整備もできているわけで、何をやらなければいけないかということも今までの議論で明確になっているわけですから、各監査人がしっかりと監査の実効性が上がるように自ら努力を続けていく。そういった努力を会計士協会がしっかりサポートしていく。こういう姿が実務的にはあるべき姿ではないかと強く感じます。
 
 ただ、監査人サイドから見れば、クライアントのビジネスそのものが大きく変化していますし、ITの進化も非常に著しいものがありますので、リスクそのものが、またリスクの捉え方そのものが変質してくるという、難しい状況があると思います。一方で、世の中が現状の監査、特に監査人の監査リスクに対する取組みに満足していないということも明らかになったと思うんですね。諸外国の議論の状況を見ましてもそういうことが言えると思います。
 
 これらのことを合わせて考えますと、世の中の期待のレベルをしっかりと示すという意味で、監査リスクに関連するルールの改訂を行い、それを機会に監査人、公認会計士協会等が、先ほど八田先生もおっしゃいましたけれども、実効性のある研修なり、考え方の整理なり、場合によってはツールも必要かもしれませんし、そういったことを進める機会にしていただくと良いのではないかと思います。世の中はこういうレベルの対応を求めているのだということを示す意味で、この改訂を検討していることは有意義ではないかと私は思います。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見いかがでしょうか。
 
〇吉見委員
 ありがとうございます。
 
 今般のこの議論は、先ほどご説明がありましたように、ISAの315、540という2つの国際監査基準の改訂にともなっての議論と理解しているところでございますけれども、基本的にはこれらの基準はご案内のように日本においては日本公認会計士協会の実務指針、監査基準委員会報告書において反映されていくところだと思います。したがいまして、今後これらの基準についても日本公認会計士協会で改訂の検討がなされるものと理解しているわけでありますが、したがいまして監査基準において、これらについて対応する場合には最低限であるべきであろうと私は思っておりまして。具体的には現在の監査基準の中にこれら315及び540において述べられているものと、例えば矛盾をするものであるとか、記載がないような項目であるとか、これがないと日本公認会計士協会の実務指針においてその改訂が難しくなるような場合、それは検討しなければならないだろうと思っております。
 
 そう考えますと、今般はそのような大きな項目はないように私には思えてならないわけでありまして、その中で1つ、まずISA315に関連して言いますと、これは12ページになりましょうか、この中で固有リスクとそれから統制リスクをアサーションレベルにおいて重要な虚偽表示のリスクが識別された場合に別個に評価する手続になってくると。こういったことをあえて監査基準の中に書き込んでおく必要があるのかとか、そこのところは検討する必要があると思います。
 
 先ほども議論になっておりました固有リスク要因、そして固有リスクのスペクトラム、スペクトラムはどうやって翻訳していいのか私も直ちに想像がつかないところでありますけれども、これらについては基本的には固有リスクに関連する概念でありますので、私自身はこれはそれこそ公認会計士協会の実務指針にお任せしてもいい項目だと考えているところであります。現に実務ではこれらについてはすでに議論をされているというご意見も先ほど委員の中からございましたので、そういったことも参考にされてやられればいいのではと思ってございます。
 
 それからISA540に関しましては基本的には見積りの問題でありまして、この会計上の見積りについても監査基準ではここまで一定の対応をしてきたところでございますので、その中で特に、先ほど来も議論になっておりましたけれども、コミュニケーションの改善、特に監査役等とのコミュニケーション強化ということがございましたが、これを例えば双方向のコミュニケーションということも事務局からのご説明にありましたけれども、そもそもコミュニケーションは双方向ではないのかという議論もあると思うんですね。つまり今までは片方向だけのそれをコミュニケーションと呼んでいたのかという疑問もあると思います。コミュニケーションを重要視しているという点では現在も同じでございますので、そのことを例えばこの会計上の見積りに関して特に強調する必要があるということであれば、これを仮に監査基準上でそれを対応するとすると、単に会計上の見積りだけではなくて、改めてコミュニケーションのあり方について全体として、「双方向の」という部分が必要かどうかという検討になっていくのではないかと、しかし果たしてそれが必要なのかと考えているところでございます。
 
