金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第25回)・「資産運用に関するタスクフォース」(第4回)合同会合 議事録
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1.日時:
令和5年11月22日(水曜日)13時00分~15時00分
2.場所:
中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室 ※オンライン併用
金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第25回)・
「資産運用に関するタスクフォース」(第4回)合同会合
令和5年11月22日
【神田市場制度WG座長】
それでは、定刻になりましたので、始めさせていただきます。ただいまから、「市場制度ワーキング・グループ」第25回・「資産運用に関するタスクフォース」第4回の合同会合を開催させていただきます。皆様方にはいつも大変お忙しいところ、本日も御参加をいただき、誠にありがとうございます。
本日でございますけれども、資産運用に関するタスクフォースにおける議論を取りまとめていただいた報告書の案を用意していただいておりますので、それについて御議論をいただきたいと思います。まず、事務局から、報告書の案について読み上げをしていただきます。その後、討議の時間ということで、皆様方から御質問、御意見をお出しいただくということで進めさせていただきたいと思います。
なお、報告書の案はお手元資料3になりますけれども、併せて、事務局のほうで作成いただきました概要紙を資料4としてお手元に配付しておりますので、併せて御参照いただければと存じます。
それでは、メディア関係の皆様方にはここで御退席をしていただければと存じます。よろしくお願いいたします。
(メディア退室)
【神田市場制度WG座長】
それではまず、事務局から報告書案の読み上げをお願いいたします。
【事務局】
それでは、報告書案本文を読み上げさせていただきます。6ページ目から始めさせていただきます。
Ⅰ はじめに
「経済財政運営と改革の基本方針2023」及び「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」等では、成長と分配の好循環の実現に向け、「機関投資家として家計金融資産等の運用を行う、資産運用業の高度化やアセットオーナーの機能強化を強力に推進すべく、資産運用立国の実現に向けた取組を行う」こととされた。これを踏まえ、家計の安定的な資産形成の実現等に関する幅広い検討を行っている市場制度ワーキング・グループにおいて、資産運用に関する制度的な枠組み等の専門的な検討を行うため、「資産運用に関するタスクフォース」(以下、当タスクフォース)が設置された。
当タスクフォースにおいては、資産運用会社等のガバナンス改善・体制強化やスチュワードシップ活動(企業との対話)の実質化、国内外の資産運用会社の新規参入の支援拡充・競争促進、資産運用力の向上及び成長資金の供給と運用対象の多様化に向けた環境整備等について、計●(まる)回にわたり精力的に審議を行った。
本報告書は、市場制度ワーキング・グループ及び当タスクフォースの合同により、その結果を取りまとめたものである。
Ⅱ 資産運用立国の実現に向けて―基本的な考え方―
我が国には2,115兆円にのぼる家計金融資産の蓄積がある。家計の安定的な資産形成を進めていくためには、家計の投資資金の運用を担う資産運用会社による投資とスチュワードシップ活動を通じて、地方も含めた成長企業への資金供給や、我が国企業の価値向上がもたらされる必要がある。そうした我が国経済の活性化による成長の果実が資産所得として広く家計に還元され、それが更なる投資や消費につながっていくというインベストメント・チェーンの流れが極めて重要である。
これまでも政府等においては、金融事業者による顧客のためのより良い取組みを促すため、「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、また、企業の持続的成長を促す観点から、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを策定するなど、家計の安定的な資産形成と企業の価値創造のための様々な取組みを行ってきた。さらに、昨年11月28日、政府は、家計の現預金を投資につなげ、家計の勤労所得に加え金融資産所得も増やすことが重要であるとの考えの下、「資産所得倍増プラン」を策定した。それに基づき、2024年1月から抜本的拡充・恒久化が図られた新しいNISAが始まるとともに、金融商品の販売会社等に対して顧客の最善の利益を勘案することを義務付けることや、家計の金融リテラシー向上に向けて金融経済教育推進機構を設立すること等を盛り込んだ「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が2023年の臨時国会で成立した。
さらに、成長と分配の好循環を実現していくためには、NISAの抜本的拡充・恒久化、コーポレートガバナンス改革等の取組みに続き、インベストメント・チェーンの残されたピースとして、我が国における資産運用業とアセットオーナーシップの改革等を行っていく必要がある。
我が国経済は、四半世紀にわたるデフレとの闘いが続いてきた。世界的な経済構造変化が生じる中でも、国内ではデフレによる需要停滞と新興国とのコスト競争を背景に企業はコスト削減を優先せざるを得ず、国内市場よりも海外市場を求めて海外生産比率を高め、国内投資は抑制されてきた。結果として、イノベーションの停滞等の課題に直面してきたことが指摘されている。こうした状況に対し、政府における、人への投資や国内投資を促進する政策展開もあいまって、企業部門の投資意欲は高まっており、こうした前向きな動きを更に加速させることが重要となっている。
また、日本経済はコロナ、ウクライナ危機による世界的な物価高騰も契機として40年ぶりの物価上昇となっており、政府においても物価高への対策に取り組んでいるが、家計がインフレ環境下においても資産形成を安定的に行っていくために、資産運用の重要性はより一層高まっている。
このような環境変化が生じている中では、投資家保護の下で資産運用の高度化や多様化等が図られることが必要な状況になってきており、資産運用会社による投資やスチュワードシップ活動の活性化を通じ、日本経済の持続的成長につながっていくことが期待される。
家計の投資資金が、アセットオーナー等の機関投資家経由で、または金融商品の購入を通じて、資産運用会社に委託され、その投資判断の下で企業等に投資されていくインベストメント・チェーンの流れを踏まえると、アセットオーナーや資産運用会社の役割は極めて重要である。両者が受託者責任を適切に果たし、受益者の最善の利益を確保する観点から、アセットオーナーは、運用力の高い資産運用会社を見極めて運用委託し、資産運用会社は、運用に関する分析能力を高め、専門的な運用力を発揮して、顧客のリスク許容度に見合った良質でより良いリターンをもたらす運用戦略や金融商品を開発・提供していくことが求められる。
あわせて、資産運用の改革が、インベストメント・チェーンを通じて家計の資産形成へ真に貢献していくためには、資産運用会社や金融商品を適切に選択するための家計の金融リテラシーを高めていくことが不可欠である。また、次世代の資産運用業を担う高度な専門人材を育成していく土台としても、金融経済教育の果たす役割は極めて重要である。そうした観点から、金融経済教育推進機構を中心に官民一体となって、金融経済教育の取組みを広く浸透させていくことが重要である。
以上のような基本的な考え方の下、資産運用に関する総合的、体系的な対応として、以下に記載する取組みが推進されていくことが期待される。
Ⅲ 資産運用業の高度化
資産運用会社は、国民の将来のための資金を託される運用のプロフェッショナルとして、明確な投資哲学の下、それぞれの特徴や個性を活かしながら創意工夫を重ね、国民の安定的な資産形成を果たしていくことが求められる。そうした役割を遺憾なく発揮するためには、資産運用業の高度化が不可欠であり、優秀な運用人材の集積による運用に関する分析能力の向上や、特色ある運用商品・手法の多様化、顧客の最善の利益を図るためのガバナンス改善・体制強化を図っていくことが重要である。
また、資産運用業の高度化を図る上では資産運用会社の競争環境を整えていくことが重要であり、資産運用業への参入障壁を取り除いていく必要がある。そうした国内外からの新規参入の活発化や既存の資産運用会社の運用力向上を通じて資産運用会社間の競争が促進すれば、サービスの高度化や、人材の育成・厚みの向上、デジタル技術等を活用した画期的な取組みを促す土壌となり得る。それらは、業界全体としての運用力の向上、ひいては家計のリターン増大に寄与するとともに、成長企業への資金供給の活性化にもつながるものと考えられる。
なお、資産運用会社による競争の促進によって運用力が高まり、また、特色のあるアクティブ運用商品・手法等が開発されることになれば、そうしたサービスに見合った報酬の獲得につながり、資産運用会社自身の収益力を高めていく余地が拡大していくものと考えられる。さらに派生的な効果として、アクティブ運用の拡大による企業の選別やスチュワードシップ活動が行われることを通じ、市場全体の価値が向上すれば、市場ベンチマークのパフォーマンス改善にもつながると考えられ、インデックス投資を行う家計のリターン向上にも資するものと考えられる。
こうした観点から資産運用業の高度化を図ることは極めて重要であり、そのための環境を整備すべきである。
1.大手金融グループにおける運用力の向上やガバナンス改善・体制強化
現状、資産運用においては、大手金融グループが果たす役割は大きい。その一方で、大手金融グループにおいては、顧客利益よりも販売促進を優先した金融商品の組成・管理が行われているのではないかとの懸念がある。
そこで、大手金融グループが、かかる懸念を払拭し、その役割をより適切に果たすようになるためには、顧客の最善の利益を考えた運営のために求められる体制を、傘下資産運用会社・販売会社も含めて構築していく必要がある。
また、運用力向上に向け、資産運用会社自身で行う運用を強化し、あるいはサステナブル投資やオルタナティブ運用等の新たな領域におけるビジネス展開を実現していくためには、グループとしてのオーガニック及びインオーガニック戦略を活用した運用人材の育成・確保に向けた取組みが重要になっていくと考えられる。
そのため、大手金融機関グループにおいて、グループ内での資産運用ビジネスの経営戦略上の位置付けを明確にし、運用力向上や顧客の最善の利益を考えた業務運営のためのガバナンス改善・体制強化を図るためのプランの策定・公表を行うことが重要であると考えられる。
2.資産運用会社におけるプロダクトガバナンスの確保等
家計の安定的な資産形成の実現のため、資産運用会社等の金融商品の組成者においては、顧客の最善の利益に適った商品提供を確保するための枠組みであるプロダクトガバナンスを実践していくことが重要である。
資産運用会社においては、社内にプロダクトガバナンス委員会を設けるなどの取組みが行われており、投資信託協会においても、投資信託の改革の一つとしてプロダクトガバナンスの推進を掲げるなどの改善に向けた動きもあるが、引き続き、資産運用会社のプロダクトガバナンスについては、顧客にとって分かりやすい情報提供といった観点も含め、以下のような課題が指摘されている。
・商品組成の課題として、適切な想定顧客属性の設定や、運用コストに見合った適切な信託報酬等の設定などについて十分な検証が行われていないのではないか。
・商品組成後の課題として、想定どおりの運用が行われているか、商品性に合致した運用が継続可能かなどについて、十分な検証が行われていないのではないか。また、販売会社から販売状況に関する十分な情報提供を受けられないこともあり、販売会社において想定顧客属性に合致した販売が行われているかなどの検証が行われていないのではないか。
・顧客への分かりやすい情報提供に関する課題として、投資家の適切な商品選択に資する想定顧客属性や費用などの商品性に関する情報提供のあり方に改善の余地があるのではないか。個人向けの投資信託等において運用担当者の氏名開示等の運用体制の透明性確保が進んでいないため、顧客は運用体制の実態が分からず、安心して投資できないのではないか。また、氏名開示等の運用体制の透明性確保が進むことで、投資家に対する責任を持った運用を行う意識が醸成されるのではないか。さらに、投資家が、ファンドアナリストや投資助言業者等の評価を通じて適切に商品選択できるよう、運用状況等について他社と比較できる見える化(情報開示)に取り組むべきではないか。
・ガバナンス体制の課題として、プロダクトガバナンスが機能するためには、その前提として資産運用会社自体について経営レベルも含めたガバナンスが向上する必要があるのではないか。また、オルタナティブ投資は、伝統的な証券運用よりも、高度な管理が必要であるなど、投資対象・投資手法のリスク等に応じたスキームの選択や販売対象の検討などの適切なガバナンス体制が求められるのではないか。
こうした指摘を踏まえ、資産運用会社による適切な商品組成と管理、透明性の確保等を後押しするため、顧客本位の業務運営に関する原則に資産運用会社のプロダクトガバナンスを中心とした記載を追加し、資産運用会社における個別商品ごとに品質管理を行うガバナンス体制の確立を図っていくことが適当である。
3.資産運用業の新規参入促進
①投資運用業の参入要件の緩和等
ア.投資運用業の参入要件の緩和、ミドル・バックオフィス業務の外部委託
投資運用業については、これまでも適格投資家向け投資運用業(いわゆる「プロ向け投資運用業」)や適格機関投資家等特例業務(いわゆる「プロ向けファンド」)といった枠組みを設けることにより、参入要件の緩和等が行われてきたところである。そうしたプロ向けの枠組みにより参入した業者については、業容の拡大に応じて一般の投資運用業への移行も期待されてきたが、我が国の投資運用業者数は大きく伸びていない状況にある。
投資運用業務を行う上で必要となる主な機能として、1)ファンド等の運営業務、2)運用業務、3)計理や法令遵守等に関する業務(いわゆる「ミドル・バックオフィス業務」)があるが、投資運用業の新規参入が伸びていない要因の一つとして、登録要件を満たすためのミドル・バックオフィス業務に関する体制整備の負担が重いことが指摘されている。
このため、新規参入の促進による健全な競争環境を確保する観点から、適切な品質が確保された事業者へのミドル・バックオフィス業務の外部委託を可能とし、投資運用業の参入要件の一部緩和を検討することが適当である。
具体的には、(1)適切な業務の質が確保された外部委託先へミドル・バックオフィス業務を委託し、原則として自らが金銭等の預託を受けない場合には、投資運用業の登録要件(資本金・体制整備等)を緩和することが適当である。あわせて、投資家保護を軽視する質の低い事業者がこうした委託を受けることのないよう、(2)上記ミドル・バックオフィス業務の全部又は一部を受託する事業者について、参入規制、行為規制(善管注意義務等)を課すとともに、当局による監督の対象とすることによって、業務の質を確保することが適当である。
