金融審議会総会(第24回)・金融分科会(第12回)合同会合議事録

日時:平成21年7月29日(水曜日)10時01分~11時42分

場所:中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

○田中会長

それでは、ただいまから第24回の金融審議会総会、そして第12回の金融分科会の合同会合を開催いたします。

本日は酷暑の中ご参集いただきましてありがとうございます。本日の議事は公開とさせていただいております。

初めに、三國谷金融庁長官からあいさつをいただこうと思います。

○三國谷長官

このたび金融庁長官を命じられました三國谷でございます。よろしくお願い申し上げます。

金融庁には、金融システムの安定、それから利用者の保護・利用者利便の向上、それから公正・透明で活力ある市場の確立という3つの意味がございます。この任務の達成のために最大限の努力を行ってまいりたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

本日、金融審議会総会、金融分科会合同会合の開催に当たりまして、一言ごあいさつ申し上げたいと思います。

初めに、昨年末に金融審議会で取りまとめいただきました報告を踏まえまして策定いたしました金融商品取引法等の一部を改正する法律及び資金決済に関する法律につきましては、去る6月17日に国会で成立し、6月24日に公布させていただきました。

金融審議会における検討に際しまして、委員の皆様からいただきましたご指導、ご意見に深く感謝申し上げる次第でございます。

ところで、欧米におけるサブプライム問題に端を発します今次の世界的な金融危機につきましては、世界の経済、金融に与える影響を最小限のものとすべく機動的な対応が求められてきているところでありますが、これに加えまして、グローバルにはこのような危機が発生した要因を分析し、その教訓を踏まえて、今後の金融規制のあり方についての議論、検討が始まっております。

我が国といたしましても、こうしたグローバルな議論に積極的に参加し、適切な対応を行っていく必要があると考えております。

同時に、我が国におきましては、1990年代の金融危機以来、金融システムの強化に向けまして、金融規制についてさまざまな取り組みを行ってきたところであります。我が国といたしましては、こうした取り組みを現時点で改めて評価し、今後さらにどのような取り組みを行っていくべきかをグローバルな議論を十分に踏まえながら検討していく必要があると考えております。

金融庁といたしましては、これらの議論、検討をさらに深めますとともに、その成果については適切に情報発信してまいる所存であります。その際には、金融審議会におかれましても、我が国金融・資本市場のあり方につきまして、多面的な検討をお願いしていくことになると考えているものであります。

引き続き皆様方の格段のご協力をお願い申し上げまして、私からのあいさつとさせていただきます。よろしくお願い申し上げます。

○田中会長

どうもありがとうございました。

本日の会合は3月以来となります。事務局に異動がございましたので、池田企画課長から紹介していただきます。

○池田企画課長

企画課長となりました池田でございます。引き続きよろしくお願いを申し上げます。

それでは、異動がございました事務局のメンバーを紹介させていただきたいと思います。

委員の皆様方から向かいまして中央、今ごあいさつ申し上げました三國谷の隣、左側から、森本検査局長でございます。

○森本検査局長

森本でございます。よろしくお願いいたします。

○池田企画課長

畑中監督局長でございます。

○畑中監督局長

畑中でございます。どうぞよろしくお願いします。

○池田企画課長

木下証券取引等監視委員会事務局長でございます。

○木下証券取引等監視委員会事務局長

木下でございます。よろしくお願いします。

○池田企画課長

乙部公認会計士監査・審査会事務局長でございます。

○乙部公認会計士監査・審査会事務局長

乙部でございます。よろしくお願いいたします。

○池田企画課長

萩原証券取引等監視委員会事務局次長でございます。

○萩原証券取引等監視委員会事務局次長

萩原でございます。よろしくお願いします。

○池田企画課長

氷見野監督局総務課長でございます。

○氷見野監督局総務課長

よろしくお願いいたします。

○池田企画課長

三好監督局監督企画室長でございます。

高橋財務省信用機構課長でございます。

次に、反対側、右側になりますけれども、私の横に藤本調査室長でございます。

○藤本調査室長

藤本でございます。

○池田企画課長

内藤総務企画局長、留任でございます。引き続き事務局をさせていだたきます。

細溝総括審議官でございます。

○細溝総括審議官

細溝です。よろしくお願いします。

○池田企画課長

河野総括審議官でございます。

○河野総括審議官

よろしくお願いいたします。

○池田企画課長

桑原審議官でございます。

○桑原審議官

よろしくお願いいたします。

○池田企画課長

遠藤総務課長でございます。

○遠藤総務課長

よろしくお願いします。

○池田企画課長

神崎政策課長でございます。

○神崎政策課長

よろしくお願いします。

○池田企画課長

寺田市場課長でございます。

○寺田市場課長

よろしくお願いします。

○池田企画課長

白川国際室長でございます。

○白川国際室長

よろしくお願いします。

○池田企画課長

井藤保険企画室長でございます。

○井藤保険企画室長

どうぞよろしくお願いいたします。

○池田企画課長

以上でございます。

○田中会長

ありがとうございました。

それでは、早速議事に移らせていただきます。

本日は、まず事務局から、最近の金融審議会の活動状況や金融規制をめぐる内外の動向等についてご説明をいただきまして、それに基づきまして、今後の金融審議会の運営等についてお諮りし、ご審議を願いたいと思います。

それでは、まず事務局よりご説明をお願いいたします。

○池田企画課長

それでは、ただいまお話がございました点につきまして、お配りしております資料、まず資料1をご覧いただきたいと思います。

1ページ目は、最近の金融審議会の活動状況を整理させていただいております。先ほど三國谷のあいさつでもございましたが、昨年ご審議をいただきました第一部会、第二部会の報告を踏まえました金融商品取引法等の一部を改正する法律、それから資金決済法については6月17日に国会で成立をいたしまして、24日に公布をいたしました。法律によりまして、公布の日から原則1年以内に施行するとされておりますので、これからそれに向けて政令、内閣府令等の整備作業を私どもとしては進めさせていただく予定でございます。

それから、6月に、下に掲げております3つの報告書ないし中間論点整理が公表されております。それぞれについてご説明することは省略をさせていただきたいと思います。お手元に報告書そのものを配付させていただいていると思いますので、適宜ご参照いただきたいと考えております。

次に、本日のご審議の参考とすべく若干のバックグラウンドの資料を用意させていただいております。

1枚目は、「最近の金融システムをめぐる国際的な動きマル1」ということで、金融危機再発防止に向けて国際的なフォーラムを中心に議論の状況を整理させていただいております。

この絵の左側でございますけれども、G20首脳会合のことが整理してございます。ここの基本原則というところにありますように、システム上重要なすべての機関・市場・商品への適切な規制・監督を図る、あるいは過度なリスクテイクの抑制をする、公正・透明性の促進を図ると、こうした原則のもと、そこに掲げてございますように、システム上重要な金融機関に対する規制・監督の強化ですとか、報酬体系の見直し、自己資本規制の強化、流動性を含むリスク管理の改善、ヘッジファンド、あるいは証券化商品、店頭デリバティブ等への規制の問題、それから大規模・複雑な金融機関に係る破綻処理制度の見直し、こうした個別項目に係る指摘が行われているところでございまして、こうしたG20の基本的な考えに沿いまして、それぞれの細目については、右側にございますように、金融安定理事会を初めとします関係機関で検討が行われているという状況でございます。

ただ、このG20に掲げられています諸原則、諸項目に対して、この右側の検討状況については、まだすべての項目について網羅的な検討が終了しているということでもなく、なお断片的な状況でまだ検討途上であるという面もあわせて言えるかと思います。

次のページでございますが、同様に、国際的な動きということで、欧米の動きを簡単に整理させていただいております。

今般の金融危機は、この欧米に端を発していると、そこに原因があったということが国際的な場、ワシントン・サミット等においても認識されており、またそれらの国では国内的にも激しい議論があるという中で、例えば米国では6月17日に財務省から包括的な金融規制改革案というものが公表をされておりまして、金融監督体制の改革、自己資本規制、流動性管理、あるいはヘッジファンド、証券化商品、店頭デリバティブ、あるいは破綻処理制度といった項目について改革案が示されているところでございます。

