金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(第6回) 議事録

  • 1.日時:

    令和5年1月25日(水曜日)10時00分~12時00分

  • 2.場所:

    オンライン開催 ※一部、中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室

 
【神田座長】
 ただいまから、令和4年度の金融審議会の「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」第6回目の会合を開催させていただきます。皆様方には大変お忙しいところを御参加いただきまして、誠にありがとうございます。
 本日の会合も前回に引き続き、オンライン会議を併用した開催とさせていただきます。会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせていただいております。また、議事録でございますが、通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させていただきます。よろしくお願い申し上げます。

 早速ですが、議事に移ります。本日は、まず事務局から資料1の本ワーキング・グループの報告書案、それから、資料2の残された論点について御説明いただきます。その後で、メンバーの皆様方に御討議をお願いするという流れになります。よろしくお願いいたします。
 それでは、早速ですが、事務局からの御説明をお願いします。大来さん、よろしくお願いいたします。

【大来信用制度参事官】
 神田座長、ありがとうございます。
 それでは、資料1を御覧ください。これまで5回にわたりまして、濃密に御議論をいただきましたおかげをもちまして、相当数の論点につきまして、一定の方向性が見えてきたのではないかというふうに考え、事務局において、それを報告書案という形で、これまでの御議論を反映する形で記載をさせていただいたものが資料1でございます。なお、後ほど御説明申し上げますが、労働者保護のあり方をめぐる点と、簡易な実行のあり方をめぐる点については、なお御議論を深めていただく必要があるため、この資料1に盛り込むのは時期尚早ということで、そこは空欄にしてございまして、別途資料2でパワーポイントの形式で、引き続き本日も御議論をいただければというふうに考えてございます。
 資料1のほう、総論のほうにつきましては省略させていただきます。
 
 8ページにいっていただきまして、主要な部分について黄色くハイライトをさせていただいてございますが、第1回、第2回でお示しをしたワードの文章を土台に、御議論のこれまでの積み重ねを反映している形でございまして、黄色がないところも多少の修正等を付しておりますが、大きな塊のところに、黄色くハイライトをさせていただいているところでございます。
 まず、8ページでございますが、担保目的財産のところにつきましては、9行目から11行目にかけまして、総財産プラス将来キャッシュフローを担保権の目的とするということは、おおむね一致を見ているところかと存じます。そして黄色いところでございます。事業単位での担保権設定を可能にすべきかどうかという点につきましては、事業ごとに資産を分類して担保目的財産を確定させることや、その公示方法について、今日的にはまだ課題があるということで、今後の検討課題としてはどうかという方向性を記載させていただいているところでございます。
 
 それから、10ページにお進みいただきまして、2ページぐらいにわたりまして、大きく黄色い部分がございます。第4回の議論以降合流してきました、事業成長担保権を信託スキームで設定するという論点でございます。10ページの18行目以降の段落に記載しておりますように、事業成長担保権の設定については信託契約によることとしてはどうかという方向性、それから10ページ目の一番下のほうでございますが、そのために信託に関する業を創設し、免許審査や行為規制を課すこととしてはどうかと。
 
 そして11ページ目、そのような業者、信託会社においては、契約の相手方である債務者への適切な説明を義務づける。そして受益者については、2種類の受益者の指定を求めると。一方については与信者、そしてもう一方については一般債権者等ということとしてはどうかということを記載させていただいております。
 また、この信託スキームの構築等に伴います各種コストやリスクに関連して、14行目以降の参入要件のところにつきましては、免許要件について過度な負担を課さないよう、合理的に設計するべきと考えられる旨をお示ししてございます。
 また、信託事務の内容につきましても、31行目以降でございますが、現実的には受益者の意思を確認するなど、ある程度定型的に行動をすれば足りるものが多いと考えられますし、また、もう一方の受益者である一般債権者等のため、事業成長担保権の実行手続において、その取り分を確保し、その給付をするという一連の事務についても、ある程度定型的なものと考えられる旨を御提示申し上げているところでございます。
 また、個別案件における金銭的コストに関しまして、12ページの7行目以降ですが、信託報酬等が発生する可能性がございます。そのような報酬を捻出することが難しいケース、あるいはスキーム構築コストが高いことへの懸念を払拭する観点から、与信者が受託者を兼ねることも可能とするような制度設計としてはどうかということを記載させていただいているところでございます。
 
 それから、13ページに進みまして、次の黄色い部分でございますが、極度額について、その設定自体は任意とすることで議論の一致を見ているところかと存じますが、公示を必要とするか否かについては、11行目あたり、公示は必要とせず、後続の貸し手については事業全体をよく調査した上で、担保価値を評価することを前提として制度設計をすることとしてはどうかという方向性を記載させていただいているところでございます。
 
 それから、16ページのほうにお進みいただきまして、これは設定後、実行前におけるいわば平時の段階において、設定者が行う通常の事業活動の範囲内か範囲外かという論点に鑑みまして、範囲外のものについて例示をしたほうが良いという御指摘等ございました。第3回でも御議論いただいたところでございますが、この報告書にも、同様の趣旨を盛り込むこととしてはどうかということでございます。
 
 それから、24ページにお進みいただきまして、実行があった場合に、23ページから続いているところでございますが、ローマ数字(ⅰ)から(ⅲ)のように、類型的な共益の費用、あるいは裁判所の許可によって共益的なものと位置づけるものについては弁済をしていくということで、一定の優先性を持たせることについては議論の一致が見られているところでございますが、ローマ数字(ⅳ)のところで、24ページの16行目以下ですが、そういう(ⅰ)から(ⅲ)で支払いを得られなかった債権についても、一定割合については配当等を得られるような制度を検討することが考えられるのではないかという方向性をお示ししているところでございます。
 「なお」といたしまして、その割合については、事業性成長担保権は、他の担保権と比べまして、(ⅰ)から(ⅲ)で優先される債権の範囲が十分広いというようなことも念頭に置きつつ、破産財団に属する別除権付不動産の任意売却に際しての財団組入の割合の下限を売却価格の3%とする例があることを参考として、法定をすることが適切ではないかということを、御答申いただいてはどうかということを記載させていただいているところでございます。
 
 それから、25ページから26ページ、すみません、ちょうど表がページにまたがっておりますが、双方未履行双務契約の扱いについて、破産手続類似のものが事業成長担保権の実行手続も要るかどうか御議論いただきました。当初、事務局資料で御提示したときには、こういうものがあったほうが良いのではないかということで御提示を申し上げましたが、ここは民法の一般則、同時履行の抗弁権などの中で解決していけば良い問題ではないかということで、なしというふうにさせていただいております。
 また、両手続が併存する場合の破産手続の効果の欄につきましては、実行手続開始によって、破産管財人は担保目的財産の管理処分を有さなくなるために、解除権が当然に制約されるということを記載させていただいております。
  
 そのほか29ページ以降におきましては、必ずしも法制の企画立案に直結はしないものの、制度が仮にできた暁には、実務において円滑にこれが利用される、あるいは非常に良いものとして活用されていくための各種の周知のあり方、あるいは負担軽減のあり方、活用事例の共有といったようなチャプターを追加させていただいているところでございます。
 以上が資料1でございまして、続きまして資料2にお進みいただきまして、残された論点の1つ目、労働者保護のあり方でございます。既に年内におきまして、論点A、論点B、論点Cと論点を整理させていただき、それに基づいて一定の御議論を既にいただいているところでございまして、その到達点を踏まえまして、論点ごとにその方向性を事務局として御提示を申し上げているところでございます。
 
 6ページが論点Aでございまして、実行時における労働契約の承継についてということでございます。観点といたしましては、労働者を手厚く保護すること自体が労働者の流出を防止して、事業価値の維持につながり得るという観点、それから、早期のスポンサー選定が事業価値の維持、ひいては労働者の保護にもつながり得るという観点と、2つの観点を御提示申し上げた上で、労働者の移転のあり方につきましては、まず①といたしまして、労働者を含めた利害関係人全体から見て公正な手続を実現するために、管財人が労働者も含めた利害関係者全体に対して善管注意義務を負う。そして、事業を解体せずに雇用を維持しつつ承継することを原則とする。括弧の中でございますが、個別財産の換価は、事業の継続が困難である場合における例外とすると。そして、事業譲渡等の換価については、裁判所が、労働組合等の意見を聴取した上で許可をする。そして、その判断においては、管財人がスポンサー選定をする際に、事業譲渡の金額の多寡だけを問題にするのではなく、雇用の維持や取引関係の維持、その他多様な事情を考慮して、最も適切な先を選定することが求められるというふうに考えられることとしてはどうかということを御提示申し上げております。
 また、※でございますが、管財人は労働組合法上の使用者の地位を承継すると解されまして、その権限に関し労働組合等から団体交渉に応じる義務が認められるほか、管財人によるスポンサー選定のあり方が、労働者保護に照らして不適当等であり善管注意義務に反する場合には、労働者を含む利害関係人は裁判所に管財人の解任を請求できるという枠組みとしてはどうかということを提示しております。
 それから、②につきましては、労働者が実行手続に不安を抱く状況では、労働者の流出による事業価値の毀損を防止できないと考えられることから、その実行手続の進め方について、労働組合等とのコミュニケーションが重要になってくるということを記載してございまして、ここは一定程度論点Bと重複をいたしますので、8ページのほうにお進みをいただければというふうに思っております。
 
