金融審議会金融分科会第二部会(第4回)・「金融機能の向上に関するWG」(第3回)合同会合議事録

平成13年5月16日
金融庁総務企画局

○ 岩原部会長代理

ただいまから金融分科会第二部会と金融機能の向上に関するワーキング・グループの合同会合を開催いたします。

皆様ご多忙のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。

本日は福井部会長がご欠席でございますので、部会長代理の私が議事の進行を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、銀行の株式保有制限につきましては、4月13日の第二部会から検討を開始し、この中で設置されました金融機能の向上に関するワーキング・グループによって、現在、実務的、専門的な観点からの調査・検討を進めているところでございます。

本日及び次回の会合につきましては、お手元の資料にございますとおり部会とワーキング・グループの合同会合とし、各分野からゲストスピーカーをお招きして幅広くご意見を伺うとともに、部会全体の議論を深めていきたいと考えております。

また、こうしたゲストスピーカーからのご意見や部会全体での議論は、今後のワーキング・グループの検討に際し大変参考になるものと考えております。

なお、ご案内のこととは存じますが、本日の合同会合につきましては、審議の透明化の観点から、公開とさせていただいております。

それでは、議事に移らせていただきます。

先ほども申し上げましたように、本日は銀行の株式保有制限に関しまして有識者の方々からご意見をお伺いしたいと存じます。

本日は、ゲストスピーカーといたしましてソニー株式会社取締役副会長の伊庭 保氏にお越しいただいております。伊庭さんには「ソニーにおける銀行の役割」についてご意見を発表していただきます。

続きまして、伊藤委員より「株式持合いとコーポレート・ガバナンス」についてご意見を発表していただき、伊庭さんのご意見と併せて、ここで1度質疑応答、自由討議の時間を設けたいと思います。

その後は、淵田委員より「株式市場環境について」また、神田委員より「銀行の株式保有の制限の是非およびあり方」について順次ご意見を発表していただき、両意見につき併せて質疑応答、自由討議を行いたいと思います。

それでは、まず伊庭さんから、ソニーにおける銀行の役割についてご意見の発表をお願いいたしたいと思います。

○ 伊庭 保氏

皆さん、おはようございます。

今日こういう席で私の考え方を述べる機会をいただきまして、まことにありがとうございます。いろいろな意味で私も関心がある分野ですから、ぜひ何らかの貢献をしたいと思っております。

銀行の役割についてお話しする前に、私自身が何者であるか、ちょっと自己紹介めいたことをさせていただきたいと思います。

ソニーに入ったのは1959年なんですけれども、1970年代の中ごろまで、ちょうどソニーがアメリカで急速に売り上げを伸ばしていたころですが、ソニーはアメリカにおける法務機能が余り強くなかったということで、盛田さんを法務の面からサポートするということで、法務担当としていろいろな仕事をさせてもらいました。

その後、事業の方に移って、1980年にヨーロッパの赴任から戻りまして、その後、ソニーグループのノンバンクのソニーファイナンスの社長、一旦ソニー本社に戻って、それからソニー生命の社長をやりました。92年にまたソニー本社に戻って経営計画を担当することになりまして、94年から去年の4月まで、チーフ・ファイナンシャル・オフィサーという役割を果たしておりました。

最近は金融サービスそのものを担当する立場になっておりますけれども、私には財務のバックグラウンドは全くありません。後からみて「非常に役に立っていたな」というのは、法務を担当していたことで、今で言うM&Aとかジョイント・ベンチャーの契約の交渉や、アメリカでのややこしい訴訟の問題などに取り組んだわけですが、そのときに財務諸表を理解できないと仕事ができないということで、いろいろ勉強をした結果、チーフ・ファイナンシャル・オフィサーも何とかできたのではないかなと思っております。

今日は皆さんに資料をお配りしておりますけれども、その中に、ご参考までに「大阪国際大学講義資料」と銘打った資料を添付しました。これは、たまたま私の親しい友人が学長になって、講義をしてほしいと言うんで「じゃあ友人の応援演説に行こうか」ということで用意した資料なんですけれども、1ページから4ページには、ソニーというのはどういう会社であるかということを取り上げてあります。12ページから16ページではソニーのコーポレート・ガバナンスに関すること、私が92年にソニーに戻ってから現在に至るまで、コーポレート・ガバナンス機能の強化も非常に重要だということで、ソニーとして取り組んできたことをまとめてございます。

本題に入りますが、ソニーにおける銀行の役割を私なりに実務的に振り返って見たとき、ソニーというのは今で言うベンチャーだったと思うんですね。創業者の方々は、盛田さんが資金集めの部分も担当して大変ご苦労されたわけですけれども、井深さんの交流の深さもあって、ソニーの初代会長は帝国銀行の会長も務められた万代さんでした。

私の理解するところでは、井深さんとの関係で引き受けられたんだと思います。

ですから、三井銀行さんにはベンチャーキャピタルの、もちろん融資も含めてですけれども、ベンチャーの育成という面で資金的なバックアップをしてもらった。もちろん、盛田さんの父上が実家の私財をいろいろな形で提供したとか、野村胡堂さんが大変なソニーファンで投資をしてくださったとか、いろいろあるんですけれども、やはり三井銀行の財務的なバックアップがあったからこそ、現在があると認識しております。

また、東京銀行は、ソニーにとって輸出ということで為替取引が非常に重要だったこと、あるいはまた海外展開するときに海外の拠点を財務的にサポートしてもらうという関係もあって、融資を含めて、やはりかなりベンチャーキャピタリストの役目を果たしてきたと見ております。

そういう時期があったんですけれども、では、最近の銀行の役割は何だろうかと見てみると、ソニーでは、これも盛田さんの先見性を示すものですけれども、随分早くから直接金融への関心が高くて、最近では直接金融の部分は95%になっています。そうなってくると銀行との関係というのは、営業目的のための持合いというような時期もあったと思いますが、変わっています。どこで変わったのか、はっきりわからないところはありますけれども、特に三井銀行--今の三井住友銀行とは、融資の関係が薄れる一方、コーポレート・ガバナンスの面で貢献があったと見ております。

調べてみると、初代の万代さんを初め銀行からソニーへ入ってきた取締役、監査役が過去に20名おりました。その中で財務担当役員という形で業務執行に当たった取締役もおりますけれども、社外取締役としての役割、別な言い方をすれば非常勤役員というような方が、現在の末松さんを含めまして9名となっております。

これは、後でも述べますけれども、1970年にニューヨークストック・エクスチェンジでソニーが株式を上場する際、SECから幾つか条件があって、社外取締役を2人以上という要請がありましたので、それから始まっていることになります。現在の末松さんを含めて銀行の社外取締役の方々には、社外取締役として、取締役会の活性化にいろいろな形で貢献していただいたと思っております。

ですから、最初はベンチャーでスタートして、現在はコーポレート・ガバナンスというふうになっています。その中間には営業目的の持合いというふうに考えた時期もあったと思いますけれども、明らかに持合い以上の貢献があったと思っております。

ちなみに、銀行との関係で、持合いの状況を調べてみたんですけれども、過去10年を見ると、銀行が持っていたソニーの株式は92年3月末では11.5%であったのが、現在は 4.5%にまで減っている。去年ぐらいから、銀行からソニーの株式を処分したいという相談がありまして、そういう申し出があるときは別に抵抗もせず--という言い方が変ですけれども、価格に影響を与えないようにうまく処分していただければ結構ですよということで対応してまいりました。

一方、ソニーも三井とか東銀の株式を持っていました。98年に年金の積立不足への対応のためにいろいろ検討した結果、信託設定がいいのではないかということで、ほかの市場性のある株式もそうですけれども、銀行の株式は全部信託設定をしました。銀行がソニーの株を持合い解消する中で、ポートフォリオで考えた場合、対応する銀行の株式をそのまま持ち続けるか、それともほかのものに変えるかというようなことも検討の上、信託設定した株式の一部を処分してポートフォリオを組みかえるというようなこともやっております。ここには株式総数しか挙げてありませんけれども、ソニーの銀行の持合いの株式の状況も、 3,800万株から現在では 2,300万株ぐらいまで減っているという状況です。

そういう変遷をたどってきたんですけれども、ソニーがコーポレート・ガバナンスに関心を払うようになった一番大きな契機は、1961年にATRを発行して、70年にニューヨークストック・エクスチェンジに上場したことだと思います。日本の商法とアメリカの会社法の考え方、これは必ずしも整合がとれているものではなくて、違っている考え方なり規制の調和を実務上とってきた。別な言い方をすると、ある意味ではダブルスタンダードみたいなもので、両方を満足させなければいけないという歴史があった。そういう関係で、ソニーとしてはコーポレート・ガバナンスのあり方についていろいろ工夫してきたという背景がございます。

