金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第2回)議事録

平成28年6月15日

【神田座長】

それでは、定刻になりましたので、始めさせていただきます。市場ワーキング・グループの第2回目の会合を開催いたします。皆様方にはいつもお忙しいところお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。

最初に、前回ご欠席で、今回からご参加いただきます委員の方を事務局からご紹介していただきます。お願いいたします。

【齋藤市場課長】

それでは、私からご紹介を申し上げます。委員の皆様の右手から4番目にお座りいただいております、神作裕之様でいらっしゃいます。

【神作委員】

東京大学の神作でございます。よろしくお願いいたします。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、早速ですが、議事に移らせていただきます。

第1回目の会合でもご説明させていただきましたが、このワーキング・グループでは、広範なテーマについてご議論をお願いすることになります。そこで議論を効率的に進めるために、一度にすべてのテーマを議論するということではなくて、各回に1つ、あるいは幾つかのテーマを選んでご議論をいただくことを予定しております。

本日のテーマは、「市場間競争と取引所外の取引」になります。そこで、取引とか取引所のあり方に関するテーマになりますので、有田委員にご出席をいただいております。

また、そういうことで今後も進めさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

まず、事務局から「市場間競争と取引所外の取引」について、これまでの審議会における議論や現状等についてご説明をいただきます。続きまして、「取引所外取引の現状と課題」ということで、大崎委員からご説明をしていただきます。その後、皆様方による質疑応答、意見交換をさせていただきたいと思います。

それでは、まず、事務局からの説明をお願いいたします。

【齋藤市場課長】

では、お手元の資料1-1に基づきまして、私からご説明させていただきます。

90年代末に金融システム改革法におきまして、市場、取引所に関して行われた主な改革の1つに「市場間競争」といった考え方の導入と「取引所外取引の解禁」がございました。これらの今日的な課題について、ご説明をした上で、そのご議論をいただければと思っております。

表紙をおめくりいただきまして1ページ目、まずは、市場間競争の経緯について順次ご説明をさせていただきます。

まず、市場間競争を導入したときの基本的な考え方について、当時の審議会の答申等に基づきまして、ご説明をさせていただきます。平成9年6月に取りまとめられた、当時の証券取引審議会の答申の抜粋を掲げております。

こちらの最初の丸にありますように、従来は、取引を証券取引所等に集中させることが効率・公正の両面で最も効率的と考えられてきた。

2番目にありますように、しかし、技術の革新に伴って、さまざまな取引形態が可能となってきている。また、取引所を中心とした仕組みでなくとも、取引の公正性を担保できる仕組みが構築し得る環境になってきている。

ということを踏まえた上で、4つ目の丸ですが、「さまざまな資金調達者、投資家が、それぞれの多様なニーズに従って市場を選択する幅が広がるとともに、そうした市場が相互に競争し合うことにより、全体としての市場システムの効率化・機能強化が図られることが期待される」と整理されております。

その後、平成15年12月に金融審議会金融分科会第一部会で取りまとめられた答申でも、市場間競争についての言及がございまして、最初の丸にありますように、「東証への取引の集中傾向が続いているのは、市場参加者が流動性、利便性を求めたがゆえの自然な帰結という側面がある」とした上で、2つ目の丸にあるように、「一方、市場間競争を促進するためには、有効な対抗勢力が存在したほうが、東証自身も効率経営に向けた不断のインセンティブが働き、ガバナンス上有効と考えられる」といった整理がなされております。

このような基本的な考え方に基づきまして、市場間競争が、その考え方として導入されたところでございます。具体的にどのような取組を行ってきたのかというのが、1枚おめくりいただきました2ページ目でございます。

大きく分けまして3つでございまして、1つは、取引所集中義務の撤廃と取引所外取引の解禁。その中の1つの施策として、PTS制度の導入が行われました。

2つ目として、「店頭登録市場」というものが当時ございましたが、これを取引所の代替する存在ではなくて、取引所市場と同等の存在として証券取引法上に位置づけるということが行われました。

また、3番目として、「未上場・未登録株の取引の場のルールの整備」ということで、グリーンシート制度が、その後導入されたところでございます。

このような市場間競争の考え方の導入とともに、具体的な施策が講じられたところですが、その後の変遷が3ページ目、4ページ目になってございます。

まず、3ページ目で、「取引所等の変遷」というタイトルもございますが、平成9年、10年当時の証券取引所は、左側にあったようなものでございましたが、この図をごらんいただくとおり、名古屋と福岡と札幌は、現在でも取引所として存続しておりますが、新潟、広島、あるいは京都は、それぞれ東京、あるいは大阪証券取引所に統合された後、現状では日本取引所グループということで、東証と大証が1つのグループになっているところでございます。

また、店頭登録市場として当時存在していたジャスダック市場は、先ほど申し上げた、証取法上の店頭売買有価証券市場となりましたが、その後、取引所になり、ジャスダック証券取引所となり、さらに最終的には大証に統合されている状況でございます。

それから、その取引所外取引として導入されたPTSに関しても、下段に書いてありますように、多数の社がPTSに参入をしてまいりましたが、その後退出した社もおりまして、現状においては2社がPTSとして運営をされている状況でございます。

他方で、実際に取引がどのように、どの場で行われているのかというのが4ページ目でございます。「現物取引のシェア」と書いてございます。こちらにありますように、東京証券取引所の売買シェアが、全体の大体9割程度。他方、PTSが赤い線になってございますが、現状においては5%程度。その他、OTC等を合せても大体10%程度が、現状でございます。

このように、日本の市場間競争あるいは取引所外取引について、これまでの施策とその後の推移・結果は、このような形で東証に流動性がその後集中している状況でございます。

他方、市場間競争という考え方は、欧米でも導入されておりまして、その具体的な施策も講じられているところですが、その現状が5ページ目と6ページ目にございます。

まず、5ページ目が、「米国における市場間競争の概況」でございますが、アメリカでは、箱の中にありますように、市場間競争を促進してきた結果、50以上の取引施設が乱立し、全上場銘柄の取引シェアで見ると、取引所外取引が30%を占める一方、取引所は最大のNASDAQでも15%程度となっているところでございます。

それから、欧州でございますが、もう1枚おめくりいただきまして、6ページ目にございます。箱にありますように、現在、イギリス、フランス、ドイツにおける主要銘柄の取引シェアを見ると、各国の主要取引所のシェアが50%程度。MTFは、日本のPTSに相当するような取引施設でございますが、残りを幾つかのMTFがシェアを分け合っている状況でございます。

ただ、その下にありますように、欧州では、相対取引等が30%から50%程度を占めると言われておりますが、下のグラフではその部分が入ってございません。ここは統計上、少なくとも我々がそういうものを見つけられなかったので、その相対取引以外の取引所あるいは、MTFで取引されているものの、そのシェアが下のようなグラフになっているということで、その外側に相対取引等の取引が行われているという状況になっているところでございます。

このように、同じように市場間競争という考え方を導入している一方で、その結果としてというか、現状としてあらわれてきている取引なり、取引施設のシェアは、日本と欧米では大きく異なっている状況になっていると思われます。このようなことに関して、国際的にどのような評価がなされているのかといったことが、7ページ目でございます。

こちらでは、IOSCOのほうで下にありますような報告書が出ているものから抜粋いたしております。「メリット」と書かれているものは、もともと市場間競争を導入すると、こういうメリットがある。あるいは、こういうメリットがあるからこそ、こういう目的で市場間競争を導入してきたと言えようかと思います。

まず、独占的慣行の打破と効率性の向上。それから、取引手数料の引下げ効果。イノベーションの喚起であるとか、さまざまな取引手法の提供促進が、メリットとして整理されております。

他方で、デメリットと書かれているのは、市場間競争が行き過ぎた場合、こういうデメリットがむしろ出てくると整理をされております。例えば、その流動性と情報の面で市場の分断が発生して、投資家にとって最良価格の探索に係るコストが増大するおそれ。あるいは、いろいろな取引施設が、新たな取引方法やビジネスモデルを導入する結果として、市場全体の効率性が低下して、市場全体の利益にならない可能性。あるいは、流動性が拡散してしまって、価格競争を減少させ、ボラティリティを増大させる結果を招くおそれが指摘されているところでございます。

このような市場間競争のメリット、デメリット、あるいはその日本の状況から欧米の状況を踏まえてどう考えるのかといったことが1つ、論点として考えられるところでございます。

8ページでございますが、このようなこれまでの日本の市場間競争の経緯から欧米の状況を踏まえた上で、日本の取引所外取引の主な担い手として、PTS制度が導入されました。そのPTS制度に関する説明を何枚かさせていただきます。

まず、PTS制度とは何かということをおさらい的に最初の丸で書いてございます。PTSとは、電子情報処理組織を利用して、同時に多数の者を相手に、有価証券の売買等を集団的・組織的に行うもの。取引所と類似の機能を有するものとされているところでございます。

下に、取引所とPTSの比較の表がございます。その運営主体がそもそも取引所であれば、取引所ということで免許業種になっているわけでございますが、PTSに関しては、金融商品取引業者ということで、証券会社が認可を受けてその一業務として運営することになっているところでございます。

それから、そういうこともありまして、取引所であれば、自主規制業務が法定されているわけですが、証券会社の一業務であるPTSに関しては、自主規制業務が法律上求められていないところでございます。

また、信用取引に関して、取引所に関しては、そういうことを行うことができることになっていますが、PTSではそれは行えないという整理がなされているところでございます。

先ほどありましたようなPTSの取引シェアが必ずしも高くないということから、取引所とのイコールフッティングを考える観点から、この信用取引をPTSにも認めるべきではないかという声があるところでございます。

他方で、現状、信用取引に関して認めていないというのはどういう考え方なのかといったことが9ページ目に整理がなされております。

これは、平成22年監督指針を改正して、PTSに関して信用取引を行わない、認めないということを明示的に書いた監督指針でございますけれども、その際の金融庁の考え方が右下の箱の中に書いてございます。

まず、そのPTSを提供する業者自身が信用取引に伴う資金貸付等を行うことは、市場開設者としての立場(取引状況に異常など、そのおそれがある場合において信用取引の制限・禁止等の規制措置を講ずべき立場)と、その顧客へ資金などを提供する立場との間で利益相反の問題が顕在化するおそれがあるというのが、1つの理由になってございます。