 論点Bは、まさに実行手続における労働組合等への情報提供のあり方についてという論点でございました。ここにつきましても、観点といたしましては、労働者の理解・協力が重要であるということと、他の類似制度のバランスや実務の蓄積といった観点に留意しつつ、①といたしまして、倒産手続等における規定を参考に、裁判所は実行手続の開始決定後、労働組合等にその旨を通知することとする。そして、裁判所は事業の承継先・条件の決定に当たっては、労働組合等の意見を聴取すると。聴取を通じて不当労働行為など、不当な目的で一部の労働者が承継から排除されていないかどうか等も検討することとしてはどうかということ。
 以上が倒産手続並びと言えるところではないかと思いますが、それに加えまして、②におきまして、労働者には、労働法制上各種権利、代表例が団体交渉のようなものかと存じますが、それが保障されておりますところ、こうした権利を必要に応じて適切に行使できるようにするために、管財人は開始決定後、遅滞なく、労働組合等に対して担保権実行手続の概要、事業承継先選定に当たっての原則、実行後における譲渡会社での破産手続の開始の見込み、あるいは破産手続の概要、こういったものについて必要な情報を提供するという手続を設け、そして※にございますように、管財人は労働組合法上の使用者に該当すると考えられますところ、このような情報提供によりまして、労働組合等が管財人との意見交換、必要に応じた団交の申入れなど、どのタイミングでどのような接触を持つかについて判断をする、あるいは、道筋について予見可能性を高めるというようなことができるようになるものではないかというふうに考えられるということを書いてはどうかということを御提示申し上げてございます。
 
 それから、10ページが、事業成長担保権の設定時の情報提供等についてでございます。ここにつきまして、事業成長担保権をめぐって労働者の理解・協力を得るとともに、労使間の紛争を予防する必要性と、担保権設定が実際に労働者の地位に与える影響と、それから、手続の負担、他の制度とのバランス、こういった観点に留意しつつ、①におきましては、事業成長担保権をめぐる労使間の紛争を予防するためには、制度の正確な理解と、あと制度利用者における負担という観点を踏まえまして、制度の概要や労働者に与える影響等について、政府において広報・周知を図ることとしてはどうかと。具体的には、事業者、労働組合、金融機関等向けの説明会を地域別に開催することとしてはどうかと、そういうことを御提示申し上げております。
 また、労働組合法上の使用者性の論点につきましては、担保を設定することのみ、あるいは与信を提供することのみで使用者に該当するとは言えないものの、担保権者、あるいは与信者が、「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある」場合には使用者性を有する可能性がある旨などを、金融機関等に対して周知することとしてはどうかということを御提示申し上げております。このかぎ括弧で囲ってありますのは、平成7年における最高裁判決で示された判断ということでございます。
 以上が、労働者保護のあり方についての方向性として御提示申し上げているものでございます。
 
 残された論点の2つ目が、簡易な実行手続でございます。18ページは第3回資料の再掲でございますが、もともと3の公告と、5の弁済禁止効と、6の強制執行等の停止について、本則の実行ではこれらをありとしているところ、いずれもなしとすることを簡易な実行の手続の柱として御提示を申し上げ、御議論をいただいていたところでございます。
 
 このうち、19ページにお進みいただきまして、公告のところにつきましては慎重な指摘が多くなされ、対債務者その他取引相手方等の関係で、公告がなければ、常に善意者保護の規律が働くということになるが、実務上の混乱が生じないか等々の御指摘をいただき、ここは公告を必要と整理することとしてはどうかということで御提示を申し上げているところでございます。
 弁済禁止効と強制執行等の停止については、引き続きなしとしてはどうかということで御御提示を申し上げております。
 
 20ページでございますが、弁済禁止効をなしとすることとの関係で、何らかの例外が要らないかと。例えば、弁済禁止の保全処分のようなものを設ける必要はないかという論点がございましたが、下半分の検討のあたりにございますように、その線引きをしようとすると、結局のところ、本則の実行を申し立てて、⑨(iii)の許可弁済によっても弁済されない債権と、線引きの位置としては大体同じところになってくるのではないかということで、弁済禁止の保全処分は設けないものと整理してはどうかということを御提示申し上げております。
 
 21ページにお進みいただきまして、簡易な実行手続においては、原則として全ての債権を随時弁済していくこととなるため、資金ショートみたいなことが懸念されるわけでございまして、「そのため」のところでございますが、簡易な実行手続に係る手続開始の要件については、追加的に、資金繰りが継続する見通しであること等を求めるべきとも考えられますが、どのようにお考えになるか、御議論いただければというふうに思っております。
 また、下半分のところから始まります、本則の実行への移行につきまして、弁済禁止の保全処分がない場合には、例えば、事情変更によって、必ずしも手元資金が十分にあるというような場面でなくなったときには、やはり一部の債務の弁済を停止し、事業を継続するため、本則の実行への移行が必要になる場面もあると考えられますけれども、どのようにお考えになるかと。
 あるいは「また」のところ、2つ目の黒丸でございますが、破産手続等の開始決定があった場合には、弁済が禁止されることから、本則の実行への移行が必要となると考えられますけれども、どのようにお考えになるかということで、もう一度御意見を賜れればというふうに思っております。
 事務局からは、一旦以上でございます。

【神田座長】
 どうも御説明ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明を踏まえ、メンバーの皆様方に御討議をお願いしたいと思います。御質問、それから御意見等お出しいただければありがたく存じます。
 なお本日、御欠席の安井委員から書面にて御意見をいただいております。お手元に資料3として配付させていただいておりますので、適宜御覧いただければありがたく存じます。
 それから、御発言をされる場合は、これまでと同じなのですが、オンライン会議システム、チャットに全員宛てで御自身のお名前を入力して、発言希望と1行送信してください。それを確認して、私のほうから指名をさせていただきますので、そうしましたら御自身のお名前をおっしゃった上で御発言いただければと存じます。
 それでは、委員の皆様方、どなたからでも結構です。御質問、御意見いただけますでしょうか。なお、資料1についてでも結構ですし、残された論点を2つ取り上げておりますが、もちろん資料2のほうについてでも結構です。その他、関連する事項についても結構でございます。いかがでしょうか。
ありがとうございます。水町先生、よろしくお願いします。

【水町委員】
ありがとうございます。残された論点、労働者保護というところについて大きく2点だけ発言させていただきます。
 事務局説明資料2の、まず6ページになるのですかね。論点Aから論点Bに係るところについて、まず1点目ですが、この中で、原則として事業を解体せず、雇用を維持しながら承継するというのが原則であるというのが6ページの2個目の白丸の①のところに書かれています。このように原則を明確にしていただくということで、労働者の承継の不利益がなくなり、優秀な人材の散逸等のリスクが軽減されることになるというので、この制度の趣旨に沿った形でこういうふうに書いていただいたことは望ましいことだと思います。
 例外として、個別換価、個別財産の換価が、例外としてあり得るというときの労働法上留意しておくべき事項、特に総財産の一部が切り離されて、労働者として承継の対象にならないという人たちが出てくる可能性がありますので、この場合、不承継の不利益というのが大きく顕在化することになります。
 ここで遵守されるべき、念頭、考慮に入れるべき労働法の規範の具体的な例を幾つか挙げさせていただきますと、まずは解雇権濫用法理、整理解雇法理の適用、または類推適用、さらには、これは報告書の中にも書かれていますが、不当労働行為。組合員への排除・差別等を禁止する不当労働行為、さらには法人格否認の法理というものも、事案によっては問題になり得るかと思います。さらにこれまでの裁判例等で、労働条件の変更に同意しない労働者の排除を禁止するという事業譲渡においての裁判例がありますし、さらに事業譲渡において、労働契約の承継に関する黙示の合意など、労働契約解釈法理というのも裁判例上展開されています。
 今言ったのは労働保護規範としての例示ですが、こういうものが個別換価のときに労働者が排除される可能性があるというときに、チェック、留意しておくべき規範になるのではないかと思います。これは、管財人がこの手続を遂行する上で遵守すべき規範、そういう意味では広い意味での善管注意義務の中に含まれる具体的な規範ということになるかと思いますし、裁判所が許可をする上でも、考慮、判断の前提となるべきルール、規範になるかと思います。
 実際に事業価値の維持のために円滑な手続を遂行していくというためにも、このような規範を具体的に報告書の中に明示しておくことが大切になるかと思いますし、そのプロセスの中で、労働組合等から意見聴取を行うという手続も法令上定められる予定の中で、この意見聴取の中で特に具体的にこういう事情について意見を聴取し、協議を行っていくということが明確にあらかじめなっていくことによって、事業価値の維持を図りながら、円滑な手続の遂行を行うことができるのではないかというふうに思うというのが、まず1つ目です。
 
