金融審議会「インサイダー取引規制に関するワーキング・グループ」(第3回)議事録

  • 1.日時:

    平成23年10月5日(水曜日)16時31分~18時14分

  • 2.場所:

    中央合同庁舎第7号館13階 共用第1特別会議室

○神田座長

それでは、予定の時間になりましたので、始めさせていただきます。ただいまから、インサイダー取引規制に関するワーキング・グループの第3回目の会合を開催させていただきます。皆様方には、いつもご多忙のところをお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。

議事に入ります前に、これまでご欠席であったメンバーの方をご紹介させていただきます。大崎貞和委員です。

○大崎委員

野村総合研究所の大崎でございます。よろしくお願いいたします。

○神田座長

よろしくお願いいたします。

それでは、早速議事に入ります。お手元の議事次第にありますように、本日はまず、経団連の阿部委員から、組織再編に係る規制の適用関係について、恐縮ですが20分ということでプレゼンテーションを行っていただきます。その後で、事務局から、お手元にお配りいたしました論点メモを説明していただき、その上で、それぞれの論点について、皆様方にご議論をお願いしたいと思います。以上のような流れで議事を進めたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

それでは、まず阿部委員からのプレゼンテーションをお願いしたく、よろしくお願いいたします。

○阿部委員

ありがとうございます。資料1「企業組織再編成に係るインサイダー規制について」をご覧いただきたいと思います。「私見」としておりますのは、経団連の正式な手続を経てとりまとめた意見ではないため、とりあえず私の責任で今回は発表させていただくということでありますが、私個人の全くの私見という訳ではなく、一応経団連の従来の考え方の延長線上にあるものとの認識に立って発言させていただきます。

1回目の会合のときに、このワーキング・グループの議論として、いわゆる連結グループの規制のあり方とともに、企業組織再編にかかわる規制についてどう考えるかというテーマが提示されておりましたので、私どもなりの考え方を示していきたいと思います。

論点としては2つあります。1つは、合併と事業譲渡の扱いであり、2つ目が、合併等におけます新株発行と自己株式の扱いの違い、ということでございます。それぞれご説明していきたいと思います。

最初に合併と事業譲渡についてでございます。ここは結論から言いますと、現行の規制の中で、吸収合併と事業譲渡を分けていることについては、それなりの合理性があると考えられます。ある意味で、事業譲渡を企業組織再編に含めて考えること自体に無理があるということです。具体的には、事業の一体としての譲渡ということではありますが、実際には個々の資産・負債について選べます。そういう意味では、売買であると言われても仕方がないのではないかと思っております。

一方で、吸収合併等につきましては、すべての資産・負債を包括的に移転するという意味では、まさしく組織再編成であり、これは売買ではないだろうということです。

最初に、事業譲渡は企業組織再編成ではないとされておりますが、経済実態的には同じようなものだという認識になっているかと思います。M&Aとして位置づけられていますが、基本的には事業譲渡は組織再編成の中では別の扱いになっています。一方、当然ながら、会社法において事業譲渡は第2編の第7章で、合併は組織変更等と並んで、まさに組織再編成として扱われております。ここはもともと違うものだという意識によるものではないかと思っております。

それから、金商法の2条の2では、組織再編成について「合併、会社分割、株式交換、その他会社の組織に関する行為で政令で定めるもの」と定義されております。施行令で株式移転が含まれますが、事業譲渡は入っておりません。法人税法でも、ここは分けられております。独禁法は、別にこういう法的な手続を議論することなく、経済実体に着目するということで仕分けております。つまり、そもそも事業譲渡と合併とを同じように扱う必要はないということです。

2ページ目の下に、具体的な違いについて整理しております。当たり前のことなので省略させていただきますが、(2)「売買等」の該当性ということでありますが、では売買とは何かということでございまして、ここも金商法の中で書かれていることを読み込んでいきますと、有償の事業譲渡であれば、これは事業の有償の譲渡、もしくは譲り受けするものではないかということです。会社法で事業とは何かというと、昔の営業譲渡の営業と同じだとされておりまして、それなりに有機的に一体としたものだということですが、実際に事業譲渡の中身を見ますと、かなり線引きはラフだという気がいたします。あえて言いますと、個々の資産・負債について選別ができるということであります。一方、合併は包括承継でございまして、基本的にはすべての資産・負債の中身問わず分けてございます。これを売買と言うのは無理があるのではないでしょうか。

ここまでが基本的な考え方でございますが、3ページからそこから少し進めた意見になっております。せっかくの機会でございますので付け加えさせていただいたものですが、この際、規制をもう少し精緻化するのだということであれば、幾つかの議論があり得るかと思います。

1つ目が、事業の全部の譲渡の場合です。これは資産・負債等を選ぶことなく、すべての事業を一体として譲渡するということであれば、経済効果はもちろんでありますが、会社法の手続も合併と並びになっておりますところ、同じように扱ってもいいのではないかと思っております。それから、2つ目でありますが、事業譲渡のタイミングと、いわゆる重要事実との時間関係でありますが、重要事実を知らずに決めていたという話は十分あり得ると思います。事業譲渡以前に決定された場合について、譲渡それ自体が後になったからといって、何か悪いことをしているという意図はないだろうと考えられます。少なくともインサイダー情報を用いた不当な取引とは言えないのではないかと思っております。したがいまして、規制の対象から外すという余地があるのではないかと思います。

それから、事業譲渡でありましても、要は株式を取得するのが目的でないことが明らかなものについても、規制の対象外としてもいいのではないかと考えます。すなわち、譲受け資産のうち、問題となる上場株式の割合が非常に小さいものであって、株式の取得を目的として事業譲渡したのではないということが明らかなものについては、規制の対象外にできないでしょうか。そうすると、非常に言いにくいのでありますが、だとすると逆もありではないかということで、仮に合併であったとしても、消滅会社の資産の大部分は、実際は問題となる株式であって、その取得のために合併という手続を経たということがわかる場合については、規制の対象に含めるというのは、議論としてはあり得るということでございます。決して規制の対象とすべきと言っているわけではございませんが、理屈の上では規制の対象にされてもしようがないと。ただし、あくまでも上とのセットの話でございまして必要と考えているわけではございません。

やや詳しく申し上げますと、事業の全部の譲渡というのは、時々行われるわけでありますが、ここはある意味での包括的な意見でございまして、個々の資産・負債を選んでおりません。そういう意味では、これはその問題となる株式を特に選び取ったということはないとなりますので、問題はないかと思います。それから、会社法上についても、同じような手続規定を設けられております。そういう意味では、仮に事業の全部譲渡は売買ではないと考えても、何か弊害があるかというと、特段の弊害はないだろうと考えております。

(2)が、インサイダー取引の意図についてでございます。もともとの今のインサイダー規制について、私ども経団連としては幾つかの問題があると考えているわけですが、その中の一番大きな問題は、今のインサイダー取引規制の中身が非常に形式的な構成要件になっていることです。行為者の意図等を一切問わないということでありまして、ある意味で規定ぶりとしては仕方がないところがあると思いますが、現実にはそのために、昔よく言われましたいわゆる「うっかりインサイダー」や、「結果インサイダー」ということが起こり得ます。

結局、このインサイダー規制のもともとの目的が何かということを考えますと、4ページの上にありますとおり、やはり証券市場の公正性・健全性が損なわれることを防ぐことにあります。そういう意味では、保護法益は証券市場の公正性・健全性に対する一般投資家の信頼確保であり、これを裏切らないものについては、そもそもインサイダー取引規制として問題にするに足りないのではないかということでございます。

お手元の資料でございますが、将来的にはという限定ではございますが、今の一種形式犯的と言っては失礼でありますが、構成要件を見直していただきたいということでございます。基本的には何らかの形での利益を得、あるいは損失を免れるという目的が必要ではないでしょうか。すなわち主観的な要件の設定です。それから、重要事実については、投資者の判断に著しい影響を及ぼすということが何か必要ではないかと存じます。ある意味では実質犯化するということも、次の課題としては検討していきたいと思います。しかし当面の対処ということで、せっかくの機会なのでここで持ち出すわけでありますが、企業組織再編成の目的とするところと、その結果として生じるインサイダー取引ということについて、よく見比べていただきたいと思います。証券市場の公正性とか健全性を損ねるということには、だれが見てもならないという場合については、規制対象から外していいのではないでしょうか。

そういう意味では、先ほどの2点でございますが、具体的にはということで、事業譲渡を決定するのが、事業譲渡するタイミングの以前であった場合は、それがインサイダー情報を用いた不公正な取引を行おうとしたものではないので、規制の対象外として頂きたいと思います。こういうことを言いますと、では「決定」とは何なのかという論点がございます。事業譲渡の契約が結ばれたこととすると、やや遅過ぎると思います。少なくとも、問題になりますのは譲り受けるほうの会社でございますので、ここの会社で意思決定がされたということが、1つの要件になるのではないかと思っております。これが1点目でございます。

それから2点目が、譲り受け資産の中で、問題となります重要事実にかかわる株式が非常に軽微で、株式取得を目的としては考えてなかったというようなものがあり得るとしたら、規制の対象外でよいのではないのでしょうか。では、軽微とはどのぐらいかということについては、なるべく大きな数字を言いたいわけでありますが、ほかの規制等の並びから考えると、10%が1つのめどであって、それより小さいと嫌だなということであります。