また、もう一つ、その「また」で始まる段落でございますが、参加証券会社が、その取引所ではなく、PTSそのものではなく、PTSに参加する証券会社が資金貸付を行う場合であっても、この貸付業務の適切性を確保するためには、そのPTSを提供する業者に対して、参加証券会社に対する監査処分などの自主規制機能が取引所と同等に発揮を求めることが、あまり現実的ではないということから、PTSに関しては信用取引を認めないという考え方の整理が示されているところでございます。

ただ、その最後の段落で、「なお」で書かれているところでございますが、今後、自主規制機関等において、こうした考え方を踏まえた新たな枠組みを検討すること自体は妨げられないということで、そのような将来的な検討が妨げられていないということは、ここでも明示されているということでございます。

先ほど申し上げた取引所と同等の自主規制機能といったときに、どういうことが想定されるのかというのが、10ページ目でございます。これは、現状、信用取引管理に係る取引所がどのような対応をされているのかということを簡単にまとめた資料でございます。

2つ目の矢羽にありますように、取引所においては、信用取引について、過当投機といった弊害を可能な限り排除する観点から、以下のような対応を行っておられます。

まず、その銘柄ごとに信用取引残高を集計して公表する。その上で、信用取引の過度の利用を未然に防止する観点から、信用取引の割合が高い銘柄を「日々公表銘柄」という形で指定をして、その信用取引残高を日々公表する。

さらに、3番目にありますように、個別銘柄に係る信用取引の利用が過度と認められるような場合には、委託保証金率を引き上げて、そのレバレッジが掛かる度合いを抑制していく。

さらに、それでもその信用取引状況から必要と判断される場合には、信用取引を制限、または禁止することが、措置として行われるという仕組みになってございます。

上記のような措置を含む取引所規則の遵守状況について、取引参加者への調査を行い、その結果を踏まえ、必要があれば処分を検討することが、制度的にも担保されています。

このように、PTSに信用取引を仮に認める場合には、先ほど申し上げたような自主規制機能であるとか、利益相反の問題をどう考えるかといったことが、1つ論点になろうかと思っています。

以上が、PTSの位置付け、あるいはPTSに対する信用取引の可否に関するご説明でございます。

最後、11ページ目以降で、ダークプールについて簡単にご説明をさせていただこうと思います。取引所外取引を解禁したことで、新たに発生してきた現象として、ダークプールといったものが出てきているのは、日本に限らず海外においても同じような状況と考えています。

まず、ダークプールが全体としてどういうものなのかというのは、なかなか定義あるいはその説明が難しいものですから、これもIOSCOの報告書から抜粋して、そのご紹介をしたいと思います。

まず、ダークプールというのは、このIOSCOの報告書においては、「電子的にアクセス可能で、取引前透明性のない(気配情報を公表しない)取引の場」と定義をされております。要するに、取引所やPTSでは、通常約定情報、取引後の透明性に加えて、取引前の透明性、気配情報を公表することが義務づけられておりますが、気配情報、取引前の透明性がない取引の場が、ダークプールと定義されています。

先ほど申し上げたように、2にありますように、このような気配が開示されない流動性は、昔から存在をしておりましたが、近年、技術進歩によって、その取扱いが効率化されて、ダークプールが大幅に増大してきている状況になってございます。

このようなものが自然発生的に出てきた理由、投資家がなぜそういうものを使っているのかという理由も整理されているところでございます。例えば、マーケットインパクトの最小化であるとか、大口注文の執行促進であるとか、あるいは取引コストの最小化であるとか、あるいは情報漏洩、自分の手口があまり他の投資家にわからないようにするといった観点から、ダークプールが利用されていると整理をされております。

他方で、問題点も幾つか整理されておりまして、(1)にありますように、気配情報があまり見えない取引の場が増えてくるようなことになりますと、投資家の取引機会を判断するための価格情報が不十分となって、価格発見機能が低下するおそれがあるということ。

それから、2番目にありますように、ダークプールがあまりにも増えると、流動性が分散して、投資家が流動性を探すコストがかかるほか、情報分断の問題を引き起こすおそれが指摘されております。

また、市場の公正性・完全性への影響ということで、ダークプールの運営といった観点から、取引参加者の間で公平性が阻害されたりするようなことが起こると、その公正性の間で問題があるので、そういう情報が十分提供されないおそれが指摘されています。

このようなダークプールでございますけれども、今申し上げたように、要するに、気配情報が公表されない取引の場が、欧米なり日本ではどういうふうになっているのかといったことを簡単にご説明させていただきます。

12ページでございますけれども、アメリカにおきましては、取引所というものは約定情報も気配情報も開示義務があるところでございます。他方で、取引所ではない電子的な取引施設のことをATSという概念で、SEC登録が求められているところでございますが、この中で取引銘柄ごとにシェアが5%未満のものは、気配開示義務が免除されております。このATSの中でシェア5%未満のところが、気配開示義務が免除されているという意味で、ダークプールと一般的に認識されているところでございます。

また、欧州に関しましては、取引所であれ、MTFであれ、MTFというのは日本のPTSに相当する取引施設でございますが、いずれにせよ、大口注文等一定の注文形態、取引形態を取っているものに関しては、気配開示義務が免除されていることから、この部分に関しては、ダークプールだと認識されているところでございます。

他方、日本においてどうなっているのかというのが、13ページ目以降でございます。日本においては、まず、取引後の透明性。約定情報に関しては、平成10年金融システム改革法におきまして、いずれにしても取引所外取引でも約定情報は公表することが義務付けられております。

一方、取引前の透明性であるところの気配情報に関しては、平成12年にPTSも気配情報を外部公表することが規定され、平成17年でそれが法定されている。そういう意味では、取引所外の取引施設に関しても、原則としてその気配情報も開示しなければならないという整理になったところでございますが、2枚おめくりをいただきまして、15ページでございます。

こちらで、PTSが取引所類似施設の取引所に類似した機能を有しているので、PTSであるか、PTSでないかを判断するにはどういう点に留意しなければならないかといったことが、監督指針の中で書かれております。この下線で引かれたところでございますけれども、2の顧客の同数量の売り注文及び買い注文を、売買立会によらない取引を行う取引所に同時に取り次ぐシステムは、PTSには該当しないという整理をしております。

要するに、PTSに該当しないということは、自動的にというか、反射的に気配開示の義務が免除されることになります。これだけだとわかりにくいので、イメージ図を16ページにつけさせていただきました。

一番上にありますように、これはイメージなので正確性は若干ご容赦いただきまして、投資家からの注文を証券会社に出して、その証券会社のシステムが、これを対当・約定させるようなものというのは、基本的にはPTSに該当する。

一番下の箱にありますように、投資家からの注文を取引所に取り次ぐだけのシステムであれば、これはPTSに該当しない。

真ん中が、先ほどの下線でご説明をしたものでございまして、2の投資家から売りと買いの注文が証券会社にやってきて、それがたまたま同じ銘柄で、同じ数量で、売りと買いで同じ数量であった場合に関しては、これを両方とも取引所にクロスで注文を出して、取引所で約定するという取次をするシステムであれば、PTSに該当しないという整理がなされております。PTSに該当しないという整理をしたことによりまして、気配開示義務が免除される。

注にありますように、この結果、気配開示義務にとどまらず、PTSに係る規制全般が排除されることとなる。このシステムに関しては、日本においては気配開示義務が免除されたものとして、一般的にダークプールと整理されているところでございます。

このような日本の気配開示義務の状況と、それがもたらすダークプールの状況は、以上でございます。

最後に、論点でございます。まず、市場間競争について、市場が相互に競争し合うことにより、全体としての市場システムの効率化・機能強化が図られることが期待される。あるいは、市場間競争を促進するためには、有効な対抗勢力が存在したほうが、東証自身も効率経営に向けた不断のインセンティブが働き、ガバナンス上有効との考え方が審議会等で整理をなされてきましたが、こうした考え方やこうした意味についてどう考えるのか。

あるいは、取引所の統合や情報技術の革新などの環境変化を受けて、現時点における市場間競争の意義やあり方についてどう考えるのか。

それから、先ほどご説明した、欧米における市場間競争の現状を踏まえて、日本の市場間競争のあり方を考える上で留意すべき点はあるかといったことが、1つ論点かと思われます。

もう一枚おめくりいただきまして、以上のような市場間競争の意義やそのあり方を踏まえ、現時点におけるPTS制度の意義についてどう考えるのか。PTSの数は減少し売買高シェアも伸び悩む中、イコールフッティングを図る観点から、PTSにおける信用取引の解禁を求める意見があるが、これについてどう考えるか。

仮に信用取引を解禁する場合には、先ほど申し上げたような自主規制機能の問題についてどう考えるのか。あるいは、利益相反の問題についてどう考えるのか。

最後に、ダークプールに関して、取引所外の取引に関して、取引後の透明性に加えて、取引前の透明性(気配情報の開示)を求めていることの今日的意義についてどう考えるのか。あるいは、それが免除された形として、ニーズがあるダークプールの位置付け等について、どう考えるのかといったことが論点として考えられますので、このようなことについてご議論をいただければと思っております。少し長くなりましたが、以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、続きまして、大崎委員からご説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【大崎委員】

大崎でございます。先ほどの事務局からいただいた説明の内容とかなり重複する点もあるかと思いますが、取引所外取引の現状と課題ということで、私が認識しております現状をご紹介し、かつ事務局からいただいた論点の幾つかについての私見をちりばめながら、全く個人的な見解でございますが、お話をさせていただきたいと思います。

簡単な資料で恐縮ですが、お配りしております資料2をごらんください。1枚めくっていただきまして、最初に、「取引所外取引の意義」は、先ほど事務局からご説明いただいたことを繰り返すだけでございますけれども、かつては上場株式の取引を取引所に集中することで、多数の投資家の投資判断が1カ所に集まり、かつ大量の注文が集まるので、それによって公正な価格形成と円滑な流通が可能になるという考えに基づいて、取引所集中という制度が取られ、取引所外取引は原則として禁じられておったわけであります。これが、先ほどご紹介いただいたとおり、金融ビッグバンに伴う法改正で変わったわけです。