 もう一つ、論点Cに関して、これは資料2の10ページのところになるかと思います。ここで、2個目の白丸、①というところで、制度の概要や労働者に与える影響等について政府において積極的に広報周知を図ることとしてはどうかという、新しい提案をいただいています。この制度を関係者に理解していただくということのために、こういう周知・広報を図っていただくということは大変重要だと思います。これに加えて、具体的に事業成長担保権が設定されたときに、設定された関係者となる労働者、労働組合等に、きちんと理解・協力を得ていただくための手続を併せて講じるということが必要なのではないか。これはこれまで検討会の中でも申し上げてきましたが、単に、労働契約上の地位等を含む総財産が換価される可能性が将来出てくるというだけではなくて、設定されると、労働者等が企業に対する貢献、企業価値の向上を図ることによって資金調達が容易になって、労働者にとっては待遇の改善や、技能、キャリアの形成が促されるというプラスの効果も期待できる。そういう意味で、事業価値を支えて伴走していく重要なパートナーというふうになるわけですから、その設定がなされるときに、事業成長担保権という制度についてきちんと労働者が認識し、その理解と協力を得ることができるようにする方法を、何らかの形で取っていただく。それを報告書の中に明確にしておいていただくことが大切かなというふうに思います。
 私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、チャットをいただいている順番で、大西委員、志甫委員の順でお願いいたします。大西委員、どうぞ。

【大西委員】
 大西です。よろしくお願いします。
 まず、資料1の11ページ、12ページのところですが、これは前回も同じような発言をしたのですが、一般債権者の受益者に対する義務というのが、担保権者に対する義務と異なるという前提でここに記載がされているのかどうかについて、ご質問をさせていただきます。
 今回、与信者兼担保権者が受託者も兼ねることが想定されますので、その場合に、担保権者兼受託者が、一般債権者に対して過剰な義務を負ってしまうことはよろしくないと思います。あくまでここに書かれた通り、一般債権者の取り分を確保し、その後、それを破産管財人等に引き継ぐというような限定された内容の義務で構成されるのであれば、担保権者兼受託者となる金融機関にとっても負担が少ないと思いますが、この点についてどのようにお考えでしょうか。
 
 それから、2点目は、同じ資料1の24ページでございますが、今回、財団組入のケースの実例等をベースに、カーブアウトの割合として、例えば3%という記載がありました。実際には、この財団組入額の事例の下限値で取るのか、それとも平均値で取るのか、という議論があるのですが、一般債権者の債権額がどの程度あるのかによって、このカーブアウトの割合の妥当性に影響があるようにも思います。そういう意味では、例えば、割合の上限値のみを決めて、その後は実情に応じて裁判所が許可して決めるというやり方もあると思います。
 
 続きまして、資料2でございます。資料2の簡易な実行について2点コメントさせていただきます。
 18ページですが、これも前回申し上げたことと同じですが、簡易な実行の手続の主体について、この4番のところに裁判所選任の管財人と書かれております。しかしながら、取引先への影響を考えると、管財人という選択肢の他、民事再生の場合と同様に、社長がそのまま代表取締役として手続を遂行するDIP型の手続の選択肢も必要であると思います。その場合には、別途、監督委員というまた別の役割が要るということから、なかなかそこまで検討できないということかもしれませんが、企業価値の維持、もしくは取引先への影響を考えると、そういうDIP型のスキームも選択肢として設けるべきであると思っております。
 
 もう一つ、最後の21ページでございますが、手続開始の要件として、資金繰りの維持を要件として定めてはどうかということですが、これについては、資金繰りが維持できない限り事業の継続ができないことから、基本的に賛成です。ただ、実際にこういう簡易な実行手続を利用する場合は、ある程度スポンサーが決まっている事案だと思います。もし、そうではなく、手続実行が始まってからスポンサーを探すような事案ですと、どの程度の時間を要するかが不明なので、資金繰りの維持ができるという要件の認定が非常に難しくなります。よって、資金繰りの維持を要件として設けるべきですが、それを判断するにあたっては、スポンサーの見込みがどの程度あるのかについてもきちんと考慮すべきと思います。いずれにせよ、この資金繰り維持の要件は必要だと思っております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。御質問があったかと思いますが、いかがでしょうか。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。御質問は、特に資料1の11ページから12ページにかけての受託者の受託義務、受益者が与信者とその時点では不特定な潜在的な一般債権者等という2者がいて、受託者義務は前者と後者で異なるのか、異なるとしたら、どのように異なるのかと。また、同じ論点かもしれませんが、与信者兼受託者の場合に、一般債権者との関係で、どう振る舞えば良いのかという御質問だったというふうに認識しておりまして、受託者義務は、確かにそれぞれに対して異なる受託者義務を負うことになるのだろうと思っております。
 ただ、信託行為において、具体的にどのような事務が必要になるのかを定めることが、実務では非常に重要になってくるだろうと思っております。そこは必ずしも現段階で詰め切れているわけではないのですが、報告書案の段階では11ページから12ページに書いてありますように、大きな方向性としては、ある程度定型的なものを信託行為で定めるということをイメージとしております。
 なお、注33に、受託者と与信者が一致する場合であっても、受託者は、一般債権者等の利益にも配慮する必要がありますが、受託者の信託事務を定型的なものとして、今後お示しできれば、その事務は、信託によらず自ら担保権を取得して担保管理をする場合の事務と基本的には変わらないものになるのではないかというふうに考えておりまして、いずれにせよ、制度の施行に向けまして、12ページの本文のほうに戻っていただいて2行目以下ですが、制度や信託のモデル契約等を工夫する中で明確化・定型化していければというふうに考えているところでございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。

【大西委員】
 分かりました。

【神田座長】
 ありがとうございます。
 それでは、チャットをいただいている順番で、次に志甫委員、どうぞお願いいたします。

【志甫委員】
 よろしくお願いいたします。
 私からは、資料1の報告書案のうち大きく2点について、実務の観点からのコメントと御質問をさせていただきます。
 まず、1点目、資料1の報告書案24ページの(iv)カーブアウトの箇所についてです。
 報告書本文の24ページで、破産手続において不動産を任意売却する際の財団組入割合について、「下限を3%とする例がある」とし、大阪地裁の書籍を脚注74で引用していただいています。確かに大阪地裁の書籍では当該記載がありますが、東京地裁の書籍においては5%から10%としており、東京地裁の運用について脚注72で追記をいただいたところではありますが、東京の感覚からすると、3%だと許可をいただけないため、本文においても、5%を記載していただきたいと考えております。
 また、カーブアウトの割合は、対象として想定する債権の範囲と関連しうるかと思います。(iv)のカーブアウト対象債権は、23ページに掲げる例外としての(i)乃至(iii)で支払われた後の残りの債権が対象となりますので、考え方を確認させていただきたいと思います。特に商取引債権が重要だと考えていますが、まず(ⅰ)で、手続開始後の原因により生じた債権は、広く随時弁済の対象となる。そして(ⅲ)で、開始前の原因により生じた債権についても、これは少額ですとか著しいという要件は特段課すことなく、比較的広く認めていくとされています。そうであるならば、このカーブアウトの対象となってくる債権は、この脚注73に書かれているような、比較的限定的なものとなり、一般債務者といっても例えば不法行為債権等に限られてくるのではないかと思っております。そこで、事務局の方に御質問なのですが、今、(ⅲ)の開始前の原因により生じた債権については、少額などの要件は外した上で広く認めていくというような方向性でよろしかったでしょうか。
 
