金融審議会金融分科会第二部会会合(第42回)議事録

日時:平成19年11月29日(木曜日)15時00分~17時00分

場所:中央合同庁舎第4号館9階 金融庁特別会議室

○岩原部会長

それでは、時間をたびたび訂正させて頂いて恐縮でございますが、訂正後の時間であります3時になりましたので、始めさせて頂きます。ただいまから第42回金融審議会金融分科会第二部会を開催いたします。

皆様お忙しいところお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。

会議に先立ちまして、本日の会議は公開ということになっておりますので、その点まずご了承頂きたいと存じます。

本日は、信託関係の諸問題についてご議論を頂きたいと思います。議事に入ります前に、本日は、関委員、高橋委員、根本委員、黒沼委員、神田委員、田中委員、落合委員、國部委員、柄澤委員、筒井委員がご欠席されております。

また、10月24日に信託に関するご審議をお願いしたときと同様、信託ワーキンググループの道垣内東京大学教授、杉浦中央大学教授、新井筑波大学教授にオブザーバーとして参加して頂いております。

さらに本日からは、今回プレゼンテーションをお願いしております日本弁護士連合会より、赤沼康弘弁護士、深山雅也弁護士にもオブザーバーとしてご参加頂く形で進めさせて頂きたいと考えておりますので、どうかよろしくお願い申し上げます。

それでは、本日の議事に移らせて頂きます。前回は、平成16年信託業法改正後の施行状況の評価等についてご議論頂きましたが、本日は、改正時に附帯決議において、高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託等を含め幅広く検討することとされていることと等を踏まえまして、いわゆる福祉型の信託を含め、信託をめぐる種々の論点について議論を深めたいと思います。本日の議事の進め方でございますが、3名の有識者の方からヒアリングを行い、自由討議を行いたいと考えております。

ヒアリングに入る前に、前回会合においてご質問のございました事項について、事務局より報告がございます。遠藤信用制度参事官、よろしくお願いします。

○遠藤信用制度参事官

資料の第二部会42-1というものでございますけれども、信託会社の経営の概況という資料をつけさせて頂いております。これは、前回の会合で、和仁委員の方からご紹介がありまして、ご質問ございました、まさに新信託業法のもとで信託会社がつくられているわけでございますけれども、そういった信託会社の経営状況はどうなっているのか、どういう仕事をしているのかというご質問がございました。我々、今回のいろいろな下準備をする段階で、この信託会社についてもアンケート調査及びヒアリングというのを行っておりました。その資料はそれを簡単に概略をまとめたものでございます。

あくまでご参考ということでございまして、一々について説明いたしませんけれども、表紙を1枚めくって頂きますと、信託会社の経営の概況というものがついております。運用型信託会社及び管理型信託会社がございます。特に、管理型信託会社は歴史が浅いんでございますけれども、運用型信託会社に関しても、せいぜい2年半程度の歴史でございますので、信託会社として今どういったビジネスになっているかというのは、まだなかなか一概に包括的に説明はできないのでございますけれども、上の四角に書いてありますように、総じて開業間もないこともあって、当期損益は赤字傾向である。しかしながら、いろいろヒアリングしてみますと、信託財産の受託残高あるいは受託件数は徐々に増加していて、信託報酬も順調に拡大しているという結果を聞いております。

それぞれの信託会社についての個別の数字、及びそれぞれのビジネスについての特徴等については3ページ以降につけております。ご参考までによろしくお願いします。

○岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、ヒアリングに入りたいと思います。ヒアリングをお願いいたしました3名の有識者の方々には資料2のようにヒアリングをさせて頂きたい事項をお伝えしてございますので、適宜ご参照頂きたいと存じます。

まずは、福祉型の信託について研究され、多くの論文を発表されておられます新井誠筑波大学教授から、「「福祉型信託」の活用とその担い手」について、ご説明を頂きたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

○新井参考人

筑波大学の新井と申します。20分の時間を頂いて、「福祉型信託」の活用とその担い手ということにつきまして、お手元の資料に基づいて話をさせて頂きます。

福祉型信託とはどのようなものとして考えるべきでしょうか。平成16年11月の国会の附帯決議は、高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託等を含め幅広く検討することを求めていますが、この附帯決議の背後には我が国の財産管理に関する深刻な現状認識があるように思われます。我が国は世界一の高齢社会であり、認知症の方が170万人を数え、その数は増加の一途をたどっています。広い意味での要保護者は600万人を超えるとも言われています。要保護者は自分自身で適切な財産管理を行うことはできません。しかも、今日の社会においては、都市のみならず、地方においても地縁血縁による財産管理を期待することがかなり困難な状況にあると言えるのではないでしょうか。そのような中において、社会的インフラとしての財産管理制度は果たして整備されているのでしょうか。

まず、信託法が改正され、装いを新たにしました。信託とは、委託者が受託者に財産を移転して、受託者が受益者のためにその財産を管理処分するという最も典型的な財産管理制度です。そこで、本来であれば、信託法が先ほど述べたようなニーズにこたえるべきであります。しかし、改正信託法は、商事信託を主要なターゲットとしており、とりわけ証券化・流動化のための信託を促進するための工夫が随所に見られるものの、他方、信託に関する裁判所の一般的監督権が廃止されたり、受託者の義務が任意法規化されたり、あるいは要保護者が信託を設定しようとするときの成年後見との関係については何らの配慮もなされておらず、個人向けの信託に親和性のあるものとはなっていません。

要保護者は成年後見制度を活用することも可能です。しかし、我が国の成年後見制度の利用率は著しく低く、恐らく先進国の中では最低であると思われます。国際的な常識では、総人口の約1%が適正な利用率と言われており、我が国の総人口は1億2,000万ですので120万人が適正な利用率となりますが、実際の利用は法定後見で10万件を超える水準にとどまっています。このような水準でも、裁判所は許容水準を超えたと主張しているのが現実です。認知症の方が170万人もいるのに、法定後見の利用が10万件超しかないということから、要保護者の財産管理をめぐる深刻な現状をかいま見ることができるのではないでしょうか。

年金制度の確立が急務であることは論をまちません。しかし、我が国の議論において徹底的に欠けているものがあります。それは、年金受給者が年金を受給する際の権利擁護の視点です。要保護者が年金を受領し、それを所要の支払い等に充てるためのバックアップのシステムが存在していないし、それが必要であるとの議論すらありません。英米では、レシーバーとか、アポインティーと言われる制度が機能しており、法定のレシーバー、アポインティーが年金の受領・活用のバックアップシステムとなっているのです。

このように見てくると、世界一の高齢社会である我が国における、特に要保護者の財産管理の現状には深刻なものがあることをご理解頂けたと思います。そのような現状を踏まえて、その解決を求めているのが平成16年11月の附帯決議の趣旨ではないでしょうか。したがって、附帯決議が求めているのは、実は高齢社会における信託の幅広い活用ということになります。本来ならば、信託には幅広い活用方法があり、とりわけ高齢社会においては、その活用が有用であるにもかかわらず、現状では必ずしもその活用が十分でないことを踏まえて、個人信託、民事信託の積極的な普及を図ることが附帯決議の真の趣旨ではないかと理解しております。

福祉型信託とは、要保護者が個人信託、民事信託を活用する際の一つの場面を象徴するものであり、福祉型信託の活用とは、個人信託、民事信託の活用の一環であることに留意したいと思います。もっとも福祉型信託が独自の概念として取り上げられるのは、福祉型信託には3つの固有の特徴があると考えられるからです。

第一に、定型的な金融商品の販売とは異なり、財産管理の個別的なニーズが個人信託の中でも特に高いこと。

第二に、受託財産額が低いことが多くの事例で想定されること。

第三に、収支のバランスという信託業の要件から外れる可能性が高いこと。

以上の3点を福祉型信託の特徴として挙げることができるのではないでしょうか。

個人信託の必要性を示す例として、東京都杉並区老女失踪事件を挙げることができます。この事件は次のような内容のものでした。杉並区在住の高齢女性は資産家であり、不動産と多額の預貯金を保有していました。家族構成は、この女性と重度の知的障害がある40代の子1人でした。この高齢女性は3つの希望を有していました。第一は、不動産を死ぬまで売却したくないとの希望です。悪徳業者等による不動産処分の強制から免れ、死ぬまできちんと保持したいと考えていました。第二は、この女性の死亡後、当該不動産を娘に承継させたいとの希望です。第三は、娘の死亡後、お世話になった杉並区の福祉施設に当該不動産を承継させたいとの希望です。結局この高齢女性は、悪徳業者に当該不動産をだまし取られ、殺害されてしまいました。

この事例における3つの希望は、信託を用いることにより実現可能でした。第一の希望は、信託を用い、不動産の名義を変更し、信託目的として高齢女性が死亡するまで当該不動産を売却しないと定めることで実現可能でした。第二の希望は、信託を用いて第三者に不動産を管理させた上で、利益を娘に享受させることで実現可能でした。娘への財産承継は民法上は簡単ですが、娘が財産管理能力を有していないため、たとえ不動産を承継させたとしても、娘の所有する当該不動産が悪徳業者により収奪される危険性があります。そこで信託を用いる必要があるわけです。第三の希望は、いわゆる後継ぎ遺贈ですが、信託を用いれば実現可能であると解することができます。改正信託法は、明文の規定をもって後継ぎ遺贈型の受益者連続を承認するに至りました。これにより第三の希望は実定法上も実現することが可能となりました。

個人信託により、意思無能力への対応、あるいは相続後の自己の意思の実現を図ることができるのは、信託に転換機能が備わっているからです。信託は委託者が有する財産権を委託者の支配権から離脱させることにより、委託者の属性を消し去るものです。委託者が能力を喪失した場合、成年後見制度が発動されますが、委託者の支配から財産を離脱させることによって、成年後見制度が発動されないようにするわけです。あるいは、信託を設定することによって相続問題を回避することができるのは、すべて転換機能に由来するものです。高齢社会において、個人信託、民事信託の活用が有用であるのは、信託の転換機能がうまく発揮されるからにほかなりません。

福祉型信託における受託者の役割とはどのようなものでしょうか。受託者には身上監護的配慮が必要となります。民法858条は、「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」と規定していますが、福祉型信託の受託者にもこのような身上配慮義務を課すべきでしょう。信託受託者の善管注意義務の一つとして、身上配慮義務を位置づけることも解釈論として可能ではないかと思いますが、さらなる検討が必要です。

