金融審議会総会(第11回)議事録

日時: 平成14年7月31日(水)16時06分~17時55分

場所: 中央合同庁舎第四号館(11階)共用第一特別会議室

○ 貝塚会長

それでは、時間が参りましたので、第11回金融審議会総会を開催させていただきます。

本日は、皆様ご多忙のところご参集くださいましてありがとうございます。

委員の異動がございますので、昨年1月以降の委員の異動でございますが、福間年勝委員及び松原亘子委員が金融審議会委員を退任されましたので、ご報告申し上げます。

なお、議事は公開されておりまして、報道機関の方が後ろの方にお座りでございます。

それでは、総会開催に当たり、柳澤金融担当大臣よりご挨拶をいただきたいと思います。

○ 柳沢金融担当大臣

第11回金融審議会総会の開催に当たりまして、一言ご挨拶を申し上げます。

私は、平成10年10月、小渕内閣で金融担当大臣に就任して以来、金融再生委員長を経まして現在に至るまで、約2年半にわたりまして金融行政に携わってまいりました。これまで不良債権問題やそれに伴う金融機関の破綻など、極めて大きな課題への対応に全力を傾けてまいったところでございますが、一方で、現下の課題に取り組むに当たりましては、日本の金融システムあるいは金融証券市場が将来どのような姿になっていくべきかというビジョンをしっかり持った上で取り組むことが望ましいと、かねてから考えておりました。

加えまして、金融システムや金融証券市場は、現在、どこの国でも大きな変革期にございまして、これに対処するために、例えばアメリカでは「21世紀の金融業-財務省リポート」が1997年11月にまとめられ、イギリスでも「21世紀銀行業の競争-クルックシャンク・レポート」が2000年3月に大蔵大臣に提出をされております。

このような状況を踏まえまして、我々も金融の将来ビジョンについて幅広い観点から議論すべきではないか、このように考えておりました。

こうした私の問題意識の下で、私の私的懇話会でございます日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会におきまして幅広くご議論をいただきまして、去る7月12日に「金融システムと行政の将来ビジョン」として報告書がまとまり、公表されたところでございます。

一方、去る6月25日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」、いわゆる骨太第2弾でございますが、ここでは、金融庁におきまして中期ビジョンを早急に取りまとめることとされたところでございます。従いまして、今後、ビジョン懇の報告書を基礎といたしまして金融審議会でご議論を賜りまして、秋頃にはいわば政府の公式の中期ビジョンについて答申をいただきたいと考えておるところでございます。

また、本報告書におきまして、決済機能は資金仲介機能とともに金融システムが担う基本的な機能であるということを指摘した上で、その確実かつ円滑な実施の重要性が言われているところでございます。

昨日、蝋山座長と総理のところへ報告書をご説明に伺った際、総理から私に、「ペイオフを予定どおり実施すべきであるが、一方、決済機能の安定確保のための方策を検討し、必要な改革案を取りまとめるように。」とのご指示を受けました。こちらについても難しい課題と存じますが、集中的にご検討を進めていただければと存じます。

最後に、今後の精力的なご審議をお願いいたしまして、と申しましても夏の真っ盛りに大変恐縮でございますけれども、いろいろ仕事が立て込んでおりますので、そういうお願いをさせていただきまして、私の挨拶とさせていただきます。

どうもありがとうございます。

○ 貝塚会長

どうもありがとうございました。

ただいま大臣から秋頃には中期ビジョンについての答申を取りまとめてほしいというお話がございましたので、今後それを踏まえまして、先ほど大臣おっしゃいました、蝋山座長のもとでのビジョン懇の報告書を基礎にして金融審議会において精力的に審議を進めてまいりたいと思います。ちょっと夏休みのシーズンですが、何分にもよろしくお願いしたいということでございます。

本日は、まず初めにビジョン懇の座長を務められました蝋山委員から、7月12日に公表されました「金融システムと行政の将来ビジョン」についてご説明いただきたいと思います。

それでは蝋山座長、15分と書いてありますが、よろしくお願いします。

○ 蝋山委員

柳澤大臣の私的懇話会の座長を務めさせていただきました蝋山です。座らせていただきます。

15分頂戴いたしましたが、2分でしゃべることも2時間しゃべることもできるわけですけれども、15分の範囲の中でお話しさせていただきたいというふうに思います。

昨年の12月にこの懇話会は始まったわけでありますけれども、都合10回ほど会合を開きまして、非常に活発な議論が行われたというふうに私は認識しております。今ご報告ありましたように、7月12日に取りまとめまして、大臣に報告させていただきました。

内容はこういうことであります。

まず、これまでの日本の金融機能の中で最も基本的な資金仲介の機能というのがリレーションシップというものを重視する銀行への預金、貸し出し、これを通して資金仲介が行われるモデルであった。これを産業金融モデルと名付けておりますが、こういう産業金融モデルでは、価格とか金利といった、そういう客観的な指標以外の多様な要因が直接に資金の流れを左右する、こういう姿が基本ではなかったかというふうに認識しております。しかし、これが今や機能しなくなってきた。それに代わる新しいモデルを資金仲介において実現させなければならないのではないか。それは、もっぱら金利、価格といった客観的な指標が資金の流れを左右する、価格メカニズムが機能する市場を通ずる資金仲介である。こういうケースを市場金融モデルと名付けるならば、産業金融モデルから市場金融モデルに日本の金融の姿は変わらなきゃいけない。こういう内容の提言を行っているわけであります。

もちろん、従来も産業金融モデルが支配的だったとはいえ、マーケットメカニズムが一部には機能していたわけでありまして、それと同様に、今後も市場金融モデルが主軸になるとはいえ、全く産業金融モデルがなくなるというわけではない。幾つかの重要な部門においては、例えば地域金融においては産業金融モデルが有効であるかもしれないけれども、それは全体の動向を規定するというようなものではない、市場金融モデルがその役割を果たす。こういう方向でこれからの日本の金融というものを考えていかなければならないのではないかと、こういう主張が主軸になっているわけであります。

こういう状況を実現させるためにどうしたらいいのか。従来のさまざまな答申や、あるいは報告書では、制度改革を強調して、余り制度においてそれを利用するさまざまな経済主体、金融機関や投資家や企業がかくあるべしといった行動のところまで踏み込んでいないわけですが、今回のこのビジョンでは幾つか、大胆かもしれませんけれども、特に金融機関の行動にまで踏み込んで、このような行動をとらなければならないということを申しております。

例えば、金融仲介機関に対しましては、資金のコストを明確に認識して、資金調達金利プラス、リスクプレミアムという形でちゃんとした金利をつけてちょうだいねというようなこと、あるいは金融機関はもっと専門性というものを尊重して、機関の専門化を推進する必要があるんじゃない、それからさまざまなユーザーである個人の多様なリスク選好、ライフサイクルに応じてもっと便利な金融商品の売り方をしなきゃいけないんじゃない、こういうような行動の次元にまで踏み込んだ提言をしております。

基本的にはこういうようなことを頭に置いて、行政としても今までの業態を中心とした金融行政からファンクション、役割を主軸とした金融行政へ変わっていかなければならないということを強調しているわけであります。

もちろん、これはあらゆる金融に関する行政について共通しなければならないことでありまして、郵政事業においても、民間金融との役割の面でもイコール・フッティングというものを徹底して追求するとか、あるいは政策金融機関においても、官民の貸出債権の証券化というものをサポートする機関として変わらなければいけないと。こういう役割を重視した行政というものに変わることを提言しているわけであります。

こういうビジョンを、将来の姿を実現するためにどうしたらいいのか。この報告書の後半は、ビジョンへの架橋というタイトルでまとめられておりまして、現下の不良債権問題を克服する上でも産業金融モデルを離脱して、銀行が収益力を強化させ、新しいビジネスモデルの転換に取り組むということが不可欠であるということを強調すると同時に、証券化のプロセスを推進していくことが不良債権処理のためのツールの提供にもなる得ると。そういう不良債権の処理の問題についてもビジョンが一定の役割を果たすし、またビジョンの実現のためにも不良債権の処理というものが不可欠だと。こういう相互依存の関係を強調しているわけであります。

架橋のところで余り明確には書いてない、やや諸般の事情を考慮したことになっているわけですけれども、全体のリポートを通して見ると、一言でいえば、人為的、政策的に銀行離れを生じさせる、産業金融モデル離れを促すということがこれから大事だということを申しているわけであります。

そのためには、架橋のところで書いてある銀行のビジネスモデルの変革といったことが不可欠であるわけですけれども、それ以外にも投資信託の役割、あるいは国債の役割、それから公的金融の証券化の役割、こういうものがそれぞれ人為的、政策的に促されて、産業金融モデル離れというものを実現させることが架橋として考えられるのではないかということを後半において強調しているというふうに私は理解しております。