 次に、2点目ですが、資料1の報告書案21ページの(iii)の「換価」の方法についてです。ここで個別財産をどのように処分していくかにつきましては、本文の表中の上から3行目ですが、「管財人の善管注意義務等に照らして相当な方法により行うものとし、これを裁判所の許可基準とする。」とされ、脚注65において、「事業譲渡とする場合に、どの範囲の財産や契約上の地位などを事業譲渡の対象とするか、既存債務を譲受人に承継させるか、その範囲をどう画するかなどの問題についても、裁判所が担保目的財産全体としての換価価値の増大と迅速かつ円滑な換価の必要性、債務者間の公平などの観点からその許否を判断すべきものと考えられる。」と説明をいただいているところです。
 このワーキング・グループにおけるこれまでの議論でもでていましたが、プラスの財産のみならず、ごくまれに例外的に土壌汚染ですとかPCBといった負の価値がついてしまっている資産が、やはり倒産実務をやっている立場からするとあるものでして、当該除去費用などをどのように扱うかは重要なところと考えております。この点につきましては、以前の議論において、当該脚注65における、管財人の処分として、実行手続の管財人において処理をしていただけると。つまり、事業担保権の実行手続の中で処理することとなり、事業担保権の実行手続終了後、後続する破産手続において、破産管財人が乏しい資産のなかから、負の資産の処理をしなければならない事態は生じないと理解しておりますが、この点について、再度確認をさせていただきたいと思います。
 なお、実務の観点から申し上げますと、例えば、不動産に土壌汚染があった場合について、破産手続であれば、破産財団をつぎ込んだとしてもしっかりと除去するようにと指導されているところですし、不動産執行においても、対象不動産に土壌汚染等がある場合には、しっかりと評価等に反映する。東京地裁の破産再生部、そして執行部の実務本にも明記されておるところですので、以上の取扱いは、実務的には違和感がありません。担保業者の皆様にとってもさほど不合理ではないことかなというふうに思っておりまして、その点についての確認でございました。以上の点については、疑義が残らないように、例えば21ページの脚注65において、当該観点を追記していただければと考えております。
 以上でございます。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。御質問がありましたので、よろしくお願いします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。まず御質問は、立法段階における(i)から(ⅲ)のうちの(ⅲ)について、会社更生法は今、「少額」の債権とか「著しい」支障という要件がありますが、ここは事業成長担保権の実行手続の中では、このような要件について、というより、御質問いただいたのは「少額」だけかもしれませんが、要件を外すのかという御質問だと理解をしております。それは23ページの一番本当に最後のところですが、これらの要件を不要とするなど、より広い要件を設けることが適切ということにしてはどうかということでお諮りをしておりまして、まさに志甫委員御指摘のところで考えているということになろうかと思います。
 それから、21ページの注の書き方等を含めて御指摘をいただきました。破産財団の実務、あるいは不動産執行の実務で書籍があるというようなことを御示唆いただきましたので、最後の取りまとめに向けまして、当庁でも研究を深め、他の委員の方の御意見等も踏まえながら、最後本文をどうするか、あるいは脚注をどうするか、また御相談をさせていただければというふうに思っております。

【志甫委員】
 ありがとうございます。資産のうち負の部分の清算なり除去を事業担保権の実行手続の中でやっていただくのか、それとも、事業担保権の実行手続では処理されることなく、破産手続の中に残ってくるのか。破産財団には、カーブアウト部分の引継ぎがあるとしても、さほど見るべき資産がないことが想定されますので、ここはぜひ事業担保権の実行手続の中で、処分していただきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。恐らくマイナスの部分だけを置き去りにする例は、典型的に管財人の善管注意義務違反になるのか、その手前で裁判所が許可しないのかというのはあると思いますが、実行手続の中でそういうことは避けていくというようなことになるかと思います。
 そのほかいろんな資産がある中で、プラス・マイナスがいろいろあって、何が引き継がれ、何が残るかというのはケースごとになっていくのかなというふうに、いただいた中では考えておりますが、ちょっとこの辺もよくまた実務の状況等も勘案し、報告書に向けて、最後の御相談をさらに加速させていきたいというふうに考えてございます。

【志甫委員】
 ありがとうございます。脚注65において、事業担保権の実行管財人の判断要素として1つ挙げていただくことでも結構ですので、御検討のほどよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして、菅野委員、お願いいたします。

【菅野委員】
 菅野です。よろしくお願いいたします。残された論点2点について発言したいと思います。
 1つ目が、労働者保護の点です。改めましてですが、労働者の権利保護や労使対話の重要性、これは言うまでもなく、他方でこの制度が資金調達を促進するための利用しやすい制度である必要もあるので、そのバランスが重要というのは共通認識だと思っています。そういう意味でいうと、労働者保護の考え方は、基本的には私は法的な倒産手続より厳格な手続となっている必要はないのではないかと思っております。この事業成長担保権が異質な担保権のように見える印象は与えなくて良いのではないかというふうに思っています。
 現在の事務局案は、このバランス感を勘案して合理的な設計になっていると思いますが、1点だけ、論点A、Bに関係する管財人による情報提供のところなのですが、既に実行時の労働組合等に対する通知、それから、裁判所による意見聴取というのも手続的に入るということであれば、管財人の情報提供の部分は、譲渡の交渉に当たって管財人が情報提供できるもの、できないものという、管財人の裁量に関わる部分があると思いますので、管財人の裁量を制限しないような範囲での必要な情報という配慮というのは必要かと思っていますし、場合によっては、この手続は法定せずに運用もしくはガイドラインにするということも考えられるのではないかと思っています。いずれにせよ、情報提供においての管財人の裁量というものは留意いただければなと思います。
 
 もう一つ簡易な実行のところですが、弁済禁止と、それから強制執行停止の簡易な実行における例外を設けるかどうかということです。事務局のほうでも書いていただいているとおり、弁済禁止がないという、簡易な実行における原則のさらに例外を設けると、本則の実行の場面との不均衡が生じる可能性があるというのはそのとおりだと思います。ただ、弁済禁止なしの例外を設けるときには、裁判所の審理の下で弁済禁止の保全処分をとる、といった手続を経ることになりますので、その手続に当たって、こういう不均衡も勘案して、裁判所及び管財人が判断して、それでも必要という場面なのであれば、不均衡に対する手当を考えられた上で、この弁済禁止の例外というのが利用されるのではないかと思ったりしております。であれば、これはどちらも例外なしとすると、本則の実行と簡易な実行といった、弁済禁止効と強制執行の停止というはっきり効果が分かれる2つの手続になるのですが、簡易な実行の中でも、一部例外的に弁済禁止と強制執行の停止が設けられるという、中間的なものを設けて、将来的にどういう状況が生じるのか予測しづらい中でレイヤーをもう一つ増やしてみるというのも良いのではないかと。結局、そんなに使われないのではないとしても、別に例外の例外なので、よく使われる手続である必要もなく、他方でいざ必要となったときに、レイヤーがないと困ることがないように、制度設計としては段階的に設けておくというのも1つの選択肢なのではないかと思っております。
 私からは以上です。ありがとうございました。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、連合の村上委員、どうぞお願いいたします。

【村上委員】
 ありがとうございます。何点か、残された論点の労働者の保護に関しまして申し上げたいと思います。
 まず、論点Aと論点Bについてです。論点Aの部分では、実行手続における事業の承継先の労働者の移転のあり方について、事業を解体せず、雇用を維持しつつ承継することを原則とするということに対して賛成です。承継されない労働者の救済が困難であることは指摘してまいりましたが、加えて、事業成長担保という従来とは異なる担保権の性質を踏まえれば、資料にも記載がございますように、労働者の流出の防止事業、事業価値を維持するためにも労働契約も含めて包括的に売却することを原則とすべきと考えます。
 
 次、論点Bの手続のところですが、情報提供のあり方に関しまして、労働組合等への裁判所の通知は、実行手続の開始決定後とあります。事業成長担保が事業の継続を目的としていること、事業継続、維持の観点から、労働者の理解と協力が必要とされていることを踏まえれば、再建型手続と同様に、実行手続開始前の通知が必要ではないかと考えております。また、管財人からの必要な情報提供という点につきましては、労働組合等が主体的に手続に関与し、意義ある協議、団体交渉を行っていくためには、どのような情報が提供されるのかが大変重要だと考えております。労働契約承継法や事業譲渡指針においては、協議において留意すべき事項が示されております。情報提供として何を行うべきなのかということについて、例えば譲渡の背景や理由、譲受会社の概要、就業の場所、労働条件などについて説明・協議をするということが書かれておりますので、そういったことも参考にしていただきたいと思います。
 また、いずれの論点にも関係することですが、労働組合等の手続的な関与に関しまして、現行の会社更生法や倒産法等においても、同様に労働組合等の手続関与の仕組みが設けられておりますが、労働組合がない職場も多い中、そのような場合に、実務上は意見聴取がされないままに手続が進められるという事案もあると聞いております。前回ヒアリングで、竹村弁護士からもそのような御指摘がございました。労基法では、労働組合がない場合には、過半数代表者が協定等の相手方となりますが、それはその都度、相手方として選出しているものであり、労働組合のような常設な代表がいるというわけではございません。そういった中で、労働者保護の実効性を高めるためには、手続的関与を誰が行うのか、その主体は何なのかというところについて問題意識を持っているということについて述べておきたいと思います。
 
 次に、論点Cについても2点述べます。事業成長担保権の設定時に労働者、労働組合等に情報提供や通知、そしてコミュニケーションを行うことを盛り込んでいただきたいということについて重ねて申し上げます。
 企業再編が円滑に進んでいる事案におきましては、労使協議において、再編の背景や目的、将来のプランが、会社側から早期に示されております。こういったことで働く人の納得感、再編後の意欲も高まると考えております。事業成長担保権は伴走支援型の融資として、基本的には会社の事業を大きく成長させるために設定されるものと考えております。
 こうしたプラスの面を含めて、労働者が経営者から直接説明を受けて、理解と協力を求められるということと、登記を見て担保権が設定されていることを知ったり、社内外のうわさで知ったりすることでは、会社に対する気持ち、信頼は雲泥の差と思います。働く人の会社に対するエンゲージメントを向上させるためには、コミュニケーションは非常に重要だということは、皆さん周知のとおりかと思います。事業を成長させるために、まさにその点は問われるものであり、設定時の情報提供の必要性について改めて申し上げます。
 次に2つ目ですが、今回新たに周知・広報について記載いただいております。この間、設定契約において、労働契約に関わる特約を付されることによって、間接的に労働者が影響を受けることがあるのではないかということについて懸念を申し上げてまいりましたが、その点については、第4回の資料におきましても、設定者と労働者との労働契約の締結・変更について、追加的な制約を課すものではないと記載をいただいております。周知・広報についての記載の中でも、事業成長担保権の設定契約において、労働条件等に関与することは許されないということも明記いただいきたいと思っております。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、井上委員、どうぞお願いいたします。