ここで少し余計なことでありますけれども、意外と大事なことなので申し上げておきたいのですが、日本のかつての取引所集中というのは、若干不徹底というか、不思議なところがあったことをご紹介しておきたいと思います。つまり、取引所集中という原則は、各取引所に取引を集中するという原則であったわけでございまして、かつては地方の取引所にも管轄地域という制度がありまして、管轄地域内の取引需給を各取引所に集中するという考え方が取られておったわけです。ただし、重複上場銘柄を別の取引所に発注することは構わないということになっていて、立てつけがそうなっていて、現実的には東京・大阪の二大取引所に売買が集中することが起きていたわけです。このとき、取引所間の気配の統合が全く行われなかったというのが日本の制度の特徴でありまして、アメリカでは非常に早くから、全国市場制度、ナショナルマーケットシステムという考えが出て、各取引所間の気配を比較可能にし、よりよい気配が存在する場合は、そちらに注文を回送しなければいけないという考え方が、取引所集中原則のもとでも取られていたのですけれども、日本はそれがなかった。それが1つ日本の特徴であって、現在に至るまで、いろいろな取引の場の間の気配の違いを比較して、よりよい手配を示す場に注文を出さないと、最良執行原則に反するとか、あるいは、証券会社の受託者責任上問題ではないかという考え方は取られていないということはご指摘しておきたいと思います。

それはともかくとしまして、金融ビッグバンに伴いまして、取引所市場だけでは満たすことができない多様な取引ニーズがあるであろう、先ほどご紹介いただいたようなさまざまな売買ニーズに対応すべきだということで、制度改革が行われたわけです。PTSも解禁されましたし、証券会社がPTSという形は取らずに独自に、例えば、売り注文に対して買い向かうとか、買い注文に対して売り向かうとか、あるいは特殊な注文様式に対応することも認められるようになったわけであります。

また、取引所自身も立ち合い取引、通常の取引のやり方だけでは満たされないニーズがあるということを認識されて、立会外取引システムを提供するようになったわけであります。

この取引所外取引をめぐる制度についてですが、コンピュータ・ネットワークを使って取引所外取引を行うPTSは、コンピューターのネットワークを使うので、たくさんの注文を集めやすいとおそらく考えられたからでありましょうが、その他のコンピュータ・ネットワークを使わない取引の方法に比べて、若干厳しい規制と言いますか、詳細な規制を受けることになりまして、例えば、最初は価格形成の方法が著しく制約を受けることがあったわけであります。現在は、その価格形成の方法については規制のやり方が柔軟になっておりますが、先ほどご説明いただいたとおり、取引所に準ずるような機能を果たすということで、取引シェアが大きくなった場合には、取引所への転換が必要という制度は、現在も続いているわけであります。

ちなみに、取引の多いPTS、アメリカではこれをATSと呼んでおり、取引シェアが高まってきたら、公益的な色彩も強いので取引所の免許をしっかりと受けてくださいという制度についてですが、この制度自体は極めて論理的にもっともな、合理的な制度だと私は思うのですけれども、現実の対応では若干問題があることをここで指摘させていただきたいと思います。

と申しますのは、日本の取引所の場合は、各取引所が自取引所市場に上場している株式のみを取引することが原則になっておりまして、かつこの上場は、各企業からの申請に対して審査を行って上場をすることになっております。そのため、例えば、どこかのPTSが、取引シェアが大きくなったので取引所の免許を受けるということになって、取引所になったら、だれも上場申請してこないと、今までPTSであれば自由に取引ができた上場株式を、全然取り扱えないことになってしまうのです。そうすると、これは取引所にかわるのはあまり得策ではないということになってしまうわけです。これは、アメリカではそういうふうになっておりませんで、例えば、先ほどご紹介いただいたアメリカの取引シェアがいろいろありますよというお話で、事務局資料の5ページですけれども、BATS BYX、BATS BZX、EDGXという不思議な名前の取引所が並んでおります。例えば、これらの取引所は、いずれもBATSダイレクトエッジという名の取引所。これは、傘下に治めている取引所全体の取引シェアですと、ニューヨーク証券取引所グループに次ぐ、アメリカで第2位のシェアを持つ取引所になると思うのですが、ここなどは、かつてはATSだったわけです。それが、取引所登録を受けて、取引所に変わっている。なぜ、彼らがATSから取引所に、ある意味、気楽に変わったのかと思いますと、これはアメリカには取引所であれば、他の取引所に上場している株式を自由に取引していいという、非上場取引特権、Unlisted Trading Privilegeという制度がございまして、別にだれも上場申請してこなくても、ニューヨーク証券取引所あるいはNASDAQ証券取引所に上場している会社の株を自由に取引できる。これが非常に大きな、日本の制度との違いになっていることを申し上げておきたいと思います。

続きまして、2ページです。これは、株式PTSの現状で、事務局の資料にもあったものを、PTSに焦点を当てて拡大したような図でございます。見ていただきますとおわかりいただけますとおり、2010年ごろから株式PTSの取引シェアがかなり上昇いたしまして、取引高も増えまして、一時6%を超えるところまでいきまして、現在、大体4%~5%の間ぐらいを推移している状態になっております。こういう経緯をたどった背景でありますけれども、3ページにいっていただきまして、幾つか要素があったかなと思っております。

まず、なぜ2010年から取引シェアが大きくなったのか。これは、2つ要素があると思っておりまして、1つはJSCCですね。日本取引所グループの清算機関がそれまではPTSの取引は対応していなかったのですが、取引清算を開始したということでございます。これは、PTSを利用する、取引を利用する投資家にとって1つ大きな問題でございまして、このJSCCによる清算が始まる前は、投資家としてはPTS運営会社が倒産した場合には、自分の注文が適切に処理されないというリスクがあることを非常に強く意識しなければならなかったわけですが、清算でこのJSCCが間に入ってくれることになりますと、カウンターパーティーリスクは、取引所取引と同じレベルになるということで、安心して利用できるということで、機関投資家による積極的な利用が広がった。

それから、もう一つは、2010年の7月に、チャイエックス・ジャパンという新しいPTSが開設されました。チャイエックスというのは、資本関係はいろいろあるのですけれども、例えば、ヨーロッパで今最大の株式の取引システムになっておりまして、ロンドン証券取引所よりも出来高が大きいものが、BATSチャイエックス・ヨーロッパという名前のものであります。これは、資本関係は現在、チャイエックス・ジャパン社とは確か全くないと思いますけれども、この「チャイエックス」という名前は、海外の機関投資家にとっては非常になじみがある名前で、このチャイエックスという名前を冠したPTSができたということで、「では、利用しようかな」という投資家が出て来たことがあって、2010年以降、シェアが上がり始めたことが言えようかと思います。

それから、もう一つは、PTSは、さまざまな取引所取引にはない取引の工夫をしておりましたが、それに対する理解が広がったこともあるかなと思っております。

例えば、その取引所の取引では、最も刻みの細かい呼び値の単位が1円と、一律に決まっておったのですけれども、そのときに1円未満10銭という呼び値を採用するということで、例えば、取引所では100円ちょうどでしか売れない株が、100円20銭で売れますとか、101円でしか買えない株が、100円80銭で買えますとか、そういうことを訴えることで、PTSで取引をすると取引所の取引よりも約定価格が売り手、買い手双方にとって有利になるという認識を広めることで、取引シェアが拡大したこともあったかと思います。

ただ、この点については、あまり大げさに取り上げることもどうかなと思っておりまして、このPTSの呼び値の刻みがかなり評判だということを意識されたのだと思いますけれども、東京証券取引所も2014年7月から同じような仕組みを採用しております。おそらく、それが先ほどのページでいきますと、2014年ぐらいに6.数%まで上がっていたPTSの取引シェアが、4%から5%ぐらいに下がった1つの要因なのだろうと思っておりますが、ただ、4%から5%に下がって、もっともっと2%に下がるということではなかったわけでありまして、おそらく呼び値の刻みの違いだけがPTSを利用する理由であったわけではないということが、ここから伺えるかなと思っております。

それから、もう一つ、PTSが利用されるようになった背景として、機関投資家の最良執行に対する意識の高まりを指摘できようかと思います。日本では、先ほど少し申しましたが、昔から気配を比較して、一番有利な気配のあるところへ注文を出さなければいけないという考え方は非常に弱いのですね。ただ、ほんとうにそれでいいのかというのは、法制度上は別にそれでいいとしても、機関投資家の資金の出し手に対する受託者責任という観点から、よりよい注文執行機会があるときに、それを無視して不利な値段で約定していいのかという問題がありまして、それが機関投資家の間に浸透していくと、仮にPTSによりよい気配があるのであれば、東証市場とPTSと両方を比較して、PTSに注文を出さなければいけないというタイミングがあるのではないかという認識が広まってまいりました。そこで、ではPTSも利用することにしようかなという話が多分浸透したのだと思います。

このとき、もう一つ、制度変化がPTSの普及を後押しいたしまして、それは2012年10月でございますが、それまではPTSで発行済み株式数の5%を超えることになるような買い付けを行いますと、これは取引所外における買い付けで5%を超えることになるので、TOBをかけなければいけない取引に該当するのではないかという疑義があったのです。この点について、そのようなことは必要ないということが、この2012年10月に明確にされましたことも、機関投資家の間で安心してPTSを使っていいのだという意識を広めたということが言えようかと思います。

このようにPTSは、とりわけ機関投資家の間で利用が定着してきたと言えるのですが、他方でこれも事務局資料でお示しいただきました、3ページをごらんいただければと思います。それ以前から、営業していたPTSが営業を取りやめるということも起きております。これについて、大体会社名を見ていただきますとイメージできると思うのですが、撤退したPTSは、多くはインターネット証券会社、個人投資家相手にインターネットを通じた売買注文を集める証券会社が、自社の顧客である個人投資家向けのサービスとしてやっておられたものがありまして、機関投資家による利用が広がらなかったことが、ビジネスとしての広がりを欠いて撤退する要因になったのかなと思っております。

現在、PTSとしてはチャイエックス・ジャパン、SBIジャパンネクスト証券という2社が営業しておられるわけですが、これらの1つの特徴としては、いずれも取引参加者が、金融商品取引業者に限定されている。取引所に限りなく類似していると言えるような状態の会社であるということを申し上げておきたいと思います。

続きまして4ページですが、先ほど事務局からもご説明のあったダークプールについて、若干私見を申し上げたいと思います。

このダークプールという言葉は、アメリカで始まったのですけれども、日本でも使われておりまして、先ほどご紹介いただいたように、気配を公表していないシステム的に注文を集めるような仕組みだということで大体いいのかなと思うのですが、アメリカでは、ダークプールをもっと規制しなければいけないのではないか、あるいはあまりこの利用が広がることは好ましくないのではないかという議論がございます。

