金融審議会「協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループ」(第5回)議事録

日時:平成20年6月20日(金曜日)16時00分~18時04分

場所:中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室

○神田WG座長

それでは、予定の時間になりましたので、協同組織金融機関のあり方に関するワーキング・グループの第5回目の会合を始めさせていただきます。委員の皆様方におかれましては、いつも大変お忙しい中をお集まりいただきまして、ありがとうございます。

本日の予定ですが、監査人としてのお立場から協同組織金融機関を見てこられたこれまでの知見を踏まえたお話をまずいただきます。そういうことで、公認会計士の方をゲストとしてお招きしております。それを踏まえてのご議論、そして、後半部分は、ワーキング・グループのメンバーのうちの神吉委員と宮村委員から協同組織金融機関のあり方についてのご意見をいただき、さらに議論を深めるということにさせていただきたいと思います。本日も盛りだくさんですけれども、よろしくお願いいたします。

本日は、ゲストとして新日本監査法人から公認会計士であられる秋山正明さんと寺山昌文さんにお出でいただいております。お忙しいところをどうもありがとうございます。

それでは、本日の議事に入りますが、その前に事務局からクールビズについての連絡があるとのことですので、よろしくお願いします。

○遠藤信用制度参事官

ご案内のように、6月から9月までの間クールビズ、夏季の軽装の期間になっております。我々事務局はこういった形でノーネクタイ・ノー上着とさせていただいております。それに伴って会場の今の設定温度は28度ということで、始まる前にぐっと冷やしましたので、割に涼しいんですけれども、徐々に上がっていくと思います。委員の皆様方におかれましても、ぜひ軽装でご参加いただければと存じます。ご協力よろしくお願いいたします。

○神田WG座長

そういうことですので、よろしくお願いいたします。

それでは、早速、議事に移らせていただきます。秋山先生と寺山先生からお話をいただきたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

○秋山参考人

ただいまご紹介いただきました公認会計士の秋山でございます。平成9年に協同組織金融機関に初めて外部監査が導入されて以来、信用金庫・信用組合の監査に携わってきました。本日はその経験を踏まえてお話させていただければと思います。前半部が私で、後半部は寺山からお話させていただきます。

まず、1ページ目でございますが、協同組織金融機関は地域社会と運命共同体であると言われておりまして、相互扶助の理念の下に、地域より資金を調達し、その資金を地域へ還元することによりまして、中小・零細企業や個人への資金供給の円滑化を図り、そのことによりまして、地域経済社会に貢献しようというのが、基本的な理念と理解しております。この理念から、信用金庫・信用組合の融資は中小・零細企業及び個人事業者に特化しており、フェイス・トゥ・フェイスの思想によりきめ細かいサービスを行うことを特徴としています。

信用金庫・信用組合の事業活動の地域が限定されていることから、当該地域における事業活動を通じて、さらには奉仕活動を通じて、当該地域の発展に貢献しております。信用金庫・信用組合の協同組織性という特徴から、信用金庫・信用組合の経営は相互扶助の精神にのっとり行われておりまして、その存在が市町村単位の地域社会に深く組み込まれた、いわば運命共同体的存在でございまして、地域経済の浮き沈みに大きく左右されております。地域社会と運命共同体であるということは、事業活動が地域と不可分に密着しておりまして、地域から資金を調達し、融資することから、地縁・人縁を中心とした事業活動となりまして、事業活動の方針としまして、経済合理性より相互扶助の精神が尊重されるという傾向にございます。

協同組織であり相互扶助の精神が尊重されるという信用金庫・信用組合のアイデンティティーから、既に述べたような特性を生じ、また、視点を変えれば特性が強み・弱みとなり得ます。強みとしましては、中小・零細企業向けのきめ細かい金融サービスに特化していること。地縁・人縁を大切にする地域密着型の顔が見える事業展開を行っていること。弱みとしましては、協同組織、相互扶助という点から、ある程度の閉鎖性を有せざるを得ず、外部からの牽制が弱いというリスクを常に抱えております。

2ページ目をお開けください。このような協同組織の背景の下に銀行との相違を検討いたしますと、協同組織の信用金庫及び信用組合と、株式会社組織でありそのほとんどが株式を上場している銀行と比較した場合には、次のような違いが見られます。銀行は、基本的には株主の期待に応えるため、利益追求による企業価値最大化を目的としております。コーポレート・ファイナンス的には究極的に企業の保有する有形無形の資産価値の総和は、企業の発行する株式価値と等しくなることから、企業の経営者は株式価値の極大化を目指して、社会的責任を果たしながら持続的な利益極大化を目指すのが使命とされております。

株式会社は根本のところは会社法に準拠し、資本的結合の組織体で、多様な株主が参加するのが特徴でございます。最高の意思決定機関は株主総会であり、近年、特殊株主が排除され、一般株主の中にもものを言う株主が増え、活性化する傾向にございます。株主総会には、個人株主、機関投資家等全国から参加し、経営陣にとっては緊張があり、質問など第三者の監視が入ります。株主は1株につき1個の議決権を有しているのが特徴でございます。

他方、信用金庫・信用組合は基本的には営利を目的とせず、会員・組合員を構成員とする協同組織形態の金融機関であるところが特徴でございます。相互扶助の精神で地域経済社会に貢献することを究極の理念としております。会社法とは異なる信用金庫法、協同組合による金融事業に関する法律に準拠して経営が行われており、税務上は協同事業体的性格に鑑み軽減税率が適用されております。

出資者である会員・組合員の総会が銀行の株主総会に当たり、信用金庫・信用組合の最高意思決定機関でございますが、通常は会員・組合員の中から選ばれた総代で構成される総代会が総会に代わっております。出資者である会員・組合員は、出資額に対してではなく、1人1個の議決権を有するのみであり、資本の論理が通用しない世界となっております。

信用金庫・信用組合の特徴としましては、業務内容は銀行と近似しておりますが、銀行に比べると協同組織としての特性から外部からの牽制は強いとは言えません。営業地域にも制限があり、中小企業専門の金融機関ということでございます。相互扶助の協同組合の理念から、銀行が目指す企業価値向上よりも地域経済貢献への志向が非常に強く、ディスクロージャー誌にもそのことが強く見られるところでございます。

3ページ目でございますが、ガバナンスの状況ということで、総会・総代会について触れさせていただきたいと思います。信用金庫・信用組合においては、会員ないし組合員全員で構成される総会が最高の意思決定機関でございますが、先ほど言いましたように、総会を行っているところは稀で、通常は会員ないし組合員の中から代表である総代が選ばれ、選ばれた総代で構成される総代会が最高の意思決定機関と位置づけられております。

このため、株式会社においては株主総会の活性化がガバナンスの向上に役立っているように、信用金庫・信用組合の場合も総代会の活性がガバナンスを向上させるための一つの理想だと考えておりまして、それにより協同組織金融機関の地域における信頼感を一層高めることにつながるというふうに考えられます。

総代の意見は地域の意見を端的に表しており重要でございます。総代は地元名士から選ばれているケースが多く、人的関係が重視されます。総代の意見をいかに信用金庫・信用組合の経営に反映させるかが重要でございます。総代は比較的高齢者の割合が高くなっている傾向がございますので、今後、若手経営者の声を取り込むために、総代の若返り化も必要と考えております。

我々が信用金庫・信用組合の総代会の状況を調査した限りでは、活発に総代から質問が出されるケースは少ないようでございます。ただし、総代会の前に総代会の前さばきとして、地区ごとに会員・組合員に説明会を開催している信用金庫・信用組合も多いようでございます。総代会の活性化対策として、一つの方法としては総代の定年制導入、例えば満75歳までとするとか、総代候補者の人材開発ということで、先ほど言いましたような地域での経営説明会の際に新たな総代の掘り起こしを行うとか、あるいは、出資者へ積極的にホームページで総代会提出書類の開示を行うとか、こういう方法も検討に値するのではないかと考えております。

次、4ページをおめくりいただきたいと思います。理事会に目を向けますと、信用金庫・信用組合の理事会は株式会社の取締役会に相当するわけでございますが、信用金庫・信用組合の業務執行の決定及び理事の監督を行うこととされております。

理事の定数は、信用金庫の場合は5人以上、このうち3分の2以上は員内と定められております。信用組合は3人以上、このうち3分の2以上は員内と定められております。銀行の場合は取締役会設置会社の場合は3人以上と定められております。

理事の人数は、我々の調査によれば、規模にもよりますが、6名から10名ぐらいが多いと。理事会の健全度と理事の人数は関係はないわけでございますが、規模にマッチした人数であれば、健全性向上に資すると考えております。

また、理事会の運営スタイルとしましては、理事長が協調的であるとするケースがほとんどでございますが、独断的であるとするケースもかなりございます。理事長の在任年数は5年前後が多いんですが、7年以上の長期在任も比較的見られます。

理事長の出自につきましては、職員からの昇格が圧倒的に多く、次いで役員の関係者、その他、少ないケースではございますが、省庁出身、日銀出身、地元有力者が就任しているケースもございます。理事に銀行の外部取締役に相当する員外理事を選定しているケースは稀でございます。

今後、理事会の活性化としまして、役員定年制の導入によりまして、組織の活性化、役員の硬直化の防止、後継者の育成、このようなメリットがあると考えられます。また、規模により員外理事を選任するということも、外部の知見の注入と牽制機能の強化という意味でメリットがあるのではないかと考えております。

5ページをおめくりいただきたいと思います。監事に目を向けますと、信用金庫・信用組合の監事は株式会社の監査役に相当しまして、理事の職務の執行を監査することとされております。会社法381条が準用されております。大規模な特定金庫・特定信用組合につきましては、監事は業務監査のみを行い、会計監査は監査法人などに任せることができるとされております。

業務監査を行うために、監事には業務財産調査権、子会社調査権、業務報告に対する監査権、理事会出席権限、意見陳述権限、理事会招集権、理事の違法行為差止請求権などの強力な権限が法律上付与されております。

監事の定数は、信用金庫の場合は2人以上、預金等総額50億円以上の信用金庫は、員外監事は1人以上、特定金庫の場合は、員外監事は1人以上、常勤監事も1人以上と定められております。信用組合の場合は、監事の定数は2人以上、預金等総額50億円以上かつ員外預金比率10%以上の信用組合は、員外監事を1人以上、特定信用組合の場合は員外監事を1人以上、常勤監事も1人以上と定められております。

銀行の場合は、監査役設置会社の場合は3人以上と定められております。社外監査役は監査役の半数以上で、常勤監査役を選定することが定められております。

我々の調査によれば、監事の出自につきましては、常勤監事では元職員が圧倒的に多く、元理事のケースもかなりございます。その他、少ないケースではございますが、省庁出身、日銀出身のケースもございます。

次に6ページをおめくりいただきたいと思います。員外監事でございますが、一定規模以上の信用金庫・信用組合は、その公共性の大きさから外部から経営をチェックするため員外監事の登用が義務づけられております。員外監事の要件としては、員外監事の独立性保持の観点から一定の条件が定められております。

