金融審議会金融分科会第一部会(第3回)議事録

平成14年2月15日
金融庁 総務企画局

○ 神田部会長

時間になりましたので、ただいまから始めさせていただきます。金融審議会金融分科会第一部会、本日は第3回目の会合になりますけれども、開催させていただきます。

本日は、皆様ご多忙のところ、お集まりいただきましてありがとうございます。

本日の進め方ですが、前半と後半と大体2つに分けさせていただきます。まず前半で、証券決済ワーキンググループからご報告いただきまして議論をさせていただきます。それから、後半では、福間委員から「最近の金融資本市場について」ということでレポートをしていただきまして、それに基づいて議論をさせていただきたいと思います。

まず、その前半の方でありますけれども、早速始めさせていただきますが、証券決済ワーキンググループにつきましては、第1回会合におきまして皆様方から設置をお認めいただきました。これまで4回にわたり議論をしていただいております。その結果を「証券決済システムの改革及びこれに伴う投資家保護策について」として、このたび取りまとめていただいております。そこで、本日は、これからこれについてご説明をいただきます。そして、その後、委員の皆様方からご質問、ご意見等をいただければと思います。

それでは、ご報告をお願いしたいと思いますけれども、ご報告は、ワーキンググループの座長を務められました池尾委員と、それから事務局との分担でしていただけるというふうに伺っております。よろしくお願いいたします。

○ 池尾委員

私の方からは、簡単に概要を説明させていただいて、あと事務局から報告してい

ただきたいと思いますが、証券決済システムの改革に関するワーキンググループの議論及び報告につきまして、今申しましたように概略を説明させていただきます。

今も神田部会長からありましたが、10月3日に当部会の決定によりまして証券決済システム改革に関するワーキンググループが設置されまして、私を含めて14名のメンバーで10月19日から4カ月間の間に4回の会合を開催し、証券決済システムの改革及びこれに伴う投資家保護策について検討してまいりました。ワーキンググループの議論を進めるに当たりましては、事務局に資料を用意していただいて説明を受けた上、特に投資家保護策につきましては、それぞれのお立場から各委員よりご意見をいただいた上で議論を重ねてまいりました。議論の結果、メンバーの意見がおおむね集約されましたので、本日報告させていただきます。今回のワーキンググループにおきましては、証券決済システム改革の方向性として3点。1つは対象証券をCPから社債、国債等に拡大するということです。それから2点目に、単層構造の決済システムから多層構造へ発展させるということ。それから、3点目といたしまして、決済リスク削減等のための清算機関に関する法制の整備を図るといった点の実現を早急に図っていく必要があるという基本認識の上で、利用者が安心して証券決済システムを利用し得るように、その信頼性を維持することを目的としたセーフティー・ネットを設けることの必要性、その際の保護対象となる事象等について検討いたしまして、その枠組みを報告書に取りまとめております。

証券決済システム改革にかかわる進捗状況の説明と、報告書は短いものですから読み上げていただきたいと思いますが、それらにつきましては事務局の方から行っていただくということで、私からは以上ということです。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

それでは、事務局の方からよろしくお願いいたします。

○ 山崎市場課企画官

それでは、事務局の方からご説明させていただこうと思います。

お手元に、こちらの「証券決済システム改革について」という資料と、それから、ワーキンググループの報告書でございます「証券決済システムの改革及びこれに伴う投資家保護策について」という資料が配付させていただいていますが、まず、本日は証券決済システムの改革について、簡単にご説明させていただいた後、ワーキンググループの報告書案を読み上げさせていただこうかと思っております。

これ、おめくりいただきますと「証券システム改革の意義」というページがございます。証券決済システム改革でございますが、既に委員の皆さんもご案内のとおり、証券取引がグローバル化されている中で、証券市場の国際競争力を左右する、まさに今、制度的な基盤、インフラであります証券決済システムをより安全で効率性の高いものに改革していこうということが、この証券決済システム改革の背景でございます。

その具体的に目指す方向として5点示してございますが、まず第1点目が統一的な証券決済法制の整備ということでございます。ちょっと次のページを見ていただきますと、我が国の証券決済システムがどんなふうになっているかということがごらんになれるかと思いますが、それぞれ国債、社債、株式、今回また出てきますCPと、有価証券ごとに極めて異なっているということがご理解いただけるんじゃないかと思います。これを統一的なものにしていきたいということが、この最初の統一的な証券決済法制の整備ということでございます。

それから、2点目の決済期間の短縮ということでございますが、現在の証券決済は取引日の3日後を決済日といたします、いわゆるT+3と申しておりますが、私どもは、その決済リスクの削減とか圧縮というのが大変重要な課題であるというふうに認識しておりまして、これをT+3からT+1へ持ち込みたいというふうに考えております。特に昨年のアメリカのテロの際には、事故の前の取引の決済が順調に行われるかどうかといった観点が大変注目されておりましたが、決済の短縮がどれだけのリスク削減効果になるかということがある意味では大変明らかになった、そういった事件であるというふうにも考えられるかと思います。

ちなみに、各国の状況でございますが、最後のページのところで各国の国際比較をさせていただいております。アメリカにおきましては、現在2005年6月を目途にT+1ということの実現に向けて関係者間で検討が進んでおります。また、そのほかの国々を見ても、アジアの国々でもT+2という国もある中で、我が国の21世紀の大変重要なインフラとしてT+1に持っていけるような制度的な枠組みを早期に策定したいというふうに考えております。

それから、第3の課題でございますが、これは有価証券のペーパーレス化という問題です。券面を移転する際に、券面を紛失したりとか、保険をかけたりとか、場合によっては盗まれたり、ビルが倒壊して埋まったりというようなさまざまなリスクがあるわけですが、これを電子化してペーパーレス化を図るということを3つ目の目標としております。

それから、4番目の課題でございますが、DVP、こちら、注書きの方でDelivery Versus Payment というふうに書いてございますが、証券決済と資金決済を条件づけて行って、決済に係るリスクを軽減させるための仕組みをつくるということでございます。これによりまして、資金が支払われても証券の引き渡しが行われないといったようなリスクがなくなっていくということになります。

それから、5番目、STP化の推進と書いてございます。これはこちらも注でございますが、Straight Through Processing の略でございまして、証券が約定してから決済に至るまで、データを標準化して、例えば約定日の日にファックスなんかで人手をかけて照合するということもなく、電子的にチェックし得るようなシステムを構築するといったことを目指していこうということでございます。

以上が証券決済改革へ向けての目標ということでございますが、これにつきましては、法整備だけでなく、発行者、それから金融機関、証券会社等々、さまざまな方のいろいろな面での努力などが必要かというふうに考えておりまして、今後とも証券決済改革に向けて、ここに参加していただいている委員の方々も、ぜひよろしくご支援、ご協力のほどお願いしたいと思います。

それで、次に、ワーキンググループの報告書案について朗読させていただきます。全体で7ページほどでございますので、全体、朗読させていただくことにいたします。

(「ワーキンググループの報告書案」を朗読)

以上でございます。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

それでは、ただいまの池尾委員、それから事務局から、ご説明と報告書を読み上げていただきましたけれども、これらにつきまして皆様方からご自由にご質問、ご意見をお出しいただければと思います。どなたからでもどうぞ。いかがでしょうか。

上柳さん、どうぞ。

○ 上柳委員

上柳です。

ワーキンググループの方の議論に参加させていただきまして、大変勉強させていただきました。結論的にというか、きょうのペーパーの中にもありましたように、いろんな議論があったわけですけれども、伺いたいのは、その保護対象をどこまでにするのかと。もちろんこういうことで新しいシステムができて、そこで余り問題が起こらないというのが前提ですけれども、ただ、万が一誤記録によってどなたか、本来は権利者でない方が権利を得たような形になって、しかもその方が善意取得という形で法律的には権利を取得されたときに、残りの人たち、あるいは権利を取られた人がどうなるだろうと。権利を取られるかもしれない人が全然気がつかないような場合に限定するのか、場合によっては気がつきにくいようなときまで含むのかというあたりが、恐らくこのペーパーでいいますと、5ページのところで分かれた考え方だろうと思うんですね。