念のために申し上げれば、これは改革案でありまして、法制化等の作業はこれからということで、この案に対しては政府部内あるいは議会内でもさまざまな議論が出ているということは報道等でも報じられているところでございまして、こうしたものがどう具体化していくかというのは、なお帰すうを見きわめていく必要があるということもあわせて言えるかと思います。

それから、右側が欧州の動きを整理しておりますが、EUにおきましても規制改革の動きが進んでおります。ご覧いただきますと、資本要求指令、あるいはソルベンシー II フレームワーク指令など、欧州議会において指令が改定ないし採択されたものもございますし、あるいは委員会段階の案の段階にとどまっているものなど、いろいろなものがございます。あるいは、例えばヘッジファンドをご覧いただきますと、米国ではヘッジファンドの登録制と情報開示というようなことが提案されておりますけれども、EUではさらに自己資本規制のような提案も行われておりまして、欧州と米国で必ずしも個々の内容は一致していない面もあるということかと思います。

こうした状況を踏まえて、我が国として今後どのように対応していくかというのが一つの論点になるということだろうと思います。

次のページでございますが、これは平成10年の金融システム改革以降あるいはセーフティネットの面での金融安定化法等以降の我が国における制度改革の流れを整理させていただいたものであります。

三國谷のあいさつにもございましたが、我が国では1990年代に金融危機を迎え、その後、金融規制面で、市場インフラの整備ですとか利用者保護・利用者利便の向上あるいはセーフティネットの整備ということを進めてきたところでございます。こうした歩みを、今次の金融危機の経験も踏まえて、この時点でどう評価していくかということがもう一つの大きな論点になろうかと考えております。

以上をバックグラウンドといたしまして、次に資料2でございますが、本日、一つお諮りさせていただきたい事項はこの資料2でございまして、金融審議会金融分科会に基本問題懇談会を設置したいということでございます。これは、今次の世界的な金融危機の発生やその影響等を踏まえ、今後、金融審議会においては、我が国金融・資本市場のあり方につき、多面的かつ機動的に取り組んでいくことが求められるであろうと考えております。

そうした問題意識の下、金融審議会の各部会等の部会長、部会長代理、ワーキンググループ座長の皆様方から成る基本問題懇談会の設置についてご検討いただきたいと思います。

基本問題懇談会においては、我が国金融・資本市場をめぐる状況等につき意見交換を行っていただくとともに、これを踏まえて、各部会等における審議において必要な調整等を図っていただくということを行ってはどうかということを提案させていただいております。

それから、次の資料3でございますが、本日はこの機会にあわせまして、今後の金融システムのあり方について、今後の懇談会ですとか、あるいは各部会等の審議を進めていく上で留意していくべき、あるいは出発点としていくべき事項として、ここの論点メモにあるようなこと、あるいは、これにとらわれず、今後の金融システムのあり方について幅広くご意見を頂戴したいと考えております。一応、論点メモ自体をご紹介しておきますと、グローバルな金融危機が発生した、こうした原因をどうとらえるか、あるいは我が国のこれまでの取り組みをどのように評価するか。その中で、やや各論になりますが、市場型金融への転換、競争力強化ということを金融審議会として掲げてまいりましたが、こうしたものの取り組みについてどう評価するか。

そうした中で、我が国としてどうしたことに取り組んでいくべきか、あるいはグローバルな動きとどのように連携をしていくべきか、ということかと思います。

留意点は、繰り返しになりますが、国際的な議論の流れの問題と我が国独自の問題というものが両方あろうかと思います。

それから、なお経済金融情勢の厳しい状況というのは継続している状況がございます。取り組む内容によっては、そのこと自体が再び信用の収縮等につながりかねないというようなものもございます。ということを考えますと、こういうものに取り組んでいく時期的なものというのにも留意が必要かと思います。さらに、こういうものにとらわれず、幅広くご意見を頂戴できればというふうに考えているところでございます。どうかよろしくご審議をいただきますようにお願いを申し上げます。

○田中会長

どうもありがとうございました。

今、米中でG2という形の戦略対話が始まっていますし、今日の企画課長のご説明もG20から始まっていまして、隔世の感があるなと思っております。ただ、G20でメンバーを増やしたから、それではこういうグローバルな金融機関に関する規制が整合的なものができるかどうかということになると、話はそう簡単ではないと思います。

1週間ほど前ですけれども、北京のあるシンクタンクの中に金融研究所というのがありまして、そこのある主任研究員に、中国の金融について最近どうなっているのか聞きました。ご存じのように、中国の銀行貸出しは、ものすごい勢いで伸びていまして、このままいくと、年末には対前年比で融資残高が40%ぐらい増える。40%も貸出資産を増やすというのは、普通は不良債権が山積みになるということのはずで、融資課長は貸出債権の内容について目をつぶってサインしているのではないかと。あるいは、返済が滞ったときにどういう手だてをとるのか。相手が事業会社だとすると、事業会社のリストラのためにどういうことをやるのか。事前に本当にちゃんと準備をした上で融資を決めているのかと言ったら、この主任研究員が、全く心配ないと、私はこれには驚きましたけれども、不良債権が増えるとは思わないと言うのですね。なぜそんな確信を持っているのだと聞くと、いや、貸し出しの責任者に対して、不良債権が発生した場合は、生涯所得から補償させることにしていると。だから、これは全部召し上げてしまうということではなさそうですけれども、ペナルティーを科すから、うかつにサインはしないはずだと言うのです。いつからそんなシステムに入ったのだと私も驚いて、私が知らなかっただけなのか、皆さんご存じなのかどうか知りませんが、とにかく中国ではそのように、40%増というのは荒っぽいけれども、このガバナンスもすごいなと感じまして、ゆえに中国と横並びでグローバルに何か統一した基準ができると私は到底思えずに帰ってきました。先ほど企画課長からご紹介があったように、アメリカでもEUでも、あるいはイギリスでも、ついこの一、二カ月の間に次々と、取組みについて出てきています。ディズミザル・オブ・ジャパンというのがあって、ここでも日本の気鋭がないなという点では、これは三國谷さんの責任なのか金融審議会の責任なのかわかりませんけれども、ほっておくわけにはいかないだろうということではないかと思います。少なくともどういう問題点があるのか、我が国の立場に立って議論を進めたほうがいいということだろうと思います。

そこで、今日は金融審議会の総会と、それから金融分科会の合同会合ですので、論点、今の時点で我々はどういう準備といいますか知的装備をすべきなのか、あるいは金融庁や金融審議会はどういうところに焦点を当てるべきなのか、ご存念があればぜひご提示いただいて、今後の金融審議会の方針に役立てたいと思いますので、積極的なご意見の開陳をお願いいたします。

なお、基本問題懇談会の設置についてもお諮りしておりますので、これについてもご意見がございましたらよろしくお願いいたします。

どうぞお願いします。

○和仁委員

すみません。どなたもあまりおっしゃらないようなので、最初に口火を切らせていただきます。

資料には今回の金融危機が発生した原因とか、そういうことを書いてありますけれども、日本はその影響を受けることは比較的少なかった。ところが、我々は11年前ですか、1998年にひどい危機状態にあったわけなのですけれども、そのときの危機にどうやって対応したのかということのきちんとした総括が実はなされていない。何が解決の阻害要因になったのかということの研究はなされているのですけれども、何がうまく動いて解決できたのかというのがきちんと総括されていないというか、我々のレギュレーションの関係からいうと、あまりはっきりした結果が出ていない。研究に関しても、要するに、やれることは全部やって、それでとりあえずうまく何とかいきましたという総括になっているような論考が多いのですが、やはりそこのところをもう一度検討する必要があると思います。

また、今回の金融危機について、日本は比較的影響を受けることが少なかった。その原因は、それでよかったね、結果的にはよかったねということなのでしょうけれども、本当にそれでよかったのか。我々のシステムがきちんと動いていたがゆえに、被害がここまででコントロールできていたのか、そうではなかったのかということもやはり検討する必要があるのだろうと思うのですね。何がゆえに日本は比較的被害が少なかったのか。例えでは、要するに日本の銀行はまだ病み上がり状態で、積極的投資をするまでには至っていなかったので傷も浅かったのだという議論もなされていますけれども、そういうことは本当によかったのだろうかということですね。金融機関としてその問題も考えなくてはいけない。

