金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(第4回) 議事録

  • 1.日時:

    令和4年12月23日(金曜日)9時00分~11時00分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室

 【神田座長】
 ただいまから金融審議会の事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ第4回を開催させて頂きます。
 皆様方には大変お忙しいところ、本日も御参加頂きまして、誠にありがとうございます。
 本日の会合ですが、前回と同様、オンライン会議を併用した開催とさせて頂き、会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせて頂きます。また、議事録は、通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させて頂く予定ですので、よろしくお願い申し上げます。
 
 そこで早速、議事に移りますが、大変恐縮ですが、私も本日オンライン参加とさせて頂いております。万が一、途中で私の通信環境に不具合等が生じたりした場合には、恐縮ですが、そのまま事務局に進行して頂いて、続けて頂ければと思います。私のほうで再接続を試みたいと思います。
 
 それでは、本日の議事でございますが、まず前回の会合に引き続きまして、新しい担保制度に係る追加的な論点について事務局から説明をして頂きます。その後で、本日は2人の方にゲストとして御参加頂いております。お一方は、東京南部法律事務所の竹村弁護士、そして、もう1人がAI-EI法律事務所の森弁護士、このお二方に御参加頂いておりまして、両先生から労働者保護のあり方についての御発表といいますか御意見を承ります。その後で、メンバーの皆様方に討議をお願いするという流れで進めさせて頂きたいと思います。
 それでは早速ですが、まず事務局からの説明をお願いいたします。大来さん、よろしくお願いいたします。

【大来信用制度参事官】
 神田先生、ありがとうございます。
 それでは、事務局提出資料の3ページを御覧ください。追加的な論点の労働者保護の部分でございます。事業成長担保権によって労働者にどのような影響が及ぶかが不明確であるとの御指摘、あるいは制度の導入目的である事業の継続・成長には労働者の協力が不可欠であるとの観点に立ちまして、労働者関係の論点について丁寧に議論すべきとの御意見があったところ、これまでの議論における御懸念や検討の方向性について、下の表のように整理をできるかということを御提示してございます。
 
 1ポツでございますが、平時において労働者の権利はどうなるかということで、ここは使用者と労働者との労働契約の締結・変更について追加的な制約を課すものではない、と整理してはどうかということを記載してございます。
 2つ目、実行時における労働債権の取扱いですが、共益の費用として事業成長担保権の被担保債権よりも優先的に弁済と整理してはどうかということを御提示しております。
 3つ目、実行時における雇用、これは論点Aと銘打ってございますが、雇用を維持するためにも、事業を解体せずに売却することが原則であることを前提としつつ、承継される事業に従事する労働者全員を従前の条件で引き継ぐべきという御意見と、窮境にある事業の承継可能性の確保の観点から、裁判所・管財人の個々の事案を踏まえた合理的判断に委ねるとする御意見と2つあったことを御提示してございます。
 4ポツ、実行時における労働者、労働組合等への情報提供等、論点Bと名付けてございますが、この法定の必要性等についてですが、①といたしまして、法定までは必要ないとする御意見から、③のように特に厳格に協議を求める御意見等、それから、その中間として②現行の倒産処理手続に相当するものが適当とする御意見など、3つの御意見を御紹介してございます。
 5ポツ、設定時における労働者、労働組合等への情報提供等、これは論点Cとしてございますが、特別の手続を求める御意見と特別の手続は不要とする御意見と両論を記載させて頂いております。

 4ページにお進み頂きまして、3ページで論点A及び論点Bと銘打ちましたものについてもう少し敷衍をした紙になってございます。表を御覧頂きますと、論点Aの雇用の維持について、上の段、労働者保護を求めるお立場からの御意見としては、事業譲渡については、承継を望む労働者も承継対象外とされ得る点で問題がある。労働者保護の観点から、個別同意ではなく、承継される事業の労働者は全て承継すべきというお立場。一方で、下の段、窮境にある事業の承継可能性の確保を重視するお立場などからは、換価は裁判所に選任された公正中立な管財人が行い、裁判所の許可を得て行われるため、労働者保護は、その中において図られるといったような御意見。
 それから、論点Bの情報提供等につきましては、上の段でございますが、事業全体を対象にする担保権であるため、労働者の理解と協力を得る必要がある。そのため、実行時における労働組合への情報提供、説明、協議等が必要である旨を法制度の中で位置づけるべきというお立場と、下の段、バランスが重要であって、倒産手続よりも重い手続を課すことは、かえって倒産手続に移行する動機を与えてしまうのではないかといったようなお立場。
 以上を踏まえまして、表の下でございますが、窮境にある事業の継続・清算回避、より多くの雇用の維持、労働者、労働組合等への情報提供、労働者の納得感の確保、手続を利用する譲受人等が負担するコスト・事業価値の喪失、こういった様々な重なり合う視点、社会的な利益のバランスを踏まえつつ、どのような法制度・実務を構築していくことが考えられるか御討議頂ければと思っております。
 その下の※にございますように、「なお」でございますが、御議論頂くに当たっては、管財人は労働者も含む利害関係人に対して善管注意義務を負っており、管財人は利害関係人の申立てにより解任され得るという方向での制度立案を考えているということ、それから、裁判所による事業譲渡等の許可時に、不当労働行為など不当な目的で、一部の労働者が承継から排除されていないかどうかも判断するという点も踏まえて御議論を頂ければと考えてございます。

 5ページ目は参考資料でございまして、各種の担保権あるいは事業譲渡、会社分割、さらには、各種の倒産手続における各局面における労働者保護に係る手続等を一覧にしてまとめたものでございます。

 6ページにお進み頂きまして、3ページで論点Cと銘打ちましたところについて敷衍をした1枚紙になってございます。労働者、労働組合等への設定時における通知等を求める御意見があった一方で、不要とする御意見もあったということで、深掘りをして本日御議論頂ければと思っております。事業成長担保権は現在の抵当権等と比べて、労働者保護はどうなっているかということについてこの表のように再整理をしました。もう既に出てきた論点のほぼ繰り返しになりますので、説明は省略させて頂きますが、事業成長担保権において現行の抵当権よりも労働者保護を図る方向で御議論を頂いていることを踏まえた御議論を頂ければと思ってございます。
 事務局からは以上でございます。

【神田座長】
 どうも御説明ありがとうございました。
 それでは続きまして、東京南部法律事務所の竹村先生から御説明をお願いできればと思います。本日はどうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

【竹村参考人】
 よろしくお願いいたします。弁護士の竹村と申します。
 普段、労働者、労働組合側で労働事件を担当していることもあって、本日はその立場から幾つかコメントさせて頂こうと思います。

 スライド、次お願いします。基本的な視点とありますが、事業成長担保については、その担保目的となる事業の価値の形成・保全については、労働者の労務提供が必要不可欠となると考えております。また、将来キャッシュフローの部分については、当然ながら労働者の労働が原資となっている部分が大きいと考えております。さらには、その実行時には、労働契約は重大な影響を受けることになると考えておりますので、それらの観点からすれば、労働者、その集合体である労働組合は、事業成長担保権との関係でも重要な利害関係人として位置づけられる必要があると考えております。こういった視点から幾つかの場面についてコメントさせて頂こうと考えております。

 次お願いします。設定時の課題と書いておりますが、設定時における労働者、労働組合との手続的な問題、先ほど御紹介があった点についてコメントしたいと思います。事業成長担保権の担保財産である総財産の中には、労働契約上の地位も含まれるというふうに聞いております。労働契約は、ほかの契約とは異なって、労働力、働く人間そのものを取引対象とするものなのですが、その労働契約も含めて担保を設定できるという点に根本的な疑問を感じている労働者側弁護士、労働組合は多数おるというふうに聞いております。将来的に事業譲渡の対象となる可能性、使用者が変更されるという、そういう重大な影響も併せて考えれば、設定時点で労働者の個別同意を必要とすべきだという意見も出されております。
 私自身は、個別同意は置くにしても、少なくとも労働者への設定に関する通知は必要なのだろうと考えております。労働者は、先ほど申し上げたとおり担保目的となる事業の維持・形成に寄与していること、実行時に受ける影響が大きいことからすれば、少なくとも通知を必要とする根拠はあるように思います。なお、通知によって制度の利用がしにくくなるのではないかという懸念が示されているようなのですが、通知をすること自体にそれほどの負担があるようには考えておりません。むしろ契約時、その後の実行時までに労働者、労働組合に情報を共有していないと、再建や事業譲渡に当たって協力を得ることはさらに難しくなってくるのではないかという実感を持っております。
 例えばですが、流動資産の大部分を担保設定していたABLに関する事案ですが、労働者や労働組合が実は在庫品や売掛債権等に担保設定がされているということを認識しておらず、私的実行段階で初めて知ったことで職場に大きな混乱と不安を呼び起こしたと、そういう事例を私は聞いております。事業成長担保はさらに労働者への影響が大きい制度になりますが、それを労働者、労働組合に通知しないということは、債権対応のために必要な協力を得られない結果になる可能性がある、そういう懸念を持っております。
 労働組合との協議についてですが、これを制度化すべきだと私は考えておりますが、制度化しない場合にも、労働者が団体交渉をその点について要求した際に、この問題が義務的団交事項になるかどうかという点は、念のために検討すべきかなと考えております。

 次にお願いします。次に、期中の課題と書いておりますが、金融庁の御説明によれば、期中においては、金融機関は設定者である事業者に、試算表、決算書、事業計画等の進捗を報告させ、フォローアップ、伴走支援、場合によっては経営改善のための対応協議等を行うことがイメージされていると思います。担保権者である金融機関による経営合理化等の支援が継続的に行われ、それによって労働条件や労働契約そのものに大きな影響を与えることもあり得るのではないかと考えております。
 ただ、このような影響力は事業成長担保に固有のものではないと言えます。まさに労働法分野においては、当該企業に対してある強い利害関係者の影響力が問題になることが多くあります。それが親会社であったり、投資ファンドであったり、さらには融資者であったりという場合があるのですが、使用者である企業の経営判断、例えば組織再編や経営合理化に大きな影響を与えることは多々あり得るところです。その際に労働組合としては、労働契約上の使用者である企業とだけ交渉しても、問題の実質的な解決に至らないことが多くあります。こういった問題は、現時点では労働組合法上の使用者性の問題の下で検証されるべき問題ではありますが、現在の裁判例等では十分に対応できているとは言い難いと思います。経営改善、経営再建には労働者、労働組合の協力が必要不可欠ですが、事業成長担保権の制度化に当たっては、これらの問題も検討する必要があるのではないかと考えております。