私自身は余り例外的に、本来責任を負わない方も含めて基金をつくって、それによって負担するというのは、責任の所在もはっきりしませんし、それから実際問題、お金を出される方は大変ですから、そういう意味では少ない方がいいのかなと思います。ただ、実際にこのシステムを利用する側から言えば、エンドユーザー、あるいは消費者の側からすれば、自分の手の届かないところで何か機械ミスが起こったときに、とことん行って権利がなくなるということは、制度構築を新たにするときに、そういうおそれがあるということになりますと、やっぱりシステムを利用する人も少なくなろうと思います。そういう意味で、これから新しいコンピューターなりITを使って証券なり、あるいは金融のシステムを近代化というのか、迅速に決済ができるようにするというシステムをつくるときに、やっぱり万が一のときには対策があるんだよということをきっちり制度構築するというのは正しい考え方ではないかというふうには思いました。

そういう意味で、いずれにしてもこういうことが発動されないように、しかも、これはできたというか、こういう考え方で体制が、いろいろな方がご苦労されたのをどうも聞いているものですから、こういう条件が整備されたのですから、ぜひ本当にそのシステムの方がうまく回るように、そちらの方の迅速な対策もすることが、恐らく日本の方々だけじゃなくて、世界中の人たちが期待していることではないかというふうに思いました。

以上です。

○ 神田部会長

ありがとうございました。

ほかに。黒沼委員、どうぞ。

○ 黒沼委員

セーフティー・ネットのシステムというのは、振替機関等が損害賠償義務を負うような場合に、その責任を果たさずに破綻した場合が典型というふうに承ったんですけれども、そうだとすると、これは例えば責任保険のような形で、その損害賠償義務をかわって負担してもらうことは考えられなかったのかどうか。

そして、特に最後の部分で、セーフティー・ネットの管理について、新ファンドへの出捐については、これに参加する振替機関等が広く負担することが適切であると考えるとあるですが、これは強制加入という意味でしょうか。もし強制加入だとすれば、強制加入にすべきかどうかという点について、もしご議論があったならば教えていただきたいと思います。この制度は投資者保護基金と似た制度ではないかと私は認識しているんですけれど、いろいろと理論的な問題があるように思いますので、よろしくお願いします。

○ 山崎市場課企画官

事務局の方から、議論等についてご紹介させていただきます。

まず、1点目の、保護する際に保険のような形が構成できないかということについては、ご議論がございました。ただ、保険を実際かけるときに、一体どれだけの事故発生確率があるのか、といった保険数理的なことから考えると、なかなか幾らということでご負担願うということは難しいのではないかという意見がございました。

それから、2点目でございますが、2点目につきましては、口座管理機関及び振替機関、それぞれが強制的に加入するというシステムを基本的には考えております。これにつきましてもご議論がございまして、やはりこの振替システムの信頼性をみんなで維持していこうという意味からは、それぞれシステムの構成者全員が負担していくべきものではないだろうかといった意見が大勢でございました。

以上、議論のご紹介でございます。

○ 神田部会長

一般的には、責任保険とまでいうかどうか。比較的銀行の預金保険はそれに近くて行くなという、債務も出て、それを果たせなくて倒産した場合に、セーフティー・ネットとしてそれをカバーするということですから、そういうことから言うと、黒沼さんがおっしゃったように、どちらかというと分別管理の投資者保護基金スタイルの――ここでは口座管理ですけれども――に関する手違いというか、事故というものをカバーする制度ですね。

そういう意味で、それに関連して、ちょっと私からご質問するのもどうかと思いますけれども、何か非常にある意味では専門的な分野だと思うんです。ご質問なんですけれども、例えば既存の証券会社が口座管理機関をしていて、上柳委員がおっしゃったように一般の投資家がそれを利用していて、個々の事故が起きた場合には、この新しいセーフティー・ネットから1,000万程度補償を受けることができて、それに加えて、いわゆる分別管理義務違反、法律は分別保管と言っていますけれども――があった場合には、さらに1,000万もらえるということになるんでしょうか。あるいはそこは調整されるんでしょうか。

○ 山崎市場課企画官

こちらにつきましては、6ページの既存のセーフティー・ネットの関係というところで、マル3のところでございますが、この新振替システムに係るセーフティー・ネットは、ペーパーレス化された証券の振替に関する信頼性の維持を目的としているということが基本でございまして、証券会社の場合の現在の投資者保護基金におきましては、もっぱら現物の証券を前提とした既存のセーフティー・ネットという整理でございますので、このセーフティー・ネットについては、それぞれペーパーレス化されたもの、それから現物の証券を前提とした既存のものということで、そういった意味でデマケをさせていただいております。したがいまして、両方が発動されるということはないという整理にしております。

○ 神田部会長

つまり、既存の保護基金というのは、ペーパーレス化したものにはもう適用しないというふうにこの際整理しようという、そういうことですね。

○ 山崎市場課企画官

そうです。

○ 神田部会長

ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。ご意見とかご質問とかありましたら、ぜひお願いしたいと思います。

○ 和田幹事

日本銀行の和田でございます。3点申し上げたいと思います。

第1に、投資家保護のセーフティー・ネットを導入するに当たりましては、口座管理機関に無過失無限の連帯責任を負わせないことが大前提だと考えております。報告書案もこの点には触れておりますけれども、私どもでは保振法の無過失連帯責任を部分的に修正するだけでは不十分でありまして、口座管理機関が無過失連帯責任をおよそ負わないということを明確にすることが必要だと考えております。

第2に、セーフティー・ネットのあり方につきましては、信託を活用するということになりますと、法人格や事務局のない新たなファンドを設けることになります。このことは、今後証券の中で中核となる振替債を投資者保護基金の対象としませんで、事務体制においてはるかに脆弱な仕組みにゆだねることを意味しまして、投資家の保護や信用、秩序の維持を十分果たせなくなる懸念が強いと思われます。

第3に、報告書の最後にある新ファンドへの出捐についてでございますけれども、中央銀行の場合、少なくとも金融機関等の破綻処理に当たりましては、そのロス埋め資金を出すことはできないといった事情がございます。このように、出捐の問題が中央銀行にとっても難しい点、ぜひともご理解いただきたいと考えております。

以上でございます。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

今の点については、特に事務局で……

○ 山崎市場課企画官

この点につきましても若干の議論がありました。

1点目につきましては、ワーキンググループの報告書でもその方向性が示されているかと思いまして、現在これについても検討させていただいております。

2点目につきましては、委員の方から、必要に応じて実務的にはやはりしっかりした事務局が必要であればつくるという話はあるけれども、これは負担コストとの兼ね合いで決まってくるのではないでしょうかというご意見がございました。

それから、3点目でございますが、3点目につきましては複数の方から意見がございまして、いわゆる口座管理機関だけではなくて、振替監査も含めて、そういうシステムを構成されているすべての方から拠出されるというのが自然な感じではないかというご意見、それから、負担となると、それぞれ各業態、各会社の方がなかなか難しいというふうにおっしゃるけれども、もう少し真摯にこういうシステムを構築していくということを考えて負担ということを考えていただきたいというご意見等がございました。

以上、ご意見を紹介させていただきます。

○ 神田部会長

ありがとうございました。和田さん、よろしいでしょうか。とりあえずというか……

それでは、ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。

ちょっと私も今ごろ気がついていて、てにをはで恐縮なんですけれども、先ほど読み上げていただいていて、「生じる」と「生ずる」という表現がちょっと混在しているところが、3ページ目の下と5ページ目にありますので、これはちょっと「生ずる」か「生じる」かに統一させていただいた方がいいように思います。もし今からでも間に合えば、そういう点は 事務的に、もう一度私の方でも読んだ上で――これは全然変更にはならないと思います。補正という感じでさせていただきたいと思いますけれども、この証券決済ワーキンググループからの報告につきまして、これをこの第一部会としてご承認いただきたいというふうに考えますけれども、いかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

どうもありがとうございました。

それでは、ここで局長から、よろしくお願いします。

○ 原口総務企画局長

総務企画局長の原口でございます。

本日は、ワーキンググループのご報告についてご承認いただきましてありがとうございました。

また、今までの議論を踏まえ、今、証券決済システムの改革のための法律案、これを取りまとめて、今国会にできるだけ早く提出をしたいというふうに考えております。

また、この機会でございますので、今、金融庁としてもう一本、今国会に提出を予定している法案がございます。先般第二部会でもご紹介いたしましたが、ご説明をさせていただきます。