信託銀行などに身上配慮義務を課すのは、実際問題としては不可能ではないかと思われますので、信託と後見、特に任意後見等を組み合わせて、信託受託者の財産管理機能と任意後見人の身上配慮機能とを連携させるのが現実的ではないでしょうか。実務界においては、信託銀行、信託会社の一部が信託と後見とを連携させた信託商品を受託していますので、その動向を注視していく必要があります。

いずれにせよ、必ずしも収支のバランスという要件が満たされず、身上配慮義務が課されることから、福祉型信託の担い手としては、成年後見業務を担っている社団法人リーガル・サポートというような公益法人、あるいは遺言業務を担おうとする弁護士会が設立しようとしているNPO法人などを想定することができます。

既存の信託業の担い手である信託銀行は、どのように対応すべきでしょうか。従来のままの組織で対応するのか、別法人で対応するのか、あるいは全く対応しないのか、共同受託とするのか、いろいろな選択肢が考えられますが、いずれにせよ、我が国の信託制度の発展に大きな責任を担っている信託業界には、信託業界にふさわしい対応を期待したいと思います。

ここで、イギリスの信託法の沿革から2つの示唆を得ることができます。第一に、20世紀初頭、とりわけ信託財産が少額の場合に受託者の担い手が見つけるのが困難になっていたこと、また一部の受託者に不正を働く者がいたことから、1906年にパブリックトラスティーアクトを制定し、パブリックトラスティーという公務員が受託者業務を引き受けることとなり、これにより少額の信託財産の受託が飛躍的に増大したと言われています。我が国の福祉型信託の担い手も、このパブリックトラスティーを一つのモデルとして参考にすることもできるのではないでしょうか。

第二に、イギリスの信託法の歴史においては、信託業の担い手である受託者が個人から法人へと移行してきたという事実を看過してはなりません。受託業務の永続性や受託者責任の大きさから、信託受託者は法人が担い手となるのが一般的です。我が国では弁護士個人が信託業務を担い得るとの意見も強いようですが、弁護士個人がタイトルホルダーとしての責任を負えるものと考えるのは、現実的ではないようにも思われます。もし、弁護士個人が信託業務を担い得ると主張するのであれば、それを実際に可能とするための基盤整備などの工夫が必要ではないでしょうか。

同様に、民事信託の担い手として親族が受託者となる可能性が改正信託法の国会審議において法務省などから強調されていたように思われますが、同じ理由により親族が受託者としてふさわしいとは考えられません。受託者は法人に限定すべきではないでしょうか。福祉型信託の法人受託者には十分な組織体制と安定した資本が必要となりますので、金融庁等の監督下に置くべきであると考えます。

検討事項としては、次のようなことが考えられます。信託法については、現行法が個人信託、民事信託普及のために妥当かどうかの検討が必要です。個人信託、民事信託においては、受益者保護のために、裁判所の後見的関与が必要であると考えられるのに、裁判所の一般的監督権を廃止したのはなぜでしょうか。受託者の義務を大幅に任意法規化して、受益者の保護は図れるのでしょうか。個人信託、民事信託において、自己信託や目的信託が用いられたときのセーフガードは十分なのでしょうか。

公益信託法については、公益信託を目的信託に位置づけている根拠があいまいです。ケイマンのチャリタブルトラストに由来する目的信託と公益信託とは全く異質のものです。ガバナンスが厳格であるはずの公益信託が、委託者が実質的に信託を支配している目的信託の一部であるとされると、公益信託の信頼性は揺らぎ、ひいては信託制度一般の信頼性にも打撃を与えることになるのではないでしょうか。公益信託を個人信託の重要な分野と考える立場からは憂慮を禁じ得ません。公益信託を福祉型信託としても積極的に活用し得るような議論が期待されます。

成年後見法については、成年後見と信託との相互関係を明確にすべきです。信託を成年後見の代替手段として用いることは可能であるかどうかの検討が必要となります。

信託業法については、現行法は株式会社のみを受託者として認めていますが、株式会社としての信託銀行、信託会社には引き続き個人信託の受託拡大を求めつつも、福祉型信託がビジネスとして成立しにくいことを考慮して、公益法人やNPO法人の参入を認めてはどうでしょうか。福祉型信託の受託者は信託業法に服するものとしますが、身上配慮が重視される福祉型信託受託者の参入基準、行為規制等、監督については金融庁のみの対応で十分なのかどうかも含めて検討が必要であるように思われます。

最後に金融審の役割について述べたいと思います。金融審議会の委員の多くの方々は、福祉型信託への対応は金融審の役割ではないとお考えではないでしょうか。確かに、金融について論ずるのが金融審の役割です。しかしながら、金融は社会的インフラの一つです。世界一の高齢社会である我が国の金融は、高齢社会の視点を欠いては機能し得ないように思われます。したがって、金融審が国会の附帯決議にも盛り込まれた福祉型信託に関する積極的な検討を開始することが、今求められているのではないでしょうか。信託法を勉強していて感ずることは、信託は社会の公器であるということです。とりわけ福祉型信託にはそのような性格が強くあらわれているのではないでしょうか。この社会の公器である福祉型信託を、高齢社会に突入した我が国の金融の世界に正しく位置づけることは、まさしく金融審議会の役割ではないかと愚考する次第です。

以上です。

○岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、次に、成年後見制度のもと、実際に後見人実務を行われ、その活動を通じ、後見制度に対する知見を有しておられます赤沼弁護士、深山弁護士より、日本弁護士連合会を代表して、「高齢者・障害者の財産管理と福祉型信託」について、ご説明頂きたいと思います。赤沼弁護士、深山弁護士、どうかよろしくお願いいたします。

○赤沼参考人

どうもご紹介頂きました赤沼です。私は、日弁連では高齢者・障害者の権利に関する委員会の責任者をしておりまして、信託法関係については、委員会にも所属しておりますが主に高齢者・障害者の権利擁護、あるいは高齢者・障害者の支援のためということで信託がいかなる機能を果たすか、その必要性はどういうところにあるかということで、少し意見を述べさせて頂きたいと思います。

ご承知のとおり、高齢者や障害者のうち、判断能力が減退した人を支援する制度としては成年後見制度があります。成年後見制度につきましては、本日の資料の中に、成年後見制度の概要というものが入っています。ここで民法に基づく制度と、任意後見契約に関する法律に基づく制度というのが図解されておりますので、これが比較的わかりやすいものではないかと思いますが、これを法定後見制度といいまして、判断能力の減退の程度が重くなるにしたがって、軽い方から補助、保佐、後見という3つの類型の支援をするようになっています。補助人、保佐人、成年後見人がついて、その上で取消権や代理権を行使して、本人を支援していく。その際、財産管理をし、また身上監護を行うというのが成年後見制度の中心的な支援の内容になっています。ですから、判断能力が減退したときのための制度というのは、非常に法制度が整備されて、非常に使いやすくなっているというところがあると思います。

さらには本人の自己決定権を最大限尊重する制度として任意後見人制度というのもできました。これは任意後見人契約に関する法律に基づいてこのような制度ができておりまして、本人があらかじめ自分の判断能力が減退することに備えて任意後見人候補者を選任しておくという制度です。法定後見制度においては裁判所が公的な監督をしますので、非常に信頼性の高い制度となっています。また、任意後見制度においては、任意後見人のほかに、任意後見監督人という監督者を選任する。任意後見監督人が選任されて初めて任意後見がスタートするという仕組みになっております。任意後見監督人はさらに裁判所から監督をされるという仕組みになっていますので、この任意後見制度も非常に信頼性の高い制度という枠組みができ上がっているわけです。

この制度が施行されたのは2000年4月からです。それ以前は準禁治産制度という非常にスティグマ性の名称のついた制度でした。そのために利用される割合も非常に低かったというのがあります。ところが、新しい制度が成立して以降、飛躍的に利用件数が伸びています。現在の総利用件数、先ほど新井先生のお話にありました10万件を超える段階にまで至りました。これはそれ以前の準禁治産制度の時代から比べると非常に利用件数が増加したということです。実は、全国の家庭裁判所もこの利用件数の増大に対応するのに大わらわになっているという状況で、かなりこの制度が全国的にも浸透しつつあると言えるのではないかと考えています。ただし、先ほどのお話にもありましたように、実際の、現実の需要、この制度を利用することが必要だと思われる人たちの数と比較すると、まだまだ利用件数が少ない、これは明らかなところだろうと思います。特に日本よりも人口の少ないドイツで100万件を超える利用件数があることを対比すると、まだ利用件数が少ないだろうということは言えるのではないかと思われるわけです。

また、もう一つの事柄として、この新しい制度が定着しつつある中で、この制度を担う第三者後見人の層がある程度でき上がったという大きな前進があります。禁治産、準禁治産制度時代は、申し立てがある都度、個別に裁判所が裁判所に関係する人たちに第三者後見を依頼するというレベルで、非常にある意味場当たり的な選任となる場合が多いというのが実情でした。ところが新しい制度ができてから、弁護士会、司法書士会、社会福祉士会、家庭問題情報センター、税理士会などで名簿を整備し、この成年後見制度を担う団体として名乗りを上げて、そして家庭裁判所と情報交換をしながら、成年後見人を推薦しているという実態ができ上がっています。

少し説明を忘れましたが、成年後見人に就任する人たちはどういう人たちかというと、79%が親族で、それ以外が第三者後見人、第三者、親族以外の後見人というふうになっています。これは、今回の資料の中で、最高裁家庭局がつくっている成年後見事件の概況という資料があります。この中で利用件数や第三者後見人、親族後見人の選任状況というものがまとめられております。この第三者後見人の割合というものは、従来と比べればかなり増大しているというのは間違いないところでして、この第三者後見人を担う団体もそれなりの整備をされたという実情にあるわけです。

したがって、高齢者・障害者の支援をする制度としては、成年後見制度を活用することで相当程度賄えるのではないかというふうに思えるのですが、実は、成年後見制度というのはあくまでも判断能力が減退した人のための制度で、なおかつ法定後見であれば裁判所に選任の申し立てをしなければならない。任意後見制度を使う場合には、任意後見契約公正証書をつくり、なおかつ任意後見監督人を裁判所に選任の申し立てをしなければならないというふうになっています。