我々の調査によれば、非常勤監事では弁護士、会計士、税理士などの専門家のケースが多く、その他、少ないケースではございますが、元理事、元職員、省庁出身、日銀出身のケースもございます。監事による監査については、私どもが内部でアンケートをとった結果では、「よく機能している」、「大体機能している」がほとんどを占めておりますが、「あまり機能していない」という答えも若干ございました。監事につきましても、機能強化の観点から、監事会制度、これは後ほど寺山のほうから詳細にお話いたしますが、こういう導入も有効ではないかというふうに考えております。

7ページでございます。ガバナンス強化における問題点ということで、最近の信用金庫・信用組合の破綻事例に見るガバナンスの問題点としましては、1つには理事長の独断専行的な経営、2つにはリスク管理態勢に対する不十分な認識に原因があると思っております。信用金庫・信用組合は、銀行など株式会社に比べると、前にも述べたとおり理事長の在任年数は7年以上の長期在任も比較的多く見られ、経営トップである理事長が長期的に圧倒的な地位を占めているケースもございまして、ほかの理事、監事による牽制効果は限定的になっている場合が散見されます。

株式会社である銀行の場合、多くの銀行がトップは2期4年で交代するという慣わしになっておりまして、いわゆるワンマン経営が続くことのないような運営となっております。信用金庫・信用組合は、企業価値の極大化を目指し営利追求型の株式会社である銀行と異なり、組織上は相互扶助を理念とする非営利の協同組織形態をとるため、実質的な業務は銀行と同じでございますが、現在の市場資本主義中心の志向の観点から考えると、外部からの牽制の働きを弱めてしまう傾向が見られるところでございます。

ただ、これは協同組織の理念が市場資本主義とは相いれない面があることから、ある程度やむを得ないところではございましょうが、協同組織の良い点を一層伸ばし、悪い点を除けるような対応も必要であると考えられます。特に破綻した事例においては、情実融資や自らのリスク耐力を超えた運用をはじめ理事長の独断的な経営を、周囲が気づいていたにもかかわらず、誰も止められなかったという、協同組織所以の理由もあると考えるところでございます。いわゆるワンマン経営のような状況下にある協同組織金融機関においては、このような事態を防ぐべく、ほかの理事、監事による牽制、有力総代による牽制が期待されるところでございますが、実際にはなかなか期待には応えられなかったのが現実ではないかと感じているところでございます。

ガバナンス強化のための方策として、現状では、厳格な資産査定等を含めまして、外部監査や当局検査等、一層、第三者の目を入れることも有効であると考えられます。また、地域経済の活力低下によりまして、貸付金、預貸率の長期的減少傾向が続く悪環境下で、目先の利益先取りに走り、利益先取り型の仕組債の運用に傾斜し、経営を悪化させるケースも見られます。理事長が信用リスク、運用リスクなどのリスク管理態勢に関する十分な認識を高めていただく必要も感じております。

私からは以上でございます。引き続きまして、寺山のほうから後半部を報告させていただきます。

○寺山参考人

それでは、私からは、ガバナンスの強化についての対応ということで、3点ほど挙げさせていただきたいと思います。

8ページをごらんいただきたいと思います。1つは監事会制度の選択的導入、もう1つは半期決算開示制度の導入、もう1つは外部監査要件の見直し、この3点につきましてお話させていただきます。ここにつきましては、私が従来、秋山と同じように協同組織金融機関の監査に当初からいろいろな形で関与させていただきました。その中で常日ごろ感じていることを、監査人の目からということでお話をさせていただきたいと思っています。当然のこととして異論があると思いますので、そういうことがありましたら、ぜひ忌憚のないご意見をいただければと思っています。

まず、監事会制度の選択的導入ということであります。ご承知のように、旧商法におきましては、大会社については監査特例法ということで、一般の企業においては監査役会の制度が導入されているわけであります。また、協同組織金融機関においては監査対象になる特定金庫・特定組合についてその特例法が適用になるわけでありますけれども、監事については、監事会ということではなくて、監事という制度になっております。それは会社法においてもそのまま引き継がれているということで、そこのところが、従来、私は若干違和感を感じていたところであります。

監事は、現在の会社法の機関設計と比較しますと、いろいろな機関設計が自由にできるような形になっておりますけれども、恐らく会社法の監査役設置会社を強化した形での監事制度になっているのではないかなと。員外監事についてもかなりガバナンスを強化されておりますので、一般の企業の監事の制度とはちょっと違う強化になっていると思います。そうは言っても、今の協同組織金融機関も金融機関として重要な業務をやっているわけでありまして、こうした複雑な業務の中で監事の責任の重要性、あるいは、ガバナンスの観点から考えますと、規模の大きな信金・信組におきましては、会社法における合議制としての監査役会設置会社と同様に、監事会制度の選択的導入を提唱したいと思います。

9ページでございます。これは今の監事制度と比べて監事会が、監事一人が監査をするのに比べまして、合議制の監事会の監査とすることによって、監事の役割分担が可能となります。それぞれの専門分野でリスク管理とか自己査定とかいろいろありますので、それぞれの得意分野で役割分担をすることが可能となってきます。そうした専門性を発揮することによって、監事監査の効率性あるいは有効性が高まることになるわけであります。そういった意味では、一般の監査役会設置会社と同様のイメージでの監事役設置会社と言いましょうか、そういった監事会の制度を導入すべきであると。

また、会社法では公開会社以外の会社、公開会社である大会社以外であっても、定款の定めによって任意に監査役を設置することができるという規定がありますので、協同組織金融機関におかれましても、規模の小さなところについては、定款によって監事会制度の検討もよろしいのではないかなと思っているところでございます。条文で言いますと、会社法の326条の2項を準用していただくという形になると思います。

この中で特に選択的導入と申し上げましたのは、ご承知のように協同組織金融機関につきましては、資金量が50億円未満のところから3兆円を超えるところまで規模の格差が非常に大きいことから、ここのところは実態を踏まえて選択制としたわけであります。また、全国信用金庫協会では、この会社法が制定されたときに監事会規程というものを参考例として作成しております。それを会員の金庫に配付しておりますので、実務については多くの信用金庫が任意の機関として監事会を設置しているということであろうかと思います。監事会とすることによって、今の監事の制度では、例えば私どもが監査報告書を提出するときには、それぞれの監事あてに監査報告書を提出するという形になりますが、監事会ということになりますと、監事会に提出すればよろしいという形になるということで、それぞれの専門分野が生かされた効率的な監査ができるのではないかなと思っています。

次に10ページをおめくりいただきまして、2番目の半期決算開示制度でございます。現在、協同組織金融機関は年1回の決算でありまして、半期のディスクローズによる開示ももちろん行われておりますけれども、開示の元になる上期の業績について特に半期決算を行っておりません。我々としては外部に業績の数字を公表する以上はきちんとしたルールに基づいて算出した数字をベースに公表するべきであると考えております。現在、年1回の決算でありますが、これについては業界の申し合わせによりまして、半期の情報開示に関するルールを定めております。そして、このルールに従った情報開示がされているわけでありますけれども、この辺は銀行に比べて情報開示が十分とは思われない状況にあります。そういった意味では、半期決算開示の制度を導入すべきではないかと考えるわけであります。

この導入すべき背景といたしましては、大きく2つ取り上げさせていただきましたけれども、1つは財務内容のタイムリーかつ適切な開示が要求されるということ。昨今の経済状況の激変を見るまでもなく、例えばサブプライムローン等金融機関を取り巻く環境も劇的に変化しております。こうした中で年1回の決算では協同組織金融機関の財務の健全性に対する情報を、外部者であるステークホルダーにタイムリーかつ適正に伝わらない。この結果、信金・信組の経営に対する信頼性への理解が得られないのではないか。特に協同組織金融機関は中小企業を専門とする金融機関でありまして、中小・零細企業が非常に厳しい環境下にあることを考えますと、銀行よりも協同組織が融資環境が厳しいわけであります。また、それは当然のこととして、外部から見れば、協同組織金融機関の経営の健全性に対して関心を持っているところであります。

企業会計におきましては、ご承知のように時価会計が適用されております。「釈迦に説法」でございますけれども、時価会計とは資産・負債を毎期末の時価で評価をし、その評価損益を損益計算書に計上し、貸借対照表の帳簿価額を増減させる制度であります。申し合わせによって、業界ではこうした半期開示がされておりますけれども、果たしてそこの中で適切な時価会計が適用されているのかどうかということに対しては、我々としてはなかなか確認できないところでありまして、財務の健全性に対する判断ができない状況にあるというふうに認識しております。

特に最近は仕組債等のデリバティブによる多大な損失の発生等、経営に重要な影響を与えるような事象も発生しております。こうした中で、年1回の決算と情報の開示では、例えば経営は健全であると言ったとしても説得力はないのではないでしょうか。上場企業が今期から四半期の報告制度が始まるということでありますので、そういう状況からしますと、年1回の決算では余りにも開示が遅すぎるということで、一挙に四半期とまではいきませんけれども、少なくとも年2回の半期決算制度の導入は避けて通れないのではないかなと感じております。特に四半期決算開示制の中で、銀行は自己資本比率の関係から半期の決算制度も導入されております。そういう意味で半期の決算は必要であるかなと思っております。

私もある自治体に頼まれまして、メガバンク、あるいは、地銀、信金、信組等のディスクロージャー誌を分析する機会がありますけれども、年度のディスクロ誌はいいとして、半期のディスクロ誌を分析すると、不良債権の状況はわかりますけれども、そこにはPLが出てないということもあって、業務純益とか経常利益、当期利益が出ているわけですが、そうした中で時価情報が適正に反映させているのかどうかということが見えないということで、これでは経営に対する信頼は確保できないのではないかということであります。ぜひこの半期決算制度の導入をご検討いただきたいと思っております。当然のこととして、半期決算に当たっては統一したルールが必要になってくるわけであります。

次のページにまいります。半期決算制度を導入するに当たってのメリットでありますけれども、1つにはいろいろな債権管理とかリスク管理の向上に資することができる。自己査定については、現在年1回の実施が義務づけられているだけでありますけれども、年2回実施することになりますので、不良債権管理でのモニタリングの実効性が高まると。現在でも中間決算において自主的に自己査定を実施している協同組織金融機関もあると聞いておりますけれども、それでも簡易な手続が多いのではないかなと思っています。また、昨今の金融サイクルのテンポが非常に速まっておりますので、特に金融商品の運用による損失が発生したような場合には、そこのところは早めにアナウンスするということが必要であろうと思っています。

特に地方の状況を見てみますと、地銀よりも信用金庫のほうが規模が大きいところもありますので、一方の銀行が半期決算をしている、あるいは、四半期決算をしているという状況の中で、信用金庫あるいは信用組合は半期決算がないからいいんだというのはもう通用しない時代になっているのではないかなと思っています。そういう半期決算をすることによってタイムリーな情報提供ができるということでありますので、この半期決算によって、金融機関の場合には他人のお金を預かり、それをリスクマネーとして提供しているわけでありますので、きちっと統一ルールに基づいた決算数値による信頼し得る情報をタイムリーに提供することが、地域金融機関として地域社会に対して安心を提供することであって、またそれが地域社会から信頼を受けることになるということではないかと思っています。当然のこととして、デメリットとしては、それにかかわる作業の負担が出てくる。人員の手配等も問題になってくると思いますけれども、以上のメリットを考えますと、私個人としては経営上は躊躇する話ではないなと思っております。