ここは事業譲渡の場合でございますが、先ほど申し上げましたとおり、では合併の場合はどうなのかということになります。もちろん合併でありますから、またそれとは別の話であると言い張ることもできますが、事業譲渡でこういうことをお願いするからには、合併でも見るからにこれは消滅会社の持っている資産の中で、問題なく株式を取得するのが目的であることが明らかな場合、どう書くかは難しいでしょうが、推定されるぐらいの感じかなと思うわけでありますが、ここについては規制の対象となってもやむを得ないでしょう。ただ、あくまでもこれは上の話とセットでありまして、ここは規制にかけて、事業譲渡についても手当てがされないということについては反対でございます。将来的にインサイダー取引規制について、行為者の意図というものを考慮に入れるというその第一歩として議論をさせていただくのであれば、こういう考え方もあり得るということと思っております。ぜひ今回、検討いただければと思っております。

それから、5ページ目にまいります。合併等の場合に、対価として何を扱うかということでございますが、具体的には新株を発行する場合と、自己株式を交付する場合がございます。なぜこれが区別されているのか、私はわかりません。合理的には言えないということだと思います。もともと通常の株式の取引と自己株式の取得とが同じか違うかというのは、大事な議論があるかと思います。私は別の場面で違うと言っておりますけれども、ここは同じだという話にさせていただきたいと思っております。別の場面というのは、特に自己株式の取得に係る税法でありますけれども、ここは実は、神田先生も昨年の2010年9月の「税務弘報」という専門誌の中に、「自己株式の取得は資本取引か譲渡取引か」という論文が載せられておりまして、おっしゃるとおりかと思います。

こういう税の議論は別にいたしまして、今回の射程の中で考えます。吸収合併のときの対価として、新株を発行する場合と、自己株式を交付する場合とどう違うのかと。まず新株発行は、問題ないことは間違いございません。こんなものをインサイダー取引規制の対象にするということは、私はあり得ないと思っております。では、何で自己株式は規制の対象なのか。ここは私は、現状の規制の違いは理屈がないと思っております。基本には会社法上の手続は、自己株式の処分というのは、募集株式の発行ということで、新株の並びになっております。そういう意味では、企業組織再編の中で、新株の発行にかえて行われます自己株式の交付というのは、基本的には会社法でありましても、あるいは会計制度でありましても、新株と特段違うところはないわけでありまして、インサイダー取引の規制からは、今回は外すべきであると思っております。

もっと言いますと、会社法の中では、合併等対価の柔軟化ということで、一律的に制限がなくなっております。もちろん、ここはあくまでも新株を発行する場合と、自己株式を使う場合ということでございます。基本的には会社法上の扱いについて、これは平成13年の商法改正で金庫株を解禁したとき、基本的には新株発行と自己株式の処分は同じものとしたということであります。これにつきまして、前回のワーキング・グループの資料4-4に、わかりやすく整理されております。ここに書いておりますとおりでありまして、少なくともこの場面では違えて考えるという理屈はないと思っております。

それから、先ほどのお話の繰り返しでありますけれども、合併等というのは、あくまでも資産・負債を包括承継するものであるわけで、そのため、問題となりますような特定の有価証券をとる、とらないという判定の余地はありません。そういう意味では、本来であれば対価は何であっても可能ということを言いたいわけでありますが、ここで現金対価もいいと言うつもりはございませんので、あくまでも自己株式と新株との間で違うことはないだろうということでございます。

ちなみに、もう1つだけ書いていないことを申し上げますと、会社法の中で、今の手続の扱いが必ずしも正しいということを言い張るつもりはございません。これは13年6月の議員立法による商法改正で金庫株を解禁いたしましたときに、自己株式の処分の扱いについては、一言で言いますと、最終的に譲渡損益課税が生じないようにするにはどうしたらいいかということも念頭に、新株発行並びだということを主張させていただきまして、そのとおりにしていただいたわけであります。

もちろん会計上の扱いも、会社法上の扱いがベースとなっておりますから、ゼロベースから見直すということであれば、ここは違った結論になるかと思っております。現行会社法制、あるいは企業会計制度を前提とする限り、新株と、自己株式の交付というのは、少なくとも同じものだと考えられておりまして、特にこのインサイダー取引の場面においては、これを変えることについて、具体的な理由はないと思っております。

以上は、あくまでも私見ということでございます。よろしくご検討ください。以上でございます。

○神田座長

どうもありがとうございました。それでは、今のお話につきまして、委員の皆様方からご質問等がありましたら、ここでお出しいただきたいと思います。いかがでしょうか。特によろしいでしょうか。もしよろしければ、この後事務局からご説明いただく、論点メモと言っていますけれども、それをご審議いただくときに、場合によっては併せて阿部委員のお話についてもご質問とかご意見をいただければと思います。ありがとうございます。

それでは、議事を進めさせていただきます。お手元の論点メモのご説明を事務局からいただいて、皆様方にご議論いただくということなのですけれども、ちょっと分量が多いものですから、論点メモを2つに分けまして、1.、2.と。2.が純粋持株会社に係る重要事実までですので、その部分までを前半とさせていただき、3.企業の組織再編に係る規制の適用関係を後半ということにさせていただいて、それぞれに分けてご審議をお願いしたいと思います。

ということで、まず前半部分について、事務局から論点メモの説明をお願いいたします。

○増田市場機能強化室長

では、事務局よりご説明をさせていただきます。資料2の論点メモでございますが、まず1ページ目でございます。これにつきましては、現在背景・問題意識となっているものを書いてございます。特に黒ポツの3ポツ目でございますが、近年、企業の合併・再編が進み、一方、子会社や関連会社から構成されるグループ経営が一般化してきている実態を踏まえて、現行のインサイダー取引規制については、企業が円滑なグループ経営を行っていく上で、これに十分に対応した適切なものとなっていない部分があるのではないかと。こういった問題意識で、今回審議を行っているということを書かせていただいております。

それから、2ページ目でございますが、特に純粋持株会社に係る重要事実ということで、インサイダー取引規制の概要を書かせていただいております。これにつきましては、資料2-1も併せてご覧いただければと思います。インサイダー取引規制につきましては、上場会社等の会社関係者がその職務等に関し、上場会社等の業務等に関する未公表の重要事実を知りながら、株券等の売買を行うことを禁止しているということでございますが、重要事実については、現在8つ大きく分けて類型を設けております。1、2、3というのが上場会社等の関係のものでございまして、4が、その中でもバスケット条項と。それから、5、6、7につきましては子会社、それから8がバスケット条項ということで定められております。

こういった重要事実をもとにいたしまして、次の3ページでございますが、1、2、5、6につきまして軽微基準が設けられておりまして、これらについては、投資者の投資判断に影響を及ぼすべき性質の事実を列記する一方で、当該事実に該当する場合であっても、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして定める基準、軽微基準に該当するものについては規制対象外とするということで定められてございます。黒ポツの3つ目のところでございますが、現行の制度ということで、上場会社等に係る事実につきましては、上場会社等の単体の売上高や純資産額との対比で一定水準未満の影響しか生じない事実であれば、類型的に投資者の投資判断に及ぼす影響は軽微なものとして定められておりますが、一方子会社につきましては、連結ベースで同じような形で定めているというところが特徴でございます。

それから、4ページでございますが、決算情報変更に係る事実。これが3と7でございますが、これにつきましては、売上高等の予想値における差異が、投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして定める基準。こちらは重要基準という言い方をしておりますが、こういったものに該当するものが、重要事実に該当するという言い方になってございます。軽微基準と重要基準ということになってございまして、現行の制度におきましては、重要基準としては上場会社等の単体の売上高、経常利益、純利益、剰余金の配当について数値基準が定められておりますとともに、連結グループでの売上高、経常利益、純利益についても数値基準が定められているという形で整理がされております。

それから、5ページ目でありますが、今回の論点ということでございまして、上場会社等が純粋持株会社の場合の軽微基準等についてということでございます。純粋持株会社につきましては、必ずしも確立した定義がございませんけれども、例えば、事業を営む会社の株式を所有することを通じて、もっぱら当該事業会社の経営管理及びこれに附帯する事業を営む会社が考えられるということで挙げさせていただいております。資料2-2に純粋持株会社、前回の資料をおつけしております。

こうした純粋持株会社の収益につきましては、自らの固有事業がないということで、子会社等が行う事業収益からの配当など、グループ会社からの収益に依存しているということが考えられます。また、ヒアリング等でもご指摘いただきましたが、グループ会社からの配当というのは、純粋持株会社の資金需要やグループ内の配当政策を勘案して決められるものでありますので、グループ会社からの配当等に依存した純粋持株会社の単体の収益については、その企業グループ全体の経営成績とは関連性が低いのではないかというご指摘や、それからまたそのために、純粋持株会社に対する投資者の主たる関心事項としては、一般的に連結決算、連結グループ各社の事業展開や、その結果としてのグループ全体の今後の見通し等について関心があるということで、純粋持株会社単体の決算の状況については、基本的には関心がないのではないかというご指摘をいただいております。