【井上委員】
 ありがとうございます。井上です。
 最初に、資料の1についてコメントを差し上げます。24ページのところです。今回初めて、財団組入の割合の下限の例として、抵当不動産の任意売却のときを参考に3%という数字が出てきました。これは、あくまで23ページの(ⅰ)から(ⅲ)までをどのように見るかということにも関わるのですが、先ほど志甫委員がおっしゃったとおり、今回、抵当権などと違って、事業成長担保権については、23ページの(ⅰ)から(ⅲ)に当たる優先債権が定められ、とりわけ(ⅲ)については、無担保の一般債権であっても、事業の継続に有用であれば商取引債権等が優先的に扱われることとされます。また、(ⅱ)では、労働債権なども優先的に扱われるという上での話ですので、普通に考えると、それ以外の債権、この24ページの(ⅳ)の債権を優先させる必要があるのかは、そもそも議論になり得るところだと思います。
 そうはいっても担保の包括性に鑑みて、一定の優先性を、(ⅰ)から(ⅲ)以外の債権、すなわち事業継続に必要でない債権についてもなお準備しておくということだとすると、果たして不動産抵当権の任意売却のときの例を参照するのが良いのかということに疑問がないわけではなくて、そういう意味では、3%はむしろ多過ぎるという考え方もあり得るのではないかと感じます。
 いずれにしても、23ページの(ⅰ)から(ⅲ)のような扱いをして、事業を継続するために必要なキャッシュフローの優先性は認めた上での残りのものとして、果たしてどこまで優先させるのかという判断が必要だと思いますし、そういう判断で、大西委員がおっしゃったように、裁判所が関与して定めるということでも良いと思うのですが、そのときに、あまり不動産抵当権のときの数字がひとり歩きするのはよくなくて、むしろそれは多過ぎるというか、ちょっと場面が違うという考え方もあるかなと思いました。
 それに関連して、もし(ⅳ)のような、(ⅰ)から(ⅲ)以外の債権についても優先扱いすることを考えるとすれば、10ページ、11ページにあるように前回議論した信託スキームが必要になり得ると思うのですが、これは前回の繰り返しになってしまうのですが、基本的には、そのスキームの負担を軽くしないと使われなくなってしまうことを懸念しております。まともなレンダーであれば、担保権の受託者を兼任することに特段の負担がないように、ここで負担と申し上げるのは、費用的な負担と、それから手続的な負担、手間ということですが、いずれも極力軽くして、利用が促進されるようにしたいと考えます。もちろん、担保権者としての振舞いが不適切だとすれば非常に問題なのですが、一般的に金融機関が担保権を管理したり実行したりするときに求められる振舞いと大きく異ならないのではないかと感じておりますので、その意味では、追加的な責任負担が生じにくいようにしておく必要があろうかと思います。
 大西委員から、一般債権者のためにどういう義務を負うのかという質問、議論がございましたが、形式的にはやはり受益者である以上、受託者はフィデューシャリー・デューティーを負うということかもしれませんが、事務局から御説明いただいたように、事務処理の内容を比較的シンプルにし、裁量をできるだけ少なくして、かつもともと担保権の実行によって、担保権者の利益を最大化するという点で同じ船に乗っているわけですから、一般債権者のことをことさらに意識しなくても、通常の担保権の実行を粛々とやれば、責任を問われることはないという設計にするべきではないかと思います。
 資料1については以上です。
 
 資料2についてですが、労働債権との関係、労働者の保護との関係で、論点Aと論点Bについては、実行段階における労働者の保護、労働者への影響を考えて御整理いただいたと理解しておりまして、このあたりに異論ございません。賛成です。
論点Cについても、基本的には理解できるところだと思っておりますが、10ページの①については、労働者に与える影響等について周知を図るということで、これは大変結構なことですが、これも以前申し上げましたが、影響としては、私は基本的には、個別資産、それも主要な資産をばらばらにいろいろなレンダーに担保に入れるよりも、むしろ一括して担保に入れ、その実行の際に、事業譲渡という形で一括して労働関係も移転することになっているほうが、労働者にとって有利ではないかと思っておりますし、先ほど申し上げたように、そもそも未払いのものがあれば優先されるという点でも、個別資産の担保を積み上げて資金調達をするよりも、むしろ労働者に良い影響があるという面もありますので、必ずしも悪い影響ということではなくて、少なくとも良い影響についても周知するという形で、制度の趣旨を御説明いただきたいと思います。
 加えて、②のような使用者性の論点があることは承知しておりますが、これは事業担保の設定と直接的に関係があるわけではなくて、ここにありますように、担保権者、または与信者が基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に関与する場合の問題でしょうから、事業成長担保に限らず、与信者が、様々な主要資産を担保に取ったり、あるいは担保を取る場合に限らず、メインバンクなどの地位を利用したりして、経営に何らかの支配を及ぼし、その中で、労働関係にも干渉すれば、生ずる問題だと理解しています。そうであれば、これは事業成長担保の設定に伴う問題というよりは、影響力の大きなレンダーの振舞いの問題ではないかという気がしまして、優越的地位の濫用の問題、あるいは労働法における使用者性の問題一般として考えれば良いことではないかという感じがしております。その観点で、事業成長担保権の設定だけをとりわけ取り上げて、労働関係の中で、通知とか協議とかを設定時のプロセスにおいて義務化することについては、必要ではないと思っております。
 繰り返しになりますが、資金調達の方法として、1つのオプションとして事業成長担保権があるということだと思いますが、コア資産について抵当権、売掛債権担保、在庫担保を設定することも1つの方法ですし、場合によっては無担保で借り入れることも可能かもしれませんが、そのいずれを選択するかは経営判断の問題であり、どの方法を取るかを毎度義務的に労働者に通知するとか、協議するとかいうことではないと思います。重要な経営課題について、労働者とのコミュニケーションをよくすることは常に必要なことですが、事業成長担保権の設定を、何か極めて特別なといいますか、伴走型支援を伴うのはおっしゃるとおりですが、それがあるということで、抵当権、あるいは、在庫担保などの設定のときに要らない手続を経る義務が課されることになると、過度に事業成長担保権の使い勝手を悪くすることにつながるのではないかを危惧しております。

 労働関係については以上です。16ページ以下の簡易な実行については、事務局の整理に特にコメントすべき点はございません。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして、大澤委員、どうぞお願いいたします。