次に、12ページ、外部監査の導入要件の見直しであります。先ほど秋山から話がありましたように、平成9年4月から協同組織の監査が導入されまして、預金等総額5,000億円以上の信用金庫に外部監査が導入され、その翌年の10年4月からは預金等総額2,000億円以上の信用金庫、それから、預金等総額が2,000億でかつ員外預金比率が15%以上の信用組合に外部監査が導入されました。その後順次監査対象範囲が拡大されまして、現在は信用金庫が預金等総額が200億円以上、信用組合につきましては預金等総額が200億円以上かつ員外預金比率10%以上という形になっております。

現在、信用金庫におきましては、200億円未満の金庫はないということでありますので、すべての金庫が私ども外部監査の対象になっているということであります。信用組合におかれましては、員外預金比率の10%という要件がありますので、必ずしも全部というわけではありませんが、直近の状況で調べましたところ、法定監査の対象になっている組合が90組合あります。

さらに、任意で監査を受けているところが27組合で、合計117組合が監査を受けているという状況であります。今は全体で164の組合がございますので、大体71%が監査を受けているという状況であります。こういった任意監査については増えているということであります。

こういう中にあって、信用金庫の場合には200億円という預金量総額だけでございますけれども、組合の場合には閉鎖性が強いところもあるということで、員外預金比率の導入要件を入れたのだと思いますが、これを見ていただくとわかりますように、導入からもう10年を経過いたしました。昨今の金融環境が非常に厳しくなっている現状を考えますと、預金者保護の観点から、私としてはそろそろ員外預金比率の見直しを検討する時期にきているのではないかなと考える次第でございます。現に外部監査の強制を受けなくても、任意で監査を受けている組合があるということでありますので、この辺は外部監査を受けないことのリスクと言いますか、受けないことによって、本来、健全な組合経営でありながら、それが対外的に十分に評価されないというリスクもあるわけでありまして、そういった組合さんは進んで私どもの監査を受けていただいているということだろうと思います。

次のページをめくっていただきまして、メリットとデメリット。メリットにつきましては、当然のこととして、外部監査については、会社が作成・公表する計算数値が一般に公正・妥当と認められる企業会計の基準、あるいは、関係法令に基づいて適正に作成され、そして、定められた方法で情報開示をしているかどうかについて、私どもが意見表明するものであります。こうした外部監査によって、外部監査は会社の内部統制の整備、あるいは、運用状況を検証しながら、信金・信組の財政状態や損益の状況が適正に表示されているかどうかを、独立の第三者からチェックするわけであります。

協同組織金融機関にありましては、外部監査を受けることを通じまして、財務報告をはじめ業務にかかる内部統制のレベルを向上させることができ、また財務内容の信頼性を確保することができるのではないかなと思っています。若干手前味噌になりますけれども、外部監査を受けることによりまして、監査の過程を通じて、監査人からいろいろなアドバイス、あるいは、情報の提供を受けるという隠れたメリットもございますので、そういうことも実務を担当している職員にとっては非常に重要なことではないかなと思っています。デメリットとしては、監査にかかる作業なり監査コストが増加するということであります。

私の報告としては、監査対応ということで、3つの対応についての提言をさせていただきました。以上でございます。

○神田WG座長

どうもありがとうございました。

それでは、今いただきましたお話につきまして、メンバーの皆様方からご質問、ご意見がありましたら、お出しいただきたいと思います。

それでは、久保田委員、佐藤委員の順番でお願いします。

○久保田委員

どうもありがとうございました。3つ、ガバナンスの強化についてご提案いただいた、その2つについて質問させていただきたいと思います。

まず最初、監事会制度の選択的導入のところで、レジュメを見ますと、既に実務上導入している先が多いということでしたので、制度的に選択的導入を可能にするような対応をすることのプラスアルファの意味がどこにあるかということを教えていただきたいのが1点。

2番目は半期決算開示制度です。信用金庫・信用組合が非営利性であるということを一番最初に述べられたところからの関連ですが、時価会計についての半期決算開示制度を充実させるべきとお伺いしたんですが、それは銀行と同じ基準で良いのかどうか。例えば、時価会計によると会計行動に対しても、当然、フィード・フォワード効果があって、影響を与えるわけですね。その辺に鑑みて同じでいいという意見もあると思いますが、同じなのかあるいは違うのか、教えていただければと思います。

○寺山参考人

まず最初の監事制度につきましては、実務上は、先ほど言いましたように、全信協さんが監事会の規定を設けたこともありまして、やっていると。ところが、制度としてはそうなっておりませんので、若干、実務と制度のずれが生じてきているのかなと。そういった意味では、実務上監事会という制度をつくっておりますので、制度としてもそういったことを見据えた対応をすべきではないかということでございます。

それから、時価会計につきましては、会計の世界ではダブルスタンダードはございませんので、銀行と信用金庫・信用組合も同じ時価会計の導入、金融商品会計基準を適用していくという形でございます。

○神田WG座長

佐藤委員、どうぞ。

○佐藤委員

多摩信用金庫の佐藤でございます。秋山、寺山両先生、今日はありがとうございました。今日お話を伺っておりまして、協同組織金融機関に対しての理解といったものを感じまして、ご理解いただいているということはありがたいと思うんですけれども、その上で良い点を伸ばして、問題点を改善していくというお話だったと思っております。

私も総代会の活性化とか理事会の活性化といった問題について取り組んでいかなければいけないという気持ちを持っておりますけれども、銀行と同じようなガバナンスということでなくて、独自に協同組織としての良さを生かすためのガバナンスというものを考えていかなければいけないんだというふうに理解しておりますが、そういうことでよろしいのかどうか。

もう1つは、開示に関しまして、統一ルールが必要だというお話があったわけで、寺山先生に伺いたいんですけれども、それは株式会社の金融機関と同じような、常時公開されていることから行われる開示と、信用金庫・信用組合という協同組織として、会員、お客様、利用者といったところに対しての開示は、統一ルールとしては同じものだというふうになるのかどうか。別に検討して開示のルールを決めていくべきだとお考えなのか、その辺のところを差し支えなければお聞かせいただきたいと思います。

○秋山参考人

では、最初のご質問に対しては私のほうから、2番目につきましては寺山のほうからお答えさせていただきます。

まず、協同組織のガバナンスというご質問ですけれども、おっしゃるとおりでございまして、銀行と比べまして、信用金庫・信用組合は規模も違いますし、協同組織ということでその性格も異なると私は認識しております。したがいまして、銀行と全く同じガバナンスを導入するということは無理だと考えております。これはもっと基本的な問題になってしまうんですけれども、寺山が申しましたように、信用金庫さんでも地銀よりも大きい信用金庫さんもありますし、信用組合の中にも預金総額1兆円というような巨大な資金量をお持ちの信用組合も既に出ているわけです。そういうところと小さな組合さんと同じような取扱いでいいのかというのが一つあると思います。地銀よりも大きい信用金庫が町の中で同じように競争して、信用金庫で軽減税率を適用していいのかというのは、地銀さんから見れば不思議な感じもするでしょうし。規模によって十把一からげで議論することは無茶なのではないかと思いますので、その辺は整理する必要があるのではないかと思います。

中規模以下の信用金庫・信用組合については、ガバナンスのあり方は、銀行のガバナンスとはまた別の考え方があるのではないかと思います。例えば、内部統制につきましても、どんどんお金をかければ立派な内部統制はでき上がるけれども、それではコスト倒れになっちゃって、経営が立ち行かなくなっちゃいますので、規模に応じたガバナンスのあり方、内部統制のあり方というのもあるのではないかと思います。やはり規模、かけられるコストに応じたものを設計する、そういうことができるような手当が必要だと思いますし、大きなところは銀行並に投資して立派なものをつくり上げればいいわけです。協同組織といっても規模は大から小までかなり範囲が広うございますので、その辺をどういうふうに整理するかというのは、ぜひこの場でご検討いただきたいと思います。

○寺山参考人

では、私のほうから。統一ルールの話ですけれども、基本的にはなしと考えているわけです。ただ、おっしゃるように協同組織金融機関は、地域の金融機関として、銀行とは違った特性を持っているということでありまして、このところは、メガバンクあるいは地銀、世界に打って出るとか、あるいは、全国展開をしているところとは違いますので、そこのところは配慮はあってよろしいのかなと思っています。

基本的なルールは同じということでありますけれども、例えば開示については、今ですとバーゼル II の問題がありますので、ここのところをどこまで銀行と同じようなものを信用金庫なり信用組合に求めるのかといったときには、そこのところは特性を考慮してもよろしいのかなと思っています。ただ、その場合に少なくとも開示項目は後退しないようにしていただきたいと。中身の問題の簡略化は、特性に配慮した対応はあってもいいかと思いますけれども、金融機関と一つの地域社会で競争しているわけでありますので、そこの項目の後退は協同組織金融機関にとっていいことにはならないと思います。ですから、出すものは出すけれども、その出し方について、そこの配慮の仕方は協同組織金融機関の特性を、どこまで出すことが本当に価値があるのか、意味があるのかということは十分考慮して検討されればよろしいのかなと思っています。

○神田WG座長

ありがとうございました。

それでは、中津川委員、どうぞ。

○中津川委員

これは意見ではございませんで、先ほどのご発表の中で外部監査を導入している信組の状況のお話がございましたが、数字のとり方でございまして、私が業界団体さんからお聞きしている範囲では81%ぐらいが既に外部監査を導入しているというように聞き及んでおります。データのとり方の時点の差があるのかもしれませんが……。

○寺山参考人

それは信用組合についてですね。

○中津川委員

そうでございますね。そんなことで、今は32ぐらいがまだ未導入だろうと思うんですけれども、それは職域、あるいは業域、あるいは、非常に小規模な組合さんが主なところかなと思いますので、その辺のご認識を一つお願いしたいと思います。

○寺山参考人

若干データが古いかもわかりません。

○神田WG座長

まだご質問があるとは思いますが、この後、お2人の委員からのご意見を伺うことになっておりますので、もしよろしければ先に進ませていただいて、秋山先生と寺山先生には今日最後までいていただけると伺っておりますので、大変恐縮ですけれども、後でまたまとめてご質問、ご意見をお出しいただくということにさせていただければと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。

すみません、急くようで申しわけありませんけれども、それでは、続きまして、神吉委員と宮村委員からご意見をいただきたいと思います。

それでは、まず神吉委員、よろしくお願いいたします。

○神吉委員

龍谷大学の神吉でございます。どうぞよろしくお願いいたします。本日は、このような報告の機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。ここからは着席して報告させていただきます。時間がございませんので、お手元の資料に基づきまして、早速説明してまいります。

本日は、「協同組織金融機関の『地区』のあり方」というテーマで報告いたします。報告の構成は2ページにございます。中小企業等協同組合法や信用金庫法の母法である、明治33年制定の産業組合法にさかのぼりまして、協同組織金融機関の「地区」について6つの項目に分けてご説明いたします。そして、協同組織金融機関の将来像について若干、私の考えを述べます。

それでは、3ページの協同組織金融機関と「地区」との関係からご説明いたします。協同組織金融機関と「地区」との関係は、第1に協同組織金融機関が定款に「地区」の記載を求められる点でございます。第2に定款に定めました「地区」が協同組織金融機関の組合員・会員の資格を制約する要因となる点でございます。以上の2つの点は協同組織金融機関の4つの業態すべてに共通しております。