我々は基本的には、市場における競争の枠組みというのは、97年、8年のいわゆる日本版ビッグバンで基本的には整理されているというふうに考えております。一層未整備なところを充実させていくということは大事なことでありますけれども、基本的には枠組みはできているというふうに思っておりますが、今回のビジョンでは、先程もちょっと触れましたけれども、こうした相当程度まで整備されている制度を前提にして各所のプレイヤーの意識や行動が変わっていかなければならないということを強調しておりまして、このビジョンに対する的確な認識が金融に携わるさまざまなプレイヤーに共有され、改革に向けた意識、行動というものが前向きになっていくということに期待したいというふうに思います。

このリポートに対しましては、散々言い古されたことをただ順序よく並び変えているにすぎないとか、ビジョンというふうに言うには新鮮味に欠けるとか、不良債権問題があるのに何だと、不良債権問題の解決の方が先じゃないかと、こういうような批判があるわけでありますけれども、私の個人的な判断では、金融当局が、金融行政が、こうしたまとまったビジョンを少なくとも金融行政の長である大臣が受け入れるということは、私の経験では初めてのことではないかというふうに思います。かつてのビッグバンにおいても、さまざまな金融改革がばらばらには提唱されましたけれども、その中で何が重要かということについては必ずしも明瞭でなかったというふうに認識しております。そういう点では、確かにいろいろ論者の間で散々言い尽くされたことの順序のよい並び変えだと言えるのかもしれませんけれども、しかしその点を行政が取り上げようとしているという点は私は大変大事なことではないかというふうに認識しております。だからこそ、新鮮味がなくても、ない方がそれぐらいいいわけですね。奇をてらった、新鮮味を狙っただけでは、私は行政の指針としては的確ではないというふうに思います。

それから、不良債権の問題があるのに何だというような意見に関しましては、不良債権の処理という問題に取り組む際にも、例えば公的資金の問題1つを取り上げても、その公的資金は単に後ろ向きの、過去のツケ払いであるということではなくて、こうした新しいビジョンを実現させる、新しい金融システムをつくり上げるためのコストだというふうな認識が生まれてくるのではないかと期待されます。そういう点でも、こうしたビジョンは不良債権問題の解決にも、ある種間接的な形でありますけれども、助けとなるのではないかというふうに思う次第であります。

15分の範囲の中で何とかしゃべったと思うんですが、お許しいただきたいと思います。

以上です。

○ 貝塚会長

どうもありがとうございました。

お手元にはビジョンのサマリーと、それから報告書の本体が置いてあると思いますが。

それでは、ただいまのご説明あるいはこの報告書に含まれている内容につきましてご意見あるいはご質問ありましたら、どなたからでもご自由にご発言ください。かなり時間は十分あると思いますので、どうぞご自由に。

○ 首藤委員

それでは、このビジョンにつきまして2点ほどお伺いしたいと思います。今、蝋山先生おっしゃいましたが、私の印象としては非常に古いと、これがビジョンと言えるのだろうかという点が2つございます。申しわけございませんけれども。

1つは、基本的な方向として3点挙げていらっしゃいます。その3つ目として、金融仲介機関が、資金供給者である個人のリスク選好やライフサイクルに応じて、1つの窓口でタイプの異なる多様な金融商品を提供するというのが1つ基本的な方向であるというふうに明示してございまして、その報告書の中でもワンストップショッピングという言葉が使われておりましたけれども、これは20年前からこういう1つの方向というのが披露されてきたわけです。ホームページも入るという点が新しいかなとは思いますけれども。

1つは、こういった1つの窓口で個人投資家がさまざまなサービスを提供するということが個人にとって本当に利便性とか、あるいは利益になるのだろうかと。個人はさまざまな金融機関とさまざまなサービスを自由に選んで、そしてそれは自分で判断して購入すると、あるいは結びつけるというのが新しい方向じゃないかと思います。

と申しますのは、金融機関にとっては1カ所でいろいろな顧客がいる、さまざまなサービスを買ってくれるというのは非常に望ましいかもしれませんけれども、1つの金融機関に取り組まれるコストというのを今個人は非常に強く感じているのではないかと思います。ですので、必ずしも1カ所ですべてを買えるということが個人の利便性を高めるというふうに認識されるだろうかと。

それと、ペイオフが始まって、個人が例えば複数の銀行に預金を分散するということを行っているわけです。そういったときに特定の金融機関、ここでは必ずしも銀行ではないということかもしれませんけれども、多様なサービスを一括してそういうところで購入するというような選択をするだろうかと。こういう認識は少し古いのではないかなという気がいたします。

それからもう一つの点は、複線的な金融システムということで市場型の間接金融というのが銀行と経営資金の流れと並行して大きく育つと、あるいはそれ以上に育つと。それが多様な形で展開していくということが望ましい。これは本当にそういうことが望ましいというふうに私も感じております。そういった市場型の間接金融が展開していく中で、個人と市場を結びつけ、あるいは個人のリスクの管理人としての機関投資家の役割というのがこの報告書の中で非常に重視されております。しかしながら、機関投資家としても幾つかの名前が挙げられておりますけれども、具体的にそこで論じられているのは投資信託なのですね。

私は前にも申し上げたのですけれども、投資信託は1つの機関投資家であるけれども、これからの金融システムの展開を考えていくときに、投資信託を盾にして機関投資家をとらえるという見方が果たして適切なのかどうなのかと。年金基金や年金基金の受託機関といった長期機関投資家の役割というものをこれから非常に重要に考えていかなければいけないのではないか。機関投資家を重視するというふうに強調している割には、いつも投資信託というのだけが全面に出てくる。これは投資の見方として限定されているのではないか、それも1つの古い見方だなという印象を持たざるを得ない。以上の2点でございます。

○ 貝塚会長

蝋山さんは……

○ 蝋山委員

答えるんですか。

○ 貝塚会長

どうされます。手短にお答えされるのでしたら。

○ 蝋山委員

この報告書の初期のバージョンが新聞で紹介、しかもゆがめられた形で紹介され、それが多大な影響を報告書そのものよりも世間に与えているようでありますが、首藤さんのご意見もどうもそれに近い形であります。よく読んでいただければわかるように、いわゆる金融総合サービスというようなことを私どもは「そうでなければならない」というようなことを一言も書いていないわけであります。あるいはユニバーサルバンキングという制度を採用しようというようなことも言っていないわけであります。そうではなくて、ちゃんとした市場が機能して、そこでさまざまな競争的な商品の組成というものができれば、それを売る者がいろいろなタイプの売り方というものがあって、その中の1つとして総合的な売り方というのがあってもしかるべきじゃないか。方向性としては、そうした色々なことができるということを示すためにこうした書き方をしているわけであります。

したがって、金融仲介機関に何でも総合化しろというようなことを申し上げているわけではない。金融市場が、証券市場を中心とした市場メカニズムがきちんとされていけば、結果的にそういう方向というものが実現していくだろうということを示唆しているのにすぎないわけであります。

2番目は、機関投資家の役割は非常に重要なわけでありますが、機関投資家の役割として投資信託を例示している箇所が多いことは言うまでもありません。しかし同時に、例えば20ページにおいては、年金や貯蓄型の保険も、それを果たしている機能においては機関投資家であるというふうに談じているわけでありまして、何も投資信託だけを強調しているわけではないということを申し上げたい。

それから、複線型の金融システムという場合に、ここでは市場金融モデルを中心として、しかし伝統的な産業金融モデルも同時にバイパスとして存在するようなシステムを考えているわけでありまして、これは決して直接金融を推奨しているわけではないということもぜひ誤解のないようにしていただきたいというふうに思います。首藤さんはそうはおっしゃってませんでしたけれども。

この報告書の中で、直接金融という言葉は3カ所だというふうに思います。3カ所しか使っていないというふうに思います。しかもそれも対比的な意味で使っているわけでありまして、決して将来の姿として直接金融が望ましいというようなことは1つも書いていない。直接金融をも含む市場金融モデルというものを我々の将来の姿として考えているということをぜひご理解いただきたいというふうに思います。

○ 貝塚会長

この懇話会のメンバーの方も数人入っておられますが、何か蝋山さんのご趣旨を補足される点など。

○ 池尾委員

首藤さんおっしゃった1点目の点に関してですが、蝋山先生のおっしゃるとおりだとは思うんですが、やや客観的に申し上げると、やっぱり書きぶりが悪いというか、誤解を与えそうな感じがあるというのは否めないなと思うんですね。

14ページのところで3つの方向性を述べた上で、最後のところでなお書きとして、これら3つの方向性は決してユニバーサルバンキングや総合金融サービスの提供を推奨するものではないということを断っているわけですけれども。だけれども、前後を切り離して「第3」にというところだけを見ると、素直を読むと、総合金融サービスを推奨しているんではないかというイメージを、そういう読み方が可能な文章になっていることは事実じゃないかというふうに思うんですね。

