- ホーム
- 審議会・研究会等
- 金融審議会
- 議事録・資料等
- 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」
- 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」(第3回)議事録
金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」(第3回)議事録
日時:
令和7年9月29日(火曜)16時00分~18時00分場所:
中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室 ※オンライン併用
【森下座長】
それでは、定刻になりましたので、ただいまより、暗号資産制度に関するワーキング・グループの第3回会合を開催いたします。皆様、御多忙のところお集まりいただき、誠にありがとうございます。
それでは早速ですが、議事に移ります。
初めに、前回は米国の動向について説明があったところ、今回は欧州の規制であるMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)を取り上げます。現在、金融庁においてMiCAの外部委託調査を実施しておりますところ、その受託事業者である渥美坂井法律事務所よりMiCAの概要を御発表いただきます。
続けて、松尾真一郎委員より、暗号資産のセキュリティについて、制度や実務における運用等を検討するに当たって留意すべき点等について御発表の御希望をいただきましたので、御説明いただきます。
その後、日本暗号資産等取引業協会より、暗号資産の情報の正確性担保に関する取組みと、前回、委員から御指摘のあったIEOトークンについての課題や取組状況について御説明をいただき、最後に、事務局より、今回御議論いただきたい事項についての資料を御説明いただきます。その後、メンバーの皆様に御討議をいただくという流れで進めさせていただきます。
それでは早速ですが、渥美坂井法律事務所の落合参考人より御発表をお願いいたします。
【落合参考人】
御紹介いただきまして、ありがとうございます。渥美坂井法律事務所の落合と申します。私のほうからMiCAの概要について御説明をさせていただきます。
2ページ目をお願いします。MiCAの概要でございます。いわゆる暗号資産だけではなく、ステーブルコインも含めた資産の募集やサービス提供、不公正取引規制などに関して包括的な規制を行っている法令になります。他方でこのMiCA自体は、暗号資産の発行・募集・上場もございますが、施行日については、EUの加盟国の適用法令に従って既に暗号サービスを提供していた業者が存在する加盟国等もあることから、2ページの中部に書かれておりますように、国によっては最大18か月までの適用期間の猶予などをしています。
3ページ目をお願いします。MiCAの章構成でございます。特に資産参照型トークン又は電子マネートークン以外の暗号資産といったものがTitle2にございますが、Title3、4でまたそれぞれトークンの種類、さらにTitle5で暗号資産サービス業者の認可・業務条件、Title6で市場濫用に関する点がございます。
4ページ目をお願いします。まず、適用範囲から入ってまいります。5ページ目をお願いします。MiCAの適用範囲となる暗号資産については、MiCAの第3条第1項の中に規定がございまして、分散型台帳技術または類似の技術を用いて電子的に移転及び保存可能な価値または権利のデジタル表示となっています。一方で適用から除外される範囲として、暗号資産サービスが仲介者なしで完全に分散化された方法で提供されるような場合、fully decentralisedと言われておりますが、当該サービスについては本規則の適用範囲には含まれない、ということを前文で記載しているという箇所がございます。どのような場合がこういった本規則の適用がない場合になるかについてはEUで活発な議論がなされておりまして、ESMAの公式な見解が固まったというわけではございませんが、ESMAのレポートでの議論や加盟国での議論がありますので、続いて御紹介いたします。
6ページ目をお願いします。まずは暗号サービス業者の定義自体を確認していこうと思います。暗号資産サービス業者については、第3条第1項第15号において規定がございます。これは職業または事業として、顧客に対して専門的基盤において1つ以上の暗号資産サービスを提供し、かつ第59条に従って暗号資産サービスの提供が認められている法人・事業ということになっています。
一方で、分散型台帳を利用したサービスがfully decentralisedに該当せず、かつ右側のほうに列挙してございますが、第1項第16号に書いてある暗号資産サービス業、この中で代理や情報提供など様々な業務が書かれておりますが、こういったサービスに該当するような場合というのは、MiCAの第59条に基づいて認可を得なければならないとなっております。ビットコインに関するサービスの提供を業として行う場合についても、ベルギー当局の説明が公表されているところによれば、fully decentralisedには該当しない、ということで規制の対象になっていると考えられております。
7ページ目はこのfully decentralisedが何を指しているのかということで、ESMAのレポートから引用しております。その中では、DeFiに関連するような潜在的なリスク、または暗号資産の貸付け、借入れないしステーキング等に関する潜在的なリスクが分析されております。また、MEVの算出についても、ブロックに関する権利者から算出者に富が移転するということについて、負の外部性があるのではないかといった議論などもなされております。
8ページ目は、加盟国における議論の状況です。ここではフランス、デンマークについて御紹介しております。どういう場合がfully decentralisedに該当するかというところですが、フランス当局の中では、取引処理やアクセス資格を単一の主体が決定しないことがございますし、デンマークの当局の見解の中でも、特定の暗号資産サービスの提供が特定の法人の影響下にあるような場合には該当しないといった議論がなされております。そのほか、スマートコントラクトや、技術、ガバナンスなどについても紹介されておりますので、後ほど必要に応じて御覧いただければと思います。
9ページ目をお願いします。次は、暗号資産の発行・募集・上場に関する規制と発行体に関する規制を見ていきたいと思います。
10ページ目をお願いします。トークンの分類・発行・募集といった上場規制の概要を見ていきます。トークンの種類としては、電子マネートークン、資産参照型トークン、その他の暗号資産に分かれます。いわゆる電子マネートークンについては、単一の法定通貨を価値として参照することで価値の安定化を図るということで、いわゆるステーブルコインの中でもそういった性質を持っているものを指します。例えばCircle SASは、EURCがこの項目に該当するものとしてホワイトペーパーを公表しております。
一方で資産参照型トークンというのは、1つまたは複数の法定通貨を含むほかの価値や権利またはそれらの組合せを参照することで定義されております。これは欧州委員会の資料の中では、金を参照する場合やほかの暗号資産を参照するような場合などが紹介されております。
さらに、その他の暗号資産というのは、電子マネートークン、資産参照型トークン以外の暗号資産になっております。これらについては、例えば資産を参照しないアルゴリズムのステーブルコインやビットコイン等の暗号資産が該当するということになります。
特にMiCAにおいて暗号資産のプライマリー行為として規制されているのは募集や上場のみになりますが、特に電子マネートークン、資産参照型トークンに関しては、発行者及び発行者から承諾を得た者のみ募集や上場を行うことができるということになっています。そのほか、暗号資産の発行者要件のほかについては、暗号資産の募集または上場に先立つホワイトペーパーの公表の手続などを規定しております。
募集については、欧州の目論見書規制に倣った形で、募集がいかなる形式・手段によるものであれ、提供条件及び提供される暗号資産に関する十分な情報を提供し、潜在的な保有者が当該暗号資産の購入可否を判断できるようにする、個人に対する伝達といった定義がなされております。電子マネートークン、資産参照型トークンの募集が可能な者についてはそれぞれ規定がございます。
11ページ目をお願いします。発行者不在の場合の整理とその他の暗号資産の募集に関する規制についてです。発行者の不在という場合については、前文第22条の中で、暗号資産に識別可能な発行者がいない場合については、本規則のTitle2、3、4の対象に含まれませんが、そういった暗号資産に関するサービスを提供する暗号資産サービス業者は、この規則の対象になっております。この点、ビットコインについては、発行者不在の場合に該当すると考えられており、発行者規制の適用対象外ではございますが、暗号サービス業者の規制については適用があると考えられております。
また、その他の暗号資産の募集に関する規制についてです。これは募集が可能なものを限定していないということにはなりますが、ホワイトペーパーの作成は求められるということになっています。例外的に、その他の暗号資産については、欧州目論見書規制に倣って、一定の場合、例えば提供相手が適格機関投資家等に限定される場合等にはホワイトペーパーの作成義務の免除となる場合がございます。そのほか、ホワイトペーパーの作成免除の規定がある場合としては、無償で提供される場合や、分散型台帳の維持・取引検証に対する報酬として生成される場合、ユーティリティトークンとして発行された場合等、幾つか定められているものがございます。
12ページ目をお願いします。続きまして、承認・届出・公表、ホワイトペーパー・目論見書の記載事項についてです。目論見書規制の中では、基本的には当局に目論見書を提出し、公表前に承認を得ないという場合でなければ、募集や取引所への上場は認められないということになっていますが、暗号資産に関しては、資産参照型トークンのみ、募集や取引所への上場前に当局からの承認が必要となっております。一方で電子マネートークン及びその他の暗号資産については、当局からの承認は不要であり、公表前の少なくとも20日前に当局に対する通知を行うことになっています。記載事項については下部に記載していますが、こちらも必要に応じて御参照ください。
13ページ目をお願いします。発行体に課されている資産保全等の義務についてです。電子マネートークン、資産参照型トークンについては償還義務が定められていますが、その他の暗号資産に関しては償還義務が定められておらず、電子マネートークンや資産参照型トークンのような資産保全義務が定められていないことになっています。ただ、ここはステーブルコインに関する議論でございますので、省略させていただきます。
14ページ目をお願いします。不公正取引に関する規制についても最後に述べさせていただきます。
15ページ目をお願いします。インサイダー取引規制についてです。MiCAにおけるインサイダー情報の定義からですが、公開されていない正確な性質の情報であって、直接若しくは間接的に1つ以上の発行者、募集者、若しくは取引所への上場を求めるもの、又は1つ以上の暗号資産に関連し、かつ公開された場合に当該暗号資産の価格もしくは関連する暗号資産の価格に重大な影響を及ぼす可能性が高いものとなっております。また、顧客に代わって暗号資産の注文執行を委託価格若しくは暗号資産の価格に重大な影響を及ぼす可能性が高いものも含むとされております。MiCAにおけるインサイダー取引の対象は何人もということになっており、その上で、インサイダー取引に関する従事を求めたり、誘引したりするということも含めて禁止しています。
最後のページになりますが、相場操縦の規制です。相場操縦につきましては何人も規制としており、相場操縦に関する行為も規定しています。正当な理由なく行ってはならないという行為としまして、暗号資産の供給、需要、若しくは価格に関して虚偽若しくは誤解を招くようなシグナルを与える、又は与える可能性がある行為や、1つ若しくは複数の暗号資産の価格を異常若しくは人為的な水準に維持する、又は維持するおそれがある行為を挙げております。
また、虚偽の手段その他の欺瞞的行為を用いて、1以上の暗号資産の価格に影響を与え、または影響を与えるおそれがある取引の締結、売買注文の提出、その他の活動または行為といったこともございますし、メディア、インターネットを含むその他の手段を通じて情報を流布し、それにより1以上の暗号資産の供給、需要、価格について虚偽若しくは誤解を招くシグナルを与える、若しくは与えるおそれがある行為、また、1以上の暗号資産の価格を異常若しくは人為的な水準に固定し、若しくは固定するおそれがある行為があります。これには情報を流布した者が、情報が虚偽もしくは誤解を招くものであることを知って、若しくは知るべきであった場合の噂の流布を含むといった行為を相場操縦として規定し、禁圧をしようとしているというものがございます。
私からの発表は、簡単になりましたが、以上でございます。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは続いて、松尾委員より御説明をお願いいたします。
【松尾(真)委員】
松尾でございます。
本日はセキュリティに関する発表の時間をいただいて、ありがとうございます。私自身、1990年代から電子マネーをずっと29年やってきた人間ですので、こういった機会で金商法の議論に取り上げられることはとても喜ばしいことであると同時に、やはりセキュリティは暗号資産につきまとう懸念点でもずっとありまして、暗号資産のようなプロトコルをつくる人間にとって、詐欺に使われたり、あるいは盗まれて北朝鮮のミサイルになったりということのためにやっているわけではないので、そういう意味ではセキュリティをいかに強固にするかということは、このタイミングはとてもいい話だと思います。幾つか課題を申し上げますが、これは関わるエンカレッジするためのものと思って聞いていただければと思います。
2ページ目をお願いします。まず過去、日本で起こったマウントゴックス事件以降本日に至るまで、100億円単位あるいは1,000億円単位の重大な事件は多く起きており、大昔に3億円事件で大騒ぎしていた日本からすると、信じられないことではあるものの、最近の傾向としては、昔のマウントゴックス事件あるいはコインチェック事件の場合は、鍵そのものに対するサイバー攻撃というのが通常でしたが、その後2020年ごろになっていわゆるブリッジやプロトコルに対する攻撃がだんだん増えてきました。直近、DMM事案やBybitの事案というのは、あるサービスを作るに当たって、様々な業者が連携するサプライチェーンが広がってきているわけですけれども、サプライチェーンが複雑化する中で人間に対してソーシャルエンジニアリングをするという攻撃が増えてきています。これはThe Weakest Linkと書いていますけれども、セキュリティというのはどこか1か所が強くても駄目で、1か所弱いところがあるとそこからやられていくということでいうと、サプライチェーンが広がることによって、アタッキングサーフェス、攻撃界面が増えてきているというのが昨今の問題です。
やはり個人的にショックでしたのが、DMM事案が去年2024年5月にあり、Bybitの事件が2025年2月にあり、その間のタイムラグが9か月ございますけれども、事案のやり方がほとんど似ていたにもかかわらず、DMM Bitcoinで起きた問題の原因が業界に広く周知されなかったがために全く同じことがやられていたということで、この辺がやはり業界の今のセキュリティに対するガバナンスの問題だろうと思います。
3ページ目をお願いします。暗号資産にかかわらず、暗号を使って何かシステムをつくるときのセキュリティというのはいろいろな側面があります。先ほど言ったとおり、どれか1個が強くても駄目で、暗号アルゴリズムだけ強くても運用がゼロであれば駄目というのが前のページで言いたいことだったわけですが、暗号アルゴリズムですとかプロトコルですとかビジネスロジックですとか、ソフトウエア・ハードウエア実装ですとか運用ですとか様々な側面があります。それぞれがしっかりしないといけない、どこかに穴があってはいけないということです。
一方で、右側の赤い字あるいは緑の字で標準が書かれていますが、例えば暗号アルゴリズムでいけば、米国のNISTだとかISOだとか、日本でいけば経産省・総務省のCRYPTRECみたいなところでちゃんと評価がされており、安全性が確認された技術がリストアップされています。プロトコルについては、ISO29128は、これは暗号プロトコルを形式検証するという標準でして、私が2011年にエディターとして作った規格です。その他、実装であればコモンクライテリア、ISO15408とか、情報セキュリティマネジメントであれば27000シリーズということで対応する標準が既にございます。
