金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(第3回) 議事録

  • 1.日時:

    令和4年12月13日(火曜日)10時00分~12時00分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室

【神田座長】
 ただいまから金融審議会の事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループの第3回目の会合を開催いたします。皆様方には大変お忙しいところ本日も御参加頂きまして誠にありがとうございます。
 本日の会合ですが、本日も前回に引き続き、オンライン会議を併用した開催とし、会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせて頂きます。また、議事録は、通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させて頂く予定ですので、よろしくお願い申し上げます。

 早速ですが、議事に移ります。本日の議事ですが、まず事務局から、第1回目と第2回目の会合においてメンバーの皆様方から頂いた御意見を御紹介させて頂きます。次に、今回の追加的な論点について説明をして頂きます。その後で、皆様方に討議をお願いするという流れで進めさせて頂きます。
 それでは早速ですが、事務局からの説明をお願いします。大来さん、よろしくお願いします。

【大来信用制度参事官】
 事務局から本日の事務局提出資料についての御説明に入らせて頂きたいと思います。
 3ページから5ページ目におきまして、第1回、第2回で頂いた主な意見のレジュメを掲載させて頂いております。
 3ページ目の上半分、総論的なところで頂いている御議論、御意見をまとめさせて頂いております。有形資産をもたないスタートアップ等が競争力をつけるための新しい資金調達手段であって重要である、早期に制度化すべきであるといった御意見。それから、企業のニーズを聞いて設計すべきである、事業単位で設定も考えるべきである、手続負担が重い制度では利用されないということ。それから、制度利用が好印象となるようPRなどが大事である。それから、民事基本法制への影響が大きいので、様々な意見をくんで検討を進めるべきである。それから、労働契約や労働協約、労使関係がどのように位置づけられるか、労働債権は弁済されるのかについて懸念がある。労働関係の論点を中心に丁寧に時間をかけて検討すべきという御意見。それから、金融機関側の評価・審査実務などの研鑽も必要という御意見。それから、ベンチャーデットについて、主にシリーズAの後で調達するような赤字状態のスタートアップもスコープに入ってくるのではないか。これを使えるからといって、経営者の持分維持を前面に出すということにならないようにしてほしいといったような御意見を頂いております。
 
 それで、3ページ目の下半分から4ページ目、5ページ目は、各論において頂いた御意見を掲載させて頂いております。適宜、後ほど御覧頂ければと思います。各論点について、これからまさに本日御討議頂く7ページ以降でそれぞれの論点をさらにカバーしますし、また、第4回目以降でもこの各論について、今日からこぼれ落ちる論点については御討議を頂くことにしておりますので、この3ページ目の後半と4ページ目、5ページ目を詳細に読むことは、本日は省略をさせて頂きます。

 それでは、7ページにお進み頂きまして、7ページ以降、第1回、第2回で各論について頂いた御指摘、御疑問、御質問等を踏まえて、1スライド1論点で追加的に議論を深めて頂く論点を御紹介しております。
 まず7ページ目、論点ア「事業単位での事業成長担保権の設定について」、そのような事業単位の設定を認めるニーズを御指摘頂いていたところでございます。まず、その方法として、現行の枠組み、制度の中でも割とストレートフォワードにできるものとして、一番左側、青い色塗りをしておりますが、分社化という方法があるのだろうと。一方でこれについては、分社化に伴って手続面のコストといったようなところが指摘されているところでございます。右側2つに机上の演習ということで、参考1自己信託をする方法、あるいは、参考2対象事業以外の事業を除く方法を記載しております。
 課題といたしましては、参考1、参考2いずれも、B事業の財産とそれ以外の財産を明確に区別できるのか、間接部門などはどのように切り分けるかといった論点が生じ得るのではないか。それから、現在の公示の枠組みの中でB事業だけに事業成長担保権が貼られているということをどう公示していくかといったような課題を提起させて頂いております。参考2は、それに加えまして、負の価値を持つ事業または財産が容易に除外されるのではないかといったような御指摘があるところでございまして、こうしたようなことをまとめて、青いところ、参考1、参考2含めてどのようにお考えになるかというスライドでございます。

 8ページ目、論点イでございます。極度額については、前回までの事務局資料で任意設定事項としてはどうかということを記載させて頂きましたが、任意設定事項とすることと、設定された極度額について公示が必要か必要でないかといったようなことは別途検討するべきという御意見を頂いたところでございます。下の表を御覧頂きますと、根抵当権ですと、担保目的財産である不動産の担保価値というのは相対的に安定をしており、後続の貸手はその極度額を見る。その情報の有用性、必要性が高いこともあって、公示がありとされております。一方で、根譲渡担保権については、担保価値が常に変動するということで、後続の貸手は担保目的財産の実態を調査した上で担保価値を評価することになる。そのため、極度額を公示する必要性は限定的ということもあり、公示はなしとなっております。
 こうした既存の制度を投影して事業成長担保権を考えた場合に、担保価値は常に変動するということで、後続の貸手は、担保目的財産である事業全体の実態をいずれにせよよく調査する必要があるのではないか。したがって、極度額の公示についてもなしとしてはどうかということを、2つ目の矢羽根の、システム構築にあたってのコストあるいは時間的な問題といったようなことと併せてどのようにお考えになるかという論点を提起させて頂いているところでございます。

 9ページにお進み頂きまして、論点ウでございます。事業成長担保権の設定者が有する個別の登記・登録制度のある個別財産に関する取引と第三者保護のあり方について、きめ細かく検討すべきという御指摘を頂いておりました。下の表にございますように、第三者に譲渡する場合、第三者に他の担保権を設定する場合、第三者に賃借権や用益物権等を設定する場合、あるいは、第三者から当該財産に強制執行がされた場合に分けて、この表の右側の中で検討をしております。いずれの場合におきましても、第三者は保護されるか、あるいは第三者の持ち得る予測可能性との関係でバランスは図られているのではないかという検討内容になってございまして、こうした財産に係る取引のリスクは、第三者というよりはむしろ事業成長担保権者側が負担をするような構成になっているということをお示ししております。
 一番下の注、そのようなこともございまして、下の2行でございますが、そうすると、むしろ事業成長担保権者側が弱過ぎることもかえって懸念されるというような御視点に立って、権限外の取引が行われた場合の善意者保護規定について、重過失の場合まで保護する必要はないのではないかといったような御指摘、あるいはそのようなリスク回避のために抵当権等を個別に設定すること自体は許容されるのではないかといったような御指摘もあるところでございます。

 10ページにお進み頂きまして、論点エ「通常の事業活動の範囲について」ということで、もう少し具体的にブレークダウンしてはどうかという御指摘があるところでございます。通常の事業活動の範囲外というのは、言い換えますと、2つ目の矢羽根ですが、事業価値の毀損など事業のリスクの変容させるような行為と考えるとすれば、下の表にございますように、(i)重要な財産の処分、あるいは(ⅱ)事業の全部又は重要な一部の譲渡といったような、取締役会や株主総会の決議事項とされているものについては、このように事業リスクを変容させる行為にあたるのであろうと。一方で、(ⅲ)廉価な財産処分になってくると、ケース・バイ・ケースで解釈や実務に委ねるということが考えられるのではないか。その表の少し上でございますが、いずれにせよその線引きが不明確な場合には、設定者と担保権者が話し合って、同意が要るか要らないかといったようなことを話し合うことでコミュニケーション、相互理解が深まるということも考えられるので、一定程度解釈に委ねるということが考えられますが、どのようにお考えになるかということを御討議頂ければと思っています。
 また、表の下の注でございますが、労働契約を含む契約上の地位、担保目的財産の範囲に含む趣旨は、裁判所による実行手続開始後において、管財人に事業の経営権等が専属することとすることにあるので、担保目的財産に含まれるのは、設定者(雇用者等)側の地位であって、相手方(労働者等)の側の地位ではないというふうに構成できるのではないか。そのため、平時における通常の事業活動の範囲という制約は、契約上の地位については及ばないと整理することが考えられるのではないかということを記載してございます。

