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金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第2回)議事録
日時:
令和7年10月15日(水曜)16時00分~18時00分場所:
中央合同庁舎第7号館 13階 共用第1特別会議室 ※オンライン併用
【神作座長】
皆様おそろいでございますので、ただいまより市場制度ワーキング・グループの第2回会合を開催いたします。皆様、御多忙のところお集まりいただき、誠にありがとうございます。
それでは、早速でございますけれども、議事に移らせていただきます。
初めに、証券取引等監視委員会より、前回委員から御質問のあった市場監視へのデジタル技術の活用状況、不公正取引の抑止に係る啓発活動、海外当局との連携状況について御説明をいただきます。続きまして、日本取引所自主規制法人から、市場監視に係る取組みや不公正取引の抑止に係る啓発活動について御発表をいただきます。最後に、事務局より、本日御議論いただきたい事項に関する論点について御説明をいただきます。その後、メンバーの皆様に御討議をいただくという流れで進めさせていただきます。
それでは、早速でございますけれども、証券取引等監視委員会より御説明をお願いいたします。
【水谷証券取引等監視委員会事務局総務課長】
証券取引等監視委員会総務課長の水谷でございます。どうぞよろしくお願いします。前回会議における委員の皆様からの御質問事項、コメントへの回答を中心に御説明させていただきます。
まず、市場監視へのデジタル技術の活用状況についてです。坂委員、鈴木健嗣委員、武田委員からコメントをいただきました。
不公正取引の検知につきましては、監視委員会では、自主規制機関等と連携しながら市場に関する様々な情報を幅広く収集しております。資料の1ページを御覧ください。上段のところでございますが、市場監視業務の高度化・効率化推進の観点から、デジタル技術を活用した膨大な注文・取引データの効率的・効果的な分析や、SNSやインターネット上の様々なデータからの不正の兆候発見を進めております。
また、デジタル技術の進展に対応するため、デジタルフォレンジックによるデータの保全・解析・分析業務に必要なデジタルフォレンジックツール、情報システムの強化を進めるとともに、デジタルフォレンジックツールに対応した職員の技術向上を図っております。
今後につきましても、監視委員会ではデジタル化の進展などの市場環境の変化や国内外の金融技術の動向等を踏まえ、引き続きデジタル技術を活用した市場監視業務の高度化・効率化の推進やデジタルフォレンジック技術の一層の向上などに向けて取り組んでまいります。
その次の項目ですが、そのページの下段のほうを御覧ください。不公正取引の抑止に係る啓発活動についてです。前回会議では、鈴木健嗣委員から、監視委員会の検知能力を積極的に発信していくべき、武田委員からは、多様な人が投資家として市場に参加する中で、悪意のない投資家を守る観点からの周知・啓発も必要とのコメントをいただいております。
監視委員会では不公正取引の未然防止の観点から、多様なチャネルを通じた情報発信を実施しております。具体的には、1つ目のポツでございますが、個別事案や事例集の公表において、事案の意義、内容及び問題点を明確にした、具体的でわかりやすい情報発信を実施しております。個別事案の勧告時の記者レクにおきましては、事案の意義として、少額の取引であっても、また、複数の借名口座を用いた取引であっても課徴金の対象になることや、上場企業の内部管理態勢の重要性などについて丁寧に説明するようにしております。また、ここの鍵括弧でくくっております「事例集」については、毎年作成、公表しているものですが、事案の意義や概要図、問題点、市場関係者への注意喚起等を網羅しているほか、コラムを活用して一般にも分かりやすく情報提供をしております。
3ページを御覧ください。こちらは事例集におけるコラムの例でございます。まず、左のコラム①ですが、インサイダー取引後に起こる数々のデメリット、課徴金、刑事罰に加えまして、インサイダー取引がばれるのではないかという不安や後悔の念、勤務先での降格・懲戒解雇等の処分や社会的信用失墜について示し、いかにインサイダー取引が割に合わない行為かということを啓発しております。
右のコラム③ですが、少額の取引や他人名義の証券口座を利用した取引についても調査の対象となり、これまでも多数の課徴金勧告を行っており、見逃されることはないことについて啓発を行っております。
4ページです。左のコラム⑥では、親族や知人等の会話で何気なく話したことでも、その内容によってはインサイダー取引規制の対象になり得ること、会食の場などで気が緩んでしまい、インサイダー情報を伝えたり取引を推奨したりすることで、結果として自身のみならず、友人、同僚、取引先等の人たちが行った取引が調査の対象となり得ることについて啓発しております。
右側のコラム⑭では、監視委員会がインターネット上の投稿や書き込みにより風説を流布する行為も見逃すことなく、調査の対象としていくことについて注意喚起をしております。このようなコラムも活用しながら、初心者に分かりやすい啓発に努めております。
お戻りいただいて1ページの下段の2つ目のポツでございます。先ほど紹介しました事例集等を活用しつつ、市場関係者、学生に対する講演や関係専門誌への寄稿を実施しております。
3つ目のポツでございます。ウェブサイトやXを活用して、勧告等の事案や各事案の意義等を要約した「市場へのメッセージ」を配信しております。啓発活動につきましては、今後も、監視委員会では国内外の投資家や市場関係者等に取組が広く理解され、市場規律の強化や不公正取引の未然防止につなげられるよう、引き続き多様なチャネルを通じた情報発信の充実に努めてまいります。
最後に、2ページ目の海外当局との連携状況です。こちらは坂委員、齊藤委員からもコメントをいただいていたところでございます。
監視委員会では、クロスボーダー取引の拡大に対応する観点から、海外当局と様々な連携を進めております。具体的には、1つ目のポツにありますように、MMoUに基づくクロスボーダー取引に関する情報交換を積極的に実施しております。2つ目のポツでございますが、IOSCOの活動への積極的な参加、3つ目のポツでございますが、海外当局との人的な交流、こういったところを通じて、市場監視に係る最新動向や知見・経験の共有、調査、検査及び法執行面での連携を推進しております。
少し具体的にご説明いたします。IOSCOにつきましては、例えば本年3月にIOSCOの法執行及び情報交換を担当する代表委員会の国際会合を東京で開催しまして、様々な国や地域の証券当局間のさらなる連携強化に貢献したところでございます。
人的交流につきましては、これまでアメリカ、イギリス、香港、タイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリアの当局に監視委員会職員を派遣してきたほか、IOSCO事務局や外国当局主催の研修等に積極的に参加しております。市場のグローバル化に伴いクロスボーダーの取引が拡大する中、市場の公正性・透明性を確保するには、海外当局との情報交換等を通じて連携することが非常に重要だと認識しております。今後につきましても、こうした観点から、海外当局との間でのMMoUに基づくクロスボーダー取引に関する積極的な情報交換のほか、海外当局との意見交換や人的交流等を通じて当局間の連携強化に努めてまいります。
私からの報告は以上でございます。ありがとうございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、日本取引所自主規制法人より御発表をお願いいたします。
【日本取引所グループ】
日本取引所自主規制法人で売買審査を担当しております市本と申します。今回はプレゼンの機会をいただきまして、ありがとうございます。私からは、当法人における不公正取引に係る市場監視・未然防止活動の概要について御説明をいたします。
まずは市場監視についてです。4ページに、日本取引所グループ、JPXの全体像をここに示しております。その中で私ども自主規制法人の位置づけや役割について簡単に御説明をします。
図にありますとおり、JPXは、株式市場を運営する東京証券取引所、先物・オプションといったデリバティブ市場を運営する大阪取引所などから構成をされておりますが、そのうち自主規制を担う当法人は、金商法に基づく会員組織の法人として設立され、東京証券取引所と大阪取引所から自主規制業務の委託を受けております。これは、自主規制業務を取引所から独立した組織が担うことにより、中立的かつ市場に近い立場で高い専門性を発揮しながら実効性の高い業務遂行を実現し、市場の公正性・透明性・信頼性を確保することを目指したものでございます。私どもでは、主な自主規制業務として、上場審査、上場管理、売買審査、考査の各業務を行っております。
5ページで売買審査の業務概要について御説明いたします。当法人が行う売買審査業務は、大きく、相場操縦取引に係る審査とインサイダー取引に係る審査の2つに分かれます。いずれにおいても不公正取引やその疑いのある取引を発見した場合は、全て証券取引等監視委員会に報告しております。また、不公正取引の未然防止の観点から、市場関係者に対して売買審査結果に基づく注意喚起ですとか、コンプライアンス支援活動も併せて実施しております。これらについては、後ほど御説明いたします。また、取引所における市場監視業務として、リアルタイム監視を行っている東証や大阪取引所とも必要に応じて連携しております。
6ページで売買審査のフローについて御説明いたします。インサイダー取引審査も相場操縦審査も基本的なステップは同様でございます。まず、法令上の重要事実が公表された銘柄ですとか、あるいは当法人が開発した売買審査システムによって抽出された銘柄などについて売買状況を確認します。その後、網かけのとおり、証券会社から委託者の情報を入手するなどして取引内容の調査を行い、その結果、より詳細な分析が必要な事案については、審査銘柄として抽出してより詳細に審査を行っております。このように、売買審査においては「調査」と「審査」の2段階で対応しております。
7ページには、売買審査の実施状況を載せております。インサイダー取引については年間約2,000件、相場操縦については年間約1,000件の調査を行っております。なお、昨年度のインサイダー取引の審査案件の内訳を見ますと、公開買付けが最も多く、業務提携、決算に関する情報と続いております。
8ページを御覧ください。皆様の御認識のとおり、ITの飛躍的な発展を背景として、アルゴリズム取引やHFTと呼ばれる取引の拡大によって市場構造に大きな変化がもたらされております。市場環境が変化する中でも投資者が安心して取引できるよう、不公正取引の検知基準の見直しを行うなど審査体制を強化しております。その一環といたしまして、2018年3月から、当時としては世界に先駆けて人工知能、AIを相場操縦の調査に導入しております。取引手法は年々進化してまいりますので、不公正取引の形態も継続的に学習させ、マーケット環境の変化に即した売買審査業務の強化に取り組んでいるところでございます。
次に、不公正取引の未然防止活動について、10ページで御説明をいたします。当法人では、売買審査の結果、取引所の取引参加者である証券会社や上場会社が法令諸規則に違反している又はそのおそれがあると認められる場合など、不公正取引の再発防止又は未然防止の観点から、注意喚起を行ったり、社内体制に係る再点検の要請をしております。そのほかにも、取引参加者における売買管理体制の整備に加え、顧客の注文状況が将来的に違反行為につながるおそれがある場合には、売買実態の説明を行っております。
11ページを御覧ください。第1回の最後にも少し御紹介しましたが、当法人では、証券会社や上場会社におけるコンプライアンス支援を推進することを目的としたCompliance Learning Center、通称COMLECを立ち上げて、未然防止活動を行っております。COMLECの具体的な活動は次ページで御紹介いたします。COMLECによる活動のほかにも、不公正取引に係るガイドラインの制定、不公正取引事例集の提供、インサイダー取引に関する通知、アンケートの実施やその結果報告など様々なサービス・情報を提供しております。
