金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第2回) 議事録

  • 1.日時:

    令和3年10月1日(金)10時00分~12時00分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 9階 905B会議室

【神田座長】
 ただいまから、金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループの第2回目の会合を開催させていただきます。皆様方にはいつも大変お忙しいところ御参加いただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の会議でございますけれども、今までと同様に、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、金融審議会議事規則に則り、オンライン会議を併用する形での開催とさせていただきます。委員の皆様方にはオンラインで御参加いただきます。

 また、議事録は通常どおり作成し、金融庁のホームページにて後日公開する予定ですので、よろしくお願いいたします。

 会議が始まる前に、事務局から留意事項の御説明をお願いします。
 
【廣川企業開示課長】

おはようございます。企業開示課長の廣川でございます。オンライン会議につきまして、2点ほど留意事項がございます。

 1点目でございますが、御発言を希望される際には、オンライン会議システムのチャット上にて、全員宛てにお名前を御入力ください。そちらを確認の上、座長から御指名をいただきます。また、御発言される際には冒頭にお名前をお願いいたします。

 2点目でございますが、御発言されない間は、必ずミュート設定にしていただくようお願いいたします。御発言される際にはミュートを解除いただき、御発言が終わりましたら再びミュート設定にしていただくようお願いいたします。

 以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございます。そして、前回もそうですが、本日の会議も、その模様をウェブ上でライブ中継をさせていただきます。

 それでは、議事に移らせていただきます。本日は、事務局から資料の説明をしていただいた後、質疑応答と討議をお願いしたいと思います。

 それでは、事務局から資料の御説明をお願いいたします。よろしくお願いします。

【廣川企業開示課長】

ありがとうございます。それでは、御説明をさせていただきます。時間の関係で飛ばし飛ばしの御説明となりますことを御容赦いただけたらと存じます。

 今、投影させていただいております「事務局説明資料(1)(第1回会議における主なご意見)」、こちらの方は第1回の会議でいただきました主な御意見をまとめているものでございます。

 途中を飛ばさせていただきまして、一番最後の21ページを御覧ください。前回頂戴した主な御意見を、こういった形でまとめさせていただいております。サステナビリティ、コーポレートガバナンス、その他の個別課題、大きく3項目について、今後御議論いただくということでございます。

 まずはサステナビリティの気候変動から優先的に御議論をいただきたいと考えておりますが、一番下の留意点のところの1つ目にありますように、こちらについては、国際的な議論の進展が予想されることから、他の事項を議論した後に年明けに再度議論することが考えられるというふうにさせていただいております。

 簡単ですが、こちらの資料は以上でございまして、次に、本日の主要議題であります気候変動対応について、「事務局説明資料(2)(サステナビリティに関する開示(1))」を御覧いただけたらと存じます。

 2ページを御覧ください。第1回の会議では、気候変動開示について、開示内容、開示基準、諸外国の動向等に関する御意見がございました。開示内容につきましては、マテリアリティ、重要性についての考え方を整理する必要、また、サステナビリティを法定開示に取り込む場合、開示の枠組みにおける位置づけ等を整理する必要との御意見がありました。

 Bの開示基準につきましては、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)やIFRS財団の基準を活用すべきとの意見がございました。

 また、C、諸外国における開示制度の検討につきましては、欧州の取組は先行している一方で、米国では意見が割れているという状況をよく見る必要があるとの意見がございました。

 その他の留意点としてDのところに3つほど、1つは法定開示の内容と任意開示に期待することとの関係を整理する必要。また、罰則のある有価証券報告書での将来情報の扱いを整理する必要。最後に、将来的に保証の議論も必要との御意見がありました。

 次、4ページを御覧ください。開示内容につきまして、日本の気候変動対応の開示内容、現状の例ですけれども、業種や開示媒体等によりまして、記載の粒度・具体性に大きな幅が見られるところでございます。

 そうした中で、次の5ページですけれども、有価証券報告書におきましても、リスクと機会、オポチュニティについて、項目ごとに想定される利益影響額を記載する先進的な事例も見られるところでございます。

 もっとも、次の6ページを御覧いただきますと、こちらの日経225構成企業のうち、TCFD賛同企業はそれなりの割合に上っておりますけれども、多くは任意開示(統合報告書)などにおいてTCFD提言に沿った開示を記載しているということでありまして、有価証券報告書で記載している企業は少ないのが現状でございます。

 7ページを御覧ください。ここからは開示におけるマテリアリティ、重要性についてでございます。2019年3月に金融庁が作成いたしました記述情報の開示に関する原則、こちらにおきましては、記述情報の開示については、各企業において重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つことが求められるとされてございまして、その際の重要性は投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきというふうに整理されてございます。

 8ページを御覧ください。国際的には会計の世界におきまして、国際会計基準を策定しているIASBが財務報告の目的、それから有用な財務情報の質的特性について整理している概念フレームワークというものがございまして、こちらの中で、有用な財務情報の基本的な質的特性の1つとしてマテリアリティというのが位置づけられてございます。サステナビリティとの関係では、民間のサステナビリティ報告基準を策定する5団体、こちらが公表している文書においても、サステナビリティ開示にもこのIASBの概念フレームワークを適用するという場合には、重要性(マテリアリティ)については企業価値に影響を与える可能性が高いと合理的に考えられるサステナビリティ課題を特定する必要があることなど、3つほど調整課題があるという指摘がなされております。

 次、9ページを御覧ください。国際的に、シングルマテリアリティとダブルマテリアリティという考え方が示されているというものでございます。特にこちらの出所は欧州委員会の資料でございまして、左側見ていただきますと、サステナビリティの開示において、気候変動が企業に与える影響、特に財務における重要性という観点からの報告を考えるというシングルマテリアリティの考え方がございます。右側を見ていただきますと、左記に加えて、企業活動が気候変動に与える影響、そちらの方も報告をするという意味で、環境及び社会における重要性という考え方を取り込んだダブルマテリアリティの考え方というものがございます。

 次の10ページを御覧ください。国際的には今申し上げましたダブルマテリアリティ、一番左側が欧州委員会となっておりますけれども、それ以外にも様々な考え方がございます。民間のサステナビリティ報告基準を策定する5団体ですけれども、こちらが示しているのは真ん中、ダイナミックマテリアリティと書いてございます。時間の経過とともに企業価値に影響を与え、財務諸表に取り込まれるものもあるという考え方に基づいて、こういう考え方を提示してございます。

 さらに右側ですけれども、今後サステナビリティ報告に関する国際基準を策定していくことになりますIFRS財団のISSB基準については、投資家を対象とする企業価値に焦点を当てた基準を国際基準のベースラインとしつつ、各国がそれぞれの政策に基づいて開示事項を追加するというビルディングブロックアプローチという考え方が示されてございます。

 12ページを御覧ください。ここからはサステナビリティ報告の国際的な開示の枠組みについてです。具体的には、まず一番左側、TCFD提言とありますけれども、これは各国の金融当局等が構成メンバーとなっております金融安定理事会の下に設置された民間主導のタスクフォースでありますTCFDが策定した提言。これの他に、そこの右側に4つ書いておりますけれども、様々な民間団体がサステナビリティを含む非財務情報の開示フレームワークを策定・公表しているということでございます。

 次、13ページを御覧ください。このうち、一番下の、先ほどのページで一番左のTCFD提言ですけれども、TCFD提言では「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」、この4つの柱について推奨される開示内容が提示されております。

 14ページ、引き続いてTCFDですけれども、先ほど申し上げました4つの柱のうち、「ガバナンス」、「リスク管理」につきましては、全ての企業に対して、財務報告書での開示を推奨されております。一方で、定量情報が求められます「戦略」、「指標と目標」については、事業活動において気候変動が重要な場合等において開示を推奨することとされております。

 15ページを御覧ください。金融安定理事会が示しておりますロードマップによれば、このTCFD提言からIFRS財団のISSB基準に重点を移していくこととされております。

 16ページを御覧ください。具体的に、今年の第4四半期にISSB設置が公表され、来年の夏には気候変動に関する基準が最終化される見込みとなっております。

 17ページを御覧ください。こうした取組を進めるために、IFRS財団におきましては、本年4月に定款変更案を公表しているということでございます。

 18ページ、これに対しまして日本は、日本政府の成長戦略におきまして、サステナビリティに関する開示の国際基準の策定に戦略的・積極的に参画すること、これは閣議決定の形で示しております。

 また、19ページでございますけれども、これは本年8月でございますが、我が国の官民関係者が連名でISSBのサステナビリティ基準の開発について、資金面、人的な側面、技術的な側面で、日本から貢献をしていくということを表明するレターを発出しております。

 20ページを御覧ください。昨年2020年12月に民間のサステナビリティ報告基準を策定する5団体が、TCFD提言をベースに気候関連財務開示基準のプロトタイプを公表したものでございまして、ISSBではこのプロトタイプも参考にしつつ、今後基準開発を行っていくということが想定されております。

 22ページを御覧ください。ここからは、気候変動開示をめぐって、各国の開示充実に向けた取組を御紹介させていただきます。

 特に米国、英国、EUということで、具体的には次の23ページでございます。まず米国におきまして、気候変動開示について、米国ではルール見直しのための意見募集を今年の3月に実施しております。証券当局でありますSECの委員長は、右下のところですけれども、今年の年末までにルールの提案を策定するようにSECスタッフに指示をしたということで、7月に発言をしております。

 24ページ、御覧ください。英国でございます。英国では昨年11月にTCFD提言に基づく開示の義務化に向けた今後5年間のロードマップを公表し、2025年までに完全義務化を目指す旨、財務大臣が表明しております。

 25ページを御覧ください。英国の第1弾として、昨年12月に上場規則を改訂し、ロンドン証券取引所プレミアム市場の上場企業を対象に、コンプライ・オア・エクスプレインベースでTCFD提言に基づく開示を要求、今年の1月1日以降の会計年度から適用となってございます。

