金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(第2回) 議事録

  • 1.日時:

    令和4年11月11日(金曜日)15時00分~17時00分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室

【神田座長】
 ただいまから令和4年度金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」の第2回目の会合を開催いたします。皆様方には本日も大変お忙しいところを御参加頂き、誠にありがとうございます。
 本日の会合も、前回に引き続きオンライン会議を併用した開催とさせて頂きます。会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせて頂いております。また、議事録もいつものように作成をして、金融庁のホームページにて後日公開をさせて頂く予定ですので、よろしく申し上げます。
 
 それでは、早速議事に移ります。
 本日ですが、まず経済界から、日本経済団体連合会及び日本商工会議所、そして銀行界から、全国銀行協会の業務委員長行であるみずほ銀行様、それから全国地方銀行協会の横浜銀行様から融資制度のあり方について御説明、御発表を頂きます。その後、メンバーの皆様方から御質問等があればそこで少し出して頂きます。
 そして次に、前回の会合の続きということになりますが、新しい担保制度に係る論点について、事務局から説明をして頂いて、その上で皆様方に討議をお願いしたいと思います。
以上のような流れで進めさせて頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 
 それでは、まず早速で大変恐縮ですが、経団連のスタートアップ委員会スタートアップタスクフォース委員の安井委員から御説明をお願いできればと思います。安井さん、どうぞよろしくお願いいたします。

【安井委員】
 ありがとうございます。私は、そこの表紙に書いてありますスタートアップ政策タスクフォースというところの委員をしておりまして、日々ほかの事業者の方であったりとか、VCの方であったりとかベンチャーを支援するような立場にいる方と議論をさせて頂いています。そういう観点で、スタートアップを増やす、この制度を使って成功させるという観点で少し述べさせて頂ければと思っております。
 
 1枚めくって頂いて、1ページ目はベンチャーデットがまだまだ少ないという共通認識の一例として、政府で調査をされているものがあったので、御参考までに掲げさせて頂きました。
 
 2ページ目に行って頂きまして、経団連は今までどういう立場だったのですかというところですが、3月にスタートアップ躍進ビジョンというスタートアップ政策全体の提案をさせて頂いていまして、その中で今回検討対象になっている担保権も含めてベンチャーデットをもっと整備・促進していきたいという提案をさせて頂いています。
 
 次のページに行って頂いて、ただ、今まだまだ使われていない中でイメージがつかめていないという方も結構多いかと思っています。そういうところを、今回その議論に参加しているメンバーとどのような形でやっていけば良いかという話をしているところを御紹介させて頂きたいと思います。
 まず、一番大事な、どのようなところに期待をしているのか、活用できるのかというところですが、ある程度成長したスタートアップが、資本調達の間で、例えば資本以外の形で資金を得て、事業をするなど、いろんな形の活用ができるのではないか、ある程度成功したスタートがさらに伸びていくような形での活用ができるのではないかという意見は結構出ております。
 例えば、ここの下の箱の中に書いてあるのですけど、資本調達と資本調達の間で、この施策をやり切ってたとえばもう少しROIを上げたいので、少し調達しておきたいというようなときに、資本調達に行くのではなくて、こうした形で金融機関さんと連携とかというのはあり得るのではないかという声や、実際ふだんやり取りする中でも、熱心に考えてくださっている商業銀行さんがあるので、事例は作れると思いますというような声も出ています。
 
 めくって頂いて、そうは言っても、実際に使われるためには課題の指摘も出ています。特に事業の評価のところで言えば、将来性だったりとか成長性というのを評価できるのだろうかであったりとか、成長期のスタートアップは赤字で投資し続けたり、ずっと投資の局面が続くという場合も多いので、それが今の銀行さんの実務に上手くなじむのか、みたいな課題は出ています。ただそこも、真ん中に書いていますけど、例えばVCの評価の部分を一部流用して頂くとか、何か工夫できるのではないかという指摘も挙がっていまして、制度の設計と実務両面でこうした課題をよりなくして、使われる状態を目指していきたいと思っております。
 
 次のページをめくって頂いて、評価はそんなところですが、担保を実際に取る、実行するところになると、担保を実行して頂いても、その担保の価値というものを換価するということになると、実はM&Aの市場があるということもセットではないかという、この制度そのものの外側の課題や、あと評価の計算の仕方についての指針というのは今後明らかになっていくべきではないか。それから手続はどういうふうに進んでいくのか、事前にはっきり分かっていないと、せっかく活用できる場面というのは想定できるのだが、スタートアップにとっては利用しにくい、リスクの高い担保制度になってしまうというような、予見性を上げていきたいという課題の指摘も出ております。
 
 以上、簡単に組織の中で出ている議論を紹介したのですが、最後のページをめくって頂いて、まとめて申し上げたいこととしては、いろいろ課題は申し上げたのですが、もともと早く作って頂きたいとお願いもしていますし、実際、今回改めて聞いた中でも使いたいという事例も出ています。この後、御説明される金融機関さんの資料を拝見したところでも、大きな方向性で似ているところはあるかとすごく感じました。
 そういう観点では、活用しやすいものにしていくというのはすごく重要で、いろいろ懸念の声がいろんな方からあると思うのですが、懸念を潰すために使えない制度になってしまっても良くないと思っていまして。この制度を使って、ある程度使える局面というのは限定されるのかもしれないですが、使える局面では使う人が出てくる。それによって事業が成功して、貸して頂いた金融機関さんも事業に関わっている方、経営者以外の方も含めて、全ての方が裨益するという事例を実際に作って、使ってみたいという状態を作っていくということを検討の一番重要なところに置いて頂きたいと思います。
 
 なので、今後の事務局の御検討の際に、実際、スタートアップを使うためには、この制約が少ない状態の制度設計になっていくことが重要だというところをすごく大事にして検討して頂きたいと思っております。
私から簡単ですが、以上でございます。

【神田座長】
 安井さん、どうもありがとうございました。それでは続きまして、日本商工会議所産業政策第一部長の山内委員から御説明をお願いしたいと思います。山内さん、どうぞよろしくお願いいたします。

【山内委員】
 日本商工会議所の山内でございます。企業経営支援に協力している立場から、事業者と金融機関の双方が使いやすい事業性融資に向けた事業性評価と事業成長担保権への期待について、資料に基づいて御説明いたします。
 
 1ページ目を御覧頂きたいと思います。こちらは中小企業の現状の説明です。日本商工会議所は全国515の商工会議所で約123万の事業者を会員としており、その多くが中小企業でございます。詳しい説明は資料を御参照頂きたいと思いますが、コロナ禍、物価高、円安、賃上げの圧力といったコスト負担増の環境で事業者が生き抜いていくには、将来キャッシュフローを生む事業の創出を進めていくしかないと考えております。
 
 2ページ目を御覧頂きたいと思います。そこで着目しておりますのは、知的財産、技術、ノウハウ、のれんなどの無形資産の活用でございます。諸外国が国策として無形資産投資を拡大させて成長につなげている中、日本では無形資産投資は低迷している状況でございます。一方、足元における中小企業のイノベーション活動への意識は高まっております。商工会議所では創業塾も行っておりますが、スタートアップを含めて価値ある事業に対していかに投資していくかが鍵となっております。
 世界的にもゼロから何かを生み出していく投資のフェーズに入ってきていると思います。地域においてこれだけの社会課題が存在しています。そのため、政府においては地方創生やDX、GXなど、目指すべき成長目標を示して、企業の成長期待を高めるとともに、これらの事業の創出を後押しする支援の拡充が大事だということを要望しております。つきましては、金融支援も、極めて影響力の強いツールであると考えております。
 
 3ページ目を御覧頂きたいと思います。事業性評価と融資、事業成長担保権への期待につきましては、不動産担保や経営者保証に依存しない、「事業性」に着目した融資を、かねてより政府には要望しております。事業成長担保権を活用した融資は、現在実施されている事業性評価に基づく融資を後押しするものであり、成長資金調達の選択肢の一つとして期待しております。
 先ほども申し上げましたが、実際に「使われる制度」でなければ意味がありませんので、ぜひとも本審議会にご出席の専門家の皆様の御協力を頂き、既存の譲渡担保の使い勝手や、その他の担保権との整合性にも十分配慮した、スタートアップや事業者、金融機関の双方にとって簡易・迅速・廉価な、使い勝手の良い制度として構築頂ければありがたいと思っております。
 そのためには、事業者と金融機関の緊密なリレーションシップや、双方に負担のかからない評価システムなどを考えていく必要があると思っております。価値ある事業を創造・継続し、地域に良質な雇用、生産、消費を作り出すことが重要であります。この目的に沿う制度となりますことを期待しております。
 日商におきましても会員企業へのヒアリングを行っておりますが、事業成長担保の活用の可能性は資料の下段のとおりです。スタートアップやベンチャー企業による活用、安井様からも御指摘のありましたベンチャーデット、事業承継など一定のニーズはあるものと考えております。
 
 4ページ目を御覧ください。事業成長担保を、「使われる制度」とするために留意頂きたい点を列記しております。まず、利用者における課題についてご説明いたします。貸手側においては、将来キャッシュフローを評価した融資となりますので、目利き力が求められると思います。全銀協様の資料にも言及がありますが、本件につきましては大変難しいことは重々承知しております。そのため、ガイドラインなど評価のための環境整備が必要ではないかと考えております。
 続いて、借手である事業者側の留意点として、適切な情報提供を行う積極的な姿勢が求められると考えております。コロナ禍からの脱却に向けて、自らの事業価値を見直す時期に入ってきておりますから、商工会議所におきましても、事業計画や財務状況への経営者の理解促進を促し、金融機関への適切な情報提供ができるようにしてまいりたいと考えております。
 
 最後に、制度活用促進に向けた課題についてご説明します。
 1つ目は、事業成長担保権という名称のネーミングの議論とも関わります。制度の具体的な実施のタイミングにおいて、複数事業や間接経費の切り分けについてどのような取扱いとすべきかなど、難しい問題があることは重々理解しております。しかし、事業者、金融機関のニーズを丁寧に拾い上げて、価値ある事業を残す観点から、全資産担保に加えて、事業単位に着目した担保を活用できるような制度設計にして頂きたいと思っております。
 2つ目は公示に関する問題です。商業登記の活用は、確かにリーズナブルだと思います。しかし、その他の担保登記とは異なり、誰でも閲覧できてしまうため、風評被害の発生を懸念しております。そのため、結果的に使われない制度とならないように十分配慮して設計を進めて頂きたいと思います。このような事業成長担保権が信用不安につながるものではないということについては、しっかり広報していくことも大事だと思っております。
 3つ目は、その他の担保権との整合性の確保につきまして、2点お伝えしたいことがございます。他の担保権と重複することがないよう整理をしていくこととともに、利用者にとって過度な負担増にならない、使い勝手の良い設計として頂くことが必要だと考えております。担保権を設定される企業の従業員の皆様への設定時の通知につきまして意見申し上げます。共に働く人の権利につきましては、最大限の配慮を行うべきだということは言うまでもございません。しかし、実行手続の際に、管財人の善管注意義務によりフェアに扱われていることや、米国の全資産担保においては通知を行わずとも大きな問題になっていないということは前回も指摘がございました。
 こうしたことも鑑みますと、設定行為を通知するのは、事業者にとってやや負担が重いのではないかと考えております。他の担保権の負担を超えるような仕組みを入れることで、制度が使われなくなってしまわないように、ぜひとも配慮頂きたいと思っております。
 