それから、アメリカの証券会社の業績が急速な勢いで回復を示している。まだ回復の度合いはまだらであって、一般的ではないですけれども、どうして急速な回復が可能であったのか。そこのところも学ぶべきところがある。

そして、欧米のレギュレーションについて、資料をまとめていただいているのですが、私はデリバティブの仕事が多いのですけれども、その見地から見ますと、はっきり言ってアメリカのレギュレーターは反対方向に振れてしまっていて、デリバティブをとにかく閉じ込めよう、そのリスクをできる限り一定の範囲の中のリスクに閉じ込めようとするということを目指していて、彼らが目標としていることを本当に信じているのであれば、多分金融市場が死んでしまうことになるでしょう。何を申し上げたいかというと、恐らくあのレギュレーションはそのままでは適用できないだろう。したがって、ワシントンでの議論も右に振れ、左にぶれているわけですが、それをそのまま我々がナイーブに受け入れるというのは極めて危険ではないのか。

殊に日本の環境というのは、金融商品取引法を導入したときでもそうですが、金融機関が自縄自縛になってしまって、身動きできないという状況が発生していますので、日本人のメンタリティーを考えた場合に、アメリカがこうやっているから我々もこうだというアプローチをとる必要はないのではないかと思います。法律をやっている者として見た限りでは、日本の金融商品取引法というのは結構規制が厳しい、1年ほど前にアメリカ人に言わせれば、日本の金融商品取引法なんていうのは、あれは悪法だということを言われていたのですが、それでも、現在の彼らが言っていることに比べればはるかにリベラルだということになります。我々はそこで本当に変えなくてはいけないのか、何か変えようということで議論が始まるべきことなのか、そうではなくて、いや、変える必要ないのではないかという視座からの議論も必要なのでしょう。

最後にもう一つ言えば、先ほどリベラルだと申しましたけれども、これは日本の東京キャピタルマーケッツが世界のキャピタルマーケッツに追いつけるには、多分最後のチャンスだろうと思うのですね。二、三周遅れで日本はいつもアメリカあるいはイギリスの、というかヨーロッパのマーケットを追いかけてきたわけですけれども、そこのところをワープして追いつける、千載一遇という言い方はちょっと言い過ぎだと思いますけれども、非常によいチャンスだと思う。そのチャンスを使うには一体どうしていくのか。この国が金融立国としてうまく成り立っていく、そのためには何をすべきなのか、そういう見地からの議論もすれば非常におもしろいのではないかと思います。

以上です。

○田中会長

どうも。

いかがですか。では、根本委員、お願いします。

○根本委員

この懇談会を開催されるのは非常にいいことだと思います。そして、そこでご検討いただきたい点として幾つかご提案がございます。

今回の金融危機の原因はいろいろあると思うのですけれども、過去との非常に大きい違いというのは、金融機関の流動性の逼迫度合いが大きかったということだと思います。その理由としては、金融機関の資産内容が非常に複雑になっていたとか、また証券化とか流動化の発達で、市場調達の比重が大きくなったということがあると思います。

ただその点について日本の今まで目標としてきた市場型間接金融を特にそれをもって転換するという必要はないと思っておりまして、やっている程度というかが、全く違いますし、あと海外においても、それでは証券化をしていた銀行はすべて非常に問題に陥ったかといえば、一定の規律を持っていた銀行は被害が少ないとか、そういうこともございますので、日本においての市場型金融ということの目標を別に変える必要はないのではないかと思っております。

それから、銀行のみに頼った、間接金融に頼った金融システムはやはり非常に弱いものだと思いますので、そういう面からも今回いろいろな脆さが明らかになった社債も含めた多様な金融市場を今後どう育てるかということも引き続き重要な課題かと思います。

あと、和仁委員のおっしゃっていたような日本での金融業の発達、少子化の中での経済の活性化や最近の経済白書でも指摘された雇用創出の点からも、金融業というのは一つの重要な成長産業であり得ると思いますので、それをどう育てていって、国際的に競争力のあるものにするのかということは引き続き重要ではないかと思います。

それから、金融庁の方の、先ほどのご発言にもあったのですが、海外で今いろいろなルールが見直されている中で、プレゼンスを高めていただきたいと思っております。

日本の経験としては非常に大きな資産があると思いまして、現在、海外の金融機関では問題というのが証券化の損失から普通の不良債権の問題、第 II フェーズのほうにも移っているということもあるので、より日本の経験が大きく生かされるのではないかと思います。

いろいろと、日本の経験の教訓があると思うのですが、一つ言えますのは、銀行の健全化とか資産査定の適正化を進めつつ、信用収縮を抑えてきたというか、ミニマムにしてきた。その過程が今後グローバルな市場においても有用ではないかと思います。

先ほどアメリカの大手金融機関の業績が回復したという話もあったのですけれども、投資家としては、海外の金融機関の資産が本当に適正に評価されているのか、非常に疑わしいと思っている人が多いと思います。そのあたりをどのように透明性、信頼性を高めるのかということ、そしてそれが解決しないと、本当の意味で金融の安定化というのが実現しないと思いますので、ぜひ日本の経験も踏まえて市場の透明性を向上させる仕組みをお願いしたいと思います。

あと、規制の強化とか統一化というところでは、例えば自己資本規制とか時価会計とか、そういうものがプロシクリカリティーを増幅しているという見方があって、それ自体はいろいろ欠点を見直すというのはいいのですけれども、同じような制度を持っていた国でも、非常にバブルが大きかったイギリスとかアメリカと全く起きなかった国とがありますので、多分それだけが理由ではないと思います。症状が違えば、それに対する解決方法も違うということで、より各国の実情に応じた対応がとられるべきではないかと思います。

あと最後に、日本の問題点としまして、バブルの発生というかそういう問題はなかったのですけれども、今回の金融危機で、例えば地方銀行の半数以上が赤字になるとか、業績の悪化というのが海外の金融機関に比べて非常に大きかったと思います。

それから、銀行のリスク資産を抑制する動きとか、一部信用収縮のような動きもかなり大きかったということで、やはり日本の銀行においては、株式保有の問題などまた海外と違う意味での構造的な弱さというのがあると思いますので、そこには対応をして、より強固なシステムをつくっていただきたいと思います。

以上です。

○吉野委員

日本は、今回の金融危機の直接的影響をあまり受けなかったわけですけれども、輸出の減少を通じて、日本の金融、経済というのは悪くなっていると思います。その金融以外のところで商社の方とお話ししたときに、日本はこれまで商社とか製造業は強かったのですが、その優位性がほとんどなくなってきているということなのですね。それはどういうことかというと、中国とか韓国が相当安いコストでいろいろなインフラの整備もし、日本が昔やっていたような商社のやり方を彼らがどんどんやってきているわけです。

日本の金融業というのは、製造業の強い中で、これまでやられてこられたと思うのですけれども、そうするとこれから10年、20年後に、日本が本当に今までと同じ力が持てるかどうか。今はまだODAとか、そういうお金が少しありますから、アジアの国もある程度日本を意識していると思うのですけれども、この5年から10年の間、日本のお金がだんだんなくなっていく中で、いかに中国、韓国に負けないように金融業を伸ばしていけるかどうかということだと思います。その中で疑問といいますか、日本は他国に先んじて、いろんな金融商品をつくれるという土壌になっているかどうか。アメリカとかイギリスは、いろんなことを実験しているわけですね。そうすると、こういうことをやって、こういうところはうまくいかなかったとか、いろいろな形で対応できるようになる。日本の場合もそういうふうに、いろんな方々がこういうのをやってみたいというときに、それを実験して、まずければそれがやっぱりだめなのだと言える、そういうイノベーションが本当にできる体制であり、かつ変な商品はつくっては困ると思うのですけれども、そういう体制にぜひしていただきたいと思います。