これにより、委託元である投資運用業者においては、投資家に対する忠実義務等を果たすために、委託先の管理を行うためのガバナンスは必要であるものの、専任の担当者等を確保することが不要となり負担が軽減されることとなる。また、新規参入業者が最小限の人員を自前で整えてミドル・バックオフィス業務を行うよりも、専門の委託先にアウトソースすることで、むしろ業務の質が高まる効果も期待される。ミドル・バックオフィス業務を専門に行う事業者が普及すれば、そうした業務を担う人材の育成にもつながるものと考えられる。
なお、現状、ミドル・バックオフィス業務に関し様々な受託サービスの提供が行われており、こうしたサービスを提供する事業者に対して一律の参入規制を課すことは過度な規制となりえ、サービスの担い手がいなくなるおそれもある。したがって、ミドル・バックオフィス業務の受託サービスを提供する事業者を一律に参入規制の対象とするのではなく、当局の登録を受けた事業者にこうしたサービスを委託すれば、投資運用業の参入要件を緩和する構成とすることが考えられる。
イ.運用指図権限の全部委託
上記アに記載した投資運用業の主な機能について、欧州では、ファンドの運営業務を担う管理会社(ファンド・マネジメント・カンパニー)が存在し、運用業務は資産運用会社へ、ミドル・バックオフィス業務はアドミニストレーターへ外部委託することが一般的である。これによって、管理会社はファンドの運営機能に集中できる環境が整っている。
我が国では、1998年の法改正によって、投資信託委託会社の運用指図権限の外部委託に関する根拠規定を新設し、外部委託が可能である旨が明確化されている。一方、それまでの投資信託委託会社による自己執行の考え方を踏まえて、運用指図権限の全てを外部委託することはできないこととされたため、上記ファンド・マネジメント・カンパニーのようなファンド運営機能に特化した業務ができない、との指摘がある。
我が国においてもファンド運営機能に特化する業者が増加すれば、そうした機能を利用した新規の特色あるアセットマネージャーの増加につながることが考えられる。さらに、資産運用と資産管理といった機能を分別して、専門性の高い業者に資産運用機能を委ねることは、委託先についての必要なモニタリングとガバナンスが機能することを前提に、全体の効率性が高まることが期待される。
また、運用指図に係る権限を全て外部委託した場合でも、投資運用業者は、投資家に対して善管注意義務や忠実義務、外部委託先の運用に関する責任を負っており、その運用状況について必要なモニタリングを行わなければならない。これに加え、投資運用業者は、投資家に対し運用を外部委託することについて委託先の運用業者名も含め、あらかじめ契約や信託約款を通じて周知することが求められている。これらの規定を踏まえれば、投資運用業としてファンド運営機能に特化した業務を行うことは許容されるものと考えられる。したがって、運用指図権限の全部委託を禁止する規定の見直しを行うことが適当である。
一方、こうした運用の外部委託を行う場合には、委託先の品質管理を適切に行うことが重要となるため、委託先の管理について必要な制度等の整備を行うことも必要と考えられる。
②新興運用業者促進プログラム(日本版EMP(Emerging Managers Program))
新たに資産運用ビジネスを始めるに当たっては、投資運用業の登録要件を満たすための体制整備に係る負担が重いことに加えて、新規参入業者としてのトラックレコードがないため、運用資金(シードマネー)を獲得することが難しいとの課題が指摘されている。一方、海外では、アセットオーナー等がEMPとして新興運用業者へ積極的・専門的に投資し、より良い収益を実現しようとしている例もある。
このため、金融機関やアセットオーナーが、新興運用業者による運用成果を通じて、受益者の最善の利益を実現できる環境を整備するため、官民が連携した新興運用業者に対する資金供給の円滑化に関するプログラムを策定することが適当である。新興運用業者の範囲や運用対象とするアセットクラス等は、様々な運用商品・手法が多様化し、投資運用業者間で競争が促進されていくことが重要であるため、幅広く考えるべきである。例えば、アセットクラスについては、上場株式についてのエンゲージメント・ファンド(グロース市場上場後のグロースキャピタリストを含む)、債券ファンド等のほか、プライベート・エクイティ(PE)ファンド、ベンチャーキャピタル(VC)ファンド、インフラファンド等の多様な運用対象が考えられる。
金融機関やアセットオーナーにおいては、受益者の最善の利益を確保する観点から、運用力の高い投資運用業者を発掘し、また、将来的な顧客向け商品の委託先を発掘する等の観点から、新興運用業者を積極的に活用した運用を行うことや、新興運用業者について単に業歴が短いことのみを理由に排除せず、幅広く資金運用の委託先の選択肢に加えることが考えられる。加えて、政府においても、前述の新規参入要件の緩和によって新興運用業者の参入を後押しすべきである。そして、こうした取組みの「見える化」を進めるため、政府等において、新興運用業者への資金供給に向けた様々な取組みを公表することや、新興運用業者のリストを金融機関及びアセットオーナー向けに提供するといった取組みを行うことも適当である。その他、金融庁等において既に行っている取組みとして、特に海外の資産運用会社向けの取組みである金融創業支援ネットワークや、拠点開設サポートオフィス等の一元的窓口についても、関係者と積極的に連携の上、拡充すべきである。
官民連携した、こうした取組みの下、我が国において新たに投資運用業者が多く立ち上がることで、競争促進を通じた資産運用業の高度化が図られ、新興運用業者を目利きするゲートキーパーの育成につながるとともに、スキルや経験が次世代に引き継がれることにもなり、運用人材の裾野が将来にわたって広がることが望まれる。
③一者計算の促進・マテリアリティポリシーの明確化
現状、投資信託の基準価額は、日々、資産運用会社と受託会社の双方で計算し、これを照合するといういわゆる二重計算を行っている。
二重計算は、相互牽制機能を通じ、基準価額の評価に関する公正性を高めることで、受益者保護に寄与してきた。他方、情報技術の進歩やグローバル競争の進展など、投資信託を巡る環境が大きく変化する中、二重計算は、我が国独自のビジネス慣行として、投資家への追加的なコストや参入障壁の要因となっているのではないかとの指摘も存在している。
一者計算を行うための課題として、資産運用会社における業務フロー・システム変更等の対応が必要なほか、基準価額の計算過誤に関し、投資信託のマテリアリティポリシーの明確化も課題である。投資信託のマテリアリティポリシーとは、投資信託の基準価額の計算過誤に関して、過誤が一定の水準を超える重大な(マテリアルな)場合に、基準価額の訂正を行うこととするものである。これにより、軽微な計算過誤の場合に遡及的に基準価額の訂正等を行うことによるコストが投資家全体に生じることを抑制し、また、過誤を訂正する適正な水準を確保することにつながるものと考えられている。諸外国の例でも、資産運用会社においてマテリアリティポリシーが定められているところである。
現状では、各資産運用会社の社内規定によってマテリアリティポリシーが定められており、基準価額の訂正を行う水準は、概ね0.5%(50bp)であるが、各社によってバラツキがあり、また、当該ポリシーの投資家への周知も図られていない状況にある。
一者計算の実現・浸透に向けては、業界における業務処理の標準化・統一化等の対応が必要であると考えられる。既に一者計算を導入した先や導入に向けて検討している先が存在していることも踏まえ、投資信託協会が設置した「基準価額算出に係る実務者検討会」を中心として、一者計算の実現と普及に向け、業界一丸となって環境整備等に取り組んでいくことが期待される。
また、マテリアリティポリシーの明確化に向けては、当該ポリシーを各社において定める場合、適正な水準とする必要があることや、当該ポリシーを投資家へ周知することが重要であることについて、当局の監督指針等で明記することが適当である。なお、基準価額の訂正の有無は投資家に影響を与えるものであるため、マテリアリティポリシーの策定に当たっては、各社において、経営陣の関与の下、水準等についての考え方を定め、これを投資家に示すことが望ましい。
これにより、一定の投資家保護が図られると同時に、新規参入業者はマテリアリティポリシーとして定めるべき水準感を把握でき、参入障壁の引下げにも資するため、投資運用業の参入促進につながり得るものと考えられる。
Ⅳ アセットオーナーに関する機能強化
成長と分配の好循環を実現していく上で、機関投資家として家計金融資産等の運用を担うアセットオーナーに期待される役割は大きい。
アセットオーナーについては、受益者の最善の利益を確保する観点から、運用する目的や財政状況等に基づき目標を定め、その目標を達成するために委託先を厳しい眼で見極める、といった運用力の高度化を図っていくことが求められている。また、2023年の臨時国会で成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」においては、最終的な受益者たる金融サービスの顧客や年金加入者の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行すべきである旨の義務が、金融事業者や企業年金等関係者に対して幅広く規定されている。
そうした観点から、新しい資本主義実現会議の下に設置された資産運用立国分科会において議論されているアセットオーナーシップの改革が具体的に進展していくことが期待される。なお、アセットオーナーの機能強化は、資産運用業の機能強化と車の両輪であるとの観点から検討が進められるべきであり、本報告書で提示する資産運用業に関する様々な取組みについては、アセットオーナーの機能向上にも資するものと考えられる。
また、アセットオーナーの機能強化に合わせ、アセットオーナーの運用を支える金融機関においても、顧客であるアセットオーナーや、最終受益者である家計の最善の利益を図るための取組みが求められる。アセットオーナーから資金運用の委託を受ける資産運用会社等は、アセットオーナーのリスク許容度等を考慮したうえで、最善の利益を確保するための運用を行っていく必要がある。
DCにおいては、企業の多くは運用管理業務や投資教育を金融機関等(運営管理機関)へ委託しており、運営管理機関は、加入者の最善の利益を確保する観点から、適切な運用商品の選定・提示や情報提供の充実等を行うことが求められる。この点、運営管理機関については、他の金融グループの投資信託を含めた、最善の商品が選定されていないのではないか、といった懸念も指摘されており、運営管理機関は、加入者本位の下で、適切な業務運営や創意工夫をしていくことが期待される。こうした点も含め、アセットオーナーを支える金融機関について、当局が適切にモニタリングを行い、必要に応じて改善を求めていくことも不可欠であると考えられる。
Ⅴ スチュワードシップ活動の実質化に向けた取組み
企業の持続的な成長を後押しするコーポレートガバナンス改革の推進は、資産運用立国に関する政策プランの実現を通じて、成長の果実を最終的に家計に還元する「成長と分配の好循環」を実現するための大前提となるものである。
これまで、中長期的な視点に立った企業と投資家との建設的な対話を促す観点から、「スチュワードシップ・コード」や「コーポレートガバナンス・コード」の策定・改訂を通じ、コーポレートガバナンス改革が進められてきた。また、形式的な体制整備ではなく、両コードの趣旨に沿った企業と投資家の自律的な意識改革といった実質面での取組みが重要であるとの考え方に基づき、本年4月、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」を策定するなど、金融庁や東京証券取引所等の関係者において、取組みの実質化に向けた対応が進められてきたところである。
インベストメント・チェーンの中核的な役割を担う機関投資家には、投資先企業と対話(エンゲージメント)を行い、中長期的な視点から企業価値の向上を促すスチュワードシップ責任を果たすことが求められている。その際、画一的な数値基準や議決権行使助言会社の助言等に基づく形式的・一律の対応ではなく、個別の企業の事情に対する深い理解に基づくエンゲージメントが行われる必要があり、そうした活動に対して適切なインセンティブが働くよう、インベストメント・チェーンを通じてスチュワードシップ活動に係るコストシェアリングを行い、政策的な後押しを含めた環境を整備していくことが重要である。
こうしたエンゲージメントを通じたスチュワードシップ活動の実質化に向けては、機関投資家がスチュワードシップ・コードの趣旨を踏まえ、自らの置かれた状況(規模・運用方針等)に応じた対応を促進することが重要である。機関投資家がそのような対応をより積極的に行うようになるためには、一方で、機関投資家がスチュワードシップ活動を行うことで得ることのできるベネフィットの増加が有用であり、他方で、そうした活動に要するコストの削減も有益である。こうしたことを踏まえ、質的・量的なリソースを補い、コストを低減する観点から、協働エンゲージメントの取組みを積極的に活用することも有用である。
そうした方向に向けた具体的な取組みの事例として、一部のアセットオーナーにおいては、スチュワードシップを重視したパッシブ運用モデル(通常のパッシブ運用とは異なる報酬体系)を採用し、市場全体の底上げとスチュワードシップ活動のアプローチ方法の多様化・強化を目指す動きも見られる。また、複数の投資家が協働して企業に対して対話を行う協働エンゲージメントの取組みや、複数のアセットオーナーが協働して運用機関をモニタリングする取組みが見られる。こうした様々な取組みを行う投資家の厚みが増すことにより、スチュワードシップ活動の実質化がより一層進展していくことが期待される。
また、企業が投資家をはじめとするステークホルダーの期待に応え、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するためには、資本コストを把握した上で、収益力に関する目標を提示し、経営資源の配分等に関し何を実行するかについて説明を行うことが重要である。こうした中、本年3月、東京証券取引所は、プライム市場・スタンダード市場上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、①現状分析、②計画の策定・開示、③取組みの実行を行うよう要請するとともに、要請に基づき対応を進めている企業の公表を来年1月から開始する旨を公表している。金融庁においても、収益性と成長性を意識した経営に向けた企業の取組み及びそれに基づく投資家との対話を一層促す観点から、こうした取組みをフォローアップしていくことが重要である。
制度面の課題としては、大量保有報告制度における「重要提案行為」や「共同保有者」の範囲が不明確であることが、エンゲージメントの支障となっているとの指摘があり、金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループにおいて検討が進められている。ニーズや実態も踏まえつつ、実効的なエンゲージメントを促す観点から、制度の見直しに向けた検討を進めるべきである。
Ⅵ 成長資金の供給と運用対象の多様化の実現