 26ページを御覧ください。英国ですけれども、さらに今年の3月にはTCFD提言に基づく開示の義務化を、上場企業以外の大規模企業対象に求めていく会社法改正案が提示されてございます。

 27ページ、続いてEUでございます。EUでは本年7月にサステナブルファイナンス戦略を改訂しまして、ディスクロージャーに限らず広範な取組をしていくということとされております。

開示については次の28ページですけれども、もともと2014年に非財務報告指令というのがございまして、こちらにおいて、非財務情報に関する開示がコンプライ・オア・エクスプレインベースで義務付けられておりました。ここでは開示することが期待されるサステナビリティに関する項目というのは、法的拘束力は必ずしもないですが、ガイドラインで例示をされるという位置付けでございました。

 29ページを御覧ください。それが今年の4月ですけれども、欧州委員会から、現行の非財務報告指令を、企業サステナビリティ報告指令に改正するという案が公表されております。ダブルマテリアリティに基づく情報の開示を求める方向で、今後基準を策定し、2023年1月1日以降に開始する事業年度から適用することを目指していると、こういう内容になってございます。

 30ページを御覧ください。EUにおきましては、環境保護目的に大きく貢献しているとみなす経済活動を、それ以外の活動と区分する、いわゆるEUタクソノミー、これと今、申し上げました企業サステナビリティ報告指令、さらにはサステナブルを謳う金融商品を販売する際に求められる開示についてのルールであります右側のSFDR、金融機関等のサステナビリティ開示規則ですけれども、これがリンクするような形になることが考えられておりまして、例えば左のCSRDですけれども、こちらにおいては総売上高に占める、いわゆるタクソノミー基準を満たす製品・サービスの売上比率等の開示が必要となる見込みです。

 最後に、その他の留意点に関するものとして32ページを御覧ください。まず、有価証券報告書と任意開示の関係性について、日本では気候変動の対応に関する開示は、TCFD提言などを活用しながら、任意開示の中で取組が進んでいる、これが実態でございます。先ほど御紹介を申し上げましたように、最近は有価証券報告書の中で記載をしていく例も見られるようになってきています。

 33ページを御覧ください。有価証券報告書と任意開示では、企業は誰を対象に開示を行っているのか、また、それによって開示の内容、役割といったものが異なっているということでございます。

 34ページを御覧ください。有価証券報告書の提出企業数ですけれども、上場企業が約3,800社、それ以外約480社、合計約4,300社弱ということでございます。一方、任意開示は、伸びているところでありますけれども、足元579社となってございます。

 35ページを御覧ください。こちらは将来情報に関する記載と虚偽記載の責任に関連してでございますけれども、有価証券報告書における将来情報に関する記載につきましては、金融庁より有価証券報告書は提出日現在で、経営者が認識している主要なリスクについて、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がされていた場合、提出後の事情の変化をもって虚偽記載の責任が問われるものではないとの見解が、2019年の1月にパブリックコメントの回答の中で示されてございます。

 次、36ページでございます。サステナビリティ情報への保証につきましては、国際会計士連盟の報告書によれば、ESG情報を開示している企業のうち約半数が保証を受けているというふうにされてございます。

 次の37ページですけれども、その保証業務に関しましては、国際監査基準を策定している国際監査・保証基準審議会から、財務諸表以外の情報に対する保証業務の基準として、ISAE3000という基準が策定・公表されてございます。

 以上を踏まえまして、御議論いただきたい事項、39ページ、それから40ページに具体的に書かせていただいております。

 まず、開示における重要性(マテリアリティ)をどう考えるかということでございまして、一般的には投資家の投資判断にとって重要か否かについて判断すべきという整理がありますけれども、サステナビリティ開示についても同様の考え方でよいか。また、投資家の投資判断にとって重要か否かは、企業価値への影響を考慮して判断するというアプローチについてどのように考えるか。

 次に、開示充実の方向性ということで、以下4点ほど御意見があるが、有価証券報告書における開示の検討に当たり、さらにどのような点を踏まえる必要があるかということで4点。

 1つは、国際的な検討状況を踏まえて、我が国企業の取組が投資家に十分理解されるような開示をすることが求められているか。2つ目は、国際的な議論がまさに行われているということで、まずは当面の対応の検討、将来的には来年夏に策定予定のISSB基準など踏まえた検討が必要という点。3つ目は、投資家、企業双方にとって意味のある開示となるよう、比較可能性を考慮する一方で、開示における優先度や企業の実務負担を十分踏まえる必要があるという点。4つ目は、一部の上場企業における創意工夫を生かした任意開示を十分受け止められる枠組み。例えば、有価証券報告書において任意開示等を参照することにより、総覧性を確保するなどが望ましいという観点。こういった観点を踏まえて、どのような点を踏まえる必要があるかということで書かせていただいております。

 次に、40ページにまいります。引き続いて開示充実の方向性として、サステナビリティ開示に関しましては、気候変動開示に関するTCFD提言では、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」という枠組みが示されていますけれども、開示において特に優先度が高いと考えられる項目は何か。

 それから、次の海外当局の動向・スケジュール。本年11月にCOP26が開催され、来年6月にはIFRS財団のサステナビリティ報告基準が最終化される見込み。こうした中で、各国当局のサステナビリティ開示に関する取組が進んでおるところでございます。国内の検討も、こうした国際的な動きと歩調を合わせたものとする必要があると考えられるが、今後のスケジュールを考える上で留意すべきことはあるか。

 最後にその他、留意すべきことはありますでしょうかということで、御議論いただきたい事項を掲げさせていただいています。事務局説明は以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

 それでは、これから委員の皆様方から、御質問、御意見をお出しいただきたいと思います。御議論いただきたい事項は、今御説明いただいた「事務局説明資料(2)(サステナビリティに関する開示(1))」の最後、39ページと40ページに載せてあります。時間も限られておりますので、できるだけ多くの委員の皆様方から御発言いただきたいと思います。そういうことで計算しますと、いつものことで恐縮ですけれども、お一人当たり三、四分以内程度を意識して、御質問、御意見をお出しいただければ大変ありがたく存じます。

 冒頭御説明いただきましたように、御発言いただける方は、チャット欄に発言希望とお名前を書いて、全員宛てにチャットをお送りいただければありがたく思います。私の方でそれを確認して、御指名をさせていただきたいと思います。

 それでは、どなたからでも結構でございますけれども、いかがでしょうか。ありがとうございます。上柳委員、どうぞお願いいたします。

【上柳委員】

恐れ入ります、上柳です。2点、申し上げます。

 資料の39ページのところに議論項目をいただいておりまして、1つ目のマテリアリティの議論ですけれども、少なくとも総論としては賛成です。ただ付け加えて申し上げたいのは、マテリアリティというのは、企業の発展、つまり、リスクだけではなく、どうやって企業価値を高めていくのかという視点も、もちろん含まれるわけです。それが積極的なというか、重要な面です。それで考えますと、いわゆるダブルマテリアリティだとかダイナミックマテリアリティの考え方を私が十分理解してないのかも分かりませんけれども、多分、気候変動なりサステナビリティ要素から、その企業が何か悪影響を受ける、コストがかかるというリスクの方だけではなく、気候変動との関連で、どうやってそれを当社のビジョンにして利益に繋げていくのか、まさに環境や社会に対して働きかけることがこれからの需要になると思います。そこは大きなビジネスチャンスだろうと思います。

 ですから、企業が環境に働きかけるという方にも、マテリアリティがあるとして開示すべき、あるいは投資家なり社会なりが関心を持つ事項がたくさんあるのではないかと思います。

 繰り返しになりますけれども、マテリアリティの定義なり分類をどう考えるかというところによって議論が変わってくるのか分かりませんが、何か限定されたものではないというふうに思っております。そこには定量的なものだけではなく、定性的なものも十分入るのではないかと。それとの関係で、この39ページの一番下の(ⅳ)ですが、確かに法定開示と任意開示の適切な配分というのは必要ですけれども、やはり日本としては、今私が申し上げたような気候変動、あるいはサステナビリティに対して企業がどう向き合うのかということについても、法定開示の範囲であると。もちろん当社はそれほどそこを重要と考えていないとか、あまり影響力がないとか、そういうエクスプレイン的な開示もあり得ると思いますけれども、やっぱり広く法定開示を捉えているのだということであって初めて、日本はこの問題にきちんと取り組んでいる、あるいは、カントリーレピュテーション、カントリーリスクがないと言いますか、日本という枠組みの中で投資先を探そうというふうに、世界の投資者なり、あるいは消費者の人たちから見られるようになって欲しいなと思います。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

 たくさんの方からチャットいただきありがとうございます。その順番でいきますと、三瓶委員、井口委員、藤村委員の順になると思います。三瓶委員、どうぞお願いいたします。

【三瓶委員】

三瓶です。よろしくお願いいたします。私は、マテリアリティの考え方と開示充実の方向性について幾つかお話ししたいと思います。

 まず1点目、マテリアリティの考え方ですが、投資家の投資判断にとって重要か否かについて判断すべきということで基本良いと思っているのですけれども、その際に誤解がないようにと思うのは、「投資家の投資判断にとって重要か否か」と言うと、何か投資家だけを見ているように見えますが、投資家の位置付けがステークホルダーの中で残余価値を享受する立場であるということからすると、投資家より先に価値を享受するステークホルダーを広く見ている結果であるということだと思います。

 それと、シングル、ダブルのマテリアリティの議論がありますけれども、あまりシングル、ダブルの今の定義にとらわれない方がいいのではないかと思います。むしろ8ページにあります目的適合性(Relevance)ということが最も重要ではないかと。社会の様々な要請も、今後も変わっていくと思います。そのときに、Relevanceの範囲も変わってくると思います。企業が事業活動において、自分たちにRelevantであると感じるものについて、やはりその状況に応じて開示していくこと、そういった柔軟性が必要だと思います。