 それから、11ページ、論点オでございます。簡易な実行手続を第1回、第2回と事務局ペーパーで御提案申し上げているところでございまして、その幾つかのアイテムについて、本則の実行に比べて緩和してはどうかということを御提起申し上げてまいりました。3の公告なしとすることについては、公告の趣旨を「利害関係人に権利行使の機会を与え不測の損害を防止すること」と考えれば、公告の代替として、例えば担保権が消除されるような者に対して通知をすることとしてはどうかということを提起してございます。
 下の(i)の最後の文章の最後のところですが、「このほか」としまして、管理処分権限の移転が管財人に対してなされるということとの関係をどのように考えるかという御指摘も頂いているところでございます。
 それから、上の表に戻りまして、5の弁済禁止効もなしということで御提示をしてきた訳ですが、全てについて本当に弁済して良いのか。一定の例えば金融債権などについて弁済しないということも簡易な実行といえどもあり得るのではないかという場合に、どのようにその範囲を画するかということについて、管財人の権限というか裁量の範囲内でそれを弁済しないということが許されるのかというアイデアと、別途何らかの法的な枠組みを設けて、例えば裁判所において弁済禁止の保全処分等を発出することができるというふうにすることとするかという両論を御提起させて頂いております。
 それから、表に戻りまして、6の強制執行等の停止についてもなしというふうに御提示申し上げてきたところでございますが、本当に停止しないこととしてよいか。下の(ⅲ)でございますが、特別の停止手段を設ける、あるいは実行手続開始後は、事業成長担保権者が強制執行に伴う配当参加ができるとすることによって、無剰余措置の対象とするといった対応が考えられるのではないかといったような論点を提起させて頂いておりまして、全体として、簡易な実行手続のあり方についてどのようにお考えになるか御討議頂ければと思っております。

 それから、12ページに進みまして、論点カ、随時弁済・一般債権者の取分確保のイメージについてということでございます。前回までの24ページにわたる資料に文章で書いておりましたが、実行開始から手続終結に至るまで各段階において、いろいろな考え方によっていろいろな人に対して払出しがなされていくというものについて分かりやすく整理をというお話がございまして、事務局として再整理をさせて頂いたものでございます。
 例えば商取引債権などでいいますと、(A)の(ⅲ)のようなところで、裁判所の許可によって共益費用化するもの。それから、(B)のようなところで、スポンサーに引き継がれていくような商取引債権等。それから、配当の段階で(C)の1というようなところで、何らかのカーブアウトをもし設けるのだとすれば、そこの中での取り分といったようなところが例えばこういう図にすると見てとれるのかなと考えているところでございます。

 それから、最後、13ページ、論点キといたしまして、双方未履行双務契約との関係ということでございます。事業成長担保権の実行手続が開始しますと、弁済禁止効が走るという整理にした場合、両債務の対等性が損なわれるとして、倒産手続のアナロジーで双方未履行双務契約について何らかの手当てが必要ではないかという論点を提起させて頂いたところですが、2つ目の矢羽根、「他方」ということで、管財人による弁済が禁止される結果、相手方も同時履行の抗弁権により弁済を拒絶することで対抗することも可能であり、特段の手当ては不要と整理することも考えられるのではないかという論点を提起させて頂いております。
 それから、3つ目の矢羽根と下の表の(ⅱ)でございますが、仮に事業成長担保権実行手続の中に双方未履行双務契約について履行あるいは解除について何らか枠組みを設けるとした場合に、それと同時並行することになった破産手続における管財人と実行手続の管財人の判断が異なった場合の調整のあり方をどうするかという論点が生じ得ます。これについて、破産管財人が実行手続管財人の同意を求めるという考え方と、そうした調整規定は不要で、実務に委ねて両者の協議に期待するという考え方と両論を記載させて頂いているところでございます。いずれにいたしましても、この双方未履行双務契約の扱い全般について御討議を頂ければと考えております。
 事務局からは以上でございます。

【神田座長】
 どうも御説明ありがとうございました。
 ただいまの説明を踏まえてメンバーの皆様方に討議をして頂きたいと思います。御説明にありました追加的な論点アからキまでですが、これらを中心に御発言を頂けるとありがたく思います。関係してほかの事柄に及んで頂いてももちろん結構です。本来であれば、追加的な論点を一つ一つ取り上げて議論すべきなのかもしれませんが、時間の制約もございますので、皆様方にはお気づきの点をどの点でも結構ですので、御発言頂ければと思います。
 いつものように、御発言して頂ける方には、オンライン会議システムのチャットに全員宛てに御自身のお名前を入力して送信して頂ければと思います。私のほうで確認をして、御指名をさせて頂きます。そうしましたら、名前をおっしゃった上で御発言をして頂ければと思います。
 それでは、どなたからでも結構でございますので、御発言頂きたいと思います。
 それでは、日商の山内委員、どうぞお願いいたします。

【山内委員】
 ありがとうございます。日本商工会議所の山内でございます。
論点ア「事業単位での事業成長担保権の設定について」につきまして、意見いたします。前回の審議会で申し上げたとおり、会社における全資産を担保目的物とする選択肢だけではなく、事業単位での担保権設定を可能とする方向性での制度設計を希望いたします。前回審議会の終了後、商工会議所会員企業の事業者や金融機関にもヒアリングを行いました。担保目的物として全資産しか選択肢がない場合、担保としての使い勝手が悪く、結局使われない制度となることを懸念する声がございました。
 事業単位で担保権を設定する方法として分社化が挙げられており、弊所におきましても、かねてよりこのような方法で担保権設定を行う議論はございました。分社化につきましては事業単位での担保権設定をするための一つの手段だと思っております。しかしながら、分社化にあたりましては、新設分割計画の策定や債権者異議手続、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に基づく従業員への通知などの手続が必要となります。分社化の実施にあたり、数か月は要するという声も聞いております。担保権設定時、また担保権の実行時のいずれの場合におきましても、分社化の手続を行う場合においては、多くの時間を要するため、スピーディーな判断が要求される経営の妨げになりかねないと懸念しております。
 分社化によって事業の範囲の確定を明確に行うことができるメリットに関しては、十分承知しております。今回、(参考1)、(参考2)のような形で、分社化以外で事業単位での担保権を設定する方法を例示して頂いております。やはり同一法人内において、事業の区分けをしっかり行い、債権・債務者間の緊密な連携の下に、各事業(A事業、B事業)のいずれかが仮に担保権実行されても円滑に対応できるような区分けの状態が保全されていることを確認する方向性を選択肢の一つとして残しておくべきと考えております。
 また、分社化以外の方法で事業単位の担保権を設定する上での課題として、負の価値を持つ事業または財産が容易に除外され得る点を挙げて頂いております。この点につきましては、1つの企業に収益性の高い事業と低い事業が併存する場合、収益性の高い事業だけを切り出したほうが企業トータル的に高評価となることもあり得ると会員事業者から確認しております。その場合、切分けができるのであれば、担保権としての評価が高くなるため、債権者、債務者双方にとってメリットとなるという意見もありますので、専門家の皆様には御検討頂きたいと思います。
 事業の切分けにおける具体的な方法、また、切分けをした場合の公示のあり方、担保権設定後の事業の切り分けの保全状況に対するモニタリングのあり方など、多くの課題があることは承知しております。しかし、事業者と金融機関双方が使いやすい制度にすることが大事だと思っておりますので、それぞれのニーズをくみ取って頂き、事業単位での担保権設定も一つの選択肢として残して頂けるよう前向きな検討を期待いたします。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
今日は早めに御退出とお伺いしています伊藤社長、もし御発言頂けるようでしたら、ここでお願いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。