12ページでCOMLECの活動状況について御紹介します。証券会社の売買審査担当者向けに不公正取引事例などを解説するCOMLEC売買審査カレッジですとかインサイダー取引規制セミナーの開催や、上場会社などへの研修講師の派遣を行っております。講師派遣については、昨年度、延べ197回実施するなど精力的に活動しております。また、右側にありますとおり、売買審査関連の相談を受け付けておりまして、昨年度はインサイダー取引関連の問合せを中心に478件の問合せに対応しております。今後もこうした活動を通じて、上場会社や証券会社はもとより、全ての市場関係者の皆様に対して、不公正取引をはじめとする法制度に関する知識を習得する機会を提供し、市場の公正性確保に貢献してまいりたいと思っております。
私からの説明は以上でございます。御清聴ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、事務局より御説明をお願いいたします。
【太田市場機能強化室長】
市場機能強化室長の太田でございます。それでは、お手元の資料3に沿って御説明いたします。
1ページ目、目次でございます。ⅠからⅢが建議に関連する検討事項でございます。Ⅳがその他の論点でございます。この順に説明してまいります。
1つ目がインサイダー取引規制の対象者の範囲拡大等についてです。3ページ目、第1回のワーキング・グループでは、会社関係者・公開買付者等関係者から内部情報の伝達を受けた者(第一次情報受領者)にとどまらず、第二次以降の情報受領者も規制対象とすることを検討すべきとの御意見があった一方、規制内容が明確であることが重要である、第二次情報受領者を規制対象とすることについては慎重な検討が必要になるといった御意見があったと承知しております。
次のページ、現行法では、第二次以降の情報受領者は処罰の範囲が不明確とならないようにするべく、規制対象とされておりません。この点、第二次以降の情報受領者まで対象者を拡大しなければ、情報源に近い立場にある者による取引が規制対象から漏れてしまうおそれをどう考えるかといった点が論点になると考えられます。
その下の四角でございますが、情報伝達・拡散の手段が変化していく中で、規制対象を随時拡大することは、規制が後追いになりかねないことや複数者を介在させることで規制を潜脱するおそれがあることも懸念されるものの、会社関係者・公開買付者等関係者が内部情報を伝達する意思を持って当該情報の伝達を行った相手方については、他者を介在させた伝達であっても第一次情報受領者として捉える解釈をしていること、もう1点、米国・EUにおいても、無限定に第二次以降の情報受領者を規制対象としておらず、実質的には規制の広がりは限定的であると考えられること、また、情報源と直接の関係がない場合も規制対象とした場合には、噂や推測による情報との峻別が難しくなり、情報受領者が不安定な立場に置かれることになり得るほか、噂や推測であると認識していたとの抗弁も容易にされ得るため、立証も困難となり得ることといった点を踏まえますと、第二次以降の情報受領者を規制対象とすることは、現時点では慎重に考える必要があるのではないかとしております。
その上で次のページ、公開買付者等関係者の範囲拡大についての提案でございます。インサイダー取引規制の趣旨は、上場会社・公開買付者等の内部情報を知り得る特別の立場にある者が、当該情報を知り得ない一般投資家と比べて著しく有利な立場で取引を行うことを規制することで、市場の公正性・健全性に対する投資家の信頼を確保することにあるとされております。現行の公開買付者等関係者によるインサイダー取引規制においては、公開買付者等の内部情報を知り得る特別の立場にある者を公開買付者等関係者として、以下のような公開買付者等の一定の関係者(公開買付者等の役員等、会計帳簿閲覧請求権者、法令に基づく権限を有する者、契約締結者・交渉者)、それから、発行者側といたしましては発行者とその役員等が規定されております。
次のページ、公開買付け等におきましては、公開買付者等及び発行者を中心として、専門的知識や膨大な作業の必要性により、これらの者の関係者が多く関与することになるところでございます。発行者の一定の関係者についても、その役員等に限らず、未公表の公開買付け等事実を把握する蓋然性があると考えられます。そのため、これらの者につきましても、役員等と同程度に公開買付け等事実への近接性があると考えられますので、これらも公開買付者等関係者として規制の対象とすることが適当ではないかとしております。
具体的には、下の図の見直し案の赤い字で記載したところにございますような者を公開買付者等関係者として追加してはどうかとしております。また、その下のほうに記載しておりますが、その他、公開買付者等・発行者が投資法人である場合においては、資産運用会社・親会社の一定の関係者も公開買付者等関係者に含めることとしてはどうかとしております。
次は、参考までに公開買付けに係る関係者の相関図でございます。この図にありますような対象者についても、その周りの一定の関係者、具体的に例えばここの図に記載されているような者を含めるといった趣旨でございます。
8ページを御覧ください。インサイダー取引についてもう一つ、親会社の定義の見直しについての提案でございます。インサイダー取引規制上、上場会社・公開買付者等の親会社の関係者は、会社関係者・公開買付者等関係者として規制の対象とされているところでございます。この親会社につきましては、直近の有報等に「親会社」として記載された会社といった定義がされております。有報等に記載されるべき「親会社」については、他の会社の意思決定機関を支配している会社とされております。
現行のように有報等の記載に依拠して「親会社」を定義することによりまして、幾つか問題が生じております。下の①に記載しておりますが、現行の定義では有報等の提出後の支配の獲得が反映されないことになりますので、直近に上場会社・公開買付者等の支配を獲得した会社の関係者が、次回有報等を提出するまで会社関係者・公開買付者等関係者といった規制の対象とならないといった問題がございます。
②です。公開買付者等が有報等の提出会社でない場合には、有報等に記載された「親会社」は基本的にないといったことになる問題もございます。この場合、「親会社」には該当しないことから、実際に公開買付者等を支配するような会社に取引所での適時開示を行わせたとしても、それがインサイダー取引規制上の「公表」をしたことにはならないといった問題ですとか、その下の注に記載しておりますような、公開買付者等を支配する会社の関係者が公開買付者等の親会社の関係者とならず、規制の対象とならないおそれもございます。そういった問題がございます。
そのため、現行のインサイダー取引の親会社の定義につきまして、有報等の記載に依拠せず、有報等に記載されるべき親会社と同様に、他の会社の意思決定機関を支配している会社とすることが適当ではないかとしております。
次のページに参考条文がございます。一番下の金融商品取引法施行令に具体的な記載がございまして、政令改正が必要な事項と考えられます。
10ページ以降が2つ目の論点、課徴金制度の見直しでございます。
11ページです。まず、課徴金の算定方法の見直しに関しまして、現行の課徴金における経済的利得相当額基準についての論点です。第1回のワーキング・グループでは、現行の課徴金の水準について、違反行為により得た経済的利得相当額を基準として規定していることについて、課徴金の基準額の引上げを検討すべき、経済的利得相当額に必ずしもこだわる必要はないといった御意見があった一方、課徴金だけではなく制裁全体として見ていくべき、違反全般について課徴金額を引き上げることについては慎重かつ十分な検討を要するとの意見があったと承知しております。
12ページ、現行法では課徴金制度の目的が違反行為の抑止であることを踏まえて、予測可能性を踏まえつつ、現実の利得額から切り離された一般的・抽象的に想定し得る経済的利得相当額を基準としております。課徴金の水準については、違反行為に対する抑止効果との兼ね合いで決定されるべきであり、違反者の手元に違反行為により得た経済的利得が残れば違反行為の抑止につながらないことになる、また、比例原則の観点から水準を設けるべきとの御指摘もございます。
この点、直近の課徴金事案のデータを分析したものが下の表にございます。相場操縦等ですとか会社関係者によるインサイダー取引の課徴金額につきましては、平均的に現実の利得額の1.5倍から2倍程度となっております。一方、公開買付者等関係者によるインサイダー取引の課徴金の水準は、現実の利得を僅かに上回る水準にすぎない状況にございます。
次のページです。違反者については、違反行為が重大・悪質であれば、刑事告発される可能性がございます。また、勤務先における懲戒解雇等の処分、退職金消失等の将来的な経済的損失、家庭崩壊その他の社会的不利益を受ける可能性があるなど、課徴金以外の違反行為に対する抑止力が存在するため、課徴金の水準の抑止効果については、単に課徴金による期待損失だけではなく、こうした様々な社会的不利益の可能性も総合的に勘案されるべきものと考えられます。
近年導入された他法令における課徴金制度でも経済的利得相当額を基準に課徴金の水準が算定されていることを踏まえますと、課徴金の水準の抜本的な見直しも将来的な課題としつつ、まずは現状において違反行為の抑止力を高めることが必要と考えられる項目について、経済的利得相当額に関する算定方法を見直すことで課徴金の水準の実質的な引上げを図るべきではないかとしております。具体的な項目としましては、公開買付者等関係者によるインサイダー取引等の課徴金、大量保有・変更報告書の不提出・虚偽記載の課徴金を挙げております。
併せて、投資家が課徴金の水準だけで期待損失を判断することがないよう、不公正取引を行うことによる様々な社会的不利益の可能性についても周知していくことが重要ではないかとしております。
次のページは、御参考までに現行の課徴金・刑事罰の概要の表でございます。今回の見直しの対象と考えているものはこの赤枠で囲った部分です。
15ページを御覧ください。公開買付者等関係者によるインサイダー取引の課徴金の算定方法の見直しについてでございます。現行は、重要事実・公開買付け等事実の公表前に行われた取引の価格と、公表後の価格の差額を課徴金の額としております。この公表後の価格は、平成20年の改正によって、事実の公表後2週間における最大の価格とされ、課徴金の水準は実質的に引き上げられております。その際の2週間という考え方につきましては、2つ目のポツにございますとおり、主に会社関係者によるインサイダー取引規制における重要事実を念頭に、公表による市場価格への影響が2週間程度で収束することといった考え方によるものとされております。
次のページ、平成20年の改正による課徴金水準の実質的な引上げ後も、公開買付者等関係者によるインサイダー取引の事案は多く発生している状況でございます。特に公開買付け等の実施の事実は、その公表後から市場価格が急騰し、当該事実を未公表の段階で知った者は、対象となる株券等の取引を行うことで利益を容易に得られるということとなります。インサイダー取引を行うことへの誘因が強く働くことから、違反行為の抑止力を高める必要があると考えられます。
この点、公開買付け等の実施の事実の公表による市場価格の影響は2週間程度で収束するとは限らず、その後の発行者との交渉による公開買付価格の引上げや対抗する別の公開買付け等の発生に伴って市場価格が更に上昇する可能性があり、また、このような事象は公開買付け等ではよく見られるため、当該事象を課徴金の算定方法に織り込むことで課徴金の水準を引き上げる余地があるのではないかと考えられます。上昇するイメージにつきましては、下のグラフのような形をイメージいただければと思います。
次のページ、公開買付け等の実施に関する事実を知って株券等の買付けを行った公開買付者等関係者がその違反行為の時点で期待し得る最大の経済的利得相当額につきましては、こうした公開買付け等の実施の事実の公表後の発行者の交渉による公開買付価格の引上げや対抗する別の公開買付け等の発生に伴う上昇後の市場価格で反対取引を行うことによる経済的利得相当額と考えられます。