1つの理由は、私は名称がいかんのだと思っておりまして、つまり、「ダークプール」という、いかにも後ろ暗そうな、いかがわしいイメージをかもし出す。これは、金融ビジネスに携わる人の中には、若干偽悪的というか、露悪的な傾向がいつもありまして、ふざけた名前をつけることはときどきあるのですね。それが、金融ビジネスの外の人から大変なひんしゅくを買うことが折々あるのですけれども、このダークプールというのもその1つの例なのかなと思っているのです。必ずしもそんなに後ろ暗いものばかりではなくて、そういうものもあるかもしれませんけれども、そういうものではないのですけれども、ダークプールという名称が定着しておりますので、日本でも似たような機能を提供するものをダークプールと一般に呼んでいるわけです。

ただ、アメリカと日本のダークプールには大きな違いがありまして、アメリカでいろいろなダークプール規制論が今出ているからといって、ただちに日本でもこれを問題視しないといけないのではないかと、一足飛びに話を進めるのは危険かなと思っております。

まず1つは、ダークプールの取引シェアがまだ日本では非常に低いということです。これは、正確なデータはございませんが、現在、このダークプールで対当させられた注文は、東証の立会外取引システム、ToSTNeTの単一銘柄取引として約定される形を取っております。その数量、どのぐらいあるかというのは正確な統計はございませんが、ToSTNeT単一銘柄取引というのが、この2010年の監督指針改正でダークプールに利用されるようになる前は、大体取引全体の東証一部銘柄について3%ぐらいだった。それが今8%ぐらいになっていることからしますと、その差の5%ぐらいがダークプールの売買約定なのかなと思われるわけでありまして、そうしますと、いずれにしても全体の5%程度、それより大きいものではないとしますと、アメリカみたいにそれがもっと大きなものになって、全体に影響を及ぼしているのではないかと考え過ぎる必要はないのかなと思っております。

アメリカのダークプールについてですが、今申しましたように、取引シェアが非常に上昇しているので、今まではダーク、気配公表義務がないということでやってきたのですけれども、気配公表を義務づけたほうがいいのではないかという議論がまず出ております。

それから、今、ダークプールに対して、SECが取り締まり行動と言いますか、証券法違反を指摘する事例が幾つか出ておるのですが、これらはいずれもダークプールの本質的問題というよりは、ダークプール運営者による一種の詐欺的な行動が問題になったケースでありまして、典型的なのは、例えば、ダークプールというのは、先ほど事務局のご説明にもありましたように、機関投資家がマーケットインパクトを避けながら大口注文を処理するという取引ニーズに応えているはずなのです。そうすると、機関投資家側のニーズとしては、前回議論したものですが、HFTの注文がばらばら入ってきて、自分の注文と対当するようなことがないようにしてほしいというニーズがあったりするのですが、そこで、運営している会社が「弊社のダークプールではHFTの取引は扱っておりません」という説明を機関投資家にして、「ぜひ安心して使ってください」と。ところが、実際にはHFTの業者から大量の注文を受け付けていた。これなどは、完全な詐欺に等しいものでございまして、そのような事案が問題視されているのであって、これは日本とはかなり状況が違うということでございます。

それから、そのダークプールがなぜアメリカで利用が広がっているかということですが、今申し上げたような、HFTの取引による影響を受けることを避けたいと考える一部機関投資家の取引ニーズがあるというのが大きな理由でございます。これはもちろん、いろいろな考えがあります。前回も議論になりましたけれども、HFTは流動性を供給するから、それはHFTが市場で活動するのは非常にいいことだという考えもあれば、それが何か悪影響を及ぼす可能性があるから、できればそういう人たちを避けたいという人もいる。その避けたいと思う人の取引ニーズに応えるものとして、ダークプールが伸びているということは、見落としてはいけないのだろうと思っております。

例えば、マイケル・ルイスというアメリカの作家の『フラッシュ・ボーイズ』という本がアメリカで大変評判を呼びまして、日本でも翻訳が出ました。これは、一種、HFTを悪玉視した本でございますけれども、その見解が正しいかどうか、一般に支持されているかどうかは別として、そこで善玉として登場するのが、ブラッド・カツヤマさんというカナダのトレーダー出身の人で、この方がIEXという機関投資家のための取引所をつくって、これは、法律上は取引所ではないのですが、取引所とうたったものをつくったのですが、これなどはまさにHFTが取引に参加しにくい仕組みを取っていて、これは規制上ダークプールと位置づけられておるわけであります。だから、ダークプール悪玉論みたいなことをして、全部一律に取り締まろうというと、大分違った結果になるのかなと思っております。

少し余計なことも申し上げましたが、5ページにいっていただきまして、最後に、現在のこの取引所外取引の現状を踏まえた、市場間競争の意義と今後の課題について、私見を申し上げたいと思います。

まず、そもそも論でございますが、市場間競争、同じ銘柄の注文執行をめぐって異なる市場、あるいは取引システムが競合することの意義は、私は非常に大きいのではないかと思っております。これは、イノベーションを促すと言っていいのだろうと思います。

例えば、先ほど申し上げましたが、東京証券取引所が呼び値の刻みを見直して、これは投資家にとっても非常に大きなメリットをもたらしたと私は思っておるのです。何しろ昔は株価が100円の場合でも、1円刻みでしか呼び値が出せなかったものですから、1つ値段が動くと1%価格が変動するという、すごい状態だったわけです。これが円未満でも取引できるようになった。これは非常にいいことだと思うのですが、東証さんはそんなことはないよとおっしゃるかもしれませんけれども、PTSがそういうことを始めなかったら、果たして自主的におやりになったのだろうかということも思うわけで、いい意味でPTSに刺激をされて取引所の改革も行われるということだったのだろうと私は思っております。

また、もっと一般論として、競争というのが、取引所のあり方によい影響を与えるということは、多くの人が考えていることでございます。例えば、東証、大証の経営統合のとき、公正取引委員会が競争法の観点から審査をされたわけです。このときも株式の売買関連業務においては、東証と大証が一緒になってしまいますと、ほぼ100%に近いシェアを持つことになるわけだけれども、それが競争を実質的に制限することにならないのかということを非常に慎重に審査されておりまして、今後もPTSあるいはダークプール、その他さまざまな取引所外取引との競争関係が維持されることが大事なのではないかなと思っております。

もっともここで注意がいるのは、これが別に東証の取引シェアが下がることが望ましいということを申し上げているわけではございませんで、あくまでも競争があるということ、あるいは競争が一瞬、例えば、両者が撤退してしまった結果、なくなったとしても、新たな参入によって再び競争が活発化することが可能性として十分にあるということが大事なのだということは申し上げておきたいと思います。その点では少し気になりますのは、何度か申し上げましたが、現在、よりよい気配が、例えば、日本の場合、PTSに存在しても、それを無視して東証の市場で取引をすることは全く問題がないという制度になっているわけですけれども、これをどう考えたらいいのかというのは、1つ論点としてはあるのだろうと思っております。アメリカであれだけ市場の分散化が進んでいるのに、なぜ日本ではPTSの取引シェアが5%ぐらいにとどまるのかという1つの理由はこれでございまして、つまり、PTSにどんなに有利な注文があっても、無視していいわけですね。実はこれはPTSだけではなくて、例えば、名古屋証券取引所に非常に有利な注文があったとしても、みんな無視して東京証券取引所で取引をしているという実態があるわけで、これは最良執行の確保という観点から、若干問題がある。ただ、私は何も直ちにそういうことを法的な義務にすべきだということを言っているのではないのですが、それを意識しておいていい問題だと思っております。

それから、もう一つは、システムトラブルに対処するという観点からも、競争環境を維持することは大事かなと思っております。去年、ニューヨーク証券取引所の取引システムが半日、完全にストップするという大事件があったのでございますが、率直に申し上げて、アメリカの株式市場はほとんどその日影響を受けることはございませんでした。日本で仮に東京証券取引所の売買システムが半日止まりますと、大変なことになります。これは申しわけないのですけれども、全銘柄ではなかったのでその影響はある程度限定されたのですが、実際に一度ございました。かなりの数の銘柄について、たしか半日近く取引ができなくなったことはあったと思うのです。

このようなときに、ニューヨークでなぜ問題にならなかったのかと申しますと、結局、代替的な取引システムと申しますか、他の取引所あるいはダークプール、あるいはATS、ATSはダークプールも含みますが、ほかのところへ注文を出せば、それで問題は片付いたので、ニューヨークが止まっていても、そんなに深刻な問題ではなかった。ニューヨーク証券取引所にとっては収入が全くなくなってしまいますし、レピュテーションが損なわれますので深刻な問題だったわけですが、全体としては、市場はきちんと継続した。これは分散的なシステムのほうが、集中型のシステムよりも実はいろいろな変動に対して強いのだということを示している1つのいい例ではないかと思っておりまして、日本もできれば政策的に、分散的なシステムを、全体として維持していくという考え方を取ったほうがいいのではないのかなと思っております。

そういう観点からも、PTSが今、5%程度のシェアでありますけれども、これがどんどん衰退していくことはあまりあってほしくないなと思っているのです。衰退しそうだと言っているわけではないですが、衰退していくようなことがあってはいけないなと申し上げているわけです。そのときに、例えば、今、信用取引が、PTSではできないということについて、どう考えるのか。これは競争促進という観点からは、もしかすると認めたほうがいいのではないかと思ったりもするわけです。

あるいは、さっきの取引所化を義務づけるのはいいとして、その取引所になったときには、自分のところに上場申請をしてきた銘柄しか扱えないという状態をずっと続けていていいのか。これも取引所になることが実質的に無理だということになりますと、取引所にならないように、意図的に取引シェアを小さく抑えることもやりかねないわけでありまして、これは結局、競争上、取引所が一方的に有利になることになりかねないわけであります。

特にこの信用取引の問題は、結局、今、個人投資家の株式の売買というのは、いいか悪いかは別として、7割、8割が信用取引でありまして、信用取引が使えないということは、イコール個人投資家が取引に参加をしないことになっております。実際、インターネット証券会社は、PTSに注文回送をほとんど行っておりません。行ってはいけないという理由は全然ないのです。これは、PTSの取引全体を不安定にするという問題もございます。つまり、機関投資家だけが参加している市場よりは、機関投資家も個人投資家も参加しているほうが、よりいい価格形成、安定的な取引になるのではないかという観点がございます。

それから、もう一つは、先ほどの最良執行です。つまり、日本では、よりよい気配があっても、それを無視して東証市場で取引してもいいという制度になってしまっています。ただ、そのときに、例えば、証券会社が自分の判断で、自社の顧客のためにPTSによりよい気配があったからそっちへ回送しますというサービスを提供しても、ほんとうは問題ないはずなのですが、現状では、それが信用取引注文であっては、PTSには回送できないことになっておりまして、そうすると信用取引を行う個人にとっては、最良執行が確保されないという問題が出ているとも言えるわけで、この点は、幾つかある問題ですぐに改善できるものとしては、この信用取引の問題はあるのではないかと思っている次第です。