 例えばですが、ある企業はSDGsとかグローバルリスクなど、多くのことを考えてロングリストをつくった上で絞り込みをしています。その際に、事業と親和性が希薄な課題等を除外するステップを設けています。やはりそういうことをしていかないと絞り込めないので、基本的にはこの考え方で良いと思っています。

 そして、2つ目の開示充実の方向性ですけれども、まず法定開示で義務付けられているという対外的なアナウンスメント効果が大事だというふうに思います。ただ、漠然と多くの開示を求めるのではなく、利用者価値を見定めて規定することが重要だと思います。そういう意味では、有価証券報告書で開示すべき範囲と、有価証券報告書から誘導して他の開示媒体で詳細を開示する方法が現実的だというふうに思います。これによって、前回も議論がありましたけど、全てではありませんが、英文開示の問題の一部の解決にも繋がる可能性があります。

 そこでこの審議会でも早めに議論しておくべきだと思うことですけれども、企業の観点で考えたときに、3つの分類が考えられると思います。市場区分掛けるコンプライ・オア・エクスプレインを考えると、プライム市場上場企業且つコンプライというのが1つ目、プライム市場上場企業且つエクスプレインというのが2つ目、そしてプライム市場以外という3つ目、そういった企業群が出てくると思います。それに対して、有価証券報告書でどういう開示を求めるのか、この3つの分類をどう考えるかというのが1つあります。

 それと、利用者価値についても3種類ぐらいあるのではないかなというふうに思います。1つは、運用プロセス上、日本語の有価証券報告書を読む投資家、そして2つ目は、運用プロセス上は、個社の有価証券報告書は読まないけれども、有価証券報告書の情報をベースにした情報データベースを活用する投資家、そして、投資家以外でも、一律の横比較等の目的で利用する人達、この3つぐらいあると思いますが、一番ストライクゾーンを広くすると、有価証券報告書の情報をベースにした情報データベースを活用する投資家というのが、国内だけじゃなくて海外にも居て、一番広いと思います。ですから、そういうところも考慮するのがいいのではないか。そうすると、自ずとどんなデータベースでは何が重視されているかということが決まってきます。

 簡単に整理すると、5項目ぐらいあります。こういった気候変動等に関することについて、1つ目が方針決定、2つ目が計画、3つ目がKPI、4つ目が自己評価、そして5つ目が第三者認証、そういう形です。これと、TCFDの今の4つの項目、その先にあるISSBの方で規定されるであろう項目、こちらもTCFDをベースにしているので主に4つですけれども、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の中身が詳細化されます。発行体の3つの分類と、利用者価値の視点での今のような主な注目項目と、TCFDの項目のそれぞれを連結させていくという形で、範囲を見ていくというのがあるのかなと。

 時間軸でいうと、まずはTCFDでターゲットを定めて、時間の経過とともにISSBの方に行けばいい。タイミングからすると、有価証券報告書の開示の項目を決めてから、企業がそれを開示する時に、いきなりISSBベースではなくてもいいのではないかというふうに思います。TCFDベースで、また、ISSBの方針がどんどん固まるにつれて、徐々に開示の内容を充実させていくということで、項目としては大きくは変わらないですが、タイミング的には2段階でというのがあるのではないかと思います。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、井口委員、どうぞお願いいたします。

【井口委員】

ありがとうございます。よろしくお願いします。私は、事務局資料39ページ以降で、事務局から示された論点について意見を申し上げたく思っております。

 最初の黒丸の論点の、有価証券報告書の記述情報における重要性ですが、これは事務局資料にも書いておりますように、投資家などの資金提供者にとって目的適合性のある情報、つまり投資家にとって有用な情報ということに定めるのがいいのではないかというふうに思っており、その他のステークホルダーに関する情報については、任意の開示媒体で開示するのがいいと思っています。このような有価証券報告書における重要性の設定は、もちろん投資家の判断に資するということはありますが、それだけではなくて、こういった重要な情報というのは経営者がモニタリングする、中長期的なキャッシュフロー創出能力などに関わる事項と重なるということにもなると考えますので、有価証券報告書の作成者の利便性をも高めることに繋がるのではないかと思っております。

 また、三瓶委員のおっしゃったことと少し重なるかもしれませんが、このサステナビリティ情報というのは、財務情報で認識されない長期的な事項、将来情報なども含むことになると思いますので、事務局資料10ページで掲載されている中では、ちょうど真ん中にあります、長期的な重要性を含むダイナミックマテリアリティの考え方を採用するというのが妥当と考えております。

 このように有価証券報告書における重要性を定めますと、投資家は財務情報を補完する形でサステナビリティ情報を活用して、中長期的な企業価値を分析することになると思いますし、また、IOSCOとIFRS財団の重要性の考え方とも等しくなりますので、今後、IFRS財団からサステナビリティ基準が作成された場合でも、スムーズに有価証券報告書でも受け入れることが可能になるではないかと考えております。

 1つ飛ばしまして、3つ目の黒丸の論点の、TCFDの開示で有用となる開示項目ですが、これにつきましては、企業の気候変動に対するレジリエンスを分析するに際しては、もちろん「ガバナンス」や「リスク管理」というのも重要ではありますが、投資家として特に企業ごとの差を見分けるという意味では、「戦略」、それと「指標と目標」の情報が特に有用であるというふうに考えています。これは私の意見ではありますが、後で御発言される藤村委員が私よりよく御存知と思いますが、多くの投資家の意見でもあるというふうに認識しております。

 今回、御存知のようにTCFDガイダンスの変更が行われましたが、この両項目に変更が集中的に行われたというのも、このような投資家の強い意見があったからと考えております。

 1つ前に戻って2つ目の論点の、サステナビリティ情報の有報開示における留意点ですが、皆様がおっしゃった、あるいは資料で取り上げられている全てのポイントに留意する必要があるということが重要と考えています。

 ただ、最後の任意開示の参照というところにつきましては、参照の程度を慎重にすべきというふうに考えております。これは上柳委員がおっしゃったことと重なるかもしれませんが、私もそう思っています。情報を参照するということは、詳細な情報を削減していくことにより、明瞭性とか簡潔性を増すというメリットがあるというふうには考えています。ただ一方、企業価値創造プロセスを一覧的に閲覧できるという有価証券報告書の機能を損なう恐れもあると考えております。また、事務局資料の最初のページにも書いていらっしゃいましたが、近い将来、必ずサステナビリティ情報の保証や監査ということが出てくると思いますが、その時に肝心の情報が有価証券報告書に無いということも出てくると思います。

 例えば、先ほどTCFD開示で、「戦略」、それから「指標と目標」の開示が重要と申し上げましたが、例えば計算方式で固まってない定量部分を、暫定的に任意開示で参照するということや、あるいは詳細な計算方法や定量的な部分の計算方法や解説などを任意開示に掲載するといったことは考えられるのではないかというふうに考えております。

 最後の4つ目の黒丸の論点ですが、国際的な動きへの対応というところに関しましては、前回も出ていた議論ではあると思いますが、ISSBの策定するグローバル基準の受入れや、御説明ありましたように、ビルディングブロックアプローチということが出てきて、どのような調整を加えるのかといった事項の検討も必要になると思いますので、具体的なサステナビリティ基準導入に関し、国内でエンドースする仕組み、欧州では、御存知のとおりEFRAGがその役割を果たしていると認識しておりますが、日本でもこのような専門組織を早急に構築する必要があるのではないかというふうに考えております。

 以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、藤村委員、どうぞよろしくお願いいたします。

【藤村委員】

ありがとうございます。藤村です。

 私は2点、マテリアリティについてと、開示の充実の方向性について述べさせていただきたいと思います。マテリアリティについては、井口委員や三瓶委員もおっしゃっていただいているように、投資家の投資判断に重要か否かという表現で整理するのがいいのではないかなと思います。前回私、実はシングルマテリアリティを大前提とすべきと申し上げたのですが、主眼にあるのはやはり企業価値への影響であって、投資判断に重要か否かということで表現していくことが良いと思います。シングル、ダブルと言ってしまうと2項対立になってしまいますけれども、例えば気候変動を例にとってみても、昔はCO2の排出というのが企業価値に影響なかったのですが、炭素税の法規制であったり、消費者とか取引先といったステークホルダーからの脱炭素要請、こういう外部環境の中においては、CO2を出すことが企業価値に影響する時代になってきています。時代とともに外部環境の変化に伴って、このシングル、ダブルというのは変わるものであります。したがって、外部環境が今、急激に変化しているというようなこともあるので、あまりシングル、ダブルと言わずにダイナミックなものというふうに捉えておけばよいと思います。そして、特に本ワーキング・グループでは有価証券報告書の話をしているので、企業にとって重要かという目線ではなく、やはり名宛人である投資家にとって重要か否かという捉え方が一番大事なのだと思います。

 因みに、投資家の投資判断に重要かどうかというのは、これも外部環境によって変わってくると思います。今やCO2の排出は投資家の投資判断にとって重要なものになっていますが、こういった形で、足元やっぱり投資家は企業価値を見ているということからすると、投資判断にとって、企業価値を見ている投資家にとって重要かということでいいのだと思います。

 将来的に、例えば、今も一部の投資家はそうだと思いますけども、よりエシカルな形で投資判断を行うという時代になってくれば、それが投資家にとって重要な要素になってくるということなので、これは時代の流れとともに、投資家の投資判断にとって重要な事項というのは変わってくるのだと思っています。

 ちなみに、企業にとっては投資家だけがステークホルダーではないので、仮に投資家の皆さんがあまり御関心なくても、NGOであったり、一般の市民社会にとって、我々の企業が社会や環境にどういう影響を及ぼしたのかは非常に大事な情報です。これは任意開示の中でしっかり開示していくということになります。