 次にお願いします。事業成長担保権の実行に関しても、先ほど御紹介があったとおり、様々な問題を考える必要があると思います。まず、事業譲渡一般の問題なのですが、特に問題になるのは、不承継の不利益の問題、労働条件不利益変更の問題、手続的規整不存在の問題の3つがあると考えております。現在、事業譲渡に関する労働者保護については、事業譲渡指針があるものの、会社分割とは異なり、立法的解決は図られておりません。
 
 次にお願いします。事業成長担保権が実行されている場面というのは、設定者、債務者が債務不履行状態に至っていることが前提になりますので、労働者にとっては先ほどの不承継の不利益の問題が深刻な局面にあると考えております。事業成長担保の実行換価の方法については議論されているところだと思われますが、事業の一部に対する実行は認めないものの、換価の場面では総財産の一括譲渡だけでなく、個別資産の換価も可能とする方向で進んでいるように聞いております。そのような制度設計を前提にすると、仮に積極財産である個別財産のみ売却されたり、採算部門の事業のみ売却されたり、さらには承継する労働契約を限定される事態が考えられます。承継の対象とならなかった労働者は、配当による労働債権の確保はともかく、労働契約上の地位については大きな不利益を被ることになると懸念しております。
 私自身、危機時における事業譲渡事案を労働組合側で担当したことがありますが、ある町工場の事案で、組合としては、取り残される労働者がいないように要求を続けましたが、不動産、工場の機器などの積極財産は承継され、労働者、労働契約の承継は一部にとどまってしまい、多くの労働者が雇用を失ったという案件もあります。事業成長担保では、先ほどまで述べた事業譲渡の労働法上の構造的問題が深刻に妥当することになり、その構想に当たってはこれら事業譲渡が有する問題の解決を検討する必要があると考えております。
 
 次の点は時間の関係で割愛します。労働協約の問題も重要なのですが、時間の関係で割愛します。
 
 最後に、使用者性の問題についてコメントしたいと思います。まず、倒産手続下の管財人については、労働契約上の使用者としての地位も承継されるものと考えられる見解が多数ですし、労働組合法上の使用者としての地位にあることについては見解の一致があると思います。私も組合側の代理人として参加しましたが、会社更生下の日本航空における更生管財人のディレクター、管財人代理らの発言が不当労働行為とされた事件があります。これはまさに融資・出資に関係した発言が支配・介入に当たると認定されたものですが、事業成長担保権実行後の管財人についても、これらの点は十分に注意が必要であることを示唆しているように思います。
 
 次に、仮に担保権としての私的実行を制度化するとなれば、例えば収益執行等をする局面において、事業を執行する権限を設定者から担保権者に移すということが考えられると思います。そうすれば、この権限移譲をもって、その移譲される事業については、事業成長担保権者に労働契約上の使用者の地位も移るという解釈もあり得るように思います。
 
 次に、設定者の協力による任意実行については、設定者が事業運営権、管理権を引き続き行使できるものと想定されますが、事業担保権者においても事業運営権、管理処分権を行使できるという立場も紹介されているところです。この立場によれば、やはり事業成長担保権者の使用者性の問題、少なくとも労働組合法上の使用者性の問題が浮上することになると思います。
 時間になりましたので、私からのコメントはこの程度にさせて頂きたいと思います。ありがとうございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは続きまして、AI-EI法律事務所の森先生から御説明をお願いできればと思います。本日はどうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

【森参考人】
 AI-EI法律事務所の弁護士の森と申します。よろしくお願いいたします。私自身は、倒産法については、最高裁民事局におりましたときに倒産法改正を担当した関係で、その後、弁護士になりましてから、倒産法の関係も扱うようになりました。会社更生の事件や私的整理の案件等を扱っており、またあと、福岡地裁で労働部におりました関係で、労働事件も専ら使用者側で扱っております。
 
 今、資料は御覧頂いていますでしょうか。資料のまず2ページ目からですが、経済的窮境企業における経営者・労働者の現状についてです。まず、経営者側としては、当面の資金調達の必要性があるという中で、問題をえてして先送りにして、情報も、金融機関に対してもそうですし、当然、労働者側にも開示しないという状況があり、片や、労働者側では当然、雇用継続への不安、それから、働くことに対するモチベーションの低下ということがあり、それで、優秀な社員についてはえてして離職が生じると。先ほど設定時と実行時の話がありましたが、結構やはり倒産企業においては、かなり人の入れ替わりがあるというか、実行時においての人というのは必ずしも設定時の人ではないということは御留意頂く必要があるのかなとは思っているところでございます。
 あとは、労働者側の方についていうと、リストラクチャリングが必要な中においてもなかなか現状変更に対しては御理解頂けないという場合も多いかと思いますし、あと、どうしても会社の状況に対して情報が不足している。これはもともと経営者側からの情報の十分な開示がないというところともちろん相まりますが、それによって客観的情勢の分析が困難であるという状況にあると思っております。
 その上で、資金繰りが悪化した企業においてよくある話としましては、賃金や特に退職金の未払いが生じるということがありまして、これは一種、従業員からのファイナンスで事業を無理くり継続させているようなものでありまして、それがひいては、そのように先送りすることが従業員のためになるのかというと、むしろ従業員にとってはマイナスでしかないのではないかと思っているというところはございます。
 実際に例えば私が地方のバス会社で扱った事例におきましては、かなり多数の方の退職金の未払いがありまして、退職金だけで数億単位の未払いが残っている、100人レベルの単位で数億円の未払いがあるというような状況でして、数年にわたって退職金を全く払っていないという状況が続いていた。これは、要するに、ほかから金融が得られないからそうやってやっているわけでして、そのような事例においては、当然早期に再建に着手して、それで、従業員からそのような与信を受けるような事態というのは避けるほうが被害はよほど小さかったのではないかと思われます。
 ちなみに、この事案は、破産をしまして、それでバスの路線については別のバス会社に引き受けて頂く際に、別のバス会社に対して、運転手の方を受け入れられるかという話を差し上げて、受皿になられる会社においては運転手の方が足りないし、また、そのようなところがあるのであれば全然受け入れますよという話であったのですが、実はそのときはむしろ運転手の方は売手市場で、かなりの数の方は用意された受皿には行かれずに、別のところに行かれたという経緯もありまして、受皿になられた方が、全然来なかったではないかと逆に怒っておられたようなこともありました。そのようなところについて言いますと、むしろ早期に転職されたほうが恐らくは従業員の方にとっては、未払いの問題が生じずによかったのではないかなという実態はありました。
 
 それから、労働者代表あるいは労働者への意見聴取の問題点ですが、先ほど申し上げたように、前提情報がまず不足しているのではないかというところで、正しい意見を言う上での前提の状況について把握されておられないということがあるのではないか。それから、代替策の提示が難しいのではないか。現実的に例えば意見を言える中身としては、よくあるのが役員報酬のカット、あと、接待費、交際費等の削減ということはあるかと思うのですが、ほかに多分なかなか事業上のコスト削減について言えることというのは限られているのかなと思っていると。あと、事業譲渡の相手方についても、これも自分たちで何か探せるということは少ないのではないかと思いますので、なかなか代替策としての提示は難しいのかなというところなのですが、事業譲渡については少なくとも賛否について言えるかもしれませんが、代替案という意味ではなかなか難しいのかなと思っているところでございます。
 
 それからあと、意見を聞かれた場合に、結局、コストカットというのはどうしても至上命題というか、やらざるを得ない状況にある中で、人員削減をしないのであれば、賃金をカットするのかということで、そうすると、例えば人員を2割カットするのと、一律給与を2割カットするのとコスト効果としては同じではないかということがある中で、例えば、会社のほうが人員の2割の削減を言う中で、労働者側から、いや全体を残してほしいと、したがって、給与を2割カットしますとはなかなか言えないと思うのですが、そのようなところが果たして内部的に調整ができるのかという問題もあろうかと思っています。
 私は実際に支援協議会でラジオ局の再生をしたときに、銀行に出した事業計画に従ってコスト削減するという中で人員の一定の削減を行ったのですが、どうしても目標の人数まで減らせていないというときに、労使協議を経て、現在いる方の賃金の一部のカットも含めて全体のコスト効果を上げたということはありますが、そのような調整というのは組合せでやっていくことはもちろんあるかと思うのですが、それを労働者側で吸収して意見を言うということはなかなか困難な面もあるのかなと思っていると。
 
 それから、担保設定時における意見聴取の問題ですが、設定時において果たして何を言えるのだろうかということがあろうかと思っています。設定に対して例えば反対であるということになりますと、先ほど申し上げたファイナンスを受けられないということになる。そのときに、ファイナンスを受けられないとどうなるかというと、先ほどのように、結局、従業員にむしろしわ寄せが行くのではないかという問題があろうかと思っています。むしろ実行場面においてはいろいろと労働条件や譲渡先に対する懸念とかそのような具体的なものが言えるのかもしれませんが、設定場面ではあまり意見を実際に言うということは難しいのかなとは思っているというところでございます。
 
 それからあと、誰に意見聴取するのかということで、個別の労働者に対する意見聴取をするのか、労働者代表にするのか。労働者代表に聞くという点についてというと、なかなか今、過半数代表の組合とかそういうものがあるというところもむしろ少ない状況であります。逆にそのような労働組合があるのであれば、労働協約で定めておくと。労働協約の中でこうした担保設定について意見を言う機会を協約の中に定めておけば足りるのかなということはあろうかと思っています。
 
 あと、実行までのタイムラグですね。当然、人員あるいは企業をめぐる状況というのは変わっていくという中で、例えば設定時の従業員の方が(辞めてしまうからと)無責任におっしゃったことが、実行時までに入られた従業員、すなわち実行で実際に影響を受ける方に影響するというのが果たして良いことなのかどうかということはあろうかと思っています。
 
