金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」(第5回)議事録

  • 1.日時:

    平成27年7月29日(水)10時00分~12時00分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館13階 金融庁共用第一特別会議室

【岩原座長】

それでは予定の時刻になりましたので、ただいまより「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」第5回会合を開催いたします。皆様、お忙しいところをお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。

初めに、人事異動に伴うオブザーバー及び事務局の交代のご紹介を事務局からお願いいたします。

【佐藤総務企画局信用制度参事官】

私からご紹介申し上げます。

今般、人事異動がございました。金融庁におきまして、従前、監督局銀行第二課長であった石田が銀行第一課長になり、新たに銀行第二課長として堀本が就任いたしました。本日、石田は欠席、堀本は若干遅れてまいる予定になっております。

また、同じく本日はご欠席ですが、人事異動に伴いまして、オブザーバーとして新たに財務省大臣官房信用機構課の髙野課長にご参加いただくこととなっております。お手元に新しいメンバー表をお配りしております。

事務局からは以上でございます。

【岩原座長】

どうもありがとうございました。皆様、どうかよろしくお願いいたします。

それでは、議事に移らせていただきたいと存じます。

本日はまず、松井秀征委員から、「銀行グループのガバナンスに関する法規制――金融規制と会社法との関係」と題してご説明をいただき、その後に討議を行いたいと思います。

それでは、松井委員、よろしくお願いいたします。

【松井委員】

おはようございます。立教大学の松井でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。お時間はどれくらいで考えればよろしゅうございますか。

【岩原座長】

30分程度でお願い致します。

【松井委員】

わかりました。

それでは、ご報告をさせていただきたいと存じます。私からは、銀行グループのガバナンスに関しまして、金融規制と会社法との関係につきましてご報告をいたしたいと存じます。皆様のお手元に資料といたしまして、パワーポイントでつくりましたものが1つ、もう1つは金融コングロマリットに関する監督指針、これは抜粋でございますけれども、こちらがもう1つございますので、ご確認いただければと存じます。

まず、お手元の資料に沿ってお話ししたいと存じますが、1枚おめくりいただきますと、目次ということで1から4まで筋書きを記してございます。早速中身に入らせていただきます。

まず、「はじめに」ということで、本日の前提となるお話をさせていただきたいと存じます。今回ご報告させていただきますのは、金融グループに関するガバナンスの話でございまして、その前提として我が国の金融グループに関する若干の前提認識を確認したいと存じます。

まず3ページでございますけれども、こちらは金融機関がグループ化される理由、あるいは背景でございます。ここで金融グループ、あるいは金融コングロマリットと申しますのは、異業態の複数の金融機関により構成される金融グループを指しております。より具体的には、銀行業、証券業、あるいは保険業というものがこの中に含まれ、そのシナジー効果を発揮することを目的とする、といった説明が一般に当てられます。

金融コングロマリットとしてどのような形態があり得るかというのが次でございます。一般に整理されるところによりますと、第1に、ユニバーサルバンク方式。これは1つの法人、組織内に異業種が含まれている形態でございます。第2に、親子会社方式。これは、例えば親会社が銀行になり、その子会社に証券や保険がぶら下がるといった形態でございます。第3に、持株会社方式。これは、持株会社自体は事業を行わないけれども、子会社あるいは孫会社等、兄弟会社の方式でさまざまな業種がぶら下がる、というものです。そして第4に、単純に業務提携をするという方式もあります。このように、金融コングロマリットにはさまざまなものがございます。

以上のうち、我が国では、ユニバーサルバンク方式は規制の関係上できませんので、主に問題となるのは親子会社方式あるいは持株会社方式によるコングロマリットになろうかと存じます。

金融コングロマリットが形成される理由・背景としまして、これも一般に言われるところを抜粋してきたものでございますけれども、金融のニーズが昨今多様化しており、あるいは金融それ自体の中身が高度化している中、コングロマリットを形成すれば特定の金融グループにアクセスすることで全ての要求が満たされるということがございます。これは、いわゆるワンストップショッピング方式と呼ばれるものですけれども、このようなことが挙げられるかと存じます。

あるいは金融機関の側からしますと、収益力を強化するためには、さまざまな業態を含んでいたほうがいいということがございます。例えば伝統的には貸出業務等を行ってきた銀行が、その貸出業務に伴う収益性が低下してきたところ、その業務を多角化することで収益の安定を目指す、といった説明が充てられます。

あるいは、金融機関が海外に進出するということが昨今加速しておりますけれども、そのためにはM&Aを行って海外の金融機関をグループ内に取り込むということもございます。

金融コングロマリットについては、以上のような説明が一般的に当てられるのですけれども、以下、ご報告する際には、この金融コングロマリットの中でも銀行を中心に形成されているコングロマリットを念頭に置きながらご説明をいたしたいと存じます。

そこで1枚めくっていただきまして4ページになりますが、ここから法的なお話を若干いたしたいと存じます。つまり、銀行を中心として金融コングロマリット化、グループ化をするという際に、法的な前提はどうなっているのかということでございます。グループ化が進められた最初の端緒として捉えられるのは、平成4年の金融制度改革になろうかと存じます。このあたりは、本ワーキング・グループの第1回で事務局からもご説明いただいたところで、これと重なるところもございますが、改めて確認をさせていただきたいと存じます。

平成4年の金融制度改革におきましては、業務分野規制の緩和が行われまして、業態別の子会社方式による相互参入というのが認められました。このように子会社を設立して相互参入するという形式をとりましたので、本体である親会社と子会社とで法人格は分離されることになります。

なぜ、このような形での相互参入を認めたのかという説明としまして、ここでは差し当たり3つを挙げております。ただしこの3つには、若干の留保がつくところでございまして、以下ではその点も確認しながらご説明いたしたいと存じます。

まず1点目として、制度改革の当時によく言われておりましたのは、リスクの遮断ができるのだということです。子会社という形で法人格を分離すれば、子会社に何か問題が起こっても、株主有限責任原則によってリスクは遮断されるだろう、つまり子会社の損失等が親会社に影響するということは少ないだろうというような説明がされたりいたしました。

2点目として、金融機関が複数の業務を行う場合、利益相反の問題が生じうるのですが、これに対応しやすいということです。例えば、銀行が自らの債権を回収するためにグループ内の証券子会社を通じて債券を貸出先に発行させて、そこから得た資金で債権を回収するといった伝統的な利益相反の例がありますが、法人が分離されていれば、このようなことが起こりにくい、あるいは管理しやすいのではないかという話がございました。

ただし昨今の研究では、果たしてどこまでこれら2つを理由として挙げてよいかについては、疑問も提起されている面がございます。リスクの遮断と申しましても、実際にはレピュテーション等のリスクが及んでくることもございます。あるいは、日本の例ではありませんが、アメリカでは銀行等が破綻した場合に、グループ内の他の会社が救済をしなければいけないという例もございます。このように見ますと、一般論としてはなかなかこのリスクの遮断という点を強調するのは難しいということもございます。

また、利益相反に関しましても、これは単体で行うか、法人を分離するかということが決定的な差にはならないのではないかということがございます。単体で行っても、しかるべき措置を講ずれば利益相反の防止は可能だということもありまして、法人格を分離することが決定的な解決になるというわけでもなく、このあたりの効果は疑問も提起されているところでございます。

そうだとしますと、3点目の理由としまして、実は監督を行う際に最も安価に管理をできるのが法人格の分離ではないかということになります。特に銀行業のようにセーフティ・ネットが明確に設けられているような業態については、それとして管理監督したほうがやりやすいとか、その他、ある程度業態を分けておいたほうが、それぞれの業態に関する規制の論理で管理監督をすることができるとかいったこともあり、このような観点が法人格を分離することの1つの意味ではないかというような説明がございます。

なお、今回の報告との関係で留意すべき点は、この法人格の分離という方法は、株式を保有して子会社をぶら下げることができるという会社法の論理に依存しながら、これを実現しているというところでございます。この点は後々に問題として触れたいと存じます。

その後の展開でございますけれども、銀行のグループ化を可能とする法的規律として、5ページをご確認ください。平成9年に独禁法が改正されまして、純粋持株会社というものが認められることになりました。また同年、銀行を子会社とする銀行持株会社制度を認める銀行法等の改正が行われております。さらに平成10年、金融システム改革法と呼ばれる大規模な法改正が通っておりますけれども、銀行グループについては銀行を子会社とする持株会社形態、及び銀行を親会社とする親子会社形態等を前提にして、銀行経営の健全性を確保するための制度整備を行うということがなされました。

この金融システム改革において、銀行グループについて具体的にどのような制度が整備されたかですけれども、ここにざっと並べてございます。グループ会社の業務範囲をどこまで認めるか、外部への情報提供をどのようにしていくか、自己資本比率規制を単体のみならずグループとしてどう考えていくか、同じく大口信用供与規制、アームズ・レングス・ルール等をグループとしてどう考えるかなど、グループが前提となった規制がここで整備されたということでございます。

このような金融規制、特に銀行法上の規制等につきましては、もちろん会社法上そのような仕組みがあるわけではなくて、銀行業というところに着目しまして、あるいは銀行グループというところに着目しまして、会社法の特則を置くという形で規制を行っているということになります。株式の保有形態でありますとか、自己資本比率規制のあり方でありますとか、会社法にはそのような規制は書いておりませんので、銀行法等が独自の規制目的に応じて、会社法に上乗せしているというか、修正しているというか、そのあたりの説明はいろいろあり得ますが、規制をおいているということになります。

次に6ページは、金融規制と会社法との関係について、の問題認識を整理してございます。

銀行及び銀行持株会社というのは、銀行法上必ず株式会社でなければならず、かつ、監査役会設置会社あるいは委員会設置会社等、機関構造は一定の形を強制されております。従いまして、会社法のガバナンスの規定が適用になるということが想定されております。

他方で、銀行法その他の金融規制は、預金者保護等の固有の規制目的を持っていますから、その観点からの規律が必要になります。そして場合によっては、会社法が想定しているガバナンスの仕組みとは違う仕組みを要求することもあり得るのではないか、このあたりに金融規制と会社法とでどうしても緊張関係が生じるのではないか、というのが今後の問題認識でございます。

とりわけ今回のワーキング・グループでは、銀行ないし銀行グループの業務分野のあり方を見直していこうという話でございますので、グループ内に従前とは異なる業態の企業ないし組織が入ってくるという可能性があり、それに応じて経営管理のあり方を改めて確認をしていこうということかと存じます。私も第1回の会合で申し上げたかもしれませんが、金融規制の固有の目的との関係でどのようなガバナンスの仕組みが必要かということや、銀行その他の金融機関が株式会社形態をとっている場合に、会社法が予定しているガバナンスのあり方とどう調和させるのか、あるいは調和できないのかということは整理をしておいたほうがよいかと存じます。本日は、そのような整理を今から試みにやってみたいということでございます。

さて、前置きが長くなりましたが、7ページ以降が、より具体的なお話でございます。銀行グループを想定するということで、まず、銀行持株会社等の子会社に銀行がぶら下がっている場合、あるいは親会社が銀行になっている場合を念頭に置きながら、お話をしてまいりたいと存じます。以下では、これを「銀行持株会社等」という概念でまとめたいと存じます。

仮にその銀行グループを対象として、ガバナンスのあり方をはじめとする金融規制を構築するということになりますと、その規制の名宛人は、やはりそのグループの頂点にいる会社になろうかと存じます。要するに、グループ内の管理監督が可能である主体、あるいは管理監督をすべきものとして想定される主体として、銀行持株会社等を名宛人とした規制を置くことになるのではないか、と。