 次に、40ページの開示の充実の方向性で、TCFDの4つのピラーの中でどこを優先すべきかということですが、まさに井口委員おっしゃっていただいたように、TCFDの現在の議論の中でより注目されているのは、「戦略」、「指標と目標」です。「戦略」は、いわゆる例のシナリオ分析を含む、これがTCFD全体のとても重要なコアとなっています。「指標と目標」についても、やはり定性的になりがちな気候変動対応を、どういう形で定量化して自分の立ち位置を示して、どこに持っていくのだということも定量化させるということが重要視されています。

 1点だけ注意すべきは、この4つのピラーの中で、TCFDは、「ガバナンス」と「リスク管理」は全ての企業に対して開示を求めており、「戦略」、「指標と目標」については、気候変動が自社にとってマテリアルな企業に対してその開示を求めております。考え方としては、気候変動が各事業の業種・業態にとって重要かどうかはそれぞれ変わってきます。その中で、「ガバナンス」、「リスク管理」を経て、気候変動というのは重要だねというふうに判断されるのであれば、それに沿う「戦略」、あとは自分たちの立ち位置ないしは将来目指す姿を定量化してくれという考え方を取っています。重要な項目4つではありますが、性格は違っており、TCFDと同様に、マテリアリティの基準というのを「戦略」、「指標と目標」には入れる必要があるのだろうと考えております。そうでないと、あまり気候変動で大きな影響を受けない企業が、かなりのコストをかけて「戦略」を、特にシナリオ分析しなきゃいけないとか、あとは企業価値とあまり関係ないのだけれども、何らかの目標を立てなきゃいけない、こういったことにもなりかねません。どれも重要でありますが、マテリアリティ基準を「戦略」、「指標と目標」にはすべきだというふうに考えております。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、近江委員、どうぞお願いいたします。

【近江委員】

近江です。ありがとうございます。私からも、投資家の立場から、マテリアリティの考え方、そして開示の充実ということについて一言意見をお伝えできればと思っております。

 既に皆様から御意見いただいているとおり投資家としての立場から考えますと、やはり有価証券報告書の記述情報における重要性ということにつきましては、情報の受け手がまずは投資家であって、投資家が適切に投資判断を行うということに資するという観点ということを最も重視するべきだというふうに考えております。

 その上で、企業が環境や社会に与える様々なインパクトについて考えるということは、長期視点で企業価値に対しての影響を考える上で非常に重要であるということはもちろんでありますし、また、企業が気候変動に与える影響というのは、特に財務的にも非常に重要性がある可能性が高いというところでありますので、そのため、企業がダイナミックマテリアリティの考え方を踏まえて、企業価値への影響を考えるということは欠かせない視点であると思いますけれども、やはり有価証券報告書においては、投資家の判断に資するというところに主眼を置くことによって、効率的な開示に繋がるのではないかと考えます。

 あまり情報の受け手を広げたような情報である場合には、一般的な開示に陥ってしまって、投資判断上での有用性が乏しくなる恐れもあるということがあるかと思います。企業側にとっても、目的に沿った開示にフォーカスするということによって、実務上の軽減に繋がるということであって、結果として開示項目に対して質の高い情報提供というものが促される。それによって投資家との建設的な議論というものが促進されるということにも繋がるかと思います。

 特にサステナビリティ開示において、海外のグローバルの投資家としての立場から日々感じていることは、やはり日本企業の取組が、国際的に通用して、比較可能性がある形で開示されるということが非常に重要であるということであって、企業様色々な取組をされていらっしゃるのですけど、これがグローバルな枠組みでない形で開示されると、これが十分に捉えられない、把握されない、そしてテーブルに乗ってこないということで非常に残念な形になってしまうということがございます。そういったことを考えますと、特にグローバルな枠組みに従って、きちんと適切に行っているプラクティスを開示した上で、これに加えて開示するべきことがあれば、任意開示を活用していくというのが非常に現実的な在り方ではないかなと思っております。

 ISSBのビルディングブロックアプローチにG5のプロトタイプがどこまで反映されているかというのを確認していく必要はあるわけですけれども、基本的にはTCFDの枠組みということですが、これを上場する全企業に、財務報告上での開示とすると、かなりの負担感になるかなというのは思うわけです。ですので、やはり藤村委員もおっしゃっていたとおりで、「ガバナンス」、「リスク管理」ということは全業種に共通した財務報告上での開示要求項目とするものの、例えば「戦略」、「指標と目標」においては、マテリアリティに応じた対応も可能とするというのが現実的な落としどころなのかなと思いますし、その際に、例えば任意開示資料への参照というものを可能にして、且つここで任意開示に繋げる時に、例えば英国や米国での議論でもありますけれども、その際なぜサステナビリティレポートなどに記載しているのかということについても一定の説明を求めるといいのかなと思います。

 ただ、一投資家の立場から考えると、やはり重要性がそこまででない業界においても、「戦略」、「指標と目標」といったものが開示されるということは、投資判断においても非常に有用な情報であるということは、ここはもうぜひお伝えしたいことではあるかなと思いますし、特に指標においては、排出量に関係するところというのはますます財務インパクトに繋がっていく情報となっておりますので、SCOPE1、2、そして重要な場合にはマテリアルなSCOPE3といったところについても、ここは非常に有用な情報であるということについても、ぜひお伝えしたいと思います。

 私からは以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、松元委員、どうぞお願いします。

【松元委員】

ありがとうございます。松元でございます。私からは39ページの「開示充実の方向性」の中の(ⅳ)について、1点だけコメントさせていただきたいと思います。

 今日の事務局の資料の御説明で、一部の上場企業における創意工夫を生かした任意開示を十分受け止められる枠組みが望ましいということで、任意開示の部分を充実させていくことで法定開示を補完すると言うのでしょうか、そこで十分に情報を出していってもらうという方向性はとてもいいのではないかなと思っています。

 ただその際にちょっと気になっていますのが、そもそもなぜ企業側が法定開示の有価証券報告書ではなくて任意開示の方法で開示するのかということを考えますと、法定開示の有価証券報告書だと、万が一不正確なことを意図せず書いてしまったとか、記述が不正確だったというような場合のサンクションが、任意開示の場合と全然違うので、やっぱり萎縮効果というのもあって、有価証券報告書だとコンサバティブに書かざるを得なくなる、最低限のことしか書かなくなるということがあるのだと思います。その意味で、任意開示で自由にボイラープレートにならずに書いていただくというのが、任意開示のいい面だと思います。

 ただ、その場合に、今、事務局資料で書いていただいている、「有価証券報告書において任意開示等を参照することにより総覧性を確保する」ということをやってしまいますと、ちょっと気になりますのが、有価証券報告書の中で、「この部分についてはこの資料を御参照ください」と書いてしまったときに、その参照先の資料が、果たして有価証券報告書の一部であるというふうに法的に評価されてしまう可能性はゼロではないのではないかというような気がしております。もし参照先の資料に何か間違いがあったという場合の話ですけれども、有価証券報告書本体ではなく、そこで参照してくださいと書かれていた資料の中身に間違いがありましたという時に、それが有価証券報告書の不適切な記載に当たるかどうかというのは、最終的には裁判所が判断することになります。そうすると、開示資料をつくる企業側、資料の作り手や法務部とか担当していらっしゃる弁護士の先生方の感じとしては、参照先の資料も有価証券報告書の一部と評価される可能性がゼロではないなら、コンサバティブに書いておこう、あまり余計なことは書かずにいようということになってしまうのではないかと懸念しています。

 なので、総覧性を確保するということ自体はすごく大事だと思うのですけれども、そのやり方として「有価証券報告書の中で参照する」という方法をとることについては、今一度御検討いただいた方がいいかもしれないと思います。

 すみません、ちょっと具体的過ぎる話というか細かい話だったかもしれませんけれども、私からは以上です。よろしくお願いいたします。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、チャットの順番で、次が中野委員、どうぞお願いいたします。

【中野委員】

私は比較可能性、特に情報のグローバルな比較可能性ということに焦点を当てて、主として3点申し上げたいと存じます。

 まず1点目は、法定開示と任意開示のあり方、関係に関してです。本日配布の「事務局説明資料(2)(サステナビリティに関する開示(1))」34ページに記載されている任意開示、中でも統合報告書についてですが、有価証券報告書提出企業は約4,300社(上場企業は約3,800社、上場企業以外の金商法開示企業は約480社)、一方、統合報告書公表企業は579社である旨紹介されております。私は、過日、統合報告書公表企業の特性を大量データで分析したのですが、統合報告書公表企業と同非公表企業には有意な違いがありまして、同公表企業は、同非公表企業に比べ、総じて企業規模が大きく、アナリストがフォローし、海外投資家の株式所有比率が大きい傾向を認めました。この点は一般的な直観と一致していると思います。さらに、次の分析も行ってみました。統合報告書を公表するA社と、同報告書は非公表であるもののA社と企業規模が最も近いB社とを一対一でセットにしまして、大量データにより、それらの特性がどのように異なるかを分析してみました。その結果、概ね以下のことが分かりました。

 まず、統合報告書公表企業は、同規模の非公表企業に比べ、実はアナリスト・フォローイングは小さい、海外投資家の株式所有比率は小さく、これらの点は、統合報告書はIRの場において独自のコミュニケーション・ツールになっていることを示唆します。また、当該公表企業は、同規模の非公表企業に比べて、個人投資家の株式所有比率は大きい、広告宣伝費支出は小さい傾向を認めました。この点は、統合報告書は消費者向けの広告媒体としてではなく、IRにおける有用な媒体として使用されていることを示唆しています。