これは金融機関等による本人確認等に関する法律案という形で、今、検討しております。ご案内の同時多発テロを受けまして、いわゆるテロ資金の供与の防止ということが国際的な課題になっておりまして、今国会でもテロ資金供与防止条約というものを国会に承認を求めることが予定されておりますが、これに関する国内法として、基本的にはテロ資金供与を犯罪化するということ、あるいはそれに対する疑わしい取引の届出義務といったようなことがメインの内容になりますが、これについては法務省の方で現在法案を作成中でございます。それに合わせて、あるいはそういうことの実効性を担保するために、現在自主ガイドライン等によって行われております本人確認義務でございますとか、あるいは取引記録の保存といったものを法律上の義務として内容を明確化する必要が出てまいっております。現在はそれを金融庁の方で作業をしておりまして、証券決済システムの改革法案とあわせて2本、国会に提出したいというのが当面の予定でございます。

以上です。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

それでは、この機会に何か、もう一つ事務局の方から、いわゆるストック・オプションに係るディスクロージャー制度の改正についてご報告をいただけるということですので、よろしくお願いします。

○ 細田企業開示参事官

それでは、私、企業開示参事官の細田でございますが、今のストック・オプションに係るディスクロージャーに関しまして政令等の改正を予定している事項がございますので、ご説明させていただきたいと存じます。

これは、いわゆる取締役ですとか使用人には株式を取得させる権利を与えるというストック・オプション、これにつきまして、今、一定のディスクロージャーを求めているわけでございますが、この負担がある程度重いということがあります。他方、取締役とか使用人であるとかいう、一種の会社の内部者に対する権利の付与でございますので、今のディスクロージャー制度はそこまで必要ではないのではないかということがございましたので、今年の4月から商法改正が行われるのに合わせまして、このディスクロージャー制度を見直したいというのがこの趣旨でございます。

お手元に、横長の資料で6枚ぐらいのとじた紙でございますが、一番上に「ストック・オプションに係る現行ディスクロージャー制度の概要」と書かれました綴りがありますので、これに基づきまして、若干その中身をご説明したいと存じます。

まず、1ページ目で、現行のストック・オプションに係るディスクロージャー制度でございます。これが表の格好になっておりますのは、いろいろ場合分けをしているというわけでございます。まず縦にごらんいただきますと、現行のストック・オプションを行う場合には、新株引受権方式と自己株式取得方式と2通りございます。新株引受権が新しく株式を出す場合、自己株式取得方式は既発の株式を利用する場合ということで分かれてございます。

それから、これが実際行われます際のディスクロージャーの要求ですが、これも今度は縦に見ていただいて、現在開示会社であるか、非開示会社であるかによりまして、既存の情報量ということで、またボックスが分かれております。さらに、勧誘対象がそれぞれ50人以上であるか、50人未満であるかによってさらにボックスが分かれて、都合8つの箱になっておるんですが、特にこの網かけといいますか、斜線といいますか、いわゆるシャドーがある部分が、やや負担があるというふうに言われている部分でございます。これは基本的には発行価額が1億円以上の場合になりますと、まず有価証券届出書を提出してくださいということと、これに合わせて発行の際に相手方、すなわち取締役とか使用人でございますが、この方々に目論見書を作成して交付しなければいけない。こういう仕組みになっておる。白抜きの場合にはそうでない、例外ということになっておるんですが、基本的にはこういうものが多くの場合にかかるという構成になってございます。

そのようなディスクロージャー制度がかなり負担であるということでございまして、この資料1ページ目をおめくりいただきまして、2ページ目なんですが、これは昨年、13年9月に産業構造改革・雇用対策本部、これは総理を本部長といたしまして、全閣僚がメンバーになっております、いわゆる閣議に準じた組織でございます。こちらの決定で、ここでは雇用の受け皿整備という視点でとらえておるんですが、その一番下の5行でございます。まず、ストック・オプション制度そのものにつきまして、商法上の制度改正を行う。この時点ですから、その後、商法改正を提出する予定ということ。それから、下の3行で、この商法上のストック・オプション制度の見直しを踏まえまして、ディスクロージャー関連規定も整備してはどうかということについて検討を進めろということになりまして、これを13年度中実施すべしということになってございます。これから申し上げます今回のディスクロージャー制度の改訂というのは、基本的にはこの本部決定に沿った措置を講ずるということでございます。

それで、また1ページおめくりいただきまして、3ページ目でございます。

まず初めに、商法の改正の関係をご紹介したいと存じます。

上の四角でございますが、昨年の秋行われました商法改正によりまして、新たに新株予約権という概念が商法上創設されました。この新株予約権というのは、これを持っている者が会社に対して行使しますと、会社がその行使者に対しまして新株を発行するか、あるいは自己の保有する株式を移転する義務を負うという、いわゆるオプションと言われているものが商法上も権利化されたということかと存じます。こういうことが行われました。

そして、その結果として、さらにストック・オプション関係について言いますと、これは、通常の場合、取締役ですとか使用人に対する新株予約権の付与というのは無償で行われるということかと存じますが、その新株予約権の交付ということで、新たに法律上概念構成されてございます。

それから、このストック・オプションというのは、かなり幅の広い概念で、一番広い場合には、まさに新株の引受権そのものになるんですが、この付与対象者は、取締役ですとか使用人に限らず、第三者を含めて付与することができるということと制度されてございます。一般には使用人とか取締役には無償であり、第三者に対してでも付与できるんですが、通常、その場合であれば有償である場合が普通かと存じます。いずれにしろ、そういうやや一般的な権利として、この新株予約権が構成されたということでございます。

さらに1ページおめくりいただきまして、4ページ目でございますが、その商法改正、昨年の秋に改正されまして、実は今年の4月実施なんですが、その際にあわせて証券取引法も関係整備法の中で改正されました。この下の備考に書いてある、かような法律で、この証取法も改正させていただき、やはり商法に合わせて今年の4月から実施でございます。その上のように、今申し上げましたように商法が改正されまして、新株予約権の創設とかストック・オプションが新株予約権の交付として構成されたことを受けまして、証取法上、この新株予約権証券、これを新たに証券取引法上の有価証券として1つ定義をいたしました。したがいまして、この権利自体が1つの有価証券になるということでございます。したがいまして、ストック・オプションの付与というものも、従来は株券の付与の一形態、譲渡の一形態という、株券というやや広い概念をとらえていたものから、新株予約権証券という、先ほど特定した権利、これの譲渡というふうに、非常に1つのジャンルを限定して打ち立てているということでございます。

ここまでが、既に証取法改正で手当てが済んでいることでございます。

そして、1ページめくっていただきまして5ページ目でございますが、これが今回政令等で措置しようと思っておりますストック・オプションに係るディスクロージャー制度の改正のそのものの中身でございます。

上の四角でございますが、会社の取締役とか、あるいは使用人というのは、一般の投資家と違いまして、自社の情報を把握しているということが考えられます。これは完全持ち株会社形態をとっている場合でございますが、したがいまして、自社の完全子会社の取締役、使用人を対象とするストック・オプション、こういうものの付与につきましては、情報伝達ということを把握しているので、この場合には有価証券届出書の提出とか目論見書の交付を求めないということにいたしたいということでございます。

そして、下の四角はその具体的な方法を、今、立法技術的な方法を述べているんでございますが、次の要件を満たす場合には、新株予約権証券の募集または売り出しに該当するか否かを判断する勧誘の相手方の人数、これは一番最初のページでご披露しましたように、50人以上とか以下でディスクロージャーの方式が分かれているわけですが、いずれにしても勧誘の相手方の人数から、この取締役と使用人の人数を除外するというような規定の整備を行うということでございます。そういたしますと、ある特定の発行について、相手方がすべて取締役、あるいは使用人であればゼロになりますので、届出書、あるいは目論見書の交付は必要ないと、こういうふうになるわけでございます。そして、普通はストック・オプションの発行はそういう格好で行われるわけで、大体ゼロだということになるわけですが、もし仮に取締役、使用人とあわせて第三者に対しても発行するということであれば、その第三者の分は人数をカウントして、1ページ目のマトリックスに応じて、そういう方に対する手当てが必要であると、こういうことになるわけでございます。