我が国経済の持続的成長のために不可欠なスタートアップ企業等への成長資金の供給が株式投資等を通じて活性化されていくことは重要である。我が国では、国内スタートアップ企業の資金調達額は年々増加しており、足元では1兆円に迫る状況であるものの、米国と比較すると、経済規模の割に少なく、また、スタートアップ企業への代表的な投資主体であるVCについても、そのファンドサイズは低水準にとどまっている。また、米国では成長ステージに応じ、多様で充実した資金供給が行われている一方、我が国においては、例えば、レイターステージにおける資金供給が不足しているなど、スタートアップ企業に対する資金供給が十分ではないとの指摘がある。このため、スタートアップ企業の成長ステージに応じた資金供給についてボトルネックが生じないよう支援することが重要であり、また、エクイティのみならずデットを含む多様な資金供給が必要と考えられる。こうした中、2022年11月に政府が策定した「スタートアップ育成5か年計画」では、「5年後の2027年度に10倍を超える規模(10兆円規模)とする」目標が掲げられたところである。
スタートアップ企業への資金供給を活性化し、本目標を達成する上で、機関投資家においては、各々の期待収益率やリスク許容度等に応じて、分散投資等に資する長期運用に見合ったVCファンドに資金供給が行われ、VCファンドを通じたスタートアップ企業向けの投資が拡大されることが期待される。また、我が国のVCにおいても、内外の機関投資家から求められる水準のガバナンス等を備えていくことが、機関投資家から広く資金調達を行っていく上で重要であると考えられる。
家計においても、資産運用会社の専門的な投資判断等に基づいた、いわゆるオルタナティブ投資の選択肢が拡大することは、そのリスクを正しく理解し、個々のリスク許容度の範囲内で適合性の原則に基づいた投資であることが前提であるものの、更なる収益機会や分散投資の機会にもなり得ると考えられる。
以上のような観点から、これまでも市場制度ワーキング・グループの提言等に基づき、特定投資家制度の活用や非上場株式の公正価値評価を推進するための環境整備に取り組んできたところであるが、さらにスタートアップ企業等への成長資金の供給と運用対象の多様化を実現していくための取組みを進めていくことが求められる。
あわせて、家計の安定的な資産形成を進めていくためには、既存の金融商品への投資も含め、自らのライフプランに応じて適切な商品を選択できるよう、より投資し易い環境づくりや制度の見直しを行っていくことも重要である。そうした観点から、金融経済教育推進機構を中心に官民一体となって、家計の金融リテラシーを高めるための学校教育や職域・地域での金融経済教育に関する取組みを行っていくことが不可欠である。その際、個々人が自立的で安心かつ豊かな生活を実現するためには、資産形成にかかわるリテラシーを含めて、幅広い金融リテラシーを身に付けることが必要である。このため、金融経済教育においては、家計管理、生活設計、適切な金融商品の利用選択のほか、消費生活の基礎や社会保障・税制度、金融トラブルの内容も含めて、広範な観点から取り組むことが重要である。
1.ベンチャーキャピタルを巡る課題
①公正価値評価の促進
VCファンドの公正価値評価については、本年5月、日本公認会計士協会によって関連する実務指針が改訂され、VCファンドの監査に関する監査上の留意点が整理されるなど、一定の進捗が見られている。
他方で、例えば、以下のような課題が指摘されている。
・VCファンドに対する出資持分の保有者は取得原価での評価が求められるため、公正価値と取得原価の二重管理が必要
・GP(ゼネラルパートナー、ファンド運営管理者)において、ミドル・バックオフィス業務の人員の確保、内部統制の整備・運用、システムの導入が必要となるため、一定以上のファンド規模が必要
・上記実務指針を監査法人の実務に浸透させる必要
・将来的に公正価値評価の導入が増え、監査需要が高まった場合、監査法人内でのリソースの再配分や、新たなファンド監査の担い手が必要
公正価値評価の導入については、海外投資家からの資金を得るなどしてファンド規模を拡大することや、有価証券の評価の透明性を向上させること等の利点もあり、引き続き推進するための環境整備を早急に進めるべきである。同時に、今後、関係者と協力して上記課題を解決していくことが必要である。具体的には、上記二重管理の問題について、本年7月、日本ベンチャーキャピタル協会が、財務会計基準機構の企業会計基準諮問会議において、上場企業等が保有するVCファンドの出資持分に係る会計上の取扱いを見直すことを提案しており、議論の動向を注視していくべきである。また、公正価値評価の導入に向けたコスト負担を軽減する観点から、VCファンド間で同業他社が公正価値評価を導入した際の留意点を共有すること等も有用である。さらに、今後日本公認会計士協会において上記実務指針を監査法人の実務に浸透させていく活動を進めることが期待される。
②ベンチャーキャピタル向けのプリンシプル
スタートアップ企業への資金供給を円滑化するためには、国内外の機関投資家の資金がVCを通じて国内のスタートアップ企業に供給される流れを拡大することが重要である。そのためには、上記のVCファンドの公正価値評価の促進に加え、国内のVCの運営について、海外VCと同等のガバナンスや情報提供等が確保されていく必要があることが指摘されている。例えば、GPの利益相反管理を含むガバナンス、GPがLP(リミテッド・パートナー。ファンドへの投資者)に提供する情報等に関する課題が挙げられる。また、VCの投資のエグジットがスタートアップ企業の上場(IPO)に偏っており、いわゆる小粒上場の要因になっているとの指摘や、上場後にVCの経営サポート等がなくなることによりスタートアップ企業の持続的成長に向けた支援が途絶えてしまうことも課題として指摘されている。
広く機関投資家からLP出資を獲得することを目指すVCについては、海外での実務も参考にしつつ、適切なガバナンスや規律が確保されていることが重要である。長期運用に資するアセットクラスとしてのVCの魅力を高め、VC業界の発展を後押し、ひいてはスタートアップ企業への資金供給を活性化するため、我が国スタートアップ企業を取り巻く状況やグローバルな実務等を踏まえたベンチャーキャピタル・プリンシプル(仮称)を策定し、広く機関投資家から調達を行うVC全体のガバナンス等の水準の向上を図ることが適当である。なお、多数の投資家からのLP出資を予定していないVCとして、例えばコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)などもあるため、そうしたVCがあることも踏まえながら、プリンシプルの範囲や内容等を検討していくことが適当と考えられる。
また、海外機関投資家による国内VCへの投資が促進されるよう、国内VCと海外機関投資家とのマッチングの場が設けられるような取組みが広がっていくことも期待される。
2.非上場株式を組み入れた投資信託・投資法人の活用促進
①投資信託への非上場株式の組入れ
我が国では法令上、投資信託に非上場株式を組み入れることは禁止されていないが、非上場株式の評価方法等が明確になっておらず、非上場株式の組入れが行われてこなかった。現在、投資信託に非上場株式の組入れが実務上可能となるよう、投資信託協会において適切な枠組みが検討されているところである。
家計が投資信託を通じて非上場株式への投資が可能となることは、非上場株式へ直接投資することと比べると、運用のプロフェッショナルである資産運用会社の目利きが活用され、また、分散投資の機能が働くものであり、今後、投資信託の枠組みを通じた、成長資金の供給及び投資対象の多様化が促進されていくことが期待される。
なお、価格透明性が高い上場株式と非上場株式が同じ公募投資信託の中に混在することは投資家にとって商品性やリスクが分かりにくくなる面がある。各資産運用会社において、その運用方針・内容等に応じ、適切にスキームの選択が検討されるべきものであるが、既存の公募投資信託の枠組みや実務とは別に、解約制限などの流動性確保のための措置が適切に講じられた上で、流動性の低い資産を中心に運用するといった商品類型を設計することも望ましいと考えられる。そうした投資信託が販売される際には、投資家保護の観点から、投資家の投資資金の性格やリスク許容度等に応じて、投資家の適合性が適切に判断される必要があるとともに、非上場株式への投資に関するリスクについて投資家に対し十分な説明がなされることが求められる。
②上場ベンチャーファンド
東京証券取引所のベンチャーファンド市場は、スタートアップ企業への新たな資金供給スキームを確立するとともに、個人投資家に非上場企業への投資機会を提供するなどの観点から、2001年12月に開設された。現在、上場銘柄は存在しないが、リスク許容度のある投資家がベンチャーファンドを通じてスタートアップ企業へ投資できるようになることは、上記①と同様に運用のプロフェッショナルの目利きが活用され、また分散投資の機能が働くものと考えられる。このため、ベンチャーファンド市場の利用活性化に向け、ベンチャーファンドの柔軟な運営を可能とする観点等から、必要な規制等の見直しを検討していくことが重要である。
上場ベンチャーファンドの情報開示については、有価証券報告書等の法定開示に加え、東京証券取引所の有価証券上場規程等において開示内容が定められている。東京証券取引所においては、上場企業とは異なる非上場企業の性質を踏まえ、情報開示の内容や開示頻度について検討が行われていくことが重要である。
また、上場ベンチャーファンドにおいては、株式売却等による余剰資金について、財務戦略の多様化や再投資の実行が困難である場合等の使途として自己投資口の取得も選択肢となり得るものと考えられる。このため、自己投資口の取得についてインサイダー取引規制の対象とした上で、自己投資口の取得を可能とすることが考えられる。
3.募集・私募制度、投資型クラウドファンディングの制度整備
①少額募集・開示の簡素化
50名以上の一般投資家に勧誘する調達金額1億円以上5億円未満の有価証券の募集(少額募集)は、有価証券届出書の提出が必要であるものの、連結情報を記載する必要がなく記載内容が簡素化されている。ただし、少額募集に係る有価証券届出書の利用状況は、直近10年間で5件程度と、利用実績が限られている状況である。
近時、上場会社を念頭に非財務情報の開示の充実が図られてきたことを踏まえると、現状、少額募集に係る有価証券届出書において、スタートアップ企業にとっては、開示負担が大きい項目が存在しているものと考えられる。そこで、スタートアップ企業の資金調達に係る情報開示の負担軽減・合理化の観点から、当該届出書に係る開示内容等をより簡素化することが適当である。
具体的には、投資家保護を図りつつ、少額募集に対する実際のニーズを踏まえ、投資家への情報提供と企業負担のバランスの観点から、例えば、以下の見直しを行う方向で検討を進める必要がある。
・「サステナビリティ情報」の記載欄について、開示を任意化する
・最近5事業年度の財務諸表の記載を不要とし、最近2事業年度の財務諸表のみとする
・非財務情報部分についても、例えば「コーポレート・ガバナンスの概要」等の項目について会社法上の事業報告における記載内容と同程度とする
なお、特定投資家私募制度については、実際のニーズや投資家保護の観点も踏まえ、利用促進や必要に応じた見直しに向けた検討を行うことが適当である。さらに、少人数私募の人数制限(勧誘対象者49名以下)や届出免除基準(調達金額1億円未満)の引上げを行うことも考えられるが、情報開示の規制が無い中で一般投資家への勧誘を拡大することにつながることや、近時も合同会社社員権に関する不適切な取得勧誘が行われていることを踏まえ、我が国資本市場において比較的大きな割合を占める個人の一般投資家保護の観点から、現時点では慎重な検討を要すると考えられる。
②投資型クラウドファンディングの活性化
ア.投資型クラウドファンディングの発行上限等
クラウドファンディング(CF)は、スタートアップ企業がインターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金調達する仕組みであり、2015年に投資型CF制度(少額電子募集取扱業務に関する規制枠組み)が導入された。
我が国においては、企業が投資型CFにより発行可能な有価証券の総額は年間1億円未満とされているところ、諸外国においては、開示等の投資家保護上必要な措置を講じた上で、より高い金額の資金調達を可能としており、米国では500万ドル(約7.5億円)、欧州では500万ユーロ(約8億円)を上限としている。
我が国において、スタートアップ企業における資金調達需要は年々増加しており、年間1億円を超える資金調達、特に、足元では1億円以上5億円未満の資金調達を行うスタートアップ企業が多く存在している。そうした資金調達ニーズの動向を踏まえ、1億円以上の資金調達をする企業が必要な開示を行うことを前提に発行総額上限を引き上げ、5億円未満とすることが適当である。この場合、1億円以上5億円未満の資金調達を行う企業については、簡素化された有価証券届出書等の開示書類の様式が利用可能となる(前述のとおり、当該届出書に係る開示内容がさらに簡素化された場合には、その利用が促進されるものと考えられる)。
こうした制度整備により、スタートアップ企業の資金調達環境が改善されることが期待される一方、その適正確保のためには、仲介業務を行うCF事業者の役割もより重要になってくる。そうした観点から、CF事業者による発行者や事業計画の審査に関する項目が開示され、項目に沿った審査が適切に実施されることが重要である。加えて、引き続き、投資家保護を勘案しつつ、前項「3.①少額募集・開示の簡素化」にて記載の内容に加え、スタートアップ企業のニーズを踏まえた一層の簡素化についても検討をしていくことが考えられる。
なお、個人株主が多数いることを嫌う機関投資家もいることや多数の個人株主が生じることにより円滑な業務運営が困難となり得ることが指摘されており、スタートアップ企業において、後々に機関投資家からの資金調達が難しくなり得るのではないかとの指摘もある。基本的には、スタートアップ企業がそうした可能性も含めて資金調達手段を検討すべきであるが、CF事業者においても、そうした可能性を事業者が適切に理解しているか確認するなどの対応を行い、また、当局においてもCF業者が適切な業務運営を行っているか等をモニタリングすることが適当である。現行法でも、投資運用業と第二種金融商品取引業に登録し、ファンドを介在させることによって株主の一元化を図ることは可能であり、上述の投資運用業の参入要件の緩和に関する枠組みも活用して、個人株主が多数いることに伴う課題に対応することも考えられる。
また、発行総額上限については、一般投資家も含めた勧誘がなされる前提で投資家保護の観点から定めているものであり、特定投資家私募を少額電子募集取扱業務として実施する場合は、一般投資家も含めた勧誘と合算して5億円未満とする発行総額上限を設定する必要はないものと考えられる。ただし、私募を行う場合であっても、非上場株式というリスクが高いものであることを踏まえると、少額電子募集取扱業務として扱える範囲に一定の上限を設定することが適当である。
イ.投資型クラウドファンディングの投資家の投資上限、投資家への勧誘方法
