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金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回)議事録
日時:
令和7年8月26日(火曜日)10時00分~12時00分場所:
中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室
【神作座長】
おはようございます。定刻となりましたので、ただいまより、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ第1回会合を開催いたします。皆様、御多忙のところ、また大変暑い中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。
申し遅れましたけれども、私は、このたび当ワーキング・グループの座長を務めさせていただくこととなりました神作と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
本日の会議におきましては、対面とオンライン会議を併用した開催とさせていただきます。また、ウェブ上でライブ中継をさせていただきます。
なお、議事録は、通常どおり作成の上、金融庁ホームページにて後日公開させていただく予定でおりますので、よろしくお願いいたします。
会議を始める前に、事務局から留意事項と委員の御紹介をお願いいたします。
【小長谷企業開示課長】
事務局を務めさせていただきます企業開示課長の小長谷でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
本日の会議におきましては、オンライン会議を併用した開催としておりますが、オンラインで御参加の委員におかれましては、御発言を希望される際には、オンライン会議システムのチャット上にて御発言希望される旨を御入力ください。そちらを確認の上、座長から指名させていただきます。なお、対面で御参加の委員におかれましては、お名前のプレートを立てていただければ、座長から指名させていただきます。御発言後は、お名前のプレートを元にお戻しいただくようお願いいたします。
それでは、委員の御紹介をさせていただく前に、恐縮ですが、カメラはここまでということでお願いいたします。
それでは、ディスクロージャーワーキング・グループの委員の皆様を御紹介させていただきます。
資料2のディスクロージャーワーキング・グループメンバー名簿に記載の順に、
飯田秀総様です。
井口譲二様です。
岩井尚彦様です。
上田亮子様です。
大瀧晃栄様です。
加藤貴仁様です。
清原健様です。
黒沼悦郎様です。
小林いずみ様です。
阪智香様です。
三瓶裕喜様です。
高村ゆかり様です。
武井一浩様です。
田代桂子様です。
永沢裕美子様です。
樋爪謙一郎様です。
藤本貴子様です。
松井智予様です。
次に、オブザーバーとしては、東京証券取引所、日本監査役協会、日本経済団体連合会、関西経済連合会、日本公認会計士協会、日本証券業協会に御参加いただいております。また、官公庁のオブザーバーとして、法務省、財務省、経済産業省に御参加いただいております。事務局については、時間の都合もございますので、お手元の配席図をもって紹介に代えさせていただければと存じます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
次に、私が万が一、会議に参加できない場合に備えまして、座長代理を黒沼委員にお願いしたいと考えておりますが、いかがでございますでしょうか。よろしゅうございますか。
(「異議なし」の声あり)
ありがとうございます。黒沼委員、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、まず、会議の公開についてお諮りいたします。金融審議会議事規則第4条にのっとり、本ディスクロージャーワーキング・グループの審議について、公開することとしたいと存じますけれども、よろしいでしょうか。
どうもありがとうございます。御了解をいただきましたので、本日の会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせていただきます。
それでは早速、議事に移らせていただきます。本日は、事務局より資料の御説明をいただいた後、質疑応答、討議を行いたいと存じます。
それでは、事務局の金融庁から、資料についての御説明をお願いいたします。
【小長谷企業開示課長】
それでは、事務局説明資料に沿って御説明いたします。
資料1ページにある目次を御覧ください。
本ワーキング・グループで御議論いただきたいテーマとしては、大きく3本の柱がございまして、1つ目がサステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループでの議論を受けた、虚偽記載等に対する責任のあり方の検討。2つ目が、主にスタートアップ支援という観点からの有価証券届出書の提出免除基準に関する検討。3つ目は、その他の検討事項としてまとめておりますが、株式報酬に係る開示制度の見直しや、有価証券報告書の記載事項の整理といった論点となっております。
資料2ページを御覧ください。本ワーキング・グループで御議論いただく事項の背景としては、大きく2点あると考えております。1点目は、このページの中ほどにございますとおり、これまで非財務情報の拡充が図られてきまして、さらにサステナビリティ開示基準の導入についても議論が進んでいる中で、企業負担にも配慮しつつ、投資判断や建設的な対話に資する情報開示を充実させていくためには、開示情報の責任の明確化といった環境整備が必要ではないかという点。2点目は、スタートアップ支援のため、投資者保護と企業負担のバランスに配慮した情報開示の整備が必要ではないかという点となっております。こうした背景を踏まえた諮問事項となっております。
資料の3ページを御覧ください。それでは、まず、虚偽記載等に対する責任のあり方の検討という論点から御説明いたします。
資料4ページはサステナビリティワーキング・グループの中間論点整理で示されたロードマップでございますが、こちらについては説明を省略させていただいて、資料5ページを御覧ください。
開示を求められるサステナ情報の代表例の一つとして、温室効果ガス排出量がございます。御案内のとおり、Scope1、Scope2は自社が直接的・間接的に排出するGHGを捉えるものであるのに対して、Scope3はサプライチェーンの上流下流など、自社外で排出されるGHGを捉えるものとなっております。このため、Scope3のGHG排出量の計算に当たっては、自社で直接測定するということがなかなか難しく、第三者から入手した情報などを利用した見積りの方法によることが多くなるのではないかと考えられます。このことが今回のセーフハーバー・ルールの検討の一つの背景であるというふうに認識しております。
次に、資料の7ページを御覧ください。サステナビリティワーキング・グループでは、まずは開示ガイドラインの改正で、Scope3を対象としたセーフハーバーを整備することが適当とされましたが、ただ、情報の不確実性という点に着目すると、セーフハーバーの対象となり得るものは必ずしもScope3だけではないだろうといった御意見もあり、法改正の必要性も含めて、引き続き検討することが望ましいとされております。
資料の8ページを御覧ください。サステナビリティワーキング・グループの資料を一部加工してお示ししておりますが、このスライドの末尾にございますとおり、セーフハーバー・ルールの検討に当たって想定される論点としては、適用要件、適用範囲、効果などがございます。この後のスライドで順次御説明いたします。
資料の9ページを御覧ください。年次報告書の虚偽記載等に対してどのようなサンクションがあるのかについての日米英の比較となっております。いずれのジュリスディクションにおいても、民事責任、刑事責任、行政責任に関する規定がある点は共通しているかと思います。
そして、民事責任についてでございますが、本邦における金融商品取引法第21条の2は、流通市場において株式を取得した者による提出会社に対する損害賠償請求権を定めた規定となっております。この規定についてでございますが、被告である提出会社が故意または過失がなかったことの立証責任を負うこととされておりまして、米国ですとか英国と比べますと、被告の責任が問われやすい制度となっていると言えると考えられます。また、下の図表にございますとおり、アメリカ、イギリスでは、非財務情報の開示の充実を図る観点から、法律上、一定の非財務情報の虚偽記載等について、民事責任に関するセーフハーバーが設けられているというふうに認識しております。
資料10ページを御覧ください。こちらは米国SEC規則ですとか、あるいはカリフォルニア州法におけるセーフハーバー・ルールに言及した資料となっております。本日は詳細な説明は省略させていただきます。
資料11ページを御覧ください。セーフハーバー・ルールを設けたとして、その効果を民事責任、刑事責任、行政責任のどこまで及ぼすかという論点についてでございます。まずは民事責任の免責から検討するということが基本になるかと存じますが、特に課徴金の免責については、当局のエンフォースメント手段の確保の必要性ですとか、あるいはセーフハーバー・ルールの具体的内容・要件なども踏まえて検討する必要があるかというふうに考えております。
資料の12ページを御覧ください。御参考までに、金商法21条の2の制定・見直しの経緯をこちらに記載しております。この規定は2004年の証券取引法改正により導入されたものでございまして、導入当初は会社側が無過失責任を負うものとされておりましたが、2014年に立証責任を被告に転換した過失責任に改正されております。
資料の13ページを御覧ください。次に、セーフハーバー・ルールの適用範囲についてでございます。サステナビリティワーキング・グループでは、Scope3に限定せず、サステナビリティ情報全体に広げてもよいのではないかとか、あるいは、将来情報、バリューチェーン情報、見積り情報を対象とする方向で検討すべきではないかといった御意見や、あるいは投資者保護の観点からは、適用範囲をいたずらに広げることには懸念があるといった御意見があったところでございます。こうした御意見を踏まえまして、ここでは、非財務情報のうちの将来情報、統制の及ばない第三者から取得した情報、見積り情報を対象とすることとしてはどうかというふうに一案、御提案させていただいております。
資料の14ページを御覧ください。セーフハーバー・ルールの適用要件の定め方についてでございますが、サステナビリティワーキング・グループでは、まず①として、金融商品取引法21条の2の主観要件を過失責任から重過失責任に見直す方法、②として、一定の要件の下で合理性のある開示がなされていれば不正な記載とはみなされないとする方法が議論されたところでございます。この①については、どこまでが過失で、どこからが重過失かといった点について明確性を確保できるかどうか、②の方法につきましては、「一定の要件」というところをどう定めるか、その妥当性、合理性はあるのかといった点について検討する必要があるかと考えられます。
資料の16ページを御覧ください。次に、確認書制度の見直しについてでございます。金商法上の確認書は、提出会社の代表者及び最高財務責任者が有報の記載内容が適正であることを確認した旨を記載するものとなっておりますが、サステナビリティワーキング・グループの中間論点整理では、この確認書の記載事項として、開示手続を整備していること及び開示手続の実効性を確認したことを追加することについて、セーフハーバーの論点とともに引き続き検討していくこととされております。
1ページ飛ばして、18ページを御覧ください。平成14年のワーキング報告書にございますとおり、確認書制度の趣旨は、適正な情報開示に対する経営者の意識づけの向上を図ることにあるとされております。非財務情報の拡充が進む中で、有報を適正に開示するための手続の整備や、その実効性の確保に関する重要性は増していると考えられまして、経営者の意識づけの向上がより一層求められている状況にあると考えられます。また、こうした観点は中間論点整理におきまして、有報の記載事項として、情報の入手経路を含む将来情報等の適切性を検討し、評価するための社内の手続等を追加するとの提言がなされていることとも整合するかと考えております。確認書の記載事項の追加の是非につきましては、こうした点を踏まえて議論することとしてはどうかと考えております。
次に、有価証券届出書の提出免除基準の検討についてでございます。資料20ページを御覧ください。
募集・私募に関する現行規制の全体像をお示ししております。左下の図を御覧いただきたいのですが、一般投資家向け勧誘については、勧誘対象者数が50人以上になると募集に該当することとなり、さらにその金額が1億円以上である場合には有価証券届出書の提出が必要となります。この1億円という閾値について、投資者保護に留意しつつ、スタートアップ等への投資をさらに推進する観点から見直しを検討できないかということが本ワーキング・グループの論点の一つとなっております。
2ページ飛ばして、資料の23ページを御覧ください。有価証券届出書の提出免除基準は、証取法の制定以降、順次引き上げられてきましたが、1998年の見直しにおいて、5億円から1億円に引き下げられるとともに、1億円から5億円の募集について簡易様式による開示を可能とする少額募集制度が新設されております。この1億円という金額の水準につきましては、当時、米国において100万ドル未満の資金調達は開示義務が免除されていたことを考慮したものと承知しております。
資料の24ページを御覧ください。発行開示書類の金額基準に係る各国比較でございますが、米・英・EUと比較しても、本邦の1億円という水準は低めになっていることが窺えます。特に米国とEUにおきましては、近年、金額水準が引き上げられております。
