金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第4回) 議事録

  • 1.日時:

    平成30年4月9日(月)13時30分~15時30分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館13階 金融庁共用第一特別会議室

【神田座長】

それでは、予定の時刻よりも2、3分早いのですけれども、今日ご出席予定の皆様方全ておそろいでございますので、始めさせていただきたいと思います。

ただいまから、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の第4回目の会合を開催いたします。皆様方には、いつも大変お忙しいところをご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

本日の会議でございますけれども、初めてタブレットを使用して、ペーパーレスでやってみます。タブレットの使用は初めてということになりますので、どうなることやらという感じはあるのですけれども、まず事務局から、タブレットの操作説明をお願いいたします。

【藤岡調整官】

それでは、タブレットの使用方法を説明いたします。タブレットをご覧ください。

現在、画面上には、議事次第が表示されていると思いますが、まずはその状態で右端にあるホームボタンを一度押してください。画面が切り替わって、画面全体にアイコンが表示されます。そのうち中央一番下の「Presenter」のアイコンを押してください。そうしますと、議事次第の画面に戻ります。

この時点でご不明な点のある方は挙手をお願いします。

大丈夫でしょうか。では、進めさせていただきます。

画面中央上部に、「個人」「共有」「発表者」という3つのボタンがあります。「発表者」のボタンは発表者のみ使用しますので、発表者以外の方は使用をお控えください。資料の表示には、「共有モード」と「個人モード」を使っていただくことになります。「共有モード」の場合は、発表者の画面が皆様の画面に連動して表示されます。基本的には「共有」ボタンをタップして「共有モード」にしていただくようお願いいたします。発表者の画面とは関係なく資料をご覧いただく場合には、「個人」ボタンをタップし、「個人モード」をご利用ください。「個人」と「共有」のボタンをタップすることでモードの切り替えが可能です。

「個人モード」では、画面の上部右側に紙が2枚重なっているアイコンがありますが、こちらを押すと、上部に「資料切り替え」というのが出てきます。そちらを押すと、過去3回のワーキング・グループの資料及び、これまで席上配付した参考資料をご覧いただけますので、適宜ご利用ください。

この資料の選択画面から戻る場合は、左上部の「戻る」を押してください。

「共有」ボタンを押すと、また発表者の画面と連動します。

ご不明な点はございますか。

よろしいでしょうか。では、操作方法につきましては、以上になります。

傍聴の皆様には、開催通知でご案内したとおり、会場での紙の資料配付は今回行っておりませんが、資料を事前にご準備いただいていない方も、お持ちのタブレット等で金融庁のウェブサイトにアクセスしていただき、そちらに資料を掲載しておりますので、適宜ご覧ください。また、室内に2つ、ちょっと遠いのですけれども、プロジェクターも用意しておりますので、ご覧ください。

ペーパーレスでの開催については、お気付きの点がございましたら、事務局までご意見をお寄せいただけますと幸いです。初めてで不慣れな点もございますが、ご協力のほどよろしくお願いいたします。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

委員の皆様方には、会議の途中でも、何かトラブルが生じた場合には手を挙げていただければ、事務局の方で対応していただけると思います。

それでは、本日の議事に入らせていただきます。

お手元の議事次第にございますように、本日はまず、非財務情報やガバナンス情報を含む開示のあり方全般について、英国の運用会社でありますハーミーズ・インベストメント・マネジメントのブルース・ドゥグッド様、それから、米国のカリフォルニア州教職員退職年金基金のブライアン・ライス様からお話を伺います。なお、お二方からは英語でのご説明となりますので、逐次通訳を行います。

そして、その次に事務局から、その他の課題ということで、「ITの活用、英文開示についての主な論点」についてのご説明をしていただきます。

それでは、早速ですけれども、ハーミーズ・インベストメント・マネジメントのドゥグッド様より、「Corporate disclosure」についてのご説明をお願いします。ドゥグッド様からは資料1をご提出いただいております。それでは、よろしくお願いいたします。

【ハーミーズ・インベストメント・マネジメント(Hermes) ドゥグッド様】

ご紹介いただきありがとうございます。この場に来ることができて、大変うれしく思います。東京の日差しを楽しませていただいています。

まず、この場を借りて、私自身と弊社を紹介させていただきます。

弊社はロンドンに拠点を構えているアセットマネジメント会社ですが、アセットマネージャーといっても、ちょっと異なる長期的な見通しを持った会社です。すなわち、よりよい年金生活ができるようにお手伝いする、これが弊社のミッションです。ということで、主に焦点を当てて見ておりますのは、全体的な、ホリスティックなリターンということになります。これはすなわち、財務的なリターンに限らず、より幅広く見ていくということにもなります。

弊社の運用資産は460億ドルです。当社資本の10倍もの金額を受託し、スチュワードシップでの運用をしています。クライアント数は40、うち3社は日系の会社です。それ以外に、カナダ、米国、ヨーロッパ、オーストラリアにもクライアントがございます。

私自身の役割は、ハーミーズにおけるスチュワードシップの責任者という位置付けでして、総勢15人のチームを率いております。500社ほどと面談することによって、投資家の長期的なニーズに合致した経営がなされているかどうかを確認しております。

日本におけるコーポレート・ガバナンス並びにスチュワードシップの動きを大変歓迎しています。そして、この分野に注力し、検討を続けておられるということにも大変感謝をしています。