 全体としましてISA315あるいは540双方につきましても、ここまで改訂が終わりましたKAMとの関わりがかなり出てきていると思います。これらがこれから改訂実務指針となった場合、KAMにおいてどういう記載がなされるのかが実務上では1つのポイントになってくると思いますので、これらの改訂と適用、それとKAMの記載の実務上の実施、この両者のタイミングをどういうふうに図っていくのかということのほうが注目点としてあるのではないかと考えたところでございました。私からは以上でございます。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかいかがでしょうか。住田委員、どうぞ。
 
〇住田委員
 ありがとうございます。皆さんおっしゃっているようにISA315とか540の改訂については、クラリティ版のISAの適用後レビュー等でうまくいっていないという指摘があったことがもともとの発端にはなっているわけですけれども、540については、ご紹介にありましたように、IFRS9で今までとは次元の違うような将来情報に依存する見積りが出てきて、従来の540では理論的な矛盾が出るということがありまして、そういう意味も含めて改正がされたということでございます。
 
 先ほど来何人かの方がおっしゃっていますけれども、見積りは非常に経営者のバイアスがかかりやすいところが避けられないものでありまして、それをどういうふうに、より客観性を持たせていくかというところが、会社にも当然求められているわけですけれども、それにチャレンジすることが監査人にも必要だということを強調するための改正であったと考えております。その観点で、先ほどコミュニケーションの話が出ましたが、高度な、複雑な見積りであればあるほど、会社のガバナンスがどういうふうに機能しているかというところを見なければいけないということで、Those Charged with Governanceと呼ばれる、日本でいえば監査役等とのコミュニケーションを強化しなければいけないというメッセージが入っていると思いますので、こういう観点は日本でも適合するといいますか、必要なのかと思います。
 
 それから315の改正について言えば、うまくいっていないという指摘があったのは事実ですけれども、もう一つ今回の改正の大きな背景になっているのは、ISAを採用している国がここ10年ぐらいで格段に増えていまして、ISAの有効な適用をするためには、もっと具体的なガイダンスが欲しいという声が強くなってきているという背景もあります。ですから今回改正された315を見ていただきますと、お気づきかもしれないですけれども、原則主義に立ち戻って、要求事項自体はかなり数を絞っているんですけれども、適用指針とか付録が非常に増えています。
 
 我々ずっと監査をやっている人間からしますと、適用指針の中に一つ一つの要求事項の手続について、なぜこの手続が必要かという、Why何々というのが30個近く入っていたりしまして、まるで監査のビギナーに対して説明しているかのような、これはまるで教科書のようだと思ったりもいたします。ですのでISAが長くて複雑なので理解しにくいからシンプルにという声と、より詳細なガイダンスを求めるという、この二律背反的な要請に応えるために要求事項は絞り、ガイダンスと付録は増やすことをやっているわけです。
 
 かなりIAASBとしても実験的にこういう、今、315の改正をやったということで、今ちょうどIAASBではレス・コンプレックス・エンティティと呼ばれている、複雑性がない会社の監査にISAを適用するにはどうしたらいいかという大きな課題認識があってやっているわけですけれども、大きな方針を決める前にとりあえず315で、例示もたくさん入っているんですね。要求事項の手続を適用するときに、レス・コンプレックス・エンティティとコンプレックス・エンティティ、エンティティ単位で必ず区分するわけでもないんですけれども。そういう場面ごとにどういう強弱をつけられるかという例をたくさん入れています。
 
 ですのである意味実験的な改正ということもあって、何を申し上げたいかというと、リスク・アプローチの大きな考え方は何の変更もないということですね。先ほど固有リスクと統制リスク、それから結合リスクの話がありましたけれども、それも従来からあったことを、ただ結合リスクを原則とするか、固有リスクと統制リスクを別々に評価することを原則とするかという軸を変えただけの話でして、全くリスク・アプローチの考え方には影響していないということですので、今、吉見先生がおっしゃっていただいたように、特に監査基準にはねるような改訂内容ではないのかと思っているところでございます。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見いかがでしょうか。町田委員、どうぞ。
 