以上が私から、銀行の役割ということで申し述べたいところでございます。

○ 岩原部会長代理

どうもありがとうございました。

続きまして、伊藤委員より「株式持合いとコーポレート・ガバナンス」についてご意見の発表をお願いします。

○ 伊藤委員

伊藤でございます。

いただいた時間は20分程度ということでありますので、余り細かい点には立ち入らずに、ポイントだけお話ししたいと思います。

株式持合いというのは倫理的な視点から、また、時にはエモーショナルな側面から一般には人気がないわけでありまして、やや強い言い方をしますと、拒否反応みたいなものもあるわけですけれども、今日はそういう倫理的な、エモーショナルな視点は排除しまして、株式持合いが今後どうあるべきかという「べき論」の前に、株式持合いが日本の企業システムあるいは経済成長の中で果たした意義みたいなものを、少し歴史を振り返りながら、余りバイアスを込めずに整理した上で、そして現状あるいは今後どうなのかということを考えてみたいと思っております。

株式持合いが、こういうふうに続いてきたわけでありまして、それなりのロジックがあるわけです。持合いがいつごろ始まって云々という話は、もう既に前回のワーキング・グループでも話題になっておりますが、要するに、1964年のOECD加盟、その規約に従って市場の自由化ということで、当時、株式の買い占めだとかM&Aを回避するために、ある種の安定株主工作としてこれが広まっていった。もちろん、そのときに商法改正があって、特定第三者への割り当て増資が取締役会でOKになったということもあると思いますけれども、こういう形で持合いが生まれてきたことはよく知られていることであります。しかし、今日までこれだけ幅広く持合いが続いてきたのには、やはりそれなりの理由、ロジックがあるだろうと思います。

内外の研究者には、株式持合いについては単なるシンボルではないかという意見もありますし、あるいはビジネス上のパートナー関係をあらわす一つの手段にすぎないというような、ある種の皮肉った見方もあるわけであります。

これも前回から話題になっておりますけれども、株式保有には、その持ち株を売却するという姿勢、つまりエグジットといいましょうか、市場から退出するような姿勢を示して牽制する機能もありますし、もう一つは議決権を行使するということで、ボイスを発する、言ってみればくちばしを挟むという2つの権限があるわけですけれども、日本では、これがうまい具合に持合いに生かされてきたと思います。

これは言葉はきついんですけれども、お互いに株を持っているわけですから、人質を交換しているようなところがありまして、言ってみれば、投資をしている相手方が抜けがけ的な行動をとれば、こちらもやるぞということを暗黙にちらつかせるわけであります。これは多少暗い見方でありますけれども、その暗い見方によって実は協調的、長期的、安定的取引関係が両者の間で生まれてくるという、ある種の規律がビジネス上のポジティブな側面に転換されていったというのがあります。

これはよく言われることでありますけれども、いちいちスポットで取引相手を探しているようでは取引コストがかかりますから、持合いを結ぶことで取引コストが削減されているんだ、あるいはリスクがシェアリングされているんだということで、経済的にある種の効果が認められるわけであります。

もう一方で、財務的な視点から株式持合いというものをとらえてみますと、比較的おもしろいことがわかってきました。この財務的視点からも、株式持合いに対しては皮肉った見方がありまして、要するに、これは株券のやり取りだ、紙のやり取りではないかという見方もありますし、株式資本の空洞化という見方もありますし、あるいは、紙のやりとりだって含み益がお互いに生まれてくるわけですから、「花見酒の行動だ」などとかつては言われたわけであります。

この持合い、実は流通市場で行われた場合と発行市場で行われた場合では経済的な意義が変わってまいります。お互いに流通市場で買えば、別に資金調達効果はないわけであります。ただ、ある意味では株価を上方に押し上げる効果はあるかもわかりません。

もう一方の発行市場では、株式持合いを両当事会社が同時に行った場合と、異なる時点に行った場合では経済的意義が変わってくるだろうと思います。これは同量の持合いだと思っていただきたいんですが、同時に発行市場で持ち合った場合には、ある種の株式市場の空洞化という説が当たるだろうと思います。ところが、異なる時点間で2つの会社が持合いをした場合には、ある種の資金調達効果がありまして、実は、それぞれの会社がキャッシュフローのニーズに合わせて持合いを行うことが可能になるわけであります。ですからこれは、例えて言えば、お互いに償還期限付の株式発行をしているようなものだという見方もできるだろうと思います。

私は、日本の経済では、この異時点間の持合いで資金調達効果があったことは認められるのではないかと思っております。こういう形で異時点間でお互いに株式を引き受けてくれるわけですから、資金調達リスクが軽減されるという効果もあったと思います。

さらに、持合いをやりますと、バランスシートが双方その分だけ膨らみます。資産も資本も膨らみますので、実は自己資本比率が上昇いたします。私の試算によりますと、見かけ上と言うとちょっと言葉が強いかもわかりませんが、20%ぐらい自己資本比率が上昇したことになると思います。

では、持合いが日本型経営にどういう影響を与えたのかということであります。

持合い株主はお互いに議決権を行使しない、言ってみればサイレントだと、ある種の暗黙的にこう言われるわけであります。これはいわずもがなでありますが、事業取引で協調関係が続けば、「議決権」という株式保有のある種の権利を行使する必要は毛頭ないわけでありまして、言ってみれば相見互い効果といいましょうか、場合によっては痛み分け効果といいましょうか、そういうところがあったんだろうと思います。

もう一つ、日本型経営との関係で見落としてならないのは、これはどちらかというと私個人の考え方でありますけれども、我々は、近代企業は所有と経営が分離されていると大学で教えられたわけでありますが、この持合いをよくよく調べてみると、日本企業では所有と経営は不分離だったのではないかと思います。言ってみれば、マネジャー、つまり経営者がオーナーの地位を同時に獲得してきたように思われます。つまり持合い分が自社株化しているわけでありまして、議決権はお互いに行使しませんので、言ってみれば自分の会社の株を持っているようなものなわけですね。つまり、議決権のスワップを行っている。そうすると、持合い分は自社株で、もちろんそれ以外の株主はおりますけれども、基本的には分散しておりますので、ご承知のように、その分散した株主が経営に議決権を行使することはないわけであります。

そうしますと、大株主によるボイスといいましょうか、干渉を受けずに、あるいは経営修正権の行使という脅威にさらされずに、かつて80年代に言われたように、長期的視点に立って経営を行うことができたという側面があるだろうと思います。

では、こういう形で発生し、続いてきた持合いが90年代はどうだったのか振り返ってみると、どうも最近、M&A防止、のっとり防止という、いわゆる持合いの発生のロジックに回帰する現象があるということです。自動車業界では、これがまさに2極化しています。日産は持合い解消、トヨタはむしろ持合い強化--と言うと言い過ぎになるかもわかりませんが、維持あるいは一部強化するという形になります。ですから、日産の例では、まさに事業取引と株式取引を分離するというのがゴーンさんの考え方だろうと思います。

90年代を振り返ると、やはり先ほど申し上げた相見互い効果といいましょうか、痛み分け効果といいましょうか、これがどうも行き過ぎたのではないかと思います。相手の会社の株価が下がった場合、通常はボイスを発するはずですが、こちらの株価も下がっているものですからお互いに言えない、そういう相見互い効果があって、ただ、株価が下がりましたから、もう花見酒とはいかなくなったんだろうと思います。

さらに、もう資金調達環境が、エクイティファイナンスの環境が好転あるいは整備されましたので、資金調達リスクそのものも低下しているわけであります。自己資本比率も既に欧米に比肩するまでになっておりますので、持合いによる自己資本比率の上昇という効果は、もう余りなくなってきているだろうと思います。

さらに、申し上げたように、オーナー・マネジャー型の経営が80年代、つまり右肩上がりのときには機能しておりましたけれども、これが行き過ぎて、ある種の経営者の視野狭窄、あるいは、伊庭さんのおられるソニーは全くこういうような批判は免れていると思いますが、やはり独善的経営に陥りやすかったのではないかと思います。

現在といいましょうか、90年代の後半、日本とアメリカで全く逆の議論が行われました。アメリカの通説とは言いませんが、アメリカでは、株主からのプレッシャーが強過ぎて、むしろLBO等で株式を非公開化した方がオーナー・マネジャー型の経営ができるのではないかというようなことを言う論者も結構出てまいりました。日本は逆でありまして、もっと株主のプレッシャーが必要なのではないかという、まさに日米の対照を生んだと思います。

こういう形で、どうもガバナンスが効かなくなった点に対するある種の最後の砦は、やはりメインバンクによる監視機能だと言われていたわけであります。ところが、不良債権処理等で、ここがどうもラストリゾートではなくなったということであります。

ここまで、わずか10分ぐらいで20年分回顧してしまいましたけれども、では現在、何が起こり、これから何が起こるんだろうかということを申し上げたいと思います。

前回、富士銀行の方からもスピーチがありましたが、実際問題、銀行の持合いは進んでいるわけですね。それはデータが証明しているわけでありますが、持合いの解消が進んでいくというドライバーは、ここに挙げたような要因があるだろうと思います。ただ、時価評価というのは今ちょうど過渡期といいましょうか、導入時期ですから、だんだん慣れてくれば、これが持合い解消のドライバーになるとは私は余り思いません。