英国も日本と同様の旅路を歩んできており、最初のコーポレートガバナンス・コードが出たのが1992年、そして最初のスチュワードシップ・コードが出たのが2012年となります。今日は、英国の経験についてお話をさせていただくとともに、日本でガイドラインを設ける上で、検討する上で焦点を当てるといいのではないかというような、私どもの考えを述べさせていただきます。お手元の資料をご覧ください。

まず1点目は、なぜ企業の開示に対しての関心がこれまで高まってきているのかという理由についてです。この35年間、世界の経済は重きを徐々に無形資産の方に移してきました。それは知財資本であったり、ブランド価値であったり、あるいは自然資本や人的資本についてです。これらの分野は、その価値を財務的に、金額で把握するというのが難しい分野です。しかしながら、会社の将来にとっては重要なものです。そしてまた、投資家にとって、より情報が必要な分野でもあります。ですので、数字的な情報を超えて、統合報告という形で、よりよい報告がなされることが望ましくなっています。長期的な価値を生み出すその他の様々なドライバーと財務的な情報が統合されていることが重要です。

英国では2014年に、「Guidance on the Strategic Report」と題して、戦略報告書に関する要件を高度化しました。戦略報告書は、ほかの報告書を補完する役割を持っていて、必須の報告書です。例えば、コーポレート・ガバナンス、役員の報酬、そして財務報告と並ぶ、それを補完する位置付けとなります。

戦略報告書には、役員が会社を成功させるためにどのように会社を導いていくのか、それを自らの職務としてどのように遂行しているのか、これを記述することとしています。報告書の中に記載することが求められる分野としては、ビジネスモデル、戦略、業績、企業のポジション並びに将来の見通しです。会社の役員として、報告書の中に何を記載するのか、これは裁量に任されているわけですけれども、重要性を認識することが求められていますし、また、その記載内容に関しては、革新的、そして明確かつ簡潔に述べることが求められています。

3つの主要な要素があります。戦略報告の部分、事業環境の部分、そして業績の部分です。ガイダンスの中には、幾つかの主要な要素として、次のようなものが含まれています。会社にとって影響のあるトレンドや要素、そして主要リスク、また会社の発展や実績に影響を及ぼすものに関する分析、そしてKPIを用いた分析です。また、環境、従業員、社会的なコミュニティー、そして人権、ジェンダー・ダイバーシティーの重要な部分については、報告書の中に記載することが求められています。報告書を提出することは、必須として求められるものではありますけれども、セーフ・ハーバー条項があり、その責任範囲に関しては会社に対してのみの責任というふうに限定されています。罰されるのは、故意の、不誠実な虚偽な記載がある、あるいは隠蔽があったと認められる場合のみということで、その責任に関しては有限であるという状態です。

2014年のガイドラインは、既に包括的かつ比較的新しい内容を盛り込んだものとなっておりますが、新たな市中協議が始まっておりまして、これを受けて改定が行われる予定です。市中協議の契機となっているのは、欧州共同体の非財務情報開示指令が出たことです。既にその多くは英国の法律に折り込まれております。しかしながら、ステークホルダーに関して報告書の中に記載させるという、政治的な圧力は高まってきております。特に2016年に発足したメイ政権は、これを優先課題として取り上げています。

今後このガイドラインに入れられるであろう主な改定としては、次のようなものが含まれます。例えば、会社のビジネス目標に関する情報をより提供するということ。会社の事業目標。会社は主なステークホルダーとどのような対話を行っているのか。また、会社の価値や行動や文化についての説明が求められます。また、会社の成功が長期的に実現するためには、どのような関係、あるいはどのような主要な資源があるのか。そして、会社の戦略を実行するためにどういう資源の配分が行われているのか。資源や資本の配分を行っているのかに関する記載が求められます。

金融安定理事会の指示により設置されたタスクフォースが策定している、気候関連財務情報開示に関するガイドラインも出てきております。これは任意のガイドラインではありますけれども、英国政府がサポートしているということもあり、このガイドラインに対しての有効性、そしてこのガイドラインに従っているかどうかということについての言及が求められるのではないかと、私たちは考えています。

では、ここから日本のガイドラインに関して、少し考えを述べさせていただきます。ガイドライン並びにコーポレートガバナンス・コードに対する見直しがなされているということを、私どもは支持します。事業戦略や長期計画に照らして業績を説明する取組を進めていくことが、日本企業にとって重要だと考えます。今の内容ですと、しばしば記述が短過ぎる、あるいは経営陣が将来についてどのような見通しを持っているのか、それを理解するために十分な情報を投資家が得られない状態にあります。

また、よりフォワードルッキングな、将来を見通した情報が出てくるということも期待しております。将来の経済環境変化に直面したときにどうなるのか。また、将来の規制の変化、例えば、低炭素シナリオにおいて、温室効果ガスを削減していく上で、規制が強化された場合、会社にとってどういう影響があるのかといったような情報も出てくることが期待されます。また、全世界的に散らばる従業員と会社の関係についても、できれば情報が提供されることが好ましいと、私どもは信じております。特に人的資源が何よりも大事だと思います。

また、コーポレート・ガバナンスの面での開示については、政策保有株式に関する情報について、より情報が提供されることが期待されます。私どものクライアントの多くが懸念を持っている分野でもあり、各企業には、政策保有株式の撤廃、あるいは削減を求めております。政策保有株式を保有している目的、これをもっと説明するような、よりよい情報提供が企業には求められます。定型的な、ボイラープレートの説明ではないということが、極めて重要です。そしてまた、株主の上位10社ではなく上位30社を示すという、そういう情報開示が重要であると私どもは考えます。

