第50回金融審議会総会・第38回金融分科会合同会合議事録

  • 1.日時:

    令和4年9月30日(金曜)13時30分~15時00分

    2.場所:

    中央合同庁舎第7号館13階 金融庁共用第1特別会議室


    ○神田会長
     それでは、定刻になりましたので、始めさせて頂きたいと思います。ただ今から第50回金融審議会総会と第38回金融分科会の合同会合を開催いたします。
     本日の総会でございますが、オンライン会議を併用した開催とさせて頂きます。会議の模様はウェブ上でライブ中継をさせて頂いておりますので、よろしくお願いいたします。
     また、議事録ですが、通常どおり作成の上、金融庁のホームページにて後日公開させて頂く予定です。
     会議を始める前に、留意事項を申し上げさせて頂きます。御発言を希望される場合には、オンライン会議システムのチャット上にて、全員宛てにてお名前を御入力頂き、発言希望とか書いて頂ければありがたく存じます。それを確認して、私から御指名させて頂きますので、そうしましたら、御自身のお名前を名のって頂いた上で、御発言をお願いいたします。なお、対面で御出席の河村委員には、挙手をして頂ければ結構かと思います。
     本日でございますが、鈴木政務官に御参加頂いております。開会に当たりまして、鈴木政務官より御挨拶を頂けると伺っております。
     政務官、よろしくお願いいたします。
     
    ○鈴木政務官
     金融担当政務官の鈴木英敬でございます。神田会長をはじめ委員の皆様におかれましては、大変お忙しいところ、総会としては第50回の節目となるわけでありますが、金融審議会に御参加賜りまして、心から感謝申し上げたいと思います。開会に当たりまして、一言、御挨拶を申し上げたいと思います。
     岸田政権が掲げます「新しい資本主義」では、貯蓄から投資へのシフトを進め、持続的な経済成長の恩恵が家計にも及ぶ好循環をつくることを重要施策の1つに位置付けておりまして、本年末に、総合的な「資産所得倍増プラン」を策定することとしております。このため、岸田総理がニューヨーク証券取引所でのスピーチでおっしゃった、NISAの恒久化をはじめとする抜本的拡充のほか、個人が自らのニーズやライフプランに合った適切な金融商品を選択できるよう、金融事業者における顧客本位の業務運営の確保や、金融リテラシーの向上を促す施策を検討したいと考えております。
     また、新型コロナウイルス感染症やロシアのウクライナ侵略の影響により、我が国を取り巻く環境は大きく変化をしています。エネルギー価格をはじめとした物価高騰の影響が懸念される中、経済や国民生活の安定を支えるため、金融機関による事業者支援の取組みをしっかり後押しするとともに、金融機関に対して経営基盤の強化をお願いしてまいります。
     持続的な経済成長を実現するためには、こうした現状への対応に加えて、経済社会の構造を、変化に対してより強靱で持続可能なものにしていくことが重要です。このため、ニューヨーク証券取引所でのスピーチで、岸田総理が力強くおっしゃったとおり、イノベーションの担い手であるスタートアップへの成長資金や、事業承継・再生に必要な資金の供給拡大に向けた環境整備を行うとともに、企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を図るため、人への投資の促進や、コーポレートガバナンス改革に向けた取組みを進めてまいります。
     委員の皆様におかれましては、こうした「成長と分配の好循環」の実現に向けた金融面での環境整備に必要な施策について、幅広い観点から御審議をお願いしたいと思います。
     それでは、ここで、鈴木俊一金融担当大臣の諮問を読み上げさせて頂きます。

    2022年9月30日

    金融審議会
     会長 神田秀樹 殿                                       

    金融担当大臣 鈴木俊一

     
     金融庁設置法第7条第1項第1号により下記のとおり諮問する。
     

     
    ○ 安定的な資産形成に関する検討
     
     我が国の家計の安定的な資産形成を実現するため、顧客本位の業務運営、金融経済教育等について、幅広く検討を行うこと。
     
    ○ 事業性に着目した融資を促進するための制度や実務のあり方に関する検討
     
     スタートアップや事業承継・再生企業等への円滑な資金供給を促す観点から、事業性に着目した融資実務のあり方も視野に入れつつ、事業全体を担保に金融機関から成長資金等を調達できる制度について検討を行うこと。
     
     以上であります。
     

    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     なお、鈴木政務官は、公務のため、ここで御退席されます。どうもありがとうございました。
     

    (鈴木政務官退室)

     
    ○神田会長
     それでは、恐縮ですが、カメラの方々はここで御退室をお願いしたいと思います。
     

    (報道関係者退室)

     
    ○神田会長
     それでは、議事に移りたいと思います。
     今般、事務局に異動がございましたので、若原総務課長から御紹介をお願いいたします。よろしくお願いします。
     
    ○若原総務課長
     承知いたしました。まず、本審議会の担当局長でございます金融庁企画市場局長に井藤が就任しております。
     そのほかの事務局の異動につきましては、お手元に配席図があるかと思います。お時間の都合もございますので、そちらをもって御紹介に代えさせて頂きます。なお、名前のところに線が引かれております者が今回新しく参った者でございます。念のため申し添えます。
     以上でございます。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、本日の議事の流れについて、簡単に御案内させて頂きます。
     まず、先ほど大臣から頂きました2つの諮問事項についての補足説明をして頂きます。続きまして、「市場制度ワーキング・グループ」の中間整理と、「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告及び今後の検討事項についての説明がございます。その後で、この8月末に公表されました「2022事務年度金融行政方針」について説明して頂きます。その上で、全体について、委員の皆様方に討議をお願いしたいと思います。
     ということでして、まず、先ほど大臣から頂きました諮問事項の1つ目であります「安定的な資産形成に関する検討」について、島崎市場課長から御説明をお願いいたします。
     
    ○島崎市場課長
     よろしくお願いいたします。それでは、諮問事項「安定的な資産形成に関する検討」につきまして、資料1の「資産所得倍増プラン」という1枚紙でございます。
     こちらの資料1にありますとおり、政府全体の方針といたしまして、2022年6月、「経済財政運営と改革の基本方針2022」と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が決まりまして、こちらにおいて「資産所得倍増プラン」の策定が盛り込まれております。文章にもございますが、個人金融資産に着目していく、それから、貯蓄から投資へのシフトということを記したものでございまして、こちらを進めるということで、本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定することになっております。
     こうした状況を踏まえまして、明確に、我が国の家計の安定的な資産形成を実現するためということ、それから、2つのテーマ、顧客本位の業務運営、金融経済教育を中心に幅広い検討をするということ、明確にこうしたことが記された新たな諮問という形になっております。
     今後の御審議のほどよろしくお願いいたします。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、諮問事項の2つ目になります「事業性に着目した融資を促進するための制度や実務のあり方に関する検討」につきまして、大来信用制度参事官から御説明をお願いいたします。よろしくお願いします。
     
