金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第5回) 議事録

  • 1.日時:

    令和4年1月19日(水曜日)10時00分~12時00分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 9階 905B会議室

【神田座長】
 ただいまから金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループの第5回目の会合を開催させていただきます。皆様方にはいつも大変お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の会議でございますけれども、これまで同様、新型コロナウイルス感染症対策の観点から、金融審議会議事規則第1条第2項にのっとりまして、オンライン会議を併用した開催とさせていただきます。

 また議事録は、通常どおり作成の上、金融庁ホームページにて後日公開させていただきますので、よろしくお願いいたします。

 会議を始める前にいつものように事務局から留意事項の説明をお願いいたします。
 
【廣川企業開示課長】

金融庁企業開示課長、廣川でございます。本日もよろしくお願いいたします。

 オンライン会議について2点留意事項がございます。1点目でございますが、御発言を希望される際には、オンライン会議システムのチャット上にて全員宛てにお名前を御入力ください。そちらを確認の上、座長から御指名いただきます。また、発言される際には冒頭にお名前をお願いいたします。2点目でございますが、御発言されない間は必ずミュート設定にしていただくようお願いいたします。御発言される際にミュートを解除いただき、御発言が終わりましたら再びミュート設定にしていただくようお願い申し上げます。

 以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。では、本日の会議も、会議の模様をウェブ上でライブ中継させていただいております。それでは、早速ですけれども、議事に移ります。

 なお、経団連の小畑様から、第4回の「ご議論いただきたい事項」につきまして意見書が提出されております。本日は事務局からこの意見書の御紹介をしていただき、続けて、本日、第5回目の資料の説明をしていただきます。それが終わった後で、質疑応答、討議の時間とさせていただきたいと思います。

 それでは、事務局から、経団連からの意見書、そして本日、第5回目の資料についての御説明をお願いいたします。廣川課長、よろしくお願いいたします。

【廣川企業開示課長】

それでは、まず、経団連の小畑様より御提出いただいた意見書について御紹介させていただきます。お手元、A4の縦の紙ですけれども、表題としては「第4回ディスクロージャーワーキング・グループ事務局資料「ご議論いただきたい事項」への意見」という表題で書いておられます資料を御覧ください。

 総論として、気候変動の開示については、真に重要な項目に焦点を当てて手当てを行うべきであり、開示のコスト・ベネフィットを踏まえた検討をお願いしたい。

 また、コーポレートガバナンスの開示についても、開示を行う企業の過度な負担とならないよう御配慮いただきたいという趣旨の御意見でございまして、さらに各論として、監査に関する信頼性の確保と政策保有株式等について御意見を頂戴しているところでございます。詳細は後ほど資料を御確認いただけたらと存じます。

 続きまして、本日のテーマであります「経営上の重要な契約」について説明をさせていただきます。資料1「事務局説明資料(経営上の重要な契約)」と書かれているものでございますけれども、こちらに沿って説明をさせていただきます。

 おめくりいただきまして、2ページでございます。

 まず総論といたしまして、重要な契約の開示に関する各国の状況をまとめたものでございます。投資家の投資判断との関係で「重要な契約」というのは各国とも開示が求められているところで、ここでは日本と米国、それからEUの主な制度ということでごく簡単に紹介をさせていただいております。

 下のほうですけれども、日本のところ、有価証券報告書においては、記述情報において【経営上の重要な契約等】、また、財務諸表の追加情報、借入金等明細表などにおいて重要な契約の開示が求められているところでございます。

 アメリカにおきましても、年次報告書、臨時報告書において、通常の過程において締結したものではない重要な契約を開示し、また、開示をする際に契約書を添付する必要があるとされているところでございます。

 EUにおきましては、年次報告書において、通常の事業過程で締結したものを除く、重要な契約又は重要な権利義務を生じさせる契約を開示ということです。この開示状況、様々評価はあろうかと思いますけれども、1つの御指摘としては、日本におきましては必ずしも十分な開示が行われてない事例があるという御指摘、あるいはコベナンツに関する情報を開示している企業とそうでない企業とばらつきがあるのではないかという御指摘。海外については、日本と比較して企業が開示に積極的であり、開示項目、内容とも充実しているという御指摘もあると認識をしております。

 3ページに参ります。今申し上げました日本の制度、有価証券報告書では「重要な契約」の開示が求められているわけですけれども、先ほど申し上げましたように、1つは、【第一部 企業情報】の中の【事業の状況】のところで【経営上の重要な契約等】と記載が求められています。

 また、【連結財務諸表等】におきましても、追加情報の注記、具体的には右下ですけれども、借入金や社債等に付された財務制限条項が財務諸表等に重要な影響を及ぼすと認められる場合などに追加情報としての注記を求めています。

 また、借入金等明細表におきましては、重要な借入金におきましては、特別な条件による利率が約定されているようなものがある場合には、その内容を欄外に記載とされているところでございます。

 4ページに参りまして、先ほど申し上げました【経営上の重要な契約等】に関しましては、内閣府令及び企業内容等開示ガイドラインにおいて、例示も含めて規定されているところでございます。

 5ページに参りまして、これは参考でございます。臨時報告書においては、重要な契約そのものということでございませんけれども、重要事項の開示というのは一般に求められている中で、重要性については、臨時報告書の世界で、中には何が重要かということについて数値の基準が設けられている事項もあるということを御紹介しております。

 6ページに参りまして、アメリカですけれども、先ほども申し上げましたが、日本の「重要な契約」の開示ルールと、おおむね同じ類型が例示されているほか、契約書の添付が求められているというところでございます。

 また、7ページに参りまして、EUにおきましても、日本の重要な契約の開示ルールとおおむね同じ類型が例示されています。

 8ページに参ります。これは前回2018年6月28日のディスクロージャーワーキング・グループ報告書ですけれども、こちらの報告におきましても、投資家を中心に日本企業において重要な契約の開示が十分ではないとの指摘が記載されておりまして、「各企業により適切な開示を行うよう促していくことが求められる」と書かれてございます。

 9ページに参ります。ここからは個別に見られる合意あるいは契約の類型ごとに御説明をさせていただきます。

 大きくまず1つ目に、「企業・株主間の合意」ということで、10ページに参りまして、企業の経営に関わる会社と株主の間の契約ですけれども、こちらのうち、投資家の投資判断にとって重要な影響を与え得るものとして、その例として類型を、7つ掲げさせていただいています。これは私ども、事前に様々な有識者の方々、契約実務に詳しい弁護士の先生方を含めてお話を伺いまして、こういったものがあるというようなことでいくつか勉強したものを掲げさせていただいております。ちょっと細かい文字で読みにくいですが、一番下のところですけれども、(注)をつけさせていただきました。例示ということで合意の類型を並べていますが、こうした企業・株主間の契約については、その内容や締結に至った経緯いかんによっては、株主平等原則、企業統治関連規定、株式譲渡自由の原則といった会社法の諸規定との関係で、その効力に一定の制約が生じる場合がある点に留意が必要である、とさせていただいてございます。

 私ども、こういうものがあるということを認識しているということですが、1点だけ申し上げますと、金融庁としてこういった契約に何かお墨付きを与えているということでは必ずしもございません。

 具体的にどういうものかというのを簡単に御紹介させていただきます。まずA「企業のガバナンスに関する合意」のところにあります1つ目、株主が提出会社の役員の一定数について、候補者を指名する権利を有する旨の合意。

 それから2つ目ですけれども、議決権行使に関しては、株主による議決権行使に一定の制限や条件を付す内容の合意。

 また3つ目の類型といたしましては、提出会社による一定の行為について、株主の事前の承諾を条件とする内容の合意。

 ここからはB「株主の保有株式に関する合意」ですけれども、4つ目は、例えば、発行者の事前の承諾なく第三者への譲渡その他の処分を行うことを禁止する内容の合意。

 5つ目、株主に対して一定の出資割合が超えることとなる発行済株式の買増しを禁止する内容の合意。

 6つ目、株主が出資比率に応じた株式引受権を有する内容の合意。

 また7つ目、株主と企業の間の契約の解消時に企業の側から株主に対して保有株式の売渡しを請求することができる内容の合意。

 こういったものが見られるということでございます。

 次のページに参ります。11ページでございます。今回、この後のスライドですけれども、次のページ以降で、何を確認していこうかということなのですけれども、株主側・企業側の比較、そして外国企業・日本企業の比較で十分に開示が行われていない契約がないかどうかを確認していきたいと考えてございます。

 具体的には、上のほうでございますけれども、1つ着眼点、株主と会社の間の契約といったときに、株主側が5%以上の株式を保有しているような場合には、大量保有報告書の提出がなされておりますけれども、そちらのほうでは開示がされている一方で、企業側では開示がされてない事例がないかどうか。

 また、下の例でございますけれども、外国企業と日本企業の間で契約が締結されている場合に、外国企業側だけで開示されているような事例がないだろうかという着眼点でございます。

 12ページに参りまして、今、大量保有報告書の話を申し上げましたけれども、参考までに、大量保有報告書においては、保有株券等に関して重要な契約または取決めがある場合にはその内容を開示することとされているところでございます。

 13ページに参ります。ここから、先ほど御紹介を申し上げました類型ごとにもう少し見ていきたいと存じます。14ページに参ります。こちら、1つ目の類型、「役員候補者指名権に関する合意の開示例」ということで、大量保有報告書においては開示がされているけれども、逆に被保有企業側の有価証券報告書では明確に開示されていない事例でございます。

 15ページに参ります。こちらは「議決権行使内容を拘束する合意の開示例」ということで、これは外国企業と国内企業の間の合意です。外国企業側、こちらのほうが主要株主の側ですけれども、こちらのほうが開示をしているのですが、一方で株を保有されている日本の企業の側では詳細に開示がなされていない事例でございます。

 16ページに参ります。「事前承諾事項に関する合意の開示例」ということで、こちらも大量保有報告書において、株主側のほうでは開示しているけれども、被保有企業側の有価証券報告書では開示されてない例でございます。

 17ページに参ります。今回事前に様々な方々からお話をお伺いいたしました。いただいた御意見を御紹介させていただきます。

 1つ目、「役員候補者指名権」につきましては、資本業務提携契約、M&Aの場面、アクティビストとの和解契約でよく見られる項目ということでございまして、役員の選解任方針の関係で開示が必要という議論があるほか、M&Aの場合はプレスリリースで開示されていることも多いということで、開示の対象とすることに違和感がないというような御意見。

 また、取締役候補者の指名権はガバナンスの中核に関わるので、重要性が高いという御意見がございました。

 次の「議決権行使内容を拘束する合意」につきましては、役員の選任議案に関して、議決権行使に関する合意に従い賛成するというものが典型的というような御意見。

 また、他方で、このタイプの契約については様々なバリエーションがあり得るということで、どのような場合に「ガバナンスに対する影響や重要性がある」と言えるかは検討が必要といったような御指摘もございました。

 それから、「事前承諾事項に関する合意」については、親会社と子会社の間で、親会社のグループ会社管理規程とか発行体の決裁規程に親会社の事前承諾を必要とすることが定められているといったようなことがあるということ。