ROEに対する意識が大分高まってきましたが、では、ROE経営をどれだけ徹底できるかという問題はあると思います。あとは前回も話題になりました、価格変動リスクにどのような形で銀行が対応するかによって、持合いがどの程度進むかということになると思います。

こういうように、少なくとも5つぐらいの持合い解消のドライバーがあるわけでして、これだけ見ると、持合い解消はこれから進むだろうというように見られますが、実は私は、余り進まないのではないかと思っております。なぜかといいますと、前回もこれは話題になりましたが、銀行自体の株主の利益と、銀行が融資している顧客企業の利益、どちらを優先するのかというある種のジレンマがあるわけですね。このジレンマをTOB--テイク・オア・ビッドの局面で考ると、比較的わかりやすいと思います。

今日は公開ということですが、これは新聞にも出た話ですから挙げてもいいだろうと思います。昨年、我が国でも、数は少なかったんですが目についたTOBが幾つかありました。中でも、大阪のある会社にある投資銀行がTOBをかけたケースがありました。--と言っても、もう固有名詞は皆さんおわかりだと思いますが、その行方が注目されたわけであります。

結果は、投資銀行側は7%ぐらいしか株を買うことができませんでした。

ただ、あのときメインバンクがTOBに応じていれば、相当のキャピタルゲインが得られました。 800円のものが 1,000円ですから、少なくとも25%のキャピタルゲインで、もちろん、もっと安いときに買っていればもっと安い率のキャピタルゲインが実現したわけであります。しかし、メインバンクのみならず大株主の事業会社も応じずに、7%前後の取得ということで、新聞紙上では、失敗、あるいは、やはり株式持合いは崩れない、こういうような論調が多く見られました。1つの事例から余り意義とかインプリケーションを一般化し過ぎると危険ではありますけれども、銀行の今後の持合い解消の行方を占うには、かなり象徴的であったと思います。

つまり、こういう局面で仮に銀行がTOBに応じたとすると、顧客企業、つまり融資先に「この銀行はそういうタイプの銀行なのか」つまり、TOBがかかればキャピタルゲイン目当てですぐ売ってしまうんだ、こういう風評が立つことは容易に予想できるわけでありまして、そういう風評を嫌うならば、やはり売らない、TOBに応じない。

つまり、金融取引と事業取引と株式取引が重なっておりますので、株式取引の方を売ってしまえば企業取引の方に、ビジネスの方に影響を与えてしまうのではないかという懸念は、私は、日本では相当強いと思います。ですから、連休中、大前課長補佐がドイツ銀行に行かれた際、ドイツ銀行の方が「我々は株主の利益を考えているんだ」というように明解に、スパッと言われたというのは、日本の銀行には恐らく今後も当てはまらないだろうと思われます。

つまり、融資先の顧客利益と銀行自体の株主の利益といいましょうか、株主価値の最大化という2つのジレンマの中で、私は、どうもまだ当分、融資先の顧客利益を重視するという行動が続くのではないかと思っております。

では、その持合い解消が仮に進むとすれば、コーポレート・ガバナンスにどのような影響を与えるかというと、発行市場では、やはり株の受け手がそれだけ小さくなりますので、事業会社側にとって、やはり資金調達リスクが高まるということがあるだろうと思います。そして当然のことですが、安定株主比率が低下していくだろうと思います。そういうことになれば、今、規制をするかどうかは別ですけれども、安定株主比率が低下していけば、事業会社側は恐らく、あるいは銀行に対する株式保有制限をどの程度きつくするかはわかりませんが、銀行以外の金融機関に株保有を要請することになるのではないかと思います。例えば生保等にもっと持ってほしいということで、安定株主比率を高めるということもあり得るだろうと思います。

ただ、そのときに生保等が、ウォールストリート・ルールはもう日米、大分とれなくなっておりますので、カルパースに象徴されるような「静かな対話」と称して経営にボイスを発するようになるかどうかで、日本企業のコーポレート・ガバナンスは変わってくるのではないかと思います。

一般には、M&Aがもっと起こった方がいい、つまりM&Aの脅威で市場の監視が進んで、ガバナンス機能が発揮されるんだということが言われるわけでありますが、持合い解消がどのぐらいの勢いで進むかによって、ひょっとしたらパンドラの箱になるやもしれない。

それを1つ考えてみるために、よく使われる指標でありますが、プライス・ブックバリュー・レシオ--株価純資産倍率を実際にとってみたわけであります。

これは私の方ではじいたものでありますけれども、ここでは88年度から99年度までお示ししております。データは東証一部上場会社、ただし銀行、証券、保険、その他金融業を除く32業種を取り上げました。直近の99年度はサンプル数が 969社であります。基本的には東証一部上場会社の、広い意味での金融の分野を除いたものということであります。

これを見ていただければおわかりのように、PBRというのは分子に株価をとって分母に純資産ですから、これが1を割るということは、M&Aの観点から言えばお買い得企業ということになります。安い株価でそれより価値のある会社を買えるということですので、お買い得企業。ですから、少なくともM&Aとのコンテクストで言えば、一般にはこれが1を上回っていないと危ないぞと言われる指標です。

まず、このデータからおわかりのように、PBRの平均値と中央値は、この10年間で低下の一途をたどっております。そして、99年度には中央値が1を割っているわけであります。

次のページは、同じサンプルで株式時価総額とPBRの平均値の推移を見たものであります。この二、三年大分落ち込んだ株式時価総額が上がっているということが読み取れますが、PBRはこういうように平均値が落ちてきているということであります。

もう一ページめくっていただきますと、これはROEの平均値とPBRの平均値をとって、各年度をドットしたものであります。基本的には88年当時から99年にかけて、つまり左下にどんどん落ちてきているのがおわかりだろうと思います。ROEも下がり、PBRも下がってきているということであります。

次のページを見ていただきます。

今度は、88年度と99年度の度数分布を比較したものであります。88年度が白抜き、99年度が紗をかけてあるものでありまして、88年度の方を見ていただければ、このPBRが比較的分散している、なだらかに分布していることがおわかりいただけると思います。それに対して99年度のPBRは、言ってみれば1.75以下に集中しております。つまり、ずっと左の方に寄ってきているわけであります。

これをもっとわかりやすく、99年度だけを取り上げたものが最後のページであります。多くの会社が1を下回っています。先ほどの 969社のうちPBRが1を下回っている企業は 507社でありまして、全体の52.3%。 0.8を下回っている企業は 380社、39.2%。 0.6以下の企業数は 219社、22.6%。片や2を上回る企業が 175社、18.1%、こういう分布になっております。

ただ、この分母の純資産は基本的に簿価ベースでやっておりますので、これを時価ベースに評価替えいたしますと、やや違ったPBRが出てくるかもわかりません。基本的には、これは簿価ベースで分母の純資産をはじいております。

では、銀行の株式保有制限をどうするかというのは今後の議論に委ねたいと思いますが、コーポレート・ガバナンスを考えるに当たっては、こういった日本企業の状況を勘案しておく必要はあるだろうと思います。

以上でございます。

○ 岩原部会長代理

どうもありがとうございました。

それでは、ただいま伊庭さん、伊藤委員よりお話しいただきました内容につきまして、ご質問等がございましたら、どなたでも自由にご発言をお願いしたいと思います。

伊庭さん、現時点で見ると、銀行に株式を持ってもらっていることはソニーにとってどれぐらいの意味を持っているとお考えでしょうか。

○ 伊庭 保氏

銀行も1人の株主だという程度の認識です。

ソニーの株主の分布状況が現在どうなっているかというと、3月末で、いわゆる外国人が39.6%になって、これが一番多いんですね。外国人株主がこんなになったというのは、92年ぐらいは20%台だったんですけれども、96年から97年にかけて30%を超えて、98年3月末には45%でした。ここのところちょっと減ってはいるんですけれども、外国人株主が非常に多い。

現在、その次に多いのが個人なんですね。個人が23.5%ということで、実はこれはソニーとしては予期もしなかったんですけれども、EBのおかげで--おかげというのは……、ソニーにとってはいいんですけれども、個人が現株を持たざるを得なかったということで、去年3月末で18.7%、その前の99年3月末で12.9%、大体10%から20%ぐらいはあれしていたんですけれども、いずれにしても、個人がこのところ急に増えてしまった。

その次に突出して多いのは、信託銀行関係ですね。これが18.6%ですか。

あとは一般法人。これもある意味では持合い的なところもあるんですけれども、6%。

それから生・損保が 5.7%、その次に銀行というぐあいに来ておりまして、銀行というのは、たくさんの株主の一人だという程度の認識になってきているということですね。

銀行との取引関係も随分変わってきて、もともとソニーの場合は、三井銀行には大変お世話にはなっているんですけれども、お互いに、どちらかというとメインバンクというような認識が割合薄かったのではないかなというのと、それと近年、会社の方針としても銀行との取引は、サービスの質を最優先するということで、どの銀行にも我々の窓口はオープンですよということで、結果として、もちろん邦銀の実力の問題とかがありまして、外銀との取引がいろいろな分野で増えてしまっているという関係にあります。