    ○大来信用制度参事官
     よろしくお願いいたします。それでは、資料2を御覧ください。
     我が国の金融機関融資をめぐっては、従来、その課題といたしまして、不動産担保、あるいは個人保証等に過度に依存しない融資、また、それを言い換えますと企業の事業性に着目をした融資、こういった融資実務の構築を図る必要があるのではないかということが指摘されてきたところです。このような課題に対応するために、1つのツールとして、新たな担保制度、事業成長担保権と仮称いたしますが、そういう担保制度を創設してはどうかというアイデアがございます。
     こうした考え方等も踏まえる形で、本年6月には、1ページにございますとおり、各種閣議決定文書において、先ほどの諮問事項の2点目の背景となる文章が盛り込まれているところです。
     例えば、一番上でございますが、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」という中におきまして、「不動産担保等によらず、事業価値やその将来性といった事業そのものを評価し、融資することが求められる。スタートアップ等が事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる制度を創設するため、関連法案を早期に国会に提出することを目指す」という文章が盛り込まれているところでございます。
     そのほか、真中、「骨太方針2022」、あるいは一番下、「規制改革実施計画」、こういった閣議決定文書におきましても同様の問題意識に基づく文章が記載されているところです。
     2ページ目にお進みいただききまして、事業成長担保権の経緯と概要でございます。現在、法務省におきましても、担保法制全般の見直しに向けた議論を2011年4月から開始しており、金融庁としても幹事として参加しているところでございます。
     その論点の1つに、無形資産を含めた事業全体に対する担保制度の検討も含まれております。
     金融庁独自でも、一昨年、2020年の秋口から「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」を立ち上げまして、事業成長担保権の検討を進め、その成果を論点整理として一旦取りまとめているところでございます。金融機関が不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組みやすくするよう、事業全体を担保に金融機関から資金を調達できる制度の実現を目指しております。
     現在の課題と目指すべき姿、簡単に下に図示しております。
     現在の担保法制の下では、個別資産に対する担保権は可能となっておりますが、対象となるものは有形資産が中心で、事業価値への貢献を問わず担保権者が最優先される制度になっており、そうしたことも背景として、課題としては、不動産等の担保がない先への融資が困難であり、特にスタートアップ等の資金調達に支障を来しているのではないか。あるいは、融資先のモニタリングや経営改善支援を金融機関がするインセンティブが働きにくいのではないかといった課題が指摘されております。
     右側でございますが、事業成長担保権を創設し、無形資産を含む事業全体を担保の対象にすることを可能とする。そして、事業価値の維持・向上に資する者、例えば商取引先、あるいは従業員、さらには再生局面の貸手といったものを十分に保護する。こういう担保権を創設することで、無形資産を含む事業の将来性に着目した融資を促進する。それから、融資先のモニタリングや経営改善支援を金融機関が実施することを促進していく、こういった方向を目指すことができればと考えているところでございます。
     以上でございます。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、続きまして、本年6月22日に公表されました「市場制度ワーキング・グループ」の中間整理について、私がこのワーキング・グループの座長を務めさせて頂いておりますので、私から簡単に説明させて頂きます。お手元の資料3を御覧頂ければと思います。
     「市場制度ワーキング・グループ」では、昨年10月から8回にわたり審議を行いまして、本年6月にその内容を中間整理として取りまとめました。
     資料3の1ページを御覧頂きますと、中間整理におきましては、「成長と分配の好循環」に向けた諸施策について、主に3つの観点から整理しています。第1は、「成長・事業再生資金の円滑な供給」、第2は、「経済成長の成果の家計への還元促進」、そして第3は、「市場インフラの機能向上」であります。
     このうちの、まず、「成長・事業再生資金の円滑な供給」についてですが、我が国スタートアップへの資金供給が欧米と比べてなお小規模であることが課題です。そこで第1に、機関投資家からの資金供給の拡大、第2に、スタートアップ企業の上場プロセス等の見直しに関する取組みを行っていくこととしています。
     次に、「経済成長の成果の家計への還元促進」についてですが、我が国家計では「貯蓄から資産形成」の動きが限定的でして、金融資産の伸びが欧米と比べて低いことが課題です。そこで第1に、金融事業者による顧客本位の業務運営の確保、第2に、金融リテラシーの向上に向けた取組みを総合的に進めていくこととしています。
     第3の観点ですが、「市場インフラの機能向上」につきましては、上場株式の流通の場が限定的であり、上場株式以外の金融商品の流通が不十分であることが課題です。そこで第1に、非上場株式や証券トークンの適切な流通の確保、第2に、上場株式等の市場間競争の促進といった取組みを行うことが重要です。
     以下、それぞれの柱の内容について、もう少し申し上げます。
     「成長・事業再生資金の円滑な供給」についてですが、資料3の2ページを御覧頂きますと、そこにありますとおりスタートアップ・非上場企業への成長・事業再生資金の円滑な供給として、第1に、アセットオーナー等によるVC投資等の拡大、第2に、投資信託への非上場株式の組入れに関する枠組みの整備、第3に、機関投資家等による非上場株式のセカンダリー取引の円滑化、第4に、地域企業の事業再生・事業承継の円滑化に向けた勧誘可能な非上場株式の取引の範囲拡大等の施策を盛り込んでおります。
     また、企業の成長に資する上場等のあり方として、第1に、企業特性に合わせた取引所の上場審査の実現、第2に、取引所においてダイレクトリスティングを利用しやすい環境の整備等の施策を盛り込んでおります。
     そして、「経済成長の成果の家計への還元促進」についてですが、資料3の3ページにありますとおり、適切な勧誘・助言や顧客への情報提供の充実の観点から、第1に、販売事業者による投資助言業兼業の環境整備、適切な勧誘・助言が行われる制度的枠組みの検討、第2に、デジタルツールも活用した情報提供の充実の検討が重要であります。
     また、プロダクトガバナンスの確保や資産運用業の高度化の観点から、第1に、顧客の最善の利益にかなった金融商品組成や手数料設定、商品性の情報提供、第2に、独立社外取締役等による評価及び検証、そして第3に、いわゆる二種ファンドの募集・運用の適切性の確保についても検討を進めることとしています。
     以上のほか、金融リテラシーの向上の観点から関係機関・団体との連携を強化しつつ、学校や職域における金融経済教育の支援を推進していく必要があります。
     次に、市場インフラの機能向上です。これは資料3の4ページにありますように、上場株式等の取引プラットフォームについて、不公正取引への対応を強化しつつ、PTSが上場株式等を取り扱う場合の売買高の上限緩和について検討を行うこととしています。
     また、非上場有価証券等の取引プラットフォームについて、第1に、非上場株式や証券トークン等の流通におけるPTSの積極的な活用に向けた認可審査の見直し、そして第2に、投資家保護のため、取扱商品の適切性を確認するための枠組みの構築といった取組みを進めることとしています。
     中間整理において、具体的な対応策を示した事項はたくさんあるわけですが、これらについては、順次実施し、その他の事項については、引き続き「市場制度ワーキング・グループ」において検討を進めることとしています。
     以上、「市場制度ワーキング・グループ」中間整理の主な内容の報告とさせて頂きます。
     
    ○ 神田会長
     それで続きまして、本年6月13日に公表されました「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告と今後の検討事項についてですが、こちらも私が同ワーキング・グループの座長を務めさせて頂いておりますので、大変恐縮ですが、私から簡単に説明させて頂きます。
     こちらは、お手元の資料の4-1、4-2、4-3になります。4-1が報告の概要、4-2が報告の本体、そして4-3が今後の検討事項となります。
     「ディスクロージャーワーキング・グループ」は、昨年6月、「企業情報の開示のあり方に関する検討」について、金融担当大臣から諮問を受けまして、昨年9月から9回にわたって審議を行いまして、本年6月に報告をとりまとめております。資料4-1にありますように、審議に当たっては大きく2つの観点から検討を行いました。第1が非財務情報開示の充実、第2が開示の効率化です。
     まず、第1点目の非財務情報開示の充実につきましては、サステナビリティに関する企業の取組みの開示やコーポレートガバナンスに関する開示について、審議を行いました。サステナビリティに関する取組みは、皆様方御承知のように、企業経営の中心的な課題となるとともに、投資家の関心が世界的に高まっています。同時に、国際的にサステナビリティ開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいるところです。このような状況を踏まえまして、我が国においても、企業情報の開示の主要項目としてサステナビリティ開示を位置付け、その内容について継続的な充実を図るため、本ワーキング・グループの報告におきましては、有価証券報告書においてサステナビリティ情報の「記載欄」を新設することなどを提言しています。
     また、人的資本につきましては、「人材育成方針」、「社内環境整備方針」を記載項目に追加すること。そして、多様性については、「男女間賃金格差」、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」を記載項目に追加することなどを提言しています。
     コーポレートガバナンスに関する開示につきましては、コーポレートガバナンス・コードの再改訂等を踏まえまして、企業の取組みの進展を適切に開示する観点から、「取締役会、指名委員会・報酬委員会の活動状況」の記載欄を追加することなどを提言しています。
     次に、2点目の開示の効率化です。四半期開示を中心に情報開示の頻度・タイミングについて審議を行いました。
     四半期開示の見直しにつきましては、いろいろな御意見を頂きました。具体的には、四半期開示は中長期の経営戦略の進捗状況を確認する上で有用であるという御意見。開示頻度を後退させることは海外からの投資に水を差すほか、日本の資本市場の質の低下や機関投資家と個人投資家の情報格差の拡大の懸念もあり、慎重な検討が必要ではないかという御意見。金融商品取引法に基づく四半期報告書と取引所規則に基づく四半期決算短信には重複が見られるため両者を一本化してはどうかという御意見。一本化する場合、開示内容や監査法人のレビュー、虚偽記載に対するエンフォースメント等の課題について具体的な検討を進める必要があるとの御意見。開示のタイミングがより遅い四半期報告書に集約させることは情報の有用性、適時性を低下させるおそれがあるとの御意見。などの御意見を頂きました。
     これらの御意見等を踏まえまして、金融商品取引法の四半期開示義務を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することを提言するとともに、「一本化」の具体化に向けた課題について、検討を継続することとしております。
     なお、以上のほか、資料4-1の脚注部分に記載しておりますが、開示をめぐるその他の論点として、企業が他者と締結する重要な契約の開示要件の明確化、英文開示の促進等についても、提言を取りまとめております。
     続きまして、「ディスクロージャーワーキング・グループ」における今後の検討事項について一言御説明させて頂きます。このワーキング・グループでは、資料4-3になりますが、そこにございますように、6月の報告を受け、四半期決算短信への「一本化」の具体化に向けての課題について、更なる検討を行うこととしています。
     具体的には、次のような点を検討する必要があると考えております。
     例えば、全部又は一部の上場企業を対象とした四半期決算短信の義務づけの有無。それから、四半期決算短信の開示内容。それから、虚偽記載があった場合に、これに対するエンフォースメントの手段。それから、監査法人によるレビューの有無。そして、半期報告書に対する監査法人の保証のあり方。これらの点等を検討する必要があると考えております。
     また、サステナビリティ開示ですが、これにつきましては、本年7月に財務会計基準機構の下にサステナビリティ基準委員会、略称SSBJと呼んでおりますが、が設立されまして、国際的な意見発信や、我が国における開示の具体的内容を検討することなどが期待されております。このため、SSBJの役割の明確化などについても、今後、ワーキング・グループで議論したいと考えております。
     簡単でございますが、以上が「ディスクロージャーワーキング・グループ」に関する御報告となります。どうもありがとうございました。
     