基本的に判断能力が減退した人ためだけの制度ですから、判断能力が減退していない、しかし難病を抱えている、あるいは重度の身体障害がある、あるいは相当な高齢者になって行動が不自由である、外に出るのがなかなか思うように任せない、こういう人たちはそれだけで成年後見制度を利用することはできないわけです。この人たちのために支援する法制度というのは、現在のところありません。しかしながら、毎日のような新聞報道、マスコミ報道でもありますが、消費者被害やら、高齢者をねらった悪質商法というのは蔓延している。あるいは財産侵害という、財産を奪われた、横領されたというような事件も日々耳にする、また目にするという状況があります。こういう人たちのためにどのような支援をしていくのか、どのような支援ができるのかということが一つ大きな課題だったのではないかと思われるわけです。

また、判断能力の減退はないけれども、浪費をする「浪費者」と言われる人たちも現実にはおります。従来、準禁治産制度の時代には、「浪費者」も準禁治産宣告の対象になっていました。しかし、新しい制度ではこのような制度はなくなりました。したがって、財産を使い尽くしてしまうような浪費をする人がいても、それを保護することができないという現実があります。もっとも、浪費者の中には何らかの精神上障害があると思われるような人もいるようなのですが、しかしこの点については、まだまだ解明されていないところがあって、浪費をしているから成年後見制度を使うというわけにはいかないのが現実です。最も大きな問題としては、やはりこの浪費をする人に対して、どうやって財産を守るのかということが出てくるのではないかと思っています。

また、高齢者・障害者自身による財産処分の可能性がある場合、この場合には、成年後見制度では十分には対応できないことがあります。特に保佐レベル、補助レベルの人たちというのは比較的活動的で、保佐人、補助人がついても、その指導や援助に従わない、ある意味勝手にどんどん財産処分等を行ってしまうということがあります。確かに、保佐人、補助人に取消権が与えられれば当然後で取り消すことができるわけですが、実際に使ってしまったり財産を流出させてしまうと、それを取り戻すのは大変なことです。したがって、そういった活動的な本人の場合については、成年後見制度は十分な対応はできないということがあるわけです。

また、判断能力に減退がなく、体に障害がなくても、財産の管理が負担になっている場合にも成年後見制度は使えないわけですから、そのような人たちのためにも財産管理をする制度として信託が機能するのではないかというふうに思われるわけです。

それからもう一つ、「親なき後」問題というのが、やはり障害を持つ子を持った人たちの間で大きな問題になっています。知的障害者の本人・家族の団体の手をつなぐ育成会でも、この親なき後問題ということが、これはもとの常務理事の言葉ですが、「その語彙にとりつかれたように怯え、遠い未来に備えて対策をとるのが育成会運動のそのものであった」と、このように述べているほどです。結局、残された子供のためにどのような支援ができるか。あるいはその財産を守り、その生活を支えるためにどのようなことができるのかということは大きな課題になっているわけですが、その一つの解決策としては、もちろん成年後見制度があるわけですけれども、成年後見制度だけでは十分ではない場合も多々あり、そういった場合に信託が大きな役割を果たすといったことが言えるのではないかと思われるわけです。

それからもう一つ、二次相続に対する希望。これは先ほどの新井先生の話にもありましたけれども、後継ぎ遺贈の問題です。これは、子供のない夫婦で、配偶者の生活を保障するために財産全部をその配偶者に遺贈するということがよくあります。しかし、そうするとその配偶者が死亡した後は、その財産はすべて配偶者の兄弟姉妹に行ってしまうために、これに非常に抵抗を持つ、抵抗を抱くという人がいます。本来ならば、配偶者が亡くなったら、その後は福祉団体に寄附したいとか、あるいは公共に寄与したいという希望を持たれることが結構あるわけです。それから、また、後妻と先妻の子供がいるというような場合に、後妻の生活を守るために財産を全部相続させる。しかし、その後妻が亡くなったら、その財産は先妻の子供に相続させたいといった希望を持たれることもあります。この場合も、後継ぎ遺贈という制度があればこれができるわけですが、しかし民法上、後継ぎ遺贈というのは無効であるというのが定説です。そうなると、いわゆる一般的な遺言でその希望をかなえることはできないわけです。その際に有効な制度として浮上するのが、この後継ぎ遺贈方の受益者連続信託という制度で、これを念頭に置いて、今回の改正でも明文化されたのではないかと思われるわけです。

それでは、このような高齢者・障害者の財産管理として大きな役割を果たし得る信託について、これを受託できる者はいるのかどうか、あるいは受託しようとする人がいるのかどうかですが、しかしながら、残念ながら、現状ではこういったものを受託しようというところは皆無に近いと思われます。

まず、現行の信託銀行では、一般市民が持っているような小規模不動産やさまざまな財産を総合的に信託で受託するということはしていません。金銭信託は当然受託しておりますが、それ以外の総合的な信託はできないということになっておりまして、これを信託銀行に受託してもらうということは不可能な状況です。

信託会社が最近出てきて、わずかながらこのような信託を引き受けるというところも出てきているように見受けられますが、しかし一般市民の財産では、高額な信託報酬を支出することは困難です。今、成年後見制度、あるいは任意後見制度で言われている後見人の報酬、月額報酬の平均が3万円程度と言われています。それで実際、福祉信託だけを中心に、あるいは目的にした会社が運営できるかということです。そう考えると相当に厳しい状況になるのではないかと思われ、そういった福祉信託を積極的に受託しようという会社が、この先どんどん出てくるとは思えないわけです。

そうすると、やはりこういったものを受託するものとしては、ある程度福祉に理解を示すそれなりの有資格者か、福祉を目的にして高齢者・障害者を支援しようとするNPO等ということになるのではないかと思われるわけで、しかもそれは、信託だけをメーンに、目的にしたものでは到底運営できないと思われるわけです。そういうところから、実は弁護士は古くから高齢者・評価者の権利擁護の活動を展開してきていて、成年後見制度の中でも幅広い活動をしております。成年後見制度は、高齢者・障害者の支援をする一つのスキームである、手段であると考えておりまして、高齢者・障害者を支援するために信託も利用できるのであれば、さらに高齢者・障害者の支援がより充実し、またきめ細かい支援ができるというふうに考えているわけです。それを、一つの手段として考えること、あるいはまた大きな目的は高齢者・障害者の支援であり、さまざまな業務を行う中で一つの方法としてこれを使うということであれば、その信託報酬もそれほど多額なものを想定する必要はないわけで、そういった形で進めていくことであれば、十分信託を受託して、それなりの報酬で運営することができることができるということになると思われるのです。

ただ、先ほど新井先生のお話にありましたけれども、確かに弁護士個人では長期間に及ぶような信託を受託するのは非常に責任が重くなり、困難な面があります。ですから、おのずから弁護士が受託するようなものは、それなりの限定的な、期間の限定とか、あるいは信託の内容による限定とかもあるだろうと思われますが、しかし、やはりこういった報酬のそんなにそんなに期待できない信託については、弁護士のような有資格者がその業務の中で行うということが最も効率的なのではないかと思われるわけです。

それならば、弁護士はなぜ許されるのかというのがあるかと思いますが、このレジュメの中では72条の問題を書きましたが、それは除外しても一定の資格を有する者、あるいは一定の責任を、あるいは監督が行われているものについて、ある程度この参入規制について除外を設けることは許されるのではないかと思われることと、それからやはり信頼性を高めるためには、弁護士会として個別の監督システムをつくることは十分考えられるわけで、現状でも弁護士会では財産管理を行う場合には、全国の各弁護士会に設けている高齢者・障害者の権利擁護機構の中で、財産管理システムについての監督をするという制度をつくっております。

また、今、新井先生のお話の中でいろいろ出てきたことも踏まえて考えると、成年後見制度におけるように、個別に裁判所が監督するような公的な監督というようなことも将来的にはあり得るのではないかと思われますが、いずれにしろ、福祉型信託の受託ということで考えると、一定の資格を持つ者に広げていかない限り、この福祉型信託は広がっていかない、あるいは展開できないというふうに思われるわけです。

とりあえず以上です。

○岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは最後に、高齢者の個人向けの財産管理信託などを手がけておられます株式会社朝日信託より、その業務の状況等について、ご説明を頂きたいと存じます。皆見社長、どうかよろしくお願いいたします。

○皆見参考人

どうも、株式会社朝日信託代表、皆見でございます。どうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、意見書レジュメにしたがって、ご説明させて頂きます。

まず、株式会社朝日信託の概要・実績でございますが、弊社は平成17年9月に免許取得し、11月より営業を開始しましたが、本年年初までほとんど成約はなく、法令の定めによる純資産1億円を維持するための増資を続けてまいりました。現在、資本金3億8,000万円となっております。本年2月ごろより、ようやく徐々に受託件数が増え始め、直近の受託実績は、ようやく64件、51億3,900万円で50億円を突破いたしました。これに成約済の停止条件付信託、主として任意後見付き信託でございますが、これで、任意後見開始後受託予定という契約があるんですけれども、これが5件、14億円程度ございまして、合計すると65億円の受託高になります。

ちなみに、平成18年3月時点では4億6,000万円にすぎませんでした。19年3月時点では18億5,800万円ですので、この半年で業績は急上昇しております。来年度には単年度黒字転換は可能かと考えております。そういう状況でございます。

次に、当社が現在扱っている個人信託についてざっと説明させて頂きますが、まず、土地信託及びリバースモーゲージ信託でございます。土地信託につきまして、パンフレットを資料1として出させて頂いております。この2種類の信託は、必ず金融機関からの融資を伴う点が共通しております。土地信託は土地を受託し、当社が金融機関から融資を受け、収益建物を建築し、管理・運用するものでございます。リバースモーゲージ信託は、提携金融機関がそのままでは融資できない案件、例えば子供と同居しているとか、一部賃貸に供しているとか、あるいは現状住んでおらずに空き家になっているとか、そういう条件の場合に信託を設定することによって融資が実行されるというものでございます。お客様は生涯にわたって利息のみを負担されると。元本は相続開始後に不動産を換価して弁済することになっております。いずれの土地信託もリバースモーゲージ信託も金融機関からの融資を伴う点において、ほかの信託と際立った相違がございます。