その次の要件というのは、ただ、その条件づけが2つございまして、1つは非開示会社の場合、これは開示会社の場合ですと、有価証券届出書でディスクロージャーされているわけですが、非開示会社は必ずしもその保証がないということもありますので、非開示会社が使用人に対する場合、役員は会社の中身を知っているという前提ですが、使用人に対してストック・オプションを交付する場合には、その付与の際に使用人に会社の中身を知らせるという意味で、会社の情報、これは営業報告書等、会社が既につくっている資料でございますが、これを交付してくださいということで、こういう格好でディスクロージャーの1つの手当てをしていくということでございます。

それから、次の四角は、スキームをつくって取締役、使用人経由で、実際には第三者にこのストック・オプションが発行されるということを抑えますために、新株予約権証書には譲渡制限が付与されていることが必要というふうにしました。ただ、これは予約権証券の時代の譲渡制限でございますので、これが株式に転換された後は、この譲渡制限は条件でなくなるので、それは会社の方針で、もちろん転売することにしても構わないということでございます。

これが今回の基本でございまして、6ページ目で若干その他でつけ加えさせていただいております。これは、先ほど1ページ目でご紹介しましたが、基本的には今のディスクロージャー制度というのは、ある程度の発行額があるような発行の場合ということをとらえておりまして、基本的には1億円以上ということでバーを引いてございます。ただ、このストック・オプションの場合には、株券の発行がストック・オプションの発行の段階と、それから、その後の予約権の行使による資金の払い込みと、ある意味では株券の発行が2段階に分かれるものですから、その段階を分けたことによってディスクロージャー制度が尻抜けになるようなことは困りますものですから、今申し上げた1億円の価額をカウントする場合には、予約権証書の対価と払い込みの価額を足したところで1億円をとらえましょうということでございます。これは取締役、使用人に限らない一般的な規定でございます。通常の場合、今申し上げている取締役、使用人の場合であれば、最初のストックオプションの価格はゼロであり、むしろ2番目の新株予約権のときに払い込む価格、こちらが一定の金額が出てくるかと思いますが、その場合にはこれが1億円ですし、仮に有償の場合には前者も一定の金額で出てくる、かような構成でございます。これは内閣府令事項でございますので、府令を改正させていただくということでございます。

そして、施行日でございますが、一番最後でございます。これは商法、証取法の施行が4月1日でございますので、それに向けて手続を進めていただく予定というふうにしてございます。

私の方から、以上報告させていただきます。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

そういうことで、ご報告いただきましたけれども、この際もし何かありましたら、ご発言……。

どうぞ、上柳委員。

○ 上柳委員

ご報告ということですので賛否を言うわけではないんですが、ただ若干疑問があります。といいますのは、このストック・オプションを活用できるようにするというのは多分いいことだし、求められていることだと思うんです。そういう意味では、商法の改正、そのほかの手当てがされたことは大変よかったことと思いますし、それから、実際比較的中小規模の会社でも、ストック・オプション制度を導入するときに、一々目論見書、あるいは届出をきっちりやらなきゃいかんのかということが大変な負担になるであろうということは大変よくわかるんですが、一方、理論的にもどうなのかなということと、さらにもう少し思いますと、この従業員なり使用人の立場に立つと、ストック・オプションをいただいて、会社がよくなれば株式の値打ちが上がって、それで自分たちに利益が還元されてくるということで、大変楽しみ、楽しみということだけならいいんですが、多分楽しみということだけではなくて、これは下衆の勘繰りですけれども、とりあえずは給料とかが少なくても我慢して、それでこのストック・オプションをいただいて会社の成長にかけようというような、そういうトレードオフなりもあると思うんですね。そうすると、やっぱり使用人の方がどういう値打ちのものをもらったのかということをわかっていることは重要だと私は思います。

そういう意味であえて言うと、ペーパーをいただきました5ページの上の箱の中の1行目ですけれども、「使用人は自社の情報を把握していると考えられることから」ということが、もちろん把握はしているんでしょうが、十分に把握しているのかどうか。あるいは従来証取法が目論見書なり届出書で考えていたような情報まで余りわかっていないんじゃないかなということが大変心配です。だからこういう制度に反対すると言うかどうかまでは私も決心がついていませんけれども、少なくとも5ページの下の箱の下から2行目のところですか。「当該使用人に『会社の情報』を交付すること」と、ここのところでやっぱり補完措置がきっちりとられていないと、まず使用人の方についてどうなのかなと。

それからもう一つ、目論見書というのは、単に有価証券なり証券的なものを取得される方の具体的な当該取得者のためだけではなくて、恐らく目論見書なり届出書をつくることで、発行体側がこういうことを書いても大丈夫かなということで反省をされながら、あるいは自己規律を持ってつくられるものだと思いますので、これは商法で手当てがされているということかもわかりませんけれども、そっちの方の規律も考えなきゃいけない。要するに、従来こういうものが必要だというふうにされていたことの根拠を補完できるようなところを十分、これは多分立法技術的には結構難しいんだろうと思いますが、苦労されているんだと思いますけれども、ぜひ考えていただきたい。

以上です。

○ 神田部会長

ありがとうございました。

株式の場合は、伝統的に、いわゆる証券情報と会社情報ということから言えば、会社情報の方が中心にありますので、その会社情報は、このおっしゃった下から2行目で凝縮してくださいということです。証券情報ということで言うと、むしろ恐らく制度的に重要なのは、そもそも基本の枠組みは、この資料の1ページ目にあった、従来は株券の募集と言っていたのが、今回は新株予約権証券の募集になるわけですよね。そして、いわゆる取締役、使用人の場合には例外というか、人数にカウントしないということになりますので、そもそも新株予約権証券の証券情報というものを、今度は正面から証券取引法でディスクロージャーを求めるというのが原則になるわけですよね。従来それを株券で代替していたというか、読んでいたということなので、その辺がどうなるかということなんですけれども、ちょっと、あれですよね。まだ新株予約権というもの自体は4月1日にならないと動きませんので、例えば一般の金融商品として、これまで商法は認めていなかったわけですけれども、例えば不特定多数の第三者にもちろん有償でということで、公正な価格でということでしょうけれども、こういうものが発行された場合には典型的に投資商品になりますから、証券取引法上もそういうものとして、株券としてではなくて新株予約権証券としてディスクロージャーをすることになるので、今のお話は、そこがどういうふうに有効なディスクロージャーがなされるかということにもかかわってきますね。ですから、そういう情報が、特に証券情報の部分が従来の株券についての証券情報と非常に違うような情報があるということになりますと、そこの部分についておっしゃるような問題があるけれども、それはほとんど会社情報の方だということだと、下から2行目でカバーされているということで、直観的には私は会社情報を得てというか、普通株の場合には、特にそれがオプションであれ会社情報でカバーされていますので、実質的な意味では下から2行目のところでカバーされるんだと思いますけれども、ちょっとおっしゃるようなところは、確かに実際に動いてみないとわからないような要素があるかもしれませんね。

細田さん、何かありますか。

○ 細田企業開示参事官

今、最後の下から2行目というご紹介をいただきましたが、制度上、営業報告書等を交付しないと除外措置の対象にならないようにして、厳重に守られるという制度にしたいと考えております。

○ 神田部会長

それじゃ、古賀委員。

○ 古賀委員

簡単な質問だけなんですけれども、この5ページ目の「自社の完全子会社」という「完全」というのは、どういう意味ですか。

○ 細田企業開示参事官

100%子会社、持ち株会社等の下の子会社の従業員の方が持ち株会社の株を取得する、そういう意味でございます。

○ 古賀委員

完全というのは100%というのを意味しているんですか。

○ 細田企業開示参事官

はい。これはそうでございます。

○ 古賀委員

100とマジョリティーの違いというのはどんなふうに……。私は、マジョリティーだったら100じゃなくてもいいんじゃないかなと思っちゃうんですけれども。

○ 細田企業開示参事官

これ、制度発足時ですから、本当は自社の場合に限定したいわけですけれども、持ち株会社構造をとっているところを除外しないために、そこは入れるというのが今回の趣旨でございまして、マジョリティーじゃなくて、やはり完全に持ち株会社の下にというのが、今回はそこだけだということでございます。

○ 古賀委員

だから、資本のストラクチャーを考えるときに、多分経営サイドで意識するのは、それは100%が望ましいと思っても、ならないケースもありますよね。しかし、実態においては100%と同じような運営をするというのは、これは多分ホールディングスのストラクチャーの中ではあるんじゃないかなと。そうすると、連結納税じゃないですけれども、99はだめで100というのは、こういう開示においてどれほどの意味があるのかなというのが、ちょっと素朴な疑問としてはございました。