ただ、これは書きぶりの問題ですから、今後ここでは新たなビジョンを、これを土台にして新たなビジョンをつくるのが議論ですから、この報告書をディフェンスすること自体が目的ではないと思いますので、何を考えているかということが重要だと思うんですけれども、何を考えているかということに関しての私の理解は、「第2」というところで機能分化、専門化ということを言っているわけですね。ただ、それだけだと今度は逆にばらばらにしていくこと、細分化していくことが方向性なのかというふうにとらえられると、これもまたミスリーディングであって、機能分化、専門化していくとともに、それらを組み立てて重層的なといいますか、立体的な分業構造をつくり出していく必要があるというのが3番目の趣旨であって、より単に専門化、スペシャル化すればいいんじゃなくて、そういう専門化する金融機関を構成要素として金融システム全体として見ると、立体的で重層的な分業構造ができ上がるということが必要で、その結果として、例えば顧客とのインターフェースのところでは総合的にサービスが供給されるような体制が確保されることが必要だということで、個々の金融機関に即していえば機能分化ということがキーワードでしょうけれども、金融システム全体としていうと、くどいですけれども、立体的で重層的な分業構造の構築ということが今後の方向性ということになるんではないかというふうに、私個人はそういうふうに考えています。

○ 貝塚会長

とりあえず。

それでは原委員。

○ 原委員

数カ月かけての報告ということで、丁寧に読まさせていただきました。

それで、消費者側からの意見ということで述べさせていただきたいと思うんですが、98年以後、消費者から見ると確かに利便性は向上してきている。多様な金融商品が登場してきたりネット証券が登場したりということで、そういう意味では一定の評価というのはあるんですけれども、ただペイオフの、今回、この4月の前後を見られてもわかるとおり、ほとんどの人にとって、個人にとってのペイオフは、預金高からすると余り関係がない事柄ではありながら、非常に不安感ということが生じてきている。やはり相変わらず金融機関の破綻への不安感というのは払拭し切れていないような状況にあります。

それでいながら、いろいろな多様な金融商品が登場してきていて、複雑な仕組み商品が登場する中で、確かに以前に比べると間接金融から直接金融へという、直接的なトーンというのは今回は弱まっているというような感じがしてはいるんですけれども、私たちとしては、いろいろな多様な金融商品を通じてかなり待ったなしに直接市場へ上がっていかざるを得ない状況になってきていると。特に、 401Kの確定拠出型年金なんかに見られるように、かなりの会社が導入を始めているというところもありますので、直接的に多様な金融商品を選ばざるを得ないような状況になってきております。

ところが、国民生活センターがつい最近調べた調査では、たしか 3,000人対象だったと思うんですけれども、ちょっと確認したいと思うんですが、ほとんどの人がそういうリスクのある商品、投資信託なんかに代表されるようなリスクのある商品は買わないと言っております。安定志向が8割ですね。それは以前にも増して強くなっているというふうに私は感じておりまして、以前6割ぐらいだったのに今8割になっているということは、相当な安定志向が逆に強まっていると。消費者センターや何かに寄せられている苦情なんですけれども、例えば一昨年になりますけれども、EB債のいろいろな被害というんでしょうか、ありましたけれども、例えばこれなんか見ていると、私は日経で広告を見ましたので四、五十代の男性向きというふうに思ったんですが、山口県でちょっと話をしたときに、70代の1人暮らしの女性で株なんか一度もやったことのないような人に売り逃げをしているというような状況ですね。そういうような被害というのが出てきていて、非常にわかりにくい商品が登場する中で選択もできずに被害をこうむるというような状況があると、やはりどうしても安定的な、金利が低くても、ゼロに近くても銀行に預けておくというような状況が続いているというふうに思います。

そこを何とか動かそうということが今回のビジョンの中でもいろいろな工夫がされているんだと思うんですが、報告書の書きぶりがこれからの高齢者へ向けてとか、ワンストップサービスとか、それから情報提供ルートの充実とか公共性のルール化というような言葉が幾つか入っているんですが、能動的に選択して貯蓄から投資へという言葉も入っていて、ここの貯蓄から投資への部分のところで能動的に選択できる状況にないというふうに私自身は感じております。

98年の時点で、蝋山先生としては98年である程度枠組みができたというふうにおっしゃったんですが、販売勧誘ルールの策定と、それから集団取引スキームの法的整備という2つが課題だったわけですが、販売勧誘ルールについては金融商品販売法というところができて、去年の4月からスタートはしています。ただ、そこで述べられているのはリスクにかかわる重要事項の説明義務だけで、これも証券会社によっては、承諾したんだったら判を押せというようなことで書類だけを送ってきて、判を押して返さなきゃいけない。その判を押さないと、もうお付き合いをやめますというような証券会社もあったりして、私としては、何かかなり強制的に重要事項の説明義務も判を押されたような状況があるんではないかというふうに思っております。

あと、適合性の原則は勧誘方針の策定、公表のところに書かれたわけですけれども、これは私どもの金融オンブズネットというグループで調査をした限りでは、本当に抽象的な文言で社是のような書き方で書かれていて、本当に実効性が上がるのか。私どもとしては、実効性が上がるかどうかを外からチェックしたかったんですけれども、具体的な項目はほとんど書かれてなくてチェックができない状況で、適合性の原則もやっぱり勧誘方針ではだめであるということです。

それから、広告も非常に氾濫していて、先ほどのEB債もそうですし、今ちょっと問題になってきています毎月分配型の投資信託ですね、こういったようなものもかなりいろいろな広告が出されていて、広告の規制もどうであろうかというふうに感じております。

それから、裁判外紛争処理ということで金融トラブル連絡協議会の方でモデルをつくりましたけれども、それはまだ動かしてみないとわからないところもあるんですが、一体どれだけ本当に各業界が動くのかというところでは法律的な根拠もないので、大変な懸念を覚えております。そういう中で変額個人年金保険のような複雑な金融商品が10月から銀行で窓口販売をされると。そうなると、ああいった複雑な商品はきちんと説明ができるのか、その人に合った形で、適合性の原則がきちんと見られる形で販売をされるのか。トラブルになったときにちゃんと解決をされる道筋が用意されるのか。いずれをとっても私どもとしては不安で、金融商品販売法はたしか蝋山先生もこれは第1段階、ワンステップというふうにおっしゃったというふうに思っておりまして、ぜひ横断的な金融サービス法の制定の議論を望みたいというふうに考えております。

98年の時点で私この審議会に加わりましたけれども、そのときの一番大きな目標は、健全な金融市場の育成ということにありました。ですから、私今回のこの報告書を見る限り、健全な金融市場の育成というよりは、やはり今の破綻している金融システムを何とかしたいという、金融機関を助けるというんでしょうか、そういうふうなトーンがにじみ出ているというふうな感じがしておりまして、そういう意味からいっても本当に初心に帰って、健全な金融市場育成のための議論で進めていっていただきたいというふうに思います。

あと2つだけ申し上げておきたいんですけれども、そういう観点からすると私大変気になった記述が消費者金融についての記述で、本文の23ページあたりに、多重債務者という否定的なイメージではなくてシンジケート・ローン感覚でのリスク分散と、リスク管理が大変すぐれているということを取り上げていらっしゃるんですけれども、現実には自己破産が年間16万件から17万件という状況で、ほとんど借金から抜け出させないというシステムになっていることは、被害者の側というんでしょうか、自己破産をしている人たちからすればより深刻な問題で、そういったところも、金融機関をどうやって助けるかとか金融機関の運営をどうしていくかということのトーンで書かれているというふうな印象を持ってしまう一面でもあります。

それから、ワンストップショッピングはもっとより進行していくということが書かれていますけれども、そういう中ではぜひ、遅れておりますけれども、個人信用情報保護法の制定の議論も早急に進めていただきたいというふうに思っております。

ちょっと長くなりましたけれども、消費者側からの意見として述べさせていただきます。

○ 貝塚会長

ただいまのご意見あるいはご質問に当たるある部分は行政と非常に関係しておりますが、ただ、金融庁の所管でどういうふうになるのか私には分かりませんです。

○ 蝋山委員

私から簡単に。

原さんのご指摘の点は、第1の点は、一番大きな点ですが、健全な金融市場の育成といいますか、つくり上げることだと。全くそれは同感であります。至るところにそういうところが散りばめてあるわけでありますけれども、これまでの金融行政が新しい方向に変わっていくときに、今の原さんのご指摘のようなことだけを実現すれば問題が解決するかというと、必ずしもそうでないところが辛いところでありまして、そういう点でのバランスというものを相当程度考えざるを得なかったと、考えたというところが1つご理解いただきたいというふうに思います。

それから、消費者金融については恐らくそういうご批判が出てくるだろうということは十分承知した上で、あえてある種の伝統的な金融機関に対する門を開くという意味で消費者金融という身近なケースのいい面をあえて強調したということは、これは池尾さんの指摘のような筆の滑りがあるかもしれませんけれども、その点も私は考えるべきじゃないかというふうに思います。