〇町田委員
 今、吉見先生と住田先生から、ミニマムに対応すべき、もしくは監査基準の改訂は要らないのではないかというお話があったところですが、私もミニマムでいいのではないかと思います。といいますのは、まず見積りに関する監査の国際基準であるISA540ですけれども、今回の審議のきっかけとなったISA540の改訂の背景はIFRS9でした。IFRS9の区分に対応して監査も高度な見積りに対応しようと。さらに、そこに金融、国際機関からの強い要請が加わって改訂が行われたという経緯だと理解しています。
 
 こうした背景を持つISA540を、あまり詳細に、原則的な基準であるはずの、わが国の企業会計審議会の監査基準に書き入れてしまうと、徳賀先生や弥永先生がおられる前で言うのも何ですが、この後、IFRSの17の保険契約とか37の金融負債に関する対応を考えたときに、実務が身動きが取れなくなってしまう、現実の実務と基準が矛盾をきたしてしまうように思うからです。
 
 ただし、現行の監査基準を何も改訂する必要がないかというと、そうでもないようにも思います。現行の監査基準では、見積りについては、ほんのちょっとだけ触れているに過ぎません。そして、先程、事務局からは口頭説明だけだったんですが、公認会計士・監査審査会から公表された最近の指摘事例集を見ると、わが国の監査実務においては、見積り項目の監査に関して、本当に監査をやっているのかというような状況が指摘されているんですね。コミュニケーションを図っているといえば聞こえはいいですが、単に、会社側から見積りの説明を聞いて終わってしまっていると。それでは、現在の財務報告において非常に重要な、見積りに対する監査手続としては、非常に問題があるのではないかと思いますので、監査基準において、最低限の手続を規定して是正を図るべきではないかと考えます。
 
 それから2点目ですが、今、住田先生はリスク・アプローチについては全く変わらないと言われました。たしかに、リスク・アプローチの大きな枠組みは変わらないんだろうと思いますが、ただ、今日の資料の18枚目のスライドにあるように。平成17年のときには、固有リスクと統制リスクを別個に評価していたら形式的になるのでダメだとまで言って、監査基準の前文に書いて出してしまっているわけです。
 
 ですから、もし今後は固有リスクと統制リスクを別々に把握するというのであれば、これは、少なくとも、その前文の考え方が変わったんだということになります。改めて監査基準の前文で、平成17年の前文を修正することを宣言して、今後は、固有リスクと統制リスクを別個に評価するのが原則になる、なぜなら、固有リスクを重視して、特別な検討を必要とするリスクの定義との関係で別個に扱うことにしたんだということを明記してもらわなければいけないと思うんですね。
 
 実際、われわれのいる教育の現場では、この15年間、ずっとこの前文を教えてきているんですよね。歴史をたどって、当初のリスク・アプローチでは固有リスクと統制リスクを別々に評価していたんだけれども、それでは形式的になってしまったので、重要な虚偽表示のリスクという結合リスク概念で整理したんだ、と。われわれは、これまで教えてきたことを撤回しなければいけないので、この責任の一端は金融庁に担っていただきたいと思います。
 
 それから3点目ですけれども、今回、リスク評価を扱うISA315に手をつけたということは、国際監査基準では、この後、それに伴う用語等の適合修正だけではなくて、リスク対応とか、証拠の評価、監査計画といった、いわゆるリスク・モデルを構成する他のISAについても改訂作業がずっと続いていくんだと思うんですよね。ですから、この点は金融庁に確認したいんですが、今回、わが国の監査基準でも、リスク評価の部分の改訂に着手するということですが、将来的に順次、リスク・モデルに関連する基準改訂を、順次考えていくということなのかどうかというのを1点確認したいと思います。
 