 最後に、価値評価や流通市場の整備は大変難しいと思っておりますが、投資金融的な要素も強い担保だと思っております。「担保の交換価値=将来の収益性」というものが見える化できるような環境整備もぜひとも進めて頂きたいと思っております。本制度につきましては、期待しておりますので、よろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【神田座長】
 山内さん、どうもありがとうございました。それでは続きまして、全国銀行協会の業務委員長行である、みずほ銀行の法務部担当部長の日比野さんから御説明を頂けるということです。
 日比野さん、どうぞよろしくお願いいたします。

【日比野オブザーバー】
 よろしくお願いいたします。
 御紹介頂きました、全国銀行協会で今年度の業務委員長行を務めておりますみずほ銀行の日比野とし申します。よろしくお願いいたします。
 私からは、金融機関から見た事業成長担保権ということでお話しさせて頂きます。
 
 2ページ目ですが、「はじめに」というのはこれまでの経緯を示したものですので割愛させて頂きまして、3ページ目の利用対象・利用局面のところから進めていきたいと思います。ここでは利用が想定されるケースを示しております。分類の仕方も様々あるとは思いますが、ここでは一応この3類型で整理をしております。
 1つ目はスタートアップ企業です。一定のビジネスモデルが確立しつつあり、キャッシュフローも安定してきてはいるのだが、換価価値がある資産を必ずしも有しているわけではないという企業です。
 2つ目はプロジェクトファイナンスです。これは既にキャッシュフローファイナンスのモデルとして確立している分野と思いますが、事業に対する担保制度ということで、このような類型のファイナンスでも活用することが考えられるかと思います。
 3つ目はLBO、事業承継・事業再生です。事業成長担保権は、複数の金融機関がそれぞれの目線で融資取引をしているという中で、特定の金融機関が導入するというのは、いろいろ整理が難しい面があるようにも思われまして、負債の調達構造に見直しが図られ、取引金融機関が入れ替わると、こういう局面において、事業価値に着目した活用の可能性があるのではと考えております。
 
 また以上のうち、特にスタートアップ向け融資というところを念頭に、事業成長担保権導入の着眼ということで2つ挙げさせて頂いております。
 1つ目は、事業成長担保権はもちろん担保ではあるのですが、その効用としてはそれだけではなく、対話の促進によって事業への関心あるいは理解を深めていくツールとしての機能が期待されているということでございます。
 2つ目は、事業成長担保権は企業の成長ステージに応じて活用されるものだということです。事業成長担保権の導入企業が順調に成長していけば、次はリファイナンスによって無担保借入れを検討する、あるいはIPOを検討するといったステージに移行していくことになると考えられます。したがって、事業成長担保権を導入すると、何か永続的に全ての保有資産が担保として提供され続けるということにはならない、そのように使われる担保権ではないということでございます。
 
 次のページ、4ページ目をお願いいたします。対象債務のところについては割愛させて頂きまして、基本設計の視点というところですが、まず、1点目は、利害関係者にとって予測可能性のある制度であることが大切な視点であると考えます。もちろん、事業成長担保権者にとって事業担保権の設定を受けることによって何が確保できるのかということ、これはもちろん重要ですが、ここではそれに加えまして、事業成長担保権者以外の取引金融機関にとって、もし融資先に事業成長担保権が設定されると、既存の融資取引にどのような影響が生じるのか。あるいは、担保の設定者である事業者様の取引先にとっても、事業成長担保権設定者との間では、何に注意をすれば安心して取引ができるのかということが容易に理解できることが大切だろうと考えております。
 もう1点は、事業譲渡の段階においては、迅速・柔軟な承継が大切な視点であると考えております。管財人による実行というのは最終手段でして、実務的には管財人選任よりも前の段階で、合意によって事業を移転させることが通常になるものと考えられます。そうしますと、このような合意に基づく事業譲渡をスピード感を持って、かつ、個々の事案に即して柔軟に実現できる設計となることが、積極的に活用される上での大切な要素になろうかと考えております。
 
 次のページ、5ページ目をお願いいたします。「最後に」です。まず、1つ目で事業成長担保権は個別財産の換価価値を把握するという従来型の担保とは性質の異なる新たな類型の担保権ということで、融資手法の新たな選択肢として大いに期待をしているところであります。
 ただ他方で、2番目のところですが、事業成長担保権という制度の導入だけでは積極的な利用普及には必ずしも十分ではなく、いろいろな努力が必要という理解です。コミュニケーションという点では、金融機関としては、その姿勢とともに、その対話を意味あるものとするための知識、スキルが必要になると考えられます。
 事業者様におかれましても、適切な事業計画の策定と共有、また、その遂行過程における適切な情報の共有、あるいは対話に応じて頂くことをお願いしたいと期待するところでございます。
 その他、コベナンツの活用、評価制度、あるいはお取引先を含めた利害関係者に制度が正しく理解されることの重要性など、これらは既に出てきたポイントと思いますが、同様に考えているというところでございます。
 以上、駆け足になりましたが、私からの説明とさせて頂きます。どうもありがとうございました。

【神田座長】
 日比野さん、どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして、全国地方銀行協会の横浜銀行リスク管理部副部長であられる仁科さんから御説明を頂けるとのことですので、仁科さん、どうぞよろしくお願いいたします。

【仁科オブザーバー】
 ありがとうございます。
 それでは、全国地方銀行協会より横浜銀行の仁科と申します。よろしくお願いいたします。地方銀行から見た事業成長担保権の考え方について御説明いたします。
 
 資料を1枚めくって頂いて1ページ目をお願いします。この図のとおり、地方銀行は地域の個人、事業法人のニーズに総合的に応えながら地方自治体と連携して課題に対応し、地域密着型企業を通じて地域経済の持続的な成長や地方創生を目指しております。こうした中で、今回この事業性に着目した融資実務を支える制度に対して、これまでいろいろ取り組んでまいりました。
 
 2ページ目をお願いします。これまで金融庁様などにおける各種の研究会や議論の場に参加しながら意見をお伝えしてまいりました。また、その検討状況につきましては、各銀行の頭取などの役員級会合において定期的に説明しております。また、会員銀行向けにも説明会を随時開催して、事業成長担保権の活用イメージについて意見交換してまいりました。こうした中、現時点で活用の可能性についてまとめたものが次のページになります。
 
 3ページ目をお願いいたします。この事業性に着目した事業成長担保権は、様々な場面において新たな選択肢として活用の可能性があると考えております。例えば、個別資産を持たない成長企業、有形資産がなかったり、経営者が技術者とか研究者など、金融実務の経験があまりない場合は、急激な借入れの拡大は危険が伴います。金融機関のほうでも、こうした成長企業は、事業内容の理解や事業継続性の見極めにおいても難易度が高いものがございます。
 そこで、この事業成長担保権ですが、これは事業者と金融機関のリレーションに基づく担保でございますので、事業者との真のリレーション、上手くいったときには共に喜び、上手くいかないときには、ひざ詰めでお互い本音で厳しいことも言えるような間柄、こうした関係が構築されることや、この担保を構成する事業性、これをきちんと理解することできめ細かい支援の促進につながると考えております。
 また、金融機関は、これまでも将来キャッシュフローの見通しに尽力しながら融資に取り組んできたところではありますが、万一上手くいかなかった場合、言わば出口のところでの手段が整備されていないと、なかなか踏み出せないところがございました。そこがリレーションに基づいてキャッシュフローや将来性を見通すことができ、出口についても円滑な手段が確立されると、融資の幅が広がる可能性がございます。
 それから、事業承継に係るファイナンスにつきましては、経営者の高齢化によって後継者がいない企業では、LBOなどのバイアウトファイナンスのニーズもございますが、全資産の担保設定は手間やコストが大きいのが実情でございます。また、後継者がいる場合でも、株が分散してしまっていて買い集めるのにかなりの資金が必要となるようなケースもあります。こうした場合などで、事業全体の担保設定に係る環境整備がなされると、より柔軟に対応できる可能性がございます。
 また、プロジェクトファイナンスにつきましては、これまでもキャッシュフローに着目してファイナンスを行っておりますが、こちらも事業成長担保権によって簡易・迅速な対応が可能となったり、また万一の際の実行手続が整備されると、ファイナンスの裾野が広がる期待もございます。以上を踏まえて導入に向けた主な論点について、最後のページをお願いいたします。
 まず、既存の融資実務との関係においては、不動産担保などに基づく既存の実務に影響を及ぼしてしまうと活用されにくくなってしまうため、ここへの影響を考慮すること。それから、ほかの担保権との権利関係が不明瞭にならないような仕組みが必要だと思います。また、複数行取引を希望される事業者がいらっしゃる場合には、そのニーズにも対応できるよう同順位や後順位設定の検討も必要になろうかと思います。
 次に、円滑な実務のための環境整備としましては、事業価値の客観的な評価方法、それから銀行会計上の貸倒引当金算定に係る一定のガイドライン、また、事業譲渡の受け皿となるマーケットや、そのための実行手続の整備などが挙げられます。
 また、経営者保証につきましては、停止条件付とするなど、事業者の状況を踏まえた柔軟な取扱いもありますが、事業性に基づくこの事業成長担保権は、経営者保証によらない融資の後押しになり得ると考えております。
 最後に、この制度が安心して広く活用されるためには、登記される場合のネーミングなどには少し工夫が必要かと思います。
 
 今回こうした新たな選択肢ができることが地域経済の活性化につながればと期待を寄せております。地方銀行協会からの御説明は以上でございます。

【神田座長】
 仁科さん、どうもありがとうございました。
 それでは、ただいま4人の方々から頂きました御説明について、ここで少し時間を取って、メンバーの皆様方から、もし御質問等があれば御発言を頂ければと思います。安井委員、山内委員、そして日比野さん、仁科さんからの4つの御説明につきまして、御質問がおありの方は適宜の方法でお知らせください。オンラインで参加の方は、いつものようにチャット機能を利用して頂いて、全員宛てにお名前と発言希望と入れて頂ければと思います。それを確認して私から御指名をさせて頂きます。それから会場で御参加の方は適宜の方法でお知らせ頂ければと思います。
 それでは、今チャットを頂きました。星先生、どうぞお願いいたします。

【星委員】
 ありがとうございます。報告ありがとうございました。
 全体的に事業成長担保権に関する理解については、合意が取れているのかという印象を持ちました。今までできなかったことを可能にする融資の制度であって、金融機関がより事業者を支えていくきっかけになるだろうということで、意見の一致があるのかと思いました。その一方で、幾つか課題があって、これだけでは駄目なところがあるので、ほかの対策も必要だということだと思います。 
 それで2つ質問をさせてください。1つは日本商工会議所の山内さんの報告の中で、風評リスクの可能性ということをおっしゃったのですが、具体的な内容、どんな場合を想定されているのか、もう少しお話し頂けるでしょうか。
 それから地銀協の仁科さんの報告で、社会的な理解の醸成というのが大切で、ネーミングなどにも工夫が必要だということですが、今の事業成長担保権という名前には問題があるかもしれないということだと思います。その辺をもう少し具体的に、どういう問題とか考えていらっしゃるのか、お伺いしたいです。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは、日商の山内さんから、まずお願いしてもよろしいですか。