【伊藤委員】
 ありがとうございます。
今、山内委員がおっしゃっていた、分社化であったり、事業単体での担保権設定の話なのですが、これは本当に理想的にとても良いと思うのですが、ここにこだわり過ぎてしまうがゆえにスピード感が落ちてしまったりするのが、この事業成長担保権が実際稼働するスピードが遅くなるのが心配かなと思います。
 それから、どのように切り分けていくのかなというのが、先ほど山内委員もおっしゃっていましたが、どこをどう切り分けると分社化されるのか。分社化だと逆に良いのでしょうが、事業をどのように切り分けていくのかなというのもすごく、私としてはまだビジョンが湧かないので、賛成とか反対とか言えないのですが。
 そもそもこの事業成長担保権というのは、私が捉えているのは、とても前向きな担保権であって、チャレンジしよう、勝負を賭けようと思っている事業者にとって使い勝手の良いシステムにしなければいけないので、例えば雇用の問題とかも、これは前向きな活用であれば、雇用も当然守りながらのチャレンジになると思うのです。資金繰りが苦しくなってこれを発動させるのではないというイメージが私は強いのですが、実際もちろんそのように使ってしまう人もいると思うのですが、最初のスタンスの取り方によっては、どのように構築していくほうが良いのかというのが少し変わっていくような気がします。
 以上です。ありがとうございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは、チャットを頂いている順番で、堀内委員、志甫委員の順で、堀内委員、どうぞお願いいたします。

【堀内委員】
 おはようございます。堀内です。
 今の点につきましては、分社化が望ましいというふうなのは皆さん方の多分共通だと思うのですが、あとは、それ以外の、本当の事業として担保権設定をどうするかということなのですが、アメリカでは、リングフェンスとかオブリゲーテッドグループという形で一部の事業のみにリコースできる融資があるのですが、これも結局は子会社群に対するものなので、本当の事業部門ということではないと思います。
 というのは、山内委員もおっしゃっていましたが、区分けが問題になってくると思います。会社組織になっていない事業部門の場合に、その事業部門に貸そうとすると、結局ここで言うB事業のBS、PL、キャッシュフローを担保権者にかなり頻度高く提示しないと融資を恐らく受けられないと思いますので、BS、PL、キャッシュフロー、それを作り出す作業、一事業部門だけでそれを完結するというのも結構面倒だということもあります。あと、対象事業からほかの事業へのキャッシュアウト、お金が出ていくというのは禁止されてしまいます。入ってくるのは良いかもしれないですが、出ていくのは禁止されると、こういうものもしっかりモニターしないといけなくなるということ等を考えると、分社化のほうがもしかしたら負担が少ないかもしれないなと考えます。この区分けの部分というのは、単純な資産であれば、例えば、売掛債権の一部を区分けするとかそういうのですと割と比較的簡単にできるのですが、人とかいろいろな共通部分がある会社組織において区分けをするというのは、借入人、担保権設定者のほうにも結構負担がかかると思います。つまり、担保権者が望むレベルの区分けが結構難しい。特に人的リソース等に限りのある中堅・中小企業だと厳しいのではないかと思うので、区分けができることを前提に参考1、2を認めることは制度的にできるかもしれないですが、実態面として使われることがあまりないのではないかなという気がいたしますので、本筋は分社化ではないかと考えます。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは次に、志甫委員、どうぞお願いいたします。

【志甫委員】
 志甫と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私も、今のアの点について、コメントさせて頂きます。今、堀内様からもあったコメントに重複するのですが、対象となる事業を分別する、設定時に分別をし、継続的にモニタリングしていくことは、債務者、担保権者双方において相応の負担になるのだろうと考えております。
 私が近時、破産管財人をやらせて頂いた案件で、自己信託の案件があったのですが、債権が信託に入っており、契約上は詳細な分別管理方法が定められていたのですが、実際には契約条項に従った分別管理が行われていない等して、信託財産の独立性が認められるか等が論点となり、和解的な解決をさせていただいた案件がありました。設定当初は、しっかり分別していこうと考えて契約条項を定められたとしても、やはり、継続的にこれを遵守していくのは大変なのだろうということです。事業単位で区分して担保権を設定するスキームにつきましても、必要十分な分別を継続してもコストに見合うのか、課題になろうかと思います。
 もう1点は、事務局の資料においても課題として記載して頂いております、負の価値を持つ財産などが容易に除外される懸念についてです。会社分割においても、当該事態は同様に生じ得るとしても、債権者や労働者といった利害関係人の保護手続が制度上、定められています。会社分割において債権者保護手続を要する場合には、スケジュールとして1か月程度はかかり、手続的なコストといえるとしても、効果との関係を考慮すれば、利害関係人保護の趣旨からやむを得ない面もあろうかと思います。事業成長担保権において、設定時の手続を簡便にするため、会社分割のような利害関係人との手続を定めることなく、他方で、事業単位での設定を可能として、結果的に負の資産を容易に除外できてしまうことは、やはり慎重にならざるを得ないと考えます。
 もともとの事業単位での設定の趣旨につきましては、前回山内様からも御説明を頂いており、ニーズがあることは理解をしており、何らかの解があれば良いとは思っておりますが、それを分社化以外の方法でやるというのは課題があるのではないかと考えております。
 どうもありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは続きまして、井上委員、どうぞお願いいたします。

【井上委員】
 ありがとうございます。井上です。
 今の点について、重なりますが、私も、B事業を分社化する方法以外に、参考1、参考2として挙げられている方法を認めるのはなかなか難しいのではないかと考えています。一つの理由は、もう御説明がありましたが、現在、事業成長担保権の公示については、X社の商業登記によることになっていて、分社化をすれば、その法人登記がある訳ですが、分社化しないとB事業だけについて事業成長担保が設定されたことを公示するすべがないという点です。
 その点は、何らかの制度的な手当てができるとしても、もう一つ、より大きな問題は、現在、倒産制度あるいは会計・税務も、基本的には法人単位で制度がつくられているということがあります。ですから、切分けをすることについて相当労力をかけてもなお、例えばB事業の労働者がB事業だけと契約をしている訳ではないし、A事業の労働者もA事業だけと契約している訳ではないので、A事業からのお金が足りなくなったときにA事業の労働者にはB事業からのお金を払わないとか、そういう切分けはそもそもできないわけです。商取引先も同じで、商取引債権者との関係でも、責任財産はやはり法人単位になっているので、切り分ける努力をしたとしても、そこには限界があると思います。
 その点については、信託を使えば、責任財産が一定程度法律上切分けできるとは思うのですが、それでもなお公示の問題が残りますし、モニタリングを含めてコストがむしろ高くなるのではないかというのは既に御指摘があったところで、私も、結論としては、担保設定時において分社化に一定程度コストをかけて、その後管理が容易になる方向を目指すべきではないかと思っております。
 アに議論が集中しているようですが、ついでにと申しますか、ウについても1点申し上げたいのですが、よろしいでしょうか。

【神田座長】
 もちろんです。ほかの論点についてもお願いします。

【井上委員】
 ウについては、これは第三者の保護のあり方として重要な問題であるということは認識しているのですが、前回も発言申し上げましたが、むしろ注のところが私は気になっております。事業成長担保権者に使われなくなるような担保にしてはならないという気持ちもございまして、設定者が事業成長担保権を設定していること自体は法人登記によって分かると思うのですが、現在のこの注によると、処分権限の範囲外であることについて譲受人が善意だと、担保権者としてはコア資産を失ってしまうことになる訳です。
 事業成長担保権を設定しているのだから、譲受人は重要な資産にあたるかどうかぐらいちゃんと調べるだろうということかもしれませんが、単に善意で保護されることになると、不注意な者が取引相手方だと、設定者は重要なコア資産を処分できてしまうことになるので、少なくとも重過失の場合も悪意と同様に扱うべきではないかと考えます。それだけで良いかはなかなか難しいところで、現在積み上げ方式で全資産担保を設定して対抗要件を備えているプラクティスからしますと、譲受人の主観を問わずにコア資産を守ることができることとの対比で、この事業成長担保が担保権者にとって魅力的に映るようにするために、重過失者を排除するだけでよいのかは要検討かなと思っております。
 一つの方法として、これも制度的なことで実現可能かどうか分からないのですが、事業成長担保権設定済会社であることを、例えば不動産登記の甲区欄の所有者名のところに付記登記をすることが、本来は法人登記と連動して自動的にできれば良いのですが、自動的でなくても、付記登記を申請することができれば、かなり低コストで譲受人にウォーニングすることができると思います。現在、注のところで、リスク回避のために抵当権を設定することが提案されていて、それも一つの考え方だと思いますが、抵当権の設定は登録免許税を含めてかなりコストがかかるので、それとの対比でもう少し簡易な、事業成長担保権のよさを生かすようなウォーニングの制度が出来ると、事実上、重要な資産については多くの場合は重過失ありということになって、担保権者としては使いやすい担保になるのではないかと思いました。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは続きまして、大澤委員、どうぞお願いいたします。