それから、関連なのですけれども、保険のところで印象があったのは、アクチュアリーの方とか保険の商品をつくられる方と、それから利用者に直面しているセールス担当の方とのコミュニケーションがほとんどない。これはアクチュアリーの方にもお聞きしたのですけれども、あまりコミュニケーションがない。つまり、商品をつくる人たちは、自分たちでファイナンスの理論を使いながらやっている。しかし、利用者は利用者で別の商品が欲しい。恐らく日本の欠点というのは、そこがうまく結びついた商品ができていなかったということではないかと思うのですね。そういう意味では、金融機関の中では、やっぱり本当に利用者のニーズに応じた商品をつくっていく。その中でいろんなものがあれば、新しい商品がつくれて、少しリスクがあってもできるかどうか。そういうことができれば、恐らく海外でも通用するのではないかと思います。

それから最後は、国際的なルールをつくるときに、ぜひ日本に有利なようにつくっていただきたい。これは、製造業とかいろんなところでも今日本が負けているそうです。環境の基準とか。日本ではいろいろ金融庁の方々が頑張ってくださっていますけれども、会計制度にしろBIS規制にしろ、国際的なルールをつくるときに、どんどんそこの議長を出していただいて、それで欧米の、ずるいと言ってはいけないのですけれども、彼らが自分に有利なようにつくっていくところを日本にも有利なようにある程度うまくつくっていただける体制を整えていただきたいと思います。

○田中会長

吉野委員の言われた中で、イノベーティングな商品をつくるということと投資家保護という命題との間のバランスの問題がありますね。それをどういう形でやるのか。それから、デファクトの基準ができるためには、プラクティスが先行してなければなりませんけれども、そのためにはがんじがらめに規制していたのでは前に出られない。デファクトの形でいろんな基準がつくられてくるというのが、製造業についても、あるいは金融の面についても言えると思うのですけれども、そこはあまり日本では優先順位が高くない。少なくとも今までは高くなかったと。逆に言えば、金融商品には様々なリスクがありますから、それを表面化したときに、金融庁は何をしているのだというのが、国会でも、あるいはメディアでも、専らそちらの側が取り上げられて、行政が規制の側に振れざるを得ないというのが、歴史的な経緯として私はあったと思います。今、吉野さんが言われたことは、そこのプライオリティーのつけ方についても、もう少し国民的な議論を改めてやるべきだということなのでしょうか。

○吉野委員

アジア等の会議に出ていますと、欧米の人って自分たちでいろんなことをやっているわけですね。いろいろと実験をしていますから、その結果が自分のものとなって、いろんなことの中身を知りながら報告している。それは金融に関しても、今回いろんな問題がありましたけれども、それはフロンティアをつくりながら先に進んでいるというところではないかと思います。

だから、日本の場合にはそういう面もある程度出さないと、日本の金融業も強くならないと思いますし、そのためには金融自身が、利用者のニーズは何にあるかと、そういうことについてファイナンスをやっている数学系の方々も理解しながら、金融業自身もやっていくし、それから行政自身もそのバランスをとっていただかないと、非常にいい商品で、絶対安全な商品だとは思うのですけれども、それが海外で通用する商品かというと、必ずしもそうではないような気がいたします。

○田中会長

ほかの論点もあろうかと思いますが、この論点にかかわってご意見がある方は、今の時点で挙手をお願いします。

○和仁委員

金融のイノベーションを考えるような環境をつくろうというときに、日本ではやはりプロとアマの投資家の区別が極めてあいまいなのですね。一応、金融商品取引法は特定投資家という概念を入れましたけれども、最近でもある判決が出て、これは金融商品取引法が適用される前の案件ですけれども、プロの財テク会社が説明義務違反だということで金融機関から損害賠償を取ったという案件がありまして、そういうのを見ていますと、どうしてもプロはプロのルールで律していかなくてはいけない。プロの投資家というのは、自分で自分のリスクを分析して、自分でリスクを引き受けて利益を得るということをしなくてはいけないのに、日本の場合はそこの意識が非常に希薄であるというか、甘っちょろいと思います。昔、損失補てんが問題になりましたけれども、そのときに損失補てんを受け入れた会社に一部上場企業も結構あったわけですね。やはりプロの投資家には一体何が求められるのかということについての認識を統一化する、あるいは法律でどこまで踏み込めるかよくわからないのですけれども、そういう基準を目に見える形で示すということも必要であるのかもしれません。プロは自由が与えられているが、その見返りとして損をしてもしようがないのだということを規律としてはっきり世の中に示すということも非常に大切なのではないかなと私は思います。

○藤原委員

懇談会で話合ってもらいたいことはグローバル関連と国内金融関係で2つずつあります。

1つ目のグローバル金融関連では2つ話し合ってもらいたいことがあります。

1点目ですが、今回の国際金融危機でグローバル金融機関の資産総額の巨大さがクローズアップされました。例えば、スイス最大の金融機関UBSはスイスのGDPの5倍の金融資産を持っていることが明るみに出ました。この問題は、銀行が倒産しかけた時に、預金者保護のために政府が救援するのは正しい選択肢であるものの、対象金融機関が政府の何倍もの資産を持っているばあい、果たして政府保証が利くのかどうかという問題を現実的なものとしました。金融のシステムリスクを考えた場合に、金融機関が果たしてどれぐらい総資産を持つのが適正なのかという点について、懇談会で話し合ってもらいたいと思います。

2点目ですが日本はバブル崩壊を経験し金融機関への資本注入の仕方などについて、欧米よりかなり早くそのルールを作り実施してきています。昨年来、米国のバブルが弾け、海外の金融機関の不良債権処理は遅れているだけでなく増大しています。日本の資本注入のルールをどう国際ルール化するかについて懇談会で話し合ってもらいたいと思います。日本人は、ルールは作るものというより守るものであると思っているせいか、国際的なルール作りでイニシアティブをとっていくことが苦手です。一方、イギリスとかアメリカは、ルールは作るものと思っているだけでなく、ルールを作った人間は、その段階で競争に半分勝ったも同じと考えていますので、自分たちに有利な国際ルール作りに躍起になります。日本の資本注入の国際ルール化について話し合ってもらいたいと思います。

次に日本の金融機関関連について、懇談会で話し合ってもらいたいトピックスを話していきたいと思います。

1点目は、日本の金融機関の株保有についてです。株の持ち合いは以前と比較して少なくなってきているとはいえ、まだ多いと思います。日本の金融機関が保有している株は、不況で株式市場が下落していっている時は金融機関のリスクを高めます。金融機関の持ち合い株の売却について懇談会で話し合ってもらえませんでしょうか。ゼロにするのは難しいでしょうが、売却数値目標を決めて売却して行くのも1つの選択肢のように思えます。

2点目は、現実的に難しいかもしれませんが、省庁間にまたがっている金融監督の一元化についてです。例えば、金融機関の業務の1つであるカード業務の監督は金融庁ではなく、経済産業省です。こういった他の省が関わっている金融監督の仕事をその効率を高めるために金融庁に持って来て、一元化するにはどうしたらいいのかについても懇談会で話し合ってもらいたいと思います。

以上です。

○川本委員

懇談会でぜひ話していただきたいこと、3点申し上げたいと思います。

1点目は、マクロプルーデントなルールについて話をされるのだと思うのですけれども、今の議論が変動を抑え込もうという方向に若干行きがちなところを心配しています。人々の生活に大きな影響があるほどの急激な変化というのは避けなければいけないと思うのですけれども、やはりボラティリティーがないと地殻変動もないし、業界再編もないしということがあって、ショックを吸収するバッファーをある程度工夫して積むということは大事なので、これについての精度を高めるということは大事だと思うのですけれども、あらかじめその用意したバッファーで全部吸収できるかというと、多分できないのではないかと思います。そうすると、規制とか監督の方向はやっぱり個々の金融機関とか市場とか取引所の体質をどれだけ強くしていくかというこれまでの方向性、柔軟性をどれだけ持たせるかということとそんなに違ってこないのではないかなというのが1点目です。

それから2点目は、スピードに対応できる体制、敏捷性のことなのですけれども、これだけ時価会計でどんどん不良債権が処理される、あるいはITシステムが進んでいるので在庫処理がものすごく進む。またインターネットで瞬時に人々が物事を知る。ポールソン長官が携帯電話でどんどん電話していたあの図がとても特徴的だと思うのですけれども、そういうときにやはり当局の方たちの瞬発力のある知性といいますか、これは決済システムなどのオペレーショナルな面での正確性と、あとコミュニケーションの問題もあると思うのですけれども、ここの瞬発力の問題をよく吟味していただきたいと思います。