我が国では、投資型CFにおける投資家(特定投資家を除く)の投資上限額は投資先毎に年間50万円としているが、すべての投資家に一律の限度額を設定する仕組みはリスク許容度や投資余力に応じた投資といった観点から改善の余地があると考えられる。この点、諸外国では、株式投資型CFにおける投資家の年間の投資上限が、年収や純資産額に応じて設定されている。
また、投資勧誘の方法については、投資家がスタートアップ企業のリスクを十分に把握しないまま、不測の損害を被ることを防止するため、現行制度ではウェブサイトによる表示と当該表示にあわせて電子メールを送付する方法に限定されている。このため、投資家がより詳細に投資案件の内容を知りたい場合であっても、CF事業者による口頭での説明ができないことについて、投資家保護の観点から改善すべきであるとの指摘がある。
投資家のリスク許容度や投資余力に応じた限度額を設定することは、投資家の保護と利便向上の双方に資すると考えられるため、我が国においても、諸外国の例も参考にしつつ、CF事業者が顧客の年収や純資産を把握し、投資家の年収や純資産に応じて、CFの投資上限を定めることが適当である。その際、投資家全員の年収や純資産を適時に把握するには一定の事務負担がかかることから、一定金額以内の少額であれば、年収や純資産の確認をしなくても投資ができる仕組みとすることが考えられる。
また、投資勧誘の方法について、訪問・対面での勧誘については、投資家に対する強圧性が生じるリスクが類型的に高いため、引き続き慎重に対応すべきと考えられる一方、投資家からの求めに応じて、口頭で丁寧な説明を行うことは、投資家のより適切な投資判断につながると考えられる。このため、投資家からの要請がある場合に限り、音声通話による商品説明を可能とすることが適当と考えられる。その場合には、CF事業者において、例えば音声通話のやり取りを録音するなど、顧客対応の適切性について事後検証できる方策を講じることが適当である。また、音声通話での商品説明時に提供できる情報については、ウェブサイトや電子メールに掲載される内容に基づくものとし、投資家間の情報格差が生じないようにしなければならないものとすることが考えられる。
4.非上場有価証券の取引の活性化
①プロを対象とした非上場有価証券の仲介を行う金融商品取引業者の参入要件の緩和
スタートアップ企業等の非上場企業の株式の換金については、現状、発行会社やセカンダリーファンド等による相対での買取りが中心であり、買い手となり得る投資家に広くアプローチすることが難しく、株主の換金ニーズや投資家の投資ニーズに十分に応えられていない。また、上場以外にこうした換金ニーズを満たす方策が限られていることから、国内のスタートアップ企業が諸外国と比較しても規模の小さいまま上場を行う結果につながっているとの指摘がある。非上場株式のセカンダリー取引の活性化は、スタートアップ企業等による資金調達(プライマリー取引)の円滑化に資することに加え、スタートアップ企業の出口が上場に偏っていることを是正し、成長段階に応じた適切な規模の継続的資金供給を実現するためにも重要である。このため、非上場株式のセカンダリー取引に係る制度整備を進めていくべきであると考えられる。
さらに、海外の資産運用会社が設定・運用する外国籍投資信託や外国投資法人の発行する外国投資証券について、国内の投資家に販売する場合には、日本国内に拠点の法人を設け、第一種金融商品取引業の登録を受けることが必要になる。第一種金融商品取引業には高い財産要件等が課されるなど登録のためのハードルが高く、結果的に販売を断念するケースがあることが指摘されている。国内の投資家の投資対象の多様化の観点から、こうした課題への対応を行っていくことも必要である。
そこで、非上場有価証券の取引の仲介業務への新規参入を促すため、非上場有価証券のプライマリー取引やセカンダリー取引の仲介業務に特化し、原則として有価証券や金銭の預託を受けない場合には、第一種金融商品取引業の登録要件等(資本金規制、自己資本規制比率、兼業規制等)を緩和することが適当である。ただし、一般投資家も参加する流動性の高い有価証券については、十分に投資家保護を図る必要があるため、原則として、プロ投資家(特定投資家)を相手方とした非上場有価証券の仲介業務に限定すべきである。なお、非上場有価証券の保有者がセカンダリー取引として売却を行う場合は、非上場有価証券の保有リスクを切り離すものであるため、例えば、非上場有価証券の発行会社の創業者等、一般投資家による売却も可能とすることが適当である。
②非上場有価証券のみを扱うPTS業務の参入要件の緩和
現在、第一種金融商品取引業者が運営する私設取引システム(PTS)業務については、実際に取り扱う有価証券の流動性の高低にかかわらず、主に上場有価証券等を扱うことを想定した規制となっており、認可制の下、資本金・純財産要件(3億円以上)やシステム要件(第三者評価書の添付)等が求められている。こうした規制は、小規模な取引プラットフォームで電子的に非上場有価証券のセカンダリー取引を仲介しようとする事業者にとってはハードルが高く、取引の場を提供する事業者がいないため、非上場有価証券のセカンダリー取引が活性化しない一因となっているとの指摘がある。
そこで、非上場有価証券のセカンダリー取引の場を提供する事業者の参入を促進するため、PTS業務の規制について、想定される取引量等に応じた参入要件とすることが適当である。具体的には、非上場有価証券のみを扱うPTSであって、流動性や取引規模等が限定的なものについては、取引の管理等に関する必要な規制を適用する前提で、認可を要さず第一種金融商品取引業の登録制の下で参入可能とし、資本金や純資産要件等の財産規制やシステムに関する要件等を緩和することが考えられる。
5.株式報酬に係る開示規制の整備
株式報酬は、それを受け取る者に対し、会社の中長期的な業績向上に向けたインセンティブを付与する効果があり、米国では、手元資金に乏しいスタートアップ企業において、人材確保のための重要な手段ともなっている。
株式報酬のうち、RSU(譲渡制限付株式ユニット)、PSU(業績連動型株式ユニット)、株式交付信託といった事後交付型株式報酬については、現行実務上、情報開示のタイミングや開示書類に差異がみられ、開示規制の解釈をめぐる企業の実務が安定していないことから導入しづらいとの指摘がある。
このため、事後交付型株式報酬に係る開示規制を明確化する観点から、株式報酬導入の開始時点である「株式報酬規程等を定めて取締役等に通知を行う行為」を有価証券の取得勧誘の端緒と捉え、当該行為が、有価証券の募集又は売出しに該当すると整理することが適当である。
また、事後交付型株式報酬は、会社から取締役等に対して他者へ譲渡できない形で報酬を前払いするという点でストック・オプションやRS(譲渡制限付株式)の経済的性質と類似していることを踏まえ、ストック・オプション及びRSと同様、有価証券届出書の提出に代えて臨時報告書の提出を認める特例を設けることが適当である。
なお、特例の検討に当たっては、産業界を含めた関係者にも意見聴取を行いつつ、上記以外の実務上の論点についても検討を進めていく必要がある。
6.運用商品の多様化
①排出権を対象とする投資信託の組成
欧米では、排出権の現物・先物取引が行われているほか、これらを投資対象とする投資信託の組成が進んでいる。我が国においても、2023年10月に東京証券取引所にカーボン・クレジット市場が開設されるなどの動きがみられたところである。地球温暖化に課題意識を有する投資家が、投資信託を通じて排出権に投資を行い、企業側の温暖化対策に関する取組みを後押しすることは、我が国産業における地球温暖化対策の促進にも資する面があるものと考えられる。
そのため、投資信託の主たる投資対象資産に排出権を追加することが考えられるものの、個人投資家等も参加した形で設定・解約が行われる投資信託の投資対象として、十分な流動性や円滑で適正な価格形成が確保されるかなど、まずはカーボン・クレジット市場の状況を精査することが必要であると考えられることから、将来的に投資信託の主たる投資対象への追加を検討することが適当である。
②外国籍投資信託の国内籍公募投資信託への組入れ
国内籍公募投資信託に外国籍投資信託を組み入れる場合には、投資信託協会の自主規制で規則が設けられている。例えば、その外国籍投資信託が取引所に上場されている場合等を除き、借入制限に関する規制等が適用されることとなっており、また、国内籍公募ファンド・オブ・ファンズ(投資信託証券への投資を目的とする投資信託)が不動産投資信託を組み入れる場合には、上場されていること等が求められている。このため、海外において、非上場ではあるが、公募で販売されているオルタナティブ投資等を行う投資信託について、国内籍公募投資信託に組み入れられない場合があることが指摘されている。なお、国内籍公募投資信託に組み入れるのではなく、外国籍投資信託の形態で国内で販売することも可能であることとの整合性についても指摘されている。
この点、投資信託協会において、オルタナティブ投資等を行う非上場の外国籍投資信託の組入れに関する枠組みの見直しについて検討が開始されているところである。
我が国の家計においても、リスクを理解した投資家層にとっては、良質な外国籍投資信託に対する分散投資が可能となることは資産形成を進める上で有意義であり、こうした取組みが促進されていくことが重要である。ただし、価格透明性に乏しい、あるいは流動性に欠けた資産を主として組み入れる非上場の外国籍投資信託に投資することは、投資家がリスクを負うことになるため、そうした外国籍投資信託を組み入れようとする国内籍投資信託の組成者は、投資家保護に支障がないかより一層適切にデューデリジェンスを行い、投資対象となる外国籍投資信託の価格の算出頻度や売買頻度等を踏まえて、投資家保護や投資家間の公平性の観点から適切な国内籍投資信託の設定を行う必要がある。これらのオルタナティブ投資等を行う非上場の外国籍投資信託を主に組み入れる商品については、既存の公募投資信託とは別に商品類型を設計することも考えられる。また、投資家に販売を行う際には、リスクを十分に説明するなど、十分な投資家保護のための措置が講じられるべきである。
③外貨建国内債(いわゆるオリガミ債)の発行の円滑化
本邦発行体が発行する外貨建国内債は、外貨によるDVP(Delivery Versus Payment)決済が可能な環境にないことから、非DVPによる発行・取引が行われており、流動性は低く、取引する投資家層は限られている。
外国口座管理機関が運用するプラットフォームを利用すれば、外貨のDVP決済により外貨建国内債の発行・取引ができるものの、現行制度上、外国口座管理機関の下位に国内証券会社等の国内口座管理機関を設置することができないため、広く国内投資家が取引することは難しい状況となっている。
外貨建国内債の効率的かつ安全な発行・流通の環境整備が進めば、国内投資家の運用対象の多様化に寄与し、本邦発行体においても外貨調達の安定にもつながるものと考えられる。また、外貨建国内債の発行が活発化することを通じて、我が国社債市場の活性化にも資するものと考えられる。このため、GX分野など、外貨建債券の発行の需要も期待できる中、DVP決済を可能とするための環境整備を早期に行うべきである。具体的には、外国口座管理機関が運用する外貨のDVP決済プラットフォームを国内投資家がより広く利用できるようにするため、外国口座管理機関の下位に国内口座管理機関を設置できるようにすることが考えられる。その際、外国口座管理機関は口座管理機関の誤記録等をカバーする枠組みの対象外であるため、その下位の国内口座管理機関も対象外になるものと考えられる。そうした前提を踏まえ、投資家保護の観点から、DVP決済による取引を可能とする投資家は、リスク判断能力の高い投資家に限定することが適当であり、また、投資家の口座開設を行う国内口座管理機関等においては、投資家の属性等に応じ、投資家に対し誤記録等をカバーする枠組みの対象外であることについて適切に説明することが必要と考えられる。
④投資信託における種類受益権
投信法上、投資信託の「受益権は、均等に分割し」なければならないとされるが、欧米では、受益権について複数の種類が発行される種類受益権の活用が一般的である。
我が国においては、同一の運用方針で、例えば信託報酬や為替ヘッジといったカテゴリーが異なる商品を組成する場合、実務上、ファミリーファンド方式が採用され、報酬体系等の異なる複数のベビーファンドがマザーファンドに投資することにより、実質的に同一投資信託内において信託報酬や為替ヘッジ等が異なる状況を創り出すといった対応がとられている。
現行の投信法の規定は、同一の投資信託内で投資家間の利害対立が生じたり、あるカテゴリーの投資家には有利であるが他のカテゴリーの投資家には不利益をもたらすような運用が行われる事態を未然に防止するものである。一方、我が国においても、種類受益権の発行が認められれば、ファンドごとにかかる監査費用等を下げられるのではないかとの指摘がある。
種類受益権については、種類受益者ごとの利害対立調整や利益相反防止など、投資家保護の仕組みのあり方について、種類受益権の内容に応じた検討が必要であり、また、種類受益権が生じることを前提とした計理システム等の整備など、実務面の検討も必要であると考えられる。そのため、投資信託協会等において、まずは海外の事例・状況の把握を含め、具体的なニーズや実務面・投資家保護上の課題を整理するための検討を行うことが適当と考えられる。
⑤投資信託約款の重大な変更に関する基準の明確化
投資信託約款の変更について、投資家保護や顧客本位の観点から望ましいと思われる場合であっても、「重大な変更」に該当すると変更手続に大きな負担が生じるため、約款の変更に踏み込みにくく、「重大な変更」の基準を明確化すべきとの指摘がある。
現行の投信法上、投資信託約款の「重大な変更」を行う場合には法定の手続きが定められており、その基準として「商品としての基本的な性格を変更させることとなるもの」と定められている。これに関し金融庁において「投資信託に関するQ&A」(平成26年6月)が公表されており、その中で「重大な変更」に該当しないと考えられる場合が類型ごとに具体例として示されている。
顧客の利益に資する変更など、投資家保護に支障のない約款変更について、投資家の負担につながる過重な手続きを回避する観点から、当該Q&Aの更なる明確化を図ることが適当と考えられる。
⑥累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げ
クレジットカード決済による有価証券の購入は、顧客の資力を上回る有価証券の購入を可能とし、過当取引による投資家保護上の問題が生じるおそれがある一方、支払いの選択肢を増やすことにより投資家の利便性向上に資する面もあることから、法令上、一定の要件の下で認められている。この法令上の要件を満たすため、現行実務では、クレジットカード会社の決済サイクルなどを踏まえ、毎月の投資上限額は基本的に5万円に制限されている。
2024年から新しいNISA制度がスタートし、その中で、つみたて投資枠については毎月の累積投資契約による場合、月10万円に引き上げられることになる。これを踏まえ、翌月一括払いであること、累積投資契約であることの要件を維持しつつ、信用供与の上限額について、現行実務が法令の上限額よりも制限されている状況が解消されるよう、必要な制度見直しを行うことが適当である。
Ⅶ おわりに