 最後ですが、途中議論がありましたが、固有リスクのスペクトラムという用語の問題ですね。正直なところ、私の日常用語にはスペクトラムという用語はなくて、はるか昔子供の頃、スーパーヒーローの中にスペクトルマンというのがあったような気がするんですが、それにしても、もうすっかり忘れてしまいました。先ほど紙谷先生からは「連続体のように少しずつ変化するもの」という訳が示されましたけれども、このまま放っておくと、後日、公認会計士協会が国際監査基準の翻訳を基にして公表している実務指針の、監査基準委員会報告書の中にスペクトラムという言葉がそのまま残っていくのではないかという気がして心配しています。これはKAMの議論のときも申し上げました。わが国の監査基準を審議するに当たって、いつまでもKAM、KAMと言っていないで、早く適切な用語をつけてほしいと申し上げましたが、今回も、この概念が重要であるとして取り入れていくのであれば、是非、早急に適切な用語をつけていただきたいとお願い致します。
 
 そのことと併せてですが、スライド10枚目にも出てきましたけれども、スタンドバックという用語も同じですね。この用語も、最近、国際監査基準では山ほど使われるようになった用語です。ただし、こちらについては、ご存知のとおり、平成24年の特別目的の監査基準の改訂のときに、同じスタンドバックという用語について、審議会の議論の中で「一歩離れての(評価)」という訳語がつけられています。
 
 このスタンドバックという用語や考え方をどう扱うか、一貫して使っていくのか、改めて定義しなおすのかという問題もあるかと思いますが、こうした用語の導入の問題についても、金融庁としてどうお考えかという点をお伺いしたい。
 
 つまり、今後、リスク・モデルの改訂を順次進めていく予定なのかということと、カタカナ英語や訳語についてどのようにお考えかということをお伺いしたいと思います。
 
〇野崎開示業務室長
 ご質問ありがとうございます。
 
 1点目につきまして、まず今回ご紹介させていただいたISA540の見積りと、それから315のリスクの識別と評価を強化していくというところでございます。初川委員からもご指摘がありましたように、監査人にとって一番大事なのはリスクの識別・評価というところですので、ここをまずはしっかりと、国際基準を見据えて日本でどう対応していくのかという議論が重要かと思います。それに関連する論点として、監査証拠等々の後の手続のところも当然関わってくると思いますので、そこはどの程度の規模感で考えていくのかというのはこれから検討していきたいと考えております。
 
 2点目のスペクトラムという英語でなじみがないというご指摘もありましたけれども、例えば太陽光のスペクトラムとかそういった連続的なイメージというのは既に共有されているのかと思っています。私個人としてはそんなに違和感はないのですけれども、いずれにしても何らかの理解の共有化を図っていくことが必要だと思っていますので、スタンドバックも含めまして、なかなか訳語が存在しないところをどう充てていくのか、そちらも検討させていただきたいと思います。
 
〇町田委員
 申しわけありません。私は、わが国の監査基準にスペクトラムというカタカナ英語が入ることには、非常に抵抗感があります。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見。住田先生。
 
〇住田委員
 スタンドバックという言葉の日本語訳をというお話だったんですけれども、ISA上、本文の中でスタンドバックという言葉は出てきません。概念として懐疑心を働かせての監査手続の個々の結果だけではなくて総合的に見ましょうという意味で随所に入っているので、別にスタンドバックの定訳はつくらなくてもいいかと個人的には思います。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございましたか。ほかご意見。川村委員、お願いします。
 
〇川村委員
 ありがとうございます。先生方のいろいろなご意見を拝聴し、またまずこのプロジェクトの取組みは大変前向きですし、有意義なことだと思って、ぜひ進めていただきたいと思います。
 