○ 翁委員

まず、ソニーの伊庭さんにお伺いしたいのは、先ほど銀行株式につきまして、98年12月に市場性のある株式は年金のために信託設定がされたと。確かソニーが一番最初にこういう動きをされたと思いますが、こういった動きは、例えば議決権とか、そういったコーポレート・ガバナンス上どういう影響があるのかお伺いします。

それから、伊藤委員にお伺いしたい点なんですが、先ほど最後のところで、世界的な潮流として、だんだんウォールストリート・ルールはとれなくなる、エグジットではなくて、カルパースみたいにボイスを発するような方向になってきているという話があったんですが、今、私が理解するところでは、日本では商法の改正で、かなり総会議決事項が減るというような方向転換が議論されていて、これは何かエグジットの方向が増えるような感じも受けるんですね。ですから、今回議論されているような商法改正の動きというのは、株式持合いにどういう影響を与えるのかという点を教えていただきたいんですけれども。

○ 伊庭 保氏

信託設定した株式と議決権の関係ですが、ソニーとしても議決権を実質的に留保しておきたいということで、信託の契約で、議決権の行使はソニーの指示に従うという形で、議決権はソニーが保持しているという形になっています。

○ 伊藤委員

ウォールストリート・ルールがとれなくなっているということと、最近の商法の動向ということですけれども、カルパース自体は株主総会で議決権を行使するというよりも、むしろ直接経営者と対話して、要するにどういうリストラを進めるのかということを聞いて、それに納得がいかなければ、そういう意味ではエグジットになるわけですよね。もちろん、そのときはウォールストリート・ルールがありますが、もうそれはしようがないということで退出するわけですよ。

そういう形で、少なくともアメリカの事例を見ると、株主総会での議決事項の幅が広い、狭いということよりも、もっと実質的に経営者と機関投資家が直接対話してしまう、そういう形で、もう非常にダイレクトな形でプレッシャーをかけてしまう形だと思いますね。

ですから、日本でもし機関投資家等が株主総会で議決権を行使するとすれば、その議決の事項が狭まるというのは、ガバナンス上は、やはり余り好ましくないかもわかりません。

○ 片田委員

経済界の立場から少し申し上げたい。先ほどソニーの伊庭さんからソニーの場合、外人株主が38%か、39%で銀行というのは一つの株主、ある株主にすぎないというふうなことをおっしゃいました。

ソニーさんは日本で最も先端的な国際企業であるわけですが、それが非常に特殊な事例をおっしゃっているんだと聞いていただくと、私は間違いだと思うんです。

私の会社も外人株主率は38%でございます。国際的に事業展開していると、今、急速にそういうふうになってきておるわけでございまして、伊庭副会長のお話は決して特殊なケースではないとご理解いただきたい。

結果として申し上げたいのは、銀行の持ち株の影響力は相当に下がってきている。少なくとも、業種は別にしてグローバルに展開している企業においては、そういうふうに考えます。したがって、会社の経営トップの視点も外人株主に対する、今の言葉で言えばIRといいましょうかね、そういうことに非常に重点がありまして、--ソニーさんは突出しておられるんですけれども、ソニーに続くその底辺が非常に広がってきているというふうにご理解いただきたいと思います。

それから、伊藤委員が最後のところで、持合いの解消が余り進まないのではないかということで2つ挙げておられますが、私は若干異論があります。今、ビッグフォーですね、大きな都市銀行のグループというのは、グローバルな中で競争する、事業展開するわけですから、必ずしもおっしゃったような視点で物を考えているわけではない、私は、持合い株の解消というのは非常に急速に進んでいくと考えております。

以上でございます。

○ 乾総務企画局長

伊庭副会長にご質問なんですけれども、先ほどのプレゼンテーションの中で80年代以降の話は詳しくお伺いしましたけれども、ソニーのいわば創業期と申しますか、まだ日本名の会社であったころに、融資、それからキャピタル両面で、当時、三井銀行とおっしゃいましたけれども、銀行の役割というのは非常に大きかったのか、欠かすことのできないものであったかという認識を改めてお伺いしたいと思います。

○ 伊庭 保氏

ソニーは昭和26年に創業されたんですけれども、「ソニー」と名前を変えたのは、昭和33年ですから1958年ですか(この年に株式を上場)。その後もいろいろ財務的な危機があったと理解していますけれども、特に「ソニー」と変えるまでの期間というのみ、やはり盛田家がいかに資産家であったといえども、盛田家だけでソニーの成長を支えることはとてもできなかったと思いますし、三井銀行が株式、あるいは融資ということで支えてくれなければ、これだけの成長はできなかったと認識しております。

○ 福間委員

今、伊藤委員のご説明を聞いていて、持合い状況にはいろいろあるんですけれども、ソニーさんもそうですけれども、やはり1972年までは時価発行増資がなかったんですね。額面増資で、それは、要するに資金調達として銀行に株を持ってもらったというところから始まっているわけですね。額面ですから50円なんですね。それで1972年からだんだん時価発行増資が出て……、だんだん企業が資金調達の多様化を図るようになってきて、1972年には、時価転換社債というのが出始めたということで、大体伊藤委員のおっしゃるとおりだと思うんですが、そのコンテクストの中に1つ欠けているのは、資金調達というものに非常にウエートがあるということ。

というのは、CPが1987年に解禁され、この辺から資金調達は銀行依存から脱したわけです。前回も言いましたように、長野証券局長の時代に適債基準の撤廃、あるいは緩和ということがその前にありましたけれども、そのあたりから普通社債が猛烈な勢いで出だした。そして銀行離れがウワーッと起きてきたというのがこの経過で、やはり資金調達手段が制約されていたというものが、ある程度、銀行借り入れの依存を強めざるを得ない。そうすると、銀行さんとしては企業を、今の言葉で言えばガバナンスかもしれませんが、例えば企業の経営改善依頼とか、そういうものが非常にあったわけですね。

ですから、それは直接金融を通ずるガバナンスではなかったけれども、そういう間接金融、ひいてはそれが額面増資に応じた銀行さんでもあるわけですけれども、その人たちが株主としてもガバナンスをしてきたわけで、今、ガバナンスと言うと何となく新しい言葉のように聞こえますけれども、日本は日本としてのガバナンスがあったからこそ経済大国第2位まで来たわけで、私は、何もそういうものが効かなかったからどうこうではなかったと思う。やはり一番のポイントは、戦後この資金不足時代の資金配分時代、銀行を通じての資金調達しかなかったという、そういうところが非常に、私は持合いの大きな側面だと思います。

ですから、そういうところがちょっと私は、今、結果論でなぞるといろいろなことを言えるんでしょうけれども、我々それを経験してきた立場から言うと、それが事実であったということでございます。

もう一つ、今後どうなるか。今、片田委員のおっしゃった点、私も片田委員のおっしゃるとおりだと思いますし、これは今どうして売れないのか、なぜ進まないのか。前回も言いましたけれども、含み益を償却財源にお使いになっている。今、売っても余り償却だけにならないというところが一番大きいので、株が上がればまた……、やはり資本の論理に乗っかった総合取引においてメリットがなければ解消するというトレンドは、全く変わらないのではないか、こういう具合に思います。

これが感想でございます。

○ 伊庭 保氏

片田委員のお話にちょっと、持合い解消についての私の方の考え方なんですけれども、もう一つの側面というのは、やはり企業経営でキャッシュフローを重視する、資本効率を重視するという流れになってきているのではないかと見るわけです。持合いは、なかなか資金の効率を上げるというふうには働かないと思います。キャッシュフロー重視の経営が進んでくれば、経済合理性からも、持合いみたいな余り意味のないことはしないのではないかと思っています。

○ 岩原部会長代理

ほかに、よろしいでしょうか。

またあるいは後でご意見をいただくこともあるかと思いますが、次の審議もございますので、進ませていただきたいと思います。

伊庭さん、伊藤委員、どうもありがとうございました。

伊庭さんには、お時間がよろしければ引き続きこの後の意見発表にもご参加いただきまして、ご意見等ちょうだいできればと思います。

それでは、次に淵田委員より「株式市場環境について」ご意見の発表をお願いします。

○ 淵田委員

それでは、「株式市場環境について」ということでお話し申し上げます。

銀行に対して何らかの株式保有規制をかけることが短期的にマーケットに悪影響を与えるという考えが、緊急対策等にもありましたので、その観点で、多少市場に近い人間としてどう考えるかという意見を求められているんだと思います。

2ページをお開きください。

これまでの会議でもございましたように、銀行の株式売却は非常に進んでいるわけでございますが、この間の株式市場指数の動きを見ますと、売却があったから下がるとか売却が少ないから上がるとか、そういった一定の関係は必ずも見られないのではないかと思います。

3ページ、これは本当にお遊びなんですが、銀行がどんどん株式を売却するから相場が下がっているんだといった非常に素朴な需給論がございますけれども、そういう素朴な議論に対して素朴な反論をするとすれば、例えばこのように、月間の銀行の株売買のネットの金額とトピックスの前月比変化幅をとると、何も関係がないといいますか、無理やり線を引くと、むしろ銀行が売れば売るほど株が上がるというような関係すら見られるのではないか。これは決して大真面目に言っているわけではございませんで、先ほどの棒グラフが下に出る、売りが出るということは当然誰かが買っているわけでありまして、そのように売りと買いが一致する中で株価が決まっているという、至極当然の話でございます。