ちなみに、先ほど事務局からお話がありました信用取引には、しかし、自主規制という観点も大事だよねと。これは私も全く賛成でございまして、そのとおりだと思いますが、これは正直言いまして、今、東京証券取引所でしっかり管理をしておられますので、PTS運営者さんが東京証券取引所にその管理を委託すると言いますか、東京証券取引所側で例えば、委託保証金率の引き上げが行われた場合は、直ちに対応するようなやり方をすれば、十分可能なものだろうと思います。仮にそれが制度的に担保されていないということであれば、PTS業者は日本証券業協会の会員であるわけですから、日本証券業協会でそのようにすべきという規則をつくっていただくというやり方があるのではないかと思っております。

私からは以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、事務局からのご説明と、今の大崎委員からのご説明を踏まえて、論点等も挙げていただいておりますけれども、皆様方からご質問、ご意見をお出しいただきたいと思います。どなたからでも、どの点についてでも結構です。いかがでしょうか。

では、有田委員、どうぞ。

【有田委員】

ブラックロックの有田でございます。ただいまの大崎委員のプレゼンテーションとほぼ重複する内容かとは存じますけれども、私の立場が大手の機関投資家であるということでもございますので、その立場から改めて2点申し上げたいと思います。

まず、1点目は、より実効的な市場間競争が継続的に促進されることが、これは当然、今までも重要でありましたけれども、それは今後も変わらないと思っているということでございます。

また、2点目は、それにもかかわらず、実効性を伴う競争が実現しているとは言い難くて、これの導入は必ずしも容易ではないと思います。

したがいまして、ここで議論されておりますPTSあるいはダークプールの活性化が、今後一層望まれる。この2点について、主張いたしますし、それについて簡単にご説明させていただきます。

まず1点目ですが、市場間競争につきましては、社会的な意義がありまして、今後も継続されるべきであるということは明らかであります。この事務局資料でも記載されておりますとおり、17ページでございますけれども、「市場が相互に競争し合うことにより、全体として市場システムの効率化・機能強化が図られることが期待される」ということでございますし、「また、市場間競争を促進するためには、有効な対抗勢力が存在したほうが、東証自身も効率経営に向けた不断のインセンティブが働き、ガバナンス上有効である」ということについては、現時点においても全く当てはまる、それを期待しているということでございます。

私たちは、自由な競争と言いますか、適切な競争によって、よりよいサービスが、より安いコストで投資家に提供されるという原則を信じているわけでございまして、そういった競争の中からイノベーションが生まれ、これが促進されることによって、投資家、またひいては発行体企業にとっても使い勝手のよい市場が形成されるという意味で、市場間競争は有意義であると考えております。その一例が、先ほど大崎委員からご説明がございました、PTSが先行して実施し、東証が追随するという形になりました刻み値縮小のケースになろうかと思います。

また、他方、市場間の形成相互バックアップ機能が働くことも、社会あるいは取引システム全体の安定性のためには重要なことでございまして、複数の市場が同時に存在することは、大きな意義があると考えております。海外に目を向けますと、やや市場が乱立しておりまして、その競争についてはやや過剰という印象は否めませんが、一方で、私ども日本における市場につきましては、事実上東証一極集中といった状況になっておりまして、これは、これまで述べてきたような市場間競争あるいは複数市場の利点を享受する機会を、もしかしたら投資家が逸している可能性があるのではないか。逸していると申し上げているわけではないのですが、その可能性があるのではないかという意味において、一抹の不安を感じさせるものがあるということでございます。

ただ、これは先ほどの大崎委員のご主張にもありましたけれども、一極集中では取引所による自律的な改善、努力が全く働かないと危惧しているわけではございませんで、むしろここ数年における取引所による自律的な改善と、PTS等外部との競争が相まって進展してきた結果でありまして、その過程は十分評価に値するものと考えております。ただ、それでもなお、今申し上げた理由で、さらなる市場間競争の促進が依然必要であるという考え方を取っております。

その1つの具体的施策として、この論点にもございますが、PTSに信用取引を解禁するということでございます。これには一定の効果があると考えております。大崎委員のご説明にもありましたが、現状、個人投資家のシェアはおおむね20%と推測されております。これらの売買のうち、今70%というお話がございましたが、少なくとも半数以上を占めております信用取引がPTSで取引可能になりますと、仮説ではありますけれども、PTSの市場のシェアが15%以上になる可能性も高くございまして、そうなりますと、東証一極に対する十分な対抗勢力として存在感を発揮できるのではないかと考えております。

事務局からご提示いただいております自主規制機能の観点や、また、利益相反への懸念といった問題点は多少あるものの、現状、個人投資家を顧客として抱えておりますPTSは存在しておりませんし、また、それが存在したとしても、取引所や日証協による自主規制機能活用の可能性等を踏まえますと、これらの懸念は、効果に対しますと限定的でありまして、むしろPTSという仕組みそのものを活性化することによる市場間競争促進といったメリットを享受できる可能性、その効果のほうが高いと考えております。

さて、話題は少し変わりますが、私どもの経験におきましては、今、最後の部分で大崎委員のお話もありましたけれども、東証のシステムが停止したときに、他の市場がバックアップ機能を我が国で果たしているかと言いますと、実際には全くそうではなかったという実感でございます。すなわち、複数市場に期待されております市場の安定性の寄与という点では、必ずしもこれは現実にはそうなっていないという懸念を持っているわけでございます。

そこで2点目として、実効性を伴う複数市場、市場間競争の導入は、必ずしも容易ではないということでございます。例えば、最近の国内市場の動きを見ますと、競争による切磋琢磨というよりは、東証・大証の経営統合に見られますように、市場統合の方向に動いているわけでございまして、実際には規模拡大による効率経営といった観点から、取引所ビジネスが寡占化する方向にあります。これは日本に限らず、海外でもそういった現象が見られるわけでございますけれども、特に我が国の株式市場におきましては、海外とは異なりまして、売買を行うための場の提供に関して、新規参入は見られたものの、その後、実は多くは撤退を余儀なくされているという現状でございます。新規参入した市場運営者に、投資家ニーズに合致した独創的な売買執行サービスを提供していただくためにも、継続的な競争環境の維持に向けた取組が、今後重要になってくると思っておりまして、それが1つは、信用取引の問題でありますし、また、いいプライスに対する回送の仕組みになろうかと思っております。

その意味では、ダークプールは我々のような機関投資家における大口注文を匿名で執行したいというニーズに合致したサービスでございまして、海外も含めて市場全体の流動性向上に貢献しているものと考えております。情報技術の進展とも合わせまして、このような投資家ニーズに合致したサービスの提供という観点では、ダークプールは、私どもにとりましては非常に重要な取引手法ということが言えるかと思います。

最後になりますが、中長期的な投資家の立場から、取引所、PTS、ダークプール、それぞれがより自発的に、独創的なアイデアを活かして競争できるような環境を整えることで、多様な市場参加者が利益を享受できるようなサービスが提供されることを期待しております。

また、そうした潜在的なニーズやサービス、開発の余地は、今でも十分にあると私どもは考えております。以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。

黒沼委員、どうぞ。

【黒沼委員】

PTSとダークプールについて、それぞれ私個人の考えを述べさせていただきたいと思います。

日本では、金商法改正の各段階で、市場間競争が非常に強調されてきました。そのときに念頭においていたのは、新興企業向け新市場間の競争であったと思います。そこでは、十分な市場機能を備えた取引所が、上場会社の獲得とか、あるいは自主規制の改善という側面で競争することが念頭に置かれていたと思います。

しかし、実際にはそういう市場間競争はうまくいかなかったというのが、これまでの日本の歴史ではないかと感じております。その当時から、立会外取引とか、PTSの議論も出ていましたけれども、そちらは今言ったような市場間競争という名前でくくられていたのではなくて、むしろ、投資家にとっての利便性の向上が強調されていたのではないかと思います。つまり、同じ銘柄を取引する場が多数あって、どういう注文に対応できる場が必要かという側面で議論されていたと思います。

今回、市場間競争という言葉だけでPTSとかダークプールの問題を議論するのは、やや大ざっぱではないかと私は感じています。つまり、かつての市場間競争の議論とは、かなり側面が違うと思うからです。PTSにしても、当時は、市場が開いていないときに取引をしたいという投資家のニーズに対応するために、例えば、夜間取引をしたり、そういう側面が強調されていたわけであります。今回、PTSやダークプールの問題を市場間競争として議論するならば、まず、市場機能としてどの程度のものが求められているのか。どの程度の市場機能を有する市場の競争をさせるべきかどうかという、その点を議論するのが最初ではないかと思います。つまり、高度な価格形成機能を備えた市場の競争が必要なのか。あるいは、そうではなくても、なお市場間の競争が必要だというのであれば、それは市場間競争という言葉でくくってもいいと思います。

現在、PTSも高度の価格形成機能を備えるオークション方式も認められていますけれども、現実にはオークション方式は取られておらず、価格形成機能は市場に比べれば低いと思います。そういう場で取引をしたい人は、利便性を求めているわけでして、それを市場と同じ価格形成機能を持たせた上で競争させろというのであれば意味があると思いますけれども、現状のままでイコールフッティングという名のもとで競争条件をそろえるというのは、私は議論としてはあまり意義がないのではないかと思っております。

ですから、PTSについて議論するならば、繰り返しになりますけれども、まず、高度の価格形成機能を求めるのかどうかということを考え、高度の価格形成機能を求めた上で市場間競争を認めるのであれば、信用取引というのは仮需給を市場に反映させて、価格形成機能を高めるという手法の1つですから、信用取引を認めるのも1つの方法だと思われますし、その際に信用取引を認めるために必要な制度整備は何かという観点から議論をすべきではないかと考えております。

次に、ダークプールについては、今日事務局からご説明があったものと、私が理解しているものとが少し異なる部分があったので、質問になるかもしれませんけれども、事務局のご説明によると、「2の顧客の同数量の売り注文及び買い注文を同時に立会外市場に取り次ぐシステムが、ダークプールに相当するものだ」ということです。しかし、同数量の売り注文、買い注文が同時に入ってくるということは、普通は考えられないので、それを何らかの形でマッチングさせると言いますか、それを集計して、そういうやり方が証券会社の中で取られているのだと思うのですね。その取られている手法について、どのようなものがあるかとか、あるいは、そこで提示されている気配情報の開示も問題になると思うのですけれども、そのあたりの実態がどうもはっきりしないのであります。