それから3点目は、リアリティーにどれだけ適応するかということで、政治的現実の中でやはりこういうことは動いていくので、ゆがみもするし、長期的にあるべき姿とずれたりすることもあると思うのですね。ただ、短期的に何でもありになると、やはりその後始末がとても骨の折れる作業になると思います。90年代から日本の金融は、この問題、クライシスマネジメントの連続だったので、かなりのご経験があると思うので、この点について私は欧米よりも落ちついてやっておられると思うのですね。そういう意味では、ここの長期と短期のバランスというのをよく考えていただきたいと思います。以上の3点です。

○若松委員

まず1点は、この懇談会の設置は、今のタイミングでこういうものが設置されるというのは非常にいいことだと思います。これだけ米中の戦略経済対話とかG20とか、国際金融危機を受けて、いろんな動きがある中で、そういう現実を踏まえて今後日本は、どうするのかということをぜひ根本から話し合っていただきたいと思います。

ここにいらっしゃる皆さんとは、私はマスコミから入っている人間なので感じ方が違うのかもしれないのですけれども、国民と、例えばここの実際に国際金融に携わっている方々と、金融に対するあり方において大きなギャップがあるのではないかと思います。例えば金融審議会で、金融立国とか、そういう言葉が出ても、みんなそういう方向を、人によっては金融をさらに強くするべきだというところにおいては、認識は一致すると思います。少子高齢化を考えた場合、金融を強くしなければいけないというのは、この数年前までの流れの中においては、みんなそれに対する異論はなかったと思います。でも、このリーマンショックなどの金融危機を受けて、例えば金融を担当した大臣の経験者とか、今の有力政治家たちも、日本が金融立国ということを本当に目指していいのかということにおいて、政治家にもかなり揺れというか、迷いがあるというか、なぜ日本は金融立国を目指すのだということについて自信を持って国民になかなか説明できないという声も聞きます。ぜひ基本問題懇談会などの場を通じて、今後の5年、10年後、日本はどういう国家像で、その中に金融はどういう役割をするのか、日本の金融業というのはどこを目指すのかという根本を示さないと、なかなか今後の難しい国会状況において、法案の成立も難しいと思いますし、国民の理解も得られないのではないかなということをあえて言わせていただきたいと思います。

○永沢委員

私も2点ばかり申し上げたい点がございます。

1つは、和仁委員のほうから最初にご提案のありました今までの改革の総括を行うべきだという点についてです。日本は金融立国で生きていくしかないとか、金融立国を目指すべきだということは、消費者の立場からすると、ああ、そうなのかなと頭の中では理解できるのですけれども、総括するに当たっての1つの視点として、例えば先ほど、日本は今回の金融危機の被害が小さかったというお話があったのですけれども、最終投資家への影響があったのかなかったのかというところについてははっきりしていない、私たちは知らないだけではないかという疑いは持っているという部分が消費者の気持ちとしてあります。総括の中ではそういった視点もやはり入れていただきたいと思っております。

それから、金融システムの改革という流れの中で、これまで投資家のための制度づくりがいろいろと行われてきましたが、前回の審議会の席でも申し上げました点でもありますが、これらの制度が、果たして理念どおりに機能しているのかという検証をこの時点で行う必要があるのではないかと思っております。金融商品取引法の理念は非常にすばらしいのですが、事業者の不満もあり、消費者側にも不満がないわけではないように思います。金融商品取引法の理念を国民に理解し評価していただくためには、ここで見直しをして、形骸化している部分はないかを検証する必要があるのではないかと思っております。

もう1つは、日本の固有の問題として、高齢化の進行が非常に大きい問題となるのはと思っております。わが国の場合は特に、国民が投資に踏み切った時点がある一時点に集中していて、特に団塊の世代がある時期に投資へ向かい、その世代が高齢化していくという問題は非常に特殊なことであり、今まで経験のないことを日本の社会の中にもたらすのかもしれないと思っております。

消費者庁が設立されますけれども、金融商品というのは普通の消費商品とは違います。購入時、入り口だけではなくて、入った後、いつ退出するか、いつその商品から出ていくのかという判断を求められる商品でございます。そういった問題への対応はやはり消費者庁だけでは済まないし、金融庁のほうが中心となって行われるべきだと思います。高齢化の問題も含めて、広く投資家教育を見直すべきだと思います。これまでの投資家教育は販売時、購入時の時点の教育に集中してきた感もありますが、今後は継続的な投資における投資判断にも力を入れていくべきだと思います。また、これまでは、言葉の理解だとか概念的なものの理解に、力が入れられてきたように感じていますが、今後は数字を見る、数字を比較するといった投資家教育というものも必要になってくるのではないかと思っております。

以上でございます。

○金丸委員

私、経済同友会で6年間、副代表幹事をやっていますけれども、同友会の幹部会等で最も経営者が自信をなくし意気消沈していたのは実は2003年の春頃でした。そのときまでに金融危機等があって、リストラとか資産処理をやって、株価がものすごく低かったときです。その後、それほどの改革が行き渡ったと思えなかったにもかかわらず、注文が舞い込んで、特に物づくりの経営者の皆様は、それが真の実力のように思った訳ですが、それはかなりBRICsの注文に依存した結果だったと思います。

我々経済界では今回のリーマンショックが起きたときに、最初の数カ月は金融バッシングでした。金融界というのは本当、またとんでもないことをしてくれたというのが製造業の経営者の皆様の大体の感覚でした。けれども、先ほど申し上げたとおり、自分のところに舞い込んだ注文の中に過剰な注文が含まれていたということを見誤ったことは経営者として反省すべきでありまして、私は、製造業ではないですけれど、経営者としてそれは反省すべきだと自分でも思っています。

今回のこの世界危機はだれが起こしたかというと、現場が起こしたか、リーダーが起こしたかというと、世界中のリーダーたちといいますか、エリートたちが起こしたわけでして、そういう意味で、本当に何が足りていなくて今回こんなことになってしまったのか。経済界でもさまざまな議論をしているわけですが、そういう中、今回この基本問題懇談会ができるというニュースを聞きまして、私はすごくいいことだと。この数年、金融審議会で、非常に専門的な分野の議論はしていたのですが、要するに大きな議論といいますか、あるいはちょっと先の議論といいますか、未来に何が起きるかというような議論はあまりなかったように思います。私は基本問題をぜひ議論していただきたいと思いますが、基本問題が何かという選択の品質がまずは高くないといけないと。選択の軸足は、現在よりも明らかに未来にぜひ置いていただきたいと思います。

それから、この懇談会設置の案を拝見いたしますと、議論をして、将来の方向性をその基本問題の懇談会で出していただくわけですから、その基本問題の議論から導き出す方向性がきちんと出せるメンバーでやっていただきたいと思います。ですから部会長とか部会長代理とかはもちろんのこと、それ以外にも最適解を導き出せる最適なチームというのが、そういうミッションを負うべきではないのかなと思います。

それはなぜかといいますと、先ほど少し触れましたとおり、世界中のトップの人たちが今回の危機を防ぐことができなかったわけです。現場に根差した、要するにどこかで起きている話は変だという、もっと現場に近い情報が吸い上げられることが重要です。例えばドバイにしてもそうかもしれませんが、私、ロンドンに行ったときもとにかく変だと思ったんですよ。オフィスの賃料を聞いて、自分の知人が1坪当たり13万とか15万とか言って、しかも更に値上げ要求がされていて、次に20万になるという話を聞いて。そういう現場で起きていることが変だということを察知できるような仕組みといいますか、メンバー構成等もぜひ考えていただきたいと思います。