これらに沿っていくことが非常に重要ですが、実は暗号資産業界のほとんど多くのところで、既にある標準すらまだ全くキープできてないケースが多々あるというところが実は一つの問題でございます。過去の標準というのは、分散システムでも、先ほど申し上げたサプライチェーンが広がるものはあまり想定しておらず、暗号資産の場合はサプライチェーンが広がることで問題が複雑化するということがあります。いずれにしましてもセキュリティにかかる側面としてはこういうところが基本でありまして、基本である既存の標準も含めてどう対応していくかというのが一つのやらなければいけないことかと思います。
4ページ目をお願いします。もう一つが既存のセキュリティの取組みです。これは国内における、特に金融系のシステムのことを書いておりますが、ガバナンスと基準・ガイドライン、実務支援と3つの側面を書いています。ガバナンスであれば、金融庁の検査マニュアルですとか、あるいはNCO、旧NISCの取組みですとか、基準ガイドラインでいうと、FISCの安全対策ですとか、先ほど申し上げたISMS、27000シリーズですとか、あるいは金融ISACのガイドラインですとか、実務支援でいうとIPAが最も多いわけですが、そういうところの脆弱性の情報ですとか、JPCERT/CCですとか、金融ISAC等がございます。
それぞれ様々な既存のプログラムがあり、暗号資産業界の中でこれらのものを御活用いただいている会社もなくはないですが、特に小さいスタートアップにいる方たちがこういったプログラムがあることは知らなかったといったケースが多々ございます。実はこういうものに関しても、認知度を上げるだけではなくて、しっかりと活用していくということが必要だということになりますが、こういうことがまずは認識される必要がございます。
5ページ目をお願いします。これまではどの業界にも共通の、これは最低限やっていなければいけないだろうという標準的なものを申し上げています。これは改めて暗号資産業界の方々が基礎学問・基礎体力として扱わなければいけないものですが、一方で暗号資産エコシステムというのが、既存の産業のセキュリティ対策と違う側面が幾つかありまして、このスライドにあるのが、それが全部ではないものの、6つほど挙げています。
一つは、攻撃者と防御側の能力の非対称性です。これは常にほかの業界でも存在しますが、暗号資産業界に関してはそれはさらに顕著です。まず、相手にしているのは北朝鮮を含む国家レベルの攻撃能力を持つ組織です。一方で、暗号資産エコシステムの担い手はスタートアップであることが多いです。スタートアップエコシステムについて、我々はイノベーションと利用者保護の両立ということを掲げているわけです。だからこそ暗号資産の領域は、スタートアップが活躍する場所であり、一方でスタートアップというのは数人からスタートすることが多く、そこで北朝鮮に耐えられる防御能力を持つというのはほぼ無理です。そうした意味では、能力の非対称性というのが他の産業より際立っております。
もう一つは、セキュリティ人材がやはり不足しており、北朝鮮と戦えるようなセキュリティ人材は日本におりますが、そもそも例えばISPやほかのインフラに取られており、暗号資産業界に足を踏み入れている人が少ないという意味では、この業界に対してマンパワー少ないということと、国境を越えて移転をする暗号資産であるがゆえに国際的な人材である必要があるわけですが、そういう人たちも確保できていません。
2つ目が、先ほど言ったサプライチェーンが広がると、あるサービスをつくるのにAとBとCを自由に組み合わせてつくったりするわけですが、そういう動的なダイナミックな構成を選定されたときの監査や評価手法というのはほかのタイプのセキュリティのシステム、例えば従来型の金融システムにはないものでして、かつ技術や攻撃手法の変化のスピードも速いので、例えばISMSが想定しているような年に1回の監査は十分追従できないわけです。リスクも継続的に変化するので、固定的な基準というよりはもっと柔軟に対応できるようにしなければいけないというのが2つ目の特性です。
3つ目はブリッジやスマートコントラクトという広いサプライチェーンをカバーするようなプロトコルがありますが、そこに対してリスクのモデルですとかあるいは標準的な運用というのは今のところございません。ここが先ほど申し上げた2020年頃からやられているところなのですが、こういうところに対してどう安全にやるかということは、ビットコインそのもの、イーサリアムそのものの安全性とは別のところでまだアンクリアなところです。
6ページ目をお願いします。次は鍵とウォレットについてです。これは最初のマウントゴックス事件のときから、あるいはコインチェック事件のときに大きな問題だったわけですが、鍵というのは従来型のPKI、パブリック・キー・インフラストラクチャーでは、NISTがSP800-57という文書で、ライフサイクルマネジメントも含めて、標準やベストプラクティスというのは一定程度確立されておりますが、ブロックチェーンで使われる署名鍵ですとか様々な鍵というのは、PKIとはライフサイクルモデルが大分異なります。そのため、従来のノウハウが適用できない部分が少なくないわけです。こういった運用は標準化されてないため、各社手探りで構築しているケースが多く、そうすると、運用・設計に不備があっても検知できません。あるいは操作ログの確保ですとか紛失時ですとかそういうことの検討も進んでいないため、まず標準もつくらなければいけないし、ベストプラクティスも共有できなければいけないということです。
5つ目がサプライチェーンの話で、これはDMM事案がそうですけれども、サプライチェーンをまたいで、システムの構築、デザインや実装、ガバナンスみたいなものも含めて監査できなければいけないのですが、そういうことに対する対応が遅れています。それに対するベストプラクティスの業界内の共有もできていません。
6つ目が中立的な第三者の評価がなされていないことです。これは暗号プロトコルの検証などもそうですが、ガバナンス全体もそうで、ガバナンスもある程度、例えば流出事案が多くあるわけですが、事後規制で自己点検をしてくださいということはよくされます。金融庁もそういうことをいいますが、一方で予防的なことに関する仕組みがないわけです。それを中立的な第三者も交えてやる必要があります。
もう一つは、協会によって監査件数がどの程度かというと、公開情報によると、2020年に4、2023年に2ということで、全会員に対する監査は行われておらず、この辺りも含めてやはりやらなければいけないことがあまりできていないということになります。
7ページ目をお願いします。ここまで特殊性を書いてきましたが、4ページ目に挙げた既存の取組みというのは、基本的に暗号資産エコシステムにおいても適用可能です。そのため、まずこれをしっかりとやることが重要だというメッセージになるわけですが、一方で暗号資産エコシステム向けに修正が必要なものがあると思います。
一方で、先ほど特殊性の話をしましたが、例えばPKIにない署名鍵のライフサイクルマネジメントについて新しい標準をつくらなければいけないとか、あるいはもう一つ厄介なのは、インシデントハンドリングやインシデントレスポンスという、何か事が起きたときにそれをどうするかということですが、例えばブロックチェーンのソフトウエアに脆弱性があったときに、オープンソースコミュニティーに修正する義務を課すことができるのかというとかなり微妙な線があるわけです。なかなか難しいです。あるいはパーミッションレスブロックチェーンにおいて世界的に広がるノードに対して安全性を保ったままで円滑に移行することというのは、過去に何回もそういう例はありますが、本当のことを言うとこれは非常に難しい話になります。こういうことも、我々の資産が多くブロックチェーン上に乗っていったときにどうするのかということでいうと、大分問題になります。
また、何度も申し上げましたサプライチェーンリスクがあります。複数のシステムやコンポーネントを自由に組み合わせるので、ISMSによる、27000シリーズですけれども、それによるリスク分析とかサプライチェーンリスクの分析を、組合せを変えるたびにその都度行う必要ありますが、コストがかかって難しいということが問題になります。
8ページ目をお願いします。これが全てではなく、まだこうした取組が始まっている段階ですが、例えばCGTF、クリプトアセット・ガバナンス・タスク・フォースという、コインチェック事件があった後に、私や岩下委員も含めてつくった任意団体みたいなものがあります。一方で日本のセキュリティのトップのエキスパートがただで働いてこういうガイドラインをつくっているわけですが、こういったガイドラインをより皆さんが参照しなければいけない、あるいはこれをしっかりと実行しなければいけないということでもあります。これはその後、ISOのテクニカルレポートとしても私がエディターになることで出版をしております。このQRコードやURLを見ていただければ、ダウンロードすることができます。
9ページをお願いします。これも始まったばかりですが、サプライチェーンリスクです。DMM事案をはじめとしてサプライチェーンリスクが増えてきておりますので、サプライチェーンをつくるときに委託をするわけですが、DMM事案の場合、委託先が規制対象外だったということが問題だったわけです。そうだとすると、委託先の管理をどうしなければいけないかというガイドラインを、JPCrypto-ISACが今、案をつくられておりますが、これも全てではなくて、これがこういう取組みの皮切りでありますが、こういう活動が始まっているということで、こういうことを後押ししてあげることが必要です。こういうことを皮切りにこういったものをつくってあげる、そろえてあげるという活動をこれからすることが、金商法の時代の暗号資産にとって必要だということになります。
10ページをお願いします。グローバルでいうと、ISACがやっているような情報共有フレームワーク、国際的に脆弱性情報ですとかインシデントの情報ですとか、あるいは脅威インテリジェンスといったような情報を国を超えて共有する。国を超えた中で、また日本国内でJPCrypto-ISACと共有するというようなフレームワークの標準をBGINでつくっております。10月に行われるBGINの総会で出版を決めて、11月にISOのTC307の総会がアメリカでありますが、そこでPASという特急プロセスのようなものがあり、そこでBGINの標準をISO標準にするということをスタートする予定になっています。このURLからBGINのドキュメント、標準ドラフトがダウンロードできますので、御参照ください。
11ページをお願いします。BGINの中で、サイバーセキュリティワーキング・グループというのがあります。ちょうど3時間後にワーキング・グループのミーティングがあり、どなたでも参加できます。今度の総会で、例えば今申し上げた情報共有のフレームワークですとか、Security Target and Protection Profileというのは、ソフトウエアとかハードウェアのCommon Criteria15408におけるアセスメントの評価基準をつくったりですとか、今のところハードウエアウォレットのセキュリティを評価する基準が実は全く存在していませんので、それを今つくらなければいけないということでBGINでつくっていたり、あるいはサプライチェーンリスクのガイドラインをつくったりと、オフライン鍵の、コールドウォレットの話の鍵管理の方法ですとか、耐量子計算機暗号への移行方法のようなものの標準を今つくっております。これも遠隔でも参加できますので、ぜひ御参加いただければと思っております。
12ページ目です。まず、国民に広く信頼される暗号資産にするというのがこのワーキング・グループの議論の大前提だと思いますので、4つほど提言をしたいと思います。
まずは底上げということです。ほかの業界で当たり前に行われている標準的なマネジメントを着実にこなせるようにするということです。
2つ目として、協調領域であるということです。スタートアップが多いということで、他の産業に比べて十分なセキュリティ体制を組めない担い手が多いので、スタートアップによるイノベーションも大事であり、これを両立することが元の議論の大前提ですので、共助の組織が中心になる必要があるということです。
3つ目が標準化への貢献と準拠です。まず、継続的なリスクマネジメントと標準化されたセキュリティ対策の適用が重要という当たり前のことですが、かつ新しい要素が少なくないため、こういった標準化に対して皆さんが協力するということが不可欠です。
4つ目として、適切な人材の確保です。先ほど言ったように、北朝鮮をはじめとした国家レベルの攻撃にさらされることが前提で、そういう人たちは実戦経験が必要です。単に頭でっかちでは駄目なわけですけれども、その人たちは暗号資産業界にはおらず、一方でインフラ業界におります。そういう人たちは、実践経験は実時間が必要なので、促成栽培できません。そうすると、既存の産業の実践経験を持つセキュリティの人材に御協力を願うということも必要だと思いますので、こういうことも考えなければいけないということになります。
13ページ目です。金融審に対する提言としては、まずセキュリティ対策については、ダイナミックに変化するシステムであって、攻撃環境も高度化するので、技術や運用の要件を法律に書き込むのではなくて、法律では必要な体制の確保についての要請を書くことにとどめる一方で、ガイドラインによって柔軟に対応できるようにするということが一つです。
2つ目に、協調領域であるということで、ISACのような共助のための組織の強化施策についてガイドラインに記載されることが必要でしょう。特に共助のための組織は、一方で経済的な持続性も含めて持続性を確保することが非常に難しく、持続性を持って信頼された組織であるために、独自性・中立性が不可欠であることも注意してくださいと申し上げます。
3つ目として、金融庁においても、セキュリティ対策についていうと、特に規制当局は技術的中立性、テックニュートラリティーということをよくおっしゃいますが、暗号資産のセキュリティに関していうと、暗号資産業界とか産官学のエキスパートとの連携体制の構築、共助の体制の構築を促すことと国際連携体制の協力ということを一歩先を進んでいただく必要あるかと思っています。
こういったサイバーに関するあらゆる取組の姿勢を日本の業界内全体で高める必要がある根拠となるハイレベルな記載を法律上にする必要あります。これは単に鍵管理の話、コインチェック事件のときは鍵管理、ホット、コールドだけの話でしたが、サプライチェーンが広がる中でアタックポイントが多くあり、気をつけなければいけないポイントがあって、その全体に対してサイバーセキュリティのことを考えなければいけないということを踏まえると、今回の金商法のときに法律上にハイレベルな記載が必要だろうと思います。一方でガイドラインに詳細を書くということで今後検討いただければと思っています。
説明は以上になります。ありがとうございます。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは続いて、日本暗号資産等取引業協会より御発表をお願いします。
【日本暗号資産等取引業協会】
日本暗号資産等取引業協会より説明をさせていただきます。
本日は2つの点を説明させていただきます。1点目、暗号資産審査プロセス、2点目、IEOに関する業界の改善取組等に関する状況を説明させていただきます。
初めに、暗号資産審査の点です。3ページ目をお願いします。まず、暗号資産審査とはで、こちらが新しく取扱いを希望する暗号資産に関し、まず会員企業、つまり、暗号資産交換業者自身による審査、チェックを行っていただき、協会のほうが一定の観点からそのプロセスをチェックすることを暗号資産審査といっております。
協会が審査する観点は大きく2つあります。1点目が、暗号資産交換業者の審査体制に対する観点、2点目が、暗号資産に対する観点です。また、参考までに、当協会は会員企業から派遣や出向を受けておらず、原則として独立した業務運営をしております。扱っている情報に関しましては、独立性・機密性を持った業務運営がされているということ、この点をまず説明させていただきます。
4ページ目、どういうプロセスかという点をまとめさせていただきました。初めに、会員による暗号資産審査を行います。会員によって暗号資産に関する情報収集、審査報告書の作成をした上で取扱い判断を取締会等で意思決定、機関決定をしていただきます。その機関決定されたものを当協会のほうで審査確認をいたしまして、協会による審査確認の結果が問題ない場合は、金融庁への事前届け出に進むといったプロセスとなっております。
では、どういった点をまず会員企業によって暗号資産の情報収集をやっていただくのかというのが、5ページ目です。情報収集していただく内容、この点以外にも確認していただく点は銘柄によってはあるかもしれませんが、暗号資産の発行状況や、発行者・関係者に関する情報、どういったブロックチェーンであるかといった点を中心として情報収集をしていただいております。
6ページ目です。IEOに関しては、この点に加える形で大きく5つほど追加で審査項目として加わります。1点目がプロジェクトの適法性、2点目が収支見込みなどの事業の内容や実現可能性、3点目が販売価格の決定方式が問題ないかという観点、4点目が顧客に向けた開示内容等、5点目に会員によるプロジェクト等のモニタリング態勢を加えて、日本発と同じ形で審査をしていただくという内容となっております。