この点、公表後の最大の価格につきまして、公表後2週間ではなく、公開買付け等の終了日までとすることも考えられますが、その場合は公開買付け等が終了しない限り課徴金の額が算定できず、迅速な執行を阻害するといったことにもなりかねません。そこで、公開買付け等の実施の事実の公表による市場価格の影響を標準化した割合、これを算定しまして、それを当該公表前の価格に乗じた額を基に算出することとしてはどうかとしております。
注1にございますとおり、例えば近年の公開買付けにおける公開買付価格の市場価格の上乗せ率の平均値の調査等によりこれを算出することが想定されます。例えば、この市場価格の上乗せ率につきまして平均約50%といったような算出例もございます。この場合、既存の課徴金の算定方法による課徴金の額のほうが高い場合もあり得るところです。そのため、違反行為の抑止の観点からは、既存の課徴金の算定方法による課徴金の額はフロア(下限)として維持することが適当かと考えられます。
18ページを御覧ください。もう一つの算定方法の見直し、大量保有・変更報告書の不提出・虚偽記載の課徴金の算定方法の見直しです。大量保有報告制度におきましては、大量保有者となった場合に大量保有報告書を提出し、その後、株券等保有割合が1%以上増減する場合ですとか、その下にありますような担保契約等の締結・変更、保有者の氏名・住所の変更など一定の記載事項の変更があった場合には、変更報告書を提出しなければならないこととされております。
2つ目の四角でございますが、大量保有報告制度における課徴金の対象となる違反行為は、大量保有・変更報告書の不提出と、重要な事項につき虚偽記載のある大量保有・変更報告書の提出となっております。課徴金は、時価総額の10万分の1により算定されることとされております。この水準については、大量保有・変更報告書の提出により株券等の取引に追随者が生じて市場価格が変動することを前提に、その不提出・虚偽記載により市場価格の変動を抑制して取引することによる取引コストの節減額を経済的利得相当額と擬制して規定したものでございます。
具体的には、①にございますような市場価格の変動の抑制額、これに②の取引可能数量を乗じた額としたものでございます。そのうち、①の市場価格の変動の抑制額につきましては、導入当時、事例分析によりまして、大量保有・変更報告書、これは東証一部上場会社株式に係るものの提出直後の市場価格への影響が平均約0.1%であったということを基に数字を出して使っているものでございます。
19ページ、現行の大量保有・変更報告書の不提出・虚偽記載の課徴金の水準は、提出遅延等を意図的に行う悪質な事案に対する十分な抑止力が働かない一方、提出を失念した場合に、その重要性の如何を問わず、前記の算定方法による課徴金が一律課されることとなり、過剰な規制となっている面も見られます。そのため、大量保有・変更報告書の不提出については、より抑止力を高めるべき違反行為に課徴金の対象を限定した上で、大量保有・変更報告書の不提出・虚偽記載の課徴金について抑止力を高めることが適当ではないかとしております。
その上で、まず1つ目の大量保有・変更報告書の不提出の課徴金の対象の限定についてです。株券等の取引に追随者が生じて市場価格が変動する可能性が類型的に高い変更、例えば、株券等保有割合の1%以上増減に係るものやこれに準ずる変更に限定することが考えられるか。その他、投資判断への影響が軽微なものについて、その対象の明確性を確保しつつ、課徴金の対象から除外することも考えられるかとしております。
次のページです。次に、大量保有・変更報告書の不提出・虚偽記載の課徴金の水準の引上げについてです。導入当時の事例分析におきまして提出直後の市場価格の影響が平均約0.1%であったことを踏まえて現行規定されているものです。しかし、例えば以下にありますような点、調査対象となる変更報告書を市場価格の変動が想定される類型に限定すること、その不提出・虚偽記載の抑止が特に必要となる時価総額が低い発行者の株券等の大量保有・変更報告書を調査対象に含めること、大量保有・変更報告書の提出による影響が市場価格に反映されるまで一定期間要する(提出直後に反映し切れない)場合もあることといった点も踏まえて、大量保有・変更報告の市場価格への影響を再調査することにより、課徴金の水準を引き上げることが考えられるかとしております。
下の注にございますとおり、例えば、市場価格への影響を算出しますと、平均約7.0%になるといった数値もございます。導入時の平均約0.1%と比べると、この場合につきましては70倍という形になります。
21ページを御覧ください。そしてもう一つ、建議に関連する事項として、高速取引行為による相場操縦等の課徴金の算定方法の見直しです。高速取引行為は、その性質上、高速・高頻度で大量の発注・取消しを伴うものでございます。下のグラフの横にございますように、高速取引行為の取引の傾向としては、超短期的なリスクと向き合うため、ポジションの偏りを日中で解消し、翌日まで持ち越さないといった傾向ですとか、グラフにございますような、1銘柄1日当たりの利益額は1万円未満が大半、約80%を占めているといった指摘がございます。
次のページです。現行の自己の計算による相場操縦等の課徴金の算定方法は違反行為の開始時・終了時の特定を前提としておりますが、高速取引行為による場合、この違反行為の開始時・終了時の特定に極めて膨大な特定作業が必要となり、円滑な執行が阻害されるといった指摘がございます。この点、高速取引行為による相場操縦等においては、違反者は違反行為及び当該違反行為により変動した相場における利益獲得のための取引を組み込んだ一連の取引戦略をシステムに組み込んだ上で、取引時間開始前にシステムを稼働させ、それ以降は一定期間自動で継続稼働させることが想定されます。
そのため、違反行為を個々に捉えるのではなく一定期間の幅で捉えたとしても差し支えないと考えられるところ、高速取引行為を行う者は、ポジションを日中で解消する傾向にあることに鑑みて、違反行為日に確定した利益を課徴金の額とする(1日単位で課徴金の額を算定する)算定方法としてはどうかとしております。また、1万円未満の端数として切捨処理されて課徴金を課すことができないという状況が生じないよう、端数の切捨処理の基準値を1万円から1円未満に引き下げることが適当ではないかとしております。
次のページからは、課徴金制度の見直しの2つ目、他人名義口座の提供を受けるなどして不公正取引を行う事案への対応についての提案です。
24ページです。不公正取引においては、知人等から提供を受けるなどして他人名義口座を利用する事案が多く発生している状況です。まず、他人名義口座の提供を受けるなどして不公正取引を行う者に対する課徴金の水準の引上げについてです。不公正取引を行う者というのは、自身の特定を困難とし、自らの違反行為の発覚を免れることを目的として他人名義口座を利用するものと考えられ、これにより違反行為への心理的障壁が通常よりも低くなるため、このような事案に対しては通常の事案よりも高い抑止力が必要となります。
この点、課徴金の水準については、制度の目的が違反行為の抑止であり、違反行為により得た経済的利得相当額を基準としつつも、抑止効果との兼ね合いで決定されるべきところ、他人の名義をもって不公正取引を行った者については、違反行為への心理的障壁・抑止力を通常よりも高めるべく、違反行為を繰り返した場合は課徴金の額を1.5倍としていることなども参考にしつつ、課徴金の水準を引き上げることとしてはどうかとしております。
次のページです。一方、口座の提供等の協力行為を行った者への課徴金の新設でございます。不公正取引を行う者に対して口座を提供する者は、刑事罰においては不公正取引の幇助犯が成立し得る一方で、このような協力行為は現行制度上、課徴金の対象となっておりません。しかし、口座の提供等の協力行為は、事案を複雑化し、違反行為の発見逃れを容易にし、又は違反行為を助長するものであり、また、口座の開設時に厳正な本人確認手続が求められているといった昨今の状況下にありましては、口座の提供等の協力行為を要請する者が何らかの不正行為を行うことは容易に認識し得ると考えられます。
そのため、不公正取引を抑止する上では、不公正取引を行おうとすることを知りながら口座の提供等の協力行為を行うことに対する抑止を図るため、例えば情報伝達規制の違反者に対して情報受領者の利得相当額の半額を課徴金として課しているということも参考にしつつ、そうした協力行為を行う者に対する課徴金を新設することが適当ではないかとしております。また、その際には、この新設する課徴金につきまして、正犯行為である不公正取引の早期発見につながるよう、課徴金減算制度の対象とすることとしてはどうかとしております。
次は課徴金制度の見直しの3項目目、課徴金減算制度の見直しについてです。27ページです。課徴金減算制度とは、早期発見されることの公益性が強く、かつ早期発見のインセンティブを与える必要性があるものにつきまして、違反者が調査開始前に違反行為を報告した場合に課徴金の額を50%減額する制度でございます。ただ、現行の減算制度下におきましては、調査開始前に報告した違反者が50%の減額を受けつつ、自ら申告した違反を否認した事案が発生しており、当局による調査に協力するインセンティブを高める仕組みが必要となっていると考えられます。
この点、独禁法の導入事例もありますところ、金融商品取引法の課徴金減算制度におきましても、調査開始後における協力度合いに応じて減算する制度を導入することが考えられるかとしております。その場合の違反行為の抑止の観点からは、調査開始前の減算率と調査開始後に協力した場合の減算率の合計が、現行制度における減算率と同水準であることが適当かとしております。
次のページは、参考として独禁法の課徴金減免制度を掲載しております。
29ページ以降は、調査権限等の拡充についてです。
30ページを御覧ください。出頭を求める権限の追加です。現行制度上、開示検査・証券検査や外国金融商品取引規制当局に対する調査協力の権限におきましては、出頭を求める権限は規定されておりません。そのため、金融庁は、出頭強制の権限等が追加されて強化されたEMMoUにつきましては、現在署名のための要件を満たしておらず、外国規制当局と対等な情報交換が可能な態勢を整備する必要があるところでございます。また、開示検査・証券検査におきましても、調査権限の強化が必要な事案が見られるところでございます。そこで、開示検査・証券検査や外国金融商品取引規制当局に対する調査協力の権限に出頭を求める権限を追加することとしてはどうかとしております。
次に、34ページを御覧ください。調査権限の拡充の2つ目の項目、金融商品取引業の無登録業に対する犯則調査権限の追加についてです。現行、金融商品取引法における犯則調査権限につきましては、2つ目の四角にございますとおり、不公正取引等の罪に係る事件が有価証券の売買等の公正を害するものとして犯則事件とされておりますが、金融商品取引業の無登録業等の罪に係る事件は犯則事件とされておりません。
この点につきましては、平成4年当時と比べると、現在は金融商品取引業の無登録業の実態に応じて順次罰則の強化等を導入してきた経緯を踏まえますと、現在こうした無登録業等につきましては、有価証券の売買等の公正を害する蓋然性があるものと考えられます。また、複雑化する金融商品取引業の無登録業の事案の解明には、専門的知識・能力が必要となっており、近年の事案におきましても、この無登録業と複雑化・巧妙化する不公正取引(偽計・相場操縦等)が同時に行われており、より一層の専門的知識・能力を活用することが要請されている。こういったことを踏まえますと、こうした金融商品取引業の無登録業の罪に係る事件を犯則事件に追加することとしてはどうかとしております。
38ページ以降がその他の論点です。39ページが犯則調査手続のデジタル化についてです。本年5月に成立しました情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律により、刑事訴訟手続のデジタル化が行われることとなっております。一部の規定を除きまして、令和9年3月末までに施行される予定です。金商法の犯則調査手続は、告発により刑事手続に移行することが前提とされているところ、この刑事訴訟法改正と同様に、手続の円滑化・迅速化を図る観点から、その下にありますような規定の整備を行うこととしてはどうかとしております。具体的には、刑事訴訟法の改正と同様の電子化等を行う内容でございます。