また、効率的な資本政策に関する情報開示も歓迎いたします。バランスシート上に現預金を大量に保有するということに関しては、正当化する必要があると考えておりまして、この点に関しては、ガイドラインに盛り込まれることを期待しております。一方、経営幹部の報酬に関しては、個人レベルでの報酬の開示に関する要件、これは変える必要はないと考えます。しかしながら、支払に関しては、詳細に理解をしたいと思います。特に経営陣のボーナスの支払について、数値基準、目標とする項目、そしてウェイト付け、それぞれについてのさらなる情報開示を求めます。また、会社の役員を務めるに当たって、どのようなインセンティブが与えられているのかに関するさらなる説明、そして情報の開示を求めます。

また、英語での日本企業からの情報開示についてですが、弊社には数人の日本人のアナリストがおりますので、日本語での情報開示だけで十分です。しかしながら、日本語を解する人が社内にはいないという機関も多いと思いますので、投資家が日本への投資判断をする上で、英語での情報開示があると助けになると思います。

最後に、日本のコーポレートガバナンス・コード、そしてガイドラインに関して申し上げます。日本の企業が参照するガイドラインは、英国のガイドラインと比べて、要求する文書の量が少ない、短いというふうに感じております。英国のガイドラインの場合にはノンバインディングで、そしてコンプライ・オア・エクスプレインというアプローチをとっております。こういったアプローチをとっているため、当局は詳細なガイドラインを設けています。事例や、あるいは表や、テンプレートを用いての報告が求められます。それに従うことで、当局が期待しているような報告が各企業から出てくることが期待されます。

私からの説明は以上です。ご質問があれば、喜んでお受けいたします。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、CalSTRSのライス様から、「Corporate Governance Overview」についてご説明をいただきます。ライス様からは、お手元の資料2をご提出いただいております。

それでは、ライス様、よろしくお願いいたします。

【カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS) ライス様】

座長、そして委員の皆様、本日はご招待いただき誠にありがとうございます。

私は、CalSTRSを代表して参りました。CalSTRSはカリフォルニア州の公立学校の教職員向けの退職年金基金です。年金基金の加入者・受給者は約90万人以上で、運用資産額は2,250億ドルです。我々はカリフォルニアの教職員向けに、100年以上サービスを提供しています。

こちらが我々の資産の分布です。上場株が5割以上で、大半を占めています。そういった意味で、本日のような機会は、我々のファンドにとって大変有用な機会です。

こちらが資産の分布をさらに細かくしたものですが、グローバルで約1,200億ドルを上場株に投資しています。約3分の2が米国株、そして残りがその他の国々となっています。そして、6割に関してはパッシブ投資、もしくはインデックス投資となっており、4割に関してはアクティブ投資で、こちらは外部に運用を委託しています。

我々の主要な戦略は分散化です。その結果、たくさんの企業に関して、少額ずつ運用しています。グローバルで約8,000社に投資しています。我々はマーケットに主体的に関わるということを1つの主眼にしております。そのためにも、様々な国の市場と対話をすることが重要です。そして、マーケットに対して、より長期的な視野を持つように、そしてあまり重要視されていないけれども、我々が重要と考える課題や項目について、より焦点を当てるように呼びかけています。また、パッシブ投資、インデックス投資に関しても、企業と対話しています。パッシブ投資であれば企業と直接、そしてアクティブ投資であれば投資顧問会社を通じてということになります。

さて、日本におけるエンゲージメントについてお話をしたいと思います。距離が離れているということ、そして言語が違うということ、そしてタイミングの問題、これについては後ほど述べたいと思いますが、幾つかの課題があります。その結果、主なエンゲージメントはACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)を通じたものとなります。我々が関心を持っている議題は、独立社外取締役、取締役会の組織や構成、そして企業の情報開示です。我々は他のグローバルな投資家と連携して、独立社外取締役についての取組を、企業に働きかけています。

それでは、日本における企業の情報開示についてですが、まず、日本の皆様の取組に対して感謝するとともに、支持を申し上げたいと思います。

まず、財務情報、そして非財務情報、ないしは記述情報についてです。経営戦略及びリスクマネジメントに関しての情報開示がさらに進むことを、我々は期待しています。そして、より長期の視点での戦略、そして長期の視点でのリスクマネジメントについての記述が増えることを期待するとともに、非財務情報に関しても、さらに提供いただけることを期待しています。そして、マテリアリティー、重要性に鑑みた報告を求めるとともに、いわゆる紋切り型の定型的な言葉を使わないことを求めたいと思います。

コーポレート・ガバナンスに関する情報については、政策保有株式がどうして必要なのかということは理解し難いところです。ですので、なぜ政策保有株式を保有する必要があるのか、その説明を企業に求めたいと思います。政策保有株式の費用対効果についての分析が有用だと思いますし、また必要だと思います。また、役員ないしは取締役の報酬については、長期での企業価値創造に、その報酬がどのようにリンクしているのか、そういった説明を求めます。そして、その報酬体系を通じて、どういった役員、取締役の行動が奨励されているのかについての説明を求めます。こういったことに加えまして、我々にとってもう一つ重要な点がございます。

日本市場は、他の市場と同じような形で会社の経営に我々が影響を与えることができないと感じています。その理由は、まず株主総会の時期が重なっているということ、また、株主総会の資料を分析する時間が十分にないということ、そして、その結果、我々が自身で分析することができないので、アドバイザリーサービスに任せざるを得ないことが多いということがございます。残念ながら、Hermesのように、日本語を解するアナリストが我々CalSTRSにはいません。ですので、開示資料の英訳は、我々としては大変歓迎するところです。