以上が、2023年10月以降、当タスクフォースにおいて行ってきた検討の内容を整理したものである。本報告書において具体的な対応策を示した事項については、関係者において、制度整備も含め、早期に、かつ積極的な取組みが進められることを期待する。また、講じた施策についての効果をフォローアップし、必要に応じて追加の対策の要否を継続的に検討していくことも重要である。
最後に、資産運用立国の実現は、一朝一夕に実現できるものではない。本報告書において講じるべきとされた施策を着実に実施するとともに、当局等の関係者による不断の取組が継続されることが重要である。そうした観点から、今回指摘された課題も含め、幅広い観点から、関係者による検討と改善の努力が今後も継続されることを期待する。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。
それでは、今読み上げていただきました報告書の案につきまして、御意見等ございましたら、御発言をいただければと思います。全体の会議の時間の制約もございますので、いつものことで恐縮ですが、御発言のお時間の目安としては3分以内程度を目安にお考えいただければありがたく存じます。
会場で御参加の皆様には、御発言いただける方にはネームプレートを立てていただければと思います。また、オンラインで御参加の方には、全員向けにチャットをお送りいただくなり、適宜の方法でお知らせいただければと思います。御発言の順番に関して若干前後する可能性があるかもしれませんけれども、あらかじめお許しいただければと思います。
それでは、どなたからでも結構でございます。私が今、拝見した感じで、永沢委員、坂委員、有吉委員の順でお願いしたいと思います。永沢委員、どうぞ。
【永沢委員】
ありがとうございます。3分ですので、用意してきたものの中から選んで発言させていただきます。
各論の部分になってしまいます。3回の中で発言できていないことでクレジットカードの部分がございます。クレジットカードで投資信託を購入できるようになっていることを、私は知らなかったものですから、正直なところ、驚きました。と言いますのも、消費者教育の現場では、クレジットは借金ですと教えておりまして、違和感というか驚いたのが事実でございました。規制緩和がすでにここまでされているということで、5万円が10万円になるのがいいのか、20万円になるのがいいのかということについて、私としては意見を持ち得ておりませんけれども、素朴な疑問、懸念が2点ございますので、この部分を推進されている業界団体の方にご回答をお願いしたいと思います。
一つ目は、クレジットカードはポイントがつきますけれども、ポイントが消費者の合理的な行動をゆがめたりしませんかという質問でございます。2点目は、クレジットカードの場合、残高がないと決済できません。銀行の引き落としであれば、買付ができませんでしたで済みますが、クレジットカードの場合、決済できないと、その事実が延滞情報に記録されたりしませんか。延滞情報が残っておりますと、将来的に、住宅ローンを組んだりするとき等に、不利益になったりするようなことが起き得ませんか。いつもそうだとは限りませんし、こうした問題についても、銀行協会様として十分に検討されたことと思いますが、この2つの点について少々疑問に思ったり、懸念を抱きましたので、消費者を代表してというわけではないんですけれども、御見解を伺っておきたいと思います。これが1点目でございます。
2点目です。今回の報告書をお読みになる資産運用会社の方々へお伝えしたいことです。ファンドマネジャーの名前の開示のところですが、最終報告では表現を少し修正いただきましたし、私自身、ファンドマネジャーの名前を開示する方向性を否定するわけではないんですけれども、投資信託は、ファンドマネジャー1人で成り立っているわけでなく、運用の世界では4つのPと言われますけれども、4つのPの一つであるピープルにはファンドマネジャーを支える全体の会社の体制も当然必要なわけで、ファンドマネジャーを支えている経営陣や、私は取締役会の役割が非常に必要になってきてくると思いますので、この辺りの情報開示もやはりもっと工夫されるべきであろうと思います。ただファンドマネジャーの名前を出せばいいというわけではないということを、改めてお伝えしておきたいと思います。
最後に。運用担当者の情報開示については、日本では1990年代にそのような試みをして失敗した経緯があることから、一般の個人投資家にこうした情報を開示しても意味があるのだろうかという声が聞こえてきそうです。確かに、しばらくの間は、猫に小判かもしれませんが、それでも、市場に情報が流れていけば、だんだん猫も小判が分かるようになります。成果がないとすぐに諦めるのではなく、地道に長く継続していただきたいと思います。
私からは以上でございます。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。御質問の部分はどういたしましょうか。第1点目について、もしよろしければ、齊藤さん。
【齊藤市場課長】
もし全銀協さん、オブザーバーで参加されていて、何か御発言がありましたらお願いします。また、後日でも結構だと思いますので、よろしくお願いします。
【全国銀行協会(河本オブザーバー)】
全国銀行協会の河本です。今日はオブザーバー参加ですが、今御質問がありましたので、お答えさせていただきます。
まず、ポイントが合理的な行動につながっているのかどうかという観点です。ポイントがつくとしてもせいぜい1%程度であり、投資を適切に促す程度の呼び水にはなっているだろうと理解しております。
2つ目、残高がないと延滞となるという点について、もともとクレジットカードの加入に当たっては枠の審査もされているということと、既に10万円という上限額があるところ、決済サイクルの関係で2か月分の信用供与が行われることになるので、それを踏まえて現在は投資上限額5万円ということで自主的に規制しており、そういった適切な範囲の中で利用していると理解しております。補足があれば、後日また御説明させていただきたいと思います。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。永沢さん、よろしゅうございますでしょうか。
【永沢委員】
今日は、時間も限られておりますので、これで結構でございます。
【神田市場制度WG座長】 では、また必要に応じて、改めてよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
それでは、ちょっと順番を変えて恐縮ですけれども、オンラインで御参加の武田委員から御発言いただければと思います。よろしくお願いいたします。
【武田委員】
時間の御配慮をいただきまして、ありがとうございます。まず、資産運用に関するタスクフォースのこの報告書案について御説明ありがとうございました。また、短時間で包括的に案を取りまとめていただきまして、感謝いたします。タスクフォースメンバー及び事務局の皆さんの御尽力に敬意を表したいと思います。
基本的な考え方に記載されていますとおり、インベストメント・チェーンの流れをしっかり実現し、究極的なゴールとして、確かに日本経済の持続的成長につながっていくことが重要ではないかと改めて感じております。その上で、改めて意見を3点申し上げます。
1点目は、資産運用立国のセンターピン、これは何といっても、企業の価値創造力、それを高めることではないかと思います。足元では、企業業績は大分改善しまして、過去に比べて稼ぐ力は改善しており、経営者の間でも資本生産性に対する意識も高まってきていると思います。しかし、世界から見れば、まだまだ改善の余地が大きく、日本の企業の価値創造力、生産性、競争力が高まっていく姿が見えてきませんと、結果的に米国などの海外企業に資金が流れていくという動きが考えられます。この点について、企業の生産性向上、価値創造力を高めていくことへの一層のスピード感、取組と併せて相乗的に進めていく必要があるのではないかと感じます。
2点目は、そうした中で、このワーキングとして重要になるのは、企業の持続的成長を促すスチュワードシップ活動の実質化、ではないかと思います。対話が形式的あるいは一律的な対応で行われている状況を変えていき、報告書にもございますが、個別の企業の実情に対する深い理解に基づくエンゲージメントを実現していくための具体策、その点についても御検討いただければと思います。
3点目は、人材の重要性です。報告書に書かれている施策を回していくためには、それを実行する周辺領域も含めた専門人材の育成が不可欠です。日本においてはそうした専門人材に対して、きちんと報酬を払うという文化がまだ根づいていない部分があります。その点についても、できること、できないことはあろうかと思いますが、働きかけていくことで、社会全体で変えていくというメッセージも大事なのではないかと思います。
最後になりますが、資産運用立国を実現していくためには、ここに書かれていることのみならず、省庁横断で連携しながら実現していく必要がございます。また、施策についても不都合が生じればアジャイルに見直していくこと、エビデンスで進捗を管理していくことが重要と思います。ぜひこちらのワーキング・グループにおいて、今後の進捗のご報告をお願いできれば幸いです。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、坂委員、有吉委員の順でお願いできればと思います。坂先生、どうぞ。
【坂委員】
ありがとうございました。タスクフォースの皆さん、事務局の皆さん、おまとめありがとうございます。全体として賛成する観点から、5点コメントさせていただければと思います。
1点目ですけれども、一昨日成立した改正法では、顧客の最善の利益を勘案すべき義務が幅広く法定化され、参議院の財政金融委員会の附帯決議でも、顧客等の最善の利益を図るための取組の徹底が求められたと認識しております。報告書にも随所に顧客の最善の利益という観点が示されていますけれども、資産運用の現場においても、顧客の最善の利益について、客観的・社会科学的経験則や知見に基づいた議論と実践が蓄積されることを期待したいと思います。
2点目ですけれども、10ページ以下の投資運用業の新規参入促進について、新規参入によって投資運用業者間の競争が促進されるためには、投資運用の方針や成果が比較可能かつ分かりやすい形で顧客、金融機関、アセットオーナーに示される必要があります。かかる情報提供が実効的に行われているか、投資運用業者の競争が実効的に機能しているかは、当局や関係機関において適切にモニタリングするとともに、必要な情報の収集・開示をお願いしたいと思います。
3点目ですが、開示情報の簡素化についてございますが、スタートアップ等の負担の軽減の必要は理解しますが、負担軽減には、開示内容の簡素化のほかに、デジタル技術による情報生産の効率化や、あるいはそのためのツールの開発というアプローチもあり得るかと思います。この点も御留意いただければと考えます。
4点目ですが、スタートアップ企業等への成長資金の供給について、非上場企業は企業自体の変動や不確実性が大きく、信頼できる情報が限られる、取引参加者が少なく市場機能が働きにくいという特性を有します。こうした特性を踏まえた適切な資金の流れを実現するために、18ページ以下の公正価値評価の促進、19ページ以下のベンチャーキャピタル向けのプリンシプルが重要です。また、投資型クラウドファンティングにおいては、561行目のクラウドファンディング業者による審査は極めて重要と考えます。
5点目ですけれども、成長資金の供給は、スタートアップ企業等の成長を促すことが目的であると考えます。提供資金の多寡のみならず、成長の成果がいかに図られたのかということが重要と思います。個別の成功・失敗はありつつも、それがどのような比率で実現したのかとか、あるいは全体としてスタートアップ企業等の成長がいかに促されたのか等について、その効果測定といいますか、成果の状況を社会的に共有できるような状況が求められるかと思います。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、有吉委員、どうぞ。
【有吉委員】
西村あさひの有吉でございます。まず、短期間での報告書のお取りまとめにつきまして、事務局に感謝申し上げます。幅広い論点について、各メンバーからの多様な観点による意見がうまく適切にまとめられていると思いますので、私としては、報告書の内容にこれ以上のコメントはなく、賛同するものでございます。その上で、報告書外の事項というか、強いて言えば、最後の部分、「おわりに」に関連する事項について2点ほどコメントをさせていただきたいと思います。
まず、このタスクフォースでは、金融庁が事務局ということもございまして、金融規制や金融制度に関わる内容が検討の中心であると理解をしております。もっとも、例えば資産運用については、報告書案でも言及されておりますとおり、アセットオーナーに関しては厚生労働省所管の取組が必要であると思いますし、成長資金の供給の分野については、産業育成という観点から経済産業省の所管事項であったり、また、税制措置などを考えますと、これは財務省の所管事項であるということで、これらの省庁での取組も非常に重要であると思います。このように、今回の報告書で取り上げている領域というのは、金融庁以外の省庁での議論も必要であるという分野だと思いますので、しっかり規律すべきところは規律し、また、支援すべき点についてはしっかり支援をするという発想で各省庁連携して政策的な取組を進めていくことを強く期待したいと思っております。
それから、2点目は、これも「おわりに」の部分で書かれていることの繰り返しになるかとも思いますが、どうしても制度改正というものはやってみないと分からないという性質のものだと思います。そういった意味で、直近に成立した法令改正も含めてということでございますけれども、提言が制度化された後の実務の状況をしっかり見ていただいて、不十分な点や、それから、制度改正はしたもののうまくいっていないという点が出てくれば、それらについてはちゅうちょせずに追加での見直しを迅速に検討していただきたいと思っております。
私からは以上でございます。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。ちょっとハウリングがあるかもしれませんけれども、お許しいただいて。
一斉に札を上げていただいたような感じなのですけれども、少しでも早かったかなと思われるところで、皆様方から見て左手のほうにおられる幸田委員、野尻委員、長谷川委員の順でお願いして、次に右側のほうへ行って、野村委員、有田委員、上田委員、大槻委員、片山委員と、こういう感じでお願いできればと思います。ということで、幸田委員、どうぞお願いいたします。
【幸田委員】
ありがとうございます。私のほうからは、今回この報告書を短期間でまとめたということで、資産運用高度化関係と成長資金ということについて、取り組むべき施策的な話に関し、より明確にして対応できるということで、報告書の全体についてはこの方向で進めてよいのではと強く感じている次第であります。その上で、報告書の中で3点ばかり申し上げたいと思います。