 あと、設定へのハードルを上げてしまうことが、ファイナンスを妨げるのではないかということも併せて懸念としてはございます。1点、先ほどABLの実行の話がありましたが、私は前に担保不動産収益執行で倉庫業のところで実行したことがありますが、そういう場合というのは結局、抵当権の物上代位でやるのか、担保不動産収益執行でやるのか、あるいはこういうものができたならば、こうした新しい事業担保権の実行でやるのかという違いになるかと思うのですが、それは結局、物上代位の場合、管理費とか労働の賃金とかそういうものを置いて債権者の会社に全て回ってしまうということで、債権回収を最大化する観点からむしろそっちを選んでしまうということもあり得るので、そのような債権者の行動原理からしてもある程度、事業を一体としてというのはそれなりに、むしろ事業の一体性を保つことによって労働者に有利に働くこともあるのかなと思っているというところでございます。
 以上です。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは、これまでの事務局、そして、竹村先生、そして、森先生からの御説明、御意見を踏まえて、メンバーの皆様方に討議をして頂ければと思います。御質問、御意見等をお出し頂けたらありがたく存じます。
 なお、事務局資料でいいますと、論点A、B、Cとありますので、これらについての御意見を頂ければ大変ありがたく思いますし、また、竹村先生や森先生に対する御質問とか、先生方の御発表というか御意見についての御意見等をお出し頂くというのも大変結構かと思います。
 いつものように、恐縮ですが、オンライン会議システムのチャット機能を利用しまして、チャット欄に全員宛てに御自身の名前を1行入れて頂ければありがたく存じます。それを私のほうで確認させて頂き、御指名をさせて頂きますので、そうしましたら御自身の名前をおっしゃって頂いた上で御発言頂ければと思います。これまでと同じやり方でございます。どなたからでも結構ですので、御発言を頂けますとありがたく存じます。
 
 ありがとうございます。今、チャットを頂きました。日商の山内委員、どうぞお願いいたします。

【山内委員】
 日本商工会議所の山内でございます。竹村先生、森先生、大変勉強になりました。ありがとうございます。
 専門家の皆様の議論となります前に、私どもの会員である事業者、金融機関、専門家の皆様にヒアリングした結果を踏まえて、追加的論点につきまして発言いたします。
 
 まず大前提としまして、企業経営におきましては、労働者の皆様が安心して就業できるようにすること、すなわち労働者保護に最大限配慮を行うということは極めて重要であるというのは言うまでもありません。雇用を守るためにも、価値ある事業を毀損させずに継続・成長させていくべきです。そのためには労働者の協力が不可欠です。事業が一時的に窮地に陥った場合においても、事業を継続することが社会全体にとって非常に重要であると考えております。つきましては、事業を成長させる担保権が事業者、金融機関にいかに使われやすい制度になるかという観点から、論点AからCについて御意見申し上げます。
 
 論点Aについてですが、何度も繰り返しますが、経営の観点からも労働者保護は極めて重要です。したがって、解雇回避に向けた最大限の努力が要されることは当然です。しかしながら、窮地に立つ価値ある事業を毀損させずに継続させるということを第一に考えた場合には、全ての雇用承継となると、ほかの規定と比較してもいささか負担が重いのではないかと考えております。破産に至りますと、事業継続の可能性が絶たれます。結果として、多くの失業が発生し、雇用にとってマイナスの可能性が懸念されます。必要なファイナンスは受けやすくしておくということが結果的によいのではないかと考えております。したがって、中立公正な管財人による合理的な判断に委ねるという方法が、結果的に事業と雇用の両方を最大限に守り抜くことにつながり、望ましいと考えております。
 
 続いて、論点Bについてですが、現行の倒産処理手続に相当するものが妥当ではないか、と考えております。現行の倒産処理手続におきましても、労働組合への意見聴取が定められていることを考えますと、労働契約に関係する制度である以上は、実行時において情報提供の手続を求めないということは適切ではないと思っております。しかしながら、より一層厳格な手続を設けてしまいますと、結局、この制度が使われないということになります。その結果、法定整理ということになり、雇用が失われてしまうということを懸念しております。制度の使い勝手と労働者保護のバランスを考えますと、現行の手続に相当する手続とすることが最もバランスが取れており、適切ではないかと考えるところです。
 
 最後に、論点Cについて申し上げます。昨今、経営環境変化が非常に早く進んでおります。事業運営にあたりましても、スピーディーな経営判断が極めて重要です。事業を次のステップに成長させていくということが目的の融資なので、設定時における手続が重くなってしまうと、事業者の意欲的な投資が時宜を逸したものになってしまい、結果的に事業価値の毀損につながることを懸念しております。事業における重要な財産の処分につきましては、会社法において取締役会の専決事項にもなっております。抵当権などについても、設定時における労働者への通知義務は定められていないのが現状かと存じます。事業成長担保権設定そのものによって労働条件などが即時に変更されるということもないと理解しております。

 2回目のプレゼンテーションの際にも申し上げましたが、実行時の労働者の権利につきましては、中立公正な管財人の下に取扱いがフェアになされ、労働債権につきましても共益債権としての取扱いがなされているのではないかと考えております。設定にあたりまして、通知をする程度であれば、労使のコミュニケーション上においても望ましいのではないかという御意見があることは承知しておりますが、既存の財産に関する処分の制度を踏まえると、通知のルール化というところはいささかこの手続が重くなってしまうのではないかと懸念しております。これまで使われている制度以上に設定にあたっての入り口のハードルを高くすると、結局使われない制度になってしまうことを本当に懸念しております。必要なファイナンスを受けられるようにすべきという観点から、事業成長担保の使い勝手と労働者保護のバランスを十分に考えて、設定時の特別な手続は、負担が重くなりますので避けるべきではないかと考えます。
 私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは、多くの方からチャットを頂いておりまして、ありがとうございます。その順番でお願いしたいと思います。
 次は経団連の安井委員、どうぞお願いいたします。

【安井委員】
 ありがとうございます。今、幅広い事業者の観点だとか窮境にある事業者の観点は、山内さんがおっしゃったとおりかなと思っておりまして、大筋、私も同じ考えでございます。

 その上で、今日の議論とちょっとずれてしまうのは承知の上でなんですが、これまで成長を目指していくスタートアップで使いたいねという議論を頂いたこととの関係で、コミュニケーション、特にCの事前のコミュニケーションは実態からはちょっと違和感が大きいなということをお伝えできればと思っています。
 
 スタートアップで従業員のコミュニケーションはすごく重要なものでして、経営の方針について本当に頻繁に全社集会なんかを開いて話しているというのは当たり前という状態になっています。一方で、労使ってあんまり意識として明確になってなくて、組合があるというのはすごく珍しいかなと思います。この実態の背景は、何か法令でこういうコミュニケーションしなさいとなっているというよりは、経営基盤が固まってない中で、従業員のエンゲージメントとか共感を高めてパフォーマンスを最大化するというのが経営にとっても当然やるべき極めて重要なことだからやっているという感覚だと思っております。従業員側も、経営者含めて社歴数年みたいな人が中心で、そこに共感できないなら転職していくというのが通常という組織です。
 こういうものを前提に通知だとか協議というのを設定するとどういうことが発生するかというと、普段経営はどういうことやっているかと、従業員の成果を高めるためにはどういうコミュニケーションを取ったら良いかなというそういう観点で業務を設計している中で、ここに定める協議であったり、通知みたいなものは、誰に何を知らせて、どれぐらいやり取りしたらやったことになるのかみたいな、手順を設計するところから始まってしまう。通知ぐらい大したことないではないかとおっしゃるかもしれないのですが、普段の業務と全く異質のものを時間をかけて専門の人員を割いてやらなければいけないということになるという部分を少しお伝えしたいと思っています。
 これは初回にも申し上げましたが、コーポレート業務のリソースは本当にスタートアップにとっては貴重なもので、そんなに手間がかかるならやめとこうかというのは割と合理的な判断として起こり得るなと思っています。また、受ける従業員の側も、日々経営方針の議論をいろいろしている中で、この担保権は全体で見ると資本調達の一部ということになると思うのですが、これだけ何で切り出して話すのですか、そんなに重大なものなのですかという疑問とか誤解が発生してしまうのではないかなとすごく心配しています。この点は、手続を増やすということをゴールにするというのですか、そこを手段とするのではなくて、想定している実務の実態とか取引にどういう方が参加するのかと、そういう全体のデザインの中でうまく適正な制度にする検討を事務局の皆様にお願いできればなと思っております。
 私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、井上委員、どうぞお願いいたします。

【井上委員】
 ありがとうございます。先ほどは、事務局から、それから、竹村先生、森先生から御説明頂きまして、ありがとうございました。それぞれのお立場からの御関心、御懸念がよく分かりました。
 
 本日のテーマに関して、まず大前提としてコメントを差し上げたいのは、労働者との雇用関係というのですか、雇用契約上の地位が担保の対象になるのとならないのとでどちらが労働者のためになるのかという点について、私は、担保の対象になるほうが労働者にとってプラスになると思っております。企業が、労働関係を外して、現在の担保制度の下で残りのコア資産、不動産、売掛債権、在庫などを担保に入れる場合と比べますと、事業担保を設定する方が、担保を実行されたときに、労働者が取り残されるリスクがむしろ少なくなるのではないかという感じを持っております。担保制度をどういじっても、そもそも企業が倒産しなくなるわけではないですし、倒産したり、実質破綻したりしたときに、労働者が影響を受けないことはあり得ないわけです。担保制度の問題とは別に、企業破綻による雇用関係への影響は当然にあり得ますが、ただ、実質破綻という状況が起こったときに、事業といっしょに雇用が維持される、あるいは事業を生かしたまま実行される可能性がより高いほうが、労働者にとってプラスではないかというのが、全体としてのコメントになります。
 