次に、資料では、信用金庫の会員資格について示しております。会員は「地区」と一定の関わりのある者に限定されております。さらに、員外取引の制限を受けます。員外取引の制限の詳細につきましては、金融庁から配付されております資料に記載されておりますので、説明は省略いたします。

次は「地区」と監督当局とがどう関わっているのかという点でございます。資料は4ページになります。これは2点ございます。1点目は、「地区」を記載した定款が内閣総理大臣への事業免許を申請する際の添付資料になっている点でございます。「地区」をどのように定めるかも審査されるということになろうかと思います。2点目は、定款を変更するためには内閣総理大臣の認可を必要とする点でございます。「地区」を拡張する場合も、逆に縮小する場合も、内閣総理大臣の認可を必要といたします。各協同組織金融機関が「地区」を自由に決められない構造になっているということでございます。

なお、ここでは信用金庫について説明いたしましたが、信用組合も同様でございます。特に、大蔵省が金融行政を司っておりました時代には、競争制限的規制が重視されておりましたので、事業免許を申請することや、さらには他業態との競合を引き起こす「地区」の拡張に対しましては、非常に抑制的な態度で臨んでおりました。

以上まとめますと、第1に、協同組織金融機関は、「地区」を自ら定め、その地区と一定の関わりのある者を組合員・会員として金融事業を行います。この結果、協同組織金融機関の経営は地域経済の動向とリンクいたしますので、融資資産のポートフォリオ管理、さらには、経営の健全性維持との関係をどのように考えるのかという難問が生じます。

なお、地域経済の低迷から結果的に経営破綻に至ったとされる例といたしまして、1993年に経営破綻いたしました釜石信用金庫の例がございます。

余談ですが、地域金融機関の融資は、特定の業種や特定の融資先に集中する傾向が指摘されております。実際に整理回収機構によります破綻金融機関の旧経営陣に対する責任追及に関する判例を見ますと、大口融資規制違反の事例が散見されます。都市銀行であった北海道拓殖銀行でも大口融資規制違反がございました。協同組織金融機関に対する監督におきましては、大口融資規制違反という違法経営に対しては、毅然とした対応をお願いしたいと思います。

話を元に戻します。まとめの2つ目といたしまして、協同組織金融機関が事業を行う地域は、法律によって直接規制されているわけではなく、協同組織金融機関が「地区」を自ら定めることによって間接的に制約を受けるということでございます。したがいまして、「地区」をもって営業地域の規制であるとは必ずしも言えないように思います。ただし、大蔵省の時代には、地区外で営業してはならないと解釈されておりましたので、規制として機能してきたわけでございます。

なお、旧相互銀行法8条は、相互銀行に定款で営業区域を定めることを求めた上で、その営業区域外で業務を営むことができないと規定して、営業区域を直接規制しておりました。信用金庫法や中小企業等協同組合法とは決定的に規定の仕方が違っていたわけでございます。

それでは、5ページに移ります。ここでは、産業組合法において信用組合がどのような団体であると考えられていたのかという点を、「地区」について検討する上で必要となる範囲に限って検討いたします。お手元の資料では、産業組合法に関連する文献のエッセンスを3つだけ挙げております。もちろん実際にはもっと文献を当たっております。

産業組合法の法案提出理由などをも踏まえますと、信用組合は相互扶助の精神で組合員の勤勉な生活態度を評価して、無担保の金融事業を低利で行う人の集合体たる団体であると考えられていたということがわかります。組合員には、中産以下の農工業を営む自然人が想定されておりました。融資の保全の点では、物的担保は徴求しませんが、人的担保である保証人を求めたことがわかります。

それでは、6ページに移りまして、「地区」の意義について検討いたします。産業組合法では、現行法上の「地区」は「区域」と呼ばれておりました。なお、ここでも文献のエッセンスを記載しております。

3つ目の熊田論文は大蔵省銀行局事務官の肩書で書かれておりまして、「地区」を信用金庫の事業活動の地理的範囲であると言っております。これは、「地区」を店舗規制として利用するために示された見解なのではないかと私は考えております。このように解釈しますと、競争制限的規制を重視する当時の監督当局としては非常に都合がいいからです。

しかし、1つ目に記載しております柳田文献や、旧相互銀行法の規定の仕方との違いなどを踏まえますと、協同組織金融機関の事業活動は「地区」の範囲に限定されないという解釈が、産業組合法に忠実な解釈であると私は思います。

まとめますと、「地区」は、協同組織金融機関が成立する一定の地理的範囲であるということになろうかと思います。

なお、産業組合法で区域を定めることが求められましたのは、販売組合などの4種類の組合のうちの信用組合だけでして、それも区域は原則として一市町村内という限られた範囲に定めることが求められていたという点には注意が必要でございます。

8ページに移ります。ここでは、「地区」と協同組織金融機関の事業区域との関係をどのように考えるかという問題を扱います。具体的には、協同組織金融機関の事業区域が「地区」の範囲に限定されるのかという点でございます。この点は、第1回の会合の際に私から質問させていただいております。渡邊協同組織金融室長からの第1回と前回の会合でのご説明を踏まえますと、協同組織金融機関の営業区域は「地区」に限定されないけれども、店舗は地区内にしか設置できないというように理解しております。例えば、大阪の信用金庫さんが東京で組成されますシンジケートローンに参加できるのかできないのか、あるいは、住宅ローンを借りておられる組合員・会員が地区外に引越しをされた場合に、繰上げ返済を求めなければ違法になるのかどうか等々、問題はさまざまにございます。

そして、全国信用金庫協会が編集された『信用金庫読本』の7版によりますと、信用金庫業界では「地区」を事業を行うことができる区域であると理解しておられるようです。しかし、ご説明いたしましたように、協同組織金融機関の事業区域は「地区」に限定されないとの解釈が産業組合法に忠実な解釈であって、この考えが妥当なのではないかと私は思います。なお、地区外に店舗を設けることができないことは、制度の趣旨に照らしても当然であろうと思います。この問題は協同組織金融機関にとって非常に重要な問題かと思います。そこで、念には念を入れまして、ここでご説明した解釈で問題があるということであれば、後でご指摘いただければと思います。

それでは9ページに移ります。ここからは別紙資料の分析の結果を踏まえまして、なぜ協同組織金融機関は「地区」を定めることが求められるのかという点を、産業組合法にさかのぼって明らかにいたします。ここでは時間の都合で別紙資料の内容をご紹介することは省略させていただきます。もちろん資料の読み方は一通りではございませんので、これからご説明することが絶対正しいとは言えない可能性もございます。そこで私が虚心坦懐に資料を分析いたしました結果、産業組合法において区域を定めることが求められた理由として、大きく2つの点を見い出すことができます。

協同組織金融機関という組織に内在する要請に基づく側面と、行政監督・金融監督としての側面の2つでございます。

第1の側面はさらに2つに分けて認識することができます。まず、組織に内在する要請に基づく側面の中に、人的結合の確保に関する側面が認められます。資料は10ページになります。協同組織金融機関は相互扶助を理念としておりますので、組合員・会員の人的結合をどのように確保するかが重要であると考えられます。

産業組合法は、信用組合の人的結合のよりどころを地縁に求めまして、信用組合に区域を定めることを求めたということでございます。当時は農業を中心とする社会です。農業は土地と深く結びついておりますので、地縁を人的結合のよりどころとすることには合理性があったと考えられます。田植えや稲刈りなどの農作業を助け合うことによって、近隣に居住する者同士の関係は現在とは比較にならないほど緊密かつ濃密に形成されます。

このように、当時の農業を中心とする社会におきましては、一市町村内に区域を定めることによって組合が組合員を知っている状態と、組合員が相互に知っている状態とが確保されます。ここで「知っている」とは、ただ単に面識があるということではございません。生活態度や仕事ぶりまでわかっている状態でございます。無担保融資を実行いたしますので、どれくらい熱心に働く人か、つまりは生産力の大小を信用組合が把握できる仕組みが構築されていたと考えられます。

次に、組織に内在する要請に基づく側面の2つ目の側面として、融資運営の厳格化に関する側面についてご説明いたします。これはさらに、融資実行時と融資の事後管理の2つに分けて認識することができます。

1つ目の点ですが、産業組合法は、融資実行時において、信用組合が融資判断を行うために必要となる情報を確実に収集することを担保するために、区域を定めることを求めたということでございます。既にご説明いたしましたように、信用組合の行う融資は無担保融資でございます。農業を営む個人の定量情報は明治時代にはありませんので、定性情報を確実に収集して融資判断を行うことが必要になります。交通と通信の手段も未発達ですから、せいぜい徒歩で行き来できる、限られた地理的範囲に居住する者に組合員の資格を限定することによって、組合が確実に定性情報を収集できる仕組みがつくられたと言えるのではないかと思います。

次に、融資の事後管理につきましては、明治時代には、組合員としての勤勉な資質を維持するとともに、それを向上させることが組合の存続と発展のためには必要であると考えられておりました。信用組合は単に資金を融資する団体であるだけではなく、道徳的な側面もあわせ持つ団体であると考えられていたということでございます。区域を定めることに、組合員の日常の生活態度を組合員が相互に監視することを担保する目的が読み取れます。

それでは、12ページに移ります。「地区」を定めることが求められる2つ目の側面として、行政監督・金融監督としての側面が認められます。ただし、第1の側面にこそ、その本来の意義があると考えられますので、第2の側面はごく簡単にご説明いたします。

別紙資料の中小企業庁の文献には、「地区」を定めることに所管の行政庁を定める要素となる点、つまり監督の観点からの必要性が指摘されております。協同組織金融機関が協同組織である点を突き詰めてまいりますと、管理・監督は当事者に全面的に委ねるという考えもあり得ます。ところが、信用組合制度の発足時から、主に2つの理由に基づきまして、信用組合に対する監督は必要であると考えられておりました。その理由は資料に記載しておりますように、第1に組合の事業が適正に行われていることを第三者の立場から監督する必要があることと、第2に法令の解釈・適用について当局の有権解釈を示す必要があることの2つでございます。

13ページに移ります。ここからは、ここまでの検討の結果を踏まえまして、協同組織金融機関が「地区」を定める必要性について検討いたします。まず、信用金庫の現状について見ておきたいと思います。本来は信用組合の現状を併せてご説明すべきでして、中津川委員をはじめとして信用組合の方々には誠に申しわけございませんが、時間の関係等から信用金庫についてご説明いたします。ただし、信用組合の現状も基本的には信用金庫とほぼ同じかと思います。

最初に会員構成でございます。少し古いのですけれども、平成13年3月の時点で法人会員が16.2%を占めます。制度発足時には自然人が組合員として想定されていたことは既にご説明いたしました。また、個人会員は、現在の社会情勢を踏まえますと、サラリーマンが多いであろうと考えられます。サラリーマンは勤務地と居住地とが別々になりますので、地区内に住んでいるからといって仕事ぶりまでは明らかになりません。

次に、業種別貸出残高です。これは抜粋でございます。現在では、農協・漁協ができておりますから、1次産業の構成比は極端に低くなっております。製造業も多くを占めますが、建設業、不動産業、サービス業が高い割合を占めております。これらの産業は土地との結びつきが農業ほど高くはなく、業を実践する場所は地区の範囲に限定されませんから、土地との結びつきが低い産業であると言えるかと思います。