【大澤委員】
 大澤でございます。
 まず論点アにつきましては、もういろいろな委員の方々のお話がございましたが、私も事業単位での設定のニーズというものそのものには賛同はいたしますが、その手段といたしましては、今もう様々に挙がった公示とか、モニタリングコストとか、あるいは負の価値のところとか、そういった観点からもB社を分社化するという方法が合理的であろうと考えております。参考1、参考2として挙げられているものはなかなか、今までの議論にございましたとおり、いろいろな問題が解決できないのではないかなと考えております。
 それから、すみません、ばらばらと申し上げますが、論点ウにつきましては、まさに今、井上委員からお話がありましたとおり、主観的要件のところについてバランスを取ることが必要ではないかと考えております。私もここを、過失の有無というところまで行くと今度は重た過ぎるので、やはり重過失というところでバランスを取るべきではないかと考えております。
 確かに抵当権の設定等はコストがかかりますので、事業成長担保権という形でもしこうした商業登記簿謄本で簡易に全体に担保をつけたんだよということを公示するのだとすると、個別の抵当権への設定は、もちろん担保権者がそれはそれでよしとするならば良いのですが、そういうものをやらなければならないとなると、かなりコストという意味ではなかなか難しいかなと思っております。抵当権の設定の許容というところと、その設定の仕方として、今、井上委員から付記登記というようなお話もありましたが、何らかコスト削減ができるものかどうかというところも含めての検討課題かなと考えました。ただ、主観的要件に関してはやはり重過失というところでバランスを取れればよいかなと考えております。
 それから、すみません、論点オにつきまして、少しだけお話をさせて頂ければと思っております。論点オは、簡易な実行手続のあり方についてということで1から7まで各項目を挙げて頂いております。こちらは、簡易な実行と本則の実行というふうに2つにまた分かれておりますが、簡易な実行のほうに関しては、大まかに言えば、弁済禁止効はなしにしても、全額いろいろなものを弁済しながら、簡易に迅速に実行していくというようなイメージだと理解をしております。ただ、そういった意味で、だからこそ全額弁済が前提となるからこそ、公告のところについて、簡易な実行については公告をなしとして、ただ、消除される担保権者には個別に通知を取るというバランスをお取りになることを考えておられるのだと思います。
 利害関係人に対してそういった何らか権利行使の機会を与えるという意味での公告というところについては、全額弁済をするからこそ公告がなしというお話になるのだとも考えられるのですが、一方で5の弁済禁止効のところで、簡易な実行に係る要検討事項ということで、一部の債権、例えば無担保の金融債権等だと思いますが、弁済せずに事業の資金繰りを安定させること等は、管財人の権限の範囲内かということで、一部、何らか管財人の権限、あるいはこれは裁判所の許可を前提とするのかもしれませんが、弁済をしないようなことも想定するのだとすると、本当に公告がなくて良いのかという疑問はやはり残るところでもございます。
 また、そういったことを考えますと、簡易な実行という形で公告なし、弁済禁止効なしというふうにするという考え方ももちろん事務局案としては一つあり方だとは思うのですが、全部簡易な実行をやめて、本則の実行に取りまとめをして頂いて、ただ、弁済禁止効の穴開けというところをかなり調整することで全体のバランスを取るということも十分可能なのではないかと考えております。そういった意味で、簡易な実行と本則の実行、2つ走らせるべきかというところはなお検討の余地があると考えました。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは次に、大西委員、どうぞお願いいたします。

【大西委員】
 大西です。よろしくお願いします。
 論点アにつきましては、皆様の多数の意見と同じで、分社化でやるべきだと思っております。理由は重複しますので、割愛させて頂きます。
 論点オについてですが、私はこの簡易な実行手続というのは意味があると思っております。この簡易な実行がどういう場合に使われるかということを想定すると、通常の本則の実行と違って、会社の経営者も含めて今回の担保権実行に協力的な場合で、事業の取引に関する債務は通常どおり支払うことができるのですが、金融負債については止めなければ資金繰りが維持できないような場合が想定されます。このような場合は、通常の場合と同様に、私的整理で金融負債については先に調整をして、それからこの簡易の実行に移るというパターンが考えられると思います。
 前回の御説明にもありましたとおり、この簡易な実行手続が、例えば許認可の承継や株主総会決議が不要となるということになり、通常の事業譲渡と比べてそのような特典があるのであれば、それらを省略する必要性から簡易な実行手続を使うということは実務上十分にあり得ることだと思います。そして、そのような場合は、私的整理の中で債務調整がなされることが想定されるため、簡易な実行手続において、弁済禁止効、強制停止はなしという結論でよろしいのではないかと思っております。
 それからもう一つですが、簡易な実行のところに、手続実施主体として本則の実行と同じと書かれております。そして、本則の実行の中には、管財人でDIP型を含むとあるので、経営者が管財人になる場合も想定されているようですが、もう一つの類型として、ちょうど民事再生手続の場合と同じように、社長がそのまま経営者としての地位を維持しながら、申立人としてDIP型で手続を実施し、代理人弁護士が具体的な手続の実行を支援していくというスタイルの簡易の実行手続もあり得ると思っております。換言すれば、DIP型というのを、会社更生に近い管財人選任の類型だけでなく、民事再生のようなDIP型類型にてできるパターンもあって良いのではないかという考え方です。事業成長担保権における事業価値の維持が重要であると考える場合、やはり経営者が管財人になるということは非常に取引先等へのインパクトがありますので、経営者が社長のまま経営を継続する類型も事業価値維持のためには必要であると考えております。
 もう1点だけ、キについてコメントさせて頂きます。双方未履行双務契約の解除等についてということですが、解除した場合に、会社更生の場合ですと、解除した場合の一方の債権が更生債権としてカット対象になるということになりますので、今回も、双方未履行双務契約の解除規定を入れるとした場合、当該解除後の債権は一般債権になると思います。この場合、事業成長担保権の実行手続は倒産手続ではない上、そもそも双方未履行双務契約が存在すること自体事業価値に内在している部分であり、この部分は既に担保権者が把握している価値と考えられることからすると、双方未履行双務契約の解除権については認めずに、真ん中に書かれていますとおり、特段の手当ては不要という結論で進めるのがよろしいのかなと思っております。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは続きまして、連合の村上委員、どうぞお願いします。

【村上委員】
 ありがとうございます。
 論点アについて意見を申し上げたいと思います。ほかの先生方からも御意見がありましたが、この事業成長担保権というのは、事業全体を包括的に担保にして事業成長のための伴走支援を行うという御説明でしたが、この資料を拝見していると、事業単位での事業成長担保権の設定というのは、優良な事業のみ事業成長担保権を設定することが提案されているのではないかと思われまして、当初御説明のあった包括的とは大分異なる印象を持っているところです。この間、政府の各種の文書におきましても、事業成長担保権はスタートアップ等において利用しやすい制度として提案されているようでございますが、スタートアップ企業がこのように幾つもの事業を同時並行で行うということが普通なのかどうかということが疑問としてございます。
 その上で、今まで先生方から、分社化であれば、こうした方法もできるのではないか、法技術的な問題はないのではないかという御指摘がありまして、その点は確かであろうとは思います。ただ、だからそれでよいのかというところは疑問もございます。参考2の課題で示されておりますが、「負の価値をもつ事業又は財産が容易に除外され、費用が外部化される等の懸念が指摘される」とございます。分社化する方法においても、負の価値を持つ事業または財産を除外したいということの意図によって、分社化に対する圧力が強まるということも想定されるところです。そうしますと、分社化においても参考2と同様の課題が、設定前に出てくるということではないかと懸念しております。
 そうしますと、X社で働く人はA事業にもB事業にも異動する可能性がある訳ですが、ある時点でA事業かB事業に切り分けられるということになり、設定当初から採算、不採算の区別が行われてくるということになってしまいます。そういったことを促す制度ではないはずで、伊藤委員が最初に御指摘されましたように、この事業成長担保権はどのようなイメージでどういったものに活用していくのかというところについて根幹のイメージが変わってくるのではないかと思っており、その点を申し述べておきたいと思います。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは続きまして、水町委員、どうぞお願いします。