そして最後に、キャッシュの使途、そして残高についてです。そこまで大量の現金を保有する必要があるのかについては、不明に思うことがございます。ですので、現金の使途ないしは現金の保有理由について、さらなる開示が求められます。

まとめとなりますが、まず、日本は我々にとって大変重要な市場です。米国に次ぐ、我々にとっては最大の株式市場となっています。約100億ドルを日本の上場企業に投資しています。そして、コーポレート・ガバナンス、スチュワードシップ等、日本の最近の取組については、大変感謝しております。そして、実際、企業のエンゲージメントは改善してきていると思います。多くの企業がCalSTRSを訪れ、我々と対話をしてくださっていますが、それはまさに皆様のご貢献によるものだと思います。ぜひさらなるエンゲージメントに向けて、皆様、そして日本の企業の皆様と、今後も対話をしていきたいと思います。私からは以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、お二方からのご説明について、委員の皆様方からご質問、あるいはご意見等ございましたらお出しいただければと思います。なお、ご質問等される場合には、日本語、英語いずれでも結構です。日本語でのご質問の場合は、通訳者の方に英語訳をしていただきます。また、英語でご質問いただいた場合は、議論の内容を全体で共有するため、質問内容を日本語で会場全体に逐次通訳させていただきたいと思います。あるいは、ご本人でみずから日本語と両方で言っていただくということでお願いできればと思います。

それでは、水口委員、どうぞ。

【水口委員】

3つの意見です。まず、ドゥグッドさん、ライスさん、素晴らしいご示唆をいただき感謝しています。1点目、フォワードルッキングな開示を歓迎するところであり、既に足元で顕在化しているものだけではなくて、先を見据えた形でのイマージングリスクを含めた重要リスクの開示に加えて、いかに企業が認識した重要リスクをモニターし、管理・抑制する方針であるかなどについての開示にも非常に関心があります。ドゥグッドさんにイギリスのstrategic reportに求められていること、具体的には「公正、バランスが良い、分かりやすい、簡潔、フォワードルッキング、企業特有、報告書内の情報の関連付けなど」というレポートに期待されている特性についてもご紹介いただきましたが、この審議会の場でも、同様の観点から、報告書に期待する特性に付言する複数の意見が出ています。

将来を見据えた形での開示(フォワードルッキングな開示)についての私の意見について、お二人から何かフィードバックがあれば、ぜひお願いしたいと思います。先ほどもドゥグッドさんからお話がありましたけれども、会社を取り巻く環境のトレンドを含めどんな要因が、会社の経営、事業モデルに影響を与えるのか、また、事業機会や、主要なリスク、不確実性などについて、ぜひ開示していただきたいと思っています。

アナリストとして会社を分析するというときに、フォワードルッキングな視点を形成しなければなりませんが、そのためには、会社が足元のリスクだけではなく、将来的に何が起こり得て、将来企業が直面し得る課題についてどう対処し得ると考えているかについて理解につながる開示は有用であると考えます。企業が、どういった主要な機会、脅威などが将来発生し得るかを見据えて、将来の環境変化に適時適切な対応に向けたPDCAサイクルを確立していることを期待しており、どのようなPDCAに係る体制が整備されているかについての理解の深化につながる開示を期待しております。

2点目、ライスさんとドゥグッドさんから、政策保有株式や、有効な資本管理についてもお話をいただきました。私は、こうした諸観点からも、将来を見据えた形でのPDCAプロセスの中での位置付けを明確化した資本配賦の計画などについても開示していただけるとありがたいと思います。

先ほど来お話がありました、政策保有株式については、ガバナンスという観点からだけではなく、資本効率の向上といった観点からも、どういう理由で政策保有株式を保有しているかということを開示していただけるとありがたいと思っています。例えば、先ほど来ライスさんのご指摘があったように、政策保有株式を保有するベネフィットとリスクの両方の視点を踏まえて、企業がどのように資本効率を向上し得るかという切り口から、政策保有株式を削減すると、それが資本の効率性の向上につながるなどといった政策株式保有方針の背後にある論拠についても開示していただくことがあるのなら、それはありがたいです。

3点目、最後になりますけれども、ライスさん、ドゥグッドさんもおっしゃっていただいたように、役員報酬の開示については、報酬体系の構成などを開示していただくとありがたいと思います。それが長期的な価値創造などを含めたKPIとどのように関連しているかということもぜひ理解したいと思いました。役員報酬の仕組みの適切性の判断に役に立つ開示を歓迎しますし、そうした役員報酬を開示していただけることで、マネジメントが健全なリスクテイクに向けて、どのようにインセンティブを与えられているかということが理解できるし、投資家は、企業による健全なリスクテイクを応援することができると考えております。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。ご質問というよりは、ご意見の部分も多かったかとは思いますけれども、コメントがあればお願いします。

【Hermes ドゥグッド様】

将来のポテンシャルシナリオに関する情報提供という部分について、少しコメントさせていただきます。

これは新しい分野であり、そしてこれからますます現れつつある分野でもあります。企業の中には、会社が将来直面するかもしれないポテンシャルな事象について、報告書の中にどの程度詳細に書くべきなのか、そこに苦慮しているところがあります。会社側としては、様々な代替シナリオがあるということを認識していますし、また、将来起こり得るかもしれないことについて言葉を尽くして、かなり長く書くこともできるというふうに考えています。その認識は正しいと、私たちは思います。