○ 細田企業開示参事官

これ、前提が、社員は会社のことをよく知っていると、こういう前提になりますと、関連会社の範囲というのはどこまでとるかで随分広がってくることになるので、これは初めてのところで、やはりやや限定的に、本当に自社そのものか、そのものに近いものかというところが今回定義させていただいたということでございます。関連会社一般の話をすると、本当に会社ではそれぞれニーズにおいていろんな構造をとっておられると思いますけれども、そこまでは今回は余りいろんな想定をあらかじめすることは難しいということで線引させていただきました。

○ 神田部会長

線引きの、どこへ線を引くかって、あれじゃないでしょうかね。ちょっと話は違うかもしれませんけれども、連結納税制度が導入されると、日本というのも、今後は100%子会社がふえてくるんじゃないでしょうかね。これは推測の話ですからよくわかりませんけれども、今まで以上に。だからどうだということでもないんですけれども。

黒沼委員、どうぞ。

○ 黒沼委員

既に改正されている証券取引法の内容についての質問で恐縮なのですが、新株予約権について、証券が発行されていない場合も、これはみなし有価証券という形で同じ取り扱いになっているのでしょうか。

○ 細田企業開示参事官

なってございます。

○ 黒沼委員

それだったら結構です。

○ 神田部会長

よろしいですか。

それでは、よろしゅうございますでしょうか。細田さん、どうもありがとうございました。

そういうことで、これはこれから手続としてはパブリック・コメントにかけるというのが手続ですので、そして政令と省令とか府令の改正という手順になるということでございます。

それでは、どうもありがとうございました。

ここで、本日本来の予定の後半の議題に移らせていただきます。冒頭に申し上げましたとおり、本日はあらかじめ、お忙しいところ、福間委員にレポートをお引き受けいただいております。市場利用者としての視点、何も申し上げることはありませんけれども、福間委員のこれまでのご経験等を踏まえて感じておられることを含めて、最近の金融資本市場についてということでお話をしていただき、その後に委員の皆様方に自由にご議論をいただきたいと思います。

福間委員、どうぞよろしくお願いいたします。

○ 福間委員

私は、証券取引審議会、金融制度調査会などを含めて、10年以上金融審議会関連の会合に参加させていただいていますが、いつも勝手なことばかり申し上げており、何か少しまとめて話をして欲しいということですので、本日は実務家の立場から、最近の金融資本市場の状況に関して述べさせていただきます。

(1)直接金融と間接金融のバランスの取れた金融資本市場の確立へ

最近の直接金融、間接金融の状況を見ていると、当初は大変夢多き金融資本市場改革を目指したはずだったのが、意外に期待したようには動いていない。日本の貯蓄構造から考えると、直接金融と間接金融のバランスを保っていることが肝要かと思いますが、今はこの両方が、機能していない。倒産件数の増加、国の格付けの低下、今度のMMFショック、株式の大幅な下落など、いろんなファクターで、コンフィデンス・ギャップが拡大している。個人と市場との間、市場と仲介者、金融機関、証券会社、銀行、こういうところで、市場の前提となるコンフィデンスというのが、動揺しているといってもよいかと思います。

企業間でも、98年の金融危機以上に企業間信用が急速に縮小しているというようなことで、根っこは金融システム、あるいは間接金融、直接金融ともに円滑に動いていないというところにあるのだろうと思います。間接金融について言いますと、ご承知のように、不良債権処理の問題で金融機関の収益状況が非常に悪いため、リスク・テーキング機能が低下している。金融緩和が景気に与える影響というのは、金融機関の貸し出し競争があって、企業は横並びで設備に動き出すということですが、それは古きよき時代のことで、リスクリターンというものがそれなりに厳しく働いているということと、企業の方もキャッシュフロー経営ということから、自分の金は自分でつくるということで、この辺も98年の金融危機の時の世情言われる「貸しはがし」から、銀行に金を借りるのが怖いという感覚が、やはり中小企業だけではなく、大企業の中にも拡がってきているということがあると思います。

直接金融の方で言いますと、昨年8月8日発表の「証券市場の構造改革プログラム」が目指すべき内容ですが、やはり投資信託が揺らいだことに大きな要因があります。IT関連株式投信に始まって、エンロン、マイカル、アルゼンチンなど、個人投資家の中に大きな損失が出ている。いかに個人投資家が証券市場の主役であったかということを、改めて誰もが感じているかと思います。これだけのことが起きると、ただ自然治癒を待つということでは回復は望めませんし、いわんやビッグバンをやったから変わるなどというようなこともありません。ここはやはり自己満足せずに、市場関係者みんなで再活性化を図らなければなりません。市場の利用者である発行会社も、ROEの向上を図るとか、企業改革をやって、もう少しマーケットにアピールする経営をやっていかねばならないということは、当たり前のことと思います。市場関係者はみんな死に物狂いでここから努力しないと、放っておいても治るというような状況ではなく、問題が大き過ぎるのではないかという感覚を持っています。

少し銀行界、証券界に分けて申しますと、西村局長の時代だったと思いますが、金融制度調査会時代に、「自己規律に基づく創造的経営」というレポートが出されました。その時に私が申し上げたのは、金融機関も一般企業も同じということで、すなわち、リスクをとらない限り収益はないということです。ポイントは、リスクをどうコントロールし、どうマネージするか、そこに格差が生まれるということです。私も会社を経営した立場から言いますと、やはり負の遺産が大きいと、リスクをとるのもなかなか難しいことであり、これがバランスシート・リセッションの根本だと思います。それだけに出直しにはシュリンク・トゥー・グロー(Shrink to Grow)、将来成長するためにとにかく縮めるという動きが入らないと、なかなかリスク調整ができないというのが現実のことと思います。ちょうど米銀のマネーセンターバンク危機があった時に、具体的な名前を挙げて恐縮ですが、シティーバンク、チェース、それにバンカメ、それぞれ皆さん苦労されました。

ある時、バンク・オブ・アメリカが顧客を集めてアメリカンクラブで、「本日お集まりいただいたお客さんに申し上げたいのは、預金保険料が大変上がったということです。FDICIAが導入され、(“キャメル評定”といいますが)今のような苦境では、お集まりの会社の皆さんにはお金が出せません。」ということを言われました。シティーバンクにも、ご承知のような大改革の時に、「うちは貸金業務はできない」ということを言われました。そこで「どうやって給料を稼ぐのですか」ということを聞きますと、彼らは、プロジェクト・ファイナンス、あるいは仲介業、ローン仲介をやるということで、我々に対して「どこどこ会社のローンを買い取ってくれませんか」とか「こういう資金ニーズがあるけれども、引き取りませんか」と一生懸命売り込んできました。要するに何としてでも、とにかく儲けようということで、その意欲に驚きました。与えられた状況の中で最大限を尽くすという姿勢で、その時にシティーバンクは一段とコンシューマー市場に出ていきましたし、ミドルマーケットにも参入したということで、この辺も私の期待としては、大変難しい状況であることはわかりますが、ただ自然治癒で耐えれば回復するとは思わないので、やはりいろんな努力が必要なのではないかと思っております。

制度的にはやっぱりローン流通市場をもう少し拡大して、ローンの場合は大分できるようになってきており、我々もそういう市場に参加したいと思うのですが、まだアメリカのような形にはなっていないし、あるいはABS、アセット・バック・セキュリティーもなかなか期待した程拡大しない。従って、どれだけ儲かるかという問題もあるかと思いますが、やはり顧客、マーケットを知るということでも、そういう業務にも積極的に参入していけば、将来のインベストメントバンク機能にさらにプラスになるのではないかと思っています。

証券業界につきましては、これまでもここで何回も議論がありましたし、まさに構造改革プログラムにもありますように、投資家にわかりやすい顧客の「フィット・アンド・プロパー原則」がよく出ましたけれども、そういう格好のディスクロージャーを行って、あるいはリスクプロファイルに応じてプライシングを出していくということが必要ではないかと思っています。

非常に難しいところではありますが、直接金融、間接金融ともに、何とか前に出る様に全員が努力する必要があります。最近、社債市場も、よく証券会社、米系の証券も含めて、商品がないということを言われているようです。商品がないというのは、要するに発行会社も、スプレッドが広がっているし、不安定であるというようなことで、発行しないというわけです。というのは、やはりそれだけマーケットに信認が回復してきていないということで、これは何も仲介業者である証券会社だけではなくて、我々も努力するべきかと思います。