【水町委員】
 ありがとうございます。
論点エ、設定者の処分権限の問題について一言意見を述べさせて頂きます。資料10ページの一番下の注のところで、契約上の地位、労働契約上の地位について、担保目的財産に含まれるのは、設定者(雇用者等)の側の地位であって、相手方(労働者等)側の地位ではないとの説明がなされていますが、このように労働契約上の権利義務を担保目的財産として分けて考えることは、労働契約の本来の性質、さらには担保財産の実行、換価の際の労働契約の承継のあり方と相入れないのではないかという懸念があります。
 むしろここでは、期中における設定者の処分と担保権者の関与の問題として、そもそも労働条件や労使関係については、本来、使用者である設定者が使用者の責任をもって決定すべき事柄であり、担保権者である銀行が介入すべき事柄ではないと直截に整理することが説明の仕方として望ましいのではないかと思います。
 私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは次は、菅野委員、どうぞお願いします。

【菅野委員】
 論点アと論点オについて、コメントさせて頂きます。
 論点アについては、様々な委員の方から御意見があったように、私も分社化でないとなかなかワークしないのではないかと思っています。理由は、委員の方が既に御説明頂いたものに加えて、これは設定時だけではなくて実行時のところまで考えていくと、分社化じゃない場合は相当複雑な手続設計になってしまうのではないかということを懸念しております。例ではA、B事業のうちB事業について事業成長担保権が設定された場合とありますが、これはAもBも両方共別々の事業成長担保権をつけるということも理論的に可能であり、そうすると、それぞれがそれぞれのタイミングで実行手続に入り、別々に管財人がつき、これが分社化であれば、もちろん法人格が別であるのでそういったことは通常のM&Aでも起きるんですが、1つの会社の中でそういった複数の実行手続が別々のタイミングで起こり、かつ倒産手続との併存も考えられるとすると、あらゆるシミュレーションを想定し切って手続が立法化できるのかということを一つまた懸念点として挙げさせて頂きたいと思います。論点アについては以上です。
 論点オについてですが、これはだんだんと簡易な実行の例外を設けていくと、本則の実行と簡易な実行はどこが違うのか、だんだん違いが難しくなってくるところではあると思うのですが、事業成長担保権の実行の場面を考えると、流れとしては、債務者、設定者側と債権者、担保権者側がコミュニケーションが取れていれば、事業価値維持のためには、まずは手続外での任意の処分を考えると。その後に簡易、迅速な方法での処分を考え、そして、本則の実行に行く。任意の手続外処分、簡易な実行、本則の実行、こういう流れで実行の場面で利用されていき、本則の実行に行くというのがむしろ実務的にはある意味健全なのではないかなと思っています。そういう意味でいうと、やはり実行手続の中で簡易な実行と本則の実行の2段階を設けるというのは、私は実務的には意義があるのではないかなと思っております。
 そして、簡易な実行について弁済禁止効なしを原則するところも意味があるかと思っております。確かに実務的に裁判所許可の対象を運用として調整頂く、つまり、運用を少し緩めて、倒産手続における裁判所の関与よりも緩めて頂いて、例えば商取引債権で事業継続に不可欠かどうかという証明それ自体を少し緩やかにして頂く、そういったことの調整はあり得ると思うのですが、それでもやはりある程度の手続負担は生じてしまうと思っております。手続負担というのは、管財人側ももちろんそうなのですが、結局、現場の支払手続をやったりするのは現場の従業員の方、会社の方々ということになりますので、そういった方々が通常の運用、通常の事業活動に専念できるように、やはり簡易な実行で原則弁済禁止効なしというのは実務的な意義があるのではないかと思っています。
 さらに、この簡易な実行をいろいろな場面で使えるようにするために、弁済禁止効及び強制執行等の停止にさらに例外を設けておいて、これは裁判所許可による運用もしくは裁判所の命令による運用が良いのではないかと思うのですが、一部債権をどうしても止めなければならない、あるいは強制執行を止めなければならないという場面で裁判所関与を例外的にお願いできるということもオプションとして持っておければ、よりいろいろな場面で対応できる簡易な実行になるのではないかなと思っております。いずれにせよ、手続外の任意処分または簡易な実行で多くの案件が実行できるというような、そういう制度設計になるような工夫ができれば良いと私としては思っております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは次は、山本委員、どうぞお願いいたします。

【山本委員】
 山本です。私は論点オ及びキについて若干のコメントをさせて頂ければと思います。
 まず論点オの簡易な実行手続についてですが、このペーパー11ページの下半分にある(ⅰ)から(ⅲ)までについてそれぞれ若干のコメントです。まず公告ですが、基本的にはここでは対債権者に対する公告の趣旨が書かれてあると思います。(ⅰ)の末尾に、このほか、管理処分権限の移転との関係をどのように考えるかという問題提起があります。確かに公告というのは、対債権者と、それから、対債務者、その他債務者から見た債務者、その他、取引相手方との関係での管理処分権に関する公告があるのではないかと思っております。この点、現行の倒産法でも、民事再生法はDIP型というのがありますので、開始決定の公告というのは、基本的には対債権者の関係での公告だと思うのですが、管理命令が出た場合にも独自の公告をするということになっております。これは恐らく管理処分権が移転するということとの関係での公告を定めているのだろうと思います。そういう意味では、やはり現行法は管理処分権の移転との関係での公告の趣旨というか、存在意義を認めているということかと思われます。
 この点で仮に公告がないとすれば、これは11ページの上の1から7までの4のところで一番右側の括弧で書かれているように、旧経営者に弁済した者については、対抗できないと。つまり、その弁済は有効になるという規律。より一般的に言えば、善意の取引相手方との関係では、管財人の管理処分権を対抗できないという規律。これは倒産法でも公告前についてはそのような善意者保護の規律がある訳ですが、そういう形になるのかなと思います。倒産法では、公告がなされた後は相手方を悪意推定するという形の規律になっている訳ですが、公告がないということになると、ずっと善意者の保護の規律が妥当するということになります。それでいけないということではないと思うのですが、それで果たして実務的に混乱が生じないのかどうかということ、さらには公告制度の意義、ほかの法制全体との整合性はやはりかなり慎重に検討する必要があることなのかなと思います。それが(ⅰ)についてです。
 (ⅱ)の弁済禁止効ですが、これについては仮に弁済禁止効がないということを前提にして、しかし、例外的に弁済禁止を認めるという規律をもしつくるのであれば、さすがに(ⅱ)の前段に書いてある、合理的な理由があれば弁済しないでいいという規律は難しいのだろうと思われます。それは基本的には相手方、債権者との関係では関係ない話なので、それで弁済しないのが債務不履行にならないという理屈はやはりなかなか立ち難いように思います。
 そういう意味では、裁判所の弁済禁止の保全処分のようなものが必要なのだろうと思われますが、ここでの弁済禁止の保全処分というのがどういう意味を持ってなぜ必要なのかということはもう少し精査をする必要があるように思われて、実務上、弁済禁止の保全処分の意義としては、手形の不渡り、取引停止処分を回避するという効果が従来言われてきたところでありますが、そのようなことがこのような場合でも必要なのか、認められるのか等、この保全処分を仮につくるとすればその意義が問題になるのだろうと思います。 
 最後、(ⅲ)、強制執行等の停止ですが、これはそもそも実行手続に至る前の段階で、もう前のところに出ていましたように、事業に不可欠な財産については強制執行等を停止することができるという規律が仮に設けられるとすれば、ここで問題になるのは、事業の継続に必ずしも必要がない財産に対して強制執行がされるときに、さらに停止を認めるのかどうかということになるということかと思います。そこまで止める必要が果たしてあるのかどうか。もし強制執行が多数出てきて、事業に不可欠でない財産についてであっても、多数の強制執行で事業が混乱するというような事態を防止するということは考えられるかもしれません。その場合は、しかし、本則の実行手続によるべきではないのかという気もするところでありまして、これもこういうような例外的な禁止、強制執行の停止等の措置を設けるかどうか、その必要性についてはさらに吟味をする必要があるのではないかと思います。
 続きまして、論点キの双方未履行双務契約です。まず(ⅰ)の点ですが、この場合は倒産手続ではいろいろ議論があるのですが、少なくともこの場合は平時の事柄なので、相手方には同時履行の抗弁権があると思われます。これは上の2つ目の矢羽根に書かれてあることです。そうだとすれば、相手方としては、基本的にはこの抗弁権を使って弁済しないということで対抗できる。逆に管財人側は、その契約が事業継続に必要なのであれば、前のところでありましたように、裁判所に弁済許可を求めて、弁済が許可されれば弁済できて、相手方の抗弁権を外すことができるので、そうだとすれば、倒産法はそれができないので、相手方の債権を財団債権にして弁済して、同時履行の抗弁権を外すという規律が必要なのですが、この場面においてはそこまでの規律が必要なのかということは問題としてあろうかと思います。
 それプラスアルファで、倒産法はさらに解除権まで認めている訳ですが、この特別の解除権を与えるというところまで果たして管財人というか、実行手続を保護する必要があるのかということについては、これもやや疑問なところがあります。これは先ほど大西委員が指摘されたところでありまして、担保権者も基本的にはその解除ができないという平時の規律を前提として事業価値を把握するのだとすれば、それで十分なのではないかという気もする。そうすると、特別の規律は必要ないという整理も可能になるかなとは思っております。
 それから、(ⅱ)の倒産手続の管財人の解除権との整合性という面であります。この問題提起は私も従来そういうことかなと思っていたのですが、改めて考えてみますと、解除をする前提としては、当然、契約上の地位が誰に帰属しているのかということが問題になり、これ、財産上の契約だとすれば、全ての財産上の地位、財産権というのは、実行手続の管財人に帰属するという規律になっているはずですから、契約上の地位も含めて実行手続の管財人に帰属しているのではないか。逆に破産管財人はそのような契約上の地位の管理処分権を把握していないということになるとすれば、倒産法上の双方未履行の解除権をそもそも行使できない地位にあるのではないかという気がしてきているという感じであります。そうだとすれば、このような調整規定は不要と考えることができるのではないかということで、特段の手当ては必要ないという整理も理論的にはできるのではないかということを最近思っています。
 私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは続きまして、沖野委員、どうぞお願いいたします。