さらに上記のような特徴から、純粋持株会社単体の売上高等は、グループ全体の規模に比して小さなものになっておりますので、同規模のグループにおける事業親会社の売上高等と比較すると、軽微基準等の水準が低く、必ずしも整合的ではないというご指摘をいただいております。

そういうことでございますので、論点といたしましては、純粋持株会社に係る事実につきましては、類型的に投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微か否かの基準、あるいは重要か否かの基準につきましては、事業会社の場合とは異なり、連結ベースの数値との対比で定めることが適当ではないかというのが論点でございます。換言いたしますと、連結ベースの数値との対比で、一定水準未満の影響しか生じない事実であれば、類型的に投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微である、または重要ではないと考えることができるのではないかというところでございます。

なお、剰余金の配当の部分につきましては、連結グループとして株主への配当が純粋持株会社から行われるものであるため、引き続き単体の基準ということになるのではないかということで挙げさせていただいております。なお、注書きのところでございますが、連結ベースとするという場合につきましても、あくまでも財務数値を基準とする軽微基準等に当てはまるのではないかということで、例えば、発行済株式数等を用いた軽微基準は現行を維持すべきではないかということで、注を書かせていただいております。

続きまして、7ページでございますが、では、純粋持株会社以外の上場会社についてはどうかというところでございますが、これにつきましては、資料2-3も併せてご覧いただければと思います。純粋持株会社以外の上場会社につきましても、純粋持株会社と同様に、投資者の投資判断が基本的に連結ベースで行われる会社については、連結ベースの数値との対比で一定水準未満の影響しか生じない事実であれば、軽微であると考えることができるのではないかということで、この場合、連結ベースとする案としては、案1と案2を挙げさせていただいております。

案1につきましては、連結財務諸表提出会社については、連結ベースの数値を一律で用いるということでございます。もっともこの点につきましては、金商法の開示規制につきましては、現在まだ単体の財務情報も開示対象となっておりますし、具体的にはインサイダーの取引規制において、連結ベースの財務情報だけで投資判断を行っていると割り切ってしまっていいかという問題点がございます。例えば、グループにおいて、グループの中で上場会社が重要な事業を自ら行っているものもございますので、こうした会社については、上場会社等の単体の財務情報が重要性を有する場合もあるのではないかということが考えられます。また、先ほどご説明させていただきましたが、重要事実につきましては、上場会社、それから子会社という形で分けて規定をしておりますので、軽微基準等のみを全般的に連結ベースとするのが整合的かという問題点もございます。

連結ベースとする案2でございますが、先ほどの純粋持株会社との関係でも議論が出てまいりましたが、グループ会社からの配当とか経営指導料とか、グループ会社から収益に依存している場合については、当該上場会社等に対する投資者は、そのグループ会社の営む事業に着目して投資判断を行うと考えられるのではないかということでございまして、こういった観点からは、軽微基準や重要基準についても、連結ベースの数値を用いることが考えられるのではないかということでございます。

この場合、グループ会社からの収益に依存しているか否かの基準としては、上場会社の単体の売上高のうち、グループ会社からの収益が一定割合以上を占めるということが、例えば考えられるのではないかということで、ちょっとこちらの資料2-5を見ていただければと思います。こちらにつきましては、日経の225構成銘柄の上場会社につきまして、関係会社からの売上高を表にまとめたものでございます。この中で、注で書かせていただいておりますが、8ページの下の注でございますが、上場会社等がメーカーの場合で、子会社が販売会社のような場合につきましては、子会社への販売収益が上場会社の売上高の大半を占めることもございますので、これについては別途除く必要があるのではないかと考えておりまして、こういったものを除いた上で、網掛けをさせていただいている部分が、一応の目安。例えば、関係会社からの売上高が、売上高の7割を超える場合について、網掛けをさせていただいております。こういったものについては、7割という数字はもちろんご議論をしていただければと思っておりますが、例えば、外す、連結ベースで考えるというのが考えられるのではないか。

なお、ちょっと補足させていただきますと、先ほどの純粋持株会社と、こちらの純粋持株会社以外の会社についても、二本立てで基準を立てるということではなくて、一律に、例えば関係会社からの売上高が、当該上場会社の売上高に占める割合が一定割合ということで、一律の基準を設けて切ってはどうか、整理をしてはどうかということで、論点として提示させていただきます。よろしくお願いいたします。

○神田座長

どうもありがとうございました。それでは、今のご説明につきまして、ご質問でも結構ですけれども、ご意見をぜひいただきたいと思います。どなたからでも結構です。よろしくお願いします。はい、大崎委員。

○大崎委員

ありがとうございます。まず、最初の2回を欠席してしまいましたことをお詫び申し上げます。それで出てきて、いきなりこういう論点メモを見ると、もう結論は大体見えてきたんじゃないかなということになるのかもしれませんので、そんなときにあえて変な発言をしちゃいけないとは思いつつ、ちょっと私、感じておりますことを申し上げたいと思うんですが。

まずこのインサイダー取引規制の見直しの議論で、私はやっぱり一番認識しておかなきゃいけないんじゃないかと思っておりますのは、このインサイダー取引規制のいろいろなところを見直すというのは、直接的にはどういう行為が禁じられるべきかを議論するということではあるんですけれども、他方で、現実の問題として、今のインサイダー取引規制の内容が非常に形式的、杓子定規に、とりわけ企業の関係者に、こういう場合には株を取引してはいけないという事前規制的なものとして受け止められて、いわば過剰コンプライアンスとも言うべき状況が生じていて、結果的に、本来であれば常識的に考えて何ら問題がないような株式取引までもが抑制されてしまっているという事態があるのではないか。そういう問題意識をベースにして議論をしていかないと、何かおかしなことになるのではないかなと、私は感じております。

そういった意味で、今回ご説明いただいた純粋持株会社の場合の軽微基準、それから、純粋持株会社以外であっても、投資判断が基本的に連結ベースで行われる会社についての軽微基準の設定という議論については、私は基本的にはまず、現在の単体ベースで軽微基準が機械的に適用されて、それによって過剰なコンプライアンスが行われているという状態は全く好ましくないので見直す必要があるというふうに思うわけです。

その見直し方について、先ほどご説明があった、純粋持株会社以外の会社についての案1と2というところについてちょっと意見を申し上げたいと思うんですが、私は、やっぱりこういう規制というのは、コンプライアンスで使われているということを前提に考えれば、わかりやすいということが非常に重要ではないかと思っております。案2で、いろいろ研究していただいたなという感じの資料も出ておるんですけれども、また年度ごとで頻繁に変更するのはよくないから、複数年度の平均値を用いるというような提案までしてはいただいておるんですが、しかし、いかにも難しい、わかりにくいなという感じがします。つまり、自社が一体連結ベースの軽微基準の対象になっているのかなっていないのかを知ることが容易ではないというところまでいくと、ちょっとやり方としてどうなんだろうかと、正直思います。

逆に、連結財務諸表を提出していたら連結ベースとするという案1についての難点として挙げていただいている、そもそも連結ベースの財務諸表情報だけで投資判断を行っていると言えるのかとか、子会社の重要事実というのが規定されていることをどう考えるのかということにつきましては、まず前者の連結ベースだけでなく、投資判断が行われているという点と、インサイダー取引規制との関係で申しますと、実際に明らかに単体ベースの情報である、連結ベースでは軽微基準に該当しているような情報であるんだけれども、事後的に見て、投資判断に著しい影響を及ぼしたと言わざるを得ないようなケースですね。これは私は、あまり具体的に言うと、かえってミスリーディングになるかもしれませんが、例の日本商事事件でバスケット条項を適用したときのケースなんかに近い話ではないかと思っておりまして、そういう極端な事態が起きたときは、バスケット条項をうまく使っていくことで抑止される、あるいは事後的に処罰されるべきであって、あんまり事前にがちがちの、コンプライアンスのこういうことについてまでやらなきゃいけないと考えるべきではないのではないかなと感じます。

また、例えば、後での議論になると思うんですけれども、合併とか事業譲渡をどうするという話もございますけれども、こういったことについても、事前にインサイダー取引規制に形式的に合致するかというようなことよりも、それがかかっていないことを、いわば奇貨としてやったとしか思えないような、非常に悪質な結果が出ているような取引というのが実際に行われたら、これはやっぱり157条の一般的な不正行為禁止というものを活用するというようなことも含めて考えて対応していくということで十分なのではないかなと感じております。ちょっと長くなって恐縮ですが、私の意見でございます。

○神田座長

ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。静委員、どうぞ。

○静委員

ありがとうございます。私も基本的には大崎委員と同じ意見でございます。まず、純粋持株会社関係の軽微基準につきましては、事務局でご整理いただいたとおりで全く異論はございません。それから、7ページ以降に、純粋持株会社以外の上場会社についてまとめていただいた部分につきまして申し上げますと、前回も申し上げましたけれども、株主ですとか、実際の投資家の目から見て、連結ベースで物を判断するのが実態に則していると思いますので、1の案がよろしいのではないかと思っております。

その問題点として挙げられております、7ページの下のほうですけれども、例えば、連結ベースだけで割り切ってしまっていいのかということにつきましては、前回ご説明申し上げましたけれども、実際に投資家に聞いてみて、基本的に投資家は連結の情報で投資判断していると言っております。この際、割り切って重要事実は基本的に連結ベースで見るということでよろしいのではないかと思います。それから、単体の情報についても、配当に関する情報は投資判断に影響があると投資家は確かに言っておりますけれども、ほかにそういうものが仮にあれば、例外として単体ベースの重要事実を残せばいいと思いますので、原則的な考え方としては1の案の、連結ベースに変えてしまうという案を、私としては支持をしたいと思っております。