第1点は、資産運用高度化関連ということで、8ページの79行から84行辺りです。今回、競争環境を内外の参入も含めて整えていくということは非常に大事な前向きなことであるということで、その点については私もぜひ進めていければと感じています。その上で、言わずもがななんですけれども、やはりベースとしての資産運用業に対する取組が中長期的に非常に重要ではないかと思っております。具体的には、79から84行辺りの中の「優秀な運用人材」という記載がありますけれども、運用会社にとってはやはりプロフェッショナルな人材の育成という意味で、運用だけではなくて人材全般のプロフェッショナル人材がより必要なのではないかと強く感じています。この辺りの人材面での基盤整備という観点での「プロフェッショナル」という表現ぶりを人材全般ということで御検討いただければということです。
それと、その下の91行辺りのところ全般ですが、今回、やはり運用会社の情報を市場に幅広く情報開示を含めて出していくということが透明性を含めて非常に重要ではないかと考えています。この後の文脈で出てくる、先ほど議論があった氏名開示等も、どこまで意味があるかという面がありますけれども、そもそも論として資産運用会社自身の情報開示というものが現時点で言えば十分ではないということが、例えばアセットオーナーから見たときの資産運用会社に関する比較可能性を狭めているのではないかというようなことを留意していく必要があるのではないかと思います。この辺りの情報開示あるいは透明性という点について、もう少し報告書の中でスコープに入れていただけるといいのではないかと感じた次第であります。
第2点が成長資金の関係で、17ページの382行から394行辺りです。今回、VCファンドの観点で既存のVCと機関投資家資金という接点で主に議論がされていると理解していますけれども、そもそもVCファンドの裾野とか多様性が非常に狭いというような意味において、競争環境の視点がもう少し含まれてもいいのではないかと感じた次第です。この辺り、新しいVCを起こすというような視点も含めて盛り込んでいただくといいのではないかと感じました。
それから、24ページの618行から628行辺りでございます。いわゆるセカンダリーあるいは出口論としての議論について、注にも記載がありますけれども、M&Aの話とのリンケージが最終的にはそうしたスタートアップの成長を図っていくためには大きなキーファクターになるのではないかという点があります。そういう意味では、スタートアップについて、M&Aを含めた事業モデルの成長のための事業展開という視点を、明示的にもう少しこのセカンダリーとのリンケージの中で記載をしていただいてもいいのではないかと感じております。
最後に、全体のまとめの29ページの800から807行の最後のところです。今回の具体的に対応策については、冒頭申し上げましたように、政策的な視点で制度の枠組みを少しいろいろと工夫していくということで構築することに意味があると理解をしております。けれども、中身の問題としては、やはりアセットマネジメント会社、資産運用会社自身の課題とか、あるいはVCの課題であるというような、民間サイドの課題の部分がかなり大きいということを強く感じております。
そういう意味では、例えばアセマネ会社自身のガバナンスの向上とか、先ほど申し上げた人材の育成の広がりというようなことが不可欠であるというようなことからすると、情報開示、透明性等も含めて重要であるということから、ここの中の最後のところの「一朝一夕に」ということに加えて、「当局等の関係者による不断の取組」という記載があり、どちらかというと当局の取組というものが前面に出ておりますけれども、民間を含めた全体の関係者というようなトーンを明示的に記載していただいていいのではないかと感じた次第であります。
以上であります。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。ちょっとまた順番を変えて大変申し訳ないのですけれども、玉木委員が今日早めに退出されると伺っています。もしよろしければ、ここで御発言をお願いいたします。
【玉木委員】
私からは、15ページの313行目からのところについてお話を申し上げます。「DCにおいては」というパラグラフでございます。このパラグラフの一番下から2行目、319行目でございますが、ここに「当局が適切にモニタリング」という表現がございまして、ここに「当局」とございます。従来、DC、確定拠出年金に関する当局といえば、確定拠出年金法を所管する厚生労働省というイメージがあったわけでございますけれども、今般、金商法の改正も成立しまして、金融事業者としての企業年金の位置づけも明確になったところでございます。
この319行目の金融機関について、「当局が」という場合の当局は、恐らく金融当局、金融庁であるかと思いますけれども、従来から厚労省がいろいろ行政を行ってきました。両者力を合わせて、それぞれ得意な分野、有効な分野において努力を払われて、確定拠出年金法の目的であります、公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与すること、これの達成に向けて尽くしていただきたいと思うところでございます。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、戻りまして、次に、野尻委員、長谷川委員の順でお願いします。野尻委員、どうぞ。
【野尻委員】
フィンウェル研究所、野尻です。まずは、短期間にこれだけ幅広い多岐にわたるポイントをまとめていただきまして、本当にお疲れさまでありました。ちょっと驚いているぐらいにハイピッチで動いていただいたのではないかと思います。その上で、3点ほど最後に指摘をさせていただきたいなと思っている点があります。
1つ目が、18ページの、行でいけば415行目辺りであります。家計の安定的な資産形成という言葉の中で職域や地域を含めていくということが一つ大きなポイントになっている文案になっていると思いますが、この中に「資産形成に関わるリテラシーを含めて」という表現が415行目にあります。職域で議論をするときには、やっぱり資産形成だけではなくて、資産の取崩しとか管理といった面をカバーする必要があると思っています。これは従前ワーキング・グループのメンバーをさせていただいていました市場ワーキング・グループのときにもこのタイトルのレポートをまとめましたが、そこでは「資産形成・管理」という表現にしていました。ぜひ、資産形成だけではなくて取崩しも含めた分野もここにカバーされるというのを含めていただけるといいかと思います。もし文案を変えるのが難しいのであれば、注で入れていただいても構わないと思っています。
それから、2点目です。本文のほうではないのですが、お作りいただいた概要図です。これ、実は、前々回のときに、資産運用とかファンドの管理とかバックオフィスとかというのをポンチ絵で出していただいていたのがやっぱり大事だなということを御指摘させていただいたと思います。2ページ目にそれを入れていただいていて、より分かりやすく分けていただいていると思うんですが、惜しむらくは、これが「新興運用業者促進プログラム」という帯の下に入っている点で、若干の違和感を感じました。これは意識的なのかどうかが定かではありませんが、できればabcdで、eでミドル・バックオフィス業務の外部委託等も含めたここの部分を分け書きにしていただいてもいいのではないかと。報告書の目次も別になっているので、この辺、何か意図的であれば別ですが、ぜひ御検討いただければと思います。
それから、3点目です。皆さん、御指摘になられました最後のまとめ、「おわりに」ですが、803行目から4行目にかけてのところです。「講じた施策についての効果をフォローアップし、必要に応じて追加の対策の要否を継続的に検討していくことも重要である」。このポイントなんですけれども、これはワーキング・グループなりタスクフォースの報告書が、事務局が書いてはいただいているんですが、書き手としての我々が、これは重要であるのでフォローアップをしなさいよ、すべきであるよという文言だと思います。それを金融庁なり当局に向けて我々が申し上げているという形であるので、これを載せた限りは、今後もこのテーマに対する何かしらのフォローアップをやっていくということをぜひお約束いただけるとうれしいなと思っています。なかなかフォローアップができないなという感じを持っていますので、何が進展して、何が進展できなかったのか、もしくは、動かしてみたことでよくなったのか、悪くなったのか。悪くなることはないと思うんですけれども、よくなり切らなかったのかといったようなことも含めてフォローアップが公表されていくことをぜひお願いしたいと思います。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、お隣の長谷川委員、どうぞお願いいたします。
【長谷川委員】
ありがとうございます。金融庁の皆様におかれましては、本当に短期間に多様な委員の御意見を踏まえて報告書案をまとめていただきまして、本当に感謝申し上げます。私がこれまで申し上げてきた意見につきましてもおおむね反映いただいておりますので、本日は、報告書に関連して、11月の初旬に大和証券の日比野会長を団長として経団連の金融資本市場委員会のミッションでシンガポールを訪問してまいりましたので、その際に感じたことを述べたいと思います。
皆様御承知のとおり、シンガポールは今や国際金融センターとしての地位を確立しているわけですが、現地では、経団連、日本企業の取組を発信しつつ、政策当局や市場関係者、機関投資家と対話を行ってまいりました。グローバルな投資家にとっては、円安とか低金利という状況だけではなくて、日本は地政学的リスクの低さからも今、中国市場の代替的な側面に注目しており、非常に日本市場に関心を高く持っているという話とか、諸外国と比較して日本の賃金は相対的に安いんですが、生活費も安く、また、アジアで最も安全な国であるというクオリティーオブライフの観点から非常に魅力的な国で、日本で働きたいと思っている金融関係者も多いといった話を複数、多方面から耳にいたしました。また、岸田総理が掲げられている資産運用立国の注目度も非常に高くて、今回の経団連の訪問が非常にタイムリーであると歓迎されたこともありまして、今後こうした現地の高い期待に応えていく必要があるということを改めて感じた次第でございます。
その一方で、日本は税制面で魅力が低いということや、日本独自の細かい規制があって、そのたびに弁護士費用などがかかることから追加コストがかかるということや、いろいろなルールが英語対応になっていないということなどが、日本への投資への障壁になっているということも多々指摘を受けました。ですので、こうした点について、今回タスクフォースもしくは新しい資本主義実現会議の資産運用立国分科会で議論されている、日本への新規参入を促進し、競争環境を整備していくというために、日本独自のビジネス慣行や参入障壁の是正、金融資産運用特区の創設、また、こちらの報告書にある日本版EMPの策定実施といったことが実施されれば、シンガポールをはじめとする今の海外の投資家からの熱い期待に応えていくことにつながるのではないかと感じた次第です。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、右手のほうに参りまして、野村委員、有田委員の順でお願いしたいと思います。野村委員、どうぞお願いします。
【野村委員】
野村でございます。まずは、ほかの委員の方々もおっしゃっていましたけれども、短期間でこれだけの報告書の取りまとめ、誠にお疲れさまでございます。私のほうからは、感想めいたことも含めてコメントを3点ほどさせていただければと思います。
1つ目は、この報告書に記載の内容として、資産運用業の新規参入の促進ということが取り上げられております。また、そのための規制緩和の内容が盛り込まれたということになります。その結果、多くのプレーヤーがうまく参入するとなりますと、多様なプレーヤーが増加するということになると存じます。そういたしますと、どうしてもコンプライアンスやコンダクト、そういったことの水準にも差が出てくる可能性があろうかと思います。そういった場合、ある程度予見可能な、そして、バランスの取れた規制、監督、法執行、これらが確立されていることも重要になってくると存じます。要は、挑戦するプレーヤーを過度に萎縮させないということ、そういった対応も求められるかと思います。また、新規参入者、既存のプレーヤーの双方にとって、健全な競争環境の確保が重要かと存じます。
2点目はEMPについてです。こちらではアセットオーナーと、それから、金融機関が取り上げられたわけでございます。アセットオーナーは非常に多様であり、多様なミッションを有しておられる。そして、資産運用というのはそのミッション、任務を達成するためのツールの一つであると理解しております。この任務の達成に有用であれば、より高度な運用を追求することに合理性、意味があるというロジックだと思います。要は、何が受益者にとっての最善の利益に資するのか、これを追求していただくのが大事と理解いたします。また、金融機関についても、様々な業態がございます。それぞれの事業領域、得意分野がございますので、それを生かす形で取り組んでいくということが重要かつ現実的かと思います。
3点目は、最後のところ、「おわりに」の部分です。こちらで中長期的に改善の努力を継続するということを言っていただいておりまして、その点について同意いたします。この取組は特定の省庁の所管になかなか収まらないということを本当に痛感しております。例えばアセットオーナープリンシプルというものも挙げられているわけですけれども、この策定のプロセスにおいては、いわば従前と異なる次元の連携に取り組んでいただけると大変よいのではないかと思います。また、日頃の議論のレベルにおいても、省庁をまたぐ連携、そういった取組の必要性が従前よりも高まっていくのではないかとも感じました。この機会に、日本の、あるいは日本人の資産運用をどのようにしていきたいのかということについて、グローバルな目線で本質的な議論を行っていくことが非常に重要ではないかと思った次第です。
私からは以上です。ありがとうございます。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、有田委員、どうぞお願いいたします。
【有田委員】
私からも3点申し上げたいと思います。
まず、17ページから18ページにかけての記述でございますが、項目Ⅳの「成長資金の供給と運用対象の多様化の実現」におきまして、家計の安定的な資産形成を進めていくためには既存の金融商品への投資も含めという部分を記載していただきました。これにつきましては、議論内容を反映いただいたということで大変感謝しております。
また、前回会合で、4つの点に言及したペーパーを提出させていただきました。そのような機会を与えていただきましたことにつきましても感謝いたします。また、その取扱いにつきましては、有吉委員、また、今の野村委員にもございましたように、各省庁をまたがる事項であるとも理解しておりますので、お取扱いにつきましては、事務局及び座長にお任せしたいと思っております。
2点目も、各委員が言及されていたことでございますが、30ページの「おわりに」の部分でございまして、資産運用業の改革は一朝一夕に成し遂げられるものではないという点についても、殊さらここで取り入れていただいたことに感謝いたします。