では、仮に金融規制がここをターゲットにして一定の規律を置こうとした場合に、会社法と矛盾なくそれを実現することができるのかということを、今から確認してまいりたいと存じます。そこで8ページをご覧下さい。

このあたりからは、座長でいらっしゃる岩原先生のご論文等も参考にさせていただきながらまとめたものでございます。まず銀行持株会社に対しては、銀行法上どのような規制がかかっているかということで、ここでは特に銀行持株会社を例にご説明いたします。

銀行持株会社の業務範囲等につきましては、銀行法の52条の21という規定がございまして、子会社である銀行、あるいは銀行法52条の23に掲げる会社等の「経営管理」及び「これに附帯する業務」が業務範囲として掲げられております。銀行持株会社は、子会社である銀行の業務の健全かつ適切な運営の確保等に努めなければならないとされているわけです。

さらに、このような前提のもとで、具体的な内容といたしまして、金融コングロマリット監督指針というものがございます。銀行法52条の33には銀行持株会社に対して監督上必要な措置を講ずるという規定がございますが、これを前提にして出ている指針かと存じます。この中を御覧いただきますと、「経営管理」という項がございまして、「経営管理会社」、これはグループの頂点に立つ会社ですけれども、ここにさまざまな評価項目が挙げられております。もしよろしければ、別添でつけました「金融コングロマリット監督指針」を御覧いただければと存じます。

この監督指針の考え方といたしましては、銀行グループに関しまして、ある程度グループとして監督を行っていかなければいけない。これは裏返して言えば、金融グループにおいては、頂点にある会社がグループとして適切な経営管理を行うことが前提になっているはずだということになるのかと存じます。

監督指針を1枚めくっていただきますと、7ページに II というものがございまして、この1が経営管理ということになっております。冒頭の文を若干確認しますと、「グループ内の金融機関の健全性等の確保のためには、まずは各金融機関において、経営陣が自らの役割を十分に理解し、経営に対する規律付けを含め、有効かつ責任ある経営管理の態勢が構築され、適切に遂行されていることが重要である」とされています。「更に、金融コングロマリットにおける持株会社等の経営管理会社は、グループ全体としての適切な経営管理の態勢構築・遂行に責任ある役割を果たさなければならない」ということが書かれておりまして、ここには非常に慎重な言い回しが使われております。経営管理会社がグループ内の会社に対してどう影響力を及ぼすか等については、はっきりと介入していきなさいというようなところが書いてあるわけではございません。ただ、グループ全体を見渡して一定の経営管理体制等をつくっていくということ、あるいはそれを機能するように運営していくということは、ある程度想定されているということが伺えます。

この後に、(1)代表取締役、取締役及び取締役会について触れられております。これは、マル1からマル9まで書いてございまして、全部を詳細に見ることはいたしませんが、ざっとご確認いただきますと、経営管理会社の経営陣はグループ内に対して一定の目配りをすべきことが、至るところで書かれているわけです。

このように、銀行持株会社その他経営管理会社に対しまして、グループ内を見渡した経営管理の構造を想定するというのが、この銀行法52条の33を前提とした監督指針ということになろうかと存じます。

レジュメに戻りまして、銀行法52条の33につきましては9ページに参考までにつけさせていただいております。これは御覧いただければと存じます。

10ページでございます。今申し上げたところでございますけれども、銀行法あるいはそれに基づく監督指針は、経営管理会社がグループ内各社の経営事項にある程度介入――この介入が何を意味するかはかぎ括弧つきにしておいたほうがよいのですが――この「介入」をする必要を想定しているということです。例えば先ほどの指針のうち、(1)マル8を御覧いただきますと、「取締役及び取締役会は、戦略に沿ってグループ全体の適切な経営資源の配分を行い、かつ、それらの状況を機動的に管理し得る体制を整備しているか」となっております。これは、グループ内各社の経営陣その他の組織のあり方等に対して、一定の具体的な対応をするというようなことを含んでいると思われます。そうすると、これは人事その他、具体的な指示・指揮等が入ってくるという読み方もできなくはないわけです。

なぜ、このようなことにこだわっているかと申しますと、会社法上、経営管理会社の立場に立つ銀行持株会社というのは、子会社の取締役等に対して具体的に指示する権限を有しているわけではございません。そうなりますと、もし監督指針が経営管理会社においてある程度グループ内会社等に関わっていくことを考えているのだとすれば、あるいは現実としてそのようなことを期待しているのだとすれば、ここには監督指針と会社法との間で緊張関係、矛盾等が生じ得るのではないかということになります。

つまり、会社法上このような限界があることを前提としますと、監督指針等で定められた内容を実現する際に、経営管理会社としてはどう対応すればいいだろうか、ということが問題になります。場合によっては、会社法の規律がどうなっているかということを離れて、金融規制固有の目的を実現するために、子会社等に介入していくことを認めることも考えなければいけないのではないか、という問題が生じてくることになります。

11ページに進みます。ここまではグループ全体として、その監督目的を達成するために経営管理会社にターゲットを絞って規制を構築していくことになる。そうなると会社法上、指揮命令ができないということとの関係で、緊張関係に立つのだ、ということを申し上げました。ここからは、子会社側、子銀行等の側から見た場合にどうなるかということでございます。

ここは仮定に仮定を重ねているので、前提が崩れるとその後の議論が全部崩れてしまうのですが、仮に経営管理会社、銀行持株会社等が子会社、子銀行等に指示をするということが必要である、あるいはそういったことを法的にも支えていく必要があるということになった場合、今度は指示を受ける子会社の側にどのような問題が生じるかということでございます。

グループ全体の資源配分、あるいはグループ全体としての利益の最大化や経営の健全性を確保していくことを考えた場合、子銀行としては、必ずしも当該法人にとって、あるいは当該会社にとって最善ではない指示が来ることも一応は想定しないといけません。このように、グループの利益には合致するけれども子銀行、子会社単体には必ずしも利益にはならない指示が来た場合、子銀行等はどう対応すればよいのか。これは、実は金融機関に限った話ではなく、グループ形態をとっている事業体には必ず生じる問題なのですが、12ページで、この点に関する法的問題を書いてございます。

株式会社形態をとらなければいけない銀行の場合、会社法上、取締役その他経営陣に対しては、善管注意義務・忠実義務がかかっており、これは当該会社のための義務として考えられております。つまり、会社外の第三者の利益を図るということは想定しておりません。そうしますと、グループ全体の利益には合致するけれども、当該金融機関、銀行等には必ずしも利益にならないという指示がなされた場合、子銀行等の取締役としては引き裂かれた状態になるのです。銀行持株会社等の指示に従った場合、グループ全体の利益にはなるけれども、自らの銀行、会社に対する義務を忠実に果たすことは困難になり得るのではないかということです。

そこには利益相反の問題等も生じやすいというのが、13ページの説明でございます。グループ全体として、例えばグループの頂点にある経営管理会社、銀行持株会社等の利益を図るけれども、特定の子銀行の利益は必ずしも最大化されない、あるいはグループ内の別の兄弟会社にとっては利益になるけれども、特定の子銀行・子会社等には利益にならないというような問題、こういったことが増える可能性があるだろうということです。さらに金融業以外の業務等を行う会社も含めてグループが構成されることになりますと、当然その業務のためにグループ内の別の企業は協力をしなければならないということも出てくるでしょう。こういった場合に、会社法上、あるいは金融規制上、この問題をどう理解し、どう解決すべきかが問われることになります。

先ほど法人格の分離と利益相反の問題の解決というのは、必ずしも論理必然的に結びつくわけではないということを少し申しました。ただ、法人格を分離して相互参入を認めるという考え方を採用した際、利益相反というのはそれを通じて防止しようとしていたのだという説明も一部にはなされておりました。ですので、銀行持株会社等、あるいは経営管理会社等が子会社・子銀行の経営に介入をして、利益相反の状態が生じることを容認することは、そもそも規制の目的上、想定されていないのではないか。ここはかなり抽象的な話で恐縮ですが、そういった説明が一つの方向としてあり得ます。

もっとも、この点については、次のような考え方も提示されております。すなわち子銀行の健全性に反しない場合、たとえば個別の取引を見ると、一見子銀行の利益に反するようなものが仮にあっても、それが子銀行の健全性等に直ちに触れるものではない場合であれば、仮に兄弟会社間での利益相反――例えばある事業機会を特定の子会社に割り当てて、別の子会社等に割り当てないといった例――があったとしても、それは親の裁量の範囲で考えられるのではないかといった考え方も示されております。

この考え方は、利益相反の問題に関して、グループ全体の利益と個々のグループ内の会社との利益が対立しうる場合について、およそそのような可能性がある取引は認められないとの立場はとらないということです。個々の取引のレベルで認めるか認めないかではなくて、グループ全体として、その子会社の利益を害するか、害さないかと見ていくということです。しかも、それは特定の1つの取引だけではなくて、他のさまざまな取引と併せて見ていくという考え方になります。Aという取引では特定の子会社の利益が害されていても、そのほかのBやCやDなどの取引も併せ見て、全体のグループ内の資源配分を見れば、子銀行の健全性は害されていません、あるいは子会社の利益は害されていませんということがあれば、それは許容され得るのではないかと、こういうことも考え方としてはあり得るかと存じます。

このような考え方は、実は会社法改正の段階で少し言われていたものでして、このような考え方を金融規制としてとっていくということもあるかもしれません。平成26年の会社法改正では、今のような考え方というのは立法までつながりませんでした。つまり会社法としては、まだ一般法理に委ねられた分野だということになります。ただ、金融規制、金融機関の場合については、この点について特に対応するという可能性はあるのかもしれない、ということです。

時間も限られてきましたので、14ページ以降のまとめに入りたいと存じます。14ページは、これまでのまとめでございます。銀行持株会社等につきましては、金融規制の目的を実現するため、子銀行その他の子会社等に対して指揮命令等を行うことも想定しているのかもしれません。他方で会社法は、親会社が子会社に対して一定の指揮命令を行うことは想定しておりません。株主――金融グループでは親会社が株主になりますが――が経営事項に介入することは避けたいというのが、会社法の価値判断です。つまり、株主の影響力が経営にそのまま直接入ることは好ましくないというのが会社法の価値判断でして、実は非常に根本的なところで金融規制と価値判断が異なっているかもしれないということです。

子銀行等の側から見れば、金融規制の考え方としてはグループ全体を見るということですから、グループ全体の経営資源の配分等を考える、それに応じて持株会社等から指揮命令をするということはあり得るだろうということになります。個別に見た場合については、グループ利益が個別の法人の利益よりも優先しているように見える場合も出てくるかもしれないということです。

他方で、会社法はそのようなことを想定しておりませんから、個別の会社の取締役等はその会社の利益を図ることが求められ、個々の取引が会社の利益よりもグループの利益を優先している場合、取締役等の義務に反するといった解釈になりやすいということがございます。

以上は現在の法規制等を前提とした場合、そのように説明ができそうであるということなのですが、なぜそうなっているかというのが、15ページから後の説明でございます。ここは本ワーキング・グループの委員でもある加藤先生のご論文等も参考にさせていただきながらまとめたところでございます。

なぜ、このような金融規制と会社法の規律の緊張関係、抵触等が生じ得るのかということですが、端的に言えば金融規制の目的と会社法の目的が異なるからということになります。例えば銀行グループで考えますと、銀行法1条は銀行業務の健全かつ適切な運営のために必要な規制を設けております。他方で会社法が念頭に置いている会社利益は、結局出資者たる株主の利益であるという非常にプリミティブな議論がございます。これらを単純に並べますと、相互に緊張関係に立つということです。