それを踏まえる形で暗号資産等取引業協会がどういったチェックをしているかというのが、7ページ目です。初めに、暗号資産交換業者の審査体制に関する観点といたしまして大きく4つございます。取扱審査体制の独立性、取扱リスクに対する検証体制、暗号資産交換業者の社内体制に関する審査事項、審査結果に基づいて意思決定を行う手続きに関して審査体制が問題ないかという点を当協会として確認を行っています。
8ページ目が暗号資産に対する観点です。大きく3つあります。取扱暗号資産に関する審査事項、取扱暗号資産の開示に関する審査事項、その他の審査事項です。また、参考までに、2番目、取扱暗号資産の開示に関する事項のうち赤色で書かせていただいておりますが、暗号資産に関しましては、いわゆる監査法人が監査をする会社の企業監査、財務監査をするというものは比較的向いていない銘柄があるのではないかと考えておりますが、一方で第三者によるコード監査に関しては原則として必須としてお願いをしているという点を共有させていただきます。上記の観点を中心に、利用者保護の観点から、対象暗号資産の法令遵守を含めたコンプライアンス適当性、事故発生時の対応動向、流動性の有無、大きくこういった3つの観点を総合的に勘案し、取扱可否を判断しております。
9ページ目、審査報告書がどういったものかという点をサンプルとして、一部ですが記載をしております。この中にも赤文字で書いてありますが、暗号資産概要説明書の内容に関しましては、年1回程度、情報が変わった場合は、新しい情報を会員によって記入していただいております。大きなアップデートがあった場合は、その都度情報の更新をしておりますが、最低でも年1回は情報の更新をしているということも申し添えさせていただきます。
10ページ目、これがさらに先ほどの点をより大きくしたものです。こういった内容に基づいて暗号資産審査、銘柄ごとにどういった銘柄かというものが記載されているものを参考までに紹介させていただきます。
11ページ目、こちらは暗号資産審査がこれまでどういうふうに何件ほど行われてきたのかという観点、一番下にこれまでの年度ごとの累計取扱可能銘柄数を記載しております。今年度上期の段階で105銘柄が取扱可能銘柄となっております。表の下に書かれておりますが、一定の審査をしている中で、会員により取り下げる、また、協会が取扱い不可と判断したもので合計、27銘柄が承認見送りとなっております。そういう観点からすると、今、日本で扱われているのは105銘柄ということは、全体の中でも5分の1ほどが承認見送りとなっておりますので、一定の牽制が働いているということがこの点からも確認が取れるのではないかと考えております。また、扱っている銘柄に関しても、何らか問題点・留意点がある場合に関しましては、付帯条件等を付す形でこれを一般に公開しております。
12ページ目です。この情報に関しましては、当協会ホームページで、右側ですが、「各種資料」というところに「暗号資産概要説明書」というところがありまして、ここをクリックいただくと、日本で扱われている全銘柄の情報が記載されております。銘柄をクリックいただくとそれぞれの詳細内容を確認できるという形になっております。参考までに、何らかの付帯条件等がある場合に関しては、この12ページの下にありますが、どういう点が付帯条件なのかということが一般の方も見える形になっております。
続きまして、13ページ、IEO案件の現状を説明させていただきます。IEOに関しまして、先回も参加されている委員の方から、様々な問題があるのではないかという御指摘もいただいたと認識しております。実際に、IEO案件の販売価格から著しく価格が下がってしまった銘柄、これもおっしゃるとおりあるということは我々も認識をしております。販売価格、最高値、最安値、現在価格を記載しています。現在価格に関しましては、この資料を作った時点ですので9月17日現在になっています。販売価格よりも高くなった銘柄、8件中7件が販売価格より上昇しております。現時点で販売価格より50%より価格が下がっている銘柄が8件中3つで、8件中5つに関しては、販売価格より確かに下がっているかもしれませんが、例えば上から4番目、ニッポンアイドルトークン等に関しては、販売価格5に対して4.8、下から4番目、Not A Hotelトークンに関しては、販売価格1,000に対して948で、当然マイナスではあるかもしれませんが、そこまで大きなマイナスではないということは一応共有をさせていただければと考えております。
14ページ目です。協会として大きく4つ委員会を設置しており、自主規制委員会、業務戦略委員会、規範委員会、セキュリティ委員会です。業務戦略委員会の下にIEO分科会をつくっておりまして、IEOに関する様々な問題点、課題解決をしていこうと取組みを進めております。
参考までとなりますが、先ほど松尾委員からCrypto-ISACの件をお話しいただきましたが、Crypto-ISACに関しては、一番右のセキュリティ委員会において、暗号資産業界のセキュリティを高めていこうという観点でCrypto-ISACを始めていこうという議論が起こり発足に至っているということ、これは本日のメインではありませんが、参考までに紹介をさせていただければと存じます。
15ページ目、IEO分科会でどういった点を議論してきたかという点について、本日は大きく4つ紹介させていただければと存じます。
まず1点目、一部の銘柄に関して、IEOをした直後に価格が値崩れしたという問題が発生いたしました。この要因として、実は販売開始後に発行体の関係者が売却してしまっていたということを確認しております。この点に関しまして、ロックアップをする明確なルールが存在していなかったということが要因として考えられます。そういった観点から、発行体だけではなく、発行体関係者並びに役職員に対してロックアップ期間を設定したり、また、これ以外にも、仮に1%以上トークンを割り当てられた者をロックアップ対象に加えて、ロックアップ期間にあってはどんな理由があっても一律売却不可というルールを制定させていただいております。
2点目、複数の暗号資産交換業者が同一のIEOを行う際に価格に違いが発生したということも確認を取っております。この点に関しましては、その銘柄を扱った暗号資産交換業者で、暗号資産の入出庫に対応した会社、対応しなかった会社がありました。その点から価格が崩れたということが発生いたしました。この点に関しましては、複数の暗号資産交換業者が同一のIEOを行う際には、問題点・留意点を明確化することを実施しております。
3点目、IEOにおいて募集が不調に終わった場合の再販ルールは明確な基準がありませんでしたので、こういった場合の明確なルール、規定をつくったり、また、IEO後に発行体が変更される、発行体のチェーンが変更されるという事案に関しましても明確なルールを考えておりませんでしたので、こういった点に関する対応をIEO分科会として行わせていただいております。
最後のページですが、当然IEOは様々な問題点があるということは我々としても重々真摯に受け止める必要があると考えております。一方で、2021年から全部で8件IEOがされているのですが、大体平均して10億円から最大20億を超える資金調達が実現されております。この中で注目すべきなのは、投資家側も、短期的な投資回収だけではなく、このプロジェクトを支援したい、応援したいという、そういった中長期的なコミュニティを形成したいという方、それでトークンホルダーになっているといった事例も見られます。今後、この審議会を踏まえまして、適切な開示、投資リスクを顧客に対してきちんと開示していくことを前提として、ほかの資金調達方法とは異なる位置づけがこのIEOにはあるという観点もあるかと思っておりまして、これが新しい形の地方創生、スタートアップ支援につながる可能性もございますので、そういう観点からもIEOに関して多角的にその価値を考えていっていただければ、我々としては大変ありがたいと考えております。
当協会の説明は以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは続いて、事務局より御説明をお願いいたします。
【齊藤市場課長】
それでは、お手元の資料4に沿って御説明いたします。御議論いただきたい事項を中心に御説明し、参考資料の御説明は割愛させていただければと思います。
目次ですが、規制見直しの趣旨・暗号資産市場に対する考え方についてのスライド、その次に不公正取引規制の総論、情報提供規制の各論ということで御説明いたします。
2ページ目は、規制見直しの趣旨・暗号資産市場に対する考え方でございます。前回のワーキング・グループでの御指摘ですが、暗号資産を金商法で規律することについてはおおむね賛同いただいた一方で、この規制見直しが暗号資産投資のお墨つきのような形で理解されるべきでない旨の御指摘や、暗号資産が一律に投資対象として資するといったメッセージを発するべきではないといった御指摘があったものと承知しております。
その下の箱、規制見直しの趣旨・暗号資産市場に対する考え方についてです。暗号資産の投資対象化が進展し、詐欺的な投資勧誘等も生じていることを踏まえれば、投資商品としての規制を整備することによって投資者保護の充実を図ることが、規制見直しの趣旨と考えるべきではないかとしております。また、暗号資産投資についてその安全性にお墨つきを与えるものではなく、投資者が暗号資産のリスクを十分に理解し、リスクを許容できる範囲で投資を行うことはあり得るとの前提で、健全な取引環境を整備することが重要ではないかとしております。
その下ですが、将来の暗号資産市場がどのような姿となるかは現時点で見通すことはできないものの、我が国における健全なイノベーションの可能性を見据え、それを後押ししていくことも大切ではないかとしております。
規制見直しに当たって留意すべき点として3点、利用者保護とイノベーションのバランス、国際性への配慮、規制の柔軟性ということを指摘させていただいております。
4ページから不公正取引規制の総論です。現行の金商法の不公正取引規制についてですが、真ん中の参考1の表に記載のとおり、暗号資産についても、金商法において各種の不公正取引規制及び刑事罰が設けられております。一方で課徴金制度は整備されておらず、また、インサイダー取引を直接規制する規定は設けられていない状況です。
6ページ、不公正取引規制の基本的な方向性についてです。暗号資産のインサイダー取引に関しまして、IOSCOにおける勧告や、欧州・韓国での法制化等の国際的な動向、また、海外におきまして実際にインサイダー取引への法執行事案が生じていることも踏まえると、我が国においても暗号資産のインサイダー取引規制の整備を検討することが適当ではないかとしております。その際、例えば以下の点についてどう考えるかとしております。
まず、保護法益についてです。上場有価証券等のインサイダー取引規制につきましては、証券市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保、これを保護法益としております。暗号資産についても、重要事実に接近できる特別の立場にある者による未公表の重要事実に基づいた取引が横行すれば、暗号資産市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼が失われるため、これを防止する必要がある。その際、以下の理由から、国内の暗号資産交換業者における取引の場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保、これを保護法益とすることが適当ではないかとしております。
一つには、規制下の取引の場であることです。もう一つが、一般投資家の取引実態から、国内の暗号資産等交換業者における取引の場に対する一般投資家の信頼を保護する必要性が高いのではないかとしております。
対象とすべき暗号資産ですが、保護法益をこのように整理した場合には、国内の暗号資産交換業者において取り扱われる暗号資産と整理することが適当ではないかとしております。
7ページ、不公正取引規制の基本的な考え方の続きです。インサイダー取引を含め不公正取引規制に対する実効的なエンフォースメントのためには、暗号資産交換業者による売買審査や、自主規制機関・証券取引等監視委員会による市場監視体制を強化していくことが適当ではないか。また、暗号資産に係る不公正取引についても、犯則調査権限・課徴金制度の創設を検討することが適当ではないかとしております。その他、暗号資産の不公正取引規制を検討するに当たって留意すべきことがあるか、御議論いただければと思います。
15ページ目からが情報提供規制の各論についてです。
16ページでは情報提供の内容についてこれまでの議論をまとめております。上側はディスカッション・ペーパーの記載でございます。下側は第2回ワーキング・グループでの主な御指摘です。
次のページは現行の日本暗号資産等取引業協会の自主規制に基づく情報提供の内容ということで、先ほど御説明があったとおりでございます。
20ページは情報提供の内容についてです。情報の非対称性について3つに分けて整理しております。
まず、暗号資産の技術性・専門性についてです。暗号資産の仕組み等については、コードで規定されており、多くの暗号資産でコードが公開されております。また、暗号資産の流通に当たっては、一般に開発チーム等によりホワイトペーパーが作成・公表されております。投資者は暗号資産のコードを確認したり、ホワイトペーパーを参照したりすることで、暗号資産の基本的な情報を把握することが可能と考えられます。しかしながら、多くの投資家にとって、コードが公開されていたとしても、その内容を理解することは容易でなく、ホワイトペーパーの記載事実についてコードの内容を確認することも難しいものと考えられます。
このため、暗号資産の技術性・専門性の観点で、一般投資家と専門家との間の情報の非対称性が存在するのではないか。暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術、付随する権利義務、内在するリスク等の投資判断に重要な情報が一般投資家にとって分かりやすい形で提供される必要があるのではないかとしております。
2つ目の情報の非対称性として暗号資産の価値の源泉に係る実質的なコントロールをする者が存在する場合でございます。そうした者、つまり、中央集権的な管理者が存在する場合には、その活動により暗号資産の価値が変動し得るため、中央集権的管理者と投資者との間に情報の非対称性が存在するのではないか。このため、中央集権的管理者に関する情報、これは当該者の情報、調達資金の使途に関する情報、対象プロジェクトに関する情報、暗号資産の保有状況等でございますが、そうした情報が投資者に提供される必要があるのではないかとしております。
21ページは、3つ目の情報の非対称性として、暗号資産の流通・保有状況についてです。暗号資産の価格変動に与える影響としては、暗号資産の流通・保有状況も要素となり得るものと考えられます。この点、暗号資産のオンチェーン取引には匿名性があり、また、暗号資産交換業者等の提供するオフチェーン取引も存在するため、現状では暗号資産の流通・保有状況について、取引を行う当事者以外の者が正確に情報を把握することは困難と考えられます。
そうした観点から、暗号資産を取引・保有する者と他者との間で情報の非対称性は存在するものの、以下を踏まえますと現時点で暗号資産の取引・保有者に対して法的に情報開示を義務づけることは慎重に考えるべきではないかとしております。
まず、欧米においても、大量保有報告制度等に相当する規制は設けられておらず、我が国の規制のみが厳しいものとなり得るのではないか。また、グローバルに取引される暗号資産について、外国で取引する者や外国の保有者に対して情報開示を義務づけたとしても、規制の実効性の確保が困難となり得るのではないか。また、暗号資産では、大量保有が必ずしも暗号資産の価値の源泉に係る実質的支配に直結するものではなく、価格変動に影響があり得ることをもって、自らの情報を強制的に開示させることは受忍限度を超えるおそれがあると指摘されるのではないかとしております。
一方で、暗号資産の中央集権的管理者につきましては、その情報提供規制の中で、当該者及びその関係者の保有状況に関する情報や大量の無償発行等に関する情報を投資者に提供させることは考えられるのではないかとしております。
なお、※ですが、暗号資産の中央集権的管理者が特定の者に対し大量の有利発行等を行うことにより、既存の投資者の利益を害することがないよう、国内の暗号資産交換業者で取り扱われる暗号資産について、投資者を保護するための措置も検討する必要があるのではないかとしております。
22ページは情報提供規制の対象者についてです。価値の源泉を実質的にコントロールする者の存在する暗号資産についてですが、そうした中央集権的管理者と一般投資家との間の情報の非対称性を解消させるためには、当該中央集権的管理者に対して投資者に対する情報提供義務を課すことが適当ではないか。その際には、併せて、暗号資産の技術性・専門性の観点での情報の非対称性を克服するための情報も提供させることとしてはどうかとしております。