それから、経済界を代表する立場にないのですけれども、今世界中で伸びているのは、全部不完全な国ですよね。先ほど冒頭、田中会長のお話にもありましたとおり、中国も完全な国かというと、不完全な国。でも、不完全な国が伸びていて、BRICsもみんな不完全な国ですね。ですから、我々は完全足り得るのかというと、今の日本は、先ほど吉野委員のお話にもありましたけれども、産業構造も大きく転換せねばならないときかもしれませんし、そういう意味では政治も経済もR&Dの時代が続くと私は思います。ですから、試行錯誤の時代と。R&D費用というのは、普通、企業経営で言うと、自分の体本体が全部痛むほどのお金をギャンブルのように投資するのをR&Dと言いません。R&Dという定義をすれば、ほどよい自己責任の中でミスがあっても許されるということなので、私は金融行政においても、新しいことを金融機関がおやりになるようなところについては、トライ・アンド・エラーで失敗を許すぐらいの不完全さをある意味で戦略的に許容しないことには、私たち日本の未来はないのではないかなと思っております。そういう意味では、ミクロな正確性よりもマクロな前進を促進できるようなご議論をぜひ期待したいと思います。

以上でございます。

○嘉治委員

今回の金融・経済危機でわかったことは、金融に王道はないということだと思います。90年代の失われた10年の日本では、私たちのやり方が悪かった、メアカルパ(mea culpa)ということで、欧米流の金融を導入することを目指しました。戦後の日本が欧米に追いつけ、追い越せということでやったのとちょっと似ていまして、今回は金融でそれと同じことをやっていたと思われます。しかし今般の危機で、目指すモデルがないということがわかってしまいました。

欧米の方も現在、ちょうど10年前の日本と同じように、自分たちが誇りとしていて、何の問題もないと思っていたモデルが、こんな結果になってしまったということにショックを受けています。そして次のモデルを探しているのですけれども、目指すべきモデルがどこにもないわけです。だから、これから多分、世界中が「あるべき金融の姿は何か」、と問い、答えを探すことになります。なかなか答えは出ないだろうと思います。

それに加えて、情報の非対称性、モラルハザードなどの金融市場の特性を考えますと、金融危機は必ず起きます。この可能性をゼロにすることはできませんので、新しい金融モデルを模索していく中で、危機が発生するかもしれないということを前提に、なるべく発生したときのコストを小さくするようなシステムをどうやってつくっていくかということを、みんなで考え、相談するしかないと思います。

そのためには、先ほどから何人かの委員の方もおっしゃっていましたけれども、やはり日本の経験をきっちりと冷静に説明することが有益でしょう。いかにも誇らしげに出すというのもいかがかとは思いますが、日本で起きたときはこうでしたから、これだけはやっておいたほうがいいとか、これは失敗だったのでやめたほうがいいというようなことを、丁寧に提示していくべきだと思います。

あれだけの危機を最近経験したのは日本しかないわけですから、その経験をきちんと出していく。逆にそれとやっていかないと、今回の危機でショックを受けて、新しいモデルを模索している欧米の議論に取り残され、新しいルールに従って動くしかなかったということにもなりかねません。きちんと議論に参加していくということは大事なのではないかと思います。

以上です。

○藤原委員

欧米を目指したかどうかという点ですが、別の見方も少しはできるのではないかと思います。どちらかというと、日本の金融機関は欧米を目指していなかったように、欧米の金融機関で働いていた者としては感じております。それはなぜかというと、例えばデリバティブ業務は世界的に大きく伸びたのですが、日本は入っていけませんでした。理由の1つは人材がいなかったことですが、それだけでなく、ともかく日本の金融機関はデリバティブのような大きなリスクを社内的に受け入れる組織体制にはなっていませんでした。また政府も税金を変えようともしませんでした。だからディバティブは件数だけではなくて、量的にもディールは少なかったです。

2点目は証券化業務に関してです。欧米の証券化業務は過去10年間に急拡大したのですが、日本は政府が低金利政策を堅持していたため、結果的には証券化業務は国内では発展しなかったし、こういう国内事情もあり証券化資産からの焦げ付きは少なかったです。

3点目は、米監督行政に関してです。例えばSECは監督機関としてのネーム・バリューは世界一高かったのですが、メイドフみたいに5兆円に及ぶ詐欺行為を見逃してしまったのです。SECが検査に入っていなかったのかというと、検査は何度も実施していたのです。日本の金融庁が欧米の監督機関を目標としていたかどうかわかりませんが、SECに比べ、日本の金融庁の検査はしっかりしていたし、欧米より一段と厳しかったと思います。つまり、欧米が金融機関の監督をできるだけゆるくしていった時も、日本の監督当局は「独自路線」を維持していたと思います。だからこの3つ目の点からも、必ずしも欧米を目指していたとは言えないと思います。それが今回の金融危機においてはプラス材料になったわけです。私は以前に金融審議会で一度このことについて触れたことがあるのですが、金融庁は監督機関としていい仕事をしたということをもっともっと誇りに思ってもいいと思いますし、もっと世界に向けて自慢していくべきだと思います。

既に触れましたが、日本は不良債権処理のルールを、国内金融機関の再生のためにつくったのですが、このルールを国際ルールにするために日本は貢献できるのではないかと思います。アメリカは金融機関の第2四半期の利益だけを見ている限りではアメリカの金融機関の業績は回復に向かっていますが、銀行の財務報告書の不良債権の処理の進捗状況や総額を見る限り、不良債権は増えていますし、処理は遅れています。だから日本が不良債権処理のときに使ったルールを、国際的に使うルールにすることで世界に貢献できるのではないかと思っております。

以上です。

○田中会長

委員の方からのご意見もまだ伺いますけれども、その後で専門委員の方で、もしご意見がありましたら承ろうかと思いますので、よろしくお願いします。

○池尾委員

先ほど、吉野先生の発言に関連して、田中会長がおっしゃいましたけれども、要するにイノベーティブな金融環境を維持するという課題と、それから投資家保護を図る、問題を起こさないという課題と両立させていかなければいけないわけですよね。それが非常に難しい課題で、よりよく両立させるような規制監督体制をつくっていくというのが、いわゆるベターレギュレーションという話だったと思っています。

それで、今の藤原委員の発言で、だから投資家保護とか、金融機関の健全性のチェックとかいうところで、我が国が高いパフォーマンスを上げてきたというのはそのとおりだと思いますが、もう一方のところの、ではイノベーティブな金融環境とか、そういう金融サービス産業のあり方を実現できてきたかというと、そこは最初の議論にあったようにできていないわけです。

ちょっときつい言い方をしてしまうと、イノベーションを犠牲にしていいのであれば、投資家保護なんて簡単なわけであって、逆に投資家保護を犠牲にしていいのであれば何でもありの金融ビジネスにして、イノベーティブなものもその中から少しは出てくるだろうということなので、やはり我々は両方、両立しがたいものをどこかで両立させていくかという形で、問題を考えないとちょっとまずいのではないかなと感じたというところがあります。それでイノベーションの部分で言うと、日本の場合、最近もどこかの雑誌か新聞に書いてあったのを読んだような気がしますけれども、2番手戦略をとるのが最も有利なような環境になっているわけですね。要するに1番手になると、いろいろ商品を導入したりするときに許可をとったりしなければいけないということで、1番手で突破するコストがすごく大きい。だけど、そうやって突破したって、大して創業者利得が保証されるような環境にはなっていないというので、それよりは1番手によるブレークスルーが起こった後ですぐ参入するという2番手戦略をとるのがいいという環境に日本はなっていて、そうすると全員が2番手になろうとするからイノベーターが出てこないという、そういうゲームの均衡になっているという。

だから、そこで投資家保護の手を抜くわけにいかないのだとすると、一番手のブレークスルーのコスト自体はそんなに下げられないわけですから、そうすると、すごい創業者利得が得られるような環境を用意してやらない限り、イノベーションなんか起こらないという話になるわけですが、そういう金融業でイノベーティブなことをやるとすごく大もうけしていいということを我が国の風土は許すのだろうか、とかいったことを考えると、繰り返しになって恐縮ですが、2つの課題を両立させるということの難しさは非常に改めて認識せざるを得ないということで、基本問題懇談会をするのも大変だなという感じです。

○田中会長

この点について、法律家の先生方からコメントをいただけますでしょうか。ということは、デファクトスタンダードとデジュールスタンダードというのはあるのだと思うのですが、非常に素人的な把握で言いますと、慣習法の伝統を持つところと、それから成文法の伝統を持つところで、このデファクトスタンダードの受け入れ方が実態上はやっぱり違うのだろうなと。ものすごく雑な観察ですけれども、そういうふうに思うので、この法のあり方、あるいは我が国における法規範との関係もあるのかなと思うのですが、全く違いますかね、私が言っていることは。コメントをしていただければと思うのですが。