○ 貝塚会長

多少制度的な細かい点のご質問あったような気がしますけれども。

○ 原委員

即答というか、私としてはこういうことを念頭に今後の中期ビジョンの議論を進めていただきたいということの意見です。

○ 貝塚会長

わかりました。

それではほかの委員の方、どうぞご自由にご発言。ご意見ございますればどなたでも結構です。

○ 成川委員

成川ですが、報告書を読ませていただきました。個々のご提起については、我々自身、これを参考にしながら考えていかなきゃならないという点でいろいろな論点が出ていると、こう受けとめております。ただ、このビジョンが何のためのビジョンなのかということになると、今のご指摘もございましたけれども、もう一つ何のためのビジョンかというビジョン作成の目的が、我々のような一般国民といいますか、普通の消費者あるいは金融を利用している者から見るとちょっとわかりにくいと、こういう印象を持っております。今後の議論の仕方にも関係するわけですが、あるいはビジョンのまとめ方でありますけれども、やはり今金融ビジョンがなぜ必要なのかということを一般の国民にしっかり説明するということが必要じゃないかと。

そのときに、先ほどもご指摘ありましたように、国民は今の金融システムについて大変不安と信頼の点で問題を感じております。どうしてそういう不安が起きているのかということを的確にまとめて、それに対して今の金融行政あるいは金融の法制ルール、さらに金融業界自身がどのような対応をし、どこまでこの金融システムの不安を解決しつつあるのかという姿を示すことが大事じゃないか。

その上で、さらにより金融システムの安定を図るためにはどういうふうな更なることが必要なのかという指摘を行うと同時に、さらに金融システムあるいは金融業自身が質的にもより強め、強化されるというためには、次のステップとして、あるいは同時に、どのような努力が必要なのか。これについては金融仲介業として努力すべき目標がいろいろ書かれていると思うんですけれども、そういうふうに金融システム自身の安定性を確保するためにどこまできちっと今制度が整えられ、また行政として努力の中で達成されているのかということをぜひ明確に国民に説明をするという必要がまずある。その上に立って、各業界の人の新しい金融業発展のための努力の方向としてこういうふうな方向での努力が今一層必要になっているというふうな形で、ぜひ普通の国民が金融のシステムの安定並びに自らそこに参加する者として同じ気持ちでこの報告書が読めるというふうにぜひ今後の議論の中で、この金融審議会のまとめ方としては私としてはそういうまとめ方を希望したい、こういうふうに申し上げたいと思います。

○ 貝塚会長

ただいまの点は、私別に細かく読んでいるわけじゃありませんが、不良債権問題はある程度書き込んでありまして、34ページ以降かな、ということがあるんですが、ただ、書き方の問題というのはある意味で非常に難しい問題でもあるんですが、その辺のところは今後、わかりやすくいえば、こういうビジョンと現在の日本の金融システムの現状とのある種の橋渡しというのもおかしいんですが、そういうことがかなり重要で、それがあって説得力を持つというのが私の個人的な意見ですが。というふうに感想を持ちますが。

ほかの委員の方、どうぞご自由に。

○ 倉沢委員

この報告は、金融審議会でこれをこのまま認めるとすると、相当腹をくくる必要があるのは、4ページでちょうど真ん中辺に、「人為的政策的に産業金融モデル離れを生じさせること」というわけで、結局、コミューン型の近代化をやるんじゃなくて、また明治維新型の近代化をやるというようなことだと思うんですね。

それで、今いろいろな人々の意識みたいなことのデータのお話もありましたけれども、こういう哲学に立ってビジョンというものであるべき姿を考えるとしたら、ソフトランディング論でやると何かやっぱりわけがわからなくなっちゃうということがあるんじゃないでしょうか。このこと自体がもう既に、人為的政策的にモデルの離れを生じさせることというのはハードランディングな事柄なので、そういう意味でいえば、もちろん金融に対する一般の不信感みたいなものを払拭するための間近の政策みたいなことの重要性というのはあるでしょうけれども、そこのところを盛り込むためにまた段階的といって、その段階の階段の幅が足が届かないぐらい1段ずつが長くなるようなことにちょっとなりかねないような恐れがありますので、ここで立場を絶つということであるとしたら、そういった趣旨で理論全体を貫いていただいた方が私はいいと思うんですけれども。

○ 貝塚会長

今のご感想は、私は参加しておりませんので、人為的政策的に産業金融モデル離れという話ですが、私はどちらかというと自然にそうなっちゃってくる可能性があると。

○ 蝋山委員

自然になるんなら問題にならない。

○ 貝塚会長

自然になってないというのが判断。

○ 蝋山委員

人為的政策的にということはどういうことかというと、例えば後半の、4ページの次の文章を読んでいただければどういうことかおわかりになるだろうというふうに思います。

すなわち、貸し出しが証券化されて、従来の預金が証券化された商品に投資される。そういうことなんです。これは、まさにそういう仕組みをつらなければ、こういうことが容易に行われる制度にしなければ、従来の産業金融モデルの中では起こり得ないわけですね。まさに人為的政策的にやる。人為的政策的にというのが非常に強烈であるとすれば、別な表現を使ってもいいですけれども、これは何も預金者に明示してこうしろということを言っているわけではなくて、そういうことができる制度にしましょう、仕組みにしましょう、こういうことを申し上げているわけです。ここに制度を変える政策がなければ、あるいは専門家に対してこういうことが1つの見出すチャンスだというある種の誘導がなければ、私は従来のままの……、それも1つのビジョンかもしれません、これまででいいんだと、これまでどおりでいいんだというのは1つのビジョンかもしれませんけれども、それでいいんでしょうか。私はそうは思いません。

○ 貝塚会長

福井委員どうぞ。

○ 福井委員

福井でございます。私もこの会議の前に将来ビジョンのペーパー、かなり詳しく読ませていただきまして、全体の方向性とかビジョンのブロードコンセプト、基本的に私は異議がありません。ありませんが、これを本当に実現していくために一番重要なことは、今議論になっております、人為的に政策的に一体これをどう進めていくかということではないかと思うんですね。

1970年代以降、日本の金融システムについては自由化その他、大きな方向としてはここに書かれている将来ビジョンの方向に沿って努力が積み重ねられてきていると思いますけれども、結果的にスピードが非常に遅かった。今の段階であらためてこのビジョンを議論しなければならないというところにもそれがあらわれていると思うのですが、従来はやはり人為的政策的な努力にどこか不足があったとか欠点があったということではないかと私は思っております。

それで、今から将来に向かって、特に行政の責任と負担が非常に大きいと考えております。3つほど重要なことがあると思っていまして、1つはやはり「原則自由」ということをもっとはっきり確認すること。この点を行政の側から世間に向かって明確に約束するということではないかと思います。

つまり、産業金融モデルから市場型の金融モデルに変えるということは、市場の中でのプレイヤーである金融機関が、自分でどういうファンクションを身につけて、どういうビジネスモデルを組むかということが自由に決められなければだめですね。そして、そういうビジネスモデルを組んだ金融機関が自由に行動できなければならない。交差点、曲がり角に来るたびに一時停止しなければならない、しかもその一時停止の時間が長いということでは、これから市場の国際的な繋がりが増し、世界中の金融機関を相手に勝負をしようということですから、競争に負けるということになると思います。本当に「原則自由」を確認できるかどうか、これがナンバーワンだと思います。

その次は、行政のあり方として「縦割りの原則」をやめる。つまり、金融機関がさまざまな機能を取り入れて横断的な仕組みをつくっていこうということですから、行政も業者行政ではなくて、市場横断的でなければならないと思います。これも今までたびたび議論されてきたことで、実際には実現のスピードが非常に遅く、最近においても業者行政的色彩を非常に濃厚に残している。行政だけの責任ではなく、金融機関の方の進歩が遅いということと相まっていると思いますが、しかし、行政の姿を見る限りやはりそうなっている。

横断的な行政というのはどういうものかといえば、金融機関は今後は民間のリスクをすべて自分で負うのではなくてリスク・プロフィールを明らかにしつつそれを再配分する機能を担う、そういうサービス業になるわけですから、サービス業者として受託者責任をきちんと全うすることが非常に大切になる。先ほど原委員がおっしゃった通り、金融サービス法的に受託者責任ということをベースに行政体型を新しくつくるということになると思います。