【大澤委員】
 大澤でございます。ありがとうございます。まず、資料1につきまして、コメントをさせていただければと思います。
 先ほどからお話の出ております、資料1の24ページあたり、財団組入のところと、あとそもそもその前の(ⅲ)の実行前のところの共益費用のところで、志甫委員のほうから御指摘あった点でございます。
 ページからいうと、23ページの(ⅲ)、実行手続前の原因により生じた債権のところの問題で、先ほど志甫委員のほうから、マイナスの資産というお話がございました。こちらについては、(ⅰ)か、あるいは(ⅲ)かで善管注意義務の問題としてお支払いがされていくべきものであろうという事務局からの御回答をいただきましたが、管財人として善管注意義務を負うのは、そういったものについて負うのはもちろんだという考え方があると思いますけども、一方で、貸し手である金融機関におかれましても、そういったマイナスの資産については、担保の弁済を受ける前に優先して支払われるべきものだということを御理解いただくということが大事であろうというふうに思っております。
 今まで特に個別の資産担保、不動産担保、その他を取っている金融機関からすると、たまたまそちらにマイナスの資産がなければ、そういったマイナスの資産についての負担を自らの担保のほうで負うということはなかったわけですから、あまり控除される費用の中からそういったものがあるというものが、実務上はなかったと思います。ただ今回は、一括で事業を担保に取るということですから、プラスもマイナスも併せて、当然のことながら全ての資産とキャッシュフローを把握して価値を見いだしていくということですので、そういったマイナスの資産の部分についても、そもそも担保権者として回収を規定すべきではないということについてどこかで触れておいていただけると、それは別に土壌汚染に限らず、マイナスの資産ということについての金融機関の意識づけの問題であるとも思いますので、貸し手のほうの理解を深めるためにも、そういった御提案をどこかワーキングの報告書の中で書いていただければなというふうに思っております。その意味で、志甫委員の意見にも賛同いたします。
 それから、先ほど来からお話の出ている、今度は24ページの財団組入のところでございます。こちらは何らかの数字が正しいか正しくないというものではないということは、十分皆様共通の理解であるとは思いまして、あとはそれをどう考えていくかだというふうに思っております。事業成長担保権が、事業、会社をまるごと担保に取るというものである以上、一方で、事業担保権が執行された後に、会社が同時に消滅するわけではなくて、その後の清算手続というものがある以上、2つの手続が分かれている以上、事業担保が終われば全て会社の手続が終わるというわけではないというところからしても、何らかのまず、その後の全ての処理をするための費用が残るべきだという問題がございます。
 その意味で、財団組入金というか、何らか残る、一定資金を残すということを考える必要があるというふうに考えております。それ以外の、ではどこまで払われなかった一般債権について払うのかというのは、先ほどのローマ数字の(ⅲ)とのバランスになってきますので、パーセンテージを簡単に決められる問題ではないということも理解はしております。
 ただ、こういったパーセンテージを決める、決めないというのは、担保実行の中で決まっていく、事案ごとにということもありますし、一方で本来であれば、この担保そのものは伴走型で行っていく担保だということで、任意での譲渡が基本で、法的な手続を利用しての担保実行というのは極めて例外的な場合に限られてくるのだろうというふうにも思っております。
 そうしますと、そういった実行手続を利用して、担保実行の管財人が、中立的な立場から従業員の動揺を抑え、スポンサーを探し、適切なところへの譲渡をするという、そういった法律上の助けを借りるという形での実行であるわけですから、何らかそういった法的手続を借りた部分での上積み部分について、担保権者に対してそもそもお支払いすべきではないという考え方もあると思いますので、今ここでは担保組入金としては3%というような形の数字がちょっとひとり歩きしている部分がありますが、そういったその担保、法的整理を利用する場合での上積み部分といいますか、法的手続を使うことで実現できると。担保権者が任意では実現できなかったものを法的手続の中で実現するという観点で、なお法的整理に入るのであれば、何らかのそういった資金的なものでの、さらに一般債権者向けに残すものというのがあってしかるべきだというのはありますし、それは単純な不動産の担保実行と比べるとはるかに法的には難しいもの、先ほど申し上げたような、いろいろ今問題になっている労働債権等も含めて、多種多様な利害関係人を調整しながら進めていくわけですから、その上での実行と弁済ということになるわけですから、担保権者の弁済ということになるわけですから、そういった意味での法的整理を利用するに当たって、そこを担保権者が期待すべきではないパーセンテージというのは当然あって良いのかなというふうにも思う次第です。それが資料1です。
 
 資料2につきましては、労働債権につきましては、皆様から御意見がありましたところについて、A、B、C、私もともに、この事務局の資料に大きな違和感は感じておりません。簡易な実行手続のあり方のところについてでございますが、もともと簡易な実行にいろんな例外を設けると、本則とどこが違うのというふうに思っていたところがございますので、本則と簡易な実行をきちんと分けると。弁済禁止効なし、強制執行停止なしとして簡易な実行を認めるというのであれば、それはそれでというふうに私も考え方としては良いかと思っております。
 一方で、弁済禁止の保全処分の要否のところにつきましては、もし簡易な執行でやはりうまくいかないというのであれば、本則に移るということで良いのではないかなとも思っておりまして、あまり細かく実行手続を分けなくても良いのではないかなというふうに考えている次第です。その意味で、弁済禁止の保全処分までは要らないのではないかと。もし簡易な実行でお金が足りないと、でも実行したいということであれば、恐らくそこはメインの貸し手である金融機関のほうが、自らの弁済等を一部猶予するなり何なりして、手続を早期に進めてスポンサーにその事業を渡すというようなことをお考えになるのではないかと考えておりますので、簡易な実行の側面においては、弁済禁止効までは要らないかなというふうに考えた次第です。
 
 また最後に、その他の論点というところで、本則の実行への移行というところがございますが、2つ目のポツで、破産手続の開始決定のところについては弁済が禁止されますということで、本則への実行への移行が必要となると考えられるがどう思いますかというところがございますが、ここはおっしゃるとおりでして、そもそも破産手続開始原因がある以上、もはや簡易な実行というお話ではなくなってくると思いますので、開始決定とともに職権での移行、あるいは担保実行管財人の申立てによる、裁判所による本則への実行手続への移管というようなことになろうかというふうに考えております。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、伊藤委員、どうぞお願いいたします。

【伊藤委員】
 ありがとうございます。伊藤でございます。
 私は、雇用者の雇用保護の論点についてのみお話しさせていただきますが、雇用を守る、労働者を守るというのは当然当たり前なのですが、守るための担保権、要は事業を継続させる、イコール守るための事業を継続させなければいけないのですが、労働者ばかりに重点を置き過ぎて逆にスピード感を失ってしまい、継続が不可能になってしまうような取組ではいけないと思っていまして、自分がもしも担保権を使わなければいけない状況に追い込まれたときに、では何を優先してやるかというと、今回の説明によると、労働者に説明をしなければいけないとかというところは、これは企業の経営者のスタイルによって様々だと思います。私だったら伝えるかもしれませんが、一々細かいことを伝えないほうがやりやすいという経営者も現れるかもしれないので、ここまでしなきゃいけない、例えば、裁判所に何とかしなければいけない、管財人はこれをやらなきゃいけないという、やらなければいけないルールがあまりにも多過ぎてしまうと、逆にこの担保権の使い勝手が悪くなり、使われない担保権になってしまうおそれもあると思うので、ほかの方もおっしゃっていますが、特別なことではないので、手続が多ければ多いほどタイミングを逸してしまう、スピード感がなくなってしまうので、なるべくシンプルにしていただきたいと思っているので、ちょっと決め事が多いのは避けていただければと思っております。
 以上です。ありがとうございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次は倉林委員ですが、御意見の内容をチャットに御記入していただいているのですが、御発言いただけるのであればお願いいたします。

【倉林委員】
 了解しました。特にチャットで書かせていただいたこと以外にお話しすることがないので書いたのですが、本日の残る論点として挙げていただいたポイントの議論の方向性について賛同しておりますし、対象とする企業の範囲が広い中で、私としては、トップTierのスタートアップが使えるのかという観点で非常に気になった部分があったのですが、そこもしっかりと過度な負担なく、活用可能な範囲にとどめていただいているという認識ですので、ぜひ引き続き議論を進めていただければなというふうに思っています。よろしくお願いします。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、日商の山内委員、どうぞお願いいたします。

【山内委員】
 日本商工会議所の山内でございます。
 まず、資料の1につきまして、本制度が簡易、迅速、廉価であって、使われる制度となることについての重要性に言及いただきましたことを、高く評価いたします。
 また、「4.その他の課題」の「(2)実負担軽減のための取組み」に記載されているように、本制度が取引の相手先への信用不安のシグナルに映らないように広く周知していくことが、今後において非常に重要となりますので、日本商工会議所としても各地の商工会議所と協力して、周知に協力していきたいと考えております。
 また、「3.事業成長担保制度について」の「①担保目的財産」につきましては、かねてから申し上げているとおり、事業単位での担保権設定を可能にすべきという意見を記載いただいておりますが、今後の立法化におきましては、ここでの立法のあり方が制度の活用を広めていく観点で重要であると考えております。ぜひとも事業者や金融機関のニーズを聞きながら、事業単位での設定を可能にする方向性も引き続き検討いただける形にしていただきたいと思います。
 そして、「④対抗要件(優先関係)」におきましても、商業登記での対抗要件具備という形でまとめられています。しかし、特に制度創設当初は、誰もが閲覧可能な商業登記への記載が要件となりますので、風評リスクを恐れて、せっかくの制度が使われなくなることを懸念しております。そのため、ぜひとも事業者が安心して活用できるような形での対抗要件具備の検討も、立法化に当たってお願いいたします。
 
 続いて、資料2の労働者保護についての追加的な論点につきまして意見いたします。前回の会議でも発言いたしましたが、大前提として、ともに働く労働者の皆様が安心して業務を遂行できる環境を守っていくこと、そして労働者の雇用を守っていくことは非常に重要であると考えております。そのため、労働者保護は最大限に行っていくことが重要であると考えております。
 その上で、価値ある事業が一時的な要因で窮地に陥った場合においても、伊藤様からもご意見がありました通り、スピード感を持って円滑に事業を継続していくことがこの制度の本旨であると考えております。そのため、手続が多くなることによって、制度として使われなくなることは避けるべきであると考えております。以上の観点から、論点Aにつきましては、事務局の整理に賛同いたします。
 実行手続の管財人が担保権者のみならず、労働者も含めた利害関係者全体に対して善管注意義務を負うことは、担保目的物として、動産や債権ではない、生身の人間がその先に存在することを考慮に入れれば、制度化していくことが非常に重要だと思います。
また、雇用を維持しつつ事業を承継することを原則としつつも、事業の継続が困難である場合、例外的に個別財産の換価を認めて、例外時においては裁判所が労働組合の意見を聴取することは適切だと思います。雇用の維持を第一に考えるべきでございますが、窮地に立つ事業の継続を第一に考えた場合には、全ての雇用が承継されることを絶対的なルールとしてしまっては、他の制度の手続と比較しても重く、使い勝手が悪くなるため、制度に組み込むべきではないと考えております。
 このような重い手続を定めたことによって、破産という事態に至ると、労働契約の不承継のリスクはさらに高いものになることを危惧しております。裁判所や管財人による実行手続開始後の通知は、労働組合との適切なコミュニケーションであり、適切であると考えています。
  