 事前に株主との協議を求めるにとどまる場合や、株主への通知を求めるにとどまる場合をどう考えるかという問題があるとの御指摘もいただいております。

 次は「株主の保有株式に関する合意」のところに参ります。ここもいくつか事例を紹介させていただきます。19ページに参りまして、「保有株式の譲渡等の禁止条項の開示例」です。これも大量保有報告書だけで開示されているという事例でございます。

 20ページに参りまして、「保有株式の買増し禁止条項の開示例」です。これも大量保有報告書では開示されているけれども、企業側では開示がない例でございます。

 21ページに参りまして、「株式の保有比率の維持条項の開示例」です。こちらは有価証券報告書において企業の側が開示をしているという事例を御紹介しております。

 22ページに参りまして、「契約解消時の保有株式の売渡請求に関する条項の開示例」ということで、日本企業同士の業務・資本提携契約ですけれども、保有株式の売渡請求に関する条項が含まれていましたが、あらかじめ開示がなされていなかったということで、両社間で提携解消に向けた動きが出てきた後になって【事業等のリスク】の中で開示がされたという事例でございます。

 23ページに参りまして、これらの類型についてもいくつか御意見を頂戴しております。今申し上げましたように、紛争が顕在化した段階になってから【事業等のリスク】で開示された事例が存在するというお話。

 株主譲渡禁止については、大量保有報告書で開示されているので、過去分を含めて一覧性を持たせる趣旨で、有価証券報告書で開示することには抵抗がないといった御意見。これが2つ目。

 3つ目の御意見は、有価証券報告書の開示としてどれぐらいの株数を持っている株主との合意であれば経営上重要と言えるのかというのを検討すべきというのが3つ目の御意見。

 4つ目ですけれども、株主の譲渡禁止や買増し禁止の条項については、大株主との安定した関係性や提出会社の独立性の維持に有益な面もある一方で、株主構成が固定化されるという面があるが、いずれにせよ、その存在と概要は一般投資家にとっても有益な情報になる場合が多いであろうという御意見。

 そして一番下は、単純な譲渡禁止ではなく、こちらも様々なバリエーションがあるため、重要性の判断をどのように考えるかは検討が必要という御意見がございました。

 次に大きく2つ目ですけれども、「ローン・社債に付されるコベナンツ」について御説明を申し上げます。25ページに参りまして、コベナンツに関する日本と、それから国際会計基準(IFRS)の制度の比較でございます。日本では、有価証券報告書(連結財務諸表の注記・追加情報)として、先ほども少し申し上げましたけれども、コベナンツに関する開示が一定求められています。国際会計基準でも、下にありますように、抵触時・その蓋然性が高い場合に注記で開示が求められているというところでございます。

 26ページに参りまして、アメリカですけれども、アメリカ会計基準では抵触時・その蓋然性が高い場合に注記でコベナンツの開示が求められる。

 また27ページに参りまして、こちらのほう、非財務情報としてということですけれども、アメリカでは、Form8-K、日本の臨時報告書に相当するものにおいて、ローンの契約と内容とともにコベナンツの内容の開示が実質的に求められているということでございます。下のところ見ていただきますと、一番下のところで、コベナンツ抵触時の開示というのは明示的に書かれていて、上のほうのローン契約締結時の開示というのは、一般的に重要な契約を開示するという中で開示が求められているというところで、プラクティスとしては開示がなされているという理解でございます。

 28ページに参ります。ローンコベナンツに関しては、昨年6月18日ですけれども、金融審議会市場制度ワーキング・グループ第二次報告におきまして少し記載がございます。下線引いてあるところですけれども、「資本市場における社債とローンとの適正な投資条件の比較との観点からは、我が国においても融資のコベナンツが諸外国と同様に開示されることが重要であるとの指摘があった」とされているところでございます。

 次のページに参りまして、29ページでございますけれども、コベナンツの開示に係る議論は、日本証券業協会におかれまして、「社債市場の活性化に関する懇談会」において行われています。下のほうですけれども、懇談会自体は2009年7月に設置をされていて、2010年6月の報告書が出た頃から、コベナンツ情報の開示についても、その内容が、特に必要な情報の開示が適切に行われるよう取組みを進める必要があるという提言が盛り込まれておりまして、その後もコベナンツの開示の事例集の取りまとめなどをされているというところでございます。

 30ページに参ります。各国のコベナンツの開示状況の比較ということで、日本とそれから英国とドイツと米国と、主要企業のみで、ちょっとサンプルが少ないですが、どれぐらい開示がされているかというのを御紹介しています。

 四角の2つ目ですけれども、日本の直近1年間の有価証券報告書の連結財務諸表注記について、コベナンツを開示している企業は485社、このうち日本基準が399社で、主にシンジケート・ローンについて開示されているように見受けられました。また、それ以外に国際会計基準で81社、米国基準で5社となっているところでございます。

 31ページに参ります。こちら、御参考ですけれども、日本とアメリカで財務制限条項に係る開示、どのようなタイプのものが多いかということで、日本では、純資産維持、利益維持条項が多いというのに対して、アメリカでは、有利子負債キャッシュ・フロー倍率とか、Interest Coverage Ratioとか、幅広く様々なものが用いられている御紹介でございます。

 32ページに参ります。ここからはいくつか開示例の御紹介です。1つ目は、日本企業で国際会計基準を採用されている企業が、抵触してはいないが、コベナンツの内容を開示しているという事例です。

 33ページに参りまして、日本基準の日本企業の開示例です。先ほど多いと申し上げましたシンジケート・ローン契約のコベナンツの開示例でございます。

 34ページから海外でございます。34ページは、英国企業、これも前広にコベナンツを開示している例です。

 35ページは、同じ趣旨でドイツ企業でございます。

 それから、36ページですけれども、こちら、同じ趣旨でアメリカの企業ということで、こちらは連結財務諸表で開示しているということでございます。

 また、37ページに参りまして、アメリカの企業、今度はこちらのほうは臨時報告書のForm8-Kで開示をしている事例でございます。

 38ページに参ります。こちらもいろいろ御意見を頂戴しているところでございますけれども、御紹介させていただきますと、1つ目は、コベナンツについては、債務のコベナンツ抵触時のインパクトの大きさと企業の信用力等を踏まえて、債務の状況、コベナンツの内容を開示すべきという御意見です。

 2つ目の御意見ですけれども、金額基準で企業のデフォルト確率に影響を与える規模の契約であるか否かなど、他の利害関係者にまで影響が及ぶような大きな契約かどうかという点が大切なベンチマークになるのではないかという御意見。

 また3つ目ですけれども、一見トリガーにヒットしそうになったとしても、実際には銀行と交渉して内容を修正し、権利行使を放棄してもらう場合が多いということで、それが不利益な情報のみが相当早い段階で開示されてしまうということで、誤解を生じるリスクに配慮が必要なのではないかという御意見がありました。

 それから、4つ目ですけれども、現状でも明確化の余地はあるが、重要性を有するコベナンツというのは開示が求められていると理解しており、重要性のないものも含めて一律に開示対象とすることには違和感があるということで、好事例の公表、ガイダンス等の充実を検討すべきではないかという御意見。

 また一番下ですけれども、日本企業のことを念頭に置いて、日本基準から国際会計基準に移行する際に会計処理や開示の全領域について丁寧に検討をしていて、その過程でコベナンツの開示を判断する機会があるということで、こうしたこともあって積極的な開示につながっているのではないかという御意見も頂戴しているところでございます。

 最後の類型に参ります。「その他の経営上の重要な契約」ということで、2つ御紹介させていただきます。40ページはアメリカ企業と日本企業の間で製品供給契約を締結する、あるいは工場を設けるということで合意があった際に、アメリカ企業の側では契約書が開示されていたという例でございます。

 41ページに参ります。これは日本企業でフランチャイズのビジネスをやっている、全く別の2つの企業ですけれども、開示内容に差があるということで、左側にあります企業のほうでは、フランチャイズの中での研修の内容ですとかフランチャイズフィーについて具体的な開示がなされているということで、一例でございます。

 42ページに参りまして、こうして「その他の経営上の重要な契約」についてですけれども、頂戴した御意見を紹介させていただきます。

 1つ目、やはりこういったものを開示していくという意味では具体的な例示が必要なのではないか。

 また、2つ目、ベストプラクティスをうまく示していくということで、自発的な開示を促していく。

 あるいは、3つ目、数値基準というのも1つ考えられるのではないか。

 4つ目、非定型的な契約というのもあって、何を書けばよいのか例示で特定するというのは難しいので、そこは何が投資家の投資判断にとって重要なのかを中心に据えて、企業に考えさせた方が有益ではないかという御意見もございました。

 それから一番下の御意見、契約書をそのまま添付するというのはかなりハードルが高いのではないか。丸ごと添付して投資家にとって分かりやすいのかも疑義があるといった御意見もございました。

 以上が御紹介でございまして、最後に、44ページから御議論いただきたい事項、ちょっと早口ですが、読み上げさせていただきます。

 まず、「企業・株主間の契約(企業のガバナンスに関する合意)」についてですけれども、こちらについては、Aとして、以下の内容を含む契約を開示することについて、どのように考えるか。(1)役員候補者指名権に関する合意。(2)議決権行使内容を拘束する合意。(3)事前承諾事項に関する合意。

 B、上記Aの合意を含む契約に関し、以下の事項を開示することについて、どのように考えるか。(1)合意の概要、当該契約を締結する目的。(2)企業のガバナンスに与える影響。

 C、上記Aの合意を含む契約については、契約当事者株主の保有比率が小さい場合であっても一般株主にとっての当該契約に係る情報の重要性が高いとも考えられ、契約当事者株主の保有比率にかかわらず、企業による開示が求められるとの主張についてどう考えるかということでございます。

 次のページ、45ページに参ります。次は、「株主の保有株式に関する合意」でございます。「株主の保有株式に関する合意」について、株主サイドでは少なくとも保有比率が5%以上である場合は大量保有報告書で開示しているところ、企業サイドについても当該合意の開示を求めることをどのように考えるか。

 また、保有比率が5%未満の株主と企業との間で以下の合意を含む契約がある場合についてどう考えるか。(1)保有株式の譲渡等の禁止・制限。(2)保有株式の買増しの禁止。(3)株式の保有比率の維持。(4)契約解消時の保有株式の売渡請求等。

 以下の事項を開示することについてどのように考えるか。(1)合意の概要。(2)当該契約を締結する経営上の目的・効果等。

 46ページに参ります。「ローン・社債のコベナンツ」について。ローンや社債に付されるコベナンツの内容は、投資家の投資判断に影響を及ぼす重要な情報であり、諸外国では、財務情報、あるいは非財務情報として、一定の開示がなされている。一方、国内では、届出時にコベナンツの内容が開示される公募債を除き、コベナンツの情報が財務上、重要な影響を与えるものであったとしても、必ずしも十分な開示が行われていないとの指摘がある。

 ローンや社債のコベナンツに関する情報が投資家の投資判断にとって重要であることに鑑みると、まずは有価証券報告書の非財務情報や臨時報告書においてコベナンツが付いたローン契約、社債発行その他の財務上影響を及ぼす契約の締結等の開示を求めることについて、より充実した開示が求められるとの主張についてどう考えるか。