 その上で、もちろんこれは非常に専門家の間の議論なので、専門用語が飛び交い、非常にきちっとしたリジッドなディフィニションを持っていくというのは当然のことであります。そのため用語がある程度ジャーゴンになってしまう部分もそれはあるんだろうと思うんです。ただそれで先ほど専門家の間でもスペクトラムという言葉を使うか使わないかということも分かれる。あるいは英語をそのままカタカナにすることがどうなのかという。金融は特にそうですが、文書の8割がカタカナになっているような状況ですね。これが例えばこういう監査であるとか、内部統制であるとか、これは名宛人が誰かというと最終的にはそれは経営者であり、それを担保すべき立場に監査があって受益者が株主だという構造が一番わかりやすい構造だと思うんですが、その受益者と名宛人が理解できないようなものでは困るということはぜひご留意いただきたいと思うんですね。ですから専門家の間の議論では、相当難しい言葉、それはいいと思うんですが、相手がわからないということではほんとうにバラモン教になってしまうわけでありますから、これはぜひご留意いただきたいと思うんです。私もいろいろな第三者委員会的なところでありますとか、こういうところに出ていますときに、驚くほどかなりの経営者や、財務とか経営戦略に属する部門の幹部社員、あるいは経営者自身がほとんどの人は内部統制とガバナンスとコンプライアンスと全く区別がついてないんです。プロの経営者ですし、現実にそれはもう事業の遂行の上で今の3つを当然わかっているしやっているわけですよ。ただ言葉としてどう位置づけるのかがわからないうちにどんどん専門用語が出てきて。また、人間一番苦手なのはカタカナと番号でありまして、これが飛び交うとますますわからなくなってしまう。そういう意味でいくと、普通の人というか経営者に対して、あるいは株主に対しての広報と言うんでしょうか、啓蒙と言うんでしょうか、ここも含めてぜひそのプレインランゲージの会計であり監査というものを一方で同時に考えていただきたいというのがお願いであります。
 
 以上感想でございます。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほか先生方いかがでしょうか。熊谷委員、お願いします。
 
〇熊谷委員
 ありがとうございます。
 
 このISA540と315を日本に導入していくことに関しては賛成であります。今、議論を伺っていて、監査基準として入れるのか、あるいは公認会計士協会レベルの対応になるのかというのはまたもう少し議論を深める必要があるのではないかと思ってお聞きしておりました。そもそも、それこそ会計基準、あるいは財務報告が利用者の役に立つためには目的適合的であることと忠実な表現というのが基本的な性質として定義されているわけであります。この忠実な表現ということを考えてまいりますと、結局、公正価値会計ですとか、あるいは見積り、あるいはフォワードルッキング的な予算が入ってこざるを得ない。そこはまさに経営者がどう判断していくかということで、そうした会計情報は、その財務諸表に載っかってくる以上、客観的であるべきではあるけれども、忠実な表現を実現するには、主観的な要素が入って来ざるをえない。結果として監査リスクが高まってくるという流れの中でこういうことが起こっているのではないかと理解致しました。
 
 一方で、先ほど紙谷委員からもございましたように、大手の監査法人におきましては、1つの監査法人だけで考えるのは一般化するのは危険かもしれませんけれども、こういったことは固有リスクと統制リスク、これを別個に評価した上で、それを今度結合していくと。結局、一段階で評価するのか、二段階で評価するのかという問題だろうと思います。現在、大手監査法人の実務ではすでに二段階で評価されている。ただこういう大手の監査法人において行われていることが実際、中小の監査法人において行われているか、それだけのリソースがあるのかといったことに関しては疑問だと思いますし、そういう意味でこういう改革といいますか、改正が行われていくことは、我が国の監査のレベル全体の底上げということで非常に意義のあることではないかと思って伺っておりました。
 
 それから5ページ目にリスク・アプローチの絵があったと思います。この右側のほうで、重要な虚偽表示のリスクの把握とあったときに、全般的な対応として、補助者の増員、専門家の配置、監査時間の確保等と書かれておりますけれども、ISA540とか315が入ってきたとして、多分先ほどもありましたように大手の監査法人では、このような実務は既に行われているのだと思います。しかし利用者としての第三者的な懸念としましては、実際に個々の監査チームなど、あるいは大手の監査法人であっても結局あるクライアント、被監査会社に対して重要なリスクを識別したときに、大手監査法人であっても、そういう事実をもってそのリソースをより多く割けるかどうか。そういったところまで考えていったときに、ほんとうに監査基準の改正だけで十分かどうか。また中小の監査法人においてこういう監査上の適正手続が実際行われているかどうかというのはとても重要になってくると思います。そういった意味で315とか540を監査基準や実務指針に入れるばかりでなくて、公認会計士監査審査会などでの事後的なチェック、あるいは公認会計士協会の品質管理に関するチェックといったものが従来にも増して重要になってきているのではないかと考えております。
 