 私がここで申し上げたいことは、法定開示と任意開示の関係についてです。例えば、「国際会計基準」に関する研究においては、「企業レベル」、「国家レベル」という2つの視角から分析が行われます。個々の企業は、一定の経済動機に従いディスクロージャーを行っているので、統合報告書等の任意開示に積極的な企業群は、積極的なディスクロージャーを行う一定の経済動機を持っている企業群として位置付けられます。もちろん、これは資本市場としては歓迎すべき行動です。その一方で、国全体のインフラとして、会計基準を含むディスクロージャー制度がどのように機能し、国全体から見た資金流入への効果が発現しているか等について、「国際会計基準」の研究では分析されてきています。本審議会の主題に引き付けて申しますと、国全体のインフラとしては、やはり法定開示の中核である有価証券報告書を適切に整備して、統合報告書等の任意開示がそれを補強するというあり方を基本として制度設計を進めていくべきだと考えます。以上が1点目の意見です。

 2点目は、「御議論いただきたい事項」(39ページ)冒頭の「開示における重要性(マテリアリティ)の考え方」についてです。すでに様々な御意見が示されたところですが、私も「投資家の投資判断にとって重要か否か」に目的を置くべきだと考えます。理由は2点あります。第1に、本審議会は金商法の制度について主に議論する場ですから、投資家保護にその重点を置くべきと考えます。第2に、議論を拡散させず、開示情報の質を担保する観点からも、焦点を絞ることが重要です。その上で、本日も数名の委員から御指摘がございましたように、シングル、ダブルというマテリアリティの捉え方は、本質を見誤る恐れがあります。企業が地球環境に負荷をかけているか否かは、すでにサステナブルファイナンスの観点から投資家サイドにおいても注目されており、開示すべき気候関連情報は投資家の判断にとって重要かどうかによって決められるべきです。そうしますと、「ダイナミックマテリアリティ」、この考え方が最も適切であろうと考えます。

 3点目として、私は、有価証券報告書の中に一定の枠を設け、そこでサステナビリティ情報を開示するのが適切と考えます。理由は、2点あります。第1の理由の方が重要なのですが、先ほど三瓶委員が発言されていたとおり、今日、法定開示等の情報は商用データベースに取り込まれ、一定の投資家は同データベースを用いて投資意思決定を行っている実態があります。この点からいえば、開示情報が商用データベースに取り込まれやすい状態になっているか否かは、情報の利用可能性、ひいてはグローバルな比較可能性を左右する要因として位置づけられます。有価証券報告書の中に一定の枠を設け、XBRLを通じてそれらの情報・データを機械的にデータベースに取り込むことが容易な状態をつくることは、グローバルな比較可能性の確保の観点から必要性が大きいと言えます。

 第2に、サステナビリティ情報に関する枠を設けることは、今後、議論が進展していくであろう「保証」の観点からも意味があると考えます。気候関連情報等に対する保証は今後不可避と考えられます。有価証券報告書の変遷を辿れば、例えば1990年代前後は資金収支表及びセグメント情報をはじめ監査が難しい項目を当初は「財務諸表外」に置き、適切な実務が醸成されていく時間を確保しながら、段階的に「財務諸表内」に開示場所を移し、監査対象としていった経緯もございますので、まずは一定の枠を設け開示を行い、その後、当該枠に含まれる情報に対していかに保証を付与するかの議論が進展していくという、時間的な流れになるかと存じます。

 最後に、総覧性について一言申し上げます。法的な問題等を踏まえ慎重にすべきという御意見がございました。私もその意見に同意します。しかし、わが国の情報開示は、総覧性がやや欠けていることはたしかでして、せっかく有用な情報が提供されているにも関わらず、利用者の利便性の点から課題を残していると見られます。法的問題等に配慮しつつ、一定の改善が図られることが期待されます。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、佐々木委員、どうぞお願いいたします。

【佐々木委員】

どうもありがとうございます。

 まず、開示におけるマテリアリティに関連するところですけれども、この頃は、気候変動対応とか、その開示が投資家の重要な関心事になってきているというふうなことがございまして、我々、有価証券報告書作成者としても、やっぱり一定の覚悟をもってこれに対応しないといけないと思っております。

 逆に言えば、有価証券報告書そのものは、投資家への有用な情報提供ということが目的ですので、やっぱりそこを踏まえるというふうなことだと思います。藤村委員がおっしゃっていましたけれども、投資家の関心事は時代とともに変わっていくところがあるというところで、この辺も踏まえた上での判断かなと思っています。

 それから、有報開示における開示の充実の方向性では、TCFDの提言に沿った開示というものに特に異論はございませんけれども、一方でTCFDの提言に賛同している企業数というのは、400社程度というふうに言われております。4,000社を超える有価証券報告書作成者のごく一部ということであると思います。この点は考える必要があるのかなと思っています。

 可能であれば、例えば段階的な開示を求めていく、法定開示を求めていくというふうなこともあり得るのかなと思いますし、また開示の優先度の観点でございますけれども、多くの委員の方がおっしゃったとおり、全ての企業に開示が奨励されている「ガバナンス」、あるいは「リスク管理」というところは非常に優先度が高いと言えると思います。一方で「戦略」、「指標と目標」というところについてはなかなか難しい面があり、4,000社全てに求めるというのは、現段階ではやっぱり難しいかなという感じがしております。例えば、GHGの排出量なども、必ずしも確立した測定方法があるわけではないといったところ、あるいは、なかなか企業間で比較がそういう意味で難しくなるというようなところもありますので、現段階では有報開示には、ちょっとまだ馴染まないのかなという気はしております。

 一方で、任意開示というものの利用を考えていただけるというのは非常に良いことかなと思います。投資家サイドの利便性、それから作成サイドの負担ということを考えると、任意開示を参照するというのは良いアイデアかな思いますけれども、ただ一定の条件が必要かなと思います。これは松元委員がおっしゃったとおりですけれども、あまり任意開示そのものの法的な面が強調されますと、開示に後ろ向きになる、あるいは開示が後退するというリスクも逆にありますので、その辺のところは非常にバランスをとった解決案が必要かなというふうに思います。

 いずれにしましても、企業の気候変動対応については、開示の統一化という流れ、動きがありますし、それから、米国の動きも非常に気になるというふうなことなので、こういったことはしっかり見定めていく必要があると思います。一方で、これらの動きに対応して、日本としても何か意見を言っていく、そういう必要があるだろうと思います。日本企業の開示に関する信頼性が損なわれるというのが、最悪でございますので、そういったことを避ける意味でも、こういった動きをきちんと見ていく必要があると思います。ISSBに対応した形での、日本としての主体といいますか、サステナビリティ開示の取組なり、あるいは内容を検討する主体、そういったものを検討する必要があるのではないかと思ってございます。

 以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、黒沼委員、どうぞお願いいたします。

【黒沼委員】

黒沼です。私からは、3点ほど意見を述べたいと思います。

 まず、開示における重要性の考え方についてですが、気候変動への取組を企業に進めてもらうためには、気候変動が企業に与える影響だけではなくて、企業が気候変動に与える影響も開示してもらうことに意味があるということは疑いがないと思います。そのために、法定開示の仕組みを利用することにも一理あると考えます。

 他方、気候変動に関する開示において、これまで企業が準拠してきたTCFDが、投資家にとっての重要性基準を採用しており、任意開示において、日本企業がこれにある程度親しんでいるということ。それから、IFRS財団のサステナビリティ報告基準が、投資家にとっても重要性をベースとする方向で進んでいるようであり、日本としては、これに歩調を合わせる形で検討することが重要だと考えられます。

 また、気候変動に関する任意開示を行っている企業は、予想外に少数であるということを今日知ったわけですけれども、要は気候変動に与える影響の開示は、任意開示の方で拡充していくということも可能であるということを考えますと、有価証券報告書における気候変動に関する開示は、気候変動が企業に与える影響を、投資家にとっての重要性で判断して開示していくという考え方で良いのではないかと思います。

 第2に、開示充実の方向性についてですが、最終的に国際的にも比較可能で、評価軸のしっかりとした開示基準を持つためには、ISSBの基準を踏まえる必要があると思います。ただISSB基準が出来上がるのを待つのではなくて、日本として、ISSBの設置や活動に積極的にコミットしていくべきであると考えております。

 第3に、任意開示の参照について御意見がありましたので、一言述べたいと思います。有価証券報告書において任意開示を参照することにより総覧性を高めることは、投資家の利便性を高めるという面があるとは思います。しかし、井口委員が言われたように、そのために法定開示の内容の充実が損なわれることがあってはならないと思います。ですから、法定開示の内容についてこれから議論していくわけですけれども、そこで上がった開示項目に対応する情報そのものは有価証券報告書の本体に開示していただいて、それに対する補足情報とか、それを判断するのに有用な情報などは参照の対象とすることを認めるという方向性がいいのではないかと考えています。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。次に、高村委員、どうぞお願いいたします。

【高村委員】

事務局からの資料、どうもありがとうございます。私の方から、大きく3点申し上げたいと思っております。

 1点目は、議論になっていますマテリアリティについてでございますけれども、基本的には多くの先生おっしゃったように、そして事務局からも提示がされていると思いますが、主要な報告対象者は投資家を中心とした資本市場の参加者であると。重要性の範囲は、企業財務に与える影響を基本に考えるべきという、こうした方向性について、異論はございません。

 シングルマテリアリティ、ダブルマテリアリティ、概念の思考作業上は有用だというふうに思いますが、何人かの委員もおっしゃいましたように、どちらかという二者択一で議論をする段階ではなくなってきているように思います。とりわけこれは気候変動を念頭に置きますと、御存知のとおり、取引先あるいは金融市場投資、投融資の判断において、気候変動の対応自体が企業価値を左右するような評価基準になってきておりますので、これは短期的な対策としても中長期的な観点で戦略をもって対応しているかという点においても、その意味で、まさに気候変動を優先にという共通認識はそこからも出ていると思いますし、10ページに御紹介ありましたけれども、そこにあるようなG5のダイナミックマテリアリティの考え方にシンパシーを持っています。

 釈迦に説法ですけれども、恐らくダブルマテリアリティの概念が提起される意味合いというのは、どなたか委員おっしゃったように記憶しておりますが、やはり企業の活動がどういう影響を環境社会に与えているか、サステナビリティに関わる問題にどう対処するかということ自身が包括的に、やっぱり金融市場、投融資の判断の評価の1つの基準になってきているということについて、改めて認識をするという意味合いはあるというふうに思います。