それから、最後の点ですが、こちらは8ページの95行目から98行目にかけて、スチュワードシップ活動についてでございますが、これについては私は若干違和感を持っております。これを読みますと、アクティブ運用におけるスチュワードシップ活動が、結果的に市場ベンチマークのパフォーマンスを向上させることによってインデックス投資のリターンがサポートされるというふうに読めるわけですが、アクティブ運用におけるスチュワードシップの活動が原因であって、その結果としてインデックス投資のリターンがよくなると。この主従の関係といいますか、恩恵を被るのがインデックス運用だというような読み方もできるわけで、こちらについては違和感を持っております。
第1回の会合の私の発言の中で、資産運用業の役割とは何かといったところで、大きな意味でいうと、金融仲介業を今や担っていると考えております。かつて日本の高度成長を支えた開発経済モデルにおいては、資金の需要主体と資金の供給主体を結ぶものは銀行を中心とした預金・貸出しの関係であって、そういった間接金融が主なものであったわけですけれども、現行の成熟経済においては、それに加えてマネーオーナーと発行体を結ぶこの資産運用業こそ重要性を増しているわけで、そういった直接金融が重要になってくる中で、スチュワードシップを通じたエンゲージメント活動は、まさに資産運用業と発行体を結びつける対話の部分だと理解しております。
スチュワードシップ活動のそもそもその目的は、長期かつ持続可能な企業価値の向上を目指すということでございますので、エンゲージする立場が長期に株を保有していることが前提でございますし、また、量としても、資産運用業全体で見れば非常に大きな量の株や債券を持っておりますので、考え方として、自分が保有している資産の向上だけを目指すのではなくて、全体の底上げも意識したエンゲージメントこそ重要だと考えております。この表現を見ると、主従の関係といいますか、原因と結果が、あたかもアクティブ運用におけるスチュワードシップ活動がインデックス投資のリターンに派生的に結びついているというのは違和感を持っております。実は注釈のところで、そういった指摘があると書いていただいてはおりますけれども、本文にこれが残る以上、誤解をされる方が多いのではないかと懸念しております。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは続きまして、真ん中の辺りに行かせていただきまして、上田委員、大槻委員、片山委員の順でお願いいたします。上田委員、どうぞ。
【上田委員】
御指名ありがとうございます。まず初めに、事務局の皆様、この短期間にこれほどまで幅広く、そして様々な論点を含めた報告書をまとめていただきましたこと、本当にありがとうございます。また、本日の御説明もありがとうございました。皆様、どうもお疲れさまでした。また、これまでの議論での意見も相当吸い上げていただいた内容だと思っております。こちらも重ねて御礼申し上げます。まず、そういうこともあって報告書の方向性については、私は賛同いたします。その上で、今後こういうお取組とか期待するものを述べさせてください。
今回のこの別紙の資料4の1ページにもありますように、成長と分配の好循環を実現するためには、この絵はインベストメント・チェーン全体での価値向上が必要であるということかなと思います。そういう意味でいうと、ここにインベストメント・チェーンを通じた成長と分配の好循環などと明記があると、これが循環しているものである、価値がチェーンのように連鎖して上がっていくものですよというのが伝わるかなと思いました。もし時間に余裕があれば、「インベストメント・チェーン」という言葉もここに入れていただくといいかなと思いました。
いずれにしても、今回のこの政策が実施されることで資産運用の高度化が進んで、国民経済において貯蓄から投資という道筋がより活発化するということが期待されます。それはすごく望ましい動きとは思うんですが、他方で少し心配しておりますのが、投資先の価値向上が進まないと、投資資産は国内ではなくて海外の資産に流れていく。これが当然の動きとしてあるということは、今回の政策の目的として必ずしも100点にはならないのかなというところも心配しています。そのため、インベストメント・チェーンのそれぞれの参加者、主体であられる関係者、これは運用機関、そしてアセットオーナー、さらには投資先企業を含めて、それぞれ価値向上の好循環という観点から、御負担も多いかと思いますけれども、高い目的のためのよりプロアクティブな、積極的な参加を期待しております。
中でも、国内に望ましい投資先が必要である。ここがやはり重要で、価値向上の起点は投資先がしっかりと価値を生み出してくれるというところに尽きます。したがって、今回の議論にも少し触れてありますけれども、例えばスチュワードシップ・コードを通じてしっかり企業と対話できる枠組みは出来ております。企業の側もコーポレートガバナンス・コードを通じてもう既にお取組をしっかりされておられますけれども、さらなる取組、そしてディスクロージャーの高度化による透明性の確保ということで、対話、高度化する価値を生むという仕組みをしっかりと機能させていただきたいと思います。東証さんの取組もこちらで紹介されていますけれども、こういったお取組もそういう活動をより補足、補完するものであろうかと思っております。
今後この政策を実現して、実際にこのチェーンを通じて好循環を生んで価値を高めていくというためには、ほかの委員の皆様からもありましたが、金融庁さんに加えて政府全体、他省庁の皆様の御協力も含めてお取組をしていただけると大変ありがたく存じます。
以上を踏まえて、私は報告書には賛成しておりますので、今後の手続についても、座長、そして事務局の皆様に一任させていただきたいと存じます。
以上です。ありがとうございました。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、お隣の大槻委員、どうぞ。
【大槻委員】
ありがとうございます。本当に短期間でこれだけのものをまとめいただきまして、ありがとうございます。概要はすごく分かりやすいと思いました。ですので、これは英文もぜひ分かりやすいものを作って、国際的に今回の資産運用立国に向けての取組の本気度をぜひアピールしていただきたいと思います。
それの意味で、まず1点目ですが、概要のところ、今、上田委員からもインベストメント・チェーンというお話がありました。私はそれも多少気になったんですけれども、もう一つ、この一番上のところですが、「成長と分配の好循環を推進し、資産運用立国を実現」というふうに入れてはと思います。というのも、このタスクフォースのもともとの設立の趣旨としては、本文の6ページ目を見ると、資産運用立国の実現に向けた取組を行うことと5行目に書いてございます。ですので、趣旨に応じた報告書をつくっているということをより明示するために、ここに資産運用立国を実現するというのを入れたほうがと思った次第です。
本文のほうに行きまして、幾つか。まず10ページ目、運用会社のアウトソースについて、踏み込んだ内容をお書きいただいていると思いますので賛成しますが、できる限り責任の所在の明確化ということもどこかで、今後のことになるかもしれませんけれども、明示することが必要なのかと思います。そうでないと、携わる人たちが尻込みしてしまうような可能性が排除できないかと思っています。
それから、アセットオーナーの運用力について、16ページ目でございます。これは並行してというか、既にペーパーも出ている資産運用立国分科会のほうでの議論に委ねるところも多いのかもしれませんけれども、やはりいずれにしても、労働者の特性に応じて、適切な最適なリターンを生むような、そういったリスクテイクとリスク管理ということが非常に重要であると思います。それに対して、前向きなモチベーションと情報交換の場等が与えられるような機会を推進するような方法を省庁横断的に取っていただければと思っています。
それから、これは全体的になんですが、今回はこのインベストメント・チェーンの根幹のところを中心に議論したんだと理解していますけれども、枝葉のところ、例えば脚注にあるような議決権行使の助言会社とか、それから、9ページ目の脚注のインデックスプロバイダー等、それから、今後設立される金融経済教育推進機構等、そういったところについても含めてより広いところについて目配りをしていくようなことの御検討を一層いただければと思います。
それから、29ページ目の803行目の、これも皆さんおっしゃっているまとめ、「おわりに」のところでございます。今回まだ出ていない観点というか今後の課題かもしれないと思うのは、EBPMという観点です。今回はどちらかというといろいろな御意見を広く取り入れたということだと思いますが、今後はこれを行うことによって、どういったことが可能になったのか、どういう成果が出たのか出なかったのか、そういったエビデンスを見てフォローしていくことが非常に重要だと思っております。
だとすると、この803行目ですが、フォローアップはしていただくということですが、今後「必要に応じて見直す」ということですが、恐らくフォローアップをしていけば、追加の対策の要否を継続的に検討するというのは、必要に応じてではなくて、必ずやることなのかと思いますので、できれば「必要に応じて」というのはカットをして、必ず、継続的に見ていっていただければと感じた次第でございます。
以上、全体として省庁横断的に、目的オリエンテッドで、先ほども御意見ありましたけれども、あるべき資産運用のインベストメント・チェーンの在り方を目指していけるような形で行っていっていただければと思っています。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、お隣の片山委員、どうぞ。
【片山委員】
連合の片山でございます。まず、事務局の皆様におかれましては、報告書を短期間で取りまとめていただいたことに、大変御苦労されたことに敬意を表したいと思います。また、私どもの意見も様々取り込んでいただき、大変感謝申し上げたいと思います。どうもありがとうございます。その上で私からは、今後の詳細な制度設計や制度運用についてぜひ留意いただきたい事項を幾つか述べさせていただきたいと思います。
まず1点目ですが、投資家の保護についてです。本タスクフォースが設置された目的は、家計の安定的な資産形成の実現に資する資産運用環境の整備と認識しております。安定的な資産形成には、受益者の最善の利益ということで安易に高リスク高リターンの商品へと誘導されることがないよう、引き続き金融庁の役割を期待したいと思います。
また、一昨日成立した改正金融商品取引法で設置されることになった金融経済教育推進機構による家計の金融リテラシー向上に向けた取組も重要だと考えます。とりわけ、勤労者の4割を占めるパート、有期、契約など非正規雇用で働く人たちについても確実にその対象とするなど、全ての国民に教育機会が提供できるよう丁寧な設計をお願いしたいと思います。
最後に、企業年金の運用についてです。本報告書やこれまでの議論においては、企業年金も含めた形でアセットオーナーという表現が用いられておりますが、場面や内容については一くくりで扱うべきではないこともあると考えます。これまでも申し上げてきましたが、企業年金の運用については、労使一致、労使合意の尊重を前提に、長期にわたり確実に給付が保障されるための運用がなされるべきであります。そのため、スタートアップ企業への投資の促進など政策的な目的で、過度なリスクテイクやそれによるリターンの獲得を目指すなど特定の方向性に誘導することがないように留意が必要です。また、企業年金改革の方向性は資産運用立国分科会でも議論されていると承知しておりますが、社会保障審議会での議論も十分に尊重して進める必要があると考えております。
私からは以上です。ありがとうございます。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それは次に、オンラインシステムがもし復旧しているということでありましたら、オンライン御参加の白須委員、松岡委員に御発言いただき、最後に会場に戻る形になりますけれども、松尾委員、亀坂委員に御発言いただきたいと思います。白須委員、どうぞ。もし聞こえていればということで恐縮です。
【白須委員】
白須です。聞こえますでしょうか。
【神田市場制度WG座長】
聞こえております。お願いいたします。
【白須委員】
まず意見を反映、取りまとめいただき、どうもありがとうございます。2点申し上げたく存じます。
1つ目は、先日法案が成立した金融経済教育推進機構についてです。金融教育は幾つかの対象群が考えられます。消費者、それから、銀行や証券会社の窓口の方、DCに関しての企業の人事担当者、それから、各企業年金、アセットオーナー等もいますが、その方々の運用窓口の担当者でございます。特に中小の年金基金、アセットオーナーの方々についてですが、このタスクフォースでも議論になりましたが、多数の小規模の年金基金のリテラシーの向上が必要です。この方々に向けてのプログラムが新しい機構から提供される必要があると考えます。今後、新機構の事業開始に当たり、この点を御留意いただきたいと考えます。
2点目は、パッシブ運用者中心の中でのエンゲージメントの在り方です。報告書に書いていただいておりますが、特定の1つの指標による単視眼的なエンゲージメントだけではなくて、個別の企業の事情をよく見た上でのエンゲージメントをどう行うのか、今後まさにこの点を具体的に考えていく必要があると考えます。
以上2点です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、オンラインで御参加の松岡委員、どうぞお願いいたします。
【松岡委員】
発言の機会をいただき、ありがとうございます。まずは、今回非常に多くの点について短期間でこのような案をまとめていただきましたことに対して感謝申し上げます。私からは、この案に関連して2点具体的に申し上げます。
まずⅥの5の株式報酬に係る開示規制の整備に関して、事後交付型株式報酬については、開示書類を提出するタイミングを整理すること、また、有価証券届出書の提出を不要とすることは、いずれも経団連からも要望していた事項であり、今回、報告書に具体的な提案を盛り込んでいただき、誠にありがとうございます。
なお、報告書に記載されている方向性についてはもちろん異存ありませんが、例えば「株式報酬規程等を定めて取締役等に通知を行う行為」をどのように解釈するかなど実務的な論点は多数ございますので、今後金融庁において制度設計を検討する際、実際RSUなどを導入している企業の意見もよくお聞き頂いたうえで進めるようお願いします。
また、同じくⅥの成長資金の供給と運用対象の多様化についてです。米国などのスタートアップ企業の発展状況等に鑑み、また、キャピタルの循環全体を捉えるという上で、大企業等、ベンチャー企業以外の日本企業が、ベンチャー企業にとって活発な投資資金の受入先または魅力的なエグジット先、すなわち、M&Aの担い手となるとともに、そうした大企業における新規事業や成長事業への取組がますます活発化、発展することが、本目的に照らして今後実質的に大きなインパクトとさらなる潜在性を持つと思われます。それらの促進のための環境整備や柔軟性の確保、また、先ほど申し上げた株式報酬に関する件も含め、奨励するための施策についても、ぜひ視野に入れていただき、今後さらなる検討が進められることを期待しておりますし、そのために協力をさせていただければとも思っておりますので、よろしくお願いいたします。