また、個人向けの融資も高い割合を占めております。これは住宅ローンなどの消費性ローンであろうかと思われます。ローンは完全に規格を統一した商品でして、あらかじめ定めた条件に合致すれば、原則として誰に対しても実行するという商品でございます。ほかのローンの利用があるかもしれませんが、多くは一度限りでございます。取引先の建設業者、不動産業者が分譲する物件を購入した人に対して、業者との提携住宅ローンを実行いたしまして、借り主が実行時に組合員・会員になるということもあろうかと思いますけれども、それが果たして相互扶助なのかという見方ができるかもしれません。しかし、銀行などの他業態との競争を乗り切るためには、このような融資も仕方がないということになるのかもしれません。

次に、融資の保全状況です。信用金庫は金融機関ですから、現時点では担保を徴求した融資が大半であることは当然でございます。

以上、当然と言えば当然ですが、現在の協同組織金融機関の姿は、制度発足時に考えられた信用組合の姿とは相当違ったものになっているということでございます。

それでは、協同組織金融機関の現状と、「地区」を定めることが求められた理由を踏まえまして、現在の協同組織金融機関に「地区」を定める必要性が認められるのかどうかについて、それぞれの側面から検討いたします。

まず、人的結合の確保に関する側面ですが、これは現時点で地縁が人的結合のよりどころとなるのか。言い換えますと、「地区」を定めること自体によって人的結合が確保できるのかという問いになります。これは、あくまでも我が国全体から見ますと、なり得ないと見ることができるのではないかと思います。私は東京を基準として我が国全体を見ることの危険性を十分にわかっているつもりです。我が国全体から見まして東京が異常な社会なのですが、あらゆる面で東京の占めるウエートが高いことも事実でございます。現在では、隣に長年住んでいる人は誰だか全く知らないけれども、北海道の人とはよく会うし、よく知っているということもございます。したがいまして、現時点では「地区」を定めること自体によって人的結合を確保するということはできないと考えられます。この側面では、あくまでも我が国全体から見ますと、「地区」を定める必要性は消滅していると言えるかと思います。

次に16ページに移りまして、融資運営の厳格化に関する側面です。融資判断には、現在では個人であってもまず定量情報から判断いたしますし、担保の徴求も行われているところです。定量情報に致命的な問題がある場合には、いくら定性情報に良い面がありましても、なかなか融資に応じられないということになろうかと思います。そして、定量情報は「地区」を定めなくても収集可能でございます。

次に、組合員が相互に監視し合うという融資の事後管理ですが、金融機関には守秘義務が課されておりますし、現在では個人情報の保護も要請されますから、誰が組合員・会員であるかは、組合員・会員の側が人に言わない限りわかりません。組合員・会員が相互に監視するということを期待することは不可能です。

要するに、「地区」を定めて融資運営の厳格化が図れるかとなりますと、それは期待できないということになろうかと思います。したがいまして、この側面でも「地区」を定める必要性は消滅していると見ることができるかと思います。ただし、業態によって違いのあることも事実でございます。

組織に内在する要請に基づく側面から、業態別に「地区」を定める必要性の有無を検討いたします。17ページでございます。信用金庫と地域信用組合は「地区」のみを人的結合のよりどころとしておりますので、現時点では「地区」を定める必要性は、制度発足当初の理念に照らしてみた場合には認められないと考えられます。職域信用組合と業域信用組合は、地縁よりも職域や業域を人的結合のよりどころとしていると見ることもできます。職域信用組合では、組合員の資格を限定する地理的範囲を定めるという従たる目的のために、「地区」を定める必要性が認められるかもしれません。業域信用組合では、広域的に相互に交流が行われ得る業であれば、特に「地区」を定める必要はないということになろうかと思います。業によって違いがあるということでございます。

なお、このワーキング・グループでの検討の対象外ですが、農協と漁協につきましては、これらの業が耕作地や漁協という特定の土地と深く結びついた業でございますから、現在でも「地区」を定める必要性が認められると考えられます。また、農協、漁協はそもそも業域を人的結合のよりどころとしていると見ることもできます。漁協につきましては、今年起こりましたイージス艦と漁船との衝突・沈没事故で、同じ漁協の方々が自主的に協力して仲間の漁船の捜索活動に日夜当たったということがございます。相互扶助の精神は、金融の面という以上に組織全体に確かに脈々と生きているわけでございます。

それでは、18ページの行政監督・金融監督としての側面に移ります。ごく簡単にご説明いたします。都道府県が監督をしていた時代には、所管の都道府県を決めるという必要性からも、「地区」を定めることが必要であったのですが、現在では金融庁が所管しておりますから、その必要はございません。監督の方針も転換されておりますので、この側面から見て「地区」を定める必要性は消滅していると言えようかと思います。

以上を踏まえまして、今後、「地区」をどのように取り扱うべきかを検討いたします。19ページでございます。これには2つの方向性があろうかと思います。

1つ目は「地区」を定める当初の目的を徹底する方向でございます。具体的には人的結合のよりどころを地縁に求めまして、「地区」を狭い範囲に限定するという方向でございます。しかし、この方向は現時点では現実的ではございません。巨大な信用金庫さんに「地区」を無理やり縮小させるということは、その信用金庫を複数に分割しない限り実現不可能かと思われます。

2つ目の方向は大胆ですが、「地区」の概念を廃棄するという方向でございます。「地区」の概念を廃棄することが可能かどうかは、「地区」を定める当初の目的が、「地区」の概念を廃棄した場合に達成できないのかどうかという問題と、「地区」を定めることによって生じるメリットとデメリットの比較に関する問題になろうかと思います。

これらの問題につきましても、ご説明をいたしましたそれぞれの側面に基づいて細かく分けて考えるべきですが、取りまとめてご説明いたします。

まず、協同組織金融機関が協同組織性を将来も維持するというのなら、人的結合のよりどころを何に求めるかが重要です。我が国全体から見て「地区」という地縁が人的結合のよりどころとはなり得ないと考えますと、地縁以外の要素をもって人的結合のよりどころにできれば、「地区」の概念は廃棄可能であると考えられます。

また、定量情報の活用や担保の徴求などの手段を併せますと、融資運営の厳格化も十分に可能です。なお、定性情報の重要性を否定したり、担保を徴求しない限り、融資をするなと言っているわけでは決してございません。

また、協同組織金融機関の事業活動の範囲を地区の中に閉じ込めてしまうことは、融資資産のポートフォリオ管理や経営の健全性維持の観点から、現在ではデメリットのほうが大きいと考えられます。

以上から、人的結合のよりどころを地縁以外の要素に求められれば、「地区」を定める目的は実現可能となり、「地区」の概念を廃棄することも可能であると考えられます。

21ページに移ります。「地区」の概念を廃棄するというかなり大胆な主張に対しまして、当然ながら反論も予想されます。そこで、「地区」の取扱いを各協同組織金融機関の自主的な判断に委ねるという解決の方向もあるように考えられます。この場合も、まず協同組織金融機関の事業活動の範囲が「地区」に限定されないということを確認した上で、金融庁による定款変更の認可は後見的な機能に徹していただくということでございます。

これは、競争制限的に、あるいは、恣意的・裁量的に審査しないというような意味でございます。こうしますと、「地区」をどのように定めるかは各協同組織金融機関の営業戦略にかかる経営判断となります。前回の会合での配布資料にありましたように、「地区」の実質的拡張に対する認可も、私の予想に反しまして現実に行われているわけですから、むしろ業界関係者の意識を変えれば良いということになるのかもしれません。大蔵省の時代から確かに時代は変わったということでしょうか。

ここまでは「地区」のあり方について検討してまいりましたので、最後に、それらを踏まえまして、協同組織金融機関の将来像を検討する上での手がかりとなるものについて、私の考えるところを若干申し述べたいと思います。

協同組織金融機関は、協同組織性と金融機関性という相反する側面を併せ持ちます。このバランスをどう取るかが難しいわけです。これまでは金融機関性を追求する歴史であったと思いますが、このままこの方向に進みまして、協同組織性が全体として維持できるのかに疑問を感じます。また、業務範囲の拡大は、業界全体としてそれを望んでおられるのかという点にも疑問を感じます。業務範囲の拡大にはコストの発生やリスク管理の高度化の必要性といった経営上の大きな課題も生じます。特に規模の小さい協同組織金融機関のご意向を知りたいところでございます。

また、我が国全体として現時点で「地区」を定めること自体によって人的結合を図ることができないと考えますと、何をもって税制優遇の根拠とするのかという疑問も生じます。税制優遇の根拠を明確にする必要があるかもしれません。また、第1回の会合から指摘されてきておりますように、相互扶助とは何かを明らかにする必要があるかもしれません。組合員・会員であるからといって借りる権利があるわけでもありません。協同組織の形態をとること自体によって相互扶助の精神が実現できるということもないように思われます。

次に、協同組織金融機関が協同組織であり続けるとの前提に立ち、さらに、「地区」を定めること自体によっては人的結合が図れないと考えますと、「地区」、つまり地縁以外の要素に人的結合のよりどころを見い出すべきではないかと思います。ただし、第3回の会合でも例として挙げられた島しょ部の協同組織金融機関などでは、現時点においても「地区」、つまり地縁というものが人的結合のよりどころとなっていると見ることができるかもしれません。

また、協同組織金融機関は地縁を組合員・会員の人的結合のよりどころと考えておらず、「地区」はあくまでも組合員・会員の資格を制約するために定められているに過ぎないというような割り切った考え方があるかもしれません。ただし、私は協同組織性を否定するなら正面から否定すべきだと思っております。

また、資料には書いておりませんが、現状のままではゆうちょ銀行との違いをどこに求めるのかという点も差し迫った問題になるように思います。ゆうちょ銀行の業務が将来、自由化・多角化された場合のことでございます。ゆうちょ銀行には、長年我が国で培われてまいりました、郵便局に対する国民各層からの親近感という強い経営資源がございます。協同組織金融機関には、協同組織の形態をとることの意味がより厳しく問われることになるかもしれません。

最後に、資料にはございませんが、仮に「地区」の制度を現状のまま維持するとした場合であっても、次のような将来像もあるように考えております。

1つ目に、必ずしもすべての協同組織金融機関が業務範囲の拡大を望んでおられるとは思えませんので、業務範囲を絞り込んで協同組織性を強化するという方向があるように思います。基本的な金融機能を提供するということでございます。また、自らが果たせない機能は中央機関を利用するということも可能でございます。この方向を選択した協同組織金融機関には現状どおりの優遇税制を適用してはどうかと思います。

2つ目の方向として、将来的にも銀行並の業務範囲を希望される場合には、銀行への業態転換を促すか、優遇税制を一般税制に近づけることによって、金融機関性を強化する方向でございます。各協同組織金融機関に2つの方向のどちらかを選んでいただくというイメージになります。