 2つ目に、開示を求める契約等の範囲(重要性をどのように判断するか等)について、どのように考えるか。

 3つ目、以下の項目を開示事項とすることについて、どのように考えるか。A、融資借入契約又は社債等の概要。B、コベナンツの内容。C、重要な変更・解約や基準への抵触があった場合の内容。

 上記に加え、投資者に適切な情報を提供する観点から、コベナンツの内容だけでなく、コベナンツの目的などを任意で記載することができること。

 最後に、有価証券報告書及び臨時報告書の開示を求める場合に留意すべき事項は何か。例として、臨時報告書提出事由とする場合の提出基準の設定方法、経過措置の要否等でございます。

 47ページに参ります。「その他の経営上の重要な契約(一般)」ということで、今御説明申し上げました御議論いただきたい事項で掲げた契約に限らず、企業が結ぶ契約の中には投資家の投資判断に必要な情報もあるところ、有価証券報告書では、企業が「経営上の重要な契約」を締結している場合には、その概要を記載することとされている。諸外国においても同様の法令上の規定が存在し、その文言に大きな差は見られないが、実際の開示事例を比較すると、日本では十分な開示が行われていないとの指摘がある。我が国の実務を踏まえ、諸外国並みに内容の充実を図るため、現在よりも開示すべき事項・内容を明確化することについて、どのように考えるかということでございます。

 以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、今日は残りの時間、委員の皆様方、オブザーバーの皆様方から御質問、御意見をお出しいただくという討議の時間とさせていただきます。いつものようにまず委員の方々から御発言いただき、その後オブザーバーの方々から御発言があれば承りたいと思います。

 いつものことで、これも恐縮ですけれども、時間の関係もあり、皆様方の御発言のお時間を確保できるようという観点からしますと、御発言のある方、お一人当たり3、4分程度をめどにお願いできればということになります。ただ、そうは申しましても、今御説明いただきましたように、御議論いただきたい事項は44ページから47ページまでたくさんありまして、最後の48ページに概観として分かりやすく1枚に表みたいな形にさせていただいていますので、適宜の御判断で御質問、御意見をお出しいただければありがたく思います。

 それでは、まず委員の皆様方で御質問、御発言いただける方は、チャット欄に全員宛てにいつものように発言希望などと入れてお知らせいただければありがたく思います。私のほうからそれを拝見して御指名をさせていただきます。いかがでしょうか。

 それでは、まず、井口委員、どうぞお願いいたします。

【井口委員】

よろしくお願いいたします。事務局の御説明、ありがとうございました。

 本日の経営上の重要な契約につきましては、投資家の判断に大きな影響を及ぼす事項と考えておりますが、一方、有用な情報がほとんど開示されていないということで、開示において大きな課題と私は考えております。この見解を前提として事務局説明資料にあります44ページ以降の論点に沿ってコメントさせていただきます。

 最初の「企業のガバナンスに関する合意」というところですが、Aに示されている3点の開示すべき事項と、Bの2点の開示内容、ともに開示するということについて賛同いたします。

 国内あるいはグローバルの機関投資家にとって、あるいは健全な資本市場の維持という観点でも、最も重要なのは、1株1議決権に代表されます株主平等の原則と考えています。これは経済的持分に比例しない権限や支配権が付与されるということは避けるべきということと考えております。

 ここで取り上げている事項というのは、一番マーケットから反対される複数議決権株式とは異なって権限の範囲が限定されていますが、一部株主に経済的持分以上に大きな権限を与える事項という意味では複数議決権株式と同じと考えています。こういったことは禁止されるものではないにいたしましても、健全な資本市場の機能維持という観点からは厳格に開示すべきと考えております。

 また、Cについては、そもそも株式保有の経済的持分に関わりなく、このような企業経営に大きな影響を与える権限を与えるということですので、ここの議論で株式の保有比率というのは全く関係ないのではないかと考えております。

 2つ目の「株主の保有株式に関する合意」です。この保有株式の買増しとか売却というのは市場に大きなインパクトを及ぼすということと、例えば何らかの事項がトリガーになりまして、突然、株式保有を急激に増やして、この結果、経営の方針が変わって、それによって投資家の企業評価、あるいは株価も乱高下するということもありますので、合意の概要とか、経営上の目的・効果を含め開示すべきと考えております。一部の方から大量保有報告書で既に開示されているのではないか、という議論もあると思いますが、現実的には投資家が全ての開示に気付くということではありませんので、また、この情報というのは、今述べましたように投資家の判断に大きな影響を与えますので、企業価値創造プロセスを一覧的に見ることができる有価証券報告書に開示すべきと考えています。

 また、その保有比率ということにつきましては、保有比率3%で株主総会の招集権限という大きな権限がありますので、5%ではなく3%も検討する余地があるのではないかと思います。

 3つ目のコベナンツについてですが、ローンと社債の両方の主な財務制限条項を開示すべきと考えています。事務局説明資料の分析にもありましたように、日本基準において注記に開示されていないという状況を踏まえますと、金額含め、事務局説明資料にありますAからCの3点を有価証券報告書の【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】や、あるいは、【経営上の重要な契約等】に開示するのがよいのではないかと考えております。

 最後の47ページの「その他の経営上の重要な契約」となります。ここはハードローでは規定が難しいということかもしれませんが、投資家の判断にとっては有用な情報を提供する箇所になると思っています。

 例えば事務局説明資料の41ページに加盟店から定期的に徴収する金銭の契約というところがありますが、これは上場企業の収益性の評価そのものに直結すると思いますし、あるいは海外企業と共同事業の契約を結んで大規模な工場の建設を行うということにつきましては、どの程度コミットしているのか、そして今後どの程度追加出資あるいは設備投資の義務が生じるのかということは企業評価において非常に重要になります。こういった事項は少なくとも開示対象にすべきなのではないかと思います。

 また、前回のワーキング・グループで議論となりました政策保有株式につきましても、これは純投資以外で保有しているということですので、明文化された契約がないにしても、持ち合いにおいて何らかの取決めということがあると思いますので、そうすると、当然のことながら【経営上の重要な契約等】に記載するということが普通ではないかと思っております。

 以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に三瓶委員、どうぞお願いいたします。

【三瓶委員】

三瓶です。よろしくお願いします。私も事務局説明資料44ページから47ページの項目についてコメントさせていただきたいと思います。最初に「ご議論いただきたい事項(4)」から話したいと思います。それは、企業が他の企業と結ぶ事業提携契約等についてですが、事業の内容またはリスクに関わる問題で投資判断に非常に重要な情報だからです。ここで3つの事例を挙げさせていただいて話したいと思います。

 1つ目は、米国企業と欧州企業の業務資本提携です。具体的には米国のファイザーとドイツのビオンテックです。今、コロナ問題でこの両社がコロナワクチンを製造販売しているわけですけれども、ドイツのビオンテックのmRNAという技術を使って、ビオンテックとファイザーがコロナワクチンを共同開発しており、承認申請、製造販売を行っているわけです。

 ファイザーがビオンテックの技術にアクセスする対価として、彼らの有価証券報告書に当たるForm10-Kで、現金で7,200万ドル、出資で1億1,300万ドル、開発の進捗に応じて支払うマイルストーンが最大5億6,300万ドルなど、具体的に米国の有価証券報告書にあたるForm10-Kに記載されています。加えて、ワクチンの研究開発費は両社フィフティー・フィフティーで負担、売上総利益もフィフティー・フィフティーで分配と開示しています。製造拠点、販売地域分担なども具体的に記載されています。ビオンテックはドイツの企業ですけれども、米国でADR(米国預託証券)を発行しているので、外国企業としてForm20-Fを提出して同様の内容を開示しています。

 ただしこれは、財務諸表の注記であり、事務局説明資料の6ページにある「項目15.添付書類及び財務諸表の一覧表」の対象ではないので、両社とも契約書の添付はありません。これが海外の企業の開示姿勢です。

 もう1つの例として、米国企業A社とADRを発行している日本企業B社の業務資本提携の状況です。米国企業A社は、技術分野や開発に参画している他の企業名など、提携の内容をForm10-Kの財務諸表の注記に記載しています。一方日本企業Bは、有価証券報告書の【経営上の重要な契約等】で、「該当事項はありません」と記載しています。また、B社は、米国でADRを発行しているため、Form20-Fを提出していますが、そこでも「全ての契約は通常の事業運営に従って行っており、特筆すべきものもありません」という素っ気ない書きぶりです。

 もう1つの例として、欧州企業C社と日本企業D社の業務資本提携です。欧州企業C社は日本で有価証券報告書を提出している企業です。そして、その有価証券報告書の中に業務資本提携の合意内容、特に議決権拘束合意の内容や株主提案に関する合意事項など、6ページにわたって有価証券報告書で具体的に開示しています。

 一方で、日本企業D社は、有価証券報告書の【経営上の重要な契約等】には、表で契約締結日、契約の内容について最低限の記載しかしていません。特に契約の内容は22文字で記載するのみです。これが海外と日本の大きな違いです。

 ここで、特に米国でのプラクティスからの示唆、ファイザー、ビオンテックの状況から分かったことですが、業務提携契約に基づく研究開発費の分担や収入分配と財務会計上の収益認識の関係を明確化する指針が、米国財務会計基準審議会(FASB)から公表されています。それによって全面適用が事実上2021年度からですけども、ファイザーは2020年度のForm10-Kでニューアカウンティングスタンダードを適用しますということで開示しているわけです。

 ですから、これは厳密に言うと、事務局説明資料6ページに示されている「項目15.添付書類及び財務諸表の一覧表」の下にあるRegulation S-Kの(b)(10)(ⅱ)に該当する提携契約には限らないということです。

 例えばファイザーの財務諸表の注記の業務提携契約についての記載の書き始めは、「事業の通常の過程において業務提携を行う場合に」となっています。業務提携がどのように財務会計上の収益認識やコスト認識に影響するのかを明らかにするのが目的だからですが、このように、契約書を添付することはありませんけれども、詳細について必要な情報を記載しています。

 こうした内容は、企業価値評価、リスク評価に極めて重要であって、かつ財務情報の信頼性に関わる開示です。それだけでなく、投資家が説明を求める情報であって、フェアディスクロージャーの規律に抵触しないためにも、企業が積極的に開示することが重要です。

 先日の岸田首相の施政方針演説にあった成長と分配の好循環、スタートアップ創出、イノベーション力に関連することだと思います。例えばイノベーションの種を持ったスタートアップと、開発・製造・販売力に優れた大企業が提携する場合に、その収益分配、コスト分配が明らかになれば、それが成長と分配の好循環につながっているのか、適正なのかというチェックができるからです。

 今後、グリーンイノベーションやAIの活用などでますます企業間の業務提携が必要になってくると思います。したがって、この論点は非常に重要だと思います。

 少し長くなったので、その他の論点は簡潔に申し上げます。次に、「ご議論いただきたい事項(1)」のAの(1)から(3)について、これは情報の非対称性を緩和する重要な開示となり得るために必要だと思います。Bの(1)、(2)は、Aの(1)から(3)を開示したときに、一般株主の理解を求める企業側の目的ということも言えると思います。ですから、これは企業の任意としてもよいのではないかと思います。