【沖野委員】
 ありがとうございます。
 私からは、論点イの極度額の登記事項について申し上げたいと思います。最終的には、案で書かれたように極度額の公示はなしで良いということでも問題ないものと思っております。ただ、一つ、現行法との比較という点で、根譲渡担保権(集合動産・将来債権)についてということが書かれております。その際に、現行法では極度額の公示がないということ、それから、性質上も、後続の貸手は担保目的財産が非常に変動する中でその価値の把握を調査して評価していかなければいけないということがあるので、登記情報として極度額がここまでと書かれていてもあまりその意義は大きくないと書かれております。この点については少し違う考え方になるのではないかと思っておりますものですから、その点をまず申し上げたいと思います。
 まず現行法上の極度額の公示ですが、集合動産・将来債権については、民法上の対抗要件具備であれば占有改定と、それから、債権であれば、債務者に対する通知あるいはその承諾ということになっておりますが、一方、登記を使うこともできますが、登記自体は譲渡登記という構成を取っておりますので、担保登記として制度設計されておりません。したがいまして、極度額という担保権特有の概念は出ようがないということがありますので、その制約があって、なしということになっていると考えるべきだろうと思います。
 それから、性質や必要性の点ですが、担保の他の価値というか、優先する権利者がどこまで優先権として把握しているのかというのが一律に明確になっているということは、全体の財産自体が大きく変動してそのアセスメントが非常に重要になるという点があったとしても、そうして評価されるもののうちのどこまでが優先的に把握されており、それ以外のところが自分としては引当てにできるのかということが明確になるという点の意義はなお大きいのだろうと思います。ですので、根譲渡担保権との比較というのは必ずしも決定的ではないものとは思っております。
 他方で、ここの矢羽根というのでしょうか、その2点目に書かれておりますように、判断に必要な事項をどこまで公の公示制度や登記制度に乗せ、それ以外のものについては任意の情報収集に乗せるのかというのはいろいろな切分けの仕方がありますので、あらゆるものを公示制度に乗せるということは、公示の仕組みが随分重くなってかえって不経済になるということがあります。極度額については変更ということもあり得るかと思いますので、そういったことを考えると、登記の事項は極力少なくして、それ以外の情報収集というのは、その外で任意に債務者から取得するというようなことで十分だという考え方はもちろん十分あると思います。
 その際に、極度額ですが、必須とはせずに、しかし、設定することができるという制度を現在考えられていると思いますが、そうしたときには、当事者なり利害関係人なりが、とりわけ設定者になるかと思いますが、極度額によって区画することがこの取引のあり方としては望ましいと考えているということですので、それを仮に登記に載せればそこまでしか優先権は働かないという形になりますので、信頼性が高まるということではないかと思います。
 今のような登記に係る負荷を考えつつ、そこまでの信頼性を登記事項にすることで確保する必要があるのかどうかという判断になるのかと思います。実務的に極度額の要請、極度額を定めたときにどのぐらいしっかりと基礎づけたいか、信頼性なりを確保していきたいかということによるのかと思われまして、これが登記事項になっていなければ、債務者としては合意なり、何らかの権限行使なりで極度額が設定されているということを、後順位になるような主体に対して示し、そして、実際にそれが問題になったときには、それを証明できるような形にしておき、立証もそれほど問題はないということであれば、あえてこの公示制度の登記事項として載せる必要はないのかなと思っております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは次に、倉林委員、どうぞお願いします。

【倉林委員】
 よろしくお願いします。
 私は論点エのところについて簡単に発言させて頂ければと思っております。ⅰ番、ⅱ番、重要な財産の処分、それから、事業の全部または重要な一部の譲渡というところで、事業成長担保権者の同意を求めるというところについて、過度な負担とは言えないと考えられるかと記載頂いております。ここについて、これまでの日本においてM&Aのトランザクションが米国比でかなり少ないというか、相当程度少ないこと、それから、スタートアップがあまり融資を受けられていないというところでこれまでさほど論点になっていないのかもしれないなとも感じておりまして、今後この事業成長担保権を通じて借入れが広まっていくという中でコンフリクトが起こり得る可能性はあるのかなと思っています。
 具体的には、例えばM&Aをまとめようというときに、それについて株主総会で優先株主も経営陣も経営株主もオーケーと言っている中で、事業成長担保権者の同意が得られないというのは一定リスクになる部分であるなとはVC側からは少し感じる部分でもあります。事業成長担保権にかかわらず、個別の融資の条件というのはケース・バイ・ケースだとは思うのですが、同意なのか、御説明なのかみたいなところは非常にポイントになるのではないかとは思います。
 弁済順位がデットのほうが上ですので、何となく株主の意向とアラインする部分もありそうだなと思いつつ、例えば収益は、キャッシュフローは生んでいるが、バリュエーションがつかないような成長率の低い事業を売却するというときに、VCとしてはその事業を売却して成長事業に投資したい、経営陣もそうであるという場合に、デットのホルダーさんにすれば、まずはキャッシュフローを生んでいるところから借入れを、返済原資になるというところで、そこのコンフリクトをどう解消するかという論点については、今後日本で起こり得るのかなと思います。
 特にインターネット、ソフトウエアの業界におきましては、先ほど別の先生のほうからコメントもありましたが、やはり変化が激しい、事業ポートフォリオを組み替えるということも頻繁に起きる中で、こうしたレンダーの方の御理解をどう取るのかみたいなところは今後着地点をどう見つけるのかというのは論点になるのかなと思いました。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 そういたしますと、本日御参加頂いている委員の皆様方で、あと、安井委員がまだ御発言頂いていないということになりますが、もし安井委員、御意見があればお伺いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。