 しかし、冒頭に申し上げましたように、基本的な考え方としては、投資家を中心とした資本市場の参加者、あるいは企業財務に与える影響を、重要性の範囲として基本的に考えるということに賛成をいたします。

 2点目でありますけれども、開示充実の方向性についてです。投資家では実務家の皆様の御意見を大変興味深く伺いました。私は全ての、特に有価証券報告書における開示ということを念頭に置いたときに、やはり全て、あるいは多数の企業を対象とし、かつ気候変動だけじゃなく、広くサステナビリティへの拡張性というのを考えると、「ガバナンス」、「リスク管理」というのが非常に重要なように思っております。特にやはりサステナビリティに関わる問題は様々で、企業によっても、あるいは場合によっては時間によっても、重要性のあるサステナビリティの問題というのは変わってき得ると思いますけれども、しかしながら、その中で何が重要性のある課題なのかを企業自らが特定をして、それをしっかり対応できている、あるいはそういう「ガバナンス」が企業の中にあるかどうかということがしっかりまず開示されるのが、非常に重要な基盤で、基礎ではないかというふうに思います。

 特にやはりどのような体制で、どういう人をそこに配置して、どれだけの頻度でどういう議題を議論しているのか。これはファクトとして客観的に、企業としても提示ができる情報だと思います。そういう意味では、開示の負担としても、大多数の企業が取り組む上でも負担は相対的に少ないと思っておりまして、そういう意味で1つは「ガバナンス」が非常に重要ではないかと思っております。

 2つ目は、その「ガバナンス」を基にして、何がその企業にとって重要性のある課題なのか、問題と特定したものが何なのか、それについてどのように対処しているのか。そういう意味では、2番目に「リスク管理」、そしてそれに対応する「戦略」、「指標と目標」という順位と言いましょうか、段階かなというふうに思っております。

 それに関わって、今議論がありましたように、35ページのあたりの御議論に関わると思うのですけれども、いわゆる総覧性と同時に、開示をさせることでの萎縮効果、情報が十分に開示をされなくなるのではないかといった懸念に対する対応であります。特にサステナビリティに関する開示に関しては、恐らく「リスク管理」についてもそうですが、特に「戦略」、「指標と目標」、これは開示の重要性は言うまでもないのですけれども、その性格上、やはり中長期の視点を持った「戦略」、あるいは一定の想定を置いた将来に関するリスク分析、それに基づいた「指標と目標」という、35ページの言葉を借りると将来情報と言い得るような、そういう情報が含まれる可能性がある。また、それが非常に重要性を持つということかと思います。

 そういう意味で、結論は私、今ございませんけれども、やはり開示させることの重要性と、同時に萎縮させないで開示の促進をさせる対応としてどういう方法が可能かということについて、ぜひ議論ができればというふうに思っております。

 最後3点目ですけれども、開示の充実の方向性で、今回、英国のロードマップを示していただいているのは大変示唆的だと思っております。多数の企業が対象になることを考えても、対象となる企業、あるいは開示の対象、質の拡充について、大きな中期の制度の方向性を見通しつつ、やはり段階的にどういうふうに質の充実、対象の拡大を行っていくかといったような、段階的な計画を持った開示の充実ということも、検討してしかるべきではないかと思っております。いずれにしても国際的に今、並行的に動いておりますので、その進展を見ながら、複数回議論をさせていただくとよいのではないかと思っております。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、小林委員、どうぞお願いいたします。

【小林委員】

私からは、簡単に4点申し上げたいと思います。

 まず1点目はマテリアリティに関してです。皆様が既におっしゃられているように、市場はサステナビリティ自体を単体としてのリスク、短期のリスクと見られているのではなく、特にシングルマテリアリティ、ダブルマテリアリティという枠組みではなくて、長期的に投資家の投資判断にとって重要な情報であると考えます。シングル、ダブルの定義に縛られることなく、投資判断にとって重要な開示という位置付けがよいのではないかと思います。

 それから、2点目は開示充実の方向性についてです。これはもちろん投資判断に資する重要な情報ということですけれども、一方でこうした開示を求めることによって、非財務、サステナビリティに関する開示充実の必要性の理解を企業に促すという意味もあります。その視点から、やはり「ガバナンス」、それから「リスク管理」のところを重点的に、有価証券報告書においては要求するべきであると考えます。

 一方で、「ガバナンス」、そして「リスク管理」の視点から議論した結果として、何が重要なのかということについては、各企業の判断に委ねるべきであると考えます。制度の中であまりに詳細を要求してしまいますと、コンプライ・オア・エクスプレインではなくて、日本の企業の場合、どうしても無理にコンプライをする傾向にありますので、そこは各事業者が、しっかり自分たちにとっての重要性がどこにあるのかというようなことを考えることを促す意味でも、あまり細かいところまで規定する必要はないのではないかと思います。

 それから、それに関連しまして3番目に、やはり有価証券報告書と任意開示の関係性、これはただ単純に参照するという総覧性ということだけではなくて、もう少し有価証券報告書と任意開示の関係性を明確にするような制度設計をする必要があるのではないかと思います。

 4点目は海外の動向についてです。実際にCOP26といっても開催されるのが11月3日ですので、あと1か月の話です。既にIFRS財団が、基本的には既存の基準をある程度踏襲してということですので、かなり速いスピードで基準の方向性は出てくると想定されます。日本政府においてはビルディングブロックアプローチを行っていくに当たって、どういう体制でそれを受け止めて、進めていくのかということの準備を早急に始めていく必要があると思います。

 それから、聞くところによりますと、ISSBについては、マルチロケーションアプローチということを取るという方向性であると聞いておりますので、その点日本政府として、マルチロケーションアプローチにおいての立ち位置、リーダーシップを取っていくのかということの準備も併せて行っていく必要があると思います。

 以上4点です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、熊谷委員、どうぞお願いいたします。

【熊谷委員】

みずほ証券、アナリスト協会の熊谷です。私の方からも、3点ほど発言させていただきたいと思います。1つが、皆様御発言のマテリアリティ、それから開示の充実の方向性、それから海外の動向、スケジュールに関するコメントです。

 まず、開示における重要性ということですけれども、私も皆様同様、有価証券報告書のマテリアリティということで、有価証券報告書の記述情報における重要性でいいのではないかと考えています。すなわち、投資家の投資判断にとって重要か否かについて判断すべきと。ずっと議論されておりますシングルマテリアリティ、ダブルマテリアリティというのは企業価値への影響という言い方をしているわけですけれども、ダイナミックマテリアリティは、時間軸に沿ってシングル、ダブルが入れ代わってくるという考え方で、私自身も非常にシンパシーを感じております。

 ただ、既にいろんな方々が間接的にせよ御指摘されていると思いますけれども、従来の伝統的な株式投資、あるいは債券投資に代わりまして、最近やはりESG投資、サステナブルファイナンスがものすごい勢いで増えてきているわけでございます。例えば、ESG投資などという視点を考えました場合に、企業環境、あるいは気候が企業に対する影響ということもさることながら、企業が気候あるいは環境にどういう影響を与えているのかという視点を重視する投資戦略、あるいは投資哲学だろうというふうに考えております。そうしますと、結局一言で投資家といっても、彼らの投資哲学であるとか投資戦略によって、マテリアリティが異なるわけでありますね。時間軸ではなくて、実際、現在そういう投資家にとって、自分にとってのマテリアリティが異なる投資家が混在しているという状況でございますので、企業価値に影響を与えるかどうかというよりは、投資家が投資判断に使えるかどうかというような点が重要になってくるだろうと思います。

 それから、開示の充実ということで、TCFDの4つの柱、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」について、優先順位をどう考えるかというような御質問ございましたけれども、そもそもこのTCFDの開示自体が4つの柱と言っているぐらいで、4つの柱が一体となって機能することで有効な開示に繋がるかというふうに考えております。そういった意味では、ただこの4つの柱の中にも階層があって、「ガバナンス」や「リスク管理」がマストと、よりエッセンシャルな開示になっているわけであります。一方で、皆様から御指摘のとおり、「戦略」とか「指標と目標」といったところが、より最終的には投資の判断には関わってくるということで、こちらもやはり有用であるということだろうと思います。

 そういった意味では、4つの柱が重要ですが、ただ、「リスク管理」というのをマストにしておいて、「戦略」、「指標と目標」、これは実際に開示すると、企業によってはものすごく負担が重くなる。まさにその企業にとっての気候変動リスクの重要性を考えたときに、重要でないのに「戦略」とか「指標と目標」を開示させるというのは、利用者にとってのコストベネフィット、あるいは作成者にとってのコストベネフィットということを考えてもあまり意味がない。そういった意味では、先ほど藤村委員が整理されておりましたように、「戦略」、「指標と目標」に関しては、まさに企業にとっての財務インパクトなり、あるいは重要性によって切っていくという形がよろしいのではないかなと考えております。

 今日はTCFDをベースに開示の方向性の充実ということでありますけれども、IFRS財団が、結局サステナビリティ基準の開発に乗り出している1つの背景としましては、TCFDの今の提言だけでは十分な比較可能性が担保されていないという現実があるわけであります。ISSBの基準というのは、TCFDの基準を、事務局の説明資料にございましたとおり、この4つの柱を取り込む形で、且つそれが比較可能になるような形での開示を求めていくということでありますので、そういった意味では、利用者としてもISSBの基準の方で開示していただいた方が、より比較可能性も高まって使い勝手がよい。しかもグローバルな比較可能性の重要性ということも随分御指摘がございましたけれども、そういった意味ではISSBの基準に従って開示を求めていくということを考えていくのがいいのではないかなというふうに考えております。