それから、8ページにまいりまして、上のほうに、整合性がとれるのかというご指摘もございますけれども、今、上場会社に関する重要事実と子会社に関する重要事実で、ベースとする財務数値が違っておりますので、ある意味では、今のほうがむしろ整合性がないのではないかと思う部分もございます。私の理解が違っているのかもしれないですけれども、上場会社に関する重要事実は、軽微基準が単体ベースでできているので、結局のところ重要事実が裏返しで単体ベースで判断されているところだと思いますし、子会社はその逆で、軽微基準が連結ベースでできているため、重要事実も連結ベースでできているということだと思われます。したがいまして、どちらも軽微基準を連結ベースでそろえますと、重要事実が全体として連結ベースで決まるということになると思いますので、むしろ全体としては、整合性が高まるのではないかと思います。以上でございます。

○神田座長

ありがとうございました。阿部委員、どうぞ。

○阿部委員

そもそもの話として、純粋持株会社を定義することが不能の状況の中で、純粋持株会社と純粋持株会社以外の上場会社というのを本当に分ける基準が定まるのでしょうか。そういう意味では、ここは自らどう名乗ろうが、純粋持株会社だというものを金商法で定義するつもりがあるのであればともかく、そうでないのであれば、すべてを連結基準で考えていくというのがわかりやすい仕組みなのではないかと思っております。その意味で、7ページ、8ページで出ております案1、2を比べれば、1が合理的ではないかと思います。案2の難点は、おそらく年度によって収益依存度は違うということかと思います。そうすると、規制の対象になったりならなかったりということで、かえって混乱が起きるのではないかなと思うのですが、いかがですか。

○神田座長

ありがとうございます。後でまとめて事務局に資料をつくったときのお考えを伺いたいと思いますけれども、ほかにいかがでしょうか。どうぞ、上柳委員。

○上柳委員

3人の方からご意見ありましたけれども、保守的な意見になるかもしれませんが、大崎委員、あるいは阿部委員のご指摘にもあったかもわかりませんけれども、そもそもインサイダー規制の現状の問題点についての認識なんですが、私も極めて原理的に言えば、やっぱり行為者の主観であるとかを考慮すべきであるとか、あるいは、本当に形式的に当てはまっているような行為が、実質的に市場に影響を与えているのか、あるいは、市場参加者の意思形成に判断を与えているのかというところが大事というか、そのためにインサイダー規制をやっているから、そこはそうだとは思うんですけれども、とはいっても、多分立法技術的にというか、今までの基準が、そういう意味では形式的に見えるようになってきたというのは、やっぱり主観的なものというのは、なかなか立証なり判断がしにくいからだと思います。

もっと言えば、確かに事前のコンプライアンスのコストは、ひょっとすると余分にかかっている。弁護士の手間も含めて、あるいは、費用も含めてですけれども、かかわっているのかもしれないけれども、そのことによって、事後的な訴訟で延々と、例えば、当事者の主観があったかどうかとか、実質的に市場にどういうインパクトがあったかどうかというところの争いのコストを下げている面があるんじゃないかと。ですから、そこのバランスをどうとるのかというのは、なかなか立証といいますか、検証が難しいので何とも言えないわけで、結局、行為者の主観要素を要件に加えるべきだとの議論は、総論的にはおっしゃることはよくわかるけれども、基準としてはつくりにくいという感じを持っています。

ただ、今回の問題が、そういう大テーマとどこまで関係があるのかというのは、ちょっと私はあまり自信がなくて、だから明確なことは言えなくて、案1と案2でどちらがどうなのかということについて、まだちょっとその判断がしかねているんですが。ただ、やっぱり1でいくと、持株会社と言われている親会社が、かなり大きな事業活動をやられていて、子会社が、似たような関連の事業であればいいんですけれども、全く違う、あるいは経済環境から影響を受ける方向性が違うようなもので、何か連結にすると打ち消し合うような、それを濫用するとは思えないんですけれども、何かそういうものがありえて、何でも全部連結にしていいかなと、少し危惧があります。

逆に2の難点は、毎年変わるとかいうことがあり得るとは思うんですが、それもこういうグループ経営をやっていらっしゃるようなところであれば、それなりに対応できる。あるいは、何%というところで切るかというところによるんですけれども、おそらく純粋持株会社というイメージに近いところで切られるんでしょうから、それなりに対応可能なのではないかと思いました。以上です。

○神田座長

どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。

○大崎委員

すみません、今、上柳先生のおっしゃったことで思ったんですけれども、打ち消し合うような場合ということを例に出されたので、ちょっとその点について申し上げたいと思うんですが、それは確かにあると思うんですね。例えば、親会社の損を子会社の利益がカバーすると。ただその結果、これは議論として、あくまで軽微基準をどっちベースでつくるかということですから、投資家に影響を及ぼすのかということから言えば、そういう打ち消し合うような事業をやっている場合は、親会社が大損をしたという事実があっても、子会社が儲けているからということで、投資判断に対しては中立という感じがするので、軽微基準のつくり方として連結を使うかどうかということに絞って言えば、その辺のご懸念はあまり、それによって実質的に本当にとんでもないインサイダー取引がやりやすくなるとかいう話ではないんじゃないかなと思いました。

○神田座長

ありがとうございます。静委員、どうぞ。

○静委員

私もちょっと補足したいと思うのですけれども、例えば、親会社が大きな損失を出したというときに、グループ全体に対する影響が大きければ、それだけで適時開示が必要だということになりますし、重要事実にも該当するのだと思います。一方で、そのような場合でも、全体として子会社が儲かっているので、連結の業績の修正が必要ないということもあると思います。そういう違いがあるというだけのことだと思います。軽微基準を連結ベースにした場合に、全体のパイが大きくなるという意味で今まで引っかかっていたものが引っかかりにくくなるというところはあると思うのですけれども、このような親会社の損失と子会社の利益とが打ち消し合うようなケースでも、グループ全体への影響が大きければ開示はされますので、あまり心配しないでもよろしいのではないかと思います。

○神田座長

ありがとうございます。川田委員、どうぞ。

○川田委員

先ほどの上柳委員のことにつきまして、ちょっと一言申し上げたいと思うんですけれども、前回のこの会で、私ども、インサイダー取引規制のあいまいな部分があると、コンプライアンス体制を強化しなくちゃいけない。つまり、会社内の関係者の自由な売買というものを禁止するという事項が非常に負担になっているというお話をさせていただきましたけれども、これは実は、先ほど上柳委員がおっしゃった、コストの問題とは我々感じておりません。コストというより、むしろ彼らが自由に株式を売買できるにもかかわらず、それを制限的にしなくちゃいけないんだと。そこがむしろ影響が大きいと。むしろ単純にしてそれを示して、基本的には自由に売買できるんだけれども、ある一定の事実があった場合に、これは制限的に売買は禁止されるんだという扱いをしなければならないんじゃないかというのが、前回の私の趣旨でございまして、決してコスト論から、過剰なコストがかかる。それを抑制したい。そういう意味ではないということを、ちょっと一言申し上げたいと思います。

○神田座長

ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。上柳委員、どうぞ。

○上柳委員

繰り返しですけれども、1、2、あるいはその両方がよくないかという議論とあまりつながらないかもわからないのではばかられる部分があるんですけれども、1つは今おっしゃった、コストではないということはそうなのかもわかりませんけれども、そうであれば、そう言われれば言われるほど、またこれは下衆の勘繰りなんですが、やっぱり事業会社なり、あるいは企業の経営、あるいはその中で働いておられる方が、自分の職務上、あるいは業務上親しみがある、あるいは、状況がよくわかる株式を取り扱われるということになるわけで、それが資本市場が活性化するという面はあるんですけれども、やっぱり全然部外者から見ると、何となく疑わしいなというふうになるのではないかと。これはちょっと考え過ぎかもわかりませんけれども、そんな気がします。

ですから、やっぱり仕事とは関係なくて、別のことから株式の売買なんかをされるというふうに割り切ったほうがいいのかなというのが1点と、それから、もう1つの、先ほどのグループ経営の中で、グループの中で打ち消し合うという話ですけれども、確かに連結ベースの数字はあるわけですから、それを見れば数量的にはわかると思いますけれども、打ち消し合った中身で定量的なことではなくて、定性的なトレンドが外に隠されるというのか、見えにくくなるのではないかと。いずれも抽象的な危惧ということなのかもしれませんけれども、一応つけ加えさせていただきます。

○神田座長

ありがとうございます。ほかにご意見ございませんでしょうか。川口委員、どうぞ。

○川口委員

案の2はわかりにくいという意見が多いようです。基準となる数値が毎年毎年変わるというのはそのとおりなのかもしれません。しかし、例えば会社法で、大会社に該当するかといった場合に、その判断基準である負債の総額が毎年変わるというのがありますけれども、それは3月末の決算段階で判断されることになっています。同様に、会社はそういうのは容易に判定できるのではないかと思うんですね。これが決定的に案の2を否定する理由には、私はならないように思います。