その場合、どのように中央集権的管理者の範囲を画することが考えられるかという点が重要となります。例えば契約等による関係も含め、実質的に暗号資産の生成・発行等について独自に決定できる権限を有するか否かといった基準が考えられるかとしております。
いずれにせよ、義務の対象となる者についての明確性と、変化の速い分野であることを踏まえた柔軟性が重要であり、暗号資産には様々な形態があり得ることに対応した基準を実務上定めていく必要があるのではないかとしております。
上記以外の暗号資産につきましてですが、一般投資家と専門家との間で暗号資産に係る技術性・専門性についての情報の非対称性が存在するところ、暗号資産交換業者はその取扱いに当たって審査を行い、また、暗号資産についての技術的・専門的知見を有すると考えられるため、暗号資産交換業者に対し顧客にとって分かりやすい形で必要な情報を提供する義務を課すことが適当ではないかとしております。
26ページは、情報提供規制の対象となる行為についてです。暗号資産の特性として、誰でも自由に新規の暗号資産を生成できる性質を有するところ、一般の投資者に流通しない段階では、投資者に対する情報提供を義務づける必要性は乏しいと考えられます。また、いわゆる勝手上場が可能でもあります。暗号資産の中央集権的管理者の関知しないうちに、一般の投資者による取引が行われる可能性もございます。
有価証券におきましては、発行者がその発行等により資金調達を行う場合に発行開示規制の対象としていることを踏まえると、基本的に中央集権的管理者(発行者)が暗号資産の販売により資金調達を行う場合について、当該発行者に情報提供を義務づけることが適当ではないかとしております。
一方で、いわゆる勝手上場の場合にも、一般投資家に対して投資判断に必要な情報ができるだけ提供されるよう、暗号資産交換業者において、技術性・専門性の観点からの情報の非対称性を解消するための情報とともに、公開情報に基づき入手可能な中央集権的管理者に関する情報の提供も行うことを義務づけることが適当ではないかとしております。
27ページは情報提供規制の対象となる行為の続きです。新規に生成・発行した暗号資産の販売(プライマリー取引)のみならず、既に生成・発行した暗号資産の販売(セカンダリー取引)によって中央集権的管理者(発行者)が資金調達を行う場合につきましても、情報提供規制の対象とすることが適当ではないかとしております。一方で、エアドロップのような無償での配布、あるいはマイニングやステーキング等の報酬としてのトークンの自動付与につきましては、発行者による資金調達ではないため、情報提供規制の対象外とすることが適当ではないかとしております。
また、株式等の場合と同様に、暗号資産の販売において、少人数を相手方とする勧誘、プロ投資家を相手方とする勧誘の場合、調達金額が少額の場合には、情報提供規制を免除することが適当ではないかとしております。具体的には、49名以下を相手方とする勧誘、また、適格機関投資家のみを相手方とする勧誘、また、調達金額が一定額未満の場合について、情報提供規制を免除することが適当ではないかとしております。
30ページは、発行者に対する業規制の適用関係です。現行の資金決済法では、発行者自身による暗号資産の販売は、暗号資産交換業の登録が必要です。一方で、発行者が暗号資産交換業者に販売を依頼し、発行者がその販売を全く行わない場合には、発行者の暗号資産交換業の登録は不要とされております。
暗号資産を金商法の規制対象とする場合、ICOで生じていた詐欺的な暗号資産の販売を抑止する観点から、引き続き、発行者自身による暗号資産の販売については業登録を必要とし、暗号資産交換業者に販売の取扱いを行わせる場合については業登録を不要とすることが適当ではないかとしております。
また、発行者自身による暗号資産の販売であっても、情報提供規制の対象外となる形態につきましては業規制による保護の必要性は低く、株式等の自己募集についても業規制の対象でないことも踏まえれば、暗号資産プロジェクトを開発するスタートアップ企業等による資金調達に支障が生じないよう、業規制の対象外とすることが適当ではないかとしております。
32ページは、情報提供の方法・タイミングについてです。暗号資産交換業者が発行者の依頼に基づいて暗号資産を販売する場合ですが、発行者が作成する情報について、投資者への勧誘前のタイミングで発行者自らのウェブサイト等で公表するとともに、暗号資産交換業者のウェブサイト等での公表、顧客への情報提供を義務づけることが適当ではないかとしております。
一方で、暗号資産交換業者が独自に暗号資産を取り扱う場合、暗号資産交換業者において作成した情報を顧客への勧誘前のタイミングでウェブサイト等にて公表するとともに、顧客へ情報提供を義務づけることが適当ではないかとしております。
なお、類型①の暗号資産につきまして、いわゆる勝手上場をする場合に、当該暗号資産の発行者がそれを奇貨として、情報提供を行わずに暗号資産交換業者の取引の場で売付けを行って実質的に資金調達を行う、こうしたことを防止するために、暗号資産交換業者において必要な調査・確認を行い、発行者による資金調達であることが判明した場合には、当該者による売付けを拒絶する対応を義務づけることが適当ではないかとしております。
一番下について、一覧性の確保として、自主規制機関のウェブサイトにおいても情報が閲覧できるようにすることが適当ではないかとしております。
34ページからが継続情報提供についてです。継続情報提供について、まず、その必要性についてです。新規販売時に提供された情報は、時間の経過とともに投資判断における有用性が低下していくものと考えられるため、新規販売後も情報の非対称性を解消し、投資者の合理的な投資判断を可能とするために、継続的な情報提供が必要ではないかとしております。
継続情報提供の内容ですが、暗号資産の技術性・専門性に関する情報の非対称性に関し、暗号資産については、プログラムのアップデート等により、暗号資産の性質・機能、供給量、基盤技術、付随する権利義務、内在するリスク等が変化する可能性もございます。
先ほど申し上げたとおり、多くの投資者にとって、暗号資産に係るコードの内容を理解することは容易ではなく、また、SNS等における暗号資産のアップデート等の情報を常にフォローすることは難しいため、投資判断に重要な情報に変化が生じている場合には、投資者に対し情報が提供されるようにすることが適当ではないかとしております。
暗号資産の価値の源泉に係る実質的なコントロールをする者に関する情報の非対称性についてですが、その活動の状況について投資者が把握した上で投資判断できるよう、中央集権的管理者に関する重要な情報に変化が生じている場合には、投資者に情報提供されることが重要ではないかとしております。
35ページは継続情報提供の頻度についてです。暗号資産の投資判断に重大な影響を及ぼす事象が発生した場合には、適時の情報提供義務を課すことが適当ではないかとしております。
発行者による定期的な情報提供ですが、適時の情報提供のみでは、過去の適時情報提供を遡らなければ事業活動の全容が分からないということになりますので、投資者が直近の発行者の活動の状況の全体像を把握しやすいよう、発行者に対し定期的な情報提供を求めることが適当ではないかとしております。
その頻度につきましては、暗号資産の価値は発行者の事業利益とは直接的に関連するものではなく、暗号資産プロジェクトを開発する我が国スタートアップ等にとって過重な負担とならないよう、年1回とすることが考えられるかとしております。
暗号資産交換業者による定期的な情報提供ですが、暗号資産交換業者により提供される情報は、公開情報を基に作成されるものであり、暗号資産交換業者が暗号資産の投資判断に重大な影響を及ぼす事象が発生したことを知った場合には、適時に情報提供をすることが重要でございます。一方、定期的に公開情報をまとめて情報提供することまで法令上の義務として求める必要性は低いと考えられるかとしております。
もっとも、自主規制の中で定期的にアップデートすることは考えられるかとしております。
36ページ、継続情報提供の方法についてです。発行者による継続情報提供については、発行者のウェブサイト等において公表するとともに、暗号資産交換業者においてもウェブサイト等において公表することが適当ではないか。暗号資産交換業者による継続情報提供については、暗号資産交換業者のウェブサイト等において公表することが適当ではないか。また、一覧性の確保として、自主規制機関のウェブサイトにおいてもこれらの情報が閲覧できるようにすることが適当ではないかとしております。
37ページは継続情報提供義務の解除・免除についてです。まず、解除についてです。当初、中央集権的管理者がいたものの、分権化等により類型①から類型②に移行し、投資者の投資判断において当該発行者の活動が重要ではなくなった場合には、継続情報提供義務の解除を認めることが適当ではないか。一方、暗号資産の技術性・専門性に由来する情報の非対称性は引き続き存続しているため、暗号資産交換業者による継続情報提供義務を課すことが適当ではないかとしております。なお、仮に再び中央集権的な管理に移行した場合、つまり、類型②から類型①に移行した場合には、中央集権的管理者が暗号資産の販売により資金調達を行うときに改めて発行者として情報提供規制を課すことが適当ではないかとしております。
続きまして、継続情報提供義務の免除についてです。暗号資産の流通性等に鑑みて投資者保護の観点から情報提供を義務づける必要性が低減した場合には、継続情報提供義務を免除することが適当ではないか。例えば、国内の全ての暗号資産交換業者が取扱いを停止した場合であって、継続情報提供を行わなくても公益または投資者保護に欠けることがないときには免除することとしてはどうかとしております。
42ページから情報提供の内容の正確性の確保についてです。
43ページはこれまでの議論をまとめたものでございます。
44ページは現状についてです。現状では、暗号資産交換業者は新たな暗号資産の取扱いを開始する前に、当該暗号資産の審査、これはコード監査も含みますが、それらを行った上で、さらに自主規制機関において暗号資産交換業者の審査体制及び暗号資産自体について審査を行っております。
また、発行者が暗号資産の販売により資金調達(ICO・IEO)を行う場合については、暗号資産交換業者は、対象事業の実現可能性等や発行者において適切な情報の提供・公表ができるかなどについて審査をした上で、自主規制機関において当該審査の結果について検証を行っているところです。
欧米の規制動向について、欧米では第三者による財務監査や技術・セキュリティ監査は義務づけられておらず、欧州では義務の名宛人に対する罰則等で正確性の担保を図るほか、投資者に対するリスク説明で対処しているものと承知しております。
そして、正確性の確保に関する基本的な方向性でございます。投資者が適切な投資判断に基づき暗号資産取引を行うためには、情報の非対称性を解消するための正確な情報が提供されることが重要である。このため、現時点において監査法人による財務監査を直ちに義務づけることは、その担い手確保及びコストの観点で現実的ではないとの指摘に留意しつつ、情報提供義務の対象者に対する規律づけ、作成された情報に対するチェック機能の強化といった切り口で、提供される情報の正確性を確保していくことが考えられるのではないかとしております。
45ページです。情報提供義務の対象者に対する規律づけといたしましては、虚偽記載や不提供への罰則や損害賠償に係る民事責任規定を設けることにより、違反行為への抑止を図るとともに、仮に虚偽記載等があった場合には、国内の全ての暗号資産交換業者での取扱いを停止できるような措置を設けることが考えられるのではないかとしております。
作成された情報に対するチェック機能の強化といたしまして、暗号資産交換業者による審査及び自主規制機関によるチェック機能を強化すべきではないか。具体的には、暗号資産交換業者による審査義務・体制整備の法定化、暗号資産交換業者の審査に当たり、技術的専門性を有する第三者によるコード監査及び自主規制機関の意見聴取を義務化、自主規制機関における審査の中立性・独立性を強化するため、自主規制機関に法定の独立委員会または独立組織を設け、審査業務を集中的に実施。自主規制機関においては、その審査業務の一部を専門性の高い第三者に委託することも可能とするといった対応が考えられるのではないかとしております。
私からは以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、ただいまの御発表・御説明を踏まえて、委員の皆様に御討議をいただきたいと思います。時間も限られておりますので、お一人当たり最大4分から5分程度で御発言をいただければと思います。議論の内容は多岐にわたるところ、これまでのプレゼン内容への御質問のほか、事務局説明において「何々ではないか」としている点を中心に、重要だとお考えの点や慎重に検討すべきとお考えの点、深掘りすべき点などについて御発言をいただけますと幸いです。
御発言を希望される際には、対面で参加されている方におかれては、机上の名札を縦にしていただき、オンラインで参加されている方におかれては、オンライン会議システム上のチャットで全員宛てに発言がある旨をお知らせください。それを確認して私が指名いたしますが、順番が前後することがあり得ることは御了承いただけますと幸いです。
なお、毎度のお願いで恐縮ですけれども、前回大分時間が超過してしまいましたので、委員の皆様におかれましては進行に御協力をいただけますと幸いです。
それでは、岩下委員、お願いします。
【岩下委員】
ありがとうございます。本日は多岐にわたる非常に興味深い議論がございました。とりわけ最初に落合参考人から欧州のMiCAの話がありましたが、改めて詳しく聞いてみると、いわゆるrace to the bottom(底辺への競争)の状態になっているように感じます。我々は今後どこまで下っていくのだろうか、おそらくアメリカもこれから同じようなことをやるだろうし、と思った次第です。
また、松尾真一郎委員からCGTFの話をいただきました。私も暗号資産交換業界のセキュリティについて少しばかり協力してきましたが、実際にこの作業をやってみて強く思うことは、暗号資産というのは、ある意味で匿名性に振り切っているビジネスであるため、それによって極めてリスクが高くなっているということです。我々は何となく匿名性というものは良いことのように思っているのですが、実はそうではなく、通常の金融ではとても取らないような大きなリスクを取っているのです。実際にセキュリティ対策の議論をする際に、それを強く感じながら作業をしていたことを思い出しました。
また、本日のメインであろうICOトークンをどのように管理するかという課題について、日本暗号資産等取引業協会から資料が出ています。資料3の13ページについては、自分が出さなければいけないかと思っていたところでしたので、資料を示していただいてありがたく思います。この資料により、前回私が発言した、1銘柄も現在価格が公募価格を上回っていないということを改めて証明していただきました。しかも、この資料をよく見ていただくと、最高値から現在価格への下落率は更に激しいことが分かります。現在価格が良いもので最高値の30%(下落率70%)、悪いものだと最高値の3.8%(下落率96.2%)にまで下落しています。売出し当初に高値を付けて、それが大幅に下がったままになるというICOの構造を改めて実感した次第です。
資料4についてコメントさせていただきます。今回の整理は、ICO/IEOのトークンについても、金商法の株式に類似した規制を導入し、情報提供規制や公正取引規制を課すことで、新しい投資クラスとして整備するという構想のように見えます。いわば資産運用立国に資する新しい投資商品として、ICOトークンも含めた暗号資産全体を取り込もうという方向性です。
しかし、株式や債券と比べれば明らかなように、ICOトークンは、発行体に投資家の期待に応える経済的なインセンティブがありません。株式であれば、残余財産請求権や議決権などがありますし、企業価値の向上を通じて利害を共有しましょうという話になります。あるいは、債券であれば元本償還や利払いをしなければいけないので、返済に向かって努力するというインセンティブが働きます。
これに対してICOトークンは、投資家の権利がほとんどなく、ホワイトペーパーに記載された事業計画も実効的な拘束力を持ちません。発行体にとっては、トークンを売って資金を集めること自体が目的化しやすく、発行後に投資家の期待に応える動機づけが著しく弱いのです。一部には、ガバナンストークンであれば、投資家が意思決定に参加できるという議論があります。しかし、ガバナンストークンの実態を見てみますと、投票率が低く、法的拘束もなく、経済的インセンティブもありません。もし本当に投資家によるガバナンスに実効性を持たせたいのであれば、最終的には株主総会や会社法に基づく義務に帰着せざるを得ず、これは結局IPOで株式を発行するべきだという話になってしまいます。