     それでは、続きまして、本年8月31日に公表されました「2022事務年度金融行政方針」について、高田総合政策課長から御説明をお願いいたします。高田さん、よろしくお願いいたします。
     
    ○高田総合政策課長
     総合政策課長の高田と申します。よろしくお願いいたします。私から、お手元の資料5に沿いまして、8月31日に公表いたしました「2022事務年度金融行政方針」の概要について御説明させて頂きます。なお、この金融行政方針と申しますのは、向こう1年間の金融庁の主要課題を示す文書として、毎年、作成・公表しているものでございます。
     今回の金融行政方針は3部構成となっております。まず、「Ⅰ.経済や国民生活の安定を支え、その後の成長へと繋ぐ」ということで、コロナウイルスや、ロシアのウクライナ侵攻、物価高騰等、現下直面する経済社会情勢に対して、金融としてしっかりと対応していくということであります。
     「Ⅱ.社会課題解決による新たな成長が国民に還元される金融システムを構築する」ですが、こちらは気候変動問題やデジタル化等の課題に対応し、また、岸田政権が進める「新しい資本主義」などにも対応して、金融としてしっかりと中長期的な持続的な成長につなげていくというものであります。
     そして、「Ⅲ.金融行政をさらに進化させる」ということで、金融行政を担う金融庁自体の刷新を進めていくということであります。
     まず、Ⅰの主要な項目であります。最初の丸ですが、資金繰りや経営改善・事業転換・事業再生等、事業者は今物価高騰でありますとか、あるいはコロナによる業績悪化、様々な課題を抱えておりますので、そうした事業者の直面する課題に応じて、きめ細やかな支援をしていくということであります。
     その下、2ポツ目でありますが、事業者支援能力の向上ということで、特に地域において事業者支援の中核を担う地域金融機関について、ノウハウの共有、その他の取組みを進めてまいります。
     それから3番目、先ほど御説明もありましたが、事業全体に対する担保権の早期制度化等に取り組んでまいります。
     そのほか、金融機関のモニタリングの推進、利用者目線に立った金融サービスの普及、あるいはマネロン、サイバーセキュリティー、システムリスク等への対応も進めてまいります。
     右側に行きまして、Ⅱです。まず、一番上の丸ですが、国民の安定的な資産形成のため、「資産所得倍増プラン」を政府として年末までに策定することとなっておりますが、その中で、金融庁としましては、NISAの抜本的拡充といったことを進めていくとともに、国民の金融リテラシーの向上、また、事業者による顧客本位の業務運営の確保の検討を進めてまいります。
     それから2番目、3番目の丸、スタートアップへの円滑な資金供給、それから企業情報の開示については、先ほど神田先生から御説明がございました。
     また、サステナブルファイナンスを推進してまいります。特に気候変動に対しての企業と金融機関の対話の促進、あるいは多様な投資家によるインパクト投資の促進といったテーマにつきまして、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議の下に、新たに検討会を設けまして、検討を進めてまいります。
     その下、デジタル社会の実現であります。Web3.0やメタバースといった新たな技術への対応、しっかりと環境整備を進めてまいりたいと考えております。
     一番下、国際金融センターの発展につきまして、これまでも海外資産運用業者の参入促進等に向けて働きかけを行ってまいりましたが、今後、ポストコロナを見据えて、さらに働きかけ、環境整備を強化していきたいと考えております。
     それから最後、下段の金融行政のさらなる進化ですが、金融行政の組織力向上のため、職員の専門性の向上や、主体性・自主性の発揮を進めてまいります。例えば、政策オープンラボといった、職員が所掌にとらわれず、自由に参加できるプロジェクトなども進めてまいります。
     それから一番下、国内外への政策発信力の強化、国際的ネットワークの強化などですが、特に来年は日本がG7の議長国となります。そうした機会も活用して、しっかりと内外への発信を進めてまいりたいと考えております。
     私からは以上でございます。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、討議に入りたいと思います。先ほど頂きました2つの諮問事項についての補足説明、それから「市場制度ワーキング・グループ」の中間整理と「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告及び今後の検討事項、そして今御説明頂きました「2022事務年度の金融行政方針」、これらにつきまして、委員の皆様方から御質問、御意見等ございましたら、お出し頂ければ大変ありがたく存じます。どなたからでも、どの点でも結構ですので、頂ければと思います。
     なお、オンラインでの参加の方々におかれましては、発言希望とチャットで全員宛てに入れて頂ければありがたく存じます。今、もう早速入れて頂きまして、ありがとうございます。岩下委員、佐々木委員、川口委員の順でお願いいたします。
     岩下委員、どうぞ。
     