 最後に、海外当局の動向・スケジュールということでありますけれども、我が国に関しては、コーポレートガバナンス・コードで、まずコンプライ・オア・エクスプレインの開示を求めていくと。上場企業、プライム企業に対して、そういう開示を求めていくという方向性にあるわけでありますけれども、今日、御説明のございました米国、英国、EUに関しても、全てやはり義務的な開示の方向性に動いている。我が国でいえば、まさに有報開示という方向に動いているというのは間違いないので、やはりそういうことは念頭に置いていくべきであろうと思います。

 そうしたときに、先ほどのIFRS財団の基準、個人的にはこれを採用していくのが良いというふうに思っているのですけれども、これを我が国として採用するしないに関わらず、意見発信の体制というのをしっかり作っていく必要があると思います。その上で仮に我が国の独自基準をそれでも開発するということであれば、基準設定主体をどう作るかという話になりますし、ISSBの基準、IFRSサステナビリティ基準を我が国の基準として入れていく場合には、先ほど井口委員などからも御指摘ありましたように、エンドースメントのメカニズムをどう作っていくかという話が必要になってくると思います。

 少なくともそれぐらいのところは、今回のディスクロージャーワーキング・グループで議論していただけたらなと思います。また既に御指摘のとおり、この第1号の気候変動基準、IFRSサステナビリティ基準は来年度の6月に出て、最終化されるわけでありますけれども、恐らくそれは強制適用の時期というのが、またすぐにということではなくて、何年か後というような形で書き込まれると思いますので、それに合わせて、我が国の強制開示のタイミングというのも図っていくということは考えられるのではないかなというふうに思っております。

 以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、上田委員、どうぞお願いいたします。

【上田委員】

ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

 私は、本日の御議論いただきたい事項というところで、まず、皆様御指摘されておられましたけれども、サステナビリティのマテリアリティについてです。基本的には有価証券報告書という枠組みということで、やはり投資家の投資判断にとって重要か否か、ここがベースであろうかと思います。有価証券報告書の地位ということもあると思いますが、そうするとシングルマテリアリティ、ダブルマテリアリティ、これは他の先生方もおっしゃっておられましたけれども、やはり二者択一のどちらかのアプローチというよりも、融合的にしていくべきもの、環境が相当変化していまして、どちらか1つというものでもないと考えます。財務であり、あるいは非財務が財務化するということも出てくるのかと思っております。

 そういった中で、情報としては当然インベスター、投資者以外のステークホルダーにも有用なものになってくるという使われ方があるのかと思います。その中で、今話題になっておりますけれども、TCFDについては、この枠組みの整理も必要になってくるのかと思っています。「ガバナンス」、「リスク管理」、これはいずれもベースとなる底を固めるといいますか、安定性、信頼性に関わるものであろうかと思います。そして、「戦略」、「指標と目標」、これは1段目に載っている2階部分でしょうか、アップサイドの価値に繋がるものという、こういった整理があって、それぞれやはり正確性が求められるものと、あるいはより将来の価値に向けた説明が求められる、こういった区別も必要かと思っています。

 このTCFDですが、日本は非常に数が増えていると言われていますけれども、そうはいってもまだまだ市場全体から見ると少数派でございます。コーポレートガバナンス・コードに入っても、まだまだここの部分について、今まさに取り組んでいるという企業が多いと思います。そう考えると、任意開示におけるTCFD開示というよりも、これは2つ目の開示充実の方向性の議論に関わりますが、法定開示の中でもある程度サステナビリティをめぐる開示というものを強化していく必要があるのかと思います。任意開示を大きな存在として重点を置きすぎると、対応ができない企業が増えてきます。そうなると、当然投資者にとっては情報が取れる企業と取れない企業とで、かなりの格差になってきまして、当然企業価値にも繋がってくるものですので、ある程度法定開示の充実というものは必要かと思っています。

 その場合に、参照情報、これは先ほど松元先生も御指摘されておられましたけど、私もそのとおりだと思っています。参照情報を仮に使うとしても、まず、法定開示の本体部分の説明というのはしっかりさせるべきであると。その上で、さらに充実させるために、参照情報を必要に応じて使えるようにする。ただし、法的開示の範囲、リンクや参照先情報の管理等法的な問題についてはどこまでかをしっかりさせておくということが必要だと思います。

 最後に、こういった開示の充実をするときに、企業の方が虚偽記載を怖がられておられて、結果として保守的な開示になってしまうということなのですが、今回35ページで、虚偽記載の責任について、一定の合理性がある場合の説明については、開示後の事情の変更というものについては虚偽ではありませんと、こういったふうに御意見、金融庁の方でお答えになっておられると書かれています。ここをぜひ強く企業さんに広く周知できるよう、アピールしていただきたいなと思います。おそらくここのところをあまり認識されておられない企業が多いようでして、とにかく確実なもの、つまり検証可能な情報を出したいというような御意見が多いようです。一歩進んだところにサステナビリティ、非財務情報があり、どうしても不確実な部分が一定程度入ってまいります。そういった部分についても開示を促すという観点から、データについても検証が大変難しいところもありますので、そういったところからは、金融庁が既にお出しになられておられるこの回答のところ、35ページのところをしっかりと周知できれば、より充実してくるのかと思いました。

 以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、清原委員、どうぞお願いいたします。

【清原委員】

ありがとうございます。清原です。順に少しコメントさせていただければと思います。

 議論いただきたい事項の1番目の「重要性」、マテリアリティのところですけれども、ここに関しては既に多数の方の御意見にありますように、投資者の投資判断ベースでの重要性という整理でよろしいのではないかと考えているところであります。

 次に、この点に関して、事務局の資料の中で整理されているところで、重要と思われるところとして、「時間軸」ということあると考えております。言い換えると、これまでの有価証券報告書での開示の文脈で考えていくと、「重要性」は、近い将来の時点での業績への影響ということが、投資判断において中核的な判断の要素になっていたかと思われるのですが、気候変動を含めたサステナビリティにかかる課題の場合は、中長期的な、より長い時間軸を念頭に置きながら、投資家の投資判断において重要かどうかを見ていくことになるので、従来想定されていた重要性というものとは異なる面があるのではないかと思われます。

 業績への影響と申し上げたところで、企業価値の点について飛ばしてしまったのですけれども、重要性を考えるうえで、最終的には企業価値への影響をみるという点に関して、外部環境の変化ですとか、それから時間軸を少し広げて捉えてみるとなった時に、投資者の投資判断というのが従来の枠組みから少しずれてくることがあるのだろうというふうに考えております。

 2点目に、サステナビリティ開示の充実の方向性の中で、何度も議論がされている「任意開示書類の参照」のところについてですが、議論がありましたように、参照という形で他の書類にリファーしていくこと自体が悪いと申し上げるものではないのですけれども、やはり法定開示書類の開示の内容がしっかりとしたものになる、過不足なく充実した記載がなされること、これを第1に考えるべきところであり、その上で、ただ、そこに書き込めない、もしくはそこでは書かない理由が色々あった場合に任意開示で書かれていくことで、そちらが充実することに全く異論はございません。

 この両者の棲み分けというものをはっきりさせることがまず1つに大事ですが、他方、任意開示書類のどこに何が開示されているかについて、何ら手がかりがないということもよくないだろうということで、参照することにより総覧性を確保するということが出てきたのだろうと思いますが、その場合に、どういう書類のどこに開示されているか、それをリストアップしたものが、例えば企業のホームページですとか、そういったどこか決まった箇所にあると分かれば、まず、参照の目的は第1に達成されるだろうと思います。しかし、そのような参照を有価証券報告書に記載することがどうかということに関しては、むしろちょっと私はネガティブに考えています。

 現状で言えば、上場企業に関しては、コーポレートガバナンス報告書がありますが、その後ろの方で「ステークホルダーの立場の尊重に関する取組状況」、こういった欄があるので、そのような欄において、ステークホルダーに関する情報提供に関する方針の策定とか活動の実施といったものの記載が現在ありますけれども、ここを活用して、どの書類にどういう開示がなされているかということを、こちらの方に付け加えていくようなことができれば、目的は達成できるのではないかと考えられます。仮に有価証券報告書に参照としてリストアップされた書類があるとなると、その書類のどこの部分までが有価証券報告書の中で記載したことになるのか、といった法律問題も生じかねないですが、そのような問題に踏み込むことなく、有価証券報告書以外の媒体、例えばガバナンス報告書などを活用することの方が良いのではないかというふうに考えるところでございます。

 次の、TCFDの4つのピラーに関しては、優先度の話ということも理解しているのですけれども、開示に至るプロセスを利用者にとって分かりやすいようにする上で、関連するものとしての「ガバナンス」や「リスク管理」は全ての有価証券報告書提出会社において記載が必要であり、それ以外の「戦略」、もしくは「指標と目標」が関連する会社に関しては、重要性に応じて、別途しっかり記載されるべきという整理は、有価証券報告書にも取り入れていくことができるというふうに考えています。

 最後に、リスクのところに関し、将来情報に関する虚偽記載の関係で、事務局の方でお示しいただいている考え方の整理、これは非常に有用だというふうに考えているところでありますが、まだこの考え方が十分に広まっていないということもあるようですが、他方、この考え方は漠然とした抽象的なものでもあり、本来の趣旨から外れて御都合主義的に利用される懸念がないわけではないと考えられますので、「一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明がなされていた場合」という部分について、どういう場合がこれに当たるのか。それから、「合理的と考えられる」というためには、どういう要素が必要なのかということについて、もう一段踏み込んだ考え方の整理やガイダンスや例示といったものが、おそらく今後求められるのではないかと考えられるところであります。

 以上になります。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、永沢委員、どうぞお願いいたします。

【永沢委員】

永沢でございます。ありがとうございます。私からは、3点申し上げたいと思います。

 まず、マテリアリティの考え方についてですが、情報開示が企業の行動変容を促す効果は大変大きく、大いに期待されるところですが、有価証券報告書の開示制度の目的は、他の委員の方々も指摘されておりましたように、投資家の投資判断に資することであると私も考えます。社会環境の変化が、企業価値にどのような影響を及ぼす可能性があり、そのリスクを経営陣がどう認識し、企業価値をどう守ってどう高めていくのか、そのための対応をどう考えているかを示すことが、この中では一番の目的ではないかと私は考えます。