資料の26ページを御覧ください。次に、株式報酬に係る開示制度の見直しについてでございます。企業が自社及びその子会社の役職員に対して、自社の発行する株券やストックオプションを交付することに関しましては、届出を免除する特例措置が設けられております。この特例措置は、2007年の9月に導入されて以来、数次にわたって緩和されてきておりまして、直近では今年の2月にも見直しを行ったところでございますが、なお見直しを検討すべきとの指摘もなされているところでございます。
具体的には26ページの右下を御覧いただければと思いますが、現在、本特例措置の対象としては、株券については日本市場に上場しているものに限定されております。この結果として、日本の非上場会社や、あるいは日本市場に上場していない外国の会社が日本所在の役職員に株式報酬を交付する場合、現在は本特例措置を利用することができず、有価証券届出書の提出や、その後の継続開示が必要となります。この点については、直近の2025年2月の制度改正時のパブリックコメントにおいて、緩和を求める要望が寄せられているところでございます。
資料の28ページを御覧ください。有価証券報告書につきましては、この20年余りの間に様々な記載内容の充実が図られてきたところでございます。こうした中で、投資者にとっての利便性の向上ですとか、あるいは企業による作成負荷の軽減と、それによる企業と投資者との対話の充実といった観点から、有報の記載事項のうち相対的に有用性が低下している事項の有無を検証して、必要に応じてその整理を行うことが有益ではないかと考えられます。この点につきましては、法律事項というよりは内閣府令事項が中心となりますので、今年中ということではなく、年明け以降に別途検討、議論を行わせていただければと考えております。
資料30ページを御覧ください。こちらは御報告事項となります。本年6月末に公表された骨太の方針あるいは新資本実行計画などにおきまして、人的資本に関する情報開示の充実について提言がなされているところでございます。これを受けて当庁におきましては、内閣府令を改正し、有価証券報告書において、企業戦略と関連づけた人材戦略と、それを踏まえた従業員給与等の決定方針などの開示を求めることを検討しております。本件につきましては意見公募手続を経た上で、2026年3月期の有報から適用することを想定しております。
最後に資料33ページ、こちらに本日御議論いただきたいポイントをまとめております。先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、有価証券報告書の記載事項の見直しという点については年明け以降に改めて御議論いただきたいと思っておりまして、本日の御議論いただきたい事項にはあえて載せておりませんが、何か大きな方向性等につきまして御意見あれば、頂戴できればと思っております。
私からの説明は以上でございます。
【神作座長】
資料の御説明どうもありがとうございました。それでは、これより委員の皆様方から御意見、御質問をお伺いする討議の時間とさせていただきます。限られた時間ではございますけれども、全ての委員の方から御意見を頂戴できればと考えておりますので、お1人当たり4分程度以内で御意見を頂戴したいと存じます。
なお、本日の会議では、経過時間をお知らせするため、御発言から4分が経過したタイミングで事務局員よりメモを差し入れさせていただきます。加えて、御発言の順番につきましては、若干前後する可能性があるかと存じますけれども、あらかじめ御了承いただければ幸いです。
それでは、委員の皆様方から御意見、御質問を頂戴できればありがたく存じます。どなたからでも結構です。発言を御希望の方、意思を示していただければと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、井口委員、どうぞ。
【井口委員】
御説明どうもありがとうございました。井口でございます。まず、御議論いただきたい事項に沿って御意見申し上げたく思いますが、2点目の届出書の提出免除基準の見直しにつきましては、プロ投資家などに絞って、投資家保護を行った上でスタートアップの資金調達を活性化させるという方向について賛同いたしますので、特にこれ以上はコメントいたしません。
1点目の虚偽記載の責任のあり方のセーフハーバー・ルールについてです。現在、投資家と企業の間では、サステナビリティ情報を含む非財務情報のやり取りは主に任意の統合報告書で行われていますが、これは法定の年次報告書を中心とするグローバル先進国の資本市場の中でも異例のことであると思っておりまして、法定開示書類である有報がその中心媒体になるべきと思っております。
そのきっかけとなりますのが、今回の有報におけるサステナビリティ記載欄の設置と考えております。今後、複数の開示媒体を有報にまとめることによりまして、投資家の利便性向上と企業の開示負担の軽減を図るという観点で、統合報告書に記載されている情報の有報への円滑な移管が必要になると考えております。このような観点で考えますと、9ページの御記載にある各国の事例、特に英国の事例は参考になると思いますが、将来情報、バリューチェーン情報、見積り情報についてはセーフハーバー・ルールの対象とすることにより、企業の有報における開示促進を図るべきというふうに思っております。
もう一つの確認書の記載充実に関してですが、企業における開示プロセス構築の促進は、開示情報の精度を上げるということもありますが、開示されていますサステナビリティ事項等が経営までより明確に伝わってアクションにつながるということで、開示だけにとどまらないプロセスとして有用と思っております。また、開示・保証のワーキング第4回においては、事務局から虚偽記載の責任との関連におきまして、訴訟などのときに企業にとっても望ましいということが示されておりましたが、その意味でも記載充実は望ましいのではないかと考えております。
3点目のその他の検討事項ですが、最初の株式報酬に係る開示制度の見直しの方向性につきましては、2点目にありましたような様々な施策によって非上場株式の流通が活発化するに伴って、非上場会社においても、上場会社同様、株式報酬の活用度合いも広がると思いますので、方向性について賛同いたします。
もう一つの有報の記載事項の整理につきまして、今回の議論ではないということですが、簡単にコメントさせていただきます。適宜記載内容の妥当性を見直すということについては理解できますが、私は2017年からこのワーキングの委員をさせていただいており、確かにその当時から比べると記載事項は増えておると思いますが、慎重に有用性を見極め、記載を増やしてきたという歴史はあると思っております。したがって、記載事項の削減については慎重にすべきと思っています。一方、投資家の読みやすさ、あるいは企業の開示しやすさなどを考慮して、開示事項の順番、こういったものの入替えとか、そういうことはあり得ると思っております。
以上でございます。ありがとうございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。ほかに御意見、御質問等ございますでしょうか。
それでは、岩井委員、どうぞ。
【岩井委員】
日本製鉄の岩井です。今後よろしくお願いいたします。
御説明ありがとうございました。私のほうからは、虚偽記載に関する責任に関するところで2点、その他で2点、述べさせていただきたいと思います。
まず、論点で既に挙げていただいていますが、虚偽記載等に関する責任において、セーフハーバー・ルールについて、これについては開示に当たって企業が合理的な根拠に基づいて、かつ誠実に対応するということが大前提になると思いますが、その際に企業側が訴訟リスク等に対する萎縮で、記載内容が限定化されていくということ、これは本末転倒になりますし、訴訟対応ということになると大変ですので、過度な実務負担が求められると、こういうことがないように環境整備を行っていただくということが全体としていい方向に行くのではないかなと思います。
責任に関する適用要件については2点あります。1点目は、米国のSECの規制案と同じように、悪意または重過失による虚偽記載でない限り会社の過失責任を問わないという制度設計にしていただきたいということ、これは強く要望したいと思います。加えて、挙証責任を原告側に見直していただきたい、ということが2つ目のお願いでございます。
あと、現行制度は企業側が無過失の立証責任を負っており、今後開示が拡充されるサステナビリティ情報の特性、すなわち当事者でないScope3やサプライチェーン情報など、見積り情報であり、不確実性の高い情報が多いことを踏まえると、現状のままでは企業は積極的な開示を控える可能性が非常に高くならざるを得ないと思いますし、且つ大きな実務負荷が生じることになることから、米国同様に改正することが必要と考えています。昨今の世の中の動きを見て、一瞬先に本当に何が起こるか分からないというのは多分どの方も感じておられることだと思いますが、そういった中でも積極的な開示を促すためにも必要だと思っております。
あと、対象になる範囲については、Scope3だけではなくて、不確実性を伴うサステナビリティ情報、すなわちサプライチェーン、将来情報、見積り情報等も含めるべきだと思ってございます。以上がセーフハーバー・ルールについての意見でございます。
2つ目、虚偽記載に関する確認書制度のところでございますけれども、これについては論点でもありましたように、確認書の対象は既に有価証券報告書全体に及んでいると思いますので、記載事項の追加は不要ではないかと思います。
3つ目は有価証券報告書の記載事項の整理に関してですが、本日の議論では踏み込んだ議論ではないと思いますが、やはり継ぎはぎ的な追加ではなくて、抜本的なスクラップ・アンド・ビルドがそろそろ必要なのではないかなと思料いたします。特に有価証券報告書の提出早期化が求められている中では、一層重要な論点になってくると思います。そういう意味では、事業会社の立場としては、現行における有価証券報告書開示における項目の整理だけではなくて、会社法の開示、これとの関連も含めた横断的な議論を含めて、大きな視点で見直しが必要ではないかと考えております。
それから最後、4つ目でありますけれども、報告事項となっている人的資本に関する制度の見直しということについて、少しコメントさせていただきます。本件は、世の中の流れであり、重要性が高いと認識していますが、関係者間の十分な議論がされないまま報告事項となっていることはやや唐突感があると思いました。かつ適用も26年3月の有報からということでありますので、時期尚早ではないのかと思っております。人的資本の開示は、非常に重要なことだと思っており、簡単に、こういう記載をしてくれればいいですよというふうに整理すべきでもないような気もしますので、やはりISSBでのグローバルの人的資本の開示方針を基に、SSBJでまずは検討すべき内容ではないかと思います。ISSBでもまだ検討中という現状を鑑みると、現段階で有報における記載事項としてすぐに導入するというのは時期尚早ではないかと考えます 私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、大瀧委員、御発言ください。
【大瀧委員】
ありがとうございます。私からは、主にセーフハーバー・ルール、確認書及び有報の記載事項の3点についてコメントいたします。
まず、セーフハーバー・ルールの法的整備に当たっては、まずは対象範囲を明確化すべきであると考えております。事務局説明資料13ページでは非財務情報全体として、将来情報、統制の及ばない第三者から取得した情報及び見積り情報の3つが提案されていますが、この点についてコメントいたします。
適用範囲の検討に当たっては、サステナビリティ関連情報に限らず、広く非財務情報として議論することに異論はございません。しかし、財務情報との関連性について十分配慮する必要があると考えております。有報における非財務情報は、第5、経理の状況より前の部分と理解しておりますが、例えば見積り情報といっても、引当金のような財務数値そのものが、いわゆるMD&Aの中で記載されることもあれば、サステナビリティ関連に係る見積り情報も含まれると思います。将来情報においても、財務情報の見積りの前提となったものもあると思われます。つまり、多様な記載が含まれる非財務情報の中には、財務情報との関連性においてグラデーションが存在していると考えております。
財務情報は会計監査による信頼性が担保されており、また、財務情報との関連性のある非財務情報については、会計監査人がその他の記載内容として通読し、重要な誤りがある場合には、その事実を監査報告書に報告することが求められております。したがいまして、こうした財務情報に係る既存の信頼性確保の枠組みを保持しつつ、適用範囲を検討する必要があると考えております。さらに、法施行後の実務において対象範囲が意図せず拡大解釈され、投資家に不利益が生じることがないよう、適用範囲を狭く限定的かつ明確化したほうがよいと考えております。
次に、セーフハーバー・ルールの民事責任に関してです。金商法の基本的な枠組みである提出会社が過失の立証責任を負う挙証責任については、過去の法改正の趣旨及び投資家保護の観点から一貫して適用すべきであり、セーフハーバー・ルールにおいても維持すべきと考えております。その上で、開示の萎縮効果への対策として、過失責任を重過失責任とする案には同意しております。
もう一つ紹介されております、一定の要件の下で合理性のある開示がある場合には不正な記載とはみなされないとする免責案については同意できません。具体的にはどういった開示により免責されるのか不明瞭となる可能性があり、投資家に不利益が生じる可能性があると考えております。
行政責任の課徴金については、故意過失が問われないため、あまり厳しくならないようにという意見が紹介されておりますけれども、私は、故意過失の有無により課徴金の金額を変えるような見直しも必要ではないかと考えております。不正会計を含め、有報の虚偽記載事案が継続して発生している現状に鑑みると、逆に刑事責任の罰金及び故意過失のある課徴金については、諸外国と比較考量した上で引き上げ、虚偽記載の牽制効果を高める必要があるのではないかと考えております。セーフハーバー・ルールの議論と併せ、めりはりのある制度設計及び運用が必要ではないかと考えております。