    ○岩下委員
     ありがとうございます。今回の諮問事項及び報告の内容につきまして、若干の意見を申し述べさせて頂きます。
     今回諮問頂いた中で、「資産所得倍増プラン」はこれからの日本経済、日本社会において非常に重要な論点だと思います。これまで日本の金融構造は銀行預金偏重、いわゆる間接金融優位の構造で、直接金融を自由化した1980年代、90年代ぐらいの変革がなかなか浸透しませんでした。相変わらず、個人の方々は銀行預金及び現金を大量にお持ちであって、いわゆる金融仲介の機能は、直接金融の形ではなくて、銀行預金や、その他固定金利でエクイティ的な値動きのない商品を中心として貯蓄・投資が行われています。その結果として資金仲介が必ずしも円滑に機能していないという批判があると思いますが、その構造が20年30年にわたって変化しない状況がございます。
     最近、若干の変化があるとすると、私がテレビのコマーシャルやあるいはYouTube等の動画を見ているときの、途中の広告で入ってくるのが、なぜか伝統的な有価証券や株式投資等ではなくて、暗号資産であるとか、あるいは不動産関係の投資商品が最近多いようですが、そういうものを勧誘するものが非常に多いです。
     もちろんそういうものがあってはいけないとは言いませんが、ただ、本来、金融の機能をきちんと果たす商品として存在していたはずの伝統的な有価証券、株式であるとか、各種の債券、投資信託であるとか、そういったものが何やら一部のお年寄りのための投資になってしまって、若い人たちにはもっとよい商品がありますよみたいな、そういう勧誘の仕方を様々な業者がやっているわけです。これはある意味でいうと、伝統的な金融機関が、そういう人たちに対して大きく負けているということではないかと思います。もちろん残高的にはまだ十分、大量の預金や有価証券を個人の投資家等にお持ち頂いてはいるのですが、ただ、それは概して高齢者です。若い人たちは、何やら難しい説明を要する株式であるとか、あまりリターンが期待できない銀行預金ではなくて、新しいものに目を向けてしまっている部分があります。それらのものが日本の経済成長に寄与するということであればいいのですが、どうも、先ほどの金融庁の基本的方針の後ろにあったメタバースとかWeb3.0というものは、日本の経済成長に大きくプラスに寄与するとは考えにくい部分があります。若者がそういったものに引きつけられているのはなぜかというと、既存の有価証券なり金融商品というものの魅力が乏しい、あるいは期待されるリターンに比べて、かかる手間暇であるとか、そういうものが非常にうっとうしいということなのではないかと思います。
     そういう視点で考えると、例えば、今回の「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告書にもあった様々な現在の既存の規制に対する規制の緩和は非常に重要でありまして、株式を1つとってみても、例えば株式のIPO等をかける場合に必要とされる様々な書類であるとか、あるいは四半期の開示が金商法と東証の両方にまたがってしまっているであるとか、様々な形で発行主体側にも、あるいは投資家の側にも、不要な負担をかけているように思います。これは、それぞれの仕組みが、それぞれの理屈に基づいて存在している。さらに言うと、株主総会のための、会社法上のディスクロージャーみたいなものもあるわけですが、そういうものが、あるものは紙で、あるものは電子でという形で配布されているということは、発行者側にも大変な負担をかけますし、投資家側から見ていると、何か面倒くさいことやっているなと。それに比べれば、それこそFXだとか暗号資産みたいなものは単純でいいなという、割と即物的というか、安易な考え方をする若者が多いというのを私は大変危惧します。
     その意味では、別にそういう若者に完全に合わせる必要はもちろんないわけですが、そういう人たちにも魅力的に見えるような商品にしていかないと、長い目で見た日本の金融市場、とりわけ伝統的な金融商品の市場が、どんどん縮小していってしまうのではないかということを危惧します。それは、既存の制度のルールを一生懸命守っていかなくてはいけないということとは別に、もう少し長い目で見たときに、果たして今のままでよいのだろうか、今のデジタルを中心とした世の中になった中で、それが本当に機能するのだろうかということです。そういう議論をすると、暗号資産だとかSTOだとか、新しい金融商品のほうに行きがちですが、別に伝統的な有価証券がきちんとした機能を持って、そこで機能していて、そこにかかっている不要な規制、不要なルール、慣習というものを是正していけば、十分に魅力的な商品になるのではないかと思うので、そういう方向での改善が行われることが、ぜひ必要だと考えます。
     その意味では、今回の諮問に答えること、及びこの報告書の内容は時宜を得たものだと思います。
     最後に1点だけ、事業性を重視する融資のあり方についての諮問がございました。日本銀行がABL特約での特別枠を利用して、政策的に資金を供給する道をつくったというのが、たしかもう10年以上前だったと思います。当時からABLというものを一生懸命推進していた割に、なかなかそれがうまくいかなかった。日本の国内で不動産融資に偏重の仕組みができたということは、先ほどの御説明の中にあった様々な問題に加えて、金融機関の側にも不動産担保融資に偏重であったがゆえに、例えば1990年代のバブル形成期に、不動産融資担保に頼った貸出しを行い、それが結果として不良債権につながったという苦い経験がございます。
     その意味では、事業性を重視することが大事だということは、金融当局、日銀、金融庁等が、2010年代ぐらいから10年越しで言ってきたことですが、これはなかなか達成されなかった。いまだにABLは非常に少ないです。やはり、そこは金融機関に考えを改めて頂いて、こういうものを積極的に取り組んで頂くことが必要ですが、そのための1つのピースを増やすという意味では、新しい担保権の設定も大事だと思います。ただ、これは基本的に、そういう担保権があって、そこで保証されるからということだけではなくて、金融機関が企業の事業性を積極的に評価して、これはコストのかかる話ですが、その上で成長資金をしっかり、従来の対象から外れていた企業に対して提供するようになるということは、日本の将来にとって非常に大事なことですので、そこを新しい担保制度の創設を契機として、より金融機関にそういう新しいスタイルの融資に積極的になって頂きたい。そこの部分にもぜひ着目して、制度をしっかり設計して頂きたいと思います。
     私からは以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     多くの方々からチャットを入れて頂きまして、ありがとうございます。その順番でいきますと、佐々木委員、川口委員、冨田委員の順になると思います。
     佐々木委員、どうぞ。
     
    ○佐々木委員
     ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
     御説明などありがとうございました。私は、「資産所得倍増プラン」について、「市場制度ワーキング・グループ」や、「顧客本位タスクフォース」で、既に議論したこともあるのですが、それらを含めて意見、感想を申し上げたいと思います。
     まず、日本では個人資産の半分以上が預貯金であるというのを、どうにかしないといけないみたいな、漠然としたイメージが先行しているように思うのですが、そもそも所得層や年齢層によって資産形成のニーズも全く異なります。実際、年をとってから、あるいは、働いて忙しい世代、あるいは、そういう若い人であっても富裕層もいればということで、それぞれの層によってかなりニーズも異なることから、それぞれの層に合った有効な手段を考えていかないと、全体的な数字は改善されていかないのではないかと思います。
     例えばNISAの拡充に当たっても、いかなる層にどのような影響があるのかということを期待して行うのか、その辺を少し詰めることも大事ではないかと思います。そのためには、これまで行っているNISAの拡充について、どのような影響があったかといった分析も必要になると思います。
     そういった意味で、政策効果の検証はやはり重要で、金融庁も研究センターなどございますし、ぜひそういったところを活用して、分析を行い、もう既に行われているところもあるのですが、より専門的な分析をしていって頂ければと思います。
     また、これは同じことが金融リテラシーについても言えると思っていまして、どういった層をターゲットにするのか。先ほど申し上げましたように、要するにこれまで、資産はあるが証券口座を持ってないとか、そういった層なのか、それとも若くてまだあまり証券投資はできないが、少しでも積立てをしてほしいとか、そういった、どこをターゲットに考えているのか。それに見合った形でリテラシーをつけていくことも重要ではないかと思います。
    安定的な資産形成は私も賛成ですが、ただ、実際、NISAで保有する資産が、今後、3年とか5年とかを考えていくと、マクロ環境も結構変わると思いますので、実際、元本割れということだって当然あるわけです。金融広報中央委員会のアンケート調査などを見てみると、やはり元本割れを望まない人の割合は非常に高いという結果が出ています。ですので、私は安易に、リテラシーがないままにリスク資産を、NISAか何か使ったほうがいいのかなという感じで使う人が増えるというのも、少し心配なので、そういったところには注意が必要だと思います。マクロ的視点も必要で、確かに金融庁では、NISAの拡充が担当範囲だとは思いますが、個人がポートフォリオを組んでいくなかで、保険、不動産なども考慮に入れたうえで証券への投資というのも決まってくると思います。
     例えば、保険で積立てをしているとか、不動産で税額控除を受けているとか、様々な人たちがいるわけです。ですので、そういった個人の目線から見て、その上で、金融分野でどういうことをやっていくかということを見極めることも重要なのではないかと思うので、直接的に金融庁は関係ないところであっても、自分のところへの影響というのは、ぜひ、考慮に入れて頂きたいと思います。
     顧客本位の業務運営の効果は表われていると思いますが、一方で仕組債、ファンドラップが増加しているということで、問題が指摘されています。説明不足とかニーズに合ってない販売先の対象の問題については、既に指摘されているのですが、それと併せて、情報の非対称性がある中、こういった仕組債とかファンドラップのようなものに関して、適切な運用がなされているかなどといった視点からのモニタリングも、また、拡充することが重要ではないかと思います。
     銀行が販売しているのに、元本割れしたというような、FINMACへの苦情とかも増えているということですので、やっぱりファイアーウオール規制の緩和なども進み、ますます銀行・証券のグループ内や提携間内での取引というのも増加していく可能性がありますので、利益相反の問題とか、自社の商品を勧めるとか、そういったようなことなど、様々新たな問題もあると思いますので、併せて注視していって頂きたいと思います。
     私からは以上です。ありがとうございました。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。一部通信環境の関係で聞き取りにくいところがありましたが、議事録の際に、御確認頂ければありがたく存じます。ありがとうございました。
     それでは、次は、川口委員、どうぞお願いします。
     
