金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」(第21回)議事録

日時:平成21年4月23日(木)14時00分~16時00分

場所:中央合同庁舎第7号館12階 共用第2特別会議室

○池尾座長

それでは、定刻になりましたので、ちょっとまだご出席の予定でお見えでないメンバーの方が若干名おられますが、時間が限られておりますので、ただいまから我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループの第21回、通算で第21回の会合になりますが、開催いたしたいと思います。皆様には、本日はご多用中のところをご参集頂きまして誠にありがとうございます。

それでは、いつものことですが、会議に先立ちまして、本日の議事はやはり公開の形で行わせて頂いておりますので、ご報告申し上げておきます。

初めに、メンバーとオブザーバーに関しまして若干異動がございましたので、事務局からまずその点のご紹介を頂きます。

○池田市場課長

それでは、異動がございましたメンバーの方々をご紹介させて頂きたいと思います。

これまでメンバーであられました川端雅一メンバーが退任をされまして、小山田隆メンバーが就任をされました。

それから、皆川卓士メンバーが退任をされまして、加藤貞男メンバーが就任をされております。

さらに、越村好晃メンバーが退任をされまして、和地薫メンバーが就任されております。

次に、オブザーバーの方でございますが、法務省民事局の萩本修民事法制管理官が退任をされまして、河合芳光参事官が就任をされております。

異動後のメンバー名簿につきましては、お手元に配付させて頂いておりますので、適宜ご参照頂ければと思います。

以上でございます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、早速本日の議事に入らせて頂きます。

上場会社等のコーポレート・ガバナンスのあり方について、前回まで総論、各論について一通り議論頂きましたところですが、本日はその中でも多数のご意見というか、色々なご意見を頂いたガバナンス機構をめぐる論点についてさらにご議論頂きたいというふうに思っております。

この議論に関しまして、本日はお二人の方をゲストにお迎えしておりますので、まずはそのお二人の方からお話を頂いた後、後半はお二方にも加わって頂いて、いつものようにフリーディスカッションをいたしたいというふうに思っております。

前回、関メンバーからご報告を頂きましたが、その際に日本監査役協会の有識者懇談会が取りまとめた報告書についてヒアリングして頂きたいとのお話がございましたので、そういうことも踏まえまして、本日は日本監査役協会のコーポレート・ガバナンスに関する有識者懇談会報告の取りまとめに当たって副座長として中心的な役割を果たされました、プロティビティジャパンの伊藤進一郎最高顧問にお越し頂いております。

それから、また本日は、東京証券取引所の斉藤惇社長にもお越し頂いております。斉藤社長には、証券市場を開設する東証の責任者ということにとどまらない形で長年にわたり証券界に携わり、内外を含む投資家の問題意識に広く通じていらっしゃるという立場から、幅広いお話を伺えればというふうに期待申し上げております。お二方にはご多忙のところご出席頂きまして、誠にありがとうございます。

それでは早速ですが、初めに、今ご紹介申し上げましたお二方から、それぞれ20分程度ずつプレゼンテーション頂ければというふうに思います。

それでは、伊藤副座長、よろしくお願いいたします。

○伊藤参考人

伊藤でございます。このような場でご説明させて頂く機会を頂きまして、大変ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。昔、金融審議会にタッチしていた時期があるものですから、久しぶりの会議出席となります。

本来であれば、座長の江頭先生からご説明を頂くべきと存じておりましたが、先生がどうしてもご用のためにお繰り合わせができないということで、座長代理として関わっておりました私の方からご説明申し上げたいと思います。

実は、去る4月8日に日本監査役協会主催の監査役全国会議というものがあり、今回の報告書について江頭先生から90分間にわたり非常に懇切丁寧に講演が行われました。本日は、限られた時間ですので、私の報告内容はその際の江頭先生のご講演の骨子とか、さらに前回、関メンバーからご報告頂いた際の内容も読ませて頂きまして、その趣旨を踏まえながら別紙のレジュメのような要領でもって、できるだけ報告書に記載された内容を、これは協会としては忠実に伝えてほしいということですので、お伝えさせて頂きたいと思います。

このような報告書を用いて審議会報告を行うということは、異例なことではありますが、この報告書は微妙な表現などを用いて取りまとめたものですから、それを私が勝手に2、3枚にまとめて報告するというわけにいきませんので、ご説明の際にはページ数を申し上げますので、大変恐縮でございますが、皆様には、黄色く色づけしております部分に注目して頂きながら、お聞き頂きたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

ただ、それだけだと分かりにくいということもございますので、皆様のご理解に役立つように、お手元に参考資料を4枚ほど用意しておりますので、それもご活用頂ければと存じております。

さて、まず懇談会でございますが、当時、協会長であった関メンバーの諮問に答えるため、協会外の有識者にご参画頂きました。この会合にもいらっしゃるのですが、岩原メンバーとか上村メンバー、島崎メンバー、飛山メンバー及び関メンバーの5人の方々を含めまして、色々議論をさせて頂きました。

報告書の90ページにありますように、ここには当時の関協会長の提言というのがありまして、これは103ページまで続く膨大なものですが、これが私どもの方に要請としておりてきまして、答申してくれと、こういうお話でございました。

この中で一番重要なところは、90ページを開いて頂き、「わが国コーポレート・ガバナンスを巡る動向」とありまして、この中の真ん中のところですけども、「わが国資本市場の低迷の背景には、わが国コーポレート・ガバナンスと資本市場への国際的信認の喪失が大きな要因の一つにあることは疑いようのない事実である」云々と書いてございます。つまり、これは、関前協会長の強い危機感が表れておるわけでありまして、前回の関メンバーのお話にも、このあたりのことが脈々と謳われておったかと思います。時間の関係もありまして、今日はこの内容の詳細説明は残念ながらできませんけれども、関前協会長の諮問は大変示唆に富んだご提言ですので、皆さんの方で後程お読み頂ければ大変幸いであります。

それでは、報告書の本論についてご説明します。最初に、1ページをご覧頂きたいと思います。ここには、「緒論」としまして、関メンバーの問題提起と報告書全体のまとめ的なものが書かれております。2ページ以降にありますように、この問題提起を受けまして、全体を3つのカテゴリーに整理をいたしまして議論を行ったわけであります。

その論点について、全体像を分かり易く示したものが、先程4枚と申し上げましたけども、別紙の「御参考1」という表になったものです。これは、ガバナンスの国際比較という観点から、私どもが運営小委員会でもって学識経験者を招聘し、色々な形で講義を受けまして、それをまとめたものの一つです。我が国と米国とのコーポレート・ガバナンス上の主要な論点を一覧表形式で整理したものでして、これを見ますと、我が国のガバナンスを、やはり国際標準に近づける必要があるのではないかということです。

この資料のそれぞれの内容については、報告書の説明の中で詳しく触れるところもありますので、説明は省略させて頂きたいと思います。特に、これらの内容は、皆様方にはもうご存じのようですので、お手元資料としてご活用頂けばありがたいと思っております。

それでは、「緒論」の方に戻りまして、まず第1が、この2ページの下から3行目ですが、コーポレート・ガバナンスの組織に関わる諸論点であります。

それから、3ページの中段の方に、黄色い部分がありますが、本懇談会におきましては、こうしたガバナンスの組織について問題状況の把握に努めたわけでありますが、後程申し上げますが、会計問題に相当時間がかかったということもありまして、必ずしも十分な時間をとれなかったという制約があって、これらについての方向性は、必ずしも意見の一致を見出せなかったということです。しかしながら、その中で、「監査役は、買収防衛策の導入等に際して設置される『第三者特別委員会(独立委員会)』の構成員としての役割など、『非業務執行会社役員』といういわば新たな概念的な枠組みの中で、その一員として応分の責任を果たし得ることを確認した。」とあるとおり、これが極めて重要です。

第2でありますが、これも3ページにあるとおり、資本市場にまつわる問題として、具体的には、買収防衛策や大規模な第三者割当増資を取り上げております。

第3点ですが、5ページの中段に黄色く書いておりますが、会計不祥事防止の問題でありまして、内容的には内部統制をめぐる問題と会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定に関わる問題、つまり、ねじれ問題という2点を取り上げておるわけであります。

これらの説明については、本日の会議の趣旨なども踏まえ、順序を入れ変えまして、まず買収防衛策の説明をし、その後、大規模第三者割当増資の問題を簡単に済まさせて頂きまして、その後で、実はこの報告書をまとめるときに大変時間をかけた「内部統制」と「ねじれ問題」について、時間の許す限り詳しく説明したいと考えております。

まず、買収防衛策についてですが、78ページの下から8行目です。ここでも先程申し上げたとおり、監査役と社外取締役は、ともに非業務執行会社役員として、それらで構成される特別委員会において、利益相反の懸念の解消のために一定の役割を果たすということは一つの方法として有効なのではないかと、そういう意見が出されたわけであります。

これを受けまして、「今後の課題」といたしましては、次のページにかけて書いておりますが、79ページの4行目にありますように、上場会社が買収防衛策を導入・運用する際の適時開示として、一定事項、例えば株主共同の利益を損なうものでないこととか、また会社役員の地位の維持を目的とするものではないことに対する監査役意見というものが付記されるように、本日は東証の斉藤社長がおられますけども、取引所内での検討が進むことを期待している、というふうに意見が一致したとこういうことであります。

次に、大規模第三者割当増資、こちらが少し時間をかけたんでございますが、何が問題になっているかと言いますと、67ページに「マル2不適切だと指摘される第三者割当増資の類型」とあります。今日の日経新聞にも出ておりましたように、様々な形で問題が起こっておりますが、不適切な例として、(イ)から(ヘ)まで挙がっております。この中で、一つは(イ)の、発行済株式数の50%を超えるような大量の新株発行を行うものとか、あるいはまた(ハ)の、割当先が海外ファンドなどの不透明なものというものがありまして、このような形で資本市場の信頼性を失わせるようなケースが目立つ状況になってきているということでございます。

こうした事案では、株主利益の希薄化など、会社の業務執行と株主との利益相反が懸念されることから、69ページを開いて頂きまして、「(4)」とあるところですが、会社の業務執行に関与しない株主総会で選任された非業務執行会社役員、例えば社外取締役や監査役が関与して相応の役割を果たすことが対応策の一つとして考えられないかということで検討が行われたわけです。