【山内委員】
 御質問ありがとうございます。本制度の検討に当たって、弊所会員でABLを活用されている方々や動産担保を活用されている方々にヒアリングをしております。仮に事業成長担保のような制度が出来上がったときの実務への影響について聞いている中では、ABLも同様なのですが、このような登記が風評リスクに値するものではなく、一般的に活用されているという理解が進んでいれば良いのだと思います。しかし、このような形で登記をしたことによって、取引の相手先に信用不安のシグナルとして映ってしまうことが、事業者からは懸念されます。
 逆に、弊所におきましても金融機関の会員がいらっしゃいますが、事業成長担保権のようなものが入っている事業者と取引をしても大丈夫なのかというように、そもそもこの事業成長担保権自体がどのようなものなのかという理解が進まない中で、ABLにおける風評の状況を鑑みますと、使われない制度となってしまう可能性はあるのだろうと我々としては思っております。
 そうした懸念点が、広報によって払拭できるものなのかということを含めて、よく考えて設計して頂かないと、結局のところ事業者にとってはリスクが高くて使えない制度になりかねないことを配慮頂きたいという意見でございます。

【神田座長】
 ありがとうございます。
それでは2点目について、仁科さん、もしよろしければお願いしたいのですが。

【仁科オブザーバー】
 こちらは同じお話にはなってしまいますが、現在の債権譲渡登記などでは、登記されたこと自体がその取引先とか信用調査機関とか、ネガティブな受け止め方をされてしまうと、こうした信用不安の発生につながりかねないということで、実態としてお客様から嫌がられるといったようなケースもございます。
 これは、担保としては不動産が主流という中で、それ以外のものまで担保に入れないと資金調達できないのかといったようなイメージとか、もしくは債権者が債権保全に走っているというような悪いイメージが根づいてしまうこともあるのかもしれません。
 なので、今回、この事業成長担保権については、この事業全部を担保に入れないと、というようなネガティブなイメージではなくて、もっと前向きな受け止め方がされやすいように、登記のされ方、ここの担保設定というところの出し方についての何か工夫が必要ではないかと思った次第でございます。一番は利用者が増えることで安心感が広がっていけば、そうしたものはなくなっていくのかと思いますが、こちらの記載については、そのようなイメージでございました。

【神田座長】
 ありがとうございます。星先生、よろしいですか。

【星委員】
 はい、よく分かりました。
 早い段階で、この制度は信用できる会社が使うものだということを分かって頂くというのが、重要だろうと思います。その意味で、最初の幾つかの実例というのが重要になると思いました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 日本では、何か担保に入れてお金を借りるともう悪くなっているのではないかと思われるという、信じにくい話ではあるのですが。ただ新制度なので、今、星先生が最後におっしゃったように、最初の広報が上手くいくとよいと私も感じました。
 それでは次にチャットを入れて頂いております伊藤委員、どうぞお願いいたします。

【伊藤委員】
 ありがとうございます。御丁寧な御説明、よく分かりました。
 それで質問は1つですが、今イメージの話をされていて、質問ではないのですが、合格させるための制度なのか、落とすための制度なのか、よく面接とかもそうですけど、何か日本の文化でどうしてもマイナスに行きやすいような気がしてしまうので、これは、前回お話しさせて頂いたように、むやみやたらに企業を守る必要はないのですが、本当にやろうとしている、そこの見極めの目利きのところも重要ですけど、本当にこれからさらに成長しようと思っている企業は助けるべきだと思いますから、ぜひそういう意味の前向きな文化というのを大切にしていける制度になるきっかけになれば良いと思っています。
 質問が1つですけど、これは金融機関を代表している2名の方に対してになるのか、それか事務局のほうになるのか分からないのですが。たしか金融機関の担当者が最大6年は同じ企業を担当して良いという話を以前聞いたかと思うのですが、とは言っても実際、金融機関さんは3年ぐらいで交代させていっているような気がします。長くても。そのリレーションシップ、要はその企業に対してパートナーとして共に成長、つらいときも良いときも、という話の中で、もしも6年マックス来たときに、その企業が勝負をかけるために、この担保権を使用しようと思ったときに、担当者を外してしまうのですか。それともそれは別の何かルールを設定していくのですか。
 逆に担当者が変わることで上手くいかなくなるケースというのが出てくるのかと想像するのですが、その辺は金融機関さん並びに事務局はどのようなイメージを持っているかという質問です。よろしくお願いします。

【神田座長】
 ありがとうございました。
 なかなか難しい質問だと思いますけど、日比野さんと仁科さん、もしお答え頂ければ、何かあればということで、順番にお聞きしてもよろしいですか。日比野さん。

【日比野オブザーバー】
 日比野でございます。御質問ありがとうございます。今、確たるイメージというものを私は持ち合わせているわけではなく、また、銀行によっても体制というのは違っているところがあろうかと思いますが、一般論としては、一番お客様を知っている担当が、事業成長担保制度を使うとなった瞬間に担当から外れるというのはやや考えづらいのではないかと思います。お客様をよく知っている者が、融資を実現をさせるために努力する担当になるというのが自然ではないかと考えた次第です。
以上でございます。

【神田座長】
 ありがとうございます。
仁科さん、何かございますか。

【仁科オブザーバー】
 状況によって一概には言えないところとは思いますが、その勝負をかけなきゃいけないときといったようなところが、本当にその会社を左右するようなところの場合に、その担当者一人でそれを背負ってやっていくというよりは、支店一丸となって支店長以下、複数そのラインというものがありますので、基本的にはその中でやっていくのかとも思いますし、
 また、地方銀行の場合は、それほど全国にという組織ではございませんので、仮に異動した後であっても、またそんなに距離がなくというか、また、そういう場面で柔軟に引継ぎができるような対応もできたりすることがあるとは思いますので、そうしたことで、そこで人が代わったことによって、その会社がおかしくなってしまうということは絶対に起こらないというふうにやっていると思います。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
事務局も聞かれているようですけど、何かあれば。

【大来信用制度参事官】
 それについては、今の2団体からお答えがあったとおりだと思います。
 1点補足ですが、資料3の1ページ目注3のとおり、2019年に監督指針の改正等をしており、人事ローテーションに係る記載等、行き過ぎたルール・ベースとなって、金融機関の人的投資や態勢構築に係る創意工夫を妨げていた規定を見直しております。
以上でございます。

【神田座長】
 ありがとうございました。伊藤社長、よろしいですか。

【伊藤委員】
 何となく分かりやすい、分かりづらい。要は、企業を応援するためにはそこは柔軟に金融庁さんも考えているという感じでよろしいですか。

【大来信用制度参事官】
 さようでございます。

【伊藤委員】
 ありがとうございます。以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは、次にチャットを頂いている大西委員、どうぞお願いいたします。

【大西委員】
 フロンティア・マネジメントの大西です。よろしくお願いします。御説明ありがとうございます。
 私は横浜銀行様の御説明の中で質問させて頂きたいのですが、この中で事業承継に係るファイナンスという記載があります。御案内のとおり、事業承継の課題というのは、今後ますます増えていく中で、後継者不在企業の場合のバイアウトファイナンスの場合、すなわちM&Aが発生した場合のファイナンス、これももちろん事業成長担保権は使われると思います。これに加えて従業員承継の場合は創業家ではない方が経営者になる場合であるため、個人保証を回避することが事業承継を円滑に進めるために大変重要になりますが、この場合に、事業成長担保権を設定して、個人保証によらないファイナンスに切り替えることは難しいでしょうか。
 ここには書かれていないのですが、恐らくM&Aみたいな資本移動取引もないので、既存の担保権が既についている中での担保権設定となり、なかなか現実的には難しいのか、それとも相応に考えられるのかという点につき、実務的な御意見を頂ければと思います。

【神田座長】
 ありがとうございます。
仁科さん、いかがでしょうか。

【仁科オブザーバー】
 確かにおっしゃるとおり、そうしたケースはあると思いますし、また、従業員の方が新しく経営をしていくといった場合に、個人保証の問題というのは多分出てくる話でございます。その際にその方を保証というのは、従来でいうと、こちらの会社イコール社長といったところでは、なかなか難しいところもあったかもしれないのですが、ここで改めてその事業性に着目をして、その将来性を評価することができれば、これを利用して、そうした個人保証から切り離すといった場合も当然出てくると思います。
 これはそうした場合を一つのきっかけとして、改めてその会社の将来性であるとか、事業性を評価していく、そんな制度にもなるのかと思います。

【大西委員】
 ありがとうございます。よく分かりました。

【神田座長】
 ありがとうございました。それでは、次に堀内委員、どうぞお願いします。

【堀内委員】
 ゴードン・ブラザーズの堀内です。よろしくお願いします。
 事業承継は今、大西先生がおっしゃっていましたが、一つの良いパターンで、今日たまたまさっきオリックスによる3,000億の事業承継買収が発表されていました。こんな巨額の案件は珍しいと思いますが、こういうのはLBOと同じで、すごくぴったりとはまるかと思います。もし、レバレッジを使うのであれば、事業成長担保権がぴったりとはまるかと思うのですが、その対極にあるのがスタートアップだと思います。
 質問としては、金融機関の両行にお伺いしたいのですが、ここでは使えるというふうにはなっているのかと思うのですが、実際問題として普通の一般企業に対する与信基準をそのまま適用すると、ベンチャー企業の特徴である、設立後、日が浅かったりとか、規模が小さかったりとか、また赤字であったりとか、そういうのが引っかかってくると思うので、別基準を作って、できれば何か枠みたいな、要は聖域というか、別枠にするような対応が必要になるのではないかと考えます。
 私が以前、20年ぐらい前ですが、アメリカでDIPファイナンスをやったときは、当時、開示債権を減らすというのが銀行の目標になっていまして、これに逆行する行為であったので、開示債権額を何百億という枠を社内的に取って、一定の基準を満たす案件であれば、やるというやり方をしました。別枠扱いにしないと、今までやったことがなかったので難しいという話であったのでそうしました。
 今までスタートアップ企業に融資をやっていれば良いのですけど、これからということになると、一般企業向けの基準を適用して、普通にやると採り上げが難しいのではないかと思われます。その辺りについては、別基準で枠取りをするようなアイデアについてはどう思われますか。

【神田座長】
 ありがとうございます。
それは日比野さんと仁科さん、もし御発言頂ければ、日比野さんからいかがでしょうか。

【日比野オブザーバー】
 みずほ銀行の日比野でございます。御質問ありがとうございます。
 今おっしゃって頂いたのは、社内的にそういう枠組みを準備して推進するということかと理解をいたしました。そのようなやり方を行っていくというのは、一つの考え方として当然あろうかと思います。かつ、ただ同時に、もし実際にこの制度が導入されるとしますと、そういう枠組みということのみならず、例えばその審査サイドにおいても、そのような知見をちゃんと蓄積できるような担当ラインを整備するとか、そうしたものに合わせたリスク管理と一体でそのような運用ができていくことということかと考えました。
以上でございます。

【神田座長】
 ありがとうございます。
仁科さん、いかがでしょうか。

【仁科オブザーバー】
 枠というのはなかなかあれかもしれないのですが、普通にやると難しいというのは、局面によって当然あろうかと思いますし、また当然、スタートの時点で、いきなり上手くいくというわけではございませんので、そうした場面も多く想定されると思います。
 そうした場合に、例えばその会社様のほうで立てた事業計画であるとか、そうしたもので一定のところまでは赤字をもともと見込んでいて、そこから下振れることもあるとは思いますが、そうしたものも許容できる範囲というのをある程度見た上で、その期中管理のところで、どこまでそれが予定どおりにいっているかといったところを見ながら、どちらかというと自己査定とかといったところの範疇ではありますが、その辺の基準みたいなものを見直したりとか、新しく検討したりするようなことで対応できるようにしていくという工夫はあり得るのかとは思います。
 これも各行によってやり方は違うところはあると思いますが、先ほどの評価のガイドラインみたいな話ともつながるかもしれませんが、そうしたものができてくると違ってくるかとは思います。