 そしてCですけれども、保有比率の矛盾があるかなと思います。というのは、2点ありまして、1つは、保有比率が小さい、例えば5%未満なのに特別な合意がなされるのはなぜか。またもう1つは、保有比率が例えば5%以上ならば、発行企業と特別な合意をして少数株主に対してそうした重要な情報を知らせないのか、または少数株主を軽視するようなことがなぜ許されるのかという問題があると思います。

 次に、「ご議論いただきたい事項(2)」のほうですが、まず何%ということで区切るのはおかしいのではないかと思います。むしろ合意内容によって判断すべきではないかと思います。2ポツの(1)から(4)というのは全てそういう意味では該当すると思います。

 加えて、例えば政策保有株式の場合に、自動で保有株式の買増しのような合意があることも、企業と話して分かっています。こういったことも一切開示されていません。こういうことも開示が必要だと思います。

 3ポツの(1)ですけれども、企業側の合意主体を明らかにすべきと思います。例えば取締役会なのか、代表取締役なのか、指名委員会なのかなどです。ただ、これを突き詰めると、そもそも合意締結する権限があるのか否かや、利益相反問題など、いろいろ疑問が湧いてきます。

 そして「ご議論いただきたい事項(3)」ですが、まずコベナンツ情報の海外投資家の利用状況についてです。上場企業が開示している場合、ブルームバーグなど、海外投資家が使う情報端末でコベナンツ情報は容易に入手できます。普段から状況に応じてチェックする項目の1つとなっています。

 コベナンツ定着の差の背景というのは、銀行融資の慣習の違いかもしれません。日本は、従来は担保主義、海外では、事務局説明資料31ページの右図にあるような、デットキャッシュ・フロー倍率やInterest Coverage Ratioなどの比率で管理しています。事務局説明資料29ページの社債市場の活性化にもメリットがありますけれども、最劣後の株主にとってもこういった情報はとても重要です。

 事務局説明資料38ページのヒアリングに関してちょっとコメントがあります。3ポツ目のところですが、海外での経験から、実際にはコベナンツが開示されていれば、トリガーにヒットしそうになったときに投資家からの問合せが増えます。ただ、フェアディスクロージャー・ルールがありますから、企業は債権者との交渉の方針などを適宜アップデートする必要があります。そこで、形式上トリガーにヒットしても、必ずしも債権回収となるわけではなくて猶予があるなどの情報が投資家に説明されます。

 ですから、むしろコベナンツが開示されていることで予見可能性が高まってコミュニケーションギャップが埋められる効果があると認識しております。

 最後に、論点に特になかったのですけれども、日本特有の暗黙の合意というのがあると思います。明文化された契約ではなく、暗黙の合意がある場合も、本質論としては、今日の論点に準ずるのではないかと思います。これまで企業と対話する中で契約を軽視するきらいがあると懸念しています。例えば抗弁として、「全ての合意を契約に記載できない」とか、「信頼関係は契約以上」とか、また、「違法ではないから取引相手がいいと言えば、品質規格検査に不正があっても株主が騒ぐ問題ではない」などを聞くことがあります。

 また、東証一部の業界準大手の企業で100億円のコミットメントライン契約の根抵当権に対し、政策保有株式50億円分が担保に供されていると有価証券報告書に書いてありました。担保を解除またはコミットメントライン契約を解約すると再契約できなくなるという説明がありました。これは100億円借りるのに政策保有株式50億円を供するということで、これは無駄に総資産を膨らますだけだということだと思います。

 こういうことが日本の企業の資産効率の悪化につながっているのではないかと思います。結局この議論をした1年後には、担保設定は解除され、コミットメントラインは契約されていました。ですから、1年前の説明は説明になっていないということです。

 こうした不透明なこと、客観的合理性のない暗黙の合意というのがそこらじゅうにあるということです。こういうことでは不信感から来るディスカウントというのは払拭されないと思います。

 ですから、これを契機に、明文化されている契約だけではなくて、そもそもそういったことが説明されてないということについて、企業の開示姿勢が海外とあまりにも違うというところについて考え直す必要があるのではないかと思います。

 以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に神作委員、どうぞお願いします。

【神作委員】

御指名ありがとうございます。神作でございます。御説明ありがとうございました。

 事務局説明資料10ページでは、Aの「企業のガバナンスに関する合意」とBの「株主の保有株式に関する合意」に区別して記載されており、事務局説明資料44ページと45ページでもそれに対応して、両者を区別してそれぞれの論点が掲げられておりますが、私はまとめてコメントさせていただきたいと思います。

 議決権行使及び株式の譲渡や保有に関する合意は、いずれも投資者の意思決定に影響を与える重要な事項であると考えられ、とりわけ支配権に着目して投資判断をしようとしている投資家にとっては特に重要な情報であると考えられます。これらの合意は支配権取得の障害となり得るからです。

 したがって、これらの契約や合意を開示することは、コーポレートガバナンス、とりわけ支配権の市場の機能を確保し向上させるためにも必要であると思われます。

 一般論としては、そのような契約は、契約当事者が誰であっても開示されるべきであると思われます。とりわけ株主間契約のように、企業が契約当事者でない場合であっても、企業がそのような契約の存在を知っている場合には開示されるべきであると考えられます。

 もちろん企業があずかり知らないという場合には、企業は開示しようがありませんから、そのような場合には開示義務が生じないというのは当然です。

 これに対して、企業がこれらの議決権の行使あるいは株式の譲渡・保有等に関する制限の当事者である場合には、その概要やガバナンスに与える影響に加えて、そもそもなぜ当該企業が当事者となってそのような契約を締結する必要があるのかということについて、すなわち契約締結の理由や目的についても開示を求めることが適切であると思われます。

 事務局説明資料44ページのAに掲げられている合意のうち、(1)役員候補者指名権に関する合意ですとか、(3)事前承諾事項に関する合意は、経営者の裁量を制限するとともに、実質的には属人的な定め、あるいは種類株式と同様の機能を果たし得る契約となる可能性があり、そのような契約の存在や概要とともに、そのような契約を締結する理由や目的を含めて開示を求めるべきであると思われます。

 続きまして、ローンや社債に付されるコベナンツの内容についてでございますけれども、投資家の投資判断に影響を及ぼす重要な情報であって、他の債権者のキャッシュ・フローにも影響を与え得るとともに、その内容によっては経営陣の裁量を制限することにもなり得ると思われます。投資判断に直結する情報であるとともに、コベナンツの内容によってはコーポレートガバナンスに関連する株主にとっても重要な情報であると考えられます。

 したがって、これらのコベナンツの内容については、ローンや社債等の概要、重要な変更・解約や基準への抵触があった場合と併せて、内容についても開示されるべきであると思われます。

 なお、これらの重要な契約の開示の対象について、諸外国では契約書全文が開示される場合があると認識しております。例えば、私が少し勉強しておりますドイツでは、株式会社の支配権や自立性に大きな影響を及ぼすいわゆる企業契約と呼ばれる契約は、その締結や変更が株主総会の決議事項とされております。当該契約について、株主総会に係る会社法を通じた様々な開示がなされるとともに、企業契約の存在や、どのような種類の企業契約を締結しているかということは、商業登記事項とされており、公示されます。情報通信技術の飛躍的な発展によって技術的な制約はほぼなくなっていると思われますので、企業秘密等に留意しつつ、契約書全体を添付するというようなことも考えられると思います。

 コベナンツは、1つの契約の一部にすぎませんので、それを正確に理解するためにも、法律でどこまで強制するかという問題はありますけれども、契約全文の開示が有効であると思われるからです。

 私からは以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】

ありがとうございました。それでは、続きまして、黒沼委員、どうぞお願いいたします。

【黒沼委員】

黒沼でございます。私からも、ご議論いただきたい事項について、それぞれ簡単に意見を述べたいと思います。

 まず総論ですけれども、経営上の重要な契約については、投資者の投資判断にとって重要なものは、本来全て有価証券報告書に記載すべきであり、実際に常識的に考えて重要と思われる契約について、その概要さえも記載されていない例があるということは驚きを禁じ得ません。これを改善するには、エンフォースメントをしっかりやってもらうというのが1つの方法であると思いますが、今回、重要と思われる契約類型を例示して開示を促すという方策が示されており、基本的にこれに賛成したいと思います。

 ガバナンスに関する合意事項、合意の開示例のうち、役員候補者の指名権はガバナンスに対する影響が大きいので、相手方の保有株式が少なくても開示の対象とすべきと考えます。

 議決権行使内容を拘束する合意については、相手方の保有株式が少なければガバナンスに対する影響は小さいと言えますが、アクティビスト株主との間で合意をするような場合にはガバナンスに対する影響が大きいので、そういった重要性も考慮して開示の対象とすべき場合があると思います。

 事前承諾に関する合意も、有価証券報告書提出会社の行動を縛るものであるため、ガバナンスに対する影響は大きいと考えますが、事前に株主との協議を求めるにとどまる場合とか、株主への通知を求めるにとどまる場合には、影響が大きくないので、開示対象から除外してよいと考えております。

 次に、株式の保有に関する合意ですが、相手方株主が5%以上の株主であれば、大量保有報告書においても開示されるわけですけれども、有価証券報告書では上場会社の支配の変動に関する情報として重要な事項であります。両者の開示の目的にずれがありますので、大量保有報告書で開示すれば足りるわけではないと考えます。

 保有株式の譲渡の禁止・制限、買増しの禁止、保有比率の維持、契約解消時の売渡請求に関する合意は、いずれも重要な情報であり、開示の対象とすることに賛成します。

 これらについては、投資者判断にとっての重要性の観点から、基本的に保有比率が5%以上の株主との合意を開示の対象として例示すれば足りると考えますが、やはり例えばアクティビスト株主との合意のように、例外的に5%未満の株主との合意であっても重要と考えられるものは開示の対象とすべきであると思います。

 次にコベナンツですけれども、コベナンツ情報は社債権者にとって重要な情報であり、社債権者もディスクロージャー制度の保護の対象ですので、開示の充実が図られるべきであると考えます。

 具体的には、日本基準を採用する発行者についても、社債及びローンのコベナンツについて国際会計基準並みの開示を求めるべきではないかと思います。

 開示場所は、諸外国の例を参考にすると、やはり連結財務諸表の注記が適切ではないかと思いますが、コベナンツへの抵触が生じ、その影響が大きい場合には、臨時報告書の提出を求めることも必要ではないかと思います。

 最後に、「その他の経営上の重要な契約」についてですが、これは開示対象の絞り込みや開示内容の定型化が難しいのではないかと思いますので、好事例集の作成によって自発的な開示の改善を促すのがよいのではないかと考えております。以上です。