次に確認書についてですけれども、記述拡充の方向に賛同いたします。現状の記述は米国のForm10-K等の経営者による宣誓と比較して、簡素な記述になっております。一方、会計監査においては経営者から会計監査人に対して経営者確認書が提出されておりますが、経営者確認書は詳細で充実した記述となっております。その中には、一義的には投資家に対して宣誓されるべき内容も多く含んでいると考えております。確認書の趣旨、すなわち適正な情報開示に対する経営者等の意識づけの向上を図るためには、経営者確認書や米国を参考に、確認書の記述の拡充が必要ではないかと考えております。
最後に、有報の記載内容の整理につきましては、有報の提出時期及び事業報告等の一体的開示も踏まえて検討すべきであると考えております。有報の提出時期についてはいろいろ議論されていることは承知しておりますけれども、事業年度経過後4か月以内という期限延長については、財務情報の実質的な開示後退と考えており、投資家としては同意しかねます。総会前提出の取組が進められている中、有報の記載内容を含め、課題を整理し、一方で事業報告等の一体的開示も視野に入れながら、開示全体として検討すべきであると考えております。
最後に、その他、有価証券届出書等の論点につきましては、事務局の分析及び議論の方向性については賛同しております。
私からは以上です。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、三瓶委員、御発言ください。
【三瓶委員】
三瓶です。御指名いただきありがとうございます。私もこの御議論いただきたい事項に沿ってコメントさせていただきます。
まず最初に、虚偽記載等に対する責任のあり方ですけれども、まず開示趣旨とセーフハーバー・ルール設置の判断軸の明確化が必要だというふうに思います。すなわち、情報開示を行う企業側に一定の安心感を与えるルールの透明性、明確性が重要であって、なおかつサステナビリティ情報の特性から、事例やガイダンスなど、開示のプラクティスを後押しするような運用上の機動性が重要な前提になると思います。これは、今はScope3を何となく念頭に置いて話をしていると思いますけれども、これから人権とか人的資本とか、いろいろ広がってくると思います。ですから、そういった運用上の機動性というのが重要になってくると思います。
それによって、情報開示を促すことが趣旨であるということを明確にする必要があります。その結果、市場における企業価値の評価の改善・向上が期待できます。なぜなら、情報不足は評価においてディスカウントになります。また、情報の信頼性劣後も評価においてディスカウントになります。ですから、このような理由によるディスカウントは、市場全体で捉えれば日本経済にとっての損失であり、重要な問題だというふうに考えるからです。
具体的なポイントですが、免責の対象とする責任ということでは、民事責任ということかと思います。最近、新聞の報道で、東芝の会計不正、虚偽記載の問題がありましたけども、民事裁判では問われなかったというようなことで、なかなか分かりにくい感じがするんですね。ですから民事責任について明確にしておくということが重要かなと思います。あと、対象とする情報の範囲というのは、まずは将来情報、バリューチェーン情報、見積り情報ということだと思いますが、先ほど申し上げたとおり、運用上もう少し範囲を広げる必要があるのかとかいうことは、また考えていく必要があるんだろうと思います。
内容・適用要件のところですけども、主観要件を過失責任から重過失責任に見直すということに賛同いたします。英国の戦略報告書ガイダンスを見ると、そこに法定要件の概要が次のように記載されています。取締役は、記述が虚偽または誤解を招くものであることを知っていた場合、または開示の省略――オミッションです――が重要な事実の不正な隠蔽であることを知っていた場合にのみ会社に対して責任を負うというふうに書いてあります。ですから、先ほど御説明あったとおり、過失責任から重過失の線引きはというのがありましたけれども、この「知っていた」というところはかなり明確なのではないかなと思います。これは14ページの注2を踏まえても、また、9ページの現行の被告の立証事項というところを見ても、そごがないのかなというふうに思います。
確認書の記載事項については、セーフハーバー・ルールとセットであるべきと思います。開示手続を整備していること、開示手続の実効性を確認したことを明記することでセーフハーバー・ルールの導入の前提になると、導入の妥当性が与えられるということだと思います。
次に、届出書の提出免除基準の見直しですが、強い意見はないんですけれども、提出免除基準の引上げについては何となく分かるんですけれども、どの辺にしたらいいのかという水準の妥当性とか、またそれによってどんな効果がもたらされるかという潜在効果を示す分析や客観的なデータがあると、より判断しやすいと思います。
そしてもう一つは、最近、東証でグロース市場のいろんな課題を分析しているわけですけれども、上場企業の資金調達意欲の不在という問題があります。また最近、上場以前からの財務情報に虚偽記載があって、新規上場後9か月で上場廃止になった事例なんかもあります。そういうことを踏まえると、他国との比較だけで提出免除を拡大するというのはちょっと簡単過ぎて、もう少し免除基準を見直すのには検討が必要なのではないか、注意が必要なのではないか。しないほうがいいと言っているわけではないんですけども、もう少し慎重にというところです。
次に、その他の検討事項ですけれども、自社や自社の子会社の役員・従業員に対する株式報酬に伴う有価証券届出書の提出免除というのは妥当だと思います。その際に株券とストックオプションで異なる取扱いとなっている点は、平仄をそろえるというのが妥当だと思います。
最後に、有価証券報告書の記載事項の整理については年明け以降ということですが、大きな論点として、今実際に開示はウェブベース化しています。その中でデジタル化、モジュール化など開示環境の変化があること、それと法定開示情報の位置づけとして、適時性ということと確定情報ということがありますけれども、その適時性、確定情報、またモジュール化みたいなことについて、できたところから出すようなことをしていくときでも、遡って時系列に分析をしたいというようなこともあります。ではそのときにはどういうまとまりになるのかとか、今現状の使い方、そんなことも踏まえながら、もう少しじっくり議論する必要があるのではないかなというふうに思います。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、加藤委員、御発言ください。
【加藤委員】
加藤です。よろしくお願いいたします。私も御議論いただきたい事項におおむね沿って発言いたします。
まずセーフハーバー・ルールの導入について、一般論ではありますけれども、虚偽記載などに関するセーフハーバー・ルールのあり方を考える際には、虚偽記載などに関する責任の根拠規定の構造や、我が国の司法制度に適したものとする必要があると考えます。例えば、9ページで紹介されています米国における民事責任に係るセーフハーバー・ルールの規定については、これは責任の根拠規定を問わずに、あらゆる民事責任が対象となっていると理解しております。すなわち、日本法に則して言うと、金商法上の民事責任に加えて、民法709条に基づく責任も対象になっているということです。また、セーフハーバー・ルールが適用される場合には、訴訟が早期に終了することも前提となっております。
次に、御議論いただきたい事項に挙げられております、対象となる情報の範囲についてです。どのような情報をセーフハーバー・ルールの対象とするべきであるかを考える際には、8ページで挙げられておりますサステナビリティ情報の特性によって、望ましいセーフハーバー・ルールの内容が異なる可能性がある点にも注意が必要ではないかと思います。例えば、これまでの議論というか、本日の皆様の意見でも、Scope3の情報が念頭に置かれている発言が多かったかと思います。しかし、8ページで挙げられておりますとおり、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関しては重要性がある情報を開示するということが、サステナビリティ情報に関する開示規定の基本となっています。そうしますと、重要性が認められるべきであった情報の開示がされていなかったという形で、虚偽記載などに関する責任が追及される場合もあると考えます。
こういった場合には、開示すべき事項を開示しなかった点が問題となっておりますが、開示した情報が誤っていた、結果として誤っていた場合とは、問題の状況はかなり異なります。そうしますと、情報の範囲を広げていけばいくほど、どのようなセーフハーバー・ルールが望ましいかということの微調整も必要になってくるということを注意する必要があると考えます。
3点目は、内容や適用要件についてです。こちらは非常に難しい問題でありますが、民法709条の解釈論に対しても、何らかの影響というか参考になるようなセーフハーバー・ルールをつくると考えるのであれば、一定の要件の下で合理性のある開示がなされていれば不正な記載とはみなされないとする方法にも意味があるのではないかと考えております。さらに、主観的な要件を過失責任から重過失責任に見直す方法については、事務局の御説明にもあったとおり、そもそも過失の内容自体について不明確な部分があるということに留意する必要があると思います。
最後に、セーフハーバー・ルールではありませんが、少額募集制度の廃止についても御議論いただきたい事項として掲げられております。これについては、先ほどの三瓶委員のご発言と共通する部分があるのですが、例えば5億円以上10億円未満の資金調達の状況などの情報を提供していただけるとよいのではないかと思いました。
私からは以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、藤本委員、どうぞ御発言ください。
【藤本委員】
藤本です。発言の機会をいただきましてありがとうございます。また、資料の御説明いただきましてありがとうございました。私からは、せっかく第1回目のワーキング・グループですので、少し総論的なお話もさせていただいた上で、御議論いただきたい事項についてコメントさせていただきます。
まず、今回の諮問の内容を拝見しまして、まさにそのとおりだなと考えております。スタートアップの資金調達ニーズやサステナビリティ情報開示、こういったもので情報開示としてどのようなものが必要になるのか、あるべき情報開示が何か、投資判断に当たってどういう情報が必要なのかを根本的に見直すタイミングに来ているのではないかと考えております。
具体的には2つの観点からの検討が必要だと考えています。1つ目は、開示書類の一体化・一本化の点です。ここで議論される金商法に基づく有価証券報告書や半期報告書、それ以外にも会社法に基づく計算書類や、取引所のコーポレートガバナンス報告書や適時開示情報がございます。これらを全体的に見たときに、我が国の企業にとってどのような開示書類が必要となるのか、いろいろな情報の重複があったり、企業の作成負担、効率性、こういったものも含めて本来的には検討する必要があるのではないかと考えております。また、28ページ目のところでも取り上げていただいていますけれども、複数の報告書類間の話だけではなく、有報の中でも既に多くの情報が取り上げられておりますので、サステナビリティ情報の開示が上乗せする中で、さらに情報の有用性や項目の重複感などを踏まえて御検討いただく必要があると考えております。
2点目は、開示のタイミングでございます。これもサステナビリティ情報の開示が拡充されてきて、ステークホルダーによって、このタイミングについてはいろいろな考え方があるだろうと思っていますけれども、しっかり議論して、望ましい時期というものを検討すべきではないかと考えております。これはサステナビリティ情報開示が一つのきっかけになるのではないかと考えております。
それでは、個別の論点に移らせていただきまして、まず、セーフハーバー・ルールの導入です。こちらについては基本的に賛同いたしております。ただ、対象とする情報の範囲について、具体的な定義が必要ではないかと考えております。今投影いただいている13ページ目のところに、例えばということで「見積り情報(将来情報等)」という記載がございます。この見積り情報というのは、必ずしも将来情報と同じものかというと、そうでもないかと、例えば財務諸表においては既に会計上の見積りがあり、これについて会計処理され、監査も行われております。そのような中で、この見積り情報という言葉によって財務情報との混同がなされないように、十分に御留意をいただいて検討いただきたいと思います。
また、Scope1のGHG排出量につきましては、排出係数に活動量を乗じて算定されると理解しており、一部見積りの要素は入っていますけれども、ある意味、確度の高い見積り情報とも考えられるので、これをセーフハーバー・ルールの対象とするのか、明示的に整理をする必要があるだろうと考えております。また、統制の及ばない第三者から取得した情報につきましても、バリューチェーン上の取引先から情報を入手する情報、これはそうかなと思いますけれども、例えば情報ベンダー経由で入手する係数なども含まれるようにも読めます。要するに適用範囲がいたずらに広がってしまうということにならないように、慎重に検討する必要があるのではないかということでございます。
それから、確認書制度です。こちらは18ページ目にあるように、平成14年のディスクロージャーワーキング・グループの報告書のとおり、有価証券報告書等の適正性の一層の確保に向けた経営者の姿勢を明確に示すことは極めて重要だと考えております。情報開示に対する責任を負っているということ、必要な情報を宣誓していただくことが市場にとって望ましい姿だと考えております。