 その上で、設定時と実行時について1点ずつ申し上げたいと思うのですが、設定時について、事業担保の設定はそれ自体、雇用関係への影響はないと理解しています。設定したことによって、今申し上げたとおり、将来破綻したとき、事業譲渡によって事業再生が図られ、その方法で倒産処理がなされる可能性が高まるという点はあるのかもしれないのですが、別の方向から言えば、個別資産に担保を設定する場合と比べると、将来、窮境に陥ったときに個別資産毎の担保実行とは違ったシナリオになりやすくなるという点はあるかもしれませんが、その時点で労働者に何か情報提供をする必要性があるのかという点については疑問を感じております。
 もし事業担保の設定について労働者に通知が必要だとすると、企業が何かリスクの高い新規事業に参入するとか、レバレッジを上げるために多額の借入れをするとかいったことの方が、将来の破綻可能性が高まるかもしれないということで通知しなければいけないということになりかねませんし、破綻可能性が変わらなくても、先ほど申し上げたように、個別のコア資産だけを担保に入れる、すなわち現在の担保制度の下で重要な不動産に抵当権をつけ、在庫あるいは売掛債権に広く担保を設定するほうが、将来そのようなコア財産が担保の実行により処分されて、労働者だけが会社に取り残されるというリスクがあるという見方もできなくはないので、そちらのほうをむしろ労働者に通知しなければいけないということになりかねません。いずれにしても、こういったことはいずれも、まさに経営判断の問題であり、労働者との関係を良好に保つために、先ほどの話のように必要に応じて自らコミュニケーションすべき話であって、事業担保の設定だけが特別に法定の義務によって通知されるというものではないのではないかというのが、1点目です。
 
 もう一つ、実行時についてですが、事業担保の実行において労働者も影響を受けるというのは、これは確かに御指摘のとおりだと思うのですが、その影響の程度は、事業担保制度がない現在の状況下で窮境に陥った会社が事業譲渡をするときと何ら変わらないのではないかという感じがしておりまして、事業譲渡の際に労働者の保護がいかに図られるべきかという一般的な問題に集約されるといいますか、収束する問題ではないかと考えます。事業譲渡の際の労働者保護が現時点で適切かというのは、もちろん一つの課題、問題だと思うのですが、それは事業担保の設計とは特段関係のない話だと思いますので、このワーキングの場というよりは、より広い視野で事業譲渡の際の労働者の保護一般の問題として議論すべきことかなと思っております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは次に、連合の村上委員、どうぞお願いいたします。

【村上委員】
 ありがとうございます。論点についての発言は後ほどさせていただきますが、まず、竹村弁護士のスライド10のところで手続的規整の課題とありましたが、その内容についてもう少し解説を頂けませんでしょうか。
 以上です。
 
【神田座長】
 どうもありがとうございます。竹村先生、もしよろしければお願いできませんでしょうか。

【竹村参考人】
 ありがとうございます。
 この点については、一言で言うと、今回の事業成長担保の利用は恐らく中小企業等が中心になるのかなと思うのですが、いろいろ御発言あった中でもありましたとおり、労働組合が存在しないケース、あるいは過半数労働組合がないケースというのがそれなりにあるのだろうと思います。現状の倒産手続においても、過半数労働組合が存在しない場合は過半数労働者への意見聴取が義務づけられているのですが、労基法と違って倒産法制においては過半数労働者の選出手続についての定めがなく、あるいは実務的にも過半数労働者が存在しないことを前提として手続を進めることもあるのかなと。実際、裁判官の書いてある実務本にもそう書かれていて、それで果たして実際この事業成長担保権を利用する企業において手続的規整として十分なのかどうか、それが参照されることで十分なのかどうかという点を個人的には関心を持っております。
 差し当たり以上とさせて頂きます。

【神田座長】
 どうもありがとうございます。村上さん、よろしゅうございますでしょうか。

【村上委員】
 ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
それでは、チャットの順番で、次は伊藤委員、どうぞお願いいたします。

【伊藤委員】
 ありがとうございます。おはようございます。
 私は専門家ではないので、うまくお話ができるか不安なのですが、そもそもこの担保設定をする場合というのは悪いことではないというのが大前提なのですが、要は、資金を確保するために、有形資産、無形資産いろいろある中で、今回の事業成長担保権というのは、有形資産がない場合にお金を借りたいときに借りるための新しい制度であり、ただ、担保という意味では、今までの制度と何ら変わりないという、何を担保にするかの違いだけで、制度としては、時代の中で、当然土地とか固定資産を持たない企業であったり、スタートアップしたばかりの企業がお金が必要なときに活用する制度なので、ここで新たに何か今までと違った仕組みをつくる必要は全くないと思っています。
 仮にプラスだった場合、プラスに例えば何かチャレンジするためにお金を借りる場合はそれはオーケーなのですが、そうではなくて本当に資金繰りに困ったときのマイナスの要因でこの制度を使う場合も、一々社員に通達する必要はないと思うのです。要は、普通に経営をしていて、土地が担保に入っています、入れましたよと社員に言っている会社があるのかなというと多分ないと思うのです。だから、そういう意味で全く今までどおりの感覚でこの制度を運用していったほうが使い勝手も良いですし、先ほど山内委員も安井委員もおっしゃっていましたが、使われるための制度なのであればハードルを上げる必要がないと思います。
 
 それから、当然、経営者は、事業継続と雇用を守るためにこういう担保設定をするので、悪いことに使う人ももちろん一部にはいるかもしれませんが、そうである性悪説で物事を考えるのでなくて、企業を守ることで雇用を守り、また、雇用を生み出すかもしれないというふうに物を捉えたほうが良いと思います。
 あと、いろいろと細々していると、重要なスピードが失われてしまって、もし危機的な状況であれば、スピードこそが命になってくるので、タイミングを失ったがために会社をよみがえらせられなくなってしまったということも多々あると思います。そういう意味では、あまり細かくというか設定し過ぎないほうが良いと思います。
 以上です。ありがとうございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、大西委員、どうぞお願いいたします。

【大西委員】 
 大西です。よろしくお願いします。
 まず私は、本件、事業成長担保権を考える上で、この制度がこれまでの担保にさらに追加したオプションの一つとしての制度であるということ、それから、今の御議論の中では、労働債権は基本的に優先弁済の対象になり、随時弁済を行う方向で考えられていて、加えて、一部事業に対する担保権の設定は基本的にはしない方向で考えられている前提があります。これらを考えると、事業成長担保権は、通常の担保権よりもより労働者の権利が確保できる方向での議論が進んでいると考えられ、これが大前提にあります。

 その上で、まず論点Aですが、ここはまず管財人が全員の雇用を維持し、事業をそのまま売却することが多分原則だと思います。ただ、実際上はやはり、法的整理の場合も同じですが、資金繰りの問題、それから、スポンサーとの交渉結果によってはそれが実現できないこともありうると思います。そういうときに、オール・オア・ナッシングではなく、全員ではないものの最大限の労働者の雇用を守りながら、裁判所の監督の下、善管注意義務を果たして譲渡を行うということは、管財人が、裁判所の監督を受けながら、その義務の中で裁量を持って行うことであり、管財人には一定の範囲で自由度があるのではないかと考えております。
 
 それから、次に論点Cですが、設定時の通知等の議論がございます。まずこれは、森先生がおっしゃられたこととも共通するのですが、設定時ですと、通常は危機時ではない状態が想定されます。そうすると、先ほどの森先生のお話のように、在籍している労働者の異動の点もそうですし、企業の状態も実行時とはかなり違う状態なので、恐らくここで仮に協議をするといっても、きっちり経営して債務は弁済していきます、いざとなったとしても労働者の権利は守れます、というようなやり取りがなされるだけで、実質的に何かを協議する事項はあまり想定できないと思っております。そういう意味では、設定時の段階では通知等の手続は必要ないのではないかと思います。
 
 一方、実行時は、これはやはり②にございますとおり、倒産処理手続に相当するため、当該倒産制度と同等の手続は必要だと思います。その辺の局面局面で想定される手続が異なるものと考える次第でございます。
 私からは以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。それでは次に、倉林委員、どうぞお願いいたします。

【倉林委員】  
 ありがとうございます。先生方、御説明ありがとうございました。
 短くですが、先ほどの安井委員の御発言にすごく同意するところなのですが、スタートアップの今のオペレーションへの影響がない形でこういった制度が動き出すと良いなとは思っています。特に事業再編に伴う事業譲渡とかM&Aみたいなもの、こういったものを効率的に行えるようになることが今後の日本のスタートアップエコシステムの発展にも重要かなと思っていますので、私、ディテールを把握してない部分があると思うのですが、そのようなときに少しハードルにならないような設計であるとありがたいなと思っています。
 
 この話とも関係するのですが、やはり少し違和感がある部分としては、今、スタートアップ特に、テクノロジースタートアップの人材市場において、むしろ雇用をしているというよりは、経営側、発行体側は、社員に来て頂いているという感覚に近いと思っています。要は、労働者、社員の方の人材市場での競争優位が全ての業界というところを対象にするのか、IT業界なのか、成長市場、それによってこういった制度を考える上でどこまで雇用を維持するのかみたいなことを判断する上で違ってくるので、ワンサイズフィットオールはないのだろうなと感じております。なので、どちらかというと、業界とか、社員の方の労働市場での競争力みたいなものをどういうふうにこの制度をつくる中で考えていくのかというのが難しい論点なのかなと思いました。
 以上です。

【神田座長】 
 どうもありがとうございました。それでは続きまして、菅野委員、どうぞお願いいたします。

【菅野委員】
 すみません、菅野です。ありがとうございます。論点A、B、Cで少し意見を申し上げたいと思います。
 
 まず、論点Aについてですが、雇用の維持に関して、厳格な手続、事業譲渡ではあるが、承継される事業に必要な従業員は基本的に全て承継すべきという、会社分割における承継法のような規制を想定されている、そのような御意見なのですが、事務局の資料にも5ページでまとめて頂いているとおり、特定承継で、かつ、事業にひもづいた従業員の承継が原則、という規制は、この5ページで整理されているとおり、ないということですので、今回新たにそういう制度を設けるとすると、これはなかなか一担保法制の改正という枠組みを超える非常に大きな議論なのではないかと思っております。
 基本的にやはり今の枠組み、つまり、特定承継である以上は、従業員の承継というのは、各労働者との個別合意で移っていくという考え方、その裏返しとして、移る従業員、移らない従業員が出てくるというのもやむを得ず、あとはもう事業譲渡指針のようなガイドラインで規制するという、今までの方法でいくのがバランスが良いのではないかと思っております。