このように、インセンティブ構造が欠落したトークンを、情報公開や形式的な規制のみで立派な投資適格資産に仕立てるということは不可能です。むしろ制度に取り込むことは、無責任な発行に制度的にお墨つきを与えてしまう恐れがあります。この点は、冒頭の事務局説明では否定されていましたが、まさにお墨つきそのものになってしまうであろうということが極めて憂慮されます。
実際に過去に何が起こったかを見てみましょう。先ほどは2020年以降のIEOの相場変動を見ましたが、実は日本のICOの歴史はもっと古いものです。2017年に金融庁は、ICOは暗号資産交換業の業務に該当するという整理を行いました。これによって、一般企業によるICOは実質的に行えなくなりました。
しかし、登録済みの暗号資産交換業者自身によるICOはこの規制の枠外となりました。この結果発行されたのが、COMSAとQASHです。2017年に発行されました。この2つのICOはどちらも100億円規模の資金調達を行いました。ところが、資金を集めたものの、宣伝された事業は事実上全く実施されませんでした。トークンは数か月のうちにほぼ無価値になり、交換業者はどちらも最終的に廃業に至りました。この間の相場変動をグラフで見ると、その実態がよく分かります。Investing.com(インベスティング・ドットコム)というサイトに今でも履歴が残っていますので、検索すればすぐに見ることができます。
ところが、これらの交換業者は、罪に問われることも、損害賠償を求められることもありませんでした。これらのICOは、資金を集めるだけで何もしなくても特に問題にならないという悪しき前例を残したわけです。このような制度を再び金商法の枠組みの中で容認するということは、同じ事態を繰り返すことにつながりかねません。
2017年当時、世界的なICOブームがありましたが、その中で金融庁がある意味で身をもってそれが国内に波及することを防いでくれました。当時の金融庁の職員の方々の御苦労は並大抵ではなかったと思われ、改めて敬意を表します。ただ、残念なことに発行が認められなかったICO発行希望者の一部が、いわゆるICO詐欺に走る事例もありました。その結果、刑事事件が立件されたわけですが、そのときの報道によれば、首謀者の1人は「我々は早過ぎた。いずれ、我々の行為が合法になる日が来る」とうそぶいたと言うのです。私はその日を実現してはいけないと思っています。
当時流行していたICOというのは、そもそもイーサリアムで代金を支払うので、暗号資産に熟練した投資家しか参加できませんでした。しかも、トークンセール中に高値で売り抜けるゲームのようなものだと思われていて、そのゲームに負けたら「外れ馬券なので仕方がない」と思われていたらしいのです。
しかし、もしこれを金商法の枠組みの中で普通の投資商品とするのであれば、状況は大きく変わり、一般投資家が巻き込まれやすくなります。売出し直後に最高値をつけて、その後暴落してそのままという、商品構造はそのままですので、消費者被害が拡大するということは容易に想像されます。
したがって、私は反対ですが、もし制度としてICO、IEO類似の仕組みを取り込まざるを得ないというのであれば、まずは、トラブル発生時の対応のあり方をきっちりと整理する必要があります。被害が拡大する前に、しっかりとどういう対処を取るかということを考えておかなくてはいけません。
今現在、この種のスキームに対する多くの相談案件が金融庁と消費者庁にそれぞれ届いていると聞いております。金商法の枠組みの中に入れる場合は、今後さらに相談件数が増えることが危惧されますので、本ワーキング・グループにぜひ消費者庁の方をオブザーバーで招いて、実際に消費者保護の観点からどう対応するかということについて、しっかりと意識を合わせておく必要があるのではないかと思います。
制度の目的は、本来は投資家保護をうたっているわけですが、その制度が結果的に過去に詐欺とされたスキームを追認するものとなってはならないということが私の意見です。
私からは以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、永沢委員、お願いします。
【永沢委員】
発言の機会をいただき、ありがとうございます。
松尾真一郎委員ほか2名の皆さま、御説明もありがとうございました。松尾委員の御説明をお聞きして、セキュリティ確保が大きな課題であるということがよく分かりました。その上で、日本暗号資産等取引業協会からも御説明をいただきましたが、協会の今の体制で、専門性、それから専門性を確保するための人、財務基盤、ガバナンスについて不安はないのか、機会を改めて御説明をいただく必要があると思いました。足りないのであるならば、金商法の枠組みの中でどのように進めていくのか、金融庁としてどう対応されるのか、その方針等について別の機会に御説明をいただきたいと思っています。
続いて、事務局説明につきまして、意見を述べさせていただきます。その前に、前回、金商法に一本化することについて態度保留とさせていただきましたが、その後、金融庁から個別に改めて御説明をいただきました。規制に漏れが生じないようにするということを十分に御説明いただきましたので、一本化に賛成させていただきたいと思います。
本日の事務局資料についての意見ですが、日本語にこだわるようで恐縮ですが、資料4の2ページの一番下のところに「バランス」という言葉が出てきました。個人投資家の立場からは、投資家保護とイノベーションをバランスよくという発想ではなく、取引において混乱が生じることがないようにして、国民に不幸なことが起こらないようにして初めてのイノベーションであるとしていただきたいと思います。最近、利用者や消費者保護とイノベーションのバランスを取るという表現や発想が、金融庁だけではなく消費者庁等でも見られるようになっており、最近でも、消費者庁に設置されていたデジタル研究会では、このような発言をされて、消費者団体、弁護士会が問題であるとして強く反発したという経緯があったばかりです。この「バランス」という表現についてはよく注意して使っていただきたいと思います。
そして、本日ご説明いただいたものの中で特に不公正取引規制については、現時点では総論でもございますし、おおむね賛成です。
情報提供規制のほうについては、細かな各論となっており、個別に意見を申し上げることは私には難しいのですが、私が感じたこととしては、暗号資産については、技術についての理解が必要であるということです。従来の伝統的な有価証券とは根本的に異なる要素が入っているということです。金商法で規定している、有価証券投資を前提とした情報開示をそのまま暗号資産に適用して大丈夫なのか、その点に漠たる懸念を抱きました。
そしてまた、最後のところになりますが、情報提供の正確さも担保されないという問題もあります。これでは市場参加者に、自己責任を全うしてもらうことを求めるための前提が欠けています。暗号資産の取引に参加する人に自己責任を求めるための情報開示として何が必要なのかをしっかりと検討すべきと思います。
そして、情報開示の検討も大事ですが、取引開始時の適合性の原則の徹底とか広告規制などで、一般の国民が暗号資産取引に安易に参加しないような環境の整備が必要であろうと思っているところです。
そして、その上でもう一つ、27ページの、少人数を相手とする勧誘等の箇所についてですが、スタートアップ支援等もあり、規制緩和の見直しが行われようとしていることは承知していますが、投資家層が異なるのではないかと考えています。有価証券の投資のほうで想定しているプロ投資家が、暗号資産についてもプロ投資家となりうるのか、そのままイコールになってよいのかどうか、慎重に検討していただく必要があると思います。
最後になります。岩下委員の御指摘に私も全く同感でございます。不正確な情報を提供されて損害を被ったときに、責任追及をどのようにすればよいのかということもあります。これでは、暗号資産取引に参加して損しても、開示された情報の正確さが担保されないままで自己責任だと言われてしまうのもどうかと思います。金商法の中に位置づけるならば、不正確な情報を提供した場合の責任をどう考えるのか等も検討していただく必要があると思います。
そして、岩下委員からご提案がありましたように、どのようなトラブルが発生するかというのは既にかなり予見できるように思います。完全ではないと思いますが、起こり得ると予見されるトラブルについて、どのように対応していくのかということも別途議論が必要であろうと思います。
先ほど、消費者庁という具体的な役所名が出てきましたが、私はもう一つ、暗号資産に関わるトラブルの被害救済に当たっておられる、具体的な案件を扱っておられる弁護士の方々のお話を聞いてはどうかと思います。被害救済するにあたりどういうところに困難があるのか、何が支障になっているのか等の情報収集をしていただけるとよいのではないかと思います。
長くなりましたが、以上でございます。よろしくお願いします。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、有吉委員、お願いします。
【有吉委員】
有吉でございます。私からは、事務局説明資料にあります規制の見直しの趣旨、不公正取引規制、それから情報提供規制について、それぞれコメントを申し上げます。
まず、規制の見直しの趣旨の関係です。資料4の2ページの記載内容については異存があるものではございません。ただ、規制の見直しに当たり、金融庁として暗号資産一般に投資商品としてのお墨つきですとか適格性を与える意図がないということについては、明示的にメッセージとして出していただきたいと強く思います。
また、もしお墨つきがあるようなことを喧伝する業者が現れた場合には、当局あるいは自主規制機関において適切に指導することをお願いしたいと思います。
それから、不公正取引規制の関係です。インサイダー取引規制が、規制下の取引の場で取引されるものを対象にするという、事務局説明資料でお示しの考え方について、理屈として分からなくもありませんが、他方で、登録業者が取り扱っている暗号資産についてインサイダー取引がなされた場合と無登録業者のみが取り扱っている暗号資産についてインサイダー取引がなされた場合とで、前者のみ規制・処分の対象となって後者は規制・処分の対象にならないという結論は、素朴に釈然としない面がございます。
そういった意味でも、規制の運用として、登録業者が取り扱っていない暗号資産の販売・勧誘については、無登録営業ですとか一般的な詐欺による刑事罰ですとか、あるいは情報提供の規制ですとか、こういったものを厳格に適用して取り締まっていただくことが併せて必要になるのではないかと考えます。
それから、事実上の問題であるとは思いますが、一般論として、上場株と非上場株という区別は何となく一般の投資家にもつきやすいところですが、ある暗号資産が登録業者に取り扱われているのかそうでないのかということについては、なかなか一般投資家が判別しにくいのではないかと思います。
そのため、全ての登録業者において、暗号資産のどれが取り扱われていてどれが取り扱われていないのかということが一覧できる仕組みですとか、あるいは、情報提供規制の枠組みの中で、私募告知のように譲渡人から譲受人に登録業者が取り扱っているかどうかということについて伝達される仕組みですとか、こういった制度も検討していただくべきではないかと思います。
また、登録業者が取り扱っていない暗号資産についてインサイダー取引規制を適用しないという方向になる場合には、現在の金商法第171条の2のように、無登録業者による売付け等を無効とするといった規律の導入についても御検討いただきたいと思います。
次に、情報提供規制の関係です。22ページに御記載のとおり、実質的に暗号資産の生成・発行等について独自に決定できる権限を有するか否かといったことを主な基準として、中央集権的管理者の範囲を画して発行者としての情報提供を求めるという考え方の大枠には賛成します。
ただ、暗号資産の性質上、例えば、責任を隔離する観点から、暗号資産の発行権限を有するエンティティと、その暗号資産によって調達した資金を受け取ったり、あるいはその暗号資産に係るプロジェクトを運営したりするエンティティを別の主体にするということも非常に容易にできてしまうと思います。
その場合、発行権限を有するエンティティは、権限はあるものの、経済的には空になってしまう可能性があるわけでして、仮に虚偽の、不実の情報提供がなされた場合であって、行政罰を科す、あるいは民事的な損害賠償を求めると言ったとしても、実効性を有しないことも想定されます。
前回の会合でも申し上げましたとおり、提供した情報について責任を負わせるという観点からは、暗号資産の生成・発行権限のみを基準に発行者を画するということはやや難しい面があると思います。状況によっては、調達した資金の帰属などの要素も考慮して発行者を判定するという枠組みとすべきだと思います。
また、そういった場面も含めて、複数の当事者が共同して暗号資産の生成・発行権限を有する場合もあるのではないかと思います。このようなケースにおいては、複数の当事者が「発行者」となり、これらに連帯して情報提供の責任を負わせるといった制度設計が求められるのではないかと思います。
そういった中で、実務感覚として、資料に御記載のとおり、義務の対象となる者についての明確性が備わっていないと実務が動きにくくなってしまう面があることは非常によく分かるところですが、誰が発行者として情報提供の責任を負うべきか、また、誰が提供された情報内容について責任を負うべきかという点につきましては、発行者の明確性の点よりも、暗号資産に様々な形態があることを踏まえた柔軟性のほうを重視して制度設計を図らざるを得ないのではないかと考えます。
それから、26ページの、上場というのか、登録業者が取り扱う場面に関する記述と、27ページの私募ないし少額募集による情報提供規制の免除の関係が少々分かりにくく感じましたので、コンセプトを確認させていただきたいと思います。
27ページの私募ないし少額募集について、その取扱い自体を登録業者に委託して資金調達を行ったとしても、情報提供規制は免除されるべきではないかと思う反面、一旦、私募あるいは少額募集により発行された暗号資産のセカンダリー取引について登録業者が取り扱う場合には、取引の回数ですとか金額が高い低いですとか、こういったことに関わらず、一律に情報提供規制の適用を受けるということにすべきではないかと思いましたが、この辺りがどういったコンセプトで資料が出来上がっているのか分からなかったところがございますので、本日御回答いただく必要はございませんが、明確にする必要があるのではないかと思います。
それから、IEOによる資金調達の可能性を否定するつもりはありませんが、先ほど岩下委員も御指摘されていたとおり、特に資金提供者の権利が法的に保護されるかという観点からしますと、株式や社債による資金調達と比べて、暗号資産による資金調達は必要性、合理性に疑問があると言わざるを得ないと思います。そういった意味で、IEOによる資金調達についてあまり緩やかな規制を志向すべきではないと思います。
資料の中では、例えば、少額募集の場合に情報提供を求めないという制度まで設けることが本当に合理的なのかどうかは分からないところがございまして、慎重に御検討いただきたいと思います。
また、勝手上場の場合など、登録業者による情報提供が必要となる場面について、情報提供の水準についてメリハリをつける必要があるのではないかと思います。新規の暗号資産や特殊性の強い暗号資産については十分な情報提供が求められると思いますが、ビットコインやイーサといった言わばコモディティー化したような暗号資産について、登録業者に細かい情報提供を求めて過大な事務負担を負わせることは、誰にとってもプラスにならないように思います。
そういった意味で、情報提供の水準について、特に登録業者に開示を求める内容については、暗号資産の性質に応じて、メリハリをつけた制度設計とすべきではないかと思います。
また、あわせて、そういった暗号資産については、ある登録業者がもともと取り扱っていたものを途中でやめたという場合には、その業者においてそれ以上情報提供を求める必要はないのではないかと思いますので、情報提供の免除の部分についても、もう少し柔軟な制度を志向されたほうがよろしいのではないかと思います。
私からは以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。
予定していた終了時刻までは残り20分程になっておりますが、まだ10名の委員の方々に御発言いただいておりませんので、御協力をよろしくお願いいたします。
それでは、伊藤委員、お願いします。
【伊藤委員】
弁護士の伊藤でございます。
事務局からお示しいただきました不公正取引規制、情報提供規制の大きな枠組みにつきましては異論ございません。その上で、本日、議論の土台となるべき、資料4の2ページについて再確認をした上で、情報提供規制の各論について、意見を4点申し上げたいと思います。
まず、議論の土台と私が考えているところについてです。事務局説明資料の2ページにおきまして、1つ目の四角の末尾に「健全な取引環境を整備すること」とありまして、その前提として、「投資者が暗号資産のリスクを十分に理解し、リスクを許容できる範囲で投資を行うことはあり得る」と記載がありますが、ここはリスクだけではなく、商品性についても十分な理解が大前提であると考えております。