この結果、結論としては、73ページの「今後の課題」という部分の4行目を見て頂きますと、黄色く塗っておりますが、「上場会社が一定の規模の第三者割当増資を行う際の適時開示として、一定事項に対する監査役意見が付記されるよう取引所内での検討が進むことを期待する。」ということでございまして、斉藤社長がここにおられますけども、取引所における今後の対応に大変強い期待感を表明させて頂いた次第です。

さらに、監査役が対外的に意見開示を行うことについては、現行の会社法上制約がありますので、本問題の開示を監査役に期待するためには、どうしても会社の利益が害された時だけではなく、それ以外にも、株主の利益を守るためのものとして、監査役への差止請求権の付与の検討や、それからまた買収防衛策と同レベルに利益相反的色彩が懸念されるような大規模第三者割当増資については、買収防衛策と同様に監査意見の対象とするような制度的手当ての必要性もここで指しているわけであります。

次に、会計問題に移らせて頂きたいと思います。資本市場に関わる企業不祥事の観点でありますが、7ページ以降に「 II .内部統制関係」というところに縷々書いておりますが、ちょっと分かりにくいと思いますので、別の資料「御参考2」を用意いたしました。これでもって説明をさせて頂きたいと思いますが、まず、論点の1ですが、内部統制報告書及びその監査報告書を株主総会の報告事項とすることについてです。そこにありますように、金商法上の有価証券報告書等は株主総会の報告事項とされておりません。したがいまして、報告するかしないかは経営者の任意ということになります。経営者としては、財務報告に係る内部統制を含め、会社法上の内部統制システム全般の基本方針の開示に加えて、評価結果とかあるいはまた運用結果についても株主総会において説明すべきではないかという点であります。内部統制は経営者の問題ですから、当然そういうふうに考えられるわけですが、将来的には法務省令の改正を行い、強制力を持たせて改正することが考えられるわけです。つまり、やはり言いたくない経営者はやらないということになりかねませんので、そこのあたりが問題点だということです。

もう一つは、内閣府令を改正し、有価証券報告書等を株主総会前に前倒しして提出することも可能にすることが必要です。これも色々議論があったところですが、これにつきましては最終的には特に異論はありませんでした。早期の実現が望まれるということで、本文の12ページから13ページにかけて詳しく書いてございまして、これについてはご当局の方にも色々ご協力頂いたことに対し、感謝を申し上げたいと思います。

論点2ですが、会社法の内部統制全般と金融商品取引法上の内部統制(財務報告のみ)ですが、それについての関係であります。具体的には、財務報告内部統制を含む内部統制システム全般について、この表にありますように、これは3月決算会社の場合ですが、5月の中旬頃に監査役が適正・適法である旨の監査報告書を作成した後に、6月上旬頃に財務報告に係る内部統制について、公認会計士である監査人から「重要な欠陥がある」と指摘される可能性があるわけでありまして、これがいわゆる「期ずれ」と呼んで監査役が大変懸念しているところであります。実際にどの程度起こってくるのかは、今年が最初ですからよく分からないのですが、懇談会では、そのための対応策を模索したわけであります。

改善策といたしましては、上記のマル2と同様、内閣府令を改正する。結局、マル1と同じことをやってもらえばいいのではないかということに、皆さん異論がなくなったわけです。その結果、これに関しての結論は、16ページに「今後の方向性と課題」とありますが、これについては初年度の対応がこれからという問題がありますので、下から3行目から17ページにかけての部分にあるとおり、「このように、今後の方向性として、重要な欠陥の内容・改善策・財務諸表との関係などについて、東京証券取引所の適時開示の対象とすることも考えられる」のではないかと。「もっとも、経営者・監査人の間で重要な欠陥についての理解のレベルを合わせるには、それ相当の期間を有することを考慮する必要もある」ということで、今年はやはり少し様子見をしなくてはならないだろう。しかしながら、来年に向けましては、関係各方面のご協力によりまして、現行法の改善に向け前向きにご検討頂きたいとこういうことを、強く期待申し上げている次第です。

次に、最大に時間をかけたのですが、18ページをご覧頂きたい。「会計監査人の選任議案及び報酬の決定について」ということでございまして、この問題がいわゆる「インセンティブのねじれ」の問題でして、前回、関メンバーから報告があり、大変厳しく指摘をされたと思いますが、これについては18ページの中段にありますように、平成19年6月に成立した公認会計士法等の一部を改正する法律案の衆参両院における国会審議におきまして、「早急に結論を得るよう努める」との附帯決議が付されていたところであります。

また、これに先立ち討議された金融審議会・公認会計士制度部会には、私も委員として出席し発言しておりましたが、「関係当局において早急かつ真剣な検討がさらに進められることを期待したい」と、こう指摘されていた問題でございました。これから既に3年弱が経過しておるというような状態であります。したがいまして、このねじれ問題について、我々は相当な時間をかけて審議をし、3カ月ぐらいかけて色々ご意見を頂きました。

大変立派なご意見が沢山ございましたのですが、どのような点が論点になっているかと申しますと、20ページの中段以降ですが、まず第1に、「(1)会計不祥事の発生可能性の低減」が挙げられます。下から5行目以降ですが、「そのためには、近時の粉飾事例なども踏まえ、粉飾決算をはじめとする会計不祥事の発生の可能性を低減するような制度環境にしていくため、監査役と会計監査人の連携強化を図り、会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定権限を監査役等に付与する措置を講じるべきではないか」ということであります。

これ以外の議論については省略させて頂きまして、22ページに第2点の論点として、「(2)国際的趨勢との調和」であります。すなわち、資本市場が国際的な連携と一体性を高め、企業経営のグローバル化が一層進展する中で、財務諸表が国際的な評価にも耐え得る会計基準に基づき作成され、かつ、監査の基準に基づき監査が実施される必要があると。さらには、そのような会計・監査制度を実効的に機能させることを担保するコーポレート・ガバナンスのあり方についても、同様に国際的な評価の対象となることを認識し、会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定のあり方について、これら国際的な趨勢との調和を図る方向で検討する必要があるのではないか、ということです。

本件については、議論が多岐にわたったところでありますが、有識者懇談会での最終結論については、36ページ「4.今後の課題」というところをご覧頂きたいと存じます。ここにありますように、結論としましては、「会計監査人の選任議案あるいは監査報酬の決定について、監査役による主体的な関与を強めていくことが望ましいとの基本的方向性については、見解の一致を見ることができたと判断される」ということであります。

「さらに、前述した金融審議会及び国会における審議を踏まえれば、本懇談会の大勢としては、今問われているのは、監査役が会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定権限を持つことを制度的に明確にすることにより、我が国の会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定に対する国内外の懸念を解消し、ひいては我が国のコーポレート・ガバナンスに対する信認を獲得し、株主等投資者に対する説明責任を果たしていくことである。金融商品取引法及び会社法において目に見える形で制度的な措置が講じられるよう、関係当局において早急な対応が為されることを強く望むものである。」ということです。

以上、ねじれの問題についてご説明申し上げてまいりましたが、若干の個人的な見解を申し上げますと、結局、会計基準、監査基準、コーポレート・ガバナンスの3つがまさに三位一体のものとして、国際的な整合性を確保する見地から我が国としてどう対応していくのかが問われているわけであります。そういう点では、この審議会とか各方面での研究会などにおいて、このねじれ問題についても、これを克服すべく、前向きかつ早急に取り組んでいく必要があるのではないかと考えるところでございます。関係当局あるいはまたここにおられるメンバーの方々におかれましては、どうかひとつ前向きなご検討をぜひともよろしくお願い申し上げたいということが、私の希望であります。

以上、報告書の概略についてご説明申し上げました。最後になりますが、一方で監査役の機能強化に関する問題がありまして、これについては先程随所に制度改正について踏み込んでお話をさせて頂きましたが、これをまとめたものが「御参考3」です。この資料は、実は去る3月29日の最終回の有識者懇談会において関メンバーから提供された資料に若干の修正が加えられたものです。これについて、有識者懇談会においては審議する時間がなかったものですから、報告書には含められておりませんが、会議資料として日本監査役協会のホームページ上に開示されるということですので、必要に応じて関メンバーから補足説明をして頂ければありがたいと思います。

以上で私の説明を終わらせて頂きます。どうもご清聴ありがとうございました。

○池尾座長

どうも大変ありがとうございました。

それでは、引き続き斉藤社長の方から、同じく20分程度でプレゼンテーション頂ければと思いますので、よろしくお願いいたします。

○斉藤参考人

それでは、我が国の上場会社のコーポレート・ガバナンスというところに焦点を当てて、どちらかというと私見をお話させて頂きたいと思います。

金融危機が起こり、投資銀行や国の支援を求めるビッグ3の姿を見て、欧米流のガバナンスの効果というものに大変疑問があるという声が巷に充満しています。なぜ、改めて今頃日本のコーポレート・ガバナンスを論ずるんだ、論ずること自体、非常に不愉快である、というような声もあります。確かにアメリカの、特に金融機関でございますが、取締役会のほとんどが独立取締役で構成されていて、今回の金融危機ではどのケースを見ても十分ワークしなかったと思います。これは欧米流のコーポレート・ガバナンスが決して万全ではないということを物語っていると思います。

要は、良い制度であったとしても、その趣旨を十分理解して、高いモラルといいますか、倫理観を持って運用しなければ何事も機能しないという典型的な例であったと思います。よく前から言われましたが、CEOの学生時代の友達などが独立取締役に非常に多かったわけですけれども、こういうものでは機能しないことはアメリカでも言われておりましたし、特に日本ではよく言われておりました。そういうことも踏まえて考えますと、取締役の独立性ばかりに注目して、その業務の専門的な知識あるいは経験の少ない人ばかりで取締役を構成しても機能しないのかなと現実論として思います。

アメリカの投資銀行の場合には、ああいう金融技術を使うことが十分理解できたプロが取締役会にほとんど入っていなかったことは明白でありますし、昨年、パリのOECDで特別な少数の会議がありまして、関係者の方はご存じだと思いますが、私の隣の席にアイラー・ミルシュタインという弁護士が座っておりました。アイラー・ミルシュタインは我々若い頃に名前を覚えているわけですが、まさしく例のジェネラルモータースの株主総会でスミス会長を緊急動議を発して首を切った人です。彼が私の袖を引っ張って、プロのいない取締役会はワークしなかったな、日本の取締役会もそれなりに考える価値はあるかな、ということを言いまして、私はちょっと驚きました。