 それから、論点Bについて、実行時における情報提供ということでは、皆様もおっしゃっているように、この制度の利用と、それから、雇用維持というバランスからすると、民事再生、会社更生における意見聴取が限度で、それ以上厳格な手続を設けるというのも、ちょっとバランス感からしたら違うのではないかなと思っております。
 
 それから、設定時においてなんですが、通知という手続それ自体はそんなに重くないのではないかということもおっしゃっていらっしゃったのですが、当然ながら、通知をぽんと1本、書面なのかメールなのか、何か送れば終わるということではないと思います。そういう情報を与えたということで、それが従業員と使用者側のコミュニケーションの中に情報として入り、その情報が継続的なコミュニケーションの中でどう位置づけられていくか、どう説明していかなければならないか、ということもくっついてくる。だから、ただ物理的に通知をすれば足りるという話ではない。
 懸念するのは、やはりそれによる信用不安が生じないかということです。基本的に、担保設定ですので、設定時には雇用契約に特に影響はしないですし、期限のとおりに返済して完済すれば、事業上も水面に上がってくるような問題というのは生じない。他方で、全資産担保という法的な効果というか影響というか、やはり従業員側からすると、会社の全ての資産、それから、事業について担保権者が担保を取っていて、実行場面では担保権者がこの企業の帰趨を決めるのだということを思うと、やはりそれはそれなりの捉え方がされる。そうすると、法律上、設定時には特に影響がなくても、受け取った側としては、そのまま受け止めずに、会社にとって深刻な事態が起きているのではないかと思い、そこから先の信用不安が生じないかということは懸念はしております。
 ですから、例えば会社の工場とか本社の不動産だとかそういうコア資産が取られている場合と比較して、深刻なインパクトを与えかねない情報を与える意味があるのか、必要性があるのかというところも、信用不安のリスクから考えると留意しておきたいなと思います。
 もし仮にこういう通知を導入する場合、また、それだけではなくて、今回の件は非常に労働者の権利に対して影響するのでということで労働者サイドの皆様もしくは労働組合、そのような方々が御関心があるのであれば、さっき申し上げたとおり、設定時に特に何か雇用関係に影響するものではないことや、実行の場面においても事業価値維持が前提なのだから、むしろ事業に関連するもの、その中には当然労働契約も入っていって、それが移っていく前提なのだという、こういったところの理解だとか周知というものも併せて御留意頂けるとありがたいなと思います。
 
 最後にもう1点、竹村先生から労組法上の使用者の問題提起がなされたかと思います。この点は御指摘のとおりで、論点としては考えておかなければならない。それで、事業成長担保権の実行は、簡易な実行でも本則の実行でも、今そういう想定がされていますが、管財人がつくということで、この管財人が労組法上の使用者になり得るというのはそうだろうと思います。
 ただ、その前の段階で、債務者と事業担保権者が協議をし、それで正式な実行手続を取らずに任意に処分をするときは、通常は事業成長担保権者はあくまでも担保権者の立場として管理をし、債務者側が承継先を見つけて、そこと交渉し、事業承継のときの労働者の契約条件だとか、それから、承継される範囲なんかについても債務者が前面に立って主導してやるので、通常は、労働法上の使用者、つまり、労働条件について事業成長担保権者が、雇用主と部分的に同視できるような支配・決定できる地位につくということはないのではと思っております。これは当然、ケース・バイ・ケースで考えないといけないことですので、ケース・バイ・ケースでそういうこともあるかもしれないのですが、通常の任意処分の段階では、やはり従来の債務者側主導で進められるものではないかと思っております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは続きまして、水町委員、どうぞお願いいたします。

【水町委員】
 ありがとうございます。本日は、労働法にお詳しい竹村先生と森先生から御報告を頂いて、認識を共有するところが非常に多かったということをまず申し上げさせて頂きます。その上で、2点、私のほうから意見、コメントを言わせて頂きます。

 一つが、論点Aに関して、事務局の説明資料だと4ページになりますが、ここでは労働者保護かどうかという観点からの整理がなされていますが、本件の制度の性質上、もう一つ重要な視点として、円滑な事業の承継、事業価値の維持という観点もここでは必要になってくるのではないかと思います。実行時、個別に契約を締結する手続を取っていくと、従業員の退職を促すことになって、今回大切にされている事業価値を減殺してしまうというおそれが出てきます。
 これは実際に現在、事業譲渡を行う際に、個別に契約を巻き直すことによって、どんどん優秀な人ほど従業員が抜けていくという実務上生じている問題がここでも生じるというおそれがありますので、説明資料の3ページの主な御懸念3の1つ目の四角、実行時において、雇用を維持するためにも、事業を解体せずに売却することが原則であることが前提と、ここを原則と位置づけて頂いたのは大変良いことではないかと思うのですが、この原則時には個別の契約を締結する手続を取ることなくそのまま承継するという制度設計にすることが考えられないか、それが今回の制度設計に沿ったものになるのではないかというのが1点目です。

 2つ目は論点Cに関わるところですが、今回はこれまでの抵当権などとは異なって、労働契約上の地位も担保の対象に含まれているということが大切なポイントになります。それに伴う紛争を防止する、予防するという観点もここでは制度設計上重要で、紛争を予防するための必要なケアをしておくべきではないかと思います。
 どういう点が法的に場合によって紛争として問題になり得るかというと、これは先ほど菅野先生からもありましたが、担保権者の労働組合法上の使用者としての責任を問われるということが出てくる可能性があります。竹村先生はそもそもこういう制度設計自体が義務的団交事項に当たるのかどうかということもお話をされていましたが、そういう意味で、将来、担保権者が使用者としての責任を問われることがないように、労働条件や労使関係に介入することは基本的に担保権者とか債権者はないのだということをあらかじめ明確にしておくとか。
 さらには、労使関係というのは、急に実行時に発生するわけではなく、いつ労使関係が発生するということになるか分かりません。そういう意味で、これは使用者たる設定者が労組法上、誠実交渉義務、誠実な対応を求められる局面がいつ出てくるか分からないという点も法的に紛争として問題になり得る点となります。そういう意味では、設定時から誤解や制度の濫用を生まないような、関係者間で理解と協力を得るような一定の説明をしておくことが必要ではないかと思います。これは手続を増やすというのではなくて、今回新しい制度を設けるに当たって安心して制度を運用していくための説明をしておくということです。
 どういうことを説明するかということはあらかじめ法的紛争との関係でこういうことが説明として大切だよねということはある程度想定できますので、これは指針等であらかじめ明らかにしておくということが考えられます。そもそも事業成長担保の中では、従業員、労働者の地位が重要な事業価値だと位置づけて、それを総資産の中で担保として位置づける。そこで従業員が会社のために貢献して働いてくれれば、ファイナンス、資金を調達しやすくなって、事業の発展につながるし、それが労働者の利益にもつながるという、一体となったものとして事業価値を高めていくということに、急に実行時ではなく、設定時からつながる労働関係、労働労使関係の中できちっと説明をし、紛争が発生しないような安心した環境をつくっていって制度を回していくということが労働法、労使関係法上必要ではないかと思います。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、連合の村上委員、どうぞお願いいたします。

【村上委員】
 ありがとうございます。私からは、論点A、B、Cそれぞれについて意見を申し上げます。
 
 まず論点Aについてです。3ページには、事業を解体せずに売却することが原則であることが前提とございます。この点につきましては、労働契約も含めて包括的に売却するということが原則と考えます。また、4ページでも記載頂いているように、現行の事業譲渡に関しては雇用の維持の面で大きな課題がございます。こうした課題の観点から、労働者保護の観点はもちろんですが、水町委員からもございましたが、離職を防止して人材を確保するという事業の円滑な譲渡の観点からも、労働契約は包括的に承継するということを原則とすべきと考えます。
 
 次に、論点Bについてです。3ページの注書きで、抵当権等の実行では労働者への情報提供等は法定されていないとの記載がございます。ただ、抵当権は土地や建物、自動車などの土地や物が対象ですが、事業成長担保権においては労働契約を含む企業の総資産が対象です。そのことを踏まえれば、抵当権と同じように考える必要はないと考えます。また、担保権の実行に関しまして、事業成長担保権の場合は、買手による事業継続の場合と倒産などの場合など幾つかのパターンに分かれると認識しております。その点に関しまして、3ページの②では、現行の倒産処理手続に相当するものが適当とございます。破産法においては労働組合への通知と意見聴取が義務づけられていますが、先ほどの論点Aに係る事業継続される場合の雇用の維持に関し、労働者としては、譲受企業がどのようなところなのか、自分の雇用はどうなるのか、労働条件がどうなるかなど大変関心のあるところです。こうした労働者の不安を払拭し、モチベーションを保ちつつ働き続けるためにも、会社分割時と同様に、通知だけでなく協議等の手続についても法定化することが重要と考えております。
 
 次に、論点Cについてです。3ページでは、設定者、使用者と労働者との労働契約の締結・変更について、追加的な制約を課すものではないと記載頂いています。これはそのとおりだと思いますが、懸念されるのは、設定契約において、設定者と担保権者の間で人件費など労働契約に関わる特約等が付されることによって間接的に労働者が影響を受けることもあるのではないかという点です。竹村先生からも、担保権者の使用者性が問題になるのではないかとの指摘がございました。労働契約に関しては、労使の交渉・合意で決めるべきもので、担保権者だからということで介入できるものではないと考えております。
 その上で論点Cの労働者への情報提供についてです。何を協議するのか、提供するのかということがございますが、この点は後に述べたいと思います。労働者の権利に及ぶような期中管理に係る事項が設定契約にはないということなど、あらかじめ説明して頂くことが労働者保護だけでなく、紛争の未然防止という観点からも必要だと考えております。
 また、6ページでは、事業成長担保権は、現在の抵当権と比べて手厚い労働者保護が図られる方向で議論されていると記載があります。しかし、抵当権と事業成長担保権では、先ほど述べたとおり、担保の対象となるものが異なっており、労働組合への通知などを事業成長担保権に特別に求める合理性はあると考えております。
 先ほど来、何を協議するのか、何を検証するのかという発言がございました。労使協議の意味や意義については、いかに労働者の理解と協力を得ることが重要かというところにあるかと思います。そのような協力がないために再編がうまくいかなかった事案があることは皆様御承知のとおりだと思いますし、事業譲渡の事案におきましても、結局、労働者が離職し、人材確保ができずにディール自体が不成立になるということもございます。
 労働関係のデューディリジェンスを担当されている弁護士の先生からは、できるだけ早い時期に労働組合の三役に伝えるように助言すると伺っております。取引先や報道などで聞くのではなく、会社から直接聞くことが大切と思います。また、労働者にとっても、労働組合から聞くことや労働組合が対応しているということを知ることで不安は低減していきます。労使協議は、労働者の労働条件がどうなるかということを知るためのみに必要なものではないと考えております。自分たちの職場がどうなるのかということを知っていくことも働く者にとっては重要と考えておりまして、ぜひそのような意義も御認識頂ければと思います。
 また、労働組合に聞いても代替策は出てこないのではないかという御指摘もございましたが、民事再生事案などで、従業員が現場を知っているということで具体的な再建案をつくっていくという事例もございますので、そのようなこともぜひ御認識頂ければと思っております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは続きまして、山本委員、どうぞお願いいたします。