【安井委員】
 ありがとうございます。
 もう皆様お話し頂いたことなので簡単になのですが、アのところは、山内さんのところで実需を聞かれているということであれば、寄り添って検討はして頂きたいなとは思っているのですが、私どもの立場でいくと、ここの議論が強調されることで、この制度が実態として意図しているものより複雑なものに映ってしまうということをちょっと心配しております。そこのところは制度として検討して頂くとはちょっと別の、説明の仕方の問題なのかもしれないんですが、これは山内さんの意図を否定しているということではなくて、検討はして頂きたいのですが、本筋としては、全体として担保を設定して、伊藤さんがおっしゃっていたような挑戦をしていくというところだということはぶらさないようにお願いできればと思っております。
 一旦以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 そうしますと、これで全員の方々から一通りの御発言を頂いたということになります。私も、御意見たくさん頂いて、今伺っていて、きちんとメモを取っている訳ではないのですが、論点アにつきましては、いろいろな御意見を頂きました。基本的にはなかなか分社化以外の方法だと難しい。分社化でも難しいというような御指摘もあったかと思いますが、さらに詰めてみてはどうかという感じではないかと思います。このアの裏返しで、今、最後に安井さんから御発言頂いたことは、Aについて倉林委員がおっしゃったこととも表裏というか、関係し得るところで、Aについて倉林委員がおっしゃったことというのは、事業の一部を譲渡しようというときに、事業成長担保権者の同意が必要になると、そこで株主の立場と担保権者の立場のコンフリクトが言わば事後的に生じるので、こうした問題は整理しておく必要があるというか、そういう観点であります。
 それから次に、イの論点につきましては、極度額の登記で、これは沖野先生から、どういう点に留意してメリットとデメリットというか、コストとベネフィットを考えるべきかということが現在の債権譲渡等の登記との比較で、こちらは担保権の登記になりますので、現在の譲渡登記制度とは違う観点からの比較衡量というか、メリット、デメリットを考えるべきだという御指摘を頂きまして、沖野先生自身は、結論としては極度額登記はなしという方向でよいのではないかというニュアンスだったと承りました。
 ウの論点についてですが、これは前のほうで井上委員と大澤委員から御指摘がありました。登記に悪意を擬制する効果はないにしても、相手方の保護基準として過失基準なのか、重過失基準なのか、これは言葉を換えて言えば、調査義務がどこまでの範囲で相手方に発生するかということですが、井上委員、大澤委員共に、重過失という基準でよいのではないかという御感触であったかと思います。
 それから、エの論点については、倉林委員の御指摘は先ほど申し上げましたが、水町委員から御意見を賜りました。確かにこのエの現在の欄外の資料の書き方は、債務者の財産、債務者の資産、これは担保権の対象だから、そこを書いているということなのですが、水町先生がおっしゃったような趣旨を排斥する趣旨では必ずしもないと思いますので、おっしゃった趣旨について、書き方の問題もあると思うのですが、検討させて頂ければと思います。
 それから、オの論点は、多くの方々から御意見を頂きました。大澤委員、大西委員、菅野委員、山本委員。いろいろ細かな点はあろうかと思いますが、簡易な実行という制度を本則の実行という制度と連続的に設計することもできますし、現在提案されているように別のものとして設計することもできる訳ですが、要は、実際問題としては、これは菅野さんがおっしゃるところだと思いますが、手続以外でやれればそれをやって、簡易な実行があれば簡易な実行でやって、どうしても駄目というか、本則実行が必要になれば本則実行という順番が健全な姿でしょうというのは、私もそう思います。御意見が多少分かれたというか御指摘を頂いたのは、簡易な実行の中で例外的に弁済禁止とか強制執行停止をやる場合があっていいのではないかと。あまりこれやり過ぎると本則と同じになるということなのですが、ただ、そういう例外的な場合については、やはり裁判所の関与があったほうがいいということで、その辺りが制度設計にあたってのポイントになるかと思います。山本先生からはさらに、公告の点についても貴重な御指摘を頂いたと思います。
 それから、カにつきましては御意見は頂いておりません。恐らくそんなに御意見があるというよりも、書かれていることかなと思いますが、さらに今、チャットも入れて頂いていますので、この後また御発言を頂きたいと思います。
 最後に、キにつきましては、結論としては、大西委員と山本委員から御意見を頂いております。特段の手当て不要というか、山本先生が詳しく分析をして頂きましたが、こちらは平時の制度であって、倒産手続の中での話ではありませんので、倒産法と同じような手当て、倒産法の場合における規律と同じようなものは不要かということを含めて御指摘を頂いて、平時なので、特段の手当ては不要ではないかという御趣旨だと承りました。

 そういうことですが、まだ時間がございますので、追加での御発言があればぜひ承りたいと思います。今チャットを頂いておりまして、まず志甫委員、それから、堀内委員の順になるかと思います。志甫委員、どうぞお願いいたします。

【志甫委員】
 ありがとうございます。論点のカについて、資料の読み方などについて質問させて頂きつつ、論点キについて、簡単にコメントさせて頂ければと思います。
 まず論点カについて、1点目の質問です。脚注において、実行手続開始の効果に関して解説を頂いているところですが、税金、特に事業成長担保権より優先する税金との関係について、現時点でまとまっていれば、教えて頂きたいと思います。実行手続開始の効果について、実行手続開始後に税金による滞納処分はできるのか、実行開始に先立ちなされていた滞納処分は失効するのか、実務上、重要になると考えられるところ、以前頂戴いたしました「本日討議頂きたい事項」(第2回資料3)では、企業担保法では失効することとされており、「事業成長担保権においても同様の設計が考えられる」と御説明を頂いていたところでした(15頁)。
 論点カについて、2点目の質問として、表の中にある「(C)換価代金の配当」の読み方についても教えて頂きたいと思います。まず、「(C)換価代金の配当」の一番上の「一般債権者等の取り分(カーブアウト)」ですが、破産手続において配当されていく、ということで宜しかったでしょうか。「本日討議頂きたい事項」(第2回資料3)で、事業成長担保権の配当手続に参加できるのは、「事業成長担保権者及び事業成長担保権者に劣後する担保権者(破産手続において別除権者となる者の一部)に限ることとし、一般債権者等への配当は、破産手続が開始した場合において、同手続内で行うものとする。」と御説明をされていたところ(17頁)だったかと思います。つぎに、「(C)換価代金の配当」の上から3番の「事業成長担保権に劣後する担保権の被担保債権等」がありますが、実体法の順位に従い事業成長担保権の実行手続で配当するならば、これらの債権は一般債権者の上に来るところ、「一般債権者等の取り分(カーブアウト)」を、事業成長担保権の実行手続で配分することなく破産手続に引き継いでいく観点から、「法的構成は、担保権を信託する構成も考えられるか。」と整理されている、という理解でよろしかったでしょうか。
 もう1点、論点キについてコメントでございます。事業成長担保権者の管財人に双方未履行の権利を与えるかについては、事業成長担保権の目的と、双方未履行双務契約の趣旨を、それぞれどう考えるかによるところ、事業成長担保権と倒産手続の目的は、リンクする点はあるものの完全には一致するものとはいえないとして、付与しないという考え方もあろうかと思いました。
 また、相手方との関係では、相手方は同時履行の抗弁権により対抗できるので特段の手当ては不要であるとして、別途、相手方との契約条項で、事業成長担保権の実行手続開始申立て等があった場合に契約を解除できる特約が定められた場合の効力が問題となり得ると思います。いわゆる倒産解除特約に相当する条項であり、倒産解除特約については、倒産法の目的などに照らして、効力を否定していく最高裁判例があり、立法化が進んでいると理解しております。事業成長担保権についても、上記趣旨の解除特約が実務上定められてきた場合には、その効力を否定するロジックが出てくるのか、これは、先ほど申し上げた、事業担保の目的と倒産法の目的とがどの程度リンクするのか、にもよると思います。
 以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。質問が1つあったと思います。お願いします。