次に、相続開始型財産管理運用信託でございますが、これは信託契約をまず締結しておくと。それから、相続開始時に受託いたしますという信託でございます。これは相続に関する自己意思の実現が、遺言や遺言信託より強力なものでございます。

次に、先ほど来いろいろ言っておられます任意後見つき財産管理運用信託でございます。これは資料2のパンフレットを見て頂ければと思いますが、これはご自分が将来認知症になる場合に生活に不安を感じておられるお客様に任意後見契約のお手伝いをするとともに、任意後見がスタートとした時点、すなわち後見監督人選任時でございますが、この時点で財産を受託し、信託が開始するものでございます。

後見制度に財産争いの要素を持ち込まないためには、後見人とは別に信託により基本財産を保全することが重要だと思われます。信託と併用することにより、任意後見人の負担も軽減されます。任意後見人候補者の選定に、必要以上の神経を使う必要もなくなります。

次に、4番目に扶養給付型財産管理運用信託を掲げてございますが、これは障害を持つ子供さんの親御さんが自分が面倒を見られなくなって後の子供の扶養のために設定する信託でございます。一人っ子の場合にはそのニーズは高まります。

次に、今よく受ける相談というか、今後手がけたいと思っておりますケースについて、お話しさせて頂きますが、まず、先ほど来言っておられます後継ぎ信託でございます。これは受益者連続型信託と申しまして、私どもは資料3で商品化して、パンフレット化しております。これは、ご自分の相続開始後の財産の使い方について、次のような希望を持っておられる方が随分おられるわけです。まず、残された配偶者の生活のために資すること。次に、その配偶者が亡くなれば、自分が選定した特別な者に財産を承継させたいと。さらにその者が死亡すれば、また別の者に承継させたいと。このような望みを可能にするのが、今回の信託法改正で認められた受益者連続信託でございます。

それから、福祉信託というのとは違いますが、介護業者から老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅の入居一時金の保全の信託の打診がございます。これは倒産隔離でございます。

それと、最後に公益信託でございますが、子供のない夫婦、あるいは子供がいても障害のある子供で結婚は考えられない場合、そういう場合に配偶者や子供を受益者とする信託を設定して、その受益者が死亡後公益信託にしたいとの希望を持っておられる方もおられます。これは結局先ほど申し上げた扶養型に受益者連続を付加したものというふうに考えて頂いて結構かと思います。

次に、4番目に福祉型信託とはということでありますが、国会附帯決議でこの言葉が用いられましたもののその定義ははっきりしておりませんが、個人信託を扱っております弊社としましては、次のように考えております。すなわち福祉信託とは、個人信託のうち、端的に高齢者及び障害者の財産を保全する目的で設定される信託であり、融資等の商行為は伴わない。要は高齢者・障害者の死亡により終了するものというふうに考えております。これは前項の当社の取り扱っている個人信託のうちからいきますと、マル3の任意後見付き財産管理運用信託、及びマル4の扶養給付型財産管理運用信託の典型例ということになると思われます。

この点を補足いたしますと、まず土地信託及びリバースモーゲージ信託は、いずれも金融機関からの融資を伴う点において、福祉信託には当てはまらないと見るべきです。なぜなら、委託者がいかに高齢者であったとしても、両信託は受託財産を担保に融資を受けることを前提とし、また換価によって借入債務を弁済することを予定しており、その高度な商取引性を持つスキーム自体から、福祉の概念の外にあるものであり、規制緩和には全くなじまないというふうに考えます。

次に、高齢者及び障害者の財産を保全する目的で設定される信託でありましても、先ほど来申し上げておりますように、当人の死亡を超えて存続する信託がございます。これは遺言代用信託とか受益者連続信託と申すわけでございますけれども、これらの信託は、ご本人の生活のためというよりは、むしろかなりの相当な財産をいかに次代に承継するかに重点があり、福祉の概念からは大きく外れるんじゃないかと。これも福祉信託からは除外すべきであるというふうに考えております。

それから最後に、端的に高齢者・障害者の財産を保全する目的で設定する信託でありましても、これを規制緩和する方向で考える場合には、財産額が高額の場合、商事的要素が高くなりますので、福祉信託という場合には、例えば、受託財産の額が1,000万円以下であるとか、そういう限定が必要なのではないかと考えております。

5番目に、高齢者及び障害者の財産を保全する目的で設定される信託、これを業として行う場合の問題点でございますが、この高齢者及び障害者の貴重な財産を名義を書きかえた上お預かりするわけでございますから、そのお預かり財産をいかに安全に保全するかということが最大のテーマになります。信託業では、お預かり財産をいかに安全に保全するかについて、以下の制度的な保障がなされております。レジュメでは3つの保障と書いておりますが、正確には4つになります。

まず一つが分別管理という制度的保障です。これは信託業法上、受託者は受託財産について、固有財産及び他の信託財産と分別して管理することが求められており、いわゆる倒産隔離されていることです。次に2番目に、株式会社として純資産1億円の財政的基盤の確保が求められているということです。3番目に、その各部門間のファイアーウオールも徹底され、内部監査等の体制の整備されていること。そして、4番目に金融庁により上記各事項、分別管理、1億円以上の財政基盤の確保、部門間のファイアーウオール、内部監査状況等が、毎年2回の財務状況の報告を最低として、適宜の立入検査等により、厳格に監督されていること。この4点は、これは高齢者や障害者の財産を名義をかえて預かるものである以上、これは絶対に必要な制度的保障であると考えております。

もう一つの重要なポイントとしましては、代理店、提携店の制度と思われます。先ほども述べましたとおり、分別管理や1億円の資本確保、部門間のファイアーウオール、内部監査等を実施していくには、当然相当な費用がかかり、継続的売り上げがなければやっていけません。片手間でできることではございません。代理店による体制が不可欠だと思っております。銀行、証券会社、大手介護業者、大手ハウスメーカー、税理士法人等による営業体制が必要であるということでございます。

6番目に、保全される高齢者及び障害者の財産を保全する目的で設定される信託の経営環境でございますが、冒頭で述べましたように、当社は平成17年11から営業を開始しましたが、翌年の平成18年中はほとんど成約がございませんでした。ようやく本年2月ごろから徐々に受託案件が増え始めました。この経過で明らかなように、いかにニーズがあっても、決して一挙に受託が増加するようなものではなく、長期的展望のもとに堅実に運営していく姿勢が求められると思われます。現段階において、福祉型信託に求められるものは、分別管理、ファイアーウオール、内部監査等の十全な組織体制と安定した資本力、及びこれらを担保できる営業体制であり、どれか一つでも欠ければ成り行かないといってよいと思われます。これらの完備を金融庁の強力な監督・指導力のもとで、制度的に実現する、保障することが重要と考えております。

担い手拡大の考え方についてでございますが、信託を正しく社会に広げていくためには、しっかりした理念のもとに組織体制、及び資本的基盤、営業体制、深い知識、高いノウハウが不可欠でございます。分別管理、ファイアーウオール、内部監査、最低純資産が1億円、金融庁への報告、監督、検査制度は絶対に崩してはいけないと考えます。したがって、だれでもできるものではなく、この業務を担える条件を持つ主体は極めて限定的です。分別管理、ファイアーウオール、内部監査を徹底するには、当然多大な経費がかかり、これを維持していくだけの収入が必要ですから、片手間、副業的にやれるようなものではあり得ません。結局、個人信託の担い手は分別管理、ファイアーウオール、内部監査を中心とする組織体制と、財政的基盤及び営業体制を有するのでなければならず、少数の堅実な主体に限定され、これをもし乱立を許せば、深刻で重大な被害者を生み、社会の大混乱を招くことは不可避と思われます。

最後に、弁護士による高齢者及び障害者の財産を保全する目的で設定される信託の受託の問題について、ちょっと意見を述べさせて頂きますが、実は今回調査してみたのですが、従来の弁護士業務との関連での金銭預かりに関してでさえ、過去2年半の間に、日弁連発行の『自由と正義』に公表されたものだけで、計16件の預かり金の着服横領の不祥事が発生しております。概要は遺産分割が4件、交通事故2件、離婚1件、債権回収・債務整理8件等になっておりますが、被害額は300万円から1億3,000万円に達するまでがございます。これは単位弁護士会の会長の事件でもございますが、これらの事案の多くで被害弁償もなされておりません。それから、40、50歳の弁護士経験豊富な者が多いことから見ても、その原因は弁護士の倫理観の欠如というよりも、経済的困窮にあるということが思われます。今後、弁護士大量増員により、このような不祥事がさらに増加することが真剣に憂慮されております。これを根絶するためには、懲戒という自己的制裁では実効性がない。さりとて倫理研修を幾ら強化してみても、着服横領の原因が倫理の欠如ではなく経済的な困窮によるものであるという以上、期待するような効果がないということは明らかと思われます。このような金銭預かり等に関する横領・着服を根絶するためには、結局、日弁連なり単位弁護士会による弁護士の財産状況の検査というドラスティックな制度によるしかありませんが、このような制度は到底弁護士業務にはなじまないと思われます。

このような状況で、さらに弁護士による福祉信託の受託を認めることは、高齢者や障害者の保護の観点から考えられません。福祉信託は、先ほども述べましたように、分別管理、ファイアーウオール、内部監査を中心とする組織体制と、最低純資産という財産的な基盤、営業体制を有する株式会社が金融庁による立入検査等による厳しい監督のもとに一歩一歩足元を固めつつ、社会に浸透していくべきものであると考えております。

以上でございます。

○岩原部会長

どうもありがとうございました。

それでは、ただいまの有識者の皆様からのヒアリング等を踏まえまして、この問題につきまして、皆様からご自由にご発言を頂きたいと思います。ご質問、ご意見はいかがでしょうか。池尾委員、どうぞ。

○池尾委員

お三方のお話を聞いていて、福祉信託そのものについての部分に関しては、ご意見の共通性は高かったと思うんです。それで、ご意見がやや分かれていたと思うのは、担い手の部分かなと思います。