41ページが金融商品取引業者の退出時における顧客財産管理に関する規制の整備についてです。現在、金融商品取引業者につきましては、仮に経営上の問題等により退出する場合でも、その過程で投資家が不測の損害を被ることがないよう、顧客財産の分別管理、併せて退出時における顧客財産の返還について金商法上義務づけられております。
下の四角でございますが、しかしながら、これまでに退出した金融商品取引業者におきまして、常勤役員が長期にわたり不在となるなど、顧客財産の返還を行う者がいなくなった事案が発生しております。なお、この事案につきましては、下の注2にございますとおり、その後、当社において弁護士に委託して、顧客財産の返還は図られているところでございますが、仮にそうでなければ、このような事案では、仮に分別管理されていたとしても顧客財産は依然として業者の管理下にあるため、顧客に返還されずに放置され続けるおそれがあるといったものでございます。
42ページ、こうした事案等を踏まえまして、現行制度につきまして、顧客財産の返還実務の執行体制を確実にする仕組みを検討する必要があるといった御指摘がございます。この点については、下の表にございますとおり、銀行ですと金融整理管財人制度、保険会社等につきましては保険管理人制度といった、銀行・保険会社の業務・財産の管理を命ずる処分ができる制度が整備されておりますが、現在、金融商品取引業者につきましてはそのような制度は設けられていないところです。
43ページです。そのため、金融商品取引業者の退出時における顧客財産の適切かつ円滑な返還を確保する観点から、現在の経営陣には適切な業務運営が期待できない場合に、行政において管理人を選任し、当該経営陣に代わって金融商品取引業者の業務及び財産を管理すること等を可能とする仕組みを導入する必要があると考えられるのではないかとしております。
導入する仕組みのイメージは次のとおりです。顧客財産の預託を受ける金融商品取引業者全般を対象とし、管理人の担い手としましては、投資者保護基金、金融商品取引業者やその自主規制機関である金融商品取引業協会のほか、一般的には弁護士、公認会計士といった方などが考えられるかとしております。また、管理人に経営者等に対する調査権限を付与するとともに、経営者等の責任を明確にするための措置をとることなどの義務づけをすることも適当かと考えております。
最後のページに、参考として金融整理管財人と保険管理人の概要を記載しておりますが、こういった制度を参考に金融商品取引業者に合わせた制度を導入してはどうかといったものでございます。
資料の説明は以上です。
【神作座長】
御説明どうもありがとうございました。それでは、ただいまの御発表、御説明を踏まえて、委員の皆様方に御討議をいただきたいと存じます。時間も限られておりますので、失礼ながら、お一人当たり5分程度で御発言をいただけますと幸いに存じます。
御発言を希望される際は、対面で参加されている方におかれましては、机上の名札を縦にしていただき、また、オンラインで御参加の方におかれましては、オンライン会議システムのチャット上にて全員宛てに発言を御希望されている旨の御入力をいただければ、それを確認して私が御指名をさせていただきます。なお、御発言の順番が前後することがあり得ますので、その場合にはどうかお許しをいただければと存じます。
なお、本日ご欠席の松岡委員からは、資料4のとおり御意見を承っておりますので、併せて御覧いただければと存じます。準備の都合上、事前に金融庁ウェブサイトへの掲載ができておりませんが、後日掲載いたします。
それでは、どなたからでも結構でございます。御発言をよろしくお願いいたします。
坂委員、どうぞ御発言ください。
【坂委員】
ありがとうございました。前回の御議論を踏まえて全体としてバランスの取れた御提案をいただいたものと受け止めております。今回の制度見直しにおいては、エンフォースメントの効率性・実効性の確保が重要と考えております。規制対象・内容・効果を具体化・明確化し、争点となり得る点を少なくしておくことは、効率的・実効的な法執行に資するものと考えます。同時に、対応すべき事態を的確に捕捉でき、十分な効果を及ぼし得るものとすることが必要です。かかる観点から以下、各項目について意見を述べたいと思います。
まず、インサイダー取引規制の対象についてです。第一次情報受領者までを規制対象とする現行の規律において、運用により実効的に規制対象を捕捉する取組は、ぜひ積極的かつ適切に進めてほしいと考えます。もっとも現行の規律で問題事案を十分に捕捉できているかはいま少し検討すべきかと思います。例えば、会社関係者以外の者が会社関係者に積極的に働きかけて情報を聞き出した上で、SNS等を用いて多数の者に情報を提供して利益を得る。他方、SNS利用者はそのようにして得た情報と知りながらこれを利用して不正な利益を得ているような場合、SNS利用者を規制対象とする必要性は高いと考えられます。このように会社関係者ではなく、第一次情報受領者が意図的・積極的に行動するような場合に何らかの形で備える必要があり、要件を限定して第二次以降情報受領者を規制対象とすることも選択肢の一つではないかと考えます。
次に、課徴金の算定方法についてです。違法行為の抑止の観点からは、前回も御議論いただきましたとおり、行為者の想定利得水準及び想定摘発確率を考慮すべきと考えられます。この点に留意しつつも、現実の利得額と課徴金水準の比較に関する12ページの分析は重要です。ここでは、公開買付者等関係者によるインサイダー取引における課徴金額が中央値において現実の利得額を僅かに上回る水準となっております。ここから、半数近くの行為者に利得の一部が残されているということがうかがえます。この事実からも、公開買付け事案における課徴金の引上げは必要です。
算定方法について、市場の現実に基づいた検討を行うことも極めて合理的であり、行為者の想定利得額以上の額を行為者に負担させる水準を確保すべきと考えます。この点、公表後の市場価格の上乗せ率が平均約50%とされているところ、平均よりも高い水準の例も相応に存するものと見られます。これらに鑑みますと、数値の分布を見る必要はありますが、50%よりもある程度高い水準を基準とすべきではないかと思います。
次に、大量保有報告書についても、対象の限定・明確化を前提に、課徴金水準について20ページの注記の市場分析に基づいた水準を具体化すべきと考えます。
また、高速取引についても、全体として合理的な提案であり、22ページの注3の対応も含めた制度の具体化を図るべきと考えます。
次に、他人名義口座の提供を受ける事案についてです。行為の悪質性に鑑みますと、他人名義口座利用者の課徴金は2倍の水準にすべきとも考えられます。また、協力者を生み出さないことが重要であり、口座提供行為の抑止が社会的課題となっていることからも、警告を強め、不公正取引事案の中で効率的執行を図る観点から、協力者を規制対象とすべきと考えます。
次に、無登録の金融商品取引業への犯則調査についてです。これは実態把握や摘発の効率・実効の観点から極めて重要と考えます。この点に関連して、37ページのエンフォースメントについて紹介されている刑事罰について、こちらの引上げを検討すべきと考えます。この間、無登録業事案における被害は深刻ですが、全体として刑事罰の適用は軽いというべきです。例えば約2万2,000人から約1,200億円を集めたとされる無登録業事案においても、最高経営責任者及び他の幹部3名への刑事処分が執行猶予付懲役刑と罰金500万円にとどまっています。全体のエンフォースメントを強化する観点から、無登録営業については、少なくとも貸金業法に倣い、拘禁刑10年以下、罰金3,000万円以下とすべきと考えます。
最後に、金融商品取引業者退出時における顧客財産管理についてです。整備された体制をもって権限に基づいた処理を行う必要があることから、御提案の制度の整備を行うべきと考えます。この中で、管理人の調査権限は重要であり、銀行や保険会社における例に倣うとともに、この間飛躍的に進展しているデジタル化や国際化にも十分対応できるものとすべきと考えます。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、鈴木健嗣委員、どうぞ御発言ください。
【鈴木(健)委員】
学習院大学の鈴木でございます。発言の機会を賜りまして、ありがとうございます。
まず、AIの分析の透明性と精度の向上は、今後の市場監視体制における極めて重要な課題であると考えます。監視委員会及び日本取引所におかれましては、AIもしくはデジタル技術を活用した調査・分析の高度化を進めておられ、その取組は大変意義深いと感じております。AIの運用に当たっては、技術面での信頼性を確保するとともに、制度的な正当性を高め、さらに、AIが恣意的あるいは不当に個人を監視しているとの印象を与えないよう、投資家から信頼を獲得する、確立することがいずれも極めて重要な課題であると考えております。引き続きこれらの点を着実に改善していただくことで、市場監視の透明性と信頼性が一層高まり、公正で健全な市場運営の実現につながることを期待しております。
続きまして、事務局からの御説明につきまして、3点ほど申し上げます。
第1に、公開買付者等関係者によるインサイダー取引の課徴金算定の方法についてです。公開後に生じ得る再交渉や対抗TOBの発生は、一定程度予見可能な事象であり、その影響を課徴金の算定に織り込むという方向性には賛同いたします。
もっとも、算定根拠として17ページに示されている例のところですが、1年間の事前データを用いて算定した市場価格への影響を標準化した割合が平均約50%とありますが、これをそのまま用いることについては慎重な検討が必要かと考えます。この標準化割合には、最初の買付者が提示するプレミアム部分とその後の再交渉や対抗TOBによるプレミアム部分の双方が含まれております。前者につきましては、当該企業の具体的なデータを用いることが可能であるため、推定の対象とすべきは後者、すなわち再交渉や対抗TOBによる追加的なプレミアム部分であると考えます。
この追加的な部分を推定するに当たっては、公開買付け終了日までの最高値と公表後2週間の最高値との差、この差の平均値を事前データから算出する方法が適当ではないかと思われます。そして、課徴金の算定において、当該企業の公表後2週間の最高値にその推定平均割合を上乗せした値、これを基準とすることで、公表後の交渉や対抗TOBの影響を反映した、より実態に即した経済的利得を捉えることができるのではないかと考えます。
第2に、大量保有報告書の不提出・虚偽記載に関する課徴金の算定方法について申し上げます。課徴金の対象を限定した上で、その水準を引き上げるという方向性には賛同いたします。現行制度では、時価総額の10万分の1という一律の課徴金が課されておりますが、この方式では実際の経済的利得と乖離する場合が多いのが実情かと思います。また、一律方式のままでは、違反が大きくなるほど相対的な負担が軽くなるという逆転的な構造が生じ、結果として抑止効果が低下するおそれがございます。このため、課徴金の対象範囲を限定した上で、持分の変動の幅に応じて負担額が増加する段階的な算定方式を導入することも検討に値するのではないかと考えております。
加えまして、買収等を目的として、2%を超える株式の買増しを段階的に行いながら報告を意図的に遅延するような事案につきましては、より厳しい課徴金の適用を検討することも妥当と考えます。法令上1%の増減ごとに新たな提出義務が生じることから、2%以上の変化というのは実質的に複数回の不提出行為を含んでいると言えます。このような場合、他の事案で検討されておりますように、課徴金額を1.5倍の加重要件を設けることなども抑止力を高める観点で有効ではないかと考えております。
最後に、協力行為に対する課徴金制度の拡充について申し上げます。近年、取引の巧妙化・複雑化が進む中で、違反行為を支える協力者の影響や役割は一層大きくなっていると考えられます。しかしながら、現行制度では、こうした協力者に対して行政的な行使力・抑止力が十分に及ばないという課題が残されているように思われます。現在検討が進められております他人名義口座提供者への課徴金の新設、これはこの空白を埋める重要な一歩であり、賛同いたします。その上で、これにとどまらず、資金面・技術面など協力行為も含め、協力行為全般に行政的責任を及ぼす仕組みの整備を検討していくことが適当ではないかと考えております。