【神田座長】

ありがとうございました。それでは、次に小林委員、どうぞお願いいたします。

【小林委員】

小林です。私はご議論すべき事項の個別の内容に行く前に、なぜ日本の企業と海外の企業が同じ取引において、海外では開示されており、一方日本では開示されていないのかということについて、いくつかの例を調べてみました。これが全てではないですけれど、1つの原因としては、それぞれの企業が設定している自社の開示に関する実務指針の目線の違いというのもあるのではないかと思います。

 例えば、純資産の何%を超える金額に関する投資あるいはインパクトのあるフローについては開示をするというようなケースです。そもそもそういう指針をつくっている場合には、仮に大量保有報告書、あるいは臨時報告書を出していたとしても、最終的には社内の指針の閾値を下回っていた場合には有価証券報告書には開示はされないというようケースが見受けられます。

 また、その判断基準は、基本的には自社の経営への影響を基準に考えていて、相手側の事業規模やその投資家への影響という目線ではないというケースが見受けられました。

 こういったことが、まず開示の内容以前に日本企業の開示自体が少ない原因ではないかと思います。よって実務指針における開示の基準そのものが投資家の投資判断に合ったものなのかということをしっかりと検討していく必要があるのではないかと思いました。

 これについては、企業の規模によって変わってくるので、一律に絶対金額とかいうことではないとは思いますけれども、どういう基準で開示をしているのかということについてむしろ開示をし、投資判断に十分なのかを投資家と議論・検討していくというアプローチもあり得るのではないかと思います。

 それから、コベナンツ情報については、直接金融で調達したものについては、例えば社債の発行時の開示等々、先ほど三瓶委員がおっしゃっていましたけれども、いろいろな情報はブルームバーグなどで取れるということになっているようです。そのために、個別に調べれば出ているのだから有価証券報告書にまとめて書かなくてもいいのではないかというような姿勢もあるようです。もう少し投資家の利便性ということを考えてコベナンツ情報の開示の仕方ということを議論してはいかがかと思います。

 加えて、バイラテラルの個別の契約については、1つ出た意見としては、例えば海外との取引の場合に、EUやアメリカですと、相手方の国の開示の基準が非常にはっきりしているので、開示の承諾が得やすい一方、途上国が相手先の場合は、途上国での開示ルールが整備されていないがために、どこまで開示をするのかということの合意を取るのに時間がかかるというような意見もございました。

 この点今後どういうふうに考えていくのかということについても議論の余地はあるのではないかと思います。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、中野委員、どうぞお願いいたします。

【中野委員】

まず、本日の議題に対する私の総論的な理解について申し上げたいと存じます。

 本日の論点は、主に2点あると認識しております。1点目は欧州・米国に比べ日本の開示水準が低く、その差を縮減する必要があるという点です。事務局説明資料2ページに米国およびEUは「日本と比較して、企業が開示に積極的であり、開示項目、内容ともに充実している」と記されている点です。2点目として、本審議会においてすでに議論されている視点ですが、本日の議題は情報の「総覧性」、「一覧性」という視点からも検討を加える必要があると考えます。

 具体的には、第1に臨時報告書または大量保有報告書で開示されている情報を一覧性を持つ形で有価証券報告書に記載するのは投資家の利便性の向上や情報収集コストの削減を図る施策になると思います。第2に、海外の契約締結先企業側は開示している一方で、日本企業側の有価証券報告書では非開示となっている点については、近年、資本市場のグローバル化が一段と進展していること、また自動翻訳技術の向上により英語の情報の収集・理解が容易になっていること等が相まって、海外の契約締結先と日本側の開示内容の差異が目立つ状況になっていると捉えています。

 以上を踏まえた上で、「ご議論いただきたい事項(1)」については基本的に賛成です。その中でC「重要性」につきましては、事務局説明資料17ページにありますように、株式の保有比率が低いのに指名権を保持しているケースもあるということですので、実質的な重要性といいますか、たとえば連結の範囲についても実質的に画定するということにもなっていますので、数値基準にかかわらず重要性を判別できるガイダンス等が必要と考えます。

 次に、「ご議論いただきたい事項(2)」ですが、事務局説明資料23ページに、「株式譲渡禁止は大量保有報告書で開示されており、過去分を含めて一覧性を持たせる趣旨で、その範囲と揃えて有価証券報告書で開示することにはさほど抵抗がない」というヒアリングにおけるご意見が示されていますが、私も情報の総覧性・一覧性の観点からこの案に賛成します。

 次に、「ご議論いただきたい事項(3)」についてですが、「ローン・社債に付されるコベナンツ」については、特に国際会計基準・日本基準適用企業間で差異がある点に問題意識を持っています。これは基準・規定の差異に本質的な原因があるのではなく、インセンティブや実務的慣習の相違等が原因していると理解しているのですけれども、国内における比較可能性の観点からも当該差異の縮減が図られるのは望ましいことです。具体的にはガイダンスや好事例集等により開示を促していくべきと考えます。

 最後に、「ご議論いただきたい事項(4)」ですけれども、フランチャイズ契約については契約内容が適切に開示されると、財務諸表およびMD&Aの理解も向上するという相乗効果が期待されますので、ガイダンスや好事例集等で開示を促す案に賛成したいと存じます。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、佐々木委員、どうぞお願いいたします。

【佐々木委員】

佐々木でございます。どうもありがとうございます。

 今回のテーマですけれども、我々、有価証券報告書作成者側としましては、開示の充実ということは負担になるのかなというふうには思ってございますけれども、一方で、こういった開示のレベルが低いというふうなことで、例えば、投資家の投資判断ができないですとか、開示が少ないから投資を控えると、そういう動きにつながるということは本意ではございませんので、できるだけこういったものについても対応していきたいというのが基本的な考え方かなと思ってございます。

 ただ、有価証券報告書での開示になりますと、いわゆる法定開示でございますので、例えば、有価証券報告書を作っている企業の中に非上場の企業も結構ございますので、そういったところにどこまで求めるのかということもあるかと思います。かねてから、開示のレベルそのものは、企業の規模や体制にもよることでございますので、そういったところは十分考慮いただきたいなと思ってございます。

 また、開示の箇所という意味では、例えば、適時開示、東証の開示ですとか、あるいは、コーポレート・ガバナンス報告書といったところでの開示も、あわせて検討をすべきではないかというふうに思っています。

 また、基本的に、開示と言うときには、全て、ここで言う企業間の契約も、コベナンツも、それから、その他経営上の重要な契約も、重要性というところが論点になるということです。小林委員からも御説明ございましたけれども、これまでの開示の指針ですとか実務指針によってこれまで開示してきているということですから、その辺りからもう少し見直す、検討し直すということが必要なのかもしれませんけれども、一方で、慣習の違いですとか、あるいは、出したことによって誤解を招く、あるいは、何か秘密が漏れてしまうということは避けなければいけないことですから、その辺りもこれから議論していくべきかと思っています。

 全体を通しての話ばっかりで申し訳ないですが、基本的には、我々としましては、できるだけこういった開示を促すための例えば好事例集を公表して、やはり企業として、重要なものとしてこういったものがありますよということ、あるいは、逆に開示をしなかった場合の不利なケース、三瓶委員からもいくつか御紹介がございましたけれども、そういったことも踏まえて促していくということが重要ではないかと思います。

 一方で、際限なく開示が広がっていくということは非常に避けたいというところでございますし、これもステップ・バイ・ステップということが重要ではないかと思います。例えば、既に交わされている契約について開示を求めるのかどうか。これは避けるべきだと私は思いますけれども、そういったところも踏まえて、今後、詰めていくべきではないかと思ってございます。私からは以上でございます。

【神田座長】

それでは、次に、松元委員、どうぞお願いいたします。

【松元委員】

ありがとうございます。松元でございます。

 私からは、「ご議論いただきたい事項」のうち、「企業のガバナンスに関する合意」というポイントについてコメントさせていただきたいと思います。

 この点についての事務局からの御提案の方向性には基本的に全て賛成しております。その上で、では、実際にルールを作っていくということになったときに、どういう契約の開示を要求するのかということについて、今回の資料では3つの典型的なものというか、特徴的なものを挙げていただいていますが、開示すべき契約を全て列挙していくというのも難しいかもしれないように思います。この点について、どのような性質の契約であれば特に開示が必要になるのかについての1つの整理の仕方について、若干コメントをさせていただきたいと思います。

 特に開示が必要な契約としては、個人的には大きく2つあると考えています。1つは、株主間契約の中でも、現経営者の経営者支配につながるような契約、これについては特に開示が必要だろうと思います。そもそも、株主間契約の中でも、経営者支配につながるような内容の株主間契約の有効性については疑問も持たれているところではありますが、開示の問題としても、経営者支配につながるような可能性のある契約については、開示していただく必要が特にあるのだろうと思います。

 もう1つは、逆に、経営者の裁量を制限するタイプの契約です。こちらは、企業の経営について影響を及ぼす可能性があるという意味で重大ですので、やはり、特に開示をしていただく必要があるのだろうと考えております。

 今の話を、事務局説明資料14ページから16ページ辺りに挙げて頂いている3つの類型、1つ目が取締役候補者指名権に関する合意の話、2つ目が「議決権行使内容を拘束する合意」の話、3つ目が「事前承諾事項に関する合意」の話ですが、これに当てはめてみますと、2つ目の、「議決権行使内容を拘束」する合意として挙げられている例というのは、株主の議決権行使、あるいは権利行使の内容とか方法を制限することによって経営者支配につながる可能性のある契約だという分類になってくるのかと思います。

 その一方で、事務局の3つの類型の1つ目と3つ目については、役員候補者指名について特定の株主に一定の権利があるとか、何かやるときには特定の株主の事前承諾を得なければいけないということですので、これは経営者の裁量を制限する契約ということになると思います。

 その上で、事務局説明資料14ページから16ページを見ますと、これは偶然かもしれないのですが、本来であれば、開示が必要な側の企業では開示がされていなくて、相手側の企業でだけ開示がされているという状況になっていまして、もう少し具体的に申しますと、事務局説明資料15ページ、2つ目の「議決権行使内容を拘束する合意」の開示例ですが、これは株主の議決権行使を制限することによって経営者支配につながる可能性があるという話ですので、考え方としては、株主側でなくて企業側、D社でこそ開示してほしいところですが、D社では開示されておらず、C社でだけ開示をされています。

 同じように、1つ目の役員候補者の指名権の開示例、あるいは、3つ目の「事前承諾事項に関する合意」の開示例の話というのは、これは経営者の裁量が制限されていますので、制限されている側の企業でこそ開示をしてほしいところで、この例でいきますと、B社とF社で開示をしてほしいのですが、B社とF社ではいずれも開示がされていないということになってしまっています。

 コメントは以上でございまして、既に事務局でかなり具体的な例を出していただいているので、こんな整理は必要ないのかもしれませんが、今後、開示を要求していく場合には、経営者支配につながる契約と経営者の裁量を逆に制限することになる契約については開示を要求するという整理の仕方もありうるのかなと思いました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、熊谷委員、どうぞお願いいたします。