最後に申し上げた将来像につきましては、私自身の考えが十分に詰まっているとは言えませんが、何らかの問題提起をする必要もあろうかと思って申し上げました。

以上で私の報告を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

○神田WG座長

どうもありがとうございました。

いろいろご質問やご意見もあると思いますけれども、宮村委員からのお話を伺った後でまとめてということにさせていただきたいと思います。

それでは、宮村委員からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

○宮村委員

東洋大学の宮村健一郎でございます。どうもありがとうございます。ちょっと分量がありますので、素早くやります。私は、信用金庫・信用組合に関する論点をなるべく多く集めて、議論の題材にしたいと考えております。

まず、3ページ、4ページ、5ページですが、信用金庫・信用組合の公共性、要するに銀行にはない存在意義が何かということを考えますと、マル1として株式会社組織の銀行などでは提供できないような安定的な低利の資金を供給できるというポイントと、もう1つは金融過疎地の地域金融の確保と、こういうことではないかなと思います。

特に1つ目の点については、コモンボンドがきいてきまして、皆さんが思いますように、昔の狭い地域と現在の区域とは違っていまして、特に個人間の密接な連絡というのはなくなっています。しかしながら、現在の都市部においても、中小企業者あるいは商工業者を見てみますと、いろいろな団体に加盟してみたり、町のいろいろなサークルに入ってみたり、横の結びつきを強くしようとしています。「なぜなんですか」と中小企業の社長たちに聞いてみますと、自分たちはいつも仕事を1人でやっていて孤独になるから、いろいろな情報を得たいし、ビジネスチャンスも得たいということで、さまざまな活動をされているということで、現在の都市部においてもその地区のメンバーの間の横の関係がなくなったということではありません。特に商工業者、中小企業者に関してはそのような接点は常に求めようと皆さん努力されていると考えております。

2つ目は金融過疎地における地域金融の確保です。この場合は、東京あるいは大都市に関しての金融サービスを確保するというメリットはあまりないですけれども、特に過疎地においてはその地域のおかねを吸収したら、そこに還元するという役割があると考えております。

6ページにまいります。このように信用金庫とか信用組合について考えているときに、いろいろな人がいろいろな議論をしますけれども、それぞれ想定しているところが違うままで議論されている場合が多いと思います。先ほどからもいくつかお話がありましたように、大きいところから小さいところまで差が非常に大きかったり、業域、職域、地域などいろいろあります。さらに都市部、地方というのがあって、それぞれ違うところを想定して議論が混乱することが多いので、私が考えている分類、どのように違うかというのを次から説明したいと思います。

7ページにまいりまして、まず業域、職域については、自分たちは信用組合であるけれども、それよりも業域、職域の業界団体の外郭団体というふうに考えていらっしゃるところが多い。ヒアリングをした感じではそういう感じです。実際に理事長はしばしば業界の幹部あるいはその業界の長が兼任しているということがあって、そのようなパターンは労働金庫とも非常によく似ています。業界からのチェックは非常に厳しいですけれども、しばしば強すぎるという問題もあると思われます。特に破綻に瀕したような業域、職域の場合ですと、そのメンバーからの圧力が強くなるというようなことも、これはデータ的に顕現したわけではございませんけれども、ヒアリングしているとそのようなことをおっしゃる方がかなりいらっしゃいます。

8ページにまいりまして、業域、職域の業績は両極端に分かれたりします。その業域、職域が調子がいいと不良債権比率が0%、あるいは、不調だとその正反対となってしまう。これをどう考えればいいかというと、産業構造の変化が生じるような長期においては、あまり安定的な金融機関と言えないのではないかと、監督するのであれば将来見通しを重視して指導することが必要なのかなと思います。

次にまいりまして、業域、職域の問題というのは、一番最初に発言したこともありますけれども、最初は全部資金調達弱者の相互扶助でスタートしているんですが、現在では好調なところは不良債権は0になってしまって、そういうところには、メンバーに対しては一般の株式会社からも「ぜひうちでやってください」というふうになってしまうということで、非常にいいところは弱者の相互扶助という性格はなくなってしまう。逆に不調になってしまうと、弱者の相互扶助にはなっているんですけれども、金融機関としては成り立ちにくいという問題が発生するということになります。

次に10ページ目、信用金庫と地域信用組合ですけれども、皆さんご存じのように非常によく似ています。外から見ると似ているなというふうになります。ここでの議論でよく混乱するのは、銀行との同質化という問題だと思うんですが、現在は銀行とダブる顧客層と、銀行が扱わない顧客層という2つを扱っているという場合が基本になっているわけです。銀行とダブっているじゃないかと、そちらばかりを見ると、銀行との同質化ということになってしまうけれども、実際に銀行に扱われないお客さんというのはどんなところなのかということをよく見て、そこを点検することによって存在意義が出てくるのではないかなと思います。

11ページにまいりまして、信用金庫・地域信用組合独自の顧客とは何かというと、今言いましたように、銀行の審査から外れてしまう、要するに定量情報についての不足があったり、小さすぎて銀行が相手にしてくれないと、そういう中小企業、零細企業、特に零細企業及びその従業員でしょう。

あと、信用金庫・信用組合の独自のサービス、具体的に言うと渉外サービスということで、零細企業、非常に小さい中小企業の場合は、社長がすべて仕事をすることになってしまうので、社長が融資のため、あるいは、取引のため銀行に行ってしまうと、その間全く仕事ができなくて1日の損害は非常に大きくなります。そういうようなところは、金利が高くても信用金庫・信用組合の「来てくれる」というサービスを利用して、自分たちの仕事を継続することができるということで、そのような顧客に対してヒアリングをすると、渉外サービスについては非常に評価しているという印象を受けます。

12ページは、銀行と重なる顧客層で、これを常に念頭において議論してしまうと、同質化してますねという話になってしまうということです。

13ページにまいりますと、先ほど監査法人の方もおっしゃっていましたように、大きいところと小さいところの差が非常に激しいわけです。今まではどちらかというと学会などの議論でも全部ひっくるめて同じモデルの中に組み込もうというところがあったんですけれども、よく見てみましょうということになると、細かい説明は省きますが、2,000億円を基準にそれより小さいものと大きいものと分かれるという感じがいたします。

どういうことかと言いますと、2,000億円から5,000億円のところはあまり調子がよくないんですね。例えば、システム的にも融資審査が遅くなってみたり、預貸率が低かったり、都銀や地銀との競争が激しくてつらいとか、貸出金利が大手と同じように非常に低くなってしまうとか。それより小さい信用金庫であると、貸出金利は比較的高めで、どちらかというと過疎地にあるようなところが中心になってしまうので、競争は少ないんですけれども、結構爽々とやっていて融資の審査も速いとか、あるいは、結構元気がいいというようなことになります。

そう考えますと、2,000億円以下のところと2,000億円より上のところというのは、ビジネスの仕方が随分違うと思われます。2,000億円というとどういうことかというと、支店の数でいうと20前後ぐらいで、人の数でいうと二、三百人ぐらい、こういうような信用金庫ですね。そういうところであると、例えば理事の数が七、八人いたとすると、どこの支店にも理事のだれかが1回勤めたことがあるということになっていて、1回勤めて、そこに三、四年いれば、そこの融資対象のお客は、特に商工業者関係であればすべて理解してしまうということになります。しかし、それより大きいところになると別になってしまって、システムでのサポートが必要だとか、全く違う商売の仕方になるということです。

次に23ページにまいりまして、出資と一人一票制です。現在の協同組織性は一人一票制ということで、これのメリットは民主的な経営ができるということと、弱者が排除されないということ、それから、買収を防ぐということで、金融サービスが安定するということですけれども、当然のことながらフリーライダーが増えるということです。オーナー意識というのは、客観的な数字としては会員数分の1というのがオーナーの権利ですけれども、それが薄くなれば薄くなるほどゼロと認識されるというのが、標準的な行動経済学のパターンですので、全員がただ乗りになってしまうということになるわけです。

次にまいります。24ページは飛ばしまして、25ページは株式と出資証券の違いです。これは皆さんご存じのとおりで、普通出資証券ではなくて優先出資証券というものもありますけれども、これの利用は信金中金が上場している以外には、個別の信金は、発行はしていますが、資本注入のために発行しているだけであって、ほとんど利用されていません。出資の価値も変わりませんし、配当も変わらないということで、出資証券自体、株式と違いますけれども、それを持っていることによって、会員あるいは組合員がその値段が変動するということでチェックすることがないということで、インセンティブがないんですね。

次、26ページにまいりまして、業域・職域のガバナンスから考えていきますと、先ほども言いましたように、業界から非常に強力なチェックが期待できるということです。この理由は、業界がオーナー意識を持っているということと、業界あっての組合ということです。業域・職域にいくと、業界様という感じになるわけですね。信用組合の職員は立場が弱いというふうになっていまして、さらに理事長も業界の幹部であるし、総代も業界の幹部であるというような状態になります。

さらに、総代同士の横のつながりが極めて強くて、何らかの問題があると、総代会、あるいは、総会のところもありますけれども、そこで厳しいチェックが入るということになります。そのようになる前に既にチェックが入っていますので、総会、総代会がもめるかどうかというのとは別です。これはいい面もありますけれども、強すぎるという問題も、特に信用組合の不振時イコール業界の不振時ということになってしまって、問題が大きいのではないかと思われます。

次に27ページにまいりまして、信用金庫や地域信用組合というのは、業域・職域に比べればガバナンスは弱いと思われます。この理由は、当然のことながら会員・組合員は企業の代表者等が中心であって、オーナー意識は概して低いということと、会員・組合員の相互のつながりは比較的弱い。もちろん総代になるような方は横のつながりはそれなりにありますけれども、経営側に対する交渉力としては、業域・職域に比べれば弱いということになります。これは狭い地域に位置する信用金庫や信用組合にはあてはまらなくて、狭い地域で金融機関はそこしかないといった場合には、その地域から非常に信頼されていますし、地元の人に聞けば実にありがたいと、「我々の信用金庫・信用組合」というような言い方をされるところがあります。

次にまいりまして28ページです。都市部であればあるほど、大きな信用金庫・信用組合であればあるほど、会員・組合員のオーナー意識は低下していって、会員・組合員と経営者との距離は遠くなって、組織本来の目的と経営者の目的が乖離する可能性が高くなるということになります。うまくいっているというところも多いんですけれども、それは制度的なサポートがあるというよりは、経営陣と職員の個人的な気持ちの問題でそうなっているという場合が多いのではないかなという感じがいたします。

次に、29ページですけれども、信用金庫と地域信用組合のガバナンスが弱いことの間接的な証拠としては、私が世襲と長期在職について調べたことと、家森先生が非常勤理事について調べたことがあります。私のほうで言いますと、大きな信用金庫のほうがトップの世襲が多い。長期在職も多いんですけれども、世襲している信用金庫としていない信用金庫といったときに、世襲信用金庫の大きさの平均が随分大きいということです。長期在職の場合はあまり平均が違うということはありません。それでも長期在職をしている信用金庫は資金規模が大きいですけれども、世襲の場合は、世襲してないところに比べるともっと大きいということになります。

世襲したかしないかをどうやって調べたかというと、機械的に調べまして、20年間の理事長と会長の名前を見て、名字が同じで名前が違っていたら世襲、名字・名前が全部一致したら長期在職と、そういうふうにデータで調べて数えたということで、娘婿になったというのは入っていません。だから、世襲は実際にはこれよりもっと多いと思っていただければ間違いないと思います。