 それから先ほど来出ておりますスペクトラムという言葉ですけれども、この概念を見たときにグラデーションのことだと思いました。スペクトラムとグラデーション、どちらも英語なのでわかりづらいんですけれども。ただグラデーションというのは色調変化のことですね。訳語を見ますと「段階的な変化」というような訳語が当てられたりしております。固有リスクの段階的変化というとまた耳なじみがよくないと思うんですけれども、固有リスクの段階的な評価というような訳語を当てればこのスペクトラムという概念を日本語化できるのではないかと思いながら聞いておりました。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。松本先生、お願いします。
 
〇松本委員
 ありがとうございます。関西大学の松本です。
 
 540の会計上の見積りの監査手続と315のリスク・アプローチの改訂について、それらを何らかの形で、監査の最も重要な規範である監査基準に盛り込むというのは賛成です。ただそのときの問題意識ですが、国際監査基準が変わったから日本の監査基準を変えるという発想ではなくて、540にしても、前回出ている701のKAMに関しましても、2008年のリーマンブラザーズの破綻に起因した金融危機が非常に大きな影響を与えていて、金融機関の破綻したときに、監査人は一体何をしていたのか、という批判があったために、会計上の、特にデリバティブ関係の金融商品に関する見積りが監査上重要であるということから、540を変えたと。さらには金融危機のときに監査人は無限定適正意見しか表明せず、何らその手続の詳細について説明なく、紋切り型の合否しか言わないのは監査人としての義務を果たしていない、という批判で701のKAMが入ったというように、国際監査基準改訂の背景をちゃんと説明した上で改訂を行っています。ということは、日本も同じようなことが実際に存在しているということが、具体的に我々の間で共有されていなければ、540や701をはじめとする監査基準の一連の改訂の全てを説明できません。特に我々は教育のサイドにも立っていますので、監査基準の持つ性格である規範性と啓蒙性のうちの啓蒙性という観点からして、特に改訂の背景に関する知識の共有化をもう少し金融庁さんのほうで考えていただきたいと思います。特に公認会計士・監査審査会から発表される書類もそうですし、会計士協会から公表される書類もそうですが、重要な箇所が全部匿名化されてしまっているので、教育の現場で該当企業の有価証券報告書を追跡して、この不祥事の背景を調べ、それに対して誰がどのように対応し、最終的に不祥事になってしまったのかの分析ができません。従いまして、ケース・スタディとして利用不可能な現状の開示を、何とかしてアメリカ並みにしてほしいと思います。個人情報の保護は、日本だけではなくてアメリカでも重要視されているはずですが、アメリカのほうが個別の識別情報の開示が多いというのは、若干教育サイドからみると不満の残るところですので、よろしくご検討お願いしたいと思います。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。
 
〇関根委員
 ありがとうございます。関根です。
 
 今までのご意見の中にも出てきましたが、私は、会計処理の中で一番難しいのは見積りであり、経営者の方が行った見積りを監査するのも非常に難しいと思っております。そして監査において、最も難しく、最も重要なのがリスクの識別、評価と思っております。
 
 これは考え方としても難しいのですが、同時に、監査対象をよく見極めて判断していかなければならないという点が難しいと考えています。企業はそれぞれ違いますので、それぞれのリスクのあり方も違いますし、マニュアルに従っているだけでは十分ではなく、実際はそれぞれ違うため、よく見極めていかなければなりません。先ほど、監査人に対して「何をやっていたのだ」という指摘があるという話がありました。何もやっていなかったわけではなく一生懸命やっていたものの、なかなかそこまで至たらなかった場合など、そういうことの繰り返しがどうしてもあるのではないかと思っており、こうした指摘を真摯に受けてしっかりと対応していく必要があると考えています。
 