ただ、このことは独立取締役の意義を否定するものではないことは明白であります。独立取締役が経営の近くで独立した外部の視点からモニターする、これがコーポレート・ガバナンスの基本であることに変わりはないと思いますし、逆に言うと、取締役会は独立性があればすべてうまくいくということでもないことも事実だと思います。業務に関する専門性もかなり追い込んだ取締役会でなければいけないということであります。

ただ、ここで気をつけなければいけない点として、この欧米の制度が、今回、あまりうまく機能しなかったということをもって、だから日本の監査役制度の方が機能するんだ、ということを言う主張が時々ありますが、これは完全な論理の飛躍だと思います。これは想定ですけれども、今回の事件の原因を色々見ますと、日本の監査役制度も多分このような環境条件では機能しなかっただろうと思われます。

今回の金融危機では、うまく機能しなかったコーポレート・ガバナンスの最大の犠牲者は実は内外の投資家であったと思います。OECDを初め国際社会は、これを契機に独立取締役を軸とした欧米流のコーポレート・ガバナンスに、よりさらに磨きをかけて、不足していたものを突きとめて、必ず改良の政策を打ってくると思います。現実に、オバマ大統領の色々なスピーチの中にもそのようなことをにおわす言葉が沢山出ておりますし、前々回ですか、3期ぐらい前のSECの委員長であったアーサー・レビットさんと直接話した時も、徹底的な投資家保護をベースにして、会社経営のやり方を徹底的に洗い直すといったことを言っておられました。つまり、欧米は、これを機会にコーポレート・ガバナンスをしっかり見直してくると考えていた方がいいと思います。

日本でも、今お話がありました買収防衛策、あるいは株式の持合いの復活ということに対しては、内外の投資家から非常に不信感が高く、ましてや今回、持合いをした株が下がって大量な評価損を出す企業体を見て、ますます欧米からは日本の経営の思想に対する疑問が出ております。昨年、東証で行いました投資家向けヒアリングやアンケートでは、特に取締役会の監督機能の弱さと、それから第三者割当によるダイリューションの問題を解決することが内外の投資家から一番出た強い声でありました。

また、日本企業の利益水準は、色々言われますけれど、アメリカ企業に比べますとはるかに低い。色々な指数、どの指数をもっても低いです。金融危機に瀕しているアメリカの企業ですら、あえて言えば、今の少し上がった株価で計算してもPER20倍あるかないかであります。しかし、日本はご案内のとおり、PER百数十倍というのは世界に全く存在しない市場であります。

今、ホットなニュースであまり話題にしてはいけないんでしょうけれども、このところ株価対策が論じられておりますが、やはりここでもPBRやPERという問題があり、異常に低く株が売り込まれた場合には対策を考えなければいけないということでありまして、異常に低くということは、正常な利益が出ているにも関わらずPERが異常に低いということであります。

日本の株はここのところ少し上がってまいりまして、話題になりましたPBR、一株あたりのブックバリューがようやく1を少し超えてまいりました。株を買って解散するほうがよほど得という状況は少しなくなって、正常化しつつありますが、このPBRが1倍になった途端にPERを見てみたら120倍になっています。こういう状況では、普通の企業の利益状況を考えますと、やはり今論じられているような救済策すら出動できないぐらいの市況であるということであります。

日本の優良企業は、これまであまりガバナンスの問題の対象にはならなかったと思いますけれども、もしパフォーマンスが連続的に出せないということであれば、当然投資家のガバナンスに対する要求が強まることが予想されると思います。金融危機を受けまして、東京市場は内外の投資家からの関心を急速に失いつつあるというところが本当のところでありまして、何とかこれを回復いたしまして、国際的な競争力を高めることが我が国にとって非常に重要なことではないかと思うわけです。

そのためには、内外のあらゆる投資家が安心して投資できるような、我が国におけるコーポレート・ガバナンスのスタンダードを確立するということが喫緊の課題であります。いわゆる対症療法的な株価対策よりも、私はその方が余程効果の高い、まさしく株価対策であるというふうに思うわけであります。

今、監査役のお話がありましたけれども、日本流のコーポレート・ガバナンスの評価が低い一つの理由は、上場会社の大部分で制度になさっておりますこの監査役設置会社の内容について、今非常に不満が多いということであります。実態的に見ますと、取締役は主として業務執行を行う、そして監査役がこれを専ら監視する、執行と監督という機能が別の機関にきちんと分離しているではないか、立派なものではないか、ということかと思います。ところが、この仕組みの中で、監査役によって株主の利益が十分に守られているかというと、内外の投資家はそう思っていないということです。執行と監督が分離している監査役設置会社の構造を否定はしませんけれども、それがワークしていないというケースが非常に多いのではないかということであります。

近頃、新聞報道等々に、幾つかの監査役の方が、色々努力なさって機能しようとしておられるケースがずっと出てきております。アデランスのケースを見ましても、監査役が何度か問題の指摘をしても、執行サイドが一方的に完全に否定したり無視したりして、監査役が圧力に屈して辞任するなど、いかに監査役権限が弱いものかということを開陳するような皮肉なケースの報道になっていると思います。

その理由を考えますと、2つあると思います。1つは、もう皆さんご存じのとおりですけれども、監査役制度そのものをワークさせるとするとしても、監査役が権限をしっかり行使できるような社会構造を作らないで、今のままで監査役はワークするんだとどれだけ言っても、ワークしていない現実がある以上、やはり世界的にも国内でも通らないと思います。

上場会社の粉飾決算は一向に途絶えません。昨今のように景気が悪くなってまいりますと、多くの上場会社では粉飾が発覚する。粉飾の手法はどんどん高度化いたしまして、そのたびに会計基準や監査の強化が図られるということのイタチごっこを繰り返しています。監査役は会計監査を受け持っておりますけれども、粉飾決算を見破ったというようなケースはあまり聞きません。また、上場会社が関与する違法行為も一向に後を絶たない。談合などの独禁法違反、あるいは近頃話題になりました政治資金規正法違反、あるいは風説の流布とかインサイダー取引といった、いわゆる金商法違反ということが、オーバーな言い方をしますとほとんど毎日何かしら報道されています。

参考までに申し上げますと、東証で上場廃止とか改善報告などの処置を講じました事例は過去3年間で何と41件あります。適時開示システムから抽出した上場会社やその役員、従業員の金商法あるいは独禁法、労働法などに対する違法行為は、この1年間で59件です。特に、最近1年間に東証が何らかの処置を講じた事例は10件あります。月に1回は起きているということです。

このうち、監査役が違法行為差止請求などで積極的に事案に対応したものは、私が知る限り春日電機の1件だけであります。名前をあまり出しちゃいけないんでしょうけど、雑誌にも出ていますので、例えば荏原製作所のケースなどでは、何人かの監査役の中の1人が大変な疑義ありということでネガティブコメントを出されて、もちろん株主総会にそのコメントは出ておりますが、多くの与党側株主を通して株主総会を通過させることで、議案は成立しております。

ほかのケースを見ますと、監査役が何らかの形で取り上げたというよりも、むしろ内部告発などによって当局が動いたケースであります。このように、本来監査役は経営者が行う業務執行の適法性の監査を行っておりますけれども、違法行為への関与を差し止めたとか、株主から取締役への訴訟請求を受けて訴訟に踏み切ったという例は、例外はありますけれども、ほとんど聞いたことはない。ところが、おかしいんですけれども、これは日本の社会問題かもしれませんが、しっかり監査しなかったことを理由に監査役が株主から直接訴訟対象になるケースもまた非常に少ないということであります。

結局は、いつも司直による解決に委ねるという形になる。民事、金融マターであるにも関わらず、司法、司直のチェックを受けざるを得ない。なぜ、上場会社の社内でこういうものが止められないのかと。こんなこと言うと怒られますけれども、我々が市場を言うと発展途上国等々では色々問題がありますが、先進国たる日本の上場会社でこういう犯罪、違反ケースが続々と出てくることは恥ずかしいと思います。

これでは、監査役だけでは十分に株主の権利や利益が守られていないと投資家が感じるのも、ある程度当然ではないか、執行と監督の分離が実際にワークしている実態を作るということが大変重要であるのでは、と思います。こういう仕組みがいいんだということであれば、私はそのこと自体を否定するつもりはありませんが、それならその実態、そのシステムでワークしなければ意味がないと思います。もちろん、独立取締役を入れればこれらの問題がすべて一気に解決するということは、恐らくないだろうと思います。ただ、少なくとも執行役には一種の緊張感が生まれる。それから、少なくとも諸外国から見た場合、日本が前向きになってきたという印象を与えて、東京市場の質の高さを訴えることができる、海外からの投資を勧誘することができるのではないかと思います。

2つ目の理由は、どうも監査役には大事な権限が足りないんではないかと思います。伊藤さんの今のご指摘にもありましたが、監査役には当然経営者の人事権も取締役会で投票する権利もないと、いつも言われるとおりです。むしろ、実質的に経営者が監査役を選任している。これはもうほとんど間違いのないことで、私も会社を幾つか経営してまいりましたけれども、監査される私の方が監査役を選ぶということを何の抵抗もなくやってまいりました。大体それも役員人事の一環としてやるということであります。彼は役員ではなく、監査役になってもらおうかといった形で決めるということが実態です。これでは、投資家は、監査役によって株主の利益が十分に守られているということに対して納得できないし、投資家にとって、東京市場が十分監視された安心して投資できる市場ではないと評価されてもやむを得ないのではないかと思うわけであります。

では、日本の会社法に謳っているように、監査役にかわって取締役会が経営に対する監督機能を果たせるかといいますと、法の構成はそうなっているかもしれませんけれども、実際は、多分社内取締役のみの取締役会には期待できないと思います。もっとも、この問題には矛盾がありまして、株主から見ますと、株主は経営の近くで実際にモニタリングすることはできない。経営のプロではございませんので、適切なモニタリングということは不可能であります。また、会社から見ますと、株主総会の開催時期の集中やパッシブ運用等々の拡大の影響を受けまして、適切な議決権行使を株主に期待しにくくなっていることも事実です。これは、結局、会社にとっても投資家にとっても不幸なことが起きているということだと思います。