例えば、金融規制の観点からすれば、預金者保護や金融システムの健全性という観点から、金融機関にある一定以上のリスクはあまりとらせたくない。他方で、会社法固有の論理で言うと、株主利益を考えれば、場合によってはある一定規模以上のリスクをとらなければいけないこともあるし、それは取締役・経営陣の裁量の範囲として考えることができる。そうすると、ここには緊張関係が生じ得るのかもしれない。ここは抽象的ではありますけれども、そういった話ができるということでございます。

16ページに移ります。今の議論は非常に一般的、抽象的なレベルでの抵触が生じる可能性の話ですが、もう少し掘り下げて考えてまいりたいと思います。例えば金融規制の観点から言いますと、銀行法は銀行について株式会社であることを要求し、一定の機関構造を義務的に要求しております。これは先ほど申し上げたとおりでございます。

では、銀行法はなぜこの点を強制しているのか。つまり、機関構造について会社法の仕組みを借りてこなければ、会社法との緊張関係というのは生じないわけですから、なぜ会社法の一定の仕組みを強制しているのかというのが、実は根本にある問題ではないかということです。

金融機関の場合、銀行であれば預金、あるいは保険会社であれば保険料等、固有の資金調達手段を持っていますので、株式会社形態を強制して株式という形で金融商品を発行させて資金を調達しなければならないということは、当然には言えないわけです。もちろん、会社法の株式会社の仕組みを利用したほうが簡便であることは間違いないので、これはあくまでも机上の議論ではありますけれども、必ずしもそれが論理必然ではありません。

それにもかかわらず、銀行法等が株式会社という仕組みを強制し、かつ、その中のガバナンスの仕組み等を強制するのは、結局、その仕組みを利用することが銀行等の金融機関の運営上非常に好ましいことがあるからだ、ということに尽きます。

例えば預金者保護のためには、一定のバッファーがあったほうが好ましいということは言うまでもないことですけれども、そのバッファーを用意するためには、預金に劣後する金融商品でも資金を調達させたほうがいいわけです。そこで会社法を見ますと、株式という形で存在している。あるいは預金者保護等の観点からは、一定の厳格なガバナンスの仕組みがあったほうが好ましいわけです。そのような仕組みを銀行法にすべて書き込んでもいいのですが、ふと会社法を見れば、標準のフォーマットとしてそのようなものが存在している。それならば、その仕組みを借りてきたほうが、規制上コストがかからないということになるわけです。

したがって、ここは考え方の問題なのですが、銀行法は会社法の仕組みをその目的を達成するのに必要な範囲で借りてきたという、こういう説明が1つあり得るのではないかということになります。このような考え方自体は、私のオリジナルでも何でもないのですが、一つの考え方としてあり得るだろうということです。

ただ、そのように会社法が設けているある種の規律を便利だとして借りてくると、会社法はパッケージで制度を用意していますので、銀行法にとって要らないものも全部くっついてきてしまうのです。これが、緊張の生じる原因ではないかというのが、この問題意識です。

17ページはそのような話です。平成4年に業務分野規制を緩和する際、これによって生じうる弊害等を防止するために、法人格の分離という方法をとったわけです。この法人格の分離という方法は、株式保有を通じて子会社形態で法人をぶら下げることを意味しますので、これはある種の会社法の仕組みを借りてきたわけです。

ところが、会社法に従い、株式を保有して子会社をぶら下げるという方法をとると、子会社に関与する方法というのは、株式を通じた議決権行使という方法しかなくなるわけです。しかも会社法は、先ほど申し上げましたように、一定の機関構造を前提とした場合、株主が会社の経営事項に関与するということを非常に禁欲的に考えているので、子会社に管理を及ぼしていくには非常に障害が多いということになるわけです。

したがって、指揮命令等を効果的に行いたいと思っても、株式を持っているだけではできないということになって、そこで実務の運営上さまざまな工夫が必要になろうかと存じます。本ワーキング・グループでもメガバンクさんからご説明をいただきましたけれども、内部的なガバナンスの構造として、縦横のマトリックスをつくっていくといったご説明がございました。ああいった形の工夫というのは、実はこういった制度上の難点を乗り越えるための1つの方法ではないのかなという気もいたしたわけでございます。

そして銀行法上の目的、あるいは金融規制上の目的から、以上の点が好ましくないのだとすれば、正面から、会社法の規制には過不足があるので、そこは修正してしまおうといった議論もあってよいのではないかというのが、ここでの試論の話でございます。

同じく、子銀行等に対する銀行持株会社等の管理につきましても、グループ内の利益を考慮して子銀行に対して指揮命令するということがなされた場合、子会社の取締役がこれに従ったからといって当然に会社法上の義務違反にならないと解釈していく、場合によってはこれを制度的に構築するということもあってよいのかもしれないということになります。これが18ページです。

最後に19ページになります。伝統的には、銀行とはまず株式会社であって、これに対する会社法・商法の規律がございました。そして金融規制は、この規律に上乗せで規定を置くという発想をしてきたわけですけれども、この考え方は論理必然ではないのではないかという気がしております。金融規制としては、必要だから会社法の規律を一部借りているにすぎないのであって、借りようと思った規制以外のものについては、実は独自の論理で規律を置いていかなければならない。つまり論理的な考え方として、まず金融規制が先であって、会社法の規律は必要に応じて借りてきたにすぎないという考え方もあるのではないか、ということです。そうなりますと、会社法が持っている理屈を乗り越えるのは、理論的には比較的容易になるのかもしれない、ということでございます。

これをまとめますと、会社法の規律をパッケージで借りているのは、それが便宜であるからにすぎない。個々に組織に関する規律を銀行法に設けますと、銀行法が膨大な法律になって、それに対していちいちチェックをかけて運用していかなければいけないので非常にコストがかかりますから、必要ならば会社法の規律を借りてきたほうが、コストもかからないし、好ましい。ただ、そうなりますと個別に会社法の規律を修正する必要が生じ、会社法との接合という問題が生じて、ここはなかなか難しい問題になるというのが、今日のご報告の趣旨でございます。

昨今の議論では、銀行持株会社が子銀行の監督を業務とし、これが適切に機能するのであれば、子銀行等に重厚な監督体制を求める必要はないのかもしれないという議論も提示されております。これも結局、銀行規制が会社法の規律を全部パッケージで借りてきているのでこういう問題が起こるので、そもそもそのような発想から離れていくと、この点の議論なども対処がしやすくなるのではないかと、ここは感想めいたことでございますけれども、思ったりもした次第です。

取りとめもない議論で恐縮でございます。時間も延びてしまい大変申しわけございませんが、私からのご報告は以上でございます。よろしくご指導のほど、お願い申し上げます。

【岩原座長】

どうもありがとうございました。

松井委員からは、金融規制と会社法の関係の根本的な問題について、非常にわかりやすくご説明いただいて、大変この議事にとって有益だと存じます。私も会社法を専門としておりますので、今の松井委員のご報告に補足する形で、特にこのワーキング・グループに課せられた課題との関係で、具体的な問題について、金融規制と会社法の関係をどのように考えたらいいかということを少しコメントさせていただきたいと存じます。若干時間を取りますが、お許しいただきたいと存じます。

今回の当ワーキング・グループに対する諮問は、金融グループの業務の多様化・国際化の進展等の環境変化を踏まえ、金融グループをめぐる制度のあり方について検討を行うことというのが諮問内容でございます。

ここで言う「金融グループをめぐる制度」として、具体的に何が問題になるのだろうかということを考えますと、今までの当ワーキング・グループでの議論を振り返ってみて、大きく分けて2つの問題が出ているかと思います。

第1が、金融グループ、特に銀行グループにおいて、銀行以外の他業グループ各社の業務や、海外子会社業務等の比率が大きくなって、銀行以外のグループ各社を含むグループ全体のガバナンスのあり方がより重要な問題になっていることから、現在の銀行を中心としたグループのガバナンス体制で十分にそれに対応できるのかという問題意識が示されていたように思います。

第2が、フィンテックなど従来の金融グループには含まれていなかった新しい技術や業務が発達してきて、金融グループもそれを取り込まざるを得ないのではないかという問題です。そのような観点から見ると、現在の銀行法等の金融規制がそれを認めているのかどうかということが必ずしも明確でないので、それを明確にし、認めるべきであれば法令等により明確に認める必要があるのではないか、認めるとすれば、その条件は何なのであろうか、これが第2の問題かと思います。

この2つの問題は実は関連しているわけでありまして、第1のグループガバナンスの問題がしっかりと対応できていれば、第2の新業務への進出を認める、新しい業務は銀行の直接の子会社ではなく、銀行持株会社の子会社に営ませることを認めるといった形の対応が考えられるのではないかと、そういう形で第1と第2の問題は関連した問題となり得るように感じられます。

このような例として、海外を見ますと、例えばアメリカのファイナンシャル・ホールディング・カンパニーの制度では、財務状態やガバナンスのしっかりしたファイナンシャル・ホールディング・カンパニーには一般のバンク・ホールディング・カンパニー以上の業務を認めるということになっているようでありまして、我が国においてもそのようなことが考えられないかといったことが、具体的な問題として出てくるのではないかと思います。

第1のグループガバナンスのあり方につきましては、銀行法は金融規制の観点から、まさに今、松井委員がご指摘になりましたように、会社法の規律にいかなる介入をすべきか、またすることが可能かといったことが問題なると存じます。資料としてお手元に、大変お恥ずかしいものでありますが、今月20日に刊行されたばかりの私の論文「金融持株会社におけるグループガバナンス――銀行法と会社法の交錯(3)――」をお配りいただいております。詳しいことは後でこの参考資料の私の論文を御覧いただければと思いますが、その35ページ以下に書きましたように、先ほどこれは松井委員も触れられたことでありますが、銀行法は銀行単体についても、銀行持株会社についても、その法律的な形態や経営形態について規制を加えております。すなわち、取締役会設置会社であり、かつ監査役会設置会社か監査等委員会設置会社か指名委員会等設置会社であり、さらにまた会計監査人設置会社であるということを要求しています。つまりこれらの形態であることを銀行単体と銀行持株会社双方について要求しているわけであります。保険業法により保険会社や保険持株会社についても同様の要求がなされております。ところが、金融商品取引業者については、そのような規制がなされておりません。

また、これは法令ではなく監督指針でありますが、「主要行等向けの総合的な監督指針」の III -1-2(1)というところでは、G-SIFIs(グローバルなシステム上重要な金融機関)に選定された銀行持株会社においては、指名委員会等設置会社とするか、あるいは主要子銀行は非上場であっても独立性の高い社外取締役を確保することを要求しております。

これらの法令による規制や、監督指針によるG-SIFIsであることによる規制、これらは合理的なのかどうか、それぞれの金融機関の形態に応じた合理的な規制の違いになっているのかということが問題になり得るかと思います。

銀行法や保険業法は、銀行持株会社や保険持株会社は、その子会社の経営管理を行うこと並びにこれに附帯する業務しか営めないと規定しております。ここで言う経営管理とは何か、このような業務規制が合理的なのか、また松井委員が指摘されましたように、こういう規制が会社法との整合性がとれているのかという疑問が出るわけであります。

まず、先ほども指摘しましたように、銀行及び保険会社やそれらの持株会社にはこのような法律形態や経営形態の規制を行っているのに、金融商品取引業者についてはそのような規制がかけられていないのはなぜなのかということを考えてみたいと思います。銀行にはシステミック・リスクの存在や決済システムの保護の必要性があること、要求払預金を受け入れて長期の貸付を行うなどといった財務構造の不安定性があること、銀行預金が大衆の重要な金融資産になっていることから来る社会システムのインフラとしての機能や、シビル・ミニマム、社会保障的な機能等があること等から、銀行については健全性の維持が極めて重要で、強固なガバナンス体制が不可欠と考えられたため、これらの規制がなされたのではないかと思われます。