さらに、世襲信用金庫の経常費用が高いか低いかという計算をしましたけれども、やはりちょっと高いということになりました。また、モデルへのあてはまりが悪い。あてはまりが悪いということはバラツキが大きいということです。そのようなことが一つの間接的な証拠として、大きな信用金庫・信用組合であればあるほど、会員・組合員等のメンバーからの距離が遠くなってしまって、チェックが甘くなっているのではないかという気がいたします。

次に、31ページ、総代制度ということです。総代というのは会員・組合員の代表であって、会員・組合員の代わりになって経営側をチェックするはずです。しかし、実際には信用金庫・信用組合の総代というのは、会員や組合員から選ばれたという意識というよりは、その信用金庫・信用組合から選ばれたという意識になっているということです。法律のことは詳しくわかりませんけれども、法的にも立場が明確ではないのではないかと思います。

次、32ページにいきまして、法律の中では会員とか総代についての規定が少ないんですね。株式会社でいうと、会社があって、株主があって、取締役があったら、それは委任の関係だという話ですけれども、総代と理事の間も委任の関係なのではないかと思うんです。しかし、途中に入った総代と会員の関係が何かというのはさっぱりわからないということです。

信用金庫の総代を見ますと、信用金庫法の中に「公平に選任されなければならない」と書いてあるんですけれども、「誰によって」というのはないんですね。だから、誰によってというところは、信用金庫によって選任されるという話になっているわけです。どうやってやるかというと、実際には信用金庫の中で委員会をつくって、その委員会が候補者を指名して、候補者名を各支店に張り紙をして、「今度こういう方を総代の候補者にいたしますけれども、異議ある方は名乗り出てください」と、こういう感じになるわけです。そういうことで、誰も異議を言いませんので、自動的に決まるという形になります。

34ページにまいりまして、信用組合の場合は選挙ということで立候補ということになっておりますけれども、実際には1人しか立候補しないので、無投票で当選となってしまうということです。選挙になることは非常に珍しいんですけれども、最近たまに選挙があるらしいです。

次、35ページにまいります。信用金庫・信用組合の理事については、3分の2以上の理事は会員であることと法律で決まっていますけれども、この規定の趣旨が職員外の会員の理事を入れて、そこでチェックをさせようという意図ではなかったのかなと思うんですが、信用金庫や信用組合の会員や組合員になるためには、そこの地区の企業に勤めていれば会員・組合員になれるわけだから、各信用金庫・信用組合の職員はすべて会員と組合員になれてしまうわけですね。ですから、理事の3分の2は会員でなくてはいけないという規定であるにもかかわらず、ほとんど全員、非常勤理事が少ないという話もございましたけれども、事実上全員が職員がなっているというところがかなり多いということになっているわけです。これはちょっと問題なのではないかなと思います。

次に36ページ、37ページですけれども、信用金庫は誰のものかということです。信用組合の場合は組合員のものと考えていいと思うんですけれども、信用金庫の場合は法的には会員のものということになりますが、信用金庫の職員や役員にこっそり聞きますと、意外にも会員を意識して仕事をすることはないという話が出るわけです。なぜかと思いますと、非会員からの預金が資金量の70%弱と非常に大きいんですね。

都市銀行や地方銀行と違って、信用金庫というのは、信用組合もそうですけれども、資金調達はそんなに簡単にはいかないんですね。放っておくと都市銀行や地方銀行におかねはいってしまうので、渉外活動やさまざまなサービスを通じて預金を集めてこなければいけないということになっていて、預金が自動的に集まってくるなんていうことは全然考えられないし、大事な預金の70%弱は非会員から集まってきます。そういう実際の問題があって、職員さんたちに聞くと意外にも会員を意識しないというような話が出てくるということであります。

先ほど公認会計士の方からもお話がありましたように、総代会の前に親睦会をやってみたり、あるいは、預金者からも意見を集めたりと、そういう会を任意でやっているところがとても多いというのは、そういうところに通じるのではないかと思います。

次、38ページにまいりまして、ガバナンスの改善ですけれども、できるところは改善したほうがいいだろうと思います。協同組織性というもともと非常に小さな組織を前提としたシステムで、現在非常に大きな組織になりましたけれども、チェックシステムを強化することによって、ガバナンスについての問題は縮小できるのではないかと思いますので、例としていくつか考えたのを出してみたいと思います。

39ページにいきまして、理事会関係は、さっき言いましたように、理事の3分の2は職員外の会員理事を増やすことが大事かなと思いますし、大きなものほど世襲や非常勤理事が減るといった、ガバナンスに問題が生じる可能性がありますので、大きなものについては監事会とか委員会を設置するのがいいと思います。

基準例としてはいろいろありますけれども、実際には先ほど公認会計士の方がおっしゃいましたように、信用金庫については監事会はほとんど全部のところが設置しています。小さいところから大きいところまで。東京都については23個あったんですが、そのうち確認できたのが22です。確認できなかったところが1つだけあったんですけれども、確認できなかったというのは、ディスクロージャー誌に組織図が載っていなかったから確認できなかっただけであって、本当にはあるかもしれないということで、ほとんどみんなあると思いますので、全部に強制しても構わないのではないかなと思います。ビジネスモデルの違いという観点で考えるのであれば、2,000億円ぐらいを基準に考えてもいいかもしれないと思います。

次に、40ページにまいりまして、総会・総代会関係については、ポリシーとしては総代を、今ですと、信用金庫・信用組合に選ばれたという認識になってしまうので、会員・組合員に選ばれたというふうに会員・組合員のほうに向かせるということ、あるいは、経営チェックをしなければいけないというインセンティブを高めるとか、そのようなことをすればいいのではないかと思います。

具体的にいうと、全部がいいかどうかわかりませんけれども、思いついたものを述べますと、信用金庫の総代選出方法は選挙とするとか、信用金庫・信用組合の総代は会員・組合員に対して責任を持つ。今ですと、誤った意思決定を見逃してしまってもチェックも何もできないし、損害賠償も請求できないと思うんですね。損害賠償をすればいいかどうかというのは別ですけれども、総代の位置は不安定で無責任状態になっています。これは改善したほうがいいのではないかなと思います。

41ページを見ますと、インセンティブを高めるという点、株主のインセンティブがあるのはなぜかというと、株価が上がったり配当が変わったりするからということで、営利を目的としない、つまり利益を分配しないというのが協同組織ですけれども、少し変動させればそれだけでも意識は変わるかなと。非常に実利的な発想でもってレジュメに書いたんですけれども、そんなようなことも考えられないかなと思います。

それから、総代の職業とか構成を開示すべきでしょう。現在は総代の名前は出ていますけれども、どういう職業、どういう取引構成なのかというのはさっぱりわからないわけです。協同組織性というのは一人一票制ですから、先ほどほかにも出ておりましたけれども、個人が80%ぐらいで、中小企業は20%と。この比率を守ることはないにしても、一般の個人の会員のウエートを極端に減らしてしまったり、つまり単なる預金者はあまりいないとか、そういうことになってしまうと、一人一票制という大原則を、総代制度を使うことによって侵食しているという感じがいたします。ですから、総代と会員の構成をぴったり同じにすることはないにしても、構成は明確に出して、ある程度連動させるように仕組みをつくるべきだと思います。

それから、先ほど言いましたように、預金の70%弱は非会員であることを踏まえますと、預金者の会員、あるいは、非会員の預金者の会員というものを重視する必要があるのではないかと思います。

それから、銀行と同質化しているかということですけれども、43ページの表によれば、一部の信用金庫を除きますと、大きな信用金庫と小さな信用金庫において、地銀などに比べれば一取引先に対する融資額は信用金庫は小さいと言えます。

少し飛ばしまして、47ページにまいりまして、地域金融機関性です。時間がないので結論だけ言いますと、信用金庫については、郊外型の地域と都市型の地域で、首都圏においては面積が倍ある地域になると支店の数も倍になるというふうに、首都圏に関しては、300の市区町村のうち、二百三、四十ぐらいの市区町村に対して信用金庫が出店しているんですが、その出方がかなりきっちりと出ている。きっちり出ているということは、少しでも利潤の可能性があれば、そこには出ていったということだと思います。

そう考えますと、52ページですけれども、首都圏に関しては、地区規制があったにしても、ほとんど効いていないという感じがいたします。少なくとも綿密に出てしまっているということは、ちょっとでも利潤がありそうなところにみんな出たということで、どこでも同じような利潤が得られるというような話になってしまうので、地区規制はあるにしても実際にはゆるかったという状態ではないかなと思います。

そのようなことから現在の地区規制の意味を考えますと、「地域金融機関としての公式の認知」という面が一番強いのではないかと思います。これはどういうことかというと、例えば昔の都市銀行は大企業、特に重工業に対して融資をして、それによって日本経済を支える、というようなポリシーがあったに違いないわけです。ところが、その後、時代が変わって、産業構造や金融の構造も変わって、個人でも企業でも融資するというふうに、企業使命が変わってきました。

信用金庫について、法律の中に地域が大事なんだと書いてあれば、時代とともにある程度実際には自由に行動できるにしても、我々の企業使命は地域にあるんだというようになって、行動パターンは基本的に変わらないのではないかと思うんですね。ところが、公式の認知が外れてしまうと、しばらくは地域金融機関であると思っているかもしれませんけれども、そのうちだんだんそういうのは忘れてきて違うパターンになって、いろいろな行動になってくる、そういう可能性があるのではないかと思います。

あと、業界内の保証制度ですけれども、信用金庫・信用組合にはそれぞれ中央機関があるわけですが、中央機関がどのように信用金庫・信用組合をサポートしているのかがよくわからない面があります。中央機関には業界自体の信用を確保しなければいけないという面もありますが、信用金庫の資金の7割は非会員からとっているということでありまして、それを信金中央金庫に預けていて、それによって信金中央金庫は利益を得て、その資金を使っていろいろサポートをしたりというのであれば、どのようなサポートをしたのかということは明らかにすべきだと思います。かつ、そのようなサポートのルールはオープンというか、きっちり決めていただいて、業界を支えていただければなと思います。

以上でございます。

○神田WG座長

どうもありがとうございました。

それでは、神吉委員、宮村委員からのご意見、それから、最初に戻っていただいて、ゲストの秋山先生、寺山先生からのお話に関連してでも結構でございますので、残り時間は限られておりますけれども、ご質問、ご意見をお出しいただければと思います。

佐藤委員、家森委員の順番に……。原委員、失礼しました、よろしゅうございますか。

○原委員

後でいいです、意見なので。

○神田WG座長

では、佐藤委員、家森委員、原委員の順番でお願いします。

○佐藤委員

神吉先生、宮村先生、本当にありがとうございました。ただ、盛りだくさんで私の理解をちょっと超えるようなところがあって、十分あれができないと思うんですけれども、意見と同時に質問させていただきたいと思う点がございます。

1つは、私どもの経営の根幹が地域を非常に大事にしていると、そこによりどころがあるということだけは間違いないことでして、神吉先生のおっしゃるように、確かに当初の機関設計ということで、人的結合も融資をしていくために必要だという相互監視という問題から、金融監督という問題も出ていましたけれども、そうした制度設計の当初のものから、当然今は変わってきていると。これは宮村先生もおっしゃっていましたように、私も変わって当然ではないかと思うんです。そういう点について、積極的に地区を廃止、ないしはそうしたことをやる行動の意味が、今の信用金庫の果たしている地域での役割というものをもっと有効に生かすためにそうしたことが考えられるのか。