私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、亀坂委員、御発言ください。
【亀坂委員】
ありがとうございます。青山学院大学の亀坂です。
まず、前回の議論を踏まえて証券取引等監視委員会事務局から提出していただいた資料1が気になりました。3ページ、4ページの課徴金の事例集について、例えばコラム⑥のプライベート編で、会食の場で知ったインサイダー情報、気の置けない飲み仲間との会食ですとかこういった場で知った情報でもインサイダー取引として課徴金が課される、実際に既に課されている事例をまずは周知していただくということも重要ではないかと感じました。
その上で、資料3についてコメントさせていただきます。まずは6ページ右側の赤字の部分です。発行者の隣に「(親会社を含む)」とありますが、親会社に限っていいものかということがまずは気になりました。子会社、関連会社もそうですし、公開買付けが長引いた場合は、人事異動や出向者についても範囲を拡大したほうがよいのではないかと思いました。それが1点目です。
8ページの、支配獲得時点から対象と考えるということにも賛成です。
次に気になるのが12ページからです。「予測可能性を踏まえつつ、現実の利得額から切り離された、一般的・抽象的に想定し得る経済的利得相当額を基準としている」というこの現状は変えなければいけないと思います。課徴金の引上げは必要であると私は考えます。
16ページ、17ページでそれが一体具体的にどの程度かという議論がなされています。16ページでは、2週間程度で価格上昇が収束するとは限らないと。これは本当にごもっともだと思います。17ページに続いて、例えば公開買付け等の終了日までを考えるということにも私は賛成です。
3つ目の箇条書で青字のところ、公開買付け等の実施の事実の公表による市場価格への影響を標準化した割合で注1とあります。先ほどほかの委員から御意見がありましたが、私は注1の計算方法は割と説得力があるのではないかと思います。2024年7月から2025年6月というちょうど1年間、丸一年間の全部の買付け等が成立した公開買付け95件の市場価格の上乗せ率ということでしたので、私の感覚的には、他国はもっと課徴金等を高くしますし、50%というのはそれほど高過ぎるような率ではないように私は捉えました。
次の箇条書、青字のところです。こういった場合に、既存の課徴金の算定方法による課徴金の額はフロアとすることが適当なのではないかということで、確かに現時点の算定方法による課徴金をフロアとしてもう少し上限を高めるということは、考え方として、もう少し妥当な水準に近づくというか、適切な算定方法に近づくのではないかと感じました。
次に気になるのが20ページです。2つ目の四角の箇条書に関連してまた注がございます。この注は、例えば2025年1月から3月までに提出された大量保有・変更報告書及び変更報告書について提出後2週間における市場価格への影響を算出すると平均約7%としています。私はこちらのほうはこれだけを根拠とするのはどうかと思い、計算方法をもう少し詰める必要があるように感じてしまいます。
なぜかというと、2025年1月にトランプ政権が発足して、1月から3月までというのは非常に株価変動が大きかった時期で、特殊な時期である可能性はあると思います。そのため、我々が研究者として株式市場について実証分析をして学会で報告するなどということになりますと、恐らくこの時期というのは特殊な時期ではないかと言われてしまうだろうと思います。そのため、もう少しこの計算の方法は詰める必要があるかと思います。
ここでも提出後2週間と書いてありまして、2週間に限る必要もないのではないかと思いますので、7%とするという結論部分に関しては賛成ですが、計算はもう少し詰めたほうがいいということです。
22ページの3つ目の箇条書について、違反行為日で1日単位で課徴金の額を算定するということに賛成です。
30ページの一番下の青字の部分です。開示検査・証券検査や外国金融商品取引規制当局に対する調査協力の権限に出頭を求める権限を追加する。これも非常に重要なことだと思います。そうしていただかないと、日本が国際的なそういった枠組みに入れないということになりますので、ぜひそうしていただければと思います。
次に34ページです。これも青字で書いてある部分、無登録業等の罪に関わる事件を犯則事件にぜひ追加していただきたいと思います。
私が最も関心があるのが41、42、43ページです。42ページに非常に分かりやすく表にしていただいていますが、金融商品取引業者だけは業務及び財産の管理に関する制度がないと。これは非常に気になっています。以前から気になっていることですので、ぜひ同じページの最初の箇条書にあるとおり、顧客財産の返還実務の執行態勢を確実にする仕組み、これをつくっていただきたいと思います。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、野村委員、御発言ください。
【野村委員】
野村資本市場研究所の野村でございます。御説明どうもありがとうございました。
まず、資料3のⅠからⅢにおける建議への対応の方向性、また、Ⅳにある追加的な事項、いずれにつきましてもその方向性については特段異論がないというところでございます。その上で3点ほど申し述べたいと思います。
まず、1つ目は6ページのところです。公開買付者等関係者の範囲拡大について、今回は、第二次以降の情報受領者までは拡大しないで、知り得る立場、近接性を踏まえて含める方法、そういう方法をとって、発行者の役員と同程度の近接性を有する者に範囲を拡大するということだと理解いたしました。そういたしますと、どのような場合に関係者に該当することとなるのかを明確に周知していかれることもまた重要ではないかと考えました。
2点目につきましては、課徴金の算定方法について改めて様々御説明いただき、経験則や実態に基づいて数値を定めている、そういった数値をベースにされてきたのだなと思った次第です。例えばTOB公表の市場価格への影響は2週間程度で収束するというふうにされてきたと。この2週間程度というのも言わば経験則かと思います。また、大量保有・変更報告書の提出直後の市場価格への影響が平均約0.1%。この0.1%というのも実態に基づいてということだと理解いたします。
そういたしますと、こういった数値というのは時代とともに様々な要因で状況が変化するということでございますので、その数値の見直しがある一定のタイミングで必要になるというのは、自然なことではないかと思います。また、そうだといたしますと、例えば、一定の期間というかインターバルで、前提となる数値が現時点で妥当なのかどうかというのをレビューする。これは必ずしも、変更するという意味ではなく、ただ、時代といいますか変化を経ても妥当かどうかを見る、レビューするということも考えられるかと思った次第です。
3点目が19ページ、大量保有・変更報告書の不提出についてです。重要性の如何を問わず一律時価総額の10万分の1だったものを、より抑止力を高めるべき違反行為に課徴金対象を限定した上で抑止力を高めていくという方法は、言わばエンフォースメントにおけるグラデーション対応と理解いたしました。今後、そうしますと、投資判断への影響が軽微なものの決め方ですとかそういったところの明確性の確保というのもポイントになるかと思います。課徴金の対象外とする範囲などについては、関係者の意見を聞きつつ、納得性の高いルールづくりとその運用をお願いしたいと思います。
私からは以上です。どうもありがとうございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、後藤委員、御発言ください。
【後藤委員】
東京大学の後藤でございます。御説明どうもありがとうございました。事務局からの資料について3点ほど、そして、先ほどの鈴木委員からの御指摘についてもう一つお話をさせていただきたいと思います。
まず、インサイダー取引規制の対象者の話です。前回の会合で、第一次情報受領者までという日本法の立場をいつまで維持するのか考えるべきではないかということを申し上げました。今回は、やはりこれは慎重にということで、それはやむを得ないところもあろうかとも思いますが、先ほど坂委員からも御指摘がありましたように、本当にこれで十分なのかということは考えなければいけない問題だと思っております。
資料の4ページに、現行の運用上の努力ということと、また、欧米でもそこまで無限に広がっているわけではないという御指摘がありますが、アメリカ、ヨーロッパと、日本の会社関係者の範囲がそもそも完全に一致するわけでありませんので、単純にここで比較をしてよいのかという問題はあるものの、例えばこの2つを比較するだけでも、もともとの会社関係者が一番先のところまで情報を届けようという意思があったわけではなく、ただ、第一次情報受領者がこの情報を教えてあげたら儲けられるだろうと思って、そのことを知った上でこれは確かな情報であるということで伝えられた相手が取引をしてしまうということは、捉え切れていないのではないかとは思います。
これをどこまで追いかけていくかという問題もあるわけですけれども、例えば現行法の制度で言えば、インサイダー取引規制に加えまして167条の2の情報伝達行為と取引推奨行為の規制があります。そちらは現在、会社関係者のみになっていたかと思います。例えば、この規制の対象に第一次情報受領者を加えるということは、インサイダー取引規制と範囲をそろえるということでもあり、また第一次情報受領者がそういう行動をすることは駄目であるというメッセージを少なくとも発することができるかと思いますので、現実に摘発できるかどうかというのはまた難しいのかもしれませんが、御検討いただければと思います。
2点目、こちらはどちらかというと質問ですが、17ページの真ん中ほど、先ほどから何回か指摘されています、公開買付け等の実施の事実の公表による市場価格の影響を標準化するという点についてです。標準化するというのは、平均を取るということのようですが、この「事実の公表による市場価格への影響」という言葉にどこまでが入っているのかが、この資料だけからは少し分かりにくいところがあります。ここの注1には、公開買付価格の市場価格の上乗せ率の平均値と表現されています。上乗せ率というのは、一般的なイメージでいうといわゆるプレミアムであって、最初の公開買付価格が公表直前の市場価格に何%乗せたのかという話のように思われるわけですが、もっと上げたほうがいいということが書かれているその前のページでは、その後の交渉で値段が上がっていったりですとか対抗TOBが出てきたりした場合が挙げられています。これは、最初のプレミアムという話とはまた少し違うことであるということは、先ほど鈴木委員からも御指摘があったかと思います。
この点について、この上乗せ率というのは何なのかということをもう少し厳密に書いていただく必要があるかと思います。事案によっては交渉による値上げがあるものもないものも、あるいは対抗TOBがあるものもないものもあるわけですが、これはそもそも課徴金の算定額をどこまで経済的利得相当額という言葉に引きつけるかということとも関連しますが、例えば一番高いところで押さえておけば少なくとも全員利得は得られないということになると考えて、対抗TOBがこれから日本でも増えていく可能性があると思うのであれば、そちらを基準に決めていくということもあるかと思いました。いずれにせよ、もう少し厳密に何を基準にするのかということを考える必要があるかと思いました。
もう少し大きな話が3点目です。課徴金額について、前回、経済的利得相当額という言葉にもうこだわらなくてもよいのではということを申し上げました。そうは言ってもなかなか難しいだろうと思いつつ申し上げましたので、やはり経済的利得相当額を基準にしますということは、仕方がないかなと思いますが、そこは考え続けなければいけないかと思っております。
今回、経済的利得相当額というものを何とか頑張って探そうと非常に努力をしていただいております。現在の課徴金額では経済的利得相当額として低過ぎるということが分かったのであれば、もう少しそれに近づけるべく引き上げていくということ自体は非常に結構なことだと思いますし、事務局の努力は高く評価したいと思います。他方で、これとは違う考え方が同時に存在しているようにも思われます。