それから、届出書の提出免除基準の見直しですけれども、こちらについては基本的に賛同いたしますが、あくまでも投資家保護、この観点は確認しつつということだと思います。それから株式報酬についても、見直しの方向性については賛同いたしております。
私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、田代委員、どうぞ御発言ください。
【田代委員】
ありがとうございます。私のほうからは、最後のページにございます御議論いただきたい事項について、幾つかお話しさせていただきたいと思います。
まずセーフハーバー・ルールの導入につきましては、こちらは導入することには賛成なんですけども、導入するときに、どうしてこれが必要なのかという説明を丁寧にする必要があるのではないかと思います。また、対象とする情報の範囲につきましては、将来情報や第三者から得た情報、見積り情報を対象とすることに賛同いたしますが、例えばガバナンスもサステナビリティでカバーしておりますが、過去情報に及ぶようなものに拡張することについては十分検討する必要があるのではないかと思います。
逆にこれを、将来情報、見積り情報をカバーすることによって、もちろん開示の萎縮を防ぐということが特にサステナビリティ情報で念頭に置かれていると思いますが、私が非常に印象に残っておりますのが、恐らくディスクロージャーワーキング・グループに初めて参加させていただいた頃だと思いますけども、ちょうどコロナがありまして、コロナで負った企業の影響というのが、欧米では臨時報告書などを使ってかなり広く開示されていた状況に対して、日本の企業はほとんど開示がなかったというふうに記憶しております。これなども、非常に重要な情報であった場合は、例えばこのセーフハーバーを使って開示するというように、積極的な開示が進むようにする必要があるのではないかというふうに考えております。
また、確認書につきましては、私は追記に反対するわけではございませんが、現状の記載でも同様の手続が求められているのではないかというふうに考えております。
また、有価証券届出書の金額を引き上げることに関しましては、やはり資本市場を活用して企業が資金調達するルートを広げるという意味で非常に有意義なものだと思いますし、賛成でございます。ただ、1つ気をつけなければいけないと思いますのが、もともと非常に情報の非対称性が大きく、リスクのある資金調達である可能性がある中で、どういった投資家を念頭にこれを広げていくかというのが非常に重要だと思います。特に日本市場においては、これからVCが成長していくとか、IPOも個人投資家に非常に頼っているという状況の中での引上げとなると思いますので、引き上げるという前提だとは思いますけれども、ここは十分に考える、また状況を追っていく必要があるのではないかと思います。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
それでは、樋爪委員、御発言ください。
【樋爪委員】
発言の機会をいただきましてありがとうございます。今回より参加させていただきます住友電気工業の樋爪と申します。よろしくお願いいたします。
事務局の皆様におかれましては、資料の取りまとめと御説明ありがとうございます。私からは、33ページの御議論いただきたい事項のうち、主に虚偽記載の責任のあり方について、幾つかコメントさせていただきます。
まず、セーフハーバー・ルールの導入に関しましては、3点ほど申し上げます。
1点目の免責の対象とする責任につきましては、民事責任に関して、9ページの米国や英国の例を参考にしまして、年次報告書の虚偽記載についての責任を諸外国と同等の取扱いにする方向で御検討いただきたいと思います。我が国の制度は企業側に立証責任があるという点で、他国と比べて、企業側にとって厳しい制度となっているかと思いますので、ここを見直すことが企業の積極的な開示を促すというセーフハーバーの設定目的の達成に重要な点であると考えます。
それから、2点目の対象とする情報の範囲についてですが、13ページに記載のとおり、非財務情報のうち、将来情報、第三者から取得した情報、見積り情報などを対象とするのが望ましいと考えます。SSBJ基準の中で、Scope3だけでなく、財務的影響なども対象となるようにすべきと考えます。なお、諸外国の先行事例を参考に、どのような情報がここでいう将来情報に当たるのか、事例の御紹介などがあると、作成者の一層の理解促進につながると考えます。
それから3点目、セーフハーバーの内容・適用要件についてですが、14ページに①と②のパターンを挙げていただいておりますが、先ほどの企業側の立証責任の観点から、サステナビリティワーキング・グループにおける御意見の2つ目に記載されている、合理的な根拠がなく、または誠実に開示しなかったことが証明されない限り、不正な記載とみなされないとするSECの気候変動規則案に近い内容とすることが望ましいと考えておりまして、その意味で、企業側の立証責任がないものとすることを条件として②を採用することが、作成者が萎縮しないルールづくりの観点でよいのではないかと考えます。何が合理性があるのかないのかといった明確化については議論、検討が必要かなというふうに思います。
なお、説明資料7ページ目の下段のサステナビリティワーキング・グループの中間論点整理の概要の1つ目の要件、2つございますが、こちらは立証責任が企業にあり、SECの気候変動規則案よりも厳しいことから、これらの要件を採用することには賛同いたしかねます。
次に、確認書の記載事項について申し上げますと、開示手続を整備していることや、開示手続の実効性を確認したことを追加することについては、確認書を作成する企業の意見としましては賛同いたしかねます。16ページの下段にも記載されておりますが、確認書の対象は既に有報全体に及んでおりまして、サステナビリティ開示基準が導入されるからといって、こうした追加をすることの必要性が不明であると考えております。そうした中で追加内容の記述がいたずらに増加してしまうことを懸念しております。
それから、株式報酬に関しての有価証券届出書の提出を不要とする特例措置の見直しの方向性についてでありますけれども、26ページの2番に記載のように、非上場会社や外国の会社の場合に有価証券届出書の提出が必要になるというのは、制度として一貫性に欠け、不十分な部分があるのではないかと考えますので、株券の特例の適用要件を新株予約権証券と同様にすることが望ましいと考えます。
最後に、有価証券報告書の記載事項の整理についてでございます。今回は検討テーマとして取り上げられなかったわけですけれども、先ほど来御発言ございましたとおり、開示項目が年々増える中で有報の提出早期化が求められているということも考えますと、投資家にとって有用性が限定的な項目、また企業側の負担が大きい項目につきましては開示対象から外していくということが必須であり、本ワーキング・グループで実現できればと考えます。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
それではここで、オンラインで御参加の委員の皆様から御発言をいただきたいと思います。初めに松井委員、どうぞ御発言ください。
【松井委員】
発言の機会をいただきありがとうございます。東京大学の松井です。本ワーキング・グループでの議論のうち、セーフハーバー・ルールについて発言いたします。
サステナビリティワーキング・グループでは、開示することとされている事項が将来の予測を含むことや、他者から入手した情報に依拠していることに基づく虚偽記載のリスクが問題となりました。こうした情報の不確かさの特徴というのは、非財務情報についても共通する特徴です。特に非財務情報一般については、従来のガイドラインにおいて、記載事項について合理的な検討がなされたとの立証ができることが要求されており、特に重要と判断しなかったので記載をしなかった、あるいは検討をしなかったといった場合の扱いについて不安が残る一方で、何を記載するかの取捨選択の幅がサステナビリティ情報と比べても一層広いため、有用かもしれないと思ったら何でも検討しなくてはいけないのか、あるいはそのくらいだったら何も書かないほうがよいのかとか、書かなくても虚偽記載責任の発生を回避できないのではないかなど、企業の不安要素が増加し、重要と考えている情報を積極的に開示できないというような、非財務情報の目的に反する状況になるのではないかと思われる状況でもありました。したがって、非財務情報の内容が増加していくことが予想される中、非財務情報についてもセーフハーバーを入れることについて賛成したいと思います。
アメリカなどで発生している訴訟の状況を見ると、設備の安全性に係る開示について、当該設備が事故を起こした場合のイベントドリブン訴訟が起きるであるとか、あるいは素材の性能、環境負荷について開示をしていたが、製品の性能がこれと異なっていたという際にイベントドリブン訴訟が起きるといった状況があり、特にスタートアップ間もない会社が、勝訴したけれども、この訴訟によるイメージダウンを一つの要因としてチャプター11を申請するようになったのではないかと思われる事例なども見られるところです。したがって、非財務情報の中で経営陣の予測が難しい情報にはリスクが高まっていると思います。
ただ、その制度をどのように設計するのかという点について、例えば戦略報告書一般について責任を規定するというのと異なり、1つの有報の中にある様々な情報の一部についてセーフハーバーを導入することで、制度の適用対象となる部分とならない部分とで責任状況が大きく分かれてしまうということに留意をしなければならないと思います。既に大瀧委員から御発言ありましたように、財務情報との境界、あるいは将来情報と現在情報の境界が不明瞭にならないような十分な整理が必要だということについて触れておきたいと思います。
法制としては、一定のアクションを取ったことによって一通りの体制が整備されていれば責任が問われないという書き方をすることは、法技術として分かりやすいものと思います。一方で、体制整備というアクションが免責のトリガーとなる制度をつくった場合、そのアクションでカバーされていた事項は何かということが問題になります。先ほど挙げたような素材の性能や環境負荷というのは現在情報だと思いますが、これが市場で出回ったときにどの程度CO2削減効果があるかということについては不確定要素があるわけです。設計値としての、例えば設備の安全性というのは現在情報かもしれませんが、これがどの程度の苛酷環境に耐えられるかというのは不確実な要素を含むことになります。
こういった現在情報と将来情報の混合というのがセーフハーバーの適用の対象となるのだろうと思いますけれども、同様に、例えばMD&Aの投資金額なども財務情報でありますが、これと将来予測が混合した記述というのも存在し得るわけで、これらを検討する体制が満たされたということをどう確認するのかという実施上の問題というのが企業の実施の上では出てくる可能性があるかと考えます。ただ、こうした問題は主観要件を調整する立てつけの場合にも、故意あるいは重過失の対象をどうするのかという形で出てくるようにも思いますけれども、いずれにせよルールの適用によって安心が実際に確保されるような法律構成を考えていく必要があるだろうと思っております。
課徴金については、日本では課徴金が発生した後で民事責任が問われるという構造がありますが、民事責任についてのセーフハーバー・ルールと課徴金が必ずしも連動せず、主として行政が開示インセンティブを担保するような制度が望ましいのではないかと存じます。
有価証券届出書の提出免除基準につきましては、まずはこの改正によって対象となりそうな企業及び投資家がどのようなものか、また、資金調達ニーズの規模が実際どのような感じで、改正によってどう影響を受けるのかといった現状把握というものが重要かと思いますので、引き続きそういったことも含めた御検討を続けていくということをお願いしたいと思います。
以上です。よろしくお願いいたします。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、黒沼委員、どうぞ。
【黒沼委員】
黒沼です。よろしくお願いします。私もセーフハーバー・ルールの導入に関し、何点か発言したいと思います。
まず導入の目的ですが、強制的開示制度では、基本的に開示すべき情報の項目は決まっているわけです。サステナビリティ情報についても詳細な開示基準が整備されつつあります。このような強制的な開示制度において、開示を促すとか開示の萎縮を防ぐとはどういう意味かということを明確にして議論を進めていくべきだと思います。
次に、免責の対象となる責任ですが、これは今申したセーフハーバー・ルール導入の目的に照らして政策的に判断すべき問題だと思います。刑事責任の追及は謙抑的にされていると思いますので、特段免責規定を設ける必要はないと思います。行政責任については考え方が分かれるところだと思いますが、エンフォースメントの手段を確保しておくために、免責にしないほうがよいのではないかと思います。民事責任については、有価証券報告書の充実のための環境整備というセーフハーバー・ルールの目的に照らして、対象とすべきだろうと考えます。
次に、対象とする情報の範囲をどう考えるかですが、私は、非財務情報一般を適用範囲とする理由が理解できないところであります。松井委員の御発言でその点の御説明もあったわけですけれども、財務情報については何を開示すべきかが明確に定まっていないから、セーフハーバー・ルールをつくることによって積極的な開示を促すという御趣旨だと思います。もしそうだとすると、それは情報の性質が不確実なために責任を負うリスクが高まるという観点で導入すべきセーフハーバー・ルールとは違った性質のものではないかと思います。そうすると、そういう点で何らかの規定を設ける必要があるとしても、それは別個に議論すべき問題ではないかと思いました。私の考えとしては、情報の性質を踏まえて、将来情報、不確実性の高い情報、第三者提供情報といった、一定の範囲に限定すべきであると考えています。