【熊谷委員】

ありがとうございます。みずほ証券、アナリスト協会の熊谷でございます。

 ご議論いただきたい事項ということで、多岐にわたっているわけでありますけれども、ここにご議論いただきたい事項(1)から(4)で、かなり具体的な事項の開示について、企業の株主間の契約(ガバナンスに関する合意)、「株主の保有株式に関する合意」、それから、「ローン・社債に付されるコベナンツ」に関する開示についてかなり詳細に書かれております。もう既に皆様から御議論ありますとおり、こういったものが投資家の投資判断に与える影響というのは非常に高いというふうに思いますし、積極的に開示を求めていくということに賛成です。

 その上で、今日の問題点というのは、既に事務局説明資料にございますとおり、そもそも、我が国の今の開示の規定と欧米の開示の規定とそれほど大きな差があるわけではない。これは皆さん、多くの委員からも御指摘ありますように、そういたしますと、日本の企業の開示姿勢ということは問題になってくるわけであります。もう既に決まっていることであっても、十分な開示がされていないということに関しては、既に御指摘ありますけれども、やはり重要性の判断について、その判断の閾値が恐らく違っているのだろうなというふうに思います。

 すなわち、欧米の企業に関して、こういう重要性のある契約に関して、その重要性の閾値というのは比較的低く設定されているのに対して、我が国企業の場合、非常に高い閾値が設定されて、投資家から見た場合に開示すべきものが開示されなという実務上定着してしまっている。この問題をどういうふうに考えていくかというのが非常に大きな論点になってくるのではないかと思います。

 その意味で、やはり好事例集、特に欧米における好事例集を積極的に紹介していくということが必要だと思いますし、あと、何人かの委員の方々から御指摘ありましたように、そういう好事例集とは別に、ある種ガイダンス的なものが必要になってくる、重要性の判断の方針に関するガイダンスが必要になってくるのではないかなというふうに思っております。これは今日の重要な契約に限らず、重要性の判断というのは開示ということに関して核心になってくるのではないかなというふうに思っております。

 この点に関しまして、IFRS実務記述書第2号という重要性に係る実務記述というものがございます。これは会計基準そのものと違って、拘束力、強制力のあるものではありませんけれども、それなりに、我が国の企業においても、重要性の判断を行うに当たって参考になることがあるのではないかなというふうに考えております。

 この実務記述書自体は、財務諸表の作成ということで、必ずしも今日の非財務情報に当たる部分に係ってくるわけではありませんけれども、広く今日議論しておりますものが、有価証券報告書という財務報告書の一環として提示されているもの、かつ、財務諸表の理解にも資するということを考えますと、我が国にとっても、IASB(国際会計基準審議会)の実務記述書というのは参考になるところもあると思いますし、特に欧米との開示のレベルの差というのを縮小させていくためにも、こういったものを参考にしながら、我が国において、重要性の判断に係るガイダンス的なものを作成して提供していくという必要があるのではないかなというふうに思っております。私のほうからは以上でございます。どうもありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、藤村委員、どうぞお願いいたします。

【藤村委員】

ありがとうございます。三菱商事の藤村です。

 今日のいただいた論点に関して、まず、全体的な総論で申し上げると、もともと投資判断にとって重要なものを開示するというところが一番重要だと思いますが、この経営上の重要な事項についても、契約についても、発行体にとって何が重要なのかということを基準に考えるべきだと思います。したがいまして、発行体ごとに規模も違いますし、様々な状況も違うので、重要性の判断が異なるのは定義上当然だというふうに考えます。

 そんな中で、外国企業との開示の差が出てきますけれども、これにおいても、単にこの差があるからということではなくて、それぞれの企業にとっての重要性、重要なものが開示されてない、これが問題だというアプローチでものを考えるべきだと思います。

 2つ目、総論的なところで、有価証券報告書の中において、財務諸表、これは注記も含めて、重要性を踏まえて開示している事項というのが多々あります。今回議論している有価証券報告書の前半のところで開示すべきとされる事項、これからなっていくであろう事項と、財務諸表の注記の中に述べている事項と重複が出てくる部分があると思います。

 例えば、経理の状況の中の財務諸表の注記において、企業結合とか共同支配事業の取得の項目がありますけれども、ここで当社も、一部、経営上の重要な契約に該当するものを開示しておりますけれども、それをどう考えるのか。ここの整理が必要なんじゃないかなというふうに思います。

 各論的に議論すべき事項について述べさせていただきますと、まず、44ページ目のガバナンスに関する合意ですけれども、これについては、資本関係がある上場子会社とか上場関連会社、当社でも一部ございますけれども、当然、独立性は尊重しつつも、連結ベースでガバナンス体制を構築したり、連結ベースの企業価値向上の観点から、経営上の重要事項について協議を行うというのはあって然るべきというか、自然なものと考えております。

 ただ、それが事前承諾事項みたいな形で明確に制約になっているものについては、これを開示するというのも自然に分かるのですけれども、例えば、事前協議を行うとか、通知を行うとか、契約は様々なパターンがあるのだと思いますが、そういったものまで開示を求めるというのは実務上負担が大きいのではないかなと考えます。

 先ほど、三瓶委員のほうから、暗黙の了解も、こういった慣行も含めてきちんと開示すべきではないかという論点もございました。考え方としてはよく分かりますが、現実的に、暗黙の了解を開示するというのは、開示できないというか、暗黙の了解ではなくなるので、その辺が、そもそもそういう取引慣行はどうなのかという論点は別途あるかもしれませんが、有価証券報告書で開示義務を課すからには、法的拘束力がある合意というふうにしておかないと整理がつかないのではないかなと思います。

 1つ懸念は、私もずっと法務をやっていたので、もしこれが明確に制度化されると、開示をしたくないので、サイドレターで片方だけ手紙を出し、片方は受け取って、法的拘束力はないと。ただ、日本の場合、法的拘束力がない事項についても、これを尊重する地合いというか、環境にありますので、これで満足して潜っていくというリスクはあると思います。ただし、いずれにおいても、法的拘束力のないものを開示するというのは、収拾がつかなくなるのではないかなと思います。

 次に、事務局説明資料45ページの「株主の保有株式に関する合意」ですけれども、これは私の勉強不足なのかもしれませんが、5%ルールがある以上、一応、考え方としては、5%ぐらいのインパクトを持っている企業、株式保有者がこういう合意をすると、これは発行体にとって大きな影響があるという判断が下されているのだと思います。したがいまして、その5%未満の企業にこういう開示やこういう合意をした場合に、発行体としてこの開示をしなければならないというのは、この5%ルールとの整合性を取る必要があるのだろうなと思います。そもそも、5%未満の企業がこういう合意をするというケースは少ないのだというふうに私は想像しますけれども、5%ルールとの整合性というのは必要だろうと思います。

 事務局説明資料46ページ目のコベナンツに関しては、我々の社内の財務部署にも確認しましたが、日本基準が求める開示基準が他国に比べて極端に劣後しているというふうには考えてはおりませんが、1つ参考になるのは、国際会計基準でコベナンツの開示に関する重要性の判断として、事務局説明資料にもありましたけれども、違反が発生した場合の帰結と違反が発生する確率、この2つを考慮して重要性を判断するというのがあるので、こういったところなんかも参考にして、日本基準においても考えていく必要があるのではないかなと思います。

 社債についてですが、引受証券会社が実施してくれるデューデリジェンスの過程において、重要なコベナンツの確認は当然行われているわけで、コベナンツ情報というのは社債投資者に対して実質的に担保しているというふうにも考えられます。特にローンや私募債に付与されるコベナンツというのは、いろいろなパターンがあって、種類や数も多いので、加えて、格付以外の財政条件とか交渉の中でも様々な形で決定されていくので、全体の財政条件が開示されない一方で、これはそもそも、開示は難しいですけれども、そんな中でコベナンツのみを取り出して、画一的な条件とかルールで強制的に一律開示させるというのは、逆に投資家の適切な判断を妨げる可能性があるのではないかなというふうに考えます。

 最後、事務局説明資料47ページの重要な契約ですけれども、これは総論部分で述べたところと重複しますが、経営上の重要性というのは相対的概念なので、契約当事者同士で開示が揃ってないことのみをもって問題視するというのはちょっと違うのではないかと思います。先ほど三瓶委員から事例をいただきましたけれども、ああいった事例では確かになと思うところはあるのですけれども。

 いずれにしても、この重要性というところ、皆様御意見を既に出されていますけれども、何が重要なのかというのを定性的かつ定量的に、その発行体の規模等も踏まえて明確にしていく。好事例集なんかも非常に重要だと思いますけれども、そういったガイダンス等も必要だろうなと思いました。私からは以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、続きまして、上田委員、どうぞお願いいたします。

【上田委員】

上田でございます。よろしくお願いいたします。

 私は、まず、総論的なところ、事務局説明資料47ページが大変重要だと思います。実は、今回の事務局説明資料と御説明、あと皆様の御議論を伺っておりまして、その背景にあるというのは、ここのページのところが肝になるのかと思います。一般的な「その他」というような括りですけれども、これはむしろ各論に対する前提となる考え方をどこかで示していく必要があるのではないかと思います。

 具体的に言いますと、文言に各国間差がないにもかかわらず、実際の開示において、日本ではすごく開示が遅れている、こういう事例があるとの御説明でございます。ここで特に参考になるのが、事務局説明資料38ページの一番下の、国際会計基準に移行する際にいろいろ丁寧に見直していくと、コベナンツ等々含めて、やっぱりこれは開示しておいたほうがいいのではないかというような気付きが企業側にあったと。今までは、そういった点をあまり重視してこなかったという点が、言い方、表現は悪いのですが、企業側の意識的なところが大きいのかなと思います。コベナンツに限らずですけれども、リスクの開示というものに対して、海外であれば、あらかじめリスクを少しずつ見せておくことで、会社が株主・投資家に対する大きなリスクを負うことを避けるというか、訴訟も含めて避けるというような傾向があります。これは懸念ですけれども日本は、リスク情報を出すこと自体がリスクであって、例えば、コベナンツで言うと、抵触するということがある程度見えたときに開示してくる可能性があるのではないかと懸念します。となると、これはKAMの議論になってしまったり、あるいは、適時開示の必要があったりと、そういうところと近くなってくるわけです。

 一方で、有価証券報告書、特に平時の有価証券報告書というのは、リスクアラートというか、将来こういう可能性があるという、特にマテリアリティ、重要性に基づいて企業の投資判断をする場合に、予見可能性を見せるというものが重要になります。したがって、そういった観点から開示というものを見ていく必要があるのだと思っています。

 特に契約について、各種契約が今回議論されていますけれども、そもそも、その契約に対して契約外の取決めとか合意というのは、これは株主や投資家から見ると全くもって予見不可能なものでありまして、そこが大変重要な要素になっている場合に、いきなり知らなかった情報が出てくる。そういった契約外の取決めというのがどれぐらい有効で法的な効力があるのかということも含めて、大変不安定なものに拠った上で投資判断も適切にできないものであるということで、契約そのものをどう捉えるかという意識も関係してくるかと思います。