例えば他人名義の口座を使ったという場合には、これは見つけにくい話なので、もっとサンクションを課さないと割に合わなくならないということで、この場合には1.5倍や2倍に引き上げるという御提案もございました。ここでは、経済的利得相当額そのものではなくて、それをベースに発覚の可能性を考えて、発見しにくいことをやるようなやつからは高めに取るということ発想が入り込んでいるように思います。また、12ページで、平均的利得額が公開買付け関連のインサイダーの場合は104%しかないというお話がありました。会社関係者のインサイダーや相場操縦の場合は結構高いから良いが、公開買付関係者によるインサイダーは104%しかないので引き上げるというようなニュアンスが読み取れる御説明でしたが、経済的利得相当額というのをそのまま捉えるのであれば、104%であればちょうどよかったではないかと言われる可能性もあるところです。私自身は引き上げる方向性が正しいと思っておりますので、御提案を否定するつもりは全くないのですけれども、やはり経済的利得相当額という言葉が意味を持たない場合が既に入り込んできているというときに、この概念にどこまで引きずられなければならないのだろうか、と思います。
また、大量保有等の違反については、経済的利得相当額を擬制するしかないという御説明もございました。そうであれば、もちろん日本法上の設計としてそこがキーになることは承知の上で申し上げますが、経済的利得相当額にこだわらずに、もう少し柔軟にいっても良いのではないかという気がするところでございます。その上で、今回御提案されている大きな方向性については、その枠内でできるだけ抑止力を高めていくということについては、賛成しているということも併せて申し上げておきたいと思います。
最後に、先ほど鈴木委員から御指摘がありました、対象企業を買収するという目的で買い上がっていきながら大量保有報告書を出すのを遅らせているという問題についてコメントをさせて頂きます。これは、確かに現行法の違反ではあるので、それに対するサンクションをということは十分理解できることではあるものの、これは日本の企業買収市場全体に大きく影響を与えることでございまして、この課徴金額の算定というところだけから議論していいものではないように思っております。そのため、この議論をするのであれば、買収制度全体との関係でどうするかということを別のフォーラムで議論していただくべきではないかと思っております。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、佐伯委員、どうぞ御発言ください。
【佐伯委員】
前回は所用のため欠席いたしまして、失礼いたしました。
最初に、各論点に関する事務局の御提案についてはいずれも基本的に賛成であると申し上げたいと思います。その上で何点か指摘させていただきたいと思います。
課徴金の算定基準について、経済的利得相当基準にこだわる必要はないということは、私は以前からそう思っておりまして、先ほどの後藤委員の御発言に賛成なのですが、同時にここで急に大きな抜本的改正をするということが難しいだろうということも理解いたしております。そういう意味で、経済的利得相当という基準を維持しながら、抑止力が十分に図られるように課徴金額を引き上げていこうという事務局の御提案に賛成です。
その上で一点、大量保有報告書について、重大なものについては課徴金を引き上げるとともに、不提出の軽微な類型については除外しようという御提案でございましたが、後者の類型については完全に除外してしまうというほかに、現在よりも軽い課徴金額を定めるというような、重大な類型については重い課徴金、軽微な類型については軽い課徴金というような仕組みも考えられるのではないかと思った次第です。
それから、他人名義口座の利用について加重類型を設けてその提供者についても課徴金を課すようにするという御提案に賛成ですが、先ほど鈴木健嗣委員からも御指摘があったかと思いますが、他人名義口座の利用以外に、こういった取引の巧妙化によって発覚を免れようとするような類型があるかどうかということについても御教示いただければと思います。他人名義の口座の提供を受けるなど違反行為の発覚を困難にする類型について加重類型を設けるというように、他人名義口座の利用を例示にして一般的な加重類型を設けるということも考えられるかとは思いますが、それではやや不明確であるということであれば、今明確に分かっている類型があるのであれば、他人名義口座の利用と併せて加重類型として規定するということも考えられるのではないかと思った次第です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。先ほど鈴木健嗣委員からも同様の御発言があったかと思いますけれども、ただいまの佐伯委員の御発言について、もしよろしければ、証券取引等監視委員会から、他人名義の利用以外に発覚を免れるような類型、技術的なサポート等も含めて何か情報をお持ちでしたら、御教示いただけますでしょうか。
【水谷証券取引等監視委員会事務局総務課長】
監視委員会の水谷でございます。今回の建議に当たってこれまでの検査・調査で課題と感じたところというのが他人名義のところでございまして、そのほかに課題があればまた建議といいますか提案をさせていただこうと思いますが、今この場で認識しているところはございません。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、鈴木謙輔委員、どうぞ御発言ください。
【鈴木(謙)委員】
長島・大野・常松法律事務所の弁護士の鈴木と申します。1回目は欠席させていただきまして、大変失礼しました。
私も事務局から御説明いただいた内容については、非常にバランスの取れた提案内容にまとめていただいていると思っておりまして、おおむね賛成です。その上で3点ほどコメントさせていただきます。
まず、インサイダー取引規制の対象者の範囲のところです。まさに3ページのところで肯定的な意見、慎重な御意見ということで書いていただいているように、様々な考え方はあると思っておりますが、第二次情報受領者に広げるかどうかというところは非常に難しい問題かと思っております。特に様々な情報に接しながら日常的に取引を行っている投資家からすると、萎縮効果があったり、あるいは予見可能性が損なわれたりというようなことにはならないようにしていただいたほうがよいと思っておりますので、この対象者の範囲がいたずらに拡大しないように慎重に明確性を担保しながら検討いただければと思っております。
また、19ページの大量保有・変更報告書の不提出のところについてです。特に課徴金については、行政に裁量が認められてない、事実認定で違反事実を認めると課徴金を課さなければならないという規定になっている関係で、大量保有報告の不提出というのは、期限に1日でも遅れて提出すると明らかに違反であるということが認められてしまうような事案だと思っています。そのため、なおさら、課徴金額を上げれば上げるほど、事情によっては過剰な制裁になってしまうような事態もあると思っております。そういう意味で、このスライドに書いていただいた不提出の課徴金の対象を限定するというアプローチは非常に工夫されて、よいアプローチだなと思いました。
この観点で、この19ページの下のほうのところで、対象の明確性を確保しつつ、課徴金の対象から除外すると書いていただいております。もちろん明確性は重要だと思ってはおりますが、不提出、提出遅延というのは様々な事情があってそういったことになっている場合があると思いますし、より悪質な違反に注力して課徴金を課す一方で、そうでない事情がある事案を意図せず課徴金の対象にしてしまうというようなことがないように、過度に形式的な要件ではなくて、ある程度実質的な要件で、解釈なり裁量なりが一定程度行政に残るような条文にしていただくとよいかと思っています。
3つ目は、これは全体的なお話です。全般的にやはり悪質な事例に課徴金を課すべきであり、その課徴金額が足りないのであれば引き上げるという方向性には私も賛成いたします。他方で、制裁が重くなればなるほど、万が一にでも違反していない無実の方に対して課徴金が課されないかというところで、手続保障はますます重要になってくると思っております。特に、審判手続については既に整備していただいておりますが、調査の段階については、今、監視委員会のほうで取引調査に関する基本指針を定めていただいており、そこで休憩時間の確保など一定の、調査を受ける対象者に配慮した規定があると思っております。
他方で、行政調査については刑事手続と異なって黙秘権が明示されていないことや、あるいは弁護士に相談する、あるいは弁護士に立ち会ってもらうというような権利が確保されているわけではないというところがあるかと思います。もちろん運用面で様々な工夫をしていただいているとは思いますが、例えば黙秘権について申し上げると、条文上は、取引調査を受けた対象者が完全に証言を拒むというような形になると、検査忌避ではないかですとか、あるいは陳述をしていない、報告をしてないということで罰則の対象になるのではないかということが条文上設けられているところではあります。そういった意味で、不利な供述を強要されないというところは何かしらこの取引調査に関する基本指針なりに盛り込んでいただいてもよいかと思っております。
また、弁護士についても、証券検査については、弁護士に相談するというところについての言及があるかと思いますけれども、取引調査に関する基本指針には、弁護士に相談することについての記載はありませんので、せめて弁護士に相談することが妨げられないといったような記載を設けていただくことを御検討いただければと思っております。
私からは以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、齊藤委員、御発言ください。
【齊藤委員】
発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。京都大学の齊藤でございます。
今回の事務局からいただいた提案につきまして、規制を強化あるいはエンフォースメントを強化していくという方向性については賛成でございまして、その上で幾つかの点についてコメントを差し上げます。
まず、第二次情報受領者も含めるべきかですが、私も慎重に考えるべきなのではないかという感触を持っております。理由としては、第一次情報受領者の場合、情報の提供者が定型的に内部者であるということが受領者にも分かるために、情報を受領する側も当該情報に基づいて取引をすればインサイダー取引に該当するということが分かるのでございますが、第二次情報受領者については、自分への情報提供者の情報ソースがどこにあるのか、内部者からの情報であるのかどうか、どの程度確度の高い情報なのかということを検証しようがないわけでございます。一般的に広く第二次情報受領者を対象といたしますと、投資家が自己の責任で情報収集して、それに基づいて投資判断をする自由と緊張関係に立つであろうと思われます。
他方で、御指摘があったような悪質性の高いものがあるということも理解いたしまして、仮に第二次情報受領者も対象にしていくということでございましたら、範囲をどうするかについて慎重に議論すべきだろうと思われます。違法に入手した情報を享受・利用することは問題であるという程度の認識は一般投資家に期待してもよいと思いますので、そのような場面を過不足なく捕捉していける要件を立てられるかということが問題になるのではないかと思います。
続きまして、大量保有報告書・変更報告書につきまして、課徴金の対象となる場合を限定するということについては、これによって、軽微な違反であるゆえに要件を満たしていても課徴金を賦課しないという判断に、これまでは伴った不公平さのようなものが解消されることも期待されるように思いますので、実現することがあり得るご提案と思います。他方で投資判断に影響を与えるものかどうかにつきましては、特に投資サイドの委員のご意見なども踏まえて検討していくべきではないかと思います。松岡委員の意見書にもあったかと思いますが、氏名・名称などについて、同一性を隠蔽することにつながるようなものは、重要な情報になる場合もあるように思われました。
次に、他人名義の口座の利用についてです。他人名義の口座を利用して取引を行った本人への課徴金を引き上げて抑止力を高めていくという方向性については、合理的な案であると思われます。他方で口座提供者につきましては、もう少し具体的に議論すべきだろうと思われます。資料では「そういった協力行為」と記載されておりますが、「そういった協力行為」の中身をもう少し詰める必要があるのではないかと思います。