【山本委員】
 私からは論点A及び論点Bにつきまして、制度間の均衡、とりわけ、同様の状況にある倒産法下の事業譲渡との手続との均衡といった観点から、意見、若干のコメントを申し上げたいと思います。
 
 まず論点Aですが、これについては、既に多くの委員から御指摘があったとおりでありまして、会社法上の事業譲渡について既に一定の枠組みが形成されており、それは倒産法下での事業譲渡についても基本的に妥当するということで行われているということだろうと思います。その意味で、ここだけ枠組みを変えるという理由がどこにあるのかということを検討する必要があるということになろうかと思いますが、なかなか私にはここだけで制度の枠組みを変える理由は見いだし難いように思われるということであります。したがって、現行の事業譲渡における労働者の保護について問題があるのだとすれば、これは井上委員や菅野委員から既に御指摘があったところでありますが、広い視野で他の制度も含めて全体的に見直す必要があるのであれば見直すということになるのだろうと思いまして、ここだけ違えるというのはなかなか難しいように私には思えます。
 他方、実際上、現在の倒産法下の事業譲渡ということについて言えば、私はかつて事業再生におけるスポンサー選定のあり方について研究会で研究したことがありますが、現状、当然のことながら、事業譲渡の金額、代金だけを問題にするのではなくて、雇用の維持とか、取引関係の維持、その他多様な事情を考慮して最も適切と見られるスポンサーを選定している、そういう実務が確立しているものと承知をしております。総合考慮説などと言われるものであります。
 そうであるとすれば、基本的にはこの手続においても、倒産手続等と同じ立場の管財人、善管注意義務を利害関係人に対して広く負っている管財人が、事業譲渡の手続を行い、最終的にはそれを裁判所が許可するという枠組みで行われるという観点からすれば、少なくとも現行の倒産法の状況と同様の労働者保護というのは確保されるのではないかとに思われるところであります。そういう意味で論点Aについては、私は必ずしも労働者の個別の同意までの制度は実際上も必要はないのではないかと思います。
 
 他方、論点Bでありますが、これは現行の倒産法上も、一定の場合には手続開始時に労働組合等の意見の聴取が必要とされまた、事業譲渡を行う場合にも、労働組合等の意見聴取が必要とされるという枠組みが取られております。労働組合等という、労働組合がない場合の過半数代表の選定についての実務上の問題等についての御指摘はありましたが、基本的には労働法上はそのような枠組みが取られているということです。
 そして、このような、労働組合等の意見聴取が必要とされる理由としては、大きくは2点のことが言われているのではないかと思います。一つは、事業継続等が行われる際に、労働者の協力を得る前提としてこのような意見聴取がなされ、必要性等についての説明が行われるということに意味があるということであります。第2点が、これらの裁判所の裁判が行われる場合の要件審査、事業の継続の可能性とか、あるいは事業譲渡の相当性といった裁判所の要件審査の際の資料として労働組合等の意見聴取が行われるという側面もあるのだろうと思います。そういう観点は、基本的には本件の手続においても同様に妥当するとは考えられるところであります。
 少し細かく見てみますと、手続開始時の意見聴取と事業譲渡時の意見聴取が考えられるのだろうと思いますが、まず手続開始時については、倒産法上も、破産の場合は必ずしも必要とはなっておらず、民事再生は必要になっています。この違いは、私の理解するところでは破産というのは、そもそも事業継続が前提になっていない、事業は解体されるということが前提になっておりますし、また、手続開始の要件も、支払い不能その他、財務上の要件に限られているというところから、労働組合の意見を聞くということは必ずしも必要ではないと見られるのに対して、民事再生については、これは手続上、再建が前提で労働者の協力が必要であるし、再生手続開始の要件としても、再生計画策定の見込み、事業の再生の見込みが必要となるというところから、やはり意見聴取が必要とされているものかと思います。
 そういう観点からすれば、この手続は両面あるような気がしまして、事業を継続するという意味で、それについて円滑な事業譲渡等への労働者の協力が必要であるという点においては民事再生に近いように思われる一方、手続開始の要件は、基本的には被担保債権の債務不履行に基づいて実行手続が開始されるということであるとすれば、必ずしも労働組合の意見聴取が必要とも言えないという感じもするところでありまして、これは必ずしも制度の均衡という観点からすればいずれもあり得るような気もいたしまして、政策的な判断の問題なのかなという気もします。
 他方、事業譲渡の時点での意見聴取というのは、倒産手続の場合とほぼ全くパラレルな状況にあるように思われます。円滑な事業譲渡に対する労働者の協力の必要性という観点、さらに、適切な事業譲渡の条件、事業譲渡先についての労働組合等の意見聴取の必要性、いずれの観点からしても、やはり意見聴取は必要になるということになるのではないかと思われます。
 以上、私のコメントです。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは続きまして、堀内委員、どうぞお願いいたします。

【堀内委員】
 ゴードン・ブラザーズの堀内でございます。

 まず論点A、B、Cの私の意見は、Aについては、ほかの先生方と同じで、雇用を全部維持しなければいけないというのはケース・バイ・ケースで、普通の事業譲渡と同じで、破産するようでしたら、雇用が全て失われるのに対して、一部なりとも雇用が維持される、大抵のケースはかなりの部分が維持されるケースが多いかなと思いますが、そのほうが合理的にベターだと考えます。ここは、哲学的な問題かもしれませんが、確かに承継されないところの雇用が維持できないのは公平ではないのではないかという意見もあるかもしれませんが、大抵、窮境に陥った会社は、そのまま置いていくと破産になってしまう可能性も結構ありますので、破産になったら元も子もないというか、全部玉砕という形になりますから、これを回避するためにも、スポンサーがいる場合はスポンサーに速やかに譲渡する。その条件として一部雇用が失われるのはやむを得ないのではないかと思います。
 
 論点Bに関しましては、②が多数派なのかなと思いましたが、私はどちらかというと①もしくは②より軽くするというほうが良いかと思います。倒産処理手続まで行くのだったら倒産しても良いのではないのという話になるので、手続を軽くするという観点では、①から②の間ぐらいで良いのではないかと考えております。
 
 3番目の論点Cについても特別な手続は不要と考えます。理由に関しましては、皆さんが既に仰っており、重複しますので割愛します。
 村上委員から御発言の中に、担保契約の中に、労働契約に何か影響を及ぼすような制約が入っていてはいけないという点がございました。私はどちらかというとそのとおりだと思います。使用者責任を負う、負わないの前に、レンダー・ライアビリティーに相当するのではないかと考えるので、使い手のほうがそういうことはすべきではないし、そういったことをすると、自分の地位を危うくするので、実際問題としてそういうことはあまりないのではないかと思います。私自身もそういった内容の条項を契約書に入れたこともないですし、考えたこともなかったので、理論的にそういうリスクがあるではないかと言われればそうですが、それはレンダー自身が自重すべきものではないかと思います。
 あとは竹本先生おっしゃった工場の例で引き継がれなかった人がおられたということは、そのこと自体は先ほどの公平性の観点からかわいそうだなとは思いますが、逆に一部引き継がれたのはよかったなと思います。破産したら、特に小さい会社が破産すると、物だけ売られるということで、全雇用を失うことが多く、そういったケースに比べたら、よかったのではないかなと思います。
 いろいろな労働に関しまして、メガ3行と有力地銀数行にヒアリングしましたところ、やはり、通知に関しては設定時、実行時共に、そういうものがあると事業成長担保権を使うのが難しい、もしくは使わないというのが全行でした。あと1点は、特に実行時にスポンサーを見つけるときは、M&Aになるので守秘義務があるので、あまり早い段階での通知は、そこから漏れてしまうと困るし、設定時も事業承継やLBOの場合だとM&Aが絡みますので、守秘義務は固く守られている状況で、労働組合に通知してそこから何か話が大きくなるというのは厳に避けたいという意見がありました。
 もう一つ、気になったのは、メガのうちの1行から、担保権は多分実行しないのではないかという意見がありました。延滞しても、やはり、「担保権実行」という名前が、レピュテーション上どうなのかということですね。これは労働者保護側の方からすれば、それはなかなか良い銀行だなと思われるかもしれませんが、事業成長担保権に限っていえば、担保権を実行しないでそのまま見ていると、破産に向かっていくリスクが高くなっていくので、労働者の雇用維持という観点からはそんな喜ばしいことではないかと私は個人的に感じました。今の金融機関はやはり、担保権実行というのを平場でやるということに関してかなり精神的には躊躇する風潮にあるのだなと感じました。
 従いまして、特に制度的にいろいろなことをやらなくても、労働者を敵に回して債権を回収するということは、今の金融環境の中ではないのではないかと感じますので、制度面は、皆様おっしゃっているように、より使いやすく手軽にするということのほうに重きを置いたほうが良いと考えました。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、志甫委員、どうぞお願いいたします。