また、保険会社の場合は、保険が社会生活上のリスクをカバーするという社会保障的機能、社会システムの安定化機能、シビル・ミニマムとしての機能等が重視されて、同様に強固なガバナンス体制が求められたものではないかと考えられます。

それに対して、金融商品取引業者についてはそのような要素が必ずしも大きくないということで、規制がかけられていないと理解すべきかと思います。

ただ、このようなガバナンス体制が本当に適切なのか、そこには過大な規制や、逆に規制として十分でない部分があり得ないかということが大きな問題としてあり得ると思います。過大さが問題になる点といたしましては、例えば私の論文の42ページ以下に書かせていただきましたように、銀行持株会社や保険持株会社だけでなく、その子会社や子保険会社についても、ともに監査役会設置会社あるいは監査等委員会設置会社、または指名委員会等設置会社でなければならないとしておりますが、持株会社と子銀行・子保険会社の双方に、そのように重いガバナンス体制を要求しなければならないのかという問題があり得ると思います。

現実的にも、持株会社と子会社双方に相当の社外取締役、社外監査役を設けるということ自体、人材の面でかなりの負担ということになりますし、子会社の経営問題を、当該子会社で検討するだけでなく、経営管理をする持株会社においても、同じような手続で審議をするということになりますと、手続的にも人材的にも重複感があることは否定できないところでありまして、広い意味でのコストがかかり過ぎるおそれがあります。

持株会社が厳格な経営管理体制でしっかり子銀行や子保険会社の経営管理を行えば、子銀行や子保険会社の経営形態は簡素なものでもよいという考え方もあり得るように思われます。実際、アメリカのファイナンシャル・ホールディング・カンパニーなどを見ますと、そのようなところもあるわけであります。そのような意味から申しますと、先ほどのG-SIFIsに選定された銀行持株会社を指名委員会等設置会社にするか、子銀行に社外取締役を置くことを要求するというような規制のあり方が適切なのかということも問題になり得るかと思います。

そもそもこの経営管理というのはいかなる行為であるのか、法律に一切定義がございません。例えば経営管理の名のもとに、持株会社が子会社の経営行為を自ら行ってもよいのであろうか。持株会社の経営者が子会社の営業行為を自ら行うということが許されるのか。日本の銀行持株会社の制度というのは主にアメリカの制度を参考につくられておりますが、そのアメリカで銀行持株会社形態がとられた大きな理由の1つが、銀行による証券業務の制限を持株会社の証券子会社形態で回避したり、あるいは銀行の州際業務の規制をする州銀行法を回避するために銀行持株会社形態が使われたというところがあります。

このような規制回避目的からは、持株会社形態にするということは、単に法人格を子会社と切り離すことによって銀行規制を回避できればよいということになります。実質的に考えますと、持株会社にすることで法人格を切り離すことによって、証券子会社等のリスクが持株会社の子銀行に法的には影響が及ばないようにすることができればよいということです。このような考え方からは、経営管理というのは非常に広い概念で、持株会社が子銀行の経営に直接携わることも許されるということになりそうです。

しかし、他方、これは私の論文の44ページ以下に書かせていただきましたように、持株会社を中心とする金融グループの形成にガバナンス上の意義を見出して、持株会社による経営管理とは、純粋に子会社の経営の監督に徹することに、その意味があるという考え方があります。すなわち、銀行法において持株会社の業務が子会社の経営管理等に限定されているということは、持株会社をその子会社のいわば非業務執行取締役的な立場に立たせることを意味し、持株会社と子会社の間で監督と業務執行の分離を図るものだという指摘があります。

アメリカにおいてもバンク・ホールディング・カンパニーやファイナンシャル・ホールディング・カンパニーが持株会社形態をとるのは、銀行が直接、証券子会社等を持つのよりも、持株会社とその子銀行・子証券会社等のグループ形態をとったほうが、グループ全体のガバナンスのあり方として適切だからであるという指摘があります。

なぜ適切かといえば、次のようなことが考えられるからであります。すなわち、同じ金融グループ内の銀行・証券会社・保険会社・信託会社・ノンバンク等の間には、業務範囲や経営資源の配分をめぐって利益相反関係があり得ます。もし銀行が証券会社等をその直接の子会社といたしますと、子会社よりも親銀行の利益を優先させるグループ運営が行われてしまうおそれがある。それに対して、銀行も証券会社等も同じ持株会社の傘下に入り、持株会社の完全子会社になりますと、持株会社にのみ一般の株主がいるということになって、持株会社がその株主の利益、すなわちグループ全体の所有者の利益のためにグループ間の利害調整を行うことになり、それがグループ全体の価値を高めることになるという考え方があり得るわけであります。

このような考え方からは、持株会社の経営管理とは、子会社の経営に直接関与するのではなく、持株会社株主の利益最大化の観点から各子会社の経営を監督するとともに、持株会社グループの価値最大化の観点からグループの各子会社間の業務の調整を行い、グループの経営資源の配分を決定するという、グループの経営戦略を決定することにあるということになります。

金融庁のコングロマリット監督指針も、実はこのような考え方に立っているのではないかと、推測でありますが、考えております。

この考え方は、法人単体の利益最大化を原則とする会社法の原則と抵触するおそれがあります。先ほど、松井委員がご指摘になったとおりであります。しかし、子会社を持株会社の完全子会社とすることによって、抵触をなるべく避けることができるのではないか、また経営管理をはじめとする銀行法の規制によって、会社法の原則を一部修正することもあり得るのではないか、と考えます。

このような観点から見ますと、なぜ我が国において、いわゆる3メガバンクをはじめ多くの銀行グループが銀行持株会社形態をとっているのかという問題が、非常に興味深い問題として浮かび上がってくるように思います。業務範囲規制の観点からも、自己資本比率規制の観点からも、あるいは大口信用供与規制等の観点からも、持株会社形態をとっても銀行の直接の子会社として証券会社や保険会社・信託会社・ノンバンク等を傘下に置いても、実はほとんど差がありません。それなのに、銀行の直接の子会社形態をとらず、持株会社形態をとっているグループが多いのはなぜなのか。その1つの見方として、持株会社による子会社の監督、利益相反の調整といった機能を期待しているのではないかという見方があり得るかと思います。

ただ、それでいながら、一部には持株会社の直接の傘下子会社にはならなくて、持株会社傘下の銀行の子会社になっている証券会社等も存在しますので、これをどのように見るのか、なぜそういう形態がとられているのかというのは、非常に興味深い問題ではないかと思っております。

さらにまた、持株会社の役員とその子会社・子銀行等の役員を兼任する例が非常に多いことも注目されます。そのことは、持株会社が子会社の監督に当たる、先ほどの非業務執行取締役的な立場で監督に当たるということと矛盾しないのか、という問題も出てき得るかと思います。

こういったことが問題として考えられるところでありまして、このワーキング・グループでご議論いただければと思います。

次に第2の観点として、銀行法や保険業法が定めるこの持株会社のガバナンス体制だけでは足りない点として、どのような点があるかということを考えてみますと、取締役会設置会社や会計監査人設置会社、そして指名委員会等設置会社や監査役会設置会社あるいは監査等委員会設置会社といった経営管理形態を法律で定めただけで、本当にしっかりしたガバナンスが行えるのかという問題があります。このことは最近の東芝の事件でも明らかになったところであります。

これについては、私の論文ですと31ページ以下に紹介を行い、また52ページ以下で議論をいたしましたように、銀行法が定めるところを超えて、持株会社の取締役会が真に持株会社の株主全体の利益に立って実効的にグループ子会社の経営管理を行えるような体制を構築しなければならないと考えられます。その際には、論文の52ページに書きましたように、最近定められました日本版コーポレートガバナンス・コードや、OECDのコーポレートガバナンス原則の改正案、それからバーゼル銀行監督委員会の銀行のコーポレートガバナンス原則ガイドライン等を参照して、銀行法令や監督指針を整備する必要があるのではないかと考えております。

特に内部統制が機能するように、監査委員会・監査等委員会・監査役会と内部統制部門や会計部門、あるいは会計監査人の間のコミュニケーションを密にすることや、経営者のサクセッションプランに社外取締役が実効的に関与して、適切な経営者の選任が行われるようにすることなど、あるいはガバナンスを機能させる企業文化を育成することなどが、極めて肝要なことになってくるのではないかと思います。

次に、先ほどの第2の業務範囲の問題でございます。フィンテックなど新しい技術や業務を金融グループの業務として認めることの是非、またその条件は何かという問題でありますが、そもそも銀行や銀行持株会社の子会社などの業務範囲を銀行法が限定しておりますのは、いわゆるバンキングとコマースの分離の考え方に基づいていると思われます。銀行がリスク管理のスキルを有していると考えられる金融関連業務や従属業務に、その子会社等の業務範囲を限定することによって、銀行がコントロールできない過大なリスクを負うことがないようにする、また、国が規制によって保護している銀行がコマースに進出することによって、競走上不平等な問題を生じないようにする、また金融当局が監督できる範囲に、銀行の、あるいは銀行グループの業務を限定する、金融機関による産業支配を防ぐといったような観点から、バンキングとコマースの分離が図られてきたと考えられます。

そこで、フィンテックなど新たな技術開発とビジネスのあり方の変化に伴って、バンキングとコマースとの境界が不明瞭になってきているということを考えますと、この両者を融合させるような業務を金融グループに認める必要性は高まっているように考えられます。このことは、銀行法が銀行グループの業務範囲を金融関連業務等に限定しているのに、コマース、一般事業を営む事業会社が銀行主要株主になることができるという規制の非対照性からも、金融グループの業務範囲の拡大が要請される面があるように考えられます。

もっとも、アメリカのドット・フランク法やイギリスのリングフェンスなど国際的には、銀行あるいは金融グループの業務範囲を、リスクを限定するために制限する動きがあるわけでありますが、しかしアメリカでもガバナンス体制が整い、財務状態のよい金融グループには、ファイナンシャル・ホールディング・カンパニーとしての資格を認めて、より広い業務範囲を認めているわけでありまして、我が国においても同様の条件のもとで新たな業務を銀行あるいは銀行持株会社グループ等に認めることができるのではないかというように考える次第であります。

長くなってしまいましたが、一応私のほうから補足的なコメントをさせていただきました。

それでは、これから討議に移りたいと思います。ご質問・ご意見などご自由にお願いいたします。どの委員からでも結構でございますので、よろしくお願いします。

大崎委員、どうぞ。

【大崎委員】

ありがとうございます。

2点ほどお伺いしたいのですが、1点目は、岩原先生のご論文を、私も今日初めて拝見したので、きちんと読んでいないので、さらっと拝見したときに、もしかしたら岩原先生のご論文には書いてあるのかなという感じもしたのですが、先ほど松井先生からお話があったような会社法と金融規制との一種の矛盾と言うと言い過ぎなのですが、なかなか難しいところというのは、もしかすると100%子会社のケースについてはそれほど心配する必要がないのかなというような気もしたのですが、その点何か、要するに持株会社の100%子会社、あるいは銀行の100%子会社という場合と、少数株主が存在する場合で大きな違いがあり得るのかどうかという点について、ひとつ岩原先生、あるいは松井先生にお教えいただきたいというのが第1点でございます。