○神田座長

どうもありがとうございます。ほかにご意見はありませんでしょうか。神作委員、どうぞ。

○神作委員

これまでのご発言の繰り返しで恐縮ですけれども、私は、投資家が企業グループ全体に投資をしている場合、すなわち持株会社や親会社だけを見て投資しているのではなく、グループ全体に投資しているという実態があるものを括り出すことができるのであれば、そのような企業グループが純粋持株会社グループであるかどうかを問わずに、軽微基準について連結基準を採用することがもっとも適当な考え方であると思います。したがいまして、連結ベースとする範囲の案2が、基本的には正しい考え方なのではないかと思います。しかしながら、他方で技術的な問題として、本当にそのような実態がある場合を適用可能な基準を設定して上手に括り出すことができるのかについては、若干の懸念がございます。現に、実務上、そのような方法には困難が生じるといったご指摘もあったかと思います。そのような懸念が実際に重大なものであるということだといたしますと、案1の連結ベースの数値を用いるということも次善の策として考えられるのではないかと思われます。

ただ、その際に、留意しておくべきことは、内部者取引規制がすべて連結ベースになっているわけではなく、例えば、会社関係者の概念の定立の仕方というのは、たとえば、子会社の会社関係者は、あくまでも子会社に生じた重要事実だけが内部者取引の対象となるという規律になっているなど非対称的と申しますか、個々の法人格に着目して内部者取引規制をかけている部分があります。したがって、そのような内部者取引規制の全体の構造との関係に留意する必要があると考えております。

○神田座長

どうもありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。これまでのところで、事務局からございますか。私がちょっと敷衍させていただくと、多分阿部委員の質問の趣旨だと思うのですけれども、このペーパーの趣旨としては、純粋持株会社かどうかという点で一遍切っているわけですよね。ですから、純粋持株会社であれば、連結ベースで見ますと。次に、そうでない会社については、案1、案2があるとなっているので、その案1、2の切り方を支える考え方と、純粋持株会社かどうかを支える考え方は、同じなのか、質的に異なるのかということが問題になるわけです。

私が資料を拝見する限り、質的にはそんなに異なるわけではなくて、あくまで投資家が何を見て判断しているかが基準ではないでしょうか。あとは純粋持株会社の場合には、類型的にそうでしょう、投資家は連結の数字で見るでしょうと。これに対して、それ以外の場合には、そう言い切れるかどうかというところに躊躇があるので1だけの案になっていないので、おそらく2の案が出ている背景は、結論から言うと、これは軽微なものとされてしまって、実は軽微ではないものが入ってしまうのではないかという危惧があるのではないかということだと思うのですよね。

ですから、より一般的に言うと、軽微基準というのが正しく軽微なものだけを除いているのかという、そういう問題になるのだとは思うのですけれども、連結、案1でいくと、軽微でないものも軽微で除かれてしまわないかという危惧があるとなると、どこかに線を引けないかなということで、案2が出ていると思うのですけれども、ちょっとこの分離をしたあたりについて、もう少し補足してご説明していただけるとありがたいと思います。

○増田市場機能強化室長

今まさに神田先生がおっしゃっていただいたとおりでございまして、純粋持株会社については、基本的にグループ全体を見て投資家が判断をしているというところでございますが、案1、案2に関して申し上げますと、案2であれば、純粋持株会社と同じように、グループ会社からの配当がほとんどの収益の割合を占めるということで、グループ会社全体を見て投資判断をしているということが明らかではないかという発想で案2を書かせていただいておりまして、案1の場合には、どちらかと言いますと連結で財務諸表をつくっているということが前提になった上で、連結ベースということになっておりますので、そのあたりが両者、純粋持株会社とそれ以外の会社一律の基準でも分けたいというところもございまして、案2がわかりやすいかなというところで、案2と。

案1については、先ほど申し上げましたとおり、いわゆる連結ベースで財務諸表を既につくられているということだけが基準になっているものですから、そのあたりいかがなのかという点と、先ほどちょっとご指摘ありました資料7ページ、8ページの点について申し上げますと、7ページの下の部分につきましては、やはり連結財務諸表を提出されている会社であっても、単体をベースに議論すべき会社があるのではないかという点については、これはやはり事実としてあるのではないかなと思っております。

その上で、8ページの「また」以降のところでございますが、これは先ほど静委員からもご指摘がございましたが、この点から申し上げますと、神作委員からご指摘があったとおり、重要事実というのが、そもそも上場会社、子会社それぞれに分けて定まっておりますので、それぞれの単体のベースの重要事実をまず前提とした上での軽微基準ということで申し上げますと、上場会社についても単体で軽微基準を今設けているということでございますので、そこを連結一本にするというのは、やはり一律に言ってしまっていいのかなというところがございまして、そこについて躊躇を覚えるというところもあって、こういう記述になっているところでございます。

それから、あと大崎委員からご指摘がありました、バスケット条項の活用というところでございますが、このあたりについてはなかなか、むしろ実際には形式案のいいところが逆にコンプライアンスでかなり壁になっているところでございますが、バスケット条項について、逆に活用するとなると、またこれはこれで非常に明確でないところも出てくるかなというところもございますし、157条の活用の件について申し上げますと、やはり従前157条が活用されてこなかったというところもございまして、インサイダー規制ができてきたという件もございますので、なかなか一律にそちらで活用というのも難しい面もあるのかなということも思っておりまして、そのあたりもちょっと厳しいかなと。

あと、阿部委員からご指摘がありました、毎年年によって違うというところについては、先ほど川口委員からもご指摘ありましたように、各会社で把握していただくというのは、それほど難しいのかなというところと、あと平均値をとると。これは簡単に平均値をとっていいのかというところもあるかとは思いますが、考え方としては、そんな考え方で対応させていただけないかなということで、案を出させていただいているところでございます。

○神田座長

どうもありがとうございました。佐伯委員、どうぞ。

○佐伯委員

テーマのバスケット条項の活用についてなんですけれども、最高裁は重要事項に規定されている場合に、評価される面と異なる面がある場合には、バスケット条項を使うことができるというふうに言っているんですけれども、今回連結ベースで軽微基準を定めた場合に、それはグループ全体を見て投資しているからそういう軽微基準になっているんだとすると、単体ベースで例外的に投資が行われて、株価が大きく動いたというような場合は、常にバスケット条項を発動できるということになるのかどうか。その辺、ちょっと伺えればと思うんですが。

○神田座長

ありがとうございます。あまり考えたことのない問題ですけど、専門の黒沼委員はいかがでしょうか…。

○黒沼委員

正しい理解かどうかわかりませんけれども、最高裁判決が取り上げたのは、2号の発生事実と包括条項との関係でありまして、決算変動と包括条項についてはまた違った考え方があり得るのではないかと思います。1号とか2号にも軽微基準がありますから、1号、2号に該当する事実で、軽微基準で重要性が認められなかったものについては、それと同じ面に包括条項を用いることはできないことになります。それに対して、決算変動の場合は、連結ベースにするか、単体ベースにするかはともかくとして、その決算変動の背後に何か事実が生じているような場合には、決算変動でとらずに、1号や2号に該当するものであればそちらで拾われることになりますし、1号、2号に規定されていないものについては、その背後に生じた事実そのものをとらえて包括条項を適用することはできると思います。

そういった意味で、包括条項で拾われることはあるのですが、連結ベースで軽微基準に該当するときに、その同じ事実について、もし仮に単体ベースがあったとしたら重要だからという理由で包括条項を当てはめることはできないということになろうかと思います。

○佐伯委員

いや、今のご意見だと、決算変動という意味ではバスケット条項を適用する余地はないということ、そういうふうに伺ったんですが。そうすると、ただ先ほどのグループに着目して投資をしているから、こういう軽微基準にしたというのと、少しずれがあるのかなという気がいたします。そのずれは本当に小さいものなので、先ほど黒沼委員がおっしゃったような、別の事実として構成できるものだけをとらえていけば、それで弊害はないんだということであれば、それでもいいのかもしれません。その辺はちょっと私、実情がわかりかねるんですけれども。

○神田座長

なかなか難しい問題でして、あまり考えたことがないのではないでしょうかね。一般論としてはある重要事実というのが定義されていて、軽微基準がいわば外されているという場合には、外れたものは外れたので、もう一遍それをバスケット条項で拾ってはいけないという話があるときに、今おっしゃっているのはちょっと次元の違う話で、書かれている重要事実とか軽微基準というのは、連結ベースで投資しているからという前提で書かれている。その前提が満たされずに、実は単体ベースで投資していたというのが、何ていうのですかね、示されたような場合には、バスケット条項を適用していいかというご質問ですよね。ですから、それはちょっとあまり考えたことはないのですけれども、それは軽々にいいと言ってしまうと、両方の基準があるようなことになりますよね、ダブルで基準になるということになりますよね。

○佐伯委員

多分、今までの軽微基準の規定の仕方と、今回グループで軽微基準を規定するという、ちょっと性格が違うんだろうと思うんですね。その性格の違いがバスケット条項の適用にどういうふうに影響してくるかという点だと思います。

○神田座長

全くおっしゃるとおりだと思います。そういうふうに整理していくことになるのだと思います。もともと非常に細かくつくったというのでしょうか、昭和63年で導入した際の、その世界の中で改善を図っていこうとしているので、なかなか難しいところが多いのですけれども。