お聞きしていて、基本的にトレードオフがあると。福祉信託というものの性質からして、高い収益性は見込めないということで、その面から担い手になり得る層について限定されてくるんじゃないかという要請と、それから、期間等を考えると、逆に非常にしっかりした企業体でないと担えないという側面もあると。だから、しっかりした企業体でないと担えないけれども、しっかりした企業体を支えていくだけの収益性が見込める分野かというとちょっと怪しいという、そういうトレードオフの中で、どういう担い手を適切と考えるかということで意見が分かれていたようにお聞きしたんです。

そうすると、そもそも福祉信託という概念自体は広いということがご指摘のようにあるわけで、福祉信託というのを、もう少し範疇ないし類型みたいなことを幾つか細分化したらどうか。丸ごとこういう人は担えるとか、丸ごとこういう人は担えないという議論はちょっと難しいところがあって、幾つかの類型に分けて、ある分野に関しては幅広い担い手に開放するというか、担い手の参入を期待すると。あるいは、それに対して、別の類型に関しては担い手に関してかなり厳格な制限を置くというふうな、そういう類型化みたいなことがやはりどうしても不可欠ではないかというふうな気が、聞いていてしたんですが、そういう理解で基本的によろしいのかということと、もしよろしければ、類型化の切り口としてどういうふうな軸が想定される――期間と金額の大きさみたいなことになるのかもしれませんけれども。類型化を考えるとすると、どういう類型化の切り口ないし、結果としての類型化のパターンみたいなものが考えられるかという点について、追加的にご意見というか、ご見識があればお聞かせ頂きたいというふうに思いました。

○岩原部会長

今のようなご質問でございますが、皆見さん、どうぞ。

○皆見参考人

その点につきましては、確かに福祉型信託というのは大きくくくってしまうんじゃなしに、かなり限定した形で、この部分はもっと広く担い手を広げるべきじゃないかというのは、確かにあるというふうには思うんです。

ただ、一方、私どもが実際に経験しておりますのは、例えば、任意後見に関する信託とかに限定いたしましても、かなり受託高に差がございます。例えば1,000万円とか2,000万円の不動産から10億円に近いものまでございます。その中で、受託財産を下げることによって、私どももそういう形も考えてはいるんですけれども、例えば1,000万円とか2,000万円の財産についてはまた幅広くということを、あまりに安易にそれを広げますと、結局高齢者にとって、本当になけなしの財産、もうすべての財産というものを守るということが本当にできるのかというところがございまして、やはり名義を変えて信託を受ける場合に、その方の財産を守るためには、かなり厳しい規制というものはどうしても必要じゃないかというふうに私は考えております。

○岩原部会長

今の点に関して、それ以外のご指摘等はありますか。どうぞ、お願いします。

○深山参考人

弁護士の深山と申します。先ほどは時間の関係もあって、発言をちょっと控えておりましたが、今の池尾委員のご指摘は私自身も非常にもっともだと思っております。

と言いますのは、ご案内のとおり、信託の使われ方というのは幅広く想定し得るわけですし、今回の信託法改正でも幅広いニーズに応じて柔軟な信託が使えるようにということで、さまざまな可能性を視野に入れております。そういう意味で、福祉型信託一つとってみても、かなり幅のある利用の仕方、あるいはニーズというものが想定されますので、それをひっくるめて一律に議論するというのは妥当ではないと思います。

では、類型化と言ったときに、どういう類型化が考えられるか。今のご指摘をお聞きしながら考えたのですけれども、確かに金額、あるいは期間というものも一つのメルクマールになるのかとは思いますが、それもやや単純な切り分けにすぎるのかなと。今、こうしたらいいという案を持っているわけでもないので、そういう意味では明確なご提案ができるわけではないのですが、例えば、我々弁護士の仕事というのは、それこそ千差万別で、100件相談があれば100件すべて違うということが珍しくないわけです。そういう中で、金額的にも億単位の事件を1人の弁護士が案件として処理するということは全く珍しくもないです。あるいは、採算性ということから言っても、必ず一つ一つの案件で採算性を考えながら業務をするかと言えば、通常一般の弁護士の行動のあり方としては、あまりそういうことではなくて、場合によっては、基本的人権の尊重なり社会正義という観点から、ある種公益的な観点から採算度外視で業務を行っていくことも珍しくないわけであります。

福祉型信託と呼ばれるようなもののうちのかなりの部分は、ご指摘のとおり、本来あまり採算性の上がらない分野が多いかと思います。しかし、だからこそ弁護士が担うに値する、あるいは期待されているところという面があるのではないかと考える次第でもあります。

それと、規制については、金融庁の指導の中で業法というものが整備されているわけですけれども、弁護士会としては、今日の資料にも提出させて頂きましたように、弁護士自治を支える懲戒制度という制度の下で業務を行っている弁護士、あるいは弁護士法人が、昔からやっているものについては、他の受託者とは違った規制についての考え方があり得るんじゃないかと考えている次第であります。

先ほど来、懲戒事例を、逆の意味でご紹介があって、弁護士は信用ならんという趣旨のご発言もありました。確かに、残念ながらそういう例があることも確かであります。今日の資料にも、そういう事例をあえて出しておりますが、それはしかし、ある意味では弁護士自治を支える懲戒制度が正しく機能している結果でもありますし、弁護士の懲戒制度は詳しく説明する時間がないので資料をご覧頂きたいのですが、そこでは、弁護士だけがその審査をしているわけではございません。弁護士以外の法曹はもとより、その手続が進む中では、弁護士、法曹三者以外の有識者によって組織された綱紀審査会といった組織の中で懲戒をすべきかどうかという、いわば外部の目による審査というものも行われております。そういう中で、残念ながら懲戒相当という事案が出てきているのは、今申し上げたように、ある意味懲戒制度が正しく機能している結果であると思いますので、そのところだけをとらえて、やはり懲戒事由が出てくるということは信用ならんというのは、やや議論としては早計なんじゃないかと思っている次第でございます。

○岩原部会長

新井参考人、どうぞ。

○新井参考人

類型化について、簡単に私が今考えていることを申し上げたいと思います。

現行の信託業法に運用型信託会社と管理型信託会社という区分がありまして、一番簡単なやり方としては、この分類に依拠することです。つまり、福祉型信託というのは、管理型信託会社の範疇で考えたらどうかということを前提にした上で、受託額とか期間とか、あるいは公益性というものをそこに加味していくということが、現行法の中で一番やりやすいやり方かなと考えております。

○岩原部会長

どうもありがとうございました。

 道垣内参考人、どうぞ。

○道垣内参考人

オブザーバーの道垣内ですが、類型化にも若干関係するのですが、3人の方々からお話を伺いまして、話の中身に2つのことがあったような気がするのです。1つは、その財産というものを受託者に移転することによって、安全な状態にするという問題です。

第二点としては、その財産をどういうふうに使うかということ。例えば、1カ月にこの物を買うといったような判断ができない人に代わって、その判断をしてあげるという話。この2つの機能があったような気がいたします。ちなみに、後継ぎ遺贈型の話は、ちょっと除いて考えた場合の話なのですが。

それに関連いたしまして、新井先生が、信託銀行が仮に福祉型信託というものを受託するという場合に、信託に任意後見人ということを組み合わせるということが考えられるということをおっしゃられたわけですが、このときに恐らくお考えなのはこういう話じゃないかなと思うのです。違ったら後でご指摘頂ければと思うのですけれども、つまり、受益者に対して、1カ月に幾ら給付をするのか、あるいはどういうふうな現物を給付するのかと、そういった判断というのは任意後見人が行う。しかるに、信託銀行は財産というものを、例えば高齢者が詐欺にひっかかって取られないようにするためにちゃんと自分の名前で管理をする。こういうふうなお考えで、先ほど申し上げたようにおっしゃったのかなと理解しております。もし仮にそうじゃなかったらお教え頂きたいのですが。

最後に、新井先生が公益法人とかNPO法人に対して受託をさせるということも考えられるとおっしゃったときには、そのときにはその判断というのは誰が行うことを前提でおっしゃったのかをお教え頂ければと思います。

さらには、赤沼先生にもお伺いしたいのですが、赤沼先生がおっしゃった話というのは、弁護士が、個々の受益者たる高齢者ないしはそういう方々のニーズを判断して、毎回の金銭とか現物給付の内容を決めるという形で、弁護士を受託者とする福祉型信託をするということをおっしゃっているのか、それとも、弁護士は財産を自分の名義にして預かります、セーフな状態にします、また、判断は別個のところでやってくださいという話なのか。もちろんその判断についてチェックをするという役目を担うということもあり得るのですけれども、そういう話なのかということにつきまして、ちょっとお教え頂ければと思います。

○岩原部会長

それでは、新井教授からお願いします。

○新井参考人

信託による財産管理なんですが、福祉型の場合に問題になるのは、財産を安全に管理したり保全するだけじゃなくて、それが受益者のためにきちっと使われるということが重要です。とりわけ、生活、医療、介護のためにいかに使うかという視点が重要だと思います。成年後見の方では、これを身上配慮義務というふうに言っているわけです。ですから、信託銀行でも定時定額の支払いはできるわけですが、例えば福祉的ニーズが急に発生して、多額の金銭の支出が必要だというときに、つまりそれは身上配慮義務に基づいて決断しなければいけないわけですが、信託銀行にそういう義務を課すことが果たしてできるだろうか。そこまで言うと、信託銀行の受託は腰が引けてしまうんです。

私が申し上げたのは、できれば信託銀行にやって頂きたいという思いからです。やりたくないのかもしれませんけれども、やって頂きたいという思いから、信託銀行には得意であるところの財産管理機能のみに限定して、別の部分、つまり身上配慮のところは別の方にやって頂いて、それを連携させればいいんじゃないかという趣旨で申し上げました。ですから、信託銀行が将来的に、身上配慮義務をやるんだということであれば話は別で、私の理解しているところでは、一部のアメリカの銀行などは、ソーシャルワーカーも雇用しているということなんです。要保護者が受益者である場合にはそういう対応もするということですけれども、今の日本の信託銀行にそこまで求めるのは無理ですので、一応分離しようというわけです。

それで、公益法人とかNPOが受託者になったときに、身上配慮義務はどうかということですけれども、基本的には私は一本化して、公益法人なりNPO法人の方で身上配慮義務を担って頂きたいというふうに思っています。ただしかし、それが無理だということであれば、やはり任意後見との連携ということで考えていくのが実際的かなというふうに思っております。