それから2点目は、この金融コングロマリット監督指針は、基本的に銀行、金融商品取引業、それから保険業の3つのうちの2つ以上をやっている場合にだけ適用されるというふうに理解しているのですが、例えばスーパーマーケットが銀行を持っているとか、あるいはIT企業が銀行を持つとかいうようなケースについて、同じような考え方で、この経営管理会社的な役割を持った者を何か特定して、それに対して監督を及ぼすというような考え方があり得るのか、あるいはそれについてどういうふうに考えたらいいのかということについてお伺いしたいと、この2点でございます。

【岩原座長】

どうもありがとうございます。

どうしますか。松井委員、お答えになりますか。

【松井委員】

2点目は私からお答えすべきかどうかがわからないので、1点目だけお答えいたします。大崎先生のご指摘の点で、100%子会社の場合と少数株主がいる場合との差異に関する問題ですが、まず一般論として言えば、金融機関に限らず、持株会社が子会社株式を100%持っている場合、少数株主をめぐる問題が生じませんので、100%子会社の場合にある種の問題が回避できるのはおっしゃるとおりだと思います。ただ、ここで金融規制と会社法との緊張関係といった話になりますと、100%子会社の場合でも同じことが起こるかと存じます。

先ほど岩原座長からも繰り返しお話があった点なのですが、子会社形態をとると、それ自体から生じる問題ということがございます。子会社という形態は、ある種の利益相反の防止であったり、ある種のリスクの伝播の防止であったり、あるいはある種の監督上の便宜等があったりしたからとられているわけでして、要はその趣旨にターゲットを絞って法人格を分離しております。そうであるがゆえに、本体にその事業を取り込んでしまえば、経営陣が指揮命令を出して管理監督が容易にできるものが、法人を分離することによってそこが及ばなくなるということがあります。それは、100%子会社の場合だろうと、少数株主がいる場合であろうと、法的には変わらないのだろうという気がします。つまりユニバーサルバンク方式をとってしまえば解決する問題が、子会社に分離することによって生じているというのがここでの問題で、それは少数株主がいるかいないかとは多分関係がないのではないかというのが、私の感触でございます。

【岩原座長】

私のほうから補足させていただきますと、まず第1点について、そういうコングロマリットの中で例えば持株会社の指示に完全子会社の取締役が従ったことによる責任が生じないかという責任論の問題だけに関して言えば、私の論文の50ページのところで、それが議論されておりまして、読み上げさせていただきますと、「尤も、メガバンク・グループ等においては、多くの子会社は持株会社が全株式を所有する完全子会社であり、子会社株主利益の保護の問題はないため、持株会社が子会社に不利な行為を行ったり子会社経営者に指示して」、そういう不利な行為を行わせても、「子会社を債務超過に陥らせる等して、子会社債権者を害することがない限り、持株会社もその指示に従った完全子会社の経営者も、責任を問われることはないとも考えられる」と、注に引用してありますように、幾つかそういう学説がございます。

「会社法424条は、取締役の会社法423条の責任は、総株主の同意があれば免除されうるとしている」わけでありますので、完全子会社であれば、親会社が責任を免除できるということになります。

「尤も、多重代表訴訟の制度が適用される会社においては、完全持株会社における総株主の同意がないと、原則として子会社役員の責任を免除できないとされ」ておりますが、これも「子会社に不利となる子会社役員の行為であっても、それが親会社グループ全体の利益のために行われたもので、親会社に損害をもたらさないのであれば、多重代表訴訟の対象にはならない」ということで、実際上はあまり問題は起きないのではないかと思われます。

ただ、本当につき詰めた細かい議論をしますと、その次に書いてありますように、「しかし会社法429条等、第三者に対する責任の関係や、子会社が倒産した場合の管財人からの請求等の関係では、なお親会社の総株主の同意がないと子会社役員の責任が免除されないという問題は残りうるところであり」、そこから考えられることは、実際上の結論として言えば、「子会社の債権者等第三者の利益を害する恐れがない範囲」であれば、持株会社は完全子会社に対して利益相反を含む経営管理を行っても問題は実際には生じないのではないかと、民事的な責任としては、そういうことになるかと思います。

他方の問題として、松井委員が指摘されたのは、親会社と子会社に法人格を分離することによって生じる問題です。単体の中であれば、同じ会社の中の指揮命令系統の問題として対処できる問題が、親会社は子会社に少なくとも会社法上は指揮命令を与えることはできない、株主総会での議決を通じたコントロールしかできないので、そういった問題は残ります。そこで、メガバンク等日本の大体の持株会社グループにおいては、持株会社と子会社の間で経営管理契約を結んでおりますけれども、会社法は強行規定ですから、経営管理契約は会社法に反することは定められないということで、経営管理契約を締結しても、松井委員が指摘された問題はなお残ります。しかし実際上は、完全子会社であれば、事実上、持株会社が指揮命令を行うことはできるであろうし、先ほど申しましたように、次のステップの問題として、銀行法が経営管理を親会社に認めているというところから、そういうことまでやることを銀行法が認めるという考え方もあり得る、そういう解釈もあり得る。そこをどう考えたらいいかということは、このワーキング・グループでご議論いただきたいと考えております。

会社法は法人格の区別を重視した原則をとっていても、銀行法や保険業法の独自の観点から、経営管理としてそこまで認めるという法規制をすることは十分あり得るわけでありますので、それはここで議論いただきたいわけです。そして、その際にどういう要素を考えたらいいかということを、先ほどの私のコメントで申し上げたということであります。

第2点について言えば、金融コングロマリット監督指針は、おっしゃるような事業会社が主要株主として支配しているコングロマリットも、事実上の持株会社グループという名前で、監督指針による規制の対象にしております。誤解していたら、指摘いただきたいと存じます。

ただ銀行法は、あくまで銀行持株会社の経営管理を認めているだけで、事業会社が主要株主、支配株主として、金融子会社を支配しているときに、金融コングロマリット監督指針のような形で行政的な監督ができるのかというのは、実は大きな問題で、銀行法の範囲を超えているのではないかという疑問がありうるように、私個人は思っております。

【大崎委員】

その最後の点で、岩原先生のご論文の39ページのところで、事実上の持株会社グループについて、金融機関のうちいずれか2以上の異なる業態のものが子会社の場合というような記述がございますが、そうすると、例えばスーパーが銀行と金融商品取引業者と両方持っているという場合は、何か対象になりそうなのですが、どちらかしか持っていないとならないような感じもするのですが。

【岩原座長】

ご指摘のとおり、このコングロマリット監督指針の対象にはならないということになります。残るのは、銀行法上の主要株主規制のほうだけだということだと思います。

【大崎委員】

ありがとうございます。

【岩原座長】

福田委員、どうぞ。

【福田委員】

法律のことはあまりわかっていないので、非常に的外れなことを言うかもしれませんけれども、2点ございます。まず経営管理会社が個々の子会社に介入するという、大げさな例ではないのですが、実際にあったような例として、メガバンクの1つがスマホ専門の銀行を子会社として立ち上げたときに、本体の銀行の業務、本体で当然できる業務の一部をそちらにやらせたという事例がありました。それは本体でも利益が上がったはずのことを子会社にやらせたという例です。グループ全体として見ると、多分スマホ専門の銀行というのは将来的には非常に伸びる可能性もあるけれども、立ち上げのときにはある種の苦労することもいろいろあるので、本体でも当然利益を上げられるような一部の業務を、新しく立ち上げた子会社にやらせたといえます。それによって子会社が将来的に伸びてくれればグループ全体でも大きな利益が上がるという観点にたったものといえます。経営管理会社による銀行本体へのある種の介入というほどではないですが、長期的な視野からグループ全体でどう利益を上げていくかというときに、一部の業務をこれから伸びそうな別の会社にやらせてみるみたいな介入の方法というのは、グループ全体の利益という観点からは望ましいあり方なのではないかと思います。

それからもう1点は、これは私が単にあまり理解していないのですけれども、MUFGグループの証券業務のガバナンス構造というのはかなり複雑になっているのではないかとは思うのです。

具体的に言うと、証券業務は、モルガン・スタンレーとの業務提携という形で成り立っている。直接は、中間証券持株会社というのが持株会社の下にあって、さらにその下に証券会社があって、子会社は三菱UFJモルガン・スタンレー証券だけです。ただ、もう1つ、モルガン・スタンレーMUFG証券もかなりの持ち分を持つ形で存在しているので、かなり複雑なガバナンス構造になっているということだとは思います。これはかなり例外的なものとして存在しているのか、それともこういう金融持株会社の構造の中で一般的に存在し得る構造なのかということを教えていただけると、全く不勉強で申しわけありませんけれども、助かります。

【岩原座長】

私が答えましょうか。

まず第1点は、むしろご意見ですね。むろんそういうことは当然あり得ることで、多分、ある銀行がスマホ専門銀行部門を分離して子会社にする、そのときは多分完全子会社として立ち上げるのでしょうから、株主にとっては銀行本体でやろうが、完全子会社でやろうが、その利益は株主に帰属するわけですし、グループ全体としてのあり方として、それを銀行本体でやっているよりもグループ会社にしてやったほうが、より発展するだろうということであれば、それは望ましいケースなのだと思います。

第2点のご質問は私もよくわからないのですが、MUFGの証券子会社が非常に複雑な形態になったというのは、まさに福田委員ご指摘のとおり、モルガン・スタンレーの約22%の株式をMUFGが取得して、業務提携を行い、両社の出資した証券子会社を立ち上げるというような形での業務提携をするということにしたことから生じた特に複雑な形態なのだろうと思います。しかしそれが一般的かどうかというと、たまたまMUFGがそういう経緯でそういう証券子会社の形態をとったから生じた例であって、あまり一般的な例ではないような感じがいたします。

よろしいでしょうか。むしろ事務局のほうが、そういうことは詳しいかもしれないので、よかったら。

【佐藤総務企画局信用制度参事官】

私も全て把握しているわけではないのですが、メガバンク・グループの代表的な例として、MUFGグループでは、今福田委員がおっしゃったように、ファイナンシャルグループの下に三菱UFJ証券ホールディングスという中間的なホールディングスがあって、その下に証券会社が幾つかぶら下がっております。それ以外に、MUFGグループの中では、ホールディングスの下に三菱東京UFJ銀行があって、その銀行の下に、幾つかまた銀行がぶら下がっていたり、あるいは三菱UFJ信託銀行があって、信託銀行の下に海外の信託銀行などがぶら下がっていると、そういうような構造になっております。

みずほフィナンシャルグループについては、藤原委員が詳しいかと存じますが、やはりフィナンシャルグループの下に、例えばみずほ銀行があり、みずほ信託銀行があり、みずほ証券があり、その下に幾つか海外の拠点などがぶら下がっているという構造になっておりまして、三井住友フィナンシャルグループの中では、フィナンシャルグループの下に三井住友銀行があって、その下にまたいろいろな証券会社ですとか、海外の拠点がぶら下がり、またホールディングスの下にファイナンスリースなどがあって、その下にまたぶら下がっているというように、各グループとも、おそらくいろいろな過去の経緯ですとか経営戦略、あるいは提携関係とかを含めて、このようなグループ構成になっているのかなという感じはいたしております。

【福田委員】

1点だけ。ただ単にそちらの証券の会社は単にぶら下がっているだけではなくて、その持ち分がモルガン・スタンレーとかなり拮抗している形での持ち分になっているというのは大きな特徴だとは思うのです。

ですから、今お話した例はたまたま証券でしたけれども、例えばフィンテックみたいな分野でもやるときに、例えばフィンテックの事業会社みたいなものと、子会社というよりは、むしろ業務提携的な形のガバナンス構造ということを想定し得るのかなということで、ちょっとご質問をさせていただいたということです。