では、誰が買い手になっているのかということを4ページで確認したいと思います。

これはいろいろ変動もございますが、個人ですとか事業法人、生・損保、長銀・日銀、そういったところはほぼ一貫して売り手になっております。買い手として大きなところは、外国人、例えば99年では9兆円の買い手になっていたりする。信託銀行というのは年金と考えてよろしいかと思います。それから、99年と2000年に関しては、投資信託が重要な買い手になっているということであります。

ここから先は、私は決して、これからどこがどれだけ買うから株価がどうなるといったような株式講演会をするわけではございませんで、こういう買い手を取り巻く環境がどのようなものかということを、わかる範囲でご紹介したいと思います。

5ページですが、まず「公的資金」と俗に呼ばれているプレーヤーでございますけれども、ご承知のように、いわゆる自主運用が進む中で、各機関が基本ポートフォリオというものを設定しておりまして、その中で、国内株の配分が中期的な姿として考えられております。これは一定の許容乖離幅を設けて考えておるんですが、基本的な配分で今後どうなるかを考えますと、下の表のように、中期的に基本ポートフォリオに近づくとして、それを年数で割って1年平均で何兆円の買い要因になるかといったような話をしますと、トータルしますと、国内株式に関して年間 2.3兆円の株式買いの要因になるという考え方になります。

企業年金でございますけれども、企業年金の資産自体、多少以前よりも伸び率が鈍化しておりますが、6%から7%で全体成長しております。その中で国内株式への配分はと申しますと、これは毎年変わるんですが、アンケート調査等によると、2001年に関しては昨年よりも若干減らす。これは昨年のパフォーマンスが悪かったからという説明のようですが、それを考えますと、昨年度は大体3兆円の流入だったけれども、今年は 1.5から2兆円ではないかといった予想になっているようです。

それから外人投資家、7ページでございますけれども、まず、その出どころの規模が非常に拡大している。アメリカの株式ミューチャルファンドの残高が非常に拡大していることはご承知のとおりでありますが、欧州においても株式投資信託というものが非常に人気になっておりまして、当然資産が拡大する中で、国際投資を重視するファンドも増えている。

アメリカのミューチャルファンドに年金を足しまして、外国株式は 1.2から 1.3兆ドルではないかという推計があります。つまり 140兆円の機関投資家のお金がファンドとしてアメリカにある。したがって、これを「日本にどれだけ」と資産配分を多少変えることで、大きな変化があるということのようです。

8ページは、年金資産のクロスボーダー投資です。

今アメリカのご紹介もしましたが、ある機関の2003年までの予測によりますと、全体の年金資産も増えるけれども、クロスボーダー投資比率、対外投資比率がもっと拡大し、より国際化が進むのではないかと言われておるようです。

9ページは、アメリカと英国年金の海外投資の動向です。ストラティジストの言う話でございますけれども、2000年度に関してはかなり日本株について、アメリカの投資家もイギリスの投資家もアンダーウェイトになってきた。したがって、今後の日本の動向を見て、そのアンダーウェイトを修正する動きがあるのではないかといったような話が市場ではよくされているようであります。

現実に、2000年11月までは 3.2兆円の売り越しだったけれども、その後、買い越しに転じているといった数字のようです。

それから、個人投資家と投資信託の動向でありますが、昨年、市場が悪い中で投資信託の伸び自体は鈍化しました。ただ、重要なことは、例えば91年とか93年、94年のように純減になるという状況ではない。昨年トピックスで25%下がったものの、まだ増加が続いているということが注目されるかと思います。

11ページです。そういったことの背景として、いろいろなことが言われているわけですが、非常に低金利になってきていることもございますし、今、日本では貯蓄の選択基準として「安全性重視」というのが非常に多いんですが、よく見ますと「将来の値上がりが期待できるから」ということを挙げる人が、九十三、四年をボトムにここ数年増えてきたのではないかという指摘がされております。

それから、やはりこれはビッグ・バン等の成果だと思いますが、投信の販売チャネルが広がり、例えば銀行の窓販による株式投信が着実に増えている。株式投信全体に占める比率も増えているということも、裾野の広がりに貢献しているのではないかと思われます。

それから、いわゆる需給論で申しますと、例えば自社株買いが非常に活発になった。特に昨年度下期におきまして--これは発表でありまして、どれだけ実行されたかという問題も当然あるわけですけれども、非常に活発になりつつある。今後、金庫株等の制度改正によりまして、この辺の動きがより活発化することも考えられるかもしれないと思われます。

それから、「需給」と同時に「流動性」というのがマーケットにおいては生命線なのでありますが、いわゆるマーケット・インパクト、大きな売りが出て、それがどれだけ価格に影響するかを考える場合、どれぐらいマーケットが流動的か、厚みがあるかがポイントになります。それにつきましては13ページの図にありますように、東証一部の売買代金で見ますと、92年から96年ぐらいまで二、三千億円というレベルだったんですが、2000年には1兆円近い1日平均の売買代金、今年に入って1-3月で 8,400億円、4月の、特に新内閣発足後の数週間では1兆円を超える日もあるなど、非常に売買が活発になっていることが指摘できます。

最後に、ご参考までにということで、少ないサンプルで多少マーケット関係者の意見を聞いてみたんですけれども、やはり需給論で申しますと、外国人、それから投資信託を含む個人の動向が重要になるのではないか。これについては、とにかく規模が非常に大きなものになっておりますので、ここが多少動くことが大きな影響をもたらすという考えになります。

今後のことを考えると、外国人が注目しているのは、やはり日本の構造改革がどう進むかとか、企業の収益がどれぐらい回復してくるかといった点である。個人関連では、税制とか確定拠出型年金ですとか、あるいは上場投信のような新商品がどうなっていくか、そういった点が影響を及ぼしていくのではないかといった見方があります。

それから、銀行保有株式の売却に関しては、これは一部のファンドマネジャーの意見を聞いただけですけれども、予想の範囲とされるのは年間3兆円ぐらいだろう。ただ、マーケット関係が良好であればこれ以上の売却も受容可能であろうという、これはファンドマネジャーの立場での見方であります。

一方、トレーディングを実際にやっている人々に聞きますと、いわゆる大きな売りが出たために価格が大きく下がってしまうというのは、どの程度のレベルのものだろうかということを、あくまで感覚の話でございますけれども、今の東証一部の売買代金、 0.6から1兆円強。90年代半ばの二、三千億円というレベルからは相当変わっておりますが、例えばこの3%に当たるような売りが来たら何かおかしなことが起きるかというと、それは全然ないだろうと。これは単純に計算しますと 250日掛けて年間 4.5から 7.5兆円だろう、それぐらいで大騒ぎになるようなマーケットではないですよといった話もあります。

ただ、これは4%ならどうだろうか、5%ならどうだろうか、そういう厳密な話ではもちろんございませんで、ただ、全くヤードスティックなしに議論してもナニなので、例えば単純な算数で、こういった議論があるというご紹介でございます。

先ほどグラフにもありましたように、今後の市場の流動性がどうなるか。市場の流動性と言う場合、やはりリアルエコノミーの動き--実質経済成長率がどうなるか、あるいはマネタリーな動き--マネーサプライがどうなるか、金利がどうなるかといった環境で、これは変わってくるだろうと思います。

ただ、こういう需給の足し算、引き算の議論は、ちゃんとファイナンスをやっている人は普通やりません。株価というのは企業価値であって、バランスシートの左側、それからPLで決まっているわけでございます。短期の大きな売りがどうのこうのでその企業の将来性が変わるわけではございませんから、やはり企業収益、マクロファンダメンタルズで決まるものだということであります。

例えば、銀行に何らかの形で保有規制が入るといったことが要因で売りが出るとしましても、それが本来の企業価値より割安になっていれば、買いが入るというのがマーケットでございます。これは言うまでもありませんが、「日本はそうではないんだ」と言うのは「日本はマーケットメカニズムが機能しない国である」と主張するのと同義であるという意見もございますし、私も個人的にそう思っております。

したがって、やはり問題は需給よりも、今後の企業価値がどうなるかでありまして、企業価値という観点で今回の問題を考えますと、例えば持合い解消などという動きは、もちろんこれをゼロにすればよいわけではなくて、メリットの部分もあるかと思いますけれども、マーケット関係者の間では、これは企業価値の向上にプラスではないかという意見が多いかと思っております。