これを解決するためには、株主にかわって経営の近くで、かつ独立した外部の視点で、経営をモニタリングする仕組みを備えるという策も考慮する必要があるように思います。本当は上場会社の、特に一部、二部上場会社の経営者の方は、むしろ外からおれを批判しろ、おれの経営のどこに欠陥があるか、どこが間違っているか、倫理行動から含めてそういうことを大いにやってくれという方々によって会社を経営して頂きたい。それによって社会の、資本主義国家の倫理というのは作られると私は思います。

これができれば、会社にとっては総会運営が幾らか円滑になって、経営の機動性も増し、株主の不安も幾らか消えるので、経営の安定性も比較的増すのではないか。つまり、外部の人がいれば、投資家にとっては、独立した外部の目のモニタリングがある程度入っているので、株主の利益が守られる仕組みがある。そこで納得して、受益権行使に当たっての吟味の必要性が下がると思います。あるいは、変なファンドがかなり不合理な要求をするといったこともだんだんできなくなるはずであります。そうすれば、双方にとって歓迎すべきことではないかと思います。

そのための方法としては、よく言われますけれども、独立性の高い取締役を過半数にし、取締役会を監督機関として、別に経営会議などと称する執行機関を作って、こういう形で執行と監督を分離することが一番説得力が高いと思います。ただ、これを推し進めると、いわゆる委員会設置会社の形態に近づきますので、監査役設置会社がほとんどという我が国の実態から見ますと、なかなかハードルが高いのではという感じです。現実的に考えれば、少数でもいいので独立性の高い取締役を入れて、経営の近くでモニタリングさせるだけでもかなり説得力は高まるんではないかと思っているわけです。

ここで株主の代表として独立性の高い取締役を入れると申しますと、よく会社は株主だけのものじゃないぞ、株主以外のステークホルダーというものがあるんだ、ということを言われます。むしろ、私もそういうことを主張している人間の1人でありまして、それはピーター・ドラッカーさんから直接私も話も聞きましたし、私が信奉する先生であったわけでありますので、このステークホルダー論を高く評価しております。

しかし、日本の取締役会を見ますと、社内取締役ばかりとはいえ、労務畑の出身の方とか営業畑とか、色々な出身の方が役員になっておられる。従業員や取引先の声をある程度代弁するような人が混ざっておられるという形になります。しかし、よく見ると、株主の声を代弁する人はほとんど入っていないということも事実であります。そういう人が1人も入っていないステークホルダー論も完成しないのではないか。つまり、ステークホルダーというのは株主の声もあって、ほかの3者や4者とのバランスだと思います。逆に申しますと、幾ら独立性が高い人が沢山入っていても、先程申しましたような専門的な知識や経験のある人がいなければ、これもコーポレート・ガバナンスは機能しないということで、この辺はバランスが必要というのが私の感触であります。

最後に、東証としての対応を述べます。先程から伊藤先生から3つ、4つボールが投げられました。あまり大きなミットを持っていないんですが、東証としては、上場会社のコーポレート・ガバナンスの面でも、世界の投資家が安心して投資できる市場、これはもうどうしても目指したいというふうに思います。

これは、本当にそう思うのかとか、おまえどういう経験があるんだという方がおられるかもしれませんが、私は、日本の株を買ってくださいと言って、つい去年世界をぐるっと回りました。本当に丸一周しました。そして、ファンドマネジャーの前に座ってまず言われたことは、独立取締役がいない、この点を何とかしろ、そうでない限り日本の株は信用できない、こういう声が多いんです。ただ、独立取締役を強制するかどうかという問題、これは法律マターとして扱われてきた問題であろうかと思いますので、東証だけで考える問題ではないのではないかと。むしろ、あえて言えば、国全体の議論とすべき問題であろうと私は思います。

私は、監査役だけでは、十分に海外や国内の投資家あるいは株主の納得性は得られないと思っておりますし、投資家もそう思っていると感じておりますけれども、これらの問題をむしろはっきり整理した上で、十分な議論を練り上げる必要があるのではと思います。コーポレート・ガバナンスのあるべき姿について議論が収束していないということであれば、やはりこれは納得がいくまでしっかりと関係者間で議論すべきであります。このスタディグループも当然その一環だと思いますけれども、ぜひ大いなる議論をお願いしたいと思います。ましてや独立取締役の義務づけの是非など、今の段階で言うのはちょっと時期尚早かなと私は思っております。

ただ、議論がだんだん整理されて改善の方向性さえ見えてくれば、後は手段の問題となりますので、法令で解決する方法も、あるいは取引所の上場規則で解決する方法もあろうかと思います。真剣な議論の結果、改善策の方向性がまとまって、取引所でルール化するのがベストであるというようなことであれば、我々は喜んで東証としてルール化することを検討したいと思います。逆に、どうも議論がまとまらないで、東証だけで何かやらざるを得ないということであれば、東証でできる範囲でどのくらい満足な効果を得られるかどうか分かりませんけれども、市場関係者として独自の対応ができるかどうかを含め、東証の中で検討するつもりであります。

以上、ご報告終わります。

○池尾座長

大変どうもありがとうございました。

それでは、後半の時間では、ただいまプレゼンテーション頂きました伊藤副座長、斉藤社長のお二方にもご参加頂いて、自由なご議論をして頂きたいと思います。前回と同じく、討議をして頂くに当たっての大まかな論点というのを資料3という形で一応示させて頂いておりますので、少しその項目を意識しながらご発言頂ければというふうに思います。改めてそもそも論みたいな事項が並んでおりますが、前半あたりの1、2ぐらいのところで、要するに今どういうことがポイントになって、どういう方策が考えられるかというあたりについて、ただいまのお二人のプレゼンテーション等も踏まえてご意見を頂ければと思います。どなたからでも結構ですが、いかがでしょうか。

藤巻メンバー。

○藤巻メンバー

斉藤社長からのご提案というかご指摘の、日本の取締役会には株主の代表者が参加していないというご意見。非常に私もそれを感じます。じゃ、アメリカはどうかといいますと、きっと株主の代表というのは数少ない業務執行者、すなわち会長とか社長だと思うんです。どういうことかというと、彼らは大量のストックオプションとかボーナスをもらっていますが、そのボーナスは株式でもらっているわけですから、その業務執行者自身が株主の代表ということになっているかなと思うんです。という点で、日本とアメリカの取締役会が極めて大きい違いがあるなというふうに感じた次第です。よく日本では、向こうの経営者の高額支払いというのが批判されていますけれども、高額なものも株でもらうことによって、彼らが真に株主のために働くような仕組みになっているのかなというふうに感じた次第です。

○池尾座長

どうぞ。

○斉藤参考人

ストックオプションとは全くそのとおりでありまして、どのような発想からこういった報酬システムが発想されたかは、今ご指摘のとおりであります。今回のクライシスを見て、私もああいう形のストックオプションのあり方、あるいはストックオプションのバリューを計算する期間が、大体四半期とか、長くてもせいぜい1年、そういうものであおり上げるといいますか、そういう制度が私はあまり健全とは本当は思いません。

ただ、日本ではないんでしょうけど、ストックオプションを入れてくる背景にはしっかりした哲学があったわけであります。アメリカ的な考えでは、公のパブリックカンパニーというのは私の会社ではありませんので、多くの方々から株、リスクマネーを投入して頂いて事業を行う。その事業が成功して行われているかどうかということをある程度客観的に見せる手法としては、あまりいい言葉ではないですけれども、リターン・マクスマイゼーション、プロフィット・マクスマイゼーションという言葉があったと思います。

それを、株主だけというよりも、社員、従業員、経営者も同じようなベースラインを共有するには、どういうふうにしたらよいのかと考えたんだと思います、そこで報酬を株でやる。そうすると、経営者や幹部も、寄って立つところのバリューセンスが株の価値ということになる。それは、理論的には株の価値は企業価値を表しますから、エンタープライズのマクスマイゼーション、こういう論理で作ったんだと思います。

これが行き過ぎますと、今恐らくご指摘があった部分になると思うんです。やはりアメリカでのストックオプションについては、アメリカでもやり方について幾つか疑問の提示もありますし、修正案も出るだろうと思いますし、問題のご指摘はそのとおりだと理解します。

○池尾座長

ほかいかがでしょうか、ご意見。

もう1回、どうぞ。

○藤巻メンバー

ということは、もしストックオプションを日本にもうまく導入するような仕組みを作ると、株主として会社をモニターする人が多く出てくるということになるんじゃないでしょうか。もうちょっとストックオプションの導入を図るということを日本でも考えるべきなんでしょうか、どうなんでしょうか。斉藤さんにお聞きしたいんですけど。

○斉藤参考人

そうですね、やはり日立さんの経営者の方がすごいストックオプションをお持ちであれば、株主がどういうふうに感じるかという気持ちは非常によくお分かりになると思います。ただ、それがすべてのこういうコーポレート・ガバナンスの問題を解決するかどうか、ちょっと私、今すぐお答えできないです。ちょっと色々検討しなければいけないことがあるような気がします。

○池尾座長

どうぞ。

○八丁地メンバー

会社を代表して来ている訳ではありませんが、社名が出ましたので幾つかお伺いしますが、ストックオプションは、私の勤めております日立製作所は2000年に導入しましたが、2006年に制度としてはもうやめています。あまり有効ではなかったというふうに思っていますが、今斉藤社長から色々なご指摘、ご意見頂きまして、大変勉強になりました。

経団連も機関投資家の方々との意見交換を積極的にしなければいけないということで、随分この半年ぐらい色々な形で重ねてきましたが、斉藤社長がおっしゃるように、要望のご趣旨は、社内出身者だけで構成されている取締役会では、業務執行に対する監督機能が十分ではないのではないかというご認識がある方もいらっしゃるということではないかと存じます。これについては後から話します。

しかしながら、日本の上場企業の大半を占める監査役設置会社では、社外取締役は義務づけられていないながらも、監査役の半数以上は社外監査役との規定があり、この社外監査役が取締役会への出席義務があることになっています。この辺は理解がされていないと存じます。理解をするのは大変だということは分かりますが、やはりさらに粘り強く投資家への説明なり、その機会をもっと増やして、社外監査役が十分に機能を果たしているということを発行会社側からの意見として表明していくことが必要と思っています。