【大来信用制度参事官】
 志甫先生のほうからは、論点カについて、特に租税債権周りで、私の認識ですと、2つ御質問を頂いたかと思っております。もし違えばまた御指摘頂ければと思います。
 一つは、そもそも滞納処分がある場合ということでございますが、これは第1回・第2回の「本日討議いただきたい事項」の15ページで、志甫先生にも御指摘頂きましたが、我々が割と参照している企業担保法では、滞納処分については企業担保権の実行手続との関係では失効することとされておりますので、こうしたことが参考になると考えております。
 それから、(C)あるいは手続終結に至った際の租税債権の扱いというのが2点目の御質問かと思っております。基本的には、まず、(C)2の事業成長担保権や(C)3のこれに劣後する担保権との優先劣後関係に基づき、実行手続の中で配当を受けるか、(C)1の一般債権者等として、破産手続の中で取り扱われていくかが法定されることになると考えております。いずれにせよ、実行手続のここの部分につきましては、第4回以降でもう少し掘り下げて取り扱うことを予定しておりますので、そこでさらなる御議論を頂くことになると考えてございます。

【神田座長】
 ありがとうございました。最後の点はまた次回以降のテーマとさせて頂くということかと思います。
 志甫先生、よろしゅうございますでしょうか。

【志甫委員】
 結構です。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは次に、堀内委員、どうぞお願いいたします。

【堀内委員】
 1点だけ、カの部分でCの1の一般債権者等の取り分(カーブアウト)というところなのですが、担保権者の立場に立てば、(A)、(B)でかなりお支払いすることになるのではないかと思いまして、事前の金融庁様からの御説明の際に、Cの1と2の行の幅は別に金額を示唆するものではないという御説明は頂いておりますが、1の部分はかなり限定的であるべきだと考えております。基本的には一般の債権者、無担保債権者の取り分というのは極めて限定的で、場合によっては上限みたいなものがあっても良いのではないかと思います。ここでかなりまたごそっと持っていかれますとなると、事業成長担保権の意味合いがかなり薄れていくことになりますので、この金額を個別にネゴするのか、管財人とネゴするのか、法律や制度で決めてしまうのか、案件によっては難しいかなと思いますが、いずれにしろかなり限定的な運用にして頂ければと思います。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
今の点も次回御議論頂くということになりますでしょうか。

【大来信用制度参事官】
 次回以降の論点に関係してまいりますところでございますので、その中でまた御討議を頂くということで。

【神田座長】
 そうですね。ありがとうございます。
また次回以降、今の点にも関連する論点を取り上げて頂きますので、また併せて御意見を承れればと思います。

【堀内委員】
 ありがとうございました。

【神田座長】
 それでは、ほかにいかがでしょうか。委員の皆様方、追加での御発言、あるいはオブザーバーの皆様方も多数御参加頂いているのですが、もし御発言があれば承りたいと思います。チャット等でお知らせ頂ければと思います。
 その間、事務局にはさらに御意見を聞いておきたいというようなところがあれば、御指摘頂きたいと思いますが、いかがでしょうか。
 事務局のほうからは特にさらに御意見をお伺いしておきたいという点はなさそうだということなのですが、委員の皆様方、オブザーバーの皆様方で追加での御発言があればお願いしたいと思います。
 それでは、どうもありがとうございます。厚生労働省の青山さん、どうぞお願いいたします。

【青山オブザーバー】
 厚生労働省の青山でございます。発言の機会を頂き、ありがとうございます。今の皆様の御議論をお聞きしまして、労働行政を所管する立場から2点申し上げます。
 1点目が、今回の論点エの注書き、水町委員が、契約上の地位については及ばないという論理の道筋について御意見をなさって、座長も、書きぶり等の検討ということをおっしゃいました。その御議論にこれ以上付け加えることはないのですが、そこの整理をされることとともに、やはり契約上の地位がこういう扱い、担保権者には設定者への一定の制約の中で、労働契約上の地位も含めて契約上の地位がどのように扱われるのか、扱われないのかについてなかなか不明確で、労使関係者にも分からないことがあると思うので、そういう整理については、今後何らかの形で明確化されていくことが重要だと思いますし、そういうことについて労使関係者が理解するということは非常に重要だと思いましたので、今後の制度化等についてこちらも注視したいと思います。
 もう1点、アの論点については、たくさんの御意見が出されたのをお聞きしました。やはり参考1、2のようなものはなかなか課題があるというのが大勢だという、おまとめになったとおりだと思いますが、分社化する方法が考えられるのか、ないのかというところでまた御意見が分かれているかと思います。分社化する場合に、これにつきましては、株主総会の手続や、当省で所管しています、労働契約継承法の手続があるので時間がかかる等の御意見もありましたが、やはり会社分割といった組織上の行為で分割計画に書いた権利義務が包括的に承継されるという大きな制度であるからこそ、株主総会の手続や、労働契約承継法で事業と共に承継される労働者や切り離される労働者への通知などを定めていることがございます。ただ、例えば事業と共に承継される労働者に異議申出権までは与えていないなど制度の趣旨に沿った必要な範囲での労働者保護を、バランスを取って図っているということでございますので、仮に分社化ということがありましたら、そういう様々な手続も当然引き続きなされるべきという前提で理解すべきだと思います。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは、大澤先生、どうぞお願いいたします。

【大澤委員】
 ありがとうございます。大澤です。論点エの通常の事業活動の範囲について、少しコメントをさせて頂ければと思いました。VC側からのいろいろなお話等もございましたが、一般取引として見たときの廉価な財産処分というところ、ⅲのところについてでございます。こちらについては、事業活動自体をやはりスピーディーに進めるという意味では、廉価な処分というもの自体は事業の特性に応じて非常にあったりなかったりということは十分あることだと思っております。そういった意味で、法律のデフォルトルールとして廉価な財産処分というところまで事業成長担保の同意を求める範囲として決めるのかどうかというところは、これはどちらかというと設定者における事業の伸び縮みの範囲の中ではないかと少し考えております。
 そういった意味で、ⅲの一番最後のところのポツで「通常の事業活動の範囲内という基準において、解釈に委ねることが考えられるか。」というような疑問文で終わっておられますが、ここはまさに解釈に委ねて、各設定者と事業成長担保権との間の話合いで都度都度応じて決めていくべきところではないかと考えておりまして、デフォルトルールとしての法律の中に決めるお話ではないのかなと考えました。
 簡単ではございますが、以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。御指摘極めてごもっともかと思いますが、どうもありがとうございました。
 それでは、ほかに追加での御発言があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。
 本日取り上げさせて頂いた具体的な追加的な論点以外の点でも、前回第1回、第2回での御議論等を踏まえての御発言ももしあれば承りたいと思います。
 なお、私がしゃべっているついでで恐縮ですが、論点の中には、非常に政策的な論点から非常に細かい法律的な論点に至るまでいろいろある訳でありまして、この会議が終わった後とかにお気づきの点がありましたら、ぜひどんなことでも結構ですので、事務局までメール等でお寄せ頂きますと大変助かります。細かな点等もあって事務局のほうでは一つ一つを詰めておられる段階かと思うのですが、そのような形でお寄せ頂いた意見とかコメントも何らかの形でまた次回御紹介するとかして、資料に残すという表現がよいのかどうか分かりませんが、と思いますので、この場だけではなくて、少しまた後で考えて意見が出てきたというようなことがありましたら、ぜひ事務局までお寄せ頂ければありがたく思います。

 それでは、今日は特にさらに御発言はないと理解いたしますが、よろしゅうございますでしょうか。それでは、本日はこの辺りということにさせて頂ければと思います。本日も大変活発な御議論、そして、多くの御意見、御指摘を頂きまして、誠にありがとうございました。本日頂きました御指摘や御意見も踏まえた上でさらに先に進みたいと思います。それでは最後に、事務局から連絡事項等ございましたら、お願いいたします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。
 次回のワーキング・グループの日時につきましては、皆様の御都合を踏まえました上で、後日事務局より御案内をさせて頂きます。よろしくお願いいたします。

【神田座長】
 ありがとうございました。
 また、このワーキング・グループの議論はまた次回以降続きますので、皆様方には引き続きよろしくお願いいたします。それでは、以上をもちまして本日のワーキング・グループの会議は終了とさせて頂きます。どうもありがとうございました。
 

(以 上)

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局総務課信用制度参事官室(内線:3579、3535)

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