内部情報の伝達は既に禁止されているわけですが、名義を貸すということは私法上禁止されている行為ではなく、普通の私法上の取引であれば、他人名義で取引を行うということ自体は公序良俗に反するわけではありませんし、多少私法上の利害調整が図られているという程度のものではないかと思います。
これに対して投資の世界においては、口座開設において本人確認が徹底されるなど、一般の取引とは異なる取扱いがされていることは承知しております。しかしながら、投資家が自己の名義以外を利用して取引を絶対にしていけないという一般的な要請があるのではなく、資金洗浄や不正取引の温床になるおそれがあるために、それらを抑止するためだということであれば、名義を貸した人間が名義を貸したというだけで制裁を受けることはないように思います。特に不正に利用されることを知って貸したなど、要件を絞るべきではないかと思われますし、事後にそのような不正に利用されているということを知ったような場合には、何もしなかったことが果たして非難に値するのか、懈怠につき厳しい制裁が科されるべき作為義務が果たして観念できるのかを踏まえて、課徴金の対象にする範囲を考えるべきではないかと思います。
課徴金減算制度につきましても、確かに課徴金が課される者に対してインセンティブを与えるものではございますが、独禁法の減算制度は基本的にやってはいけないことをやった人たちに対して認められているわけでございまして、今回取り上げられている名義提供者につきましても、名義を提供したことが禁止される行為なのか、本当に制裁が課されるべきものであったかどうかということをまずは検討するべきではないかと思います。
最後に、金融商品取引業者の退出時における顧客財産の管理に関わる規定の制度整備についてですが、実は会社法には、あまり存在感はないのですが、解散命令という制度がございます。古い裁判例には、休眠状態になった証券会社の債権者がこの解散命令を通じて財産を取り戻すというようなことがなされた事例もございますが、その後ほとんど活用されているものではございませんので、今回、金商法で対処するということを通じてこのような問題解決ができるのであればそれが望ましいことだと思います。
以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。それでは、飯田委員、御発言ください。
【飯田委員】
飯田です。まず、全体的な方向性については、全て事務局案に賛成です。特に申し上げたいことを何点か申し上げます。
公開買付者等関係者の範囲拡大についてです。これには賛成ですが、資料に記載されている理由づけには若干疑問があります。まず、発行者の役員等以外の一定の関係者というのは、現行法でも第一次情報受領者として167条3項の適用対象になり得るわけであります。発行者の関係者を公開買付者等関係者に格上げするということには、発行者の関係者から情報を受領した者を、現在であれば第二次情報受領者なものを第一次情報受領者に格上げして、これらの情報受領者について、従来は不可罰だったものを、今回改正すればそれを刑罰の対象にするという機能があると思います。
そうであるわけですが、事務局資料としては、第二次情報受領者を規制対象とすることは、一般論としては否定的な立場から説明されているように思います。しかし、繰り返しですが、事務局提案の規制範囲拡大の実質的な機能としては、現行法下では第二次情報受領者になっている人たちを第一次情報受領者に格上げするということも含まれているわけですから、その場面について変更するということについて理論的根拠を正面から考える必要が本当はあるように思いました。
それから、発行者の関係者が未公表の公開買付け等事実を把握する蓋然性が高いという御指摘は、全くおっしゃるとおりだと思います。ただ、細かく申しますと、買収の対象会社となる発行者の帳簿を閲覧請求して、帳簿閲覧権の行使に関して公開買付け等事実を知るというのはかなり例外的な場面であるようには思います。
また、前回申し上げたことですが、166条と167条を異なる類型として規制するという構造を維持するのだとしますと、まず、公開買付者等が公開買付け等を行うことについての決定をするというところから出発するわけでして、その情報が発行者の役員等に伝達され、それがさらに今回追加しようとしている発行者の契約締結者等に流れていくという構造だと思います。そうだとしますと、今回の範囲拡大というのは実質的には、現在であれば第一次情報受領者の契約締結者に当たる人たちを内部者として位置づけるということになるのだろうと思います。これは166条のほうの3項における第一次情報受領者の契約締結者等は第二次情報受領者だから対象外だということは異なってくるように思います。
しかし、結論としては、事務局案の提案には賛成です。それなぜかと申しますと、公開買付け等事実というのは、対象会社である発行者側からすれば、これは166条の2項2号の主要株主の移動などのいわゆる発生事実と極めて類似の性格を有するものだと性格づけることが可能だと思うからであります。したがいまして、今回の範囲拡大というのは、私の目から見ると、実質的には166条の発生事実を拡張するものという性質を持っているように思います。
そうだとすれば、166条の会社関係者とパラレルな内容で167条の今回の御提案のとおり発行者の関係者を拡張して、これを公開買付者等関係者として位置づけるということは特段の問題はないように思います。帳簿閲覧請求権者について言えば、現行法においても、帳簿閲覧を通じて主要株主とか親会社の異動というようなことの発生事実を知るという蓋然性はあまり高くなさそうに思えるところもありますけれども、これまでこの規制の仕方を特段問題視されたことはないと思いますから、そうだとすれば、今回の件についても特段問題ないと言えるように思います。
このように申し上げますと、166条と167条の関係性というのは従来とはかなり変化する可能性は秘めているわけですが、それはそういう改正なのだと理解すればよいのであって、私としては結論としては賛成であります。
それから、親会社の定義の見直しについても賛成です。これもインサイダー取引規制の整備という意味で合理性があると思います。
資料にないことを申し上げて恐縮ですが、この際、次の2つの点も検討してはどうかということを申し上げたいと思います。
1つ目が、禁止行為である売買等に関連しまして、自己株式処分によって株式を取得することは売買等に当たるけれども、新株発行を引き受けて株式を取得することは規制の対象外だということになっていると一般的に解されていると思いますが、その点は見直してもいいのではないかと思います。会社法では御存じのとおり新株発行と自己株式処分とを同じものとして募集株式の発行等として統一的に取り扱っているわけでありますし、金商法においても、開示規制のところでは基本的に会社法にそろえるような規律になっているわけですから、インサイダー取引でもこの際規制をそろえるという方向で考えたらよいのではないかと思っております。
2つ目のことですが、この164条の短期売買利益返還義務の対象となる主要株主の10%基準の適用に関して、アメリカの共同保有者のような、日本法的には特別関係者の概念を導入しなくてよいかという論点も本当はあるように思います。課徴金額の引上げによってインサイダー取引を抑止するということと関連して、164条も活用するという発想もあり得ると思うからです。ただ、あるいは逆に、課徴金額による抑止の制度を今回強化するので、164条の制度はあまり強化する必要はないという方向で考えることもあり得るとは思います。いずれの方向にせよ、つまり、164条の改正には結びつかない結論になるのだとしても、その制度の存在も意識しながら、課徴金制度の強化をすべきかどうかということも検討したほうがよいように思っております。
最後に、課徴金の見直しを含むその他の論点は、基本的に事務局資料の提案の方向性に賛成ですし、既に諸先生方から御指摘のとおり、経済的利得から卒業してもよいのではないかということは私もそう思っております。また、そういう立場からするとあまり厳密にデータ分析をする意味がどれほどあるのかというところはありますが、今回の御提案のように、データに基づいて何%ということを計算するのであれば、文字どおり、今日既に御指摘のあったようなことも含めて、ぜひ専門家の知見を最大限生かすような形でデータを取っていただければと思いました。
それから、鈴木謙輔委員がおっしゃったことと全く同じことですが、減算制度の見直しに関連して、独禁法における弁護士の関与等の制度が言及されていると思います。金商法の課徴金制度その他、一連の行政調査その他も含めて手続の公正性の確保は重要であり、そういう観点から見直すべき点がないかということも改めて御検討いただければと思います。
以上です。
【神作座長】
どうもありがとうございました。それでは、オンラインで御参加の委員の方に御発言いただきたいと思います。まず、上田委員、御発言ください。
【上田委員】
上田でございます。オンラインから失礼いたします。御説明と皆様の御議論、大変参考になりました。ありがとうございました。私としては、実務的な視点から幾つかコメントをさせていただければと思います。
まず、全体的な大きな流れには賛同いたします。重要な論点が多く入っていると思います。その上で個別の論点についてコメントさせてください。
1点目、公開買付者等の関係者の範囲の拡大についてです。これも、御提案いただいた範囲で規制対象とするということについては賛同いたします。とりわけ公開買付けは、プロセスが正式にスタートする前の段階から実質的な作業が始まっているため、LA、FA含めて専門家集団も多く関係しているということが背景でございます。
とりわけそういった意味で実質的に重要だと思っておりますのが、まさにこのページでの右側の下のところの契約締結者・交渉者というところです。こちらは建議にはなかったと思います。例えば契約対象となるLAあるいはFAの方については専門家であって、公開買付けのこういった様々な法律の違反行為をするというようなリスクは少ないかもしれないと思いつますが、それ以外で知り得る関係者、例えばメインバンクが知っている場合もあると思いますし、あるいは例えばアドバイザーの候補者のように情報を知り得る、あるいは認識し得るような立場の人も多いのではないかということを考えますと、この部分についてある程度網羅的な条項が入っているがよろしいかと思いました。実務上は様々な事案があると思いますので、そういった面での運用の有効性が高まると良いと思っております。
続いて、親会社の定義についても賛同しております。どうしても市場の動きがある中で直近の事実を踏まえた対応というのが必要であろうと思いますので、有価証券報告書の記載を挟んだというよりも直接実質に依拠した対応ということでよろしいかと思います。実務上、公開買付けは今後増えていく可能性があると思っております。他方、プロセスが長い、時間的にも長いですし、関係者も多いということもありますので、公開買付けを通じた不公正取引がないようにするために、制度を抜け漏れなくするということについては、市場の信頼性ということで大変重要だと思っています。
続いて、同じく課徴金制度の見直しでございます。この見直しについても賛同いたします。ほかの委員からも様々なご意見がありましたが、その中で経済的利得から離れた議論もすべきということも、もっともなタイミングに来ていると思いつつお伺いしたところでございます。公開買付けの話になりますが、ここも先ほど申し上げたように潜在的な関係者を含めて大変幅広く関係者が多いということと、プロセスが長いということ、さらに言うと、買収が始まって別の対抗的な買収案が出てくるということでステージが変わる場面もあることを踏まえると、この公開買付けについては、その実態を踏まえて対応、制度整備を行うことが必要なのかと思います。
そうであるとすると、例えば本当に正確性を期するというのであれば、公開買付け終了後ということもあるのかもしれません。しかしながら、その期間が各国の基本審査等で時間がかかるということを考えますと、その抑止的効果という観点からは、17ページにあるポイント3に賛同するところでございます。この50%というのは、プレミアムの価格であろうと思いますが、一旦こういったところで仮置きするということでよろしいかと思います。