【志甫委員】
 志甫でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 倒産、事業再生の実務の観点から申し上げますと、労働者との関係は、事案ごとに難しい場面が出てくると考えております。例えば、従業員の方々が倒産手続開始後に、「有給休暇を取得したい。」という申出をされることがあります。当該申出、すなわち有休の取得自体は権利として認められるものですが、多くの従業員の方が同時に有給休暇を取得するということであれば、それは直ちに事業が立ち行かなくなる、再生はおぼつかない、ことになります。このような場面においては、やはり手続主体である管財人と従業員の方々とが、個別によく話し合って、事案ごとの解決をしていくのであり、手続主体に対する一定の裁量に委ねざるを得ない場面であると考えております。
 したがいまして、事業成長担保におきましても、やはり、従業員の方から実行主体に対する信頼を得ることができる制度的な仕組み、すなわち、裁判所から選任をされ、全利害関係人に対して責任を負う立場の管財人等が主催する手続であることを前提として、あまり硬直的に過ぎぬ仕組みをつくって頂くのがよろしいかと思っております。
 結論としまして、論点Aにつきましては、第2案、すなわち、裁判所・管財人の個別具体的な事情を踏まえた合理的裁量に委ねるという案、論点Bにつきましても、2番目、情報提供等については現行の手続に相当するものを上限とする案が相当と考えます。論点Cについては、設定時においての使いやすさ、という観点から検討すると、実務の皆様方の御感触、感覚によるところかと思いますが、山内様、安井様をはじめとした御意見に特に違和感はございませんでした。
 以上でございます。ありがとうございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、大澤委員、どうぞお願いいたします。

【大澤委員】
 大澤でございます。もう大分、委員の先生方からいろいろな御意見を頂いておりますので、私も、志甫委員と同様に、どちらかというと倒産実務家の観点から、論点A、Bにつきまして意見を述べさせて頂ければと思います。
 
 まず、実行時において雇用は維持されるのかという点でございますが、先ほど山本委員等からも御指摘ございましたが、実際に倒産手続、特に再生・更生手続におきまして、雇用の維持ということは事業価値の維持につながる大変重要な課題でして、非常に再生申立代理人及び調査員、または更生管財人が意を砕いて作業するところでございます。実際に事業価値には、もう皆様からも何度もお話出ておりますが、従業員の稼働と従業員による価値の支えが非常に大事なものですから、そのような意味での労働者の重要性を常に頭に置きながら再生実務を動かしているというところがございます。
 そしてまた、実際にスポンサーは選定手続に入るというくだりに至った場合にも、先ほど山本委員からもありましたが、価値が高いところが一番ですというふうには必ずしもならないと。高額なお金を払ってくれるスポンサーが良いと言えるかと言われると、それはそれで限らないと。労働者の雇用とか一般取引債権の維持とかいろいろな、会社としての価値、社会的な価値も含めてきちんとスポンサーが理解をして引き受けるということについて、再生手続、更生手続においては作業がなされていきます。
 こちら、翻って担保実行手続に関しては、必ずしも倒産手続を前提とするものではない、簡易な実行手続、要は、全額弁済をしていくような手続ももちろん入っておりますので、全てが倒産局面というわけではありませんが、そのような担保実行によって経営者が替わっていくという場面においての管財人の心の砕き方、考え方というものは、倒産事件における考え方と非常にパラレルに考えられるのであろうとは思っております。
 そうしますと、実行時のAというところにつきまして、原則としてまず事業維持、雇用を維持するということはもちろんなのですが、残念ながらある程度の、ごくごく一部の事業の切り売りというような形に非常にイレギュラーですがなってしまう可能性がないとは言えない。この担保実行の場合にも十分考えておかなければならない事態であろうと思います。
 そのようなときに、いやいや、もう全員の雇用が維持されるべきというお話になりますと、先ほどいろいろな方々からお話ありましたとおり、やはり、そうしますとスポンサーが見つからない。そして、事業が解体してしまう。翻って言えば、全ての労働者が労働の場を失うというようなことになってしまいます。そのような硬直的な残念な事態にならないためにも、Aにつきましては、やはり裁判所、管財人の個々の事案を踏まえた判断ということでの柔軟性を持たせて頂ければと考えております。
 
 また、論点Bについてですが、実行時に情報提供を法定するかどうかというところ、ここは先ほど申し上げたとおり、この担保実行では簡易実行ということで全額弁済をされるような事案も含むということになりますと、基本的には事業としては何も変わらないまま物事が動いていくということもございます。そうすると、情報提供等の手続は法定までは必要ないと考える、①もありそうにも思います。ただ一方で、担保実行されますということは、当然のことながら管財人がつきますので、従業員からしても、これは一体どういうことだというお話にもなろうかとも思います。そのような意味におきましては、②の現行の倒産処理手続に近い形での何らか情報提供があることで、先ほどからお話に出ております従業員の引き留めということにもなりますし、それは雇用の確保という形にもつながるというような意味合いにおいての、法定の何らか制度設計はあってしかるべきかなと考えております。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、沖野委員、どうぞお願いいたします。

【沖野委員】
 ありがとうございます。沖野でございます。内容としては非常に重複するのですが、私も申し上げたいと思います。
 基本的には、既に多くの方がおっしゃり、また、山本委員が特に標語化されたように、制度間の均衡というのが法制度としては重要ではないかと思っております。
 
 もう1点は、労働契約が担保化される、あるいは担保目的財産といったら良いのでしょうか、それになるというと、非常に何か特別なことが起こっていると思われるようですが、それによって何か担保権者に特別なコントロール権とか介入の権限とかそういうものを与えるかというと、必ずしもそうではないように思われます。
 そもそも対象として事業を一体として担保にできる制度、そして、現在は切り分けが難しいので法人格で全体の切り分けを行うという考え方が有力だと思っておりますが、考え方としては事業全体を担保にすると。事業にとって労働関係や労働契約が非常に重要であるということは確かですし、また、事業全体を担保に取れるということは、個々の財産ではなかなか難しかった契約なども取っていけるということから、労働契約もその対象から外れることはないということで担保になるということだと思うのですが、それによって例えば個々の財産である契約関係について内容にいろいろな変更を迫るとか、あるいは換価をするとか、そういう権限が担保権者に与えられるわけではなく、一番大きいのは実行のところですが、実行のところも特別な法制度がここで組まれるわけではなくて、既存の事業譲渡の法制度を使うということですので、そこはやはり既存の法技術を使うということですから、そうだとすると、この担保権によって特に労働契約関係において非常に特別な扱いが労働者に不利な形で出てくるのかというと、むしろ労働債権については非常に保護が厚くなっており、ほかよりもかなり手厚い保護になっているというようなことですので、そうだとすると、既存の法技術、法制度を使いながら、あるいはそれに比してより特別な規律を設ける必要が果たしてあるのかというと、それはかなり疑問というか正当化が難しいのではないかと思います。一つの観点としては、保護が切下げになっているのでそのアラートとか対応とかということはあり得ると思いますが、そのような面はどうもないように思われます。
 
 他方で、もう1点は、とりわけこの制度の目的に資するという点から特別に規律を入れるという点は、これは水町委員が御指摘になった点で、そういう点は十分あるように思われました。もっとも、そこで御指摘になった、例えば論点Aについての円滑な事業承継や価値を維持しての事業譲渡というのは、果たしてここだけなのだろうか、それは一般的に事業譲渡一般についても考えられるべきことではないかと思います。そのことと、また、そうすることがどういう効果をもたらすか、目的に本当に資するのかという両面から、果たして十分に理由があるのだろうかということは疑問に思ったところでございます。
 論点Aの情報提供についても同様に思うところでございます。もちろんそのことは、日頃からプラクティスとしてあるいはコミュニケーションとしてどういうことが望ましいかとか、実際にどういう行動を取るかということは別に、法制度としてどこまでのことを設けて設計するかという点からすると、ほかとは異なる特別な規律を正当化するのはなかなか難しいのではないかと感じております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。あと、そういたしますと、委員の中でまだ御発言を頂いてない方は星先生になるのですが、もし御発言があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。

【星委員】
 それでは、一言発言させて頂きます。ちょっと乱暴な話になってしまいますが、今まで出てきたのとはちょっと違った視点だと思うので。
 
 経済的に見ると、担保実行時に雇用の維持に関する制限をつけるかどうかというのは、担保権者から見た事業成長担保の価値に影響を与えます。担保実行に際して、例えば雇用を維持しなければならないという制約をつけると、担保価値が小さくなって、そうでなければ担保価値が大きくなると考えられます。
 ここで、事業性担保権というものを導入する目的というのはそもそもどこにあったかというと、今までは物的担保を取っているから別に事業は理解しなくても良いということできちんとモニタリングをしない金融機関があって、事業が悪化してから、担保を売却して、事業が継続できなくなるというような問題があった。担保価値にたよって事業をモニターしないような金融機関の問題を解決しようとして、事業成長担保を導入するというのが、この担保権導入の動機の一つだと思う。その観点からすると、担保権の実行というのはできるだけ難しくしておいたほうが、日頃から事業をよく理解しようとか、企業の経営の状態をよくモニターしようとかいうインセンティブが生まれるので良い。このように、雇用の観点だけではなく、担保権実行の制約は大きい方が良いという、議論もあるかと思います。
 乱暴な意見ですみませんが、以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。それでは次に、水町委員、どうぞお願いします。

【水町委員】
 ありがとうございます。1点だけ。そもそもこの制度上、特定承継、事業譲渡ということが前提のような発言がこれまで見られたのですが、私自身は、これは事業譲渡とも会社分割とも違う新しい制度を設けようとしているので、そもそもこれが特定承継なのか包括承継なのか、ゼロか100かで制度設計をどっちかにしなければいけないというものではなく、例えばこれまでの既存の制度で事業譲渡とか会社分割の長短とか、それぞれのバランスを考えて、もう少しきめ細かくどういう制度設計をするかの中に、特定承継なのか包括承継なのかというのも重要な論点になるのではないかと私は考えています。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。御参加頂いている全ての委員の皆様方から御意見を頂きまして、ありがとうございました。
 それでは、オブザーバーの皆様方でもし御発言があれば承りたいと思います。ありがとうございます。厚生労働省の青山さん、どうぞお願いいたします。