 そうしたことから、監査リスクをどう評価したらよいかを検討し、リスクとはどういうものかを考え、固有リスク、統制リスク、発見リスクの3つに分けたのが、日本でいうと平成14年の改正だったと思います。しかしながら、3つに分けてそれを一つ一つ見ていくことにこだわりすぎると形式的になってしまう恐れがあり、発見リスクの水準を的確に判断していくためには、結合した重要な虚偽表示のリスクを考えていく必要がある、このリスクを考えていくことが重要ではないかという話が出てきたと私は理解しています。平成17年の改正のときには、私はこの場にはいなかったのですが、日本公認会計士協会の監査基準委員会で315の検討をしており、さらにさかのぼって、国際監査基準のISA315をつくるときに、グローバルの会計事務所が皆、リスクをどう評価するかという議論を闘わせていたと記憶しております。その際、結合した重要な虚偽表示のリスクを考えていくことが重要だと言う意見と共に、やはり固有リスクと統制リスクに分けてみていくことが必要と言う意見もあったと理解しております。
 
 こうしたいきさつを考えていくと、今回のISAの改正は、先祖返りというようなイメージもあるかもしれませんけれども、結合して考えてきたものの、重要な部分については一つ一つ見ていくのが大切ではないか、精緻に考えていくと結合したリスクだけでみていてはいけないのではないか、世の中が複雑化していく中、そういったことが繰り返される中で改善されてきているのではないかと思っています。
 
 とは言っても、実務をまだ経験してない学生の方等には難しいと思いますので、どう改正していくかというのはこれからしっかり考えていく必要があり、若い人たちにも理解できるような形で変えていく必要があるかと思っています。ちなみに、ISAの話ということで本日は話していますが、日本では金商法で内部統制報告制度があります。内部統制の評価というのは、ご存じのように固有リスクが相対的に高いところを対象とするということですから、固有リスクを考えていくことは実務に定着しているのではないかと思われます。実際、日本公認会計士協会の監査基準委員会で公表している監査ツールもリスクコントロールマトリックスで分けていくような形になっていますので、そういったことも参考にしていくと良いのではないかと思います。皆さんがおっしゃるように、監査基準にあまり細かいツール的なことを書く必要はなく、本日の監査部会の議論を踏まえて、概念的なところをしっかり押さえた象徴的な形で、入れていただければと思っております。以上です。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見いかがでしょうか。林委員、どうぞ。
 
〇林委員
 林です。完全に出遅れてしまいまして、申し上げたいと思ったことはほぼというか全て述べられてしまいましたけれども、繰り返しを恐れず意見を述べさせていただきたいと思います。
 
 国内外の検査結果とか国際基準の改訂動向などを踏まえると、今回の監査基準改訂は必要だと思っております。国際監査基準701のKAMの導入や、重要な見積りに関する注記開示の議論が日本でも始まっていることとの関連を踏まえても、この時期にこの改訂を議論することは必要だという点は、皆さんと同じ意見です。
 
 それから、改訂が予定される内容は、もう既にテキストに書かれていたり、あるいは今日も何度もご意見が出たように、現行実務で既に対応されているものですので、改訂される箇所の数とか、修正が加えられる文字数という意味では大きな改訂にはならないだろうと思われますが、とにかく重要なのは、新しい概念や考え方を日本の監査基準や実務指針にいかに適切な用語や表現で取り込むかということです。
 
 具体的には、改訂に関連する概念の定義とか解釈、それから今回の改訂の趣旨とか意義、そのあたりを、前文も含めて監査基準にきちんと書き込むことが重要であろうということと、これも既にご意見が述べられていましたけれども、この審議会の場での議論を通じて理解を共有することが非常に重要ではないかと考えております。以上です。ありがとうございます。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございます。ほかご意見いかがでしょうか。荻原委員、どうぞ。
 