経団連での多くの意見は、役員の社外性については、形式論で会社の内外の議論をするというのではなくて、もう少し実質として考えることが重要ではないかということでありまして、社内とか社外というより、実質にその取締役、監査役が会社の業務執行とか監督機能を本当に果たすことができるということはどういうことなのかということを、これは会社の哲学だと思いますので、開示を通じて株主にご判断頂くのが正しい姿ではないかと考えております。その辺は日本企業としても色々なことをやっていますけども、さらに努力するべきと思っています。

それから2点目は、株主の方、機関投資家の方々との意見交換は随分重ねましたが、私は、社外性、社外取締役の設置ということに対してまとまった意見があったとは感じられませんでした。むしろ、聞けば聞くほど色々な意見があるというのが正直なところであります。例えば、社外取締役というのは専門性をお持ちの方がいいとのご意見をお持ちの方は半分はいますが、全く専門性を持たない方がいいとのご意見の方も、大変多くの日本企業に対する投資をされている方の中にもいらっしゃいます。私どもは、もし社外ということを仮に考えるのであれば、専門性が高いというふうに想定をしておりますけれども、そういう専門性を持たない方がいいと言う方もいらっしゃいますので、この辺はさらに解明したいと思いますし、投資家の方々にも議論頂かなくてはいけないのではないかと思っています。

それから3点目は、ガバナンスの良し悪しというのは何で測るのかということに関しても、ずっと議論されています。この点についても経団連としてその投資家の方々と議論は何度もしましたけども、良い悪いという問題ではないという投資家の方々も随分いらっしゃいます。結局、何度議論しても、実質的に何が専門家であり、何が社外であるかというのは、やはり我々発行会社としては、まだ納得した回答が得られないというのが現状ではないかなと思っています。

そのためには、先程斉藤社長のご発言の中に、例えば営業の取締役がいれば、それはお客さんの、しかも大変有力なお客さんの意見を反映するという形で社外の声を反映しているではないか、調達であれば調達先のそういう声を反映しているじゃないかということがございました。しかし、株主の意見を反映している方がいないのではないかというご懸念がございました。私も数年IRを担当しておりましたけれども、IRの役員は多分多くの取締役会には構成員として入っているのではないかと思っています。企業としては、IRをするというのはむしろ社外の投資家の立場に立って意見を社内に伝える役目でありますので、非常に重要な役目であるということは認識をしておりますし、4月14日に出しました経団連の意見の中間整理におきましても、その辺の客観的な統計は示しているつもりであります。

そういう状況でありますので、現状でもいわゆる社外性を取り込むという形は、制度ではなくて、実質として様々な努力をしているのではないかなということであります。それをさらに自主的に開示をするなり、東証さんと色々な協力をしながら進めるべきではないかなと我々としては考えています。ぜひ、我々としても実質の議論として、ガバナンスの議論はしていきたいと思っておりますし、実質的な開示の努力については、日本企業のガバナンスの哲学ということに関しての開示をしてまいりたいと思っております。

以上です。

○斉藤参考人

一ついいですか。

○池尾座長

どうぞ。

○斉藤参考人

解決の策を一緒に色々探るとか、それはぜひ同じようにやらせて頂きたいと思います。私が言わんとしていたポイントの一つは、監査役という制度そのものがワークしていない、だからだめなんだとか、そういう言い方ではなく、もし本当にワークしているということであれば、データによる物証が必要ではないかということです。

要するに、アカウンタビリティーがなければ、主体的に自分は正しいんだといくら言っても、それを人が正しいと評価しない限りそれは正しくないわけでありまして、特に株式投資ということにおいて日本の株は買えないということです。なぜならば、一つは収益性が悪い、あるいはまさしくコーポレート・ガバナンスがほかの国に比べてファシリテッドされていないということであれば、日本はこういうコーポレート・ガバナンス、例えば監査役制度でワークしています、したがってROEがこういうふうによくなってきているじゃないですか、あるいは犯罪率や違反がこんなに低くなっているじゃないですか、というデータがなければ、どれだけ自分たちはワークしていると言っても説明性がないんですね。

あまり個人的なことを言っちゃいかんのですけど、実は私は日立さんを初め多くの会社のIRを担当しておりましたし、ファイナンスも私自身がアメリカでやりましたから、アメリカの投資家が日本の会社に対してどういうことを言っているかというのは十分知っているつもりです。どこに不満があり、どこを高く評価するかということも知っております。もちろんいいところも沢山あります。

しかし、少なくともこの10年間、欧米人の対日投資というものは、値段を取るという投資があるんですね。ですから、デリバティブとかアービトラージというようなものは東証で外資が65%ぐらいシェアを占めていることはありますが、彼らはバイ・アンド・ホールドの本当の投資ではないわけです。ポートフォリオ投資はやっていません。これは何かというと、例えば今みたいに何かニュースが入ってくる、政府が何かやるかもしれない、そうすると株はひゅひゅひゅっと動く。これに仕掛けをして、その値段を取るという道具に使われているに過ぎない。ボラティリティーを取りにきているんですよね。だから、そういう技能を持っている外資系のシェアが自然に上がるし、そういうコンピューターを駆使している外資系の投資が東証では占めている。

ですが、私が言いたいのは、日本の国家、経済をしっかりバイ・アンド・ホールドによって日本国民みずからが評価し、同時に当然外国人が評価して、10年持っておけば財産が本当に倍になるといったパフォーマンスを日本の企業が出しているかということなんです。アメリカでは確かにここのところで30%、40%下がりました。しかし、この前ジョン・リードと話していたら、彼の買い値は10分の1だと、おれは、これだけ下がっても含み益がまだたっぷりあると、こういうことを言っているわけですが、日本の場合は含み益どころか10年でネガティブリターンになってしまうわけです。それは、企業利益が継続的にインプルーブして上がっていかないから、投資バリューが出てこないんです。そういうものを脱していくシステムとして監査役があるんだけど、監査役で本当に十分なんですか、もしよければ第三者の意見も一緒に入れていったらどうでしょう、というのが我々の考えです。

○池尾座長

いかがでしょうか。

どうぞ、島崎メンバー。

○島崎メンバー

斉藤さんの話、非常に参考になりました。ありがとうございます。

取締役会が社内の取締役だけだとなかなか株主の声が反映されないということは事実だろうと思いますが、実際には先程ストックオプションの話もありましたが、役員の報酬を自社株で払うというような形をとっているケースが増えてきている。例えば退職慰労金などを自社株でもらうとか、最近は随分そういうケースが増えてきていますから、株主と同じ目線で取締役が経営していくという形をとりつつあることは事実だろうと思います。アメリカと同じように、日本もそうなってきているのじゃないかなと思います。

今あった、斉藤さんの色々なご意見の中で、実際に企業経営していてどうかなと、もう少し議論を深めたらよろしいのかなと思った点がありましたので発言するのですが、アメリカの企業に比べて日本の企業が例えばPBRが低いとか、あるいはPERが非常に高いとか、株価が業績と連動していないとか、利益率が低いとか言われていましたが、この要因の一つにコーポレート・ガバナンスの問題があると言えるのかどうか。それは、実証的に証明するのが難しい話なんだろうなと思います。もっと色々とほかの要因があるのではないかと。日本の、監査役会設置会社で社外取締役を入れない会社であっても非常に高収益で、持続的に成長している会社もあるわけで、その要因の特定は難しい問題なので、色々な人から色々な意見が出てくるのがこの問題なんだろうなと私は思うわけであります。

社外取締役をボードに入れるということによって、モニタリングの機能を強化していくということについては、私はそのとおりだろうと思います。日本の監査役制度について、海外の投資家に説明してもなかなか説明し切れないところがあるのも事実ですので、外から見えるような形でこのガバナンスを見直していくということも一つ大事なことなんだろうなと思います。

ただ、現在では、ほとんどの上場会社が海外でIRしているんですよね、相当時間を割いて。恐らくこの六、七年、相当出ていっています。したがって、企業の経営者は、もう行く度に、今、斉藤さんおっしゃったようなことはもう十分聞かされているんですよ。問題があるとすればですよ。しかしながら会社の中には今までのままで運営しているところもあれば、あるいは、やはりそうだということで形を変えていっているところもあるわけです。それは前も言いましたけれども、各社各様のところがあるんじゃないのかなと思います。したがって、義務化するとかいうのはもう少し先の議論にしなければいけないと思いますので、まだ今の状況をどうしていくかという議論をもう少し深めていったらよろしいんじゃないのかなと思います。

以上です。

○池尾座長

関メンバー。

○関メンバー

私は、コーポレート・ガバナンスの問題というか、コーポレート・ガバナンスがなぜ重要なんだというのは、日常的な経営執行の議論と少し違うんではないかなと思っております。コーポレート・ガバナンスが問題になるのは、会社がその会社の成長といいますか、発展ということを考えた場合に、これは別に株主というだけではなくて、相当思い切った経営の路線を転換しなければいけない。例えば合併であるとか、あるいはさっき買収防衛の話が出ましたが、買収であるとか、あるいは事業の再編であるとか、あるいは設備の大規模な廃棄であるとか、そういう極めてクリティカルな問題に直面した時に、一体今の社内を中心とした意思決定機構だけが十分に判断ができるのかということが、非常に重要なガバナンスの問題なんではないか。

それと、もう一つは、どうしてもそのトップ人事を思い切ってかえないと、そういう思い切った会社の経営路線の転換ができないという問題をどう考えるのか。こういうところでガバナンスが働くのか働かないのかということが、私は決定的なんだと思います。だから、日常の経営執行で利益が上がっていないとか、投資家にうまく説明できないとか、そういう議論はもちろんあるんでしょうけど、それは大した話じゃないと言ったら語弊がありますけど、そういう問題もありますけども、基本的には私が言ったようなことなんではないか。そうなると、内部論理だけではやっぱり無理だということになるんだと思うんですね。別に会社の問題だけじゃなくて、政党の議論を見ていても、それから色々な問題を見ていてもそう思うんですけれど、やっぱり身内の論理だけではこれはまともなきちんとした判断ができないというのが本論だと思うんですね。