それともう一つは、現在、機関投資家の利用が主たるものだと思いますけれども、一般投資家もこの取引に入ってきているとも聞いています。そのあたりの情報もよくわからないです。これは少しHFTの議論ともつながりある議論かなと思いますけれども、つまり、取引手法とか、売買を成立させる仕組みや、気配情報についての開示が十分でないという点では、ダークな部分は残っているわけでして、それを振興させよう、そこに一般投資家を呼び込んで、競争を成立させようというのであれば、一定の透明性の確保が必要になってくるのではないかと思います。もし、一般投資家が意に沿わない形でそこに参加するような形で市場間競争を促進するというのであれば、まさに本末転倒になるわけで、その点を注意して議論しなければならないと考えております。

以上です。

【神田座長】

ありがとうございました。若干質問に当たるかと思います。

【齋藤市場課長】

今、黒沼先生からご質問がございました点です。

まず、ダークプールに関して、私の説明がわかりにくかった点もあろうかと思いますが、要するに、ダークプールというものは、気配開示義務が課されていない、気配を開示していない取引の場のことをダークプールと一般的に呼んでいます。市場関係者もそのように認識しております。それは、欧米なり、日本ではいろいろな形態を取っていて、日本では一般的な通常のPTSに関しては気配義務が課されています。ただ、先ほど私が説明した資料1-1の16ページにありますように、投資家の2の注文が証券会社に寄せられて、それが立会外市場にクロス注文で出されているものはPTSに該当しないという整理をなされているので、反射的効果としてこれに関しては気配開示義務が課されていないものでありまして、クロスで出ているからダークプールだというか、そうではなくて、PTSに該当しないシステムを用いているものは、一般的に現状においてはこれがダークプールと呼ばれていると理解をいたしております。どのようなシステムで行われているのかとか、気配があるのかないのかといったことに関しては、直ちには現状ではお答えできませんけれども、考え方の整理としては、そういうふうになっているということでございます。

【大崎委員】

その点について少しよろしいですか。

【神田座長】

どうぞ。

【大崎委員】

今の黒沼先生のご指摘に関してですが、確かに2の顧客の同数量の売り注文、買い注文が同時に入ってくることはないであろう。それはご指摘のとおりで、ダークプールは必ずしも時間優先の原則を最大限保証する形を取っているものばかりではありませんので、その点については、ダークプールに発注する顧客も納得した上で、そういうものとして利用しているという理解です。したがって、確かに機関投資家がそういう問題点と取るかどうかはそもそも問題なのですが、時間優先が必ずしも重要であると思わない人もおりますので、そういう特性を理解して利用する分には全く問題がないけれども、例えば、個人投資家がその点がよくわからないで利用しているとすると問題だというご指摘については、私も同感です。

【長岡証券課長】

証券課長の長岡でございます。今触れられました、個人の投資家がどれだけこれを利用しているかということですが、ダークプールというのは包括的に情報を上げているわけではないので、ヒアリングベースの話ではあるのですけれども、金融庁として管理しております証券会社のうち、このダークプールを提供しているのは18社ほどあるということで、ヒアリングベースではそのうちの2社が個人を対象にもこのダークプールを運営しているということでございます。正確な数字等は今の時点ではわからないので申しわけないのですけれども、ただ、その個人に対する提供を行っているという場でも、個人がその中身をわからないまま、知らずにダークプールのほうに誘導されているということではないように、今のところヒアリングの内容としては認識しております。まだ引き続きいろいろと聞いていかなければいけないことだと思いますが、現時点ではそのような情報を持っております。

【齋藤市場課長】

済みません、ご質問では必ずしもなかったのですが、1点だけ。PTSと価格形成機能のところについて、黒沼先生からご指摘がございましたが、今日ご説明はしなかった参考資料としてお配りをしている資料の5ページ目をごらんいただければと思います。これは、平成15年12月に取りまとめられた金融審の第一部会の報告書における整理でございますが、このときにPTSに関して取引所と同じオークション方式による価格決定方法を認めるという考え方の整理がなされております。このときの整理からすると、これまでの平成15年以前の審議会における整理は、PTSにおける価格決定方式を一定の範囲に制限することをもってして、PTSには価格形成機能は基本的には持たせない。だから、自主規制機能は必要ないし、証券会社の一業務でいいという整理をなさっていたところ、ここのところでオークション方式を認めると。オークション方式を認めるということは、基本的に機能としては取引所と同じものを認める。ただ、3番目の丸にあるように、一定量の取引量を超えたところで取引所としての免許を要するということで、逆に言えば、一定の取引量以内であれば、機能として価格決定方式は取引所と同じであっても、高度な価格形成機能は持たせていないのだという考え方を整理した上で、もし一定の取引量を超えたらば、それは高度な価格形成機能を有する取引の場になるので、取引所の免許が必要だという整理をこのときにしているということでございます。ですので、今回の議論も、PTSに認めるということは、高度な価格形成機能までは求めない範囲でどうだろうかという議論をお願いするのかなと思っていたところでございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、札を立てていただいた順で、永沢委員、福田委員、池尾委員の順で、まず、永沢委員、お願いします。

【永沢委員】

ありがとうございます。私はダークプールとかPTSについてこのワーキング・グループで初めて知ったわけで、意見を述べる立場ではないと思いもしたのですが、委員として呼ばれている以上、何も意見を言わないわけにもいかないと思いますので、事務局からの説明をお聞きし感じたことを申し述べさせていただきたいと思います。

まず、第1点ですが、黒沼先生が先ほどおっしゃったお話と重なるのですけれども、事務局からのお話を伺いながら、市場間競争そのものに何か目的と言いますか、価値があるかのように聞こえました。市場間競争を導入して、その目指すところは一体何だったのか、何を生み出すために競争をさせているのかという点について再確認する必要があるのではないかと感じました。もちろん、重要な価値としては、大崎委員や有田委員がご指摘になりましたような、取引所に万が一のことがあったときのバックアップとして、そういったものが必要である、備えておかなくてはいけないという公共的な価値があるとは思います。

また、黒沼先生からご指摘があったように、投資家にとっての利便性の向上が、目指すべき価値だったのだろうとも思いますが、実際のところ、市場間競争を導入してきてどうだったのかという点について、もう少し確認する作業があったほうがよかったのではないかと感じております。

一番大事な価値、目的としては、公正な価格形成が一番重要視されるべきだと思うのですが、ここの部分に一抹の不安を感じざるを得ないと、特に根拠があるわけではないのですが、皆様からのお話をお聞きして感じました。

2つ目ですが、市場間競争の可能性が担保されることが重要だと何人かの委員の方が発言されましたが、PTSについて、資料の3ページですけれども、参入して撤退した企業も多かったとのことです。撤退するのは儲からなかったからだろうと思うのですが、表面的な理解を申しますが、市場間競争を担保するために儲かるようにしてあげるということなのでしょうか。儲かるようにしてあげるために、信用取引を解禁するという提案のように聞こえなくもないと思いました。

それから、「イコールフッティング」という表現はかなり違和感がございます。参入規制などとあわせて、いろいろ比較して見ていくと、「イコールフッティング」という言葉は適切な表現ではないように思います。私には一種、アファーマティブ・アクションのように見えるということは申し上げておきたいと思います。そこまでして市場間競争を担保する必要がある理由をもっと再確認すべきなのではないかと感じました。

第3点目として、PTSやダークプールというものに関しまして、利用する個人投資家が存在しているということが、先ほどダークプールに関しても2社あるというご説明がありましたし、PTSもそうのようです。個人投資家にとっても、取引時間が長いとかその他メリットもあると思いますけれども、これを利用するリスクと言っていいのかわかりませんが、デメリットと言いますか、何かそういうものがあるのではないかと思うのです。そうした情報が個人投資家に開示された上で、投資家がみずから選択してそれを利用しているのかどうかというところが重要で、私は自分で理解して個人投資家が利用するなら、それはそれでいいのではないかという立場でございますけれども、投資家がリスクやデメリットを認識して選択できるだけの情報開示が必要ではないかということを感じております。確認しているわけではありませんが、ある会社の取引サイトのデフォルトがダークプールになっているという話を小耳に挟みましたので、それは問題ではないかと感じました。投資家自身が認識してダークプールを利用しているということが必要で、取引所かダークプールかを自分で選択できることが必要なのではないかと思います。

最後にPTSの信用取引を認めるかどうかという点ですが、抽象的な議論をしても仕方がないように思います。自主規制につきましては、先ほど大崎委員から日本証券業協会の中に入れて対応してはどうかというご提案がなされたわけですが、私はほかに具体的な提案も出てきていないようなので、例えば、こういう具体的な提案についてここで議論したほうが生産的ではないかと感じております。

それから、利益相反につきましては、どこの会社の話かがすぐにわかってしまいますので申し上げにくいのですが、会社としては別かもしれないけれども、資本関係はどうなのかが気になりました。PTSをやっている会社とオンライン証券とは、同じ名前がついている会社ですから、資本関係があるのではないかと思ったりもします。そういう場合に利益相反はないと言い切っていいのかどうか、気になるところです。

ダークプールに関しましては、私自身、昔、サンフランシスコに拠点がある運用会社におりまして、多分、今思えばあれがダークプールと言われるものだったのだろうと思うわけですが、機関投資家にとって、マーケットインパクトを減らして執行コストを下げ、クライアントに還元するということは非常に重要なことでございまして、そういう必要からダークプールは生まれたのだろうと思っております。ダークプールについては問題もあるように思っておりますが、大崎さんのご指摘はもっともで、適切な日本語の名前をまずつけることが大事なのではないかと感じております。

以上です。ありがとうございました。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、福田先生、どうぞ。

【福田委員】

ありがとうございます。私も必ずしもこの分野は明るいわけではないのですけれども、まず、競争は非常に大事だということは、経済学の基本的な考え方で、競争は効率性を高めるということは基本的な考え方だとは思います。ただ、ここで言われているのは、取引所とPTSとの競争が望ましいのかという議論にすりかわっている面がないわけではなくて、取引所とPTSの競争が望ましいのかという、少し違う次元の話が起こっているのかなということだと思います。

まず、経済学で一番望ましい競争と考えられているのは、完全競争と言われている競争で、これは全く同じサービス・財を提供する会社間の競争であります。それに対して、現在の競争と言っている概念は、基本的には違うサービスを提供している会社間の競争という概念に変わっているということだとは思います。