【岩原座長】

そういうことは十分あり得ると思います。フィンテックについて言えば、最先端の事業を展開しているのはベンチャー企業でありますので、金融機関がそういう分野に進出するとすれば、ベンチャーと組んでおっしゃるようなお互いに出資をし合って共同事業としてそういう新しい分野の事業を行うということは十分考えられる。つまり銀行だけの力でやれないわけでありますから、そうするとベンチャーと銀行双方が出資した会社を設立して、そこでそういう事業を行っていくことは十分あり得るのではないかと思います。

よろしいでしょうか。

【福田委員】

はい、結構です。

【岩原座長】

中村委員、どうぞ。

【中村委員】

前回の報告のときに、UBSを例にとりましてグローバルな金融機関のマトリックスマネジメントについてご紹介させていただいたわけでございますけれども、そのときに、マトリックスマネジメントというのは、基本的には株主権がその支えになっているということでご説明申し上げました。本日の説明から、日本の会社法的には若干それでは脆弱なのかなと思ったわけでございます。しかし、グローバルな金融規制の流れとしては、本社が所属する国の規制当局、私どもスイスで言いますと、スイスの当局がむしろスイス国内単体だけを見るのではなくてグループ全体をグローバルに見る方向にあります。

一方で、日本の金融機関は、どちらかというと海外の子会社の管理、指揮というものに比較的苦しんできたというところがあるかと思います。それはこの会社法的精神にのっとりまして、海外の子会社が海外の子会社の利益の極大化のために動いて、人事権その他の業務のことに対して本社があまり口出しをできないような形で運営され、グループ全体としての一体運営、あるいはグループ全体の利益の極大化ということに対して管理がうまくいかなかった、すなわち、グループガバナンス上のある種の欠陥というものもあったのではないかと思います。

そういう観点からいたしますと、質問なのでございますが、いわゆる日本の金融の規制が、例えばアメリカをモデルにするとかいうような形で導入されてきたわけなのですが、会社法あるいは金融規制上、日本と海外の法律に大きな違いがあるのか、モデルは海外のモデルを使ったとしても、本質的に異なるところがあるのか、はたまた基本的には同じ法律なのですが、解釈において海外と日本との間に開きがあるのか、その点について教えていただけると助かります。

【佐藤総務企画局信用制度参事官】

すみません。今のご質問ですが、法律と言ったときに、それは会社法ですとか民商法、それとも金融規制という、どちらのほうをお指しになっているか、お聞かせいただければと思います。

【中村委員】

はい。両方という意味で、会社法上、まず違いがあるのか。あるいは金融規制上違いがあるのかという、私はどちらがどういうふうに影響しているのかわからないものですから、その両方について、もしご指導いただければと思います。

【佐藤総務企画局信用制度参事官】

全て把握しているかどうか、自信もないところでありますが、まず会社法的なところから申しますと、悉皆的に調べ切れているわけではありませんが、まず基本的なところとして、アメリカは州によって会社法が異なっております。デラウエア州の会社法が多く利用されているというふうに聞いておりますが、個別にいろいろと話を聞くところ、基本的に会社法の構造自体はそれほど大きく違いはないのではないかといった、印象的なところが相当入っておりますが、という感じを持っております。

金融規制上、どういう違いがあるかというところは、基本的な業務範囲などはヨーロッパ、アメリカ、日本とも違うところがあります。もう1つ、監督体制というところでは、例えば米国では国法銀行・州法銀行とそれぞれ違いがあったり、あるいはFRB・OCCという、連邦レベルでも、監督当局が複数存在していたりしており、そういうところから来る監督的な手法の違いもあろうかとは思っております。

それ以上に具体的にここが大きく異なるというところは、私が今把握している限りでは、具体的にお答えできるものはないように感じております。

【岩原座長】

私のほうから少しだけ補足させていただきますと、会社法についても、金融規制についても、日本はいずれもアメリカの強い影響を受けて立法してきていますので、基本的な構造としてはかなり似ているとは思います。

ただ、大きい違いとして言えば、日本のほうがどちらかというと堅い、また解釈も堅い、そこが大きい違いかと思います。

会社法について言えば、特に日本はアメリカに比べると債権者保護の考え方が強くて、どちらかというと事前規制で債権者保護をするためのかなりかっちりした規制をする。先ほどの完全子会社であれば持株会社は子会社に不利なことをしてもいいかというようなことについても、アメリカですと、そこで債権者保護上問題になるということはあまり出てこないのですが、日本はどうしてもそこで債権者保護の側面を常に考慮せざるを得ないというような一般的な違いはあります。

解釈も、アメリカは基本的に判例法の国で、明確に禁止されたり、だめだという判例がなければ自由にやれと、もし問題が起きれば、後で裁判所で争うという姿勢です。それに対して日本の企業は、どちらかというと事前に「こういうことは適法なのか」ということが気になって、場合によると法務省や監督当局にお伺いを立てるというようなことになりやすいという違いがあるのかもしれません。

それから金融規制についても、大きい枠組みは先ほど申しましたように、日本はアメリカにならってやっている。特に平成10年の銀行法改正によって、銀行持株会社の制度を入れたときに、根本的にどのような規制方針をとるかということで大議論をしました。2つの考え方があって、1つはアメリカのようにグループ全体のリスク管理を図っていくという監督規制にする、もう1つの考え方は、グループの範囲は自由に、かなり柔軟にするかわりに、銀行単体の健全性だけはかっちり守るという規制のやり方にするというものでした。どちらにするかということを議論した上で、前者のグループとしての健全性を守る、グループ範囲を明確にした上で、グループとしての健全性を守るという考え方をとりました。先ほど申しましたように、ですから業務範囲規制についても自己資本比率規制等についても、銀行持株会社グループ形態をとろうが、銀行とその直接の子会社のグループ形態をとろうが、ほぼ同じ規制内容にするということになっています。

ただ日米の金融監督で違うところは何かというと、ここも先ほどの解釈というか、運用の姿勢の違いがあって、フィンテックなんかについてもそうですけれども、アメリカでは国法銀行法その他の法律上だめだと書いていなければやっていいという態度で、新しい業務に銀行も進出している。で、後で問題が起これば訴訟で争うという姿勢です。

それに対して日本の金融機関グループの場合は、できるということが書いていないと、そういう業務に進出するのをためらうところがあって、新しい業務をするようなときは監督当局にお伺いを立てる。監督当局も、どちらかというと先例に従って堅い解釈をとりやすいというような、一般的な違いがどうもあるような感じを持っています。これは私の個人の無責任な感想ですので、多分佐藤参事官は違うご意見かもしれません。

神作委員。

【神作委員】

ありがとうございます。松井先生と岩原先生のお話を伺って、何点か感想と、それからご質問を述べさせていただきます。

第1に、岩原座長がおっしゃった、グループガバナンスが強化されたところ、しっかりしたところであれば、業務範囲を一定の範囲で、例えばフィンテックについて拡大していくことが可能であるという考え方は妥当であると思います。リスクヘッジという観点からも、とっているリスクが多様であればあるほどヘッジは効果的に働くでしょうし、それがきちんとコントロールされ、コントロールし得るものであれば、リスクを管理するとともに収益も上がり得るということだと思います。と申しますのは、リスクと利益というのは表と裏の関係にございますので、そのような観点からも、グループガバナンスがしっかりしているところにコントロール可能なリスクをとることを認めるということは、これを個別的に見ていくのか、ある程度一般化するのかというのは議論の余地はあるかと思いますけれども、方向性としては私は賛成でございます。そのような観点から、グループガバナンスの強化と業務範囲の拡大について、さらに議論を続けていくということかと存じます。

それから2点目でございますけれども、法人格を別にするということが監督政策上のメリットがあるという点について、これは特に松井先生のご報告の中で強調されていたように思うのですけれども、子会社が1つだけだったら、それはそうなのかもしれませんけれども、関連会社等も含めグループの構造が複雑になってくると、一般論として言えば、やはりその法人格が増えて関連会社が増えていくと、そこまで監督を及ぼさなければいけないという前提に立つならば、やはり監督政策上も、そういった関連会社・グループ会社がたくさんあるというのは大変なことなのではないかというふうな感想を持ちました。私に誤解があれば、訂正していただければと思います。

次に、ご質問にかかわることなのですが、例えば親会社である持株会社から子銀行の取締役に出向していたり、あるいは親子会社で役員を兼任しているという場合に、そのような兼任したり出向している取締役の方が、いわば親会社の指図は受けずに、親会社の意向を酌んでさまざまな意思決定を行ったり行為をすることは、親会社の経営管理の中に含まれるというご理解の下で松井先生、岩原先生はお話をされていたのかどうかについて、お伺いいたします。

これは次の感想にもかかわるのですが、要するに銀行持株会社が行う「経営管理」とは何なのかということについて、もう少しはっきりさせていくということが必要なのではないかと思うのです。特に会社法との抵触を考える場合にも、先ほどの出向していたり、兼任していたりしても、子会社の取締役はやはり子会社に対して義務を負う、このような考え方は会社法としては確立しているかと思いますけれども、今日の松井先生や岩原先生のご議論というのは、今のようなところにまで影響が及ぶ話なのか、それともそうではなくて、あくまでもグループのトップの会社が行うべき「経営管理」というのは、グループ全体の戦略を確定したり、決定したり、グループ全体のリスクを管理・コントロールすることであるのか、いずれにせよ、銀行持株会社が行うべきで「経営管理」というのが一体何なのか、その範囲を明らかにするということが今後必要になると思いました。

それから最後に、岩原先生のご論文に関して、親会社のガバナンスがしっかりしている場合には、子会社の組織形態については緩和する余地があるのではないかとのご示唆をされたものと伺いましたけれども、株式というのは自由に譲渡され得るわけで、そうすると、例えば株が譲渡されてしまう場合を考えると、やはり銀行は法人格に着目してやはりある程度イコール・フィッティングな規制が必要で、特別扱いするのは難しいのではないかという感想をもちました。

先ほどのグループ持株会社の経営管理とは何かということを考えるというときも、私はやはり法人格というものをまず基本にして考えていき、グループの頂点にいる会社についてはグループレベルで考えるべきことが何かを明確にしていくことが議論を整理するに当たって有益なのではないかというふうに感じた次第でございます。

取りとめのない感想とご質問を織り交ぜて恐縮でございますけれども、私からは以上でございます。

【岩原座長】

松井委員から、まず。

【松井委員】

コメントとご質問をいただきましたので、簡単にお答えしたいと思います。

3点ある中で、2点目が当方にかかわるところかと存じます。法人格を分離するのが監督上の便宜の話だというときの監督の中身につきまして、ちょっと私が誤解しているかもしれませんが、ここで言う監督というのは規制当局が監督をする際に法人格が分離されていて、業態別に整理されているほうが監督をしやすいということでございまして、神作先生がおっしゃったのは、親が子を監督するというような観点でしょうか。

【神作委員】

監督当局にとっても、ある会社が経営管理会社として何をするかということを監督するということになると、結局のところ、グループが複雑化すれば法人格を分離したところで監督当局にとって監督が難しくなるのは変わらないのではないかという観点だったのですけれども。

【松井委員】

承知しました。

そこは多分相対的な話でございまして、法人格を分離しないということは本体にさまざまな業務が含まれる状態になって、やはり相対的に法人格は分離しているほうが監督がしやすい、コストがかからないと、こういう趣旨でございます。それは、おそらくその業務が非常に多様化した場合でも変わらないのではないかという解釈でございます。

もう1つ、親の指図を受けない子会社の兼任取締役、あるいは出向の役員等の考え方でございます。経営管理という観点から見た場合、親の指図を受けずに、しかしグループの状況を忖度するという場合をどう考えるかは、おそらく考え方によるのではないかという気がいたします。