私からは以上です。

○ 岩原部会長代理

どうもありがとうございました。

続きまして、神田委員より「銀行の株式保有の制限の是非およびあり方」について、ご意見の発表をお願いします。

○ 神田委員

それでは、意見を発表させていただきます。

お手元に2枚紙のレジュメを用意させていただきました。時間の関係もありますので、それを読み上げるような形で進めさせていただきたいと思います。

なお、今日は、どちらかというと株式市場あるいはコーポレート・ガバナンスの観点から見てどうかということで、今3人の方々もお話をされましたし、私も、主としてそういうことでどうかと言われたんですが、実はレジュメの2枚目に、もっと一般的な、すなわち銀行の健全性確保の観点からどうかというようなことについても、ちょっと書いてあります。これは、基本的には前回あるいはその前のワーキング・グループで私が申し上げたことを繰り返すような感じなんですけれども、その健全性からの観点についても、ついでですので一言二言申し上げさせていただきたいと思います。

そういうことで、ちょっとレジュメの順序が歪んだような形になっておりますけれども、まず株式市場の観点の意見を申させていただいて、その後に一般的な意見、その中で健全性についての意見も申させていただきます。

この問題を議論するときに、どういう出発点で議論するか、ゼロから白紙で議論するか、いろいろあると思いますけれども、繰り返しこの会合に資料が提出されておりますように、ある程度前提を置いて私は考えたいと思っております。

1つは、この4月6日に公表されました政府の緊急経済対策でありまして、私は、現にこれがきっかけになって、この金融審議会第二部会でも議論が始まったと理解しております。

もう一つ、この緊急経済対策と密接に関連するものとして、そこに書きました本間先生の文書がございます。当初、私、これを今日、参考資料として配付しようかと思っていたんですが、どうも伺ったところ来週、本間先生ご自身がいらして意見を申されるということですので、配付は控えておりますけれども、もう既に皆様方お読みになっていると思います。

この2つが、少なくとも株式市場の観点から銀行の株式保有のあり方を考える上では、非常に重要な文章になっていると思います。

ちょっとそれを離れて、なぜ今、銀行の株式保有が問題になるのかを考えてみますと、

現在の環境のもとでは、日本の特異性というものが非常に出てくると思われます。そこにもちょっと書きましたが、アメリカとかイギリスの銀行は、株式を持っていないか、ほとんど持っていない状況であります。これに対してドイツやフランスの銀行は、かなり多量に株式を持っていますけれども、時価に比べて簿価は極めて低いというか、昔の

日本の銀行のような状況だったものですから、余り問題になっていないわけであります。

日本の銀行保有株式は、そうでないところが特殊性、特異性になっているわけです。

今後の銀行の株式保有のあり方を考えるに当たっては、前回、ワーキング・グループで申し上げたように3つの視点から考えることができると思います。第1は銀行の健全性を確保するという視点、第2は銀行の収益を上げるという視点、そして第3が、コーポレート・ガバナンスを含めて株式市場のあり方といった視点であります。

なお、そこには書きませんでしたが、第4の視点として銀行による支配、特に産業支配、そういうことを問題視して議論される方が一部にはいらっしゃいます。しかし、これは今日も福間委員がおっしゃいましたし、片田委員もおっしゃいましたけれども、私は、銀行による支配、特に産業支配ということを真剣に議論するのは、今日ちょっと時代錯誤ではないかと思っておりますし、いずれにしましても、銀行による支配の問題、あるいは株式による支配の問題は、どちらかというと独禁法、もっと言えば商法、会社法の方で対応するのが世界的な潮流でありますので、そういう意味で、ここでは省略させていただきます。

収益性を上げること、簡単に言いますと「銀行が儲けること」が非常に重要で、今後、銀行がどうやって儲けていくか--どうやって儲けていくかは民の判断ですけれども、それをサポートするような仕組みを用意するのが法制度なり官の役割だと思っております。しかし、収益向上と健全性はイコールでないことに注意すべきだと思います。

それはともかくとして、次に、株式市場のあり方の観点から若干意見を申させていただきます。

3.に書いたことですが、株式持合い、これはもう今日も多数出ておりました。また、来週もご意見があると思いますけれども、最近の状況では、株式の持合いというのは株式市場の観点から見ますと不利というか……、逆に言いますと、株式の持合いを解消することが、恐らく株式市場にとっても株を持っている人にとっても望ましい状況になっていると考えられます。これは多数の文献がありますけれども、本間先生のレポートにも書いてありますし、川北さんや淵田さんとご一緒させていただきました研究会の中にもきちんと書いてあります。

なぜ最近そうなっているかは、先ほどからもう既にお話が出ていることですけれども、いろいろ要因はあります。そこには書いてありませんけれども、大きく言うと2つだと思います。第1は、株式というものの投資収益率が、現在の環境では他の金融資産に比べて相対的に低下しているということだと思います。したがって、持ち合っていることの経済的な利点が相対的に低下しているということかと思います。

第2は、コーポレート・ガバナンスの観点で、先ほど伊藤先生はM&Aの観点からおっしゃいましたけれども、一言で言えば、物を言わない株主への批判というか、プレッシャーがマーケットから上がっているということではないかと思います。そういった環境変化の中で、恐らく持合いの解消が望ましいという状況になってきていると言えると思います。

ただ、それは「望ましい」と一般的に言えるのであって、何か法律で「持合い禁止」などという話ではないと思います。個々のケースを見ますと合理性がある持合いもあり得ると考えますので、例えば法律で持合い解消を一律に強制するのは行き過ぎであって、適切でないと思います。

括弧内は省略させていただきまして、そういった視点から考えてみますと、持合いの主役とでも言える金融機関が保有する株式についても、持合い解消へのインセンティブを与える、そういう政策的な判断というものが十分あり得るし、妥当な判断であると私は考えます。

そういった日本の現状にかんがみますと、どうやって解消していくのかという方法としては、持合い株式を市場を通して消すというか、解消していくという方法ももちろん考えられますけれども、市場を通さないで消していく方法を用意することも、一つの政策として検討されるべきものと思われます。

そういう意味で、持ち合っている両当事者が持合い解消を望んでいる場合に、これを「制約」と書きましたが、その前に「事前に」とでもつけ加えた方がいいかと思います

。これを事前に制約するような規制があるとすれば、それは撤廃すべきものと思います。

そこにちょっと書きましたけれども、上場株式等については市場価格があるわけですから、相対での持合い解消を認め、さらにアメリカなどで使われております、いわゆる自社株プットオプション、これは現在、日本では使えませんが、こういうものを認めるべきであろうと思います。

次に、個人投資家育成の観点からは、やや抽象的ですが、2つがポイントではないかと私は思っております。

第1は、個人の株式投資を魅力あらしめるための環境整備を進めること。

これは繰り返し申し上げていることですけれども、個人金融資産 1,400兆円の5割以上は預貯金に行く、そういう選択を国民がしている国ですから、日本は株式市場への国民の信頼がない国であると言っていいと思います。これはちょっと極端な言い方ですが、先進諸外国の中では、日本はそういう国だと言っていいと思います。

それはなぜか。これはいろいろ複合的な要因があって、1つの要因だけではないと思いますけれども、やはり個人投資家の株式市場への信頼を回復する必要がある。これはそこに書きましたように、「不正な取引の厳格な監視と禁止」ということに尽きるのではないかと思います。もう過去のことと言ってしまえば過去のことですけれども、損失補填ですとか飛ばしですとか、そういった悪いイメージが残っている。それは個人個人の国民にとって、やはり株式市場への信頼がまだ回復していないと言わざるを得ないと私は思います。その意味において、やや抽象的ではありますけれども、不公正取引の厳格な監視と禁止ということが一番大事だと思います。

もう一点は、よく言われていることですけれども、直接金融の中には、いわゆる市場型、間接金融--投資信託ですとか年金を通じたものですが、そういったもののルートをできるだけ多数整備すべきであると思います。そのためには、抽象的に申しますと5割超のお金が銀行へ流れてくるわけですから、銀行を通さないで個人金融資産を株式市場に流すことも当然エンカレッジすべきですけれども、銀行を通して流すことも考えられてしかるべきかと思われます。

銀行が放出する株式が直接金融の比重増大に資するようになることが、日本の将来の金融資本市場の姿という観点からは望ましいと思いますし、先進諸外国の流れにも合致する方向だと思います。

以上、余り大したこともないんですけれども、株式市場のあり方の観点からの私の意見を申し上げました。

2ページですけれども、一般的な意見ということで、最後の方は省略しますけれども、ちょっと読み上げさせていただきたいと思います。

最初にこの銀行の株式保有の問題を聞いたとき、いや、それはもっと大きなビジョンを描いて、その中で議論すべきであるというのが私が最初に感じたことであります。

そして、よく「株価対策」ということが言われます。何か単視眼的で批判を受けたりしますが、私は、「株価対策」という言葉自体は少しも悪い言葉ではないと思います。それは淵田さんも最後におっしゃいましたように、要は、事業法人と金融機関の両方が収益を上げることがポイントであって、今、株価が低いということは収益性が低いということ、その意味では、市場が機能していることを意味しているわけであります。

そういう意味で、実際にどうやって収益を上げていくかを決めるのは個々の金融機関であり、民の判断ですけれども、どういう制度的な障害があるのか、あるならそれを取り除き、あるいはさらにそれをエンカレッジするような制度を用意するのが金融審議会としての、官の役割だと思っております。