次に、内容・適用要件についてですが、主観的要件を見直すという形にする場合には、これは解釈の幅があって、確実に、または一定の手続を履践した場合に免責を受けられるとは限られないおそれがあるので、やはりここは一定の手続を履践すれば虚偽記載に当たらないとか責任を負わないとする方法が適当だと思います。どちらがいいかということが問題になるのですけれども、責任を負わないとする方法は、なぜ責任を負わないのかが理論的に明確にできない部分があるので、虚偽記載に当たらないという形で免責を与えるのが適当ではないかと考えています。
こうした観点から、将来情報は、開示の時点では真実の情報がない、存在しない情報、不確実性の高い情報は、開示時点では真実の情報は存在するけれども、それを知るのが難しい情報と整理できます。これらの情報については、一定の手続を取れば虚偽記載に当たらないとする構成が自然だと思います。第三者提供情報については、それが提供される時点で虚偽である場合を否定できないため虚偽記載にならないとする構成はやや不自然であり、この場合に限って一定の場合に直接的に免責する方法が適当ではないかと考えます。
私からは以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、永沢委員、御発言ください。
【永沢委員】
永沢です。発言の機会をいただきありがとうございます。
私もディスクロージャーワーキング・グループが設置された初期の頃から、個人投資家という立場で参加をさせていただいております。投資において自己責任が求められるわけですけれども、投資の自己責任の大前提となるのが、間違いのない情報をタイムリーに企業の方々に御提供いただくことであり、それを担保いただいているのが、この有価証券報告書制度を中核とする情報開示制度、ディスクロージャー制度であると理解認識しておるわけですが、他の委員からの御意見にもありましたように、投資判断に財務情報以外の非財務情報を必要とする時代になってきており、有価証券報告書制度も変化に適応していくことが求められていることを改めて感じております。
以下、事務局から御提示いただいた議論いただきたい事項について、幾つか簡単な意見を申し述べさせていただきたいと思います。
まず1つ目のところでございますけれども、非財務情報の開示の充実とともに、信頼できる情報開示制度を維持していくことが必要です。非財務情報は財務情報と違って確かさになかなか難しいところがあると思いますが、だからこそ信頼できる制度に仕上げていくことが必要です。企業側が萎縮しないようにという配慮はもちろん必要ですが、法定の開示情報制度として位置づけて、有価証券報告書制度にまとめていくという方向性、井口委員の御意見がそうだったと思いますが、私は賛成です。
続いて確認書制度につきましては、非財務情報だからこそ、適正な開示の手続や実効性の確保という観点からその重要性があると考えますし、経営者の姿勢を明確に示していただきたいとも思いますので、事務局から示されている考え方に賛成いたします。
それから、2つ目の有価証券届出書の提出免除基準を引き上げる方向性については、スタートアップ企業を育成していくための資金調達のあり方が議論されている中、有価証券届出書の提出がスタートアップ企業にとって負担になっているという話も聞こえてきております。反対するものではありませんが、特定投資家の範囲の見直しをしてその層を広げていくことが検討されていることも考え併せますと、ほかの委員の先生方と同じく、私も慎重な議論が必要であると考えます。
また、海外で引き上げられたから日本でも同じように引き上げればいいという考えは安易だと思います。最近、グロース市場に上場してすぐに、上場以前から粉飾していたことが明らかになり、驚いたわけですが、こうしたことは滅多にないことと言われるものの、こうした虚偽の情報開示で個人投資家が被害を被ることを防ぐためにはどうしたらいいのかを考えていく必要もあり、金額の見直しだけではなく、投資者保護をこの領域でどう実効性の高いものにできるのか、他の要件も併せて検討いただきたいと思います。
最後のところになりますが、有価証券報告書の記載事項の整理については、私も時代が求めるものが変わってきておりますので、いつまでも同じ項目でいいのかという問題提起には賛成であり、見直しをしていくことが必要であると思います。その際、項目を減らすということは慎重であって欲しいと思います。一方、拡充すればいいわけでもないとも思います。一旦拡充してしまうと企業側の開示の負担が大きくなり、使われないと形骸化しがちになることから、それもまたよろしくないと思います。実務の方々に参画いただき、どういう情報がこれからの投資判断に必要となるのかを中期的な視点から考えていただき、項目だけではなく、順番や記載の方法なども検討いただくことが必要であると思います。
私からは、雑駁な意見ではございますが、以上でございます。ありがとうございました。失礼いたします。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、飯田委員、どうぞ御発言ください。
【飯田委員】
飯田です。第1回ですので、要件の細部にはあまり立ち入らずに、大きな方向性について述べたいと思います。
セーフハーバーに関して何点かあるんですが、第1にサステナビリティ情報の特徴についてですが、これは不確実性もさることながら、サステナビリティ情報には様々なタイプの情報が今後含まれてくる可能性があるものだと思います。ですから、企業価値とか株価への影響が不明確なものが含まれることにも特徴があるように思います。他方で現行の虚偽記載等の損害賠償責任というのは、虚偽記載等と相当因果関係のある株価の下落について損害賠償を認めるというのが判例法理だと思います。このことからも明らかなように、既存の責任制度というのは、企業価値や株価への影響があるという意味での虚偽記載の程度が重要であるという場合に発動するものであると思います。ですから、株価への影響が未解明であるサステナビリティ情報について、そもそも既存の責任制度の枠組みを適用することが妥当なのかということ自体から、本当は立法論上の論点として検討すべきようにも思っております。今回のワーキング・グループではそこまでは立ち入らないのだろうとは思いますけれども、前提としてそういう問題意識をもっております。
既存の責任制度を適用するという前提で考えたとしても、例えば21条の2など責任を規定する条文における重要性の要件の意味については確認しておく必要があるように思います。つまり、現在の条文の文言は「重要な事項について虚偽の記載があり」というものですが、これは有価証券報告書に記載されていることが重要な事項であって、そこに虚偽があれば直ちに責任が発生する、というタイプの意味ではないということを確認しておくべきだと思います。つまり、虚偽記載の程度が投資家の投資判断に重大な影響を与えるという意味で、虚偽記載等の文脈での重要性の概念というのは機能していくべきものと思います。ですから立法論としては、虚偽記載の程度の重要性が問われている要件としての重要性なのだということが分かるような文言に、21条の2その他の関連する条文の文言を改正する、ないしは解釈を明確化することも検討の価値があると思います。
2点目として、セーフハーバーの導入に関してですけれども、適用範囲の方向性は事務局資料のとおりでよいかなと思います。内容の方向性については、一定の場合に免責するという方法が適当であって、例えば書類作成時における一般に合理的と認められるプロセスや手法が用いられて書類を作成し、そのプロセス等がきちんと開示されているということであれば虚偽記載はないという方向で解釈する、ないしはセーフハーバーの立法をするのであれば立法するという方向がいいのではないかなと思っております。虚偽記載というのは、これは損害賠償、課徴金、刑事責任のいずれにも共通する要件ですから、民事、刑事、行政のいずれも対象とするセーフハーバーということになるかと思います。
もちろん主観要件の見直しをするということも併せて検討してよいと思いますが、21条の2の主観要件を重過失に変更するという案を考えるのであれば、それは非財務情報に限定したセーフハーバーとするよりは、財務情報の虚偽記載も含めて、民事責任規定のあり方を根本的に再検討する文脈でじっくり検討するべきことのように思っております。
少なくとも今回の話のように、セーフハーバーを導入して発行者に過大な負荷がかかるのを避けるという目的で改正する場合に、21条の2の主観要件を重過失に変更するだけの改正だけで終わるというような結論は避けるべきように思います。そういう改正が行われること自体も賛否あり得ると思いますが、それだけだと不十分だと思います。
理由は幾つかあるのですが、まず資料で紹介されている英米の制度は、それぞれの国のコモンローにおける詐欺の不法行為に基づく損害賠償請求の要件を前提にして、証券訴訟の虚偽記載の損害賠償の要件が組み立てられております。日本の民法709条の不法行為とは背景となる法制度がかなり異なっているわけであります。
また、21条の2の要件を重過失に変更しても、民法709条に基づく損害賠償請求は防げないということになってしまいます。金融商品取引法で、民法や会社法に基づく損害賠償の責任の性質を重過失に変更するという立法をすればいいのかもしれませんけれども、それには慎重な検討が必要なように思います。
それから、重過失と過失の違いというのは、これは裁判所の認定した事実の規範的評価に依存する、かなり微妙なものでありますから、セーフハーバーとしての明確性が不十分であって、裁判では証拠調べも全部やって、判決の段階で初めて責任の有無が判明するというものにすぎませんから、発行者の負担軽減という視点から見て十分な方策とは言えないようにも思います。
また、有価証券届出書に記載された事項の虚偽記載に係る発行者の責任というのも視野に入れて考えるべきだと思いますから、金商法18条では無過失責任ということになりますから、21条の2の責任の性質を重過失に変更するというだけでは、18条との関係ではセーフハーバーがないということになってしまうということにも留意する必要があると思います。
第3に、検討すべき事項の不足があるかということですが、民事責任については、保証を担当する者の責任について、具体的に誰がするのかというのは議論の途中なのかと思いますが、金商法21条1項3号とか2項2号のような責任を課すという方向で考えていくのか、それとももう全然免責するという方向で考えていくのか、いずれにしても、発行者だけでなく、保証の担い手の責任についても正面から検討すべきように思います。
時間が限られていると思いますので、私からは差し当たり以上とさせていただきます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、阪委員、御発言ください。
【阪委員】
ありがとうございます。阪と申します。これまでの議論をまとめていただきありがとうございます。私からは3点申し上げます。
1つ目はセーフハーバー・ルールについてです。範囲については、御提案いただいております将来情報、統制の及ばない第三者から取得した情報、見積り情報を対象とすることに賛同しております。他の委員から具体的な定義が必要という意見もあり、私も明確化が必要かと思っております。御意見ありましたように、適用範囲がいたずらに広がってしまうことを避けることも必要ですし、限定され過ぎないことも必要かと思います。例えば将来情報について、ここではSSBJ基準上のコア・コンテンツの「将来の何々」と書いてある部分に限定されない将来情報かと理解しておりますので、その辺りも分かりやすくしていただくとよいのではと思っております。
責任に関しては、SSBJのサステナビリティ開示基準は、基準を適用した結果として開示される情報が国際的に比較可能であるということを重視し、ISSB基準との整合性が図られています。サステナビリティ基準はサステナビリティを会計言語に取り入れることで、よりレジリエントな経済を世界全体で構築しようとするものです。サステナビリティ課題はグローバルな課題であり、グローバルでの取組が必要です。そのため、開示基準同様、各国制度を踏まえたセーフハーバー・ルールのグローバルな整合性というものが、サステナビリティ情報の場合にはより必要であると思っております。
それから、既に他の委員からの御意見もありました、重要な情報が開示されないことに関して、これを回避するための過剰な開示準備を社会全体で回避することも必要かと感じておりますので、何らかの配慮があればありがたく感じております。
2つ目は確認書についてです。SSBJ適用基準において、重要性の判断において利用者の特性と企業自身の状況を考慮しなければならないとされていますように、サステナビリティ情報では、こういった企業の判断がより強く求められると思っております。そのため、経営者の意識づけを向上させ、手続の整備と実効性の確認を求める御提案に賛同しております。
3つ目は、本日は議論しない内容ですけれども、資料最後の人的資本開示におきまして、人材戦略に関する方針を冒頭に開示させるということは非常に望ましいと思っております。現在、人的資本の開示については、一般基準を踏まえて、どこまで開示すべきかに悩んでおられるところも多いと思いますが、企業戦略との関連が重要ということで、広過ぎる開示を求めているわけではないというメッセージにもなるのではないかと思っております。
私からは以上です。どうもありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、オンラインで御参加の小林委員、御発言ください。
【小林委員】
小林です。では本日は、御議論いただきたい事項の幾つかについて発言させていただきます。