まず、そもそもの問題として、そのような裁量が与えられていて、「よきにはからえ」といったように、グループなり親会社なりの利益を忖度しなさいというのが果たして管理上好ましいのかどうかという問題になるのだろうと思います。一つの考え方としては、親が適宜の裁量を与えるというときに、子会社ないしグループにとって最も好ましい方法がそのような裁量を与えることだということになれば、それは実は経営管理の中身として好ましい方法をとったという評価もできるでしょう。他方で、そのような自由な裁量を与えることで実はコントロールの利かないところに子会社の経営が行ってしまう可能性があるのであれば、それは経営管理の内容としては好ましくないということにもなりそうです。そうなりますと、まさに神作先生がご指摘のとおり、経営管理の中身が何かということが実は一番大事で、今の説明から申しますと、グループの経営管理会社等がその子の役員等に裁量を与えることについて適切な説明が与えられるかどうかという、ある種のアカウンタビリティの問題になってくるのかなという感じがします。ですので、経営管理の中身をある程度金融規制上明らかにした上で、以上のような裁量を与える場合には適切な説明が与えられるかどうかというのが、その経営管理の中身として重要であるということになるのではないか、という感触を持ちました。

私からは以上でございます。

【岩原座長】

私のほうからも若干お答えをさせていただきたいと思います。

神作委員の第2の点については松井委員がお答えになったとおりで、おそらく法人格を別にすることによって監督がしやすくなるというのは、同じ法人の中で別の業務をやっていると、その間の計算関係とかがはっきり明確に分けられていない。それが法人格を別にすると、一応その別法人の取引という形で会計上等整理されますので、監督当局としては、1つの企業の中で複雑なこと、例えば内部相互補助みたいなことが行われているのを監督するよりは、別法人との間の取引について監督する方がやりやすくなると思われます。例えば取引の対価の相当性に問題があるかとか、そういうことを見るにも、法人格が別になっていれば計算関係が別になりますから、より見やすくなるという意味で監督がしやすくなるということであって、先ほど神作委員のご指摘のあった監督対象の法人が結局増えてしまうのではないかということは、これは1つの法人の中でやる業務が増えれば、全く同じ問題が起きるわけですから、そういうことが問題ではなくて、今申し上げましたように、計算関係等、法人格を別にすることによってよりチェックしやすくするという意味で、多分松井委員もおっしゃったのではないかと思います。

それから第3点の経営管理、これはまさに先ほど私が問題にしました経営管理としてどこまでのことを求めるというか、経営管理としてどこまでのことができる、あるいはすべきと考えるかということになると思います。

先ほど申しましたように、実際上、子会社の経営に持株会社が自ら関与して、場合によっては持株会社自身が子会社の経営に当たるところまでやっていいのだという考え方をとれば、先ほどおっしゃったように、持株会社から出向したり兼務したりして、実際上持株会社の指示に従って業務をするということも可能だということになると思います。しかしそうではなくて、もう1つの考え方、即ち、持株会社と子会社との間で監督と業務執行を分離して、持株会社はあくまで監督に専念すべきだという考え方をとると、おっしゃったような兼務体制をとったりとか、出向した者が親会社の指示で子会社において親会社の意向に従った業務執行をするとかということは、不適切だということになってくると思うので、経営管理として持株会社がどこまでのことをやるべきかという、まさにその根本的な考え方をここで検討していただきたいと思います。

平成10年に銀行法を改正して、経営管理という規定を入れたとき、実はそこを曖昧にしたままにしたのです。これは実際、平成10年の改正法のドラフティングをされた担当官の方にも伺ったのですけれども、あえてそこを明確にしないで規定したということです。ですから、その中身をどうするかは、まさに我々がここで議論して、その方向を考えていかなければいけないと思います。

第4点について言えば、確かにおっしゃるとおり、株式の自由譲渡性がありますから、完全子会社でなくなるときがあることはそのとおりであります。そういうときについて銀行のほうで、株式が譲渡された後を考えれば、きちんとした厳格な管理体制が必要でしょうという御意見はよくわかります。

しかし、私が先ほど申したのは、完全子会社である場合については、簡素化をしてもいいのではないかということでありまして、株式譲渡によって完全子会社でなくなった場合については、それは神作委員のおっしゃるように、銀行レベルにおいてもきちんとした独自の監督体制が必要になるということになるのではないかと思います。

よろしいでしょうか。

【神作委員】

はい、ありがとうございました。

【岩原座長】

藤原委員。

【藤原委員】

実際に業務遂行をしている立場からしまして、本日皆さんのご意見を拝聴しながら一言申し上げたいと思います。

まず、コーポレートガバナンス・コード、あるいはスチュワードシップ・コードといった大きな流れの中で、我々金融機関自身もこのガバナンスに対する目線を上げておりますし、そういう意味では、今日行われた議論というのは、ある意味で我々がとかく所与と感じていたような銀行法あるいは会社法の中の本質に斬り込んでいただいたという意味で、非常に意義の深いものだというふうに思っております。

そういう中で、経営管理のあり方、あるいはガバナンスのあり方ということに少しコメントいたしますと、なぜ銀行が免許業種なのだろうかといったところが、本質的には今回の議論などとの連関があるのかなと思っています。すなわち社会インフラとしての公共性と、一方で健全な競争ですとか、イノベーションを含めた指揮・行政によって企業価値を高めていくことによって、より厳格かつ健全な金融システムに資するということから、この免許業種があるとすると、やはりこのガバナンスを考えるときにも、この堅確性の部分と効率性の部分、まして重要なのはお客様に対する利便性の追求の観点、さらに国際的な競争の観点、すなわち堅確性、効率性、利便性、国際性、この4点からどうあるべきかということを考えていくべきだと思っています。

実際、我々みずほフィナンシャルグループも持株会社形態で、多くの子会社を従えながら連結経営をやっているわけですけれども、やはり子会社形態・持株会社形態をとることによって、構造的な守りの部分、例えば利益相反ですとか、リスク遮断、こういったところのメリットはあると思っています。

ただ、持株会社形態をとっているのはそれだけの理由ではなくて、一方で攻めの部分も当然あります。戦略をいかにスムーズに遂行できるか、例えばM&Aをしたときに買ってつけやすい、あるいは業務提携がしやすい。さらに言うと、例えば法人格ごとの人事体系をつくって、その処遇あるいはその採用についても、その柔軟性を確保していくと、いろいろな攻めの部分もありますので、そういった意味では一概にこの守りの部分だけで子会社形態、あるいは持株会社形態をとっているかどうかといったことは語れないとは思っています。

私は、この議論を今後進めていく上でのキーワードは、部分最適より全体最適だと思っています。すなわちグループ全体として、もちろん最低限のところを押さえながらということなのですけれども、グループ全体として堅確性を堅持した上で効率性を追求していくか。例えば先ほど経営管理という議論が出ました。経営管理をグループ全体で考えるときに、このモニタリング機能といわゆる執行のライン。例えば何を言っているかというと、持株会社レベルでも社外取締役に入ってもらいながら、これは取締役の監督というラインと、我々経営チームの執行ラインというのが、まずここでの牽制機能というのはあります。さらに、持株会社と例えばその傘下銀行、これには経営管理と事業会社という、この牽制機能があります。さらに内部監査といった独自の経営管理システム、あるいは監査委員会を通じた監査のシステムがあります。

すなわち、グループ全体としますといわゆる三重的に、取締役と執行ライン、持株会社と事業ライン、持株会社・事業ラインそれぞれのいわゆる監査ラインといった3つの構造の中で、このガバナンスのシステムができ上がっているとすると、これをどこまで個別・自己完結的に求めていくかという問題については、1つ問題提起ができるかと思っています。

そういう意味で言うと、このグループ全体の全体最適の中で、当然ながらシステミック・リスクですとか、銀行あるいはシステム全体の健全性ということが大前提ということの中で、自己完結性をどこまで求めるか、あるいはその中で情報共有をどこまで認めるか、シェアドサービスをどう考えるか、クロスマーケティングをどうするかといったことを、堅確性と効率性と利便性と国際性、競争の中で考えていかないといけない。

先ほど岩原先生がおっしゃった国際性という観点で言いますと、やはりフィンテックみたいな新しい流れが出てくる中で、守りもさることながら、やはりそのメンタルの部分で銀行経営を変えていくという部分は、我々経営チームはやはり深く認識しなければいけない。そういう中でお客様にいかに利便性の高いものが提供できるか、これは1つのゲームチェンジにもなり得る大きなうねりだと思っていますので、そこについては攻めと守り両面から我々も考えていきたいと思っています。

すみません。ちょっと長くなりましたが、以上です。

【岩原座長】

ありがとうございます。

林田委員、その次に舩津委員、お願いします。

【林田委員】

今日はいろいろ大変有益なお話を伺えて、大変勉強になりました。

岩原座長も、持株会社であろうと、銀行が子会社を持つ方式であろうと、それほど違いがないのに、持株会社方式に今なっているとおっしゃられていました。

たまたまなのか、必然なのかはわかりませんけれども、建物に例えれば、メガは皆持株会社造りの家に住んでいるということだろうと思うのですが、私が金融記者として取材してきて、メガができてくる過程なども取材してきた感じで言いますと、その家の建て方というのは随分違っていて、例えば今ご説明のあったみずほさんの場合は3行統合を持株会社の下につくり、3行で統合すると。最初の段階から業務別に横串を入れて、それで組織を再編してまとめていくという過程をとって、今の形、ワンバンクというところにたどり着いたわけですが、一方、例えばSMBCの場合は3行統合に先を越されて数カ月後に構想が、98年だったか、公表されたと思うのですが、そのとき当時の役員の方々が言っていたのは、銀行というものは持株会社の下に並んでいてもガバナンスはできないと、これはがっちりと単純合併をしてグループをつくるんだと。

そもそも統合の出発点の哲学が大分違っていて、そこから時間を経て、例えばM&Aその他の業務へ広げていく、あるいは証券その他の業務を統合していくという中で、多分持株会社という形をとってきたのだろうと思います。

ですから、今、形だけ見ると、建物の形は一緒になっておりますけれども、多分その中のガバナンスのやり方、流儀、あるいは家風と言ったらいいのでしょうか、家族会議を開いて重要なことを決めていくような決め方をしているのか、あるいはサザエさんの磯野家ではありませんが、波平さんが一声言えば、それでみんな納得するというようなガバナンスをしているのかという、いろいろな流儀が違う。

その中で、先ほどもありましたが、ガバナンスがしっかりしているところには新規業務を認めていこうというのは、そのとおりだと思うのですが、では、どういうガバナンスがしっかりしたガバナンスなのかということ、ここをやはり見きわめていくというのが、これからの議論の一番重要なところなのかなと思っております。

現に、多分この間の第2回だったかと思いますけれども、メガの方々が組織図のようなものを示してくださったときに、みずほさんはきれいに縦横になっている姿で、SMBCは真ん中に銀行があって、そこから補足する形で広がっていくような絵面だったと思うのですが、そこの統治の基本的な考え方は少し、私の目から見ると大分違うのかなという中で、そのガバナンスのどちらがいいのかということをジャッジするような形で議論は進んでいくのか、いや、そうではなくて、その両方あり得るような形で議論を収束していくのか、あるいは地銀などはまた違うことが考えられると思うのですが、そのあたりの議論の行方、考え方というのを、少し参考までにお聞かせ願えたらありがたいです。