○岩原部会長

それでは赤沼参考人。

○赤沼参考人

弁護士が受託する場合、今のご質問ですが、両方の類型があり得るかなとは思っています。ですから、信託における財産管理だけをすると同時に、身上監護、財産管理契約を同時に結んで、信託による利益をもって使い道までも同時の役割を果たすということが一つ。

それから、もう一つ、ある程度それが分担することが可能なほどの信託報酬を出せるような事案については、財産管理の部分に当たる、信託による管理の部分だけ弁護士が行い、身上監護の部分を社会福祉等にまた別に委託するということも類型としてはあり得ると思います。ただ、福祉型信託の場合、多くはそれほどの報酬を期待できないものであることを考えると、やはり受託する弁護士が両方ともやらなければならないだろうというふうに思います。

例えば、成年後見における後見人は既に同じことをやっています。私も今、十数件の成年被後見人になっていますけれども、この場合、確かに名義は移らないんですけれども、後見人はすべての権限を持ちますので、処分をする権限も持つし、管理だけではなくて処分権もあるわけですから、そういう意味では、その不動産の賃料や、あるいはそこにおける収益、あるいは利息等をもとにして、本人の生活に必要な資金を出していく。そしてそれを支払うということを、すべて後見人は現実にやっているわけです。

先ほど来、金額によって分けるというお話もありましたけれども、現状では、成年後見における後見人は、全幅の権限をもって管理し運営し、そして本人のためにお金を使っているという現実があるわけです。ただ、名義が変わらないというだけですね、実際は。だから、それと同じような役割を、今度はさらに名義を移すことによって、安全に財産を隔離して、その上で財産管理を行うということは十分可能だというふうに考えています。

以上です。

○岩原部会長

道垣内教授、よろしいですか。

ほかに。小島委員、どうぞ。

○小島委員

お三方のご意見を伺いまして、まさにこれから高齢者・障害者の財産管理なり、日常的には金銭管理を含めて、そのニーズというのはますます高まるだろうと思います。そこをどうするかというところから、この福祉型信託という課題が出されていると思いますけれども、必ずしも信託、あるいは成年後見制度ではない、その類型的なものとして、今各地域における社会福祉協議会がやっています地域福祉権利擁護事業というのがあります。判断能力がなくなった場合には成年後見にいくのですが、その前の段階で、必ずしも一定の判断能力が低下したということでもなく、最終的には判断力があるという方を対象にしています。しかし、その方の日常的な金銭管理サービス、介護とか預貯金の出し入れとか、そういう金銭管理、あるいは公共料金の支払い、家賃の支払いといったような金銭管理サービス、そして財産保全サービスもやっています。

財産保全サービスというのは、預貯金の保管、あるいは不動産権利書の保管という、証書の保管なんです。財産管理まではしていないんです。財産保全サービスというようなことも、この地域の福祉権利擁護事業という形で、社会福祉協議会、社会福祉法人ですけれども、ここが各都道府県、あるいは地域で行っているということもありますので、これをさらにきちっとした制度としてどう支えるかという、それをもう少しきちっとした体制を組むということが、今議論されています福祉型信託というところにつながっていくんではないかと思います。

そういう意味では、成年後見人あるいは任意後見制度と信託機能とのドッキングといいますか連携ということが必要になってくるのではないかと思いますので、新井先生がご指摘されているように、公益法人等、あるいは社会福祉法人といいますか、そういうようなところが担えるような仕組みが可能かどうかということではないかと思います。その辺りについて、新井先生は、今、地域で行っています地域福祉権利擁護事業というものをどういうふうに位置づけをされているのか、その関係で考えているか、もしご意見があればお聞かせ願います。

○岩原部会長

新井教授、お願いします。

○新井参考人

地域福祉権利擁護事業は、お話があったように、一部の社会福祉協議会が担っておりまして、非常にうまく機能しているところもあります。ただ、全国的に見ると、このサービスの普及はまだ非常に限定的だと思います。非常に積極的な社協もあれば、ほとんど手がけていない社協もあるというのが現実だと思います。

ただ、積極的にやっているところについては、もう少し能力を高めてもらって、それで社会福祉協議会が福祉型信託の分野に参入していくということも、これも一つの選択肢としてはあると思います。ただ、社会福祉協議会が本当に受託者としての能力まで持つことが可能なのかどうかについてはすごく議論の必要なところではないかというふうに思っております。

○岩原部会長

今松委員、お願いします。

○今松臨時委員

今、お三方のお話を伺いまして、特に新井先生がおっしゃっていた財産管理と身上的配慮、ここのところをどううまく組み合わせていくかと、ここについては、非常にわかりやすいというか、単純に既存の方の信託銀行ではなかなかできないというか、もともと赤沼先生のところのレポートにもあった任意後見人の報酬、3万円ぐらいという、信託になればもう少し上がると思うんですけれども、そう大きくないと。

そうすると、流れとして、そういう形というものをどうつくっていくのかというのが一番現実的な気がするわけですけれども、そこでちょっと一、二点、お教え頂きたいんですけれども、もう一つ、これは皆見さんがおっしゃっていた財政的基礎とかそういうところをおっしゃいましたけれども、例えば弁護士さんがそれをやられる場合の財政的基礎とか、こういうものについてはどのように考えればよろしいのか。つまり、今までやってきたこととして、それはそれでわかるわけですけれども、実質的に細かいものとかいろいろなものの中で、額の非常に小さいものだけではない中でやっておられるというお話でしたけれども、そこについての問題をどのようにお考えになっているのかということ。

もう一点は、皆見さんに伺いたいんですけれども、業としてこの福祉型の信託というのを、先ほど類型としてマル1マル2マル3マル4と土地信託が始まって扶養給付型の信託のところまであって、マル3マル4が主に福祉型信託に当たるんではないかというお話でしたけれども、これからいろいろ朝日信託がさらに業を拡大していくというか、発展させていく中で、福祉信託というものを、あまり収益性が高くないというのはそのようですけれども、実績に基盤としてこれを拡大していく場合、マル1なりマル2、それなりのものが全体を支えていくという格好になるのかどうなのか、そういう点について教えて頂ければと思います。

○岩原部会長

それでは、まず赤沼参考人、お願いします。

○赤沼参考人

福祉型信託もそうですが、基本的に高齢者・障害者の財産管理を行う場合に、信頼性をどうやって高めるかということが一つの課題となっておりまして、弁護士会では、弁護士会を通した財産管理を行う場合には、弁護士会が紹介する財産管理ですね、この場合には基本的に弁護士賠償保険に入ること。それから定期的に弁護士会に運用状況を報告をすることというのを義務づけています。ですから、信託を受託できるようになった場合にもそのような監督があり得るのではないかと思っております。

成年被後見人を推薦する場合もそういった規制を考えておりまして、基本的には弁護士賠償保険によって、万一の場合に備えるという指導をしています。

○岩原部会長

それは十分に保障できる範囲の額の保険ということになるわけですか。

○赤沼参考人

そうですね、大体弁護士会によって最低基準を設けているところと設けていないところがあるんですが、1億円ぐらいが基準じゃないかと思うんです。

ただ、現状個別に受託している場合には、一般市民の後見や財産管理ですので、それで十分対応できるのではないかと思っております。今のところ全く事故はありませんので、そういう具体的な事案にはぶつかっていませんけれども。

○岩原部会長

今松委員のご質問には、今のような事故が起きたときの保障ということのほかに、そもそもそういうことをビジネスとしてやることの財政的基礎がどのような状況にあるかというご質問も含まれていたと思いますが。

○赤沼参考人

ビジネスで行う場合の財政的基礎といいますと、収入、報酬をどう見るかということですか。

○今松臨時委員

というか、つまり法人として今やっている場合には、先ほど皆見さんがおっしゃられていた純資産で1億円というような、そういうつまり基盤として安定的なものがあるかどうなのかというところ、これについてはどうなんでしょうか。

○赤沼参考人

弁護士の場合は、弁護士会で財産管理等を受任できるように、一応弁護士会の財産管理者に登録するように指導するわけですが、登録の要件は、一応弁護士の経験年数でやっています。ですから、基本的に弁護士が財政的にどのような基盤を持っているかということは審査しません。そのかわり、保険で万一の場合は対応するというシステムです。

○岩原部会長

よろしいですか、その点は。

○深山参考人

補足してよろしいでしょうか。恐れ入ります。

まさに信託をした場合でも、どういう信託をするかで異なり、単純に言ってしまえば、例えば運用しようということになれば、そのリスクをとるわけですから、財政基盤というのは極めて重要な問題になりますけれども、管理中心の信託であれば、必ずしも事故があったときに受託者の財政基盤で支えるということを直ちに想定するという場面は基本的にはない――全くないとは言えないにしてもないし、その部分については保険で賄うということで足りるのではないかと思っております。

もとより、前提として、弁護士が仮に信託を受託するとしても、いわば正面から信託業務を業務として取り込んで、それを中心にやるという場面を想定しているわけでもなくて、むしろもろもろの法律問題、あるいは紛争等が絡んだ中で、その解決の手段の中で信託という道具がうまく使える場合があったらそれを使いたいと、使うべきだと、こういう観点ですので、正面から信託業を中心に弁護士がやるというイメージを持って考えられると、ちょっと違うんじゃないかなというふうに思っています。

○岩原部会長

あと、皆見参考人に対するご質問もあったと思いますが。

○皆見参考人

まず、ご質問に対する答えになるかと思うんですけれども、私どもの会社のこれからの将来を見据えての取り組みなんですけれども、もちろん土地信託、リバースモーゲージというのは提携金融機関等からの紹介等がございますので、かなり定期的に収入というものが見込めますので、これが柱になるということはそのとおりでございます。

ただし、私どもはこの任意後見、あるいは障害者のための信託につきましても、今まで何件かございます、十数件になるんですけれども、決して少額であるからということでお断りしたことも全くございませんし、あるいは受託財産、やはり不動産とかになりますと、二、三千万ぐらいになります。その中で、例えば2%程度の報酬でやっていくし、これはその中でかなりの資産というものが出てまいりますし、十分にこれは私どもの仕事として、営業として中核になすものだというふうに考えております。