 また、いろいろお話を伺っていて感じますのが、契約の相手方への配慮ということが日本的にあるのですけれども、そもそも、有価証券報告書というのはそういうものではなくて、投資家への配慮、市場に対する情報提供、そちらが優先されるべきです。したがって、各企業、それぞれの事業規模に応じてというお話もありましたけれども、企業規模に応じてというのが、企業の大きさ等ではなくて、企業と投資家との関係によるべきである。つまり、企業が主体というよりも、これは投資家から見て必要な情報を出す。こういった点が重要だと思いますので、ぜひ今後、各論のところについては、ガイダンス等でしっかり具体的なイメージを提示されていくことを期待しております。その前提として、そもそも、リスクが発生する前にアラートを立てる、予見可能性を立てるという意識でもって開示していただくという、この事務局説明資料38ページの一番下の点、気付きみたいなものを今回のこの議論を通じてしっかり定着させて、企業にも共有していただけるとよろしいのではないかと思います。以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、清原委員、どうぞお願いいたします。

【清原委員】

ありがとうございます。清原です。

 事務局説明資料一番最後にあります48ページ、こちらに御議論いただきたい事項、概観がありますので、ここをベースにお話をさせていただければと思います。

 今回、1番目のところで、ガバナンスに関する合意の内容、それから、保有株式に関する合意の内容、こういったことが挙げられたのは非常によかったなと思っています。そう申しますのは、資本業務提携の例というふうに右側に図が示されていますが、通常、適時開示その他で既に開示されていながら、こういった合意があっても、今まで、有価証券報告書その他で開示が法定開示の中にうまくのってきてなかったというのは問題だと思っておりました。

 今回、このディスクロージャーワーキング・グループは、非財務情報の開示の充実を考えるという観点で議論が進んでいるわけですが、これまでなぜそういう背景が今まであったのかということを考えると、1つは、開示項目は「経営上の重要な契約」とされていて、その「経営上」ということが入っているがゆえに、また、事務局説明資料4ページに企業内容等開示ガイドラインがありますけれども、おそらく、そこの例示でも経営に関わるものがあげられていることも影響して、なかなかガバナンスですとか株周りのところについての重要な契約の開示が十分になされてこなかったということなのだろうと思います。

 したがって、第1点目として、今回、議論すべき事項として「重要な契約」という表題になっていますけれども、「経営上の」ということには重きを置いているわけではないということを明確にするような方向で取りまとめをしていただくことがよろしいのかなというふうに考えています。投資家から見たときに重要な契約というものの中には、もちろん、ガバナンス絡みのものもあれば、今まであったような典型的な経営上の重要な契約もあるということで、少しプリンシプル・ベースで広く捉えて、開示すべき項目というものに漏れが生じないような、そういった制度のほうに進んでいっていただくのがよろしいかなというのが総論的な意見でございます。

 ただ、そうしますと、非常に外延が広くなってくるというところで、そこをどうしていくかを考えなければいけないというところあるので、そこは他の委員の方から重要性の問題について、何度もコメントがありましたが、この契約の話だけでなく、サステナビリティ関連の他の議論でも常に重要性の問題が出てくるかと思います。重要な契約でありながら開示されていないものというのは日本ではない、という状況に進んでいくことが、これからの開示のあり方として期待されるところでありますが、それは経営者側、企業側が何が重要な契約になるのか、という点について、自社の状況に合わせて、経営トップもしくは執行側が判断したものを、社外の目を含めてみている取締役会などでしっかりとチェックしていくということがとても重要になっていくのだろう、すなわち開示に向けた体制整備の意義というところを総論として触れさせていただければと思います。

 事務局説明資料の4ページのところに、企業内容等開示ガイドライン5-17がございますけれども、これはおそらく今後見直されるだろうとも思われますが、これをベースに少しコメントさせていただくと、(1)のところにある会社法上の取締役会決議事項の場合についてはいいと思うのですけれども、それに続く(2)や(3)などのところで「著しく」という言葉が使われていて、重要性のあるものの開示を考えていく上で、「著しく大きくなる」、「著しく事業上の拘束を受ける」というような表現がされているところは、少しスレッシュホールドが高過ぎるきらいもありますので、こういったことも、これまで開示が十分になされなかった遠因になっているかもしれないところでもありますので、見直しを考えていくことがよいのではないかと思います。

 重要性を考える上で、投資家の投資判断という点に関してですが、企業全体にとっての重要性ということだけではなく、この企業の成長を考える上で、あるセグメントが今後どう成長するかを考える上での重要性ということもあったりすることを考えますと、重要性というものは、あまり、杓子定規な基準を設けるのではなく、投資判断として、この企業には何が投資家として関心を持って見ているかということがしっかりと検討されるのがよいのではないか。そういった観点から、社内の方の検討においても、また、取締役会その他で監視、監督を行う上でも、重要性を考えるうえでフォーカスの対象となっていくことが大切ではないかというふうに考えるところであります。

 項目として挙がっているものとして、2番目のところで、事業上の依存度が著しく大きくなる場合というところで挙がっているところについて、例えば、その中で言えば、一手販売・一手仕入契約などが入っていますけれども、ここは、例えば販売マーケットごとに契約があったりして、そのマーケットにおけるこの企業の事業の成長性を考えたときに、それが重要なマーケットだったとしても契約が開示されてないというような実例が仮にあったとすれば、それは投資家が、この企業の成長性を考える上で重要性のある情報が十分に開示されていないということになってしまいます。重要性についての考え方については、この例のように、具体的に、より細かく見ていくことが本来必要ではないかというふうに考えるところであります。

 その他、今回挙げられているもの以外で、例えば、ベンチャー企業の例なんかですと、共同での研究開発契約、先ほどもファイザーの共同開発の件について言及がありましたけれども、例えば、バイオテック・カンパニーですと、それが非常に企業にとっても重要な内容であることが多く、これまでもそちら側では開示されていましたが、相手方の企業においても重要性があったりすることがあるのですが、これまでどうであったかということがありますので、そういったところについて、契約相手方が開示しているものに関して、重要性が低いという判断になるのであれば開示しないということでいいのですけれども、開示を原則とすることがディスクロージャー制度としては適切ではないかというふうに考えるところであります。

 また、その先のところで、重要な資産の管理・処分というところがありますけれども、ここのところで、例えば、固定資産もそうですけれども、リースバックなどしている場合ですとか、必ずしも重要な契約という開示欄のところで今まで日本では開示されてないところもあるのではないかというところがありますので、そこは見直しが適切ではないかというふうに考えられるところであります。

 それ以外のところで、今まで問題になったものの中で、一部、モグラたたきみたいなところもありますが、例えば、株主、親会社、支配株主との間での取決めの中で、例えば、キャッシュ・マネジメント・システムのアレンジがされているところについて開示が十分ではなく、また十分な対価が支払われてないというようなものも含めて、外からなかなか見られない事例というのも過去にあったかというふうに理解しています。この企業内容等開示ガイドライン5-17のところに挙がってはいないものですが、今申し上げた例のように、関連当事者間の取引、その透明性というものは非常に重要性があると思われますので、その意味で、今回議論していただきたい事項の最後の「その他契約」というところに関して、そういうものもカバーしていただくことが大切ではないかというふうに考えているところであります。

 先ほど議論がありました合意に関して、法的拘束力があるかないかというところがございましたけれども、契約書などの書面で、明確に法的な拘束力があるものでなかったとしても、やはり企業価値に影響する、もしくは、経営能力、経営判断を行う上での影響があるもの、また重要な資産、その使用・収益・処分に関して事実上の拘束を及ぼすようなもの、こういったものに関しても、前広に本来であれば開示を検討すべきとしておき、その重要性が非常に低いという状況があれば、その内容によって開示しないとすることがあってもいいと思うのですけれども、プリンシプル・ベースで、前広に開示がなされる方向での議論の取りまとめができればよいのではないかというふうに考えております。

 最後に1つ、上場会社、有価証券報告書提出会社ベースでの法的な拘束力のあるものとしての契約というふうなことを考え過ぎると、例えば、持株会社のように、子会社の事業会社が結んでいる契約、これが漏れてしまってもおかしなことになりますので、その意味で、必ずしも法律的な意味での提出会社の契約・法的合意ということにとらわれ過ぎずに、重要なものについて開示がなされるようにというふうに議論が取りまとめられ、かつ、そういった方向に企業の実務が進むことがより望まれると考えるところであります。以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、近江委員、どうぞお願いいたします。

【近江委員】

御指名ありがとうございます。近江です。

 既に議論も出揃っておりますし、時間も押しておりますので、私からは簡単に議論事項について発言をさせていただきます。

 まず、ガバナンスに関する合意についてですけれども、事務局の開示提案事項には全般的に賛成ということで、とりわけ、役員候補者の指名権を有する場合であったり、また、議決権行使内容を拘束するという場合には、株主の平等に関わる非常に重要な、株主にとって重要な事項でありますので、ここは保有比率にかかわらず開示される必要があると考えます。

 事務局説明資料17ページにも指摘がありますが、株式の保有割合が少ないにもかかわらず指名権を持っているという場合には、合意自体に違和感もあるということでもあります。合意の概要、目的、そしてガバナンスの影響が説明されるということは、一般的に株主にとって有益な情報であり、開示されることが望ましいと考えます。

 保有株式に関する合意につきましても、これも株主全般にとって重要な情報であるということで、株主が企業の状況を認識する上で、大量保有報告書で開示されている内容は、企業側からも開示される必要があると考えます。合意の概要、目的、併せて記載されることが望ましいと考えております。

 株式保有比率が5%未満の場合につきましても、保有株式に関する譲渡などの禁止や制限、その他、買い増しの禁止、保有比率の維持や売渡請求などの契約につきましては、合意の内容や目的と併せて、重要性に鑑みて開示されるということが望ましいと、そのように考えております。

 コベナンツにつきましては、これも重要性の判断に基づいて御提案事項、融資契約などの概要、コベナンツ内容、抵触した内容について開示されることが望ましいと考えております。ここは委員からの推奨もありましたけれども、私も、重要性の判断というところに資するために、ベストプラクティス事例の共有ということなどで前向きな対応を促していくということに賛成をいたします。

 「その他の経営上の重要な契約」につきましても、様々なケースが考えられるということもありますので、開示に関する事例集を作成して、類型に対するベストプラクティスを示して、企業側の自発的な取組みを促していくということであると思います。企業と投資家との対話というものを促していくことで、ベストプラクティスを模索していくということが望ましいと思いますし、特に、グローバルな機関投資家という立場からは、海外と日本企業の開示の差があるところなどについても、積極的に対応していく必要というものを感じております。簡単ですが、私からは以上になります。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、田代委員、どうぞお願いいたします。

【田代委員】

ありがとうございます。

 私は、証券会社の立場からという御認識の下で聞いていただきたいのですが、今回、そもそも、日本の資本市場を発達させて、活性化するという観点から考えますと、重要性の判断というのは、投資家の皆様との対話というのが非常に大切になってくるのだと思います。その重要性の判断が欧米に比べて日本の企業はという話もありましたけれども、別に悪気があってということでは決してないと思います。今回、IFRS財団が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)をつくったという1つの背景には、重要かどうかの判断を企業に負わせるのは非常に難しい、グローバルスタンダードで比較するのは難しいので、非財務情報もルール作りをしようというのが背景にあることが考えられます。今回のような重要性の判断を企業に任せないと難しいところもあると思うのですけれども、一定基準出せるものについては、やはり基準を示せるといいかなと思います。