他方、実際にはこの標準化した割合というところについては、これは当局において御議論されて検討されるという期間という判断でしておりますので、そこはもし事実誤認があればお教えいただければと思います。
その後の4番目のポイントでございます。これも既存の、2週間で高騰するという場合もあるのではないかという、これはマーケットのことなので何ともどちらかで寄せられないということもありますので、現行と見直し案のいずれか高いほうを用いるという方向性でよろしいかと思いました。
続いて、大量保有のところです。この問題は、当局において様々な取り組みをされていて、実際に課徴金の事案も出ています。しかしながら、正直、マーケットサイドから見ていると遅過ぎる、そして金額も低過ぎるということで、より積極的な抑止効果を持たせるということが必要だと思っておりますので、課徴金引上げには賛同いたします。
ただし、ここで投資判断への影響が軽微なものを除外するといったところ、ここは正直両面とも合理性があると思います。本来行為するべきであろうと思う一方で、より悪質なところにフォーカスをするといったところもあると思っています。従って、またマーケットにおいていろいろな使い方をする行為者が出てくるということを考えるとすれば、仮にこの除外制度を入れるのであれば、潜脱行為のようなものを防ぐために、具体性というか、明確化するということも必要です。これを例外的に扱うということで、むしろ大量保有のところは企業側、最近、アクティビストも含めてこの辺り活発に、日本はある程度緩いと言うとちょっと適切ではない表現かもしれませんですが、そういうようなイメージを持たれている部分もあるように感じますので、ここはぜひ実効性を高めていただきたいと思います。
続いて、課徴金です。こちらの方向性については賛同しておりますが、22ページ、1日という時間軸がありますけれども、1日でいいのか、1か月ぐらいでもよいのではないかなと思いながらも、賛同するというところでございます。あとは、端数の切捨ても、これも当然あるべきだろうと思いました。
他方、高速取引の捕捉というのは、取引上、日本取引所自主規制法人においてシステム的な負荷も非常に大きいのではないかと思います。この辺りの運用上の負荷の在り方ですとか、しっかり運用が回るかというようなことについても、大丈夫だということであれば安心できると感じたところでございます。
最後、幾つかありますので簡単に申し上げます。
他人名義口座についても賛成でございます。
それから、出頭を求める権限は、当然相互主義の観点から反対する理由はないと思いました。
さらに、無登録業者についての犯則調査権限の追加に私は賛成です。とりわけ、近年、NISAの定着等で国民において投資は身近になりつつあるということで、投資者保護が重要かと思っていますので、このように当局権限を、抑止的な対応あるいは何か起こったときにすぐ入れるような対応ができるようにすることが必要かと思った次第です。
最後の取引業者の金融商品取引業の退出の仕組みにも賛同いたします。むしろ銀行・保険会社に認められていて、金融商品取引業者に認められていないということについて、これは歴史的な経緯の結果であって積極的な理由があるわけではないと感じておりますので、賛同いたします。その場合には銀行の管財人あるいは保険会社の管理人制度を参考にするということで、早期の制度の枠組みづくりを進めていただければと思います。
長くなりました。以上です。ありがとうございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、武田委員、御発言ください。
【武田委員】
ありがとうございます。まず、資料1、資料2についてです。本日は証券取引等監視委員会、日本取引所自主規制法人の方より活動の御説明をいただき、どうもありがとうございました。AIを活用した相場操縦の売買審査の重要性は今後さらに増していくと思います。常に技術変化に応じたアップグレードが必要になりますが、一層の強化への御尽力をお願いしたいと思います。
また、不公正取引の抑止に係る啓蒙活動についても、前回申し上げたことについて御教示いただきありがとうございました。コラムなどは大変よくできていると思います。他方、本日議論になりました課徴金などによる抑止について、賛成の立場ですが、それ以前にこうした事例が周知されていくことがまず大前提になると考えます。ホームページや講演等による周知も重要ですが、それだけでは一部の視聴にとどまるおそれもございます。金融機関ともよく連携いただくとともに、動画やSNSなど新たな工夫も行っていただき、情報を若い方も含め幅広い層へリーチさせるための工夫もお願いできれば幸いです。
資料3で御提案いただきました事務局案については、基本的に賛成の立場です。
課徴金については、抑止として機能するかということが重要と考えます。実効性として一定のエビデンスは必要と思いますので、本日お示しいただいたデータ等に基づいて今後判断いただければよいかと存じます。
また、他人名義口座の提供を受けた場合に関しましては、御提案いただいたとおり、課徴金の水準の引上げや、協力者への課徴金の新設による抑止、さらには調査開始後に受ける協力に応じた減算制度等の導入についても基本的に賛成いたします。他方、協力の度合いで差をつける必要性がどこまであるかについては、1点気になりました。その度合いをどう判断していくのか、この点については後日御検討いただければ幸いです。
以上になります。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。続きまして、萬澤委員、御発言ください。
【萬澤委員】
ありがとうございます。筑波大学の萬澤と申します。私も事務局の御提案に基本的に賛成です。その上で幾つかコメントをさせていただきたいと思います。
まず、公開買付者等関係者の範囲拡大ですが、資料の6ページでお示しいただいて、これまでもほかの委員の方がお話しなさっていたところですけれども、この見直し案に賛成します。実際、この赤字のところの人たちは、未公開の公開買付け等事実を知り得る特別な立場に類型的にあるものと言えると思いますので、これらの者から情報を得た第一次情報受領者も含めて、我が国のインサイダー取引の規制趣旨から規制対象とすべきと考えます。
また、これに関して、8ページの親会社の定義につきましても、有価証券報告書等に記載されたという要件が親会社の定義を不当に狭めてしまいかねないものとして、同要件を外すことに賛成いたします。
続きまして、課徴金の額の引上げについてです。まず公開買付者等関係者によるインサイダー取引につきましては、12ページのところでお示しいただいた通り、会社関係者によるインサイダー取引では平均して現実の利得相当額の1.5倍以上の課徴金額となっているのに対して、公開買付者等関係者によるインサイダー取引では現実の利得額を僅かに上回る課徴金額になってしまっているということと、また、その理由として16ページでお示しいただいたような、公開買付者等関係者によるインサイダー取引に特有な事情が存在するということ、これらを前提とすれば、抑止力を高めるために課徴金額を引き上げることに賛成です。
また、その引上げの方法として、17ページでお示しいただいた、既存の算定方法による課徴金額を下限として、四角の3つ目のように、最近の事例に基づいて算出された割合を使って、現実に即した形で抑止力を高める額を算出できるようにするということに賛成いたします。
次に、大量保有・変更報告書に関する違反の課徴金についてです。大量保有・変更報告書がほかの開示書類とは異なるという特殊性を考慮して、不提出の場合についても、その課徴金の対象を重要性の観点から限定することに基本的に賛成いたします。その一方で、悪質な事案について十分に抑止力が働いていないのであれば、現在の大量保有報告書・変更報告書の市場価格への影響を調査した上で、それに基づいて、抑止力を高めるべく課徴金額を引き上げるということに賛成いたします。
最後に、他人名義口座の提供を受けて不公正取引を行う事案についてです。自己名義の口座を利用した場合よりもより高い抑止力が必要として、取引を行った者に対する課徴金額の引上げを検討することには賛成いたします。その一方で、これまでもほかの委員の方がお話しなさっていたところですけれども、口座の提供等をした協力者に新たに課徴金を課すということについては、その協力の態様は事案によって様々であると思われますので、一律に課徴金を課すということについては十分な検討が必要になるように思います。
25ページで「情報伝達規制の違反者に対して情報受領者の利得相当額の半額を課徴金として課していること等も参考にしつつ」とありますが、この情報伝達規制の違反者というのは167条の2の違反者ですので、今回の口座を提供するという協力者とは同列には論じられないように思います。
私からは以上になります。ありがとうございました。
【神作座長】
どうもありがとうございました。本日御参加くださった委員全員から御意見を頂戴したと存じます。大変ありがとうございました。
予定した時間を若干過ぎておりますが、オブザーバーの方からも、もし御意見がございましたら御発言をお願いしたいと思います。時間との関係で、お一人当たり2分程度で御発言いただければと存じますけれども、オブザーバーの方で御発言の希望はございますでしょうか。
それでは、日本証券業協会の後藤さん、どうぞ御発言ください。
【日本証券業協会】
ありがとうございます。野村證券の後藤でございます。日本証券業協会からオブザーバーとして参加させていただいております。発言の機会、誠にありがとうございます。
私のほうからは、管理人制度に関しまして一言申し上げさせていただければと存じます。金融商品取引業者の業務運営の状況が不適切となった場合に、法に基づいて選任された管理人が当該業者の経営陣に代わって業務執行や顧客財産の迅速な返還等を行うことを可能にするものであると、今回事務局から御説明いただいて改めて認識しています。
銀行業あるいは保険業におきましては、それぞれ、金融整理管財人制度ですとか保険管理人制度が既に存在しているところ、金融商品取引業者には同様の制度がないということを踏まえましても、当該制度の創設ということは、業態間の制度平仄という観点からも意義あるものと考えます。昨今の貯蓄から投資への流れをさらに本格的なものにしていく上でも、投資者保護の一層の向上を図ることは、将来に向けた前向きな取組であると考えております。本制度の創設に向けた議論が進められることを期待しております。
簡単ですが、私からは以上でございます。
【神作座長】
どうもありがとうございました。ほかにオブザーバーの方で御発言の御希望はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、本日のワーキング・グループはこれにて終了とさせていただきたいと存じます。本日事務局からの資料3に基づいて御説明いただいたことに対して、総論ではおおむねあるいは基本的に御賛同いただいたと思います。まだまだ踏み込みが足りない部分があるといった御意見もございましたが、御提案の範囲についてはおおむね御賛同いただきました。その一方で、各論につきましては具体的にまだ注意すべき点があるなど、具体的な論点をお示しいただきましたので、次回は、事務局に本日いただいたご意見やご指摘を踏まえ取りまとめす方向でさらに御検討いただき、それに基づいて議論を進めていってはどうかと存じますけれども、そのような進め方でよろしゅうございますか。
ありがとうございます。それでは、そのような進め方で次回、報告の取りまとめのためのたたき台を出していただき、それに基づいて御議論いただくということとさせていただきたいと存じます。
また、次回のワーキング・グループの日程につきましては、皆様の御都合を踏まえた上で、後日、事務局より御案内をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。
若干時間を超過して申し訳ございませんでした。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
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