【神田座長】
 ありがとうございます。
堀内さん、よろしいですか。

【堀内委員】
 ありがとうございました。

【神田座長】
 ありがとうございました。
それでは、チャットを頂いている順番で、次に井上委員、どうぞお願いします。

【井上委員】
 ありがとうございます。
井上です。御説明ありがとうございました。
 概ね、ユースケースとかメリットとか、あるいは問題意識とか課題とかいったところについて共有できているのかと思ったのですが、この後の議論の前提として、できるだけイメージをもう少し共有したいので、1点質問です。先ほど堀内委員からの御発言、御質問にも関わるところで、スタートアップといったときに、どういうものをイメージして議論するのが良いのかということに関わります。
 最初の安井様からの御説明の資料で言うと、3ページに「ある程度成功したスタートアップ」という表現がございます。確かに、本当の創業時となると、ヒストリカルデータも何もないので、一体どうやって事業性を評価するのだということになり、将来キャッシュフローを見るといっても、先ほどの「枠取り」みたいな特別なことをしない限りは、普通の事業性評価はなかなか難しかろうと思うので、そういうこともある程度考えて、ここに「ある程度成功したスタートアップ」という表現となっているのかと思いました。
 このイメージですけれど、その次の4ページに、「成長期のスタートアップは赤字で投資し続けることが多い」となっています。これはある意味、課題ということだと思うのですが、ここで例えば売上げや顧客ベースが拡大基調にあるということであれば、広告費とか販促費などがそれ以上のペースで増えているために赤字が続いているということであっても、これは言わばタイムラグの問題ですから、売上げや顧客ベースが広がっているところをベースに、「ある程度成功したスタートアップ」という評価がなされるのではないかと理解しているのですが、その理解で先ほどの御説明は良いでしょうかという点について御確認できればと思います。
よろしくお願いします。

【神田座長】
 ありがとうございます。
安井さん、お願いします。

【安井委員】
 ありがとうございます。まさにおっしゃるとおりです。スタートアップといっても、一定その予測ができて、将来のキャッシュフローの何かしら目算が立つとか、成長性が評価できるということにならないと、プレゼンテーションもできないと思っておりまして、今のおっしゃったような理解でよろしいかと思います。
 私が議論した中で一番イメージが早いと思ったのは、4ページの2つ目のポツにある、シリーズAの後で数億円ぐらいデットが取れると良いのではないかという指摘をされている方もありましたが、大きなイメージとしては、今の御質問のところに近いかと思います。
 赤字のところもおっしゃるとおりで、販促費なんかを除けば、しっかりそのキャッシュフローは見積もれるのだが、将来の成長のためということを考えると、赤字にむしろしているというような場面はすごく想定されるわけで、そうしたものをこの局面において評価して頂ける金融機関さんがいらっしゃると、より使いやすいものになるなという、そんなイメージでございます。
 ただこれも、全て使って頂くというよりは、局面ごとにキャッシュフローが立っているところでは使いたいという金融機関さんがいらっしゃっても良いと思いますし、今申し上げたような赤字みたいなケースも含めて考えて頂けるというようなところがあっても良いかと思いますし、全てにこの制度を使うなら、全部やらなきゃいけないということではないと思っております。

【神田座長】
 ありがとうございました。井上さん、よろしいですか。

【井上委員】
 ありがとうございます。よく分かりました。

【神田座長】
 ありがとうございました。では、次に沖野委員、どうぞお願いいたします。

【沖野委員】
 ありがとうございます。沖野でございます。発言をお願いしたときには2点をお伺いしたいと思っておりまして、1点目はしかし直前に出た事項です。
 スタートアップについてですが、特に経団連の安井様から、ある程度成長してから、あるいはある程度成功したスタートアップであれば使えるのではないかという点について、融資者の側から見ると、まさにある程度の実績といったことがないと評価がしにくいのではないかというのは予測がつくのですが、事業者のサイドから見ても、最初というのはなかなか、これは適しないなと思われる事情があるのかどうかというのをお伺いしたいと思っておりました。先ほどの話ですと、ヒストリーがないとプレゼンテーションもできないということだと、それはむしろ使えると良いし、使いたいが、現実問題としては難しいのではないかということのように伺いました。
 それとも、そうではなくて、事業者としてもう少し別な事由があって、最初からということはあまり望ましくないのかという、もしそういう点があるのであれば教えて頂ければと思います。
 2点目は、これが最後ですが、全銀協のみずほ銀行の日比野様に対してですが、プレゼンテーションの中で、出口のところ、実行段階のところについてスライドの4ですが、2つ目の項目としまして、設定者との合意を前提に柔軟かつスピーディーな事業の移転、許認可の承継等を実現できると、制度の利便性の向上に資するという点でございます。
 設定者との合意を前提に行うということになれば、まさに任意ベースで対応できそうですが、ここでおっしゃっているのは、制度として何か簡易な実行手続というようなものを想定されているのか。そうするとその場合に、どういうことがあればとお考えなのか。また簡易な実行というわけではないが、任意に全てやっていくのだが、それでもこの辺りの特別な規律があればということが想定されているのだということかもしれず、いずれにしても、例えばどういうことがあればとお考えかというのを、もし具体的にあれば教えて頂ければと思います。以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。1点目は安井さん、いかがでしょうか。

【安井委員】
 ありがとうございます。既存の金融機関様の考え方にある程度しっかりはまるようにといいますか、かみ合うようにということを考えると、おっしゃるとおりかと思います。ただ、ある程度成長したところでの事例が積み重なってくることで、広がっていくという可能性はもちろんあり得るのかと思っておりまして、そうした期待は持てると思います。
 ただ、その際に、より懸念になりそうだと思うことは、これは別に成長した後でも一緒ですが、より早い段階で、事業に担保を設定してしまってということだと、事業判断上、金融機関さんの意向を伺ったりとか制約を受けたりということの意義というところですか、事業判断上の重要さというか制約を受ける度合いが相対的に高い可能性はあるのではないかという声は少し聞いていまして。性質的にはもう少し後のほうが、今のところはなじむと見られているのかと思っております。

【神田座長】
 ありがとうございます。2点目について日比野さん、いかがでしょうか。

【日比野オブザーバー】
 御質問ありがとうございます。書かせて頂いたとおり、この点については、その許認可等の承継について、何かしらもう少し確度の高い法制度としての裏づけがあればありがたいと思ったのと、あともう1点は、事業の譲渡ということですので、会社法手続の中で、全部を省略することは難しいとしても、何らかの制度設計の中で、そのような会社法の手続を少し簡略、あるいは迅速に進めることができれば良いのではないかということを考えておりました。以上でございます。

【神田座長】
 ありがとうございます。沖野さん、よろしいですか。

【沖野委員】
 はい、ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは、まだまだ御質問等もあるかとは思うのですが、時間の関係もございますので、大変恐縮ですが、次に進ませて頂けますか。4人の方々には大変貴重な御発表といいますか、御説明を頂きまして、誠にありがとうございました。
 それでは、次に進ませて頂いて、事務局からの説明をまずお願いします。大来さん、よろしくお願いします。

【大来信用制度参事官】
 それでは、資料3の12ページ以降を御覧ください。前回積み残しとなった論点6から10でございます。
 
 13ページ目を御覧ください。論点6-1、設定者の管理処分権限についてですが、これを通常の事業活動の範囲内に置いて処分をする権限を有することとしてはどうか。当該範囲を超える取引であっても、担保権者の同意がある場合には有効としてはどうかということを記載させて頂いております。
 論点6-2でございますが、仮に権限外の取引が行われた場合の取引の相手方ですが、そのように範囲を超えた取引であること、あるいは担保権者の同意がないことについて、善意であるような相手方は保護することとしてはどうかと記載してございます。
 論点7でございます。他の債権者による強制執行等との関係でございますが、14ページをおめくり頂きまして、「(ⅰ)配当参加」はできないこととしつつ、第三者異議の訴えにつきましては、その差押対象財産が設定者の事業の継続に不可欠なものである場合などについて、提起できることとしてはどうかという方向性を記載させて頂いております。
 
 15ページ以降、実行手続でございます。まず論点8、「⑧実行手続の基本的な性格」ですが、「(ⅱ)実行手続開始決定の効果」については、公告がされ、全ての債権者への弁済が停止されます。ただし、「先順位の担保権者による当該担保権の実行手続については停止をさせない」こととしてはどうかとしております。
 
 16ページにお進み頂きまして、管財人でございますが、下のほうの表でございます。裁判所によって管財人が選任され、その選任が、権限のところですが、事業の経営、それから財産の管理処分をする権利を完全に専属させることとしてはどうか。
 それから換価ですが、これは裁判所の許可を要することとして、事業の一体としての売却、その他個別の財産の任意売却等、どのような方法によるかは、管財人の善管注意義務に照らして相当な方法により行うこととしてはどうかとの方向性をお示ししております。
 その下の責任ですが、管財人は、利害関係人に対して善管注意義務を負うこととし、それを担保権者のみに対して負うのではなく、利害関係人に対して広く負うとの方向性を記載させて頂いております。
 それから「(iv)換価代金の配当」でございますが、17ページの一番下、実施者は管財人とし、配当参加ができる者として事業成長担保権者と、それに劣後する担保権者に限ることとしてはどうかとの方向性を記載しております。
 
 18ページにお進み頂きまして、「(ⅴ)簡易な実行手続」を設けてはどうかということで、管財人は設けるものの、例えば公告は不要とする、あるいは全ての債権者への弁済は停止されない、個別財産に対する強制執行等の制限等は行わない形で債務者の信用事業価値の棄損の少ない手続として設けてはどうかということをお示ししております。
 
 19ページにお進み頂きまして、論点9です。「⑨実行手続における優先関係」でございます。「(ⅰ)実行手続開始後の原因により生じた費用」のうち、事業の継続に要するような費用については、共益的なものとして、最優先・随時弁済としてはどうか。
「(ⅱ)実行手続開始前の原因により生じた債権」であっても、例えば源泉徴収所得税等、あるいは使用人の給料等について、共益的な性質を有するということとしてはどうかとしております。
 それから、「(ⅲ)実行手続開始前の原因により生じた債権」で、随時弁済することが事業価値の維持向上に資するものについて、裁判所の判断で一定のものについて、最優先・随時弁済とするということとしてはどうかということ。
 それから(ⅳ)といたしまして、(ⅰ)から(ⅲ)でこぼれ落ちる一般債権者等の保護の観点から、2つのアプローチを書いており、一つは実務上、現在破産手続などにおいて、別除権の目的財産が任意に売却されたときに、一定額を財団に組み入れるというプラクティスがあり、そのようなアプローチということと、一番下のところ、「他方で」でございますが、他の債権者の保護をより強く図るという政策的な目的を踏まえて、(ⅰ)~(ⅲ)で支払いを得られなかったような債権についても、配当等を得られるようなことを制度的に設けるという2つのアプローチを記載してございます。
 