 論点Bも、事務局の整理に賛同いたします。事業の再生・譲渡において、労働組合は強い利害関係者であるため、実行時における設定者、金融機関、裁判所、管財人との協議が必要であるという御意見があることにつきましては、十分承知しておりますが、譲渡先を見つけることが、破産を防ぐための大前提と考えております。既に債務不履行の状態に陥っている企業において、会社分割時と同様の協議の手続を義務づけることは、制度として重いと考えております。
 
 最後の論点Cにつきましても、事務局の整理に賛同いたします。事業成長担保制度はこれまでにない新しい制度です。金融庁主導で正しい理解を周知していくことが極めて重要であると考えます。事業成長担保を設定しているような会社とは取引できないという事業者の懸念の声が、弊所の会員企業からも既に聞こえております。全ての利害関係者が、本制度への正しい理解をしたうえで、取引が円滑に行われることを視野に入れて、広報活動していくべきだと思います。
 また、労使の適切なコミュニケーション上、個別の事業成長担保権の設定のタイミングで、労働組合などへの説明があるべきという御意見があることは承知しております。しかし、経営における重要な判断におきまして、事業成長担保権にのみこのような重い手続を定めるのは異質であり、その結果、利用されない制度になってしまうと元も子もございません。そのような形ではなく、社会全体への周知をもって制度が理解されるような方向で進めていただきたいと思います。
 
 簡易な実行に関する論点につきましては、債務不履行時のテクニカルな論点でございますので、ぜひとも使われるような形ということで、金融機関の専門家の皆様の御意見にお任せしたいと思います。ぜひともよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、山本先生、どうぞお願いいたします。

【山本委員】
 ありがとうございます。私からは、資料2について、2点コメントをさせていただければと思います。
 まず、資料2の8ページのところの論点Bに関わるところでありますが、①で、裁判所で実行手続開始決定後、労働組合等にその旨を通知するという御提案になっています。これに対して、村上委員であったかと思いますが、資料の14ページのその他の法制度のところで、会社更生、あるいは民事再生については、手続開始申立てについての裁判を行うに当たって労働組合等の意見聴取の規定があり、今回の手続についても、これを参考にすべきではないかという御趣旨の御意見があったように承りました。
 ただ、会社更生や民事再生の規律、例えば民事再生法であれば24条の2に当たると思うのですが、この労働組合との意見聴取は、手続開始決定をすべきことが明らかである場合には、労働組合等の意見聴取は不要とされています。というのは、この意見聴取の趣旨というのは、裁判所が開始決定をするかどうかの判断、開始決定の要件として、民事再生や会社更生では再生計画案、更生計画案の作成の見込みというのがあって、それを判断する、実質的に再建ができるかどうかということを裁判所が判断して開始決定をすることになっていて、それについては、やはり労働組合の意見が重要であるという点から、この規定が入れられたものと理解しております。
 ただ、今回の手続というのは、あくまでも担保権の実行手続でありますので、債務者に債務不履行があれば、基本的には、自己開始決定が行われるという枠組みになっていて、必ずしも再建可能性等を裁判所が審査するという話にはなっていないわけですし、そうであるとすれば、開始決定をするかどうかの時点で、労働組合等の意見を聴取するということは、必ずしも会社更生、民事再生の規律が妥当する場面、類比されるべき場面ではないように思われます。もちろん実際に事業譲渡を行っていくに当たっては、労働組合、労働者の理解、協力というものが不可欠になるということは間違いないところでありますが、それについては、資料8ページの②のところにある、管財人が開始決定後、遅滞なく労働組合等に対し必要な情報を提供する。この必要な情報の範囲については議論があり得るところかもしれませんが、開始決定後の管財人の説明ということで、基本的には足りるのかなというふうに思っておりまして、私はこの8ページの論点Bについての整理で問題はないのではないかという認識を持っております。
 
 2点目は、簡易な実行手続の最後のところです。資料の21ページ、その他の論点とされているところです。この手続開始の要件、あるいは本則への実行への移行ということでありますが、私の理解では、簡易な実行手続というのは、やはり通常の手続に対する1つの督促であるというふうに理解しております。性質は大分違いますが、通常の民事再生に対する簡易再生のようなものなのかなと思っておりまして、そういう意味では、担保権者が簡易な実行手続を申し立てるということはもちろん前提になると思いますが、やはりそれに加えて何らかの要件というものがあるのが、制度の仕組みとしては自然なのかなというふうに理解をします。
 その場合に、その要件がどうして必要となるかということですが、実行する担保権者は自分でそれを選択しているとすれば、特段それをもちろん保護する必要はないということに、自分の判断に委ねれば良いということになると思いますが、恐らくはそれ以外の債権者、広く利害関係人も含まれるかもしれませんが、その利益を保護するというところが、この要件を設定する基礎になるかなということであります。
 本則に比べて、先ほど来出ていますように、基本的には自由に随時弁済できるということですので、その弁済によって資金が流出する結果、場合によっては資金繰りがつかなくなったりして履行期が遅れる債権者、後の債権者に対して弁済ができなくなってしまうようなおそれ、そういったものの債権者の利益、これを保護するということが中心的な問題かなというふうに思っています。
 そういう意味では、倒産手続が一般に債権者、一般の利益というのが幾つかのところに出てきますが、そういった趣旨、債権者全体の利益を勘案して、それを害しないような場合に簡易な手続によることができるということになるのかなと思いますし、逆に簡易な実行手続を一旦開始したとしても、途中でやはりそれが債権者の一般の利益を害するような事態になったような場合には、本則のほうに移行するということが求められるということになってくるのかなというふうに思います。
 そして、そのような債権者、弁済をし続けることが債権者一般の利益を害してしまうという事態の1つの典型が、そこに挙がっている破産手続その他の倒産手続の開始決定がある場面ということになるのだろうと思います。手続が開始しなくても、倒産手続の中で、弁済禁止の保全処分が発令されるとか、さらにその前の段階で、既に支払い不能な状況に陥っているというようなときは、当然引き続き弁済をすること、一部債権者に弁済を続けることは、債権者の一般の利益を害していくということになるのだろうと思いますので、当然この簡易な実行手続はできないし、本則に開始している場合には移行するということになっていくんだろうと思います。
 移行の申立権を誰に認めるか、あるいは場合によっては職権で認めるのか等々、手続の組み方はいろいろあり得るとは思いますが、基本的な考え方はそういうことかなというのが私の理解であります。
 私からは以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、堀内委員、どうぞお願いいたします。

【堀内委員】
 よろしくお願い申し上げます。
 資料1に関しましては、以前から申し上げておりますが、一般債権者への配当というのは、担保権者の立場からすると極力抑えるべきだと思います。共益的なものは十分お支払いしているわけですので、先生方がおっしゃっているように、不動産担保のケースの数字をそのまま持ってくるというのはアップル・トゥ・アップルにはなっていないというふうに思いますし、大西先生がおっしゃったように、私も個人的には、下限ではなく上限を決めておくべきではないかと思います。あとは裁判所等の合理的な判断にお任せするということになるかと思います。金額的にも、破産用の費用だという説明であれば、企業価値10億円の会社に対して破産費用で3,000万も要るのかなとも思われますし、少し高過ぎるような気がしました。それが1点です。
 
 あとは、資料のA、B、Cのお話ですが、総じては事務局の案に賛成というか、落としどころとして良いところではないかなというふうに考えております。論点Aにつきましては、事務局案では実行手続のときに、説明がなくても良いのですが、説明するとしても、基本的にその主体が裁判所とか管財人とか、そういう公平な立場におられる方からの説明のほうが、労働組合の方も聞きやすいのではないかと思います。これは一方の権利である担保権者のほうから説明されるよりは良いのではないかという点で、この事務局案が良いかと思います。
 経営者に関しましても、担保権者だから関係ないといえばないのですが、使われるかどうかという観点で申し上げますと、経営者が説明しないといけないというのを制度化するというのは反対で、経営者と労働組合が良いコミュニケーションを持つべきだというのはそうなのですが、それは建前論であって、常に良いコミュニケーションを持っているかどうか、全ての会社でと言われると、そうでない会社もあるのではないかなと思います。変な言い方ですが、結婚後何年もたつ中年の夫婦の間のコミュニケーションを例にとりますと、良いコミュニケーションを持つことは大事だと、私のところは良いコミュケーション持っていますが、みんなそうなのかといったらそうでもないと思うのです。だから、そういう建前をベースにコミュニケーションを制度化するというのはちょっと行き過ぎだというふうに考えます。
 最後に、資料1に戻ってしまいますけれど、priming lienの話に言及していただいてありがたいなとは思いますが、個人的には、本来は民事再生でもあるべきではないかというふうに考えていますし、あったほうが良いというふうに思います。もし、民事再生ではpriming lienがなく、会社更生法だけで認められると、もしかしたらこの事業成長担保権付融資で行き詰まり、法的整理となると、DIP型会社更生という流れが、もしかしたらメインストリームなっていくのかなと思いました。これは感想ですが、法的整理が今のような民事再生主体ではなくて、この担保権を使った場合は、もしかしたらDIP型会社更生でDIPファイナンス付きという手法が多くなるかもしれないと思いました。法的整理の実務のメインシナリオに影響を及ぼすかもしれないなというふうに感じました。
 以上でございます。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、沖野先生、どうぞお願いいたします。