【青山オブザーバー】
 厚生労働省のオブザーバーの青山でございます。発言の機会を頂きありがとうございます。今日は竹村弁護士、森弁護士のお話、あと、あと委員の皆様の御意見をいろいろ拝聴しておりまして、大変勉強になりました。ありがとうございました。
 労使協議などの労使コミュニケーションの施策を持っている者として、その現行の施策の紹介をしながら主に論点B、Cに関してコメントさせて頂きたいと思います。
 
 論点Bについては、3ページにも、情報提供等の手続は法定までは必要ないとする意見から、②現行の倒産処理手続、これを超えてと、3つの考えを紹介されています中で、現行の倒産処理手続という御意見が多く出たと認識していますが、恐らく法律上の規定を想定した場合に、現行の倒産処理手続にある、裁判所が労働組合等の意見を聴取したり、通知したりする、倒産や民事再生などでの仕組みを想定していらっしゃるのだと思います。
 そのこととパラレルにという御意見は非常に理解できるところですが、そこで一つコメントさせて頂きたいのは、今回は管財人が善管注意義務をもって実行に当たるということで、管財人がきちんと判断したことも含めて裁判所が判断される。そのときに労働組合等から意見聴取するという想定だと思いますが、それはそれで理解するのですが、他方でそれと労使間の協議というのはちょっと局面が違うという、別の話というか、関連はするのですが、別の局面、別の次元の話としてそれはそれで議論する必要があるかなと思います。

 事業再編に伴う労使協議につきましては、会社分割については会社分割を伴う労働契約承継法、事業譲渡については厚生労働大臣の指針が、先ほど資料でも一部紹介頂いていますし、言及された委員もいらっしゃいましたが、ありますが、そこでは、譲渡会社等の責務として労働組合等との協議その他の方法で労働者の理解と協力を得るように努めることが適当であると書いてあります。この趣旨はまずは、労働者の意見を聞くということなのですが、労働者と使用者の間の納得性を高めて、事業再編の円滑な実施に資するという目的で定めております。そういうことで、これも何か反対するためのものというよりも、理解と協力がポイントだということを我々施策上でも重視して施策を展開しているところです。
 ちょっと紹介しますと、理解と協力を得るように努める事項としては、事業譲渡であると、例えばその背景・理由から、債務の履行の見込み、あと、承継労働者の範囲とか労働協約の承継など様々な事項の理解と協力を得ましょうということをうたっております。このように背景を含めていろいろなことの理解を求めることが円滑な手続にも資するのではないかというのが我々の施策でも考えているところです。
 それも考えますと、論点Cの設定の話もありましたが、期中の労働契約への影響については、そういうものはむしろあってはならないのだという御意見を頂いたことは我々としても多少理解したのですが、そういう懸念の払拭をするということも理解と協力の範囲に入り得るのではないかとお話を聞いて思いまして、そういうことも含めて、我々も今、事業譲渡であれば指針もありますし、いろいろな段階でのそういう理解と協力のための規律を考えていかなければいけないかなと感じました。その場合に、法律上にどう書くかという議論がまずは主になると思いますが、我々行政の立場では、指針的な手法での施策もあるので、それも含めた幅広い御意見、御議論頂くとこちらとしても今後の対応につながってありがたいかなと思います。
 以上です。

【神田座長】  
 どうもありがとうございました。ほかにオブザーバーの皆様方で御発言ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、大変貴重な御指摘、御発言をたくさん頂きまして、ありがとうございました。それで、今日、あと、残り時間10分となっているのですが、次のテーマについて事務局から御説明だけ頂いて、来週もう1回次の回を開催予定頂いていると思いますので、討議というか皆様方から御質問、御意見をお出し頂くのは来週にしてはどうかと思っています。
 10分での御説明が可能であれば恐縮ですが、事務局からの御説明をお願いしてもよろしいでしょうか。

【大来信用制度参事官】
 神田座長、ありがとうございます。可能でございますので、説明をさせて頂きます。

【神田座長】
 お願いします。

【大来信用制度参事官】
 8ページ目以降で、追加的な論点の2つ目といたしまして、担保権者の範囲について、事務局資料を御用意させて頂いております。
 
 8ページ目でございますが、事業成長担保権の設定を信託契約による方向性ということでございます。もともとの第1回、第2回で論点③として提示いたしました担保権者・被担保権者の範囲について、弊害を防止する観点及び制度の効果を発揮する観点からの意見に応えるために、事業成長担保権の信託を求め、担保権者のみを限定することとしてはどうかというのが大きなメッセージでございます。
 詳細について表にしてございます。課題の左上のところでございますが、これまでの議論の前提といたしましては、担保権者と与信者、すなわち、被担保債権者が一致するということを前提としてこれまでは御議論を頂いてきたところでございます。表の左下でございますが、御議論頂く中で、担保権者の範囲については、不当な影響力を行使されるといった懸念、このような弊害を防止する観点からは、担保権者の範囲を限定すべきというか、参入に一定のハードルを設けるべきではないかといった御議論を頂いていました。その一方で、被担保債権者(与信者)については、まずアクターとして成長資金等を供給できるような与信者に対しても広く利用を認めてはどうかというような御意見、あるいは場面につきましても、資金の供給局面だけではなく、事業の再生局面においても使いやすくしてはどうかといったような御議論を頂いていたところでございます。
 右側に行きまして、担保権の信託による案でございますが、信託による場合には、担保権者と被担保債権者が一致しないことが許容されるということでございます。右下に参りまして、担保権者の範囲については、例えば免許制とし、免許審査や行為規制を課すことによって、債務者が事業成長担保権の内容を理解せずに設定するような濫用的な使い方を防ぐことができる。同時に、被担保債権者(与信者)の範囲については、成長資金等の供給をより促す観点から、幅広いアクターを入れることができる。あるいは局面についても、事業再生局面についても、例えば地域銀行系のサービサー等に被担保債権を譲渡できるようにするといったことも可能になるのではないかということを御提示申し上げております。
 注といたしまして、表の下、外側になりますが、上記に加えまして、担保権の信託により、不特定の一般債権者を受益者とすることを通じ、実行手続において換価代金の一定割合について、一般債権者の取り分を確保する法的枠組みを実現することも可能となるのではないかという論点を御提示申し上げております。これは第1回、第2回の論点⑨のⅳに関連した点でございます。
 
 9ページでございますが、以上申し上げたものを図にして御提示申し上げているものでございます。上のところはこれまでの議論において前提としていた、担保権者と与信者が一致するという場合のことを書いてございまして、担保権者と被担保債権者は常に一致しているということだったわけですが、今回の御提案、真ん中のところでございますが、担保権者(受託者)と与信者(受益者)が分離をすることが可能になると。その際には受益者に一般債権者も入れることができるということを図として提示してございます。
 その少し下の※が2つあるうちの2つ目でございますが、与信者は信託会社、すなわち、受託者、担保権者と場合によっては一致するというような場合も、それから、与信者が複数の者であるというような場合も想定され得るところでございます。
 
 10ページ目にお進み頂きまして、これは前回第3回でいろいろな論点を取り上げた際の論点カとしてお示しした図を基本的には再掲をしているものでございます。実行開始以降、どのタイミングでどのようなステークホルダーに何が払われていくかということを図にしたものでございます。Cの1と2、それから、その右側に流れ出ていくフロー図に関しまして、今回御提案申し上げている信託スキームを前提にアップデートしているところでございます。一般債権者の取り分と事業成長担保権の被担保債権について、事業成長担保権者、すなわち、受託者が1回は一括受領いたしまして、その中から被担保債権者に払っていくものと、一般債権者の取り分につきましては、受託者が一旦管理し、破産手続のほうに流し込んでいくということを図示しているものでございます。
 
 11ページでございますが、事業成長担保権者(受託者)と与信者の分離が可能となったことでアクターが増えましたものですから、それぞれの局面において、誰がどのような役割を担うかということを再整理してございます。例えば期中のところを御覧頂きますと、事業成長担保権者は、受託者として、総受益者に対して公平忠実義務、善管注意義務を負うと。そのような責任の下で、(1)から(3)にありますように、通常の事業活動の範囲外の取引について、同意を与えるとか、同意がないそのような取引について原状回復を求めるとか、担保目的財産に対して強制執行等がされた場合に、第三者異議の訴えを提起するとか、そのような役割を担うことが想定されるのではないか。それから、与信者については、事業のモニタリング・融資等を通じて事業の継続、成長を支えることが動機づけられるという立ち位置に立つのではないかといったことを御提起申し上げております。
 それから、一番下の4つ目のところを灰色のところですが、被担保債権が履行されない場合ということで、被担保債権に不履行があった場合には、事業成長担保権者(受託者)が、実行その他の必要な措置を取るということとしてはどうか。それから、実行後、配当を一括受領し、与信者に配当し、一般債権者のための破産管財人等に交付することとしてはどうかということを記載しているところでございます。なお、期中あるいは被担保債権が履行されない場合の担保権者(受託者)のところに注1が2回出てきますが、受託者の判断基準として、当事者間の信託契約において、一定割合の受益者の意思に従う等の別段の定めをあらかじめ置いていくということも一つのアイデアではないかということを記載してございます。
 
 最後、12ページでございます。事業成長担保権についてこのように信託を盛り込むといった場合に、新たな信託業というものを考えなければいけないということでございます。その参入要件や行為規制をその場合には決める必要があるのですが、事業成長担保権に限定された業務であることから、例えば右側にある担保付社債信託法などを参考にして、このような参入要件、行為規制について考えるといったようなことがあるのではないかという論点を御提起申し上げております。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうも説明ありがとうございました。時間になってしまいましたので、本日は御説明をお伺いするということとさせて頂き、皆様方には、大変恐縮ですが、御質問、御意見を次の回、来週予定させて頂いていると思いますが、そこで出して頂きたいと思います。
 
 そういうことでございまして、本日も、大変熱心に御参加頂きまして、誠にありがとうございました。事務局からの連絡事項等ございましたらお願いいたします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。次回のワーキング・グループの日時は、12月27日火曜日13時からとなります。年の瀬の押し迫ったところ、大変恐縮でございますが、よろしくお願いいたします。

【神田座長】
 ありがとうございました。
 それでは、以上をもちまして、本日のワーキング・グループの会合は終了とさせて頂きます。皆様、どうもありがとうございました。

 

(以 上)

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局総務課信用制度参事官室(内線:3579、3535)

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