(2)金融行政の隙間

まだ業界規制と市場規律、さらに言えば自己規律のすみ分けができていないと感じています。先ほども言いましたように、ディスクロージャーを中心に環境を整備し、市場参加者も当局の方に顔を向けずに市場に向いて、市場が何を欲しているかということを認識するべきでしょう。やはりファイナルバイヤーである機関投資家、個人投資家に対して、市場に応じて商品を作っていくということが必要である一方、当局の方としては、出来るだけマーケットをよくウォッチして、イベントリスクを予測するというのは非常に難しいのですが、リスクを遮断できる、あるいは起こらないように防止できるような形で、“市場とともに”“市場に顔を向けながら”、出来れば「プロアクティブ的な市場行政」であるべきと思います。市場は常に動いていますから、リトロアクティブにイベントリスクが起きたと言われると、タックスペイヤーの金を投入したり、あるいは個人投資家に損失というものが起きたりしますので、何とかそういうものを封じ込めるということを当局の方にもお願いしたいと思います。ただ、これも先ほど言いましたように、これはあくまでも市場規律で動くマーケットであることが前提で、ポイントはディスクロージャーということだと思います。

(3)「ビッグバン」の忘れもの

ビッグバンで忘れたものということで申し上げたかったことは、ちょうど日本のビッグバンをやるときに、少し遅れては出来たのですが、直ちにやらなければならなかった問題が、金融サービス法と投資信託、あるいはABS、SPCの問題です。ビッグバンの議論に私も参加しましたが、あらゆる局面で出てきたのは業界の垣根論争が中心で、投資家の方を向いていなかったということは、私も含めて反省を申し上げていいと思います。ラップ勘定と投資顧問業の戦いというのも垣根論争の典型的な例です。

金融サービス法とかSPC法やその他の法令に関連しては、1つは市場ルールの明確化ということにもう少し踏み込んでおく必要があったと思いますし、今でもそう思っています。例えばコンフリクト・オブ・インタレストの問題で、アメリカでしたらインデンチャー・アクトがあり、トラスティー(社債管理会社)とメインバンクのコンフリクト・オブ・インタレストとか、アンダーライターに出資している銀行はトラスティーができないとか、そこにはいろいろとファイアーウォールなりコンフリクト・オブ・インタレストを防止するというような概念が非常にはっきりしているわけです。特に、この社債管理会社の問題とメインバンクの問題は、やはり今後問題になり得ることからきちんと整備しておく必要があると考えます。それとアームズ・レングス取引です。セーフハーバールール、ノーアクションレターも、当局の方としてもなかなか大変だと思いますが、やはりニーズに応じてルールを明確化していくことが、法律改正よりは機動的に動くのではないかと思います。

市場というのは常に変わります。常に革新があります。必ずループホールを見つけるように動きます。だから、追っかけ追っかけやっていると被害が出るということで、先ほどの「プロアクティブ」というのは実はそういう意味なのですが、そういう考え方が必要ではないかと思います。

(4)金融サービス法の完成に向けて

金融サービス法ですが、これは法律はできたわけですけれども、やはりまだこの精神が少し徹底していないのではないかと思います。投資家が顧客であり、「顧客満足度」を上げる努力が必要です。というのは、ここで何回も言っていますが、個人投資家が自己責任を持つというためには、ディスクロージャーが解り易く、平易で、明確でないと持ちようがありません。重要な情報が報告されていないとか、あるいはタイムリー・ディスクロージャーができていない状態では、投資家に自己責任を持てと言っても、どうも建前だけの議論で、本当はそうは動かないということになります。

もう一つ金融サービス法で気になりますのは、私はアメリカがいいと言うわけではありませんが、余りにも日本にはその考え方がないということで申し上げれば、「日本版ERISA法」です。こういうもので「プルーデント・マン・ルール」をきちんと、自主規制機関でつくるということが必要なのではないかと思っています。

コンプライアンスは金融サービス法の中の1つの大きな柱でしたが、本当にそのとおり動いているのかどうか少々疑問です。これが建前だけに終わると、こういう市場法というのは被害が出ますので、その辺が心配です。今の市場と比べながら再点検する必要があると思います。金融サービス法は非常に重要な法律だと思っています。しかも、自主規制機関をきちんとすることが非常に重要なことだと思います。

(5)日本版SECの構想

日本版SECについて、これも既にこの場で申し上げていますが、いずれにしても、FSAであろうとSECであろうと、とにかくディスクロージャーが適正に行われているかどうかということに、もう少し意を払うべきです。ビジネスウィークの記事によると、リステート、日本でいうと有価証券報告書の訂正命令に当たるものと思いますが、それがここ2年間で倍になっている。やはりその位アカウンティングルールをアビューズしていると言われています。確かにレビットが委員長時代に、私が会った時もそれを盛んに言っていました。

市場を守るということで、市場と対話できる姿勢の、そういう機構が必要であると思います。何も規制することではなく、市場がイノベーティブに動くのはよいのですけれども、一部の人々がマーケットルールをアビューズして被害者を出すというのは、最終的には市場参加者にも被害が及ぶという認識が大切です。要するに市場というのは共通の公器ですから、やはりみんなで守らなければならないということと思います。

(6)エンロンに学ぶ

最後に「エンロンに学ぶ」ということで、詳しいことは解かりませんが、新聞報道等によりますと、問題は「独立性」という点ではないかと思います。私の経験したところでは、74年にアメリカの利子平衡税が廃止されてすぐ、当社の社債を発行したことがあります。実はもう大分昔の話ですので、恥を忍んで申し上げますと、当社の公認会計士が、当時は当社の連結作業を部分的に手伝ってくれたことがありました。その時、アンダーライターの最後のデューディリジェンスの段階で、アンダーライター側の弁護士が、「これはインディペンデント・アカウンタントのステートメントではない」と言い出したわけです。「発行会社の決算業務を手伝うとは何事だ」と非難されたということで、米国の制度は怖いということを、二十数年前ですが、身を持って感じたわけです。この独立性の問題に関して、ご承知のような1つのアカウンティングファームの問題とはいえ、あれだけ会社の内部に入り、アカウンティングルールを破る、アビューズするということは、やはり我々としても「他山の石」として見ておく問題だと思います。

最近は日本でも四半期決算を金融庁、あるいは東証の指導で行っていますが、これをどんどん広げていって、タイムリー・ディスクロージャーを行うことでマーケットを守る、投資家を守るということが必要だと思います。どうもエンロンを見て「何だ、アメリカン・スタンダードはたいしたことないじゃないか」と日本が言うのはとんでもない話で、ご承知のように90年の初めから財テクとか土地とか、不良資産を飛ばしていたわけですから、むしろ今アメリカのSECを中心とする関係者が行おうとしているダメージ・コントロールと、もう一つは改革、変革に対し自己満足に陥ることなく、早急に改正しようとする意欲を我々は学ばねばならないと思います。

余り話を整理して来ず、散文的で申しわけありませんが、時間になりましたのでこの辺りにしたいと思います。

○ 神田部会長

ありがとうございました。

それでは、残りのお時間、委員の皆様方から、今の福間委員のご報告といいますか、お話についてのご質問、ご意見でも結構ですし、それから、その他、それに関連するご意見でも結構ですので、お出しいただければと思います。どなたからでもいかがでしょうか。

浜委員、どうぞ。

○ 浜委員

非常に強い関心を持ってお話を伺いまして、大変参考になったと思います。大変厳密なお話だったことに対して、ちょっと漠たるところでご質問するので恐縮なんでありますが、2つほど、ちょっともう少しエラボレーションをお願いできればなと思ったことがありました。

まず1つは「金融行政の“隙間”」というところで、プロアクティブな金融行政、市場行政ということが、よりプロアクティブな面があった方が望ましいということをおっしゃいました。その趣旨は非常によくわかるんですけれども、反面、やっぱり余りにも行政がプロアクティブ過ぎるがゆえに多々問題が出てきて今日に至っているというところもあるわけであって、ディスクロージャーによって保証された市場規律ということで行政のプロアクティブ性を十分にバランスをとっていけるかどうかという、そのあたりのところをもう一息お話を伺ってみたいなと思ったことが1つです。