いずれにいたしましても、ただいま申しましたこれらの点につきましては、当事者である企業を含め、省庁等もまたがる多方面の連携や協力も必要になってきますので、何とぞ今後ともよろしくお願いいたします。
以上です。ありがとうございました。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、会場での御参加の松尾委員、どうぞ。
【松尾委員】
ありがとうございます。短期間にこれだけのものをまとめていただきまして、感謝申し上げます。内容について申し上げることは何もありませんが、この報告書の記載内容を実現していく上で申し上げたいことが1点ございます。
9ページから10ページにかけてのプロダクトガバナンスのところですけれども、まず10ページの脚注11にありますように、投資信託に限らず、証券化商品や仕組債についてもプロダクトガバナンスの確保に向けた検討を進めてほしいという御意見には強く賛同いたします。その意味では、従来、重要情報シートの記載事項を拡充するといったようなことを進めてまいりましたが、それもプロダクトガバナンスの考え方に基づくものであったかと思います。そうしますと、かなり以前からプロダクトガバナンスの確保に向けた取組はされているはずなんですけれども、なかなか進展というか浸透しないというところかと思います。ですので、この機会にぜひ、なぜプロダクトガバナンスが重要なのかということの発信を強めていただきたいと思います。
私の理解しているところでは、プロダクトガバナンスというのは、金融商品の内容に着目した直接的な規制に代わるものと理解しております。例えば仕組債を個人の投資家に売ることを禁止するというような直接的な規制ですと、一部で本来規制しなくていいところまで規制してしまうという過剰規制の懸念がありまして、そういった懸念があるがゆえに、規制をする側も慎重になってタイミングが遅れるというような問題があったかと思います。それに代わるものとしてこのプロダクトガバナンスという規制モデルが現れたと理解しております。
この中では、顧客のニーズに近いところにいる業者の方々が顧客のニーズを適切に吸い上げて、それを金融商品の組成・販売・運用に反映させる、そういう仕組みを構築していくということが期待されているかと思います。9ページから10ページにかけて課題として指摘された事項は、そういった仕組みを構築する上で重要となる点を例示していただいているものと理解しております。
その上で、監督する側としては、業者の取組をできるだけ尊重しつつ、不十分な点を指摘して改善を促すと、そういう規制モデルであると理解しておりますので、まずは業者の側で自発的にこういったプロダクトガバナンスに関わる体制を整備していただくことが重要かと思うのですけれども、業者の方々にその重要性、プロダクトガバナンスということの重要性が伝わらないのか、伝わっているけれども、受け入れていただけないのかが分からないんですけれども、なかなか浸透しないというところなのかと考えております。本日はオブザーバーとして名宛人に当たる業者の方々の代表の方がお見えですので、ぜひ今なぜプロダクトガバナンスというのが重要なのかということをいま一度お考えいただきたいと思います。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、亀坂委員、どうぞ。
【亀坂委員】
ありがとうございます。亀坂です。まず、前回の市場制度ワーキング・グループ後に個別に意見聴取をしていただきまして、意見をなるべく反映していただいて、ありがとうございます。コメントないしは感想を3点述べさせていただきます。
1点目なんですが、これは目次でいうと1番目の「はじめに」のすぐ下の6ページ、7ページのところなんですが、家計の金融リテラシー向上に向けて金融経済教育推進機構を設立すると、こういったことですね。法律が成立して、今後進めていただけることに大変期待していると。これまで個人的には学部教育とかで非常に頑張ってきて、ただ、思うように、自分の受講生だけがこういった教育を受けている状況であったのが、これは全国民がこういった金融リテラシー教育を受けられる可能性があるということで、全国民がメリットを受けられるという意味では非常に裾野が最大限というか広いことなので、今後の取組自体に大変期待しております。
2番目は、目次でいうとⅢの3の①、10ページの投資運用業の参入要件の緩和等。これは日経の速報とかでも急に入ってきてたりして気になっておりましたけれども、資産運用業に本当に入りたいのに、国内で入れずに、他国、シンガポールとかに行って設立したりというようなことがあるということは資産運用業界の方々から以前から伺っていたので、制度面では大きな前進じゃないかなと思います。これも感想です。今後、参入が促進されることを期待しております。
3つ目は、目次でいうとⅢの3の②の一番最後のところにちょっと書いてある、スキルや経験が次世代に引き継がれることとか、運用人材の裾野が将来にわたって広がることが望まれるとか、「望まれる」というとちょっと物足りない感じがするんです。これから裾野を広げるんだという、もうちょっと本当は積極的に書いていただきたかったなというのが、それが感想です。
あと、非常にたくさんの方々がこれに関連して、「おわりに」のところ、29ページからの記述に関して既に言及されていて、私の記憶の範囲内でいうと、幸田委員、野尻委員、野村委員、有田委員、大槻委員とかも御指摘されたとおり、短期的にできることと、もっと中長期的でないとできないことがやっぱりどうしてもあると思うんです。今回は短期的にできそうなことは報告書になるべく盛り込んでいただいたように思うんですけれども、人材育成とかになるとやっぱり長期的でないとできないと思うんです。
金融リテラシーの拡充とか裾野を広げるということは割と短期的にはできても、先ほど白須委員とかもおっしゃっていたと思うんですけれども、我々、大学院生を例えば日本CFA協会とかが主催する英文アナリストレポート作成プレゼンコンテストとかにエントリーさせたりしているんですけれども、そういったことをさせながら、資産運用に関われる人材を育成しようとか、いろいろな取組を我々大学で教育している者は行っているんですけれども、これまでは個別にそういったことをしても、やっぱりなかなか裾野が広がらない。
学生は資産運用業に興味があるし、ミドルオフィス、バックオフィスでもいいから資産運用業界に入ってみたいという学生はたくさんいるんです。青山学院でもいますし、それより上位の大学は非常に興味を持っている子が多いんですけれども、具体的にどうやってそれを勉強して日本国内でそういった人材に自らなれるのかというと、キャリアパスみたいなものがはっきりしなくて、結局諦めてしまうんです。どこか金融業界に取りあえず就職すればいいかと。それが日本の金融人材が不足するやっぱり原因ともなっていると思うんです。
ですので、人材育成と一言で言っても、フロントオフィスの人間、バックオフィスの人間とか、あるいは別の運用業以外のところでもそれぞれ専門性、知識が必要ですので、中長期的に本当に国を挙げて、政府を挙げて、学生の教育とか、あるいはもう既に金融業界に入っている人のOJTとか、業界を連携しての業界内での人材育成の仕組みを今後構築していくとか、やっぱり非常にもっと大きなことにも取り組まないと、枠組みをつくったけれども、人材がいない、人がいないとなってしまうと思うんです。ですので、既にいろいろな委員の方々、多くの方々が御指摘されたとおり、一朝一夕に資産運用立国は実現できないと思うので、人材育成とかも含めた中長期的な課題の解決を今後考えていただきたいと思います。
以上です。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。多くの貴重な御指摘を本日もいただきまして、誠にありがとうございます。
この段階で事務局からもし何かあればお伺いしたいと思うのですけれども、私も手元で御指摘いただいたものを全部メモしきってはいないのですけれども、修文に関わるような御意見なりも幾つかあったと思います。
時間の順で、幸田委員から8ページ、17ページ、24ページ、29ページ辺り、そして、野尻委員からは18ページ、それから、概要の紙、それから、「おわりに」の部分は、ほかの委員も含めて御指摘をいただきました。それから、有田委員からは8ページの部分で特に御指摘がありましたし、上田委員からは特に概要紙について御指摘をいただき、大槻委員からは概要紙のほか、10ページ、16ページ、あと、周辺部分というか、枝葉と表現されたと思いますけれども、これは感想かと思います。あとは、「おわりに」の部分についての御指摘をいただいたかと思います。そして、今、亀坂委員からは、感想が中心だったと思いますけれども、13ページ辺りと「おわりに」の部分についての御指摘等をいただいたかと思います。
これらについてこの時点でもし何かございましたらお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
【齊藤市場課長】
現時点で特に申し上げることはございません。
【神田市場制度WG座長】
ありがとうございます。そうしましたら、そろそろ予定の時間も来ておりまして、取りまとめのやり方について皆様方にお諮りをしなければいけません。今日は、私の進行もあまりよくなくて、オブザーバーの皆様方には御発言をいただく時間をお取りすることができませんでして、大変申し訳ございません。オブザーバーの皆様方ももちろん大変重要であることは言うまでもありませんで、プレーヤーの皆様方が多く参加しておられますので、御感想とか御意見とか要望とかありましたら、事後になって恐縮ですけれども、事務局までお送りいただき、それを何らかの形で記録にとどめていただければと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
そこで、取りまとめの方法についてなのですけれども、まず、本日の報告書案につきまして、基本的には大筋において皆様から御賛同はいただいていると思います。この先が難しい話になるわけですけれども、私の感じでは、幸田委員をはじめとして個別に御指摘をいただきました点のほとんどの部分は、修文という形で盛り込ませていただけると思います。特に内容を変更するようなということではなくて、重点の置き方とか、それから、有田委員のおっしゃったところも、因果関係があるわけではないということですので、そういうことを含めて、御指摘に沿った修正をさせていただくことによってほかの皆様方から何か異論が出るというようなことはそんなにないと思います。
そして、概要紙につきましては、これは私たちが作るというよりは、事務局である金融庁さんがお作りになるということですので、金融庁のほうで、今日いただいた御指摘はいずれもごもっともだと私も思いましたけれども、それを踏まえて、さらに必要な修正があればしていただけるということかと思います。
ということですので、本日いただきました御指摘や御意見を反映するという作業につきましては、基本的には反映させていただけると思っておりますけれども、場合によっては、表現上の理由、その他の理由で難しいという点も多少は出てき得るかと思います。以上のような状況でございますので、今後表現ぶり等の精査もしなければいけないのですけれども、そういった作業も含めまして、本日いただきました御意見、御指摘の反映という作業は、大変恐縮ですけれども、今後の日程の関係もございますので、私に御一任していただけると大変ありがたいのでございますけれども、そのようにさせていただいてもよろしゅうございますでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは、今後はタスクフォースの座長の加藤先生と、それから、事務局と相談して、報告書を最終バージョンにさせていただきたいと思います。
また、報告書の公表時期その他の公表に関する取扱いにつきまして、これも大変恐縮ですけれども、これは慣例でもあるかと思いますが、私に御一任いただきたく存じますが、よろしゅうございますでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございます。それでは、そのように進めさせていただきます。
皆様方には、非常に活発に、かつ難しい点も多々ありましたけれども前向きな御意見を多数いただきまして、本日報告書をほぼ取りまとめることができましたことにつきまして、厚く御礼申し上げます。また、タスクフォースの皆様方におきましては、極めて限られた短い期間の中で集中的な御審議をしていただきまして、加藤先生をはじめ、皆様方に対し、厚く御礼申し上げます。
加藤さん、何かもしここであればお願いいたします。
【加藤資産運用TF座長】
資産運用に関するタスクフォースのメンバーの皆様方には、大変お忙しい中、積極的に御参加いただき、また、精力的な御議論をいただきましたことを厚く御礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。あとは、局長、何かございますか。
【井藤企画市場局長】
今回、資産運用立国に向けた検討ということで、新しい資本主義の実現会議の下でも分科会で大きな枠組みの下でアセットオーナーの点等も含めまして議論されてございますが、金融制度面からはこのタスクフォースでしっかりと御議論をいただいたと考えていたものでございます。委員の方もおっしゃられたように、今できることは何でもやるぞというような形で御提言もいただいたと受け止めてございますので、報告書の内容についてはしっかりと実現に向けて取り組んでまいりたいと思います。
これでこの取組が終わるわけではないという御指摘もそのとおりだと思いますので、引き続きいろいろな面で御指摘、御提言、PDCAサイクルというかフォローアップの話もいただきましたけれども、今後ともいろいろ厳しめの意見も含めて私どもに御提言いただければと存じます。よりよい政策、あるいは金融市場、インベストメント・チェーンの実現に向けて私どもも努力してまいりたいと考えてございます。本当にありがとうございました。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。それでは最後に、事務局から御連絡等ございましたら、お願いいたします。
【齊藤市場課長】
委員の皆様におかれましては、報告書の取りまとめに向けまして精力的に御議論いただきまして、誠にありがとうございました。
報告書案の修文につきましては、神田座長から御指摘いただきましたように、神田座長、加藤座長に御相談させていただいて、委員の皆様にも修文案を確認させていただき、なるべく早く公表させていただくことにしたいと考えております。また、この報告書案の内容につきましては、新しい資本主義実現会議の下に設置されております資産運用立国分科会へ報告させていただきたいと思っておりますので、その点御了承いただければと思います。
以上でございます。
【神田市場制度WG座長】
どうもありがとうございました。
それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
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企画市場局市場課(内線:2410、2356)