 それから21ページにお進み頂きまして、論点10、「⑩倒産処理手続との関係」でございますが、倒産処理手続において、事業成長担保権は別除権、あるいは更生担保権として扱うこととしてはどうか。そして「(ⅰ)破産手続との関係」ですが、事業成長担保権と併存を認めると。ただ、重複あるいは抵触といったようなことを回避するための調整を図ってはどうかという方向性を記載してございます。
 
 23ページに飛んで頂きまして、「(ⅱ)民事再生手続等の関係」でございます。併存場面は限られるとは思われますが、仮に事業成長担保権の実行手続を開始している場合に、民事再生手続の開始決定自体は可能としつつ、手続の進行をすることができないこととしてはどうかという方向を示しております。
 それから「(ⅲ)会社更生手続との関係」では、事業成長担保権者は更生担保権者として扱われるということとしてはどうか。「(ⅳ)倒産手続開始後の事業成長担保権の効力等」については、倒産手続開始後の設定者が取得した財産についても及ぶこととしてはどうかということを記載してございます。
 
 最後に24ページで、「また」以下が少し特殊な論点でございますが、会社更生手続が開始しているときに、更生会社にDIPファイナンスがつきますと、それは共益債権となって、更生担保権である事業成長担保権に優先するわけですが、仮に牽連破産になった場合に、財団再建になってしまうということではなく、別除権たる事業成長担保権に優先するような共益債権性を与えるということによって、このDIPファイナンスを優先するというようなpriming lien的なものを一部入れてはどうかということを御提案させて頂いております。
 
 以上、論点6から論点10でございまして、資料4に、御参考ですが、一覧として、紙としてお配りしておりますので、御参照ください。
私からは以上でございます。

【神田座長】
 どうも御説明ありがとうございました。それではメンバーの皆様に討議をお願いしたいのですが、今日は主に論点6から10までを念頭に置きますけど、もちろん相互に関連しますので、必要に応じて6より前の、前回の部分に言及して頂いても結構かと思います。
 本日、沖野先生が途中退席と伺っていますが、もしお時間があれば最初に、御発言があれば頂きたいと思いますけど、いかがですか。

【沖野委員】
 ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、少し確認というか、教えて頂きたいこともございますので、全般的に、基本的には結構かと思うのですが、幾つかイメージがつかめないところがありますので、確認させてください。
 一つは、他の一般の債権者による強制執行ですとか、それから劣後する担保権者による実行がかかったときの権能ですが、確かに配当に入りますと、結局全て事業成長担保権者のほうに回ることになって、止まってしまうという可能性があるので、配当には入れないが、事業が回っていくために支障があるような場合には、それをコントロールするために異議が出せると、そういう立てつけだと理解しました。
 そのときに、この後どうなるかということですが、それで実行がかかったとか強制執行がかかった財産というものが、事業の遂行に必要であるということで、異議を出し、強制執行が不許となったときに、当該債権者や権利者のその後の権利実行ですが、それは、その財産については不許ということであるので、他の財産について、強制執行や担保権実行、担保権実行は担保権の目的ではないので難しいのかと思うのですが、そういうことが想定されているという理解でよろしいでしょうか。具体的にどうなるのかということです。
 それから2つ目が、担保権実行のところですが、まず法的な裁判による実行のときに、特に優先関係と配当の関係が少し分かりにくい気がいたしました。有責関係のところで書いてあるのは、結局、随時弁済をしていくかという話と、さらに、随時弁済はされないもののために一定額を残すか、その基準をどうするかという話と伺いました。
 他方で、担保があるようなものについては、優先するものはどんどん実行させて、劣後する担保権者とこの事業成長担保権者は、換価金から管財人によって配当を受ける。換価金というのは恐らく事業全体を譲渡したその換価金ということが想定されていると思うのですが、かつ、一般の債権者はそこには入ってこられなくて、そこによる配当は破産手続によると書かれています。
 これらの関係がどういうことになるのかというのが、非常に分かりにくいように思いました。例えば、カーブアウト的に用意される財産は、相変わらず管財人がそこは配当して払うことになるのか。そうすると、破産手続によって配当するわけではなくて、その部分は管財人が配当するということになりそうですし。全体の流れというものが、あるいは恐らくこれは書き方として、実行のときに、企業担保と比べたときにどう違うかという部分と、それか優先関係としては随時弁済等の話が書かれているので、その書き方のために分かりにくくなっているかと思うのですが。やや、どのような流れ、例えば一般債権者としてはどういうことで弁済や解消が図られるのか。
 それから、事業が譲渡されると、今度は債務の引受けの話も出てきますので、その債務引受けとの関係もどうなるのかということの整理が必要で、代表的な場合でも良いのですが、少しイメージを出して頂いたほうが議論がしやすいのではないかと思いました。
 それからもう一つ、簡易な実行についてです。先ほど実は日比野様にお伺いしたときにもこれが念頭にあったのですが、そのときのお話は、許認可の承継の話と、会社法の幾つかの要件のところで特別扱いはできないかということだったのですが、今回出されている簡易な実行のところは、公告がされないということと、いろいろな権利行使が止まらないという形になっています。
 基本的には全部粛々と支払いをしながら売却などへつなげていくということかと思うのですが、そうすると、簡易な実行の特徴というのはどこにあるのかということでして、裁判所が管財人は選任するということでしょうか。そこだけ裁判所がコントロールをして、それに対して適切なことがなければ、監督権限を発動させるとか、そういう、後ろにそこだけがついているのだけど、あとはもうその下で、通常に事業売却したりということをやっていくと、そういうイメージでよろしいのでしょうか。
 時間を取って恐縮ですが、その辺りをもしよろしければ少しイメージを教えて頂ければと思います。以上です。

【神田座長】
 ありがとうございました。事務局よりよろしいですか。

【大来信用制度参事官】
 御質問頂きまして、ありがとうございます。
 まず1点目の論点7のところで、御理解のとおり、仮に第三者異議の訴えが認められ、財産に対する強制執行等が停止された場合でも、他の財産に強制執行等をかけることが禁止されるわけではないと考えております。後の強制執行等が認められるかは、基本的には改めて裁判所が判断をするということかと思っております。
 それから、2点目の配当優先関係、そしてその優先関係に1から4までのカテゴリーがあるのと、それから配当の中で別途やっていくものとの関係が非常に分かりにくいという御指摘を頂きました。基本的には、先生が2点目の御質問の前段で整理頂いて、大変ありがとうございます。その整理と私どもの理解は同じではないかと思っておりますが、カーブアウトを設けるか設けないか、その内容をどうするかといったようなところは、いろいろ併記をしていることからも察して頂けるように、まだ詳細が現段階では固まり切っていない段階で御討議頂いていることも関係しているかと思っております。
 御指摘頂きましたので、この辺りのイメージ、あるいは事例を念頭に、どのような整理ができ、どのような資料を後日お示しできるか、よく検討してみたいと思っております。
 それから、簡易なところは、冒頭に管財人だけ選んで、あとはもう任意とそんなに変わりないのかというところにつきましては、18ページの一番下の2行で「なお」ということで、実行手続開始の申立てや管財人、配当手続については、簡易な実行手続においても変更の必要性は存在しないと考えられるので、フルの手続1から、1、3、4と同様とすることが考えられるということを記載しておりまして、イメージとしては、どちらかというとこの矢羽根3つにあるようなところだけが、ムード的にというか、そこだけが簡易になるというようなイメージで考えてございます。
 玉川から補足がございます。

【玉川室長】
 2点ほど追加させて頂ければと思います。
 カーブアウトを設けるかについては両論併記としおりますが、資料の17ページを御覧頂きますと、一番下の四角で、実行手続における配当に参加できる者のところで、一般債権者等への配当については破産手続が開始した場合において、同破産手続内で行うものとするということで、前回御提案させて頂いています。そのため、仮にその後順位担保権者も含めて全てその配当を行えた後でなお残余財産がある場合には、それは一旦設定者に戻って、そのまま破産手続が続けば、そこでお支払いすることになると思いますし。
 一方、仮にカーブアウトで一定割合をその制度的に取り分けるということであれば、取り分けられた金銭につきましては、破産手続のほうで配当を行うということになるかと思います。
 それに関連いたしまして、23ページのところで、実行手続が終わった後、破産手続に上手く接続するのかどうかというところも、一応論点としては御紹介をさせて頂いておりまして、破産手続が開始しない場合に、例えば職権によるその回収を、破産手続の回収を制度として設けるかどうかとか、その辺りについても、もし御指摘等があれば頂ければと思います。
 また、事業譲渡の場合に債務も別途スポンサーに引き継がれた場合については、恐らく契約の相手方の同意を取って、免責的債務引受けが行われたということになるかと思いますので、その場合には、設定者に対する債権というのは、設定者から見る債務ですが、債権というのは消滅するので、当該債権者が担保権者であれば実行手続における配当の対象から外れるということになりますし、一般債権者であればその後の破産手続における配当の対象から外れるということかと思います。

【神田座長】
 ありがとうございます。沖野さん、よろしいですか。

【沖野委員】
 ありがとうございました。1点目については、結局、基本的には実行等も強制執行もできるが、本当に要所要所だけ排除するということだと理解しました。
 それから実行については、財産があるかという問題があるかもしれませんが、基本的にもう破産とセットで想定されているということかと理解をしました。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは、ほかに御発言頂ける方はチャット欄に入れて頂ければと思います。既に入れて頂いておりますが、大西委員、どうぞお願いいたします。

【大西委員】
 私は実行のところで2点ほど発言させて頂きます。
 まず18ページの簡易な実行手続ですが、これは非常に利便性が高い制度だと思っております。事業成長担保権の実行は、原則として、先ほどの日比野さんの御発言にもありましたとおり、事業者と担保権者が協力して円滑に行うのが原則です。そういう中で、なるべくスピーディーにできる状況を考えることが重要であり、また、この簡易な手続では随時弁済が想定されているため、それによって事業価値が維持できることから、その点においても非常に有効な制度だと思います。
 それで、この制度の中で一つ提案があるのですが、例えば民事再生においても管理型とDIP型の手続きがあるように、今回の制度でも、管財人ではなく、社長がそのままの立場で事業譲渡等の手続ができる方法は採りえないでしょうか。申立代理人がついて手続きを行うことにはなるのですが、DIP型による簡易な実行手続ができる仕組みもあったほうが良いと思います。
 特に管財人がつきますと、事業譲渡の取引がなされるまでの間、例えば3か月又は半年の間に、いろいろな事業上の取引をすることになりますが、その際、社長ではなくて管財人が取引の相手方になるとすると、顧客との関係では、どうしても、公告がされてなくても信用毀損が生じる可能性があるように思います。DIP型手続きが選択できれば、社長がそのままの立場で事業上の取引をすることができるので、事業価値維持という意味で、良い制度になると思います。最終的にこのDIP型を許容するかは裁判所の判断だと思うのですが、社長がそのままの立場を継続するDIP型の手続についても御検討頂ければと思います。
 それから2点目は、ここに記載はないのですが、また、法制審議会のほうでは採用されないとの結論になったのですが、裁判所が絡まない私的実行の手続を設ける余地はないのかと思っております。というのは、もちろん簡易な実行手続によって一定程度スムーズに実行手続きを行うことも可能ですが、事業者と担保権者が合意して迅速に事業譲渡を実施する場合は、裁判所も絡まずに、ただ先ほどのお話にありました株主総会手続が要らないとか、もしくはその免許の承継面でのメリットを伴って行える私的な実行プロセスがあると実務的によいと思います。
 これが私的実行という形式を採るのか、それとも事業成長担保権付きの事業譲渡の場合に先ほどの特典が付与されるという方式なのか、形式面は別として、より使いやすい、しかも実行時に円滑に事業譲渡を行えるような制度設計が検討できないのか、という意見を申し上げたいと思います。以上です。