そういう意味では、私は、ちょっと長くなりますけど、日本のガバナンスというのは今まで何も働いていなかったんではなくて、監査役会とかということじゃなくて、やっぱりメインバンクといいますか、金融機関が相当なガバナンスを働かせてきたと思いますし、一つの事例なんですけれど、恐らく新日鐵といえば、興銀の中山素平さんがいなければ合併は僕は実現できなかったんじゃないかと思いますし、金融機関のガバナンスというものはあった。それから、これは見落としがちなんですが、おおよそ大きな会社はやっぱり従業員のガバナンスというのがあって、経営者なんていうのは従業員の代表に過ぎないわけでありまして、経営者が勝手なことをどんどん、従業員の意向を無視して経営活動をすることはできないという意味で、色々限界がもちろんあるわけですけど、ガバナンスはやっぱり働いてきたんではないか。しかし、それが崩れてきているし、グローバルにそういうガバナンスだけでは通用しないということになっているということなんだと思うんです。

したがって、私は、独立取締役というか社外取締役というのを過半数にするとか、あるいは義務づけるというのは、相当無理があるんじゃないかと思いますが、やっぱり複数の独立社外取締役というのはきちっといるということが望ましい。それは、日常的な経営活動の説明をどうするかとかそういうことではなくて、やっぱりまさかの時のためだということではないか。そうなりますと、じゃ、社外取締役を入れたら、独立取締役を入れたらそれで十分かというと、今までの実例を見ても、アメリカの場合、あの高額な報酬を見たらそうなんですけど、往々にして経営者の用心棒のような人がいっぱいになるということで、CEOの保全を担保するために社外取締役を入れるなんていうケースは枚挙にいとまがないぐらいあるわけでありまして、社内でまともな議論をきちっとしようと思っても、それがなかなかできないというようなことが散見されるというのも事実であるわけであります。

したがって、これは非常に難しいんですけど、やっぱり社外取締役は入れた方がいいというぐらいの柔らかい結論、いい人がおれば必ず入れた方がいいに違いないんですけど、どんな人を連れてくるか分かりませんし、最近社外取締役も多いわけですけど、その人たちの活動実態を見た時に、本当に本来の趣旨から言って役割を果たせるような人なのかなというようなことだって率直に言っていっぱいあるわけですね。そういう議論から言うと、監査役というのは取締役じゃありませんから、斉藤さんおっしゃるように、これは何の役にも立たないということだと思います。

それから、日常的な不祥事の問題がいっぱいあるわけですけど、私は監査役協会の会長をやっていたんですけれども、監査役制度というのは率直に言ってワークしてないと思います。これほど難しい仕事はありませんし、率直に言って、やってみてこれほど虚しいものはないわけでありまして、これはワークしているとは言いがたい。しかし、だからといって監査役設置会社というのは意味がないかと、もうやめてしまったらどうかというふうに思うこともないわけじゃなかったんですけども、やっぱりこれは、監査役制度がだめだということではなくて、どうやってワークするように少しでも改善したらいいかという議論なんではないか。しかし、これで全て万全という訳ではない。監査役というのはしょせん、先程の独立取締役としての役割を果たせないわけですから。

ですから、独立社外取締役もできれば能力の高い人を入れるべきだし、監査役制度にあっても、これをもう少し機能強化するということが大事なんではないか。特に、不祥事の中でも、企業財務報告に関しては、経営者がきっちりするというのは本来ですから、さっき伊藤さんからプレゼンテーションありましたけれども、株主総会で自分の財務報告に対する内部統制の考え方をきちっと説明するだとか、あるいは会計監査人の報酬などは、監査役に提案権を与えて、むしろ監査計画を含めて監査役をきちっと利用して、監査役と公認会計士がきちっと連携を図れるようにするというようなことで、うまくワークすれば会計不祥事は相当防げるんじゃないかと思います。

今は、会計士は報酬を決める人の方を見て、監査役なんか一切一顧だにしませんよ、極端なこと言えば。それで連携を図るなんて言ったって、そんなもの無理な話で、監査計画そのものから監査役が関与していくということにしなければ、これはもうワークしないのは当然のことなんですね。

以上です。

○池尾座長

藤原メンバー。

○藤原メンバー

過去20年間に金融のグローバル化が進み、このグローバル化の流れは東京市場においても顕著に現れ、今や東証の毎日の株取引の6割は外資による取引となっております。何年か前に、日本の上場している企業に社外取締役を置くべきかどうかについて、官と民が話し合った際、上場企業に社外取締役を置くことを義務化する代わりに社外監査役を数名置くという制度が作られたと聞いております。もちろん監査役制度にはそれなりにいいことが沢山あります。しかし、経団連の方たちは、なぜこれほどまでに社外取締役を置くことに対して反対するのでしょうか。私にはちょっと理解できません。日本には素晴らしい技術があり、その技術は海外の投資家に高く評価されています。しかし、残念なことに、海外の機関投資家は、社外取締役を置きたがらない日本企業に対し不信感を持っております。その理由は、社外取締役は株主を代表した取締役だからです。私は、外国人株主の不信感を払拭するためにも、また日本企業独特の会計不祥事を繰り返さないためにも、社外取締役を置いてアカウンタビリティーを高めることが日本の上場企業に求められていることの1つだと思います。しかし、私の意見はこのスタディグループでは少数意見です。国際金融市場で1/4世紀に渡り金融の仕事をしてきた私には、グローバル企業であるにも関わらず、社外取締役を1人も置いていない企業は、透明性と説明責任の点で、非常に損をしていると思います。日本企業を取り巻く環境が変わってきているので、その環境変化に合わせてガバナンスも変えていかなければいけないと私は思います。しかし、こういうことを発言しても、だからといって社外取締役を置く理由にはならないと言われてきております。本日のゲストであられる東証の斉藤社長さんのお話を聞いていて、いかに社外取締役を置くことが大事かについてよく分かりました。しかし、斉藤社長も義務化することに関して必ずしも積極的でないようです。お話を伺っていて、財界の人たちに遠慮しているような印象を受けました。私の受けた印象について、本当にそうなのかどうかご質問としてお伺いしたいので宜しくお願い致します。

私たちは、外国人株主が望むからという消極的な理由からではなく、日本の有識者の委員会として、日本の金融・資本市場をもっと国際化するために今何をすべきかという問に対し、もっと前向きに「答え」を出していっていいと思います。私の場合、答えは外資による株の取引が6割になっている環境変化を考慮し、日本の上場企業が自らのガバナンスをよくするために、株主の代表である社外取締役を最低1人置くことです。経営陣は普段から企業のガバナンスをよくするために努力することが大事だと思います。これはもう時代の要求でもありますし、それをしなければいけないと私は個人的に思います。先程、日本企業はIRをしているから必要ないという意見も出てましたが、IRは1年に2回しか実施しませんし、IRで会える株主は非常に限られています。それゆえ、IRをやっているからうちはコーポレート・ガバナンスをちゃんとやっているんだというのは、間違っていると思います。申し訳ありませんが、私の先程の質問に答えて頂けますでしょうか。よろしくお願いします。

○斉藤参考人

私は性格的にあまり人に遠慮する方じゃありませんので。私のコメントは、私が色々経験してきて、アメリカのいい面も非常に見てきたし、逆に言うと非常に悪い面も見てきた。私もアメリカで日本株を売っていた時には、日本企業のリザーブの厚さが投資家から非常に指摘され、資金を無駄遣いしていると言われまして、この説明に非常に苦慮しました。

しかし、今回の危機などを見ましても、トヨタさんのケースや富士フィルムさんのケースや色々な日本の企業には内部留保が非常にありますけれども、アメリカのそういう指摘というのはすこし教条的な面もあって、社外取締役あるいは一部の特殊取締役によってキャッシュアウトを非常に強く求められる。無駄な金を、これは株主の金だから返せというような考えかと思いますけれども、ただ、例えばトヨタがなぜプリウスを開発したかというのをよくトヨタの方と話すんですが、10年ぐらいかかって、売上もない、利益も出ないところへお金を突っ込んでいく、そして技術者も優秀な人たちをそこへシフトしていた。恐らく、これアメリカの会社だったら相当問題を指摘されてしまって、プリウスの開発は至らなかっただろうと思います。

現実に、この前GMの問題で、エレクトリックカーは相当のところまで開発されていたわけです。ところが、技術者のヘッドの方がおっしゃっていましたけど、ボードメンバーが、いつまでおまえはこんなことをやっているんだ、いつこれは利益になるんだと責められて、結局ギブアップして、途中で止まっているわけですね。そういうことを見ますと、私は日本の経営のいい面も十分保っていくべきだという気持ちがあって、藤原メンバーから見たら非常に曖昧に見えるのかもしれませんが、私なりにお答えしたつもりです。

○池尾座長

藤巻メンバー。

○藤巻メンバー

東京市場が国際化するためには、当然企業のROEが高まっていかなくちゃいけないのはもちろんであると思いますし、それから斉藤社長の方から何度も出ていた言葉で、ROEが高くないからコーポレート・ガバナンスがきいていないんじゃないかというような外国人からの指摘が多いとか、それから監査役制度がうまくワークしていないから企業利益が上がらないんじゃないかという外国人の指摘があるとかいうお話があったと思います。私の理解ですと、コーポレート・ガバナンスという定義、外国人の考えている定義というのは、今も斉藤社長のエレクトリックカーの話にもありましたけども、もっと積極的にいかに企業が利益を上げられるかという体質チェックであって、企業利益を最大化するだけのことをモニターするのが向こうのコーポレート・ガバナンスの定義じゃないかなと私は今まで理解していたんです。

一方、日本でのコーポレート・ガバナンスの話というのは、いかに不祥事を防ぐかとか、いかにミスを起こさないかとかいう、消極的なことしか考えてないというような気がしてしょうがないんですね。ですから、外国人から見ると、日本の企業はコーポレート・ガバナンスをやってないんじゃないか、だからROEが低いんじゃないかというような指摘になるのではないかなと。ですから、外国人の要求と、日本人のそのコーポレート・ガバナンスという言葉ではギャップがあるんじゃないかなと私は普段感じています。その辺もちょっと斉藤社長にお聞きしたいなと思います。