それと、もう一つは、次の「『ビッグ・バン』の忘れもの」のところで、メインバンクのお話が出ていたかと思います。このメインバンクというのは、申し上げるまでもないわけですけれども、いわば通念であって制度ではないわけです。メインバンクというものが制度的な側面を持っているのが、まさにご指摘であったトラスティー機能とのかかわりのところなんですが、今の最後のところのエンロンの話にもちょっとつながってくるかと思うんですが、メインバンクという日本において芽生えて育ってきた通念というのを、何となく次第にメインバンクというのがダーティーワード化してきているような面があるかと思うんです。もう一度その概念を復活させるような形で、これもやっぱりプロアクティブな市場行政というところにもつながってくるのかなと思いますが、そういうような形での隙間を埋めていくやり方というのはあるのか、ないのか。私もずっとメインバンクというのは、本当にまさにダーティーワードとして消えていくのか、そうじゃないのかなということをずっといろんな折に触れて考えてまいりましたので、ぜひその辺のお考えを聞いてみたいなと思いました。

以上です。

○ 福間委員

市場規律と当局規制の問題というのは非常に微妙な問題ですが、やはり基本は市場規律で動かすようなフレームを当局がつくるということが大原則だと思います。私が「プロアクティブ」と言う意味は、市場で起きていることを当局も併走しながら市場参加者と動くということです。例えば今のSECは、例のインターネット検索を大変な陣容を投入して作業を行っています。また、さっき申し上げましたディスクロージャーを中心にしており、そのチェックを非常に厳しく行っており、必ずフォローしています。特に利益が恒常的に2けたで伸びているような会社については、慎重にチェックしている。それは、一例としてはM&Aを実施した会社です。それが今度の企業結合会計で、プーリング法からパーチェス法になり減損が発生している。これでシスコシステムズとかルーセントとか、大きな評価損が出ていますが、要するに本当にキャッシュフローなのか、片一方を40年で償却して収益を上げる単なる会計上の利益なのか、この辺も非常に細かく企業毎に見ていかなければなりません。ITバブルの時彼らは、今日も出ましたストック・オプションを非常に多く活用しましたが、アメリカのFASBでは、未だにストック・オプション会計を採用できずにいますが、これは、要するに給料の変形として費用化すべきものということです。

そういう格好で、絶えず企業の行動、株価、それとディスクロージャーとを行ったり来たりして監視する対応が必要です。例えば今回のエンロンのケースにしてもフォーマル・インベスティゲーションに入ったのは10月です。その前から、エンロンがデリバティブ取引でマーク・トゥー・マーケットをしていないというようなニュースが、メタルゲゼルシャフトという会社を買収したあたりから、マーケットの噂として出ていました。彼らもそういうニュースを参考にし、深く潜行しながら、それがおかしいということを彼らは決して明かしませんが、重大な関心を持って、常時そういう企業行動をウォッチしている。そういう意味で申し上げたことです。少々表現が難しいと感じるのですが、一歩下がった「プロアクティブ」といったようなことです。

メインバンクに関しては、ある意味では日本的なメリットのある制度であり、だからこそまだ残っていると思います。我が国では率直に言って、まだ直接金融が出来上がっていない。直接金融を利用する機会のない非上場会社とか、あるいはまだ新しい会社とか、もちろんベンチャー・キャピタルの組み方とかはありますが、資本市場がもう少し発達していけば、リスクテイカーであるベンチャー・キャピタルが出来ていき、借入ではなく株をベースにファイナンスするというようなことで動くのだと思います。そこで銀行は総合コンサルタントとして、そういう非上場企業を中心に、あるいは大企業に対しても、借入の関係は昔ほどの重要性はないのですが、いろんなコンサルタント業務の役割を果たしている。世間は何かメインバンクと企業の癒着ということを意識しているようですが、我々としてはネガティブなイメージというよりはむしろポジティブに捉えています。

○ 神田部会長

よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

私から福間さんに何かご質問……。今、一体我々は、どういう順番に何をしたらいいんでしょうか。

○ 福間委員

冒頭少々申し上げましたように、神田先生とは、もう十数年間ご一緒に議論させて頂きましたが、正直申し上げてこんなにもろく崩れるとは思っていませんでした。もう少し日本の市場が健全に世界をリードする国際金融市場の一角を担うと思っておりました。ただ、まだ最大の債権国です。過去世界の債権国で金融のディシプリンをつくらなかった国はないわけで、シティーだってそうですし、ニューヨークだってそうで、やはり日本としても、グローバルに通用するようなディシプリンを作って行くべきだと思います。ニューヨークでも、例えば先ほどお話したERISA法の制定にしても、あれはたしか74年の頃、スチュードベーカーだったと思いますが、当時、大きな会社がばたばた潰れ、ある意味では大変な社会問題になったからです。

正直に言うと、今回の日本はそれに近いのではないかと思っています。従って、じっと自然治癒を待っていたのでは、回復はおぼつかないと思います。ついこの前行った金融ビッグバンに対して、そのエンフォースメントをやっていけば立派に回復できるということならば、エンフォースメントをしっかりと行い、ただその一方で、やはり足りないものがないかという反省も行いながら、海外のベスト・プラクティスを取り入れて構築していくべきだと思います。じっとしているだけでは時間がかかるだけでしょう。我々は資本主義のもとにおり、市場経済の中にいるわけで、必ず淘汰を通して、市場を通していずれは戻ると思いますが、今ここで当局を含めた市場参加者が努力することによって、10年掛かるところが5年に短縮出来るかもしれない。それならば、やはり努力していくことが必要なのではと思います。

昨年8月発表の「証券市場の構造改革プログラム」についても内容的にここまで来たということは、本当はこれが非常に重要だったということですが、あまりはっきりとは認識されていないようです。どちらかいうと業者ベースで、自分の商売になるようなことを一生懸命言っていたように思います。金融サービス法も、早めにやる予定だったのが実際には時間がかかったわけで、その金融サービス法も投資家の方々から満足できるものなのかどうかということも検討すべきでしょう。また、自主規制機関についても、日証協がきちんとやっていたとしても、あれだけのいろんなことが起こるのかということも十分に検討せねばなりません。自主規制機関の有無も業界毎にまちまちですが、親睦団体のような協会では、余り期待できない。やはり市場主義で考えると、自分の規律は自分の業界の中でつくっていくというものがないと、以前のように、すべて1つずつ許可していくということはもはや無いわけですから、そういう面で、自主規制機関のあり方を検討し早く決めていくべきではないかと思います。

コンプライアンスも、先ほど申し上げました通り、実際は先の投信のディスクロージャーの時を見ても、やはり建前だけということで、実際の店頭ではワークしていないわけです。何も金融庁がすべてやる必要はありませんが、日証協が、あるいは投信業界なり、そういう機関が中心となって自主規制で絶えず対応していくことが必要です。それが自分のためでもあり、市場が死んでしまえば、利用者も、運用される方も、投資家も生きていけないわけですから、皆で市場を守るべきと思います。

神田先生も私も、何か同じようなことを何回もやっているようですが、変わっているのは市場であり、市場に合わなくなっていることに対しては、自己満足に陥ることなく、素直に再検討し、“変える勇気”を持つことが必要である。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

きょうお配りいただいた金融庁の8月の紙、悩みは非常に結構なんですけれども、これが結局これから半年以上たっていますよね。それで市場の状態はというと、それはエンロン、アルゼンチン、外の事情もあるかもしれませんけれども、そこが一番の悩みですよね。

今の福間さんのメッセージは、1つは、やはり日本は日本の市場としてのディシプリンみたいなものを整理して示していくということを意識して努力すべきではないかという、それは日本型ディシプリンでいいのであって、むしろどこかのまねである必要はないということなんですけれども。その中で自主規制機関の役割というのを盛んに言われましたけれども、ちょうど正面に証券業協会と証券取引所を代表して来ておられます。どうでしょう、高橋委員、鶴島委員、事後感想でもおありでしたら。

○ 高橋委員

ご指名をいただきましてありがとうございました。

今、自主規制機関の役割というのをいろんな角度から言っていただいて、私ども、今ご指摘いただいたように、まさに力が及ばないことはかなりあるということについては常に反省をしておりますし、また反省しなければいけないんですが、考えている方向は、まさに今、福間委員がおっしゃったことが私どもの最大の役割だというふうに思っております。