このワーキング・グループでも他の委員の方から様々御指摘がありましたように、暗号資産というものの投資適格性については、他の金融商品とは異なり、価値の裏づけのないものや、成長の原動力であるプロジェクトが実在しないものも多々ございます。そういったものに投資する理由は何かと考えたときに、既存の金融商品とのオルタナティブ性に着目してポートフォリオに組み入れる場合に初めて、恐らく投資行動が合理化されるのではないかと考えます。
そういった観点で、リスクに加えて、投資家が暗号資産の今申し上げたような商品性を理解した上で合理的な投資行動に結びつけられるように情報提供がなされること、それが「健全な取引環境」の重要な要素ではないかと考えております。
次に、情報提供規制の各論について4点申し上げます。
1点目は、資料の20ページ、情報提供の内容についてです。20ページ、3つ目の四角にありますとおり、情報の非対称性を解消する上で最も大切なのは、分かりやすい形での情報提供というのはおっしゃるとおりだと思います。私も、日本暗号資産等取引業協会の方が先ほどおっしゃっていた105の暗号資産の概要説明書を今回一通り拝見してまいりました。
18ページに参考資料としてありますとおり、かなりの項目が提供すべき項目として挙げられておりますが、個々の商品によって、説明の丁寧さや深さにはかなりばらつきがあるという印象を受けました。そして、情報が少ないものはそもそもリスクの判断が難しい一方、情報が多いからといってリスクが低いというわけでもないのだろうと思っています。
私が浅学の身であることもありますが、拝見した概要説明書から、どの暗号資産のどの値動きに注目して、どこに期待をしてポートフォリオに組み込めばよいかという判断をするほどの理解には至りませんでした。。
一方で、先ほど日本暗号資産等取引業協会の方もおっしゃっていた、これらの概要説明書のうちの付帯条件や付言、備考の欄に、ある程度リスクに関する具体的な留意事項が記載されており、これらの記載には参考になる部分もありました。この付言の部分で、リスクだけでなく商品性や、一部だけでなく全体をカバーして、特徴を体系的・網羅的に情報提供していただけるようになると、より充実したものになるかと想像いたしました。
結局のところ、暗号資産相互の違いを比較可能にすることは、20ページの情報提供の内容について、1つ追加すべき観点ではないかと思います。例えば、可能であれば、次回以降もしくはその後の議論において、複数の暗号資産をモデル化したようなものを情報提供の具体的なイメージ、たたき台として出していただけると、目指すものがより明確に、どこが足りていて、どこが足りていないのかが明確になるのではないかと考えます。
2点目、22ページの情報提供規制の対象者についてです。類型①について、価値の源泉を実質的にコントロールする者に義務を課すということについては賛同します。ただし、その上で、規制の予測可能性という観点から、できる限りこの義務の範囲というのは明確である必要がございます。先ほど有吉委員がおっしゃっていたとおり、1つの明確な範囲を定めることは難しいかもしれませんが、できるだけ具体的な類型や要件を多く出していただければよいかと思っています。
そのうちで1つ私が観点として申し上げたいのは、事務局説明資料では、実質的に暗号資産の生成・発行等について独自に決定する権限を有するというのが例示されていますが、暗号資産はそれに加えて付加価値的なインセンティブや権利に近いものが付与されているもの、決済利用されているものなどが多くございますので、それらの権利的な要素に何らかの変更を加えることができる者というのも、1つ規制対象の要素ではないかと考えました。
続いて3点目、22ページと37ページに関連して、類型①と類型②の区別のメルクマールについてです。特に37ページで、類型①から類型②に移行するときの判断を誰がどういった根拠、基準に基づいて行うのかは、非常に大きな論点になってくるかと思っています。
この点、前回、CLARITY法案について御説明いただいた中で「成熟度」という用語が用いられていました。私自身の断片的な理解で大変恐縮ですが、この法案では、「成熟度」を判断する基準として、例えば、ネットワークの分散化の程度や、プロジェクトの収益とトークン価値の関係性、保有者が経営的な関与ができるのかといった基準が具体的に列挙されていると理解しております。CLARITY法案のこの基準は、ビジネスを背景とした有価証券的なものと、商品、コモディティー的なものを分ける基準と理解しておりますので、類型①と類型②を分ける基準について、一定程度参考になるのではないかと思いました。
4点目は、44ページと45ページの情報提供の内容の正確性の確保についてです。正確性に加えて、私は客観性と分かりやすさの確保が必要だと感じています。現在の案について、監査法人や格付機関のような第三者的な評価制度を直ちに実現することが難しいことは理解しました。今回、ファーストステップとして自主規制機関による取組を強化することについては異論ございません。ただし、これで完成形とすべきではないと申し上げたく思っております。
特に客観性という観点でいいますと、45ページの下から2個目の点に「自主規制機関に法定の独立委員会または独立の組織を設け」とあります。これが例えば、現行制度上、証券取引所に独立した自主規制法人というものがあるかと思いますが、これとの比較で申し上げたとしても、証券取引所のほうは、業界団体ではなくて、取引所という別の組織があって、そこからまた独立した自主規制機関ですから、45ページの案より客観性があるのではないかと思います。そのため、将来的にはもう一歩客観性を高める余地があるかと考えています。
それから、分かりやすさの確保の観点からいいますと、他の金融市場で長年投資家と向き合ってこられた監査法人や格付機関の方にはノウハウがあるはずだと思っておりますので、現在は自主規制機関に委ねますが、独立した第三者が評価する仕組みを整備して、正確性に加えて客観性や分かりやすさが順次達成されていくような仕掛けを段階的に入れて追求すべきではないかと考えております。
以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。
時間が大分押しておりまして、佐古委員からは18時に御退出予定とお伺いしておりますので、先に御発言をいただけますでしょうか。
【佐古委員】
申し訳ありません。私からは情報提供の内容の正確性について発言させていただきます。
私も伊藤委員と同様、日本暗号資産等取引業協会のウェブページで公開されている暗号資産概要説明書のエクセル表をダウンロードして、私が授業で扱っているビットコインの説明を読ませていただきました。日本暗号資産等取引業協会もすごく苦労されたのだろうと思いますが、技術的に正確に書くか、あるいは、技術的に正確に書くと一般の人に分かりにくくなってしまうので、一般の人に分かりやすいように、身近にある似ている言葉を使って説明するかということがあります。ただ、一般の人に分かりやすい身近な言葉を使ってしまうと、その言葉が逆に誤解を与えてしまうということがあると思っており、ここのさじ加減は非常に難しいだろうと思いました。
例えば、ビットコインのコンセンサス・アルゴリズムの説明として、「分散台帳内の不正取引を排除するために、記録者全員が合意する必要があるが、その合意形成方式」と書いてあります。ここで「合意する必要がある」と書いてあると、記録者全員がこれでいいね、これでいいねと合意するプロセスがあるように読めますが、アルゴリズム的にはそのようなことは全くなく、これも分かりやすい言葉と技術的に具体的にどうしているかというところの違いがあるのではないかと思います。
もう一つ、保有・移転記録の秘匿性というところに、説明は「ハッシュ関数(略)などによる暗号化処理を施しデータを記録」とのみ書いてあります。実際、確かにハッシュ関数などは使っておりますが、移転記録をハッシュ化しているわけではないので、秘匿はされていないわけです。文章では「データを記録」としか書いておりませんので、それが秘匿化されているとは明確には言っていないのですが、そのようなささいな表現について、技術的な表現と一般の人の受け止めというところで異なるかと思っております。
先ほど暗号資産間の比較という話もありましたが、このBTCで表されるビットコインとBCHあるいはBCCと表現されるビットコインキャッシュとの比較をしてみました。ビットコインキャッシュはそもそもビットコインから派生したものですが、ビットコインキャッシュのことをビットコインと間違えて買う人が多いと聞きます。ビットコインに比べてマイナー(記録者の数)も多くないですし、価格も全く異なるのですが。
そういったことに対する注意点も必要かと思う一方、ここに書いてある項目で並べると、技術的にはビットコインとほぼ変わりがないので、この価格差の原因はフォークしたことくらいしか分からないかと思います。私に正解があるわけではありませんが、誰をターゲットにどういうことを伝えるべきかということが悩ましいと思っています。
例えば、前回お話しいただいた通り、10万円以下で投資している人が8割という中ですと、もしかすると、そういう人たちはそこまでコストをかけて技術的な正確性を求めるものでもないのかと思っております。そのため、どういった消費者をターゲットとして、どんなリスクを理解してもらうように、どのようなレベルの説明義務を課していくのかは、もう一度検討する必要があるかと思っております。
言いたいことは以上ですが、もう一点、このエクセルを見ていて、ずっと類型①と類型②ということを話していましたが、ここのエクセル表にこれは類型①、類型②というのが今後記載されるようになるのか、もしもされるとしたら、それは一体誰がどう決めるのだろうかということが併せて疑問に思ったので、それもコメントさせていただきます。
順番前後させてしまって申し訳ありません。私からは以上でございます。
【森下座長】
ありがとうございました。
この後は、大槻委員、小川委員、加藤委員、松尾健一委員、松尾真一郎委員、河村委員、河野委員の順番でと思っておりますが、相当延びると思いますので、万が一先にご発言を希望される方がいらっしゃれば先にと思いますが、よろしいですか。
それでは、大槻委員、お願いします。
【大槻委員】
ありがとうございます。私の観点としては、どのように投資家、取引を望む者が正当にといいますか、適切な取引ができるであろうかという観点で、本日の事務局説明資料についてコメントをさせていただきます。
正当な取引ができるためには恐らく、1番目として、先ほど岩下委員からもあったような、虚偽であったり将来性に対して誤解を招くようなそういった開示がなされないこと。そして、2番目に、不正取引、これは松尾真一郎委員からの冒頭にご説明のあったセキュリティの観点のような、ハッキング等の不正流出等が出ないようにすること、あるいは、事前に何らかリスクを投資家側が分かるようにすること。そして、3番目は、大口取引ですとかその他のタイムリーな開示がなされること、知らされること。この3つが恐らくは投資家側からすると必要であると思っております。
その観点で、1番目の虚偽の報告あるいは将来性について誇大に喧伝されるようなことをどうやって防ぐかということについては、事務局案にほぼ賛成しております。
1つだけ、先ほど有吉委員からもありましたが、エンフォースメントをどのようにしていくかということについては、本日ではなく今後の議論の中で、改めて金融庁とそれから業界、協会について確認をさせていただければと思います。
例えば、無登録業者による取扱いについてまでももしも金融庁が追っていくということであると、相当なマンパワーが必要なのではないかと思いますが、どういった形でそこを取り扱っていくのかというところについてなど、マンパワーそれからシステム的な手当て等も含めて、エンフォースメントについて教えていただければというのが1点目でございます。
そして、2点目はセキュリティの観点ですが、冒頭に松尾委員から御指摘いただいた標準化については、どういった形でやっていくのがよろしいのでしょうかということです。恐らく情報の非対称性で最も難しいのは、セキュリティがどの程度高度であるかということについて開示をしても、恐らく、投資家サイドから十分な理解が得られるかどうかというのは疑問が残るところかと思いますので、ほかの委員からもあったように、そこは恐らくは第三者による何らかの標準化の基準、これが満たされているですとか、それが格付会社なのかもしれませんが、そういった第三者の関与が必要なのかもしれないと思っております。そこについてもどういった形で補強することができるのかということについては議論が必要かと思います。
そして、3番目は、継続開示を含めた全般についてです。まず1点目に、継続開示は1年に一度ということでいただいています。これはイノベーションを阻害しないためにも、過度な負担を回避するためということではありますが、CLARITY法も、それからMiCAも半年に一度のように見えますが、1年に一度で本当によいのでしょうかということが1点。
それから、先ほどほかの委員からもありましたが、自主規制機関のホームページに開示を行うということについて、比較可能性がないと、おそらく投資家としては、ウェブサイトにばらばらな開示があっただけでは投資対象を選びにくいと思いますので、それはある程度、有価証券報告書ですとか、それから短信のような一定程度横比較できるような形のものが望ましいと思っております。
それから、3つ目に、リテラシーの観点です。今、法改正の議論が先行しているようにも思いますし、それ自体に反対するものでは全くありませんが、一方で、リテラシーについては全く異なるレベル感のものが必要という意味では、それについても並行して、J-FLECなのかどこか別のところなのか、リテラシーの向上についての議論も進めたほうがよいかと思っております。
そして、最後、45ページ目です。ペナルティーの観点について、違反行為については国内の全ての暗号資産交換業者での取扱い停止ということですが、暗号資産は国際性が極めて高い、今までのあらゆる投資対象の中でも恐らく最も国際性が高いもののうちの1つかと思いますが、そういう中で、国内だけでいいのか、暗号資産交換業は停止されたら、よその海外の交換業者で取り扱うという形にならないのか、その辺りの連携の度合いについても、本日でなくて結構ですので、今後について補足でいただければと思います。
以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、小川委員、お願いします。
【小川委員】
ありがとうございます。暗号資産の規制改定に当たっては、その特殊性を十分考慮した検討が重要と考えます。本日いただいた事務局説明資料について4点、それから、最後に少しエアドロップとフロントランニングについてコメントさせていただきます。
まず、事務局説明資料の5ページ、暗号資産のインサイダー取引における重要事実についてです。案Aは実質的にルールベースあるいはチェックリスト方式ということで、限定化しかねないと懸念しています。著しく変化が速い実体経済において、大きく影響を与えかねない新たな価値変動要因に法的に対処し切れないのではないかと考えます。
したがって、案B、一定程度プリンシパルな抽象的・実質的な規定を整備し、同時に識別された重要事実を適宜、案Cにありますようにガイドライン化して明確にしていくのがよいのではないかと考えます。
次に、資料6ページ目です。暗号資産の対象を交換業者において取り扱われる暗号資産に整理とするといった点ですが、交換業者を通さない暗号資産のほうが圧倒的に今数が多い、また、海外で取引されているといったことが大きな実態としてございます。証券性のあるトークンであれば、同時に、インサイダー、市場操作、不公正取引リスクが十分あるといったところは、先ほど他の委員からも御意見があったとおりと考えており、一定の配慮が必要と考えます。
ただ、一方で、現時点で、交換業者を通さない暗号資産については、いまだ一般投資家と言われる方々が手を出しにくいと想定される点、また、手を出している方は一定のリテラシーがあり、リスクを承知、許容しているのではないかと推察されている点、さらに、仮に規制をかけるにしても訴追が極めて困難であるといったことを考えますと、今回の案にありますように、交換業者において取り扱われる暗号資産からしっかり規制化をし、その先に非取引所銘柄のリスクの潮流をしっかり見極め、必要性・実効性を考慮した別途の規定でカバーしていくといったところを期待しています。
交換業者を通さなければ何も問わないといったメッセージが前面に出ることがないようにお願いできればと思っています。
7ページです。市場監視体制の強化については、適当と考えます。関係会社によるインサイダー取引規制については、会社関係者、第一次情報事業者の記載がありますが、先ほど落合参考人の説明資料、15ページのMiCAにおける資料では、「いかなる者」「何人も」といったところが非常に強調されている、この点は重要と考えます。
前回議論になった、暗号資産特有の実質的支配者を特定し得るのか、情報に触れ得るウォレット運営者、あるいは暗号資産審査担当者など、改めて誰でもがインサイダー当事者になり得る、網にかかり得る点を分かりやすく法整備していただくことを期待しています。