ほかにこの点について、追加でご意見ございましたらお出しいただいて、そうでなければ次の論点に移らせていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。そうしましたら、本日皆様方からいただきましたご意見も踏まえて、さらに検討したいと思いますので、次の後半部分というのでしょうか、10ページからに移らせていただきまして、まず論点メモの事務局からの説明をお願いいたします。

○増田市場機能強化室長

では、後半でございますが、10ページでございます。「はじめに」のところは、会社が組織再編を行う場合の事業譲渡、合併、会社分割等々法的な手段がございますが、これについて、現行のインサイダー取引規制におきましては、以下のような適用関係になっているということで、具体的にはどの法的手段を用いるかによって相違が生じている。中立的ではないのではないかということで、会社が円滑に組織再編を行う上で、支障になり得るとの指摘がございます。

そういう点で、2点今回は検討させていただいているわけでございますが、1点目につきましては、事業譲渡のようなものについて、特定承継でございますが、規制の対象となる一方、合併等の包括承継については規制の対象になっていないということでございます。これは先ほど阿部委員からもご説明がありました。それから、2点目も、同じ話でございますが、今度は組織再編の対価として上場株券を割り当てる場合につきまして、新株発行と、自己株式の交付の場合に、取り扱いが異なっているという点でございます。

具体的に論点ということで、12ページでございますが、資料2-6も併せてご覧いただければと思います。会社がその資産として保有する上場株券等、他の会社に承継する場合に、特定承継・包括承継いずれの場合につきましても、経済実体としては上場株券等の取引としての側面を有すると考えられます。また、この具体的な絵をご覧いただければと思いますが、当該会社が保有する上場株券につきましての発行者に関する情報というのは、外部情報に属するものでございますので、当該会社が組織再編の相手方にその情報を積極的に伝えなければ、組織再編の相手方がそれを把握するのは難しいという状況にございます。

論点ということでございますが、こうした中で、上場株券を承継させ、または、した場合については、証券市場の公正性・健全性に対する一般投資家の信頼を損なうおそれがあるのではないかということで、特定承継のみならず、合併等の包括承継についてもインサイダー取引規制の対象とすることで、中立的な規制とすることが考えられるのではないかというのが論点でございます。もっとも類型的に不公正取引に利用される危険性が低いものにつきましては、適用を除外することが考えられるのではないかということで、3つのケースを挙げさせていただいております。

1つは、重要事実を知っていたとしても、承継資産に占める上場株券等の割合が軽微な場合。このような場合については、承継対価全体に与える影響が小さく、またインサイダー取引のために組織再編を行うというのはコストが過大でありまして、インセンティブに乏しいということで、不公正取引に利用される危険性は類型的に低いのではないか。それから、2でございますが、重要事実を知る前に締結した契約に基づいて承継を行うような場合につきましては、重要事実を知ったことと無関係に行う取引であるということで、証券市場の公正性・健全性に対する一般投資家の信頼を損なうものではないのではないかということでございます。3つ目でございますが、新設分割のような場合については、これは分社化の機能を有するものでございますので、第三者との取引という性質を有しないということから、インサイダー取引規制を適用する必要性は低いのではないかということでございます。

それから、2つ目の論点でございますが、資料2-8を一緒にご覧いただければと思います。組織再編の対価としての新株発行と自己株式の交付を行う場合につきましてということでございますが、先ほど阿部委員からもご指摘がございましたように、金商法上の開示規制におきましては、自己株式の交付と新株発行は同じ扱い。それは会社法につきましても同じような扱いがされているところでございます。これについて、インサイダー取引規制におきましては、取り扱いが異なっているということでございます。金商法の他の規制、いろいろな規制もございますが、それとの関係も踏まえながら検討を行っていく課題ではあるというふうに認識しております。今回の議論を踏まえました論点としては、会社が組織再編を行う際に、その対価として新株発行や自己株式の交付を行う場合については、組織再編の特性等に鑑みて、インサイダー取引規制の適用除外とすることで、中立的な規制とすることが考えられるのではないかということです。具体的な組織再編の特性ということでございますが、組織再編に際しては、主要取引と異なり、デューデリジェンスが行われ、会社の事業や資産・負債状況について精査がされるなど、対価の相当性について慎重に吟味がなされているのではないかと。

それから、15ページでございますが、また株主によるチェックを経ているというところがございますので、これらを踏まえると、未公表の重要事実を利用して、それに基づいて不公平な取引が行われる蓋然性が類型的に低いのではないか。また、組織再編につきましては、会社間において行われる組織上の行為ということでございますので、仮に組織再編の対価の決定プロセスに不正があったとしても、組織再編当事者間の問題(損害賠償等)で解決できるのではないか。有価証券の売買等を行う市場取引とは関係性が低いと考えられるのではないか。このため、仮にそういった不正があったとしても、証券市場の公正性・健全性に対する一般投資家の信頼を損なうおそれは類型的に低いのではないかということで、整理をさせていただいております。以上でございます。

○神田座長

ありがとうございました。それでは、大きく言うと2つということかと思いますけれども、いずれにしましても今ご説明いただきました点につきまして、ご質問、それからご意見をお出しいただければと思います。大崎委員、どうぞ。

○大崎委員

保有株式の継承に関する議論のところなんですが、確かに重要事実を知りながら保有株式を継承した場合に、B社が把握することが難しいので、それはインサイダー取引っぽいのではないかというのは何となくわからなくもないんですけれども、ただ、普通に考えますと、もしポジティブな重要事実であれば、A社はもしそれを意識するのであれば、B社に承継させようとしないはずですよね。だから、ネガティブな重要事実ということしか考えられないように思うのですが。その場合は、承継させられたB社は損害を被るわけで、いわばA社にB社がだまされたという状態が出るわけですけれども、それがどうして一般投資家の証券市場の公正性・健全性に対する信頼を損なうのかというのは、ちょっと私は理解できなくて。つまり、A社にB社がはめられたということが公知の事実になりというだけですよね。それで、もちろんA社が知っていたネガティブな重要事実を知らなかったほかの人たちは、A社はうまいことやりおってというふうに思うんですけれども、この取引そのものは、別に証券市場で行われているとは言えない。相対取引ですから、それで市場が不公正だという話になるというのは、ちょっと私は率直に言って理解できないんです。

逆に、事業譲渡が規制対象になるということについては、私は重要事実があるものだけ選んで売買なんかすれば、それはやっぱりまさにインサイダー取引そのものではないかという感じがするのでわかるんですけれども、それと合併なんかをそろえるために規制をするんだというのが、どうもよくわからない。つまり、合併のケースでは、今申し上げたようなB社がA社にだまされたというようなケースが考えられるわけでしょうけれども、それはさっきの後半の説明にちょっと近いんですけれども、B社とA社の間の損害賠償とかそういう問題で処理できるような問題のような気がして、証券市場の公正性というのにあまり関係ないのではないかという気がするわけです。

後半の新株発行、自己株式交付に関する見直しについては、私は逆にここの論点メモに書いてあるようなことが、大体妥当するんじゃないかと。つまり、組織再編ということの本質からして、インサイダー取引規制とあまり関連づけるべきものではないのではないかというのに賛成なんですが、だからといって、例えば自己株式の交付とか、新株発行を全部すべからくインサイダー取引規制の対象から外すべきだとかいうことまで思っているわけでは必ずしもございませんで、むしろ新株発行であっても、インサイダー取引に該当するようなものがあるんじゃないかというのは、今回の検討対象とはちょっと違いますけれども、別途考えるべき必要があるんじゃないかなと思っております。

○神田座長

ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。黒沼委員。

○黒沼委員

今の大崎委員のご発言の最初の点についてだけ、私の考えを述べさせていただきますと、保有株式の承継に関する見直しが求められている典型的な例というのは、Aの持っている取引先の上場株式に関する情報ですから、AもBもそれを知らない場合がある。知っているか知らないかで4通りぐらい組合せが考えられるわけですけれども、株価を押し上げるようなよい情報であれば、A社はそれを知らず、B社が知っていたときに、それを告げずにB社が株式を承継取得することが一般投資家との関係で不公正であると考えられるから、これを規制の対象にしようというものだと思います。

もし悪い、株価を押し下げるような情報であれば、Aが知ってBが知らないときに、A社がそれを処分することが、一般投資家との関係で不公正ではないかという問題だと思います。確かに市場外の取引ですから、その点は組織再編に当たって自己株を交付する場合と同じ問題がありますけれども、やはり今の点は、一般投資家の信頼を害する可能性があると思います。

○神田座長

ありがとうございます。ちょっと1点補足させていただいてよろしいですか。私もちょっと大崎委員に確認しておいたほうがいいかなと思ったのですが、今、黒沼委員が発言されたので。この図で言うと、大崎委員のご指摘は、株そのものをA社がB社に譲渡した場合でも相対ならいいという、そういうご趣旨なのですか。どこまでのご趣旨でおっしゃったのかが、必ずしもはっきりしないので。