3つ目の●ですが、仮に銀行の株式保有を現状より厳格に規制することにした場合、銀行がその分、例えば株を売って得たお金を国債に変えるようでは、私は危険が大きいように思います。では、今度は売った株をかわりに誰が持つかですが、保険会社が持つのでは意味がないというか、今度は保険会社が危ないということではないかと思います。

次の●ですが、銀行の健全性確保の見地から、銀行の株式保有について、例えば自己資本の何%とか、あるいは自己資本の額とかそういうものを基準に、いわば総量規制をするということは、少なくともワーキング・グループではこれまでにも詳しいご紹介がありました。ヨーロッパなどに例がありまして、理論的におかしいわけではありませんけれども、日本の現状では、私はやや突出する感じがします。ヨーロッパでは、そもそも独禁法上も銀行法上も5%規制はありませんので、10%を超えたらどうかとか、そういうところについて総量規制をしているわけであります。

その次の●、銀行の健全性確保の見地からどう考えたらいいかということですが、現時点における私の意見は、そこに書きましたとおりであります。すなわち、ポートフォリオ全体でのリスク管理を要求する、いわゆるBIS規制の今後の行方と、整合性のとれた規制の整備を検討することが妥当と思います。

具体的には、銀行が保有する株式についてのリスク・ウェイトと、それから市場リスクの計測方法に関する現在の取り扱いについて、これを厳格にする方向で見直すことが妥当であるように感じています。

なお、そこに「アウトライヤー規制」という言葉で書きましたように、それを超える部分について、禁止ということではなくて超える部分について、例えば実額で自己資本を積むとか、そういう外側の部分についても併せて検討する必要があると思います。

ただ、これは、これまでのルールのかなり大きな変更になりますので、それが望ましいと思いますし、それを目指すべきだというふうには思いますけれども、それが実現するまでの間の暫定的な措置というか、あるいは簡便な方法として総量規制的なものを使うということはあってもいいように思います。

以上のような方向でのルール整備を検討する場合には、銀行法による5%規制は見直すことが妥当であると思います。

そういった方向でルール整備を行っていく際には、言うまでもないことですけれども、経過期間について柔軟な取り扱いをすることが望ましいと思います。これは淵田さんが最後におっしゃった、こういう規制が入った結果、銀行が株を売る場合に株式市場にどういうインパクトを与えるかという点ですけれども、そういう点あたりも十分に考える必要があると思います。

そして、いわゆる買い取り機構と呼ばれている銀行保有株式取得機構(仮称)、と書いておきましたが、こういったものは本来あるべきではない、不要なものだと思います。

設けるならば、それはやむを得ない場合についてだけにとどめるべきであると思います。

あとは省略させていただきます。

以上です。

○ 岩原部会長代理

それでは、ただいま淵田委員、神田委員よりお話をいただきました内容につきまして、ご質問、ご意見等ございましたら、どなたでもご自由にご発言をお願いしたいと思います。

○ 伊庭 保氏

既に議論されていることかもしれませんけれども、神田委員がおっしゃられるように、株式市場、株式に対する信頼を回復することが1つ重要なのと、もう一点は、やはり株の流動性を高めるために、コーポレートカレンシー的なルールの整備、その2点があるのではないかと思うんですね。

最初の株式市場への信頼の回復というのは、先ほどお話を伺いますと、投資信託は微増はしているということですが、投資信託に対するパーセクションの問題があると思います。投資信託というのは基本的に貯蓄商品だと思うのですが短期的な回転、どうも株と結びつくと「回転」というのが一般的なパーセクションだと思います。元本の保証はないリスクのある商品だけれども、これはやはり長期保有というか、貯蓄、貯金と比較できる貯蓄性のある商品というパーセクションをもっと浸透させていくべきではないか。

流動性確保のためのルールの整備というのは、例えば、コーポレートカレンシーと言ったのは株式交換によるM&Aですね、完全子会社の場合には無税で株式交換という制度が認められ、ソニーの場合はそれを実施して上場会社、あるいは非上場会社の完全子会社化をしたわけですけれども、100%子会社にする場合にしか無税でないんです。アメリカのように、完全子会社ではなくてもああいう手法を使えるようにすることも、ちょっと迂遠かもしれないんですけれども、株の流動性を間接的に高めることになるのではないか。

あとは全く細かいことですけれども、会社の役員などが自社株を購入しようと思っても、現在、毎月決まった株数なり金額でやっていくしかやりようがないという状況だと思うんですよね。例えば中谷先生が「ソニーの株も買いたいんだけれども」ということになると、インサイド・インフォメーションの関係で、とてもどのタイミングで買うという決断ができない。ではドルコスト法でと思ったら、それも東証では金額の制約がありまして、詳細はちょっと忘れましたけれども、年間 100万円だか 200万円だかという制約があるようです。しかし、会社の役員が自社の株を買う場合、ドルコスト法で買うなら何もそんな制約は要らないのではないかと思います。

あとは、ESOPの導入も促進していただけるといいのではないかと思っております。

○ 伊藤委員

私は今日、持合いの経済的意義について少し振り返ったんですけれども、銀行による株式持合いの経済的意義というのは、先ほど福間委員も言われたように、資金調達というようなところも含めて、やはりもう薄れてきていると思います。

その際、恐らく2つのコーストバクションがある。1つは、私は今日、銀行は顧客利益の方もかなり多く見るので、自社の株主あるいは企業価値、あるいは株主価値には相対的に余りウエートを置かないのではないかということで、持合い解消はなかなか進まないのではないかと予測しましたが、先ほど片田委員が言われたように、もう事業会社の外人持ち株比率はガンガン高くなっています。それはソニー、コマツのみならず、ほかにももう30%を超えている会社がかなりありますのでね、そうなると当然、企業価値を高めるような経営をしなくてはならない。

だから、そのような事業会社の置かれた状況が銀行にも当てはまれば、それは銀行の経営者として、企業価値を高めるためにはやはりもっと、こういう資本コストを考えると持合いは経済的に余りメリットがないということで、解消していってくれれば、私は余り規制を言う必要はないと思います。ところが、先ほどのようにそれがなかなか進まないのであれば、やはり何らかの規制、要するに保有制限をかける必要がある。

この2つのコーストバクションいずれについても、銀行が株を放出した場合に、誰がそれを買うのかという受け皿の問題があります。誰が買うのか。先ほど淵田委員が言われたように、投資家は当然、企業価値あるいは将来性を見て買ったり売ったりするわけですから、買ってくれる人がいるかどうかという点では私は心配要らないと思いますが、ただ、「誰が」買うのかということは、やはり問題になりますね。

例えば、もっともっと個人も買いやすくなって、先ほど神田委員が言われたように、環境が整備されて個人がもっと株を持ちやすくなる、証券市場の信頼性がもっと高くなって個人が持つ、あるいは外人がさらに買い進むということがありますね。そうなったときに私は、基本的にはどれだけ腹をくくれるかということだと思うんです。つまり、やはり結局はガバナンスという--ガバナンスにもいろいろな側面がありますから、すべてに目を向けていると切りがありませんが、例えば企業の売買ですね、要するにM&Aという側面に目を向けますと、それはそれだけ、とにかく安定株主比率は下がりますからね。とすれば、イン・インかアウト・インかは別として、日本市場で、日本企業を対象としたM&Aが起こってくるわけですね。

そうすると、今、日本で議論されている社外取締役を入れるというようなガバナンスの議論よりも、もっとガバナンスが効いてきて、ある種の荒々しい市場の原理が押し寄せてくるわけですね。ですから「それでいいんだ」と腹をくくれれば、私は、いずれにしても銀行による株式持合いは解消する方向で進めていくんだということになると思います。その辺、どこまで腹をくくれるかは難しい問題なんですが、そこにかなり重要なポイントがあるのではないかと思いますね。

○ 岡部委員

神田先生にお聞きしたいんですけれども、金融資本市場のルールづくりというのは、基本的にグローバルな潮流とどう整合をとるかが非常に重要だと思いますし、今まで日本は、どちらかというとその後追いというか、対応型で来たわけですけれども、これからは、むしろそれを先取りするようなルールづくりをしていく必要があるのではないか。今度の株の保有制限の問題も、そういう視点が欠かせないと思うんですけれども、そういう点からいくと、今、議論されているBIS規制でのルールづくりと総量規制的な考え方というものは整合がとれているのか、あるいはグローバルな潮流を先取りしているものなのかという点はいかがですか。

暫定的にそういうものを導入したらどうかというご提案なんですが、下手をするとダブルスタンダード、あるいは二重規制というような問題にならないのかという点でのご見解はいかがでしょうか。

○ 神田委員

本当は今まさにおっしゃったとおりで、一般論を言いますと、私も日本は後追いではなくて先へ行ってほしいと思いますし、そういう方向で議論したいと常々思っています。

ただ、ご存じだと思いますが、現在のBIS規制上の保有株式についてのリスク・ウェイトとか市場リスクの計測方法は、私の理解によれば、残念ながら選択肢の中では一番保守的というか、進んでいない方法を日本として主張せざるを得ないために、最先端の議論の中では日本は不利な側についているというような印象を、私はこの前、事務局からのご説明を受けて持っております。