【神田座長】
 ありがとうございました。事務局は何かありますか。よろしいですか。それでは、どうもありがとうございました。では、チャットの順番で次は山本先生、どうぞお願いいたします。

【山本委員】
 ありがとうございます。私は前回欠席だったものですから、そのおかげで1点コメントと1点質問をさせて頂きたいのですが、コメントは全体的な点です。
 私自身は、この議論が始まった最初の段階では、果たしてこういう担保権を認めるようなニーズがどの程度あるのかということ、あるいは仮にニーズがあるとしても、本当に実現できるような制度が仕組めるのかどうかといったことについて、若干の疑義を持って議論を見つめていたのか、あるいは参加させて頂いていたところです。
 ただ、ずっと議論をされてきて、かなり煮詰まってきた状況の中で、前者については今日もいろいろお話がありましたが、様々な局面で使える場面があるのではないかというようなお話を実務家の方々から種々承って、私自身もそれについてかなり腑に落ちるというか、そう理解できるところがあるということを思うに至っております。
 それから制度の実現性についても、これは今日のペーパーに表れているように法制審議会等でも議論されてきて、それらのずっと議論の積み重ねの中でこの段階に至っていて、私から見てもかなりフィージビリティーがあるような制度構成ができてきている。さらに詰めるべき点はもちろんあると思いますが、何らかの制度ができるのではないかという実感というか、感触を持つに至っています。
 そういう意味では、全体としてこのような制度を引き続き検討していくということにはもちろん賛成であります。
 ただ、金融審議会の総会でも私自身発言しましたが、これは民事の基本法制との関係において、かなり大きな影響を伴うものであることは間違いのないところですので、引き続き様々な意見を聞いて頂いて、慎重な検討をして頂きたいという希望を持っているということです。
 以上が総論な話で、もう一つ質問というのは審議の進め方についての質問ですが、今日この、前回もそうだったと思いますが、本日も引き続き、本日討議頂きたい事項というこの資料3に基づいて議論しているということですが、今後の審議ですが、それは、この資料3にあるような論点をブレークダウンするような形で、より詳しい資料なりが出てきて、それについて個々的に議論をしていくというイメージで良いのかどうかということをお伺いしたい。
 それはこの後一応この資料3について私は若干の意見を申し上げたいと思うのですが、どの程度の意見を申し上げるのが適当なのか、どの程度の深いところに踏み込むのが適当なのかというのが今後の審議との関係があるものですから、その点も、第1回で恐らく御説明があったのだろうと思うのですが、欠席したものですから御説明頂ければ助かります。

【神田座長】
 大来さん、お願いします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。進め方について御質問頂きました。仮に委員の皆様から個々の論点について、より詳しいイメージをいただきたいとか、先ほどの沖野先生のように、今の書き方で分かりにくいという御指摘、御質問等があった場合、もう少し腑分けしてお示しすることは個々にはあり得るかと思います。
 ただこの全体について、ある程度の方向性を事務局提出資料で提案させて頂いた上で、御意見を頂き、最後取りまとめていく段階で、さらに条文に非常に近い粒度でお示しすることをイメージしているかというと、そこまで行くことはない、全体としての粒度はこのくらいかと思っております。
 3回目以降は、どちらかというと、前段に申し上げた御質問や御指摘を踏まえ、もう少し法律的に議論する必要があるところを1、2回個々に分かりやすく取り扱い、論点によっては、お立場によって、少し対立軸が出てくる論点があろうかと思いますので、その辺りの交通整理をし、進めていくことになるかと思っております。

【神田座長】
 よろしいでしょうか。

【山本委員】
 ありがとうございました。大体、審議のイメージは理解できたところです。それに基づいて、それぐらい若干この資料について気づいた点、相対的に大きな点だけのコメントになりますが。
 まず、先ほど来出ている簡易な実行手続のところです。このような簡易な、本体手続に比べて簡易な手続を作るというのは、例えば民事再生について簡易再生とかがあるように、そういう例はあると思いますし、ニーズがあるとすれば、そのようなものを作るということは特段、結構ではないかと思いますが。
 当然のことながら、手続というのは一つ全体の様々なところに関係するものでありますから、ある一つの制度を抜くということになると、それがどういうほかのところに影響を与えるのかということはかなり慎重な検討が必要だろうと思います。
 例えば、公告は不要とするといった場合、公告というものが持っている意味をどのように捉えるのかということを考えないと、簡単にそれが抜ける、抜くということにはならないと思いますので、その倒産手続等で議論されている公告の意味というものを考えながら、それを抜いた場合にほかのところへの影響をどういうふうに対応していくのかということを考える必要があると思いますし。
 全ての債権者への弁済は停止されないということで、これは字義どおり受け取ると、履行期が作る債務について次々と払っていくというイメージだろうと思うのですが、本当にそれで、他方ではしかし管財人を選ぶわけなので、管財人の善管注意義務という観点から、果たしてそれで常に大丈夫なのか。
 例えば金融債権のほうが先に履行期が来たときに、金融債権を取引債権よりも先に払うということだということになると思うのですが、そういうことで果たして大丈夫なのかどうかというようなところと、例外的なところを作るということであれば、その影響というのは、かなり慎重に考えていく必要があるのではないかというのが第1点です。
 2点目は、この20ページの(3)の裁判所の許可により共益費用とみなすものということで、ここに書かれてあるのは多分、会社更生法47条5項的な手続だが、それより少し緩めるということをイメージされているのかと伺いました。
 ただこの書きぶりだと、この会社更生法の、少額や著しい支障の要件というのは、最後これらを不要とすることが考えられるということになっていますが、揚げ足を取るようですが、これが不要だと、もう47条5項の要件は基本的にはなくなってしまうのだと思うのですよね。書かれたいことは、著しい支障ではなくて、単なる支障で良いとか、あるいは早期に弁済することが事業継続に必要であるという要件が書かれたいという趣旨かとも思ったのですが、その辺りを、その要件で良いかどうかも含めて、もう少し考える必要があるかと思いました。
 それから最後、倒産手続との関係については、大変よく整理されているように思います。この21ページ以下の表というのは、私自身いろいろなところで考えて思っていたことですが、それが非常に頭が整理された感じがして、基本的にはこういう方向でも考えるということかと思います。
 ただ細かいところを言いますと、例えば双方未履行双務契約について、破産手続と同様の規定、22ページの上から2段目の破産法53条の辺りのところですが、破産手続と同様の規定を設けることも考えられると。考えられることはそうかと思うのですが、この53条の規定というのは、平時の同時履行の抗弁権から出発している規定で、破産ではそれを担保することはなかなか難しいので、53条のような規定を設けているということだと思うのですが。
 この担保権実行手続の中で、その同時履行の抗弁権みたいなものはどのように扱われるのかというようなことを考えないと、同様の制度が必要かどうかというのは、直ちには言えないような気がしますし。もともと破産法が定めているこの解除の規定というのは、右側に、制約が必要だと書かれていて、これは確かにそういう面があるのだと思いますが、破産手続におけるこの解除というのは、比較法的にあまりに過剰な規制ではないかと言われているところがもともとあるところで。それと同じようなものを、この担保権実行手続の中に入れるということが、果たして望ましいのかどうかということも考えていく必要があるのではないかと思いました。
 そのほか、細かな点はいろいろありますが、今、先ほどの参事官の御説明で、基本的には大きなところというか、気づいたところを御指摘させて頂きました。以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。事務局、どうぞ。

【大来信用制度参事官】
 各論点について非常に深い御指摘を頂きまして、大変ありがとうございます。それぞれ重い御指摘だと思いますので、既存制度の制度趣旨等を良く踏まえて検討を深めてまいりたいと思います。
 2点目に御指摘頂いた20ページのところは、確かにかぎ括弧の中に「支障」まで入れてしまったので、そこは引用のところ、「著しい」という趣旨のことが言いたかったのだと思いますので、そこは日本語の問題かと思っております。

【神田座長】
 それでは山本先生、どうもありがとうございました。チャットの順番で、次が志甫委員、どうぞお願いいたします。

【志甫委員】
 志甫と申します。どうぞよろしくお願いいたします。実務の観点から実行の場面に関しまして、2点ほどコメントをさせて頂ければと思います。
 まず全体といたしましては、これまで話が出ておりますとおり、この事業成長担保は、債務者と担保権者との協力によって、協調関係の中で事業譲渡される場合が多くなってくるだろうと考えております。したがいまして、ここで言う実行というのはどのような場面かというと、債務者の協力が得られない場合において、やむを得ず強制的に行う場合を念頭に置くのが良いのではないかと考えております。
 実務の感覚ですが、現在の倒産事業再生の局面において、どのように事業譲渡を遂行していくのか申し上げますと、誰から選任されているのか、誰に対して義務を負うのかというところが重要ではないかと思います。すなわち、「裁判所から選任されて、担保権者のみに対する注意義務ではなくて、全ての利害関係者に対して注意義務を負う、そうした立場の管財人である。」ということをもって、協力を得ることができない債務者、または取引先等をまとめて事業譲渡を遂行していくことが実務上、行われているところかと思います。
 その観点で申し上げますと、現在提案頂いているものは、基本的には裁判所から選任される管財人が実行する、という内容になっており、先ほど来、お話に出ております、簡易な実行手続においても、管財人が選任されることになっています。簡易な点として、公告なし、債権者の弁済停止なし、すなわち商取引債権は支払って、ということで、金融債権者のみを対象とする現在の私的整理的なものかと思っておりますが、会社法の手続の簡略化や許認可の承継も早期に実現できるのであれば、意義のある制度なのだと思います。もっとも、公告がされないため、管理処分権が管財人にうつったということを、取引相手が把握する機会を確保していくことが課題になってくるのかとは思いました。大西先生からも同種の御指摘があったところかと思います。
 これに対しまして、資料3の脚注の69の任意実行のところについて、今後、必要に応じての検討ということを記載して頂いております。ここにおける任意実行の内容次第かとは思いますが、仮に、「債務者の協力を得ることができない場面というところにおいて、裁判所を介することなく、すなわち担保権者が選任をした立場の方が事業譲渡を実行する。」ということであれば、先ほど申し上げたような観点から、難しい面があると思っております。法制審において議論されている部会資料においても、そうした観点を踏まえ、裁判外の実行手続は設けないという説明になっており(部会資料24の第25の8(30頁))、私としては、そうした結論も相当ではないかと考えております。
 ただし、大西先生がおっしゃられた、私的実行的なところのニーズというのが仮にあったとすればというところでございますが、2つおっしゃっていた、私的実行とするのか、それとも事業担保付きの事業譲渡の特則という2つがあり得るのではないかとおっしゃったかと思いますが、後者のところであれば、それはあり得ると感じました。以上が1点目でございます。
 もう一つは、事業の一部を対象とする実行というところでございまして、これも法制審においては部会資料で否定的に解されていたところかと思っております(部会資料24の第25の2(28頁))。これが金融庁の案でどうなっているのかというのは、必ずしも読み切れなかったというところでございましたので、確認、御教示を頂きたいという趣旨でございます。
 実務上、会社が優良部門と非優良部門があり、優良部門のみを事業譲渡するという場合は相応にあるところでございます。これは事業自体が複数あって、優良事業と、非優良事業に分かれている場合もありますし、また、同一の事業であったとしても、例えば優良の工場または店舗と、非優良の工場、店舗などが分かれるということはそれもあるわけでありまして、そのうちの良いところだけを譲渡して高く売るということはあるわけです。
 しかしながら、その場合の譲渡対価はどうなるかというと、不採算事業、不採算工場などの清算の費用に使っていくということでございまして、その場合の費用については、原状回復費用ですとか、従業員の解雇の手当ですとか、または、仮に工場に土壌汚染があった場合の除去費用などに使われるというところでございます。
 事業成長担保権の実行方法につきましては、資料3の16ページから17ページにかけまして、脚注のところで、裁判所の許可によって担保目的財産全体としての換価価値の増大と迅速かつ円滑な換価の必要性等を考慮して許否を判断するとある。この点について違和感はないところでございます。
 確認させて頂きたいのは、事業成長担保権の実行管財人、これが実行する場合の換価方法において、やむを得ず裁判所の許可を得て、事業の一部を譲渡とした場合において、残りが非優良の事業が残ってしまうといった場合において、その清算費用、これは優良事業の譲渡代金のほうから支払って、その残りをもって事業成長担保権における配当については実施されるということで良いのか。
 すなわち、優良部門の譲渡代金から配当してしまって、残りの不良事業のみが何か破産管財人が処理するということではない、と理解しておるところでございますが、そのような理解で良いのかということについて御教示を頂ければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【神田座長】
 ありがとうございます。2点目はいかがですか。