まずセーフハーバー・ルールです。細かい点は置いておくとして、今回情報開示の促進のためにセーフハーバー・ルールを導入するということですが、これが今後様々な場面でのセーフハーバー・ルールの拡充あるいは導入の柱になると思うので、まずはしっかりとした議論をしていく必要があると思います。その点において、免責の対象とする責任が民事を対象とするということについては賛同いたします。
対象とする情報の範囲については、今、気候変動を前提に考えられており、幾つか例が挙がっているかと思いますが、今後、ほかの非財務関係の情報についても拡充していく可能性があることを考えますと、まずは「一定の場合」というのが、内容・適用要件に関して、どういった内容かが非常に重要になると思いますので、その点に関してしっかり柱となる考え方を今後議論し、その上で何に適用するか決めていくことが必要ではないかと思います。
確認書の記載事項として、既に今の確認が有価証券報告書全体に及んでいるという議論はもっともです。しかし今回、非財務情報については不確定な要素を含む情報が多い開示という点はこれまでとは大きく異なっており、そこにおいては開示の手続あるいはガバナンスというのが非常に重要になります。この点を改めて強調する意味で実効性の確認をしたことの追加ということは、私は妥当と思います。
届出書の提出免除基準についてです。特にスタートアップへの負荷を考えますと、提出免除基準の引上げというのは私は妥当と思う一方で、私自身がスタートアップを支援しているところから見えてくるのは、スタートアップの場合は、投資家からの資金を得て事業を拡大してくにふさわしい社内の体制とか、あるいは意識というのがまだまだ十分ではないケースが非常に多いと感じています。そういった中で、むしろ有価証券届出書、あるいは開示をするということが企業経営の意識づけ、ガバナンス体制などの、企業として投資家からお金を頂く上での重要な責任意識の向上にも役に立っていると思います。提出免除基準の変更に当たっては、開示の負担と開示要件の重要性のバランスというのをしっかりと考えていく必要があると思います。単に免除基準の引上げをすればいいということではなくて、開示内容も含めて、何が本当にスタートアップの段階では必要なのかというようなことを含めて、今後この届出書の開示のあり方を考えていく必要があるのではないかと思います。ここはしっかりと時間をかけて議論をしていただくことを期待しています。
それから、最後の検討事項ですけれども、これは企業の属性によって特例措置が受けられるか受けられないのかということが変わってしまうのは適切ではないと思うので、私はこれは見直しの方向性で議論を進めてよいのではないかと思います。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、高村委員、御発言お願いいたします。
【高村委員】
神作先生、ありがとうございます。私からは、虚偽記載等に対する責任のあり方について、セーフハーバー・ルールで対象とする情報の範囲と適用の要件について、それぞれ大きく2点、発言させていただこうと思います。
スライドの13にございます対象とする情報の範囲についてであります。まず第1点目ですけれども、事務局資料のスライドの2で企業の情報開示制度の意義についてまとめていただいておりますけれども、やはり企業が提供する情報が、投資判断、そして企業価値の評価と建設的な対話に資するような情報の信頼性を担保するということが、サステナビリティ情報についても同様に必要だというふうに思っております。
サステナビリティ情報開示で開示が要求されている情報というものを見てまいりますと、これはISSB、それからSSBJ基準にも書かれておりますけれども、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会に関して、投資家、利用者が行う意思決定に影響を与えると合理的に見込み得るという意味において重要性がある情報を開示するということかと思います。その意味で、開示が求められるサステナビリティ情報を見てまいりますと、将来情報、例えばシナリオ分析を用いた将来のリスク・機会の識別、その情報、さらにはバリューチェーンに関する情報、例えば、例にも挙がっておりますScope3の排出量なども含まれているということかと思います。
ただ、サステナビリティ開示・保証のワーキングの意見として今回も紹介されておりますけれども、このセーフハーバー・ルールをサステナビリティ情報全体に広げるというのは妥当ではないというふうに思っております。これまでも委員から御発言ありましたように、開示が求められるサステナビリティ情報も様々であります。例えば、開示が求められるサステナビリティ情報について見てまいりますと、SSBJの一般開示基準、気候基準のコア・コンテンツの中でも、例えばガバナンス、サステナビリティ関連のリスク・機会をモニタリングし、管理し、監督するために企業が用いるガバナンスのプロセス、統制及び手続や、あるいはリスク及び機会を識別し、評価し、優先順位づけをし、モニタリングをするプロセス、これはまさにコア・コンテンツの開示の対象とする目的、開示の目的でもありますけれども、これらの情報はまさに現在情報であり、この情報の信頼性の確保は極めて重要だというふうに思います。
例えばこれらの情報にセーフハーバー・ルールを適用するというのは、妥当ではないと思います。サステナビリティ情報のコアとなる情報の信頼性を担保するということを考えながら、しかしながらサステナビリティ情報が伴っている特質に照らして開示の萎縮効果を抑えていく、そうした対応が必要であるというふうに思います。その意味で、スライドの13で事務局が提案していただいている方向性、不確実性が高く、正確性を求めることが投資家のニーズや企業負担の観点から必ずしも相当とは言えない情報として、将来情報、統制の及ばない第三者からの取得情報、見積り情報を対象とするという大筋の方向性には賛同いたします。
ただ、これまでも委員からありましたように、これに何が該当するかの明確化は、開示をする側にとっても、利用者にとっても、あるいは保証を提供する側にとっても重要だと考えます。例えば見積り情報について例を挙げますと、Scope1、Scope2の排出量も、一定の見積り情報を用いて算定される場合があり得ます。この見積り情報全てがセーフハーバー・ルールの適用対象となるといたしますと、その範囲が非常に広くなってしまうことを懸念いたします。その意味でも、これに何が該当するのか、適用範囲に何が該当するのかの明確化というのが非常に重要だと考えております。
2点目がセーフハーバー・ルールの適用要件、スライド14のところであります。先ほどスライド13にありました将来情報や第三者取得情報あるいは見積り情報を対象とするということを大筋の方向性としつつも、それでは、これらの情報であれば全てセーフハーバー・ルールが適用され、全て免責されるのか、あるいは将来情報がどのような形で生み出されていてもよいのか、あるいはどのような第三者から取得したものでもよいのかという点でいくと、やはり一定の合理性のある情報であるということが必要であろうと思います。例えば将来情報について例を挙げれば、先ほど申し上げましたサステナビリティ情報関連のリスク・機会を識別、評価、優先づけをするプロセスがどうなっているか、どのようなプロセスから生み出された将来情報なのかということが合理性を持ったものであることが確認されるということは必要なように思います。
その意味で、事務局から御提示いただいている②の一定の要件の下での合理性のある開示という合理性の基準は検討に値する点であろうかと思います。これはSSBJの開示基準とも整合するというふうに思っていまして、先ほど御紹介したように、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会について、投資家の意思決定に影響を与えると合理的に見込み得る情報について開示をするという観点からいたしますと、この合理性、情報について厳格な正確性を求めていないにしても、開示情報が企業の見通しに影響を与えると合理的な裏づけのあったものでないといけないということであろうかと思います。その意味で、事務局からも提案いただいていますけれども、この合理性の要件について、さらにその明確化を目指して検討を深める必要があるかというふうに思っております。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。ほかに。
清原委員、御発言ください。
【清原委員】
ありがとうございます。私からも御議論いただきたい事項に沿ってコメントさせていただければと思います。
セーフハーバー・ルールのところでありますけれども、一番最初の対象とする情報の範囲、これは資料にありますように、将来情報、統制の及ばない第三者から取得した情報、見積り情報、これを出発点として対象とするということに賛同します。他方、どの開示項目がそれぞれどれに当たるかということについて、ある程度の明確性があることが企業の開示の姿勢についてもプラスに働くと期待されるので、項目として法律上は大きな枠でいいと思うんですけれども、ガイドラインもしくは内閣府令、いずれでもいいんですが、明確化をする方策を伴った形で制度を構築していっていただくことが、企業サイドにも便宜で、また投資家としても、そういった項目を見る上で何をどの程度信頼していいのかということの理解にもつながるということがあるので、適切ではないかというふうに考えています。
ちなみに、資料13ページのところ、ここでちょっと読みにくいかなと思うのが、その3つが挙げられた後、括弧で「将来情報等」というふうに書いてあって、これが見積り情報だけにかかるかのように読まれてしまうと分かりにくいので、これは3つの大きな項目を総称してこのように「将来情報等」としているという資料の記載のされ方であることが誤解なく伝わるようにしていただければと考えるところであります。
次に要件のところですけれども、ほかの委員の方からの御意見にあったように、重過失に見直すことについて慎重に考えていくという考え方に賛同するところもあるのですが、ただ、既に21条の2の過失、無過失というところについて、やはりやや過剰かなというか、厳しい責任が企業側に課されているかなということも考えられるので、ここも、ほかの委員の方の御意見の趣旨も分かるんですけれども、21条の2の見直しというところも今回俎上に上げてよいのではないかなと考えます。
過失と重過失の区別がなかなか容易ではないし、裁判所の判断が見通せないのはそうだとしても、軽微な過失まで責任を問われるものではないというメッセージも非常に大きな意味があるのだろうと思われます。すなわち今回、不確実な情報を含めて企業側に何を求めるかというと、開示において、やはりある程度期待されるやるべきことをすれば責任につながらないということがメッセージとして明確に共有されるということに大きな価値があって、それは過失責任、重過失責任、ここのところにおいても法文上、反映されているという形で、そういった意識が共通になり、かつそういったものが実務で積み重ねられたときに、では裁判所が軽過失のところまで重過失と同じように認めていくかというと、それはまだ分からないですけれども、そういったときに、今までの裁判所がそうだったからこのまま将来もそうだということになるのか。はっきりとした法制として、立法政策として考えて示していく、これも一つの考え方としてあるんじゃないかと考えるものです。
次に、具体的な要件としては、こちらに挙げてあるように、一定の要件の下で合理性のある開示がなされている、そういった場合には免責という形になるというのは非常に分かりやすいんですけれども、この一定の要件、ここのところ今回はまだ明示がないのですけれども、今後より具体的に考えていくということで進めていくことでいいのではないかと思うので、考え方としてはこれでよいと思います。
そして、今求められているのは企業サイドのほうに、やはり開示体制、そういった開示の手続などをしっかりと整備していただいて、それを単に構築しただけでなくて、しっかり運用をして開示していただくということ、これを期待しているし、それがあって初めて免責につながるべきことをはっきりさせるという意味で、確認書のところに記載がされるというのは非常に有用であり、かつ必要だろうと思います。確認書のところでは概括的に書かれるんだけれども、それが実際にどういう体制かということに関しては有価証券報告書のところでしっかり開示いただいて、ガバナンスが利いているんだということが共有されるような、そういった開示制度の仕組みに進んでいくことというのは非常に重要ではないかと考えています。
そして、免責の対象とする責任、考え方として民事責任が中心だというところに賛同なのですが、そして、刑事は故意責任だということで大丈夫だと思うんですけれども、行政のところが、エンフォースメントの手段を残すという点について、それはそうなんですが、やはり企業サイドがそういったしっかりとした開示をしているということを前提として虚偽記載があったときに、虚偽記載につながったような実情があったときに、行政のほうはそこのところを、ちゃんと企業の姿勢を見た上で課徴金にするかどうかを決めるということがやっぱり明確になっていると。要するに、何も主観要件がなくて、課徴金のところは故意も過失も問わないで課徴金をかけますというだけでいいのかといえば、やはりそこは、制度上求められる開示もしっかりしているし、体制も整えているようなときには、それを踏まえた上で課徴金の判断がなされるとすることは考え方が一貫するという意味で、文言をどうするかというのはありますけれども、行政庁の側もそこを見ているんだということが法制上はっきりしていくことは、非常に企業にとってプラスに働く、背中を押すことになるという意味で、ここを整備することは課徴金のところにも意味があるので、必要なコストをかける意味があるし、投資家の信頼を得るようなことをやったほうが自分たちにトータルでやっぱりプラスになるということが開示制度の理解として関係者にしっかり共有されるような、そういった制度の構築につながっていくのは非常に有用ではないかと思います。文言のところについてはなかなか簡単ではないのかもしれないですけども、そういったことも踏まえて検討していくとよいかと考えています。