 その代替として、ベストプラクティスというお話もあったと思います。逆に、ネガティブなものを出したらという御意見もあったと思いますが、私もネガティブのものこそ出すといいのではないかと思います。欧米においては、特にアメリカだと思いますが、投資家に訴えられてしまうリスクを考えて開示を積極的にするところがあると思うのですが、このネガティブリストに載りたくないがために、いろいろ本当に考えるというようなきっかけになるのであれば、それも1つの考え方かなと思います。

 また、コベナンツについてですが、これも、なかなか日本の債券市場のセカンダリーマーケットが発達していないということを考えますと、投資家が開示、透明性の十分なマーケットであるという自信の下に参加者を増やしていかなければいけないと思いますので、投資家の透明性に疑いがあるようなことは避けて開示をするべきではないかなと思います。以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

 それでは、オブザーバーの皆様方で御意見ございましたら、ぜひ承りたいたいと思うのですけれども、チャット欄に、もし御発言いただけるようであれば、全員宛てで記入していただけるとありがたいのですが、いかがでしょうか。日本公認会計士協会、小倉オブザーバー、どうぞお願いいたします。

【小倉オブザーバー】

会計士協会、小倉です。御指名いただきましてありがとうございます。

 本日の御議論の中では、財務諸表との関係があるところで、債券、借入金のコベナンツについて、加えて、全般的なところを発言させていただきたいと思います。

 コベナンツについては、重要な情報なので、開示をすべきだというお話については理解できるものです。ただし、事務局説明資料46ページに1ポツ目で記載していただいているように、まずは、財務諸表以外の場所でというような形、非財務情報でというふうになりますと、本日御説明いただいたとおり、国際会計基準等を適用している企業では、財務諸表に注記があるということになりますので、特にプライム市場の企業については、英文開示も行われるということを踏まえますと、海外の企業と日本の企業で開示箇所が財務・非財務情報で変わってくるということはあまり望ましくないと思います。開示される場合に、どこに書くべきかということについては十分な御議論をしていただければと思います。

 全般としては、開示について好事例の公表をしていただいておりますけれども、開示が足らないというところについては、有価証券報告書提出に関するレビューを金融庁で実施いただいていると思いますが、そういったところで、メッセージをどんどん出していただけますと、それは作成者の方にとっても、会計士は間接的に非財務情報のところは読むということになりますけれども、非常に参考になります。そういった取組みも推奨されると考えております。私からは以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、次に、日本証券業協会の松本オブザーバー、どうぞお願いいたします。

【松本オブザーバー】

ありがとうございます。日本証券業協会、松本でございます。発言の機会をいただき、ありがとうございます。

 事務局説明資料の中でも、弊協会の議論につきまして御紹介いただきました、コベナンツの開示につきまして発言させていただきます。ローン契約等に付されておりますコベナンツや担保の情報につきましては、社債権者や投資家の方が、債権者間の優先劣後関係を把握するために必要な情報と考えてございます。したがいまして、投資家保護の観点から、債権者間に情報の非対称性が生じないよう、こういったコベナンツや担保を含む財務の状況が適切に開示されるべきと考えてございます。

 開示を求める契約の範囲でございますが、投資家保護や投資家に対する情報の必要性といった観点からいたしますと、現状では、シンジケート・ローンについて開示事例が多く見られておりますけれども、特にシンジケート・ローンに限定するという必要はないと思ってございまして、国際会計基準でも示されておりますが、債務のコベナンツ抵触時におけるインパクトの大きさですとか、当該企業の信用力といった観点を踏まえた開示が必要と考えてございます。

 契約の範囲につきましては、開示をする側の企業とそれを閲覧する投資家との間で一定の認識の共有が図られることが必要と思ってございます。そういった観点からは、例えば、最低限の基準として定量的な基準が示されることが望ましいと考えてございます。

 開示の内容でございますが、現状、コベナンツに関する情報を開示している企業におきましても、その内容についてばらつきがあると認識してございます。この点、コベナンツのトリガー基準ですとか、抵触時の義務、また、担保の内容や順位を含め、投資家が債権者間の優先劣後関係を把握するに足りる情報の開示が必要と考えてございますので、こういった点もガイドライン等で示していただけるとありがたいと考えてございます。私から以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。次に、全国銀行協会の伊藤オブザーバー、どうぞ。

【伊藤オブザーバー】

ありがとうございます。全国銀行協会の伊藤でございます。

 本日の議題のうち、「ローン・社債に付されるコベナンツ」につきまして、私どもから補足的にコメントをさせていただければと思います。

 まず、投資判断に重要な影響を与えますローンや社債のコベナンツに関しまして、開示状況が区々であることを踏まえて、開示の充実や整合性の確保を図るという方向性につきまして、銀行界としては異論があるものではございませんし、むしろ積極的に進めていくべきであると考えております。

 ちなみに、ローンのコベナンツにつきましては、性格上、銀行との相対契約の中で締結されているものではございますが、当然のことながら、銀行からお客様に対して開示を制限するといったことはございませんし、今後も開示の充実に向けて取り組んでいきたいと思っています。

 その上で、委員の方も御指摘していただいておりますが、重要性を有するコベナンツの開示のルールにつきまして、日本基準、国際会計基準、米国基準の間で、大きな差はないと考えておりまして、むしろ運用面といいますか、重要性の認識の違いですとか、お客様の開示ルールに対する理解というか、分かりづらさみたいなところがあるのではないかと思っておりますので、この辺りを総合的に判断して進めていただければと思っています。

 委員の方からもいろいろとお示しいただいておりますが、私どもとしては、例えば、好事例の公表や、ガイダンスの充実を含めて、ぜひとも、ルールを充実していただければと考えております。私からは以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。それでは、経団連の小畑オブザーバー、どうぞお願いいたします。

【小畑オブザーバー】

経団連の小畑でございます。御指名ありがとうございます。

 一般的に申し上げまして、投資判断に必要な情報というのは、企業として当然、開示を進めるべきであり、開示を充実させるということは極めて重要だと考えております。

 その上で、今回の議題となっている事項に関しましては、海外と比較しましても、日本の規律に特段差があるというわけではないということでございますので、どう実施をしていくかというところが重要なポイントなのではないかと思っておりまして、規律の見直しというよりは、むしろ、ガイダンスや好事例の提示といったことで実務の定着を促すという観点がまずもって重要なのかなと思っております。

 そのガイダンス、好事例の中心的なテーマが、先ほどから議論されておりますけれども、重要性というところが非常に着目するポイントだということであります。ただ、事務局説明資料の中で、相手方は開示しているのに、片方の企業は開示してないのではないかというような建てつけのお話があったかと思います。このような事例の中で、当然、両方の企業にとって重要性のあるものがかなりの事例だと思いますけれども、場合によっては、相手方は重要だけれども、片方の企業にとって重要性は高くないというケースもあると思っておりまして、片方がやっているからもう片方でもやるべきだという単純な議論ではないということを御理解いただければと思います。

 その上で、ガバナンスに関する事項ですけれども、これは非常に重要な事項が並んでいると認識しておりますが、ただ、有価証券報告書を提出している企業といっても、上場している企業だけではなく、大量の社債等を発行した過去の経緯がある企業もありますので、そのような上場会社でない企業については、支配に関するところはそれほど重要性を持たないのではないかと思います。

 一方、社債・ローンのコベナンツでございますけれども、社債のコベナンツについては、有価証券報告書はともかくとして、有価証券届出書には必ず開示されているものと思っておりまして、その情報をいかに集約するのかがポイントになってくるのではないかと思います。

 一方、ローンについては、日本の企業特有なのかもしれませんけれども、シンジケート・ローンを除けば、特殊なコベナンツがついているケースは非常に少ないことから、単に開示すべきものがないので、開示が少ないということではないか。こういう現実もあるのではないかというところも踏まえて御検討いただきたいと思っております。また、事務局説明資料の中に、この社債・ローンのコベナンツについては経過措置についても御記載いただいているかと思っておりまして、ここも実務上重要なポイントだと思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。

 最後に、「その他の経営上の重要な契約」に関するところですが、やはり営業秘密をきちっと保護するような形での開示について、ぜひ配慮をお願いしたいと思っております。また、先ほども議論がありましたが、有価証券報告書に記載するとなると、記載漏れがあってはいけないということになりますので、やはり何が契約なのかの外延はしっかりと決めていただく必要があると思っているところです。以上でございます。ありがとうございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

 本日もあっという間に2時間が来ているという状況ですけれども、いつものことでございますが、多くの方々から大変貴重な御意見、御指摘を多数いただきまして、どうもありがとうございました。

 皆様の御指摘等を伺っていて、私も感想になるのですけれども、1つは言葉の問題で、清原委員が御指摘になったところですけれども、確かに、今日のテーマが経営上の重要な契約ということになっているのですが、これは今の有価証券報告書の様式がそうなっているので、そういうことでやっているのですけれども、これは確かに、言うまでもなく、重要性というのは鍵だけれども、情報開示制度にとっては、投資家の投資判断にとっての重要性、それを求めるのが法定開示制度ですので、あくまでその観点で御議論いただいたというふうに思いますけれども、言葉はどうしても独り歩きするものですから、そこは確認をしておきたいと思います。

 関連することで、2点目で、自社があって、相手方があってというシチュエーションで、確かに、投資家の投資判断にとっての重要性というアプローチから言えば、相手方企業は相手方企業の投資家、それから、こちら側、自社のほうは自社にとっての投資家から見ての投資判断の重要性があるという、複数の委員から御指摘があって、そのとおりかと思います。

 ただ、その先というか、その後はケース・バイ・ケースですが、それは、自社なら自社が、企業だけで決めることではなくて、言うまでもなく、投資家との対話を通じて、それが決まっていく筋合いのものですので、これはまた三瓶委員をはじめとして御指摘がありましたけれども、投資家が情報開示を求めている事項というのはあるということでありますので、この辺り、さらに議論が深められればいいと思います。そのことは、結局、中長期的には企業にとってプラスになる、企業価値の向上につながることだと思いますので、短期的には負担ということになるのかもしれませんけれども、その辺り、またよく議論を深めていただければと思います。

 すみません。私が余計なことを言っているうちに時間が2時間を過ぎておりますので、本日はこの辺りとさせていただきますけれども、追加での御意見とか、お気づきの点がございましたら、ぜひ事務局までお知らせいただければありがたく思います。本日の議論を踏まえ、次回以降、さらに御議論を深めていただきたいと存じます。

 それでは、最後に、事務局から御連絡等ございましたらお願いいたします。 

【廣川企業開示課長】

事務局でございます。

 次回のワーキング・グループの日程でございますが、皆様の御都合を踏まえた上で、最終的に決定させていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと思います。以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

 それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。本日も、長時間にわたり熱心に御参加いただきまして、誠にありがとうございました。以上で終了とさせていただきます。ありがとうございました。

―― 了 ――

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局企業開示課(内線3688、2872)

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