そこで弊社では、将来の会社の戦略やリスクに影響を与え得るキードライバーが何か、そこに注力するように言っています。それは例えば、技術の変革、あるいは社会的な期待の変化などです。あるいは、規制の変化も含まれます。例えば、弊社では、1つのシナリオに重きを置いています。それはすなわち規制によって気候変動の環境への影響が2℃未満に抑えられる、あるいは温室効果ガスが450ppmに抑えられるというシナリオです。このシナリオは、2015年に開催された国連の気候変動枠組み条約のパリ合意でも支持された考え方ですし、包括的に支持されているシナリオでもあります。そこで、各企業に対しては、自らの戦略が、このシナリオに照らしたときに、財務上、あるいは業績上、どのような影響があると考えるのかを説明することを期待しています。

【神田座長】

ありがとうございました。

ライスさん、何かコメントございますか。

【CalSTRS ライス様】

私からは、単におっしゃった開示内容に、私も同意していると申し上げたいと思います。それは政策保有株式に関しても、役員報酬に関してもです。また、リスクに関しては、既に直面しているリスク、ないしは今後直面し得るリスク、両方に関しての開示が重要だということ、そして、その際のシナリオ検討が必要だということも同意します。

ただ、今後出現し得るリスクに関しては、不確実な要素が大きいため、企業としてはそういった不確実な情報を提供することには躊躇するきらいがあると思います。ですので、こちらに関してはかなり具体的な形で、こういった情報を求めているということを要請しないと難しい部分があるのではないかと思います。

【神田座長】

ありがとうございました。

それでは、石原委員、どうぞ。

【石原委員】

ありがとうございます。著名な投資家のお二方からお話をいただいて、大変参考になります。大きな質問を1つと、小さな質問を1つさせていただければと思います。

このワーキング・グループにおいては、長期的な企業価値の向上、企業の持続的な成長のためにどういう開示が望ましいのか、制度開示と任意開示とでどのような役割分担をすればいいのか、こういったことをしっかりと議論して、よりよい開示とは何なのかということを検討していくということが目的だと理解しております。

そうした認識に立って最初の質問です。今日お話しいただいた内容は主として非財務情報に関わっている部分が多く、政策保有株式については広い意味では財務情報と言えるのかもしれませんが、ここら辺についてのお話を随分いただいております。ついては、実際に皆さんが運用されるパッシブであったり、アクティブであったり、そういうファンドの中で、これらの情報というのはどうやって活用されて投資判断されていくのでしょうか。一つ一つの定性的な情報というのは非常に複雑多岐ですし、それをなかなか一律的に評価することも難しいのではないかと思いますし、また、役員報酬の問題等々項目もたくさんあるわけでして、またそもそも財務情報もあるわけです。

そういう中でパッシブ、アクティブそれぞれのファンドの中で、こういった情報をどうやって収集し、どうやって投資判断に活かしているのでしょうか。差し支えない範囲で、もう少し具体的に教えていただけると大変ありがたいと思っております。これが1点目であります。

それから、2点目の質問は、政策保有株式です。今日いただいたお話は、基本的には政策保有株式は持つべきではない、あるいは縮減すべきであるといったお考えと理解しておりますが、一口に政策保有株式と言っても、いただいた資料の中でcross-shareholdingsと記載されている持ち合いと政策保有株式は明らかに定義が異なるものだと理解しておりますので、政策保有株式自体が問題なのか、cross-shareholdings、すなわち持合株式が問題なのか。そして問題と言われるならば、企業の投資先、資産配分については、本来自由な選択が認められるべきであろうと思いますけれども、なぜ政策保有株式、あるいは持合株式について、持つべきではないと主張されるのか。そこら辺について、もう少し詳しく教えていただけると幸いです。

以上の2点であります。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

【Hermes ドゥグッド様】

ありがとうございました。非財務情報についてどのように活用しているのか、幾つか使途をご紹介したいと思います。

財務情報は過去についての情報であるというふうに考えます。一方、会社は今後の業績について、ガイダンスを提供しています。このガイダンスについて、果たしてそれが楽観的なのか、それとも謙虚なのかというところを、投資家としては判断しなければなりません。それを判断する上で参照するのが、いわゆる非財務情報です。ということで、会社の将来的な見通しを、私どもがある程度見極める上で、非財務情報は大変重要なものになります。

また、経営陣の質に関しても、私たちに一定の示唆を与えるものになります。もし経営陣が会社の事業ドライバーとなるもの、将来のドライバーになるものを包括的に絵として描くことができるのであれば、その会社の将来に対して、私たちも確信を持つことができます。また、基本的な情報を既にいただいた状態になりますので、経営陣と会社の戦略や経営について、より深い話をすることもできるようになります。

最後になりますが、正式な文書という形で会社が報告をしなければいけないとなると、その分野に会社としても注力する傾向がありますので、開示することによって、より会社側から行動をとるようになる、会社が開示をすると行動にもつながるというふうに私どもは思います。例えば、取締役会に占める女性取締役の割合を開示することが求められると、女性取締役の比率が高まるとか、あるいは、温室効果ガス削減への取組の開示が求められれば、温室効果ガス削減につながるといったような形です。

一方、こういった開示については、評価をする上で一定のスキルが必要というのもまた事実です。そういうこともあって弊社では、コーポレート・レスポンシビリティー・チームとして相当な人数を割いて、分析に当たっています。これは弊社にとって、その他のインベストメント・マネージャーと比べての競争優位性であると思っております。以上です。