○池尾座長

全部答えて頂かなくて、一問一答で答えて頂かなくても、後でまとまってまたご意見頂きます。

鹿毛メンバーと、それからその次、上村メンバー。

○鹿毛メンバー

私も先程の斉藤社長のお話の通り、一般に日本の取締役会には投資家の代表が存在せず、投資家の地位はステークホルダー全体の中でもむしろ弱いと思います。したがって、私も投資家の立場として、ある程度これをバランスをとって上げていく必要があるという点に大賛成です。この辺が、今問題になっております社外取締役あるいはガバナンス強化の議論の背景として大事な点だと思います。

今日の資料の中の「討議頂きたい事項」の中に、ずっと指摘されているのは、すべてガバナンス機構の問題です。今まで多くの方が述べておられるように、こうした論点についての考え方は非常に様々です。例えば社外取締役がワークするかしないかということでも、アメリカの実例を見てもちっともワークしてないじゃないかという議論もあれば、やはりモニタリングの仕組みとして必要だというように、色々ご意見があります。

ただ、日本が資本主義で、株式市場があって、しかも株式市場がご案内のように、一時を除けば、長期にわたって低迷している。本スタディグループも東京市場の国際化あるいは長年の課題である活性化という点から考えてこの問題を議論する時に、要は、日本企業の株式は内外の投資家に、あまり評価されていない、だからこれだけ株価が長期的にも低迷しているんじゃないかと、こういう問題意識は必要だろうと思います。

その場合は、海外の投資家の考えていること、言っていることがおかしいとか、理屈に合わないとか、あるいは我々とは意見が違う、思想信条に反するということは当然あると思います。しかし、株式をもっと買ってもらおうと思えば思想信条の議論ではなくて、やはりある程度相手の考え方に合わせる必要がある。たとえばコンピューターを売る場合でも、あらゆる商品を売るためには顧客のニーズを見ていくというビジネスのいろはをこんなことで申し上げるのは釈迦に説法ですけれども、こういう観点の議論も必要ではないかなという感じはいたします。

今日も、社外取締役に関して何人かの方から、投資家の非常に強い意見というご指摘もありました。ただ、私は長年投資家の仕事をしておりまして、色々こういう議論の機会もありますが、ファンドマネジャーが本当に社外取締役のいる会社だけを買って、いない会社は買っていないかというと、必ずしもそうでもない。極端な話ですけれども、例えば日本を代表する銘柄で、社外取締役を持たない企業の株も海外投資家から相当持たれている。ですから、投資家の売買動機の中で、ガバナンスの要件も大事な要件ではありますけれども、やはりファンドマネジャーもプロですから、最終的には将来の業績向上、株価の向上、リターンの向上というところに注目して、徹底的に分析していると思います。その中でこのガバナンス機構も、幾つかある条件の一つだと考える方が現実的でしょう。したがって投資家の立場からも、理屈としてこれだけをよくすれば業績が上がるかどうかと考えるのは短絡的だろうと思います。

ただ、なぜかこの社外取締役の問題は、今までも色々な方のプレゼンテーションにもあった通り、現時点では、特に海外の投資家に聞いた時には必ず、真っ先に出てくるぐらい非常にシンボリックな日本の問題点になっています。つまり、日本の経営に関してモニタリング機能が弱いと批判する理由としての、いわばシンボルのような扱いになっています。

この点を、株式を実際売買しているファンドマネジャーに本気で聞いたら、賛成しない人も私は多いと思いますし、理論的にどうかという議論はあるでしょう。とは言えややシンボル化しているということからいくと、ある程度これに対して我が国、政府なりあるいは経団連のようなところで、海外の投資家から見た一つの問題提起に対して、日本国としては本気で対応するよというメッセージを出せば、これは斉藤社長がおっしゃったように、恐らくある意味では最大の株価対策になるんじゃないかという感じはいたします。

というのは、個別の株はあくまで個々の企業を分析して買うわけですけれども、例えば海外投資家が国際的なアセット・アロケーションの中で、日本株を増やすかどうか議論する時、我が国からガバナンス強化というメッセージが出れば、私は日本にとってプラスに働くのではないか、と思います。これはあくまで形式的なメッセージ性のものであって、これが理論的、本質的にきくかきかないかという議論とは別の話で、そこでそういうことを議論してもあまり意味がないと思います。

したがいまして、今、何人かの方もおっしゃいましたように、社外取締役導入を法的に義務づけするかどうかとはちょっと別の話ではないかと思います。現実には、社外取締役を持たなくても業績の高い企業もあるわけです。業績が高い企業は投資家から買われているわけですね。ですから、投資家から見れば最終的には業績、株価ですから、やはり業績にあまり自信のない企業こそが、こういったものに対応する意味があるという感じはいたしますので、この取り扱い、義務づけの仕方は、私は実質的に効果のある方法を検討されればいいんじゃないかと思います。

それから、もう一つ、不祥事の問題が幾つか、何人かの方からも指摘されました。経団連のレポートでも不祥事対応がかなり前面に出ています。私の個人的な感じでは、不祥事をガバナンス機構が有効に規制、コントロールできるか、という点については、海外の専門家の間でも、あまり楽観的ではありません。実はエンロンやワールドコム事件の後、2006年にエール大学で、不祥事とガバナンスの関係というシンポジウムがあって、私も出席しました。そこで出てきた結論というのは、結局エンロンでもワールドコムでも不祥事は社内的には完璧に既知の情報であったという点です。

しかし、それが社外取締役を含めた外部の人間、モニタリング・システムに全く乗らなかったとわけです。これに関して出席していたアメリカの大企業関係者は、結局CEOや社外取締役といった機構が問題を、特に会計上の不祥事を見つけることは極めて困難で、その唯一の対応策というのは結局内部告発制度だと強調していたのが、非常に印象的でした。要は、社外取締役やボードのモニタリング機能の中に不祥事の発見までも、特に個別の財務的不祥事の発見まで義務づけた場合に、どこまでワークするかという点に関しては、残念ながら疑問があると思います。

むしろ、そういうことではなくて、私は関メンバーのおっしゃったような、日常的な問題解決よりは、企業の存亡に係るような重大な問題のある時に、社外の目も含めて方向性を決めるようなモニタリング機能ということの方が、社外ボードあるいは社外機能の大きな役割、実質的な役割ではないか、と思います。

以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。

上村メンバー、おねがいします。

○上村メンバー

経団連という話が何度か出ておりますが、斉藤社長は証券会社のご出身で、バイ・アンド・セールでさんざんもうけてきた方だと思うんですが、その方がバイ・アンド・ホールドだと言っておられるわけです。これは商売にならない話ですね、ある意味では。元新日鐵におられた関メンバーも、1人でも社外取締役を置くべきだとおっしゃっている。皆変わろうとしているのですね。そういうときに、経団連はなぜ1人か2人の社外取締役も入れないということにそんなにこだわるのか。その方がむしろ不思議で、何か変な感じを受けるんですね。

そもそも経団連が10年、20年、30年後の日本の企業社会のあり方を想定した長期的な視野に立った意見をきちっと提示しうる、そういうガバナンスがあるのでしょうか。私は、以前、私の弟子に経団連の戦後の商法改正意見を全部ずらっと一覧表にしてもらったことがあるんですけども、反対したことが数年後に実現する歴史ですね、ある意味では。どうしても現場の短期的な要望意見が中心なのではないか。今回の件も、どうして反対にこだわるのかと思います。社外取締役については、取引所の規則であるか、法律かという問題はあろうかと思いますけれども。私は、時々経営者の前で話すときに、私が経営者の方に呼ばれることはめったにないんですが、もちろん経団連には呼ばれませんけれど、そこで白紙を渡して、社長さんの経営権の根拠は何か、について20分ぐらいで書いてくださいという問題を出すわけです。

なぜ自分に経営権があるのかということを説明できなければ社長をやれないはずですから、それを書いてくださいと言うのですが、普通は全く書けないのです。一生懸命書いた人でも、自分を選んだのは取締役だ、取締役を選んだのは株主総会だ、株主総会は会社の所有者の集まりだ、つまり所有が根拠だと、遡っていくわけですね。私はこういうのを血統書論と言っているのですが、最後に何か所有というような権威のありそうな血統書が見つかるとほっとするのですね。

しかし、経営者というのは選任されて1週間後に理由なく解任されても文句は言えないわけでして、実は大事なのは何かというと、彼にとって比較的厳格な、あるいは彼にとって煙たい存在であるガバナンスが、たった今こぞって彼を信認しているという事実にこそ経営権の根拠はあるということなんですね。やはりここでは経営権の正当性の根拠という大事な問題が問われているわけです。株が上がったとか上がらないとか、不祥事が増えたとか増えないとかそういうことは原理的には関係ないと思います。きちっと自分の経営権の根拠を説明できるのかどうかが一番大事なことだと思っております。

そういう意味で、1人や2人の社外取締役を入れた方がむしろ経営権の根拠は強固なものになりますし、安心してむしろ大胆な経営判断もできる。そういうプロセスがあれば後で代表訴訟などがあっても、彼にとってはプラス要因になるはずです。それが一つの感想です。

それから、監査役の話ですけれども、これは前に申し上げたことですので繰り返す必要はないかもしれません。監査役は取締役会の構成員でないので権限が足りないと斉藤社長もおっしゃっていましたが、これはすぐにはできないかもしれませんけども、委員会設置会社と監査役設置会社のコンバージェンスを何年か後に実現させることを考えてはいかがでしょうか。ドイツは監査役会って訳していますけど、英語だとスーパーバイザリー・ボードでアメリカの取締役会と同じですね。ですから、日本もみんな取締役会を監査役会と名乗って、日本の制度はドイツと同じスーパーバイザリー・ボードですって、言えてしまえば、今の監査役さんは全部スーパーバイザリー・ボードの独立メンバーないし社外メンバーであるということになり、一気に日本の社外の比率は飛躍的に高まります。対外的なガバナンス評価の数値も一気に改善します。監査役、監査役って言っていたけども、今あれは実は社外取締役なんです、って言ってしまおうというのですね。取締役会を監査役会と呼ぶなんてとんでもないと言うことであれば、委員会等設置会社の監査委員会を監査役会にして、監査役を一斉にこの構成員として位置づければ、同じ効果があります。そのぐらいの戦略を立てて、一気に外国の評価を変えさせていくというようなことも考えてはどうなのかと思います。