○大崎委員

すみません、今、黒沼委員のおっしゃったことで、私、ある意味で納得はできまして、確かにB社側が知っていて、A社から取得するために何かするというのは考えられないわけではないですね。そういう場合は確かにそうすると、それをねらってやっているのかという、そこがポイントになるんじゃないかという気がしますので、その意味では、事務局がおっしゃっているような、承継対価全体に与える影響が小さいような場合を類型的に除くのは、確かに1つの解決かなと思います。

○神田座長

神作委員、どうぞ。

○神作委員

今、大崎委員がご指摘された点でありますけれども、会社法の観点から申しますと、特に会社分割とりわけ吸収分割は、事業譲渡に非常に機能的に接近してきています。会社法制定前法のもとでは、会社分割の対象が、事業の全部または一部とされ、「事業」概念で画されていたのに対しまして、会社法のもとでは、分割会社の事業に属する権利または義務の全部または一部という形で、まさに取引先の上場株式だけを会社分割の対象にして承継させるということも、現行の会社法では可能となっております。そのような観点からしますと、会社分割も内部者取引規制の対象に加えた上で、適切な適用除外を考えるというスタンスで議論していくことが望ましいと思います。

それと、ちょっと戻って恐縮ですけれども、阿部委員のご報告について、ここで触れさせていただいてよろしいでしょうか。法律の文言との関係なのですけれども、このような組織法上の行為に基づいた株式の取得を内部者取引規制の対象にするときに、現行法の文言でそれを読むことができるのかという点については、私も非常に難しいのではないかと思っております。「売買等」という中には、会社分割による取得は解釈論としてはなかなか読み込み難いと思います。場合によってはインサイダー取引の対象、すなわち「売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け」という文言について検討する必要があるのではないかと考えております。

○神田座長

どうもありがとうございました。川口委員、どうぞ。

○川口委員

2点目の件ですけれども、1回目の会合で問題提起をさせていただいたということもあるのですが、私も基本的に阿部委員が言われたように、新規発行と自己株式の処分等を区別する理由はないのではないかと思います。それは、今回議論の対象となっている組織再編の場合に限らず、全般的に、区別する必要性はないと思っております。ただ、会社法で両者の規制をそろえているから、金商法もそろえるんだという話ではありません。そもそも保護法益が違うわけですから。金商法上の保護法益の視点から、そろえるべきかどうかを議論すべきだと思います。

また、私も、かねてから、大崎委員が言われたように、発行市場においても、インサイダー取引はあり得るのかなと思っていました。例えば、会社関係者に株を発行するというときに、その人が非常にいい情報を持っていた場合、ふだんなら買わないところを、今回は買ってみようかというようなこともないわけではないのですね。このようなことは、自己株式の処分の場合も同じです。

先ほど事務局からの論点整理では、組織再編に限るということを前提にいろいろ説明がなされておりましたけれども、これは諮問事項がそうなっているということから、このような限定がされたのだろうと思います。しかし、新株発行と自己株式の処分の規制を、インサイダー取引規制全体でそろえたとしても、結果として今回の諮問事項についてもうまくいくんだというような整理ができるようにも思います。ただ、神作委員が言われたように、現行の文言で果たしていけるのかというのは、検討の余地はあるかと思います。

○神田座長

どうもありがとうございました。どうぞ、阿部委員。

○阿部委員

細かいことばかりで恐縮ですが、3点ございます。13ページについて、2の重要事実を知る前に締結した契約とございますが、タイミングとして契約なのか、あるいは承継会社で決めた段階、取締役会決議等があればその段階でいいのではないでしょうか。ここで契約と決めつける必要はないと思います。あくまでも特に承継会社側の判断だと思いますから、そこはできればもう少し前広に考えていきたいと思います。

それから、3の新設分割について、なぜインサイダー取引になるのでしょうか。もちろんそういう趣旨はないと思いますけれども、必要性は全くないということでお考えください。

それから、神作委員のご指摘の通り、やはり今のインサイダー取引の文言はどこかそぐわないところがあちこちにあるので、少しお手間はかかるかもしれませんが、こういう機会に丹念に見直しされるのがいいのではないかと思います。

○神田座長

神作委員、どうぞ。

○神作委員

今、新設分割についてのご指摘がありましたので、1点ご質問をさせていただきたいと思うのですが、新設分割の場合を除外するということですが、共同新設分割の場合は、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。

○神田座長

私も聞こうかと思っていたのですが、やはり新設合併と同じで、要するに、新設分割というのは、ここでの考え方はひとり相撲だから取引ではないという考え方ですよね。ですから、共同で新設分割のときは、新設合併みたいなもので、やはり取引なので、それは別の考え方になり得るということではないかと思いますけれども。ちょっと細かな点ですけれども。ありがとうございます。

どうぞ、佐伯先生。

○佐伯委員

私も今、13ページの2についてご発言がありましたので、関連して質問させていただきたいんですけれども、既に締結されている契約に基づいて―契約に限るかどうかはともかくとして、取引を行う場合には、信頼を損なわないという理由であれば、別にこの場合に限らないような気がするということが1点。それから、外し方として、この理由づけだと、契約を結んでいる当事者が取引を行うという場合だけが、法制政策みたいな形でしょうか、除外されるだけで、他の者が情報を知って取引をすれば、インサイダー取引に当たるということになるのかなと思うんですけれども、それでよろしいでしょうか。

○増田市場機能強化室長

そういうことで考えております。

○神田座長

ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。

川口委員が先ほどおっしゃった趣旨ですけれども、確かにおっしゃるように、自己株式の交付というか、あと新株の発行というのは、金商法の規制目的というか、趣旨、目的のもとで、同じなら同じに取り扱うのが望ましいというのは私も全く同感なのですけれども、どこまでの範囲で今回やれるのかという問題があります。理想はこのWGはインサイダー取引規制のWGなので、インサイダー取引規制の中であればそろえてはどうかというご趣旨のように聞こえたのですけれども。原案はなかなかいろいろなことを全部詰めなくてはいけないので、せめて組織再編のところだけまず手を打って、あとのものは引き続き検討してはどうかというような感じだと、私は拝見したのですけれども。さらにもっと、インサイダー取引も超えて、金商法の中で全部整備するのが望ましいという考え方もあり得るかもしれません。そのあたりはどうなのでしょうか。

○川口委員

少なくともインサイダー取引規制においては、そろえるべきだと思います。金商法の中でも、統一できるのであれば統一すべきで、統一してまずいものがあるのであれば、それはそれで検討するという姿勢がよいのではないかと思っております。

○神田座長

ありがとうございます。前の論点についても、同じような問題があると思うのですよね。株を譲渡するのですか。その株を持っている会社を譲渡するのですかという話です。神作委員がおっしゃったように、会社分割になれば株を譲渡しているようなもので、会社分割という形態でも譲渡できますという点もあるでしょうし、逆に株といったって、会社の資産の一部であって、会社を譲渡しているのですといえる場合もあるでしょう。古くて新しい問題とも言えます。これもここの部分だけ手当するのか、およそ金商法においてはほかでも問題になりますよね、こういうのは。なかなか悩ましいところだと思います。川田委員、どうぞ。

○川田委員

大変素人的な疑問といいますか質問でございますけれども、企業再編の種類によって―種類というか手法によりまして、今回の見直し案では、全般的に規制の対象にするんだと。つまり、合併であろうが会社分割であろうが、一たん原則的に規制の対象にし、例外的に3つのケースについては、規制の対象から外すというものとすれば、合併による承継についても、保有株式の承継と、一たんは売買等に当たるという整理をして、それで例外的な規模の基準であるとか、あるいは、重要事実の契約の前後であるとか、そういうことを例外的な措置として考えるという解釈をするということなんでしょうか。

○増田市場機能強化室長

そういうことです。

○川田委員

そうすると、今までの考え方からすると、合併による承継も、売買等に当たるんだという整理をするということですか。

○増田市場機能強化室長

法的な必要があれば、法改正を。

○川田委員

なるほど、そういうことですね。

○神田座長

今までの技術的な話と、実質の話はやっぱり区別していただいたほうがいいと思うのですね。こういうふうでいこうとなったときには、先ほどからご指摘がありましたように、現在の法律の文言は技術的には変えていかなければいけないかもしれませんよね。

それからもう1つ、どういう場合に適用され、どういう場合に適用しないというか、適用されるべきでないかというのは、実質の議論です。それを一たん適用があるけれども除くと書くのか、適用するものだけ書くのかというのは、法技術的な問題ですよね。ちょっと私の発言が長くなって申しわけないですけれども、ここでは、事業譲渡の場合と、例えば合併なんかの場合の不ぞろいという形で出てきているのですけれども、では、不ぞろいをあわせるということになると、どっちにあわせるのですかということについて、その先をも考えないといけないということではあります。

ですから、それを考えるときの考え方として、先ほど阿部委員もお話があったと思いますけれども、株を譲渡したらアウトだと。それもセーフだという、多分、大崎委員が最初におっしゃろうとしたそうする場合には、ちょっと話が大分変わってきますけれども、株を譲渡したらアウトで、株を持っている会社を譲渡した場合については、アウトの場合とセーフの場合とをどこで線を引きますかという話だと思うのですよね。ですから、そこの線の引き方が、どのあたりが妥当かということが決まれば、事業譲渡であれ合併であれ、同じに扱う。会社分割についてもですね。というような考え方でいけるのかどうか。