もう一つは投資家保護。これは預金者保護の場合に較べ、自己責任原則をより強くベースにした行政ということになると思います。そして投資家保護といった場合に、金融機関、つまりこれからいろいろ変容を遂げる金融機関をすべて含んでいますが、そういう金融機関だけを対象にして全うできるかといえばそうはいかない。機関投資家、つまり投信だけではなくて年金その他を含め、これから大きなプレイヤーとして出てくる様々な機関投資家を含みますが、これを広く対象にしないと投資家保護というのは全うできない。そうした場合に行政組織の柔軟な変更ということを受容するということも必要だと思われます。私は日本版SECが必要かどうかまだ結論を持っていませんが、もし仮にそういう結論が出そうになったときに、官庁特有の組織防衛論でこれで排除するというふうなことはしないというふうな、それぐらいの原則を踏まえておくことはまず出発点として必要なことではないかと思います。

○ 貝塚会長

ほかにご意見あるいはご質問ありましたら。

○ 高橋委員

消費者サイド、利用者サイドから意見を述べさせていただきます。

ビジョンは個人にさまざまな役割を期待していると思います。例えば、常に緊張感を持って金融機関を見なさいとか、能動的に金融商品やサービスを選択して取引先を変更しなさいとか、貯蓄から投資へ意識転換が必要だと、こういうことがいろいろ書かれているように感じるわけなのですけれども、政策的に後押しが必要だというふうな文言もございましたけれども、消費者に対して何を後押ししてくれるのかというのが具体的に書かれていないように思います。新聞報道等では政治的な動きとして税制の見直しなどが言われているわけですけれども、消費者が期待している例えば投資者保護、消費者保護に関してこれに書かれているかというと、私はセーフティネットの整備のことしか書かれていないように思います。やはりもうペイオフ凍結解除ということなわけですから、ペイオフ解禁後の先進的な消費者保護の取り組みというのをビジョンには具体的に記述する必要があるのではないかなというふうに思います。

先ほどからワンストップショッピングの議論とかいろいろ出ておりますけれども、個人というのは、この報告書にありますように、ワンストップで多様な金融商品にアクセスできることが望ましいと、これは多分間違いないと思うんですが、それが誤解がありましたように、1つの例えば既存の銀行であるとか保険会社であるとか、そういうところが金融総合サービスに乗り出すだけではなくて、乗合代理店とかブローカー制度とか、こういうものに対する期待というのは非常に大きいと思います。

ただ、こうした多様な金融総合サービス、ファイナンシャルサービスを提供していただくに当たっては、やはり消費者被害の未然防止というのは当然ながら必要だというふうに思います。特に投資取引を推進していくのであれば、それは重要なことだというふうに思うんですね。

金融商品販売法では、先ほど原委員の方からもご説明がありましたように、元本欠損に関する説明義務しか課されておりませんで、適合性の原則の部分があいまいになってしまっています。あるいは、私は継続して日本版金融サービス法の第2弾として検討していくべきことではないかというふうに思います。やはり適合性の原則というのは金融取引において極めて重要なルールですから、その法的効果を明確にした民事ルールをつくってそれを国民に示さないと、やはり投資をしようという気にはなかなかならないのではないかというふうに思います。

今、証取法上には適合性の原則の位置づけというのはあるんですけれども、それも行政による業務改善命令の根拠規定でしかありません。これについてはイギリスにいいモデルがあるわけで、2000年の金融サービス市場法で示されたようなものを、私たちとしても日本の国民に必要かどうかという議論をきちんとしていく必要があるんじゃないかと。それをビジョンに私はぜひ盛り込んでいただきたいというふうに思っております。

以上です。

○ 貝塚会長

ほかにどうぞ。何か蝋山さん答えますか。

○ 蝋山委員

高橋さんのおっしゃることも、私は全く異論はありません。ただ、今我々が直面しているのは、そういうものを含んだ、もっと金融サービス市場法を必要とするような環境をつくり上げることなんですね。金融サービス市場法をつくればという話よりも、むしろそれを必要とするような状況をどうやってこれからつくっていくかということではないかというふうに思います。

福井さんのご指摘はさすがだなと思いますが、ちょっとコメントすれば、原則自由というのは今言い過ぎている。何もしないのも自由だという形で、全然動かないというのをどう考えるか。交差点でストップさせられるんじゃなくて、みんな後からついてくるのを待っているわけですね。こういう状況も原則自由の中で生まれてきているわけでありまして、私は個人的には民間金融機関に対して極めて絶望的でありまして、そうであるがゆえに公的な金融機関の証券化支援機関への変貌というようなところに大いなる期待を抱き過ぎているのかもしれませんけれども、持っております。

そういう点で、原則自由ということを少し広げています、このリポートは。そして、こうしなくちゃあかんでということを言い過ぎているかもしれません。私は、今の段階というのはそういう状況なんじゃないかなというふうに考えているんですが、それはちょっと言い過ぎでしょうか。

○ 池尾委員

今議論になっている人為的政策的という点に関してちょっと意見を述べたいと思いますが、日本の金融システムの現状を率直に見ると、ある意味で政府の政府による政府のための金融システムみたいな感じになっている現状があると思うんですね。最大のといいますか、事実上の資金調達部門は政府だけだとか、規模の大きな公的金融が存在するとか。それからもう一つ、銀行預金に対して非常に手厚いセーフティネットを提供しているという、政府が金融システムをある意味で丸抱えで支えているというような、そういう現状があると思うんです。そういう現状の結果として、今はこのレポートで言っている産業金融モデルを人為的政策的に有利なものにしているという環境があると思っています。それは預金に対するセーフティネットが手厚くて、それに対するコスト負担がやはり十分になされていないといいますか、対応するフェアなコストが徴収されているとは思えないということからしても、預金を集めることにある種のインプルシットな補助金が提供されているような構造があるというふうな形で、産業金融モデルが現状においては人為的政策的にむしろ優遇されているんだというふうに私は思っておりまして、蝋山先生がおっしゃったように、現状動かないのは動かない方が得だから動かないのであって、動かない方が得するようなシステムの状況が結果としてあるということだと思うんです。ちょっと言い過ぎているかもしれませんが、そう思っています。

そうだとすると、それを中立化する、産業金融モデルを採用したから特に有利ではないというふうに中立化するということだけでも非常に大きなインパクトになるはずの問題だということになると思いますし、中立化するところでとどめるのか、逆に市場金融モデルをとった方が有利な状況を人為的につくり出すというところまで行くのかという話があると思うんですが、市場金融モデルをとれば特に有利になるというふうなことまでここでは要求している話ではないと思うんですね。だから、表現としてはきついのかもしれませんが、一定のことは中立化するということを言っているんではないかというふうに私としては受けとめていますということです。

○ 貝塚会長

今の問題は私の頭の中では同じことですよね。おっしゃったとおり、銀行中心のシステムになっていて、それに対して相当結果的には手厚い状況になっているというんですが、それはおっしゃるとおり、ある程度そういう面は否定できないんですが。ですから、基本的には、わかりやすくいえば、不良債権の問題が後ろ側にあって、そういう問題が出てきているということがないわけではないと思うんですが。それから、過去のいろいろな日本の歴史はまさにそういうことであったというわけですが。それが変わろうとするときに、中立化するときの政策手段というのは、普通ここでいえば、具体的に法律的にどこを、経済学者の頭でいえば、政策手段をこういうふうに変えればここは中立化できます。税制なんか非常にはっきりしていまして、税制の中立化というのは金融商品間にある意味で完全に均一に課税して、いろいろな金融商品が出てきても不利にならない。ですから、そういうことは比較的税制なんかではわかりやすいんですね。それ以外の場面で制度的にこっちが有利になる、不利になるというのは確かにあるわけですが。

今のところは蝋山さんの伺うのはあれかな。どういう感じで中立的、先ほどの福井委員のご発言と関係していますが、どういう感じなんですね。中立化するときに、先ほども倉沢委員のおっしゃったように、人為的に、あるいは人工的にそっちへ誘導するというときに、具体的にどういうふうに誘導するんですかね。その辺のあたりはどういう感じなのかな。

○ 蝋山委員

私個人の考えの揺らぎを申し上げますと、ビッグバンのときにはこれほどデフレ不況が深刻になるとは思わなかったので、民間の力が、例えば投資信託のような市場型の商品をつくり出して、そしてそれが預金との競合の中で預金離れを引き起こして、そして自然の競争の中でそれこそ市場金融モデルの浸透というのが起こるのではないかと思っていたわけです。ですから、投資信託について、かつての証券投資信託から投資信託へという形で新商品が出やすい状況を法律的にもつくり上げたわけです。

しかし、実際にはこの間経済情勢が非常に悪くなって、そういう民間の力に限界があって、そうした動きは、私個人が期待したような動きは今ないわけですね。あるとすれば、私は住宅金融だと思う。住宅金融の、ここでも幾つか散りばめていますけれども、それをまとめて住宅金融の証券化というところを強調すると、まとめてみれば、民間の住宅金融貸付を証券化して、そしてそれを相対的に魅力のある商品に仕立て上げて預金者に買ってもらうと、預金をして買ってもらうという形が1つのきっかけになり得るのではないかとかろうじて今期待を持っています。