【CalSTRS ライス様】

プレゼンテーションで申し上げたとおり、CalSTRSにおいては、内部で運用しているものは全てパッシブ運用ですので、財務情報、非財務情報が直接我々の投資判断を左右するということはありません。しかし、コーポレート・ガバナンスの立場から見ますと、エンゲージメントに関してのほとんどの判断というのは、そういった非財務情報を起因としています。そして、外部で投資判断をアクティブで行っている投資マネージャーとも、我々はエンゲージメントを持っています。そして、我々の代わりに投資判断を行うに当たっては、財務情報だけでなく、非財務情報にも目を向けるように促しています。その理由としては、非財務情報は、既に言及がありましたとおり、未来志向であり、そして経営陣の質を示すものであると考えるからです。

ですので、CalSTRSとしては、我々が用いている投資マネージャーに対して、もっと企業とエンゲージメントを持つように、そして非財務情報を見るようにと言っております。そしてその結果、そういった投資マネージャーが、企業に対して同じことを試みているのだと思います。

【神田座長】

ありがとうございました。2点目についてはいかがでしょうか。

【Hermes ドゥグッド様】

政策保有株式には2種類あると承知しています。1つが、1社がごく少数の、例えばサプライヤーであったり、あるいはパートナー企業であったりの株式を大量に、これは戦略的にということかと思いますが、保有をしているという例です。そしてもう一つのタイプが、多数の会社の株を少額ずつ持つという形です。

1つ目のタイプの保有、ごく一部の会社について集中して大量の株を保有するという形における弊社の懸念は、不透明な関係が構築されるおそれがあるということです。特別な利害関係があるがために、そのようなことがあり得るのではないかということが懸念されます。商売上のつながりがある株主とそうではない株主とで、明確に2つの異なる種類の株式が存在するということにつながるということが懸念です。

2つ目の、多数の会社の株を少額ずつ保有するという形は、商売上も正当化することが難しいと思います。このような形の資本配分は、戦略的な価値を生み出しているということを説明することも困難だと思います。投資家としては、目的が明確にあることが望ましいと思いますし、資本の活用に関しては、その使途が明確であることを望みます。また、少額を多数の様々な分野に投資する、あるいは配分するという意味ではなく、投資家としてほかのルートを通じて投資ができるというふうに考えられますので、そのような少額ずつ多数の会社に配分するという考え方は、賛同が得られにくいと思います。

日本においては総額で株主資本の約3割が、政策保有株式として保有されていると推計されるというふうに理解しています。ですから、非常に大きい部分を占めていることになり、これだけの資本が市場のアプローチにのっとって運用されていない、例えば株主総会での議決権行使につながっていないということになると、大きく歪みを生じることにもつながると思います。

【神田座長】

今の点については、ライスさんは特にコメントはございますか。

【CalSTRS ライス様】

私からは、繰り返しになりますが、そういった株の持ち合い、ないしは政策保有株式の必要性がよく分かりません。今、ドゥグッドさんがおっしゃった懸念というのは、我々も共有しています。ですので、企業として、政策保有株式が価値を生み出す戦略的な保有であるということを説明していただきたいと思います。そして、その保有先との関係性についても、透明性のために開示いただきたいと思います。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、札を立てていただいている黒沼委員、上柳委員、熊谷委員からご発言いただきたいのですけれども、後の予定もございますので、おそらくそこまでとして、先に進みたいと思います。

黒沼先生、どうぞ。

【黒沼委員】

私からは、ドゥグッドさんに1点だけ質問したいと思います。イギリスのFRCのガイダンスというのは、上場会社の経営者の裁量が広くて、具体的に何を開示するかというのは、ある程度経営者の裁量に委ねられているということです。そこで質問は、Hermesのような資産運用会社が、上場会社と対話をすることによって、上場会社のパブリックディスクロージャー、公表情報を変えさせたというような例があるのかどうか。もしそういった例があれば、教えていただきたいと思います。

【Hermes ドゥグッド様】

はい、ございます。対話を通じて、会社の開示内容を変更したという例はあります。気候変動に関わる開示で、例を挙げてご紹介したいと思います。

エネルギーを大量に消費する石油・ガス、あるいは鉱業などの会社に対してリクエストを出してまいりました。すなわち、低炭素のシナリオにおいて、そういった会社の戦略や資産がどの程度強靱性、レジリエンスがあるのか、開示をしてほしいという要求を出してまいりました。開示のフレームワークを弊社で用意しましたところ、これが幾つかの石油・ガスの英国拠点の会社によって、2015年に採択をされました。株主提案決議という形で採用されました。BP、シェル、並びにスタットオイルで採用されています。石油・ガスのメジャーですけれども、その後、これら企業からの気候変動に関わる戦略の開示が随分進んだと思います。私どもからの質問項目が、取締役会からの課題提起に対して、会社としてのフォーカスを適応させる上で、非常に有益であったという報告を、これらの企業からはいただいております。

こういった動きを受けて、この3年間で、今挙げたような企業では、戦略が変わってきています。低炭素の状況になったときにどうなるか、そこに焦点を当てるようになっていますし、また規制が強化された場合にも、柔軟に対応できるような戦略に変わってきています。環境問題以外の分野でも、例としてご紹介することはできます。ジェンダー・ダイバーシティーとか、あるいは人権問題などの分野でもご紹介できます。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、上柳委員、どうぞ。