届出書の免除基準の見直しのところは、先ほど来委員の方からの意見にもありますように、現状どういう状況なのかというデータがない中で、なかなか意見を述べにくいので、開示基準、必要とされる基準を引き上げること自体は合理性があると思うんですけども、どの基準が、どの程度の金額がいいか、ということについては、やはりデータなどを含めて検討をさらに深める必要があるんだろうと考えております。
株式報酬のところの特例については、外国の企業ですとか未上場の企業などについても適用を拡充するということは合理性があると思うのですけれども、こういったスタートアップや株式報酬については、それを認めていくところはいいんですけれども、では、それがしっかりできている、もしくはどういう体制が求められているかということが伝わるようなこと、通知書などについての記載内容も含めて、別途追加で検討する事項もあるだろうと思いますので、制度の見直しと併せて求める内容というものも明記していくことが重要ではないかというふうに考えるところです。私からは以上です。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、武井委員、どうぞ御発言ください。
【武井委員】
ありがとうございます。まず虚偽記載等に関する責任のあり方ですけれども、有報の現行の責任規定の会社の責任で、金商法21条の2ですけれども、これはまさに平成16年の改正で、流通市場の株主に会社が損害賠償を払うという規定が新たに入ったわけですが、事務局さん資料の9ページにもありますとおり、この現行の法制は相当、諸外国とは異なる内容になっているということをまず認識すべきだと思います。
有報の法定開示書類について不実開示があった場合、まず1層目で民法上の不法行為責任、飯田先生もおっしゃった民法709条があって、2層目に会社法上の責任、これは会社法の350条を典型にした2層目があります。そして、3層目に金商法の21条の2というのがあると。この金商法21条の2が特例措置になっているわけですけれども、この3層目の特例措置から、有報の不実開示の後に株を買った投資家だけが会社から、損害賠償額と因果関係も推定された形で一定の金銭が得られると。こういう一種のゆがみが生じるといいましょうか、これは結局、一部投資家に対して、ほかの株主さん、虚偽記載の前から株を持っていた投資家さん、株主さん、あと中長期保有で株を売り買いされていない方、こういった株主の方々が支払う側に回って、一部の投資家の方にお金を払っているという構造になっていると。そういう意味で、株主間の衡平性という観点からも相当ゆがみがある損害賠償制度になっていると。あと会社法の世界では、会社全体の損害である間接損害は、全ての株主で負担すべきであって、一部の株主だけが賠償するべきではないということもあり、その点でもゆがみのある条文になっているということをまず認識する必要があると思います。あと債権者との関係でも、いろんなサステナビリティとかの関係で、会社、資産を債権者のために使わなければいけない資金を、それに先んじて一部の投資家の方が、この21条の2の特例を使ってお金が得られると。そういう構造的に問題がある仕組みになっているということだと思います。
こういった構造上のゆがみの問題もあるからだと私は思いますけれども、諸外国では、9ページの資料にありますとおり、流通市場に対して会社が損害賠償責任を負う場合を相当限定しているのだと思っています。限定というのは、まずそもそも今回の資料では英米法制が書いていますけれども、欧州大陸、サステナ情報の開示を積極的に進めている欧米の大陸の国では、そもそもこのような金商法の特例はない国が多いわけです。民法上の責任のさっきの1層目、2層目の会社法上の責任までです。そもそも、この21条の2の責任規定はないわけですね。ですので、今回サステナ開示が相当欧州大陸の法制を意識してやっている中で、日本だけ実は違うことをやっている面があるということでございます。
片やこういう法制がある英米法制と比べましても、日本の現行の法制は3点において企業側に厳しい面がありまして、これは事務局資料にあるとおりですけれども、1つ目が被告会社側の主観要件が欺罔の意図に限定されていない、過失責任となっていると。欺罔の意図がある場合に限定されていない、これが1点目です。2点目が、損害賠償を得る原告投資家さん側に信頼の要件が課されていない。要は、その虚偽記載を信頼して買ったから私は損害賠償を得るのですという信頼の要件、これが課されていない。これが2点目です。3点目が因果関係も損害賠償額も推定されていると。この3点において日本の現行法制は、ほかのこの手の法定開示をやっている国と比較して、相当奇異な構造の条文になっていると。そのことを根本的に今回認識しておく必要があるなと思っています。
先ほど飯田先生からもお話がありましたとおり、サステナビリティを含むいろんな非財務情報というのが、いろんな理由で今現在、有報に書かれようとしていると。そういう中で、このような日本だけ当該非財務情報をベースにして、さきほど松井先生からもありましたイベントドリブン的に、事後的にどんどん一部の投資家だけが優遇されてお金を会社から得られるという法制だと、やっぱり株主間の衡平という観点からも、あと会社と株主、債権者の間の衡平の観点からも、やはりこれは大きな問題点があるということだと思います。
御存じのとおり、アメリカは現在、サステナビリティ開示に関しては極めて後退というか、否定的な態度を取っている中で、他方で推進している欧州にはこのような法制がない。アメリカはサステナ情報に関して相当開示法制が後退している。そういう中、日本だけこのままの有報の現行法制を維持して、サステナ情報を含めた非財務情報の開示を強化するということがいいんだろうかという根本的な問題があるのだと思っています。
この21条の2が2004年に入ったわけですけども、その当時はアンダーエンフォースメントという議論があって、当時は課徴金はなかったのですね。行政責任の課徴金はなかった。そのときに、この21条の2と課徴金とを同時に入れたわけです。でも、その後の20年間を考えますと、課徴金は極めて活発に執行されていますし、しかもその後、財務報告内部統制制度であったり、あと公益通報者保護制度であったり、行政制裁のほうは相当機能しております。その観点からも、この2004年当時の21条の2の立法事実は相当変わってきているというふうに思います。
ですので、民事制裁のほうにどのくらい依拠して残すのかということを根本的に考えないと、先ほど井口さんのおっしゃいました、今いろんな任意開示、統合報告に書かれていることを有報に書いてほしいということは、なかなか達成されないと思います。ですので、そういう意味で本当に有報という書類に有益な、有用な非財務情報を書いてもらうという観点からすると、21条の2に関してはきちんと見直すべき点は見直す。少なくともグローバルに見て日本だけ変なことをしていない、グローバルに同じレベルの構造にするということを根本的に考えないと、幾ら旗を振っても有報には意味のある非財務情報は書かれないのだと思います。ですので、グローバルとの関係で突出した、変な法制になっているということは考えるべきなのだと思います。
その観点で今回の見直しを個別に見ていきますと、まず重要な虚偽記載ということについては、多分今いろいろあっていろんな書き方があると思うんですが、まず民事、行政、刑事ですけれども、少なくとも民事のほうで重要な虚偽記載にならない、一定の手続を経れば民事のほうで重要な虚偽記載にならないという事項については、行政のほうで重要な虚偽記載になるのはおかしいので、つまり重要な虚偽記載にならないと民事の側でする事項は、行政の課徴金のほうでも該当しないとすべきだと思います。これが1点目です。
2点目が見直す対象ですけれども、非財務情報に関して将来情報的なものもありますけども、それ以外に現在情報があると思います。イベントドリブン的な訴訟がありますから、どういうふうに見直すのかはいろいろな選択肢がありますけれども、非財務情報全般をやはり視野に入れて見直しの対象にすべきだと思います。
あと主観的要件に関しては、先ほど清原先生もおっしゃったとおり、これは欺罔の意図のレベルもより厳しいままなので、やっぱりせめて重過失にすべきであって、あと原告投資家側が損害賠償請求を行う際には、その個別の原告投資家側の事情を見る信頼の要件が課されるべきだと思います。
あと、書かれていない点に関連して、これは現在情報にも絡むと思いますけれども、さきほど飯田先生もおっしゃったとおり、有価証券報告書という金商法で記載すべき事項であると法律が書いた瞬間に、裁判所がその誤りが重要な虚偽記載であると考えるというのはやはり直すべきです。直し方はいろいろあると思いますけれども、法律が求めているからといって、その虚偽が常に重要な虚偽記載ということになるものではないということを明確化すべきだと思います。そういう意味で軽微基準をつくるというのもあると思いますし、あと不記載の場合も含めてこのような重要な虚偽記載の考え方の整理をするべきだと思います。
あとドイツでは、損害賠償の推定規定に関連して、虚偽記載の公表後に結果的にその後株価が上がると、損害はないとするという解釈論も出ております。今、日本の規定は前後一月の株価の平均で損害賠償額を推定していますけれども、これが本当にいいのかどうかも解釈論を含めて考えるべきだと思います。
あと役員の責任に関しましても、今後有報が取締役会とかに付議されていくことを考えると、今の「相当な注意」という文言が相当緩い可能性があって、裁判所によって相当解釈が分かれると。社外役員の方も有報が役会に出てきたときに、一言一句読んでいないと相当な注意にならないんですかとなると、とてもこれは萎縮効果が大きいです。少なくともさっき御指摘ありましたイギリスとかですと、役員は対外的な責任を負わない、会社に対する責任を負わないというふうな立法にしていますし、あと主観要件も重過失になっています。この「相当な注意」のところも重過失に直すか、あるいは一定の体制を敷いているのであれば相当な注意を果たしているとみなすとか、いろいろ解釈を含めて、役員の方の責任についても合理化を図らないと、グローバルとの関係でのバランスは取れないと思います。
いずれにしても今回、有報に本当に意味のある非財務情報が書かれるという大事なタイミングですので、グローバルに見て日本だけ変なことをしているんじゃないか、していないのかという観点から、本当に有報に意味のある非財務情報が書かれるために、徹底的に見直すき点は、法改正であれ解釈を示すであれいろんな出口があると思いますけれども、やっていくべきタイミングなのだと思います。
あと有価証券届出書に関しましては、スタートアップ側のいろんな、日本だけこんな低い基準でいいのかということは冷静に考え、有価証券届出書というフルフレッジのものを本当にスタートアップにここまで求めるんですかということで選択肢を考えていくべきだと思います。そういう意味で1億円からの引上げは行っていったほうが良いんじゃないかと思います。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、オンラインで御参加の上田委員、どうぞ御発言ください。
【上田委員】
御指名ありがとうございます。先生方の御議論を聞いていましてまず大きな前提として考える必要があると思いましたのが、サステナビリティ情報が充実、拡充される中で企業側の負担が大きくなっていくという点です。他方で、情報開示、特に制度設計において一番大事なのは信頼性確保に尽きるということです。これは投資家保護、ひいては日本市場の信頼性につながるため、この点はしっかり踏まえた上で、その枠内で発行体側の負担をどうするかということを考えていく必要があるのではないかと改めて感じたところです。それを踏まえまして、特に今回のこの御議論いただきたい事項についてコメントさせていただきたいと思います。とりわけセーフハーバーと確認書について中心にコメントさせていただきます。
まずセーフハーバー・ルールですけれども、近年の我が国のディスクロージャーの方向性を見ていますと、特に英国のようなアニュアルレポートをベースにした情報開示に近づいているのかと思います。そうなると、とりわけ情報開示に関する規律のあり方についてもグローバルな目線が求められ、実際サステナビリティ情報開示はEUの動向を意識してというところもありますので、この辺りについてもイコールフッティングな議論というのが必要であろうと思います。セーフハーバー・ルールについては、立証責任が企業側にあるというところ、この負担感というのが仮に企業側の消極性につながるとすれば、ここはしっかり議論していくというのは必要なのかと感じました。
他方、それと裏表の関係にはなりますけれども、やはりその適用範囲については、投資家保護という観点から一定の規律というのは必要ではないかと思っています。とりわけ企業価値評価において非財務情報が重要となる中で、非財務情報は何かというと、Scope3以外にも人権、人的資本、恐らく今後様々に発展して情報の内容も変化してくると思います。この非財務情報には、性質的に、記述情報、見積り情報という曖昧な情報も入ってくるかと思います。それは、例えばサステナビリティ情報が典型ですけれども、まず大きなカテゴリーとして、第1に、内部でファクト情報というエビデンスがある確実な情報と、第2に、エビデンスのない不確実な情報として外部から提供される情報であったり、あるいは情報の性質上、将来情報とか見積りという曖昧性を伴っているという、この2面があるかと考えています。
この第1のエビデンスのあるファクト情報というのは、仮にこれがサステナビリティに関する情報であったとしても、そこまでセーフハーバーを認める必要あるのかなというのは疑念が残ります。他方で第2の部分については、具体的にいうと将来情報、統制の及ばない情報、外部の提供情報、バリューチェーン上の情報、見積り情報についてはセーフハーバーの対象とするということで、より積極的な情報、そして投資家も欲しい情報というところのバランスが取れるのかなと思います。ただし、先ほどほかの委員の先生からもあったかと思いますが、それぞれの情報については定義の明確化が必要だと思います。全て何でもセーフハーバーの適用対象というよりは、企業の負担感と投資家の信頼性のバランスを取るために、具体的な定義づけについては企業開示ガイドライン等で明確化するというのは実務の運用として必要かと思います。