次に、資料4の48ページ、情報内容の正確性確保についてです。コスト面、また、先ほど議論がありました、仮に客観性が担保されていたとしても、第三者によるチェック機能には限界があると考えています。したがいまして、今回案のように、結果責任ということで、罰則、民事刑事責任を課すという対応は有効と考えます。
さらに付け加えたい点としては、各種開示情報に虚偽記載がないよう、情報提供者自ら有効なガバナンス内部統制を整備する責任も、同様に罰則、民事刑事責任を課すことが有効と考えます。
例えば、我々財務諸表監査においても、過去、外部監査人の限界といった重い課題を経験しております。その上で、経営者自ら開示内容の正確性を担保する内部統制の有効性について、現在、非常に重たい責任を問う制度設計が国際的にも取り入れられています。その後、この手法はアンチ・マネー・ロンダリングもしくは税法上のFATCAにも援用されてきているといった状況があります。
一方で、どこまでやれば十分なのかといったところが非常にポイントとなってくると思います。先ほど松尾真一郎委員からもお話がありましたように、ISOの国際標準など今後期待される各種基準に従って、ガバナンス統制設計もしくはサードパーティーリスクの管理レベルといったものの明確化が必要と考えます。
次に、少しエアドロップについてコメントを差し上げたく思います。無償配布で不確定であること、少額でキャンペーン的に小口でばらまかれるケースが多いことから、開示を義務化すると監視コストが見合わないなどの理由で、現在、欧米でも対象外と整理されていると理解しています。
エアドロップについて、それでは、実際にそこでのプロジェクト関係者と一般投資家の間の情報の非対称性による損失がないかというと、実際、損失が少しずつ顕在化してきていると考えています。例えば、エアドロップ条件を知り得る立場の開発チームや財務関係者がスナップショット前に自らウォレットにトークンを移して受け取り量を増やす、さらに、上場情報に関するインサイダー情報を利用することで、上場前につかんだエアドロップ条件を利用して大量に無償トークンを取得後、一気に売却で売り抜くといった手法、ここで利益を得る。一方で、一般投資家は大きな市場価格下落によって損失を被るといった状況。これはインサイダーに関わらなくても、エアドロップで取得したものは無償のため非常に手を放しやすいといった思いがあると想定され、市場を大きく動かす要因となりうると考えています。
一般的にエアドロップダウンといった事象は幾つか発生してきておりますので、現段階で、プロジェクトの信頼性の問題、もしくは、ボラティリティーが高い暗号資産の特質といった言葉では片づけられないような問題に今後なっていくのではないかと考えています。
したがいまして、こういった情報非対称性、インサイダー、市場操作に関する識別するリスク、これを事前に洗い出して、開示対象のスコープの範囲、もしくは大口売却監視などリスクを低減する手段が期待されます。
エアドロップについて、例えば、一定量あるものについては、配布条件、基準日、数量、また、将来の流通計画として、開示スケジュールのベスティングや売却制限のロックアップ、総供給量の内訳などについて、透明性を期待するところでございます。
最後に、不公正取引として、フロントランニングについてです。現在、自主規制として各顧客不利益の禁止解釈について実質禁止されていますが、欧米が既に一定程度法令化しているといった状況がございます。国際的な投資家保護基準レベルの法整備が我が国でも必要なタイミングになってきているかと考えます。
例えば、中央集権型取引所、カストディ型ウォレットの運営者や従業員は、未確定注文、ストップ注文、こういったものに非常にリーチしやすいので、そういったところのリスクコントロールは今後重要視していくべきだと考えています。
以上ですけれども、各種欧米との国際協調も含め、投資家保護をきっちりと考えていく局面になると考えています。
以上になります。
【森下座長】
ありがとうございました。加藤委員、お願いします。
【加藤委員】
加藤でございます。私からは、主に資料4を中心に幾つかコメントいたします。
最初に、暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産についてインサイダー取引規制を整備するという方向性に賛同いたします。インサイダー取引規制は、資料にもありますとおり、証券市場の公正性・健全性に対する当事者の信頼確保を保護法益とすると説明されます。なぜインサイダー取引規制を設けることが当事者の信頼確保につながるかというと、自分の取引相手が自分が持っていない重要な未公開情報を持っているという危険が規制によって排除される、少なくとも、限定されるからです。その結果、取引に参加する当事者の裾野を広げるという効果が生じます。
ただ、暗号資産については、そもそも投資者の裾野を広げるということ自体が望ましいか、これは議論すべき点だと理解しております。しかし、インサイダー取引規制を導入するということは結局、投資者、取引に参加する人の裾野を広げるという効果を持つことはあると思います。
そういった観点から、それではどういった暗号資産について投資者の裾野を広げるような効果を持つ規制を設けるべきかを考えた場合に、私としましては、暗号資産交換業者による一定のチェックを経た暗号資産についてまずはインサイダー取引規制を導入していくということが妥当な政策判断ではないかと考えております。
ただ、既に何名かの委員の方から発言がありましたとおり、そのほかの暗号資産について不正行為が行われる可能性は当然あります。そういったものにつきましては、現在の金商法の第185条の22や第185条23などの不公正取引規制によって対処することもできるのではないかと思います。
この点について付言すると、現在の暗号資産の不公正取引規制は、インサイダー取引規制を除き、上場有価証券などの不公正取引規制と同じ規制を有しています。ただし今回、インサイダー取引規制については、暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産に限定した形で導入したとする場合に、そのほかの不公正取引規制についても同じような限定をするべきであるかというと、当然にそうなるべきではないと考えます。少なくとも第185条の22と第185条23の不公正取引規制については、暗号資産交換業者が取り扱うかどうかを問わずに、現行法を維持するべきだと考えます。
問題になりますのは、相場操縦行為などの規制です。MiCAについては、インサイダー取引規制の対象となる暗号資産と相場操縦行為規制の対象となる暗号資産、これはそろっていると理解しております。一方、現行法の相場操縦行為規制の対象となる暗号資産は、暗号資産交換業者が取り扱っているか否かによって限定されません。これをどちらにそろえるかということで、現時点で私はまだ定見はありませんが、今後考えていく必要があるだろうと思います。
2点目は情報提供規制についてです。本日御説明いただいた内容は非常にボリュームがあり、私も圧倒されております。しかし、既に日本暗号資産等取引業協会の自主規制として存在しているものと重なっている部分も多いと思います。すなわち、日本暗号資産等取引業協会の自主規制としては、形式的なルールとしては、非常にボリュームのある情報の開示を暗号資産交換業者に求めるルールが既に存在しております。ただ、資金決済法に基づく自主規制であるという点に限界があり、そのエンフォースメントにも問題を抱えています。したがって、情報提供規制の問題を考える際には、現在の日本暗号資産等取引業協会の自主規制に基づき提供が義務付けられている情報の質の強化を重視していく必要があると思います。
また、これまでの日本暗号資産等取引業協会の自主規制の経験を生かしていく必要があると思います。この点で私が気になっておりますのが、資料3の13ページでIEO案件の現状について説明をいただきまして、その後、15ページでIEOに関する業界における課題認識を説明していただきましたが、その内容です。ここで課題意識として挙げられているものの中には、情報開示が不足していたというよりも、取引の慣行に問題があったということも数多く含まれているのではないかと思います。
そうしますと、今回の資料では情報提供規制に焦点が当たっておりましたが、そもそもの取引慣行も見直しの余地があるのではないかということを、日本暗号資産等取引業協会による自主規制の見直し作業などと並行して進めていく必要があると考えます。
最後に、情報提供の内容の正確性の確保について1点コメントします。資料4の45ページでは、現在の日本暗号資産等取引業協会の自主規制を踏まえて、暗号資産交換業者による審査に当たり、技術的専門性を有する第三者によるコード監査を義務化するという提言がされております。これは非常に望ましいことであるとは思います。
ただし、資料の43ページで御紹介いただきましたが、ディスカッション・ペーパーの前提となる検討の段階で、こういった第三者によるコード監査にどれほど依拠することができるかということについては、若干消極的な意見を実務家の皆様からいただいたことがあります。実際に今後、第三者によるコード監査を義務化した場合に、その第三者の資格についてどのように考えるかということを併せて慎重に検討する必要があると考えます。
私の意見は以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、次に、松尾健一委員、お願いします。
【松尾(健)委員】
ありがとうございます。松尾でございます。
まず、私からは1つ目に、金商法の規律対象とすることで、暗号資産のお墨つきを与えることにならないようにと、そのように理解されるべきでないということは強調してもし過ぎることはないと思います。
既にディスカッション・ペーパーの段階から、暗号資産が株式や債券と同等の投資商品になったから金商法で規律するということではなくて、暗号資産を巡る問題というのが金商法が対処してきた問題と親和性があることから金商法の対象にするのだという立場を明示しておられると理解しておりますので、そういったところを強調していくことが必要かと思います。
これについては、IEOについても同じようなことが言えるかと思います。IEOを想定した金商法の規律を設けるからといって、IEOが持続可能性のあるビジネスモデルであるということを認めたということになるわけではなく、むしろ、今、詐欺的と言われるような事案が生じているところ、自主規制に委ねられている部分を法令レベルに引き上げて規律・規制を強化することで対処しようとしている。その結果、これはよくないということで淘汰されて、IEOが行われなくなるのであれば、それはそれでよいというのが今回の改正の考え方であると思いますので、その点も誤解の生じないようにしていただくのがよろしいかと思います。それが1つ目です。
それから、インサイダー取引規制については、方向性におおむね賛同でございます。案A、案B、案Cについて、様々考えてまいりますに、内部情報、価格に影響を与える情報というのが様々あって、株式で言うところの相場操縦に近いものやフロントランニングに近いようなものもインサイダー取引として諸外国では規制されているということを考えますと、限定列挙方式というのは少し難しいのではないかという気がします。
そうしますと、案Bか案Cにならざるを得ないかと思います。その中で特にブラックリスト、ホワイトリストといいますか、セーフハーバーも活用しつつ、ガイドライン等で示していく方向で、規制対象となるものを明確化していくほかないかと考えております。
それから、情報提供規制についてです。こちらにつきましては、まず、規制の対象となる者をどう確定するかというのは非常に悩ましい問題で、明確性と柔軟性の両立というのは非常に難問であると思います。一方で、提供されるべき情報についてはかなりコンセンサスが得られているかと思いますし、その情報を出せる人というのも案件ごとにある程度は明確になるのではないかと思いますので、発行や発行者という概念にそれほどとらわれることなく、こういった情報を出すべきで、それを出せる者に出させる、虚偽記載等があった場合には、有吉委員がおっしゃったように、連帯して責任を負わせる、というような仕組みもあり得るのではないかと考えました。
それから、情報提供のタイミング等につきましては、一般の投資家が購入可能になる時点、その直前に発行者に当たる者あるいは交換業者、少なくともいずれかを通して必要な情報が提供される仕組みを構築するという考え方に賛同いたします。
以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、松尾真一郎委員、お願いします。
【松尾(真)委員】
御指名ありがとうございます。本日のヒアリング資料及び事務局説明資料につきましては、この発言時間内で審議に必要な全てのコメントをし切れないので、後日文書で事務局にお送りさせていただいて、委員への回答など取扱いについては事務局にお願いしたいと思います。その上で、この場では2点ほどコメントいたします。
1点目は、資料4における不公正取引と規制の範囲です。本資料では、既存の金商法をベースにしているためか、インサイダー取引がメインのスコープとなっておりますが、暗号資産における不公正取引には、もちろんインサイダー取引もあると思いますが、既存の金商法ではとらえられないものが多数あると認識しなければいけません。
例えば、流動性操作、エアドロップの不履行。エアドロップの話は先ほども出ていましたが、その例ですけれども、ちょうど一昨日、Hana Networkというプロジェクトの実態を記したブログ記事がインターネットで公開されています。これは日本発をうたっているプロジェクトで、一方で、日本の交換所では取り扱われていないものの、暗号資産プロジェクトにおける不公正の手口の一端が赤裸々に述べられています。
これはごく一例でして、暗号資産ならではの不公正の範囲というのは、既存の金商法では想定し得ない範囲がたくさんあります。仮に利用者保護のために暗号資産を金商法に入れるということで議論するのであれば、これを見過ごすということはあってはいけません。問題は、このような既存の金商法でカバーできない範囲が現在見えていないということです。
これは第2回のワーキング・グループで私が指摘したことでもございますが、一方で、BGINでは、世界中の専門家の協力の下、このような事象のデータベースをこの秋からつくり始めます。一方で、このワーキング・グループの期間内においては、この範囲に関するコンセンサスを得ることは難しいのではないかと考えます。BGINにおける議論を横目でにらみながら、年末以降も継続検討することは必要であろうと考えます。
2点目のコメントは、資料3、資料4において、交換所及び自主規制団体での情報提供の取組及び例が記載されておりましたが、私が読む限り、これらは暗号資産の取扱い開始時の審査の話でありまして、言わば暗号資産のオン・ボーディング時の話であります。一方で、不公正取引とそれにまつわる情報提供は、毎日リアルタイムで発生する事象、つまり、オン・ゴーイングにおける情報提供が重要であります。
そのとき必要な情報は、個別具体的な不公正取引の内容とその影響分析であり、また、リアルタイムで緊急性を要します。つまり、その中身及び情報提供に必要な能力は、オン・ボーディング時のものとは異なります。その上で、今回の資料だけでは、そもそもオン・ボーディング時の審査であっても、利用者保護上の審査等で十分性を持つのかということを委員が判断するに足る情報が資料に載っておりません。
つまり、委員として判断しかねる状態でしたが、さらに、オン・ゴーイング時の情報提供において、交換業者、自主規制団体が利用者保護上十分な情報提供能力を有するのかを委員として私自身が判断できる情報は、資料に今のところ掲載されておりません。
資料4の36ページでは、暗号資産の発行者または暗号資産交換業者に対し適時の情報提供義務を課すことが適当ではないかと記載されていますが、事務局がこれらの主体に提供する能力があると判断するのであれば、そう判断した理由を資料に記載いただきたいと思っています。この情報がないと、委員としての判断がしかねる状況かと思います。
また、前回私が御提案申し上げたコンソーシアム的情報提供主体の提案がこの資料に記載されていますけれども、この利益相反というのは、端的に申し上げると、判断をする人が関連する暗号資産を持っているかどうか、あるいは売買規制がかかっていないかどうかということが利益相反にかかるのですが、コンソーシアム的情報提供主体の提案は客観性を持ち、この利益相反を防ぐ能力を確保するための提案でございます。これは、単に提供情報の正確性の確保・向上のための組織ではなく、そもそも情報提供を行う機能を果たす主体として私は提案しましたので、その点を改めて述べさせていただきたいと思います。
以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、河村委員、お願いします。
【河村委員】
ありがとうございます。