【上柳委員】

私もドゥグッドさんに伺いたいと思います。非財務情報が、企業の財務といいますか、数字で表される財務にどのように影響があるかという論点についてで、既にお答えを大分いただいたのですけれども、私は人権団体に関わったりしているので、少し少数派の意見かもわかりませんが、決して人権であるとか、あるいは女性の問題を、世の中が騒ぐから仕方なしに考えるふりをしているということではないのですねという確認です。それからもう1問は、全ての会社がそのようなことを開示すべきだというようにお考えになっているのか。例えば、日本では上場企業だけで3,000社とかあると言われているのですが、そのような会社全部に非財務情報の、特に人権であるとか、あるいは社会的な問題についての考慮の開示を推奨するべきだとお考えかどうか、伺いたいと思います。以上です。

【Hermes ドゥグッド様】

今のご質問は、開示をする上で重要性のある情報に該当するかどうかということ、そしてまた、会社の長期的な業績に影響を及ぼすようなものかどうかということと関わってくるかと思います。英語では、グリーンウォッシュというふうに呼んでいるのですが、一見環境にいいパフォーマンスであるというふうに見えるけれども、実はそうではないという、そういった言い方があります。一見環境にはいいように見えるけれども、会社の事業にとっては重要性はないという、そういうものについてグリーンウォッシュというふうに言っています。会社は重要なものについて開示をすることが義務づけられています。もし会社の事業にとって最も重要なものを開示しないとなると、投資家、あるいはステークホルダーの方で分析なり、あるいは情報収集するなりして、それを明らかにする、公にするということになる。そうなると、会社にとってはチャレンジということになります。以上です。ありがとうございます。

【神田座長】

もう一つ、全ての会社に…、という質問についてはいかがでしょうか。

【Hermes ドゥグッド様】

2つ目は、全ての会社が開示しなければいけないのか、小さな企業も含めてなのかというご質問だったかと思いますが、英国の場合には、法的な開示並びにガイドラインの中で、3つの分類をしております。1つが、上場している大企業、2つ目が、上場はしていない大企業、そして3つ目が、中小企業です。この3つ目の中小企業に該当する場合には、戦略的情報を全て開示しなければいけないということにはなっておりません。大企業にのみ開示が要求されていて、また上場企業になると、より開示要求が増えるということになります。

【神田座長】

ありがとうございました。よろしいでしょうか。

それでは、熊谷委員、どうぞ。

【熊谷委員】

ありがとうございます。今日は大変有益なプレゼンテーションをありがとうございました。上柳委員、黒沼委員、石原委員からの質問とも少しずつ絡むんですけれども、ドゥグッドさんから、今、イギリスでは3つの会社のタイプに分かれているというお話がございました。日本とイギリス、あるいはアメリカと比べたときに、マーケットの構造とか、訴訟環境というのは必ずしも一致しないので、どこまで参考になるか分からないんですが、日本の上場企業は約3,000社ございます。その中に比較的小さな会社から非常に大きな会社まで含まれているという中で、我々が今非常に悩んでおりますのは、結局、日本の場合は金融商品取引法に基づく強制開示というのは、どうしてもボイラープレートになりがちである。したがって、この手のナラティブな情報は、任意の開示によってなされている場合がある。この場合はかなり海外、イギリス、あるいはアメリカの会社と比べても情報量の面でも遜色のない、非常に有用な情報が提供されているんじゃないかと考えております。

今の上柳委員のご質問とちょっと絡むのかもしれませんが、やはり上場会社としても、それだけ規模の差があるといったときに、全ての上場会社にこれだけの情報を求められるのか。あるいは、強制だけれど、ボイラープレートになってしまう開示と、任意だけれども、ボイラープレートではない開示、どちらがよりベターな開示というふうにお考えかということが1点。

それからもう一つ、先ほどドゥグッドさんの方から、イギリスでこういう開示をされるときに、セーフ・ハーバー・ルールがあって、それはうまく機能しているというようなご説明があったかと思います。おそらくアメリカでもセーフ・ハーバー・ルールがあると思うのですが、我が国の場合、結局、こういうセーフ・ハーバー・ルールを規制当局が出しても、最後、裁判所が引っくり返してしまう可能性があるので、セーフ・ハーバー・ルールという制度は機能しないというような見方がございます。アメリカやイギリスでは、規制当局からそういうセーフ・ハーバー・ルールが出されたときに、裁判所の意見によって、規制当局が公表したセーフ・ハーバー・ルールが覆されたりするという事例はないのか。2点伺えたらと思います。

【Hermes ドゥグッド様】

私自身が担当しているのは、上場している大企業ですので、2,000社ほどイギリスにあります小規模な上場企業には違うルールが当てはまっていると思います。その規制とか、あるいはガイドラインの違いは、次の質問者が質問している間にちょっと調べるか、あるいはまた後日お答えさせていただくことになるかもしれませんが、コーポレート・ガバナンス・ガイドライン、これは戦略的ガイドラインとは異なるガイドラインになりますが、現在こちらは改定の作業中です。現在、これは市中協議中で、変更がまだなされておりませんが、今の方向性としては、上場企業であれば、企業の規模の差なく、区別なく、大企業も中小企業も等しく同じ規制を適用しようという方向にはなってきております。

ただ、もちろん英国の場合、コンプライ・オア・エクスプレインというルールが当てはまりますので、中小企業の場合には、もし自社にとって、これは適用されないだろう、あるいは重要性がないというふうに考える場合には、当局に説明をするという手段をとることもできることになります。ただ、もちろんそれが紋切り型のシステマティックな形になってしまうと、平等性を重んじようという原則に反することになりますので、そういうふうな展開になるのは望ましくないと思います。