しかし、その場合には、税制の面だけではなくて、さまざまな面でそういう住宅金融の証券化商品というものは魅力を持たなきゃいけないわけですね。ところが、例えば決済の仕組み1つをとってみても、必ずしもそういう十分な魅力を与えるようなものにはなっていない。そういう点で、まだまだ制度の上での直すべきところもあるというふうに思います。

随分踏み込んだ形で、従来ですと金融庁の、あるいは大蔵省銀行局、証券局の守備範囲から逸脱してそういう公的金融のことも書いてあるし、郵貯のことも書いてあるし、随分踏み込んで書いているのは、今非常に広い意味での金融自体のどこにある種の芽があるかということをもっと幅広く探さなければならないからではないかというふうに私は認識しています。

○ 田中委員

貝塚さんが税制以外に中立化ということを言われました。私は、ペイオフの完全解禁というのはそれだと思います。現在、預金保険機構で既に10兆円の納税者負担が発生していますし、それから未処理であります中部銀行その他、あるいは北朝鮮系の信組の処理にあと幾らかかるのかわかりません。そして、来年3月末のペイオフ解禁をもし実施を延期するということになりますと、納税者の負担でこの仕組みを、まさに非中立的なものをこのまま維持するということになるわけです。特例業務勘定は来年3月末で終わるはずだったんですけれども、もしそうでないということになりますと、特別保険料は全金融機関に掛けたままいくということですから、これもまた競争を通じて市場秩序を見出すということと反しているわけです。

ですから、今行政の責任としてどういう手段をとるのかというのは、やっぱりコスト比較を明確に行うべきだと。 1,000万円を超えるものを保護してほしいと、心配だ、心配だと言っているんですが、じゃあ一体いつまで納税者の金を投入するのかという問題があります。コストの問題、それから負担は一体だれがしているのかと。実際問題、破綻金融機関の 1,000万円を超える部分のものをだれのものをだれの負担で賄ったのかと考えれば、むしろ社会の厚生上に問題があると。 1,000万円を超える部分について、これ以上放置することは社会厚生上問題があると私は思っておるわけです。それはやっぱりもう表に出すべきだと。ですから、冒頭柳澤大臣が言われました決済機能と仲介機能で、決済機能にもし心配が起きれば、仲介機能にももちろん影響が及びます。でも、それを防ぐための手段は幾つもあるわけでして、ここのビジョンにまさに書いてあります「市場を中心として」ということだったら、RCCを使って整理回収機構に新たなミッションを与えて貸出債権の売却市場ができるようになれば、個々の金融機関はみずからの貸出債権をこのマーケットで売却して、もしリクイディティーが必要ならばそれなりのリクイディティーを手にするでしょうし、そしてもし自己資本が本当に不足するんだったら、優先出資証券を協同組織金融機関まで含めてマーケットでもって公募して自己資本の充実に当てさせるという手段をやっぱりとるべきでありまして、整理回収機構で貸し出し債権の買い入れをやって結果として二次ロス、もちろん時価で買うべきなんですが、どういう引き当てをしているかどうかは別問題として、マーケットの値段で買うべきだと思いますが、マーケットはやっぱり先行きわからない面もありますから、二次ロスが発生した場合にはそれは納税者の負担になります。しかし、これはマーケットをつくるための費用だったというふうに胸を張って言えるコストでありますから、しかもこれは多分、いろいろなシミュレーションをやってみる必要がありますけれども、預金保険機構にこれ以上ロスをため込むのに比べて、積極的な市場秩序をつくり、金融機関に貸出債権の処分の自由度を与え、そしてマーケットを通じて金融機関関係者を追い込むということからいけば、これはもう明確にそういう方向に踏み込んでくるべきだと。貝塚さん言われた中立的なということからいけば、それをまさにコスト比較とか負担は一体これまでだれがしてきたのか、あるいは他の代替的な手段との間で、ペイオフの解禁というのはほかの手段で、例えば今申し上げましたようなRCCの機能とか、あるいは個々の金融機関関係者に自己資本充実のための手段を追い込むとか、あるいは早期是正措置が4%とか8%とかぎりぎりになってやれば、これはもう早期是正措置を命令したときからこの銀行は債務超過だという噂だって飛ぶわけですから、もっと前倒しで10とか6とか、その段階から早期是正措置に個々の金融機関関係者を追い込むということまで含めて、他にいろいろな手段があるわけですから、ペイオフ実施を延期なんて、今日の新聞はみんな書いてあるわけですよ。規律がなくなって、貝塚さんの言う非中立的なものを持続させるという話なんです、もし今日の新聞に書いてあるとおりだとすれば。そんなことは我々は許すべきではないわけで、明確なコスト比較、負担、それから他の代替的な手段でもって、大臣が言われた決済機能と仲介機能との間にあるべき姿を明確に出すべきだと。それが多分この審議会の役割だし、それができなければ、こんなもんやっていてもしようがないわけですね。それは会長の責任になりますし、歴代の金融関係の審議会の会長だって責任問われるわけですよ、そこのところちゃんと書かなければ。

○ 貝塚会長

おっしゃることよくわかりますけれども、今田中委員がおっしゃった点は、私はアメリカの学者の論文を時々読みますけれども、バンキングクライシスというのは、クライシスが発生して、世界各国いろいろなやり方で救済かけることやっているわけですけれども、そのコストが一体どの程度のものなのかというのは、相当大きいといえば大きいんですね。韓国ならGDPの何%。日本もその中へ数字を入れてくるとかなりのウエート高いんですが。だから、おっしゃるように、しかしコストはあって、他方において決済が守られているという、ベネフィットというのはおかしいけれども、そういう国民経済的な比較考量というのはある意味で非常に難しい状況に来ています。経済の状況が悪いからますますそこのバランスの問題が非常に難しい状況に……。

我々のこの審議会は、バランスの状況が非常に難しい状況から一体どういうふうに先を進めるかというのが、具体的なストラテジーをどういうふうに組むかというあたりが、蝋山さんの委員会でやられた話はその問題をもちろん含んでいるわけですが、しかし今までのやり方の中で、直すべき点はこういう点を直せば、平たくいえば別の展望が開かれる部分はあるでしょうということを言われたいんだと思いますけれども。私はそういうふうに理解しています。田中委員のおっしゃる点はある意味非常に重要なポイントだとは思いますけれども。

どうぞほかにご自由に。法律関係の先生方で神田さんとか岩原さんもし何か。神田さんは委員に入っておられますね。補足されるか、多少違った意見があればおっしゃっていただければありがたいんですが。

○ 神田委員

ではせっかくですから、少し感想を述べさせていただきます。

皆様方の非常に鋭い意見を聞かせていただきまして、私は余り意見もないのですけれども、二、三気がついた感想を申し上げます。細かいことになるかもしれませんが。

1つ、先ほどからの「人為的政策的」というお話を伺っていて、私は基本的には、このレポートは、書き方はともかくとして、その言わんとしていることには賛成です。では具体的に何をどうするのですかというご指摘が先ほどありまして、これは結構難しいと言わざるを得ないと思うのですね。それは法律的にいうと、多分預金の今後の扱いについては2通りあると思うのですね。1つの扱い方は、一部出ていますけれども、預金を今保護し過ぎている。池尾先生のおっしゃる、伝統的な産業金融モデルを政府として保護し過ぎているというものを中立化する。ですから、預金は保護しないと。簡単にいえばペイオフを解禁するということでいいと思うのですけれども、もっと極端に言えば 1,000万円も保護しないということも頭の上では考えられるわけですね。そういうことによって預金優遇措置をなくすという方向があると思います。

しかし、現実はどうかといいますと、これは非常に危険な選択肢のように感じます。原さん始め多数ご指摘ありましたように、ゼロ金利時代になって預貯金の率はふえているのですね。これは逆にいうと、預金を保護し過ぎているから、こういう不安な状態になってくると国民は預金にお金を入れているんだということで、これはとめどもないことなんですけれども、その預金を安心できないということにするという政策はかなり荒っぽい政策でして、そうすると、今の国民感情からいうと安心できるものはないということになる。投資信託はもちろん安心できません。ほかの商品も信頼してないから預金にお金を入れているわけですから。仮にそうなれば、国民もばかではありませんから、新しい世界の中での選択というものがまた新しく出てくるのかもしれません。しかし、この方向感はちょっと危険であって、ペイオフは私は延期すべきではないと思いますけれども、それを超えて預金を今まで以上に不利な扱いに制度的にするというのは危険である。これは個人的な意見ですけれども、私はそう思っています。

ただ、これは田中先生と私も同意見ですけれども、ペイオフを解禁するという筋は守るべきであって、その話と例えば決済機能とか決済制度を守るという話はいろいろなやり方があって両立する話ですから、それはぜひ両立させるシステムを考えていただければと思います。