    ○川口委員
     ありがとうございます。まず、事業成長担保権について質問があります。
     従来の個別資産に対する担保権に加えて、事業全体を対象とする担保権を創設することは、スタートアップ企業の育成や、早期の事業再生など、多方面に資するものと思います。この点、金融庁でも先行して、神田先生を座長にして研究会などで検討されてきたかと思います。他方で、担保法制は、法的には民法に直接関連するもので、ある意味で法務省の守備範囲でもあり、法制審議会で議論が行われているようであります。
     このような状況のもと、今後、金融庁の立場として、これらの法整備において、どのような役割を果たしていかれる予定でしょうか。閣議決定に「相互に積極的に連携」という言葉がありましたが、この辺具体的にどのようにされていくのかを、まず、お聞きしたいと思います。
     つぎに、「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告についてです。多岐にわたり御検討頂き、ありがとうございました。報告書の内容に基本的に異論はありません。
     四半期報告書と四半期決算短信の統合について、首相の所信表明が事を動かしたという側面はあるかとは思いますが、全体として、開示の劣化が生じないのであれば、または企業側の負担が無用に大きいのであれば、簡略化する方向性でよいかと思います。
     他方、制度の具体化は、これからのようですが、そこでは、開示内容の適正性をいかに確保するのかが重要になるかと思います。四半期報告制度の導入はもともと経済界は慎重でありまして、まずは取引所のルールとして導入されて、その後、法定開示になったという経緯があります。
     取引所のルールのもと、虚偽記載の事件が発生しまして、自主規制では十分な制裁を課すことができなかったという点が、法定開示に移行した理由の1つであったと記憶しております。自主規制の中で、法律上の規制といかに同程度のエンフォースメントを確保できるのか、臨時報告書を使うとかいうような案も出ているようでありますが、先ほど述べた視点からの検討をぜひお願いしたいと思います。
     以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。御質問があったと思いますが、尾﨑さんか、大来さんか。
     
    ○尾﨑参事官
     では、私からお答えさせて頂きたいと思います。
     御指摘のとおり、担保法制、民法に関わるものですので、現在、法制審で議論されていると承知しております。同時に、先ほど御紹介いたしましたように、政府の閣議決定文書等におきまして、こういった制度について早期に国会に提出することを目指すとされたことや、これまでの金融庁における議論、あるいは法制審における議論の中でも、事業全体を担保にするということで、乱用等の、それから担保権者を金融機関等に限定すべきであるといったような議論が多かったことを踏まえ、金融庁としても、金融機関に限った制度として、制度を構築することができないかということで、主体的に法案成立を目指していくということを考えております。
     当然、その議論の過程の中では、法務省とも既に密接に議論しておりますし、これからも議論していきたいと思っております。当然のことながら、法制審とも議論、連携していければと考えているところです。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。川口さん、よろしゅうございますでしょうか。
     
    ○川口委員
     ありがとうございました。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、冨田委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○冨田委員
     どうもありがとうございます。私からは、2点意見と1点お願いを申し上げさせて頂きたいと存じます。
     まず、1点目ですが、これまでもありました「資産所得倍増プラン」につきまして、働く者の立場から一言申し上げさせて頂きたいと存じます。日本経済の成長力を高めるために、増加している民間部門の貯蓄を投資にシフトしていくとありますが、ここにある個人貯蓄の増加は、その要因の1つに将来不安の高まりがあるかと感じてございます。NISAの抜本的な拡充などの投資優遇策を実施する前に、社会保障と税の一体改革、持続的に賃金が上がる経済の実現、低所得者へのセーフティーネットの充実など、まずは、将来不安払拭に取り組むべきではないかと考えてございます。
     また、資産所得格差を拡大させないためにも、投資優遇策は、金融所得課税の強化を含めた、所得再分配機能の強化と併せて行うべきであると考えてございます。
     2点目は、事業担保権の創設についてでございます。法制審での担保法制の見直しには、連合も委員として参加しておりますが、労働債権の順位が担保権に劣後する中、今回の見直しが、労働債権の回収をさらに困難にさせる懸念があり、一般債権者保護の観点も十分に考慮した検討が必要とのスタンスで臨んでございます。
     その上で、今回の事業全体に対する担保権の創設につきましては、実行前の段階から担保権者による経営への強い関与が行われることも想定されまして、リストラや労働条件の切下げ、人件費の抑制などの施策が強行されるのではないかという懸念を持ってございます。
     また、事業担保権は、労働者の契約上の地位や労働債権確保など、労働者の生活に大きな影響を及ぼすことが懸念されるため、連合としては、制度創設には否定的な立場であるということを申し上げさせて頂きたいと存じます。
     3点目は、金融行政方針に関連しまして、1点、お願いでございます。現在、賃金のデジタル払いの議論が進んでおりますが、この賃金のデジタル払いにつきましては、労働者の生活基盤である賃金を保全するため、資金移動業者に対する運用の厳格化を労働基準法施行規則で定めるとしておりますが、その土台となるのは、資金決済法でありまして、法の適正な履行確保と事業者に対する適正な監督指導が不可欠となります。この点につきまして、改めて、金融庁と厚生労働省の緊密な連携をお願いしておきたいと存じます。
     私からは以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでチャットの順番に行きたいと思うのですが、あらかじめ、今日早めに早退されると御連絡を頂いている委員の方がおられまして、具体的には神作委員と松井委員でいらっしゃるのですが、大変恐縮ですが、もし御発言があるなら、ここで承りたいと思います。御無理に御発言頂く必要はもちろんございませんが。神作先生、もし、御発言ございましたら、お願いします。
     
    ○神作委員
     神作でございます。御指名頂き、ありがとうございます。1点だけ御発言させてください。
     四半期決算短信と四半期報告書の一本化をして、四半期決算短信に一本化するということを念頭に置いて、御発言申し上げます。
     先ほど川口委員もおっしゃったことではありますが、四半期決算短信で開示された内容を、例えば、臨時報告書で開示する仕組みとするなど、法定開示制度の下での監督とエンフォースメントができる限り維持される、持続されるような可能性を模索して頂ければ大変幸いに存じます。
     それから、今の点にも関連いたしまして、適時開示制度についてより実効的な制度になる見直しを行い、運用についてもさらに改善するよう、御検討頂ければ大変ありがたいと思います。現在の適時開示制度は、インサイダー取引規制に大幅に準拠して、それにパラレルな形で運用されていますが、タイムリーな開示制度の対象となる情報は、必ずしもインサイダー取引規制における重要事実と完全に一致するというわけではないと思いますので、情報の非対称性の是正や、市場の効率性の向上という観点から、適時開示制度についても併せて見直しをして頂けるとありがたいと存じます。
     私からは以上でございます。どうもありがとうございました。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     松井さん、もし発言があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。
     