逆に、私も弁護士ではあったので、それでしかも弁護士の皆さんを攻撃するわけではないんですが、それはないんですけれども、例えば弁護士の立場で付随的に何かそれらの信託を扱われるとして、その報酬をどの程度考えておられるのかとか考えますと、弁護士さんとしての方がペイしないということもないことはないんじゃないかというふうに思ったりもしています。

そしてもう一つは、やはり弁護士自治の中でいろいろ手当てがあるとは言いよう、私は、この本当になけなしの財産をお預かりするということになれば、これは副業的なものでは絶対あり得ないし、財政的基盤というものが絶対に必要であるし、逆に間違いがまた弁護士さんの中で起こったりすれば、これは信託を全く暗闇の中に、個人信託につきまして、もう日本に浸透することがなくなるんじゃないかという危惧を抱きますので、ですから、やはり弁護士さんが担当されるにしましても、かなりその辺について、大きないろいろな規制とか、そういった手当ては必要であるだろうし、むしろ単体で弁護士さんが扱われるのは、これはそぐわないというふうに非常に強く思っております。むしろ先ほど言われました社会福祉協議会さんとかが、もっと低い費用でそれらをやっていって頂くという方向に考えるべきではないだろうかというふうに思っております。

○岩原部会長

吉野委員、どうも失礼いたしました。

○吉野委員

幾つかあるんですが、一つは財産の保全ということを中心に考えられていたりしたんですけれども、例えばインフレが非常に激しくなって、本来であれば、うまく運用していれば、それぐらい生活費が出るのに、そういうことができないということでも、少なくとも元本さえ棄損しなければいい、そういう考えのようにも思うんですけれども、ですから、最もいい形である程度運用するということは、ここでは全く考えないのかどうかということです。特にインフレが激しいときは、やはりそれなりの運用能力、運用型というのも重要になってくるような気がいたします。

それから、2番目は、担い手の先ほどフィーの問題が、どういう形で利用者に開示されるかどうか。それがどういうのが適切でというがあると思います。

3番目は、担い手を広げれば広げるほど、恐らく手数料が下がると思いますけれども、それに対するチェック体制、例えば弁護士会の中にそういうことをきちんとチェックする体制があるのかどうか。特に規模が小さい方も多いと思いますので。

それから、その次の点は、こういうのはノウハウというが蓄積していくと思いますから、そうすると、それによってある業態が一生懸命それを専門にすればいいでしょうし、弁護士さんでもこれを専門にされる方というのは、それなりに知識が出てくると思いますから、そうすると弁護士会の中で、こういう人に対しては非常にいいと。これはちょっとよくないという形で、中でのスクリーニングというのが可能かどうかです。

最後は、これはビジネスとしてうまくいく可能性もあると思いますが、長生きリスクというのがあると思うんですが、そうしますと、もう高齢者の方の財産をついにゼロになったと。どういう形でこれまでは、そういう方に対処されてこられたのか。教えて頂ければと思います。

○岩原部会長

まず赤沼さん。

○赤沼参考人

幾つかありまして、基本的なことだろうと思いますが、運用を考えているかということですが、運用は考えていません。やはり弁護士はそういった運用について、必ずしもプロではないわけで、基本的には管理型のみを考えています。ある意味、現在行われている成年後見の後見実務の中で行っていることをより一層安全な財産保全手段として信託を使いたいという発想なんです。

それから、担い手のフィーという問題を開示できるかということですが、従来、弁護士会では、日弁連報酬基準等を設けていたんですが、基準が廃止されたんですね。ただ、弁護士はそれぞれ個別に自己の報酬について開示することになっていますので、そういう意味では、基準等は明示することは、弁護士会としての指導はしていることになります。

それから、チェック体制ですが、弁護士会では全国の弁護士会に、高齢者・障害者の権利に関する委員会を設け、そしてそのもとに財産管理、あるいは支援機構をつくっています。そこが中心になって、現状では財産管理に関する、あるいはこういった問題についての高齢者・障害者の支援に関するチェックをしています。ですから、ここの機能を充実させることによって、チェック体制をつくることが十分可能だと考えています。

それからノウハウの蓄積という意味では、今申し上げましたセンターが頻繁に研修を行い、その都度そのノウハウを蓄積し、伝えていっています。多いところでは毎月ように研修を行っています。もちろんその中でベテランの、こういった問題について習熟した弁護士がどんどん成長していっておりますのでスクリーニングも可能ですし、弁護士会にその紹介を求めてくれば、その中でそういったものに習熟した弁護士を紹介していくということも十分可能になっているというふうに考えています。

長生きリスクの問題については、現状の成年後見制度でもあるんですが、途中で財産が枯渇してしまって収入がなくなったらどうするかというのがあるんですけれども、後見実務の中では生活保護や、ほかの年金、あるいは社会福祉制度を利用するということで、そういったものに対応しています。ですから、信託で管理型でやっていくわけですが、預貯金しかない場合にはそういうこともあり得ると思うんですが、そういう場合には現行の後見実務の中で行っている経験をそのままここに生かすということは可能だと思っています。

○岩原部会長

ほかに何かございますでしょうか。

 どうぞ、田川委員。

○田川専門委員

信託の実務に携わっている者として意見を述べさせて頂きます。

先生方の大変貴重なご意見を賜りまして、ありがとうございます。また、新井先生からは、現状の信託銀行、信託会社に対して叱咤激励を頂いたというふうに、感じております。

いわゆる福祉型の信託につきましては業界の中でもさまざまな意見がございまして、明確に定義するのは、率直に申し上げて非常に難しいというふうに感じております。ただ、このような中であえて申し上げれば、財産管理に関して申し上げると、信託銀行、信託会社では取り扱いが可能なわけですけれども、新井先生のお話の中でもございましたように、身上監護に関する行為等につきましては、または身分行為を伴う場合でございますが、こういったものは、現状の信託銀行や信託会社で取り扱えない事例も多々あるというのも事実でございます。こういった中で、このような分野、いわゆる福祉型の信託という分野に担い手として新たな業態が参入するということについては、ある意味でいうと信託の制度の発展のためにも期待されるところだというふうに、私どもは考えております。

ただ、この類型の信託は、特に受益者については高齢者や障害者というケースが多く想定されるというのは、今までのお話の中で出ているとおりでございまして、社会的に保護される立場であるというふうに考えます。したがいまして、受益者の保護、信託制度の健全な発展ということを考えますと、やはり適切な参入基準があるべきだろうというふうに考えております。そういう意味では、参入基準、行為規制、監督のあり方ということを、この審議会で十分に議論して頂くことが必要なのかというふうに考えております。

ただ、信託銀行、信託会社につきましては、実務的な蓄積は非常に長年、または最近設立されました信託会社におかれましても、いろいろ切磋琢磨して、事業を拡大してきて頂いておりますので、これは一日の長があるかと思いますが、例えば、高齢者・障害者などの福祉といったものに関しては、より精通した専門家がおられるということも事実でございますので、ある意味で言うと、こういった福祉に精通した方々との連携をしていくということも一つ視野に入れて考えていかなければいけないのかなというふうに考えています。

それから、二、三、実務的な点で気がついた点を申し上げますと、先ほど吉野先生からも運用と管理という話で、実際に運用しないで管理だけでとどまるのかどうかというお話がございましたけれども、これは私どもも感じておりまして、お預かりをすることそのものが、果たしてそれが管理であるのかどうかということで申し上げますと、私どもが現在取り扱っている福祉型の信託は、先ほど赤沼先生からも幾つかご指摘がありましたけれども、金銭の信託が中心でございまして、例えば特別障害者扶養信託、いわゆる我々は特贈――特定贈与信託と言っております、もしくは特約付きの金銭信託、これらはいずれも運用を伴うものでございます。やはり金銭を受託して、受託者として管理していく以上は、それが一定の範囲にとどまるにしても、例えば特定金銭信託のように指図を受けて行うものでない場合は、これはやはり基準の問題もありますけれども、何らかの運用を行っているのではないかなという感じがしております。

それから、もう一つは、特約付きの金銭信託等については、お客様のニーズに合わせて、各社とも創意工夫し、残高も徐々に増えつつありますけれども、更にこの9月に施行されました新しい信託法で、一つは信託法の第90条で遺言代用の信託、それから91条の後継ぎ遺贈型の受益者連続に関する規定、こういったことが創設されて、ある意味で言いますと、この分野への新たな取り組みが可能になったと、こういうふうに考えております。

残高がどれだけ伸びれば非常に活用されているのかという問題がございますけれども、これは単に仕組みだけではなくて、税の問題も一つはございます。私ども信託協会としましては、特に今申し上げた後者の後継ぎ遺贈型の受益者連続に関する規定については、現在、相続税での手当てが十分にされていない、つまり信託で行うと連続して課税されてしまいますが、負担付遺贈の方はそういうことではないので、実際にはなかなか使われないという点がございます。したがいまして、こういったような税の要望も現在行っているところでございます。これにつきましては、今後我々も、切磋琢磨して、取り組んでまいりたいと考えております。

それから、先ほど財産基盤のお話が出ましたので、もう1点だけ実務的な観点から触れさせて頂きます。先ほど不正の話とかいろいろ出ましたけれども、特に財産を管理する、名義が変わるということのリスクというのはかなり大きいという点がございます。例えば、一つの不動産を預かりますと、もしも事故が起きれば所有者責任が生ずることもあるという点が一つございます。それから、不正でなくても、人間のやることですから、私どももそうですが、幾つかの件数を扱うと必ず事務ミスが起きます。つまり、そういったオペレーショナルなものに対してのリスク、これに対する財産基盤というものはやはり必要だという観点で、ご議論を頂く必要があるのかなと、かように感じております。

 以上でございます。

○岩原部会長

どうも。

野村委員、どうぞ。

○野村委員

中央大学の野村でございます。今の財政的な基盤にやや関連するんでけれども、私はできれば弁護士の方々に、ぜひこういう分野でご活躍頂きたいなというところがあるんですが、そのためには、なるべく皆さんのご懸念をクリアしていく努力が必要だろうと思います。いわゆる弁護士会によるいろいろなコントロールというものは、より一層強化して頂く必要があるかと思うんですが、やはりどうしても必要なのは財政的な基盤かなと私は思っております。