もう一つの法律のやり方としてあり得るのは、要するに個人金融資産というのは預金という形でしか金融仲介機関に入ってこないのですね、現実は。そうですと、今度はその現実を受け入れて、入ってきたお金を資本市場に回していくというやり方も当然あるわけでありまして、その資本市場は国債とか債権に限らず株式も含めてということも考えられるわけです。ただ、このやり方は産業金融モデルなのか市場金融モデルなのかよくわからないところがありまして、リスクの分担ということからいいますと、そのリスクは銀行がとる。預金というのは従来型の商品だというふうに前提にしますと。したがって、このビジョンのレポートからいうとちょっと違う話ということになるのではないかと思います。

ですから、制度的には将来2通り預金の扱い方があると思うのですけれども、これはどちらをとってもなかなか難しいところがあって、私としては、現時点では預金という制度は維持しながらもペイオフはきちんと解禁するというのが現実的でもあるし、正しいやり方だと思います。

あと一、二、非常に細かいことですけれども、例えば証券化の推進ということがあります。私もレポートの立場に賛成でして、ご存じのように、アメリカでも住宅ローンの証券化がまず行われました。1970年代に。私どもが置かれている理由とは別の理由ですけれども、アメリカは国がまさに税金を投入しました。国を上げて政策的人為的に住宅ローンの証券化市場をつくり上げたわけですね。そこで市場がいったんできますと、民間の方でも次々に証券化というものが走り始めた。ABSと呼ばれている住宅ローン以外の証券化市場が動き始めたのが1980年代の中盤以降ですけれども、その後なぜそういう市場が生まれたかというと、そのもとに巨大な住宅ローンの証券化市場があり、それは完全に政府の人為的政策的な手法で行われたわけです。

したがって、このレポートにもありますけれども、住宅ローンの証券化については私も政府が、言葉はともかく、政策的にそれを実現するという姿勢が大事だと思います。

他方、しかしアメリカを見ますと、ABSと呼ばれている住宅ローン以外の証券化市場で一番大きいのは個人向けの、つまり消費者ローンです。クレジットカード債権、そのほかには自動車ローン債権、それからホームエクイティーローンと言っていますけれども、いずれも個人向けの貸し出し債権です。日本ではこれらはほとんどないのです。それは法制度的に見ますと貸金業法という法律が今度は借り手を保護しているというそこにも事情があって、アメリカに比べると証券化がやれないという事情があります。しかし、これは正面から議論し始めますと、いや貸金業法というのは弱者保護で、というか借り手の保護のためにつくられた法律で、それなりに意味があってできているわけですので、貸金業法を前提としますと、日本の消費者向けのローンというものの証券化市場がアメリカのようになるとはちょっと考えられないわけです。

ここもこういう各論になってきますと非常に難しい選択を強いられることになりまして、政策的に証券化市場をつくろうということになりますと貸金業法という法律を見直すのかというような話になりますし、そうなりますと、そこはやっぱり両論あるということになるのだと思います。

ちょっと時間の関係でほかの例はやめますけれども、具体的にこのレポートに書いてあることを実現しようとした場合には、いろいろまだ制度的にそれを政策的に変更していく必要がある箇所があると思います。その際には、アメリカと日本は同じではありませんで、貸金業法がいい例ですけれども、ほかにも日本にしかない制度とか規制というのは当然存在していて、存在することにはそれなりの理由があって今日に来ているわけです。ですから、ちょっと保守的な発言になってしまったかもしれませんけれども、私は改革論者ですから、個人的には、既に存在してきたいろいろな規制とか法制というものをここで見直すというか、改めることが可能かどうか。むしろその方向での積極的な検討、最終的にはそれは無理だという結論もあり得ると思いますけれども、ぜひ前向きの検討をしていただきたいと思いますけれども、具体的に1つ1つ実現していこうということになりますと、いろいろ詰めなければいけない問題がありまして、そういう問題の詰めを今後ぜひこのレポートの方向で具体的な施策として実現していただきたいと私は思います。

○ 貝塚会長

ほかに。

○ 岩原委員

法律家というということで振られましたので。

私はこのレポートは大変よくできていると思いますが、さっき神田委員がおっしゃいましたように、どうやってこれを実現するのかが、非常に難しいと思われます。田中委員ご指摘のように、本当の意味で産業金融と市場型金融をバランスさせる、両方を中立的に扱う制度にするためには、やはり本当はセーフティネットの範囲を限定しなければイコールフッティングにはなり得ない。もしそれを限定することができなければ、本当の意味で国民の選択ができない。完全に預金の方だけ保護したままで市場型金融に移るように移るように言っていても、国民はなかなか動いてくれないだろうと私は思います。

むしろ、原委員などがご指摘になったように、国民は安全性の方を第一にしている。その傾向がますます強まっているわけですね。それを仮に無理に制度的に市場型金融の方に持っていくというのは、いわば無理やりに望んでいない人たちをそちらの方に持っていくという話になりかねません。従来の日本の金融制度は、利用者のことを考えずにいわば制度の設計側というか、資金を調達する側のことだけ考えてきたと言われてきましたけれども、仮に無理に制度的に市場型金融に持っていこうとすると、金融資産を持っている人の立場が考慮されないという同様の問題が生じる恐れがあります。政治的にもコンフリクトが出てくるということを覚悟せざるを得ないのではないかという気がします。仮に産業金融の偏りを是正するためにセーフティネットをかなり限定的にして預金もリスクのある金融資産にするという政策をとるにしても、そのような選択をとったらどういう結果が生じるか。その結果に対してどういう手当ができてどれぐらい効果があるかということをまだ示すことができていないのではないでしょうか。

さっき蝋山委員がご指摘になったように、今までも随分長い期間かかって市場型金融が望ましいということで提言もし、その方向へ制度的な努力もしてきたわけですけれども、一向に進まないというのは、まず利用者であるところの金融資産を持っている人たち自身がそういう方向を選好してないということがありますし、かつ仮に無理に制度的にそういう方向に持っていったとすれば、どういう反作用が生じて、それに対してどういう手当ができるのかということをきちんと示せていないというところに大きい問題があると思っております。

そういう意味では、このリポートが示したものはあるべき理想像としてのビジョンであり、そこへ持っていくまでの道筋と、その過程で起きる問題にいかに対処するかということをもっと示す必要があると思います。

このように、ビジョンの実現は容易ではありませんから、現状を前提に考えて、それを少しでもよくしていくにはどうしたらいいかということこそ金融審議会で考えるべきではないかと思います。その場合にはセーフティネットの範囲をどうするかが重要な問題になりましょう。どの範囲にセーフティネットの限定をすれば一番弊害が少なく、かつスムーズに実現できるかということを考える必要があると思います。

決済が問題だと、さっき会長がご指摘になったとおりですが、そこでいう決済を守るために、例えば必要な規制なりは一体どの範囲のものなのか。単に決済性資金をすべて守ることが決済を守ることになるのか。よく洗い出して考えてみないと、過剰に保護することになるかもしれません。どこを抑えたら必要にして十分なセーフティネットであり、長い目で見て市場型金融が望ましいとすれば、それにつなげていけるような制度になるのかということを考える必要があると私は思います。

理想としての市場型金融を論じるところから進んで、なるべく弊害の少ないような形で、かつ国民の多数がむしろ安全性の方を重視しているときにそれを大きく裏切らない形で少しずつよりよい方向に持っていくにはどうしたらいいか、どういう制度にすればいいかということを金融審議会で考えるべきではないかと思います。非常に抽象論でありますが。

○ 貝塚会長

時間が迫ってきましたが、池尾さんがリアクションがありましたので、手短に。

○ 池尾委員

何度も発言して済みません。

セーフティネットの問題なんですが、私個人は、安全地帯は絶対に要ると。ただ、安全地帯は絶対に確保する必要があるんだけれども、安全地帯は限定されたものであるべきだというのが、私個人はそういう考え方ですから、いわゆる小さな預金保険制度、ただし強力なという立場なんですけれども。

現状を踏まえたときの議論を考えたときに、だからといってセーフティネットの範囲を引っぱがせばいいというふうに私も全然考えていませんので、どこまでセーフティネットを張るかとか、 1,000万円まで保護するとかっていうのは割り当ての議論なんですね。数量割り当ての議論なわけで、数量割り当ての議論が起こっているというのは固定価格だから起こっている議論であって、料金とればいいというのが私の……、経済学的ですが。別に 1,000万円までというふうに限定する必要はないので、金さえ払ってくれたら 2,000万円だって 3,000万円だって保証しますというふうに考えればいいわけであって、要するに、政府保証はただじゃないということをわかってもらうところからスタートする。保護そのものは、保証そのものをいきなり縮小するとか引っぱがすとかいうふうなことは、岩原先生おっしゃった、日本国の現状を考えれば私も決して適切なことだとは思わないのですべきでないと思いますが、ただ、政府保証というのが、あるいは政府信用というのがこの間極めてアビューズされてきて、日本国政府といえども政府信用というのが無尽蔵の資源としてあるという状態からもほど遠くなっているという現状があるわけですから、政府の信用を利用するとか政府の保証を利用するというのはコストのかかることなんだということをわかってもらうところからスタートすべきで、セーフティネットを考える場合でもやっぱりプライシングの問題という字句をひとつ入れて、固定価格で考えないでほしい。ここも市場型的な発想を持ち込んで、心配で心配だからもっと保護してほしいというんだったらじゃあ保証料を払ってくださいと。特別加算預金保険料制度か何かを入れてというふうなこともあるので、範囲だけの問題として議論する必要は必ずしもないんじゃないかということだけはちょっと。