    ○松井委員
     御指名ありがとうございます。私も、ほかの委員がおっしゃっておられることと、あまり変わったことは申し上げることはありませんが、1点だけ、顧客本位の業務運営ということで、投資助言兼業についての項目が挙がっておりましたが、これを実際にビジネスに落としていくということになりますと、特に資産規模の小さい顧客に対する販売について、大きな影響があるという指摘もあるかと思います。実際に、先ほど佐々木委員が、マクロの環境変化及び家計のニーズに合った改革をとおっしゃっておられましたが、ここを実際に規制に落としていくときに、実務とのいい話合いが前提になるかと思っているところでございます。
     以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、お待たせして申し訳ありません。次に、チャットの順番で、原田委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○原田委員
     ありがとうございます。2点ございます。
     まず、1点目は、「資産所得倍増プラン」についてになります。長らく言われてきた「貯蓄から投資へ」というスローガンをより具体的に発展させたもので、投資から得られる所得、つまりは資産所得を増加させるという計画で、残念ながら今までは成功してこなかったということについては、多くの人の認識のあるところであろうと思います。
     これまで、なぜうまくいってこなかったかという理由についても、既に自明なものも幾つかあるように思います。例えば、日本は金融資産が高齢者に偏っていますので、高齢者はリスクを取って投資を行うという選択は選びませんし、理論的に考えても選ばないほうがいいということになります。では、なぜ高齢者に金融資産が偏るのかというと、いまだ日本の労働市場では相対的に年功序列の賃金体系が、諸外国と比べると根強く残っていますし、退職金の制度もあります。こうした1つの理由だけをとってみても、構造的な問題は、やはり長い間、関係してきていることになります。資産所得を倍増させる、実現させるプランの策定はなかなか、少し増えるぐらいだったら実現可能かもしれませんが、根本的に増やすというのはなかなか難しいと考えています。構造的な問題については、ほかの省庁にも働きかけるなどして、よりよいプランを作成して頂ければというのが1つ目の意見になります。
     資産所得が増えるどころか、投資商品はボラティリティが高いですので、減ったということになりますと、その点は批判を受けることではなく、投資というのは自己責任であるということも大原則であろうかと思いますので、投資とは何かを学ぶ金融教育も併せて重要なテーマであります。短期ではなく、長期の資産形成という金融経済教育、リテラシーの向上といったものは業界を挙げて、これからも地道に推進して頂ければと思います。
     もう1点は、「ディスクロージャーワーキング・グループ」で継続して審議頂くことについてです。非財務情報の充実を求めることが決まっておりまして、今後も継続して議論して頂くことはいろいろあるかと思いますが、非財務情報の拡充はとてもよいと思いますが、単に数字を出すだけではミスリーディングになってしまうことにならないように、継続して改良していって頂きたく思います。例えば、若手の新卒の女性の採用を増やす場合、女性の採用を増やすのはよいことですが、先に申し上げた年功序列賃金システムの下では、若い人の賃金は低くなりますので、そうしますと、男女賃金格差は、単純によい試みをしているだけでも数字だけ見ると格差が広がってしまうという結果になりますので、女性の正規雇用増といったよい動きが数字に反映されない事態になります。こうした問題は避ける方向で、今後の議論をしていって頂ければと思います。
     以上の2点になります。ありがとうございます。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、山本和彦委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○山本(和)委員
     ありがとうございます。私からは1点、諮問事項の第2点である、事業成長担保権の検討について申し上げたいと思います。
     この問題は大変重要な、特に現下の経済状況の中で、検討に値する事項であると思います。時宜を得たものであって、当審議会で検討されることは結構なことだと思っています。
     1点、御質問しようとしたのですが、既に、川口委員からの御質問でお答えがありました。法制審議会における検討との関係ということでしたが、お答えとしては、基本的には金融機関を主体とするような部分について、当審議会として検討をするけれども、法制審議会あるいは法務省と連携を持ちながら検討していきたいという御趣旨のお答えであったように理解をしまして、そのことは大変、正当なことではないかと思っています。言うまでもなく、このような担保の制度を新たに設定するというのは、民法の担保法制全体、あるいは、さらに言えば優先順位のあり方といったものに大きな影響を与えると思いますし、また、私の専門分野である執行法であるとか、あるいは倒産法といった点にも、大きな影響を与え得る法制だと思います。そういう意味では、民事の基本法制にかなり大きな影響を与えるものであるということを、やはり自覚しながら、検討を進める必要があろうかと思います。その意味では、法制審議会の審議と手を携えながら、密接に共同しながら進めていくことが必要だと思いますので、事務局におかれましても、その点については格別の御配慮を頂ければと思います。
     以上、私からの発言です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、小林委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○小林委員
     ありがとうございます。私は事業成長担保権について、1点、コメントをさせて頂きたいと思います。
     本日は、スタートアップを支援する立場からの意見ですが、こうした事業成長担保権というのは新しいツールとして有用とは思いますが、スタートアップ全般を考えた場合に、スタートアップ全部に、すぐに使えるような機能ではなく、スタートアップの成長の段階でキャッシュフローが見えてきているような段階、あるいは、事業価値がある程度算定できる、成長確率が予測できるような産業分野に有用なツールであり、スタートアップ支援という意味においてはかなり限定したツールになるのではないかと思います。また、エクイティホルダーの理解をどのように得るのかということについても懸念があります。
     ということですので、事業成長担保権について、さらに議論をしていくに当たっては、具体的にどのような事業規模、どのようなスタートアップに対して適用できる有効なものなのかという辺りを、しっかりと念頭に置いた議論をして頂きたいと思います。
     また、一方で、実際に話を聞いてみますと、スタートアップの人たちは、実はデットを好まないという傾向がありまして、これは返済のための時間的な拘束、あるいは、経営者に対しての保証と、かなりいろいろな拘束があるということが原因と考えます。やはりデットよりエクイティと皆さん思っているというのが、一般的な考えだと思いますので、こうした新しい担保権を導入するに当たっては、実際に使う側のスタートアップの人たちが、これは使いたいと思えるような制度設計にして頂きたいと思います。
     それから、直接本件に関係あることではないのですが、経営者保証のあり方についても課題があります。特に事業継承するに当たって経営者保証があるけれども、継承する人に同じような経営者保証を要求する、それを負ってまで継承してくれとは言えないという声を結構あちこちで最近聞きますので、この機会に経営者保証のあり方についても議論して頂けるとよいと思います。
     以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、河野委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○河野委員
     日本消費者協会の河野です。御説明ありがとうございました。諮問事項や各ワーキング・グループからの御報告などは、8月に公表された金融行政方針を実質的に担保するものであり、今後の方向性については、理解いたしました。その上で2点申し上げたいと思います。
     1つ目は、金融経済教育についてです。貯蓄から投資へシフトするべく、NISAなど仕組みの拡充や、国民の金融リテラシーの向上と、金融事業者による顧客本位の業務運営の確保がパッケージで提案頂いています。日本では、お金について子供の頃から学ぶ機会は少なく、そこでは消費者としての側面が強調されて、無駄遣いをしないとか、だまされてはいけないという守りの教育が主体であり、投資の側面から、金融に伴うリスクとベネフィットについて学ぶ機会はありませんでした。この春から、高校家庭科の指導要領が改訂されて、家計管理の一部として資産形成が追加されて、一歩前進したとは思いますが、不十分です。効果的に金融教育を進めるのであれば、小中高の社会科で、経済のメカニズムそのものを学ぶ機会を段階的に取り入れることで、将来、一人前の大人として暮らしていくために必要な知識と考える力を身につけた層が社会の大宗を占めるような取組みが必要だと思います。生活物価の高騰などで、国民の多くは投資どころではないという状況にもありますし、暗号資産への勧誘とか賃金のデジタル払いの解禁など、お金を取り巻く新しい技術の進展などへの備えという視点からも、人生設計に本当に役立つ金融教育のあり方を考えて頂ければと思います。
     2つ目は、今日御提案のあった、非財務情報の開示と事業成長担保権についてです。これから、どちらもまだまだ検討の過程にあるということを理解しておりますが、今は脱炭素に向けた中長期シナリオの中で、官民合わせての大規模な金融出動が期待されています。政府からは、GX経済移行債の創設や、新たな金融手法として、グリーンファイナンスの拡大に加え、トランジションファイナンスやイノベーションファイナンス等の提案もなされています。GDPのほぼ半分が家計支出であって、企業がつくる新商品が売れるかどうかはもちろんのこと、政府の景気浮揚策や脱炭素のための施策なども、消費者の合理的な反応、判断にかかっていると思います。
     そこで、今の消費者の合理的な判断の中に、自分の暮らしにおける満足を追求するだけではなく、自然環境を守るとか気候変動を緩和するなどの大きな社会的目標に対して、間接的に貢献するための手法の1つとして、投資による社会変革がある、投資が社会変革につながるということに理解が及ぶように、今回検討して頂く非財務情報の開示においては、情報開示の共通ルールの整備や事業成長担保権において、その効果が想定しやすい、詳細な商品設計に力を注いで頂きたいと思っています。
     私からは以上でございます。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、福田先生、どうぞお願いいたします。
     