岩原委員。

○岩原委員

急に振れられるとは思わなかったものですから、しかも問題があまりにも根本的なものですから、非常にお答えをするのは難しいのですけれども、ちょっと今のご質問に対する直接の答えの前に、今までの皆様のご議論を聞いていて、基本問題懇談会で何を考えるべきか、もう一度整理させていただきたいと思います。

大きく分けて3つの問題があるのかなと感じました。第1の問題が、いわば産業としての金融の日本におけるあり方をどうすべきか、ということについてのビジョンを示すという問題です。先ほど嘉治委員がご指摘になりましたように、アメリカ、イギリスが金融産業のあり方に関する1つのモデルをつくって、少なくとも制度としてはそれをモデルにしてキャッチアップできるように、各種の法改正など、制度整備をやってきたのが、ここ10年ぐらいの金融審議会や、あるいは金融庁の努力だったのではないかと思っています。その欧米の金融産業のモデルが、ある意味で一面行き過ぎたところもあって、改めて世界経済の中で、金融というのは一体どこまでの役割を果たして、一体どんな姿をとるのが一番健全であり、日本もそういうのを目指してやっていくべきかということを、ここでもう一度考え直して、日本の金融産業の将来のあるべき姿を考えるというのが、1つの我々の課題かなと思います。

アメリカ等は、自動車産業等、産業界での優位性が失われていった中で、かわりに新しいタイプの金融産業のモデルをつくって、それによってこの2000年代の前半は非常に繁栄を示しました。日本もそれに倣おうとしたわけですけれども、そのモデルがある意味で一定の限界があるということが明らかになったわけですから、そこの中で改めて日本が産業としての金融をどのように位置づけるかが問題になります。日本の金融産業は確かに今のままではよくない。先ほどから多くの委員がおっしゃっているように、もっとイノベーティブなものにしていかないといけないと思うのですけれども、しかし、ではそれはどんな姿のもの、どこまでのことができるのかというのを、やはり大きいビジョンとして示すということが、金融審議会に第1に与えられた課題であり、それがまた先ほどご指摘があったように、政治家の人たち、国民全体に対して金融産業がどういったものであるべきであり、そのためにはこういう制度的な枠組みが必要だということが説得できるようなビジョンをつくっていく。これが第1の課題かなという気がいたします。

第2の問題が、マクロプルーデンスの面について、やはり反省すべき点があったのではないかということです。今、世界中で、この金融危機に関する研究論文やレポートがものすごい数出てきております。どういうことをテーマにしているかにより、いろいろ色分けができますが、それぞれについて非常におもしろい議論がされていいます。それに比べると、日本はどうも学者の生産能力が低くて、あまりそういう研究がなされていないのではないかというのが、非常に自己批判を含めて考えているのですけれども、その中で一番中心的な課題になっているのは、マクロプルーデンスと制度の問題でありまして、法制度、会計制度その他がマクロプルーデンスをちゃんと考えたものになっていたのかという点が大きい課題になっています。先ほどから出ている1998年ごろの日本の経験をどこまで生かせるかというときに、1つは、まず日本は何でああいうバブルを起こしてしまい、それにブレーキをうまくかけられなかったのかという点での1つの反省というか、経験の総括がまず必要ではないか。それを踏まえて、どういうマクロプルーデンスを考えた法制度等をつくっていくかということを、懇談会等で考えていく必要があるのではないか。

第3の課題が、実際にもう危機を起こしてしまった後の処理の問題だと思います。これについては、まさに1997年以降、日本はのたうち回っていろいろ対処してきて、そしていろんな経験を積んだわけで、ある意味で日本の経験が一番直接世界に参考になるのはここの部分かもしれないという気がしています。この処理の方法の問題としては、いわば対症療法的な、まずとりあえずこういうふうにしなければいけないという問題と、その与える二次的な副作用というものもあり得るわけですので、それらを含めて中長期的にはどういう処理の方法をとっていったらよいか、どのようなステップを踏んで、だんだん正常化のほうに持っていくようにしていったらいいかといったことを、かつての日本の経験を踏まえて総括し、そして世界に参考になるようなことを提示していくということが必要なのかなと考えています。

ただ、日本の場合は、ある意味で言うと非常に幸運だったわけでありまして、当時、世界の中で日本だけが非常に厳しい状況に置かれて、世界経済全体はその後非常に好調だったわけで、そのために経済危機により円レートが下がった日本の輸出が伸びて、先ほど金丸委員のご指摘のあったように、経済全体が伸びたので金融も回復できたというところがあるわけです。しかし今回は世界全体がいわば落ち込んでいるわけですから、そういう意味ではそういう違いもきちんと踏まえた上で、日本の経験を総括する必要があるのかなと思います。

最後に、会長からのご質問、これは非常に難しい。そもそもご質問の趣旨を正確に理解しているか自信がございませんが、とりあえず私なりの感想を申し上げさせていただきます。簡単には言えないのですけれども、ただ、確かにアメリカ、イギリスというのは、とりわけ金融の世界においては、従来世界の中でリーダーシップをとって、制定法を含めて自分たちでルールをつくるし、会長が指摘されたようにコモンローの伝統に従い、ルールをつくる前にデファクトの慣習やスタンダード等、いろいろなものをつくって、世界の金融ビジネスはそれに従ってやってきたわけで、それが圧倒的な影響力を持つのは当然であります。いわゆるパス・ディペンデンスと申しますか、そのようなルール等が米英により先に確立され、各国の金融機関もそれを前提に金融ビジネスを行うと、それに結局ほかの各国はついていかざるを得ないという状況はあまり変わらないと思います。制定法主義の国は、いちいち国会で立法を行わないとルールを作れないという面がありますから、そういう面でも、機動的なコモンロー主義の米英に遅れるところもあったかもしれません。

ただイギリス、アメリカ法のコモンロー的な慣習等の重視か、大陸法にける制定法の重視かということで、あまり割り切ることは、私はどうかと思っています。実はある意味で言うと、特にアメリカなんかは日本以上にむしろ非常に細かいレギュレーションをつくっている国なので、決してそう簡単に割り切れる話ではないですけれども、ただ非常に違うところは、藤原委員のご指摘にありましたように、アメリカ、イギリスでは、自分たちでルールをつくる、あるいは自分たちで慣習やデファクトスタンダードをつくるという非常に強い意識があり、またそれだけの力がある。何と言ったって、金融というのは要するにコミュニケーション、情報の力が決定的であり、それは言葉の能力の問題であり、同時に政治力、軍事力に支えられて初めて成り立っているものですから、ある意味で日本は限界があって当たり前だと私は考えております。

以上です。

○黒沼委員

私も田中会長の質問に答えるだけの能力はないのですけれども、我が国のこれまでの取り組みの評価について、池尾委員の言われたことを、同じことかもしれませんけれども、法律家の目から見たらどう言えるかを少し話したいと思います。

日本では、金融危機の後にまず破綻処理をやったんですね。これは岩原委員が言われたように、世界でも参考にできると思います。そして、金融危機が生じた原因を特定して、それを取り除く作業としてその後にやってきたことが、いわゆる貯蓄から投資へという政策と、それに伴う投資環境の整備だったと思います。金融イノベーションの促進というのも、それとともにやってきたことだと思います。

ただ、貯蓄から投資へという政策については、最近では、これは金融資産を持っている国民にリスクを押しつける行為ではないのか、特に高齢化社会になって、お金を持っている老人にリスクを押しつけるだけではないかという批判もあるところです。金融イノベーションの促進については、グローバルな金融危機という、昨今の状況では、行き過ぎた金融イノベーションの問題点が噴出しているわけで、この政策を押し進めていってよいかということも問題になると思います。

これは両方とも非常に難しい問題なのですけれども、私は、まず貯蓄から投資へというのは、そもそも政策によって実現することは難しいのではないかと感じていました。つまり、これは金融に係る制度と、投資に係る制度を、それぞれ効率的なものに整備していって、その両者の間で競争させればいいだけの話であって、無理やり政策によって貯蓄から投資へ誘導するというのはそもそも無理があると考えております。