○ 原委員

簡単に3点だけですが。

1つは証券化の話なんですけれども、国土交通省で住宅ローンの証券化の議論やっていて参画をしておりまして、そこでの感想なんですが、アメリカでは25年かけて証券化ということをやってきたのを日本では5年ぐらいでやろうとしていて、証券化の手法ということに日本はまだ手なれていないというか、非常に難題というか、いろいろと不安を感じるところがありまして、この証券化というのがいろいろなリスクが証券化されるという形になってくるかと思うんですが、知的財産の所有権の話なんかも登場してきたりしていますので、私としては、消費者としては、証券化の手法というところの議論も懸念していただきたいというふうに思っております。

こういう話を住宅ローンの証券化のところで話をすると、消費者からすると、住宅ローンを借りる、銀行に行って借りるということで窓口は何も変わらないんだから何も説明する必要はないと言われるんですが、私は全然そうではなくて、仕組みは全く変わっていくわけですから、私としては、本当にきちんとした議論を消費者とか国民に映る形で丁寧な証券化の議論をやっていただきたいというふうに思っております。

それから2つ目はセーフティネットの議論のところなんですが、先ほど田中委員がおっしゃられたように、消費者はコストをすごく意識しておりまして、コストの明確化と比較、それからセーフティネットも今のようなやり方ではなくて、私はやはりいろいろな手法があると思うんですね。範囲もどうするか、それから手法もどう組み合わせるか、今の池尾委員の発言あったので、そういう考え方もあるというふうに思ったんですが、もっといろいろな議論をさせていただきたいというふうに思っております。それが2つ目です。

それから3点目なんですが、横断的な金融サービス法の話ですが、確かに98年の当時はイギリスに倣った形でというふうに申し上げましたけれども、私としては、今の日本の現状からしても横断的な金融サービス法がぜひ必要だというふうに考えておりますので、日本の現状からの横断的な金融サービス法の再提案をしたいというふうに考えております。

以上3点です。

○ 貝塚会長

余り時間がございませんが、どうぞもし発言されてない方でこの点はどうしてもという点はないですか。

○ 太田委員

前回というか、数年前のビッグバンの議論のときに予想していたのと随分違っているというのがこのデフレ状況ということが1つだと思いますし、それからやっぱりそのときの議論で最も欠落していたのは、取引のコスト、手数料のほかの最大のコストである税というものをどういうふうに扱うか。中立性あるいはその促進をどうするか、政策的にどう持っていくかというところで、税をどういうふうに扱っていくか、考えていくべきだと思います。

税制によるコストというのは余り大したことはないんだという説も確かにあるようですし、いやもうすべて今までやってきて、残されているのは税しかないというような議論もあるわけで、これをどういうふうに位置づけしていくかというのは、恐らくこれからビジョンを具体化して行政に生かしていく、あるいは誘導していく議論の大きな中味になるんではなかろうかと思います。この議論は効果が本当にあるのかどうかということも含めて、本格的な議論をしてみる必要があるだろうと思います。

それから、証券と預金の話ですけれども、先ほど池尾さんおっしゃった政府信用の話というのはもちろんあるわけですが、やっぱり証券業界と金融、銀行業界というものに対する一般の国民の見方の差というのは非常に大きく引きずっていて、これが底層に、背景にというか、たまっていて、これがなかなか動かないということの要因であろうというふうに思っています。何かというとそこにぶつかってしまうと。

アメリカなんかの場合には、銀行が大したことないものですから、ロンドンとつないで、ロンドンからどうやって金を引っ張ってくるかというシステムの中で証券業というものが大変大きな役割を果たしたり、アメリカ経済の中で役割を歴史的に果たしてきたんだろうと思いますけれども、日本の場合には全く違う状況、歴史的な背景があるわけでして、それをどういうふうに持っていくのかということが1つ大きな議論。これは金融審議会でどのぐらいしたら結論が出るのか出ないのかよくわかりませんか、問題点としてはそれを踏まえておく必要があるなというふうに思います。

以上です。

○ 貝塚会長

時間が大体6時までという予定でやっておりますので、特に何かこれだけはということでご発言ありましたらどうぞ。

よろしゅうございますでしょうか。どうもいろいろありがとうございました。

今後の進め方についてでございますが、次回は、金融審議会も大分構造が複雑になっているんですが、総会と、それから審議会の分科会というのがございまして、金融分科会ですが、金融分科会と合同で議論をさせていただきます。

というのは、金融分科会にはある意味では金融機関の専門家の方々がご出席でありますし、そういう方を含め、審議を円滑にしたいと思います。

それから、当然のことですが、先ほど来大臣も言われましたけれども、かなり期限がどうやら迫られているらしいというのもありまして、こういう大きい会合でやるというのは、経済学者のぶしつけな表現でいえば余り生産的でないかもしれないというところがあって、やはりスタディーグループのような小さいグループである種の議論をまとめていただいて、ここでまた皆さんに議論していただくという方法をとりたいと考えておりますので、その点はよろしゅうございますでしょうか。人選、進め方等については、私にご一任いただければと思います。

それからもう一つ。新聞報道なんかで割とにぎやかになっているようですが、冒頭の大臣のごあいさつにもありましたが、昨日、小泉総理から決済機能の安定確保に関するご指示があったということですが、これについても金融分科会において早急な検討を行っていただき、取りまとめていただきたいと思いますが、この件については蝋山分科会長からちょっとご説明いただければありがたいんですが。

○ 蝋山委員

もうこういうことになっちゃったからにはやらざるを得ないでしょうことでして、メンバーを何人かお願いいたしまして、今このビジョンと絡んでのセーフティネットの張り方の問題が提起されるかと思いますが、少なくとも決済機能の安定確保という目的でどういうセーフティネットを張るのがいいのかということを精力的に議論させていただこうというふうに思っております。

私としては、ここで提案したいのは、ペイオフ解禁という言葉やめませんか。ペイオフ解禁というのは預金保険制度を活用するということなんですね。それから同時に、現在であれば政府による流動政府金、過去であればあらゆる銀行預金の全面的保護というものをやめるということなんですね。そういうもう少し本来的な用語の使い方をすべきなんじゃないかなというふうに思っております。私どもとしては、預金保険制度というものはつぶすとかつぶさないとかそういう話ではなくて、これは預金者保護と、特に少額預金者保護という機能をねらってつくられている制度である。それとは別の観点で、決済機能の安定確保という観点からセーフティネットをどう張るかというふうな形で議論を詰めさせていただこうというふうに思っております。

○ 貝塚会長

どうぞよろしくお願いします。

蝋山さんと同じ印象を私は持っていて、ペイオフというのは、言葉自身が非常に先行しちゃって動いて、中身が何であるかということが必ずしも正確に理解されていないケースもいろいろありまして、この金融審議会で今まで議論してきたのですが、そういう過去のいきさつから離れて議論していく。よろしくお願いします。

本日の議事も終了に近づいてまいりましたが、特段何か進行その他でご意見、ご質問ございませんでしょうか。

○ 蝋山委員

どこからか境界線があるんです。そして聞こえないんです。神田さんあたりから、首藤さんのはかろうじて聞こえたんですが、恐らく次の機会から大変神経を集中しないと、しても聞こえない部分もありました。あとは想像でつなぎ合わせていただきましたけれども、私だけが年をとって耳が悪くなったのではないというふうに思います。そういう点で、次回から少しマイクロホンの調整をよろしくお願いしたいというふうに思います。

○ 貝塚会長

この会議室は割合と効率がいいと言われていたんですが、ちょっと問題があるようですので、次回から注意します。

それでは、予定の議事もすべて終了いたしましたので、以上をもちまして本日の総会を終了いたします。

本日の模様につきましては、私の方から記者の方にレクを行わせていただきます。

今後の詳しい日程につきましては、事務局より後日ご連絡させていただきたいと思いますが、割合とハードスケジュールになるんじゃないかというのが私の予想でありますが、何分にもよろしくお願いします。

どうも本日はお忙しい中ご出席をいただきましてありがとうございました。これで終わります。

○ 柳澤金融担当大臣

どうもありがとうございました。

以上

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