他方、これはあくまで善良な開示を行う企業の話であって、そうではない場合にまでこのような保護を与える必要はないと思っています。投資家から見ると一番心配なのは、本当にエンフォースメントがしっかり利いているのかというところで、これは市場の信頼性につながるところでございます。そういう意味では課徴金制度については、これはもしかしたら別の会議体で御議論されるのかもしれませんが、発行体の過失の程度、あるいはタイミング、そして金額も含めて、よりエンフォースメントを強める必要があると思います。そのエンフォースメントの枠内で投資家保護を確保しつつ開示を積極的に行うということが市場の信頼性につながって、安心して将来の企業価値評価を財務情報および非財務情報に基づいてできるのではないかと思料します。
第2点として、確認書についてです。確認書の目的はここに書いていますけれども、有価証券報告書に基づく情報開示に対する経営者の意識を高めるという点かと思います。この点、海外のアニュアルレポート等においては、経営者や取締役会議長などの署名が入っています。日本でも最近有報の好事例でそういう事例がありますが、これと同じ目的であろうと思います。
この署名の意味は何かというと、情報開示というのが無機質な企業という組織によるデータ提供ではなくて、経営者の意図を踏まえて個別企業の具体的な取組を有機的な情報提供として出していくという意味があって、これにより信頼感が増すというものであろうかと思います。その点、多くの日本企業の経営者にとって、有価証券報告書というのは法定開示文書で財務局に提出するものだという認識があるように感じます。経営者には有価証券報告書は、投資家のために、自ら責任を持って作成した文書、情報であるというの意識があまりないのではないかと思います。
確かにサステナビリティワーキング・グループでも議論があったように、ここで御提示されている開示手続の整備とか実効性の確認というのは、もしかしたら現在の有価証券報告書全体というところで網羅されているのかもしれないとは思います。しかしながら、現在、情報開示には、非財務情報を含めた質的な大きな変化があって、その重要性が増しています。そこにおいては、企業経営者の目線、例えば戦略への対応・取組、企業文化のあり方なども重要であることから、経営者による意識づけをより高くしていくということは必要ではないかと思います。そのため、重複する部分があるかもしれませんが、経営者が情報開示に対して高い目線や意識を持てるよう、より具体的に、そして明確化するということは必要であろうと思います。
最後に、スタートアップに関する部分、提出免除のところについてです。ここは前回98年改正ということで、その後最も大きくビジネス環境が変わっているのがスタートアップをめぐるところではないかと思います。そもそも絶対金額の部分もそうですし、投資家の層の厚さというのも大きく変わってきているかと思います。その点、資金調達を容易にするということで、今回の少額募集の見直しについては賛同いたすところでございます。ただ、ぜひ市場当局全体でお考えいただきたいのが、グロース市場の問題など、スタートアップについての規律づけであり、これは投資者保護からも必要かと思います。そういった全体目線でしっかり御議論いただきたいなと思ったところです。
以上でございます。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
本日御参加の全ての委員の方々から貴重な御意見をいただきました。大変ありがとうございました。
事務局に対する御質問は特になかったというふうに伺いましたけれども、比較的多くの委員の方から、少額免除制度等の見直しについては、現状把握と申しますか、データがないとなかなか深い議論ができない、データを示して欲しいという御要望があったかと思います。この点について、もし事務局のほうから何かお考えがありましたらお聞かせいただけますでしょうか。
【小長谷企業開示課長】
ありがとうございます。届出書の基準金額の引上げの点につきましては、神作座長から今お話があったとおり、本日多くの委員の方から、データがないと少し判断が難しいという御指摘をいただいたところでございます。この点、例えば企業規模に応じた資金調達の現状ですとか、あるいは私募についてはどういう特性の企業がどれぐらいやっているかとか、我々事務局のほうで過去の開示資料ですとか、あるいはヒアリング等を通じてデータ収集しておりますので、次回以降、資料としてお示しして、それに基づいて御審議いただければと考えております。
【神作座長】
どうぞよろしくお願いいたします。
それでは最後に、オブザーバーの方々でもし御意見がございましたら、残された時間僅かでございますけども、御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。
それでは、経団連の魚住さん、御発言ください。
【日本経済団体連合会】
ありがとうございます。経団連の魚住と申します。今回このような検討の機会を設けていただきましたことに感謝を申し上げます。
まず、これまでも指摘が出ておりますように、市場がグローバル化している中、日本企業の競争条件を海外企業と合わせる意味で、なるべく国際的に整合性の取れた制度をおつくりいただきたいと考えております。特にサステナビリティ情報に関しましては、開示基準や保証基準など、基準のところは既に国際的な整合性が図られている一方で、関連する制度の部分については、諸外国とは異なる日本固有の制度が色々な項目において提案されていると認識しております。制度設計における、国際間の整合性をなるべく確保いただいた上で、それでももし諸外国とは異なる日本固有の制度を敢えて採用するのであれば、その理由づけ、あるいは効果をしっかり検証していく必要があると考えます。また、本ワーキング・グループのテーマからは少し逸れるかもしれませんが、サステナビリティ情報の保証業務提供側に関しても、セーフハーバーの考え方が必要ではないかと考えております。
続きまして確認書についても、やはりアメリカや大陸欧州、イギリスと比べまして、果たして日本が違う制度なのかの観点は重要かと思います。既にサステナビリティ情報の開示が先行している大陸欧州でどういった制度を取っているのか、もし追加的な確認書を宣誓として取っているのであれば、その効果の有無など、そういったところもしっかり検証していく必要があると考えております。
また、有価証券報告書の記載事項の見直しは今後の検討事項とのことではありますが、その検討に当たりましては、やはり時間軸を含めたコストベネフィットをしっかり踏まえていただきたいと思います。情報開示を求める利用者の声について理解する一方で、開示期限を含めた実務の負担も考える必要があると考えております。とりわけ株主総会前における有価証券報告書の開示を求める大臣要請も出ている中で、これらも含めた総合的な検討が必要と考えております。
最後に、人的資本は報告事項の扱いでしたが、企業側からは、本日の事務局資料で例示された項目を開示すること自体が海外における訴訟リスクが極めて高いという声も届いております。ぜひそういったところも踏まえた形での御検討は必要ですし、しっかりとデュープロセスを踏んでいただく必要があると考えております。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、関経連の森さん、御発言ください。
【関西経済連合会】
ありがとうございます。関経連の森と申します。
私からも一、二分ほどコメントさせていただければと思いますが、まず虚偽記載等に対する責任のあり方のところでございますが、免責の対象とする責任に関しましては、9ページで諸外国の制度と比較していただいておりますとおり、我が国の制度は民事責任に関して企業側の立証責任があるという点が、他国よりも厳しい制度となっております。何名かの委員の方からもございましたが、今、国際的な比較可能性を重視して、積極的な開示が求められるというところがございますので、その責任のあり方に関しても他国の事例を参考に、企業側に立証責任のない形にしていただくことが望ましいと、そのように考えております。
また、その対象とする情報の範囲につきましても、説明資料の13ページに記載いただいておりますとおり、将来情報と第三者情報、見積り情報等、これをベースとしながら、なるべく広範囲な情報と、またそれらに関連する財務的な影響も含めましてセーフハーバー・ルールの対象になるという点も明確にしていただくと、企業はより安心して積極的な開示ができるんじゃないかなと考えております。
それから28ページ、有価証券報告書の記載事項の整理についてまとめていただいておりますが、ここは作成者にとっても利用者にとっても関心の高いテーマかと思います。ここは減らせばいい、増やせばいいという議論というよりは、先ほどもございましたとおり、会社法と金商法等の書類の一本化ですとか、適時開示やガバナンス報告など、ほかの制度との整合性も含めた見直しという議論をしていただく必要があるかと思いますので、十分議論する時間を取っていただけるとありがたいと思っております。
最後、人的資本、31ページのところに制度の見直しというところも追加開示のイメージが紹介いただいておりますけれども、ここも関連する議論かと思います。有報に追加する、あるいは減らすというところを併せて議論していただく必要があると思いますし、また、人的資本の内容という観点で申し上げますと、ISSBなんかで開発されている国際的な開示基準との整合性なんかも目配りいただければと思っております。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
続きまして、日証協の森本さん、お願いいたします。
【日本証券業協会】
御指名ありがとうございます。日本証券業協会の森本と申します。今般、本ワーキングにおきましてオブザーバーとして本協会をお招きいただきまして、ありがとうございます。
今般の情報開示をめぐる環境変化を踏まえまして、本日も議論が行われておりますけれども、開示に係る責任ですとか有価証券届出書の提出免除基準、それから株式報酬に係る開示制度などのあり方につきまして議論が行われることは時宜にかなったものであり、大変意義深いものと思っております。
証券業界は、主として、投資家とともに、開示される情報を利用する立場ということになりますけれども、その立場といたしましても、本日の事務局資料2ページ、検討の背景の2つ目にも書かれておりますけれども、情報の利用者たる投資家の保護と、情報の作成者である企業の負担とのバランスが図られることが重要であろうというふうに思っております。
また、皆様の御承知のとおり、政策の後押しもございまして、家計の資産形成、貯蓄から投資へといったものが動き出しているという状況にございますけれども、その次は、こういった動き始めたお金が企業、産業のほうにきちんと回っていくことが重要であろうというふうに思っております。そのためには証券業界も今まで以上に役割を果たしていきたいと思っておりまして、本協会の本事務年度における重要施策というところにも大きく掲げさせていただいているところでございます。
そうしたことも踏まえまして、積極的に本ワーキングの議論に参加させていただきたいと思っております。
私からは以上でございます。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
それでは、オンラインで御参加くださっています日本公認会計士協会の吉田さん、御発言ください。
【日本公認会計士協会】
発言の機会をいただきありがとうございます。日本公認会計士協会の吉田でございます。今回は1点のみコメントさせてください。
今回のディスクロージャーワーキングにおける検討は、サステナビリティ情報に関わる検討をきっかけにしたものだというふうな理解をしております。一方で、総論的なところでございますけれども、あるべき企業情報開示とは何か、投資判断に当たってどういった情報が必要かということを改めて見直していくという点も非常に重要なところであると考えております。この点に関しましては、当協会が今年の3月31日に会長声明という形で出しておりますけれども、サステナビリティ情報の開示が拡充する環境の下、有価証券報告書の作成・開示負担の軽減、監査・保証品質のさらなる確保、株主・投資家による十分な検討期間の確保という3点を達成するために、株主総会の後ろ倒しと開示書類の一体化・一本化を行っていくことが必要であるという形で述べさせていただいておりまして、企業、作成者の皆様、それから投資家の皆様、それから私たち監査人という各ステークホルダーにとって意義あることだというふうに考えております。
私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。
意見は尽きないようでございますけども、定刻を既に10分程度過ぎておりますので、本日の討議はこれにて終わらせていただきたいと思います。本日の貴重な御意見を踏まえ、次回以降、さらに議論を進めてまいりたいと存じます。
最後に事務局から何か御連絡事項がございましたら、よろしくお願いいたします。
【小長谷企業開示課長】
次回の日程でございますが、皆様の御都合を踏まえた上で決定させていただきたいと思いますので、御案内をお待ちいただければと思います。
以上でございます。
【神作座長】
それでは、本日第1回目のディスクロージャーワーキング・グループはこれにて閉会といたします。大変貴重かつ建設的な御意見を賜り、誠にありがとうございました。
―― 了 ――
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