〇荻原委員
 見積り以前の話もあると思っておりまして、せっかく令和になりましたので令和の話をさせていただきますと、これはセキュリティーが担保された話ですね。いつも私は有価証券報告書になぜセキュリティーのことをもっと書かないんだというお話をさせていただきましたけれども、もう3月31日の夜の11時半以降にサイバー攻撃でデータ改ざんなんて簡単にできてしまう社会ですね。そういうセキュリティーのあり方とか、会計システムそのものが、あるいは会計あるいは販売等も含めた関連システムが、確かにセキュアコーディングされて、確実に守れるものかどうかということも含めて。ほんとうにそのレベルからこういう論議を次も進めていくべきではないかと私は思っております。そうでないと会計は全て内部統制上しっかり担保されて正しい、見積りだけに問題があるというわけではないと思っておりますので、ぜひともその議論も今後加えていただければと思います。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかいかがでしょうか。挽委員、どうぞ。
 
〇挽委員
 一橋大学の挽と申します。ありがとうございます。
 
 監査基準の改訂については賛成ですので、監査部会の先生方、よろしくお願いいたします。
 
 先ほど来の議論を聞いていて、社会科学において正解は1つなのか。それは環境などに応じて変わっていくべきなので1つではないだろう。確かに基準の規範性、啓蒙性はありますけれども、正解が1つではないわけですから基準に細部まで入れてしまうと同じような問題が起こりうるのではないかということで、基準の役割と公認会計士協会がつくっていく指針の役割をよく考えていただきたいと思うことが一つです。
 
 それから八田先生のご指摘は誠にそのとおりだと思いました。ノーベル経済学賞をとったハーバード大学のサイモンという先生が、1950年代にコントローラーシップ協会からの資金援助を受けて企業の実務家と行った共同研究の成果を発表されたのですが、その中で管理会計担当者の人材育成についても言及されています。そのときの人材育成とは会計とか監査をやれということだけでは当然ないわけです。専門家になってから会計とか監査の知識は磨けるわけですから、そういう専門家になる人が学部のときに学ぶべきこととして、技術とか統計、最新の予測をするための技術とか統計について学べと。それから当時は製造業を念頭に置いていたので、IEとの協働を効果的にするための解析方法とか生産管理を学べということを指摘されていました。ですから私どもも大学で、監査を行える優秀な人材を育てなければいけない。知識と教養を身に着けた人材育成をと考えております。実際に大手の監査法人では理系の方々をとる余裕がありますけれども、中小でその余裕があるかと言われるとなかなか難しいので、その辺も含めて課題を認識していく必要があると思います。ありがとうございます。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかご意見いかがでしょうか。弥永委員、どうぞ。
 
〇弥永委員
 ありがとうございます。一言申させていただければと思います。先ほど吉見委員もご指摘されていましたように、コミュニケーションは双方向のはずです。けれども、そうはいえ、今回話題に上っている540を前提としますと、この双方向性、特に監査役等からのインプットは、監査にとっての重要性が高いことが今一度明らかになります。これを契機に、コミュニケーションは双方向性を有するということを監査基準で強調するという意義はあると思うのですね。残念ながら会社法は会計監査人から監査役等の方向しか規定していないという実態もありますので、監査基準で双方向性を強調していただくことは、もちろん、誤解をしていらっしゃる方はおられないと思いますけれども、双方向性は会社法に基づく監査においても重要なのだということをメッセージとして発信することができるのではないかと思いますので、ぜひ検討していただければと思います。
 
〇伊豫田監査部会長
 ありがとうございました。ほかにご発言ございませんか。
 
 ありがとうございました。それでは次回の日程につきまして事務局から説明をお願いいたします。
 
〇野崎開示業務室長
 次回の日程につきましては改めて事務局からご連絡させていただきたいと思います。
 
〇伊豫田監査部会長
 それではここで徳賀会長に引き継がせていただきます。どうぞよろしくお願いします。
 
〇徳賀会長
 それでは本日の議事を終了させていただきます。本日はお忙しいところご参集いただきまして、ありがとうございました。これにて閉会いたします。
 

以上

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金融庁Tel 03-3506-6000(代表)(内線3657、3811)

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