【大来信用制度参事官】
 2点目の御質問は、多分実務も含めて非常に難しく、極めてケース・バイ・ケースになっていくのだろうと思います。まさに17ページの注61に考え方は記載させて頂いておりまして、どの範囲の財産や契約上の地位などを事業譲渡の対象にするのか、既存債務を譲受人に承継させるのか、その範囲をどう画するかというような問題について、裁判所はその目的財産全体としての換価価値を、ある意味でマキシマイズすると。
 あとは迅速性とか円滑性、それから債権者間の公平といったようなものを見て、許否を判断するということになりますので、非常にマイナスの大きいものを後に残してということは、一般的に申し上げればなかなか認められないだろうと思いますが。そのGoodとBadの切り分け方がどこであれば最後、裁判所が認められるかというのは、まさにここに書いてあるような要素に照らして、ケースごとに判断をされていくということになるのだろうと思ってございます。

【志甫委員】
 ありがとうございます。もし可能でしたら、そのGood事業を売却した場合における譲渡代金のその後の処理につきまして、Bad事業の清算なりの費用をまずそこから支払って、その後に配当手続に入るのか、というところを教えて頂きたかったのですが。

【玉川室長】
 事業成長担保権の実行においては、基本的に担保目的になっている財産全てについて換価をして頂くことを考えております。ただ換価の方法につきましては、脚注61にありますとおり、どの部分は事業を総体として売却して、どの部分は個別財産として売却するのが、全体として全ての利害関係者から見て良いのか悪いのかという観点から、裁判所の監督の下で管財人に適切に換価を進めて頂くということかと考えております。

【志甫委員】
 ありがとうございました。全ての財産が基本的に換価の対象であって、その方法について裁判所の監督の下で、許可を得て、適正に進めていく、ということが予定されていると理解いたしました。どうもありがとうございます。

【神田座長】
 ありがとうございました。それでは、次へ進ませて頂きまして、次が菅野委員、どうぞお願いいたします。

【菅野委員】
 菅野です。よろしくお願いいたします。何点かコメントさせて頂ければと思います。
 まず、志甫先生からも御指摘のあった担保権実行手続で管財人が選任されたときの、この管財人の善管注意義務の対象というのが、事業成長担保権者だけではなくて、利害関係人全般というのは非常に大事なポイントかと思っています。これがあるから、管財人に対する信頼だとか公平・公正性というのが保たれると思っております。
 他方で、事業成長担保権が使われるためには、手続負担があまり重くないものである必要があるということ。管財人が善管注意義務を利害関係人に対して負って、ある程度その信頼感の下で実行手続を進めることを前提にするのであれば、さらにいろんな観点で厳格にしていくことを避けるという方向性はあると思っています。
 例えば、前回のワーキング・グループでも指摘のあったような労働者保護という観点も、管財人がこの利害関係人の中に労働債権者も入ることで全体のバランスを取る、そのため手続のある程度の簡略化を図るというのは一つの考え方としてあるのではないかと思っています。
 そうすると管財人にどういう人が選定されるかは、実務的には非常に重要になると思いますので、これが実際に運用されるときには、裁判所と、この管財人はどういう属性、適性の方がなるのかということは、十分な協議というか運用の確立が必要だと思っております。
 次に、簡易な実行手続について、これは必須というか、非常に重要ではないかと思っております。配当の開始まで全ての支払いが停止するという通常パターンか、随時弁済かは大きな違いであります。
 設計としては、事業成長保権者が申立てをするときに、簡易な実行方法を希望するのか、またはそうではない通常型を希望するのかを選択して申立てをすると思っておりまして、その形式を取るのであれば、これは今後の議論だと思うのですが、大西先生がおっしゃるような、申立て時に事業成長担保権者が自らDIP型を希望する。それはある程度、債務者側との事前調整をした前提だと思うのですが、そういう方法もあり得るのではと思っておりました。
 というのは、単なる任意実行というか、債務者、担保権者間の合意で事業譲渡するという道ももちろんあって、それが一番早期に事業価値を実現できると思うのですが、合意形成に時間がかかるとか、合意はできそうだが、裁判所の関与を担保権者が求めるケースなど様々あるかと思うので、オプションの多い設計にすることが考えられる。
 それから、倒産手続、民事再生手続や会社更生手続との関係の整理はないです。ただ、これはどういう場面でこういうことが起こり得るのかというと、先に事業成長担保権の実行手続が先行している場面になるので、例えば民事再生でいうと、債務者側が対抗的に申立てをする、もしくは、他の債権者が対抗的に申立てをする場面が想定されるのでは。
 ですから、この担保権の実行中止を命ずることが相当であるような場合はどういう場合なのか。対抗的な場面で、担保権の実行中止を命じて、民事再生が先行するというか優先するような場面というのが、どういう場合なのか。DIP型の民事再生を想定しているというよりは、管理型の民事再生をイメージしているのではないかと思っておりますので、具体的にどういうケースでこの競合が生じるのかはもう少し検討したいと思っています。
 会社更生手続も同様でして、これについても対抗的な場面で用いられるのかと思っておりますので、そういう点や、それからある程度、事業成長担保権の実行が進んだような段階で、この会社更生の申立てがなされた場合に、それまで検討していたスポンサー候補との協議がどう引き継がれるのかや、すでに事業成長担保権の実行のための管財人が選任されていることと、会社更生手続の管財人との調整といった、実務面の部分も、具体的な場面を想定をして、詰めていくことになると思っております。私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。特によろしいですかね。
それでは、どうもありがとうございました。次は井上委員、どうぞお願いいたします。

【井上委員】
 ありがとうございます。井上です。幾つかコメント差し上げたいと思います。
 まず、最初に、論点6-2の権限外の取引が行われた場合の効果ですが、この場合に、取引の安全を確保するために、善意の第三者を保護するというルールを提案頂いています。これは考慮すべきファクターではあるのですが、非常に重要な財産が処分された場合などが典型的ですが、権限外の処分が有効になるということは、別のほうから見れば、事業担保権の空洞化が起こってしまうということなので、その点で、善意者を全て保護すべきなのかと考えております。
 無過失まで求めるのはやや過剰だという感じもしますが、悪意とほぼ同視できるような重過失がある場合については、第三者の保護よりも事業担保権の空洞化を回避することを優先することが十分考えられるのではないかと思います。
 もう一つ考えなければいけないのは、以前にも少し議論になったと思うのですが、設定者の商業登記簿だけで公示をするというのが簡便な担保融資実務を実現するためには非常に重要だというのは理解しておりますが、不動産、あるいは特許などの非常に重要なコア資産について、不動産登記、あるいは特許登録に公示を要すると考えるのか、あるいはウォーニング的な効果を期待して登記することもできるという制度にするのか、いろいろ考え方はあり得ると思うのですが、そこについてどういう立場を取るかにもよると思います。
 事業成長担保について、およそ不動産登記に何も表示がないのか、あるいはそこに何らかの表示がされる、あるいは表示することができるのかによっても、ここで善意者を全て保護すべきなのか、善意であっても重過失であれば保護しないとすべきなのかなどといったことは変わってくるのかと思いました。いずれしてもここは要検討かと思っております。
 次が実行ですが、通常の実行方法については、先ほどの御説明だと企業担保法と基本的に同じように、全ての弁済が停止され、15ページによると、先順位担保権者による担保権の実行手続だけは止めないと、こういう御説明でした。これに対し、簡易な実行手続が18ページにあって、弁済を停止されないことになっているのですが、これは両極端ではないかという感じが印象としてはございます。
 私がもともと持っておりましたイメージは、担保権実行手続ではあるが、倒産手続そのものではないので、基本的には、弁済を全部一律に禁止することをできるだけ回避して、とりわけ事業継続に必要な支払いは随時行っていくというものです。それによって事業価値が毀損しないようにしつつ、実行を進めていくのが良いのではないかと思っておりました反面、事業担保権に劣後する劣後債権者、あるいは無担保の金融債権者との関係については、事業担保権者の優先回収を確保することが非常に重要で、弁済期が来たからといって、無担保の金融債権者に弁済することは想定しておりませんでした。その意味では、通常の手続としてここに挙げられている一律の弁済停止は厳し過ぎる反面、18ページに挙げられている簡易な実行手続は緩過ぎるという感じがいたしました。
 商取引債権については、通常の実行手続でも、支払いを認めるべきではないかと思う反面、繰返しになりますが、それ以外の債権、とりわけ無担保の金融債権などについては、たとえ簡易な実行手続であっても、そうしたものまで払われることにはならないようにすべきではないかという印象を受けました。以上が実行についてです。
 最後に倒産についてですが、これは先ほど来、民事再生手続等の関係でこの事業成長担保権の実行がどういう関係にあるのかという議論がございましたが、別除権として扱うことを前提にすると、基本的には民事再生が始まっても止まらず、原則としては実行手続がそのまま進むということになります。ただ、民事再生を申し立てた上で、中止命令を取ることができれば、それによって実行手続は止まって、別除権協定の交渉をしながら、再生手続が進むという理解をしております。
 その使い分けについては、私もあまりイメージが湧かないと思っておったのですが、一つ考えられるとすると、例えば倒産直前に否認すべき取引をしていた場合に、否認によって財団を増やす必要がある場合などは、実行手続を止めて、民事再生手続の中で否認手続を進めることもあり得ると思います。
 いずれしても、民事再生手続が進む場合が一定程度あるとすると、実行中止命令が出るときの要件として、どのような条件が整えば事業成長担保権者に不当な不利益が生じないことを確保できるのか、といった命令の発令要件を問題にすべきと思っております。以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
次は連合の村上委員、どうぞお願いいたします。