【沖野委員】
 ありがとうございます。3点を申し上げたいと思います。
 1点目は、報告書案の中で書かれております信託の部分についてです。大西委員から最初に御質問、御指摘があった件ですが、信託の仕組みを取ることで、担保権者を適切な担保権の管理行使ができる者に限定し、しかし、与信者はより幅広く求めるということを可能にする制度として信託の利用というのが考えられるし、それが望ましいという御提案だと理解しておりますが、それとともに、全ての財産を優先的な弁済効を持った担保として握ってしまうということに伴う一般債権者の保護、あるいはそれへの配慮というものも必要だということで、それが割合をどうするかはともかくいわゆる組入れですとかカーブアウトにあらわれているわけですが、この信託の仕組みを取り、かつ受益者、しかも以前の資料によりますと、最優先の受益権者、受益債権者といいますか、それになる形でしたので、そのような形で一般債権者への配慮を実現するという、言わば一石三鳥という仕組みとして信託が提案されているというものと思われます。
 そのときに、一般債権者への配慮というのが過度になり過ぎないかという点でございますが、確かに受益者とすることで、様々な受益者の権能というのが出てまいりますが、既に事務局から御説明あったとおり、信託の実行に入るまでの間は、一般債権者で誰が受益者になるかというのは不特定であり、あるいは将来入ってくるものもあるということですので、未存在の中から誰というふうに一定の時期に決まるというものですから、具体的には、各種の具体的な受益者に対して対応しなければならない義務というのは現実化しないものと思われます。ただ、公平義務だけは、受益者が未存在とか不特定の場合でもかかってくると考えられておりますので、不公平なこと、すなわち、いわゆる被担保債権者に当たるところの与信者の類型のためだけに行動するというようなことであってはならないといったことは一般的にかかってきますが、それは受益者、受益権の優先順位のつくり方によって、一般債権者のためのカーブアウト部分というのが最優先ということになっておりますので、そこをそれなりに大きくするということをしないと、自分のほうに結局マイナスも来るという構造になっておりますので、このような受益権のつくり方によって、企業価値最大化のために努力するようなことをしないと、そういうような抑制が担保権者にはかかってくるという形になっておりますので、公平義務を負うといっても、過度な負担ということにはならない、そういうような設計になっているのではないかと考えております。これは理解を示したというだけです。
 
 2点目が、残された論点、資料2のほうの、労働債権、労働契約関係の論点Cの契約締結時の情報提供についてです。事務局説明資料の10ページにある点ですが、真ん中にある②の労働組合法上の使用者性の論点については、こういうふうに周知してはどうかという点ですが、これは既に御指摘がありましたように、また繰り返しあらわれておりますように、労働契約も事業として担保権の客体になるのだということを言うために、それは何を意味するのかという点が疑問として出てくるわけですが、ここに書かれましたような労働条件について、支配をするとか決定的な地位を持つとか、そういうものでは全くないというか、そういうことはできないものですので、そういうものではないということがむしろ前提であり、また、そうだとすると、この段階で情報提供義務を具体的に課すということは、事業成長担保権だけを特別な規律にかけるということですが、しかしながら、別に契約条件に何ら介入するという地位を与えるものではない中で、経営の状況ですとか、今後のための協力のためということであれば、事業成長担保権に関わらず、非常に決定的な融資を行い、融資契約の中で様々なコベナンツをかけるとかいう場合もそうですし、非常に主要な資産を個別に担保に取るという場合も同じような話ですので、この場合だけというのはやはり突出したものになり、なぜなのかという問題が出ますし、制度趣旨からしても、かえって拘束的で硬直的になるということが懸念されます。
 
 それが2つ目でして、3点目は、簡易実行についてです。簡易実行をどのようなものとして組むかということなのですが、観点としまして、一方では実行についての本則があるとともに、他方では任意の譲渡も可能なわけですので、そういう中において、なぜ簡易実行を置くのか、あるいは、どういう場面を狙いとして、この手続を置くのかということがより明確になれば、この制度が何のために必要なのかや、あるいは、こういう設計であるということがより明確になるのではないかと思いました。そういう点も少し補足していただけると良いのではないかと思ったところです。と申しますのは、今回、最終的に議論になっているところだけが出されたので、ほかにいろいろな簡易実行に伴う効果があるわけですが、ここだけを見ますと、結局弁済も全く従前どおり行われますし、担保の実行も従前どおり行われていく。かつ管理者の下で事業が継続していくということになると、簡易実行というのは、結局、管理処分権者を付け替えただけというようなことにも捉えられるようにも思われるわけで、一体簡易実行であることによって、どのようなところが狙いとして設けられるという話なのかということを、より打ち出していただくと分かりやすいのではないかというふうに思いました。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 本日御参加の委員の皆様方全員から御発言をいただきました。大変貴重な御発言を多数いただきまして、前回までもそうでしたが、誠にありがとうございます。
 それでは、オブザーバーの皆様方で、もし御発言ございましたら承りたいと思いますが、いかがでしょうか。厚労省の青山さん、どうぞお願いいたします。

【青山オブザーバー】
 厚生労働省の青山でございます。発言の機会を与えていただき、ありがとうございます。
労働の関係で簡単にコメントいたしますが、水町委員や村上委員と重なる部分もありますので、重なる部分は申し上げませんので、補足的に申し上げます。
 論点Aにつきましては、こういうことを整理してはどうかという提示をされていますところ、水町委員のおっしゃったことになりますが、管財人、裁判所がよるべき労働法規範も含めて、また事業を解体せず、という原則も含めて、ぜひ明確化して、運用上、関係者が参照できるような形で、何かにテイクノートされることを望みたいと思います。
 
 論点Bについては、裁判所等による手続自体はあり得る仕組みかと思いますが、以前から申し上げておりますとおり、厚生労働省でも従来より事業譲渡における労使協議などの促進を図るための指針というもので、コミュニケーションを呼びかけております。こういう実行のケースでは管財人が使用者となる部分が多いとは思いますが、そういう使用者の立場の者と労働者間の協議、今回管財人からの情報提供はなされようとしますが、その上での協議の促進はやはり重要ですので、そういう事業譲渡等指針にも留意すべきだと思いますし、そういう立場から我々も、労使協議を呼びかけるため改めて周知を考えるとか、ルールを考えるなどの働きかけにつきましては、協力できるかと思っております。
 
 今の話にも関連するのですが、論点Cは、説明会というような話が今回新たに提案されまして、これにつきましては、広報・周知としてやるということでございますので、厚労省も必要に応じて協力はいたしたいと思いますが、これについては、個別の設定の場面における情報提供等が要るか要らないかについては、今日も議論がいろいろありました。我々労使コミュニケーションを促進する政策を行っている立場からは、労働者に前向きな理解と協力を求める意味でも重要と思っており、そういう場面においてもどういう円滑な労使コミュニケーションができるかということを、我々のほうでも労使関係者と相談して、指針なのか分かりませんが、何かで働きかけていくという、ソフトな形での促進ということは、使用者の負担も考えながら検討できればと思いますので、そういう協力の用意があるということは申し上げておきますので、そこも参酌していただければありがたいと思います。
 以上です。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 オブザーバーの皆様方で、そのほか御発言はございますでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。
 委員の皆様方で、追加での御発言があれば承りたいと思いますが、何かございますでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。それでは、このあたりとさせていただければと思います。
 
 先ほど申し上げましたが、本日も大変活発な御議論をしていただき、貴重な御指摘を多数いただきまして誠にありがとうございました。だんだん取りまとめの時期になっているわけですが、本日お示しいたしました資料1に、御議論いただきました資料2の部分を盛り込んでいく見通しが立ってきているかと思います。それで、そういうことでございますので、本日いただきました御説明、御意見等を踏まえて、今後、取りまとめを意識したというのでしょうか、その方向で進め、皆様方にさらに議論を深めていただければというふうに思います。よろしくお願い申し上げます。
 それでは、最後に事務局から、連絡事項等ございましたらお願いいたします。

【大来信用制度参事官】
 ありがとうございます。次回のワーキング・グループの日時につきましては、皆様の御都合を踏まえた上で、後日、事務局より御案内させていただきます。よろしくお願いします。

【神田座長】
 どうもありがとうございました。
 本日は、いただいています時間よりは少し早いのですが、以上をもちまして、本日のワーキング・グループを終了とさせていただきます。皆様方、どうもありがとうございました。
 
 

(以 上)

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
企画市場局総務課信用制度参事官室(内線:3579、3535)

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