では、取引所を2つつくって、それぞれ競争するのは効率的なのかという問題も他方ではあり得るとは思いますけれども、必ずしもそういう競争がうまくいかないことも一方では知られています。そういうものを設立するための固定費用が非常に大きい場合、そういう競争は仮に2つの同じ財をつくることが、同じサービスを提供する会社間を競争させる望ましい状況でも、そういう会社を運営するための固定費用と言いますか、そういうものが非常に大きい場合、競争すると、経済学で言えば「自然独占」と言われている概念ですけれども、一方が他方をドミネートして、必ずしも望ましい競争環境がつくられない可能性もあるということだとは思います。

したがって、なぜ2つの市場取引間、全く同じサービスをする2つの取引所間の競争ではなくて、取引所とPTSという競争でなければいけないのかという概念は、少し必要なのかなという感じはあるとは思います。

そういう観点から、しかしながら、取引所を2つつくって競争させるというよりは、なかなか難しい。取引所は1個で、違うサービスを提供する会社であるけれども、競争したほうがいいという、それは次善の考え方としては十分あり得る概念で、それはそれで非常に重要な考え方だとは思います。いろいろな委員の方からご提案された、競争条件をその際に確保することも、非常に大事だということは、言うまでもないことだと思います。もともと違うサービスを提供しているわけですので、なかなか競争条件のイコールフッティングという概念は、難しい問題は発生するわけで、同じサービスを提供しているのであれば、まさにいろいろな意味でのイコールフッティングという概念は非常にしっくりいくわけですけれども、もともと違うサービスを提供している、類似ではあるかもしれないが、完全には同じではないサービスを提供している会社間のイコールフッティングという概念は、かなり難しいものがあって、先ほど個別に議論が出ているとすれば、信用取引は一方ではあるけれども、他方ではないではないか。ただし、一方では自主規制をきちんとやっているけれども、他方ではやっていないではないかというような、いろいろな問題が起こってくるというのは、そもそも、もともと必ずしも同じサービスを提供していない2社間の競争というところからもきているとは思いますので、そういう意味ではイコールフッティングの考え方は、通常よりはやや難しい議論はある。ただ、そういう中でもできるだけ競争条件を維持することによって、できるだけ競争のメリットをどうやったら活かせるのかという観点から、問題は考えられるとは思います。

競争のメリットという観点からしたときに、競争相手が、シェアをどれだけ取るのが望ましいのかというのは、自明なことではないとは思います。シェアが少ないから競争がうまく働いていないということは必ずしもないとは思います。潜在的に参入の可能性が常にあるような市場というのは、仮に現在の市場にある大きなシェアを持っている人がいたとしても、競争条件が不十分だということは、ここの市場が一般的にはどうこうというわけではないと思います。

他方で、例えば、システムトラブルのバックアップのような話になってくると、事情は大分違って、これは代替的なものがかなり大きなシェアを持っていないと、バックアップにはならないということにはなるとは思います。そういう意味では、どういう観点でこういう問題を考えるかということによっても、最適なシェアはどういうものなのかという観点は違ってくると思います。そこら辺も慎重に議論する必要はあるのかなと思います。

以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

池尾先生、どうぞ。

【池尾委員】

同業者なので、今の福田さんのご発言と重なるところがあるかと思いますが、福田さんがおっしゃったように、経済学者は競争は大切で競争は望ましいとよく言うわけですけれども、ただ、競争は望ましいと言うのですが、競争それ自体が尊いと考えているわけではなくて、競争することで望ましい帰結ないし結果が得られるからいいと言っているわけです。その意味では、永沢委員とか、黒沼委員がおっしゃっていたように、市場間競争それ自体が尊いというニュアンスで議論するのは少しまずくて、どういう帰結なり、どういう目的を追求しているのかというところを詰める必要があると思うのです。

それで、1つは、効率性という話になると思うのですが、効率性も、スタティックに、静態的に考えた効率性と、動態的、ダイナミックに考えた効率性があると思います。静態的に考えた効率性について言うと、取引所は装置産業化していますから、福田さんもおっしゃいましたけれども、むしろ規模の経済が働くような産業になっていますから、静態的な効率性だけを考えると、1つに統合したほうがいいのだという話になってもおかしくないと思うのです。ただ、ダイナミックな意味での効率性となると、結局イノベーションという話になりますが、イノベーションということを考えると、競争的要素がどこかに存在しないとだめなのではないかということになります。それで、大崎さんが非常に的確にまとめていただいて、最後のところ、大崎さんの資料の5ページのところで「意義と課題」ということで4つ項目を挙げられています。それに即して言うと、一番目のイノベーションの促進、動態的に考えた効率性を高めるのに足るだけの競争的要素が、今の日本の資本市場にあるのかないのかという判断で、逆に言うと、今はイノベーションが不足しているという認識なのか、そこそこ動態的に見ても効率的な状況にあると判断するのかによって、競争的要素をもっと入れるべきだという議論になるか、ならないかというのは違ってくると思うのです。だから、そういう意味でも、現状、どの程度、資本市場のパフォーマンスとして、イノベーションという面で評価できるのかということを議論する必要があると思います。

それから、これも福田さんが少し触れられましたけれども、大崎さんのポイントの2番目と3番目は少し違う話で、2番目はコンテスタビリティの話であって、結果としてのシェアで見ると、独占的な存在になっていても、だからと言って、超過利益を追求するようなことがあると、直ちに新規参入者があらわれるという意味でのコンテスタビリティと言っていますが、そういうことが確保されていればいいわけです。3番目の代替がきくというのは、これはむしろリダンダンシーを持つ必要があるとか、そういう話であって、市場間競争でバックアップを求めるという市場間競争は、意義としてここで持ってくるというのは、ほんとうに適切かなという疑問は正直言ってあります。

それから、最後の信用取引と自主規制という話ですけれども、取引所というのは自主規制機関でもあって、単に取引の場を提供しているだけではなくて、自主規制機能も提供している。だから、ほんとうに市場間競争を成り立たせようと思うと、自主規制機能をアンバンドリングすることを考える必要があるのではないかという問題意識はあり得て、要するに、自主規制機関を独立機関化して、PTSについても一定の売買審査のようなことを行う。我が国では、取引所がすべての自主規制業務をやっていますけれども、諸外国では売買審査等について、規制当局が行っていたり、独立した規制機関が行っているケースもあるわけです。そこで、完全なアンバンドリングまでいかなくても、大崎さんが提案された日証協にやってもらうか、日本取引所グループの自主規制機関にやっていただくか、日本取引所から自主規制機関を独立させてしまうかとか、そういう制度設計の可能性というか、幅はあるのではないかと思います。

以上です。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

それでは、神作委員、土本さんの順で、神作先生、どうぞ。

【神作委員】

ありがとうございます。私は市場間競争については、市場間で公正な競争が行われれば、非常に単純な発想かもしれませんけれども、市場機能が発揮されるということは、一般論としては言えると考えています。そういう意味では、市場間の競争をさらに促進していくという考え方自体は、方向としては正しいのではないかと思いますけれども、その前提としてなぜそのようになるかというと、投資家がさまざまな市場が存在するときに、自己の利益のために合理的な意思決定をするということによって、市場機能が発揮されることになるからであると思われます。本日の議論の中には、例えば、PTSとか、取引所外の市場についての規制を緩めれば、競争が促進されるのではないかというご議論が多かったようにも思うのですけれども、今申し上げたような投資家の意思決定による市場間の競争による市場の機能の促進という観点からすると、むしろ投資家の意思決定が合理的になされる環境が整っていることが前提となっており、より具体的に言うと、安価で適切な情報が迅速に提供されていることが、市場間の競争を促進し、市場機能が発揮されることにつながると思います。

そのような観点からすると、足りない規制もあるのではないか。もちろん、過剰な規制もあるとは思うのですけれども、市場の連続性のようなことを考えたときに、市場の機能が競争によって促進されるために、どのような条件なりインフラが欠けているか。この点は大崎先生も指摘されたかと思いますけれども、1つの考え方は価格情報が出て、最良執行義務がワークする。それによって市場間の競争が高まり、市場の機能が発揮されるというのが1つの考えられるストーリーであると思います。けれども、ほんとうにそうだとすると、実際にそのような機能が果たされるような情報がきちんと提供されていて、最良執行義務が実効的に貫徹されているのか。こういった観点からの検討も必要になるのではないかと思いました。市場間の競争というのも、大きな目でとらえれば、むしろ市場を統合していく過程なのだと思います。本日のお話ですと、取引所、PTS、ダークプールというのが分断しているように書かれておりましたけれども、理想的な姿というのは、むしろ機能としては統合していくという方向での議論があり得るように思いました。

その点に関連して、信用取引について一言だけ申し上げたいと思うのですけれども、信用取引はおそらく今申し上げたような市場の機能という観点からすると、ある一部の市場はできて、ほかの市場はできないというのは、これはまさにイコールフッティングに欠けるように思うのです。他方で、信用取引における顧客の保護、具体的な投資家の保護を看過することができず、具体的、個別的に投資家保護がきちんと図られているかどうかという観点は不可欠です。市場一般の話と、具体的な取引類型における投資家保護のあり方というのは、話を混同してしまうと、間違った方向に議論が進んでしまうおそれがあるのではないかと少し懸念いたしましたので、一点だけ申し上げさせていただきました。

簡単ではございますけれども、以上でございます。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

土本さん、どうぞ。

【土本オブザーバー】

このテーマで今回初めてということですので、少し長くなるかもしれませんけれども、全体的なスタンスを述べさせていただきたいと思います。

まず、我が国における私設取引システムあるいはダークプールといった代替市場の存在、そして、その代替市場を含めた取引市場間での切磋琢磨によりまして、投資家の多様なニーズへの対応あるいはサービスの向上が図られるという点では、意義があると考えております。

一方で、グローバルな状況に目を向けますと、国境をまたいだ市場間の競争が厳しさを見せておりまして、アジアの各市場が急拡大する一方で、日本市場の相対的な地位の低下が懸念をされているということがございます。実際、世界の取引所の中において売買代金ベースで見れば、10年前の2005年には3位でしたが、現在では中国の取引所等の台頭によりまして6位にまで低下をしております。あるいは、上場企業の時価総額でも、当時はニューヨークに次いで第2位でございましたけれども、現在は第3位で、4位に上海の取引所が追い上げてきているということがございます。