それから、金融イノベーションの促進ですけれども、少なくとも投資について言いますと、日本の法律の制度上は、商品内容についての法的な制約というのはほとんどないわけでありまして、公募商品については、開示主義と自己責任の原則が成り立ち、私募にあっては、開示をしなくても自己責任の原則が成り立つ。そういう意味では、どういう商品をつくることも自由なのですね。あとは経済的な問題で、説明義務とかそういう投資家保護のための法制度についてコストがかかるので、そのコストをある程度削減しないと金融イノベーションが促進されないという点なのですが、これは金融商品取引法でプロ・アマの区分が設けられて、ある程度は削減できるようになってきている。ただそれが十分かどうかという検証は必要だろうと思います。

一番問題なのは、グローバルな金融危機を起こしたような金融イノベーションと、日本がこれまで目指してきた金融イノベーションというのは同じなのか違うのかということです。プロ・アマの区分を設けて金融イノベーションを促進しようという方向に法制度が改善されてきているわけですけれども、実際にはそんなにイノベーションは生じていないのではないか。そしてその法制が目指してきたイノベーションが、グローバルな金融危機のもとになったイノベーションと同じなのか違うのかということをきちんと検証して、同じような側面があるとすれば、それに対する対応策を模索していく作業が今後必要になるのではないかと思っております。

○神作委員

法律を勉強している者として、ルールと、それからデファクトスタンダードの話について、私が考えているところを申し上げさせていただきたいと思いますけれども、これまでの考え方というのは、特に金融市場の場合には、市場でデファクトになっているルールというのは、公正でありかつ効率的なものだという、こういう一種の信念というのか、一般に広くそういう考え方が受け入れられていたのではないかという気がいたします。

ところが、市場で行われていることが本当に公正で効率的であったのかという点について疑いが生じてきたというのが、今回の金融危機の一つの教訓であるのではないかと思います。

これは、1つは金融市場というのは岩原委員がご指摘されましたように、情報がすべてである世界です。理念的で物理的な障害がないという、そういう世界の中で、市場の効率性というのは、きわめて高いレベルで実現できるわけです。そのような市場において、デファクトになっているというのであれば、これはきっといいルールなのだろうという、そういう考え方があったのではないかとも思います。しかし、そこのところが根本的な疑念を抱かれているのではないか、それが現状なのではないかという気がしております。

そういう意味では、金融というのは、先ほど申し上げたような情報の特異性から由来して、この情報の非対称性によって、結局行われているルールが本来公正でないのに、情報を知らないがゆえに公正なものと信じ込んでいるという、そういうことがないかどうかということを検討していく必要がある気がしております。それはもしかしたら、市場という名のもとで、実際にはだれか市場の覆面をかぶった、大きな影響力のある者が、実際には公正とは思われないようなルールをつくって実行しているというようなこともあり得るのではないか。

そのようなことがあるとすると、私は決してデファクトルールが金融市場におけるルールとしてそのまま認められるということがあってはならないと思います。なぜならば、そのことは市場に対する参加者の信頼を根こそぎ揺るがす可能性があるからでありまして、そういう意味では、デファクトのルールの中で、公正なものとそうでないものというものをレビューしていくという観点が必要なのではないかという気がいたしております。

○翁委員

私も先ほど岩原委員が整理された3点のポイントが、非常にこれからの金融システムを考えていく上で重要な論点だと思っておりますが、特に2番目のマクロプルーデンスのところに関して、やはり我が国としてもいろいろ検討していかなければならない点が多いのではないかと思っております。

今までの健全性確保というのが、銀行を中心に考えておりましたので、こういう機会に金融システム全体の安定性をこういった危機、先ほど嘉治委員もおっしゃったように、危機というのは必ず起こるものですし、そういったときにどうすれば発生するコストを本当に小さくできるのか。そういう視点で、もう一回プルーデンス政策を点検する必要があると思っております。

それから、やはり金融機関というプレーヤーだけでなくて、決済システムとか、それからそれぞれのマーケットの市場流動性の状況とか、そういったマーケット全体の構造とかにも目を配って、どうすれば危機が起こったときに大きなコストを起こさないのかという視点から、我が国の金融システムも再点検していく必要があるのではないかなと思っております。

○田中会長

基本問題懇談会設置を今回お諮りしているのですけれども、これについては、そんなもの要らんぞとか、メンバーがおもしろくないとかございますか。補充しろというご意見はあったようには聞いていますが。

専門委員の方で、この懇談会のテーマとか、あるいはスケジュール観等について、何かご意見ございましたら承りたいと思いますが、どうでしょうか。

○安東専門委員

それでは一言。

こういった金融市場、資本市場というあり方についての懇談会ということでございますけれども、実効性と即効性が肝要だと思います。企業金融、あるいは金融危機の発端はやはり人間の欲と、知識と、知恵と、これが行き過ぎたところで常に発生します。昨年の秋にあれだけ大きく資本注入までした投資銀行が、1月にはもう利益を出し始めたとか、あるいはまた批判された高額報酬みたいなものも出始めたとか、要するにこの世界はお金が一瞬にして集まって、危険となったら早目に去って行きます。恐らくこの繰り返しは、先ほど申し上げた欲というものがある限りは永久に続いていくのだろうなと思います。ですから、どなたか先ほどご指摘なさっておられましたが、今後また危機が発生するということを十分念頭に置いていかなくてはならないと考えます。

私ども協会でも、「金融・資本市場に関する政策懇談会」というものを設置して、今年2回目の提言をしました。提案には、テーマが大きく2つあったわけですけれども、1つは、昨今よくマスコミ等にも出ております新興市場のあり方についてです。もう一度日本の将来の活力というようなことについてやっていこうではないかというものです。しかし、そもそも今までの新興市場には様々な問題があったので、全国の取引所の方々にも集まっていただきながら、今後の問題を解決していこうというものです。もう一つは、やはり先ほど「貯蓄から投資へ」という言葉が出ておりますけれども、それに際しての金融リテラシーという部分が、やはり我々日本人には最も欠けている箇所なのではないかなという問題意識です。では金融リテラシーを充実していくためには、どのような策が必要かという論点です。あとは、社債市場の活性化に向けた取組みや、市場とそれを取り巻く投資家、発行企業、あるいは仲介者である証券会社の役割を検討すべきとの指摘もありました。今回設置されます基本問題懇談会の中では、ぜひこれらの提言も参考にしていただいて、進めていただけたらと思います。

○田中会長

ありがとうございました。

お願いいたします。

○永易専門委員

永易でございます。

基本問題懇談会の設置については全く異論がありませんし、ぜひ活発な議論をいただいた上で、できれば方向観を示していただけると非常にありがたいなという気持ちはします。ただ、委員の皆様のお話をずっと聞かせていただいておりますけれども、何というのか、三次元の話を平面で解決するのは非常に難しいわけですから、今回の議論、テーマというのは、あらゆるものが含まれているなという気がいたしますので、やはりもう少しテーマを絞ったほうがよろしいかと思います。その点で、岩原先生は比較的非常にわかりやすいまとめ方をされましたけれども、そういう方向で持っていかないと議論がまとまらないというのか、結局何をやったのかわからないということになってしまうのではないかという印象を持ちながら聞いておりました。

○田中会長

江頭さん、何か。

○江頭専門委員

基本問題懇談会の設置につきましては、全く異議はございません。私ども、損害保険業界に関しましては、金融監督全体の中で保険会社に対する監督をどうするかというご議論になるのだろうと思います。この点は本日の配付資料1に記載されましたとおり、現在、保険監督者国際機構(IAIS)を中心に、国際的な議論が進んでおります。こうした議論との整合性を保ちながら、本国と各国・地域との間の二重の監督規制にならないような形を指向していただきたいと考えております。

以上でございます。

○田中会長

中央銀行のお立場で、何かございますか。

○中曽幹事

特には。

○田中会長

ありませんか。

それでは、設置はご了承いただいたということでいいでしょうか。どうもありがとうございました。

今日いただいた意見をもちろん参考にさせていただきまして、懇談会、あるいはそこに部会をつくるかどうかわかりませんけれども、審議を続けたいと思います。

以上をもちまして、本日の総会、分科会の合同会合を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企画課(内線3512)

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