あと、伊藤さんおっしゃった報告書についてですが、ちょっと個別にはもう時間がないので申しませんけども、全体として金商法のルールを会社法がどう受け止めるかという話が非常に多いのですね。内部統制の問題もそうだし、有価証券報告書の問題もそうですし。有識者懇談会、私そんなに毎回出られなかったんですけれども、何か公開会社法の話はあまりしないみたいな雰囲気がありまして、でも、そこで話していることは、公開会社法の話なのですね。私は公開会社法というのは普通の会社法の話だと思っていますので、実は金商法のルールを会社法がどのように正面から受け止めるかという話ばかりと言ってもよいのです。ここに監査役が介入せよとか、有価証券報告書を株主総会の報告事項にせよとか、適時開示にせよとか、皆そうですね。私が前回報告したことを繰り返しては申し訳ありませんのでこの程度でやめておきますが、率直な私の感想です。

○池尾座長

すみません、ちょっと時間がなくなってきましたので。他に発言を希望される方はいらっしゃいますか。

八丁地メンバー、どうぞ。

○八丁地メンバー

私も経団連のこの中間整理をした責任者といたしまして、上村先生と同じ趣旨で日本の世界における国際競争力とか、日本企業の長期的な競争力をどのように発信し、それを世界にどのように貢献できるかということを、経団連は設立以来、追求していると言えると思います。この件に関しましても、もちろんここにいらっしゃる方の半分ぐらいの方とは既に議論をさせて頂いておりますし、必ずしもクローズで、企業だけで、しかも経団連企業だけでやっているということはございませんので、ぜひご理解賜りたいと思います。

それから2点目は、先程、東証さんとの関係について藤原メンバーのご指摘がありました。私は経団連としても、もちろんここにいらっしゃる金融庁さんでも経産省さんでも、それから東証さんでも、日本の企業の価値、日本自体の競争力、日本自体の世界におけるポジションをどう上げるかと、そして世界に貢献するかということにおいては、緊張感のあるパートナーとして進めているわけでございますので、その点での信頼は持って頂きたいと思うわけであります。

それから3点目は、社外性ということは大変広い概念であろうかなと思っています。社外性を考えずに企業経営をしている経営者は、私は皆無であると思っております。しかしながら、その社外性を何か形式で定義をされるということはいかがなものかということが、発行企業側の大半の議論であると思うわけであります。現在でも、ガバナンスを含めた企業経営に取り入れている社外性の要素は沢山あるのではないかと思います。それをもっと積極的に開示をして理解を求める方が大事であって、形式的に、日本×、アメリカ○、シンガポール○という議論に落ちていくのはどうしても非常に割り切れないところがあるというのがこの中間整理の主張であります。ですから、目指すところは同じであると思います。そのためにはぜひ議論をし、協力をさせて頂きたいという理念を改めて確認のために述べさせて頂きたいと思います。

○池尾座長

では、ありがとうございました。

それでは、最後にお二人の参考人の方から、それぞれ一言ありましたら。伊藤副座長。

○伊藤参考人

一言だけ言わせて頂きます。今日は、久しぶりにこの議論に参加をさせて頂きました。大変若い方ばかりで、私も昔は経団連で国際会計部会長を務めていたのですが、世代が大分変わったという印象を持った次第です。また、実は斉藤社長とは昔から大変親しい間柄でして、色々とお願いをさせて頂きました。

今日の私の立場は、江頭先生の代わりだということですが、ここからは少し個人的な見解を言わせて頂きますと、今日は関メンバーは本音を言われましたが、その本音の点について私は大変賛成なんです。それは、現状では、斉藤社長もおっしゃいましたけども、日本の監査役が本当に責任をもって機能しているのかということは外から見たら大変見にくい、分からないということです。その最大の原因は、経営者に役員人事を握られて、報酬も握られているところです。関メンバーも指摘されたように、会計士も含め誰が監査役の方を向きますかというところにあるわけです。

ですので、監査役の歴史は法制的には強化されてきましたが、私に言わせれば目が入ってないと。したがって、今の監査役にその目を入れるような制度設計をしたときに、彼らは本当に喜ぶかといったら、いや、逃げるかもしれないです。そんな責任負わされたら困ると思うかもしれないのです。しかし、このままでいくと、日本のガバナンスというか、社長を律するような体制が構築できないではないかと、機能しないのではないかというところが問題ではないでしょうか。

したがって、本当に機能させるのであれば、ある程度、監査役制度というものを、現行の姿からブレークスルーしていく必要があるのではないか。そういう意味では、この有識者懇談会はそういう趣旨も込められているのですが、それができないとすれば、監査役はもう要らないということにもなりかねない。

私も2年間だけ、実は副社長の後、監査役を頼まれてやっていたのですが、そのとき、私は若い社長に条件を言ったのです。「何を言ってもいいな、どんな会議でも出るぞ」と。「君よりも怖い人間でしか俺はやらないぞ」と。「その代わり何年もやらないよ、2年か3年で結構ですよ」と。こういうことで、それは飲んでもらったわけです。

私は住友電工という会社にいたのですが、筆頭副社長で子会社に行くとちょっと問題だから、周囲はみんな若い人になりますから、本体に監査役で残るというシステムを作るわけです。そして、社長はそういう人が常にいて、大変怖いんですよ。常に怖いけれども、我々絶えずは言いませんけど、背中をじっと見ているぞと。だから、そういうようなシステムをやはり自分から作るかどうかという、そういう経営者を育てなくてはいけないし、それはやはり経営者の資質の問題であり、会社の社風が為すところです。

しかし、そういう理想論を言っても仕方がないのですが、ここに出席されているメンバーの会社は問題ないと思いますが、問題を起こす会社というのは、やはり経営者あるいは社風が問題なのです。そしてまた、経営者の言いなりになるような監査役を選ぶのです。ですから、ある程度、法制的な面で少し制度をブレークスルーすれば、それに伴って監査役の資質も向上し社風も変わっていくのです。例えば、その一つが、先程の話にもあったように、ねじれの問題を解消すれば、監査役に決定権を与えるような仕組みにすれば、社長としては、そうした決定権を持つ監査役ならば、それ相応の人物を選ばなくてはならなくなるし、社外監査役でもそれ相応の人に来てもらわなくてはならないと、社風がそういうふうに変わってくるのです。

そうしたことが今回の有識者懇談会における関メンバーの問題提起にも随所に入っていまして、ここで更にもう一段、ブレークスルーをさせて頂いて、制度設計にまで踏み込ませて頂きたいと。今日は岩原先生や上村先生という大先生もおられて恐縮ですが、一緒に検討させて頂いて、本当によく話をさせて頂いたのです。やはり最低限でも法制面をブレークスルーしないと、ガバナンスは動かない、機能しないということを申し上げておきます。

以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。

○斉藤参考人

要は、日本の社会にコーポレート・ガバナンスというものは何百年もあると思います。ある調査によると、日本で200年以上の歴史のある企業というのは3,000社以上あるわけですが、アメリカは歴史がありませんけれども、実は歴史のあるヨーロッパ全部で3,000社です。100年以上だと27万社か何かあるんですね。こういう国は世界でも非常に珍しくて、まさしくコンティニュイティーといいますか、経営者がしっかりゴーイング・コンサーン・バリューを家訓、いわゆるファミリークリードとしてコーポレート・ガバナンスを働かせて、お客様に対するサービス精神あるいは取引先に対する信頼度というものをしっかりしてきた国だと思います。

ですから、この国には、実はコーポレート・ガバナンスがあるんだと私は思うんです。けれども、ファミリーコントロールのクリードをベースとするコントロールというのは、どちらかというと徒弟制度を守るような、技術が外へ流れないことがベースになっていますから、ドイツや日本にあるわけですけれども、19世紀に入ってアングロアメリカンが現在の株式会社制度を作ってきた段階で、そういうものと違う組織を作ったわけですね。

全く全然関係ない人がその投資をしてみる。それがそのリターンを得る。そのために、おれが投資したお金を乱用してないだろうな、そういう感覚というのは日本には基本的にはないわけですよね。ところが、アングロアメリカンにはそれがあって、そこで作ってきたものが今に至るコーポレート・ガバナンスです。要するに、ただ、その事業を見て、この事業は成長するだろう、この事業はきっとリターンを生むだろうと思ってリスクマネーを投資した人に対する説明責任というものを求める。それをちゃんとすることによって、多くのリスク資金を集めて、企業をどんどん大きくしていこうということで、アングロアメリカンの歴史が成功してきたんだと思います。

私どもはそういう2つの文化をたまたま共有しているような民族で、特に今海外、アングロアメリカンが日本に投資する時に、説明要素が足りないよと言っているのに対して、日本人が、説明はやっているじゃないか、おれたちはちゃんとやっているじゃないかというのは、このファミリークリードをベースとする文化があるんだと思うんですね。それを幾らお互いに主張しても得るものが非常に少ない。だから私は何らかの、妥協と言うと悪いんですけど、コンプロマイズをして、やっぱり世界が、分かりました、日本の私どもが投資したリスクマネーはちゃんとした事業目的に、あるいは技術開発に使われてリターンを生んでいますねという、その説明を得られるようなファシリティーさえ作れば、私は高く評価されると思うんです。この日本の国、あるいは技術、企業というものは。

株価で言うといけないのかもしれませんが、私は株の世界の者ですから今のことを株価で言うと、今の日本の企業は、本当はちゃんとやって頂いたら、倍ぐらいのバリューが簡単に出てくると思うんです。何でこんなに低いんだと。日本は世界の中で、時価総額277兆円しかありません。バブルの時は、良かれ悪しかれ630兆円あった国です。3分の1に縮小してしまっているんです。なぜこんなことになったんだということを我々は考えて、その対抗策を何か考えようということでお話を申し上げたということであります、余計なことですけど。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

大変ご熱心な議論を頂きまして、誠にありがとうございました。まだまだ尽きないんですが、時間が過ぎてしまいましたので、本日の会合はこれまでにさせて頂きたいと思います。

最後に、事務局から次回の日程等の連絡を頂きます。

○池田市場課長

次回でございますが、5月27日水曜日の午後1時半からということでセットをさせて頂いております。どうかよろしくお願いいたします。

議題等につきましては、後日改めてご連絡をさせて頂くこととしたいと思います。

どうもありがとうございました。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、これで散会といたします。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局市場課(内線3615)

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