【岩原座長】

池田局長からコメントがございますので、お願いします。

【池田総務企画局長】

私のほうから回答させていただきたいと思います。

今、林田委員からご指摘のあったように、各金融グループのあるべきガバナンス構造というのは、我々も区区であるというふうに考えています。このことは、今日も福田先生等からあったように、金融グループの業務が今後さらに多様化していくと、あるいはフィンテックなども含めていろいろな展開が戦略上出てくるという可能性を考えたときに、ますます区区のものになっていくという要素があると思います。

そうした中で、これは私自身の現時点での考えと受けとめていただいて、ご議論いただければいいと思うのですけれども、あるべきガバナンス構造は区区であると、それでこの点については金融庁で言うと、私どもの監督サイドのほうで各金融グループとは継続的に対話が続けられているということが大前提としてはあると思いますが、その上で、制度を担当する私どもの立場からすると、制度はこうしたあるべきガバナンス構造の選択について、一方で中立的である必要があるのではないかと考えています。

これは、先ほど申し上げたような金融グループと、必要に応じて我々監督サイドとの対話なども通じながら、グループとしてのあるべきガバナンス構造が選択されていくときに、それがあるべきものだとしたときに、制度ができるだけ制約にならないようにしていくということは1つの重要な要素で、制度がそういうあるべきものの選択に中立的でないというのは、できるだけ避けることが重要ではないかと。

ただ同時に、今のような話は、中身がこれからの問題になるわけで、やはりしっかりとした経営管理体制が押さえられているということが大前提になるのだと思います。

したがって、対応はさまざまであり、区区であったとしても、グループとして必須のものとして押さえられなければならない経営管理の要諦というものはしっかり押さえていく必要がある、これは最終的に法令のレベルなのか、監督指針のレベルなのかはあると思いますけれども、やはり法令としても、基本的な考え方は整理した上で法令の整備をしていく必要があるのかなというふうに考えていまして、これからの審議でお願いしたいと考えるのは、一方でそういう中立的ということを確保しながら、あるいは今の仕組みが中立的でないような部分があれば、必要な見直しをしながら、一方で押さえるものを押さえる、そこの仕分けが重要だというのは、今日神作先生等々からいだたいて、私どももさらにいろいろ勉強しなければいけないと思いますが、私としては今、そういう方向性を考えているということであります。

【岩原座長】

ありがとうございました。

それでは、舩津委員。

【舩津委員】

若干前のめりなテクニカルな話で、今すべきかどうか、ちょっとわからないのですが、ガバナンスがしっかりしていれば業務範囲の拡大を認めようという、そういう方針かと思います。その中で、ガバナンスがしっかりしているということに関して、松井委員から、そのしっかりさせる中身というか、規律の内容として、例えば持株会社、親銀行等が子会社を指揮するというようなことを、おそらく会社法を修正する形で規律しようという、そういう選択肢もあるのではないかというご指摘かと思います。

私が松井委員のご報告を誤解していなければいいのですが、あくまでこれは金融規制の枠組みにおける会社法の修正という形になろうかと思うのですが、ガバナンスがしっかりしていれば業務範囲の拡大を認めるという理論でいきますと、当然拡大された業務範囲に対してもガバナンスがしっかり効いていないといけないということになるとすれば、そのガバナンスを強化するという方策としての会社法の特則というのが、その拡大された業務範囲にも及ばなければいけないと考えるのかなというふうに思います。

そうだとした場合、若干私が気にしておりますのは、バンキングの論理で会社法を修正するような規律を設けた場合に、拡大された業務範囲が必ずしもバンキングには該当しないようなものだという場合に、そのコマースの会社に対して、会社法の特則といったものを妥当させることが果たしていいことなのかどうなのかといったあたりです。

したがって、逆に言うと、バンキングに分類されるようなものだけについて会社法の特則を置くという、そういうようなイメージを持つべきなのか、それとももう少し広いような中身であるならば、むしろもう少し違う論理を考えなければいけないというか、会社法との接合、すなわち、会社法においてもその特則を正当化するような論理を考えないといけないのではないかなというのが、感想ですが、1点目ということになります。

それからもう1点、同じような話なのですが、海外子会社等について、バンキングの子会社であるのか、コマースの子会社であるのかによっても違うと思いますけれども、前者であれば、おそらく現地の当局なりの監督がある程度効いてきて、それなりのガバナンスは、親会社がやらなくてもやってくれるという可能性はあるのかもしれませんが、コマースの子会社が海外にあった場合に、日本の会社法で幾ら特則を置いても、やはりそこには到達しないような可能性が、おそらくそういう理解が多いのではないかと考えた場合に、何かできることがあるのか、ないのかといったあたりが問題になろうかと思います。そのあたりについて、松井委員、あるいは岩原座長に何かお考えがあれば、お聞かせいただければと思います。

【岩原座長】

松井委員。

【松井委員】

非常に難しい問題ですね。おそらくご指摘いただいた問題は、今後のワーキングでまさに検討すべき問題かと存じます。

若干のコメントだけ申しますと、まず1点目の親が子に対して経営管理の中でさまざまな取り組みをしていくと、例えば子が必ずしも金融の論理を持っていない場合に、やはり会社法との接合の問題が生じるだろうと、こういうご指摘かと存じました。

まさにそこはおっしゃるとおりでございまして、特則はあくまでも金融グループとしての健全性や効率性の観点から行うべきものであると。そうなりますと、子の中に金融ではないコマースを行う会社があった場合には、それとは別の固有の論理を持っている可能性があります。

おそらくそれは個別具体的な局面で考えなければならないのですけれども、1つこれまで大きく指摘されているのは、指図を受けた子会社の役員の義務の問題、これはご報告で申し上げたとおりで、おそらくそこは法的な手当てをするのはなかなか難しいので、解釈によって対応していくということだと思います。要するに会社法の解釈として、例えばグループ利益を考えた場合に、その子会社の取締役が義務違反にならないような解釈の可能性を会社法としてとれるかどうか、そのような議論が1つだろうと思います。

おそらくそれ以外にも、まさに舩津先生がご言及されているような指図を受けた場合の子会社と親会社の間の責任関係の問題とか、そういった問題というのは会社法的に検討しなければいけない可能性があり、この接合が非常に難しいのは、もうここで指摘するまでもございません。ただいずれにしても、金融規制としては金融グループの健全性の観点から置かざるを得ない。子会社に関しては、基本的に会社法の解釈――もちろん必要ならば別途の立法がいいのかもしれませんが――対応していく方向でできないかというのが、非常に抽象的ではありますけれども、私の感触です。

それから、海外子会社に対して国内の規制が及ばないというのは、もうこれはおっしゃるとおりで、おそらくこれは金融の問題に限らず、会社法の枠組みで常に起こる問題でございます。会社法の観点から言えば、日本としては必要な範囲で対応して、海外の子会社が受け入れるかどうかというのは、もう海外の子会社の任意に委ねるしかないということだと思います。例えば日本の会社法の規定に従い、親会社監査役が子会社の業務等を調査するというときに、子会社が外国法を準拠法にしていると、これを受け入れる義務が当然にはないわけです。それを受け入れるかどうかは子会社の判断、ないし子会社の準拠法に定めるところによらざるを得ない。

金融規制との関係で申しますと、これはもっとデリケートな問題になりますが、国際的な協力関係等の中で、どこで折り合えるかということを別途勘案していく。このような枠組みになるのではないかという、これは感想めいた話ですが、私の感触です。

【岩原座長】

翁委員、どうぞ。

【翁委員】

今日のお話の前提になっていることだと思うのですけれども、アメリカのFHCでも健全性が1つの基準になって、新しい業務を認めているかどうかということがありまして、これに加えて、今日岩原先生がおっしゃったように、ガバナンスがしっかりしていれば、そういった業務をさらに認めていくということだと思います。

今日松井先生が金融規制と会社法との関係のところでお話しされたことと、この健全性のところも、少し整理して考えておいたほうがいいのではないかというふうに思ったのですが、経営が健全であれば、自己資本比率などが高くて健全であれば、基本的にはあまり株主と預金者の間のコンフリクトというのは、そう生じることはないということだと思うのです。

例えば社外役員などが入って、株主の代理としてしっかりガバナンスをやって、企業価値をきちんと上げていくという仕組みができていれば、リスクをとりながら収益を上げていって、そして債権者にもきちんと支払っていくという、そういった構図ができると思うのですが、健全性が悪化していくと、やはり、これは銀行単体でも同じ話でございますけれども、リスクをテイクし過ぎてしまうという問題が出てくるわけで、そこでやはり債権者の視点というのがとても大事になってきて、リスク管理というのが非常に重要になってくるということだと思っています。

ですから、今日はそういった視点というのはあまり触れられていなかったのですが、こういった健全性が悪化すると、よりその預金者の代理人として、または金融システム全体の観点から、監督当局は金融規制をしっかり見なければいけないという視点が非常に強くなるので、そういう意味で、やはり健全性というのも1つの重要な業務範囲を認めるというところの要素になるのではないかというふうに思います。

【岩原座長】

野﨑委員、どうぞ。

【野﨑委員】

すみません。時間のほうも超過しておりますので、手短に、質問ではなく意見というか、感想です。

先ほど少数株主の話がありまして、福田委員の提起されたところとも非常に関連するのですが、三菱とモルガン・スタンレーですか、非常に持ち分が拮抗している。この例と非常に似ているのが、例えば三井住友フィナンシャルグループ、あそこはほとんど100%の子会社が多いのですが、リース業と三井住友カードですか。リース業に関しては55%がSMFGの持ち分と。それから三井住友カードのほうは、たしか67%が持ち分で、残りがNTTドコモということでありますけれども、そういった場合は、要するに戦略的な提携でありますので、特に持株会社がリソースの配分をするに当たって、そういった提携先の利害を損ねるような判断は多分しにくいだろうと。

ただ、やはり問題となるのが、例えば流通業が銀行を持っている場合もあります。その場合は親子上場していると。そうすると、少数株主が非常に分散化していると。ですから、多分少数株主を十把一絡げにするものではなくて、むしろその中身のほうがガバナンス上よほど問題ではないかなというふうに考えます。

以上です。

【岩原座長】

ほかに。加藤委員。

【加藤委員】

先ほどの舩津委員と翁委員のご質問と関連するのですけれども、銀行法の基本的な枠組みというのは、銀行持株会社と銀行の関係を規制対象としていると思うのです。

しかし、銀行持株会社グループが行うことが増えてくると、銀行持株会社と銀行以外の子会社との関係というものをどうしても考えなければいけなくなるということが、舩津委員のご指摘なのかなと思いました。

また、翁委員のご質問にあった健全性という点でも、どうしてもこれまでの金融規制の健全性というのは、やはり銀行の健全性だったのではないかと思うのです。しかし最近では、銀行だけではなく、金融グループ全体の健全性ということが重要になっているのではないかと思います。

そうすると、銀行法という枠組みの限界というものがあるのではないかと思い、コメントさせていただきました。

【岩原座長】

ほかに何かございませんか。よろしいでしょうか。

私の不手際のために大変時間をオーバーしてしまいましたが、ほかにご発言がございませんようですので、討議を終わらせていただきます。

本日いただきましたご説明やご意見を踏まえ、引き続き検討を進めてまいりたいと思います。

最後に事務局のほうから連絡事項がございましたら、お願いします。

【佐藤総務企画局信用制度参事官】

私から、今後の予定についてお話を申し上げます。

次回のワーキング・グループにつきましては、夏明けを目途に開催したいと考えております。具体的な日程につきましては、委員の皆様方のご予定を踏まえまして調整の上設定させていただき、別途ご連絡を申し上げたいと考えております。

事務局から以上でございます。

【岩原座長】

それでは、以上をもちまして本日の審議を終了させていただきます。

どうもありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課信用制度参事官室(内線3538、3582)

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