【村上委員】
 ありがとうございます。村上です。御質問を2点と意見を5点申し上げます。
 質問ですが、12ページの設定者の権限の部分です。1つは「その設定者の権限の範囲を超える(通常の事業活動の範囲を超える)」の具体的なイメージがつかめないので、もう少し教えて頂きたいと思います。
 また2点目ですが、その下のほうに記載がありますが、通常の営業の範囲を超える取引の効力について集合動産譲渡担保では無効とする、企業担保ではあらゆる取引が有効という中で、なぜ事業成長担保権では通常の事業活動の範囲を超える取引については原則無効とするのか、その理由を教えて頂きたいと思います。この点は次回以降で結構ですので、お願いいたします。
 次に意見ですが、同じページの2段落目のところで、通常の事業の範囲内であるかが不明確な取引について、事業成長担保権者の同意を求めることは、むしろ設定者と担保権者のコミュニケーションを促し、という記載がございます。この点、事業成長担保権は、労働契約も含めて事業全体も対象にする非常に強い担保権であります。そのため、取引の相手方の保護という観点だけでなく、ステークホルダーとしての労働者の保護の観点から、労働組合などとのコミュニケーションを法制度に組み込むこととして頂きたいと思っております。
 前回、また今回も、手続は軽くしたいという御意見がありましたが、軽くして良いものと、そうしてはならないものがあると考えます。事業活動を実際に担っているのは誰なのかという点をぜひお考え頂きたいと思います。従業員が不安や不満を抱える状態ではなく、この仕事を頑張ろう、会社をよくしていこうというモチベーションの高い状態であるからこそ、事業が上手くいくのではないでしょうか。そうやって働いてもらう、努力してもらうために、従業員の理解と協力を得るということは、重い手続であるとか制約ではなく、むしろ率先して行うべきことと考えます。
 先ほど来、本日は事業譲渡という話も出てきておりますが、PMIの観点からもこうしたことは非常に重要と考えます。会社と労働組合、従業員とのコミュニケーションは、労働者保護のためだけではなく、事業を円滑に進めていくためにも必須だと思います。ぜひ法制度の中で位置づけて頂きたいと考えます。
 次に2点目の意見ですが、17ページに実行手続というのがございます。この点、17ページの表の中で、管財人の権限「換価」について、「労働組合等から意見聴取が求められていることから、こうした規定を参考にしたプロセスを求めることが考えられる」とございます。この点については、ぜひ設けて頂きたいと思います。
 3点目の意見ですが、注の62において、労働契約の移転に当たり、特定承継を前提とすることが記載されておりますが、包括的に担保にするということであれば、第1回において川橋様からアメリカの事例の御紹介もありましたように、事業を包括的に譲渡すべきであり、労働契約も包括承継とすべきと考えております。その上で特定承継が前提ということであれば、労働契約承継法と同様の手続は必須と考えます。
 あと、意見の4点目と5点目ですが、これは実行手続における優先関係の部分で、資料19ページの辺りです。実行手続開始前の原因により生じた債権と実行手続開始後の原因により生じた債権の部分でございます。いずれについても、労働債権については優先的な弁済が必須と考えておりますので、ぜひお願いしたいと思います。以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。御質問の部分は次回でよろしいですか。それでは次回、御質問の部分はお答えさせて頂きたいと思います。ありがとうございました。
 それでは、次は大澤委員、どうぞお願いいたします。

【大澤委員】
 大澤でございます。まず、事業成長担保権の実行手続のところについて申し上げたいと思います。日比野委員等からもお話がありましたとおり、そもそも事業成長担保、リレーションバンキングということで、病めるときも健やかなときもでしょうか、銀行が寄り添ってその成長を後押しするというものですから、実行といっても、本来は任意であるべきと。その中での事業譲渡というのが本則であり、多分ほとんどがその事由になるのだろうと考えております。
 一方で、実行手続が入るということになりますと、これはもう菅野委員もたしかおっしゃられましたが、設定者と担保権者のほうでの対立構造ということもある程度見られている部分があるかとは思っております。ですので、この簡易と今、通常というふうにいろんなメニューをそろえて頂いておりまして、それがメニューとしてどこまでというのはございますが、任意が原則である以上、先ほど志甫委員からお話がありましたように、脚注69のような形で、要は裁判外で、かつ、設定者の意に反するものを裁判外で実行するという手続は、この簡易あるいはこの通常の実行手続というものがあれば、もはや不要ではないかと思っております。
 その意味で、簡易な実行手続等はもう少しお考えを頂ければと思っておりますが、この簡易な実行手続のほうに関して申し上げると、本来、弁済が停止されないと書いておられますが、一旦管財人がついて、譲渡に至るまでの間に、弁済を停止しないと全額弁済ができないような場合というのも十分あり得るかというのが後で分かることもあろうかと思いますが、そうしたときは、管財人からの何らか裁判所への意見具申等をして職権で通常手続の実行手続に移行するというようなことをお考えという、そういう制度設計も含めて考えておられるという理解でよろしいでしょうか、というところがまず質問としてございます。
 それから、実行手続における次に優先関係のところでございますが、こちらもなかなか難しいお話だとは思っております。20ページの裁判所の許可による共益の費用というところについては、金融債権もそこに本当に含めるのかという問題はあって、事業価値を維持するのであれば商取引債権についての必要性を吟味した上で、適時払っていくと、全額払っていくというようなことを考えたいとは思っています。
 ただ法制度のデザインとして、そこまで上手く切り分けができるものなのか。あるいは商取引債権者であっても、逆に力のある商取引債権者であれば、自分たちの商取引債権を一部、金融のような形で分割弁済に切り替えるということもやったりすることもございます。そうした商取引債権者が保護されないのかというところになると、なかなか難しいとも思っておりますので、金融債権と商取引債権、今申し上げている金融債権というのは事業成長担保権以外のものですが、を上手く切り分けられるのかというのは少しまだまだ検討が必要かと感じております。
 次に、倒産処理手続との関係について申し上げます。こちらは21ページから破産手続との関係というのがございますが、基本的に、まずその否認権の行使については制約する必要なしと22ページにございます。こちらの、そもそも事業成長担保権そのものが否認の対象になることもございますので、事務局案のとおり制約する必要はないと考えております。
 双方未履行双務契約の扱いはなかなか難しいとは思ってはおりますが、先ほど山本委員からもお話がありましたとおり、さらに検討が必要、検討課題としてまだ残っているというのが私の認識でございます。
 最後に、倒産手続開始後の事業成長担保権の効力等について少しコメントさせて頂ければと思います。こちらは23ページから24ページにありまして、この事業成長担保権の効力については、倒産手続開始後に事業成長担保権者が設定した、ごめんなさい、設定者が取得した財政についても及ぶものとすることが考えられると書いておられまして。効力が及ぶというのは確かにそのとおりかとは思いますが、一方で、法制審でも議論がございましたが、倒産手続後に発生した、そうした資産について、事業担保権の効力は及ぶものとしつつ、その優先権を行使できるというのは倒産手続開始時の事業価値と考える考え方もまたあるのかと思っております。
 評価の問題になりますので、そこで会社の評価がなされた上で、もともと事業を把握しているというような性格もございますので、事業箇所の限度での優先権という考え方も検討に値するのではないかと考えました。以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。御質問がありましたが、いかがですか。

【大来信用制度参事官】
 簡易実行について、簡易実行で手続を始めつつ、御指摘のように、弁済を停止しないと全額弁済ができないような場合も含めた一定の要請を受け、通常の手続に後から移行することを念頭に置き、検討しているところでございます。
 その際の手続が、最初はどう絡むかとか管財人の職権でやるのか等々、詳細のところは、引き続きよく検討したいと思ってございます。そういう意味で、現時点で、詰まり切っているわけではなく、申し訳ございません。

【神田座長】
 ありがとうございました。
 それから、先生のおっしゃった一番最後のところは、おっしゃるとおりの考え方もあると思いますので、両方の考え方があるのかということで、また、さらに御議論頂ければと思います。ありがとうございました。
 それで、次は堀内委員、どうぞお願いします。

【堀内委員】
 堀内です。2つありまして、1点は手続面の話ですが、先ほど村上先生からおっしゃられたお話ですが、手続とか制度として労働組合に通知をしたり、何か説明に行ったりするというのは、私は不要だと思います。個別に、事案ごとに必要であれば当然行くとかいうのはあるのかと思いますが、例えば担保権実行時には必ず行かないといけないという制度にするというのは、制度を使いにくくするし、使うことを、そもそも担保権を実行することをやめて、そのまま法的整理に持っていく動機を担保権者が与えるように思います。そうすると、より雇用が失われるリスクもあるかと思うので、一番良いのは任意でやるのが一番良いのですが、できれば私的整理のうちに会社ごと売るということを担保権者に動機づけるには、あまり担保権実行時に負担があることを制度として組み込むというのは反対です。
 もう一つ、しつこい質問ですけど、priming lienに関しては、ここでは法律の考え方からして会社更生というのに限っていますが、私は、民事再生でも入れても良いのではないかと考えています。
仮に会社更生のときだけpriming lienがあって、DIPファイナンスで調達しやすいということになったとします。現在、管理型、DIP型でおのおの民事再生と会社更生の4通りが理論的にあって、一般的にはDIP型民事再生と管理型の普通の会社更生が多いというか、会社更生はあまりそもそも多くないので、民事再生でDIP型というのが多いかとは思います。
 理論的には全部の資産が担保に入っている場合、担保権者を仮に拘束するとしたら、会社更生が正攻法になるのかと思うので、そのときに、DIPファイナンスも入りやすいですよとなると、会社更生が増えていくのでしょうか。そうすると経営権も失うし、会社更生の場合は、株式はほぼ全てのケースで全部承服されるケースが多いと思われます。
 だから民事再生であるDIP型によって経営権にしがみつくというか、経営権を維持するということもなくなるし、民事再生だったら、たまにある株式が残るという、何か旧和議法から来ているような取扱いというのもなくなるということになってしまいます。ここは皆様への質問なのですが、会社更生の方だけDIPファイナンスが取りやすいというケースが法律になると、どういったケースがトレンドになるのでしょうか。
 今は東京地裁民事8部とか東京地裁民事20部とか民事再生と会社更生が分かれなくなったので、どういうトレンドになるのかというのが読めないというか、どれが正しいのか分からないというのが正直な感想です。以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。あっという間に予定の時間を過ぎてしまっておりまして、大変恐縮ですが、今日はこの辺りとさせて頂ければと思います。
 最後の堀内さんの御指摘も大変重要な点かとは思うのですが、実務に詳しい弁護士の先生方もいらっしゃいますので、また次回以降、適宜教えて頂ければと思います。
 それでは、大変活発な御議論を頂きまして、また、多数の貴重な御指摘を頂きまして、ありがとうございました。本日頂きました御説明や御意見を踏まえ、今後どの点を議論して頂いたらよいかを事務局で整理して頂いて、その上で皆様方にまた引き続きの御議論をして、議論を深めて頂きたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 最後に事務局から連絡事項等がございましたらお願いします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。次回のワーキング・グループの日時につきましては、皆様の御都合を踏まえた上で、後日事務局より御案内させて頂きます。よろしくお願いいたします。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。予定の時間を超過して申し訳ありませんでした。以上をもちまして、本日のワーキング・グループを終了とさせて頂きます。どうもありがとうございました。
 
 

(以 上)

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企画市場局総務課信用制度参事官室(内線:3579、3535)

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