今までの御発言の中でもありましたけれども、類型①と類型②の往来のところで、CLARITY法案の議論というか、制度が参考になるのではないかというところに関して、私ももしかしたら参考になるかもしれないと思っているのと同時に、資料1で落合参考人からヨーロッパ、EUのお話をいただきましたが、資料1の8ページ目辺りで、Fully decentralisedに関する加盟国レベルの議論を御紹介いただきました。ヨーロッパの場合は、そういった基準に加えて、誰がどのようなプロセスで判断しているのかというところが気になりました。もし何かあれば、ぜひ教えていただきたいと思いました。
それから、2つ目、資料2の松尾真一郎委員の説明について、13ページの提言のところで、「暗号資産エコシステムのセキュリティ対策については、システム構成も動的に変化し」というあたりで、「法律では必要な体制の確保についての要請を書くことにとどめる一方で、ガイドラインによって柔軟に対応できるようにする」とありました。この話を聞いて考えておりましたのが、金商法の対象にするということは、金商法第1条の目的にある国民経済の健全な発展、それから投資者保護に資するようなものでなくてはならないと私も思っています。そうすると、今、情報提供などの話をしているわけですが、そもそもの金商法上の投資商品とする適格性があるかどうか、商品適格性という観点から改めてこの点を考える必要があるかと思いました。
これは本日の資料3の取扱い審査の話ですとか、資料4にも関係するところですが、そもそものところで、サプライチェーンを含めて全体のセキュリティがきちんと確保されていないものは、たとえそれが一般投資家であろうが、機関投資家であろうが、少額であろうが、少人数であろうが、そもそも投資商品としての適格性を欠くのだという形で規律するということをおっしゃりたいというところかと思いました。
それを法律で書いた上で、具体的にどういったものが必要かについてはガイドラインで書いていくという御提案かとお話を聞いていて思いましたが、改めてこの点についてお聞きしたいと思っています。
それから、資料4についてです。これは既に様々出てきているところと重なりますが、資料4の6ページ、不公正取引規制の基本的な方向性のところで、保護法益の話があり、対象とすべき暗号資産のところで、国内の暗号資産交換業者において取り扱える暗号資産を整理するという話があります。保護法益のところで、国内の暗号資産交換業者における取引の場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保とありますので、例えば資料4の11ページのところに、欧州におけるインサイダー取引規制の動向というのがあり、ここで適用範囲に関しては、1つ目の黒丸は似ていると思います。
暗号資産サービス提供者が運営する暗号資産取引プラットフォーム上で取引が承認されている、または当該承認申請がなされている暗号資産に限って適用するが、取引の場という点では、取引注文または行為が取引プラットフォームで行われているか否かに関わらず適用するということになっているので、6ページの保護法益の取引の場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保というものが、対象とすべき暗号資産は限られるというところまで分かりますが、取引の場所についてどのように考えているのかというところは、またさらに検討していく必要があるか思いました。
それから、最後ですが、資料4の22ページです。中央集権的管理者というところで、実質的には、最初に書いてあるように、暗号資産の価値の源泉を実質的にコントロールするというところにポイントがあるわけですから、これも委員から様々御発言がありましたが、「暗号資産の生成・発行等」と書いてあるので、この「等」の中にはきっと機能の変化というのも含まれるでしょうし、もし暗号資産というものがトークンエコノミーのプロジェクトと価値が連動しているものであれば、トークンエコノミーのプロジェクトをコントロールするものであったり、これも有吉委員からお話がありましたけれども、調達資金の帰属先であったり、こういったものが考慮要素として出てくるのだろうと思っています。
それから、類型①、類型②のところに関しては、最初に申し上げたとおりです。
取り急ぎ、以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。
1点だけ、松尾真一郎委員の資料のところで、趣旨として、金商法上の商品適格性を欠くというものについては積極的に排除するということも考えるべきであるという御趣旨かということの確認をしたいというお話がありましたが、この点はいかがですか。簡潔に。
【松尾(真)委員】
基本的に御認識は合っております。
【森下座長】
ありがとうございます。それでは、河野委員、お願いします。
【河野委員】
日本消費者協会の河野でございます。事務局をはじめ各方面から御説明いただき、ありがとうございました。
資料4の2ページの検討に当たっての留意点のところに書いてくださったように、利用者保護と健全なイノベーションのための適切な規制のバランスが重要であるとしても、暗号資産に安全・安心というお墨つきを与えるものではないことがメインのメッセージとして発せられることは、非常に重要ではないかと受け止めています。
本日の資料も非常に大部であり、私のような一般消費者が暗号資産取引とどう向き合っていくのか、大変考えさせられる重い議題であり、重要な議論だというふうに改めて実感しています。
デジタル技術進展の成果の一つとして生まれた暗号資産ですが、その正体が何であるのか実はよく分かっていない。改めて本日、松尾真一郎委員の御説明を伺っていて、私は分かっていないということを思い知らされましたし、また、本日のように規制の具体を提案されると、ますますよく分からないというのが正直なところでございます。
暗号資産に限らず、利益や損害の幅が大きいとされる投資対象には少なからずリスクが伴うということ、また、そのリスクは投資の対象や手段によって特性があり、全てのリスクを取り除くことは不可能であることは十分に分かっている前提ですけれども、今回、金商法の下で、そのためのリスクヘッジを行ってほしいというのが消費者としての率直な気持ちです。
暗号資産へのリテラシーが不足している一般消費者としては、例えば、詐欺的な投資の勧誘や取引等に関わる者への抜本的な対策を取ってほしいと強く思う反面、暗号資産以外の既に一定程度規制のかかっている投資や取引においても、同様なトラブルや不正事案は山積しているところでございますから、そういった視点からは、例えばですけれども、利用者の認知バイアスを利用したユーザーインターフェースでのアプローチとして、今、様々な分野で問題になっているダークパターン対策など、そういったものとも組み合わせて、金融庁での規制とうまくマッチングさせて効果を上げるということも考えていただければと思いました。
最後です。2点目の不公正取引規制で示された総論、これには私も賛成します。3点目の情報提供規制での事務局整理による各論に関しても、どこまで私が理解できているかということはありながら、どちらも現状想定し得る妥当な提案であると受け止めましたが、海外での規制の動向やこの分野の技術革新のスピードなどを考慮して、規制を厳格に細かく決め切るというよりは、一定程度柔軟性を持たせたものにすべきではないかとは思いました。
特に情報提供に関しては、正確性の確保というのは消費者にとって非常に重要だと思いますが、しかし正確性が担保されたとして、それを読み解ける力が消費者側にあるかというと、そこもまた不安になるところです。虚偽記載や不提供への罰則は、実効性のある現実的な対策を講じていただければと思いますが、そのための精度の高い手段を取ったとして、その効果が確実に得られるかどうかについては疑問に思っているところです。
私としては以上です。ありがとうございました。
【森下座長】
ありがとうございました。それでは、松井委員、お願いします。
【松井委員】
ありがとうございます。非常に短くコメントをさせていただきたいと思います。
冒頭、御懸念されている委員の御発言もありましたが、今般の金商法での規制は、既に流通している暗号資産を適正な規制の中に位置づけ、対策を取るものであると理解しておりますので、特に不公正取引をきちんと行うということは、現状をよくするために重要だと考えております。
まず、5ページ目のインサイダー取引規制についてです。情報格差が立法の趣旨であるということは理解しましたが、この中で暗号資産に関する重要事実という部分が、株式と同様に、内部者が知っている重要事実に該当するものに相当するわけではないということ、特に内部者が知っている事業活動に関する情報に限られないことから、ある程度包括的な情報を入れざるを得ないと私も考えます。
このページで取り上げている案Aから案Cですが、従来、案Aタイプの規制は、罰則を伴う規制の明確性を考慮したものであるということで、すなわち、規制されるインサイダーになり得る者にとって、重要事実であることの予見可能性がないと遵守ができないという問題を重視したものだと考えます。
しかし、暗号資産取引においては、内部者も重要事実も事前に分かりにくく、多くの場合、不正行為を行う者にとってはそれが重要事実であることが分かっているけれども、ほかの人間にはそれが重要であるということすら分かっていないといったタイプの情報も多いように思います。また、むしろ発行者が実質的に空になってしまうといった委員の御発言もあったことを考えると、内部者という捉え方にも限界があると考えますので、この場合は案Aだけではない可能性を考えることは正当化されるのではないかと思っており、案Bまたは補完的に案Cという考え方もあり得ると思いました。
不公正取引の対象となる暗号資産の範囲について、加藤委員から御発言がありましたが、現行の金商法の保護・規制の考え方を考慮して画するということが重要だと思っているということを付言いたします。
次に、発行する者だけでなく販売する者も含めたスキーム全体の中立性について、16ページの下のほうに利益相反についての注意喚起をする発言を入れていただいておりますが、不正公正取引について、資料4の23ページの中段下部で、MiCAでは取引所の潜在的利益相反についての開示を要求しております。
これは16ページ、類型①の囲みにある暗号資産の関係者という部分に当たるのかもしれませんが、先ほど商品性全体についての理解が必要だという話もありましたが、日本における販売規制が、発行者と交換業者、すなわち取引所や販売所といったところとどういった関係があるのかも含め、どういった内容のことを開示させるのかについて、もう少しはっきりとさせたほうがよいかと思いました。
これは38ページのIEOも同じですが、スキームとしての不正が十分に抑止されるような販売方法に留意いただけるとありがたいと思っております。
最後に、34ページの継続情報提供についてですが、適時の開示と定期的情報提供という考え方があることはそのとおりでございます。委員より年1回の開示でよいのかという御発言がありました。株式においても、例えば、新規の発行や自己株式取得のように、アナウンスをした後、実際にどのタイミングで取得や発行したか、あるいは、前後に関係者が取得していないかといったように、継続的に五月雨式に情報が出てくるタイプのものの中には、市場がかなり短いスパンで情報を必要とするものがありまして、実際に暗号資産で、それに相応するどのような行動が見られるのかというのは見ていかなければいけないわけですが、頻度あるいは内容、継続開示か適時開示かということについて、具体的な場面報を考えながら検討していただきたいと思っております。
以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。
これで委員の方々からは一通り御発言をいただいたと思いますけれども、オブザーバーの方から御発言希望はありますでしょうか。日本ブロックチェーン協会さん、どうぞ。
【日本ブロックチェーン協会】
日本ブロックチェーン協会の加納です。2分ほどお時間頂戴いたします。
まず、セキュリティに関しては、向上させることには大賛成です。北朝鮮の資源になっているということは非常に問題だと思いますし、国防にも関わるものですので、セキュリティは向上すべきです。ただ、一方、松尾委員の提案する内容であると、恐らくまたハッキングが起きるのではないかと私は考えています。
なぜかといいますと、セキュリティ、松尾委員は協調領域という表現をされていましたが、私は競争領域だと考えております。クリプト取引所というのは大きく3つのファンクションに分かれていて、本人確認、AML、CFTをやる部分、それから取引、フローのビジネスと、預かる、保管するストックビジネスです。特に特殊で一般的な証券会社と異なるのは預かるというところで、ここにノウハウの塊があり、競争領域だと考えています。
こういった競争領域を競合他社と共有するようなことがあると、結局何が起きるかというと、投資意欲がなくなり、投資する意味がなくなる。また、セキュリティエンジニアはモチベーションもなくなります。こういった努力が報われないような仕組みは非常に問題です。
一方で、協調領域もあると思います。一般的なセキュリティに関するノウハウ、こういったところは、金融ISACなどのノウハウを拝借して、業界全体のセキュリティを向上させるというのがいいだろうと思います。
ハッキングというのは大きく2つに分かれています。1つはフィッシングです。これは既存の金融技術のセキュリティが流用できると思います。もう1つは、ブロックチェーンに関わる部分のセキュリティ、アドレス・ポイズニングであったりサードパーティーのウォレットのハッキングであったりといった部分で、恐らくここは競争領域であり、機密情報が固まっているので、これを開示することはなかなか難しいのではないかと考えています。
その証拠に、クリプトISACには2大取引所であるビットフライヤーとコインチェックが入っていません。これはやはり、大きな会社から小さな会社に情報が漏れる、そういったことが恐らくできないのだろうと想像しています。
実際、スタートアップにも配慮された制度設計を提案されていますが、これも非常に難しいと考えています。今、セキュリティを完全にするためには、恐らく100億円以上のお金がかかると考えています。そうであれば、スタートアップと一緒にやっていくようなクリプトのカストディのようなライセンスをつくって、スタートアップでもカストディビジネスと一緒にやっていく。顧客資産を預かる部分というのは、より厳しいライセンスを設けて、そちらで預かる。
特に、民間企業がルールメークするのではなく、当局が事務ガイドライン等でルールをつくり、そういったライセンスの下に、より厳しいクリプトカストディビジネスの特定をし、そこに乗る形でスタートアップがビジネスをしていくというのがよいだろうと考えております。
特に、最後に、サードパーティーウォレットが非常に問題だと思っていて、第三者がつくったウォレットに乗るわけですが、これはやっぱり安かろう悪かろうとなりますので、ここを使うときには、それなりに監査もしなければいけないし、様々なセキュリティのチェックをしなければいけないというのをルール化していただいて、それを中立的な当局等で監督していただくというのがよいだろうと考えております。
私からは以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。
ほかのオブザーバーの方で御発言を御希望される方いらっしゃいますでしょうか。国際銀行協会さん、お願いします。
【国際銀行協会】
本日はありがとうございます。
私どもから言いますと、資料4の2ページ目の一番下の規制見直しに当たって留意すべき視点というところに凝縮されております。外資系の運用会社、金融機関を会員として抱えております当協会としては、投資家においてチョイスと判断が正しくできるような市場形成及び規制の運営、及び、我々外資系が将来ソリューションとして資産形成に役立てるような市場の育成というものがなされることを望んでおります。
以上です。
【森下座長】
ありがとうございました。ほかいかがでしょうか。よろしいですか。
それでは、以上で討議を終了いたしたいと思います。活発な御議論をいただきまして、ありがとうございました。時間が大幅に超過してしまい申し訳ございませんでした。
本日いただきました御説明や御意見を踏まえまして、今後さらに議論を深めていきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
また、次回のワーキング・グループの日時につきましては、皆様の御都合を踏まえた上で、後日、事務局より御案内させていただきます。よろしくお願いいたします。
それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきます。長時間にわたり、どうもありがとうございました。
―― 了 ――
(参考)開催実績
- 問合せ先
-
- 電話受付
受付時間:平日10時00分~17時00分
電話番号:0570-016811(IP電話からは03-5251-6811)
- ウェブサイト受付
(注)金融行政等に関する一般的なご質問等は金融サービス利用者相談室で承ります。
- 電話受付
- 所管
-
企画市場局市場課(庁内用3970、2393)