こうした環境に置かれておりますので、その中で我が国資本市場の国際競争力をいかに強化するかということにも非常に意を用いた上で、国内での今後の我が国のあるべき市場の構造、これは黒沼先生がご指摘をされたように、それぞれの取引ベニューが、どういう役割を担っていくのかということを含めた市場構造という意味ですが、市場構造あるいは市場間の競争のあり方、そして、そのための必要な規制のあり方といった、大きな枠組みをまず検討していただくことが必要なのではないかと思っております。世界の中で日本という市場が選ばれるために、日本市場全体として透明性あるいは公正性が確保され、国の内外の投資家から、「日本の市場は発展もしているし、安心感もある」という評価をされる市場であるという必要があると思っておりまして、そうしたことが非常に大事だと思っております。

次に、事務局からのご説明もございましたように、これまでの証取審あるいは金融審での検討や、それを踏まえた立法の経緯からも、3点整理できると思います。

ひとつは、市場全体として公正な価格形成機能の必要性が揺るぎないという点です。

2点目として、代替市場は、本来は機関投資家の大口注文など、取引所のオークション市場では執行しにくい取引に対応するということによって、投資家全体の利便性の向上を図ることが想定されていたということです。

そして、3点目として、代替市場も市場として最低限のルール整備が必要であるとともに、規模が拡大すれば取引所としての規制を受ける必要があるという整理をされてきたという理解をしております。

この中で、代替市場は、最初の大崎委員の説明にもありましたように、機関投資家の大口注文を円滑に執行したいというニーズから生まれ、立法化された経緯がございますが、その後、HFTなどが参加し、さらには、最近ではこうしたプロフェッショナルな取引や投資家が参加する市場の中に、個人投資家の参加を促すところも見られてきているということでございます。新たな個人投資家の裾野拡大や、貯蓄から投資の流れを促進していくことが、金融審議会の大きな目的のひとつだと思っておりますので、その点も含めまして、我が国の市場構造がどうあるべきか、そして、改めて投資者保護など制度的に必要な枠組みを考えることが重要ではないかと思っております。

それから、もう一点、市場構造が本格的に議論されました前回の金融審議会から、もう10年以上がたっております。当時の議論からの大きな変化のひとつが、取引の高速化だと思います。私設取引システムにおきましても、ダークプールにおきましても、取引の相手方の多くが、今やHFTになっていると思われます。先ほど大崎委員の資料の中で2010年からPTSの取引が非常に増えてきているということでございましたけれども、ご指摘のあった要素も確かにありますが、もう一つの要素として、2010年以降、日本にHFTが参入してきたというのが、そういったことをあらわしているのではないかと思います。

ただ、代替市場での取引実態は私どもにはよくわからないということでございます。先月の第1回目のワーキング・グループで議論されました、取引の高速化あるいはHFTへの対応と同様の視点で、高速化時代におけるPTSあるいはダークプールについて、どう考えて、どう規制していくのかという検討を行うことも必要ではないかと思っております。

そして、私どもとしては、こういう点を踏まえまして、我が国の証券市場のあるべき姿を考えるに当たりまして、先行する欧米からの学びも踏まえつつ、以下の3つの点について検討を行い、その枠組みの中で適切な競争をすることが適当だと考えております。

まず1点目ですけれども、取引所も私設取引システムも、ダークプールも、もはやさまざまな投資家が参加することを前提とした執行市場のひとつでございますので、市場全体として備えるべき最低限の枠組みを整えることが必要ではないかと思います。ここには、呼値の刻みの統一も挙げられるのではないかと思います。先ほどイノベーションのひとつとして、この件が取り上げられましたけれども、実は海外では、アメリカもヨーロッパもオーストラリアも、この呼値の刻みがその国の中で統一されております。ルールで統一されているということでありますので、日本だけが異なってしまっている状況にあります。あるいは、短時間での株価の急変動を抑制するようなマーケットスタビライザー機能をPTSについてどうしていくのかという点もございます。また、システムの堅牢性の確保、これはいろいろな委員がご指摘されたところでございますけれども、これをどうしていくのかという点も考えられます。さらには、リスクコントロールの機能をどうしていくのかといったことも挙げられます。

また、複数の市場が出てきて、それぞれ異なる取引ルールの中で売買が執行される中では、投資家が明確な理解、認識のないままに自身の注文が回送され、執行されることがないような対応が図られるべきということもご指摘があったとおりだと思います。

2点目は、ダークプールについてですが、現在、結果的にはToSTNeTに取引が付け出されているということではございますけれども、事実上は証券会社の中で機関投資家やHFTといった投資家の注文を集めて、それを各社における執行ルールに基づいて取引を成立させるという、PTSと同等の市場として実際には機能しているのではないかと認識しております。

また、自己売買業も行っている証券会社が、その自社内で運営する市場ということでございますので、顧客と証券会社との利益相反が生ずるおそれは否定できません。現在のところ、取引所やPTSとは異なって、特段の定義もなく証券会社内部でどのような取引がなされ、それが真に顧客利益にかなっているのかどうかといった実態が必ずしも明らかでないということでございますので、ダークプールという市場に対して、新たな枠組みが必要ではないかと考えております。アメリカでは、ダークプールに対するさまざまな問題提起がなされておりますけれども、その多くは日本のダークプールにも内在する懸念がある問題ではないでしょうか。ダークプールの実態については、そういう意味ではHFTなども今や幅広く入ってきているということで、大崎さんの説明とは実態の認識が少し私は異なっております。

それから、アメリカではATSという枠組みがつくられた上で議論がされておりますけれども、これまで、日本では正面からこうした議論が行われてこなかったという状況ではないかと思います。そこで今回、日本で導入すべき枠組みを考えるとすると、例えば、PTSは認可制ということですけれども、ダークプールにも適切な管理が及ぶようにするとともに、市場運営状況や取引ルールの開示、あるいはPTSと同様に、規模拡大によって市場全体の価格発見機能が阻害されることのないようなシェアの上限の導入など、これは米国の議論については大崎さんに触れていただきましたが、米国だけではなくて、ヨーロッパでもMiFIDIIでこうした規制が導入されるという予定がございますので、そういったことも参考にしながら検討していく必要があるのではないかと思っております。

それから、最後に3点目、PTSについてでございます。こちらは各論になってしまいますが、事務局のご説明にも信用取引の件がございましたので触れさせていただきますと、現在、禁止されているPTSにおける信用取引について、禁止の根拠として挙げられてまいりました投資家保護、利益相反や規制・監督の実効性の担保といった問題を克服していくことが大前提になるのだと思います。

また、信用取引は証券会社が顧客に金銭や株式の貸付を行うことでございますので、顧客を誘引するために過度な貸付が行われれば、過当な投機を招きかねません。その上に証券会社のリスク管理上の問題を引き起こす懸念がございますので、私ども取引所はそのようなことが起こらないように、公益という立場を踏まえて規制措置を行っておりますけれども、そうした規制を融資を行う証券会社自体の資本参加があるエンティティが適切に果たしていけるのかどうかという懸念もあるのではないかと思います。この点は、ダークプールという器を利用した信用取引についても同じことが言えるのではないかと思います。

加えまして、こうした問題に何らかの手当をした上でも、PTSという流動性が比較的低くてボラティリティも高い市場に個人投資家が主体の信用取引をあえて導入することが、市場全体の信頼性といった観点からどうなのかという点については、慎重に検討をすべきではないかと思っております。

これは何も批判するという意味で例を挙げるわけではないのですけれども、具体例を挙げて言ったほうがわかりやすいと思いますので、例示をさせていただきます。例えば、最近自動車会社で燃費不正問題があったというニュースが報じられました際に、ある私設取引システムでは、瞬時に株価が10%も動いたことがございます。取引所の現在の仕組みでは、マーケットスタビライザー機能がございますので、そういった急変動は見られないということでございますが、そういった価格急変動が実際に起こる状況のまま、信用取引という形で個人投資家を呼び込んでいくということが、これから真剣に取り組もうとしている個人投資家の裾野拡大とか、市場全体としての公正性といった点の趣旨に照らしてどうなのかといったことも議論していただけるとありがたいと思います。

これまで申し上げたように、我が国における、あるべき市場構造やそれぞれの取引ベニューにどういったことを期待するのか、そして、その上での市場間競争のあり方、さらに、必要な規制の枠組みといった、大きな視点からの議論がまずなされるべきであり、その枠組みが保たれる中で投資家の利便性向上、証券市場の健全な発展という目的が両立し得るのではないかと考えております。

最後になりますけれども、市場間競争ということがテーマとして取り上げられております背景には、私ども東証・JPXの市場運営者としての一層の改善が必要であるということと認識しております。私どもとしては、これまで以上に市場の利便性の向上や、信頼性の向上を通じて、選ばれる取引所となるように努力していきたいと考えております。

以上、少し長くなりましたけれども、終わります。

【神田座長】

どうもありがとうございました。予定の時間が過ぎておりますが、田村さん、どうぞ。

【田村オブザーバー】

ありがとうございます。大崎委員と有田委員のコメントに非常に似ていますけれども、まず、PTSの活性化のために、最良執行方針のところを今の段階は出来高を優先していますので、これイコール、取引所を優先している形になっていますので、価格を考慮するべきだと思っております。そうすれば、全ての投資家に一番いい値段で、要するに買うときには低い値段で買えるし、売るときは高い値段で売れることも考えられます。信用取引を認められる場合であれば、今の段階、全ての証券会社に残高報告義務がありますので、これにPTSも一緒にすれば、場合によっては残高が一定の条件になった場合には、該当銘柄に関しては信用取引を自動的に止めるシステムを構築することも考えられます。そうすると、多少ですけれども、コンフリクトがやわらぐことも考えられます。

最後ですが、ダークプールのところは、これはもちろん、言葉がいいか悪いか、そういう意見もありますけれども、よく考えますと、今、相場では手動で行っているプロ取引がありますので、ある意味ではダークプールはこれを自動化しているだけのことなので、その上で約定がToSTNeTで行っておりますので、市場の公正性が保たれているとは思っております。

【神田座長】

どうもありがとうございました。

今日は予定の時間を超えてしまいまして大変申しわけありませんでした。皆様方には大変多様な観点から多くの貴重なご意見、ご指摘、ご質問をいただきまして、どうもありがとうございました。本日いただきましたご意見等を踏まえ、今後さらに具体的な検討を進めさせていただきたいと思います。

次回のこのワーキング・グループの日程とテーマ等につきましては、後日事務局からご案内させていただきます。

それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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