それとも、信用金庫そのものの存在と言いますか、そういったあり方、後のほうでお話のあった宮村先生からも、サービスのあり方、ビジネスの仕方が違うんだというお話がありましたけれども、やり方が違う、仕方が違うと。そういったことについてあまり望ましいものではないので、地域というものに考え直す必要があるのではないかと、そういうお考えなのかどうかという点をお聞きしたいなと。むしろ積極的には、ちょっとおっしゃっていました、釜石信用金庫の例のようなものがあるから、地域を考え直していくべきだというふうな考えなのか。その辺のところをお聞かせいただきたいと。

私の考えは、信用金庫そのものが今、これだけの発展を遂げてきたと言ってもいいと思うんですが、できた当初の協同組織による協同組合という性格から、金融機関として地域の役割を担っているということから言って、それは地区がしっかり意識されてきたことによってできているのではないかというふうに、現実に今の経営でも重視しているんですけれども、そういったことがあるので、その点に関しては私は真っ向から違うのではないかと感じるわけです。

それから、これは座長にもお許しいただきたいんですが、昨日信用金庫大会がございまして、金融担当の渡辺大臣がお見えになってお話をされたんですね。そのお話について、差し支えがあれば削除していただいてもいいんですけれども、信用金庫は預貸率が下がっていると、業態別に見たグルーピングをしても。だから、リスクをとっていないというお話をされたんです。それについては、大臣に対して心外なんて言ってはいけないんでしょうけれども、そうではなくて、我々が今やっていることがある面では成功しつつあるということからも、預貸率というのは下がっていくことも考えられるわけで、一つの事象を見て実態をそういうふうに捉えられることについては、非常に問題ではないかと感じました。

ここでそんなことを言える立場ではないんですけれども、私どもは今、企業の課題解決を一生懸命やっています。そして、それに必要であれば融資も当然ながら課題解決の一つとしてあるわけで、我々の融資を増やすために活動するという考え方から、地域の活性化ないし地域そのものが持続的に発展していくために、何をするかということが一番大事な要素になってきていて、それが協同組織性という地域性の根幹だと感じているんです。

そういうことをやりますと、当然ながら企業として再生していく、課題解決をした企業について、よくなってくると融資は返済すると。よくなると他行が来て、主にメガバンクですけれども、非常に安い金利で出して、そちらのほうにいくと。それは結構なことですけれども、そうしたことを通じて預貸率も動いていくということもありますし。そうしたモデルに取り組んでいるという状況もあるので、個別の信用金庫、それと地域的に見れば全部の融資をしたとしても、預貸が30とか40という地域もあるわけで、それを必死になってやっているのが信用金庫の現状だということを理解いただければ、あのようなご発言はなかったのではないかと思うので、その辺、実態が変わってきているということもよくご理解いただきたいし、我々のやろうとしていることはそういうことで、むしろ将来の展望ということで言えば、地域の課題解決のフィーをいただくという考えが主流になってきてもいいのではないかと。

これは業界としての意見ということではなくて聞いていただいてもいいんですけれども、あえて言えばそういった問題が。地域性というものが非常に重要視される課題でもあると考えているので、大変失礼なことを言ったかもしれませんけれども、我々のやらんとしているモデルについてのご理解を深めた上で、それを実現していくためにどういう制度が必要なのか、どういったガバナンスが必要なのかということを真剣にこれからも考えていくし、ご示唆願いたいと痛切に思っております。大変申し訳ないんですけれども、ひとつよろしくお願いいたします。

○神田WG座長

ありがとうございます。

それでは、ご質問にかかわる部分、できれば簡潔に。

○神吉委員

貴重なご指摘をいただきまして、どうもありがとうございます。

地区を廃止してしまうということの意味はというようなご指摘であったろうかと思います。あくまでも協同組織金融機関を地域の金融機関だと見れば、地区だけ決めて、その中で営業すればいいというような考え方になろうかと思うんですけれども、歴史を踏まえますと、人的結合を図らなければいけないということが協同組織性を決定する上では重要かと思われます。

そうしますと、「地区」を定めるということで人的結合が図れるのか、という問いになります。逆に問いますと、それが難しくなっているのではないかということを申し上げたかったわけでございます。もちろん地域に密着して営業しておられるということは十分わかっておりまして、それはなくてはならないことであるということもわかります。

十分なお答えになっていないかもしれませんけれども。

○佐藤委員

ありがとうございました。

○神田WG座長

また引き続き議論をすべき点だと思います。

宮村委員、今の点について何かございますか。

○宮村委員

いえ、僕には質問はなかったので。

○神田WG座長

ええ。では、恐縮ですが、そういうことにさせていただいて。

それでは、次に家森委員、どうぞ。

○家森委員

もう時間がなくなったので1つだけにさせていただきます。会計士の秋山さん、寺山さんにお尋ねしたいんですけれども、今の信用金庫法では員外監事とか員外理事というような概念があるわけです。この員外というのは会員外ということなんですが、株式会社のいわゆる社外取締役というのは、株主であっても雇用関係がなかったらなれるかと思うんですね。具体的に申し上げると、会員外でないといけないという制約は必要なんでしょうか。理事長に対して独立性があればよくて、株主であっても社外取締役として社長に対して十分独立性を持てるわけですので、この員外であるという意味についてどのようにお考えかという点で何かご意見があったら教えていただければと思います。

○神田WG座長

すごい難問ですが、いかがでしょうか。

○秋山参考人

銀行等では監査役で外部監査というのがいらっしゃって、それは弁護士さんであったり、会計士であったりという方が結構いるんですけれども、信用金庫・信用組合の場合の員外というのは、会員・組合員以外ということになるかと思うんですね。趣旨としては、独立性という意味で金庫・組合に対してものが言える条件が満たされていれば、基本的にはいいのではないかと私は思うんです。別の規定の仕方もあるかと思いますけれども、趣旨としてはそういうことを満たせばいいのではないかと思っております。

○神田WG座長

ありがとうございます。

原委員、どうぞ。

○原委員

今後の進め方についてお願いをしたいのですけれども、信用金庫と信用組合がスタートするときの理念と、今は大変違ってきている、非常に多様性を持った存在になってきているというところをまず押さえておいていただきたいと思います。預金量が100倍、200倍、差があるという規模の差、それから、地域性についても、東京で見ている信用金庫・信用組合と違って、今日私は長野から帰ってきたのですけれども、長野の場合は信用組合が古くからあるようで、すごく古い看板を出されていて地元密着で営業をしていらっしゃるような姿があって、地域性も随分違います。

それから、先ほど業域と職域のお話がありましたけれども、扱っていらっしゃる分野というのでしょうか、ジャンルによっての違い。それから、理事長が独断専行でやっていらっしゃるところもあれば、監査会という工夫をしたり、この辺も大変多様化しているということがありまして、私としては、十把一からげではなくて、整理して後半の議論に臨んでいただきたいと思います。

3つポイントがあると思います。1つは、先ほど神吉委員がおっしゃられたように、いくつか分類をして、自分で選択をするという道筋をつけるということですね。2つ目は金融機関としての基本的なルールですね。開示とか総代のことがありましたけれども、こういった基本的なルールについて共通的なものを定めていただきたいと思います。3つ目は、信用金庫と信用組合は相互扶助ということでスタートしておりますから、その相互扶助をどのように考えていくのかというあたりを論点にしていただいて、後半の議論を進めていただけたらと思います。

以上です。

○神田WG座長

どうもありがとうございました。

時間がきてしまいましたけれども、吉野先生、どうぞ。

○吉野委員

時間がないのに申し訳ないんですが、秋山先生と寺山先生に。普通、金融機関で大きな銀行の場合は利潤率とか売上とか、そういう指標を見ればいいと思うんですけれども、信用金庫・信用組合は相互扶助ということですから、出た結果に対して見方が違わないといけないと思うんですね。そういうところではどういうふうにご覧になって判断されていらっしゃるのか。

それから、先ほど宮村先生と秋山先生たちの議論と同じなんですが、理事会とか監事会のメンバーがきちんとした判断をしているかどうかという、そのガバナンスをマーケットで見れるような指標にしませんと、大きな金融機関の場合は株価の動きとかある程度マーケットから見てガバナンスが行われているかどうかわかると思うんですが、それがない場合にどういう形で中のメンバーの構成を見たらいいのか。

その2点でございます。

○秋山参考人

まず最初の信用金庫・信用組合における相互扶助の指標ということですけれども、我々もこれは評価の仕様がなくて、リレーションシップバンキングの報告書を作ったりしておりますので、一つの定性的なものとして、地域にどういう貢献活動をやっているかということから評価するしかなくて。我々は会計監査ということで財務諸表を見ているわけですが、その中で相互扶助をどの程度やっているかという指標はないわけでございます。しかも、信用金庫・信用組合は、銀行と別の規制を受けているかというと全くそうではなくて、自己資本比率規制も受けていますし、利益も出さなきゃいけません。

そういう意味では、我々も、銀行の監査と同じように不良債権比率がどうとか、繰延資産の自己資本に占める比率がどうとか、自己資本比率がどうとか、銀行で通常適用されているような指標で健全度を評価せざるを得ないところで、今後は相互扶助ということが信用金庫・信用組合等の協同組織金融機関において重要な活動、あるいは、評価する指標であれば、それを何らかの形で、チェックリストでもいいんですけれども、測れるようなものができれば評価できるのではないかなと思う次第でございます。

○神田WG座長

どうもありがとうございました。

予定の時間が過ぎてしまいました。皆様方にはまだご質問等もおありかと思うのですけれども、いつものようにまた電子メールとかお電話で事務局にお寄せいただけませんでしょうか。そうしましたら、秋山先生や寺山先生には、場合によっては、また後日事務局からそれを伝えさせていただきますので、引き続きいろいろと教えていただければと思います。そういうことで先へ進ませていただきたいと思いますので、恐縮ですけれども、今日はこのあたりにさせていただきたいと思います。

事務局から資料の説明と連絡をお願いします。

○遠藤信用制度参事官

右肩に「協金WG5-4」と記載されている資料がございます。これは、今、神田座長からお話がありました、前回の議論に基づきまして委員の皆様方からメールでいただいたご質問について、前回ご意見を頂戴いたしました家森委員と、農林中央金庫にご協力いただきまして、回答を取りまとめたものでございます。私から中身についてご説明する時間はございませんが、委員の皆様におかれましては、ぜひお目通しいただければ幸いでございます。

次回のワーキンググループは、全国信用金庫協会及び信金中央金庫から協同組織金融機関のあり方に関してご意見をいただくとともに、利用者ということで、中小企業経営者の方に借り手としての立場から協同組織金融機関を見てこられた、これまでのご経験を踏まえたお話を伺う予定でございます。

次回は7月4日、金曜日、16時からを予定しております。正式には追ってご連絡いたします。よろしくお願いいたします。

○神田WG座長

それでは、秋山先生、寺山先生、どうもありがとうございました。延長してしまいまして、申しわけありませんでしたけれども、これまでとさせていただきます。

どうもありがとうございました。

以上

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