    ○福田委員
     ありがとうございます。事務局から御説明のあった諮問事項、あるいはそれに関わる報告、あるいは金融行政方針、いずれも適切なものだと思います。積極的にサポートしたいと思います。
     その上で1点だけコメントをしたいと思います。これは足元の情勢でありまして、金融行政方針が出されてから、世界のマーケットは大きく変わってしまったということでございます。金融行政方針は8月に出されたわけですが、8月末に行われたジャクソンホールでのパウエル議長の発言によって、世界のマーケットは大きく変わってしまって、足元ここ数日を含めてマーケットは大きく荒れてしまっているということです。ジャクソンホールでのパウエル議長の発言の趣旨、あるいはマーケットの人たちの捉え方を私なりにまとめれば、基本的には成長を犠牲にしても、ともかくインフレを抑えるという発言でありまして、これはマーケットの人たちも大きく驚いた発言だったということでございます。
     その上で、そういったマーケットが非常に荒れている時期に、「貯蓄から投資へ」の議論をどのように展開していくかは、やや難しい状況があるということを指摘したいとは思います。今のマーケットの情勢で、リスク資産に、言葉が適正かどうか分かりませんが、素人が手を出すのは極めて危険な状況にあると言ってもいい、プロでもなかなか手を出せないようなマーケット状況の中で、「貯蓄から投資へ」をどのように推進していくかは、少し注意を持って進めて頂く必要があるのかとは思います。
     実際、日本も過去に何度か「貯蓄から投資へ」の流れがあったのですが、タイミングが悪く、マーケットがクラッシュして、投資した人が大きく損をしてしまって、結局それが進まなかったということもあります。また、そういった時期には、リスク資産に投資するよりも、むしろ安全資産に投資していた人のほうが、結果的にリターンが大きかったという時期も何度かございました。
     そういう意味では、本当に長い目で見た提言だと思いますし、そういう意味で「貯蓄から投資へ」、あるいはそれに向けたいろいろな試みというのは、私も非常に歓迎すべきことです。しかし、ここ一、二年の市場を考えたときには、決して状況は簡単な状況にはありません。そうした中で、今日御提言のあったような問題をどのようにうまく人々に伝えていって、長い目で見た資産倍増計画を実現していくかに関して、いろいろな形で金融庁でも工夫して頂くことが必要ではないのかと思いました。
     以上でございます。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、翁委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○翁委員
     御説明ありがとうございました。私からも2点だけ申し上げたいと思います。
     資産所得倍増計画の件でございますが、私、原田委員と全く同じ考えでございまして、金融資産の大半を持つのが高齢者、高齢者の金融資産の大半が預貯金というような状況になっておりますので、やはり、これは退職一時金が非常に大きいといった年功序列型の賃金体系の影響もすごく大きいと私も思っております。これを一部は、退職年金に早くから移行するような形で、長期・積立・分散という形で、少しずつでも移行させることによって、多少でも効果があるのではないかと思っておりまして、これは金融庁だけではないかと思いますが、こういった、大きく労働市場も変わる中でどのように考えていったらいいかという点で、御議論、御検討頂ければと思っております。
     2つ目は、アセットオーナーについて、資料3の成長資金の供給や、あと金融行政方針のサステナブルファイナンスのところで御指摘がございます。主に企業年金基金などだと思うのですが、やはり米国の私的年金を比べると、ベンチャー・キャピタルへの投資とか、責任投資へのコミットが民間の企業年金や年金基金のコミットが低いのが目立つと思っております。本当に、そういった特に民間の企業年金基金などは、リスクを適切に取り、リターンを取る投資家として、機能しているのかという点でしっかり、金融行政方針にもございましたが、検討して、改善策を出していって頂きたいと思います。
     特に加入者の意向を踏まえることが大事だと思っておりまして、サステナビリティの観点からも、また、社会課題に関心の高い加入者は多ございますので、そうした加入者の意向も確認して、そういった社会課題の解決に取り組む企業や、スタートアップに投資を長期的にしていくといった流れができていくといいと思っておりまして、ここは重要な日本の投資家の課題ではないかと思っておりますので、よろしく検討を進めて頂ければと思っております。
     以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、吉戒委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○吉戒委員
     吉戒です。私からは、皆さんからも意見が多く出ていました事業成長担保権に関して、意見といいますか、まだ質問としてまとめる段階でもないのだろうと思うのですが、先ほど山本委員からもありましたとおり、これはやはり金融の実務慣行に極めて大きなインパクトがあると考えています。恐らく相当議論は、水面下で進んでいるところではあるのでしょうが、我々のところにはそういうのはまだ届いていませんので、よく分からない点が多いと感じています。例えば、金融機関の関係者だと、誰もが最初に感じるのは既存の担保権との優先劣後の問題です。これは事業成長担保権と言っていますが、事実上は全資産担保というものに近いだろうと思います。そうすると、第2順位というのは考え方としてあるのだろうか。あるいは、この事業成長担保権を徴求した金融機関以外からの資金調達がほぼできなくなるのではないか。債務者側から見ても、資金調達の阻害といいますか、そういった要因になりはしないかという懸念があるのではないかと思います。
     そうなってくると、当該企業の株式を担保に取るのとどう違うのか、平時にはなかなか使いづらいのではないかというのが、正直今のところの感想です。
     平時ではないというのは、つまり、今まで借りていたものを全部リファイナンスをするとか、それはつまり、具体的に言うと、事業再生の局面、あるいは事業承継で会社を売る、M&Aに伴うLBO融資などでは、これは、可能性としては、そこが一番使われるのではないかという気がしています。
     一方で、先ほど、ほかからの調達を阻害しないかという、懸念と同時に、逆に言うと、この事業成長担保権、担保を取ってしまうと、担保を徴求した金融機関は融資義務を負ってしまうのではないか。もちろん融資できないものはできないという判断は当然あると思うのですが、ほかからの調達を阻害してしまうとなると、むしろ金融機関のほうが少し腰が引けてしまうのではないか。そんなことも考えたりもするわけです。
     企業は、もちろんいろいろな局面で、例えば設備投資、工場をつくるとか、何か新しい製品、商品を開発するとか、そういった都度、複数の金融機関にオファーして、要するに有利な条件のところから調達するということが、、一般的に多いと思うのですが、こういうことが今後できなくなるのではないか。あるいはシンジケートローンみたいな形で仮にLBOファイナンスを組むときに、事業成長担保権をベースに、複数の金融機関がシンジケーションを組んでも、結局はそれ以外のところから調達できなくなってしまうので、どうなのだろうということを心配したりします。
     それから、先ほど小林委員からもスタートアップ企業はどうなのかというお話もありましたが、やはりスタートアップ企業というのは、その後の成長につれて、金融機関との関係が大きく変わっていく可能性が非常に高いと思います。そのときに一体どうするのだろうか。入り口での資金調達はできたかもしれないが、その後、成長していくにつれて、果たしてその延長線上で、先ほどの話に戻るのですが、ほかの金融機関からの資金調達がスムーズにできるのだろうか。一方で、これもさっき申しましたが、全資産担保に近い形になると、当該会社は、いわゆるスタートアップ企業の株式を担保に取るのとほとんど変わらない。そうすると、最初からエクイティを入れるのとどう違ってくるのか。エクイティということなると、当然ながら経営権を取るというようなことになっていって、金融機関が経営権を取る。今、もちろん、いわゆる5%ルールの緩和とか、いろいろな条件の下で、そういうことはある程度行われているわけですが、先ほど小林委員からも、スタートアップはデットを好まないという話もありましたが、では、エクイティとほぼ変わらないような形になっていくのだろうかとか。これは感想めいた話ですが、今後の議論の展開は冒頭申しましたように、実務慣行にインパクトが大きいと思われますので、具体的な検討を進めるに当たっては、適時そういった情報が開示されていくとは思いますが、いろいろな問題点を、いろいろな人たちが議論して共有すべきではないかと思います。
     以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、渡辺委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○渡辺委員
     私からは1点だけです。「資産所得倍増プラン」と金融行政方針、どちらにも関わることだと思うのですが、先ほど佐々木委員がおっしゃっていたことと、基本的には同じようなことです。NISAの抜本的拡充という話がありますが、今年度中、今年中と書いてあったので間に合わないのかもしれないですが、EBPMという観点から、この先、抜本的拡充をするというときに、何をどこまでどのように拡充するのかと考えたときには、これまでのNISAの効果、政策の効果検証をきちんとして、それに基づいて進めていく、証拠に基づく政策形成をしていくというのが望ましく、より効果的だと思います。
     検索すると、平成28年にNISAの効果検証は金融庁から出されてはいるのですが、ばっと見た感じでは、いわゆる定型的にEBPMで議論されるような効果検証という形にはなっていません。政策の因果効果をきちんと検証する形になっていないので、せっかく行政方針のところではデータに基づく分析力を高めるということを、金融行政をさらに進化させるというところで書いて頂いているので、そういう意味でデータ分析の、金融庁内のデータ分析のノウハウを高めるという意味でも、このような取組みをきちんとしていくことが、今後の政策を考える上で重要なのかと思います。
     私からは以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、佐古委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○佐古委員
     発言の機会をありがとうございます。専門家の皆様の前で大変恐縮ですが、金融リテラシーの低い一市民としての感想を述べさせて頂ければと思います。
     我が家の家計の事情を考えますと、やはり投資はリスクもあるし、販売業者のお勧めはその会社が儲かるためだったりとか、自分のノルマのためだったりするのではないかという疑心暗鬼に苛まれて、また、いろいろ説明を聞いていくのも半日ぐらいかかってしまって、その結果、やはり商品購入に至らなくて、貯金でいいかとなっていたのが正直なところでございます。ですので、今後は、顧客本位の業務運営が促進されることを大変期待しております。
     実はこのように情報提供が適切であるために、行政による枠組みが整備されているというのを今回初めて学ばせて頂いたので、ぜひそれをもっと市民に伝えて頂いて、本当に実効性のある枠組みの下で情報提供がされていることを市民が納得して、安心して、自分のために判断ができるようにして頂ければと思っております。
     このように販売業者から適切な情報が提供されているということを、顧客自身が確認できる仕組みのために、IT技術が使えるのではないかと思っておりまして、そのようなことも考えていければと思いました。
     以上です。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、次に、会場にお越しの河村委員、どうぞお願いいたします。
     