そこで、先ほどちょっと弁護士賠償責任保険の話はありましたが、皆見参考人がおっしゃられましたけれども、一番懸念されるのはやはり着服の事例のように、預かったお金を自己の、いわば弁護士事務所の維持費のために使ってしまうというような事態になりますと、これは当然弁護士賠償責任保険でも免責事由ということになりますので補償してもらえないということですから、結局その部分に対する何らかの財政的な基盤というものがありますよということが必要になってくると思います。財政的基盤があれば、それは当然のことながら、そういう着服も起こりにくいということになるわけですので、そこのところをどうやって担保して頂くかことだと思います。

本来であれば、ある程度保証金を積んで頂くとか、そういうような制度設計というのは、例えば保険の仲立人の制度のようなときに存在していますので、そういうようなことが必要かなと思いますが、それがやや過大過ぎるというのであれば、別途ボンドのようなものを組んで頂いて、その金融機関、銀行なり損害保険会社なりのボンドを買って頂いて、それで万万が一のときには、財政的な基盤の補償金のかわりにするといったような工夫をもうちょっとやらないと、なかなか世の中的には納得して頂けないんじゃないかなと思うんですが、もし仮に、このボンドのことを度外視しまして、保証金を積んで頂くというような制度を求められた場合、弁護士会としては受けることは難しいのかどうかというのをちょっと教えて頂ければと思います。

○岩原部会長

赤沼さん、どうぞ。

○赤沼参考人

前から申しましたように、なかなか財政的に資金的に、報酬が期待できる事案じゃないので、その上さらに保証金を積んで、それを受託するということになったら、多分受託する人はいなくなるだろうと。かなりボランティア的にやろうという人が多いんです、この分野は。高齢者・障害者の分野をやっている人、これは成年後見制度になっている団体、司法書士会も含めてそうですけれども、かなりボランティア的な意識でやっている人が多いです。一般的な弁護士業務の方がはるかに、実を言うと報酬も期待できるし、収益性は高いわけです。その中で、この高齢者・障害者の分野で活動しようという人たちは、かなりボランティア的な献身的なことでやっている人たちなので、その人たちにさらに保証金をというのは、なかなか言えない。

ただ、一つ言えるのは、実は、私は東京弁護士会ですが、東京弁護士会の財産管理をやっているセンターでは、会として、財産管理センターとして保険に入っています。財産管理センターが紹介して財産管理を受任した弁護士が不祥事を起こした場合には、その保険が使えるようになっています。ですから、こういう形での監督や財政的な基盤を整備していくということは可能だろうと思っています。

○岩原部会長

和仁弁護士。

○和仁委員

弁護士の和仁です。さっきから伺っていると、皆見先生と赤沼先生、深山先生の議論は、何か違う、非常に対立しているように見えるんですけれども、実は本件の問題は同じところにありまして、要するに既存の受託を専門とする業者がとても入ってこない、そこのところで困っている人たちがいる。それをどうやって救うのかという同じ話なのではないでしょうか。

なおかつ、弁護士の仕事というのは、これが信託業法を前回改正するときにも、弁護士による預かり金について、信託業法の適用を外してほしいということを私は申し上げたと思いますけれども、基本的には弁護士業務には人の財産を管理する、受託者として活動するというところと共通した面があるのは、これは事実です。もう一つ、先ほど赤沼先生がおっしゃいましたように、見るに見かねてやってあげているという面が多いと思うんです。

金融庁は信託業法しか管轄していないわけですけれども、金融庁が考えなくちゃいけないのは、そういう活動に信託業法を邪魔するようなことはないようにということではないでしょうか。何か議論を伺っていると、ビジネスチャンスがあるんじゃないかと思われるかもしれません。確かにビジネスチャンスがあるような案件もあるんでしょうし、多分皆見先生はそちらの方にかけていらっしゃるんだろうと思いますし、それはそれでいいんですけれども、やはりこういうふうな社会的なニーズがある、しかしビジネスチャンスにはなかなかなりづらいものをどうするかということが、ここでの問題ではないでしょうか。ビジネスチャンスになるような形で何とかできないかということは当然考えられますし、新商品を開発するというのも一つの手でしょうけれども、もう一つは、一定のバーを設けて、それで小規模な案件――すみません、私は金額でやるのがいいのかどうかよくわからないですけれども、その案件に関しては弁護士がやるということに関して、信託業法は何も言わないとしてはどうでしょうか。

それから、野村先生から保証金はどうかというお話がありましたけれども、事故を起こす人というのは1件だけで事故を起こすんじゃなくて、何件も一緒にやってしまって、それが後日明らかになるわけで、足りるはずがないんです。今の保険でも不十分なはずです。ただ、ご本人の自覚を高めるためには、いいのかもしれない。だけど、そういうものに頼るのではない。やはり、財政的基盤はある程度考えなくちゃいけない。

保険しかないのかなという感じがします。ただ、保険会社も、弁護士賠償責任保険というのは確か赤字だったと思います。ですから、どうするんですか。これははっきり言って、貸金業法のときと一緒で、要するに公的な組織がどこまで手を貸してあげられるかという話じゃないかなと私は思います。

もちろん皆見先生は、何かビジネスチャンスにできるんじゃないかということで、立派な努力をやっておられると私は思います。そういうふうにビジネスが育っていってほしいわけですけれども、やはりそれにふさわしい案件とそうでない案件があるわけで、それにふさわしくない案件はどうするかというと、やはりボランティア的な弁護士の、ある意味では赤字サービスに依存しなくちゃいけない面が残っており、今のところ、それを担う地方の地域福祉権利擁護事業というのがそんなに伸びていないということだと、ボランティア的な業務については信託業法がそこで邪魔をしないということの枠組みも考えてみる価値はあるのではないかなと思います。

ただ、そうは言っても、弁護士に関して、懲戒制度があるから大丈夫だというのは、これは弁護士会の中だけの独りよがりの議論です。実際には懲戒にいかなくてもひどい例というのは多数あり、さっき皆見先生がおっしゃったように、これから弁護士の人数が増えてくると、多分悪いことをする人はいっぱい増えてくると思うんですね。『自由と正義』の後ろに載っている懲戒案件というのは、弁護士の数が増えてくるに従ってだんだん増えてきています。

もう一つ申し上げなくちゃいけないのは、私も研修で言われたのですが、弁護士って登録してから20年目を超えたところから危なくなるんですね。そうすると、やはり弁護士の事故を何とかチェックするシステム、それで利用者あるいは社会全般に対して、この案件を扱って信託を運用している。小さな信託だけれども受託者となって動いてくれている弁護士というのは、ちゃんと透明に問題がない人ですよということを、やはり公的に認証するという制度を入れざるを得ない。それには弁護士自治だけではみんな納得しないと思います。

こういう議論をしていくと、どうも法律的にグレーなところをどうするのかという問題になります。ここで議論できるとしたら、そこだけではないかというふうに私は思いました。

○岩原部会長

川本委員。

○川本臨時委員

そもそも論の感想で恐縮ですけれども、福祉型信託というのはとても耳障りがいい、だれも反対しない言葉だと思います。そうではあるけれども、概念としては共有されたものがないというように、ヒアリングをお聞きして思いました。高齢者・障害者という最もケアを必要とする人たちに対する社会政策を、金融の世界で受けるのはとても難しいと思います。特に後見制度が十分とは言えないということのかわりとして信託を活用するためには、幾つもの議論のステップがあって、すぐにはいかないことのように思います。もちろん金融は社会のインフラではありますけれども、やはり信託業法は事業者法ですから、事業として成り立つことが大前提だと思います。

あと、個人的に思いますのは、アメリカとかイギリスのように、信託という商品が広くあまねく普及して、それほどのお金持ちでなくても一般的な人たちにも広く利用される商品であって、そういう世界があって、それは採算がとれていて、その後で福祉的な信託というものが、採算はとれなくても例外的に存在するというのであれば理解できますけれども、福祉型信託の方が先に出てくるには、もうちょっと議論が必要なのではないかなと思いますし、クロスサブがどうしても出ますから、それはそれで不健全になるので、それをどういうふうに解決するのかと思います。

やはりそういう社会政策を金融のインフラの中で考えていくためには、公益信託法の整備なども絡めて、もう少し幅広いアリーナで議論をしないといけないのではと思います。

一つつけ加えるとすれば、ちょっと気になりましたのは、やはりそういう方々に対する商品を、それで非常に長期にわたるものを個人で受けていいものかという疑問もありますし、今、和仁先生がおっしゃいましたけれども、今日いらっしゃっている弁護士の先生たちは多分とても立派な方たちなのでそういう発想が出てくるのだと思いますけれども、自治があるから信託業法の適用除外という考え方にはちょっとびっくりと言いますか、弁護士さんにもすごくいろいろな方がいらっしゃいますし、そんなに弁護士さんって偉かったのかなと、今日はすごくびっくり致しまして、逆に、もしそれだけ規律が働いているというのであれば、別に監督当局の監督下に入っても何の問題もないはずで、ここのところには違和感を覚えました。

以上です。

○岩原部会長

どうも。

まだまだご意見があると思いますけれども、もし、特に今ということでなければ、終了時間も近づいてまいりましたので、この問題については引き続き本部会で取り上げていきますので、次回以降にさらにご議論を尽くして頂きたいと思います。よろしゅうございましょうか。

それでは、貴重なご意見を多数頂きまして、誠にありがとうございました。本日の審議はこれにて終了させて頂きたいと思います。

それでは、遠藤さん。

○遠藤信用制度参事官

それでは、次回の第二部会の日程でございますけれども、これについては別途事務局から正式にご連絡差し上げますけれども、第二部会といたしましては、次回は12月5日午後1時から開催させて頂きたいと思います。そのときの議題は、本日とは異なるのでございますが、銀行の業務範囲規制のあり方について、及び保険に関する規制緩和についてご審議頂きたいと考えております。

それで、本日の信託に関する議論の続きは、別途これは事務局より正式にご連絡差し上げますけれども、再度12月中に本部会で審議する機会を設けたいと考えておりますので、何とぞよろしくお願いいたします。

○岩原部会長

それでは、以上をもちまして本日の会合を終了させて頂きます。どうも長時間ありがとうございました。第一部会から引き続きの方、本当にご苦労さまでした。

以上

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