 それから、シングルマテリアリティかダブルマテリアリティかという議論があるということを前回お聞きしました。私も、この2つは対立するものではないと考えました。そして、「リスク管理」により企業価値を守るという観点、すなわち社会環境変化を企業がどう捉え、備えているのかを説明するという観点がシングルマテリアリティなのかなと、素人の私なりに解しております。投資においては、企業というのはゴーイングコンサーン、すなわち将来にわたって継続していくものということが想定されており、投資は企業の将来価値を見て行うものですので、全ての上場企業に「リスク管理」の考え方については開示を求めていいものと私は考えております。

 一方、ダブルマテリアリティというのは、企業価値を高めていくという攻めの視点であり、企業の「目標」や「戦略」を説明するという部分であろうと私なりに解釈しております。まさに各社の企業価値を高めるための「戦略」に関わる部分ですので、この部分は創意工夫を生かした任意開示を促すという方向で進めていくことが望ましいと私は考えます。

 それから、法定開示に関しましては萎縮が起きやすく、企業の創意工夫、意欲を削ぐということが起こりやすいということを我々は経験してきているところです。そうした萎縮が起きないような工夫についても考えていく必要があります。確かに既に金融庁から、合理的なものであれば虚偽開示にならないという考え方を示していただいておりますが、このメッセージを企業により周知していくのに有効な方法はないのかなどを、今後の審議会の中で少し具体的に議論してみてもいいのではないかと考えました。

 2点目でございますけども、開示充実の考え方についての箇所につきましては、示された4項目はいずれも重要とは思いますが、私も「リスク管理」と、そのための「ガバナンス」をどのように各企業が構築しているのかというところはどの企業にも共通するものであり、法定開示を考える中での優先度という点では、特にこの2つが高いのではないかと考えます。

 最後に、国際的には、開示していなければ何もしていないと解釈されるのだということを聞きました。サステナビリティはグローバルな課題でもあり、日本企業の投資価値を高めるためには、もちろん開示を行う企業側の負担についても十分に考慮していく必要はありますけれども、少なくとも上場企業においては、サステナビリティに関する具体的な情報開示がないというようなことがないようにして、日本市場として情報開示の底上げをしていくべきと考えます。また、当局におかれましては、国際的な会議において、積極的に発言をして議論をリードしていただきたいと思います。

 私からは以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、田代委員、どうぞお願いいたします。

【田代委員】

ありがとうございます。皆様、色々な御意見をおっしゃって、私はそこの部分については大体出尽くされているのではないかと思いますので、この審議会の範疇を超えているかもしれないのですが、この会議がオープンな場だということで最後にお伝えしたいことは、もしかすると直前の永沢委員のおっしゃっていることと少し逆になるかもしれませんが、私の認識として、日本の企業はよく頑張っているのに、世の中が知らないから損をするという、その御発言もたしかあったと思いますが、そのとおりだと思います。

 このディスクロージャーに関する取組についても、日本は決して遅れているわけではなくて、前向きに様々なグローバルの動きを感知しながら企業も真摯に取り組んでいると思います。日本語中心の開示だからかもしれないですが、開示自体は積極的にグローバルスタンダードを引っ張っていっているんだぐらいの勢いでやっていく必要があると思いますので、それをメディアも通して、あとは各企業を通して、運用していらっしゃる方も、実態をみんなで世に知らしめる必要があるのかなと思います。本来、この審議会とは違うかもしれないのですが、周知活動についても同じぐらい重要なものだと思いますので、どこかの場で議論ができればと思います。よろしくお願いいたします。  

【神田座長】

どうもありがとうございました。皆様から大変活発な御意見をいただきまして、ありがとうございます。本日、御参加の委員の皆様、私を除いて17名いらっしゃいますが、16名の方から御意見をいただきました。あと御意見いただいてないのが神作委員になりますが、もし御意見、御質問があれば神作委員に御発言いただき、その次に藤村委員にお願いしたいと思います。

 神作委員、もし何かございましたらお願いいたします。

【神作委員】

神作でございます。御指名ありがとうございます。本日、講義の関係で遅刻して参加し大変失礼いたしました。

 私の意見は、ほぼ今までの先生方の御意見に尽くされていると存じますけれども、私も基本的に金商法の開示、特に法定開示の問題として考える場合には、投資家にとっての重要性ということだと思うのですが、他方でこれも御指摘ありましたように、投資家によっても様々ですし、特に環境問題については、どのような前提を置くかということによって、重大性の捉え方自体が大きく変化してくると思います。重要性の意味について、さらに御一緒に議論をして考えさせていただきたいと存じます。

 ありがとうございました。   

【神田座長】

ありがとうございました。それでは、藤村委員、どうぞ。

【藤村委員】

複数回になって大変恐縮でございますけれども、2点補足させていただきたいと思っています。

 1つは、4つの柱の中の「戦略」、「指標と目標」、これについては、マテリアリティ基準でTCFDの提言書になっているわけですが、先ほど井口委員がちらっと触れていらっしゃいましたけれども、「指標と目標」のうち、特にSCOPE1、2の排出量に関しては、TCFDから間もなく出される新たなガイダンスにおいて、マテリアリティ基準を外すことになっております。すなわち、マテリアリティ基準が適用される「指標と目標」の中にはあるが、SCOPE1、2に関してはマテリアリティに関わらず開示を推奨すべきと提案されることになっています。これは2017年にTCFD提言ができて以降、その後、急激に脱炭素に向かう世の中が加速して、今やもう排出削減というのは全企業にとっての必須科目になっているというようなことであるとか、あとはその排出量の測定の、特にSCOPE1、2に関して、測定のベースというのがかなり定着してきたというようなことをもってTCFDの中では議論されて、これは全企業ということになっております。

 そういう意味では、4つの柱を単純に割り切れる形じゃなくなってきていますが、いずれにしてもISSBの方でこの辺をどう扱うかによって、このSCOPE1、2が開示義務の対象になるのかどうかというのが決まってくるのだろうなと思います。

 もう1点だけ、長くなって恐縮ですけれども、「戦略」の中のいわゆるシナリオ分析についてです。これについて企業の立場から強調したいのは、これの義務化というのがなかなか難しいという点です。将来情報の免責があるとしても、まずシナリオ分析を行うのは大きなコストがかかります。実務においてどういうことを行っているかというと、2050年ネットゼロの世の中は、エネルギーミックスがどうなっているか、消費者はどういうものを買うのか、車はどうなっているのかなどを全て予想して、その中において自社の事業がレジリエンスを持っているかどうかを示すというのがシナリオ分析であり、世の中はどうなっているかという未来予想図を各企業で作るわけです。各企業は、それぞれシナリオを策定することになるわけですが、作るのにも大きなコストが必要となります。大手のインターナショナルなオイルやガスの企業とかマイニングのメジャー企業は、自分たちでそういう未来予想図を作る部隊を持っているので、将来的な未来予想図というのは描けるわけで、その中において自分たちの将来の体制というのを示せるわけですけれども、私どもも含めて多くの企業というのはそれを持ってないので、例えばIEAであったり、その他国際機関、国際的にレピュタブルな団体が出しているシナリオ等を使って分析することになります。実際には、コンサルの手も借りて、かなりのコストをかけてやっております。

 これはこれで、エンゲージメントの段階では投資家としっかり話すというのは非常にいい題材になるので開示しているわけですけれども、仮に有価証券報告書に載せるとなると、罰則の問題以外に横比較という問題があります。例えば私、商社に属していますけども、隣の商社で出しているシナリオ分析を横に並べて見られても、全く前提が違うし、TCFDが求めるのは、その中であなた方は幾ら儲かりますかということを書きなさいというところまで究極的には求めまして、前提が違う中で、こっちの企業は100億円儲かる、こっちの企業は10億円しか儲からないということを単純に比べられることに、非常に大きな抵抗感を持っています。

 そういう意味では、将来情報、特にフォワードルッキングな情報開示については、投資家とのエンゲージメントのベースとしては大事ですけれども、有価証券報告書においてこれを開示して横比較されるということに関しては、罰則以上に企業においては躊躇を感じるというところを、1つ補足させていただきたいと思います。

 以上です。  

【神田座長】

どうもありがとうございました。

 それでは、オブザーバーの方々で、もし御意見ございましたら御発言いただければと思います。チャット欄でお知らせいただければと思いますけれども、いかがでしょうか。

 今日は特によろしゅうございますか。それでは、委員の皆様の中で、さらにもし追加での御発言があれば承りたいと思いますけれども、いかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。

 それでは、今日も大変貴重な御意見を多数いただきまして、どうもありがとうございました。この分野はなかなか制度化を進めていくのは難問であるだけではありませんで、世界的な環境変化、世界レベルでの制度作りというのも走っておりますので、そういうものとの整合性をとった形で先へ進まないといけないということなのですけれども、本日、大変多くの貴重な御意見をいただきましたので、それも踏まえて、さらにまた次回以降、御審議をお願いしたいと思います。

 後からお気づきの御意見ですとか御質問等がございましたら、ぜひメールとか電話とかで、事務局の方までお伝えいただけますと大変ありがたく存じます。本日の議論を踏まえて、次回以降さらに議論を進めさせていただきます。

 それでは、最後に、事務局から御連絡ありましたらお願いいたします。      

【廣川企業開示課長】

次回のワーキング・グループの日程でございますが、皆様の御都合を踏まえた上で最終的に決定させていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと存じます。

 事務局からは以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、今日は以上をもちまして終了とさせていただきます。皆様方、どうもありがとうございました。

―― 了 ――

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局企業開示課(内線3688、2872)

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