新設分割も、先ほどの私の言葉で言えば、ひとり相撲のようなものは取引ではないので外れる。ですから、きれいに1本あるところで線を引けるわけでは決してないのですけれども、そのあたりについて、皆様方の議論をさらに深めていただければということかと思います。

いかがでしょうか。どうぞ、大崎委員。

○大崎委員

すみません、さっきの発言のときにちょっと誤解していた点はお詫びしたいと思うんですが、今までの議論を聞いていて改めて思ったんですが、そういうことでそろえるにしても、適用除外のつくり方なんですが、今、ご提案の事務局で作成されたやつですと、適用除外の1ですけれども、承継対価全体に与える影響が小さいのは、承継資産に占める株式の割合が軽微な場合というような書き方になっているんですけれども、逆に言えば、まさにそっちが大きいので、そこに着目して、それをいわば奇貨として取引をするというような。先ほど黒沼委員が言われたような、Bが知っていて、しめしめということで合併をしたと。後でそれが明らかになって、市場がみんなあきれ返るというようなストーリーだとすると、軽微基準よりは重要基準というか、大きいものを規制の対象にすると。もちろん書き方としては、原則禁止で外すということなんでしょうけれどもということなのか。何か大きいものを規制対象にするというつくり込みが非常に重要じゃないかなという感じがいたしました。

○神田座長

ありがとうございます。中ぐらいという考え方もあるということでしょうか。物事の考え方の整理として。

○大崎委員

その点は、私はどちらかと言うと阿部委員の書かれた紙である、合併であっても消滅会社の資産の大部分が問題となる上場株式であり云々というような、これに近いイメージなんじゃないかなという気がいたしましたけれどもね。それはやっぱりまずいだろうという。

○神田座長

ありがとうございます。どうぞ、上柳委員。

○上柳委員

今の大崎委員の点ですけれども、やっぱり私は今の感じだと、見直し案のように、原則を規制対象にして、軽微なものを除くというのが妥当だと思うんです。というのは、もちろんどういうのが濫用例でどういうのが典型例なのかということの把握なり、あるいはそこに対する勘繰りをする、疑いの目を持つかどうかということにかかわるのかもわかりませんけれども、保有している上場株式というのが、A社にとってはそれほど大きな資産でないとしても、やっぱり絶対量とか、発行済株式数との関係とかいろいろ考えると、ひょっとするとA社にとっては、例えば、承継資産に占める割合が8割以上でないとしても、市場から見ると、それなりに大きい場合というのがあって。またこれでいろんな論理を交錯させちゃっているわけですけれども。やっぱり全体を対象にして、だけど合併の特別決議の会社法上不要な場合だとか、ああいうところとあわせるようなことで、何割にするのか知りませんけれども、軽微なのは除くということになるという感じがします。

つけ加えですけれども、合併についても、単独の合併のときはあまり問題はないのかもわかりませんけれども、それこそグループ経営があって、一部の傘下の会社を合併させるということはあると思うので、これは事業譲渡、合併・会社分割両方を横並びで扱うべきであると思います。ただ、本当にどんどんどんどん条文がややこしくなるのは望ましくないけれども、やっぱり経済実体として、似たようなものをとらまえるということで、致し方ないのではないかと思います。

○神田座長

ありがとうございます。どうぞ、阿部委員。

○阿部委員

もともとの話の繰り返しですが、2-6の適用除外1の考え方ですが、今、規制対象となっているものの適用除外という意味では、事業譲渡にかかわるところは軽微であり得ると思いますけれども、合併を新たに規制対象に被せるための適用除外というのであれば、ここはやっぱり相当なボリュームでないと納得感がないと思うんです。

○神田座長

それは理論的にという意味ではなくて、実践的に…。

○阿部委員

実務上困難であるという意味です。

○神田座長

わかりました。どうぞ、川田委員。

○川田委員

すみません。実務的に考えれば、これは多分、承継資産に占める株式の割合といいますと、大体金額的なイメージがあろうかと思うんですけれども、実は承継する株式が、例えば相手方の過半数を持っているという場合に、実質的に、ここでC社の株を持っているとすると、C社を支配するということも非常に重要な要素もございまして、必ずしも金額的なものではないというケースもありまして、むしろそのほうが、一般の株式の投資家に与える影響が大きいというケースも、場合によっては考えられるんじゃないかなと思うんです。例えば、我々もいろいろなM&Aを検討するに当たって、その会社の株式がどういう価値を持っているかという金額的なものよりは、むしろどういうところを事実上支配的に置いているかを考慮する場合もあるわけですので、そうすると単純に金額的なもの、むしろそういう実質的なものまで考えるとすれば、非常に複雑になってきてしまう懸念があるなというのを、ちょっと感じているわけでございます。単に金額なのかどうかという問題なんですが。

○神田座長

ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。大分問題点はご指摘いただき、出していただいたように思いますけれども、どうしたらいいかというところが…。まあ、多くの方がこう思っておられるのではないかというのは、ご発言いただいた方の意見とご感触はわかるのですけれども。むしろご発言されなかった方が、ご発言された方に賛成なのか、そうでないかあたりがちょっとわかりかねます。本日は何か決めるということは決してありませんので、さらに本日いただいたご指摘を踏まえて検討をさせていただきたいと思いますけれども。どうぞ、静委員。

○静委員

それでは、私も発言させていただきます。先ほどから出ている問題はみんな根っこが同じで、法的な形式でインサイダー取引というのをとらえようとするせいで、経済実体としては同じものが犯罪になったりならなかったりというところに、問題の根っこがあるのではないかと思います。最初、第1回のときに神作委員が、確か取引の動機みたいなものを要件に加えるというようなお話をされたと思いますし、今日も阿部委員が、実質犯的に見たほうがいいのではないのかというような、抜本的な問題提起をされたと思いますけれども、今起こっている、いたちごっこみたいな、実態としては同じようなものが形式次第でインサイダー取引になったりならなかったりするということは、そういうことをやらないと、抜本的には直らないのではないかというような感じがしております。

一方で、先ほど増田室長からご説明がありましたけれども、かつての一般的な不公正取引禁止規定が実はあまり機能しなかったというような問題意識があって、この規制ができているという歴史的な経緯から考えますと、やはりこうなってしまったのは仕方がないといいますか、そういう歴史を鑑みると、この場で抜本的に全部見直そうというのはなかなか難しいのではないかと思います。大きく全体像を見直さない中でアジャストしていこうという発想であるとすると、今、事務局のペーパーでご提案をいただいているような形の見直しの仕方が私はいいのではないかと思っておりまして、個別の条件につきましては、それぞれチューニングはまだ必要だと思いますけれども、この方向で詳しい中身を議論していくというのがよろしいのではないかと、私は思います。

○神田座長

どうもありがとうございます。ほかに。神作委員、どうぞ。

○神作委員

先ほどの適用除外の話にまた戻って恐縮ですけれども、私は、保有株式の承継に関する規制の見直しは、基本的には内部者取引規制の網を被せた上で、適用除外を適切に画するという観点から考えることが必要で、適用除外の考え方としては、2が中心になると思います。つまり、内部者情報を知ったから、組織再編行為をするわけではないという点が適用除外の中心になるのではないでしょうか。そのような場合は、適用を除外すべきであって、阿部委員のご報告にもございましたように、契約の締結の時点でとらえていいのか、実質的にもう少しさかのぼって考える必要があるのではないか等の問題を含めて、内部者情報があるから問題となっている組織再編行為をしたわけではないというものについては、規制の適用を免れる必要があるのではないかと感じております。

○神田座長

ありがとうございます。今の点は、組織再編行為の場合だけですか。一般論としてですか。

○神作委員

本来は一般的な話だと思うのですけれども、まずはしかし、新たな規制を導入したところから、そのことを順次明らかにしていくことが必要と考えます。

○神田座長

ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。黒沼委員、どうぞ。

○黒沼委員

保有株式の承継に関する見直しについては、この見直し案に賛成いたします。それから、新株発行と自己株式交付に関する見直しについては、先ほどは感触を述べていなかったのですけれども、私も川口委員と同じように、本来はインサイダー取引について、すべて統一的に規制を見直すべきだと思いますし、その場合には、新株発行を規制対象とする方向での見直しが望ましいと思っております。しかし、今回は、組織再編についての見直しを行い、ほかまで全部検討している時間的余裕がないということですので、その範囲においては、こういうやり方もあり得るかなと思っております。ですから、将来見直しをするときには、今回こういう理屈を入れたから、それは絶対に間違っていないんだという前提をとらないでやっていただきたいと思います。

○神田座長

ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。

それでは、追加でご意見がございましたら伺いますけれども、そうでありませんでしたら、このあたりとさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。またお気づきの点がありましたら、後日でも結構ですので、事務局にお寄せいただけましたらありがたく存じます。

本日も、皆様からは大変活発なご議論と、貴重なご指摘をいただきましてありがとうございました。本日いただきましたご意見も踏まえまして、次回以降、さらに詰めの審議をお願いしたいと思います。事務局から、連絡等ございましたらお願いいたします。

○増田市場機能強化室長

次回のワーキング・グループの日程でございますが、皆様のご都合を踏まえた上で、後日事務局よりご案内させていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。事務局からは以上でございます。

○神田座長

それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局市場課市場機能強化室(内線3607、2622)

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