したがって、BIS規制の中での選択肢の中でも、もっと具体的に申し上げるべきかもしれませんが、それはまた事務局の方でもご説明いただけると思いますけれども、最も進んだ部分を主張できるように、むしろそちらに、例えば保有株式のリスク・ウェイトの計算方法、 100%ではなく、例えば--あくまでも例えばということで、わかりやすいから申し上げるんですが、 200%、 300%ということを言う。それから市場リスクの計測方法でも、現在2つの方法があって、より保守的な方についているわけですけれども、より進んだ方を主張することができるような形に進んでいけば、私は、むしろ今度は世界をリードしていくような方向に行けると思っています。

ただ、それはやはり現状からは非常に遠い気がします。それがここで合意できれば、これはもうグローバルな整合性もあるし、世界をリードしていけるような議論になると思うんですけれども、その場合には総量規制は私は要らないと思いますし、5%規制も廃止だと思います。それが世界の趨勢だと思います。アメリカは、またちょっと特殊な哲学がありますけれども、それは別にしまして。

ですけれども、それは余りに遠いものですから、では、それと違った方向へ日本が歩んでいくということになると、これはまた非常にややこしいのみならず、先進諸外国の中でも日本は中・長期的に取り残されるし、おかしなまま進んでいくことになる。ですから、やはり方向はそっちであり、その理想まで低減するなりできればそれは本当に理想だと私は思いますけれども、そちらの方向を目指すための、「暫定」という言葉がいいかどうかよくわかりませんが、簡便法というか、それを目標に掲げながらも、その間は総量規制的な、もうちょっと計算も楽なというか、そういうものでそちらの方向へ向かっていくという方法はあると思っています。

そういう意味で、私自身が二重規制ということを考えているわけではありません。あくまでもBIS的な発想の中で、よく言えば最先端のところを日本が目指して、それができるということになれば、先ほどおっしゃったとおり、今度はBISの中でも不利な立場に立たずに、むしろリーダーシップを発揮できる、そういう立場に立てると思います。

ただ、これは私など実務を知らない人間が何か物を読んで言っていることなので、実際に金融界あるいは銀行界を初めとして、そういう方向で行こう、行けるという見通しを持っていただかないといけませんし、それから、そうなった場合には、現在銀行が保有している株式は、私の推測では相当程度市場に出すことになると思います。したがいまして、それがどの程度かはきちんと計算してみないとわかりませんけれども、それについての市場のインパクト等、今日いろいろな観点から議論になったコーポレート・ガバナンス、また株式市場の問題等も十分に検討しないと、そう軽々に「そうだ」とまでは言えないとは思います。ただ、基本的な考え方としては、そういう方向を目指すべきだと思っております。

○ 池尾委員

ちょっと感想のような意見になるんですが、今日は株式の持合いの功罪のようなことが繰り返し議論されたんですけれども、その議論を伺っていまして、株式持合いがいいとか悪いとか言うときに、誰にとっていいのかという明示がなされない形で議論がされていたような気がするんです。

明示されない場合は、多分、社会全体から見てということで議論されているんだと思いますが、では、仮に社会全体から見て株式持合いが望ましくなくなっているとしたときに、社会全体にとって望ましくないことは社会の構成員すべてにとって望ましくないことなのかということは、やはり考えておく必要があると思うんですね。全体にとっていいことは各構成員すべてにとってもいいことであるとか、全体にとって悪いことは構成員すべてにとっても悪いことであるというのであれば、それはもうほうっておけばいいと思うんですね。何の規制や関与をする必要も、政策的にプッシュする必要もないと思うんです。

仮にある種の制度的強制をする必要があるとすれば、全体の利益からするとというか、要するに、多数にとってはそうすることが望ましいんだけれども、一部の人にとってはそうすることが不利になるので抵抗があるとか、何かやはり利害関係というか、メリット、デメリットが主体によって違うという構造があったときに初めて規制とかそういうことが問題になるはずだと私は理解しますので、したがって、持合いがこれから解消していくかどうかという議論をする場合には、やはり主体ごとにメリット、デメリットがどうなのか、もう少し注意する必要があるのではないかなという感想を持ちました。

私個人は、この前のワーキング・グループでも申しましたが、そんなにもストレートに持合い解消が進んでいくという考え方は持っておらないんですね。「それはおまえが実務を知らないからだ」と言われたらそれまでなんですが、全体にとって意義がなくなっているとしても、例えば、持合いによって経営の安定性が図られている状態にある経営者が、わざわざ自分の経営の安定性を崩すというか、自分の経営権を不安定化させるようなことを喜んでやるというのは、経済学者の発想から言うとちょっと考えがたいことです。それ以外のさまざまなプレッシャーも強まっているからある程度やらざるを得ないという範囲で、この前も申しましたけれども、水膨れしている部分といいますか、肥大化している部分の解消は進むでしょうけれども、コアのところでの、経営権の安定性の確保みたいなことを自分から壊そうというインセンティブがどうして経営者にあるのかが大いに疑問なので、ちょっとくどくなりましたけれども、主体ごとにどういう影響があるのかをもう少し議論していかないと、議論がうまく噛み合っていかないのではないかという印象を持ちました。

○ 高橋委員

先ほど伊藤委員が、安定株主の必要性という観点から持合い解消が進むと、銀行以外の金融機関にも株保有の要請が行く、それは例えば生保というふうに挙げられました。でも、生保の場合、確かに一般勘定において、国内株式投資というのは一般勘定資産全体の30%という運用規制があるわけですけれども、現状では半分ぐらい使われている。破綻した会社の中には20%を超えるところもあったけれども、まだ半分程度というのが現状であるかと思います。

そういうことで、このルールから見てまだ買えるのではないかということであれば、神田委員も先ほどおっしゃいましたように、健全性の観点から保険会社の株式保有規制を議論すべきという方に、どうしてもつながっていかざるを得ないと私も思います。

また、相互会社の株式会社化というのも、実は今、保険の方ではワーキング・グループ等で議論しているわけですけれども、現状でも、生保に限らず、損保も含めた保険業界というのは日本的商慣行が非常に続いているところでございまして、「誰にとって」という観点から見れば、従業員は大株主である生・損保の商品を買うなり年金なりということで非常な影響が出ているし、これがさらに進むのかなというと不安な部分があるわけでございます。

ですから、銀行の議論からちょっと離れたようにも感じるんですけれども、銀行と併せて金融機関ということで議論していかないと、この持合い解消の問題は公正な議論になっていかないのではないかと思います。

以上でございます。

○ 岩原部会長代理

ほかに何かございますでしょうか。

いろいろな論点、問題点が出てきているように思いますが、いかがでしょうか。

いろいろな論点が出てきておりまして、コーポレート・ガバナンス全体の問題もございますし、一方では、ここは金融審議会でありますので主に金融の観点から入りますから、神田委員おっしゃったように、金融機関の健全性の確保が非常に大きい問題になっていることは確かでございます。そしてBIS規制との関係をどうするか、非常に大きな問題だと思いますね。

一方で、銀行の株式保有に関するリスクを考えていくと、恐らく相当大きいものがあるだろう。これは前に池尾委員がご指摘になったところでありますが。

現在の、単に1年間の株式保有について、この間、川北委員からそのリスク計測がございましたけれども、そうでなくて、仮に持合いというものがあって、そしてそれがなお大きい意味を持っているとすると、単なる株式投資でない持合いの場合のリスクをどうやって計算したらいいかという問題は、非常に大きく出てくると思うんですね。前回ご報告があったような、単なる1年間のリスク計測だけでは済まない問題が出てくると思うんですね。

そういう意味では、やはりリスクを考えるという点でもガバナンスを含めた視点が必要ではないかという気がします。実現するまでの暫定的な措置を考えるにしても、恐らくガバナンスの面とリスクの面と両面から見ていく必要があると思いますし、神田委員がご指摘になりましたように、それでは、保有規制するとしたらその影響が一体どう及ぶのか。これは伊藤委員もご指摘になったところですが、それもガバナンスの側面等を含めて検討していく必要があるかなというのが私の感想でございます。

時間も来たようでありますが、特にここでご意見等ございましたら承ります。よろしゅうございましょうか。

それでは、本日の審議はこれぐらいにさせていただきたいと思います。

淵田委員、神田委員、どうもありがとうございました。

また、伊庭さんにはご多忙の中、最後までお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。

なお、冒頭でも申し上げましたように、次回会合につきましても第二部会とワーキング・グループの合同会合ということで、有識者の方々からの意見発表を予定しております。

最後になりましたが、事務局から、次回会合の日程等につきましてご連絡をお願いします。

○ 樋口信用課長

次回の合同会合につきましては、来週23日水曜日、午前9時30分から12時まで、本日と同じこの会議室で行います。よろしくお願いします。

○ 岩原部会長代理

それでは、本日の会議を終了させていただきます。

どうもありがとうございました。

(以上)

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