    ○河村委員
     今日は会場に参りました。よろしくお願いします。2点だけ、簡単に申し上げます。
     1つは、資産所得の倍増の問題です。これは家計から見ると、資産は、当然のことでありますが分散投資、分散保有をしております。今日の議題の中心である株も、上場があったり未公開があったり投信があったりします。それからさらに債券があり、場合によっては外国の預金があったり、あるいは外国株があったり、さらに不動産や保険や年金等いろいろな形で家計は資産を保有しておりますので、この倍増ということの発射台をどこに置くかという議論は1回はあったほうがいいと思います。昔、所得倍増のときには、いろいろな国民所得統計があって、倍増というのはどうかということはかなり定量的に判断できました。資産所得の倍増論を議論するときに、この議論は金融庁で行われているので株の話になってしまうのだと思いますが、どこを柱にするか、それがあるとKPIが出てきます。KPIが決まると、具体的な方法論が出るということになりますので、ぜひ発射台の議論が必要だということが第1点になります。
     ただ、資産価格というのは、金利で大きく動きますので、資産価格を定量的にトラックするのが非常に難しい問題になりますが、この倍増の定義について、そういう極めて大きなパラメーターを入れて、どのように接近するかということは最初に議論した方がいいと思います。
     それから2つ目は、スタートアップへのファンディングを銀行法に依拠してビジネスを行っている金融機関が、どこまでできるかという、根本問題があると思います。金融機関は、もちろん「プルーデンシャル・ルール」でやっているので、リスク・キャピタルの供給源にはなり得ません。これは定義上、そういうことになります。現在どうなっているかというと、御案内のとおり、銀行とか保険会社とか証券会社が、アメリカと比べるとかなり小粒のベンチャー・キャピタルを持ってやっているわけです。これを具体的に言うと、例えばアメリカだと年間で10兆円ぐらいのリスク・キャピタルがベンチャー・キャピタル経由で入っております。日本は幾らかというと、我々のごく内輪の統計では5,000億円ぐらいだと思いますが、全然市場規模が違う。その中でアメリカのベンチャー・キャピタルと日本のベンチャー・キャピタルは何が違うかというと、圧倒的に違うことがあります。それは、アメリカのベンチャー・キャピタルというのは、巨大な経営バックアップ、経営コンサルティング企業だということです。セコイアも、アンダーセン・ホロウィッツもみんなそうです。スタートアップを育成するには、法務、人事、財務、投資等の経営全般についてきちんと指導できる能力がfunding以上に重要になります。したがって、日本のベンチャー・キャピタルは、ただ金貸しだけとは申しませんが、そういう経営全体をバックアップする機能がまだ弱い。日本のベンチャー・キャピタルがそういう機能を実装できるにはどうしたらいいかということになると、やはりベンチャー・キャピタルの利益というか、リターンが高くないと、そういうところへ投資ができません。ということはやはり、エクイティをいじった場合の、最後は税制が資源配分を決めますので、税金のところを少し変更する。場合によっては、源泉課税の問題を少し考慮するようなことまで踏み込んでいかないと、日本のベンチャー・キャピタルが十分に利益を上げて、高い給与を支払って、人材が集まってという循環にならない。そういうことがあるという感じがします。
     以上2点です。ありがとうございました。
     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     あっという間に予定している時間に近づきつつあるというか、ほぼなってしまっておりまして、御意見等を頂くのはこの辺りとさせて頂ければと思います。本日も大変多くの貴重な御意見を頂きまして、誠にありがとうございました。頂きました意見を踏まえて、さらにそれぞれの政策を検討させて頂きたいと思っております。
     それでは、ここで、少しお願いがあるのですが、まず、本日、大臣から頂戴いたしました2つの諮問についてになります。1点目の「安定的な資産形成に関する検討」でございますが、これは私が座長を務めさせて頂いております「市場制度ワーキング・グループ」において、具体的な検討を今後進めていくこととさせて頂きたいと思います。2点目の「事業性に着目した融資を促進するための制度や実務のあり方に関する検討」についてですが、これは具体的、専門的な検討が必要になりますので、ワーキング・グループを設置させて頂きたいと思います。ワーキング・グループの座長でございますが、大変恐縮ですが、私が務めさせて頂ければと存じます。ワーキング・グループの名称ですとかメンバーの決定等につきましては、大変恐縮ですが、私に御一任を頂けるとありがたく存じます。
     以上が2つの諮問の進め方についてでございます。皆様方に、このような形で2つの諮問について進めるということで、御承認頂けませんでしょうか。
     

    (「異議なし」の声あり)

     
    ○神田会長
     ありがとうございます。なかなかオンラインで分かりにくいのですが、うなずいて頂いたり、発声を頂き大変ありがとうございます。それでは、そのようにさせて頂きます。
     あと、もう一つお願いがございまして、先ほど御説明させて頂きました「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告ですが、これにつきましては、これを金融審議会として御了承頂ければと思います。さらに、ワーキング・グループの今後の検討事項については、そのワーキング・グループの審議を再開して、具体的な検討を進めていくことにしたいと思いますが、中身との関係もありますので、メンバー等の見直しを行うことを含めまして、進め方は、大変恐縮ですが、私に御一任頂きたいと思います。
     以上、「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告を金融審議会として御了承頂くということと、今後の進め方について今申し上げたような形で進めさせて頂くということについて、御承認頂けませんでしょうか。
     

    (「異議なし」の声あり)

     
    ○神田会長
     どうもありがとうございました。
     それでは、これで本日予定しておりました議事を全て終了することができました。以上をもちまして、本日の金融審議会総会・金融分科会の合同会合を終了とさせて頂きます。
     なお、本日の議事の模様につきましては、事務局から後ほど記者レクを行いますので、御承知おき頂きたいと思います。
     また、今後の日程などに関しましては、事務局から後日御連絡させて頂きますので、よろしくお願いいたします。
     皆様方には本日もお忙しい中を長時間、熱心に御参加頂きまして、誠にありがとうございました。以上で終了とさせて頂きます。
     どうもありがとうございました。
     

    以上

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