セーフ・ハーバー・ルールに関しては、日本市場でどうこうというアドバイスをさせていただくことはちょっと難しいのですが、英国の場合には、取締役の責任は有限であり、会社に対して負うものであって、株主、あるいはその他のステークホルダーに対して負うものではありません。不誠実な虚偽の申立てをしている、あるいは隠蔽をしているということでない限りは、責任は有限であるというのが英国の仕組みになります。

しかしながら、報告をしなければいけないという義務感を、取締役が強く感じる形というのは幾つかあると思います。例えば、上場規則の要件を満たすことができなければ、上場廃止ということになりますので、こういったところで深刻な影響を会社に及ぼす可能性があるという負担を感じることもあるかと思います。

あるいは、会社としてのガイダンスを発表したけれども、それに対して期待に応えていなかったという場合に、取締役に対して投資家がアクションをとるということもあり得ます。例えば、株主総会において不支持を表明するといったような動きです。英国では、毎年株主総会において、取締役の報酬について、拘束力のある議決権行使を投資家や株主がすべきなのかどうかという点にかなり苦慮しているところがあります。

現在の妥協としては、英国インベスターズ・アソシエーションが、報酬に対して、株主が20%以上の反対票を投じた会社のリストを公表するようになってきています。これに関しては、なんら拘束力のあるものではないのですが、ただ、どの企業も決してこのリストに載りたいと思うわけはありません。これはいわばブラックリストのようなものなわけです。また、取締役についても同じようなものがあるかもしれません。そうなると、バインディング、拘束力があるとうたっているものではありませんけれども、レピュテーションを考えると、会社に対しても、個人に対しても、実質的にはかなり拘束力のあるものとなっております。

また、最初のご質問に対してのお答えですが、FRCのガイドラインを確認したのですが、全ての上場企業に対して同じガイドラインが適用されるということです。ごくごく一部の、従業員250人以下の企業のみ適用除外されますが、ほぼ全ての上場企業が同じガイドラインに準拠することになります。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

ライスさん、特にコメントはございませんでしょうか。

【CalSTRS ライス様】

会社の規模と開示についてですが、我々としては、投資する全ての企業が、その会社における重要性にのっとって、同一の形での開示要件を満たすことが望ましいと思います。私の経験では、中小企業もまた、大企業を目指して成長をしようとしているわけですから、規模が小さいときから、より厳しい要件を満たしていれば、大企業になったときも問題なく情報開示を行うことが可能です。もちろんリソースの問題がありますので、大企業の方がその規模を活かして、より詳細な情報を提供できるということはございます。

そして、その前のご質問、セーフ・ハーバーについてですが、過去15年間、米国企業との対話を重ねてまいりましたが、実は開示における一番の障害となっているのが、まさにその点でありまして、裁判になってしまうのが怖い、訴えられるのが怖いということによって情報開示が進まないという側面があります。我々は現在、米国企業に統合報告を促進するように求めております。すなわち、非財務情報を財務報告の中に含めていくということです。米国企業は、かなりの量の非財務情報を開示しているものの、それを財務報告の中に入れ込むことについては、非常に躊躇するところが大きくなっています。それはまさに、そういった裁判になることを恐れてです。セーフ・ハーバー条項を設けて訴訟リスクを軽減することによって非財務情報をより開示してもらうといった話はしておりますが、まだそれはそういった話が出ているといった段階にとどまっております。ですので、日本の皆様が抱えている問題は、我々も共有いたします。

そして、最後になりますが、投資家というのも、実は何が重要で何が重要でないか、それぞれ異なる考えを持っています。そういった意味では、実は投資家たちがより話し合って目線を合わせて、企業に対してこういったことを重要と思うので開示してほしいと提言していく必要があるのかもしれません。

【Hermes ドゥグッド様】

訴訟の懸念というのは、会社を慎重にさせると私たちも感じています。時には開示し過ぎる、しかもそれがボイラープレート型の開示になってしまっているということもあります。残念ながら、アメリカで見られる報告の形というのは、リスクファクターを列挙して、非常に長いリストをつくる。しかも、その多くがしばしば重要なものではないというのがよく見られることかと思います。

また、イギリスのガイドラインに関しても、非常におもしろいジレンマを抱えていまして、包括的であり、そして簡潔であれと言われています。また、ガイドラインの中には、革新的な形でのコミュニケーションを促すようにということが書かれていて、企業の中には、図表などを使ってビジネスモデルを説明するところが出てきて、これは投資家からも感謝されています。このようなアプローチを促していくためにも、訴訟が乱発されるような環境というのは避けるべきではないかと思います。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、ドゥグッドさんとライスさん、今日はお忙しい中をお出でくださいましてありがとうございました。

それでは、ちょっと時間が予定を大幅に超過しておりますので、今日は以上にさせていただきまして、資料3についての事務局の説明と、皆様方からそれをご審議いただく機会は、次の回ということにさせていただきたいと思います。既に委員の皆様方には、資料を読んで、ご発言を用意してきていただいているかもしれませんが。私の進行に不手際がございまして、大変申しわけありませんでした。

それでは、次回はそういうことで進めさせていただきます。事務局からのご連絡をお願いいたします。

【田原企業開示課長】

本日は、どうもありがとうございました。次回のワーキング・グループの日程につきましては、皆様のご予定を踏まえまして、後日事務局からご案内させていただきますので、よろしくお願いいたします。以上でございます。

【神田座長】

それでは、本日は以上で散会いたします。どうもありがとうございました。

以上

※ ドゥグッド様及びライス様は全て英語で発言されたため、通訳者による仮訳を掲載しています。
 

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企業開示課(内線3665、3846)

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