もちろん、さっき浜さんのご質問にもありましたが、行政の役割というのが引き続き大切だと思います。市場に向けてというとき、市場の声を聞けというときに、ややもするとそれは、行政は後ろに下がっていていいんだというふうにとらえる人がいるが、それは多分そうじゃないんだろうと思います。フレームワークをつくるとか、あるいは市場との併走、そういうふうにコメントしていただいた、その役割は非常に大事だと思います。それと同時に、自主規制機関の役割が非常に大きいといつも思っております。

その自主規制の役割が一番大きいのは、非常に変化している市場の動向に「規制」が最もタイムリーにアジャストしていくべきであり、リーガルないろいろな手続以前に、もっとクイックレスポンスというんですか、直ちに対応していかなければいけないということが自主規制の役割だと思います。

もう一つは、私ども自主規制機関としていつも心得なければいけないのは、法律の規制であれば、あるいは行政の規制であれば、多分その状況の中でミニマムな規制というものを求めていくだろうと思うんですね。それはそれでいいんだろうと思います。法律や行政の監督というのはそういうものだと思うんですが、自主規制機関である以上は、まさにこれも今、福間さんがおっしゃっていただいたように、自分たちの規制でありますから、それを超えて倫理とか、もっと高い基準、いわば法律を超えて倫理性を求めるような、そういう基準というものを自分たちでつくっていかなければいけないと思います。

また、国境を越えた取引が非常にふえている。国境を越えた取引というのは、なかなか行政、法律で対応できない部分というのがかなりあると思うんですね。そういうところも自主規制機関の大きな役割じゃないかというふうに思います。

我々といたしましても、今ご指摘いただいたようなことは、日ごろ思っているのはそういうことであります。ただ、力及んでいるかと言われれば、胸を張って「及んでいますよ」と言うだけの元気がありませんが、その方向性は全くおっしゃるとおりだと思いますし、そんなようなことを考えながらやっていきたいと思います。

○ 神田部会長

鶴島さん、いかがでしょうか。

○ 鶴島委員

今日の福間さんからのお話は、かなりの部分共感する部分があります。今のこの自主規制の問題というのは、例えばその自主規制機能が非常に批判をされている。つまり、相変わらず証券会社はいろいろな法令違反の処分を受けて、それによって証券会社が顧客からの信頼を失っているじゃないかと、こういう部分からいたしますと、証券会社の営業姿勢あるいは順法精神の欠如というところが問われているところなんですね。これについては、もちろん自主規制機関として自主的なルール、あるいはその上に法令がありますけれども、そういうものが市場の実態に合っているかどうか常にウォッチングをしながら、その市場の変化に合うようなものにしていかなければならない。それは自主規制機関としての我々の役割として十分やっていかなきゃならないと認識しております。また、その遵守、法令規則を守り切るということについては、現に取引所としても証券会社の方々を集めたり、それから我々が行っている売買審査機能であるとか、あるいは考査機能であるとかいうことを通じて、ケーススタディーで随分そういうことに対する啓蒙、あるいは話し合いという場も持っておりますが、現実にそういう違反が出ているということに対しては、今後も十分気をつけて、社会から信頼が得られるよう十分な機能アップというものを図っていかなければならんと思っております。

ただ、私は日ごろ、基本的に、すそ野の広い投資家が市場に参加する最大の条件は何かというと、これは先ほどもちょっと福間委員がおっしゃっていましたけれども、やはり投資の対象になるものの中身がはっきりしているということですね。つまりディスクロージャーの徹底ということです。企業内容のディスクロージャーの徹底、もちろん市場ルールに対して、投資家に広く理解と認識を求めていく、そういう透明性の徹底という点もあると思いますが、まずは市場の基本は、まさに生命線はディスクロージャーだと思うんですね。投資対象がしっかりした内容が明らかになっていなければ、それはどうしても投資家は不信感を持ちますし、そういうところには大事なお金を投資できないと、こういうことになるわけですから、このディスクロージャーの徹底というのを、我々自主規制機関も、それから行政も、きちんとそこに焦点を当てて徹底的にやっていく必要があるなということをつくづく感じております。

福間さんからもありましたエンロンのケースについて、今、アメリカは、ああいう事件が起きますと、官民挙げて徹底的に検証しようとしています。日本でも、これまで、倒産をすると債務が10倍になったり20倍になったりするのはどうしてなのかとか、それからレジェンドをつけられているじゃないかとか、このディスクロージャーに対する不信感というのがあって、そうしたケースが発生したときに徹底的な検証とか、あるいは改善に向けての素早い対応がやっぱり少し欠けていたのではないかと大分批判的にここのところ考えておりまして、やはり我々もそうしたことを教訓にしなきゃいかんなということをつくづく感じております。

それから、もう一つ、このディスクロージャーについて申し上げますと、企業会計基準であるとか、あるいは会社情報の開示ということについては、随分手がつけられていると思うんです。ただ、個人投資家が出てきたものを読み取れるかどうかという点について、やはりもう一段の工夫が必要なのかなと。それはアナリストの機能であるかもしれないし、あるいは仲介に立つ証券業者の努力かもしれないし、あるいはもう少しマスコミを活用する方法もあり得ると思いますけれども、もとのところはかなり改善されてきても、個人投資家の読解力という点から言うと、本当に十分に投資家に届いているのだろうかということが非常に気になっております。

そういう意味から言うと、これも先ほど来お話がありましたけれども、投信という、ある程度個人投資家にとってみれば、専門家にその運用を任せてお願いをしたいという商品があるわけですけれども、これがまた大変パフォーマンスが悪くて、どうも投資家の期待にこたえていないという点で、やっぱり投信の構造的な、抜本的な運用体制というものの見直しも必要なんだろうなと。地道な努力ではありますけれども、申し上げてきたようなことをやっていかないと、すそ野の広い投資家に市場に参入してもらうということはなかなか難しいんじゃないかなというふうに思っておりますし、そうした努力を今後とも続けていきたいと、こう思っております。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

大体予定の時間も来ておりますけれども、ほかにもしご発言がありましたらお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。

どうぞ、浜委員。

○ 浜委員

お時間ですので、余り時間をとりたくないと思いますけれども、今、ディシプリンについてのやりとりを伺っていてのふと思った感想でございます。

この一連の議論の中で、やっぱり全然出てこないのが、通貨あるいは為替政策ということとのかかわりの側面であって、ここは外為審ではありませんから、ここで為替の話をするというのはすみ分けのルール違反なのかもしれないというふうに思いますけれども、先ほど福間さんがおっしゃいました、イギリスの場合、アメリカの場合のディシプリンということ、日本もまた世界最大の債権国でありながらのディシプリンの欠如という話がありましたが、イギリス、アメリカ、日本と比べて違うのは、日本の円はまだ基軸通貨になっていないという側面でありますね。だからといってアメリカのドル政策というのは相当にどうにもならないので、そのまま今日に至っていると思うので、そこが決め手になっているというふうな感じもそういう面では余りいたしませんけれども、ですけれども、やっぱりこういうグローバル時代の金融資本市場のディシプリンということを考える中では、やっぱり通貨、為替という側面からの視点というのがあるいは結構重要になってくるのではないかなというふうなことを思ったということで、通貨秩序というところから、この辺をちょっと問題ならば突っ込んでみるとおもしろいのかなという、ちょっとそういう印象を持ったということでございます。

○ 神田部会長

どうもありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

なかなか、とにかく何というか、日本の金融資本市場、よくなってもらわないと困るわけですけれども、これは第一部会でも重要な審議の対象になっている話だと思います。福間委員のご報告をきっかけに、幾つか非常に重要なポイントのご指摘をいただいたと思います。前回、前々回も、そういうことで重要なご指摘をいただいておりますので、ぜひそういうご指摘を踏まえて、この第一部会、さらに先に進めたいというふうに思っております。

本日は時間が参りましたので、このあたりにさせていただきたいと思います。

この後、恒例によりまして記者会見を行いまして、本日の当部会の模様につき、私からご報告をさせていただく予定でおります。

それでは、最後に、今後の日程等について何かございましたらどうぞ。

○ 大森調査室長

次回以降の日程につきましては、また事務局の方から皆様方にご連絡、調整をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

○ 神田部会長

それでは、これで散会します。

どうもありがとうございました。

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